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Title 家庭科における伝統と文化の教育に関する研究 Author(s) 金澤
Title
家庭科における伝統と文化の教育に関する研究
Author(s)
金澤, 伊代; 鎌田, 浩子
Citation
釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第42号: 139-144
Issue Date
2010-12
URL
http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/2352
Rights
Hokkaido University of Education
釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第42号(平成22年度)
Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.42(2010):139-144
家庭科における伝統と文化の教育に関する研究
金 澤 伊 代・鎌 田 浩 子
北海道教育大学釧路校家庭科教育研究室
A Study of Tradition and Cultural Education in Home Economics Education
Iyo KANAZAWA and Hiroko KAMATA
Department of Home Economics Education, Kushiro Campus, Hokkaido University of Education
1.研究の背景と目的
とが新たに加わった。これは、2003年中央教育審議会「新
人々は日本の伝統や文化を長年絶やすことなく後世に受
しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在
け継いできた。そしてこのサイクルを通して日本人として
り方について(答申)
」で、教育基本法改正の新しい理念
のアイデンティティを確立してきた。現代はグローバル化
として我が国の伝統や文化の尊重と、それを育んできた国
がすすみ、他国との結びつきも深くなると同時に容易に情
や郷土に対する愛情、そしてその基盤の上に立って他の国
報が発信できる時代となった。そこで、私たちは日本に
とその伝統や文化を尊重することが、日本の新しい世代に
ついての伝統と文化を理解し、それらの情報を世界に発信
対して求められていることになる。この新たな教育基本法
し、他の国々と共存していくために、異文化や他の国を理
の理念のもとで新学習指導要領が告示されており、以下で
解することが求められている。このためにはまず、我が国
小学校学習指導要領のこれらの記述をみる。
の文化と伝統を理解することが必要である。
(2)各教科等の学習指導要領における伝統と文化に関す
学校教育においては、学校教育法や教育基本法の改正を
る記述
背景に学習指導要領が改訂され、伝統・文化教育が今まで
①国語
以上に強調されている。小学校段階では、伝統と文化を尊
先の中教審答申では「古典の指導については、我が国の
重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し、自分
言語文化を享受し継承、発展させるため、生涯にわたって
の生まれ育った郷土や自国に愛着を持てるような“日本ら
古典に親しむ態度を育成する指導を重視する」としてお
しさ”を学び、態度を育てることが基盤にあるといえる。
り、学習指導要領においては「伝統的な言語文化と国語の
教育基本法ではこの態度を養うことが、生涯学習の理念と
特質に関する事項」が加わり、短歌・俳句、慣用句・故事
されている。また、教育基本法の改正によって外国語活動
成語、古文・漢文等の学習によって伝統的な言語文化を継
の時間が新設されるなど、他国の文化も尊重しながら自分
承し、新たな創造へとつないでいくことができるよう内容
たちの文化について理解する態度を養おうとしている。と
が構成されている。
りわけ、小学校家庭科は生活との結びつきの深く、生活文
②社会
化の基礎を培う大切な教科に位置づけられている。そこで
先の中教審答申では「我が国及び世界の成り立ちや地域
本研究では家庭科において現在どのような伝統と文化教育
構成、今日の社会経済システム、様々な伝統文化、宗教に
の教育が実施され、今後求められているかについて、学習
ついての理解を通して、我が国の国土や歴史に対する愛情
指導要領の内容を整理し、小学生・中学生を対象としたア
をはぐくみ、日本人としての自覚をもって国際社会で主体
ンケート調査によってその現状と課題等を明らかにすると
的に生きるとともに、持続可能な社会の実現を目指すな
とともに、今後の方向性について検討することとした。
ど、公共的な事柄に自ら参画していく資質や能力を育成す
ることを重視する方向で改善を図る」としている。このた
2.新学習指導要領における伝統と文化に関する内容
め学習指導要領では、人物を中心に文化遺産中心の歴史学
(1)教育基本法における伝統と文化
習の一層の充実が図られ、例えば第6学年では、歴史学習
2006年12月、約60年ぶりに教育基本法が改正された。教
で選択して取り上げられていた「室町文化と江戸文化の町
育基本法は、我が国の教育の根本的な理念や原則を定める
人の文化や新しい学問に関する事項」が独立項目として扱
ものである。この教育基本法では、その前文に「伝統の継
われている。
承」、第二条教育の目標第4項で「伝統と文化を尊重し、
③音楽
それらをはぐくんできたわが国と郷土を愛するとともに、
先の中教審答申では「学校や学年の段階に応じ、我が国
他国を尊重し、国際平和と発展に寄与する態度を養う」こ
や郷土の伝統音楽の指導が一層充実して行われるようにす
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金 澤 伊 代・鎌 田 浩 子
ること」としており、学習指導要領では、歌唱共通教材に
自分が育っている岩手県が好きかについて尋ねたとこ
ついては、現行の指導要領では第1~4学年で扱う教材が
ろ、5年生では100%、6年生では89.7%、中学3年生で
4曲中3曲であったのに対し、新学習指導要領では4曲全
は80.0%の児童・生徒が「はい」と答え、生まれ育った地
てを扱うこととした。第5・6学年についても、現行では
域を好きであることがわかった。(図1-1)
4曲中2曲であったが新学習指導要領では4曲中3曲を含
めて扱うこととした。これにより、
「ひいらいたひいらい
しかし、さらに自分が「岩手県の伝統と文化に興味があ
た」(1年生)、「うさぎ」
(3年生)
、
「さくらさくら」(4
るか」との問いに対して「興味がある」と答えた児童は5
年生)といった日本の伝統的な曲が必修となった。また、
年生では55.5%、6年生では60.0%だったが、中学3年生
「子もり歌」
(5年生)
、
「越天楽今様」
(6年生)といった
は「興味がない」と答えた生徒が71.4%と小学生と中学生
日本の伝統的な曲を選ぶ機会が増えた。
の意識の違いが目立った。(図1-2)
④家庭
先の中教審答申では「技術・家庭科においては、衣食住
図1-1 自分の育った地域が好きか
にわたって伝統的な生活文化に親しみ、その継承と発展を
(小学5・6年、中学3年全体)
図る」としており、このため新学習指導要領では「米飯や
みそ汁は、我が国の伝統的な日常食である。米は、我が国
の主要な農産物であり、主食として日本人の食生活から切
り離すことのできない食品である。
」と記された。また、
中学校では衣服の着用では、
「和装の基本的な着方を扱う
こともできること」と追加されている。
⑤道徳
新学習指導要領では。道徳教育の充実が特に図られた。
特に、先人の生き方、自然、伝統と文化、スポーツなど、
児童生徒が感動を覚える魅力的な教材の開発や活用の改
図1-2 育った地域の伝統と文化に関する興味の有無
善・充実がなさせている。
⑥外国語活動
外国語活動は小学校の教育課程で新たに加わったもので
ある。外国語活動を通して、外国語や外国の文化のみなら
ず、国語や我が国の文化についても理解を深めることがで
きるようにすることが目指されている。
⑦総合的な学習の時間
学校種間の重複を避け、発達の段階に応じた取組を促す
ため、小学校で地域の人々の暮らし、伝統と文化について
の学習活動を例示として追加している。
この結果から、自分が住む地域(岩手県)は好きでも伝
3 アンケート調査
統文化に興味があるか、ないかについては必ずしも関連し
(1)目的と対象等
た結果ではないことがわかった。これらの理由についての
小・中学生の伝統と文化についての興味関心等の実態を
自由記述を見ると、小学5・6年生については「もっと岩
把握するため、アンケート実施者の出身であり、卒業後教
手県の色々な伝統や文化を知りたい」と意欲的に答えた児
員として仕事をする岩手県内の小・中学生を対象に行っ
童が多かった。これに対し「岩手県の伝統と文化に興味が
た。実施時期は、2009年11月~ 12月、M市内小学校5年
ない」と答えた児童の理由としては、岩手県の伝統文化を
生42名(2学級)
、6年生32名(1学級)
、中学校24名(1
知らないことから興味関心をもてない児童、伝統文化にふ
学級)計98名を対象に、ホームルーム時に配布し、その場
れる前から興味がない児童の回答が目立った。一方、中学
で回収してもらった。
生については小学生と同様、
「たくさん伝統や文化がある
(2)調査項目
から学んでみたい」という生徒が多かったが、
「興味ない
①岩手県の伝統と文化についての興味・関心
から」という生徒、また「自分は伝統を継いでいかない」
②他県の伝統と文化についての興味・関心
という消極的な生徒もいた。(図1-3)
③伝統と文化についての情報の入手
次に「岩手県の伝統と文化を語り継ぐことは大切である
④家庭科の授業における伝統と文化の教育の内容
か」という質問については、5年生は100.0%、6年生は
(3)結果と考察
89.7%、中学生では80.0%の児童・生徒が「大切である」
①岩手県の伝統と文化についての興味・関心
と答えていた。前の「伝統と文化に興味があるか」の結果
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家庭科における伝統と文化の教育に関する研究
図2 他の県の伝統と文化についても学びたいか
と「伝統文化に興味ない」と答えた児童・生徒の相関はみ
られない。伝統と文化に興味がなくても、伝統と文化をこ
れからも語り継いでいくことは大切であるという認識があ
るようだ。5年生、6年生ともに半数以上が伝統と文化に
興味があり、それを受け継ぐことが大切であるとほとんど
の児童が回答してた。中学3年生に関しては、71.4%の生
徒が伝統と文化に興味がなくても、80.0%の生徒が伝統と
分化を語り継ぐことの大切さを認識していた。小学生、中
学生の意識の違いが明らかになる結果であった。
(図1-
3)
しかし、質問この回答で「はい」と答えた児童生徒の理
由の自由記述を見てみると、自ら伝えていこうとする自発
的回答が小学生、中学生ともに少なかった。
この結果、総合的な学習の時間は、伝統と文化の教育に
図1-3 地域の伝統と文化を語り継ぐことは大切か
ついて非常に大きな役割があることがわかった。また、教
科としては小学校では社会科中学校では家庭科が担う役割
が大きいことがわかった。
また、
「学校や地域の行事」による情報の入手について
たずねた結果、地域の行事をあげたものが小学生(43%)
、
中学生(58%)とともに最も多く、次いで「お祭り」小学
生(39%)、中学生(26%)、「運動会」が小学生(18%)
、
中学生(16%)の順で多かった。これにより行事、日常的
な会話や生活を通して人から人へその地域にまつわる伝統
や文化を語り継いでいることがわかった。
しかしながら、伝統と文化をだれから学んだか一つ選
んでもらったことろ、中学3年生では、「祖父母」が、小
学校5・6年生では、
「両親」と「祖父母」が44%と同率
②他県の伝統と文化についての興味・関心
1位であり、ともに両親か祖父母からが90%近く、家族に
「他の県の伝統文化について学んでみたいか」尋ねたと
よる文化と伝統の継承はやはり大きな要因であることがわ
ころ、小学5・6年生全体で「みたい」と答えた児童が
かった。(図3-1、3-2)
63.0%であった。一方、中学生では「はい」と答えた生徒
が、
「いいえ」
と答えた生徒をわずかに上回った。
ここでも、
図3-1 伝統と文化をだれから学んだか
小学生と中学生の意識の違いを見ることができた。
(図2)
(小学5・6年)
③伝統と文化についての情報の入手
「これまで、岩手県の伝統と文化についてどこから情報
を得ていたか」について、
「学校の授業」と「学校や地域
の行事」の別に尋ねた。行事については、学校で主催する
ものであっても、アンケート実施者の経験から地域の住民
が参加して行ったものが多かったためこの2つに分類し
た。授業で主に行ったものとしては、小学生では、総合的
な学習の時間(45%)
、社会(39%)の順で多くその他は
すべて9%以下であった。中学校では、総合的な学習の時
間(48%)が最も多いことは同様であったが、2位は家庭
科(26%)で他はすべて9%であった。
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金 澤 伊 代・鎌 田 浩 子
図3-2 伝統と文化をだれから学んだか
たちのくらし」「昔から伝わる遊び」「気候とすまい」から
(中学3年)
選択してもらった。この結果最も多かったのは、
「郷土料
理」で、小学5・6年生61%、中学3年生45%だった。小
学5・6年生では順に「伝統行事」
「昔から伝わる遊び」
(13%)、「気候とすまい」の順であった。中学生では次い
で、
「伝統行事」(19%)、
「昔から伝わる遊び」(17%)
、
「気
候とすまい」(10%)の順であった。
その内容について自由記述をみると、郷土料理について
の内容は、「にしめ」をはじめ「ひゅうず」、「ひっつみ」
など特有の郷土料理にまでバラエティに富んでいた。ま
た、
「伝統行事」では、郷土芸能に代表される「神楽」や「剣
④家庭科の授業における伝統と文化の教育の内容
舞」について答えた児童・生徒が多く、昔の人々の生活と
1)これまでの家庭科における伝統と文化の教育
かかわるものがみられた。
これまで家庭科の授業で伝統と文化についてどのような
ことを学んだか「郷土料理」
「伝統行事」
「伝統工芸品と私
表1 家庭科で学んだ伝統と文化に関す内容
(自由記述)(小学5・6年)
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家庭科における伝統と文化の教育に関する研究
表2 家庭科で学んだ伝統と文化に関する内容
(自由記述)(中学3年生)
2)今後の家庭科の授業で学びたい内容
しかしながら、小学5・6年生、中学3年生で比較して
これからの家庭科で最も学びたい内容については、学ん
みると、はっきりと意識の違いを見ることができた。それ
だ内容と同様の項目についてたずねた。この結果、小学
は、小学生は「岩手県の伝統と文化をあまり知らないから
5・6年生、中学3年生ともに「岩手県の郷土料理」と回
よくわからない」という回答が多かったのに対し、中学生
答した児童生徒が一番多かった。続いて多かった内容は小
は伝統と文化の知識を身に付けた上で「語りついでも未来
学5・6年生、
中学3年生で共通して「昔から伝わる遊び」
には役立たない」
「学んでも何にもならない」などの学ん
が多い割合を占めた。特に、中学3年生は「昔から伝わる
でも自分の生活には関係ない、というような意識があらわ
伝統行事」の割合も高く、日常生活に目を向けた関心が明
れた。この小学校、中学校間のジレンマを解決するために、
らかとなった。
(図4-1、4-2)
小学校と中学校間での指導の関連性を図ることが大切であ
ると考える。また、いかに伝統と文化というものが自分た
図4-1 これからの家庭科の授業で最も知りたい・興味
ちとの生活に結びついているか、ということ体験すること
ができるような指導が大切である。
ある内容(小学校5・6年)
また、家庭科の授業で学びたい岩手県の伝統と文化につ
いての自由記述をみると、「お祭り」「昔から伝わる遊び」
「昔の遊び道具」「岩手の料理をいっぱい作りたい」
「岩手
県の伝統について知りたい」等の考えが示されていた。
5.考察
新学習指導要領では、小学校では伝統と文化を尊重し、
それらを育くんできた我が国と郷土を愛し、自分の生まれ
図4―2 これからの家庭科の授業で最も知りたい・興味
育った郷土や自国に愛着を持つことが求められている。家
ある内容(中学校3年)
庭科教育においては小学校の新学習指導要領で「米飯とみ
そ汁が、我が国の伝統的な日常食である」ことが示された。
そして、今回のアンケート調査の結果、家庭科は既に総
合的な学習の時間と並び、特に中学校では家庭科が伝統や
文化を学ぶ中心的な授業であることがわかった。中でも最
も多く実践されていたのは、食生活すなわち伝統食、郷土
料理などの学習内容であった。小学校家庭科の新学習指導
要領では、
「米飯とみそ汁が、我が国の伝統的な日常食で
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金 澤 伊 代・鎌 田 浩 子
ある」ことを学ぶことが示されたが、今回アンケートを実
施した地域では既により地域に根差した伝統食、郷土料理
などの教育実践が行われていた。
家庭科教育はその教科目標を「衣食住などに関する実践
的・体験的な活動を通して日常生活に必要な基礎的・基本
的な知識及び技能を身に付けるとともに、家庭生活を大切
にする心情をはぐくむ」ものとされている。また今回のア
ンケート調査の結果、児童・生徒は、昔から伝わる遊びや
お祭りをはじめとした伝統行事や気候による住まい方につ
いても学びたいとの意見等があげられていた。これらは、
小学校学習指導要領「近隣の人々とのかかわり」や中学校
学習指導要領「幼児の観察や遊び道具の製作」などとの関
連をもって指導することができ、他の地域でも実践可能な
内容である。
家庭科教育においては、既に文化や伝統に関する教育が
行われているといえるが、今後は地域環境、住生活、衣生
活、食生活の文化をトータルにとらえた横断的な教材研究
が必要と考える。そしてその実践のためには、教員だけで
なくゲストティーチャ―などの地域の人々の活用も必要で
ある。さらに学校区がある程度定められている小学校・中
学校においては、それらが連携を持つことによって我が国
や地域の伝統と文化を指導することによって、児童・生徒
が自らの生活の向上をめざす家庭科教育の授業実践を積み
重ねることができると考える。
参考文献
文部科学省 「平成19年度 文部科学白書」
(2007)
文部科学省 「小学校学習指導要領 総則」(2008)
文部科学省 「小学校学習指導要領解説 家庭編」
(2009)
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