Comments
Description
Transcript
3211 設計業務のプロセスモデリングを支援するための分析手法
3211 日本機械学会 第 18 回設計工学・システム部門講演会・2008.9.25-27 Copyright © 2008 社団法人 日本機械学会 設計業務のプロセスモデリングを支援するための分析手法 ~ グラフ構造分析とマトリックス分析を活用した論理的不整合の発見 ~ Analysis Method for Design Process Modeling ~ Detection of Logical Inconsistency Using Graph Structural Analysis and Matrix Analysis ~ ○正 丹羽 隆(東京大) Takashi NIWA(The University of Tokyo) 正 古賀 毅(東京大) 正 Tsuyoshi KOGA(The University of Tokyo) 青山 和浩(東京大) Kazuhiro AOYAMA(The University of Tokyo) Currently, the business process improvement activities in many organizations are popular. Business consultants visualize present business process (AS-IS) containing many routine tasks (e.g. procurement, manufacture, sale, and other general business), and plan to improve that business process. However, little process improvement for the business which is not enough standardized such as the design work in the manufacturing industry is performed at the present time. First, the authors propose process analysis methods to support for modeling present business process in other modeling phases covering design process improvement in the manufacturing industry. Next, the detections of inconsequence in an integrated process model are exemplified with the industrial application of the proposed analysis methods. Finally, the proposed analysis methods and guidelines for process improvement are discussed based on the examples. Key Words: Business Process Planning, Business Process Re-engineering, Enterprise Architecture, PDCA Cycle 1. はじめに 1.1. 設計開発業務のプロセス改善活動における課題 企業組織は,市場変化,法令制定,技術革新など様々な変 化に対して,常に業務を対応させていかなければならないと いう使命を負っている.現在,多くの企業組織において,EA (Enterprise Architecture[1][2])の策定やビジネスプロセスマネ ジメントの取り組みが盛んである. しかしながら,定型業務を比較的多く含む業務を対象とし た取り組みは多いが,設計業務のようなプロセスが定型化さ れていない業務では十分に実施されているとは言えない.こ の問題の理由として以下のものが考えられる. a) 設計業務は創造的業務であり,プロセスの形式化や業務 のシステム化が困難 b) 設計業務では行うタスク自体を決定するタスクも存在 b) のタスクの実行計画は基本的にプロジェクトマネージャ により毎回行われる.したがって,定型業務と比較して設計 業務に対するビジネスプロセスマネジメントを実施するため には,より迅速なプロセス改善活動が要求されると言える. 1.2. プロセス改善活動における現状の問題点 一般に,ビジネスコンサルタントは業務プロセスに関する 仮説を立てながら,現場から業務内容をヒアリングするとさ れる.しかしながら,このヒアリング作業に対する方法論は 各コンサルティングファームで確立しつつあるが,業務内容 を整理し構造化するための方法論に関しては各コンサルタン トの能力に依存する部分が多い.これは,各企業で自主的に ビジネスプロセスマネジメントを実施するのが困難であり, ビジネスコンサルタントに頼らざるを得ないといった問題の 大きな要因の一つであると考えられる. 2. 研究概要 2.1. 研究の目的 本研究では,製造業における設計業務に対して継続的改善 活動を支援することを目的とする. そのために,まず,設計現場の業務内容を整理し構造化す るための分析が可能なグラフモデルを基本とした統一的表現 による業務プロセス統合モデルを提案する.つづいて,ヒア リング時に含まれ得る様々な論理的不整合の発見を支援する ためのグラフ構造分析手法およびマトリックス分析手法を提 案する.最後に,この発見された不整合に対する対応に関し て,プロセス改善の視点も含めて議論する. 2.2. 研究のアプローチ 本研究では,業務における主要素として業務の主体,機能, 客体の 3 つの視点から業務を捉える.この 3 つの視点におけ るプロセスモデルおよび各プロセスモデルの関連性を明確に 定義する割付モデルを全てグラフモデルにより統一的に表現 することにより,業務におけるこれらのモデルの統合化を図 る.また,本研究では,業務担当者の行う業務に関するプロ セスや情報は,断片的に抽出可能であるという仮定を立てる. この仮定の下,上記の各モデルを断片的に記述していき,統 合していく. しかしながら,多種多様な業務担当者からヒアリングされ るため,そこから獲得されるモデル同士を統合する際に以下 の問題が想定される. a) 各モデルの粒度が不均一 b) 各モデルにおける情報の欠落 c) 類似したモデルの存在 d) モデル同士の矛盾 本研究では,多面的にグラフの相似性を比較したり,プロセ ス分析で定評のある DSM(Design Structure Matrix[3][4][5]),構 造化手法で定評のある数量化理論第Ⅲ類[6][7] を適用したりす ることでこれらの論理的不整合の発見を支援する. 2.3. 先行研究の問題点 LOVEM(Line Of Visibility Engineering Methodology)や BPMN(Business Process Modeling Notation[8])は機能中心のプ ロセスを記述することができる.IDEF0(Integrated computer aided manufacturing DEFinition),IDEF3 は機能を中心とした 静的構造およびプロセス構造のモデリングを行うことができ る[9][10].UML(Unified Modeling Language[11])では,様々な視 日本機械学会〔№08-2〕第18回設計工学・システム部門講演会CD-ROM論文集〔2008.9.25-27,京都〕 -494- 点からの記述が可能であるが,視点間の対応関係は明確に定 義されていないため,視点間の整合性を確保するのはモデラ ー に よ っ て 行 わ れ る . ARIS ( ARchitecture of integrated Information Systems[12])は多面的なモデリングやシンタックス のチェックは可能であるが,統合化で想定される先述の問題 に対するチェックは困難である. いずれも,視点間の整合性確保が困難であり,構造化され ていない現状業務の内容を統合化し構造化する操作を支援可 能な手法はほとんど存在しない. Doctor actor allocation partnership function Examine data allocation Carte order Pass medicine dependency Prescription Pharmacist Fig.1. An example model of the medical center business は,4.4 節で後述する継承性分析を適用することにより,粒度 の異なる視点間の整合性確保を支援する. 3. 業務プロセスの統合モデル 3.1. 業務の相似的プロセスモデル 本研究では,設計業務を対象としたモデリングを行うため に,まず,業務を一般化し,次の 3 つの主要素を定義する. 要素 1) 業務の主体(アクタ) 要素 2) 業務の機能 要素 3) 業務の客体(データ) さらに,業務におけるアクタ間の連携モデル,機能間の順序 モデル,データ間の依存モデルを時間ベースのコンテキスト により表現するものとする. モデル 1) アクタ連携モデル - アクタ間の連携の視点から 見た時間ベースのコンテキスト モデル 2) 機能順序モデル - 機能間の順序関係の視点から 見た時間ベースのコンテキスト モデル 3) データ依存モデル - データ間の依存関係の視点 から見た時間ベースのコンテキスト この時間ベースのコンテキストで表現することにより,3 つ の視点同士の相似性を比較した分析が可能となる.本研究で は,これら3つの時間的前後関係は基本的には同じであるも のと仮定する. 例えば,医者が患者の診察をしてカルテに診断結果と処方 した薬を記入後,薬剤師が処方箋を見て患者に薬を渡す場合 を考える.この病院における業務の主体,機能,および客体 を次に示す. • アクタ - 医者,薬剤師 • 機能 - 診察する,薬を渡す • データ - カルテ,処方箋 この時,医者が診察するのにカルテを用い,薬剤師が薬を渡 すのに処方箋を用いることから,医者から薬剤師への連携, 診察するを行ってから薬を渡す順序,カルテから処方箋への 依存関係が存在することが理解できる(Fig.1). 3.3. 相似的プロセスモデル間の割付モデル 本節では,3.1 節で定義した時間ベースのコンテキストによ り表現されるアクタ連携モデル,機能順序モデル,およびデ ータ依存モデル間の対応関係を明確にするために,次の2つ の割付モデルを提案する. モデル 4) アクタ機能割付モデル - アクタが担当する機能 を明確に表現 モデル 5) 機能データ割付モデル - データが処理される機 能を明確に表現 これらのモデルにより,業務において誰が何をどうするかが 明確に表現される. また,本研究では,企業組織における業務のプロセスをア クタの視点とデータの視点から捉える.各視点から捉えたプ ロセスモデルをそれぞれ次のように定義する. モデル 6) アクタプロセスモデル - アクタのアクティビテ ィとゲートウェイから構成されるワークフローに より表現 モデル 7) データプロセスモデル - データの処理と状態か ら構成される状態遷移により表現 さらに,これらのプロセスモデルと 3.1 節で先述の相似的プ ロセスモデルとの整合性を確保するために,アクタプロセス モデルにおけるアクティビティとデータプロセスモデルにお ける処理を抽象化した要素が機能であると定義する.UML などで整合性を確保するのが困難なアクティビティ図と状態 遷移図などの対応は,この機能の抽象関係により克服できる. 以上で述べた各モデルを踏まえ,Fig.2 に本研究で提案する 業務プロセスの統合モデルを示す. 4. 論理的不整合の発見を支援するための 分析手法 3.2. 業務プロセスの階層モデル 4.1. 矛盾発見のためのプロセス分析 前節で先述したアクタ,機能,データは現実においてそれ ぞれ階層構造を認識することができる. • アクタの階層構造は,一般に組織図などで表現される組 織構造により認識できる. • 機能の階層構造は,大きな単位での管理業務から詳細な タスクレベルの作業の存在により認識できる. • データの階層構造は,大きな単位での管理データから詳 細なドキュメントレベルのデータの存在から認識できる. ヒアリングから得られる断片的な情報の粒度が均一であるこ とは極めて希であるため,粒度の異なる要素を管理すること が必要である.一般に,粒度の大きい要素同士の関連性は曖 昧であり冗長的に記述されることが少なくない.したがって, モデラーはこのような曖昧性や冗長性を含む要素を詳細化し ながら関連性を明確化していかなければならない. しかしながら,粒度の大きい視点と小さい視点との間にお けるモデルの整合性を確保することは容易でない.本研究で 業務内容をヒアリングする際に,ヒアリングされる人によ って業務の流れが矛盾している可能性がある.例えば,薬剤 師は,「患者は薬を受け取った後に会計を済ませる」と認識 しているが,会計係は,「患者は会計を済ましてから薬を受 け取りに行く」と認識している場合を考える.両者からヒア リングを行い統合すると,Fig.3 のようなプロセスモデルが記 述される. 本研究では,このような矛盾するプロセスにおいて,矛盾 は逆の順序を含むという事実に着目し,DSM のパーティショ ニングを適用することで,矛盾の発見を支援する.Fig.3 のプ ロセスモデルに対してパーティショニングを適用した DSM を Fig.4 に示す. さらに,粒度の大きいノードほど周りとの関連性が多いと 仮定すると,DSM では,粒度の大きいノードに対応する行ま たは列には,他の行または列と比べてマーキングが多いこと が理解できる.例えば,いくつかのプロセスモデルを統合し -495- Function Viewpoint Accept outpatient Accept inpatient Process Model Actor Collaboration Model Function Order Model Business Information Department Operation Document Ta sk transinformation Micro Viewpoint Actor Process Model Object Viewpoint Subject Viewpoint Organization Worker Accept at internal medicine dept. Data Dependency Model Macro Viewpoint Accept at otolaryngology dept. Accept at dermatology dept. Examine Data Process Model Business Process Model Activity Activity State Processing State State Activity Adjust account Processing Fig.5. Another example of the function order model ○ Accept a t otola ryngology dept. ○ ○ ○ ○ ○ Accept outpatient Accept inpatient 4.2. 冗長性発見のための割付分析 Examine 業務内容をヒアリングする際に,ヒアリングされる人によ って冗長的な要素が含まれる可能性がある.例えば,「内科」 「内科医」「医者」といった揺らいだ用語や粒度の異なる用 語である.これらを含むアクタ機能割付モデルを統合した様 子を Fig.7 に示す. 本研究では,このような冗長的な要素が含まれる割付モデ ルにおいて,冗長的な要素は同じような関連性を持つという 事実に着目し,数量化理論第Ⅲ類を適用することで,冗長性 の発見を支援する.Fig.7 のアクタ機能割付モデルに対して数 量化理論第Ⅲ類を適用した二元表を Fig.8 に示す. さらに,前節のプロセス分析同様,二元表においても粒度 の不均一性が議論できる.例えば,いくつかのアクタ機能割 付モデルを統合したモデルを Fig.9 に示す.この統合化された アクタ機能割付モデルに数量化理論第Ⅲ類を適用した二元表 Adjust a ccount ○ ○ Examine ○ Accept a t dermatology dept. Accept at otolaryngology dept. Accept inpa tient Accept a t internal medicine dept. Accept at derma tology dept. Accept outpatient たプロセスモデルを Fig.5 に示す.この統合化されたプロセス モデルに対してパーティショニングした DSM(Fig.6)では, 「診察」に対する行にマーキングが多く存在することが理解 できる.このような場合は,次に示す操作の必要性が示唆さ れる. • 機能「診察」を 3 つの機能「内科の診察」「皮膚科の診 察」「耳鼻咽喉科の診察」に詳細化 • 3 つの機能「内科受付」「皮膚科受付」「耳鼻咽喉科受付」 を機能「受付」に統合化 Accept at internal medicine dept. Process Viewpoint Fig.2. The proposed integrated model of business process Adjust account ○ Fig.6. The partitioned DSM of the model shown in Figure 5 (Fig.10)では,「診察」に対する列にマーキングが多く存在 することが理解できる.このような場合は,次に示す操作の 必要性が示唆される. • 機能「診察」を 3 つの機能「内科の診察」「皮膚科の診 察」「耳鼻咽喉科の診察」に詳細化 • 3 つのアクタ「耳鼻咽喉科医」「内科医」「皮膚科医」を アクタ「医者」に統合化 4.3. 矛盾・欠落発見のための相似性分析 業務内容をヒアリングする際に,ヒアリングされる人によ って扱っているデータの依存関係と業務の流れが矛盾あるい は欠落している可能性がある.例えば,患者が受け取る処方 Diagnose Doctor Pass medicine Prescribe Nurse Adjust account Adjust account Internist Diagnose Accountant Finish Ask patient’s condition Physician Fig.3. An example of the function order model Examine Fig.7. An example of the actor function allocation model ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ Doctor ○ ○ ○ Accountant ○ Adjust account Finish Prescribe ○ Diagnose Pass medicine Examine Ask patient’s condition ○ Internist Finish Pass medicine Adjust account Diagnose Adjust account Physician Nurse Diagnose ○ ○ Fig.8. The binary table obtained by the application of the quantification method III to the model shown in Fig.7 Fig.4. The partitioned DSM of the model shown in Fig.3 -496- Pharmacist Receptionist Accept Nurse Pass medicine Prescription Adjust account Bill Insert an IV line Otolaryngologist Examine Accountant Internist Fig.13. The detection of missing partnership in Fig.11 Ask patient’s condition Dermatologist 本研究では,親要素の持つ関連性と子要素の持つ関連性と を比較することで,異なる粒度のモデル間の整合性確保の支 援を行う.この分析手法を継承性分析と定義する.継承性分 析では,次に示す 2 つの条件を満たせば OK(整合)とする. • 親要素の持つどの関連性も少なくとも一つの子要素が継 承する. • 親要素の持たない関連性を持つ子要素は存在しない. もし満たさなければ NG(不整合)とする.例えば,Fig.14 で は専門家が受付を担当するように記述されているが,専門家 の子要素である看護婦,医者,薬剤師はいずれも受付を担当 しない記述になっている.この場合,専門家から受付への割 付を削除するか,あるいは子要素のいずれかを受付へ割り付 ける必要がある. Fig.9. Another example of the actor function allocation model Ask patient’s condition Examine Insert an IV line Accept Receptionist ○ Nurse ○ ○ Otolaryngologist ○ Internist ○ Dermatologist ○ Fig.10. The binary table obtained by the application of the quantification method III to the model shown in Fig.9 5. 実行例 箋には医療費および薬の精算金額が記入されており,精算書 から処方箋への依存関係が存在するが,薬を渡してから会計 を済ませるとヒアリングした場合を考える.これらの内容を モデリングすると,Fig.11 のようなモデルが記述される. 本研究では,3.1 節で先述した時間ベースのコンテキストの 比較により,業務の主体,機能,客体の 3 つの視点同士での 連携,順序,依存における矛盾および欠落の発見支援を行う. この分析手法を相似性分析と定義する.例えば,Fig.11 のモ デルに対して相似性分析を適用すると,機能とデータの時間 的前後関係が逆転しているため,分析結果は NG(不整合)と なる.再度ヒアリングにより確認を行った結果,会計を済ま せた後に薬を受け取るのが正しいことが確認された場合,モ デルは Fig.12 のように修正される. また,Fig.12 のモデルでは,薬剤師と会計係との間の協調 関係が欠落していることが認識される.この場合,相似性分 析を適用することで,会計係から薬剤師への協調関係の存在 を発見できる(Fig.13). 5.1. プロトタイプシステムの構築 4.4. 異粒度間の不整合発見のための継承性分析 Example A: 業務内容をヒアリングする際に,ヒアリングされる人によ って業務内容の粒度が異なる可能性がある.各内容が個別に 完結しているものであっても,それらを統合する時にある程 度粒度の調整が必要となる場合が少なくない.4.1 節および 4.2 節で先述した粒度の不均一性の発見を支援する手法は,粒 度を調整するときに使用される.しかしながら,これらの手 法は記述された階層間すなわち異なる粒度のモデル間におけ る整合性を確保するものではない.一般に,異粒度間の整合 性を確保することは容易でないとされる. A-1) 連携の発見 本研究で提案する業務プロセスの分析手法の有効性を検証 するために,業務プロセスをモデリングするためのプロトタ イプシステムを構築した.このモデリングシステムは次に示 す機能を搭載する. • 各ビューからのモデリング • モデル間の整合性確保 • 各分析手法の適用 5.2. X 社の設計プロセスのモデリング 前節で先述したモデリングシステムを用いて,X 社におけ る設計プロセスのモデリングを行った.このモデリングシス テムでは,アクタ,機能,データの各要素が入力された CSV (Comma Separated Value)ファイルから断片的なモデルをイ ンポート可能である.本節では,X 社の設計者達によって入 力された CSV ファイルからインポートされたモデルをベース に議論する. インポートされたモデルにはアクタ間の協調関係は記述さ れていなかった.ここで,4.3 節で先述した相似性分析を適用 することで,Fig.15 のように下記に挙げる協調関係の存在を 示すことができる. • AActor2 から AActor3 への協調関係 • AActor3 から AActor2 への協調関係 • AActor3 から AActor4 への協調関係 これら 3 つの協調関係は,設計者と設計者間の協調的な連携 Pharmacist Pass medicine Medical center Prescription Clerk Specialist Adjust account Medical work Accept Bill Accountant Specialist Fig.11. An example of the model including inconsistency Pharmacist Nurse Pass medicine × Prescription Ask patient’s condition Examine Doctor Pass medicine Adjust account Pharmacist Bill Adjust account Accountant Fig.14. The detection of inconsistency in a hierarchy Fig.12. The modified model in Fig.11 -497- および設計者から生産計画者への引継の連携として現実的に 認識することができた.すなわち,アクタ機能割付モデルに 対する相似性分析の適用により,現実に存在する連携を発見 できることが示されたといえる. The reduction of the loop size A-2) 粒度の異なる要素の発見 さらに,Fig.15 のアクタ機能割付モデルに対して,4.2 節で 先述した割付分析を適用すると,Fig.16 に示す二元表が得ら れる.Fig.16 では下記に示すアクタが他のアクタと比較して 割付を多く持つことが認識できる. • AActor2 • AActor3 これら 2 つのアクタは,生産計画に関わる 2 つのアクタ AActor1 および AActor4 と比較して,実際に粒度が大きいと 認識することができた.すなわち,アクタ機能割付モデルに 対する割付分析の適用により,実際に存在する粒度の不均一 性を発見できることが示されたといえる.また,各アクタを 詳細化する際に,4.4 節で先述した継承性分析を適用すること により,詳細化前後の割付構造の整合性確保が支援できた. Example B: B-1) 作業順序の矛盾の発見 機能間の順序関係が複雑である別のモデルを新規に CSV フ ァイルからインポートし,このモデルに対して,4.1 節で先述 したプロセス分析を適用した DSM を Fig.17 に示す.まず, この DSM の行の並びを上から下へ辿ることによって,モデラ ーおよび設計者は機能順序の全体の流れを把握することがで きる.つづいて,順序のループ構造が可視化される.この可 視化された順序のループ構造に着目することにより,下記に 示すことが可能となる. a) 記述された順序が適切であるかをチェック b) 手戻りを軽減することによるプロセス改善の立案 このうち,DSM のパーティショニングを適用する目的は, b) であることが多いが,本研究では,a) の目的に対しても適用 する.実際に,現場の設計者と Fig.17 で示される各ループ構 造を詳細に見直した結果,一番左上のループ構造に見られる BFunction5 から BFunction4 への順序関係が存在しないことが 明らかになった.この順序関係を削除することにより,ルー プ構造の大きさが小さくなる(Fig.17 の右上).但し,AS-IS Fig.17. The partitioned DSM of function order model in Example B モデルの記述では,ループ構造を縮小することが目的ではな いことに注意されたい.再度,この縮小されたループ構造の 存在に対して,実際の設計作業と照らし合わせる.これらの 操作を,妥当な機能順序モデルが得られるまで繰り返す. 以上を整理すると,DSM のパーティショニングにより得ら れる順序関係のループ構造に着目することにより,ある機能 間の順序関係と別の順序関係との矛盾を発見できることが示 されたといえる. Example C: C-1) 表記上の揺らぎの発見 さらに,別のモデルを CSV ファイルから新規にインポート し,機能データ割付モデルに対して割付分析,データ依存モ デルに対してプロセス分析を適用した.適用後の様子を Fig.18 および Fig.19 にそれぞれ示す.Fig.18 では,CData22 がどの機 能への割付も持たないことが表現され,Fig.19 では,CData14 がどのデータとの依存関係も持たないことが表現されている. これらの事実は次の事柄を示唆する. • 機能データ割付モデルに CData22 は存在しない • データ依存モデルに CData14 は存在しない しかしながら,これらのデータは,ヒアリングを行った結果, 両モデルにおいて同じように記述されている.これらを踏ま え,改めて現場の設計者に確認したところ,これらのデータ は,名称の揺らぎを含む同じ要素であることが確認された. 以上を整理すると,割付分析やプロセス分析を経てデータ 名の揺らぎを発見できることが示されたといえる. C-2) 詳細化候補の発見 C-1) の機能順序モデルに対してプロセス分析を適用した DSM を Fig.20 に示す.プロセス分析の結果を踏まえ, 「CFunction14」「CFunction17」「CFunction19」「CFunction1」 「CFunction2」「CFunction5」に対して,それぞれ詳細化すべ きかを検討した.しかしながら,実際には,モデリング過程 においてどの機能も詳細化されるべきだが,いつ,どの機能 から詳細化を始めるかを決定することが困難という見解が得 られた. Fig.15. The detection of handovers Fig.18. The binary table obtained by the application of the quantification method III to the function data allocation model in Example C Fig.16. The detection of nonuniform actors -498- Fig.19. The partitioned DSM of data dependency model in Example C 6. 考察 Example A の A-1) における相似性分析の適用例では,直接 的な時間的前後関係についてのみ扱った.しかしながら,実 際には,次に示すケースも考えられるため,間接的な時間的 前後関係を考慮した分析も検討の余地がある. • 協調関係を持つ 2 のアクタは,それぞれの担当する全て の機能に関して時間的前後関係が存在するとは限らない. • 順序関係を持つ 2 つの機能は,それぞれ担当される全て のアクタ間に時間的前後関係が存在するとは限らない. Example A の A-2) において,アクタの割付が他のアクタの 割付より多い場合,次に示す 2 つの場合が考えられる. • アクタの粒度が大きい場合 • アクタの粒度は同レベルであるが,アクタに割り付けら れている機能が多い場合 モデリングの過程において,どちらの場合であるかは,モデ ラーや現場の設計者による判断が必要である.しかしながら, どの割付に焦点を当てモデルの妥当性を評価すべきかを示唆 する意味では,数量化理論第Ⅲ類により割付構造が整理され た二元表は有効であると考えられる.但し,粒度が大きいア クタが割付を多く持たない場合,二元表上でそのアクタを発 見する場合には十分でないと考えられる. Example B の B-1) において,DSM のパーティショニングに より示されるループ構造は必ずしも矛盾を特定するものでは ない.何故なら,プロセスのループ構造は他にも,次に示す 業務を含むプロセスと解釈可能だからである. a) 繰り返し行う意図のある業務 7. 結論 本研究では,設計プロセスを対象とした AS-IS モデルを記 述するために,まず,各業務担当者から断片的に業務に関す る情報やプロセスをヒアリング可能であることを基本的な仮 定として設定した.つづいて,断片的な情報やプロセスを統 合する時に問題となる論理的不整合を発見するための分析手 法を提案し,各分析手法を適用可能なグラフモデルを基本構 造とした業務プロセスの統合モデルを提案した.また,この 統合モデルを用い,各分析手法を適用可能なモデリング環境 のプロトタイプシステムを構築し,X 社における設計プロセ スのモデリングを行った.各分析手法の適用例を中心に,論 理的不整合を発見する事例を示し,各事例の考察をすること で,6 章で先述した様々な知見および今後の課題を整理した. 本研究は,比較的粒度の大きい概念的な業務プロセスのモ デリングを扱う初期フェーズの研究である.今後は,提案し たモデルおよび分析手法をより多くの事例を対象として適用 検証を行っていく予定である. 参考文献 [1] Zachman Enterprise Architecture Framework, http://www.sifa.com/framework.pdf. b) 現状手戻りが発生している業務 b) の解釈の場合,現状業務をモデリングするときはそのまま にしておくべきであるが,改善を行うときには,このループ 構造を解消することがプロセス改善への指針につながると考 えられる.あるいは Fig.17 において,DSM のループ構造がオ ーバーラップする作業の塊に着目すると,この塊は前後の作 業ループを仲介する作業と新たに位置付けることができる. この塊の作業を担当するアクタを新たに定義することにより, 複雑な作業プロセス間の連携を円滑にしたプロセスの実行が 期待される. Example C の C-1) では,4.2 節で先述した割付分析や 4.1 節 で先述したプロセス分析において,成分の塊以外に着目する Fig.20. The partitioned DSM of function order model in Example C ことにより,名称の揺らいだデータを発見した.この事実は, グラフ構造の観点から考察すると,ノードが持つリンクの本 数が 0 本あるいは他と比較して多いところに,AS-IS モデル を記述する際の論理的不整合の存在可能性が潜在することを 示唆する.このグラフ構造と論理的不整合との関連性につい ては今後の課題である. Example C の C-2) では,Fig.20 で示されるプロセス分析の 結果,複数の詳細化候補の機能が発見されたが,その中でも どの機能から詳細化すべきかの判断が困難である見解が得ら れた.この困難性の要因の一つとして,機能は,アクタやデ ータのように実在する対象を表現することの多い要素と比較 してより概念的要素であり,さらにその機能を構造化する操 作には高度な能力が必要とされるといったことが考えられる. 一般的にも,機能の構造化はコンサルタントの得意とする能 力の一つとして認識されており,機能の構造化に関する支援 も今後の課題として挙げられる. [2] Zachman J. A., "A framework for information systems architecture," IBM Systems Journal, Vol. 26, No. 3, 1987. [3] The Design Structure Matrix Web Site, http://www.dsmweb.org/ [4] Diego Andres Batallas and Ali A. Yassine, "Information Leaders in Product Development Organizational Networks: Social Network Analysis of the Design Structure Matrix," IEEE Trans. of Engineering Management, Vol. 53, No. 4, pp. 570-582, Nov, 2006. [5] Soo-Haeng Cho and Steven D. Eppinger, "A Simulation-Based Process Model for Managing Complex Design Projects," IEEE Trans. on Engineering Management, Vol. 52, No. 3, Aug, 2005. [6] 新藤久和, 吉澤正, 宮島正明, “サービス業における品質表と数 量化理論第Ⅲ類の適用”, 品質, Vol. 13, No. 3, pp. 53-60, 1983. [7] 新藤久和, “システム記述手法としての品質表概念の一般化とそ の準分解による構造化”, 品質, Vol. 23, No. 3, pp. 95-104, 1993. [8] Object Management Group, Business Process Modeling Notation 1.1 Specification, http://www.omg.org/docs/formal/08-01-17.pdf, 2008. [9] Cheol-Han Kim, R. H. Weston, A. Hodgson and Kyung-Huy Lee, "The complementary use of IDEF and UML modelling approaches," Computers in Industry, Vol. 50, Issue 1, pp. 35-56, January 2003. [10] Hui Shen, Brian Wall, Michal Zaremba, Yuliu Chen, Jim Browne, "Integration of business modelling methods for enterprise information system analysis and user requirements gathering," Computers in Industry, Vol. 54, pp. 307-323, 2004. [11] Object Management Group, Unified Modeling Language 2.1.2, http://www.omg.org/spec/UML/2.1.2/, 2007. [12] Heinrich Seidlmeier 著, 堀内正博, 田中正郎 訳, “ARIS によるビ ジネスプロセス・モデリング”, トムソンラーニング, 2004. -499-