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No.14 2016.3 - 大阪大学レーザーエネルギー学研究センター
国際シンポジウム 「第 6 回テラヘルツナノ科学国際シンポジウム」 「第6回テラヘルツナノ科学国際シンポジウム」 および TeraNano 6 「第3回マイクロ波〜ミリ波〜テラヘルツ領域の 科学と応用に関する国際会議」 村上 博成 (レーザーエネルギー学研究センター 准教授) 去る 2015 年 6 月 30 日から 7 月 4 日までの期間、 プトに加え、近年注目されているカーボンナノ 沖縄科学技術大学院大学(OIST)において、大 チューブやグラフェンなどの低次元ナノ材料に 阪大学レーザーエネルギー学研究センター(レ おけるテラヘルツ新規機能の探索や創成などか ーザー研)、理化学研究所、OIST の共同主催によ ら、次世代電子デバイス応用の萌芽をも目指し り「第 6 回テラヘルツナノ科学国際シンポジウ た国際会議である。 ム」(TeraNano 6)が開催された。 その第 1 回目(2011 年 11 月 24 日-29 日)は このテラヘルツナノ科学国際シンポジウムは、 大阪大学中之島センターにおいて開催され、そ 2005 年と 2009 年に大阪大学超伝導フォトニク の後は国内外関連各機関との共催や協力を得て、 ス研究センター(2004 年 7 月にレーザーエネル 第 2 回目を NICT 沖縄電磁波技術センター(2012 ギー学研究センターに統合)が中心となり、テ 年 7 月 4 日-5 日)、第 3 回目をハワイ・ホノルル ラヘルツ波、テラヘルツフォトニクス、テラヘ (2012 年 12 月 10 日-12 日)、第 4 回目を大阪大 ルツエレクトロニクス各分野融合による、新し 学レーザーエネルギー学研究センター(2013 年 いテラヘルツ科学技術分野の創成や、テラヘル 3 月 13 日-14 日)、第 5 回目をフランス・マルテ ツ応用分野開拓を目指して開催した「テラヘル ィニーク(2014 年 12 月 1 日-5 日)において開 ツ技術国際ワークショップ」(TeraTech 2005 お 催されてきた。 よび TeraTech 2009)をさらに発展させたもので 今回の第 6 回目の会議は、「第 3 回マイクロ ある。テラヘルツナノ科学分野の創成をコンセ 波・テラヘルツ波科学と応用に関する国際会議」 1 び MTSA 議長の Peiheng Wu 氏 (南京大学)らによる開会の 挨 拶 か ら は じ ま り 、 Martin Koch 氏 ( Philipps Univ. Marburg, Germany ) お よ び X.-C. Zhang 氏 ( Univ. of Rochester, USA)による基調 講演が行われた。そのあと午 前中は、高強度テラヘルツ光 と非線形分光、また午後には 基調講演の様子 ナノ物質、超高速現象、ミリ 波・テラヘルツ検出器に関す (MTSA 2015)との合同国際会議として開催され、 る招待講演がパラレルセッションの形で執り行 テラヘルツナノ科学分野における最新の研究成 われた。また若手研究者や学生による第一回目 果報告をはじめ、テラヘルツ波を使った超高速 のポスターセッションが夕方から開催された。 通信、非破壊・非接触・非侵襲のテラヘルツイ 7 月 2 日の会議も主に招待講演者による発表が メージング診断、および薬・バイオ分野でのテ 行なわれ、午前はイメージングとマイクロ波・ ラヘルツ分光分析応用など、テラヘルツの基礎 ミリ波・テラヘルツ波応用とインダストリアル から応用分野の多岐に渡る最新の研究成果の発 セッション。これとパラレルに超伝導ミリ波・ 表が行なわれた。また研究・技術開発に加えて 産業応用に向けた方向性についても議論を進め、 テラヘルツデバイス、宇宙応用に関する招待講 演が行われた。また昼食時間と昼休みを利用し 新たなイノベーション創出に繋げることを目指 た第 2 回目のポスターセッションの終了後、午 して、国内外企業からの講演で構成されるイン 後からはテラヘルツ分光とソフトマテリアル、 ダストリアルセッションも設けられた。 バイオ応用、ミリ波・テラヘルツ波光源に関す また世界的に著名な第一線の研究者を数多く る招待講演が行なわれた。 招聘し、最新の研究成果に関する情報交換を行 この二日目の会議終了後は、リザンシーパーク うことによって、全世界的な国際協力関係を強 ホテル谷茶ベイにて盛大にバンケットが行なわ 固なものにすることを目指 した。 具体的な開催内容として、 6 月 30 日に恩納村にあるリザ ンシーパークホテル谷茶ベ イにてレセプションが行な われ、グラスを片手に世界各 国からの参加者たちの間で 親睦が深められた。7 月 1 日 からの本会議では、先ず TeraNano 議長の斗内政吉氏 バンケットでの華麗な琉球太鼓 (大阪大学レーザー研)およ 2 Nahata(Univ. of Utah)、Masayoshi Tonouchi(Osaka Univ.)、Jean Leotin (Univ. Toulouse III, France)らを講 師として、超高速現象、テラヘルツバイ オ応用、ミリ波・テラヘルツ通信の最前 線、およびテラヘルツイメージング・応 用などに関する最先端技術のレクチャー が行なわれた。 以上をもって本会議は無事に終了し、7 K. Dani 研究室(OIST)見学の様子 月 4 日早朝より本会議の国際委員会にお れ、アトラクションの太鼓演舞の華麗かつ力強 ける今後の方針決定が行われた。 い舞に参加者一同酔いしれるとともに、ミス沖 また、今回の会議では計 142 件(内訳:基調講 縄との記念撮影会などで和やかなひと時を過ご 演 2 件、招待講演 64 件、一般講演 8 件、ポスタ した。 ー講演 41 件、チュートリアル講演 4 件、スチュ 会議最終日である 7 月 3 日午前は、招待講演の ーデント講演 23 件)の講演が行なわれ、参加者 他に一般講演を含めた半導体カスケードレーザ 数は 17 カ国から 175 名を数えており、その地域 ー、テラヘルツ標準などに関する講演が行われ ごとの内訳は、日本 104 名、アジア(日本以外) るとともに、これと並行して米国学生の教育プ 17 名、欧米豪 54 名と海外からの参加者比率が約 ログラムである「NanoJapan プログラム」と連携 40%と非常に高く、国際会議としては大成功を して、日米の学生を主体としたスチューデント 収めたといえる。 ワークショップが開催された。 なお、筆者はこの会議の実行委員長を務めさせ また午後には、本分野での先端研究に対する理 ていただきましたが、会議の準備から開催まで 解の向上、および、若手・学生の育成のために、 の長きにわたり、ご協力いただきました関係各 チュートリアルセッションが開催され、Jean 位にこの場を借りて心より感謝申し上げます。 Louis Coutaz (Univ. of Savoie, France)、Ajay 人物・事業紹介 ふじおか しんすけ 藤岡 慎介 (大阪大学レーザーエネルギー学研究センター 教授) 2015 年 8 月 15 日付けで大阪大学レーザーエネ レーザー核融合研究センター(当時)の助手に ルギー学研究センター,レーザー核融合学研究 着任して以来,半導体リソグラフィー用のレー 部門の教授に就任しました。1999 年に大阪大学 ザープラズマ光源の研究開発,実験室 X 線天文 工学部原子力工学科を卒業,2003 年 9 月に大阪 学の研究を通じて,大学教育に従事してきまし 大学大学院工学研究科電子情報エネルギー工学 た。 専攻博士後期課程を中退し,10 月から大阪大学 高速点火方式のレーザー核融合の原理実証 3 (FIREX)プロジェクトの評価が,2016 年末にひ の幅広い発展を目指していきます。 かえています。職員,学生と共同研究者らの力 全国共同利用・共同研究拠点の教員として を結集させ,FIREX プロジェクトの目標を達成す 行うべきことは,LFEX レーザーを国内外の研究 ることが最優先です。2014 年 4 月から FIREX プ 者が競って利用する装置に完成させることだと ロジェクトのリーダーを拝命し,FIREX プロジェ 思っています。FIREX プロジェクトのために建設 クトの成功に向けて解決すべき課題を明確にし されたペタワットレーザーLFEX は世界最大のエ た上で,個々の課題を年次計画で解決するプロ ネルギーであると共に,(1)パルスコントラスト セスを構築しました。主要な課題の克服を目標 が 109 以上,(2)プラズマミラーを導入すること とした三つのキャンペーンを立ち上げ,繰り返 で 1011 以上のコントラスト,(3)パルススタック し周知させることで,プロジェクト・メンバー 等でパルス幅を可変,(4)マルチスポット集光が の意識の統一を図りました。上記のキャンペー 可能など,他のファシリティーには無い特徴を ンの緊急性と成果を,国内外のコミュニティー 有する魅力的な装置です。私は,ユーザーの視 に対して明確に伝え,多様なレベルでの協力が 点から LFEX レーザーの整備を様々な面から後押 得られやすくなるように心掛けています。引き しするとともに,数ある提案の中から新規性, 続き,この方針を堅持し,FIREX プロジェクトの 魅力,及び研究者の能力がある提案に見極め, 成功に向けて,最大限に努力していきます。 選択と集中することを推進していきたいと考え FIREX プロジェクトに加えて,中長期的に取り ています。 組んで行く研究テーマが,Magnetized Fast 教育者としては,学生にとって魅力的な自己 Ignition (MFI) の原理実証ですキロテスラ級の 研鑽の場を提供していきます。研究室で科学の 磁場をレーザー核融合プラズマに印加すること 最先端を学び・共に生み出すと同時に,卒業後 で,核融合プラズマの運動及びエネルギー輸送 を能動的に操り,プラズマの加熱及び燃焼の効 率を大幅に向上させることが可能です。MFI の実 現には,強磁場下での,高エネルギー密度プラ ズマ,相対論的量子ビーム及び高強度レーザー の相互作用という,これまでレーザー生成プラ ズマ,レーザー核融合研究分野で全く扱われて こなかった未踏の物理に踏み込む必要があり, 大変挑戦的な研究です。強磁場と高エネルギー 密度プラズマの相互作用は,核融合プラズマ分 野に留まらず,プラズマ科学の新領域の発展に 寄与する潜在能力を有しています。 核融合研究は息の長い研究で,国際連携が欠 かせません。安全保障との関連が少ない MFI に 関わる物理研究を通じて,日・米・仏・中・露・ 独等との国際連携を構築して行きたいと考えて います。この連携を相互に活用することで,研 究のスピードアップを図るとともに,研究成果 4 の厳しい社会の中でタフに生きていく力と心構 族です。根っからの怠けものなので,一つのも えが身につくよう,指導していきます。その為 のに凝るということはありませんが,唯一の趣 に,私は国内外の多様な研究者と研究者ネット 味は,学生時代に居酒屋バイトで手習った料理 ワークを構築し,そのネットワークに学生を巻 です。思いつきでアレンジした実験的料理を週 き込むことで,たこつぼから引っ張りだし,多 末に家族に振る舞うのを楽しみにしています。 様なバックグランドを有する人達と議論するた 今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よ めに絶対不可欠な基礎力を鍛えます。 ろしくお願い申し上げます。 プライベートでは,妻と長男・長女の四人家 レーザー研の若手研究者 その10 ふじおか か な 藤岡 加奈 (大阪大学レーザーエネルギー学研究センター 准教授) 平成 27 年 5 月 1 日付けでパワーフォトニクス を重水素に置換した重水素化 KDP 結晶の育成、 研究部門准教授として着任いたしました。奈良 従来の方法に比べ 10 倍以上の速度(5cm/day) 女子大学理学部化学を卒業後、大阪大学レーザ で成長させる高速 KDP 育成技術の開発、育成溶 ー核融合研究センター(現レーザーエネルギー 液濃度のコンピューター制御による各種水溶性 学研究センター)技術補佐員としてお世話にな 結晶の自動育成システムの開発などを行ってき って以来、高強度・高出力レーザー用光学材料 ました。また、レーザー材料 YAG 結晶の透明セ の開発に従事してまいりました。卒論では化学 ラミック化にも着手しました。透明セラミック 反応速度論をテーマとしていましたが、大阪大 は単結晶と同等の光学特性をもち、大型化や添 学ではレーザー波長変換素子としての非線形光 加元素の多様化の可能性があり優れた材料です。 学結晶の育成をご指導頂きました。初めは学生 製作工程が多く、透光性の高いセラミック製作 の時のテーマと少し趣きの異なる結晶育成の仕 の条件最適化には非常に苦労しましたが、この 事に戸惑いも少なくありま せんでしたが、いろいろな 結晶を扱ううちに結晶育成 の楽しさと結晶の美しさに 魅了されました。写真はそ の頃のもので、当時世界最 大級の KDP 結晶と筆者です。 少々古い写真ですがご存知 の方も多いと思われますの で自己紹介をかねて掲載い たしました。 その後は、結晶中の水素 5 技術は京都大学、核融合科学研究所、東北大学 ーの高繰り返し動作に有用なコンポジットセラ などで、白色光源、シンチレーターとして他分 ミック開発も行っており、接合技術のみならず、 野においてもお役にも立つことができました。 接合界面でのイオンのバルク拡散、粒界拡散過 最近では、光パラメトリック増幅による次世 程の解明にも力を注いでいます。さらに、現在 代超高強度レーザーの実現を目指して、約 500nm は、JST の支援を受けて分解溶融型化合物結晶の の増幅帯域幅の非線形光学結晶を開発しました。 セラミック化にも挑戦しています。 前述の KDP 結晶育成システムと重水素化率制御 今後も新規機能性光学素子・素材開発をベー のデータベースを基に部分重水素化 KDP を製作 スに、高繰り返しレーザー、超高強度レーザー、 し、広範囲の重水素化率(0〜90%)に対して屈 高エネルギー密度科学の発展及びその産業応用 折率の詳細なデータベースを構築しました。こ に寄与できるように研究を進めていきたいと思 れにより、Nd 系、Yb 系レーザーの 2 倍高調波励 っております。今後とも皆様のご指導ご鞭撻の 起の近赤外光パラメトリック増幅に関して、最 ほど、宜しくお願いいたします。 適重水素化率の選択と利得帯域のシミュレーシ ョンができるようになりました。また、レーザ レーザー研の若手研究者 その11 ひろなか よういちろう 弘中 陽一郎 (大阪大学レーザーエネルギー学研究センター 准教授) 私は大阪大学レーザーエネルギー学研究セン たことがより重要です。我々の身の回りの環境 ターに来て、早8年目となります。激光 12 号レ 下では、物質は平衡状態を保って存在していま ーザーの産業応用という目的のため、様々な企 す。平衡点の周りで振動する状態ともいえます。 業、様々な課題で模索してきました。 かつて、TW フェムト秒レーザーを使 って、X 線や電子などの量子生成を行 い、物質と光の相互作用に伴うダイナ ミクスを時間分解測定によって明ら かにする研究を行っていました。 当時、国内では最も短パルスの X 線パルスを生成できる手法であり、物 質と光の相互作用を結晶格子レベル で、かつ高時間分解能測定ができる手 法でした。もちろん高強度レーザーが あって初めてできる実験ではありま すが、強度よりもパルス幅が短くなっ 6 一次の近似ではフックの法則のように、制動方 一方、熱力学的な領域においても時定数の差 程式だとしても、二次微分方程式の一般解は時 が生み出す様々な現象が研究途上にあり、そこ t λ 定数(e の 1/λ)を有するため、すべての状態 でも高出力レーザーが利用できます。激光12 は各力学に応じた固有の時定数が存在すると考 号レーザーを用いて MgO 単結晶に衝撃波を誘起 えることができます。 すると、数ナノ秒の間、ポアソン比ゼロの圧縮 例えば、半導体にフェムト秒パルスを照射す が持続さたことが観測されました。換言すれば、 ると、電子・正孔対が生成され、次いで光学フ これは立方晶から正方晶への構造遷移であり、 ォノンが生成されます。このとき、光学フォノ 平衡状態図には決して表れない状態です。衝撃 ンには数ピコ秒の間、コヒーレンスが生まれま 波による非平衡熱力学的現象は、場合によって す。このときの物質の温度上昇は熱力学的には は状態の凍結が可能で、新物質の合成などの応 ゼロで、コヒーレンスの緩和とともに次の状態 用が期待されています。こうした極時的な状態 へと移っていきます。この過程で物質内部の新 は、まだ我々が知らない極時的物性を示してい しいフォノン間ダイナミクスを発見することが るかもしれない魅力的な研究対象であると考え できるかもしれません。光は古代より知られた ていました。私は、隠れた極時的情報を引き出 量子の一つですが、コヒーレンスが加わると、 す技術の開発において、高出力レーザーは非常 レーザー光のような特殊な光になります。これ に強力なツールであると考えて、研究を行って と同様に、物質にコヒーレンスが加わると、特 きました。 殊な物性が表れるものと考えています。 7