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外国人相談の傾向と心理的問題を抱える相談 -「T外国人相談センター」

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外国人相談の傾向と心理的問題を抱える相談 -「T外国人相談センター」
東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 62 集・第 2 号(2014 年)
外国人相談の傾向と心理的問題を抱える相談
―「T外国人相談センター」における過去 9 年間の相談記録から―
一 條 玲 香* 上 埜 高 志**
本論文は,
「T外国人相談センター」における過去 9 年間の相談記録から,外国人相談に寄せられ
る相談の傾向と心理的問題を抱える相談について明らかにすることを目的とした。外国人相談では,
「生活情報」に関する相談が最も多い一方で,家庭内の問題,労働問題,相談者の話し相手など幅広
い対応が求められていることがわかった。心理的問題を抱える相談は,女性に多く,その背景には
離婚や家庭内不和があることが明らかとなった。また心理的問題を抱える相談は,話を聞いて落ち
着くレベルから専門的な支援が必要と思われるレベルまで多様であり,状態の見極めが難しいこと
や心理的問題を抱える常連相談者の依存傾向が強まりやすいことが明らかとなった。これらの課題
に対して,メンタルヘルスの知識を活用することや心理面接の構造を応用し外国人相談独自の枠組
みやルールを構築することが今後の課題として浮き彫りとなった。
キーワード:外国人相談,外国人,日本人の配偶者,心理的問題,メンタルヘルス
Ⅰ.問題と目的
1. 研究の背景
日本で暮らす外国人の数は,
203 万 8159 人にのぼり,社会のグルーバル化に伴い,増加している(総
務省,2013a)。2005 年,総務省は「多文化共生の推進に関する研究会」を設置し,旅行者などの短期
滞在者だけでなく,長期居住する外国人を生活者として捉え,地域づくりを行うようにとの方針を
示した(総務省,2006)
。
これまで外国人の生活支援は,
行政や地域の国際交流協会,NPO(特定非営利活動法人),NGO(非
政府組織)などが主体となって行ってきた。今日,生活者としての外国人が抱える問題は,生活,労働,
子育て,健康,労働などより複雑で多様化している(近藤,2009;松本,1995,2008;松本・秋武,
1994,1995;奥田・田島,1991,1993;奥田・鈴木,2001;猿橋,2009;佐竹・ダアノイ,2006)。
メンタルヘルス領域も例外ではない。異文化ストレスにさらされ,精神科を訪れた外国人につい
ての報告や研究が行なわれている(大西・大滝・中山・清水,1987;大西・中川・小野・檜山・野賀,
1993;江畑,1989:杉山・大西・森山・江畑,1994;辻丸・福山,2003;許,2010)。杉澤(2009)によると,
*
**
教育学研究科 博士課程後期
教育学研究科 教授
― ―
145
外国人相談の傾向と心理的問題を抱える相談
都内を巡回する形で行なわれた弁護士や行政書士,精神科医などの専門家による外国人のためのリ
レー相談会では,
「こころの相談」の比率が 7 年間で平均 3.2%あったという。在住外国人に医療の
情報提供を行なう AMDA(The Association of Medical Doctors of Asia)国際医療情報センターで
も精神科関係の相談は毎年 5%前後と一定の割合を占めている(宮地,1999)。生活上の様々な問題
と重なって,メンタルヘルスの問題を抱える外国人が一定数いることがうかがえる。
しかし,外国人のメンタルヘルスに関する研究は,未だ少ないのが現状である。今後,日本が多
文化共生社会を目指していくならば,日本人同様,外国人のメンタルヘルスに関しても十分な支援
や研究がおこなわれる必要がある。
外国人のメンタルヘルスにおいて,
「外国人相談」は重要な役割を担っている。ボストンで在住日
本人向け電話相談を行い,
AMDA 国際医療情報センターの運営にも関わっている宮地(1999)は,
「移
住者のメンタルヘルスケア・システム」
を提唱し,その中での電話相談の重要性を指摘している。「移
住者のメンタルヘルスケア・システム」とは,医療人類学者で,精神科医のクラインマンが提唱した
「ヘルスケア・システム」
(Kleinman,1980)に依拠し,宮地(1999)が構築した概念である。
「ヘルス
ケア・システム」は,病気に関連した社会的な諸要素を統合する概念であり,民間セクター(popular
sector)
,専門職セクター(professional sector)民俗セクター(folk sector),の 3 領域に分けられ,
民間セクターは最も大きな領域として位置づけられる(Kleinman,1980)。
宮地(1999)は,
「ヘルスケア・システム」から「メンタルヘルスケア・システム」に絞った場合,病
気エピソードとその対応に着目するだけでなく,予防や健康維持増進も含める必要があるとする。
さらに,
移民の接触するコミュニティを考えた場合,移住国コミュニティ,現地の民族コミュニティ,
出身国コミュニティ,それぞれに民間,専門職,民俗の 3 セクターを想定した(図 1)
。
― ―
146
東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 62 集・第 2 号(2014 年)
住国コミュニティ
外国人相談
族コミュニティ
身国コミュニティ
図 1 移民のメンタルヘルスケア・システムと外国人相談
(宮地(1999)
をもとに作成)
この移民のメンタルヘルスケア・システムにおいて外国人相談は,日本人が主体となった地域の
国際交流協会や NPO によって運営されている点では,移住国コミュニティの民間セクターに属し,
移住国コミュニティの他のセクターや民族コミュニティへ橋渡しをしている。一方,多くのネイティ
ヴ相談員が対応しているという点では,
民族コミュニティの民間セクターに属し,民族コミュニティ
から他のセクターへ,民族コミュニティから移住国コミュニティへの橋渡しを行なっている。
また宮地(1999)
は,
メンタルヘルスの領域における民間セクターの役割の大きさを指摘している。
その理由として,民間セクターの中だけで解決される場合もあること,メンタルヘルスの領域では
最終的に専門セクターに行きつくとしても,そこにたどりつくまでの経過が重要であることを挙げ
ている。
これらの点を踏まえると,外国人相談は,移民コミュニティ,民族コミュニティ双方の民間セク
ターに属すという多重性を有し,メンタルヘルスの領域では,その自己解決力や他のセクター,コ
ミュニティへの橋渡しをするという重要な役割を担っているといえる。
2. 研究の目的
そこで本研究では,外国人相談に焦点を当てることとする。これまで,外国人相談の実態はほと
んど明らかにされていない。外国人相談の重要性は,先行研究において指摘されている所であるが
(石河,2003;桑山,1995)
,事例として取り上げられることはあっても,どのような相談が寄せられ
― ―
147
外国人相談の傾向と心理的問題を抱える相談
ているのか包括的に扱った研究はない。また近年,増加とその対応の難しさが指摘されている心理
的問題を抱える相談(杉澤,2009)
についても明らかにされていない。
したがって本稿では,
「T外国人相談センター」における過去 9 年間の相談記録から,外国人相談
に寄せられる相談の傾向と心理的問題を抱える相談について明らかにすることを目的とする。
3. 用語の定義
1)外国人相談
「外国人相談」は,多言語で相談に応じる相談であり,その形態と内容は多様である(関,2008)。
本稿では,都道府県市町村,国際交流協会,NGO などが主体で行っている,主に外国人を対象とし
た相談を外国人相談とする。
2)外国人
「外国人」という用語を使用する場合,国籍は問わず,外国出身者という意味で用いる。
3)日本人の配偶者
「日本人の配偶者」は,特に在留資格と記さない場合,在留資格とは関係なく,単に日本人を配偶
者にもつ外国人という意味で用いる。
4. T外国人相談の概要
「T外国人相談センター」の対象者は,外国籍(含・無国籍)の人,日本語を理解できない人,国際
結婚や国際取引,外国人の雇用などを通じて外国籍の人と関わりを持つにいたった日本人,言葉の
問題などで外国人対応に苦慮している行政や病院などである。対応相談内容は,法律問題,税務問題,
医療・社会保障問題,教育問題,その他生活問題,身の上相談的なものなど多岐にわたる。スタッフ
は,専属の相談員と事務職を兼ねる相談員がおり,言語ごとに曜日が決まっている。相談は無料で
あり,相談方法は電話,メール,来所の形態をとっている。
地域は,地方都市に位置し,外国人集住地区などは抱えていない。「T外国人相談センター」が概
ね対象とする地域の外国人比率は,平成 25 年時点で約 0.62%とそれほど高くなく,男女比は,男性
約 42.5%,女性約 57.5%と女性の方が多い,在留資格別では,永住者(31.7%),留学(17.3%),特別永
住者(14.6%),日本人の配偶者等(8.0%)
,家族滞在(6.9%)の順に多い(総務省,2013b)。
地域の中心部には留学生が多く居住しており,周辺部には国際結婚で日本人男性と結婚した外国
人女性が多く居住している。彼女たちの中には,
「ブローカー婚」や「紹介婚」を介して国際結婚し
た人々が少なくない。
「ブローカー婚」や「紹介婚」は,「外国人花嫁」に端を発する。「外国人花嫁」
とは,1985 年に行政主導により始められた外国人女性との集団お見合いによって日本に嫁いできた
女性たちである。彼女たちは,言葉も通じないまま,簡単なお見合いを経て,嫁不足に悩む日本の
農村に嫁いだ。このような結婚は,
「お見合いツアー結婚」として社会問題となった(宿谷,1998)。
今日,外国人女性との国際結婚は行政主導から民間へと移り,「ブローカー婚」や「紹介婚」と呼ばれ
ている。仲介者は,行政から民間へと移行したが,十分な交際期間や意思疎通ができないまま国際
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結婚に至り,結婚後のフォローが行われず,様々な問題が起きている。
このように「T外国人相談センター」が対象とする地域は,外国人比率は高くないものの,外国人
女性の割合が多く,中でもトラブルを抱えやすい「ブローカー婚」や「紹介婚」を通して日本人男性
と結婚した外国人女性が少なくないことが特徴である。
Ⅱ.方法
「T外国人相談センター」における平成 16 年度から平成 24 年度の相談記録 2583 件を対象とした。
相談記録から,年度,相談形態,相談言語,性別,相談カテゴリー,相談内容詳細,および心理的問
題を抱えているか否かの項目を抽出した。相談カテゴリー,相談内容は,相談記録用紙の様式が年
度で異なるため,一部修正を加え,相談内容の記述により分類した。また,一度の相談で,複数の相
談が行なわれている場合には,相談内容ごとに 1 件と数えた。
Ⅲ.結果と考察
はじめに相談全体の特徴を相談件数,相談形態,相談者の性別,相談言語,相談内容に従って考察
を行う。次に,心理的問題を抱える相談について,量的に検討した後,事例から相談の特徴を考察
する。
1. 相談件数の推移
相談件数の推移を図 2 に示す。平成 23 年度は,東日本大震災の影響を受け,安否確認や震災関連
の相談が激増した。震災関連の相談は,相談センターの件数に含めていないため,平成 23 年度の総
数は減少している。しかし,翌年度には相談件数が回復しており,相談は漸増傾向にある。
450
426
400
348
350
309
300
相
250
談
件 200
数
150
212
223
H16
H17
352
325
200
193
100
50
0
H18
H19
H20
H21
年度
図 2 相談件数の年次推移
― ―
149
H22
H23
H24
外国人相談の傾向と心理的問題を抱える相談
2. 相談形態
電話での相談が約 88%,来所が約 12%を占める。電子メールでの相談はほとんどない。電話で来
所を伝えてから,相談センターを訪れるケースもいくつか見られた。来所相談では,夫婦間の通訳
や文書の翻訳,相談者が切羽詰まって訪れるケース,また日本語学習者が授業終了後,立ち寄って
相談していくケースなどが見られる。
3. 相談者の性別等
相談者の性別を①女性,②男性,③行政・支援者・夫婦,および④不明で分類した。行政・支援者・
夫婦は,行政の担当者,支援者,夫婦 2 人からの相談が含まれる。女性が 69%で最も多く,次いで男
性 20%,行政・支援者・夫婦が 8%,不明が 3%であった。
相談者の言語ごとに性別等の分類を図 3 に示した。中国語,韓国語,ポルトガル・スペイン語,タ
ガログ語では女性の割合が高い。一方で英語だけは男性の割合が最も高い。また日本語と英語の相
談では,行政・夫婦・支援者からの相談の割合が他の言語よりも多い。
タガログ語
英語
女性
葡・西語
男性
行政・夫婦・支援者
韓国語
その他
中国語
日本語
葡・西語=ポルトガル・スペイン語
0%
20%
40%
60%
80%
100%
図 3 言語別性別等割合
4. 相談言語
相談者の使用言語により相談言語の分類をおこなった。行政機関からの通訳・翻訳依頼の場合は,
行政を訪れた人の使用言語で分類をおこなった。また日本人からの通訳・翻訳依頼の場合には,日
本語に分類した。年度ごとの相談言語割合を図 4 に示す。平成 24 年度は,中国語,韓国語,タガロ
グ語(フィリピン語)
,ポルトガル・スペイン語を母語とする相談員が週に 1 回相談を受けている。
タガログ語は平成 23 年度に新たに加わった。ネイティヴ相談員が来ない日は,スタッフが対応して
いる。平成 24 年度スタッフは,英語対応が 2 名,中国語対応が 1 名,韓国語対応が 1 名である。日本
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東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 62 集・第 2 号(2014 年)
語での相談は,行政からの通訳といった日本人からの相談が多いが,外国人で日本が堪能な場合に
は,日本語で相談を受けているケースがある。
平成 18 年度から平成 19 年度にかけて,韓国語の相談が増えている。これは,スタッフとして韓国
語の対応ができる者が加わったためである。また平成23年度から平成24年度にかけて,ポルトガル・
スペイン語の相談数が急増しているのは,こころの問題を抱えた 1 人の相談者がかなり頻繁に相談
をしていたためである。詳しくは,
後述することとする。平成 24 年度の 1 件のロシア語での相談は,
不定期で勤務するロシア語が話せるスタッフが対応したためである。
100%
80%
相
談
割
合
60%
20
25
17
27
19
18
18
21
26
27
30
30
27
22
16
13
H20
H21
H22
H23
H24
11
16
22
26
31
H16
H17
H18
H19
16
0.3
6
8
23
15
20%
8
11
9
13
29
24
7
9
12
23
40%
0%
13
10
19
23
26
12
34
27
20
25
18
年度
中国語
韓国語
日本語
ポルトガル・スペイン語
英語
タガログ語
ロシア語
図 4 年度別相談言語の割合
5. 相談内容
相談内容を 13 つのカテゴリーと 30 の詳細項目に分類し,相談カテゴリーの割合を求めた(表 1)
。
外国人相談の中では,
「生活情報」
の提供が多く行なわれていることがわかる。次いで,
「家庭生活」,
「生活その他・話し相手」
が多い。
「家庭生活」の中では,離婚についての相談が最も多く47.1%を占め,
次いで家庭内不和に関する相談が 20.8%を占める。
「生活その他・話し相手」は,特に解決すべき問題があって相談をしているのではなく,会話や日
常の愚痴を話すことを主な目的とした相談が含まれている。周囲にこのような日常会話をする相手
がいない,あるいは母語で会話をしたいという思いから相談者は相談電話をかけてくる。このよう
に通常であれば,友人や家族によって担われるような役割が求められるのは,外国人相談の 1 つの
特徴といえる。異文化では,文化的違いや言語の障壁によって孤立感・孤独感を深めやすくなる。
外国人相談では,母語で会話することによってその孤立感や孤独感を和らげていると考えられる。
またこのカテゴリーには,心理的な問題を抱えた常連相談者の相談が多く含まれている。心理的な
問題を抱えた相談者の多くは,具体的な解決策や回答を求めるのではく,話しを聞いてもらいたく
て相談をしてくる。これらのことから,外国人相談においては,単なる情報提供だけでなく,心理
的な対応も求められているといえよう。
― ―
151
外国人相談の傾向と心理的問題を抱える相談
表 1 相談内容の分類
カテゴリー
詳細分類
具体的な内容
① 職探し・起業
職探し / 起業 / 国でとった資格を活かしたい
② 労働問題
雇用トラブル / 労働保険 / 失業保険
③ 通訳
医療通訳
④ 保険 / 年金
国民健康保険 / 年金 / 民間の保険について
⑤ 医療・福祉・年金―その他
紹介 / 相談 / 医療トラブル / カウンセリング
⑥ 紹介婚トラブル
紹介婚トラブル / 妻が帰ってこないなど
⑦ 法律・相続
相続・金銭トラブル / 夫が死んだときの相続
⑧ DV/ 虐待
DV/ 妻への暴力 / 子どもへの虐待
⑨ 家庭内不和
夫・姑といった同居家族との不和
⑩ 離婚
離婚に関する相談
⑪ 親戚・親族
同居家族以外の親戚トラブル
⑫ ビザ・国籍・パスポート
在留資格一般 / 帰化 / パスポート
⑬ 離婚 / 死別後ビザ
離婚・死別後の在留資格に関すること
⑭ 生活情報
店や同国人などの地域情報 / 大使館情報
6 住宅
⑮ 住宅
7 近隣・友人
⑯ 近隣・友人関係
8 運転免許
1 仕事
件数
割合
(%)
208
8.0
179
6.9
361
13.9
288
11.1
373
14.4
住宅探し / 住宅トラブル
55
2.1
友人関係 / 近隣トラブル
25
1.0
⑰ 運転免許
免許の書き換え / 取得方法など
34
1.3
9 税
⑱ 税
確定申告 / 住民税など
34
1.3
10 生活その他・
話し相手
⑲ 話 し相手・情報提供・生活
その他
消費 / 生活苦 / 話を聞いてほしい / 情報提供
など特に相談員に回答を求めない相談
360
13.9
⑳ 日本語学習
日本語を学びたい
㉑ 入学・進学
子の入学・進学 / 本人の入学・進学
㉒ 留学
留学に関する相談
245
9.5
㉓ 留学生貸付
私費留学生緊急支援貸付事業
288
11.1
138
5.3
2 医療・福祉・年金
3 家庭生活
4 ビザ・国籍
5 生活情報
11 教育
12 通訳・翻訳
13 その他
㉔ 教育―その他
語学試験の情報 / 子育てについて
㉕ 通訳・翻訳
手紙の翻訳 / その場での通訳・翻訳
㉖ 事業企画
大使館などの移動領事業務等
㉗ 助成金
助成金についての問い合わせ
㉘ 紹介・登録
ボランティアの紹介・登録
㉙ 団体・人材
通訳 / 行政書士 / 弁護士の紹介
㉚ その他―その他
交通事故 / 事件 業務について
6. 性別等による相談の特徴
全体,女性,男性,行政・支援者・夫婦の相談内容詳細とその割合を上位 5 位まで表 2 に示した。
女性では,
「離婚」
の相談が多く,
「通訳・翻訳」に関する相談は少ない。一方,男性では,
「生活情報」,
「通訳・翻訳」に関する相談の割合が高いことと「労働問題」に関する相談が特徴的である。行政・支
援者・夫婦による相談では,その約半分を「通訳・翻訳」が占める。
― ―
152
東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 62 集・第 2 号(2014 年)
表 2 相談内容詳細上位 5 位の割合
全体
1
2
3
4
5
%
生活情報
生活・話し相手
通訳・翻訳
ビザ・国籍・PP
日本語学習
女性
14.4
13.9
11.1
9.3
6.7
%
生活・話し相手
生活情報
ビザ・国籍・PP
離婚
日本語学習
男性
%
16.2 生活情報
13.3 通訳・翻訳
10.2 生活・話し相手
8.4 ビザ・国籍・PP
7.1 労働問題
行政・支援者・夫婦
9.6 通訳・翻訳
10.7 生活情報
10.1 生活・話し相手
9.3 団体・人材紹介
7.0 13―その他
%
52.1
7.9
6.0
5.1
4.7
「生活・話し相手」=話し相手・情報提供・生活その他,「ビザ・国籍・PP」=ビザ・国籍・パスポート
7. 心理的問題を抱える相談
相談のなかで,心理的なケアが必要と思われる相談を心理的問題を抱える相談とし,一般的な相
談内容とは別に抽出した。心理的問題を抱えるケースには,相談者が心理的な問題で病院を受診し
ているケース,カウンセリングを受けたいなどメンタルの問題を相談しているケース,相談者が心
理的に追い込まれていたり,ストレス反応が出ているケース,話しが支離滅裂で,現実検討能力が
低下しているケース,および特定の相談がないにもかかわらず相談員と話すことで,精神的安定を
得たり,孤独感を和らげているケースなどが含まれている。
1)心理的問題を抱える相談の年次推移
心理的問題を抱える相談の年次推移を図 5 示す。心理的問題を抱える相談は,増加傾向にある。
平成 23 年度は,震災の関連の相談を含めていないため,減少している。平成 24 年度は,ある相談者
が頻繁に相談をしていたため,心理的問題を抱える相談の数が激増している。
90
83
80
70
60
50
件
数 40
44
47
37
30
20
14
10
0
H16
8
9
11
H17
H18
H19
16
H20
H21
H22
年度
図 5 心理的問題を抱える相談の年次推移
― ―
153
H23
H24
外国人相談の傾向と心理的問題を抱える相談
2)心理的問題を抱える相談者の性別と相談言語
心理的問題を抱える相談の性別等による相談言語ごとの件数と割合を表 3 に示す。心理的問題を
抱える相談者の約 90%(242 件)が女性,約 10%(26 件)男性であり,女性が多い。相談者の在留資
格は尋ねていないが,相談事例を見てみると既婚女性の相談が多い。ほとんどが相談者自身の相談
である。一部,本人からの相談以外には,母親から母国から連れてきた連れ子の不適応の相談や日
本人夫から精神的に不安定になった外国人の妻の相談あった。行政からの相談は,1 件のみで,日
本人の義母・義姉・夫から辛く当たられ,精神的に不安定になり通院している外国人女性がいるが,
相談センターで対応できることはないかという相談であった。
相談言語別では,韓国が約半数を占め(47.6%)
,ポルトガル・スペイン語,中国語と続く。心理的
問題を抱える相談は,上述したように女性からの相談が多いため,女性の相談者が多い言語の割合
が高い。タガログ語の相談も女性の割合が多いが,全体数が少ないため割合が低くなったと考えら
れる。ポルトガル・スペイン語については,一日に複数回,相談電話をかける相談者がいたため,割
合が高くなったと考えられる。
言語ごとの男女比を比べてみると,全体でも女性の割合の高い韓国語,ポルトガル・スペイン語,
中国語では,女性に心理的問題を抱える相談が多い。一方英語では,女性の心理的問題を抱える相
談はなく,男性の心理的問題を抱える相談が多い。また日本語での相談では,男女比は同じである。
表 3 性別等による相談言語ごとの心理的問題を抱える相談の件数と割合
女性
男性
行政・夫婦支援者
韓国語
葡・西語
中国語
日本語
英語
タガログ語
相談言語
126
65
36
14
0
1
1
1
3
14
7
0
1
0
0
0
0
0
合計(件数) 割合(%)
128
66
39
28
7
1
47.6%
24.5%
14.5%
10.4%
2.6%
0.4%
合計
242
26
1
269
100%
3)心理的問題を抱える相談事例
外国人相談では,法律から家庭内のもめ事まで様々な相談が持ち込まれるが,同時に精神的に不
安定になっていたり,心身のバランスを崩していたりするケースが少なくない。
心理的問題を抱える相談のうち,
同じ相談者からの複数回の相談は1事例とし,分類をおこなった。
行政・夫婦・支援者からの相談は除いた。事例は,相談者の性別,心理的問題を抱える人で分類した。
女性では,最も多かった日本人の配偶者とそれ以外を分けた。それぞれの事例について,事例の背景,
状況・症状・訴え,対応,相談回数をまとめた。
― ―
154
東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 62 集・第 2 号(2014 年)
①女性,相談者自身,日本人の配偶者の場合
日本人の配偶者の外国人女性で,相談者自身が心理的問題を抱える事例は,42 件で心理的相談の
中で最も多い。問題の背景を 1 つに特定するには限界があるが,事例の中での精神的な苦しさや症
状の誘因になったと思われる背景を表 4 に示した。
表 4 相談事例の背景
事例の背景
事例件数
DV,夫による制限・束縛
家庭内不和(夫)
家庭内不和(姑)
家庭内不和(夫・姑)
家庭内不和(舅)
家庭内不和(夫・舅・姑)
離婚
遺産相続
夫の病気
孤立感・さみしさ
生活苦
対人トラブル
子どもの保護
日常のストレス
不明
6
5
3
6
1
2
3
1
2
3
2
3
1
3
1
計
42
DV や夫による制限・束縛では,暴力や暴言をふるわれるだけでなく,日本語教室や外出すること
を禁止し,社会と接触させない事例があった。相談者は,精神的に追い詰められており,中には不
眠やだるさを訴え,希死念慮のある人もいた。対応としては,相談者の話を良く聞きながら,女性
センターや専門機関を案内している。しかしながら,このような人権を無視された状況に置かれな
がらも,専門機関には相談したくないという事例もある。外国人の場合,日本で暮らすには在留資
格が必要であるが,日本人の配偶者等という在留資格であれば,当然のことながら資格更新の際に
夫の協力が必要となり,離婚してしまえば,基本的に日本にはいられなくなってしまう。このよう
なことが,DV の被害を訴えることや離婚の足かせとなっており,より一層精神的に追い込まれる
状況を作りだしている。
家庭内不和を背景とする相談は,心理的問題を抱える相談の中でも最も多い。相手は,夫,姑,舅
と様々であるが,いずれにしても家庭内に味方がおらず,孤立している。症状として,精神的不安
定さやストレスが溜まっていることを訴える事例,頭痛や胃炎などの身体的不調を訴える事例,不
眠,食欲不振,希死念慮がある事例,猜疑心や被害感情が強くなっている事例があった。対応は,傾
聴を基本とし,適宜離婚の説明や専門機関を案内している。傾聴だけで,相談者が落ち着く場合も
あれば,非常に感情的,攻撃的になったり,身体,精神にかなりの不調をきたしていると思われる場
合もあり,相談者の状態を見極めたうえでの対応が必要とされる。
― ―
155
外国人相談の傾向と心理的問題を抱える相談
離婚を背景とする相談では,
離婚調停など現実的に離婚の話が進んでいて,精神的に不安定になっ
ている事例があった。夫に離婚調停を申し立てられた A の事例を紹介する。
夫に離婚調停を申し立てられたAの事例
(1 回目の相談)
相談者は,日本人の夫とは,紹介所を通じて結婚。夫は自分をお金(仲介料)で買ったという。
生活費もくれないし,夫の家族も自分をいじめている。夫はお酒を飲むと暴力をふるう。母国
に行っている間に,帰ってきたら離婚調停を申し立てられていた。夫とその家族は自分を精神
病と決めつけて,慰謝料も払わないまま,追い出すつもりだ。内科や精神科を受診し,適応障
害だと言われたことはある。弁護士を含め,周囲に不信感を抱いている。言葉もうまく通じず,
自分の味方は一人もいないと不安定になっていた。
対応:相談者の話をよく聞き,通訳の派遣について説明する。
(2 回目の相談)
飼い犬のことで隣人とトラブルを起こす。その際,役所や警察が来て,精神病院に行くよう
に言われた。夫は自分が精神病と分かれば,仲介料が戻ってくると思っている。精神科では,
精神病ではなく,心因反応と言われた。不安感が周囲の人への不信感につながっていると言わ
れた。今は,調停をせずに母国に帰りたい。夫には,町の有力者もついている。以前起こした
交通事故への不満など離婚以外の不満についても語られる。
対応:傾聴。調停については弁護士に相談するように伝える。通訳について再度案内する。
A のように離婚の過程で,裁判所や弁護士など周囲の人に不信感を募らせることがある。言葉が
思うように通じないことに加え,離婚を契機に今までの不満が一気に噴き出してくる。対応として
は,相談者の話しを聞き,必要があれば通訳などの案内をしている。
遺産相続を背景とする相談では,外国人である相談者に日本人親族が相続させたくないと,様々
な手段を取ることがある。それまで,舅や姑の世話をしてきた相談者としては,納得できず,心理
的なダメージが大きい。対応は,相談者の今までの苦労をねぎらうとともに,相続の説明をしたり,
専門の相談機関へ繋いでいる。
夫の病気を背景とする相談では,今の生活に対する不安や夫の死後の生活の不安が大きい。対応
は,傾聴を基本とし,法律相談などの専門機関を案内している。
孤立感・さみしさを背景とする相談では,周囲に友人など話し相手がいない相談者からの相談で
ある。来日初期の相談者もいれば,数年住んでいても友人がおらず,孤立感を募らせている場合も
ある。来日初期の相談者では,日本語が難しく,周囲から孤立したり,人と会うのが怖いなど社会
との接触を避けてしまうことがあった。日本語教室や日本語学習についてアドバイスすると共に,
「T外国人相談センター」にいつでも相談するように伝えている。日本語が堪能で,数年日本に暮ら
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156
東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 62 集・第 2 号(2014 年)
している相談者では,周囲から差別的な発言をされたり,周囲には仲良くなれる人がないといった
ことが語られる。対応としては,相談者の話を聞き,さみしいときには「T外国人相談センター」に
相談するように伝えている。
生活苦を背景とする相談では,夫と夫の両親に先立たれ,子どもを抱えて生活が立ちゆかないと
いう相談であった。相談者は,精神的にも経済的にも頼れる人がいなく,子どもをおいて母国に帰
りたいと訴えていた。対応は,行政などの専門機関を後日案内することとした。
対人トラブルを背景とする相談では,相談者は,親戚,近隣から悪口を言われる,意地悪をされる
と訴える。しかし中には,具体性に欠ける内容もあり,何らかのストレスで周囲への不信感や被害
意識を強めていると思われることもある。具体的なトラブルがあるときには,専門機関を案内する
が,相談者の不満を聞くことに留まることが多い。
子どもの保護を背景とする相談では,おそらくそれ以前から精神的に不安定であった相談者が,
子どもの児童相談所への保護をきっかけに突飛な行動にでてしまった事例である。B の事例を紹介
する。
子どもの保護をきっかけに突飛な行動にでたBの事例
相談者は,以前万引きで警察に逮捕され,執行猶予がついた。その後,相談者は大勢の警察
官に追いかけられ,精神科に連れて行かれたという。子どもが児童相談所に保護されたことに
不満をもち,包丁をもって警察に行ったことから,逮捕されてしまった。
対応:行政に連絡をとり,情報共有をする。相談者を行政につなぐ。
B の事例では,以前からの精神的不安定さがうかがえるが,子どもを連れて行かれたことで,包
丁を持ち出すという突飛な行動に出てしまったと思われる。この事例では,既に行政機関が関わっ
ていることから,行政に相談者を改めて繋いだ。子どもを保護する段階で,B とどのような話し合
いが行なわれたかは分からない。しかし言葉の問題から,B の十分か了解が得られていないことが
推察される。このように,専門機関とのやり取りがスムーズにいかないことで,相談に至る事例も
ある。
日常のストレスを背景とする相談では,常連相談者が多い。日々の生活の中でトラブルやストレ
スを抱えると,その不満や愚痴を聞いてもらうために相談をする。問題に対する具体的な解決策を
求めているというよりは,日々の不満を相談することで精神的な安定をはかっている。あるいは,
自身で解決できるような問題でも相談することで,誰かと関わりを持ちたがっていたり,自分のた
めに動いてくれる存在を確認し,精神的安定をはかっている。C,D,E の事例を紹介する。
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157
外国人相談の傾向と心理的問題を抱える相談
操作的なCの事例
相談者は,
「T外国人相談センター」
管轄外の他県在住である。県内の「外国人相談」は嫌だと,
「T外国人相談センター」
に相談する。日本語は堪能。夫婦仲はよくない。はじめは生活苦を訴
え,ストレスのために過呼吸になると相談。その後も,日々の生活で不満があると,相談をし
てくる。地元スーパーへの不満があるから通訳してほしい,宅配便への不満,隣家への苦情等。
特定の相談員への固執有り。相談者の要求が通らないと,他の「外国人相談」へ,「T外国人相
談センター」の不満を相談する。テレビでなぜ家のまわりのことが放映されているのか(事実
はない),テレビやドラマを見ているだけで不安に襲われる,警察に相談したいと訴える。
対応:生活保護について説明したり,不満を聞いたり,その都度対応してきたが,最終的には公
的な心の相談につなぐ。
相談回数:24 回(2 年間)
相談で精神的の安定をはかっているDの事例
相談者は,日々の些細なことを相談する。料理に対する家族の反応がない,家の購入,夫の
浮気の疑い,離婚した友人の話等。特定の相談員にのみ話す。
対応:傾聴
相談回数:60 回(4 年間,現在も継続中)
相談員を友人というEの事例
相談者は,日本が嫌いで,日本人が嫌い。日本食が嫌い。夫や家族から暴力をふるわれると
訴える。日常の不満を毎回訴える。希死念慮あり。相談員を友人と呼び,特定の相談員とのみ
話したがる。まわりの日本人には相談したくない。
対応:傾聴。特定の相談員と話せない場合や緊急の時に備え,他の「外国人相談」も案内する。
相談員が代ったことで,相談しなくなったが,E の状態は非常に不安定になり。何度も特定の
相談員はいないのかと電話がかかってきた。最終的には,E からの相談はなくなった。
相談回数:52 回(1 年間)
いずれの事例においても常連相談者は,特定の相談員に対して固執したり,依存的になったり,
友人であると自負する傾向がみられる。外国人相談では,多くの場合,その言語を担当する相談員
が固定される場合が多く,常連相談者とは依存関係を作りやすい。そのため,C の事例では,親身
になって対応した相談員が疲弊したり,D の事例では,不満を聞き続けることで相談員自身のスト
レスが溜まることがあり,相談員の負担が大きくなっていった。また相談者自身も頼っていた特定
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東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 62 集・第 2 号(2014 年)
の相談員が替わることで,不安定になり,相談者自身に与える影響も少なくない。依存関係は,相
談員,相談者,両者にとって負の側面が大きく,どのようにして依存関係を作らないようにするか
課題である。
②女性,相談者自身,日本人の配偶者以外・不明の場合
日本人の配偶者以外の女性で,相談者自身が心理的問題を抱える事例は,13 件であった。事例の
背景を表 5 にまとめる。
表 5 相談事例の背景
事例の背景
事例件数
職場トラブル
育児ストレス
精神疾患
生活苦
将来の不安
孤独感
交通事故
子どもの保護
家庭内不和(夫)
3
2
2
1
1
1
1
1
1
合計
13
職場トラブルを背景とする相談では,上司や同僚とうまくいかず,うつになって退職するなど既
に職場を離れている事例であった。職場を退職したにもかかわらず,近所でも嫌がらせを言われる
ようになったという訴えや新聞に自分のことが載っている,母国にまで伝わっているといった妄想
を疑う訴えもあった。会社を訴えたいなど相談が具体的な場合には,可能かどうか調べたうえで回
答し,話の整合性がとれない場合には,専門機関を案内している。
育児ストレスを背景とする相談は,慣れない日本の生活に加え,育児が重なり,ストレスが溜まっ
ているという相談であった。パニック症状を訴えた事例では,病院の情報提供をおこなった。
精神疾患を背景とする相談では,精神疾患を抱えた相談者が退職したケースで,雇用保険や失業
手当について専門機関を案内した。
生活苦を背景とする相談では,生活苦から死をほのめかす内容であった。傾聴しているうちに相
談者はだんだんと落ち着いてきた。
将来の不安を背景とする相談では,夫と離婚後,仕事をして暮らしているが,年金などの賭け金
を払っておらず,年を取ってきて体力的にも,精神的にも辛くなり,将来が不安だと訴えるケース
だった。
孤独感を背景とする相談では,寂しさを訴える相談者に傾聴で対応している。
交通事故を背景とする相談では,交通事故をきっかけとした様々なトラブルから,他の人を信用
できなくなり,身体的にも精神的に疲弊している事例であった。対応は,専門機関を案内している。
― ―
159
外国人相談の傾向と心理的問題を抱える相談
子どもの保護を背景とする相談は,児童相談所への保護をきっかけに母が不安定になった事例で
ある。言葉が通じないことで,状況が理解できず,不安が増していた。通訳を案内している。
家庭内不和(夫)を背景とする相談では,同国人の夫との関係が悪く,日常のことを相談する相手
がおらず,事あるごとに相談を持ちかけてきた。次第に,特定の相談員に依存的になり,外国人相
談の範疇を超える相談も多くなった。外国人相談で扱う相談について相談者に伝え,特定の相談員
以外が対応することで相談が減っていった。このように外国人相談では,孤立感や孤独感,あるい
は文化的な違いから,相談員に依存的になったり,要求が強くなったりする場合があり,どこまで
を相談として扱うのか相談者と共有されていないことがある。この線引きがなされていないと相談
員の負担感が増し,一方で相談者は裏切られたような感情を抱くことになる。
③女性,相談者以外の場合
相談者以外が心理的な問題を抱える事例は,子どもについての相談が 4 件,夫についての相談が 2
件,合計 6 件であった。
子どもに関する相談のうち,2 件は,連れ子に関する相談であった。外国人女性が母国で産んだ
子どもを日本での結婚を機に連れてきたことで,子どもが学校での不適応を訴えていた。学校への
相談を促したうえで,フリースクールや日本語学習について情報提供をおこなった。
夫に関する相談では,夫の精神疾患への対応についての相談であった。具体的なアドバイスは難
しく,話を聞くことに留まった。
④男性,相談者自身の場合
外国人男性の相談者自身が心理的問題を抱える事例は,12 件あった。事例の背景を表 6 に示す。
表 6 相談事例の背景
事例の背景
事例件数
精神疾患
職場トラブル
仕事ストレス
ニュース
不明
3
1
1
1
6
合計
12
精神疾患を背景とする相談では,精神疾患をもち,服薬中の相談者が日常でのストレスが高まる
とその不満を話したり,支離滅裂な話をしたりする場合があった。傾聴で対応している。
職場トラブルを背景とする相談では,
職場で様々なトラブルを抱えており,関連機関と連携をとっ
て解決に努めたが,相談者の猜疑心が強くなり,話し合いの場に現れないことがあるなど対応に苦
慮した事例である。
「T外国人相談センター」は,通訳として関わり,関連機関と相談者をつなぐ役
割を果たしていた。
― ―
160
東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 62 集・第 2 号(2014 年)
仕事ストレスを背景とする相談では,仕事のストレスから英語カウンセリングを受けたいという
訴えである。背景は分からないが,
他にも英語でカウンセリングを受けたいという訴えが2件あった。
いずれも欧米の相談者で,母国であればカウンセリングが日常的に受けられる環境にあると思われ
る。しかしながら,地域に英語でカウンセリングを受けられるところはなく,英語で受診可能な精
神科や心療内科,英語でのこころの電話相談などを案内している。
ニュースを背景とする相談では,公務員の不正を耳にした留学生が,今後日本で,勉強を続け学
位を取って帰国しても,賄賂でとった学位だと思われるのではないかと心配で,勉強にも身が入ら
ないという相談であった。対応としては,傾聴に努めた。
不明の 6 件は,2 件が前述した英語でのカウンセリングを求めるもので,他 4 件は,支離滅裂な話
をするものであった。ある欧米の男性は,サイバー攻撃を受けていると訴えた翌日,病院にかかり,
病院が勝手に自分の個人情報を流そうとしていると興奮気味に訴えた。その後もなぜこの病院のス
タッフは英語が話せないのかと怒りを抑えきれない様子であった。
「T外国人相談センター」では,
相談者と病院の通訳をし,危険な場合には警察に連絡するように伝えた。他の事例では,家が覗か
れているという訴えや戦闘機に乗って,母国に帰りたいという訴えがあった。このような相談に対
しては,傾聴し,
「T外国人相談センター」で対応できない相談は,警察などしかるべきところに相
談するよう促している。
⑤男性,相談者以外の場合
相談者以外が心理的な問題を抱える事例は,妻についての相談が 2 件,姉妹についての相談が 2 件,
合計 4 件であった。
妻についての相談では,いずれも外国人女性と結婚した日本人男性からの相談あった。夫婦間で
コミュニケーションが取れず,妻が被害妄想的になり,暴れ,夫も精神的に参ってしまったという
事例では,後日通訳を入れて夫婦での話し合いをもった。またもう一つの事例では,妻は日本語が
話せず,引きこもりがちになり,最近では不眠や食欲不振がみられるとのことだった。病院への受
診を希望したため,病院を紹介した。
姉妹についての相談では,姉に関する相談と妹に関する相談があった。姉は事例では,相談者の
姉はうつで,夫から暴力を受けている。姉は,通院したがらず,公的機関にも相談していないという。
公的機関にまずは相談するようにすすめた。妹の事例では,母国にいる兄から研修で来日している
妹の様子がおかしく,昨日自殺未遂をしたが連絡が取れないので,状況を確認してほしいというも
のであった。相談者の妹の状況を確認し,無事を伝えた。
Ⅳ.全体考察
本稿では,
「T外国人相談センター」における過去 9 年間の相談記録から,外国人相談に寄せられ
る相談の傾向と心理的問題を抱える相談について明らかにすることを目的とした。1. 相談の傾向と
2. 心理的問題を抱える相談について,それぞれ明らかになったことをまとめた後,考察をおこなう。
― ―
161
外国人相談の傾向と心理的問題を抱える相談
1. 「T外国人相談センター」
に寄せられた相談の傾向
① 外国人相談の件数は漸増傾向にある。
② メールや来所よりも電話での相談が多い。
③ 女性の相談者が多い。
④ 相談言語別では,日本語,韓国語,中国語による相談が多い。
⑤ 相談内容では,
「生活情報」の提供が最も多く,次いで「家庭生活」
,
「生活その他・話し相手」
に関する相談が多い。
「離婚」の相談が多く,男性では,
「生活情報」
,
「通訳・翻訳」
,
「労働問題」の割合
⑥ 女性では,
が高い。行政・支援者・夫婦による相談では,約半分を「通訳・翻訳」が占める。
⑦ 中国語,韓国語,ポルトガル・スペイン語,タガログ語では女性の割合が高く,英語では男性
の割合が最も高い。また日本語と英語の相談では,行政・夫婦・支援者からの相談の割合が他
の言語よりも多い。
2. 心理的問題を抱える相談
① 心理的問題を抱える相談は,増加傾向にあり,常連相談者が増えている。
② 心理的問題を抱える相談者は,9 割が女性である。
③ 心理的問題を抱える相談の相談言語は,韓国語が半数を占める。
④ 心理的問題を抱える相談において,韓国語,中国語,ポルトガル・スペイン語では,女性が多く,
英語では男性が多い。
⑤ 日本人の配偶者である外国人女性の相談が多い。
⑥ 女性の場合,離婚や家庭内不和を背景とする相談が多い。
⑦ 一定数の常連相談者がおり,相談員との親密性が高まったり,相談者からの依存が強くなる。
⑧ 女性の場合,
ストレスを強く感じているレベルから現実検討能力が低下しているレベルまで,
症状や状態に幅がある。
⑨ 男性の場合,精神疾患を抱えていたり,現実検討能力が低下していると思われるケースなど
より重篤なケースが多い。
全体の相談では,
「生活情報」の提供が最も多いが,
「家庭生活」や「生活その他・話し相手」など,
身近に相談できる人や話し相手がおらず相談に至っていると思われるケースが多い。日本語で相談
する外国人も一定数いることから,周囲に相談できる友人や知人,家族がいないのは,単に言語的
な問題にあるとはいえないことがうかがえる。周囲に相談できる人がいない外国人にとって,外国
人相談は,セーフティネットの役割を果たしていると見ることができる。
女性の相談では,
「離婚」の相談が多い。理由として,日本人の配偶者からの相談が多いことが挙
げられる。一方男性の相談では,
「生活情報」
「通訳・翻訳」
「労働問題」に関する相談が多く,日本語
に不慣れなことで生活情報が得にくいこと,仕事関係のトラブルを抱えやすいことが考えられる。
― ―
162
東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 62 集・第 2 号(2014 年)
心理的な問題を抱える相談は,日本人の配偶者である外国人女性に多く,離婚や家庭内不和を背
景とする問題が多い。離婚は,社会的再適用評価尺度(Holmes and Rahe, 1967)および,社会的再適
用評価尺度をもとに作成された主婦のストレス調査票(夏目・村田,1993)の中で,二番目にストレ
スフルなライフイベントとされており,
相談者が心理的バランスを崩しやすい要因であると言える。
さらに主婦のストレス調査票(夏目・村田,1993)では,
「嫁・姑の葛藤」は 9 位に位置づけられており,
義母との不和も強力なストレッサーであるといえる。
特に「ブローカー婚」や「紹介婚」で国際結婚に至った場合には,言葉の問題や互いをよく理解し
ないまま結婚したことから,このような家庭内不和,離婚に発展することが珍しくない。心理的問
題を抱える相談者の中にも,
「ブローカー婚」や「紹介婚」で国際結婚し,家庭内不和や離婚の問題を
抱える相談者が多くみられた。自らの国際結婚体験を書いた鈴木(2006)が述べるように,
「ブロー
カー婚」や「紹介婚」で来日した外国人女性が日本社会で適応していくには,妻と夫自身の変容はさ
ることながら,義父母などの家族の変容や周囲の支援が必要なのである。しかし,そのような相互
交渉がうまくいかない場合,周囲に頼る人のいない外国人女性は,物理的にも心理的にも追い込ま
れ,外国人相談を頼ることになる。
「ブローカー婚」や「紹介婚」という特異的な国際結婚を抱える地
域にある「T外国人相談センター」
では,このように「ブローカー婚」や「紹介婚」を背景とした離婚・
家庭内不和の問題を抱える相談者に心理的問題が重なるといえる。
また外国人相談では,言語ごとに相談員が固定されてしまうため,相談者との親密性が高まった
り,
相談者からの依存が強くなる傾向にある。相談員が相談者と同郷であれば,日本の文化ではなく,
母国の文化で接してくれるだろうという期待や,相談員が外国人であれば,同じ経験をしているこ
とで,相談者は「自分の気持ちがわかってもらえるのでは」という思いを強くする。特に常連相談者
の場合には,相談を繰り返すことによってその依存度を高めてしまう可能性がある。依存関係は,
相談員の負担になるだけでなく,相談者にとっても自立性を妨げたり,相談員が代わった際の影響
が大きいなどデメリットが多い。
有田・佐藤・長谷川(1992)は,
「横浜いのちの電話」における一般相談の特徴として,かけ手,ボ
ランティア相談員双方の匿名性や一期一会の出会いである一回性などを挙げている。一方,外国人
相談の場合,相談員が言語で固定されており,相談員の匿名性の保障が難しい場合もある。相談者
が相談員と個人的なつながりを持ちたがったり,相談員個人の電話番号を知りたがることも少なく
ない。相談者,相談員の依存関係を避けるには,心理面接の枠組みやルールを応用することが可能
ではないかと考える。例えば,相談として扱えることの線引き,時間の設定,相談員の情報を開示
しないといったことである。当然のことながら,心理面接と外国人相談は異なるものであり,心理
面接の構造すべてが外国人相談に適用できるものではない。外国人相談の場合には,相談員の情報
開示にあたるような相談員の経験が相談者にとって有益なこともある。外国人相談の状況を理解し
たうえで,心理面接の構造を応用した外国人相談独自の相談構造の検討していくことが今後の課題
である。
最後に,本研究の限界について述べる。外国人相談に寄せられる相談の内容は,その地域に暮ら
― ―
163
外国人相談の傾向と心理的問題を抱える相談
している外国人の出身地域,性別の割合,職業,在留資格といった状況によって大きく異なる。本
稿で取り上げた外国人相談の特徴は,
「T外国人相談センター」が対象とする地域の特性に依拠する
所が大きいことに留意しなければならない。今後は,他地域も含めた様々な外国人相談の状況を把
握し,課題や対応を検討していく必要がある。
【付記】
本論文の執筆にあたり貴重な資料とご助言をいただきました「T外国人相談センター」の方々に
深謝いたします。
【引用文献】
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東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 62 集・第 2 号(2014 年)
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165
外国人相談の傾向と心理的問題を抱える相談
Trend of Consultation from Foreigners, Focusing on Those with Psychological Problems :
From the Past Nine Years’ Consultation Records at 'T' Foreign Residents' Advisory Center
Reika ICHIJO
(Graduated Student, Graduate School of Education, Tohoku University)
Takashi UENO
(Professor, Graduate School of Education, Tohoku University)
The aim of the study is to identify a trend in consultations sought by foreign residents and
clarify those which suggest psychological problems, using the consultation log at 'T' foreign
residents' advisory center for the last nine years. Though the most frequently type of consultation
was related to "living information," the study found that the advisors had to deal with a wide
range of cases including family and work-related troubles or even just as opportunities in which
callers just wanted somebody to talk to. Most of the consultations that suggested psychological
problems were from females, and the study identified that there were family troubles, such as
divorce or a difficult relationship with the spouse and parents-in-law in the background of these
cases. The study also found that those callers with psychological problems varied in their
severity, from those who were able to calm down after some conversation, to those who
obviously needed professional support, and from the advisors' point of view, it has not always
been easy to determine the caller's mental health. Further, the study found these repeat callers
with psychological problems had a tendency to become increasingly dependent on the
consultation service. The study clearly demonstrated that there is a need to bring some
knowledge of mental health into the service, as well as to create a framework and rules of
consultation specifically for foreigners using a psychological interview approach.
Key words:C onsultation service for foreign residents, Foreigners, Spouse of Japanese,
Psychological problem, Mental health
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