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Title 情報ネットワークを活用した産学連携双方向遠隔授業の実践 Author
Title
情報ネットワークを活用した産学連携双方向遠隔授業の実践
Author(s)
竹中, 康之; 藤井, 廣美; 上林, 憲行
Citation
北海道教育大学紀要. 教育科学編, 55(2): 113-122
Issue Date
2005-02
URL
http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/359
Rights
Hokkaido University of Education
北海道教育人学紀要(教育科学編)第55巻 第2号
JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.55,No.2
平成17年2月
February,2005
情報ネットワークを活用した産学連携双方向遠隔授業の実践
竹中康之,藤井廣美,上林憲行*,′ト山明夫**,
柴田 孝***,高橋義昭***,原 敏之****,横山繁美****,
成田徳雄*****,中川宏生******
北海道教育人学函館校
*東京工科人学メディア学部
**山形人学工学部
***NECパーソナルプロダクツ(株)
****でん緑都市構想米沢ビジネスネットワークオフィス
*****米沢市立病院
******
(株)ニューメディア
1 はじめに
ここで言及するまでもないが,人学における授業の人半は常勤の教員により行なわれる.学問の基礎的分
野については,これで問題はない.しかし現代的に細分化された学問分野の各論については,特に北海道教
育大学のような′ト規模校においては,必要とする学問分野のすべてに対して専任の教員を配置することは困
難であるし,また限られた数の専任の教員だけで各分野で最先端の内容を盛り込んだ教育を行なうことも困
難である.もちろん大学の教員として最善を尽くすべきではあるが限界がある.このため教育の内容が,専
任教員が専門とする分野にかたよる傾向がある.悲しいことに一部においては,学問としての教育的意義な
どかえりみず,担当教員が専門としているというだけの理由で特定の学問分野にかたよった授業が行なわれ
ることすらある.
このような教員が少ないことによる不備を解消するための有効な方策として非常勤講師を依頼することが
ある.これにより大学として不足している部分をおぎない,学生に対してさらに有効な教育を行なうことが
できるようになる.また学問的に意義のある活動が行なわれているのは大学だけではない.教育現場や他の
団体など,多くの場面でさまざまな活動が行なわれている.大学における研究は机上での議論になりがちだ
が,現場から大学関係者以外の講師を招くことにより,実践面の教育を高度化することができる.さらに大
学という特定の枠の中では特定の価値観を共有しがちだが,個々の集団は独自の文化をもっており,学外講
師の招碑は学問の異文化交流としての意味も大きい.このように非常勤講師を依頼することは教育的に大き
な効果がある.国立大学の法人化にあたり,非常勤講師の話題は人件費など運営面で議論されることが多い
が,経済的指標で考えるのではなく,教育効果という面を第一として議論されるべきである.
しかし,大都市ならともかく,北海道函館市のような街では,通勤叶能な範囲内で適任な講帥を依頼する
ことが困難な場合がある.この場合にはビデオ学習などの補助教材を活用することがある.しかしビデオ学
習では一方的な知識の伝達となるため,受講者が疑問を感じる部分があったとしても双方向の討論は不可能
である.これでは真の意味での学習とは呼べない.このため適任者に出張を依頼することになるが,この場
合には時間の拘束など,肘張者に大きな負担を強いることになる.優秀な講師は多忙なことが多く,移動を
含めた時間の確保が困難なため非常勤講師の依頼を断念せざるをえないこともある.この間題点を解決する
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竹中康之,藤井廣美,上林憲行,小山明夫,柴田 孝,高橋義昭,原 敏之,横山繁夫,成田徳雄,中川宏生
ひとつの手法として,情報通信技術を活用した双方向遠隔授業がある.つまり双方向遠隔授業は最大の教育
効果を限られた状況下で得るための手段なのである.
ここで重要なのは単なる遠隔授業ではなく,双方向性を有した遠隔授業ということである.講師が一方的
に講演を行なうだけの遠隔授業はビデオ学習と同じである.あらかじめビデオに録画された画像を視聴する
か,実時間で行なわれている講演を受講するかだけの違いである.またVoT)=Video/Voice on T)emand
による放送を受講する場合でも,講演内容がビデオに記録されているか,ネットワーク配信可能な状態になっ
ているかの違いだけであり,この場合も双方向性は実現されない.双方向性を有した遠隔授業ならば,講師
と受講者との問で討論を行なうことが可能になる.さらに相手方にも受講者がいれば,受講者問の討論も可
能になる.これは逆に出張授業では得られない双方向遠隔授業だけの大きな利点である.このように双方向
遠隔授業には,広い意味での学問における異文化交流という重要な意義もある.
今回は本学函館校において,独自に双方向遠隔授業システムを構成し,学外講師による双方向遠隔授業を
行なった.なお双方向遠隔授業を推進することは,本学の中期計画にも「25(A)遠隔授業システムの充実
を凶り,双方向遠隔授業を一層推進する」とかかげられている.
2 双方向遠隔授業の概要
今回は,山形県米沢市にある(株)ニューメディア(NCV=NewCenturyVision)社と函館校とを情報
ネットワーク回線で結んで双方向遠隔授業を行なった.2004年8月6日(金)に,米沢市立病院の医師・成
田徳雄がNCV社へ出向き,授業科目「福祉情報処理論」の一部として函館校の受講者に対して講義を行
ない,講演後に講師と受講者との問で討論を行なった.授業では,話者の映像/音声と資料映像の双方を同
時に送受信した.:NCV社側には受講者はいなかった.
3 システム構成
3.1 情報ネットワーク
今回の双方向遠隔授業で使用したネットワークの構成を図1に示す.図には,今回は使用しなかった函館
校の対外情報ネットワークも示してある.ただし函館地区の附属学校囲への通信回線は除外してある.
図1に示すとおり,函館校には二系統の対外情報回線がある.一方は本学のキャンパス情報ネットワーク
の回線で,札幌校に接続している.通常の通信はこちらの回線を経由する.この回線はNTT社のMDN
=Mega Data Netsを使用しており,回線速度は保証5Mbps・最大10Mbps となっている.札幌校から
はメトロイーサ100Mbpsで北海道大学に接続されている.北海道大学は学術情報ネットワーク Super−
SINETのノード校で,回線速度は10Gbpsである.
もう一方はケーブルテレビの情報回線であり,回線提供業者であるNCV函館センターに接続されてい
る.この回線は,地域連携およびキャンパス情報ネットワークの補助として利用している.具体的にはネッ
トワークの負荷分散や札幌校との問の回線に障害が発生したときの代替回線として機能させている.この回
線は物理的な対外通信線は一本だが,これを校内で二系統に分岐している.一方はプライベートIPアドレ
スが割り当てられており,回線速度は下り10Mbps・上り1.5Mbpsの非対称である.他方はグローバル
IPアドレスが割り当てられており,回線速度は512Kbpsである.図1のglobalと善かれた部分がこれ
に相当する.グローバル側にはDNSおよびSMTPサーバが接続されている
1Gbpsの上位回線で東京と接続している.
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.NCV函館センターは
北海道大学
メトロイーサ
100Mbps
札幌校
(株)ニューメディア
函館センター
SuperSINET
10Gbps
MDN
5-10Mbps
CATV
函館校
1Gbps
(株)ニューメディア
山形県米沢市
512Kbps
10/1.5Mbps
R
200Mbps
global
R
ODN
NII
IX
東京
函館校
キャンパス情報
ネットワーク
R
竹中康之,藤井廣美,上林憲行,小山明夫,柴田 孝,高橋義昭,原 敏之,横山繁夫,成田徳雄,中川宏生
れるが,今回の双方向遠隔授業を行なった8月6日の時点では原因は特定できていない.またキャンパス情
報ネットワークには安全確保のためのファイアウォールが存在し,すべての通信が許可されているわけでは
ない.一方でケーブルテレビ側の回線はすべての通信を許可し,安全は個別の装置で確保するという方針で
運用している.これらの理由により,札幌校経由のキャンパス情報ネットワークの使用を避け,ケーブルテ
レビの情報回線を利用することを第一候補とした.
上に書いたとおり,函館校に敷設されているケーブルテレビの情報回線には二系統がある.今回はグロー
バルIPアドレスを必要としたため,グローバル側を使うことにした.回線速度は512Kbpsである.実際
の授業に先立ち,事前に通信試験を行なった.図1のglobalと善かれた部分のハブ(L2スイッチ)に
PCを接続し,これにグローバルIPアドレスを割り当て,米沢市のNCV社から配信されたストリーム
映像を受信した.双方の問にアドレス変換やプロキシなどは経由せず,直接通信を行なうようにした.結果
は良好だった.pingを用いて測定した遅延は64バイトのパケットで30から40ms程度だった.少な
くとも遠隔授業には差し支えないと判断できた.
当日も,遠隔授業のために持ち込んだ通信機器にグローバルIPアドレスを割り当て,事前試験のときと
同様に通信を行なった.上の結果により 512Kbpsの回線でも配信可能と思われたが,実際の授業では資料
映像も同時に使用するため,NCV社の配慮により,安全を見越して回線速度を1.5Mbpsに増達した.
3.2 端末および教室の構成
函館校のケーブルテレビの回線は,一般のキャンパス情報ネットワークとは独立して4号館の2階に敷設
されている.このため今回の双方向遠隔授業は,ケーブルテレビ関係の通信機器が設置されている部屋の隣
である「実践棟セミナー室Ⅲ」で行なった.この教室の大きさは横7500mm縦8195mmである.概略を図2
に示す.
教室にTV電話専用端末を持ち込み,これにグローバルIPアドレスを割り当て,図1のglobalと善か
れた部分のハブ(L2スイッチ)に100BaseTXで接続した.TV電話専用端末としては,近未来通信社
のTV foneを使用した.通信方式はH.323準拠とし,講師の映像/音声を送受信するようにした.映像
はH.263のCIF(352×288pixel),15fpsで配信した.講師の映像はブラウン管方式のテレビモニタに出
力した.ブラウン管の大きさは横420mm縦320mmである.またTV電話専用端末に付属のカメラを使っ
て教室内の受講者の映像を講師側に配信した.テレビモニタには,講師を全画面表示させたり,講師の映像
の中に受講者の映像をはめ込んだり,必要に応じて切り替えた.
音声の入出力は,エコーキヤンセラ内蔵カンファレンスシステム(NEC社VoicePointIP)をTV電話
専用端末に外付けし,これを経由して行なった.この装置はマイクロホンとスピーカの一体型となっている.
音声の通信方式はG.723.1とした.討論のときには発言者がカメラ/マイクロホンの前に移動した.この
構成で大きな問題があったわけではないが,より明瞭な音声で受講できるようにするため,授業の前半の解
説のときにはVoicePointIPを切り離し,TV電話専用端末に音響機器用スピーカを接続した.
双方向遠隔授業においては通常の授業にはない種々の制約がある.たとえば黒板は使えないと思ってまち
がいない.このような制約の中で学習効果を高めるためには,教材資料の提示方法が重要な要因となる.今
回は資料の映像を教室前面のスクリーンに投影することにした.資料映像は,TV電話専用端末に接続し
たPCを介してプロジュクタで投影させた.投影面の大きさは横1500mm縦1100mm とした.TV電話専
用端末は単なるハブ(ブリッジ)として機能している.使用したPCはCPU Celeron650MHzメモリ
384MBのノート型PCで,OSはWindows XPIIomeEditionである.このPCにもグローバルIP
アドレスを割り当てた.教材のファイルはあらかじめ入手しておき,このPCでアプリケーションソフト
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CATV
100BaseTX
screen
TV
speaker
speaker
TV 電話
専用端末
PC
projector
microphone
speaker
カメラの視野
受講者
受講者
竹中康之,藤井廣美,上林憲行,小山明夫,柴田 孝,高橋義昭,原 敏之,横山繁夫,成田徳雄,中川宏生
れている.この科目は,函館校の学生を含む全学の学生が自由選択科目として履修可能であるが,キャンパ
ス間双方向遠隔授業システムの使用は想定されていない.履修者は,前期集中講義期間中の開設科目として
函館校で受講することになる.受講希望者の履修受付を,事務局を通じて全学の学生に事前に掲示連絡した
が,函館校以外からの受講希望者はおらず,今回は函館校の学生のみの受講で実施した.
福祉に限らずあらゆる分野において,情報機器を道具として効率的かつ有効的に活用する技術や知識を修
得することは,主要な今日的課題の一つである.大学をはじめとする高等教育機関では,今日的現状と課題
に関する知識を提供し,学生が自ら現状を把握・考察・展開・実践できるための教育を実施していく必要が
ある.福祉情報処理論は,単なる情報技術の修得にとどまるのではなく,福祉現場での情報機器を活用した
先端的な事例や可能性を提供し,情報機器を効率的かつ有効的に活用する必要性がいかに重要な今日的課題
であるかを全体社会の変化との関連から認識させ,自らの問題意識を持って多様な角度から考え,問題解決
能力を身につけさせることを主要な目的として開講した.
授業では,福祉・保健・医療の現場における情報技術を活用した実践と可能性について概説した.具体的
には,生活者の視点に立脚した地域連携型医療福祉サービスや各種福祉情報機器の紹介などである.ここで
はインターネットあるいは地域イントラネットにより自宅と病院などの施設を情報ネットワークで接続し,
入院患者と家族をつなぐコミュニケーションシステム,自宅にいる患者と病院などの施設にいる医師・看護
師・ホームヘルパーなどが連絡を密にしながら病状を管理する在宅健康管理支援システム,高齢者の安否見
守りサービスなどを概説した.これらの現場においてはテレビ電話に代表される遠隔地間の双方向通信手段
が重要な役割を果たしている.
5 結果と考察
5.1 映像と音声
映像と音声については大きな問題はなく,円滑に授業を進めることができた.話者の映像と音声との時差
もなく,講師と受講者の問の質疑応答も違和感なく行なうことができた.しかし,ごくまれに画像が乱れる
ことはあった.この原因は不明だが,今回の回線は双方向遠隔授業のための専用回線ではなく,他の情報デー
タも送受信されているため,たとえば図1のglobal部に接続されているDNSあるいはSMTPサーバの
通信の影響があったのかもしれない.あるいは圧縮動画一般にいえることとして,映像は画面の差分情報の
みを通信する方式であるが,差分情報が過多となった場合に映像の品質が落ちることがある.映像の動きが
多かったり速かったりすると前のフレームとの差分情報が多くなり,圧縮にも限界が出てくる.このような
画質の低下はブロックノイズの発生という形で現れる.これが原因だったのかもしれない.
とくに授業に問題があったわけではないが,音声の入出力にかんしては,まだ工夫と調整の余地があると
思われる.講師側の音声レベルは話し方によって変動するため,マイク入力レベルが過入力となった際に,
歪みが生じて受講側では聞き取りにくいことがあった.これについては,今回は双方の授業補助者が電話連
絡することにより,マイクの位置や入力レベルを変更することで対応した.今回の双方向遠隔授業で利用し
たTV電話専用端末は,利用帯域1OKbps以卜のG.723.1による音声圧縮を行なっている.音声圧縮を
行なう場合は特に入力レベルや雑音に注意が必要となる.これは入力レベルに合わせて自動的に音量調整を
行なうことで改善できる.あるいは通信帯域に余裕があれば,音声圧縮を行なわず利用帯域が100Kbpsの
G.711を利用をすることも検討に催する.
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情報ネットワークを活用した産学連携双方向遠隔授業の実践
5.2 資料映像
今回の双方向遠隔授業で最も工夫した点のひとつは資料映像の提示方法である.受講例のPCに教材ファ
イルをあらかじめ入手しておき,このPCでソフトウエアを稼働させて画面を投影した.スクリーンに表
示されるのはプロジュクタに直接接続されたPCの画面そのものであるため,画質や動作などの品質は通
信の影響を受けず保証される.
また同時に受講例のPCではVNCによるリモートデスクトップアクセスサーバを立ち上げ,この画面
を遠隔講師側から操作できるようにした.このようにして講師の意図したとおりに資料映像が投影されるこ
とを可能にした.この方式で実際の授業では資料の提示についてまったく問題はなかった.
しかし双方向遠隔授業一般について考えた場合,もしも通信品質がわるい場合には今回採用した方式では,
講師側でいくつかの影響が考えられる.ひとつは描画速度の低下である.画面の書き換えが一度に行なわれ
ず数段階にわたるため,画面遷移に数秒を要することがある.また操作レスポンスも低下する.講師の操作
結果が講師側画面に反映されるまでの時間が長くなり,操作が適格に行なわれたか確認できなくなる.通常
は画面の差分情報のみを通信する方式であるが,画面遷移に伴なう映像の差分情報が多くなるほど転送すべ
き情報量が増えるため,快適な操作を実現するためには多くの帯域を必要とする.意図したとおりに画面が
動作しないと,話者は講義に集中できなくなる.
今回は適切な帯域を確保できたため大きな問題はなかった.しかし同時に128KbpsのPHS回線経由で
も通信試験を行なったが,この回線では操作が可能ではあったが,画面の描画はスムーズとは言い難かった.
TV電話と合わせて最低1Mbps程度の帯域が必要だと思われる.
5.3 情報ネットワーク回線
二地点間で通信を行なう場合には,途中の経路のどの部分の帯域が最も狭いかを検討する必要がある.た
とえば今回の双方向遠隔授業で利用した情報ネットワークの回線については図1に示したが,回申の回線
の多くは共用回線である.NCV函館センターと東京とは1Gbpsの回線で結ばれているが,これは函館市
および近郊でケーブルテレビ回線を提供している NCV社の上位回線であり,加人者の通信が殺到すれば
当然のことながら混雑する.また回線提供者の上位回線と同時に,加入者と回線提供者との問のアクセス回
線についても考慮しなければならない.アクセス回線について考慮するときには,名目通信速度ではなく突
通信速度で検討しなければならない.とくに一般的なADSL回線などの場合には「ベストエフォート」と
呼ばれている回線が多いが,これには注意が必要である.ベストエフォートとは辞書的には,実際の通信速
度として名目とおりの通信速度は保証できないが,名目値に近い通信速度を出すよう最大の努力をするとい
うことである.しかし多くの場合,ベストエフォートという言葉はカタログとおりの通信速度が出ないとき
の言い訳としてつかわれることが多く,この場合には最高の通信速度を出すために必ずしも最大の努力がな
されていないことが多い.あくまでも突通信速度で検討すべきである.
函館校と山形県米沢市のNCV社の問の二地点間通信を行なうにあたり,途中の通信経路について検討
を行なった.まずNCV函館センターと東京問および米沢のNCV社と東京問の通信帯域は幅捧しておら
ず問題ないと思われた.東京における接続部分については,NCV社は米沢・函館ともに上位回線として
ODN(日本テレコム)の回線を使用しており,二地点間のルーティングはODN内で完結している.素性
の知れないネットワークが問に介在していないため,回線の品質は確保されていると思われる.一般論とし
ては,異なる回線提供者問の通信であってもIX=Internet eXchangeで十分な品質で相互接続されていれ
ば問題になることはあまりないのかもしれないが,ルーティングによっては品質の保証ができないことも考
えられる.また講師は米沢のNCV局内で講義を行なうため,この部分の通信速度も問題ない.このため
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竹中康之,藤井廣美,上林憲行,小山明夫,柴田 孝,高橋義昭,原 敏之,横山繁夫,成田徳雄,中川宏生
函館校のアクセス回線の部分の帯域が最も狭いと仮定して検討を行なった.
今回は,映像用にH.263のCIF(352×288pixel),15fpsを,音声用にG.723.1を使用した.これらは
512Kbps程度の帯域幅で通信可能である.一方,資料映像の遠隔操作用の帯域も必要だが,双方を合わせ
て突通信速度1Mbps程度の回線があれば双方向遠隔授業は可能と考えられる.事実,今回の双方向遠隔
授業ではアクセス回線として速度保証1.5Mbpsの回線を使用したが,とくに大きな問題はなかった.
双方向遠隔授業で話者の映像/音声と資料映像を同時に送受信する場合,優先度としては「話者の音声・
資料映像・話者の映像」の順になる.つまり話者の映像などは少々乱れても授業への影響は小さいが,話者
の音声が乱れると講義内容の理解が困難となる.したがって確保可能な通信帯域を事前に確認し,講義の内
容に合わせてそれぞれの優先順位についての方針を立てて,回線の品質に合わせてそれぞれに使用する帯域
幅の割り当てを行なうことが効果的である.今回の双方向遠隔授業では,上に書いたとおり話者の映像/音
声の通信にはH.323を使用し,映像はH.263のCIF(352×288pixel),15fps・音声はG723.1として,
さらに資料映像を送受信した.これらは連携していないため,それぞれの優先度に応じて画質や音質などの
品質を独立して調整することが可能である.今回の授業では上のような優先度で品質を決定した.また今回
は行なわなかったが,授業中に帯域幅の不足に由来すると思われる問題が発生したら,話者の映像の品質を
下げて帯域を節約し,その分を音声や資料映像に割り当てるような調整をすることも可能だし,討論の時間
には話者の映像の優先度を上げるように設定変更することも可能である.今回の方式なら,このように講義
の内容や使用できる帯域幅に応じて品質を柔軟に調整することができる.
もしも相互通信する二地点間に複数の回線を確保できる場合には,話者の映像/音声と資料映像とを分離
して別々の回線を経由するようにすれば,より高品質な通信を行なうこともできる.
今回の双方向遠隔授業では,双方の通信機器にグローバルIPアドレスを割り当てることができたたため,
容易に通信することができた.しかしプライベートIPアドレスしか割り当てることができず,問でアドレ
ス変換(NAT)を行なっている場合にはいくつかの制限がある.たとえば資料映像の操作に際し,VNC
サーバにはグローバルIPアドレスを割り当て,VNCクライアントにプライベートIPアドレスを割り当
てるならば問題はないが,逆の場合にはNATに細工をしない限り通信できない.またH.323による
TV電話では,双方ともにグローバルIPアドレスを割り当てていないと原則として通信できない.この
場合にはSIP(SessionInitiation Protocol)+ STUNのように,NATを越えられるVoIPプロトコルの
利用が必要となる.
5.4 システム構成
本双方向遠隔授業では,TV電話専用端末とカンファレンスシステムを用意したが,通信にはオープン
なVoIPプロトコルH.323を使用した.市販のTV会議システムは独自の方式を使用しているものが多
い.その場合には安定性については保証されることもあるが,システム構成の自由度は低くなる.一方
H.323は国際電気通信連合情報通信標準化部門ITU−Tで標準化されたオープンなVoIPプロトコルであ
るため,独自の拡張がされていなければ,異なるメーカーのシステム問でも相互通信することができる.今
回の授業ではTV電話専用端末TV fone を使用したが,これはマルチベンダ環境で相互通信することが
可能である.オープンであることがシステム構成の柔軟性を高め,導入コストを低くすることにつながる.
H.323の実装はサーバ・クライアントともにオープンソースでも公開されており,フリーのシステムを構
築することもできる.したがって今回のシステムはPCでも代用可能である.またPCの処理能力と回線
速度が十分であれば,OSのマルチモニタ機能を利用することにより,講師映像と資料映像を一台のPC
で表示することも可能である.このように専用システムを使用しなくても,既存のシステムを組み合わせる
120
情報ネットワークを活用した産学連携双方向遠隔授業の実践
ことにより安価に双方向遠隔授業を行なうことができる.
今回の双方向遠隔授業では,本学函館校と学外との間で双方向遠隔授業専用の装置を用いることなく一時
的に持ち込んだ装置を使って話者の映像/音声と資料映像の双方を同時に送受信したが,技術的には大きな
問題点はなく,また授業運営という観点からも円滑に教育効果の高い授業を進めることができた.これには
機器の操作に熟練した授業補助員を双方に配置したことが大きく寄与している.授業補助員は必須である.
授業補助員をおかずに双方向遠隔授業を行なうなどということはありえない.双方の授業補助員どうしが授
業中に別回線の電話で何度か連絡をとりあうことにより,授業を円滑にすすめることができ,非常に教育効
果の高いものになった.受講者が機器の操作に習熟している場合には,受講者が必要に応じて機器を操作す
るという考え方もあるが,やはり受講者は受講に専念させるべきである.双方向遠隔授業は最大の教育効果
を得るための手段であるが,そのための支援は必須である.双方向遠隔授業システムは教員が楽をするため
の道具ではない.双方向遠隔授業によって大学の運営を効率化するなどという発想はありえない.
5.5 双方向遠隔授業の教育的意義
情報ネットワークを活用した双方向遠隔授業の実施は,時間的に余裕がなく,函館校まで来ることのでき
なかった講師による医療福祉における情報技術の活用についての貴重な実践的な講義を遠隔地の学生が受け
ることを可能にした.双方向遠隔授業は,限られた環境の中で大きな教育効果を上げる道具として有効であ
り,今後の大学教育の中でも取り入れられていくことが望まれる.双方向遠隔授業の実施により,現在の福
祉サービスの先端的事例を紹介すると同時に,情報技術を活用した実践の現場を授業の中で受講者に体験さ
せることができた.受講者は,福祉分野に限らず今後のあらゆる分野における情報技術の修得と活用の必要
性を強く受けとめ,自らの学生生活および卒業後のあらゆる現場において,社会環境の変化の中で情報技術
を活用・展開・実践していく可能性を新たな認識を持って見つめ直す良い機会を得た.以上のような教育的
効果は,受講生からの双方向遠隔授業の評価の中でも述べられている.双方向遠隔授業は,講師・学生双方
にとって,大きな効果があった.
大学教育は,大学関係者のみで実施されるのではなく,他の分野の人々と連携・協力しながら実施するこ
とで,より大きな教育効果が得られる.今回は産学連携による授業を実施したが,今後は,実践的かつ高度
で,より大きな教育効果をもたらすために,産業界だけでなく政治・行政にかかわる人々とも連携した産学
官連携による授業を実施することは有効である.時間的・距離的等に制約された環境の中で,大学以外の分
野における先端的・実践的な教育を実施できる人々と連携をとりながら,高度な教育をするためには,双方
向遠隔授業の実施は教育効果をあげる道具として大きな役割を果たしうる.
今日の社会情勢の中では,双方向の意思疏通は重要性を増大させており,その手段としての情報機器の活
用はますます発展していくと考えられる.健康福祉の政策面においても,国民の健康寿命を伸ばすことを基
本目標に置き,治療医学から予防医学への展開がはかられている.医師の活動は病院主体の医療から地域全
体を見据えた健康福祉活動へと業務が拡大され,住民に身近な健康福祉サポータとなりうる福祉・教育部門
などの各業種に対して医療側から情報提供するなど,職種間の連携が重安になっている.また,多岐にわた
る住民からの地域の健康に対する要求に対して,職種間の垣根を越え,また第三者的意見を取り込んで議論
を行ない,解決策を探っていくことにより,住民にとって安心できるサービス提供体制の構築が可能となる.
現在の医療の現場は,病院完結型医療から地域完結型医療への転換,さらにはより広域的かつ異業種協働型
連携による「地域の健康」の確立を目指す方向にある.情報ネットワークを活用した双方向遠隔授業あるい
はテレビ会議の輪が拡大することにより,医療と教育現場を含めた各職種との連携が深まり,より質の高い
医療の構築や健康的なコミュニティの創生が促進されることが期待される.
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竹中康之,藤井廣美,上林憲行,小山明夫,柴田 孝,高橋義昭,原 敏之,横山繁夫,成田徳雄,中川宏生
今回の双方向遠隔授業は学生のみを対象に行なったが,今後は福祉・医療・保健などの分野で現実的問題
を抱えながら職業に従事し,活動している現場のスタッフも対象として実施していくことが望ましい.色々
な立場の者が地理的制約を受けずに共に学ぶことによる相乗効果により,より大きな教育的効果をもたらす
可能性が高い.
6 謝
辞
今回の双方向遠隔授業を含む福祉情報処理論の集中講義にあたっては,多くの人々の好意と協力によって
実施することが可能となった.遠隔授業の実施にあたっては,NCV米沢の方々には場の提供を始め,多く
の協力をいただいた.授業の講師依頼にあたっては,原田茂芳氏((株)ニューメディア函館センター長)の
助言をいただき,集中講義期間中は宍戸敬三氏((株)ニューメディア函館センター副センター長)にもお世
話になった.
授業の一部として実施した福祉施設見学においては,大林靖彦氏((株)エスイーシー・営業部・課長),
NDソフトウェア(株)北海道営業所の倉石善雄氏と板林高弘氏,特別養護老人ホーム・愛泉寮・施設長の吉
岡政司氏と同施設・介護課長の山石卓弥氏,岩佐紘希氏(介護老人福祉施設・函館はくあい囲の相談員)の
協力をいただいた.また,倉石善雄氏と板林高弘氏には,授業の一部を無償で補助・協力していただいた.
心よりお礼と感謝を申し上げたい
(竹中康之 函館校助教授)
(藤井廣美 函館校助教授)
(上林憲行 東京工科大学メディア学部教授)
(′ト山明夫 山形大学工学部助教授)
(柴田 孝 NECパーソナルプロダクツ(株)執行役員)
(高橋義昭 NECパーソナルプロダクツ(株)DMS事業部技術開発マネージャー)
(原 敏之 でん縁都市構想米沢ビジネスネットワークオフィス 地域情報プロデューサー)
(横山繁美 でん縁都市構想米沢ビジネスネットワークオフィス 地域情報プロデューサー)
(成田徳雄 米沢市立病院脳神経外科長)
(中川宏生 (株)ニューメディア技術部課長企画開発室室長)
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