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実証事業報告書 - 内田洋行健康保険組合
内田洋行健康保険組合 プッシュ型保健事業管理ツール「元気 LABO」を 用いた歯科保健事業 歯科保健事業の PDCA サイクルを実現するために、歯科疾患リスクを明ら かにし、歯科保健指導・情報提供の対象者を抽出できるようにする。また、こ れら一連の事業をプッシュ型保健事業管理ツール「元気 LABO」を利活用す ることで低コストで効果的に実施する。 P 計画 本事業実施の背景 歯科医療費は、当組合の全医療費の約 15%を占めているが、歯科疾患による高額医療費の発生は極僅か で、多数の方の中~低額の診療によって積上げられている。さらに、これらの歯科医療費の殆どが生活習慣の改 善で予防できる疾患(むし歯・歯周病)の治療費である。 本事業の目的(事業の必要性) 多くの加入者に対して、歯科に関わる生活習慣の改善を促す指導を実施することで、組合全体の歯科の健康 増進と歯科医療費の適正化を狙う。 本事業の狙い 一人当たりのコストを抑えつつ、加入者全体に対し健康行動のベースアップを狙う。このために、参加が容易で ある問診を、メールで情報を通知する「プッシュ型」で実施する。また、結果から導かれる情報提供も同様にプッシュ 型で行うことで、これら一連の事業にかかるコストおよび業務負担を圧縮する。 D 実行 実施体制の整備 ・委託事業者は「株式会社ミナケア」とした。選定理由は、過去の健保組合支援の実績があり、サービスやコン サルティング能力が優れているため。また、業界で唯一、産業歯科医を含む医療専門職が常勤で在籍しており、 本事業は株式会社ミナケアの産業歯科医が監修した ・当組合の保健師が、プッシュ型保健事業管理ツール「元気 LABO」を利活用することが技術的に容易であり、 加入者に対する窓口となった 施策内容 2015 年 9 月 に「元気 LABO」のアンケート機能を用い、メールアドレスがある全ての被保険者に問診を実 施。集計と解析を行い、歯科受診勧奨の必要な超高リスク者と、歯科疾患の発症リスク6項目に関してそれぞ れ集団を抽出。解析後、超高リスク者への受診勧奨と、各リスク保有者への情報提供をプッシュ型で提供した。 C 効果検証 アウトプット(事業実施量) <問診の有効回答率>本事業の対象者 3,264 名(被保険者のうち、メールアドレスがある方)に対し参加を 促し、79.4%にあたる 2,590 名が実施期間内に有効な回答をした。 <受診勧奨と情報提供メールの送信>問診、特定健診、レセプトなどの突合結果から抽出された 70 名に対 して歯科受診勧奨メール、6 項目のリスク保有者に対して各分野での改善のための情報メール、リスクのなかった 者 280 名に対して情報提供メール、合計で 5,521 通を送付した。 アウトカム(成果) <受診勧奨実施者のうちの受診率> 70 名が歯科への受診勧奨の対象であり、そのうちの 25%に当たる 17 名が、2016 年 1 月までに一度以上 歯科へ受診した。 <すべての参加者の歯科に関わる生活習慣の改善> 次年度の問診で、今年度との比較を行い、各生活習慣リスクの改善率を観察していく予定。 A 振り返り 課題と対策 ・今回、情報提供メールが 6 項目に対してあり、すべての内容が目新しく、良い情報に富んでいたため、6 項目 の延べ数の対象者にメールを送付することとした。次年度以降は、複数のメールが送付される対象者への介入方 法として、メールだけでなく講演や対面での指導などを組み合わせていくことを検討したい 委託事業者との連携(評価) ・高い問診参加率から、プッシュ型でのメール配信は閲覧率が高いことが実証されたので、情報提供メールの閲 覧率も高いことが推測される。今後は、年次のモニタリングを実施しながら、閲覧後に生活習慣を変えていきやす い魅力的な情報提供コンテンツの充実を依頼していく 本事業の費用対効果 ・一般的な歯科検診などは要治療者の発見を目的としており、保健介入の対象者抽出を目的とする本事業と は、根本的な性質が異なるが、 一般的な歯科検診は 1 人当たり 3,000 円以上かかるが、本事業では大幅なコスト削減ができた 手挙げでの歯科検診の参加率は5%程度である例が多いが、本事業は約 80%の参加率を得られた 発症の原因となる生活状況を事前に把握でき、受診勧奨も含む多様な保健介入を可能にしたなど、 生活習慣の改善を促す指導が低価格で多くの加入者に対し実施できる点で費用対効果は良好である 【基本情報】 ※2015 年 9 月末現在 【健康保険組合の特性】 所在地 業種 :卸売業 :東京都 事業所数 :25 加入者数 :7,078 名(男性:3,902 名、女性:3,176 名) うち被保険者数:3,495 名(男性:2,722 名、女性:773 名) 形態 :単一 特筆すべき点: 平均年齢 :43.92 歳(男性:45.09 歳、女性:39.54 歳) 1.一般保険料率2年連続引き下げ 特定健診受診率 2.被扶養者の特定健診受診率 75.3% :91.5%(2014 年度) 特定保健指導実施率:16.6%(2014 年度) 3.データヘルスは経年分析(3年)実施 4.健保主導でコラボヘルス・健康経営を推進 Ⅰ. 効果検証(アウトプット) <プッシュ型保健事業管理ツール「元気 LABO」を使った問診の有効回答率> <情報提供メールの送信対象者> ●事業実施量 回答率の性年齢別・事業所別の推移は上段グラフの通りである。全体的に高い回答率であるが、強いていえば一 部の事業所と年齢層に回答率の低い集団が見られる。次年度以降も同じ傾向にあるのかモニタリングが必要。 本事業で送付したメールは、 1. 事業説明メール:全対象者 3,264 名 2. 問診メール:全対象者 3,264 名 3. 情報提供の案内メール:問診回答者 2,590 名 4. 受診勧奨メール:対象者 70 名 5. 情報提供メール:6 項目での各リスク者数は、下段模式図の通りである。問診・特定健診・レセプ トの突合を行い、歯周病とむし歯に関するリスクを 6 項目に関し判定し、各リスク者に対する保健指 導情報を送信した。また、これと併せて、リスクがなかった方 280 名への情報を送信した 各リスクの判断ロジックは、㈱ミナケアの産業歯科医の監修を受けた。 ●成功要因又は今後の課題・対策 回答率の高さの原因として、社用メールを用いたプッシュ型介入であることから、加入者ごとに対応している印象を与 えた点と、容易に回答が可能な問診である点、また、回答期間の終了数日前に、未回答者に対し回答を促すメール を送付した点の 3 点と考えられる。特定の集団において、回答率が比較的低いことが継続する場合、事業所から回答 を促すなどのコラボヘルスによって加入者の回答を促す方法を検討する。 問診結果に応じた情報提供メールの送信は、全 6 項目の延べ数の対象者に送付した。当初危惧された、複数の メールが送付されることに対するクレームはなかったが、次年度以降は複数のリスク項目を持つ者への介入方法として、 メールだけでなく講演や対面での指導などを組み合わせていくことを検討したい。 Ⅱ. 効果検証(アウトカム) 受診勧奨 17 名が 受診開始 情報提供 H28 年 度問診 ●効果測定方法と測定結果 <受診勧奨実施者のうちの受診率> 70 名に受診勧奨文書を送付し、2016 年 1 月時点で、25%に当たる 17 名が歯科医療機関へ受診したことを、 「元気 LABO」上で確認した。今後も継続して受診状況を確認する。 <すべての参加者の歯科に関わる生活習慣の改善> 次年度以降も問診を継続的に実施し、その結果を追跡することで各生活習慣リスクの改善率を観察していく。特に 複数のリスクを持つ者が今回の情報提供メールを受けて行動を改善し、次年度の問診ではリスク個数が減少するかを 検証する。 ●考察 歯科疾患は予防可能疾患であるにも関わらず、既存の歯科保健事業は要治療者の発見を目的としているものが 多く、歯科疾患リスクを明らかにし歯科保健指導・情報提供の対象者を抽出できる本事業とは根本的に異なる。その 違いを踏まえたうえで既存の歯科保健事業と比較すると 一般的な歯科検診は 1 人当たり 3,000 円以上かかるが、本事業では大幅なコスト削減ができた 手挙げでの歯科検診の参加率は5%程度である例が多いが、本事業は約 80%の参加率を得られた 発症の原因となる生活状況を事前に把握でき、受診勧奨も含む多様な保健介入を可能にしたなど、 生活習慣の改善を促す指導が低価格で多くの加入者に対し実施できる点で費用対効果は良好である ●改善点など ・今回、情報提供メールが 6 項目に対してあり、すべての内容が目新しく、良い情報に富んでいたため、6 項目の延べ 数の対象者にメールを送付することとした。次年度以降は、複数のメールが送付される対象者への介入方法として、 メールだけでなく講演や対面での指導などを組み合わせていくことを検討したい ・今年度の情報提供はテキスト形式で実施したが、今後は html 形式や動画 URL など、見たくなる・身につくコンテン ツの展開を検討している ◆施策内容について 保険者の期待度 ↑想定以上 ③ ② ① ↓想定以下 ⑤ ④ 4-6月 7-9月 10―12 月 <事業実施プロセス> ① 当組合と委託事業者による打合せと、Web アンケート機能及びメール送信機能の設定 ② 問診の送信 ③ 回答の収集。予想を上回る回答率が得られた ④ 回答の集計・解析・リスク者の抽出。特定健診などとの突合解析 ⑤ 保健介入(受診勧奨・情報提供)メールの送信 <問診回答ページ(左)とリスク者への情報提供メールの例(右)> 1-3月 Ⅲ. 想定以上の効果が見られた点 ●回答率(参加率)の高さ 当初、本事業の回答率の目標は 20%程度を予想していた。一般的な歯科検診の参加率は5%程度であること・ 本事業の参加は任意であること・同システムを使った他のアンケートの参加率が 20%程度であったことなどを根拠に目 標値を設定したが、実施してみると約 80%の回答率が得られ、想定以上の結果であった。ここから理由を推測するに、 大きく4つ考えられる。 1. プッシュ型のため、受診したメールをクリックしていくだけで簡易に回答が完了するため、参加しやすい 2. 2 週間ほどの回答期間を設けることで、参加者それぞれの都合のよいタイミングで回答できた 3. 回答期間に、未回答者に対し参加を促すメールを再度送付することで、参加率はアップする 4. 事業の名称を「アンケート」よりも「問診」として健康意識に訴求したため、参加率が高い ●コスト 一般的な歯科検診は 1 人当たり 3,000 円以上かかるところ、本事業では、補助金 100 万円の影響を差し引い ても一人当たりの事業コストは大幅に減額されていた。これは、プッシュ型保健事業管理ツール「元気 LABO」を利活 用することで、問診による情報収集から、リスク者の抽出、各リスク集団への保健介入までを一貫してスムーズに完了で きたためである。 また、当組合では 10 年以上前に一部の大規模な事業所のみを対象に歯科検診を実施していたが、コストおよびマ ンパワー不足のために現在は中止していた。本事業では、加入者全体またはリスク集団ごとへのメール送信において、 当組合の保健師による内容の確認および送信作業が容易で、これまで不可能だった業務を効率よく実施できた。 既存の歯科保健事業では、検診と受診勧奨を行う以外に組合が実施可能な事業がなく、医療費の適正化には結 びつきづらい。また、本事業を紙ベースで実施した場合は、既存の歯科保健事業よりも費用対効果は良好であるが、 当システムを使用した場合より金額と時間のコストはかかってしまう。以上より本事業は総合的に費用対効果が良好で ある。 ●その他 既存の歯科保健事業では遠方や小規模の事業所などは実施をあきらめていたが、今回それらを全て網羅して実施 できたことは喜ばしい。 各リスク集団が情報提供メールによって生活習慣が改善しているかは、アウトカム指標として設定しており次年度の 歯科問診の結果を待つ必要がある。しかし送信後、複数の加入者が保健師に良好な反応をくださっており、送信した 6 種類の情報提供メールの内容が目新しく、良い情報に富んでいたため、興味深く読んでいただけた手ごたえを感じ た。 また、今後㈱ミナケアのサービスとして他組合にも提供予定とのことなので、効果の比較が可能である。 Ⅳ. 想定外の事態、ボトルネック等 ●スケジュールの遅れ 回収した問診結果を、システム上でレセプト・特定健診と突合しリスクの解析を実施することに想定以上の時間がか かり、受診勧奨メールの送信時期が予定より遅くなった。今回、システム上の改良点が把握出来たため、次年度以降 は回答から1か月程度でリスク集団把握が行える見込み。 また、受診勧奨対象者については、今後も継続的に受診状況を確認し、必要があれば再度受診勧奨メールを送 付する。