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JPEC 世界製油所関連動向 - 石油エネルギー技術センター

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JPEC 世界製油所関連動向 - 石油エネルギー技術センター
2010 年 8 月 27 日(金)
JPEC 世界製油所関連動向
(2010 年 –7 月度)
(財) 石油産業活性化センター
調査情報部
目 次
概 況
1. 北 米
3 ページ
2. ヨーロッパ
6 ページ
3. ロシア・NIS諸国
9 ページ
4. 中 東
10 ページ
5. アフリカ
11 ページ
6. 中 南 米
11 ページ
7. 東南アジア
12 ページ
8. 東アジア
13 ページ
9. オセアニア
14 ページ
※ 「世界製油所関連動向」の過去のレポートは石油産業活性化センターの
ホームページから閲覧することができます。
=> http://www.pecj.or.jp/japanese/overseas/refinery/refinery.html
1
概 況
バイオ産業・技術に関する世界的な組織の「BIO」が去る6月末に Washington, D.C.
で開催した世界会議「World Congress on Industrial Biotechnology and Bioprocessing」
で、Novozymes の最高経営責任者が世界経済フォーラム(WEF:World Economic
Forum)が作成した「The Future of Industrial Biorefineries」と題する報告書(*1)を公
表した。報告書自体は WEF を含む複数の機関が McKinsey & Co.に委託して作成した
ものである。
同報告書には、バイオマスを原料に発酵、Fischer-Tropsch 法、エステル交換及びメ
タノール合成等の技術を駆使して製造するバイオエタノールやバイオディーゼル等の燃
料、SNG (Synthetic Natural Gas)や BTL (Biomass-to-Liquid)、更にはこれらを原料と
した化学製品を製造する一連の「バイオリファイナリー産業」がもたらす可能性につい
て、2020 年時点で想定される状況が記載されている。
その内容の一部を紹介すると以下の通りである。
① バイオ燃料市場は現在の 3 倍以上に拡大し、現規制に基づき使用が義務付けられる
バイオ燃料の総売上高だけでも 950 億ドルに達すると見積られる。
② 米国並びに EU27 カ国で消費される熱エネルギーや電力分野の需要は 2 倍以上にな
る。
③ バイオ・ベースの化学製品は顕著な成長を見せ、化学製品全体に占めるシェアは約
9 パーセントに達する。
④ バイオリファイナリー産業全体の事業活動の価値連鎖(Value Chain)分析を行う
と、エネルギー原料となる各種バイオマス生産分野の潜在能力は高く、この分野だ
けで金額にして 900 億ドルになるとみられる。
同報告書には上記した経済効果以外にも、世界のバイオリファイナリーの現状や解決
すべき主要課題並びに要因についても記載されており、参考になる資料である。
バイオリファイナリー産業の現状は、まだ発展の初期段階にありリスクが大きいと判
断されるため、単一企業の事業活動に委ねるべきではないと考えられるが、何十万もの
雇用創出及び地球温暖化ガスの排出抑制の主要産業となり得るだけに各国政府が早期商
業化に向けて下支えする必要があると同報告書は訴えている。
(*1)
http://www3.weforum.org/docs/WEF_FutureIndustrialBiorefineries_Report_2010.pd
f
2
1.北米
(1) US-EPA、2011 年の RFS2 基準値を公表
米国環境保護庁(EPA)が、2011 年の国内自動車用燃料において、各種バイオ燃料が
占めるべき割合を 2007 年版エネルギー自給・安全保障法(EISA:Energy Independence
and Security Act of 2007)に基づく新再生可能燃料基準(RFS2)として燃料の種類ご
とにその使用比率を公表した(*2)。
EISA には 2022 年までの再生可能燃料の使用量が規定されており、2022 年における
再生可能燃料の使用量を 360 億ガロン(約 1.36 億 kL)としている。EPA は EISA で設
定されている使用目標量を達成するために年毎に燃料別基準値(使用比率)を算出し、
精製業者、輸入業者及び燃料混合業者らにこの基準値を示すことで輸送用燃料に販売さ
れる再生可能燃料の最低使用量を指導する形をとっている。
公表された 2011 年の使用目標量と基準値(使用比率)は以下の通りである。
・バイオディーゼル(8 億ガロン、0.68%)
・先進型バイオ燃料(13.5 億ガロン、0.77%)
・セルロース系バイオ燃料(500 万~1,710 万ガロン、0.004~0.015%)
・再生可能燃料合計(139.5 億ガロン、7.95%)
今年の特徴はセルロース系バイオ燃料の基準値で、EPA は EISA が示している目標値
より低い数値を提案している。EPA は 2011 年のセルロース系燃料市場がまだ小さく、
現状でセルロース系燃料が入手困難であることを勘案し、同燃料の将来的な生産は楽観
視できるものの、2011 年の使用目標量として EISA が示す 2.5 億ガロン(約 94.6 万 kL)
より大幅に少ない上記の数値を示している。
尚、EPA が基準値を示すに当たり調査したセルロース系バイオ燃料の製造企業、使用
原料、生産能力、設備の稼動時期等に関しては米国の官報「Federal Register(*3)」に基
準値算出根拠と共に記されており、米国におけるセルロース系バイオ燃料の現状を知る
上で有益と思われるので参照願いたい。
(cf. 資料(*3)の Table II.A.5–1)
(*2) http://www.epa.gov/otaq/fuels/renewablefuels/420f10043.htm
(*3)
http://www.regulations.gov/search/Regs/contentStreamer?objectId=0900006480b1cff
3&disposition=attachment&contentType=pdf
(2) Keystone XL プロジェクトの最近の動向
先月に報告した通り、TransCanada Corp.は 6 月末に「Keystone Pipeline プロジェ
クト」の第一期工事を完成させ、米国中西部にカナダ・アルバータ州のオイルサンド由
来原油を輸送し始めている。このプロジェクトはカナダ・アルバータ州の Hardisty か
3
らサスカチュワン州 Regina 及びマニトバ州を経由して米国のイリノイ州 Wood River
及び Patoka ターミナルまで設置した第一期工事(一部はオクラホマ州 Cushing まで設
置)と Hardisty からカンザス州とネブラスカ州の州境にある Steele City 及び Cushing
図 1. Keystone XL パイプライン
を経由しテキサス州 Moore Junction 並びに Port Arthur まで伸びる
「Keystone XL Gulf
Coast パイプライン」の 2 計画からなるが、商業輸送が始まったのは前者の部分である
(図1参照)
。
4
後者のパイプラインは 2013 年完成予定で計画が進められているが、オイルサンド開
発に伴う地球温暖化ガスの発生を抑制する立場から、従来から環境団体等
の設置工事反対運動があった。
これに加えて、最近発生したメキシコ湾原油流出事故や Enbridge を含む国内パイプ
ラインからの石油漏洩事故が多発していることも災いし、かつてないほどの反対運動の
高まりを見せている。
Keystone XL はカナダとの国境を渡るパイプラインで、米国側から見ると国務省管轄
に入り(*4)、同省が発行する“大統領許可(Presidential Permit)
”を必要とすると共に
環境政策法(NEPA:National Environmental Policy Act)で規制されている環境影響
調査準備書(DEIS:Draft Environmental Impact Statement)の公表が義務付けられ
ている。
パイプライン建設反対運動の中で“大統領許可”に対して動きを見せているのは米下
院エネルギー・商業委員会の Henry Waxman 委員長(民主党、カリフォルニア州)で、
同委員長はパイプラインが設置されるとオイルサンド由来の原油の使用量が大幅に増加
することになり、輸送用燃料由来の CO2 排出量が増加し、米国が 2020 年の達成目標と
している CO2 削減目標の 3 分の 2 が実現不可能になると警告し、
“大統領許可”を出さ
ない様に提案している。
また、DEIS を公表し各地で公聴会を開催してきている国務省もパブリックコメント
の締め切りを特別に 2 週間延長し 7 月 2 日としたほか、公聴会開催地も増加させ対応し
てきている。これらの公聴会において、環境保護団体からはパイプライン設置に反対す
る意見が多く寄せられているが、企業団体や労働団体は、同計画は新規雇用を創出し米
国経済に多大の利益をもたらすとして賛成の立場を示している。
一方、8 月には DEIS の最終案を作成し、秋には最終決定版を発表する予定の国務省
に対し、関係機関としての EPA やエネルギー省(DOE)は、国務省が作成した環境影
響評価書案(DEIS)は「不十分」で、データを追加して分析の精度を上げるべきである
との意見を 7 月下旬に発表している。
上述してきた様に Keystone XL 計画は米国内で政界・議会を巻き込む大きな動きにな
っており、決められたスケジュールの中で大きな山場を迎えつつある。
(*4) http://www.keystonepipeline-xl.state.gov/clientsite/keystonexl.nsf?Open
(注:上記サイトの左欄の「Project Information」に多くの資料あり)
(3) Murphy Oil が石油精製業から撤退
米国の中堅石油会社 Murphy Oil Corp.が石油精製業から撤退し、石油探査・生産およ
5
び米国内での石油販売に事業を特化すると発表した。Murphy Oil が運転管理している
製油所は、米国ではウィスコンシン州の Superior 製油所(3.5 万 BPD)とルイジアナ州
の Meraux 製油所(12.5 万 BPD)で、海外では英国 Wales で子会社の Murco Petroleum
Ltd.が所有している Milford Haven 製油所(10.8 万 BPD)がある。
Murphy Oil の発表によると、これら 3 製油所並びに英国内での石油販売事業を 2011
年第 1 四半期末までに、出来れば単一買収機関への一括売却を望んでいると説明してい
る。販売窓口は Goldman, Sachs & Co.で、金額は 15 億ドルと報道されている。また、
Valero Energy Corp.が Delaware City 製油所を売却する際には、売却先が見つかるまで
製油所運転を停止し、見つからない場合にはそのまま閉鎖する方針であったが、Murphy
Oil では 3 製油所は停止せずに運転を継続するとしている。
Murphy Oil がこの時期に製油所売却に踏み切った理由としては、ガソリン市場が回
復しつつあるものの、精製マージンは依然として回復していないことがある。それに加
えて製油所に課せられる環境関係を主とする規則類が年々増える一方で、今後、規則対
応の設備投資が増加すると考えられることもあげられている。大企業の様に懐が深いと
販売事業の縮小により、ある程度、精製事業の保全を図ることも出来るが、同社のよう
な中堅企業の場合には精製事業の保全を図る手段や余裕が無いことが指摘されている。
同社は米国での石油販売事業は継続し、英国での石油販売事業を売却するとしている。
両国での販売の現状をみると、米国では 1,000 箇所を超す販売店での販売のほかスーパ
ーマーケットの Walmart Supercenters の駐車場での自社ブランド販売や他社からの供
給を受けた販売を行っているが、英国では子会社の Murco が 3 箇所にターミナルを所有
し、
「MURCO」ブランドで販売するほかは ConocoPhillips の「JET」ブランドで販売
しているにすぎない。
2009 年の同社の年次報告書を見ると、北米では製油所処理量 13.4 万 BPD に対し、石
油製品販売量は 43.3 万 BPD と 3 倍以上の数値を示している。英国では Milford Haven
製油所の処理量が 9.7 万 BPD であるのに対し、販売量は約 10.4 万 BPD とほぼ精製・
販売が拮抗している。このことから米国における同社の販売力の強さが同国での販売事
業を残す理由になったと思われる。
2.ヨーロッパ
今月度は、ヨーロッパ地域の製油所に関係する報道が多く見受けられる。
ConocoPhillips がドイツの Wilhelmshaven 製油所(26 万 BPD)の売却を検討している
記事、BP が史上最悪となったメキシコ湾原油流出事故の補償対策の一部としてドイツ
の販売店網並びに製油所の売却を検討していると報じる記事、昨年来、Royal Dutch
Shell が英国の Stanlow 製油所(24.6 万 BPD)
、ドイツの Heide 製油所(10 万 BPD)
6
及び Hamburg 製油所(10 万 BPD)の 3 製油所を売却すべくインドの Essar Oil Ltd.
との間で交渉を行っていたが、一時この話は下火になったものの、ここにきて再燃して
いることを報じる記事、イタリアの ERG SpA は、2008 年にシチリア島にある ISAB 製
油所
(32 万 BPD)
の権益の 49%をロシアの Lukoil に売却しているが、
残る 51%も Lukoil
に売却する検討を行っていることを報じる記事、等である。以下に個別記事について記
す。
(1) Wilhelmshaven 製油所の売却情報
ConocoPhillips はヨーロッパに 4 製油所を所有し合計処理能力は 61 万 BPD となって
いる。この内、ドイツの Wilhelmshaven 製油所は、現状では ConocoPhillips が 100%
の権益を所有している。同製油所が建設されたのは 1970 年代前半で、設備は比較的旧
式であるためアップグレード工事が必要とされていた。ConocoPhillips は 2008 年以来
アップグレード工事を計画していたが、結果的には昨年 11 月まで実施されずに先送りさ
れてきている。
この様な状況下 ConocoPhillips では昨年 10 月から今年 4 月まで実質上運転を停止し、
長期に亘る保守点検工事を行っていたが、5 月に火災事故を起こして以来、今日まで本
格的な閉鎖に入っている。このためもあり、同製油所の負債額は相当な金額に上ると言
われている。
同製油所のアップグレード計画の内容は原油選択幅の拡大と高品質製品の製造だった
が、コーカー、水素化分解装置、水素製造装置等の新設に加え、発電設備の増設も計画
されていた。しかし、ConocoPhillips は今後採算が見込める上流部門への特化と下流部
門資産の縮小方針に則り、去る 7 月 22 日にアップグレード計画の撤回と同製油所の売
却もしくはターミナル化を決定した。
(2) BP のドイツにおける事業縮小情報
BP は史上最悪となったメキシコ湾原油流出事故の補償を目的に、今後 18 ヶ月以内に
上流部門の資産を中心に 300 億ドルの資産売却を明らかにしている。ドイツにおける売
却対象資産としては、国内最大の販売店網を持ち、コンビニエンス・ストア並びにファ
ー ス ト フ ー ド 事 業 を 展 開 し て い る Aral の 売 却 を 検 討 し て い る こ と を 経 済 誌
「Wirtschaftswoche」が報じている。
ドイツ国内で“Aral ブランド”を掲げて燃料を販売する販売店は 2,400 箇所以上で、
市場シェアも約 24%になり、同社の売却額は約 26 億ドルになると見られている。消息
筋の話として、フランスの Total、ロシアの Rosneft それに Aral の競合先でヨーロッパ
の独立系販売企業の Avia International が買収に興味を示していると言われているが、
専門家の間では“BP は Aral を売却しないのではないか”と囁かれている。
なお、Rosneft は、BP がドイツの Nordrhein-Westfalen(North Rhine-Westphalia)
7
州で保有する2ヶ所の製油所についても買収を視野に入れていると報じられている。BP
がドイツ国内に権益を持っている製油所は 5 ヶ所で、それらは Gelsenkirchen(26.6 万
BPD;50%)
、Lingen(9.3 万 BPD;100%)
、Schwedt(22.6 万 BPD;18.8%)
、Karlsruhe
(32.3 万 BPD;12%)及び Bavaria(21.5 万 BPD;22.5%)の各製油所であるが、こ
れ ら の 中 で North Rhine-Westphalia 州 に 所 在 す る 製 油 所 は Gelsenkirchen と
Karlsruhe(Mülheim)である。
Rosnft がヨーロッパの製油所獲得、特にドイツの製油所の権益獲得に向けて動いてい
る情報は、本サイトの 2010 年 4 月度にも報告した通りであるが、当時は Shell が保有
する権益部分ではなく、ベネズエラ国営石油会社の PDVSA が所有する権益を譲り受け
る交渉を行っている情報であった。
最近、BP の新最高経営責任者がロシアを訪問し、ロシア高官や Rosneft 等との話し
合いをする中、Rosneft 側からは経済誌「Wirtschaftswoche」が報じている内容を打ち
消す情報が流されている。今しばらく曲折があるものと思われる。
(3) Royal Dutch Shell の 3 製油所売却情報
Shell が英国の Stanlow 製油所(24.6 万 BPD)
、ドイツの Heide 製油所(10 万 BPD)
及び Hamburg 製油所(10 万 BPD)の 3 製油所を売却するとの情報が流れて以来 1 年
が経過した。当初、インドの Essar Oil Ltd.との間で“独占交渉”が行われているとの
情報が流れていたが、独占交渉期限も昨年 11 月に切れ、両社の交渉状況を伝える記事数
は殆ど無くなった。しかし、ここに来て再燃し始めている。
Essar Group の最高経営責任者である Prashant Ruia 氏が明らかにしたところでは、
今年 3 月時点では Essar Group の最重要銘柄とも言うべき Essar Energy のロンドン市
場での新規株式公開(IPO)を通じた資金調達を優先させたため、意図的に売買交渉を遅ら
せたが交渉は継続されているという。
そうこうしている内に、ごく最近になって個人投資家で Klesch & Co.のオーナーであ
る Gary Klesch 氏が Heide 製油所の買収に同意した旨の報道が出た。壊滅状態のヨーロ
ッパ石油精製分野にとって朗報と言える。同氏は 5 年程度の中期レベルで考えるのであ
れば、更に数箇所の製油所買収を考えても良いと発言している。
買収施設には製油所のほか化学設備、流通事業や販売事業も含まれていると言われて
いるが、範囲並びに買収金額等は明らかにされていない。年末までの商取引終了を目標
としているが、
今回の買収は買手の付かないヨーロッパ製油所にとり、
昨年 6 月に Lukoil
が Total のオランダにある Vlissingen 製油所(15.3 万 BPD)の権益 45%を取得して以
来の事になる。
Gary Klesch 氏は、昨年イタリアの Eni が Livorno 製油所(8.5 万 BPD)を売却に付
8
した際、買収に向けた交渉をしており(本サイトの 2009 年 9 月度に報告)
、リビアでも
製油所建設計画に参画している。
なお、今迄 3 製油所の買収に向けて交渉を続けてきたインドの Essar Energy とは残
る 2 製油所の売買に向けた交渉がまだ続けられている。
(4) ISAB 製油所の 100% Lukoil 子会社情報
イタリアの ERG S.p.A.がシチリア島 Priolo に持つ ISAB 製油所(32 万 BPD)は、
2008 年にロシアの Lukoil と共同運営に当る事で合意に達し、共同事業体を設立してい
る。当該事業体の株式の 49%は Lukoil が、また 51%は ERG が保有し現在に至ってい
るが、
当時のオプション契約として、
2014 年までの有効期限付きで ERG は保有する 51%
の株式の指定価格での売り付け権利(プット・オプション)を持っている。
この度、ERG の最高経営責任者がイタリアのメディアのインタビューに答える形で明
らかにしたところでは、ERG はプット・オプションを行使し、Lukoil に保有株式の売
却を検討しているとのことである。ISAB 製油所は Lukoil にとって西ヨーロッパ進出の
拠点となっているが、仮に売却が成立すると西ヨーロッパに Lukoil の 100%子会社が誕
生することになる。
3.ロシア・NIS 諸国(New Independent States)
(1) ロシア極東の新製油所建設計画の近況
Rosneftがロシア極東沿海地方のナホトカ近郊に2017年完成予定で建設を計画してい
る Primorsk 製油所(正式名称は未定)の処理能力は、最終計画では 40 万 BPD とさ
れているが、これまでも 20 万 BPD を第 1 段階で建設し、第 2 段階で更に 20 万 BPD
を追加建設するとされてきた。
Kommersant Daily 紙が Rosneft の販売部門長である Viktor Ploskina 氏の言葉とし
て伝えるところでは、この Primorsk 製油所の最終処理能力は 20 万 BPD にすると共に
ロシア極東のハバロフスク地方・アムール川下流の都市 Komsomolsk-on-Amur にある
同社の Komsomolsk 製油所(14 万 BPD)から年間約 200 万トンの石油留分を新製油所
に輸送し、ナフサ並びに液化石油ガスを生産する計画に変更すると語っている。
ロシア極東には Rosneft の Komsomolsk 製油所以外に Alliance が所有する
Khabarovsk 製油所(8.7 万 BPD)があるが、同地域の石油需要を満たすにはこれら 2
箇所の製油所で十分な能力がある。この様な状況から、新製油所の製品も 90%が輸出さ
れることになっている。
新製油所建設地に関しては、既に土地利用に関わる契約が締結されたと報道されてい
9
るが、Yelizarova 岬の Partizansk 地区境界近くであるのか、ナホトカの Vostochny 港
近くであるのかは伝えられていない。
4.中東
(1) トルコでの新製油所建設の動き
SOCAR & Turcas Enerji A.Ş.の 100%子会社である SOCAR & Turcas Rafineri A.Ş.
は 2008 年 9 月に設立された会社である。同社はトルコ西部の地中海に面した İzmir 県
Aliaga に新製油所を建設すべくエネルギー市場規制局(EPDK:Energy Market
Regulatory Authority)に許可申請を 2008 年 11 月に提出していたが、この度、正式許
可を取得し、建設に向けた式典が政府関係者の出席のもとで執り行われた。
Aliaga には関係会社の Petkim Petrokimya A.S. (Petkim)が石油化学施設を所有して
おり、同じ地区に建設することで石油精製と石油化学の相互有機的結合を図り、投資額
の側面からも原料融通面からもシナジー効果を発揮させることを狙っている。
現在、トルコは、石油化学製品需要の 70-75%を輸入に頼っているが、今回の製油所
建設に伴いナフサ類が自給出来るようになり、輸入量は 30%程度削減出来ると言われ、
海外石油製品依存を軽減するものとして期待されている。
新製油所は通称“エーゲ海石化製油所(Ege Petro-chemistry Refinery)
”と呼ばれて
おり、能力は約 20 万 BPD で、2014 年末に完成予定で建設される。製品はトルコ国内
需要に充てる他、LPG、軽質ナフサ及びミックス・キシレンは Petkim の原料として供
給する。建設に向けた環境影響評価報告書はトルコ政府の審査が終了し、2009 年 12 月
に許可証の「Environmental Impact Positive Certificate」を受領している。
製油所概念設計は Technip/ UOP コンソーシアムに発注され、一次検討は 2009 年 7
月に終了、二次検討も 2010 年 1 月に終了している。FEED(Front End Engineering
Design: 基本設計)業務は Foster Wheeler AG に最近発注されたが、実質的には 2010
年 3 月に開始されている。
建設する主要装置には常圧蒸留装置、減圧蒸留装置のほかは、ナフサ水素化処理装置、
SYDEC ディレード・コーカー(4 万 BPD)
、水素化分解装置(6.6 万 BPD)
、灯・軽油
水素化処理装置、LPG 処理装置、連続触媒再生式リフォーマー、アミン処理装置、硫黄
回収装置、水素製造装置(16 万 Nm3/h)
、用役等のオフサイト設備その他となっている。
なお、SOCAR はトルコ中南部の Adana 県 Ceyhan での新製油所建設も計画している
が、この計画は一時停止された。
10
5.アフリカ
(1) 「Infrastructure 100」に選定された Coega 製油所建設計画
Emap Ltd が KPMG International と共に世界中で展開されている各種プロジェクト
を検証し、その中から各プロジェクトの規模、革新性、社会へ与える影響等を基準に判
断し選別した 100 のプロジェクトの概要を「Infrastructure 100」という資料(*5)にまと
めて公表している。
同資料では更に電力、道路、交通、再生可能エネルギー等 10 種類の分野ごとに特筆す
べきプロジェクトを抽出し、選定理由と共に紹介しているが。その中で「石油及びガス」
分野では南アフリカ国営石油会社の PetroSA が同国 Eastern Cape 州の Coega 工業開発
特別区で進めている新製油所建設計画(約 40 万 BPD、通称 Mthombo プロジェクト)
が最も社会経済的にも影響あるものとして選ばれている。
現在、同プロジェクトの FEED(基本設計)及び詳細な経済性評価作業は終了し、技
術的にも経済的にも成立する結果が得られたとしてPetroSA は同国のエネルギー相に対
して、計画の早期展開を要請している。
南アフリカでは、Euro 4 基準の製品規制が 2014 年に施行されるが、既存製油所設備
での対応は困難で、高品質製品の輸入で対応するか早期の既存製油所の設備改善で対応
するかの選択を迫られることになる。いずれにせよ新製油所の本格稼動までの間、燃料
需要の 20%を輸入に頼らなくてはならないと指摘されている。
しかし、同プロジェクトの設備投資総額が 110 億ドル以上になると言われる中、既存
製油所の近代化を 2016 年までに推し進めれば充分に対応できるとの意見もあり、政府
としても建設計画に慎重な態度を取らざるを得ない状況になっている。
(*5)
http://www.kpmg.com/ZA/en/IssuesAndInsights/ArticlesPublications/Surveys/Docum
ents/Infrastructure-100.pdf
6.中南米
(1) Ecopetrol、新長期戦略計画を公表
コロンビア国営石油会社の Ecopetrol S.A.は、役員会で予算総額 800 億ドルに及ぶ
「2011-2020 長期戦略計画」を決定した。同計画では、予算の 79%を石油開発に振り向
け、現状の国内石油生産量が約 60 万バレルであるのに対し、2015 年までに 100 万バレ
ル、2020 年には 130 万バレルにまで引上げる計画である。残る 21%の予算は輸送シス
11
テムの強化、製油所拡張・近代化、石油化学及びバイオ燃料の拡充に充てる内容になっ
ている(*6)。
当該長期戦略計画をみると、製油所拡張並びに近代化予算は、2011 年-2015 年の 4 年
間で 52 億ドル、続く 2016 年-2020 年の 4 年間で 3 億ドルを投資する。更に詳しく見る
と、Barrancabermeja 製油所(25.2 万 BPD)の 30 万 BPD への拡張及び近代化工事に
29 億ドルを投資する。同プロジェクトは既に進行中であるが、工事終了は 2014 年であ
る。また、同じく進行中の Cartagena 製油所(8 万 BPD)の 14 万 BPD への拡張及び
近代化工事には 13 億ドルが投資される。同プロジェクトは 2013 年に終了予定である。
バイオ燃料に関しては、2012 年までに 1.7 億ドルが投資され、生産量を 2011 年には
8.6 万トン/年、2015 年までに 45 万トン/年にする計画である。
(*6)
http://www.ecopetrol.com.co/english/documentos/44867_Presentacion_2Q-2010_ING
LES_VFINAL.pdf
7.東南アジア
(1) インドにおける新製油所稼動情報
インドで最後に建設された Reliance Industries Ltd (RIL) の Jamnagar 製油所(58
万 BPD)が運転を開始して以来 17 ヶ月が経つが、同国で久し振りに新製油所が運転を
開始した。インド国営石油会社の Bharat Petroleum Corp Ltd.(BPCL)が 84%、オマー
ン国営石油会社の Oman Oil Co. Ltd (OOCL)が 26%の権益を持つ共同事業体の Bharat
Oman Refineries (BORL)が、インドのほぼ中央に位置する内陸部の Madhya Pradesh
州に建設してきた Bina 製油所(12 万 BPD)がそれである。
今回運転が開始された装置は減圧蒸留装置で、常圧蒸留装置は 6 月末から運転されて
いる。今後ナフサ水素化処理装置(2 万 BPD)
、連続再生式接触改質装置(1 万 BPD)
、
水素化分解装置等の二次装置の繋ぎ込み工事や運転が順次行われ、製油所全体が運転さ
れるのは 9 月末になる予定である。
なお、原油は製油所から 935km 離れた Gujarat 州 Vanidar からパイプライン輸送さ
れるが、このパイプラインは常圧蒸留装置が稼動を開始した 6 月に運転を始めている。
これまで BPCL は自社シェアとしての需要を十分に補うだけの製造が出来ず、輸入や国
内他社からの供給を受けてきたが、Bina 製油所の稼動に伴い状況が緩和されることにな
る。
このように BPCL の企業単位では Bina 製油所の稼動により需要シェアと精製能力の
12
アンバランスが解消される方向に向かうことになるが、インドの現状は国全体の需要量
や今後の伸び、設備能力、精製能力増強計画の間にアンバランスがある。
燃料油の輸入が続いているインドでは、Murli Deora 石油相も「現在の精製能力であ
る 368 万 BPD を今後 3 年以内に 506 万 BPD に引上げる計画である」と語っており、
急速な経済成長により石油製品需要が精製設備能力を大きく上回り、政府は需要に見合
う設備能力の増強を急いでいる印象を受ける。しかし、現実には精製設備能力が需要量
を上回っている。国内各製油所間での製品融通が出来れば、地域ごとの需給のアンバラ
ンスは解消され、製品輸入の必要がなくなるはずであるが、現実には製品輸入が続いて
いる。
この現象は、政府の税制上の優遇を受けられない製油所が低い価格で国内販売するよ
り輸出した方がベターと考え、輸出を優先しているためといわれる。
8.東アジア
エネルギー消費量(Mtoe)
(1) 中国のエネルギー消費量が世界一を達成
国際エネルギー機関(IEA)は、予備集計データに基づく解析結果としながらも、2009
年の中国のエネルギー消費量が米国を上回り、昨年、既に世界最大のエネルギー消費国
になっていたとし、予測より早く両国の逆転時期が到来した旨発表した(*7)。両国の最
近のエネルギー消費動向は図に示す通りである。中国の 2000 年における消費量が米国
の約半分であったことを思うと、中国のエネルギー需要が如何に急速に拡大してきたか
を物語っている。
2500
2000
米 国
1500
中 国
1000
500
0
2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年
図1.米国と中国のエネルギー消費量推移
(注:Bloomberg の報告数値から PEC 作成)
この IEA の発表数値に対し中国国家発展和改革委員会の能源局は、IEA が提示した数
13
値によると中国の石油換算エネルギー消費量は米国を 4%上回ったことになるが、中国
国家統計局が公表している標準炭換算のデータを基に比較すると、IEA が提示している
中国のエネルギー消費量の数値は過大評価しており、5%程度上回っているとして異議を
唱えている。
また、能源局は中国が積極的に進めている水力発電設備容量、太陽熱温水器規模、風
力発電設備等の新エネルギー分野の伸び率は米国を凌いでいることや、省エネ・CO2 排
出削減を強力に推進していることも考慮されるべきであるとしている。これは同局が中
国を世界最大のエネルギー消費国として、世界の気候変動交渉において圧力をかけられ
ることを警戒しているためである。
ともあれ、中国が世界最大の人口を抱えており、近い将来、世界最大のエネルギー消
費国になるのは誰もが予測していることである。
(*7) http://iea.org/index_info.asp?id=1479
(2) 日本の環境省、自動車排出ガス低減対策についてのパブリックコメント結果を公表
環境省「中央環境審議会大気環境部会自動車排出ガス専門委員会」では、ディーゼル
トラック、バスの排出ガス規制の強化及び E10 対応ガソリン車の排出ガス基準等につい
て、去る 6 月 18 日に「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について(第十次報告)
」
(案)を取りまとめ、6 月 22 日~7 月 21 日までパブリックコメントを募っていた。そ
の結果を同省サイトで公表している(*8)。
(*8) http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=12767
9.オセアニア
(1) Marsden Point 製油所の“Point Forward プロジェクト”が終了
New Zealand Refining Co.の Marsden Point 製油所では“Point Forward プロジェク
ト”と称する近代化・拡張工事を 2005 年に計画し、2008 年の着工以来、実質 5 年間の
長期プロジェクトを進めてきたが、この度、計画通りのスケジュールで終了させ、政府
高官をはじめとする多くの関係者の出席のもと、完了式典を執り行った。
プロジェクトの総投資額は約 1.9 億ドルで、工事内容は常圧蒸留装置のボトルネック
を解消し、塔槽類、熱交換器、加熱炉ポンプ等を最新のものに置換えることで原油処理
能力を 10.6 万 BPD から 13.5 万 BPD とするほか、これまで外部調達で一部手当てして
いた水素化分解装置用原料の自給化を図っている。同製油所はニュージーランドで唯一
の製油所であるため、運転しながらの工事になった。
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今回のプロジェクトの完成でニュージーランド国内の輸送用燃料の約 80%の供給が可
能となったほか、ジェット燃料の 100%を供給出来るようになり、同国のエネルギー安
全保障面からも大きく前進した。
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編集責任:調査情報部 ( [email protected] )
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