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岐阜市版 地中熱利用にあたってのガイドライン

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岐阜市版 地中熱利用にあたってのガイドライン
岐阜市版
地中熱利用にあたってのガイドライン
平成 27年3月
岐阜市自然共生部
自然環境課
はじめに
本ガイドラインは、平成 24 年 3 月に環境省より発表された「地中熱利用にあたってのガ
イドライン」にあわせて、岐阜市の特色である豊富な地下水を活用した地中熱利用の普及
を目指し、関連情報の提供及び事例に基づく活用方法などについて記載したものです。
地中に蓄えられる熱は、年間を通して安定した地中温度を示す特徴から、その活用は省
エネ対策としても大きな役割を果たす可能性があります。地中熱利用への関心は、東日本
大震災における原発事故の影響を受け急速に高まっており、マスコミ等で紹介されるケー
スも増えてきました。しかし、設備導入時のコスト高や、施設の大部分が地中に埋められ
ており太陽光や風力のように設備を直接目にすることがないため、国内における認知度は
低いという現状にあります。
再生可能エネルギーの中でも、最も身近にありながら「地中熱利用」という言葉を初め
て耳にする方も多いと思いますが、現在のエアコンが普及する以前に利用されていた水ク
ーラーも、夏に冷たい地下水をくみ上げて冷房に利用するという地中熱利用のひとつの方
法です。地下水は以前から空調に利用されており、地中熱を利用したヒートポンプも、空
気熱利用に用いるヒートポンプ同様に確立された技術です。地中熱ヒートポンプは、再生
可能エネルギー源の中でも「太陽光や風力と異なり天候や地域に左右されない安定性」、
「空気熱利用と異なり大気中へ排熱を出さない」、「省エネルギーでCO 2 の排出量を削
減できる」などのメリットを有し、ヒートアイランド現象の緩和や地球温暖化対策への効
果が期待されています。
岐阜市は、地下水資源に恵まれた地域であり、これまでも様々な用途に利用されてきま
した。地下水を熱源として利用するヒートポンプシステムは、他の方法と比べてより効率
的に熱交換を行うことができるため、地中熱利用において最も有効な方法とされています。
岐阜市では、これまでの地下水利用において顕著な地盤沈下現象や広域的な井戸障害等は
生じておらず、比較的安定した水位変動が続いています。この大切な地下水を今後も利用
していくため、地下水の利活用と保全の両方が適切に行われ、地中熱利用が普及しエネル
ギーの地産地消に寄与することを期待します。
なお、本ガイドラインの作成にあたっては、岐阜市地下水保全及び利活用検討委員会(委
員長:神谷 浩二、岐阜大学工学部 准教授)の委員の方々からご指導、ご助言をいただき
ました。ここに改めてお礼申しあげます。
平成 27 年 3 月
岐阜市自然共生部
自然環境課
目
1.地中熱利用ヒートポンプの概要
次
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.1
地中熱利用とは
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.2
地中熱利用ヒートポンプの仕組み
1.3
地中熱利用ヒートポンプのメリット
1.4
主な利用方式
1.5
用途と普及状況
1
1
・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
・・・・・・・・・・・・・・・・
2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
2.岐阜市に適した地中熱利用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.1
岐阜市の概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.2
岐阜市に適した地中熱利用方式
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3.システム導入に際しての課題と留意点
6
6
10
・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
3.1
地盤沈下への影響
3.2
地下水位低下への影響
3.3
3.4
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
水質への影響
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
19
水温への影響
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
22
4.地中熱利用方式の選定と調査項目
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
23
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
23
4.1
地中熱利用方式の選定フロー
4.2
利用方式の選定に必要な調査項目と方法
5.設計・施工上の留意点
・・・・・・・・・・・・・・
25
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
31
5.1
オープンループ方式
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
31
5.2
クローズドループ方式 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
6.モニタリング項目と方法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
36
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
36
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
39
6.1
オープンループ方式
6.2
クローズドループ方式
6.3
観測態勢の見直し及びモニタリングデータの活用
6.4
モニタリングシステム実施例
・・・・・・・・・・
40
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
41
1.地中熱利用ヒートポンプの概要
1.1 地中熱利用とは
地中の温度は、一般的には外気温と比べて年間を
通じた変化が小さく、その地域の年平均気温もしく
は+1~2℃程度といわれています(岐阜市における
過去10年間の年平均気温は約16℃です)。
このため、このような地中の熱を夏は冷熱源とし
て、冬は温熱源として空調等に利用することができ
ます。夏や冬は、外気温と地中の温度差が大きくな
ること、空気よりも熱容量の大きな地下水や地盤と
図 1-1 季節による地中温度の変化イメージ
(資料:環境省パンフレット「地中熱利用システム」)
熱をやりとりすることにより、広く用いられている空気を熱源とするヒートポンプよりも効
率的にエネルギーが利用できます。また、空気を熱源とするヒートポンプの冷房とは異なり、
外気に熱を放出しないので、都市部にお
けるヒートアイランド現象の緩和にも貢
献できます。
図 1-2 安定した地中温度を利用するメリット
(資料:環境省パンフレット「地中熱利用システム」)
図 1-3 地中熱ヒートポンプのイメージ
(資料:環境省パンフレット「地中熱利用システム」)
1.2 地中熱利用ヒートポンプの仕組み
ヒートポンプとは、水や不凍液等の熱媒体を循環させて高い温度の物体(空気、水、地中
等)から熱を奪い、低い温度の物体(空気、水、地中等)に伝える装置です。家庭のエアコ
ンや冷蔵庫は、一般的にこの技術を用いて空気との間で熱をやりとりしています。地中熱利
用ヒートポンプは、地中との間で熱交換を行う点が異なりますが、技術的には同じものです。
図 1-4 ヒートポンプで地中と熱をやりとりする仕組み
(資料:岐阜市パンフレット「地中熱の利用について」)
- 1 -
1.3 地中熱利用ヒートポンプのメリット
◆メリット①
省エネルギー性
空気熱源ヒートポンプを地中熱ヒートポ
ンプシステムに切り替えた場合のランニン
グコストを、オフィスビルについて試算す
ると、年間の電気料金は 21%の削減が見込
まれます(図 1-5 左図)。また、暖房や融雪
試算条件:冷房 能力 40kW、 暖房能 力
45kW、平日のみ 1 日 10 時間運転、消費
電力はメーカー各社平均値、電力は東京
電力低圧電力
利用における油焚ボイラーの場合は、燃料
代と電気料金の合計で 77%の削減が見込ま
れます(図 1-5 右図)。
◆メリット②
試算条件:A 重油ボイラー出力 93kW、地
中熱ヒートポンプ暖房能力 95kW、150 日
×22 時間運転、消費電力はメーカーカタ
ログ値、電力は北海道電力融雪用電力 B
図 1-5 ランニングコストの試算例
(資料:環境省パンフレット「地中熱利用システム」)
CO2 排出量削減効果
消費電力の削減は電力使用による CO2 排
出削減につながります。オフィスビルにお
ける年間の CO2 排出量を試算すると、地中
熱ヒートポンプは、空気熱源ヒートポンプ
に比べ 25%の削減が見込まれます(図 1-6
左図)。また、積雪寒冷地などで暖房や融雪
に使う油焚ボイラーと地中熱ヒートポンプ
を比較すると、油焚ボイラーに比べ 66%の
試算条件:A 重油ボイラー出力 93kW、地中
熱ヒートポンプ暖房能力 95kW、150 日×22
時間運転、消費電力・燃料消費量はメーカ
ーカタログ値、電力の CO2 排出係数は北海
道電力調整後係数(H23)
図 1-6 CO2 排出削減量の試算例
(資料:環境省パンフレット「地中熱利用システム」)
削減が見込まれます(図 1-6 右図)。
◆メリット③
試算条件:冷房能力 40kW、暖房能力
45kW、平日のみ 1 日 10 時間運転、消費
電力はメーカー各社平均値、CO2 排出係
数は東京電力調整後係数(H23)
高い汎用性
太陽光や風力などの再生可能エネルギーの場合には、天候や場所等による制約があります
が、地中熱はどこでも利用が可能であり、また、空調や給湯のほか融雪等様々な用途にも使
用が可能な汎用性があります。
◆メリット④
ヒートアイランド現象の緩和
空気熱源ヒートポンプでは、冷房時に発生
する熱を大気中に放熱するため、都市部で問
題となっているヒートアイランド現象の一因
となっています。
一方、地中熱ヒートポンプは地下水や地中
で熱交換を行い、排熱を大気中に放出しない
空気熱源ヒートポンプ
地中熱ヒートポンプ
写真 1-1 ヒートポンプ室外機の比較
(資料:環境省パンフレット「地中熱利用システム」)
ので、その普及はヒートアイランド現象の緩
和に寄与します。
- 2 -
1.4 主な利用方式
地中熱利用ヒートポンプは、地中との熱のやりとりの方法によって大別するとオープンル
ープ方式とクローズドループ方式に分けられます。
(1)オープンループ方式(図 1-7)
揚水した地下水と地上で熱をやり取りした後に、還元用の井戸や浸透枡などの設備を介し
て地下水を地中に戻したり、または排水路や河川などへ放流します。熱容量が大きい地下水
を利用できることから熱効率は高い反面、地中への地下水還元が困難な場合や、揚水によっ
て地盤沈下が懸念されることから揚水規制のある地域では採用できない場合があります。
図 1-7 オープンループ方式の概要図
(資料:岐阜市パンフレット「地中熱の利用について」)
(2)クローズドループ方式(図 1-8)
水や不凍液などの熱媒体を地中に挿入したパイプ内に循環させて、地中で地下水や地盤と
熱のやり取りを行います。オープンループ方式に比べて熱交換の効率は低いものの、地下水
を揚水しないため揚水規制のある地域でも導入が可能な方式です。
図 1-8 クローズドループ方式の概要図
(資料:岐阜市パンフレット「地中熱の利用について」)
1.5 用途と普及状況
地中熱は、国内では主に住宅・事務所・公共施設等での冷暖房・給湯や道路融雪に利用さ
れていますが、その他に工場、学校、店舗、農業施設(温室など)等にも幅広く利用されて
います(図1-9)。海外では日本に比べて地中熱利用ヒートポンプの普及が進んでいますが、
国内の設置件数も近年急速に増加しています(図1-10、図1-11)。背景には、確実に省エネ
が達成でき環境に配慮した技術であること、国の補助金制度も整いつつあり設置費用が下が
っていること、東日本大震災以降国内における再生可能エネルギーへの関心が高まったこと
などが考えられます。
- 3 -
図 1-9
図 1-10
図 1-11
地中熱ヒートポンプシステムの導入箇所別設置件数(2013 年末)
(資料:環境省 ホームページより)
地中熱ヒートポンプシステムの都道府県別設置件数(2013 年末)
(資料:環境省 ホームページより)
地中熱ヒートポンプシステムの年間及び累計設置件数(2013 年末)
(資料:環境省 ホームページより)
- 4 -
■参考事項
「水クーラー」、「エアコン」、「地中熱利用ヒートポンプ」の違い
● 「水クーラー」
井戸からくみ上げた地下水を室内機に直接送水し、気温より低い水温の特徴を活か
して室内を冷やします。
● 「エアコン」
室内機と室外機の間を循環する冷媒は、空気を熱源とするヒートポンプ技術によっ
て熱交換が行われ、冷暖房を行います。
● 「地中熱利用ヒートポンプ」(オープンループ方式)
室内機と室外機の間を冷媒が循環する方式はエアコンと同じですが、地下水を熱源
とする地中熱利用ヒートポンプにより熱交換が行われます。
「水クーラー」
図-1
「エアコン」
「地中熱利用ヒートポンプ」
「水クーラー」、「エアコン」、「地中熱利用ヒートポンプ」のイメージ
地中熱利用ヒートポンプ導入にかかるコスト
地中熱利用ヒートポンプ設備の
導入においては、揚水井戸や熱交
換井の掘削に費用がかかるため、
通常の冷暖房システムよりコスト
が高くなる傾向があります。
地中熱利用ヒートポンプの出力
規模とコストの対応は、事例によ
って幅はあるものの、オープンル
ープ方式では出力1kWあたり概
ね 10~30 万円、クローズドルー
プ方式では出力1kW あたり概ね
25~60 万円程度です。
このように高額な施設ですが、
図-2
ヒートポンプ出力あたりのイニシャルコストの事例
※設備事業者へのヒアリングによる
(資料:「地中熱利用にあたってのガイドライン」、
環境省水・大気環境局、H24.3)
既存井戸が利用できる場合や補助金制度を利用できる場合はコストを下げることもでき
ますので、省エネルギー性と環境性を考慮し、導入を検討してみてください。
- 5 -
2.岐阜市に適した地中熱利用
2.1 岐阜市の概要
(1)地形
岐阜市街地の多くは、長良川によって形成された扇状地面に分布しています(写真2-1)。
この扇状地は、扇頂部を百々ヶ峰から金華山に連なる山塊に接し、西方および南方に向かっ
て順次高度を減じています。
長良堀田付近での扇頂部の標高は約25m、島や加納南陽町付近の扇端部の標高は約10mで、
この間の距離約6kmから地表面の勾配は概ね1/400程度となっています。なお、長良川扇状地
は西側に広がる根尾川扇状地に連続するもの
と考えられ、これら扇状地に連なる氾濫平野
には、後背湿地のほか旧河道の分布を示す自
然堤防の発達が随所にみられます(図2-1)。
長良堀田
加納南陽町
後背湿地
写真 2-1
図 2-1 岐阜市周辺の地形分類図
(資料:「地中熱利用可能性調査」,岐阜市,H23.3)
長良川扇状地に広がる岐阜市街地
(2)気象
東京管区気象台・岐阜地方気象台における過去10年間の月降水量を図2-2に、日平均気温、
日最高気温、日最低気温の経年変化を図2-3に示します。岐阜市では夏季に200~300mm、冬季
には50~100mm程度の月降水量がみられます。また、気温では夏季の日最高気温が32~35℃、
冬季の日最低気温はほぼ 0℃となっています。
500
400
月
降
水
量
300
200
(mm)
100
0
2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12
H16
H17
H18
H19
図 2-2
H20
H21
月降水量の経年変化
- 6 -
H22
H23
H24
H25
50
日最高気温
過去 10 年間の年平均気温 16.2℃
40
日平均気温
日最低気温
30
気
20
温
10
(℃)
0
-10
2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12
H16
H17
H18
H19
図 2-3
H20
H21
H22
H23
H24
H25
日平均気温、日最高気温、日最低気温の経年変化
(3)地質・地盤
図 2-4 は、岐阜市内 4 地点のボーリング柱状図を示したものです。南部の後背湿地と呼ば
れる地域(①)は、地表部から柔らかい粘土層が厚く堆積しており、その下部に帯水層とな
る砂礫層の分布がみられます。これに対して、長良川の両岸に広がる扇状地(②・③)は、
地表から砂や礫を主体とする砂礫層が厚く堆積しており、その厚さは 100m 以上に達していま
す。なお、市街地周辺の山地に近接する地域(④)には、周囲を山に囲まれた洞地形が所々
みられます。このような場所では、地表部に軟弱な粘土層の分布がみられることがあります。
④
③
②
後背湿地
①
柱状図位置
図 2-4
岐阜市内の主なボーリング柱状図
(4)地下水
図 2-5 は、岐阜市内で観測が続けられている地下水位定点観測地点(図 2-6)について、
月平均地下水位の経年変化を示したものです。地下水位の経年的な変化は、横ばいかわずか
に上昇傾向を示しています。また、岐阜市市街部の地下水の潜在的な賦存量は約 14 億トンと
推定され、長良川から濃尾平野全域に 1 日で約 130~160 万トンもの水が地下に自然に涵養さ
れると考えられています。
- 7 -
標高 (m)
16
15
中西郷井
14
13
12
11
10
地
9
下
8
水
7
位
6
西改田井
前一色井
萱場井
天満公園井
5
柳津井
4
月
総
降
水
量
(mm)
3
華 陽 フロン ティア 井
2
600
1
400
0
200
-1
S58 S59 S60 S61 S62 S63 H01 H02 H03 H04 H05 H06 H07 H08 H09 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H26
年
図 2-5
月
岐阜市内の定点観測地点における月平均地下水位経年変動
-27-
三輪井
中西郷井
西改田井
萱場井
天満公園井
前一色井
華陽フロンティア井
柳津井
図 2-6
岐阜市内の地下水位定点観測地点位置図
- 8 -
0
図 2-7 と図 2-8 は、岐阜市内の地下水面の分布を地下水位等高線図(図 2-7)、地下水面等
深線図(図 2-8)として描いたものです。岐阜市内は、長良川流路を境に北側市街地では東
から西に、南側市街地は、北から南に向けて地下水面が傾斜しており、地下水の流れる方向
がわかります。また、渇水期の地表面から地下水面までの深度分布を表した図 2-8 では、多
くの地域で地表から深度 3~5m 程度に地下水面が分布しています。
:地下水の流れ
(単位:T.Pm)
図 2-7
(単位:m)
地下水位等高線図(H25.7)
図 2-8
地下水面等深線図(H26.2)
図 2-9 は、岐阜市内の深度 20m 付近における地下水温の分布を夏季と冬季について描い
たものです。市街地周辺は年間を通じて 17~18℃の水温を示していますが、長良川流路に
夏季 (H25.7)
冬季 (H26.2)
図 2-9 地下水温等値線図
(資料:「平成 25 年度豊水期・渇水期地下水位観測調査報告書」,岐阜市,H25.3)
- 9 -
沿った市街地は、季節的に地下水温が大きく変化する特徴がみられます。特に、金華山周辺
の長良川橋を中心とする地域は、夏季の水温が冬季に対して最大で 4~5℃程度低下する特徴
がみられます。
図 2-10 は、岐阜市内の約 500 箇所の消防用水利を対象に行われた水質調査の結果より、
「冷
凍空調機器用水質ガイドライン」に示され
る水質基準(表 4-5)に対する適合性を示
したものです。計 8 項目の基準項目に対す
る適合性は、長良川扇状地に該当する市街
地中心部において良好な特徴がみられます。
長良川
なお、水質基準を満足しないエリアにおい
ても、プレート式熱交換器等を設置すれば、
水質基準を満足
するエリア
オープンループ方式での地中熱利用は可能
金華山
です。
【冷凍空調機器水質基準項目】
・pH(25℃)
・電気伝導度(25℃)
・塩化物イオン
・硫酸イオン
・酸消費量
・全硬度
水質基準を満足しな
いエリア(着色部)
・カルシウム硬度 ・イオン状シリカ
2.2
木曽川
図 2-10 基準項目に対する適合性
(資料:「地中熱利用可能性調査」,岐阜市,H23.3)
岐阜市に適した地中熱利用方式
岐阜市では、地中熱ヒートポンプシステムにおいて豊富な地下水を活用できる利点があり、
熱交換効率の良いオープンループ方式の採用に適しています。特に、利用、未利用に関わら
ず敷地内に既存井戸がある場合は、その井戸を熱源として活用することも可能で、設備の設
置に伴う初期コストを抑えることができます。また、オープンループ方式では熱交換後の地
下水の処理方法によって、地中に戻す還元型と排水路へ直接放流する放流型とに分けられま
す。岐阜市では、地表部から砂や砂礫地盤が分布する場合が多く、地域によっては還元井と
比べてより低コストな浸透枡を用いた還元方式を採用することも可能です。ただし、岐阜市
内でも市街地周辺部の山地に近接する地域などで地下水利用が難しい場合には、クローズド
ループ方式の検討が必要になります。
(1)オープンループ方式・還元型
地下水還元型のオープンループ方式は、揚水井戸とは別に複数の還元井戸を設けるのが一
般的ですが、岐阜市の場合、長良川扇状地面のように地表部から透水性の良い砂礫層が分布
する地盤条件では、浸透枡方式の採用も可能です。浸透枡方式では、比較的簡易な設備で地
中に還元することができ、目詰まりによる還元量の減少に対しても容易にメンテナンスする
ことが可能です。
なお、大規模施設や地下水流速の小さい地域において還元型が採用された場合、地中への
熱負荷の蓄積が進むため、既設井戸が密集する市街地などでは近接井戸に対して水温面での
影響が及ぶ場合もあるため注意が必要です。
- 10 -
■事例①
「みんなの森ぎふメディアコスモス」
中心市街地に位置する複合施設で
は中央図書館や市民活動交流センタ
ー及び展示ギャラリー等が設置され
ています。この施設の空調設備には
熱源の一部に地下水を利用したオー
プンループ方式が採用されており、
熱交換後の地下水の一部は、敷地内
を流下するせせらぎに再利用された
後、流末部に設置された浸透枡を介
浸透枡設置箇所
して地中への還元が行われます。
■事例②
図 2-11 みんなの森ぎふメディアコスモス (仮称)憩い・にぎわい広場
(平成 25 年度第 1 回岐阜地中熱利用研究会講演資料より,岐阜市,H25.9)
「T社」
岐阜市日光町地内にあるT社
は、事務所(3 階建て、空調床面積約 400m2)の空調設備の更新に際して、未利用の既存井戸
を活用したオープンループ方式を採用しています。冷房能力 68kW、暖房能力 73kW の地中熱
ヒートポンプ 1 台と室内機 7 台で空調を行っていますが、同施設では、透水性の良い砂や礫
からなる地盤が地表部から分布するため、浸透枡により熱交換後の地下水を地中に還元する
方式が採用されています(図 2-12)。
室内機
水冷式地中熱ヒートポンプ
還元用浸透枡
▽
水中ポンプ
図 2-12
浸透枡を用いたオープンループ方式のイメージ
(2)オープンループ方式・放流型
地下水放流型のオープンループ方式は、熱交換後の地下水を隣接する排水路に直接放流す
ることから、設備のコストを抑えることができます。また、岐阜市の場合、長良川扇状地を
流れる都市河川の一部では維持流量の確保が難しい区間もみられます。このような河川に対
しては環境水確保の点でも流域での放流型の採用はメリットがあると言えます。ただし、利
用する地下水量に対して排水路の規模が小さい場合には採用できないことがあるため事前調
査が必要となります。
- 11 -
■事例①
「岐阜市役所・本庁舎」
岐阜市役所・本庁舎(空調床面積 14,000m2)では、井水槽に貯留した地下水を冷温水発生
機の冷却水として利用して冷房空調用の冷水を製造し、利用後の排熱を含む地下水を地下の
排水路に放流する方式が採用されています(図 2-13)。冷房空調稼働日の揚水量は約 1,000m3/
日(平成 19 年度実績)で、そのうち、冷房空調の冷却水として約 800m3/日(約 8 割)が利
用された後に排水路へ放流されています。
図 2-13 岐阜市役所・本庁舎における空調方式イメージ
(資料:「大型施設での地下水揚水型冷房機器の長期稼働に伴う
地下水・地盤環境への影響評価事業報告書」、環境省、H19)
■事例②
「Y社」
岐阜市本荘地内にあるY社は、地下水を製造工程で利用するだけでなく、空調用の水冷式
インバータエアコンに利用しています。空冷式の室外機の設置が困難な場合に有効であり採
用されました。熱交換後の地下水は、河川への放流により農業用水としても利用されていま
す。
■事例③
「F社」
岐阜市下奈良地内にあるF社は、地中熱ヒートポンプ空調システムを備えたモデルハウス
において、タンクにためた地下水の中に不凍液を循環させて熱交換するシステムが採用され
ており、熱交換後の地下水は排水側溝に放流されています(図 2-14)。
地盤状況により異なりますが、5kW の地中熱ヒートポンプ(室内機含む)2 台と約 20m の井
戸掘削を含めての初期費用は 180 万円程度です(F社ホームページより)。
図 2-14 住宅における地中熱ヒートポンプシステム採用例
(資料:岐阜市パンフレット「地中熱の利用について」)
- 12 -
(3)クローズドループ方式
山地に近接する市街地周辺地域は、帯水層となる砂礫層の層厚が小さいことが多く、必要
な地下水量を確保出来ない場合があります。また、岐阜市は地下水のくみ上げに関わる規制
はないものの、軟弱な粘性土地盤が厚く分布する市街地南部の氾濫平野では、過剰な地下水
利用が局所的な地盤沈下の原因になることもあります。一方、環境基準等で定める有害物質
を含む地下水を揚水した場合、水質汚濁防止法に定める排水基準以上のものを河川等の公共
用水域に放流しないようにする必要があります。また、地中に還元する場合にも、有害物質
が検出された地下水を還元しないようにする必要があります。従って、このような地域で地
中熱を利用するには、クローズドループ方式の検討が必要になります。
■事例①
「O社」
関市内にある配管資材の総合メーカーO社では、事務所棟(RC造5階建)の新設に伴って、
1~3階の冷暖房にクローズドループ方式の地中熱ヒートポンプシステムが導入されています
(図2-15)。地中熱交換では深度100m×28本のボアホール方式のほかに、管延長900mの水平埋
設方式が採用されており、敷設用地には普段駐車場として使われている調整池が活用されて
います。
図 2-15
事務所棟及びシステム外観と地中熱ヒートポンプシステム系統図
- 13 -
3.システム導入に際しての課題と留意点
オープンループ方式による地中熱ヒートポンプシステムを導入する場合には、地下水のく
み上げに伴う地盤沈下への影響や周辺地下水位低下による浅井戸での井戸枯渇等が課題にな
ります。また、熱交換後の地下水処理では、河川や排水路など公共用水域への放流、及び地
中への還元に際して、水質や水温への影響が課題になることがあるため留意する必要があり
ます。
3-1 地盤沈下への影響
地盤沈下とは、図 3-1 に示すように粘土層の間にある礫や砂層などの間隙に閉じ込められ
た地下水が、過剰な揚水により粘土層から絞りだされ、その粘土層が収縮することにより地
面が沈む現象のことを言います。
濃尾平野では、昭和 30 年代から 50 年代初めにかけて、南部地域を中心に過剰な地下水の
くみ上げに起因する地盤沈下が発生し、特に木曽川河口周辺では累積沈下量が最大 1.5m に達
しました。このため、昭和 60 年 4 月には「濃尾平野地盤沈下防止等対策要綱」が閣議決定(平
成 7 年 9 月一部改正)され、現在でも名古屋市を中心とする愛知県西部地域や三重県北部地
域は規制地域に指定されています。岐阜県では、地下水利用に対する規制はありませんが、
同要綱において岐阜市や大垣市を含めた西濃地域一帯が観測地域に指定されており、地盤沈
下量や地下水位の継続的な観測が続けられています。
岐阜市の場合、このような地盤沈下が懸念される地域は、軟弱な粘土層が比較的厚く堆積
する南部域や、市街地周辺部の山地に囲まれ局所的に軟弱な粘性土層が分布する地域に限ら
れます。このような地域では、地盤沈下を発生させるような過剰なくみ上げに留意する必要
があり、対応策としてクローズドループ方式の採用が検討対象になります。
図 3-1 地下水の過剰くみ上げにより地盤沈下が起こる理由
(資料:岐阜市パンフレット「地中熱の利用について」)
3.2 地下水位低下への影響
一般に井戸から地下水のくみ上げが行われると、周辺部では図 3-2 に示すようなすり鉢状
の水位低下が生じます。この場合の水位低下の及ぶ範囲を影響圏といい、くみ上げ時間やく
み上げ時の井戸内の水位低下量のほか、周辺地盤の土質や透水性によっても変化(数m~数
百m以上)します。このような影響圏の範囲に既設井戸、特に一般家庭にみられるような深
度 10~15m 程度の浅い打ち込み形式等の井戸があった場合、水位低下量の規模によっては井
戸の枯渇やくみ上げ量の減少といった障害が発生することがあります。
- 14 -
岐阜市の場合、図 3-3 や図 3-4 に示すように、市街地部を中心に既設井戸の分布が非常に
多くみられます。このため、オープンループ方式を採用する場合には、近隣井戸所有者との
トラブルを避ける目的で、あらかじめ周辺の地下水利用状況について確認しておくことが有
効です。
揚 水 井
影響圏
戸
既設井戸
既設井戸
井戸枯渇
水量減少
低下前の水位
▽
▽
図 3-2
くみ上げに伴う水位低下と影響圏模式図
■参考事項
地下水の涵養
地下水の涵養とは、降雨・河川水などが地下浸透して地下に水が供給されることです。
近年では、宅地化の進展、田畑の減少、森林の荒廃などにより地下水の涵養域が減少し、
地下への涵養量が減少していることが考えられます。
地下水は、限りある資源であり、将来にわたって安定して利用できるよう守り継いで
いく必要があるため、地下水を利用する者は、地下水の涵養について検討すべきであると
いう考え方があります。
地下水の涵養は、「雨水浸透枡の設置」、「透水性舗装の採用」、「緑地の拡大」等いろい
ろな手法があります。地下水利用者の規模等の実情にあった方法で、地下水の涵養を検討
してみてください。
雨水浸透枡のイメージ
(岐阜市ホームページより)
透水性舗装の例
(浜松市ホームページより)
- 15 -
都市緑化の例
(池田市ホームページより)
※対象井戸:岐阜市地下水保全届出資料
図 3-3 揚 水 井 の 分 布(平成 21 年度)
(資料:「地中熱利用可能性調査」,岐阜市,H23.3)
- 16 -
図 3-4 打 込 み 井 戸 の 分 布
(資料:「地中熱利用可能性調査」,岐阜市,H23.3)
- 17 -
また、岐阜市では、地下水及び土壌から汚染を守り地下水を適正に利用するとともに、そ
の涵養を図ることによって、市民の健康と生活環境を保護し秩序ある事業活動の促進を図る
ため、平成 15 年 4 月 1 日に「岐阜市地下水保全条例」が施行されました。同条例では、揚水
施設設置者に対する責務等が定められています。
なお、岐阜市内には大小の河川が流下していますが、河川法第 55 条により河川近傍(河川
区域境界から基本 28m 以内)での井戸掘削に際しては許可が必要になる場合があるため注意
が必要です。
■参考事項
オープンループ方式の地下水のくみ上げ量
部屋の向き、壁や窓の断熱性能、窓の大きさ、部屋の利用形態等によって空調に必要な
負荷が違うため、必要となる地下水量も異なりますが、例として次表のような揚水量が目
安となります。
表-1
建物事例とオープンループ方式の地下水揚水量
日揚水量(m 3/日)
施設及び規模
1戸建(規模: 5kW×2 基)
事務所(規模: 70kW×1 基)
工場(規模: 150kW×1 台)
冷暖房
冷暖房
冷暖房
市役所本庁舎(規模: 281kW×4 基)
参考
冷房
施設別の水使用量
1世帯(4 人家族)の 1 日水道使用量: 約 1m3
農業用井戸(市内A)の 1 日排水量: 約 400m3
製紙工場(市内C社)の1日地下水使用量: 約 10,000m 3
- 18 -
約
7~10
約
70~130
約
200~300
約
800
3.3
水質への影響
岐阜市では、平成12年11月~平成15年2月に実施したテトラクロロエチレン等に係る地下水
汚染調査によって、市内に汚染地区と要監視地区が判明しました(図3-5)。しかし、平成16
年度までに、汚染6地区のうち3地区では浄化対策が実施されるとともに、汚染地区及び要監
視地区での定点井戸においてモニタリング調査等が実施され、経年的に汚染状況や浄化対策
効果の把握が進められています。
地下水汚染地区等では環境基準等に定める有害物質を含む地下水が揚水されることが考え
られるため、水質汚濁防止法に定める排水基準以上のものを河川等の公共用水域に放流しな
いように検討する必要があります。
新粟野地区
上加納地区
長良川
JR 岐阜駅
鶯谷・殿町地区
南部地区
切通地区
国 道 21 号
厚見地区
木曽川
図 3-5 岐阜市地下水汚染調査結果エリア図
(資料:岐阜市自然共生部、自然環境課ホームページ)
- 19 -
三輪第 2
方県
三輪第 1
岩野田
黒野第 1 北
西郷
黒野第 1 南
黒野第 2
上芥見第 1
芥見野村
木田
雄総
日野第 2
日野第 1
鏡岩
1 日市場
本荘
市橋
下川手
佐波
柳津
:地下水の流れ
図 3-6 水道水源井戸の分布と地下水の流れ
(資料:岐阜市上下水道事業部ホームページ)
また、地中に還元する場合にも、水質汚濁防止法に定める特定地下浸透水の基準を超過し
た地下水については還元しないように検討する必要があります。
岐阜市は水道水源のすべてを地下水に依存しており、計 21 箇所(図 3-6,表 3-1)の上水道
水源地があります。さらに個人の飲用井戸も多く存在するため、水源地及び飲用井戸の近隣
地でオープンループ方式・還元型を計画する場合には、近隣井戸使用者とのトラブルを避け
るうえ還元水の水質チェックの検討が必要です。また、クローズドループ方式を採用する場
- 20 -
合にも、熱媒体として使用する熱交換器からの漏えいリスクの観点から、毒性のある素材を
避ける必要があります。
表 3-1
ブロック
鏡岩給水
柳津給水
水源地名
給水ブロック別井戸諸元
深さ(m)
種別
鏡岩
標高(m)
23.0
19
浅井戸
3
本荘
10.0
97
深井戸
2
市橋
9.6
110
深井戸
下川手
9.5
100
深井戸
2
2
柳津
6.7
130
深井戸
2
佐波
6.6
182
深井戸
1
17
雄総
22.0
11
2
浅井戸
13
一日市場
雄総給水
黒野第1
12.0
70
14.2
南
14.1
70
18.6
50
21.8
32
方県
65
40
岩野田
22.2
45
芥見給水
芥見野村
32.3
上芥見第1
32.2
40
第1
23.4
10
第2
22.3
21
日野
三輪給水
三輪第1
38.8
三輪第2
43.1
木田
木田給水
13.5
22.0
西郷
黒野第2
20.8
18.5
52
50
51
35
149
129
深井戸
2
2
深井戸
1
1
深井戸
1
4
1
深井戸
浅井戸
1
1
1
深井戸
1
2
深井戸
深井戸
2
1
1
2
深井戸
30.5
70
1
1
深井戸
45
31.5
2
1
50
53
1
1
深井戸
70
北
井戸数
1
1
深井戸
2
なお、一般的には地中熱ヒートポンプを用いた熱利用による地下水の水質の変化は小さく、
オープンループ方式・放流型の実証例として示した事例①の施設でも、図 3-7 に示すように
利用前後で明らかな水質変化は見られていません。
- 21 -
図 3-7 熱利用前後の地下水質の調査事例
(資料:大型施設での地下水揚水型冷房機器の長期稼働に伴う
地下水・地盤環境への影響評価事業報告書、環境省、H19)
3.4
水温への影響
ヒートポンプシステムを用いた地中熱利用では、冬季の暖房使用に対して地下水や地盤温
度は下がり、夏季の冷房使用では上がるため、地下水の流れが大きな場所では下流側へ熱が
伝わってしまう可能性があります。この場合、下流側の熱利用施設での効率低下、農業用水
として利用している場合の生育への影響、地下水を使用する飲食店・食品産業における製品
品質への影響等が考えられます。
岐阜市の場合も、長良川扇状地に広がる中心市街地では地下水の流れが非常に大きい特徴
があり、オープンループ方式・還元型やクローズドループ方式による地中熱利用に対しての
メリットは大きいといえます。しかし、密集市街地等は、上流側での還元や地盤中での熱交
換の影響が下流域の広範囲に水温変化の影響を及ぼす可能性があるため留意する必要があり
ます。あらかじめ周辺の地下水利用状況について確認しておくとともに、特に大規模な施設
を導入する場合には、モニタリングの実施を検討する必要があります。
オープンループ方式・還元型の事例②に紹介した施設は、還元用浸透枡の下流側(約 10m
程度離れた位置)に設けられたモニタリング孔において、還元水による周辺地下水温の変化
(±2~4℃程度)が観測されています。
- 22 -
4.地中熱利用方式の選定と調査項目
4.1 地中熱利用方式の選定フロー
岐阜市において地中熱利用方式の選定を行う場合の検討フロー例を図 4-1 に示します。
図中に朱色で記載した各調査・試験項目は検討に際して必要となる事項ですが、利用できる
既設井戸がない場合には、既往資料や近隣の井戸情報を参考にして推定する必要があります。
地中熱利用Start
熱負荷量の検討
既往資料調査 ( 既設井戸がない場合)
No
地下水利用
は可能か?
Yes
揚水量調査 ( 既設井戸がある場合)
水量は確保
できるか?
No
水質調査
(既設井戸がない場合は近隣井戸を利用)
Yes
No
環境基準等の水質
基準に適合するか?
Yes
無
排水路は
あるか?
有
流下能力調査
流下能力は
十分か?
No
Yes
還元方式を
採用するか?
No
Yes
試掘調査
地表部に透水
性地盤は?
無
有
オープンループ
(還元型・浸透枡)
オープンループ
(放流型)
図 4-1
オープンループ
(還元型・還元井)
地中熱利用方式の選定フローと調査・試験項目
- 23 -
クローズドループ
図 4-1 のフロー図に示す各検討項目について以下にまとめます。
地下水利用の可能性
敷地内に既設井戸が無く新規に井戸の設置を検討する場合には、対象となる地域での
地下水利用の可能性について、地質や既設井戸分布等に関する既存資料を収集するとと
もに、さく井業者等からの聞き取り調査を行ったうえで検討します。
必要水量確保の可能性
熱負荷量に対応できる地下水量が確保できるか否かについて検討します。既設井戸が
ある場合には現地において揚水量調査を実施し、得られた許容揚水量をもとに判断しま
す。また、新規に井戸の設置を計画する場合は、必要量を確保するための井戸径と深度
を検討します。
環境基準等への適合性
既往資料等にて地下水に環境基準等に定める有害物質が含まれる可能性のある場合は、
既設井戸もしくは近隣の井戸について、水質調査を行い、環境基準等への適合性を判定
します。
排水路の確認
対象地の敷地から排水できる排水路等の分布と経路を確認します。
流下能力の確認
①
排水可能な排水路がある場合、流下能力調査を行い地中熱利用後に排出される地下水
量が十分流下できる断面を有しているかについて確認します。
地表部の土質状況の確認
還元型のオープンループ方式を選定する場合、浸透枡が使用可能か否かを検討するた
めに、地表部(深度 3m 程度までの範囲)の土質状況を試掘調査により確認し、地盤の透
水性に基づいて判断します。
- 24 -
4.2
利用方式の選定に必要な調査項目と方法
図 4-1 に沿った地中熱利用方式の選定を行う場合には、必要に応じて、既存資料調査、揚
水量調査、水質調査、流下能力調査、試掘調査を実施する必要があります。
(1)既存資料調査
オープンループ方式による地中熱ヒートポンプシステムの導入に際しては、利用できる既
設井戸がない場合、以下に列記する資料等を参考に対象地域の地下水利用について可能性を
検討します。
■既存資料リスト
岐阜市自然共生部(TEL:058-265-4141)
・岐阜市環境白書:自然共生政策課
(http://www.city.gifu.lg.jp/18674.htm)
・地下水位定点定時観測調査報告書:自然環境課
(http://www.city.gifu.lg.jp/6984.htm)
・豊水期渇水期地下水位観測調査報告書:自然環境課
(http://www.city.gifu.lg.jp/6984.htm)
・平成 19 年度 地下水、地質情報把握・分析調査業務委託報告書:自然環境課
・平成 22 年度 地中熱利用可能性調査:地球環境課
(http://www.city.gifu.lg.jp/secure/10885/chichunetu_houkokusho110909shuusei
.pdf)
(2)揚水量調査
既設井戸を活用したオープンループ方式は、長期にわたり地下水位の大幅な低下を生じな
い範囲で、かつ継続的に取水できる許容揚水量を求める必要があります。このため、既設井
戸に対して以下に示すような段階揚水試験、連続揚水試験、回復試験を行い、熱負荷量に対
応できる地下水量が確保できるかを確認します。
① 段階揚水試験(図4-2)
揚水量を段階的に増加させながら、各揚水量に対
する井戸内の水位低下量を計測します。さらに両対
数紙上にプロットした両者の関係から直線の勾配が
水
変化する時の揚水量を限界揚水量として求めます。
位
一般的には、長期間にわたって継続的に取水できる
低
許容揚水量の目安は、限界揚水量の70~80%としてい
限界揚水量
下
量
ます。
許容揚水量=限界揚水量×(0.7~0.8)
なお、試験に使用したポンプの最大能力時でも限
界揚水量が確認できない場合には、最大揚水量を限
界揚水量と見なして検討することとします。
揚水量
図 4-2
(L/min)
段階揚水試験結果の例
② 連続揚水試験
段階揚水試験結果に基づく許容揚水量で長時間(24時間程度)にわたり連続揚水し、井
- 25 -
戸内の水位が安定的に保たれることを確認します。
③
回復試験
揚水停止後の井戸内の水位上昇を計測し、初期水位への回復状況を確認します。
(3)水質調査
オープンループ方式を採用する場合には、既設井戸もしくは既設井戸がない場合には近隣
の井戸を利用して、環境基準等で定める特定有害物質(表 4-1~表 4-4)を対象とした水質調
査の実施を検討する必要があります。
表 4-1
環境基準に定められる地下水の環境基準
カドミウム
0.003mg/L 以下
1,1,1-トリクロロエタン
1mg/L 以下
全シアン
検出されないこと
1,1,2-トリクロロエタン
0.006mg/L 以下
鉛
0.01mg/L 以下
トリクロロエチレン
0.01mg/L 以下
六価クロム
0.05mg/L 以下
テトラクロロエチレン
0.01mg/L 以下
砒素
0.01mg/L 以下
1,3-ジクロロプロペン
0.002mg/L 以下
総水銀
0.0005mg/L 以下
チウラム
0.006mg/L 以下
アルキル水銀
検出されないこと
シマジン
0.003mg/L 以下
PCB
検出されないこと
チオベンカルブ
0.02mg/L 以下
ジクロロメタン
0.02mg/L 以下
ベンゼン
0.01mg/L 以下
四塩化炭素
0.002mg/L 以下
セレン
0.01mg/L 以下
塩化ビニルモノマー
0.002mg/L 以下
硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素
10mg/L 以下
1,2-ジクロロエタン
0.004mg/L 以下
ふっ素
0.8mg/L 以下
1,1-ジクロロエチレン
0.1mg/L 以下
ほう素
1mg/L 以下
1,2-ジクロロエチレン
0.04mg/L 以下
1,4-ジオキサン
0.05mg/L 以下
表 4-2
環境基準に定められる公共用水域の環境基準
カドミウム
0.003mg/L 以下
1,1,2-トリクロロエタン
0.006mg/L 以下
全シアン
検出されないこと
トリクロロエチレン
0.01mg/L 以下
鉛
0.01mg/L 以下
テトラクロロエチレン
0.01mg/L 以下
六価クロム
0.05mg/L 以下
1,3-ジクロロプロペン
0.002mg/L 以下
砒素
0.01mg/L 以下
チウラム
0.006mg/L 以下
総水銀
0.0005mg/L 以下
シマジン
0.003mg/L 以下
アルキル水銀
検出されないこと
チオベンカルブ
0.02mg/L 以下
PCB
検出されないこと
ベンゼン
0.01mg/L 以下
ジクロロメタン
0.02mg/L 以下
セレン
0.01mg/L 以下
四塩化炭素
0.002mg/L 以下
硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素
10mg/L 以下
1,2-ジクロロエタン
0.004mg/L 以下
ふっ素
0.8mg/L 以下
1,1-ジクロロエチレン
0.1mg/L 以下
ほう素
1mg/L 以下
シス-1,2-ジクロロエチレン
0.04mg/L 以下
1,4-ジオキサン
0.05mg/L 以下
1,1,1-トリクロロエタン
1mg/L 以下
- 26 -
表 4-3
水質汚濁防止法の有害物質に係る基準(特定地下浸透水)
カドミウム及びその化合物
カドミウムとして 0.001mg/L 以下
シアン化合物
シアンとして 0.1mg/L 以下
有機燐化合物(パラチオン、メチルパラチオン、メチルジメ
トン及び EPN に限る)
0.1mg/L 以下
鉛及びその化合物
鉛として 0.005mg/L 以下
六価クロム化合物
六価クロムとして 0.04mg/L 以下
砒素及びその化合物
砒素として 0.005mg/L 以下
水銀及びアルキル水銀その他の水銀化合物
水銀として 0.0005mg/L 以下
アルキル水銀化合物
アルキル水銀として 0.0005mg/L 以下
PCB
0.0005mg/L 以下
トリクロロエチレン
0.002mg/L 以下
テトラクロロエチレン
0.0005mg/L 以下
ジクロロメタン
0.002mg/L 以下
四塩化炭素
0.0002mg/L 以下
1,2-ジクロロエタン
0.0004mg/L 以下
1,1-ジクロロエチレン
0.002mg/L 以下
1,2-ジクロロエチレン
シスとして 0.004mg/L 以下
トランス体として 0.004 mg/L 以下
1,1,1-トリクロロエタン
0.0005mg/L 以下
1,1,2-トリクロロエタン
0.0006mg/L 以下
1,3-ジクロロプロペン
0.0002mg/L 以下
チウラム
0.0006mg/L 以下
シマジン
0.0003mg/L 以下
チオベンカルブ
0.002mg/L 以下
ベンゼン
0.001mg/L 以下
セレン及びその化合物
セレンとして 0.002mg/L 以下
ほう素及びその化合物
ほう素として 0.2mg/L 以下
ふっ素及びその化合物
ふっ素として 0.2mg/L 以下
アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化
合物及び硝酸化合物
アンモニア性窒素として 0.7mg/L 以下
亜硝酸性窒素として 0.2mg/L 以下
硝酸性窒素として 0.2mg/L 以下
塩化ビニルモノマー
0.0002 mg/L 以下
1,4-ジオキサン
0.05mg/L 以下
- 27 -
表 4-4
水質汚濁防止法の有害物質に係る基準(排出水)
カドミウム及びその化合物
カドミウムとして 0.03mg/L 以下
シアン化合物
シアンとして 1mg/L 以下
有機燐化合物(パラチオン、メチルパラチオン、メチルジメ
トン及び EPN に限る)
1mg/L 以下
鉛及びその化合物
鉛として 0.1mg/L 以下
六価クロム化合物
六価クロムとして 0.5mg/L 以下
砒素及びその化合物
砒素として 0.1mg/L 以下
水銀及びアルキル水銀その他の水銀化合物
水銀として 0.005mg/L 以下
アルキル水銀化合物
検出されないこと
PCB
0.003mg/L 以下
トリクロロエチレン
0.3mg/L 以下
テトラクロロエチレン
0.1mg/L 以下
ジクロロメタン
0.2mg/L 以下
四塩化炭素
0.02mg/L 以下
1,2-ジクロロエタン
0.04mg/L 以下
1,1-ジクロロエチレン
1mg/L 以下
シス-1,2-ジクロロエチレン
0.4mg/L 以下
1,1,1-トリクロロエタン
3mg/L 以下
1,1,2-トリクロロエタン
0.06mg/L 以下
1,3-ジクロロプロペン
0.02mg/L 以下
チウラム
0.06mg/L 以下
シマジン
0.03mg/L 以下
チオベンカルブ
0.2mg/L 以下
ベンゼン
0.1mg/L 以下
セレン及びその化合物
セレンとして 0.1mg/L 以下
ほう素及びその化合物
海域以外 10
海域 230
ふっ素及びその化合物
海域以外 8
海域 15
アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化
合物及び硝酸化合物
アンモニア性窒素に 0.4 を乗じたも
の、亜硝酸性窒素及び硝酸性窒素の合
計量として 100
1,4-ジオキサン
0.5mg/L 以下
- 28 -
なお、地中熱ヒートポンプの機器選定やシステムの設計検討時に必要となる「冷凍空調機
器用水質ガイドライン」を対象とした水質項目(表 4-5)についても、装置の故障防止の観
点から水質調査を実施することが望ましいといえます。
表 4-5
地下水を熱媒体として直接使用する場合の冷却水・冷水・温水・補給水の水質基準値
(資料:「冷凍空調機器用水質ガイドライン」,日本冷凍空調工業会,1994)
- 29 -
(4)流下能力調査
オープンループ方式・放流型を採用する場合は、放流対象となる排水路が、降雨時等にも
熱交換後の地下水を処理しうる流下能力を有しているかを確認する必要があります。
調査の方法としては、排水路の断面形状(高さ、幅)と水路床の縦断勾配を測定し、以下
に示すマニングの公式から求めた流速に断面積を乗じて、排水路の最大の流下能力を算出す
る方法があります。また、放流量が流下能力以下となる場合には、同公式を用いて放流した
場合の水深を推定することもできます。
■マニングの公式
R=A/(L1+L2+L3)
L1
流水断面積A
L3
L2
※粗度係数:水路底や壁の「荒さ」を示すもの。
※径深:流水の断面積を水と接する部分の壁の長さで除したもの。
(5)試掘調査
オープンループ方式において、浸透枡を用いた地下水還元を採用する場合には、地盤の土
質特性、特に地表部の地盤が水を通しやすい砂や礫を主体とする土質から構成されている必
要があります。このため、浸透枡の採用可否を検討するためには、事前に地表部(深度 2~
3m 迄)の土質状況を試掘により調べておく必要があります。
- 30 -
5.設計・施工上の留意点
オープンループ方式・還元型では、必要な還元井や浸透枡の設計上の留意点、またクロー
ズドループ方式では、設計に必要な熱交換量の推定方法と熱媒体選定上の留意点等について
以下に示します。
5.1 オープンループ方式
(1) 還元井
使用後の水を地下へ還元する場合、還元井はできるだけ全水量の還元を目標に、以下の点
に留意して設置します。
・配
置:還元された水が揚水井へ戻り、熱効率を低下させることのないよう、距離
を離します。
・井戸本数:確実に還元するために必要な井戸本数とします。一般的には揚水井1本に
対し複数本の還元井が必要となります。
・構
造:対象の帯水層へ還元できるよう正しいケーシングの位置に調整します。ま
た目詰まり防止のためフィルターを設置するなど、適切な構造とします。
・維持管理:目詰まり防止のため、過大な圧力をかけない注入や、必要に応じた逆洗浄
等を行います。
図 5-1 還元井戸に関する留意事項
(資料:「地中熱利用にあたってのガイドライン」、環境省水・大気環境局, 改訂版)
- 31 -
(2) 浸透枡
地表部から透水性の良い砂礫層が分布する場合には、以下の点に留意して浸透枡を設置し
ます。
・設計基準:設計検討は、下記のマニュアルや指針を参考に行います。
①「(財)下水道新技術推進機構編:下水道雨水浸透施設技術マニュアル」
雨水浸透型施設の浸透能力の評価式
②「(社)雨水貯留浸透技術協会編:雨水浸透施設技術指針[案]」
調査・計画編
・配
単位設計浸透量の算定式
置:還元された水が揚水井へ戻り熱効率を低下させることのないよう、浸透
枡の配置や揚水井との距離に検討が必要です。
・構
造:目詰まり防止用のフィルター材は、地盤材料の粒径を考慮して選定しま
す。浸透枡内部の水質チェックや水位測定用のパイプ設置も検討します。
・維持管理:地下水の水質によっては、将来的な目詰まりに対応するため、逆洗浄用の
パイプを挿入することが望ましいといえます。
浸透枡構造図
図 5-2
写真 5-1
浸透枡構造図(例)
浸透枡設置状況(例)
- 32 -
5.2 クローズドループ方式
(1) 熱交換量
地中熱ヒートポンプシステムの性能を大きく左右するものの一つに地盤の熱特性、すなわ
ち熱の伝えやすさがあります。通常は有効熱伝導率が指標となり、この値が高いほど熱が伝
わりやすい地盤であることを示しています。
熱交換井深さ 1m 当たりの熱交換性能は、報告によると40W/m 程度と言われていますが、
実際は大きな幅があり、地質構成、地下水の有無、熱交換器のサイズ、U チューブの素材、
熱交換井の充てん剤の有無・素材、温度条件等に左右されます。
① 地質柱状図による推定
地盤は複数の地層が複雑に積み重なっているところが多いため、地盤調査で作成される地
質柱状図を入手するのが望ましく、地質がわかれば表 5-1 に示すような推定表を用いて、地
中熱交換器として使用する深さの範囲で各層の厚さ毎に加重平均し、平均的な有効熱伝導率
を算出することができます。ただし、局所的に地下水の流れが期待できる場所であれば、予
測よりもかなり高い採放熱性能が得られる可能性があります。特に、岐阜市のような河川に
隣接する扇状地地域では、大きな地下水流速を有している可能性があり、このような地域で
は非常に大きな熱交換性能が期待できることになります。
表 5-1 土壌・岩盤の有効熱伝導率と熱容量
(資料:「地中熱ヒートポンプシステム」,北海道大学地中熱利用システム工学講座)
有効熱伝導率[W/(m・K)]
熱容量[MJ/(m 3・K)]
飽和
不飽和
飽和
不飽和
1.53
1.19
3.03
2.15
礫
2.0
-
-
-
シルト
1.44
-
-
-
粘
土
1.27
0.92
3.13
2.14
火山灰
1.18
0.90
3.05
2.01
泥
1.22
0.88
3.20
2.07
1.0
0.72
-
-
砂
砂
炭
ローム層
岩(重量)
3.1
-
岩(計量)
1.4
-
花崗岩
3.5
-
② 熱応答試験(サーマルレスポンステスト)による推定
出力規模に応じた必要な熱交換井の深さを定めるため、対象地点における熱交換性能を把
握する方法として、熱応答試験(サーマルレスポンステスト)があります。
熱応答試験は、地中に実際に熱媒体を循環させ、その温度変化から地盤の熱特性を推定す
る方法です。熱応答試験を実施するためには、試験孔の掘削が必要ですが、適切なシステム
- 33 -
設計のために地盤の熱特性を把握する場合や、大規模施設の建設時に何本の熱交換井が必要
かを予め調査する場合等に有効です。
熱応答試験は、図 5-3 に示すように地中熱交換器を試験機に接続して行われます。最近で
は、人力でも搬送可能なコンパクトな試験機も開発されています。試験機は主にボイラー(電
気又は灯油)、循環ポンプ、温度センサー,流量計、電力計、データロガーなどで構成され
ています(図 5-4)。電気ボイラを用いる場合には供給電圧が安定していることが望ましく、
試験中は停電のないよう注意することが重要です。また、熱損失の影響をできるだけ少なく
するため、地上配管はなるべく短くなるよう工夫し、十分な断熱を行うことが必要です。基
本的には、熱媒体は水で問題無いですが、凍結の恐れがある場合には不凍液を使用します。
図 5-3 熱応答試験装置の概念と有効熱伝導率の推定方法
(資料:「地中熱ヒートポンプシステム」,北海道大学地中熱利用システム工学講座)
図 5-4 熱応答試験装置の例
(資料:「地中熱ヒートポンプシステム」,北海道大学地中熱利用システム工学講座)
- 34 -
(2)熱媒体
地中との熱交換を行う熱媒体は、以下の項目に留意し必要な性状を満たす素材を選定する
必要があります。
使 い や す さ:価格、入手の難易、不燃性、腐食耐性、低粘性など
熱 的 特 性:比熱、熱伝導率、凍結温度、熱安定性など
環 境 影 響:毒性がない、生分解性など
熱媒体は、様々な素材がありますが、腐食耐性・不燃性から国内ではエチレングリコ
ール、プロピレングリコールが広く用いられています。これらのうち、エチレングリコール
は人体に対して毒性があるため、漏えいリスクの観点から海外では法的規制や使用の制限が
ある国もあります。また、プロピレングリコールは生物に対し無害ですが、エチレングリコ
ールよりも高価格であることや低温になると粘性が高くなるといった面もあります。また、
冷房運転が主体の場合、熱媒体として水を使用することもあります。
岐阜市では、水道水源の100%を地下水に依存しており、さらには飲用井戸を所有する世帯
も多い等の理由から、毒性のある熱媒体の使用は避ける必要があります。
表 5-2 熱媒体の性状
(資料:「地中熱利用にあたってのガイドライン」,環境省水・大気環境局, 改訂版)
(3)凍結
暖房時においては、地中から過度に採熱してしまうと地盤温度が低下し土中の温度が0℃
以下となり、凍結を引き起こす可能性があります。これを防ぐには、熱媒体が0℃以下とな
らないような適切な設計・運用や、過度な連続暖房運転を避けることが重要です。また、熱
交換井からの横引き配管部分では、凍結してしまうと地面の隆起(凍上)が発生する可能性が
あり、断熱材で覆う等の措置が必要な場合があります。
(4)定期点検項目
以下の項目を定期的・継続的に確認することが、熱効率を低下させることなく持続的に運
用するためには有効です。
熱媒体温度:設計上の温度と大きく異なる温度になっていないことを確認します。
媒体循環量:設計上の循環量と大きく異なっていないことを確認します。また、熱媒体
温度と循環量により、地中への放熱量を把握することもできます。
- 35 -
6.モニタリング項目と方法
地中熱ヒートポンプシステムの導入に際しては、オープンループ方式での揚水に伴う周辺
地下水位低下のほか、クローズドループ方式も含めて地下水・地盤温度への影響と地下水質
への影響が懸念されます。このため、地中熱ヒートポンプシステムを長期にわたって安定か
つ安全に運用させるためには、システムの稼働によりどの程度の省エネルギー・CO2 排出削減
効果、地下水・地盤環境への負荷(環境負荷の発生)や影響(環境状態の変化)を生じてい
るかを確認するため、事業者の自主的な判断の基にモニタリングの実施がもとめられます。
ここでは、環境省水・大気環境局による「地中熱利用にあたってのガイドライン」より地下
水・地盤環境への負荷や影響について、オープンループ方式およびクローズドループ方式に
対するモニタリング項目と方法を表 6-1~表 6-3 にまとめます。
「基本項目」・・・採排熱量の小さい施設など、周辺の地中熱利用や地下水地盤環境への
影響の可能性が低いと推定される施設において日常の運転管理を主な
目的としつつ、同時に「省エネルギー・CO2 排出削減効果」、「環境負
荷の発生」を概略的に把握するための項目
「補足項目」・・・採排熱量の大きい施設など、周辺の地中熱利用や地下水地盤環境への
影響の可能性に留意する必要がある施設において実施することが望ま
しいものとして、負荷の結果生じる「環境状態の変化」をできるだけ
直接計測するための項目
6.1
オープンループ方式
(1)揚水による地下水位低下への影響のモニタリング
揚水による地下水への負荷の蓄積(経年的に徐々に水位低下)や過大な変化(大幅な水位
低下)を防ぐため、地下水位を定期的に確認する必要があります。地下水位は降雨や季節変
動による影響も受けるため本来は連続観測が望ましいものの、定期観測としても、観測時期
の天候や季節を考慮すれば変化の傾向を評価することができます。また、揚水中と揚水停止
中のそれぞれの期間で地下水位を計測し、揚水停止中に地下水位が通常時の状態まで回復す
るか否かを確認することも、持続的に地下水を利用するためには有用です。揚水水量は、揚
水量が設計時に想定した水量から大きく乖離していないか確認します。さらに、揚水量の規
模が大きくなる場合には、近辺の井戸や新たに設けた観測用の井戸で、水位観測の実施を検
討する必要があります。
表 6-1
モニタリング項目
揚水井水位
揚水水量
周辺地下水位
地下水位低下への影響のモニタリング項目
実施時期・頻度
基本項目
定期観測
○
常時観測
定期観測
補足項目
○
○
常時観測
○
定期観測
○
※常時観測には自動計測器を使用
- 36 -
(2) 地下水の還元による水温・水質への影響のモニタリング
(3) 設計時に想定した揚水の水温や還元水の水温が大きく乖離していないかを調べるため、
定期観測や常時観測を実施します。また、還元水量についても、設計時の想定水量から
大きく乖離していないかを定期観測や常時観測によって確認します。還元水位は、還元
井の水位がどの程度変動しているか確認します。水質については、システム導入前に設
備の腐食・スケール防止に関する項目及び環境基準等に定める有害物質等を対象に実施
しますが、使用開始後も簡易に計測できる電気伝導率や pH の定期観測や常時観測により
大きな水質の変化がないことを確認します。
表 6-2
モニタリング項目
揚水水温
還元水位
還元水温
還元水量
還元水質
水温・水質への影響のモニタリング項目(還元水)
実施時期・頻度
基本項目
定期観測
○
常時観測
定期観測
○
○
常時観測
定期観測
○
○
常時観測
定期観測
○
○
常時観測
定期観測
補足項目
○
○
常時観測
○
※常時観測には自動計測器を使用
(4) 放流先水域の水温・水質への影響のモニタリング
設計時に想定した揚水の水温や放流水の水温が大きく乖離していないかを調べるため、定
期的もしくは常時観測を実施します。また、放流水量についても、設計時の想定水量から大
きく乖離していないかを定期観測や常時観測によって確認します。
水質については、システム導入前に、設備の腐食・スケール防止に関する項目および環境
基準等で定める有害物質を対象に実施しますが、使用開始後も簡易に計測できる電気伝導率
や pH の定期観測や常時観測により大きな水質の変化がないことを確認します。
- 37 -
表 6-3
モニタリング項目
水温・水質への影響のモニタリング項目(放流水)
実施時期・頻度
基本項目
定期観測
○
揚水水温
放流水温
放流水量
放流水質
常時観測
定期観測
○
○
常時観測
定期観測
○
○
常時観測
定期観測
補足項目
○
○
常時観測
○
※常時観測には自動計測器を使用
(5) モニタリングシステム
モニタリングシステムは、「還元型」と「放流型」で異なります。
① オープンループ方式・還元型
オープンループ方式・還元型では、導入前に確認する項目のほかに、基本項目は「揚水
井水位」、「揚水水温」、「揚水量」、「消費電力」、「還元水位」、「還元水温」、「還
元水量」、「還元水質」の 8 項目になります。また、補足項目において、これらの 8 項目
を高頻度で測定する場合は、自動記録器の設置による常時観測と記録を行います。
図 6-1 オープンループ方式・還元型のモニタリングイメージ
(資料:「地中熱利用にあたってのガイドライン 改訂版」,環境省水・大気環境局,H27.3)
- 38 -
② オープンループ方式・放流型
オープンループ方式・放流型では、導入前に確認する項目のほかに基本項目は、「揚水
井水位」、「揚水水温」、「揚水量」、「消費電力」、「放流水温」、「放流水量」、「放
流水質」の 7 項目になります。また、補足項目において、これらの 7 項目を高頻度で測定
する場合は、自動記録器の設置による常時観測と記録を行います。
図 6-2 オープンループ方式・放流型のモニタリングイメージ
(資料:「地中熱利用にあたってのガイドライン 改訂版」,環境省水・大気環境局,H27.3)
- 39 -
6.2 クローズドループ方式
(1) 地下水・地盤温度への影響のモニタリング
クローズドループ方式は、ヒートポンプの熱媒体の温度を地中熱交換器の入口部と出
口部で計測します。なお、熱媒体温度は外部から計測ができないため、計測するには温
度計及び温度値を読み出すシステムを追加する必要があります。
また、熱媒体循環量を把握するため、熱媒体チューブ流量計を設置して計測するか、
循環ポンプに電力計を設置して消費電力から流量を推定します。
以上の熱媒体温度と熱媒体循環量の観測頻度は、小規模システムでは定期観測を、大
規模システムでは常時観測を行います。さらに、大規模システムでは、熱交換井に温度
計を設置(帯水層を中心に深度 10~20m 毎程度に設置)し、地下水・地盤の温度変化を
定期的に測定します。
表 6-4
モニタリング項目
地下水・地盤温度への影響のモニタリング項目
実施時期・頻度
基本項目
定期測定
○
熱媒体温度
常時観測
○
定期測定
熱媒体循環量
地下水・地盤温度
補足項目
○
常時観測
○
定期測定
○
※常時観測には自記温度計、自記流量計を設置
■参考事項
周辺域の地下水・地盤温度
クローズドループ方式による地下水・地盤温度や地下水質への影響を直接把握する
には、近隣への大きな温度変化や帯水層に大きな水質変化をもたらしていないことを
確認するため、熱交換井から離れた敷地境界付近でも地下水や地盤の温度、地下水質
を観測することが有効です。ただし、地下水流動の上流側や下流側以外(影響を受け
ないバックグラウンドの確認)と下流側(影響の確認)において観測用の井戸を設け
る必要があり、地下水の流動方向の確認や観測用井戸の掘削など、他のモニタリング
項目に比べ測定の手間や費用が大きくなります。このため、地下水・地盤温度につい
ては、通常、熱媒体の状態把握により地下水・地盤温度への影響が過大でないことの
確認、地下水質では、近隣井戸や採水用に設けた井戸の調査から、周辺域の地下水質
への影響が生じていないことの確認を想定しています。
表-1
周辺域への影響のモニタリング項目
モニタリング項目
実施時期・頻度
基本項目
補足項目
周辺域の
地下水・地盤温度
定期測定
○
周辺地下水質
簡易項目の定期測定
○
※簡易項目:電気伝導率、pH
- 40 -
(2)モニタリングシステム
クローズドループ方式において定期的に測定する項目としては、「一次側熱媒体温度」と
「一次側熱媒体循環量」、「消費電力」の 3 項目です。また、大規模システムにおいて、こ
れらの 3 項目を高頻度で測定する場合は、自動記録器の設置による常時観測と記録を行いま
す。
図 6-3 クローズドループ方式のモニタリングイメージ
(資料:「地中熱利用にあたってのガイドライン 改訂版」,環境省水・大気環境局,H27.3)
6.3 観測態勢の見直し及びモニタリングデータの活用
岐阜市では、これまで地下水利用に伴う水位への影響や地下水汚染の監視を目的として、
地下水位と地下水質に関する定点での定期観測や常時観測が続けられてきました。
しかし、今後は、地中熱利用の増大に伴って新たな地下水採取や地下への還元の機会が増
えることが考えられ、これまでの水位と水質に加え水温を含めた地下水環境のモニタリング
体制の整備が必要となることも考えられます。特に、市街地における大規模施設での利用や
住宅密集地域での地中熱利用では、広域的な地下水環境の変化も予想されるため、平成 26
年度より中心市街地において地下水位だけでなく、地下水温の観測を開始しています。
岐阜市の観測データや個々の事例のモニタリングデータは、今後、新たに地中熱ヒートポ
ンプシステムの採用を考える場合に、方式の選定や設計条件の検討を行う上での基礎的な情
報となるものです。また、環境に与える影響の評価や、より効率的で環境に与える負荷の小
さな地中熱利用ヒートポンプの開発等を行う場合にも貴重な情報と言えます。この情報は、
- 41 -
大学や民間企業または公的な研究機関等で広く活用され、地中熱利用の普及につながること
を期待します。
6.4 モニタリングシステム実施例
岐阜市内で実施されているオープンループ方式による地中熱利用施設でのモニタリング例
を以下に示します。
当該施設では、熱交換後の地下水を深さ3m程度の浸透枡を介して地中へ還元する方式が採
用されており、周辺地盤に与える熱負荷の状況がモニタリングされています。
モニタリング井戸は、想定される地下水の流れの下流側10m付近に設置されており、地下水
位下5地点での水温測定(熱電対使用)と地下水位の連続観測が実施されています。
水温計測用
水温計測
水位計測用
水位計測
▽
砂
礫
地下水面位置:GL-5.46m
深度 6m
GL-6m
深度 8m
観測孔(VP50,深度15.5m)
モニタリング孔(深度
17m)
水 GL-8m
温
測 深度 10m
定GL-10m
深
度
水
温
測
定
深
度
玉
石
混
じ
り
砂
礫
深度 12.5m
GL-12.5m
深度 15m
GL-15.0m
写真 6-1
水温および水位観測装置
図 6-4
浸透枡設置箇所
観測孔
る
され
想定
写真 6-2
水
地下
流動
方向
モニタリング井戸設置箇所の概況
- 42 -
モニタリング井戸の土質柱状
および水温観測深度
あとがき
昭和 30 年代から 50 年代にかけて大きな社会問題となった濃尾平野における地盤沈下は、
地下水位の顕著な回復傾向を反映して、近年では概ね沈静化の方向にあります。
このため、豊富な地下水資源に恵まれた岐阜市や大垣市を中心とする西濃地域では、地下
水をより有効に活用したいという機運が高まりつつあります。地中熱としての地下水利用を
推進しようとする動きもその一環でありエネルギーの地産地消に向けて大きな期待が寄せら
れています。
一方で、地中熱利用に限らず地下水採取や地下への還元が無秩序に行われた場合には、地
下水や地盤環境への負荷によりこれまでの均衡が破れ、新たな障害発生につながりかねませ
ん。地下水は国民共有の貴重な財産であり、公共性の高いものであることを鑑み、その適正
な利用が行われるとともに将来にわたってその恩恵を享受できることが確保されなければな
りません。よって地下水を利用する者は、地下水の涵養の実施及び適正管理として、雨水浸
透枡の設置等の涵養への取り組みや各種モニタリングの実施に努めてください。
全国的にも地中熱利用は普及が始まったばかりであり、現時点では地下水のくみ上げや地
中での熱交換に伴う影響は報告されていないようです。今後は、岐阜市に適した地中熱利用
を目指して、その有効性がより高められるヒートポンプシステムの開発や、より環境負荷の
低減が図られるようなシステムづくりが進むものと考えます。
本ガイドラインの内容は、これまでの各種調査結果や施工事例を基に地中熱利用に対する
基本的な考え方を踏まえ、岐阜市の地下水・地盤環境の特徴を生かす考え方でとりまとめた
ものです。今後普及が進み、地下水揚水量の急激な増加、地下水位観測井戸の水位の低下傾
向が認められる場合や、新たな知見や情報の蓄積にあわせて本ガイドラインが更新されるこ
とを理解の上で利用され、本ガイドラインが岐阜市における地中熱利用のより良い手引き書
となることを期待します。
- 43 -
岐阜市版
地中熱利用にあたってのガイドライン
編集 岐阜市自然共生部
平成 27 年 3 月発行
自然環境課
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