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H27技術シーズ集 pdf

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H27技術シーズ集 pdf
百歳を健康に生きる
技術シーズ集
平成27年10月1日
国立研究開発法人産業技術総合研究所
健康工学研究部門
シーズ集巻頭言
健康で長寿を全うすることが人類社会における最大の課題であると言っても
過言ではありません。健康とはただ単に肉体的に病気でない状態を言うのでは
なく、日々の生活で心身ともに疲れず前向きに時には幸せを感じながら生きて
いく状態で、本研究部門は、
「100歳を健康(幸)に生きる技術開発」と定義
付け、その実現に向けて研究開発を推進しています。
具体的に次の3つの研究課題(戦略課題)に取り組んでいます。
(1)医療機器の高度化とレギュラトリーサイエンス
(2)健康状態の可視化
(3)生活環境における健康増進
本研究部門は、このような研究課題を遂行する上で、四国、つくば、関西を
拠点とし、地域産業ニーズを踏まえつつ、生命科学の分野だけでなく産総研が
保有する複合領域において健康関連産業創出への貢献を目指します。
ここに取りまとめたシーズ集は、当部門で得られた最近の成果を中心に、比
較的産業応用に近い技術を選びました。企業研究者、経営層の方々は勿論、一
般の方にもわかりやすく作成いたしました。是非、広くご活用いただくことを
お願い申し上げます。
平成27年10月1日
健康工学研究部門長
達 吉郎
技術シーズ一覧
本冊子には、約 30 件の技術シーズを収録しています。以下の技術マップから、
目的のシーズをお探し下さい。
100歳を健康に生きる技術シーズ 技術マップ
QOL向上・疾病の予防
(アウトカム)
健康状態の可視化
ヒト
生活環境におけ
る健康増進
疾病の診断・治療
医療機器の高度化とレ
ギュラトリーサイエンス
医療機器
体外診断
ヒト検体
HbA1C識別SERS E-01
唾液NO E-05
紙の診断チップE-06 細胞チップF-01
POCTチップF-02
酸化ストレス
抗体固定化F-03
マーカー I-01
高速PCR I-02 質量分析J-01
技(術の対象 )
薬機法ソフト開発A-01
金属ナノ粒子A-02
流体力学・血液適合性B-01
動圧浮上遠心血液ポンプB-02
血液凝固検出光センサB-03
再生医療・無菌技術C-01
インプラントC-02
ナノ材料造影剤E-03
バイオ医薬
細胞操作技術
機能評価系
光ピンセットE-02
細胞ソータH-03
細胞接着制御 I-03
糖蛋白生産H-02
アルパカ抗体 I-04
生活環境
食品機能性(糖) G-03
計測技術
生物発光レポーター H-01
糖尿病モデルマウスH-04 糖質検出蛍光磁気ビーズD-01
リスク評価・除去
エリプソメトリE-04
ナノ粒子有害性評価G-01
有害イオン捕捉G-02
●技術シーズの特徴
1 ヒトおよび生活環境因子を扱う
2 基礎から製品化まで取り組む
3 モノづくりと計測技術で「健康」に貢献
凡例
i
技術シーズの活用
当部門の技術シーズや技術基盤をもとに、産業界や大学・公的研究機関、国・
自治体と連携して、ライフイノベーションに貢献します。ケースに応じた方法
で取り組みます。
・技術相談
必要に応じて秘密保持契約も可能
・特許ライセンス、ノウハウ開示
産総研の知財等を実施
・共同研究、委託研究、受託研究
分担を決めて研究を実施
・ベンチャー化
産総研自らが企業化
・プロジェクト形成
国等の研究プロジェクトに共に参画
本冊子は、当部門の技術の一部です。技術シーズ以外についても、関連する
技術分野で連携が可能です。ご相談ください。
連絡先
E-mail:[email protected]
ii
索
引
セラノスティックデバイス研究グループ
・薬機法とガイドライン対応のソフト開発を支援する SCCToolKit ····· A-01
・物理刺激応答を評価するための金属ナノ粒子合成と評価技術 ······· A-02
人工臓器研究グループ
・循環器系医療デバイスの流体力学解析・血液適合性評価 ··········· B-01
・非接触駆動を実現する血液適合性に優れた動圧浮上遠心血液ポンプ · B-02
・循環器デバイスの血栓生成を検出する血液凝固検出光センサ ······· B-03
生体材料研究グループ
・多様で柔軟な再生医療用細胞の培養加工を実現する無菌接続技術 ··· C-01
・患者にやさしい次世代型インプラントの開発と実用化 ············· C-02
界面・材料研究グループ
・蛍光性磁気ビーズを用いた糖質の高感度検出法の開発 ············· D-01
生体ナノ計測研究グループ
・表面増強ラマン散乱分光を用いたグルコースヘモグロビン識別 ····· E-01
・光学顕微鏡下の非接触 3 次元マイクロ操作とその自動化技術 ······· E-02
・マルチモーダルバイオイメージング用ナノ材料造影剤 ············· E-03
・エリプソメトリを用いたバイオチップおよび計測装置開発 ········· E-04
・唾液試料中の NO 代謝物計測用プロトタイプチェッカーの開発 ······ E-05
・低コスト医療診断を実現する、紙・フィルム・テープチップ ······· E-06
バイオマーカー診断研究グループ
・細胞チップを用いた各種臨床診断と細胞機能解析への応用 ········· F-01
・マイクロチップ基板上での抗原抗体反応系の構築 ················· F-02
・単純な構造のプラスチック製マルチ抗原抗体反応チップ ··········· F-03
生活環境制御研究グループ
・培養細胞による工業ナノ粒子の有害性評価技術 ··················· G-01
・有害イオンを選択的に捕捉する各種無機イオン交換体 ············· G-02
・食品機能性成分の定量分析技術-還元糖の一斉分析技術- ········· G-03
細胞光シグナル研究グループ
・生物発光レポーターを利用したセルベースアッセイシステムの開発 · H-01
・代替宿主としてのヒト型糖タンパク質生産出芽酵母 ··············· H-02
・レーザー光圧力を使ったマルチ細胞ソーター ····················· H-03
・糖尿病モデルマウスを用いた発症機構解析と予防効果評価法 ······· H-04
ストレスシグナル研究グループ
・各種疾患の早期診断法に有用なバイオマーカーの探索 ············· I-01
・超高速遺伝子検査システムの開発 ······························· I-02
・細胞接着性を制御できる機能性フィルムを用いた細胞配置技術 ····· I-03
・次世代抗体(アルパカ由来 VHH 抗体)実現へ向けた基盤研究開発 ····· I-04
・Reactive Matrix(MALDI-MS)を用いたカルボニル化合物の高感度検出 J-01
A-01
薬機法とガイドライン対応のソフ
ト開発を支援する SCCToolKit
セラノスティックデバイス研究グループ
研究のねらい
● 医薬品医療機器法(薬機法)では単体ソフトウェアが新たに規制の対象となりました。汎用の
パソコン(PC)が医療機器に「変身」すると、破壊的な価格で製品供給が可能になります。
● 一方、
法規制への対応で求められる技術水準、
法規制の範囲外のソフトに望まれる技術水準や、
汎用 PC 等を活用するコツは明らかでありませんでした。
● SCCToolKit は、医用画像・映像処理を中心とするソフトウェア開発キットです。ソースコー
ドはオープンソースで公開、そして添付文書ひな形、リスクマネジメント文書等を開示します。
新規技術の概要と特長
SCCToolKit は、OpenCV と Qt を拡張し
た画像処理ライブラリ(ソースコード)で
す。内視鏡、エコー等の映像、CT、MRI
等の医用画像・映像処理が主なアプリケー
ションです。サンプルプログラムとして内
視鏡ビデオ映像プロセッサ等が含まれてい
ます。技術的特徴は、
- 安価・小型・簡単:汎用 PC を活用します。
- 実時間性:HDTV 映像取得から表示まで
0.1 秒の遅れ時間を達成。
- HDTV 映像キャプチャ機器に対応。
- Mac (OS X)対応(Windows, Linux に対応
予定)
- スマートフォン連携機能
産総研は SCCToolKit を使う「ヘルスソフト
ウェアの開発に関する基本的考え方」
「GHS
開発ガイドライン」に準拠したソフト開発
をアシストします。
期待される連携・応用分野
SCCToolKit によるシステム構築例
SCCToolKit による「価格破壊」例
・医用画像・HDTV 映像処理を中心とするソフトウェア医療機器の開発と法規制対応
・スマートフォンとの連携システムの構築
・医療機器以外の分野でも、一品制作システムの開発にも有効(遠隔監視など)
関連特許および文献
・MIT ライセンスによるフリーオープンソースとして公開 http://scc.pj.aist.go.jp
・Chinzei K. et.al., MIDAS Journal (online), (2013) http://hdl.handle.net/10380/3422
・鎮西清行、日本コンピュータ外科学会誌、14(3), 190-1 (2012)
A-02
物理刺激応答を評価するための
金属ナノ粒子合成と評価技術
セラノスティックデバイス研究グループ
研究のねらい
● 金属ナノ粒子の生物学、環境、光電子工学応用が急速に進むなか、ナノ粒子コロイドと外部エ
ネルギー伝達解析及び物理化学特性評価が不可欠となっている。
● 金属ナノ粒子を光、超音波、放射線等で励起した時発生する熱、振動、電子が生体分子に与え
る影響を、共通の基準で比較できる試験系と評価技術を構築する。
● 金属ナノ粒子の高精度特性評価によって、異なる合成方法や機能化修飾ナノ粒子の物理刺激に
対する応答を、共通のプラットフォームで比較できるようになる。
新規技術の概要と特長
金属ナノ粒子に光、超音波、放射線等を
照射したときに起きる物理化学反応(熱、
振動、電子発生)が、タンパク質、脂質、
核酸等の生体分子に与える影響評価におい
ては、物理化学特性(サイズ、電荷、接合
分子等)が不均質で、条件によって細胞送
達率が大きく変化する実験系では、物理刺
激に対する応答を正確に比較できないこと
が課題であった。
金ナノ粒子が X 線を吸収し、光電子や Au
ger 電子を発生することによって、活性酸
素発生が促進されることを見出した。また、
金ナノ粒子の細胞内導入と外部刺激
金コロイドを腫瘍細胞培地に投与後、X 線
を照射したところ、細胞損傷が増強される増感効果が見られた。このような金属ナノ粒子の物理
化学及び生化学特性の高精度評価技術を開発し、金属ナノ粒子機能化の最適化を進めている。本
研究では、X 線、MRI、超音波で生体機能をイメージングする分子造影剤診断と、これらの物理刺
激に応答する金属ナノ粒子増感剤による治療を、シームレスにつなぐセラノスティックス技術の
構築を目指している。
期待される連携・応用分野
・がん治療(光線力学療法、温熱療法等)
、バイオマーカー検出等の医療応用
・太陽電池の増感、有害ガスの分解低減、環境浄化等の省エネ環境技術応用
・質量分析等の理化学機器の高感度化
関連特許および文献
・特許 5182858;X線治療用増感剤
・特願 2006-325323;X線治療用助剤
・Misawa,M et al, J. Nanomedicine, 7(5), 604-14 (2011).
B-01
循環器系医療デバイスの
流体力学解析・血液適合性評価
人工臓器研究グループ
研究のねらい
● 従来、循環器系医療デバイスの開発には、流体性能と血液適合性の設計と検証に多くの費用と
期間が必要であり、血液適合性評価は、動物実験に頼らざるを得ませんでした。
● ところが、現在では、流れ解析、あるいは動物実験を代替するベンチ試験によって開発期間の
短縮化が可能になりました。
● 私たちは、数値流体力学解析と流れの可視化実験、血液凝固と血球破壊のベンチ実験、さらに
は長期耐久性試験の結果を基に、動物実験を代替する迅速な最適流体設計を支援します。
新規技術の概要と特長
私たちは、数値流体力学解析、
流れの可視化実験、動物血を用
いた血球破壊試験や血液凝固試
験、および耐久性試験など、体
外循環ポンプを開発する上で必
須となる種々評価試験法を確立
し、その評価結果が生体で再現
することを確認しました。そし
て、これら評価試験結果を元に、
体外循環ポンプの迅速かつ高い
信頼性のある最適流体設計を実
現しました。
これらを活用して、種々の
循環器系医療デバイスの開発・
製品化とその承認申請に必要な
試験データの提供にも実績を挙
げています。
流れの解析評価
医療機器
血液適合性評価
期待される連携・応用分野
・連携分野:製造業(医療機器)
、製造業(精密機械)
・応用分野:医療デバイス、人工臓器
関連特許および文献
・西田ほか, 可視化情報, 33(131), 127-132 (2013)
・Nishida, et al., Artificial Organs, 33(4), 378-386 (2009)
・Maruyama, et al. , Artificial Organs, 29(4), 345-348 (2005)
耐久性評価
B-02
非接触駆動を実現する血液適合性
に優れた動圧浮上遠心血液ポンプ
人工臓器研究グループ
研究のねらい
● 心臓手術時や手術後の数時間から数日使用可能な従来の補助循環ポンプから、埋込型人工心臓
を適用するまでの数ヶ月使用可能な長期補助循環ポンプが必要とされています。
● 従来の補助循環ポンプは、短期使用が前提である接触式の軸受を採用しているため、軸受の磨
耗や、軸受部での溶血や血栓形成などの血液適合性に課題が残っています。
● 非接触軸受である動圧軸受を血液ポンプに応用することで、ポンプ内の羽根車を非接触で回転
駆動させ、長期耐久性と優れた血液適合性を持つ補助循環ポンプを実現することが出来ます。
新規技術の概要と特長
開発した動圧浮上遠心血液ポンプは、長期耐久
性と優れた血液適合性を実現することを目的に、
非接触式軸受である動圧軸受を採用しています。
動圧軸受とは、羽根車とケーシング間の狭くなる
軸受隙間に流体が入り込むことで生じる局所圧
を利用して羽根車を浮上させる軸受です。開発ポ
ンプでは、羽根車の上面と下面、内周面の 3 箇所
に動圧軸受を採用しています。
産総研で開発した動圧浮上遠心血液ポンプの
特長は、羽根車に作用する力のバランスを釣り合
わせるポンプ形状とすることで、産業用の動圧軸
受の軸受隙間数μm に比べて、非常に大きい軸受
隙間 150μm 以上を実現することができることで
す。血液ポンプにおいて、血液適合性に重要な軸
受隙間を広げることにより、アクリル製の試作血
液ポンプを使用して、市販血液ポンプよりも優れ
た血液適合性と、1ヶ月の非接触駆動を確認する
ことが出来ました。
期待される連携・応用分野
・非接触駆動可能な遠心血液ポンプや透析ポンプ
・摩耗粉を発生しない産業用ポンプ
・食品、培養液や薬液の輸送用ポンプ
関連特許および文献
・特開 2013-213413; 遠心血液ポンプ
・特開 2008-104664; 遠心血液ポンプ
・Kosaka R 他, Artif Organs, 38(9), 733-740 (2014)
図 1 開発した動圧浮上遠心血液ポンプ
流入口
羽根車
動圧軸受
流出口
図 2 動圧浮上遠心血液ポンプの内部構造
B-03
循環器デバイスの血栓生成を検出する
血液凝固検出光センサ
人工臓器研究グループ
研究のねらい
● 心疾患は国内死因の第2位であり、心疾患患者の救命に使用される心肺補助装置では、血栓や
過剰な抗凝固薬投与による出血の問題が全体の約30%を占めています。
●本研究は、循環器系デバイス深部の微細な血栓形成を血液回路の外からリアルタイムに光学的
に検出する技術開発です。
● 血液の凝固を常時監視することで、製品に関連する重篤な合併症の減少、心疾患救命率向上に
貢献します。
新規技術の概要と特長
血液が凝固すると、フィブリンという繊
維状の個体が析出し、周囲血液細胞を取り
込み、これを血栓と呼びます。我々は、血
栓に含まれる赤血球の量は、周囲血液と異
なることを明らかにしました。この差を可
視および近赤外光を用いて検出すること
で、従来常時監視不可能であった循環器系
デバイス深部の血栓をリアルタイムかつ血
液回路の外側から検知することに成功しま
した。
現在、血栓検出に最適な、安価で小型な
血栓検出センサを開発中です。
本技術は、デバイスに組込んで使用する
ことも、既存の血液回路の外側に装着して
用いることも可能です。
図 1 光による血栓検出の原理
図 2 ポンプ内の血栓検出
期待される連携・応用分野
・血液適合性評価を含む医工連携
・血栓梗塞症(心筋梗塞, 脳梗塞等)の非侵襲診断、ヘルスケア技術
・心臓血管外科手術、術後管理技術
関連特許および文献
・特開 2015-11010 (2015/01/19)
・D Sakota et al., Artificial Organs, 38(9), 733-740
・D Sakota et al., Artificial Organs, 39(8), 714-719
C-01
多様で柔軟な再生医療用細胞の
培養加工を実現する無菌接続技術
生体材料研究グループ
研究のねらい
● 再生医療用細胞は滅菌ができず、無菌操作による培養加工が必須である。培養加工操作は煩雑
で、
多くの装置を使用し培養期間が長期であることが多く、厳密な無菌性の維持が課題である。
● 本研究では、アイソレータシステムを基礎とし、細胞を培養加工する複数の装置同士を無菌的
かつユニバーサルに組み合わせ・脱着することが可能な無菌接続技術・装置を開発する。
● 無菌接続技術・装置に関連する国際標準化を進めており、安心・安全な再生医療用細胞の培養
加工操作を実現し、装置のグローバル市場への展開に貢献する。
新規技術の概要と特長
再生医療においては、細胞培養技術や組織再生技術の高度化および加工プロセスの複雑化によ
り、効率的な再生医療用細胞製造のために様々な装置を組み合わせ、統合するシステム化が求め
られている。 本技術により、種々の再生医療に用いる細胞培養・加工用装置類について、無菌
環境を維持した状態での脱着が実現し、再生医療等製品の多様化が可能になる。この無菌接続装
置を介して国内各企業の関連装置を自由に無菌的に脱着することができるようになり、ユニバー
サルな細胞製造システム、流通ネットワークを構築することができる。また、本技術の標準化に
より、市場に出回る細胞加工装置群の結合による一貫した無菌製造システムの構築が可能とな
り、国内外の再生医療産業化の促進が期待される。
現在、ISO/TC 198(ヘルスケア製品の滅菌)/WG 9(無菌操作)において、関係各国のコンセ
ンサスを踏まえた本技術に関する標準文書の作成を進めている。これにより細胞製造システムの
国際市場における優位性の確保に寄与する。また、医療機器開発ガイドライン等に沿った製品開
発の技術協力も可能である。
複数・多種類の細胞培養加工装置間の無菌的な脱着を可能とする無菌接続装置
期待される連携・応用分野
・細胞製造システム
・開発ガイドラインに沿った医工連携
・国際標準化策定
関連特許および文献
・ヒト細胞培養加工装置設計ガイドライン 2009
・除染パスボックス設計ガイドライン 2010
・無菌接続インターフェース設計ガイドライン 2012
C-02
患者にやさしい次世代型
インプラントの開発と実用化
生体材料研究グループ
研究のねらい
● インプラントの評価技術に関しては、ガイドライン、規格等に基づく試験方法の開発および、
インプラント産業への参入の障壁の低減化に積極的に貢献することが重要となります。
● 欧米人に比べて小柄な東洋人骨格構造に最適な製品の開発と早期の実用化が必要となります。
耐久性の高い材料を積極的に用いることで信頼性と安全性の高い製品が開発できます。
● 超高齢化社会を迎え、整形インプラントの使用量が増加し、また、設計製造技術の進歩に伴い、
患者の骨格構造に最適化した個別対応型(カスタムメイド)インプラントの開発を支援します。
新規技術の概要と特長
ステンレス鋼と Co-Cr-Mo 合金に比べて、生体適合性が優れる Ti 合金では、Zr、Nb、Ta など
を添加することで、力学特性、疲労特性、長期間の耐食性と生体適合性が高くなります。これ
らの疲労強度の高い材料を積極的に用いることで信頼性と安全性の高い製品の開発が可能とな
ります。特に欧米人に比べて小柄な東洋人の骨格構造に最適な製品の開発と早期の実用化を目
指しています。さらに、急速な進化をとげる3Dプリンタなど、新しい技術が、患者にやさし
い医療を実現します。CTデータから最適な整形インプラントを設計製作する技術も進んでおり、
この分野の輸入依存率を下げ
る効果も期待できます。具体的
には、患者の CT 等のデータか
ら患者に最適なインプラント
の設計製造、安全性の検証を行
い、医師の確認後、加工を行い、
1 週間程度での製品の製造を
目標としています。
期待される連携・応用分野
製造技術の革新と患者に優しいインプラント開発
・効率的な薬事製造承認取得
・低コスト高性能部材製造技術
・短納期設計および加工技術
関連特許および文献
・特許 2102778 号;生体用チタン合金
・次世代(高機能)人工股関節・ハイブリット型人工骨・骨補填材ガイドライン
・カスタムメイド骨接合材料・カスタムメイド人工関節(股関節,膝関節,足関節)
D-01
蛍光性磁気ビーズを用いた
糖質の高感度検出法の開発
界面・材料研究グループ
研究のねらい
● 近年、糖質に関する研究が目覚ましく進歩しており、癌、免疫受容体、受精、発生・分化、感
染症、バイオ医薬品開発等において、重要な役割を果たしていることが明らかとなっている。
● 糖質を標的とする診断薬等の開発において、糖質とそれを認識するプローブとの結合力は一般
的な抗原‐抗体反応と比較して弱いため、新たな評価技術の開発が求められている。
● 高いエネルギー移動効率の FRET を誘起する独自の化合物とレクチンおよび磁気ビーズを融
合することにより、糖質の高感度検出に成功した。
新規技術の概要と特長
N
O S O
HN
ダンシル基
励起波長:340nm
蛍光波長:510nm
・研究用試薬開発
・バイオセンサー技術、測定技術開発
・創薬スクリーニング技術開発
NC
CN
シアノピラニル基
励起波長:480nm
蛍光波長:550nm
図1 ダンシル基とシアノピラニル基の構造と光
学特性
100
80
60
40
20
0
期待される連携・応用分野
O
O
蛍光強度の変化量(%)
①環境応答性が高いシアノピラニル基と標識化試薬
として汎用性の高いダンシル基が、高いエネルギー移
動効率の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を誘起す
るエネルギードナーとエネルギーアクセプターの組
み合わせとして有望であることを見出した(図 1)
。
②上記蛍光物質を用いてレクチンによる単糖、二糖の
蛍光検出を行ったところ、糖-レクチン間の相互作用
をダンシル基-シアノピラニル基間の距離に依存し
た蛍光強度の変化を用いて検出することに成功した。
③磁気ビーズ表面にレクチンおよび蛍光物質を修飾
し、種々の濃度の糖質を添加したところ上記②と同様
の蛍光強度の変化および磁気ビーズを用いることに
よる糖質の高感度検出が達成された(一例として、レ
クチンとして Con A を用いた場合、0.1 nM のマルト
ースを検出することに成功)
。さらに、Con A 以外の
レクチン(WGA、AAL 等)についても、それぞれ親
和性の高い糖質を識別することに成功した(図 2)
。
Con A
WGA
AAL
図2 蛍光団と種々のレクチンを修飾した磁気ビーズと
種々の糖質との反応前後における蛍光強度。
■:α-Man, ■:Fucose, ■:Melibiose, ■:GlcNAc
関連特許および文献
・特 4893964;新規化合物、該化合物を含むペプチド又はタンパク質の分析用試薬、及び該分
析試薬を使用する分析方法
・鈴木祥夫, 久野敦, 千葉靖典, Sensors and Actuators B-Chemical, 220, 389-397 (2015)
E-01
表面増強ラマン散乱分光を用いた
グルコースヘモグロビン識別
生体ナノ計測研究グループ
研究のねらい
● 背景】高血糖症や糖尿病の人口増加が社会問題となっている。現在、糖尿病予防のための安価、
簡便、高速な診断技術の一層の発展が求められている。
● 目的】グルコースヘモグロビンの識別方法として HPLC 法などが用いられている。表面増強ラ
マン散乱分光を用い、従来法(血液の必要量 1μL、測定時間数分程度)を向上する。
● 意義】表面増強ラマン散乱(SERS)分光によりグルコースヘモグロビン(HbA1c)とヘモグロビン
(HbA)のスペクトル識別を行うことにより将来的に数秒で定量可能とし診断に貢献する。
新規技術の概要と特長
開発した新規技術の核心は SERS 分光により HbA1c と HbA のスペクトル識別を数秒で行うこと
ある。この結果、糖尿病指標分子であるグルコースヘモグロビンの診断時間が数秒に短縮される
可能性がある。従来、HbA1c 測定法としてラテックス凝集法と HPLC 法がある。ラテックス凝集法
とはラテックス粒子表面に検体中の HbA1c を吸着させ、これに抗 HbA1c 剤を反応(抗原抗体反応)
させ、このとき生ずるラテックスの凝集を濁度として測定し標準曲線より全血中の HbA1c 濃度を
求める手法である。HPLC 法では HbA1c と HbA との電気的性質の違いを利用してイオン交換カラム
クロマトグラフィーで分離する手法である。両法の所要時間は 10 分程度であり、必要サンプル
量は最小で 1μL 程度である。SERS 分光では、HbA1c 単一分子の測定が可能なため基本的にサン
プル量を HbA1c の不均一性が現れる(1 nL 程度)まで低減できる。所要測定時間はサンプル準備を
除き数十秒である。現行のサンプル準備時間(3 時間)については大幅な短縮が可能である。
図1
Hb
HbA1c
図 1. HbA(A)と HbA1c(B)の SERS スペクトル。HbA1c
の SERS スペクトルの 800 cm-1 に HbA では現れないバ
ンドがある。挿入図は銀ナノ粒子と分子の凝集体。そ
れぞれ右パネルが暗視野照明像、
左パネルが SERS 像。
図 2. HbA(A)と HbA に糖を自然吸着させた HbA(B)の
SERS スペクトル。糖付加した HbA の SERS スペクトル
の 800 cm-1 に HbA1c の指標となるバンドが現れる。挿
入図は銀ナノ粒子と分子の凝集体。
それぞれ右パネル
が暗視野照明像、左パネルが SERS 像。
図2
期待される連携・応用分野
・病院、健康機器メーカーとの連携
・HbA1c の定量への応用と糖尿病予防への展開
関連特許および文献
・Kiran M. S., Itoh T., et al., Anal. Chem., 82(4), 1342-1348 (2010).
E-02
光学顕微鏡下の非接触 3 次元マイ
クロ操作とその自動化技術
生体ナノ計測研究グループ
研究のねらい
● 背景】DNA チップなどの静的アレイに代わる動的微粒子アレイの作成、顕微受精などの熟練作
業の半自動化など、光学顕微鏡下のマイクロ操作の自動化・高精度化のニーズは多い。
● 目的】非接触マイクロ操作技術である光ピンセット技術と画像処理などの高度自動技術を融合
化することで、光学顕微鏡下の汎用的な非接触 3 次元マイクロ操作技術を確立する。
● 意義】従来の光ピンセット技術では捕捉の困難であった非球状の微小物や細胞を、閉鎖環境下
で複数同時に非接触 3 次元マニピュレーションできる技術を提供する。
新規技術の概要と特長
光学顕微鏡下で、サブ〜数十ミクロンサイズの微小物を非接
触操作できる光ピンセットは、マイクロデバイス中などの閉鎖
環境での遠隔操作も可能であるため、非常に強力なマイクロ操
作ツールである。一般的に、操作対象となる細胞などは、多く
が非球状な形状をしているが、従来の光ピンセットで安定して
捕捉、操作できるのは球形に限られていた。また、細胞操作な
どではルーチンワークとして大量の試料を処理することが必
要であるが、熟練者の手作業に頼っているのが現状である。
図 1.
動的微粒子アレイ作成の様子
我々は、光ピンセット技術と画像処理などの高度自動化技術の
融合により、汎用的非接触 3 次元マイクロ操作技術の開発と、
開発した基盤技術の多様な分野への応用をめざして研究を展
開している。これまでに、非球状な微小物(楕円状の珪藻や棒
状のウイスカなど)を自動的に認識・捕捉し、安定してマイク
ロ操作できる「光多点クランプ法」
、多数の微粒子を同時・並
列的に操作して「動的微粒子アレイ」を作るアルゴリズム(図
1)などを開発した。また、大規模な動的アレイを作成できるハ
イブリッド光学系や、複数微粒子を 3 次元操作できる 3 次元時 図 2.6 面体頂点位置で捕捉された
微粒子の 3 次元回転の様子
分割光ピンセット系(図 2)を提案し、有効性を実証した。
期待される連携・応用分野
・光多点クランプ法:細胞操作の必要となる応用分野、Micro-TAS、マイクロマシン組立など
・動的微粒子アレイ:Micro-TAS 内の微小球の自動操作、各種アレイ型センサの自動組立
・3 次元時分割・ハイブリッド光ピンセット光学系:光ピンセットが適用できる全ての分野
関連特許および文献
・特開 2013-235122; 微小物の 3 次元操作装置.
・特許 5686408 号; 微粒子のアレイ化法および装置.
・Tanaka Y., et al., Biomedical Optics Express, 5(7), 2341-2348 (2014).
E-03
マルチモーダルバイオイメージング用
ナノ材料造影剤
生体ナノ計測研究グループ
研究のねらい
● マルチモーダル画像診断は、モダリティのメリットを最大限に生かし、様々な疾患の高精度検
出を可能にする。そして近年生物医学的用途への開発が進められている。
● 本研究は、
単一分子から生体レベルで使用可能な MRI と蛍光画像の組み合わせ用の造影剤とし
て、生体適合性があり安全なナノ材料を提供することを目的としている。
● 生体適合性がある安全な MRI と蛍光画像造影剤は、有害な放射線を介さずに腫瘍など疾病の高
精度検出に有益である。
新規技術の概要と特長
新規機能的リガンド分子使用により、MRI と
NIR 蛍光画像用途のバイオコンジュゲートナ
ノ粒子造影剤を準備完了状態にする。リガン
ドは配位錯体を基にした MRI と蛍光造影剤の
生成だけではなく、マルチモーダルナノ粒子
中への小分子、近赤外蛍光性量子ドット、お
よび量子クラスタの補充を可能にする。ペプ
チド類やタンパク質のような生体分子が抱合
された状態で、これらのナノ粒子は生体での
効率的な単一分子検出、細胞ラベリング、細
胞内輸送、およびマルチモーダル画像処理の
ような応用が可能になる。さらに、ナノ粒子
からの一重項酸素の発生を最大限に活用し、
細胞を用いた光線力学的療法への応用に向け
開発する。加えて、マルチモーダルナノ粒子
の表面に補充された新規リガンドは、撮像応
用後にナノ粒子の緩やかな分解および腎排せ
つを可能にする。
図.マルチモーダルナノ粒子(上)
、蛍光と MRI 画像(下)
期待される連携・応用分野
・蛍光および磁気分子とナノ材料の開発
・MRI および蛍光画像用バイオコンジュゲート造影剤の提供
・単一分子蛍光分光および顕微鏡検出
関連特許および文献
・S. Yamashita, V. P. Biju, et al., Angew. Chem. Int. Ed., 54, 3892-3896 (2015).
・E. S. Shibu, V. P. Biju, et al., Angew. Chem. Int. Ed., 52, 10559-10563 (2013).
・E. S. Shibu, V. P. Biju, et al., ACS Nano, 7, 9851-9859 (2013).
E-04
戦略1
エリプソメトリを用いたバイオ
チップおよび計測装置開発
生体ナノ計測研究グループ
研究のねらい
● 背景】病気の診断には複数のマーカータンパク質を同時に計測することが必要だが、従来法で
は一つのタンパク質に対し複数の抗体が必要であり、コストや診断の正確さに問題がある。
● 目的】蛍光色素による標識化を行わず、二次抗体を必要としないタンパク質の計測技術を開発
する。
● 意義】ガラス基板に高屈折率層を設けることにより、直交した偏光の強度比および位相差に基
づき、基板表面に吸着する生体分子を検出する感度を大幅に向上させた。
新規技術の概要と特長
光が基板表面で反射するとき、直交する偏光
の強度比および位相差は基板表面に存在する物
質の量によって鋭敏に変化する。この現象を利
用した測定法であるエリプソメトリは、生体物
質を非標識かつ高感度で計測する手法として有
望である。タンパク質マイクロアレイへの応用
を目指し、ガラス基板の表面に高屈折率層を設
け、基板の裏面に光を照射し測定を行う二次元
内反射型エリプソメトリを開発した。実際に基
板表面に固定したビオチンに対して緩衝液中ア
ビジンが結合する過程を多数の領域で同時に実
時間で測定することができた(図 1)
。
また、エリプソメトリは、吸着量の計測と同
時に、吸着した物質の屈折率の計測が可能であ
る。実際に脂質二分子膜の形成する過程を観測
した(図 2)
。この手法に基づき脂質二分子膜の
構造変化や膜タンパクの機能発現の観測を目指
して研究を進めている。
図 1.ビオチン-アビジン結合の実時間計測。計数
は、アミノ化した基板表面(b)に比べビオチンを
固定化した領域(a)で大きな変化を示した。
期待される連携・応用分野
・健康診断用デバイス、計測装置の開発
・生体分子間相互作用の解析
・細胞膜構造、膜タンパク機能の解析
関連特許および文献
・Otsuki S., et al., Appl. Opt. 44, 1410-1415 (2005).
・Otsuki S., et al., Opt. Lett. 32, 130-132 (2007).
・Otsuki S., et al., Opt. Lett. 35, 4226-4228 (2010).
図 2.脂質二分子膜の屈折率と膜厚の同時測定。基板
表面をカルボキシル化し、二本鎖アルキル四級アンモ
ニウム塩(DDAB)のベシクル水溶液と反応させた。
E-05
唾液試料中の NO 代謝物計測用
プロトタイプチェッカーの開発
生体ナノ計測研究グループ
研究のねらい
● 背景】
「体」と「心」の健康は、高齢化社会では最重要課題であり、自宅やコンビニなどで手
軽に健康指標(バイオマーカー)を測れる技術開発が求められている。
● 目的】緊張、喘息、歯周病や不眠症などの新規バイオマーカー(唾液 NO 代謝産物)検証とし
ての被験者・臨床研究用の計測デバイスのプロトタイプを開発する。
● 意義】産総研独自の検知材料の設計研究と生体適合性材料の開発により、全唾液試料でも高信
頼性でその場計測できるバイオセンサーを実現する。
新規技術の概要と特長
一酸化窒素(NO)は血管拡張因子として知られ、生体内で速やかに代謝され、代謝物である
硝酸、亜硝酸イオンの合計量が臨床化学的な指標となる。新鮮唾液では、桁違いに存在する硝酸
イオン量が指標となる。
本開発センサー膜は、①合成イオンチャンネル物質に材料設計した硝酸イオン対化合物、②高
選択性を発現する高誘電率の液膜溶媒、③プラスチック膜化のための生体適合性ポリマーから構
成されます。開発したセンサー膜を、電子体温計型 FET チェッカーに展開し、全唾液試料のそ
の場一滴計測を実現しました。
従来の硝酸イオンセンサー膜と比較して、数桁の高感度化が達成され、µM(ppm)オーダーの
低濃度まで測定可能である。また、センサー膜の寿命は 1 年以上と飛躍的に向上した。ヒト唾液
試料を用いた結果、イオンクロマトグラフィの測定値と良い絶対値の一致が得られた。
神戸大学大学院海事科学と共同研究により、
緊張ストレス計測の実証研究を進めている。
山形大学有機エレクトロニクス研究センター
と印刷エレクトロニクス技術を用いたフレキシ
ブル FET センサーの共同研究に着手した。
今後は、プローブ型やウエアラブル型など、
使いやすい各種形状の硝酸イオンセンサーの
プロトタイプ開発を予定している。
期待される連携・応用分野
図.試作 FET チェッカー特性とイオンクロマト相関
・印刷エレクトロニクス技術を用いたフレキシブルバイオ FET センサーの研究開発
・ストレス科学、循環器疾患、口腔疾患等の人間工学・臨床研究用バイオセンサー技術
・地下水、上水、野菜、鉄鋼プロセス、淡水系富栄養化成分の簡便リアルタイム計測
関連特許および文献
・特許 4013033; シリコーンラダーポリマーを用いる新規イオン感応膜.
・脇田慎一,イオン選択性電界効果トランジスタ(ISFET), 電気化学便覧, 第 6 版, (2013).
・脇田慎一,唾液ストレス計測バイオチップ技術, 50(5), 429-434 (2015).
E-06
低コスト医療診断を実現する、
紙・フィルム・テープチップ
生体ナノ計測研究グループ
研究のねらい
● 微量の試験液でバイオ・化学分析を行うマイクロ流路チップは、費用、耐久性、使い易さが実
用化の障害になっています。
● 従来の医療用検査紙とは異なり、半導体製造技術で作製する高度なマイクロ流路チップと同等
の精度・感度が得られるため、偽陽性・偽陰性の問題を大きく低減できます。
● 研究ある本チップが普及すれば、血液中の各種バイオマーカーやHIV 等の感染症に対するその
場診断・早期発見、新薬の開発に対し、飛躍的な迅速化・効率化が期待できます。
新規技術の概要と特長
一滴の血液と展開液を滴下するだけで血漿成分(回収率:60-80%、抽出時間:30-90 秒)が抽
出され、血中試料を迅速に検出できる、簡便・超安価なマイクロ流路チップを開発しました。殆
どの医療用検査紙は、紙片の変色・発光で判定を行いますが、本チップは透明シート上にクリア
に結果が表れるた
め、精度・感度に優
れています。
現場で、簡便、迅
速、安価(血球分離
操作不要、送液装置
不要、インキュベー
ト時の乾燥が大き
く低減、1~3 円/チ
ップ)に検知する事
をめざし、多様なニ
ーズに対応したマ
イクロ流路チップ
の作製に成功しま
紙・フィルム・テープチップの使い方と特徴
した。
期待される連携・応用分野
・水質や動植物の健康状態などを現場で簡易にモニタリングする技術
・全血からマイクロ流路を用いて計測する技術
・簡便で低コストな検査チップの作製技術
関連特許および文献
・WO/2014/051033 (2014/04/03)
F-01
戦略2
細胞チップを用いた各種臨床診断
と細胞機能解析への応用
バイオマーカー診断研究グループ
研究のねらい
● 背景】赤血球に感染するマラリアや血中に循環する循環がん細胞(CTC)の診断など、正確か
つ迅速な診断法が求められている。
● 目的】一細胞レベルでの検出感度で、血中に存在する標的細胞を検出を行い、正確な診断応用
を目指す。
● 意義】細胞チップの診断応用で、マラリアでは発症前診断が、CTC 検出では従来法では困難な
CTC 検出が期待される。
新規技術の概要と特長
ポリスチレン製マイクロチップ基板上に直径 105 µm、深さ 50 µm のマイクロチャンバーを2
万個程度作製しレーザー表面処理を行うことで、各マイクロチャンバー底に赤血球や白血球を定
量的に単層配列可能な細胞チップを開発した。各マイクロチャンバーには赤血球を約 100 個、白
血球は約 50 個を定量的に単層配
列可能となり、一枚のマイクロチ
ップ基板でそれぞれ 200 万個及び
100 万個の観察が可能になる。マ
ラリア診断では、観察時間 15 分
で既存のギムザ染色法の 200 倍
の超高感度で赤血球に感染したマ
ラリア原虫の検出が可能になる。
CTC 診断では、多重染色による一
細胞観察を行うことで、既存法の
ように EpCAM 発現に依存しないが
ん細胞検出が可能になり、CTC の
見逃しがない正確ながん細胞検出
が期待される。
期待される連携・応用分野
・医学
・細胞工学
・国際貢献
関連特許および文献
・Yatsushiro S. et al., PLoS One, 5(10), e13179 (2010).
・Yamamura S. et al., PLoS One, 7(3), e32370 (2012).
・特願 2010-527805:13/060531(米国): 09811528.0(EPC); 細胞検出方法及び該方法に用いるマ
イクロアレイチップ.
F-02
戦略1
マイクロチップ基板上での
抗原抗体反応系の構築
バイオマーカー診断研究グループ
研究のねらい
● 背景】通常、数日必要とされる血中バイオマーカーの定量検出を、抗原抗体反応をオンチップ
化することで「その場診断」Point Of Care Testing (POCT)へ応用することが求められている。
● 目的】マイクロ流路上の任意の部分に各種バイオマーカー検出のための一次抗体を吐出・固定
化することで、マイクロ空間を用いた抗原抗体反応系の構築を行う。
● 意義】マイクロチップを利用した抗原抗体反応の POCT への応用を可能とすることで、より的
確かつ迅速な診断と効果的な治療法の選択が実現できる。
新規技術の概要と特長
血 液 中 の 特 定 の タ ン パ ク 質 を 高 感 度 ・ 定 量 的 に マイクロチップ基板
検出するため 2 種類の抗体を用いたサンドイッチ ELISA 法
が頻用される。現状の 96 穴プレートを用いたサンドイ
ッチ ELISA 法では mL 単位の血液と試薬と数時間の解析時
間が必要で、医療現場で POCT への応用は難しい。そこで
マイクロ流路上に固定化
された抗体
環状ポリオレフィン製マイクロチップ基板(住友ベークラ
イト社製)表面に形成したマイクロ流路表面を固相面とし
300 µm
て利用し、pL 単位の液滴のハンドリングが可能な微細化イ
ンクジェットを用いて一次抗体をマイクロ流路表面の任
IL-6
意の部分へ吐出・固体化することで、迅速・省サンプルで
サンプル A
既存の 96 穴 ELISA 法と同等に正確な血中タンパク質の検
出系を構築した。同一マイクロチップ基板に複数の流路を TNF-
形成して、複数種類の抗体固定を行うことでマルチ検出チ
ップの構築を行っている。
IL-6
サンプル B
TNF-
期待される連携・応用分野
・臨床検査学
・予防医学
・生化学
関連特許および文献
・Yatsushiro S., et al., PLoS One, 6(4), e18807 (2011).
・Abe K., et al., PLoS One , 8(1), e53620 (2013).
・特開 2010-8109; 抗原抗体反応を利用した標的物質検出用チップ.
F-03
単純な構造のプラスチック製
マルチ抗原抗体反応チップ
バイオマーカー診断研究グループ
研究のねらい
● 背景】健康情報関連マーカー時系列情報の蓄積と活用に向け、極微量のサンプルで、多数種の
マーカー物質濃度が、迅速かつ簡便に測定できる装置が求められています。
● 目的】マイクロ流路型抗原抗体反応チップを実現するため、基板の製造容易性、抗体固定化方
法、流路形成方法などの課題を解決しました。
● 意義】構造が単純であるため低コストで作製可能でありながら、単一流路内で複数種類の血中
タンパク質を同時測定可能なプラスチック製小型チップを開発しました。
新規技術の概要と特長
本チップは、単純な微小溝構造を有
するプラスチック製基板をベースとし
て、インクジェットによる抗体固定化
の後、粘着フィルムを貼付することで
流路を形成します。反応場となる流路
体積が微小であることから、抗体・試
薬等が極微量で済み、チップコストの
低減につながるうえ、必要な検体試料
は数マイクロリットルです。さらに、
単一流路に種類の異なる抗体を固定化
することにより、一検体に対して同時
多項目検出も可能です。
一つの例として、骨粗鬆症のバイオ
マーカーである I 型プロコラーゲン C
末端プロペプチド(P1CP)の検出を行っ
たところ、既存の ELISA 法と同等の性
能を示しました。
インクジェット技術:抗体固定
チップ用フィルム:流路形成
表面処理
溝加工
マルチマーカー
測定チップ
抗原抗体反応によるマーカー検出
抗原濃度
150ng/ml
600ng/ml
期待される連携・応用分野
・ディスポーザブル健康診断チップの開発
・新規バイオマーカーの探索支援
図 マルチ抗原抗体反応チップ作製技術と
化学発光によるマーカー検出結果
関連特許および文献
・特許第 4999007 号;抗原抗体反応を利用した標的物質検出用チップ
・M. Tanaka, T. Ooie, Y. Yamachoshi, T. Nakahara, M. Hino, R. Akamine and M. Kataoka, J.
Laser Micro / Nanoengineering, 5(1), 35 (2010)
G-01
培養細胞による工業ナノ粒子の
有害性評価技術
生活環境制御研究グループ
研究のねらい
● 工業ナノ粒子は、日焼け止めや触媒などに利用されている重要な工業材料であるが、粒子径の
小ささから、有害性が懸念されている。しかし現在のところ標準となる有害性評価系が無い。
● 動物実験の縮小が推進される中、培養細胞を用いた、信頼性のあるナノ粒子の有害性評価系を
提案する。炎症誘発性と酸化ストレス負荷に焦点を絞り、培養細胞での評価を行う。
● 本技術では、国際標準(ISO)化を目指す技術を含む、総合的な有害性評価を行う。急性毒性
については動物試験の結果との相関性も確認しており、製品の管理に役立つ。
新規技術の概要と特長
ナノ粒子(1~100nm の直径を持つ粒子)は、有害性が懸念されており、製品として生産・販売
を行うためには、有害性評価のデータが求められる。しかし、従来の化学物質とは異なり、ナノ
粒子には国際的なコンセンサスを得た標準的な評価方法が存在しない。従来の化学物質と同様の
手法は、時として人為的影響を招く場合がありナノ粒子には適さないという報告がある。ナノ粒
子の有効利用のためには、人為的影響を排除した信頼性のある正確な評価方法によって、データ
を取得する必要がある。本技術は、細胞試験のためのナノ粒子培地分散液の調製と、ナノ粒子の
細胞影響メカニズムに基づいた総合的な細胞影響評価によって、動物試験の結果ともリンクした
正確な評価技術を提供する。下記考慮すべきナノ粒子の細胞影響メカニズムを把握しつつ、細胞
毒性、炎症誘発性、酸化ストレス負荷
等の影響評価を行い、ナノ粒子の生体
に対する有害性を評価する。
・ナノ粒子はタンパク質等を吸着しや
すい。
・ナノ粒子は金属イオンを溶出する
場合がある。
・分散液の状態は細胞毒性評価に影響
する。
・ナノ粒子は細胞内に取り込まれる。
期待される連携・応用分野
図.工業ナノ粒子の細胞による影響評価の概要
・安価で迅速なナノ粒子の有害性評価と管理
・ナノ粒子の細胞影響メカニズムの解析に基づく新規材料の開発
・細胞を用いた有害性評価系の開発
関連特許および文献
・特開 2012-029683; ナノ炭素材料の細胞培養液中分散方法
・Horie M., et al., Metallomics, 4(4), 350-360 (2012).
・Horie M., et al., Chem. Res. Toxicol., 25(3), 605-619 (2012).
G-02
有害イオンを選択的に捕捉する
各種無機イオン交換体
生活環境制御研究グループ
研究のねらい
● 飲料水等に含まれる必須ミネラルは残しつつ、微量でも健康に有害なイオンのみを選択的に取
り除く技術の開発が求められています。
● 無機イオン交換体の結晶性や細孔構造を精密に制御することで、特定の有害イオンに対して高
い捕捉性が発現します。
● 開発した有害イオン選択性無機イオン交換体は、低濃度でも高い捕捉性を示すため、水道水や
地下水等の浄水技術への応用が期待できます。
新規技術の概要と特長
水環境中から陰イオンを効率よく除去する方法としてイオン交換法があり、一般的には陰イオ
ン用のイオン交換樹脂が用いられています。しかし、特定イオンに対して高い選択性を持つイオ
ン交換樹脂はほとんどありません。一方、無機イオン交換体には、イオン交換場の結晶構造に起
因して、特異的なイオン交換性を示すものが多く存在しています。私たちは、層状無機イオン交
換体の結晶性、層間制御、層間への分子挿入等によって、微量でも健康に有害なイオンを選択的
に捕捉できる各種無機イオン交換体を開発しています。
〇
〇
〇
〇
開発済みの有害イオン捕捉剤
硝酸イオン選択性層状複水酸化物
臭素酸イオン選択性層状複水酸化物
リン酸イオン選択性層状複水酸化物
過塩素酸イオン選択性層状化合物
その他、井戸水等の地下水などの還元
性環境で存在する 3 価のヒ素を 5 価と同
様に捕捉する材料や、層状無機イオン交
換体を利用した塩水中でも使用可能な抗
菌剤の開発を行っています。
期待される連携・応用分野
・無機イオン交換体による水処理システム
・浄水場におけるリスク管理
・地下水の浄水
層状複水酸化物を用いた有害イオン選択性捕捉剤の設計
関連特許および文献
・特許第 4547528 号(2010/07/16);硝酸イオン選択的吸着剤、その製造方法、それを用いた硝酸
イオン除去方法および硝酸イオン回収方法
・特許第 4963032 号(2012/04/06);リン吸着剤
・特許第 5540283 号(2014/05/15);臭素酸イオン除去剤
G-03
食品機能性成分の定量分析技術
-還元糖の一斉分析技術-
生活環境制御研究グループ
研究のねらい
● 食品機能性成分の誇大広告等が社会問題となっていること及び国民の健康志向の高まりの両
面から、食品機能性成分の情報提供を求める声が消費者及び量販店から多く寄せられている。
● 還元糖のポストカラム蛍光誘導体化反応及び濃度勾配溶出法を導入することで、従来の示差屈
折計を用いた糖分析システムでは不可能であった単糖及びオリゴ糖の一斉分析を可能にする。
● 単糖及びオリゴ糖は生体内機能及び栄養価が異なる。しかし食品成分データベースでは得られ
るのは全糖量情報である。単糖及びオリゴ糖の個別情報が得られる技術は重要である。
新規技術の概要と特長
糖質はUV吸収、可視部吸収あるいは蛍光吸収を持つものが少ないため、高速液体クロマトグ
ラフィー(HPLC)は示差屈折計による検出が一般的である。しかしその検出感度は 10-7 mol (10
nmol)以上と低い。単糖分離用移動相及びオリゴ糖分離用移動相は組成が異なるが、示差屈折計
を用いた検出法では移動相組成を変化させて分析することができない。そのため単糖及びオリゴ
糖の一斉分析が不可能であった。そこで還元糖の蛍光誘導体化反応を導入した糖分析 HPLC シス
テムを考案した。本分析法は蛍光検出器が可能なため濃度勾配溶離法が適用でき、単糖及びオリ
ゴ糖の一斉微量分析を短時間で達成することができた。
特徴
1.高感度
検出限界値 glucose 1.8 pmol/inj.
2.高分離(図参照)
3.迅速 (9 糖まで 45 min 以内)
4.広いオーバーレンジ
20~2000 pmol/inj. (r = 0.9998)
5.高再現性 RSD
(retention time 0.36% ribose)
(peak intensity 1.6% maltopentaose)
期待される連携・応用分野
・食品中の機能性成分の定量分析
・食品加工工程における品質管理
・食品分析フォーラムでの活用
図 単糖及びオリゴ糖の一斉微量分析クロマトグラム
関連特許および文献
・特許 3735666 号;糖類混合物の同時分析方法及びそれに用いる分析装置
・Kakita et al., Journal of Chromatography A, 961, 77-82 (2002)
・Kakita et al., Journal of Chromatography A, 1129, 296-299 (2006)
H-01
生物発光レポーターを利用した
セルベースアッセイシステムの開発
細胞光シグナル研究グループ
研究のねらい
● 発光レポーターであるルシフェラーゼを用いたセルベースアッセイは、遺伝子発現をはじめと
する様々な細胞内情報を定量的に測定するための解析ツールとして汎用されています。
● これまで独自に開発した生物発光レポーター群を活用し、従来よりも効率的且つ高精度に評価
可能なセルベースアッセイシステムの構築を目指しています。
● 細胞から発する複数種の発光をリアルタイム且つハイスループットに測定することで、複数の
マーカー遺伝子の発現変動のキネティクスを精密に計測するシステムを開発しています。
新規技術の概要と特長
独自に開発した生物発光レ
ポーターと、鳥取大学医学部が
開発した人工染色体ベクター
の技術を融合し、従来のセルベ
ースアッセイシステムよりも
効率的且つ高精度に細胞応答
を検出できるシステムを構築
しました。具体的には、生体リ
ズム遺伝子発現や炎症応答反
応などをはじめとする様々な
細胞応答を、96 ウェルプレー
トを用い、リアルタイムに計測
することに成功しました。現
在、構築したシステムを利用
し、種々のセルベースアッセイ
を実施しています。
発光細胞を用いたマーカー遺伝子発現のリアルタイム発光計測
期待される連携・応用分野
・薬効、食品機能、化学物質毒性等の評価
・機能性評価用発光細胞作製、発光検出装置開発
関連特許および文献
・第 5164085 号、US8383797、細胞内発光イメージングのために最適化されたルシフェラーゼ遺伝子
・第 4385135 号、US7572629、DE602004030104.3-08、CN1784496、FR1621634、GB1621634、マ
ルチ転写活性測定システム
H-02
代替宿主としてのヒト型糖タンパク質
生産出芽酵母
細胞光シグナル研究グループ
研究のねらい
● バイオ医薬品の需要拡大にともなって、開発速度、生産速度の向上は必須となってきている。
従来のバイオ医薬品生産のための宿主である CHO 細胞に替わる宿主の開発が望まれる。
● 宿主開発では糖鎖付加の制御技術は必要であるが、ヒト型糖鎖への改変は宿主自身の機能を妨
げるため難しい。新規育種技術を宿主として利用する出芽酵母へ適用しこの問題に取り組む。
● ヒト型糖鎖生産出芽酵母は遺伝子組換えが容易であるため、安価なバイオ医薬品生産のためだ
けでなく、迅速なバイオ医薬品開発のためにも利用できる。
新規技術の概要と特長
代替宿主を利用するバイオ医薬品の生産において、糖鎖をヒト型に変換する過程がボトルネッ
クとなっており、これを打破する技術の開発が望まれている。
これまでに出芽酵母では、糖鎖合成にかかわる
三つの遺伝子を破壊することによって、ヒトが作
る高マンノース型糖鎖と同一のヒト型糖鎖を生
産する株の開発に成功している。ただし、この糖
鎖変換の過程で、出芽酵母の増殖能力の低下と糖
タンパク質の生産能力の低下が認められた。この
ような能力低下の問題は酵母以外の生物種を用
いた代替宿主開発にも共通する障害となってい
る。そこで、宿主の遺伝子にランダムに変異を導
入することができる「不均衡変異導入法」を保有
する株式会社ちとせ研究所と共同研究を行い、酵
母の増殖能力と糖タンパク質の生産能力がとも
に向上したパン酵母株を開発することに成功し
た。ヒトの複合型糖鎖を生産するために、さらな
る遺伝子改変を必要とするが、本開発酵母を用いることによって可能となる。このような出芽酵
母株が開発できれば、目的とする糖タンパク質の大量生産も可能となる。
期待される連携・応用分野
・創薬スクリーニング
・バイオ医薬品の生産
・有用糖タンパク質の生産
関連特許および文献
・ 特許 5119466 号; 酵母の製造方法、酵母、及び糖タンパク質又はβ-グルカンの製造方法
・ Abe H. et al., Glycobiology, 19, 428-436 (2009)
・ Tomimoto K. et al., Biosci Biotechnol Biochem, 77 (12), 2461-2466 (2013)
H-03
レーザー光圧力を使った
マルチ細胞ソーター
細胞光シグナル研究グループ
研究のねらい
● 細胞を個々に判別し、選り分けて回収する細胞ソーター(セルソーター)は、がん細胞診断、
再生医療、医薬品開発など、基礎研究から臨床検査まで広く用いられています。
● レーザー光圧力とマイクロ流体チップにより、従来法では得られなかった多種類の細胞の分
離・回収や、より無菌・コンタミレスな新しいセルソーター技術を開発しています。
● 無菌・コンタミレスでの細胞分取を強く求められる iPS 細胞等の高精度分離精製技術などと
して期待されます。
新規技術の概要と特長
マイクロからナノメートルの大きさの微粒子(細胞など)をレーザー焦点に引きつける光
圧力を利用して、分離・回収したい目的の細胞のみを微小流路中で運動方向を変えることで
分離・回収することができます。微細加工技術で作製された密閉のマイクロ流体チップを用
いているため、回収場所を高度に並列化・集積化することで、従来技術よりはるかに多種類
の細胞を一度に無菌かつコンタミなしで分離・回収できます。また、細胞に限らず誘電体微
粒子であれば分離・回収できるため、医療・生命科学以外の分野でも広く応用できます。
レーザー光圧力とマイクロ流体チップによるマルチソーティングの原理(左図)と実証図(右図)
期待される連携・応用分野
・多種類の細胞を一度に分取するマルチセルソーティング
・無菌かつコンタミレスの状態を必要とする iPS 細胞等の高精度分離精製技術
・
(単一)細胞のマイクロ流体チップ型集積解析チップへの応用
関連特許および文献
・特許第 4512686 号;微粒子の分別回収方法および回収装置(2010 年 5 月 21 日)
US Patent. 7,428,971;Method for sorting and recovering fine particles, and apparatus for
recovery(2008 年 9 月 30 日)
H-04
糖尿病モデルマウスを用いた
発症機構解析と予防効果評価法
細胞光シグナル研究グループ
研究のねらい
● 背景】糖尿病などの生活習慣病の発症メカニズム解明および予防法の開発が望まれている。
● 目的】糖尿病発症前から発症初期状態の総合的な解析や食品機能性成分等の糖尿病予防効果の
評価が可能な動物試験を提供する。
● 意義】糖尿病発症メカニズム解析、糖尿病予防をターゲットとする機能性成分等の効能評価が
可能となる。
新規技術の概要と特長
糖尿病などの生活習慣病患者数は増加の一途を辿っており、それらの発症メカニズム解明およ
び予防法の開発が望まれている。予防法開発のターゲットとなるのは病気の発症前段階であるた
め、糖尿病発症前の生体内の現象を総合的に把握する必要がある。しかし代表的な糖尿病モデル
である ob/ob マウスや db/db マウスは約生後 1 ヶ月で急激な高血糖に至るため、糖尿病発症前の
解析が困難である。一方、本試験で用いた多因子遺伝性糖尿病モデル TSOD マウスは、生後約 3
ヶ月で高血糖となり、比較的緩やかに病気が進行するため、糖尿病発症前から発症初期状態の解
析および糖尿病予防効果の評価が容易である。
本マウスを用いた生化学的分析によって、
糖尿病発症過程で炎症マーカーに先駆けて
酸化ストレスマーカーが亢進、特にヒトの糖
尿病予備群で亢進する一重項酸素特異的な
酸化ストレスマーカーが亢進することを明
らかにした。さらに、個体の行動解析により、
糖尿病と関連性が深い不安様症状の解析に
も成功した。本試験によって、これらの解析
方法を利用した食品機能性成分等の糖尿病
予防効果の評価が可能である。
期待される連携・応用分野
・機能性食品、医薬品開発
・病態解析
TSOD マウスを利用した糖尿病初期状態の解析
及び予防方法の効能評価
関連特許および文献
・Murotomi et al., J Agric Food Chem., 63, 6715-6722 (2015)
・Murotomi et al., Free Radic Res., 49, 133-138 (2015)
・特願 2015-010545;活動量の低下及び/又は不安の改善用組成物
I-01
戦略1
各種疾患の早期診断法に有用な
バイオマーカーの探索
ストレスシグナル研究グループ
研究のねらい
● 背景】糖尿病をはじめとする生活習慣病やパーキンソン病などの神経変性疾患の患者数は増加
の一途をたどっている。
● 目的】このため、新型バイオマーカー(脂質酸化物および酸化修飾蛋白質など)の探索、検証
を通じた生活習慣病、神経変性疾患等の早期診断技術を開発する。
● 意義】上記の疾患について迅速な治療開始による病状の進行抑制及び医療費の低減のための有
効な早期診断が可能となる。
新規技術の概要と特長
本研究では、生活習慣病の早期診断に有用と考えら
れる酸化ストレスに関連するバイオマーカー、ヒドロ
キシリノール酸 (tHODE:total hydroxyoctadecadienoic acid)
、およびパーキンソン病原因遺伝子の
産物の一つである DJ-1 蛋白の酸化修飾体(oxDJ-1)
の簡易で迅速な定量測定システムを開発することを
目的としている。tHODE はリノール酸の酸化生成物で
ある。リノール酸は血漿中に多く存在しており、アラ
キドン酸由来酸化生成物であるイソプロスタンに比
べ tHODE は 2-3 桁高く検出されることから、有用性が
注目されている。これまで、高額な高速液体クロマト
グラフィー質量分析装置によってのみ定量測定が可
能であったが、より広く普及させるために酵素免疫測
定法(ELISA 法)の開発を行っている。また、oxDJ-1
に対する特異抗体を取得し、ELISA 法による定量測定
を開発した。パーキンソン病(PD)患者検体を測定し
た結果、未治療 PD 患者の赤血球中の oxDJ-1 の有意な
増加を確認し報告している。
期待される連携・応用分野
・各種疾患の早期診断
・新しい健康診断項目
・研究用試薬
図 1.HODE の概要
健常者 未治療 PD
n=18
n=8
治療中 PD
n=7
図 2.未治療パーキンソン病患者の赤血
球中では酸化型 DJ-1 の量が多い。
関連特許および文献
・特開 2010-183843; 含硫アミノ酸残基が酸化された酸化型ポリペプチドに対する抗体.
・特開 2009-085647; HCV 患者における瀉血治療の効果の判定方法及び判定キット.
・Shichiri M., Free Radic. Biol. Med., 50(12), 1801-1811(2011).
I-02
戦略2
超高速遺伝子検査システムの開発
ストレスシグナル研究グループ
研究のねらい
● 背景】遺伝子情報に基づく投薬・治療を行うテーラーメード医療が開始され、今後、臨床現場
等において迅速な遺伝子検査技術の開発が求められる。
● 目的】遺伝子検査において不可欠な PCR 法は、従来 1〜2 時間を要していたが、サーマルサイ
クルの工程を微小流体デバイス化することにより極限まで高速化する。
● 意義】診察現場でそのまま、病原菌の薬剤耐性や患者の薬効を考慮した治療方針を決定できる
迅速で簡便な遺伝子検査技術の確立に寄与する。
新規技術の概要と特長
高速な遺伝子検査技術の開発を目指して、PCR 法において必要な DNA の変性、アニーリング、
伸長反応のための 95℃、55℃、72℃の 3 つの温度領域を、蛇行流路を通じて連続的に流れるフロ
ースルー型 PCR 用微小流体デバイスを開発した。PCR 法を高速化する研究は、PCR 法に必要な
サーマルサイクルにおける加熱と冷却の速度を向上させるために、試料溶液の体積を微小化し熱
容量を低減させる方式や、加熱・冷却方法を工夫する方式が中心であった。PCR 法の高速化に最
も有利な方法は、一定温度に制御された複数の温調上を順番に流れながら試料温度が制御される
連続流型 PCR 法であり、容器やヒーター等熱容量の大きな外部装置の温度変化がなく、理論上
最速の温度制御を実現できる。しかし、流路が PCR 用微小流体デバイス
開放系であり、加熱領域での偶発的な気泡発生
により流れが停止するなど実用化が困難であ
った。この問題を、本技術では、試料溶液を液
滴として送液することにより克服し、高効率で
超高速な遺伝子増幅を達成した。本技術の利用
により、既存の連続流 PCR 法にはない高効率
で最速(30 サイクルを 3 分は世界最速)の遺伝
子増幅を達成した。極微量の病原微生物である
炭疽菌の毒素遺伝子に対しても、5 分以内での
検知を実現した。
期待される連携・応用分野
アタッシュケース型超高速遺伝子検査システム
・癌や菌の同定、患者の薬剤代謝活性等の体質を遺伝子検査により判定する個別化医療分野
・パンデミックの現場や食品管理において病原性微生物をチェックする環境衛生分野
・食品中に混在した食中毒菌など病原性微生物を迅速にチェックする食品衛生分野
関連特許および文献
・特開 2011-200193; 核酸増幅方法.
・Fuchiwaki Y., Saito M., Wakida S., Tamiya E., Nagai H., Anal. Sci., 27, 225-230 (2011).
・Fuchiwaki Y., Saito M., Nagai H., Tamiya E., Biosens. Bioelectron., 27, 88-94 (2011).
I-03
戦略1
細胞接着性を制御できる機能性
フィルムを用いた細胞配置技術
ストレスシグナル研究グループ
研究のねらい
● 背景】擬似生体組織や細胞チップなどの細胞デバイスは、
薬物や生理活性物質の評価に役立つ
次世代のツールとして注目を集めている。
● 目的】細胞デバイス開発において重要な要素技術の一つである細胞を基板上やマイクロ流路内
の望みの位置に配置する方法を確立する。
● 意義】アルブミンから成る機能性フィルムを利用することで、従来法に比べて簡便、かつ低コ
ストで基板上やマイクロ流路内の任意の位置に所望のパターンで細胞を配置できる。
新規技術の概要と特長
我々は、独自に開発した細胞の接着・非接着を自在に制御できるアルブミンから成る機能性フ
ィルムを利用して、細胞デバイス開発において重要な要素技術の一つである、細胞を基板上やマ
イクロ流路内の望みの位置に配置する方法を確立することに成功している。本方法は、従来の方
法に比べて手順が簡便であり、また、高額な装置や材料を必要としないことから、産業面におい
ても有用である。
血清アルブミンは血液中に大量に存在する
細胞が接着
血清アルブミン
架橋アルブミン
細胞が接着しない
する
キャストにより
タンパク質である。我々は、アルブミン上には
・UV照射
架橋反応
フィルムを作製
・正電荷ポリマー
細胞が接着しないという性質に着目し、アルブ
への曝露
フィルムの特定領域にUVを照射し、
ミンを原料として、水に不溶性で、かつ、細胞
所望の細胞パターンを作製
マイクロ流路デバイス内に所望のパターン
で細胞を配置
が接着しない性質を有するフィルムを作製す
インクジェット印刷技術を利用して、
ることに成功した。更に、UV 照射や正電荷ポリ
所望の細胞パターンを作製
マーへの曝露により、フィルムの「細胞が接着
しない」性質を「細胞が接着する」ように変換
擬似生体組織を構築
できることを見出し、この細胞接着性を制御で
きるフィルムを利用することで、基板上やマイ
クロ流路デバイス内の任意の位置に細胞を配
置することができ、擬似生体組織の構築や細胞
図.細胞接着性の制御とパターニング
チップの作製に役立つと期待している。
細胞1
細胞2
期待される連携・応用分野
・個々の患者の薬剤反応性を調べるオーダーメイド医療実現
・新規薬剤の効率的な開発
・移植用擬似臓器の構築
関連特許および文献
・特開 2008-174714; 細胞接着制御用フィルム.
・特開 2009-131240; インクジェット印刷技術を用いた基板上への細胞のパターンニング.
・特開 2009-131241; 複数種の細胞からなるパターンの作製法.
I-04
戦略4
次世代抗体(アルパカ由来 VHH 抗体)
実現へ向けた基盤研究開発
ストレスシグナル研究グループ
研究のねらい
● 抗体は分子選択性が高く、医薬品、高機能性材料等への利用が進行中。
● 抗体は複雑な分子であり、高価、不安定、工学的操作が困難等が問題。
● 単ドメイン抗体であるアルパカ由来 VHH 抗体を利用することにより上記問題の解決を目指し
た基盤技術の開発を進めている。
新規技術の概要と特長
アルパカ(ラクダ科動物)由来 VHH 抗体は天
然物起源の単ドメイン抗体である。VHH 抗体は極
めて安価に製造可能かつ安定性が高く、さらに工
学的操作が容易であることから次世代抗体とし
て注目されている。しかし国内では VHH 抗体を
取得する体制がなく、その研究開発の大きな制約
となっている。そこで、産総研ではラクダ科動物
であるアルパカを研究用に飼育、VHH 抗体を取得
するためのプラットフォームを産学官の連携に
より構築している。
九州で免疫用アルパカの飼育を行っており、任
意の抗原で免疫したアルパカの白血球から遺伝
子を抽出し、ファージディスプレイ或は大規模シ
ーケンスにより VHH 抗体を選択する技術を確立
している。また VHH 抗体の各種高機能化技術に
ついての開発も進めている。
期待される連携・応用分野
・抗体医薬品
・診断薬
・機能性マテリアル
図 1.VHH 抗体の構造とその他の抗体と
の比較
図 2.アルパカ飼育施設(企業)と飼育
中のアルパカ
関連特許および文献
・特許 5092160; ラクダ科動物の VHH ドメインの安定化.
・特開 2014-042515; ラクダ科動物抗体の熱安定化.
・Akazawa-Ogawa Y., et al., J. Biol. Chem., 289, 15666-15679 (2014).
J-01
Reactive Matrix(MALDI-MS)を用いた
カルボニル化合物の高感度検出
研究のねらい
● カルボニル化合物は、ホルモンとして有名なステロイドや、ホルムアルデヒド、アセトアルデ
ヒド等のシックハウスガスが代表的である。
● 生体分子を高感度・定量的に検出するには、手間と装置と時間が必要である。
● マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)は、測定操作が簡便、多検
体の処理が可能、純度の低い試料にも利用可能である。
新規技術の概要と特長
独自に開発したヒドラジン・ヒドラジド化合物を Reactive Matrix として利用する事に
より、気体から液体までの各種カルボニル化合物を効率的に、マトリックス支援レーザ
ー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)で検出可能。
ドーピング検査
環境分析への貢献
カルボニル
化合物
Reactive
Matrix
MALDI-MS
(マトリックス
(ヒドラジン・
ヒドラジド)
支援レーザー脱
離質量分析法)
図 1.Reactive Matrix(MALDI-MS)を用いた、カルボニル化合物の高感度検出概要
期待される連携・応用分野
・ドーピング検査
・環境計測
・臨床検査
関連特許および文献
・Shigeri, Y., Ikeda, S., Yasuda, A., Ando, M., Sato, H., and Kinumi, T. Hydrazide and hydrazine
reagents as reactive matrices for MALDI-MS to detect gaseous aldehydes. (2014) J. Mass Spectrom.,
49, 742-749
・Shigeri, Y., Yasuda, A., Sakai, M., Ikeda, S., Sato, H., and Kinumi, T. Hydrazide and hydrazine
reagents as reactive matrices for MALDI-MS to detect steroids. (2015) Eur. J. Mass Spectrom., 21,
79-90
百歳を健康に生きる技術シーズ集(第 6 版)
(平成 27 年 10 月 1 日発行)
Email : [email protected]
TEL : 087-869-3526
FAX : 087-869-4178
<無断の複写・転載を禁じます。必ず許可を得てください。>
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