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デオキシニバレノール高濃度汚染飼料が乳牛の健康と乳生産に及ぼす影響
[成果情報名]デオキシニバレノール高濃度汚染飼料が乳牛の健康と乳生産に及ぼす影響 [要約] 16.3ppm の高濃度デオキシニバレノール汚染飼料を健常な泌乳初期牛に 2 か月間給 与しても、臨床症状、血液学的・血液生化学的性状、好中球貪食能および乳生産成績に顕 著な影響は認められない。 [キーワード]牛、デオキシニバレノール、血液性状、好中球貪食能、乳生産 [担当]道総研畜試・基盤研究部・家畜衛生グループ [代表連絡先]電話 0156-64-0615 [区分]北海道農業・畜産草地 [分類]研究・参考 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------[背景・ねらい] フザリウム属真菌が作るかび毒であるデオキシニバレノール(DON)の飼料安全法によ る暫定許容値は、成牛用飼料で4ppm である。しかし、牛に対する DON の影響に関す る報告は少なく、10~12ppm の DON 汚染飼料給与でも影響は認められないという報告 がある一方、3.5ppm の DON 汚染飼料給与で血清ナトリウム、血液尿素態窒素(BUN) や好中球貪食能など牛の健康への影響を示唆する報告も見られる。そこで、本課題は 16.3ppm の高濃度 DON 汚染飼料の給与が泌乳牛の健康と乳生産へ及ぼす影響を明らか にする。 [成果の内容・特徴] 1.DON 自然汚染とうもろこしサイレージを用いて、DON 濃度 16.3ppm (DON 群)およ び 1.9ppm(対照群)のとうもろこしサイレージ主体泌乳初期飼料(可消化養分総量 76 %、粗たんぱく質 15%)を調製し、健常な2産~4産のホルスタイン種雌牛の泌乳初 期に2か月間給与しても、DON 群および対照群に元気消失、食欲低下など臨床症状の 異常は観察されず、乾物摂取量にも DON 群および対照群の両群間に有意差は認められ ない(表1)。 2.乳量、乳脂肪、乳タンパク、無脂固形分、乳糖、4%脂肪補正乳量および体重変化量 について、DON 群および対照群の両群間に有意な差は認められず、16.3ppm の DON 汚 染飼料の給与によって、泌乳牛の乳生産に顕著な影響は認められない(表1)。 3.赤血球数や白血球数など血液学的性状および血清ナトリウム(図1)、BUN(図2) など血液生化学的性状について、DON 群および対照群の両群間に有意な差は認められ ず、16.3ppm の DON 汚染飼料の給与によって、泌乳牛の血液学的および血液生化学的 性状に顕著な影響は認められない。 4.ヘパリン加末梢血にオプソニン化ザイモザンを貪食させて、ルミノールの化学発光能 を測定した好中球貪食能インデックス(図3)は、DON 群および対照群の両群間に有 意な差を認めず、16.3ppm の DON 汚染飼料の給与によって、泌乳牛の好中球貪食能に 顕著な影響は認められない。 [成果の活用面・留意点] 1.DON の牛への影響を解明する参考となる。 2.本試験は健常な牛に DON を短期間給与した成績であり、DON 汚染飼料の使用に際して は飼料安全法の暫定許容値を遵守する。 平成 22 年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題名および区分 「デオキシニバレノール高濃度汚染飼料の給与が牛の健康と乳生産に及ぼす影響」(研究参考) [具体的データ] 表1 デオキシニバレノール汚染飼料の給与による乳生産成績と 体重変化量への影響 DON群1) 150 平均値 ± 標準偏差 乾物摂取量3) kg/日 22.0 ± 2.7 23.8 ± 2.4 乳量3) kg/日 35.6 ± 4.8 37.2 ± 4.5 乳脂肪4) % 4.4 ± 0.6 3.9 ± 0.8 4) 乳タンパク % 3.0 ± 0.1 3.1 ± 0.3 無脂固形分4) % 8.4 ± 0.2 8.7 ± 0.3 乳糖4) % 4.5 ± 0.1 4.6 ± 0.1 kg/日 37.4 ± 5.7 36.4 ± 4.8 4) 4%脂肪補正乳量 血清ナトリウム(mEq/l) 平均値 ± 標準偏差 対照群2) 140 135 130 対照群 125 DON群 120 0 2 4 6 8 図1 デオキシニバレノール(DON)汚染飼料を 給与した泌乳牛の血清ナトリウムの変動 kg 1.0 ± 33.7 6.0 ± 21.6 体重変化量 DON: デオキシニバレノール 1)分娩後31-90日に16.3ppmのDON汚染飼料を給与した5頭 2)分娩後31-90日に1.9ppmのDON汚染飼料を給与した5頭 3)値は個体ごとに毎日測定した各群計300回測定の平均値と標準偏差 4)値は個体ごとに月2回測定した各群計22~23回測定の平均値と標準偏差 5)試験終了時体重ー試験開始時体重 両群間に有意差なし(p<0.05) 30 DON群:16.3ppm汚染飼料を給与した5頭 対照群: 1.9ppm汚染飼料を給与した5頭 両群間に有意差なし(p<0.05) 8000 20 15 10 対照群 5 DON群 0 0 2 4 6 8 10 給与後時間(週) 図2 デオキシニバレノール(DON)汚染飼料を 給与した泌乳牛のBUNの変動 DON群:16.3ppm汚染飼料を給与した5頭 対照群: 1.9ppm汚染飼料を給与した5頭 BUN: 血液尿素態窒素 両群間に有意差なし(p<0.05) 好中球貪食能インデックス 対照群 25 10 給与後時間(週) 5) BUN (mg/dl) 145 6000 DON群 4000 2000 0 0 2 4 6 8 給与後時間(週) 10 図3 デオキシニバレノール(DON)汚染飼料を給与した 泌乳牛の好中球貪食能の変動 好中球貪食能インデックス =ザイモザンを貪食させた化学発光30分間積分値/白血球数 DON群:16.3ppm汚染飼料を給与した5頭 対照群: 1.9ppm汚染飼料を給与した5頭 両群間に有意差なし(p<0.05) (川本 哲) [その他] 研究課題名:粗飼料汚染マイコトキシンの家畜への影響評価および低減化技術の開発 予算区分: 公募型(えさプロ) 研究期間: 2006~2009 年度 研究担当者:川本 哲、伊藤めぐみ、櫻井由絵、谷川珠子 発表論文等: