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2 - 上山信一

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2 - 上山信一
2011 年7~12 月の主な論文・記事
1.論文・執筆記事
①行政改革
・「インフラファンドを日本の改革の突破口に」(『土木技術』2011 年 12 月号、
土木技術社)
・「なぜ統治機構の改革が必要なのか?」(日経 BP ガバメントテクノロジー、
2011 年 12 月 12 日号)
・
「なぜ、日本の改革に「インフラファンド」が必要なのか」
(日経 BP ガバメントテ
クノロジー、2011 年 10 月 11 日号)
・「これからの「民主主義」の話をしよう」(上)(中)(下)(日経 BP ガバメント
テクノロジー、2011 年 7 月 11 日号・8 月 12 日号・9 月 12 日号)
②大阪関連
・
「大阪ダブル選挙のよみ方-本当の争点は何か」
(日経 BP ガバメントテクノロジー、
2011 年 11 月 10 日号)
③その他
・「豊高と阪急電車、そして僕たち」(大阪府立豊中高校 90 周年誌)
2. インタビュー
①行政改革
・「東日本大震災の復興はなぜ進まないのか」(『現代ビジネス』2011 年 7 月 29
日、講談社)
②大阪関連
・「都構想、大阪再生につながる」日本経済新聞、2011 年 12 月 11 日)
・「大阪都構想を聞く」(京都新聞、2011 年 12 月 2 日)
・「大阪が変われば日本が変わる?」(グローバルコミュニティ Vol.38
2011 年 12
月号)
・「大阪維新が目指しているもの」(季刊誌『コトバ』2012 年冬号、集英社)
・「東京との二重行政課題」(東京新聞、2011 年 11 月 29 日)
・「ダブル選の結果どう見るか」(読売新聞、2011 年 11 月 29 日)
・「都構想主眼は府民所得増」(朝日新聞、2011 年 11 月 14 日)
・「地方の声を大きく」(北海道新聞、2011 年 11 月 11 日)
・「大阪ダブル選と大都市制度」(毎日新聞、2011 年 11 月 4 日)
・「大阪都構想どう見る」(朝日新聞、2011 年 10 月 26)
・「聞く!大阪のカタチ」(読売新聞、2011 年 10 月 22 日~11 月 6 日)
・「大阪都構想」(北日本新聞、2011 年 9 月 25 日)
・「大阪維新の会」(『週刊ダイヤモンド』2011 年 9 月 17 日号)
3. コメント引用
他
① 行政改革
・
「これからの自治体経営のあり方を議論」
(『21PPI News Letter』 2011 年 9 月号、
日本経団連)
・「バランスシート改革を提言」(『地方行政』2011 年 8 月 8 日、時事通信社)
・「国土交通省における政策評価」(『評価クォータリー第 18 号』2011 年 7 月、
(財)行政管理研究センター)
② 大阪関連
・「大阪府市統合本部」(毎日新聞、2011 年 12 月 28 日)
・「大阪の府市統合本部が発足」(日本経済新聞、2011 年 12 月 28 日)
・「大阪府市統合本部きょう発足」(産経新聞、2011 年 12 月 27 日)
・「府・市の特別顧問に」(朝日新聞、2011 年 12 月 27 日)
・「自民党が大都市PT初会合」(産経新聞、2011 年 12 月 14 日)
・「次のターゲットは総選挙」(『AERA』2011 年 12 月 5 日号、朝日新聞社)
・「大阪市長選、本対決も過熱」(東京新聞、2011 年 11 月 15 日)
・「市職員早くも反発と不信」(毎日新聞、2011 年 10 月 14 日)
・「大阪都構想
勉強会」(毎日新聞、2011 年 10 月 10 日)
・「大阪市営地下鉄」(朝日新聞、2011 年 8 月 28 日)
・「維新
熟議会を準備」(読売新聞、2011 年 7 月 17 日)
③ その他
・「セッション
・「2011 夏
高速鉄道とグローバル展開」(『SFC CLIP』2011 年 11 月)
経済書政治書ベスト 35」(週刊東洋経済 2011 年 8 月 13 日号)
1 .
論 文 、 執 筆 記 事
① 行政改革
日経 BP ガバメントテクノロジー・メール
2011-12-12
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
コラム・上山信一の「続・自治体改革の突破口」
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第 118 回 なぜ統治機構の改革が必要なのか?
筆者が政策特別顧問を務める地域政党「大阪維新の会」では、しばしば「統治機構
の改革」という言葉を使う。統治機構とは、議会や行政機関の組織構造や運営ルール
のことをいう。政策の刷新や財政再建はもちろん重要だ。だが統治機構が時代遅れの
ままでは、いくら素晴らしい政策を打ち出しても迅速な意思決定、そして確実な実行
はできない。今回は主に大阪の事例を基に、なぜ改革には統治機構の見直しが必要な
のか考えたい。
●変革を拒む「ねじれ」の構造
昨今の日本の政治と行政の問題は、何事につけ「なかなか変わらない」
、そして
「変える場合もあまりにも時間がかかる」ことである。最近の例では震災対策。ほか
にも消費税率の引き上げ、公務員制度改革、地域主権など、政策決定にやたら時間が
かかる。やっと方針が決まっても、手続きが煩雑すぎてなかなか実施されない。お役
所仕事、官僚主義の弊害は昔から言われてきた。だが、最近は度を越している。あま
りにひどすぎないか。
原因の一端は民主党政権の能力不足にある。だが、もっと大きいのは統治機構の問
題だ。一言で言うと今の時代に全く合わない。その典型が随所にある「ねじれ」現象
である。
例えば衆議院と参議院の「ねじれ」である。衆議院で多数派の民主党が、参議院で
は少数派だ。そのため法案がなかなか成立せず、国会が機能不全に陥る。地方議会に
も「ねじれ」がある。首長と議員が別個の選挙で選ばれる二元代表制の統治機構だ。
そのために「ねじれ」が生じる場合がある。例えば改革派の首長と守旧派議会の対立
が起こる。なかには名古屋市のように議会の解散請求(リコール)に発展した例もあ
る。
大阪府と大阪市の方針が一致しないという問題も時代遅れの「政令指定都市制度」
という統治機構に由来する「ねじれ」である。大阪市には財源と権限が集中する。だ
があくまで基礎自治体なので、福祉など目先の住民ニーズを優先する。一方、大阪府
は企業誘致や交通インフラなど、中長期の都市の成長戦略に注目する。だが権限も財
源も乏しい。だから投資の方向が一致しない。
このように「ねじれ」は今の日本の政治行政の随所に存在する。そのために日本で
は変革がなかなか進まない。
●右肩上がり経済の終焉で顕在化
「ねじれ」の原因となる統治構造は、昔は有効に機能していた。そもそも高度成長
時代には利害対立があまり生じなかった。政府の予算も人員も潤沢だから、配分を巡
る利害対立が生じたとしても時間の経過と共に薄まった。また人々は政治に安定を求
めた。そのため、
「ねじれ」が生じなかった(例えば自民党の長期安定政権、地方議
会のオール与党体制)
。だが右肩上がり経済の終焉(しゅうえん)とともにこうした
状況は一気に融解した。
「ねじれ」を解消するには統治機構の手直し、つまり法律や条例の改正が必要だ。
しかしその作業を行うのは当の議会である。議会自体が「ねじれ」の中で機能しない
のだから、統治機構の近代化は一向に進まない。
●奇策に見えるイノベーション
こうした状況を突破するには常識離れの手法を駆使するしかない。例えば衆参のね
じれを手っ取り早く打破する方法として「衆参同日選挙」が考えられる。その結果、
特定政党が両院で優位を占めれば、
「ねじれ」が一瞬だが解消できる。その上で一気
に制度改正(例えば参議院の権限を抑制する仕組みの導入)をすればいい。
大阪の“ダブル選挙”も「ねじれ」を打破する努力のひとつである。大阪の地方自
治は、長らく府と市の「ねじれ」
、そして議会と首長の方針の「ねじれ」のために膠
着(こうちゃく)状態に陥っていた。まず、自民党の有志が大阪維新の会を作り、知
事を代表とする地域政党を立ち上げた。そして今春の統一地方選挙では府議会と市議
会での多数派獲得を目指した。そのうえで今秋には知事と市長の同日選を仕掛けた。
これらに勝つことで議会と首長の「ねじれ」および府市の「ねじれ」を一挙に解消し
ようとした。
識者のなかには、
「首長政党」は二元代表制に反すると批判する向きがある。だが
大阪維新の会は、現行の地方議会の二元代表制は有効に機能していないと判断した。
そしてそれを一元化するために“首長政党”というイノベーションの産物を編み出し
た。また、橋下氏は府市の首長の方針の「ねじれ」を解消すべく、あえて知事の任期
を残して辞任し、市長選に出た。
このように大阪維新の会は、都構想の実現を目指すとともに、統治機構の改革に取
り組んでいる。だから既成政党から見ると奇策と思える手段を次々と繰り出すのであ
る。次の一手は何か。大事なことは何も決めない国の統治機構を変えることである。
だが地域政党がどうやって国の統治機構を変えるのか。新たなイノベーションに向け
た活動がすでに始まっている。
─◆執筆者・上山信一(うえやま・しんいち)◆───────────────────
日経 BP ガバメントテクノロジー・メール
2011-10-11
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コラム・上山信一の「続・自治体改革の突破口」
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第 116 回 なぜ、日本の改革に「インフラファンド」が必要なのか
最近わが国でも「インフラファンド」が話題になりだした。従来、公債で調達して
きた公的インフラへの投資資金を、年金基金などからなるファンドで賄おうというも
のだ。PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)や PPP(パブリック・プラ
イベート・パートナーシップ)を具体化する道具のひとつである。
インフラファンドは、もともと豪州など海外で発達してきた。わが国では高度成長
期に作られた道路や鉄橋、建物、浄水場、空港、鉄道などが更新期に入る。一方で財
政危機である。普及して当然とみる向きが多い。しかし、現実にはなかなか普及しな
い。なぜだろう。
●インフラファンドの必然性
インフラファンドによる投資額は 1990 年代後半では毎年数十億ドルにとどまってい
たが、2008 年には 300 億ドルにも達した。伸長の最大の理由は財政危機である。各国
とも税収低迷の一方で社会保障費が増大し続ける。公債残高も膨れ上がる一方だ。そ
こでインフラの投資や更新に民間資金ファンドを活用しようとなった。
第 2 の理由は民間側の金余りである。先進国では高度成長期に中高年層が蓄えた
資金が安全な運用先を求めている。株価や為替は怖い。国債では高い利息が得られ
ない。一方、空港や有料道路、水道、公営交通、病院などのインフラ事業は、利回り
は低いが安定収益が長期間見込める。
第 3 にインフラ事業の多くは、地域で政府や公社が独占する“殿様商売”で経営改
善の余地が大きい。ファンドの資金が入ることで経営改革が促される。収益が改善さ
れれば投資側としても利回り向上が期待できる。
●なぜ日本でなかなか普及しないのか?
だが、わが国ではインフラファンドはなかなか本格化しない。障害は大きく 4 つ
ある。
(1)地方債との競合
最大の障害は、低利で際限なく調達可能な地方債との競争である。インフラ事業は
投資規模が大きく資金回収に時間がかかる。そのため国や自治体が事業主体となるこ
とが多い。その場合、わが国の今の制度では、政府の暗黙の信用保証を背景に超低利
で資金調達ができる。だから新たな資金調達方法への関心が高まらない。
(2)改革インセンティブの不足
自治体のインフラ事業は、会計上は「公営企業」とされる。だがこれは役所の中の
一部門の類型区分でしかなく、経営責任を負う独立事業体ではない。事業管理者の役
割や権限も、普通の部長や局長と変わらない。過剰コストが発生しても、そのつけは
納税者と利用者に容易に回せる。前者は地方債の利回りの上昇に、後者は料金値上げ
の形で表れる。厳しくチェックされないので経営改善がなかなか進まない。
(3)首長の能力の限界と議会の機能不全
首長は公営企業の経営者だが、あまりに多忙で経営内容をチェックする暇がない。
監視役の議員の多くも、経営については素人である。現場任せの現状維持経営に陥り
やすい。
(4)経営情報の不備
公営企業は経営改善に必要な情報をあまり開示しない。コストや設備稼働率と
いった基礎データすら不十分だ。きちんとした損益計算書や貸借対照表もない場合が
ある。お金が足りなくなったら節約運動と料金値上げを繰り返しがちである。
●ガバナンス改革が先決
これらの障害はいずれも日本政府や自治体側の“特異体質”に由来する。その特徴
は第 1 に整理解雇を一切許さない労使慣行である。第 2 には野放図な地方債の発行、つ
まり財政規律のなさだ。第 3 には「お役所ならとにかく安心」という国民の役所依存
体質である。いずれも根深い“日本病“の構成要素である。これらを除去しない限り
「インフラファンド」は威力を発揮しない。
わが国の行政改革は、道具の導入から始まる傾向がある。
「行政評価」
「PFI」
「市場化テスト」
「指定管理者制度」
「コンセッション」など枚挙にいとまがない。
いずれも欧米生まれの“新薬”だ。しかし多くが一時的なブームに終わってきた。
インフラファンドも“新薬”のひとつであり、へたをすると不発もしくは立ち枯れ
となる。だがうまく普及させることができれば旧弊打破の突破口となる。
インフラ、特に地域の水道や鉄道などは身近な事業である。一般投資家の資金を
集めやすい。特に東京、大阪、名古屋などが有望だ。これらの自治体が率先して公営
事業を別法人化させるべきだ。そして資金調達を地方債から地元民間資金からなるイ
ンフラファンドに替える。自治体の借金の増大を防げるし、中高年富裕層の資金を地
域再生向けに循環させることができる。インフラファンドの普及は行政改革だけでな
く、広く地域再生や社会全体の改革を先導する可能性がある。
─◆執筆者・上山信一(うえやま・しんいち)◆───────────────────
日経 BP ガバメントテクノロジー・メール
2011-7-11
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コラム・上山信一の「続・自治体改革の突破口」
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第 113 回 これからの「民主主義」の話をしよう(上)
戦後の日本社会では「民主主義」
、
「民主的」であることはずっと「良いこと」と
されてきた。そして政治行政の不祥事のたびに「わが国の民主主義の未成熟」という
指摘がされてきた。
だが、本当に民主主義を極めたら日本人は幸せになれるのか。“民主”を党名に掲
げる 2 大政党の混迷ぶり、議会制民主主義の混乱を目の当たりにする今、
「戦後日本
が追い求めてきた民主主義は絶対なのか」という疑問が湧いてきた。こういう時期だ
からこそ、民主主義の本質、そして現代日本にとっての価値を問い直してみよう。
●民主主義はお金持ちのため?
文明社会が民主主義を求め始めたのは近代西欧社会だった(ギリシャの直接民主制
は別として)
。ホッブス、ロック、ルソーなど啓蒙思想家が理論構築をした。背景に
は王と対立する貴族や新興産業階級の存在があった。彼らは王に国家権力の行使を認
める代わりに国家による土地所有権の保護を求め、また納税の代わりに政治参加を求
めた。こうして議会はいわば金持ちの都合で生まれた。
現代の米国には、
「リーマンショックの惨状に際し民主主義は資本主義の暴走を
チェックできなかった」という反省がある。
「政府が投資銀行と癒着して金融業の規
制を骨抜きにした。今後は企業の政治献金は禁止すべき」という主張がある(ロバー
ト・ライシュなど)
。筆者も賛成だが、歴史的に見れば民主主義はお金持ちの都合、
つまり資本主義ときわめて密接に連携して進化してきたのである。
●民主主義の本質は市場原理主義の徹底?
民主主義の本質は多数決である。選挙では得票の多い候補者が、議会では得票の多
い法案が選ばれる。たくさんの選択肢(候補者、法案)の中から一番強いものが選ば
れるのだ。これは市場競争原理の応用そのものだ。
参加の機会は広く開かれている。だが投票という形式の市場競争を経て選ばれるの
はわずかの候補者、そして法案だけだ。民主主義は敗者、あるいは少数意見にとって
はきわめて残酷な制度である。つまり多数決とは多数者が参加して一つだけを選び、
そして誰も文句が言えないようにする手続きである。広く参画を得たが故に成り立つ
独占、あるいは独裁を正当化する巧妙な“集団麻酔”の仕組みなのだ。
●民主主義と資本主義の大衆化
やがて時代を下ると普通選挙が導入され、所得や性別と関係なく選挙権が与えられ
る。参加者の拡大という意味では、民主主義は拡大進化した。だが背景には拡大再生
産を求める資本主義の都合があった。
例えば共産主義の脅威があった。
「プロレタリアート革命」を防ぐには労働者にも
政治参加(しばしば単なる“ガス抜き”に終わったが)を求め、また政府は彼らに無
料で社会福祉を提供した。政府は仕事を増やし、富裕層の負担も増えた。だが同時に
労働者の生活水準が上がり、消費市場が大きくなった。かつて資本主義はフロンティ
アを海外に求めた。だが、かくして第 2 次大戦後、資本主義は国内市場の拡大によっ
て安定成長できた。背景には「普通選挙」
「大衆教育」
「大衆消費社会」の三位一体
の発展があった。
こうした拡大はしかし、民主主義と資本主義の質をともに劣化させた。民主政治は
ひたすら投票数の拡大を求めた。そして衆愚政治、ポピュリズム(大衆迎合)に陥っ
た。同時に資本主義も実体経済を超えた投機経済に変容し、景気と為替の変動幅が拡
大した。そして財政赤字が拡大し続けた。
そして今や民主主義と資本主義はともに行き詰まっている。代わりの仕組みは見え
ない。20 世紀には全体主義や社会主義の実験があった。だが失敗に終わった後は代わ
りが見えない。そんな中で制度疲労は確実に進む。もはや欧米にお手本を求めること
もできない。そろそろ日本独自の処方箋を考える時期にきているのではないか。
─◆執筆者・上山信一(うえやま・しんいち)◆───────────────────
日経 BP ガバメントテクノロジー・メール
2011-8-12
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コラム・上山信一の「続・自治体改革の突破口」
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第 114 回 これからの「民主主義」の話をしよう(中)
前回は、民主主義と資本主義の密接な関係、そして両者はともに制度疲労に陥っているこ
とを示唆した。今回はその行く末を考えてみたい。
中国は本当に“非民主的”か?
世界の先進国は大方が民主主義国家である。唯一の例外は中国だ。そして中国は調子が
良い。民主主義と資本主義の行く末を考える上で何かヒントが得られないか。
中国の民主主義については2つの説がある。一つは民主化不可避説だ。「人民を飢えさせ
た王朝は滅ぶ。中国共産党も経済成長が止まったら失権する」「だから中国政府は外資を導
入して経済成長を目指す。だがやがて教育水準が上がって人民が目覚める。民主主義に移
行せざるを得ない」という。
もうひとつは中国例外説。「中国は巨大。強権なしでまとまらない。民主化運動はしたたか
な人民の条件闘争であり、当局もガス抜きと考え適当に泳がせている。共産党独裁は当分
続く」というものだ。
いずれも中国には民主主義がないという前提に立った説だが、果たしてそうか。確かにト
ウ小平以前、中国は極めて非民主的な国だった。だが 1980 年代以降は自由化し、経済成長
の果実を人民に分配してきた。トウ小平の改革開放路線を米国のリンカーン時代の奴隷解
放、日本の戦後改革と同列にとらえれば、中国は時間をかけながら確実に民主化しつつあ
る。
もちろん政治体制は一党独裁で議会制民主主義ではない。選挙も機能していない。だが
前回指摘した通り、民主主義の本質は社会契約説に沿って国民に自分も政治を動かしてい
ると納得させる合意ずくでの“集団麻酔”である。体制側は反体制勢力に選挙権と社会福祉
を与えて“ガス抜き”し、代わりに政治の安定と経済成長を確保する。普通選挙や議会や多
数決の原理は手段でしかない。民主主義の本質、集団麻酔の源泉は「社会契約」にある。
ところが中国の民主化過程では、共産党の存在が「社会契約」を代替している。「共産党は
人民が作った。共産党は人民を外国勢力から解放した。だから共産党なくして国家なし、人
民にも未来なし」という理屈である。日米欧では、これは都合の良いプロパガンダにしか見
えない。現に中国共産党の腐敗や不正のニュースは絶えない。
だが「社会契約」だって嘘くさい。我々は日本国をつくろう、参加しようと契約した覚えはな
い。日本国が嫌で勝手に独立国を作って納税を拒否したら逮捕される。そして米国では社会
主義を礼賛したら、日本では天皇制を執拗(しつよう)に批判したら、社会的制裁を受けかね
ない。こうして見てくると「中国は非民主的で日米欧は民主的」という私たちの常識も、所詮
(しょせん)は相対的な差に過ぎないという気がしてくる。
経済成長のない議会制民主主義は危うい?
その伝でいうと、「経済成長が止まったら中国共産党は危うい」のと同じく、「経済成長が止ま
ったら社会契約説、議会制民主主義も危うい」のではないか。若者の政治離れや投票率の
低下はすでにそれを示唆する。人々の離反を防ぐべく、各国政府は財政赤字を容認してで
も社会福祉を拡充する。さらに資本主義の変調にテコ入れすべく、公共投資で借金を拡大す
る。
かくして日米欧の民主主義は、各国を財政破綻に向けて追い立てる。我が国の財政危機
と政治不信、米国のデフォルト(債務不履行)問題、ギリシャの財政危機、それに対するドイ
ツ国民の無関心は、この意味において同根の現象である。
戦前、経済運営に行き詰まった日独は、議会制民主主義を放棄して全体主義に移行し、侵
略戦争に走った。それに対して今回、先進各国は議会制民主主義を墨守するあまり、財政
破綻に走っている。その意味では、実は中国共産党による“民主主義的風”独裁体制の国家
運営のほうが安定的だとすら言えないか(対外紛争拡大の危険性はさておき)。
日米欧には社会契約説に代わる原理がない。人心を一つにするための何か新しい原理を
探索しなければならない。中国には現実に人民を植民地から開放して豊かにしてきた共産
党があり、イスラム諸国には普遍的なアラーの教えがある。これに匹敵する何か、宗教的な
理念、例えば「博愛」「環境」にまつわる理念が必要だ。またそれが浸透するまで当面は、議
会制民主主義の失敗を補正する仕組みを実験しなければならない。
─◆執筆者・上山信一(うえやま・しんいち)◆───────────────────
日経 BP ガバメントテクノロジー・メール
2011-9-12
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コラム・上山信一の「続・自治体改革の突破口」
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第 115 回 これからの「民主主義」の話をしよう(下)
戦後日本では「民主主義」は 2 つの意味で使われてきた。一つは国民主権、主権在
民の理念である。もうひとつは代議制民主制の制度である。前者は揺るぎないが、後
者はおそらく制度疲労に陥っている。実はこれは日本だけの問題ではない。ましてや
政権交代や“ねじれ国会”だけが原因ではない。低成長・成熟社会の到来とともに、
民主主義にもともと潜む矛盾が露呈しつつあるのだ。
●民意との乖離が激しい「代議制」
ギリシャの昔やスイスの一部では直接民主制が機能していた。日本でも古くは“寄
り合い”が、そして今はマンションの管理組合や町内会に全員参加の直接民主制があ
る。だが何千万、億単位の人間の民意を直接吸い上げるのは無理だ。そこで間接民主
制、つまり代議制が採用されてきた。つまり選挙をやって代議士を選ぶ。だが、この
限界が露呈している。
第 1 に直接「政策」に投票せずに、それを議論し決定する「代議士」を選ぶという
段取りが迂遠である。しかも多くの場合、立候補者よりもはるかに有能な人が多数い
るとわかっている。そして彼らは立候補しない。我々はそうとわかっていて目の前の
限られた候補者のなかから“一番ましそうに見える人”に投票する。これはいわば消
極的選択であり、決して愉快な経験ではない。
最近はマニフェスト(政権公約)があるので、人物だけでなく政策パッケージと
セットで選ぶようになった。だが、多岐にわたる政策課題すべてについて自分と意見
がぴったり一致する候補者がいるとは限らないし、それを確かめるすべもない。要は
「代議士」を選ぶこと自体に限界がある。
第 2 に選挙は数年に一度しかない。つまり数年おきにしか民意は政治に反映できな
い。ところが現実の政策課題はめまぐるしく変わる。特に経済や外交はそうだ。車や
家電製品、高級服なら 4~6 年のゆっくりした周期の買い換えでいい。だが政策はそう
いうものばかりではない。
要は「数年おきに代議士を選び、彼らにすべてお任せ」という仕組みが、時代に合
わなくなっている。
●代議制民主制を補完する仕組み
民意と代議制民主制のずれはどうしても生じる。そもそも民意は一様でない。だが
支持率が 2 割を切るような政権がいつまでも続くのは明らかにおかしい。また地方議
会では世論調査では多数の住民が支持する案が議会で否決されたりする。これも変
だ。民意と議会のねじれを少しでも補正する方法が考えられないか。
第 1 は住民投票である。自治体レベルでは原発建設などの是非をめぐる住民投票が
行われてきた。イタリアなどでは国政レベルでも国民投票をよく行う。
第 2 には政策案のすべてを議会の審議に委ねず、むしろ専門家による討議を重視す
る方法がある。かつての「経済財政諮問会議」はそうだった。昔からの「審議会行
政」もこの一例だ。だがこの方法は下手をすると専門家と業界と官僚、一部族議員
の癒着につながる。密室政治を招き、議会制度を骨抜きにしかねない。本筋は議員
の中に専門家を見いだし、彼らが議会内の専門委員会で議論を行うということだろ
う。これが本来の政治主導の姿である。
第 3 には世論調査の精度を上げ、その結果を広く公表する。そこから間接的に政府
や議員に影響を与える方法がある。マスコミによる世論調査の結果がしばしば軽んじ
られる背景には、
「大衆は政策の素人であり、課題の本質を十分理解せずに意見を表
明している」
「世論調査はマスコミの世論操作の産物」という見方があるからだ。だ
が悲しいことに議員の言動を見る限り、大多数の議員の能力は大衆とさほど変わらな
い(使命感や気概はさておく)
。だとすれば議員とはまさに「代議士」にすぎない。
大衆側が彼らに注文を出し、あたかも執事のように自由自在に使えばよい。
具体的には「討議型民主主義」あるいは「熟議」という手法がある。これは公募し
た市民に集まってもらい、特定の政策テーマについて十分な情報を提供して議論して
もらう。そのうえで政策の選択について賛否を問う。これによってマスコミによる操
作や先入観を排した精度の高い世論調査ができる。世界各地で実験が始まっている。
日本でも藤沢市役所や大阪維新の会(
「熟議会」という)が始めた。こうして得られ
た成果は、従来の世論調査よりも信用が置ける。
「討議型世論調査」ともいわれるゆ
えんである。
●究極のアプローチとしての分権化
議会と民意のずれを補正する究極のアプローチがもう一つある。それは個々の政策
課題ごとに、そのテーマの特性に合わせた議論と意思決定の単位(場)を設けるとい
う方法だ。特に有効なのは「地域」に委ねる方法だ。たとえば少子化対策の場合、あ
らかじめ市町村ごとに予算枠は決めるが、それをどう使うかは各市町村が自由に決め
てよいとする。決め方も自由とする。住民投票にかけてもいいし、議会で決めてもい
い。究極の“一国多制度”である。
政策のテーマにもよるが、全国一律の制度決定をやめるだけで民意とのずれが補正
できる。各地の住民たちが自分たちの身の回りの実態を念頭に置いて決定に参加する
ので、決定内容に対する当事者意識が出てくる。ひいては予算の費用対効果を真剣に
考えるようになる。身近な政策判断に基づく決定だから、現実を踏まえた修正もしや
すくなる。まさに民主主義の理念に根差した展開である。
安全保障、外交、通貨など全国一律であるべき制度は、国会で今まで通り決めれば
よい。だが、国会でもなるべく分野別の委員会でじっくり議論する。そして予算委員
会や本会議では、多岐にわたる細かな議論を広く薄く討議するという愚行はやめる。
一方では国税の増税については面倒でも国民投票にかける。
ビジネスには「適正商圏」というものがある。同じように政策にも適正な決定単位
というものがあるはずだ。それを見極め、政策ごとに多様な選択、意思決定の方法を
試せばよい。
こうしていくと忙しい現代人にとっては、
「民主主義」を維持するための手間や負
担が増える。だが放っておいても税の負担は増えていく。ならばそろそろ代議士任せ
をやめて、自分で考える仕組みに移行すべきではないか。
幸い、インターネットの出現で電子討議や電子投票ができる時代になった。ビジネ
スにおいても技術革新に伴って旧態依然たる旅行代理店や商社は排除されていく。同
様に旧態依然たる代議士はもういらない。これからの民主主義を考える上ではわれわ
れが当たり前と考え、民主主義の前提としてきた代議制民主制のあり方を根っこから
見直す必要がある。
─◆執筆者・上山信一(うえやま・しんいち)◆───────────────────
②大阪関連
日経 BP ガバメントテクノロジー・メール
2011-11-10
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コラム・上山信一の「続・自治体改革の突破口」
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第 117 回 大阪ダブル選挙のよみ方 ---本当の争点は何か
11 月 27 日投開票の大阪市長・大阪府知事のダブル選挙に関する報道が増えている。
全国に与える影響が大きいといわれるが、異例ずくめの選挙戦で他地域の人たちに
はイメージが湧きにくい。今回はこの選挙の意義を解説したい。筆者は大阪維新の会
の政策特別顧問を務めているが、本稿では極力、第三者的な解説を行いたい。
●よくある疑問(1) なぜ橋下氏は市長を目指すのか?
【答】橋下氏は地域政党「大阪維新の会」の代表である。大阪維新の会としては大阪
都構想の実現のために大阪市長のポストを獲得したい。その上で大阪市役所と大阪府
庁を解体・再編したい。維新の会はそのために橋下氏が市長になるべきだと考えた。
要は個人の都合ではなく、会派の戦略による出馬なのだ。
●よくある疑問(2) 大阪市長のポストは知事を辞めてまで目指すほど重要か?
【答】大阪府全体に占める大阪市の面積はわずか 1 割だが、GDP(域内総生産)は半分
以上、人口は 3 割を占める。大阪全体の都市戦略、経済再生は大阪市の政策のあり方
にかかっている。
ところが大阪市は広域の成長戦略にはあまり熱心でない。既成政党の発想の狭さと
も相まって、目先の住民要望への対応に終始しがちで、次世代のための都市戦略にあ
まり投資しない。そしてこうした状況は政令指定都市の仕組みの限界に由来する。だ
から大阪市をこの制度から離脱させる必要がある。そのためには大阪維新の会が知事
と市長のポストを両方得る必要がある。また議会で多数派を形成する必要もある。今
のところ、大阪府議会は維新の会が過半数を得ている。だが市議会はそうではない。
市長の座を得ないと市役所の改革や方針変更は期待しにくい。
●よくある疑問(3) なぜ大阪府と大阪市はこれほどまでに対立するのか?
【答】
「大阪府が大阪市の権限を奪おうとしている」
「府庁と市役所の対立」という
とらえ方は全くの的外れである。そもそも橋下氏はもはや知事ではない。今さら府庁
という組織の利益を追求する立場ではない。マスコミは前知事が現市長に挑戦すると
いう構図を指して、
「府と市は仲が悪い」
「府市合わせ(不幸せ)
」だという。
だが、今回のダブル選挙は、府庁と大阪市役所の対立(役所間紛争)に由来する
ものではない。これはあくまで大阪維新の会という地域政党と既存政党との戦いで
ある。府庁と市役所の職員同士、役所同士が対立しているわけではない。
●よくある疑問(4) たかが「二重行政の解消」のためになぜ統治機構の再編まで
する必要があるのか?
【答】二重行政問題の解決のためだけであれば、都構想は不要かもしれない。また各
種会館が府と市の両方にあって無駄だといった現象は大した問題ではない。例えば稼
働率が高ければ両方残しておけばよい。
問題は、むしろ「二元行政」である。大阪の再生のためには関空連絡鉄道などイン
フラへの投資が必要だ。ところが府と市で足並みがそろわない。府は全体の成長戦略
を考え、市は目先の住民サービスを優先する。そのために投資の力点がずれる。たと
えば空港連絡鉄道にしても、前者の発想だと理想はリニアなどでノンストップ、とこ
ろが後者の発想だと大阪市内は沿線住民の利便を考え各駅停車でどうかとなる。
いずれも一理あり、折り合いがつかない。こうした利害の調整には 2 つの議会、2 人
の首長の 4 者の足並みがそろう必要があり、現実にはきわめて難しい。こうした問題
は一人の首長、一つの議会で決めないと、いつまでたっても結論が出ない。
─◆執筆者・上山信一(うえやま・しんいち)◆───────────────────
③
その他
2 . イ ン タ ビ ュ ー 取 材
( 新 聞 ・ 雑 誌 )
① 行 政 改 革
② 大 阪 関 連
3.そのほか取材・コメント引用
①行政改革
②大阪関連
③
その他
http://sfcclip.net/news2011112504
SFC CLIP
SFC の今を伝えるメディア
2011 年 11 月 25 日
【セッション】日本の鉄道は世界で勝てるのか!? 高速鉄道とグロー
バル展開
NEWS
プレミアムセッション「高速鉄道とグローバル展開」。日本の高速鉄道を様々な視点から検証し、海外展開
への道を探ろうというセッションだ。議論のテーマになったのは主に、技術、サービス、経営などの点。日本
の鉄道業界の持つ、様々な強みや弱みが明らかになった。
■パネリスト・荒井稔氏(東日本旅客鉄道株式会社執行役員/総合企画本部技術企画部長) ・鈴木学氏(株式
会社日立製作所・技監) ・山本貴代氏(女の欲望ラボ・代表) ・上山信一総合政策学部教授・古谷知之総合
政策学部准教授
新幹線を支える技術
最初に登壇したのは荒井氏。新幹線の速さ、安全性を支える技術面の解説を行った。 まず、JR 東日本
の新幹線車両にはいくつか特徴的なものがある。例えば、新幹線・在来線直通タイプの車両。この車両は、
新幹線の軌道に加え、一部区間で在来線の軌道上も走れるように開発された。秋田新幹線「こまち」などで
使用されているとのこと。また、利用者数増加に応えるため、2 階建て車両も使用されている。こちらも高速
鉄道としては、世界的にみても珍しいことだという。 また、集電装置であるパンタグラフの数も、近年の車両
ではかなり少なくなってきている。初代新幹線車両の 0 形では 16 両編成の車両全体で 8 基のパンタグラフ
が装着されていたのだが、2007 年に開発された N700 形では 16 両で 2 基に減少。パンタグラフ数減少の
裏側には集電能力の向上があるそうだが、騒音の改善など大きな恩恵をもたらしているとのこと。 地震発
生時の安全技術も、とても高度なものになっているという。地震の初期微動を感知すると自動的にブレーキ
が作動する仕組みで、主要動が到達する前に新幹線を安全な速度まで減速させることができる。東日本大
震災の際にもこの技術が活躍し、脱線などの事故を防ぐことができたと、荒井氏は誇らしげに語った。
日立製作所の英国市場への参入
続いては、日立製作所鈴木氏の講演。日本の鉄道メーカーによる海外参入の事例を、自社の英国参入の
ケースを通して解説した。 2008 年、日立製作所が日本のメーカーとしては初めて、英国に鉄道車両を納入
した。日本に鉄道がやってきてから約 130 年、鉄道発祥の国に「恩返し」をした格好だ。 英国は鉄道発祥の
地であり、世界が注目するマーケットでもある。現在イギリス市場のほとんどは欧州の企業によって占めら
れているが、大陸のサプライヤーに対する評価は低い。そこで、高い信頼性を誇る日本企業にも十分にチャ
ンスはあると考えたとのこと。 ただ、計画が始まった当初は日立に鉄道メーカーとしてのブランド力が無か
った。冷蔵庫や洗濯機等が主力商品ということもあり、英国での日立のイメージは完全な家電メーカーだっ
た。そこで、活動は鉄道メーカーとしてのブランドを確立することから始まったとのこと。様々なセミナーに参
加するなどして知名度を上げる他、実際の車両をローカル路線でテストし、信頼性を証明した。 また、大き
なプロジェクトを外国企業が受注するということで、国民感情の部分にも配慮した。ビジネスの前面には現地
社員を立て「日本クオリティ」にこだわりつつも英国や欧州のサプライヤーから積極的に部品調達を行ったと
いう。 このように様々な苦悩を経て納入されたのが「Class395」。納期の遅れが当たり前だった英国市場で、
契約前に営業運転を開始。取引先だけでなく、イギリス国民全体からの支持を獲得した。通勤電車としての
利用の他、ロンドンオリンピックの際の輸送でも活用される予定だという。
鉄道の高速化は、女の欲望をどう変えるか
続いての講演者は、女の欲望ラボ代表の山本氏。女性の視点から見た高速鉄道、女性が高速鉄道に求
めるものについて解説した。 まず、女性は普段からいくつもの欲望を持っている。恋愛欲や仕事欲、健康欲
など、その種類は様々だが、その中でも「旅欲」というものがかなり大きい。震災後も根強く保たれているよう
で、世の女性は「旅したい」という気持ちを強く抱いていることが伺える。 そのような旅好きな女性が高速鉄
道に求めるものは、男性とは大きく異なるようだ。男性の多くが「速さ」を最優先で求めているのとは対照的
に、女性は「楽しさ」や、なんと「愛」といったものまで求めているとのこと。より具体的な調査では、旅情や楽
しい演出、更にはマッサージ室やネイルサロンなどが欲しいと感じている女性が多くいるとのことだった。 ま
た、「全国各地が高速鉄道によって 30 分で結ばれたら何がしたい?」、という調査の結果も発表された。「会
社帰りに北海道の海の幸を食べに行きたい」や「各県に 1 人づつ彼氏を作りたい」などといった、女性の率直
な意見も会場を驚かせた。
ビジネスの視点から鉄道業界を分析
続いては、上山教授。ビジネスの視点から、鉄道の輸出、また国内や世界の鉄道市場に関して解説した。
まず、現在世界の鉄道市場は、毎年数%の成長を続けているとのこと。国ごとに見ていくと、ヨーロッパの市
場が大きいのに対して、アメリカは人口や国土の大きさから考えるとかなり市場が小さい。これは、アメリカ
が車社会であることに起因していると考えられるそうだ。どこに行くのにも車を用いるので、鉄道を利用する
機会が少ないのだ。今後はアジア市場の成長がカギになるが、アジアを車社会ではなく鉄道社会にすること
がポイントとのこと。人口の多いアジアが車社会になってしまうと、排出される Co2 の多さから環境問題にも
重大な影響を及ぼすことになる。 また、海外展開においても日本企業は大きなアドバンテージを持っている。
高速鉄道は、土木や車両、サービスの面まで様々な分野をパッケージングした商品である。複雑な技術を長
期間にわたり事故もなく運用してきた経験は、とても大きな財産であることは間違いない。ただ問題なのは、
そのアドバンテージを上手く説明できていない点にある。世界でもまれにみる過密ダイヤで安全に鉄道を運
行するノウハウや、人材育成などを海外の人にも分かってもらうことが大切であると上山教授は主張した。
また、駅構内のサービスから街づくり、周辺地域でのバス運行などをトータルパッケージで提供しているのも
日本の鉄道会社の特徴的なビジネスモデル。アジアなど、人口密度の高い地域ではこのノウハウも役立て
られるはず。 まずは鉄道車両からだが、今後は運営や周辺サービスなどのトータルパッケージでの輸出に
も期待したいと、上山教授は力強く語った。
日本の鉄道は世界で勝負できるはず!!
今回のセッションを通じて感じられたのは、日本の鉄道が世界に出られる可能性は十分あるということだ。
技術もビジネスモデルも、他国の企業にはマネのできないほどレベルが高く、良く練られている。日立の例
のように、実際に車両を輸出した経験もノウハウもある。 世界中の都市を Made in Japan の高速鉄道が結
ぶ日も、そう遠くはないのかもしれない。
エディター: 三股
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