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有料老人ホーム入居契約書(1)-[PDF形式]
矢田 尚子 Yata Naoko 日本大学法学部准教授 専門は、民法、住宅法。中央建築士審査会、よこはま多世代・地域交流型 住宅整備・運営事業者選定等委員会等の委員を務める。著書に、『集合住宅・ 第 9 住宅金融の危機管理(トラブル相談Q&A)』 (ぎょうせい・2009)等がある。 回 契約書の見方 ⑷ ー 有料老人ホーム入居契約書① ー 今回から数回に分けて、有料老人ホームにお 援や介護等サービス部分の契約が一体となって ける契約書および重要事項説明書 (以下、重説) いる方式です。そのため一般に、有料老人ホー の見方について解説します。 ムの入居契約書は、条文数が膨大になります。 既に述べたとおり、有料老人ホームには、介 したがって、有料老人ホームに入居するに当たっ 護サービスの提供先の違いから、介護付き有料 ては ①重説および ②標準入居契約書のほかに、 老人ホーム ( 以下、介護付きホーム ) と住宅型 別途、当該施設の ③管理規程も契約の一部とし 有料老人ホーム(以下、住宅型ホーム) がありま て作成されることが多く、埼玉県もそのような す。本稿では、要介護となった場合に、介護保 構成を採用しています。なお、管理規程には、各 険の在宅サービスを利用する住宅型ホームの入 契約条項の詳細 (入居者等の定義、管理運営組 居契約書を扱います。ただし、サ―ビス付き高 織部門や管理運営業務の内容、ホームへの届出 齢者向け住宅(以下、サ高住) と異なり、政府に 様式等)や、将来変更される可能性の高い項目 よる標準契約書は公表されていません。 (費用および使用料、各種サービスの内容等)が そこで、利用権方式でなおかつ、入居一時金 記載されます。当然、契約内容は、厚生労働省 (前払金)を受領する形式にも対応している埼玉 あるいは、地方自治体が独自に作成した有料老 県の入居契約書のひな型*1 「住宅型有料老人ホー 人ホーム設置運営指導指針 (以下、指針) にのっ ム標準入居契約書 (以下、標準入居契約書) 」等 とったものでなければなりません。 を用いて解説していきます。なお、標準入居契 さらに、標準入居契約書では、サ高住の頭書 約書は、介護付きホームの一般的な入居契約書 と同じく、契約条項に入る前に表題部が置かれ の内容と多くが重なります。そのため、住宅型 ています。 表題部の内容と契約条項との間では、 ホームの標準入居契約書の解説をしますが、介 整合性が保たれていなければなりません。 護付きホームの入居契約書でも、留意事項は、 表は、標準入居契約書の表題部および契約条 項の内容についての一覧です。以下、この一覧 ほぼ変わりません。 に沿って説明をします。 契約書等の基本的構成の確認 表題部のチェックポイント 有料老人ホームの多くは、利用権方式を採用 ここからは、標準入居契約書の具体的内容に しています。利用権方式とは、居住部分と生活支 なります。表題部は、必ずしも設ける必要はあ りませんが、当該契約固有の取り決め内容を記 *1 埼玉県高齢者福祉課ホームページ https://www.pref.saitama.lg.jp/a0603/korei-seibi/1yuryo-shiryo.html 載しています。主なチェックポイントは次のと 2016.6 15 しておくのが一般的です。さらに、前払金等の ■表題部 項 目 内 容 償却起算日は、入居日の翌日です。入居日の確 ⑴ 契約の開始年月日 契約締結日、入居予定日 ⑵ 契約当事者 入居者、施設設置事業者 ⑶ 契約当事者以外の 関係者 身元引受人、返還金受取人 (設定がある場合) 、 契約立会人等の第三者(該当者がある場合) ⑷ 施設の名称・類型 及び表示事項 類型、表示事項 (居住の権利形態、利用料の 支払い方式、入居時の要件、介護保険、介 護居室区分)、施設の概要 ⑸ 入居者が居住する 居室 階層、居室番号等、間取り・タイプ、居室 面積、ベランダ面積、付属設備等 ②契約当事者以外の関係者 ⑹ 入居までに支払う 費用 (前払金) の内 容 前払金 (総額、使途及び算定根拠、支払い方 法、前払金にかかる想定居住期間、入居金 償却期間の起算日、その他前払い金にかか る考え方)、消費税 人ホームによって異なることも多いので、該当 ⑺ 入居後に支払う費 用の概要 月払い利用料 (日割りで支払われる費用につ いての計算起日、支払い方法(管理費、食費、 光熱費、家賃相当額、その他) 、その他月払 い利用料にかかる考え方)、消費税 定は、前払金等の返還トラブル回避のためにも 重要です。本契約書には入居日の記載箇所はあ りませんが、実際の入居日または鍵の引き渡し 日を、契約書に記載しておくべきでしょう*2。 身元引受人の具体的役割については、有料老 する契約条項の箇所はしっかりと確認しておく 必要があります。近年は身元引受人を立てられ ない入居者が増えています。成年後見人は、身 元引受人にはなれませんが、それに近い役割を ■本文 章立て 第 1 章 総則 (1 ~ 11 条) 内 容 果たすことが可能です。有料老人ホームによっ 目的、利用権、各種サービス、管理規程、 施設の管理、運営、報告、地域との協力、 入居者の権利、運営懇談会、苦情処理、賠 償責任、秘密保持など ては、成年後見制度の利用を認めるケースもあ りますので、事業者に直接尋ねてみましょう。 さらに、入居者の死亡後早期に一時金を返還 第 2 章 提供される 介護等、健康管理、食事、生活相談、助言、 サービス 生活サービス、レクリエーション等 (12 ~ 17 条) するために、返還金受取人が設定される場合が 第 3 章 使用上の注意 使用上の注意、禁止または制限される行為、 (18 ~ 21 条) 修繕、居室への立ち入り あります。返還金受取人は、必ずしも相続人で 第 4 章 費用の負担 入居までに支払う費用、月払い利用料、食費、 (22 ~ 27 条) その他費用、費用の支払い方法、費用の改定 ある必要はありませんが、相続に巻き込まれる 第 5 章 契約の終了 契約終了、事業者からの契約解除、入居者 (28 ~ 35 条) からの解約、明け渡し及び原状回復、財産 の引き取り等、契約終了後の実費精算、返 還金の算出及び一時金返還債務の保全等 ③施設の名称・類型及び表示事項 おそれもありますので、注意が必要です。 この欄の記載内容は、指導指針に従って記載 第 6 章 身元引受人及び 身元引受人、通知を要する事項、身元引受人 返還金受取人等 の変更、返還金の受取人、入居途中の契約当 (36 ~ 41 条) 事者の追加、契約当事者以外の第三者の同居 されています。住宅型ホームは、介護保険の在 入居契約時の手続き、費用計算起算日の変 第 7 章 その他 (42 ~ 47 条) 更、入居金償却期間の起算日前の解除、90 日以内の契約終了、誠意処理、合意管轄 と、利用する介護サービスが増える分だけ費用 表 宅サービスを利用するため、要介護度が上がる がかさみ、場合によっては、退去せざるを得な 標準入居契約書の基本構成(2016年4月末現在閲覧による) くなるかもしれません。その点を理解して入居 おりです。 を検討する必要があります。 ①契約の開始年月日 ④前払金および入居後に支払う費用 契約は、契約の締結日から効力が生じます。 前払金等の返還をめぐるトラブルが後を絶ち ただし、利用料が実際に発生するのは、一般的に ません。この問題は、次回以降に詳しく説明をし は入居日あるいは、入居者に鍵を引き渡した日 ます。なお、入居後に支払う費用に関しては、起 となります。そのため、契約締結の段階でいつ 算日の確認のほか、管理費の使途について他の費 から利用料が発生するのか、入居予定日を記載 用が混入していないかなど確認をとりましょう。 次回は、標準入居契約書の契約条項について *2 (公社) 全国有料老人ホーム協会『有料老人ホーム標準入居契約書 及び標準管理規程 (5訂版) (平成 24 年)の 19 ページ以下の解 』 説が大変参考になる。 重説にも触れながらみていきます。 2016.6 16