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パルス通電焼結法を用いた材料加工技術の開発
平成17年度 佐賀県工業技術センター 研究報告書 パルス通電焼結法を用いた材料加工技術の開発 ― PCS 製法を用いた新バインダレス超硬合金および製品の開発 ― 材料環境部 円城寺隆志 川上雄士 日本タングステン株式会社 毛利茂樹 田中宏季 パルス通電焼結法を用いて高温用超精密モールドとして使用されるタングステン系 バインダレス超硬合金を製造した.その結果,パルス通電焼結法では通常焼結法と比較 すると低温・短時間で焼結が可能であることが分かり,得られた焼結体は理論密度比で 99%以上,硬度は 96.5[HR30N]を得た.また,短時間焼結であるため,焼結後の粒径が 微細であり,焼結条件により結晶粒径を変化させることもできることが分かった.本研 究の結果から,パルス通電焼結法を用いることにより新規金型材料が創出できる可能性 が示された. 1.はじめに 家庭用電化製品や自動車などに使用される多くの プラスチック製・ガラス製部品は歯車形状をはじめ として複雑な自由曲線形状が要求されている.これ らは大量生産を必要とするため,一つ一つの部品を 加工することが生産速度やコストから困難であり, よって焼結が促進される焼結法である.従来の焼結 法(ホットプレスなど)と比較し,低温・短時間で 焼結が行えることが利点である. これまで当センターではパルス通電焼結法を用い て超硬合金/ステンレス鋼の接合技術を確立させて きた 2,3).今回,パルス通電焼結法を用いて高温用 金型を使用した大量生産が一般的である.金型材料 として利用されている超硬合金はタングステンカー バイド(WC)やチタンカーバイド(TiC)などの高融 点硬質炭化物粉末を,結合材を用いて焼結した合金 である.結合材には Co や Ni などのじん性に優れた Fe 属の金属粉末を使用する 1).しかし,超微粒子バ 超精密モールドとして利用されている超微粒子バイ ンダレス超硬合金の製造を試み,焼結温度がおよぼ す理論密度比,離型剤,硬さ,焼結組織への影響を 検討した. インダレス超硬合金は Co などの金属バインダーを 含 ま ず , 硬 質 WC 微 粒 子 と 耐 熱 性 に 優 れ る β 相 (WC-TiC-TaC 固溶体)から構成され,高温用超精密 モールド(金型)などとして幅広い市場・用途に適 用されている.このモールドは高温(673~1073K) で使用されるため表面粗さなどが劣化することや製 2.1 実験試料 実験試料として使用した超微粒子バインダレス超 硬合金粉末(日本タングステン㈱合金名:RCCFN)は 日本タングステン㈱より提供された.通常焼結法に より作製された RCCFN の物理的特性を表 1 に示す. 2.実験方法 造コストが高く,リードタイムが長いという課題を 持っている.このような条件で使用されるモールド には,近年さらなる表面粗さの改善・長寿命化・コ ストダウン・短納期などのニーズが求められている. 一方,粉末冶金とは金属粉または金属粉に非金属 粉を配合した粉末を求める形状に成形し,焼結する ことにより材料または製品をつくる技術である.粉 末 冶 金 の 一 種 で あ る パ ル ス 通 電 焼 結 法 ( Pulsed Current Sintering:PCS)とは黒鉛型に充填された 原料粉末を加圧し,パルス状の直流電流を投入する ことにより原料粉末のジュール熱による自己発熱に -36- 表1 通常焼結法により作製された RCCFN の 物理的特性 熱膨張率 [ppm] 4.7 硬度 [HR30N] 94~96 抗折力 [GPa] 1.8 弾性率 [GPa] 600 熱伝導率 [W/m・K] 120 研削面粗さ [Rtm] 7nm 合金成分 WC-TiC-TaC-微量炭化物 平成17年度 佐賀県工業技術センター 研究報告書 表2 パルス通電焼結法を用いた RCCFN の焼結条件 No. 焼結温度 [K] 保持時間 [min] 加圧力 [MPa] 離型剤 1 1473 10 20 2 1573 10 20 3 1673 10 4 1773 5 1873 昇温条件 ~873K [min] 873K~ [min] BN 10 10 BN 10 12 20 BN 10 13 10 20 BN 10 15 10 40 CS 10 13 BN:窒化ホウ素 Oil Pressure CS:カーボンシート Infrared Thermometer Vacuum Chamber 100 Sample Powder Relative Density [%] Upper Electrode Program Controller Unit Carbon Die Carbon Rod Lower Electrode DC Pulse Current Supply Unit 90 80 :PCS(BN) :PCS(CS) :Hot Press 70 60 1400 Oil Pressure 図1 1600 1800 2000 Sintering Temperature [K] 図2 パルス通電焼結装置の模式図 焼結温度と理論密度比の関係 2.2 焼結実験 離型剤として内部に窒化ホウ素を塗布またはカー ボンシートを使用した円柱状黒鉛型(内径 20mm,外 径 50mm,高さ 40mm)に RCCFN 粉末を所定量充填し, 図1に示すパルス通電焼結装置(住友石炭鉱業(株) 製 SPS3.20MK4)を用いて焼結した.焼結中は赤外放 温度の上昇と共に理論密度比は上昇し,1823K にて 理論密度比が約 100%に達した.これに対し離型剤 に BN を用いた PCS 製法では 1573K にて理論密度比が ほぼ 100%に達し,ホットプレスより 250K も焼結温 度が低下した.これは焼結型の外部から熱を加える ホットプレスと異なり,PCS は粉体に直接電流を流 射温度計を用いて黒鉛型表面の温度を測定すること により温度制御を行った.焼結条件を表2に示す. 焼結後の試料は密度および硬さを測定し,研磨後, 組織観察を行った. 3.結果および考察 すため,粉体粒子接触部にパルス状の大電流が通過 することで急激なジュール加熱により粉体の溶解と 拡散が促進され,ホットプレスよりも低温で焼結が 可能であると考えられる. 離型剤としてカーボンシートを用いると窒化ホウ 素を用いた場合と比較して焼結圧力が高いにもかか 3.1 理論密度比におよぼす焼結温度,離型剤の影響 RCCFN 粉末 20g を黒鉛型に充填し,表2の実験条 件にて焼結した試料および従来の製造方法(ホット プレス)で焼結された試料の理論密度比を図2に示 す. ホットプレスで焼結され た RCCFN は焼結温度 わらず理論密度比の低下が確認された.カーボンシ ートが原料粉末よりも電気抵抗が小さいため,離型 剤に窒化ホウ素を用いた場合と異なり,焼結過程に おいて電流が離型剤と黒鉛型に多く流れたため原料 粉末の発熱が低く抑えられたと考えられる.これら より PCS 製法において焼結品を制御するには,焼結 1673K において約 65%の理論密度比であったが,焼結 時における試料に流れる電流を細かく制御する必要 -37- 平成17年度 佐賀県工業技術センター 研究報告書 間に形成されたネックはジュール熱の増大と共に発 達し,塑性変形をおこしながら拡散部分を拡張させ ながら焼結が進行していくことが知られている 4). そのため焼結温度の上昇で硬質 WC 粒子が粗大化し たと考えられる.また,組織写真からホットプレス た.硬度は焼結温度の上昇と共に硬くなり 1673K に おいて 96.5 を示した.しかしながら,1773K の焼結 では 95.1 と低下した.同様にホットプレスで焼結し た場合は,1823K において 96.4 であったが,1973K で 94.6 と低下している.これらより離型剤に窒化ホ ウ素を用いた RCCFN の PCS 焼結において高硬度を求 焼結品と比較し,WC 粒径が微細であることが確認で きた.PCS 製法ではホットプレスより焼結時間が短 いために WC の粒成長が抑制されたと考えられる. めるには,1673K が最適な焼結温度であり,1773K では過焼結であると考えられる.また,離型剤にカ ーボンシートを用いた場合は 1673K において 96.2 であり,窒化ホウ素を用いた 1573K の焼結と同じ硬 度であった.これからも,離型剤には窒化ホウ素が 有効であることが示された. イヤモンドの次に硬い)ため,超硬精密プレス金型 や耐摩耗・耐衝撃材料,切削工具などに利用されて いる.しかしながら,WC の融点は 3043K であるため, Co 等の金属バインダーを含まない WC 製品の製法に はホットプレスなどの焼結が主に行われている.金 属バインダーを用いない WC 系製品の焼結には高 Rockwell Hardness [HR30N] があると思われる. 3.2 硬さに及ぼす焼結温度,離型剤の影響 3.1 において焼結した材料の硬さ測定結果を図3 に示す.離型剤に窒化ホウ素を用いた場合,1473K で焼結した試料は HR30N で測定した硬度が 91 であっ 温・高圧力が必要であるため,今回,PCS 製法を用 いた新バインダレス超硬合金の製造を試みた結果, 以下のことが判明した. (1)通常のホットプレス焼結と比較して,PCS 製法 では低温・短時間で焼結が行える. (2)20MPa の焼結圧力においては,PCS の最適焼結 97 96 95 94 93 :PCS(BN) :PCS(CS) :Hot Press 92 91 90 1400 1600 1800 2000 Sintering Temperature [K] 図3 3.3 4.おわりに WC は硬度が極めて高い(モース硬度 9.7 でありダ 焼結温度と硬さの関係 金属組織における焼結温度の影響 表2の実験条件にて PCS 焼結した試料の組織写真 を図4~8に示し,比較試料として 1973K でホット プレス焼結した試料の組織写真を図9に示す.組織 写真において白い部分は硬質 WC 相であり黒い部分 はβ相(WC-TiC-TaC 固溶体)である.PCS 製法では 焼結温度の上昇と共に硬質 WC 粒子が成長し,1773K においては過焼結と思われるような WC 粒子の粗大 化が見られた.焼結過程においては粒子同士が溶着 することが必要である.PCS 製法では粒子間に流れ る大電流でジュール熱が発生し,粒子同士が溶融結 合して粒子間接触部にネック(頸部)と呼ばれるく びれた部分が形成され溶着される.比較的に低温の 温度が 1673K であった. (3)PCS 焼結後の理論密度比は 99%以上・硬度は 96.5[HR30N]であり,十分に金型製品として使用でき る機械的性能を保持している. (4)離型剤として窒化ボロンを用いるとカーボンシ ートを用いたときよりも低温・低圧力で焼結が可能 である. (5)過焼結は WC 粒子を粗大化させ,硬度が低下す る. (6)課題として,試料に流れるパルス電流の制御に 十分配慮する必要がある. 参考文献 1) 冨士明良 新版工業材料入門 p.107 2) 玉井富士夫,円城寺隆志:佐賀県工業技術セン ター平成 15 年度研究報告書(2003) ,No.12, p.31-34 3) 玉井富士夫,川上雄士,円城寺隆志:佐賀県工 領域では隣接粒子間の接合のみであるが,隣接粒子 -38- 業技術センター平成 15 年度研究報告書(2003), No.12,p.35-38 4) SPS シンテックス株式会社ホームページ http://www.scm-sps.com/htm/whatspshtm/ whatsps4.htm 平成17年度 佐賀県工業技術センター 研究報告書 3mm 図4 3mm 1473K における焼結品の組織写真 加圧力:20MPa,離型剤:窒化ホウ素 図5 3mm 図6 3mm 1673K における焼結品の組織写真 加圧力:20MPa,離型剤:窒化ホウ素 図7 3mm 図8 1573K における焼結品の組織写真 加圧力:20MPa,離型剤:窒化ホウ素 1773K における焼結品の組織写真 加圧力:20MPa,離型剤:窒化ホウ素 3mm 1673K における焼結品の組織写真 加圧力:40MPa,離型剤:カーボンシート 図9 -39- 1973K におけるホットプレス焼結品の 組織写真