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タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト (緊急開発
タイ国農業・協同組合省 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト (緊急開発調査) (ファスト・トラック制度適用案件) ファイナル・レポート 平 成 25 年 7 月 独立行政法人 国 際 協 力 機 構 ( JICA) 株式会社 三コンサルタンツ 日 本 工 営 株 式 会 社 略語集 ADRC Asian Disaster Reduction Center、アジア防災センター AIT Asian Institute of Technology、アジア工科大学 ALRO Agricultural Land Reform Office、農地改革局(MOAC) ANRDC Animal Nutrition Research and Development Center、家畜栄養研究・開発センター BAAC Bank for Agriculture and Agricultural Cooperatives、農業・農業協同組合銀行 BMA Bangkok Metropolitan Administration、バンコク都庁 CBDRM Community-based Disaster Risk Management、コミュニティ主体型災害リスク管理 CDD Community Development Department、コミュニティ開発局、内務省 C/P Counterpart、カウンターパート DDPM Department of Disaster Prevention and Mitigation、災害軽減局、内務省 DDS Department of Drainage and Sewerage, BMA、バンコク都庁排水・下水局 DEDP Department of Energy Development and Promotion、エネルギー開発促進局 DLD Department of Livestock Development、畜産開発局(MOAC) DM Dry Matter、乾物 DO Dissolved Oxygen、溶存酸素 DOA Department of Agriculture、農業局(MOAC) DOAE Department of Agricultural Extension、農業普及局(MOAC) DOF Department of Fishery、水産局(MOAC) DOH Department of Highway、高速道路局 DOLA Department of Local Administration、地方自治局 DPM Disaster Prevention and Mitigation、災害防止・軽減対策 DRM Disaster Risk Management、災害リスク管理 DRMS Disaster Risk Management System、災害リスク管理システム DWR Department of Water Resources、水資源局(MONRE) EGAT Electricity Generating Authority of Thailand、タイ発電公社 E/S Engineering Service、エンジニアリングサービス FAO Food and Agriculture Organization, UN、世界農業食料機構 FAO-RAP Regional Office for Asia and the Pacific, Food and Agricultural Organization、 FAO アジア太平洋リージョナル事務所 FFC Flood Forecasting Center、洪水予報センター FROC Flood Relief Operations Center、洪水救済センター GAP Good Agricultural Practice、農業生産工程管理 GMP Good Manufacturing Practice、製造生産工程管理 GDP Gross Domestic Product、国内総生産 GIS Geographic Information System、地理情報システム GISTDA Geo-Informatics and Space Technology Development Agency、 地理情報・宇宙技術開発公社 GOT Government of the Kingdom of Thailand、タイ王国政府 GPS Global Positioning System、衛星利用測位システム HAII Hydro and Agro Informatics Institute、水資源・農業情報研究所 HFA Hyogo Framework for Action、兵庫活動計画 ICHARM International Center for Water Hazard and Risk Management、水災害・リスクマネジ メント国際センター ICT Information and Communication Technology、情報通信技術 IEC Irrigation Engineering Center, RID、灌漑技術センター(MOAC) IMPAC-T Integrated Study Project on Hydro-meteorological Prediction and Adaptation to Climate Change in Thailand、気候変動に対する水分野の適応策立案・実施システ ム構築プロジェクト JETRO The Japan External Trade Organization、日本貿易振興機構 JBIC Japan Bank for International Cooperation、日本国際協力銀行 JCC Joint Coordinating Committee、合同調整委員会 JICA Japan International Cooperation Agency、国際協力機構 JV Joint Venture、共同事業/共同企業体 KMITL King Mongkut’s Institute of Technology Ladkrabang、 キングモンクット工科大学ラットクラバーン校 KU Kasetsart University、カセサート大学 LAO Local Authority Organizations、地方自治体(TAO のことを LAO としている 場合がある) LDD Land Development Department、土地開発局(MOAC) LSIFP Large Swamp Inland Fishery Project、大規模内水面漁業事業 LU Livestock Unit、家畜単位 MCM Million Cubic Meter, 百万 m3 MI Ministry of Industry、工業省 MOAC Ministry of Agriculture and Cooperatives、農業・協同組合省 MOI Ministry of Interior、内務省 MONRE Ministry of Natural Resources and Environment、天然資源・環境省 MOT Ministry of Transport、運輸省 MOST Ministry of Science and Technology、科学技術省 MTEF Medium-term Expenditure Framework、中期支出計画 NDPMC National Disaster Prevention and Mitigation Committee、国家防災・減災委員会 NESDB National Economic and Social Development Board、国家経済社会開発委員会 NEB National Environment Board、国家環境委員会 NGOs Non Government Organizations、非政府組織 NSO National Statistic Office、国家統計事務局 NWFPC National Water Resoruces and Flood Policy Committee、国家水資源洪水政策委員会 WFMC Water and Flood Management Committee、水管理・洪水管理委員会 OAE Office of Agricultural Economics、農業経済局(MOAC) OECF Overseas Economic Cooperation Fund, Japan、海外経済協力基金 O&M Operation and Maintenance、維持・管理 ONWFMP Office of National Water and Flood Management Policy、国家水洪水管理政策事務局 OPM Office of the Prime Minister、首相府 OPS Office of the Permanent Secretary、事務次官室(MOAC) OSCWRM Office of Strategic Committee for Water Resources Management、 水資源管理戦略委員会事務所 OTOP One Tambon One Product、一村一品 PACO Provincial Agricultural Cooperative Office、県農業協同組合事務所 PAO Provincial Administration Office、県自治体 PLOs Provincial Livestock Offices、県畜産事務所 PRA Participatory Rural Appraisal、参加型農村調査 RRC Rice Research Center、稲研究所(RD) RD Rice Department 、米局(MOAC) RFD Royal Forest Department、王室林野局(MONRE) RID Royal Irrigation Department、王室灌漑局(MOAC) RIO Regional Irrigation Office、地域灌漑事務所(RID) ROAE Regional Office of Agricultural Economics 地域農業経済事務所(OAE) RTG Royal Thai Government、タイ政府 SCRF Strategic Committee for Reconstruction and Future Development, 復興開発戦略委員会 SCWRM Strategic Committee for Water Resources Management、水資源管理戦略委員会 SSIP Small Scale Irrigation Program、小規模灌漑事業 SSIRP Small Scale Irrigation Improvement and Rehabilitation Project、 小規模灌漑改修事業 SWOT Strength, Weakness, Opportunity, and Threat、SWOT 分析手法 TAO Tambon Administration Organization、タンボン自治体 TF Task Force、タスクフォース UNDP United Nations Development Program、国連開発計画 WUG Water Users Group、水利用グループ 地区名略号 CSS : Tambon Chum Saeng Songkhram, Bang Rakam District, Phisanulok Province、チュムセンソンクラーム NPM: Tambon Nakhorn Pa Mak, Bang Kratum District, Phisanulok Province、ナコーンパーマック WM : Tambon Wang Man, Wat Sing District, Chainat Province、ワンマン KK : Tambon Khao Kaeo, Sapphaya District, Chainat Province、カオゲーオ GC : Tambon Gop Chao, Bang Ban District, Ayutthaya Province、コップチャオ SHN: Tambon Singhanat, Lat Bua Luang District, Ayutthaya Province、シンハーナット KH : Tambon Khlong Ha, Khlong Luang District, Pathumthani Province、クロンハー NP : Tambon Naraphirom, Bang Len Dstrict, Nakhon Pathom Province、ナラピロム 行政単位 Province Changwat 県 District Amphoe 郡 Tambon Tambon タンボン Village Mubaan 村 (行政村) 計測単位 (長さ) (時間) mm : millimeter(s) s, sec : second(s) cm : centimeter(s) min : minute(s) m meter(s) h, hr : hour(s) kilometer(s) d, dy : day(s) y, yr : year(s) : km : (面積) mm2 : square millimeter(s) (体積) square centimeter(s) cm3 : cubic centimeter(s) square meter(s) 3 m : cubic meter(s) km : square kilometer(s) l, ltr : liter(s) ha hectare(s) MCM : million cubic meter(s) 1rai=0.16ha CUM/s : cubic meter(s) per second 2 cm : 2 : m 2 : rai : (重さ) (速度) g, gr : gram(s) cm/s : centimeter per second kg kilogram(s) m/s : meter per second ton(s) km/h : kilometer per hour : ton : (エネルギー) (通貨) MJ : Mega Joule(s) USD : US Dollar(s) THB : Thai Baht 通貨換算率 THB 1.0 = JPY 3.352(2013 年 6 月) USD 1.0 = JPY 101.30(2013 年 6 月) ファイナル・レポート 要 約 A.序論 1. 調査の背景 2011 年 7 月末からタイで発生した歴史的な大洪水によって、チャオプラヤ川流域ではこれまで に無いような広範囲における長期に亘る浸水と、アユタヤ県からバンコク都内・近郊の住宅地や 工業団地が浸水したことにより甚大な被害を受けた。洪水によるダメージと機会喪失による経済 的損失は GDP の 10%以上である 1 兆 3 千~4 千億 THB と見積もられ、農業被害も 720 億 THB に 達すると報じられた。タイ政府は復興に向け復興開発戦略委員会(SCRF)と、水資源管理戦略委 員会(SCWRM)の 2 つの長期対策のための委員会を設立した。すでに前者は向こう 10 年間に 2 兆 2,700 億 THB をインフラ建設に投資するとした計画を承認している。後者は 2012 年の雨季に 対する短期的措置に 226 億 THB、遊水地・大放水路(フラッドウェイ)を含む中長期の対策に 3,500 億 THB を投じる方針を示している。 しかしながら、144 万 ha の水田、養殖池 3.6 万 ha、家畜 1,228 万頭の被害を出している農業セ クターに対しては湛水した農地に対する保証や籾・飼料の一部配布を行っているに過ぎず、目立 った対策がとられておらず、多くの農民が収穫ロスにより収入の機会を奪われている。 この様な状況の中、JICA は 2011 年 11 月~2012 年 1 月にかけて 3 回の事前調査団を派遣し、 「農 業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査)」を実施することを決定した。 2. 調査業務の目的 本調査の目的は、1) 牧草地の生産力回復支援、2) 灌漑施設改修支援、3) 災害に強い農業・農 村づくりに対する JICA の協力を通じて、農業セクターにおけるタイ政府の短期的・中長期的取り 組みを支援することである。 3. 調査対象地域 本調査の範囲は今般の大洪水で被災したチャオプラヤ川流域及びその上流域にあたるヨム川流 域、ナン川流域の一部と下流域のパーサック川流域、タチン川流域を含む地域とする。2011 年 7 月以降の洪水では北部、東北部も含む全国 77 県中 63 県が被害を受けたが、中部チャオプラヤデ ルタを中心とする地区を対象とする。 4. 2011 年洪水災害 タイではこれまでも度々洪水被害があったが、2011 年は 50 年に一度とも言われる大洪水に見 舞われた。2011 年 7 月下旬に熱帯性低気圧、Nock-Ten の発生によりメコン河やチャオプラヤ川沿 いの北部、東北部、および中央部で大規模な洪水が急速に拡大した。10 月にはチャオプラヤ川河 口まで洪水は到達し、バンコク都の一部も湛水した。一部の地域では翌年の 2012 年 1 月まで湛水 したこの洪水により、2012 年 1 月 17 日時点では死者 815 名、行方不明者 3 名、全国で 13.6 百万 人が洪水被害を受け、77 県の内、84%に当たる 65 県が洪水災害地域と宣言された。また、約 2 百万 ha の農地が被害を受け、洪水量や被災総数から判断して過去、最大級の洪水とみなされた (ADRC 2012)。 1 / 25 要約 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 世界銀行の試算によれば 14,250 億 THB(457 億 USD)の経済的損失と推定された。これは洪水 期間中に湛水深 3m 前後の被害にあった製造業や工業団地に負うところが多い。また、農業経済 局(OAE)の発表では農業セクターの経済的損失は 720 億 THB で、この額はタイ全土での経済 的損失の 5%に当たるとされている。洪水被害額を削減するためには製造業や工業団地の湛水を 如何に防ぐかが重要なポイントである。一方、洪水常襲地域では 2011 年洪水と同規模の被害を 2006 年や 2012 年にも受けており、これらの地域では洪水との共生を行い、洪水に柔軟に対応し た水管理、営農、生計向上を図ることが肝要である。 5. 2011 年洪水による農業セクターの洪水被害概要 農業セクターの 2011 年洪水による被害概要は以下のとおりである。 タイ全土の 77 県中、65 県が洪水被害を受けた。 最も深刻な被害を受けたのはチャオプラヤ低平地にある広大な灌漑地域とタイ経済に大き な影響を及ぼしていたアユタヤの工業団地である。 タイ全土で 109 万人の農民が洪水被害の影響を受け 1,060 万 rai (170 万 ha)の農地が被害 を受けた。 農作物被害; 178 億 THB (コメ 105 億 THB + 主要畑作物 73 億 THB) 畜産被害; 家畜の死亡は 2,941 万頭、牧草地被害は 14,400 rai (2,300 ha) で、22 万人の畜産農 家が洪水被害を受けた。被害総額は 65 億 THB と算定された。 水産業では 699 の郡が被害を受け、約 14 万人の漁民に影響があった。 また、156,764 箇 所の溜池や 18,912 箇所の生簀が被害にあった。被害総額は 40 億 THB と算定された。 本調査はコンポーネント 1:牧草地の生産力回復支援、コンポーネント 2:灌漑排水施設の復旧・ 改善および、コンポーネント 3:災害に強い農業・農村づくり支援、の 3 コンポーネントからな っている。以下に各コンポーネントの要約を記す。なお、調査は 2012 年 3 月から開始され、2013 年 7 月に終了した。 国際協力機構(JICA) 2 / 25 ファイナル・レポート B.コンポーネント 1:牧草地の生産力回復支援 1. 肥料、牧草種子/栄養苗の配布 2012 年 3 月 28 日のキックオフミーティングにおいて 2 国間で合意されたように畜産分野の支 援対象県は当初要請の 26 県から 49 県に増加した。3 月 27 日、JICA が供与した複合肥料(15-15-15) 1,000 トン及び尿素(46-0-0)200 トン がチャイナート県の家畜栄養・開発センター(ANRDC) においてタイ側に引き渡された。これら肥料は、全国 29 の ANRDC を通じて 3,826 農家へ畜産開 発局(DLD)が調達した飼料種子 20 トン及び栄養苗 120 トン(主にパンゴラグラス及びパクチョ ン-1)とともに配布された。最終的に、肥料、種子/栄養苗の配布は 2012 年 7 月上旬までに完了し た。 29 の ANRDC 及び受益地畜産農家への肥料及び種子/栄養苗配布に関するモニタリング調査は、 2012 年 6 月下旬に開始され、農家が被災した牧草地の草生回復にどのように肥料・種子・栄養苗 を使用したかを調査した。モニタリング調査では 49 県 515 畜産農家を訪問調査し、うち 488 農家 を有効回答とした。モニタリングの結果は以下のとおり要約される。 JICA が供与した 1,200 トンの肥料は DLD 本部及び全国 29 県の ANRDC の管理のもとに 確実に配布された。 受益農家数は当初計画の 3,826 戸から 3,911 戸に増加した。 受益牧草地面積もオリジナル計画の 20,000rai(3,200ha)から最終的には 20,696rai(3,311ha) に増加した。これは複合肥料(15-15-15)ではおよそ 1 rai(0.16ha)あたり 50kg、尿素で は 10kg に相当する量である。 DLD の ANRDC の牧草地自体も 2011 年の洪水被害を被ったので、肥料全体の約 30%に相 当する肥料が配布された。 牧草種子は当初計画の 20 トンから増加して 6 種類、25.7 トンが配布された。 パンゴラグラス及びパクチョン-1 の栄養苗は DLD 種子センターを通じて調達・配布され、 当初計画の 120 トンの 2 倍あまりの 253.7 トンが配布された。 モニターした 488 戸(有効回答)の畜産農家は 100%肥料を供与されていた。うち 64%は 2012 年 7 月末までに配布された肥料を使用し、良質肥料の配布は洪水被害を受けた牧草 地の回復・再生産を促した(草生は約 2 週間で 20cm 程度再生した)。 2. 畜産農家研修 畜産研修は 8 つのサイトで実施した。各サイトの参加農家約 40 戸は、牧草を販売目的でのみ栽 培している農家及び家畜飼養農家からなる。研修は 3 日間行われ、牧草地造成・管理、飼料給与、 飼料選定、乾草・サイレージづくり、家畜衛生・管理、牧草収穫、灌漑、家畜選択など家畜飼養 に関わる全般的な技術をカバーする内容とした。牧草地造成及びサイレージ作りについては、畜 産農家の洪水対策能力を強化するために実技研修が実施された。2012 年 3 月に FAO の災害リスク 管理システム(DRMS)研修を受講した DLD のスタッフが研修の講師となって洪水管理について 講義をした。研修に参加した畜産農家から得られた情報は次のように要約できる。 参加者の 91.4%は牧草を栽培している。 参加者の 60.8%は肉牛飼養農家、15.5%は酪農家である。 3 / 25 要約 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 参加畜産農家の 61.5%は 2011 年の洪水により被害を被った。 最長湛水期間は 120 日、最深の湛水深は 4.0m であった。 参加者の 52%はイネ科のパンゴラグラスを栽培している。 研修では 2011 年の洪水による牧草地と家畜飼養の問題を理解するために参加者がグループで 討議を行い、洪水期間中の経験に基づく畜産セクターにおける洪水対策について議論した。家畜 飼養農家にとって最も深刻な問題は飼料不足であり、その対策として乾草・サイレージづくりと 備蓄が必要とされた。もう一つの問題は、洪水深に影響されない高所に家畜避難の場所がないこ とであった。その対策として高所に避難場所を建設することが合意された。牧草地に関する最大 の問題は牧草が甚大なダメージを受けたことであった。その対策として、参加者は次の栽培に備 えての牧草種子と肥料の備蓄、また牧草地の排水のためにポンプの準備、湛水深より草高が高い 牧草品種を導入することなどを上げた。 3. コンポーネント 1 の活動 コンポーネント 1 の活動は、洪水で被害を受けた牧草地の生産性回復のために供与された化成 肥料 1,200 トンおよび種子・栄養苗 140 トンの利用状況を確認すると共に牧草地の造成・管理に 関わる研修を実施することである。このために以下の活動が実施された。 4. 肥料・牧草種子・栄養苗配布のモニタリング 牧草地再生産のための能力向上 畜産セクターにおける災害復旧への政策的提言 洪水対策への提言 (1) 飼料生産と備蓄 実施したモニタリング調査を通じて畜産セク ターにおいて 2011 年の洪水期間に最も深刻な問 題は家畜飼料の不足であったことが確認された。 どのような畜種であれ家畜は生体を健康に維持 し、乳肉を生産するために毎日飼料を摂取する 必要がある。 飼料生産面の洪水災害対策としては、栄養価 に 富 む パ ン ゴ ラ グ ラ ス や パ ク チ ョ ン -1(Giant Napier grass)の栽培促進することがあげられる。 DLD は家畜の生産性を高め、飼料備蓄を確保す るためにパンゴラグラスを低地で、パクチョン -1 を畑地で栽培することを推奨している。 2011 年の洪水では全国 29 県にある ANRDC (いわゆる DLD センター)が梱包状態で備蓄し ていた乾草を配布し、畜産農家を支援した。家畜の飼養頭数(牛及び緬羊/山羊を対象)、洪水被 国際協力機構(JICA) 4 / 25 ファイナル・レポート 害の規模、湛水期間を考慮すると、膨大な量の飼料が ANRDC レベルだけでなく、コミュニティ レベル、畜産農家レベルでも備蓄される必要がある。しかし、畜産農家はこれまで 2011 年の洪水 のような甚大な災害を経験していないため、コミュニティレベルにおける飼料備蓄態勢は脆弱な 状況にある。 災害等緊急時の飼料供給システムは全国レベルで対処する方策を採ることが求められる。図に 示すように、洪水に影響されていない地域が洪水被害地域の畜産農家へ飼料を供給する態勢の構 築が必要である。 (2) シミュレーション調査に基づく洪水域及び非洪水域の確認 災害時における全国レベルでの飼料供給システム構築の第一歩としてシミュレーション調査に より作成される洪水域図に基づいて洪水域を同定する必要がある。この図により全国 77 県、郡、 タンボン(行政村)における洪水影響予想域と非影響域が区分される。 洪水の影響が予想されるコミュニティでは、タンボン自治体の主導のもと住民参加により既存 の地形図上に、1)畜種別畜産農家・家畜頭羽数の分布及び位置、2)洪水に影響されない畜産農家の 位置、3)湛水しないと予想される高所の位置などを図化することが必要である。 コミュニティ 内の総反芻 家畜頭数 洪水期間中 もコミュニ ティにとど まる反芻家 畜頭数 備蓄飼料量 コミュニティ の推定 内に 2~数箇所 の備蓄庫建設 洪水の影響がない 安全地域へ避難 する反芻家畜頭数 洪水期間中の必要飼料量の推定に当たっては、洪水期間中に飼料供給が必要な家畜(主に牛及 び緬羊/山羊を対象)頭数を決定し、コミュニティレベルで備蓄する飼料量を算定すべきである。 (3) 乾草備蓄庫の規模および建設 モデルとして、100LU(LU=成牛 1 頭)向けの備蓄庫の床面積は次のように算定される。 条件 成牛 1 頭の生体重 1 日当たりの乾草摂取量 湛水期間 家畜頭数(LU) 乾草必要量 乾草 1 トンあたり容積 乾草容積 乾草積み上げ高 必要床面積 仮定 500kg 13.5 kg/日/LU 60 日(地域により異なる) 100 LU(牛 100 頭) 81.0 ton 3.9m3/ton 315.9 4.0m 79.1m2 (例えば 8.9mx8.9 m) 洪水域の影響を考慮すると、1 箇所ではなくコミュニティ内の高所に 2~3 箇所の備蓄庫を分散 して建築することを提言する。その方が災害時に備蓄乾草を効率的に対象農家まで輸送できる。 5 / 25 要約 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) (4) DLD 本部による備蓄乾草のモニタリング DLD 本部は全国 29 箇所の ANRDC の飼料備蓄状況を毎月モニタリングすることが求められる。 現在、規模は異なるが 116 箇所の備蓄庫が ANRDC にあり総備蓄量は約 10 万 m3(約 19 万頭の成 牛が 1 日で消費する量)と推定される。2011 年の洪水で ANRDC が飼料を配布し畜産農家を支援 したように、将来生起するかもしれない洪水災害に備えるため大規模な飼料備蓄庫を保有する 29 の ANRDC の役割は非常に重要である。加えて、DLD 本部は災害に先立って全国レベルでの効率 的な備蓄飼料の輸送・配布システムについても検討すべきである。 (5) 畜産農家の能力向上 生計を家畜に依存している畜産農家は洪水や干ばつの期間であっても家畜を健康に保なければ ならない。大規模な洪水が再び生起するかは予測困難だが、畜産農家が洪水災害に対処する必要 があるという共通認識を持つことが必要である。しかし、現実には畜産農家は平常時だけでなく 湛水期間及び湛水後においても飼料備蓄、家畜衛生、栄養要求量を満たす飼料供給の重要性を十 分認識していない現状である。調査団が 8 箇所で研修を実施したように、家畜飼養管理に関わる 種々の内容を包括する研修を全国的に実施する必要がある。このような研修を通じて畜産農家、 とりわけ資金及び家畜の知識に乏しい小規模畜産農家の能力は強化され、家畜生産が安定し、彼 らの生計に安定をもたらすことになる。DLD 本部は研修面で多くの経験があり、この分野でイニ シアティブを持つことが求められる。 (6) ANRDC の農業機械改善の必要性 前述したように災害時に飼料不足の状態に陥った畜産農家支援のために ANRDC が果たす役割 は非常に重要である。しかし、DLD 本部によると、全国 29 箇所の ANRDC の乾草調製農業機械 はすでに老朽化してきており、全国レベルで牧草及び乾草生産強化のためにこれら機械の更新と 牧草地面積に適した台数の増加も必要である。 国際協力機構(JICA) 6 / 25 ファイナル・レポート C.コンポーネント 2:灌漑排水施設の修復および改善 まえがき 1. 当初の調査計画においてコンポーネント 2 調査が主な対象としたのは、1) 王室灌漑局(RID) が実施している洪水復旧・防災事業に係る支援、2) 過去の日本支援事業における洪水被害および 復旧の現状把握、3) パイロット事業の実施による灌漑・排水施設の洪水被害修復と改善に係る技 術支援、である。しかし、パイロット事業の選定後にその実施が取止めになったため、コンポー ネント 2 に係る課題は、特に上記 3) パイロット事業については十分には達成できなかった。 RID はタイ国の水資源管理事業に係る計画・設計・建設・運営維持管理を管轄する主要な政府 官庁である。RID によると、2010 年における全国の灌漑面積は 29.3 百万 rai(=4.7 百万 ha)で、 この内 24.2 百万 rai(=3.9 百万 ha)は RID が運営管理する大規模(86 箇所、灌漑面積 12,800ha 以 上)及び中規模(731 箇所、灌漑面積 12,800ha 以下)灌漑システムである。 RID 管理の灌漑排水施設における洪水被害および洪水復旧・防災事業 2. 2.1 灌漑排水施設における洪水被害 2011 年の洪水による灌漑排水施設の被害は、河川・用排水路での越流水による堤防及び法面の 浸食と決壊、村落道路・橋の浸食による崩壊と流失、水路・ため池の洪水泥水による土砂堆積、 河川・排水路調節ゲートの洪水流出と浸食による損壊、などである。これらの施設は農村・都市 地域の生活及び商業・工業基盤施設としての役割を持ち、施設の被害は甚大であった。その復旧・ 改修は通常の年度予算とは別枠の緊急復旧事業予算により実施された。 他方、農業セクターとして本来の目的である農業生産に直接関連する施設の被害も、幹線・支 線用排水路の堤防盛土・水路法面・分水構造物・調節ゲート、道路や河川横断部の暗渠・サイホ ン・水路橋、水路末端構造物・圃場内施設等、多岐にわたった。これらの修復・復旧は RID の各 灌漑システムの維持管理事務所、及び地域灌漑事務所(RIO)が調査・計画・設計をしており、 通常の維持・管理(Operation and Maintenance, O&M)事業予算の枠内で順次実施されていくと見 られる。RID では通常の予算を既存施設 O&M 事業及び新規事業とも 6 ヵ年の中期支出計画 (Medium-term Expenditure Framework: MTEF)として毎年策定している。 2.2 灌漑排水施設における洪水緊急復旧・防災事業 前述のように、灌漑排水施設への洪水被害は生活に直接影響を及ぼす部分について甚大であり、 RID の緊急復旧・防災事業も同じ観点から計画・実施された。言い換えると、2012 年 8 月現在 RID が実施中の洪水緊急復旧・防災事業は、灌漑排水施設の生活インフラ及び商工業インフラとして の役割に焦点があてられており、作物生産回復等の農業分野に係るものはほとんど含まれていな い。 RID が実施中の緊急復旧・防災事業を施設タイプで見ると、最も多いのは「河川・大規模水路 の堤防の復旧・かさ上げ」 (本件調査対象地域内全 1,283 事業の内 47%) 、次いで、 「河川の排水調 節水門の修復」(25%)、「村落道路・橋の復旧」(11%)、「河川・用排水路の浚渫」(7%)、「排水 ポンプ・発電機の配布」 (5%)である。これを見ると生活・社会インフラ復旧・防災としての事 業がほぼ全てを占めていることが明らかである。 7 / 25 要約 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) RID が実施中の洪水被害緊急復旧・防災事業は、事業の取りまとめと緊急予算の承認過程によ って多くのバッチ(事業群)に分けられる。2012 年 8 月までに承認されたのは全国で 2,236 事業 (事業費約 120 億 THB)に達した。これらの施設について現場視察を行い、施工図面・施工状況 等を確認した。その結果では概ね設計図どおり施工されており、工事進捗も良好であった。 1) Batch-1(全国 555 事業)は、最初に予算が承認された事業グループで全国を網羅する。Batch-1 の約 40%の事業はチャオプラヤ川の中流域と下流域に集中する。事業はほとんどが河川及び灌漑 排水施設の小規模な修理・修復である。2012 年 9 月時点での事業進捗は 96.5%であった。 2) Batch-2(全国 955 事業)は、2 番目に早く予算が承認されたグループで洪水被害が最も大きか ったチャオプラヤ川の中流域と下流域を対象とする。事業規模は Batch-1 と同じく殆どが河川及び 灌漑排水施設の小規模な修理・修復である。2012 年 9 月時点での事業進捗は 97.8%であった。 3) Batch-3(全国 481 事業)は、Batch-1 及び Batch-2 と同じく、河川及び灌漑排水施設の小規模な 修理・修復である。事業地域は洪水被害が最も大きかったチャオプラヤ川下流域である。2012 年 9 月時点での事業進捗は 94.6%であった。 4) 緊急 Batch-SCWRM(全国 129 事業)は、水資源管理戦略委員会(SCWRM)が取りまとめた 河川及び灌漑排水施設の大規模修復事業である。Chainat - Pasak 水路の堤防嵩上げ事業はこのグル ープに含まれる。事業地域は洪水被害が最もひどかったチャオプラヤ川下流域である。2012 年 9 月時点での事業進捗は 69.4%であった。 5) 追加地区-1(全国 116 事業)は、遅れて計画されたもので、2012 年 5 月に予算承認がなされた。 事業地域はチャオプラヤ川下流域の都市部を対象とする。事業承認が遅かったため、2012 年 9 月 時点での事業進捗は 14.9%に過ぎない。 6) 追加地区-2(全国 11 事業)は 2012 年 8 月時点で予算の承認待ちであった。事業は 2 箇所のダ ムの改修・建設が主体で、実施計画は 2019 年までの長期で、事業費は大規模である。 7) 追加地区-3(全国 3 事業)は、2012 年 5 月に申請されたもので、上記 4)緊急 Batch-SCWRM を補足するものである。事業規模は非常に小さい。 2.3 中期支出計画および緊急復旧・防災事業 RID は 6 箇年の中期支出計画(MTEF)を毎年作成する。MTEF は RID が実施する全ての既存 事業及び新規事業に対して作成され、4 つのカテゴリーに区分される。本件調査地域であるチャ オプラヤ川中下流域の 6 R IO における MTEF 計画(2012 年~2017 年)の事業(全 3,521 事業)を 見ると、カテゴリーC-1(既存灌漑システムの改善と O&M の 1,180 事業)と C-2(新規灌漑シス テム建設の 1,400 事業)が大部分を占め、各々予算額の約 36%である。ただし、2011 年の洪水災 害に対しては、MTEF とは別に洪水被害復旧・防災のための特別緊急復旧予算が組まれた。 3. 日本支援事業における洪水被害状況および復旧 過去数十年のあいだに、日本の支援によって多くの事業が実施された。そのうちチャオプラヤ 川の洪水の影響を受ける地域で実施された農業案件を選定して、その被害状況を確認し、この調 査においてパイロット事業として復旧事業を行うのに適当であるか検討した。 国際協力機構(JICA) 8 / 25 ファイナル・レポート (1) チャオピア灌漑農業開発事業、実施機関 ALRO: アユタヤ県に位置し、総面積 12,620 ha は 10 区画に区分され、各区にはポンプ 2 台が設置された。1988 年に OECF ローンにより事業が完成 して以来、灌漑地区は標高 3.5 m の輪中堤防によって防護されてきた。しかし、2011 年の洪水は 堤防を越流し、1-4 の区画では応急堤防の築堤により洪水を防御し農作物を収穫することができた。 しかし、5-10 の区画では水稲が全滅した。ただし、灌漑施設への被害は軽微であった。 (2) パサック灌漑事業(ケンコイ・バンモーポンプ灌漑事業)、実施機関 RID: サラブリ県に位 置し、パサック川とチャイナート-パサック水路に挟まれた地域である。事業は OECF ローンに より 2001 年に着工し 2005 年に完成した。ポンプ場はパサック川に面するが 2011 年の洪水位はポ ンプ場の床面に達せず、ポンプ場の被害は皆無であった。また、受益地は比較的高いところに位 置するため用水路、排水路ともに洪水の被害はなかった。 (3) 小規模灌漑事業(SSIP)および小規模灌漑改修事業(SSIRP)、実施機関 RID: SSIP 及び SSIRP とも全国に展開した小規模灌漑事業である。SSIP は 1977 年~1985 年に、SSIRP は 1998 年~2003 年に OECF ローンにより実施した。本調査では、SSIRP 事業の内、調査地域内にある 106 施設の インベントリー調査を実施した。これら灌漑施設の殆どは TAO に移管されている。インベントリ ー結果によると、重大な被害を受けた 4 施設の内、2 箇所は未だ改修の目途が立っていない。軽 微な被害を受けた 7 施設は農民の水利用グループにより浚渫、補修が行われている。 (4) 大規模湖沼漁業開発事業(LSIFP)、実施機関 DOF: LSIFP はナコン・サワン県にあるタイ国 でも最大規模の Bung Boraped 湖を対象とする。本事業は OECF ローンにより 1991 年~1993 年に 実施された。建設された主な施設は、堰と水門、堤防と道路、排水路、水産センター等である。 2011 年洪水でこの湖は3箇月間氾濫し、土砂の堆砂は 400 万 m3 と推定され、DOF は軍隊の協力 を得て浚渫を行った。事務所及び養魚池も氾濫湛水し、建物、設備、試験機材等が甚大な損害を 受け、実験室の試験機材、水族館の操作機器等については未だ修復の目処が立っていない。 (5) 小規模湖沼漁業開発事業(SSIFP)、実施機関 DOF: SSIFP は全国規模の事業で、このうちチ ャオプラヤ川の中下流域における事業の対象は北タイ南部の 91 箇所の小規模湖沼である。OECF ローンにより小規模湖沼の改修工事は 1983 年から実施された。2011 年洪水による被害は漁業局 が調査を行い、7 箇所の湖沼で顕著な洪水土砂堆積被害が見られた。 4. パイロット事業 (1) パイロット事業の目的 パイロット事業は、チャオプラヤ川流域において RID が今後行う灌漑施設に対する本格的な洪 水被害復旧・防災、および改善事業に対する支援を目的として行うものである。 (2) パイロット事業の選定 コンポーネント 2 に係るパイロット事業の選定には、i) RID が実施中の洪水被害緊急復旧事業、 ii) RID が調査団に支援を要請した事業、iii) 過去において日本の支援により実施し被害を受けた 事業、を対象とした。これらの中から、現地調査により各事業の現状と問題点、及び必要性を確 認し、パイロット事業としての適正を検討した結果、RID が実施中の洪水被害緊急復旧事業は除 外し、RID からの支援要請が強いピサヌローク県のプライチュンポン灌漑システム改善事業 (Phlai Chumphon O&M Project) をパイロット事業として選定した。 9 / 25 要約 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) プライチュンポン灌漑システムは約 30 年前に建設され、チャオプラヤ川中流域のピサヌローク 県に位置し、灌漑面積が 218,000 rai (=34,880 ha)のタイ国でも有数の灌漑施設である。本地域は Nan 川と Yom 川に挟まれた洪水常襲の低平地である。Nan 川は本地域の流通・経済の中心都市で あるピサヌローク市周辺に氾濫をもたらし、一方、Yom 川はこれまで治水・利水での開発が最も 遅れている河川である。この地域は毎年 8 月~10 月に洪水による湛水被害に見舞われる。 次いで、プライチュンポン灌漑改善事業の現地調査による確認、及び RID との詳細協議を行い、 i) 農業セクターとしての妥当性、ii) 事業のモデル性から見た妥当性、iii) 建設工事期間から見た 妥当性、iv) 事業の緊急性に対する JICA 支援の必要性、v) RID の優先度、の選定基準に基づき検 討をおこなった。その結果、パイロット事業はプライチュンポン灌漑改善事業の中の「幹線用水 路放水路建設事業」(幹線用水路における放水工の建設)を第 1 優先事業として選定した。 (3) パイロット事業の設計 プライチュンポン灌漑事業の幹線用水路は、洪水時には Nan 川沿いのピサヌローク市周辺への 洪水被害を避けるために Naresuan 堰から放流するバイパス放水路として使われている。しかし、 それは緊急時に限られ、また、幹線用水路内に放流された洪水はこれまで支線水路から地区内下 流に放流され、灌漑地区低平部の水稲・農地・村落に大きな被害をもたらすものであった。パイ ロット事業は、ピサヌローク市周辺への洪水被害を軽減し、且つ灌漑地区内への被害を改善する ため、幹線用水路に放水工を設けて、しかもピサヌローク市から相当下流で Nan 川に放水して戻 す、いわゆる安全な洪水バイパス放水路として恒久的に用いることを目的とする。 「幹線用水路放水路建設事業」は RID により設計が行われており、パイロット事業において放 水施設の設計見直し・確認を行った。見直しの主な点は、幹線水路及び放水施設の水理設計にお ける放流量・現況及び計画流下能力の検討、構造設計におけるトランシジョン・ゲート操作台・ ボックスカルバート等の構造計算及び比較設計、ならびに基礎処理、仮締め切り工等の検討であ る。検討結果は提言としてとりまとめたが、RID の設計基準に照らして概ね妥当であると判断さ れた。また、工程計画を作成し、数量・事業費を見直し、パイロット事業実施計画を作成した。 結論および提言 5. 5.1 結論 (1) RID の洪水緊急復旧・防災事業 RID が実施中の洪水緊急復旧・防災事業は、RID の通常予算とは別枠の特別緊急復旧予算とし て承認された合計 2,236 事業(2012 年、全国ベース)である。これらは農村・都市部の住民生活・ 商業・工業生産活動に直接影響するインフラの復旧・防災事業である。本調査対象地域内では合 計 1,283 事業に上りその主な内訳は、河川・大規模水路の堤防の復旧・かさ上げ(47%)、河川の 排水調節水門の修復(25%)、村落道路・橋の復旧(11%)、河川・用排水路の浚渫(7%)、及び 排水ポンプ・発電機の配布(5%)である。 他方、農業生産に係る既存灌漑施設の修復は、RID 維持管理事務所(全国 86 箇所、調査地域内 49 箇所の大規模灌漑施設を管轄)、及び 17 箇所の RID 地域灌漑事務所(全国 731 地区、調査地域 内 151 地区の中規模灌漑施設を管轄)において通常の O&M 事業と統合して、6 箇年中期支出計画 (MTEF)を策定している。統合した灌漑施設の O&M 事業数は調査地域内で合計 1,180 事業に上 国際協力機構(JICA) 10 / 25 ファイナル・レポート る。 緊急復旧事業の工種は、土工事・コンクリート工事・杭打設工事・河川内の護岸工事・締切り 工事・浚渫工事・ポンプ及び発電機調達等多岐に渡るが、RID において被害調査・測量・地質調 査・詳細設計・施工管理等は実施可能なレベルである。また、通常の O&M 事業としての灌漑施 設の改修・改善は、これまで RID が長年実施しており技術的に問題は無いと判断できる。 (2) 過去の日本支援事業 調査地域内における過去の日本支援事業には、チャオピア灌漑農業開発事業、パサック灌漑事 業、小規模灌漑修復事業(SSIRP)、大規模湖沼漁業開発事業(LSIFP)、小規模湖沼漁業開発事業 (SSIFP)等が見られるが、施設に対する洪水被害は軽微であるか、被害があっても復旧事業を既 に着手しているものが殆どである。 (3) パイロット事業実施の中止 洪水緊急復旧支援のためのパイロット事業は、現地調査及び RID との協議を経て、ピサヌロー ク県のプライチュンポン灌漑地区における放水路建設事業を選定した。ただし、タイ政府が洪水 対策にかかる国際コンペを実施することになり本事業への悪影響が懸念されたため、JICA 判断に よりパイロット事業の実施は取り止めとなり、RID が策定した設計等のレビューを主に行った。 レビューの結果、各施設とも概ね妥当な技術レベルで設計が行われていると判断できる。 5.2 提言 (1) 灌漑用水路の洪水時の放水路への活用による洪水対策 チャオプラヤ川沿いの洪水常襲地域において、河川沿い地方都市の生活・住居地、商工業地域、 公共施設地域、歴史的遺跡、及び農村村落・農地等の洪水災害を軽減・防止するため、灌漑用水 路を洪水時の放水路として積極的に活用することを提言する。RID の維持管理事務所では多くの 幹線用水路が更新時期をむかえているため、改修に当たり洪水時の放水路としての活用を RID は 積極的に検討すべきである。それは、既存あるいは新規の灌漑排水施設を農業生産のためだけで なく、地域洪水防災システムの一環として活用することである。なお、計画・設計にあたっては、 灌漑システムの通常の設計技術に加えて、経済評価、放水時の水理設計、放水路構造物の設計、 基礎地盤の検討、等に留意することが肝要である。 (2) 灌漑システムにおける洪水時の湛水防除導入による洪水対策 本調査対象地域であるチャオプラヤ川流域の洪水常襲低平地においては、洪水による作物被害 軽減を目的とした、湛水防除事業を積極的に展開することを提言する。湛水防除事業とは、灌漑 農地の農作物(特に水稲)の湛水被害を防止するため灌漑システムの排水施設の整備を行うこと であり、具体的には排水ポンプにより洪水時に灌漑地区内の湛水を Yom 川等に強制排水するもの である。これは本調査パイロット事業選定時に RID より要請された事業である。ポンプ排水によ る湛水防除事業の計画・設計にあたっては、洪水時の湛水解析、排水計画の策定、事業効果の評 価、排水方式の検討、等に留意することが肝要である。 11 / 25 要約 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) D.コンポーネント 3:災害に強い農業・農村づくりガイドライン 1.コンポーネント 3 の目的と実施概要 1.1. 目的 コンポーネント 3 の目的は「災害(洪水)に強い農業・農村ガイドライン」を策定することで ある。このガイドラインを適用することによって、農業セクター及び農村コミュニティの洪水に 対するレジリエンスを高め、将来いつ来るかわからない大洪水に備えることが期待される。 1.2 モデル地区 モデル地区はチャオプラヤ川流域の上流域、デルタ上流部、中流部、下流域部から選ばれた 4 県(ピサヌローク県、チャイナート県、アユタヤ県、パトゥムタニ県)から、1)異なる営農形態、 2)コミュニティの絆が強く政府機関の協力・参加が見込まれること、3)2011 年洪水の被災地で あること、又は、将来の洪水対策プロジェクト実施による影響が見込まれる地区を選定基準に 7 タンボンが選定された。また、園芸セクターにおいて洪水被害が大きかったラン栽培のモデル地 区としてナコンパトム県を選定した。 1.3. ガイドライン策定プロセスとパイロット事業・活動 ガイドラインの策定にあたり、コミュニティが主体となった「参加型計画プロセス」を重視し、 またパイロット事業・活動の実施を通じて住民と関係政府機関が得た教訓を基にガイドラインを 策定する「学習プロセス」アプローチを取った。モデル地区において実施した 6 分野 21 プログラ ムのうち普及することが望ましい活動をモデル活動・事業としてガイドラインで紹介した。また、 普及用メディアとしてタイ語版のリーフレット、冊子、DVD が作成された。 1.4. コンポーネント 3 の関係機関 コンポーネント 3 の主カウンターパートは農業経済局(OAE)であり、中央レベルでは JCC メ ンバーである農業・協同組合省の中の 9 つの実施機関が調査に参加した。また、県レベルでは県 知事を議長とする県タスク・フォース(TF)が組織され、関係する農業・協同組合省の実施機関 に加え内務省の防災・軽減局やコミュニティ開発局の県事務所もメンバーに指名された。それ以 外に、パイロット活動レベルでは 5 つの大学の 7 学部・機関と 1 つの研究機関が参加し、パイロ ット活動のモニタリングに NGO が雇用された。 2.ガイドライン総論編 2.1. ガイドラインの必要性 チャオプラヤ川流域の農村地域、特に洪水常襲地区では住民は洪水と共生してきた。一方で、 灌漑排水施設の整備によって長期間洪水を経験していない地域では、生活様式の変化によって大 洪水による被害や損害が増加している側面もある。大きな被害と経済損失をもたらした 2011 年の 洪水を契機に、タイ政府はマスタープランを策定し、大規模な洪水対策事業を実施を予定してい る。洪水対策事業によって都市部の洪水を防ぐことは可能となるが、農業・農村地域においては 洪水が完全になくなる訳ではなく、また遊水地として積極的に洪水を貯留する計画もある。 そのような中、将来の大洪水の際にも農業被害を最小にして早期に復興できるように農業の形 態を見直し、新たな技術の導入・普及の支援体制を構築する必要性があるとの認識のもと、この 国際協力機構(JICA) 12 / 25 ファイナル・レポート 「災害(洪水)に強い農業・農村つくりガイドライン」はタイ農業・協同組合省と JICA の協力に よって策定された。このガイドラインが適用されることにより、洪水による農業セクターの被害 を最小限に止め、農村の生計が持続可能となることが期待される。 2.2 「災害(洪水)に強い農業・農村つくりガイドライン」の対象 このガイドラインはタンボンを単位とした「災害(洪水)に強い農業・農村つくり計画」を策 定するために、国の政府機関、県の行政機関及びタンボン自治体が活用することが想定される。 中央政府においては農業・協同組合省が別途定める農業分野の自然災害対策年次計画と共にコミ ュニティレベルでのレジリエンスを高めるためのガイドラインとして位置付けられ活用される。 また、政府の洪水対策政策に対する同省からの提案の一部として適宜活用される。 2.3 ガイドラインの基本的な考え方 (1) レジリエンス:災害(洪水)に強い農業・農村とは? レジリエンスが近年、防災・減災の世界では良く用いられるが、災害を免れないにしても最低 限の機能を維持できるようにする適応能力であり、早く回復するための復元力を意味する。タイ の国家経済社会開発計画の基本コンセプトでもある、ラマ 9 世国王が提唱する「足るを知る経済」 思想の 3 つの柱のなかの「自己免疫力」に相当する。 「災害(洪水)に強い農業・農村つくり」とは洪水被害を最小限に留め、洪水被害から早く復 興できるような適応能力を備えた農村をつくり、住民が洪水リスクを管理しつつ持続可能な農村 での生計を営むことを目指す。 自分たちの災害経験に基づき将来発生するかもしれない災害に備えることが、コミュニティの 「適応能力」を強化する。また、地域固有の環境や文化に基づいた地元の知恵や、類似する課題 をすでに解決している優良事例地区から学ぶ事も重要である。更に実際に自分でやってみること が住民の「学習プロセス」にとって重要である。 (2) 段階別活動 各課題別のガイドラインに示される具体 的なモデル活動・プロジェクトについては、 洪水発生前の災害前フェーズに洪水被害を 最小限にするためにおこなう「予防 (Prevention)」と「準備(Preparedness)」、 災害時対応として長期にわたる洪水期を乗 り切るために「対応(Response)」、災害後 フェーズとして洪水後に早く生計を回復す るために「復興(Recovery)」段階で有効な 活動と、2P2R の段階毎に計画されなければならない。 (3) 相乗便益となる活動を選択する いつ来るかわからない 100 年に一度のような大洪水のためだけに人々が行動を変えることは難 しく、計画を作るだけでは現実の場面で役に立つかどうかは疑わしい。したがって、このガイド ラインで示すモデル活動・プロジェクトは、通常期(非洪水期)や頻繁に起こる洪水(洪水常襲 13 / 25 要約 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 地域)にも役に立ち、大洪水に対しても対策となり得るものを選択基準とした。これを相乗便益 (co-benefit)という。 (4) タンボンレベルでの計画策定と県行政からの支援 農村部においてコミュニティとは集落であり、学校を中心とする地域社会や、活動グループや 親族・友人といった人的ネットワークでもあり、宗教組織などの価値観を共有するグループを含 む。コミュニティ防災においては個人や世帯レベルでの「自助」、コミュニティレベルでの「共助」 がまず重要視され、これに加えて行政機関からの「公助」による支援が重要になる。タンボン自 治体はコミュニティと国や県の行政機関を繋げるインターフェースとしての役割が期待される。 2.4 住民参加による計画策定プロセス コミュニティのレジリエンスを高めようとするのであれば、トップダウンの計画ではなく計画 の策定プロセスに住民が参加し、自助、共助につなげる必要がある。その標準的な手順とツール として、1) 洪水被害アセスメント及び PRA、2) SWOT 分析及び戦略計画策定手法を用いた計画 立案、3)実施計画と関係機関からの予算および技術支援、一般的なガイドラインとして示される。 活動については、優良事例から学ぶためのスタディーツアーやトレーニングを含み、モデル事業・ 活動に示されるものについては適用につき検討されることが望まれる。 3.課題別ガイドライン 3.1 洪水に備えるコミュニティ防災・軽減計画 (1) コミュニティの地域特性・洪水リスクと対策上の留意点 タイで発生する自然災害の中では洪水による被害が最も多く、2011 年の大洪水のようにタイの地 域社会に甚大な被害をもたらすことがある。洪水災害の特徴は一定の季節に発生し、ある程度予 測可能なため対策が立てやすいが、一方で湛水期間が長期化する傾向にある。コミュニティの地 域特性と洪水対策上の留意点は下表のようにまとめられる。 コミュニティ地域性・特徴 洪水リスク 高い地域・ 常襲地域 洪水の形態 コミュニティ の形態 低い地域・ 非常襲地域 Flash Floods 河川の氾濫 や増水によ る洪水 ゆっくりとした水位の上昇 洪水の可能性や時期についてあ る程度予測可能 対策上の留意点 洪水リスク管理計画の作成実施 (含、 水位計測、早期警報、避難) 洪水ハザードマップの作成・活用 地元の知恵と経験活用 外部支援・協力に関する調整 総合的な災害リスク管理計画 防災教育など啓蒙活動 早期警報や緊急避難体制の構築 Flash Floods に応じた洪水リスク管理 計画作成と実施 水位情報収集・警報システム構築 比較的長期に渡る対策を含む洪水リ スク管理計画の作成と実施 農村 住民は比較的共通した興味と価 値観を持っている 集合的なコミュニティ活動の実 施が比較的容易 住民の関心や価値観は多様 住民の流動や新規居住者が多 く、集合的な活動の実施が比較 的困難 洪水を含む総合的な災害リスク管理計 画の作成と実施 コミュニティグループやネットワーク の有効活用 行政機関の主導による、総合的災害リ スク管理計画の作成と実施 コミュニティ内、または近隣の事業所 との協力 都市/ 都市近郊 国際協力機構(JICA) 一般的な状況 住民は洪水状況に適応 洪水リスク管理に対する住民の 意識は高い 住民は洪水状況に不適応 洪水リスク管理意識は低い 傾斜地で豪雨により発生 地域への急で早い流水 14 / 25 ファイナル・レポート (2) 住民参加によるコミュニティ洪水リスク管理計画 住民参加による洪水リスク管理計画の作成と実施は防災・減災のための効果的な方法である。 以下にコミュニティ洪水リスク管理計画の作成プロセスと、特に重要な対策を示す。 STEP 1) コミュニティ情報の収集と分析 STEP 2) リスク分析と洪水ハザードマップ/避難経路図の作成 STEP 3) 洪水リスク管理委員会とワーキンググループの設立 STEP 4) 洪水リスク管理計画の作成 コミュニティ住民が洪水リスクに関する問題や制約と、その原因に基づいて、防災・減災のた めにコミュニティが取り組むべき課題や活動を、1)平常時の災害への備え、2) 洪水前の対策、 3) 洪水時の対応、4) 洪水後の対策の各段階に立案する。洪水リスク管理計画の作成に際しては、洪 水による災害の特徴から、早期警報システムの構築、安全な場所への避難、洪水時の必要な物資・ サービスの供給などへの配慮が特に重要になる。 (3) 水位情報の収集と警報システムの構築 コミュニティが自らの洪水リスクを知るためには、水位関連の情報を継続的にかつ迅速に収集 し分析することが重要になる。王室灌漑局の地域事務所や同じ水系を持つ近隣のコミュニティと のネットワークや連絡システムの構築と収集した情報を記録・分析することで迅速かつ明確に早 期警報を発信することが可能になる。既存の広域情報と地元の水位情報の統合を可能にする ICT の活用とタンボン自治体による予防・緊急行動の判断、そして適切な通信手段を用いた地区内各 コミュニティへの確実な情報伝達システムの構築が重要である。 (4) 安全な場所への避難経路図(ハザードマップ)の作成と避難訓練 迅速に、かつ秩序を持った避難にはコミュニティ住民が事前に災害時の避難所となる場所や避 難経路を認識している必要がある。また、避難には、家畜および、車両や農業機械など資産も含 まれる。災害時に備え避難経路図を人目に触れる公共の場所に掲示、住民に配布し、避難訓練を 実施する。災害避難訓練は、 1)コミュニティ住民の災害リスク管理意識の向上、2)教育機関、 保健機関を含む関係者間のネットワークの強化、3)洪水リスク管理委員会と各ワーキンググルー プによる実地訓練などの点で効果的である。 (5) 必要な物資(特に安全な飲料水) ・サービスの提供 避難所の避難住民や被災した地域の家屋に残る住民への短期・長期的なサービスや物資の供給 も洪水対策上重要である。飲料水、食料、毛布、衣料品などの生活必需品や医療サービスが含ま れる。中でも飲料水の確保は最優先課題の一つで、災害時に外部からの供給経路が遮断される可 能性もあることから、コミュニティ内または近隣のコミュニティに安全な飲料水の供給元が確保 されることが望ましく、災害時に供給できるよう通常時からの施設の維持管理が確実に行われる 必要がある。このため、飲料水供給システムプロジェクトではコイン式販売機導入による維持管 理費の確保と災害時の備蓄が提案された。 (6) 次世代への教訓の継承 タイでは 2011 年の大洪水は、未だ人々の記憶に残っており、この経験は将来の災害に対する教 15 / 25 要約 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 訓として次世代の若者に継承されていくべきである。活動が学校、保護者、コミュニティの協力 により防災教育の一環として実施され、学校が次世代の若者のための災害ラーニングセンターと して機能することが望ましい。 3.2 コミュニティ水資源開発と管理 (1) 洪水と干ばつ災害に対するコミュニティレベル水資源開発と管理の重要性 ひとたび洪水が起きると、コミュニティの住民のみで問題を解決するのは難しい。頻繁に洪水 が発生する地域では、湿地や河川のみでなく既存水路、ため池、灌漑施設に対してもモンキーチ ークの機能を持たせるために水資源施設の浚渫、拡幅および改修等を行うべきである。モンキー チークは、雨期には洪水の水を蓄えることができ、乾期には灌漑用水や飲料水などの多面的な目 的での利用が可能である。上流域の 500 以上の各タンボンで仮に 2MCM の洪水を蓄えた場合、下 流地域の洪水被害を防ぐような大規模ダムと匹敵する約 1,000MCM 規模の貯留機能を持ち、乾期 には灌漑を目的とした利用が可能となる。 (2) 大規模灌漑地区と小規模灌漑地区/天水農業地区の洪水状況の違いと開発のタイプ 大規模灌漑地区と小規模灌漑地区/天水農業地区を比較した場合、地形状況や灌漑排水施設の開 発レベルにより洪水発生状況が異なる。小規模灌漑地区や天水農業地区での洪水の原因は、主要 河川の水位上昇による越流や山間部/丘陵部からの流水である。また、雨期の洪水被害とともに、 乾期の水不足が問題となる。一方、チャイナート県より下流のデルタ地域では、洪水の原因は主 要河川の氾濫水によるものであるが、排水路や排水ゲートなどが整備されているため、これらの 排水施設を適切に利用すれば洪水期間を制御することが可能である。地形及び洪水の発生状況に よる対策の方向性は下表のようにまとめられる。 (2) 上流域洪水常襲地区 (1) 上流域洪水常襲地区 主要河川 P (3) 上流域丘陵地区 支線河川 樋門 ポンプ場 ポンプ場 P 溜池 基本的な コンセプト 洪水 P P 溜池 P P P P サトウキビ 水田 溜池 排水樋門 小規模灌漑事業等 (SSIP,SSIFP) RID のプロジェクトタイプ 主要河川 取水ゲート 洪水 溜池 洪水発生原因 (4) 下流域デルタ地区 主要河川 丘陵地からの地表流出 大規模灌漑事業 山岳地域からの地表流出/Flush Flood 主要河川 Flash Flood と干ばつ 洪水 洪水と干ばつ なし あり 取水施設 小規模灌漑施設(可動式ポンプ、堰、樋門等) 大規模樋門、ポンプ場等 大規模幹線 用排水路 - 排水樋門 - 灌漑・排水 システム 開発のタイプ名 Type A あり あり Type B Type C 構造物対策が可能 灌漑開発が進んでいる 非構造物対策が必要 (3) 小規模灌漑地区/天水農業地区でのコミュニティ・モンキーチーク開発と小流域水資源開発 上流域の小規模灌漑地区/天水農業地区においてはコミュニティ・モンキーチーク開発を提案 するが、地形、支流の状況、洪水の発生状況、既存の灌漑排水開発レベルの特徴から、3 つのタ イプに分けることができる。 国際協力機構(JICA) 16 / 25 ファイナル・レポート [Type-A] [Type-B] [Type-C] 河川の氾濫からの洪水の影響を受ける低平地における開発 丘陵地からの洪水の影響を受ける低平地における開発 山間部からの洪水の影響を受ける傾斜地や丘陵地の天水農業地域における開発 開発のコンポーネントとしては、Type-A、B、C ともに共通であり、水路やため池の堤防の嵩上 げ、水路断面の拡幅・浚渫、既存の池の拡幅・浚渫、ゲートや堰の改修やこれらの新規建設など が挙げられる。これらの改修工事により、水路内に洪水時の水を貯めることが可能になるととも に、水路沿いの洪水被害の軽減、乾期の灌漑利用を目的とした水利用が可能となる。 小規模流域水資源開発と管理計画は、上下流地域のタンボンでの洪水・干ばつ被害も軽減する ことが可能となるモンキーチーク開発モデルである。同一河川流域内に位置するタンボン相互間 での水資源開発と管理を行うために、小流域での洪水と干ばつ被害(数年で 1~2 回の発生状況) の軽減につながる。また、機能低下を起こしている既存の小規模水資源施設において、貯水量の 拡大に向けた改修の実施も重要である。 (4) 大規模灌漑地区の参加型洪水管理 大規模灌漑事業での用排水路の水管理は、RID が管理している。しかし、RID が配信する洪水 に関する注意が必要な情報は、県行政から郡、タンボン自治体へと連絡され農家に伝わる仕組み になっているが、実際にはタンボン自治体に届くまでに時間がかかり、2011 年は洪水の情報がう まく農家へ伝達されなかったために収穫間近の稲が多大な被害を受けたとの報告がある。このた め、いかに早く RID の情報が農家レベルにまで伝達できるかが課題である。 RID は、主要な水位観測地点において、観測地点の流量レベルにより青(安全)、黄色(要監視)、 赤(警戒)3 種類の区分を行い、洪水に対する警戒を行っている。水位の警戒レベルに応じて、 洪水に備えて飲料水や食料の確保、避難手段の準備、避難場所の整備等を行うことが必要となる。 大規模灌漑地区におけるコミュニティでの洪水対策や洪水警報は、RID の警報レベルを参考にし て計画を策定することが重要となる。 コミュニティ内にスタッフゲージを設置し、地区内の水位と RID が管理する水位との関連性を 住民自身が監視するシステムを立ち上げることで、洪水被害を最小限に抑えるために住民自身に よる迅速で正確な判断が可能となる。このため、TAO にコミュニティの洪水情報管理システムを 導入することを提案する。 3.3 農業畜産分野における洪水対策 (1) 農業畜産分野における洪水対策の分類 農業畜産分野における各種洪水対策はまず「予防(Prevention)」「準備(Preparedness)」、「対応 「予防」 「準備」段階としては、 「被 (Response) 」および「復興(Recovery)」の 4 段階に分類さる。 害回避」と被害発生時に備えた「リスク軽減」 「緊急用備蓄」が主たる戦略となる。また、 「対応」 段階としては「避難」が挙げられる。さらに、被害が発生してしまった後の「復興期」において は「早期回復」が戦略目標となる。 17 / 25 要約 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) (2) 稲作の洪水リスク軽減策 チャオプラヤ川下流域の農業土地利用の約 7 割は稲作が占めており、2011 年の洪水でも農作物 被害総額の 6 割は稲作被害であったため、稲作における洪水被害対策が喫緊の課題である。稲作 分野においては主に 2 つの戦略がとられる。洪水期の回避には、政策課題でもある①二期作を上 限とすること、②移植栽培の導入、そして③早生品種や洪水耐性品種など改良品種の導入が挙げ られる。また、コスト削減については、①農業資材の適正利用(量およびタイミング)、②微生物 資材等の有機物資材の活用、③優良種子の自家生産が主たる活動として提案される。 稲作の洪水リスク軽減策 洪水期の回避 二期作への限定 移植栽培の導入 コスト削減 改良品種の 導入 早生品種 農業資材の 適正利用 微生物資材 /有機物資 材の活用 優良種子の 自家生産 洪水耐性 品種 稲作の洪水対策モデルの第一は移植栽培の導入による作付け期間の短縮とそれによる洪水被害 回避である。移植栽培による作期短縮期間は 10 日から 15 日程度に限られるが、移植栽培は生育 初期段階における雑草防除にも効果的である。農業労働力不足の現状を鑑み、移植栽培は田植機 を利用した機械移植が望ましいが、場所によっては地盤が軟弱で機械の導入が適さない水田もあ る。移行期の対策としては、比較的低コストで実施できる投げ苗による移植栽培の振興が望まし い。一方で、機械移植と投げ苗を請け負う業者の数は非常に限られていることから、請負業者の 育成も喫緊の課題である。このため、移植栽培、特に投げ苗による移植栽培を振興するためには、 まずは請負業者の育成に焦点を当てることが肝要である。 コスト削減戦略については、米局が推奨する農業資材の適正利用と土地開発局と農業普及局が 開発・普及している微生物資材の活用が一般稲作農家に対し推奨される。優良種子(種籾)の自 家生産については、雑草イネなど収穫前に除去し、収穫後には夾雑物を除去するなど混雑を防ぐ ための注意が必要で、米局及び農業普及局が主導している Community Seed Center のガイドライン を適用すべきである。更に、防除効果を高めるため適正な農薬や微生物資材の利用に伴い、県レ ベルでの病害虫発生のモニタリングによる防除情報の提供と県から農家レベルまでの情報伝達手 国際協力機構(JICA) 18 / 25 ファイナル・レポート 段の効率化が求められる。 (3) 野菜栽培のレジリエンス強化への貢献 個々の農家が洪水に適応するための方策として、小規模な野菜栽培は有効な手段となる。コミ ュニティのレジリエンスを高めるための手段としては「洪水被害回避」、「リスク軽減」、「緊急用 備蓄」、「早期回復」の 4 戦略での対応策が提言される。 レジリエンスの強化 洪水被害回避 耐洪水性作物 /栽培手法の リスク軽減 緊急用備蓄 作物多様化 野菜種子 の保管 堤防による 圃場保護 早期復興 生育期間の短 い野菜の生産 高付加価値 野菜の生産 「洪水被害回避」としては、湛水環境に適した品種や栽培方法の選択が基本となり、果樹など の高付加価値作物が対象である場合などは圃場を堤防で保護することも選択肢となり得る。 「リス ク低減」策としては、まず作目・品種の多様化が挙げられる。野菜栽培は農家に対しての多様化 策・代替案となり、少しでも洪水による全損リスクを低減することに繋がるものである。さらに、 野菜種子の自家採種と保管によって洪水後にスムーズに開始するために用いることができる。ま た、「早期復興」として、生育期間が短く初期投資が少ない野菜栽培は容易に開始できる。 小規模な野菜栽培から得られる収入は限られてはいるものの、栽培開始から早いものでは 3~4 週間後には収穫することができ、早いサイクルで現金収入を得ることができる。低投入型の「安 全野菜」栽培を中心とすることは復興を開始する上で有効な手段といえる。市場へのアクセスを 事前に確立しておけば、販売による生計向上を大きく後押しすることに繋がる。このため安全野 菜の産直市場であるグリーンマーケットの設置は野菜生産活動の持続性とマーケットの確立によ る早期復興への手助けとなる点で野菜栽培を推進するためのモデル活動として提案される。 (4) 畜産の洪水リスク軽減策 2011 年の洪水による家畜分野における最も深刻な問題は家畜用飼料の不足であったことから、 家畜用飼料の生産が畜産分野の施策の主軸となる。これは洪水中の対応にあたる「避難」および、 洪水前準備にかかる「緊急用備蓄」の戦略にあたる。そして家畜自体の安全確保のための避難先 の同定は「リスク軽減」戦略であり、 「洪水に備えるコミュニティ防災・軽減対策」でのリスク分 析・ハザードマップ/避難経路図策定及び洪水リスク軽減計画に含まれる。タイでは山羊など中 家畜も飼育されており、高床式畜舎の導入は「洪水被害回避」戦略の一例である。 畜産の洪水対策 洪水被害回避 リスク軽減 高床式畜舎 の導入 家畜避難計画 緊急用備蓄 代替エネル ギーの振興 19 / 25 家畜飼料備蓄 の振興 避難 家畜飼料備蓄 の提供 要約 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 緊急時の飼料供給システムの構築にあたっては、国家レベルでの対策が必要とされる。主要各 県に設置されている家畜栄養研究開発センター(ANRDC)による貯蔵に加え、コミュニティレベ ル、各個人農家レベルでの貯蔵も必要となる。これまで、家畜農家の多くは洪水による甚大な被 害を経験したことが無く、家畜用飼料がコミュニティレベルで貯蔵されることは無かったため、 将来の洪水被害リスク軽減のためコミュニティでの飼料貯蔵を提案する。 コミュニティレベルにおける飼料貯蔵庫は災害発生時の飼料供給能力を強化するものであり、 反芻動物が健康でかつ生産性の高い状態を維持することに繋がり、畜産農家に安定的な収入を約 束するものである。ここでは、飼料貯蔵庫を非洪水被害地域に設置し、ここで貯蔵されていた乾 草やサイレージを洪水の発生した地域の畜産農家に供給することを基本機能とする。洪水域の影 響を考慮すると、複数箇所の備蓄庫を分散して設置することが望ましい。 3.4 くらしの復興にむけての収入創出活動 (1) 農村の多様性にもとづくレジリエンス、農業の集約化と洪水にたいする脆弱性 農村の生計は多様であり、暮らしのために地域の資源を活かした様々な生計活動が行われてい る。天水農業は自然に依存し不確実性が高いため、利益最大化よりもリスクを最小化する傾向が ある。一方、灌漑が整備された米単作地域では、農家の生計は災害に対し脆弱な状況にある。都 市近郊農村では、農外所得が主たる収入となり農業は衰退傾向にあり、多様性は失われてきてい る。 このような中、洪水時及び大洪水後の補助的な収入として、現存の収入創出活動の強化や新た な導入は生計の回復に寄与し、通常時にも生計の多様性に貢献し農村のレジリエンスを強化する と考えられる。 (2) 長期湛水期間の生計維持 洪水期間中の収入としてまず挙げられるのが漁獲である。洪水常襲地域においては洪水を災害 ではなく、漁獲による収入の機会と捉えている。通常は漁獲で生計を立てている住民は 1~2 割し かいなくとも、洪水期には大多数の住民が魚や水棲生物を捕らえて仲買人や市場、コミュニティ 内での売買を行い、現金収入を得ている。また、生鮮での販売に加え、日干しや燻製など地域で の簡易な加工・販売や自家消費用に発酵加工を行うことはどこでも見られる伝統的な適応方法で ある。 ガイドラインにおいては以下の 3 つの視点を重視した。 1) 洪水常襲地区では、構造物の洪水対策を行う際に魚類と漁民への影響を考慮する。 2) 便益を広く分配するために、既存の簡易加工の生産増強を支援し買取量を増やす。 3) 自然の氾濫原ではなくリテンションなど、新たに洪水リスクが高まる地区において、農業 所得の損失を補うため漁獲と加工を取り入れ、販売面でも県行政が支援する。 加工グループでは収入だけで無く、共同で働くことも楽しみにしている。特に女性や老人のグ ループは洪水期間中も集まって作業をすることを望んでおり、この結束が長期にわたる洪水期間 の安否確認や健康状態の確認をするために重要である。老人の独居世帯が増えている地域におい て、コミュニティ内のつながりを積極的に活用することがレジリエンスを高めることになる。 国際協力機構(JICA) 20 / 25 ファイナル・レポート 魚類に限らず洪水期にも得られる地域資源を原料とする物であれば推奨される。地域資源を活 用し、簡易な加工を自宅でできることが洪水期間中にも継続できる加工活動の要件である。 (3) 洪水後の生計回復と外部からの支援についての留意点 加工を伴う収入創出活動は、農作物が洪水後に種を植えて収穫まで現金化できないのに比べ、 短期間で生計回復に貢献するであろうが、支援を行うにはいくつかの留意点がある。 1) 食品衛生基準が厳しくなっており、コミュニティ外への販売の為に食品薬事局の認証を取 るには Pre-GMP レベルの加工場の衛生管理が鍵となる。既存の認証済み食品加工場が被災 した場合、新基準の認証を取得するため資金を含め実現可能性を検討する必要がある。 2) コミュニティ外部への販売を行うにはマーケティングが重要であるが、これこそ外部から 支援が可能な部分である。行政機関では OTOP イベントや観光フェアなどに無料で出店・ 販売できるように支援しているが、それ以外の民間団体や個人の支援者でもインターネッ トの活用など村人ではできない部分を支援することが効果的である。 3) OTOP に関わる複数の県行政機関が一つのグループに対し、異なるアプローチで支援し混乱 と分裂を招くケースが見受けられる。グループの主体性を失わせるような外部からの支援 はレジリエンスを弱める結果となる場合がある。 4) 近年マーケティング戦略としてパッケージに重点を置き包装費用が高くなる傾向があるが、 市場での競争を考慮すると結果的に収益を圧縮することになりかねない。 5) グループでの活動に焦点を当てる傾向にあるが、生計回復を考える場合に個人事業主の ほうがグループ運営よりも同じ商品でも売上げが多く、同じグループメンバーを労働力 として雇用している場合がある。個人事業主を支援して販売を増やし雇用や地域での原 料の買い上げ量を増やす方が、結果的により広い層の生計支援につながる場合がある。 3.5 つながり・支える組織・制度 (1) 災害時の内務省災害軽減局と農業・協同組合省の役割 国レベルは内務省防災軽減局(以下 DDPM)と各県・地方行政体及び地方自治体、更には農業・ 協同組合省(以下 MOAC)が直接的に農業・農村分野の洪水対応策に責任を持つ公的機関である。 一方、総理府傘下の所謂シングル・コマンド・オーソリティー(含む ONWFMP)は大規模な水に 関連した災害管理に任じている。このオーソリティーは長期にわたった 2011 年洪水災害時に確認 された弱点を強化・改善すべく 2012 年 5 月に設立されたものである。 (2) 県レベルの関係機関の役割と統合 「災害(洪水)に強い農業・農村つくり計画」はタンボンを中心に計画が策定されるが、活動 ごとに技術面、資金面的に県からの支援が必要な場合が多い。又、県行政は洪水のリスクに応じ て緊急度の高い地域からタンボンが計画策定を行うよう指導する立場にある。計画策定の順次拡 大と具体的な活動の推進を行うには県レベルの政府機関の関与が最も重要である。実施体制とし て知事を長とする委員会を設置し、洪水リスクに応じて優先順位を決め共同で活動実施を支援す る。 (3) タンボンレベルの組織・体制 タンボンレベルの組織については、 「災害(洪水)に強い農業・農村計画」を策定する際に主体 21 / 25 要約 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) となるタンボン自治体と各村の代表、そして活動毎に責任をもって実施を行うグループがある。 各課題のモデル事業・活動を例に実施主体と外部からの支援組織を次表にまとめた。 課 題 洪水に備えるコミ ュニティ防災計画 モデル事業・活動 洪水ハザードマップ策定 洪水災害マネジメント計画 コミュニティ・モンキーチーク開発 活動主体 TAO TAO、防災ボランティア、学 校 タンボン自治体・学校 (水管理委員会) TAO・自治体間協力 大規模灌漑地区洪水管理 稲の移植 複合農業普及 安全野菜生産+グリーンマーケッ ト(無農薬産直市場) 飼料生産・備蓄 水利組合・TAO 農家個人 学習センター 市場委員会・野菜生産グ ループ 牧草・畜産グループ/TAO 地域資源を活用した加工 加工グループ 農村企業、OTOP グループ 安全な飲料水確保 コミュニティ水資 源管理 農業・畜産分野洪水 被害軽減対策 暮らしの復興に向 けての収入創出活 動 備 考 地域全体の防災・減災と いう公共的な性格から、 タンボン自治体の役割 水資源開発は予算規模 も大きく TAO から県へ の支援要請が必要。 稲作は個人で対応ただ し、種子生産や備蓄はグ ループで対応。安全野菜は マーケティングで協働必要。飼 料備蓄は共同利用施設 で TAO 関与 零細企業から協同組合 的な農村企業、緩やかな インフォーマル・グループまで 様々 (4) 複数タンボンと県の自治体間連携 水資源、洪水の面的広がりを考える際に、一つのタンボンで出来る事は限られており、周辺タ ンボンとの協力が重要となるケースが多く、予算面でも課題が残る。JICA「自治体間協力による 公共サービス提供能力向上プロジェクト」での知見を活かし、提案されるコミュニティ水資源開 発のモデル事業の実施手法として自治体間協力と県自治体(PAO)の開発予算の活用が提案され る。 (5) コミュニティと大学、財団、NGO 及び民間セクター等とのネットワーク コミュニティのレジリエンスを高める計画策定や各種活動の実施において、政府機関のみなら ず大学等研究機関、財団、NGO 及び民間セクターからの資金面や技術面での支援を受けることで、 コミュニティが外部機関との繋がりを持つことができるため、洪水被災時にそれらの外部機関か らの支援が受けやすくなる。具体的活動を通して外部団体と繋がることがコミュニティのレジリ エンスを高めることにもなる。 (6) 農業セクターのレジリエンスを高めるための産官学連携に向けて ランや果実などの特定農産物の復興にあたっては、農業者単独の努力では困難であり、また、 洪水での被災を契機に洪水前と同じ状態への復旧ではなく洪水で発生した問題解決に加え新たな 課題を解決するために産業界と研究機関や政府が共同で研究・開発に取り組むことを検討すべき である。農業・協同組合省の各機関で研究・開発済みの技術だけでなく、科学技術省傘下の機関 や大学、そして民間会社の新技術を融合することで、解決できる課題がある。具体的な事例とし て、パイロット事業でランの代替培地の開発と微生物資材の複合的利用を行った。開発に時間が かかるが、イノベーションに成功すれば業界と国の経済発展に寄与することが期待できる場合、 洪水復興を機にイノベーションのための産官学連携に着手することが提言される。 国際協力機構(JICA) 22 / 25 ファイナル・レポート 4.1 結論 2011 年の大洪水の災害経験から、「災害に強い農業・農村つくり計画」がモデル地区で策定さ れ、活動実施の教訓を得て、ガイドラインとして取り纏められた。ガイドラインは総論編、5 つ の課題別ガイドラインおよび 22 のテクニカルペーパーから成り、先方からの要望によりタイ語版 も作成された。また、洪水対策としての効果や普及・拡大の可能性が確認されたプログラムが、 モデル事業として提示された。これらは、農村コミュニティの災害レジリエンスを高めるために 具体的かつ重要な提案である。 4.2 提言 (1) 総論 1) タイ政府への提言 タイ政府の洪水対策事業によって遊水地等の対象となり将来、湛水被害の影響を受ける地域 に対し、本ガイドラインを優先的に適用すべきである。事業・活動を推進するためには特別 の予算を必要とするものもあり、優先地区への重点配分を行うべきである。モデル活動の普 及に当たってはタイ語で作成されたリーフレット、冊子、DVD が活用されるべきである。 農業・協同組合省は、洪水被害への補償だけでなく洪水に対するコミュニティのレジリエン スを強化するコンセプトを既存のガイドライン1に加えて関係機関に周知すべきである。 国家経済社会開発計画において鍵となる「足るを知る経済」のコンセプトであるが、農業開 発においても、生産性や農家所得の向上を図るだけでなく自然災害のリスクを考慮し、災害 に強い農業・農村つくりに重要なレジリエンスの概念を考える必要がある。 2) 県およびタンボン自治体への提言 県内の洪水リスクの高い地区において優先的に災害に強い農業・農村つくり計画の策定を行 い、早急に実施すべきである。 県の状況に応じたモデル事業の導入の検討と普及のための施策を検討すべきである。 タンボンレベルで計画策定する際に緊急を要する優先事業やスタディツアー等の学習プロセ スは一部タンボン自治体の自己予算で実施すべきであり、このことで事業のオーナーシップ が高められる。また広域での対応が必要な事業については近隣のタンボン自治体と連携して 県自治体への支援を要請すべきである。 3) JICA への提言 ガイドラインの実施状況および適用に関する課題をモニタリングする必要がある。 実施したモデル事業の結果を引き続きフォローアップする必要がある。 トップダウンで計画が策定される気候変動への適用策と併用して、より住民主体のレジリエ ンスの概念を災害の多いアジア地域の農業・農村開発計画に反映すべきである。 (2) 課題別提言 1) コミュニティ防災 住民参加による洪水ハザードマップの作成方法をガイドラインにとりまとめた。洪水リスク 1 Agricultural Preparedness Plan for Disaster in FY 2013 (MOAC, 2012) 23 / 25 要約 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) の高い地区においては洪水ハザードマップ作成が必要であり、DDPM と RID の協力が必要で ある。各県で関係部局が協力する枠組みを作るべきである。 洪水時の飲料水確保を目的とした給水システムの建設により洪水に備えての備蓄や洪水期間 中の避難民への給水が可能となる。タンボン自治体による本システムの導入を進めるべきで ある。 2) コミュニティ水資源管理 タンボン内に水位計を設置して洪水時の水位観測、Website の立ち上げ、水位計の水位データ とタンボン近傍の主要河川にある RID 等の流量観測所の水位データを比較検討することによ り、タンボンでの洪水予報・警報が可能となる。灌漑整備地域内にある洪水リスクの高いタ ンボンでは参加型水位測定および洪水の情報管理を実施すべきである。 モンキーチークは、雨期には洪水を蓄えることができ、乾期には灌漑を目的とした利用が可 能となる。上流の各タンボンが 2MCM の洪水を蓄えた場合、下流地域の洪水被害を防ぐよう な大規模ダムと同様に約 1,000MCM 規模の貯留機能を持つことになる。また、小流域でのモ ンキーチーク開発は地方自治体連携による開発事業を促進する政策に合致した事業であり積 極的に県自治体が中心となって推進すべきである。 SSIP は 1977 年以降に全国で約 6,000 プロジェクトが実施された。主に小規模河川での堰や樋 門、ため池等の施設であり、現在は TAO に移管されているが、老朽化や維持管理不足により 十分に機能していない。内務省は RID の協力のもと、モンキーチークとして整備するために 各 TAO を支援して本事業の改修・拡張を早急に実施すべきである。 3) 農業・畜産分野における洪水対策 洪水対策として移植を勧めるには投げ苗を請け負う業者の育成が喫緊の課題である。各県に 配置されている稲作研究所(RRC)又は農業普及局(DOAE)が主たる機関として業者育成 の役割を担うことを提言する。ここでは、移植栽培のみを普及するのでは無く、育苗技術、 播種量の低減、種子の選別技術などについても併せて行う必要がある。 洪水後には病虫害発生リスクが高まるため,稲作研究所と農業普及事務所が協力して県レベ ルでの発生状況の早期把握と農家レベルへの警報・防除対策を知らせるシステムを確立すべ きである。 安全野菜の生産は MOAC の政策としても推奨されているが、マーケットの確立が重要な活動 であるにも関わらず行政としての関与について役割が明確ではない。財団や大学等と協力し てグリーンマーケットの普及を図ると同時に、県行政として関与が可能な学校給食や病院食 等に対して契約栽培などを勧める。DOAE や LDD の関係部局は連携して生産面で農家を支援 すべきである。 洪水リスクが高く小規模家畜農家が多い地区においては将来の洪水に備え、家畜飼料備蓄庫 を農家レベル、コミュニティレベルで行うことが望まれる。また、同時に地区内での飼料作 物の栽培も推進すべきである。DLD は県及び郡レベルの畜産局担当者にコンセプトを周知し、 コミュニティレベル備蓄庫設置に関し畜産グループを支援すべきである。 提案された各活動は洪水対策のみならず通常時にも普及すべき活動であり、政策にも沿った ものである。なお、各部局の通常予算を洪水リスクの高い地区に配分することで、洪水対策 国際協力機構(JICA) 24 / 25 ファイナル・レポート の特別の予算が無い場合でも活動レベルで普及が可能である。洪水対策としても有効である ためガイドラインを参照しつつ農家に普及すべきである。 4) くらしの復興に向けての収入創出活動 タイ政府は洪水常襲地区での漁獲の役割を認識し、洪水対策を実施する際に魚類及び漁民へ の影響を調査すべきである。 食品加工における衛生基準の厳格な適用が新たな方針となっているが、農村企業や OTOP グ ループ等にとっては認証取得のための投資や十分投資に見合うだけの利潤が見込めるかが疑 問である。衛生基準の設定だけでなく、関係する DOAE、CDD 等政府機関はアップグレード するための GMP ガイドラインと最も重要な衛生教育についてトレーニングをこれらグルー プに提供すべきである。また、洪水で被災した OTOP 加工施設への補償は行われなかったが、 復旧して認証取得するためには資金的な支援も必要である。タイ政府は OTOP や農村企業の 現状と目指すべき衛生基準とのギャップを埋める施策を行う必要がある。 5) つながり・支える組織・制度 県行政機関はタンボン連携による水資源開発のみならず、他の洪水対策についても県自治体 の予算を有効に活用できるよう、タンボン自治体を支援すべきである。 本ガイドラインの適用によってレジリエンスを高める努力はコミュニティを中心に行われる。 一方で、政府の決定によって都市部を洪水から守るために意図的に湛水させるリテンション 地区については,被害実態を迅速かつ適正な把握と評価する体制を政府が責任をもって構築 すべきである。 農家への補償支払いを迅速化・精緻化するための筆別土地利用 GIS データベースの構築をパ イロットプロジェクトとして実施した。農業経済局は引き続き実用化に向けての稲生育ステ ージの衛星画像解析手法の確立と、実用化のために必要なタンボンレベルでのデータベース 構築のためのデータ収集手順の標準化と手続きの迅速化の検討、全国に拡大するためのアウ トソーシングの方法について検討すべきである。 25 / 25 要約 目 次 位置図 略語・用語集 略語集 要 約 目 次 図表リスト 表リスト 第1章 1.1. 序論 .............................................................................................................................................. 1-1 調査の背景および目的等 ....................................................................................................... 1-1 1.2. 関係実施機関および調査実施体制 ....................................................................................... 1-2 1.3. タイにおける洪水対策への挑戦 ........................................................................................... 1-7 1.3.1. タイにおける自然災害の特徴 .......................................................................................... 1-7 1.3.2. 2011 年洪水災害による農業セクターの被害 ................................................................. 1-9 1.3.3. 洪水災害に関する組織および制度 ................................................................................ 1-10 1.3.4. JICA および他ドナーの支援 .......................................................................................... 1-11 第2章 2.1. 牧草地の生産回復支援:コンポーネント 1 ........................................................................... 2-1 業務内容及び成果 ................................................................................................................... 2-1 2.1.1. 牧草種子/栄養苗及び肥料配布のモニタリング ............................................................. 2-1 2.1.2. 持続的な牧草生産(及び災害リスク管理)に関わる研修 .......................................... 2-1 2.1.3. 災害復旧に向けての政策提言 .......................................................................................... 2-1 2.1.4. コンポーネント 1 の活動 .................................................................................................. 2-2 2.2. タイ国畜産セクターの概要 ................................................................................................... 2-2 2.3. DLD の組織 .............................................................................................................................. 2-8 2.3.1. DLD 本部とその職務所掌................................................................................................. 2-8 2.3.2. DLD の行政(県及び郡)................................................................................................. 2-9 2.3.3. 家畜栄養課(牧草種子センター) .................................................................................. 2-9 2.4. 2011 年洪水による家畜被害 ................................................................................................ 2-10 2.4.1. 推定家畜被害額 ................................................................................................................ 2-10 2.4.2. 県別の家畜被害 ................................................................................................................ 2-10 2.4.3. 牧草地被害の規模 ............................................................................................................ 2-11 2.5. 肥料及び牧草種子・栄養苗配布のモニタリング ............................................................. 2-13 2.5.1. 配布システム.................................................................................................................... 2-13 2.5.2. 肥料及び牧草種子/栄養苗の配布量 ............................................................................... 2-14 2.5.3. 受益者数............................................................................................................................ 2-15 2.5.4. 受益面積............................................................................................................................ 2-15 2.5.5. 牧草種子/栄養苗の配布................................................................................................... 2-16 2.6. 受益農家のモニタリング結果 ............................................................................................. 2-16 2.7. 研修 ......................................................................................................................................... 2-22 2.8. 洪水対策への提言 ................................................................................................................. 2-24 第3章 3.1. 灌漑施設の修復および改善 ...................................................................................................... 3-1 まえがき ................................................................................................................................... 3-1 RID 管理の灌漑排水施設における洪水被害および洪水復旧・防災事業 ........................ 3-1 3.2. 3.2.1. 灌漑排水施設における洪水被害 ...................................................................................... 3-1 3.2.2. 灌漑排水施設における洪水緊急復旧・防災事業 .......................................................... 3-2 3.2.3. MTEF 中期支出計画および緊急復旧・防災事業 .......................................................... 3-6 日本支援事業における洪水被害状況および復旧 ............................................................... 3-7 3.3. 3.3.1. チャオピア灌漑農業開発事業 (実施機関 ALRO) ......................................................... 3-9 3.3.2. パサック灌漑事業(ケンコイ・バンモーポンプ灌漑事業) (実施機関 RID) ........ 3-10 3.3.3. 小規模灌漑事業(SSIP)および小規模灌漑改修事業(SSIRP)(実施機関 RID) ........ 3-10 3.3.4. 大規模湖沼漁業開発事業(LSIFP)(実施機関 DOF) .................................................. 3-13 3.3.5. 小規模湖沼漁業開発事業(SSIFP)(実施機関 DOF) .................................................. 3-16 パイロット事業 ..................................................................................................................... 3-17 3.4. 3.4.1. パイロット事業の目的 .................................................................................................... 3-17 3.4.2. パイロット事業の一次選定 ............................................................................................ 3-17 3.4.3. パイロット事業の最終選定 ............................................................................................ 3-20 3.4.4. パイロット事業の設計 .................................................................................................... 3-26 3.4.5. パイロット事業の実施計画 ............................................................................................ 3-44 結論および提言 ..................................................................................................................... 3-44 3.5. 3.5.1. 結論.................................................................................................................................... 3-44 3.5.2. 提言.................................................................................................................................... 3-45 第4章 4.1 災害(洪水)に強い農業・農村つくりガイドライン .......................................................... 4-1 コンポーネント 3 の目的と実施概要 ................................................................................... 4-1 4.1.1 目的...................................................................................................................................... 4-1 4.1.2 モデル地区の選定と各地区の特徴 .................................................................................. 4-1 4.1.3 ガイドライン策定プロセスとパイロット事業・活動 .................................................. 4-3 4.1.4 コンポーネント 3 の関係機関 .......................................................................................... 4-7 4.1.5 ガイドラインの構成とテクニカル・ペーパー .............................................................. 4-9 4.2 ガイドライン総論編 ............................................................................................................. 4-10 4.2.1 なぜ「災害(洪水)に強い農業・農村つくり計画」が必要なのか? .................... 4-10 4.2.2 「災害(洪水)に強い農業・農村つくりガイドライン」は誰のために策定されたの か?.................................................................................................................................... 4-10 4.2.3 ガイドラインの基本的な考え方 .................................................................................... 4-11 4.2.4 住民参加による計画策定プロセス ................................................................................ 4-14 4.2.5 地域による洪水リスクと計画策定の優先度 ................................................................ 4-15 4.3 課題別ガイドライン ............................................................................................................. 4-18 4.3.1 洪水に備えるコミュニティ防災・軽減計画 ................................................................ 4-18 4.3.2 コミュニティ水資源開発と管理 .................................................................................... 4-29 4.3.3 農業畜産分野における洪水対策 .................................................................................... 4-38 4.3.4 くらしの復興にむけての収入創出活動 ........................................................................ 4-55 つながり・支える組織・制度 ........................................................................................ 4-60 4.3.5 4.4 結論と提言 ............................................................................................................................. 4-68 4.4.1 結論.................................................................................................................................... 4-68 4.4.2 提言.................................................................................................................................... 4-68 付属書 Appendix I : Supporting Documents Appendix II : Technical Papers Appendix III : Community Case Studies 図リスト 図 1.1.1 図 1.3.1 図 1.3.2 図 2.2.1 図 2.2.2 図 2.2.3 図 2.3.1 図 2.3.2 図 2.3.3 図 2.5.1 図 2.7.1 図 3.2.1 図 3.3.1 図 3.3.2 図 3.5.1 図 3.5.2 図 4.1.1 図 4.1.2 図 4.1.3 図 4.2.1 図 4.2.2 図 4.2.3 図 4.2.4 図 4.2.5 図 4.2.6 図 4.3.1 図 4.3.2 図 4.3.3 図 4.3.4 図 4.3.5 図 4.3.6 図 4.3.7 図 4.3.8 図 4.3.9 図 4.3.10 図 4.3.11 図 4.3.12 図 4.3.13 図 4.3.14 図 4.3.15 図 4.3.16 図 4.3.17 図 4.3.18 図 4.3.19 図 4.3.20 図 4.3.21 本件調査業務の枠組み(組織および分担) ......................................................................... 1-2 2008 年と 2011 年の洪水湛水面積の比較 ............................................................................ 1-10 タイの政府組織 ....................................................................................................................... 1-11 肉牛の流通経路 ......................................................................................................................... 2-6 ブロイラーの流通経路 ............................................................................................................. 2-7 家畜の季節別飼料給与方式 ..................................................................................................... 2-8 DLD の組織構造 ........................................................................................................................ 2-8 県畜産事務所の組織構造 ......................................................................................................... 2-9 家畜栄養課の組織構造 ............................................................................................................. 2-9 肥料・牧草種子/栄養苗配布の流れ ...................................................................................... 2-14 参加者による研修評価 ........................................................................................................... 2-24 RID による洪水緊急復旧・防災事業の施設タイプ ............................................................. 3-2 日本支援事業位置図 ................................................................................................................. 3-8 2011 年洪水により発生した被害施設数 .............................................................................. 3-11 プライチュンポン維持管理事業位置図 ............................................................................... 3-51 プライチュンポン維持管理事業における排水ポンプ場及び放水工建設計画位置図.... 3-52 モデル地区位置図 ..................................................................................................................... 4-2 コンポーネント 3 の実施プロセス ......................................................................................... 4-3 ガイドラインの構成イメージ ................................................................................................. 4-9 災害マネジメントサイクル ................................................................................................... 4-13 災害に強い農業・農村計画実施タイミング ....................................................................... 4-13 コミュニティと 「自助」「共助」「公助」 ......................................................................... 4-14 タンボンでの災害に強い 農業・農村計画策定プロセス ................................................. 4-14 RID によって検討されているリテンション地区 ............................................................... 4-16 タイ政府の洪水対策計画 ....................................................................................................... 4-17 コミュニティにおける災害リスク管理のパラダイムシフト ........................................... 4-19 コミュニティ洪水リスク管理計画策定プロセス ............................................................... 4-24 チャオプラヤ川上流域とデルタ地域における地形と水文の比較 ................................... 4-29 水資源開発・管理計画の方向性 ........................................................................................... 4-32 モンキーチーク開発コンセプト ........................................................................................... 4-33 流量の変化と RID の洪水警報区分(出典:RID) ........................................................... 4-35 現況の情報の流れ:RID→県→郡→タンボン .................................................................... 4-37 新たなコミュニティ・予警報システム:RID→タンボン←観測地点 ............................ 4-37 洪水対策の主要概念 ............................................................................................................... 4-39 農業畜産分野の洪水対策フレームワーク ......................................................................... 4-41 稲作における洪水被害リスク軽減策 ................................................................................. 4-42 野菜栽培にかかる洪水対策 ................................................................................................. 4-47 畜産にかかる洪水対策 ......................................................................................................... 4-50 飼料備蓄庫の計画フロー ..................................................................................................... 4-51 飼料貯蔵庫の概念図 ............................................................................................................. 4-52 コミュニティレベルの飼料貯蔵庫の設置場所 ................................................................. 4-53 高床式山羊小屋 ..................................................................................................................... 4-54 収入創出活動の洪水対策としてのインパクト ................................................................. 4-56 収入創出活動の支援のフロー ............................................................................................. 4-58 県タスクフォースの組織図(アユタヤ県の例) ............................................................. 4-61 産官学連携の関係図(ラン復興策の例) ......................................................................... 4-67 表リスト 表 1.2.1 表 1.2.2 表 1.2.3 表 1.3.1 表 1.3.2 表 1.3.3 表 2.2.1 表 2.2.2 表 2.2.3 表 2.2.4 表 2.2.5 表 2.2.6 表 2.2.7 表 2.2.8 表 2.2.9 表 2.4.1 表 2.4.2 表 2.4.3 表 2.4.4 表 2.4.5 表 2.5.1 表 2.5.2 表 2.5.3 表 2.5.4 表 2.5.5 表 2.6.1 表 2.7.1 表 2.8.1 表 3.2.1 表 3.2.2 表 3.2.3 表 3.3.1 表 3.3.2 表 3.3.3 表 3.4.1 表 3.4.2 表 3.5.1 表 4.1.1 表 4.1.2 表 4.1.3 表 4.1.4 表 4.1.5 表 4.3.1 表 4.3.2 表 4.3.3 表 4.3.4 調査実施計画 ............................................................................................................................. 1-4 業務担当者毎の分担業務内容 ................................................................................................. 1-5 要員計画 ..................................................................................................................................... 1-6 アジア諸国におけるタイの洪水被害状況 (2007 – 2010)..................................................... 1-7 2002 年~2010 年間の平均と 2011 年の全国レベルでの洪水被害の比較......................... 1-8 家畜の被害概要 ......................................................................................................................... 1-9 畜産の GDP への貢献度 ........................................................................................................... 2-2 乳牛頭数と酪農家数(2011) .................................................................................................... 2-3 乳牛頭数と酪農家数の上位 10 県(2011) ........................................................................... 2-3 肉牛頭数及び飼養農家数( 2011) ............................................................................................. 2-3 肉牛頭数上位 10 県(2011) ................................................................................................... 2-4 養鶏羽数と飼養農家数(2011) ............................................................................................. 2-4 養鶏上位 5 県(2011) ............................................................................................................. 2-4 養豚頭数と飼養農家数(2011) ............................................................................................. 2-5 養豚上位 10 県(2011 年) ......................................................................................................... 2-5 畜種別家畜損失頭数及び損失率 ........................................................................................... 2-10 牛の被害上位 4 県 ................................................................................................................... 2-10 豚損失の上位 4 県 ................................................................................................................... 2-10 養鶏被害上位 4 県 ................................................................................................................... 2-11 県別家畜損失被害 ................................................................................................................... 2-12 オリジナル計画とモニタリング調査結果の比較 ............................................................... 2-15 肥料配布の受益者数 ............................................................................................................... 2-15 受益面積 ................................................................................................................................... 2-15 牧草種子の配布 ....................................................................................................................... 2-16 栄養苗の配布 ........................................................................................................................... 2-16 DLD のセンター/ステーション(ANRDC) ....................................................................... 2-21 研修参加者情報の要約 ........................................................................................................... 2-23 全国 29 箇所の ANRDC における既存農業機械及び飼料備蓄庫 ..................................... 2-29 RID による洪水緊急復旧・防災事業の施設タイプ ............................................................. 3-3 RID による洪水緊急復旧・防災事業の進捗状況(2012 年 9 月 24 日現在)................... 3-4 MTEF 中期事業計画(2012-2017)におけるカテゴリー別事業数 .................................... 3-7 日本の支援による農業案件 ..................................................................................................... 3-7 2011 年洪水により発生した被害施設数 .............................................................................. 3-12 洪水被害を受けた機材一覧表 (NAKHON SAWAN FRESHWATER FISHERY DEVELOPMENT CENTER)..................................................................................................... 3-15 パイロット事業候補地区 ....................................................................................................... 3-20 パイロットプロジェクト優先事業選定結果 ....................................................................... 3-25 プライチュンポン維持管理事業中期計画(MTEF)......................................................... 3-47 モデル地区の営農分類 ............................................................................................................. 4-1 モデル地区の概要 ..................................................................................................................... 4-4 地区別分野別パイロット事業・活動の実施数 ..................................................................... 4-6 コンポーネント 3 の関係政府機関とその役割 ..................................................................... 4-8 コンポーネント 3 の実施に参加した大学・研究機関 ......................................................... 4-9 コミュニティ主体型災害リスク管理手法の特徴 ............................................................... 4-20 コミュニティ主体型災害リスク管理手法の原則 ............................................................... 4-21 長期湛水による被害軽減のための対策と準備 ................................................................... 4-22 コミュニティの地域特性と対策上の留意点 ....................................................................... 4-23 表 4.3.5 表 4.3.6 表 4.3.7 表 4.3.8 表 4.3.9 表 4.3.10 表 4.3.11 表 4.3.12 表 4.3.13 コミュニティの地域特性と対策上の留意点 ....................................................................... 4-32 推奨作付計画の典型例 ........................................................................................................... 4-43 三種類の作付け方法の比較表 ............................................................................................... 4-45 パンゴラグラスとパクチョン-1の特徴 .............................................................................. 4-51 飼料備蓄庫の床面積の算定 ................................................................................................... 4-53 コミュニティの状況、洪水の課題と収入創出アプローチの留意点 ............................. 4-55 農産加工・収入創出活動・OTOP の支援に関する関係機関 .......................................... 4-58 モデル事業におけるコミュニティでの活動主体 ............................................................. 4-63 連携可能な機関と利点 ......................................................................................................... 4-65 ファイナル・レポート 第1章 序論 1.1. 調査の背景および目的等 (1) 調査の背景 2011 年 7 月末からタイで発生した歴史的な大洪水によ って、チャオプラヤ川流域ではこれまでに無いような広範 囲における長期に亘る浸水と、アユタヤ県からバンコク都 内・近郊の住宅地や工業団地が浸水したことにより甚大な 被害を受けた。洪水によるダメージと機会喪失による経済 的損失は GDP の 10%以上である 1 兆 3 千~4 千億 THB と 見積もられ、農業被害も 720 億 THB に達すると報じられ た。日系企業が多く入る 8 つの工業団地が浸水し多くの工 場が操業停止に追い込まれたことから日本でも大きく報 じられ、日本政府としても JICA を通じて緊急援助物資の 供与、専門家派遣、排水ポンプ車の派遣など様々な対策が 取られた。 タ イ 政 府 も 復 興 に 向 け 復 興 開 発 戦 略 委 員 会 ( The Strategic Committee for Reconstruction and 2011.11.02, 出典: GISDA Future Development: SCRF)と、水資源管理戦略委員会(The Strategic Committee for Water Resources Management : SCWRM)の 2 つの長期対策のための委員会を設立した。 すでに前者は向こう 10 年間に 2 兆 2,700 億 THB をインフ ラ建設に投資するとした計画を承認している。後者は 2012 年の雨季に対する短期的措置に 226 億 THB、遊水地・ 大放水路(フラッドウェイ)を含む中長期の対策に 3,500 億 THB を投じる方針を示している。 しかしながら、144 万 ha の水田、養殖池 3.6 万 ha、家 畜 1,228 万頭の被害を出している農業セクターに対しては 浸水した農地に対する補償や籾・飼料の一部配布を行って いるに過ぎず、目立った対策がとられておらず、多くの農 2011.11.28, 出典: GISDA 民が収穫ロスにより収入の機会を奪われている。JICA は これまでにも水資源管理戦略委員会(SCWRM)に対するアドバイザーとして専門家を派遣し、 また緊急開発調査「チャオプラヤ川流域洪水対策プロジェクト」を本調査に先行して開始してい る。また、洪水発生以前より科学技術協力「気候変動に対する水分野の適応策立案・実施支援シ ステム構築プロジェクト」 (IMPAC-T)を実施中であり、それぞれの有機的な連携と明確な役割分 担が求められている。本件調査では次図に示す枠組みの中で、関係機関との連携により業務を効 率的に実施した。 1-1 序論 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 本件調査業務の枠組み概念図(組織及び分担) 国家経済社会開 発委員会:NESDB 王室灌漑局:RID 水資源管理戦略 委員会(SCWRM) JICA 国内 水資源局:DWR IMPAC-T JICA 専門家 地環部 農開部 チャオプラヤ川流域洪水対策プロジェクト MOAC-JICA Joint Coordinating Committee JICA タイ 事務所 JICA 調査団 農業・協同組合 省: MOAC 各部 コンポーネント 1:洪水 MP のアップデートと地形測量 農業セクター洪水対策調査(当該調査) 農業経 コンポーネント 3:災害に 済局:OAE 強い農業・農村づくり支援 コンポーネント 2:緊急改 修:水門建設と 9 号線嵩上 コンポーネント 2: 灌漑排水施設普及・改修 王室灌 漑局:RID コンポーネント 3:洪水情報 改善と洪水予測システム開 コンポーネント1: 牧草地の生産力回復支援 畜産開 発局:DLD 図 1.1.1 本件調査業務の枠組み(組織および分担) (2) 調査業務の目的 本調査の目的は、1) 牧草地の生産力回復支援、 2) 灌漑施設改修支援、3) 災害に強い農業・農村 づくりに JICA が協力することで、農業セクター においてもタイ政府の短期的・長期的取組を支 援することである。 (3) 調査対象地域 本件調査の範囲は今般の大洪水で被災したチ ャオプラヤ川流域及びその上流域にあたるヨム 川流域、ナン川流域の一部と下流域のパサック 川流域、タチン川流域を含む地域とする。2011 年 7 月以降の洪水に関しては北部、東北部も含 む全国 77 県中 63 県が被害を受けたが、中部チ ャオプラヤデルタを中心とする地区を対象とす ナコン サワン る。 1.2. 関係実施機関および調査実施体制 (1) 関係実施機関 タイ政府の実施機関は農業・協同組合省 バンコク (MOAC)で JCC の議長を次官補が務め、コン ポーネント 1 の管理を畜産開発局(DLD)、コン ポーネント 2 を王室灌漑局(RID)、コンポーネン チャオプラヤ川流域の支流域と調査対象 地域(赤線囲み部分)出典:UNESCO ト 3 を農業経済局(OAE)が行うが、その他の農地改革局(ALRO)、土地開発局(LDD)、農業 普及局(DOAE)、米局(RD)等も JCC に加わる。これに関連して、両国政府で合意している事 業実施組織図によれば、水資源管理戦略委員会の下、本件調査の各コンポーネントに対して、先 国際協力機構(JICA) 1-2 ファイナル・レポート に述べた管理担当機関がコンポーネント実施機関にも指定されており、これらの機関と密な情報 共有および協働に努めることとした。 (2) プロジェクト実施体制 調査を実施するに当たって、JICA は(株)三・コンサルタンツと日本工営(株)からなる調査 団を結成し、タイ側カウンターパートとの協働により本プロジェクトを実施する。総括/事業計 画および副総括/農村インフラの両名のグループ統括により 3 つのコンポーネントを実施する体 制とする。以下にプロジェクト実施体制図を示す。 タイ政府による農業分野における短期的及び長期的な洪水被害軽減策策定が促進される グループ管理制度 総括/事業計画 副総括/農村インフラ 牧草地の生産力回復が 促進される 灌漑施設の復旧、改修 が促進される コンポーネント I チーム コンポーネント II チーム コンポーネント III チーム 副総括/灌漑計画 1 副総括/農村インフラ 灌漑計画 2 概略設計 1 概略設計 2 概略設計 3 詳細計画 積算 施設設計 洪水被害調査 1 洪水被害調査 2 用水計画 コミュニティ防災 営農計画 稲作 施設園芸/農業機械 農産物流通 畜産 施設設計、施工監理 パイロットプロジェ クト管理(A)、(B) 畜 産 研修計画/モニタリング (1) 研修計画/モニタリング (2) 図 1.2.1 調査実施体制図 災害に強い農業・農村づく りガイドラインが作成される 組織・制度/省庁間連携 GIS (3) 作業計画 調査は 2 フェーズからなる。第 1 フェーズは 2012 年 3 月下旬より 7 月末までの現地調査とし、 結果をインテリム・レポートとして取りまとめた。第 2 フェーズは 2012 年 9 月より開始し、2013 年 7 月にファイナル・レポートを先方政府に提出し終了した。作業計画は次表に示す。 1-3 序論 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 表 1.2.1 年 調査時期 月 雨期および乾期 報告書提出時/ JCC 開催時 調査実施計画 2012年 2013年 第2次現地調査 第1次現地調査 3 4 5 6 乾期 ICR 7 8 9 雨期 10 11 12 1 2 3 4 5 6 乾期 ITR 7 8 雨期 D/FR FR コンポーネント I: 牧草地の生産力回復支援 I-1 肥料および牧草種子・栄養苗の配布状況モニタ リング I-2 持続的牧草生産および災害リスク管理にかか わる農民研修 I-3 畜産分野における災害復旧のための提言 コンポーネント II:灌漑施設の修復・ 改善支援 2.1 RIDによる洪水被害緊急復旧・防災事業の把握 2.2 灌漑施設の洪水被害確認調査 (1) RIDによる復旧・改修工事の把握 (2) 過去の日本支援事業における洪水被害状況、 復旧工事の把握 2.3 パイロットプロジェクトの選定・レビュー/実施の 中止 2.4 灌漑施設の修復・改善のための提言 コンポーネント III :災害に強い農業・農村づくりガイドラインの策定 3.1 モデル地区選定と同地区の現状把握 3.2 モデル地区の洪水被害調査およびPRAの実施 3.3 優良事例の収集 3.4 住民参加型による計画立案 3.5 パイロット活動 (1) パイロット活動の選定 (2) パイロット活動の選定実施 (3) モニタリング (4) パイロット活動からの成果・教訓 3.6 県タスクフォースの設立 3.7 テクニカルペーパーの作成 3.8 災害に強い農業・農村づくりガイドラインの策定 3.9 最終評価ワークショップの開催 国内支援委員会開催およびメンバーの現地調査 (4) 調査団の構成および各団員の業務内容 調査団は 27 名から構成される。各団員の業務内容と要員計画は其々、表 1.2.2 および表 1.2.3 に 示す。 (5) 本件調査の報告書の構成 本調査は 2011 年に発生した農業セクターの洪水被害の復興を支援するための緊急調査である。 支援内容は畜産、灌漑・排水および災害に強い農業・農村作りの 3 つのセクターからなる。これ らの支援は独立して実施されるため、業務内容、調査期間が異なる。従って、成果、結論および 提言等はセクター毎に取りまとめる方針とした。 国際協力機構(JICA) 1-4 ファイナル・レポート 表 1.2.2 氏 名 担 業務担当者毎の分担業務内容 当 業 務 内 容 全体管理(業務管理制) 後藤道雄 小田哲郎 総括/事業計画 副総括/農村インフラ ・ 調査全体の運営管理 ・ プロジェクトの実施及び運営にかかる C/P との協議 ・ ガイドラインのとりまとめ ・ 各種報告書のとりまとめと関係者への説明 コンポーネント 1:牧草地の生産力回復 入矢狷介 畜産 I-1 肥料と牧草苗の配布状況モニタリング 香西 研修監理/モニタリング I-2 牧草の持続的生産管理技術研修の実施 (1),(2) I-3 タイ洪水時牧草地回復の政策・計画への改善提言実施 献 足達慶尚 コンポーネント 2:灌漑施設の復旧、改修 細野俊一 副総括/灌漑計画 1 II-1 タイ灌漑施設復旧状況の確認 高橋宏徳 灌漑計画 2 II-2 JICA 支援灌漑・農業関連施設の被害状況確認と対応策検討 秩父公策 概略設計 1 II-3 パ イ ロ ッ ト プ ロ ジ ェ ク ト の 設 計 、 選 定 、 設 計 、 数 量 、 事 業 三崎隆志 概略設計 2 江口敦俊 概略設計 3 千田 詳細計画 勉 木原逸雄 費等の妥当性を検証(JICA 調整によりパイロット事業は中止) II-4 中長期的な灌漑施設改修計画・内容の確認と今後に向けた提言 積算 コンポーネント 3:災害に強い農業・農村作り 小田哲郎 副総括/農村インフラ III-1 モデル地区選定と地区の詳細把握 (業務管理制) III-2 2011 年洪水の被害分析 ナジャルーン 洪水被害調査 III-3 2011 年洪水拡大原因分析 ナコーン (農村調査)1 III-4 洪水被害軽減策の検討、計画(案)策定 平岩竜彦 洪水被害調査 III-5 政府・地方自治体の政策・計画及び洪水 MP との調整 (農村調査)2 III-6 モデル事業による洪水被害軽減策の施行 荒川英孝 用水計画 III-7 モデル地区の災害に強い農業・農村づくり計画策定 岩城岳央 コミュニティ防災 III-8 災害に強い農業・農村づくりガイドラインの作成 蛭田英明 営農計画 長尾文博 稲作 新井伸一 施設園芸/農業機械 清水敬祐 農産物流通 入矢狷介 畜産 ・ 畜産分野のパイロット活動計画策定 江口敦俊 パイロットプロジェクト構 ・ 灌漑施設改修、給水施設の設計、施工管理 造物設計・施工管理 入矢狷介 パイロットプロジェクト管 ・ 畜産関連のパイロット活動管理 足達慶尚 理 ・ 畜産以外のパイロット活動管理 ・ 上記活動に必要な地理情報分析、図化 ・ プレゼンテーション資料作成 組織・制度/ ・ 上記活動に必要な省庁間連携、調整 省庁間連携 ・ 省庁レベル、農村レベルでの組織・制度分析 業務調整 ・ 業務調整 A、B 共通 平野幸子 富岡 穣 千葉あかね GIS 1-5 序論 表 1.2.3 国際協力機構(JICA) 国 内 作 業 現 地 作 業 ○ 入矢 狷介 【コンポーネント1】 畜産 三崎 隆志 江口 敦俊 千田 勉 概略設計2 概略設計3 詳細計画 1-6 新井 伸一 清水 敬祐 施設園芸/農業機械 農産物流通 足達 慶尚 千葉 あかね パイロットプロジェクト管理 B 業務調整 調査段階及び合計 凡例: : 現地調査 : 国内作業 平野 幸子 報告書及び提出時期 SCI 細野 俊一 【コンポーネント2】 副総括/灌漑計画1 小 計 SCI 小田 哲郎 【コンポーネント3】 副総括/農村インフラ SCI 後藤 道雄 SCI SCI 総括/事業計画 小 計 SCI 入矢 狷介 パイロットプロジェクト管理 A SCI SCI 江口 敦俊 パイロットプロジェクト構造物 設計・施工管理 SCI 入矢 狷介 SCI NK SCI 畜産 富岡 穣 長尾 文博 稲作 組織・制度/省庁間連携 SCI 蛭田 英明 営農計画 NK SCI* 岩城 岳央 SCI 荒川 英孝 用水計画 コミュニティ防災 NK 平岩 竜彦 洪水被害調査(農村調査)2 SCI* ナジャルーン ナコーン SCI SCI SCI SCI NK SCI SCI SCI SCI SCI SCI SCI SCI 洪水被害調査(農村調査)1/ コミュニティ防災(2) 平野 幸子 秩父 公策 概略設計1 GIS 高橋 宏徳 灌漑計画 2 木原 逸雄 細野 俊一 【コンポーネント2】 副総括/灌漑計画1 積算 足達 慶尚 研修監理/モニタリング (2) 香西 献 小田 哲郎 【コンポーネント3】 副総括/農村インフラ 研修監理/モニタリング 後藤 道雄 総括/事業計画 6日 6日 6日 23 23 23 23 23 23 23 <57日> 6 16 16 9 22 1 13 <30日> 18 <30日> 30 11 10 20 21 21 <60日> 11 6 <17日> <45日> <60日> 25 <45日> 2 7 30 18 <60日> 3 8 30 <6日> <60日> <60日> 15 <45日> <75日> 15 <76日> <39日> <57日> : 自社負担 △ ICR <15日> <18日 16 <20日> 11 23 30 29 30 6 1 1 31 <38日> <21日> 3 △ ITR <30日> 12 <13日> 8 <6日> 12 23 21 <45日> <45日> 23 23 11 30 18 27 23 24 14 15日 19 17 17 31 <60日> 15 <60日> 11 1 15日 14 21 19 12 9 22 12 15 <45日> 29 28 25 25 <38日> <45日> <21日> 5 1 <45日> <45日> <65日> 11 <54日> <30日> <3日> 2 <45日> <120日> 6 <32日> 26 19 5 5 <18日> 10 要員計画 <21日> 14 15 4 <15日> 10 27 <75日 <105日> <45日> <30日> <45日 23 2 8 <45日> <30日> 13 10 <30日> 23 13 8 <64日> <57日> <30日> <63日> 2 14 10 10 4 10 10 10 10 様式-3 要員計画: タイ国農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) (ファスト・トラック適用案件) 2012年 担 当 氏 名 所属先 3 4 5 6 7 8 9 15 15 15 15 12 <27日> 1 <28日> 2 25 11 21 <87日> 10 <75日> 10 21 4 1 18 <60日 27 (5) 5 5 11 5 21 20 2 26 29 19 26 23 11 5 18日 <45日> <16日> (1) 16 <33日> <30日> 4 <69日> 2013年 <40日> 3 <35日> 7 <64日> <84日> <21日> 1 <27日> 18 14 1 6 7 △ FR △ 8日 20 <14日> 19 DFR 9日 3 <12日> 7 2.67 2.67 0.70 0.70 0.20 1.07 人・月 国内 104.33 2.67 0.70 0.70 0.20 1.10 101.66 5.50 3.10 1.17 1.50 1.50 6.50 3.50 6.50 3.50 5.30 6.00 6.13 3.00 6.50 4.40 1.00 1.50 3.50 1.50 1.50 3.20 5.00 2.00 1.60 4.43 9.10 8.73 合計 (下段)は評価対象者 101.66 101.66 5.50 3.10 1.17 1.50 1.50 6.50 3.50 6.50 3.50 5.30 6.00 6.13 3.00 6.50 4.40 1.00 1.50 3.50 1.50 1.50 3.20 5.00 2.00 1.60 4.43 9.10 8.73 現地 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) ファイナル・レポート 1.3. 1.3.1. タイにおける洪水対策への挑戦 タイにおける自然災害の特徴 (1) 概要 タイ国はこれまで地震、嵐、出水による地滑りや崩壊、火山の爆発等の激しい自然災害がほと んど無いため、アジアでも一番安全な国と考えられていた。アジアでは、特に、中国、インド、 フィリピン、バングラディシュ等の国ではこれらの自然災害により多くの人命が失われ、施設等 の甚大な被害を受けている。しかし、近年の地球温暖化や気候変動により、タイでも他の国と同 様に自然災害が発生してきている。2004 年 12 月に発生したインド洋津波では 8,345 名の人命が失 われ、多くの施設が流された。また、今回発生した 2011 年洪水は 50 年に一度とも言われ、多大 な被害が発生した。 (2) アジアにおけるタイ国の洪水災害の位置づけ(2007-2010) タイにおける 2011 年洪水災害を議論する前に、アジア諸国での洪水災害に対するタイ国の位置 づけを神戸にあるアジア防災センター(Asian Disaster Reduction Center, ADRC)の統計データーを 基に明らかにする。同データは 2007 年~2010 年の 4 箇年のみと短期間であるが、タイの位置づ けは十分に把握できる。ADRC の自然災害データブック(2007-2010)を基にアジア 23 諸国にお けるタイの洪水による被害の状況を年度別に検討した。 表 1.3.1 年 2007 2008 2009 2010 アジア諸国におけるタイの洪水被害状況 (2007 – 2010) 死者(人) 53 6,749 (0.8 %) 39 2,763 (1.4 %) 15 2,461 (0.6 %) 258 6,344 (4 .1%) 洪水被災者(人) 183,000 156,128,983 (0.1 %) 1,572,157 27,956,209 (5.6 %) 200,000 52,532,514 (0.4 %) 8,970,653 179,236,982 (5.0 %) 被災総額 1,500 7,595,175 (0.02 %) 27,844 3,722,183 (0.7 %) 0 5,367,310 (0 %) 332,000 31,335,000 (1.1 %) 備考 タイ (23 諸国) (タイの割合) タイ (21 諸国) (タイの割合) タイ (19 諸国) (タイの割合) タイ (21 諸国) (タイの割合) 注: 被害総額 '千 USD 2007 年 23 ヶ国中、洪水被害額が大きかったのは中国(64%)、インドネシア(12%)、ベトナム(7%) の順でタイは 0.02%と非常に小さい。 2008 年 21 ヶ国中、洪水被害が大きかったのは中国(64%)、ベトナム(13%)、イエメン(11%)の順 である。タイの洪水被害額は 27.8 百万 USD(0.7%)と報告されている。特に中国では地震(85,492 百万 USD)、異常高温(21,100 百万 USD)、および暴風雨(2,015 百万 USD)の被害があった。 1-7 序論 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 2009 年 19 ヶ国中、洪水被害が大きかったのはインド(45%)、中国(26%)、フィリピン(17%)の順 である。タイの洪水被害は無かったと報告されている。特に中国は、洪水被害に加えて干ばつ (5,917 百万 USD)、および暴風雨(3,601 百万 USD)の被害が発生した。 2010 年 21 ヶ国中、洪水被害額が大きかったのは中国(58%)、パキスタン(30%)、インドネシア(2.5%) の順でタイは 2.1%と小さい。但し、1961~2000 年、および 2002~2010 年の平均値から見ると洪 水の被害はわずかではあるが増加している(付属書 I 、A-2-1 参照)。洪水以外の災害はアジア 地域ではこの年は殆どなかった。 以上の事から、タイの洪水被害は他のアジア諸国と比較して非常に小さいことが判る。しかし、 近年の国民の生活様式の変化や地球温暖化の影響により、洪水被害に対してタイは脆弱になって きている。 (3) 2011 年洪水災害 これまで洪水による深刻な被害が無かったタイ国では 2011 年にこれまでに無かった大洪水に 遭遇した。アジア防災センターの“Thailand Country Profile 2011”によると「2011 年のモンスーン の期間にタイで大規模な洪水が発生した。2011 年 7 月下旬に熱帯性低気圧、Nock-Ten の発生によ りメコン川やチャオプラヤ川沿いの北部、東北部、および中央部で洪水が急速に拡大した。10 月 にはチャオプラヤ川河口まで洪水が到着し、バンコク都の一部は湛水した。また、一部の地域で は翌年の 2012 年 1 月まで湛水し、この洪水により 2012 年の 1 月 17 日時点では死者 815 名、行方 不明者 3 名、全国で 13.6 百万人が洪水被害を受けた。77 県の内、84%に当たる 65 県が洪水災害 地域と宣言された。約 2 万 km2 の農地が洪水被害を受けた。洪水量や被災者総数から判断して、 過去最大級の洪水とみなされた。」と報告されている。 世界銀行の試算によれば 1,425,000 百万 THB(457 億 USD)の経済的損失と推定された。これ は洪水期間中に湛水深 3m 前後の被害にあった製造業や工業団地に負うところが多い。次表は 2002 ~2010 年間の洪水被害の平均値と 2011 年のそれを比較した表である。両者の大きな違いは洪水 被害額である。なお、洪水被害額を削減するためには製造業や工業団地の湛水を如何に防ぐかが 重要なポイントである。また、洪水常襲地域では 2011 年洪水と同規模の被害を 2006 年や 2012 年 にも受けており、特にこれらの地域では洪水との共生を行い、洪水に柔軟に対応した水管理、営 農、生計向上を図ることが肝要である。 表 1.3.2 2002 年~2010 年間の平均と 2011 年の全国レベルでの洪水被害の比較 項目/期間 2002-2010 年の 平均値 災害の数 死者 傷害者 洪水被害影響者 被害額 9.22 件/年 141.8 人/年 355 人/年 6,923,395 人/年 USD 229 mil 国際協力機構(JICA) 1-8 2011 年 比率 - 815 人 不明 13,600,000 人 USD 4,570 mil 495% 196% 1,800% ファイナル・レポート 1.3.2. 2011 年洪水災害による農業セクターの被害 (1) 2011 年洪水による農業セクターの洪水被害概要 農業セクターの 2011 年洪水による被害概要は以下のとおりである。 2011 年洪水で、タイ全土の 77 県中、65 県が洪水被害を受けた。 最も深刻な被害を受けたのはチャオプラヤ低平地にある広大な灌漑地域とタイ経済に大 きな影響を及ぼしていたアユタヤの工業団地である。 タイ全土で 109 万の農民が洪水被害の影響を受け 1,060 万 rai (170 万 ha)の農地が被害 を受けた。 農作物被害; 178.47 億 THB ( コメ 106 億 THB + 主要畑作物 73 億 THB) 畜産被害; 次表に示すとおりで、家畜の死亡は 29,408,032 頭、牧草地被害は 14,400 rai (2,300 ha) で、22 万人の畜産農家が洪水被害を受けた。被害総額は 64.8 億 THB と算定 された。 表 1.3.3 家畜の被害概要 家畜名 被害頭数 牛 319,361 豚 296,880 羊 1,826 鶏 6,821675 ウズラ 2,945,148 合計 (頭数) 合計被害額 (THB) 一頭当た りの被害額 15,800 1,200 1,400 22.5 12 家畜名 水牛 山羊 アヒル 鶏卵・鶏肉 ガチョウ 被害頭数 35,629 29,272 4,678,616 14,248,675 30,950 一頭当た りの被害額 15,800 1,400 15 15 50 29,408,032 6,482,921,528 出典:DLD 水産業では 699 の郡が被害を受け、約 14 万人の漁民に影響があった。 また、156,764 箇 所の溜池や 18,912 箇所の生簀が被害にあった。被害総額は 40.3 億 THB と算定され た。 OAE の発表では農業セクターの経済的損失は 72 億 THB で、この額はタイ全土での経済的損 失、1 兆 4,250 億 THB の 5%に当たるとされている。 (2) 2008 年と 2011 年での洪水湛水域の比較 2008 年は過去 2006 年~2010 年までの 5 箇年間においては平均的な洪水年とされている。 2008 年と 2011 年の洪水湛水域を比較すると 2011 年の洪水湛水面積は 27 百万 Rai (43,200 km2)、 2008 年の湛水面積は 9 百万 rai(14,400km2)と算定され、2011 年の洪水湛水面積は 2008 年の 300% を示していることが判る(出典:GISTDA)。 1-9 序論 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 516000 716000 916000 1116000 316000 516000 716000 916000 1116000 50 25 0 50 2177000 1977000 1777000 1577000 1377000 1177000 977000 777000 100 150 200 Data Source: GISTDA 316000 516000 577000 577000 577000 777000 777000 977000 977000 1177000 1177000 1377000 1377000 1577000 1577000 1777000 1777000 1977000 1977000 2177000 2177000 2377000 2377000 316000 2377000 タイ国 50 25 0 716000 916000 図 1.3.1 50 100 150 200 Data Source: GISTDA km 1116000 316000 516000 km 716000 916000 1116000 2008 年と 2011 年の洪水湛水面積の比較 (3) 地方レベル(モデル地区とその所在県) 地方レベル(モデル地区とその所在県)の農業セクターの洪水被害状況は付属書 I 、D-4 Flood Damage in Agricultural Sector in the Model Area Provinces および D-5 2001 Flood Damage in Model Areas にて記載する。 1.3.3. 洪水災害に関する組織および制度 タイの行政は強力な中央集権制度のもとで実施されてきており一般に各組織は充分な機能を果 たしているが縦割り行政であり、省庁間の連携は十分に行われていない。2002 年に大規模な行政 改革が実施され、14 の省と首相官邸は、19 の省と首相官邸に改編された。現在のタイ行政組織は 国際協力機構(JICA) 1-10 ファイナル・レポート 次図に示す (*2002 年の改編により新しく設立された省を示す)。 これらの省の内、本件調査に密接に関わるのが農業・協同組合省(MOAC)で農業セクターの 全てに責任を有する。MOAC 傘下の RID をはじめとする多くの部局は精力的に洪水被災復興事業 および今後の対策に取り組んでいる。 内務省は中央レベルおよび地方レベルでの災害防止とその対策に責任を持つ。特に、災害防止・ 対策局が中心となって県、郡、タンボンレベルでの防災計画の策定と訓練を実施している。首相 官邸は中央での様々な省庁間の調整・連携を行う組織である。また、政策の決定やこれらの企画 立案の最高機関と位置付けられている。首相官邸内の主な機関としては国家経済社会開発委員会 (NESDB)や財務局、国家安全保障会議等がある。また、近年には同官邸内に国家の水資源政策 や洪水対策を司る国家水・洪水管理委員会(NWFMC)が設けられ、その傘下に治水・洪水管理 委員会(WFMC)が設立された。更に、NWFMC や WFMC の作業部門として国家水・洪水政策委 員会事務局(ONWFPC)が設けられ、WFMC によって策定された行動計画の下で関係機関の監督 や作業のモニタリングを行っている。 なお、洪水被害の予防、対策に関連する各省庁の関連機関の役割等の詳細は付属書 I 、A-3-1、 A-3-2 および A-3-3 に示す。 タイ王国政府組織一覧図 首相官邸 商務省 国防省 内務省 財務省 法務省 外務省 労働省 観光・スポーツ省* 文化省* 社会開発・人間の安全保障省* 科学技術省 農業・協同組合省 教育省 運輸通信省 厚生省 エネルギー省* 情報・通信技術省* 工業省 天然資源・環境省* 図 1.3.2 1.3.4. タイの政府組織 JICA および他ドナーの支援 タイ国政府の支援要請や前代未聞の洪水被害に対して JICA をはじめ他ドナーによる施設やイ ンフラストラクチャーの復旧工事および将来の洪水に対する対策策定の支援が行われている。主 な支援事業は以下に示す。また、詳細は付属書 I 、A-5-1 に示す。 主な支援活動 チャオプラヤ川流域洪水対策プロジェクト(JICA) タイ国防災能力向上プロジェクト(Phase2、JICA) 洪水管理能力支援プロジェクト(ADB) 洪水被害を受けた畜産農家支援(FAO) 1-11 序論 ファイナル・レポート 第2章 牧草地の生産回復支援:コンポーネント 1 2.1. 2.1.1. 業務内容及び成果 牧草種子/栄養苗及び肥料配布のモニタリング 2011 年に発生した大規模な洪水では畜産農家も甚大な被害を被った。家畜を失うとともに牧草地 も 2 ヵ月から 3 ヵ月間の湛水により牧草が被害を受けた。DLD は備蓄していた乾草・サイレージ 2,750 トン、生草 1,500 トンを 52 県、20,250 畜産農家に緊急供与したが、これでも量的に不足し ていた。しかし、DLD には緊急支援のための肥料・種子などを調達する十分な予算がなく、JICA に、肥料の供与および洪水地域おける牧草生産・管理に関する技術援助を要請した。 DLD は、JICA の支援を受けて、2011 年の洪水被害を受けた牧草地の草生回復促進のために、 複合肥料 1,000 トンと尿素 200 トンを被害農家 3,826 戸(オリジナル計画)へ配布した。さらに、 DLD は種子センターから調達した牧草種子 20 トンと栄養苗 120 トンも並行して配布した。 DLD の監理のもと、供与された肥料はチャイナート県にある家畜栄養研究・開発センター (ANRDC)を経由して、全国 29 ヶ所の ANRDC へ配送された。受益農家は肥料とともに牧草種 子/栄養苗をを各 ANRDC から受け取った。 供与された肥料がどのように配布され、どのように農家が投入したか、緊急援助の効果を確認 するために調査団はモニタリングを行った。 2.1.2. 持続的な牧草生産(及び災害リスク管理)に関わる研修 タイ国では、肉牛、乳牛、山羊/羊、豚及び家禽が野草地や改良草地で放牧され、稲ワラなど作 物残渣に依存する小規模農家によって主に飼養されている。しかし、彼らの多くは牧草地管理、 家畜管理に関する知識を十分に持ち合わせておらず、飼料確保及び牧草地の輪換利用などの必要 性への理解が不足している。このことが 2011 年の洪水において家畜及び牧草地に甚大な被害を招 いた一因となった。畜産農家が家畜から収入を得、家畜を良好かつ健康な状態に保つためには十 分に良質の飼料を確保しなければならない。 調査団は、研修に向けて農家の知識を高めるため、牧草地造成・管理、家畜保健、家畜管理な どを包含する適切な研修モジュールを策定した。なお、この研修には実技が含まれている。 2.1.3. 災害復旧に向けての政策提言 2011 年の洪水は畜産セクターにも大きな損失をもたらした。このような大規模な災害は将来再 び生起するかも知れず、タイ政府及び人々は起こり得る災害に対処する方策を平常時から準備し ておく必要がある。調査団は洪水に対処するための畜産分野の対策案を提案するとともに、選定 したモデル地区においてコンポーネント 3 との連携のなかで災害に対して回復力が高い農村社会 を構築するための一環として畜産関連パイロット事業を実施した。 2-1 畜産開発局(DLD) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) コンポーネント 1 の活動 2.1.4. 期待される成果は“牧草生産の回復”である。この成果を達成するために下記の活動を実施す る: i) 牧草種子/栄養苗及び肥料の配布をモニタリング ii) 持続的な牧草生産、災害リスク管理に関わる研修 iii) 起こり得る災害からの復旧及び対策に関わる政策の提言 2.2. タイ国畜産セクターの概要 (1) 国家経済及び輸出への貢献 1980 年代以降、農業セクターの国家経済への貢献度は低下してきている。1990 年代早期に農業 部門は GDP の 12.5%を占めていたが、表 2.2.1 に示す通り、2008 年には 11.6%にまで低下した (Thailand Development Research Institute 2008)。FAO によると、表中に見られるとおり、畜産セク ターが農業セクターGDP に占める割合は 2000 年が 23.6%と最も高く、全 GDP におけるシェアは 2.5%である。 表 2.2.1 Year GDP (Million Baht) 畜産の GDP への貢献度 Share of Agricultural GDP in Total GDP(%) 1980 662, 482 23.2 1990 2,182,545 12.5 2000 4,922,731 10.5 2008 9,104,959 11.6 Source. FAO RAP-P2002.23 Share of Livestock GDP in Agr. GDP(%) Share of Livestock GDP in total GDP(%) 17.9 23.0 23.6 - 2.9 2.5 - (2) 畜産セクターの政策 2011-2012 年に向けての畜産政策が策定されている。政策の詳細を付属書 I 、B-1 に示した。こ の政策において DLD は 3 つの主要なポイントを掲げている。それらは、1) 家畜衛生と環境を保 全することにより安全な畜産物を供給すること、2)安全な有機畜産食品を供給するために家畜疾 病及び伝染病予防に対して畜産農家を関与させること、3)自然災害に対処するために家畜飼料を 備蓄するシステムを構築すること、である。家畜飼料の備蓄政策は、後述する提言の内容と合致 する。 (3) 畜産農家数 1) 乳牛頭数と酪農農家数 次表に示すように、2011 年におけるタイの乳牛頭数は 560,659 頭で、20,645 戸の酪農家が飼養 している。 国際協力機構(JICA) 2-2 ファイナル・レポート 表 2.2.2 Region 乳牛頭数と酪農家数(2011) Total of Dairy cattle (Head) Head Total 560,659 1 173,289 2 42,163 3 103,616 4 28,326 5 53,273 6 7,761 7 147,541 8 1,791 9 2,899 Source. DLD statistics2011 % 100.0 30.9 7.5 18.5 5.1 9.5 1.4 26.3 0.3 0.5 Farm Household No. 20,645 5,748 1,552 3,676 1,200 1,894 391 5,764 137 283 Average per Farm Household (head) % 100.0 27.5 7.5 17.8 5.8 9.2 1.9 27.9 0.7 1.4 27.2 30.2 27.2 28.2 23.6 28.1 19.9 25.6 13.1 10.2 2) 2011 年における乳牛飼養上位 10 県 乳牛が最も多い県は中部のサラブリ県で、104,372 頭が 3,336 戸の酪農家により飼養されている。 これにナコンラチャシマ県、ラチャブリ県が続く。 表 2.2.3 No. 乳牛頭数と酪農家数の上位 10 県(2011) Province 1 Saraburi 2 Nakhon Ratchasima 3 Ratchaburi 4 Lopburi 5 Srakaew 6 Kanchanaburi 7 Chiangmai 8 Prachuab Kirikhan 9 Nakhon Pathom 10 Khon Kaen Source. DLD statistics 2011 Dairy Cattle (Head) Head % 104,372 18.62 93,533 16.68 53,812 9.60 66,162 11.80 35,116 6.26 26,868 4.79 31,569 5.63 35,259 6.29 22,672 4.04 13,630 2.43 Average per Farm Farmer Household Household (head) No % 3,336 16.16 31.3 3,160 15.31 29.6 2,393 11.59 22.5 2,238 10.84 29.6 1,306 6.33 26.9 1,233 5.97 21.8 1,145 5.55 27.6 965 4.67 36.5 861 4.17 26.3 499 2.42 27.3 3) 肉牛頭数及び飼養農家数 次表に示すように、2011 年のタイにおける肉牛頭数は 6,583,106 頭で、1,035,072 戸の肉牛農家 が飼養している。 表 2.2.4 肉牛頭数及び飼養農家数( 2011) Total Beef Cattle (head) Farm household Head % No. % Total 6,583,106 100.00 1,035,072 100.00 1 419,690 6.38 24,956 2.41 2 191,663 2.91 18,805 1.82 3 2,087,283 31.71 412,589 39.86 4 1,220,500 18.54 247,972 23.96 5 649,110 9.86 70,444 6.81 6 561,133 8.52 39,940 3.86 7 719,022 10.92 51,887 5.01 8 285,186 4.33 62,355 6.02 9 449,519 6.83 106,124 10.25 Source. DLD statistics 2011 Region 2-3 Average/Household (head) 6.36 16.82 10.19 5.06 4.92 9.21 14.05 13.86 4.57 4.24 畜産開発局(DLD) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 4) 肉牛飼養上位 10 県 タイ国において最も多く肉牛が飼養されている県はナコンラチャシマ県で、肉牛総頭数の 5.9% に相当する 388,108 頭が飼養されている。次いで、シサケット県、ウボンラチャタニ県が続く。 表 2.2.5 肉牛頭数上位 10 県(2011) Beef cattle (head) Head % 1 Nakonratchasima 388,108 5.90 2 Srisaket 294,556 4.47 3 Ubonratchani 290,430 4.41 4 Surin 282,856 4.30 5 Roi Et 247,373 3.76 6 Buriram 237,964 3.61 7 Khon Kaen 225,113 3.42 8 Sakon Nakhon 204,394 3.10 9 Mahasarakham 199,285 3.03 2.44 10 Nakhon Si Thamma 160,569 Source. DLD statistics 2011 Province No. Farm household No. % 49,004 4.73 66,822 6.46 61,645 5.96 60,342 5.83 59,729 5.77 45,611 4.41 45,983 4.44 39,987 3.86 48,119 4.65 36,334 3.51 Average/Household (head) 7.92 4.41 4.71 4.69 4.14 5.22 4.90 5.11 4.14 4.42 5) 養鶏数と飼養農家数 次表に示すように、タイ全国における 2011 年の鶏飼養羽数は 316,536,364 羽で、2,714,283 戸の 農家が飼養している。 表 2.2.6 養鶏羽数と飼養農家数(2011) Total Chicken (Bird) Bird % Total 316,536,364 100.00 1 76,684,797 24.86 2 69,576,264 21.98 3 50,595,537 15.98 4 20,189,986 6.38 5 19,820,720 6.26 6 23,588,321 7.45 7 29,776,516 9.41 8 12,147,265 3.84 9 12,156,958 3.84 Source. DLD statistics 2011 Farm household Average/Household (bird) No. % 2,714,283 100.00 116.62 127,073 4.68 619.21 108,768 4.01 639.68 812,351 29.93 62.28 559,722 20.62 36.07 402,046 14.81 49.30 262,677 9.68 89.80 79,618 2.93 373.99 156,833 5.78 77.45 205,195 7.56 59.25 Region 6) 養鶏上位 5 県 2011 年におけるタイの養鶏上位 5 県は、ロッブリ県が 35,118,540 羽と最も多く全体の 11.09%を 占める。これにチョンブリ県、サラブリ県が続く。 表 2.2.7 No. Province 1 Lopburi 2 Chonburi 3 Saraburi 4 Nakhonratchasima 5 Prachinburi Source. DLD statistics 2011 国際協力機構(JICA) 養鶏上位 5 県(2011) Total Chicken (Bird) Bird % 35,118,540 11.09 26,876,934 8.49 22,836,557 7.21 20,980,309 6.63 16,355,207 5.17 2-4 Farm Household Average/ Household (bird) No. % 29,208 1.08 1,202.36 19,212 0.71 1,398.97 14,689 0.54 1,554.67 171,075 6.30 122.64 12,525 0.46 1,305.80 ファイナル・レポート 7) 養豚頭数と飼養農家数 タイ全国の 2011 年における養豚頭数は 9,681,774 頭で、227,406 戸の養豚農家により飼養されて いる。 表 2.2.8 養豚頭数と飼養農家数(2011) Total Swine (head) Head % Total 9,681,774 100.00 1 1,098,703 11.35 2 1,821,213 18.81 3 1,084,503 11.20 4 583,957 6.03 5 1,067,507 11.03 6 666,768 6.89 7 2,253,536 23.28 8 541,521 5.59 9 564,066 5.83 Source. DLD statistics 2011 8) 養豚上位 10 県 Region Farm household Average/Household (head) No. % 227406 100.00 42.57 7567 3.33 145.20 4968 2.18 366.59 51469 22.63 21.07 29353 12.91 19.89 65492 28.80 16.30 27464 12.08 24.28 9051 3.98 248.98 19503 8.58 27.77 12539 5.51 44.98 全国ではラチャブリ県が 15.42%を占めて最も多く、1,492,560 頭が飼養されている。チョンブリ 県、ナコンパトム県がこれに続く。 表 2.2.9 No. Province 1 Ratchaburi 2 Chonburi 3 Nakhonpathom 4 Chachoengchao 5 Saraburi 6 Prachinburi 7 Nakhonnayok 8 Chanthaburi 9 Rayong 10 Ayutthaya Source. DLD statistics 2011 養豚上位 10 県(2011 年) Swine (head) Head % 1,492,560 15.42 953,190 9.85 511,563 5.28 314,797 3.25 220,741 2.28 159,874 1.65 142,035 1.47 92,553 0.96 70,554 0.73 39,976 0.41 Farm household Average/Household (head) No. % 1523 0.67 980.01 653 0.29 1,459.71 1912 0.84 267.55 529 0.23 595.08 413 0.18 534.48 596 0.26 268.24 267 0.12 531.97 353 0.16 262.19 270 0.12 261.31 193 0.08 207.13 (4) タイの家畜生産 1) 牛肉生産 タイにおける肉牛飼育の多くは小規模畜産経営によるものである。牛は伝統的に農耕用に飼育 され、肉はその副産物であった。近年のタイにおける肉牛飼養は依然として小規模産業としての ものが多い傾向にある。限定された土地面積での肉牛飼養は経営者にとって飼料の確保が問題で あることを示唆し、特に乾期にその問題が発生する(FAO-RAP, 2002a)。タイには 1)繁殖牛を売る 繁殖農家(近年このタイプの農家数は市場がおもわしくないために減少してきている)、2)時には 役畜として利用しながら庭先で飼養し、高齢になると屠畜し、低品質の肉を生産する伝統的な畜 産農家、3)屠畜前に肥育する大規模肉牛農家の 3 つの肉牛飼養タイプがある。3)のタイプは伝統的 農家から老齢牛を購入、2~3 箇月間肥育した後、屠畜する場合と一般市場へ売る場合がある。 2-5 畜産開発局(DLD) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 2) 牛乳生産 タイにおける牛乳生産は 5~10 頭の乳牛を飼養する小規模酪農が支配的である。しかし近年、 酪農家は徐々に規模が大きくなってきている(20 頭以上の乳牛を飼養している酪農家は 10 年前 には 6%であったが現在、約 20%にまで増加している)。一般的に酪農は低受胎率、乳牛の 30%が 乳房炎に罹患するため、これらに伴う低生産に特徴づけることができる。飼料の低品質も問題で あり、これは牛乳の低生産及び低繁殖率につながっている(Quirke et al, 2003)。 3) 鶏肉生産 近年、タイにおける多くの鶏肉生産は大規模な商業ベースの養鶏産業が支配的である。そのた め 1990 年代まで中心的であった家族経営的養鶏はすでに 25% 以下になってきている。大規模な 商業的養鶏経営は小規模養鶏農家と契約している場合がよく見られる。しかし、これらの小規模 タイプは経済的に大規模養鶏によるスケールメリットと同等にはなれないため減少しつつある (FAO-RAP, 2002a)。 4) 豚肉生産 養豚経営はかつて支配的であった小規模養豚から大規模商業的養豚へ移行してきた。現在、豚 肉生産の 80%は飼料工場を持つ大規模経営によるものである。特に、1998 年の経済危機における 生産への壊滅的打撃は多くの小規模養豚農家に大きなインパクトを及ぼし、低単価、高生産費の ために多くの養豚農家が経営から撤退した。融資不足は小規模養豚経営者による事業再開を困難 にした。さらに、ヨーロッパからの赤肉タイプの品種導入は豚舎、飼料にコストを投入できる資 金力がある大規模経営者を生むことになった。近年の疾病対策としてワクチンが広く利用される ようになっており、これがまた生産費を高めてもいる。しかし、生産費の半分以上は飼料代であ る(Quirke et al, 2003)。 (5) 家畜・畜産物流通 1) 肉牛 下図は肉牛の流通経路を表している。家畜市場は各地で週単位に開催され、農家は最寄りの家 畜市場へ行き、農家とバイヤーの相対取引で価格が決定される。 Farmer Local Wholesale Market Middlemen Middlemen Slaughterhouse Market consumers 図 2.2.1 国際協力機構(JICA) 肉牛の流通経路 2-6 ファイナル・レポート 2) ブロイラー ブロイラーの流通経路を下記に示す。図に見られるように、ブロイラーの流通は牛の場合より もさらに商業的であり、システマティックといえる。 図 2.2.2 ブロイラーの流通経路 (6) 家畜飼料と給与体系 1) 飼料給与形態 タイで見られる主な家畜の飼養形態は 2 つ、即ち放牧方式と舎飼方式である。 ① 補給飼料給与を伴う放牧方式:この方式のもとでは家畜(牛、山羊/羊など)は野草地 か共有あるいは私有の改良牧野に放牧される。家畜は飼料作物や農耕飼料を補助的に 給与される場合がある。 ② 舎飼方式:家畜は畜舎のなかで飼育される。飼料は青刈給与の場合が多い。このこと は補助飼料のみでなく、粗飼料(乾草、サイレージなど)も外部から畜舎へ運搬し、 給与されることを意味する。 2) 季節別の給与システム 次図は季節別の家畜の飼料給与方式を示している。稲ワラはパンゴラグラスのような牧草とと もに年間を通じて利用されている。また、放牧地や稲の収穫後地においては放牧が行われる。し かし、畜産農家の多くは栄養要求量と給与している飼料の質の関係について十分認識していない。 2-7 畜産開発局(DLD) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) Seasonal Feeding System for Livestock Jan Seasonality Feb Mar Dry Season Apr May Jun Jul Aug Wet Season Sep 1st Paddy (Local Variety) Paddy cultivation 2nd Paddy (RD) 2nd Paddy (RD) Feeding rice straw & wild grasses all year round Present Feeding rice straw & wild grasses) Feeding fresh grasses(Pangola grass etc) Feeding hay/silage/rice straw Chainat Ayutthaya Feeding hay/silage/rice straw (mm) 300 (mm) 300 60 250 50 40.0 200 40 30.0 150 30 150 20.0 100 20 100 50 10 50 60.0 Rainfall(mm) Temperature(℃)Max Temperature(℃)Min Temperature(℃)Mean 50.0 10.0 0.0 Rainfall(mm) Temperature(℃)Max Temperature(℃)Min Temperature(℃)Mean 250 200 0 0 0 Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec 図 2.2.3 2.3.1. Rice straw & wild grasses) Feeding fresh grasses(Pangola grass etc) Silage & Hay Production for Storing Plan 2.3. Nov Dec Dry Season Flooding Flood in 2011 (℃) Oct 家畜の季節別飼料給与方式 DLD の組織 DLD 本部とその職務所掌 (1) 組織構造 DLD の行政は大きく 2 つに分かれる。中央及び県レベルの畜産行政である。バンコクにある DLD 本部は 3 つの課と 15 の局、家畜保健研究所、情報・技術センター、内部監査ユニット及び 行政開発ユニットからなる(図 2.3.1 参照)。 MOAC DLD B.: Bureau D.: Division Central Administration Internaladiting unit Public Sector Development Office of Dept. Secretary PersonalD. Finance D. D. of Planning B. of Legal affairs B.of Animal Husbandry B. of Animal Nutrition Information tech. center National Institute Animal Health Disease Control and Vet. Service B. of Livestock Standard and Certification B. of Biotechnology in Livestock Production B. of Veterinary Biologics B. of Livestock Development and tech. transfer B. of Quality Control of Livestock Product B. of Animal Regional 1-9 Regional Administration Office of Livestock Province Office of Livestock District 図 2.3.1 国際協力機構(JICA) DLD の組織構造 2-8 ファイナル・レポート (2) 職務分掌 各部が担当する業務分掌・責務の要約を付属書 I 、B-2 に示した。 2.3.2. DLD の行政(県及び郡) 県レベルの畜産行政は PLO(県畜産事務所)が行う。887 の郡畜産事務所が全国に展開する 7,409 の町レベル農業技術移転センターとそれぞれ協力している。村レベルには、80,000 人のボランテ ィアが DLD のために畜産サービスを行っている。県畜産事務所の組織構造を図 2.3.2 に示す。 Office of Livestock Province Administration and Planning Animal Health Livestock Standardand Certificate Technical Transfer - policy and planning - administration - finance Office of Livestock District Provincial Livestock Offices (PLOs) There are 1,813 DLD persons working in 887 District Livestock Offices for ◎ 77 Changwat ◎ 928 Amphoe ◎ 7,409 Tambon ◎ 72,944 villages ◎ About 80,000voluntary livestock workers responsible for DLD jobs at the Village Level Thailand ◎ 77 Provinces ◎ 9 Livestock Administrative Regions ◎ 5 Poultry Zones 図 2.3.2 2.3.3. 県畜産事務所の組織構造 家畜栄養課(牧草種子センター) DLD 家畜栄養課の管轄下にある家畜栄養研究・開発センター(ANRDC)は下図のとおり 8 つ のセンターと 21 のステーションからなる政府組織で、優良牧草種子の供給、牧草地造成・利用、 飼料備蓄、家畜への給与などに関わるアドバイスやサービスを行っている。図 2.3.3 に家畜栄養課 の組織図を示す。 Ministry of Agriculture and Cooperative Department of Livestock Developmant Division of Animal Nutrition General Chainat ANRDC Nakonratchasima ANRDC KhonkaenANRDC Phetchaburi ANRDC Forage and Feed Management Suphanburi ANDS Roi-et ANDS Mahasarakham ANDS Forage and Feed Technology Phetchaboon ANDS Buriram ANDC Kalasin ANDS Suratthani ANRDC Forage Research Group Sukhothai ANDS Yasothon ANDC Udonthani ANDS Chumpon ANDS Animal Nutrition Phichit ANDS Loei ANDS Narathiwat ANRDC Forage and Feed Sakaeo ANRDC Lampang ANRDC Phrae ANDS Mukdahan ANDS Nongkai ANDS Nakonphanom ANDS Prachuap Khrikhan ANDS Satun ANDS Trang ANDS Phatthalung ANDC Sakonnakorn ANDS 図 2.3.3 家畜栄養課の組織構造 2-9 畜産開発局(DLD) タイ国 2.4. 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 2011 年洪水による家畜被害 2.4.1. 推定家畜被害額 DLD によると、牛・家禽を含む洪水による家畜損失の総被害頭羽数は 2,900 万頭・羽、牧草地 の被害面積は、14,370rai(2,299ha)、被害畜産農家は 220,221 戸に及んだ。損失額は損害補償に使 用された畜種別単価に基づくと 64.8 億 THB と推定される。 下表は洪水発生前の家畜総頭数に対する畜種別損失家畜頭数とその率を示している。牛と同様 に鶏・アヒルなどの家禽、山羊の洪水による損失率は高い。 表 2.4.1 畜種別家畜損失頭数及び損失率 No. of livestock lost Buffalo 1,234,179 35,629 Cattle 6,583,106 319,361 316,536,364 6,821,675 Chicken 14,248,675 Duck 32,179,227 4,678,616 Goat 427,567 29,272 Sheep 51,735 1,826 Swine 9,681,774 296,880 Source. Impact from Disaster Report, DLD Livestock 2.4.2. Number % to the Remark total 2.9 4.9 2.2 Native 4.5 Egg & Meal 14.5 6.8 3.5 3.1 県別の家畜被害 下表は県別の家畜被害上位 4 県を示している。 (1) 牛 牛では中央平原に位置するスパンブリ県の損失が 9.9%で最も多くの損失が生じた。これにチャ イヤブン県、アユタヤ県が続く。 表 2.4.2 (2) 豚 牛の被害上位 4 県 No. lost (heads) Rank Province 1 Suphanburi 31,611 (9.9%) Cow 2 Chaiyaphum 24,852 (7.8%) 3 Ayutthaya 21,952 (6.9%) 4 Roi-et 19,111 (6.0%) Source. Impact from the Disaster Report, DLD 豚については、スパンブリ県で最も大きな被害が生じ、損失豚頭数全体の 14.4%を占める。ア ユタヤ県、スコタイ県がこれに続く。いずれも中央平原に位置する県である。 表 2.4.3 豚損失の上位 4 県 No. lost (heads) Rank Province 1 Suphanburi 42,796 (14.4%) Swine 2 Ayutthaya 29,976 (10.1%) 3 Sukhothai 29,499 (9.9%) 4 Nakhonprathom 29,083 (9.8%) Source. Impact from the Disaster Report, DLD 国際協力機構(JICA) 2-10 ファイナル・レポート (3) 産卵鶏及び肉鶏 産卵鶏と肉鶏の損失についてはアユタヤ県が最も深刻で、全体の 34.1%を占める。ナコンパト ム県、スパンブリ県がこれに続く。 表 2.4.4 養鶏被害上位 4 県 No. lost (Bird) Rank Province 1 Ayutthaya 4,863,469 (34.1%) 2 Nakhonprathom 3,051,987 (21.4%) 3 Suphanburi 2,815,652 (19.8%) 4 Nakornsawan 1,306,081 (9.2%) Source. Impact from the Disaster Report, DLD Egg & Meat Chicken 2.4.3. 牧草地被害の規模 2011 年 11 月 30 日付の DLD 資料によると、14,370rai(2,299ha)の牧草地が被害を受けた。牧 草地では主にパンゴラグラスが栽培されていた。被害が大きかった県は中央平原に位置するスパ ンブリ県、チャイヤブン県のほか北部のターク県である。しかし、洪水に伴う湛水期間、湛水深 は県の地形条件によってかなり異なっており、このことは牧草地への被害も各県によって異なる ことを示唆している。 2-11 畜産開発局(DLD) 国際協力機構(JICA) 2-12 Lampoon Kampaengphet Tak Nakornsawan Pichit Pitsanulok Petchaboon Sukhothai Utharadit Uthaithani NaKkhon Phanom Rajburi Samutprakan Pang-nga Suratthani Satoon Total 55 54 53 52 51 50 49 48 47 46 45 44 43 42 41 Lampang 40 Bangkok Chainat Patumthani Nontaburi Ayudthaya Lopburi Singburi Saraburi Sphan Buri Angthong Chanthanaburi Chacherngsao Trad Nakorn Nayok Prachinburi Chaiyaphum Burirum Roi-et Yasothorn Srisakhet Surin Ubonratchatani Amnardcharoen Kalasin Khon Kaen Mukdahan Mahasarakham Nong Khai Nongbua Lamphu Bungkan Loei Udonthani Chiengrai Chiengmai Nan Payao Phrae Maehonson Province 39 38 37 36 35 34 33 32 31 30 29 28 27 26 25 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 No. 2 6 2 15 11 7 4 5 3 5 7 1 1 2 1 4 333 9 31 6 7 6 16 7 6 12 9 7 2 6 2 4 6 11 4 9 5 5 3 10 1 9 13 1 3 5 3 4 6 5 6 6 1 1 8 2 Amphoe 121 32 60 52 181 63 33 40 96 64 2 21 5 14 30 48 9 30 14 14 5 23 2 16 28 1 14 12 14 8 26 9 10 21 3 2 39 3 27 4 11 3 123 74 29 21 48 9 18 88 3 1 5 2 18 1,649 Tambon 1,103 162 529 328 1,269 477 169 240 903 397 156 43 32 116 379 24 185 47 46 40 125 2 48 156 1 55 44 79 36 157 38 31 66 9 3 219 7 83 21 60 17 1,270 565 111 82 426 24 81 600 17 1 22 10 55 11,166 Moo 4,935 4,865 6,029 5,750 18,590 12,369 3,206 2,377 15,493 7,518 13 1,534 1,157 104 1,893 12,764 708 7,171 1,627 1,476 2,233 6,126 84 1,144 4,686 229 528 1,499 1,015 545 6,880 461 791 2,556 414 63 3,055 50 3,578 234 1,633 1,088 18,509 11,166 1,811 3,708 19,881 348 2,160 6,486 271 1 106 675 6,628 220,221 Number of Farmers being damaged - Duration of disaster All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood All flood Type - 319,361 5,967 4,984 8,760 3,100 21,952 17,211 4,106 2,784 31,611 11,525 9,418 1,123 1,112 6,472 24,852 1,512 19,111 3,296 4,331 7,949 10,418 189 4,066 10,155 350 1,726 1,253 5,546 488 8,489 922 166 11,524 5,279 1 4 500 3,497 6,284 12,259 4,192 2,177 1,725 13,215 438 1,471 10,340 940 100 277 10,194 Cow 35,629 200 187 989 240 1,680 1,442 63 131 392 298 75 494 528 1,906 1,440 903 3,103 752 1,756 1,239 4,641 58 991 1,802 110 65 534 1,309 400 642 414 459 7 2 278 38 1,331 525 79 94 1,060 94 2,633 236 4 5 Buffalo 296,880 90 3,746 4,600 550 29,976 21,800 12,689 789 42,796 17,357 5 2 800 35 11,174 12,335 2,135 88 1,625 2,166 5 266 5,608 7,107 240 277 1,517 9 3,609 34 3,790 50 95 301 5,562 1,278 27,193 7,614 3,698 2,866 29,499 41 1,388 29,083 40 952 - Swine 表 2.4.5 29,272 3,933 2,349 1,987 2,700 3,380 859 421 297 4,349 978 759 189 2,206 16 157 82 761 323 76 255 100 1,075 55 1,965 Goat 1,826 264 30 35 71 248 184 30 110 52 325 100 373 4 Sheep 4,678,616 10,398 106,417 210,000 35,000 682,280 764,870 92,865 41,430 393,878 608,114 20 1,547 677 61,594 43,228 124 17,841 1,864 72,818 6,044 3,621 2,502 1,954 33 3,752 2,154 1,253 244 624 71 17,737 611,275 398,105 1,031 3,634 232,211 110 57,997 172,399 7,000 470 858 8,572 Duck 6,821,675 94,264 138,014 135,000 42,500 517,027 369,637 68,671 88,858 632,459 776,951 100 1,478 10,405 80 18,766 286,445 145,283 525 118,416 13,761 347,577 4,607 15,335 12,114 7,446 280,364 11,752 16,834 858,342 11,655 712 98,404 1,803 28,624 11,274 141,157 100,914 194,321 368,389 54,123 94,204 471,935 6,847 88,289 76,148 1,680 7,106 51,079 Native chicken Number of Animals Lost 県別家畜損失被害 14,248,675 104 191,365 126,948 8,800 4,863,469 995,341 214,824 52 2,815,652 542,600 36,700 3,000 55 7,960 77,563 2,700 1,306,081 2,260 5 3,051,987 1,209 Egg & meat chicken 2,945,148 45,000 5,000 1,216,213 13,000 250,000 40 611,080 742,800 8,000 54,015 - Quail 30,950 16 6 52 108 14 20 - 79 52 190 29,588 291 10 421 10 17 38 38 - Goose 115,299 447,144 533,319 98,151 7,365,813 2,184,344 643,930 134,391 4,532,217 2,701,074 135 11,842 13,011 40,019 38,995 389,666 2,415 212,898 4,785 6,087 10,813 153,627 252 20,948 440,166 5,067 1,791 38,233 22,830 11,129 290,527 15,270 17,042 955,302 13,843 712 109,185 2,105 29,355 22,846 168,231 108,514 2,153,598 781,516 61,184 102,523 748,175 7,530 206,012 3,341,661 940 7,000 2,345 9,197 73,028 29,408,032 Total 14,370.0 511.0 20.0 72.0 716.0 66.0 19.5 3,058.0 765.5 2,500.0 22.0 190.0 95.0 503.0 2.0 270.0 60.0 2,883.0 225.0 249.0 25.0 1,777.0 341.0 Pasture grass field (rai) 5,366,246 18,000 25,000 9,480 10,000 222,480 70,100 101,880 15,020 30,000 1,059,500 10,000 265,400 10,000 50,600 31,000 27,320 20,000 434,020 233,160 100,000 65,200 111,000 16,800 160,000 69,840 87,000 186,450 73,800 25,910 27,860 362,106 1,600 31,820 15,600 56,500 23,000 15,000 10,000 2,000 84,080 81,000 136,000 316,000 157,220 29,000 30,000 17,000 7,000 212,250 212,250 2,006,691 60 146,141 347 13,054 152,841 33,126 28,146 502,793 844 99 592 41,294 69,620 2,272 12,807 429 88 511 64 1,969 6 75,000 190 2,729 5,500 27 55,241 780,958 28,238 330 711 1,650 25,469 23,529 16 - Animal health care 15,853 2,360 1,000 30 240 12 156 79 984 1,000 678 2,220 200 2,907 2,376 32 250 1,329 - Mineral & Pharmaceut ical Immediate Assistance Forage crop(kg) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) ファイナル・レポート 2.5. 肥料及び牧草種子・栄養苗配布のモニタリング 2.5.1. 配布システム 2011 年 12 月 27 日、複合肥料(15-15-15)1,000 トン、尿素(46-0-0)200 トン及び牧草種子・ 栄養苗の配布が決定された。2012 年 3 月 18 日、DLD は各県における家畜及び牧草地への洪水被 害の状況を調査するよう傘下の 29ANRDC(家畜栄養研究・開発センター/ステーション)に通知 した。 肥料の引き渡し式は 2012 年 3 月 27 日にチャイナート県の ANRDC において行われた。2012 年 3 月 28 日、キックオフ会議が開催され、DLD から肥料配布対象の県は当初の要請書記載の 26 県 から 49 県への拡大が要請された。援助対象県が増加した背景には、牧草地被害が中央平原のみで なく、東北タイ、南部タイなどへも広がっていることが判明したことによる。 各 ANRDC では職員を招集して会議が行われ、センター/ステーション長は傘下の県における洪 水に伴う家畜及び牧草地への被害状況を把握するよう指示した。次いで、2012 年 4 月 2 日、DLD 本部において各センター/ステーション長を招集して肥料の配布計画について調整のための会議 が行われた。 ある畜産農家は、JICA 及び DLD が共同で肥料・牧草種子/栄養苗を配布することを、テレビを 通じて知り、また他の畜産農家は ANRDC の職員から直接情報を得て知った。洪水被害を受けた 畜産農家は DLD 作成の様式-1(付属書 I 、B-3 参照)に被害状況などを記入、登録した。これを 各 ANRDC は様式 Form-2 に整理したうえでバンコクの DLD 本部に送り、家畜栄養局はステアリ ングコミッティを開催して受益農家を選定及び決定した。 チャイナート県の ANRDC に保管された肥料は 5 月上旬から全国の 29 ANRDC への配布が開始 され、7 月上旬に完了した(図 2.5.1 参照)。受益農家は同様のスケジュールで肥料・牧草種子/栄 養苗を受け取った。 2-13 畜産開発局(DLD) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) Distribution of 1,000ton 1515-15 & 200 Dec27, ton Urea, & 2011 20ton seeds and 120 ton seedlings was decided Inform to 29 Mar.18,20 center/station 12 to survey Han d- ove r Mar.2 7 , ce re mon y 20 12 Kick-off Mar.28, meeting 2012 Meeting in DLD HQ on arrange the plan of distribution inviting Center/station directors Apr.2, 2012 Some farmers know the distribution of fertilizers through TV Directors of each center/station set meeting inviting all staff, especially extension staff in each center/station to instruct to survey affected livestock farmers For paddy pasture, center staff surveys and reports number of farmers who lost livestock and paddy pasture, and for small farm pasture, Amphoe DLD staff surveyed All farmers affected flood damage can be a candidate Distribu tion of f ertilize rs an d See ds/ se edlings f rom Ch ain at Ce n te r to 29 Cen te r/ Station When distributing, handover ceremony by Changwat administration was conducted Form -1 Form -2 Paddy Pasture Center/station staff surveyed and reported Small Farm Pasture Individual farmers applied to District DLD, and then registration was handed over to Provincial DLD Beneficial farmers use fertilizers and seeds/seedlings on farm Distribution of f ertilize rs an d Se e ds/ see dlin gs from 2 9 Ce nter/Station to be ne fic ial f arme rs an d Farmers sign on re ce ipt (Form- 3) Th e Bu re au of An imal Nutrition of DLD in B angkok se le c ts an d c onc lu de be n ef ic ial live stoc k f arme rs in th e Ste erin g Committee No. of beneficial farmers was adjusted in the Steering Committee in considering the volume of fertilizers (15-15-15:1,000ton + Urea:200ton) and number of candidates. 1 . 15 -1 5 -5 : 1 ,0 00 ton /2 0,0 00 rai= 50 kg/ rai 2 . Ure a: 2 00 ton /2 0 ,0 00 rai= 1 0kg/rai 3 . See ds 20 to n 4 . See dlin gs 12 0ton MONITORING ( Ju n e2 5 to 2 9) Form - 3 図 2.5.1 Livestock farmers suffered from flood regist to center/station for registration Each center/station takes all information from Form 1, and then hands over the Form-2 to Bureau of Animal Nutrition Development of DLD HQ in Bangkok 肥料・牧草種子/栄養苗配布の流れ DLD は配布に先だって下記の 6 種類の様式を作成し、これに基づいて調査し、受益面積、受益 農家数を決定した。様式の詳細は付属書 I 、B-3 に示した。 様式-1 被害農家・牧草地の登録 様式-2 農家情報の要約 様式-3 肥料受領書 様式-4 肥料配布日程計画 様式-5 肥料及び牧草種子/栄養苗の引き渡し 様式-6 各センター/ステーションの配布詳細報告 2.5.2. 肥料及び牧草種子/栄養苗の配布量 洪水被害を受けた牧草地 20,000rai(3,200ha)への緊急対策として牧草再生のために 1,000 トン の複合肥料 (15-15-15) 、200 トンの尿素(46-0-0)が配布された。20,000rai は、1) 水田転換牧草 地、2) 小規模農家牧草地、3) 共有地、4) ANRDC 場内の牧草地の 4 タイプからなる。 表 2.5.1 は、2012 年 4 月 2 日の DLD による配布計画(オリジナル計画)及び 6 月下旬から実施 したモニタリング調査の結果を対比して示している。モニタリング結果によると、DLD の ANRDC は、場内の牧草地も被害を受けたため全体量 1,200 トン(複合肥料及び尿素を含む)のうち 29.8% 国際協力機構(JICA) 2-14 ファイナル・レポート を受け取っている。肥料の配分率は概ねオリジナル計画の配分率に沿って配布され、大きな差は 見られない。 表 2.5.1 オリジナル計画とモニタリング調査結果の比較 1. Paddy 2. Small farm 3. Pasture in pasture project pasture center/station Compound fertilizer 15-15-15 (kg) Urea 46-0-0 (kg) Total Share based on the Monitoring Result (%) Share in the Original Distribution Plan (%) 367,300 70,800 438,100 36.6 36.9 298,800 59,760 358,560 29.9 29.1 299,050 59,800 358,850 30.0 29.8 4. Public pasture Total 34,900 6,980 41,880 3.5 4.2 1,000,050 197,340 1,197,390 100.0 100.0 被害牧草地 20,000rai に対する 1,000 トンの複合肥料は、被害牧草地 1rai 当たりにすると 50kg/rai に相当、同様に尿素は 10kg/rai に相当し、パンゴラグラスの標準施肥容量の最小必要量を満たす。 2.5.3. 受益者数 受益畜産農家数は DLD 本部のオリジナル計画では 3,826 戸とされ、その内訳は下表のとおりで ある。モニタリング調査の結果は、受益者数はオリジナル計画の 3,826 戸から最終的には 3,911 戸 に増加したことを示している。特にヤソートーン県の小規模共有地(それぞれ約 2rai/箇所)でゼ ロから 130 箇所に増加したしたこと、同様に、ANRDC がゼロから 28 箇所に増加したこと、転換 牧草地でもオリジナル計画の 1,007 戸から 1,237 戸に増えたことが増加の背景である。 表 2.5.2 肥料配布の受益者数 (単位:農家数) 項目 オリジナル計画* モニタリング結果 ** 計画 結果 牧草地 転換田 1,007 1,082 1,237 小規模 農家 2,809 2,756 2,507 ANRDC 牧草地 共有地 計 0 28 28 10 10 139 3,826 3,876 3,911 出典 *:DLD HQ, **:Result of the Monitoring Survey by JICA Survey Team 2.5.4. 受益面積 配布対象県は 2012 年 3 月 28 日のキックオフ会議において、 当初の 26 県から 49 県に増加した。 表 2.5.3 に示した通り、受益面積はオリジナル計画の 20,000rai から最終的には 20,696rai に増加し た。肥料の配布は、配分率及び受益農家数とも概ね当初計画に沿って行われたと言える。 表 2.5.3 受益面積 (単位:rai) 項目 オリジナル計画* モニタリング結果 ** 計画 結果 牧草地 転換田 7,384 7,075 7,100 小規模 農家 5,818 5,976 6,679 ANRDC 牧草地 共有地 計 5,964 6,048 6,048 834 698 870 20,000 19,797 20,696 出典 *:DLD 本部, **:モニタリング結果 2-15 畜産開発局(DLD) タイ国 2.5.5. 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 牧草種子/栄養苗の配布 肥料とともに洪水被害を受けた畜産農家に DLD を通じて牧草種子/栄養苗が配布された。DLD のオリジナル計画では、牧草種子 20 トン、栄養苗 120 トンそれぞれが配布されることになってい た。牧草種子については、Ruzie、Atratum、Plicatulum、Cavacade、Bombasa、Purple Guinea の 6 種類が県の条件に応じて配布された。栄養苗は、パンゴラグラス、パクチョン-1(Giant Napier grass) が配布された。 牧草種子/栄養苗配布のモニタリング結果を表 2.5.4 及び表 2.5.5 に要約する。6 種類の牧草種子 は、オリジナル計画の 20,000kg(20 トン)よりも多い 25,709kg が配布された。その 53%を Ruzie grass が占める。 表 2.5.4 牧草種子の配布 (単位:kg) 項目 Ruzie Atratum オリジナル計画* モニタリング 計画 結果** 結果 13,960 13,734 6,795 6,589 Plicatulum Cavacade 20,000 kg (20ton) 3,887 873 3,907 883 Purple Guinea Bombaza 計 546 546 50 50 20,000 26,111 25,709 出典 *:DLD 本部, **:モニタリング結果 牧草種子と同様にパンゴラグラス、パクチョン-1 の栄養苗 120,000kg(120ton)の配布が計画さ れ、最終的には 2 倍以上の 253,700kg(253.7ton)が配布された。 表 2.5.5 栄養苗の配布 (単位:kg) 項目 オリジナル計画* モニタリング 結果** 計画 結果 パンゴラ パクチョン-1 120,000 (120 ton) 129,300 1,072,050 94,900 158,800 計 120,000 1,201,350 253,700 出典: *DLD 本部, **モニタリング結果 注:オリジナル計画量は 120 トンであったが、実際には 253 トンが配布された。ANRDC から回収した 計画量 1,201 トンの内容は、スパンブリ 686 トン、チャイナート 299 トン、スコタイ 6.5 トンで、 これらが全体の 89%を占める。 モニタリングの結果は 付属書 I 、B-4 に示した。 2.6. 受益農家のモニタリング結果 (1) 配布された肥料 サンプル農家数は受益農家数 3,826 戸(DLD による計画)の 10%以上となるよう計画した。受 益農家の選定にあたっては洪水被害が甚大であった中央平原に位置するチャイナート県及びスパ ンブリ県を重点に考慮した。その他の県は被害畜産農家が少ない県でも最少 5 戸を選定するよう 配慮した。その結果 49 県で 515 戸をサンプル個数としてモニタリングを実施し、うち 488 戸を有 効回答とした。回収の結果、488 戸すべてが肥料を配布されていたことを確認した。うち 462 戸 (94.7%)は、早いものでは 2012 年 5 月 1 日から、遅いものでは 7 月 2 日に受け取っていた(2012 年 7 月上旬現在)。 国際協力機構(JICA) 2-16 ファイナル・レポート Q1: 化成肥料を受け取りましたか? 回答 農家数 % はい 488 100.0 いいえ 0 0.0 Q2: いつ受け取りましたか? 農家数 % 遅いもの 早いもの 受取り時期 462 94.7 2012 年 7 月 2 日 2012 年 5 月 1 日 まだ 26 5.3 受益畜産農家の 38.0%は ANRDC へ直接行って受け取り、30.5%は ANRDC が運搬・配布、24.2% は県の DLD 事務所で受け取っている。 Q3: どのようにして受け取りましたか? 農家数 % ANRDC へ行って受領 190 38.9 ANRDC が農家まで運搬 149 30.5 DLD の県事務所で受領 118 24.2 他の人が受領に行った 8 1.6 その他 0 0.0 回答なし 23 4.7 488 戸のうち、64.1%の農家は牧草の再生を促すため、2012 年 6 月下旬までに配布された肥料を、 牧草地に散布している。 はい いいえ 回答なし Q4: 肥料をすでに牧草地に投入しましたか? 回答 農家数 % 313 64.1 155 31.8 20 4.1 配布された肥料の量について、サンプル農家の 56.6%は“十分”としている一方、36.1%は“少な すぎる”も含めて“十分ではない”としている。 Q5: 肥料の配布量についてどのように考えますか? 回答 農家数 % 多すぎる 1 0.2 多い 20 4.1 十分 276 56.6 少ない 144 29.5 少なすぎる 32 6.6 回答なし 15 3.1 “少ない”、 “少なすぎる”の理由について 72.7%は、 “牧草地にはもっと肥料が必要”とし、39.2% は“牧草地が大きいので”と回答している。 Q5: “肥料が少ない”とする理由は何ですか? 回答 農家数 洪水被害が甚大だった 50 牧草地面積が広い 69 牧草地にもっと肥料が必要 128 農家選定と配布システムが良くない 5 その他 0 2-17 % 28.4 39.2 72.7 2.8 0.0 畜産開発局(DLD) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) (2) 牧草種子/栄養苗の配布 牧草種子/栄養苗の配布についてのモニタリング調査の結果は、肥料の配布状況とかなり異なっ ていることを示している。それは次のような背景による。 ・ モニタリング時点で肥料はサンプル農家の 100%が「受けとった」と回答しているのに対 して牧草種子/栄養苗は、44.5%の農家しか受け取っていない。 ・ 洪水期間中畜産農家が最も困窮したのは飼料不足であった。良質の肥料は被災したすべ ての牧草地の回復・牧草再生に大きく貢献したが、畜産農家の多くはパンゴラグラスな どをすでに栽培していたため早期の草生回復に必要な肥料に対して種子/栄養苗の緊急 性は優先度が 2 次的であった。 ・ 上記の理由により、牧草種子/栄養苗はモニタリング時点で受け取った農家の 45%しか投 入していない。なお、種子とともに供与したパクチョン-1 は DLD が振興する品種で、一 般の畜産農家にとって目新しい品種であり、畑地向きで低地での生育は不向きである。 サンプル農家の半数以上は 7 月上旬現在も牧草種子/栄養苗を受け取ってない。 Q6: 牧草種子/栄養苗を受け取りましたか? 回答 農家数 % はい 217 44.5 いいえ 271 55.5 最も早いケースでは、2012 年 5 月 1 日、最も遅い例では 7 月 2 日に受け取っており、ほぼ肥料 の配布日程と同じである。 回答 いつ 受け取っていない Q7: いつ牧草種子/栄養苗を受け取りましたか? 農家数 % 最も遅い 最も早い 211 97.2 2012 年 7 月 2 日 2012 年 5 月 1 日 6 2.8 - 配布された牧草種子/栄養苗の品種については、Ruzie grass が 65.4%と最も多く配布されたのに 対してパンゴラグラスは 6.6%、ギニアグラスは 14.7%、パクチョン-1 は 29.9%にとどまっている。 Q8: 配布された牧草種子/栄養苗の品種 回答 農家数 Guinea grass 31 Ruzie grass 138 Other seeds 96 Seedlings of Pakching-1 63 Seedlings of Pangola grass 14 Other seedlings 3 % 14.7 65.4 45.5 29.9 6.6 1.4 Ruzie 種子とパクチョン-1 一方、サンプル農家の 51.6%はモニタリングを行った 2012 年 7 月上旬では配布された種子/栄養 苗を未だ投入していない。右の写真は配布されたパクチョン-1 の栄養苗を実際に植え付けた状況 である。 国際協力機構(JICA) 2-18 ファイナル・レポート Q9: 種子/栄養苗を牧草畑に投入しましたか? 回答 はい いいえ 農家数 102 112 % 47.0 51.6 牧草種子/栄養苗の配布量については、サンプル農家の 71.9%は パクチョン-1 の植付け事例 “十分な量である”と回答している。受益農家の多くは 2011 年の洪水発生以前及び洪水後もパン ゴラグラスなどの牧草類を栽培しているために、種子/栄養苗の必要性に比較して牧草再生産のた めの肥料の必要性がより高かったと考えられる。 Q10: 配布された牧草種子/栄養苗の量について 回答 農家数 % 多すぎる 1 0.5 多い 8 3.7 十分 156 71.9 少ない 39 18.0 少なすぎる 13 6.0 回答なし 0 0.0 サンプル農家の 71%以上は洪水発生以降、政府から牧草地再生のための支援を受けていない。 Q11: これまで政府から牧草地再生のための支援を受けましたか? 回答 農家数 % はい 112 23.0 いいえ 347 71.1 回答なし 29 5.9 サンプル農家の約 50%は大なり小なり飼料庫を持っており、彼らの 55%は稲ワラのみを貯蔵し ている。このことはパンゴラグラスやパクチョン-1 のような牧草に比較して栄養価が少ない稲ワ ラの備蓄へ依存していることをうかがわせる。 Q12: 飼料を貯蔵するスペースがありますか? 回答 農家数 % はい 240 47.1 いいえ 248 50.8 Q13: 貯蔵している家畜飼料の種類 回答 農家数 % はい、稲ワラ 270 55.3 はい、乾草 85 17.4 はい、サイレージ 36 7.4 はい、その他 13 2.7 いいえ 126 25.8 2011 年の洪水では家畜だけでなく牧草地も被害を受けた。また、サンプル農家 488 戸のうち 229 戸(47%)は家畜を失っている。その多くは肉生産タイプの牛の飼養農家で、24.0%を占める。 牧草地に関しては、サンプル農家所有の 23.6%の牧草地が完全な被害、即ち牧草が死滅した。 一方、11.7%は“被害なし”と回答している。このことは、洪水被害はそれぞれの土地条件により 2-19 畜産開発局(DLD) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) かなり異なっていることを示唆している。被害サンプル農家の 60%は洪水後、牧草地回復のため に牧草を再植している。 Q14: 2011 年の洪水で失った家畜頭羽数 失った家畜頭数 家畜を失った農家数 最大 最小 戸数 % 3 0.6 6 20 4.1 30 117 24.0 60 6 1.2 28 12 2.5 20 1 0.2 2 17 3.5 200 53 10.9 1,000 家畜 水牛 乳牛 肉牛 豚 山羊 緬羊 アヒル 鶏 湛水期間 回答なし 湛水深 回答なし Q15: 2011 年の洪水深と湛水期間 最大 農家数 割合 461 人 94.5% 180 日間 27 人 5.5% 461 人 94.5% 70 cm 27 人 5.5% - 最小 1 日間 0.02 cm - 4 1 1 2 1 2 1 2 平均 32.2 日間 2.3 cm - Q16: 2011 年洪水による牧草地の被害程度 被害程度 90~100% 80~90% 70~80% 60~70% 50~60% 50%以下 被害なし 回答なし 農家数 115 35 35 28 94 119 57 5 % 23.6 7.2 7.2 5.7 19.3 24.3 11.7 1.0 Q17: 2011 年の洪水被害後牧草種子を再播種あるいは栄養苗を再植しましたか? 農家数 281 195 12 はい いいえ 回答なし % 57.6 40.0 2.5 以下の表にサンプル畜産農家の現況を示す。 Q18: 牧草地の所有面積 農家数 488 国際協力機構(JICA) % 100 最大 800 rai 2-20 最小 0.5 rai 平均 11.2 rai ファイナル・レポート Q19: 栽培用の牧草の品種 品種 Pangola grass Pakchong-1 Ruzie grass Qinea grass Atratum grass Whip grass Para grass その他 農家数 302 111 73 69 29 12 6 36 % 61.9 22.7 15.0 14.1 5.9 2.5 1.2 7.4 Q20: 牧草の栽培場所 農家数 328 210 11 水田(転換田) 畑 その他 % 67.2 43.0 2.3 Q21 牧草の刈取り高さ 農家数 パクチョン-1 パンゴラグラス 115 300 % 23.6 61.5 最高 30 cm 15 cm 最低 0.02 cm 0.5 cm 平均 4.4 cm 3.3 cm 注: DLD ではパンゴラグラスの刈取高さは、地際で刈り取るのが適切としている。 (3) モニタリング方法と工程 1) 調査方法 モニタリング調査は調査団作成の調査表に従って調査員が受益農家へインタビューを実施し、 調査表をバンコクへ郵送・回収する方法をとった。調査は農家及び DLD 傘下の ANRDC 29 箇所 に対しても実施し、チャイナートセンターからの肥料の到着日、農家への配布量、農家数などを 調査した。事前に調査員のために 1-day training をバンコクで実施した。 2) サンプル農家数 515 戸をサンプル農家として選定し、調査表-1 を使用して調査した。チャイナートセンター及 びスパンブリーセンターの両者で 220 戸(41%)を占める。515 戸のうち 488 戸を有効回答とした。 県別のサンプル数を付属書 I 、B-5 に、使用した調査票を付属書 I 、B-6 及び B-7 に示した。 3) 29 箇所の ANRDC DLD 傘下の 8 箇所のセンター、21 箇所のステーションに対して調査表-2(付属書 I 、B-7 参照) を使用して調査した。 表 2.6.1 1. Chainat* 2. Suphanburi 3. Sakaeo* 4. Nakhon Ratchasima* 5. Roi Et 6. Buriram 7. Yasothon 8. Khonkaen* 9. Mahasarakham DLD のセンター/ステーション(ANRDC) DLD 傘下の ANRDC 10.Kalasin 19. Lampang* 11.Udonthani 20. Phrae 12. Loei 21. Suratthani* 13. Mukdahan 22. Chumpon 14. Nongkhai 23. Narathiwat* 15. Sakon Nakhon 24. Satun 16. Nakhon Phanom 25. Tran 17. Phetchaburi* 26. Phatthalung 18. Prachuapkhirikhan 27. Phetchabun 2-21 28. Phichit 29. Sukhothai 備考 *印は Center 畜産開発局(DLD) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 4) 実施工程 モニタリング調査は 2012 年 6 月 26 日から開始し、6 月 29 日に完了した。記入した調査表はバ ンコクの DLD 本部へ郵送され、7 月上旬まで集計・整理作業を行った。 2.7. 研修 (1) 研修モジュールと日程 畜産農家及び牧草栽培農家を対象に 3-day training を行った。トピックは、1)牧草品種及びタイ における反芻家畜の飼料、2)家畜選定と小規模農家による肉牛飼養管理、3)牧草地造成と管理、4) 集約的牧草生産・水田転換畑・庭先栽培、5)家畜保健・衛生、6)災害リスク管理及び対策、実技と して、7)乾草・サイレージ作り、8)牧草地造成、と多岐にわたる。講師は DLD 本部及び ANRDC、 DLD 県事務所のスタッフが務めた。研修は下記の 8 箇所で実施し、それぞれ約 40 人の農家が参 加した。 サイト KhonKaen 県 Mahasarakham 県 Chainat 県 Suphanburi 県 Nakhon Si Thammarat 県 Sa Kaeo 県 Lampang 県 Phitsanulok 県 位置 タイ東北部 タイ東北部 タイ中央部 タイ中央部 タイ南部 タイ中央部 タイ北部 タイ中央部 サケーオ県での研修 実施時期 2012 年 5 月 10 日~12 日 5 月 10 日~12 日 5 月 14 日~16 日 5 月 21 日~23 日 6 月 5 日~7 日 6 月 11 日~13 日 6 月 13 日~15 日 6 月 16 日~18 日 ピサヌローク県での研修 ・研修参加者の情報 3 日間の研修の間に参加農家の家畜飼養・牧草栽培に関わる一般情報とともに 2011 年の洪水被 害を理解するために情報を聞き取った。その要約を表 2.7.1 に示す。各サイトの情報は付属書 I 、 B-8 に示した。 国際協力機構(JICA) 2-22 ファイナル・レポート 表 2.7.1 研修参加者情報の要約 項目 研修参加者総数 乳牛飼育の農家数および割合 肉牛飼育の農家数および割合 水牛飼育の農家数および割合 豚飼育の農家数および割合 山羊飼育の農家数および割合 羊飼育の農家数および割合 牧草地所有の農家数および割合 牧草地の最大・平均面積 牧草地の洪水被害に遭った農家数及び割合 牧草地の洪水被害面積の割合 湛水期間(日数) 2011 年洪水の湛水深 パンゴラグラス栽培農家数および割合 回答数など 291 人 45 人 177 人 4人 9人 7人 0 266 人 最大 100.0rai 214 人 - 最大 120.0 日間 最大 4.0m 151 人 割合など - 15.5% 60.8% 1.4% 3.1% 2.4% 0 91.4% 平均 10.2rai 73.5% 61.5% 平均 28.3 日間 平均 0.6m 51.9% 全参加者のうち、91.4%は牧草を栽培し、60.8%は肉牛、15.5%は乳牛を飼養している。一方、 参加者の 73.5%(214/291)は 2011 年の洪水被害を受け、牧草地面積の 61.5%が被害を受けた。最 長の湛水期間は 120 日間、湛水深の最大は 4.0m であった。 (2) 洪水対策に関するグループ討議 各研修会場において 2011 年の洪水に伴う牧草地及び家畜飼養に関する問題点を理解するとと もに参加者をグループ分けして洪水から得られた教訓を基に、今後の対策について討議した。そ の結果を付属書 I 、B-9 に示す。家畜飼養に関しては、湛水期間中及び湛水後の飼料不足が最大 の課題であり、その対策として乾草・サイレージのような貯蔵飼料の備蓄の必要性があげられた。 さらに家畜を避難させるため、洪水の影響を受けない標高の高い位置にある避難場所(シェル ター)がなかったことをあげ、その対策として避難場所を探すこと、避難場所設置のために政府 の支援を必要としている。 牧草地に関する最大の問題点は草地の湛水被害が大きかったことであり、その対策として洪水 退水後の再植・再播のための種子と肥料を備蓄することを上げている。また排水を促すためのポ ンプの準備、湛水深に耐える牧草品種の導入を挙げている。あるグループは、農家が洪水に備え 得るように政府に対して早期警戒システムの確立を求めている。 (3) 参加者による研修の評価 参加者に研修トピック、研修施設、パワーポイント文書など研修内容についての評価を求めた。 評価は各項目について、excellent(5)、 very good(4)、good(3)、poor(2)、very poor(1)の 5 点評価とした。その結果を図 2.7.1 に示す。参加者は研修内容について概ね、高い評価をつけてお り、この傾向は評価を実施した 4 サイトで同様である。 2-23 畜産開発局(DLD) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) Note: The No. of question as follows: 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. Overall contents and quality of the Training material Overall contents of Power point documents Overall Explanation of lecturers Contents of and quality of the module of “Pasture development and fodder needs for ruminant production in Thailand” Contents of and quality of the module of “Breeding, selection, and management of beef cattle for small farm holders” Contents of and quality of the module of “Pasture establishment and management” Contents of and quality of the module of “Intensive pasture production, paddy pasture production, backyard pasture production, fodder preservation, hay making and silage making” Contents of and quality of the module of “Practice on pasture establishment, management and utilization ” Contents of and quality of the module of “Animal health and health care during flood and drought 図 2.7.1 参加者による研修評価 付属書 I 、B-10 に示したとおり、研修者の多くがこのような種類の農民研修を少なくとも年 1 回あるいはそれ以上の頻度で行うことを望んでいる。また、参加者の中には複合肥料よりも単肥 の尿素(46-0-0)の配布を望んでいる者もいた。 2.8. 洪水対策への提言 (1) 飼料生産と備蓄 実施したモニタリング調査を通じて畜産セクターにおいて 2011 年の洪水期間に最も深刻な問 題は家畜飼料の不足であったことが確認された。どのような畜種であれ家畜は生体を健康に維持 し、乳肉を生産するために毎日飼料を摂取する必要がある。 国際協力機構(JICA) 2-24 ファイナル・レポート 飼料生産面の洪水災害対策としては、栄養価に富むパンゴラグラスやパクチョン-1(Giant Napier grass)の栽培促進が必要である。DLD は家畜の生産性を高め、飼料備蓄を確保するためにパンゴ ラグラスを低地で、パクチョン-1 を畑地で栽培することを推奨している。 1rai 当たりの収益性においてパンゴラグラスは稲作より高いことはよく知られている。農家も そのことは認識している。パンゴラグラスの単収増のためには適切な施肥(基肥及び追肥) 、刈り 取り、灌漑(水源があればより良い収量が得られる)によって可能である。生産余剰はベール梱 包当たり THB100 で販売できる。牛、競走馬、象、愛玩用ウサギ向けに乾草への需要は高い。パ クチョン-1 はサイレージの形で THB54/20kg バッグで販売することができる。将来の洪水の可能 性に備えて乾草やサイレージを生産・備蓄することが提言される。 (2) ANRDC の役割 2011 年の洪水では全国 29 県にある ANRDC(い わゆる DLD センター)が梱包状態で備蓄してい た乾草を配布し、畜産農家を支援した。家畜の飼 養頭数(牛及び緬羊/山羊を対象)、洪水被害の規 模、湛水期間を考慮すると、膨大な量の飼料が ANRDC レベルだけでなく、コミュニティレベル、 畜産農家レベルでも備蓄する必要がある。特に、 コミュニティレベルにおける飼料備蓄態勢は、畜 産農家がこれまで 2011 年の洪水のような甚大な 災害を経験していないため脆弱な現状である。 災害のような緊急時の飼料供給システムは全 国レベルで対処する方策をとることが求められ る。図に示すように、洪水の影響を受けない地域 は洪水被害地域の畜産農家へ飼料を供給する態 勢の構築が必要である。 上記の構想に基づいて、調査団のコンポーネント-1 チームは、DLD レベル、コミュニティレベ ル、個人農家レベルにおける飼料生産の強化と備蓄を提案し、選定したチャイナート県ワンマン 行政区、アユタヤ県シンハナート行政区においてパイロット事業を実施した。具体的にはコミュ ニティレベルの飼料生産・備蓄態勢強化のモデルとして前述 2 行政区の畜産農家グループへ二輪 草刈機、裁断機を供与するとともに飼料の備蓄庫を建設した。DLD レベルの飼料備蓄モデルとし て、DLD 傘下のチャイナート県の ANRDC にタイ製のベーラー(乾草梱包機)2 台を供与すると ともにサイレージ備蓄庫 2 棟をサブセンターに建設した。 (3) 備蓄庫計画 1) シミュレーション調査に基づく洪水域及び非洪水域の確認 災害時における全国レベルでの飼料供給システム構築の第一歩としてシミュレーション調査に よる洪水域図に基づき洪水域の同定が必要である。この図により全国 77 県、郡、行政区(Tambon) は図上で洪水影響予想域と非影響域の 2 つに区分される。 2-25 畜産開発局(DLD) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 洪水の影響が予想されるコミュニティでは、タンボン自治体のコントロールのもとに住民参加 により、1)畜種別畜産農家・家畜頭羽数の分布及び位置、2)洪水に影響されない畜産農家の位置、 3)湛水しないと予想される高所の位置などを図化することが必要である。 洪水期間中 もコミュニ ティにとど まる反芻家 畜頭数 コミュニティ 内の総反芻家 畜頭数 備蓄飼料量 コミュニティ の推定 内に 2~数箇所 の備蓄庫建設 洪水の影響がない 安全地域へ避難す る反芻家畜頭数 2) 洪水期間中の必要飼料量の推定 シミュレーション分析に基づいて洪水域と予測された行政区(Tambon)では、洪水期間中に飼 料を供給する必要がある家畜(主に牛及び緬羊/山羊を対象)頭数を推定することが必要である。 ・ 洪水の襲来時に洪水に影響されない近隣の地域/県へ避難する家畜頭数及び畜産農家数 の把握 ・ 洪水が襲来しても飼料の備蓄があるのでコミュニティ内にとどまる畜産農家数 ・ 洪水期間もコミュニティにとどまる家畜(牛及び緬羊/山羊)頭数―洪水期間中の飼料 給与量推定の対象。 次いで、飼料給与対象家畜頭数を推定した後、コミュニティに備蓄すべき飼料量を算定するた めに家畜頭数を家畜単位(LU:Livestock Unit)に換算する。タイで使われている LU は次の通りで ある。 家畜 家畜単位(LU) 1.00 1.00 0.15 0.38 0.02 牛 水牛 羊/山羊 豚 家禽 LU (FAO) 0.65 0.70 0.10 0.25 0.01 洪水期間中もコミュニティにとどまる家畜の LU は下表のように算定される。飼料備蓄の対象 は反芻家畜の牛、水牛、羊/山羊となる。 家畜 牛 水牛 羊/山羊 計 国際協力機構(JICA) コミュニティに とどまる頭数① LU ② LU=①x② - 1.00 1.00 0.15 - A 2-26 ファイナル・レポート 3) コミュニティレベルで備蓄する飼料量の推定 一般的に 1LU に相当する成牛 1 頭の 1 日当たり乾草要求量は 12.5~15kg である。 項目 LU=成牛 1 頭 生体重(kg/頭) 500 生草要求量(体重の 10%) 12% 成牛 1 頭当たり生草要求量 (kg/頭/日) 成牛 1 頭当たり平均乾草要求量 (kg/頭/日) 60 13.5 上記 3)で算定した LU 頭数に基づいて乾草要求量は下表のとおり算定される。 算定 LU LU 当たり乾草要 求量 (kg/LU/日) A 13.5 乾草要求量 (kg/日) B=A×13.5 B 湛水期間 (日)* C 備蓄必要量 (ton) D=B×C/1000 D 注:*2011 年洪水の湛水期間の経験値あるいはシミュレーション結果による 4) 備蓄庫の規模 モデルとしての 100LU 向けの備蓄庫の床面積は次のように算定される。 条件 成牛 1 頭(1 LU)の生体重 1 日当たりの乾草摂取量 湛水期間 家畜頭数(LU) 乾草必要量 乾草 1 トンあたり容積 乾草容積 乾草積み上げ高 必要床面積 仮定 500kg 13.5 kg/日/LU 60 日(地域により異なる) 100 LU(牛 100 頭) 81.0 ton 3.9m3/ton 315.9m3 4.0m 79.1m2 (例えば 8.9 m ×8.9 m) 洪水域の影響を考慮し、1 箇所ではなくコミュニティ内の高所に 2~3 箇所の備蓄庫を分散して 建築することを提言する。その方が災害時に備蓄乾草を効率的に対象農家まで輸送できるからで ある。 (4) DLD 本部による備蓄乾草のモニタリング DLD 本部は全国 29 箇所の ANRDC の飼料備蓄状況 を毎月モニタリングすることが求められる。現在、 規 模 は 異なる が 16 箇 所 の 備 蓄庫が あ る 。 29 の ANRDC のうち、28 の ANRDC は 10m×20m 規模の 備 蓄庫を 1~7 箇 所保有 している。 スパンブリの ANRDC には 10m×28m 規模の備蓄庫が 2 箇所ある。 2011 年の洪水で ANRDC が飼料を配布し畜産農家を 支援したように、将来生起するかもしれない洪水災 害に備えるため大規模な飼料備蓄庫を保有する 29 の ANRDC の役割は非常に重要である(写真はランパンの ANRDC の備蓄庫)。加えて、DLD 本部は 2-27 畜産開発局(DLD) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 災害に先立って全国レベルでの効率的な備蓄飼料の輸送・配布システムについても検討すべきで ある。 29 箇所の ANRDC における既存飼料備蓄能力は次表のとおりである。 項目 乾草備蓄庫 (箇所)* 推定備蓄能力(m3) ** 10m×20m 規模 92 73,600 備蓄庫 10m×28m 規模 24 26,880 計 116 100,480 出典: *箇所数及び床面積は DLD 本部 注: **乾草積み上げ高さを 4.0m として計算 (5) 畜産農家の能力向上 生計を家畜に依存している畜産農家は家畜を洪水や干ばつの期間であっても健康に保ち、生産 を維持しなければならない。大規模な洪水は再び生起するかどうかは予測困難であるが、畜産農 家を含めて人々は洪水災害に対処する必要があるという共通認識を持つことが必要である。しか し、現実には畜産農家は平常時だけでなく湛水期間及び湛水後においても飼料備蓄、家畜衛生、 栄養要求量を満たす飼料供給の重要性を十分認識していない現状である。調査団コンポーネント 1 チームが 8 箇所(Wang Man)で研修を実施したように、家畜飼養管理に関わる種々の内容をカ バーする研修が全国的に行われる必要がある。このような研修を通じて畜産農家、とりわけ資金 及び家畜の知識に乏しい小規模畜産農家は強化され、家畜生産が安定し、彼らの生計に安定をも たらすことになる。DLD 本部は研修面で多くの経験があり、この分野でイニシアティブを持つこ とが求められる。 (6) ANRDC の農業機械改善の必要性 災害時に飼料不足の状態に陥った畜産農家支援のため に ANRDC が果たす役割は非常に重要である。しかし、DLD 本部によると、全国 29 箇所の ANRDC の乾草調製農業機 械はすでに老朽化してきており、全国レベルで牧草及び乾 草生産強化のためにこれら機械の更新と牧草地面積に適 した台数の増加が必要である(表 2.8.1 参照)。 牧草生産・備蓄のために最も理想的なことは、29 ANRDC の牧草調製機械の更新とともにアタッチメントの台数の増加である。そうすることにより、上記 2.8 (2) 節で図解したように洪水を被った ANRDC と被害を受けなかった ANRDC 間が互いに牧草 生産・備蓄を補完しあえる態勢が構築できる。 国際協力機構(JICA) 2-28 Chainat Suphanburi Sakaeo Nakhonratchasima Roi Et Yasothon Buriram Khonkaen Mahasarakham Udonthani Kalasin Nakhonphanom Sakonnakhon Nongkhai Loei Mukdahan Lampang Phrae Phetchabun Sukhothai Phichit Petchaburi Prachuapkhirikhan Chumpon Suratthani Narathiwat Trang Satun Phatthalung Total Source. DLD 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 Center/Station Tractor below Above 50HP 50HP 6 1 2 1 3 6 3 3 3 3 1 3 4 2 2 3 2 3 2 3 3 3 4 2 5 1 3 4 5 2 4 3 2 93 4 2-29 1 1 17 1 1 1 1 1 Disc Plough 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 24 1 1 1 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 1 2 1 20 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 26 1 1 1 2 1 2 1 1 1 1 1 1 1 35 1 1 2 3 1 2 1 1 1 1 2 1 1 Hay Disc Hay Raker Spreader Mower 3 2 4 2 1 1 2 2 4 1 1 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 3 2 1 1 28 1 2 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 2 1 1 2 1 20 1 1 1 1 1 1 1 1 1 3 1 3 1 2 1 Attachment Forage Drum Harvestor Mower 1 36 1 1 1 2 1 2 1 1 1 2 2 1 1 Sickel Mower 1 1 2 4 1 1 1 2 2 1 1 1 1 43 1 3 2 1 1 2 2 1 1 3 1 2 1 1 2 2 4 1 1 1 2 1 Rope Hay Baler 3 2 1 19 1 1 1 1 1 3 1 1 1 2 1 3 1 1 Wire Hay Baler 全国 29 箇所の ANRDC における既存農業機械及び飼料備蓄庫 Trailer 表 2.8.1 1 1 1 20 1 1 1 1 1 1 1 1 2 1 1 1 3 1 Rotary Hoe Hay Storage Seed Hay Storage Hay Storage Incubator (10x20m) (10x28m) 6 5 2 2 2 1 2 7 6 5 5 2 2 3 4 1 4 3 1 2 2 1 6 6 1 1 2 1 2 3 3 4 1 4 1 5 1 3 1 1 3 3 1 3 2 1 3 3 1 4 3 1 1 1 1 2 6 2 3 1 1 3 1 2 1 1 2 2 1 5 2 1 3 5 1 3 2 1 1 92 24 81 ファイナル・レポート 畜産開発局(DLD) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) コンポーネント 3 との連携 1) モデル地区 コンポーネント 3 との連携のなかで、 以下の 2 地区が畜産計画のモデル地区として選定された。 県 郡 名称 1. Chainat Wat Sing Wang Man 2. Phra Nakhon Si Ayutthaya Lat Bua Luang Singhanat 行政区 地区特性 1,066 戸、天水、高地から灌漑 地、103 戸(全農家約 10%)が肉 牛飼育 974 戸、80%が仏教徒で 20%が イスラム教徒、全農家 70%が肉 牛及び同 30%が山羊を飼育 2) 畜産パイロット事業の計画内容 住民参加による家畜避難を想定した行動計画の策定:コミュニティレベルの家畜飼養農 家・頭数分布マップの作成、コミュニティにおける高所の避難場所、避難経路及び避難順 位(多頭数農家優先→少頭数農家)の確認 最も近い家畜避難先の調査と家畜避難受け入れの合意形成 飼料増産:高地にはパクチョン-1、低地にはパンゴラグラスを栽培し、既存のため池や水 田灌漑を利用した牧草の増産 飼料貯蔵:乾草、サイレージ、尿素・糖蜜・ミネラル混合固形飼料(UMMB)の製造 モスリムコミュニティにおける山羊飼育強化 1) 優良種雄山羊の導入による品種改良 2) 洪水深(H=1.5m)、山羊の性質(高所を好む)及び衛生面を考慮した高床式山羊舎の 建設 3) 乳用タイプ山羊の導入、チーズ、ヨーグルト、アイスクリーム、石鹸などの山羊乳加 工・販売 畜産研修の実施:牧草地管理、飼料生産、家畜飼養管理、家畜衛生、家畜選定など 乾草調製機器及び備蓄庫の供与:草刈機、ヘイベーラ、牧草切断機、プラスチック袋(サ イレージ用) 、空気吸入機、乾草フォーク、乾草備蓄庫など バイオガス燃料設備の建設(牛糞利用) 国際協力機構(JICA) 2-30 ファイナル・レポート 第3章 灌漑施設の修復および改善 3.1. まえがき 第 3 章では本件調査のコンポーネント 2 において 2012 年 4 月~10 月に実施した、農業セクター としての灌漑施設の修復・改善に係る調査の内容と結果について述べる。 当初の調査計画においてコンポーネント 2 調査が主な対象としたのは、1) 灌漑局(RID)が実 施している洪水復旧・防災事業に係る支援、2) 過去の日本支援事業における洪水被害および復旧 の現状、3) パイロット事業の選定・実施を通じて灌漑・排水施設の洪水被害修復と改善に係る技 術支援、である。しかし、パイロット事業の選定後にその実施が取止めになったため、コンポー ネント 2 に係る課題のうち、上記 3) パイロット事業の選定・実施については十分に達成できなか った。 RID はタイ国の水資源管理事業に係る計画・設計・建設・運営維持管理を管轄する主要な政府 官庁である。RID によると、2010 年における全国の灌漑面積は 29.3 百万 rai(4.7 百万 ha)、灌漑 ポテンシャル面積は 60.3 百万 rai(9.6 百万 ha)である。この灌漑面積の内、24.2 百万 rai(3.9 百 万 ha)は RID が運営管理する大規模及び中規模灌漑システムで、その他の 5.1 百万 rai(0.8 百万 ha)は、各地区の TAO 及び水利組合等の農民グループが管理するポンプ灌漑を含む小規模灌漑シ ステムである。RID が運営管理する灌漑システムは、全国で大規模灌漑システム(灌漑面積 80,000 rai 以上)が 86 箇所、中規模灌漑システム(灌漑面積 80,000 rai 以下)が 731 箇所である。 3.2. 3.2.1. RID 管理の灌漑排水施設における洪水被害および洪水復旧・防災事業 灌漑排水施設における洪水被害 2011 年洪水被害に関する世界銀行の報告書(2011 年 12 月)によると、現況灌漑排水地域の 11% を超える面積が被害を被った。RID が管理する洪水調節・排水・灌漑基盤施設の損害は 77.2 億 THB (約 260 百万 USD)に上り、これには圃場内灌漑排水施設および作物・家畜・内陸水産等の農業 生産分野の被害および損失は含まれていない。 2011 年の洪水による灌漑排水施設の被害施設と要因は、河川・用排水路からの越流水による堤 防及び法面の浸食と決壊、村落兼用道路・橋の浸食による崩壊と流失、水路・ため池の洪水泥水 による土砂堆積、河川・排水路調節ゲートの洪水流出と浸食による損壊、などである。これらの 施設は農村・都市地域の生活及び商業・工業基盤施設としての役割に関連するもので、施設の被 害は甚大であった。その復旧・改修には通常の年度予算とは別枠の緊急復旧事業予算が組まれ、 緊急的・優先的に承認された事業から RID を含む関係省庁において直ちに実施されている。 他方、農業セクターとして灌漑排水施設の本来の目的である農業生産に直接関連する施設の被 害も、幹線・支線用排水路の堤防盛土・水路法面・分水構造物・調節ゲート、道路や河川横断部 の暗渠・サイホン・水路橋、用排水路末端構造物・圃場内施設等、多岐にわたっている。これら の修復・復旧は RID の各灌漑システムの維持管理事務所、及び地域灌漑事務所(Regional Irrigation Office)が調査・計画・設計をしており、今後、通常の維持・管理(O&M)事業予算の枠内で順 次実施されていくと見られる。RID では通常の事業予算を O&M 事業及び新規事業とも 6 箇年の 3-1 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 中期支出計画(Medium-term Expenditure Framework: MTEF)として毎年とりまとめている。なお、 小規模で緊急的、且つ、修復費を多く要しない災害箇所は、大部分が洪水直後に各維持管理事務 所によって修復されているようである。 3.2.2. 灌漑排水施設における洪水緊急復旧・防災事業 前項で述べたように、灌漑排水施設への洪水被害は生活に直接影響を及ぼす部分について甚大 であり、RID の緊急復旧・防災事業も同じ観点から計画・実施されている。言い換えると、2012 年 8 月現在、RID が実施中の洪水緊急復旧・防災事業は、灌漑排水施設の生活インフラおよび商 工業インフラとしての役割に焦点があてられており、作物生産回復等の農業分野に係るものはほ とんど含まれていない。 RID が実施中の緊急復旧・防災事業を施設タイプによって仕分けをすると図 3.2.1 及び表 3.2.1 に示すとおりである。最も多いのは「河川・大規模水路の堤防の復旧・かさ上げ」 (本件調査対象 地域内全 1,283 事業の内 47%)、次いで、 「河川の排水調節水門の修復」 (25%)、 「村落兼用道路・ 橋の復旧」 (11%)、 「河川・用排水路の浚渫」 (7%)、 「排水ポンプ・発電機の配布」 (5%)となっ ている。約半数を占める河川・水路堤防復旧・かさ上げ事業には、盛土によるものとコンクリー ト壁によるものがある。これを見ると生活・社会インフラ復旧・防災としての事業がほぼ全てを 占めていることが明らかである。また、これらの緊急復旧事業予算は、2012 年雨期の洪水が本格 化する前の 2012 年 10 月までにほとんどが終了する計画である。 Dams/reservoirs for repair 1% Drainage siphon for repair 1% Weirs for repair 2% Others 1% Equipment distribution 5% River bank/canal dike for repair or heightening 47% Road/bridge for repair or reconstruction 11% Drainage regulators for repair or reconstruction 25% 図 3.2.1 国際協力機構(JICA) Ratio of Recovery Projects by Facility Type (1283 projects in total in the Study Area) Rivers/canals for dredging 7% RID による洪水緊急復旧・防災事業の施設タイプ 3-2 ファイナル・レポート 表 3.2.1 Structural category No. RID による洪水緊急復旧・防災事業の施設タイプ Number of projects Additional Additional Additional Batch -1 Batch -2 Batch -3 Emergency -1 -2 -3 River banks / canal dikes for repair, 1 reconstruction or heightening 39 364 151 41 15 2 Rivers / drains / canals for dredging 7 8 3 39 30 Drainage regulators / gates for repair or 3 reconstruction 16 172 88 22 25 Roads / bridges / culverts for repair or 4 reconstruction 20 73 40 0 2 Mechanical / electrical equipment such as 5 pumps, generators, etc. for distibution 0 4 2 39 18 6 River weirs for repair 6 16 0 0 0 7 Dams / reservoirs for repair or construction 2 3 1 0 0 8 Drainage siphons for repair 0 6 1 0 0 9 Others 4 9 3 2 0 Total 94 655 289 143 90 Note 1: Projects only in the Study Area (RID regional irrigation offices 3, 4, 10 ,11 ,12 and 13) are counted. Total projects % 3 0 2 0 615 87 48% 7% 2 1 326 25% 0 0 135 11% 2 0 2 0 0 9 0 0 0 0 0 3 65 22 8 7 18 1,283 5% 2% 1% 1% 1% 100% RID が実施中の洪水被害緊急復旧・防災事業は、事業の取りまとめと緊急復旧予算の承認過程 によって多くのバッチ(事業群)に分けられている。2012 年 8 月までに予算が承認されたのは全 国ベースで 2,236 事業(事業費約 120 億 THB)に達する。これらの施設について現場視察を行い、 施工図面・施工状況を確認した。その結果では概ね設計図どおり施工されており、工事の進捗も 良好であった。RID 実施分の各バッチの概要と事業の進捗状況は下記のとおりである。これらの 現在の進捗状況を表 3.2.2 に、また、復旧事業の主要工種の施工図面を付属書 I 、C-1 に示す。 2012/8/9, 国道 304 号沿いのチャオプラヤ川堤 防の改修工事、2011 洪水で決壊した(Chainat 県) i) 2012/5/20, 河川の排水調節水門とタチン川合流 部の改修工事(Suphan Buri 県) Batch-1(全国 555 事業) Batch-1 は最も早く事業予算が承認された事業グループで全国を網羅している。このグループの 約 40%の事業はチャオプラヤ川の中流域および下流域に集中する。事業はほとんどが河川および 灌漑排水施設の小規模な修理・修復で、2011/12 年予算として洪水直後に事業取りまとめがなされ た。2012 年雨期における洪水災害防止を意図しており、2012 年 9 月時点の事業進捗は 96.5%であ る。 3-3 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 表 3.2.2 Project category RID による洪水緊急復旧・防災事業の進捗状況(2012 年 9 月 24 日現在) Unit Chaophraya river basin area Other Upper basin Middle Lower basin areas in the basin country Total Remark 1. Total of Batch-1 to 3 & Emergency-SCWRM site 302 325 903 590 2120 1) No. of sites 2) Budget approved million baht 681.71 1,559.13 6,351.62 2,571.60 11,164.06 (million yen) (1,840.61) (4,209.66) (17,149.37) (6,943.32) (30,142.95) 3) Disbursement status % 98.69% 87.32% 82.14% 75.27% 82.32% 1-1. Batch-1 1) No. of sites 2) Budget approved site million baht (million yen) 3) Disbursement status % 1-2. Batch-2 1) No. of sites 2) Budget approved site million baht (million yen) 3) Disbursement status % 1-3. Batch-3 1) No. of sites 2) Budget approved site million baht (million yen) 3) Disbursement status % 1-4. Emergency-SCWRM 1) No. of sites site 2) Budget approved million baht (million yen) 3) Disbursement status % 2. Additional sites No.1 1) No. of sites site 2) Budget approved million baht (million yen) 3) Disbursement status % 69 274 69.26 635.98 (187.00) (1,717.15) 99.39% 99.32% For small repair but most 555 urgent with completion 1,118.94 target of August 2012 (3,021.14) 96.51% 74 212 483 186 203.40 657.86 1,421.08 422.82 (549.18) (1,776.22) (3,836.92) (1,141.61) 98.86% 98.00% 97.23% 99.08% For small repair but most 955 urgent with completion 2,705.16 target of October 2012 (7,303.93) 97.83% 60 138.86 (374.93) 99.88% For small repair but most 481 urgent with completion 1,466.98 target of October 2012 (3,960.84) 94.58% 167 307.91 (831.36) 99.50% 45 105.79 (285.63) 68.97% 48 248 125 165.00 784.44 378.67 (445.51) (2,117.98) (1,022.42) 98.94% 91.83% 96.44% For big repair 1 20 103 5 129 programmed by 31.53 630.48 4,076.84 1,134.13 5,872.98 SCWRM. 2 years (85.14) (1,702.29) (11,007.47) (3,062.14) (15,857.04) implementation - 2011/12 84.47% 76.22% 74.73% 45.85% 69.36% and 2012/13 budget. 0 0 116 1,051.04 (2,837.80) 14.92% 3. Additional sites No.2 1) No. of sites site 2 3 6 2) Budget approved million baht 17,635.00 13,635.45 1,045.00 (million yen) (47,614.50) (36,815.70) (2,821.50) 3) Disbursement status % 4. Additional sites No.3 1) No. of sites site 2) Budget approved million baht (million yen) 3) Disbursement status % 国際協力機構(JICA) 0 0 3-4 3 498.92 (1,347.09) 0 0 Approved on May 15, 116 2012 with focus on urban 1,051.04 area to protect from flood (2,837.80) in 2012. Completion 14.92% target is October 2012 Under approval process. 11 This includes 2 dam 32,315.45 projects in Chiang Mai & (87,251.70) Nakhon Sawan. Budget is N.A up to year 2019. Under approval process. 0 3 This is to supplement the 498.92 Emergency-SCWRM (1,347.09) listed above. N.A ファイナル・レポート ii) Batch-2(全国 955 事業) Batch-2 は 2 番目に事業予算が承認されたグループで、洪水被害が最も大きかったチャオプラヤ 川の中流域および下流域を対象とする。事業規模は Batch-1 と同じくほとんどが河川および灌漑排 水施設の小規模な修理・修復で、2011/12 年予算として計上され、2012 年雨期における洪水災害 防止を意図している。2012 年 9 月時点の事業進捗は 97.8%である。 iii) Batch-3(全国 481 事業) Batch-1 および Batch-2 と同じく、ほとんどが河川および灌漑排水施設の小規模な修理・修復で ある。2012 年雨期の洪水時期までに完了するよう、2011/12 年予算で実施されている。事業地域 は洪水被害が最もひどかったチャオプラヤ川下流域を対象とする。2012 年 9 月時点の事業進捗は 94.6%である。 iv) 緊急 Batch- SCWRM (全国 129 事業) 上記の Batch-1 から Batch-3 と異なり、このグループは水資源管理戦略委員会(Strategic Committee for Water Resources Management, SCWRM)で取りまとめた河川および灌漑排水施設の大規模修復 事業である。Chainat - Pasak 水路の堤防かさ上げはこのグループに含まれる。これらの事業は 2011/12 年および 2012/13 年の 2 年間の実施計画で進められている。また、事業地域は洪水被害が 最もひどかったチャオプラヤ川下流域である。2012 年 9 月時点の事業進捗は 69.4%である。 2012/8/9, Chinat – Pasak 水路沿いに建設したコ ンクリート洪水壁,(壁高 1.0m)、コンクリート 天端は現況堤防の天端レベルより 0.6m 高くな る 2012/5/16, Chainat – Pasak 水路から取水する C-22 用水路でのコンクリート洪水壁建設のた めのコンクリート杭打設 v) 追加地区-1(全国 116 事業) このグループは遅れて計画されたもので 2012 年 5 月に予算承認がなされたばかりである。事業 地域はチャオプラヤ川下流域の都市部を対象とする。2012 年雨期の都市部の洪水災害防止を第一 課題として、完了目標は 10 月である。しかし、事業承認が遅かったため、2012 年 9 月時点の事 業進捗は 14.9%に過ぎない。 3-5 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) vi) 追加地区-2(全国 11 事業) このグループは 2012 年 8 月時点で予算の承認待ちである。事業は 2 箇所のダムの改修・建設を 含み、実施計画は 2019 年までとなっている。そのため、事業費は比較的大規模である。2 箇所の ダムはチェンマイ県の Mae Kung Udom Tara Dam(既設ダムの改修)およびナコンサワン県の Mae Wong Dam(新規建設)である。 vii) 追加地区-3(全国 3 事業) このグループは 2012 年 5 月に申請されたもので、上記の緊急 Batch- SCWRM を補足するもので ある。したがって、事業規模は非常に小さい。 2012/5/17, Lop Buri 県での水路堤防修復のため の工事図面の確認 3.2.3. 2012/5/17, Khok Ka Teim O&M Project (Region 10)地区での河川・水路ネットワークの確認・ 調査(Lop Buri 県) MTEF 中期支出計画および緊急復旧・防災事業 RID は 6 箇年の中期支出計画(Medium Term Expenditure Framework: MTEF)を毎年作成してい る。MTEF は RID が実施する全ての既存事業及び新規事業に対して作成され、下記の 4 カテゴリ ーに分けられる。 C-1: 既存灌漑システムの修復・改善及び運営維持管理 C-2: 新規の中規模灌漑及び小規模灌漑による水資源開発と灌漑面積の拡大 C-3: ダム改善、モンキーチーク及び排水改善による洪水被害の防止と軽減 C-4: ダム、貯水池、流域開発、排水改善等の大規模事業による建設 表 3.2.3 は本件調査対象地域であるチャオプラヤ川中下流域の 6 RID リージョンにおける MTEF 計画(2012 年 - 2017 年)の事業(全 3,521 事業)をカテゴリー別に示したものである。また、RID の 2013 年予算は約 355 億 THB で、この内、C-1(既存灌漑システム改善と O&M に係る 1,180 事 業)と C-2(新規灌漑システム建設に係る 1,400 事業)が各々予算額の約 36%を占める。 しかし、2011 年の洪水災害に対しては、MTEF とは別に洪水被害復旧・防災のための特別緊急 復旧予算が組まれた。この洪水復旧緊急予算は Batch-1, Batch-2, Batch-3 等のいくつもの事業群に 国際協力機構(JICA) 3-6 ファイナル・レポート 分かれており、前述したとおりである。 表 3.2.3 MTEF 中期事業計画(2012-2017)におけるカテゴリー別事業数 RIO-3 RIO-4 RIO-10 RIO-11 RIO-12 RIO-13 275 38 234 92 280 261 Category of projects C-1 Improvement and management of existing O&M Project (1) Improvement of whole system (2) Repair of selected facilities C-2 Development of water resources and increase of irrigation areas (1) Medium scale construction projects (2) Small scale construction projects C-3 Water hazard prevention and mitigation C-4 Large scale projects Total MTEF: Medium Term Expenditure Framework RIO: Regional Irrigation Office Source: RID 3.3. Total 1180 106 169 332 0 38 321 25 209 212 42 50 9 5 275 168 0 261 358 178 1002 1400 34 298 214 0 821 45 276 117 0 476 36 176 163 1 610 0 9 136 0 237 20 148 205 0 653 35 323 105 0 724 170 1230 940 1 3521 日本支援事業における洪水被害状況および復旧 過去数十年のあいだに、日本の支援によって多くの事業が実施されてきた。そのうちチャオプ ラヤ川の洪水の影響を受ける地域で実施された農業案件を選定し、その被害状況を確認しこの調 査においてパイロット事業として復旧事業を行うのに適当であるか検討する。対象となる案件は 下表のとおりである。(図 3.3.1 参照) 表 3.3.1 No. Name of Project 日本の支援による農業案件 Location Changwat Asisting Executing agecy of agency of Japan side Thai side Fund Date of Date of commenc completion ement 1 Chao Phrya Irrigation Project Ayuttaya JICA/OECF ALRO Loan 1980/5 1985/3 2 Pasak Irrigation Project (Kaeng Khoi-Ban Mo Pumping Irrigation Saraburi JICA/OECF RID Loan 1981/7 2004/1 Phitsanulok Uttaradit Phichit Small Scale Irrigation Program Nakhon Sawan (SSIP) Kamphaeng Phet Sukhothai Lopburi 3 Phechabun Saraburi Small Scale Irrigation Improvement Nonthaburi and Rehabilitation Project (SSIRP) Chinat Uthai Thani Suphanburi Large Swamp Inland Fishery 4 Nakhon Sawan Project (LSIFP) Small Swamp Inland Fishery 5 Project (SSIFP) Phitsanulok Phechabun Phichit Nakhon Sawan Kamphaeng Phet Sukhothai 3-7 OECF RID 1978/1 1989/1 1998/4 2003/4 Loan OECF DOF Loan 1985/5 1993/9 OECF DOF Loan 1982/6 1988/1 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) SSIP SSIRP SSIFP LSIFP –Bung Boraped Sub-project ChoaPhraya Irrigation Project 図 3.3.1 国際協力機構(JICA) Pasak Project 日本支援事業位置図 3-8 Irrigation ファイナル・レポート 3.3.1. チャオピア灌漑農業開発事業 (実施機関 ALRO) (1) 事業地区 事業地区はバンコクの北 70km のチャオプラヤ川右岸のアユタヤ県 Lad Bua Luang 郡の 12,620 ha である。地域の地形は非常に低平であり、北西から南東へ 1/20,000 の勾配があり、標高は海抜 1.75 m から 2.25 m の範囲にある。 年平均降水量は 1,300 mm であり、水稲の 2 期作が行われてい る。9 月から 12 月までの洪水期の高水位の平均は 2.60 m であり、事業実施前の最高水位は 1975 年に 3.10 m を記録している。 (2) 事業の経緯 JICA は 1976 年 10 月から 1977 年 5 月までチャオピア灌漑農業開発事業の F/S を実施した。実 施設計は 1982 年 2 月に完了し、タイ政府は事業実施に必要な 26.5 億円の借款を 1982 年 7 月に OECF に申請した。事業は 1988 年に完了した。 (3) 事業施設 事業地区の総面積 12,620 ha は第 1 区画~第 10 区画に分割されており、堤頂標高が海抜 3.5 m (地表面から平均 1.5 m)の輪中堤によって防護されている。輪中堤の天端幅員は通常 4m である が、天端が道路として利用される区間では幅員は 8m である。1-10 の区画のそれぞれには口径 700mm、全揚程 4m、容量 36 m3/min のポンプ 2 台が設置されている。 (4) 2011 年の洪水被害 1988 年に事業が完成して以来、事業地区は標高 3.5 m の堤防によって防護されてきた。2006 年 には洪水位は堤防の高さを 50 cm 超え、第 5 区画~第 10 の区画では農地は湛水の被害を受けた が、1-4 の区画では応急的に堤防を 50cm 嵩上げして氾濫を防ぐことができた。嵩上げした応急堤 防は道路交通の妨げになるためその後撤去された。 2011/10/23, 1-4 区画には応急的に堤防が嵩上 げされた。 2011/10/27, 堤防が嵩上げされなかった 5-10 区 画は完全に冠水した。 2011 年の洪水では、水位は輪中堤の天端標高よりも 1.5m 高い標高 5.0m に達した。1-4 の区画 ではまたもや応急的な堤防を築堤し洪水を防御して無事農作物を収穫することができた。洪水氾 濫は 11 月と 12 月の 2 箇月間継続し、5-10 の区画の水稲は全滅した。灌漑施設の被害は軽微なも のであった。 ポンプ場への直接的被害はなかった。主たる被害は堤防の浸食と滑りであった。5-10 の区画で は農作物(水稲)被害は甚大であった。水路の法面の崩壊が所々で見られたが灌漑施設に重大な 3-9 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 損傷はなかった。 3.3.2. パサック灌漑事業(ケンコイ・バンモーポンプ灌漑事業) (実施機関 RID) (7) 事業地区 事業地区はサラブリ県の Kaeng Khoi 郡と Ban Mo 郡にまたがっている。地区はパサック川の右 岸でチャイナート-パサック水路の左岸に位置し土壌と地形は水稲栽培に適しているが、標高的 にパサック川あるいはチャイナート-パサック水路から重力で灌漑する事ができない。 (8) 事業の経緯 RID はポンプ灌漑を企画しその F/S 調査を JICA に要請した。F/S 調査は 1981 年に完了し、引き 続き 1985 年に OECF の E/S ローンにより D/D が実施された。 しかしタイの国内経済事情により、 この事業は長期にわたって実施が見送られた。 1994 年、RID は事業の実施を決定し OECF にローンの申請を行った。ローンの総額は 30.38 億 円である。1998 年から 1999 年に D/D が実施され、2001 年に工事に着手し 2005 年に完成した。 (9) 事業施設 事業施設は次のとおりである。 施設 規 模 ポンプ場 6 台+予備 1 台、容量各 2.44 m3/sec 合計 17.08 m3/sec 用水路 幹線用水路 34.145 km 支線用水路 11 路線、2 次支線用水路 19 路線 水路構造物 排水路 総延長 104.885 km 834 箇所 排水路 14 路線 総延長 84.409 km 水位流量制御施設 159 箇所 受益地 建設時 86,700 rai 現在 67,356 rai (都市化による農地の転用) (10) 2011 年の洪水被害 ポンプ場はパサック川の右岸に面しているが 2011 年の洪水時にパサック川の水位はポンプ場 の床の高さまで達しなかった。従ってポンプ場にはなんの被害もなかった。受益地は比較的高い ところに位置しているため用水路、排水路ともに洪水の被害はなかった。受益地の一部の低い所 で地区外丘陵地からの流出とパサック川の Rama VI 頭首工の背水により一時湛水が発生した。 3.3.3. 小規模灌漑事業(SSIP)および小規模灌漑改修事業(SSIRP)(実施機関 RID) (1) 事業の経緯 SSIP の目的は水の入手が困難な地方の人々のために灌漑と飲雑用水を確保するための水源開発 をすることである。この事業によって溜池や堰および取水工を建設するもので、配水のための水 路等の施設は含まれていない。SSIP は 1977 年から 1985 年までの 9 年間に 6 次にわたる OECF ロ ーンにより実施されたものである。事業で建設された施設は全国で約 4,000 箇所、地域別には東 北部 50%、北部 20%、中央部、東部、南部にそれぞれ 10%である。 国際協力機構(JICA) 3-10 ファイナル・レポート 事業完了後既に約 30 年が経過しており、事業に関する書類や文献は四散してしまっている。事 業の数も膨大で事業の現在の状況と 2011 年の洪水の影響を把握するのは困難になっている。 RID は社会投資の一貫として JBIC のローンを活用して小規模灌漑施設の整備する機会を得た。 RID は SSIP で実施した事業から SSIRP に適した事業を選定し JBIC のローンにより事業を実施し た。 (2) SSIRP の目的 小規模灌漑改修事業(SSIRP)の目的は次のとおりである。 i. 小規模灌漑事業、特に SSIP で実施された事業の修復・整備 ii. 雇用の増大と所得の向上、特に経済後退時における雇用の確保 iii. SSIP 事業の配水システムの整備 iv. 飲雑用水と灌漑用水を供給することによる村落の生活の質の向上 (3) 事業の実施 RID は 1,587.702 百万 THB の予算を得て 570 箇所の事業を 1998 年から 2003 年までに実施した。 (4) 2011 年の洪水被害 1) インベントリー調査方法 本調査では、上記 SSIRP で改修、改善された施設の内、本案件の調査対象地域内にある 106 施 設を調査対象とした。調査結果の一覧表を付属書 I 、C-2-5 に、施設の所在地、改修時期等の詳 細を付属書 I 、C-2-6 に示す。調査は RID バンコク本部、RID Regional Office、Province Office、 TAO の協力の下、2011 年 6 月 14 日から 8 月 31 日にかけて実施した。被害状況は質問票を基に TAO 等の関係機関からの聞き取りおよび現地調査にて確認した結果を基に、被害の程度を下記の ように評価した。調査に用いた質問票は、付属書 I、C-2-7 に示す。 被害なし: 2011 年の洪水による被害はない施設。または、多少被害が発生したが、 補修を必要とせず、現状で利用可能な施設。 2) 軽微な被害: 2011 年の洪水により、速やかな補修が必要となった施設。 重大な被害: 2011 年の洪水により、改修や新設が必要となった施設。 調査結果概要 SSIP で造成された灌漑施設の多くの 所在不明 14% 15 施設 維持管理は TAO に移管されているが、 King’s Project によって造成された施設 や、受益面積が広い施設(聞き取りに 重大な被害 4% 4 施設 よると、4,000rai 以上)については現在 軽微な被害 も RID が維持管理を担当している。調 7% 7 施設 被害無し 75% 80 施設 査した 106 施設中 7 施設は、上記理由 により現在も RID が維持管理しており、 図 3.3.2 2011 年洪水により発生した被害施設数 その他の施設の維持管理は TAO に移管されている。調査結果より判明した被害数を表 3.3.2 に、 3-11 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 被害程度の割合を図 3.3.2 に示す。調査結果の詳細は、付属書 I 、C-2 に示す。 3) RID、TAO による洪水被害への対応状況 重大な被害を受けた施設の対応状況 i) No.10 Ban Hin Lat Reservoir (Phitsanulok 県) 表 3.3.2 2011 年洪水により発生した被害施設数 Regional Office No. 所 在 県 RID が維持管理をしており、既に 2 百万 THB を投じて改修され、灌漑に 3 利用されている。 ii) No.52 Ban Dan Yai Weir (Kampaeng 4 Phet 県) RID が維持管理をしており、改修に 10 向けた調査を 2011 年 10 月から開始 する予定。 11 iii) No.66 Bueng Sakae Weir(Phetchabun 県) 12 維持管理は TAO に移管されている。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 Phisanulok Uttaradit Phichit Nakhon Sawan 小 計 KamphaengPhet Sukhothai 小 計 LopBuri Phetchabun Saraburi 小 計 Nonthaburi Sub-total Chainat UthaiThani Suphanburi 小 計 合 計 プロジェ クト番号 被害 無し 軽微な 被害 重大な 被害 14 7 20 8 49 4 3 7 2 15 11 28 1 1 5 8 8 21 7 4 15 8 34 3 3 6 1 12 11 24 1 1 4 5 6 15 6 1 106 80 3 4 1 7 所在 不明 1 1 7 1 2 1 1 2 2 1 3 2 6 7 4 15 道路等のインフラ補修に予算が優先的に使われており、本施設の改修の目処は立っていな い。 iv) No.69 Bung Sam Phan Weir(Phetchabun 県) 本施設の改修のための調査は生活インフラ補修工事の後に位置付けられている。 軽微な被害を受けた施設の対応状況 施設を利用している水利用グループ(WUG)により人力で浚渫、補修を行っている。機械 の搬入が必要となる場合、TAO の協力の下、浚渫、補修を行っている。 2012/7/10, No.66, Bueng Sakae 堰、 Phetchabun 県、TAO の維持管理、堰体下流護岸が大きく 崩壊した。 国際協力機構(JICA) 2012/7/10, No.69, Bung Sam Phan 堰 、 Phetchabun 県、TAO の維持管理、堰体下流が 大きく洗掘された。 3-12 ファイナル・レポート 3.3.4. 大規模湖沼漁業開発事業(LSIFP)(実施機関 DOF) (1) 事業地区 タイ国には 48 箇所の大規模湖沼があるが、ナコンサワン県にある Bung Boraped 湖はタイでは 最大のものである。この湖は近在の住民に定常的な漁業の場を提供してきたが、近年は堆砂、水 草の繁茂、不法侵入、過剰な漁獲、汚染、上流部の開発等の問題に直面している。湖の諸元は次 のとおりである。 満水位における湖水面積 :138.53km2 有効貯水量 :109.9 MCM 有効水深 :1.0 m (2) 事業の経緯 1985 年タイ政府は漁業局(DOF)を実施機関として、Nong Han と Kwan Phayao を含めて、大 規模湖沼漁業開発事業(LSIFP)を OECF ローン 26.51 億円を用いて実施することを決定した。F/S 調査を 1985 年に実施し、引き続き D/D を 1986 年に完了し、1991 年に工事に着手、1993 年に工 事は完了した。 (3) 事業の目的 事業の目的は次のとおりである。 ‐湖を漁業生産に適するように整備すること。 ‐種苗の供給のみならず、水産養殖の訓練と普及のための漁業センターを拡充する。 ‐飲雑用水供給を量的にも質的にも向上させるために、貯水容量の増大を図る。余剰の水量 がある場合には灌漑にも利用する。 ‐湖周辺の洪水被害を軽減させる。 ‐適切な下水処理を行って湖の水質を飲雑用水供給と水産養殖に適したものに維持する。 (4) 事業施設 事業により建設された施設は次のとおりである。 ‐堰と水門の建設と補修 4 箇所 ‐堤防と道路の建設 30 km ‐排水路の建設と浚渫 13 km ‐灌漑施設の整備 1,120 ha ‐水産センターの建設と試験機材の調達 ‐維持管理用機材の調達 (5) 2011 年の洪水被害 この湖は 3 箇月間氾濫し、多量の土砂が滞積した。事務所および養魚池も氾濫湛水した。建物、 設備、試験機材ブルドーザーやバックホウ等の維持管理機材も損害を受けた。毎年 11 月にはチャ オプラヤ川の水位が高くなり湖に逆流するが、このような小さな洪水では被害をもたらさない。 2011 年の洪水によって損傷した機材を表 3.3.3 に示す。 3-13 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) この湖と水産センターは漁業局の直轄で運営・維持管理されており、タイ国においては主要な センターになっている。毎年、湖を維持するために 50 万 m3 の浚渫を行っている。しかし 2011 年 の堆砂は 400 万 m3 と推定され、DOF は直営に加えて業者請負と軍隊にも依頼して浚渫を実施し ている。工事は 2012 年の洪水が来る前に完了する計画で 4 箇月の工期で実施している。事務所、 実験室、工作室、倉庫、養魚池等のコンクリート構造物は今年度の予算で修復が行われている。 しかし実験室や事務所の機器、水族館の操作機器、維持管理用の機材、水槽等については未だ修 復の目処が立っていない。電気、機械機器に対する詳細な調査が必要である。 2012/5/25, Bung Boraped の水位調整堰は 1994 年に完成した。左側が湖側で右側がチャオプ ラヤ川への流路である。 国際協力機構(JICA) 2012/5/25, Bung Boraped 湖の堆砂の浚渫が始 まったところである。400 万 m3 を 4 箇月で浚 渫する計画である。 3-14 ファイナル・レポート 表 3.3.3 Priorit y 洪水被害を受けた機材一覧表 (Nakhon Sawan Freshwater Fishery Development Center) y Items Pattern of Damage Photo Location p Rehabilitation Damaged Approach (repair/ cost (Baht) construct/ others) Estimated budget (Baht) for repair 1 Hatchery air Intergrated circuit was damaged, control unit causing the system cannot work properly Tambon Kwai Yai, Muang District, Nakhon Sawan 40,000 repair as a damaged condition that was found at that time 40,000 2 Air generator Tambon Kwai Yai, Muang District, Nakhon Sawan 10,000 repair as a damaged condition that was found at that time 10,000 3 Water pump Motor did not work properly, causing water was pumped into the pond slowly, affecting a change of water for fish breeders and fingerling Tambon Kwai Yai, Muang District, Nakhon Sawan 5,000 repair as a damaged condition that was found at that time 5,000 4 Plumbing system Tambon Kwai Yai, Muang District, Nakhon Sawan 5,000 repair as a damaged condition that was found at that time 5,000 Engine could not work fully during floods occur due to the blackout, affecting the fingerling in the nursery house Plumbing system beneath the ground was damaged since there is a water leak from the dike construction for flood protection and waste electricity for pumping water out 5 Aquarium Filter system could not work water filter properly, causing water filter has low quality affecting water condition in the aquarium Tambon Kwai Yai, Muang District, Nakhon Sawan 200,000 repair as a damaged condition that was found at that time 200,000 6 Microscope Electrical circuit system could not work properly, microscope lens have a fungus and be unusable Tambon Kwai Yai, Muang District, Nakhon Sawan 20,000 not repaired yet 20,000 7 Vehicle Engine & electrical system were damaged affecting fingerling removal, damaged vehicle i.e. pick-up truck and 6 wheels truck Tambon Kwai Yai, Muang District, Nakhon Sawan 200,000 not repaired yet 200,000 8 Incubator It was unusable. Tambon Kwai Yai, Muang District, Nakhon Sawan 50,000 not repaired yet 50,000 9 Oven It was unusable Tambon Kwai Yai, Muang District, Nakhon Sawan 50,000 not repaired yet 50,000 10 Air 8 air conditioners were damaged conditioner by flood Tambon Kwai Yai, Muang District, Nakhon Sawan 240,000 unable to repair, need to buy a new one 240,000 11 Computer (PC) Tambon Kwai Yai, Muang District, Nakhon Sawan 10,000 10,000 It was damaged from moisture because of flood Total repair as a damaged condition 830,000 3-15 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 小規模湖沼漁業開発事業(SSIFP)(実施機関 DOF) 3.3.5. (1) 事業地域 タイ国には約 6,000 箇所の湖沼があり、その水面積は 100 万 rai (1,600km2)以上ある。しかし、 近年これらの湖沼は荒廃してきており、漁業局(DOF)は水資源と水産資源の開発の観点から荒 廃した湖沼の改修に努めてきた。 漁業局によって事業化された湖沼は北タイ北部、北タイ南部および東部タイに分布している。 このうちチャオプラヤ川の洪水に関連する事業は北タイ南部の湖沼である。 (2) 事業の経緯 湖沼の改修は 1979 年から実施されている。湖沼の改修が盛んに実施されるようになるのは 1982 年にタイ政府が OECF ローンを受けて 100 箇所の湖沼の改修と種苗センターと機材センターを北 タイと東部タイに開設してからである。OECF ローン 49 億円を受けて工事は 1983 年から実施さ れた。 (3) 主要な施設 チャオプラヤ川の洪水に関連する各県の事業施設は下表のとおりである。 県 Nakhon Sawan Kamphaeng Phet Phichit Phisanulok Sukhouthai Phechabun 合計 第I期 第 II 期 計 4 8 13 5 11 8 8 4 10 9 5 6 12 12 23 14 16 14 49 42 91 (4) 2011 年の洪水被害 漁業局によって調査された SSIFP のチャオプラヤ川の洪水被害は下表のとおりである。 県 郡 事業名 被害・影響 Nakonsawan Klok Pra Nong Bua Nong Plong Nong Krub 堆砂による浅水 洪水 Phitsanulok Muang Ban Ra Kam Nong Kradan Nong Ma Khang 堆砂による浅水、堤防の被害 堆砂による浅水、水門の被害 Uttaradit Muang Bung Pa Sao 堆砂による浅水 Sukhothai Muang Muang Bung Noi Nong Huai Raab 洪水 洪水 国際協力機構(JICA) 3-16 ファイナル・レポート 3.4. 3.4.1. パイロット事業 パイロット事業の目的 パイロット事業は、チャオプラヤ川流域において RID が今後行う灌漑施設に対する本格的な洪 水被害復旧・防災、および改善事業に対する支援を目的として行うものである。パイロット事業 は RID の協力を得て実施するとともに、特に灌漑施設の計画・設計および施工管理技術の強化を 図ることに重点を置いて実施するものである。 3.4.2. パイロット事業の一次選定 コンポーネント 2(灌漑施設)に係るパイロット事業の選定にあたっては、下記の事業を対象 とした(表 3.4.1 参照)。 i) 灌漑局(RID)が実施中の洪水被害緊急復旧事業 ii) RID が JICA 調査団に支援を要請した事業 iii) 過去において日本の支援により実施した事業 (1) 灌漑局(RID)が実施中の洪水被害緊急復旧事業 前述したとおり、現在、RID が緊急復旧事業として実施中の事業は、そのほとんどが農村部・ 都市部の住居地域、ならびに都市近郊の商工業地域を対象とした洪水被害の復旧・防災事業であ り、所謂、住民の生活と安全を守るための社会インフラ及び商工業インフラとしての機能回復・ 改善に対する事業である。したがって、これらの事業は生活道路・橋の復旧、河川・用排水路の 浚渫、河川・水路堤防のかさ上げとコンクリート洪水壁の建設、排水調節ゲート・水門の修復・新 設、排水ポンプの調達・配布等が大部分を占めている。 これらの事業は、当初、パイロット事業選定の対象になると考えられたが、タイ国政府の緊急 復旧・防災事業方針に基づいて事業内容・工程が確定的に策定され、既に急ピッチで工事が進め られていることが明らかとなった。そのため、これら事業はパイロット事業選定から除外するこ ととした。 (2) RID が調査団に支援を要請した事業 RID がこれまでに JICA 及び調査団に支援を要請した農業セクターとしての事業には下記のも のがあり、それらの状況は以下のとおりである。 i) ナレスアン灌漑事業、Naresuan Dam O&M Project(RID Regional Irrigation Office 3, ピサヌロ ーク県)、1982 年に建設された灌漑面積 91,000 rai (14,560 ha)の灌漑システムで、チャオプ ラヤ川中流域に位置する。灌漑地区は Nan 川に架かる Naresuan 堰から取水し、Nan 川の左岸及 び、南は Nan 川支流の Kwai Noi 川まで広がる。2011 年洪水では、幹線水路沿いの水路堤防・ 道路・排水カルバート等の灌漑施設が被害を受けた。灌漑地区中央部は排水路が北から南に走 り低平地のため毎年湛水する。また、2012 年 4 月には Naresuan 堰ゲート 5 門の内 1 門が流失 した。当初 JICA バンコク事務所に支援要請があり、本件調査開始とともに調査団が引き継ぎ、 2012 年 5 月 18 日に現地確認調査・協議を行った。水路沿いの施設被害は軽微でほぼ修復され ている。中央部の低平地の洪水湛水対策には今後、湛水防除事業としての調査・検討が必要で 3-17 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) あると思われる。Nan 川にかかる Naresuan 堰のラジアルゲート 1 門の復旧は、緊急予算がつい て現在製作中である。 以上の状況から、本件調査でパイロット事業として緊急に支援可能な灌漑排水施設はないと判 断された。 ii) プライチュンポン灌漑事業、Phlai Chumphon O&M Project(RID Regional Irrigation Office 3, ピ サヌローク県)、1985 年に建設された灌漑システムでチャオプラヤ川中流域に位置する。上記 と同じく Naresuan 堰から取水し、Nan 川の右岸に広がる灌漑面積 218,000 rai(34,880 ha)の大 規模灌漑システムである。Nan 川と Yom 川に挟まれた本地区の低平地は洪水湛水の常襲地域で ある。2007 年に F/S が、昨年 D/D が完了し、RID 承認がなされ、灌漑システム改善計画が作成 された。RID 本部での協議の結果、調査団に対して本地区の改善計画への支援が要請された。 5 月と 6 月の 2 回にわたる現地調査を行い、同改善計画の 98 サブプロジェクト(表 3.5.1 参照) の中から、RID が優先施設とする「幹線用水路を活用した放水路(放水工)建設事業」と「湛 水防除のための排水ポンプ場建設事業」について協議・検討を行った。その結果、後述するよ うに、本件緊急開発調査におけるパイロット事業として、「幹線用水路を活用した放水路(放 水工)建設事業」を選定した。 2012/5/28, プライチュンポン排水ポンプ場計 画地点、堤防兼用道路の右側に Yom 川が接す る。この堤防は緊急予算によりかさ上げが行わ れた。 2012/8/9, プライチュンポン幹線用水路の放水 工計画地点。 (3) 過去において日本の支援により実施した事業 本件調査対象地域において過去に日本の支援により実施した事業について、洪水被害および現 況等を調査し、パイロット事業としての可能性について検討を行った。その結果は下記のとおり である。 i) チャオピア灌漑農業開発事業(Chao Phya Irrigation Project)、 (アヤタヤ県、実施機関は ALRO)、 全 10 地区のポンプ灌漑ブロックの内、ポンプ場が稼動する 5 地区は郡の TAO が運営管理し、 他の 5 地区は農家が個々に可搬ポンプを使用して水稲栽培を行っている。2011 年洪水による被 害は、主として 1982 年-1987 年に建設された輪中堤防の浸食・地滑りであり、被害箇所は応急 国際協力機構(JICA) 3-18 ファイナル・レポート 的に堤防かさ上げ等の修復がなされている。本件調査でのパイロット事業として緊急に支援可 能な灌漑排水施設は無いと判断される。 ii) パサック灌漑事業―ケンコイ・バンモーポンプ灌漑事業(Pasak Irrigation Project)、(サラブ リ県、実施機関は RID)、本事業は標高が高い丘陵地に位置するため、2011 年洪水による被害 はほとんど無かった。本件調査でのパイロット事業として緊急に支援すべき灌漑排水施設は無 いと判断される。 iii) 小規模灌漑事業(SSIP)および小規模灌漑修復事業(SSIRP)、(全国ベース、実施機関は RID)、本事業は多くの県にまたがり多数地区で実施されているが、これらの事業地区は主に渓 流や山沿いの山間地で、本件調査が対象とするチャオプラヤ川中流域の氾濫原は原則として含 まない。SSIP に係る 106 地区のインベントリーを実施した結果によると、ほとんどの地区が洪 水湛水地域外にあり、2011 年洪水による直接の被害というよりは、長年の経過により損壊して いるものがかなり見られた。これらの施設はほとんどが郡の TAO に移管されている。4 地区の 河川堰において甚大な被害が見られ、これらは施設の改修が必要と判断されるが、既に改修さ れた地区もあり、改修のための調査・設計が計画されている。そのため、本件調査でのパイロ ット事業として緊急に支援できる施設は無いと判断される。 iv) 大規模湖沼漁業開発事業(LSIFP, Large Swamp Inland Fishery Project – Bung Boraped Swamp)、 (ナコンサワン県、実施機関は DOF)、本地区はチャオプラヤ川および Nan 川と排水調節ゲー トで直接つながり、洪水時には Bung Borapet 湖に氾濫水が流れ込む。2011 年洪水による被害は、 湖沼への土砂の堆積と、事務所・研究施設を含む施設全体が湛水したため損害は甚大であった。 2012 年 4 月から 4 百万 m3 の土砂の浚渫が軍も投入して実施された。研究普及機材・事務所機 材・O&M 機材等の損害も深刻で、これらに対する支援の必要性は非常に高いと思われるが、 本件調査でのパイロット事業には適さないと判断される。 v) 小規模湖沼漁業開発事業(SSIFP, Small Swamp Inland Fishery Project)、 (ナコンサワン県、実 施機関は DOF)、本調査対象の 6 県において 91 箇所の小規模ため池が数えられる。2011 年洪 水による被害調査は、調査団の要請により DOF によって実施された。それによると、大きな 被害は少ないが、年月の経過及び洪水による土砂堆積が 7 箇所で問題であった。これらに対す る浚渫等の支援は必要であると思われるが、全て郡の TAO に移管されており、本件調査での パイロット事業には適さないと判断される。 (4) パイロット事業の一次選定結果 パイロット事業の一次選定は次の観点から行った。 i) 本件調査の対象である農業セクターにおける洪水対策支援であること ii) 2013 年 5 月までの調査期間内での実施が可能な事業であること iii) タイ国側の、特に RID の要請に合致する事業であること 現地調査により各事業の現状と問題点、ならびに、その必要性を確認し、RID が実施中の洪水 被害緊急復旧事業は除外し、パイロット事業としての適正を検討した結果、RID の支援要請が強 いピサヌローク県のプライチュンポン灌漑システム改善事業 (Phlai Chumphon O&M Project) を パイロット事業の候補として選定した。次いで、同事業の詳細現地調査による確認及び RID との 3-19 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 詳細協議を行った。 表 3.4.1 Project category / group Description Current status / Flood damage 1. RID flood recovery & protection work (nation-wide) 1) Batch-1 (555 sites) 2) Batch-2 (955 sites) For the recovery and 3) Batch-3 (481 sites) protection of urban and rural 4) Emergency SCWRM (129 residential and industrial areas sites) 5) Additional No.1 (119 sites) 6) Additional No.2 (11 sites) Included 2 dam projects & program is up to year 2019 7) Aditional No.3 (3 sites) To suppliment SCWRM above 2. RID's request for JICA support 1) Naresuan Dam O&M Project Gravity irrigation system for 91,000 rai taking water at Naresuan Dam from Nam River at Phitsanulok 2) Phlai Chumphon O&M Project Gravity irrigation system for 218,000 rai taking water at Naresuan Dam at Phitsanulok パイロット事業候補地区 Progress as of June 30, 2012 86% 80% 79% 19% - Actions taken For JICA support by study team Necessity Possible for Tentati pilot project ve cost Conducted site visit on May 16-20 & followup the progress --- --- None --- --- Flood recovery Budget for equipment (radial gate, wire, Conducted site visit electrical) was approved then procurement and discussion on May is underway. 18 Seeking JICA support for 1) main canal spillway, 2) drainage pumping station. Conducted site visit & discussion on May, June & July 3. Japan assisted projects in the past 1) Chao Phya Irrigated Project Polder dike & 10 pump (ALRO) stations for 10,000 ha irrigation at Ayutthaya 2) Pasak Irrigation Project (RID) Pump irrigation system for 67,356 rai at Sara Buri 3) SSIP / SSIRP (RID) 106 sites in the study area under SSIRP, Sites of SSIP are not clarified. Flood damage 4 blocks were protected during flood but 6 Conducted site visit on were totally inundated. 5 pump stations are May 10 operational. Not flooded nor damage to facilities / Conducted site visit on structures. May 16 Damage depends on location. Most sites Conducted site visit on are located at hilly area free from flood. May 16-20, & inventory of 106 sites is on-going. 4) LSIFP (DOF) Bung Boraped Swamp at Nakhon Sawan 5) SSIFP (DOF) 49 small swamps in the study area Totally inundated, need dredging, rehab of Conducted site visit on facilities, ponds, roads & equipment. May 25 Recovery is in progress but equipment recovery not yet. Totally inundated with much sedimentation Conducted site visit on to ponds managed by TAOs May 25 3.4.3. None Remark Very high Priority 1 is 40 million D/D was made spillway, Priority 2 baht by RID in 2011. is drainage pumping station None --- --- None --- --- To clarify after inventory --- --- Wait for result of inventory. --- Obtained the equipment list High for Equipment supply is equipment not suitable to pilot supply project None --- パイロット事業の最終選定 (1) プライチュンポン灌漑システム改善事業の概要 概要: プライチュンポン灌漑システムは約 30 年前に建設され、チャオプラヤ川中流域のピサヌ ローク県からピチット県に位置し、灌漑面積は 218,000 rai(34,880 ha) である。本地域は、南側(下 流側)に隣接する 2 灌漑システム、 (Dongsethi O&M Project with A= 186,000 rai =29,760 ha 及び Tabua O&M Project with A= 168,400 rai =26,944 ha)を合わせると灌漑面積が 572,400 rai(92,000 ha) に及ぶタイ国でも有数の灌漑地域である。また、本地域は Nan 川と Yom 川に挟まれた洪水常襲の 低平地でもある。地形は Nan 川から Yom 川に緩傾斜し、灌漑地域は Yom 川及びその支流である 小河川との境をなす堤防に守られた一大農業地域である。Nan 川、Yom 川は共にチャオプラヤ川 の 4 大支流の 1 つであるが、Nan 川は本地域の中心地であるピサヌローク市周辺に氾濫をもたら し、一方、Yom 川はこれまで治水・灌漑利用での開発が最も遅れている河川であり、この地域は 毎年 8 月~10 月に洪水による湛水被害に見舞われる。(図 3.4.1 参照) 本地域は Nan 川沿いにピサヌローク市(人口 843,995 人:2008 センサス)が広がる。ピサヌロー ク市は、東南部に新空港が建設され、それに伴うホテル等の新興商業地域、さらにそれを取り巻 く新興住宅地があり、都市部拡大に伴い湛水による浸水被害が拡大している。また、ピサヌロー ク市は中央タイ、北部タイと東北タイを結ぶ中継地として位置づけられ、流通・経済の中心都市 であり、有名な寺院等があり、毎年約 40 万人の観光客が訪れる。北部下流域を管轄する軍の駐屯 国際協力機構(JICA) 3-20 ファイナル・レポート 基地としても重要な地域である。従って、当地が洪水被害を受ければ周辺地域に多大な影響を及 ぼすこととなる。 灌漑システム: 灌漑用水は Nan 川に建設した Naresuan 堰から取水し、幹線水路は設計流量 3 141.68 m /sec、水路延長 80 km の長大水路である。設計流量には下流の Dongsethi O&M Project、 及び Tabua O&M Project、さらに Nan 川左岸に計画中の新規地区(700,000 rai =112,000 ha)への用 水量も含んでいる。80 km の幹線用水路は 6 箇所の調節堰を持つが、水路の余水吐は上流部と末 端のわずか 2 箇所に設置されているのみである。 排水システム: 排水システムは、灌漑地区の西側が Old Yom 川、及び Yom 川に接しており、地 区内排水路の末端は各排水ゲートから河川に排水することになっている。しかし、両河川とも雨 期の水位は高く、特に洪水時期には地区内から河川への排水が困難となり長期間の湛水被害に見 舞われる状況である。現在、既設排水ポンプは Old Yom 川に面して 2006 年及び 2007 年に建設さ れた 2 箇所のみである。 洪水被害および復旧: 2011 年の洪水においては、Yom 川と Nan 川に挟まれたこの地域は、チャ オプラヤ川の中流域では最も深刻な被害を被った地域である。本灌漑地区では、全灌漑面積の 55% にあたる 120,400 rai(19,200 ha)が 7 月~9 月の約 3 箇月間湛水した。通常 7 月に収穫する雨期 作水稲の内、収穫の遅れた 16,920 rai(2,700 ha)は全滅であった。現在、本灌漑地区を含む周辺 地域において、堤防のかさ上げ、村落間道路・橋梁の復旧や排水路・河川の浚渫など、生活・社 会インフラに対する洪水対策事業が数多く実施されている。 また、この地域の農業はこれまで米の 3 期作であったが、昨年の洪水の後、RID では作付けカレ ンダーの見直しを行い、 2012 年から米の 2 期作を基本とする作付体系に改めた。米の平均収量は、 雨期水稲が 4.6 ton/ha、乾期水稲が 4.7 ton/ha で、農家当たりの平均農地面積は 26 rai (=4.16 ha) である。水利組合は 77 グループが結成されており RID に登録されている。 灌漑排水システムにおける課題および対策: 本灌漑排水システムの主要な課題は、1) 乾期にお ける用水量不足の解消、2) 約半分の灌漑地区を占める低位部での洪水湛水の改善、3) ピサヌロー ク市周辺住宅地域への洪水対策としての幹線用水路のバイパス放水路としての使用、である。こ れらを解決するための方策として、1) 水路ライニングを含む用水路・構造物の改修、2) 排水ポン プ場の設置及び Yom 川沿い堤防の改修、3) 幹線用水路における放水工の設置、がこれまでの F/S 及び D/D を通じて計画された。 特に、3)については、Nan 川の洪水をカットして Naresuan 堰からプライチュンポン幹線用水路 に放流し、幹線用水路をバイパス放水路としてこれまで洪水時に緊急的に使用してきた。しかし、 幹線水路には放水工が無いため、一旦流入させた洪水を幹線用水路下流には流下できず、支線用 水路から灌漑地区内下流に放流せざるを得なかった。そのたびに、農作物・農地のみならず農村 住宅地域への湛水被害が発生し争いが絶えない状況であった。 RID としてはこの状況を早急に改善する必要に迫られていたが、2011 年の大洪水による広域湛水 被害を契機として、プライチュンポン灌漑システムの支線用水路下流へ放流するのではなく、幹 線用水路に放水工を建設して、流入させた洪水をピサヌローク下流地点で Nan 川に放流させる計 3-21 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 画実施の要望が急速に高くなってきた。 プライチュンポン灌漑システム改善計画: プライチュンポン灌漑システム改善事業は、もとも と、幹線用水路の改修及び排水改善を主目的として、2007 年にタイ国コンサルタントにより F/S が行われた。そのコンポーネントは、i) 幹支線用水路のライニング及び構造物の改修、ii) 排水ゲ ート改善と排水ポンプ場建設による排水改善、であった。F/S の後、2009 年 5 月~2011 年 7 月に 詳細設計が行われ、その過程において、2006 年及び 2011 年に発生した大規模洪水の経験を背景 として、放水工の設置によるプライチュンポン幹線用水路の放水路恒久化が優先事業として提案 された。灌漑改善事業は 98 小事業に区分けされ 2011 年に RID に承認された。 優先サブ事業: 灌漑改善事業の 98 小事業の内、洪水緊急対策に関連する 5 事業は 2012/13 年予 算として基本承認された。他の事業では、i) 幹線用水路の安全確保、及びピサヌローク市街の洪 水防災のための 2 箇所の幹線用水路放水工の設置、および、ii) 15 箇所の排水ポンプ場建設による 地区内湛水の軽減と排水改善、が優先事業となっている。しかし、これらについては、現在、全 国レベルで主に都市部と農村部の住宅地域・商工業地域を対象とした洪水緊急対策事業を進めて いるため、予算が確保できない状況である。プライチュンポン灌漑改善事業(全体事業費約 4,090 million THB)への支援としては、維持管理事務所及び RID Region 3 との協議において有償資金協 力等による事業全体への長期支援も望まれたが、本件調査団に係るパイロット事業としては、下 記の 2 事業が優先候補として要請された。 i) 候補 1:幹線用水路を活用した放水路(放水工)建設事業(2 箇所) ii) 候補 2:湛水防除のための排水ポンプ場建設事業(15 箇所) (2) 候補 1:幹線用水路放水路(放水工)建設事業 プライチュンポン灌漑事業(灌漑面積=34,880 ha)の幹線用水路は、洪水時には Nan 川沿いに 位置するピサヌローク市周辺への洪水被害を避けるために Naresuan 堰からのバイパス放水路とし て使われている。しかし、それは緊急時に限られ、また、幹線用水路内に放流された洪水はこれ まで支線水路取水ゲートから地区内下流に放流され、Yom 川に接する灌漑地区低平部において水 稲・農地・村落住居地に被害をもたらすものであった。この地区内への被害を改善するため、本 計画では、幹線用水路に水路の安全のための放水工を設けて、幹線用水路内に放流された洪水は 幹線用水路の下流の放水工において、しかもピサヌローク市から相当下流で Nan 川に放水して戻 す、いわゆる安全な洪水バイパス放水路として恒久的に用いることを目的とする。 RID による改善計画では 2 箇所の放水工が建設予定となっている。この内、優先度が高いのは、 2 箇所のうち上流(km 56+151)に位置する放水工であり、これをパイロット事業候補 1 とする。 2 箇所の放水工の位置は図 3.4.2 に示すとおりである。 i) 幹線用水路放水工(km 56+151)建設、概算事業費 =39.5 million THB、DR 15.8.に放流 ii) 幹線用水路放水工(km 63+240)建設、概算事業費 =37.8 million THB、DR 2.8.に放流 放水工構造・仕様は 2 箇所とも、ゲート放水工、設計放流量=49.50 m3/sec、鋼製ローラーゲー ト 3 門×3.00m×4.00m、手動巻上機、である。構造物は、放流水路はコンクリートボックスカル 国際協力機構(JICA) 3-22 ファイナル・レポート バート延長約 140m、減勢工、護岸工、地盤は N 値 20-30 程度と良好である。 (3) 候補 2:排水ポンプ場建設事業 プライチュンポン灌漑地区(灌漑面積=218,000 rai=34,880 ha)の排水改善は長年の課題であり、 本改善計画において排水ポンプ場を建設する。排水ポンプは、洪水時に灌漑地区内の湛水を Old Yom 川、あるいは Yom 川に強制排水するものである。ポンプ場計画位置は各地区内排水路の末端 である。全 15 箇所のポンプ場建設計画の内、湛水被害が顕著で優先順位の最も高い 1 箇所(11. Khlong Go Regulator & Pumping Station)を他のポンプ場のモデルとするためのパイロット事業候補 2 とする。15 箇所のポンプ場の位置は図 3.4.2 に示すとおりである。 パイロット事業は、既設排水樋門(鋼製スライドゲート)の改修と併設ポンプ場の新規建設に より構成される。ポンプ場規模は概ね、水中モーターポンプ、口径 d=800 mm×1-3 台程度、ポン プ場建屋無し、送電線の架線必要、コンクリート吸水槽要、吐水槽無し。概算事業費は、ポンプ 費用および仮締め切り費用を別途として 11.6 百万 THB と見込まれる。 (4) パイロット事業の最終選定 上記 2 つの候補事業から本件調査で実施するパイロット事業を選定・提案する。選定にあたっ ては 5 つの選定基準に基づき検討を行った。 i) 農業セクターとしての妥当性 ii) 事業のモデル性から見た妥当性 iii) 建設工事期間から見た妥当性 iv) 事業の緊急性に対する JICA 支援の必要性 v) プライチュンポン維持管理事務所の優先度 i) 農業セクターとしての妥当性: 現在 RID が実施中の洪水被害緊急復旧事業は、チャオプラ ヤ川を含む自然河川、1890 年代建設の Ransit Canal や 1950 年代に建設された Chainat-Pasak Canal 等の大規模用排兼用水路を主な対象とし、昨年の洪水被害箇所の修復及び本年(2012 年)雨期 に備えた洪水防御施設の建設を急いでいる。それらに加えて既存灌漑システムに見られる大規 模用排兼用水路の緊急修復も行われているが、それらも農村部・都市部の住居地域及び市街地 に広がる商工業地域への洪水防災を目的とするものであり、農業セクターとして灌漑施設を修 復・改善して農業生産を回復し、今後の洪水による作物被害を防御・軽減するための事業は含 まれていない。 上記視点から 2 つの候補事業を比較すると、双方とも農業・灌漑分野に直接係る事業であり、 農業生産の回復を図ると共に、洪水による作物生産の減少と灌漑施設の被害を防止することを目 的とし、農業セクターとして妥当な洪水対策事業であると判断できる。 ii) 事業のモデル性から見た妥当性: 候補 1 の「幹線用水路を活用した放水路建設事業」は、 用水路を河川放水路として積極的に用いることを目的としている。それは、灌漑システムを灌 漑農業のための用水供給だけでなく、洪水時には周辺生活地域の洪水防御のための社会インフ ラとして多目的に活用することでもある。 灌漑システムは灌漑と排水機能の最適化を命題としてソフト・ハード・経済的側面から計画・ 3-23 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 設計されるのが原則である。しかしながら、この放水工建設事業は、灌漑システムを雨期におい て洪水低減機能の放水路として用いるもので、RID にとっては新たな概念である。放水工の位置 の決定・構造物の設計自体は RID でも対応できるが、本パイロット事業では新たに放水路機能を 付加するために必要な計画・設計事項を整理し、RID が今後独自に計画・建設していくための提 言を行う予定である。経済的妥当性についても、灌漑便益・費用とは区別して検討する必要があ る。 これは、隣接する灌漑システムのみならず、チャオプラヤ川中流域において類似の課題を抱え る灌漑システムの改善、ならびに、洪水対策に兼用出来る灌漑システムの新たなモデルとして推 奨されるものである。特に、近年研究が進み明らかになってきている地球温暖化、および気候変 動現象に誘引される異常降雨の常態化に対処するための放水路機能を備えた灌漑システムモデル としてタイ国でも初めての試みとして評価されると共に、チャオプラヤ川流域や他流域において 新規灌漑開発(既存システムの改善も含めて)を計画する際の優良事例になると考える。これを 「灌漑システムの洪水放水路モデル」として提案する。 候補 2 の「排水ポンプ場建設事業」について見ると、これまで本灌漑システムの湛水防除は、 Yom 川沿いの輪中堤防沿いに 30 年前に建設された小規模な排水樋門からの自然排水に依存する のみであった。したがって、近年の変動する洪水規模及び襲来時期の変化による農作物被害は増 加する一方であった。2011 年の大洪水時には約 50%の灌漑農地が最大 3 箇月間湛水し、早期収穫 米を除いた約 2,700 ha もの水稲が収穫不可となった。これらのことから本地区の排水改善の必要 性がこれまでにも増して高まり、ようやく排水改善事業を開始しようとしているところである。 その中核となる排水ポンプ場(全 15 箇所)の中で優先箇所の建設は、同地区の排水改善事業を進 めるためのパイロット事業になると考えられる。また、チャオプラヤ川中下流域の低平地の湛水 常襲地域における「灌漑システムの湛水防除モデル」として期待される。 上記 2 つのパイロット事業候補は何れも既存灌漑システムの改善のみならず、新規灌漑開発へ のモデル性に優れていると判断できる。しかし、洪水対策支援と云う本件開発調査の趣旨から見 ると、候補 1 の「幹線用水路を活用した放水路建設事業」が将来積極的に活用できる開発事業の モデルとしてより優れていると思われる。 iii) 建設工事期間から見た妥当性: 候補 1、候補 2 のパイロット事業とも、2013 年 5 月まで の本件調査期間内において現地再委託事業として実施が可能であると判断できる。工事には、 建設業者選定等の手続きの後、乾期を主体とする 2012 年 11 月~2013 年 4 月の約 6 箇月の工事 期間の確保が可能である。 候補 1 の「幹線用水路を活用した放水路建設事業」は、土工量が 40,000 m3、コンクリート量が 2,600 m3 程度と想定される。幹線用水路及び放流先の排水河川の仮締め切り工事、ゲート製作・ 据付等を伴う工事で、本工事には 4 ~5 箇月程度必要と思われるが、パイロット事業として本件 調査期間内において建設が可能である。鋼製ローラーゲートはピサヌロークにおいて製作可能で ある。 候補 2 の「排水ポンプ場建設事業」は、土木工事及びポンプ機器製作・据付が主な作業である が、本工事には候補 1 と同程度の 4 ~5 箇月が必要と思われる。工事は Yom 川接続水路の仮締め 国際協力機構(JICA) 3-24 ファイナル・レポート 切り工事を伴うが、雨期の 6 月~10 月の河川水位の高い時期を除けば工事は容易である。ただし、 ポンプを国外調達する場合は、工場製作・輸送・通関手続き等の所要期間が不確定要素である。 iv) 事業の緊急性に対する JICA 支援の必要性: 候補 1、候補 2 のパイロット事業とも RID と しての事業の緊急性は高く、早期実現に向けた RID 側の要望は高い。本事業地区はチャオプラ ヤ川中流域の洪水常襲低平地に位置し、本件緊急開発調査の対象地域の中で核心となる地域で ある。 プライチュンポン灌漑事業の改善は、現在、数多くの灌漑事業が早急な洪水対策を迫られてい る状況において、RID から調査団に対して要請のあった既存灌漑システムの洪水対策という点で、 本件緊急開発調査の目的に適っており、両事業とも支援を行う必要性は高いと判断する。ただし、 排水ポンプ場導入による排水改善事業は、湛水防除の効果を高めるためには、15 箇所の建設計画 の内の数箇所のポンプ場を同時に建設することが必要である。 v) プライチュンポン維持管理事務所及び RID の優先度: 同事務所及び RID での優先度は、 第 1 に「幹線用水路を活用した放水路建設事業」、第 2 に「排水ポンプ場建設事業」が挙げら れている。RID のプライチュンポン灌漑中期維持管理改善事業 6 箇年計画 (MTEF)(2011/12 年~2016/17 年)において、候補1「幹線用水路を活用した放水路建設事業」は 2011 年洪水時 の湛水被害が深刻であったことに鑑み、2012/13 年に実施する計画となっており、候補 2「排水 ポンプ場建設事業」と比べて緊急性がより高いということができる。 上記検討の結果は下表に示すところである。これより、パイロット事業はプライチュンポン灌 漑改善事業における候補 1「幹線用水路を活用した放水路建設事業」 (幹線用水路における放水工 の建設、km 56+151 地点)を第 1 優先事業、候補 2「排水ポンプ場建設事業」 (Khlong Go regulator and pumping Station の建設)を第 2 優先事業として提案する。 表 3.4.2 パイロットプロジェクト優先事業選定結果 選定基準 1. 放水工建設事業 2. 排水ポンプ場建設事業 1) 農業セクターとしての妥当性 ◎ ◎ 2) 事業のモデル性から見た妥当性 ◎ ○ 3) 建設工事期間から見た妥当性 ◎ ○ 4) 事業の緊急性に対する JICA 支援の必要性 ◎ ○ 3-25 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 2012/8/9, プライチュンポン幹線用水路及び放 水工計画地点 (km 56+151) 3.4.4. 2012/8/9, プライチュンポン放水工からの放流 先排水河川 (DR 15.8) パイロット事業の設計 (1) パイロット事業の概要 1) 概要 コンポーネント 2(灌漑施設)に係るパイロット事業は、RID の支援要請が強いプライチュン ポン灌漑システム改善事業 (Phlai Chumphon O&M Project)の 98 サブ事業の内、事業の緊急性・ 必要性が高く、本件調査の目的に適合していると判断される「幹線用水路放水路建設事業」を選 定した。本事業は、用水路に洪水バイパスとしての機能を積極的に取り込むことを意図している。 本事業によって、灌漑システムを灌漑農業のための用水供給だけでなく、洪水時には周辺生活地 域の洪水防御のための社会インフラ(洪水バイパス)として多目的に活用することでもある。Nan 川沿いにピサヌローク市街が広がる本地域では、プライチュンポン灌漑システムを利用した排水 機能の必要性は高く、排水機能を活用する場合は、用水路の安全を図るための放水路の設置が不 可欠である。放水路の計画においては、放水路位置・規模・放流量等の検討が最も重要な設計事 項となる。(設計の詳細は付属書 I 、 C-3 参照) 2) 施設の位置 RID の「幹線用水路放水路建設事業」は、設計が進められており、Phlai Chumphon の C-1幹線 用水路の 2 箇所の放水路の内、上流1箇所の設計見直しを行うものとする。 km 56+151.898 :Naresuan 取水口から Nan 川に沿った C-1 幹線水路,南方約 56km 地点 3) 施設の規模・放流量 RID の「Detailed Design」によれば、 現在の C-1 幹線用水路は素掘り水路であるが、近い将来 ライニング水路に改良する計画となっており、ライニング水路へ改修後の放水路計画である。 従って、パイロット事業として直ちに着工する場合においては、現況素掘水路での放水路の能 力も検討する必要がある。 また放流能力については、放水路地点の最大灌漑用水量(90cum/s、現況・改修後)の全量分を 二箇所の放水路で等分放流の計画である。上流側の放水路で 50%放流。その場合、幹線には残り の 50%が流下する。下流側で残りの 50%の全量を放水するには、幹線側にゲートを設け、幹線下 国際協力機構(JICA) 3-26 ファイナル・レポート 流に流さないようにして、初めて可能となる。厳密にはそうした問題を含んでいるが、下流側の 放水路設計に、幹線側の閉塞ゲートは設計されていない。 本パイロット事業に関しては、上流の放水路のみの設計積算まで検討し、工事は含まれないこ とから、RID の設計と同様レベルの設計で検討するものとする。RID の設計放流量は、幹線流下 可能量(90 cum/s)の 50%とし、その 10%を安全上考慮する。 放水路設計放流量 = 90.0 x 0.5 x (1.0+0.1) = 49.5 cum/s プライチュンポン幹線用水路 (C-1) ⇒ 放水路 ⇒ 排水路 DR.15.8 放水路計画平面図 計画放水路 排水路 DR. 15.8 プライチュンポン幹線用水路 (C-1) 放水路計画縦断面図 排水路 DR. 15.8 3-27 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) (2) RID 設計の見直し点 RID の設計では、Phlai Chumphon 幹線水路の水路ライニング改修後についてのみ放水路(Outlet Drainage Structure)の設計がなされており、現況状況での放水路能力の検討はなされていないこと から、この検討を加える。 また、Phlai Chumphon 幹線水路の水路ライニング改修時に Naresuan 取水口からの取水量が現 況より 10m3/s 増加する計画であるが、始点より 25km 区間のみであり、その下流は必要水量に変 更はない。計画必要水量、計画水路流下能力および現況流下能力は次のとおりである。 プライチュンポン幹線用水路 流量表 (c u m / s) 幹線用水路(C-1)流量設定区間 コンクリートライニング計画 始点 km. ~ 終点 km. 必要水量 流下可能量 0+0.000 ~ 10+608 150.532 153.351 10+608 ~ 24+920 128.375 152.516 24+920 ~ 40+760 102.298 137.214 40+760 ~ 52+63.628 90.000 94.958 52+63.628 ~ 58+718.042 90.000 93.561 km. 56+151.898 (計画放水路地点) 90.000 93.561 58+718.042 ~ 63+360 60.730 93.863 km. 63+240.740 (計画放水路地点)*1 60.730 93.863 63+360 ~ 72+351.008 60.730 136.896 72+351.008 ~ 79+873.186 60.730 127.571 *1:本パイロット事業には含まれない。 現況 放水路 流下能力 放流量 > 140 > 140 = 100 = 90 = 90 = 90 ⇒49.5cum/s = 60 = 60 ⇒49.5cum/s = 60 = 60 (3) 水理設計 (km. 56+151.898: 放水路施設) 1) 概要 RID 第 3 地区操作管理事務所において、プライチュンポン用水修復工事に関する新設放水路施 設の計画及び施工のための詳細設計は完了している。 放水施設の水理条件は以下のとおりである。 ゲートピアー側壁天端標高 EL. 44.103m 水路堤防天端 EL. 43.303m WL. 42.603m HWL. 41.088m 幹線水路(C-1)km 56+151.898 計画水位 放水施設下流排水路 DR. 15.8 2011 年洪水最高水位 放水施設計画放流量 49.5cum/s RID プライチュンポン操作管理改良事業の調査・設計のための設計基準に基づく。 2) 灌漑用水路 km. 56 + 151.898 の流量(km. 56+100 測量横断面) i) RID: コンクリートライニング横断面 (km. 56+100 放流施設上流水位) 流下水深 H=4.600m (必要流下流量 90.000 cum/s), 水路底幅 B=15.000m, 側法勾配 m=1:2.0, 水路縦断勾配 I=1/20,000, マニングの粗度係数 n=0.018 (コンクリートライニング), 水路堤防 天端 EL=44.106m 国際協力機構(JICA) 3-28 ファイナル・レポート 流下流量 = 93.561 cum/s > 90.000 cum/s ----------O.K. 余裕高 = EL44.106- WL42.606 = 1.5m 3-29 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) ii) 現況素掘り測量横断面 (放流施設上流水位) 必 要 流 下 量 90.000 cum/s, マ ニ ン グ の 粗 度 係 数 n=0.035 ( 素 掘 り 断 面 ), 水 路 縦 断 勾 配 I=1/20,000, 水路底標高 EL=37.300m, 堤防天端標高 EL=43.600m 計算結果, 流下流量 Q=90.000 cum/s ⇒ 流下水深 H=5.993m , 水位 WL=43.293m, 余裕高 fb =EL 43.600m – WL 43.293m = 0.307m > 0.0m----O.K. 国際協力機構(JICA) 3-30 ファイナル・レポート 3) 排水路 DR. 15.8 水位―流量(放流施設下流水位) 排水路中心線 WL.37.919 側法勾配 3.80m 1:2.0 EL.34.119 15.00 m n=0.12 河床勾配 = 1/500 排水路 DR.15.8 水深 m 0.000 0.500 1.000 1.500 2.000 2.500 3.000 3.500 3.800 4.000 4.500 5.000 5.173 5.500 6.000 6.500 7.000 7.500 7.761 8.000 8.367 8.500 9.000 9.381 水位 in m 34.119 34.619 35.119 35.619 36.119 36.619 37.119 37.619 37.919 38.119 38.619 39.119 39.119 39.619 40.119 40.619 41.119 41.619 41.880 42.119 42.619 42.619 43.119 43.500 流下面積 sq.m 0.000 8.000 17.000 27.000 38.000 50.000 63.000 77.000 85.880 92.000 108.000 125.000 131.119 143.000 163.071 187.571 213.071 239.571 253.801 267.071 287.8958 295.571 325.071 348.221 潤辺 m 15.000 17.236 19.472 21.708 23.944 26.180 28.416 30.652 31.994 32.889 35.125 37.361 38.135 39.597 50.833 53.069 55.305 57.541 58.708 59.777 61.419 62.013 64.249 65.953 勾配 1 / 500 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.0002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 粗度 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 0.12 流速 m / sec 0.000 0.223 0.340 0.431 0.507 0.574 0.634 0.689 0.720 0.740 0.788 0.834 0.849 0.877 0.811 0.865 0.916 0.965 0.989 1.011 1.044 1.055 1.098 1.130 流量 cum/sec 0.000 1.787 5.787 11.637 19.268 28.684 39.920 53.028 61.817 68.069 85.107 104.209 111.317 125.445 132.190 162.200 195.148 231.068 251.010 269.995 300.510 311.971 357.042 393.492 摘要 計画洪水位 WL37.919 計画洪水位+49.5cum/s 2011年最高洪水位 2011最高水位+49.5cum/s 堤防天端標高 排水路水位計算 計画排水位+49.5 = WL.37.919 ( Q = 61.817 cum/s ) + 49.5 cum/s = 111.317 cum /s ⇒WL.39.119m 2011年最高洪水位+49.5 = WL.41.88 ( Q = 251.010 cum/s ) + 49.5 cum/s = 300.510 cum /s ⇒WL.42.619m [1] 計画排水量+放水量 = WL. 37.919 (Q= 61.817 cum/s) + 49.5 cum/s = 111.317 cum /s ⇒ WL. 39.119 計画排水位 WL. 37.919 m は放水施設下流矩形水路敷標高 EL 37.918m とほぼ一致し、この水位 に放流量 49.5 cum/s が加わった場合の水位も WL. 39.119m であるが、49.5 cum/s の等流水深 2.279m (WL=40.197m)以下であり、放流能力に影響はない。 [2] 排水路 2011 年最大洪水位+49.5 cum/s = WL. 41.88 (Q= 251.010 cum/s) + 49.5 cum/s = 300.510 cum /s ⇒WL. 42.619m 排水路水位が 2011 年洪水最高水位の場合、あるいは 49.5 cum/s 加わった水位はボックスカルバ ート上面より高い水位であり、計画幹線用水路(コンクリートライニング WL 42.603m – 90 cum/s) の場合排水路水位 WL. 42.619m が高く 49.5 cum/s は流れないばかりか、流量は小さいが逆流する ので、放水ゲートは全閉する。また、現況幹線用水路水位は WL 43.293m (90 cum/s)と 0.674m の水 位差があり、49.5 cum/s は流下する。 3-31 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 4) 放流施設の流入部を堰と判断した場合の越流計算 ゲート: 幹線水路水位WL 41. 744m( 流量4 9 .5 cu m/ s) 以下全開、 WL 41. 744m以上ゲート 調節 h 1 /L = Formula 越流係数 堰水深 流量 幹線水位 堰水位 下流水位 Index 堰水位 39.003 0 0 a 0.000 0.000 39.500 0.497 0.0497 b 1.556 4.907 39.592 39.500 39.488 40.000 0.997 0.0997 b 1.560 13.979 40.186 40.000 39.986 40.500 1.497 0.1497 b 1.564 25.789 40.780 40.500 40.485 41.000 1.997 0.1997 b 1.569 39.840 41.376 41.000 40.984 2.3055 0.23055 b 1.571 41.744 41.3085 41.293 49.5 cum/流下時 41.309 49.500 41.500 2.497 0.2497 b 1.573 55.850 41.973 41.500 41.483 ゲート調節 42.000 2.997 0.2997 b 1.577 73.633 42.570 42.000 41.981 ゲート調節 42.027 3.024 0.3024 b 1.577 42.603 42.027 42.007 Concrete Canal WL.42.603、ゲート調節 74.640 42.6035 3.6005 0.36005 b 1.582 43.293 42.604 42.582 Existing Canal WL.43.293 、ゲート調節 97.266 広頂堰の越流公式 Q = C · N · B0 · h 1 where, 3/2 3 Q : 流下可能量 (m /sec) C : 越流係数(ゴビンダ ラオの式) a式 0 < h 1 /L < 0.1 b式 0.1 < h 1 /L < 0.4 c式 0.4 < h 1 /L < (1.5 to 1.9) C = 1.444 + 0.352 (h 1 /L ) d式 (1.5 to 1.9) < h 1 /L C = 1.785 + 0.237 (h 1 /D ) h 1 : 越流水深 m 0 : 両岸側法勾配 h 1 = WL 0 EL 1 B 0 : 平均水面幅 B 0 = (B 1 + B 2 ) / 2 m0 = B 1 : 越流堰幅 B1 = B 2 : 越流水面幅 L : 流下方向の堰の長さ D : 堰の高さ 国際協力機構(JICA) 0.022 C = 1.624 (h 1 /L ) C = 1.552 + 0.083 (h 1 /L ) (m) 0.0 (m) 3.00 m B 2 = B 1 + 2 m 0 ·h 1 (m) L = 10.00 m D = 1.00 m 3-32 ファイナル・レポート 5) 放水路放流能力の確認 放水路放流能力の検証結果 Case 幹線水路 条件ケース 幹線水路水位 (90cum/s) a-1) コンクリート ライニング 余裕高1.5m a-2) コンクリート ライニング b-1) 現況素掘り b-2) 現況素掘り WL.42.603 m WL.42.603 m 余裕高1.5m WL.43.293 m 余裕高0.307m WL.43.293 m 余裕高0.307m 49.5cum/s 流下 49.5cum/s 堰・ゲート部水位 49.5cum/s 流下 下流排水路 水位 WL 下流排水路 合計流量 >> OK WL.41.744 m >> OK WL.39.119 m 111.3 cum/s ( >> OK) (WL.41.744 m) << NG WL.42.619 m 300.5 cum/s WL.39.119 m 111.3 cum/s WL.42.619 m 300.5 cum/s 下流排水路水位は 上流幹線水路より 高い。 ゲートは全閉とし、逆流させない。 >> OK WL.41.744 m >> OK ( >> OK) (WL.41.744 m) << NG 下流排水路水位は 上流幹線水路より 0.674m低く、49.5cum/sは流下可能。 ただし、幹線余裕高は0.307mと小さい。 >> OK Case *-1) : 下流排水路検討水位 = 下流排水路計画排水流量 61.817cum/s + 放水路放流量 49.5cum/s Case *-2) : 下流排水路2011年洪水最高水位 = 下流排水路2011年洪水最大 251.010cum/s + 放水路放流量 49.5cum/s RID の詳細設計では、下流排水路 RD. 15.8 において計画排水位 WL. 37.919m の場合について検 討し、49.5 cum/s がゲート部を流下し、ボックスカルバート部を十分余裕を持って開水路で流下、 計画排水位 WL. 37.919m の上に水脈が流下するとしている。上表 Case a-1 の下流排水路に 49.5 cum/s を加算していないケースである。 放水施設平面図 排水路 DR. 15.8 幹線用水路 (C-1) ⇒ 排水施設 ⇒ 排水路 DR. 15.8 放水施設縦断面図 排水路 DR. 15.8 3-33 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 6) 水理設計に対する提言 水理設計の見直し結果に対する提言 項目 1.ゲートの水理計 算 見直し内容 対応 (1) Gate 部の流量は、もぐり流出とし、もぐ (1) もぐり流出の正しい流量公式に修正す りオリフィスの流量公式を用いて算定さ る必要がある。 RID, Design Criteria の公式の れている。この流量公式は、“RID, Design Criteria for Survey-Design of The 2*g^0.5 = 6.264 は (2*g)^0.5 = 4.427 に Improvement of Phlai Chumphon O&M 修正の必要がある。 Project ” か ら 引 用 さ れ て い る が 、 同 ⇒ただし、実際は工事完了後、現地で上 Criteria に記載されている式はミスプリ 流水位と開度と下流水位の関係および と思われ、流量が過大評価(head loss 過 水路流下量の測定を行って、O&M 基準 小評価)されている。 を作らなければならない。 (2) 流下能力計算確認について、下流側の (2) 下流側の排水路 DR. 15.8 の水位を放水 排水路 DR. 15.8 の水位について放水路流 路流量を考慮して流下能力の確認をしな 量 を考慮していない。 ければならない。 従って、排水設計水位には、49.5cum/s を加えた水位に修正し、2011 年洪水時の 最高水位とした場合も上乗せして上昇し た水位で検討する必要がある 2. 放水路施設の水 (1) ボックスカルバート内は、開水路と考 (1) 設計上流水位、設計流量により各種損失 理計算 え、限界水深で manning 公式による等流計 水頭を計算し、排水路下流水位により、開 算を行い、底勾配を決定しているが、排水 水路流か管路流かを判断し、適切な水理計 路の設計水位を 2011 年洪水時の最高水位 算を行う必要がある。 と考えた場合、ボックスカルバート内は管 ただし、2011 年最高水位時に 49.5cum/s を 加えた排水路水位は、改修コンクリートラ 路流となり、その検討はされていない。 イニング用水路設計水路より高く、放水路 としては使えない。(放水ゲート閉鎖) 3.バッフルシュー (1) バッフルシュートの設計は、RID, Design (1) 下流水位が高くなった場合には、水ク ッション効果による減勢効果が期待で ト Criteria に 基 づ い て 適 切 に行われてい きるので、下流水位が高い場合の減勢施 る。ただし、この阻板が減勢効果を発揮 設を考える必要は特にないが、乾季の排 するのは、下流水位が低い場合に限られ 水路 DR.15.8 の水位がない場合も想定さ る。 れるのでバッフルシュートの設計は妥 当である。 (2) 放流水のジェットフローにより接続排水 (2) 洗掘防止を確実に行うため、接続排水路 路の右岸側法面及び水路底が洗掘される の右岸側法面及び水路底に吸出し防止マ 恐れがあるが、保護工として現設計のリッ ットを敷き、その上にふとん篭を設置する プラップのみでは不十分と判断される。 方法が妥当である。然し、現地調査による とリップラップの岩塊の径は 50cm であ り、流速上から問題ないと判断し、吸い出 し防止マットを敷くこととする。 国際協力機構(JICA) 3-34 ファイナル・レポート (4) 構造設計 (幹線用水路 km. 56+151.898 放水施設) 1) 概要 RID プライチュンポン維持管理事務所において、プライチュンポン用水修復工事に関する新設 放水路施設は、計画及び施工のための詳細設計は完了している。構造設計は、水理設計と同様、 RID プライチュンポン維持管理改善事業の調査・設計のための設計基準に基づく。 2) ボックスカルバートの比較設計 応力計算、鉄筋量計算等が行われているが、全体的に安全側の設計となっている。すなわち、 部材も厚く、鉄筋量も必要以上に配筋されている。部材厚を減らし、比較した構造計算結果を以 下に示す。部材を縮減することは可能であるが、揚圧力を考慮し変更しない。 ボックスカルバート部の構造設計比較 設計項目 1. 設計基準 2.検討断面及び緒言 構造全幅 3連ボックス、1連内空幅 内空高さ 土砂被り 天端スラブ厚 底版スラブ厚 側壁厚 内壁厚 5.配筋計画 (鉄筋径、鉄筋間隔) (1) 主筋 天端スラブ 上面端節部 上面中央節部 下面 底版スラブ 下面端節部 下面中央節部 上面 側壁 上部外面 下部外面 内面 内壁 両面 (2)配力筋(流下方向) 6. 主要数量 Concrete, fc’=210 kg/cm 2 Form work Reinforcement bar, SD30 現設計 王立灌漑局プライチュンポン操 作管理改良事業測量設計基準に よる B = 11.50 m b = 3.30 m h = 3.60 m Hs = 1.90 m tt = 0.60 m tb = 0.60 m ts = 0.40 m tp = 0.40 m [email protected], [email protected], [email protected], [email protected], [email protected], [email protected], [email protected], [email protected], [email protected], [email protected], [email protected], 全延長 L= 1,690 m3 2,960 m2 160 ton 比較設計 同左 B = 11.50 m (同左) B1 = 3.30 m (同左) H1 = 3.60 m (同左) Hs = 2.10 m tt = 0.40 m tb = 0.45 m ts = 0.40 m (同左) tp = 0.40 m (同左) As = 31.42 cm2/m As = 31.42 cm2/m As = 15.71 cm2/m As = 31.42 cm2/m As = 31.42 cm2/m As = 15.71 cm2/m As = 31.42 cm2/m As = 31.42 cm2/m As = 15.71 cm2/m As = 15.71 cm2/m As = 10.05 cm 2/m 86 m [email protected], As = 10.05 cm2/m [email protected], As = 20.11 cm2/m [email protected], As = 10.05 cm2/m [email protected], As = 15.71 cm2/m [email protected], As = 15.71 cm2/m [email protected], As = 10.05 cm2/m [email protected], As = 10.05 cm2/m [email protected], As = 15.71 cm2/m [email protected], As = 10.05 cm2/m [email protected], As = 10.05 cm2/m [email protected], As = 10.05 cm 2/m 全延長 L= 86 m (同左) 1,350 m3 (-340 m 3, -20%) 2,870 m2 (-90 m2, -3%) 119 ton (-41 ton, -26%) 3) 浮力に対する検討 一方、浮力に対する検討はされていない。現地の条件によっては浮力の検討は必要ない場合も ある。然し、素掘り用水路に近接して設けられ、ゲートによる空虚状態が想定されることもあり、 以下の通り検討したところ、現部材厚で浮力の安全性がぎりぎり保たれていることから、検討後 も部材の変更は行わないこととした。 3-35 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 構造物の浮力に対する安定性の検討 荷重条件及応力度の検討等から、部材厚を縮小することが可能であるが、浮力に対する安定性の検討を行った場合原案が安全といえる。 ケース1 Box部 ゲート閉時、空虚 ケース1では、下流側水位が高くなる場合、下流からボックス内にフリーで浸入するので、地下水位とボックス内水位はほぼ等しいと考えられ、 浮上りに対する検討は必要ないが、安全上ボックス内空虚で頂版上面まで地下水位を考慮した場合を検討した。 Original Design Section Concrete C断面 C重量 浮力 Recommended Design Section (地下水位GWL.42 .003 m) 11.5*4.8-3.3*3.6*3 19.56 m2 46.944 t Concrete C断面 C重量 11.5*4.60 52.9 t 浮力 必要土被り (地下水位GWL.42 .003 m=頂版上面) 11.5*4.45-3.3*3.6*3 15.535 m2 37.284 t 11.5*4.45 51.175 t (52.9*1.2-46.944)/11.5/1.8 0.799 m 設計最小土被り 0.800 m 用地境界内最小盛土 必要土被り (51.175*1.2-37.284)/11.5/1.8 1.166 m 設計最小土被り 1.000 m 用地境界内最小盛土 土砂重量 11.5*1.8*0.8 16.56 t 土砂重量 11.5*1.8*1.0 20.7 t 検討 (46.944+16.56)/52.9 1.20 検討 (37.284+20.7)/51.175 1.1 3 = 1.2 OK < 1.2 NG ケース2 Gate部 ゲート&ストップログ閉時、空虚 ケース2では、洪水時にゲートとストップログを共に閉じ、かつ内水が無い場合のみに、浮上りに対する検討が必要になる。 現況用水路の設計水位を地下水位とした場合を検討する。(WL.43.293m, 現況 No LINING, 90.0cum/s 流下時水位) Original Design Section Proposed Design Section (without cantilever at footing) ゲート部h 浮力断面 自重底版 自重側壁 自重ピア ①から③ 計重量 (地下水位GWL.43.29 3m=現況幹線最高水位) 43.293-39.003+1.00 = 5.29 m 5.29*12.6 = 66.65 t 12.6*1.0 = 12.60 ①m2 (0.6+0.8)*5.1 = 7.14 ②m2 1.0*5.1*2 = 10.20 ③m2 29.94 m2 29.94*2.4 = 71.856 t ゲート部h 浮力断面 自重底版 自重側壁 自重ピア ①から③ 計重量 (地下水位GWL.43.29 3m=現況幹線最高水位) 43.293-39.003+1.00 = 5.29 m 5.29*12.6 = 66.65 t 12.6*1.0 = 12.60 ①m2 (0.6+0.8)*5.1 = 7.14 ②m2 1.0*5.1*2 = 10.20 ③m2 29.94 m2 29.94*2.4 = 71.856 t 不足分 浮力*1.2-自重 = 張り出し 張出上土砂 計 1.7*1.0*2*1.4 = 1.7*1.0*(5.1+2.6) = 8.124 t >0 N.G. 不足分 浮力*1.2-自重 = 8.124 t >0 N.G. 4.76 t 13.09 t 17.85 t 張り出し 張出上土砂 計 1.7*1.0*2*1.4 = 1.7*1.0*(5.1+2.6) = 4.76 t 13.09 t 17.85 t 浮力安全率 (17.85+71.856)/66.65= 1 .35 t > 1.2 OK (ゲート操作台、巻き上げ機等を考慮すれば問題ない。) コンクリ自重のみ (71.856+4.76)/66.65 = ケース3 Box直上流フリューム部 1 .15 > 1 .1 OK 浮力安全率 底版張出し有 (17.85+71.865)/66.65 = 1 .35 > 1.2 OK なお、張り出し無の場合は安全率が1.1以下。 底版張出し無 71.856/66.65 = 1 .08 < 1.1 NG ゲート閉時、空虚 ケース3は、ケース1と同様に、下流側水位が高くなる場合、下流からボックス内を通ってフリーで水が浸入するので、地下水位とボックス直上 流のフリューム内水位はほぼ等しいと考えられ、浮上りに対する検討は必要ないと考えられる。なお、参考までに、下記地下水位、フリューム内 空虚の条件で、底版張出し無しの場合について、側壁両側に土圧の壁面摩擦による鉛直荷重を考慮して検討した。 現況幹線水路水位WL43..293m(90.0cum/s流下時)の地下水位では安全性に問題があり、WL41.88mに地下水位を下げる必要がある。 Original Design Section Recommended Design Section ケース3では、下流BOXの埋め戻しを砂礫材とし、地下水位を下げる。 HWL41.88 (2011年max) 最大部h 41.88-38.003+0.8 = 4.677 m 浮力断面 4.677*12.6 = 58.9302 t 自重底版 12.6*0.8 = 10.08 ①m2 自重側壁 (0.6+0.8)*6.1 = 8.54 ②m2 ①から② 18.62 m2 カットオフ 12.6*0.5*1.2 = 7.56 t 計重量 18.62*2.4+7.56*1.4 = 55.272 t 底版張出し無しの場合、側壁両側に、土圧の壁面摩擦による鉛直 成分の50%を考慮する。 地下水位: HWL41.88 (2011年max) 最大部h 41.88-38.003+0.8 = 4.677 m 浮力断面 4.677*12.6 = 58.930 t 自重底版 12.6*0.8 = 10.08 ①m2 自重側壁 (0.6+0.8)*6.1 = 8.54 ②m2 ①から② 18.62 m2 カットオフ 12.6*0.5*1.2 = 7.56 t 計重量 18.62*2.4+7.56*1.4 = 55.272 t 主働土圧の合力 0.333*1.8*6.9^2/2 = 壁面摩擦角 30 * 2/3 = 鉛直土圧の50% 14.269*sin(20deg)/2 = 14.269 t 20 deg. 2.440 t 不足分 不足分 不足分 浮力*1.2-(自重+鉛直土圧)= 浮力*1.1-(自重+鉛直土圧)= 浮力*1.0-(自重+鉛直土圧)= 10.564 t > 0 4.671 t > 0 -1.222 t < 0 1.7*1.0*2*1.4 = 1.7*2.0*6.1*1.0 = 不足分 不足分 浮力*1.2-自重 = 浮力*1.1-自重 = 15.44424 t > 0 9.55122 t > 0 張り出し 張出上土砂 対策計 1.7*1.0*2*1.4 = 1.7*2.0*6.1*1.0 = 4.76 t 20.74 t 25.5 t 張り出し 張出上土砂 対策計 浮力安全率 (25.5+55.272)/58.9302= 1.3 7 > 1.2 OK 浮力安全率 底版張出し有 (25.5+55.272)/58.930 = コンクリ自重 (55.272+4.76)/58.9302 = 国際協力機構(JICA) 1.0 2 = 1.0 OK 底版張出し無 (55.272+2.44*2)/58.930 = 3-36 4.76 t 20.74 t 25.5 t 1 .37 > 1.2 OK 1 .02 = 1.0 OK ファイナル・レポート 4) 構造設計に対する提言 構造設計は、近年、日本においては施工性が考慮された設計に重点が置かれ、これまでの経済 性重視の視点とは異なった判断がされている。RID の設計基準においても今後そうした観点から の見直しが図られると思われる。現段階では、RID の設計は妥当と判断される。 構造設計の検討結果に対する提言 構造 検討内容 提言 (1) 側壁、底版一体のフリューム構造 (1) 底版に継目を設け、L 型構造とす として解析されている。側壁の部材 れば、底版上面は最小鉄筋量の配置 厚、鉄筋の径・配置は適切に設計さ でよく、鉄筋量を減らすことができ れているが、側壁高に比べて底版幅 るが、左右岸非対称形となり地盤版 が広く(B/H=2.2)、底版中央部の曲 力、水平力の不均一が発生すること げモーメントが非常に大きくなる から、一体のフリューム構造として ので、底版中央部上面の鉄筋量も多 の判断は妥当である。 くなっている。 (2) 底版端部は 0.0m~1.70m 張出し構 (2) 底版端部の張出しをなくする。 造となっているが、基礎地盤を約 ただし、ボーリング調査で捕捉でき 1.0m 置換すれば、張出し構造とし ていない軟弱層対策としては妥当 なくても十分な地盤支持力が得ら である。従って、地質調査の不足を れるので、置換えするべきである。 カバーする設計上の対処手法であ り、妥当である。置換えは行う。 (3) 側壁にテーパーをつけているが、 (3) トランジションの長さが約 14m 側壁高が 0.0m~5.10m に変化して と短いことから、テーパーをなく おり、側壁下端厚も変化することか し、側壁下端厚で上端まで等厚とす ら、型枠設置、鉄筋加工・組立等の れば施工性が良くなる。 施工性が良くない。 ただし、経済的ではないので、設計 は妥当といえる。 2.角落し操作台 (1) スラブで、部材厚、鉄筋の径・配 置とも適切に設計されている。 3.ゲート・巻上 (1) 隔壁下部を除き各部材の部材厚、 げ操作台等 鉄筋の径・配置は適切に設計されて いる。 (2) 底版端部は 1.70m 張出し構造とな (2) 入口漸変部と同様。 っているが、入口漸変部と同様。 (3) 計画地盤面より下の側壁にテー (3) 入口漸変部と同様。 パーをつけている。入口漸変部と同 様。 1.入口漸変部 (4) 計画地盤面より下の隔壁には、応 (4) 隔壁下部を必要最小鉄筋量で配 力度上必要な鉄筋量に比べてかな 筋し直すことも可能だが、安全性を り多めの鉄筋量となっている。 配慮した鉄筋としてもよい。 4.ボックス上 流 (5) ゲートは幅 3.0m×高 4.0m で設計 (5)余裕高を 0.2m とし、ゲート高を されているが、設計水深に対する 3.8m とすればゲート製作費を 5% freeboard が 0.4m とやや大きく、も 程度削減できる。余裕高は基準から う少し小さくできる。 0.28m、ゲート高さは最小 3.88m, 設 計通りとする。 (1) 入口漸変部と同じコメント。 (1) 入口漸変部と同じ対応である。 3-37 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 構造 検討内容 提言 5. ボックス・ (1) 底版及び頂版の厚さが必要部材 (1) 底版及び頂版の部材厚を薄くし カルバート 厚よりも厚く、鉄筋量も応力度上必 て荷重、断面力を再計算し、応力度 要な鉄筋量に比べてかなり多めで 上必要な最小鉄筋量で配筋し直 ある。 す。この対策を行えば、Box culvert 部のコンクリート及び鉄筋数量を 20%程度減らすことができる。(* 浮力の検討に対する考慮は必要) (2) 継目部に止水板は設けられてい (2) 基礎地盤の支持力は十分あるが、 るが、ダウエルバーは設けられてい 不等沈下を防止するため、ダウエル ない。 バーを設置するのが望ましい。 (1) 側壁、底版一体のフリューム構造 6.出口漸変部 として解析されている。側壁の部材 厚、鉄筋の径・配置は適切である。 7.バッフル・シ (1) 出口と同様、側壁、底版一体のフ (1) テーパーをなくし、側壁下端厚で ュート リューム構造として解析されてい 上端まで等厚とすれば施工性が良 る。側壁の部材厚、鉄筋の径・配置 くなる。 は適切に設計されているが、底版が ただし、経済的ではないので、設計 傾斜しており、側壁のテーパーは施 は妥当といえる。 工性を悪くする。 8.その他 (1) 型枠設置及び鉄筋組立の施工性 (1) 均しコンクリートの線を表示する を良くするために、均しコンクリー 方が良い。RID 方式では、工事習慣 ト(厚さ 10cm)が必要であるが、図 で均しコンクリートは積算上処理 面に均しコンクリートの線が表示 されているので、問題はない。 されていない。 (2) ボーリング調査結果によれば、起 (2) 軟弱地盤の層厚は 1m と薄く、し 点付近の BH-18 の標高 37m~38m かも構造物の底面にほぼ接してい ることから、砂礫で置換すること に N 値 3 の軟弱地盤が確認されて いる。この層は入口からボックス が必要である。(本見直し設計で カルバート上流部までの構造物の は掘削と置き換えを計上してい 底面付近であり、基礎処理が必要 る) である。 (3) 掘削法面勾配が 1:1 と緩いが、粘 (3) 掘削法面勾配を 1:0.5 に変更すれ 性地盤であり、掘削高さを考慮して ば、掘削・埋戻数量を減らすことが も 1:0.5 で十分安定であると判断さ できる。工事基準に準拠しているの れる。 であれば良い。 (4) 放流水のジェットフローにより (4) 洗掘を確実に防止するため、接続 接続排水路の右岸側法面及び水路 排水路の右岸側法面及び水路底に 底が洗掘される恐れがあるが、保護 吸出し防止マットを敷き、その上に 工として現設計のリップラップの リップラップを設置する。現地周辺 みでは不十分と判断される。 のリップラップは粒径が 50cm 以上 と大きく、問題ない。 (5) 工事期間中、幹線用水路の流水を (5) 鋼矢板と大型土嚢を組み合わせた 止めることができず、ドライの状態 仮締切工が必要である。現地では、 で工事ができない。 水路内に大きく迫り出した仮締め 切り工法もある。 (6) 図面に起点部の幹線用水路との (6) 起点部の幹線用水路との工事境界 工事境界が明示されていない。 を明示し、この工事で施工する幹線 用水路のコンクリートライニング 及び法止め工の範囲を図面に明示 するか、放水施設のみの表示とす る。 注) 太字は、対策の実施が特に望まれる項目を示す。 国際協力機構(JICA) 3-38 ファイナル・レポート (5) 施工工程計画 (幹線用水路 km. 56+151.898: 放水施設) 放水施設施工工程計画概要表(プライチュンポン幹線用水路C-1,km56+151.898) 2012 No. 項目 数量 単位 11月 2013 12月 1月 2月 3月 雨期 1. 2. 3 5 6 7 8 1 式 移動及び運搬 1 式 上流水回し・仮締め切り工事 1 式 下流水回し・仮締め切り工事 1 式 仮設工事 土工事 2,210 cum 機械掘削 11,590 cum 人力掘削 1,540 cum 機械盛土 10,490 cum 人力盛土 1,400 cum 砂礫基礎 540 cum コンクリート工事 無筋コンクリート 170 cum 鉄筋コンクリート 2,650 cum 型枠 5,620 sqm 鉄筋加工・組み立て D12 860 kg 鉄筋加工・組み立て D16 64,300 kg 鉄筋加工・組み立て D20 114,680 kg 鉄筋加工・組み立て D25 27,220 kg 雑工事 ハンドレール 95 m ゴム止水板 Aタイプ 150 m ゴム止水板 Cタイプ 160 m エラスティックフィラー 伸縮板1cm厚 90 sqm 収縮目地材 130 sqm ジョイントシール材 420 sqm 水門工事 製作図作成 1 式 鋼製ゲート幅 3.0m x 高4.0m 巻上機付製作 3 門 角落としゲート 幅3.00 m x 高4.00 m製作 1 式 鋼製ゲート搬入・据付・調整 3 門 角落としゲート搬入・据付・調整 1 式 現地塗装・試験 1 式 金物工事 屋根工事 1 ヶ所 梯子(操作台昇降用) 2 ヶ所 L型鋼据付 2 ヶ所 道路工事 植生 10 7,370 sqm 表土剥ぎ取り アスファルト舗装 9 摘要 準備工事 現場事務所及び作業員宿舎 伐開 4. 4月 乾期 625 sqm 1,220 sqm 引渡用整備 場内整備 1 式 車両及び道具整備 1 式 引渡検査 操作・管理指導 1 式 最終引渡検査 1 式 3-39 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) (6) 見直し事業費 (放水施設 幹線水路 C-1 km. 56+151.898) Table-2 放水施設(幹線水路C-1 km. 56+151.898)事業費計算書 番号 項目 単位 数量 単価 積算 計 放水施設(幹線用水路C-1 km.56+151.898) 1. 土工事 1.1 - 伐開(機械) sq.m. 7,365.00 18.25 1.2 - 表土剥取(機械) cu.m. 2,210.00 17.06 37,702.60 1.3 - 土砂掘削(機械) cu.m. 11,590.00 53.06 614,965.40 1.4 - 土砂掘削(人力) cu.m. 1,543.70 113.50 175,209.95 1.5 - 土砂盛土(機械締固め、締固度 95 %) cu.m. 10,490.00 159.86 1,676,931.40 1.6 - 土砂盛土(人力締め固め) 134,411.25 cu.m. 1,400.00 113.57 158,998.00 2. 砂礫0.2m厚敷き固め cu.m. 535.70 1,137.35 609,278.40 3. 無筋コンクリート(均しコンクリート) cu.m. 174.00 2,003.42 348,595.08 4. 鉄筋コンクリート cu.m. 2,645.00 2,852.19 7,544,042.55 5. コンクリートライニング(水路) cu.m. 46.00 2,551.01 117,346.46 6. 鉄筋金網 5 mm. @ 0.20 m. sq.m. 456.00 62.51 28,504.56 7. 表面塗装 0.50 mm厚 sq.m. 456.00 45.50 20,748.00 8. 型枠・足場 sq.m. 5,616.00 582.77 3,272,836.32 9. 鉄筋 9.1 - DB.12 mm. kg. 863.00 30.84 26,614.92 9.2 - DB.16 mm. kg. 64,300.00 30.73 1,975,939.00 9.3 - DB.20 mm. kg. 114,700.00 30.53 3,501,791.00 9.4 - DB.25 mm. kg. 27,220.00 30.53 831,026.60 10 手すり m. 95.00 1,235.72 117,393.40 11 止水板 タイプ "A" m. 151.00 598.00 90,298.00 12 止水板 タイプ "C" m. 159.00 230.00 36,570.00 13 エラスティックフィラー 厚1cm sq.m. 94.00 360.00 33,840.00 14 継ぎ目板 sq.m. 129.00 46.92 6,052.68 15 ジョイントシーラー厚1cm x 幅3cm. m. 416.00 528.00 219,648.00 16 鋼製ゲート幅3.00m x 高4.00 m巻上機付 + ゲート戸当たり 式 3.00 1,050,000.00 3,150,000.00 17 角落ゲート幅3.00m x 高0.90m x 4枚 (3.6m) + ゲート戸当たりx3ヶ所 式 1.00 1,350,000.00 1,350,000.00 18 鋼製屋根工事(ゲート巻上機用) ヶ所 1.00 100,000.00 100,000.00 19 操作台用梯子 ヶ所 2.00 50,000.00 100,000.00 20 水路内ステップ ヶ所 3.00 33,000.00 99,000.00 21 整形リップラップ 0.50 m. 厚 cu.m. 449.00 1,085.95 487,591.55 22 捨石リップラップ 0.50 m. 厚 cu.m. 230.00 760.20 174,846.00 23 L-型鋼 100x100x12 mm. (17.8 kg./m.) 中間ピア防護用 ヶ所 2.00 10,000.00 20,000.00 24 アスファルト舗装(管理用道路) sq.m. 1,175.00 274.21 322,196.75 25 植生 sq.m. 2,163.00 23.23 小計 (A) 仮設工事費 % 5% 1,371,631.22 小計 (B) 予備費 50,246.49 27,432,624.36 28,804,255.57 % 10% 2,880,425.56 直接工事費 計 31,684,681.13 間接費率 "F" 及び 間接費 1.2223 間接費率 "F"を考慮した契約工事費 7,043,182.23 38,727,863.36 現地コンサルタントによる施工管理費 - 主任施工管理技術者 式 -補佐施工監理技術者 式 小計 (C) 396,000.00 1,346,400.00 40,074,263.36 約 40,100,000 総合計 注:間接費率"F"は直接工事費に対する間接費の率である。これには管理費、銀行利子、利益そして税金が含まれる。 国際協力機構(JICA) 950,400.00 3-40 ファイナル・レポート (7) 見直し数量 放水施設(幹線水路C-1 km. 56+151.898)見直し数量計算比較表 番号 項目 単位 数量 数量 (王立灌漑局) (見直し検討) 放水施設(幹線用水路C-1 km.56+151.898) 1. 土工事 1.1 - 伐開(機械) sq.m. 7,300.00 7,365.00 1.2 - 表土剥取(機械) cu.m. 2,725.00 2,210.00 1.3 - 土砂掘削(機械) cu.m. 28,650.00 11,590.00 1.4 - 土砂掘削(人力) cu.m. 300.00 1,543.70 1.5 - 土砂盛土(機械締固め、締固度 95 %) cu.m. 31,150.00 10,490.00 1.6 - 土砂盛土(人力締め固め) cu.m. 7,270.00 1,400.00 2. 砂礫0.2m厚敷き固め cu.m. 390.00 535.70 3. 無筋コンクリート(均しコンクリート) cu.m. 195.00 174.00 4. 鉄筋コンクリート cu.m. 2,605.00 2,645.00 5. コンクリートライニング(水路) cu.m. 90.00 46.00 6. 鉄筋金網 5 mm. @ 0.20 m. sq.m. 925.00 456.00 7. 表面塗装 0.50 mm厚 sq.m. 925.00 456.00 8. 型枠・足場 sq.m. 5,340.00 5,616.00 9. 鉄筋 863.30 863.00 9.1 - DB.12 mm. kg. 9.2 - DB.16 mm. kg. 64,306.00 64,300.00 9.3 - DB.20 mm. kg. 114,682.10 114,700.00 9.4 - DB.25 mm. kg. 27,219.50 27,220.00 105.00 95.00 10 手すり m. 11 止水板 タイプ "A" m. 170.00 151.00 12 止水板 タイプ "C" m. 205.00 159.00 13 エラスティックフィラー 厚1cm sq.m. 130.00 94.00 14 継ぎ目板 sq.m. 110.00 129.00 15 ジョイントシーラー厚1cm x 幅3cm. m. 20.00 416.00 式 3.00 3.00 式 1.00 1.00 ヶ所 1.00 1.00 16 17 鋼製ゲート幅3.00m x 高4.00 m巻上機付 + ゲート戸 当たり 角落ゲート幅3.00m x 高0.90m x 4枚 (3.6m) + ゲート戸 当たりx3ヶ所 18 鋼製屋根工事(ゲート巻上機用) 19 操作台用梯子 ヶ所 2.00 2.00 20 水路内ステップ ヶ所 3.00 3.00 21 整形リップラップ 0.50 m. 厚 cu.m. 1,355.00 449.00 22 捨石リップラップ 0.50 m. 厚 cu.m. 630.00 230.00 23 L-型鋼 100x100x12 mm. (17.8 kg./m.) 中間ピア防護用 ヶ所 2.00 2.00 24 アスファルト舗装(管理用道路) sq.m. 625.00 1,175.00 25 植生 sq.m. 1,220.00 2,163.00 3-41 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) (8) 放水路設計図面 (幹線水路 C-1 km. 56+151.898) i) 計画平面図 国際協力機構(JICA) 3-42 ファイナル・レポート ii) 計画縦断面図 3-43 王室灌漑局(RID) タイ国 3.4.5. 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) パイロット事業の実施計画 (1) 実施方法 パイロット事業は RID の協力を得て調査団が実施する。建設工事は建設業者を入札により選定 して行う。工事の施工管理は現地コンサルタントを雇用し、RID の協力を得て、調査団が管理し て行う。パイロット事業の実施に要する費用は調査団が負担する。 (2) 実施工程 - 2012 年 8 月中旬~9 月:入札図書の作成 - 2012 年 10 月:建設業者選定のための入札実施、および工事契約の締結 - 2012 年 11 月~2013 年 4 月:幹線用水路放水工の建設工事(全体工期は 6 箇月) (3) 実施主体 パイロット事業の実施主体は、事業全体の運営・管理とも調査団である。関係政府機関はカウ ンターパート機関である RID 本部、Regional Irrigation Office 3、および Phlai Chumphon O&M Project で、事業の運営および技術管理に係る協力と支援を行う。現地コンサルタントは建設工事の施工 管理を、現地建設業者は建設工事を行う。 3.5. 3.5.1. 結論および提言 結論 (1) RID の洪水緊急復旧・防災事業 i) 事業内容、 RID が実施している洪水緊急復旧・防災事業は、RID の通常予算とは別枠の特別 緊急復旧予算として承認された Batch-1, Batch-2, Batch-3, Emergency, Additional-1 の合計 2,236 事業 (全国ベース)である。これらは農村・都市部の住民生活・商業・工業生産活動に直接影響する インフラとしての復旧・防災事業である。本件調査対象地域内では合計 1,283 事業に上り、その 主な事業は、河川・大規模水路の堤防の復旧・かさ上げ(47%)、河川の排水調節水門の修復(25%) 、 村落道路・橋の復旧(11%)、河川・用排水路の浚渫(7%)、および排水ポンプ・発電機の配布(5%) である。この緊急復旧予算による事業はほぼ全てが 2012 年 10 月までに完了する計画である。現 在のところ RID では、ダムの改修・建設を別として、2011 年の洪水により被害を被った既存灌漑 施設の中長期に亘る改修計画は特に策定していない。 他方、農業生産に係る既存灌漑施設の洪水被害修復は、RID の各維持管理事務所(全国 86 箇所、 調査対象地域内 49 箇所の大規模灌漑施設の施設毎に設置)及び 17 箇所の RID Regional Irrigation Offices(全国 731 地区、調査対象地域内 151 地区の中規模灌漑施設を管轄)において他の通常の O&M 事業と統合して、6 箇年の中期支出計画(MTEF)を策定している。その O&M 事業数は調 査対象地域内では合計 1,180 事業に上る。 ii) 事業費、 これまでに承認された RID 所管の洪水緊急復旧・防災事業は 2,236 件、約 12 billion THB(320 億円)と見積もられる。長期に亘るダム建設の大規模防災対策事業は 2012 年 8 月時点で 未だ承認プロセスにある。 iii) 技術的側面、 緊急復旧事業の主な工種は、土工事・コンクリート工事・杭打設工事・河川内 の護岸工事・締切り工事・浚渫工事・ポンプ及び発電機調達、等であり、RID において被害調査・ 国際協力機構(JICA) 3-44 ファイナル・レポート 測量・土壌地質調査・詳細設計・施工管理等は実施可能なレベルである。ダムや排水調節水門の ゲート・電気機器の設計はタイの国内コンサルタントの支援があれば可能である。また、通常の O&M 事業としての灌漑施設の改修・改善は、これまで RID が長年実施しており技術的に問題は 無いと判断できる。 iv) 実施工程、 RID では大部分の緊急復旧事業を 2012 年 10 月までに完了する計画である。しか し、事業量は膨大であり、緊急的に進めても短期間で完了するかは不明である。また、事業の進 捗は 2012 年雨期の洪水の規模と発生時期に左右されると思われる。 (2) 過去の日本支援事業 i) チャオピア灌漑農業開発事業は、洪水被害は一部法面の崩壊等軽微であり日本の支援の必要性 は高くはない。 ii) パサック灌漑事業は洪水の被害は全く受けておらず、修復作業は必要ない。 iii) 小規模灌漑修復事業(SSIRP)の対象となる 106 箇所の事業のうち 80 箇所は洪水被害を受けて いない。大きな被害を受けた 4 箇所のうち 2 箇所は RID が管理しており、既に復旧作業に着 手している。残る 2 箇所は TAO の管理であり、復旧開始が遅れている。 iv) 大規模湖沼漁業開発事業(LSIFP)の Bung Boraped 湖の事業の被害は大量の土砂の堆積と水産 センターの機材を損失した。漁業局は既に 400 万 m3 の堆砂の浚渫に着手している。機材の調 達については漁業局本部に要請を上げており、予算措置がなされようとしている。 v) 小規模湖沼漁業開発事業(SSIFP)については多少の被害が報告されているが被害は軽微であ り主として堆砂である。 vi) 過去の日本支援事業については上述のように洪水被害が軽微であるか、被害があっても復旧事 業を既に着手している事業が殆どである。改めて復旧事業をパイロット事業として取り上げる、 あるいは、将来の円借款事業に結びつけるのは適当ではないと考えられる。 (3) パイロット事業実施の中止 洪水緊急復旧支援のためのパイロット事業は、現地調査及び RID との協議の結果、ピサヌロー ク県のプライチュンポン灌漑事業における放水路建設事業を選定した。その後、水資源管理およ び洪水防御のための国際コンペで本事業が提案される可能性が高いとの JICA の判断によりパイ ロット事業の実施は取り止めとなったが、RID が行った設計・施工計画・数量・積算等のレビュ ーと妥当性の検討を行った。レビューの結果、各施設とも、ほぼ妥当なレベルで設計が行われて いると判断できる。 3.5.2. 提言 本件調査結果より灌漑排水施設の農業セクターとしての洪水対策に係る方策について、次のと おり提言する。 (1) 灌漑用水路の洪水時の放水路への活用による洪水対策 チャオプラヤ川沿いの洪水常襲地域において、河川沿い地方都市の生活・住居地、商工業地域、 公共施設地域、歴史的遺跡、及び農村村落・農地等の洪水災害を軽減・防止するため、灌漑用水 3-45 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 路を洪水時の放水路として積極的に活用することを提言する。RID の維持管理事務所では多くの 幹線用水路が更新時期をむかえているため、改修に当たり洪水時の放水路としての活用を RID は 積極的に検討すべきである。それは、既存あるいは新規の灌漑排水施設を農業生産のためだけで なく、地域の洪水防災システムの一部として活用することである。なお、灌漑用水路の放水路へ の活用にあたっては、灌漑システムの通常の計画・設計技術に加えて、次の各点に留意すること が肝要である。 i) F/S による計画において、放水路への活用の実施可能性を判断する重要な要素は事業効果の経済 評価である。経済評価においては、事業による便益は対象地域の洪水被害額(軽減額)を、費用 は幹線水路の建設費増加額、及び放水工施設建設費を計上する。そのため、計画の初期段階にお いて洪水被害調査を実施する必要がある。 ii) 水理設計においては、洪水時における河川から用水路への必要・可能放水量の検討、放水時に おける用水路の水理検討、放水工施設でのゲート水門・放水路・放流先排水河川の水理検討、等 が検討すべき重要な課題である。 iii) 構造設計では、放水ゲート部のゲート・巻上げ設備・角落とし・操作台等の設計、放水路構造 物のボックスカルバート・パイプカルバート・オープンフルーム・バッフルシュート、排水河川 接続部の保護工等の設計、基礎地盤の検討、が重要項目である。 iv) 施工計画では、鋼矢板と大型土嚢を組み合わせた仮締切工が通常必要になる。 (2) 灌漑システムにおける洪水時の湛水防除の導入による洪水対策 本調査対象チャオプラヤ川流域の洪水常襲の低平地においては、洪水による作物被害軽減のた めの湛水防除事業を積極的に展開することを提言する。湛水防除事業とは、灌漑農地の農作物(特 に水稲)の湛水被害を防止するため灌漑システムの排水施設の整備を行うことであり、具体的に は排水ポンプにより洪水時に灌漑地区内の湛水を Yom 川等に強制排水するものである。これは本 調査パイロット事業選定時に RID より要請された事業である。ポンプ排水による湛水防除事業の 計画・設計にあたっては、洪水時の湛水解析、排水計画の策定、事業効果の評価、排水方式の検 討、等に留意することが肝要である。 i) F/S による計画において、第 1 に洪水時の湛水解析を行い、排水施設設計の基礎となる排水計画 を作成する。そのため、降雨、流域面積、湛水時間、湛水深、湛水面積、湛水時期等の長期間の 観測データ収集が必要である。事業の実施可能性を決定する重要な要素は事業効果の評価である。 事業効果は環境条件、社会条件、技術条件、経済性の各面から分析・評価する必要がある。経済 評価における事業便益は農作物の湛水被害額(軽減額)を、事業費は湛水防除施設に係る建設費 を算定する。そのため、計画の初期段階において湛水被害額調査を実施する必要がある。 ii) 施設設計として、排水方式には自然排水(ゲート制御による排水樋門)と機械排水(ポンプ排 水)がある。洪水時においては、通常、外水位(河川水位)は灌漑地区内農地の湛水位よりも高 いため自然排水はできず、必然的にポンプによる強制排水が必要になる。実用的には、非洪水時 の排水を経済的な自然排水により行うための排水樋門と、洪水時の湛水防除としてのポンプ排水 との組み合わせにより計画するのが一般的である。 国際協力機構(JICA) 3-46 3-47 22 21 20 19 Tha Pho Tha Pho Tha Pho Tha Pho, Bang Tha Pho Mueang 17 Im provem ent of water distribution system for Tha Thong 18 Mueang, Bang P.R.-36.9R canal (C-16) km .0+000 to Im provem ent of water distribution system for P.R.-40.1R canal (C-17) stage 1 Im provem ent of water distribution system for P.R.-40.1R-2.8R canal (C-18) km .0+000 to Im provem ent of water distribution system for P.R.-40.5R canal (C-19) km .0+000 to Im provem ent of water distribution system for P.R.-40.5R - 2.6L canal (C-20) km .0+000 to Im provem ent of water distribution system for P.R.-40.5R - 2.6L - 2.6R canal (C-21) Mueang 13 Im provem ent of water distribution system for Phai Ko P.R.-17.0R.-3.6L. canal (C-12) km .0+000 to Don 14 Im provem ent of water distribution system for Jom Thong, Ban P.R.-22.2R canal (C-13) 15 Im provem ent of water distribution system for Ban Krang, Tha Nang P.R.-23.7R canal (C-14) 16 Im provem ent of water distribution system for Ban Krang, Tha Nang P.R.-25.0R canal (C-15) Mueang Mueang Mueang Mueang, Bang Mueang Mueang Mueang Mueang 12 Im provem ent of water distribution system for Phai Ko Don P.R.-17.0R.-3.6R. canal (C-11) 8 Im provem ent of water distribution system for Tha Chang Phrompir am P.R.-8.7R.-5.5L. canal (C 7) km .0+000 to 9 Im provem ent of water distribution system for Tha Chang Phrompir am P.R.-8.7R.-8.5L. canal (C-8) km . 0+000 to 10 Im provem ent of water distribution system for Tha Chang, Phrompir Ma Tum am P.R.-10.6R. canal (C-9) 11 Im provem ent of water distribution system for Ma Tum, Phrompir Phai Ko am, P.R.-17.0R. canal (C-10) km .0+000 to 4 Im provem ent of water distribution system for Phrompira Phrompir m, Nong am P.R.-5.3R.-4.2R. canal (C-3) 5 Im provem ent of water distribution system for Nong Phrompir Khaem am P.R.-5.3R.-4.2R.-0.4L. canal (C-4) 6 Im provem ent of water distribution system for Phrompira Phrompir m, Tha am P.R.-8.7R. canal (C-5) stage 2 7 Im provem ent of water distribution system for Tha Chang Phrompir am P.R.-8.7R.-5.2R. canal (C-6) km .0+000 to Phrompir am hd2 hd2 3 Im provem ent of water distribution system for Phrompira m P.R.-5.3R. canal (C-2) ohd1 ohd1 Areas Tambon Amphoe Phrompir am Phrompir am Regional Irrigation Office 3 Phlai Chumphon O&M Project Project/Items 1 Im provem ent of water distribution system for Phrompira m, Tha P.R.-8.7R.canal (C-5) (km .8+270 2 Im provem ent of water distribution system for Nong Khaem,Yan P.R.canal (C-1) No Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok hd2 ohd1 Province 表 3.5.1 - 44.1000 53.0000 20.0000 24.2000 26.5000 20.0000 16.7400 164.2110 73.9000 20.0000 14.3000 - - - - - - - - - - - - 11.3000 20.0000 - - 8.7000 17.4000 - 119.8190 - - 10.0000 9.9200 - - - 30.0000 2555 2011-12 30.0000 30.0000 20.0000 20.0000 2,200.0000 30.0000 4,089.1440 4,089.1440 Total - - - - - - 84.6400 - - - - - - - - - 60.0000 - - - - - 26.5000 - - - - - 79.5710 - - - - - - - - - 59.8190 - - - 550.0000 - 26.5000 - 24.2000 - - - - 48.9000 - - - 22.1000 - - - - - - - - 550.0000 - Fiscal Budget Allocation Plan (Million Baht) 2556 2557 2558 2012-13 2013-14 2014-15 384.9940 1,158.5670 775.6890 384.9940 1,158.5670 775.6890 プライチュンポン維持管理事業中期計画(MTEF) - 20.0000 - - - - - 25.0000 - - - 22.0000 - - - - - - - - 550.0000 - 2559 2015-16 756.2280 756.2280 - - - 26.5000 20.0000 16.7400 - - 20.0000 14.3000 20.0000 - 11.3000 17.4000 9.9200 8.7000 - 10.0000 20.0000 20.0000 550.0000 - 2560 2016-17 983.6660 983.6660 ファイナル・レポート 王室灌漑局(RID) Project/Items 国際協力機構(JICA) 3-48 65 64 63 62 61 60 59 58 57 56 55 54 53 52 51 50 49 48 47 46 D.R.1-43L.-0L. drainage canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.1-41L. drainage canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for drainage canal of D.R.1-30L. km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.1-30L.-1R. drainage canal km .0+000 Im provem ent of water drainage system for D.R.1-30L.-5L. drainage canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.1-30L.-5R. drainage canal km .0+000 Im provem ent of water drainage system for D.R.1-25L. drainage canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.1-21L. drainage canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.1-21L.-5L. drainage canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.1-19L drainage canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.15.8-6L drainage canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.15.8-10L drainage canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.1-4L drainage canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.1-10L.-5R. drainage canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.1-10L drainage canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.15.8-14L. drainage canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.2.-145L. drainage canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.2.-138L. drainage canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.2-134L. drainage canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.2-129L. draingae canal km .0+000 to Im provem ent of water drainage system for D.R.2-125L. drainage canal km .0+000 to 45 Im provem ent of water drainage system for No Province Kamphaen g Din Kamphaen g Din Sam Ngam Ngiew Ngam Wang Ithok, Kamphaen g Din Tha Nang Ngam Tha Thong, Phlai Tha Nang Ngam, Tha Wat Phrik Tha Pho Sam Ngam Sam Ngam Sam Ngam Bang Rakam, Sam Ngam Mueang Bang Rakam, Bang Rakam Mueang Mueang Mueang Phai Ko Mueang Don Ban Krang Mueang Phichit Phichit Phichit ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phichit Tha Chang Phrompir Phitsanul am ok Tha Chang Phrompir Phitsanul am ok Tha Chang Phrompir Phitsanul am ok Tha Chang Phrompir Phitsanul am ok Phai Ko Mueang Phitsanul Don ok Tha Chang, Phrompir Phitsanul Phai Ko am, ok Phai Ko Mueang Phitsanul Don ok Ban Krang Mueang Phitsanul Areas Tambon Amphoe 1.3400 0.2020 0.0070 0.1590 0.0650 0.7360 3.6500 1.9760 1.7820 0.9740 4.4660 4.7680 0.5240 3.6330 0.7970 0.4390 0.6270 0.7870 4.4460 0.0160 0.2540 Total - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 2555 2011-12 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 0.0650 0.7360 - - 1.7820 - - 4.7680 - - - - - - - - 0.2540 1.3400 0.2020 0.0070 0.1590 - - - - - - 4.4660 - - - - 0.4390 0.6270 0.7870 4.4460 0.0160 - Fiscal Budget Allocation Plan (Million Baht) 2556 2557 2558 2012-13 2013-14 2014-15 - - - - - - - - - 0.9740 - - 0.5240 3.6330 0.7970 - - - - - - 2559 2015-16 - - - - - - 3.6500 1.9760 - - - - - - - - - - - - - 2560 2016-17 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) Project/Items 3-49 85 84 83 82 81 80 79 78 77 76 75 74 73 72 71 70 69 68 67 66 65 D.R.2-103L-0R drainage canal km .0+000 Im provem ent of water drainage system for D.R.2-103L-0R -3L drainage canal Dike im provem ent for DK.1 km .0+000 to km .43+500 Im provem ent of dike for DK.1 km .43+592 to km .62+034.731 Dike im provem ent for DK.2 km .0+000 to km .10+446 Dike im provem ent for DK.2 km .10+446 to km .59+385 Construction of pum ping station at drainage canal tail for D.R.1-59L. Construction of pum ping station at drainage canal tail for D.R.1-56L. Construction of pum ping station at drainage canal tail for D.R.1-49L. Construction of pum ping station at drainage canal tail for D.R.1-43L. Construction of pum ping station at drainage canal tail for D.R.1-41L. Construction of pum ping station at drainage canal tail for D.R.1-30L. Construction of pum ping station at drainage canal tail for D.R.1-21L. Construction of pum ping station at drainage canal tail for D.R.1-19L. Construction of pum ping station at drainage canal tail for D.R.1-10L. Construction of pum ping station at drainage canal tail for D.R.1-4L. Construction of pum ping station at drainage canal tail for Khlong Go Construction of pum ping station at drainage canal tail for D.R.2-145L. Construction of pum ping station at drainage canal tail for D.R.2-138L. Construction of pum ping station at drainage canal tail for D.R.2-129L. Construction of pum ping station at drainage canal tail for D.R.2-103L.0R. Construction of gate of m ain irrigation canal head, right bank 65 Im provem ent of water drainage system for No Phrompir am, Bang Bang Rakam Phrompir am Phrompir am Phrompir am Phrompir am Bang Rakam Bang Rakam Mueang Mueang Nong Khaem Rang Nok Phichit Phichit Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phichit Phichit Province Phrompir Phitsanul am ok Sam Ngam Kamphaen Sam g Din Ngam Kamphaen Sam g Din Ngam Wang Ithok Bang Rakam Wang Ithok Bang Rakam Tha Nang Ngam Tha Nang Ngam Ban Krang Ban Krang Tha Chang Phrompir am Tha Chang Phrompir am Phrompira m Nong Khaem Phrompira m Nong Khaem Wang Bang Ithok, Rang Rakam, Wang Bang Ithok, Bang Rakam Nong Khaem, Tha Nang Ngam Sam Ngam Sam Ngam Areas Tambon Amphoe - - 67.6010 34.9000 8.9600 8.1000 7.9000 11.6200 10.6000 34.6000 19.4000 27.9000 43.6000 5.5200 24.1000 10.2000 9.5000 10.5000 7.5000 25.0000 19.5000 41.2500 Total - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 2555 2011-12 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 8.9600 8.1000 - 11.6200 - 34.6000 19.4000 - 43.6000 - 24.1000 - - - - 25.0000 19.5000 41.2500 - - - - - - - - - - - 27.9000 - - - - - - - - - - - - Fiscal Budget Allocation Plan (Million Baht) 2556 2557 2558 2012-13 2013-14 2014-15 67.6010 34.9000 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 2559 2015-16 - - - - 7.9000 - 10.6000 - - - - 5.5200 - 10.2000 9.5000 10.5000 7.5000 - - - - - 2560 2016-17 ファイナル・レポート 王室灌漑局(RID) 国際協力機構(JICA) 3-50 98 97 96 95 94 93 92 91 90 89 Bang Kra Thum Phrompir am Kok Salut Ngiew Ngam Ban Rai Wat Phrik Wat Phrik Ma Tum Ban Rai - 17.6000 22.0000 22.0000 7.0940 6.2360 5.4500 3.8800 6.5190 5.8550 - 37.4000 60.5000 - - 2555 2011-12 39.1400 0.5340 Total 5.8550 6.5190 - - 6.2360 7.0940 - - - - 37.4000 39.1400 - - - 3.8800 5.4500 - - 22.0000 - - - - - 0.5340 - - - - - - - 22.0000 17.6000 - - - - Fiscal Budget Allocation Plan (Million Baht) 2556 2557 2558 2012-13 2013-14 2014-15 - - - - - - - - - - - - - 2559 2015-16 Note: Five projects (NO. 16, 93, 94, 97 &98) were approved for 2012/13 year budget to commence the work in October 2012, according to the project office. Bang Kra Thum Mueang Bang Kra Thum Mueang Bang Kra Thum Phrompir am Mueang Jom Thong Mueang Nong Khaem Tha Thong Mueang MTEF: Mid-term Expenditure Framework P.R. canal (C-1) Construction of office building of Phlai Chumphon O & M Project Improvement of office building of O & M branch 1 Improvement of office building of O & M branch 2 Improvement of office building of O & M branch 3 Improvement of bridge across main irrigation canal km. 17+240 Improvement of bridge across main irrigation canal km.49+389.36 Improvement of bridge across main irrigation canal km.52+950 Improvement of bridge across main irrigation canal km.62+556 Improvement of bridge across main irrigation canal km.57+750 Improvement of bridge across main irrigation canal km.70+848 Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Phitsanul ok Mueang 87 Construction of spillway km.56+151.898 for Ngiew Ngam P.R. canal (C-1) 88 Construction of spillway km.63+240.740 for Ban Rai Tambon Amphoe Province Areas Phrompir Phitsanul am ok Project/Items 86 Improvement of gate of main irrigation canal Nong Khaem head, right bank No - - - - - - - - - 60.5000 - - - 2560 2016-17 タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) ファイナル・レポート Naresuan Barrage & Head Regulator Phlai Chumphon O&M Project (A=218,000 rai) Dongsethi O&M Project (A=186,000 rai) Tabua O&M Project (A=168,540 rai) 図 3.5.1 プライチュンポン維持管理事業位置図 3-51 王室灌漑局(RID) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) (1) DR1-59L Regulator & Pumping Station Nan River Existing Regulators (2) DR1-56L Regulator & Pumping Station (3) DR1-49L Regulator & Pumping Station Head Regulator St 0 045 (4) DR1-43L Regulator & Pumping Station Kwai Noi River Naresuan Barrage (5) DR1-41L Regulator & Pumping Station (6) DR1-30L Regulator & Pumping Station (Existing) DR1-25L Regulator & Pumping Station (7) DR1-21L Regulator & Pumping Station (8) DR1-19L Regulator & Pumping Station (9) DR1-10L Regulator & Pumping Station Phitsanulo k Nan River Yom River Regulator Sta.10+620 Regulator Sta.25+020 (10) DR1-4L Regulator & Pumping Station Proposed outlet drainage structure at km 56+151 on C-1 main canal Proposed outlet drainage structure at km 63+240 on C-1 main canal Regulator Sta.40+720 with spillway (11) Klong Go Regulator & Pumping Station (12) DR2-145L Regulator & Pumping Station Regulator Sta.52+120 (13) DR2-138L Regulator & Pumping Station Regulator Pumping Station Tail Regulator Drainage Canal Regulator Sta.58+800 (14) DR2-129L Regulator & Pumping Station Water Distribution Branch 1 Water Distribution Branch 2 Water Distribution Branch 3 Regulator Sta. (15) DR2-103L.0R Regulator & Pumping Station Proposed Sites for Drainage Pumping Stations and Outlet Drainage Structure at Phlai Chumphon 図 3.5.2 プライチュンポン維持管理事業における排水ポンプ場及び放水工建設計画位置図 国際協力機構(JICA) 3-52 ファイナル・レポート 第4章 災害(洪水)に強い農業・農村つくりガイドライン 4.1 コンポーネント 3 の目的と実施概要 4.1.1 目的 コンポーネント 3 の目的は「災害(洪水)に強い農業・農村ガイドライン」を策定することで あり、このガイドラインを適用することによって、農業セクター及び農村コミュニティの洪水に 対するレジリエンスを高めることで、将来いつ来るか予測出来ない大洪水に備えることである。 4.1.2 モデル地区の選定と各地区の特徴 (1) 県の選定 モデル地区はチャオプラヤ川流域の上流域、デルタ上流部、中流部、下流域部から選ばれた 5 つの県(ピサヌローク県、チャイナート県、アユタヤ県、パトゥムタニ県、ナコンパトム県)か ら選定された。これら 5 つの県の選定と、モデルとなるタンボンの選定基準については 2012 年 3 月 28 日に開催されたキックオフ・ミーティングで JCC メンバーによって合意された(付属書 I A-1-2 参照) 。 (2) モデル地区の選定 モデル地区は、1)異なる営農形態、2)コミュニティの絆が強く政府機関への協力・参加が見 込まれること、3)2011 年洪水の被災地であること、又は、将来の洪水対策プロジェクトによる 影響が見込まれる地区、を選定基準に 5 県から選定された。モデル地区の範囲は行政区(タンボ ン)とし、パイロット活動によっては、より狭い範囲又はタンボンを越える範囲で実施されるこ ととなった。選定された 8 地区の営農概要は下表に示す通りである。 地域 県 チャオプラヤ 川上流域 ピサヌローク デルタ上流 チャイナート デルタ中流 アユタヤ デルタ下流 パトゥムタニ ナコンパトム 表 4.1.1 モデル地区の営農分類 タンボン 河川/灌漑地区 バーンラカム ① ヨム川氾濫原 チュムセンソンクラーム 天水農業地区 バンクラトゥム ② ナン川支流ワントン川 ナコーンパーマック 天水農業地区 ワットシン ③ ターチン川支流ワンマン川 ワンマン 天水農業地区 サッパヤー ④ Manorom 灌漑地区 カオゲーオ Maha Raj 灌漑地区 バーンバーン ⑤ Bang Ban 灌漑地区 コップチャオ ラートブアルアン ⑥ Phraya Banlue 灌漑地 シンハーナット 区 クローンルアン ⑦ 北 Rangsit 灌漑地区 クローンハー バーンレーン ⑧ Pra Pi Mon 灌漑地区 ナラピロム 郡 営農分類 水稲、畑作物 漁労 水稲、畑作物 複合農業 畑作物、水稲 畜産 水稲単作 水稲単作 <工業団地近郊> 水稲、野菜、果樹 家畜<ムスリム集落> 水稲、宅地転用 <都市近郊> 水稲、花卉(ラン) 出典:調査団 作成 4-1 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) スコータイ県 ピサヌローク県 ⑧ ⑦ ピチット県 カンペーンペット県 ペッチャブーン県 ナコーンサワン県 ウタイターニー県 ⑥ ロッブリ-県 チャイナート県 ⑤ シンブリー県 アーントーン県 スパンブリー県 サラブリ-県 ④ カンチャナブリー県 アユタヤ県 ③ ① ② パトゥムタニ県 ノンタブリー県 ナコンパトム県 バンコク モデル地区 県境線 大規模 灌漑地区 図 4.1.1 モデル地区位置図 出典:RID データを元に JICA Project Team 作成 国際協力機構(JICA) 4-2 ファイナル・レポート 4.1.3 ガイドライン策定プロセスとパイロット事業・活動 ガイドラインの策定にあたっては、コミュニティが主体となった参加型計画プロセスを重視し た。また、パイロット事業・活動の実施を通じて住民と関係政府機関が得た教訓を元にガイドラ インを策定するアプローチを取った。この策定プロセス自体が修正の上ガイドラインに組み込ま れ、パイロット活動のうち広く普及することが望ましい活動をモデル事業としてテクニカル・ペ ーパーにとりまとめられている(付属書 II 参照)。また、タイ語でリーフレット、冊子、DVD が 作成された。 図 4.1.2 コンポーネント 3 の実施プロセス 出典:調査団 作成 (1) 迅速洪水被害調査 8 モデル地区(タンボン)において、コミュニティの概況及び洪水被害状況を知るために迅速 洪水被害調査を実施した。PRA の手法を用いて、参加型による洪水状況の把握やキーインフォー マントによるフォーカスグループディスカッションが行われた。2011 年の被害状況のみならず、 通常の洪水の発生や、洪水に対してどのように対処したのか、また、農業の現状と課題、地域の 資源やグループ活動についても 5 日間のワークシ ョップと現地踏査によって把握することができた。 PRA 手法は様々な二次データを参照しつつ用い れば、洪水被害発生のメカニズムやコミュニティ脆 弱性を比較的短期間で理解することができるため、 外部から洪水で被災したコミュニティの調査を実 施する際には有効な調査手法であることが明らか 4-3 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) になった。 PRA の結果は別添コミュニティ・ケーススタディー(付属書 III 参照)に含まれるが、下表に 各タンボンの概要と 2011 年洪水時の問題点や課題を整理した(付属書 I D-3 参照)。 表 4.1.2 カオゲーオ ワンマン ナコーンパーマック チュムセンソンクラーム 地 区 シンハーナット クローンハー ナラピロム ナコンパトム パトゥムタニ アユタヤ コップチャオ チャイナート ピサヌローク 県 モデル地区の概要 水環境 農業及び生計 2011 年洪水 天水農業地区地下水豊富 ヨム川が地区中央流下 川の増水だけでなくスコタイ県からの 洪水もある。 Tung Bang Rakham 低地で洪水常襲 地区半分は高台で干ばつ被害が頻 発。 天水農業地区 ナン川流域の氾濫域でナン川の背水と ワントン川の増水 一部高台で干ばつ被害 下流に RID 堰 天水農業地区 傾斜地区のため鉄砲水 低地は増水による洪水 高地は干ばつ常襲 地区内に多くのため池 大規模灌漑(Manorom と Maharaj 地 区) Tung Chen Rak と呼ばれる低地は湛 水常襲地区で 8 タンボンの広い範 囲 下流 Bang Chomsi Gate1 からの背水 で湛水する 輪中ポンプ灌漑地区(Bang Ban 地 区) チャオプラヤ川、ノイ川からの洪 水常襲地区(自然のモンキーチー ク) 70%が稲作(2,3 作) 洪水常襲地区につき雨季作 はリスクライスと呼ばれる 洪水期は漁獲 高台ではサトウキビ 141 日間洪水が続く 土堤で嵩上げし、米収 穫時間を数日かせぐ 上流洪水地区へ行き洪 水到達時期を予測 アユタヤ県南部。パトゥムタニ県に隣接し Phraya Banlue 地区では最上流 Tha Chin 川とチャオプイラヤー川を東西に 結ぶ Phraya Banlue 水路沿い灌漑地 区 一部農地改革地区で OECF の円借 款整備した輪中ポンプ灌漑事業地 区 バンコク近郊、工業団地近くの都 市化地区 北 Rangsit 灌漑地区 地区内に Rama9 貯水池 PhraPirom 灌漑地区の Tha Chin 川近 く 年間通して灌漑水利用可 90%が稲作(1 作から 3 作)、 65 日間湛水 2006 年洪水が被害甚大 10%サトウキビ 自給用野菜生産 「足るを知る経済」モデル、 複合農業 低地は毎年湛水するが 稲作は 1 作 2011 年は丘陵地上部か サトウキビ、キャッサバ支配的 らの鉄砲水 家畜(牛、養豚) 90%水稲単作(2,3 作) 70%は借地農 85%水稲(2,3 作) アユタヤ市内、工業団地に 近く 55%は地区外での雇用 労働者 70%水稲(2,3 作) 26%果樹(マンゴは壊滅) EU 向け野菜(ハーブ類)GAP 基準の生産 回教徒集落では家畜(肉牛 と山羊)飼育 49%が水稲(年 2.5 作) 70%は借地 バンコクへの通勤圏 水路沿いに土嚢を積み 上げたが越流 OTOS 災害ボランティア 学校を避難所に 80%は水稲(年 3 作) 住民の 46%が農家 ランの 90%が被害 10 月から 3 箇月間湛水 (1.0-2.5m) ランの復興が課題 出典:PRA レポートより作成 国際協力機構(JICA) チャオプラヤ灌漑地区で最 初に破堤し湛水。破堤 後は急速に増水し 3m 近くに 3 箇月間高台や他県へ の避難、炊き出しを続 けた 川沿いの堤防破堤 モンキーチークとして 輪中堤の嵩上 計画では 3m まで輪中 内に貯留する 住居は川沿いが多く、 輪中内は 3 集落 アユタヤ方面からの洪水及 びチャオプラヤ川の破堤に よる浸水 タンボン全域が浸水 Phraya Banglue 水路の嵩 上・防水壁により守ら れる地区になる 4-4 ファイナル・レポート (2) 戦略計画ワークショップ PRA の結果を活用し、SWOT 分析を行いコミュニティの強みを活かし脆弱性を克服する戦略と 優先活動を元に災害(洪水)に強いコミュニティ計画案を作成した。各モデル地区から 20 名が参 加し、県行政機関の参加も得て 4 地区を 1 組として 4 日間の日程でワークショップを行い、ビジ ョンを描き優良事例や地元の知恵から学ぶために、途中 1 日をスタディーツアーにあてた。 なお、この時点からナコンパトム県ナラピロムはモデル地区として同じプロセスを実施するの ではなく、ラン・サブセクターを対象範囲としてナコンパトム県で活動を行うこととした。ラン・ サブセクターについても別途関係機関との計画策定ワークショップを開催した。 (3) パイロットプロジェクトの選定 パイロットプロジェクトの選定にあたっては、1)戦略計画の中で優先度が高く、2)洪水対策 として又はコミュニティのレジリエンスを高める活動で、3)洪水期間以外でも便益があり、4) 実施費用がタンボン・県の支援で実施可能な範囲で、5)プロジェクト期間に完了するもの、を基 準としてタンボン毎に選定し、県レベルの関係機関の合意を得て実施することとなった。 また、戦略計画ワークショップにおいて示された調査団の各分野専門家の推奨する活動につい てもタンボンにおいて検討され、取り組みの可否について参加者で協議された。その結果、表 4.1.3 に示すタンボン毎のパイロット活動が選定された。なお、計画時点で全ての活動が決定されたわ けではなく、実施途中から関連する活動が加えられたり、また実現可能性が低く期間的にも難し いものは実施に移されなかった。 (4) パイロットプロジェクトの実施とモニタリング パイロットプロジェクトの実施にあたっては、優良事例や先進事例から学ぶことを目的として スタディーツアーが多用され、トレーニングと実践が行われた(例:コミュニティ防災計画策定 と避難訓練の実施、小規模畜産開発)。また、ある活動に関しては専門家や実施機関の知見を活か して実施方法の決定から結果のモニタリングを行った(例:稲の移植方法に関する比較栽培)。 また、パイロットプロジェクトの実施中に地区間の相互訪問や、地区内での活動紹介などコミ ュニティとしての学習プロセスを活性化する試みが行われた。さらに追加的な活動やフォローア ップの活動まで取り組むことができた。最終的に実施されたパイロットプロジェクトは次表の通 りであり、その数は 5 分野、21 プログラム、74 活動に上った(付属書 I D-17 及び付属書 III 参照)。 モニタリングに関しては遠方地区の 4 タンボンを一部現地 NGO に委託して実施した。(対象は ピサヌローク県、チャイナート県) (5) 教訓ワークショップ パイロットプロジェクトの終了時期に合わせて各モデル地区において教訓ワークショップを開 催し、県タスクフォースを交えてパイロットプロジェクトからの教訓を抽出した。さらに活動の 継続や県内での他地区への普及について検討がなされた。活動によっては実践した農家・グルー プを学習センターとして活用して地区内の他農家や他地区への普及が行われる計画である。 4-5 農業経済局(OAE) 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) つながり・支え る組織・制度 くらしの復興に むけての収入創 出活動 農業畜産分野 洪水被害軽減対策 コミュニティ 水資源管理 洪水時コミュニティ防災計画策 定 洪水時の飲料水確保 避難所・災害時コーディネションセンタ ー整備(通信機器含む) 次世代への教訓継承のための 活動 洪水ハザードマップ作成 参加型水位測定、情報管理 コミュニティ水資源管理計画(モ ンキーチーク) 水管理施設改良 (水門改修、堤防築堤) 稲作の洪水適応策 (移植、生産費削減) 優良種籾の地区内生産 (スタディツアー) 稲以外の作物多様化促進 (安全野菜、アクアポニック) 農産物流通・マーケット開発 (グリーンマーケット、保冷庫) ラン栽培復興事業 (代替メディア、生産費削減) 小規模畜産振興・牧草生産 (飼料備蓄、山羊飼育等) 竹類洪水対策活用調査 (洪水耐性種、農業利用) 洪水常襲地区魚類調査 (種類、バリューチェーン) 地域資源を活用した収入創出 (魚加工、ホテイアオイ加工) 農産加工による収入多様化 (米加工品) OTOP/加工グループのコミュニティ互助 に関する調査 1 1 ナコンパ タニ トム そ 合 の 計 1 1 3 1 1 1 4 1 1 他 3 2 3 1 1 1 1 4 1 1 1 1 4 1 1 1 3 1 1 2 1 1 3 2 1 1 1 1 1 1 2 1 8 1 1 3 1 1 1 6 4 2 4 2 4 8 3 3 1 1 1 1 4 1 1 1 2 5 1 1 1 1 補償支払い迅速化のための土 地利用 GIS データベース 国際協力機構(JICA) パトゥム 1 1 近隣地区 TAO とのネットワーク 合計実施数 アユタヤ SHN チャイナート KK プログラム ピサヌローク WM モデル地区 GC 洪水に備える コミュニティ防災 計画 分野 地区別分野別パイロット事業・活動の実施数 NPM 表 4.1.3 CSS タイ国 1 2 1 8 10 4-6 8 12 1 1 11 12 7 2 4 74 ファイナル・レポート (6) ガイドラインの策定(案)・災害(洪水)に強いコミュニティ計画(案)の策定 教訓ワークショップで得たグループ、農家の実践からの知見や県タスクフォースのコメントを 受けてガイドラインの素案を策定し、ファイナルワークショップにおいて発表し、コメントを受 ける機会を作った(付属書 I D-18 参照)。 各モデル地区の戦略計画はパイロット事業の実施後、そのフィードバックや他地区での実践か らの学びを加えてタンボンの災害(洪水)に強い農業・農村計画(案)としてまとめられた。各 モデル地区の最終案については別添コミュニティ・ケーススタディの一部として含まれている(付 属書 III 参照)。ただし、この計画案が正式に承認され、予算が付いて実行に移されるためには、 タンボン計画及び予算計画として自治体議会の決議を経て公式化されなければならないが、実際 にタンボンレベルで支出可能な予算の額が限られている事や、予算計画審議のタイミングが当プ ロジェクトのタイムフレームに合っていなかったため議会で審議されるまでには至っていない。 従って計画(案)とした。 (7) 優良事例・地元の知恵の活用 2011 年の洪水が工業団地や都市までを浸水させた異常な洪水であったとしても、農村部につい てみると、最近数十年経験していない洪水であったため大きな被害を出した地区と、洪水常襲地 区であるため通常よりも長期間湛水していた地区に別れる。 前者の地区においても地区内の適切な対応を行うことによって被害を最小限にとどめる事がで きた地区や外部からの支援を受けて救援活動や早期の復興を果たすことができた優良事例がある。 これらのグッド・プラクティスは洪水リスクの高い地区での備えにとって参考になる。モデル地 区での優先課題に対しても優良事例地区へのスタディーツアーが計画され、住民同士の意見交換 と学習を支援した。 タイの洪水常襲地区においては、洪水と共生する地元の知恵が数々みられる。灌漑排水施設の 整備によって洪水が長期間襲っていない地域においても、かつては繰り返される洪水と共生する ための知恵が備わっていた。それらの地元に知恵を掘り起こし他地区への応用を適用する地区の 住民が考えるために調査を行い事例を紹介した(付属書 I D-6 参照)。 (8) 政府の政策、専門家の知見の反映 計画策定にあたっては農業・協同組合省の災害に対する政策、県の農業に関する計画、作目別 の普及方針や技術指針(例えば洪水リスク地区での稲作の三期作から二期作への限定栽培や移植 技術、タンボン毎のコミュニティ防災計画の策定、野菜の GAP 認証や食品加工における Pre-GMP の取得等)を関係機関との協議や情報収集を通して確認し反映させた。また、日本人専門家の知 識に加え現地の大学等研究機関での調査・研究成果や知見を取り入れることで、短期間で幅広い 活動が実施出来た。 4.1.4 コンポーネント 3 の関係機関 コンポーネント 3 に関しては中央レベルで JCC メンバーである農業・協同組合省の各実施機関 が参加した。また、県レベルでは県知事を長とする県タスク・フォース(TF)が組織され関係す る農業・協同組合省の実施機関に加え内務省の災害軽減局やコミュニティ開発局の県事務所もメ ンバーに指名された。各政府機関の役割は次表の通りである。 4-7 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 表 4.1.4 シンボル 機関名 農業協同組合省 Ministry of Agriculture and Cooperatives (MOAC) 農業経済局 Office of Agricultural Economics (OAE) 王室灌漑局 Royal Irrigation Department (RID) 農業普及局 Department of Agricultural Extension (DOAE) 米局 Rice Department (RD) 農業局 Department of Agriculture (DOA) 畜産開発局 Department of Livestock Development (DLD) 水産局 Department of Fishery (DOF) 土地開発局 Land Development Department (LDD) 農地改革局 Agricultural Land Reform Office (ALRO) 災害軽減局 Dept. Disaster Prevention and Mitigation (DDPM) 国際協力機構(JICA) コンポーネント 3 の関係政府機関とその役割 中央レベル/JCC 次官補が JCC 議長、災 害対策の関係政策は次 官室(OPS)の Monitoring Center 地方・県レベル Provincial Agricultural and Cooperative Office (PACO) が 県 の 農 業 計 画 の戦略策定を担う。県 TF の事務局 コンポーネント 3 のコーディネータ 県 に は 出 先 機 関 な く ー。主な業務は農業統計、 Regional OAE 2, 7 がピッサ 主要作物生産予測、自然 ヌローク及びチャイナート TF に参 災害被害算定。 画。農業被害の取り纏め 灌漑排水、洪水対策。コ ンポーネント 2 の主管。 プロジェクト活動は主に県レ ベルおよび灌漑 OM 事務 所 園芸作物(野菜・花卉・ 観葉植物・薬草)生産促 進課がラン復興を主導 関係プログラム - 土地利用 GIS データ ベース 県事務所は中規模灌漑維 持管理や小流域開発。大 規模灌漑は Regional 各 OM 事務所が管轄。水管 理 郡 DOAE 事務所のタンボン 普及員が担当。農民登録 データベース、被災調査、栽 培普及、研修、学習センター 推進。 稲作生産技術研究開発、 各 県 の Rice Research 普及政策を担当。稲作の Center が TF に参画。稲 洪 水 対 策 に つ き 各 県 の推奨品種、栽培方法に RRC での活動を取り纏 ついて指針。 め JCC メンバー 稲作以外の作物研究開発 品種改良、生物コントロ ール - コミュニティ・モンキーチーク 開発 - 参加型水位測定・ 情報管理 コンポーネント 1 の主管。 牧草生産、備蓄につき家 畜栄養課が主導。他地区 への普及 - 小規模家畜振興 - 飼料生産・備蓄 - 山羊飼育 - バイオガス 県事務所および郡事務所 が TF に参画。 家畜栄養研究開発所 (ANRD)が飼料生産・備蓄 を担当。 JCC メンバー 県事務所は養魚の普及指 導、稚魚配布及び単純加 工の指導行う。ピサヌロック 淡水魚研究所が TF に参 画。 土壌微生物室、水土保全 各県事務所が TF 参画土 研究開発課が主に関与。 壌 改 良 用 の 微 生 物 資 材 微生物資材を稲作、野 (Por Dor)の普及配布、 菜、ランで活用。 中小規模水資源(ため池) 開発。 JCC メンバー チャイナート、アユタヤ県のモデル地 区に農地改革地区を含み TF に参画。 地区内農家生計向上複合 農業、水資源。 タンボンのコミュニティ コミュニティ開発局 防災計画策定支 Community 援、災害指定、 Development 災害時の情報連 Department 絡 (CDD) 4-8 - 作物多様化 - グリーンマーケット - 土地利用 GIS データ ベース - ラン復興 - 稲作移植技術 - 生産費削減 - ラン復興、生物防 除 - 複合農業(養魚) - 魚類調査 - 米生産費削減 - 安全野菜 - コミュニティモンキーチーク - 複合農業 - 安全野菜 - 野菜保冷庫 - 学習センター 女性青年グループ組 織化。職業グループ、 加工グループ、OTOP グループ支援、災害対 応 ファイナル・レポート JCC の組織図、主要部局の組織図、4 県のタスクフォースの組織図については別添に添付した (付属書 I A-1, A-4, D-13 参照)。またパイロットプロジェクトの実施やその他の調査に当り以下の 大学・研究機関の協力を得た。 表 4.1.5 大学・研究機関 カセサート大学 Kasetsart University (KU) KU カンペンセン校 Kasetsart University Kampensaeng Campus (ナコンパトム県) キングモンクット工科大学ラッ トクラバーン校 King Mongkut’s Institute of Technology Ladkrabang (KMITL) ナレスワン大学 Naresuan University(ピサ ヌローク県) コンケン大学 Khon Kaen University (コンケン県) 水資源・農業情報研究所 Hydro and Agro Informatic Institute (HAII) 4.1.5 コンポーネント 3 の実施に参加した大学・研究機関 学部・学科 協力分野 対象地区 Dep. Of Civil Engineering, Faculty of Engineering Center of Excellence for Bamboos Institute for Food Research & Production Development Department of Horticulture Faculty of Agriculture 洪水ハザードマップ 参加型水位観測 竹類洪水対策調査 チャイナート県 アユタヤ県 農産加工技術 パトゥムタニ県 ラン栽培代替資材開発 ナコンパトム県 Faculty of Technology 小規模畜産開発 チャイナート県 アユタヤ県 魚類調査、水産品加工 ピサヌローク県 (調査はチャイナー ト、アユタヤ県含む) 中部、北部、東北地 方の優良事例 Agricultural Department of Ago-industry, Faculty of Agriculture, Natural Resources and Environment Research and Development Institute 洪水共生農村優良事例 加工 OTOP グループ調査 洪水ハザードマップ 参加型水位観測 優良事例地区スタディツアー ピサヌローク県 ガイドラインの構成とテクニカル・ペーパー ガイドラインの構成は総論及び 5 つの課題別ガイドラインに分か れ、以下 4.2、4.3 で詳述する。ま た、個別の活動や事業に関する内 容については、別添資料に示すテ クニカル・ペーパー(英文)に詳 細を記載した(付属書 II)。さらに、 モデル地区における PRA 調査の 結果、戦略計画、および実施した パイロット・プロジェクト及びタ ンボン災害(洪水)に強い農業・ 農村計画案をコミュニティ・ケー ス・スタディ(英文)として別添 資料に取り纏めた(付属書 III)。 図 4.1.3 4-9 ガイドラインの構成イメージ 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 4.2 ガイドライン総論編 4.2.1 なぜ「災害(洪水)に強い農業・農村つくり計画」が必要なのか? チャオプラヤ川流域の農村地域において、洪水は特別なものではなく災害を引き起こすのは洪 水時期が早く収穫前であるか、破堤などにより急に水位があがる場合や水深が深く長期にわたる 場合である。特に洪水常襲地区においては、生活習慣や文化として洪水との共生が根付いている。 一方で、かつては洪水に慣れ親しんでいた地域であっても灌漑排水施設の整備によって水管理 が出来るようになったため、長期間大きな洪水を経験していない地域では、人々の生活も洪水が ないことが前提となっている。また、農業主体の生活から都市部への会社や工場への勤務が増え たり、家屋の建築形態が木造高床式から平屋に変化した事や、移動手段として運河や河川の利用 が減り多くの人が車やモーターバイクでの移動へと変化するなど、あらゆるところで生活様式の 変化が見られ、そのことが洪水による被害や損害を増やしている側面も指摘される。 若者が離村する農村地域や、農地が宅地に転用され新しい住民が多くを占めるようになった都 市近郊農村においても、かつてのように災害対策をコミュニティの助け合いだけに頼るわけには いかなくなってきている。今後、その傾向はますます強くなるであろう。 そのような中、気候変動による降雨時期や強度の変化、上流の森林の減少による洪水発生のリ スクが高まっていることが指摘される。中部の農業地帯とアユタヤからバンコク近郊の工業団地 にも大きな被害と経済損失をもたらした 2011 年洪水を契機に、タイ政府は二度と同じような洪水 被害を起さないという決意として早急にマスタープランを策定し、大規模な洪水対策事業を実施 しようとしている。 しかしながら、洪水対策によって都市部での洪水を防ぐことは可能となるが、農業・農村地域 の低地や河川に近い氾濫原においては洪水が完全になくなる訳ではない。また、遊水地としてこ れらの低地を対象に積極的に洪水を貯留する計画もある。そのような中、農村部に暮らす人々は 洪水への備えをして洪水に強い(レジリエントな)コミュニティにする努力をしなければならな い。そして、いつ来るか予測出来ない大洪水の際にも農業被害を最小にし早期に復興できるよう 関係政府機関は農業の形態を見直し、あらたな技術の導入や普及のための支援体制をつくらなけ ればならない。 以上の認識のもと、この「災害(洪水)に強い農業・農村つくりガイドライン」は農業・協同 組合省と JICA の協力によって策定された。このガイドラインが適用されることにより、洪水によ る農業セクターの被害を最小限にとどめ、農村の生計が持続可能となることが期待される。 4.2.2 「災害(洪水)に強い農業・農村つくりガイドライン」は誰のために策定されたのか? 本「災害(洪水)に強い農業・農村つくりガイドライン」はタンボンを単位とした「災害(洪 水)に強い農業・農村つくり計画」を策定するために、国の政府機関、県レベルの行政機関及び タンボン自治体が活用することを想定して策定された。まず、実施する農家、コミュニティをま とめ、住民の参加によって計画を策定する役割をタンボン自治体が担うことになるため、タンボ ンのリーダー及び自治体職員をガイドラインの利用者として想定している。 国際協力機構(JICA) 4-10 ファイナル・レポート 次に、計画を策定するのはタンボン単位であるが、県レベルの行政機関の財政的・技術的支援 が必要であり、また、どのタンボンで策定するかについては県レベルでの判断が必要である。こ のため県の行政機関の関与が計画策定とその実施の大きな鍵を握っている。 さらに、農業セクターのうちのサブセクターでの対策が課題別ガイドラインでも検討されてお り、所管する農業・協同組合省の各部局でのガイドライン化、普及のためプログラムと予算化が 必要であるため中央レベルでの理解とリーダーシップの発揮が重要となってくる。農業・協同組 合省として、別途定める農業分野の自然災害対策年次計画(付属書 I A-3-10~16, D-15, 16 参照) と共にコミュニティレベルでのレジリエンスを高めるためのガイドラインとして位置づけられ活 用される。また、政府の洪水対策政策に対する同省からの提案の一部として適宜活用される。 4.2.3 ガイドラインの基本的な考え方 ガイドラインの基本的な考え方(コンセプト)は以下の通りである。 (1) レジリエンス:災害(洪水)に強い農業・農村とは? レジリエンスが近年、防災・減災の世界では良く用いられるキーワードであるが、その意味は 災害を免れないにしても最低限の機能を維持できるようにする「適応能力」であり、早く回復す るための「復元力」を意味する。タイの国家経済社会開発計画の基本コンセプトでもラマ 9 世国 王が提唱する「足るを知る経済」思想の 3 つの柱のなかの「自己免疫力」に相当する。1997 年の 通貨危機に見舞われた際に、世界経済のような自らがコントロールできない外部からのショック に対しての内部からの抵抗力(免疫)をつけるという意味で使われた(付属書 I D-14 参照)。 農業に関しては小農が輸出用商品作物の単一栽培をおこなっている場合、国際市場で商品作物 価格が暴落した時に貧困に陥ってしまう。そこで、自給的な有畜複合農業で持てる資源を有効に 使ってまず家族の食べ物を生産し、有機肥料を使う事で化学肥料や農薬など外部から購入する資 材を減らせば支出も減り外部依存を減らす事ができるため、換金作物の価格が下落したり不作に なったとしても、少なくとも食べていけるようになるという事である。 「足るを知る経済」モデル地区の村では、村内で米も野菜も自給しており、養豚や養鶏、養魚 を行い、食品加工やエネルギーの一部自給(バイオガス)までしている。天水農業地区で、頻繁 に洪水や干ばつに見舞われ決して経済的には豊かではない村が、2011 年の洪水時には 2 箇月間村 外へのアクセスが無くとも、食料に関して不自由はなかったことからも、 「足るを知る経済」のレ ジリエンスとの類似点が解る。それに対して、タイの穀倉地帯であるチャイナートやアユタヤの 農村では、米の単一栽培の連作が行われており、洪水での作物被害と共に数箇月間食べる米も村 内にはなく、外部からの支援に頼っていた例がある。農業所得で言えば、先の例よりも高いが、 大きな洪水に対しては脆弱であることがわかる。 コミュニティをレジリエントにする要素は様々あるが、本ガイドラインでは「災害(洪水)に 強い農業・農村つくり」とは洪水被害を最小限に留め、洪水被害から早く復興できるような適応 能力を備えた農村をつくり、住民が洪水リスクを管理しつつ持続可能な農村での生計を営むこと を目指し、その対策を検討する。 4-11 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) (2) 過去の災害経験を将来の備えに活かす レジリエンスの重要な要素として、適応能力がある。実際に起こった災害から学び、問題点を 分析し対応する能力とも言える。洪水常襲地区の家屋では過去に起こった最大の洪水によって高 床式の床の高さを決定しており、2011 年の洪水ではそれでも床上浸水したところでは洪水位に 30cm から 50cm 上乗せしている。コミュニティとしても近年の大規模な洪水であった 2006 年の 洪水後に河川沿いに防水壁を設置したコミュニティでは 2011 年には洪水をのがれることが出来 た。 論理的に導かれる対策や画一的なトップダウンの対策と比べ、自分たちの災害経験に基づき将 来おこるかもしれない災害に備えることが、コミュニティの記憶に残りコミュニティの適応能力 を強化する。 (3) 地元の知恵や他地区の優良事例から学ぶ 農村地域において外部からの技術的な介入が上手くいかない理由としては、人々の生活や文化 的な背景に配慮が足りない場合が多いからである。洪水への対策や、農業生産や生計向上に関し て、人と自然との関係や自然と作物生産について地域固有の環境や文化に基づいた地元の知恵が 存在するものである。必ずしも伝統だけでなく、農民が実際に新しい技術を導入して試行錯誤を しながら見つけ出した地域にあった方法なども含まれる。 また、似たような課題をすでに解決している優良事例地区から学ぶ事も重要である。コミュニ ティにとって適切な適応策を探るには、同じ住民の目線で解決したプロセスを見ることが重要で ある。役人や専門家の考えは、ある範囲については住民の知識よりはるかに高度であるが、住民 が行動に移す際に直面する人間関係や力関係、自然との調和や失敗した際のリスクなどの広範囲 の問題には答えきれない。現実のケースを住民から話しを聞き、また住民の視点で質問し答を得 て、更に実際に自分でやってみることが住民の学習プロセスにとって重要である。 (4) 被害を最小限にし、洪水期間を乗り切り、早く生計を回復するための段階別活動 各課題別のガイドラインに示される具体的なモデル活動・プロジェクトについては、洪水発生 前に洪水被害を最小限にするためにおこなう対策、長期にわたる洪水期間をなんとか乗り切るた めに必要な準備、洪水後に早く生計を回復するために有効な活動と、段階毎に計画されなければ ならない。次図に災害マネジメントサイクルを示すが、各段階は連続しており被害抑止の構造物 対策は復興時に合理的な計画を行い、応急対応のための防災活動は被害軽減の段階で防災計画や 訓練がなされていて初めて効果的な実施が行える(JICA 2008)2。また、後述する 5 つのセクター について活動やプロジェクトの主要な実施タイミングを示した。なお、どの段階の活動について も事前に計画準備されていることが肝要である。この計画自体が被害軽減のための準備段階の策 定を意図している。 2 JICA (2008) 「キャパシティディベロップメントの観点からのコミュニティ防災」downloand from http://jica-ri.jica.go.jp/IFIC_and_JBICI-Studies/jica-ri/publication/archives/jica/cd/200803_aid.html 国際協力機構(JICA) 4-12 ファイナル・レポート 図 4.2.1 災害マネジメントサイクル 図 4.2.2 災害に強い農業・農村計画実施タイミング 出典:JICA (2008)を元に調査団作成 出典:調査団作成 (5) 相乗便益となる活動を選択する しかしながら、いつ来るかわからない 100 年に一度のような大洪水のためだけに人々が行動を 変えることは難しいし、計画は環境や社会の変化で陳腐化するので計画だけ作っておくというこ とも現実の場面で役に立つかどうかは疑わしい。したがって、このガイドラインで示すモデル活 動・プロジェクトは、通常期(非洪水期)や頻繁に起こる洪水の際にも役に立ち、大洪水にも対 策となりうるものを選択基準とした。これを一石二鳥(三鳥)又は相乗便益(co-benefit)という。 相乗便益のあるもので通常期の行動に変容を拡大できなければ、いつ発生するかわからない大 洪水のために政府も人々も多大なコストを強いられることになるからである。 Box 4.1. モデル事業における相乗便益(Co-benefit)の事例 1. 安全な飲料水確保のための浄水装置の設置と通常期の水販売 緊急時にのみ使用する高価な浄水剤の備蓄よりも、タンボン自治体で飲料用浄水装置を設置 し通常時はコイン式販売機で飲料水を販売し、災害時配布用にボトルやタンクに飲料水を備 蓄して災害時に備える方式を採用した。普段から装置を維持管理でき、備蓄水も冠婚葬祭な ど地区内のイベントの際に販売することで、備蓄分の販売・更新ができるので経済的にも持 続性がある。 2. 稲作における移植の導入 洪水被害を避けるため収穫を早めるために移植(田植機又は投げ苗)の導入が望まれるが、移 植にすることで病虫害が減り雑草の発生も抑制できるため、防除のための農薬コストと除草の 労働コストが少なくて済む。農家はコスト削減を主眼に直播から移植へと変更するであろう。 (6) タンボン(行政村)レベルでの計画策定と県行政からの支援 コミュニティの災害に対するレジリエンスを高めるための計画を策定するが、農村部において コミュニティとは集落(村 Mubaan 又はは複数の Mubaan)であったり学校を中心とする地域社会 や、活動を共に行うグループや親族・友人といった人的ネットワークであり、宗教組織などの価 値観を共有するグループを含む。コミュニティ防災においては個人や世帯レベルでの「自助」、コ ミュニティレベルでの「共助」がまず重要視され、これに加えて行政機関からの「公助」による 支援が重要になる(前掲 JICA 2008)。 4-13 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) タンボン自治体はコミュニティと国や県の行 政機関を繋げるインターフェースとしての役割 が期待され DDPM の中でもその役割が制度化 されている。 「災害(洪水)に強い農業・農村つ くり計画」の策定と実施を行い被害軽減に努め るには県行政からの技術的・財政的支援が必要 になるため、タンボン自治体が重要な役割を果 たす。ただし、計画を実行に移す段階では県レ ベルの行政機関が直接農家グループを支援・協 力することも想定されており、全ての窓口をタ 図 4.2.3 コミュニティと ンボン自治体が担うわけではない。 「自助」「共助」「公助」 出典:調査団作成 4.2.4 住民参加による計画策定プロセス コミュニティのレジリエンスを高めようとするの であれば、トップダウンの計画ではなく計画の策定プ 洪水被害アセスメント 参加型農村調査(PRA) ロセスに住民が参加し、自助、共助につなげる必要が ある。 参加型洪水ハザードマ ップ・避難経路図作成 右図は計画策定プロセスを示している。一部コミュ ニティ洪水リスク管理計画策定プロセスと重なるこ とから別の色で示しているが、具体的なステップにつ SWOT 分析 洪水リスク管理 委員会・WG 設置 戦略計画策定 コミュニティ洪水リスク管 理計画策定 いては 4.3.1 の洪水に備えるコミュニティ防災・軽減 計画に示す。 (1) 洪水被害アセスメント及び PRA まず、タンボンの現状を把握するために県レベルの 実施機関を含めて参加型調査を実施する。一般状況の 把握に加え既往の洪水被害について Mapping や Time 災害(洪水)に強い農業・ 農村コミュニティ計画 line, Cropping pattern 等の PRA のツールを用いて状況 防災訓練 を把握することができる。また、重要な情報について は踏査を行うことで正確な位置が確認ができ地図情 報に落とすことができる。これらは洪水ハザードマップ を作成する際の基礎情報にもなる。 図 4.2.4 タンボンでの災害に強い 農業・農村計画策定プロセス 出典:調査団作成 またキー・インフォーマント・インタビューやフォーカスグループ・ディスカッションでの聞 き取りにより、復興対策、災害軽減策を検討する際に重要となる地域の資源(天然資源、人的資 源、グループ活動)や脆弱性(老人や病人、障害者のいる世帯を含む)についても把握しておく ことが重要である。 通常期に実施する際には 3 日間程度の期間で実施し、各集落の代表やタンボン自治体職員、農 業グループのリーダーや OTOS や保健ボランティアなど地域住民の情報を持っているリーダーや 国際協力機構(JICA) 4-14 ファイナル・レポート ボランティアが参加者として選定されるのが望ましい。また、農業普及員やコミュニティ開発オ フィサーなどトレーニングを受けた県・郡行政職員がファシリテーションを行うのが望ましいが、 人材がいない場合は NGO や財団やコンサルタントの外部リソースに依頼する。 外部者がファシリテートして洪水後の復興期に行う場合には、それらリーダーや住民の負担に ならないように期間、時間や場所を彼らの都合に合わせて調整すべきで、外部支援者の都合に合 わせるべきではない。ただでさえ、彼らは応急対応で疲れ切っている場合が多いからである。 (2) 計画立案 災害(洪水)に強いタンボン計画(Tambon Flood Disaster-Resilient Plan)を策定するにあたり、 PRA の結果やその他二次データ及び県と国の政策を参照しつつ SWOT 分析を行い、戦略計画を立 案するワークショップを開催する。SWOT 分析に基づく戦略計画策定手法は地域の「強み (Strength)」である資源を活かし、「弱み(Weakness)」である脆弱性を緩和し、政府の方針や市 場の動向など好材料「機会(Opportunity)」を活かしつつ、将来の「脅威(Threat) 」である洪水リ スクに備えるための戦略を策定するものである。その戦略を具体化する事業や活動の優先順位を 決めてアクションプランを策定するのが標準的なプロセスである。 タイ政府の各実施機関でも良く用いられているためその手順に従えば良いが、上記に記した基 本的なコンセプトを議論し、後述する各セクター毎の活動計画にまで落とし込む事が肝要である。 なお、計画に示される活動がすべて同時に実施できるわけではないので、活動を実施しつつ計画 については適宜修正が加えられるべきであり、一度策定された計画は変更不可能だと考える必要 はない。むしろ、不確実な将来の洪水に向けてのレジリエンスを高める計画であるため、より柔 軟に新しく入ってきた情報を取り込みながら修正を加えることが推奨される。 策定された計画はタンボン自治体の予算を使用する活動も含まれることから、タンボン議会で 正式に承認され、予算化されることが望まれるが、洪水後の復旧・復興時期においては、外部支 援を受けるためにタンボン開発計画や三箇年事業計画との整合性をとる時間を無駄にすることな く活用されるべきである。 (3) 実施計画と関係機関からの予算および技術支援 計画を立案しただけで実施しなければ、コミュニティのレジリエンスを高めることには繋がら ない。優先度の高い活動は実施計画を策定し、関係機関から予算と技術支援を受けるべく県行政 機関と協議すべきである。活動には、優良事例から学ぶためのスタディーツアーやトレーニング を含み、モデル事業・活動に示されるものについては適用につき検討されることが望まれる。 4.2.5 地域による洪水リスクと計画策定の優先度 計画策定の優先度は洪水リスクによって異なる。最も優先度の高い地区は上流域のリテンショ ン予定地区で、次いでデルタのリテンション予定地区である(次図参照)。これらは大規模灌漑農 地に洪水の導入を行うと理解される。しかしながら、タイ政府の洪水対策計画が最終化されてい ないため、場所は特定されない。中程度の優先度はデルタの洪水常襲地区と上流域の洪水常襲地 区で低地や氾濫原で洪水が頻発する地域である。防御地区は最も優先度が低い。 4-15 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 防御地区 図 4.2.5 RID によって検討されているリテンション地区 出典:RID 及び JICA チャオプラヤ洪水 M/P 国際協力機構(JICA) 4-16 ファイナル・レポート 図 4.2.6 タイ政府の洪水対策計画 出典:Office of The National Water and Flood Management Policy (調査団英訳) http://www.waterforthai.go.th/ 4-17 (downloaded on 21 May, 2013) 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 4.3 課題別ガイドライン 4.3.1 洪水に備えるコミュニティ防災・軽減計画 (1) タイにおけるコミュニティでの災害対策に関する制度・組織 タイでは 2007 年に発令された国家防災・減災条例に基づいて国家防災・軽減委員会(NDPMC) が設立され、災害対策全般に関する政策決定を行っている。また、国家防災・軽減条例では 2002 年に組織された内務省防災・軽減局が政府による災害対策の中核的な役割を担うことが規定され ている。洪水対策に関しては防災・軽減局に加えて、情報通信技術省気象局、農業・協同組合省 土地開発局と王室灌漑局、天然資源・環境省水資源局等も重要な役割を担っている。国家レベル での災害対策全般に対する計画は国家防災・軽減計画(2010 年-2014 年)に明記されている(付 属書 I A-4~13 参照)。 タンボンレベルでは、タンボン内の各村から 2 名ずつ公選される代表者により構成されるタン ボン自治体(以下、TAO)が、末端行政機関として災害対策においても大きな役割を担っている。 TAO はコミュニティ内外の関係機関との調整・連携および災害への備えの充実や災害時の支援な どを含めて、災害前・災害時・災害後の各段階で必要な対策と予算措置を行っている。また、各 TAO にはコミュニティでの災害対策の窓口になる担当職員が置かれている。 災害時には TAO と 各村の村長が情報発信・共有の中心になる。 また、タイのコミュニティにはさまざまな住民組織が存在し、災害対策において重要な役割を 果たしている。以下、タイのコミュニティに一般的に見られる住民組織の概要をまとめる。こう した住民組織は 2011 年の大洪水時にもコミュニティでの防災・軽減活動に広く貢献した。公共機 関である学校や保健センターなどと共に住民組織はコミュニティの資源であり、災害対策への参 加を促していくことがコミュニティでの防災・軽減活動を効果的に行う上で重要だといえる。 Civil Defense Volunteer Civil Defense Volunteers は法律で定められたコミュニティ・ボランティアで、災害時には防災・ 減災局の監督の下で治安維持や緊急援助活動を支援する。ボランティアはコミュニティから 選出され、業務に必要な研修を受ける。ユニフォーム、通信機材、車両などの業務に必要な 資機材は各 TAO によって調達される。また、パトロールや犯罪記録の管理なども行う。 One Tambon One Search and Rescue Team(OTOS) 防災・軽減局は 2007 年に各コミュニティでの OTOS の設置を開始した。OTOS のメンバーは Civil Defense Volunteer の中から選出され、防災・軽減局から災害時の対応を含むレスキュー 活動のための研修を受ける。 「災害リスク軽減のための戦略的国家アクションプラン(SNAP) (2010 年-2019 年)」の中では、2019 年までに防災・軽減局と自治体振興局(DOLA)によ りすべてのタンボンにおける OTOS の設置を計画している(付属書 I A-4~14 参照)。 Mr. Warning 防災・軽減局は特に Flash Floods や地すべりに対するコミュニティでの災害警報ネットワーク 作りのためのボランティア研修を実施している。研修を受けたボランティアは警報機などの 必要機材の提供とあわせ「Mr. Warning」に任命され、災害警報の発信などを行っている。 国際協力機構(JICA) 4-18 ファイナル・レポート Village Health Volunteers 保健省により 1970 年代から村落保健ボランティア制度が導入されている。保健ボランティア 制度は地域の保健センターとの連携によりコミュニティでのヘルスケアシステムの強化を目 的としている。Village Health Volunteers は災害時においても医療スタッフと協力しながら住民 への医療・保健サービスを提供する役割を担っており、特に高齢者や疾病患者への支援など を行っている。Village Health Volunteers の災害時のサービスには災害被害者への応急処置、災 害避難所や災害を受けた地域の世帯への巡回訪問、感染症の予防なども含まれる。 女性グループ 一般的なタイのコミュニティには貯蓄グループや職業グループなど、さまざまな女性グルー プがある。こうした女性グループのネットワークはコミュニティ活動の基盤になっており、 災害時にも重要な役割を果たしている。 多くの場合、災害の影響は広範囲に及び、一つのコミュニティだけでは対策がとりにくい。そ のため、近隣のコミュニティとの連携が災害対策を考える上で重要になる。コミュニティ間の連 携事例やメカニズムなどについては、4.3.5「つながり・支える組織・制度」を参照のこと。 (2) コミュニティ主体型災害リスク管理の概要 タイではコミュニティにおける災害リスク管理のパラダイムが大きく変化している。以前は災 害が起こった後の行政機関や民間団体による支援活動が中心であった。しかし、最近では災害リ スクと被害の軽減に対するコミュニティ自体の参加の重要性が国際的にも広く認識され、コミュ ニティレベルでの防災・減災計画の作成や制度能力の強化に重点が置かれるようになっている。 こうしたコミュニティ参加型のアプローチでは、コミュニティが防災・軽減と災害復旧の中心に 据えられている。コミュニティにおける災害リスク管理の過去から現在への変化を下図に示す。 <過去> <現在> 災害前 災害前 1. リスク把握 普通の生活 2. 防災・減災 8. 復旧 災害後 3. 準備(人材、 資機材、計画) 災害後 7. 被害のアセスメント 災害時 復旧 4. 警報 生存、避難、 支援への依存 災害時 6. 必要なサービ ス・物資の提供支援 図 4.3.1 5. 安全な場所 への避難 コミュニティにおける災害リスク管理のパラダイムシフト 出典:Guideline for Community-Based Disaster Risk Management (CBDRM) (DDPM)(調査団による和訳) 4-19 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) コミュニティの参加による災害リスク管理では、災害前、災害時対応、災害後の各フェーズで コミュニティ住民が以下のようなさまざまな分野での活動に協力して取り組むことが求められる。 <災害前フェーズ> ・コミュニティ情報の収集/整理/分析 ・災害リスクの分析 ・防災/軽減対策の検討と災害リスク管理計画作成・研修 ・計画に基づいた災害への備えの充実・研修・災害リスクのモニタリング ・警報発信、など <災害時対応> ・災害リスク/状況のモニタリング・警報発信・避難・緊急支援 ・治安の維持、など <災害後フェーズ> ・災害被害の把握と関係機関への報告・復旧・修復・復興 ・災害リスク管理計画の見直しと改訂、など 災害対策における政府の中核機関である防災・軽減局はコミュニティ住民の 参加に主眼を置いた「コミュニティ主体型災害リスク管理(Community-based Disaster Risk Management: CBDRM)」プログラムを実施している。プログラムで は住民の災害リスク管理に対する意識の向上、災害の各段階での参加の促進、 防災・減災に対する制度的な能力の向上、などを通じて人命や暮らしを守る災 害に強いコミュニティ作りを目指している。防災軽減局は、災害リスクの高い 地域に優先順位を置きながら、すべてのコミュニティでコミュニティ主体型災 害リスク管理計画を作成することを目指している。また、防災・軽減局は JICA 技術協力プロジェ クト「防災能力向上プロジェクト」の支援を受けながら以下のような「コミュニティ主体型災害 リスク管理ガイドライン」を作成している。以下にコミュニティ主体型災害リスク管理手法の特 徴と原則を紹介する。 表 4.3.1 特 コミュニティ主体型災害リスク管理手法の特徴 徴 概 要 住民参加 コミュニティ住民が主な実践者・推進者であり、災害リスク軽減の便益を直接 享受 弱者優先 子供、女性、高齢者、障害者、自給自足農業・漁業従事者、都市貧困層などを 優先 資 源 リスク軽減手段 コミュニティにある能力、知見、対策の認識と活用 各コミュニティの災害リスク分析に基づくコミュニティ毎の軽減手段 目 的 多様な構造物・非構造物、短期・中期・長期的なリスク軽減手段による脆弱性 の軽減と個人・世帯・コミュニティ・社会の各レベルでの能力強化 目 標 安全で災害に強く、発展したコミュニティの構築 開発とのリンク 外部者の役割 災害軽減と開発とのリンク 支援者およびファシリテーターとしての役割 出典: Facilitator’s Guide, JICA/DDPM ‘Project on Capacity Development in Disaster Management in Thailand (調査団 により和訳、編集) 国際協力機構(JICA) 4-20 ファイナル・レポート 表 4.3.2 原 則 住民参加型 ニーズへの対応 統 コミュニティ主体型災害リスク管理手法の原則 合 的 概 要 住民参加型のプロセスと内容 コミュニティの意識とニーズへの対応 他のコミュニティや災害管理システムと連携した災害前、災害時、災害後の 各段階での災害管理活動 事 前 対 応 防災・減災と災害への備えの充実を重視 包 脆弱性に対する構造物・非構造的によるリスク軽減策と短期・中期・長期的 対策 括 的 多くの分野と領域 各関係者の役割の考察、現場の知識・資源と科学・技術および外部者からの 支援の組み合わせ エンパワー 住民の選択肢と能力の向上、基本的な社会サービスへのアクセスの改善、天 然資源と環境管理の改善、他の開発への取り組みに参加するための自信の向 上 開 発 コミュニティ開発の成果を維持し、脆弱性への対策を開発の機会とする 出典: Facilitator’s Guide, JICA/DDPM ‘Project on Capacity Development in Disaster Management in Thailand (調査団 により和訳、編集) (3) コミュニティにおける洪水リスク タイで発生する自然災害の中では洪水による被害が最も多く、タイ北部から南下するチャオプ ラヤ川は雨季の 6 月~10 月にかけて頻繁に氾濫し、年によっては 2011 年の大洪水のようにタイ の地域社会に甚大な被害をもたらす。 洪水は Flash Floods と氾濫や増水による洪水の 2 タイプに分けられる。Flash Floods は豪雨など により主に比較的高地の水源に近い傾斜地で発生し、下流にあるコミュニティが強い水流に襲わ れる。水の流れは速く、被災地の家屋、道、橋などを破壊することもある。一方、氾濫や増水に よる洪水は河川の氾濫や水路の容量を超える水位の上昇によってもたらされ、溢れた水が家屋、 道路、農地などを覆う。また、豪雨などにより水量が排水施設の許容量を超えることにより、都 市部でも洪水が発生することがある。 1) 洪水の特徴とリスク 他の自然災害と比較した洪水災害の特徴やコミュニティへの災害リスクは以下のようにまとめ られる。 季節性 上述のように、タイにおける洪水は雨季の一定期間に発生することが多い。そのため、人々 は洪水の起こりうる時期に備えて被害を軽減するための対策を講じることができる。農業へ の被害についても、栽培する農産物の種類、品種の変更、作付時期の調整、短期間で収穫で きる品種や栽培技術の導入などにより、洪水による被害を予防、軽減することが可能になる。 予測可能性 地震などの発生の予測が難しい自然災害と違い、洪水は関係行政機関や同じ水系を持つ近 隣コミュニティとの情報の共有、コミュニティ内外での水位測定などにより、発生の可能性 や発生時期をある程度予測することができる。特に河川の氾濫や増水による洪水は、十分な 4-21 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 情報の収集と共有によりコミュニティの住民が事前に備えを強化し、災害の被害を予防・軽 減することができる。従って、コミュニティにとっては水位データや洪水関連情報の収集・ 分析と警報システムを構築し、備えを強化するための時間を有効に使うことが重要になる。 また、洪水情報を迅速に入手するため、水関連の情報を持つ王室灌漑局の地域事務所などや 隣接するコミュニティとの連携や協力が不可欠になる。 長期に亘る被害 被災後も長期間に亘り水が引かず、洪水により人々の生活が様々な面で制約される。この 被害を軽減するために、以下のような対策と準備が必要になる。 表 4.3.3 項 長期湛水による被害軽減のための対策と準備 目 交通手段 必要な対策と準備 公共の移動手段として使用できる車両やボートなどの調達と運用シス テムの構築 物資・サービスの提 必要な物資・サービスの提供(避難所に避難している村人や住居に残っ 供、支援 ている村人への飲料水、食料、医療・保健サービスの提供など) 治安 避難所や居住地など、コミュニティでの治安維持 副収入 被災中の副次的収入手段(魚の捕獲・加工・販売、手工芸など) 広範囲での被害 洪水はしばしばコミュニティの広範囲を覆い、居住地だけなく農地も長期にわたり水没す る。そのため、農業・畜産業従事者が大きな被害を受けることがある。コミュニティによる 対策としては、早期警報システムの構築、栽培作物の種類や栽培期間の調整、家畜用飼料の 保存などが挙げられる。 2) 洪水リスクと地域性 洪水のリスクと被害は各コミュニティの地域性や特徴によって大きく異なる。ここでは各コミ ュニティの地域性と特徴を大きく下表のように分類し、それぞれの特徴に基づいた状況と対策上 の留意点をまとめる。 各コミュニティでの洪水対策を考える場合、上記のような各コミュニティの地域性や特徴に基 づいたアプローチを検討することが重要である。洪水常襲地区の住民は洪水状況に慣れており、 洪水リスク管理に関する高い意識や実践的な知見を持っている。一方、洪水リスクの比較的低い コミュニティの住民の洪水リスク管理への優先順位は必ずしも高くはなく、両地域での洪水リス ク管理に対する優先順位やアプローチは異なる。洪水リスクの低い地域においては、洪水リスク 管理は洪水を含む総合的な災害リスク管理の一部として位置づけることができる。 国際協力機構(JICA) 4-22 ファイナル・レポート 表 4.3.4 コミュニティの地域性 と特徴 コミュニティの地域特性と対策上の留意点 一般的な状況 コミュニティによる対策上の留意点 洪水リスク 洪水の形態 コミュニティの形態 高い地域・常襲 地域 住民は洪水状況に適応している 洪水リスク管理に対する住民の 意識は高い 水位計測、早期警報、災害避難を含む洪 水リスク管理計画の作成と実施 洪水ハザードマップの作成・活用 地域の知識と経験の活用 外部機関との支援や協力に関する調整 低い地域・ 非常襲地域 住民は洪水状況に適応していな い 洪水リスク管理に対する住民の 意識は低い 洪水を含む総合的な災害リスク管理計 画の作成と実施 防災教育など、洪水を含む災害対策に関 する啓蒙活動 Flash Floods 特に傾斜地で豪雨などにより発 生 地域への急で早い流水 降雨量、水位、天気予報に基づく早期警 報システムや緊急避難体制の構築 Flash Floods の特徴に配慮した洪水リス ク管理計画作成と実施 河川の氾濫や増 水による洪水 ゆっくりとした水位の上昇 洪水の可能性や時期についてある 程度予測可能 水位などの情報収集・分析と警報システム の構築 比較的長期に渡る対策を含む洪水リスク 管理計画の作成と実施 農村 住民は比較的共通した興味と価 値観を持っている 集合的なコミュニティ活動の実 施が比較的容易 洪水を含む総合的な災害リスク管理計 画の作成と実施 コミュニティグループやネットワーク の有効活用 都市/ 都市近郊 住民の関心や価値観は農村部に 比べて多様 住民の流動や新規居住者が多く、 集合的なコミュニティ活動の実 施が農村部に比べて比較的困難 タンボン自治体やその他の行政機関の 主導による、洪水を含む総合的な災害リ スク管理計画の作成と実施 コミュニティ内、または近隣の事業所と の協力 出典:調査団 (4) 住民参加によるコミュニティ洪水リスク管理計画の作成 コミュニティ住民の参加による洪水リスク管理計画の作成と実施は防災・減災のための効果的 な方法だと考えられる。ここでは本プロジェクトでのパイロット事業の結果を基に作成された住 民参加によるコミュニティ洪水リスク管理計画の作成プロセスと、特に重要だと考えられる対策 について紹介する3。 3 詳細は本プロジェクトが作成したテクニカル・ペーパー・シリーズ No.1「Community Flood Disaster Risk Management Plan」(付属書 II)を参照されたい。 4-23 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) STEP 1 STEP 2 STEP 3 STEP 4 Management Committee Public Relation Evacuati on Warning/ Prevention コミュニティ情報の収 集と分析 リスク分析と洪水ハ ザードマップ/避難 経路図の作成 図 4.3.2 Issue First Aid/ Medical Supply/ Support Task Necessary Action In charge Recovery Rescue/ Security 洪水リスク管理委員 会とワーキンググル ープの設立 洪水リスク管理計画 の作成 コミュニティ洪水リスク管理計画策定プロセス 出典:調査団 1) コミュニティ洪水リスク管理計画策定プロセス STEP 1) コミュニティ情報の収集と分析 コミュニティ洪水リスク管理計画作成の最初のステップと して、参加型農村簡易評価手法(Participatory Rural Appraisal: PRA)の活用などにより、住民の参加を広く促しながらコミュ ニティの基礎情報を収集する。収集される情報には、地理・ 地形情報、土地利用、人口、インフラ・施設やその他のコミ ュニティの資源、社会経済情報などが含まれる。 STEP 2) リスク分析と洪水ハザードマップ/避難経路図の作成 第 2 のステップとして、収集した情報を基にコミュニティ住民が洪水リスクを整理・分析し、 洪水ハザードマップ/避難経路図を作成する。洪水ハザードマップ/避難経路図にはコミュニテ ィの地理・地形情報、水源と水管理関連施設、洪水時の水の流れ方、インフラ・施設、住民・家 畜・車両・機械などの避難所と避難経路が含まれる。洪水ハザードマップ/避難経路図の作成は 迅速な洪水警報と避難情報の発信につながり、結果としてコミュニティでの防災・減災に役立つ4。 特に洪水リスクの高い洪水常襲地域のコミュニティでは、GIS 情報などを含む科学的に作成され た地図を基に洪水ハザードマップ/避難経路図を作成することが有効だろう。 STEP 3) 洪水リスク管理委員会とワーキンググループの設立 第 3 のステップとしてコミュニティでの洪水リスク管理委 員会とワーキンググループが設立される。コミュニティ住民は ワーキンググループを通じて洪水リスク管理に参加し、洪水リ スクに迅速かつ効果的に対応することができる。ワーキンググ ループは、コミュニティの状況によるが伝達・広報、警報・防 災、避難、必要な物資・サービスの提供、応急手当・医療保険、 レスキュー・治安、復旧などの分野での設立が考えられる。 4 詳細は本プロジェクトが作成したテクニカル・ペーパー・シリーズ No.3「Constructing Flood Hazard Map and Evacuation Map with Community Participation」(付属書 II)を参照されたい。 国際協力機構(JICA) 4-24 ファイナル・レポート STEP 4) 洪水リスク管理計画の作成 このステップでは、まずこれまでの洪水被害の経験やコミュニティの特徴を基に、コミュニテ ィ住民が洪水リスクに関する問題や制約と、その原因を包括的に認識する。その後、認識した問 題や制約とその原因に基づいて、防災・減災のためにコミュニティが取り組むべき課題や活動を、 1)平常時の災害への備え、2) 洪水前の対策、 3) 洪水時の対応、4) 洪水後の対策の各段階毎に立 案する。平常時の災害への備えは洪水リスクに直面していない段階での制度作りなどや準備で、 洪水前の対策はコミュニティが洪水リスクに直面した際の対策になる。平常時の備えや洪水前の 対策には、コミュニティ情報の収集とリスク分析、災害への備えの強化、早期警報システムの構 築と活用などが含まれ、災害避難、必要な物資・サービスの提供、治安の維持、その他の減災の ための活動や被害状況の確認などが洪水中の対策になる。洪水リスク管理計画の作成に際しては、 洪水による災害の特徴から、早期警報システムの構築、安全な場所への避難、洪水時の必要な物 資・サービスの供給などへの配慮が特に重要になる。 Box 4.3.1 参加型洪水ハザードマップ/避難経路図作成 住民参加でハザードマップと避難経路図を作成し将来の洪水に備える。作成過程は以下の通り 1.簡単なコミュニティ 2.住民を呼んで 3. 参加型地図 4. コミュニティ会議 の地図作成 ワークショップ準備 作成道具準備 発表会 技術的調査と kj GIS データベース 政府機関から 情報収集 村人代表者 と現地踏査 データ分析 編集と地図作成 住民会議で地図の確認 ハザードマップの印刷・周知 j 完成した洪水ハザードマップ・避難経路図 裏面には避難行動について記載 4-25 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) ①洪水リスク管理計画の作成と実施はどのコミュニティにも適用することができるが、特に洪 水リスクの高い洪水常襲地域において防災・軽減の有効な手段になる。洪水リスク管理計画作成 の予算面での負担はそれほど大きくはないが、計画作成と活動実施で中心的な役割を担うコミュ ニティリーダーの強いコミットメントと住民の理解および参加が求められる。実践的な洪水リス ク管理計画を作成するには、洪水リスクの高さやタイプと、コミュニティ内のインフラ・施設や その他のリソース、都市化の度合いなど、コミュニティの特徴に配慮することが肝要である。 洪水リスク管理計画はタンボン自治体の支援を受けながらコミュニティ住民とリーダーにより 作成され、実施されるものである。しかし、コミュニティには制度面や資源・技術面での制約も あり、外部の政府機関や民間団体による支援がこうした制約を補完する役割を果たしうる。洪水 リスク管理計画作成での各県の防災・軽減局から技術支援や、洪水リスクを把握するための王室 灌漑局の地域事務所との連携はコミュニティにとっては大きな支えになる。また、教育行政機関 との連携による学校での防災教育も、コミュニティ住民や生徒の災害に対する意識の向上に有効 である。 2) 水位情報の収集と警報システムの構築 コミュニティが自らの洪水リスクを知るためには、水位関連の情報を継続的にかつ迅速に収集 し分析することが重要になる。このことは特に洪水リスクの高いコミュニティでは洪水対策上、 大きな意味を持つ。水位情報は王室灌漑局の地域事務所や同じ水 系を持つ近隣のコミュニティからの情報やコミュニティ内での 水位計測などから収集できる。そのため、こうした関係組織との ネットワークや連絡システムの構築と収集した情報の記録・分析 がコミュニティでの担当者の重要な役割になる。また、広域の水 位情報は現在もインターネット上で公開されており、タンボン自 治体は Web 上でそれら情報と地元の水位情報を統合することで 水位情報の分析に基づいて、コミュニティに対して迅速かつ明確に早期警報を発信する伝達シス テムの構築が可能となる。責任者および警報サイレンやコミュニティでの放送システムを用いた 警報手段などが災害リスク管理の一環として明確にされるべきである5。 3) 安全な場所への避難 コミュニティの住民にとっては、安全な場所への避難は災 害による危機的な状況から自らを守るための手段になる。住 民による避難は適切に、迅速に、かつ秩序を持って行われる べきで、そのためにはコミュニティ住民が事前に災害時の避 難所となる場所や避難経路を認識している必要がある。また、 避難は住民だけでなく、家畜や、車両、機械など資産につい ても検討されるべきである。災害時に備えた避難経路図を人 目に触れる公共の場所に掲示したり、避難のために必要な準備事項と合わせて住民に配布するな 5 詳細は本プロジェクトが作成したテクニカル・ペーパー・シリーズ No.4「 Community Participatory Water Measurement and Database System」(付属書 II)を参照されたい。 国際協力機構(JICA) 4-26 ファイナル・レポート どの工夫も考えられる。また、避難所や被災した居住地での安全と治安の維持も災害計画を立案 する上で考慮する必要があるだろう。災害避難訓練は、 1)コミュニティ住民の災害リスク管理 に対する意識の向上、2)教育機関、保健機関を含むコミュニティ内外の関係者間のネットワーク の強化、3)洪水リスク管理委員会と各ワーキンググループによる実地訓練などの点で効果的だと 考えられる。 4) 必要な物資・サービスの提供 避難所の避難住民や被災した地域の家屋に残る住民への短期・長期的なサービスや物資の供給 も洪水対策を考える上での重要な点である。物資の供給には飲料水、食料、毛布、衣料品などの 生活必需品を含み、サービスには医療サービスなどが含まれる。中でも災害時の飲料水の確保は コミュニティにとっての最優先課題の一つで、災害時に外部からの供給経路が遮断される可能性 もあることから、コミュニティ内または近隣のコミュニティに安全な飲料水の供給元が確保され ていることが望ましい6。 Box 4.3.2 洪水時飲料水の確保 2011 年洪水時には地域の給水施設も浸水し、飲料水は外部からの支援に頼っていた。 洪水期間中も避難民や住民に安全な飲料水を供給できるよう浄水システムを建設(約 45 万 THB) した。通常時はコイン式販売機で販売するが、緊急時にはボトルに詰めて冷暗所に保管する。 販売を行う事で維持管理費収入が得られ、通常期にも利用できる。 6 詳細は本プロジェクトが作成したテクニカル・ペーパー・シリーズ No.2「Securing Drinking Water in Emergency Case」(付属書 II)を参照されたい。 4-27 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 5) 次世代への教訓の継承 災害は忘れたころにやってくるものである。タイでは 2011 年の大洪水はまだ人々の記憶に残っており、この経験は将来 の災害に対する教訓として次世代の若者に継承されていく べきである。次世代に継承されていくべき災害の経験には、 洪水の状況、コミュニティや人々への被害状況、人々が感じ たこと・不安・ストレス、コミュニティが直面した課題と課 題に対してとられた対策などが挙げられる。また、災害の経 験の継承には、過去の災害・被害状況の展示、ライフ・スキル習得のための研修、災害避難訓練、 コミュニティでの水位計測などのさまざまな方法が考えられる。こうした活動が学校、保護者、 コミュニティの協力により防災教育の一環として実施され、学校が次世代の若者のための災害ラ ーニングセンターとして機能することが望ましい。 過去の災害から次世代の若者に継承されるべき教訓は必 ずしも災害の直接的な影響だけではない。例えば、本プロジ ェクトのパイロット事業対象地であるパトゥムタニ県クロ ーンルアン郡のタンボン・クローンハーでは 2011 年の大洪 水での経験から、廃棄物処理と水質の改善の必要性を学んだ。 被災時には廃棄物の収集サービスがなくコミュニティ内に 廃棄物が放置され、同時にコミュニティの住民は長期に渡る 滞水による悪臭や不衛生的な環境に悩まされた。こうした経験を基に、コミュニティのリーダー と学校の教師がプロジェクトの支援により実施されたワークショップやスタディツアーを通じて 廃棄物管理と水質管理のための活動を計画している。こうしたイニシアティブも災害からの教訓 を次世代の若者に継承し、将来の災害リスクや被害を軽減するためのコミュニティによる前向き な対応として挙げることができる。 Box 4.3.3 洪水に備えるコミュニティ防災・経験計画におけるモデル事業・活動 CBDRM-1: 参加方洪水ハザードマップ/避難経路図作成 [実施:TAO、技術支援:DDPM/RID] 正確な標高データ利用し住民参加でハザードマップ/避難経路図を作成。将来の洪水に備える。 CBDRM-2: 洪水時の飲料水確保 [実施:TAO、水利用委員会、技術支援:民間会社] 水源井戸に浄水施設を設置。コイン式販売機を設置し維持管理費を徴収。 CBDRM-3: コミュニティ洪水リスク管理計画策定・避難訓練 [実施:洪水リスク管理委員会、学校、技術支援:DDPM] コミュニティ洪水リスク管理計画に基づき避難訓練を実施。学校を含め防災教育につなげる。 国際協力機構(JICA) 4-28 ファイナル・レポート 4.3.2 コミュニティ水資源開発と管理 (1) 洪水と干ばつ災害リスク管理に対するコミュニティ水資源開発と管理の重要性 1) コミュニティ水資源開発と管理に関する対象地域の分類 コミュニティ水資源開発と管理計画を策定するために、地形形状、気象/水文、灌漑開発状況な どを踏まえ、調査対象地域をチャイナート県からピサヌローク県にかけてのチャオプラヤ川上流 域とチャイナート県から下流側のデルタ地域とに区分する。ここでは、前者は天水農業地区やナ ン川沿いの大規模灌漑プロジェクトを除く小規模灌漑地域である。後者は、主に大規模灌漑地区 であり、流量を制御できる施設が十分に開発された地区である。開発と管理計画を策定するには、 2011 年の洪水がデルタ地域の工業団地や都市部に多大の被害をもたらしたことに留意する必要が あるが、その一方で、洪水常襲地域では洪水で毎年の被害を受け、2011 年の洪水規模と同程度の 大洪水が数年に一回発生しており、例えば 2011 年レベルの大洪水としては、選定モデルエリアに おいて 1995 年や 2006 年などが挙げられる。 チャオプラヤ上流域とデルタ地域における流量は、デルタ地域の流量が鋭敏に変化するのに比 べて、上流域の流量はなだらかに変化する傾向がある。これは、デルタ地域の流量が、チャオプ ラヤダムにより制御されているのに対し、上流域のヨム川には流量を制御するためのダム施設等 が無いことによるものと推察できる。 Y.16 Discharge(m3/s) 2500 Y.16(m3/s) 2000 1500 1000 500 0 Jan‐09 Mar‐09 May‐09 Jul‐09 Sep‐09 Nov‐09 Jan‐10 Mar‐10 May‐10 Jul‐10 Sep‐10 Nov‐10 Jan‐11 Mar‐11 May‐11 Jul‐11 Sep‐11 Nov‐11 チャオプラヤ川上流域 デルタ地域 Discharge(m3/s) 5000 C.13 C.13(m3/s) 4000 3000 2000 1000 Jan‐09 Mar‐09 May‐09 Jul‐09 Sep‐09 Nov‐09 Jan‐10 Mar‐10 May‐10 Jul‐10 Sep‐10 Nov‐10 Jan‐11 Mar‐11 May‐11 Jul‐11 Sep‐11 Nov‐11 0 出典:RID 図 4.3.3 チャオプラヤ川上流域とデルタ地域における地形と水文の比較 2) 洪水の原因 調査地域の洪水原因としては、以下のものがある。 i) 気候変動 気候変動は、より多くの洪水をもたらすと言える。洪水は、降雨超過による表流水の増加だ けでなく、気候変動による海水面の上昇なども原因となる。調査対象地域は、主にモンスーン に影響を受ける。熱帯性の嵐が低気圧の影響のもと発生し、強烈な降雨をもたらすのである。 4-29 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) ii) 調査地域でのリテンションエリア/モンキーチークエリアの縮小 急速な都市化や工業化の拡大に伴い、河川沿いの農地を含むリテンションエリアは減少し、 その結果、水を蓄えておく機能は年々悪化する一方である。 iii) 湿地、池、小規模灌漑施設などでの堆積 森林破壊、都市化、工業化により、湿地や河川や池などへの土壌流亡による堆積が、著しく 発生し、その結果としてこうした地域での保水機能は低下し、より悪化していっている状況で ある。1977 年以来、RID により農村地域の水資源問題を解決するために、各地のコミュニティ で 6,000 以上のプロジェクトとして建設されてきたダム、堰、ゲートなどの小規模灌漑施設に 関しては、これらの施設は TAO に移管されており、現在では本来の機能を発揮せずに悪化した り十分な維持管理が行き届かずに堆砂などの問題が発生している。 Box 4.3.4 ウォーターリテンションエリアとモンキーチークの定義と機能 ウォーターリテンションとモンキーチークの現在の定義は、不明確な点がある。本ガイドライン において用語の誤認や混乱を防ぐために、両者の機能を以下のように定義する。 リテンションエリア: 低地部や洪水常襲地域であり、一部大規模灌漑地区も含まれる。毎年のよ うに湛水する地域。数年に一回程度の大洪水が発生した場合、洪水を意図的にこれらの地域へ流 し込む。下流部の都市や工業団地の洪水被害を回避するのが主な目的である。この地域には流水 を制御するような施設は設置されていない。大きな洪水が発生した場合の一時貯留の機能を有す。 モンキーチークエリア: 低地部や洪水常襲地区、支流、湿地、池などであり、毎年のように湛水 する地域。洪水制御と水利用が主な目的。洪水は雨期の間に貯留され、乾期の初期には貯留され た水が灌漑を目的に配水される。通常は堤防、ゲートやポンプなどの取水口/排水口といった施設 がある。大規模灌漑事業の低地に位置する大規模モンキーチークと大規模灌漑事業以外のタンボ ンレベルでのコミュニティ・モンキーチークの 2 タイプがある。 3) 洪水と干ばつ災害に対するコミュニティレベル水資源開発と管理の重要性 上述のように、洪水は、確実な予測が難しい地域レベルの気候変動により、地域ごとに異なっ ている。さらに加えて、天然資源に対する保水機能などは、ますます悪化する一方である。ひと たび洪水や干ばつが起きると、これらの問題をコミュニティの人たちだけで解決するには大変難 しい状況である。これらの頻繁に発生する状況に対処する唯一の方法は、湿地や河川などの天然 水資源のみでなく、既存水路、池、灌漑施設などに対しても同様にモンキーチークとしての水資 源施設の浚渫、拡幅および改修等を行うべきである。モンキーチークは、雨期には洪水の水を蓄 えることができ、乾期には灌漑用水や飲料水などの多面的な目的での利用が可能である。調査地 域の上流には、520 個以上のタンボンがある。仮に各タンボンが 2MCM の洪水を蓄えた場合、下 流地域の洪水被害を防ぐような大規模ダムと同様に約 1,000MCM 規模の貯留機能を持ち、乾期に は灌漑を目的とした利用が可能となる。しかしながら、系統立った水資源開発ネットワークや可 能性調査については、検討されるべき事項である。 (2) 大規模灌漑地区と小規模灌漑地区/天水農業地域の洪水状況の違い 大規模灌漑地区と小規模灌漑地区/天水農業地区を比較した場合、地形状況や灌漑排水施設の開 発レベルにより洪水発生状況が異なることが分かる。既に紹介したように、小規模灌漑地区や天 水農業地区は、チャオプラヤ川上流地域に広く分布している。これらの地区での洪水の原因は、 主要河川の水位上昇による越流や山間部/丘陵部からの流水である。小規模灌漑地区や天水農業地 区には、用排水路や用排水ゲートが未整備であるため、洪水は河川の水位上昇や山間部/丘陵地か 国際協力機構(JICA) 4-30 ファイナル・レポート らの流水状況に強く影響を受ける。さらに、灌漑水や洪水を水路に貯めるためのゲートなどが未 整備であるため、大部分の地域では雨期の洪水被害とともに、乾期の水不足が問題となっている。 一方、チャイナート県より下流のデルタ地域では、洪水の原因は主要河川の氾濫水によるもの であるが、排水路や排水ゲートなどが整備されているため、これらの排水施設を適切に利用すれ ば洪水期間を制御することが可能である。例えば、雨期の初めは地区に降った雨を排水路で主要 河川へ排水することができ、雨期の中期は主要河川の水位が上昇しても排水ゲートを閉じること で洪水の地区内への流入を防ぐことが出来る。 表 4.3.5 は、チャオプラヤ川上流地域の低平地、山間部/丘陵地、および同河川下流デルタ地域 について、洪水の原因や状況について示すとともに、灌漑施設や排水路や排水ゲートの整備状況 についても示している。表から分かるように、チャオプラヤ川上流地域と山間部/丘陵地では、常 襲的な洪水に加えて、干ばつが課題である。これらの地域では RID が実施したプロジェクト(SSIP) などの小規模灌漑施設の整備が主体であり、排水路や排水ゲートなどの施設は整備されていない。 デルタ地域では、洪水の原因は主要河川であるが、RID の大規模灌漑プロジェクトが整備されて いるため、排水路や排水ゲートを利用した洪水の制御が可能である。 本プロジェクトの調査を通じて、チャオプラヤ川上流地域の洪水常襲地域と山間部/丘陵地にお いて、コミュニティレベルモンキーチーク開発という視点のもとで、施設建設による洪水への対 策を提言する。チャオプラヤ川下流のデルタ地域では、施設建設によらない洪水水管理方法によ る対策について提言する。図 4.3.4 にタイプ別の開発の方向性を示す。 4-31 農業経済局(OAE) 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 表 4.3.5 コミュニティの地域特性と対策上の留意点 (2) 上流域洪水常襲地区 (1) 上流域洪水常襲地区 主要河川 P (3) 上流域丘陵地区 洪水 溜池 洪水 支線河川 樋門 ポンプ場 ポンプ場 P 溜池 基本的な コンセプト P P 溜池 P P P P サトウキビ 水田 溜池 排水樋門 小規模灌漑事業等 (SSIP,SSIFP) RID のプロジェクトタイプ 洪水発生原因 主要河川 丘陵地からの地表流出 取水施設 大規模灌漑事業 山岳地域からの地表流出/Flush Flood 主要河川 Flash Flood と干ばつ 洪水 洪水と干ばつ なし あり 小規模灌漑施設(可動式ポンプ、堰、樋門等) 大規模樋門、ポンプ場等 灌漑・排水 システム 大規模幹線 用排水路 - 排水樋門 - 開発のタイプ名 (4) 下流域デルタ地区 主要河川 取水ゲート タイ国 あり あり Type A Type B 灌漑開発が進んでいる Type C 構造物対策が可能 非構造物対策が必要 小流域水資源開発・管理計画 丘陵地 コミュニティモンキーチーク開発 低平地/洪 (小規模河川の改修、 水常襲地区 水資源施設の浚渫、改善等) コミュニティ水位観 測・警報システム 大規模モンキーチーク/ 大規模 灌漑地区 リテンション地区の活用 観測・警報システム (水管理施設の改善・活用) 非構造物対策 構造物対策 図 4.3.4 水資源開発・管理計画の方向性 出典:調査団 国際協力機構(JICA) コミュニティ水位 4-32 ファイナル・レポート (3) コミュニティモンキーチーク開発コンセプト 対象地域での地形、支流の状況、洪水の発生状況、既存の灌漑排 水開発レベルの特徴をもとに、コミュニティモンキーチーク開発は Type-A 以下の 3 つのモデルに分けることができる。 [Type-A] [Type-B] [Type-C] Type-B 主要河川での氾濫からの洪水の影響を受ける低平地に おけるコミュニティモンキーチーク開発 丘陵地からの洪水の影響を受ける低平地におけるコミ ュニティモンキーチーク開発 山間部からの洪水の影響を受ける傾斜地や丘陵地の天 水農業地域におけるコミュニティモンキーチーク開発 Type-C 1) コミュニティモンキーチーク開発 コミュニティレベルでのモンキーチーク開発のコンセプトを下 図に示す。開発のコンポーネントとしては、Type-A、B、C ともに 共通であり、水路やため池の堤防の嵩上げ、水路断面の拡幅・浚渫、既存の池の拡幅・浚渫、ゲ ートや堰の改修やこれらの新規建設などが挙げられる。これらの改修工事により、水路内に洪水 時の水を貯めることが可能になるとともに、水路沿いの洪水被害の軽減、乾期の灌漑利用を目的 とした水利用が可能となる。コミュニティモンキーチーク開発により期待できる貯水容量は、各 タンボンレベルで概算として 1MCM~2MCM と見積もることが出来る7。 Canal dredging River Canal Canal Pond Canal Pond Gate River Pond dredging Gate and weir rehabilitation or new gate installation Existing canal cross Flood Plan Flood 図 4.3.5 モンキーチーク開発コンセプト 出典:調査団 7 詳細は本プロジェクトが作成したテクニカル・ペーパー・シリーズ No.5「Community Monkey Cheek Development 」(付属書 II)を参照されたい。 4-33 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 2) 小流域水資源管理によるコミュニティモンキーチーク開発の必要性 天水農業や小規模な水資源に依存するタンボンはチャオプラヤ川上流地域には複数ある。これ らのタンボンは、頻繁に洪水と干ばつの被害を受けている。前述の様に、地区内を流れる小河川 は上流のタンボンから下流のタンボンへ流下しており、洪水や干ばつ対策を行うためには、一つ のタンボンだけでは解決できず、これらの水利用に関連するタンボンを含む小流域での統合的な 水資源開発・管理が重要である。 この小流域水資源開発と管理計画は、自分たちの住むタンボンでの洪水や干ばつ被害を軽減す るのみでなく、上下流地域のタンボンでの洪水・干ばつ被害も軽減することが可能となるモンキ ーチーク開発モデルとなる。このコンセプトは、チャオプラヤ川の上流域に位置するタンボンに おいて有益である。水資源開発計画の策定を通じて、各タンボンが効果的で確実な水管理ができ るようになるために、流域水資源開発と管理計画が流域内でのタンボン相互間での連携に欠くこ との出来ない重要な点である。このコンセプトは、同一河川流域内に位置するタンボン相互間で の水資源開発と管理を行うために、小流域での洪水と干ばつ被害(数年で 1~2 回の発生状況)の 軽減につながる。また、機能低下を起こしている既存の小規模水資源施設(SSIP 等)において、 貯水量の拡大に向けた改修の実施も、このプロジェクトにとっては重要である8。 (4) 大規模灌漑地区の参加型洪水管理 1) 大規模灌漑プロジェクトにおける既存の洪水管理状況 灌漑施設が整備された大規模灌漑事業地区には、適正な水管理のための用排水路、および付帯 施設としてのポンプやゲートが整備されている。これらの水路は灌漑のための施設であるが、2006 年や 2011 年の大洪水での経験を踏まえ、このような大規模灌漑事業地域を対象としてモンキーチ ークとして利用する案がタイ政府により検討されてきている。特に洪水が常襲的に発生する低湿 地では、用排水ゲートを適切に活用することで、通常時は洪水被害の軽減、大洪水時はモンキー チークとしての利用が可能となる。 大規模灌漑事業での用排水路の水管理は、RID の O&M オフィスが管理している。しかし、RID が配信する洪水に関する注意が必要な情報は、県行政から郡、タンボン自治体へと連絡される仕 組みになっているが、実際にはタンボン自治体に届くまでに時間がかかり、タンボンから各村や 農家への周知のシステムが機能していない。この様な理由により、2011 年は洪水の情報がうまく 農家へ伝達されなかったために収穫間近の稲が多大な被害を受けたとの報告がある。このため、 RID の情報がいかに早く、また理解できるように農家レベルにまで伝達できるかが課題である。 2) RID による洪水管理 大規模灌漑事業での排水ゲートの役割は、洪水期に地区の下流側の河川からの流入を遮断し、 洪水被害を軽減することにある。また、雨期が終わった後は、出来るだけ早く洪水の水を灌漑地 区の外へ排出したのち、排水ゲートを閉じて排水路に水を貯めて乾期の水源に役立てる役割も持 っている。雨期が終わって地区内の水を早期に排出することにより、乾期作を早く始めることが 出来るため、雨期作の開始時期も早めることが可能となる。その結果、雨期の刈り取り時期が早 まり、10 月前後の洪水前には刈り取りを終えることのメリットにつなげる効果が期待できる。 8 詳細は本プロジェクトが作成したテクニカル・ペーパー・シリーズ No.8「Inter-Tambon Micro Watershed Water Resources Development Plan」(付属書 III)を参照されたい。 国際協力機構(JICA) 4-34 ファイナル・レポート Bang Chom Si Gate の排水ゲートオペレーション計画の一例 Box. 4.3.5 下図は、RID10 による Bang Chom Si Gate の排水ゲートオペレーション計画の例を示したものである (Manorom & Maharaj Irrigation Project)。排水ゲート操作は、地区における洪水被害の軽減、大洪水時 における低地部でのウォーターリテンションエリアとしての有効活用、乾期の早期の作付け開始など を目的としている。 8 月:排水ゲートを開けて地区内の水をチャオプラヤ川へ排水する。 9~10 月:チャオプラヤ川の水位上昇のため、チャオプラヤ川から地区内への洪水流入を防ぐ目的で 排水ゲートを閉める。地区内の水位は降雨により上昇する。 11 月:チャオプラヤ川の水位が低下し始めたら、排水ゲートを開けて地区内の水を排水する。 12 月~7 月:乾期の作付けのために、排水路内での用水の貯留を目的として、排水ゲートを閉める。 Gate close for storage Gate close for storage Gate close Gate open Gate open ‐WL (MSL.15m) Chao Phraya River Water Level Community Water Level ‐WL (MSL.10.5m) ‐Ground level (MSL.9m) Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec Jan Feb Mar コミュニティレベル水資源開発と管理計画の例 3) RID による洪水監視システムの現状 RID は、主要な水位観測地点において、観測地点の流量レベルにより 3 種類の区分を行い、洪 水に対する警戒を行っている。下図は、本プロジェクトのモデル地区に隣接する観測地点の一例 について、過去 3 箇年の流量変化と各色分け区分を示したものである(C13:Chainat)。水位の警戒 レベルに応じて、洪水に備えて飲料水や食料の確保、避難手段(ボートやヘリコプター等)の準 備、避難場所の整備等を行うことが必要となることを示す。大規模灌漑地区における洪水対策や 洪水警報は、今後、RID の警報レベルを参考にして計画を策定することが重要となる。 C.13(m3/s) 4000 3000 2000 1000 図 4.3.6 Nov‐11 Sep‐11 Jul‐11 May‐11 Mar‐11 Jan‐11 Nov‐10 Sep‐10 Jul‐10 May‐10 Mar‐10 Jan‐10 Nov‐09 Sep‐09 Jul‐09 May‐09 Mar‐09 0 Jan‐09 Discharge(m3/s) 5000 流量の変化と RID の洪水警報区分(出典:RID) 4-35 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 4) コミュニティ洪水情報システム構築の必要性 RID による適切な洪水管理の実施が行われるとともに、コミュニティ内にスタッフゲージを設 置し、地区内の水位と RID が管理する水位との関連性を住民自身が監視するシステムを立ち上げ ることで、洪水被害を最小限に抑えるために住民自身による迅速で正確な判断が可能となる。こ のため、タンボン事務所にコミュニティレベルの洪水情報管理システムを導入することを提案す る。昨今、RID を含む複数のコミュニティが公共政府機関等のリアルタイムデータを Web により 一般に配信している。そのため、こうしたデータをコミュニティが容易に入手することが出来る ため、洪水情報管理システムは Web ベースの簡単なシステムとする。Web サイトには、下記に示 すようなコミュニティ水管理、洪水や干ばつなどの警報といった有益な情報を含むこととする9。 コミュニティでの水管理状況に関連する RID のテレメーター局からの水位や流量デ ータ。 RID のテレメーター局からのデータは、各地域の水文・水管理センターから の情報による。これらのデータは、コミュニティデータベースシステムに掲載され、 Web サイトには図表によりデータが示される。 コミュニティ内に設置した水位計のデータ。過去の観測データは、グラフや表形式 で表示される。 地域や国家レベルでの水管理データであり、河川流域での流量や水位を示したフロ ーチャート図や、上流でのダムオペレーションを映すリアルタイムの監視カメラ (CCTV)の映像。 コミュニティにおける天候状況や天気予報。 コミュニティ水管理にとって重要な機関、例えば王立灌漑局(RID)、タイ気象局 (TMD)、県レベル事務所、防災軽減局(DDPM)との Web のリンク。 コミュニティでのニュース情報や水管理に関連した有益な情報。 コミュニティでの水位や RID による水位データは、Web サイト管理者として任命されたコミュ ニティや郡事務所所員によりデータ入力が行われる必要がある。データは、日々の観測データで あり、コミュニティ Web サイトにデータは更新される。 Box. 4.3.6 コミュニティ水資源開発管理 CWRM-1: コミュニティモンキーチーク開発・管理 モデル活動・事業 [実施:TAO、支援:RID] 小規模灌漑・天水地区での既存施設を活かしたコミュニティ・モンキーチークの開発管理 CWRM-2: 自治体連携による小流域水資源開発・管理 [実施:TAO、支援:RID、PAO、DOLA] 小流域における複数タンボン連携でのモンキーチーク開発、自治体連携スキームの活用 CWRM-3: コミュニティ洪水情報システム [実施:TAO、支援:RID、大学] 大規模灌漑地区での参加型洪水管理に必要な洪水情報システム 次図に現状および提案するコミュニティ・予警報システム図を示す。 9 本プロジェクトで作成したテクニカル・ペーパー・シリーズ No.4「Community Participatory Water Measurement and Database System」を参照のこと。 国際協力機構(JICA) 4-36 ファイナル・レポート Regulator River TAO RID 情報伝達・予警報 District Chief Drainage Gate 情報伝達 情報伝達・予警報 Provincial Governor :主要河川の流量観測所 :RID プロジェクト維持・管理事務所 図 4.3.7 現況の情報の流れ:RID→県→郡→タンボン Regulator River RID TAO 情報伝達・予警報 Drainage Gate District Chief 情報伝達・予警報 Provincial Governor :主要河川の流量観測所 :RID プロジェクト維持・管理事務所 の流量観測所 図 4.3.8 新たなコミュニティ・予警報システム:RID→タンボン←観測地点 出典:調査団作成 4-37 農業経済局(OAE) タイ国 4.3.3 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 農業畜産分野における洪水対策 (1) 洪水リスクと農業分野での洪水対策の考え方 2011 年の大洪水は多くのタイ国民に洪水の危険性について再認識させたが、実際の所、農業分 野では毎年の様にいずれかの地域において洪水被害、そして干害が報告されており、それらの農 家にとって洪水は必ずしも特別な事象では無いとも言える。ここで重要な点は、洪水のリスクを 正しく理解し、通常期の農業、漁業、畜産システムに反映させていくことである。 まず、洪水リスクに関して、チャオプラヤ川流域はいくつかの農業地域に分類されることを理 解しておく必要がある。同流域上流部の低平地には毎年の様に洪水が発生している地域があり、 こうした地域では、事前に十分な方策を練り、多少のコストをかけてでもある程度の洪水には対 応できるよう備えておく必要がある。典型的な例としては、洪水リスクを回避するために、稲作 を最大でも年 2 回でやめておくということが挙げられる。 一方、主にチャオプラヤ川下流域に広がる大規模灌漑地域ではそれ程洪水リスクの高くない地 域が広がっており、2011 年の大洪水が過去数十年で初めての洪水だったという所も多い。そうい った所では、人生に一度か二度あるかどうかの洪水リスクに対して、現行の農業形態を大きく変 更する様な必要性は無い。 このように、洪水リスクは流域や地域によって異なっているため、洪水対策も、そういった各 農家が置かれた状況やリスク耐性などを考慮して柔軟にカスタマイズしていく必要がある。本項 では、まず提案された洪水対策の概念を網羅的に紹介し、いくつかの具体的な事例について述べ る。実際の運用にあたっては、これらの対策案の中から、政府職員や個々の農家が現場の状況に 適したものを選択して使っていくことを想定している。 (2) 農業畜産分野における洪水対策の分類 農業畜産分野における各種洪水対策は図 4.3.10 のフレームワークに示されるとおりである。 「農 業農村地域におけるレジリエンスが向上する」というビジョンに向け、フレームワークは、まず 3 つの活動段階に分類される。すなわち、「予防(Prevention)又は準備(Preparedness)」、「対応 (Response) 」および「復興(Recovery)」の 3 ステージであり、これは洪水の「災害前フェーズ」 、 「災害時対応」および「災害後フェーズ」にも相当する。 このそれぞれの段階における戦略・対策・事業活動を示したのが次図である。例えば、「予防」 段階としては、被害の「回避」と被害発生時に備えた「リスク低減」が主たる戦略となる。また、 「対応」段階としては、 「避難」および洪水時にアクセス可能となる資源の「積極活用」が挙げら れる。さらに、図らずも被害が発生してしまった後の「復興期」においては「早期回復」が目下 の目標となる。 国際協力機構(JICA) 4-38 ファイナル・レポート 段階 戦略 被害回避 概念/事例 洪水発生前の収穫による被害回避、洪水適応品種/ 作物の栽培、高床式畜舎の採用等。 リスク軽減 生産費の削減による洪水被害発生時の被害軽減、作 目の多様化による全損の回避等。 緊急用備蓄 野菜種子の保管や備蓄用飼料の生産と飼料備蓄庫 の設置等。 避難 家畜避難時の備蓄飼料の提供(タンボン間の協調を 含む)。 予防 準備 対応 復興 早期回復 図 4.3.9 洪水終了直後に農業・畜産生産を開始するための準 備。優良種子確保、栽培サイクルの短い野菜栽培の 振興等。 洪水対策の主要概念 出典:調査団作成 図 4.3.9 に簡述したとおり、「被害回避」戦略では、農業生産、畜産について、可能な限り洪水 を避けられる形態にすることを目指す。典型的な例としては、洪水が来る前に米の収穫が行われ る様、移植栽培を導入したり早生品種を導入したりすることで作期を短縮することが挙げられる。 「リスク軽減」戦略においては、農業生産・畜産にかかる投資コストを可能な限り低減する。こ れにより、仮に洪水被害が避けられなかったとしても、被害金額そのものを下げることができ、 また、作物を多様化することにより全損を回避することもできる。 「避難/備蓄」戦略においては、コミュニティやタンボンにおける牧草の保管や避難小屋の設 置など、家畜を含めた避難時の補助的方策の確保を行う。これにより、洪水被害地域からの家畜 の避難が可能となる。洪水時には様々な被害が予想される一方、洪水による利点も存在する。典 型的な例が水産資源へのアクセスの改善(漁獲高増)、そして土壌の肥沃化である。こうした資源 の有効利用を「積極活用」戦略の骨子とする。 洪水被害を避けることができなかった際には、 「早期回復」が次善の策となる。スムーズに回復 過程に移行するためには、農業生産の各段階における事前の準備が肝要となる。例えば、稲の優 良種子を準備しておくことは、洪水後の早期作付けを可能とするために有効であり、また、平常 時に野菜栽培への経験と知見を有しておくことは、洪水後に野菜栽培による早期回復を図ること も現実的な選択肢である。 ここまでに挙げられた戦略・事例の多くは個々の農家が取り得るものであるが、それ以外にも 政府が実施すべき施策的な課題もある。ひとつには洪水被害に対する補償への政府予算の支出と、 作物保険の導入・振興である。また、民間セクターや大学、NGO 等との協力を可能とするための 環境整備も求められよう。こうした農家個人レベルで実施可能な対策、政府が実施すべき施策に ついては図 4.3.10 のフレームワークに網羅されている。 4-39 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) フレームワークでは数々の対策が網羅的に示されているが、 実施にあたっては、各地域の地形、主要農業形態、農家の技 術レベル、投資可能金額、予想される洪水規模などの各地の 適用性 実情に合わせてその効果、適用性、持続可能性を検討し、選 持続性 択されることが望ましい。仮に有効性が高いと判断される対 策であっても、農家がその有効性を理解し、納得しない限り 有効性 導入は困難である。特に注意が必要なのが、外部資源への依 存度である。政府予算や短期的なプロジェクト活動に依存す る様な活動は継続性が損なわれるため、可能な限り地域の資 源を活かし、コミュニティで準備可能な規模での実施が求め られる。 国際協力機構(JICA) 4-40 対策を導入する上で 考慮すべき事項 ビジョン 4-41 復興 ( 洪水後) 対応 ( 洪水中) 予防/準備 ( 洪水前) 段 階 組織・ 資金援助 6.2 園 芸作物 ◎ 作物保険 網掛け部分はパイロットプロジェクトで実施したもの ◎ 政府 による災害( 洪水) 補償 資金援助 6.4 ◎ ◎ ラン栽培用代 替媒体の開発 稲病 虫害予警報シ ス テ ム ◎ ○ グリ ーンマ ーケッ ト振興 (2 / 2 ) 生物肥料 / 生 物防除( 3 / 3 ) ○ 作物多様化 に向けた 安全野菜の栽培 ◎ ◎ 生計 向上に向けた 水産加工 コミ ュ ニテ ィ種子銀行 ◎ ◎ 洪水期の自家消 費用漁労 洪水期の活用 に向けた 家畜用飼料の備 蓄 (2/2) 産官学連 携 洪水後の病害虫 発生防止 高付加 価値野菜/生育期間の短い野菜の栽培 洪水後の優良種 子提供 漁 業及び水産加 工の振興 洪水期における家畜飼料の提供 ◎ ◎ ◎ ◎ ○ 6.3 6.2 6.1 稲作 早期回復 5.1 4.1 6 畜産 漁業 避難 洪水期の活用 に向けた 家畜用飼料の備 蓄 (1/2) 家畜飼 料生産・ 備蓄の振興 3.3 積極活用 4 代替エ ネルギ ーと して の家畜糞尿を活用し たバイオガス 代替 エ ネルギ ーの振興 3.2 コミ ュ ニテ ィ種子銀行 家畜避難地 図 生物肥料 / 生 物防除( 2 / 3 ) ○ ◎ グリ ーンマ ーケッ ト振興 (1 / 2 ) ◎ 生計手段 多様化に向けた農産加工 畜産 家畜避難計 画 野菜種子の 保管 ◎ ◎ 洪水期 ・ 洪水後における各種生 計向上活動 ア クア ポニッ ク/ ハ イドロポニッ ク 生物肥 料/ 生物防除( 1 / 3 ) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ △ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ MOAC, BAAC MOAC, DOAE, TAO DOAE, DOA, University DOAE, RD DOAE, LDD, DOA TAO TAO, LDD RD, DOAE DOF DOF DLD DLD DLD TAO DLD, DDPM, TAO TAO, LDD TAO DOA, DOAE DOA, DOAE DOA, DOAE RD, DOAE DLD DLD, DDPM, TAO ○ ○ ◎ 投入資材の適 正使用 ◎ ○ ○ TAO DOA, LDD TAO RD, DOAE ◎ ○ RD, DOAE DOAE, RID 高床式山羊 小屋における山羊飼養 ○ RD, DOAE RD, DOAE ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 3.1 1.7 リ ス ク軽減に向けたコス ト削減( 園芸作 物) ◎ ◎ ◎ ○ 主関係機関 ◎ 農家 レベルで の堤防建設 洪水 防御に向けた 竹品種および伝統的 知識の活用 園 芸作物 畜産 2.3 リ ス ク軽減に向けた作物 多様化 稲作 2.2 リ ス ク軽減 に向けた コス ト削減( 稲作 ) 2.1 園 芸作物 高床式畜舎の 導入 1 堤防 による圃場保護 1 ◎ 耐洪水品種の 導入( 稲作) 洪水期 の筏による野菜栽培 耐洪水品種の 導入( 稲作) 洪水耐性作物 /栽培手法 の導入 1.3 1.4 ◎ ◎ ◎ ◎ 雨期稲作の早 期作付 早生品種の導 入( 稲作) 雨期稲作の早 期作付 ◎ 1.2 ◎ ◎ ◎ 二期作の限 定 稲作作付期間の 短縮化 非洪水期 ターゲッ トエ リ ア の範囲 タンボン 主に効 果のある状況 大洪水 移植栽 培法の導入( 機械又 は投げ苗式) 活 動 周期的な 洪水 1.1 プログラム 畜産 園 芸作物 稲作 品目/作目 5 緊 急用備蓄 リ ス ク軽 減 被害回避 3 2 1 戦 略 出典:調査団作成 複数の タンボン以上 農業畜産分野の洪水対策フレームワーク 村落 グループ 農業畜産分野における洪水対策フレームワーク 災害に強い農業・農村 農家/圃場 図 4.3.10 ファイナル・レポート 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) (3) 稲作 チャオプラヤ川下流域における農業土地利用の 69.86%は稲作が占めており、同河川流域の農業 形態は稲作によって強く特徴付けられている。2011 年の洪水でも、農作物被害総額(17,848 百万 THB)の 59%(10,560 百万 THB)は稲作における被害と見積もられており(政府による補償金額 に基づく試算)、稲作における洪水被害対策を確立することが喫緊の課題と言える。 理論的には洪水による損害を回避することは容易である。どれ程巨大な洪水が発生しようとも、 洪水が到達するまでに収穫を終えていれば何の損害も発生しない。問題はどの様にそれを可能と するかということにある。政府は農家に対して年最大 2 回までの作付けに限定し、洪水期間を避 けるよう指導しているが、実態としては多くの農家が「リスク米」と称して 3 期作を導入してお り、これにより 2011 年の大洪水に限らずしばしば洪水被害を受けている。彼らの多くは洪水リス クに関わらず、どれだけ収入を最大化できるかということに傾注しているのである。こうした背 景の下、稲作における洪水被害対策として以下の様な方策を提案する。 1) 対策概要 次図に示すとおり、稲作分野においては主に 2 つの戦略がとられる。洪水期の回避とコスト削 減である。洪水期の回避には、政策課題でもある①二期作を上限とすること、②移植栽培の導入、 そして③早生品種や洪水耐性品種など改良品種の導入が挙げられる。また、コスト削減について は、①農業資材の適正利用(量およびタイミング)、②微生物資材等の有機物資材の活用、③優良 種子の自家生産が主たる活動として提案される。 洪水リスク軽減策 洪水期の回避 二期作への限定 移植栽培の導入 コスト削減 改良品種の 導入 早生品種 図 4.3.11 農業資材 の適正利 用 微生物資材 /有機物資 材の活用 優良種子の 自家生産 洪水耐性 品種 稲作における洪水被害リスク軽減策 洪水期の回避に向けた取り組み ① 二期作への限定 二期作を上限とすることはまず推奨されることであり、また、これは政府の施策でもある。 作付け回数を年二回までに限定することで、洪水被害に遭う可能性は著しく下がる。また、各 地区において栽培カレンダーを同期させる一助ともなり、これにより病害虫の蔓延や水管理の 不一致を避けることが可能となる。 国際協力機構(JICA) 4-42 ファイナル・レポート 表 4.3.6 Cropping Pattern 2 crops per year 2 crop per year transplanting 推奨作付計画の典型例 Dry Season Jan. Feb. March Rain Season April May June July Aug Dry Season Sept. Oct. Nov. Dec. Risk of flood 2nd Cropping 2nd Cropping 1st Cropping Nursery 1st Cropping Nursery Flooding Period 出典: Interview to DOAE (case of Phitsanulok area) 注: 1) 本作付計画は洪水対策のコンセプトを示すためのもので、地域や品種によって作付時期は異なる。 2) 二作目は直播も可能であるが、二作目も移植によって期間を短縮することで翌年の一作目を早く開始する ことが可能である。 3) 作付けに必要な灌漑用水の配水が 5 月から始まる場合もある。そのような場合でも苗床を別途用意するこ とで本田に配水さるタイミングでの移植が可能となる。 ② 移植栽培の導入 移植栽培は、本田での作付け期間を短縮するための方策として有効な手段 である。本田とは別に用意された苗床で事前に育苗を行っておくことで、移 植後に本田で必要とされる作付け期間が短縮されるのがその理由である。換 言すれば、本田の準備が整う 2~3 週間前に育苗を開始することが可能とな る手法であるといえる。タイ国中央平原において移植栽培は主要な作付け方 法とは言えないが、同地域では主に 2 種類の移植栽培が行われている。1 つ は田植機を用いた機械移植、もう 1 つは「パラシュート」と称される投げ苗 である。 新しく開発された品種を 紹介するリーフレット (出典:米局) 機械移植では播種後 20 日程度の苗を用いてライ当たり 30 分程度で移植さ れるが、投げ苗法では播種後 15 日程度の苗が用いられる。この方法では上 空に投げられた苗が放物線を描いて根元から表土に着地するため、根痛みが 少ないとされている(両方法の総体的な利点・欠点については本項の最後に延 べる)。 ③ 改良品種の活用 タイ国ではいくつかの早生品種が利用可能である。一般的に利用されている RD-41(105 日)、RD-47(104-112 日)、RD-31(110-120 日)等の品種に比べ、 RD-43 や RD-51 等の早生品種は直播の場合で、播種後およそ 90-95 日で収穫す ることができる。このため、こうした早生品種を導入することで、作付期間を 10 日から最大 30 日近く短縮することが可能である。一方、こうした早生品種 は短期間に収穫されることから有効分けつ数が少ない傾向にあり、分けつ数を 最大化することが特徴である移植栽培には向かない可能性がある。また、食味 を含む品質の面で慣行品種に劣るという点も指摘される点であり、この意味で は移植栽培による作付期間短縮の方がより適用性が高いということができる。 4-43 生産費削減するため に投入資材の適正使 用を呼びかけるリー フレット(出典:米局) 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) コスト削減 ① 投入資材の適正利用 コスト低減に関して、タイ国政府は適正技術の推奨に努めており、播種量、化学肥料並びに その他農薬類の低減・適時施用を振興している。これは必ずしも化学肥料等の使用そのものに 反対するということではなく、適正な種類で適正な分量を適正な時期に利用することで、資材 の利用効率を高めようとするものである。さらには、農家自身が優良種子の生産・選別を行う ことができれば、高コストな種子を購入しなくとも良くなるという利点がある。 逆に言うと、現行の栽培形態では非効率な資材利用が横行しているといえる。例えば、茎葉 部の色がまだ十分に濃い緑であるにも関わらず、尿素肥料を投入してしまうといった事例もあ り、結果として推奨されている分量よりも多く投入するケースが後を絶たない。 こうした非効率な化学肥料の利用を改めるためには、土壌試験に基づく肥培管理を徹底する ことが望ましい。土壌の化学性や物理性には圃場ごとの偏りがあり、これを正確に把握するこ とで有効な肥培管理の設計が可能となる。今日、土壌分析の簡易キット等が大学や土地開発局 等で開発・提供されており、こうした既存資源の活用が図られる必要がある。 ② 微生物資材/有機物資材の利活用 コスト削減の一環として、有機物資材や微生物資材の活用も高コストな慣行資材の代替物と して推奨され得る。例えば、トビイロウンカ(BPH)の発生が観察される度に殺虫剤を施用す るよりも、白きょう病菌(Beauveria Bassiana)などの微生物資材を予防的に施用して個体群の 増加を抑制しつつ、発生量が経済的閾値を超える段階になって始めて殺虫剤を利用する方が遙 かに経済的である。この白きょう病菌は農家レベルで繁殖が可能である。 (左)白きょう病菌の株と(右)とうもろこ しの培地での繁殖 白きょう病菌の感染により昆虫 (4-5mm)の体 表にカビ状の菌糸が発生し水分を奪い硬化 さらに、防除効果を高めるために県レベルでの病虫害発生のモニタリングによる防除情報の 提供と県から農家レベルまでの情報伝達手段の効率化が求められる。 ③ 優良種子の自家生産 洪水後にも優良種子(種籾)を安定的に入手するためには地区内での自家生産が推奨される。 雑草稲の発生を抑制・除去し、収穫後には夾雑物を除去するなど混雑をふせぐための注意が必 要である。現在、Rice Research Center 及び農業普及局が主導している Community Seed Center 計画のガイドラインを適用することが望まれる。 国際協力機構(JICA) 4-44 ファイナル・レポート 2) 稲作における各作付け方法の利点と欠点 上述のとおり、作付期間の短縮のためには、移植栽培の導入が有効である。ただし、各作付け 方法には慣行農法である直播栽培に比して利点・欠点がある。ここでは、直播、機械移植、投げ 苗移植の 3 手法について、そうした相対的な特徴を示す。 直播 機械移植 表 4.3.7 投げ苗移植 三種類の作付け方法の比較表 項目 直播 (DS) 概要 水田への籾米の直接播種 機械移植 (TP) トレイ苗(20 日苗)の 機械移植 114.0 日 96.9 日 15 kg/rai 投げ苗移植 (PC) トレイ苗(15 日苗)の 水田面への投げつけ 115.9 日 95.9 日 15 kg/rai 生育期間*1 105.7 日 本田作付け期間*2 103.7 日 播種量 20 kg/rai 圃場管理 難 条間隔が広く最も容易 条間隔が広く容易 (管理作業) 除草管理 雑草稲の発生おそれ 雑草稲の抑制 雑草稲の抑制 防虫 防虫剤の散布が困難 防虫剤の散布が容易 防虫剤の散布が容易 移植費用 50-60 THB/rai 1,100-1,300 THB/rai 1,200-1600 THB/rai 農薬費用 560.3 THB/rai 439.7 THB/rai 436.5 THB/rai 総生産費 4,385 THB/rai 5,282 THB/rai 5,815 THB/rai 収量 630.1 kg/rai 714.5 kg/rai 678.4 kg/rai 粗収益 8,097 THB/rai 9,495 THB/rai 8,932 THB/rai 利潤(純益) 低 高 中 サービスプロバイダー 十分 不十分 不十分 へのアクセス 出典:Field trial under the “Project for Flood Countermeasures for Thailand Agricultural Sector” in 2012/13 dry season. 注: *1) 籾米の浸水から収穫までの日数 *2) 本田での播種または移植から収穫までの日数(育苗期間を除く) 質的記述は比較による相対的評価 上表のとおり、生育期間については 3 つのなかでは直播が最も短いが、本田の作付期間で見る と投げ苗が最も短く、次いで機械移植が短く、直播は最も長い。機械移植と投げ苗は本田以外で 育苗する必要があるからだ。この結果からすれば、農家が育苗、本田準備と水管理を含む栽培管 理ができれば、洪水被害のリスクを避けるために機械移植と投げ苗によって作付期間を短縮する ことができることがわかる。 雑草防除について機械移植と投げ苗の水田は株間の間隔が広いため雑草稲の発見と除草が容易 である。また、除草剤、殺虫剤、殺菌剤等の農薬散布も機械移植と投げ苗の方が容易であるため、 直播に比較して散布量と費用が少なくなっている。播種・移植費用については 3 つの方法で異な り、直播が 3 つのうちで最も低いが、籾の使用量は最も多い。 4-45 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 収量については機械移植が最も高く、次いで投げ苗、3 番目が直播であった。直播は総生産費 は最も低く、粗収益も最も低かった。機械移植及び投げ苗での生産物は優良種籾としての販売が 可能であり、その価格は通常よりも高く販売できる。実地試験栽培の結果、機械移植が最も利潤 が高いことが明らかになった。しかしながら、地域によっては機械移植と投げ苗用のトレー苗の 供給業者がまだ少なく、近隣で見つけられない場合があることが課題である。 3) 稲作における洪水対策モデル 上述の通りいくつかの洪水対策モデルが提案される。第一の提案は移植栽培の導入による作付 け期間の短縮とそれによる洪水被害回避である。移植栽培による作期短縮期間は 10 日から 15 日 程度に限られるが、例えば前作に遅れが発生した際などにその遅れを取り戻すために有効な手段 となる。 さらに、移植栽培は洪水対策として有効な手段であるだけでなく、生育初期段階における雑草 防除にも効果的である。今日、稲の野生種あるいは他系統との交雑品種などが「雑草稲」として 顕在化しており、特に直播田において深刻な問題をもたらしている。これに対し、移植栽培を導 入することで、生育ステージの異なる稲と雑草稲の識別が容易となり、効果的な防除を行うこと ができるようになる。 10 日から 15 日の作期短縮という効果は農家にとって十分に魅力的では無いかもしれないが、 雑草防除、特に雑草稲の抑制に有効であるという事実は、彼らの行動様式に変化を促す上で十分 に説得的であると想定されることから、移植栽培の振興にあたっては、洪水対策という文脈に限 定するのではなく、総合的な効果について示しながら行う必要がある。 農業労働力不足が進行しているタイ国の現状を鑑み、また稼働効率の高さを考慮すると、原則 として、移植栽培は田植機を利用した機械移植が望ましい。しかしながら、稲作先進地域である チャオプラヤ川流域においても機械化は十分に進んでおらず、供給力が不足している。また、場 所によっては土壌均平化の遅れや不十分な代掻きにより地盤が軟弱となり、機械の導入が適さな い水田も多くある。こうしたことから、移行期の対策として、比較的低コストで実施できる投げ 苗による移植栽培の振興が望ましい。 一方で、機械移植はもちろんのこと、投げ苗を請け負う業者の数は非常に限られていることか ら、請負業者の育成も喫緊の課題である。このため、移植栽培、特に投げ苗による移植栽培を振 興するためには、まずは請負業者の育成に焦点を当てることが肝要である。就業機会の提供とい う観点から、導入にあたっては新規の業者を育成するよりも既存の直播請負業者に対して追加的 に提供をしていく方が適用性が高い。 4) その他の留意事項 移植栽培の実践にあたっては、特に灌漑にかかる他機関との連携が重要となる。機械移植にせ よ投げ苗法にせよ、雨期作開始を見据えた苗床の準備が必要であり、灌漑の開始が遅れたり、開 始時期が明確にされないと、育苗が適切な時期に始められない恐れがある。このため、王室灌漑 局との連携により灌漑時期の周知徹底が図られる必要がある。最後に、洪水後のスムーズな回復 のためには、優良種子の確保が必要であり、これは「種子銀行」等の制度を用いてコミュニティ で対応できるようにすることが有効である。 国際協力機構(JICA) 4-46 ファイナル・レポート (4) 野菜 個々の農家が洪水に適応するための方策として、小規模な野菜栽培は有効な手段となる。次図 に示すとおり、農業農村地域コミュニティのレジリエンスを高めるための手段としては 4 つの主 たる対応策が提言される。すなわち、 「洪水被害回避」、 「リスク低減」、 「緊急用備蓄」、 「早期復興」 の 4 戦略である。 レジリエンスの強化 洪水被害回避 耐洪水性作物 /栽培手法の 導入 堤防による 圃場保護 図 4.3.12 リスク低減 緊急用備蓄 作物多様化 野菜種子 の保管 早期復興 高付加価値 野菜の生産 生育期間の短 い野菜の生産 野菜栽培にかかる洪水対策 「洪水被害回避」としては、湛水環境に適した品種や栽培方法の選択が基本となり、果樹など の高付加価値作物が対象である場合などは圃場を堤防で保護することも選択肢となり得る。 「リス ク低減」策としては、まず作目・品種の多様化が挙げられる。チャオプラヤ川流域の農業形態は 稲作が支配的であり洪水被害も稲作を中心に発生している。この状況を考えると、野菜栽培は農 家に対しての多様化策・代替案となり、少しでも洪水による全損リスクを低減することに繋がる ものである。 さらに、野菜種子の自家採種とその保管・利用も作 物によっては有効であり、洪水が避けられなかった際 にも時期作をスムーズに開始するために用いること ができる。また、「早期復興」という視点からは、栽 培サイクルが短く、初期投資が少なくてすむ野菜栽培 は容易に開始できるものであり、この点では稲作より も優れているといえる。ただし、このためには洪水前 から野菜栽培技術に習熟している必要があり、これが 通常期に野菜栽培が振興されるべき大きな理由とな る。 野菜栽培は比較的小さな面積で栽培可能で、洪 水リスクの小さい高台で栽培できる こうした 4 つの大きな戦略については、個々の農家の状況を鑑み最も適したものを選択して実 施していくことが望まれる。ここに挙げた戦略は主に個人農家が「足るを知る経済」に基づく持 続的な農業を営む上で有効なものであり、大規模農家、商業ベースの園芸作物等については、大 きな投資を伴う対策が必要となろう。 ① 洪水回避 野菜栽培はそもそも洪水被害を回避するのに適した栽培形態であるといえる。特に自家消費 用のものについては、小規模な圃場で栽培することができ、高台に農地を確保することが容易 4-47 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) である。これにより、たとえ洪水が発生しても高台で栽培されている野菜は被害を受ける可能 性が低く、緊急時の食糧確保又は生計向上の一助となる。 洪水回避に向けての具体的な方法としては、湛 水環境下でも栽培可能な作付形態を導入するこ とが考えられる。典型的な例としては写真に示し た様な「いかだ」を利用した水上栽培並びに比較 的湛水環境に強い野菜(空芯菜等)の選択が挙げ られる。竹などの地場の材料を使う場合と比べ、 発泡スチロール等の特別な材料を利用する場合 は適用性は落ちるが、緊急時にはむしろ信頼性の 高い選択肢となり得る。 いかだ水上栽培は特殊な栽培法方だが緊急対応に 適用できる。地場の竹もいかだに利用できる。 ② リスク低減 前述のとおり、高台で栽培される野菜は低平地 に栽培される稲に比べて洪水時に被害を受ける可 能性が低く、個々の農家の作付体系に野菜を導入 して多様化を図ることでリスク低減が可能である。 このため、導入する複数の作物の類似性が極端に 高くない限り、いずれの作物・栽培方法の導入に よっても、多様化によるリスク低減効果を享受す ることができる。 一方、大規模な洪水が発生した場合や高台など の適地が存在しない場合などは、野菜についても洪 作物と収入源の多様化を図り、リスクを軽減する 有効な方法。写真はアクアポニックスの例。 水被害を受けることが想定される。こうした場合 でも、低投入型の野菜栽培を実践していれば、同 じ期待収益を享受しつつも経済的な損失は低く抑 えることができる。こうした観点から、野菜栽培 の導入にあたっては低投入型の「安全野菜」の栽 培がより適しているといえる。化学肥料や農薬の 利用を可能な限り排した「安全野菜」は消費者の 関心も買いやすく、販売する際のそういった点も 大きなメリットとなる。 ③ 早期復興 洪水により野菜栽培を行っている圃場が被害に 地元で採れる薬草エキスを蒸気蒸留法で抽出 し、防虫効果のある昆虫忌避を製造する。 遭った際には、次にできることはそこからの復興を急ぐことである。稲作の場合、栽培してい る規模も大きく投入金額も大きいことから、全てを失ったばかりの農家にとっては、再開は容 易ではない。これに対して、野菜栽培は比較的規模が小さく投入金額も少ないため、圃場から 水が引いた段階で直ぐに開始することができる。 国際協力機構(JICA) 4-48 ファイナル・レポート 小規模な野菜栽培から得られる収入は限られて はいるものの、栽培開始から早いものでは 3~4 週間後には収穫することができ、早いサイクルで 現金収入を得ることができるため、これを次の農 業資材購入や家屋の修繕に回していくことで、農 家は早期に回復サイクルに入ることができる。 このように、概念的ではあるものの、低投入型 の「安全野菜」栽培を中心に、野菜栽培は後期の 復興サイクルを開始する上で有効な手段といえる。 グリーンマーケット(産直市場)で安全野菜を 販売する農家:マーケットが確立されれば野菜 さらに、市場へのアクセスを事前に確立しておくこ 生産活動は持続的になり、洪水後の復興サイク とができれば、販売による生計向上を大きく後押し ル活動の再開を早くすることにつながる。 することに繋がる。一度市場での販売経験を積み、消費者との関係性を構築することができれ ば、再開へのハードルは低くなり、洪水被害を受け意気消沈している農家にあっても回復への ビジョンを描きやすくなる。 (5) その他換金作物 サトウキビやキャッサバなど稲以外の換金作物については、丘陵地に作付けされていることが 多く、洪水被害のリスクよりもむしろ干ばつのリスクの方が高い状況にある。しかるに、これら の作物については、洪水対策に対する社会的要請は低いと判断される。これに対して、非洪水常 襲地域での果樹栽培やラン栽培に関して甚大な被害が生じた例がいくつか報告されている。これ らの作物は作付開始から収穫まで相当程度の期間を要し、多大な投資がなされていることから、 圃場の規模に対して経済的損失は甚大なものとなりやすい。 残念ながら、こうした被害を受けた農家の中には、 再度果樹の植え付けを行うだけの投資資金が無い、あ るいは、これからまた 4~5 年間も現金収入無しで果樹 栽培を継続することは困難だとの理由で再開を断念し た農家もいる。こうした農家には、①マンゴーのよう な収穫まで 4~5 年もかかる品種ではなく、バナナの様 な比較的短い期間で収穫が可能な果樹を栽培する、② 圃場を堤防で囲い洪水防止を確実なものにする、③高 台に限定して栽培を行う、④根腐れ病等の耐病性を高 める菌を接種する、等の方策を検討することが推奨され る。果樹のような投資金額が大きい作物の場合、失った 場合の損害が甚大になるため、より保守的な対応が求め 2011 年洪水で壊滅的な被害を受けたマンゴ ー果樹園では復旧のための資金不足や、出荷 までの年数を考慮し、マンゴーの代わりに早 期出荷のできるバナナが植えられている。 られよう。 (6) 復興に向けた産官学連携 産業としての経済的損失の大きい施設園芸や果樹のサブセクターについては、一農家での復旧 ではなく業界全体としてこれを機に新しい課題への取組も含めた復興が必要である。このために 産業界、政府機関と研究機関が連携する必要がある。この産官学連携については、後述の 4.3.5「つ 4-49 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) ながる・支える組織・制度」を参照されたい。 (7) 畜産 2011 年の洪水による家畜分野における最も深刻な問題は家畜用飼料の不足であったことから、 家畜用飼料の生産が畜産分野の施策の主軸となる。これは洪水中の対応にあたる「避難」および、 洪水前準備にかかる「緊急用備蓄」の戦略にあたる。そして家畜自体の安全確保のための避難先 の同定は「リスク軽減」戦略であり、前述 4.3.1 の「洪水に備えるコミュニティ防災・軽減対策」 でのリスク分析・ハザードマップ/避難経路図策定及び洪水リスク軽減計画に含まれるものであ る。タイにおいては山羊など中家畜も小規模畜産農家に飼育されており、その対策として高床式 畜舎の導入を「洪水被害回避」戦略として紹介している。小規模であれば、家禽類の導入は適し 自給的複合農業の一部として「足るを知る経済」のコンセプトとして適している。なお、大規模 な養豚や養鶏も 2011 年の洪水では大きな被害を受けているが、このガイドラインでは小規模畜産 農家を対象とし、それら商業的大規模畜産企業は対象としていない。 畜産の洪水対策 洪水被害回避 リスク軽減 高床式畜舎 の導入 家畜避難計 画 図 4.3.13 緊急用備蓄 代替エネル ギーの振興 家畜飼料備蓄 の振興 避難 家畜飼料備蓄 の提供 畜産にかかる洪水対策 1) 家畜避難計画 コミュニティ洪水リスク管理計画策定の中で、洪水リスク分析により同定された洪水リスクの 高い地域においては、事前に家畜の避難場所と避難経路を含む避難計画を立案し、洪水ハザード マップに含めておくことが望ましい。計画では、洪水時と洪水後に飼料を提供すべき家畜頭数(主 に牛や山羊・羊等の反芻動物)を算定しておく。これにあたっては特に下記の点について考慮す べきである。 道路網、標高、畜産農家の所在地・分布等を網羅した コミュニティ地図の準備。主要家畜の頭数や牧草地の 面積等も明記しておく。 降雨量が通常年を大きく上回ることが判明した際に、 TAO、DLD の県および郡事務所を交えて家畜の避難計 画について議論を始める。 コミュニティ内での議論を経て、避難先を指定し洪水 到達前に合意を得ておく。 洪水時においてもコミュニティ内に残る家畜頭数につ いて検討する。これが飼料を提供するための基準頭数と なる。 国際協力機構(JICA) 4-50 2011 年洪水の教訓をもとに、家畜の避難 場所、避難経路を特定し地図に書き込む。 ファイナル・レポート コミュニティ内 の総反芻 家畜 頭数 洪水期間中もコミ ュニティにとどま る反芻家畜頭数 備蓄飼料量の 推定 コミュニティ内 に 2~数箇所の 備蓄庫建設 洪水の影響がない安 全地域へ避難する 反芻家畜頭数 図 4.3.14 飼料備蓄庫の計画フロー 洪水期間中の必要飼料量の推定に当たっては洪水期間中に飼料を供給する必要がある家畜(主に 牛及び緬羊/山羊を対象)頭数を決定し、コミュニティレベルで備蓄する飼料量を算定すべきであ る10。 2) 家畜用飼料の生産および乾草・サイレージへの加工 飼料の生産については、畜産局が低地用としてパンゴラグラス、畑地用としてパクチョン-1(ジ ャイアントネピアグラス)を推奨しており、これらの導入を促進する。これら牧草の特徴は次表 に示すとおりであり、パンゴラグラスについては灌漑地区における稲の 1.24 倍の収益が、非灌漑 地区においては 2.02 倍の収益が期待できる。 表 4.3.8 項 目 栽培適地 播種又は植え付け 植栽時期 一番刈り時期 二番刈り以降 年間刈取回数 牧草利用 生草収量 乾草収量 必要更新年数 洪水後の処置 収益性 生産費 収量 価格 粗収益 純益 米との純益比較 パンゴラグラスとパクチョン-1の特徴 パンゴラグラス パクチョン-1 低地 畑地 苗植え付け 苗植え付け 通年 雨期前期 植え付け後 60 日~70 日 植え付け後 75 日 刈り取り後 45~50 日毎 刈り取り後 45~60 日毎 通常年 5~6 回 通常年 5~6 回 生草、乾草 生草、サイレージ 18~24 ton/rai/year 77 ton /rai/year 以上 4,000~6,000 kg/rai/year 5~6 年 6~8 年 洪水直後に窒素を 25 -50kg/rai 施肥 灌漑地区 非灌漑地区 5,268 THB/rai 1,603 THB/rai 3,845 kg/rai 1,200 kg/rai 2.24 THB/kg 2.25 THB/kg 8,612 THB/rai 2,699 THB/rai 3,344 THB/rai 1,096 THB/rai 1.24 2.02 注: Cost and benefit are based on a survey by the DLD (2004/05) パンゴラグラスを用いた乾草の生産 乾草の生産には雨を避ける必要がある 高品質の乾草を生産するには、2~3 日間の日射乾燥により水分含有率を 15%程度にする必 要がある 10 算定にあたってはテクニカルペーパー、16.Feed Production and Storage for Livestock 参照のこと。 4-51 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) トラクター装着式のベイラ-を用いた場合、一日に 800~1,000 個のベール(円筒状に梱包 した牧草)を準備することが可能である パンゴラグラスを用いたサイレージの生産 サイレージは雨期にパンゴラグラスを保管する際に推奨される サイレージは洪水期にも利用可能な保存飼料である サイレージは梱包された後、約 20 日間で利用可能となる パクチョン-1 を用いたサイレージの生産 梱包には、梱包後の重量が 30kg 程度となる肥料袋のようなプラスチック製の袋(ただし 50kg を超えない程度)、もしくはプラスチック製のドラムコンテナを用いる 吸引ポンプを用いてプラスチック袋内部の空気を取り除き、硬く縛り付けておく 梱包後 3 週間で牛への飼料として用いることができる 3) 飼料貯蔵機能の強化 ① 飼料貯蔵庫の概念 緊急時の飼料供給システムの構築にあたっては、国 家レベルでの対策が必要とされる。これにより、非洪 水被害地区の農家が貯蔵していた飼料を提供すること で、洪水被害地区の畜産農家を支援することが可能と なる(右図参照)。想定される家畜頭数、洪水被害面積・ 期間を考慮すると、相当量の飼料を貯蔵しておく必要 があり、主要各県に設置されている家畜栄養研究開発 センター(ANRDC)による貯蔵に加え、コミュニティ レベル、各個人農家レベルでの貯蔵も必要となる。 これまで、家畜農家の多くは洪水による甚大な被 害を経験したことが無く、家畜用飼料がコミュニテ 図 4.3.15 飼料貯蔵庫の概念図 出典:調査団作成 ィレベルで貯蔵されることは無かった。2011 年の大洪水による被害を受け、ここでは DLD セ ンター、コミュニティ、そして個人農家レベルでの飼料生産および貯蔵に関する機能強化を提 案する。 ② 飼料貯蔵 飼料貯蔵庫の機能 コミュニティレベルにおける飼料貯蔵庫は災害発生時の飼料供給能力を強化するものであ り、反芻動物が健康でかつ生産性の高い状態を維持することに繋がり、畜産農家に安定的な収 入を約束するものである。ここでは、飼料貯蔵庫を非洪水被害地域に設置し、ここで貯蔵され ていた乾草やサイレージを洪水の発生した地域の畜産農家に供給することを基本機能とする。 同様に、DLD 所有の ANRDC ではより規模の大きい貯蔵庫を有しており、ここで貯蔵してい る飼料も災害発生時に用いることができる。 国際協力機構(JICA) 4-52 ファイナル・レポート 乾草備蓄庫の規模の決定 モデルとしての 100LU 向けの備蓄庫の床面積は次のように算定される。 表 4.3.9 条件 成牛 1 頭(1 LU)の生体重 1 日当たりの乾草摂取量 湛水期間 家畜頭数(LU) 乾草必要量 乾草 1 トンあたり容積 乾草容積 乾草積み上げ高 必要床面積 飼料備蓄庫の床面積の算定 仮定 500kg 13.5 kg/日/LU 60 日(地域により異なる) 100 LU(牛 100 頭) 81.0 ton 3.9m3/ton 315.9 4.0m 79.1m2 (例えば 8.9mx8.9 m) 設置場所 コミュニティレベルにおいては、輸送上の利便性、畜産農家が家畜を飼育している場所、 牧草地の場所等を考慮し貯蔵庫を設置することが望ましい。洪水域の影響を考慮すると、 1 箇所ではなくコミュニティ内の高所に 2~3 箇所の備蓄庫を分散して建築することが望 ましい。その方が災害時に備蓄乾草を効率的に輸送できる。 道路 道路 貯蔵庫 牧草地 牧草地 貯蔵庫 貯蔵庫 牧草地 ANRD 又は 他地区から 飼料供給 道路 図 4.3.16 コミュニティレベルの飼料貯蔵庫の設置場所 出典:調査団作成 これらに向けては、TAO や DLD の県・郡事務所、畜産農家、飼料生産農家が地図を用いて 議論し、具体的な設置場所と貯蔵庫の規模を設定することが求められる。 ③ DLD 本部による乾草貯蔵のモニタリング DLD 本部は、全国に展開している 29 の ANRDC について、飼料貯蔵の動向を毎月モニター することとされている。全国には大小様々な貯蔵庫が合計 116 箇所設置されており、29 の ANRDC の内、28 のセンターにおいて 10m×20m 規模の貯蔵庫が場所によって 1~7 箇所設置 されている。これら ANRDC は大規模な貯蔵施設を有しており、今後、洪水が発生した場合に はこれら施設の役割が期待される。また、DLD 本部については、そうした災害が起こる前に 効果的な輸送システムのあり方について検討をしておく必要がある。 4-53 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 4) 洪水対策としての高床式山羊小屋 ① 高床式畜舎の機能 山羊の飼養に際して高床式畜舎の導入を推奨する理由として以下の 2 点が挙げられる。第一 に、1.5m~2.0m の高さに上げられた床を以て洪水を避けることができること、第二に、畜舎 が山羊に快適な空間を提供することである。快適な畜舎は山羊を健康的に維持し、生産性を向 上させ、また、管理も容易となる。畜舎としては、洪水をはじめ、強風、豪雨、外敵から山羊 を守るものが理想的である。推奨される畜舎は、換気が容易にできるもので、かつ管理や清掃 が容易で、さらには十分な空間が確保されるものである。 ② 山羊小屋の設計 成熟した山羊 1 頭当たりに必要なスペース: 1.86m2 床高:1.0~1.5m(非洪水常襲地区) 、1.5~2.0m(洪水常襲地区) Goat house Loafing area 図 4.3.17 高床式山羊小屋 出典:調査団作成 乳用山羊用のスペースは間仕切りで仕切り、子ヤギや妊娠山羊、搾乳山羊、種山羊とは別に 管理する。子ヤギのスペースについては母山羊の近くとすることにも留意が必要である。また、 搾乳山羊から雄山羊を遠ざけ、ミルクに雄山羊の匂いが付着することを防ぐ。 ③ コスト 高床式山羊小屋の建設に必要なコストは、材料費と建設にかかる労賃を含め、約 5,500THB/m2 と見積もられる。安価な部材を用いることでこれを下げることが可能である Box 4.3.7 農業畜産分野洪水対策 AGRI-1: 稲移植苗による作期の短縮、移植苗業者育成 モデル活動・事業 [実施:稲作農家、支援:RRC, DOAE] 投げ苗による移植栽培により本田作付期間の短縮、洪水期前収穫<洪水被害回避> AGRI-2: 安全野菜栽培とグリーンマーケットの開催 [実施:野菜生産グループ、支援:DOAE, LDD] 野菜生産による作物多様化<リスク軽減>と洪水後の早期の現金収入の実現<早期回復> AGRI-3: 緊急時の飼料供給システム構築(飼料備蓄庫建設)[実施:TAO、家畜グループ、支援:DLD] コミュニティ飼料貯蔵庫の建設による災害発生時飼料供給能力強化<備蓄><避難> 国際協力機構(JICA) 4-54 ファイナル・レポート 4.3.4 くらしの復興にむけての収入創出活動 (1) 農村生計の多様性に基づくレジリエンス、農業の集約化と洪水に対する脆弱性 元来、伝統的な農村の生計は多様であり、現金収入のためだけでなく暮らしのために地域の資 源を活かした様々な生計活動が行われている。主たる現金収入が米の販売である場合でも、年に 一、二回の収穫と販売に依存しているだけでなく、それを補う現金収入や交換による必要な生計 維持の方法を持っているものである。農業はそもそも自然に依存しており不確実性を有している ため、利益を最大化するよりも(特に天水農業地域の小農にあっては)様々な天候リスクを最小 化する傾向があり、そのために多様化戦略を取ると言われる。 一方で、灌漑が整備されたチャオプラヤ・デルタの多様化を失ってきた米単作地域にあっては、 収益の最大化を目指し生産した籾米を自家消費用に残すこと無く大規模な精米所で現金化する傾 向がある。このため、大洪水の際には低地である洪水被害のリスクに加え、全ての現金収入源を 失い自家消費の食料をも持たないという脆弱な状況にあると言える。また、都市化してきている 近郊農村においては、農外所得が主たる収入となり農業は衰退する傾向にあるため純農村のよう な多様性は失われてきている。 このような状況の中で、洪水期間中及び大洪水後の農業による現金収入が得られるまでの補助 的な収入として、現存の収入創出活動の強化や新たな導入は生計の回復に寄与するであろうし、 通常時においても生計の多様性を維持に貢献し農村世帯のレジリエンスを強化することになる。 モデル地区での考察を踏まえ、地域特性から収入創出アプローチを下表に取りまとめた。 表 4.3.10 地域 上流域・ 洪水常襲地区 稲作単作地帯 デルタ・ 洪水常襲地区 都市近郊 コミュニティの状況、洪水の課題と収入創出アプローチの留意点 収入創出アプローチの 自然・社会状況 洪水対策による課題 留意点 洪水との共生文化 洪水対策による状況変化 既存の魚の簡易加工の 自然・生計の多様性高い (湛水期間短縮、長期化) 拡大や品質向上は、過大 による漁獲量の変化 な投資を避ける 自然・生計の多様性低い リテンション(遊水地)と 土地なし農家や農業労 大規模地主が多く借地農や して農地を利用する可能 働者の収入減少に留意 農業労働者はより大きな洪 性有り 土地なし農民層はコミ 水の悪影響が懸念される 三連作・洪水リスク時期の ュニティのグループに 作付中止による借地農・農 も帰属していない可能 業労働者への影響 性があり、支援から漏れ ないかに留意 洪水期の魚加工や平常 時の鶏卵等の加工 若年層は地区外での賃金労 モンキーチークとして湛 魚加工・手芸品加工等家 働で農業の高齢化がすすん 水期間が長期化 庭で集まって作業でき でいる る簡易な物を選択 農地の宅地への転用進む新 防御地区・洪水リスク低 マーケット近い 住民流入、急速な混住化 高付加価値な加工も可 (新住民との交流手段) 作成:調査団 4-55 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) (2) 洪水対策としての収入創出活動、食品・農産加工および一村一品運動(OTOP) 収入創出活動は洪水対策として直接及び間接的な効果があると考えられる。直接効果は補助的 な現金収入を得られる事であり、洪水期の家計への負の影響を緩和する役割と収入の多様化によ り洪水被害リスクを軽減することにある。一方で間接的な効果としてはグループ活動を通じで洪 水期の気晴らしになり、コミュニティの絆を強めることである。 収入創出活動 (食品加工/手工芸) 洪水中 洪水後 現金収入 直接効果 洪水による経済損失を補う現金収入 洪水被害からの早期復興 収入多様化による洪水リスク軽減 グループ活動 間接効果 洪水被害の精神的落ち込みの気晴らし 図 4.3.18 グループの絆の強化 収入創出活動の洪水対策としてのインパクト 出典:調査団作成 しかしながら、収入創出活動にも限界がある。洪水対策として導入する際には以下の点を留意 すべきである。 全てのグループが外部からの支援を得たからと言ってビジネスとして成り立つまで発展 できるわけではない。ビジネスとしての成功には様々な要素があり、外部からの支援で 必ず成功するわけではない。コミュニティにおける収入創出活動による直接・間接の効 果を比較して導入することが重要である。 食品衛生基準が厳しくなっており、コミュニティ外への販売には食品薬事局(FDA)の 認証を取るには Pre-GMP レベルの加工場の衛生管理が鍵となる。既存の認証済み食品加 工場が被災した場合、新基準の認証を取得のため資金を含め実現可能性を検討する。 既存の食品加工施設が洪水で被害を受けた場合、加工場は清掃の後に再度 FDA の認証申 請をしなければならない。この際に Pre-GMP レベルを満たす施設への再投資と衛生管理 能力研修のための外部支援が必要になるであろう。 国際協力機構(JICA) 4-56 ファイナル・レポート (3) 長期湛水期間の生計維持 2011 年の洪水が洪水常襲地域にあっても住民に大きな負担を与えた理由には、湛水期間が長期 にわたり、交通や流通手段が限られた点にある。洪水地区にあっては農作物の生産側のダメージ が大きく農作物の流通上の問題は大きくは取りあげられなかったが、流通施設の被害よりも流通 経路が遮断されたために流通が滞ったという問題があげられた。加工グループや一村一品グルー プの調査からは加工品の出荷が不可能になり現金収入が断たれた例や、原材料の入手が困難にな り、在庫品が被害を受けた事例も報告されている。 そのような中で、洪水期間中の収入としてまず挙げられるのが漁獲である。モデル地区での調 査結果からも明らかなように、洪水常襲地区においては洪水を災害と考えるよりも、漁獲による 現金収入の機会と捉えている。通常は漁獲で生計を立てている住民は 1~2 割しかいなくとも、洪 水期には多数(7~8 割)の住民が川から流れてくる天然の淡水魚だけでなく、エビやその他水棲 動植物、ヘビなどを捕らえて仲買人や市場、コミュニティ内での売買で現金収入を得ている。ま た、生鮮での販売に加え日干しや燻製など地域での簡易な加工・販売や自家消費用に発酵加工を 行うことはどこでも見られる伝統的な適応方法である。 洪水時に対しての生計維持のため、またコミュニティのレジリエンスを高めるために何らかの 支援を行うべきか?という点についてこのガイドラインにおいては 3 つの視点を示す。 i) まず、現在洪水常襲地区で洪水期の漁獲が重要な収入源となっている地区においては、 構造物による洪水対策を行う際に魚類の生息と漁民への影響を考慮することが重要であ る。 ii) 地区内でより便益を広く分配するために、既存の簡易な加工の生産増強を支援し洪水期 間中の買取量を増やす。このために加工機械や器具の供与を TAO の予算で行う事も可能 であろうし、農村企業として登録していれば融資も可能である。 iii) 自然の氾濫原ではなく都市部を守るために意図的に洪水を導入する遊水地(リテンショ ン)など、新たに洪水のリスクが高まる農村地区においては、農業からの所得の損失を 補う一つとして漁獲と加工を取り入れるべく地元の伝統的な知恵や他地区の優良事例か ら学ぶ機会を提供すべきである。また近隣地区での観光イベントや県内の OTOP フェア などの地区外への販売の機会を提供するなど販売面でも県行政が支援できる。 現金収入の点だけでなく、加工グループのメンバーは共同で働くことを楽しみにしている。特 に女性や老人のグループでは仕事時間に対する報酬よりも共に働く時間を楽しみながら追加的に 収入が得られれば良いと考えており、洪水期間中も集まって作業をすることを望んでいる場合が ある。この結束が長期にわたる洪水期間の安否確認や健康状態の確認をするために重要である。 特に老人の独居世帯が増えている地域においては、保健所・保健ボランティアだけでなくこのよ うなコミュニティ内のつながりを積極的に活用することがレジリエンスを高めることに繋がる。 魚類に限らず洪水期にも得られる地域資源を原料とする物であれば推奨される。例えばホテイ アオイは水路や河川沿いに無尽蔵に得られる資源で、茎を乾燥してバスケットや家具に加工する ことができる。地域資源を活用し、あまり高度でない加工を自宅でできることが洪水期間中にも 継続できる加工活動の要件である。 4-57 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) (4) 洪水後の生計回復と外部からの支援 洪水後の生計回復のための収入活動の新規導入や、洪水リスクの高い地域においては予め収入 創出活動を始めておくために外部からの支援も必要となる。加工を伴う収入創出活動については、 以下のような外部の支援機関がある。 1 2 3 4 5 6 表 4.3.11 農産加工・収入創出活動・OTOP の支援に関する関係機関 関係機関/ステークホルダー 可能な支援・役割 農業普及局(DOAE)、 ・ 農村企業“Community Enterprise”へ登録 協同組合振興局 (CPD) 、 ・ 協同組合 Cooperative の設立 農業・協同組合省 ・ グループへの低利融資 コミュニティ開発局 (CDD)、 内務省 ・ グループの組織化・強化 ・ ビジネスプランの作成と研修 ・ OTOP への登録と展示会・販売会企画 食品薬事局(FDA)、保健省 ・ 食品の認証 工業促進局 (DIP)、工業省 ・ コミュニティ製品の促進・認証 大学(農学部、アグロインダストリー等) ・ 品質向上のための技術支援(分析、商品開 研究・訓練機関 発、パッケージング、マーケティング) NGO、財団 ・ 上記機関とコミュニティを結びつける ・ コミュニティのニーズ調査 出典:調査団作成 また、支援の一般的なステップを以下に示す。 ステップ 留意点 1. 現況把握のためのコミュニティ・ワ ークショップ ・ 既存のグループ、技能、地域資源 ・ 活動に関係する広くステークホルダ ーに呼びかけ(NGO,政府機関等) 2. 活動の計画ワークショップ ・ 地域の資源、既存のグループや知識・ 技術を最大限活用する 3. ビジネスプランの策定 ・ CDD など政府機関の関与を求める (政 府機関の支援出ない場合) 4. 技術知識と技能の向上 ・ 地元の先進的なグループの紹介 ・ 大学等からの技術指導 ・ 調達はビジネスプランに基づく 5. 機材の調達・加工施設の改善 ・ 既存マーケティンググループと繋げ る ・ 地域市場やフェアを活用する 6. マーケティング 図 4.3.19 収入創出活動の支援のフロー 出典:調査団作成 加工を伴う収入創出活動は、農作物が洪水後に種を植えて収穫まで現金化できないのに比べ、 短期間で生計回復に貢献するであろうが、支援を行うにはいくつかの留意点がある。 i) コミュニティ外部への販売を行うにはマーケティングが重要であるが、これこそ外部か ら支援が可能な部分である。行政機関では OTOP イベントや観光フェアなどに無料で出 国際協力機構(JICA) 4-58 ファイナル・レポート 店・販売できるように支援しているが、それ以外の民間団体や個人の支援者でもインタ ーネットの活用など村人ではできない部分を支援することが効果的である。 ii) 近年マーケティング戦略としてパッケージに重点を置き包装費用が高くなる傾向がある が、市場での競争を考慮すると結果的に収益を圧縮することになりかねない。 iii) グループでの活動に焦点を当てる傾向にあるが、生計回復を考える場合に個人事業主の ほうがグループ運営よりも同じ商品でも売上げが多く、同じグループメンバーを労働力 として雇用している場合がある。個人事業主を支援して販売を増やし雇用や地域での原 料の買い上げ量を増やす方が、結果的により広い層の生計支援につながる場合がある。 iv) OTOP に関わる複数の県行政機関が一つのグループに対し、異なるアプローチで支援し 混乱と分裂を招くケースが見受けられる。グループの主体性を失わせるような外部から の支援はレジリエンスを弱める結果となる場合がある。 伝統的製法の天日干しエビペースト 大学のラボで製品開発した魚加工品を缶詰に 水路に無尽蔵にあるホテイアオイをカゴに加工 Box 4.3.8 iGEN-1: OTOP5 製の日本にも輸出されている竹ハンドバッグ くらしの復興にむけての収入創出活動 地域資源を活用した加工による生計向上 モデル活動・事業 [実施:加工グループ、支援:CDD, DOAE] 洪水期に得られる魚やホテイアオイなどの地域資源の簡易な加工による補助的収入 <積 極活用> 4-59 農業経済局(OAE) タイ国 4.3.5 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) つながり・支える組織・制度 (1) 国レベルの災害管理(特に洪水)の為の組織と体制 1) 災害時の内務省災害軽減局と農業・協同組合省の役割 如何なる自然災害も経済活動や住民の生活に深刻な影響を与える事から、国レベルの多数の機 関が災害の防止、軽減、緊急救助・復興及び支援活動について社会一般に対する責任を負ってい る。タイにおいては内閣の下、国家安全委員会を始め、関係の各省、局が各々の分掌に応じて責 任を担っている。然しながら、今回のプロジェクトにおいては災害が農業及び農村分野での洪水 災害と特定されていることから、以下の検討・記述は農村部における作物及び住民の生計・生活に 対する洪水被害に焦点を絞る事とする。内務省防災・軽減局(DDPM)と各県・地方行政体及び地 方自治体、更には農業・協同組合省(MOAC)が直接的に農業・農村分やの洪水対応策に責任を 持つ公的機関である。一方、総理府傘下の所謂シングル・コマンド・オーソリテイ(含む ONWFP) は大規模な水に関連した災害管理に任じている。このオーソリテイは長期にわたった 2011 年洪水 災害時に確認された弱点を強化・改善すべく 2012 年 5 月に設立されたものである。 DDPM 与えられた政策に従って各レベルの地方行政が遂行する役割は多大なものであり、DDPM は今 日までに 77 県全てに DPM オフィサーを任命している。県レベル DPM オフィサーの主要任務は DDPM 中央と県行政体・自治体との調整を行うことである。 MOAC MOAC は農業生産・開発、資源管理及び農民共同体の開発・促進を管掌している。MOAC 傘下の OAE は政策の立案や開発計画のプラニングに任じられて。洪水被害に対する対策については、 MOAC は 2011 洪水被害に対しては「2012 会計年度農業災害準備計画」に基づいてアクションを 取り、且つ農業セクター災害被害者に対する支援マニュアルを作成、実施指針としている。しか しながら、上記プランは洪水に対して 2P2R コンセプト(Prevention, Preparedness, Response 及び Recovery)について書かれているものの、政府機関の実施すべき備えや対応が中心であり、農民 及びコミュニティがどのように備えるかの指針とは言い難い。また、マニュアルは主に災害発生 前、発生時の緊急対応と事後の補償支払いについて定めたものであり、“公助”の部分に留まる。 農民及びコミュニティの防災力(Resilience)を強化する為の活動は多岐に亘り、災害対応の実施 体制のみならず、各実施機関の通常業務内での実施や縦割りの弊害を越えた協力体制を構築する 必要がある。 Single Command Authority シングル・コマンド・オーソリティは国レベルの委員会としての NWFPC と WFMC 及び事務局 としての ONWFP より構成されている。NWFP は政策を決定する。WFMC はその政策を受けて行 動に移す。ONWFP はこれら委員会の事務局としての役割を担っている。これまでに ONWFP 他 は閣議承認に基づいて、タイの持続的な水資源及び洪水管理・問題解決の為のメガプロジェクト の建設を目的としたコントラクター選定の為の国際入札手続きを推進している。 オーソリティ全体として水資源・洪水管理に関する政策方針、実施計画、懸案解決の為の事業実 国際協力機構(JICA) 4-60 ファイナル・レポート 施について絶対的な権限を付与されているが、同時にオーソリティは政策に基づく各関係機関に よる実施を指揮する権限を有している。しかしながら、これらは国レベルの事であり、現地での 実際のアクションは通常、大規模水関連災害時を除き、関係機関によって実施される。それ故、 本ガイドラインで検討・記述されるべきコミュニティレベルでの洪水対策や水資源管理計画は直 接的にはこのオーソリティによるアクションには含まれず、対象外である。 (2) 県レベル関係機関の役割と統合 災害(洪水)に強いタンボン防災力向上計画(Tambon Disaster Resilience Plan)はタンボンを中 心に計画が策定されるが、活動ごとに技術的、資金的に県からの支援が必要な場合が多い。また、 県政府は洪水のリスクに応じて緊急度の高い地域からタンボンが計画策定を行うよう指導する立 場にある。計画は統合的な活動であり、一つの実施機関の単独の行動ではそれが洪水対策として の効果を発揮する事は限定的である。この為、タンボン防災力向上計画策定の順次拡大と具体的 な活動の推進を行うには県レベルの政府機関の関与が最も重要である。 実施体制として知事を長とする委員会を設置し、計画作りを行うタンボンをデータ・情報に基づ いた洪水リスクに応じて優先順位を決め Integrated Activity の場として共同で活動実施を支援する 事が望ましい(アユタヤ県のケース)。選定したタンボンのみならず、タンボン及び農民からの要 請に応じて支援する場合も、活動レベルでの各実施機関及び外部支援機関の協力が重要な事は前 述のセクター毎のガイドラインに示すとおりである。 図 4.3.20 県タスクフォースの組織図(アユタヤ県の例) 出典:調査団作成 4-61 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 省令等によって定められた画一的な組織構造・構成はないが、モデル地区として選ばれたアユタ ヤ県では JICA プロジェクト後の継続活動のための実施体制は県タスクフォースと同じであり、こ れが参考となる。以下の図はアユタヤ県で組織された本件実施の為の県タスクフォースの組織構 造を示している。 実際上、県レベルの関係機関間の協力・調整は県タスクフォースの事務局である県農業・協同組 合事務所(PACO)によって行われた。PACO による調整業務は概ね効果的に行われ、県レベル関係 機関やタンボンレベルの関係者、更にはパイロット事業実施に参画した住民の参加・協力は積極的 であったと評価できる。 Box 4.3.9 パイロット事業実施に係る県レベルのタスクフォースの活動より得られた教訓 県タスクフォースはプロジェクトの実施にあたって以下の役割を果たした。 1. パイロット活動の実施にあたり計画、モニタリング、調査団への提案を行う 2. モデル地区でのコミュニティ調査の調整及び現場会議の開催支援 3. ガイドライン策定支援と教訓の取りまとめの支援 モデル地区とそれ以外の洪水リスク地区での洪水対策活動を継続するためにいくつかのタス クフォースは継続される。 また、プロジェクトの実施で得られたタスクフォースに関する教訓は下記の通りであった。 タスクフォースによる業務成果の良否は県知事による政策と指導性に負う所が大き い。 タンボン間の調整による積極的な役割はより強化されるべきである。 (3) タンボンレベルの組織・体制 タンボンレベルの組織については、 「災害(洪水)に強い農業・農村計画」を策定する際に主体 となるタンボン自治体と各村の代表、そして活動毎に責任をもって実施を行うグループがある。 グループとは法人格を持たなくとも政府正式に登録された農村企業(Community Enterprise)や一 村一品(One Tambon One Product: OTOP)グループもあれば、リーダーとメンバーからなる任意団 体もある。このグループメンバー間の絆の強さや、地区としてのグループの多さが「内部結束型」 ソーシャルキャピタル(社会関係資本)の増強につながり、外部から支援する団体との「橋渡し 型」ソーシャルキャピタル(JICA)が形成されることで外部とのネットワークが何重にも広がる。 このことによりレジリエンスを高めると考えられる。 国際協力機構(JICA) 4-62 ファイナル・レポート 表 4.3.12 モデル事業におけるコミュニティでの活動主体 課 題 モデル事業・活動 活動主体 備 考 洪水に備えるコミュニ 洪水ハザードマップ策定 TAO 地域全体の防災・減 ティ防災計画 洪水災害マネジメント計画 TAO、防災ボランティア、学 災という公共的な性 校 格から、タンボン自 安全な飲料水確保 タ ン ボ ン 自 治 体 ・ 学 校 治体の役割 (水管理委員会) コミュニティ水資源管 コミュニティ・モンキーチーク開発 TAO・自治体間協力 水資源開発は予算規 理 模も大きく TAO から 大規模灌漑地区洪水管理 水利組合・TAO 県への支援要請が必 要。 農業・畜産分野洪水被 稲の移植 農家個人 稲作は個人で対応た 害軽減対策 複合農業普及 学習センター だし、種子生産や備 安全野菜生産+グリーンマーケッ 市場委員会・野菜生産グ 蓄はグループで対応。 ト(無農薬産直市場) ループ 安全野菜はマーケティング 飼料生産・備蓄 牧草・畜産グループ/TAO で協働必要。飼料備 蓄は共同利用施設で TAO 関与 暮らしの復興に向けて 地域資源を活用した加工 加工グループ 零細企業から協同組 の収入創出活動 農村企業、OTOP グループ 合的な農村企業、緩 やかなインフォーマル・グルー プまで様々 TAO に示されたミッションのうち、農業面での果たすべき役割はほとんどの場合明確には示さ れていない。内務省自治体振興局が発表した資料によれば、TAO 当たりの予算(2003 年度)は国 全体の平均値として 7.47 百万バーツとなっており、職員数(2006 年度)は 15 名(常勤 6.6 名、 臨時雇用 8.5 名)である。 パイロット実施を通じて得られたタンボンレベルでの教訓をガイドラインとして示す。 計 画 トップダウン型とボトムアップ型の均衡した組み合わせが有効な場合が多い。その点にお いてタンボンが住民のニーズと県レベル政府機関の方針をすりあわせるインターフェー スになる。計画立案を TAO がファシリテートすべきである。 地域住民の良好な協力を得る為には、目標とするセクターの選択と公平な予算の配分が十 分な理由を以って決定されなくてはならない。特にいつ発生するかわからない洪水への備 えについて住民の理解を得るためには、過去の洪水経験に基づいた問題点の把握、戦略計 画と行動計画を参加型ワークショップで策定することが重要であるが、これらの一連のプ ロセスには外部からの支援が必要である。 実 施 地域住民にとっては、活動や事業の実施が重要なポイントとなる。いくつかの研究機関に よる再委託調査は住民の混乱を招いた。実施を伴なわない研究や調査のみは住民にとって 何ら実質的なものが無く、協力は得がたい。 一つのタンボンにおける改善された水管理の実践の為には、一タンボンの領域を超えた近 隣の複数のタンボン間の協力・調整とそれを可能にする県当局と RID の参加・協力が大変 重要である。 各種モデル活動については洪水以外でも有用なものが中心であるため、地区の課題に応じ てスタディーツアーやトレーニングを実施して実践に結びつける必要がある。スタディー 4-63 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) ツアーやトレーニングであれば TAO の予算を活用することは十分可能である。個別技術 ではなく、包括的な対策を優良地区から学ぶスタディーツアーはタンボンのリーダー達の 参加を得て TAO の予算で実施することが望まれる。 持続性・自立発展性 類似事業の更なる進展や他のタンボンにおける展開にはパイロット事業後のメンテナン スが鍵を握る。事業の運用による一定の収入確保は受益農民のインセンティブになると同 時に事業施設の持続性を確保する上で欠かせない O&M 資金の確保を意味し、重要な点で ある。 本プロジェクトや県行政機関で支援を受けたモデル活動を実践する農家やグループは学 習センターとして、他の住民や他地区からの視察に対して、その経験を共有し普及センタ ーとして活用されるべきである。そのために県・郡レベル実施機関から継続的な支援も必 要である。 長期的な持続性について地区内の学校との協働は有効であり、次世代を担う生徒だけでな く両親にも子どもを通じて知識を普及することが可能である。 (4) 複数タンボンと県の自治体間連携 水資源、洪水の面的広がりを考える際に、一つのタンボンで出来る事は限られており、また行 政区界と灌漑地区や流域の範囲は必ずしも一致しない為、周辺のタンボンとの協力が重要となっ てくるケースが多い。また、財政的にも一つのタンボン自治体で出来る事は限られており、二つ 以上のタンボン自治体が協力して行う事業について県自治体からの資金的支援を得る事が可能と なった。自治体連携を促進するためのプロセスには以下が含まれる。 近隣タンボンの代表での会議を開催し、共通の課題を特定する。(洪水や干ばつ等) 地方自治局(DOLA)県事務所及び県自治体(PAO)と会議を持ち、課題について説明し、 複数タンボン自治体間連携の監督と調整を依頼する。 先進地区への視察を行い自治体間協力によるプロジェクトの成功事例から学ぶ。 (例:ウボンラチャタニ県の水資源開発) 県に戻り自治体間協力の計画を立案する 内務省地方自治局(DOLA)への JICA による技術協力「自治体間協力による公共サービス提供 能力向上プロジェクト」での知見を活かし、提案されるコミュニティ水資源開発のモデル事業の 実施手法として自治体間協力が提案された。PAO の予算規模は全国平均で 282.9 百万 THB(2003 年)となっている。これは自治体間協力コンセプトによる開発事業にとって、一つの資金源であ り、これによって複数の TAO を含む広域を包含する水管理事業の実施の普及・応用が可能となる。 DOLA と PAO の連携によるウボンラチャタニ県での事業実施経験は有効な教訓を示している。 国際協力機構(JICA) 4-64 ファイナル・レポート Box 4.3.10 「自治体間協力による公共サービス提供能力向上プロジェクト」(Project on Enhancing the Capacity on Local Public Service Provision through Local Management Cooperation supported by Provincial Administrative Organization) 2010 年 2 月から 2013 年 2 月にかけて、掲題のプロジェクトが内務省地方自治局(DOLA)によっ て JICA の協力を得て実施された。プロジェクトは下記 3 県での 3 パイロットプロジェクトを含み、 これらは複数の TAO やテサバーンを含めて締結された覚書(MOU)に基づいて実施された。 アントーン県:―水環境の改善(ホテイアオイの除去):一つの水路沿いの 4 テサバーン と 5TAO チャチェンサオ県:―観光振興(案内地図・標識の作成):目的を共有する 3 テサバーン と 2TAO ウボンラチャタニ県:―小規模水資源開発・管理、ため池:ひとつの郡内の 9TAO 1) 2) 3) 以上のうち、ウボンラチャタニ県の経験は限定的な予算しかない TAO が如何にして追加予算を確 保し、より多くの水管理事業を実施できたかと言う点で、興味深い事例である。パイロット事業に よる成果は以下を含む。 * * * * * * * 1,374 箇所(1,200m3 容量)のため池新規建設資金となった補助金 既存ため池の浚渫(13 箇所、463,004m3) 20 箇所の小規模堰の建設 パイプ灌漑施設の建設(灌漑面積 20,636rai、受益農民 1,592 人) 洪水と旱ばつ両方の対策としての遊水地区の確保 手間がかかる TAO の入札関係事務の軽減 県レベルのタスクフォースによる作業マニュアルの作成 (5) コミュニティと大学、財団、NGO及び民間セクター等とのネットワーク コミュニティのレジリエンスを高める計画策定や各種活動の実施において政府機関のみならず 大学等研究機関、財団、NGO 及び民間セクターからの資金面や技術面での支援を受けることで、 コミュニティが外部機関との繋がりを持つことができるため、洪水被災時に支援を受けやすくな るという点が優良事例の調査からも指摘出来る。つまり、具体的な活動を通してこれら外部団体 と繋がることがコミュニティのレジリエンスを高めることになる。 なお、下表は本プロジェクトでの経験(業務再委託、優良事例調査、インタビュー聞き取り内 容)を基に作成した一部のリストであり全てを網羅しているわけではない。 表 4.3.13 機 大学 関 分 野 工学系 農学系 農産加工系 社会科学系 政府系インスティチュ ート 科学技術系 コミュニティ開発系 連携可能な機関と利点 特徴・連携の利点 灌漑・治水構造物や水管理、建築、通信技術等の 技術に関する専門知識。政府の政策から中立的 で、新しい取組にも対応することができる。 先端の研究を行っており、知識と情報が集約され ている。専門特化しており、関連する分野を集め てチームを形成する必要がある。高度な試験や分 析も可能であり、農民向けトレーニングも実施。 社会学や経営学などコミュニティのニーズに応 えるための調査やアドバイスができる。プロジェ クトの終了後もコミュニティとの関係を継続、教 育プログラムに取り込む場合もありネットワー クとして有効。 政府予算に加え外部資金でもプログラム運営。技 術・資金支援を受ける可能性が有る。政府機関と の関係・交渉力に長けている。プログラムベース での優良事例の蓄積や全国的ネットワークあり。 4-65 留意点 コミュニティとの関係 等社会科学系と の連携を推奨。 個別農業技術に ついては農民の 技術受容度をフィー ルドで確認必要。 他学部同様に調 査時期や期間が 大学側都合優先 される傾向あり。 参加プログラムがコミ ュニティのニーズに合 致するか検討。 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 財団 健康増進系 NGO 環境保全系 農村開発系 民間セクター 農業資材・機 械等メーカー 工業団地 宗教団体 ミッションに沿った活動への資金提供や、プログ ラムへの参加支援を行う。安全野菜やグリーンマ ーケットの推進など本ガイドラインのモデル事 業に適合するプログラムを持つ。全国各県に支部 のある財団は県レベルでの連携が容易。 ミッション・ベースで活動を行う。 環境保全や気候変動に関する NGO、農村開発 NGO は地元の知恵や関連する優良事例の発掘、 コミュニティ参加型活動に関するファシリテー ションの技術と経験をもっており活用すること が望まれる。また、各地の村落とのネットワーク や有識者とのネットワークもあるため、コミュニ ティの繋がりを広げるのに有効。 営業利益の機会につながる新しい技術や資材の 開発・試用などで協力を得ることが可能。 近隣地区への支援を行った事例あり。従業員への 福祉の一環として、近隣コミュニティとの関係構 築のための CSR として、農産物や加工品の販売 場所としての可能性。 モスリムなど宗教に基づくグループ。独自の全国 的なネットワークで被災の集落を支援。 農産物の認証 (GAP、有機等) について MAOC と見解が異なる 可能性がある。 タイ政府予算を支 弁する際にはコンサ ルタントとして登録 された NGO であ る必要がある。 推奨活動の技術 的内容は専門家 の確認が必要。 技術的妥当性を 見極めるため専 門家の関与必要。 企業・工業団地と 農村コミュニティとの 間を調整できるコ ーディネーターが必要 タンボン内他宗教と のコンフリクトに留意。 出典:調査団作成 (6) 農業セクターのレジリエンスを高めるための産官学連携に向けて タイの農業セクターが輸出や食品加工、エネルギー等関連産業との連関もあり、重要な位置を しめている事を考えると、農業生産への洪水の影響や被災した生産農家への補償の問題だけでな く、関連する産業への影響を考慮する必要がある。 ランや果実など特定農産物の復興にあたっては、農業者単独の努力では困難であり、また洪水 での被災を契機に洪水前と同じ状態への復旧ではなく洪水で発生した問題解決に加え新たな課題 (例えばラン輸出におけるヨーロッパ市場の低迷による新規市場開拓)を解決するために産業界 と研究機関や政府が共同で研究・開発に取り組まなければならない。農業・協同組合省の各基幹 で研究・開発済みの技術だけではなく、科学技術省傘下の機関や大学、そして民間の新技術を融 合することで解決できる課題がある。具体的な事例として、パイロット事業でランの代替培地の 開発と微生物資材の複合利用を行った。特に開発には時間がかかるが、イノベーションに成功す れば業界の発展に寄与し、国の経済発展に寄与することが期待される場合、洪水復興を機にイノ ベーションのための産官学連携に着手することが推奨される。 政府機関においては通常時には誰がイニシアティブを取るか、予算の配分どうするかなど省庁 間の連携においても乗り越える課題が多いが、復興予算という通常予算とは別の予算が有れば、 危機を乗り越えるために一つの目標に向けて各ステークホルダーが持っている知識や資源を合同 する事により、より効果的に目的・目標を達成しようとするものである。異なる専門家の意見の 交換や異なるセクターに属するステークホルダーによる相互扶助はこれまで適切な解決策が無く 放置されてきた問題・課題に対して成功する解決策を導く可能性を有する。 連携構造の一例及び連携における分担された役割は以下の図に示される。 国際協力機構(JICA) 4-66 ファイナル・レポート 産業界 生産農家 (試行) 政府実施 機関 (調整) 政府機関内 研究所 (調査研究・試 験・資材) 大学 (研究開発) 図 4.3.21 産官学連携の関係図(ラン復興策の例) 出典:調査団作成 上図によれば、政府機関は 2 つの重要な役割を担っている。1 つは事業管理の全体に関する調整・ 促進であり、もう 1 つは政府機関が有する研究・調査・試験機能を提供する事である。 Box 4.3.11 産官学連携によるラン生産サブセクターの復興 パイロット事業では類似の連携は 2011 年洪水により壊滅的な被害を被ったラン生産サブセクター の早期復興を目的としたランの苗床用代替メディアを見出し、また生産費を低減させる為に実施さ れたものである。このケースでの事業コンポーネント及びパイロット実施から得られた教訓は以下 の通り。 事業概要(実証試験) (1) ラン栽培メディアの材料比較 (2) 微生物資材の試験 (3) 菌根菌の施用 ステークホルダー (1) カセサート大学 (2) 土地開発局、農業局及び農業普及局 (3) Air Orchid & Lab.社(民間)、農業生産者グループ 教訓 同一の目的で異なるステークホルダーによって開発済みの新技術を合同する事により農 民にとって応用可能な適切な技術が確認される。 連携は民間企業及び農民の事業持続性を高める動機付けとして作用する。 グローバルな変化への対応・対策に向けて農業セクターの問題克服を図る上で、農民・生産 者だけでは要求に見合った対応は困難である。連携は直面する問題の解決策を導く。 政府研究機関にとって通常予算での対応は難しいが、外部からの資金があれば他機関との 連携を進めやすい。 常にステークホルダー間で議論しながらすすめることで、別の視点からの幅広いアイデア がイノベーションをもたらし、産業界・生産農家も加わる事でニーズに合致した実際的な ものとなる。 連携は革新的なアイディアを生み出す機会を提供する。これはいかなる単独のアクターで も成し得ない事である。そして結果、全ステークホルダーがこの連携を歓迎した。 4-67 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 4.4 結論と提言 結論 4.4.1 2011 年の大洪水の災害経験から、その教訓を活かし、また将来の災害に備えるために住民参加 によって「災害(洪水)に強い農業・農村つくり計画」が 7 つのモデル地区で策定され、実際に 4 県の行政機関もタスクフォースとして参加して活動実施の教訓を得て、その参加方計画策定プ ロセスと 5 つの課題別洪水対策がガイドラインとして取り纏められた。実践して洪水対策として の効果や普及・拡大の可能性が確認された 10 のプログラムが、モデル事業として提示された。こ れらは、農村コミュニティの災害レジリエンスを高めるために具体的かつ重要な提案である。 提言 4.4.2 (1) 総論 1) タイ政府への提言 タイ政府の洪水対策事業によって遊水地等将来影響を受ける地域に対して本ガイドライ ンを優先的に適用すべきである。事業・活動を推進するためには特別の予算を必要とす るものもあり、優先地区への重点配分を行うべきである。 農業・協同組合省は、洪水への補償だけでなく洪水に対するコミュニティのレジリエン スを強化するコンセプトを既存のガイドラインに加え関係機関に周知すべきである。 「足るを知る経済」は第 11 次国家経済社会開発計画においても鍵となるコンセプトであ るが、農業開発分野においてもこのコンセプトを重視し、生産性向上や成長だけでなく 自然災害のリスクを考慮し、災害に強い農業・農村つくりに重要なレジリエンスの概念 を明確に位置づけることが肝要である。 2) 県およびタンボン自治体への提言 県内の洪水リスクの高い地区への優先的に計画策定を行い早急に実施すべきである 県の状況に応じたモデル事業の検討と普及のための施策を検討すべきである。 タンボンにおいて計画策定する際に優先事業は一部自己予算で実施すべきであり、また 近隣のタンボン自治体と連携して県自治体への支援を要請すべきである。 3) JICA への提言 ガイドラインの実施状況および適用に関する課題をモニタリングする必要がある。 実施したモデル事業の結果を引き続きフォローアップする必要がある。 トップダウンで計画が策定される気候変動への適用策と併用して、より住民主体のレジ リエンスの概念を災害の多いアジア地域の農業・農村開発計画に反映すべきである。 (2) 課題別提言 1) コミュニティ防災 洪水ハザードマップを 4 タンボンで HAII と KU の協力で作成し、住民参加による作成方 法をガイドラインに取りまとめた。洪水リスクの高い地区においては洪水ハザードマッ プ作成が必要であり、他地区での作成には DDPM と RID の協力が必要である。各県で関 係部局が協力する枠組みを作るべきである。 洪水時の飲料水確保を目的として 4 つのタンボンで給水システムの建設を行った。これ 国際協力機構(JICA) 4-68 ファイナル・レポート により洪水に備えてペットボトル等での備蓄が可能となり、洪水期間中も避難民への給 水がタンボンレベルで可能となる。 給水システムの建設費は約 45 万 THB(約 1.3 百万円) と安価であるためタンボン自治体による本システムの導入を推めるべきである。 2) コミュニティ水資源管理 灌漑施設が整備された地域内にある洪水常襲地区のタンボン内に水位計を設置して洪水 時の水位観測を行った。水位計設置に参加した住民は平均海水面(MSL)の意味および 当タンボン近傍の主要河川にある RID 等の流量観測所の水位データの意味を理解した。 また、タンボン事務所に Website を立ち上げ、両者の水位データを比較検討することに より、タンボンでの洪水予報・警報が可能となった。水位計の設置、Web-Site の立ち上 げに関する経費は約 8 万 THB であり、他の類似の洪水常襲地区のタンボンでも参加型水 位測定および情報管理を実施すべきである。 洪水被害の軽減を目的として SSIP で建設された排水樋門の改修および幹線排水路の堤 防嵩上げを実施した。本事業に参加した TAO 職員や住民は洪水や干ばつ対策としてのこ れらの施設の機能の重要性を理解した。また、タンボン内での小河川の水資源の開発・ 管理を行うためには、同河川の流域内にある他タンボンとの連携が重要であることが理 解された。タイ政府の政策として地方自治体連携による開発事業を促進している。上記 の様な小流域の水資源開発・管理(モンキーチーク)計画は、この政策に合致した事業 であり県自治体は積極的に推進すべきである。事業実施に当たり、建設機械等は県自治 体が負担するため、TAO や受益者は燃料費の負担、労務費の提供等を行うこととなる。 請負による機械掘削は約 50THB/m3 であるが、本事業でのそれは 20THB/m3 となるため非 常に低コストとなる。 SSIP は 1977 年以降に全国で約 6,000 プロジェクトが実施された。主に小規模河川での堰 や樋門、ため池等の施設であり、完成後は TAO に移管されている。調査地域上流域でも 数多くの SSIP 施設があるが、老朽化や維持管理不足により十分に機能していない。更新 時期にきているため、内務省は RID の協力のもと、各 TAO を支援して本事業の改修・ 拡張を早急に実施すべきである。 モンキーチークは、雨期には洪水の水を蓄えることができ、乾期には灌漑用水や飲料水 などの多面的な目的での利用が可能である。調査地域の上流には、520 個以上のタンボ ンがある。仮に各タンボンが 2MCM の洪水を蓄えた場合、下流地域の洪水被害を防ぐよ うな大規模ダムと同様に約 1,000MCM 規模の貯留機能を持ち、乾期には灌漑を目的とし た利用が可能となるため、小流域でのモンキーチーク開発は積極的に県自治体が中心と なって推進すべきである。 3) 農業・畜産分野における洪水対策 洪水対策として移植をすすめるには投げ苗を請け負う業者の育成が喫緊の課題である。 各県に配置されている稲作研究所(RRC)又は農業普及局(DOAE)が主たる機関とし て業者育成の役割を担うことが提言される。ここでは、移植栽培だけを普及するのでは 無く、育苗技術、播種量の低減、種子の選別技術などについても併せて行う必要がある。 こうした総合的な取り組みの一例として、アユタヤ県では県が主体となり移植栽培を中 心とした有機米の普及振興が始められている。 4-69 農業経済局(OAE) タイ国 農業セクター洪水対策プロジェクト(緊急開発調査) 洪水後には病虫害発生リスクが高まるため,稲作研究所と農業普及事務所が協力して県 レベルでの発生状況の早期把握と農家レベルへの警報・防除対策を知らせるシステムを 確立すべきである。 安全野菜の生産は MOAC の政策としても推奨されているところであるが、マーケットの 確立が重要な活動であるが行政としての関与について役割が明確ではない。財団や大学 等と協力してグリーンマーケットの普及を図ると同時に、県行政として関与が可能な学 校給食や病院食との契約栽培などを勧める。DOAE や LDD の関係部局は連携して生産面 で農家を支援すべきである。 洪水リスクが高く小規模家畜農家の多い地区においては将来の洪水に備えて、家畜の飼 料備蓄庫を世帯レベル、コミュニティレベルで設置することが望まれる。また、同時に 地区内での飼料作物の栽培も推進する。DLD は県および郡レベルの畜産局担当者にコン セプトを周知し、コミュニティレベル備蓄庫の設置に関する畜産グループとのミーティ ングをファシリテートすべきである。 提案された各活動は洪水対策のみならず通常時にも普及すべき活動であり、政策にも沿 ったものであるため、各部局の通常予算を洪水リスクの高い地区に配分することで、洪 水対策の特別の予算が無い場合でも活動レベルで普及が可能である。洪水対策としても 有効であることをガイドラインを参照しつつ農家に普及すべきである。 4) くらしの復興に向けての収入創出活動 タイ政府は洪水常襲地区での漁獲の役割を認識し、洪水対策を実施する際に魚類及び漁 民への影響を調査すべきである。 食品加工における基準の厳格な適用があらたな方針となっているが、農村企業や OTOP グループレベルにとっては認証取得のための投資や十分投資に見合うだけの利潤が見込 めるかが疑問である。基準の設定だけでなく、関係する DOAE、CDD 等政府機関はアッ プグレードのためのガイドラインと最も重要な衛生教育についてトレーニングを提供す べきである。また、洪水で被災した OTOP 加工施設への補償は支払われなかったが、復 旧して認証取得するためには資金的な支援も必要である。タイ政府は、OTOP や農村企 業の現状と目指すべき基準とのギャップを埋める施策を行う必要がある。 5) つながり・支える組織・制度 県行政機関は水資源開発のみならず、タンボン連携による洪水対策について県自治体の 予算を有効に活用できるよう、タンボン自治体を財政的に支援すべきである。 本ガイドラインの適用によってレジリエンスを高める努力はコミュニティを中心に行わ れる。一方で、政府の決定によって都市部を洪水から守るために意図的に湛水させるリ テンション地区については,被害実態を迅速かつ適正な把握と評価する体制を政府が責 任をもって構築すべきである。 農家への補償支払いを迅速化・精緻化するための筆別土地利用 GIS データベースの構築 をパイロットプロジェクトとして実施した。農業経済局は引き続き実用化に向けての稲 生育ステージの衛星画像解析手法の確立と、実用化のために必要なタンボンレベルでの データベース構築のためのデータ収集手順の標準化と手続きの迅速化の検討、全国に拡 大するためのアウトソーシングの方法について検討すべきである。 国際協力機構(JICA) 4-70