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総括・分担 - 国立成育医療研究センター

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総括・分担 - 国立成育医療研究センター
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
発達障害者の新しい診断・治療法の開発に関する研究
主任研究者 奥山眞紀子 国立成育医療センター
目 次
Ⅰ.総括研究報告
発達障害者の新しい診断・治療法の開発に関する研究
(奥山眞紀子) ··································································
1
Ⅱ.分担研究報告
1)発達障害の診断の妥当性を検証し、臨床家向けガイドライン提案に関する研究
(全体研究) ·································································· 11
2)発達障害の診断基準に関する信頼性・妥当性の定量的データの検討
(泉真由子) ··································································· 19
3)自閉症の超早期診断法および未診断成人症例の簡便な診断法の開発
(神尾陽子) ································································· 25
4)広汎性発達障害に対する早期治療法の開発 (杉山登志郎)························· 37
Ⅰ 早期療育の効果に関する検討
研究 1 発達障害から発達凹凸へ (杉山登志郎・並木典子) ··················· 43
研究 2 広汎性発達障害のある 2 歳児への早期療育
―広汎性発達障害の有無による比較検討―(原 仁・富永亜由美) ······ 49
研究 3 PECS を中心とした早期療育について(中間報告)
(山根希代子・服巻 繁) ············································ 55
研究 4 つみきの会における ABA 家庭療育の半年間の成果
(藤坂龍司・池田千紗・井上ともみ・森岡真生) ························ 67
Ⅱ 強度行動障害の再検討
研究 1 強度行動障害の再検討
(杉山登志郎・川村昌代・橋詰由加里・大隅香苗) ···················· 73
研究 2 強度行動障害の再検討:石井班の報告を中心に
(川村昌代・杉山登志郎) ·········································· 81
研究 3 厚生省心身障害研究「強度行動障害の処遇に関する研究」
(平成 2 年度~平成 8 年度)(主任研究者石井哲夫)
研究成果―そのまとめ、問題点、今後の課題―(小林隆児) ·········· 93
研究 4 自閉症入所更生施設さつき学園での実践から得られた成果
―行動障害の成り立ちと関係発達支援―(小林隆児) ················ 103
研究 5 おしまコロニー(第二おしま学園)における強度行動障害支援
(寺尾孝士) ····················································· 113
5)発達障害に対する他覚的診断法の開発(加我牧子) ································ 123
6)ADHD の客観的および多角的治療法(山下裕史朗) ································ 131
7)ADHD への総合的治療法の開発
(田中康雄・久蔵孝幸・川俣智路・金井優実子・内田雅志・福間麻紀) ··············· 137
8)LD(とくにディスレクシア)の早期診断法と治療教育法の開発
(小枝達也)··································································· 147
9)LD(ディスレキシア)および付随した障害に対する PC(シリアスゲームなど)
を使った治療法の開発(宮尾益知) ··············································· 151
10)新しいソーシャルスキル・トレーニングを含んだ治療法の開発(辻井正次) ·········· 155
・その1 通常学級における書字習得達成度に関する調査(辻井正次) ················ 155
・その2
広汎性発達障害に対する「困った」場面での対処スキル獲得のための
プログラム開発の試み(辻井正次) ······································ 161
・その3
高機能広汎性発達障害児の完璧主義に対するプログラムの作成の試み
(辻井正次)·························································· 169
11)教育現場で可能な発達障害の評価法および治療法の開発(井上雅彦)················· 177
Ⅲ.研究成果の刊行に関する一覧表 ·················································· 187
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
総括研究報告書
発達障害者の新しい診断・治療法の開発に関する研究
主任研究者
奥山 眞紀子 国立成育医療センター
こころの診療部
分担研究者
井上 雅彦
兵庫教育大学大学院 臨床健康教育学系
加我 牧子
国立精神・神経センター精神保健研究所長
神尾 陽子
国立精神・神経センター精神保健研究所
小枝 達也
鳥取大学地域学部
杉山 登志郎 あいち小児保健医療総合センター
田中 康雄
北海道大学大学院教育学研究院附属
子ども発達臨床研究センター
辻井 正次
中京大学現代社会学部
宮尾 益知
国立成育医療センター 発達心理科
山下 裕史朗
久留米大学医学部 准教授
研究要旨
【目的】発達障害者支援法に基づき、支援を必要とする発達障害児者が適切に診断され
る方法を見出すこと、および発達障害児者がそのライフサイクルにあった支援を受けら
れるような診断・治療を明確に提示できることを目的として研究が行われた。【方法】
全国の一般の医師が支援を必要とする発達障害児者を診断できるツールに関して、本研
究に携わる研究者全員で議論を重ねた。各分担研究に関しては、昨年に引き続き、エビ
デンスのある診断・治療法の開発に関しての研究を継続した。【結果】一般医師が支援
を必要とする発達障害児者を診断するツールとして、精神障害者保健福祉手帳診断書の
改訂案を提示した。また、各分担研究においては、広汎性発達障害の各年齢でのスクリ
ーニングツールの信頼性・妥当性が示され、各種早期療育の効果判定が開始され、中間
での報告がなされた。また、強度行動障害に対する新しい考え方と支援の方向性を提示
した。注意欠陥/多動性障害に関しては、スクリーニングツールと治療評価ツールが提
示され、患者家族及び治療者が共通に望んでいる治療法の一つがペアレントトレーニン
グであることが明らかになった。また、モグラーズを用いた多角的診断に関して、脳機
能の視点からその特異性が明らかになった。読字障害に対する新しい早期発見・介入シ
― 1 ―
ステムを提案・実行し、実際に発見され介入効果も確認された。PC を用いたトレーニ
ングでは、一般生徒と異なり、読字障害では他の学習に比べてその学習効果の持続が長
期にわたることが明らかとなった。大規模調査から一般の低学年生徒の約 6%に書字困
難児が存在することが明らかとなり、就学時の単純な図形のなぞりがきや視写の不得意
がその困難に影響を与えることが明らかとなりスクリーニングの可能性が示された。ソ
ーシャルスキルトレーニングに関しては、「困った」場面への対応と完璧主義行動の変
容を目的としたプログラムを開発してその効果と限界を提示した。専門家の数に比べて
非常に多い学校教師への支援として、e-learning を立ち上げて、その実行可能性を明
らかにした。【考察】さまざまな特徴をもった発達障害者に対して必要に応じた適切な
診断ができ、適切な支援ができる基礎ができてきている。本研究を続けて、総合的な診
断・治療への提言を行うことが必要である。
社会的に還元することを目的として研究
A 研究目的
を開始した。
近年、発達障害と診断される子どもた
ちが増加した。それを受けて、発達障害
(倫理面への配慮)
者支援法が施行され、有効な診断・治療
対象が発達障害児もしくはその親であ
方法が求められている。しかし、現時点
る場合は個人情報が特定されないように
では、発達障害は残念ながら完治を求め
配慮し、同意を得ることを原則とし、そ
る障害ではない。従って、気づき、早期
れぞれの施設の倫理委員会での承認を得
のリスク診断、早期療育、診断、治療、
た。対象が医師などの専門家である場合
親への対応、その他の支援を各年齢に応
も、個人情報が特定されないよう配慮し
じて行っていく必要がある。また、その
た上で、その専門家の団体の同意を得た。
障害児は地域で生活していくものであり、
一機関だけがそれを担っていくものでも
B.研究方法およびC.研究結果
ない。つまり、発達障害児・者を診断・
以下に各分担研究者の研究の進ちょく
治療・支援するためには、ライフサイク
状況に関して概説する。
ルを視野に入れた地域連携クリティカル
1.発達障害の診断の妥当性を検証し、
臨床家向けガイドライン提案に関す
る研究(全体研究)
パスが必要となる。
本研究では、発達障害者支援法で対象
とされている代表的な発達障害として、
【方法】
広汎性発達障害(PDD)
、注意欠陥/多動
全国で同じように支援を必要とする発
性障害(ADHD)、学習障害(LD)を取
達障害児者を診断できるためには、一般
り上げ、それぞれの早期診断、早期介入
の医師がそれを行えるツールが必要であ
を中心に、診断・治療法およびソーシャ
り、そのツールを作成することを目的と
ルスキルトレーニング(SST)や教育
して、発達障害診療の経験が多い本研究
支援に関しての研究を行い、その成果を
主任および分担研究者と一部の研究協力
― 2 ―
者で議論を重ねた。
26 名、医師 19 名、教育カウンセラー1 名
【結果】
にアンケート調査を行った。
方向性として、精神障害者保健福祉手
【結果】
帳診断書の改訂を行うことが望ましいと
保健師は医師に比べて 1~2 歳代では
いう結論となり、大改訂の案も作成され
親の育児困難感の気づきの支援が多く、
たが、現状の分析から、これまでの診断
その利点を生かしつつ、客観的評価の視
に混乱を与えない範囲での小改訂案を作
点を強化すべきことが明らかになった。
成した。
また、医師・保健師ともに 1~2 歳代と 3
歳代では必要な支援の焦点が異なり、対
2.発達障害の新しいアセスメントツ
ールの開発における妥当性の検討に
ついて(泉真由子)
象年齢に応じた支援法の確立の必要性が
【方法】
研究②:
示された。
新しいアセスメントツールの妥当性・
日本語版 M-CHAT の信頼性と幼児用自閉
信頼性および項目の精選を統計学的に検
症スクリーニング尺度としての臨床的妥当
討するための方法について、文献研究を
性の検証
経てその提案を行った。
【方法】
【結果】
昨年の研究対象であった、1 歳 6 か月健
作成したアセスメントツールの信頼
診を受診し、日本語版 M-CHAT(Modified
性・妥当性について統計学的に検討する
Checklist for Autism in Toddlers)を記入し
には、いくつかの方法があるがそれぞれ
た約 1400 名中、1 歳 6 か月から 3 歳時ま
についてその内容、適用例を挙げると共
でに面接をうけて一度でも ASD(自閉症ス
に、本研究の対象及び実施環境の特徴等
ペクトラム)の診断がついたケース 27 名
を総合的に勘案し、それぞれの方法のメ
につき、M-CHAT でのスクリーニング陽性
リット・デメリットを列挙した表を作成
群、陰性群、2 歳の面接以降フォローでき
した。
なかった群の 3 群に分けて検討した。
【結果】
3.自閉症の超早期診断法および未診
断成人症例の簡便な診断法の開発に
関する研究(神尾陽子)
5 が高機能であった。1 歳 6 ヵ月時の不通
研究①高機能 PDD の早期診断をめぐる医
は、
3 歳時の自閉症の総合的重症度(CARS
療側のニーズに関する実態調査
合計得点)や発達水準を予測しなかった。
【方法】
スクリーニング時に専門家が補足する方
支援者側として、今年度は保健師の対
27 名(男 19、女 8)中 14 名(男 9、女
過項目数およびスクリーニング陽性/陰性
法が必要であることが示された。
応状況を調査するため、国立精神神経セ
研究③:
ンターの研修に全国から参加した保健師
高機能 PDD 児童青年の対人応答性尺度
― 3 ―
(Social Responsiveness Scale: SRS)を用い
①-2広汎性発達障害のある 2 歳児への
た特性把握
早期療育―広汎性発達障害の有無による
【方法】
比較検討―
広汎性発達障害(PDD)の診断を受けた
【方法】
児童青年 133 名、PDD 以外の精神医学的診
早期療育の「おひさまグループ」への
断を受けた同年代 36 名を対象として、SRS
入会希望者 2 歳児クラス 16 例のうち、本
日本語版の信頼性と妥当性を検討した。
研究の 1 年間の効果判定に参加した 13 例
親および教師回答の内的一貫性の検討の
に対して、5~7 月に PARS 面接を実施し、
ため、精神科患者および特別支援学校生
保護者には 3 月の時点を想起してもらい、
徒、幼稚園児など 442 名を対象とした。
回顧的 PARS 面接を行った。
【結果】
【結果】広汎性発達障害診断群(PDD 群)
信頼性、構成概念妥当性、PARS との
7 例と非広汎性発達障害群(N-PDD 群)6
併存的妥当性いずれにおいても十分な結
例を比較した。PARS 評価では、PDD 群の
果が得られ、SRS は高機能 PDD のアセ
得点の中央値は N-PDD 群のそれより高値
スメントツールとなることが示された。
(28 対 22.5)の傾向(P=<0.1)を示した
が、N-PDD 群の PARS 得点の分布は PDD 群
4.広汎性発達障害に対する早期治療
法の開発(杉山登志郎)
より広く分布していた。早期療育導入前
研究①
Ⅴ2例)、KIDS による発達評価、CBCL に
早期療育の効果に関する検討
よる行動評価による評価結果の中央値に
①-1発達障害の呼称に関する検討
有意差はなかった。一方、N-PDD 群の母親
【方法】
の GHQ28 の総得点の中央値は、PDD 群のそ
「発達障害」という呼称の是非に関し
の発達検査(新版 K 式 11 例、田中ビネー
れより高い傾向(11.5 対 5.5)を示した。
て論じ、その問題点を指摘した。
①-3PECS を中心とした早期療育につい
【結果】
て(中間報告)
発達障害はベースとしての認知の凸凹
【方法】
があり、それによって適応障害となると
1 歳 11 ヶ月から 2 歳 11 ヶ月の PDD 児
精神科診断が適応されるが、それ以前か
12 名に絵カード交換式コミュニケーショ
らの偏りへのサポートが適応障害を防ぐ
ンシステム(PECS)を中心とした早期療
うえで必要であり、その段階で「発達凸
育を実施し、6 ヶ月経過後の KIDS、CBCL
凹」と診断して、早期には認知の凸凹へ
GHQ-28 を行った。
の支援と迫害体験の予防が必要である。
【結果】
また、わが国では凹への対応が強調され
KIDS 全体の DQ の平均は、療育前 68.4
るが、凸を持つ子ども、つまり gifted の
から半年後 71.8 と、有意差は認めなかっ
子どもへの教育の在り方も重要となるこ
た。CBCL は、総得点の平均が、療育前 51.6
とを示した。
から半年後 44.8 と有意に減少し、問題行
― 4 ―
動の減少が認められた。GHQ28 の要素点の
閉症療育および施設療育の歴史を踏まえ
総計の平均は、療育前 6、半年後 4.7 と有
指摘した。強度行動障害の成因として、
意差は認められなかった。
指摘されて来なかった問題としてトラウ
①-4つみきの会におけるABA家庭療
マの介在、チックおよび気分障害の併存
育の半年間の成果
について述べた。今後の課題として、医
【方法】
療と福祉の協働による治療モデルが必要
平均 33.6 ヶ月の男児 8 名、女児 4 名の
であることを指摘した。
自閉症・広汎性発達障害に、つみきの会
経過した段階で測定した。
5.発達障害に対する他覚的診断法の
開発(加我牧子)
【結果】
【方法】
による家庭での ABA 療育の結果を、半年
PARS 得点変化がなく、CBCL も事前平均
国立精神・神経センター武蔵病院小児
値 66.4、中間検査平均値 60.7 で統計学的
神経科を受診し、ADHDと診断された
に有意の差は認められなかった。母親の
小児 20 名、定型発達児 20 名をを対象と
GHQ は平均値 9.7 に対し中間検査値平均
して「もぐらーず」を用いた持続性遂行
12.4 と悪化したが、統計的に有意の差は
課題(CPT)を与えた結果を検討した。同
認められなかった。KIDS における発達指
時に課題遂行時に近赤外線スペクトロス
数は、事前検査平均値 50.9、中間検査平
コピー(NIRS)を用いて、脳血流の測定
均値 55.5 と、統計学的有意な上昇が認め
を行った。
られ、新版K式発達検査による発達指数
【結果】
も、事前検査平均値 55.8、中間検査平均
CPT を用いた解析では、AD/HD 群で反応
値が 62.8 で、統計的に有意の差が認めら
時間のばらつきやお手つきエラー率の変
れた。
化に特徴的な所見を認めた。
NIRS 解析の結果、運動反応を抑制する
研究②
強度行動障害事業の再検討
行動を求められる条件で、前頭葉脳血流
【方法】
が増加していないことが明らかとなった。
これまでの強度行動障害事業とそれに
点を抽出し、その意味を検討した。
6.ADHD の客観的診断法の開発に関す
る研究(山下裕史朗)
【結果】
研究①
関連した研究を歴史的に検討して、問題
強度行動障害とは実は青年期パニック
診断ツールの有用性の評価
を頻発させていた当時の処遇困難に陥っ
1)スクリーニング
た自閉症であり、行動障害という曖昧な
【方法】
対象を据え、入所施設における処遇事業
SDQ
(Strength
and
Difficulties
とその研究が行われた結果、当初の目的
Questionnaire)というすでに 4~12 歳一
からのずれが生じた状況を、わが国の自
般小児 2899 名による検討でカットオフ
― 5 ―
が決定されているツールに関して、今回
認知に関しては、DN-CAS でプランニン
は、発達障害のスクリーニングとしての
グと注意が低い典型的 ADHD パターンの児
妥当性を検討するために、5 歳児健診対象
が 19 名中 8 名であった。CogHealth では
136 名 に 施 行 し た 。 そ の 中 で 、 Total
STP に参加した 22 名の前後で 4 つのすべ
Difficulties Score(TDS)の高値であった
てのタスク(単純反応、選択反応、遅延
8.8%の子どもに診断及び行動観察を行
再生、作業記憶)の下位項目いずれかに
った。また、受診中の ADHD30 名と HFPDD30
有意な改善が認められ、特に作業記憶で
名に SDQ を試行し、一般群と比較した。
は、反応速度、正答率、反応遅れ、見込
【結果】
み反応ともに改善していた。
何らかの発達の問題が疑われる子ども
が全体の 5.9%であることが示された。
【研究①の結論】
受診中臨床群と一般群では、教師評価
ADHD スクリーニング検査としては簡便
では ADHD で多動、行為に HFPDD で仲間関
な SDQ、治療前後の評価には、Brown ADD
係に優位差を認めた。保護者評価では
Scale、IRS が使える。また DN-CAS は ADHD
HFPDD で仲間関係と情緒に優位差を認め
児の認知特性を評価し指導する上で有用
た。
である。CogHealthR は、外来レベルで子
2)治療効果判定
どもの認知機能を簡単に検査可能であり、
【方法】
ADHD 児の診断や治療効果評価に使える可
夏季治療プログラム(STP)参加者にそ
能性が高い。
の前後で ADHD Rating Scale、SDQ、Brown
ADD Scale, Impairment Rating Scale
研究②
(IRS)、DN-CAS、CogHealth を比較し、有
総合的治療法としての夏季治療プログ
用性に関して検討した。
ラム(STP)の効果に関して
【結果】
【方法】
治療前後で優位差があったのは ADHD
これまで行ってきた 3 週間プログラム
Rating Scale の不注意・多動衝動性、反
を検討し、多くの効果は 2 週間目までに
抗挑戦性障害スケール、SDQ の行為、多動、
現われていることを確認したため、今年
情緒、仲間関係、向社会性のすべての項
度は 2 週間プログラムを開発して行い、
目、Brown ADD Scale のとりかかり、集中
その効果を検討した。
力、努力の維持、感情統制、多動・衝動
【結果】
性であった。IRS は、学業と自尊心、全体
小学生参加者 23 名。低学年群と高学年
的重症度に有意な改善を認めたが、友達
群を比較したが両群とも効果があり、群
関係、兄弟関係、親との関係は変化なか
間の差はなかった。
った。Brown ADD Scale のとりかかり、感
これまでの研究を含めて、STP の効果が
情統制、反抗挑戦性スケール、SDQ の多動
示されたため、その普及を目的として、
に STP 前後で有意差を認めた。
ホームページを開設し、パンフレットお
― 6 ―
よび DVD を作成し、他の地域でのセミナ
法は,薬物、ペアレントトレーニング、
ーを開催した。
行動療法や感覚統合療法であった。
今後実施してみたい方法としてはペア
7.ADHD への総合的治療法の開発
に関する研究(田中康雄)
レントトレーニング,SST<集団療法が上
げられていた。
【方法】
療機関での治療に関するアンケートを実
8.LD(ディスレキシア:dyslexia)
の早期診断法と治療教育法の開発(小
枝達也)
施した。同時に日本児童青年精神医学会
【方法】
昨年、ADHDの子どもを持つ保護者
約 1500 名に対して、ADHD に対する医
および日本小児精神神経学会に所属して
平成 19 年度に実施した文章音読課題
いる全医師 1644 名を対象にADHDの
の結果から抽出された dyslexia 疑い児に
治療に対するアンケート調査を行った。
おける読字能力の経過を追跡し、音読を
その結果の最終分析を行った。
向上させる治療教育プログラムを実施し
て、その効果を判定した。
【結果】
プログラムは音読指導として解読
最終分析
(decoding)を促進させる指導(以下、
1)保護者への医療機関での治療に関す
解読指導)および単語のモジュールの形
るアンケートで
成を促進する指導(モジュール形成指導)
医師の面談を大半が受けており,半数
の2つを段階的に行った。頻度は週一回、
ほどが助言を受けている。また心理相談
1時間程度とした。
なども得られるが,それ以外はほとんど
【結果】
ない。治療内容は,薬物療法と心理療法
昨年度抽出された児 1 名は、医学的面
と育児助言,保育教育連携,診療情報提
接および心理検査より、鑑別診断を行い、
供程度が普及している現状である。なか
ディスレキシアと診断された。
でも心理療法や SST,薬物療法やペアレン
治療プログラム開始後 3 か月で、読み
トトレーニングへの要望は高いことが明
誤ったり読み詰まったりする単音はなく
らかになった。
なった。音読能力を音読時間と誤読数の
2)医師へのアンケート
2つで調べたところ、清音、単音の連続
医師の診断根拠としては,DSM,ICD
読み検査にて音読時間の短縮はなかった
および心理検査で、診断に要する期間は
が、誤読数の減少が認められた。また、
1.5 ヶ月程度で 75%は3ヶ月以内に診断。
有意味単語の音読検査においても同様の
医師が採用している治療方法は,薬物
結果であった。モジュール形成指導では
療法と心理的対応が中心で,保護者への
音読時間が短縮された。以上より、治療
育児の助言と保育教育の連携も行ってい
効果が認められたと判断できた。
る。そのなかで,有効だと感じる治療方
― 7 ―
本治療プログラムの普及のために、
e-learning のサイトを立ち上げた。
明らかになった。また、パス解析によっ
て、単純な図形のなぞりがきや視写の不
9.LD(ディスレキシア)および付
随した障害に対する PC(シリアスゲ
ームなど)を使った治療法の開発(宮
尾益知)
【方法】
得意が,ひらがなの学習に影響を与えて
いる可能性が示された。さらに,1 年次の
ひらがな習熟度から2年次の漢字習熟度
が予測されることが示された。
研究②
昨年度の報告と同対象に更に行った治
療を詳しく検討した。
広汎性発達障害に対する「困った」場
面での対処スキル獲得のためのプログラ
また、一般小学校 2 年生 60 名に同様の
方法で学習を行わせ、その結果を LD 児
ム開発の試み
【方法】
PDD は困った時の対応の困難からパニ
と比較した。
【結果】
ックになる傾向があるため、「困る」場
LD 児関しては、学習直後に上がった記
面での対処スキルの獲得のためのプログ
憶が 2 か月後には消失していたが、本治
ラムを作成して 12 名(男 9、女 3)に実
療を行った語に関しては、2 か月以上記憶
施した。1 セッション 2 時間で 3 セッシ
が保持されていた。
ョン行った。なお試行的に最終プログラ
一般の生徒では、実験後は,訓練語の
ムを作り、5 名(男4、女1)に行った。
正答率が 74.51%,非訓練語が 67.31%で
これは、1 セッション 1 時間で 3 セッシ
あり、1 ヶ月後は,訓練語の正答率が
ョン行った。
32.08%,非訓練語が 24.00%と、実験後
【結果】
および実験 1 ヶ月後ともに非訓練語より
訓練語の正答率が高かった。
評価項目に欠損のなかった 11 名を分
析し、「困る」ということの概念的理解
は増加し、誰かに言うという対処スキル
10.新しいソーシャルスキル・トレー
ニング(SST)を含んだ治療法の開発
(辻井正次)
は促進されたが、その他の対処スキルに
研究①
た」場合に自分がどうなるかの理解と誰
通常学級における書字習得達成度に関
する調査
【方法】
かに言う以外の対処スキルの獲得が目的
小学 1 年生 922 名、2 年生 930 名を対
象にこれまでに開発された方法で調査を
は課題が残った。
最終プログラムはそれをもとに「困っ
であった。その結果、概念的・体験的理
解は改善しておらず、対処行動は進んだ
が持続に問題があった。
研究③
行った。
高機能広汎性発達障害児の完璧主義に
【結果】
約 6%に書字困難児が存在することが
対するプログラムの作成の試み
【方法】
― 8 ―
PDD の特徴でもあり、不適応行動につ
種、対象児童生徒の障害種と程度、指導
ながる「完璧主義」に関して、ワークブ
形式(個別・小集団・学級全体・学校全
ックを用いたプログラムを PDD13 名(男
体)、主たる指導の場(学校場面・専門機
11、女 2)に施行した。施行方法により、
関・学校と専門機関の両方)指導にあた
3 セッションバージョン(1 セッション 2
った人(人数とその立場・コンサルタン
時間で 3 日間連続して施行)7 名と 4 セ
トや加配の有無)
、問題行動の種類、指導
ッションバージョン(1 セッション 45 分
技法、指導の効果を調査した。
を隔週で 4 セッション施行)の 5 名にわ
【結果】
総数 148 編の論文が抽出され、その分
けて行い比較検討した。
評価としては、プログラムの開始時と
析から、実施しやすい技法として環境調
終了後,終了から1ヶ月後に Stallard,P.
整やトークンがあげられ、機能分析、分
(2002)の「誤った考え方のセルフチェッ
化強化、トークン、環境調整、視覚支援
クリスト」により完全主義的な思考の傾
など応用行動分析学や TEACHH などに基づ
向と認知の変化を評価し、親への質問し
いた技法の有効性が示唆されていた。し
調査も同時に行った。
かしながら、数値的データを測定して効
【結果】
果を証明している研究は少なく、その多
セルフチェックリストの得点変化の結
くが記述によるものであり今後の実践研
果から,13 名中 8 名がプログラム終了後
究における課題となった。
1 ヶ月しても適応的な思考への変化が持
研究②
続していおり、特に,4 セッションバージ
特別支援教育における e-learning 研修に
ョンの方がその傾向が強く,この評価は
関する教師の意識
保護者評価とも一致していた。認知の変
【方法】
容が生じていると考えられた。 保護者ア
2008 年 1 月~6 月の期間に関西及び関
ンケートより日常レベルでも変化が見ら
東地区の公立の現職教師 444 名に対して、
れていた。
e-learning に対するスキルを質問紙で調
査した。
11.教育現場で可能な発達障害の評価
法および治療法の開発(井上雅彦)
【結果】
研究①
ルも概ね伴っていることが確認された。
教育現場での効果的技法に関する文献研
ただし、e-learning とパソコンスキルに
究
は年齢および性差があり、問題行動に関
【方法】
する知識には性差と校種別差が認められ
e-learning への参加希望は高く、スキ
関連学会機関紙等において、学校現場
ていた。以上より特別支援学校の教師に
で問題行動への指導を行っているものを
とって、Web 上での e-learning 研修は、
対象として、一定上の基準での知識と経
パソコンスキルの面での抵抗も少なく、
験を持った評定者 2 名で、学校及び学級
ニーズ面も満たされる、より有効な手段
― 9 ―
となりうることが示唆されていた。
ログラムの開発と効果と限界の評価、教
研究③
育としての新しい方法の提示と実行可能
問題行動に関する e-learning による研修
性の評価が行われた。
本研究で明らかになったことを普及す
効果
る方法を提示し、また、合併障害への支
【方法】
2008 年 9 月中旬から 11 月下旬に、問題
援を提言する必要がある。
行動のある子どもを担任している教師 35
名に e-learning に参加してもらい、アン
E 結論
ケートのみの参加 11 名と比較検討した。
発達障害の代表的な障害に対する診断
評価としては、受講前および受講後に
ツールや早期介入方法や治療方法が提示
KBPAC、小学校教師版自己効力感尺度、
された。また、一般医師が支援を必要と
CBCL および新版 STAI(状態不安)からな
する発達障害児者を診断できるツールを
るアンケートを実施し研修の効果を検討
提案した
した。
F 健康危険情報
【結果】
受講比率が 80%以上と先行研究より高
なし
い傾向を認めた。事前・事後に行ったア
ンケートの結果、KBPAC、小学校教師版自
己効力感尺度および CBCL の得点が、事後
G 研究発表
で変容しており、e-learning の効果が認
別紙参照
められていた。
H 知的財産権の出願・登録状況
(予定を含む)
D. 考察
1.特許取得 なし
本年度より、全体の研究として、一般
医師が支援が必要な発達障害児者の診断
2.実用新案登録 なし
3.その他 なし
ができるツールの提案に関する研究がお
こなわれた。確定した提案を行う必要が
ある。
また、分担研究では昨年に引き続き、
診断ツールや評価ツールの開発、各種治
療効果の測定、必要とされる治療の認定、
客観的な治療法とその特異性の検証、新
しい早期発見・介入システムの提示と実
際の効果の提示、新しい治療法の提示、
新しいソーシャルスキルトレーニングプ
― 10 ―
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
発達障害の診断の妥当性を検証し、臨床家向けガイドライン提案
分担研究者
研究協力者
奥山眞紀子
国立成育医療センター
本研究分担研究者全員
研究要旨
【目的】近年増加傾向にある支援を必要とする発達障害児者に対して、適切に支援
を提供するためには、対象者の居所にかかわらず支援の必要性を診断することがで
きることが必要である。そのためには、一般の精神科医や小児科医などが支援を必
要とした発達障害児者を判断できることが求められる。そこで、そのツールを定め
ることを目的として、本研究を行った。
【方法】今年度は発達障害児者の臨床経験
が多い本研究分担研究者全員が議論を重ね、診断のツールを提案した。【結果】支
援を必要とする発達障害児者はそのライフコースの中で他の精神障害を合併する
ことが多いことを考え、発達障害児者独自のツールではなく、本来は発達障害にも
対応しているはずの精神障害者保健福祉手帳を改良して、発達障害児者に対しても
記入しやすくすることで、支援を必要とする発達障害児者への診断を可能にするこ
とが望ましいと考えられた。それにそって、実際に診断書の改定第 1 案を作成し、
発達障害児に関して記入する際のマニュアルを検討中である。【考察】今年度作成
した第 1 案を実際に専門家ではない医師に使用してもらい、その妥当性を検討する
必要がある。
A.研究目的
近年、発達障害と診断される子どもおよ
び成人が増加している。更に、発達障害者
支援法も施行され、発達障害者へのライフ
サイクルを通した支援が求められているが、
社会資源の適切な配分の見地からも、支援
を必要としている障害児者の診断が必要と
なる。しかも、全国どこにいても支援が受
けられるためには、特殊な専門家による診
断ではなく、一般の医師が診断できる必要
がある。
しかしながら、これまで発達障害児者支
援のための診断ツールがなく、その基準を
策定することが困難であった。そこで、今
回、発達障害の臨床経験が多い本研究の主
任および分担研究者が議論を重ねて、支援
を必要としている発達障害児者診断を行え
るツールを提案することを目標に検討を重
ねた。
B.研究方法
本研究主任研究者および分担研究者で議
― 11 ―
論を重ねた。全員が集まっての議論は 3 回
であり、それぞれ半日以上かけて集中的に
議論がなされた。更に、メールを介しての
議論および少人数での議論も加えられた。
めに、以下の点が問題となる。
①子どもに適応することが困難である
②発達障害児者の示す症状が記載されて
いないため、症状記載が困難である
③生活能力の評価において、発達障害児
(倫理面への配慮)
者の生活上の困難の原因となる問題、例え
今年度は診断書案の作成であり、人間を
ば対人関係の問題などが記載されていない
対象とした研究ではないため、対象となら
ため、そのままつけると、生活能力の問題
ない。
が表現できない。
そこで、まず、WHO の「ICF
(International Classification of
C.研究結果
Functioning, Disability and Health)
」の
1.方向性の決定
概念に基づいて、どのような項目が必要か
本研究の目的が、支援を必要としている
に関する検討を行った。
発達障害児者の特定であるため、幅広く支
しかしながら、その方法では新たな診断
援を必要としている人を特定できることが
書となり、他の精神障害や合併精神障害が
求められると判断した。発達障害児者のみ
の対応する診断書の可能性も検討されたが、 適切に表現されないこと、および現在多数
を占めている統合失調症や感情障害の診断
以下の点で、現在すでに存在し、本来であ
に混乱を生じることから、その検討結果を
れば発達障害も対象である精神障害者保健
踏まえて、精神障害保健福祉手帳を最小限
福祉手帳診断書を基礎として考える方が妥
に変更することで、支援の必要な発達障害
当であるという結論に達した。
児者の困難さを表現できる方法を検討した。
①発達障害は精神障害の一部である
②発達障害児者はそのライフコースの中
3.具体的に第 1 案を提案した
で他の精神障害を合併することが多く、そ
実際の発達障害児者をイメージし、かつ、
のために支援が必要となることが少なくな
その合併症および鑑別障害であるが同様の
い。従って、その診断も行えるためには、
支援を必要とする病態にも対応することを
精神保健福祉手帳診断書が望ましい
目的として、以下の変更を加えた。なお、
③知的障害を伴う発達障害児者はこれま
できるだけ専門家以外でもつけられるよう
でも知的障害者手帳が発行されており、そ
に配慮した。
の支援はある程度達成されているため、今
回は知的障害を伴わない発達障害を対象と
1)病状、状態像に関して
考える。ただし、知的障害を伴う発達障害
①情動及び行動の障害に含まれていた多
児者を排除しない。
動を削り、自傷および性的逸脱を加える
②知的障害に IQ を書き入れることがで
2.支援を必要とする発達障害児者の診断
きるようにする
を行う上で現在の精神保健福祉手帳診断書
③社会性の困難、こだわり・知覚過敏、
の問題点を抽出
注意行動の抑制の困難、学習の困難、自立
現在の精神保健福祉手帳診断書は主とし
機能の障害、トラウマおよびそれに関連す
て統合失調症および感情障害の診断が適切
る症状という項目を立てて、それぞれに目
になされるように構成されている。そのた
― 12 ―
安となる症状を加えた
④その他の症状を書く欄を広くして、他
の症状(例:チック症状など)を書き込み
やすくする。
ようにした。
D.考察
1.今後必要なプロセス
1)他の障害を考慮する必要性
2)生活能力の状態
発達障害の増加という問題から、発達障
全体のコメントは成人を対象にしている
害やその合併症および鑑別障害で支援が必
のでその旨を明らかにする
要な障害を中心に改訂案を作成した。しか
(1)現在の生活環境
し、他に支援を必要とする障害で比較的対
子どもの場合には里親などの場合もあ
象者が多い障害があれば同時に改訂を考え
り、その他の項目を加える
るべきである。高次機能障害などを含め、
(2)日常生活能力の判定
そのような障害の有無を検討すべきである。
①子どもの場合には年齢によって異な
2)改訂案の最終決定
るため、
「但し、児童の場合には年齢相応の
本研究班以外の専門家の意見も参考に改
能力で判定してください」を加えた
訂案の最終決定を行う。
②身辺に清潔保持に「規則正しい生活」 3)一般精神科医、小児科医に実際に記入
を加えた
してもらい問題点を把握し、それを補完す
③金銭管理に「持ち物管理」を加えた
ることのできるマニュアルを作成する
④新たに、以下の 3 項目を加えた
今回の改訂案は専門家が中心に作ってい
・家庭や学校、職場でやるべきこと
るため、一般の医師が記入する上での問題
を順序立てて行うこと
点の把握が困難である。経験の浅い医師に
・対人関係
記入を依頼し、その際の困難な点を把握し
・「読み」
「書き」
「計算」
てそれを補完するマニュアルを作成する。
⑤更に、子どもの場合には、家族の機
4)妥当性の検討
能によって支援の必要性や質が異なるため、
一定数の対象に対して複数の一般の医師
家庭の援助だけでよいか、家庭外の援助が
が記入を行い、泉分担研究者の研究を参考
必要か、すべて家庭外の援助となるのかを
に妥当性の検討を行う。
判断する項目を付け加えた。
5)最終改訂案を提示する
(3)日常生活の程度
以上をもとに、最終的な改訂案を提示す
①「精神障害」を「精神障害(発達障
る。
害)」とした
②「社会生活」を「社会生活(学校・
2.長期的な視点からの議論の必要性
職場等)」とした。
今回は、できるだけ現行に合わせた形で、
(4)新たに、
「養育・養育環境で特記すべ
支援を受ける必要のある発達障害児者の診
きこと」を記入する欄を加えた。
断ができることを目的として案を作成した。
しかしながら、精神障害保健福祉手帳に関
3)子どもの場合、発達によって支援は異
しての議論を進める中で、以下のような議
なってくるため、備考欄に、今後の成長や
論もあった。長期的にはこのような視点も
改善が予想されていても、現在は支援が明
配慮されるべきであると考えられた。
確に必要になる場合はその旨を記載できる
1)障害全体に関する概念の統合
― 13 ―
現在、身体障害、知的障害、精神障害に
関する障害者手帳が存在する。前 2 者と後
者では法律も異なる。また、身体障害と知
的 障 害 は disability を 、 精 神 障 害 は
disorder を指すという考えがあったが、
disorder は診断名であり、支援を必要とす
るかどうかを指すものではない。このよう
にさまざまな混同があり、使用する立場か
らは多くの混乱が生じる危険がある。身体
障害、知的障害、精神障害の概念を明確に
し、合併障害の問題も考慮して、統合した
考え方を提示する必要がある。
2)精神障害者保健福祉手帳診断書の概念
同手帳診断書は最初に ICD での診断名を
提示させているが、症状に関しては一部の
診断に適応できる形になっている。具体的
には、これまでは統合失調症および感情障
害への適応が主であり、それ以外の精神障
害に関しては記入がしにくい状況となって
いる。今回、発達障害者の支援には有用と
なるとしても、本来、精神障害全てが対象
となっているはずであり、他の障害で同等
の支援を必要としている精神障害児者を排
除することのない診断書の体系が望まれる。
E.結論
一般医師が支援の必要な発達障害児者の
診断が可能になるようなツールとして、精
神障害者保健福祉手帳診断書改訂案を作成
した。
F.健康危険情報
特になし。
G.研究発表
特になし
H.知的財産権の出願・登録状況
特になし
― 14 ―
資料
診断書(精神障害者保健福祉手帳用)改訂第 1 案
明・大
氏 名
男・女
昭・平
住
年
月
日生(
歳)
所
1 病名
(1) 主たる精神障害
(ICDカテゴリー
は、F00~F99、
G40のいずれかを (2) 従たる精神障害
記載してくださ
(3) 身 体 合 併 症
い。)
年
2 初診年月日
月
ICDカテゴリー (
)
ICDカテゴリー (
)
日
診療録で確認/本人又は家族等の申し立て
前医がある場合、前医が初めて診断した日が初診日となります。
3 発病から現在 (推定発病時期
までの病歴
(推定発病年
月、精神科受診
歴等)
年
月頃)
4 現在までの病状、状態像等
(11)社会性の困難
(該当する項目を○で囲んでください。)
1他者と双方向のやり取りができない、2言
(1) 抑うつ状態
語によるコミュニケーションの遅れ・偏り、3
1 思考・運動抑制 2 刺激性、興奮 3 憂うつ気分 ルールが守れない
4その他(
)
(2) 躁状態
(12) こだわり・知覚過敏
1 行為心迫 2 多弁 3 感情高揚・刺激性
1社会的な困難を引き起こすこだわり、2著
4その他(
)
しい知覚過敏
(3) 幻覚妄想状態
1 幻覚 2 妄想 3 その他(
)
(13)注意行動の抑制の困難
(4) 精神運動興奮及び昏迷の状態
1多動、2衝動的に危険な行動を繰り返す、
)3不注意、4大人への反抗を繰り返す
1 興奮 2 昏迷 3 拒絶 4 その他(
(5) 統合失調症等残遺状態
1 自閉 2 感情純麻 3 意欲の減退
(14)学習の困難(知的障害のある人は除外)
4 その他(
)
1 読字の困難 2 書字の困難 3 算数
(6) 情動及び行動の障害
(数・量・形)の困難
4 その他の学習の
1 爆発性 2 暴力・衝動行為 3 多動
困難(
)
3食行動の異常 4自傷 5性的逸脱 6その他(
)
(15) 自律機能の障害
(7) 不安及び不穏
1睡眠の障害、2摂食の障害、3排泄の障害、
1 強度の不安・恐怖感 2 強迫体験
4その他(
)
4 その他(
)
(8) けいれん及び意識障害
(16)トラウマおよびそれに関連する症状
1 けいれん 2 せん妄 3 錯乱 4 もうろう
1再体験症状、2回避症状、3過覚醒症状、
)4解離症状、5愛着障害の症状、6その他(
5 てんかん発作 6 不機嫌症 7 その他(
(9) 精神作用物質の乱用及び依存
)
1 アルコール 2 覚せい剤 3 有機溶剤
4 その他(
)
(17)その他(
)
(10) 知能障害
1 知的障害(精神遅滞) ア 軽度 イ 中等度 ウ 重度
IQ(
) 、検査名(
)
5 4の病状・状態像等の具体的程度、
2 認知症
症状等
― 15 ―
6 生活能力の状態(成人では保護的環境でなく、例えばアパート等で単身生活を行った場合を想定して判定してください。)
1 現在の生活環境
入院・入所(施設名
)・在宅・その他(
)
2 日常生活能力の判定(該当するもの一つを○で囲んでください。但し、児童の場合には年齢相応の能力で判断し
てください。)
(1) 適切な食事摂取
自発的にできる・自発的にできるが援助が必要・援助があればできる・できない
(2) 身辺の清潔保持、規則正しい生活
自発的にできる・自発的にできるが援助が必要・援助があればできる・できない
(3) 金銭管理と買い物、持ち物の管理
適切にできる・おおむねできるが援助が必要・援助があればできる・できない
(4)家庭や学校、職場でやるべきことを順序立てて行うこと
適切にできる・おおむねできるが援助が必要・援助があればできる・できない
(5) 通院と服薬(要・不要)
適切にできる・おおむねできるが援助が必要・援助があればできる・できない
(6) 他人との意思伝達
適切にできる・おおむねできるが援助が必要・援助があればできる・できない
(7)対人関係
適切にできる・おおむねできるが援助が必要・援助があればできる・できない
(8) 身辺の安全保持・危機対応
適切にできる・おおむねできるが援助が必要・援助があればできる・できない
(9) 社会的手続きや公共施設の利用
適切にできる・おおむねできるが援助が必要・援助があればできる・できない
(10) 趣味・娯楽への関心、文化的社会的活動への参加
適切にできる・おおむねできるが援助が必要・援助があればできる・できない
(11)「読み」「書き」「計算」
適切にできる・おおむねできるが援助が必要・援助があればできる・できない
※児童における援助(家族の機能を考慮して以下の該当するもの一つを○で囲んでください。)
(1)家庭内での援助ですべてまかなえる、(2)家庭外の援助を必要とする、(3)すべて家庭外の援助がない
とできない。
3 日常生活能力の程度
(該当する番号を選んで、どれか一つを○で囲んでください。)
(1) 精神障害(発達障害)を認めるが、日常生活及び社会生活(学校・職場等)は普通にできる。
(2) 精神障害(発達障害)を認め、日常生活又は社会生活(学校・職場等)に一定の制限を受ける。
(3) 精神障害(発達障害)を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする。
(4) 精神障害(発達障害)を認め、日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を必要とする。
(5) 精神障害 (発達障害)を認め、身の回りのことはほとんどできない。
4 養育・療養環境で特記すべきこと
7 現在の障害者自立支援法のサービスの利用状況
8 備考(現在の必要性)
*今後成長や改善が予想されても、現在は支援が明確に必要
になるという場合は、その旨を記載する
― 16 ―
年
月
日
医療機関コード
医療機関所在地
名
称
電話番号
医師氏名
(自筆又は記名捺印)
― 17 ―
― 18 ―
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
発達障害の診断基準に関する信頼性・妥当性の定量的データの検討
分担研究者
泉
真由子 横浜国立大学
教育人間科学部
研究要旨
発達障害の診断の曖昧さが指摘されており、ばらつきがないような形で支援を提供
できるように、どの地域でも、どの年齢でも、全ての発達障害の診断および支援ニー
ズの確定ができるような、新しいアセスメントツールの開発が望まれている。本年度
は文献研究を行い、現在研究班が作成に取り掛かっている当該ツールの妥当性・信頼
性を検討する際にどのような手法を選択することができるか、それぞれの手法のメリ
ット・デメリットを総合的に比較検討し本研究において適当かつ現実的な統計的手法
をいくつか提案した。
信頼性および項目の精選を統計学的に検
A.研究目的
発達障害者支援法の推進、および障害
討するための方法について、文献研究を
者自立支援法の改正の可能性を踏まえて、 経てその提案を行った。
発達障害に関する様々な議論がなされて
(倫理面への配慮)
いる。その中で、発達障害の診断の曖昧
該当なし
さが指摘されており、ばらつきがないよ
うな形で支援を提供できるように、どの
C.研究結果
地域でも、どの年齢でも、全ての発達障
作成したアセスメントツールの信頼
害の診断および支援ニーズの確定ができ
性・妥当性について統計学的に検討する
るような、新しいアセスメントツールの
には、いくつかの方法があるがそれぞれ
開発が望まれている。現在、研究班が作
についてその内容、適用例を挙げると共
成に取り掛かっている当該ツールの、統
に、本研究の対象及び実施環境の特徴等
計学的妥当性・信頼性を検討することを
を総合的に勘案し、それぞれの方法のメ
目的とする。
リット・デメリットを列挙した(表1参
B.研究方法
照
)。
20 年度は、上記目的を持って開発され
た新しいアセスメントツールの妥当性・
― 19 ―
討するために、①先の調査対象となった
D.考察
本研究班が作成に取り掛かっている発
医療機関に対するアンケート調査と、②
達障害の新しいアセスメントツールの、
実際評価を行った数名の医療者を対処と
統計学的妥当性・信頼性を検討する際に
したフォーカスインタビューを行い、臨
どのような手法を選択すべきかを考察し
床現場での実用性を検討・確認する。
た。表1に示すようにそれぞれ一長一短
があるが、実際的に実現可能な方法は以
E.結論
下に挙げるものであると考えられた。こ
本研究班が作成に取り掛かっている発
の知見をもとに、21年度の研究を進め
達障害の新しいアセスメントツールの、
ていく。
妥当性・信頼性を検討する際に選択すべ
(1)21年度は、研究班により開発さ
き、適当かつ現実的な統計的手法を示唆
れた新しいアセスメントツールの原案を
することができた。
用い、国内数箇所の医療機関に受診中の
臨床群を対象としてデータを収集する。
(参考文献)
肥田野直・瀬谷正敏・大川信明「心理
①反応分布の検討
反応分布が極端に偏っている項目を
教育統計学」,倍風館,1961年
渡部洋「心理統計の技法」,福村出
チェックする。
版,2002
②分別力の検討
G-P 分析により、臨床群内における
重症群と軽症群の比較を行い、対象者の
上田尚一「統計の誤用・活用」,朝倉書
店,2003
東京大学教養学部統計学教室「人文・
反応を適切に
弁別し得るかどうかをチェックする
社会科学の統計学」,東京大学出版
会,1994
③妥当性の検討
上記調査対象に併せて Children’s
鎌原雅彦・宮下一博・大野木裕明・中
Global Assessment Scale(CGAS)
澤潤「質問紙法」,北大路書房,1998
を実施しその重症度と新しいアセス
メントツールの間の相関関係をチェ
F.健康危険情報
ックする
該当なし
④信頼性の検討
新しいアセスメントツール内の項目
群の内容的なまとまりをチェックす
G.研究発表
1.
論文発表
るためにα係数を算出する。また可
泉真由子・奥山眞紀子 「保育園・小
能な範囲で時間(半年程度)を置い
中学校が抱えるこころの問題を持つ子ど
た再検査を実施し、その時間的な安
もの実態調査」 日本小児科学会雑誌
定性をチェックする。
112巻3号 p476~482 2008年
(2)更に、当該ツールの使い安さを検
― 20 ―
泉真由子・奥山眞紀子 「保育園・小
中学校と医療機関の連携に関する実態調
査」日本小児科学会雑誌 112巻3号 p
483~488 2008年
2.
学会発表
特になし
H.知的財産権の出願・登録状況
1. 特許取得
特になし
2. 実用新案登録
特になし
3. その他
特になし
― 21 ―
種類
内容
例
メリット
デメリット
内容的妥当性
表1
妥
当
性
尺度が測
それが測定しよ
複数の「発達障害
研究班の構成メンバー自
複数の分野の専門家
定しよう
うとしている概
の専門家」のチェ
身が専門家でありそこで
によりチェックが行
としてい
念の内容を偏り
ックを受ける
議論されたものなので再
われないと評価が一
るものを
なく反映してい
チェックの必要はないと
面的になる場合があ
本当に測
るかを検討
考えられる
る
っている
か
基準関連妥当
すでに外的な基
①発達障害の症状
妥当性の検討としては最
①当該アセスメントツール以
性
準となる指標が
や状態像に関する
もシンプルで説得力があ
外にも複数の評価項
明確にある場合、
既存の尺度との間
る
目を実施することに
それとの関連性
の相関の高さを検
なるので医療者の負
の高さを検討
討
担が大きい
②第三者(別の評
②一人の発達障害
価者)による臨床
児・者について 2 名
的判断との間の相
以上の医療者が評価
関の高さを検討
を行うので人的負担
③臨床群と非臨床
が大きい
群との間で有意差
③年齢幅が大きいた
があるかを検討
め臨床群と非臨床群
の年齢構成をある程
度合致させる必要が
あり調査が複雑
信
頼
性
測定の正
再検査法
確さ
尺度得点の時間
初回の調査から半
ある程度安定した状態像
時間をあけて 2 度調
的安定性。測定を
年前後に 2 度目の
の評価においては時間的
査を行うので、調査
2 度繰り返したと
調査を行い両者の
安定性が保証されること
実施側、協力側双方
き、観測値が互い
相関の高さを検討
は重要
の負担が大きい
簡単に計算できる
同一の尺度に存在す
に似ているかを
検討
折半法
尺度の内的一貫性。
尺度全体を同等とみ
なすことができる 2 つの尺度に折半し、
る項目(症状等の表
それぞれの観測値間の相関関係を検討
現形)でも必ずしも
全部が一様に症状と
α係数
尺度の内的一貫性。
可能な全ての折半方
して現れるわけでは
法を考慮した信頼性の推定値がα係数。
なく、また出現頻度
ある項目を除外した時の残りの項目に
は低いが重要な項目
よるα係数を計算し、
これが項目全体に
もあり、この方法で
よるα係数との関係性(大小)を検討
判断すると臨床的に
必須な項目が除外さ
れてしまう可能性が
ある
― 22 ―
表1(つづき)
項
目
の
精
選
測定の正
種類
G-P分析
確さ
内容
メリット
合計得点の高低によって被験者を分割
簡単に計算できる
デメリット
特になし
し、各項目について高群と低群の間で
平均値の差の検定を行い、有意差のな
い項目は除外する
I-T分析
因子分析
尺度得点(全体得点)と各項目のとの
同一の尺度に存在す
相関係数の高さを検討し、尺度得点と
る項目(症状等の表
の相関が低い項目は全体の尺度得点の
現形)でも必ずしも
傾向と関係がなく異質であるとし除外
全部が一様に症状と
する
して現れるわけでは
変数(項目)間の相関関係からその背
なく、また出現頻度
後に潜在的な変数として因子を想定
は低いが重要な項目
し、その因子と変数(項目)の関係の
もあり、この方法で
強さを因子負荷量として計算する。尺
判断すると臨床的に
度が一次元的なものであると想定でき
必須な項目が除外さ
るなら、因子は測定しようとしている
れてしまう可能性が
構成概念に相当し、よって因子負荷量
ある
の低い項目は構成概念とあまり関係し
ないとし除外する
― 23 ―
― 24 ―
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
自閉症の超早期診断法および未診断成人症例の簡便な診断法の開発
分担研究者
神尾
陽子 国立精神・神経センター精神保健研究所
研究協力者
辻井
弘美 国立精神・神経センター精神保健研究所
稲田
尚子
井口
英子 大阪府立精神医療センター
白川美也子
宇野
国立精神・神経センター治験管理室
洋太 よこはま発達クリニック
内山登紀夫
研究要旨:
国立精神・神経センター精神保健研究所
大妻女子大学
中野
育子 札幌市精神保健福祉センター
小山
智典
国立精神・神経センター精神保健研究所
奥寺
崇
クリニックおくでら
市川
宏伸 東京都立梅ヶ丘病院
高木
晶子 国立秩父学園
昨年度に引き続き、自閉症および PDD の超早期診断法および未診断成人
症例の診断法開発の第 2 段階として、次の3つの研究課題を行った。①高機能 PDD の
早期診断と親への事後的ケアをめぐる保健医療側のニーズに関する実態調査では、保健
師 14 名、医師 14 名を対象としたアンケート調査を行い、保健師に特有なニーズを検討
した。②日本語版 M-CHAT(Modified Checklist for Autism in Toddlers)の妥当性研究では、
地域コホートの中から前向き研究によって自閉症スペクトラム(Autism Spectrum
Disorders: ASD)のハイリスク群 27 名を対象として、1 歳から 3 歳までの発達経過に関し
て自閉的症状の変化や M-CHAT を用いた予測について縦断的に検討した。その結果、
ハイリスク群内で M-CHAT を有効活用するための臨床的示唆を得た。③高機能 PDD 児
童青年の対人的応答性尺度(Social Responsiveness Scale: SRS)を用いた特性把握では、昨
年度完成した 4-18 歳を対象とした SRS 児童版の日本語版について、445 名の親回答、
168 名の教師回答から高い内部一貫性と、100 名の親回答と教師回答の評価者間信頼性
を確認した。さらに臨床サンプルから 133 名の PDD 児と 36 名の非 PDD 児を対象とし
て、PDD 児の SRS 合計が有意に高く、54 名の臨床群では PARS との一致度が十分であ
ることを示した。
― 25 ―
A
害早期総合支援研修」への参加者に、研
研究目的
本研究は、PDD 早期診断を難しくする
修 2 日目の朝、独自に作成した質問紙「高
要因の一つである、発達の遅れの欠如、
機能広汎性発達障害の早期発見・支援に
すなわち高機能 PDD の幼児から成人につ
関するアンケート」を配布し、記入と研
いての診断をめぐる様々な臨床的ニーズ
修終了時までの提出を依頼し回収した。
を明らかにし、的確な診断法を提案する
対象 上記の研修に参加した、保健師
(26 名)、医師(19 名)、教育カウンセラー
ことを目的として、
① 小児科臨床現場における高機能 PDD
児の早期診断と親への説明を巡る臨
床的問題について、医療側のニーズ
を明らかにする、
(1 名)の合計 46 名を対象とした。研修は、
各自治体を通し、発達障害早期発見・診
断・支援にかかわる機関に勤務する専門
家に周知された。回答者は、医師 14 名(平
均年齢 44.2 歳、32~60 歳、平均経験年数
② 日本語版 M-CHAT (Modified Checklist
for Autism in Toddlers)の信頼性と幼児
用自閉症スクリーニング尺度として
の臨床的妥当性の検証、
14.1 年)、保健師 14 名(平均年齢 39.2 歳、
27~58 歳、平均経験年数 15.2 年)、教育カ
ウンセラー(1)の合計 29 名で、回答者は、
北海道と東北地方を除く日本各地方から
③ 日本語版対人応答性尺度(Social
の出席者であった。
Responsiveness Scale: SRS)の信頼性と
妥当性の検証、
質問項目 基本属性:職務、性別、年
齢、経験年数、勤務形態、勤務地(都道
を、昨年度に引き続き実施した。
府県)の他、1~2 歳代の幼児と、3 歳代
研究①:
の幼児の場合のそれぞれについて、以下
高機能 PDD の早期診断をめぐる医療側の
を質問した。
ニーズに関する実態調査
-この 1 年で高機能広汎性発達障害が
高機能 PDD(HFPDD)の早期発見診断に
疑われたケース数。
あたり、それを受けとめる親への支援の
あり方は、その後の子どもへの療育や支
-疑われた場合に親にどのように伝え
ているか(自由記述)。
援をよりよく進めるために重要な課題で
ある。研究①は、親にどのような支援が
-親に伝える際に重点的に考慮するこ
と(8 つより順番に選択)。
必要かを明らかにする目的で、昨年度の
小児科医対象の調査(辻井ら, 印刷中)に
-親に伝える際に困ったことはあるか。
(「はい」か「いいえ」)
。
引き続き、今年度は保健師側のニーズに
ついて、アンケートにより抽出を試みた。
B
-「はい」の場合、困難度の高いもの。
(6つより順番に選択)
。
研究方法
-親への支援充実に望まれること(情
国立精神・神経センター精神保健研究
報や資源、制度など)は何か(自由記述)。
所児童思春期精神保健部により、2008 年
6 月 18・19 日に行われた「第 3 回発達障
自由記述については、内容件数ごとに
カテゴリーに分類した。
― 26 ―
C
研究結果 表1に示した。
表 1.
対象児
1~2歳代の幼児
3 歳代の幼児
質問項目
HFPDD が疑わ
保健師:平均 0.8 件 (0~35 件) (n=11)
保健師:平均 10.5 件 (0~30 件) (n=10)
れた件数(年)
医
医
親に伝える際
保健師:(n=11)
に最も考慮す
る点
師:平均 7.1 件 (0~30 件) (n=14)
師:平均 16.7 件 (1~100 件) (n=13)
保健師:(n=12)
・親の育児困難感 (42.9%), 親の気づき (21.4%)
医師:(n=13)
・子の症状 (33.3%), 親の気づき (25.0%)
医師:(n=13)
・子の症状 (38.5%), 親の気づき (23.1%)
・子の症状 (46.2%), 親の気づき (23.1%)
親に伝える際
保健師:ある (90.9%), ない (9.1%) (n=11)
保健師:ある (70%), ない (30%) (n=10)
の困難の有無
医
医
親に伝える際
保健師:(n=10)
に最も困ったこ
と
師:ある (100%) (n=11)
師:ある (100%) (n=11)
保健師:(n=7)
・親が動揺 (44.4%), 理解得られず (44.4%)
・理解得られず (42.9%), 親が動揺 (28.6%)
医師:(n=11)
医師:(n=9)
・親が動揺 (27.3%), 親が対応困難に (27.3%)
・親が動揺 (33.3%), 親が対応困難に (33.3%)
・理解得られず (27.3%)
親支援に必要
なこと(自由記
保健師:(14 人中 9 人回答、18 件)
保健師:(14 人中 8 人回答、12 件)
・親向け(8 件) {精神的サポート(4)
述)
・親向け (1 件) {相談窓口(1)}
相談窓口(2), ペアレントトレーニング(2)}
・支援者向け (2 件) {支援者への教育(1)
・支援者向け(3 件) {支援者への研修(2)
親支援の人材づくり(1)}
親支援の人材づくり(1)}
・制度面 (9 件){保育所での療育(4)
・制度面(6 件) {継続的支援の連携(3)
保育所を含む一貫した連携支援(3)
療育施設の充実(2), 行政の連携(1)}
保育所に入れない子の受け皿(2)}
・その他 (1 件) {一般市民への知識普及(1)}
医師:(14 人中 13 人回答、30 件)
医師:(14 人中 11 人回答、21 件)
・親向け (11 件) {ペアレントトレーニング(5),
・親向け (5 件) {ペアレントトレーニング(3),
親の相談窓口(3), 親の精神的支援(1)
親の精神的支援(2)}
親の会(1), 経済的支援(1)}
・支援者向け (5 件) {スクリーニングの研修(4)
・支援者向け (7 件) {スクリーニングの研修(6)
コンサルテーション(1)}
・制度面
保育所スタッフへの研修(1)}
・制度面
(11 件) {療育/専門機関の充実(7)
地域連携(3), 医療費/保険点数見直し(1)}
・その他 (1 件) {一般市民への知識普及(1)}
(10 件) {一貫した連携システムと
コーディネート機関(5), 専門機関の充実(2)
保育所での療育(2), 集団療育(1)}
・その他 (1 件) {一般市民への知識普及(1)}
(n=有効回答数)
D
保健師では、1~2 歳代の場合に、親の育
考察
親に子どもの状態を伝える際に最も考
児困難感が挙げられ、3 歳代の場合に、子
慮することとして、医師では、1~2 歳代
どもの症状や状態の重篤度が挙げられた。
と 3 歳代共に、子どもの症状や状態の重
1~2 歳代と 3 歳代共に、親の気づきの有
篤度が最も多く挙げられた。それに対し、
無を最も考慮するとの回答が、医師と保
― 27 ―
健師共に二番目に多かった。1~2 歳代を
代に応じた支援の必要性が示唆された。
中心とした早期発見・支援にあたり、保
健師は、親の困難感や気づきに注目する
研究②:
傾向があることが示された。こうした親
日本語版 M-CHAT の信頼性と幼児用自閉
への配慮と同時に、子どもに対する客観
症スクリーニング尺度としての臨床的妥当
的評価の視点を盛り込む研修が、保健師
性の検証
を対象に有用であると示唆される。
B 研究方法
親に子どもの状態を伝える際に困った
対象は昨年度と同じコホートのなかか
こととして、1~2 歳代から 3 歳代を通し、
ら、1 歳 6 ヵ月から 3 歳までに面接を受け
医師と保健師共に親の動揺が挙げられて
て ASD 診断が一度でもついた陽性ケース
いた。また、医師の場合は、1~2 歳代で
27 名に絞った。3 歳時までの転帰から、
親に理解してもえらなかったことが挙げ
スクリーニング陽性 follow-up 群、スクリ
られたが、保健師の場合は、1~2 歳代か
ーニング陰性 follow-up 群、2 歳で面接し
ら 3 歳代を通して、親に理解してもらえ
たがその後フォローできなかった
なかったことが医師より多く指摘されて
drop-out 群の 3 群に分けて、1 歳 6 ヵ月時
いた。今後は、親の動揺への対応方法や
の M-CHAT の項目別に不通過率を算出し
資源を検討するとともに、親の理解を得
た(表 2)
。
る難しさの要因を明らかにし、より良く
(倫理面への配慮) すべての対象につい
親に理解してもらう方法を確立する必要
て、国立精神・神経センターまたは実施
がある。
機関における倫理審査委員会の承認を受
1~2 歳代、3 歳代で HFPDD が疑われた
場合、親支援に必要なこととして指摘さ
けた手続きに従って、保護者からインフ
ォームド・コンセントを得た。
れた項目の多くは、医師と保健師共に、
「親向け」
「支援者向け」
「制度/体制面」
C
研究結果
の支援に大別された。指摘された内容に
27 名の陽性ケース(ほぼ半数の 14 名が
医師と保健師の差は見られず、1~2 歳代
高機能、男児 19 名中 9 名、女児 8 名中 5
では、直接親に向けた支援の必要性が最
名)については、1 歳 6 ヵ月時の不通過項
も多く指摘され、次に、専門機関・療育
目数およびスクリーニング陽性/陰性は、3
施設の充実や連携を含む制度/体制面の支
歳時の自閉症の総合的重症度(CARS 合
援の必要性が多く挙げられていた。3 歳代
計得点)や発達水準を予測しなかった。
では、保育所での療育制度や、保育所に
2 歳時点と 3 歳時点での診断状態とそ
入所できなかった子どものケアを中心と
の変遷を図示した(図 1、図 2)。転出入
した制度/体制面の支援の必要性が多く挙
や不明者も含んだため、合計数は 37 名と
げられていた。1~2 歳代の場合と 3 歳代
なっているが、2 歳時点で非 ASD と診断
の場合では、必要とされる支援の焦点が
され、3 歳で ASD と診断された1ケース、
異なることが明らかになり、対象児の年
2 歳時点では ASD と診断され、3 歳で非
― 28 ―
ASD の重度発達遅滞と診断された1ケー
得点: t1=33.6±3.8, t2=33.7±4.2)および発
スを除く 18 名が両時点で ASD 診断が安
達水準(DQ/IQ: t1=82.8±19.5, t2=82.7±20.3)
定していた。自閉症重症度(CARS 合計
は 2 時点間で有意差はなかった。
表2 1歳半時M-CHAT項目の不通過率(%)
全対象
M-CHAT項目内容
(n=1400)
Q 1 身体遊び
0.2
Q 2 他児への関心
1.1
Q 3 高所のぼり
1.1
Q 4 イナイイナイバー
0.4
Q 5 みたて遊び
5.4
Q 6 要求の指さし
3.1
Q 7 興味の指さし
4.0
Q 8 機能的遊び
33.8
Q 9 共同注意(モノ見せ)
5.2
Q10 アイコンタクト
1.2
聴覚過敏
Q11
14.5
Q12 ほほえみ返し
0.1
2.7
Q13 模倣
Q14 呼名反応
0.7
Q15 共同注意(指さし追従)
1.9
Q16 歩行
0.6
共同注意(視線追従)
Q17
5.9
Q18 指の常同運動
2.1
注意喚起
Q19
4.4
Q20 聴覚反応
0.8
言語理解
Q21
1.4
視線行動
Q22
13.9
Q23
11.4
社会的参照
*重要10項目
2歳時
3歳時
n=1
n=2
AD (n=6)
n=3
n=1
n=2
n=3
(n=13)
n=2
(n=5)
2歳時
AD (n=4)
AD (n=2)
PDDNOS
n=1
n=4
n=1
n=1
n=3
n=1
3歳時
n=1
AD (n=3)
n=1
n=2
(n=6)
PDDNOS
nonASD
S (+)follow up S (-)follow up S (+)drop out
(n=10)
(n=12)
(n=5)
10.0
0.0
0.0
0.0
0.0
40.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
50.0
8.3
40.0
50.0
8.3
60.0
60.0
8.3
60.0
40.0
25.0
60.0
50.0
8.3
40.0
10.0
8.3
0.0
20.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
8.3
40.0
30.0
10.0
8.3
0.0
0.0
20.0
10.0
0.0
0.0
0.0
50.0
0.0
20.0
20.0
8.3
0.0
30.0
0.0
20.0
0.0
8.3
0.0
10.0
0.0
20.0
20.0
16.7
60.0
40.0
16.7
40.0
PDDNOS
(n=2)
ASD(n=2)
(n=3)
(n=1)
nonASD
不明
不明
(n=2)
(n=1)
不明(転出含)
PDDNOS
nonASD
ASD疑い
(n=9)
n=5
(n=7)
(n=8)
図1 2度のスクリーニングで陽性で、一度で
も面接でASD診断がついた児の転帰
図2 2度のスクリーニングで陰性で、一度で
も面接でASD診断がついた児の転帰
― 29 ―
D
的対人行動を測定しており(Constantino &
考察
本研究は地域母集団を対象とした前方
Todd, 2000)、IQ とは無関係に PDD を有す
視的研究の一環であるが、今年度は、幼
る児童をそれ以外の精神医学的障害を有
児期 ASD 診断というリスク群の中で症状
する児童から鑑別することが示されてい
や診断の安定性についての実証的なデー
る(Constantino et al., 2000; Constantino &
タが得られた。その結果、定型発達児を
Todd, 2000, 2003 )。米国原版を用いた先行
多数含む母集団においては鋭敏である
研究から、SRS で測定する自閉症的行動
M-CHAT は、ASD のハイリスク群内にお
は一般母集団内でも連続分布することが
いてはその重症度に関する転帰を必ずし
示されており、SRS 得点は PDD の重症度
も予測しないことが示唆された。すなわ
を反映し、PDD と診断される児童のみな
ち ASD の経過は多様性が示すことがわか
らず、自閉的症状を持ちながらも臨床閾
ったが、この要因として、児側以外に親
下群をも把握すると考えられる。
の気づきなど環境側の複数の要因も考慮
本研究では、SRS 日本語版の作成、信
に入れる必要がある。M-CHAT は基本的
頼性・妥当性検討を経て、我が国での実
に親回答としているが、診断確定前の親
用化可能なアセスメントツールとしての
の様々な反応(桑田と神尾, 2004; 辻井ら,
エビデンスを確立することを目的として
印刷中)を考慮すると、ハイリスク群に
行う。昨年度は日本語訳の完成と予備的
対してより的確な支援につなげるために
研究を実施し、その報告を行った。今年
は、親だけでなく専門家による M-CHAT
度は 4-18 歳用の SRS 日本語版の妥当性検
の補足など、個別ケースに合った方法で
討を完了したので(神尾ら, 投稿中;
ニーズのある親子に必要な支援が途切れ
Kamio et al., in submission)、その報告を行
ないような工夫をすることが大切と思わ
う。3 歳用の SRS-P、19 歳以上の成人用
れる。
SRS-A の日本語版については現在もデー
タ収集中であり、来年度に報告する予定
研究③:
である。
高機能 PDD 児童青年の対人応答性尺度
B 研究方法
対象 PDD 群:発達障害に経験の長い
(Social Responsiveness Scale: SRS)を用い
児童精神科医または小児神経科医によっ
た特性把握
対人応答性尺度 (Social Responsiveness
て DSM-IV-TR の自閉性障害、アスペルガ
Scale: SRS)は、Constantino らによって開
ー障害、PDD-NOS のいずれかの診断を受
発された、自閉症スペクトラムの児童の
けた児童青年 133 名。非 PDD 群:同様に
日常生活で観察される行動特徴から、自
DSM-IV-TR によって PDD 以外の精神医
閉症的症状を一元的に評価する親または
学的診断を受けた児童青年 36 名。
SRS 日本語版
教師記入式の 4 件法の質問紙である
65 項目は、5 つの治療
(Constantino & Todd, 2005)。米国原版 SRS
下位尺度(対人的気づき 8 項目・対人認
の先行研究では、高い遺伝率を示す相互
知 12 項目・対人コミュニケーション 22
― 30 ―
項目・対人的動機づけ 11 項目・自閉的常
神科患者、特別支援学校生徒や地域の幼
同症 12 項目)から構成されている。各項
稚園児を含めた 442 名を対象とした。教
目について、過去 6 ヵ月の行動にどの程
師回答 SRS については、そのうち教師か
度あてはまるかを評定者が判断し、1(あ
ら回答が得られた 168 名を対象とした。
てはまらない)
、2(ときどきあてはまる)
それぞれ 65 項目の粗点
(逆転項目は反転)
3(たいていあてはまる)4(ほとんどい
から Cronbach の α 係数を算出した。それ
つもあてはまる)の 4 段階で評定する。
ぞれ男女別および合計で算出した α は
15-20 分の短時間で回答可能である。
0.95 以上となり、いずれも十分な内部一
日本自閉症協会版広汎性発達障害評定
貫性が示された。
尺度 (PDD-Autism Society Japan Rating
評価者間信頼性 上述のサンプル中、
Scales: PARS, パーズ) わが国の児童精
親と教師の両者から回答が得られた 100
神科医と発達臨床心理学者によって開発
名を対象とした。SRS 合計および治療下
された PDD の行動評価尺度である(PARS
位尺度のそれぞれについて、親回答と教
委員会, 2008)。
対人、コミュニケーション、
師回答の粗点間の Pearson の積率相関係
こだわり、常同行動、困難性、過敏性の 6
数は、合計得点 0.78、下位尺度得点で 0.62
領域 57 項目から成り、専門家が養育者に
から 0.74 で、いずれも1%水準で有意で
面接して各項目を 3 段階(0,1,2)で評価す
あった。
る。PDD のスクリーニングには、幼児期
妥当性の検討
構成概念妥当性 PDD 群の SRS 合計点
のピーク時の行動をもとにカットオフポ
イントを 9 点として PDD 有無の評定を行
は、非 PDD 群と比べて有意に高かった
う(幼児期 34 項目)他、年齢区分に応じ
(PDD 群 82.4 ± 25.9, 非 PDD 群 47.4 ± 21.3,
た現症の評定からの評価も可能である
t=7.5, p < .001)。SRS が高機能 PDD 児を、
(児童期 33 項目、思春期・成人期 33 項
知的障害のないその他の精神医学的臨床
目)。それぞれカットオフは、13 点、20
群においてどのくらい区別しうるかを調
点である。
べるために、知的障害のない対象に絞っ
すべての対象について、国立精神・神
て男女別に SRS 合計得点を PDD の有無で
経センターまたは実施機関における倫理
比較した(図 1)。高機能 PDD 男児(n=54,
審査委員会の承認を受けた手続きに従っ
12.8±3.1 歳, 8-18 歳)は、年齢および知能水
て、保護者からインフォームド・コンセ
準で同等の非 PDD 男児(n=10, 13.6±3.2 歳,
ントを、そして可能な場合には子ども本
8-17 歳)と比べて、SRS 合計得点(PDD 80.2
人からアセントを得た。
± 26.4, 非 PDD 45.4 ± 18.6, t=4.0, p < .001)
は有意に高かった。高機能 PDD 女児(n=15,
C 研究結果
14.7±2.6 歳, 8-18 歳)は、年齢および知能水
信頼性の検討
準の同等の非 PDD 女児(n=23, 14.7±2.6 歳,
内部一貫性 親回答 SRS については、
9-18 歳)と比べて、SRS 合計得点(PDD 88.3
上記の臨床サンプルに加えて、さらに精
± 22.5, 非 PDD 46.8 ± 23.3, t=5.4, p < .001)
― 31 ―
分けるのが適切と考えられた。カットオ
は有意に高かった。
フを 45 点とすると、感度は高くなるが
(96%)、特異度は(56%)と低くなる。カッ
トオフを越えた者の 88%(陽性的中率)
は PDD 群で、カットオフに満たない者の
79%(陰性的中率)は非 PDD 群であった。
カットオフを 85 点とすると、感度は高く
なるが(44%)、特異度は(92%)と低くなる。
カットオフを越えた者の 96%(陽性的中
率)は PDD 群で、カットオフに満たない
者の 36%(陰性的中率)は非 PDD 群であ
った。45 点に満たない場合には除外が考
カットオフ ROC 分析により、SRS の
えられる。
カットオフポイントを変化させた場合の
併存的妥当性 上述の臨床サンプル親
感度および特異度を表 1 に示す。スクリ
回答 SRS と PARS の両方のデータの得ら
ーニングを目的とした場合、感度と特異
れた 54 名の児童(PDD 群 43 名と非 PDD
度
群 11 名, 男:女=39:15)を対象として、SRS
合計得点と PARS の現在評定得点(就学
児童期得点、中学生以上の 20 名は思春
期・成人期得点を用いる)の Spearman の
前幼児 7 名は幼児期得点、小学生 27 名は
順位相関係数 ρ を算出した。SRS と PARS
現在評定との間の相関係数は、幼児期
0.86 (p<.05)、児童 期 0.48 (p<.05)、思春期 ・
成人期 0.77 (p<.001)と中程度から強い相
関があった。
PARS 現在評定の年齢帯別に設定され
ているカットオフポイントを用いた PDD
リスクの分類と、本研究で提案した SRS
のカットオフの上限 85 点と下限 45 点を
超えた PDD リスク分類との間の一致につ
いては、それぞれ Cohen の κ 係数は、
0.43(p<.001)と 0.39(p<.001)で、いずれも中
等度の一致であった。
のトレードオフを考慮して、下限には 45
D 考察
点、上限 には 85 点を目的に応じて使い
― 32 ―
本研究において、SRS 日本語版は高い
内部一貫性と評価者間信頼性を有し、SRS
れは今後の課題である。
(倫理面への配慮)国立精神・神経セ
合計得点は児童期の社会適応に困難を持
ち鑑別の困難な PDD 児とそれ以外の精神
ンター倫理審査委員会の承認を得た。す
医学的障害を有する児童とを区別しうる
べての対象について、国立精神・神経セ
ことが示された。親に対する問診に基づ
ンターまたは実施機関における倫理審査
く PARS との PDD 診断における一致も十
委員会の承認を受けた手続きに従って、
分であった。これらより、児童精神科臨
保護者からインフォームド・コンセント
床において高機能 PDD 児のスクリーニン
を、そして可能な場合には子ども本人か
グに有用なアセスメント・ツールとなる
らアセントを得た。
可能性がある。
E 結論
SRS は元来、PDD 診断の有無の判定で
第1に、乳幼児健診と事後指導の中心的
はなく、連続的な自閉的症状を評価する
役割を担っている保健師への予備的調査
ものであるが、本研究においても、PDD
の結果は、昨年度の小児科医対象の調査
群と非 PDD 群とでは得点分布に重なりが
結果(辻井ら, 印刷中)同様、親支援に
あり、明確なカットオフポイントを決め
対する技術面のみならず後方支援や制度
ることはできなかった。このことは、臨
面についても高いニーズが認められた。
床場面において、とりわけ PDD の見逃し
また医師よりも、特に 1-2 歳の幼児につい
が生じやすい高機能群においては、目的
て、親の感情や気づきを対応のための判
に応じて SRS を使い分けることが必要と
断材料として重視していることが示唆さ
なることを意味する。すなわち、PDD の
れた。このことは大切な視点ではあるが、
可能性を除外するためには、カットオフ
真にニーズのある親子に適切な対応の機
の下限を用いたり、鑑別のためにさらに
会を逃す懸念もあり、今後、研修におい
時間を要する他の検査を優先する際には
てはより客観的な子ども、そして親子の
上限を用いるなど、必要に応じて、診療
評価という視点を強調していく必要があ
の流れにその他の評価と組み合わせる手
る。
第2に、ASD、すなわち PDD 早期診断
順を工夫して、鑑別診断をすすめる必要
に関して、昨年度は M-CHAT が1歳前後
がある。
SRS 原版は一般児童母集団の大きなサ
から一般児童母集団内で有用なスクリー
ンプルにおいて男女別に標準化がなされ
ニングとなりうるデータを示したが、今
ている。本研究は臨床的妥当性を目的と
年度は、ASD のハイリスク群内において
して計画、実施されたが、二者択一的な
は M-CHAT は ASD の重症度を必ずしも予
診断評価(PDD の有無)のための根拠で
測せず、一部には M-CHAT 通過児にもハ
はなく、どのくらい自閉症的な対人的困
イリスクが存在することが明らかになっ
難を有するかの判断基準としての意義を
た。このことは、M-CHAT をスクリーニ
明確にするためには、大規模な日本人児
ングとして使用する際に、陽性ケースは
童からのデータ収集が必要であるが、そ
モニター対象とする他、陰性ケースにつ
― 33 ―
いてもその他の複数の情報を元に必要な
自閉症スペクトラム幼児の早期診断につ
ニーズを見逃さないようにする必要があ
いての実態調査:小児科医へのアンケー
ることを示唆する。あるいは専門家によ
ト調査から. 第 49 回日本児童青年精神医
る M-CHAT の補足などの使用上の工夫も
学会総会, 広島, 2008.11.7
必要である。
H 知的財産権の出願・登録状況
第3に、精神医学的問題が主訴となる
1.特許取得 なし
臨床場面において、4-18 歳の児童用の
2.実用新案登録 なし
SRS 日本語版の信頼性と臨床的妥当性を
3.その他 なし
検証した。SRS 合計得点の粗点は、児童
I 参考・引用文献
精神医学的患者において PDD と非 PDD
Constantino JN, & Gruber CP. Social
を区別するのに有用であることが示され
Responsiveness
た。特に、見逃しの多い高機能 PDD 児に
Psychological Services, Los Angles, 2005.
Scale
(SRS).
Western
ついても十分な弁別力を持ち、日常臨床
Constantino JN, Davis SA, Todd RD et al.
において有用でることが示唆された。さ
Validation of a brief quantitative measure of
らに SRS の臨床的意義を深めるためには、 autistic traits: Comparison of the Social
今後にいくつかの課題が残された。
Responsiveness Scale with the Autism
F 健康危険情報 なし
Diagnostic Interview-Revised. J Autism Dev
G 研究発表
Disord, 33, 427-433, 2003.
1.
論文発表
Constantino JN, Przybeck T, Friesen D,
辻井弘美, 稲田尚子, 神尾陽子: 高機能
Todd RD. Reciprocal social behavior in
自閉症スペクトラム幼児の早期診断につ
children with and without pervasive
いての実態調査-小児科医へのアンケー
developmental disorders. J Dev Behavioral
ト調査結果から-. 精神保健研究, 21(印
Pediatrics, 21, 2-11, 2000.
刷中).
2.
Constantino JN, Todd RD. Genetic
学会発表
Structure of Reciprocal social behavior. Am J
神尾陽子, 稲田尚子, 小山智典, 井口英
Psychiatry, 157, 2043-2045, 2000.
子: 1 歳 6 ヵ月児における日本語版
神尾陽子(分担研究者)稲田尚子, 辻井
M-CHAT の有用性. 第 49 回日本児童青年
弘美, 井口英子, 高木晶子, 中野育子, 小
精神医学会総会, 広島, 2008.11.6.
山智典(研究協力者). 自閉症の超早期診
神尾陽子, 稲田尚子, 辻井弘美, 井口英
断法および未診断成人症例の簡便な診断
子, 高木晶子, 中野育子, 小山智典, 奥寺
法の開発に関する研究. 平成 19 年度厚生
崇: 高機能 PDD 者の対人応答性尺度
労働科学研究費補助金(こころの健康科
(Social Responsiveness Scale: SRS)を用い
学研究事業)発達障害者の新しい診断・
た特性把握. 第 49 回日本児童青年精神医
治療法の開発に関する研究(19230
学会総会, 広島, 2008.11.5.
301)分担研究報告書. 奥山真紀子(主
辻井弘美, 稲田尚子, 神尾陽子: 高機能
任研究者)pp.15-22.
― 34 ―
桑田左絵, 神尾陽子 (2004):発達障害
児をもつ親の障害受容過程に関する文献
的研究. 児童青年精神医学とその近接領
域, 45, 325-343.
PARS 委員会編著. PARS 評定シート: 広
汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度.
東京: スペクトラム出版; 2008.
― 35 ―
― 36 ―
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
広汎性発達障害に対する早期治療法の開発
分担研究者
杉山登志郎
あいち小児保健医療総合センター
研究協力者
並木典子
あいち小児保健医療総合センター
川村昌代
あいち小児保健医療総合センター
原
横浜市中部地域療育センター
仁
富永亜由美
お茶の水女子大学大学院
山根希代子
広島市西部こども療育センター
服巻
ピラミッド教育コンサルタントオブジャパン
繁
藤坂龍司
つみきの会
池田千紗
つみきの会
井上ともみ
つみきの会
森岡真生
つみきの会
橋詰由加里
浜松医科大学精神神経科
大隅香苗
浜松医科大学精神神経科
小林隆児
大正大学人間学部臨床心理学科
寺尾孝士
札幌すぎな学園
研究要旨
研究Ⅰ早期療育の効果に関する検討では、主として 2 歳前後の幼児に対して、様々
なタイプの早期療育を行った前方向視的調査の半年データの検討を行った。半年とい
う期間では発達の全体的な向上はあるものの、自閉症兆候やまた親の精神保健におい
て必ずしも向上が認められないことが明らかとなった。発達障害パラダイムの変化に
伴い、発達凹凸という呼称を提唱し、その視点から必要となる幼児療育、学校教育の
テーマを取り上げた。
研究Ⅱ強度行動障害の再検討では厚生科研報告書の分析を中心に、過去の強度行動
障害事業および研究の再検討を行った。自閉症療育およびわが国の施設療育において、
この事業によって自閉症への対応が初めて進められた点が大きな成果であるが、施設
中心の療育となりその点に限界があったこと、フォローアップ研究がなされなかった
こと、さらにこの研究の中で指摘された諸点が、十分な検討がないままに今日に至る
ことなどを指摘した。
― 37 ―
A.研究目的
ム変化に伴って、発達障害という呼称が
研究Ⅰ早期療育の効果に関する検討に
好ましくないことを指摘し、それに変わ
おいては、様々なタイプの早期療育にお
る発達凹凸という呼称を提案した。この
ける児童の発達に関する前方向視的調査
新たな視点から、早期療育を考察し、子
を行い、その科学的な検証を行うことが
どもへの社会性への介入と親への心理教
目的である。研究Ⅱ強度行動障害の再検
育が重要であることを指摘した。
討においては、十数年にわたって実施さ
研究2では、2歳児13名を広汎性発達
れた強度行動障害事業と研究の成果を再
障害の有無によって二群に分け、その背
検討し、この事業の全体的見直しを行う
景要因について検討した。PARS評価では、
ことが目的である。
PDD群の得点の中央値はN-PDD群のそれよ
り高値(28対22.5)の傾向(P=<0.1)を
B.研究方法
示したが、N-PDD群のPARS得点の分布は
研究Ⅰでは、PECS、ABAなどそれぞれ特
PDD群より広く分布していた。早期療育導
徴のある早期療育を実施している、横浜
入前の発達検査(新版K式11例、田中ビネ
市中部療育センター、広島市西部療育セ
ーⅤ2例)
、KIDSによる発達評価、CBCLに
ンター、つみきの会などの幼児を対象に、
よる行動評価による評価結果の中央値に
新版K式発達検査、KIDS,CBCL,PARS,GHQの
有意差はなかった。一方、N-PDD群の母親
各尺度を療育開始時とその後において測
のGHQ28の総得点の中央値は、PDD群のそ
定を行い、前方向視的にその変化を検討
れより高い傾向(11.5対5.5)を示した。
した。本年度は主として6ヶ月間実施後の
研究3では、1歳11ヶ月から2歳11ヶ月
資料の分析が中心であり中間報告となる。 のPDD児12名に絵カード交換式コミュニ
1年後の結果の分析は最終年度となる。
ケーションシステム(PECS)を中心とし
研究Ⅱ強度行動障害の再検討ではH2年
度からH18年度に渡る、強度行動障害を対
た早期療育を実施し、6ヶ月経過後のKIDS、
CBCL GHQ-28を行った。KIDS全体のDQの平
象とした厚生科研報告書の分析を中心に、 均は、療育前68.4から半年後71.8と、有
過去の強度行動障害事業および研究の再
意差は認めなかった。CBCLは、総得点の
検討を行った。
平均が、療育前51.6から半年後44.8と有
(倫理面への配慮)
意に減少し、問題行動の減少が認められ
実施に当たり、保護者には全て調査の
た。GHQ28の要素点の総計の平均は、療育
内容を事前に説明し、文書にて了解を得
前6、半年後4.7と有意差は認められなか
た。また倫理委員会を持つ機関において
った。
は、倫理委員会で検討を行い承認を得た。
研究3では、平均33.6ヶ月の男児8名、
女児4名の自閉症・広汎性発達障害に、つ
C.研究結果
みきの会による家庭でのABA療育の結果
Ⅰ早期療育の効果に関する検討
を、半年経過した段階で測定した。PARS
研究1では、発達障害を巡るパラダイ
得点変化がなく、CBCLも事前平均値66.4、
― 38 ―
中間検査平均値60.7で統計学的に有意の
関係における関係性の発達不全が関与し、
差は認められなかった。母親のGHQは平均
人間不信という問題として捉え
値9.7に対し中間検査値平均12.4と悪化
disorder/disabilityとして指摘されて
したが、統計的に有意の差は認められな
いる一次障害も二次障害と同様に個体と
かった。KIDSにおける発達指数は、事前
環境の相互作用の結果の産物として理解
検査平均値50.9、中間検査平均値55.5と、
する必要があること、その上で、支援者
統計学的有意な上昇が認められ、新版K
と自閉症者との「関係」のあり方をも視
式発達検査による発達指数も、事前検査
野に入れて検討する必要性を指摘した。
平均値55.8、中間検査平均値が62.8で、
さつき学園の実践では、安心感のなさ、
統計的に有意の差が認められた。
侵入不安という背景要因、生理的関係欲
求の亢進や不快な刺激などの引き金、循
環するアンビバレントな負の関係が行動
Ⅱ強度行動障害事業の再検討
研究1では強度高度障害事業に対し、
障害の発展へとつながることを指摘した。
批判的な検討を行った。強度行動障害と
研究5では、平成10年~18年度の飯田
は実は青年期パニックを頻発させていた
班研究報告書に記載された37事例の分析
当時の処遇困難に陥った自閉症であり、
を行った。自閉性障害が31事例であり、
行動障害という曖昧な対象を据え、入所
措置期間とされる3年以内に約8割程度
施設における処遇事業とその研究が行わ
は行動障害の改善が認められた。しかし、
れた結果、当初の目的からのずれが生じ
移行に伴うフォロー体制は十分ではなく
た状況を、わが国の自閉症療育および施
今後のシステム整備を包括的に進めてい
設療育の歴史を踏まえ指摘した。強度行
く必要が示された。
動障害の成因として、指摘されて来なか
った問題としてトラウマの介在、チック
D.考察
および気分障害の併存について述べた。
Ⅰ早期療育の効果に関する検討
今後の課題として、医療と福祉の協働に
本年度は、中間報告の段階であり全体
よる治療モデルが必要であることを指摘
的な検討は、1年後のデータが明らかに
した。
なる次年度になる。昨年度指摘されてい
研究2では、平成2年から平成9年の石
た、むしろ増悪する部分があることは、
井班において報告された強度行動障害研
この半年資料でも示された。われわれは
究の結果をまとめた。
これを踊り場現象と名付けた。発達凹凸
研究3、研究4では、平成2年から平
児に対する虐待など迫害体験を生じさせ
成9年までの強度行動障害の処遇に関す
ないためにも、この踊り場現象への対応
る研究の総括を行った。強度行動障害の
が必要である。
原因のみならず行動の出現が周囲との相
互関係のあり方に起因することが示唆さ
Ⅱ強度行動障害事業の再検討
れていた。さらに行動障害の中心が人間
― 39 ―
この事業を通して、自閉症の病理およ
び認知の特性に沿った対応が如何に必要
杉山登志郎:発達段階からみた児童精神
で重要であるのかが、施設を中心とする
疾患. 牛島 定信、村瀬 嘉代子、 中
実践の中からわが国において学校教育な
根 晃:子どもと思春期の精神医学,
ど他の領域に行き渡った。この点が、強
金剛出版、624-630.
度高度障害事業の最も重要な成果である
浦野葉子、杉山登志郎(2008):破壊的行
と考えられる。しかしながら、この事業
動障害. 本間 博彰、小野 善郎、 齊
がもともと内包していた、施設療育から
藤 万比古編:子ども虐待と関連する
地域療育に向かう道筋は、不鮮明なまま
精神障害.中山書店、138-154.
残されたことが明らかになった。
論文
E.結論
杉山登志郎(2008):子どものトラウマと
Ⅰ早期療育の効果に関する検討
発達障害.発達障害研
早期療育において、発達凹凸児に対す
る虐待など迫害体験を生じさせないため
究,30(2),111-120.
杉山登志郎(2008):高機能広汎性発達障
に踊り場現象への対応が必要である。
害の歴史と展望.小児の精神と神経、
48(4)、327-336.
Ⅱ強度行動障害事業の再検討
杉山登志郎(2008):アスペルガー症候群
強度行動障害とは当時パニックを頻発
の周辺.児童青年精神医学とその近接
させていた自閉症青年の別名であり、こ
の事業によってわが国の自閉症への療育
領域,49(3),243-259.
杉山登志郎(2008):成人期のアスペルガ
が進んだが、施設療育の進歩には到らな
かった。
ー症候群.精神医学、50(7)、653-659.
杉山登志郎(2008)こどもの現在とこれか
ら.そだちの科学、10,2-8.
杉山登志郎(2008):こども虐待へのEMDR
F.健康危険情報
による治療2‐親への治療‐. ここ
該当無し
ろのりんしょう,27(2),289-292.
杉山登志郎(2008)広汎性発達障害とトラ
G.研究発表
ウマ.そだちの科学,11,21-26.
書籍
Tsuchiya K., Matsumoto K., Miyachi T.,
杉山登志郎、服部麻子(2008):子ども虐
Tsuji M., Nakamura K., Takagi S.,
待. 森 則夫 中村 和彦編:子どもの
Kawai M., Yagi A., Iwaki K., Suda
精神医学.金芳堂,212-230.
S., Sugihara G., Iwata Y.,
杉山登志郎:発達障害の診断. 宮本 信也、
Matsuzaki H., Sekine Y., Suzuki
田中 康雄、 齊藤 万比古編:発達障
K., Sugiyama T., Mori N., Takei
害とその周辺の問題. 中山書店、
N.(2008): Paternal age at birth and
144-154.
high-functioning
― 40 ―
autistic-spectrum
offspring.
disorder
British
Journal
in
Anitha A, Nakamura K, Yamada K, Suda S,
of
Thanseem I, Tsujii M, Iwayama Y,
Hattori E, Toyota T, Miyachi T,
Psychiatry, 193(4),316-321.
Tsuchiya KJ, Matsumoto K, Miyachi T,
Iwata Y, Suzuki K, Matsuzaki H,
Tsujii M, Nakamura K, Takagai S,
Kawai M, Sekine Y, Tsuchiya K,
Kawai M, Yagi A, Iwaki K, Suda S,
Sugihara G, Ouchi Y, Sugiyama T,
Sugihara G, Iwata Y, Matsuzaki H,
Koizumi K, Higashida H, Takei N,
Sekine Y, Suzuki K, Sugiyama T,
Yoshikawa
Mori N, Takei N.(2008): Paternal
Genetic analyses of roundabout
age at birth and high-functioning
(ROBO) axon guidance receptors in
autistic-spectrum
in
autism.
of
Medical
offspring.
disorder
British
Journal
T,
Mori,
American
Genetics.
Psychiatry, 193(4), 338-339.
Neuropsychiatric
Marui T, Funatogawa I, Koishi S,
147B(7)1019-1027.
N.(2008):
Journal
of
Parts
B
Genetics,
Yamamoto K, Matsumoto H, Hashimoto
O, Nanba E, Nishida H, Sugiyama T,
Kasai K, Watanabe K, Kano Y, Kato
N.(2009):
Association
of
H.知的財産権の出願・登録状況
the
neuronal cell adhesion molecule
(NRCAM) gene variants with autism.
International
Journal
of
Neuropsychophalmacology,
12(1),1-10.
Nakamura K, Anitha A, Yamada K, Tsujii
M, Iwayama Y, Hattori E, Toyota T,
Suda S, Takei N, Iwata Y, Suzuki K,
Matsuzaki H, Kawai M, Sekine Y,
Tsuchiya KJ, Sugihara G, Ouchi
Y, Sugiyama T, Yoshikawa T, Mori
N.(2008): Genetic and expression
analyses
reveal
elevated
expression of syntaxin 1A ( STX1A)
in
high
functioning
International
Journal
autism.
of
Neuropsychophalmacology,
11(8),1073-1084.
― 41 ―
該当なし
― 42 ―
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者
奥山眞紀子)
分担研究報告書
広汎性発達障害に対する早期治療法の開発
分担研究者
杉山登志郎
あいち小児保健医療総合センター
I 早期療育の効果に関する検討
研究1 発達障害から発達凹凸へ
研究所力者
並木典子
あいち小児保健医療総合センター
研究要旨
発達障害を巡るパラダイム変化に伴って、発達障害という呼称が好ましくないこ
とを指摘し、それに変わる発達凹凸という呼称を提案した。発達凹凸に適応障害が
加わったものが発達障害であり、この呼称は従来の精神医学的診断にも合致する。
また発達凹凸という新たな視点から、早期療育を考察し、子どもへの社会性への介
入と親への心理教育が重要であることを述べた。また特別支援教育においては、発
達凹凸への十全な対応の為に、他の先進国と同様に、才能児を特別支援教育の対象
に加える必要があることを指摘した。
1.
発達障害のパラダイム変化
軽度発達障害が、発達障害と公認され、
福祉や特別支援教育の対象となること
2002 年には文部科学省による全国の
が明示されたのである。
悉皆調査によって、個別のニードがあ
この大きな変化と連動して、発達障
る生徒が通常学級の 6.3%という数字が
害におけるパラダイム変換が生じた。
示され、特別支援教育がスタートした。
近年の発達障害研究の成果として、軽
2005 年には発達障害者支援法施行され
度発達障害を含む大多数の発達障害に
漸く知的な障害の無い発達障害の存在
おいて、多くの遺伝子の関与する多因
が公認されるようになった。特に発達
子モデルを適応できることが明らかに
障害者支援法は画期的な意味があっ
なった(Sumi et al., 2006)。つまり、
た。それ以前においては、精神遅滞、
一つの遺伝子のみによって生じる問題
視覚障害、聴覚障害、肢体不自由のみ
ではなく、いくつもの複数の遺伝的な
が公認されたハンディキャップで福祉
素因を持つこと、その素因の積み重ね
および特殊教育の対象となっており、
があること、また epigenetic な関与が
広汎性発達障害は知的障害を伴うもの
非常に大きく、母胎のホルモン状況そ
以外は、福祉および特殊教育の対象外
れに関連する母親の情動的な状態、喫
であった。この法律の施行以後、高機
煙、環境ホルモン、微量の金属など、
能広汎性発達障害をはじめ、いわゆる
多くの環境因的な因子が遺伝子のスイ
― 43 ―
ッチのオン・オフに関係するというこ
して強調したいのは、軽度発達障害に
とである(Marcus,2004)。つまり発達障
典型的に認められる認知の凹凸はマイ
害は他の慢性疾患と同じモデルが適応
ナスとは限らないということである。
できるということに他ならない。素因
近年、歴史に冠たる偉人の少なからず
を持つものは多く、すべてが発現する
が、今日の概念から振り返った時にア
わけではない。また発現をしたとして
スペルガー症候群もしくは高機能広汎
も、将来の適応障害を防ぐことは十分
性発達障害と考えられることについ
に可能である。またこの様なモデルで
て、いくつかの本が著された
考えれば、最近になって広汎性発達障
(James,2006 ; Fitzgerald,2005)。
害が増えているのではないかという疑
この意味において生来の認知の特徴を
問の謎が解ける。最新の疫学調査は 2
持つ発達の偏りを表すとすれば逸脱を
パーセント強を示しており(鷲見ら、
意味する disorder よりむしろ個体差
2006)、Lotter の時代の実に 50 倍で
を意味する developmental
ある。
differentiation という呼称がむしろ
これまでわが国の発達障害療育は、
正しいのではないだろうか。その日本
われわれがバトンタッチ型と呼ぶモデ
語における用語が必要となるのであ
ルであった。一つの療育センターが、
る。
訓練から生活指導まで行い、そこに学
新たな呼称が必要な理由はもう一つ
校があり、授産施設まであり、子育て
ある。一般の認知の凹凸の部分は、特
を全てそこで一括をして行うというモ
に成人期に至ったときに子ども時代の
デルである。どの障害も、数パーセン
活発な代償機能の働きもあって、社会
トの罹病率を持つ軽度発達障害におい
的適応障害が無いかもしくは非常に軽
てこのモデルによる療育は不可能であ
微な所まで成長する場合はむしろ一般
る。それに変わって、登場する療育は
的である。そのような例で、従来のカ
協働型の療育モデルである。これは、
テゴリー診断学を適応した場合には、
非分離、参加、民営(地域で、当事者
適応障害の欠如によって除外項目陽性
とともに当事者の意見を取り入れなが
となり、精神医学的診断から外れる。
ら、NPO を活用して共に子育てを支援
しかしながら、これらの成人は現在に
する)を基本とする地域中心のモデル
おいて適応障害が存在しないだけであ
である。また目標となるものも、生涯
って、それなりのサポートが必要であ
にわたる固定的障害への対応から、将
る場合も多い。またさらに良好な適応
来の障害発生予防へと転換した。この
を維持するためには、むしろ生来の偏
様なパラダイム変換において、非常に
りが存在することを積極的に「診断」
支障となるのが、障害という用語であ
することがプラスに働く。
る。
これらの点から、筆者としては、
developmental disorder と
2,発達障害概念の再検討
developmental differentiation の両
日本語は発達障害に関連する用語が
者をカバーする呼称として、単直に発
乏しく、disorder も disability も共
達凹凸と呼ぶべきではないかと思う。
に障害という訳になる。しかし筆者と
従来の発達障害とは、精神遅滞の例
― 44 ―
にならって、発達凹凸に適応障害が加
の広汎性発達障害の場合には、むしろ
わった場合である。この様な規定を行
谷間への働きかけこそ必要かつ、最も
えば、発達凹凸の療育は、将来におけ
効果が大であると考えられる。具体的
る発達障害への移行を無くすという極
には、社会性に焦点を当てた RDI
めて明確な目標になる。
(Gutstein ,et al., 2002)の考え方が
一つの大きなヒントとなるであろう。
3.
発達凹凸と早期療育
惜しむらくは、Gutstein がこの方法の
従来の発達障害への早期療育は一言
使用に大きな制限を設けていることで
で言えばダメージモデルであった。つ
ある。しかしひとたび社会性そのもの
まりある領域のダメージによって発達
に介入を行う系統的なプログラムが現
障害が生じたのに対し、ハビリテーシ
れれば、その発展型が模索されて行く
ョンを行い、障害の回復を目指すとい
に違いない。
うモデルである。従来の知的障害や知
もう一つの早期介入の大きな目的は
的障害を伴った自閉症において、幼児
迫害体験の軽減である。広汎性発達障
早期からの介入は、児童の脳の高い代
害の社会的転帰を決める決定的な社会
償性にも支えられ成果がもたらされる
的要因は迫害体験の有無である(杉山、
ことについては幾つかの証拠がある
2008)。深い愛着の形成が可能となる
(杉山,2000)。それでは軽度発達障害の
小学校年齢まで、親の側の欲求不満を
中心である発達凹凸については、どの
軽減し、また子どもとの接し方を伝え
様なモデルを考えれば良いのであろう
るという関わりが必要と考えられる。
か。この点は言うまでもなく、本研究
すると発達凹凸においては、例えば言
全体のテーマでもある。
葉の強化といった認知プログラムもさ
認知の凹凸、あるいは認知特性の偏
ることながら、むしろピアレント・ト
倚ということを想定した場合、早期療
レーニングという形の親の側への心理
育の持つ意義は、何と言っても認知の
教育が重要であると考えられる。
谷間に対する強化補償の働きであろ
う。幼児の行動は認知特性に引かれる
4.
特別支援教育と発達凸凹
形で、特異とする領域のみに偏る傾向
2007 年は、特別支援教育の完全実施
がある。その様な偏りを是正し、比較
元年であった。現場の混乱についても、
的苦手な領域の欠落を防ぐことが早期
ここで詳細には取り上げない。この中
療育の目標となるだろう。具体的にこ
で見えてきたものは、特別支援教育の
の様な認知凹凸を持つグループの中で
システムはまだまだ完成にはほど遠
早期療育が必要と考えられるのはやは
く、特に教育の側の専門性の低さとい
り高機能広汎性発達障害の児童であ
う問題である。中でも通常学校の特別
る。すると幼児期の療育の目標となる
支援クラスである。発達凹凸に関連す
ものは、基本的な対人関係や社会性の
る論議として、才能児(gifted)への教
補償である。重度の遅滞を伴った自閉
育の問題がある。この点は、わが国と
症においては幼児期と言えども認知特
他の先進国との大きな違いの1つとな
性を考慮した働きかけが必要な場合が
っている。アメリカ合衆国で、gifted
あると考えられるが、発達凹凸レベル
への教育は、特別支援教育の中で、学
― 45 ―
習障害に次ぐ 2 番目に大きなグループ
する独自のハンディキャップを持つこ
となっているのである。
とがある。さらにこれらの認知の凹凸
これまで、この領域がわが国におい
に対しては、最新の脳科学の成果を応
て進まなかった理由としては、何と言
用した克服の方法に関するヒントが幾
ってもみんな一緒に、を基調とする農
つも見いだされており、正に脳科学と
村共同体に値を持つ基底文化の影響が
特別支援教育との協働によって、成果
合ったと考えられる。しかしながらミ
が約束されている領域でもある。
レニアムを挟み、基底文化はほとんど
アメリカにおける特別支援教育は、
崩壊といっても良いのではないだろう
その一部が全校強化履修モデルという
か。わが国では、一方、中学から高校
全ての子どもを対象とした特別支援教
進学の過程で選別が行われており、進
育へと展開を見せている。表1は
学高校からいわゆる底辺校まで一列に
Gardner(1999)による multiple
いわゆる輪切りがなされる。しかしこ
intelligences(MI)理論である。特別支
の日本のシステムは子どもの持つ能力
援教育は、発展をさせて行けば、全て
の山をカバーできない。才能児への教
の子どもへの特別支援教育に向かう。
育の中で特に注目されるのは2E
またこの MI 理論を見ると、いわゆる知
(twice exceptional children:二重に
能指数が、沢山の認知の能力に関する
例外的な児童)と呼ばれる一群である。
情報を 1 つの単純な数字に絞り込むと
2E の子どもたちは、認知の高い山と、
いうその基本において、いかに無理を
低い谷の両者を併せ持っている。直ち
重ねた処理に基づくものなのであるか
に想定出来るように、この群の少なか
が了解される。
らずは高機能広汎性発達障害である。
筆者は現在のわが国における特別支
自閉症をはじめとする広汎性発達障
援教育の専門性の低さが、障害児のお
害の多くが、言葉による指示よりも視
守りをしているだけといった言われ無
覚的な指示の方が入りやすく、認知的
き蔑視に 1 つの根があるのでないかと
な特徴としては視覚映像優位型と呼ぶ
予てより感じてきた。それなくして、
べき認知的特徴を持つことは、TEACCH
どうして、通常学級を持たせられない
プログラムの導入などによって教育現
教師を特別支援教育の担当に回すとい
場でも広く知られるようになってき
う発想が生じるであろう。しかし
た。しかるに、現在のわが国の状況は
gihted を特別支援教育の対象とするこ
認知の谷に対する対応のみで、山に対
とによって、この様な事情は大きく変
する教育は未開拓である。だが、知的
わらざるを得ない。特に一握りの天才
に高くとも、聴覚言語優位型の子ども
が、世界を大きく変え、また社会に大
への教育を基盤とする現在の通常教育
きな富や幸福をもたらすことはこれま
では、視覚優位型の児童の場合は、基
でにも希ではなかった。最近になって、
本的なところで躓きを生じる可能性を
歴史上の偉人や天才が高機能広汎性発
否定できない。さらに聴覚言語優位型
達障害と考えられるのではないかとい
である高機能児もまた存在する。その
う本が相次いで出版されたことは先に
ような場合には2E 児において、相貌
述べた。その中のリストを見ると、な
失認や、視空間認知の障害をはじめと
るほどという人物と、首を傾げる人物
― 46 ―
が共に存在するが、一方、広汎性発達
障害でなくては独創的な仕事は出来な
Lotter、V.(1974):Factors related to
いのかという感想も湧いてくる。天才
outcome in autistic children. J
児への特別支援教育は、わが国におけ
autism Child Schizophr.,
る今後の大きな課題であろう。この様
4:263-278.
な新たなチャレンジがなされる為に
Marcus, G.(2004)The birth of the
も、発達障害の呼称より発達凹凸の呼
mind. Basic Books, Cambridge.(大
称が的確であると考えるものである。
隈典子訳(2005):心を生みだす遺
伝子.岩波書店.)
文献
杉山登志郎(2000):発達障害の豊かな
Fitzgerald、M(2005): The Genesis Of
世界.日本評論社.
Artistic Creativity: Asperger's
杉山登志郎(2008a):高機能広汎性発達
Syndrome And The Arts. Jessica
障害の歴史と展望.小児の精神と
Kingsley Pub、London.(石坂好樹
神経,48(4),327-336.
訳(2008):アスペルガー症候群の天
杉山登志郎(2008b):子どものトラウマ
才たち―自閉症と創造性。星和書店、
と発達障害.発達障害研
東京.)
究,30(2),111-120.
James、I(2006): Asperger's Syndrome
Sumi S, Taniai H, Miyachi T, Tanemura
And High Achievement: Some Very
M.(2006):Sibling risk of
Remarkable People , Jessica
pervasive developmental disorder
Kingsley Pub ,London.(草薙ゆり訳
estimated by means of an
(2007)アスペルガーの偉人たち.ス
epidemiologic survey in Nagoya,
Gardner, Howard (1999) Intelligence
Japan. J Hum Genet. 51(6):518-22.
鷲見聡、宮地泰士、谷合弘子、石川道
Reframed. Multiple intelligences
子(2006):名古屋市西部における広
for the 21st century, Basic Books.
汎性発達障害の有病率.小児の精神
(松村暢隆訳(2001)MI:個性を生か
と神経,46(1),57-60.
ペクトラム出版、東京.)
す多重知能の理論
新曜社.
)
Gutstein, S. E., Sheely、
R.K.(2002):Relationship
Development Intervention With
Young Children: Social and
Emotional Development Activities
for Asperger Syndrome, Autism,
Pdd and Nld.Jessica Kingsley Pub.
(足立佳美他訳(2006):RDI.クリ
エイツかもがわ.)
― 47 ―
― 48 ―
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
広汎性発達障害に対する早期治療法の開発
分担研究者
杉山登志郎
あいち小児保健医療総合センター
I 早期療育の効果に関する検討
研究2 広汎性発達障害のある 2 歳児への早期療育
―広汎性発達障害の有無による比較検討―
研究協力者
原 仁
横浜市中部地域療育センター
富永亜由美
お茶の水女子大学大学院
研究要旨
早期療育の有用性を検討するために登録された、発達障害のある2歳児 13 名を
広汎性発達障害の有無によって二群(PDD 群7例、N-PDD6例)に分け、その背景
要因について検討した。PARS 評価では、PDD 群の得点の中央値は N-PDD 群のそれ
より高値(28 対 22.5)の傾向(P=<0.1)を示したが、N-PDD 群の PARS 得点の分布
は PDD 群より広く分布していた。早期療育導入前の発達検査(新版 K 式 11 例、田
中ビネーⅤ2例)
、KIDS による発達評価、CBCL による行動評価による評価結果の
中央値に有意差はなかった。一方、N-PDD 群の母親の GHQ28 の総得点の中央値は、
PDD 群のそれより高い傾向(11.5 対 5.5)を示した。二群の差異について若干の考
察をおこなった。
難であった。理論的には、過去の非療育
A. はじめに
早期療育の有用性は、臨床的実感とし
群を用いた歴史的比較は可能だが、背景
ては明らかだが、必ずしも客観的指標で
要因の統制は極めて困難になる。そこで、
示されているわけではない。種々の理由
同様の早期療育を実施した異なった障害
から、結果として未療育のままに放置さ
群において、改善の程度の差を評価する
れた事例を診ると、早期療育の効果が実
ことで療育効果を判定するという発想が
感できる。しかし、厳密な統制群を用い
生まれる。
ての比較研究は、倫理的な問題が発生す
昨年度は、予備的研究として、SM 社会
るため行われてこなかった。つまり、同
生活能力検査(SQ 値)を用いて、自閉性
程度の障害群を分けて早期療育を実施す
障害(Autistic Disorder; AD)群 30 例、
る群とそうしない群を比較することは困
特定不能の広汎性発達障害(Pervasive
― 49 ―
Developmental Disorders Not Otherwise
症はスペクトラム(連続体)との考え方
Specified; PDD-NOS)群 17 例、ダウン症
が主流となる中で、早期療育を実践する
候群を含む精神遅滞(Mental
場合、AD と PDD-NOS の両者を区別せず、
Retardation; MR)群 11 例の療育効果を
単に PDD と診断する意味の検討が必要で
測定した(原;2008)
。三群の中で、もっ
ある。はたして、PDD との診断が早期療育
とも顕著な伸びを示したのは PDD-NOS 群
を実施する意義を増すのであろうか?
(平均プラス8ポイント)で、AD 群の伸
第三に、SM 社会生活能力検査は適応度
び(平均マイナス3ポイント)と比較す
を評価しているだけで、発達障害児に必
ると、群間差は有意であった。言い換え
ず存在する不適応度は診ていない点であ
ると、AD 群は月齢相当の伸びを見せず、
る。従って、何らかの手段で不適応度を
SQ 値としては、むしろ低くなってしまう。
評価しなければならない。不適応度を測
一方、PDD-NOS 群には、多様な発達障害が
定する尺度が必要となる。当然、期待さ
含まれるようで、月齢相当以上の顕著な
れるのは、早期療育による不適応度の減
伸びを示す例が含まれていた。なお、MR
少である。適応度の伸びの良し悪しだけ
群の伸びはプラス2ポイントであった。
では早期療育の有用性は議論できない。
以上より、AD と診断するか、PDD-NOS と
第四に、早期療育に参加を希望する保
診断するかによって、ある程度その後の
護者、特に母親のメンタルヘルス面の評
伸びを予測することができた。
価が実施されていない点である。子側の
しかし、この予備的研究でいくつかの
要因だけでなく、親側の要因の評価が不
可欠である。早期療育とは子だけの養育
課題が残った。
第一に、すべての例で療育開始前に SQ
ではなく、親子への支援が基盤とならな
値を求めていない点である。評価間隔は
ければならない。親のメンタルヘルスケ
約 1 年(平均 14 ヶ月)であったが、すで
アの視点を導入すべきであった。
に療育を開始している例も、幼稚園・保
以上の 4 点の課題を踏まえ、2歳児グ
育所に通っている例も含まれ、平均する
ループを対象とすることで、より早期の
と3歳児の段階で初回評価が、4歳台後
療育効果の評価を行い、子だけでなく、
半で2回目の評価が行われた。療育効果
親のメンタルヘルスの視点を取り入れた
というより、種々の発達障害児のこの年
多面的でかつ統一した評価を行い、そし
齢帯での変化を捉えたのかもしれない。
て早期療育における PDD 診断の意義を検
第二に、SQ 値の変化によって、AD 群と
討することとした。
PDD-NOS 群の伸びの差は示せたが、PDD と
非 PDD の比較は行わなかった点である。
B. 対象
平成 20 年4月開始の早期療育科(おひ
確かに AD と診断できる例は早期療育の対
象になるかもしれない。療育の内容を吟
さまグループ)への入会希望者の内、2
味して、プラスの伸びを得るための努力
歳児クラスに組み分けられた 16 例(8例
が求められるからである。しかし、自閉
ずつ2組)が研究対象であった。おひさ
― 50 ―
まグループとは、週 1 回(午前 10 時から
保護者に事前に記入を依頼した。回答者
昼食時間を含む午後 1 時まで)の外来療
は 1 例の父親(母親が外国籍のため)を
育で、通常の医療の枠組みの中で実施さ
除き、他は母親であった。
れている。一クラス3名の保育士・児童
平成 20 年5月から7月にかけて、通常
指導員が指導を担当する。おひさまグル
の療育プログラムが終了した後、個別に、
ープの詳細は昨年度の報告書に記載した
共同研究者(AT)が PARS 面接を実施した。
(原,;2008)
。ま
た 、横浜市中部地域療育
なお、共同研究者(AT)は PARS 面接実施
センターにおける早期療育科の位置づけ
者講習会(平成 20 年 4 月)に参加し、PARS
は別に述べている(原;2003)
。
使用の許可を得た。
研究対象児の保護者には、入会のため
平成 20 年 3 月現在とする、回顧 的 PARS
の説明会の後に任意参加で研究説明を筆
面接を実施した。
保護者には、
KIDS と CBCL
頭著者(HH)が行い、研究趣意書と研究
の記載に際して、対象児の同月の状態を
承諾書を配布した。その場では承諾を求
回顧して記入するように依頼した。GHQ28
めず、療育開始日に療育担当者から研究
のみ、記入者の現状を記入することにし
への参加の意思確認を行った。不参加の
た。3種類の質問紙は、面接当日、共同
意思が示されたのが2例だった。他の 1
研究者(AT)が記入漏れの有無を確認し
例は研究説明の集まりに参加せず、その
た後回収した。
後も明確な意思表示はなかったが、結果
早期療育の開始前の資料として、診断
的に承諾書の提出がなかったので、不参
名と発達検査結果(2例の田中ビネー知
加の意思表示として対応した。
能検査Ⅴ以外は、新版 K 式発達検査)を
参加者は 13 例となった。双胎児2組と
収集した。
母親が外国籍の 1 例が含まれている。全
員男児であった。最終的に、広汎性発達
D.
研究結果
広汎性発達障害(自閉症4例と特定不
障害日本自閉症協会評価尺度
(PARS;2004)評定のための面接日に再度
能の広汎性発達障害3例)群(PDD 群)7
研究の趣旨を説明後、承諾書に保護者の
例と非広汎性発達障害群(N-PDD 群)6例
署名を得て研究対象とした。
を比較した(表)
。
小計欄に各群の中央値を、引き続く括
C.
弧内に範囲を示した。群間の比較は
研究方法
統一プロトコール(並木ら,2008)に従
Kruskal-Wallis による順位差検定を実施
って、療育開始前の評価を実施した。乳
した。危険率 10%以下を有意差傾向あり
幼児発達スケール(KIDS;1991)
、幼児の
として示した。
PARS 得点の中央値は、PDD 群(28 点)
行動チェックリスト(CBCL;1999)
、全般
的精神保健質問紙(GHQ28;1996)は、PARS
が N-PDD 群(22.5 点)よりも高い傾向
面接の 1 週間前、療育担当者から手渡し
(P=0.09)を示した。母親の年齢の中央
あるいは自宅に郵送のどちらかの手段で
値は、PDD 群(38.5 歳)が N-PDD 群(34
― 51 ―
歳)よりも低い傾向(P=0.10)を示した。
可能性がある。なお、AD と PDD-NOS の診
なお、両群に双子がそれぞれ 1 組ずつ含
断は DSM-Ⅳ-TR(2002)に基づいて実施し
まれているので、母親の実数は PDD 群6
た。
例と N-PDD 群5例、合計 11 例での比較に
横浜市中部地域療育センターでは、確
なる。GHQ28 の総得点の中央値は、PDD 群
定診断が困難な2歳児であっても、療育
(5.5 点)が N-PDD 群(11.5 点)よりも
効果という観点からは、対象児の変化・
低い傾向(P=0.07)を示した。なお、N-PDD
改善を期待できる年齢帯とし、診断を確
群には外国出身の母親が含まれ、GHQ28
定してから療育を開始するという考え方
の回答が困難であった。従って、PDD 群6
は取らない。
「支援が先で、診断は後」の
例と N-PDD 群4例、合計 10 例での比較に
対象児も本研究には含まれている。なぜ、
なる。
今回、確定診断例での比較にしなかった
療育前の発達(知能)指数、PARS 評価
のか? 横浜市中部地域療育センターが
時年齢、KIDS による発達指数、CBCL によ
担当するのは、3歳から幼稚園教育が開
る内向尺度、外向尺度、および総得点(T
始される地域である。従って、3歳児へ
得点換算)の比較では両者に差異を認め
の早期療育は、そのための成果であるの
なかった。
か、並行して始まる幼稚園での指導や体
験の結果であるのかの判別は困難になる。
一方、2歳児は、週1日程度の幼児教室
E. 考察
1 年間の療育効果を検討するのが本研
やスポーツクラブに参加する程度で、基
究の最終目的であるが、今回は PDD 群と
本は家庭で両親と過ごしている。2歳代
N-PDD 群の比較を行った。次回、療育効果
の発達的変化は療育の影響が大きいと判
の詳細を報告する予定である。
断できる。本研究の対象児は、並行して
本研究の主たる対象は PDD であるが、
診断時期がすべて3歳未満であるので、
療育機関や保育所の利用予定はないもの
とした。
厳密に言えば、AD および PDD-NOS の診断
そもそも2歳から療育センターの早期
は「その可能性が大きい」に留めるべき
療育科を利用しようとする保護者の動機
だろう。PDD 群とした7例であっても、そ
はいかなるものかを検討する必要がある。
の後の経過観察によって、診断の変更は
多くは、福祉保健センター(保健所)の
ありうる。逆に、N-PDD 群は、いわゆる原
1歳6ヶ月児健診後の事後フォローでの
因不明の精神運動発達遅滞児(運動面と
親子教室などの支援が実施された後に、
言語面の遅れが明らかな乳児)2例、
療育センターでの療育が必要と認められ
Williams 症候群1例、言語発達遅滞2例、
て来所する。その過程には、療育センタ
注意欠陥多動性障害疑い1例からなり、
ー側と福祉保健センター所属の保健師で
知的発達も中等度遅滞から正常知能域ま
共同実施している療育相談事業を経る場
で、様々な障害群よりなる。この中にも、
合が多い。早期療育科への入会を希望す
PDD の範疇で捉え直すべき例が含まれる
る動機は一様ではないが、障害の特性と
― 52 ―
いうより、養育の困難な状態に依存する
の問題が PDD 群と同様なほどに存在する
ように思える。
ことが早期療育科への入会の動機となっ
養育の困難感は、児側と親側の両者の
たと考えられる。ただし、少数例の比較
問題が複合されて形成される。広汎性発
であること、両群の母親年齢の中央値に
達障害の特性は、児側の要因として大き
おいても、PDD 群が N-PDD 群より若年であ
い。また、その特性が明らかであれば、
ることなど、他の要因が影響しているか
保護者がその時点で困難を感じていなく
もしれない。
ても、将来の発達上の問題が大きいと予
想されるので、支援に関わる専門職は強
文献
く早期療育を勧める。一方、非広汎性発
Goldberg DP 原著,中川泰彬,大坊郁夫
達障害と判断しても、養育上の困難が顕
著:GHQ 精神健康調査票.
日本版 GHQ28.
著であれば、将来の集団教育の基礎つく
日本文化科学社,1996.
りという意味で、早期療育を勧める傾向
原仁:発達障害児の早期療育. 精神科,
2:317-321, 2003.
がある。早期療育は、発達障害児の集団
教育の準備という機能を持っているから
原仁:広汎性発達障害に対する早期治療
法の開発(分担研究者.杉山登志郎)
である。
分担研究報告書.その4 広汎性発達
本研究の児側の要因を検討してみると、
PARS 得点の差異は当然として、他の発達
障害幼児の社会生活能力. 厚生労
評価(新版 K 式、田中ビネー、KIDS)お
働省科学研究費補助金. こころの健
よび CBCL による行動評価の差異はなかっ
康科学研究事業. 発達障害者の新し
た。しかし、その分布は PDD 群の方が
い診断・治療法の開発に関する研究.
N-PDD 群よりも狭かった。両者を比べるな
平成 19 年度総括・分担研究報告書(主
ら、N-PDD 群の多様性を示す所見かもしれ
任研究者.奥山眞紀子)63-68, 2008.
広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度
ない。
(Pervasive Developmental
保護者側、特に母側の要因では、GHQ28
の総得点の中央値が PDD 群より N-PDD 群
Disorders Autism Society Japan
の方が高い傾向を示した。内容を分析す
Rating Scale: PARS)日本自閉症協
ると、うつ傾向が主体の例はなく、多く
会,2004.
が身体的症状と不安と睡眠の問題の高得
三宅和夫監修:乳幼児発達スケール
点が影響していた。広汎性発達障害では
(Kinder Infant Development Scale:
ないにも関わらず、早期療育への参加意
KIDS):発達科学研究教育センター,
欲が高くなるのは、発達障害の危惧とい
1991.
うより、保護者が養育困難と感じるため
中田洋二郎,上林靖子,福井知美,藤井浩
の可能性がある。仮に CBCL が不適応度を
子,北道子,岡田愛香,森岡由起子:幼
測定していると仮定するなら、PDD 群と
児の行動チェックリスト(CBCL/2-3)
N-PDD 群の差異はなかった。児側の行動上
日本語版作成に関する研究.小児の
― 53 ―
精神と神経,39:305-316, 1999.
生労働省科学研究費補助金. こころ
中田洋二郎,上林靖子,福井知美,藤井浩
の健康科学研究事業. 発達障害者の
子,北道子,岡田愛香,森岡由起子:幼
新しい診断・治療法の開発に関する
児の行動チェックリスト(CBCL/2-3)
研究. 平成 19 年度総括・分担研究報
の標準化の試み.小児の精神と神
告書(主任研究者.奥山眞紀子)47-51,
経,39:317-322, 1999.
2008.
新版K式発達検査 2002.京都市児童福祉
並木典子,杉山登志郎,野村香代,明翫光
センター,2002.
宜:広汎性発達障害に対する早期治
高橋三郎,大野裕,染矢俊幸訳:DSM-Ⅳ-TR
療法の開発(分担研究者.杉山登志
郎)分担研究報告書.その2
精神疾患の診断・統計マニュアル.
大阪府
医学書院, 2002.
療育通園施設「おひさま」における
療育の 1 年間の成果:前方向視研究
のためのパイロットスタディ.
表
田中ビネー知能検査Ⅴ.田中教育研究所,
2003.
厚
広汎性発達障害群7例と非広汎性発達障害群6例の比較
広汎性発達障害
(PDD群)
中央値(範囲)
非広汎性発達障
害
(N-PDD群)
中央値(範囲)
母親年齢
GHQ総得点
児月齢
DQ(IQ*)
PARS得点
KIDS(DQ)
38
双胎児
43
41
39
33
32
38.5(32-43)
36
31
37
32
双胎児
外国籍
34(31-37)
0
双胎児
8
9
3
10
2
5.5(0-10)
14
13
10
6
双胎児
外国籍
11.5(6-14)
35
35
29
34
36
34
33
34(29-36)
37
38
35
30
30
34
34.5(30-38)
42
44
92
74
82
100*
75
75(42-100)
59
59
51
83
74
90*
66.5(51-90)
32
32
23
28
26
28
32
28(23-32)
25
32
20
14
15
28
22.5(14-32)
29
31
155
35
75
88
61
61(29-155)
43
71
40
60
60
97
60(40-97)
― 54 ―
CBCL
内向尺度T得点外向尺度T得点 総得点T尺度
57
52
58
57
46
53
58
58
57
59
65
64
62
47
56
57
45
51
63
63
68
58(57-63)
52(45-65)
57(51-68)
69
59
68
77
85
92
62
45
57
41
45
46
47
46
46
65
74
74
63.5(41-77)
52.5(45-85)
62.5(46-92)
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
広汎性発達障害に対する早期治療法の開発
分担研究者
研究3
杉山登志郎
あいち小児保健医療総合センター
I 早期療育の効果に関する検討
PECS を中心とした早期療育について(中間報告)
研究協力者
山根希代子
広島市西部子ども療育センター
服巻
ピラミッド教育コンサルタントオブジャパン
繁
研究要約
1 歳 11 ヶ月から 2 歳 11 ヶ月の PDD 児 12 名に絵カード交換式コミュニケーションシ
ステム(PECS)を中心とした早期療育を実施し、6 ヶ月経過後の KIDS、CBCL GHQ-28 を
行った。KIDS 全体の DQ の平均は、療育前 68.4 から半年後 71.8 と、有意差は認めなか
ったが、理解言語の DQ の平均は、療育前 65.0 から半年後 80.2 と有意に上昇していた
( p < 0.05)。CBCL は、総得点の平均が、療育前 51.6 から半年後 44.8 と有意に減少
していたが( p < 0.05 )、総 T 得点は、療育前 59.8 から半年後 55.9 と減少している
ものの有意差は認めなかった ( p = 0.054 )。外向尺度については、得点・T 得点とも
に有意に減少しており( p < 0.01 )、問題行動の減少が認められた。GHQ28 の要素点
の総計の平均は、療育前 6、半年後 4.7 と有意差は認められなかった。また、不安に関
する要素点の平均は、有意差は認めないものの( p = 0.051 )療育前 3.3 から半年後 1.8
と減少し、何らかの影響が予測された。尚、広汎性発達障害評定尺度(以下 PARS と示
す)が当初 30 を超える 2 名の児童の保護者については、療育前 13 から半年後 3 へ、10
から 2 へと大きく変化しており、子どものコミュニケーション手段の獲得が保護者の精
神面へ影響したと考えられる。
ケーションの 1 つである。PECSは、初め
A. はじめに
1)
PECSは 1985 年に、
ボンディとフロスト
から自発的、機能的なコミュニケーショ
により開発されたもので、自閉症やその
ンを教え、いろいろな場面で柔軟に使え
他のコミュニケーション障害を持つ子ど
るように般化をめざし、指導は、即時に
もから大人に、自発的なコミュニケーシ
好ましい結果をもたらす好子の要求から
ョンを教えるための拡大・代替コミュニ
はじめることなどが特徴である。子ども
― 55 ―
にとっては要求機能から教えるので、コ
成 20 年 3 月に研究説明会に参加し、同意
ミュニケーションすることで要求がかな
を得た児童及び保護者である。当初 14 名
うという具体的な結果が返ることにより
の参加であったが、うち 1 名が転居によ
コミュニケーションの意欲が高まる。
り中断、また、もう一名は難聴を伴って
具体的な PECS の指導は、要求を充足す
おり、途中より聴力活用を主体とした療
る目の前の大人に対して絵カードを差し
育に変更したため終了とし、対象 は 12 名
出すことによって欲しいアイテムと交換
となった。
することから教え(フェイズⅠ)
、離れて
対象児童の、PARS 、KIDS、CBCL、およ
いる大人に絵カードを交換すること(フ
び保護者(母親)の GHQ-28 は表 1 の通り
ェイズⅡ)
、絵カードを弁別して複数の絵
である。高機能広汎性発達障害(以下高
カードから選択すること(フェイズⅢ)、
機能 PDD と示す)と考えられる児童 4 名、
文構成による要求(フェイズⅣ)
、応答に
境界域から軽度精神遅滞を伴う PDD5 名、
よる要求(フェイズⅤ)
、周囲の物事に対
中度精神遅滞を伴う PDD3 名であった。所
するコメント(フェイズⅥ)など、系統
属先は 1 名が保育園でほか 11 名は在宅で
的に企画されている。また、好子の要求
あった。また、育児の中心は母親であっ
だけでなく、援助や回避の要求、拒否の
た。
コミュニケーション、視覚的な指示やス
診断の告知に関しては、PDD の疑いもし
ケジュールに従うといった理解のコミュ
くは PDD の範疇であることを研究説明会
ニケーションなど生活場面で役立つさま
前に伝えており、自閉症・精神遅滞など
ざまな指導も含まれている。
の詳細な内容に関しては、未伝達もしく
本研究はプロスペクティブに PECS の早
は途中で伝達するなどケースにより様々
期療育の効果を 1 年間調査するものであ
である。また、基礎疾患に関しては、一
り、今回は、平成 20 年 4 月および、平成
部医学的検査を実施している児があるが、
20 年 10 月の KIDS、CBCL、GHQ28 のデータ
現時点では、明らかな基礎疾患は認めて
を基に、約 6 ヶ月間の変化についての中
いない。
間報告を行う。
C.
研究方法
まず、療育開始前に心理療法士が中心
B. 対象
広島市西部子ども療育センターを受診
となり、母親への問診を主体に PARS、KIDS、
し、平成 19 年 9 月以降に PDD が疑われる
CBCL、GHQ-28 を評価し、初回は担当スタ
もしくは PDD の診断を受けた子ども 12 名
ッフを中心に子どもの好子アセスメント
を対象とした。研究参加の呼びかけは、
(絵カードの交換に際し、子どものほし
主に初診後1~2回の小児科診察後 PDD
いアイテムや活動が何であるかの評価)
の疑われる児童、もしくはすでに理学療
を実施した。
療育内容は、1 年間を、前期・後期に分
法や育児支援などを行っている PDD の疑
われる児童の保護者へ口頭で説明し、平
けて企画を行い実施した。
― 56 ―
前期は、月に約 2 回、1 回 1 時間の PECS
会性は平均値が下がり、表出言語・概念・
を個別で実施し(計 9~10 回)
、精神遅滞
対成人社会性・躾・食事は平均値が上が
のため育児・生活支援を必要とする子ど
っていた。
もには月に 1 回、約 2~3 時間の集団療育
を平行して実施した(5 名)。
家庭での PECS
2.CBCL の変化
の使用については 2 家族がおやつ場面な
総得点の平均は、療育 前 51.6 から半年
ど部分的に実施していたが他の家族は行
後 44.8 と減少し有意差が認められた( p
っていなかった。
< 0.05 )が、総 T 得点は療育前 59.8 か
後期は、月に 1 回 1 時間の PECS を個別
ら半年後 55.9 と減少しているものの有意
で行い、保育園在籍の子どもを除き、月 2
差は認められなかった ( p = 0.054 )。
回の集団療育(約 3 時間)を実施予定で
外向尺度(攻撃尺度+注意集中尺度+反
ある。精神遅滞の状況、及び、今後の進
抗尺度)については、得点・T 得点ともに
路(障害児通園施設・保育園・幼稚園)
減少しており、明らかに有意差が認めら
等の状況により、2 グループに編成し、般
れた( p < 0.01 )
。図2に外向尺度 T 得
化を促すために、集団において PECS を実
点の変化を示す。
施予定である。また、家庭での PECS の使
依存分離尺度についてはスコアが増加
用については、後期初日に研修を行い、
しており有意差が認められた( p <
積極的に実施を促す予定である。
0.01 )。引きこもり尺度と攻撃尺度はと
PECS 実施に際しては、2DAYS(基本的
な PECS の方法を学ぶ 2 日間の研修)のワ
もに減少し有意差が認められた( p <
0.05 )。
ークショップを受けたスタッフ 9 名、及
尚、各項目に関しては、№76 の「しゃ
び、数名のアシスタントスタッフが実施
べり方に問題がある」に有意差が認めら
した。また、ピラミッド教育コンサルタ
れ、療育前 0.7 から半年後 1.3 へ増加し
ントオブジャパンのコンサルタントによ
ており( p < 0.05 )その内容はオウム
る 2 か月に 1 回、1 回 7 時間の実際の場面
返し・ことばの遅れなどであった。 №66
を通じた PECS に関するコンサルテーショ
の「よくきいきい声をあげる」について
ンを受けた。
は平均 0.9 から 0.5 (P=0.102)
、
「№69
自分勝手あるいは分け合おうとしない」
D.
については、平均 1.2 から 0.8(P=0.102)
研究結果
と有意差はないが減少していた。
1.KIDS の変化
KIDS 全体の平均は療育前 68.4 から半
年後 71.8 であり有意差は認めなかったが、 3.GHQ28 の変化
図1に示すように、理解言語の平均は療
総計の平均は、療育前 6 から半年後 4.7
育前 65.0 から半年後 80.2 と上昇し有意
と有意差は認められなかった。図3に
差が認められた( p < 0.05)。また、有
GHQ-28 要素点総計の変化を示す。PARS が
意差はないが、運動・操作・対子ども社
30 を超える 2 名の保護者については、療
― 57 ―
育前 13 から半年後 3 へ、10 から 2 へと大
位項目の理解言語のみの平均が療育前
きく変化していた。また、不安に関する
65.0 から 6 ヵ月後 80.2 と上昇し有意差が
要素点の平均は療育前 3.3 から半年後
認められた。PDD 児の場合、2 歳から 3 歳
1.8 と減少し、有意差は認めないものの
の時期に特別な療育を行わなくても経過
( p = 0.051 )何らかの影響が予測される。
観察のみで急速に言語発達が伸びる子ど
4.PECS の進行状況ほかコミュニケーシ
もがみられるので、単純に療育による効
ョンの変化について
果とは言えない場合が多い。しかし、理
表2に 10 月初旬の PECS の進行状況と
解言語のみこのような発達が見られたこ
獲得語彙数、エピソードデータを示して
とは、注目に値する。これは PECS を実施
いる。好子アセスメントの結果、有効な
することで、保護者が子どもの行動を理
好子は多くの子どもの場合おやつやジュ
解することが促進され、子どもの意図が
ースなどであった。当初用意していたお
分かり、やり取りが成立し、結果として
もちゃは、初期には好子としてあまり機
言語理解が促進したのではないかと考え
能しないことが多かったが、セッション
られる。
ごとに、遊びや活動を通してかかわりな
Yoderらは4)、36 人の就学前のASD児童
がら好子を探ることにより、それ自体が
に対し、前言語コミュニケーションの 2
モデリングともなり、子どもの遊びの種
つ の 介 入 方 法 PECS と RPMT ( Responsive
類が広がるとともに、アイコンタクトや
education and Prelinguistic
三項関係〔子ども、大人、第三者(人・
Teaching)の言語獲得に関しての効果に
物)の関係を示し、子どもと大人が第三
ついてランダム比較を行っている。6 ヶ月
者のイメージを共有すること〕などの変
間、24 時間以上のセッションを行い、セ
化が認められ、発声や発語の増加などそ
ッション直後(6 ヶ月後)の自発言語の獲
れぞれ自発的なコミュニケーション方法
得の効果についてはPECSが良好であった
が多様化してきた。
が、最終的な自発言語獲得について両者
Milieu
とも差はなくいずれも効果的であったと
E.
考察
報告している。今回の研究は、年齢とセ
本報告は PECS を用いた早期療育の 1 年
ッション時間に違いがあるために比較は
間の実施効果を調べる研究の中間報告で
できないが、表出言語に関しては
ある。正確な効果の検証については 1 年
平均は 61.5 から 66.3 と上昇しているが
後の検査結果が出てから改めて行うが、6
現時点での有意差は認められなかった。
ヶ月経過時点での検査結果や行動観察と
また、今回は、他の介入方法との違いに
その
エピソードデータに基づいて考察を行う。 ついても比較をしておらず、1 年後のデー
タ収集と分析に期待したい。
1)
検査結果からの考察
CBCLの結果からは総得点の平均は、T値
まず、KIDS の結果については、総 DQ
の有意差はないものの、療育前 51.6 から
の平均は、有意差を認めなかったが、下
半年後 44.8 と減少しており、特に、外交
― 58 ―
尺度(攻撃尺度+注意集中尺度+反抗尺
のため家庭生活における困難さが前面に
度)については、得点・T得点ともに減少
立っていたが、PECS を使うことで、子ど
しており、行動上の問題の改善が図られ
もがコミュニケーションでき、視覚スケ
たと考えられる。一方、下位項目の依存
ジュールの導入により子どもの状況理解
分離尺度が増加した背景としては、PDD児
が促進されたことで落ち着くようになり、
の場合、2 歳から 3 歳頃に遅れて母親への
親の漠然とした不安が少なくなっていっ
関心が高まり愛着行動がみられやすいこ
た可能性が考えられる。逆に、GHQ28 の得
とや、生活範囲が徐々に広がる一方で想
点が上がったケースは、発達とともにこ
像力の障害から来る新しい場面への不安
だわりなどの自閉症の症状が目立ってき
が出やすくなることなどと関連している
たことや、精神遅滞の程度が重いため子
可能性がある。攻撃尺度に関しては、
「ほ
どもの変化が少ないことなどが関連する
かの人を叩く」、「けがをする」、「落ち着
と考えられる。
かない」などの点数が低くなっており、
また他にも、PECS は、子どものために
要求手段を持つことでの変化とも捉える
すべき具体的な活動が明確であり、保護
4)
ことができるかもしれない 。
者にとってわかりやすく、また、保護者
下位項目に関して「しゃべり方に問題
が子どもに対し有効なかかわりが持てる
がある」が増加している背景としては、
という充足感が、不安に対する要素点の
いずれ言葉が出ると思っていたのに年齢
減少にも効果が出ているのではないかと
が上がっても言葉が出ないためにその心
思われた。
配が増したことや、無発語だったのに言
葉が出始めることでオウム返しなどの特
2)
行動観察やエピソードデータに
よる考察
徴的な表現が目立ってきた可能性がある。
また、
「よくきいきい声をあげる」
、
「自分
PECS は療育場面に限定された実践では
勝手」あるいは「分け合おうとしない」
あるが、子どもからの要求が絵カードの
という項目で改善が見られたことについ
交換という適切な形で大人へ伝えること
ては、他の要求の手段を獲得することで
ができ、それによって、泣く・大声をあ
癇癪を起さずに要求できるようになった
げるなど不適切な形で伝える行動と置き
り、もしくは視覚スケジュールなどで指
換わっているのではないかと考えられた。
示に従って行動できるようになったりし
特に、知的障害を併せ持つ子どもにとっ
たことと関連している可能性が考えられ
ては、絵カードを渡すという行為を用い
る。
ることで、コミュニケーションの相手(方
GHQ28 については、PARS が 30 を超える
向性)が明確になり、その伝達結果もわ
得点の高い 2 名の子どもの保護者は、療
かりやすいので、子どもがコミュニケー
育前 13 から半年後 3 へ、10 から 2 へと大
ションの相手を認識することを促し、コ
きく変化していた。この 2 名は、自閉性
ミュニケーションをとる体験を積むこと
が強くこだわりや意思疎通の通じにくさ
ができるのではないかと思われた。また、
― 59 ―
保護者の方も、子どもとコミュニケーシ
受動型の子どもの場合は、人に接近し
ョンが可能となる絵カードという手段を
て要求を出すこと自体が少なく、PECS と
持つことで、子どもの要求を推し測らな
同時に視覚スケジュールなどを用いて予
くても確実に要求充足を叶えられる場面
期不安を少なくすることや、要求を促す
が増え、聞き手効果段階(コミュニケー
前に集団療育や家庭などで、まず楽しく
ションの受け手が発信者の要求を分かる
遊ぶ経験が重要と思われた。また、受動
かどうかによってコミュニケーションが
型の子どもの場合、保育園などでの集団
成り立つ段階)のコミュニケーションを
場面で手助けを求めることが難しく大き
明確にし、促進している印象を持った。
な課題となるが、保護者に依存している
No. 9 の自閉症児に関しては著者が担
早期の生活場面であれば、手伝ってほし
当していたが、初めて絵カードとアイテ
い場面が多く、絵カードを使って援助を
ムを実際に交換できたときに、
「コミュニ
要求することを教えやすいと思われた。
ケーションできた」という実感が持て、
また、高機能 PDD の子どもの場合、発
とてもうれしかったのを覚えている。こ
語がたくさん出ていても、機能的な会話
の実感は、日々、子どもと生活する保護
になっていなかったり語彙のレパートリ
者にとっては、より大きなものと想像す
ーが少なかったりすることがある。この
る。療育開始 2 ヵ月後より特定の物を持
ような子どもの場合でも PECS を使うこと
ち続けるこだわりや、それを手放させよ
で、絵カードがリマインダーの役割を果
うとするとかんしゃくが出始めていたが、 たして発語が促進され、フェイズⅣ以降
PECS を行う中で、適切な要求手段を持つ
は構文の学習の機会ともなり、自発的コ
と同時に、そのような不適切な行動が抑
ミュニケーションを促すうえで効果があ
制されていった。また、発語のない時期
ると思われた。
全般的に、前期は PECS の使用や練習の
から、絵カード交換で要求を示すことで、
本児の要求もわかりやすくなり、相互コ
機会が、2 家族を除いて療育セッションの
ミュニケーションの成立に効果があるよ
みに限られていたために、フェイズの進
うに思えた。
行度はやや遅かった。言語の発達は、PECS
その他の気づきとしては、注意転導性
の激しい子どもの場合、初期に活動場所
の使用頻度との関連が強いと考えられ、
家庭や集団での経験を積む必要性がある。
に仕切りを設け環境を構造化して PECS を
行ったが、フェイズが進むに連れて、仕
F.おわりに
切りを少なくしても、強力な好子がある
本研究は、PECS の指導方法に関しては、
ことで活動への集中力が持続できること
ピラミッド教育コンサルタントオブジャ
が分かった。また、変化に対する不安が
パン
強く予告が必要な子どもには、初期の段
と、広島市西部子ども療育センターPECS
服巻繁のコンサルテーションのも
階で視覚スケジュールを導入することで、 担当者(保育士:井上美智子
その場で安心して過す様子が見られた。
太田民恵
― 60 ―
上垣佳代
池本幸司
小川裕子
桑田和
枝、 言語聴覚士:水野徹、作業療法士:
塚崎泉美、心理療法士:片木恵子
4. Charlop-Christy, M. H., Carpenter,
M., Le, L., LeBlanc, L. A., & Kellet,
山春
美佳、小児科医師:山根希代子)が実施
K.
(2002).
している。
Exchange
Using
the
Picture
Communication
System
PECS 実践研究を実施するにあたり、協
(PECS) with children with autism:
力していただいた子ども・保護者の方々、
Assessment of PECS acquisition,
PECS 担当者、また、さまざまな場面で協
speech,
力してくれた広島市西部子ども療育セン
behavior, and problem behaviors.
ターのスタッフに心より感謝する。
Journal
social-communicative
of
Applied
Behavior
Analysis, 35, 213-231.
5.
参考文献
1. ロリ・フロスト & アンディ・ボンデ
ィ著
門眞一郎監訳 (2005) 絵カー
Yoder, P. & Stone, W. L. (2006) A
Randomized
Effect
of
Comparison
Two
of
the
Prelinguistic
ド交換式コミュニケーションシステ
Communication Interventions on the
ムトレーニングマニュアル第 2 版.
Acquisition
フロム・ア・ヴィレッジ.
Communication in Preschoolers With
2. アンディ・ボンディ & べス・サルザ
‐アザロフ著
服巻繁監修訳
(2007) 自閉症を持つ生徒のための
ピラミッド教育アプローチ-特別支
援に使える行動分析学ガイド. ピラ
ミッド教育コンサルタントオブジャ
パン株式会社.
3. ピラミッド教育コンサルタントオブ
ジャパン株式会社ホームページ
(2009 年 1 月)
http://www.pecs-japan.com
― 61 ―
of
Spoken
ASD. Journal of Speech, Language,
and Hearing Research, 49, 698 711.
表1
対象児童と保護者の状況
前期
診断・こどもの特徴
PARS
前期集
家庭
団療育
での
療育前
PARS
(4 月
評価時
(回
現
KIDS(
CBCL
CBCL
GHQ-28
参加の
PECS
年齢
顧)
在)
総DQ)
総点
総T
計
有無
実施
24
31
52
62
64
13
○
○
18
14
99
88
82
8
15
9
89
43
56
7
19
17
55
59
63
11
○
29
25
52
80
73
8
○
14
15
69
45
57
5
保育園
9
4
78
10
37
2
45
40
74
74
69
10
18
14
68
42
56
2
19
16
88
52
60
2
15
14
52
19
43
2
26
27
46
45
57
2
2 歳 11
1
A MR こだわり強い
か月
2歳8か
2
HFPDD 要求強い
月
2歳4か
3
HFPDD 受動
PDD 運動発達遅滞
月
2歳1か
4
中度 MR
月
2歳1か
5
A 中度 MR
PDD 軽度~境界域
月
2歳8か
6
MR 保育園在籍
月
2 歳 10
7
HFPDD 受動
A MR
こだわり強く
か月
2 歳 11
8
変更が苦手
A
軽~境界域 MR
1 歳 11
9
遊び広がりにくい
○
か月
か月
2歳3か
10
HFPDD 変更が苦手
A
MR 遊びが限定
月
2歳3か
11
注意転導性強い
PDD 中度 MR 運動
月
2歳9か
12
発達遅滞
月
― 62 ―
○
○
― 63 ―
表2
PECS の進行状況
回
数
セッションでの語
現在の PECS のフェイズ
彙数
現状
動物のフィギュア強い好子。動物の名称の言
1
9
自由遊びでフェイズⅡ
10(単語)
葉で要求可。こだわり強いが、遊びのモデル
(直接介助)で徐々に広がる。
常にしゃべっている。相手の意図理解困難。
おやつ・自由遊びでフェ
2
9
100(文章)
目前の対象に注意が移りやすい。マイペース
イズⅡ・Ⅲ・Ⅳ
だが、変化への適応困難
発語あり
自由遊びでフ
文章レベルでやや一方的なコメント。要求少
ェイズⅠ・Ⅱ・Ⅲ、Ⅱが
ないが「もう一回」と言葉で発信出始める。
3
9
定着しにくい。フェイズ
30(文章)
相手の言葉の意図理解困難(ちぐはぐな行
Ⅳ(文章)でフェイズⅡ
動)。
を試みる
感覚運動遊び、小玩具など広がり、感覚運動
4(単語)
4
9
ちょー
おやつ場面でフェイズⅠ
遊びでは人とのやり取りも楽しむ。笑顔・発
だい
声が増える。要求の指さし出始める。
4
(あれとって
感覚遊び繰り返すこと可
振り返って人を
おやつ・シーツブランコ
5
8
とり
ここ
やっ
見て笑う(セッション中 4~5 回)手差しの
でフェイズⅠ
た)
要求 スケジュールを見て手差しで要求
発声が増える
視線が合う
指さしでの要
3(ワードパーシャ
ブランコでフェイズⅡ
6
10
求が増える
公園で「かーわってー」とプレ
ル) さい(くださ
おやつでフェイズⅣ
イ場面から学習
行動のまとまりが出てき
い) こ(ブランコ)
た
受動強く自発的な要求少ない。スケジュール
自発が非常に少ない。お
3?(ワードパーシ
やつ場面でフェイズⅡ
ャル
導入で安定して過ごす。話しかけると、服を
7
9
) かー
と
いじくり困る様子。自立課題は安心でき好き
手伝ってカード使用可
ー・・・
な様子。
パターン的な発語だが増える。水へのこだわ
3(単語)
8
9
あけて
自由遊びでフェイズⅠ
りはスケジュール導入で安定し、遊びも広が
かあさん
る。
遊びが広がり、カードでの要求(じっくり見
遊び場面でフェイズⅡ・
9
3(おいで かして
て選択)増え、発語も聞かれる。ピアノで弾
おま(コマ))
く模倣可。終わると褒めてもらおうと見返り
8
Ⅲ
可。
― 64 ―
家庭では文章レベルで会話。セッションでの
おやつ場面でフェイズⅠ
10
9
発語少ない。行動や流れで記憶(次回よりス
10
スライムでフェイズⅢ
ケジュール導入予定) カードの詳細な弁別
も可
注意転導性強いが、構造化を図り、遊べるよ
おやつ
エグザイルでフ
うになり、構造化を取り払っても OK。視線で
11
9
ェイズⅠ・フェイズⅡ(1
3
の共感、カードでの要求明確となる。自立課
メートル)
題好む。手伝って導入し、少し可。
発声が増える。以前は
おやつでフェイズⅠ・フ
12
8
ェイズⅡ(1 メートル)
所在無くふらふらと
していたが、遊びが広がり、因果関係理解で
1(おっとっと)
小玩具でフェイズⅠ
きつつあり。カードでの要求も可。視野が狭
く見たものに反応しやすい。やり取りができ
つつあり。
― 65 ―
― 66 ―
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
広汎性発達障害に対する早期治療法の開発
分担研究者
研究4
杉山登志郎
あいち小児保健医療総合センター
I 早期療育の効果に関する検討
つみきの会におけるABA家庭療育の半年間の成果
研究協力者
藤坂龍司
つみきの会
池田千紗
つみきの会
井上ともみ つみきの会
森岡真生
つみきの会
研究要旨
1 才 6 ヶ月から 3 才 9 ヶ月(平均 33.6 ヶ月;男児 8 名、女児 4 名)の自閉症・広汎性発達障
害に、つみきの会による家庭での ABA 療育の結果を、半年経過した段階で測定した。PARS 得点
は事前検査平均値が 21.8、
中間検査の平均値が 21.1 と変化がなかった。
CBCL は事前平均値 66.4、
中間検査平均値 60.7 で統計学的に有意の差は認められなかった。母親の GHQ は平均値 9.7 に対
し中間検査値平均 12.4 と悪化したが、統計的に有意の差は認められなかった。KIDS における発
達指数は、事前検査平均値 50.9、中間検査平均値 55.5 と、統計学的有意な上昇が認められた
(t=-1.94, df=11, p<0.5)
。新版K式発達検査による発達指数は、事前検査平均値 55.8、中間
検査平均値が 62.8 で、統計的に有意の差が認められた(t=-2.33、df=11、p<0.5)
。1 年での資
料を見なくては、この結果はまだ評価が困難である。
A.研究の目的
上に渡って継続する、という特徴を持つ。EIBI
自閉症・広汎性発達障害児の早期療育法の一
はいわゆる古典的 ABA に属し、大人主導による
つとして、応用行動分析(ABA)による個別療
デ ス ク で の 不 連 続 試 行 法 (Discrete Trial
育が近年高い成果を挙げている。特にロバース
Training, DTT)を多用するが、①子どもの生活
博士の開発した「早期集中行動介入(EIBI)」
の場である家庭や学校で療育を行なうこと、②
は、47%の被験児が知的に正常域に達し、かつ
日常生活を共にする親が療育に参加すること、
付添なしで普通学級に入学するという劇的な
によって、古典的 ABA の欠点とされる「般化の
成果を挙げ(Lovaas, 1987)、複数の追試でもそ
困 難 」 を 克 服 し て い る (Lovaas, Koegel,
の効果が確認されている(Smith, Groen & Wynn,
Simmons & Long, 1973)。
2000, Sallows & Graupner, 2005, Cohen,
Amerine-Dickens & Smith, 2006)。
EIBI の難点は、訓練を受けた複数のセラピス
トが子どもの家庭を訪問し、週 20~40 時間の
EIBI は、①ABA に基づく個別療育を、②主と
して子どもの家庭で、③週 20~40 時間、1 年以
個別療育を行なうため、多大なコストがかかる
ことである。もし親が自らセラピストとなり、
― 67 ―
ロバースの療育法に基づきながら 1 日 1~2 時
対象を拡大した。
間程度の無理のない家庭療育を行なうことで、
参加者の子どもの事前検査時のプロフィー
ある程度の改善効果を挙げることができれば、
ルを表 1 に示す。年齢は 1 才 6 ヶ月~3 才 9 ヶ
より実現可能性の高い普及モデルとなりうる
月、平均 33.6 ヶ月、性別は男児 8 名、女児 4
だろう。
名である。全員が医療機関ないし公的療育機関
そこで本研究は、1 才半から 3 才の自閉症・
によって、自閉症・広汎性発達障害またはそれ
広汎性発達障害児 12 名を対象に、主として親
らの疑い、との診断を受けていた。事前検査で
が 1 日 1 時間以上の家庭療育を 1 年間継続し、
の PARS の回顧得点は 22~40 点(平均 29 点)
その効果を明らかにすることを目的とする。こ
であった。
のたび、半年後の中間検査の結果がまとまった
ので、そのデータを中心に報告する。
2)方法
事前検査時に今回の研究計画について保護
B.対象と方法
者に説明し、以下の諸点について同意を得た。
1)対象
①今後 1 年間、日曜を除く毎日、1 日 1 時間
対象はつみきの会HP及び会員向けメーリ
以上の ABA 家庭療育に少なくとも片親が従事す
ングリストを通じての被験者募集に応募した
ること(子どもの病気などやむを得ない事情が
12 組の親子である。
当初 14 組の応募を受付け、
ある場合を除く)
事前検査を行なったが、その後、半年後の中間
②今後少なくとも半年間、保育園や通園施設
検査までに 2 組が研究から離脱した。1 組は医
に週 3 日以上通わず、家庭療育に専念すること
学上の理由(三角頭蓋の手術)
、もう 1 組は家
③未入会者の場合、ただちにつみきの会に入
庭の事情(老親の介護)による。そこで本報告
会し、会のテキストに従って家庭療育を行なう
では、中間検査を受けた残り 12 組のみを対象
こと
とする。
④1 年間、ABA 以外の治療・療育に参加また
当初、募集にあたっては、①首都圏、名古屋
周辺、神戸・大阪とその周辺のいずれかの地域
は従事しないこと(すでに医療機関において投
薬等を受けている場合は除く)
に在住し、②2~3 才の自閉症・広汎性発達障害
また月1回の親講習会にできる限り参加す
児(疑いを含む)を持つ、③つみきの会未入会
ること、家庭療育の記録をつけて提出すること、
の家族を対象にした。未入会者に限定したのは、 を義務づけた。
ABA 療育開始前のデータを得るためである。し
家庭療育は親以外に、学生アルバイトや親戚、
かし 2008 年 2 月中旬に募集を開始した後、2 ヶ
友人などが参加することを認めた。その費用及
月経っても当初予定した 10 組以上の被験者が
び募集・訓練は親の負担とした。
集まらなかったため、4 月中旬から会員歴 1 年
家庭療育を指導するため、参加者を居住地域
以内の会員に対象を拡大した。6 月初めに応募
ごとに東京地区(4 組)
、名古屋地区(3 組)、
者が 14 組に達したので、募集を締め切った。
神戸地区(5 組)の 3 グループに分け、それぞ
後に離脱した 2 組を除く参加者 12 組のうち、
れの地区で月 1 回、第一筆者を講師とする親講
非会員 7 組、会員 5 組である。非会員は事前検
習会を行なった。講習会では毎回、1 家族 30 分
査後ただちにつみきの会に入会した。
程度の個別指導を行なうほか、ABA の基本原理
参加者募集にあたって子どもの年齢は当初 2
才 0 ヶ月~3 才 6 ヶ月としたが、応募者が少な
や問題行動への対処法、基本的な教育技法など
についての講義を行なった。
かったため、途中で 1 才 6 ヶ月~3 才 10 ヶ月に
― 68 ―
また第一筆者による訓練を受けたつみきの
会所属セラピストが、週 1 回、対象者の家庭を
訪問し、1回 2 時間の療育に従事するとともに、
半年後検査も同様にして、2008 年 9 月~12
月に実施した。
親を精神的に支える役割を果たした。
療育は、つみきの会のオリジナルテキスト
「つみきBOOK」に従って行なった。このテ
C.研究結果
1)家庭療育の実施状況
キストは、ロバース博士の一連の療育テキスト
各参加者の療育開始から当初一ヶ月間の家
(Lovaas, 1977, Lovaas, 1981,Lovaas, 2003)
庭療育実施時間は、最も短い参加者で一日あた
を参考にして筆者が会員向けに作成したもの
り 43 分(週あたり 5 時間 1 分)、最も長い参加
である。対象者にはテキストと付属ビデオを1
者で一日あたり 166 分
(週あたり 19 時間 22 分)、
部ずつ無料で配布した。
参加者全員平均値は一日あたり 91 分(週あた
その他、対象者専用のメーリングリストを開
設し、それを通じていつでも筆者宛に質問や相
り 10 時間 37 分)であった。2 ヶ月目以降のデ
ータは未集計である。
談を行なえるよう、またその回答を他の参加者
本研究プロジェクトに参加する際、各参加者
も参考にできるようにした。このメーリングリ
には日曜を除く毎日、1 時間以上(週換算で 6
ストを使って、参加者全員が地域グループを超
時間以上)の療育を義務づけたが、実際には子
えて、情報を交換し、励まし合うことができた。
どもや親の病気、体調不良などにより、当初 1
またつみきの会の通常の会員向けサービス
ヶ月間において週 6 時間に満たなかった参加者
として、地域ごとの定例会への参加、会員専用
が 2 人いた(S5,S6)。
メーリングリストでの情報交換などがあり、対
家庭療育の主な担当者は大部分が母であっ
象者はこれらのサービスも利用することがで
たが、S2 のみは父親が大半の療育時間を担当し
きた。
ていた。また S1~S10 は、週1回訪問するつみ
きの会所属セラピストの療育を除いて、療育時
3)測定
間のほとんどを母親ないし父親が担当してい
PARS(広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺
たが、S11、S12 の 2 名は親以外に自らの負担で
度)、CBCL(子どもの行動調査表 2-3 才用)、
複数の人員をセラピストとして雇用・訓練し、
日本版 GHQ28、KIDS(乳幼児発達スケール Type
療育を分担させた。セラピストは S11 において
T)、新版K式発達検査の各検査を、事前および
は母親の妹や知人、S12 においては専ら学生ア
半年後に行なった。
ルバイトであった。
事前検査は、各参加者の応募時期に合わせて、
2008 年 3 月から 6 月にかけて順次、1,2 家族
2)親講習会
ごとに実施し、PARS、CBCL、GHQ28、KIDS のデ
東京、名古屋、神戸の三カ所で毎月行なわれ
ータを取った。PARS の聞き取りは第一筆者が担
た親講習会には、S6, S10 が 1 回ずつ欠席した
当し、残りは親が自記した。GHQ28 は全員、母
他は、ほとんどの参加者が当初 6 ヶ月間、毎回
親が回答した。新版K式発達検査は、今回の研
出席した。平均出席率は 97%である。親講習会
究とは独立した専門機関(駒澤大学文学部心理
は 1 年間継続予定である。
学科有光興記研究室、日本聴能言語福祉学院若
宮診療所 ST 田島志保、
かとう小児科
(三重県)、
3)測定結果
兵庫教育大学神戸サテライト臨床心理相談室
PARS、 CBCL、GHQ28、 KIDS(DQ)、新版 K 式
藤田佑里子相談員)に依頼し、別に日を設けて
発達検査(DQ)の、事前検査及び半年後の中間
実施した。
検査における結果を、表 2 に示す。
― 69 ―
PARS の現在得点は、
事前検査の平均値が 21.8、 の上昇である。これは療育開始半年間で母親の
中間検査の平均値が 21.1 でほとんど変化がな
精神健康度が全般的に悪化傾向にあることを
かった。
示している。
CBCL の総合得点は、
事前検査の平均値が 66.4、
被験者ごとに見ると、中間検査で最も高い数
中間検査の平均値が 60.7 で若干減少したが、
値(26)を示した S1 は、意外なことにこの半
統計的に有意の差は認められなかった。
年間で子どもの DQ 値が最も顕著に上昇したケ
被験者の精神健康度を示す GHQ28 は全員、母
ースである(K 式で 62→92)
。その一方で PARS
親に実施した。
事前検査の平均値が 9.7 に対し、
の現在得点の上昇(15→25)に見られるように、
中間検査の平均値が 12.4 で若干増加(悪化)
子どもが 2 才に達して、自閉症特有の問題行動
したが、統計的に有意の差は認められなかった。 はむしろこの間に次々に顕在化してはきたが、
ただし S1 と S3 の 2 名は中間検査において極め
それだけでこの極度に高い数値を説明できる
て高い値を示した。
とは思えない。S1 の場合は、家庭療育のストレ
KIDS における発達指数は、事前検査の平均値
ス以外の要因が作用していたのではないか、と
が 50.9、中間検査の平均値が 55.5 であり、両
思われる。この報告書の執筆時点で、S1 の家庭
者の間に統計上有意の差が認められた
療育は 10 ヶ月が経過したが、毎月の講習会で
(t=-1.94, df=11, p<0.5)。また新版K式発達
の直接観察やセラピストによる毎週の訪問報
検査による発達指数は、事前検査の平均値が
告を見る限り、母親の精神状態は安定しており、
55.8、中間検査の平均値が 55.8、62.8 であり、
家庭療育にも意欲的に取り組み続けている。
こちらも統計的に有意の差が認められた
(t=-2.33、df=11、p<0.5)。
次に高い数値(22)を示した S3 は、子ども
が療育に抵抗し、そのコントロールがうまくで
きなくて、当初から悩んでいた。子どもの状態
D.考察
もあまり改善していない。訪問セラピストの励
事前および中間検査で行なったいくつかの
ましで、なんとか続けている、という状態であ
テストのうち、特に KIDS および新版 K 式発達
る。そのため半年を経過した時点で、子どもを
検査で測定した発達指数が、統計的に有意の改
保育園に入れることを勧めた。現在は、保育園
善を示した。ただ、これが ABA 家庭療育の効果
に通いながら 1 日 1 時間程度の家庭療育を続け
といえるのか、あるいは他の療育方法でも同程
ている。
度の改善を示すのか、あるいは特に早期療育を
いずれにしても GHQ28 の平均値の上昇は、毎
しなくてもこの程度の改善を示すものなのか
日の家庭療育が母親にとって少なからず負担
は、われわれのグループの結果だけでは何とも
になっている可能性を示唆するものであろう。
言えない。
この負担をどう軽減するかが、親主導型 ABA 家
ただ、ABA 家庭療育に関する古典的な研究で
庭療育の大きな課題と言えるかもしれない。
ある Lovaas(1987)においては、週 10 時間未満
の ABA 家庭療育を行なった群では IQ の改善が
文
認められなかった。今回の結果はそれとは異な
Cohen, H., Amerine-Dichens, M., & Smith, T.
り、比較的短い時間の親主導の家庭療育で、短
2006 Early Intensive Behavioral Treatment:
献
期的にせよ DQ 値に統計上有意の改善が見られ
Replication of
たもので、この療育モデルの有効性に期待を抱
Community
かせる。
Behavioral Pediatrics, 27, 2, S145-155.
今回の結果で懸念されるのは、GHQ28 の数値
the UCLA
Setting.
Model in a
Developmental
and
Lovaas, O. I. 1977 The Autistic Child:
― 70 ―
Language
Development
Through
Behavior
Modification.
Sallows, G. O., & Graupner, T. D. 2005
Intensive Behavioral Treatment for Children
Irvington Publishers, Inc. NY.
with Autism:
Lovaas, O. I. 1981 Teaching Developmentally
Four-Year
Disabled Children: The Me Book. Pro-Ed, TX.
American Journal on Mental Retardation,
Lovaas, O. I. 1987 Behavioral Treatment and
110, 6, 417-438.
Normal
Educational
and
Intellectual
Functioning in
Young
Autistic
Journal
of
and
Predictors.
Smith, T., Groen, A. D., & Wynn, J. W. 2000
Randomized
Children.
Outcome
Trial
of
Intensive
Early
Intervention for
Consulting and Clinical Psychology, 55, 1,
Children with Pervasive Developmental
3-9.
Disorder. American Journal on Mental
Lovaas, O.I. 2003 Teaching Individuals with
Retardation, 105, 4, 269-285.
Developmental Delays: Basic Intervention
Techniques.
Pro-Ed, TX.
表1 被験児プロフィール
月齢
性別
診断名
PARS* 親会員歴
S1
23
F
PDDの疑い
22
0
S2
18
M
自閉症の疑い
27
0
S3
32
M
自閉症
34
0
S4
33
N
自閉傾向
31
0
S5
40
F
自閉症
22
0
S6
45
M
自閉症
25
10 ヶ月
S7
36
M
自閉症
26
7 ヶ月
S8
26
M
自閉症
40
5 ヶ月
S9
42
M
非定型自閉症
35
10 ヶ月
S10
36
F
自閉傾向
28
0
S11
30
F
自閉症の疑い
S12
42
M
自閉症スペクトラム
*PARS は回顧得点
― 71 ―
22
37
0
5 ヶ月
表 2 各種検査データ
PARS
CBCL
GHQ28
KIDS(DQ)
K 式(DQ)
被験者
事前
中間
事前
中間
事前
中間
事前
中間
事前
中間
S1
15
25
75
74
10
26
60.9
75.9
62
92
S2
18
29
74
78
10
7
66.7
75.0
71
82
S3
24
17
80
72
12
22
43.8
33.3
60
62
S4
26
23
61
52
6
8
42.4
35.9
46
47
S5
16
8
63
50
9
12
55.0
58.7
54
54
S6
21
17
64
57
6
14
31.1
31.4
43
39
S7
23
21
70
84
5
4
61.1
71.4
65
79
S8
31
25
97
69
17
16
53.8
62.5
56
62
S9
22
19
71
43
15
14
47.6
56.3
49
58
S10
23
18
47
53
17
12
38.9
53.7
67
67
S11
20
24
57
56
4
13
23.3
30.6
41
36
S12
22
27
38
40
5
1
85.7
81.3
55
75
平均
21.8
21.1
66.4
60.7
9.7
12.4
50.9
55.5* 55.8
PARS は現在得点。CBCL は総合得点。*:p<0.5
― 72 ―
62.8*
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者
奥山眞紀子)
分担研究報告書
広汎性発達障害に対する早期治療法の開発
分担研究者
杉山登志郎
あいち小児保健医療総合センター
II 強度行動障害の再検討
研究1 強度行動障害の再検討
研究協力者
川村昌代
あいち小児保健医療総合センター
橋詰由加里
浜松医科大学精神神経科
大隅香苗
浜松医科大学精神神経科
研究要旨
強度行動障害事業とその研究報告について批判的な検討を行った。強度行動障害
とは実は青年期パニックを頻発させていた当時の処遇困難に陥った自閉症であり、
行動障害という曖昧な対象を据え、入所施設における処遇事業とその研究が行われ
た結果、当初の目的からのずれが生じた状況を、わが国の自閉症療育および施設療
育の歴史を踏まえ詳述した。強度行動障害の成因として、指摘されて来なかった問
題としてトラウマの介在、チックおよび気分障害の併存について述べた。今後の課
題として、医療と福祉の協働による治療モデルが必要であることを指摘した。
1.
はじめに
害判定基準表(表1)が作成され、そ
強度行動障害とは、発達障害児、者
のうち総得点 10 点以上の者を強度行
において通常の生活に支障を来すよう
動障害と呼び、さらに総得点 20 点以上
な行動の異常を持つに至った場合であ
を示す者に対して特別処遇制度が実施
る。1988 年、飯田雅子らの施設調査の
された。この経過から伺えるように、
結果、施設の処遇の上で、著しい困難
強度行動障害事業は当時の厚生省の強
を抱える障害児、者が施設入所者の1
い指導の下に推進された。その中心が
割程度を占めることが明らかとなっ
当時厚生省児童家庭局障害福祉課課長
た。この調査結果に対して、異例とも
浅野史郎の指導であったことは広く知
言うべき対応が取られた。第一は、実
られている。
1993 年4月1日付けで「強
態把握と対応の為の研究班が直ちに組
度行動障害特別処遇事業の実施につい
織されたことである。第二は、この研
て」(児発第 310 号厚生省児童家庭局
究班の成果を取り入れながら、1992 年
長通知)を通知、施行し、その中で強
度から対応策として、指定を受けた施
度行動障害児、者について、知的障害
設による特別処遇制度が実施されたこ
児、者であって、多動、自傷、異食等、
とである。研究班によって強度行動障
生活環境への著しい不適応行動を頻回
― 73 ―
に示すため、適切な指導・訓練を行わ
における指導員の長年の苦闘の上に行
なければ日常生活を営む上で著しい困
われたものである。われわれはまず、
難があると認められる者を事業対象と
そのことに深い敬意を表したい。だが
して位置づけ、そのための職員配置を
その様にして積み重ねられた事業であ
はじめとする強度行動障害児、者への
り研究であればこそ、このまま忘却さ
支援が事業化された。以後、1998 年7
せてはならないと思う。この事業およ
月 31 日付「強度行動障害特別処遇加算
び研究の見直しをここで試みるのは、
費について」及び 2004 年1月6日付け
その総括を誰かが行う必要があると考
同通知により改正を行いながら事業は
えるからである。
継続され続けた。しかし 2006 年4月の
障害者自立支援法施行によって、施設
2.
サービスが同年 10 月から新しい施設
1)強度行動障害の概念と対象
強度行動障害事業の再検討
事業体系に移行することに伴い「強度
この研究はそもそも、施設入所者の
行動障害特別処遇事業」そのものは、
中に対応に非常に苦慮するが少なから
廃止されることとなった。この間、強
ず存在するという事実から出発した。
度行動障害事業に並行して厚生労働省
その為に、幾つかの特殊な問題を抱え
科学研究の形で継続的な調査研究が
た。第一は、通常の研究において一般
2006 年まで行われ続けた。
的に優先される対象者の診断や年齢、
性別、知能指数などの諸因子ではなく、
表1 強度行動障害判定基準表
行 動 障 害 の 内 容
1点
3
点
5 点
1
ひどい自傷
週に1・2回
一日に1・2回
一 日 中
2
強い他傷
月に1・2回
週に 1・2回
一日何度も
3
激しいこだわり
週に1・2回
一日に1・2回
一日何度も
4
激しい物壊し
月に1・2回
週に 1・2回
一日何度も
5
睡眠の大きな乱れ
月に1・2回
週に 1・2回
ほぼ 毎日
6
食事関係の強い障害
週に1・2回
ほぼ 毎日
ほぼ 毎食
7
排泄関係の強い障害
月に1・2回
週に 1・2回
ほぼ 毎日
8
著しい多動
月に1・2回
週に 1・2回
ほぼ 毎日
9
著しい騒がしさ
ほぼ毎日
一 日 中
絶え間なく
10 パニックがひどく指導困難
あ れ ば
11 粗暴で恐怖感を与え指導困難
あ れ ば
行動的な問題、それも入所処遇におい
て著しい困難を生じる問題に焦点が当
てられた点である。このことは、次の
2つの問題に直結した。第二に、その
結果、主として入所施設を舞台とする
研究、事業となった点である。処遇の
場もまた入所施設とされ、強度行動障
害事業がスタートした。もちろん強度
行動障害そのものは、当時において在
しかるに今、これだけのエネルギー
宅でも頻々と生じていたが、雑な言い
と時間と経費とを投入した試行および
方をすれば、施設で困る子どもや大人
研究は、何らその成果をまとめること
への対応として進められ、この姿勢は
なく、閉じられようとしている。あた
最後まで継続された。第三に、課題と
かも、発達障害への関心が軽度発達障
しての範囲の広さと、実際の対象との
害に傾斜する中で、強度行動障害は既
ずれという点である。この事業は行動
に死語となったかのごとくである。し
障害という広範な行動を対象とした
かし未だに処遇困難者が存在する。知
が、その実、中心は自閉症、とりわけ
的障害を対象とした施設のみならず、
自閉症の青年期パニックであった。
その一部は未だに単科精神病院の保護
最も早い取り組みである石井班の初
室を占領しているのである。強度行動
期の研究では、強度行動障害の対象と
障害に関する研究の多くは、施設現場
― 74 ―
して当時の分裂病があげられている。
れた。ここで病因として注目されたの
しかし強度行動障害の8割前後まで自
が先天性の認知障害、なかんずく言語
閉症もしくは自閉的傾向を持つ入所者
障害である。自閉症の中核は社会性の
であることが最初の調査において既に
障害ではなく、先天性の認知発達の障
明示されており、徐々に対象は自閉症
害に基づく言語コミュニケーションの
であることに施設側は気付くようにな
障害であり、その結果二次的に社会性
る。もっとも新しい飯田班の研究報告
の障害が生じるという病因仮説は、当
においてもなお、自閉症以外の診断名
時、自閉症におけるコペルニクス的転
が付された対象の症例が散見される
換とまで呼ばれた。1977 年 Lovaas は
が、例えば強度行動障害を呈するダウ
「自閉症の言語」を出版し、行動療法
ン症候群、あるいは注意欠陥多動性障
を基盤とする言語治療によって自閉症
害という診断の児童について、実際の
の治療を計るプログラムが世界で広く
症例を見ると、前者は明らかに自閉症
実践されるようになった。この流れは
の併存を持つ重度遅滞者であり、後者
周知の様に、1980 年代後半に言語コミ
も社会性の障害を抱える(子ども虐待
ュニケーション障害のみでは社会性の
が絡んだ症例もしくは)広汎性発達障
障害は生じないことが示され、再び自
害に属する児童である。歴史的経緯の
閉症の中心は社会性の障害へと戻る。
ところでもう一度取り上げるが、この
1990 年代に至って、アスペルガー症候
事業自体が、わが国における入所施設
群などの高機能群の存在が注目される
の主たる対象が精神遅滞から自閉症へ
ようになり、さらに自閉症児、者の自
と意識的に切り替わった分岐点となっ
伝が世界の様々な地域から著され、そ
た。正確な言い方をすれば、この強度
の特異な体験世界が広く知られるよう
行動障害事業によって、わが国の入所
になり、自閉症研究は、知的な遅れの
施設は自閉症と出会い、精神遅滞を主
ない広汎性発達障害の研究に広がって
としたモデルから自閉症を主とするモ
行く(See 杉山、2008b)。
デルへと変容したのである。
わが国の自閉症児への教育は、当初
ここに指摘した諸点の意味をより明
は自閉症に対してどの様に対応したら
確にするために、わが国における自閉
よいのか戸惑った試行錯誤あるいはほ
症療育と施設療育の歴史的経緯を振り
とんど無為放置に近い対応を行った。
返ってみたい。
この背後には情緒障害仮説があること
はいうまでもない。次いで行動療法が
2)わが国の自閉症療育の変遷と強度
導入されると、厳密なプログラム作成
行動障害
に基づかない、負の強化子を多用した、
周知の様に自閉症はその基本的な病
力による行動療法的指導とでもいう他
因仮説が何度も大きく変遷した。当初、
のない対応を自閉症児に対して行うよ
自閉症は重症の情緒障害と考えられて
うになった。今日から見れば極めて強
いた為、遊戯療法や分析的な治療が試
引な対応が横行し、この影響は直ちに
みられた。しかし 1970 年代になると、
ではなく、自閉症独自の記憶の障害で
自閉症が発達障害であることが明示さ
あるタイムスリップ現象の介在によっ
― 75 ―
て数年から時として十年余のタイムラ
グを経て、青年期パニックの頻発とい
3)わが国の施設療育と強度行動障害
わが国の入所施設による施設療育と
う現象として噴出した。しかもこの当
いう視点から強度行動障害事業を歴史
時なお、一方では情緒障害仮説の亡霊
的に検討することもまた必要である。
が未だに教育の場をさまよっており、
周知の様に世界レベルでは 80 年代に
親の愛情不足によって自閉症が生じる
はインテグレーションの大波が押し寄
と考える療育者、教育者も数多く存在
せ、大規模入所施設は解体に向かうの
した。80 年代から 90 年代においてわ
であるが、いわゆる先進国において入
が国において広く認められていた発達
所施設の枠は、このインテグレーショ
障害臨床における大問題とは、自閉症
ンへの切り替えが行われる以前に、全
の青年期パニックであった。強度高度
ての入所希望者の入所が可能な数が確
障害とは、実は自閉症における青年期
保されていた。例えばアメリカ合衆国
パニックの別名であり、自閉症に初め
を例に取れば、そこでは収容者数が数
て向かい合った教育現場、あるいは療
千人規模の巨大なコロニーが作られ、
育現場の混乱によって行動障害を呈す
その後、この巨大化した入所施設の解
るに到った自閉症児、自閉症青年の姿
体が行われたのである。それに対して、
であった。
わが国ではニード調査に基づいた入所
この混乱した状況は、90 年代になっ
施設建設は過去行われたことはなく、
て自閉症の体験世界が紹介され、
一度も入所希望者を全て満たす枠が社
TEACCH プログラムが広く受け入れら
会的に用意されることがなかった。そ
れ、さらに高機能群が数多く見いださ
のため 80 年代において、一方で知的障
れる状況が一般化するにつれて徐々に
害者、自閉症者の為の入所施設が作ら
修正をされて行く。この TEACCH プログ
れ続けながら、同時に世界的なインテ
ラムをはじめとする自閉症の認知に沿
グレーションの波を受けるという矛盾
った対応の受け入れ促進に際して、余
した状況がもたらされたのである。
り指摘されてこなかったことである
この強度行動障害事業を推進した中
が、実は当時、強度行動障害事業の果
心に浅野史郎の強い意志があることは
たした役割は大きかった。当時におい
先に触れた。浅野氏は、わが国におい
て、最も障害児・者のプロである入所
てグループホームによる療育を最初に
施設に働く指導員による苦闘に満ちた
推進した人間の一人であり、今後のわ
経験は、自閉症の特性に合った対応の
が国の発達障害児、者施策におけるイ
モデルとなったのである。もちろん後
ンテグレーション推進の必要性をわが
述するように、それぞれの立場からの
国で誰よりも早く気付いていたことは
取り組みがばらばらになされ、まとめ
疑いない。強度行動障害事業は施設入
が十全になされたとは言い難いのであ
所を促進するために行われたとは考え
るが、強度行動障害事業の成し遂げた
られず、浅野氏の意図を推察すれば、
成果の最大の一つはこの点にあるので
一つは治療センターとしてのわが国の
はないか。
施設の模索であり、さらにはこの事業
を介在し、処遇困難者のグループホー
ム自立を含む、その後における地域復
― 76 ―
帰であったのではないか。さらに言え
形に収まっていったのである。
ば、この事業は恐らく、当初において
強度行動障害は明らかに複合的な要
施設解体をも視野に入れたものであ
因を持つものであるが、これまで指摘
り、恒久的な施設療育とは矛盾をはら
した背景によって、その調査研究は対
む部分を持っていた。
象の輪郭が不鮮明な、実践的症例研究
しかるにこの推進側の意図が、強度
にならざるを得なかった。個々の症例
行動障害事業を実施する側に果たして
への取り組みは何よりも重要である。
共有されていたのであろうか。寺尾に
しかし、症例検討においてなさるべき
よるおしまコロニーの報告を見ると、
普遍化の為の基本的な枠組みすら、余
当初は集中的に人手をかけて療育を行
り意識されずに症例の集積がなされる
い、地域復帰を計るという明確な意図
ことになった。そのために背景となる
の元にスタートした。しかしこの様な
生育歴、精神医学的診断、発達的な視
意図からはむしろ逆の方向に強度行動
点から行動障害解析など基本的な問題
障害事業が向かった。このことは、井
を系統的に評価することが困難であっ
上らの報告に示されているとおりであ
た。さらに服薬の効果判定など医療と
る。最も早い報告書である石井斑H2
の関わりに関しては非常に大きなばら
年度報告書、p53 にM君の症例の中で
つきが生じ、最も重要なフォローアッ
彼の処遇に関する図が掲載されてい
プについて、十分になされない症例報
る。そこには、幼児期から成人期にわ
告が大半を占めることになった。先に
たって施設を中心とした療育体制のな
触れた入所施設での実践がその中心に
かでM君の成長を計るというモデルが
なったこともこの様な事情の背景にあ
図示されている。この図は意図せずし
ることは言うまでもない。例えば
て明確に、自閉症の療育を、あるグル
TEACCH モデルの有用性など、施設サイ
ープの施設群が幼児期から成人まで引
ドにおいてこの実践の中で得られ、普
き受けるというモデルである。ちなみ
遍化されたものも少なくないが、施設
にこの療育モデルは、われわれによっ
療育自体がこれまでに、個々の文化と
てバトンタッチ型と呼ばれている。す
しての療育理念を育んできており、こ
なわち専門療育機関が家族に変わっ
の事業の展開の中で、全国の施設にお
て、子育てを全て成人まで請け負う(バ
いて横断的に症例の集積を行い、分析
トンタッチする)というモデルである。
を行うということよりも、療育の実践
これが施設療育におけるインテグレー
の中で施設サイドの理念に沿ったある
ションと矛盾することは言うまでも無
いは従来の理念を展開した療育手技の
かろう。強度行動障害事業の背景とな
検討という方向に、症例研究が向かい
る施設療育において、処遇困難という
がちになった。障害児療育における理
現象が、施設療育の指導員を基準とし
念は重要である。しかし一方で、客観
たことからも伺えるように、強度行動
的な裏付けを欠く理念的なレベルの評
障害事業を通して、このバトンタッチ
価によって、症例の実践がまとめられ
型モデルが様々の形で顔を出してい
る傾向が生じた。
る。その結果、徐々にこの事業は当初
最も大きな問題は恐らく、強度行動
の意図とは反対に、施設療育の一つの
障害に対するモデルのずれであろう。
― 77 ―
これらの理念の基盤は恒久的な入所施
われわれが呼ぶ、一連の行為を反復再
設を背景として構築されたモデルであ
現するというフラッシュバックとも取
る。もちろんのこと、例えば石井の言
れる重症のチックがある。重度の知的
う受容は、どの様な場であれ障害児療
障害を伴いパニックを頻発させる自閉
育において重要な視点である。しかし
症の示すチックにどの様に対応すれば
ここに指摘したずれが十分に意識され
良いのかという答えは未解決のままで
ていたとは考えにくい。強度行動障害
ある。
事業は明らかに治療モデルの処遇であ
気分障害は自閉症のみならず広汎性
ったのであるから。
発達障害において最も頻度の高い併存
症である。強度行動障害の背後に、気
3.
強度行動障害の成因を巡る検討
分障害の併存例がある例があること
強度行動障害が単一の成因にはなら
は、これまでにも指摘されてきた。特
ないことは言うまでもないであろう。
に問題は双極性障害である。双極I型
この強度行動障害事業の研究において
は希であるが存在する。一方、双極I
指摘された要因としては、自閉症、男
I型は臨床的にしばしば認める。また
性、青年、重度の知的障害などそれほ
知的障害重度の症例に比較的多く認め
ど多いものではない。強度行動障害研
られる問題でもある。この気分の変動
究で指摘がなされたことは、今回の小
は、実は被虐待児にも認められるもの
林ら、寺尾、井上ら、川村らの報告に
である。重度の知的障害を伴う自閉症
まとめる。小林らが指摘するように愛
において、後述するトラウマの関与が
着形成の問題や過敏性を巡る問題、対
あると考えれば、被虐待児類縁の状況
人的な葛藤状況などが中心であり、強
があったとしても不思議ではない。気
度行動障害を、重度の知的障害を伴っ
分障害の併存は、医学的治療が必要で
た自閉症の青年期パニックと読み替え
ある。
れば、当然のことである。
さてトラウマである。自閉症は、そ
ここでは強度行動障害研究の症例報
もそもトラウマを引き起こしやすいい
告に散見され、しかし十分な検討がな
くつもの要因を抱える。第1に、本質
されていない問題を指摘しておきた
解明が未だに不十分である知覚過敏性
い。第1にチック、第2に気分障害、
という問題がある。基盤としては、扁
第3にトラウマの関与である。実はこ
桃体など、情動的な情報の調律器官に
の三者はいずれも相互に関連を持つ。
おける機能不全が背後にあるのであろ
まずチックであるが、強度行動障害
う。だが、この過敏性は、自閉症独自
に属する自傷や他害の一部が広義のチ
の記憶の障害である time slip によっ
ックに類縁の行動であることは、飯田
て、過敏性に関連する記憶によって不
班の症例検討の中で指摘されている。
快体験のフラッシュバックが生じ、徐
しかしこの行為の反復や汚言症などの
々に生理的な問題から、状況を引き金
チック症状の背後にある病理はフラッ
とした心理的な問題へ展開する。この
シュバックに極めて近縁のものであ
time slip 現象とは正に、トラウマに
り、この両者に連続性があることは疑
よるフラッシュバックに他ならない。
いない。自傷の一部に、行為チックと
知覚過敏性という生理学的な不安定性
― 78 ―
によって、一般の健常者ではそれほど
は軽減する様に見える。しかし強烈な
脅威でない事象においてもしばしばト
トラウマに晒され続けた場合には、他
ラウマと同等の脅威性を帯びるのであ
者の存在そのものがパニックの引き金
る。第2に、過剰選択性や中枢的統合
となるに至る。これこそ強度行動障害
の不全などの独自の認知構造は、全体
に他ならない。発達障害の適応を決め
の把握が困難で、部分にとらわれやす
る要因として、育ちの中の愛着形成の
い特徴を持つ。その結果 perspective
問題が大きく関与することはこれまで
の障害が生じ、不意打ち体験や秩序の
にも多くの指摘があった(小林,2001)。
混乱が容易に引き起こされる。第3に、
一方、発達障害の適応の負の要因とし
愛着形成の遅れである。愛着は幼児が
てのトラウマの存在は、これまで十分
不安に駆られたときに、愛着者の存在
に意識されてきたとは言い難いのでは
によって不安や脅威を軽減させ、情動
ないか。
的な混乱をなだめる行為である。愛着
形成は、それ故にそれ自体がトラウマ
4.
強度行動障害を巡る今後の課題
からの優れた防御壁となるのである
発達障害臨床の場で、青年期パニッ
が、その未形成は正に被虐待児に認め
クをみることは本当に少なくなった。
られるように、混乱を自ら治める方法
これは何よりも、教育の場が自閉症に
を知らずにある年齢までを送ることに
ついて学び、TEACCH をはじめとする自
なる。この愛着の未形成は養育者の側
閉症の認知に沿った対応を組むことが
に強い欲求不満を生じ、頻回の叱責や、
増え、放置もまた強引な対応も共に減
時としては虐待が生じ、さらに愛着の
ったためであろう。しかし今日におい
形成を困難にすることになる。先に述
ても処遇困難な自閉症青年は存在し続
べたように、当時の青年期パニックの
けており、既に行動障害を呈する自閉
嵐は、自閉症児に対する混乱した対応
症青年、自閉症成人にどの様に対応す
や強引な療育や教育の副作用として生
るのかという課題は、過去のものにな
じていた可能性が高い。
ったわけではない。ここでは、強度行
自閉症の体験世界をトラウマという
視点から振り返ってみると、逆に彼ら
動障害研究の中で検討を残す課題をな
るべく簡略に取り上げておきたい。
の示す行動の特徴と、被虐待児に認め
られる臨床的な特徴とが重なり合うこ
1)予防に関する課題
とにも気付かざるを得ない。自閉症児
強度行動障害を自閉症および広汎性
の示す防衛としての常動行為、防衛と
発達障害、それも重度の知的障害を伴
しての解離反応、さらに過覚醒とそれ
った児童、青年の悪性のパニック頻発
に伴う気分の変動など。幼児期であれ
と考えた時、これまでに指摘された問
ばあるほど、トラウマへの脆弱性が強
題を踏まえてどの様な予防策が必要な
く、それによって適応状況が大きく変
のであろうか。自閉症の愛着形成が学
化する。迫害体験からの保護が可能で
童期にずれ込むことを考慮すれば、そ
あった場合には、学童期後半に愛着獲
の間の自閉症とその家族へのサポート
得がなされ、その後は彼らなりの方法
が何よりも大きな予防策となることは
ではあるが、トラウマに対する脆弱性
疑いない。虐待やいじめなどの迫害体
― 79 ―
験を軽減し、対人的コミュニケーショ
文献
ンを向上させ、愛着の促進をはかると
小林隆児(2001):自閉症の関係障害臨
いう一般的な対応策が最も有効である
床.ミネルヴァ書房,京都.
ことは疑いないであろう。臨床的には
杉山登志郎(2008a):子どものトラウ
青年期パニックは本当に減っており、
マと発達障害.発達障害研
今日、家庭での療育が困難になるほど
究,30(2),111-120.
の自閉症青年を見ることは希である。
杉山登志郎(2008b):高機能広汎性発達
障害の歴史と展望.小児の精神と
2)強度行動障害の治療
神経、48(4)、327-336.
先に触れたように、強度行動障害を
呈した自閉症への対応は治療が必要で
ある。これには悪循環を出来るだけ軽
減させた状態で、その成因となってい
る対人関係の是正、コミュニケーショ
ンの修復、チックや気分障害への治療、
トラウマの修復が必要であり、これは
医療と福祉との協働以外には困難であ
ろう。入所による一時的な家庭生活か
らの切り離しが必要な場合が少なくな
いのであろうが、この治療に医療抜き
で出来るとは考えられない。既に強度
行動障害を呈した自閉症に対する処遇
を、医療と福祉の協働作業として組み
直すことが必要であろう。
一概に施設療育の全てが否定される
べきではないとわれわれは考える。実
際に一般的な知的障害や自閉症におい
て、施設生活者の方が在宅よりも平均
寿命が長いということは余り知られな
い事実である。しかし、世界の大きな
趨勢の中でわが国の入所施設も今後は
徐々にグループホーム療育へと転換が
迫られている。今後、地域における療
育へ転換が進められて行く中で、強度
行動障害事業およびその研究成果に対
して、今回の試みのように、改めて学
び直すことが求められるに違いない。
― 80 ―
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
広汎性発達障害に対する早期治療法の開発
分担研究者
研究2
杉山登志郎
あいち小児保健医療総合センター
II 強度行動障害の再検討
強度行動障害の再検討:石井班の報告を中心に
研究協力者
川村昌代
あいち小児保健医療総合センター
研究要旨
平成 2 年から平成 9 年にかけて厚生科学研究石井班において報告された強度行動障害
研究の結果をまとめた。石井班ではまず、強度行動障害の定義を定め、実態を調査した。
様々な行動障害をその特徴からグループ化し障害尺度を作成、行動障害児の基盤に持つ
特性や、施設などでの処遇者側からみた対応の困難度、環境の違いによる改善の有無な
どとの関係性を評価した。一方で、強度行動障害特別処遇事業として行動障害児の施設
療育での経過に沿って報告したが、個別処遇に対して人員配置の限界があることや、施
設退所後のケースワークの困難さといった問題点が明らかとなった。
A. はじめに
B. 強度行動障害に関する実態研究の
この報告において、事業およびその研究
まとめ
の全体をくまなくまとめるのは困難で
1)強度行動障害の概念
ある。われわれはまず、主として H2 年
先に触れたように、施設における指導
度から H9 年度の最初の石井斑の報告を
員が、入所者への関わりにおいて困難さ
元に、強度行動障害に関する調査研究の
を感じる問題行動からこの研究は始ま
総括を試みる。批判的な検討は考察に回
った。これらは高度障害判定表に示され
し、報告書の内容を、概念、に分けてま
る次の様な問題行動群である。1,自己
とめる。出来るだけ公正な鳥瞰を試みる
統制ができないために現される行動障
が、膨大な報告書のまとめにおいて不備
害群:多動、失禁・不潔症、衝動・粗暴
がある可能性は避けられない。
行動、無断外出、性的異常行動、破衣症、
衒奇症。2,主体的に生活を営むことが
できないために現される行動障害群:常
同症、寡動、収集・盗癖。3,行動障害
― 81 ―
群:自閉的症状、偏食・拒食、自傷癖、
足が、家族内の不安や危機感を増やすこ
反すう・嘔吐癖。さら に、4,問題行動:
とになり、児への不適切な処遇や関わり
多動、失禁または不潔、衝動・粗暴行為。
につながった。そのことが障害児の生活
対応拒否や自傷行為、固執行動(平成 3
能力をさらに低めていく結果となり、強
年報告書 P7~8)
。
度行動障害が形成された。2,指導員の
先に触れたように、1988 年に全国の
専門性の問題:療育方針が定まらず、ま
居住施設や更生施設、自閉症児施設、重
た処遇に際しスーパービジョンが存在
症心身障害児施設などに飯田らはアン
しない施設の状況があった。業務内容は
ケート調査を行い、476 施設から回答を
多岐にわたり、ワーカーの疲労もあった。
得た。その調査では、強度行動障害にラ
3,環境障害:日本の住宅事情は欧米の
ンクされる児が対象施設の利用者総数
それに比して極めて条件が悪いことが
のうち 9.4%を占めるという結果が得ら
指摘された。パーソナルスペースが少な
れた。そして、中で も特に激しい行動障
いため、居住施設にはプライバシーがな
害を示す強度行動障害児は 3.1%を数え
いことがあり、強度行動障害を生じる一
た。
因となっていると考えられた(平成 3 年
報告書 P21、22、26、27)。
2)強度行動障害の原因
強度行動障害の原因として、最初の報
3)強度行動障害の実態調査とその分析
告では、生後、早期における母親および
研究班は、全国の精神遅滞関係の施設
それに代わる養育者との関係が形成さ
及び養護学校を対象に調査を実施した。
れないことから、物への認知及び適切な
処遇困難とされたものの属性の分析の
関わりをすることができない、さらに状
結果、男性、自閉症・自閉的傾向を示す
況に適切な行動のシェマを形成するこ
もの、知的レベルの低いものが多いとい
とができない状況が生じ、自己の内的な
う結果が得られた。生活年齢層では 16
衝動が秩序ある認知への対応とはなら
から 20 歳代、精神年齢層では 4~6 歳代
ず、感覚並びに動作にこだわりを生じる
が多かった。もっとも頻繁に認められる
ため、さらに周囲から抑制、排除、叱責
行動障害は、固執、常同行為の順で、次
などされ、二次的・三次的に自傷・他害
いで精神運動興奮・興奮や多動であった。
あるいは感覚遮断の方向に進むという
一方、精神運動・興奮や自傷、攻撃性の
仮説が示された(平成 3 年報告書 P15)。
爆発では突発的間欠的に生じているこ
強度行動障害は発達障害児、者の持つ
とが示された。多動は年齢が増すにつれ
基礎的な障害に機能障害、関係障害と環
て減少傾向が示された。摂食障害や睡眠
境障害が重なり合って形成されると考
異常、排泄障害の出現頻度は上位項目に
えられ誘発要因として次の問題が示さ
比べて極端に少なかった(平成 3 年報告
れた(平成 3 年報告書 P18)
。1、家族
書 P95)。
の問題:障害の予後的な見通しなどの不
― 82 ―
4)強度行動障害尺度の作成
行動障害相互の関連を検討した結果、
H4年報告において、前年にすでに分
4グループに分けられた。すなわち、1,
自傷―攻撃性爆発グループ、2,常同行
析を行った 3 つの因子、すなわち「反社
為―固執グループ、3,精神運動・興奮
会的・攻撃的行動」因子、
「自己刺激的
グループ、4多動グループである。精神
行動」因子、
「対人的行動の障害」因子
運動・興奮は、他の様々な行動障害との
を抽出したほか、外界との関係が薄い自
関連性が高いことが認められ自傷―攻
己志向的なグループと、外界への発散的
撃性の爆発、常同行為―固執、常同行為
行動、対人的関係によって生起すると思
―多動に関連が認められた。精神遅滞が
われるグループに分けることができた。
約 7 割を占めめており、いずれの行動障
このように行動障害を全体としてとら
害の項目に関しても低 IQ-SQ の方が出
えることによって得られたカテゴリー
現率は高かった。ただし高 IQ-SQ のケー
間の関連構造から、行動障害の多様性の
スでも固執、攻撃性の爆発、精神運動興
背景として潜在する因子を得られると
奮などの出現率が比較的高く見られた
思われる。ここでは既成の尺度を中心に
(平成 3 年報告書 P97)
。
発達障害を持つ者に見られる項目を抽
強度行動障害のために社会福祉施設
出し 129 項目のチェックリストを作成
や学校で処遇困難度が高いとされるも
した。それらを 8 つの因子に対応する尺
のがどのような属性によって構成され
度の構成を行った(平成 4 年報告書 P32
ているかの調査結果は、自閉症が全体の
~33)。
60%を占め、次に多いのは精神遅滞で
1.運動感覚的常同行動尺度:自己志向
14.9%であった。男性が女性に対して約
的な能動的活動への原始的な形の没頭
3 倍であった。これは自閉症が全体的に
である。男性が有意に高い値を示し、自
大きな割合を占めていることの影響が
閉症群、自閉的傾向群及びこれらの群に
大きいためと考えられた。知的レベルは
てんかん併発群で高い値を示した。知的
最重度と重度で 80%を超え、最重度が
レベルの高い群ほど低い値を示し、生活
最も多く、重度、中度、軽度と知的レベ
年齢では 11~15 歳が最高値を示した。
ルが高くなるにつれて人数が少なくな
2.刺激固執尺度:外部の対象によって
った。生活年齢は 16~20 歳がピークで
もたらされる感覚刺激にリンクする自
あり、11~25 歳の青年期が約 60%を占
己刺激的行動である。男性の方が高い値
めていた。自閉症群では、26 歳以降の
で、自閉症群、自閉的傾向群、及びその
数が激減した。逆に統合失調症群では、
てんかん併発群で高い値を示し、脳性麻
21 歳以降の群の人数が多かった。精神
痺群とダウン症群では低い値を示した。
年齢をみると 4~6 歳代が最も多かった。
知的レベルが高いほど高い値を示し、生
精神年齢が高い層ほど、女性の比率が高
活年齢は 6~10 歳が最高値で年齢層が
かった(平成 4 年報告書 P15~27)
。
高くなるほど低い値を示した。
― 83 ―
3.対応拒否尺度:社会的刺激などのブ
があり、年齢層のピークは 21 歳~25 歳
ロック、あるいは社会的な環境から孤立
だった。
した状況の中での安定を志向する。自閉
7.非現実的言語行動尺度:言語活動の
症群、自閉的傾向群、及びそのてんかん
背景となる精神活動は多様だが、背景と
併発群に加え統合失調症群で高い値を
なり内面的な世界に何らかの共通点が
示した。知的レベルでは最重度が最も高
ある。統合失調症群が特に高い値を示し、
かった。生活年齢層では 21~25 歳、31
脳性麻痺群、ダウン症群では低い値を示
歳~35 歳、36 歳~40 歳、46~50 歳とい
した。自閉症群、自閉的傾向群、及びそ
った年年齢層で高い値を示し、相対的に
のてんかん併発群では知的レベル間の
高年齢の群が高い値を示した。
差が大きい。精神遅滞群、てんかん群で
4.身体的問題尺度:生理的な欲求の影
は知的レベル間の差が小さい。年齢層で
響を受けていると考えられる行動であ
は 10 歳以上と 7~9 歳がもっとも高値だ
る。11 歳~15 歳、41 歳から 45 歳でピ
った。
ークを示した。脳性麻痺、自閉症、自閉
8.精神運動興奮尺度:興奮した状態が、
的傾向にてんかんが併発した群に高い
外界に指向する行動として激しさを伴
値を認め、脳機能障害の影響も考えられ
って発散されるもので、行動の対象が特
た。知的レベルでは、最重度群が最も高
に定まっておらず、主に手近なものが対
い値で、知的レベルが高い群ほど低い値
象になるという特徴がある。男性では知
を示した。
的レベルが高いほど値が低いが、女性で
5.睡眠サイクル異常尺度:生理的な欲
は知的レベルで差はなかった。脳性麻痺
求に基づく活動であることが「身体的問
のてんかん併発群、統合失調症、自閉症
題」尺度との共通点であるが、情緒不安
のてんかん併発群で高値を示し、ダウン
定度などの精神的な要因と生理的な要
症群、てんかん群では低い値だった。10
因が複雑に作用する問題でもある。自閉
~15 歳でピークが見られた。
症、自閉的傾向にてんかんを併発した群
9.状況逸脱尺度:社会的な意識などの
や統合失調症群で高値を示し、ダウン症
発達的な未熟さの影響なのか、何らかの
群や脳性麻痺群で低い値を示した。30
病理的な要因の影響なのかということ
~40 歳でピークを示し、知的レベルで
も重要な点である。統合失調症群の女性
は最重度群が最も高い値を示した。
で突出した値を示し、自閉症及び自閉的
6.自傷行動尺度:自己の身体を直接的
傾向のてんかん併発群でも女性に多い。
に傷つける、ある種逆説的ともいえる特
6~10 歳と 10 歳~15 歳で知的レベルの
異な行動形態。男性ではダウン症群、脳
高い群で高値を示し、それ以降の年齢層
性麻痺群で高値を示すが、女性では自閉
では知的レベルが高いほど減少率が大
症群、自閉的傾向群とそのてんかん併発
きい。
群で高値を示した。知的レベルが低くな
10.不適切な対応尺度:間接的に他者
るに従い、ピークが高年齢層に移る傾向
に不快感を与える行動によって構成さ
― 84 ―
れている。コミュニケーションの一形態
にアプローチしていくことになるが、こ
であり、他者に指向してはいるものの伝
の因子の影響を受ける場合には、非常に
わりにくいまま自己の欲求が表出され
理解が困難であると言える。自己志向性
ている。自閉症、自閉的傾向、脳性麻痺
が高い行動障害では、外界の情報に対応
のてんかん併発群、統合失調症群では女
する現実感が十分な強さを持たず、自己
性が、脳性麻痺群では男性が高い値を示
の内的な状態が現実感を圧倒するため、
した。
外界の情報が現実感として活性化され
11.他害行動尺度:本人にとってのコ
にくいと思われる。緊張に対する耐性と、
ミュニケーションなのか、他者を傷つけ
そこでの緊張を低減するような精神活
ること自体が行動の目的なのか否かを
動に関連する外界の対象の認知的枠組
明確にする必要がある。知的レベルが低
みとの相互作用としてとらえられる。
い群ほど高い値を示し、加齢に伴う現象
対人関係性因子とは不安定な状態を
も少ない。11 歳~15 歳がピークで、女
他者に対して一方的に表出する傾向で
性の方が多く、脳性麻痺のてんかん併発
ある。自己志向性因子が特定の時空間上
群、統合失調症群で高値を示す。
では自己完結的な構造を持つのに対し、
結果をまとめてみると以下のように
対人的関係因子では、社会的相互作用に
なる。自己志向性因子に負荷の高い尺度
おいて適応的な要素が含まれている。表
では、知的レベルや精神年齢において有
出活動としての行動特徴は外的な要因
意な結果が見られるものが多い傾向が
から内的な不均衡を防衛する機能を持
みられ、対人的関係性に負荷の高い尺度
ち、ある種のコミュニケーション形態と
は男女差が大きいという傾向が示され
なっているが、結果として伝達される情
た。障害種で見ると、大まかには自閉症
報量は極端に少ない。
関係の障害群とそれ以外の群で得点の
この調査では、障害種や発達レベルに
変動パターンが異なった。また、自閉症
よって行動障害の生起パターンが異な
で高値を示す尺度が多いが、てんかんを
るということが明らかになった。これら
併発しているとさらに高値を示す。
「非
をもとに強度行動障害にたいして各基
現実的言語行動」尺度では知的レベルが
本的属性に特徴的な表出形態との比較
高いほど高い値を示したが、それ以外の
を通して環境的な影響を取り除いてい
尺度では知的レベルが低いほど高い値
くアプローチが必要となる。具体的には
を示した。年齢的には尺度によってピー
尺度得点の比較を行い、障害種以外に二
クが異なった。
次的に作用する発達的・環境的な要因の
自己志向性因子とは、緊張などによる
影響を検討するという手続きをとって
不安定な状態を自己刺激的な行動によ
いく。さらに、外界に対して主体的に関
って低減する傾向である。直接的に内的
わる意欲そのものの発達を援助してい
な精神活動を了解することは困難であ
くことが必要とされる。行動障害が発達
るため、表出的活動を手掛かりに間接的
的な特徴としての一表出形態なのか、学
― 85 ―
習によって固着した行動なのかを注意
害に由来する情動反応の頻発や活動
して療育計画を立てる必要があるとま
性・衝動性の亢進、多動、睡眠覚醒リズ
とめられている(平成 4 年報告書 P99~
ムの乱れなど障害に起因する行動上の
101)。
異常が家庭の養護能力を超え、結果とし
て安定した対人関係を経験できず行動
障害が増悪した対応困難型のケースと
5)施設入所者の行動障害の実態調査
強度行動障害は生物学的要因と環境
に分けられた。
側の要因により複合的に形成された状
態像であるので、その改善のためには、
6)行動の変化の検討
背景となる要因の分析が必要と考え、施
処遇困難な行動障害児の行動障害測定
設入所者の調査が行われた(平成 4 年報
尺度ごとについて、処遇開始からの変化
告書 P116)
。この結果、著しい行動異常
のパターンを分析した(平成 5 年報告書
を持つ者は 36.5%であった。
その中で、
P16)。
特に指導が困難である行動障害児の施
その結果、全体的な傾向としては関わ
設入所後の行動異常の経過は以下の 5
り始めから行動障害に変化がないもの
群に大別された。1、入所により行動異
が多かったが、1、変化が見られないも
常が消失、またはかなりの改善を見たも
の:非現実的言語行動、運動感覚的常同
の。2、行動異常が若干改善されたもの
行動、刺激固執、対応拒否など。この群
の、持続しているもの。3、ほとんど症
に共通しているのは、自閉症群、自閉傾
状の変化をみないもの。4、年少で入所
向群が他の群よりも高い値を示してい
し、入所時の行動異常が緩和されたのち、
ることであった。自閉症 のどの要因が無
児童期に行動異常の増悪を見たもの。5、
変化をもたらしているのか、検討が必要
入所後適応していたにもかかわらず、思
である。2、悪化したもの:不適切な対
春期に行動異常の増悪を見たもの。
応、精神運動興奮など。この群はいずれ
さらに、これら の諸群の検討をした結
も対人的関係性が高いことから、悪化は
果、改善に向かった条件として、環境整
発達や成熟といった個体に固有な変化
備を行うことで、本人にとって適切な場
プロセスよりも環境的な要素が直接的
が与えられたことや、食事や睡眠、運動
に関与すると考えられる。ただし、環境
などの基本的生活リズムの安定が図ら
との関連性を明確にするためには対人
れたことがあげられた。施設入所の要因
的関係性が個体のどのような精神機能
をみると、家庭療育が不適切で母子関係
を背景とするのかを検討する必要があ
を含めた人間関係が深まらず、自我機能
る。3,改善したもの:睡眠サイクル異
の形成と強化に支障をきたし、環境への
常、自傷行動(いずれも自己志向性)
、
適応困難を生じ、結果的にさらに人間関
状況逸脱(対人的関係性)など。改善を
係のゆがみと環境への不適応とが悪循
示すのは自己志向性が高い尺度である。
環を示した対応不適切型のケースと、障
自己志向性に影響する要因は個体に固
― 86 ―
ップを克服することを重視した処遇態
有なものである可能性が高い。
度。自立に向けての生活能力の向上など
7)行動障害測定尺度と主観的処遇困難
個体の能力に関する指導が中心。指導員
度との関係
の価値観が中心となり、対象者の主体性
強度行動障害児の基盤に持つ特徴や
があまり重視されていない。4治療的関
状態についての評価だけでなく、強度行
与尺度:積極的な処遇を目指しているが、
動障害における各行動が、処遇をどの程
行動障害に対して十分に対応できない
度困難にしているかについて、指導員の
という状態を反映している。背景として
困難度を検討し評価した(平成 5 年報告
は、処遇困難度の高さと処遇能力の低さ
書 P31)。
の相互作用が考えられる。
指導員の主観的処遇困難度における
処遇意識は処遇実践の構造を反映し
下位尺度間の相関に関する分析からは、
ている。行動障害の処遇が純粋に客観的
自己志向性、対人関係性との関連は不明
な技術のみではなく、人間性に関連する
瞭だった。また、対応拒否、精神運動興
指導員の価値観や理念に依存するとこ
奮、状況逸脱の尺度が他の尺度との間に
ろが大きい。直接処遇に携わる者が抱え
高い相関を示したという結果は、これら
る問題を多次元に捉えることが行動障
の尺度が処遇困難という指導員の印象
害の処遇技術を総合的に考える上で必
の形成に大きな影響力を持っているこ
要となってくる。処遇困難として指導員
とが示された。行動障害児、者の処遇に
が直接的に感じている事象の中でも、処
際して自我関与の度合いが高いほど行
遇ストレスはもっとも重要なものであ
動の生起や形態に対して処遇能力の影
ることが示された。当然労働環境との相
響が大きくなった。したがって、関与の
互作用も無視できない。
度合いが少なければ処遇能力が低くて
さらに行動障害の対象したストレス
も行動障害に対する影響は少なく、主観
構造の分析を行った。ここで次の項目が
的処遇困難度も相対的に低くなると考
立てられた。1心理的ストレス尺度: ス
えられた。
トレス誘因となる現実的な状況への対
これらの結果から、障害児教育意識尺
処が困難であることを反映する 。2対利
度などをもとに項目を収集整理し調査
用者ストレス尺度:対象者思うように指
表が作成された。1積極的対応尺度:受
導することが困難であることに関する
容的対応や共感的理解など積極的な処
項目や保護者の家庭環境に対する不満
遇を志向する態度や意識を反映する項
を表す項目。3対人的ストレス尺度:管
目。2葛藤・回避尺度:処遇困難などに
理職や同僚に関する項目。4職務的スト
よるあきらめなどネガティブな感情を
レス尺度:課せられた職務が自己の能力
伴う態度。処遇への積極的な意識を欠い
を超えて要求されていることから生じ
ていると共に、自信のなさも含まれてい
る負担感。5身体的ストレス尺度:疲労
る。3適応能力指導尺度:ハンディキャ
と精神的な要因を基盤に持つものの相
― 87 ―
9)強度行動障害特別処遇事業に関する
互作用である。
その結果、全体としては、心理的スト
調査
レスと対人的ストレスの尺度の相関が
3 年を目安とした強度行動障害と判定
最も高く、職務的ストレスと対利用者ス
された児童、青年への入所による特別処
トレスの相関が最も低かった(平成 5 年
遇事業が実施された。その結果を踏まえ
報告書 P51)
。
た再検討がなされた。
尺度相互の比較を行うと、行動障害の
対象となった強度行動障害を示す利
有無や処遇困難度が特定の処遇意識や
用者のうち、約 8 割までが自閉的な特徴
ストレスとのみ直接的に関連しており、
を示す人たちであったが、3 年という限
精神運動興奮や状況逸脱、対応拒否など
定された期限内に強度行動障害の改善
の尺度は処遇に関する意識やストレス
は可能であった。事業対象となった児の
と明確な関連構造を持つことが示唆さ
中で改善群の要件はとして、環境が構造
れた(平成 5 年報告書 P66~67)
。これ
化され、デイケアの内容が充実し一貫し
らの行動形態の背景となる対象者の精
た教え方で職員集団の体制も工夫され
神活動と処遇技術を中心とした指導員
たこと、また対応としてはキーパーソン
側の要因との相互作用プロセスを検討
を中心に、簡潔で分かりやすい課題提示
することの重要性を示していると報告
をし、強い指示を避けることが示された。
された。
中でも有効と言える項目は、全体像の改
善の視点、約束は守る、小集団を準備、
施設でのゆったりとした生活、散歩での
8)処遇環境別の行動障害の実態
さらに処遇環境についての検討が行
気分転換、本人に合ったゴールの選定、
われた(平成 5 年報告書 P68)
。その結
長期的に見た指導のタイミングの適切
果、行動障害測定尺度の特徴としては、
さがあげられた。いくらか有効が示され
入所型が通所型よりも高い値を示して
たのは、静かな部屋の確保、薬物療法の
いた。対象者の違いに基づく要因も影響
活用、理解できる方法で教える、社会化
していた。また主観的処遇困難度の特徴
された要求手段を教える、待つ習慣をつ
は行動形態に関わらず、入所型の児童施
ける、身辺処理の技能を教えるがあげら
設と更生施設に共通するような要因が
れるなどであった。
主観的な処遇困難度の形成に関与して
事業開始時に、事業対象者の約 8 割は
いた。さらに行動障害の形態によって指
在宅であり、そのうちの半数は通所先の
導員の要因との関連性が異なった。この
ない完全在宅だった。事業終了後の在宅
ことから、処遇困難という事象を生じさ
復帰は約 3 割にとどまり、他は施設入所、
せているのはコミュニケーションの困
入院などであったことから結果的に本
難さであることが考えられた。
事業は強度行動障害を呈する児、者を施
設入所へとつなげる役割を果たしたと
いえる。事業終了後の入所先施設の 7 割
― 88 ―
が事業実施施設ないしは同じ法人の経
いると報告されている。
営する施設であることから、行動障害に
改善が見られても全く異なった施設へ
10)強度行動障害における療育のあり方
の一般措置は困難な状況にあることを
をめぐって
示唆しており、療育の成果を事業終了後
行動障害の要因として析出される情
の利用者の生活に継続的に保証するた
動発達レベルの問題(情動発達の歪みや
めの条件整備が全く不十分であること
コミュニケーションの困難性)と行動障
が実態として浮かび上がる。
害とには深い関連性が示唆され、発達早
終了時の効果を事業実施内容との関
期の治療的介入の必要性を強く感じる
係で検討してみると、1、当初から家庭
ものである。そして行動障害が児童期、
や地域における適応を意識した取組を
青年期以降に頻発する事態に対しても、
進めることの必要、2、保護者面接や受
発生直近の事実関係のみにとらわれる
け皿施設との合同カンファレンスの実
ことなく、家族や社会を含めた歴史への
施などが終了後転機と関わっているこ
洞察と療育の視点を持って、好ましい関
とが示唆された。
係性の確立をめざした生活の構造や正
一方で事業の問題点も明らかとなっ
しい育児のアプローチからの見直しと
た。処遇の対象となった児の中で入所時
回復への援助、自我機能の開発が強く求
の判定と実態がずれていることから、こ
められる。
の事業の運営に関する基準の不備ある
また、行動障害の療育は、施設という
いは曖昧さのため本来の趣旨が生かさ
集団処遇を展開する場に求められてい
れない恐れがすでにこの当初から生じ
る。しかし、家族や社会は施設という自
ていた。強度行動障害判定指針に関して、
分たちの知らないところで治してくれ
客観性に欠けるという批判がすでに早
るといった気持や構えが生じやすい。施
くから出ていた(平成 9 年報告書 P31)。
設に入ったとしても行動障害とそれを
それ以外にも、改善の評価、処遇目標の
核とする問題はそのままである。入所施
立て方、薬物療法の取り入れ方なども今
設での療育は、社会地域への支援を行う
後の課題として挙げられた。自閉症診断
上での基盤となる療育支援としての意
において 77.8%において、医療の関与
味を持っていることを明確に意識化し
を必要とされ、このほぼ全例が重度の知
ていくことが望まれる。
的障害を持っていた。施設内の環境とし
障害児に対する療育の目標には、発達
ては、強度行動障害の改善のための個別
の援助と、幸せに生きるための援助があ
処遇が必須と指摘された。しかし、人員
る。後者の目的による療育は、能力開発
配置が少ないため、日課の流れで精いっ
に偏った療育によって被った不利益を
ぱいで、ケースワーク的な活動が不十分
解消するだけなく、能力開発のための課
であり、職員の限度を超えたボランタリ
題に納得して取り組む心を育てるとい
ーな活動に依存せざるを得なくなって
う相補的な役割を果たす。このために必
― 89 ―
要とされるのは、第一に自閉症児を人と
める場合、まず慣れていくために導入的
して尊重する立場である。第二に人とし
な時期を過ごすことになる。こうして多
ての心を大切にして交流する立場であ
少とも安定してきたら、人間関係の深ま
る。第三に人との関係を育て、人との関
りを確かめながら徐々にますます高度
係に支えられて療育する立場である。こ
で多様な課題も取り入れるなど本格的
の視点において、自閉症児の療育につい
な交流に進む。行動の許容度は慣れてい
て研究ではいくつかの提言を行ってい
ない時期には比較的大きく、関係が深ま
る。以下に列挙する。1、自閉症の見え
っていくにつれて要求度が高まってい
にくい内面を見る:自閉症児の表面に現
くが、関係を深めるための交流は最初か
れた行動が、本当の気持ちを表したもの
ら積極的に始めなくてはならない。交流
だと見るのは正しくない。自閉症児との
を深めていくにつれて相互の理解や受
交流を深めると、その内面では自閉症児
容も深まり、関係も深まっていく。4、
もまた、生活年齢相応に感じたり考えた
見かけの拒否や抵抗にひるまない主導
りしており、人並みの向上心や自尊心を
性を身につける: 自閉症児の本音を正
持っているが、自閉的な行動パターンに
しく見極めながら積極的に働きかけて
妨げられて実際の行動に反映できずに
いくと、一時的に拒否や抵抗が現れるこ
いる。このため、誰にでもわかりやすい
とがある。しかし、適切なやり取りを経
形ではなかなか表現されない自閉症児
た後で本人の納得が得られれば、課題へ
の内面世界という見えないものを見よ
の取り組むは見違えるようになるし、ま
うとする姿勢が必要になってくる。2、
たどうしても自力ではできないことで
脅威的な世界に生きる自閉症児を人間
も手を添えてあげると、意欲的に取り組
関係で支える:自閉症児の認知的な特質
んで課題が達成されるようになる。働き
は、外傷を受けやすく情緒の破たんを招
かけたことで泣いたりすることはある
きやすい過敏さに表われてくる。自閉的
が、働きかけ事態が不快なのだと引いて
な行動パターンは、傷つきやすい自閉症
しまってはいけない。それまで抑制され
児の防衛的自我として理解でき、一見自
ていた感情が解き放たれ、慰められ励ま
閉的なこだわりに受け取られがちな行
されて立ち直って、納得した行動がとれ
動にも人間的な感情が込められている。
るようになるのだ。このように、自閉的
こうした自閉症児の心理を温かく理解
な行動を抑制して人の言うことに耳を
し受容しながら人間的な関係を深める
傾けるという人としての成長に必要な
適切な働きかけを積極的に進めていけ
基本的な行動パターンを身につけるの
ば、不安や緊張をなだめて安心感をはぐ
を助けることができる。
くみ、人や物と関わろうとする意欲を高
5、納得ずくの交流に導く工夫をする:
め、外界への正しい認知を促すことは可
療育者がどれほど熱心に働きかけよう
能となる。3、積極的な交流や安定や関
とも、自閉的な行動パターンを捨てるか
係を育てる:自閉症児が施設で生活を始
どうか、人間的な行動パターンを受け入
― 90 ―
れるかどうかの葛藤を克服して、納得や
応から知ることができる。9、自己主張
自覚のもとに受け入れるのは自閉症者
を励ます:自閉症児の療育はすべからく
自身でなければならない。言葉が分から
自己主張を励ますことに帰着するかも
ないと思わないで、きちんと説明し、自
しれない。療育の成果があがって情緒が
閉的なパターンを乗り越える苦しい気
解放されてくると、自己主張が現れてく
持ちを心から受容しながら、本人が自分
ることがある。この自己主張をつぶさず
から応じる気持ちになるのを根気よく
に正しい方向に伸ばしてやることが大
待つことが大切である。しかし、子ども
切である(平成 8 年報告書 P70~85)。
が既に混乱してしまっている時にはむ
強度行動障害に対する受容交流療法
しろ早めに手を添え、必要なら体で張り
は、知的レベルや適応能力だけではなく、
合いながら、誘った方が納得が得られや
情動の発達に基づくコミュニケーショ
すい。6、感情の表出を助ける:働きか
ンのレベルを重要な要素として、自然に
けに対して不安や動揺が生じたら、声か
生起する互いの気持ちを自然に感じ、理
けだけでなく、手を握ったり、抱きとめ
解することから関わりを展開すること
てなだめる。安心すれば全身が弛緩して
が重要であると述べられている。基本 は
身を任せてくるが、その安心感が前向き
相手の理解に通じるような情緒をなだ
の行動を支える。7、手を添えて課題達
めながらの言い聞かせであり、行動障害
成や自己表現を助ける:課題を与えられ
の発生プロセスとそれに対する療育プ
た時に生じる不安や動揺、あるいは気持
ロセスが対の構造を持っている。行動障
ちを添わせることに逆らいたい感情が
害は、特定の時空間で生起する外的また
克服されたとしても、言葉をかけられる
は固体内の要因由来する不安定な状態
だけでは実行できないことがある。最小
に自らが対処する行動であるとまとめ
限の身体的な保持や接触によって介助
られている。現実に対する主体的な行動
や誘導すると、克服されて課題が達成さ
として再構成する過程においては受容
れやすくなる。最小限の介助をどうして
的交流段階と課題的交流段階に大別さ
いくかの方針としては、意図的に介助を
れる。具体的には対象者の発達レベルに
消すことを試みるよりは、むしろ本人の
対応し、本人の興味を持てる状況を用意
自信の高まりに応じて介助が不要にな
することにより意識を外界に向け、主体
るというのが理想である。8、言語コミ
的な活動を促すことにより、混乱した状
ュニケーションを助ける:自分の気持ち
態が低減する。そして、発達レベルに即
を伝えるのが苦手な自閉症児の交信を
した様々な課題を媒介として主体的な
援助するには、苦手な発語自体の発達を
活動を引き出していく。その処遇段階は
系統的に助ける方法に加えて、状況の文
以下のようなものであると述べられる。
脈の流れを感じ取って気持ちを代弁す
1、安定期:絶対的な安心を取りつける
るという方法がある。その代弁が的を得
ための関わりと配慮
ていたかは、代弁に対する自閉症児の反
― 91 ―
不安などのネガティブな情動をいや
すために起こされている彼らの防衛行
人への信頼と自分への自信の獲得を
動に問題があるのではない。課題や問題
経て、生活内容を豊富にして、社会的な
に際し、消極的な対処パターンを選択せ
経験を増し、自我活動を高めていくとい
ざるを得ない自我状態に注目すべきで
うことであると最後にまとめている。
ある。初期処遇では、不安から解き放つ
ことが必要であり、人的・物的環境が安
C. 結語
心できる、という実感を持たせることで
この研究では、強度行動障害をどう捉え、
ある。このために、穏やかな関わりと配
どのような形で出現するものであるか、
慮だけでなく、刺激が制限された構造化
そしてそれが周囲の環境や支援にどう
が必要となる。
影響され、影響していくのかといった関
2、交流期:安定を基盤にして自閉症児
係性を、様々な尺度を設定して評価して
と穏やかなやり取りをし、現実を見せて
いる。これにより、特に処遇困難な強度
いく段階
行動障害が特徴づけられることになり、
発達の基盤となる自我の育成に視点
強度行動障害児を抱える施設や学校で
を定めたかかわりが必要となる段階で
の実態が整理され、明らかになった。ま
ある。構造化や刺激の制限によって自閉
た、複数の施設における特定の児に対す
症児の安定を確保しながら、そこに、
る療育の経過をつぶさに報告している。
徐々に、人的な刺激を加えていき、「人
それは強度行動障害児への対応の試行
との交流によって安定することができ
錯誤の結晶であり、その間の相互の苦悩
た」という経験を増やしていくことが重
は計り知れないものと推察する。しかし、
要である。
これらは特別処遇事業として手厚い体
3、課題交流期:日常場面でのやり取り
制の中で行われてきての結果であり、本
から人工的な課題設定状況でやり取り
来の体制の中での状況はさらに困難な
を重ね、コーピングパターンなどを変え
ものであろう。特別処遇事業の中で、
ていく段階
様々な問題点を認めたことはすでにま
「消極的対処」パターンから「理想的
とめた通りである。現在では当時の体制
対処」パターンや「積極的対処」パター
と変化している部分もあり、その問題点
ンに変えていく必要がある。人間的な交
をクリアしていく体制面での方向性の
流によって自閉状態に介入しやり取り
決定と、複数の施設がそれぞれに行った
を重ねていくことで、自我を強めていく。
療育を一つの方法論として形づくるこ
このためにはネガティブな情動に支配
とが望まれるであろう。
されがちな自閉症の内面を情動水準で
調律していくことが、主たる仕事である。
4、関係形成期:可塑性あのある人間関
係を構築する段階
― 92 ―
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
広汎性発達障害に対する早期治療法の開発
分担研究者
杉山登志郎
II
研究3
あいち小児保健医療総合センター
強度行動障害の再検討
厚生省心身障害研究「強度行動障害の処遇に関する研究」
(平成 2 年度~平成 8 年度)(主任研究者石井哲夫)
研究成果―そのまとめ、問題点、今後の課題―
研究協力者
小林隆児 大正大学人間学部臨床心理学科
研究要旨
本報告書では、平成2年から平成8年までの7年間にわたり研究が行われた「強度
行動障害の処遇に関する研究」の成果を踏まえて総括を行った。研究の中では、強度
行動障害の原因のみならず行動の出現が周囲との相互関係のあり方に起因することが
示唆されている。さらに行動障害の中心が人間関係における関係性の発達不全が関与
し、人間不信という問題として捉えた。加えて研究の中では、強度行動障害処遇の具
体的提言が報告されている。それらの成果をもとに本報告書では、強度行動障害の原
因、
「発達障害」の各々の意味を捉え直した。本来、disorder/disability として指摘
されている一次障害も二次障害と同様に個体と環境の相互作用の結果の産物として理
解する必要があること、その上で、支援者と自閉症者との「関係」のあり方をも視野
に入れて検討する必要があり、そのことによって強度行動障害の成り立ちを関係論的
に捉える糸口につながると思われる。
に関わる問題状況を呈している事例を頂
A.本研究班が立ち上がるまでに経緯
「強度行動障害」に関する問題は、昭
点として、その多くが、家庭崩壊寸前の
和 63 年に緊急の福祉課題として、当時の
状態で放置されている人たちへの福祉対
厚生省児童家庭局障害福祉課課長浅野史
策を行う必要があるという指摘がなされ
郎氏から、発達障害福祉関係者に提示さ
たのである。そこから日本重症児協会、
れたものである。行動障害があまりにも
重症心身障害児を守る会、日本愛護協会、
激しいために、社会福祉施設からも受け
全日本精神薄弱者育成会、日本自閉症協
入れられず、在宅のまま、家族共々生死
会、全国自閉症者施設連絡協議会などの
― 93 ―
諸団体の意見もふまえて、対策が検討さ
いる。
れるようになった。さらに、厚生省の依
頼を受けて、
「強度行動障害児・者の行動
B.7 年間の研究成果
改善及び処遇のあり方に関する研究」が
主任研究者石井(以下、主任と略す)
行われた。この研究によると、
『強度行動
の総括によれば、この 7 年間での成果に
障害とは、直接的他害(噛みつき、頭突き、
基づき、現時点(当時)において以下の
など)や、間接的他害(睡眠の乱れ、同一
結論を下している。
性の保持、例えば、場所・プログラム・
人へのこだわり、多動、うなり、飛び出
1)強度行動障害の定義
し、器物破損など)や自傷行為などが、通
研究開始時、主任は強度行動障害の定
常考えられない頻度と形式で出現し、そ
義を以下のように規定していた。すなわ
の養育環境では著しく処遇困難なものを
ち
いい、行動的に定義される群である。そ
①早期から、人との関係が、精神的・身
の中には、医学的には、自閉症児者、精
体的障害により阻害されたため、生活の
神薄弱児者、精神病児者、などが含まれ
適応が著しく困難となり、そのために本
るものの、必ずしも医学による診断から
人の発達も阻害され、周囲の人々との共
定義される群ではない。
』としている。つ
存ができない状態を示すこと。
まり強度行動障害という定義は、もっぱ
②普通の生活の中では出現し得ないよう
ら社会福祉や教育や日常生活の処遇上の
な、状況にふさわしくない、奇妙な行動
概念として規定されたものである。
とか、人々が不快を感じたり、不安や恐
この研究結果を受けて、平成2年度か
怖を抱いたりするような(かみつき、頭つ
ら、国としての「強度行動障害特別処遇
き、睡眠の乱れ、多動、飛び出し、器物
事業」が開始された。さらに、この新規
破損、自傷行為など)を示すことをいう。
事業の内容と運営上の諸問題を明確にす
③以上の状態が多発したり、長期的に改
ることを目的に、厚生省心身障害研究「強
善されず、日常生活において、周辺のも
度行動障害の処遇に関する研究」(平成2
のが対処できないような迷惑行動となり、
年度~平成8年度)が発足し、石井哲夫を
そこから本人への叱責、拘禁など不利益
主任研究者とした研究班が立ち上がり、7
な状態が多発している場合を強度行動障
年間にわたる全国規模の研究が開始され
害と考えて、緊急に福祉援助が必要にな
ている。
る。
本研究班には石井哲夫主任研究者が所
属する社会福祉法人嬉泉の自閉症関連施
2)強度行動障害の原因
以上の定義に基づき、その原因を次の
設をはじめとし、全国で先駆的な自閉症
療育活動を蓄積してきたいくつかの施設
関係者が加わり、さらには山崎晃資、高
橋彰彦らが分担研究者として名を連ねて
ように想定している。
、、、、、、
強度行動障害の原因は、生後、早期に
、、、、、、、、、、、、、、、、、、
おける母親及びそれに変わる養育者との
― 94 ―
、、、、、、、、、
関係が形成されないことから、①ものへ
する職員を対象に、処遇意識に関する調
の認知及び適切な関わりをすることがで
査をもとに評価し、
「処遇への積極性」の
きない、②状況に適切な行動のシェマ
重要性を指摘し、それを現場職員に求め
(schema)を形成することができない状況
る必要がある。具体的にいえば、利用者
が生じ、自己の内面の衝動が秩序ある認
は周囲他者から拒否や嫌悪されることが
知への対応とはならず、感覚並びに動作
らの抑制、排除、叱責、拘禁などがなさ
多く、そのため分離的な生活に入りやす
、、、、、、、、、、、、、、
いので、援助者(職員)の方から積極的
、、、、、、、、、、、、、、、
に関係をつけていくことが必要だ。
れ、二次的・三次的に、自傷・他害・現
(傍点は筆者による)
実逃避あるいは感覚・認知遮断の方向に
との結論に達している。さらに、平成2
進むこと、と考えている。
年から3年にかけての研究で、
(傍点は筆者小林による)
「強度行動障害の出現の状況が、本人と
にこだわりが生じるため、さらに周囲か
さらには次のように説明を加えている。 周辺の人々との相互的な関係においてみ
行動障害は、対象者の生物学的な要因
られるものであり、相対的な概念として
や適応能力等の影響を基盤としつつも、
検討すべきものである」という考えから、
それに対する環境的な要因の整理と処遇
調査研究が行なわれている。その調査結
システムの構築を進める必要がある。特
、、、、、
に、
「処遇困難」という事象が直接処遇者
、、、、、、、、、、、、、、、、
の主観や処遇能力に影響されやすい事が
果から、処遇困難を引き起こしていると
明らかになった。また、行動障害の形態
人関係性因子」である。
によって、処遇者に関する要因との関連
とも指摘されている。さらには、強度行
性が異なる、との結果も得ている。
、、、、
それらの結果を総合すると、処遇困難
、、、、、、、、、、、、、、、、、、
という事象を生じさせているのは、後天
、、、、、、、、、、、、、、、、、、
的な障害として、当該児者に関わる人た
、、、、、、、、、、、、、、、、、、
ちとのコミュニケーションの困難さであ
、、、、、、、、、、、、
るという事が考えられる。 対象者側の
、、、、、、、、、、、、
様々な障害に直接関する生物学的な要素
、、、
だけでなく、むしろ関係している処遇者
、、、、、、、、、、、、、、、、、、
側のコミュニケーション能力が重要な要
、
素であることは間違いない。
動障害の当事者と母親との関係性の問題
(傍点は筆者による)
現れなどと単純因果律によって解明され
ころの行動障害の因子を二つに大別して
いる。すなわち、
「自己指向性因子」と「対
については、主任は仮説として「自閉症
児・者は、生後初期段階から情動の制御
と分化をなしえず、その状態の中での発
達が行われていく。当然普通の養育努力
では、母親が彼らと情動調律が起きにく
くなり、関係性が生じにくくなっていく」
を掲げた上で、
強度行動障害をもたらす原因として、
母親との関係性の問題が認知的な障害の
ることではない。本人としての精神的な
3)強度行動障害に関連する諸要因の検
安定を揺さぶる情動的な問題が形成され
討
ていくと考えなければならない。恐らく
以上の結論を踏まえ、療育に直接従事
人間不信の発生と結びつけて考えなけれ
― 95 ―
ばならないということが最近の学者たち
(2)強度行動障害処遇の基本理念
主任は、行動障害を怒りという情緒と
の先見的な話題ともなってきているので
の関係においてとらえた上で、
ある。
この怒りの情緒は、様々な原因から発
と論じている。
生している。心理学的には、要求や欲望
4)強度行動障害への取り組みについて
の阻止などによる不満状態(フラストレ
(1)強度行動障害処遇の出発点
ーション)に起きる情緒という。従って、
最初に、現状を以下のように分析して
その殆どが、意識的な状態のみでなく、
いる。
無意識の感覚、情動的な次元において、
行動障害児・者が問題となる理由は、
、、、、、、、、、、、、、、、、、、
基本的になんらかの生物学的な障害によ
、、、、、
る事が多いが、実際には、社会生活を営
終始していることである。このことは、
んでいく上での認知や情緒の障害となっ
生じ、かつ高じやすいということになる。
て、人問関係が円滑に営めないという問
発達障害児・者の内部的な状況が外側か
題が重要なのである。そのために他人か
ら観察ざれにくいということであるので、
らの無理解な対応や関わりによっての不
原因不明な状況に於いて怒りが多発する
当な強要や束縛を受け易く、そこから 2
ことになると言われるのである。
次的な行動障害が発現してくるものと考
と述べ、さらに
発達障害児・者の場合、関係する人との
接触において、了解困難なために怒りが
行動障害の中心は、人問関係の関係性
えられている。
このような日常生活における悪関係形
の不全である。人からの働きかけに対し
成を問題にして、その場で改善を図って
ての適切な対応が出来ないばかりか、納
いくことは、現在不可能と考え、まずは、
得できないまま、人や状況の変化に動か
強度と思われる症状をとらえて、隔離改
されていくことから常に満たされない、
善を図ることが必要と考えている。しか
無意味なあるいは不快な刺激にさらされ
るにこの隔離改善を図る場を得ることが
ているのであるから、そこからの逃避や、
きわめて困難な状況であるので、強度行
あるいは不満の表現をし続けることにな
動障害特別処遇事業が行われることにな
りやすいのである。このことが高じてく
ったのである。
ると人間不信として極度に怒りの情緒を
つまり本来障害児・者福祉における社
会福祉施設の発生は、隔離改善を図るこ
統制していく耐性の不足として定着して
いく。
とをその目標としてきているにもかかわ
自閉症という発達障害が後天的に心理
らずその成果が上がらず、隔離改悪とな
的な問題を多発する理由は、このような
っているのは、かかる障害に対しての療
人間関係における前述した関係性の発達
育理論はもちろんのこと、療育実践機関
不全からなのであり、これを人間不信と
のモデルを見いだすことが困難であった
いう問題としてとらえたい。
と言えよう。
― 96 ―
であり、かつ、自己への演出へのドラマ
(3)強度行動障害処遇の具体的提言
以上の基本理念をもとに、具体的な対
の設定についても工夫することが必要で
策として以下の案を提言している。
ある。相手の気づきや了解を引き出して
①強度行動障害の症状を拡大してとらえ
いくためにどのような手続きが必要か、
る
相手の情緒の状態を認め、それをなだめ
ⅰ)具体的には自傷、破壊、他害、威
ていくこと、ターゲットの明確化を行う。
嚇などの外向性の行動障害を言う。その
⑤自我の活性化の工夫には、課題的療育
他ひきこもり、睡眠障害や摂食障害等と
が効果的である。
いう内向性の行動障害や、高機能群の不
⑥インプット訓練としての了解をとりつ
適切な自己主張の言動などは、除外され
ける説明がある。状況の説明と予定の説
やすいが対象として検討する必要性を感
明によって認知的な安定をとりつける。
じている。
⑦周囲の状況の変化や、関係者からの要
ⅱ)この陽性の行動障害の迷惑度、困
請に関しては、因果関係と変化の説明に
難度を検討する人間関係において、行動
関しては、具体的な状況に即して行うこ
の変容の状態によって、迷惑度を考える。
とが効果的である。
人間関係によって、人の求めによって、
⑧繰り返しと話し方のアクセントの配置
行動の抑制が出来るかを見る。
を効果的にして、時には、かなり強硬な
②行動障害療育の改善点
問いつめや、要求を交えた気持ちの打ち
行動障害における自我機能としての自
込み的な了解を求めることも必要になる。
⑨認知的な興味を探って、これを教材と
律性の状態を明らかにする。
要求不満や混乱させられる不快な刺激
して用いる。
や過剰な刺激や状況の急激な変化などに
⑩注意の集中状況こそ自我機能が活性化
よる内的に不安定な心理からくる反応と
するし、刺激への対応状態を向上させる
して行動障害をとらえる。
ことになる。
③強度行動障害は、自律性、防衛的な安
⑪利用者の努力や態度に関して具体的に
定のために、このようなストレスを解決
わかる賞賛、肯定を行い、自主性や自尊
する自発的な力を有しないことに注目す
心を大切にしていきたい。
る。
⑫強度行動障害のこだわりに関しては、
④行動障害への対応は、被害を受けない
制圧しないで丁寧に対応しながらこだわ
ように、その他害の状況を阻止するブロ
りを自分で解くように誘導していく。
以上、石井班の 7 年間の研究成果の報
ック行動が必要になってくる。そのブロ
ック行動は、利用者の混乱を抑え鎮静す
告を筆者なりに要約した。
ることが目的であり、状況をより明確に
するための方法を工夫することが必要で
C.研究報告に関する疑問と今後の課題
ある。ブロックする側の援助者の興奮に
この班研究に参加した施設は、その理
ついては、常に自覚していくことが必要
念も実践内容も多様であるゆえ、おそら
― 97 ―
容易に想像できる。しかし、ここで示さ
「行動障害児・者が問題となる理由は、
、、、、、、、、、、、、、、、、、、
基本的になんらかの生物学的な障害によ
、、、、、
る事が多いが、実際には、社会生活を営
れた自閉症関連施設での実態は、悲惨以
んでいく上での認知や情緒の障害となっ
外のなにものでもない。われわれの想像
て、人問関係が円滑に営めないという問
を絶するほどの現状が毎年の報告で示さ
題が重要なのである。」
くは班全体としての統一した見解を得る
のは非常に困難であったであろうことは
れている。その現実の重みを目に見える
ここで主任の述べる「なんらかの生物
形で示したことの意義は非常に大きい。
学的な障害」とのべている中身は実際に
おそらくは現場の療育従事者にとっても
は極めて多様であり、かつその生物学的
このような地道な活動に光が当てられた
な障害がなぜ行動障害への発展していく
ことは日頃の実践内容を振り返る上でも
のか、その具体的なエビデンスも示され
大きな力となったであろう。その意味か
ていない。すなわち、この「生物学的な
らしても本研究班の果たした意義は少な
障害」はあくまで推定されたものでしか
くない。
ない。
多様な施設が参画した研究事業である
ここで筆者はこの推定される「生物学
ゆえ、事業内容全体を把握することは容
的な障害」を明確にすることの必要性を
易ではないが、膨大な7年間の研究成果
主張しているのではない。果たして発達
を概観した上で筆者が抱いた疑問点につ
障害、行動障害などに特異的な、ある特
いて以下いくつか述べてみよう。
定されるなんらかの「生物学的な障害」
1)強度行動障害の原因をめぐって
、、、、
主任は、行動障害の起源を「生後、早
、、、、、、、、、、、、、、、、、、
期における母親及びそれに変わる養育者
、、、、、、、、、、、、
との関係が形成されない」点に求め、以
があると仮定することが妥当かという問
後様々な外的要因とのからみで発展して
の意味について
題である。
2)発達障害における「発達」と「障害」
いくものと想定している。この点につい
ここでまず「発達障害」の概念につい
ては、基本的には同意できるが、養育者
て再検討することの必要性をのべたいと
との関係が形成できないのはなぜか、そ
思う。最初に「発達」の意味についてで
の関係そのものにどのような問題が潜ん
あるが、なぜ「発達」障害なのか、その
でいるのか、そのことは現在の行動障害
意味を考えると大きく以下の三つの観点
を呈している人々においてどのように顕
から捉えることができるであろう。
在化しているのか、などの諸点について
第1には、発達障害にみられる現在の
具体的なエビデンスが示されていないの
症状(障害)の大半は、過去から現在に
である。
至る過程、つまりは発達の過程で形成さ
その結果、以下のような曖昧な説明が
れてきたものである考える必要がある。
たとえば、自閉症にみられる多様な言
行われることになってしまっている。す
なわち
語障害や行動障害は、これまでの発達過
― 98 ―
程、つまりは子どもを取り巻く周囲他者
春期にかけて多彩な行動面や精神面の障
との対人交流の蓄積の中で生まれてきた
害や症状を呈することが多い。これらは
ものだと考えられるのである。
二次障害と称され、その後の成長過程で
第2に、発達障害にみられる症状(障
害)は将来にわたって改善したり増悪し
環境要因が深く関与して形成されるもの
と見なされている。
以上のように通常、障害は基礎障害
たりする、つまりは変容していく可能性
(impairment)、一次障害ないし特異的障
があるということである。
第3に、発達障害においては、土台が
害(診断を特定化する上での重要な障害)
育ってその上に上部が組み立てられると
(disorder/disability)、そして二次障
いう一般の発達の動きが阻害されている
害の三つに分けて考えられているが、こ
ということである。
れら三者の関係がいまだ判然としない。
それはなぜかといえば、impairment を仮
つぎに、
「障害」についても以下のよう
定するにしろ、一人の子どもが生まれた
後の成長過程は子ども独自の自己完結的
に考える必要がある。
一般に発達障害は、子どもの発達途上
な営みでないことは自明のことである。
で出現する障害(disorder/disability)
そこには身近な養育者を初めとする多く
で、その障害が生涯にわたってなんらか
の人々との関わり合いがあり、その結果、
の形で持続し、その基盤には中枢神経系
子どもの発達が保障されることになる。
の機能成熟の障害または遅滞が想定され
したがって、impairment と深く関連づけ
るものとされている。ここでいう障害と
られている disorder/disability の多く
は医学モデルに基づき、中枢神経系の機
も養育者などとの深い関わり合いの中で
能に起因する(主に生得的、時に後天的)
生み出されてきたものとみなさなければ
基礎障害(impairment)によって個体能
ならない。このように考えていくと、
力の正常発現過程が損なわれ、時間経過
disorder/disability として指摘されて
の中で心身両面に様々な正常からの偏奇
いる一次障害も二次障害と同様に、個体
ないし能力障害(disorder/disability)
と環境との相互作用の結果の産物として
が出現すると考えられている。
理解する必要があるということである。
たとえば、自閉症を例に取り上げてみ
ると、何らかの中枢神経系の機能の問題
3)関係性の問題について
に起因する基礎障害(impairment)が想
主任は行動障害を基本的には関係の問
定され、乳幼児期早期の段階で、診断基
題として捉えようとしていることは随所
準の三大行動特徴(対人関係の質的障害、
にうかがわれる。しかし、基本的には「な
コミュニケーションの質的障害、行動や
んらかの生物学的な障害」がもとで、
「社
興味の限局化)(disorder/disability)
会生活を営んでいく上での認知や情緒の
が出現するとされ、自閉症に特異的な障
障害」をもたらし、
「人問関係が円滑に営
害とされている。さらに、学童期から思
めないという問題」を生んでいるように
― 99 ―
が効果的である。
も読み取れる。
すなわち、一見関係の問題と述べつつ
も、行動障害の問題は当事者の認知や情
緒の障害がもとで、深刻な対人関係障害
⑥インプット訓練としての了解をとりつ
、、、、、、、、、、
ける説明がある。状況の説明と予定の説
、、、、、、、、、、、、、、、、、
明によって認知的な安定をとりつける。
を生んでいると読み取れないであろうか。 ⑧繰り返しと話し方のアクセントの配置
、、、、、、
を効果的にして、時には、かなり強硬な
そして、その基礎にはなんらかの生物学
、、、、、、、、、、、、、、、、、、
問いつめや、要求を交えた気持ちの打ち
的な障害を想定しているのである。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
込み的な了解を求めることも必要になる。
筆者の立場からみれば、この班研究の
、、、、、、、、、、、、、、、、、
⑩注意の集中状況こそ自我機能が活性化
基本的考え方は、行動障害を「個」の障
、、
するし、刺激への対応状態を向上させる
害とみなす立場をいまだ抜け出ていない
といわざるをえない。その端的な表れが
ことになる。
具体的な処遇に関する検討の中に読み取
⑪利用者の努力や態度に関して具体的に
、、、、、、
わかる賞賛、肯定を行い、自主性や自尊
、、、、、、、、、、、
心を大切にしていきたい。
れる。それは何かといえば、
「施設業務に
直接従事する職員を対象に、処遇意識に
関する調査をもとに評価し、
『処遇への積
極性』の重要性を指摘し、それを現場職
⑫強度行動障害のこだわりに関しては、
、、、、、、、、、、、、、、、
制圧しないで丁寧に対応しながらこだわ
員に求める必要がある。
」との結論である。
、、、、、、、、、、、、
その根拠は、
「処遇困難という事象を生じ
、、、、、、、、、、、、、、、、、、
させているのは、後天的な障害として、
、、、、、、、、、、、、、、、、、、
当該児者に関わる人たちとのコミュニケ
、、、、、、、、、、、、、、、、、、
ーションの困難さであるという事が考え
、、、、
、、、
られる。対象者側の様々な障害に直接関
、、、、、、、、、
する生物学的な要素だけでなく、むしろ
、、、、、、、、、、、、
関係している処遇者側のコミュニケーシ
、、、、、、、、、、
ョン能力が重要な要素であることは間違
りを自分で解くように誘導していく。
いない。」との確信的な記述に明確に示さ
らよいか、筆者には甚だ困難である。極
れている。そこで、彼ら行動障害を呈し
論すれば、時に強引な関与をしつつも、
ている人々への積極的な療育的関与を促
当事者の自主性や自尊心を大切にしなが
しているのである。関係の問題と指摘し
ら丁寧に行うということが現実問題とし
つつも、このような職員への積極的関与
て可能なのかということである。行動障
の姿勢を要求しているが、このことに筆
害を呈している人々の対人的恐怖は極度
者は危惧の念を抱くのだが、それは具体
に強いものがあることは今さらいうまで
的な以下の記述にも示されている。彼ら
もないが、時に厳しく、時に優しく、な
への具体的な処遇をめぐって述べている
どと一見臨機応変さを求めているのだが、
箇所である。
このことが当事者にどのように感じられ
、、、、、
⑤自我の活性化の工夫には、課題的療育
すなわち、
「処遇への積極性」として職
員に課していることは、彼らに自我の活
性化のために課題を与え、説明し、時に
は強硬な問い詰めや打ち込み的な了解を
求めることも必要だと指摘する一方で、
自主性や自尊心を大切にし、制圧しない
で丁寧に対応することが大切だというの
である。このことをどのように理解した
ているのか、そのことの吟味があまりに
― 100 ―
もないのが気になるところである。
このような深刻な病態の当事者に関与
するわれわれは時に陰性感情を向けるこ
とは珍しくないし、そのことがさらに両
者の間に負の循環を生むのであって、な
ぜそのような負の循環が両者の関係に生
まれていくのか、そのことを起源に遡っ
て検討していくことなくして、行動障害
に対する根本的な解決策は見いだせない
と思われるのである。
4.おわりに
最後になるが、強度行動障害という極
めて重篤な状態を呈している人々に対し
てこれまで施設現場で取り組んできた活
動は、大変な犠牲のもとに営まれてきた
のであろう。その意味でこの事業に従事
してきた関係者に対して大いなる敬意を
払うとともに、この班研究で示された行
動障害を「関係の問題」として捉えるこ
との重要性の指摘は、たしかにいまだ十
分とはいえないが、この流れはぜひとも
今後もさらに検討し続けなくてならない
ものである。その意味では石井班のなし
た研究成果を生かした今後のさらなる研
究の発展が期待される。
― 101 ―
― 102 ―
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
広汎性発達障害に対する早期治療法の開発
分担研究者
研究4
杉山登志郎
あいち小児保健医療総合センター
II 強度行動障害の再検討
自閉症入所更生施設さつき学園での実践から得られた成果
―行動障害の成り立ちと関係発達支援―
研究協力者
小林隆児 大正大学人間学部臨床心理学科
研究要旨
本報告書では、行動障害における理解と支援についてさつき学園での取り組みを報
告する。取り組みの中で重要な点として1)背景、2)引き金、3)行動障害への発
展、4)関係発達支援が考えられる。まず安心感のなさ、侵入不安という1)背景要
因があり、生理的関係欲求の亢進や不快な刺激などの2)引き金となり、循環するア
ンビバレントな負の関係が3)行動障害の発展へとつながる。
上記に対する支援の基本として、未分化な段階つまりは原初の段階でのコミュニケ
ーションから我々のコミュニケーション世界へとつなげるような働きかけとして4)
関係発達支援が重要となりうることが示唆された。
A.はじめに
1996 年 12 月、静岡県に最初の自閉症
のための専門入所更生施設として社会福
祉法人ふじの郷さつき学園が誕生した。
定員 50 名、すべて自閉症あるいは様々な
行動障害を呈した知的障害者を専門に療
育する施設である。
さつき学園の指導員たちは開設当初か
ら甚だしい行動障害を呈する人々に対す
る療育に取り組んできたが、筆者はこの
施設開設当初から嘱託医とし関与し、指
導員らとともに行動障害の成り立ちと支
援の在り方について継続して検討してき
た。
まずさつき学園での療育実践の概略に
ついて説明しておこう。
B.さつき学園における療育の枠組み
当学園は自閉症専門施設として開設さ
れたとはいえ、特別の物理的環境や人員
配置が考慮されていたわけではけっして
ない。定員 50 名(しばらくの間、40 名
前後、その内女性は5名であった)に対
して利用者に直接援助する指導員はわず
かに 16 名(男性8名、女性8名)ほどで
あった。愛着形成に重点を置いた療育を
― 103 ―
志しているために、女性指導員の役割は
極めて大きく、また彼
女らは実際にその力を最大限発揮してく
れたように思う。ただし、当学園の指導
員の経歴をみても、多くの人々はけっし
て自閉症療育の経験が豊かとはいえなか
った。したがって、ほとんど試行錯誤の
連続で、人海戦術ともいってよいほどの
大変な日々の連続であった。
施設内の居室の大半は2名同居の形態
をとっている。強度行動障害特別処遇事
業該当の施設でもないために、療育のた
めの特別な構造をもった部屋は皆無であ
る。もちろん指導員の特別増員枠もない。
このようなけっして恵まれた条件ではな
い療育環境において予想以上の療育成果
が得られたと思う。
行動障害に対する療育の取り組みの成
果を、量的データとして提示することは、
対象の性質上ほとんど不可能である。わ
れわれの実践の成果の中味の検証は事例
ひとつひとつを対象とした質的研究でし
か示すことはできない。
その成果はこれまでに 2 冊の単行本に
まとめている(小林、2001;小林・原田、
2008)。したがって、それをここでは改め
て示すことはしない。行動障害をどのよう
に理解し、支援していくか、その枠組みの
みをここでは提示することで、さつき学園
での実践のまとめとしたいと思う。
C.行動障害の成り立ちと関係発達支援
1)行動障害の背景にあるもの
(ⅰ)警戒心と知覚過敏の悪循環
生来的な特徴と考えられる彼らの<知
覚-情動>過敏は、安心感のなさゆえに
そこに悪循環が生まれ、<知覚-情動>
過敏は増強の一途をたどり、より一層先
鋭化していく。行動障害を呈している
人々の周囲に対する警戒的構えが異常に
強いのは、このような悪循環が日々促進
されていった結果なのだと思われる。こ
のような異常なほどに強い警戒的構えは、
些細な刺激に対する過敏さをますます増
強することになる。彼らが刺激に対して
異常なほどに敏感に反応するのはそのた
めなのである。そして多くの刺激は彼ら
にとって極めて不快な感じで受け止めら
れていく。
(ⅱ)臨戦態勢と侵入不安
幼児期早期に認められる彼らの他者に
対する警戒的構えは自然経過の中で軽快
していくような生やさしいものではない。
心細いけれども誰にも頼る術がないとい
う状態が続くことになる。彼らは自分を
押し出して主張するということが極めて
困難である。その結果、彼らへの保育、
教育、療育的働きかけは、どうしても彼
らにとっては、やらされる、強いられる
といった体験になりがちになる。それに
対して拒否するような強さを持ち合わせ
ないために、一見すると従順に受け入れ
ているかのように感じられるが、実態は
そうではない。彼らの内面の葛藤をます
ます強めていくことになる。こうした逃
げ場のない状況にあっては彼らの内面は
常に臨戦態勢にあるといってもいいであ
ろう。彼らにとって、われわれからの働
きかけは、自分の世界にストレンジャー
が侵入してくるようなものですから、そ
の時の不安は、侵入不安、あるいは迫害
不安といっても過言ではないであろう。
(ⅲ)安心感のなさと原初的知覚様態
臨戦態勢にある彼らは外界刺激をどの
ように受け止めているのか、その内実を
知ることは彼らへの働きかけを考える上
でとても大切なことである。臨戦態勢に
あるということは、いついかなる時に自
分の生命が脅かされるかわからない事態
に常に置かれていることを意味する。こ
― 104 ―
のような事態にあっては、周囲の刺激が
自分の生命を脅かすものか否かを瞬時に
判断し、我が身を守るための行動をとら
なければならない。本能にもとづく行動
が支配的な事態ということができる。こ
のような事態に置かれていると、原初的
知覚が優位な状態となる。この原初的知
覚の働きによって、周囲の刺激の多くが
彼らにとって侵入的な色合いを持って感
じ取られることになる。恐ろしい相貌性
(まるで恐ろしい生き物であるかのよう
な様相)を帯びて彼らに迫るように感じ
取られているのである。このように原初
的知覚の優位な状態にあっては、周囲に
対する彼らの警戒的構え(情動状態)が
対象知覚そのもののありように色濃く反
映していることを示している。このこと
こそ原初的知覚の特徴をよく示している。
原初的知覚優位な世界では、外界のあ
る対象だけを切り取って(分節化して)
知覚するということが非常に困難になる。
その時の気持ちのあり方や周囲の状況が
その対象知覚のあり方と不可分な形で知
覚されるのである。わかりやすく言えば、
極度に不安な心的状態にあれば、刺激対
象も侵入性を帯びた恐ろしい生き物のよ
うに知覚されることになる。ストーカー
につけ狙われている時に、急に声を掛け
られたり、突然電話が鳴った時に、声や
音をどのように感じ取るかを想像すれば
よく理解できよう。
もうひとつ注意を喚起しておきたいこ
とは、原初的知覚様態においては、刺激
の持つ相貌性に過敏に反応することとと
もに、刺激のもつ動きの変化を鋭く感じ
取っているということである。したがっ
て、われわれが不用意に彼らに近づくこ
とは、このような彼らの知覚様態にあっ
ては、もっとも侵入的に感じ取られ、よ
り一層彼らの警戒心を増強することにつ
ながりやすいのである。
(ⅳ)他者によって自分が動かされる恐
れ
われわれは常日頃、多くの場合なんら
かの動因に基づいて行動しているし、そ
の中で自分の意思で行動しているという
能動性や主体性を基本的には保っている。
しかし、自閉症の人々は自分から主体的
に行動するということが非常に困難な状
態にある。彼らには生来的とも思えるほ
どの強い<知覚-情動>過敏から生まれ
たアンビバレンスによって、自分の本能
的欲求に基づく行動をとることさえ容易
なことではないのである。他者に対して
彼らは常に強い警戒的態度をとっている
が、そのことは常に自分を脅かす他者の
存在に強い影響を受けていることを意味
している。多くの場合、他者の存在に自
ら飲み込まれるようにして、何かをしな
ければという思いに駆り立てられている
ことが少なくない。自ら主体的に行動す
ることは難しく、他者の存在そのものに
よって自分が動かされやすいのである。
(ⅴ)原初的知覚世界における快の刺激
たしかに原初的な知覚様態においては、
彼らはこのように刺激を、自分を脅かす
ような恐ろしい感じで受け止めやすいの
であるが、その中でも彼らにとって快刺
激となって心地よさをもたらしてくれる
ものが少なからずあることも確かである。
たとえば、何かを繰り返しリズミカルに
叩いたり、いつも同じようにくるくる回
転するものを眺めたりする行動である。
それはわれわれにとっては反復される単
純な刺激であるが、リズミカルであるこ
ととともに、同じような刺激が繰り返さ
れることはなにがしかのこころの安定を
与えてくれるように思われる。繰り返し
ながらもリズミカルであることや、一見
同じようなものの繰り返しに過ぎないよ
― 105 ―
うで実はその中に発見される微妙な変化
などが彼らに心地よさをもたらしてくれ
るように思われる。それは原初的知覚様
態が刺激のリズムや強弱、大小の変化な
どにとても敏感なためだからである。こ
のような数少ない快の刺激はおそらく何
かにつけて、彼らのこころの安定を維持
していく上で重要なものとなっていると
思われる。
2)行動障害の引き金になるもの
(ⅰ)生理的欲求の亢進
尿意や便意を催してトイレに行きたい
時、食べ物のおかわりが欲しかった時、
嫌いなものが皿にもられていた時、身体
の痛みやかゆみが生じた時などに、行動
障害が誘発されやすいことが分かってい
る。これらはすべて、彼らになんらかの
生理的欲求が高まったり生理的不快感が
高まった時を意味している。自分の欲求
が高まった時にそれを実現させるための
行動が円滑にとれないために、強い欲求
不満が起こるわけであるから、比較的容
易に理解できる。しかし、それが想像を
絶する行動(障害)として顕在化するの
は何故かを理解するには、彼らに強い動
因葛藤が働いていることを想定する必要
がある。
(ⅱ)関係欲求の亢進
その他、興味深いのは、母親と別れる
時や自分に関心を注いでくれていた職員
が他の人の世話をしなければならなくな
って、自分への関心が逸れてしまった時
にも行動障害が誘発されていることであ
る。重要な他者が自分から関心や注意を
逸らすと、行動障害が引き起こされるの
である。他者の自分への関心が逸れるこ
とによって、彼らの自分を構ってもらい
たい欲求(関係欲求)が一時的に高まっ
ていくのであろう。そのことが行動障害
を引き起こす誘因ともなっているのであ
る。
(ⅲ)不快な刺激
不快な刺激を受けた時にも行動障害が
よく起こります。不快な情動興奮による
のであるが、ここで問題となるのは何が
彼らにとって不快な刺激となるか、われ
われには容易に理解できないところにあ
る。彼らの強い警戒心が彼らの生来的な
<知覚-情動>過敏を極度に強めてしま
っているので、信じられないほどの些細
な刺激であったとしても、不快な刺激と
なってしまう。ほんの僅かな変化が彼ら
の同一性保持をいたく刺激してパニック
を引き起こすことは幼児期の子どもたち
でもよくみられるが、青年期・成人期に
至ると、そのような生やさしいものでは
なくなってしまうのである。
(ⅳ)他者の不快な情動が容易に共振す
る
よく知られたことであるが、彼らにと
ってなぜか乳児の泣き声はとても不快な
刺激なようである。往来で乳児の泣き声
を聞いたために、突然そばにいた他人に
攻撃的になった自閉症の人の相談を受け
たことがある。彼ら自身が起こすパニッ
クを近くで他人が起こした時、彼らも同
じようにパニックが誘発されることもあ
る。このような現象が起こりやすいのは、
情動が自分と他者との間で共振するとい
う性質を持っているからである。われわ
れであれば、理性によって自分と他者と
の違いを認識し、自己制御することがで
きが、彼らの場合、それが困難なために、
不快な情動状態にある人がそばにいれば、
その情動状態が彼らに共振して、彼ら自
身も同じような情動状態になってしまう
ことになる。このような現象が肯定的な
情動状態になって共振すれば、関係が好
転する機会ともなるのであるが、否定的、
― 106 ―
不快な情動状態での共振のみが起こりや
すいために、関係はより一層難しくなっ
てしまう。やはり愛着形成の問題がここ
でも深く関係しているのである。
(ⅴ)快の情動興奮
行動障害の悲惨さを印象づけることの
ひとつは、こちらからみると、おそらく
うれしくて快の情動興奮が生じていると
思われる状態にあっても、彼らに行動障
害が誘発されることはけっして少なくな
いことである。
なぜ快の情動興奮でさえ行動障害を誘
発するかといえば、彼らにとって快刺激
によってもたらされる情動興奮と不快刺
激による情動興奮が明確に区別されてい
ない、つまりは快/不快の情動の未分化に
よっているのであろうと思われる。した
がって、われわれがまず目指さなければ
ならないのは、快/不快というもっとも原
初の段階での情動の分化を促進するよう
な働きかけだといえよう。そのためにも
っとも大切なことは、快の刺激をうんと
体験し、快の情動興奮がどんどん起こっ
てくるような状況を極力つくることであ
る。それとともに大切なことは、不快な
情動を、たとえそれが生じたとしても、
極力最小限度になるように、緩和してあ
げることである。そのためには、愛着関
係が基盤に育まれていくことが不可欠で
あることが分かる。
3)なぜ行動障害に発展するのか
(ⅰ)アンビバレンスと負の循環
先に述べたように、自閉症の人々がも
つ関係欲求をめぐるアンビバレンスが、
彼らと関わり合うわれわれを関係の負の
循環に巻き込むことになる。ということ
は、われわれが彼らに対して無色透明な
中立的立場を保つことなどできないこと
を意味している。われわれが頭では巻き
込まれないようにと考え努めたとしても、
それは意識の水準での試みであって、意
識の介在しない水準で彼らとの関係は動
いているところがとても大きいために、
どうしても負の循環に巻き込まれてしま
いやすいのである。
しかし、ここで生まれた負の循環をよ
り一層増強させるか、それとも減弱させ
るか、われわれ自身の関わりのあり方が
それを左右しているのも確かである。
(ⅱ)行動障害を負の行動として見るこ
と
われわれが彼らと関わり合う際に、ど
うしても彼らの行動(障害)を否定的に
捉えがちになる。行動(障害)と称して
いること自体、そのことを意味している
のであるから当然である。しかし、この
否定的に捉えるという思いが、彼らとの
関わり合いの中で、彼らの行動を制止し
たり、拒否的に対応したりするという形
となって反映しやすいのである。このこ
とが彼らとの関係をより一層負の循環へ
とエスカレートさせることになりやすい
のである。
ただここで指摘しておきたいのは、な
ぜ彼らの行動が理解困難であることが多
いのか、その理由がわれわれの理解の善
し悪しというこちらのセンスのみに依っ
ているのではないということである。わ
れわれが彼らの気持ちを感じ取ろうとし
てもそれが容易でないところに問題の核
心がある。彼らの気持ち自体が非常にア
ンビバレントであるところに特徴がある
からである。アンビバレンス(両価性)
とは相反する気持ちが同時に併存するこ
とを意味し、そのどちらの気持ちか決め
ることができない状態ですから、こちら
が感じ取れないのも当然だともいえるの
である。
行動の背後に働いている心の動きを感
― 107 ―
じ取ることが困難であるため、われわれ
はどうしても行動の負の側面に注意や関
心が引き寄せられて、彼らの行動(障害)
をわれわれの常識的な枠組みの中で捉え
てしまいやすくなる。本来であれば、彼
らの行動を自分の枠組みで捉えるのでは
なく、その背後に動いている気持ちに照
準を合わせることが求められているので
あるが、それが困難になるために、どう
しても行動に照準を合わせた理解をしが
ちになってしまうのである。
4)行動障害に対する関係発達支援の基
本にあるもの
(ⅰ)アンビバレンスの緩和
すでにおわかりのように、自閉症の
人々と関与する人とのあいだに関わり合
いの難しさがもたらされる最大の要因は、
彼らの関係欲求をめぐるアンビバレンス
と、それと結びついて現れる養育者ある
いはわれわれの側の彼らに関わるのが難
しいという困惑である。
そのため、彼らへの接近の際の要とな
るのは、このアンビバレンスを緩和する
ように働きかけることである。原理的に
は簡単なのだが、これが大変な課題とな
る。なぜなら、行動障害を呈している自
閉症の人々では、これまで生きてきた期
間に蓄積してきた負の循環が雪だるま式
に肥大化しているからである。
(ⅱ)行動障害の誘因の同定
よって、最初に手がけるのは、行動障
害を引き起こす誘因を同定し、誘因を取
り除くことである。当面は、行動障害が
起こることを予防的に食い止めることは
できないが、予断と偏見を取り除いて、
丁寧に彼らの行動とともに気持ちの動き
を観察していくのである。
(ⅲ)行動障害の誘因の除去
行動障害の誘因となるものが少しでも
明らかになってきたら、当然それらを極
力減らすように努める。行動障害がどの
ような誘因によって引き起こされるのか、
丁寧に観察していくことによって、われ
われにも行動障害に対して負の行動とい
う断定的な見方から次第に彼らの気持ち
のありように焦点が当てられていくよう
になる。
ここでわれわれに起こってくる変化が
とても重要な意味を持つことになる。な
ぜなら、行動障害に彼ら自身も圧倒され
ている状態であるから、彼ら自身の気持
ちに焦点を当てて関わってくれる人々の
存在は、彼らにとって多少なりとも肯定
的な存在に映る契機となるのである。
(ⅳ)行動障害の背後に働いている気持
ちに照準を合わせる
行動障害に圧倒されているような状態
にあっては、彼ら当事者も異常なほどに
強いアンビバレンスによってひどい混乱
状態にあるが、多少なりとも行動障害の
誘因が取り除かれ、彼らの気持ちを受け
止めてもらうという経験を持つことによ
って、他者全般への強い警戒心が薄れ、
少しは特定他者との間で肯定的な関係を
持つことが可能になっていく。
(ⅴ)現実の生活の枠にはめ込もうとし
ない
われわれはどうしても生活に適応でき
ることを目標として接近しやすいもので
ある。そのためどうしても行動をわれわ
れの価値観のもとに捉えて、肯定的に、
あるいは否定的に捉えて接近しがちなも
のである。そのような接近はせっかく表
に現れ始めたわれわれに対する肯定的な
思いを再び消退させてしまう。
勿論、彼らの行動障害を無条件に肯定
的に受け止めることは現実的には困難な
ことも少なくない。よって、行動障害を
阻止したり、抑制したりせざるをえない
― 108 ―
ことも起こるであろう。その場合でも、
行動障害そのものに対して色眼鏡で価値
判断をしないことが大切になる。当の本
人も意図的に、好きで取っている行動で
はないのであるから、その点をしっかり
と心に刻んだ上で対処することが肝要で
ある。
(ⅵ)彼らの自発的な動きの芽を摘み取
らないこと
これまでの筆者の経験からいっても、
彼らの気持ち(関係欲求)は容易にはっ
きりと現れるわけではない。さりげなく、
あるいは歪んだ行動でもって表に現れる
ことが多いのである。ことばでの働きか
けは極力抑えなくてはいけない。なぜな
ら、われわれの発することばの大半は彼
らを動かす力を持っているからである。
よって、ことばではなく、視線や身振り
といった非言語的水準での関わりが大切
になる。このように心掛けることによっ
て、彼らのちょっとした微妙な動き(身
体、声など)に感度が高まるのである。
彼らのそうした微妙な動きを肯定的に受
け止め、それが彼らのどのような気持ち
を反映しているのか吟味していくことで
ある。とにかく、彼らの自発的な気持ち
の動きをより表に出るようにしていくよ
うに心掛けねばならない。間違っても彼
らの自発的な動きの芽を摘み取ってはい
けない。
(ⅴ)彼らの欲求や関心に添った援助
彼らのこれまでの人生を考えてみると、
素朴な本能欲求でさえ充足された経験が
ほとんどなかったのではないかと想像さ
れる。したがって、彼らの本能欲求を少
しでも充足できるように、心掛けていく
ことは彼らへの援助を考える上でもっと
も基本的で最初に心掛けるべきことであ
ると思われる。
しかし、このように考えていくと、必
ず疑問として浮かび上がるのは、彼らの
欲求を充足するように努めていくと、欲
求は際限なく続くのではないかという恐
れがわれわれに起こりやすいことである。
これまで彼らの欲求を可能な限り受け止
めてきたと強調する人もいるであろう。
振り返ってみて欲しいのは、その時彼ら
の気持ちそのものに照準を当てた援助が
実践されていたのか、その他のどのよう
な枠組みの援助が実践されていたのかと
いうことを合わせて振り返ってみたほし
いのである。
(ⅵ)彼らの気持ちに添った対応を心掛
ける
関係の基本には気持ちの繋がりがある
ことは誰しも認めることであるが、実際
の援助においてはさほど容易なことでは
ない。なぜなら彼らの気持ちが分かりや
すい形で表に現れにくいからである。
第一に、身体の健康状態を丁寧に観察
することである。基本的生活習慣がきち
んと行われているか、食欲、睡眠、食事、
排泄などの把握を通して全身の健康状態
をきめ細かく観察することである。
第二に、すぐに身体に触れることがで
きるような至近距離で、彼らの身体の動
きを肌で感じ取れるように気をつけるこ
とである。遠くから観察すると、どうし
ても彼らの行動を観察するという態度を
取りやすくなるし、現実に彼らの気持ち
の動きを感じ取れなくなる。彼らの気持
ちの動きがほんのわずかな身体の動きを
通して感じ取ることがとても大切になる
のである。
(ⅶ)彼らの気持ちに添った対応で安心
感が生まれる
これまで述べてきたようなことを心掛
けていくことによって、彼らの欲求はよ
り一層表に現れやすくなっていく。する
とわれわれも彼らの気持ちに添った対応
― 109 ―
をとることが容易になっていく。そこに
好循環が生まれていくのである。このよ
うになってくると、われわれも彼らとの
関わりが困難だという思いが次第に薄れ、
彼らに対して肯定的感情が生まれやすく
なり、愛おしささえ感じるようになって
いく。このような関わりを積み重ねてい
くことによって、初めて彼らとわれわれ
との間に安心感、信頼感といった肯定的
感情が共有されるようになっていくので
ある。
(ⅷ)彼らの表現意欲が高まり、表現も
分かりやすくなる
最後に強調しておきたいことは、彼ら
の表現意欲が高まってきても、それがわ
れわれにとって容易に分かるような形で
表に現れるというものではないというこ
とである。
激しい行動障害が繰り返されてきたこ
とによって、彼らには外的刺激に対して
行動障害という形で反応する行動パター
ンが常態化している。さらに彼らは自己
主張をわれわれにとって分かりやすい形、
つまりはことばや身振りで表現する術を
持ち合わせていないことが多いのである。
したがって、われわれに対して関係欲求
が高まり、自己を押し出す欲求が強まっ
たとしても、しばらくの間は素朴な、あ
るいは粗野な行動、つまりはわれわれか
ら見ると、まるで行動障害と同じように
みえるような行動で表に現れることが少
ないことである。コミュニケーションの
発達の原初の段階においては、彼らの自
己主張の表に現れる形も素朴で未分化な
形を取るということなのである。
したがって、ここで大切なことは表に
現れた形そのものは、分かりやすいこと
ばや身振りという分化した行動ではなく、
未分化な行動であるため、行動の背後に
動いている彼らの気持ちに照準を合わせ
た対応が重要になるのである。
(ⅸ)未分化な表現から分化した表現へ
われわれが関係発達支援と呼んでいる
のは、コミュニケーションの発達過程を
考えると、まずは未分化な形でのコミュ
ニケーションを大切にし、それを基盤に
少しずつ彼らの気持ちをわれわれが形に
(ことばに)して投げ返してあげるよう
に心掛けることである。気持ちの動きを
感じ取りながら、彼らの表に現れた行動
を受け止めるとともに、彼らの気持ちを
ことばや身振りなどの形にして映し返し
てあげることである。
未分化な段階、つまりは原初の段階で
のコミュニケーションから、次第にわれ
われのコミュニケーション世界へとつな
げていくような働きかけに、関係発達臨
床の要がある。このような理念を大切に
した支援のあり方をわれわれは「関係発
達支援」と呼んでいる。
D.おわりに
これまで 12 年あまりにわたってさつ
き学園の職員とともに行動障害に対して
取り組んできた。その成果が以上述べて
きた行動障害に対する理解と支援の基本
である。それは壮絶な戦いでもあったが、
地道な取り組みによって着実に変化して
いくことを実感してきた。しかし、残念
なことにこれまで療育に熱心に取り組ん
できた職員の多くが様々な事情により退
職し、その後新たな職員の教育が追い付
いていないという現状がある。現在の福
祉職場において、人材確保がいかに困難
なことかを痛感しているこのごろである。
文献
小林隆児(2001).自閉症と行動障害-
関係障害臨床からの接近-.東京, 岩
崎学術出版社,2001.
― 110 ―
小林隆児・原田理歩(2008).自閉症とこ
ころの臨床-行動の「障碍」から行動によ
る「表現」へ-.東京,岩崎学術出版社
― 111 ―
― 112 ―
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
広汎性発達障害に対する早期治療法の開発
分担研究者
杉山登志郎
II
あいち小児保健医療総合センター
強度行動障害の再検討
研究 5 おしまコロニー(第二おしま学園)における強度行動障害支援
研究協力者
寺尾孝士
札幌すぎな学園
研究要旨
本報告書は、15年間にわたるおしまコロニー(第2種自閉症児施設)での支援の理
念や実践の成果を報告する。取り組みの中では、一人一人の特性を把握した上での構
造化を含めた生活支援や身辺自立、余暇活動、コミュニケーションを支援していくこ
とで行動障害は減少し、安定することが示唆された。
行動障害の予防の観点からは、適切な方法で一貫性と継続性のある学校教育の必要
性や早期から家庭への適切な養育アドバイスを行うシステムの構築が望まれる。加え
て本人だけでなく、家族全体のニーズに応えることが可能なシステムが必要である。
さらに福祉施設だけでなく、医療機関、行政を含めた地域全体での支援体制の構築や
各機関の連携が強度行動障害の予防につながることが考えられる。
A.
症児施設)で行うのか星が丘寮(知的障害
はじめに
おしまコロニーでは、知的障害のある
者更生施設)で行うのか議論になった。そ
人達の幼児期から高齢期に至るまでの支
の結果、強度行動障害の状態は、本人だ
援を、相談並びに療育、通所や入所等の
けでなく家族も悲惨な状況におかれてい
各機能を有する施設群で展開している。
るため、できるだけ早期に支援を開始す
その中で、主に知的障害の程度も重度で
る必要があることから、平成5年4月よ
行動障害のある自閉症の人達を支援して
り第二おしま学園において取り組むこと
いるのは、第二おしま学園(児童期)と星
となった。
平成 10 年には、補助事業から加算事業
が丘寮(成人期)である。
強度行動障害特別処遇事業を開始する
に変更等があり運営上厳しい状況となっ
にあたって、第二おしま学園(第2種自閉
てきたが、第二おしま学園においは現在
― 113 ―
取り組めるようにするため、次に何が起
に至るまで本事業を継続している。
本報告では、取り組んできたことを概
きるのか、物事の順序はどうなっている
括し、第二おしま学園の支援の成果と課
のか、いつ終わるのか等の情報を一人ひ
題について考察する。
とりの機能レベルに応じて示すようにし
た。また、それぞれの場面において何が
Ⅰ.第二おしま学園における支援の概要
期待されているのかを明確に伝えるよう
1.評価・観察
にした。
入所に際して、実施機関及び家族から
過去、一貫性のない教育や養育を受け
生育歴等の情報を得、現在示している問
てきたことで、基本的な力(身辺処理、コ
題の原因を考察したり、得られた情報か
ミュニケーション等)を身につけていな
ら人との関わりや生活環境を再構成した。 かったり、混乱し行動障害を示している
①
ことがみられていた。そのため、職員は、
フォーマルな評価
標準化された知能検査や発達検査、
両親や関係機関からの情報や評価・観察
心理教育診断検査等の結果から、機能
から得られた情報をもとに、一人ひとり
レベルや病理行動等を把握した。
の障害特性や機能レベル、得意・不得意
②
等を把握し、一貫した支援を展開するよ
インフォーマルな評価
第二おしま学園で作成した調査票
うにした。どのように関わっていくかは、
をもとに、基礎能力面、生活面、課題場
一人ひとりの状況によって検討し、いっ
面等の状態をみるほか、適応行動上の特
たん方法を決めたらかかわる人が変わっ
性等広範な情報を収集し、一人ひとりの
ても同じように進めていくようにした。
家庭や地域社会で生活していくことを
得手不得手や、個性等を把握した。
目指して、社会的にあり得ない状況で、
社会的に許容されないような作業や課題
2.個別支援計画
本計画を作成するにあたって、評価・
は取り組まないようにした。また、仕事
観察から得られた情報を入念に配慮し、
や課題に取り組んだことが、できないと
将来を見通しながら個々のニーズに応え
いう結果を招いてしまわないようにした。
ていけるようにした。
その場合、不必要な過剰な支援をするの
年間単位の長期目標を設定し、それを
ではなく、できるだけ成功に導くように、
達成するための短期目標を策定した。短
適切で必要なことのみを支援していくよ
期目標は、2ヶ月前後で定期的にモニタ
うにした。
自由時間において何もない状態にする
リングし見直しを行った。
のではなく、パズルを行ったり音楽を聴
3.課題設定及び働きかけで配慮したこ
いたり、課題学習に取り組んだりという
と
ように、一人で適切に過ごしていくため
混乱や不安を最小限にし、できるだけ
の技能を身につけさせるようにした。ま
他人に依存しないで一人で学習や課題に
た、余暇活動においては、仲間や職員、
― 114 ―
家族とも楽しめるような活動を行ってい
以上のことを把握し、利用者一人ひと
くようにした。取り組むにあたっては、
りの機能レベルに合わせた伝え方を
家族からの情報や観察等から得られた情
工夫し、将来に向けて理解力を高めてい
報を生かしていくようにした。
くようにした。また、関わる側が余計な
何かを伝えていく時には理解できない
ことをしゃべらないようにすることで、
ような情報は多数示さないようにし、特
混乱しないで済むような配慮をした。
に新しいことを教える時には一つの内容
2)発信能力について
強度行動障害を示す人達は、かんしゃ
のみとし、安定した状態になるまで基本
くでしか要求できないというように、
的に教えないようにした。
行動障害が前面に出ていることが多くあ
るため、以下に示す項目に従って現状の
4.コミュニケーションの支援
強度行動障害の状態にある人達は、コ
発信能力を把握するようにした。
ミュニケーション能力に障害があること
・どのような場面で
によって、常にフラストレーションの状
・誰に
態にあり、その結果行動障害を示してい
・どのようなことを(a.要求
ることが考えられる。そのため、コミュ
意喚起
ニケーションの力をつけることで、行動
説明 e.情報提供
障害の減少が期待されることから、コミ
その他)
ュニケーション行動の改善に取り組んだ。
c.拒否/拒絶
・どのような方法で(a.かんしゃく b.
ジェスチャー
対象者の受信能力の程度を把握してお
真 e.単語 f.表出言語)
d.絵/写
とを把握するようにした。
・すでに習得していて自発的にできる
の
チャンネルを見つけ出すために以下のこ
c.具体物
以上の情報を得た上でさらに以下のこ
かなければ、こちらが期待している
できない。そこで、通じ合うため
d.
f.情報請求 g.
1)受信能力について
ことを本人に適切、確実に伝えることが
b.注
コミュニケーション行動は何か
・まだ自発的にできていないコミュニ
とを把握するようにした。
・同じ内容でも場面が違えば理解できな
ケーション行動は何か
・何らかの手がかりや場面・状況によ
くなるのか
・文脈的手がかりがあれば理解できるの
って自発的にできるコミュニケー
か
ション行動は何か
・コミュニケーション行動が最も出や
・プロンプトの程度によって理解の程度
すい場面や状況は何か
に差があるのか
(a.言葉かけ
b.サイン/文字
絵 / 写 真
d . ジ ェ ス チ ャ
ー/指さし
助)
e.具体物
これらの情報をもとに、一人ひとりの
c.
f.身体的援
コミュニケーション行動や場面
・状況を設定し、以下に示すことを配慮
し支援を展開した。
― 115 ―
ることの可能性
・一度に一つのことしか教えない。
・働きかける側の期待の修正
一つの場面で確実にできるようになっ
・何から教え始めるのか、何が適切な
てから、新しい場面でできるよ
うにしていった。
行動なのかを職員間で明確に共通認識し、
・今持っている技能を使って、コミュニ
対象者にどのように理解させるか
ケーションスキルを高め、コミ
・行動障害が起きたときに、リスクマ
ュニケーションの便利さ、楽しさ、誰か
ネージメントの観点からどう効果的に制
と伝え会いたいというマインドを育てて
止するか(職員間で意見を統一しておく)
いくようにした。
・意欲といったことや、コミュニケーシ
Ⅱ.利用者の状況
ョンしやすい環境を整えるとい
った事へも配慮した。
本事業の対象としてこれまで延べ 27 名
の利用があり、前述した取り組みを3年
間の有期限で取り組んできた。
5.行動障害への対応
行動障害にのみ集中して働きかけるの
1.性別・年齢
ではなく、事業計画書に示されている支
援活動を展開していく中で、行動改善と
性別において男子 23 名、女子4名とな
っており、圧倒的に男子が多かった。
発達を促していくことを基本とした。し
本事業利用開始年齢は表Ⅰに示した通
かし、強度行動障害を示している場合、
りである。思春期以降の利用者が 70%を
行動上の問題が頻発しているため、以下
超えていた。
の手順に従って検討を行い対応していく
ようにした。
2.知的程度と障害
・知的障害や自閉症に関する知識に基
知能指数別の状況は、表2に示した通
づいて、なぜこういう行動を示すのか、
りである。本園を利用している強度行動
その背景になるようなことがないかを検
障害の状態を示している人達の知的程度
討
は、重度・最重度の人達がほとんどであ
・その行動の内容は何かを客観的に把
った。児童相談所の判定書によると、言
握(いつ、誰といる時、どういった場面、
語表出があっても課題に注意が向かなか
どのような行動、行動後の結果等)
ったり、着席や部屋に留まっていること
・その行動は以前から続いているのか、
それとも新しく出てきた行動か
が困難であった等の状況により実施不能
のものが多くを占めていた。
・行動障害の機能(要求、回避・逃避、
注目、感覚)
本園は第2種自閉症児施設であること
から、全員が知的障害を有する自閉症児
・発達レベルの把握
であった。てんかんを合併しているもの
・混乱を減らし行動障害予防のための
が8名(29.6%)であった。
工夫と、理解しやすいように状況を変え
― 116 ―
いことがあった。しかし、睡眠障害があ
3.行動障害の状況
本事業開始時の強度行動障害得点は、
る場合において、全体の行動障害得点が
表3に示す通りである。20~25 点のもの
高くなくても服薬しているケースがあっ
が過半数であった。31 点以上の高得点の
た。
便秘やアレルギーあるいは虫歯等、身
ものが 22.2%いた。
行動障害別の状況は、表4に示す通り
体的な痛みや不快感を表現できない事に
である。
「パニック対応困難」と「激しい
より行動障害を示しているものもおり、
こだわり」の状態を示すものが 85%以上
その治療や健康面の配慮をしたことで行
と最も多く、
「激しい器物破損」や「ひど
動障害の減少につながったケースもあっ
く叩いたり蹴ったりする等の行為」、「著
た。
しい多動」
、
「睡眠障害」が 70%を超えて
いた。
5.行動障害得点の推移
男女別の平均行動障害得点の推移は表
「激しいこだわり」は、こだわりの対
5に示す通りである。女子から比べると
象が物だけでなく、活動の手順や日課に
男子の方が徐々に減少していく傾向を示
至るまで、あるいは周囲の他人を巻き込
し、減少率も高かった。
んでしまう等があり、きわめて支援が困
女子の利用人数が4名と少ないため何
難な状況となっており、生活のしにくさ
ともいえないが、現場において、女子の
といった点で大きな課題である。そのた
場合は開始時の得点以上に支援上の困難
め、こだわりに焦点を当てた支援ではな
さが印象として強かった。特に、一名の
く、自閉症の特性と機能レベルや興味・
あるケースは、チックや強迫行動が頻繁
関心を配慮した生活の組み立てや支援が
にあり、開始時得点が 35 点と高く、3年
必要であった。このことは、パニックへ
経過後も 29 点と行動障害は厳しい状況で
の対応が困難なことや他害行為等の支援
あった。
を展開する場合も配慮しなければならな
いことであった。
年齢別の平均行動障害得点の推移は、
表6に示す通りである。どの年齢段階に
おいても行動障害得点は減少している。
4.医療
6~8歳において、1年経過時に得点
入所前から服薬治療を受けていた者は
が減少しその後得点が上がったのは、1
63%であった。入所後服薬治療を開始し
年経過時に行動障害が改善し事業が完了
たものは 7.4%であった。抗てんかん薬を
したものと、現在実施中で2年経過して
服薬しているものを含めると 90%が服薬
いない対象者が含まれているためである。
治療を受けていた。
実践場面においては、年齢が低いものほ
精神科薬の服薬の有無については、家
ど支援に取り組みやすく改善しやすかっ
族の意向が反映される場合があり、行動
た。年齢が高いと体格も大きく行動障害
障害得点が高いケースでも服薬していな
一つ一つが支援しづらく、行動障害得点
― 117 ―
で表される印象よりも困難性が高かった。 りである。継続入所が一番多く、次に成
また、家族の悲惨さも大きかった。
人施設移行であった。
強度行動障害得点別の平均障害得点の
終了時の行動障害得点と進路との関連
推移は、表7に示す通りである。開始時
性はなく、行動障害がより改善された人
の行動障害得点が低いものほど事業終了
ほど移行しやすいということにはつなが
時の行動障害得点は低くなっていた。
らなかった。事業終了時には、ほとんど
が高等部卒業年齢に達していることから、
家族の進路希望が成人施設となり、成人
6.出身地
出身地管轄所道相談所の状況は、表8
施設に入所できない場合、継続して第二
に示す通りである。第二おしま学園のあ
おしま学園を利用することになってしま
る函館児童相談所管内が 40.7%と圧倒的
っている。また、中学年齢においては後
に多い。次に中央児童相談所管内が
期中等教育を継続して受けるために、そ
14.8%となっている。それぞれ利用人数
のまま第二おしま学園を利用する状況と
は少ないが、全道域にわたっている。
なっている。数は少ないが年齢が低い場
北海道は、新潟と東北6県を足した広
さがあり、広域・分散・積雪型の地域で
合は、退所後において学校と連携したり
家庭支援を行った。
ある。例えば、函館と札幌の距離は約 270
家庭においていったん行動障害の状態
㎞で、他の地域はさらに遠方となってい
が始まると、本人も悲惨であるが家族も
る。函館児相管内の渡島支庁と檜山支庁
きわめて大きなストレスを抱えることと
を合わせると、だいたい群馬県と同じ広
なり、行動障害に対する恐怖感や疲労感、
さになる。これらのことから、地域資源
不安等で家庭の中がきわめて悲惨な状況
との連携といったことでは困難性が高か
となってしまっている。そのため、事業
った。また、道外は、埼玉県と青森県の
終了後の進路先として家庭引き取りが困
3名であったが、強度行動障害の程度は
難な状況であった。
また、第二おしま学園で安定して暮ら
重度であった。
利用する人とたちと家族の現状をみた
している姿を見て、場所を変えることに
時に、悲惨な状況であるため、タイムリ
関して家族は不安を感じるため、継続入
ーな支援の必要性があるが、定員枠が4
所を希望する場合もあった。
名と制約がありさらにきわめて広域にで
事業終了後の現実的な進路として、資
あることから、全道域のカバーは困難が
源の問題が大きく影響しており、移行先
伴っている。しかし、本事業へのニーズ
は出身地域周辺の成人施設の空床状況に
は依然としてあり、今後の課題となって
よるところが大きかった。
いる。
B.まとめ
7.事業終了後の進路
本事業を開始するにあたり、早い時期
事業終了後の進路先は、表9に示す通
から取り組むことで強度行動障害という
― 118 ―
悲惨な状況を長期化しないことを考えた。 ように強度行動障害が長期化した利用者
しかし、行動障害が重篤化し思春期以降
については、3年間の支援では改善の困
の在宅や寄宿舎での生活の維持が困難に
難性は高く、家庭もきわめて悲惨な状態
なった 13 歳以上の利用者が 70.4%を占
であった。
めていた。また、知的障害の程度もほと
以上のことから、強度行動障害に至ら
んどが重度・最重度の状態であった。強
ない教育や養育は是非とも望まれる。入
度行動障害得点が高かったのは、
「激しい
所前の教育の状況や家庭生活の状況は、
こだわり」
「パニックへの対応が困難」
「激
自閉症の人達の特性を十分理解し機能レ
しい器物破損」が 80%を超えていた。次
ベルや興味・関心、得手・不得手等を把
に高かったのは、
「ひどく叩いたり蹴った
握して、適切な方法で一貫性と継続性の
りする等の行為」「睡眠障害」「著しい多
ある育てられ方をしてきていない。また、
動」で 70%を超えていた。
家族に対して自閉症の育て方が適切にガ
以上のような状態を示していた対象者
イダンスされている例はなかった。いっ
に対して、一人ひとりの機能レベルや興
たん強度行動障害が始まると家族の疲労
味・関心等を把握し、構造化のアイデア
感や恐怖感、不安はきわめてシビアな状
を応用して生活を組み立てた。その上で、
況となってしまっている。これらのこと
身辺面や家事スキル、余暇の過ごし方や
が事業終了後に地域に戻ることを困難に
コミュニケーションを育てていくことで、 してしまっている一つの要因となってい
行動障害は減少し安定して生活していく
る。強度行動障害を予防する観点から、
ようになった。年齢が低い場合に早期に
学校教育を抜きにして強度行動障害対策
安定し 3 年を待たずに事業を終了するケ
はあり得ない。また、家族、特に母親に
ースがあった。
対する早期からの自閉症の子供の将来を
医療との連携において、体調や情動面
見通した具体的な養育方法が、継続的に
の変化の観察や必要に応じてデータ化し
学ぶことができたりアドバイスを受ける
て情報提供したことで、適切な服薬調整
ことができる仕組みが是非とも必要であ
がなされ支援のしやすさにつながった。
る。家庭での子育ては、非常な困難が伴
また、便秘やアレルギーあるいは虫歯等
いさらに孤独な中で取り組んでいくこと
の身体的な痛みや不快感を上手く表現で
が多い。自閉症の子供の養育を家庭にだ
きず行動障害を示している場合、健康面
けに押しつけない具体的な支えも必要で
での配慮や治療によって安定したケース
ある。
事業終了後の移行先は、施設移行が約
もあった。
しかし、入所時点で強度行動障害得点
40%、家庭引き取りが 17.4%、残りが第
が高い場合は、事業終了時点において行
二おしま学園継続入所であった。後期中
動障害は減少してきているが強度行動障
等教育や地域資源の問題もあるが継続入
害得点が 20 点を超えており、支援も困難
所も含めて施設利用が約 80%であるのは、
であった。また、思春期以降の対象者の
地域で強度行動障害者支援の資源がない
― 119 ―
中で施設を3年間利用することが、行動
の内容も含めて支援経過の情報提供して
障害が減少しても結果として家庭生活に
いる。さらに、職員の実習や研修、見学
戻ることが困難である現状を解決しなけ
を積極的に受け入れ、積み上げてきた強
ればならない必要性を示している。第二
度行動障害者支援に関する情報を提供し
おしま学園としても、園では安定してい
相互の質を高めていくようにしている。
るが帰省した時にパニックを起こしてし
移行先ではない施設職員の研修等も受け
まい家族が不安になってしまうとか、評
入れ、自閉症の人達への支援の理解を図
価を中心に個別支援を進めると家族が離
ってきているところであるが、事業終了
れていくというような課題に対して、本
後の移行先を見つけるのはきわめて困難
人だけではなく家族の多様なニーズにも
な状況である。本事業に対するニーズは
応えていけるような取り組みが必要であ
継続してあることから、そのニーズに応
ると考えている。
えていくためにも事業終了後の移行先が
なかなか見つからないという課題を解決
本事業の是非については、事業終了後
していかなければならない。
に結果として移行先が継続入所も含めて
そのためにも、今後は、事業終了後の
ほとんどが施設となってしまっているが、
入所前の本人と家族の悲惨さを解決する
処遇を家庭に押しつけるのではなく、強
ためには、現状においては必要な機能で
度行動障害を示す自閉症の障害特性とそ
あると思われる。この事業がなければ本
れに対する支援の方法を熟知したスタッ
人・家族共に最悪の結末になってしまう
フが配置された学校・福祉施設、医療機
ことが推測される。
関、行政等を含めた地域全体での包括的
な支援体制の構築が、強度行動障害の予
第二おしま学園ではこの事業に 15 年間
防対策としても必要であると思われる。
取り組んだことで、支援の理念やノウハ
ウを積み上げることができた。本園では、
移行先の学校や施設に本人の評価・観察
表1.開始年齢
年齢
6~ 8
9~12
13~15
16~18
人数
4
4
14
5
%
14.8
14.8
51.9
18.5
表2.知能指数別状況
知能指数
人
数
%
測定不能
~20
21~35
36~50
12
7
5
2
1
44.4
25.9
18.5
7.4
3.7
― 120 ―
51~
表3.事業開始時行動障害得点
行動障害得点
人
20~25
26~30
18
3
6
66.7
11.1
22.2
数
%
31~
表4.行動障害別得点状況
得点
自傷
他害
固執
破壊
睡眠
食事
排泄
多動
大声
興奮
粗暴
5点
2
8
13
7
6
4
5
10
3
23
11
3点
8
10
7
12
10
7
3
7
4
0
0
1点
5
3
3
3
4
5
6
2
8
0
0
合計
15
21
23
22
20
16
14
19
15
23
11
%
55.6
77.8
85.2
81.5
74.1
59.3
51.9
70.4
55.6
85.2
40.7
*自傷:ひどく自分の身体を叩いたり傷つけたりする等の行為
他害:ひどく叩いたり蹴ったりする等の行為
固執:激しいこだわり
破壊:激しい器物破損
睡眠:睡眠障害
食事:食べられないものを口に入れたり、過食、反すう等の食事に関する行動
排泄:排泄に関する強度の障害
多動:著しい多動
大声:通常と違う声を上げたり、大声を出す等の行動
興奮:パニックへの対応が困難
粗暴:他人に恐怖感を与える程度の粗暴な行為があり、対応が困難
表5.男女別平均行動障害得点の推移
開始時
1年次
2年次
3年次
女
24.5
21.3
21.3
18.3
男
26.1
17.5
15.8
13.2
表6.年齢別平均行動障害得点の推移
開始時
1年次
2年次
3年次
6~ 8歳
24.5
16.3
21.5
19.0
9~12歳
27.3
19.5
15.0
15.0
― 121 ―
13~15歳
26.3
18.2
16.1
13.6
16~18歳
24.6
18.4
18.0
10.0
表7.強度行動障害得点別行動障害得点の推移
行動障害得点
開始時
1年次
2年次
3年次
~24
21.6
15.5
14.7
12.2
25~30
27.2
15.5
13.8
13.7
31~
34.5
26.8
25.3
20.7
表8.出身地管轄児童相談所
児童相談所
人
数
%
函館
中央
釧路
札幌
旭川
岩見沢
道外
11
4
3
2
2
2
3
40.7
14.8
11.1
7.4
7.4
7.4
11.1
表9.事業終了後の進路
進路先
継続入所
成人施設移行
家庭引き取り
人 数
10
7
4
2
%
43.5
30.4
17.4
8.7
― 122 ―
他の児童施設
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
発達障害に対する他覚的診断法の開発
分担研究者
加我牧子
国立精神・神経センター精神保健研究所長
研究協力者
井上祐紀
国立精神・神経センター精神保健研究所
稲垣真澄
国立精神・神経センター精神保健研究所
軍司敦子
国立精神・神経センター精神保健研究所
古島わかな
国立精神・神経センター精神保健研究所
研究要旨
現在の発達障害の概念では中枢神経系の病態が想定されているが、実際の診断にお
いて障害・症状の基盤となる脳活動や行動の特徴を定量化できる手法が生かされる機
会は少ない。近年発達障害の概念は自閉症スペクトラム概念をはじめ、より
dimensional な障害モデルが主流になってきている。そこで本研究では、種々の神経
生理学的指標を用いて発達障害児の脳活動・行動を定量化し、発達障害の他覚的診断
法につながる所見を特定することを目的とした。今年度は近赤外線スペクトロスコピ
ー(NIRS)を用いた解析を行った。反応抑制機能の動員の有無によって2つの課題条
件を設定し、被験者内の課題効果の違いに着目して AD/HD 児における前頭葉皮質の血
流変化について解析を行った。
A.研究目的
うかが決まる。厳密に言うと、その児の
発達障害の基盤には中枢神経系における
行動特徴が定型発達児の行動からみて明
病態が想定されているが、その診断は行
らかに異常といえるのか、定量的な比較
動特徴を基にした操作的な診断基準
検討が必要となる。しかし、実際には児
(DSM-IV や ICD-10)を用いて行われて
の行動を定量的に分析する方法は限られ
いる1)
。注意欠如/多動性障害(AD/HD)
ているし、保護者や教師が記入する質問
は多動・衝動性、不注意が主要な症状と
紙を用いた評価もわが国の児童で標準化
考えられているが、診察の対象となる児
されたものはまだないのが実情である。
童の呈する症状これらの症状(行動特徴)
広汎性発達障害(PDD)も上記の操作的
が「発達段階に相応しない」かどうかで
診断基準で規定された発達障害であるが、
AD/HD としての診断基準を満たすかど
その特性・症状は Wing の言う「三つ組
― 123 ―
みの障害」をもとに理解されることが多
特異的に関連する酸素化ヘモグロビン濃
い。コミュニケーションの障害、社会性
度の上昇が両側の下前頭領域で観察され
の障害、イマジネーション(想像力)の
ている。さらに水谷らは、マルチチャン
障害の3つを中心とした特性を持つとい
ネル NIRS でありながら、装着の簡便な
われているが、知的障害の有無は必須で
小型の NIRS 機器を用いて下前頭領域に
はない。非常に高い IQ を呈して一見定型
相当する部位の CPT 課題施行中の血流変
発達児と変わらないように判断されがち
化を解析し、より抑制機能の動員が必要
な児の中にもこれら3つの特性を持つこ
な課題条件にて酸素化ヘモグロビン濃度
とによって学校・家庭生活全般に支障を
が上昇することを報告している4)
。下前
来たすケースが多いことから、支援の必
頭領域が反応抑制機能に関連する重要な
要なケースをもれなく拾い上げるために
役割を担っていることがこれまでのf
自閉症スペクトラムという概念が提唱さ
MRI 研究でも同様に示されてきたこと
れている。これは自閉症と定型発達の間
5)6)を考えても、NIRS は AD/HD に
に連続性を認め、どんなに自閉症特性が
関連する脳活動の異常を検知することに
軽いものであっても、支援の必要なケー
優れている可能性が高い。実際、AD/HD
スは積極的に診断するというスタンスを
を持つ小児を対象とした研究がすでに報
もつ。このように、DSM において「質的
告されているが7)8)
、いずれも 2ch モ
な障害」と位置づけられた特性をもつ広
デルの NIRS を用いており、比較的限定
汎性発達障害(自閉症)にあっても、
的な前頭領域における血流解析で、メチ
dimensional な障害モデルが想定されて
ルフェニデート投与後に前頭部の Total
いるわけで、発達障害の症状・行動特徴
ヘモグロビン濃度が上昇することなどを
基盤となっているであろう脳機能障害を
報告している。今年度は、将来的には臨
定量的に解析し、脳機能レベルでの発達
床応用を視野に入れ、AD/HD の抑制機能
障害の他覚的診断に結びつくような脳科
障害のエンドフェノタイプを確立するた
学的エンドフェノタイプを抽出する必要
め、非侵襲的な脳機能検査である近赤外
がある。ADHD の病態と関連する注意機
線スペクトロスコピー(Near-infrared
能・反応抑制機能に関連した基礎的な
Spectroscopy:NIRS)を用いた研究を行
NIRS 研究としては、Fallgatter らによる
った。通常、マルチチャンネル NIRS を
健常成人を対象とした研究2)で持続遂
用いた先行研究では高額で大型な NIRS
行課題(CPT)施行中に右前頭葉に相当
機器が採用されている。しかし、数十も
する部位でのヘモグロビン濃度上昇が左
のプローブを 15 分近くかけて小児の頭
前頭葉よりも大きいことが報告されてい
部に装着すること自体かなりの負荷を被
る。また、Herrman らによる Go/NoGo
験者に与えるため、検査により得られた
課題を用いた研究3)では、抑制の必要
データにも影響する可能性がある。とく
な NoGo 条件と単純な運動反応が求めら
に ADHD を持つ小児では、検査中の体動
れる Go 条件を対比させ、反応抑制機能に
がデータに与える影響が大きい。そこで
― 124 ―
我々は、AD/HD をもつ小児に対して負荷
題条件を準備した。各々の課題条件での
の少ない手法として、水谷らの研究4)
検査時間は 2 分。
(1)反応時間、
(2)
で用いられた小型の NIRS 機器を採用し、
反応時間のばらつき、
(3)見逃しエラー
標的刺激の出現頻度の異なる 2 つの課題
率、
(4)お手つきエラー率が自動的に記
条件を設定することで、反応抑制機能に
録された。得られた行動データは診断グ
関連した脳血流変化の異常を検知しよう
ループ(AD/HD 群、定型発達群)間で対
とした。
応のないt検定を用いて統計学的検定を
行った。
B.研究方法
1.
3.
対象
国立精神・神経センター武蔵病院小児
近赤外線スペクトロスコピー
(NIRS)
神経科を受診し、注意欠陥/多動性障害
NIRS 機器としては、2 波長(730nm・
(AD/HD)と診断された小児 20 名(男
850nm)16ch の解析が可能な cognoscope
児 15 名、女児 5 名、平均年齢 9 歳 11 ヶ
(Near Infrared Monitoring.,Inc.米国
月±2 歳 0 ヶ月:混合型 12 名、不注意優
製)を用いた。この装置では、発光され
勢型 8 名
)、
た近赤外線光が受光プローブで捉えられ、
および通常学級に在籍する定型発達児 20
得られた反射光量について修正 Lambert
名(男児 12 名、女児 8 名、平均年齢 10
Beer 則に基づいて算出された Oxy-Hb 濃
才 1 ヶ月±1 歳 11 ヶ月)を対象とした。
度と Deoxy-Hb 濃度が 344msec 毎に記録
あきらかな神経学的異常所見を呈してい
される。この NIRS 機器のプローブ(15cm
た者はなく、てんかん・知的障害を持つ
×3.5cm)の中心を国際 10-20 法の Fpz
小児は含まれていない。AD/HD 症状は
に合わせて前額部に装着して上記の CPT
SNAP スケール9)を用いて評価した。
課題施行中の脳血流測定を行った。2 つの
課題開始前には 15 秒間の安静時間を設
2.
けており、この間の Oxy-Hb、Deoxy-Hb
持続性遂行課題(CPT)
視覚課題として NoruPro Light
濃度値の平均値を課題中全体のデータか
Systems 社製の新規 CPT 課題「もぐらー
ら差し引くことで baseline correction を
ず」を採用した。17 インチの CRT を用
行っている。課題終了後には 30 秒間の安
いて視覚刺激を提示した。10cm×10cm
静時間を設けた。
得られた脳血流データは、Hiraki らが
のもぐら画像(標的刺激:サングラスを
かけたもぐら、非標的刺激:サングラス
小児の NIRS 先行研究 10)にて
をかけないもぐら)がランダムに提示さ
Signal/Noise 比を高めるため行った解析
れる。刺激提示時間は 500msec、刺激間
法の一部を採用している。つまり、前額
間隔は 750msec~1250msec、標的刺激出
部を 4 分割した領域ごと(左外側:LL,
現率がそれぞれ 50%(NoGo 条件)と
左内側:LM,右内側:RM,右外側 RL)に
100%(Go 条件)の 2 つに設定された課
4ch ずつのデータを平均し、得られたデ
― 125 ―
おける Oxy-Hb 濃度上昇が著しく、Go 条
ータを解析した。
得られた脳血流データのうち Oxy-Hb
件ではめだたないことを示している。さ
濃度を解析対象とし、mixed-ANOVA
らに、
‘診断×課題条件’の交互作用が認
design (診断×課題条件×領域×課題時
められた。これは、定型発達群において
間)を用いて統計学的解析を行った。主効
Oxy-Hb の濃度上昇が Go 条件に比べて
果・交互作用を認めた場合、被験者間比
NoGo 条件において著明に高まっている
較は対応のないt検定を、被験者内比較
のに対し、AD/HD 群では課題条件間にお
は対応のあるt検定を用いて下位検定を
ける血流変化が乏しいことを示している
行った。
(図1)
。また、これらの血流反応は4つ
(倫理面の配慮)
の領域間で比較しても、有意な変化を認
被験者本人と保護者に対して検査の内容
めなかった。
についての十分な説明を行い、同意を得
た。本研究・検査については国立精神・
D.考察
神経センター倫理委員会の承認を得た。
CPT を用いた解析では、AD/HD 群の反
応時間のばらつきや、お手つきエラー率
C.研究結果
の変化に特徴的な所見を認め、われわれ
1.持続性遂行課題(CPT)
の先行研究 11)とも一致する内容であっ
被験者全員が課題を遂行することがで
た(先に報告したデータに比して、本研
きた。統計学的検定の結果、AD/HD 群で
究では AD/HD 群の呈するお手つきエラ
は NoGo 条件において反応時間のばらつ
ー率が少なく算出されているが、これは
き(msec)とお手つきエラー率(%)が定
NIRS 検査に用いることを考えてあまり
型発達群に比して有意に増大していた
多くのエラーが出ないよう、刺激出現の
(それぞれ t=3.27,p<0.01, t=3.51,
位置を画面中央に固定するなど課題の難
p<0.01)。Go 条件においても、反応時間
易度を軽くした結果であると思われる)。
のばらつき(msec)が有意に増大していた
見逃しエラー率では両群間に有意差がな
(t=2.22,p<0.05)
。反応時間(msec)および
いのに、お手付きエラー率で特異的な異
見逃しエラー率(%)については両群間
常が認められるのも、AD/HD 児の反応抑
に有意差は認められなかった。
制機能障害が反映されているものと考え
られる。
NIRS 解析の結果、定型発達群では Go
2.近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)
Mixed-ANOVA design により、
‘診断’
条件に比して、反応抑制が必要となる
の主効果を認めた。これは、ベースライ
NoGo 条件において Oxy-Hb 濃度が有意
ン区間から課題中にかけての Oxy-Hb 濃
に高く、課題開始後まもなくより血流反
度上昇が、AD/HD 群で乏しいことを示し
応が起こっていたのに対し、AD/HD 群で
ている。また、
‘課題条件’の主効果を認
は Go 条件と NoGo 条件下での Oxy-Hb
めた。これは全体を通して、NoGo 条件に
血流反応に全く有意差を認めなかった。
― 126 ―
これは AD/HD をもつ小児が運動反応を
解析して、AD/HD 児の前頭葉皮質におけ
抑制する行動を求められる条件でも前頭
る Oxy-Hb 濃度変化の異常を認めた。こ
葉皮質の賦活反応性が低下している可能
の所見は反応抑制の動員が必要な課題条
性を示唆しており、AD/HD の病態の中核
件下においてのみ観察されており、
的な障害と想定されている反応抑制機能
AD/HD における反応抑制機能障害の神
の異常の基盤となる神経生理学的エンド
経生理学的エンドフェノタイプとなりう
フェノタイプとなりうる可能性のある所
る可能性がある。
見と考えられる。
本研究における、AD/HD 群での血流反
参考文献
応の異常は 4 つの領域間にほぼ同様に観
1)
察されており、反応抑制を司る脳機能の
Diagnostic and Statistical Manual of
異常に関連する部位は下前頭領域の広い
Mental Disorders. 4th Edition, American
範囲にわたって分布している可能性が示
Psychiatric Press, Washington D, 1994.C
唆される。
2) Fallgatter AJ, Stirk WK. Right frontal
AD/HD 群には知的障害を伴う小児は
American
activation
Psychiatric
during
teset
the
Association.
continous
含まれておらず、本研究において認めら
performance
れた AD/HD 群の血流反応の異常は、知
near-infrared spectroscopy in healthy
的障害に関連した変化ではないが、不安
subjects. Neuroscience Letter 223:89-92,
障害や気分障害などの併存によっては前
1997.
頭葉皮質の賦活反応性が低下する可能性
3) Herrmann MJ, Plichta MM, Ehlis AC,
があり、今後の研究では不安・抑うつ症
Fallgatter AJ. Optical topography during
状などの評価と、血流反応との相関を解
a Go-NoGo task assessed with multi-
析する必要がある。また、こうした血流
channel
反応の発達的変化についても考察できる
Behav Brain Res 160:135-140,2005.
よう、より大きなサンプルデータを収集
4) 水谷勉、尾崎久記、篠田晴男、軍司敦
すべきであると考えられる。
子.脳血流から見た連続遂行課題時の運動
次年度ではさらに、PDD の症例を増し解
制御課程-異なる提示確率での標的刺激に
析を進め、臨床症状との相関についても
よる検討-. 「臨床神経生理」35:
検討を行う予定である。また、中枢神経
137-144,2007.
刺激薬によって治療中の患児も対象に含
5) Horn NR, Dolan M, Elliot R, et al.
め、血流反応に対する治療効果の影響を
Response inhibition and impulsivity:an
解析する予定である。
fMRI
near
study.
assessed
-infrared
with
spectroscopy.
Neuropsychologia
41:
1959-1966,2003.
6) Konishi S, Nakajima K, Uchida I et al.
E.結論
Common infibitory mechanism in human
本研究では、CPT 課題施行中の NIRS を
inferior prefrontal cortex revealed by
― 127 ―
event-related
functional
MRI.
Brain
on the Novel Continuous Performance
122:981-991,1999.
Test. Dev Med Child Neurol 50:462-466,
7) Weber P, Lutschg J, Fahnenstich.
2008.
Cerebral
hemodynamic
changes
in
response to an exective function task in
children
with
hyperactivity
F.健康危険情報
attention-deficit
disorder
measured
特になし
by
near-infrared spectroscopy. Dev Behav
G.研究発表
1.論文発表
Pediatr 26:105-111,2005.
8) Weber P, Lutschg J, Fahnenstich.
1)
Methylphenidate-induced
Furushima
changes
in
Inoue Y, Inagaki M, Gunji A,
W,
Kaga
M.
Response
cerebral hemodynamics measured by
Switching Process in Children with
functional near-infrared spectroscopy. J
Attention Deficit/Hyperactivity Disorder
Child Neurol 22: 812-817.
on the Novel Continuous Performance
9) Swanson JM, Kraemer HC, Hinshaw
Test. Dev Med Child Neurol 50:462-466,
SP, Aenold LE, Conners CK, Abikoff HB,
2008.
Clevenger W, Davies M, Elliot GR,
2) 稲垣真澄, 井上祐紀. ADHD における
Greenhill LL, Hechtman L, Hoza B,
事象関連電位(1). 臨床脳波 50: 696-701,
Jensen PS, March JS, Newcorn JH,
2008.
Owens EB, Pelham WE, Schiller E,
3) 井上祐紀,稲垣真澄. ADHD における
Severe JB, Simpson S, Vitiello B, Wells K,
事象関連電位(2). 臨床脳波 50:758-762,
Wigal T, Wu M.
2008.
Clinical relevance of
the primary findings of the MTA: success
4) 加我牧子.最近注目されている発達障
rates based on severity of ADHD and
害.小児科臨床 61:2335-2336, 2008.
ODD symptoms at the end of treatment.
5) 田中恭子,加我牧子.社会性と対人認
J Am Child Adolsc Psychiatry 40:168-79,
知の発達と変貌 乳幼児期からの精神発
2001.
達とその生物学的基盤 中根晃,牛島定
10) Matsuda G, Hiraki K. Sustained
信,村瀬嘉代子編 詳解子どもと思春期
decrease
hemoglobin
の精神医学 pp.30-36, 金剛出版 2008.
the
6) 加我牧子,稲垣真澄.発達障害
during
in
oxygenated
video
games
in
dorsal
有馬
prefrontal cortex: A NIRS study of
正高監修 加我牧子,稲垣真澄編 小児
children. NeuroImage 29: 706-711,2006.
神経学 pp.422-424. 診断と治療社 2008.
11 ) Inoue Y, Inagaki M, Gunji A,
7) 軍司敦子,加我牧子.自閉症の非侵襲
Furushima
的脳機能検査
W,
Kaga
M.
Response
Switching Process in Children with
有馬正高監修
加我牧子,
稲垣真澄編 小児神経学 pp.506-507,
Attention Deficit/Hyperactivity Disorder
― 128 ―
診断と治療社 2008.
8) 加我牧子,藤田英樹,矢田部清美,稲
垣真澄. 広汎性発達障害の疫学に関する
研究. 精神保健研究 2009. in press.
2.学会発表
1) 井上祐紀,稲垣真澄,軍司敦子,篠田
晴男,加我牧子. 近赤外線スペクトロスコ
ピーを用いた AD/HD 児の反応抑制機能
評価. 第 50 回日本小児神経学会総会
(2008.5.28-31)東京・台場
H.知的財産権の出願・登録状況
1.特許取得
なし
2.実用新案登録
なし
3.その他
なし
― 129 ―
― 130 ―
定型発達群 (LM)
ADHD群 (LM)
定型発達群 (LL)
ADHD群 (LL)
ADHD群 (RM)
定型発達群 (RM)
(図1)Oxy-Hb濃度変化のグランドアベレージ波形 (μmol)
ADHD群 (RL)
定型発達群 (RL)
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
ADHD の客観的および多角的治療法
分担研究者
山下裕史朗
久留米大学医学部
研究協力者
向笠章子
久留米大学心理学科・聖マリア病院臨床心理士
穴井千鶴
福岡県スクールカウンセラー 臨床心理士
本田由布子
福岡県スクールカウンセラー 臨床心理士
上瀧純一
福岡県スクールカウンセラー 臨床心理士
国崎千絵
福岡県スクールカウンセラー 臨床心理士
江上千代美
福岡県立大学看護学部
中島範子
佐賀大学文化教育学部
原
宗嗣
久留米大学医学部
飯塚千穂
久留米大学医学部
河野敬子
久留米大学医学部
大矢崇志
久留米大学医学部
家村明子
久留米大学医学部
永光信一郎
久留米大学医学部
松石豊次郎
久留米大学医学部
研究要旨
注意欠陥多動性障害(ADHD)のスクリーニングや機能障害の評価、治療効果の評価に役立つ
ツールとして、SDQ (Strength and Difficulties Questionnaire)、Brown ADD Scale、
Impairment Rating Scale (IRS) 、DN-CAS を用いて、病院・学校・健診・相談の場での有
用性を検討した。また子どもの簡単な認知機能評価法としての CogHealthR を健常小学生 71
名、ADHD サマー・トリトメント・プログラム(STP)参加児 22 名を対象に STP 前後で検討し
た。総合的治療プログラム開発に関しては、2 週間と 3 週間の STP プログラムの効果を比較
検討した結果、両者の短期的効果に差がないことを確認し、2 週間 STP を実施した。また
website、パンフレット、DVD を作成し、他地区でセミナーを開催し STP の全国への普及を
図った。
― 131 ―
A.研究目的
成 20 年 7 月、9 月、12 月)に個別に検査
注意欠陥多動性障害(ADHD)の客観的診
を行う。一般小学生健常児にも個別の検
断法、特にスクリーニングや ADHD 特異的
査を行い、データを収集する。
な機能障害の評価、治療効果の評価に役
2)総合的 2 週間 STP の確立・普及
立ち、かつ簡単に外来診療の場でも施行
①平成 17 年度 2 週間プログラムと平成 18
可能なツールが求められている。平成 20
-19 年度 3 週間プログラムの効果に関す
年度は、ツールの有用性の評価と総合的
る検討を行う。
治療法である日本版 ADHD サマー・トリー
②平成 20 年 8 月 11 日~22 日に久留米 STP
トメント・プログラム(STP)の完成を目的
を久留米市金丸小学校で開催する。小学
とした。
校 2 年~6 年の 23 名の ADHD 児を対象とし
た。
STP は、
2 週間のデイキャンプ形式で、
B.研究方法
主な治療方法は、トークンエコノミーシ
1)ツールの有用性評価
ステム、レスポンスコスト、デイリーレ
① SDQ
(Strength
and
Difficulties
ポートカードなどエビデンスに基づく行
動療法。
Questionnaire)
久留米市での調査結果に基づき、久留米
評価方法:ADHD-RS, ODD-RS 等質問紙、Cog
市の 5 歳児健診モデル事業 4 園での SDQ
Health、睡眠日誌、睡眠障害ある子の睡
の保育士による評価を行う。また、久留
眠時ビデオ等である。
米大学小児科を受診した 6-12 歳の ADHD、 ③STP の他地区での普及を目的に、さまざ
高機能広汎性発達性障害(HFPDD)の初診
まな方法で広報する。
時の教師・保護者 SDQ を後方視的に検討
(倫理面への配慮)
する。
本研究は、すべて久留米大学倫理委員会
②Brown ADD Scale, Impairment Rating
の承認を得て実施している。
Scale (IRS)
平成 19 年度、20 年度 STP 参加児の保護者
C.研究結果
を対象に STP 前後で検討する。
1) ADHD の客観的診断法の開発
③ DN-CAS
① SDQ
新しい認知機能検査である DN-CAS は、プ
久留米市で4~12 歳小児 2899 名の検討を
ランニング、不注意、同時処理、継次処
行いすでに報告した。個々のスコアカッ
理の4つの認知機能を評価可能である。
トオフ値は英国とほとんど差がなかった。
わが国の ADHD 児の特徴が米国と異なるか
久留米市の平成 20 年度 5 歳児健診モデル
を STP 参加児を対象に検討する。
4 園 136 名(参加率 94.4%)において SDQ の
R
④ CogHealth
Total Difficulties Score(TDS)が高い子
認知症の簡便なスクリーニング検査でわ
R
は、8.8%であった。診察および行動観察
が国でも保険収載なったCogHealth を
の結果、何らかの発達の課題が疑われる
STP参加児を対象に、参加前・後 2 回(平
子どもは全体の 5.9%で、これらの子ども
― 132 ―
たちは、全員、保育士による SDQ の TDS
2~5 年の ADHD 児 19 名(男児 17 名、女児
も し く は 、 5 項 目 の い ず れ か が high
2 名)に実施し、プランニングと注意が低
need(支援ニーズが高い)となっていた。6
い典型的 ADHD パターンの児が8名いた。
-12 歳の久留米大学神経発達外来受診者
LD を併存している例も多く、LD 合併例と
のうち ADHD30 名と高機能広汎性発達性障
非合併例での DN-CAS 結果を現在、比較検
害(HFPDD)30 名の SDQ とコミュニティー
討中である。
サンプルとの比較では、教師評価では、
④ CogHealthR
ADHD 児で多動、行為が、HFPDD 児で仲間
平成 20 年 STP に参加した 22 名の前後で 4
関係に有意差を認めた。保護者評価では、
つのすべてのタスク(単純反応、選択反
HFPDD 児で仲間関係と情緒が有意に高か
応、遅延再生、作業記憶)の下位項目い
った。ただし、HFPDD 児保護者の向社会性
ずれかに有意な改善が認められ、特に作
は、教師のスコアよりも高い(ニーズが
業記憶では、反応速度、正答率、反応遅
少ない)結果だった。
れ、見込み反応ともに改善していた。12
②Brown ADD Scale, Impairment Rating
月のフォローアップデータに関しては現
Scale (IRS)、DN-CAS
在検討中である。小学生健常児データに
平成 19 年の 3 週間 STP 前・後での検討で
ついては、現在までに 71 名に実施した。
有意差を認めたのは、ADHD Rating Scale
年度末までに 100 名のデータ収集を予定
の不注意・多動衝動性、反抗挑戦性障害
している。
スケール、SDQ の行為、多動、情緒、仲間
関係、向社会性のすべての項目、Brown ADD
2) ADHD の総合的治療法の開発
Scale のとりかかり、集中力、努力の維持、
①2 週間と 3 週間 STP 効果に関する比較検
感情統制、多動・衝動性であったが、作
討:両者とも 2 週目に改善しており、両
業記憶は有意差を認めなかった。IRS は、
者間に有意差はなかった。ポイントの推
学業と自尊心、全体的重症度に有意な改
移における加点・減点も 2 週間群と 3 週
善を認めたが、友達関係、兄弟関係、親
間群それぞれの開始時と終了時には有意
との関係は変化なかった。平成 20 年度(2
差があったが、両群間には有意差はなか
週間)では、Brown ADD Scale のとりかか
った。したがって、2 週間と 3 週間プログ
り、感情統制、反抗挑戦性スケール、SDQ
ラムでは、効果に関して明らかな差がな
の多動に STP 前後で有意差を認めた。な
いと判断し、平成 20 年度は、2 週間 STP
お、Brown Scale のとりかかり、集中力、
を実施し、2 学期以降のフォローアップ体
努力の維持、感情統制、作業記憶、衝動・
制を強化した。すなわち、2 学期の担任教
多動、SDQ の多動は、フォローアップの
師への指導、3 学期での巡回相談を行った。
12 月時点でも Pre-STP と比較して有意に
なお、3 週間 STP プログラムの短期的効果
改善していた。
については、すでに論文発表した。
③ DN-CAS
②平成 20 年度 STP
平成 20 年度久留米 STP に参加した小学
小学校 2~6 年の 23 名の ADHD 児(男:女
― 133 ―
21:2、新規参加者 7 名、リピーター16
・山下裕史朗:障害の理解促進-本人への
名)が参加し、1 名も脱落者はなかった。
説明を考える-医学の立場から.LD研
グループ別(低学年、高学年)初日と最終
究会;17 巻 24-27 2008.3
日の獲得総ポイントの有意差なし、グル
・山下裕史朗:AD/HD に対する包括的治療
ープ間の有意差なし。
「決まり違反」回数
のエビデンス-行動療法と薬物療法の統
は、両グループとも初日と最終日で有意
合-.臨床精神薬理;11 巻 651-660 2008
差あり (P=0.008)、両群間で有意差なし
・山下裕史朗、河野敬子:AD/HD の治療:
② STP の普及を目的として website 作成
サマー・トリートメント・プログラムの
(http://www.kurume-stp.org/index2) 、
実践.小児科臨床別刷;61 巻 2487-2492
パンフレット、DVDを作成し、セミナー開
2008.12
催(北海道)を平成 20 年 2 月 28 日-3
・山下裕史朗:地域での発達支援ネットワ
月 1 日で行った。またより幅の広い活動
ー構築.筑後小児科医会会報;17 巻 10-14
ができるように「NPO法人くるめSTP」を
2008.12
・ 山 下 裕 史 朗 : Scale properties of the
申請した。
Japanese version of the Strengths and
D.結論
Difficulties
ADHDスクリーニング検査としては簡便な
study of infant and school children in
SDQ、 治療前後 の評価に は、 Brown ADD
community samples.Brain Dev;30 巻
Scale、IRSが使える。またDN-CASはADHD
410-415
児の認知特性を評価し指導する上で有用
Questionnaire(SDQ):A
2008
・ 山 下 裕 史 朗 : Short-term effect of
である。CogHealth は、外来レベルで子ど
American summer treatment program
もの認知機能を簡単に検査可能であり、
for Japanese children with attention
ADHD児の診断や治療効果評価に使える可
deficit hyperactivity disorder . Brain
能性が高い。ADHDの総合的治療法として 2
Dev;in press 2009
R
週間STPがわが国では薦められる。
2.学会発表
E.
健康危険情報
・山下裕史朗、飯塚千穂、河野敬子、小松
なし
博子、大矢崇志、中島正幸、永光信一郎、
松石豊次郎:ADHDサマー・トリート
F.研究発表
メント・プログラム3年間の実践:効果
1.論文発表
と問題点.第 111 回日本小児科学会学術
・山下裕史朗:シンポジウム 5 発達障害
集会 2008.4.25(東京)
の子どもたちの観察からわかること
・山下裕史朗、飯塚千穂、大矢崇志、中島
「発達障害をもつ子どもたちの問題行動
正幸、永光信一郎、松石豊次郎:AD/HD
の観察と対応」.小児保健研究;67 巻
Summer Treatment Program で個別プ
278-279 2008.3
ログラムとリタリン追加を要した 1 例.
― 134 ―
第 50 回 日 本 小 児 神 経 学 会 総 会
2008.5.29(東京)
・岩崎瑞枝、松石豊次郎、家村明子、大矢
崇志、飯塚千穂、中島正幸、永光信一郎、
山 下 裕 史 朗 : Summer Treatment
Program 前後の AD/HD 児睡眠調査.第
50 回日本小児神経学会総会
2008.5.29
(東京)
・山下裕史朗、大矢崇志、永光信一郎、松
石豊次郎:リタリンからコンサータに変
更したADHD症例の臨床的検討.第 99
回日本小児精神神経学会 2008.6.13(米
子)
・山下裕史朗:注意欠陥多動性障害の包括
的治療.第 451 回日本小児科学会福岡地
方会例会教育講演 2008.10.11(福岡)
・山下裕史朗:ADHD 研究の現在と未来.
日本小児精神神経学会第 100 回記念学術
集会 2008.11.8(東京)
・山下裕史朗、大矢崇志、永光信一郎、松
石豊次郎:リタリンからコンサータに変
更した ADHD 症例の臨床的検討 第 35
回日本小児臨床薬理学会学術集会
2008.12.5-6 (東京)
F.知的財産権の出願・登録状況
なし
― 135 ―
― 136 ―
厚生労働科学研究補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
ADHD への総合的治療法の開発
分担研究者
田中康雄
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
久蔵孝幸
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
川俣智路
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
金井優実子 北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
内田雅志
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
福間麻紀
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
研究要旨
【目的】本分担研究では,ADHD への総合的治療法の開発に関する研究である。先行研
究からは,ADHD に対する治療としては,薬物療法と家族支援としてのペアレントトレー
ニング,および環境調整としての心理・社会的支援を複合すること(Multimodal Treatment)が
中心となることがいわれているが,すべて諸外国のものである。初年度に行った家族と医療
者側を対象とする ADHD の総合的治療に対する現状と今後の要望について詳細に解析
を行い検討した。
さらに次年度の予備的調査として発達支援センターにおけるペアレント・サポート・
トレーニングを実施した。
【結果】医療機関からの状況調査からは,7 割が薬物治療,育児助言,保育教育連携,
心理的対応を行っており,現在取り入れてなく今後取り入れたい治療手技としてペア
レントトレーニングへの期待が大きいことがわかった。親のニーズ調査からは,ライ
フステージを見越して早期から、次の年代を視野に入れた支援が求められていること
が明らかとなった。
【結語】先行研究とほぼ同様の結果を得たことで,総合的治療法とは薬物療法と家族
支援としてのペアレントトレーニング,および環境調整としての心理・社会的支援を複合であ
るといえる。最終年度は薬物療法のアルゴリズムの設定と,父親までを視野にいれたペ
アレントトレーニングの開発,および地域連携のモデル提示を示す。
A. 研究目的
注意欠陥多動性障害(以下 ADHD)に対
する治療手技については,例えば齋藤等
の編集による「改訂版
注意欠陥/多動
性障害—ADHD—の診断/治療ガイドライ
― 137 ―
ン」に依拠すると,薬物療法,親ガイダ
よ り①回答 者 196 名で 母親 が 192 名
ンス,学校との連携,地域連携システム・
(92%)平均年齢 43.3 歳(30-63 歳)
親の会・自助組織等,ペアレント・トレ
②子どもの特徴
ーニング(以下ペアトレ)
,本人の個別カ
平均年齢 13.4 歳(4-33 歳),男女比
ウンセリング,行動療法(特にソーシャ
7.3:1 で,73%が通常学級に在籍してい
ルスキルトレーニング(以下 SST) ),個人
る。
精神療法が列挙されている。諸外国の先
91%が医療支援を受けており,現在も
行研究からは,薬物療法と家族支援とし
62%(110 名)が医療支援を受けている。
てのペアレントトレーニング,および環
以下はこの 110 名を母集団として検討す
境調整としての心理・社会的支援を複合
る。
すること(Multimodal Treatment)が中
心となると指摘されている。
臨床的経験からも上記内容は首肯でき
るものではあるが、実際に支援を求める
家族,支援を提供する医療機関の認識は
どのようであるかということで,昨年ア
ンケート調査を行った。今年度は,その
調査内容を統計的に解析し,両者の比較
検討を行った。
③支援の内容
B.研究方法
昨年行った「ADHD のあるお子さんへの
医療機関での治療に関する保護者アンケ
ート調査」と「ADHD の治療に関する医療
機関への調査結果」を詳細に検討し,さ
らに両者の差異などを検討した。
(倫理面への配慮)
アンケートに関しては,研究目的を伝え,
無記名で匿名性が維持されることを条件
にして,返送をもって合意されたと理解
した。結果については,協力していただ
けた親の会の会報に速報を掲載し,医療
機関に関しては所属学会で発表すること
で報告とした。
C.研究結果
1
)「ADHD のあるお子さんへの医療機関で
の治療に関する保護者アンケート調査」
― 138 ―
医師の面談を大半が受けており,半数
ほどが助言を受けている。また心理相談
なども得られるが,それ以外はほとんど
ない。
⑥医療機関による外部連携
保護者にとって連携してもらっている
圧倒的に,医療機関が多く,そのなか
感触は,それほど感じられていない。
でも児童精神科医が多いことがわかる。
⑦医療機関満足度
医療機関に対する、満足度は普通と和
④医療機関での対応
と満足の 2 峰性を示し,それほど充実し
ている印象はない。
⑧医療機関からの受益内容
医療機関では,診察と薬物と心理的対
応が中心であり,受けられる選択肢は数
少ないのが現実である。
薬物療法と心理療法と育児助言,保育
⑤医療機関での保護者の受益
教育連携,診療情報提供程度が普及して
いる現状である。
⑨医療者の説明
薬物と心理と育児助言,保育教育連携,
診療情報提供の五種について説明の満足
度を検討すると育児助言>診療情報提供>
― 139 ―
保育教育連携>薬物>心理の順番となる。
説明についてはどちらかといえば満足し
ている程度である。
⑩子どもへの医療的支援
診察と薬物が大半で、特定の療法は少
ない。また,加齢に連れて診察が減り、
薬物が増える傾向にある。子どもへの支
援内容としては,心理的対応が中心とな
り,高校生では心理対応のみである。受
一方で保育・教育連携は当然加齢ととも
診すること自体の難しさがあると思われ
に減少する。
る。一方で医師との面談は,保護者にと
っては,支援と受けとめられ,内容は育
⑪医療機関で受ける診断について
児に対する助言や心理的対応となる。
ここでは ADHD と診断され支援を受けた
160 名を対象とする。
発達の懸念については 92%が我が子の
発達を心配していた。
•気にしていた群(n=147)のうち,
–医療機関に受診するまでに要した期間
は平均 25.1 ヶ月(最大 120 ヶ月)
–医療機関に連絡してから受診までの期
間は平均 2.3 ヶ月(最大 12〜36 ヶ月)
•気にしていなかった群(n=13)のうち
–医療機関に連絡してから受診までの期
間は平均 1.8 ヶ月(最大 3〜5 ヶ月)であっ
た。
― 140 ―
⑭薬物療法
現在リタリンが使用できない状況で,
使用が増えたのは,非定型精神病薬とて
んかん薬である。基本的に家族の薬への
抵抗は高く,しかし子どもの年齢によっ
て減少する。それだけ対応がむずかしい
ということであろう。
自発的に受診した群は,大半が気がか
りを感じていた。しかし,受診行動に至
るまでには2年くらいは要した。また,
受診の待ち期間は二ヶ月くらいは平均的
で,通常の診療で二ヶ月待ちが許容され
る障害があるのかと考えると,現状はき
わめて深刻な事態といえよう。
なお,併存群の中に ADHD と PDD とが同時
2)ADHD の治療に関する医療機関への調
に診断ついている子どもが 31%認められ
査結果
た。
①回答者の内訳
平均 48 歳(29-83 歳)
⑫複数受診の状況
男性 262 名、女性 169 名
医師歴平均 21 年(2 年〜55 年)
専門:精神科医 113 名、
児童精神科医 131
名、小児科医 136 名、その他 45 名(複数
科目兼務含む)
診療機関:診療所 128 名、医院 28 名、総
合病院 117 名、掛け持ちその他 150 名
(大学病院、精神科単科病院、児童福祉施
半分以上の人が複数受診を試みるがセ
設、司法、その他)
以下,精神科医・児童精神科医・小児
カンドオピニオン的な需要が多く,不信
感やトラブルはそれほどでもない。基本
科医の 380 名を対象にして分析する。
的にはもっとよい治療や理解を求めてい
ると思われる。
⑬医療機関への期待
心理療法や SST,薬物療法やペアレントト
レーニングへの要望は高い。
― 141 ―
⑤有効感
②診断の根拠とかかる時間
一方で実施して,薬物とペアレントト
レーニング,行動療法や感覚統合療法に
は効果が感じられ,保育教育連携や育児
助言には意味があるように感じられる。
DSM,ICD および心理検査が中心となる。
特に DSM は 259 名(60%)が,ICD は 108
名(25%)が根拠としている。
診断に要する期間は中央値 1.5 ヶ月程
度で 75%は三ヶ月以内に診断がつく。
今後実施してみたい方法としてはペアレ
ントトレーニング,SST<集団療法が上げ
③採用している治療方法
られている。
⑥薬物選択
中枢神経刺激薬が第一選択薬で診療科
によって若干選択に差が認められる。
薬物療法と心理的対応が中心で,保護
者への育児の助言と保育教育の連携も行
っている。
④有効だと感じる治療方法
薬物のみが高く,心理療法は使用頻度
ほど効果は感じられない。育児助言や保
育教育の連携も薬物ほどではないことが
わかる。
― 142 ―
精神科医ではてんかん薬を使うのは半数
覚も「普通」の水準である。薬物のみが,
以下になり,児童精神科医では中枢神経
顕著に説明程度に差があるように見える。
刺激薬も抗精神病薬もてんかん薬もみな
医師の説明程度の自覚の中では,薬物は
選択をし,小児科医は、中枢神経刺激薬
よく説明できている自覚があるようだが,
以外の選択は少ない。
必ずしも保護者には同じように届いてい
ない印象がある。
②将来に期待すること
将来保護者が期待する医療の姿と、現
在医師が採用している手技を検討した。
採用しているのは心理的対応,薬物,育
児助言,保育教育連携であり,期待して
いるのは心理,SST,行動療法,薬物、ペ
アレントトレーニング,育児助言,保育
教育連携,就労先連携等であった。
⑦説明
基本的には説明ができていると自己評
価ができるのは薬物のみであり,診療科
毎に若干の特徴の違いが出てくる。
児童精神科が全体的にどちらかと言え
ば説明ができていると感じているが,精
神科医はどちらかといえば不十分に感じ
ている。
また,医師が有効だと感じているのは,
薬物療法,ペアレントトレーニング,保
3)保護者と医療者お調査における比較
育教育連携,行動療法,育児助言,感覚
①説明に関して
統合などであるが,保護者は心理的対応
説明程度という観点では,保護者が受
への期待が大きい。
けている説明の満足度はおしなべて「普
通」の水準にあり,医師の説明程度の自
ペアレントトレーニングへの期待は両
者ともに大きい。
― 143 ―
3)保護者と医療者お調査における比較
D.考察
1)
「ADHD のあるお子さんへの医療機関で
説明程度という観点では,保護者が受
の治療に関する保護者アンケート調査」
けている説明の満足度はおしなべて「普
からは,医療機関では,児童精神科医が
通」の水準にあり,医師の説明程度の自
多く,診察と薬物と心理的対応が中心で
覚も「普通」の水準である。薬物のみが,
あり,受けられる選択肢は数少ないのが
顕著に説明程度に差があるように見える。
現実である。
医師の説明程度の自覚の中では,薬物は
医師の面談を大半が受けており,半数ほ
よく説明できている自覚があるようだが,
どが助言を受けている。また心理相談な
必ずしも保護者には同じように届いてい
ども得られるが,それ以外はほとんどな
ない印象がある。
このインフォームド・コンセントは重
い。治療内容は,薬物療法と心理療法と
育児助言,保育教育連携,診療情報提供
要な差違といえよう。
程度が普及している現状である。なかで
②将来に期待すること
ともかくペアレントトレーニングへの
も心理療法や SST,薬物療法やペアレント
期待は両者ともに大きいことから,この
トレーニングへの要望は高い。
こうした需要に応じた提供を医療側が
方面への具体的展開を考える必要がある。
今後行えるかどうかが今後の課題となる。
2)ADHD の治療に関する医療機関への調
E.結論
査結果
1)保護者調査から
医師の診断根拠としては,DSM,ICD お
①医療機関受診に至るまでに時間がかか
よび心理検査が中心となる。診断に要す
る
る期間は中央値 1.5 ヶ月程度で 75%は三
②保護者が医療に期待している支援とは
ヶ月以内に診断がつく。
どの年代でも心理的対応,特に高校生に
医師が採用している治療方法は,薬物
なると心理と、さらに薬物への期待の伸
療法と心理的対応が中心で,保護者への
びが著しい
育児の助言と保育教育の連携も行ってい
③ライフステージに合わせた支援が重要
る。そのなかで,有効だと感じる治療方
2)医療機関調査から
法は,薬物に集中し,育児助言や保育教
①採用している治療手技は 7 割が薬物治
育の連携も薬物ほどではないことがわか
療,育児助言,保育教育連携,心理的対
る。
応で,特に,ペアレントトレーニングの
一方で実施して,薬物とペアレントト
割合が高い。
レーニング,行動療法や感覚統合療法に
②採用している治療手技がどれほど有効
は効果が感じられ,保育教育連携や育児
だと感じているかでは,薬物治療とペア
助言には意味があるように感じられる。
レントトレーニングで7割以上が有効と
今後実施してみたい方法としてはペア
感じて他の治療手技と比較して有意に有
レントトレーニング,SST<集団療法が上
効感が高い。一方で育児助言,心理対応,
げられている。1)同様の結果であるため,
診断情報の提供は有効感が低い。
あとは供給整備の課題といえよう。
③現在取り入れてなく今後取り入れたい
― 144 ―
治療手技はペアレントトレーニングは他
<21 年度の研究計画>
のどの治療手技と比べても有意に期待度
これまでの調査研究から,ADHD の総合的
が高い。
治療法とは,ライフステージに合わせた支
④選択されている薬物については中枢神
援方法の提案ということになる。
経刺激薬は 82%選択される。中枢神経刺
これまで行ってきた保護者と医療への調
激薬,その次に抗精神病薬かてんかん薬
査から,小学生年代では、保護者への支援
か SSRI 系抗うつ薬が選択され。児童精神
の中でも教育連携の期待度が高い。幼児期
科医は他の専門の医師と比較して有意に
から小学生までは、育児助言や、学校教育
多く中枢神経刺激薬を選択する。抗精神
との連携を保護者は必要としている。また
病薬は児童精神科医と精神科医・小児科
心理、ペアレントトレーニングや、SST、行
医で強い有意な差があり,精神科医と小
動療法、集団療法等、薬物以外の治療行為
児科医で有意な差があった。児童精神科
も小学生年代に求められている。年代が上
で抗精神病薬が多く使用されているのは, がってきた時に、保護者は自らへの助言よ
破壊性や攻撃性を示す子どもたちが多く
りも、子どもの社会生活をどのように充実
受診していることが反映している可能性
させていくかということに関心が向くので
が考えられる。
はないだろうか、という仮説を立てること
3)両者の比較検討から
が出来た。またこうした支援はそれぞれ単
①説明が共有されにくい
体では存在しているものの,ライフステー
②有効な治療対応
ジを見通して適切な形で提供されていない,
医師が有効だと感じているのは,薬物
療法,ペアレントトレーニング,保育教
あるいは保護者がアクセスしていないとい
う問題もまた明らかになっている。
育連携,行動療法,育児助言,感覚統合
そこで最終年度は,これらライフステー
などであるが,保護者は心理的対応への
ジを視野にいれたなかで特に保護者と医療
期待が大きい。
の期待が高かったペアレントトレーニング
両者ともにペアレントトレーニングへ
の期待は大きい。
の開発・実施と,統合的治療のためのリー
フレットの作成を目指す。
ペアレントトレーニングは,保護者への
研究Ⅱとして行った発達支援センターにおけ
メンタルサポートを主目的とするこれまで
るペアレント・サポート・トレーニングの実
のプログラムを基礎としつつ,簡便で汎用
施については,北海道の4つの発達支援セン
性の高いプログラムを作成する。特に父親
ターにインターネットを利用したビデオ会議
を対象にしたプログラムも検討する。
システムを設置し,センターから遠隔地に向
薬物療法については,医師へのアンケー
けてペアレント・トレーニングを発信・実施
ト調査などからアルゴリズムを検討し作成
することで,有効手段の広範囲な提供とその
する。
効果判定を検討し,ある程度の有用性が確認
リーフレットは,保護者側がライフステ
できた。これは予備的調査のため,これらを
ージを見通した支援を,適切に受けられる
もとに 21 年度の研究計画を以下に記す
ために,ADHD の説明だけではなく,各時期
の支援についてわかりやすく解説したもの
― 145 ―
としたい。また薬物治療の解説,療育手帳
や精神障害者保健福祉手帳などの解説など
も収録する予定である。
F.健康危険情報
特記すべきことなし
G.研究発表
1.論文発表
別紙
2. 学会発表
久蔵
間
孝幸,川俣
智路,内田
雅志,福
麻紀,金井 優実子,田中 康雄 2008
ADHD の治療に関する親のニーズ調査─ADHD
に対する統合的治療の開発2─
ポスター
発表 第 49 回児童青年精神医学会総会
川俣
間
智路,久蔵
孝幸,内田
雅志,福
麻紀,金井 優実子,田中 康雄 2008
医療機関における ADHD の治療に関する状
況調査─ADHD に対する統合的治療の開発1
─
ポスター発表
第 49 回児童青年精神
医学会総会
H. 知的財産権の出願・登録状況
なし
― 146 ―
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
LD(とくにディスレクシア)の早期診断法と治療教育法の開発
分担研究者
研究協力者
小枝達也
関あゆみ
内山仁志
鳥取大学地域学部
鳥取大学地域学部
松江医療総合専門学校
研究要旨
小学校に入学後早期の音読検査によって抽出した dyslexia 疑い児は、一年後(小
学校 2 年生)に確定診断することができ、入学後早期の音読検査の有用性を検証す
ることができた。治療教育効果として、decoding に力点を置いた解読指導は誤読
の減少に、chunking に力点を置いた単語のモジュール形成指導は音読時間の短縮
に効果があることが示された。
A.研究目的
学習障害の中でも中核的なタイプとされ
ている発達性読字障害(dyslexia)の基本
的な病態は、音韻操作能力の障害であるこ
とが明らかとなってきた。本研究では音韻
操作能力の中で簡便かつ感度の良い検査項
目を調べ、dyslexia の早期診断法への応用
を行うとともに小学校入学後の早期の段階
で取り組むことのできる治療教育法の開発
を目的とする
B.研究方法
平成 19 年度に実施した文章音読課題の
結果から抽出された dyslexia 疑い児にお
ける読字能力の経過を追跡し、音読を向上
させる治療教育プログラムを実施して、そ
の効果を判定する。
(倫理面への配慮)
本研究は大学の附属小学校に在籍する児
童を対象としたもので、対象児童は入学時
に大学の教育研究に協力することを承諾し
ている。そのため大学内の倫理委員会は省
略した。音読指導法の e-learning サイトの
公開については、不特定多数を対象とする
ために、鳥取大学医学部の臨床研究倫理委
員会に申請し、承認を得た上で行った。
(承
認日平成 20 年 7 月 16 日、承認番号 1054)
C.研究結果
平成 19 年度に実施した検査により抽出
された児童は、1年生終了時点で保護者に
文字を読むことが苦手であるという主訴が
あり、所見として①会話は流暢で、質問に
対する応答も良好である、②平仮名清音 46
文字のうち正確に読めない文字がある、③
本の音読では、逐次読みであり、指で押さ
えながら読むと音読速度が改善する、④平
仮名清音 46 文字のうち正確に書けない文
字がある、という特徴があった。身体所見
には異常なく、行動も多動や集中不良なく、
― 147 ―
対人関係も良好であった。知能検査では、
WISC-III にて FIQ 99,VIQ 85, PIQ114 と
明らかな遅れはなかった。以上より
dyslexia と診断した。
音読指導として解読(decoding)を促進
させる指導(以下、解読指導)および単語
のモジュールの形成を促進する指導(モジ
ュール形成指導)の2つを段階的に行った。
頻度は週一回、1時間程度とした。
具体的な指導方法は、e-learning サイト
(http://dyslexia-koeda.jp/)に示した。
解読指導を開始して3ヶ月で、読み誤っ
たり読み詰まったりする単音はなくなった。
音読能力を音読時間と誤読数の2つで調べ
たところ、清音、単音の連続読み検査にて
音読時間の短縮はなかったが、誤読数の減
少が認められた(図1)
。また、有意味単語
の音読検査においても同様の結果であった
(図2)。
次のステップとしてモジュール形成指導
を以下の手順で行った。学年相応で初出の
文章(225 文字)の音読時間を測定してお
く。その文章の中で語彙として理解してい
ない単語(10 個)を抽出し、その意味を教
えて、例文作りをさせる。週一回 1 時間の
指導を行い、3 週間後に同じ文章の音読時
間を測定する。その間、単語の指導は行う
が、その文章の音読指導は行わない。
その結果、初回の音読時間は 2 分 23 秒で
あったが、3 週間後には 1 分 35 秒となった。
D.考察
昨年度に実施した単文音読検査にて抽出
した dyslexia 疑い児は、1 年生終了時点で
dyslexia と診断された。このことは、単文
音読検査により早期発見が可能な症例の存
在を示している。Dyslexia の出現頻度が少
ないため、効果的な検出のための閾値設定
や感度、特異度は算出できていない。今後
は、大規模な調査を企画する必要がある。
音読の指導法として行った解読指導および
単語のモジュール形成指導の有効性が確認
されたが、効果の指標は異なっており、そ
れぞれ誤読の減少と音読速度の改善であっ
た。こうした指導法の効果の普遍性を検証
することが今後の課題であろう。その一方
法としてこの音読指導法の e-learning サ
イトを立ち上げて、教師を中心に活用して
頂くこととした。
(http://dyslexia-koeda.jp/)
E.結論
文章の音読検査は Dyslexia の早期発見
に有用である可能性が示唆された。また、
解読指導および単語のモジュール形成指導
という2つの指導法も音読の改善に有効で
あり、それぞれ誤読数と音読時間という異
なる指標を改善する可能性が示された。
F.健康危険情報
特になし。
G.研究発表
1.論文発表
1) 小枝達也.発達性読字障害
(Developmental dyslexia)の病態と治療的
介入法について.小児神経学の進歩.第 37
集 155-164,2008.
2) 小枝達也,関あゆみ,内山仁志.疾患と
しての読み書き障害 就学早期からの治療
的介入の試み.教育と医学,663 巻,
74-83,2008.
2.学会発表
小枝達也.発達性読み書き障害(dyslexia)
のすべて.日本特殊教育学会第 46 回大会教
育講演.2008 年 9 月 21 日,米子市.
H.知的財産権の出願・登録状況
特になし
― 148 ―
個
平均
2SD
指導前
指導後
学年
図1
単音連続読み検査による誤読数
個
指導前
指導後
学年
図2
単語連続読み検査による誤読数
― 149 ―
― 150 ―
厚生労働科学研究補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
LD(ディスレキシア)および付随した障害に対する PC(シリアスゲームなど)
を使った治療法の開発
分担研究者
宮尾益知
研究協力者
山添(池下)花恵 早稲田大学 大学院国際情報通信研究科
河合隆史
国立成育医療センター こころの診療部発達心理科
早稲田大学
大学院国際情報通信研究科
研究要旨
本研究では,LD 児の視覚的な認知特性に着目し,コンピュータ上での視覚的訓練方
法を提案した.本手法は,漢字1文字を字画に分解し,再構成させる方法である.本手
法を用いて,LD 児と一般の児童に適用し既存の手法と比較を行った.学習効果に差異
が生じるか対象児が書字した漢字の正答率によって評価した.LD 児は,本手法の訓練
で習得した漢字を長期的に保持することが明らかとなった.一般の児童は,既存の手法
と本手法では,学習効果に差がなかった.一般の児童において,個々の特性に応じた学
習方法の選択肢を提供する必要性がある可能性が示唆された.今後は,本手法を教育や
医療現場で活用できるよう指導方法の検討を行いたいと考えている.
字画ごとに細分割化し,視覚的に字画の
A.研究目的
近年,コンピュータの普及により,LD
形状を判断できるようにすることで,書
児の持つ優れた視覚的な認知特性を活
字スキルの低い小児でも書字結果に反
用した書字指導が可能となっている.そ
映されるという仮説を立てた.そこで視
の結果,優れた視覚的な認知特性を活用
覚的な認知特性に基づいたコンピュー
した教材の有効性が報告されている(池
タによる識字学習方法を考案し,教材
下ら 2007 ,鶴巻 2003)
.しかし,これ
(以下,漢字パズル)を作成した.具体
らの報告は,ある程度の書字スキルを保
的には,漢字一文字を字画ごとに分解し,
持する者を対象としており,書字スキル
パーツを再構成させる方法である.
の低い小児に,本法をそのまま適用する
今回は,漢字パズルを用いて,LD児と
ことは困難と考えられる.そこで,本研
一般の児童に本手法を適用し,その学習
究では,学習障害児の視覚的な認知特性
効果を既存の手法と比較した結果を報
に着目し,その視覚的な認知特性が漢字
告する.
の構造を理解し,記憶することへの手助
けになるのではないかと考えた.漢字を
― 151 ―
B.研究方法
1.
1.3
実験1
1.1
実験手続き(LD児)
被験者本人と保護者に対して検査の
被験者
内容と目的を文書および実際の呈示画
LD児は,DSM-IV-TRの診断基準により,
面にて,十分に説明し同意を得た.その
LDと診断された男児(訓練時:9才,小
後,実験手順の教示を行った.本事例が,
学校3年生)1例を対象とした. WISC-
音読と書字ができなかった漢字から無
Ⅲの検査結果(検査年齢:5才7ヶ月)は,
差別に12字を選んで行った.既に学校で
VIQ73,PIQ109,FIQ88であった.VIQと
学習している文字を既学習文字,学習し
PIQ間は,5%水準で有意差が認められた.
ていない文字を未学習文字とした.画数
リーディングスパンテストの結果(検査
は,ほぼ同じになるようにした.本研究
年齢:6才)は,聴覚性記憶範囲が,順
における訓練とは,漢字パズルを用いた
唱4桁,逆唱3桁であり,視覚性記憶範囲
訓練(以下,分割・再構成法)を示し,
が,順唱6桁,逆唱4桁であった.短期記
非訓練とは,お手本の文字を視写し書字
憶の課題では,視覚性>聴覚性の傾向が
する訓練(以下,視写法)とする.試行
認められた.年齢相応の結果であったが,
手順は,漢字1文字を呈示し,その後に
読むことに非常に苦手意識を持ってお
読み方を教示した.教示後さらに書き順
り,いくつかの文字は,読字のために他
をマウスのカーソルでなぞりながら口
者の援助を必要とした.
頭で説明した.本事例に同様に再現させ,
書き順を記憶しているか確認した.訓練
1.2
漢字パズルの概要
語は,漢字を字画ごとに分解した文字パ
漢字パズルは,コンピュータ上での漢
ーツを呈示し,マウス操作(ドラック&
字学習教材である.漢字1文字を字画に
ロップ)でパーツを元通りに構成するよ
分解し,字画を並べ替えて配置し,再構
う教示した.構成が完了する度に,お手
成させるものである.図1に漢字パズル
本との比較による答え合わせを行い,間
例を示す.文字サイズは,視距離50cm
違い箇所がある場合には,訂正作業を行
から矯正視力1.0以上とした場合に確実
わせた.非訓練語は,呈示した文字と同
に文字が識別可能な大きさとした.操作
じ大きさの文字が書字できるように縦
方法は,被験者が図形オブジェクトを直
横154.2mmの升目の用紙を用いた.お手
感的に操作できるマウスによるドラッ
本として呈示した漢字を見ながら書字
ク&ドロップの操作とした.
させた.1文字について5回繰り返し,こ
れを1試行とした.訓練は,未学習文字
と既学習文字から3文字を選んで行った.
分割
→
1文字の訓練時間は,10分間とした.実
←
験前後に訓練した漢字の読みを平仮名
で呈示し,漢字で書字をさせた.この訓
再構成
図1 漢字パズル教材
例(望)
分割し,コンピュータ上で再構成を行う.
練を繰り返して,合計4試行を行わせた.
さらに,訓練した漢字の書字に関する継
続的な記憶の保持状態を確認するため,
― 152 ―
実験後および2ヶ月後に書字を行い,正
憶所持測定の結果ともに,未学習文字,
答率を評価した.
既学習文字を問わず,正答率が100%で
あった.
2.
実験2
2.1
被験者
2.
一般の児童の結果
実験前後および実験1ヶ月後の評価に
一般の児童は,公立小学校2年生(7
から8才)に在籍する60例を対象とした.
おける正答率の平均を,図3に示す.実
験前は,書字できなかった漢字のみであ
るため正答率は0%となっている.実験
2.2 実験手続き
後は,訓練語の正答率が74.51%,非訓
被験者と担任教員に対して検査の内
容と目的を文書および実際の呈示画面
練語が67.31%であった.実験1ヶ月後は,
にて,十分に説明し同意を得た.その後,
訓練語の正答率が32.08%,非訓練語が
実験手順の教示を行った.被験者は,A
24.00%であった.実験後および実験1
とBの2グループに分けそれぞれ一斉に
ヶ月後ともに非訓練語より訓練語の正
行った.使用した漢字は,授業で学習し
答率が高かった.
ていない漢字を無差別に4文字選択し行
った.画数はすべて同じにした.試行手
順は,漢字1文字を呈示し,その後に読
み方,使用例を教示した.さらに筆順を
動画で呈示し空書をしながら口頭で説
明した.対象者に同様に再現させ,筆順
を記憶しているか確認をした.訓練語お
よび非訓練後の試行手順は,実験1と同
様であった.この訓練を繰り返して,合
計4試行を行わせた.実験後および1ヶ月
後に書字を行い,正答率を評価した.
図2 LD児の結果
C.研究結果
1.
LD児の結果
本事例(LD児・男児9才)の実験前後
の評価における正答率の変化を,図2に
示した.実験前は,訓練語と非訓練語と
もに正答率が0%であった.非訓練語は,
実験直後,未学習文字は0%,既学習文
字は66.67%の正答率であった.2ヶ月後
の記憶所持測定の結果は,未学習文字と
既学習文字ともに正答率が0%であった.
一方,訓練語は実験直後,2ヵ月後の記
図3
― 153 ―
一般の児童
では,学習効果に差がなかった.一般の
D.考察
本研究では,学習障害児の視覚的な認
児童の教材として活用することができ
る可能性が示唆された.
知特性を活用した漢字書字の訓練方法
今後は,本手法を教育や医療現場で活
を考案し,学習障害児に分割・再構成法
と視写法の訓練を行わせ,その効果につ
用できるよう指導方法の検討を行いた
いて比較した.さらに,一般の児童にも
いと考えている.
本手法を適用し,一般性の検討を行った.
実験1のLD児の結果は,分割・再構成
参考文献
池下(山添) 花恵,河合 隆史,宮尾益
法を用いた短時間の訓練で習得した漢
字の記憶を長期的に保持することが可
知(2007)学習障害児における漢字
能であった.漢字学習においてコンピュ
書字の学習支援に関する検討.日本
ータ上における視覚的要素を含む学習
LD学会第16回大会発表論文集,
方法が有効であることを示した.
318-319
実験2の一般の児童の結果は,既存の
鶴巻 正子(2003)発達障害児における
手法より本手法の正答率が高く,学習効
書字行動の獲得 -漢字の上下の構
果に差がなかった.一般の児童において
成部分を組み合わせて-. 日本行動
も,個々の特性に応じた学習方法の選択
分析学会第21回年次大会発表論文集,
肢を提供する必要性がある可能性が示
45
唆された.コンピュータを漢字学習に取
り入れたことで,児童の学習意欲が向上
F.健康危険情報
特になし。
した可能性も推測される.
実験1と実験2の結果から,漢字の習
得は,漢字を字画ごとに細分割化したこ
G.研究発表
1.
とで,構造を把握するための情報量が多
論文発表
山添(池下) 花恵,河合隆史,宮尾
くなり,それぞれの字画の形状や構成す
る位置関係を認識しやすくなったと考
益知, 視覚的認知を利用した漢字書字
えられる.本研究で用いた漢字パズルの
訓練手法の開発ー学習障害児への適用
ような分割・再構成法を用いた教材は,
ー,日本教育工学会論文誌,32,Suppl,
LD児に限定することなく,漢字学習の新
pp.13-16,2008年12月
2. 学会発表
しい手法として提案することができる
なし
と考える.
H. 知的財産権の出願・登録状況
E.結論
特になし
コンピュータ上での漢字訓練が書字
能力を向上させる可能性が示唆された.
LD児は,本手法の訓練で習得した漢字を
長期的に保持することが明らかとなっ
た.一般の児童は,既存の手法と本手法
― 154 ―
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
新しいソーシャルスキル・トレーニングを含んだ治療法の開発
①通常学級における書字習得達成度に関する調査
分担研究者
辻井正次
中京大学現代社会学部
研究協力者
藤田知加子 浜松医科大学子どものこころの発達研究センター
研究要旨
本研究は,Fujita & Tsujii(2007)
,藤田(2007),辻井・藤田(2008)で得られ
た,小学校1年生および2年生を対象とした書字習得調査の結果が,経年によってい
かに変化するかを確認することを目的とした。また,1年次の書字習熟度が,2年次
のより高度な漢字熟語の習熟度に影響を及ぼすか否かを確認することを目的とした。
辻井・藤田(2008)を参考に,小学校1年生 922 名,小学校2年生 930 名に書字お
よび図形のなぞりがきなどの検査を実施した。その結果,通常学級において約 5%か
ら 6%の児童に書字困難が認められた。また,これらの結果を性別で比較すると,女
児よりも男児において,書字習得の程度が低いことが示された。これらの結果は,
Fujita & Tsujii(2007),辻井・藤田(2008)と整合的であった。すなわち,先行研究
が一過性の問題を扱ったのものではなく,通常学級内に,恒常的に約 6%程度の書字
困難児が存在することが明らかとなった。また,1 年次に実施された検査項目が,2
年次の漢字習熟度にどのように関連するのかについても見当を行った。
A.研究目的
わが国における児童の読み書き能力,
得られた書字習得の結果が,経年・発達
特に書字に関する大規模な調査報告の多
によっていかに変化するかを確認するこ
くは,実施されてから相当の年数がたっ
とを目的とする。また,1年次の書字習
ている(国立国語研究所,1956・1972;島
熟度が,2年次のより高度な漢字熟語の
村・三神,1994)
。この原因には,学校教
習熟度に影響を及ぼすか否かを確認する
育場面で簡便に使用でき,継続的調査を
ことを目的とする。
可能とする検査が確立されていないこと
が挙げられる。そこで Fujita & Tsujii
B.研究方法
(2007),辻井・藤田(2008)は,簡便な
調査参加者
書字習得調査を実施し,通常学級に所属
愛知県内の某市立小学校 8 校に在籍す
する児童の書字習得に関する検討を行な
る小学校1,2年生が調査に参加した。
った。本研究は,辻井・藤田(2008)で
具体的には,通常学級に所属する小学校
― 155 ―
1年生 922 名(男子 463 名,
女子 459 名)
,
辻井・藤田(2008)で報告した調査で用
小学校2年生 930 名(男子 484 名,女子
いられた項目と同一のものであった。2
446 名)であった。
年生への調査内容は,前述の 18 単語に対
また,2008 年度に調査に参加した小学
するひらがなでの書字,同 18 単語に対す
校2年生のうち,861 名は 2007 年度に実
るカタカナでの書字,1年次に学習済み
施された調査(辻井・藤田,2007)にお
である 14 語の漢字(および漢字熟語,計
いて,1 年生次に調査に参加していた。
16 字)の書字,7 種の単純図形のなぞり
がきおよび視写で構成された。これらの
項目のうち,漢字熟語に関する設問の 1
(倫理面への配慮)
問(辻井・藤田(2008)では男と解答す
該当なし
べき設問を,本調査では音と解答すべき
設問に変更)と単純図形のなぞりがきお
材料および課題
材料の選定は,辻井・藤田(2008)を
よび視写で使用した図形を 7 種類に削減
参考に行い,ほぼ同一の材料を使用した。
したことを除いて,すべて同一のもので
具体的には,Fujita & Tsujii(2007)を
あった。
参考に,書字の正答率が低い清・濁音 44
文字と拗音の一部が選出された。これら
手続
の文字を用いて,小学校低学年児童にと
調査は,各学級を担任する教諭によっ
って親近性が高いと思われる具体語 18 語
て,一斉に実施された。全調査用紙への
(53 文字)が選択された。これら 18 語中,
回答は 30 分から 45 分程度の範囲内で実
2 語は Fujita & Tsujii(2007)と同一で
施された。
あったが,16 語は異なる語を用いた。こ
れは,Fujita & Tsujii(2007)で,語そ
実施時期
1年生は,ひらがなの指導が終了した
のものへの誤答および未回答が多くみと
められた語を除外したこと,検査の対象
9月に,2年生は7月に実施した。
とする文字数を削減したことによって,
同一の語を用いることが不可能であった
C.研究結果
ことによる。1年生への調査内容は,字
調査の採点は,言語聴覚士と大学院生
形の類似した文字列群の中からイラスト
の6名によって行われ,最終的な評価の
に相当する文字列を四者択一で選択する
統一は,研究協力者(藤田知加子)によ
課題 4 問,前述の 18 単語に対するひらが
って行われた。
なでの書字,7 種の単純図形のなぞりがき
本報告では,実施した調査のうち,文
および視写で構成された。1 年生に対する
字の書き取り課題の結果のみを報告対象
調査項目として作成されたこれらの項目
とする。
は,単純図形のなぞりがきおよび視写で
各学年の,書字課題に対する平均通過
使用した図形を 7 種類に削減した他は,
率(正答率)と標準偏差を表1に示す。
― 156 ―
表中において,辻井・藤田 (2008)の結果
1年次の成績による2年次の成績予測に
は Grade 1(2007)および Grade 2(2007)と
関する分析:
して示し,本調査の結果は,Grade 1(2008)
次に,1 年次の書字検査の各成績が2年
および Grade 2(2008)として示した。ただ
次の漢字熟語の書字成績を予測しうるか
し,本調査のうち,2年生に対するカタ
否かを明らかにするため,パス解析を用
カナ項目の結果については,調査不備(実
いて分析した。その際,1年次に実施し
施教諭の指示間違いにより,ひらがな表
た,図形のなぞりがき,視写,ひらがな
記を解答)により 27 名分は,分析の対象
の書字,字形選択課題の各成績を説明変
から除外した。したがって,カタカナ項
数とし,2年次の漢字熟語の書字成績を
目に関しては,総参加者数が 903 名とな
目的変数とした。この分析には,本調査
った。
に参加した2年生のうち,解答に不備が
本調査の結果より,辻井・藤田(2008)
あった 27 名と,1 年次に書字の検査を受
と同様,通常学級に通級する児童におい
けていない 42 名との計 69 名を分析から
て,書字に困難を示す児童がいることが
除外した 861 名を対象とした。
把握された。すなわち,課題ごとの平均正
各変数間の相関係数を表3に,重相関
答率から標準偏差の2倍を減じた値より
係数,パス係数(標準偏回帰係数)を図
も低い得点を示した児童は,1年次のひ
1に示す。なお,パス図には,有意が認
らがな書字課題において全体の 5.4%,2
められるパスのみを記入した。
年次のひらがな書字課題において 4.6%,
分析の結果,1 年次に実施した図形のな
カタカナ書字課題において 6.6%,漢字書
ぞりがきおよび図形の視写から,それぞ
字課題において 5.4%存在することが確
れ 1 年次のひらがな習熟度およびひらが
認された。
な字形選択問題の成績への正のパスが認
められた。また,2年次の漢字習熟度に
性差の分析:
は,1 年次のひらがな習熟度および字形選
以下の分析のうち,2年生の分析に関
択問題の成績から正のパスが認められた。
しては,上述の 27 名を除外し,男子 470
名,女子 433 名を対象として行った。
D.考察
各課題の平均正答率を性別ごとに算出
本研究の結果,辻井・藤田(2008)と
し,t 検定を行ったところ,いずれの学
同様に,一定の割合で書字に困難を持つ
年,課題においても男子よりも女子の成
児童が通常学級内に存在することが示さ
績が有意に高かった(1 年ひらがな: t
れた。すなわち,先行研究が一過性の問
(920)= 4.53, 2 年生ひら がな : t (901)=
題を扱ったのものではなく,通常学級内
4.44,2年生カタカナ:t (901)= 4.27,2
に,恒常的に約6%程度の書字困難児が
年生漢字:t (901)= 3.62,すべて5%水
存在することが明らかとなった。加えて,
また,パス解析の結果より,単純な図
準)
。各課題の性別ごとの平均得点を表2に
示す。
形のなぞりがきや視写の不得意が,ひら
― 157 ―
がなの学習に影響を与えている可能性が
G.研究発表
なし
示された。視写のみならず,図形のなぞ
りがきとひらがなの習熟度とにも正のパ
H.知的財産権の出願・登録状況
なし
スが認められたことは,書字困難の背景
に,図形の認知の問題だけではなく,運
筆などの運動の問題もあることを示唆し
引用文献
ている。本研究で用いられたような単純
Chikako Fujita and Masatsugu Tsujii
な図形ですら,鉛筆を用いたなぞりがき
2007
が十分に行えない児童にとって,通常行
acquisition
われる書字指導はハードルの高いものと
characters
なっている可能性が高い。書字学習の早
children in ordinary class in Japanese
い段階で,図形の認知や運筆に問題がな
elementary schools. Proceeding of the
いかどうかを確認し,それら基礎的な訓
second Riken brain science institute
練を学級内で行うことが必要であろう。
and Oxford-Kobe joint international
さらに,1 年次のひらがな習熟度の成績
Investigation of degree of
of
and
Japanese
Kana
Kanji
letters
for
symposium, 54-55.
から2年次の漢字習熟度への正のパスが
藤田知加子 2007 通常学級における書
認められたことから,1 年次のひらがな習
字習得達成度に関する調査 -書字困難
熟度によって2年次の漢字習熟度が予測
児の実数把握のために- 日本教育心理
されると考えられる。
学会第 49 回総会発表論文集,495.
ひらがなの学習に困難さを示す児童の
国立国語研究所 1956 小学校低学年の
場合には,その後に控えている漢字学習
読み書き能力 秀英出版
にも特別の配慮が必要であることを指導
国立国語研究所 1972 幼児の読み書き
者は意識する必要があろう。
能力 東京書籍
島村直己・三神廣子 1994
幼児のひら
がなの習得 -国立国語研究所の 1967 年
E.結論
通常学級内に,恒常的に約 6%程度の書
の調査と比較して- 教育心理学研究,
字困難児が存在することが明らかとなっ
42,70-76.
た。また,単純な図形のなぞりがきや視
辻井正次・藤田知加子 2008
写の不得意が,ひらがなの学習に影響を
における書字習得達成度に関する調査
与えている可能性が示された。さらに,1
厚生労働科学研究費補助金(こころの健
年次のひらがな習熟度から2年次の漢字
康科学研究事業) 発達障害者の新しい
習熟度が予測されることが示された。
診断・治療法の開発に関する研究 平成
通常学級
19 年度総括・分担研究報告書,143-145.
F.健康危機情報
なし
― 158 ―
表1
学年毎の書字課題の平均正答率と標準偏差
Grade
1
( 2007 )
N=947
Hiragana
Grade 1
( 2008 )
N=922
Hiragana
Hiragana
Katakana
Kanji
Hiragana
Katakana
Kanji
Mean (%)
93.4
84.5
94.6
81.4
82.0
92.1
83.3
85.2
SD
10.8
14.7
9.4
21.9
17.4
10.6
22.0
15.9
Number of under
M-2SD
46
50
33
44
48
43
61
50
Grade 2(2007)
N=806
Grade 2(2008)
N=930
表2 性別ごとの書字課題の平均正答率
Grade 1
表3
Grade 2
Hiragana
Hiragana
Katakana
Kanji
Male
82.3
90.9
80.3
83.9
Female
86.7
93.8
86.5
87.6
各変数の相関係数(n = 861)
図形なぞりがき
図形視写
字形選択
ひらがな
図形なぞりがき
-
図形視写
0.59
**
-
字形選択
0.29
**
0.28
**
-
ひらがな
0.35
**
0.40
**
0.50
**
-
漢字
0.26
**
0.28
**
0.34
**
0.49
漢字
**
-
** p < .01
.18
**
1年次ひらがな
習熟度
(R = .42)
図形なぞりがき
図形視写
**
.40 **
.30 **
2年次漢字
習熟度
.19 **
.17 **
.11
字形選択
(R = .32)
**
(R = .51)
**
** p < .01
図1 1年次の書字検査各項目の習熟度と2年次の漢字習熟度との関係
― 159 ―
**
― 160 ―
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者 奥山眞紀子)
分担研究報告書
新しいソーシャルスキル・トレーニングを含んだ治療法の開発
②広汎性発達障害に対する「困った」場面での対処スキル獲得のための
プログラム開発の試み
分担研究者
辻井正次 中京大学現代社会学部教授
研究協力者
神谷美里 子どものこころの発達研究センター特任助教
吉橋由香 子どものこころの発達研究センター特任助教
宮地泰士 子どものこころの発達研究センター特任助教
野村香代 子どものこころの発達研究センター特任助教
研究要旨
「困る」についての概念的理解と体験的理解、対処スキルの獲得を主たる目的とした
プログラムを作成し、広汎性発達障害児に実施してその効果を検討した。作成に際して
は、試作プログラムを実施し、その課題を踏まえて最終プログラムを作成、実施した。
結果、参加児本人および、保護者から得られた評定から、プログラムの一定の効果は認
められた。しかし、その効果は継続的なものとはいえず、今後プログラムを再構成して
いく必要性が示唆された。
ける対処スキル獲得を目指したプログラ
A.研究目的
広汎性発達障害(以下、PDD と記す)の
ムの開発、およびその効果を検討する。
PDD 児の場合、「困ったとき」つまり、
支援を進めるに当たっては、さまざまな
スキル・トレーニングを子どもの発達や
「どうしていいかわからなくなったと
課題に応じて提供していくことが望まれ
き」には、固まってしまったり、パニッ
る(辻井,2007)。子どもの発達や課題に
クになったりといったことが起こりがち
応じたトレーニングを提供するに当たっ
である。この背景には、彼らの状況認知
ては、さまざまなトレーニングプログラ
の弱さやコミュニケーションの苦手さが
ムを開発し、適切な時期に速やかに実施
あるといえよう。しかし、「困ったとき」
できるようにしておく必要がある。今回
に「固まる」
「パニックになる」というこ
はそのひとつとして、
「困った」場面にお
とを繰り返すことによって、その場で身
― 161 ―
につけるべきスキルの獲得が進まない上
加者のうち 2 名は、試作プログラムにも
に、
「困った」ままの状態が長い時間続け
参加している。
ば、混乱状態に陥ってしまう。そこで今
回、
「困る」という状況の理解とその対処
-3.プログラムの実施
スキル獲得を目指したプログラムの開発
試作プログラムの実施は、アスペ・エ
ルデの会が主催する 4 泊 5 日の「日間賀
を進めることとした。
島合宿」にて、1 セッション 2 時間程度で
3 日間おこなった。最終プログラムは、1
B.研究方法
-1.プログラムの作成
~2 週間に 1 回のペースで、1 セッション
まず始めに、試作プログラムを作成し
1 時間程度で 3 回おこなった。
プログラムの進行は専門家が数名でお
て PDD 児に実施し、その結果から最終的
なプログラム開発へつなげることとした。 こない、その進行のもと、参加児はワー
これまで我々は、
「怒りのコントロール
クブックへ記入や記入内容の発表をおこ
プログラム(吉橋ら,2007)
」
「不安のコン
なった。なお、参加児には原則 1 名の補
トロールプログラム(神谷ら,2007)
」
「
感
助スタッフがつき、児の理解を促進する
情理解プログラム(宮地ら,2008)」とい
ように努めた。
った支援プログラムの開発を進めてきた。
こうしたプログラムの構成や実施方法を
(倫理面への配慮)
プログラム実施にあたっては、守秘義
参考にしながら、専門家数名が試作プロ
務をもつ専門家がおこなった。また、プ
グラムを作成した。
今回のプログラムは、3 セッションで構
ログラム効果の分析の際には、個人が特
成し、
「困る」についての概念的理解と体
定される情報を対象とせずに、プログラ
験的理解、対処スキルの獲得を主たる目
ム前後の評定の数値、およびワークブッ
的とした。これらの目的に応じて、自己
クに記入された内容のみを分析の対象と
記入式のワークブックを作成し、それを
した。
もとにプログラムを進行することとした。
C.研究結果
-1.試行プログラム
-2.対象
特定非営利活動法人アスペ・エルデの
1)効果の検討
会に所属する PDD 児を対象とした。試作
試行プログラムの概要は、表 1 に示し
プログラム参加児は、小学 2 年生 6 名、
た。プログラムの効果を検討するにあた
小学 4 年生 3 名、小学 5 年生 3 名の計 12
り、表 2 に示した評価項目をプログラム
名(男子 9 名、女子 3 名)であった。
開始前と後の参加児の様子について、補
最終プログラム参加者は、小学 2 年生 3
助スタッフに回答を求めた。回答方法は、
名、4 年生 2 名の計 5 名(男 4 名、女 1
「しらない(できない)」
、
「少し知ってい
名)であった。なお、最終プログラム参
る(少しできる)」
、
「知っている(できる)」
、
― 162 ―
かに言う”スキル以外の対処スキルの獲
「不明」の 4 件法であった。
得に課題が残ったといえる。
2)結果と考察
-2.最終プログラム
試行プログラムへの参加児は 12 名であ
ったが、1名分の評価項目に欠損値があ
1)プログラムの内容
ったため、分析は 11 名分についておこな
試行プログラムでの課題をもとに、最
った。結果は表 2 に示した。分析に際し
終プログラムの作成をおこなった。プロ
ては、それぞれの評価項目について「変
グラムの概要は表 3 に示すとおりである。
化あり」「変化なし」
「不明」の 3 カテゴ
試行プログラムでの課題は、自分が「困
リーに含まれる人数を算出した。なお、
る」場面や困った場合に自分がどうなる
「変化あり」とはつまり、当該の評価項
のかという体験的な理解と、困った場面
目についてプログラム後に理解が深まっ
で“誰かに言う”以外の対処スキルの獲
た、
「変化なし」はプログラム前後で明確
得が困難であった点である。そこで、最
な変化がなかった、
「不明」は補助スタッ
終プログラムでは、
「困ったこと日記」を
フが同席する場面では評価が困難であっ
宿題として課すこととした。これは、そ
た場合を指す。
の日に「困ったこと」があったかなかっ
表 2 から、
“①「困る」ということがど
たか、あったとしたらどんなことだった
ういうことか知っている”、“⑤困ったと
かをふり返る日記である。セッション中
き、誰かに言うことができる”という評
でも、
「困ったこと日記」からエピソード
価項目では、半数以上の参加児が「変化
を抜き出したり、エピソードをもとに対
あり」という結果であった。つまり、
「困
処方法を考えたりと、自分がどんなとき
る」ということの概念的な理解や、誰か
に困り、どうしたらいいか考えられるよ
に言うという対処スキルの獲得は促され
うな構成とした。
ていたことがわかる。一方で、その他の
また、試作プログラムでは、
「困ったと
評定項目では、半数以上が「変化なし」
きに誰かに言う」ということを中心的な
という結果であった。つまり、
“②自分が
スキルとしてあつかったが、最終プログ
どういうときに困るかわかる”、“④自分
ラムでは「誰かに言う」以外の各児にあ
が困った時どうなるか分かっている”に
った対処スキルの獲得を目指し、自分自
変化が認められなかったことから、自分
身が「困った」場面でどうすればよかっ
が「困る」場面や困った場合に自分がど
たのかについて考える作業をおこなった。
うなるのかということの理解、つまり体
験的な理解には課題が残ったといえる。
2)効果の検討
さらに、
“③困ったとき、どうすればいい
試作プログラムと同様の評定項目を用
かわかる”、“⑥困ったとき、周りを見て
いた。参加児本人には、プログラム開始
行動することができる”に変化が認めら
前と終了時、1 週間後の計 3 回、保護者に
れなかったことから、
「困った」場面で“誰
プログラム開始前と終了後1週間の2回
― 163 ―
回答を依頼した。回答方法は、
「しらない
プログラムで得た理解を継続させるとい
(できない)
」
、
「少し知っている(少しで
う面での課題が残ったといえる。なお、1
きる)」、「知っている(できる)
」の 3 件
週間後の評定については 1 名に欠損値が
法とした。さらに保護者には、プログラ
あったため、4 名の結果について集計して
ム開始前と終了後 1 週間の時点で、参加
ある。
児が困った場面でどのような行動をし、
続いて、保護者の評定について検討を
どう対処していたか、終了後 1 週間で対
進める。結果を表 5 に示す。保護者の評
処方法について変化があったか記述して
定についても 1 名に欠損値があったため、
もらった。回答は、「変化があった」「少
4 名の結果について集計した。表に示す結
しあった」
「なかった」の 3 件法とし、変
果から、全ての評価項目において明確な
化が少しでもあった場合は、具体的にど
効果は認められなかった。一方、困った
のような変化だったか記述してもらった。 場面での行動や対処について、プログラ
ム前と 1 週間後で何らかの変化があった
か回答を求めたところ、3 名が「少しあっ
3)結果と考察
まず、参加児本人の評定から分析をす
た」という回答であった。具体的には、
「困
すめる。結果を表 4 に示す。分析に際し
ったことがわかるようになった、自分で
ては各評定項目の得点を「上昇」
、つまり
進んで日記を書いていた」、「日記があっ
理解が深まる方向へ評価項目の得点が変
たので、1 日をふり返ることができ、どう
化した、「なし」、つまりプログラム前後
すればよかったか話すことができた」、
では得点の変化は認められなかった、
「下
「(日記を書きながら)困ったことの意味
降」、つまりプログラム後に理解が弱まっ
がわかった、困ったことがあったら言い
た、という3つのカテゴリーに分類した。
にいくことを意識するようになった」と
結果、
“③困ったとき、どうすればいいか
いう変化であった。これらは、
「日記」を
わかる”、“⑥困ったとき、周りを見て行
書くという作業が保護者と参加児と「困
動することができる”の評価項目では、
った」場面のふり返りをする機会となり、
「上昇」した児が多かった。困った場面
「困る」ということの概念的・体験的理
での対処スキルの獲得が進んだことが示
解を促進する結果となっていたことを示
唆される。その他の項目では、変化のな
唆するものといえる。
以上の結果から、プログラム時の参加
かった児がむしろ多い結果となった。つ
まり、最終プログラムにおいては、
「困る」
児の反応も含めて、本プログラムの効果
ということの概念的・体験的理解につい
を検討していく。まず、参加児本人の評
ては課題が残る結果となった。
定結果からは、プログラム後には「困っ
さらに、参加児の 1 週間後の評定につ
た」場面での対処スキルの獲得が進んだ
いてみていくと、項目全体を通して、プ
ことが示唆された。ただし、この理解は 1
ログラム前と比較して変化がなかった、
週間後までは継続せず、保護者評定にお
あるいはむしろ下降した児が多かった。
いても変化は認められていない。プログ
― 164 ―
ラム終了時の評定であったという点から
を経て、最終プログラムを作成、実施し
推察するに、プログラム中に呈示される
て、その効果を検討した。ここでは、効
紙芝居や劇をみて、その主人公がどうす
果と今後の課題について考察する。
ればいいかについて考え、回答すること
試作プログラムでは、
「困る」ことの体験
ができたという体験が対処スキルの理解
的理解と、困った場面で“誰かに言う”
へとつながったものと思われる。つまり、
以外の対処スキルの獲得が困難であった
「困った」場面について考える機会を呈
ことが課題であった。そこで、最終プロ
示されたことによって理解を深めたとも
グラムでは、
「日記」を導入して体験的理
考えられる。1 週間後の評定時には、宿題
解と自分なりの対処スキル獲得が進むよ
の日記も終了していたため、
「困る」こと
うな構成とした。結果、プログラム終了
を考える機会がなくなっていたともいえ、 時においては対処スキルの理解が進んだ
それが対処スキルの理解を継続できなか
と参加児本人たちは評価し、また体験的
った要因とも考えられる。
理解については保護者からその効果が報
次に、
「困る」ということの概念的・体
告された。ここから、本プログラムにつ
験的理解についてであるが、これについ
いて一定の効果があったことが示唆され
ては本人・保護者とも評定項目の得点変
る。しかし、これは継続的な効果とはな
化からはプログラムの効果が認められな
らなかった。プログラムで得た理解をど
かった。しかし、プログラム前後の変化
のようにして継続させていくかが、今後
についての保護者による回答からは、
「日
の大きな課題といえよう。今回のプログ
記」を書く作業を通して、
「困る」ことへ
ラムは3回で構成したため、「困る」こと
の理解が進んだことが示唆された。これ
について考える機会や「日記」を書いて
は、体験的な理解が促進されたことを示
自分をふり返る作業をする期間が短かっ
しているといえる。ここから、自分がど
たともいえる。プログラムの効果をさら
ういう場面で「困る」のか知るためには、
に高めるためには、吉橋ら(2008)
、神
谷
ワークブックで例示される紙芝居や劇を
ら(2007)
、宮地ら(2008)同様、5回の
見るのみではなく、実際の体験として「困
セッションで再構成し、参加児の理解を
った」場面を想起する必要があることが
定着化させるプログラムとしていくこと
わかる。場面の想起を継続していくこと
が必要だと考えられる。
によって、
「困る」ことの概念的・体験的
理解がより促進されていくと考えられる。 E.結論
「困る」についての概念的理解と体験
的理解、対処スキルの獲得を主たる目的
D.考察
本報告では、
「困る」についての概念的
としたプログラムを作成し、広汎性発達
理解と体験的理解、対処スキルの獲得を
障害児に実施してその効果を検討した。
主たる目的としたプログラムを開発し、
作成に際しては、試作プログラムを実施
PDD 児へ実施した。試作プログラムの実施
し、その課題を踏まえて最終プログラム
― 165 ―
を作成、実施した。結果、参加児本人お
Autism Research) ,2008
よび、保護者から得られた評定から、プ
3)宮地泰士・神谷美里・吉橋由香・
ログラムの一定の効果は認められた。し
野村香代・辻井正次:広汎性発達障害児
かし、その効果は継続的なものとはいえ
とその周辺への診断告知状況調査.第 99
ず、今後プログラムを再構成していく必
回小児精神神経学会,2008
4)吉橋由香・神谷美里・宮地泰士・
要性が示唆された。
野村香代・辻井正次:広汎性発達障害の
自己感情に関する研究(1)表情に関する
F.健康危険情報
考察.第 99 回小児精神神経学会,2008
特になし
5)Yuka Yoshihashi, Misato Kamiya&
Taishi Muyachi et al:Do children with
G.研究発表
1.
autism
論文発表
1)宮地泰士・神谷美里・吉橋由香・
spectrum
recognize
disorder
his/her
own
(ASD)
facial
野村香代・辻井正次:高機能広汎性発達
expression appropriately? A survey of
障害児を対象とした「感情理解」プログ
school-aged children with ASD in Japan
ラム作成の試み.小児の精神と神経 48(4), (II) .IMFAR( International Meeting for
Autism Research) ,2008
367-372,2008
2)吉橋由香・神谷美里・宮地泰士・
永田雅子・辻井正次:高機能広汎性発達
H.知的財産権の出願・登録状況(予定
障害児を対象とした「怒りのコントロー
も含む)
ル」プログラム作成の試み.小児の精神
1. 特許取得
特になし
と神経 48(1),59-69,2008
2. 実用新案登録
2.
特になし
学会発表
1)神谷美里・吉橋由香・宮地泰士・
3. その他
野村香代・辻井正次:広汎性発達障害の
特になし
自己感情に関する研究(2)言語的理解に
関する考察.第 99 回小児精神神経学会,
2008
2)Misato Kamiya, Yuka Yoshihashi
&Taishi Muyachi et al:Do children with
autism
spectrum
disorder
(ASD)
recognize and describe his/her own
emotions appropriately? A survey of
school-aged children with ASD in Japan
(I).IMFAR( International Meeting for
― 166 ―
表1 試行プログラムの概要
回数
セッションの目的
内容
1 「困る」についての概念的理解
・「困る」とはどういうことか考える。
・「困る」と表情や気持ちがどうなるか、考える。
・紙芝居の話を聞いて、なぜ困っていたか、困っ
たときはどうすればいいか考える。
2 「困る」についての体験的理解
・自分自身はどんなときに「困る」のか、選択肢
から選ぶ。さらに、自由記述でも記入。
・自分自身は困ったときにどうなるか考える。例
題に答えた後、自分の場合について自由記述
で記入。
・自分が困った際には、どうすればいいか記述。
3 困ったときの対処スキルの獲得
・困った場面で、何をすればいいか、何を言えば
いいのか考える。
・「困る」場面を設定し、困っていることを伝える
練習のためのロールプレイ。
表2 試行プログラムスタッフ評定
プログラム前後の変化
評価項目
①「困る」ということがどういうことか知っている
②自分がどういうときに困るかわかる
③困ったとき、どうすればいいかわかる
④自分が困った時どうなるか分かっている
⑤困ったとき、誰かに言うことができる
⑥困ったとき、周りを見て行動することができる
あり
7
4
4
4
6
2
なし
3
6
7
7
2
7
不明
1
1
0
0
3
2
(単位:人/11人中の該当者数)
― 167 ―
表3 最終プログラム概要
内容
宿題
1 「困る」についての概念的理解
・紙芝居の話を聞いて、主人公がどのような状
態にあるのか考える。
・「困る」とはどういうことか呈示、理解を促す。
・たとえば、どんなときに「困る」のか、選択肢の
中から選ぶ。
「困ったこと日
記」
・毎日の困ったこ
とを書く日記
2 「困る」についての体験的理解
・自分自身はどんなときに「困る」のか、「困った
こと日記」を見ながら記述。さらに、自由記述で
も記入。
・ロールプレイを見て、主人公が困ったときにど
うなっているか声や体の変化について、考える。
自分の場合はどうなるかも記述。
「困ったこと日
記」
・毎日の困ったこ
と、困ったときに
どうなったか書く
日記
回数
セッションの目的
・紙芝居の話を聞いて、困った場面で主人公が
どうすればいいか、考える。
3 困ったときの対処スキルの獲得
・「困ったこと日記」のなかかに、自分が困った場
面を選択し、どうすると良かったか考える。
表4 最終プログラムの本人評定
評価項目
プログラム前後の変化
上昇
①「困る」ということがどういうことか知っている
1
②自分がどういうときに困るかわかる
1
③困ったとき、どうすればいいかわかる
4
④自分が困った時どうなるか分かっている
2
⑤困ったとき、誰かに言うことができる
2
⑥困ったとき、周りを見て行動することができる 3
なし
3
2
1
2
3
1
プログラム前と1週間後の変化
下降 上昇
1
0
2
1
0
0
1
0
0
0
1
1
なし
2
1
2
2
3
3
下降
2
2
2
2
1
0
(単位:人)
― 168 ―
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者
奥山眞紀子)
分担研究報告書
新しいソーシャルスキル・トレーニングを含んだ治療法の開発
③高機能広汎性発達障害児の完璧主義に対するプログラムの作成の試み
分担研究者
辻井正次
中京大学
研究協力者
吉橋由香
子どものこころの発達研究センター特任助教
林
名古屋大学大学院
教育発達科学研究科
名古屋大学大学院
教育発達科学研究科
陽子
田倉さやか
現代社会学部教授
研究要旨
完璧主義で困ることがある高機能広汎性発達障害児(以下,PDD)を対象に,認知行
動療法的な形式のプログラムを作成し,その有用性を検討した.実施した結果,プロ
グラムの効果は認知の変容と日常生活への汎化としてみられ,プログラムは有効であ
ることが示唆された.なお,効果がみられにくかった児童も存在したため,内容の改
訂と個人のニーズに合わせた形での実施が可能になるようプログラムの充実を図って
いくことが今後の課題である.
A.研究目的
広汎性発達障害(以下,PDD と記す)
は,社会性の障害,コミュニケーション
の障害,イマジネーションの障害(こだ
わり行動)を中核症状として示す.
知的な遅れのない高機能児に良く見ら
れるこだわりのひとつに,
「1 番になるこ
と」「最後までしっかり頑張ること」
「ミ
スなく完璧に完成させること」といった
完璧主義的なものがある.イマジネーシ
ョンの障害(こだわり行動)への対応の
基本は,これを無くすのではなく,より
適応的な行動(表現)や内容として活用
していくことであるが,完璧主義的なこ
だわりには,適応的といえる面と,支援
が必要となる面の両面が存在する.
まず,本人が目標と達成感をもちやす
いという面,まじめさや作業の正確さと
いった,適応的な行動として評価される
面は,完璧主義的なこだわりの良い面で
ある.一方,時に他者の行動が完璧でな
いことに対する許せなさ・融通の利かな
さとして現れることがある面,場合によ
ってはうまく力が抜けずに心身ともに負
荷をかけすぎてしまったり,思った通り
にいかなかった場合に不安に陥ったりと,
本人の苦しさにつながることがある面に
ついては不適応的側面であり,支援が必
要である.
不適応的な完璧主義的思考は,近年盛
んに行われるようになってきた認知(行
動)療法における歪んだ認知の特徴の一
― 169 ―
隔週で 1 回 45 分ずつ 4 セッションに渡り
行う形式(以下,4 セッションバージョ
ン)に分けて実施した.
3 セッションバージョンの対象は,児
童 1 から7,4 セッションバージョンの
対象は児童 8 から 13 であった.
4 セッションバージョンの場合,毎回
宿題と日記を行い,日常生活への汎化を
促した.各セッションの内容を表2に示
B.研究方法
す.
-1.対象
また,毎回出させる宿題の日記では,
特定非営利活動法人アスペ・エルデの
普段の生活の中から良い感情の要因とな
会に所属する小学 2 年から中学1年まで
「完璧にできなくてだ
の高機能 PDD13 名(男児 11 名,女児 2 名) るものを探したり,
めだ 」と感じた出来事をまとめたりして,
に対し,プログラムを実施した.なお,
それがどのようにしておさまっていった
PDD 群は小児科医あるいは児童精神科医
のかを振り返った.
から DSM-Ⅳ-TR による診断を受けてお
自分の宿題や日記,回答については,
り,知能指数は 70 以上の児である.対象
発表の機会を設けた.これによって,人
児の内訳を表 1 に示す.
によって感じ方がいろいろであること,
いろいろな考え方のパターンがあること
-2.プログラム内容と実施
を理解するように促した.
① プログラムの概要
完璧主義的思考を変容させるためには, ②評価
プログラム実施前後での子どもの様子
自分の特徴を知り,思考のあり方と変容
の変化を調べるため,次の3つの調査を
の可能性を学習する必要がある.
行った.
したがって,プログラムの構成は,ま
まず,プログラムの開始時と終了後,
ずは自分の特徴をチェックし,例題を通
終了から1ヶ月後に Stallard,P.(2002)
して完璧主義を学習する段階からスター
の「誤った考え方のセルフチェックリス
トした.その後,
「自分の場合はどうする
ト」(17 項目 3 段階評定:17~51 点,高
か」を考える段階に入った.いずれの段
得点ほど不適応的な完璧主義的思考傾向
階も,PDD のイマジネーションの障害を
が高い)を記入してもらい,完全主義的
考慮し,具体的なエピソードを取り上げ
な思考の傾向と認知の変化をみた.
て行った.
また,保護者に対しても同時期に同じ
これらの内容は,プログラム用に作成
チェックリストで各児童の様子をチェッ
したワークブックを用いて進めた.プロ
グラムの進行は指導者1名(臨床心理士) クしてもらい,さらに児童の完璧主義的
な行動について自由記述のアンケート調
が行い,各児童には担当のボランティア
査を行った.
スタッフがついた.
(倫理面への配慮)
プログラムは,3 日間連続で 1 セッシ
浜松医科大学倫理委員会、および、当
ョン 2 時間ずつ短期集中して行う形式
事者団体であるNPO法人アスペ・エル
(以下,3 セッションバージョン),及び
つとしても取り上げられており,認知と
行動の変容によりより快適に過ごすこと
が可能であることが言われてきている.
よって,本研究では,認知行動療法的
な手法を用いた「完璧主義対応プログラ
ム」を作成し,高機能 PDD の児童を対象
として実際に実施してみることとする.
― 170 ―
デ の会の倫理委員会で、実施の承認を得
て実施した。研究への参加については、
当事者家族及び本人の意思を十分に尊重
し実施するなど、倫理的な側面に対する
最大限の配慮を行った。
C.研究結果
-1.セルフチェックリストの変化(図
1.2)
3 セッションバージョンについては,
プログラム開始時から終了時で得点が減
少した児童は 7 名中 5 名だった.さらに,
プログラム開始時から終了後 1 ヶ月後で
得点が減少した児童が 3 名,一方,得点
が増加した児童 3 名だった.
4 セッションバージョンについては,
プログラム開始時から終了時で得点が減
少した児童は6名中 5 名だった.この得
点が減少した 5 名は,終了時よりもプロ
グラム終了後 1 ヶ月に得点は増加するが,
開始時と比べると得点は減少したままで
あり,プログラムによって認知が変容し
た状態が維持されていることが分かった.
-2.保護者のチェックリストの変化
(図 3.4)
3 セッションバージョンについては,
プログラム開始時から終了時で得点が減
少したと評価した保護者は 5 名中4名だ
った.さらに,プログラム開始時から終
了後 1 ヶ月後で得点が減少した評価した
保護者は6名中5名だった.
4 セッションバージョンについては,
プログラム開始時から終了時で得点が減
少した評価した保護者は6名中 3 名だっ
た.さらに,プログラム開始時から終了
後 1 ヶ月後で得点が減少した評価した保
護者は6名中5名だった.
-3.保護者のアンケート内容
プログラムの実施効果が見られたと思
われる回答に,
「ネガティブな気分になっ
ても,切り替えるまでの時間が短くなっ
た」,
(児童 1,7,10,12)
「“まぁいい
か”と言う回数が増えた.
」
(児童 1,10,
12),
「自分で気持ちを切替えようするよ
うになった.
(切り替えて次の行動へ移る
ことができる)
」
(児
童 1,7),
「行動の明
らかな改善よりも,自分自身はこういう
タイプだ!と客観的に理解できたことが,
とてもプラスになったと思う.」
(児童 1)
などがあった.
一方,
「特に変化は見られない」という
回答もいくつか見られたため,プログラ
ムの改善が必要である.
D.考察
①不適応的思考の変容
セルフチェックリストの得点変化の結
果から,13 名中 8 名がプログラム終了後
1 ヶ月しても適応的な思考への変化が持
続していることが分かる.特に,4 セッ
ションバージョンの方がその傾向が強く,
この評価は保護者評価とも一致している.
よって,プログラムによって,適応的な
方向への認知的な変容が生じたといえる.
実施方法による違いがみられた要因と
して,4 セッションバージョンでは,日
記などを用い,日々の生活に根ざした形
でプログラムを進行できることが大きく
影響していると考えられる.
②日常場面への汎化
保護者のアンケートより,日常生活に
おいても,気分を切り替えることが早く
なり,適応的な行動への移行がスムーズ
になったことが伺われる.
ただし,
「日常場面でのストレスが多い
時期で,なかなか学んだことが実施でき
なかったため,今後活かしたい」という
声もあったため,汎化させるためには,
― 171 ―
実施のタイミングなども慎重に選んでい
くことが重要であることが分かった.
E.結論
結果から,認知行動療法的な形式によ
るプログラムは完璧主義的傾向を持つ
PDD 児の認知と行動の変容において有効
であることが明らかとなった.ただし,
短期間では効果が現れにくい児童もいた
ため,今後はより長期的な介入が必要な
児童に対する介入プログラムの開発など
を行っていくことが望まれる.
【参考文献】
Stallard,P. (2002). Think Good Feel Good: A Cognitive Behaviour
Therapy Workbook for Children and
Young
People.
West
Sussex
England:John Wiley & Sons.
(スタラードP.下山晴彦(監訳)
(2006)
:認知行動療法ワークブック
金剛出版)
F.健康危険情報
特になし
G.研究発表
1.論文発表
1)吉橋由香・藤田知加子・辻井正次:
広汎性発達障害児の感情の概念的理解と
自己の感情体験の統合に関する研究.中
京大学現代社会学部紀要,2(1),印刷中.
2.学会発表
1)吉橋由香・神谷美里・宮地泰士・野
村香代・辻井正次 広汎性発達障害の自
己感
情に関する研究(1)-表情に関する考察
-.第 99 回小児精神神経学会,2008.
H.知的財産権の出願・登録状況
― 172 ―
特になし
表1 対象者一覧
No
学年
性別
VIQ
PIQ
FIQ
1
小2
男
125
127
129
2
小2
女
85
80
94
3
小5
男
118
131
126
4
小5
男
71
106
86
5
小6
男
105
124
121
6
小6
男
121
108
117
7
中2
男
106
85
96
8
小5
男
133
127
133
9
小5
男
140
132
140
10
小5
男
111
79
96
11
小6
男
120
104
114
12
中1
女
97
75
85
13
中2
男
90
75
81
表2 プログラムの概要
3セッション 4セッション
バージョン バージョン
概要
セルフチェック
♯1
♯1
完璧主義とは?
まとめ
目的
宿題
質問紙を用い,「自分をだめだと思う考え方」「完璧主義」についてセルフ
チェックを行う
宿題①
一日をふり返って「良かったこと」
ショートストーリで具体例を挙げ,完璧主義とはどんなことを指すのか考える 「嫌だったこと」を書く
例①きちっとさんだからこそのいいところを考える/例②困ることを考える/例 その時にどんな気持ちになった
か,記載されている感情語(嬉し
③しっかりやるところと困っているところ,両方ががあるということに気づく
い,悲しい,自分はだめだ,など)
フローチャートを用い,完璧にできなかった場合にはまってしまうネガティブな に丸をつける
思考のループを解説する
♯2
ショートストーリで具体例を挙げ,完璧主義に特徴的なネガティブな思考つい
宿題②
て学ぶ
例①だめなところばかり見てしまう/例②100%でなければだめだと思い込む/ 宿題①に加え,「だめなところば
かり気になったことはなかった」と
例③だめだと思ったことはやろうとしない
いう質問に答える
あった人は具体的なエピソードを
ネガティブな思考のループにはまった どのように大変かを考え,はまってしまうと抜けにくいことに気づく/抜けると楽 記入する
場合について考える
になることを知る
♯3
どうすれば抜け出せるか?
具体例を挙げプロセスを学ぶ
宿題③
(「視点を変える」ということのガイダン
例①プロセスを見る/例②完璧に行かなかったことにより学ぶことがあることを 宿題①に加え,「嫌だったこと」が
ス)
知る/例③完璧に行かずに終わるのではなく,次のチャンスがあることを知る あった人はその後どのように気
持ちを切り替えたかという質問に
完璧主義的思考が生じても,考え方を変えるとポジティブに過ごしていけるこ 答える
まとめ
とを学ぶ
ネガティブな思考について学ぶ
♯2
自分について考えてみよう
♯3
♯4
視点を変える練習
まとめとセルフチェック
自分も完璧主義思考を持っているか?,ネガティブな思考のループにはまるこ
とはあるか(抜けると楽になれそうか?),完璧にいかなかった困ったエピソー
ドを取り上げ,その場合,困った面のほかに良い面もなかったか?について
考える
宿題④
宿題③と同様
視点を変える・考え方を変える練習/視点を変えるために役に立つキーワード 考え方を変える,気持ちを切り替
える練習を繰り返す
を探す
#1~3の学習内容の振り返りとまとめ及び#1と同じ質問紙でセルフチェック
を行う
― 173 ―
開始時
終了時
終了一ヶ月後
(点)
60
50
40
30
20
10
0
1
2
図1
3
4
児童No.
3 セッションバージョン
5
6
7
セルフチェック変化
(点)
50
開始時
終了時
終了一ヶ月後
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
8
9
10
11
12
児童No.
図2
4 セッションバージョン
― 174 ―
セルフチェック変化
13
(点)
60
開始時
終了時
終了一ヶ月後
50
40
30
20
10
0
1
2
3
4
5
6
児童No.
注)児童 5 のプログラム終了時のアンケート,児童 7 のすべてのアンケートは回収できなかった.
図3
3 セッションバージョン
保護者評価変化
(点)
60
開始時
終了時
終了一ヶ月後
50
40
30
20
10
0
8
9
10
11
児童No.
図4
4 セッションバージョン
― 175 ―
保護者評価変化
12
13
― 176 ―
厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
(主任研究者
奥山眞紀子)
分担研究報告書
教育現場で可能な発達障害の評価法および治療法の開発
分担研究者
井上雅彦
鳥取大学大学院医学系研究科教授
研究協力者
古谷奈央
兵庫教育大学
学校教育研究科
研究要旨
本研究では通常学級を含めた特別支援教育に携わる教師を対象にした行動問題に
対応力を高める効果的なトレーニングプログラムの開発を目的とし、地域的制限のな
いインターネットを利用したe-learningによる研修とコンサルテーションの効果を
検証しようとするものである。研究1では複数の本邦学会誌を対象に通常学級を含め
た特別支援教育における行動問題に関する4年間の実践研究のレビューと分析を行
い環境調整・および機能分析をベースにした応用行動分析学に基づくアプローチの有
効性が示された。研究2では、特別支援教育に携わる教師を対象にしたe-learningに
よる研修ニーズやアクセスするためのスキルについての調査研究を行った。研究3で
は昨年度の研究に引き続き、教師を対象にした問題行動に関するe-learningによる研
修プログラムを開発し、その効果を検討した。結果、事前・事後に行ったアンケート
の結果、KBPAC、効力感尺度およびCBCLの得点の改善がみられた。
研究1
学校教育の中での実践研究の分析とい
教育現場での効果的技法に関する文献研
う観点から、日本LD学会、日本特殊教
究
育学会、日本教育心理学会、日本発達心
A.研究目的
理学会、日本行動分析学会、日本行動療
特別支援教育の中でも行動問題につい
法学会の学会機関誌及びその発表論文集
ての対応ニーズは最も高いとされてい
を分析対象とし、学校現場で問題行動へ
る。本研究では、複数の本邦学会誌を分
の指導を行っているものを抽出選定し
析対象として教育現場の中で教師が実際
た。ただし専門機関で主に指導を行い学
に使用し効果を上げることが可能な技法
校での般化データを測定している論文や
について明らかにすることを目的とす
両方での指導を行っている論文も対象と
る。
した。評定者2名がペアとなり、対象と
なる学会誌及び発表論文集から上記の基
B.対象と方法
準で判断し、対象論文を抽出した。
1.調査対象
― 177 ―
指導技法の効果判定の基準は1-5の5
2.評定者
評定者は第一著者の他、大学院で発達
段階とし、5統計上有意な変化もしくは
障害児の臨床に関する専門教育を受け、
単一被験体法の使用の中での改善、4数
1年半以上の臨床指導経験を有し、複数
値上、エピソード上での改善など具体的
回の学会研究発表歴のある大学院修士課
に記述されている、3明確な結果は記載
程在籍の学生及び修了生であった。
していないが改善が記述されている、2
3.手続き
変化無し、1悪化の基準によって2名の
1)調査項目とその選定
評定者により分類した。
調査項目は、学校及び学級種、対象児
2)調査手続き
童生徒の障害種と程度、指導形式(個別
1論文につき評定者2名でペアとな
・小集団・学級全体・学校全体)、主た
り、調査項目を記載した調査用紙に記入
る指導の場(学校場面・専門機関・学校
した。アセスメントは行っているが指導
と専門機関の両方)指導にあたった人(人
していないもの、予防的アプローチとし
数とその立場・コンサルタントや加配の
て行っている社会的スキルトレニングや
有無)、問題行動の種類、指導技法、指
集団随伴性などは評定から除外した。
導の効果であった。
2)調査手続き
導の効果であった。指導技法の効果判定。
― 178 ―
3)倫理面での配慮
文献研究のため該当しない
研究2
C.結果
特別支援教育における e-learning 研修
総数148件の論文を抽出し分析し
た。年代別推移を Fig.1 に、主として通
に関する教師の意識
常学級で行われた技法を Fig.2 に、改善
がみられた通常学級での研究で使用され
A.目的
た技法を Fig.3 に示した。また「他傷他
問題行動の認知、及び e-learning に必
害」「自傷」「こだわり」「感覚過敏」
要なパソコンスキルに関する質問項目を
「奇声・大声」「逸脱」「不登校」など
作成し教師の意識調査を行うことでより
行動別にみた適用数と効果検討では「自
現場に即した e-learning 研修を行うた
傷」以外は環境調整の適用が最も多くそ
めの情報を得ることを目的とする。
の効果も示されていた。「自傷」に関し
ては分化強化、が最も多く、続いて機能
B.対象と方法
分析、FCT(機能的コミュニケーショ
1)調査日時
2008 年 1 月~6 月の期間に実施された。
ン訓練)、環境調整、視覚支援などが同
2)被調査者
数で続いていた。
関西及び関東地区の公立の現職教師
D.考察
444 名(男性:131 名,女性:301 名,未
これらのデータから実施しやすい技法は
記入:12 名)であった。年齢の内訳は 20
環境調整やトークンがあげられ、機能分
代が 52 名、30 代が 94 名、40 代が 131 名、
析、分化強化、トークン、環境調整、視
50 代が 139 名、未記入が 25 名であった。
覚支援など応用行動分析学や TEACHH な
教師経験年数の平均は 19 年(範囲:1~
どに基づいた技法の有効性が示唆され
39 年)であった。被調査者の内訳は Table
た。しかしながら、数値的データを測定
1 に示した。校種は、特別支援学校、小
して効果を証明している研究は少なく、
・中・高の通常学級、小・中の特別支援
その多くが記述によるものであり今後の
学級とする。
実践研究における課題となった。
― 179 ―
3)調査用紙
年齢ごとに回答の比率が異なるか否かに
調査用紙は、A3 用紙の裏表に印刷され
ついてχ2検定を行った。5 %水準で有意
ており、フェイスシートと 21 項目(2 件
であった項目についてはライアン法
法・4 件法・自由記述)の質問から構成さ
(ryan method)を用いて多重比較を行っ
れた。項目の内訳は、研修(3 項目 )、問
た。続いて、2 件法及び 4 件法で回答さ
題行 動(3 項目)、e ラーニング(7 項目)、
せた項目について校種と回答が互いに独
パソコンスキル(8 項目)であり、詳しい
立であるかについてχ2検定を行った。5 %
質問内容は Table 2 に示した。回答時間
水準で有意であった項目については前述
はおよそ 10 分程度のものであった。
と同じ処理を行った。
4)手続き
また複数回答項目については、各項目の
調査用紙は、関西地区で行われた特別支
選択肢それぞれについて校種別にチェッ
援教育に関する研修会、講演会に参加し
ク数からパーセンテージを算出した。
ていた現職教師に配布し、即日回収した。
6)倫理面での配慮
また関西及び関東地区の小学校に郵送に
すべて無記名によるニーズ調査であり、デ
より配布し、回収した。調査用紙は、1225
ータは統計的に処理されている。調査者には
部配布し、444 部回収できた。回収率は
書面による説明を行っている。
36 %であり、444 部のデータすべてが分
析の対象となった。
Table 1
被調査者の内訳(人数)
全体
性別 男性
女性
未記入
年齢 20代
30代
40代
50代
未記入
経験年数 1~10年
11~20年
21~30年
31~39年
未記入
通常学級 特別支援学校 特別支援学級
243
129
47
78
40
9
165
88
37
0
1
1
29
20
3
49
40
5
69
42
20
93
27
19
3
0
0
66
54
6
47
26
15
86
42
18
39
6
8
5
1
0
未記入
25
4
11
10
4
2
5
3
11
1
2
2
0
20
5)分析方法
分析は回答の方法が異なる項目別に以下
の方法で行った。基礎的なデータを得る
ために、2 件法及び 4 件法で回答させた
項目について被調査者全員の回答の比率
を示した。続いて、性別ごとにあるいは
― 180 ―
Table 2 質問項目の内容
研
修
問
題
行
動
e
l
e
a
r
n
i
n
g
パ
ソ
コ
ン
ス
キ
ル
1、特別支援教育についての研修に参加することをどのくらい負担に感じますか
(①とても負担に感じる ②少し負担に感じる ③あまり負担に感じない ④全く負担に感じない)
①と②に回答した方にお聞きします。どのようなことが負担に感じられますか(複数回答可)
□時間がとれないから □受けたいと思わないから □ゆっくり休む時間がほしいから
□開催の時期が悪いから □場所が遠いから □その他( )
2、全体的な印象として、今までの特別支援教育についての研修が現場にどのくらい活かせましたか (①とても活かせた ②少し活かせた ③あまり活かせなかった ④全く活かせなかった )
21、今後、子どもの困った行動への具体的な対応についてeラーニングを使った研修があれば、受けたいと思われますか 3、今までに授業場面における児童生徒の行動でお困りになられたことがありますか
「はい」と回答した方にお聞きします。それはどのような行動でしたか。過去の経験も含めてお答えください。(複数回答可)
□課題からの逸脱 □暴言 □暴力 □勝手な発言 □奇声 □ちょっかい □おしゃべり □離席(立ち歩き) □遅刻 □忘れ物が多い □指示が通らない □パニックやかんしゃくを起こす
□集中が続かない □こだわりが強い □切り替えが難しい □相手の気持ちを読み取ることが難しい □一方的なかかわり □過剰に反応する □その他( )
4、上記であげた児童生徒の困った行動に対して効果のある具体的な指導法について知りたいと思いますか
5、今までに応用行動分析又は機能(ABC)分析という言葉を聞いたことはありますか 6、これまでに「eラーニング(e-learning)」という言葉を聞いたことがありますか
7、eラーニングで研修が行われていることをご存知でしたか 8、今までにeラーニングで研修を受けられたことはありますか 9、eラーニングで研修を受けることに不安を感じますか 「はい」とお答えした方にお聞きします。どのようなことが不安ですか(複数回答可)
□忙しくて時間がないから □続かなさそうだから □パソコンの操作が難しそうだから □逆に仕事が増えそうだから □ゆっくりする時間が減りそうだから □その他( )
10、ご家庭でeラーニング研修を受けられるとしたら、参加することができそうですか 11、ご家庭でeラーニング研修を受けられた場合、研修内容がよければ興味のありそうな先生などに伝えようと思われますか
「はい」とお答えした方にお聞きします。それはどのような場であればできそうですか(複数回答可)
□特別支援教育に関わる研究会 □長期休暇など時間に余裕があるとき □日常の時間の空いたとき
□特別支援教育に関わる研修会 □校内研修 □その他( ) 12、パソコンではなく、携帯電話の動画でeラーニング研修を受けられるとしたら、受けたいと思いますか
13、パソコンを操作する自信がありますか 14、以下のもので使用できるソフトはありますか(複数回答可)
□一太郎 □ワード(word) □エクセル(Excel) □その他( ) □なし
15、ご家庭にブロードバンド(インターネット)の環境はありますか 16、ネット上で暗証番号やパスワード要求されるもの(会員登録・買い物・フリーメールなど)に登録したことがありますか 17、ファイルをダウンロードしてあけて見ることができますか 18、ワープロ(入力・プリントアウト・保存)ができますか 19、パソコンでメールの送受信ができますか 20、パソコンで添付ファイルがついたメールの送受信ができますか Table 3
有意項目(年齢別)
χ2値
p
14.98
**
9.59
*
パソコンを操作する自信がありますか 21.26
***
ネット上で暗証番号やパスワードが要求されるものに登録したことがあるか
16.75
**
ファイルをダウンロードしてあけてみることができるか
15.97
**
パソコンでメールの送受信ができますか 34.61
***
パソコンで添付ファイルがついたメールの送受信ができるか
37.66
***
項目内容
質問6
(e-learning)
質問8
(e-learning)
質問13
(パソコンスキル)
質問16
(パソコンスキル)
質問17
(パソコンスキル)
質問19
(パソコンスキル)
質問20
(パソコンスキル)
これまでに「eラーニング(e-learning)」という言葉を聞いたことがありますか
今までにeラーニングで研修を受けられたことはありますか ※自由度はすべて3である
※ * < .05, ** < .01, *** < .001
― 181 ―
Table 4
有意項目(性別)
χ2値
p
今までに応用行動分析又は機能分析という言葉をきいたことがあるか
4.28
*
これまでに「eラーニング(e-learning)」という言葉を聞いたことがありますか
10.90
**
eラーニングで研修が行われていることをご存知でしたか
12.37
***
パソコンを操作する自信がありますか
11.10
**
ネット上で暗証番号やパスワードが要求されるものに登録したことがあるか
3.90
*
ファイルをダウンロードしてあけてみることができるか
6.87
**
項目内容
質問5
(問題行動)
質問6
(e-learning)
質問7
(e-learning)
質問13
(パソコンスキル)
質問16
(パソコンスキル)
質問17
(パソコンスキル)
※自由度はすべて1である
※ * < .05, ** < .01, *** < .001
Table 5
有意項目(校種)
χ2値
p
今までに応用行動分析又は機能分析という言葉をきいたことがあるか
73.54
***
家庭でe-learning研修を受けられるとしたら、参加できそうか
9.10
*
ネット上で暗証番号やパスワードが要求されるものに登録したことがあるか
9.12
*
ファイルをダウンロードしてあけてみることができるか
7.05
*
パソコンで添付ファイルがついたメールの送受信ができるか
6.07
*
今後子どもの気になる行動への具体的な対応についてe-learning研修があれば受けたいか 13.32
**
項目内容
質問5
(問題行動)
質問10
(e-learning)
質問16
(パソコンスキル)
質問17
(パソコンスキル)
質問20
(パソコンスキル)
質問21
(研修・ e-learning)
※自由度はすべて2である
※ * < .05, ** < .01, *** < .001
― 182 ―
C.研究結果
研究3
1)各質問の回答について
問題行動に関する e-learning による研
各項目の有効回答率は 85 %以上であっ
修効果
た。e-learning 及びパソコンスキルの項
目において、年齢、性別、校種で回答の
A.目的
昨年の研究に続き本研究では WEB 上で
比率が異なるという結果が得られた。
年齢別に回答の比率に違いが見られた
の e-learning 研修における講義コンテン
項目は、e-learning とパソコンスキルに
ツの効果を一般の小中学校、特別支援学
関するものであり、性別間で回答の比率
校教員に拡大し分析した。
に違いが見られた項目は、問題行動、
e-learning とパソコンスキルに関するも
B.対象と方法
のであった。また校種別に回答の比率に
1)期間
2008 年 9 月中旬から 11 月下旬の間。
違いが見られた項目は、それぞれ研修、
問題行動、e-learning とパソコンスキル
2)対象者
担任する学級に障害があるかそれが疑
に関するものであった。
われる児童生徒が在籍する、あるいは現
在担任をしていないが週に 1 回 1 時間以
D.考察
多くの教師が授業場面において児童生
上気になる行動をする子どもと関わる機
徒の問題行動を経験し具体的な指導法に
会のある教員 35 名。これに加え、研修に
ついて知りたいこと、e-learning そのも
は参加せずアンケートのみに参加した統
のに対する否定的な印象はあまり持たれ
制群 11 名。
ておらず、参加を希望する教師が多いこ
3)研修プログラムの内容
と、また教師の大半が e-learning 研修に
オリジナルの HP を作成し、問題行動に
必要な環境およびパソコンスキルを持っ
ついての基本的な内容の講義(全 8 回)
ていることが示された。加えて、50 代の
を配信した。各回 15 分前後とし、プレゼ
教師は e-learning およびパソコンスキ
ンテーションに併せてビデオ講義が見ら
ルに馴染みがないこと、特別支援学校の
れるように編集した。各講義終了後には、
教師は、関連知識を持っている傾向が強
ABA に関する知識を問う演習問題を行わ
いことなどが示された。実行可能性の側
せた。
面から考えると、特別支援学校の教師に
4)手続き
受講前および受講後に KBPAC、小学校教
とって、Web 上での e-learning 研修は、
パソコンスキルの面での抵抗も少なく、
師版自己効力感尺度、CBCL および新版
ニーズ面も満たされる、より有効な手段
STAI(状態不安)からなるアンケートを
となりうることが示唆された。
実施し研修の効果を検討した。
受講期間が最長 2 ヵ月半から最短 1 ヶ月
半であった介入 1 群、実施者側がスケジ
ュールを受講者に提示し、受講期間が最
長 1 ヵ月から最短半月で、かつ WEB 掲示
板が使用できた介入 2 群、および一定の
期間を置くことのみによるアンケートへ
― 183 ―
の影響を検討するための統制群を設定し
介入群で見られたアンケートの変容は、
た。各群のコース概要を Fig. 4 に示す。
本研究の研修での講義の効果を示唆する
5)倫理面への配慮
ものであった。介入群の実施期間の問題
e-learning 研修の効果検証についての十
についてはフォローアップ期間を空けて
分な説明を行い同意書を交わしている。
再度アンケートを行うなどしての検討が
また氏名などの個人が特定されるデータ
必要であると考える。
は要求せず、統計的に処理されている。
統制群に対しても同様である。本研究参
E.結論
加における健康上・人権上の損益は発生
研究1より、学校教育場面での行動問
しない。
題について、適用しやすく効果的な技法
C.結果
として、機能分析と環境調整が示唆され、
研修参加を希望した受講者のうち、介
研究2での e-learning の適用に対する
入 1 群では 79 %、介入 2 群では 86 %が研
教師のニーズ等の調査に基づき、研究3
修を修了した。これは先行研究と比べ、
において e-learning による問題行動に
高い比率であった。事前・事後に行った
おける研修プログラムを開発・実施した。
アンケートの結果、KBPAC、小学校教師版
結果、研修プログラムの一定の効果を確
自己効力感尺度および CBCL の得点が、事
認できた。今後は対象を拡大しつつ、子
後で変容していた。
どもの行動変容についてのデータを収集
された。
終了証等を渡し、終了
講義
群
事前アンケート
介入
2
事後アンケート
講義
事前アンケート
介入1群
し効果を分析する必要があることが示唆
F.健康危険情報
該当無し。
G.研究発表
1.論文発表
アンケート
アンケート
統制群
研究の説明文と
講義資料を渡し、
終了
1) 井上雅彦・竹中 薫・福永 顕(2008)
発達障害児支援におけるインターネット
を利用した連携システム-保護者が管理
者となるコミュニティ掲示板の利用-鳥
取臨床心理研究,3-7.
2)古谷奈央・井上雅彦・岡村寿代(2008)
特別支援教育における e-learning 研修
Fig. 4 各群のコース概要
に関する教員の意識調査-問題行動への
D.考察
対応を中心として-発達心理臨床研究
修了者の比率が、先行研究と比べ高か
印刷中.
ったことは、研修の内容がコンサルテー
3)井上雅彦(2008)自閉症療育における
ションなどを含まず講義のみで構成され
応用行動分析学の研究動向と支援システ
ていたことによって、受講者のコストが
ム.小児科臨床,61(12),2446-2451.
低減していた結果であると考えられる。
4)井上雅彦(2008)特別支援教育の課題
― 184 ―
--教育相談と支援研究の立場から (特集
特別支援教育--各地の多様な取り組みと
課題) ノーマライゼーション 28(10) (通
号 327),14-17,日本障害者リハビリテー
ション協会
2.学会発表
1)MASAHIKO INOUE(2008)
Teacher
Training and Consultation Program
using Internet for Children with
Developmental Disabilities.
Association for Behavior Analysis 34th
Annual
Convention#294-15
2) 西谷淳・多賀谷智子・田村弘行・福西
隆弘・丹羽 登・竹林地 毅・井上 雅彦(2008)
IT を活用した発達支援の情報共有
日本
LD 学会第 17 回大会発表論文集,213,広
島 自主シンポジウム
H.知的財産権の出願・登録状況
該当なし
― 185 ―
- 186 -
研究成果の刊行に関する一覧表
書
籍
著 者 氏 名 論文タイトル名 書籍全体の
書
籍
名
出 版 社 名
編集者名
奥山眞紀子
泉真由子
出 版
ペ ー ジ
地
出 版
年
診断と治療社
東京
151-157
2008
オーム社
東京
175-202
2008
東京
in press
金芳堂
東京
212-230
2008
中山書店
東京
144-154
2008
中山書店
東京
138-154
2008
金剛出版
東京
624-630
2008
よくわかる病態
日本医事新報
東京
193-197
2008
生理 15 小児疾患
社
加我牧子、
国立精神・神経セ
診断と治療社
東京
349-352
2009
須貝健司、
ンター小児神経
佐々木征行
科診断・治療マニ
診断と治療社
東京
352-354
2008
行動の問題、
別所文雄
思春期医学臨床
うつ、自殺
五十嵐隆
テキスト
5章 臨床の
石口彰
臨床心理学用語
支援と現場
池田まさみ
事典
辻井弘美,
高機能自閉症
精神保健研究,
国立精神・神
稲田尚子, 神
スペクトラム
21
経センター精
尾陽子
幼児の早期診
神保健研究所
断についての
実態調査-小
児科医へのア
ンケート調査
結果から-
杉山登志郎
子ども虐待
森 則夫 中
子どもの精神医
村和彦編
学
発達障害の診
宮本信也田
発達障害とその
断
中康雄 齊
周辺の問題
服部麻子
杉山登志郎
藤万比古編
浦野葉子
破壊的行動障
本間博彰小
子ども虐待と関
杉山登志郎
害
野善郎 齊
連する精神障害
藤万比古編
杉山登志郎
発達段階から
牛島 定信
子どもと思春期
みた児童精神
村瀬 嘉代
の精神医学
疾患
子
中根 晃編
井上祐紀,
注意欠陥/多
加我牧子
動性障害・自
鈴木康之
閉症・学習障
害
井上祐紀,
AD/HD の治療
加我牧子
ュアル・改訂第2
版
井上祐紀
AD/HD に伴う
加我牧子、
国立精神・神経セ
行動障害(お
須貝健司、
ンター小児神経
― 187 ―
よび併存障
佐々木征行
科診断・治療マニ
害)に対する
ュアル・改訂第2
薬物療法
版
東京
123-133
2008
John Libbey
Mon
59-68
2008
Eurotext
roug
Kaga M,
Diagnosis of
Kaga
Neuropathies of
シュプリンガ
Inagaki M,
Auditory
Kimitaka ,
Auditory and
ージャパン
Kon K, Uno
Neuropathy(
Arnold
Vestibular
A, Nobutoki
AN) in Child
Starr 編
Eighth Cranial
T
Neurology.
Kaga M,
Auditory and
Ikeda A,
Event-related
Inagaki M,
visual
Inoue Y
Potentials in
Yoneda H.R.
mismatch
(ed.)
Patients with
Nerves.
negativity(M
Epilepsy: from
MN) in
Current State to
children with
Future
typical and
Prospects.
e
delayed
development.
金剛出版
東京
30-36
2008
小児神経学
診断と治療社
東京
422-424
2008
小児神経学
診断と治療社
東京
506-507
2008
医学書院
東京
545
2008
よくわかる病態
日本医事新報
東京
188-197
2008
運動発達とそ
生理 15 小児疾
社
の異常
患.
東京
1~12
2008
田中恭子,
社会性と対人
中根晃
詳解子どもと思
加我牧子
認知の発達と
牛島定信
春期の精神医学
変貌 乳幼児
村瀬嘉代子
期からの精神
編
発達とその生
物学的基盤
加我牧子,
発達障害
稲垣真澄
有馬正高監
修
加我牧子
稲垣真澄編
軍司敦子,
自閉症の非侵
有馬正高監
加我牧子
襲的脳機能検
修
査
加我牧子
稲垣真澄編
加我牧子
精神遅滞によ
森山寛
今日の耳鼻咽喉
る言語障害
他編
科頭頸部外科治
療指針 第3版
古島わかな, 乳幼児の精神
加我牧子
加我牧子
成長・発達
鈴木康之編
精神保健福
医学一般―人体
祉士・社会
の構造と機能お
福祉士養成
よび疾病―
― 188 ―
へるす出版
基礎セミナ
ー編集委員
会編
金剛出版
東京
310
2008
金剛出版
東京
21-34
2008
中山書店
東京
223-235
2008
診断と治療社
東京
155-164
2008
教育と医学
慶應大学出版
東京
74-83
2008
近喰ふじ子
障害児の理解と
駿河台出版社
東京
2008
宮尾益知
支援-臨床の現
明石書店
東京
2008
明石書店
東京
2008
田中康雄
軽度発達障害
繋がりあって生
きる
田中康雄
発達障害の医
鶴
光代
発達障害児への
心理的援助
学的概論(1)
-軽くとも生
き難い子ら田中康雄
発達障害に対
田中康雄
発達障害とその
する精神療法
宮本伸也
周辺の障害
発達性読字障
日本小児神
小児神経学の進
害
経学会教育
歩
(Developmen
委員会
的視点
小枝達也
tal Dyslexia)
の病態と治療
的介入法につ
いて
小枝達也
疾患としての
教育と医学
関あゆみ
読み書き障害
の会
内山仁志
就学早期から
の治療的介入
の試み
場へ
トニー・アトウッド
辻井正次監
ワークブック
修
アトウッド博士
の<感情を見つ
けにいこう>(1)
怒りのコントロ
ール
トニー・アトウッド
辻井正次監
ワークブック
修
アトウッド博士
の<感情を見つ
けにいこう>(2)
不安のコントロ
ール
― 189 ―
井上雅彦
家庭で無理なく
楽しくできる生
活・学習課題 46
―自閉症の子ど
ものための ABA
基本プログラム
― 190 ―
学研
2008
雑
誌
発表者氏名 論
文
タ
イ
ト
ル
名
発
表
誌
名
巻
名
ペ
ー
ジ
出版
年
112(3)
476-482
2008
112(3)
483-488
2008
27(2)
289-292
2008
精神医学
50(7)
653-659
2008
こどもの現在とこれから
そだちの科学
10
2-8
2008
杉山登志郎
広汎性発達障害とトラウマ
そだちの科学
11
21-26
2008
杉山登志郎
子どものトラウマと発達障害
日本発達障害学会
30(2)
111-120
2008
杉山登志郎
高機能広汎性発達障害の歴史と展
小児の精神と神経
48(4)
27-336
2008
児童青年精神医学
49(3)
243-259
2008
193
316-321
2008
193(4)
338-339
2008
泉真由子
保育園・小中学校が抱えるこころ
日本小児科学会雑
奥山眞紀子
の問題を持つ子どもの実態調査
誌
泉真由子
保育園・小中学校と医療機関の連
日本小児科学会雑
奥山眞紀子
携に関する実態調査
誌
杉山登志郎
こども虐待への EMDR による治療
こころのりんしょ
2‐親への治療‐
う
杉山登志郎
成人期のアスペルガー症候群
杉山登志郎
望
杉山登志郎
アスペルガー症候群の周辺
とその近接領域
Tsuchiya K.
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The British
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Journal of
K.
autistic-spectrum disorder in
Psychiatry
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Tsuji M.
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Takagi S.
Kawai M.
Yagi A.
Iwaki K.
Suda S.
Sugihara G.
Iwata Y.
Matsuzaki
H.
Sekine Y.
Suzuki K.
Sugiyama T.
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Iwata Y.
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Br J Psychiatry
Tsuchiya
men with high-functioning
The British
― 191 ―
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autism
Mikawa K.
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Psychiatry
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Suda S.
Sekine Y.
Suzuki K.
Kawai M.
Sugihara G.
Matsuzaki
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Sugiyama T.
Takei N.
Mori N.
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内田志保
司法児童・青年精神医学 発達障害
杉山登志郎
と非行
Marui T,
macology
Koishi S,
Yamamoto
K,
Matsumoto
H,
Hashimoto
O, Nanba E,
Nishida H,
Sugiyama T,
Kasai K,
Watanabe
K, Kano Y,
Kato N.
井上祐紀
AD/HD の薬物療法と評価
小児科臨床
稲垣真澄
AD/HD における事象関連電位(1) 臨床脳波
50
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2008
AD/HD における事象関連電位(2) 臨床脳波
50
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2008
50
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2008
井上祐紀
井上祐紀
稲垣真澄
Inoue Y,
Response Switching Process in
Dev Med Child
Inagaki M,
Children with Attention
Neurol
Gunji A,
Deficit/Hyperactivity Disorder
Furushima
on the Novel Continuous
― 192 ―
W, Kaga M.
Performance Test
Gunji A,
Event-related potentials of
Inagaki M,
self-face recognition in children
Inoue Y,
with pervasive developmental
Takeshima
disorders.
Brain Dev
31
139-147
2009
in press
2009
Y, Kaga M.
加我牧子
広汎性発達障害の疫学に関する研
藤田英樹
究
精神保健研究
矢田部清美
稲垣真澄
加我牧子
最近注目されている発達障害
小児科臨床
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2335-2336
2008
山下裕史朗
シンポジウム 5 発達障害の子ど
小児保健研究
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2008
LD研究会
17
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2008
臨床精神薬理
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2008
小児科臨床別刷
61
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2008
17
10-14
2008
30
410-415
2008
in press
2009
61(12)
2511-2516
2008
23(増刊号)
203-208
2008
もたちの観察からわかること
「発達障害をもつ子どもたちの問
題行動の観察と対応」
山下裕史朗
障害の理解促進-本人への説明を
考える-
医学の立場から
山下裕史朗
AD/HD に対する包括的治療のエビ
デンス-行動療法と薬物療法の統
合-
山下裕史朗
AD/HA の治療:サマー・トリート
河野敬子
メント・プログラムの実践
山下裕史朗
地域での発達支援ネットワーク構
筑後小児科医会会
築
報
Scale properties of the Japanese
Brain Dev
山下裕史朗
version of the Strengths and
Difficulties
Questionnaire(SDQ):A study of
infant and school children in
community samples
山下裕史朗
Short-term effect of American
Brain Dev
summer treatment program for
Japanese children with
attention deficit hyperactivity
disorder
田中康雄
AD/HD の二次的障害への対応
小児科臨床
田中康雄
注意欠陥/多動性障害
精神科治療学
児
童・青年期の精神障
害治療ガイドライン
― 193 ―
久蔵孝幸
テレビ会議システムによる遠隔地
北海道大学大学院
発達支援の取り組み(1)〜その
教育学研究院紀要
106
53-60
2008
32(増刊号)
13-16
2008
11(8)
1073-1084
2008
147B(7)
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2008
可能性と制約条件について〜
山添(池下)
視覚的認知を利用した漢字書字訓
日本教育工学会論
花恵
練手法の開発-学習障害児への適
文誌
河合隆史
用-
宮尾益知
Nakamura
Genetic and expression analyses
Int J
K, Anitha A,
reveal elevated expression of
Neuropsychophar
Yamada
syntaxin 1A ( STX1A) in high
macol
K, Tsujii,M,
functioning autism
Iwayama Y,
Hattori E,
Toyota T,
Suda S,
Takei N,
Iwata Y,
Suzuki K,
Matsuzaki
H, Kawai M,
Sekine Y,
Tsuchiya
KJ,
Sugihara G,
Ouchi Y,
Sugiyama T,
Yoshikawa
T, Mori N.
Anitha A,
Genetic analyses of roundabout
Am J Med Genet B
Nakamura
(ROBO) axon guidance receptors
Neuropsychiatr
K, Yamada
in autism
Genet
K,
Suda S,
Thanseem
I, Tsujii,M,
Iwayama Y,
Hattori E,
Toyota T,
Miyachi T,
Iwata Y,
― 194 ―
Suzuki K,
Matsuzaki
H, Kawai M,
Sekine Y,
Tsuchiya K,
Sugihara G,
Ouchi Y,
Sugiyama T,
Koizumi K,
Higashida
H, Takei N,
Yoshikawa
T, Mori N.
Tsuchiya,
Paternal age at birth and
British Journal of
K.,
high-functioning
Psychiatry
Matsumoto,
autistic-spectrum disorder in
K.,
offspring
193
316-321
2008
13
106-116
2008
Miyachi,T.,
Tsujii,M.,
Nakamura,
K.,
Takagai.S.,
Kawai,M.,
Yagi,A.,
Iwaki,K.,
Suda,S.,
Sugihara,G.
, Iwata Y,
Matsuzaki,
H.,
Sekine.Y,
Suzuki,K.,
Sugiyama,T,
Mori,N
Takei,N.
Takura,
S
Tsujii,M.
Informational and psychological
New Zealand
support for siblings of children
Journal of
with Asperger's disorder in
Disability Studies
Japan: The sibling's self
intensity and their
― 195 ―
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アスペルガー症候群の支援の実際
小児科臨床
61(12)
2426-2430
宮地泰士
高機能広汎性発達障害児を対象と
小児の精神と神経
48(4)
印刷中
神谷美里
した「感情理解」プログラム作成
吉橋由香
の試み
小児の精神と神経
48(1)
59-69
2008
精神医学
50(8)
787-799
2008
精神医学
50(7)
661-668
2008
小児保健研究
67(2)
283-286
2008
精神医学
50(5)
431-438
2008
精神科治療学
23(10)
1181-1186
2008
宮地泰士
2008
辻井正次
野村香代
辻井正次
吉橋由香
高機能広汎性発達障害児を対象と
神谷美里
した「怒りのコントロール」プロ
宮地泰士
グラム作成の試み
永田雅子
辻井正次
中村和彦
成人期アスペルガー症候群の
土屋賢治
ADI-R(自閉症診断面接改訂版)に
八木敦子
よる診断―生物学的研究との関連
松本かおり
でー
宮地泰士
辻井正次
森則夫
林陽子
成人期のアスペルガー症候群者へ
辻井正次
の臨床心理学的支援 (特集 成人
期のアスペルガー症候群(1))
辻井正次
市民として地域発達支援システム
を利用する姿から考える--広汎性
発達障害を中心に (第 54 回 日本
小児保健学会(群馬)) -- (シンポ
ジウム 発達障害の子どもたちの
観察からわかること)
安達潤
広汎性発達障害日本自閉症協会評
行廣隆次
定尺度(PARS)短縮版の信頼性・妥
井上雅彦
当性についての検討
辻井正次
栗田広
市川宏伸
神尾陽子
内山登紀夫
杉山登志郎
川上ちひろ
高機能広汎性発達障害を持つ子ど
辻井正次
もの保護者へのペアレント・トレ
― 196 ―
ーニングー日本文化のなかで子育
てを楽しくしていく視点から
辻井正次
高機能広汎性発達障害(その 2)高
小児の精神と神経
48(4) (通号
337-346
2008
181)
機能広汎性発達障害の発達支援の
今後の課題 ([日本小児精神神経
学会]第 100 回記念学術集会特集
小児精神神経学の過去・現在・未
来(その 1))
大久保賢一
自閉症児・者の性教育に対する保
井上雅彦
護者のニーズに関する調査研究
特殊教育学研究
46(1)
29-38
2008
精神医学
50(5)
431-438
2008
老年精神医学雑誌
19(2)
234-239
2008
51
31-40
2008
発達心理臨床研究
14
143-154
2008
発達心理臨床研究
14,
105-118
2008
発達心理臨床研究
14
95-104
2008
発達心理臨床研究
14
131-141
2008
発達心理臨床研究
14
17-25
2008
発達心理臨床研究
14
119-130
2008
渡辺郁博
安達潤
広汎性発達障害日本自閉症協会評
行廣隆次
定尺度(PARS)短縮版の信頼性・妥
井上雅彦 他
当性についての検討
竹田伸也
症例報告 動作療法が有効であっ
井上雅彦
た認知症高齢者の 1 症例
重成久美
特別支援担当保育者のためのセル
活水論文集, 健康
井上雅彦
フチェックによる自主研修プログ
生活学部編
山口洋史
ラムの開発-自由遊び場面におけ
る自閉症幼児との相互交渉の促進
-
宮崎光明
自閉症児における「はさみ将棋」
井上雅彦
の指導--条件性弁別訓練と行動連
鎖法を用いたルール理解の促進
酒井美江
不登校状態にあり家庭内暴力を呈
井上雅彦
したアスペルガー症候群のある女
子生徒における家庭支援
加藤永歳
PECS 適用場面における自閉性障害
宮崎光明
幼児と健常幼児のアイコンタクト
井上雅彦
および発声・発語行動
古谷奈央
グループ遊び場面における小学 1
大対香奈子
年生の提案と共有の行動アセスメ
松見淳子
ント
井上雅彦
高階美和
保健センターの親子教室参加者を
内田敦子
対象とした発達が気になる子ども
犬飼陽子
のペアレント・トレーニング
井上雅彦
佐野基雄
自閉症生徒における授与動詞を用
― 197 ―
宮崎光明
いた文章の助詞理解指導
加藤永歳
井上雅彦
発達心理臨床研究
14
79-93
2008
特別支援教育に必須な個別支援教
日本教育大学協会
26
169-182
2008
井上雅彦
育計画の策定に関わる校務支援シ
研究年報
田杼弘行 他
ステムの構築と検証
吉田裕彦
自閉症児におけるボードゲームを
行動療法研究
34(3)
311-323
2008
井上雅彦
利用した社会的スキル訓練の効果
大久保賢一
自閉症児・者の性教的問題行動に
発達障害研究
30, 4,
288-297
2008
井上雅彦
関する保護者の意識-親の会への
小児科臨床,
61(12)
2446-2451
2008
特別支援教育の課題--教育相談と
ノーマライゼーシ
28(10)
14-17
2008
支援研究の立場から (特集 特別
ョン
石坂務
広汎性発達障害児におけるマジッ
宮崎光明
クのスキルトレーニング--ビデオ
佐野基雄
モニタリングとセルフチェックに
井上雅彦
よるトレーニングの効果
成田滋
質問紙調査から-
井上雅彦
自閉症療育における応用行動分析
学の研究動向と支援システム.
井上雅彦
支援教育--各地の多様な取り組み
と課題)
― 198 ―
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