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平成26年度エネルギー需給緩和型インフラ・システム普及

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平成26年度エネルギー需給緩和型インフラ・システム普及
平成 26 年度調査報告
平成 26 年度エネルギー需給緩和型インフラ・システム普及等促進事
業(グローバル市場におけるスマートコミュニティ等の事業可能性
調査:タイ、ベトナムにおける面的スマートコミュニティ事業可能
性調査)
報
告
書
2015 年 3 月
株式会社日本総合研究所
平成26年度エネルギー需給緩和型インフラ・システム普及等促進事業
(グローバル市場におけるスマートコミュニティ等の事業可能性調査:
タイ、ベトナムにおける面的スマートコミュニティ事業可能性調査)報告書
-
目
次
-
事業目的 ............................................................................................................................ 1
ASC の事業スケジュール .................................................................................................. 1
第1章
南部経済回廊の優位性 ......................................................................................... 4
1.1. 南部経済回廊エリアの産業発展可能性の分析 ......................................................... 4
1.1.1. ASEAN を取り巻く歴史的背景 ............................................................................ 4
1.1.2. 地政学的優位性 .................................................................................................... 5
1.1.3. 南部経済回廊の発展 ............................................................................................. 5
1.1.4. 企業の投資動向 .................................................................................................... 6
第2章
タイ ..................................................................................................................... 7
2.1. 市場分析 ................................................................................................................. 7
2.1.1. 市場動向 .............................................................................................................. 7
2.1.2. 事業環境の整理 .................................................................................................. 13
2.2. 不動産開発の検討 ..................................................................................................20
2.2.1. 土地利用コンセプトの策定 ................................................................................ 20
2.2.2. アーバンプランナーの選定支援 ......................................................................... 21
2.2.3. 土地利用計画図策定の助言 ................................................................................ 23
2.2.4. テストマーケティングⅡの実施 ......................................................................... 26
2.2.5. 詳細設計検討の助言 ........................................................................................... 31
2.3. インフラ・スマートサービスの検討 ......................................................................32
2.3.1. サービスの絞り込み ........................................................................................... 32
2.3.2. ハード・システム設計 ....................................................................................... 45
2.3.3. 想定需要量算出 .................................................................................................. 57
2.4. マーケティングの検討 ...........................................................................................60
2.4.1. 本提案資料作成支援 ........................................................................................... 60
2.5. 事業の検討 ............................................................................................................61
2.5.1. ファイナンシャルモデルの検討 ......................................................................... 61
2.5.2. 事業構造の策定 .................................................................................................. 66
2.5.3. 事業体制・リスク分析 ....................................................................................... 68
2.6. 付帯検討 ................................................................................................................69
2.6.1. 事業展開上の課題と対応策 ................................................................................ 69
2.6.2. 国内への波及効果............................................................................................... 80
2.6.3. 技術戦略 ............................................................................................................. 81
2.7. 事業計画の検討 .....................................................................................................82
2.7.1. 事業立ち上げに向けたプロセス ......................................................................... 82
第3章
ベトナム .............................................................................................................83
3.1. 市場分析 ................................................................................................................83
3.1.1. 市場動向 ............................................................................................................. 83
3.1.2. 事業環境の分析 .................................................................................................. 90
3.2. 不動産開発の検討 ..................................................................................................94
3.2.1. AEC の開発ポテンシャルの分析 ........................................................................ 94
3.2.2 開発コンセプトの検討 .................................................................................... 102
3.3. インフラ・スマートサービスの検討 ....................................................................103
3.3.1. 基本的なサービスイメージの検討 ................................................................... 103
3.4. 事業の検討 ..........................................................................................................103
3.4.1. 事業概要及び体制の基本検討 .......................................................................... 103
第4章
南部経済回廊での面的開発検討 ........................................................................107
4.1. ASC と AEC による面的なスマートコミュニティ開発の検討 .............................. 107
4.1.1. AEC を起点とした市場開拓の方向性 .............................................................. 107
事業目的

ASEAN は、2015 年 12 月の経済共同体の創設、南部・南北・東西の各経済回廊の整備
により、域内経済活動が活発化しており、日本企業の進出も加速している。

なかでも「南部経済回廊」を起点としたエリア(以下、
「本エリア」)では、その地政
学的優位性から、グローバル企業によるバンコク・ホーチミン等での高付加価値拠点
への投資・機能強化やプノンペン等での生産拠点への分散投資が進んでいる。

こうした高付加価値拠点の機能強化の動きに伴う連鎖的な拠点整備の動きにより、従
来の中心都市近郊のみの産業発展から、中心都市から一定距離圏にある高度産業集積、
及び中心都市間を含む「面的な産業発展」への転換が今、進みつつある。

本業務は、ASEAN の大手工業団地開発事業者のアマタ社が、既存のタイ最大の工業団
地の隣接地に開発する「アマタサイエンスシティ(Amata Science City, 以下、ASC
とする)
」
、及びベトナム・ホーチミンの近郊で開発する「アマタエクスプレスシティ
(Amata Express City, 以下、AEC とする)」を対象プロジェクトとする。

本業務では、上述を対象としたインフラシステム輸出、事業投資の推進を目的とし、
①南部経済回廊を起点とした産業発展エリアにおける市場動向や事業環境を整理した
市場分析、②本業務以降の ASC の事業化を見据えた事業計画書の策定、③今後の面的
なスマートコミュニティ開発に向けた AEC のプレ検討の実施、を行う。
ASC の事業スケジュール
アマタ社と事業化までのスケジュールを策定し、マスタースケジュールとした。本スケ
ジュールの中で 2015 年末の施設稼働開始及び 2015 年度の ASC 事業会社立ち上げに向け
て、以下の 3 つのマイルストーンを設定した。

マイルストーン 1:2014 年 10 月のアーバンプランナーの選定

マイルストーン 2:2015 年 5 月の EIA(※)取得

マイルストーン 3:2015 年 3 月の本事業に関する基本合意
マイルストーン 1 では、アマタ社が主導してアーバンプランナーを選定し、アーバンプ
ランナーを含めた土地利用計画の検討を実施した。マイルストーン 3 では、想定事業主体
の参画可能な事業計画を策定し、各社の合意を得る。その後、事業会社立ち上げに向けた
準備を実施する。マイルストーン 2 では、アマタ社が EIA を取得後、事業会社の立ち上げ、
事業会社による潜在的な顧客に向けた提案を開始する予定である。今年度はリスクヘッジ
として、EIA 取得を必要としないプランの策定も進めた。タイ日のそれぞれの役割は、昨
年度から引き続き、現地のステークホルダー間の調整と開発計画の作成をアマタ社が行い、
1
日本側では不動産開発、スマートサービス、事業構造の検討、テストマーケティングの実
施を行った。昨年度末の基本的な事業計画で策定した方針を踏襲しつつ、より現地の状況
に基づく不動産、スマートサービス、事業構造の精緻化を進め、想定事業主体の投資前の
事業計画案を作成した。
今後は、想定事業主体の参画が可能な事業計画の策定及び、コア顧客向けの提案の作成
や、投資判断に向けた検討の詰めを行っていく予定である。
(※)EIA : Environmental Impact Assessment (環境影響評価)
2
図表 事業スケジュール
3
第1章
南部経済回廊の優位性
ASEAN 経済統合や経済回廊の整備等、ASEAN を取り巻く事業環境の変化と、それに伴
い企業のサプライチェーンの再構築によって産業基盤に対する企業ニーズが大きく変化す
る時期にある。これらの変化を契機とし、需要の受け皿開発を先んじて立ち上げ、その面
的な展開を検討することは、今後の日本企業のインフラ輸出の市場拡大を牽引する動きと
なる。本章では、今後の ASEAN 域内、特に南部経済回廊エリアにおける事業の発展性を
分析するため、南部経済回廊エリアの発展経緯と現在のマクロ動向について概観する。
1.1. 南部経済回廊エリアの産業発展可能性の分析
1.1.1. ASEAN を取り巻く歴史的背景
ASEAN では、アジア通貨危機を挟んで、1990 年代、2000 年代と過去 2 回の投資ブー
ムが生じた。その結果、わが国製造業の ASEAN での累積投資残高は、2013 年末時点で 8.4
兆円を越える規模にまで拡大している。近年では、ASEAN 各国の経済成長により域内のサ
プライチェーンが拡充しつつあり、特に南部経済回廊エリアは、個々の生産拠点が立地す
るだけでなく、面的な拠点整備が進むことで、産業発展の中核エリアに成長しつつある。
2015 年末に予定されている ASEAN 経済統合によって ASEAN で行われる企業活動がより
シームレスになることは、南部経済回廊エリアにおける拠点整備の促進材料になるといえ
る。
また本エリアは、中国、インドという主要市場へのアクセスの良さに加え、バンコク、
プノンペン、ホーチミンといった主要都市を結ぶエリアという地政学的な優位性がある。
今後、周辺のインフラ整備が進むことで、南部経済回廊エリアの優位性は、一層向上する
と見込まれる。
1970
日本
NIEs
アセアン
中国
1980
高度成長期
1990
2000
2010
2015
プラザ合意
新興工業経済地域の発展
アセアン投資
ブーム
アジア
通貨危機
チャイナプラスワン
経済統合
経済回廊整備
尖閣問題
南巡講和
中国・インドの台頭
外資の中印への
関心の高まり
インド
図表 ASEAN を取り巻く歴史的背景
出所:日本総研
4
1.1.2. 地政学的優位性
南部経済回廊の周辺には魅力的な市場が存在している。回廊上には東から、ホーチミン、
プノンペン、バンコクが並び、さらに北西には近年の民主化とともに経済成長著しいミャ
ンマーや巨大な市場を抱えるインドが位置し、北には中国がある。ASEAN 域内で人口約 6
億人といった EU と同規模の市場規模が見込まれるだけでなく、中国やインドと近接する
ことで消費にも事欠かない。ASEAN 各国はそれぞれ異なる経済成長のレベルや人口構成を
有しており、事業活動を行う企業はそれに応じた機能を各拠点に持たせることが出来る。
ASEAN の中心に位置するタイは、サプライチェーンの中核として、ASEAN 及び南部経済
回廊エリアの持つポテンシャルを生かし、更なる発展が期待されている。
図表 主要市場の中核に位置するタイ
出所:日本総研
1.1.3. 南部経済回廊の発展
南部経済回廊を中心としたエリアの発展の背景には、タイ周辺国の経済発展がある。
カンボジア、ミャンマー、ラオス等における 2000 年以降からの年平均成長率は、年々7
~10%と高く、急速に成長している。こうした国々では、インフラ整備に関連する国際支
援により、経済成長が更に促進される可能性がある。特に、アジア開発銀行(ADB)が事
務局となって進めてきた GMS(大メコン経済圏)開発プロジェクトの影響が大きい。1992
年にスタートし、2013 年から第三フェーズに入った同プロジェクトでは 441 億ドルもの資
金が道路を含む輸送部門に振り分けられることになっており、これが南部経済回廊エリア
5
の発展を加速する。
本エリアにおけるインフラ整備の進展は、日本の製造業にとって、タイを中心としたサ
プライチェーンを拡張させる契機となっている。実際、タイの生産拠点から、労働集約的
な工程をベトナムやカンボジアといった近隣諸国に移転させる動きが出始めている。こう
した近隣諸国への生産拠点の分散は、コスト面でのメリットだけでなく、リスク分散の観
点でも重要な意味を持つ。そして、今後の南部経済回廊の発展は、タイを中心としたサプ
ライチェーンの拡充という供給面のみからではなく、経済成長に伴う各国主要都市におけ
る消費市場の拡大という需要面からも捉える必要がある。
1.1.4. 企業の投資動向
ASEAN における最近の大手日系企業の進出状況を見ると、南部経済回廊上に位置する主
要都市(ホーチミン、プノンペン、バンコク)の周辺において、進出が進んでいる。各国
の産業発展のレベルや人材の質に応じて、企業の設置する拠点機能には違いが存在してお
り、プノンペンやホーチミンには主に生産機能、バンコクには生産機能に加え、現地向け
の製品開発を行うための R&D 機能、そして現地統括機能が設置されるケースが増えている。
このような企業の投資動向を捉え、先んじて受け皿となるエリア開発をすることが本事業
の狙いである。
Samsung
新工場稼働。携帯端末生
産拠点。
日産自動車
•
•
•
Panasonic
洗濯機工場開所。5割を国
内、残りをASEAN地域に拡
販。R&Dセンター併設。
R&D等の付加価値拠点
現地統括及び営業拠点
生産を中心とした拠点
富士ゼロックス
2015年、新工場で生産開始
予定。
新工場稼働。中国に集中し
ていた生産拠点を分散。
東芝
ヤンゴン支店開設。
現地における市場調査・情
報収集の拠点。
ヤンゴン
ホンダ
デンソー
2015年、域内最大生産能
力の新工場稼働予定。グ
ローバル生産拠点の位置
づけ。
レンタル工場でセンサー部
品を生産中。自社工場建設
計画あり。
ミネベア
精密モーター工場稼働。タ
イ・マレーシアから部品を供
給、組立工程をカンボジア
に集約。
日産自動車
R&D用試験コース・新事務
所開設。ASEANのR&D強化。
日立
ベトナム事業を統括する
現地法人を設立。
三菱自動車
海外初のテストコース開設。
R&D機能強化。
ブリヂストン
テクニカルセンター開所。
R&D機能強化。
東レ
2014年より2016年にかけて、
炭素繊維強化プラスチック
部品の量産拠点の生産能
力を増強。
Intel
組立・検品工程工場を
コスタリカから移管。
図表 南部経済回廊エリアにおける企業の投資動向
出所:日本総研
6
第2章
タイ
今年度はタイの政情不安や優遇政策の改変、軍事政権の国政運営など、外部環境が大きく
変化した一年であった。プロジェクトの推進に影響するマクロ動向を把握しながら、より
実現性の高い事業計画の策定に向けて検討を行う。
2.1. 市場分析
2.1.1. 市場動向
2.1.1.1. タイの経済成長性
1 章で述べたように、ASEAN の中心に位置するタイは、ASEAN の成長を取り込みなが
らも牽引する役割を担う国となりつつある。
IMF の試算より、
ASEAN 全体の人口及び GDP
を見ると、2009 年から現在までそれぞれ増加の一途をたどっており、2013 年の ASEAN
全体の人口は約 7 億 8000 万人、ASEAN 域内の一人当たり GDP は 3,000 ドルを超えるに
至っている。IMF の推計によると、今後 2018 年には人口は 8 億人を超え、ASEAN 域内の
一人当たり GDP は 4,500 ドル近くまで増加する見込みとなっており、ASEAN が引き続き
有望な市場となることが予想される。
一人当たり GDP が 6,000 ドルに近づきつつあるタイにおいては、2009 年のリーマンシ
ョック、2013~2014 年頃のクーデターにより一時的に下がったものの、2015 年以降は人
口数も含めて増加していくことが見込まれており、引き続きタイの消費市場が拡大してい
くことが推測される。
(百万人)
(US ドル)
図表 ASEAN の人口及び一人当たり GDP 推移
出所:IMF World Economic Outlook より日本総研作成
7
(百万人)
(USドル)
72
8,000
70
6,000
68
4,000
66
2,000
64
0
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
人口
一人当たりGDP
図表 タイの人口及び一人当たり GDP 推移
出所:IMF World Economic Outlook より日本総研作成
2.1.1.2. タイにおける日本企業の投資動向
2013 年末におけるわが国の製造業の中国及び ASEAN に対する直接投資残高をみると、
ASEAN に対し 8 兆 4,404 億円、中国に対し 7 兆 6,418 億円と、ASEAN の方が上回ってい
ることがわかる。更に、ASEAN 各国の中で投資残高を比較すると、タイへの投資残高が最
も大きく、その規模は 3 兆 2,648 億円と中国の 43%を占めている。
わが国の対タイ直接投資の推移をみると、ここ 30 年間増加傾向にあることがわかる。
2005 年以降に政局不安や大洪水など一時的なマイナス要因があったものの、1985 年のプラ
ザ合意以降、総じてタイへの投資が活発に行われており堅調に拡大してきているといえる。
単位:億円
10,012
15,099
中国
タイ
13,055
76,418
シンガポール
インドネシア
13,590
マレーシア
その他
32,648
アセアン合計 8兆4,404億円
図表 中国 ASEAN 投資残高(2013 年末)
出所:財務省、日本銀行統計より作成
8
図表 対タイ直接投資推移
出所:財務省、日本銀行統計より作成
産業別に日本企業の進出数を見ると、東洋経済新報社の 2014 年データによれば、電機機
器が 223 社と最も多く、次いで輸送機器が 215 社、機械が 187 社、化学が 172 社の順とな
っており、この 4 業種だけで全体の 65%を占めている。タイでは自動車・オートバイの集
積が進んでおり、部品メーカーは 709 社、関連中小企業は 1,700 社と多数の裾野企業が進
出していることもタイの産業の特徴である。また、鉄鋼、ゴム、電子、ガラス、皮革製品
などの関連素材産業の工場、関連サービス企業も多数進出している。
業種
電機機器
輸送機器
機械
化学
その他
企業数
223
215
187
172
433
1,230
18%
17%
15%
14%
35%
100%
全体の 65%を占める
図表 タイに進出する産業
出所:東洋経済新報社『海外進出企業総覧 2014』
次に、企業進出数の推移をみると、リーマンショックやクーデターが発生してきた中で、
金属製品・機械、電気・電子製品、化学・製紙等の多くの産業が増加傾向を維持している。
特に、自動車部品製造業が含まれる金属製品・機械分野の投資件数の伸びは著しく、全体
の半数近くを占めている。また、更に詳細の業種ごとに投資件数をみると、自動車パーツ、
金属製品、電気パーツ・機器、プラスチック製品等の投資件数が増加している。
9
図表 日系企業の産業別投資件数の推移
出所:タイ投資委員会(BOI)
図表 輸送機器及び電機機器産業の企業進出数の内訳
出所:タイ投資委員会(BOI)
次に、進出地域別に投資動向を見ると、バンコク及びその近郊を含む計 7 県に投資が集
中していることがわかる。進出する日系企業の約 9 割がこの 7 県に集中しており、その内
ASC の位置するチョンブリ県は、バンコクの次に企業の立地が多い県である。バンコク近
郊への企業進出は 1990 年代から活発に見られ、当初はバンコクから北部の方角に企業進出
が進む傾向にあったが、2000 年代以降、ラヨン県やチョンブリ県等のタイの東南部への企
10
業進出が進むようになった。
チャチュンサ
オ
5%
その他
8%
ラヨン
10%
バンコク
35%
チョンブリ
14%
アユタヤ
9%
サムットプラ
カン
12%
パトゥムタニ
7%
図表 タイに進出した日系企業の県別割合(製造業)
出所:東洋経済新報社『会社別 海外進出企業総覧 2014』
図表 日系企業の進出累積数の推移
出所:東洋経済新報社『会社別 海外進出企業総覧 2014』
2.1.1.3. タイにおける自動車・電機産業の動向
早期からタイに進出する自動車・電機産業は、タイを主要な生産拠点と位置付け、数多
くの大規模工場の設置を進めてきた。特に自動車産業においては、タイ及び周辺国の経済
成長に伴い、サプライチェーンの拡張とタイの生産拠点の役割を変化させる動きが、他産
業と比べ先行して行われている。具体的には、生産拠点の役割変化として、これまで日本
で保有していた開発機能をタイへ移転することに加え、移転された開発機能の強化に取り
11
組むことなどが行われている。また、地域統括機能を併設するケースも増加している。
日産自動車
2013年
2月
「日産自動車、アセアン(ASEAN)テクニカルセンターの現地R&D拡充計画を発表」
アセアン地域における日産のR&D活動促進の為、同地域の研究開発機能である日産テクニカルセンターサウスイースト
アジア(NTCSEA)の拡充計画を発表。2015年までに、同地域内で販売されるモデルについては、現在日本のグローバ
ルR&Dが担当している車両の初期エンジニアリング以降のすべての開発プロセスをNTCSEAが行う。
三菱自動車
2014年
3月
「ミツビシ・モーターズ・タイランド (MMTh)、R&D強化の一環としてテストコースを新設」
生産工場近くにテストコースを新設すると発表。 MMThは、生産能力の拡大に伴い研究開発機能の増強を図ってきた
が、テストコースの新設もその一環。タイのR&Dはアセアン地域で初めて、テストコースは海外で初となる。
ブリヂストン
2013年
1月、8月
「タイにテクニカルセンターを設立」
ブリヂストン アジアパシフィック ピーティーイー リミテッド(BSAP)は、タイに新たにテクニカルセンターを設立することを決
定。日本のテクニカルセンターが担っていたアジア・大洋州地域でのタイヤ開発、タイヤ生産技術、品質経営といった機
能を、新テクニカルセンターへ移管することで、当該機能の更なる強化を図り、市場の情報をタイムリーに反映させた研
究開発体制を構築する。アジア・大洋州地域(除く日本、中国)で初のテクニカルセンター。2013年7月末より始動。
GSユアサ
2014年
1月
「タイにテクニカルセンターを設立」
サムットプラカーン県にGSユアサアジアテクニカルセンター社(GYAT)を設立したと発表。東南アジア地域及び周辺地
域での自動車用及び二輪車用の鉛蓄電池において、①地域特性に応じた製品の開発機能②新技術を採用した製品
の開発機能③製品開発を行うための市場調査機能④高品質・低コストを実現するための生産設備の開発機能、の強
化を行う。
図表 自動車産業の投資動向
出所:各社ニュースリリース
タイの主要産業である電機産業においても、消費ニーズの変化に影響を受けやすく、輸
送コストの大きいといった特徴を持つ電気製品においては、タイの消費市場拡大に伴い、
現地市場向け開発のための R&D 投資が行われ始めている。
図表 電機機器産業の投資動向
出所:各社ニュースリリース
12
2.1.2. 事業環境の整理
2.1.2.1. タイの政策動向
タイでは、タクシン元首相派政権と反政府派の対立による長引く混乱を理由に、軍部が
クーデターを行使した。2014 年 5 月 22 日、政府機能の全権を軍が掌握したことを明らか
にしたプラユット陸軍総司令官(現首相)は、
「迅速に平時の状況を回復して社会を平穏に
戻すとともに、政治・経済・社会構造を改革する」ことを説明し、クーデターの正当性を
強調した。憲法の部分的な停止、夜間外出禁止の発令や集会の禁止等の措置を断行した結
果、政府派と反政府派のデモ隊は平和的に撤退し、今般の混乱した事態は沈静化しつつあ
る。
クーデター後の全権を握る国家平和秩序評議会(NCPO)のメンバーを中心に、昨年 9
月 1 日、プラユット暫定首相(陸軍総司令官)率いる新内閣が発足した。欧米を始めとす
る国際社会から直ちに民政体制へ復帰するよう、暫定政権は非難を受けている一方で、矢
継ぎ早に打ち出した経済政策が功を奏し、タイ国内では暫定政権に対する評価は高い。政
情不安で遅滞していた外資の投資認可の促進、観光分野の再建、消費増税の先送りや燃料
税の低減などが具体的な経済政策となっており、市民生活を下支えした結果、GDP はマイ
ナスからプラスへ転じている。今後の選挙予定については、暫定政権は民政復帰を最終目
標とする 3 段階のロードマップを示しており、今年 7 月に新憲法を制定後、10 月に議会選
挙が行われ、クーデターから 1 年半かけて民政移管を実現させる計画が明らかにされてい
る。
2.1.2.2. ASEAN 経済統合の実施内容とタイのポジション
タイやインドネシアなど東南アジアの 10 カ国が加盟する ASEAN 経済共同体が 2015 年
末に発足する。当初の発足時期である 1 月 1 日から 12 月 31 日へと約 1 年間、実現は遅れ
たものの、域内の関税撤廃などで“一つの市場”に向けた準備は着々と進んでいる。人口
6億人と、欧州連合(EU、約 5 億人)を上回る巨大市場の誕生は、日本の自動車や素材を
はじめとした企業の生産・販売戦略に影響を与えると見られている。タイやシンガポール
など先行して ASEAN に加盟した 6 カ国は、総品目数の 99.2%(2013 年)の関税を撤廃す
る。一方で、まだ関税撤廃を実現していないベトナムやミャンマーなど後発 ASEAN4カ国
の撤廃率は 72.6%(2013 年)にとどまり、特別措置として 2018 年まで高いレベルの関税
撤廃を猶予されている。
タイにおける ASEAN 経済共同体の新しい動きとして、貿易関連情報に関するアクセス
窓口を一元化したことが挙げられる。輸入品目別の関税率や輸出入関連法、輸出入規制、
貿易手続き、非関税障壁、発効済み自由貿易協定(FTA)ごとの関税引き下げスケジュー
ル、原産地規則、輸出入に関わる税関との係争事例など、貿易に携わる企業が求めるあら
ゆる情報を集約して一元的に提供するウェブ版データベースの運用が始まっており、企業
にとっては、これまで様々な情報源にアクセスしなければ得られなかった情報が、単一の
13
アクセス窓口から効率的に入手できるようになる。
2015 年末の ASEAN 経済共同体
(AEC)
の発足期限までに、加盟国が同様の情報構築を行い、ASEAN 全体の貿易関連情報を包括す
るデータベースを始動させる計画が見込まれている。
2.1.2.3. タイの労働市場(労働賃金推移、高度人材の獲得、生産人口推移)
タイ及び周辺国の労働状況を比較する。まず、タイ及び周辺国の人口構成を概観すると、
カンボジア、ベトナム、ミャンマーは豊富な若年層が存在し今後もその傾向が続くことが
想定される。一方で、タイでは、日本と同様の少子高齢化型の人口構成となっており、周
辺国と比べ豊富な労働力の確保が今後難しくなる。
タイおよび周辺国の平均賃金(作業員、エンジニア、マネージャー)を比較すると、タ
イは中国やマレーシアとおよそ同水準であり、ミャンマー、カンボジア、ベトナム等と比
べ周辺国の 2~3 倍の水準にある。
つまりタイ以外の周辺国では安く大量に労働力を確保できる一方、タイにおいては生産
年齢人口の減少と労働コストの上昇により、安価な労働力の確保が難しくなるとみられて
いる。一方、ASEAN の主要各国の大学進学状況を比較すると、タイの進学率は 10%を超
え、マレーシアよりもその数は多い。今後、大学のレベルが向上することで、シンガポー
ルやマレーシアのように高度人材が増加していくことが想定される。
タイと周辺国の人口構成
80歳以上
70-74歳
60-64歳
50-54歳
40-44歳
30-34歳
20-24歳
10-14歳
0-4歳
3,000
タ イ
カンボジア
総人口:6,791万人
中位年齢(注4):36.2歳
29歳以下人口比率:42.6%
総人口:1,496万人
中位年齢:24.1歳
29歳以下人口比率:61.8%
1,000
1,000
ベトナム
80歳以上
70-74歳
60-64歳
50-54歳
40-44歳
30-34歳
20-24歳
10-14歳
0-4歳
400
3,000
(千人)
1,000
0
200
0
500
1,000
(千人)
ミャンマー
総人口:8,971万人
中位年齢:29.2歳
29歳以下人口比率:48.9%
200
500
総人口:6,098万人
中位年齢:27.9歳
29歳以下人口比率:56.1%
400
4,000
2,000
(千人)
■ 男性
0
2,000
4,000
(千人)
■ 女性
図表 タイと周辺国の人口構成
出所:日本総研
14
図表 平均賃金(年間実負担額)
Tertiary (ISCED 5-6) (%)
出所:JETRO
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
14,758人
44,060人
130,869人
870,870人
6,467人
図表 大学進学率と進学数
出所:UNESCO
2.1.2.4. BOI 優遇制度見直しのスケジュールと見直し後の内容、施行可能性
現暫定政権により、タイ国内産業の高度化に貢献する産業及び事業内容に絞って恩典が
与えられる方針に転換され、新たな投資優遇措置が 2015 年 1 月から施行されている。投資
優遇措置は、投資奨励法にもとづきタイ投資委員会(BOI)によって与えられる優遇措置と
タイ工業団地公社(IEAT)による優遇措置等から構成される。
投資奨励法に基づく優遇措置は、さらに三種類(業種、地域、機能)に分別される。業
種に対する優遇措置はタイの国益に資する事業として、特定 7 分野に対し付加価値の高い
業種が対象となっており、法人所得税・機械輸入税、原材料輸入税が減免される。地域に
対する優遇措置は地方産業のクラスター形成を奨励するため、南部地域と国境付近の特定
エリアに優遇措置が付与されている。注目すべき点は、従来のゾーン制に基づく優遇制度
が廃止されていることであり、ここに従来の優遇措置との差異が表れている。従来のゾー
15
ン制では地域振興を目的とし国内を 3 つのゾーン(バンコク首都圏 6 県、首都圏周辺 11 県
およびプケット、他の県)に区分し、地方に進出した企業に対してより厚い優遇措置を付与
していたが、新規の優遇制度では、南部地域と国境付近の特定エリアに限定されている。
機能に基づく優遇措置は、国外への投資をしやすい環境を整えることを目的として、国際
統括本部(IHQ: International Headquarters)や国際貿易拠点(ITC: International Trading
Centers)の制度を整備している企業を対象として優遇措置を付与するものである。
投資奨励法に基づく優遇措置(注1)
①業種に対する優遇措置
• タイの国益に資する事業として、特定7分野に対し付加価値の高い業種が対象。
• 法人所得税・機械輸入税、原材料輸入税を減免。
②地域に基づく優遇措置
• 地方産業のクラスター形成を奨励するため、南部地域と国境付近の特定エリアに優遇
措置を付与。
• 従来のゾーン制は廃止。(注2)
③機能に基づく優遇措置
• 国 外 へ の 投 資 を し や す い 環 境 を 整 え る こ と を 目 的 と し て 、 国 際 統 括 本 部 ( IHQ:
International Headquarters)や国際貿易拠点(ITC: International Trading Centers)の制
度を整備。
図表 BOI の投資優遇措置の概要
出所:BOI
その他の優遇措置は、IEAT 及びフリーゾーンを基準として二つに分類される。IEAT に
よる優遇措置は、IEAT が造成・運営する工業団地への入居企業が対象となっており、土地
の所有権、外国人技能者・専門家等の雇用・居住権等を認可する恩典が付与される。フリ
ーゾーンにおける優遇措置は、フリーゾーンに指定された地域で輸出入される物品に対し
て、関税・付加価値税の免除等の恩典が付与される。
その他の優遇措置
• IEATが造成・運営する工業団地への入居企業が対象。
IEATによる優遇措置
• 土地の所有権、外国人技能者・専門家等の雇用・居住権等を認可。
フリーゾーンにおける優遇措置
• フリーゾーンに指定された地域で輸出入される物品に対して、関税・付加価値税の免
除等。
図表 BOI 以外の投資優遇措置の概要
出所:IEAT
業種に対する優遇措置においては、奨励対象分野の中の業種ごとに A1~B2 の 6 つのグ
ループに分類され、個別の恩典内容が供与される。奨励対象分野は、1~7 類まで存在し、順
に、農業及び農産物(1 類)
、鉱業、セラミックス、基礎金属(2 類)
、軽工業(3 類)
、金属
製品、機械、輸送機器(4 類)
、電子、電気機械産業(5 類)
、化学工業、紙及びプラスチッ
ク(6 類)
、サービス、公共事業(7 類)となっている。
16
奨励対象分野
1類
農業及び農産物
2類
鉱業、セラミックス、基礎金属
3類
軽工業
4類
金属製品、機械、輸送機器
5類
電子、電気機械産業
6類
化学工業、紙及びプラスチック
7類
サービス、公共事業
図表 BOI の投資奨励対象分野
出所:BOI
業種によって該当するグループが選定され、下図の奨励対象に基づき恩典区分が決定さ
れる。全部で 6 段階の恩典区分が用意されており、政府が重要視する業種に対しては特に
恩典内容が充実している。恩典区分の中で最も重要視されて A1 に該当するための要件とは、
高度に重要とされる業種であること、国の長期的な競争力向上に資するものであること等
が挙げられる。
恩典
区分
奨励対象
A1
• 高度に重要とされる業種。
• 資本集約型よりもナレッジベース。
• 国の長期的な競争力向上に重要であるもの。
A2
• 高度な技術を使用し極めて複雑な製造工程を持った業種。
• 資本集約型。
• 国の発展に重要な基礎インフラ、重要な基礎産業、環境
保護にとって重要な産業。
• タイにほとんど存在していないことから、投資を奨励する
ために最高の法人税の免除恩典を付与することが必要で
あるもの。
A3
• ハイテク産業であり、すでにタイに存在しているが、国の
発展にまだ重要であるもの。
A4
• A1~A3ほどの高度な技術は用いず、複雑な製造工程で
はないが、グローバル生産拠点として国内の資源に付加
価値を高め、産業サプライチェーンを強化することで、タイ
の競争力を高める業種。
B1
• 高度な技術は用いないが、サプライチェーンの中で重要
な業種。
B2
• B1よりも重要性が低い業種。
図表 BOI の投資優遇対象の基準
出所:BOI
17
恩典区分に対応して投資優遇が用意されているが、投資優遇には基礎恩典と特定条件を
満たした場合の追加恩典の二種類が存在する。基礎恩典とは、分類された 6 つのグループ
ごとに、法人税の免除期間等の恩典が供与されるものである。②追加恩典とは、特定の基
準を満たす投資奨励対象事業に対して、追加的に恩典が供与されるものである。なお、基
礎恩典と追加恩典は相互に排他的ではない。
基礎恩典の区分は 6 つあり、グルーピングに応じて法人免税期間、その他の恩典、追加
恩典が異なる。A1~B2 区分の奨励対象は上述を参照されたい。例えば、A1 の場合、法人免
税期間は 8 年(上限なし)となり、その他の恩典として機械の輸入税の免税、輸出用製品
に使用される輸入原材料の輸入税の免税、ビザやワークパミットに関する優遇等が供与さ
れる。さらに追加的な恩典として最長 5 年間の法人税が半減される。
恩典区分
法人税免税期間
A1
8年(上限なし)
A2
8年(上限あり)
A3
5年(上限あり)
A4
3年(上限あり)
その他の恩典
•
•
•
•
機械の輸入税の免税。
輸出用製品に使用される輸入原材料の輸入税の免税。
土地所有可能。
ビザやワークパミットに関する優遇。
追加恩典
• さらに最長5年間の法人税半減。
• さらに最長3年間の法人税免税。
B1
B2
なし
• 輸出用製品に使用される輸入原材料の輸入税の免除。
• 土地所有可能。
• ビザやワークパミットに関する優遇。
• 一部が恩典を申請することが可能。
図表 BOI の投資優遇恩典の構造
出所:BOI
追加恩典の区分は 2 つあり、①競争力に資する投資を対象とする恩典、②産業地区開発
及び地方分散に資する投資を対象とする恩典に分けられる。①の恩典対象となるためには、
R&D(社内 R&D/タイ国内外の研究アウトソース)の実施、技術・人材開発基金や教育・
研究機関/政府機関への寄付、タイで開発された技術を商品化するための特許取得またはラ
イセンシング、高度な技術トレーニングの実施、高度な技術トレーニング及び技術援助に
おけるタイ資本比率 51%以上のサプライヤーの開発等が条件となる。恩典として、最初の
3 年間の収入に対する投資金額比率、または投資金額に対して設定(R&D のみ投資金額の
2 倍まで法人税免除)された期間、法人税を免除することができる。②の恩典対象となるた
めの条件として、一人当たり所得の低い、または投資の少ない 20 県における立地、あるい
は工業団地または奨励された工業区に立地することが挙げられる。恩典としては、A1・A2
の業種は 5 年間法人税が 50%に削減、それ以外は法人税免除期間を 3 年延長する等のメリ
ットが供与される。
18
恩典の対象
条件
恩典
競争力向上に資
する投資
• R&D(社内R&D/タイ国内外の研究アウトソース)。
• 技術・人材開発基金や教育・研究機関/政府機関への寄付。
• タイで開発された技術を商品化するための特許取得またはライ
センシング。
• 高度な技術トレーニング。
• 高度な技術トレーニング及び技術援助におけるタイ資本比率
51%以上のサプライヤーの開発。
• 製品及びパッケージデザイン(社内・タイ国内のアウトソース)。
• 最初の3年間の収入に対する投資金額比率、ま
たは投資金額に対し、法人税免除期間を設定
(R&Dのみ投資金額の2倍まで法人税免除)。
1%または2億バーツ以上:1年
2%または4億バーツ以上:2年
3%または6億バーツ以上:3年
• 一人当たり所得の低い、または投資の少ない20県に立地する
プロジェクト。
•
•
•
•
• 工業団地または奨励された工業区に立地するプロジェクト。
• 法人税免除の1年追加。
産業地区開発及
び地方分散に資
する投資
A1・A2の業種は5年間法人税が50%。
それ以外は法人税免除期間を3年延長。
10年間輸送費、水道光熱費の損金を2倍で計上。
設備の導入費用の損金を1.25倍で計上。
図表 BOI の追加恩典
出所:BOI
タイの優遇恩典には、本事業の想定事業主体者が受け取ることが可能な恩典も用意され
ている。業種 7 類にサイエンスパーク開発事業者に対する優遇が示されている。サイエン
スパーク開発は、7 類(サービス、公共事業)に分類され、最も高い恩典が用意されている。
恩典獲得の条件は改正前の BOI 投資優遇策の時から変更がないものの、恩典内容は向上さ
れている。
想定事業主体が優遇を受けるためには、インキュベーションセンターの保有、国内外へ
の通信、電気通信のための近代的システムの保有、無停電電源装置の保有、委員会より承
認済みの施設の保有が必要となる。これらの条件を満たすことで、8 年間の法人税免税、機
械の輸入税の免税、輸出用製品に使用される輸入原材料の輸入税の免税等の恩典が供与さ
れる。加えて、タイの競争力向上に資する投資、または産業地区や地方の発展に資する投
資と認定された場合、追加恩典を受けることが可能である。
対象
条件
7類
科学技術パーク
(Science and
Technology
Park)
恩典
1. インキュベーションセンターを持た 【基礎恩典】
• 8年間の法人税免税
なければならない
• 機械の輸入税の免税
2. 国内外への通信、電気通信のため • 輸出用製品に使用される輸入原材料の輸
入税の免税
の近代的システムを持たなければ
• 土地所有可能
ならない
• ビザやワークパミットに関する優遇
3. 無停電電源装置を持たなければな ※恩典区分A1に相当
らない
【追加恩典】
以下の要件を満たす場合、さらに最長5年間
4. 委員会に承認された他施設を持た の法人税半減
なければならない
• タイの競争力向上に資する投資
• 産業地区や地方の発展に資する投資
図表 サイエンスパーク開発事業者向け恩典条件と内容
出所:BOI
19
2.2. 不動産開発の検討
2.2.1. 土地利用コンセプトの策定
昨年度から検討を行ってきた需要想定や事業採算性に基づき、タイ日で土地利用コンセ
プトを作成した。今年度は開発概要のコアとなる土地利用コンセプトについて、タイ側の
社会情勢や環境影響評価等の認可の取得状況を鑑み、従来の内容から一部見直しを行った。
具体的には、面積変更や用地実勢に基づく現地側での検討結果を踏まえ、産業部分と都市
部分の土地比率や施設内容や規模などを変更した。
まず、ASC の全体面積を約 150ha とし、従来よりも事業規模を抑え、コンパクトな広さ
とした。R&D ゾーン、イノベーションゾーン、人材開発ゾーン、スマートライフゾーンの
4 つのゾーン設定は、従来の基本的な事業計画での内容を踏襲しているが、その概要をより
実例に即した内容に具体化している。例えば、各ゾーンについて、①R&D ゾーンでは、立
地企業が自己所有する R&D 施設やレンタル工場、②イノベーションゾーンでは、レンタル
オフィスやインキュベーションセンターなど、主に企業向け賃貸を想定したオフィルビル、
③人材開発ゾーンでは、現地または海外の研究機関や大学のサテライトオフィス、語学研
修機関など、主に研究・学術機関向け賃貸を想定したオフィスビル、④スマートライフゾ
ーンでは、高度人材を引き付ける商業施設や周辺地域でも需要の多いサービスアパートメ
ント、等を整備する方針としている。
上記方針に基づき、タイ日それぞれが保有する知識・知見を活かし土地利用コンセプト
の精緻化を進めた。具体的にはタイ側によって現地側の需要や関連規制の把握を行い、日
本側によってスマートコミュニティ及び複合開発実績に基づく土地利用のノウハウ提供を
行った。
土地利用コンセプトの検討に当たり、各ゾーンの土地面積及び施設規模について次のよ
うな設定を行った。R&D ゾーンが全体の約 8 割、その内約 5%がレンタル工場とし、イノ
ベーションゾーンとアカデミックゾーンは全体の約 2%、スマートライフゾーンは全体の約
16%を占める場合を初期設定とした。また、有効面積比率は住宅エリアにおいては 85%、
その他のエリアでは 70%または 80%に設定した。建物建設に必要な土地の面積比率につい
ては、有効面積に対して 70%とした。施設規模に関しては、イノベーションゾーンとアカ
デミックゾーンには 7 階建てのオフィスビルがそれぞれ 2 棟建設され、スマートライフゾ
ーンには、
10 階建てのサービスアパートメントが 2 棟、
15 階建てのコンドミニアムが 1 棟、
5 階建ての商業施設が 1 または 2 棟建設され、各建物の FAR を 4 として設定した。
並行して、ASC の特徴を実現するための、開発コンセプトに基づいたエリアや施設に対
する要件を整理した。アーバンプランに反映すべき事項として、日本側より現地側に提示
し、土地利用コンセプトの内容について、更なる見直しを行った。
20
図表 ASC 開発コンセプト(ゾーン)
出所:日本総研
2.2.2. アーバンプランナーの選定支援
TOR の作成とアーバンプランナーの選定支援
アーバンプランナーの選定は、アマタ社が作成した Terms Of Reference(以下、TOR)
に基づいて実施された。TOR では、プランニングの背景、プランニングのスコープ、設計
方針と目的、タスク内容等が提示され、昨年度、日本側主導で検討された ASC の開発コン
セプトや開発イメージが反映された。
アーバンプランナーは、欧米を含めグローバルでの実績のある企業、現地企業など複数
企業を候補とし、アマタ社との複数回のディスカッションを通じて絞り込まれ、最終的に
日本側の意向も踏まえ、以下の基準で選定された。

グループ力

構想力

スマートシティの実績

提案内容の具体性(コミットメントの範囲等)

コミュニケーションの容易さ(言語、理解力(METI の方針や過去の検討内容、日本側
の意向に対する)
、対応力 等)

日本側企業との関係性
21
■Features of ASC
ーCreate connectivity for innovationー
Feature①:A place where
talents gather and will be
motivated
■Features of ASC
ーSupports the realization of the smart communityー
Feature⑥:Brain function of
ASC
The control tower of the smart service
providing ( one of the attractions of
ASC)
The place where engineers and managers
come and go to freely will create
connectivity between the R&D zone and
the innovation zone
Feature⑦:Smart service Lab
The place where smart services are
created and able to try.
Feature②:A landmark
of ASC
The place will show the attraction
of ASC
Feature③:A commercial
facility crowded with people
who have purpose
Feature⑧:An eco-friendly residence area
A safe, comfortable residence where water and vegetation are
rich and also friendly to the environment and to our health
The facility which connects daily lives
and business of the company(A place
creating the connectivity between the
innovation zone and smart life zone
Feature④:Construction of
business-academia collaboration
network
The place which local and foreign students have
trainings and work R&D by making most of the
network of research institutes, companies and
universities.
Feature⑨:An advanced infrastructure
service which stables and promotes
businesses
Feature⑤:Meeting between students,
researchers and citizens
It supplies one stop service by the management of
integrated infrastructure service
The place where people share their knowledge
and examine global problems openly
Feature⑩:The hospitality which supports
activities in the ASC
The concierge network wihich supports people’s lives and
employment. (The service is managed at the concierge hub(in
the innovation zone))
図表 ASC の開発イメージ
22
出所:日本総研
2.2.3. 土地利用計画図策定の助言
土地利用計画図の策定支援
作成した土地利用コンセプト及び現地の需要動向を反映し、かつ本事業に参画する企業
の開発ノウハウを生かせる土地利用のあり方を検討した。検討にあたっては、ASC と同様
の開発要素のある、日本及び海外の先行案件も参考としている。
現地の投資需要を念頭におき、投資負担の軽減を考慮した全体整備計画、参画予定企業
の経験を活用しやすい施設概要、スマートサービス提供を想定したインフラ概要等を検討
した。
アーバンプランの作成にあたり、昨年度からの検討内容が反映されるよう、以下の視点
がプランに含まれるよう調整を行った。
1.イノベーションに資するコネクティビティを生み出すための視点
(1)ASC のランドマークの導入

ASC の来訪者や生活者に対し、アマタ社の取り組み、ASC 事業会社の紹介、ASC が目指
す世界、開発の歴史やステージ、就労シーンやライフスタイル、魅力をビジュアルに伝え
るため、ランドマーク施設を整備する。

ASC のランドマークとして先進的なスマート技術が施された建物とし、最上階には ASC 全
体を眺望できる空間等を提供する(レストラン等)
。
(2)人材が集いモチベートされる場づくり

高度人材(開発人材やマネジメント人材等)の行き来を促すため、R&D ゾーンとイノベー
ションゾーンのコネクティビティを生み出す設計とする。

共用のプロモーションスペースで開発を競う雰囲気や、コラボレーションを生み出すため、
先進技術や製品を発信できる場を提供する。

ビジネススキルを磨く勉強会、ビジネスマンのネットワーキングや憩の場として活用でき
るオープンな交流スペースを提供し、一週間を通じ、常に人が集まる場とする。
(3)グローバルな産学研究ネットワークエリアの構築

研究機関、企業、大学のネットワークを生かし、活発な R&D 活動を促すため、産学共同研
究のマッチング、公的な研究機関が保有するグローバルネットワークへのアクセスが可能
なエリアを設定する。

研究の現場視察プログラムや研究成果の発表会等を企画運営し、R&D 拠点としてのブラン
ド価値を高める情報発信の場を提供する。

現地学生及び留学生を将来の R&D 人材として育成するため、学生のインターンシップや就
職活動を支援する拠点を用意する。
23
(4)学生、生活者と研究者により知見が共有される仕掛け

就労者だけでなく、学生や生活者が様々な視点からの知の共有や、グローバル課題等をオ
ープンに検討し合うため、域内の研究者等が教育プログラムを提供する教育機関等や、生
活者が参加可能な環境教育等の場を提供する。
(5)用途に合わせて人が行き交う商業施設

企業の事業活動を人々の日常生活に繋げるため、イノベーションゾーンとスマートライフ
ゾーンのコネクティビティを生み出す設計とする。

スマートライフゾーンに位置する商業施設は毎日の生活用に、一足伸ばした先のイノベー
ションゾーンに位置する商業施設は、企業が開発し商業化された製品等が揃い、トレンド
を先取りした製品を提供できる施設とする。

2 つの商業施設は空中回廊等で繋がり、ゾーン間のつながりを創出する。
2.スマートコミュニティの実現をサポートするための視点
(1)ASC のコントロールタワーの導入

ASC の事業全体のマネジメントを行い、サービスの提供のハブとするため、スマートサー
ビスのコントロールタワーを整備する。

スマートセンターでは、ASC 及びアマタ社が取り扱う各工業団地の環境影響等を視覚的に
発信する。
(2)スマート技術・サービスの実験環境の整備

都市情報、災害情報等の SNS 連携など、先進的な都市機能サービスを実現する。

LBS(Location-based solution)の応用によるシームレスな成果空間の実現。

人・モノの流れの見える化による都市の自己最適化の検証・実現。

スマートサービスが新たに生み出され、人々がそれを体験できるようにするため、ASC に
集まる人々の声を取り入れながら、スマートサービスを開発するラボを整備する。

都市の成長と共に常に新しいサービスを開発し、実証し、実用化する。
(3)環境配慮された居住エリア

環境意識が高く、質の高い生活を志向する高度人材を惹きつけるため、安全で快適、豊か
な水と緑に囲まれ環境に優しく、体にも優しい居住エリアを整備する。

湖は、調整池としての防災機能、景観を楽しむ憩の場機能、生物保護機能、湖周辺の遊歩
道は散歩やマラソンコースとして健康促進機能等、様々な役割を担う。

商業施設前のグラウンドは、通常は憩いの場やイベント会場として、災害時には避難所の
24
役割を担う。

居住施設は、商業施設から離れた閑静なエリアにエグゼクティブ層が、イノベーションゾ
ーン側に効率性を求める単身者やマネジメント層が、湖を挟むエリアにローカル層の居住
エリアを設置する。屋上パネルや壁面緑化等環境配慮を施す。
(4)域内のセキュリティや災害対応力の充実

人のコネクティビティの向上と犯罪防止を両立し、また洪水等の自然災害による被害を最
小化するため、域内セキュリティや災害対策が施された設計とする。
(5)周辺社会との共生に配慮した域内景観

域内最適のみでなく、周辺社会とも協調することで安定した開発活動や生活を担保するた
め、周辺環境と調和し、周辺住民にも配慮した景観設計とする。
3.ASC の事業性を高めるための視点
(1)投資回収モデルを想定したゾーニングやエリアの設定

イノベーションゾーン、人材開発ゾーン、スマートライフゾーンにおける都市機能の投資
原資を確保するため、短期での投資回収が期待でき、需要が堅調な生産・開発ゾーンの敷
地面積を一定以上に確保する。

サイエンスシティやスマートコミュニティとしてのブランド価値を創出するため戦略的に
投資するエリアと、そのブランド価値により、不動産としての価値の底上げを図り収益を
確保するエリアを想定する。
(2)ASC のコンセプトを訴求する都市機能の確保

サイエンスシティとしてのコンセプトの先進性や魅力を顧客に訴求するため、開発の初期
フェーズより、サイエンスシティかつスマートコミュニティとして必要となる基本的な都
市機能を備える。
(3)周辺エリアとの差別性への配慮

ASC は周辺エリアであるバンコク中心部やシラチャ地域などと一部競合することも想定さ
れるため、都市機能の設計における周辺エリアとの差別化ポイントを明確にする。
(4)ナコーンとの連携による相乗効果の発揮

ASC はタイ最大の生産拠点の受け皿であるナコーン工業団地に隣接するため、ナコーンと
の機能分担(開発と生産)を念頭におきつつ、ナコーンの就労者等へのサービス展開も想
定し、双方間で相乗効果が働きやすい動線等を確保する。
25
(5)想定顧客をイメージした施設設計
ASC では、自動車、電機産業に関連する企業の開発拠点、大学・研究機関の研究施設の立

地が見込まれるため、当該企業・機関の開発拠点で整備される設備やシステム、就労する
人材をイメージした施設設計とする。
2.2.4. テストマーケティングⅡの実施
2.2.4.1. テストマーケティングの全体概要
ASC の潜在顧客の獲得可能性を高めるため、コンソーシアム企業のネットワークを活用
し、テストマーケティング(Test Markething、以下、TM とする)を実施した。マクロ分
析をベースに TM を通じて潜在顧客像や顧客ニーズを具体化し、開発内容やスマートサー
ビスへの反映を行った。TM は昨年度から 2 回に分けて段階的に実施している。具体的には、
昨年度実施した TMⅠでは、顧客像の具体化を目的とし、ASC への関心度が高い企業を定
義するためのプロファイリング、投資目的、課題を洗い出していった。TMⅠを通じて得ら
れた投資意向やタイでの企業活動の現状と課題を、土地利用コンセプトやスマートサービ
スとして求められる内容へ反映した。今年度の TMⅡでは、関心度の高い企業にフォーカス
を当て、ASC の開発内容やスマートサービスに対する具体的なニーズを明らかにし、土地
利用計画図への反映や ASC の価値向上に資するスマートサービスの特定を行った。TM に
ついては、従来の実施結果をベースとし、顧客の活動イメージや都市機能・サービスに対
するニーズを、さらに具体化した。
2014年度
2013年度
マクロ
分析
TM
 自動車、電子機器がターゲットとなる
 完成車メーカーがタイに統括拠点やR&D等
の高機能拠点を設置し始めている
 日本企業による中期の投資有望国アンケート
では、タイは2013年の3位から4位へ下落
 完成車メーカーやサプライヤーのうちのボディ
や外装関連製品を扱う企業のR&D拠点設置
が進む
【ヒアリング先】
 自動車、電子機器19社にヒアリング
【目的】
 顧客像の具体化、スマートサービスや都市機
能に対する基本ニーズの把握
【確認事項】
 投資意欲、拠点設置状況、スマートサービス、
都市機能に対するニーズ
【結果】
 自動車のボディや外装関連製品を扱うTier1、
Tier4.と大型家電を扱う企業がターゲット
 “顧客との近接性”、“人材の確保”が重視さ
れ、“基盤インフラの整備“、”インセンティブ”
は必須の要件である
【ヒアリング先】
 自動車のボディや外装関連製品を扱う企業、
大型家電を扱う企業の計15社程度にヒアリン
グ予定 (現状5社へヒアリング実施)
【目的】
 投資目的、スマートサービスや都市機能に対
する具体的なニーズの把握
【確認事項】
 投資意欲、拠点設置状況、スマートサービス、
都市機能に対するニーズ
【結果】
 以下について後述
① TM2の進捗状況
② 投資目的と背景
③ 投資先に対する主要なニーズ
26
2.2.4.2. TMⅠの検討結果
顧客プロファイリング
【自動車】
完成車メーカーは、駆動系製品の開発機能を依然として国内に保有しているが、外装部
品等は現地開発を進めている。そのため外装部品等においては必要に応じてサプライヤー
からゲストエンジニアを受け入れ、共同開発を行っている。完成車メーカーの多くが既に、
タイに大規模な評価施設を含めた開発機能を設置しているが、ゲストエンジニア要請を受
けるサプライヤーは、完成車メーカーのニーズ対応を効率的に行うため、開発機能の現地
化を進めている最中にある。完成車メーカーを軸に開発機能の強化が進むなか、今後、Tier1
以降の部品メーカーの現地開発機能整備が進むと見込まれる。
【電気機器】
自動車と同様、多くの電気産業が既に ASEAN、特にタイ、インドネシア、ベトナムに生
産拠点を設置している。特徴的なのは、電気産業の中でもタイ、インドネシア、ベトナム
に進出する企業の種類が製品別でそれぞれ異なることである。例えば、タイでは消費市場
の拡大により、市場ニーズに強く影響を受けやすく、輸送コストが大きいことから消費地
の近くで開発を行う傾向にあり、摺合せ技術を必要とするため裾野産業の存在が重要とな
る白物家電を扱う企業が、市場に即した製品開発のための R&D 拠点設置ニーズを保有して
いると考えられる。
経済成長によって消費市場が拡大し、かつライフスタイルが多様化するなかで、現地消
費者のニーズ変化への迅速な対応が求められている。現地ニーズを随時把握し、現地での
製品開発・生産活動に反映し、現地市場へスピーディーに提供する地産地消型のサプライ
チェーンが必要になっている。タイでは、従来の生産拠点の受け皿としての役割が変化し、
開発機能を含む拠点機能の高付加価値化が進んでいるが、本マーケティングを通じ、自動
車産業や関連する電機、機械、素材等の産業で、こうした傾向があると確認された。
27
自動車のサプライチェーン
生産
開発
開発機能の現地化のニーズ
高いが多くは整備済み
 完成車の組み立て
 エンジン、化成品(バンパー、
車体部品)、プレス部品、樹脂
部品の製造
 エンジン、駆動系の部品
開発
Tier 1
 トランスミッション、電装品、
駆動系部品、内装部品等を
製造し、完成車メーカーへ
納入
 新車開発時にはゲストエン
ジニアを完成車メーカーに
派遣し、車体部品や内装
部品の開発を担当
Tier 2
 Tier 1にコンポーネント、
サブコンポーネントを供給
 主に自社製品の開発
完成車メーカー
 タイをASEANの中核拠点と位
置付け、現地ニーズをいち早く
とらえるために現地化必要
一部企業で高い
Tier 3
 Tier 2にコンポーネント、
サブコンポーネントを供給
 主に自社製品の開発
Tier 4
 原材料を完成車メーカー
及びTier 1-3へ供給
 一部の大手素材メーカーは
完成車メーカーやTier 1企
業との共同開発を実施
 完成車へのデザイン・イン活動
が必要なため、現地化必要
 ただし、エンジン・駆動系の部
品については完成車メーカーが
中心となって開発するため現地
化の必要性が低い
機能拡張
現時点では低い
 Tier 1の現地での開発ニーズに基
づいて今後顕在化する見込み
低い(現地移転はありうる)
新規
進出
 Tier 2の進出後、ただし企業規模的
に現地拠点を出すのは難しい
一部で高い
 一部の大手素材メーカーは完成
車メーカーやTier 1に対するデザイ
ン・イン活動のため、現地化必要
機能拡張
図表 企業階層別の開発拠点設置ニーズ
出所:日本総研
2.2.4.3. TMⅡの検討結果
【投資目的】
ASC に関心のあった企業の多くがタイで既に生産活動に加え軽度な開発活動を実施して
いていることが分かった。これらの企業は、マクロ動向を踏まえグローバル拠点の中での
タイの位置づけの見直しを検討する先進的な企業であり、タイに生産拠点を設置する他の
多くの日系企業が今後追随していく動きであると見ている。このような先進企業が捉える
最近のマクロ動向とは、完成車メーカーを始めとするタイ拠点の機能強化や高度化への追
随、地政学的位置づけを利用したアジアにおけるタイの中核拠点化である。具体的には、
機能強化や高度化として、
「日系の完成車メーカーへの提案力強化」や「ローカル企業との
合弁から独資へのシフト」
、「工場とテクニカルセンターの切り離し」といった声を、タイ
の中核拠点化として、
「ASEAN 各国、インド向けの R&D 統括」といった声を企業から確
認している。
産業の集積レベルや人材の質など、ASEAN 諸国において一定の優位性を有するタイを、
自国内の開発のみでなく、周辺国を含む現地開発の中核拠点と考える企業は少なくない。
中長期的な現地拠点のあり方を視野に、現地開発機能の強化を目指す声も多く聞かれる中
で、ASC のコンセプトがこれらのニーズを先取りしたものであることが確認できた。
28
投資目的
具体的な声
ASEAN 各国、インド向けの R&D 統括
工場とテクニカルセンターの切り離し


インドネシアの開発機能もタイで管理する
インドのエンジニアをタイのエンジニアが教育している

タイの開発拠点は現状生産拠点と隣接しているが、分けるべきか検
討中である。

日系の完成車メーカーが今後ニューモデルの商品化に向け、タイで
の開発機能を強化すると見込まれるため、完成車メーカー向けの提
案力を高めたい。

初期投資の際はローカル企業のノウハウを享受するため合弁会社
を作ったが、機能強化をするにつれ、知的財産の保持の理由から独
資で開発拠点を持つことを検討中。
日系の完成車メーカーへの提案力強化
ローカル企業との合弁から独資へのシフト
図表 潜在企業のタイへの投資ニーズ
出所:日本総研
【投資先に対するニーズ】
タイ拠点の機能強化及び高度化とアジアにおける中核化に向けて、拠点整備における
様々なニーズが確認された。タイの機能強化に伴い、他拠点との密なコミュニケーション
の発生に備えるため、シームレスかつセキュアなコミュニケーションの実現が求められて
いる。大手完成車メーカーのような、自社内にコミュニケーションシステムの開発部隊を
有する場合を除き、多くの企業にとって既述のコミュニケーションの実現を支援するサー
ビスを必要とすることが想定される。また、多くの企業がタイ拠点のレジリエンス性を重
視している。2012 年度に発生した洪水被害の経験から防災への意識、基盤インフラの安定
性を重視する企業はとても多い。そして、ニーズとして最も多く挙げられたのはエンジニ
アやマネジャーといった高度人材の獲得である。タイの経済成長に伴い、日系企業のみな
らずタイに進出する多くの外資企業がタイ拠点の機能強化や権限委譲を進め始めている。
そのため、現地の高度人材獲得はいずれの企業にとっても喫緊の課題であり、現状、企業
からの需要に対して人材不足の状況にある。タイの高度人材がバンコクレベルの就労・生
活環境を求めることから、バンコク周辺に開発拠点を設置する大手完成車メーカーも少な
くない。タイでは、バンコク以外に高度人材の受け皿となる都市機能が不足している現状
も、近隣現地視察を通じて確認された。高度人材を惹きつける就労・生活環境を整備する
ことが ASC には求められる。
29
ニーズの背景
投資先に対するニーズ
①
顧客へのアクセス
• 顧客との共同開発に置けるコミュニケーション
の重要性
②
情報共有システムの構築
• タイの機能が強化されるにつれ、他拠点との密
なコミュニケーションが必要
③
情報セキュリティの確保
④
高度人材の確保
④
高度基盤インフラの設置
• 拠点間の情報共有・管理システムの未整備
• タイの現地人材の情報リテラシーの低さ
• バンコクと比較した際の、R&D人材獲得の難し
さ
• エネルギーや通信インフラの安定供給と災害
(洪水)の回避
図表 潜在企業の投資先に対するニーズ
出所:日本総研
【求められるサービス】
拠点機能が高度化されるにつれ、拠点設置にあたり求められる要件も高まる。大手完成
車メーカーは資金力を使って自社での整備が可能である一方、裾野を担う Tier1 以降の部品
メーカーには自社での整備は難しく、拠点の高度化をサポートする機能へのニーズが高い
ことが確認された。TM でのヒアリング結果より、そのサポート機能には、拠点機能に合わ
せて段階的かつ複合的な支援機能が求められ、それは大きく、「現地に根ざした基盤機能」
と「付加価値を生み出すための高度機能」とに大別されると想定される。
「現地に根ざした基盤機能」には、まず、開発活動の際に行われる拠点間及び顧客との
コミュニケーションの確保のため、完成車メーカーの拠点や主要都市へのアクセスに恵ま
れた立地が求められる。またコミュニケーションを行う際に CAD を含む膨大な情報のやり
取りを含む円滑な開発活動を支える環境整備のため、安定した基盤インフラが求められる。
他にも、開発活動を担う拠点ともなるとそこに併せて統括機能を持たせることを検討する
企業が多い。統括機能を持たせることで様々な管理業務が発生し対応する人材リソースが
必要となる。特に資源が限られている中小企業から、拠点の設立・運営支援機能は求めら
れやすい。
「付加価値を生み出すための高度機能」には、まず、現地開発を担うエンジニアやマネ
ジャー人材の確保のため、高度人材を惹きつける都市施設・文化的機能が求められる。ま
た、開発を担う人材を持続的に確保するために、基本的技術・知識を高める教育制度とし
て技術研修や語学研修、マネジメント研修などの現地高度人材向けの教育サービスの提供
といった人材育成機能が求められる。現地人材は上昇志向が高く、このような研修サービ
30
スが受けられる環境の有無によって、就労環境の選定のプライオリティが変わると言われ
ている。他にも、タイで開発活動が行われるようになると、タイから基本設計に対する現
地側のニーズを伝え、日本側の開発成果の蓄積を活用するなど、現地と日本間での連携し
た活動が必要となる。例えば、拠点間で開発データベースや開発工程を共有し、かつ開発
工程を管理できるようなシステムなどへのニーズが高い。そのため、開発支援サービス機
能が求められることとなる。また、昨今の研究活動の傾向として、自社だけでなく、情報
や人的ネットワークを通じて、他業種や海外の研究機関と連携し、共同で開発活動を行う
ことが求められている。産業基盤の存在するタイにおいて、開発活動を担う研究機関と産
業基盤が一体となって、産業間または同一産業内での共同研究・開発を促進していくこと
が産業の高度化を牽引する動きとなる。
完成車メーカーを軸に開発機能の強化が進むなか、今後、Tier1 以降の部品メーカーの現
地開発機能整備が進むと見込まれる。部品メーカーの開発機能の強化に向けて、都市施設
の整備など個々のサポートにとどまらない複合的なサポート機能が求められている傾向が
TM を通じて確認された。
2.2.5. 詳細設計検討の助言
2.2.5.1. 利用者イメージの具体化に向けた助言
想定利用者向けに実施した TMⅡを通じて、実際の海外拠点における活動状況や、就労環
境及び生活環境に対するニーズをヒアリングした。ヒアリングで得られた結果に対し、想
定事業主体の持つシーズを突合させ、提供可能なスマートサービスを絞り込んだ。2015 年
後半より実施予定の本マーケティングに向けて、アーバンプランナーと共に土地利用計画
図の策定と、スマートサービスの価値の特定を行った。特にスマートサービスに関しては、
スマートサービスの機能が価値あるものとして顧客に提供されることを明示することが重
要である。そのため、個々のサービスシステムと提供価値をつなぐための本マーケティン
グ用資料の作成を行った。具体的には、詳細なシステム構成、システム概要、利用シーン、
サービスコンセプト(利用価値)までの 4 段階から構成されている。
31
① 各エリアに合わせたサービスコ
ンセプト
② 各サービスに合わせた利用シー
ンイラスト
③ 各サービスに合わせたシステム
概要
④ 各サービスに合わせた詳細シス
テム構成
図表 本営業に向けたスマートサービス資料の作成プロセス
出所:日本総研
2.3. インフラ・スマートサービスの検討
2.3.1. サービスの絞り込み
2.3.1.1. スマートサービスの優先度
一昨年度の検討結果及び直近の製造業のニーズを基に、アマタ社等、関係企業とディス
カッションを実施し、その結果を基に以下の通りにサービス内容の優先度を決めた。
<都市としての必須機能>
ネットワーク(WiFi 含む)
、データセンター設備、OA 環境
<サイエンスシティ(高度産業集積型都市)として必要な機能(基盤)>
エネルギーマネジメント基盤
統合業務管理(ワークフロー)の機能基盤
予兆検知機能基盤、ビッグデータ分析の機能基盤
<誘致企業の研究開発や企業ニーズに基づき具体的に検討が必要な機能>

統合業務管理(ワークフロー)機能
:企業内の企画、研究開発、生産等の活動を一元管理する。

ビッグデータ分析機能
:スマートシティ内の各企業の分析ニーズに応じたサービスを提供する

研究開発 SNS サービス
:企業内・企業間研究、スマートシティ内実証実験に活用する統合SNSサービス

予兆検知サービス
32
:製品や工場ラインの故障を事前に予兆する機能を提供する

LBS サービス
:人や物の位置情報をリアルタイムに特定する機能を提供する
<一般的な都市基盤として、入居企業等、顧客候補にアピール寄与度が高い機能>

防災機能
:各種センサー、カメラ等で収集した道路や河川の状況を集中管理し、利用者へ適
切な情報提供を行し、減災を実現する。

道路管理機能
:道路下のインフラ系工事(水道、ガス、電機等)の統合的管理を実現する。

交通管制機能
:信号機、カメラ及び各種センサーの情報を統合的に管理することにより、渋滞緩
和、最適な交通管制を実現する。

遠隔医療機能
:病院・専門医のネットワークを活用し、ASC内での高度遠隔医療を提供する。

SNS for Communication
:都市サービスや行政等への市民の声を SNS を通じて収集・分析する。
2.3.1.2. エネルギー供給に関するニーズに対応したサービス
快適な生活や環境負荷の低減、高効率なエネルギーの使用はスマートコミュニティを形
成する上で重要な要素である。そのため ASC では、スマートサービスの高度インフラ支援
機能を、居住者や企業に提供する。サービスとしては①エネルギーモニタリング機能、②
省エネ行動監視機能を備える。この内
①エネルギーモニタリング機能と②省エネ行動監
視機能は、居住設備や企業が保有するエネルギー使用機器が対象となる。基本的な機能と
しては、居住者にはホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)の機能、企業には
ビルエネルギーマネジメントシステム(BEMS)の機能にて適切なサービスを提供する。
(1)滞在施設向けエネルギーソリューション
ASC 居住者に①エネルギーモニタリング機能及び②省エネ行動監視機能等のサービスを
提供するには、HEMS の機能を利用してサービスを提供する。HEMS はエネルギーの使用
量を把握し、家電の遠隔操作や自動制御を可能にし効率的なエネルギーの使用を可能にす
る。以下に HEMS システムの特長として基本機能、創蓄・省エネ機能、安全・安定機能を
記載する。
33
1)基本機能
エネルギーの見える化やホームセキュリティ、ホームオートメーションを通じて暮
しをトータルにサポートする。
提供サービス
エネルギーの見える化
提供機能・ユーザメリット
・ 家電毎の使用量を把握し、ムリなく節電。
・ 水道、ガスの使用量も把握。
ホームセキュリティ
・ 照明遠隔操作で在室や家族同居を装うなど。
・ エアコン室外機のみを稼働させる装い機能も拡張。
ホームオートメーション
・ エアコン、照明などの家電を一括で遠隔操作。
・ 外出先や離れている家族の状況を確認、遠隔操作。
図表 サービスの基本機能
出所:東芝
2)創蓄・省エネ機能
無理なく節電でき、地球環境にも貢献する。見える化や制御によりエネルギー使用
の効率化を図り、節電や CO2 削減に貢献する。太陽光発電や蓄電池などの新エネルギ
ーを連携させ、家庭内の最適な創・蓄・省エネルギーの運用を可能にする。
提供サービス
エネルギーの見える化
提供機能・ユーザメリット
・ タブレットだけで簡易に見える化を実現。
・ 気軽に節電意識を高める。
創蓄・省エネ最適化
・ 停電時も安心。夜間の安い電力を日中に使用。
・ 省エネで高効率に発電。余剰発電も蓄電し活用。
・ 家庭内と EV の電力使用を最適調整。停電時も活用。
DR 対応
・ 無理なくピークカット/シフトを制御
図表 創蓄・省エネ機能
出所:東芝
34
3)安心・安全機能
日々の暮らしを安らかに送れるようサポートする。来訪者や防災防犯機器の稼働状
況を外出先からも把握できるほか、離れた家族の安否確認や、家電のトラブルの確認
を行うことができる。
提供サービス
提供機能・ユーザメリット
ホームセキュリティ
・ 外出時に来訪者のインターホン画面を確認。
・ 防災防犯機器と連動し、外出時も警報装置を受信。
見守り
・ 離れた家族の安否を確認。異常にメールを受信。
・ セキュリティ専門会社と連携し、異常時に駆け付け。
故障診断
・ 家電/住設の異常状態を通知。センターと連動。
・ 家電/住設を診断。買い替え時期等をアドバイス。
デジタル貸金庫
・ 重要なデジタルデータを安全に長期間保存。
・ ユーザの死亡時対応。フォーマット変換サービス。
図表 安心・安全機能
出所:東芝
(2)企業・事業所(ビル・工場)向けエネルギーソリューション
ASC 入居事業者に①エネルギーモニタリング機能及び②省エネ行動監視機能等のサービ
スを提供するには BEMS の機能を利用してサービスを提供する。BEMS はエネルギーの
「創・蓄・省」を実現するとともに、集中監視・需要予測に基づく最適制御を行い、快適
なオフィス環境の維持と効率的なビル管理・運営をサポートする。以下に BEMS システム
の特長として、基本機能、付加機能について記載する。
1)基本機能
快適制御や中央監視などの基本機能をベースに ICT を活用し、高度なアプリケ―ショ
ンをクラウドで利用し、ビルの省エネルギー・省コストを手軽に実現する。
提供機能・サービス
提供内容
エネルギー見える化
 エネルギーを階層ごとに表示、データ化で分析・解析か
ら課題解決を容易にする機能
操作機能
 重要機器は「4挙動」で誤操作を防止、札掛けによる操
作ロックも可能
表示機能
 付箋紙のようにコメント入力ができ、シンボルから関連
画面へ展開も可能
35
省エネ診断レポートサービス
 建物のエネルギーの出入りを分析・解析から課題解決提
案をする定期サービス
データ記録機能
 履歴保存したデータを一覧印字、作表、トレンドデータ
を HDD や外部記憶へ CSV 出力可能
空調・照明遠隔制御
 空調機の温度制御や照明のスケジュール設定等を遠隔
で省エネ化する機能
自動制御連携機能
 CO2 制御、外気冷房など連携制御を行う
スマートメータ連携
 電力量情報だけでは無く、電気情報に基づいた運用・設
備診断が可能となるメータ連携に加え安価な通信接続
を利用
火災時停止制御停電制御
 火災時に予め登録された機器を停止し、出力抑制を行う
入退管理クラウド
 クラウド利用で来訪者が確認でき、安心・安全な入退室
管理
図表 基本機能
出所:東芝
2)付加機能
基本サービスに加え、需要家のニーズに合わせた付加サービスを提供する。使用電
力のピークカット・ピークシフト、DR 制御、省エネ制御で省電力を効率よく実現する。
提供機能・サービス
提供内容
ピークカット・ピークシフト
 需要予測に基づく蓄電・蓄熱制御で CO2 削減と省コス
トの最大化制御
DR 制御
 電力逼迫時の各種設備のエネルギー最小化制御
クラウドによる自動制御連携
 クラウド利用による各種設備の制御と遠隔監視で省エ
機能
快適省エネ制御
ネ・省コスト制御
 多機能画像センサー利用による人数情報で外気量最小
化、照明点灯最小化を可能とする人の手を煩わせない省
エネ自動制御
図表 付加機能
出所:東芝
36
2.3.1.3. サービスメニューと事業者のソリューションとの整合
ASC の需要家及び開発ディベロッパー アマタ社は高度なエネルギー利用を望んでおり、
高度インフラ支援機能でエネルギーを効率的に利用するための適切なサービスを提供する。
(1)滞在施設向けエネルギーモニタリング機能
ASC 需要家へ提供する見える化によりエネルギー使用の効率化を図り、各滞在施設の節
電や CO2 削減に貢献する。
機能・サービス
エネルギーの見える化
内容

家庭の電気の使用状況「見える化」

月間目標消費電力値の表示

蓄積電力量の目標値と利用可能量
対象者
滞在施設
居住者
の表示

エネルギー使用量の分布

瞬時消費と毎日の消費電力を時間
単位で表示

kWh、電力料金、CO2量の表示

エネルギー消費予測の表示

閾値予報、閾値超過の通知

異常値の検出と場所の特定
図表 滞在施設向けエネルギーモニタリング機能・サービス
出所:東芝
(2)滞在施設向け省エネ行動監視機能
エネルギーデータの長期間管理・保存、エネルギー消費コスト削減に向けた分析が可能
で、快適な環境を実現しながらエネルギー消費コストを削減する。
機能・サービス
特長
「見える化」
(省エネ意 ・毎日の電気の利用状態を把握するこ
識の高揚)
とでムダが分かるようになり、節電
対象者
滞在施設
居住者
の意識が高まる
ムダを見つけて簡単に
節電
・分岐回路毎や時間帯別に電力の使用
状況が分かるので、効率的な節電対
策ができるようになる
DR 支援機能
・スマートメーターとの機能連携を強
化し、DR プログラムをサポート
図表 滞在施設向け省エネ行動監視機能・サービス
出所:東芝
37
(3)ビル向けエネルギーモニタリング機能
ASC 入居企業へ提供する「見える化」によりエネルギー使用の効率化を図り、各ビルの
節電や CO2 削減に貢献する。
機能・サービス
エネルギーの見える化
内容
 エネルギー使用量の表示
対象者
ASC 入居企業
 デマンド監視機能
 トレンドグラフ
 エネルギーを階層ごとに表示、デー
タ化で分析・解析から 課題解決を
サポート
 閾値予報、閾値超過の通知
 負荷予測・運用スケジュールの計画
を表示
 遠隔監視システム機能
 システム運用機能・記録機能
図表 ビル向けエネルギーモニタリング機能・サービス
出所:東芝
38
(4)ビル向け省エネ行動監視機能
ASC 入居企業に省エネルギー支援機能を提供する。省エネルギー制御によりエネルギー
使用の効率化を図り、節電に貢献する。クラウドサービスは、BEMS の基本機能をベース
に、ICT を活用して高度なアプリケーションを利用することができる。クラウド利用によ
りビルの省エネルギー・省コストを実現する。DR 支援機能によりビルのエネルギー消費状
況を監視、各需要家の負荷調整可能量を推定し、節電量の融通を実現する。
機能・サービス
省エネルギー制御
特長
 画像センサにより人物検知し、空
対象者
ASC 入居企業
調・照明制御することで、無駄のな
い省エネ運転を実現する。
 空調設備全体を快適性を維持しなが
ら最も消費エネルギーが少なくなる
運用設定値(熱源送水温度、空調機
送風温度など)を計算して、最適に
制御する。
クラウドサービス
 クラウドサービスで BEMS 機能を
提供することで、エネルギー管理や
節電操作を実現する。
DR 支援機能
 スマートメーターとの機能連携を強
化し、DR プログラムをサポート
図表 ビル向け省エネ行動監視機能・サービス
出所:東芝
2.3.1.4. 事業出資者(=アマタ社)のサービス提供意向
ASC は、入居企業の具体的ニーズを継続的に吸い上げ、様々なスマートサービスを順次
提供していくことにより、更に高度産業集積型都市としての魅力を増していく。
しかし、通常、アマタ社のようなディベロッパーが中心となり、事業会社を設立し、運
営するパターンがほとんどであり、その収益の大部分が不動産賃料であるため、高度産業
集積型都市としての発展を考えると、入居企業の具体的ニーズをプロアクティブに吸い上
げ、最適な IT ソリューションを提供することにインセンティブが湧くビジネスモデルを考
案する必要がある。
したがって、スマートサービスからの収益のみで成り立つ事業構造となるよう、事業会
社の機能のうち、入居企業に対し、
“スマートサービスを提供する機能”を別会社化するこ
とを検討した。具体的には不動産投資事業を中心に展開する ASC ビジネスカンパニーと、
スマートサービスを統括する ASC スマートサービスカンパニーの分社化が可能性として検
討された。
39
2.3.1.5. 絞り込んだサービスメニュー・エネルギーモニタリング関連
ASC 内のすべて需要家向け高度インフラ支援機能として、エネルギーの効率的な利用を
推進して、エネルギーモニタリング機能や省エネ行動監視機能の適切なサービスを提供す
る。
(1)滞在施設向けエネルギーモニタリング機能
機能
エネルギーの見える化
サービス内容
対象者
• 家庭の電気の使用状況「見える化」 滞在施設・個人
する。
• 月間目標消費電力値を表示する。
• 蓄積消費電力量と目標値まで利用
可能を表示する。
• エネルギー使用量の分布
• 瞬時消費・毎日の消費電力の時間単
位で表示する。
• kWh、電気料金、CO2量を表示す
る。
• エネルギー消費予測を表示する。
• 閾値予報、閾値超過を知らせること
が可能。
• 異常値が検出される場合は箇所の
指摘。
(2)滞在施設向け省エネ行動監視機能
機能
サービス内容
消費電力の「見える化」  毎日、電気をどのくらい使っている
効果家族の省エネ意識
かが分かるようになると電気の使
が高まる
い方に気をつけるようになり、節電
意識が高まる。
ムダを見つけて簡単に
節電
 分岐回路ごとや時間帯に電気の使
用状況が分かるので、効率的な節電
対策ができるようになる。
DR 支援機能
 スマートメーターとの機能連携を
強化し、DR プログラムなどもサ
ポートしていく。
40
対象者
滞在施設・個人
(3)ビル向けエネルギーモニタリング機能
機能
エネルギーの見える化
サービス内容
• システム運用機能・記録機能。
対象者
ASC の全入居企業
• デマンド監視機能。
• トレンドグラフ。
• 閾値予報、閾値超過を知らせること
が可能。
• エネルギーを階層ごとに表示、デー
タ化で分析・解析から 課題解決を
容易にする機能。
• エネルギー使用量の内訳を表示す
る。
• 負荷予測・運用スケジュールの計画
を表示する。
• 遠隔監視システム機能。
(4)ビル向け省エネ行動監視機能
機能
省エネルギー制御
サービス内容
対象者
• 熱源と空調設備をエネルギーモデ
ASC の全入居企業
ル化し、快適性を維持しつつ全体エ
ネルギーを最小化。
• 画像センサにより人物検知し、空
調・照明制御することで、無駄のな
い省エネ運転を実現する。
• 空調設備全体を一つのシステムと
してエネルギーモデル化し、快適性
を維持しながら最も消費エネルギ
ーが少なくなる運用設定値(熱源送
水温度、空調機送風温度など)を計
算して、最適に制御する。
クラウドサービス
 既設 BEMS や BEMS 未導入の中・
小規模ビルでも、クラウドサービス
でエネルギー管理や節電操作を実
現する。
41
DR 支援機能
 スマートメーターとの機能連携を
強化し、DR プログラムなどもサポ
ートしていく。
 ビル群を束ねることで、地域のデマ
ンドレスポンス(DR)対応能力を
最大化。
・スマートシティサービス
サービスメニューとしては、(1)に記したスマートサービスを全て提供することを考えて
いる。また、入居企業は数年かけ、徐々に入居してくることを想定していること、各種ス
マートサービスは入居企業とその活用方法を具体的に検討した上で、アプリケーション部
分を開発する必要がある。そこで、2016 年度中はまず、主にインフラ系の機能(サービス
基盤)を整備し、それらを前提に具体的なアプリケーションについては入居が決まった企
業と検討を実施、開発、サービス提供していく。
(実装時期:
「初期」とは、2016 年度中、「CD」とは、“Customer Driven”で具体的に入
居企業と検討する機能)
事業
区
分
サービス
概要
特徴
実装 リス
時期 ク
負担
汎用性の高いワークフロ
統合ワークフロ
ー
管理
企業内の企画、研究開発、生
産等の活動を一元管理する
価
値
バル対応
CD SSC
パフォーマンス測定可能
による
付
加
ー開発、モバイル・グロー
分析機能のクラウド提供、
ビッグデータ
ASC 内の各企業の分析ニーズ 分析ロジック・アルゴリズ
分析サービス
に応じたサービスを提供する ム・シナリオの提供、共同
CD SSC
R&D 環境の提供
系
企業内研究、企業間研究、ASC
研究開発
SNS サービス
内実証実験に活用する統合
SNS サービスを提供する
(画像データ交換、Web 会議、
外部研究情報の検索 等)
42
豊富な研究支援マネジメ
ント機能、研究支援マネジ
メント機能、外部リソース
とのシームレス連携
CD SSC
製品や工場ラインの故障を事 異常発生を起点とした対
前に検知することにより、不 応から、個々顧客の使い方
予兆検知
具合の早期発見を実現し、工 を考慮したプロアクティ
CD SSC
場内の効率化や在庫率の低減 ブな対応により、CS 向上
を図る
も実現できる。
人や物の位置情報をリアルタ
イムに特定、様々なレコメン
LBS サービス
ド等、様々なサービスを提供
(アプリケーシ
する(防災やセキュリティに
ョン)
も活用)
リアルタイム
予測分析
CD SSC
工場の設備管理(用具含む)や
人員管理にも活用できる
デスクトップ環境、メールシ
OA 環境の提供
ステム、ファイルサーバ等、
OA 環境を ASC 内外からの提
供を可能にする
短期導入、低コスト、セキ
ュリティ確保、BCP 対策 CD SSC
(DR サイト)
高速・高セキュリティ回
ネットワーク
有線/無線、WAN/LAN
線、ASC 内どこでも利用で
きる環境
初
期
BC
サーバ、回線等のファシリテ 業務の効率化、ワークスタ
データセンター
ィだけでなく、スパコン等、 イル変革、セキュリティ確 初
特殊計算設備もニーズに応じ 保、管理作業からの解放、 期
SSC
BCP 対策
て導入する
電気利用状態の見える化、気
象情報・電気メーター等の蓄 電気利用の見える化及び
エネルギー
積データ分析によるエネルギ 予測
初
マネジメント
ーマネジメントを実施し、効 BEMS、HEMS への連動に 期
BC
果的効率的なエネルギーの利 よる電力制御による節電
用を促進する
各種センサーで収集した気象 災害時:災害発生状況、予
情報により、道路・河川管理 測を迅速に利用者へ提供
防災
を徹底することにより、利用 平常時:都市コミュニティ
者への適切な情報提供、減災 における情報連携インフ
を実現する。
ラとして活用できる
43
初
期
BC
道路におけるインフラ系の工
道路管理
事(水道、ガス、電気等)の の最小化による都市イン
統合的な管理を実現する
信号機、カメラ及び各種セン
交通管制
各ユーティリティの工事
サーの情報を統合的に管理す
ることにより、最適な交通管
制を実現する
フラ維持費の削減
道路に設置された様々な
機器からの情報を統合的
に分析
初
期
初
期
BC
BC
遠隔でも高度な医療サー
病院・専門医のネットワーク
遠隔医療
を活用し、ASC 内での高度遠
隔医療を提供する
ビスを提供
急性期の的確な対応が実
初
現
期
BC
医療コストの削減(ASC 内
に専門医が必要なし)
都市サービスや行政等への市 Twitter の可視化、分析に
SNS for
民の声を SNS を通じて収
よるレポーティング
communication 集・分析する→ 各種サービ その他の情報との統合的
初
期
BC
スの改善、高度化につなげる 分析
人や物の位置情報をリアルタ
イムに特定し、より迅速に
LBS
(ハードウエア)
様々なサービスを提供する
(防災やセキュリティにも活
用できる)
工場の設備管理(用具含む)や
人員管理
44
リアルタイム
初
予測分析
期
BC
2.3.2. ハード・システム設計
2.3.2.1. サービス提供に必要なアプリケーション
スマートシティで提供するサービスメニューについては、前述においてまとめた。ここ
では、各サービスにおける仕様について、必要となる機能及びハードウェアについて説明
する。
スマートシティの付加価値系設備の機能仕様は、以下の機能を有する。
45
<付加価値系>
項目
1 統合ワークフ
ロー管理
仕様
<機能>
・ 企業の活動のワークフローを構築できる AP 基盤のインフラ
の提供
2 LBS(アプリケ
ーション系)
<機能>
・ 初期は、基本的な機能として、都市内で移動する Wi-Fi 端末
を追跡するデモンストレーションアプリを提供
・ 企業のニーズをくみ取ったアプリケーションについては、カ
スタマードリブンのため、対象外
3 予兆検知
<機能>
 工場等の機器から機器情報を収集するための収集基盤
 上記で集めた機器情報を分析し、機器などの故障や製品の不
具合を予兆検知するための分析エンジンの提供
4 ビッグデータ
分析サービス
<機能>
・ ビッグデータ分析に必要となるコンサルティングサービス、
分析アウトソーシングサービス、環境提供サービスを提供。
・ 分析するために必要なデータベース、BI ツール、分析ツー
ルをまとめた環境を提供する。
5 研究開発 SNS
サービス
<機能>
 企業研究者同士でコミュニケーションが可能な SNS 基盤を
提供する。
<ハードウェア>
 SNS コミュニケーション管理サーバ
6 OA 環境の提
供
<機能>
・ 誘致企業に対して、OA 環境を提供する。
・ 初期は、ASC 専用で環境を用意せずに、サービス利用型で
利用。(初期 500 人分まで)
・ ASC の規模が大きくなった場合に、ASC 専用の環境を用意
する。(2,500 人相当)
46
スマートシティのインフラ設備の機能仕様は、以下の機能を有する。
<インフラ系>
項目
1 ネットワーク
仕様
<機能>
・ 企業ビル内の有線ネットワークの敷設、および無線 LAN 環
境を提供する。同ネットワーク利用により、インターネット
への接続が可能。誘致企業の社内ネットワーク(VPN 等)
は対象外。
・ 商業ビル、居住区ビル、街中の外で公衆無線 LAN サービス
を利用できること。同ネットワーク利用により、インターネ
ットへの接続可能。
<想定利用者>
・ 企業ビル内のネットワーク利用の想定利用者は、ビルに居住
する 1 棟あたり 300 人の利用を想定。
・ 商業ビル、居住区ビル、街中の外にある公衆無線 LAN サー
ビスは住民 2,500~4,800 人の利用を想定。
<必要ハードウェア>
 有線ネットワークのケーブル等、ルーター等
 無線 LAN ネットワークの AP ポイント、ルーター等
 インターネットの接続回線
47
項目
2 データセンタ
仕様
<機能>
・ 誘致企業のみが利用可能なデータセンター
・ ビル内設置するデーセンター(専用の建物は建てない)。ビ
ル内のフロアの一画をデータセンター仕様として換装。
<ハードウェア>
・ フロア面積は、500 平方 m。
・ データセンターは、以下の区画で区切られている。
(1) 共通区画:
ASC で提供するサービスを運用するシステムを設置する。
30 ラック分。電力は 8kva/ラック
(2) 企業占有区画:
R&D 誘致企業が利用できるスペース。ケージ・コロケーシ
ョン(区画をゲージで囲んでセキュリティを向上したスペ
ース)
1区画で 3 ラック分(30 平方m)供給電力は 8kva×3 ラッ
ク分
・全部で 10 区画(10 社利用想定)
・入退室は IC カード+指紋認証。
(3) 企業占有用作業区画:
誘致企業が一時的に作業できる部屋。
・1 部屋 20 平方 m(机 4 つ分スペース)
・全部で 3 部屋
(4) その他:
電源設備、共有通路等、
・IT アウトソーシングセンター、セキュリティゲート、
・ 耐震工事、荷重工事等を実施済み
・ ネットワークは、インターネットへの接続を標準提供。セン
ター利用者の共有で利用(100Mbps 程度)
48
項目
3 エネルギーマネ
ジメント
仕様
<機能>
・ 各ビルのエネルギー使用量の見える化機能を提供
・ 計測対象は建物、工場が対象とし、フロアごとの各電力系統
(照明、空調、等)の使用量を、配電盤もしくはそれに準ず
る箇所で、電力計測センサ(パルス、CT)で計測。
・ 上記の計測センサーからデータを取り込むための情報収集
基盤を提供
・ サンプリングは、5 分毎の計測したデータとする。
・ 最低 10 年分のデータを閲覧できること。
・ 見える化については、PC 及びスマホによる閲覧を可能とす
る見える化基盤を提供
・ 閲覧できる項目は、各フロア、各系統における電気使用量の
み(外部の気象状況、室内の温湿度、照明度、二酸化炭素量
は対象外)
・ 年、月、日、時のそれぞれで閲覧が可能とする。
<ハードウェア>
 情報収集基盤
 見える化基盤
 各種計測センサー、等
4 防災
<機能>
・ ASC の居住者に対して、周辺の気象状況を加味した防災情
報提供サービス
・ 防災情報は、町中に設置されたディスプレイ広告で確認でき
る。通常時は、町の案内、天気予報情報、広告の配信で利用
される。
・ 防災情報の情報源は国の機関が発信している情報とする。
49
項目
5 道路管理
仕様
<機能>
・ ASC(約 3 平方 km)における道路管理台帳システムの構築
・ 管理対象は、上水道、下水道、ガス、電気、通信を想定。
・ ベースマップ(地図、衛星画像等)、管理対象の地図は、マ
タ社が用意を想定
・ 管理対象のデータ保持期間は、10 年以上を想定。
・ 想定利用は、都市管理者(BC 会社社員を想定)数名による
道路管理業務とコントロールセンタにおけるデモ用の見学
利用
・ 都市管理者は、上記の管理対象の検索、閲覧や、対象物のデ
ータ更新を実施できること。
6 交通管制
<機能>
 交差点等に設置したカメラ映像により交通状態を把握する
機能を提供する。
<ハードウェア>
 カメラ、映像収集用サーバ、監視用コンソール
7 遠隔医療
<機能>
・ 居住区に住む住人が全員受けられるサービス。想定利用者数
は 4,500 人。
・ 連携する医療機関は、5 病院を想定(日本の病院。タイナコ
ーン周辺もしくはバンコク市内の 2-4 つ。)
<ハードウェア>
・ ゲートウェイサーバ、スマートフォン等
50
項目
8 SNS for
仕様
<機能>
Communication ・
都市サービスや行政などへの市民の声を SNS を通して分
析・提示することにより、都市サービスの情報共有やサー
ビスの改善高度化につなげるサービスを提供
・
Twitter 情報のどういった観点で閲覧したいか、どの範囲
で見たいか等のカスタマイズは、カスタマードリブンのた
め、対象外。
<ハードウェア>
・
コミュニケーション(Twitter 等)可視化、レポーティン
グサーバ

統合データベース
9 LBS(ハードウェ <機能>
ア)
・ ビル内、ASC 街中の、Wi-Fi 端末を保有している人物の位置
の把握
・ 検出する Wi-Fi の台数は、居住者 4,500 人数の 3 倍(スマホ、
ノート PC+α)を想定。
・ 検出した位置情報は、10 年分を保存。
・ 設置する AP ポイントは、ネットワーク事業者が施設時に構
築したネットワーク設備(無線 LAN 環境)を利用すること
を想定
<ハードウェア>
・ アクセスポイント
・ ネットワーク機器(ルータ等)
・ ネットワークケーブル
・ 位置計測サーバ
・ 位置受信サーバ
・ 位置分析/取得サーバ(CEP)
・ 位置蓄積データベース
・ PUSH 通知サーバ
以下にシステム提供図のイメージを示す。
51
ASC内ビルの1フロア一画
一時作業ルーム
誘致企業用2部屋
ITアウトソーシング
センター
受付
ケージ・コロケーション
誘致企業10社
ASC内共通サーバ利用
図表 データセンター設備の提供イメージ
出所:NTT データ
<LBS>
ビル内のWi-Fi端末を持つ人の
動線を把握
ビル
居住
フロ
ア
Wi-Fi
AP
Wi-Fi
AP
Wi-Fi
AP
Wi-Fi
AP
Wi-Fi
AP
Wi-Fi
AP
Wi-Fi
AP
Wi-Fi
AP
Wi-Fi
AP
Wi-Fi
AP
Wi-Fi
AP
Wi-Fi
Wi-Fi
AP
AP
<ネットワーク>
ビル内に、Wi-Fiアクセスポイントと、
有線ネットワークを施設。
共にインターネット接続もしくは各企業
とのVPN接続(オプション)を実施。
居住
フロ
ア
受付フロア
Wi-Fi
AP
Wi-Fi
AP
対象となるビル(想定)
7階建イノベビル
7階建アカデミックビル
5階建て広場・公衆施設ビル
10階建マンション
15階建アパート
8棟
8棟
7棟
9棟
4棟
エグゼクティブハウス
1棟
PUSH通知サーバ
AP
AP
居住
フロ
ア
センター側
100Mbps程度
<ネットワーク>
ASC街内に、公衆Wi-Fiア
クセスポイントを道路に
沿って設置。
インターネット接続可能。
Wi-Fi
Wi-Fi
ビル
居住
フロ
ア
インターネット
Wi-Fi
AP
位置計測サーバ
Wi-Fiの
位置情報のみ
Wi-Fi
AP
位置受信サーバ
位置分析/取得
サーバ(CEP)
• 街中Wi-Fi AP想定数
3,600個
※町全体の広さ3平方Km
50m間隔で設置した場合
• 想定Wi-Fi 端末
14,000個
※居住区人数×3倍(ノート、スマホ、α)
ASC内NW
位置蓄積
データベース
5分ごとの計測結果を、
10年分を保存
直近の24時間はすぐに参照可能
図表 ネットワーク、LBS(ハードウェア)設備の提供イメージ
出所:NTT データ
52
対象ビル
<エネルギーマネージメント>
イノベビル内の配電盤に、各電力系
統ごとの電力計測機器を設置。
各誘致企業が使用した電力量を系統
別に見える化
センター設備
居住
フロ
ア
空調
照明
ASC内NW
インターネット
フロアコンセント
居住
フロ
ア
空調
PC
照明
見
え
る
化
サ
ー
バ
フロアコンセント
居住
フロ
ア
空調
居住
フロ
ア
空調
収
集
サ
ー
バ
照明
フロアコンセント
照明
フロアコンセント
配電設備
配
電
盤
電力計測
センサー
スマートフォン
収集基盤
DB
ビル設備(電力系統、配電盤は対象外)
対象となるビル(想定)
7階建イノベビル
7階建アカデミックビル
5階建て広場・公衆施設ビル
10階建マンション
15階建アパート
8棟
8棟
7棟
9棟
4棟
エグゼクティブハウス
1棟
想定利用者は4500人
図表 エネルギーマネジメント設備の提供イメージ
出所:NTT データ
 お客様データを格納する
ファイル共有サービスを提供
お客様
お客様システム
 お客様環境から接続可能なデータ蓄
積/分析基盤を提供
 BIツールによりダッシュボードの閲覧
が可能
クラウド環境
CSV
分析環境
分析環境提供サービス
ベースアプリ
データ蓄積
NTTデータ
分析
分析
分析
レポート
レポート
システム基盤
レポート
分析環境
データソース基盤
ファイル共有
 コンサルティングまたは活用業務支援サービスをご利用の
場合、NTTデータにてレポート抽出等を実施
図表 ビッグデータ分析環境提供サービス設備の提供イメージ
出所:NTT データ
53
図表
OA 環境提供サービス設備の提供イメージ
出所:NTT データ
トライアル
本格運用
図表 遠隔医療提供サービス設備の提供イメージ
出所:NTT データ
54
2.3.2.2. VSPP(Very Small Power Producer)事業推進に必要なエネルギー供給システム
の要件
(1)ASC 内エネルギー供給
1)エネルギー供給
ASC 内エネルギー供給は、配電公社(PEA)から受電する方法と、民間の発電事業
者から受電する方法がある。民間の発電事業者は天然ガスによるコジェネレーション
を使用する。コジェネ発電所は電力と熱を供給することができ、電力は配電会社(PEA)
へ VSPP 制度を利用して売電を行うか、もしくは個別契約を行った需要家に自営線経
由で電力を供給する。熱は蒸気による温熱と吸収式冷凍機を介した冷熱を需要家に供
給する。
図表 ASC 内のエネルギー供給イメージ
出所:東芝
55
2)エネルギー管理システムによりエネルギー制御
25 年度の調査によると、入居希望者及びディベロッパーであるアマタ社は高品質電
源の供給を求めていることが明らかとなった。安定した電力と熱の供給とコジェネ発
電機の運転効率を改善するためにエネルギー管理システムを導入する。
図表 エネルギー管理システム構成
出所:東芝
(2)エネルギー供給事業に必要な要素
ASC 内でガスコジェネによるエネルギー供給事業を実施するにあたり、必要とされるイ
ンフラサービス企業【電力発電・配電・販売】
【温熱/冷熱製造販売】
【ガス供給】
【水供給】
の検討を実施した。尚、インフラサービス企業は、隣接工業団地である Amata Nakorn 工
業団地で実績のある企業と連携する。
1)
【電力発電・配電・販売】
電力の発電、配電、販売については、アマタ社の関連企業である、Amata B.Grimm
Power 社を選定する。本企業は Amata Nakorn 工業団地にて、SPP 制度を利用して
Amata Nakorn 工業団地内に電力を供給しており、発電事業者として最有力である。
2)
【温熱/冷熱製造・販売】
温熱/冷熱の製造、販売については、電力製造と同様の Amata B.Grimm Power 社
を選定する。同社は熱の販売を Amata Nakorn 工業団地でも実施しており、熱販売事
業者としては最有力である。
3)
【ガス供給】
ガスコジェネの燃料である天然ガスの供給は、Amata Natural Gas Distribution 社
を選定する。同社は国営のガス会社であるタイ石油公社:PTT からのガス供給を受け
56
て、Amata Nakorn 工業団地の需要家及び SPP 発電所へ天然ガスの供給を実施してお
り、天然ガス供給事業社としては最有力である。
4)
【水供給】
ガス供給と同様に発電事業で必要な工業用水の供給は、Amata Water 社を選定する。
同社は、Amata Nakorn 工業団地内の水の供給と廃水の水処理サービスを実施してお
り、工業用水供給事業者としては最有力である。
2.3.2.3. エネルギー供給システムとエネルギーマネジメントサービスアプリケーションと
のインターフェースの設計
エネルギー管理システムは、コジェネレーションシステムのデータ、需要家のデータを
管理しており、スマートサービスプラットホームへデータを提供する。いっぽう、スマー
トサービスプラットホームは気象データ及び気温データ、電力需要履歴データなどを管理
しており、エネルギー管理システムはそのデータを取得する。尚、エネルギー管理システ
ムの構築は将来的に実装が検討されている機能であるため、現段階では全体のイメージと
して纏めておく。
図表 エネルギー管理システムとエネルギーマネジメントとのインターフェース
出所:東芝
2.3.3. 想定需要量算出
(1)ASC 開発予定地の電力需要予測の考え方
ASC 開発エリアの土地開発区分及び開発面積はアマタ社より開示されたが、電力需要は
アーバンプランで作成中であるため、電力需要量を簡易的に下記のように想定した。
57
エリア
 R&D・生産エリア
 商業エリア
単位
面積
373.25
備考
ライ 1 ライ=1,600m2
電力需要想定
16.8
電力需要想定
2.2
MW 25 年度 FS より算出
19
MW
合計
MW 0.045 MW/1ライ
図表 ASC 内の電力需要予測の考え方
出所:東芝
(2)スマートシティサービス需要の考え方
スマートシティサービスを提供するにあたって、ASC をベースに以下のように想定需要量
を算出した。想定需要量の算出方法としては以下のように算出している。
・ スマートシティ建設予定の土地に建築される建物をベースに、その建物に従事する従
業員人数や居住人数を算出。
・ 従業員数は、スマートシティ以外の周辺都市から通勤する従業員もいることを想定。
・ 居住人数は、建築予定の居住建物(マンション・アパート)に住むと想定される家族
構成を想定して算出。
想定需要量の算出根拠の内訳は以下の通りである。
58
ゾーン 建物
R&D
企業数、従業員数/居住人数
■R&D/工場併設建物
・R&D 施設利用企業数は、8 社程度
ゾーン ・ 50,000 平方 m
・工場利用企業数は、27 社程度
・総従業員数は、2,500 人
イノベ ■7 階建てイノベーションビル
合計 2,400 人
ーショ ・ 建築数:全部で 8 棟
ンゾー ・ 1 部屋面積:50 平方 m
ン
※1 棟あたり 300 人を想定
・ フロア面積:1,429 平方 m
・ 部屋数:20 部屋/階、1 棟で 140 部屋
アカデ ■7 階建てイノベーションビル
合計 2,400 人
ミック ・ 建築数:全部で 8 棟
ゾーン ・ 1 部屋面積:50 平方m
※1 棟あたり 300 人を想定
・ フロア面積:1,429 平方m
・ 部屋数:20 部屋/階、1 棟で 140 部屋
スマー 全体
4,500 人~
トライ ■エグゼクティブハウス
数名
フゾー ・ 全部で 1 棟
ン
・ 1 戸:200 平方 m
■10 階建てマンション
3,600 人
・ 全部で 9 棟
・ 1 戸:60 平方m
※1 戸 2 人が住む想定
・ 1 棟:20 戸/階
全住居人数:
2 人*20 戸*10 階*9 棟=3,600 人
■15 階建てアパート
1,500 人
・ 全部で 4 棟
・ 1 戸:40 平方m
※1戸1人が住む想定
・ 1 棟:25 戸/階
全住居人数:
1 人*25 戸*15 階*4 棟=1,500 人
59
ゾーン 建物
企業数、従業員数/居住人数
■5F 建て広場・公衆施設
4,500 人~
・ 商業・公衆施設
買い物、娯楽等ができる商業施設を想
※ASC 居住区民及び近隣の地域の住
定
民等の利用を想定
・ 建築数:全部で 7 棟
・ 1フロア面積:11,250 平方 m
・ 1施設面積:150 平方 m
・ 施設数:30 施設/階、1 施設ビル全体
で 150 施設
2.4. マーケティングの検討
2.4.1. 本提案資料作成支援
2.4.1.1. ASC のコンセプトとビジョン
2011 年に JRI によるアマタ社に対する ASC 戦略策定の支援の下、ASC のビジョンが策
定された。タイが中進国の罠へ陥る可能性に危機意識を感じたアマタ社を中心にタイの産
業構造の転換を先導する PJ として ASC を立ち上げることとなった。そのため、ASC は従
来の生産拠点から企業の R&D 拠点の受け皿として、かつ R&D 活動を行う高度人材を惹き
つけるためにスマート技術を導入した高付加価値都市となることを目指すエリアである。
具体的には、R&D 活動を支援するための「イノベーションに資するコネクティビティを生
み出し」
、「スマートコミュニティの実現をサポートする」ことをコンセプトとし、そのコ
ンセプトの実現に向けて開発計画及びインフラ整備計画の検討を行った。
2.4.1.2. ASC の利用イメージ
マーケティングの際に、マクロ及びタイ現地の状況を踏まえた上で、よりリアリティの
あるニーズを拾い上げるため、具体的な活動イメージをマーケティング資料の中で提示し
た。その際、以下のような利用イメージを想定した。
【R&D ゾーンの利用イメージ】
R&D ゾーンでは、自社の R&D 施設とレンタル工場が立地し、開発活動や評価を行うエ
ンジニアを中心として、現地での開発、設計、評価、生産のプロセスのうちの一部又は全
部の活動や、調達計画や財務、情報システムの管理等の事業活動が行われる。これらの事
業活動のために設置される設備には、オフィスや試験設備(風洞、走行、材料、性能、耐
久性)
、生産設備(CAD 等)が想定されている。
【イノベーションゾーンの利用イメージ】
60
イノベーションゾーンでは、サテライトオフィスやベンチャー支援施設、共同実験棟、
付帯施設(銀行、コンビニ、飲食店等)などが立地し、企業の企画担当者や実験棟のオペ
レーター、ベンチャー企業を中心として、現地での市場調査や製品企画、人材交流、共同
実験等が行われる。これらの事業活動のために設置される設備には、試験設備(計測、検
査、分析設備)
、設計設備(CAD 等)
、オフィス設備(TV 会議システム等)
、情報プラット
フォーム、開発アプリ、高速通信網等が想定されている。
【アカデミックゾーンの利用イメージ】
アカデミックゾーンでは、技術トレーニング施設、研修・講義施設、コンベンションセ
ンター等が立地し、教育機関の講師や研究機関の研究者等を中心として、技術研修等の企
業の人材育成や大学講義及び研究成果の共有等の活動がオープンに行われる。これらの事
業活動のために設置される設備には、研修設備(模擬設備、CAD 等)
、TV 会議システム、
コンベンションホール等が想定されている。
【スマートライフゾーンの利用イメージ】
スマートライフゾーンでは、現地での開発生産を行う人材や外部からの技術者が交流・
滞在する拠点として、公園、飲食施設、スポーツ施設、ホテル、長期滞在型マンション、
ショッピングモール等が作られ、単身および世帯を持つ就労者や外部からの往訪者等を中
心として、飲食、スポーツ、レクリエーション(映画)
、宿泊、ショッピング、生活サービ
ス利用(医療等)が行われる。
2.5. 事業の検討
2.5.1. ファイナンシャルモデルの検討
2.5.1.1. 先進事例の分析(柏の葉スマートシティ)

柏の葉スマートシティ概要
柏の葉スマートシティは日本国内で最も先進的なスマートシティプロジェクトである。東
京都心から約 30km、新東京国際空港から約 30km、筑波研究学園都市から約 30km と、主
要拠点の中心に位置し、2000 年以降、第 1 フェーズとして先行モデルエリアを、第 2 フェ
ーズとして重点エリアと、段階的に開発が行われている。2006 年より立ち上がった第 1 フ
ェーズの先行モデルエリアは、環境共生・健康長寿・新産業創造という 3 つのコンセプト
の下、広さ約 14.2ha に商業施設や住宅、複合施設開発が行われた。第 2 フェーズでは 2016
年より広さ約 272.9ha に次世代ライフサイエンスの産業創造拠点の開発などが計画されて
おり、柏の葉スマートシティの根本的なコンセプトである「イノベーションキャンパス構
想」の実現に向けた街づくりが進められている。
※イノベーションキャンパス構想:千葉県、柏市、東京大学、千葉大学が共同で策定し
た「柏の葉国際キャンパスタウン構想」において、駅前街区周辺ゾーンに住宅一体型の研
61
究開発複合拠点の形成を図るエリアとして策定されたもの。
第 1 フェーズ、第 2 フェーズそれぞれの開発概要は以下の通りである。
柏の葉スマートシティ全体位置図
対象地
柏北部中央地区一体型土地区画整理事業エリア
事業主体 千葉県(土地区画整理事業)
面積
約 272.9ha
計画人口 約 26,000 人
期間
計画地
用途
2000 年 8 月~2023 年 3 月
住宅、ホテル、商業施設、オフィス、工場、研究機関、学
校、病院、銀行、公園、等
※ 人口規模:居住人口 約 26,000 人、就業人口 約 15,000 人
図表 柏の葉スマートシティエリアの概要(全体)
出所:三井不動産ニュースリリース
 先行モデルエリアの概要
先行モデルエリア
対象地
柏の葉キャンパス 147街区、148街区、150街区、151街
区
事業主体
三井不動産グループ(三井不動産株式会社/三井不動
産レジデンシャル株式会社)
面積
住宅数
④
③
①
約14.2ha
約2,700戸 (2014年6月時点 約2,000戸 竣工済み)
開発期間
2005年10月~2018年3月予定 (148街区第2期開発まで
の計画確定済分まで)
事業費
約1,250億円 (148街区第2期開発までの計画確定済分)
計画地
用途
住宅(約2,700戸)、ホテル(客室数:166室)、商業施設
(年間来場者見込:約700万人)、オフィス(従業員見込:
約1,000人)、等
②
※人口規模:居住人口 約5,000人、就業人口 約1,000人
図表 先行モデルエリアの概要
出所:三井不動産ニュースリリース

柏の葉スマートシティの開発プロセス
柏のスマートシティの基本的な開発方針を理解するため、以下にこれまで実施された投
資実績を整理する。
つくばエクスプレスの駅である柏の葉キャンパス駅を中心に開発が行われたのが、第 1
62
フェーズの先行モデルエリアである。先行モデルエリアでは、まず 2006 年に駅前の商業施
設(ららぽーと)がオープンし、高速道路の開通も相まって、柏市及びその周辺から車や
電車を利用して訪れる人でにぎわうエリアとなった。商業施設が集客装置としての役割を
担うようになった後、2009 年には駅を挟み商業施設と反対側のエリアに、2012 年には駅か
ら少し離れたエリアにて住宅が次々にオープンされた。2014 年には、複合施設(ゲートス
クエア)開発により商業施設やオフィス、ホテル、賃貸施設などが完成し、外部から高度
人材が集まる仕組みが作られることとなり、従来の住宅エリアからの転換を促す起爆剤と
なっている。これにより、一層街の価値は向上することが想定され、2018 年には更なる 700
戸の住宅開発が予定されている。
こうした先行モデルエリアを核として、周辺エリアの価値が高まりつつある中、現在、
第 2 フェーズの開発が開始されている。第 2 フェーズでは、まず産学住の連携を目指した
エリアを重点エリアとしており、2016 年には複合商業施設が完成、2018 年頃には産業創造
拠点開発が行われる予定である。具体的には、柏の葉スマートコミュニティの近郊に立地
する東京大学・千葉大学・国立がん研究センターなどの日本有数の学術研究機関と協働し、
産学連携および医工連携によって、次世代の産業創造拠点開発が推進される他、バイオベ
ンチャー・製薬企業・医療機器メーカー・電機メーカーなど多様な事業者をエリア誘致す
る予定である。加えて、学術研究機関が有する臨床データベースやゲノム解析を活用した
オーダーメイド医療の研究開発、住民との連携による ICT ヘルスケア事業の商品開発や実
証実験も推進される予定である。
以上の開発実績より、以下の 3 つの開発基本方針が設定されていることが想定される。
・集客力を持つ商業施設(ららぽーと)を建設することにより街のにぎわいが生まれ、
住宅開発の投資に向けたキャッシュと住宅需要の創出に繋げている。
・住宅街に対して複数の都市機能を整備することにより、街の価値を向上させ、次に開
発する住宅エリアの価値を高めている。
・重点エリアでは先行モデルエリアを核として、産学住の連携を目指している。
63
先
(
第行
一モ
スデ
テル
ーエ
ジリ
)ア
2006
商業施設
開発
2009
2012
一番街
• 5棟、977戸
2018
複合施設
開発
住宅開発
• ららぽーと
2014
住宅開発
二番街
ゲートスクエア
148街区
• 6棟、880戸 • 商業施設/オフィス • 700戸
/ホテル/賃貸施設
2016
(
第
二重
ス点
テエ
ーリ
ア
ジ
)
複合商業
施設開発
• 書店/カフェ/
ショップ
産業創造
拠点開発
• バイオ、製薬、医療
機器、電機産業 等
• ICTヘルスケアの商
品開発屋実証実験
(出典:三井不動産ニュースリリース)
図表 柏の葉スマートコミュニティの投資プロセス
出所:日本総研
2.5.1.2. ターゲットとするファイナンシャルモデルの考え方
日本の先進事例を参照した上で、ASC の開発方針とその方針に基づくファイナンシャル
モデルの検討を行った。ファイナンシャルモデルの検討では、まず各ゾーンにおける事業
内容を定義した上で、ゾーン毎の収支と 4 つのゾーンを足し合わせた全体の収支の算出を
行った。タイ日企業での共同投資を想定したスマートコミュニティの投資モデル構築を目
指し、ステークホルダー間でターゲットとなる全体収支の PIRR を設定し、全体収支を検
討した。前提条件は、アマタ社がタイや ASC 周辺エリアの市場実勢をもとに設定した。
各ゾーンの事業内容の詳細は 2.5.2 で後述する。ゾーンの具体的な施設イメージは 2.2.1
で示した通りである。この ASC を構成する 4 つのゾーンが異なる収益モデル及びリスク特
徴を持つことから、柏の葉スマートコミュニティの開発方針も参考にしながら、収支構造
における各ゾーンの基本的な位置付けを以下の通りとした。

R&D ゾーンの土地販売で生まれるキャッシュをスマートライフゾーンの投資に充てる

スマートライフゾーンへの投資により、定常的なキャッシュを生み出すエリアを開発
することのみならず、街のブランド価値創出に貢献する。

街のブランド価値の向上を利用し、段階的に実施するエリアの販売価格を上昇させる。

本事業では、ASC の付加価値を高める投資を行うため、賃料等は、現状の実勢水準に
プレミアム分を上乗せし、投資に見合う水準を確保する。
投資モデルにおける各ゾーンの位置づけを踏まえ、全体キャッシュフローを算定するな
かで、各投資フェーズにおける投資リスクを軽減できるキャッシュフローのあり方を検討
64
し、投資スケジュールやエリア規模の設定を精緻化した。また、ファイナンシャルモデル
の検討結果を考慮し、土地利用コンセプトについても必要な見直しを行った。
各ステークホルダーにおける本事業の位置づけを念頭に、投資リスクと収益性のバラン
スを検討し、基本ケースを設定した。設定条件に対する PIRR やキャッシュフローの感度
を検討し、ASC への投資に伴うリスクの規模感や想定しうる収益レベルを把握した。
Cash Flow - Each Zones
(mmTHB)
(mmTHB)
1,500
9,000
1,000
6,000
500
3,000
0
0
-500
-3,000
-1,000
-6,000
2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 2026 2027 2028 2029 2030
All Net CF
R&D Zone
Innovation Zone
Academic Zone
SmartLife Zone
図表 基本ケースのキャッシュフロー
出所:日本総研
2.5.1.3. 各事業の前提条件
既述の投資方針に基づき、まず投資リスクが最も低いケースのファイナンシャルモデル
を作成した。投資リスクの最も低いケースとは、R&D ゾーンの土地を全て販売した場合で
あり、その際の前提条件となる各ゾーンの土地比率は次の通りとなった。全体面積約 150ha
のうち、各ゾーンの土地比率は、R&D ゾーンが約 85%、イノベーションゾーンとアカデミ
ックゾーンが合わせて約 5%、スマートライフゾーンが約 10%とした。R&D ゾーンのうち
販売とレンタル工場の比率は 9:1 とした。また、スマートライフゾーンの中で住宅、商業施
設、複合施設の土地面積の比率は 5:2:3 とした。土地面積比率以外の前提条件として次が挙
げられる。全体の土地面積のうち開発可能な土地を現地の慣習に合わせ、75~80%で設定
し、またスマートライフゾーンは他のゾーンへの投資に必要なキャッシュの生成と街の価
値向上を担うため、段階的な開発を想定したことである。
今後は、投資リスクが最も低いケースを起点とし、想定事業者のリスク許容度に応じて
前提条件を変動させながらシミュレーションを行い、想定事業主体の参画可能なファイナ
ンシャルモデルの策定に向けてシミュレーションの精緻化を行う。
65
2.5.1.4. 単価設定に必要な参照データ
ファイナンシャルモデル作成における単価設定では、アマタ社がコスト及び収入単価の
参照データを収集した。例えば不動産建設コスト、住宅やオフィスの m2 単価等は、バンコ
クのデータを上限値とし ASC 周辺に存在する日本人街(シラチャ郡)のデータを参照デー
タとして単価の変動幅を設定した。アマタ社の提示するデータから想定されるイメージと
実態とをすり合わせるため、想定事業者は、アマタ社が参照先とした現場を視察し、前提
条件を議論する上で必要な現地の相場感の把握を行った。
2.5.2. 事業構造の策定
2.5.2.1. 事業構造に関連する優遇制度
2.1.2.4 で既述の通り、サイエンスパーク開発事業者が恩典を受けるには以下の 4 つの要
件を満たす必要がある。要件を充足する方法の検討に、日本を含む海外からの知見を収集
し活用している。例えば、インキュベーションセンターの設置には、ベンチャー企業やイ
ンキュベーターの活動支援で先進的な枠組みを設けている欧米の先進プログラム等を参考
にし、海外パートナーの巻き込みも行っている。他にも、電気通信システムや電源装置に
関する要件に対しては、日本の高度 IT 技術及びエネルギー管理技術に基づくスマートサー
ビスを活用して満たすことを想定している。
【恩典の要件】

インキュベーションセンターの保有

国内外のやり取りに必要な近代的な電気通信システムの保有

無停電電源装置の保有

委員会より承認済みの施設の保有
2.5.2.2. 事業会社、提供体制で必要な機能の定義
ASC の事業は、主に不動産開発事業、スマートサービス事業、エネルギー供給事業によ
り構成される。タイ政府が提示するインセンティブの活用、各ステークホルダーの参画条
件や事業リスクを念頭に、すべての事業をひとつの事業体において提供するケース及び複
数の事業主体において提供するケース等、複数の事業構造を検討した。今後の事業化フェ
ーズで主たる出資者となるステークホルダーの意向を踏まえ、ベースとする事業構造を設
定した。
各事業の具体的な内容は、以下の通り。

不動産開発事業 :ASC における用地、レンタル工場設備、オフィスビルや戸建て
住宅、商業施設等について、不動産販売・賃貸を行う。道路整備や植栽管理、高度
通信基盤等、基盤となるインフラ提供も含む。

スマートサービス事業
:情報プラットフォームを活用したイノベーション支援や
スマートライフ支援、高度インフラ支援といった、ASC での付加価値を提供するス
66
マートサービス事業を行う。

エネルギー供給事業 :エネルギー供給、及び設備・機器の O&M を行う。
これらの機能を担う組織形態によって 3 つの事業構造案を検討している。
【オプション 1】
ASC 運営会社が、不動産開発事業としてレンタル工場や、オフィスビル、居住施設、商
業施設の賃貸業、産業用地の借地権販売を行う。加えて、基盤インフラ事業として、別途
設立された ASC・スマートサービス会社が、高度情報通信環境の整備及び保有する情報プ
ラットフォームを用いたスマートサービスを提供する。その他、ASC・スマートサービス
会社は、エネルギー供給設備を有してエネルギー供給を行うだけでなく、付帯サービスと
してエネルギーマネジメントサービスを一つのスマートサービスとして提供する。
【オプション 2】
ASC 運営会社が、不動産開発事業における賃貸・リース業を展開する事に加えて、運営
会社内部にスマートサービス部を設け、そこで情報プラットフォームとエネルギー供給施
設を保有し管理することで、顧客に向けて高度情報通信及を含めたスマートサービスとエ
ネルギー供給を直接的に提供する。
【オプション 3】
ASC 運営会社が不動産開発事業に加えて、保有するエネルギー供給設備を用いてエネル
ギー供給を行う。この際、エネルギー供給設備の O&M は、出資した ASC・エネルギーサ
ービス会社に委託する。また別途設立した ASC・スマートサービス会社が、顧客に対し、
情報プラットフォームを用いて高度情報通信を含めたスマートサービスの提供を行う。オ
プション 2 と同様、ASC・サービス会社自身も独自に顧客に対して直接的にスマートサー
ビスの提供を行う。
67
Customers (Company, Worker, Resident, etc.)
Leasehold fee
Rental
fee
Supply of Energy
/ Advanced ITCommunication
Service
Lease of
facilities
Sales of land
leasehold
Usage fee
Usage fee
Supply of Smart Service
(Additional)
Supply of
Smart Service
(Basic)
investment
ASC Business Company
<Real-estate Development Business> <Basic Infrastructure Business>
• Sales of land
leasehold
• Lease of Ready built
factory
• Lease of Office Building
• Lease of Housing
• Lease of Commercial
facilities
• Provision of Advanced
IT-Communication Service
Advanced IT-Communication
Infrastructure
Supply availability of
Smart Service
Usage fee
ASC Smart Service Company
<Smart Service Business>
• Innovation Support Service
• Smart Life Support Service
• Advanced Infrastructure
Support Service
investment
Japanese
companies
Information Platform
Payment for
availability
• Supply of Energy
Ready built factory
Office Building
Executive House, SA,
Condominium
Commercial facility
collaboration
investment
ASC Energy Service Company
<Energy Equipment O&M Business>
Energy Equipment
O&M Service of
Energy Equipment
Land (Lease or Freehold)
investment
AMATA
investment
Japanese
companies
• O&M of Energy Equipment
Payment for O&M
Service
investment
Japanese Companies
Note:
= asset
図表 事業構造案
出所:日本総研
2.5.3. 事業体制・リスク分析
2.5.3.1. 事業構造に基づいた各社の役割
現地パートナーであるアマタ社がマスターディベロッパーとなることを前提に事業体制
の検討を進めている。アマタ社は工業団地開発のノウハウを有するものの、ASC のような
複合エリア開発に必要な都市開発のノウハウやエリアの価値向上に資する技術を有してい
ない。これらの不足するノウハウに対し、アマタ社は外部から知見を取り入れることに積
極的であり、日本の想定事業主体がそれらの機能を担っていく事を求めている。
上記に応じた各社の役割は次の通りを想定する。都市開発には日本のディベロッパーが、
エリアの価値向上に資する複数のスマートサービスの取りまとめや分析には、資本力のあ
る大手 IT 会社が候補となる。また、エネルギー供給事業やエネルギーマネジメントには、
エネルギー供給設備やエネルギーマネジメントサービスの提供が可能な日本の大手メーカ
ーが候補となる。特にエネルギー供給事業においては、エネルギーセキュリティやクオリ
ティ確保の観点からみた日本技術の導入について、現地の既存の電力事業とのタイ日パー
トナーシップの基で検討することを想定する。
現在、事業の検討フェーズにおいては、事業会社の立ち上げに向け、タイ側が土地の調
達と現地のステークホルダー調整、日本側が開発コンセプトから事業計画の作成までの検
討、といった役割分担で進めている。
2.5.3.2. ステークホルダー間のリスク対応策
事業立ち上げから事業運営に至るまでに以下のようなリスクが発生することが想定され
る。これらのリスクの発生要因に対し、早期の段階から対応することが重要である。
① 需要確保のリスク
68
② 建設コスト上昇のリスク
③ 認可取得のリスク
④ 賃料低下のリスク
それぞれのリスクに対する対応策として以下が挙げられる。
① 工業団地開発及び都市開発で有数の実績を持つ、タイ日の大手ディベロッパーを中心に、
商圏調査や付加価値開発の実施と、保有する日系企業とのネットワークの活用により入
居企業を確保する。付加価値開発には、大手 IT 企業の主導の下、付加価値に資するス
マートサービスの開発も実施する。
② コントラクターの最適な選定と現地資材の調達に向けた競争力のあるサブコントラク
ターを確保する。
③ 認可取得要件に該当しない規模でのスモールスタートも視野に入れながら、並行して認
可取得に向け政策当局を巻き込んだ適正な認可プロセスの確保と ASC 関連政策当局と
のコミュニケーションの実施をアマタ社主導の下での行う。
④ タイ日ディベロッパーの持つ現地ネットワークを活用して需要や賃料動向を逐次把握
し、適正な賃金設定を行う。
2.6. 付帯検討
2.6.1. 事業展開上の課題と対応策
2.6.1.1. ASC の横展開に必要なノウハウ
産業の高度化が加速する ASEAN 諸国、特に中進国においては ASC は一つのモデルケー
スとなり、その中で検討された開発コンセプトやスマートサービスシステムは展開可能な
コンテンツとなりうる。
住民の環境意識の高まりや企業による ASEAN 拠点の高度化といったマクロ動向を鑑み、
産業基盤と都市機能の複合開発及びスマートコミュニティのコンセプトを利用した生活と
就労環境の向上に対する需要は、今後も高まると想定される。ASC の検討を通じて、この
ような需要に対する複合的なサービス提供が求められていること、複合的なサービスの実
現に向けたスマートサービスシステム導入の採算性確保には不動産と連動した開発が重要
であることが得られた。これを実現するために、現地の不動産開発会社が複合的なサポー
ト機能を整備することを目的に、該当する技術やノウハウを有する日本等の外資企業との
パートナーシップを形成することが求められている。
本事業は、スマートコミュニティの横展開を見据え、その足掛かりを構築するフェーズと
位置付けている。横展開には、ASC で構築したスマートサービスのプラットフォームを活
用し、展開先の需要に合わせたソフトウェアのカスタマイズを行う。そうすることで、展
開上で課題の一つである投資初期コストを低減させることができる。また、需要量やニー
ズに合わせてスマートサービスを段階的に検討することで、より現実に沿った展開を行う
69
ことができる。
2.6.1.2. サービスの提供に必要な専門性を有する企業
これまで述べてきたように、タイ及び周辺国の経済発展に伴い、自動車産業をはじめと
するグローバルサプライチェーンの再構築が行われている。特にタイにおいては、生産の
労働集約的工程を近隣諸国に移転させる一方、生産拠点の開発機能を強化する動きが生ま
れている。この動きをサポートする機能提供に日系メーカーのビジネスチャンスがあると
想定され、かつ現地側からの期待も高い。ロケーションの確保や現地に根ざした基盤機能
の提供には不動産開発事業者、開発活動を支援するサービスの提供には日本の IT およびメ
ーカー企業が担うことが求められている。
2.6.1.3. エネルギー供給に必要な専門性・実績を有する企業(PEA)との協議結果
(1)タイ電力事業構成
タイではエネルギー省(Ministry of Energy)がエネルギーに関連する組織を統括してお
り、タイ発電公社(EGAT)がその管轄下に置かれている。エネルギー省の下部組織として、
エネルギー政策・計画局(EPPO)、代替エネルギー開発・効率化局(DEDE)、エネルギー
基金管理研究所(EFAI)がある。配電組織としては、内務省(Ministry of Interior)の管
轄下に地方配電公社(PEA)と首都圏配電公社(MEA)に置かれている。また、独立規制
機関としてタイ規制委員会事務局(ERC)があり、支持団体として、国家経済社会開発委
員会事務局(NESDB)投資委員会(BOI)がある。
70
図表 タイ電力事業構成
出所:NEDO ホームページ Arthur D Little 報告書
(2)タイ電力供給体制
タイにおける電力供給体制は、発電はタイ発電公社(EGAT)、独立系発電事業者(IPP)
、
小規模発電事業者(SPP)
、超小規模発電事業者(VSPP)と輸入電力で構成されている。
EGAT は SPP 事業者、IPP 事業者及び輸入からの電力を購入し、配電公社(MEA ・PEA)
と大口企業へ売電を行っている。SPP・VSPP 事業者は一部需要家へ売電も許可されている。
VSPP 事業者は配電レベルで配電公社(MEA・PEA)へ売電している。
71
発電
SPP
IPP
EGAT
輸入
VSPP
EGAT
送電
MEA
配電
PEA
需要家
需要
図表 タイ電力供給体制
出所:PEA ホームページ
(3)タイにおける発電状況
タイにおける発電事業は EGAT が 42%を発電し、残りは民間の IPP 事業者が 35%、SPP
事業者が 12%、VSPP 事業者が 4%を発電し、輸入により 7%を購入している。主要な発電
方法としては天然ガスによる火力発電である。
VSPP, 4%
IMPORT, 7%
SPP, 12%
EGAT
EGAT, 42%
IPP
SPP
VSPP
IPP, 35%
IMPPORT
図表 発電事業者の分類(2013 年末時点)
出所:PEA ホームページ
72
0.1%
1.1%
2.2%
0.1%
10.4%
天然ガス
20.1%
石炭
66.1%
(亜炭)
水力
重油
ディーゼル
図表 EGAT 発電所の燃料の分類(2014 年)
出所:EGAT ホームページ
(4)タイ配電公社(PEA)が供給している電力品質
タイの配電公社(PEA)が供給する電力品質を、停電回数、停電時間、電圧変動範囲で
示す。
項目
単位
データ
一契約者当たりの年間平均停電回数(SAIFI) 回数/年間/契約者
一契約者当たりの年間平均停電時間(SAIDI)
分/年間/契約者
8.09(回/年)
291.75 (分/年)
図表 PEA の配電品質
出所:PEA ホームページ
電圧階級
上限
下限
115kV
120.7kV
109.2kV
33kV
34.7kV
31.3kV
22kV
23.1kV
20.9kV
380V
418V
342V
220V
240V
200V
図表 電圧変動許容範囲
出所:PEA ホームページ
73
(5)タイにおける VSPP 制度
1) VSPP の制度は、2002 年に再生可能エネルギー発電事業者向けに1MW までを配電公
社(MEA や PEA)に売電する制度として創設された。2006 年にはコジェネレーショ
ン発電を含めて、売電容量は 1MW から 10MW に拡大された。MEA や PEA は VSPP
事業者からの電力買取に補助金を上乗せしている。
2) VSPP 燃料別のインセンティブ
VSPP 燃料別分類
インセンティブ
太陽光
FiT あり
風力
再生可能エネルギー
水力
バイオガス
Adder あり
バイオマス
一般廃棄物
天然ガス
石炭
化石燃料
Adder なし
石油
図表 VSPP 燃料別分類とインセンティブ(2014 年)
出所:PEA ホームページ
2015 年 1 月に公開された PEA によると再生可能エネルギーのインセンティブは、
Adder から Feed-in Tariff(FiT)制度に変更となった。
3) VSPP 制度を利用した民間発電事業の構築
PEA から発表されている VSPP 制度の説明によれば、PEA の配電系統への接続に関
する制約は明記されているものの、民間発電事業者が VSPP と組合せて独自の系統に
売電する方法については、明確に記載されていない。よって、考えられるモデルを 3
つに整理して、所管元である PEA へ確認を行った。
I: 系統売電固定量契約+自営線売電
II: 発電容量固定で、自営線+余剰分を系統売電
III: 系統売電固定量契約のみ
74
図表 VSPP 制度に基づく実施可能なモデル
出所:東芝
PEA へ確認した結果システムの構築、独自系統の整備については制約が無く、検討し
た 3 つのモデル全てが実現可能である事が分かった。
4) VSPP 事業者に対する売電価格
VSPP 事業者は再生可能エネルギーVSPP 事業者とコジェネ VSPP 事業者に分けら
れる。VSPP 事業者に対する売電価格は①基準価格と②Ft チャージで構成され、再生
可能エネルギーVSPP 事業者は③上乗せ価格 Adder が適用される。
Ft チャージとは発電用燃料種別により異なるベース料金に加え、燃料価格などの変
動性項目を自動的に料金に反映させる自動調整料金のことである。タイ規制委員会事
務局(ERC)が Ft チャージを 4 ヶ月毎に更新している。
単位:THB/kWh
月 年
2009
2010
2011
1月
0.9098
0.9147
0.8545
2月
0.9100
0.9148
3月
0.9101
4月
2012
2013
2014
2015
-0.0293
0.4062
0.4830
0.4087
0.8545
-0.0293
0.4066
0.4836
0.9148
0.8545
-0.0292
0.4064
0.4838
0.9100
0.9147
0.8545
-0.0293
0.4063
0.4844
5月
0.9177
0.9156
0.9373
0.0080
0.3903
0.5666
6月
0.9177
0.9157
0.9373
0.2808
0.3897
0.5663
75
7月
0.9177
0.9157
-0.0689
0.2675
0.3896
0.5659
8月
0.9177
0.9157
-0.0689
0.2672
0.3896
0.5654
9月
0.9206
0.9158
-0.0680
0.3990
0.4431
0.5057
10 月
0.9206
0.9158
-0.0679
0.3993
0.4434
0.5052
11 月
0.9206
0.9158
-0.0709
0.3993
0.4433
0.5058
12 月
0.9206
0.9158
-0.0580
0.3994
0.4420
0.5049
図表 Ft チャージ 実績の平均価格(燃料係数)
出所:MEA ホームページ
(6)コジェネ発電事業者に対する投資恩典制度
タイ投資委員会(BOI)はタイの国際競争力の向上に必要と考えられる業種の重要度に応
じて、業種別投資恩典(Activity-based Incentive)を与えている。
A1
A2
A3
A4
B1
B2
産業区分
知識集約産業
22 業種
研究開発等
インフラ開発
49 業種
先進技術産業
高度技術産業
69 業種
サプライチェーン 48 業種
強化に資する産業
高度技術を有しな 42 業種
い補助産業
(バリュ 6 業種
ーチェーンに重要)
法人税免税
8 年(免税額の上限なし)

8 年(免税額は投資額を限度)

5 年(免税額は投資額を限度)
3 年(免税額は投資額を限度)


なし

その他恩典
機械の輸入税の免除
(B2 を除く)
輸出用製品に使用す
る輸入原材料の輸入
税免税
土地所有許可
ビザ・ワークパミッ
トの優遇
外貨による海外送金
許可
図表 対象産業に対するインセンティブ
出所:KPMG NEWSLETTER ホームページ
BOI の投資奨励恩典に申請できる事業活動の中で、コジェネ発電事業者に対する恩典は
A4 である。
(7)タイにおける VSPP 今後の電力計画
タイ政府による電力計画では発電設備容量を増加する計画である。大半は発電公社
(EGAT)、IPP 事業者及び SPP 事業者による増加計画である。SPP 事業の電力設備増
加はコジェネ発電所が大半となっている。VSPP 事業の電力設備増加は再生可能エネル
ギーが中心でコジェネ発電は少ない。
76
単位:MW
年
最大電力需要 設備容量
発電公社(EGAT)
SPP 増加分* VSPP 増加分* 輸入増加分
IPP 事業者増加分
2012
26,355
34,265
690
752 (254)
209 (8)
220
2013
27,443
36,491
19
1,419
(1,170)
788 (16)
-
2014
28,790
39,542
3,216.1
690 (270)
197 (16)
-
2015
30,231
43,157
2,800.1
909 (540)
100 (17)
982
2016
31,808
45,530
1,445.1
1,085 (450)
100 (21)
491
2017
33,263
47,240
1,075.1
1,053 (900)
77 (0)
-
2018
34,592
48,329
904
720 (720)
87 (1)
659
2019
35,869
51,386
1,164
780 (720)
77 (5)
1,220
2020
37,325
50,389
316
135 (90)
81 (0)
-
合計
11,629.4
7,543 (5114) 1,716 (84)
3,572
*括弧内はコジェネ分の計画値
図表 タイ政府による電力計画(2012 年版)
出所:エネルギー省電力計画
(8)PEA との協議結果
1) VSPP 事業者が PEA へ売電するために、下記のライセンス・認可が必要である。
ライセンス・認可
備考
① 発電ライセンス
発電事業を行う
② 売電ライセンス
PEA に売電
③ エネルギー事業ライセンス
エネルギー事業を実施するため
④ 系統接続認可
6MW 以上の系統接続には EGAT の認可が必要
⑤ 配電ライセンス
自営線での売電
※1 ①~④は系統接続試験前に必要。
2
④以外は、ライセンスの申請先はタイ規制委員会事務局(ERC)
図表 ライセンス・認可の一覧
出所:東芝
2) PEA へ売電する場合、最低容量、最高容量、時間帯別容量、季節別容量等に制約は
ない。ただし、契約容量以上の料金は支払われない。
3) VSPP に求められる電力品質
77
電圧:±5%、周波数:±0.5Hz 以内であること。
4) PEA の接続上限
22 kV 系統:8 MW
33 kV 系統:10 MW
タイ南部は 33kV、残りの地方は 22kV である。ASC 開発予定地では最大系統接続は
8MW になる。
5) PEA 系統接続の制約
8MW/1 フィーダー
4 VSPP 事業所/1 フィーダー
6) VSPP の容量は、運用後に変更ができる。
7) 10 MW 以上の発電所は、建設する前に EIA(環境アセスメント)が必要。
8) 申請時は発電所設計書や単線結線図が必要。
9) 売電契約が1MW 以上の場合、PEA へ 2%の手数料を支払う。
10) PEA では VSPP コジェネ発電所による導入実績は少ない(4~5 件程度)
。
11) コジェネレーション VSPP に求められる制約
 連続したエネルギー生産を行い、廃熱を利用すること。
 効率的に発電し、一次エネルギー節約(PES)割合(電力エネルギーと熱エネルギ
ーを同時に生産する工程)を毎年 10%以上とすること。10%以下の場合は罰金を科
す。
12) PEA への売電の手順は以下の通り
78
図表 PEA への売電の手順
出所:PEA ホームページ
2.6.1.4. その他のステークホルダー体制
タイでは、開発拠点整備のニーズが今後増加すると見込まれるものの、開発活動を担う
人材が不足している。
タイにおいて立地企業が期待する開発人材像は、基礎技術の開発を行う研究者ではなく
マーケットに即した製品開発を行うエンジニアや開発のマネジメント人材であるが、前者
は余剰傾向にある一方、後者の人材確保は難しくなっている。ASC では、こうした企業側
79
のニーズを踏まえ、エンジニアやマネジメント人材の供給拠点としての機能も備えていく。
アマタ社は、タイの主要 8 大学と MOU を締結しており、本開発においても協力を受ける
体制を整えている。また、サイエンスシティ開発に関連するタイの複数省庁との関係構築
も積極的に実施し、ASC の実現性の向上と、サイエンスシティのブランド価値を高めるこ
とで高度人材の集積に繋げることを目指している。
大学名
所在地
Chulalongkorn University
チュラロンコーン大学
Kasetsart University
カセサート大学
バンコク
バンコク
King Mongkut's Universityof
Technology Thonburi
モンクット王トンブリ―工科大学
Asian Institute of Technology
アジア工科大学院
King Mongkut's University of
Technology Ladkrabang
モンクット王工科大学ラートクラバン
校
Srinakharinwirot University
シーナカリンウィロート大学
Burapha Universeity
ブラパー大学
バンコク
バンコク
バンコク
バンコク
設立
1917年
1943年
1960年
1959年
1960年
1949年
トンブリ―
1955年
チャッタンブリ
King Mongkut's Universityof
Technology North Bangkok
モンクット王北バンコク工科大学
バンコク
1959年
タイ国内
大学ランキング
2位
5位
特徴
・タイで最も古い由緒ある大学である。
・レベルもトップクラスでタイの東大と呼ばれる。
・201~250位(TIMESの世界大学ランキング2013)。
・タイで最初の農科大学として創立。
・周囲には王立森林局、NRCT、TISTRといった政府機関が集まり、その中
心となっている。
・日本との間に多くの研究協力の実績がある。(特にJICAを通じて行われた
研究協力は8年間におよび、穀物の育種、農業環境と品質管理技術、農業
機械の開発等の研究を始め大きな研究実績がある)
・401~500位(TIMESの世界大学ランキング2010)。
8位
・エンジニアリング、科学技術、工業などの分野に焦点をあてており、技術
的な学問において先駆的である。
・東海大学との提携(2007)。
9位
・先端技術、経営管理に特化した国際大学院大学である。
・Bill and Melinda Gates Foundation (BMGF)がAITをR&Bにおけるハブに
なりえると発表。
11位
・日本政府の支援を受け、通信衛星のトレーニングセンターとして設立。
・タイにおけるエンジニアリング部門のトップ大学とされる。
・東海大学、東京工業大学、電気通信大学と提携しながら発展。
14位
16位
17位以下
・タイの教育や美術の分野を牽引する大学。タイの大学で初めて教職課程
を設置した。
・明治大学と提携関係にある。
・規模が大きくなったためバンコク大学から独立したが、非公式に連携は続
いている。
・バンセーン教育大学として設立。1990年にブラパー大学として創立。
・学生総数は 46,441人でそのうち36,995人が学部生、8,209人が修士、
1,116 人が博士課程である(2011年現在)。
世界大学ランキング(URAP)1878位。
・東京工業大学、九州工業大学と提携。欧州の大学とのつながりも多い。
・卒業生がバイオマス燃料と低品質燃料からガスを生産するプロジェクトに
関してベストテクノロジー賞を得る(2011)。
図表 アマタ社が MOU を締結したタイの主要 8 大学の概要
出所:日本総研
2.6.2. 国内への波及効果
2.6.2.1. 日本企業の ASEAN 拠点の付加価値向上への貢献
1980 年代以降、多くの日本企業がタイに積極的に進出してきた中、近年の ASEAN の成
長に伴い自動車、電機産業をはじめ、タイの拠点の高度化を図ろうとする日本企業が増え
始めている。例えば、主要完成車メーカーの多くは開発活動が可能な大型のテクニカルセ
ンターを設置済みである。しかし、拠点の高度化を進める上で課題となっているのが、タ
イの高度人材の獲得である。タイでは、多くの高度人材がバンコクで働くことを望み、一
80
方、バンコクでは本格的な開発活動で必要となる設備を設置できるほどの土地を確保する
ことは難しい。そのため、ASC のような、土地の確保が可能な郊外で高度人材を惹きつけ
られる就労及び生活環境を作り出すことは、日本企業の高度人材獲得の可能性を高め、
ASEAN 拠点の更なる活動の高度化に資すると考えられる。
2.6.3. 技術戦略
2.6.3.1. 日本企業の強みが活かせるサービスプラットフォームの要件
本事業では ASC の付加価値向上に、日本企業の有する都市開発ノウハウやサービスプラ
ットフォームを基盤としたスマートサービス技術を活用する。そのうち、日本企業のサー
ビスプラットフォームが差別性を持ちうる理由として以下の 4 つが挙げられる。ASC での
立ち上げを通じてこれらの差別性を強固なものとし、今後需要の拡大が想定される、産業
基盤の付加価値化を市場開拓の起点とし、事業主体のポジションを見据えながら ASEAN
を中心に面的展開を行うことを視野に入れて検討を進める。
① プラットフォームとビックデータに基づく高付加価値サービスの提供
新興国においては、高品質・高価格である日本製品と比較し、安価な製品を提供する中
国等の製品が求められやすい。日本製品を導入させるためには、製品の単品売りで競うの
ではなく複数製品や機能を組み合わせた高付加価値製品を目指すべきである。本検討にお
いても、スマートサービス単体ではなく、需要に合わせた複合的なサービス提供を実現す
るため、複合的なサービスを一体的に提供する仕組みとして統合プラットフォームを構築
する。サービス提供の基盤には、日本の大手 IT 企業が保有する、スマートコミュニティに
おけるビックデータを管理・分析し、様々なアプリケーションを一元的に管理し、サービ
スの一体的な提供を可能とする新たな IT プラットフォームを活用する。
② 都市成長に合わせたサービス開発
プラットフォーム及びビックデータの活用により、都市成長に合わせて求められるサー
ビス内容やサービスレベルを生み出すことが出来る。想定されるサービスの多くが国内に
実績のあるサービスであることから、それをベースに導入国のレベルに合わせたサービス
開発を行う。また、本エリアは、高度人材が集積し、かつ産業と都市の複合開発都市であ
ることから、様々な先進的な活動が行われうるエリアとして、サービス実証として適切な
場となる。ASC に入居する企業の開発結果の実証の場となることが可能である。
③ サービス事業主体の可能性
本件に取り組む IT 企業は資本力を有しており、投資判断が可能な段階でサービス事業主
体となることも想定されている。そのため、サービスの付加価値化に対し主導して検討し
ていく方針である。
④ 展開のクレディビリティ
現在 ASC で提供されるサービスは、基本的に国内での実績を有するサービスの組み合わ
81
せで需要を満たすことが出来る。国内実績を基にクレディビリティを確保した上で展開す
ることが可能である。
2.7. 事業計画の検討
2.7.1. 事業立ち上げに向けたプロセス
今年度は、開発コンセプトを起点とした開発計画やインフラ整備計画を、アマタ社の選
定したアーバンプランナーと共に検討し、その結果に基づき、タイ日双方が参画可能な投
資モデルを含む事業計画の策定を行った。特に投資モデルの検討では、スマートインフラ
に対するコストをどのように賄うかが課題であり、本 PJ の検討に早期からディベロッパー
が参画することによって、インフラコストを不動産収入で賄うモデルの構築を検討するこ
とができている。今後は、ASEAN 経済統合を見据えた 2017 年の初期施設運営の開始に向
け、2015 年内の事業会社立ち上げと、事業会社によるマーケティングの開始、2016 年以降
の工事着工というスケジュールで検討を進めていくことをアマタ社と確認している。
82
第3章
ベトナム
南部経済回廊エリアでのサプライチェーンの再構築の流れの中で、タイとの連携が期待
されるベトナム、特にホーチミン近郊には多くの日系企業が進出している。本章では、ASC
との連携を見据えながら、ベトナムの産業基盤開発のポテンシャルを検討する。
3.1. 市場分析
3.1.1. 市場動向
3.1.1.1. ベトナムの経済成長性
内需動向
ベトナムにおいても ASEAN 全体の傾向と同様、右肩上がりに人口増加しているほか、
一人あたりの GDP も順調に伸長している。例えば、ベトナムにおける自動車生産・販売・
輸入台数は、2012 年に落ち込みを見たものの、以降急速に回復しており、特に、国内販売
台数の増加は非常に顕著である。今後、所得水準の向上に伴って購買力が上昇し、ベトナ
ム内需が拡大していくことが見込まれる。
(百万人)
(US ドル)
105
3,000
100
2,500
95
2,000
90
1,500
85
1,000
80
500
75
0
2008
2009
2010
2011
2012
人口
2013
2014
2015
2016
2017
2018
一人当たりGDP
図表 ベトナムの人口及び一人当たり GDP 推移
出所:IMF
83
自動車生産・販売・輸入台数の推移
(台)
140,000
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0
2014年は1~6月の販売台数(実績)を2倍し推定値とした
輸入台数
生産台数
国内販売台数
図表 自動車生産・販売・輸入台数の推移
出所:GSO
生産性
最近 5 年間のベトナムの実質 GDP 成長率をみると 2009 年及び 2012 年に一度落ち込ん
だものの、2013 年より上昇傾向にあり、5%台を維持している。IMF の今後の見通しによ
れば、大幅な成長は見込まれないものの、一定レベルの成長を維持していくとされている。
一方、外資企業による直接投資額はマクロ動向を受け 2009 年以降下降を続けてきたが、
2013 年より取り戻しつつある。外資企業の直接投資額推移の傾向から 1 年遅れる形で、輸
出額推移に影響が出ている。以前より、ベトナムの輸出総額に対する外資企業の比率が 60%
以上(2012 年ベトナム計画投資省のデータ)という中で、ベトナム経済の成長には外資企
業の呼び込みを今後も積極的に進めていく必要があるといえる。
実質GDP成長率(%)
実質GDP総額(単位:1億ドル)
輸出額 (単位:100万ドル)
直接投資受入額 (単位:100万ドル)
2008年
5.7
982.69
62,685
71,726
2009年
5.4
1016.3
57,096
22,626
2010年
6.4
1127.7
72,191
19,764
2011年
6.2
1346
96,906
14,696
2012年
2013年
5.3
1555.7
114,631
13,013
5.4
1705.7
132,135
22,352
図表 ベトナムの各種経済指標
出所:日銀
3.1.1.2. ベトナムにおける外資企業の投資動向
ベトナム経済に対し外資企業の投資動向が大きく影響する中、2012 年、2013 年のベトナ
ムへの各国の認可額を見ると、日本とシンガポールの 2 か国でベトナムへの投資額の約
50%を占めることがわかる。また、2012 年では件数、認可額共に日本が最大であり、2013
年においても日本の認可額は依然として最大である。ベトナムにおいて日本企業が最大の
投資家であることが伺える。また、日本に限らず韓国企業による投資も活発である。2013
年には韓国の投資件数は日本を上回っている。また、シンガポール、韓国、中国の認可額
構成比はこの 1 年で大きく伸びている。
84
2012年
国
件数
(件)
件数構成比
(%)
2013年
認可額
(億ドル)
認可額構成比
(%)
件数
(件)
件数構成比
(%)
認可額
(億ドル)
認可額構成比
(%)
日本
444
24.17
55.9
34.21
500
23.58
58.8
26.29
シンガポール
174
9.47
19.4
11.85
179
8.44
47.7
21.34
韓国
389
21.18
12.9
7.86
586
27.64
44.7
19.98
中国
94
5.12
3.7
2.27
123
5.80
23.4
10.46
ロシア
12
0.65
1.4
0.88
14
0.66
10.3
4.62
香港
74
4.03
7.3
4.46
96
4.53
7.3
3.27
台湾
132
7.19
26.6
16.26
138
6.51
6.4
2.85
26
1.42
1.2
0.73
34
1.60
4.0
1.78
3
0.16
0.04
0.03
6
0.28
3.7
1.67
オランダ
ケイマン諸島
図表 ベトナムへの国別対外直接投資動向
出所:外国投資庁
日本企業によるベトナムでの認可額の推移をみると、2007 年までおよそ 10 億ドル規模
を推移していた認可額は、2008 年に 80 億ドルまで跳ね上がった一方、リーマンショック
の影響を受け翌年には 5 億ドルを割り込んだ。また、2010 年頃から拡張投資が増え始めた
が、2012 年頃より企業のベトナムへの新規投資件数が減少している。この理由として、
JETRO は①初期投資の小さい中小企業の進出が増えており、②非製造業 の進出が増えて
いることを挙げている。2013 年には初めて拡張投資の割合が新規投資の割合を上回った。
日本はベトナムへの主要投資国であると同時に、日本企業にとっても投資対象国として
魅力的と捉えられている。日本企業によるベトナムの中長期見通しでは、中国、インド、
インドネシアといった市場規模の大きな国々や従来から日本企業の最大生産拠点として位
置付けられてきたタイに続き、ベトナムは 5 位となっている。
85
(億ドル)
90
80
3.8
70
60
50
12.2
40
認可額(拡張)
認可額(新規)
76.5
44.7
30
20
10
0
3.6
3.4
4.8
4.4
10.6
9.7
2005
2006
43.7
1.7
5.9
20.4
18.5
2010
2011
14.1
2.4
2007
2008
1.4
2009
2013 (年)
2012
196
237
202
193
116
149
285
444
500
うち新規件数(件)
107
146
154
147
77
114
208
317
352
うち拡張件数(件)
89
91
48
46
39
35
77
127
148
認可件数(件)
図表 日本企業のベトナムへの対外直接投資推移(認可ベース)
出所:GSO
No.
2010
2011
2012
2013
1
China
China
China
Indonesia
2
India
India
India
India
3
Viet Nam
Thailand
Indonesia
Thailand
4
Thailand
Viet Nam
Thailand
China
5
Brazil
Brazil
Viet Nam
Viet Nam
6
Indonesia
Indonesia
Brazil
Brazil
7
Russia
Russia
Mexico
Mexico
8
USA
USA
Russia
Myanmar
9
Korea
Malaysia
USA
Russia
10
Malaysia
Taiwan
Myanmar
USA
図表 日本企業による中長期での投資魅力度
出所:日銀
3.1.1.3. ベトナムにおける日本企業の進出動向
ベトナムに進出する日系企業の産業割合においてハイテク産業(エネルギー、医療、化
学、環境、自動車、精密、通信、電気、二輪・自動車、機械)は全体の 33%を占める。
例えば日本電産グループでは、1997 年に日本電産トーソク・ベトナム会社を設立して以
来、既に同国ホーチミン市内に 9 社、ハノイ市に 1 社の合計 10 社のグループ企業が進出し
ており、2012 年にもホーチミン市内に新子会社・工場が設立された。目的は携帯電話用振
動モータをはじめとする精密小型モータの生産能力の増強と、これまで以上に高い生産性
と高品質を実現することだ。また、自動車部品に関する研究開発活動を日本電産トーソク
86
㈱の本社・技術開発センターにて行ってきたが、ベトナム製造子会社にも開発機能の一部
を移管し、開発能力の一層の拡充を加速するとともに、中国市場向けの製品開発をより機
動的に進めるため、中国開発拠点(蘇州)の立ち上げも計画している。
ベトナムへの進出を加速させているのは日系企業だけではない。各種報道記事(注)に
依れば、インテルは 2010 年からホーチミン市に 10 億ドルを出資し、テスト工場を設立し
た。また 2014 年 11 月、Intel Products Vietnam 社社長はベトナム 2 つ目の CPU 生産ラ
インの設置を明らかにした。2015 年 7 月までに世界で販売されるパソコンに使われるチッ
プの 80%がベトナム工場で製造されたものになるという。一方で、サムスン電子は、ベト
ナム北部のタイグエン省に新たなスマートフォンの工場を建設する予定だ。既に、タイグ
エン省に 20 億米ドルをかけてスマートフォン工場を建設し、2014 年 3 月に操業を開始し
た。新工場は同じタイグエン省に建設するもので、同社は最大 30 億米ドルの投資額を見込
んでいる。また、ホーチミンにテレビなど家電製品の新工場を建設する。ベトナム側から
投資承認を得ており、敷地面積は 70 万平方メートルと広大で、5億 6000 万ドル(約 600
億円)を投じる計画だ。2015 年に着工し、同年末以降に順次稼働を始める。ベトナムでサ
ムスンが製造する品目の中心は携帯電話で、部品調達を中国に依存しているのが現状だ。
ベトナムでの現地調達率を上げることで「中国依存リスク」を下げる狙いが背景にある。
(注:日経新聞等の記事より)
このように、ハイテク産業において日系企業、外資企業問わず新子会社・工場の設立や
一部開発機能の移転が進んでいる。こうしたことからベトナムにおいて日本電産やインテ
ル、サムスンといった大手最終製品メーカーを筆頭とするハイテク産業のサプライチェー
ンが作られていくことが推測される。
87
図表 進出する日系企業の産業割合
出所:JETRO
3.1.1.4. ベトナムに進出する日本企業の拠点配置動向
ベトナムは歴史的な経緯もあり、地域毎に異なる発展の仕方を遂げてきた。そのため地
域ごとの特徴を押さえた投資が重要となる。
現状、日本企業の地域別進出動向を見ると、南部が 54%、北部が 42%を占める。南部の
中ではホーチミンへの進出が最も多く 62.2%であり、ビンズオン 20.1%、ドンナイ 12.2%
と続いている。
図表 地域別日本企業の投資動向
出所:JETRO
88
また JETRO が地域別の日系企業の進出パターンを指摘している。南部では中堅・中小部
品メーカーを中心に独資輸出加工型の進出を行う富士通、日本電産、内需・合弁型の進出
を行う販社、食品、流通企業が見られ、電子機器や食品関係企業の進出がよく見られる。
一方北部では、キャノン、ブラザーなどの大企業セットメーカーを中心に独資輸出加工型
の進出が、またホンダ、ヤマハなどの自動車・二輪企業では内需・合弁型の進出が見られ
る。
図表 地域別日本企業の投資傾向
出所:JETRO
3.1.1.5. ホーチミン市近郊に進出する日本企業の動向
ホーチミン、ビンズオン、ドンナイ省を中心としたベトナム南部の工業地帯では進出す
る日系企業の投資動向を見るとベトナム全体と同様、ハイテク産業が多く進出している。
他にも、観光サービス業や、会計・コンサルティング事業、ソフトウェア開発、システム
開発業を営むサービス事業者の割合も多い。不動産業、エネルギー業に関しては、総合商
社が若干数進出しているのみに留まっている。ホーチミンは消費市場で注目を浴びつつあ
り、最近では食品加工業の進出も多く見られる。例えば、株式会社ロッテや、味の素株式
会社、キリンビバレッジ株式会社、明治乳業株式会社、サッポロホールディングス株式会
社など大手企業が揃って進出している。
89
外食
0%
造船
0%
その他
18%
環境 不動産
1%
1%
サービス
18%
エネルギー
1%
電気
8%
コンテンツ
1%
機械
医療
3%
3%
金融
化学
3%
3%
アパレル
6%
素材
4% 精密
4%
二輪・自動車
6%
建設 食品 運輸
5% 5%
5%
卸売小売
5%
図表 業種別 ベトナム南部進出日系企業数割合
出所:JETRO
3.1.2. 事業環境の分析
3.1.2.1. ベトナムの労働市場(基本給)
タイでは自動車産業が集積する一方、ベトナムではそれ以外のハイテク産業や食品加工
業等の企業立地が目立つ。これらの企業が生産拠点にベトナムを選択する理由の一つとし
て労働市場がある。ベトナムは周辺の ASEAN 諸国およびインドや中国等と比較し、ワー
カー(一般工職)
、エンジニア(中堅技術者)共に基本給が低い水準であり、タイの基本給
のおよそ半分の賃金水準となっている。他国と比べ労働力の獲得がしやすいと言える。ま
た、ハノイとホーチミンを比較すると、ワーカーの平均賃金はハノイの方が安く、エンジ
ニアの賃金はホーチミンの方が安い。
ワーカー(一般工職)月額基本給の国別比較
(USドル)
3,997
(USドル)
エンジニア(中堅技術者)月額基本給の国別比較
ハノイ:155
ホーチミン:173
ハノイ:355
ホーチミン:347
図表 ワーカー(一般工職)月額基本給の
図表 エンジニア(中堅技術者)月額基本給の
出所:JETRO「第24回アジア・オセアニア主要都市・地域の投資関連コスト比較(2014年5月) 」
国別比較
国別比較
出所:JETRO「第 24 回アジア・オセアニア主要都市・地域の投資関連コスト比較(2014 年 5 月)
90
3.1.2.2. インフラ開発・整備動向
企業の生産活動の重要な基盤インフラである電力供給の状況には、数々の課題があり、
いまだエネルギーセキュリティ及びクオリティのレベルは低い。そのためベトナム政府は
段階的に電力セクターの改革を推進している。
課題
・電力需給の逼迫
・燃料資源の確保
・発電設備容量の拡充
・送電系統の不安定さ、送配電網整備の遅延
・公益電力事業体(Electricity of Vietnam : EVN)の脆弱な財務体質
・適切な電力料金の設定
電力セクターの改革概要
2006 年 1 月 26 日に「ベトナムにおける各レベルの電力市場の形成および発展のため
のロードマップと諸条件を認可する」首相決定(No.26/2006/QD-TTg)が出された。主な
目的は以下。
・段階的に競争的な電力市場を着実に発展させるために、電力業界への補助金を削減し、
消費者に電力供給業者の選択権を与えること
・内外の民間投資を電力関連活動に呼び込み、段階的に電力セクターへの国の投資を減ら
すこと
・発電と電力事業の効率を向上させ、電力料金の値上げを抑制すること
・質を高めて安定した信頼性のある電力供給を確保すること
3.1.2.3. ベトナムの都市計画方針
ベトナムでは不動産開発やインフラ整備促進に向けた計画が進んでいる。省庁による各
部門別計画、建設省による空間計画、計画投資省による社会経済計画の 3 タイプの計画が
垂直的に実施される。省庁下の全国計画の政策として SKEZ ゾーニング計画、建設省下の
地域計画の政策としてホーチミン大都市地域圏マスタープラン、そして計画投資省下の省
CSEDP(総合社会経済計画システムプロジェクト)の政策としてドンナイ省社会経済計画
がある。以下、3 計画について詳述する。
91
ベトナムの開発関連計画の体系
本件開発の関連政策の関係図
国家総合社会経済計画システム
★1
(2020年まで)
(計画投資省 2013年12月)
★2
★4
★1
国家都市開発プログラム
★3
★5
★2
★2
(2012~2020)
(計画投資省 2012年12月)
SKEZゾーニング計画
(2020年まで、計画投資省 2014年)
★3
ホーチミン市社会経済計画
ホーチミン大都市地域圏★4
マスタープラン
(2015年まで、計画投資省 2010年)
(2020年まで、建設省 2008年)
出所:国土交通省ホームページ
http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/international/spw/gen
eral/vietnam/#g01
★5
ホーチミンの新しい都市管理モデル
(審議中、市人民委員会 2013年8月)
★3
ドンナイ省社会経済計画
(2020年まで、計画投資省 2008年)
出所:各種の公開資料を基に日本総研作成
図表 ベトナムの開発関連計画の体系
図表 本件開発の関連政策の関係図
出所:国土交通省ホームページ
出所:各種の公開資料
SKEZ ゾーニング計画とはベトナムの特定 9 つのエリアの一つである、ホーチミンを含
む周辺エリアにおける都市計画である。SKEZ ゾーニング計画では、SKEZ 地域をハイレベ
ル、持続的に発展する活気が溢れる経済地域へと発展させることを目標とし、ソフトウェ
アや電子といったハイテク産業等を重点分野とし、誘致を進めることを目指している。
ホーチミンへの人口集中を背景に、ホーチミン大都市地域圏マスタープランでは、ホー
チミンを中心とした近代的な交通インフラを整備し、周辺に衛星型都市群を形成すること
を目指している。衛星型都市の一例としてドンナイ省内に位置するロンタンが挙げられる。
ドンナイ省社会経済計画では、南部重要経済ゾーンにおいて、メジャーの現代化工業並び
にサービスのセンターとなることが目標とされている。優先投資の産業分野として建材、
電機、電子部品、通信関連設備等が挙げられる。また 2010 年までに「Ho Chi Minh city Long Thanh - Dau Giay expressway」が建設されたことに加え、2015 年までに Long
Thanh international airport 第 1 フェーズを建設する計画があり、交通インフラの充実が
図られる見通し。
92
政策名称
位置付け
関連記述
SKEZ
ゾーニング計画
• 9つの経済ゾーンの一つ
(メコンデルタ経済ゾーン
(Mekong KEZ)の計画と
同時にリリースされ)
• 2030年を展望した2020
年までのマスターゾーニ
ングプラン
• 【対象地域】SKEZ(the Southern Key Economic Zone) : HCM City, Binh Phuoc, Tay
Ninh, Binh Duong, Dong Nai, Ba Ria-Vung Tau, Long An, Tien Giang
• 【目標】SKEZ地域をハイレベル、持続的に発展する活気が溢れる経済地域まで発展させる。
経済、貿易、文化、人材育成、ヘルスケア、研究開発の分野において、当該地域ひいては
国のハブ的な存在になる。2016~2020年期間中の平均GDP伸び率は8.5~9%の見込み
• 【重点分野】ソフトウェア、電子、ハイエンド建材、機械、金融・貿易サービス、通信、運輸、観
光、資本市場など高付加価値の製品・サービスの提供に注力
ホーチミン
大都市地域圏
マスタープラン
• 北部のハノイ地域、中部
のダナンと並ぶ3つの大
都市圏の一つ
• 2050年を展望した2020
年までの空間計画
• 【対象地域】:上述SKEZと同様の8つの地域
• ホーチミン市を中心ハブとする多心型圏域構造とすることが強調され、県級市が、複数方向
に伸びる開発軸の核として位置づけられている
• ホーチミンを中心とした近代的な交通インフラを整備し、周辺に衛星型都市群を形成するこ
とを目指しており、ホーチミンと周辺の省の交通インフラの連携が重要課題になっている
• Long Thanh市は東部成長軸の7都市に属する(Dau Giay, Long Thanh, Gia ray, Dinh
Quan, Tan Phu, Vinh Cuu , Long Khanh )
ドンナイ省
社会経済計画
• 2020年までのドンナイ省
のマスタープラン
• 産業構造、インフラなどの
計画・目標が定められて
いる
• 【位置づけ】南部重要経済ゾーンにおいて、メジャーの現代化工業並びにサービスのセンター
となる
• 【優先投資の産業分野」:建材、素材、農機、電機、電子部品、計算機、通信関連設備 等
• 2015年までに40~42の工業園区を作る
• 【交通インフラ」:2010年までに「Ho Chi Minh city - Long Thanh - Dau Giay
expressway」を建設。2015年までにLong Thanh international airport第1フェーズを建設
出所:各種の公開資料を基に日本総研作成
図表 南部地域に関連する都市計画
出所:各種の公開資料を基に日本総研作成
3.1.2.4. 投資優遇制度や規制
ベトナム政府は、ベトナムの産業発展に向けてハイテク産業及び特定エリアに対し重点
的に優遇策を用意している。奨励分野として、新素材、新エネルギー、ハイテク製品、バ
イオテクノロジー製品、 製造機械の生産やハイテク開発・ インキュベーション分野等に
対し優遇制度が設けられている。また経済社会的な条件が困難な地域やハイテクパーク、
経済区、また工業団地等でも優遇される。例えば生産開始時より 5 年間の輸入関税免税、
さらには条件に合わせた段階的な土地賃料の免除等がある。ハイテクパークは投資奨励分
野に該当し、3 年の土地賃料免除が適用される。
奨励分野
輸入関税免除措置
 新素材、新エネルギー、ハイテク製品、バイオ
テクノロジー製品、 製造機械の生産。
 農林水産品の養殖・加工、製塩、人工家畜種・
種苗の開発、 新規家畜種・種苗の開発
 ハイテク、現代的な技術の活用、環境生態系
保全、ハイテク開発・ インキュベーション
 インフラ建設・開発、その他重要案件
 教育、人材育成、医療、スポーツ事業
 その他の分野 (インターネット接続、公共運輸、
法律 顧問、基礎化学、紙、繊維、皮革)
 投資奨励案件における固定資産を形成するために輸
入される機械、資材、専用運送手段などの輸入関税
 国内で生産できない物資
 ホテル、オフィス、住宅、スーパーマーケット、ゴルフ
コース、娯楽施設、病院、教育、文化、金融等政府の
指定するリストに基づく設備の初回輸入分
 特に奨励される投資分野、社会経済的に特に困難な
地域における投資にかかる原料、物資、部品について
生産開始時より5年間輸入関税免除
投資奨励地域




土地賃料免除・減免措置
経済社会的な条件が特に困難な地域
経済社会的な条件が困難な地域
ハイテクパーク、経済区
工業団地
対象
投資奨
励分野
社会経済
的に困難な
地域
社会経済的に特に困難な
地域、もしくは社会経済的
に困難な地域における投
資奨励分野
社会経済的に
特に困難な地
域における投資
奨励分野
免除
期間
3年
7年
11年
15年
出所:日本アセアンセンター(2013ベトナム計画投資省外国投資庁 長官プレゼン資料)
図表 ベトナムの投資優遇(奨励分野と優遇措置)
出所:日本 ASEAN センター(2013 ベトナム計画投資省外国投資庁 長官プレゼン資料)
93
また、奨励分野及び地域に対し、ベトナムでは免税期間と法人税率の優遇も設けられて
いる。ハイテク企業に対しては、免税期間は 4 年で、その後 9 年間は 50%減額される。ま
た優遇法人税率 10%が 15~30 年間適用される。
優遇法人税率
税率
ハイテク、インフラ
、ソフト開発
期間
20%
10年
20%
全事業期間
10%
15年
10%
30年
10%
全事業期間
ハイテク、インフラ、ソ
フト開発(特別奨励分
野)
教育、職業訓練、医
療、文化、スポーツ
農業、サービス
共同組合、人民
信用基金
社会的・経済
的に困難な地
域
社会的・経済的に特に
困難な地域、経済区、
ハイテクパーク
○
○
●
●
●
○
法人税額減免措置
免税
年数
減額
50%
4年
9年
4年
5年
2年
4年
社会的・経済的に困難な地域
、特に困難な地域における民
間活力導入事業
経済区、ハイテク
パーク
ハイテク、インフラ、
ソフト開発
教育、職業訓練、
医療、文化、環境
○
●
●
○
社会的・経済的に困
難な地域、特に困難
な地域以外における
民間活力導入事業
社会的・経済的
に困難な地域に
おける事業
○
○
○
出所:日本アセアンセンター(2013ベトナム計画投資省外国投資庁 長官プレゼン資料)
図表 ベトナムにおける法人税への優遇措置
出所:日本 ASEAN センター(2013 ベトナム計画投資省外国投資庁 長官プレゼン資料)
3.2. 不動産開発の検討
3.2.1. AEC の開発ポテンシャルの分析
3.2.1.1. AEC のロケーションと周辺のインフラ整備状況
ロケーション
AEC はホーチミン近郊のドンナイ省に位置する。2014 年 1 月からホーチミン-ゾーザイ
間を繋ぐ高速道路が開通されたことにより、AEC からホーチミン中心部まで車で 20 分の
距離となった。また高速道路の建設により、新たに計画されているロンタイン国際空港ま
で約 10km、深海港であるカイメップチーバイ港まで 40km の距離に位置することとなり、
利便性の高いエリアとなっている。
交通インフラ整備
ホーチミン市周辺では多くの交通インフラ整備が計画されている。最近ではホーチミン
市内だけでなく、ホーチミンとその近郊を繋ぐ交通インフラとして、ビエンホア省やドン
ナイ省と繋がる地下鉄や高速道路、LRT の開発が進んでいる。ビエンホア省やドンナイ省
94
では最近企業進出が進んでおり、これらのホーチミン近郊に多くの人・モノの流れが生ま
れることを見据えた、鉄道や深海港、国際空港等のマストランジットの導入が計画されて
いる。
ベトナム鉄道(統一鉄道)
• ホーチミン-ハノイ線を主路線とする
合計2,600kmの非電化鉄道
地下鉄1号線 (計画)
• ベンタイン-スオイティエン間(19.7km)
• ベンタインから2.5kmは地下、残りは高架
• 2019年開業予定
• JICA円借款事業(約652億円)
• 将来的にはビエンホアまで延伸の可能性
あり
スオイティエン駅(計画)
アマタシティロンタイン
高速道路 (計画、一部開通)
• ホーチミン-ゾーザイ間(55km)
• 2014/1、ホーチミン9区環状2号線-ロンタイン
国道51号線間が開通(20km)
• 2016年完成予定
• アジア開発銀行とJICAによる円借款事業(約
1,030億円)
高速鉄道 (計画)
• ホーチミン-ニャチャン間
• 2031年までの敷設を計画
ロンタイン国際空港 (計画)
• 南部の新たな玄関口として、2023年までに取
扱旅客数1,700万人に対応するターミナルを
建設予定。
• 資金調達の目途が立たず、計画は難航。
サイゴン港
• 交通渋滞や大気汚染の問題から、サイゴ
ン港の市外(ニャーベー群ヒエップフォック
港)への移転計画が進行中。2016年まで
に完全移転する。
国道51号線
• 拡幅工事中
LRT (計画)
• トゥーティエム-ニョンチャック-ロンタイン間
フーミー港
• 1996年開港、25ha
• フランス・ノルウェー・ベトナムのJVであるBaria
Sereceが運営
(ヒエップフォック港)
カイメップ・チーバイ港群
• 1996年フーミーターミナル開港が始まり
• 大型船が寄港可能な深海港であり、南シ
ナ海ルートのゲートウェイとして開発進行中
• 2013/4時点で4港開港。将来的には14
港開港予定
タンカンカイメップ国際ターミナル(TCIT)
• 2011年開港、40ha
• 商船三井、サイゴンポートの他、韓国・台湾の
企業のJVが運営
カイメップ国際コンテナターミナル
• 2013年開港、日本のODA
カイメップ国際ターミナル(CMIT)
• 2011年開港、48ha
• サイゴンポート、APMT、VINALINESのJVが運営
出所:各種公開情報より日本総研作成
18
図表 ホーチミン近郊における交通インフラ計画
出所:各種の公開資料
(参考)ロンタイン国際空港の建設検討状況
ロンタイン空港建設計画は、政府承認を得たものの、コスト面が課題となり国会審議の
段階にある。現地側では 2023 年に開港するとの見方もある。
新空港建設の背景にはホーチミン市のタンソンニャット空港のキャパシティオーバーが
ある。同空港では次の 2 年間でキャパシティを大幅に超えるとみられ、対応策としてロン
タイン空港の建設が一層喫緊の課題となる。このプロジェクトには 3 段階のフェーズがあ
り、第 1 フェーズだけでも投資額は 78 億米ドルにのぼる。国債、ODA、公的な金融機関や
商業銀行からの融資を通して調達される見通しだが、コスト面での不安は拭えない。中央
政府は 2014 年 10 月、空港計画案を承認したが、その後の国会審議では早期建設に対する
慎重論が多く、今期での採択は見送られた。一方で、
「借金しても必要なら作る」、
「10 年後
あるいは 30 年以降に実行すれば公的債務への影響や国民負担が小さい」等の意見もあり、
次期国会での承認を期待される声もある。こうした一連の動向を受け、金融機関現地法人
はロンタイン空港建設の大きな課題はコストと土地の収用であると指摘し、
「タンソンニャ
ット空港の拡張の話も土台に挙がっている」、「ロンタイン空港建設の検討は進められてお
り、2023 年までの開港は実現されるのではないか」との見方を示している。
95
3.2.1.2. AEC 周辺のハイテクパーク・タウンシップ開発動向
AEC の差別性を検討するため、既存の工業団地の状況を概観する。ホーチミン市近郊の
中で、特に多くの大手外資企業が入居する 2 つの工業団地とホーチミン市近郊で唯一設置
されているハイテクパークを以下に紹介する。
【ベトナム・シンガポール(VSIP)工業団地】
ビンズオン省にて 1996 年に VSIP-I が、2006 年に VSIPII の第一期、2008 年に VSIPII
の第二期が開発。Vietnam-Singapore Industrial Park JV Company が開発事業主であり、
主な業種は、VSIP-I では裾野製造業、電機電子、縫製や靴等の軽工業等、VSIP-II では裾
野製造業、電機電子、自動車部品等。日東電工や三菱重工などが入居する。
VSIP概要
名称
VSIP I – Binh Duong
地図
VSIP II - Binh Duong
所在地
VSIP, Thuan An Town, Bing Duong, Vietnam
設立年
1996
①2006 ②2008
開発事業主
Vietnam-Singapore Industrial Park JV Company
開発事業費
27億US$
①15.2億US$
②6.34億US$
500ha
①345ha
②1700ha(工業1000ha)
237(内、日系53)
①133(内、日系27)
②69
面積
入居企業数
(2014/1)
土地価格
USD55~/m2 (最長リース期間:2058年まで)
開発状況
VSIP II 第二期工事中。完成時、開発事業費は20
億USドル、企業数は200を想定
特徴
主な業種は、VSIP-Ⅰは裾野製造業、電機電子、
縫製や靴等の軽工業等。VSIP-Ⅱは裾野製造業、
電機電子、自動車部品等。
他に、北部のバクニン省(2007)、ハイフォン市
(2010)、クアンガイ省(2013)にVSIPを開発。
主な立地企業
外観
出所:VSIPウェブサイト、㈱IBT報告書
日東電工、三菱重工、HOYA、ジーエス・ユアサ
図表 VSIPの概要
出所:VSIP ウェブサイト、(株)BT 報告書
【ロンドウック工業団地】
2012 年にベトナム南部のドンナイ省に設立。双日、大和ハウス等の共同投資による工業
団地であり、LIXIL の入居を機に大手日系企業が次々と入居した。ホーチミン市近郊の工
業団地の中で最も価格の高い工業団地である。
96
ロンドウック工業団地概要
名称
LONG DUC INDUSTRIAL PARK
所在地
An Phuoc Ward and Long Duc Ward, Long Thanh
District,Dong Nai Province,Vietnam
設立年
2012年
開発事業主
LONG DUC INVESTMENT CO., LTD.
開発事業費
1億US$(約77億円)
株主
・Long Duc Investment Pte., Ltd.88%
(双日50.2%・大和ハウス工業39.9%・
神鋼環境ソリューション 9.9%)
・ドナフード(国営食糧公社) 12%
面積
総開発面積270 ha、工業区200 ha
入居企業数
2013年9月時点、日系企業14社
(2016年最大80社目指す)
土地価格
ー (最長リース期間:2057年まで)
開発状況
ー
特徴
主な立地企業
外観(2013.8月)
地図
マスタープラン
充実したインフラ施設・体制、常駐する日本人ス
タッフによるサポートシステムで、日系企業が8割
強をシェアする工業団地
LIXIL、テルモ、神鋼環境ソリューション
出所:ロンドウックウェブサイト、大和ハウスウェブサイト
29
図表 ロンドウック工業団地の概要
出所:ロンドウックウェブサイト、大和ハウスウェブサイト
【サイゴン・ハイテクパーク】
2002 年に、ベトナムで 3 番目のハイテクパークとしてホーチミン市内に設立。国営のサ
イゴンハイテク開発公社が開発事業主であり、日本電産やインテルなどのハイテク産業が
入居。ハイテク企業として認可されることで優遇を受けられる。
サイゴンハイテクパーク概要
名称
SAIGON HI-TECH PARK
所在地
Lot T2-3, ICDC Building, D1 Road, Hanoi
Highway, Saigon Hi- Tech Park, District 9, Ho
Chi Minh City, Vietnam
設立年
2002年
開発事業主
サイゴンハイテク開発公社
開発事業費
24億US$
面積
入居企業数
総開発面積913ha、工業区300ha
外観
77(2014年5月現在)
土地価格
一期USD0.6~1.0/m2/年
二期USD0.8~6.0/m2/年
開発状況
第二期工事は2014年までに完成予定
特徴
主な立地企業
地図
ハイテク企業として認可されると企業活動期間
(通常50年間)10%の法人税減免。利益計上年
度後4年間は免税、その後9年間は半減される。
日本電産株式会社、インテル(アメリカ)
出所:サイゴンハイテクパークウェブサイト、㈱IBT報告書
30
図表 サイゴンハイテクパークの概要
出所:サイゴンハイテクパークウェブサイト、(株)BT 報告書
97
(参考)サイゴンハイテクパークの魅力
55 の工業団地と輸出加工地に囲まれ、ホーチミンのダウンタウンから 15 ㎞、国際空港か
ら 18Km の好立地といった条件を有する。また、ベトナム南北を結ぶナショナルハイウェ
イ(ハノイハイウェイ)と、バンコク―プノンペン間を結ぶ Trans Asia Belt Highway の交流
地点に存在するという物流の面での利便性を持つ。2020 年にはサイゴン・ハイテクパーク
を通るホーチミン最初の地下鉄が開通することも決まっている。また、2km 圏内に HCMC
National University が立地しており、ホーチミン市内だけでなく、サイゴン・ハイテクパ
ーク内のテナント企業に対する貴重な人材供給源となっている。
中央政府、省政府からのホットラインが設けられており、政府からの援助は手厚い。ハ
イテクパークに拠点を持つテナント企業に対しては、研究開発費に対して省政府の基金を
使った積極的な金銭的支援がなされる。税制面での優遇もあり、法人所得税については、
最初の 4 年間納税を免除され、次の 9 年間において 5%、その次の 2 年間において 10%、
以降 22%の税率で課税さる仕組みになっている。輸出入関税や消費税など付加価値税にお
いても、一部条件下で免税となる。例えばハイテク企業に対して、付加価値税及び輸出税
が完全に免税される。
その他、テナント企業に対しては、サイゴン・ハイテクパークを管理する委員会より、
土地のリースや資金融資といった環境面での支援に加え、技術審査から労働許可や建設許
可の承認といった充実したサービスが提供される。
パーク内に設立された様々な施設も、このサイゴン・ハイテクパークの強みである。科
学的な研究や技術開発を進める研究所や、ICT やナノテクノロジー、バイオテクノロジ、
再生可能エネルギーなどに注力しているインキュベーションセンターがサイゴンハイテク
パーク傘下の NPO 団体によって運営されているほか、トレーニングセンターも存在する。
トレーニングセンターでは英語教育や職能教育、技術分野における人材育成のための海外
留学の機会を提供するといった、人材育成面での機能に加え、パーク内のテナント企業に
学生のインターンシップ生を派遣したり、技術産業への人材派遣を行う機能もある。
3.2.1.3. AEC 周辺の関連する賃料価格動向
AEC の適正な賃料水準の設定を検討するため、現状の需給バランスと周辺エリアの賃料
動向を把握した。まず、オフィス、テナント賃料を各国で比較すると、北京やシンガポー
ル、香港等の先進国と比べ低いものの、周辺のバンコクやクアラルンプールなどの中進国
と比べて高いことがわかる。住宅(駐在員向け、高級住宅)においても同様の傾向がみら
れる。経済力の水準が相対的に低いにもかかわらず不動産価格が中進国と比べ高水準にあ
ることから、ベトナムの主要都市の不動産に対する需要が高まっていることが推測される。
98
店舗スペース/ショールーム賃料
事務所賃料
(USドル/㎡/月)
(USドル/㎡/月)
ハノイ:35
ホーチミン:31
ハノイ:123
ホーチミン:67
出所:JETRO「第24回アジア・オセアニア主要都市・地域の投資関連コスト比較(2014年5月) 」
図表 事務所賃料
図表 店舗スペース/ショールーム賃料
出所:JETRO「第 24 回アジア・オセアニア主要都市・地域の投資関連コスト比較(2014 年 5 月)
駐在員住宅借上料
都市別高級住宅賃料
(USドル/平方フィート/月)
(USドル/月)
ハノイ:2,745
ホーチミン:2,433
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
北
京
図表 駐在員住宅借上料
出所:JETRO「第24回アジア・オセアニア主要都市・地域の投資関連コスト比較(2014年5月)」
出所:JETRO「第 24 回アジア・オセアニア主要都市・地域
の投資関連コスト比較(2014 年 5 月)
上
海
広
州
深
セ
ン
シ
ン
ガ
ポ
ー
ル
バ
ン
コ
ク
ホ
ー
チ
ミ
ン
ク
ア
ラ
ル
ン
プ
ー
ル
デ
リ
ー
ム
ン
バ
イ
北京、上海、広州、深セン、クアラルンプール、デリー、ムンバイはグロス、
それ以外はネットでの賃料
出所:CBRE「Asia Luxury Residential MarketView Q3,2013」を基に日本総研作成
図表 都市別高級住宅賃料
出所:CBRE「Asia Luxury Resicential Market
View Q3, 2013」を基に日本総研作成
次にベトナム・ホーチミン市における賃貸オフィスの需給バランスを概観すると、経済
成長を背景に、継続してホーチミン市のオフィス需要が供給を上回っている状況であり、
2014 年四半期目の空室率は 10%弱となっている。増加する需要に対しオフィス建設はあま
り進んでいないことが、賃貸料の安定化と低空室率の維持に寄与しているという一面もあ
る。しかし実際、オフィスの質によって需給バランスは異なり、中心業務地区(CBD)に
おいて、小規模または中規模で平均的なレベルの部屋は、需要に対し供給量が足りている
が、高品質かつ管理の行き届いたオフィスはまだ供給が足りていないという状況にある。
99
図表 ホーチミン市におけるオフィスの賃貸料と空室率の推移
出所:CBRE Vietnam, Q4 2014
賃貸サービス・アパートの需給状況を概観すると、2014 年を通じて新規供給は限られ、
空室率は低下した一方で、賃貸料は上昇している。2015 年には賃貸料はさらに上昇すると
見られる。これは新規供給の不足や数件の建設案件において賃貸料の引き上げが既に決定
していることが要因である。また、空室率は次の建設案件の立ち上げまでは低下するとみ
られ、2015 年下半期まで続くと予想される。一方で中心業務地区における日系企業や多国
籍企業、第 9 地区での韓国やシンガポールのテナントの需要動向をみると、継続して需要
が増加することが見込まれる。
図表 ホーチミン市におけるサービス・アパートの賃貸料と空室率の推移
出所:CBRE Vietnam, Q4 2014
100
3.2.1.4. 現地の開発主体
ホーチミン近郊における大手工業団地の開発を行う主要な現地企業を以下に紹介する。
国営企業であり、複数の工業団地開発を行っている。工業団地の質は高く、多くの日本企
業が入居している。
【ベカメックス】
1976 年にベトナム南部のビンズオン省に設立。ビンズオン省が株式を 100%保有し、主
に都市開発、工業団地の開発運営、交通インフラ整理などを行う。また、金融、建設、不
動産、IT、医療など様々な分野において 28 社の従属会社を拡大している。最近では、ビン
ズオン省以外での開発投資も行っており、例えば北中部のゲアン省で大規模な「ベカメッ
クス・ゲアン工業都市サービス区」の開発を計画している。
組織図
ベカメックス概要
企業名
Becamex IDC Corporation
業種
都市開発、工業団地の開発運営、交通インフラ
整理など
住所
230 Binh Duong Avenue, Thu Dau Mot City,
Binh Duong Province
設立
1976
資本金
5兆5千億VND(275百万US$)*
売上高
-
株主構成
従業員数
特徴
トピックス(直近1年の動向)
ビンズオン省100%
 ベカメックス、北中部ゲアン省で大規模な「ベカメックス・ゲアン工業
都市サービス区」の開発を計画。総面積は1,475ha(2014/7)
3,922人
証券、財政、保険、銀行、建設、商業、不動産、
サービス、通信、IT、コンクリート製造、建築資材、
鉱産開拓、薬品、医療、教育など様々な分野に
おける28社の従属会社を拡大してきた。
 VSIPクアンガイ、総額2億ドルを誘致(2014/6)
 ベカメックス東急は、南部ビンズオン省のビンズオン新都市で商業施
設に着工した。敷地面積3万3,025㎡(2014/4)
出所:ベカメックスwebサイト、NNAニュース
図表 ベカメックス社の概要
出所:ベガメックスウェブサイト、NNA ニュース
【ソナデジ】
1990 年にベトナム南部のドンナイ省に設立。売上高約 USD1 億 1000 万(2012 年)
、従
業員約 6000 人で、工業団地開発を行う。国有企業であるため、国家管理機関との行政手続
きを行う際に、多くの好条件が整えられている。アマタのパートナーとして 23 の子会社を
持ち、12 ヶ所の工業団地を管理。
ソナデジがパートナーシップを結ぶ各国の企業の中で、日本企業の投資総額 17 億 8934
万ドルがトップである。ドンナイ省とバーリア・ブンタウ省の工業団地には、北陸アルミ
ニウム、味の素、オリンパス、富士通、久光、三洋などの企業が進出している。
101
ソナデジ概要
企業名
外観
Sonadezi Corporation
業種
工業団地開発
住所
No.1 Road 1, Bien Hoa 1 Industrial Park, Bien
Hoa City, Dong Nai Province, Vietnam
設立
1990
資本金
約3億6千百万US$
売上高
約1億1千万US$
(2012年)
株主構成
国有
従業員数
約6,000人
特徴
工業団地地図
SONADEZI がパートナーシップを結ぶ
各国の企業の中で、日本企業の投資総額
17億 8934万ドルはトップである。
ドン・ナイ省とバーリア・ブンタウ省の
工業団地には、北陸アルミニウム、
味の素、オリンパス、富士通、久光、
三洋などの企業が進出している。
• アマタのパートナー
• 23の子会社
• 12ヶ所の工業団地を管理
出所:ソナデジウェブサイト
34
図表 ソナデジ社の概要
出所:ソナデジウェブサイト
3.2.2 開発コンセプトの検討
3.2.2.1. ASC の潜在顧客像
潜在顧客像
ホーチミン市近郊では、大手電子・電機企業といったハイテク産業による生産拡大や一
部開発活動の実施、ハイテクパークへの入居傾向が見られる。また、ベトナムの内需や消
費者の趣向の変化を背景に、食品加工や消費財等の産業によるベトナム市場向けの製品開
発活動が活発化している。AEC では、こうした産業に属する企業を主要な候補として、潜
在顧客像を検討していくこととした。
3.2.2.2. ASC のコンセプト
開発コンセプト
ホーチミン市近郊の企業の投資動向及び、南部経済回廊や経済統合を背景としたベトナ
ムのポジションに基づき、AEC では、ベトナムの今後の産業発展を見据えつつも、タイと
の役割分担を考慮した開発コンセプトの設定が求められる。
タイが今後自動車産業やその関連産業の現地開発の基幹拠点の受け皿となる一方、ベト
ナム、特にホーチミン近郊では、タイの拠点と連携しつつ、ベトナム内需向けの製品開発
や輸出向けの生産の受け皿となるエリアの開発が求められる。こうした観点から、AEC は、
タイの ASC までのサービスレベルを整備するよりも、ASC との連携を視野にいれながら、
ミドルスペックのサービス提供を想定したエリアとしていくことを想定した。
AEC は、タイに近いレベルの活動環境を確保可能なエリア開発の先進例とする。既存の
競合ハイテクパークとの差別性も考慮し、エリアの付加価値向上に繋がるタウンシップ機
102
能も含めた複合開発を行うこととした。
3.2.2.3. AEC のゾーニング
近年のホーチミン市近郊における産業動向や不動産事情を鑑み、AEC を、ハイテク産業
に向けた工業団地(ハイテクパーク)と大規模タウンシップの 2 つのゾーンから構成され
るエリアとして検討を進めている。特にタウンシップ開発においては、ホーチミン市一極
集中である現状から、自動車所有率の上昇に伴ってベトナム人及び外国人滞在者の活動範
囲が拡大し、今後ホーチミン市中心部から近郊へ居住エリアが広がっていくことが想定さ
れる。AEC ではその流れを取り込むことを見据えている。
ハイテクパークの対象産業には、ベトナム政府も重点産業と置いているバイオテクノロ
ジーや半導体、電子産業などを、タウンシップには外国人労働者の居住施設やホテル、コ
ンベンショナルセンター、ヘルスケアセンター等の設置を想定している。今後は、アーバ
ンプランナーと共に、ゾーニングと土地利用計画の検討を進めていく。
3.3. インフラ・スマートサービスの検討
3.3.1. 基本的なサービスイメージの検討
3.3.1.1. 開発コンセプトの実現に必要なサービスメニューと実現イメージ
AEC で提供されるスマートサービスにおいては、ASC におけるサービスをベースとしな
がらも、タイと比べた対象産業の違いや立地企業の活動内容の違いを考慮し、立地企業の
需要に合わせてローカライズさせる方法で、サービス内容やサービスレベルを検討した。
また、今後スマートサービスをタイ・ベトナム等へ面的に展開させることを見据え、タイ
で構築されたプラットフォームを活用し、ベトナムにおいても一体的なサービス提供の実
現を目指す。タイとベトナムで共通のプラットフォームを活用することで資産の共有化を
図ることが出来るだけでなく、タイとベトナム間でのデータ連動による新サービスの創出
が可能となる。このようなことを踏まえ、今後インフラの効率化や企業の域内サプライチ
ェーン構築支援を促進するサービス開発を検討していくこととした。
3.4. 事業の検討
3.4.1. 事業概要及び体制の基本検討
3.4.1.1. 開発コンセプトを実現する事業の概要と事業体制イメージ
市場環境及び事業環境を踏まえ、AEC で想定する事業内容は次の通りである。AEC で実
施予定の事業は、ハイテク産業向けの工業団地(ハイテクパーク)運営事業とタウンシッ
プ開発事業及びインフラ事業から構成される。ハイテクパークでは、現地の入居企業の需
要動向を捉え、それに合わせたインラフ整備と生産活動に関わる付加価値サービスの提供、
借地権の販売、レンタル工場の整備等を行う。タウンシップエリアでは、政府からの取得
103
を前提に都市機能を中心とした不動産開発事業と付加価値サービスの提供を行う。
来年度以降、テストマーケティング等を通じて、より顧客ニーズを反映させた事業内容
を検討する。
また、ASC と同じ事業構造かつ同じサービス提供主体を想定することにより、AEC の実
施体制の構築において以下の 3 点の効果を得ることができると考える。
① ASC と同じ事業体により期待されるタイとベトナムの相乗効果
② ASC で共同検討を実施したローカルパートナーの巻き込みによる検討スピードの加速
化
③ ローカルパートナーの巻き込みによるカントリーリスクの低減
① ASC と同じ事業体による面的展開を図ることで、プラットフォームの共通化による初
期導入コストの低減と、それに伴うより大きなリターン水準や、都市開発ノウハウの
横展開が期待できる。また、面的展開を検討する上で、タイと共通化を図れる部分は
共通化、それ以外をローカライズさせ、ローカライズの検討には、ベトナムのインフ
ラ整備状況、立地企業のニーズや居住者・就労者の所得水準を考慮する必要がある。
インフラ整備等現地事情も踏まえ、短期・長期それぞれの事業展開の方向性の検討も
行った。
② 現状のベトナムの工業団地・都市開発の構造的な特徴を念頭に、ローカルディベロッ
パーとの長期的なパートナーシップに基づく事業展開を見据え、事業体制を検討した。
短期的な視点を持つローカルディベロッパーが多い中で、産業基盤の付加価値化に都
市機能やスマート技術を位置付け、そのノウハウを日本企業から得ることを積極的に
検討する先端的なビジョンを有するローカル企業と組むことが、プロジェクトを前進
させることに大きく寄与する。そのような観点から、アマタ社の 100%子会社であるア
マタベトナム社のビジョンや実績を鑑み、組むべきローカル企業と判断した。
③ タイと異なり共産主義国であるベトナムでは、土地の所有権を得られないこと等の商
慣習や多くの現地ディベロッパーが政府系で占められているといった事業環境が存在
する。その中でアマタベトナム社はベトナムに進出して約 20 年が経つ。その間、ホー
チミン近郊を代表する工業団地開発を成功させ、現地政府とのネットワークを構築し、
今では現地政府からの信頼も獲得しつつある。現地ディベロッパーに頼らざるを得な
い手続きの迅速化やカントリーリスクの回避に、このような実績と経験のある企業と
パートナリングを組むことが重要である。
3.4.1.2. 現地ステークホルダーの情報
ASC の検討を通じて構築されたアマタ社との関係性に基づき、アマタ社が展開する付加
価値の高い新たな開発 PJ において、共同検討の可否の提示を受けた。アマタ社はベトナム
の現地法人である Amata Vietnum 社を本 PJ のインベスターとし、PJ 実施に向けた現地
104
政府との調整を進めている。
以下に現地ステークホルダーの概要と実績を示す。
Amata Vietnum 社の概要
アマタ社は約 20 年前にベトナムのローカルディベロッパーであるソナデジ社とのジョイ
ントベンチャーとして Amata Vietnum 社を設立し、アマタビエンホア工業団地の開発を皮
切りに、ベトナム北部・南部のそれぞれで工業団地開発を行っている。売上高は約 640 百
万バーツであり、タイと同様に工業団地開発と運営、インフラサービスを提供している。
Amata Vietnum 社ではローカル人材を中心とした組織体制を構築し、現地ニーズの収集や
ベトナム政府とのネットワーク構築を強化している。
アマタベトナム社の組織図
アマタベトナム社の概要
会社名
Amata (Vietnam) Joint Stock
Company
設立年
1994年
CEO
Mrs. Somhatai Panichewa
設立経緯
ソナデジ社とAmataPCLのJV。2012年
以降はAmataVNPCLが約7割を出資
※1 AmataVNPCLは2012年にタイの
持株会社として設立
※2 ソナデジ社はベトナムドンナイ省の
省政府系工業団地ディベロッパーであり、
年間約1億1千万(US$)を売上げる
売上高
約640百万バーツ
事業内容
工業団地開発・運営
インフラサービス など
※Amata Asia社は、香港拠点に海外事業を統括する
アマタの100%出資子会社
図表 アマタベトナム社の概要
出所:アマタベトナム社のホームページ
Amata Vietnam 社の実績
Amata Vietnam(約 70%)とソナデジ社(約 30%)の合弁会社によって、1994 年にド
ンナイ省ビエンホア市に設立された。700ha の広さに 130 社以上の企業が進出し、日本企
業が全体の 50%程度を占める。ペプシや資生堂、ワコール、三洋、東芝、花王などが入居
する。元来工業団地開発に強いアマタだが、アマタビエンホアの開発を通じて、タウンシ
ップ開発ノウハウをアマタシティロンタンとアマタクアンニンに展開することがアマタベ
トナムの戦略である。
105
タウンシップ開発ノウハウをアマ
タシティロンタンとアマタクアンニ
ンに展開するのがアマタベトナム
の戦略。
アマタビエンホア工業団地
 1994年設立。ドンナイ省ビエンホア市に位置
し、面積は700 ha。ホーチミン市から約30k
m。
 企業進出数は130社以上に及び、内日本企
業が50%程度を占める。主要産業は、化学・
プラスチック・塗料、繊維・衣服、機械・機器・
鉄鋼 等
 主要な入居企業は、ペプシ、資生堂、ワコー
ル、ネスレ、三洋、東芝、花王、ブラザー、ア
ムウェイ 等
 開発主体はソナデジ社との合弁会社である
Amata (Vietnam) Joint Stock Company
( AMATAV(約70%)とSonadezi(約30%) )
商業・居住ゾーン
工業団地ゾーン
図表 アマタビエンホア工業団地の概要
出所:アマタ社のホームページ
106
第4章
南部経済回廊での面的開発検討
南部経済回廊エリアの今後の発展性を見据え、タイを起点にタイプラスワンと位置付け
られる国々で、企業のグローバルサプライチェーンの構築に向けた拠点整備が進むと想定
される。そして従来にはなかった近距離間でのサプライチェーンの構築が経済統合によっ
て促進される中で、サプライチェーン全体の付加価値の向上及び企業活動の受け皿となる
産業基盤の付加価値開発が求められるようになるであろう。本章では、ASC、AEC といっ
た産業基盤の付加価値開発事業を面的に展開する方向性について考察する。
4.1. ASC と AEC による面的なスマートコミュニティ開発の検討
4.1.1. AEC を起点とした市場開拓の方向性
日本企業により、グローバルサプライチェーンの再構築や ASEAN の現地拠点への権限
移譲が進められる中で、R&D や統括拠点などの高付加価値拠点を中心とし、周辺に生産拠
点を拡充し、そのマネジメントを高度化していく活動が ASEAN 内で進められると想定さ
れる。
特に南部経済回廊エリアにおいて、立地企業による国境を越えた分業体制の構築が進む
と見込まれる。企業の拠点投資の動きと歩調を合わせる形で、日本のスマートコミュニテ
ィの概念を導入した受け皿を面的に開発し、拠点間での機能やサービスの連携性を高める
ことは、拠点の付加価値を高め、入居企業の競争力を高めることに繋がる。
タイで先進的な ASC の事業化検討を進める一方、AEC でベトナムの経済成長に合わせたミ
ドルスペックのスマートコミュニティ開発の基本検討を行った。今後、タイ周辺国の主要
都市への展開も視野に入れ、ASEAN 諸国における日本企業のスマート技術の活用を推進す
ることで、南部経済回廊における面的開発の効果が一層高まると考えられる。
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