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小論文 食料品流通の現在・過去・未来について(PDF形式 - So-net

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小論文 食料品流通の現在・過去・未来について(PDF形式 - So-net
物価論特殊講義 期末レポート
私は、流通の現在・過去・未来を考える上で、このレポートでは
視点を食料品(加工食料品)の流通に絞り、まず「日本の食料品物
価がなぜ高いのか」について流通から考察し、その対策として生ま
れた徹底的に流通が効率化されたモデルとしてファーストフードと
スーパーマーケットの流通システムについて考察します。そして流
通の効率化の結果、衰退していく食料品卸売業者について考察し、
最後に全体の総括をしたいと思います。
最初のテーマは、「日本の食料品物価がなぜ高いのか」についてで
す。このテーマを取り上げたのは、今年の初めにオーストラリアへ
海外旅行に行った際スーパーマーケットに立ち寄ったのですが、そ
こでの食料品の値段を見てみますと、日本の食料品の値段に比べて
はるかに安くて印象的だったからです。
オーストラリアの食料品の値段を見てみますと、ササニシキ10
キロ 940円、ジャガイモ1キロ 70円、トマト1キロ 15
0円、リンゴ1キロ 160円、牛肉1キロ 1040円、マグロ
1キロ 2600円、オレンジジュース2リットル 140円、牛
乳1リットル 94円(注釈1)というふうに、量は異なるものの
単価別で見た場合、日本の食料品はオーストラリアに比べて2倍以
上高いことが分かります。(Ex.牛乳1リットルでは日本が200円
程度なので、価格比は2.1倍になります。)さらに、2000年の
内外価格差から東京と世界主要都市との物価を比べますと総合的に
東京が最も物価が高いのですが、特に食料品の分野では対ニューヨ
ーク 1.49倍、対ロンドン 1.53倍、対パリ 1.96倍、
対ベルリン 2.24倍も東京の方が高くなっています。
では、なぜ日本の食料品物価が外国に比べて高いのか、流通の構
造から考えます。
最初に挙げる原因は、流通経路の複雑さです。
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日本の食料品の場合、次ページの図 1 のように 生産者→出荷団
体(農協)→卸売業者(卸売市場)→小売店→消費者 という流通
経路を一般的に取ります。その際それぞれの段階で利益を取ってい
くので、最終的には4段階の利益が小売価格に反映されます。一方
で、アメリカやオーストラリアの大型スーパーなどでは 生産者→
小売店→消費者 という流通経路であるため、2段階の利益しか小
売価格に反映されていません。その原因として、オーストラリアは
GNPの20%が農作物であり、アメリカは世界最大の農業生産国
であるあるので、農作物生産者が見つけやすいということが挙げら
れます。一方、日本はGNPに占める農作物の割合は1%台(平成
10年度・第一次産業)のため農作物生産者が見つけにくく、また
農協の力が強いため個別交渉がしにくくなっています。
次に挙げる原因は、輸入食料品に依存していることです。
日本は1997年度の食料自給率が40%代にまで落ち込むほど、
食料品は外国に依存しています。その輸入食料品の場合、売価に、
輸送費用や関税費用が加算されます。そこで、輸送費用・関税費用
をオーストラリアのビスケットを例に示してみます。オーストラリ
アで私は Tim Tam というビスケットを大型スーパー(GMS)で購
入したのですが、その値段が160円でした。一方、先日大阪難波
の輸入雑貨屋で同一の商品が販売されているのを見つけましたが、
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その値段は350円でした。両者は同一商品なので、オーストラリ
アから日本までの輸送費用・関税費用は190円となり、現地売価
よりも高い輸送費用・関税費用がかかっていることになります。
また、農産物輸入量の多さで外国と比較した場合 1位:日本 3
94億ドル、2位:ドイツ 182億ドル、3位:ロシア 111
億ドル(注釈2)であり、日本が突出しています。すなわち、輸入
食料品は輸送コストが小売価格のかなりを占めており、その輸入食
料品に日本だけが依存しているということになります。
3つめは国内の生産物価格が高いことです。(注釈3)
4段階の流通経路を経る国内産農産物と輸送コストのかかる外国
産農作物を比べますと、外国産農産物が国内産農産物の価格を下回
っています。牛肉で例えてみますと、日本産サーロインステーキが
100g 400円程度に対して、オーストラリア産サーロインス
テーキは100g 200円程度となっています。すなわち、外国
の生産物価格+輸送コストが、国内の生産物価格+流通経費を下回
っているわけで、国内の生産物価格と国内の流通経費が外国に比べ
てはるかに高いと言えます。
以上をまとめますと、複雑な流通経路を経ることによる流通経費
と輸入食料品の輸送コストの高さと外国に比べてはるかに高い国内
の生産物価格が原因で食料品物価を上げていると言えます。
国内の生産物価格と国内の流通経費という食料品物価高の最大の
原因に対しては、農産物の輸入量の増加や生産者からの直接買付な
どの手法が一般的ですが、最近になって新しい動きが出てきました。
ユニクロは中国製のカジュアル衣料で近年大ヒットしているメーカ
ーですが、そのユニクロが食料品分野に進出する計画を立てていま
す。(注釈4)その計画は、企画・生産・物流・販売を一貫でコント
ロールし、国内の契約農家に生産してもらうという手法です。この
場合、高い国内の生産物価格に対しては、独占契約という手法で価
格を低く安定した値段に抑えることができ、流通経費という点では、
流通・小売を一貫させることで最小限に抑えることができます。ま
た、独自の生産方法を使うため生産を国内の生産者に任せるので、
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海外輸送のコストも発生しません。すなわち、この方法は食料品物
価高の原因をすべて抑えることができる方法であります。ただ、流
通の効率化や国内の生産物価格を抑えたとしても賃金の安い中国産
の生産物価格よりも下回れるか非常に疑問です。そこで、私は、新
しいシステムの価格がいくらに設定されるのか興味を持っています。
2番目のテーマは「ファーストフード・スーパーマーケットの流
通」です。最初のテーマで挙げたように、日本の場合は流通経路の
複雑さと国内の生産物価格のため食料品物価が高いと述べましたが、
それに対して大型スーパー・チェーンオペレーション・コンビニエ
ンスストアのように大量購入や流通の効率化という規模のメリット
を生かすことで食料品物価を下げる動きが主流であり、食料品の小
売りも主にこの3形態が主流となっています。そこで、加工食料品
からチェーンオペレーションを、生鮮食料品からスーパーマーケッ
トを取り上げたいと思います。
まず、チェーンオペレーションの流通として、私がアルバイトを
しているファーストフードチェーン・ミスタードーナツの流通シス
テムを取り上げます。
ミスタードーナツの場合、売り上げの30∼40%が賃貸料・フ
ランチャイズ料などの経費で、40%が人件費、製造原価が10%
∼30%となっています。すなわち100円のドーナツやドリンク
があれば、10円∼30円で原材料を仕入れていることになります。
そこで、製造原価を最小限に抑えるためミスタードーナツでは仕入
のための流通経路が図2のように徹底的に効率化されています。
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原材料のうち小麦粉や油といった大半の原材料は、生産者→フラ
ンチャイズ本部→ショップ(小売店)という3段階の流通経路をと
っています。ただし、フランチャイズ本部はショップから後でフラ
ンチャイズ料という収入が手に入るため、ほとんど利益を取ってい
ないので 生産者→ショップ の2段階の流通経路と同じです。こ
の場合フランチャイズ本部は、全国のショップへの原材料を請け負
う形となるため、生産者に対して規模のメリットを働かすことがで
きます。実際、ミスタードーナツでは中国に専用の工場を持ってい
るため、大量購入による仕入安+賃金安の二重のメリットを得てい
ます。また、それらの原材料のほとんどは中国で加工された冷凍食
品であるため、国内では解凍するだけなので国内の賃金をも浮かせ
ています。一方で、新鮮さが必要な卵などの一部に限っては、既存
の流通経路を経て原材料を得ています。すなわち、大半の原材料の
仕入を自社のチェーンを使うことで規模のメリットを生かす反面、
既存の流通システムを新鮮さなどが必要とされる一部原材料におい
て使うことで、非常に安い製造原価とおいしい味の両立を図ってい
るわけです。
この流通システムは、安い原価や新鮮さという飲食店に欠かせな
い必要な要素を最も効率的に得るシステムであり、製造原価を抑え
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売価を安くすることができるシステムでもあります。例えば、マク
ドナルドのハンバーガー平日65円セールなどは、流通を徹底的に
効率化させ製造原価を10円程度にまで抑えることで出来たセール
だと思います。しかしこの流通システムの結果、実際の製造は1ヶ
所でしているのと同じことになるので、どのお店へ行っても同じ味
が出てくる問題点があります。そして、同じチェーンオペレーショ
ン内部の競争や消費者に飽きられるといった事態が発生してきます。
次にスーパーマーケットの流通を取り上げます。大型スーパー(G
MS)の流通システムについては次ページの図3のとおりです。大
型スーパーでは、魚介類や野菜などの生鮮食料品は従来の卸売業者
や産地直送で仕入れ、お菓子・調味料などの加工食品はそれぞれの
メーカーから仕入れます。大型スーパーが規模のメリットを生かせ
るのは物流センターより上流になり、仕入場所を1ヶ所に集めるこ
とで大量仕入を行うことで、仕入原価を下げたり産地直送便を設け
たりして流通コストを減らしています。さらに私は物流センターで
アルバイトをしたことがありますのでその経験で言わせてもらいま
すと、物流センターはイズミヤやジャスコなどのスーパーごとに分
かれておらず、製品ごとに物流センターが分かれていました。例え
ば、乳製品ならスーパー共用の乳製品専用の物流センターを設けて
います。すなわち、物流センターをも一部共有化することで、さら
に流通コストを減らしています。
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しかし、流通システムとしては徹底的に効率性を追求しているも
のの、ファーストフードに比べて取扱商品量も多く、加工されない
食材が多く効率性にも限界があるため、原価率も上がり30%∼6
0%ぐらいになります。
また最近のダイエーの経営危機やマイカルの破綻にみられるよう
に、スーパー業は利益の出る業界とは言えなくなってきています。
その原因としては、一般的に市場の飽和や新規出店や新規事業時
の借金の膨れあがりなどがありますが、流通の側面から言えば取扱
商品量の多さと取扱商品の共通化があると思います。大型スーパー
の場合、ワンストップショッピングを目指すために食料品以外のあ
まり売れない家電製品・化粧品・スポーツ用品・お歳暮商品等も扱
っています。あまり売れない=規模のメリットが働かないというこ
とになるため、安く仕入れることができません。ところが、大型ス
ーパーは安いというイメージが定着しているため極力値段を下げて
販売しています。すなわち、大型スーパーの場合食料品や衣料以外
の分野ではあまり利益をあげていないと言えます。また、物流セン
ターの際に触れたように、コスト削減のためスーパー同士で同一商
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品を扱っている場合があります。この場合、消費者は値段のみで判
断せざるを得ず価格競争となりスーパーは利益が得にくくなってい
ます。
このように流通の効率化が図られているファーストフードとスー
パーマーケットとでは原価率・利益率が全く違います。共通の長所
は規模のメリットが生かせることですが、共通の短所として流通の
効率化の結果差別化が図りにくくなっています。その一方で、ファ
ーストフードは取扱商品量が限られているため更なる流通の効率化
が図られているが、大型スーパーは取扱商品量が多く効率化が図ら
れていないという差もあります。おそらくその差が現在のファース
トフード業界とスーパー業界の勢いの差につながっていると思いま
す。
3番目のテーマは「食料品卸売業」であります。2番目のテーマ
で挙げましたようにファーストフードや大型スーパーなどを中心に、
大半の食材で卸売業者を使わずに生産者から直接仕入れるいわゆる
「中抜き」という現象が起きています。そこで、取扱量が減少し衰
退している卸売業者にスポットを当てて考察します。食料品卸売業
者は、他の卸売業者と同じく生産者から多種多様な商品を仕入れ小
売業者ごとにカスタマイズする集荷分散機能を帯びています。そし
て問題点も他の卸売業者と同じく、この出荷分散機能をファースト
フードにおけるフランチャイズ本部やスーパーにおける物流センタ
ーなどが代わりに持ってしまったため、卸売業者が不要となってい
ることです。
私の親戚でスーパーや喫茶店に食料品への卸売業をしている人が
いるのですが、この卸売業者では流通の中抜きの問題とは別の問題
が発生しています。食料品卸売業者の場合、得意先は規模のメリッ
トがない喫茶店や小型スーパーなどが中心です。ところが、これら
の得意先がファーストフードや大型スーパーに押されて倒産が相次
いでいるため、上流である卸売業者自体も連鎖倒産危機に直面して
いるわけです。
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現在の卸売業者は、このように流通の中抜きに加えて得意先小売
業者の倒産という二重苦に苦しんでいるわけですが、それでは卸売
業者はどのような生き残りの道があるのでしょうか?アメリカ最大
の食料品卸売業者スーパーバリュー社(注釈5)の例で示したいと
思います。
スーパーバリュー社は、1926年に食品チェーンストアーの台
頭に対応するべく零細の卸売業者数社が合併して誕生しました。こ
の会社の特徴は、① 直営の小売店舗246店を持っている。 ②
品揃えを10万アイテムにまでに総合化し、さらにPBを開発して
いる。 ③ POSシステムの導入等で完全システム化されている。
④ 顧客スーパーマーケットのコンサルティングをしている。 の
4項目が挙げられます。そして、この業者の最大の得意先は中小食
料品店のままであり、卸売業者は変われども小売業者に変化がない
という効率の良い方法でもあります。
それに対しまして、日本では現在スーパーバリュー社設立時の状
況と似通っていて、得意先が変わらなくて良いという点で移行がた
やすいシステムであるにもかかわらず、零細卸売業者はバラバラの
ままでこのような会社は設立されていません。そこで、私は規模の
メリットで勝るファーストフードや大型スーパーに対抗するために
は、卸売業者が結束・合併して規模のメリットを得る必要があるの
ではないかと考えます。特に、特徴のうち②は大量仕入による規模
のメリットが、③は大量の得意先と資金がないと出来ない事です。
そして、④のコンサルティングという機能を卸売業者が持つことに
より小売業者の経営を把握し連鎖倒産を防げると思います。
最後に全体の総括です。
このレポートでは食品業界に絞り、最初に食品物価高の原因を述
べ、次に流通を効率化することで価格を下げたファーストフードと
スーパーマーケットの流通について触れ、3つ目に逆に流通の効率
化が遅れている卸売業者の改革について述べました。私が最もこの
レポートで述べたかったことは、食料品業界の流通の効率性です。
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おそらく、ここまで効率的な流通をしている業界は他にないと思い
ます。ただ、それでもオーストラリアなどの食料品物価に比べたら
はるかに高いです。そこには、国内輸送費や土地代が外国に比べて
はるかに高いという流通や生産者価格以外の要因があるのですが、
オートメーション化の導入などで流通を改善できる余地はまだまだ
あると思います。その一方で、効率的な流通が主流となったために、
従来の流通の中心であった卸売業者は、ひどい目をみています。た
だ、食料品は好不況に関係なく需要されるという強みを持つ反面、
消費者は多様で動向も景気などで変わるという欠点を持っています。
すなわち、現在の流通システムがいつまでも繁栄を続けるかといえ
ばそうではないと思います。そこには、当然卸売業者にでも流通を
変えるチャンスはあります。ただ、消費者の需要する方向性は変わ
りません。それは「値段が安くて、味が画一的でなく、おいしい食
料品」といういうものです。現在の流通システムは、値段という面
ではある程度進んでいますが、味という側面を考えた流通はまだで
きていません。そこで、私は値段+味という消費者の究極の需要を
満たす流通システムができることを期待しています。
< 注釈 >
・ 日本の食料品の値段は近所の大型スーパー「ライフ」で、オー
ストラリアの食料品の値段は大型スーパー「ウールワース」の
値段です。
1 為替レートを1オーストラリアドル=65円で計算しています。
2 農産物輸入量のドルはアメリカドルです。
3 生産物価格は第一段階・生産者の価格のことです。
4 日本経済新聞平成14年1月10日付記事より。また、実際に
計画しているのは、ユニクロの親会社ファーストリテイリング
社です。
5 スーパーバリュー社は1993年のデーターです。
売上高 125億6800万ドル 従業員 42000人
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< 参考文献 >
「入門 流通のしくみ」
社会文化システム研究所 VALIS 著 日本実業出版社
「物価レポート2000」経済企画庁物価局編 政府刊行物
「問屋革命」波形克彦著 二期出版
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