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- 慶應義塾大学学術情報リポジトリ(KOARA)
博士論文 平成 25 年 度 (2013) 学 術 雑 誌 に お ける オ ー プ ン ア ク セ スジ ャ ー ナ ル 平 成 26 年 2 月 提 出 慶 應 義 塾 大 学 大学 院 文 学 研 究 科 図 書 館 ・ 情 報 学専 攻 横井 慶子 梗 概 誰もが無料で読める新しい形の学術雑誌「オープンアクセス(Open Access:OA) ジャーナル」の進展と実態について,定量的な調査を行い,OA ジャーナルが学 術雑誌にもたらすインパクトについて検討した。 第二次世界大戦後,Science Technology Medicine(以下 STM)分野では研究 者数ならびに論文数が急増した。研究の発展にともない,分野も細分化され, 学術雑誌のタイトル数が急増した。学術雑誌へのアクセス範囲の拡大という観 点で見ると,学術雑誌流通の変遷には 2 つの大きな転換期があった。1 つは,大 学図書館による機関購読の一般化である。もう 1 つは,それまでの印刷版学術 雑誌を電子化した購読型電子ジャーナルと,その主な販売方式である Big Deal の登場である。これにより,機関所属研究者は,大学図書館が Big Deal 契約を 結んだ出版元の刊行雑誌全てを読めるようになった。 だが,著者からの論文処理料などで出版費用が賄われ,購読不要で誰もが読 むことができる OA ジャーナルが近年登場し,その数を急速に増やしている。Big Deal にもとづく購読型電子ジャーナルも技術的な変化を伴う大きな変化ではあ ったが,内容が印刷版学術雑誌の電子版,流通も機関購読の延長であり,学術 雑誌の歴史の中での大きな転換としては,むしろ OA ジャーナル化にあると考え られる。OA ジャーナルは,必ずしも印刷版学術雑誌に由来しないために,学術 雑誌の機能に変化をもたらす可能性を秘めている。そこで,OA ジャーナルがい かに進展してきているかを定量的に調査し,OA ジャーナルが学術雑誌にもたら すインパクトを検討することとした。 OA ジャーナルに関する先行研究のレビューでは,OA ジャーナルの進展を妨げ る要因として,主に 1)OA ジャーナルの学術雑誌としての質,2)OA ジャーナルの ビジネスモデルの持続可能性への懸念があることが示された。これまでに行わ れてきた OA ジャーナルの定量的な調査から,全体的な傾向として OA ジャーナ ルのタイトル数および掲載論文数が増加傾向にあることが明らかになっている。 だが,それらが学術雑誌全体および論文全体に占める割合がいかに変化してき たかは,十分に明らかになっていない。 そこで,学術雑誌における OA ジャーナルの位置づけの変化を定量的に調査し て明らかにすることを,調査目的とした。調査にあたり,OA ジャーナルに対し て 2 種類のアプローチをとった。1 つは雑誌単位の調査で,STM 分野の学術雑誌 38,803 タイトルを対象に,OA ジャーナルの進展状況を網羅的に調査した。もう 1 つは論文単位の調査で,調査対象は,質の高い STM 分野の学術雑誌掲載論文情 報を収録する Web of Science を用い,2005 年,2010 年,2012 年に掲載された 論文から合計 3,000 論文をサンプリングした。それらの Web サイトを直接確認 i することで,雑誌単位の調査では十分に明らかにできない OA ジャーナルの種類 別の緻密な調査を行った。OA ジャーナルの種類は 4 種類あり,刊行と同時に掲 載論文全てが無料で読める「Full OA ジャーナル」,その中でも掲載論文数が膨 大な「OA メガジャーナル」,著者の任意で一部の掲載論文のみ無料で読める「ハ イブリッド OA ジャーナル」,刊行後一定期間を経た後に無料で読める「Delayed OA ジャーナル」である。 その結果,雑誌単位の調査では,以下の 4 点が明らかになった。 1)2011 年時点で, 「Full OA ジャーナル」および「OA メガジャーナル」のタイト ル数が STM 分野の学術雑誌全体に占める割合は約 14%であった。 2)創刊誌に占める「Full OA ジャーナル」および「OA メガジャーナル」の割合 は増加傾向にあり,特に 2007 年以降は OA ジャーナルを主に取り扱う OA 出版社 からの創刊が急増していた。 3)一部の大手商業出版社の創刊誌に占める「Full OA ジャーナル」の割合が,2010 年頃から購読型学術雑誌を上回るようになった。 4)「OA メガジャーナル」が,2011 年以降に相次いで創刊されていた。 論文単位の調査では,以下の 4 点が確認できた。 1)「Full OA ジャーナル」, 「OA メガジャーナル」, 「ハイブリッド OA ジャーナル」 掲載の OA 論文が論文全体に占める割合は,年々増加傾向にあった。 2)「Delayed OA ジャーナル」掲載の OA 論文が論文全体に占める割合は,年を遡 るほど高まっていた,2005 年,2010 年掲載分では,他の種別の OA ジャーナル のどれよりも高かった。 3)OA メガジャーナル掲載の OA 論文が論文全体に占める割合は急速に増加し, 2012 年には 4.2%にのぼっていた。このうち 3.8%は PLOS ONE の 1 タイトルだけ の掲載数によるものであり,OA メガジャーナル影響はきわめて大きかった。 4)大手商業出版社は「Full OA ジャーナル」掲載 OA 論文数が少なく,一方で「ハ イブリッド OA ジャーナル」や「Delayed OA ジャーナル」掲載の OA 論文が多く, 大手商業出版社は現時点では,まだ購読型学術雑誌を基本としていた。 「Full OA ジャーナル」掲載 OA 論文数は, 「OA 出版社」, 「学協会」が高かった。 「大学,機 関」は数としては少ないが,刊行論文全体に占める「Full OA ジャーナル」掲載 OA 論文の割合は高かった。 最終的にこれらの結果を考察すると,OA ジャーナルは現時点では学術雑誌の 主流となるほど増加しているとはいえないが,引き続き増加傾向にはあること が認められた。さらに,OA ジャーナルの進展につながる 2 つの要因を見出せた。 1 つは大手商業出版社の動向である。学術雑誌市場に強い影響力をもつ大手商業 出版社が,OA ジャーナルの創刊を増やす傾向が本研究で明らかになった。さら に,既存誌の OA ジャーナル化など,OA ジャーナル事業に積極的な姿勢を示して ii いることが最新の動向から確認できた。もう 1 つは OA メガジャーナルの急成長 である。本研究により OA メガジャーナルの掲載論文数の急増が確認できた。ま た OA メガジャーナルは掲載論文数を制限せず,幅広い分野を対象に,公開に要 する時間が短いという,研究者のニーズを満たす特徴を持つ。このため OA メガ ジャーナル掲載論文数は増加し続ける可能性が高い。 印刷版学術雑誌に必ずしも由来しない OA ジャーナルは,印刷版学術雑誌特有 の物理的および物流の制約を受けない。この点が,同じ電子版であっても,購 読型電子ジャーナルとは,完全に異なる点である。OA ジャーナルが学術雑誌に 与えるインパクトを考える際に,OA ジャーナルの中でも,印刷版学術雑誌に由 来するか,「学術雑誌としての質」を重視するか,などの点から OA ジャーナル の種類が分けられ,それぞれ学術雑誌にもたらすインパクトは異なる。その中 でも,印刷版学術雑誌に由来せず,査読は科学的な正確さのみを基準とする OA メガジャーナルが,もっとも大きなインパクトをもたらすと考えられる。 OA メガジャーナルは,他の OA ジャーナル同様に誰もが読めるため「アクセス 範囲の拡大」という点で,学術雑誌の「報知」機能を変質させる。他の Born OA ジャーナル同様,受理された論文をその都度アップロードするため巻号の制約 を受けない点で,「パッケージ」機能を変質させる。さらに,他の OA ジャーナ ルと異なる点として,分野が幅広く,科学的な正確さを査読の基準とし,イン パクトなどを問わず掲載論文を絞り込まない。分野が広く,一定の質は担保し つつもさまざまな質の論文が 1 タイトル中に大量に掲載されるという点で, 「パ ッケージ」機能を他の OA ジャーナル以上に変質させる。そして,科学的な正確 さを査読の基準とし,掲載論文を絞り込まないという点は,従来の「認証」機 能を大きく変質させるものである。ただ,2011 年以降相次いで OA メガジャーナ ルと銘打つ Full OA ジャーナルが創刊されてはいるものの,実際に圧倒的に大 量の論文を掲載しているのは,現時点では PLOS ONE の 1 タイトルのみである。 今後,他の OA メガジャーナルも PLOS ONE 同様に巨大化していけば,学術雑誌 全体に大きな変革をもたらすと考えられる。 iii 序 文 筆者は 2003 年 10 月に東京工業大学附属図書館に就職し, 「雑誌収集掛(当時)」 へ配属された。理工系の総合大学である東京工業大学の附属図書館であること, そして外国雑誌センター館であったことから,図書館資料の大部分は外国雑誌 であり,当時は毎日のようにダンボール箱詰めされた外国雑誌が大量に郵送さ れてきた。そのため当時の仕事は,それらの学術雑誌を受入れ,製本し,配架 し,狭隘化する書架を整理して,次々と届く外国雑誌の置き場所をつくること の繰り返しであった。その一方で,2003 年は購読型電子ジャーナルが国立大学 に普及し始めた時期でもあり,先輩が購読型電子ジャーナルへのリンク集を手 作業で作成し,利用方法などの問い合わせへの対応に,日々奮闘する姿を傍で 見ていた。 それが次第に受け入れる紙の学術雑誌の量は減り,逆に提供する購読型電子 ジャーナルのタイトル数が上回るようになり,2006 年に異動した「情報サービ ス係(当時) 」の仕事は,講習会や授業で購読型電子ジャーナルの使い方を学生 に説明することに変わった。2009 年に異動した電子図書館グループでは,オー プンアクセスの主要な実現手段の1つである機関リポジトリ業務に関わるよう になった。 就職してからの約 10 年の間に学術雑誌をめぐる環境,技術が大きく変化した。 その状況を理解し,業務を遂行するために,さまざまな研修に参加し,最新の 動向を伝える記事を読みあさった。それにより,知識が増え,個別の事象を理 解することはできるようになった。それでも,それらは表面的な理解に過ぎず, 学術雑誌とは何なのかを根本的には理解できていないのではないか,という不 安が常につきまとっていた。 技術の急激な進化の中で,学術情報流通に関わる新しいサービスが次々と登 場し,話題になった。図書館員の使命として,研究者および学生に対して,必 要な学術情報を利用できる環境を整えるということは自明だと思う。だがその 実現方法は,新しいサービスをむやみに取り入れるのではなく,きちんとした ビジョンをもって選択し,時には自身で作り出していかなければならないので はないか,と感じていた。そのためには,学術情報,特に筆者の勤務する東京 工業大学のような理工系総合大学においては学術雑誌の本質を理解していなけ れば,正しい行動がとれないのではないかと,漠然と感じていた。 そのような漠然とした思いを抱えながら,並行して 2006 年から慶應義塾大学 文学研究科図書館・情報学専攻(資源管理分野)修士課程に進学し,図書館・ 情報学に関するさまざまなテーマについて,学問的な側面と実務的な側面から 学び,議論する機会を得た。その中でも,倉田敬子教授の学術情報流通に関す iv る講義が,上述の漠然とした思いを解決する突破口となった。学術情報流通の 歴史,全体像,研究者視点での学術情報流通について学び,受講者とさまざま な議論を交わすことができた。そのおかげで,学術雑誌に対する体系的な知識 や考え方を習得でき,目まぐるしく変化する学術雑誌について,それまでより も分析的にとらえられるようになった。 折しも,近年オープンアクセスジャーナルという新しい形の学術雑誌が急成 長し,大学図書館員としてこれにどのように向き合うか考える必要が生じた。 そして,その答えを導き出すためには,そもそもオープンアクセスジャーナル は学術雑誌にどのような影響や変化をもたらすものなのか,そして学術雑誌の 主流になるほど進展する可能性があるのかを明らかにする必要を感じ,本研究 を行うにいたった。 本論文の作成にあたっては,慶應義塾大学文学研究科の糸賀雅児教授より長 きにわたってご指導,ご鞭撻をいただいた。また,倉田敬子教授をはじめ図書 館・情報学専攻の諸先生方には検討会等を通じてさまざまなご示唆をいただい た。心から御礼を申し上げたい。 筆者の学術情報流通への興味と関心の基礎をつくってくれた東京工業大学附 属図書館の上司や同僚にも感謝したい。 最後になるが,本論文作成にあたり励まし続けてくれた,大阪の義父母,義 妹,義弟,鹿児島の両親,傍らで支え続けてくれた夫へも感謝したい。 v 目 次 梗概・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 序文・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 図・表リスト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Ⅰ 学術雑誌の役割とその変遷・・・・・・・・・・・・・・・・・・ A 学術雑誌の機能と特徴 1 学術雑誌の機能 2 学術雑誌の評価 B 印刷版学術雑誌から電子ジャーナルへの変遷 1 2 3 4 5 Ⅱ i iv ⅵ 1 1 1 3 4 初期の学術雑誌 学術雑誌数の急増と商業出版社の台頭 個人購読から機関購読へ 購読型電子ジャーナルの登場 OA ジャーナルの登場 C 本研究の意義と目的 注・引用文献 4 6 8 11 14 14 17 購 読 型 電 子 ジ ャ ー ナ ル の 普 及 と OA ジ ャ ー ナ ル の 台 頭・・・・・ A 購読型電子ジャーナル普及の要因 23 23 1 2 3 印刷版学術雑誌の電子版としての電子ジャーナル Big Deal とコンソーシアム 購読型電子ジャーナル化がもつ意味 B Big Deal 後の学術雑誌流通をめぐる議論 1 Big Deal の問題点 2 Big Deal 離脱の動き C OA ジャーナルの台頭 1 OA ジャーナル推進の動き 2 OA ジャーナル進展の予測 D OA ジャーナルの定義と特徴 23 27 33 36 36 37 39 39 43 44 1 OA ジャーナルの起源 2 OA ジャーナルの定義 3 OA ジャーナルの収入モデル 4 OA ジャーナルの歴史 5 OA メガジャーナル 注・引用文献 44 45 49 50 50 52 vi Ⅲ Ⅳ Ⅴ OA ジャーナルに関する研究・・・・・・・・・・・・・ A 研究者の OA ジャーナルに対する意識と行動 1 研究者の意識と行動に関する先行研究の整理 2 研究者の投稿先選定の要因 3 OA ジャーナルでの発表経験 4 OA ジャーナルでの発表を左右する要因 B OA ジャーナルの学術雑誌としての質 1 OA ジャーナルの質の低さを示す事例 2 OA ジャーナルの質の測定 68 68 68 70 71 71 74 74 74 C ビジネスモデルの持続可能性 1 APC 著者支払いモデルの普及 2 APC 支払いの実情 D OA ジャーナルの定量調査 1 雑誌単位の調査 2 論文単位の調査 注・引用文献 77 77 80 82 82 93 106 調査の枠組みと方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ A OA ジャーナルに関する先行研究のまとめ 119 119 B 調査の目的と概要 1 調査の目的と対象 2 調査の概要 C 調査方法の詳細 1 雑誌調査の調査方法 2 論文調査の調査方法 注・引用文献 122 122 122 125 125 131 136 学術雑誌出版状況から見る OA ジャーナルの進展 ・・・・・・・ A STM 分野の学術雑誌全体に占める OA ジャーナルの割合 135 135 B 144 144 151 155 158 162 OA ジャーナルの創刊傾向 1 STM 分野の学術雑誌全体の創刊傾向 2 大手商業出版社 5 社の創刊傾向 C 質の高い大規模 OA ジャーナルの刊行状況 D OA メガジャーナルの実態 E 調査結果の整理 vii Ⅵ Ⅶ 注・引用文献 164 論文掲載状況から見る OA ジャーナルの進展・・・・・・・・・・・ A 論文全体に占める OA 論文の割合の推移 1 調査対象の属性 2 論文全体に占める OA 論文の割合の推移 3 OA 論文の種類 B OA 論文の分野別の傾向 1 論文全体に占める OA 論文の割合の推移 2 OA 種類別論文数の推移 167 167 167 170 171 174 174 176 C OA 論文の出版元種類別の傾向 1 論文全体に占める OA 論文の割合の推移 2 OA 種類別の論文数の推移 D 調査結果の整理 注・引用文献 180 180 184 184 189 学術雑誌における OA ジャーナルの位置づけ・・・・・・・・・・・ A OA ジャーナルの位置づけの変化 1 OA ジャーナル出版の全体像 2 出版元種類別の OA ジャーナル出版傾向 192 192 192 193 3 OA ジャーナルの進展に向けた動き B OA ジャーナル発展の可能性と学術雑誌に与える変化 1 OA ジャーナル普及の要件 2 学術雑誌の機能と特徴の変化 注・引用文献 viii 195 198 198 204 206 図・表リスト <図> 第 1-1 第 1-2 図 学術雑誌への論文掲載と刊行の流れ 図 学術雑誌総合目録データベースに基づく日本の図書館の 外国雑誌受入れタイトル数 図 学術雑誌の変遷 2 11 第 2-1 第 2-2 図 査読付き電子ジャーナル出版タイトル数の推移 図 Big Deal 契約で利用可能な 購読型電子ジャーナルタイトル数 26 29 第 2-3 第 2-4 図 パッケージ契約を結ぶ国立大学の割合 図 国立大学の学術雑誌平均受入数の推移 (平成 13 年度末-平成 23 年度末) 32 34 第 4-1 第 4-2 図 4 種類の雑誌調査の概要 図 Web of Science の分野を再分類する手順 130 135 第 5-1 図 STM 分野の学術雑誌全体に占める OA ジャーナルと購読型学術雑誌の割合(2011 年) 図 OA ジャーナルの出版元種別の構成(2011 年) 140 図 創刊誌全体に占める OA ジャーナルと購読型学術雑誌 の割合(2000 年と 2010 年の比較) 図 2000-2011 年の間に創刊された STM 分野の 全学術雑誌と OA ジャーナルのタイトル数 図 創刊された OA ジャーナルの出版元構成の推移 (2000 年-2011 年) 図 OA 出版社 4 社の OA ジャーナル創刊数の推移 (2000 年-2011 年) 図 大手商業出版社 5 社の OA ジャーナルと購読型学術雑誌の 創刊数(2008 年-2013 年) 149 第 5-8 図 掲載論文数の多い上位 3 タイトルの掲載論文数 (2009 年-2012 年) 159 第 6-1 第 6-2 図 調査対象論文の出版元種別 図 論文全体に占める OA 論文の割合の推移(2005-2012 年) 169 170 第 1-3 第 5-2 第 5-3 第 5-4 第 5-5 第 5-6 第 5-7 ix 16 141 150 152 153 154 第 6-3 第 6-4 第 6-5 第 6-6 第 6-7 第 6-8 図 論文全体に占める OA 種類別 OA 論文の割合の推移 (2005-2012 年) 図 論文全体に占める OA 論文の割合の推移(分野別) (2005-2012 年) 図 刊行 OA 論文に占める OA 種類の割合(OA 論文数の多い分野) 図 論文全体に占める OA 論文の割合の推移(出版元の種類別) 図 論文全体に占める論文の割合と論文全体に占める OA 論文の割合(出版元の種類別) 図 刊行 OA 論文に占める OA 種類の割合(出版元の種類別) 173 175 179 181 182 186 <表> 第 1-1 表 第二次世界大戦後の世界の学術雑誌数 第 1-2 表 商業出版社間の合併・買収にともなう 大手商業出版社への学術雑誌の集中化 9 13 第 2-1 表 OA ジャーナルの類型 46 第 3-1 表 研究者に対する OA ジャーナルに関する調査 第 3-2 表 収入モデル別 OA ジャーナルタイトル数の推移と前年比 第 3-3 表 OA ジャーナルタイトル数の推移 69 79 84 第 第 第 第 87 92 95 96 3-4 3-5 3-6 3-7 表 表 表 表 OA ジャーナルが学術雑誌全体に占める割合 大手出版元のハイブリッド OA ジャーナルタイトル数 論文単位の調査の調査対象 OA ジャーナル掲載論文が学術雑誌掲載論文全体 に占める割合 第 3-8 表 ハイブリッド OA ジャーナルおよび Delayed OA ジャーナルに 掲載された OA 論文が学術雑誌掲載論文全体に占める割合 103 第 4-1 表 調査全体の構成 第 4-2 表 調査対象学術雑誌タイトル数(2011 年 12 月 26 日時点) 124 128 第 4-3 表 大手商業出版社の創刊状況調査の方法 130 第 5-1 表 出版元種別 OA ジャーナルのタイトル数(2011 年) 第 5-2 表 OA ジャーナルタイトル数の多い 上位 15 位までの出版元(2011 年) 第 5-3 表 創刊年別 OA ジャーナル創刊数と購読型学術雑誌創刊数 142 145 x 148 第 5-4 表 掲載論文数の多い学術雑誌上位 100 位以内の OA ジャーナル 第 5-5 表 OA メガジャーナル刊行状況 157 161 第 第 第 第 168 171 177 185 6-1 6-2 6-3 6-4 表 表 表 表 調査対象論文の分野 OA 論文種別の論文数推移 OA 種別論文数の推移(分野別) OA 種類別論文数の推移(出版元の種類別) xi Ⅰ 学術雑誌の役割とその変遷 A 学術雑誌の機能と特徴 1 学術雑誌の機能 研究者が研究成果を公表する方法としては,学術書の執筆,学術雑 誌 へ の 論 文 掲 載,報 告 書 の 執 筆 等 さま ざ ま な 情 報 メ デ ィア が 用 い ら れ る 。 人 文 社 会 学 分 野で は ,研 究 成 果を 発 表 す る 情 報 メ デ ィ アと し て ,学 術 書 が 比 較 的 重 要 な存 在 で あ り ,社 会 科学 分 野 で は 文 献の 40-60%が 学 術 書 に 掲 載 さ れ て い ると も い わ れ て いる 1) 。だ が ,Science Technology Medicine ( 以 下 STM) 分 野 に お い て は , 学 術雑 誌 が 極 め て 重 要 な情 報 メ デ ィ ア と な っ て い る 。2009 年 の 生 物 学 ,化 学 ,物 理 学 ,医 学 分 野 に お け る ,論 文 の 80%以 上 が ,数 学 で は 71%,工 学 では 60%の 論 文 が 学 術 雑 誌 に 掲 載 さ れ ている 2) 。 研 究 者 に と っ て は , 論 文が 学 術 雑 誌 に 掲 載 され る こ と が 研 究 成 果 の 評 価 ,ひ い て は 業 績 評 価 に つな が る 。こ の た め「 Publish or Perish ( 出 版 せ よ , さ も な く ば 滅 び よ )」 と い う ア カ デ ミ ズ ム の 格 言 で 表 さ れ る よ う に ,自 ら の 業 績 評 価 の た め に,積 極 的 に 論 文 を 学術 雑 誌 に 掲 載 さ れ る こ と が 求 めら れ る 。 研 究 者 が 論 文を 執 筆 し て,学 術 雑 誌 に 掲 載 さ れ て 刊 行さ れ る ま で の 簡 略 的 な 流 れ を 第 1-1 図 で 示 す 。図 中 で は ,後 述 す る学 術 雑 誌 の 機 能 も 該 当する位置に記述している。研究者は,研究成果を論文の形にまとめ, 学 術 雑 誌 へ 投 稿す る 。こ れ を 受け て ,同 分 野 の 研 究 者 が論 文 の 内 容 を 評 価 す る Peer review( 査 読 ) が 行 われ る 。 査 読 の 結 果 ,論 文 を 学 術 雑 誌 に 掲 載 す る こ とを 認 め ら れ る と ,受 理 さ れ る 。 受 理 され た 論 文 は ,学 術 雑 誌 の 出 版 元 であ る 学 会 や 商 業 出 版社 に よ っ て 編 集 さ れた 後 ,学 術雑 誌 に掲載されて刊行される。学術雑誌は,研究者による個人購読または, 大 学 図 書 館 な どに よ る 機 関 購 読 を 経て , 研 究 者 に 読 ま れる 。 学 術 雑 誌 の 機能 や 特 徴 に つ い て は,多 く の 研 究 者 が 論じ て き て い る が, 倉 田 敬 子は 4) 3) , その 中 で も 代 表 的 な議 論 に つ い て , H. E. Roosendaal ら の 示 す 学 術 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンの 4 機 能 モ デ ル に 基 づき 整 理 し て い る。 そ の 4 機 能 と は「 登 録」,「 保 存」,「 認 証 」,「 報 知 」であ り ,以 下 で 倉 田 に よ る 個 々 の 機能 に つ い て の 説 明 を 一 部 引 用 し つ つ 述 べる 。 1 研究成果 の論文化 登録 学術雑誌刊行 学術雑誌への 論文投稿 報知 学術雑誌への 保存 論文掲載 論文の査読 認証 第 1-1 図 学 術雑 誌 へ の 論 文 掲 載 と刊 行 の 流 れ 「 登 録 」と は,学 術 雑 誌 が 投 稿 さ れて き た 論 文 を 受 け 付け る 機 能 で あ り ,そ の 時 点で 受 付 日 が 記 録 さ れ,論 文 が 固 定 化 さ れ る。研 究 者 が 論 文 を 投 稿 し た 事 実が 定 ま る こ と に よ り,先 取 権 が 確 立 さ れる 。研 究 者 に と っ て ,研 究 成 果 の 第 一 発 見 者 と し ての 権 利 を 確 保 す る こと は 重 要 な こ と で あ る 。学 術 雑 誌 は「 登 録 」機 能 に よ り , 研 究 者 が 先 取 権 を 確 保 す る 手 段 を 提 供 す る 役割 を 担 っ て い る 。 「 保 存 」には 2 つ の 意 味 が あ り ,1 つ は“ 情 報 も し くは 媒 体 を 技 術 的 に い か に 保 存 し,そ の 後 の 利 用 に 供す る か ”と い う 意 味 で の 保 存 で あ る 3) 。も う 1 つ は , “ そ の 分 野 の 専 門 家の 評 価 を 受 け ,学 術 雑 誌 に 掲 載 さ れ た論文はその分野における知識のその時点での「公的な」記録であり, 論文という形式を通じてその分野における知識の表現のあり方を示し, そ の 分 野 に お ける 研 究 の 傾 向 も 記 録す る ” と い う 意 味 であ る 3) 。学 術 雑 誌は,後者の意味でいう「公的な記録」を蓄積している。 研究活動は, 基 本 的 に 先 行 研究 を 前 提 と し て,そ れ ま で に 明 ら か に され て い な い こ と を 明 ら か に し たり ,先 人 の 研 究 成 果を 発 展 さ せ る 。研 究 者 が 新 た に 研 究 を 行 う に あ た って は ,先 行 研 究を 把 握 す る こ と が 必 要 とな る 。学 術 雑 誌 の「 保 存 」機 能 は ,先 行 研 究 を 論 文と い う 形 で 蓄 積 す るこ と で ,研 究 過 程 の 一 役 を 担 って い る 。 2 「 認 証 」 と は ,“ 査 読 制 に よ る 論 文 の 質 の 保 証 で あ り , 専 門 の 研 究 者 に よ る 認 証 を 根拠 と し て ,論 文 著 者 の 業 績 評 価 と し て 使う こ と が で き る と 考 え ら れ て い る 。” 査 読 と は , 投 稿 さ れ て 論 文 に 対 し て , そ の 主 題 の 専 門 の 研 究 者 が,質 を 評 価 し ,掲 載 に 値 す る か ど う か を判 定 す る 行 為 で あ る 。査 読制 は ,他 の 情 報 メ デ ィ アと 学 術 雑 誌 と を 区 別す る 上 で 最 も 大 きな要素である。査読の基準は,個別の学術雑誌によって異なるため, そ れ 自 体 が 個 別の 学 術 雑 誌 を 特 徴 づけ る 場 合 も あ る 。学 術 雑 誌 が「 認 証」 機 能 を も つ こ とで ,読 者 は 一 定 の 質を 担 保 さ れ た 論 文 を読 む こ と が で き, 著 者 は 論 文 が 掲載 さ れ る こ と で 業 績評 価 に つ な が る 。 「 報 知 」と は,論 文 を 関 係 す る 研 究者 コ ミ ュ ニ テ ィ へ 広め る 機 能 の こ とである。学術雑誌は,一般的に特定の分野・領域に合致する論文を, 「 パ ッ ケ ー ジ」化 し て ま と め て,「 定 期 的 」に,「 広 範囲 」に 流 通 さ せ る と い う 特 性 を もつ 。論 文 の「 パ ッ ケ ー ジ 」化 に よ り ,特 定 の 分 野 に 関 心 の あ る 読 者 は ,そ の 分 野 の「 学 術 雑 誌 」を 読 む こ と で , 類 似 の 論 文 を ま と め て 読 む こ と が で き る 。 そ し て ,「 定 期 的 」 に 刊 行 さ れ る た め , 他 の 情 報 メ デ ィ ア に比 べ て 迅 速 に,「 広 範 囲」,す な わ ち国 際 的 に 流 通 さ せ る こ と を 可 能 と して い る 。学 術 雑 誌 の「 報 知 」機 能 は , こ れ ら の 特 性 を 持 つ た め に ,著 者 に と っ て も 読 者 に とっ て も ,論 文 単位 で 流 通 さ せ る よ り も , は る か に 効率 的 な 論 文 の 流 通 を実 現 し て い る 。 研 究 者 は,論 文 を 同 じ 分 野 の 研 究 者に 読 ま れ る こ と で 研究 成 果 を 評 価 さ れ ,業 績 評 価 に つ な が る。だ か ら こ そ ,研 究者 に と っ て 「 認 証 」機 能 を も つ 学 術 雑 誌 は , 重 要 な 情 報 メ デ ィ ア で あ り ,「 報 知 」 機 能 に よ り 広 範 な 読 者 へ 届 けら れ る こ と が 求 め られ る 。学 術 雑 誌へ の「 ア ク セ ス 範 囲 の 拡 大 」を実 現 す る た め に ,学術 雑 誌 流 通 の あ り 方 は 時代 と と も に 形 を 変 え て い く 。 その 点 に つ い て は , B節 で 詳 述 す る 。 2 学術雑誌の評価 学 術 雑 誌 は ,学 術 雑 誌 そ の も の に 対す る 評 価 を 基 準 に 差別 化 さ れ ,個 別 に は 互 換 性 のな い ユ ニ ー ク な 存 在で あ る 。こ の ため , 学 術 雑 誌 は そ の 評 価 に よ り 序 列化 さ れ ,評価 の 高 い ト ッ プ ジ ャ ー ナ ル を頂 点 と し た 一 種 の ヒ エ ラ ル キ ーを 形 成 し て い る 。 学術雑誌の評判が高くとも,掲載論文全てが質の高い論文かどうか, 3 本 来 は わ か ら ない 。し か し ,い った ん 学 術 雑 誌 の 評 価 が定 ま る と ,評 判 の高い学術雑誌に掲載されることが論文の評価を保証することにつな が る 。こ の た め ,学 術 雑 誌 に は 暗 黙の ブ ラ ン ド( 権 威 )が 形 成 さ れ て い る 5) 。 学 術 雑 誌 の 評 価は ,研 究 者 お よ び 研究 者 コ ミ ュ ニ テ ィ の意 識 に よ っ て 定 め ら れ て き てお り ,現 在も そ れ が も っ と も 大 き な 要 因で あ る こ と が 示 唆 さ れ て いる 5) 。 一 方 で,歴 史 的 に は 新 し い が,学 術 雑 誌 を 評 価 す る 指 標の 1 つ と し て , 1960 年代 に イ ン パ ク ト フ ァ ク タ ーが 開 発 さ れた 6) 。イン パ ク ト フ ァ ク タ ー と は“ 特 定の ジ ャ ー ナ ル( 学 術雑 誌 )に 掲 載 さ れ た 論文 が 特 定 の 年 ま た は 期 間 内 に どれ く ら い 頻 繁 に 引 用さ れ た か を 平 均 値 で示 す 尺 度 ”で あ る 7) 。 た だ し 特 定 の 年 に 掲 載 さ れ た 論 文 全 て が 対 象 と なる た め , 必 ず し も 全 掲 載 論 文 の被 引 用 回 数 が 等 し く多 く な く と も,ご く 一 部 の 論 文 の 被 引 用 回 数 が 多 けれ ば ,イ ン パ ク トフ ァ ク タ ー は 上 が る。 こ の た め ,イ ン パ ク ト フ ァ ク ター は 本 来 ,論 文 の評 価 に は 使 え な い 。だ が , イ ン パ ク ト フ ァ ク タ ー は 次第 に 重 用 さ れ る よ うに な り,“ 1990 年 代 後 半 か ら 研 究 業 績 評 価 の 指 標 とし て ,と くに 自 然 科 学 分 野 に お い て イ ンパ ク ト フ ァ ク タ ー が さ か ん に 取り 上 げ ら れ る よ う にな っ た “ と いう 8) 。 研究者は業績評価にもつながるため,論文を学術雑誌で発表するが, 掲 載 さ れ る 学 術雑 誌 は 何 で も よ い わけ で は な く ,研 究 者 は 一 般 に 評 判 の 高 い ト ッ プ ジ ャー ナ ル へ の 掲 載 を 目指 す 。評 判の 高 い 学 術 雑 誌 に 対 し て は ,論 文 数の 投 稿 数 が 増 え る が,印 刷 版 の 学 術 雑 誌 で は掲 載 可 能 な 論 文 数 に は 限 界 が ある 。そ こ で そ の 対 応と し て は 主に 2 つ の方 法 が と ら れ て き た 。 1 つ は , 刊 行 頻 度 を 増 や す ,ま た は 学 術 雑 誌 自 体を 複 数 の タ イ ト ル に 分 割 し て 細分 化 し,発 行 ペ ー ジ 数 を 増 や す 方 法 で ある 。もう 1 つ は , 掲 載 論 文 数 を 絞り 込 む た め に ,却 下 率 を 上 げ る 方 法 で ある 。査 読 が 厳 し く ,却 下 率の 高 い 学 術 雑 誌 ほ ど ,そ の 分 野 で の 評 価 が 高い と も 言 わ れ て いる B 9) 。 印 刷 版 学 術雑 誌 か ら 電 子 ジ ャ ーナ ル へ の 変 遷 学 術 雑 誌 が 誕生 し た 17 世 紀 半 ば か ら 現 在 に 至 る ま での 流 れ を , 学 術 雑誌のアクセス範囲の拡大とそれにともなう学術雑誌流通の変化とい 4 う 観 点 で 見 る と, 5 つ の 特 徴 に 分 けて 考 え ら れ る 。 B 節で は , こ の 5 つ の 特 徴 を 各 項 で述 べ ,C 節で 述 べ る 本 研 究 の 意 義 と 目 的を 示 す た め の 枠 組みとする。 1 初 期 の 学 術雑 誌 学 術 雑 誌 は 登 場し た 当 初 か ら,A 節 で 述 べ た よ う な 機 能や 特 徴 を 備 え た ,研 究 者 の 主 要 な 情 報 メ デ ィ ア であ っ た わ け で は な く ,時 代 と と も に 次 第 に 変 容 し 現状 に 至 っ て い る 。 学 術 雑 誌 の 起 源 は 17 世 紀 半 ば まで 遡 る 。17 世 紀 は 学 者 の 数 が 増 大 し , 欧 州 の 各 地 で 定 期 的 に 会 合 が 開 か れ て 議 論 が 行 わ れ ,「 報 知 者 」 や 「 通 信 者 」の 役割 を 果 た す 人 々 が ,科 学 上 の ニ ュ ー ス や 見 解を 繰 り 返 し 書 き 写 し て ,各 地 の知 人 へ 伝 え て いた 1 0) 。つ ま り ,科 学 者 の主 な 情 報 交 換 の 方 法 は,対 面 し て の 会 話 や 手 紙 で あっ た 11) 。こ の た め「 報 知 者」や「 通 信 者 」は 情報 を 伝 達 す る た め に 膨 大な 時 間 と 労 力 を 要 して い た 。そ の よ う な 中 で , 印 刷機 を 用 い て ニ ュ ー ズレ タ ー を 発 行 す る 要求 が 生 じ た 。 学 術 雑 誌 の 起 源は , 1665 年 1 月 に 創 刊 さ れ た Journal des Sçavans と 1665 年 3 月 に 創 刊 さ れ た Philosophical Transactions と い わ れ て い る 12 ) 。Journal des Sçavans は フ ラ ン ス の 法 律 家 Denys de Sallo が 創 刊 し , 初 号 は 20 ペ ー ジ で , 10 論 文 と, 速 報 , 手 記 同 誌 は ,新 刊 書 の 紹 介 や , 自然科学分野の実験や観察であったとされる 12) 。 Philosophical Transactions は ,英 国 王 立 協 会( The Royal Society)の 事 務 局長 Henry Oldenburg が 創 刊 し , 同 誌 も ま た ,国 内 外 の 科 学 者 た ちと の 手 紙 の や り と り や,王 立 協 会 で 得 た 知 識 を 広 く広 め る こ と を 目 的 とし て い た 1 2) 。そ の 後 ,こ れら 2 誌 を モ デ ル と し て,学 会 や 協 会 が 学 術 雑誌 を 刊 行 す る よ う に な っ た 。その 創 刊 数 に は 諸 説 あり ,1665 年か ら 1730 年 の 約 70 年 間 に 学 協 会が 330 タ イ ト ル を 創 刊 し たと も 13) , 1665 年 か ら 1699 年に 35 タ イ ト ル,1700-1749 年 に 141 タ イ ト ル 創 刊 さ れ た 1 4 ) と もい わ れ て い る 。 Philosophical Transactions は , 学 会 員 の み な ら ず “ そ の 他 の 関 心 の あ る 読 者 ”へ 最新 の 科 学 的 発 見 を伝 え る こ と を 目 的 とし て い る 1 5) よう に ,17 世 紀 の 学 術 雑 誌 は 専 門 的 な 研究 者 だ け が 読 者 層 では な か っ た 。ま た ,当 時 の学 術 雑 誌 は 対 象 分 野 を 絞り 込 む も の で は な く,全 て の 学 問 分 野 を 対 象 と し てい た 10) 。 5 こ れ が 次 第 に 専 門 的 要 素 を 強 め て い く 。 1752 年 に は Philosophical Transactions で 査 読 制 が 始 ま っ たと さ れ て いる 9) 。18 世 紀 に は 欧 州 の 各 国 で 多 く の ア カデ ミ ー が 設 立 さ れ,科 学 は 細 分 化 さ れ ,ア マ チ ュ ア に と っ て も 他 分 野 の専 門 家 に と っ て も 理解 し が た い も の に なる 10 ) 。専 門 分 野 ま た 各 国 の ア カデ ミ ー が 発 展 し て,各 国 内 で 科 学 者 が 増加 す る と 国 を 越 え て の 手 紙 の や り と り が 減 る 。 こ の よ う な 背 景 か ら ,“ よ り 専 門 的 で 国 際 的 な 新 し い コミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 機構 が 必 要 と さ れ ”,よ り 専 門 的 で 国 際 的 な 学 術 雑 誌の 誕 生 に つ な が っ てい く 。こ う し て学 術 雑 誌 は ,科 学 者 に と っ て 主 要 な情 報 メ デ ィ ア と な って い く 。John Ziman に よ る と ,1870 年 以 降 , 科 学 者 の 専 門 職 と し て の 位 置 づ け が 確 立 さ れ ,“ 自 分 の 所 属 し て い る 学 会 を 通し ,ま た 産 業 の「 進 歩 」に 対 す る 貢 献 によ っ て ,高 い 社 会 的 地 位 を 得,自 分 の 国 の 栄 誉 で あり ,貴 重 な 奉 仕 者 であ る と 見 な さ れ て い る。” と い う 16) 。 つ ま り 近 代 科 学の 確 立 に と も な い ,19 世 紀 に な る と ,学 術雑 誌 の 専 門 化 が 進 み ,医学 ,工 業 と い っ た 分 野に お い て ,独 立 した 学 会 や 学 術 雑 誌 を も つ よ う に なる 。そ こ で 掲 載 さ れる 論 文 は ,研 究者 の 業 績 評 価 に つ な が る 意 味 づ け を持 つ よ う に な る。そ し て , そ れ ま で欧 州 中 心 で あ っ た 科 学 は ,ア メ リ カや オ ー ス ト ラ リ ア へも 拡 大 し ,国 際 化 が始 ま る 14) 。一 方 で ,学 協 会 によ ら な い 学 術 雑 誌 も 創刊 さ れ る よ う に な る 。た と え ば ,1869 年 に は Macmillan に よ っ て Nature が 創 刊 さ れ て い る 17 ) 。しかしこのよ う な 例 は 少 数 であ り ,第 二 次 世界 大 戦 前 ま で は ,学協 会 が 学 術 雑 誌 の 主 た る 発 行 元 で あっ た 2 18) 。 学 術 雑 誌 数の 急 増 と 商 業 出 版 社の 台 頭 第 二 次 世 界 大戦 後 ,学 術 雑 誌数 は 急 増 し ,そ の 発行 の 担 い 手 は 商 業 出 版 社 が 中 心 と なる 。こ の 変 化 に は,戦 後 の ア メ リ カ を 中心 と す る 科 学 技 術 政 策 が 強 く 関係 す る 。 戦 後「 ビ ッ グ サ イ エ ン ス 」と 呼 ば れ る ,多 額 の 資 金 投 入 や,多 数 の 研 究 者 を 動 員 して 行 わ れ る 大 規 模 な研 究 プ ロ ジ ェ ク ト が ア メ リ カ を中 心 と し た 世 界 各 国 に お い て 本 格 化 した 1 9) 。各 国 の 政 府 は ,核 開 発や 宇 宙 開 発 競 争 の た め に,科 学 技 術 分 野 に 対し て 多 額 の 資 金 を 投 じ た 。その 結 果 ,科 学 技 術 分野 の 研 究 者 数 は 増 加 し,そ の 研 究 成 果 で あ る 学 術 論 文が 大 量 に 創 出 さ れ た。 1950 年 か ら 1987 年 に か け て の 論 6 文 数 は , 物 理 学 分 野 で は 214%増 加 , 総 合 科 学 お よ び 数学 分 野 で は 204% 増 加 ,そ の 他 の自 然 科 学 分 野 で も 概し て 大 幅 に 増 加 し てお り ,特 に 1950 年 か ら 1970 年 に か け て の 伸 び 率 が高 か っ た と さ れ て いる 20 ) 。 ま た ,研 究 の 発 展 に よ り 新 し い 分 野が 次 々 と 生 ま れ ,分 野 の 細 分 化 が 進 ん だ 。こ の よ う な 背 景 か ら ,単 に 論 文 数 が 増 加 す る とい う だ け で な く, 新 し い 分 野 の 論文 が 多 く 創 出 さ れ るよ う に な っ て いた 2 1) 。し か し,こ れ ら の 論 文 を 掲 載で き る よ う な 学 術 雑誌 を ,量 的 側 面 に お い て も 分 野 の 細 分 化 と い う 側 面に お い て も ,既存 の 学 会 で は 刊 行 で き なか っ た 。 こ の た め ,戦 前 の学 術 雑 誌 は ,大 学 や大 学 の 学 科 同 士 の 交 換 や学 会 員 へ の 配 布 が 主 要 な 流 通 手段 で あ っ た が ,20 世 紀 後 半 に は 商 業 的 流通 に 依 存 す る よ う に な った 22) 。 Jack Meadows は,学 会 の 刊 行 す る 学術 雑 誌 は ,国 内 向け で ,扱 う 対 象 が 分 野 の 全 般 的な も の で あ っ た の に対 し ,商 業出 版 社 は 学 会 刊 行 の 学 術 雑 誌 に 不 足 す る部 分 を 補 う 2 つ の 取り 組 み を 行 い ,大 量 の 学 術 雑 誌 を 創 刊 し た と 述 べ てい る 18) 。取 り 組 みの 1 つ は 国 際 化 で あり ,も う 1 つ は 新 分 野 , 境 界 分 野の 学 術 雑 誌 の 創 刊 であ る 。 当 時 の 学 会 は,新 し い 専 門 分 野 に対 応 す る 学 術 雑 誌 を す ぐ に 創 刊 す る こ と が で き な かっ た 。ま た ,新 し い 専 門 分 野 に 対 応 す る学 会 も ,な か な か 新 設 さ れ な かっ た 。そ れ に 対し ,商 業 出 版 社 は 時 機 を逃 さ ず 新 し い 分 野 に 参 入 し て 学術 雑 誌 を 創 刊 し た ため ,1950 年 代 に は 研 究 者 自 身 が 積 極 的 に 商 業 出 版 社の 学 術 雑 誌 創 刊 に 協力 す る よ う に な り,多 く の 学 術 雑 誌 が 創 刊 さ れ た とい わ れ て いる 2 1) 。こ う し て 第 二 次 世 界 大戦 後 の 学 術 雑 誌 市 場 に お い て ,商 業 出 版 社 は 台 頭 して き た 。 商 業 出 版 社 の 台頭 に は も う 一 つ の 背景 が あ る 。第二 次 世 界 大 戦 後 の 欧 州 は 荒 廃 し,優 秀 な 研 究 者 は 戦 勝 国の ア メ リ カ に 集 中 し,ア メ リ カ の 学 会 が 一 流 の 学 術雑 誌 を 刊 行 し て いた 2 3) 。当 時 の ア メ リ カの 学 会 の 刊 行 す る 学 術 雑 誌 の 半数 以 上 が ,ペ ージ チ ャ ー ジ や 投 稿 料,抜 き 刷 り 代 と い っ た 名 目 で ,著者 か ら の 支 払 い を 求 めて い た 。こ れ に 対し ,ア メ リ カ の 研 究 者 の 56%は 政 府 や 所 属 機 関 等 か らの 助 成 金 で ,26%は そ の 他 の 基 金 か ら, 18%は 研 究 者 自 身 の 基 金 か ら , こ れ ら の ペ ー ジ チ ャ ー ジ 等 を 支 払 っ て い た 24) 。し か し 欧 州 を は じ め と す る アメ リ カ 以 外 の 国 々 の研 究 者 は,ア メ リ カ の 研 究 者 のよ う な 資 金 源 は な く ,ア メ リ カ の 一 流 学術 雑 誌 へ の 投 稿 7 は 困 難 で あ った 2 3) 。 こ の 問 題 を 解 決し た の も ,商 業 出版 社 で あ っ た 。商 業出 版 社 は 年 間 の 発 行 頻 度 に 上 限 を 設 け ず に 刊 行 す る 「 無 制 限 ( open-end)」 の 学 術 雑 誌 を 刊 行 し て,ペ ー ジ チ ャ ー ジ を 廃 し,代 わ り に 1 冊 あ たり の 購 読 価 格 か ら 収 入 を 得 る 方式 と し た 2 3) 。こ れ に よ り ア メ リ カ 以 外 の 国 の 研 究 者 は 支 払 い を 気 に す るこ と な く 論 文 を 投 稿で き る よ う に な っ た。ア メ リ カ の 研 究 者 も 1970 年 代 後 半 か ら 1980 年 代 初 め に か け て,商 業 出 版 社 の 刊 行 す る ペ ー ジ チ ャ ージ 不 要 の 学 術 雑 誌 へ投 稿 す る よ う に な った 25 ) 。こ の よ う な 背 景 か ら,商 業 出 版 社 が 創 刊 す る 学 術 雑 誌 数 が 飛 躍 的に 増 加 し ,学 術 雑 誌 数 を 押 し 上げ た 。1 年 当 た り の 学 術 雑 誌 タ イ ト ル 数の 増 加 率 が ,1900 年 -1940 年 には 3.3%で あ っ た も のが 1944 年 -1978 年 に は 4.68%と な っ た とも 2 6) ,1900 年-1940 年 に は 3.23%で あ っ た も のが 1944 年-1976 年に は 4.35%と な っ た と も い わ れ て い る 19 ) 。第二次世界大戦後の学術雑誌のタ イ ト ル 数 に つ いて は ,複 数 の 調査 が 行 わ れ て お り ,指 数 関 数 的 に 急 増 し て い る 様 子 が , Meadows 2 7) , C. M. Gottschalk お よ び 上 田 修一 3 3 0) 2 8) ら , K. P. Barr 29 ) ら, の 調 査 か ら わ か る( 第 1 - 1 表)。 個 人 購 読 から 機 関 購 読 へ 1970 年 代 に な る と , 学 術 雑 誌 の 価格 が 急 激 に 上 昇 し , 1970 年 か ら の 20 年 間 で 学 術雑 誌 価 格 は 7 倍 に 上 昇 し た と い わ れ て いる 3 1) 。Donald W. King らは ,1960 年 か ら 2007 年 に お け る 自 然 科 学 の 学術 雑 誌 の 価 格 上 昇 率 に 関 す る 先 行研 究 を ま と め て い るが , 1970 年 代 から 1990 年 代 は 消 費 者 物 価 指 数 の 上昇 率 よ り も 高 い 割 合で 上 昇 し , 毎 年 10%以 上 価 格 が 上 昇 し て いる 2 5) 。 Carol Tenopir に よ る と , 1975 年の 商 業 出 版 社 の 平 均 雑 誌 価 格は 55 ド ル で あ っ た が,1995 年 には 487 ド ル に ま で 上 昇 し て いる 3 2) 。 価 格 上 昇 の 理 由と し て , Tenopir ら は , 購 読 数 の 減 少 ,一 般 的 な イ ン フ レ ー シ ョ ン と,論 文 数 増 加 に と もな う 学 術 雑 誌 の ペ ージ 数 の 増 加 ,特 定 の 分 野 に お ける 数 式 や 図 に 対 す る特 別 な 技 術 的 対 応,ド ル 安 ,国 際 通 貨 為 替 の 不 安 定さ を 挙 げ て い る。出 版 社 に と っ て ,購 読 数 の 減 少 は 収 入 の 減 少 を 意 味 する 。イ ン フ レ ー シ ョン と ペ ー ジ 数 の 増 加,技 術 的 対 応 は 出 版 費 用 の 上 昇を 意 味 す る 。ドル 安 は ,自 国 の 通 貨 が ドル で は な い 外 国 の 出 版 社 に と って は ド ル に よ る 収 益で 出 版 費 用 を 賄 う こと が 難 し く な 8 第1-1 表 1951年 1959年 1961年 1967年 1970年 1977年 1980年 1987年 1988/1989年 1991年 第 二 次 世 界 大 戦 後 の 世界 の 学 術 雑 誌 数 Meadows27) 10,000 15,000 Gottschalkら28) Barr 29) 上田30) 35,000 26,000 40,000 60,000 62,000 71,000 118,500 108,590 る こ と を 意 味 する 。国 際 為 替 の 不 安定 さ は ,ア メ リカ 以 外 の 出 版 社 に と っ て ,利 益 を 得 ら れ る だ け の 価 格 設定 を 米 ド ル で 行 う こと が 難 し く な る。 こ れ ら へ の 対 応と し て ,出版 社 は 学 術 雑 誌 の 価 格 の 値 上げ を 行 う こ と に なった。 学 術 雑 誌 価 格 の上 昇 は ,研 究者 に よ る 個 人 購 読 の 維 持 を難 し く さ せ た。 1970 年 か ら の 20 年 間 で , 研 究 者 一人 当 た り の 購 読 タ イト ル 数 は 5.8 タ イ ト ル から 2.7 タ イ ト ル へ と 減 少 する 31 ) 。そ し て 次 第 に ,個 人 購 読 に 代 わ る 学 術 雑 誌 の購 読 方 式 と し て,大 学 図 書 館 や 研 究 機 関が 購 読 す る 機 関 購 読 が 増 加 す るよ う に な っ た 。限 定 的 な 事 例 で は あ る が ,Journal of the Chemical Society は ,1953 年 か ら 1964 年 に か け て , イギ リ ス に お け る 学 会 員 の 購 読 は 80%減 少 し た の に 対し て , 図 書 館 に よ る購 読 は 87%増 加 している 18 ) 。Tenopir に よ る と , 1990 年 か ら 1993 年 の 間 に 研 究 者 が 読 ん だ 論 文の 46.3%が 個 人 購 読 ,40.6%が 機 関 購 読 の 雑 誌 に掲 載 さ れ て い た が ,2000-2003 年 に な る と 15.2%が 個 人 購 読 ,49%が 機 関 購 読 の 雑 誌 とな っ て お り ,個 人 購読 よ り も 機 関 購 読が 主 流 と な っ て い るこ と が わ かる 3 3) 学 術 雑 誌 価 格 の高 騰 で ,個 人 購読 が 難 し く な り ,学術 雑 誌 へ の ア ク セ ス 範 囲 が 狭 ま る 危機 に あ っ た が,大 学 図 書 館 を 中 心 と す る機 関 購 読 に よ り こ の 危 機 を 乗 り切 っ た 。さ ら に は,学 術 雑 誌 の 側 か ら 見れ ば ,そ れ ま で 9 。 個 人 購 読 し て いな か っ た ,機 関 所 属 研 究 者 ま で ア ク セ ス範 囲 を 拡 大 さ せ る こ と に な っ た。 だ が ,機 関 購読 に よ り 学 術 雑 誌 流 通が 維 持 さ れ つ つ も,並 行 し て 引 き 続 き 学 術 雑 誌 の価 格 上 昇 は 続 く。ウ ェ ル カ ム・ト ラ ス ト( Wellcome trust) の 報 告 書 に よ ると 3 4) ,1990 年 から 2000 年 に か け て , イン フ レ 率 が 毎 年 2-3%程 度 で あ るに も か か わ ら ず , STM 分 野 の 雑 誌 は 毎 年 10%程 度 ,1994 年 は 20%以 上 も 値 上 が り し て い た。そ の 他 に も 分 野別 館 レ ベル 3 7) 3 5) ,3 6 ) ,個 別 の 図 書 な ど で ,雑 誌 価 格 高 騰 につ い て は さ ま ざ ま な 事 例 報 告 が な さ れている。 1980 年代 以 降 の 学 術 雑 誌 の 価 格 上昇 に つ い て は ,商 業 出版 社 に よ る 市 場 の 寡 占 化 と 大学 図 書 館 の 予 算 の 伸び 悩 み が 指 摘 さ れ てい る 。1980 年 代 以 降,出 版 社 の 合 併 や 買 収 が 繰 り 返し 行 わ れ 3 8) ,学 術 雑 誌 市 場 は 大 手 商 業 出 版 社 の 寡 占状 態 と な る 。Mark J. McCabe は 価 格 と 雑 誌 の ポ ー ト フ ォ リオサイズには相関があると指摘している 39 ) 。 実 際 に , 1991 年 の Elsevier と Pergamon 合 併 後 の 学 術 雑 誌 価 格 は ,Pergamon 単 独 の 頃 の 20%, Elsevier 単 独 の 頃 の 8%上 昇 し て い る 40 ) ,4 1) 。さ ら に Kluwer と Lippincott の 合 併 後 の 学 術 雑 誌 価 格 は 8.5% 上 昇 し , Harcourt に よ る 1997 年 の Churchill-Livingstone 買 収 ,1998 年 の Mosby 買 収 ,そ し て Kluwer に よ る 1998 年 の Plenum Publishing,Thomson Science お よ び Waverly の 買 収 は 6%の 価 格 上 昇 を も た ら し た 42) 。 McCabe は , 規 模 の 経 済 が 調 整さ れ た 後 は,大 手 商 業 出 版 の 寡 占 が 説明 し よ う の な い イ ンフ レ を も た ら し て い る と 述 べ てい る 43) 。 1980 年代 の ア メ リ カ の レ ー ガ ン 共和 党 政 権 は ,小 さ い 政府 論 に 立 ち 補 助 金 を 大 幅 に 削減 し た 22) 。こ の 政 策 は 大 学 図 書 館 の 予 算に も 影 響 し,大 学図書館は値上がりし続ける学術雑誌の購読を維持することが難しく な る 。そ し て,価 格 上 昇 に 耐 え ら れな く な る と ,大 学図 書 館 は 学 術 雑 誌 の 購 読 の 中 止 を始 め る 。購 読 機関 が 減 っ て も ,出 版社 に と っ て は 新 た な 学 術 雑 誌 の 購 読市 場 は 存 在 せ ず ,学 術 雑 誌 を 購 読 す る よう な 高 等 機 関 数 には限りがあるため,収入を維持するために学術雑誌の価格を上げる。 さ ら な る 価 格 上昇 を 受 け て,既 存 の 購 読 機 関 が 学 術 雑 誌の 購 読 を 中 止 す る と い う 悪 循 環に 陥 っ た 。こ れ はシ リ ア ル ズ・ク ラ イシ ス と 呼 ば れ ,ア メ リ カ では 1980 年 代 に , 日 本 では 1990 年 代 に 顕 在 化 し た 。 10 情 報 学 研 究 連 絡委 員 会 学 術 文 献 情 報専 門 委 員 会 の 報 告 によ る と ,日 本 の 全 国 の 大 学 図書 館 が 所 蔵 す る 学 術雑 誌 の 異 な り タ イ トル 数 は ,1988 年 ま で は 順 調 に 増 加 し 38,477 タ イ ト ル に の ぼ っ て い た が , 1996 年 に は 21,034 タ イ ト ル に ま で 減 少 し て おり , 1960 年 の 水 準 よ り も 低 い 値 と な っ て い る(第 1-2 図 ) 44 ) 。一 方 で ,1990 年 代 後 半の 5 年 間に 日 本 の 大 学 図 書 館 が 外 国 雑 誌に 支 払 っ た 額 は 全 体 で 150 億 円 か ら 269 億 円 に 伸 び て お り ,高い 額 を 支 払 い な が ら も 購 読 でき る 学 術 雑 誌 の タ イト ル 数 は 減 っ て い る と い う 危 機的 な 状 況 に 陥 っ て いた 4 45 ) 。 購 読 型 電 子ジ ャ ー ナ ル の 登 場 シ リ ア ル ズ・ク ラ イ シ ス に よ り 学 術雑 誌 流 通 が 崩 壊 の 危機 に あ る 中 で, 1990 年 代 後 半 か ら 印 刷 版 学 術 雑 誌 の 電 子 版 で あ る 購 読 型 電 子 ジ ャ ー ナ ル が , 大 手 商 業出 版 社 や 大 手 学 会 から 次 々 に 提 供 さ れ 始め た 3) 。購 読 型 電 子 ジ ャ ー ナ ルの 登 場 に 関 す る 詳 細な 経 緯 や ,い か に し て 普 及 し た か に つ い て は , 第 Ⅱ章 A 節 で 述 べ る こ とと し , 本 項 で は 概 略を 述 べ る 。 外国雑誌のタイトル 数 45000 40000 35000 30000 25000 20000 15000 10000 5000 0 1940 1950 第 1-2 図 1960 1970 1980 1990 学 術雑 誌 総 合 目 録 デ ー タベ ー ス に 基 づ く 日 本 の 図 書 館 の外 国 雑 誌 受 入 れ タ イト ル 数 1 2 2000 情報学研究連絡委員会学術文献情報専門委員会 4 4) より引用 引用元の図で数字等の読み取りにくい箇所は筆者が修正した。 11 購 読 型 電 子 ジ ャー ナ ル と は ,出 版 社 の サ ー バ に 蓄 積 さ れて い る 学 術 雑 誌の電子版にインターネット経由でアクセスすることで読める学術雑 誌 で あ る 。電 子 ジ ャ ー ナ ル は ,出 版 社 が 論 文 の 電 子 フ ァイ ル を サ ー バ 上 に ア ッ プ ロ ー ドす れ ば ,契約 機 関 の 所 属 研 究 者 は イ ン ター ネ ッ ト で す ぐ に 購 読 型 電 子 ジャ ー ナ ル へ ア ク セ スで き る 。そ こ では ,印 刷 版 学 術 雑 誌 の 場 合 に 発 生 して い た 郵 送 の 時 間 はな く な る 。購 読 型 電 子 ジ ャ ー ナ ル は 物 流 に 依 存 し ない た め ,研究 者 は 学 術 雑 誌 の 刊 行 後 す ぐに 購 読 型 電 子 ジ ャ ー ナ ル で 掲 載論 文 を 読 む こ と が でき る 。ま た購 読 型 電 子 ジ ャ ー ナ ル の も う 1 つ の 利 点 と し て , 研 究 者 が 掲載 論 文 を 24 時 間 い つ で も 読 め る こ と が あ る 。この た め ,購 読 型 電 子ジ ャ ー ナ ル は ,研 究者 に と っ て 学 術 雑 誌 へ の ア ク セ ス環 境 を 大 幅 に 改 善 した 。 購 読 型 電 子 ジ ャー ナ ル の 普 及 に は , 包 括 的 な 契 約 方 式 Big Deal と , 出版社との交渉契約のために形成された図書館のコンソーシアムが大 き く 貢 献 し て いる 。2000 年頃 か ら ,図 書 館 が 印 刷 版 学 術雑 誌 の 価 格 と し て 支 払 っ て い た額 に わ ず か な 金 額 を上 乗 せ す る こ と で,出 版 社 の 刊 行 す る購読型電子ジャーナル全てまたは大部分に割安な価格でアクセスで き る 包 括 的 な 契約 モ デ ル Big Deal を 大 手 出 版 社 が 提 案し 始 め た 。3 項 で 述 べ た よ う に,商 業 出 版 社 は 買 収 や合 併 を 繰 り 返 し 寡 占化 し て い た た め, 大 手 商 業 出 版 社 は 1 社 あ た り 数 百 か ら 1,000 タ イ ト ル 以 上 を 保 有 し て い た ( 第 1-2 表)。 大 量 の 購 読 型 電 子ジ ャ ー ナ ル へ の ア クセ ス を 可 能 と す る Big Deal は , 大 学 図 書 館 に と って は 魅 力 的 な 契 約 モデ ル で あ っ た 。 そ の 反 面 で ,Big Deal 契 約で は ,購 読 タ イ ト ル の 選 別は 認 め ら れ ず ,契 約 を 維 持 し な けれ ば ア ク セ ス で き るタ イ ト ル が 極 端 に 減る か ,一 切ア ク セ ス で き な る くな る と い う 硬 直 的 な契 約 モ デ ル で あ っ た。 こ の “ All or Nothing” を 意 味 す る 契 約 モ デ ル を 提 案 す る こ と で , 出 版 社 は シ リ ア ル ズ ・ ク ラ イ シ スに よ る 購 読 キ ャ ン セル の 流 れ を 食 い 止 めよ う と し た 。 こ れ に 対 し て,大 学 図 書 館 側 も 連 携し て コ ン ソ ー シ ア ムを 形 成 し ,コ ン ソ ー シ ア ム レベ ル で 直 接 出 版 社 と価 格 や 利 用 条 件 を 交渉 し ,有 利な 条 件 で Big Deal 契 約 を 結 び , 大 量 の 購 読 型 電 子 ジ ャ ー ナル を 導 入 し た 。 こ の 結 果 ,多 く の 大 学 図 書 館 が 購 読型 電 子 ジ ャ ー ナ ル を導 入 し ,所 属 研 究 者 は 大 量 の 購読 型 電 子 ジ ャ ー ナ ルに ア ク セ ス で き る よう に な っ た。な か で も ,小規 模 な 大 学 図 書 館 は,印 刷 版 学 術 雑 誌 で は 決し て 購 読 で き な 12 第 1-2 表 商業出版社間の合併・買収にともなう 大手商業出版社への学術雑誌の集中化 (数字はタイトル数) 調査年 1988年 1995年 1998年 (ISI収録分のみ) 2003年 調査者 Brookfield46) Brown 47) Office of fair traiding48) 加藤49) Elsevier Pergamon (1991年Elsevierが買収) Academic (2002年Elsevierが買収) Springer Kluwer (2003年Springerと統合) Plenum (1998年Kluwerが買収) John Wiley Blackwell Taylor & Francis Gordon & Breach (2001年にTaylor & Francisが買収) 1 2006年 2007年 横井50) 856 1,100 482 1,347 422 210 567 350 302 280 186 1,828 1,861 1,416 1,548 500 - - 1,800 552 750 341 300 681 528 829 446 865 760 1,110 1,160 250 210 - - - 191 - - 84 引用文献中にタイトル数の記載がなかった部分には“-”と記した。 13 かった大量の購読型電子ジャーナルのタイトルへアクセス可能な環境 を 整 備で き た 。学術 雑 誌 側か ら み て も ,印 刷 版学 術 雑 誌 の 頃 に は 購読 さ れ な かっ た 機 関 に も 購 読 され る よ う に な り,よ り 広 範 囲 の読 者 に 読ま れ る よ うに な っ た 。Big Deal 契 約 に も と づ く 購 読型 電 子 ジ ャ ー ナ ル は,シ リ ア ルズ・ク ラ イ シ ス を 一時 的 に 解 決 し ,現在 で も 学 術 雑誌 の 主 流と な っ て いる 5 51 ) 。 OA ジ ャ ー ナル の 登 場 OA ジ ャ ー ナ ル登 場 の 経緯 や 詳 細 な 実 態 に つい て は 第 Ⅱ 章 C 節 ,D 節 お よ び 第Ⅲ 章 で 述 べ る こ と とし , 本 項 で は OA ジ ャ ー ナ ルの 概 要 のみ 述 べ る 。OA ジ ャ ー ナル と は ,イン タ ー ネ ッ ト 上 で 公開 さ れ て い る 学 術 雑誌 で あ り ,誰 も が 無 料 で 読 む こと が で き る 。 OA ジ ャ ー ナ ル の 出 版 費 用 は , 主 に 論 文 処 理 料 ( Article Processing Charge:APC)や 助 成 金 に よっ て 賄 わ れ て い る 。従 来 の学 術 雑 誌 同 様に , 学 協 会や 商 業 出 版 社 か ら も刊 行 さ れ て い る が ,OA ジ ャ ー ナル を 専 門に 扱 う OA 出 版 社 も 存在 す る 。 OA ジ ャ ー ナ ル は いく つ か の 観 点 で 種 類分 け で き る が,そ れ らの 詳 細 は 第Ⅱ 章 D 節 で 述 べ る。OA ジャ ー ナ ル で は,購 読 型 電 子ジ ャ ー ナ ル と 同 様 に,出 版 元 が論 文 の 電子 フ ァ イ ル を サ ー バに ア ッ プ ロー ド す る こ と で , 刊行 と 同 時 に OA ジャ ー ナ ル の プラ ッ ト フォ ー ム 上 へイ ン タ ー ネ ッ ト 経 由で ア ク セ ス し て 論 文を 読 む こ と が で き る。購 読 費 は発 生 し な い た め ,世 界 中 の 誰 もが 論 文 を読 め る と い う 点 が, 購 読 型 電 子ジ ャ ー ナ ル と は 決 定的 に 異 な る 。 C 本研 究 の 意 義 と 目 的 本 研究 の 意 義 と 目 的 を 示す 上 で ,まず ,その 背 景 に あ たる 学 術 雑誌 の 役 割 と変 遷 に つ い て 整 理 する 。 A 節 では ,学 術 雑 誌 に は「 登 録 」,「 認証 」,「保 存 」,「 報 知」の 機 能が あ る こと ,さ ら に,学 術 雑誌 の も つ 査 読 制 に より ,学 術 雑誌 へ 論 文を 掲 載 さ れる こ と 自 体 が 業 績 評価 に つ な が る よ う にな り ,研 究者 に と って 学 術雑誌は必要不可欠で最も重要な情報メディアとなっていることを示 し た。そ し て そ れゆ え に,研 究 者 は ,論 文 が 掲載 さ れ た 学 術 雑 誌 に対 し て,「 ア ク セス 範 囲 の 拡 大」 を 求 め て い る こ とを 示 し た 。 14 B 節 では , こ れ ま で に 大 き な 2 つ の 学 術 雑 誌の 「 ア ク セ ス 範 囲 拡大」 の 転 換点 が あ っ た こ と を 示し た 。 1 つは 機 関 購読 の 一 般 化 で あ る 。 1970 年 代 に学 術 雑 誌 の タ イ ト ル数 急 増 や ,ペ ー ジ 数増 加 等 の 理 由 で 学 術雑 誌 価 格 が値 上 が り し,個 人 購読 が 難 し く な っ た。だ が ,学 術雑 誌 へ のア ク セ ス を確 保 す る た め に,図 書 館 に よ る機 関 購 読が 主 流 に な っ た こ とに よ り ,ア ク セ ス 環 境は 大 幅 に改 善 さ れ ,研 究 者 は所 属 機 関 の 購 読 す る大 量 の 学 術雑 誌 を 利 用 で き る よう に な っ た。換 言 する と ,そ れま で 個 人購 読 す る 学会 員 に 読 ま れ て い た学 術 雑 誌 が,機 関 購読 に よ り 非 学 会 員 の研 究 者 に も読 ま れ や す い 環 境 が整 っ た 。 2 つ 目 は , 技 術 の進 歩 に よる 印 刷 版 学 術 雑 誌 の電 子 化 と , 購 読 型 電子 ジ ャ ーナ ル の 包 括 的 な 契 約方 式 Big Deal の普 及 で あ る 。小 規 模 大学 図 書 館 を含 む 多 く の 大 学 図 書館 が Big Deal 契約 を 結 び , 印刷 版 学 術雑 誌 で は 購読 で き な か っ た タ イト ル ま で も,購 読 型 電 子 ジ ャ ー ナ ル に おい て は ア クセ ス 可 能 な 環 境 を 整備 で き た 。学 術 雑 誌と し て は ,印 刷 版 学術 雑 誌 が 主流 の 時 に は 購 読 さ れな か っ た 機 関 に も 購読 さ れ る よ う に な り,よ り 広 範囲 の 読 者 に 読 ま れ るよ う に な っ た 。 これらの転換期ごとに学術雑誌流通のアクセス範囲が拡大してきた 流 れ を, 第 1-3 図 で 整 理す る 。 こ の よ う に 整理 す る と,「 印 刷 版学 術 雑 誌 」 と「 Big Deal に も とづ く 購 読 型 電 子 ジ ャー ナ ル 」 と の 間 に おい て, 「 電 子化 前 後 」とい う 技 術的 な 大 き な 違 い が 存在 し ,両 者の 間 が 学術 雑 誌 の 変化 の 決 定 的 な 転 換 点で あ っ た と も 考 え られ る 。 だ が,決 定 的 な 転換 点 は, む し ろ「 Big Deal に もと づ く 電 子 ジ ャ ーナ ル 」 と「 OA ジ ャ ー ナ ル 」と の 間 に こ そ あ る と考 え ら れ る 。 な ぜ なら ば, 印 刷 版学 術 雑 誌 の 電 子 版 であ る「 Big Deal に も とづ く 購 読 型 電 子 ジャ ー ナ ル」と,必 ず し も 印 刷 版学 術 雑 誌 に 由 来 し ない「 OA ジ ャ ー ナ ル」とい う ,「 印 刷 版 学 術 雑 誌 に 由 来 す る か 否 か 」 の 違 い こ そ が , 重 要 で あ る と 考 え られ る た め で あ る 。な ぜ な ら ば ,印 刷 版 学術 雑 誌 に 基 づ か な いと い う こ とは ,「 OA ジャ ー ナ ル」 は , 印 刷 版 ゆ え に学 術 雑 誌 が も っ て いた 特 徴 や 機能 ,そ し てそ れ ら を前 提 と し て 長 年 を かけ て 築 き 上 げ ら れ てき た 学 術 雑誌 の 世 界 を 変 革 し 得る 可 能 性 が あ る か らで あ る 。 こ の ため ,本 研 究 で は, 「 Big Deal に も と づ く 購読 型 電 子 ジ ャ ー ナ ル」 と「 OA ジ ャー ナ ル 」と の 間に こ そ ,学 術 雑 誌 の歴 史 に お け る 大 き な転 換 15 購読形態 19世紀 ~1900年代半ば 学術雑誌の形態 アクセス範囲 学会誌を 個人購読 アクセスの改善 学会員中心 郵送に要する時間 (物流) 印刷版学術雑誌 1900年代半ば ~1990年代後半 2000年頃~ 商業出版社刊行の 大量の学術雑誌を 機関購読 学会員+機関所属研究者 Big Dealにもとづく 電子ジャーナル ・即時公開 ・24時間アクセス可能 OAジャーナルが主流になるか? 購読不要 OAジャーナル 第 1-3 図 誰もが読める ・即時公開 ・24時間アクセス可能 学術雑誌の変遷 点 が あり ,「OA ジャ ー ナ ル」 化 は 学 術 雑 誌 に 大き な 変 化 を も た ら すと の 仮 説 を立 て る 。それ を 論 証す る た め に,第 Ⅱ 章 A 節 で「 Big Deal に もと づ く 購読 型 電 子 ジ ャ ー ナ ル」普 及 の 経緯 と 要 因,そ し て それ が 学 術雑 誌 の 歴 史の 中 で 何 を 意 味 す るか を 論 じ る 。さ ら に第 Ⅶ 章 B 節 で「 OA ジ ャー ナ ル 」化 が 学 術 雑 誌 に も たら す 変 化 に つ い て 論じ る 。 こ れか ら の 学 術 雑 誌 に おい て OA ジャ ー ナ ルが , 一 過 性 の 存 在 でい ず れ 消 える 存 在 な の か ,現 在 の よ う に 購読 型 電 子ジ ャ ー ナ ル 主 流 の 傍ら で 少 数 のタ イ ト ル が 刊 行 さ れ続 け る 併 存 関 係 を 維持 す る の か,そ れ とも 購 読 型 電子 ジ ャ ー ナ ル に と って 代 わ り 主 流 と な るの か ,現 時点 で は まだ わ か ら ない 。 だ が , 上 述 の よう に OA ジャ ー ナ ルは そ れ ま で の 学 術 雑誌 と は 大 きく 異 な り ,こ れ ま での 学 術 雑 誌 の 果 た して き た 機 能 や ,特徴 が 大 き く 変化 す る 可 能 性 を 秘 めて い る 。 こ の た め ,も し OA ジャ ー ナ ルが 学 術 雑 誌の 主 流 と な れ ば,長 い 歴 史 の 中で 築 き 上げ ら れ て き た 学 術 雑誌 の 機 能 や特 徴 を 根 本 的 に 変 え る 可 能 性 が あ り ,OA ジ ャ ー ナ ルが こ れ から の 学術雑誌の主流となるかを研究することは十分に意義があることと考 え ら れる 。 そ こで 本 研 究 の 目 的 は , OA ジャ ー ナ ル が ,現 在 主 流 で あ る Big Deal に 基 づ く 購 読 型 電 子 ジ ャ ーナ ル に と っ て 代 わ り,学 術 雑 誌の 主 流 とな る か を 明ら か に し , 学 術 雑 誌の 歴 史 の 中 で OA ジ ャ ー ナ ル化 が 意 味す る こ と を 検討 す る こ と と す る 。 16 注 ・ 引用 文 献 1) Hicks, Diana. 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Owen は 1987 年に創 刊された New Horizons in Adult Education を最初の電子ジャーナルとして挙げ ている 2)。だが,査読制がある論文誌で画像も含まれているという理由から,1992 年に創刊された Online Journal of Current Clinical Trials が最初の電子ジャ ーナルとして名高い 3)。1990 年前後の電子ジャーナルの大部分が,対応する印刷 版学術雑誌の存在しない,新たに電子版のみで創刊された学術雑誌であった 3)。 1993 年から 1995 年にかけて電子ジャーナルは増加したが,大部分の電子ジャー ナルは機関や学協会からの資金援助なしに,個々に献身的な集団によって製作さ れていた。1994 年 10 月には 25 タイトル,同年 12 月は 39 タイトル,1996 年 1 23 月は 77 タイトル,同年 5 月には STM 分野で 115 タイトル,同年 12 月には STM 分 野で 508 タイトルと少しずつ増加し,1997 年には 1,002 タイトルとなった 4)。た だし,1997 年の米国研究図書館協会(Association of Research Libraries: ARL) 加盟館の全学術雑誌受入数の中央値は,15,297 タイトル 5)であったことと比較す ると,1,002 タイトルは極めて少ないタイトル数であった。 このような草創期の電子ジャーナルに対する研究者の認識は,電子媒体ゆえの 利点を認めながらも,学術雑誌としては十分な評価は得られなかった。一部の研 究者からは,印刷版学術雑誌と比較して電子ジャーナルは,1)劇的なコストの減 少,2)より簡便に広範にアクセス可能,3)学術コミュニケーションのスピードが 速くなるという理由から優れていると考えられていた 6)。査読付きの電子ジャー ナルでの論文発表経験がある,もしくは編集委員の担当経験のある研究者 500 名 に対して 1994 年に行われた調査では,71%が電子ジャーナルの発行までの早さを 利点として認めていた 7)。しかしその一方で,63%が電子ジャーナルを本物の出 版物とは感じておらず,54%が印刷版学術雑誌よりも権威が低いと感じていた。 電子ジャーナルは,実体がなく一過性のものという印象をもたれる 8)などの理由 から,既存の印刷版学術雑誌と同等の質があるとは認められなかった。Rob Kling らは,電子ジャーナルは知的な質が低い論文を出版するもので, “実体がなく, 潜在的に一過性のもの”とみなしている。Kling らはさらに, “電子ジャーナルは 世界中からのアクセスを保証するものかもしれないが,同業者に読んでもらいた い研究者としては,大人数であっても影響力の少ない読者層よりも,評価の高い 同業者に読まれることにより関心をもつだろう”と述べ,研究者は電子ジャーナ ルよりも従来の印刷版学術雑誌を好むだろうとの見解を示している。つまり, 1995 年時点では,研究者は電子ジャーナルを既存の印刷版学術雑誌とは全く異な る存在とみなし,学術雑誌としての質や評価が,印刷版学術雑誌よりも劣ると認 識していた。 一方で,1990 年代前半には,アメリカ化学会(American Chemical Society: ACS) による CORE(Chemistry Online Retrieval Experiment)プロジェクト,Elsevier による TULIP(The University Licensing Program プロジェクト),Springer に よる Red Sage プロジェクト等,大手商業出版社や大手学会が自らの刊行してき た印刷版学術雑誌を電子化する実験プロジェクトを進めていた 9)。そして 1990 年代後半には,大手商業出版社や大手学会が,次々と既存の印刷版学術雑誌の電 子版を,購読型電子ジャーナルとして提供し始めるようになる。アクセス方法と 24 しては,主に 2 種類あり,1 つは購読者側に設置された図書館などのサーバに購 読型電子ジャーナルデータを格納し,そのサーバにアクセスさせるイントラネッ ト型の方法である 10)。もう 1 つは,購読型電子ジャーナルデータを格納した出版 社のサーバに対して,Web 上に開設したプラットフォーム経由で購読者にアクセ スさせる方法である。前者の例としては,Elsevier が 1996 年に開始した EES (Elsevier Electronic Subscriptions,後の Science Direct On Site: SDOS) がある。後者の例としては,1996 年に Springer が開設した LINK,1997 年に Elsevier が開設した Science Direct,1999 年に The Institute of Electrical and Electronics Engineers: IEEE が開設した IEEE/IEE Electronic Library Online (IEL Online)などがある 9)。後者の方が主流の方式であり,現在では購読型電子 ジャーナルといえば基本的に後者を指す。1999 年 8 月時点の主な購読型電子ジャ ーナル提供状況については,森岡が詳細をまとめている 10)。 印刷版学術雑誌の電子化はその後も着実に進み,2002 年に Web of Science 収 録タイトルのうち,物理学分野では 81.0%,心理学分野では 62.9%,一般では 76.8% の学術雑誌において電子版が存在している 11)。また学協会出版社協会(The Association of Learned and Professional Society Publishers: ALPSP)が加 盟出版社とその他主要な出版社に対して行った調査によると,電子版が存在する 学術雑誌の割合は,人文・社会科学分野では 72%(2003 年)12),84%(2005 年) 13) ,86.5%(2008 年)14),STM 分野では 83%(2003 年)12),93%(2005 年)13),96.1% (2008 年)14)と年々増加し,STM 分野では 2008 年には,ほぼ全ての学術雑誌が 電子化されている。 Ulrich’s Periodicals Directory の各版の序文のデータから,加藤信哉が 1988 年から 2003 年までの電子ジャーナルタイトル数を調べ 15),さらに倉田が同誌の データから 2004 年から 2006 年までの電子ジャーナルタイトル数を加えて,1988 年から 2006 年までの電子ジャーナル数の推移を示している 3)。倉田は“収録範 囲の決め方が年度によって揺れている可能性がある”と指摘しているが,1988-89 年の 1,900 タイトルから 1994-1995 年の 4,115 タイトルに達するまでは毎年 300 タイトル前後の伸びでしかなかったものが,それ以降は毎年 1,000 タイトル単位 以上の伸びとなり 2006 年には 45,000 タイトルへと急増している。この数値には ニュースレターなど,学術雑誌以外のものも含まれているが,1995 年以降,電子 的に読める雑誌が急激に増加したことは事実である。 加藤は ARL の刊行する Directory of Electronic Journals,Newsletters and 25 Academic Discussion Lists から,査読つきの電子ジャーナルタイトル数を抜き 出してまとめている(第 2-1 図)15)。この調査でも,1995 年の 139 タイトルに至 るまでは毎年微増であったものが,1995 年を境に急増し,2002 年には 5,451 タ イトルにのぼっている。Ulrich’s Periodicals Directory,Directory of Electronic Journals,Newsletters and Academic Discussion Lists のいずれを 用いた調査でも 1995 年が大きな転換点となっており,同時期に印刷版学術雑誌 の電子版である購読型電子ジャーナルが普及し始めたことが,購読型電子ジャー ナル普及の大きな要因であったことは明らかである。 1995 年頃まで研究者は,電子ジャーナルは印刷版学術雑誌ほどの質や評価が望 めないと認識していたが,1995 年以降は印刷版学術雑誌の電子版である電子ジャ ーナルが急増したために,電子ジャーナルは既存の学術雑誌と同じであるという 認識が一気に広まった。土屋は 2004 年に発表した論文の中で, “電子ジャーナル の定義は 1990 年代の後半では依然として揺れていた。 (中略)インターネットを 経由して出版者が管理するサーバから既存の印刷体の学術雑誌に掲載されてい る論文内容を提供するという形態をもって「電子ジャーナル」と呼ぶことが今で は(つまり,ほんの 5 年ほどのうちに)定着してきている。”と指摘している 16)。 第 2-1 図 査読付き電子ジャーナル出版タイトル数の推移 1 加藤 15)より引用 26 2 Big Deal とコンソーシアム 購読型電子ジャーナル普及のもう一つの大きな要因は,大量の購読型電子ジャ ーナル利用を可能にした契約体制である。a 目では,購読型電子ジャーナルの包 括的な契約方式「Big Deal」について,b 目では購読型電子ジャーナル導入のた めに出版社と交渉・契約する図書館の連合体「コンソーシアム」について述べる。 a Big Deal 1990 年代後半の,大手商業出版社などから購読型電子ジャーナルが提供され始 めた時期は,印刷版学術雑誌の契約が基本で,それに追加する形で購読型電子ジ ャーナルも契約できるという方式が大部分であり,購読型電子ジャーナルのみの 契約は存在しなかった 11)。それが次第に,購読型電子ジャーナル中心の契約へと 変わってくる。 藏野らが紹介しているように,Swets Blackwell 社が 2003 年に出版社 50 社に 対して行った調査によると,印刷版学術雑誌と電子ジャーナルを組み合わせた価 格設定のある出版社は 83%,電子ジャーナルのみの価格設定のある出版社が 58% (価格は冊子体雑誌の 80%から 100%相当) ,印刷版学術雑誌への追加料金として 電子ジャーナルの価格を設定している出版社が 23%(価格は冊子体雑誌の 3%から 35%相当)あった 17)。 Big Deal とは,図書館が既に購読している印刷版学術雑誌の支払実績に基づき, 非購読誌へのわずかなアクセス料金を加えた金額を支払うことで,出版社の購読 型電子ジャーナルの全て,または大部分へアクセスする権限を購入できる,包括 的なライセンス契約方式である。この包括的なライセンス契約を,2001 年当時の ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin, Madison)の図書 館長 Kenneth Frazier が Big Deal と命名 18)して以降,購読型電子ジャーナルの 包括契約方式が,Big Deal と一般的に呼ばれるようになった。 Big Deal は商業出版社 Academic Press(Elsevier が 2002 年に買収)の当時の 欧州編集主幹 Jan Velterop が発案したもので,1996 年 1 月に Academic Press とイギリス高等教育助成会議(Higher Education Funding Council: HEFCE)が 3 年間の Big Deal 契約を結んだのが最初と言われている 19)。Velterop は,Big Deal 契約の実現で,Academic Press 側にとって 2 つのメリットを想定していた という。1 つは購読型電子ジャーナルの管理業務の簡便化と低コスト化である。 Academic Press の扱う全学術雑誌に対して,契約対象機関が HEFCE 一つに集約さ れるというシンプルな構成となることで,それまでタイトル別や購読者別の複数 27 のパターンで存在した契約が一本化されるということになる。2 つ目は,学術雑 誌の販売単位を一つのパッケージとすることは,購読者側に対して“All or Nothing”の二者択一を強いるモデルで提供することになり,シリアルズ・クラ イシスの時のような,図書館が次々に購読タイトルをキャンセルする悪循環を止 められる点である。 第Ⅰ章B節で述べたように,1990 年代後半には,大手商業出版社の寡占化がか なり進んでおり,各社の購読型電子ジャーナル用のプラットフォームでは数百か ら 2,000 タイトルがまとめて提供されていた。Big Deal 契約を結べば,それまで 印刷版学術雑誌へ支払っていた金額にわずかに上乗せした金額を支払うことで, これらの全タイトルまたは特定分野の全タイトルへアクセス可能となる。また Big Deal は複数年契約を結ぶことで,その間の価格の値上がり率の上限をある程 度抑えられるプライス・キャップを適用できた 20)。このため,図書館にとっても, 1 タイトルの単価が大幅に割安になり,従来の何割増しものタイトルへアクセス できるようになるというメリットがあった。それまで非購読であったタイトルで もアクセス可能な状態となると,多く利用されるようになったとの報告もある 20)。 1990 年代後半以降も,商業出版社間の合併や買収は繰り返し行われ,学術雑誌 出版市場の寡占化は進んだ。Sally Morris によると 2007 年時点では,Elsevier, Springer,Wiley,Blackwell,Taylor & Francis の大手商業出版社 5 社によって, 学術雑誌全体の約 25%が刊行されており,残りの 75%はその他の 9,878 出版元か ら刊行されている 21)。大手商業出版社の寡占化傾向もあり,Big Deal 契約でア クセス可能になる電子ジャーナルタイトル数は年々増加した。筆者が大手商業出 版社の雑誌価格リストを用いて独自に調査した,大手商業出版社の Big Deal 契 約対象タイトル数の推移を第 2-2 図で示す。 購読型電子ジャーナルが印刷版学術雑誌の電子版であったからこそ Big Deal は実現可能な契約方式であった。つまり,購読型電子ジャーナル登場前から大学 図書館は機関購読で大手商業出版社から大量の印刷版学術雑誌を購読しており, Big Deal はそれまでの流通を基礎とした流通体制を崩さない契約方式であった。 だからこそ,学術雑誌が印刷版から電子版へ変わるという大きな技術的な転換で あったにも関わらず,大学図書館は購読型電子ジャーナルをスムーズに導入でき た。 このように,出版社にとっても,図書館にとっても Big Deal はメリットの大 きい契約方式であった。その一方で,1)契約金額の算定には過去の購読実績が基 28 (タイトル数) 2,500 Elsevier Springer 2,000 Taylor & Francis 1,500 Wiley-Blackwell 1,000 Blackwell Wiley 500 0 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2003年 Elsevier Springer Wiley Blackwell Taylor & Francis 2004年 1,683 2005年 1,769 2006年 1,827 2007年 1,862 2008年 1,923 371 412 714 1,067 443 777 1,121 465 823 1,164 796 1,159 708 907 2009年 2,013 1,844 2010年 2,055 1,940 1,412 2011年 2,065 2,025 1,341 2012年 2,156 2,042 1,367 2013年 2,231 2,072 1,371 1,558 1,615 1,677 第 2-2 図 Big Deal 契約で利用可能な購読型電子ジャーナルタイトル数 1 各出版社の雑誌か各リストの情報をもとに筆者が作成 Elsevier は freedom collection の含有タイトル数。 それ以外の出版社については,各社の刊行する有料の電子ジャーナルタイトル数。 2 Wiley と Blackwell の 2008 年までのタイトル数は合併前のタイトル数 合併後のタイトル数は 2011 年の Wiley のタイトル数欄に記した。 29 礎となり,その維持が求められること,2)購読タイトルの選別ができないこと, 3)印刷版学術雑誌ほどではないが,毎年 5%程度の値上がりがあること,が次第に 図書館を圧迫するようになる。このことについては B 節で詳述する。 b コンソーシアム コンソーシアムとは,Sharon Bostick によると“一定の類似の要求を充足する ために相互に協力することに合意した 2 つ以上の図書館の集合体”であり,資料 の共有や共同購入,図書館統合システムの共同購入等さまざま形が存在する 22)。 ただし,本稿では,電子ジャーナル導入に関するコンソーシアムという狭義の意 味で,コンソーシアムという用語を用いる。 コンソーシアムの果たす役割はコンソーシアムによってさまざまであり,出版 社との契約,交渉,支払いまで全て一元化して対応するコンソーシアムもあれば, コンソーシアムでは交渉を行い,契約や支払いはコンソーシアム参加機関それぞ れで行う場合もある。King らの調査によると,コンソーシアムの果たす役割は多 岐にわたるが,グループライセンスの交渉と電子購読契約の請求はアメリカのコ ンソーシアムの 90%が,アメリカ以外のコンソーシアムの場合も大部分が担って おり 23),コンソーシアム会員館を代表して出版社と交渉することがコンソーシア ムの重要な役割となっている。交渉内容は,コンソーシアムというスケールメリ ットを活かしての値引きや,利用条件に関するものである。 コンソーシアムがその形態を活用して実現したコンソーシアム特有の契約方 式として,クロスアクセスがある。クロスアクセスとは,複数の大学でサブコン ソーシアムを形成すると,その構成大学が購読していた印刷版学術雑誌のタイト ルの和集合の購読型電子ジャーナルにアクセスできる仕組みである 20)。これによ り,“ある教育系の大学ではせいぜい数十タイトルしか取っていないのに,800 タイトルの電子ジャーナルを読むことができるようになった”という 20)。 1996 年には図書館コンソーシアムの世界的な連合として,国際図書館コンソー シアム連合(International Coalition of Library Consortia: ICOLC)が設立 された 24)。ICOLC は,図書館や利用者の意見を集約し,出版社と年に 2 回,共同 交渉を行っている。たとえば,walk-in user の電子ジャーナルの利用を可能とす る,ILL での利用を認める等の利用条件の改善要求や,出版社の公開すべき統計 情報のガイドラインの要求などを行い,図書館や利用者が購読型電子ジャーナル を利用しやすい環境整備に努めている 25)。 1996 年の Academic Press と HEFCE 間での最初の Big Deal 契約締結以降,世界 30 各国ではコンソーシアムが先導する形で Big Deal 契約が複数の出版社と結ばれ るようになった。アメリカの OhioLINK,カナダの Ontario Academic Research Libraries コンソーシアム,ドイツとオランダの大学による PICA グループ,イギ リスでは,Research Libraries UK(以下 RLUK)が同じようなコンソーシアムの 役割を果たしていた 19)。このため,出版社の収入の 25%から 58%はコンソーシア ムからの収入となった 26)。 コンソーシアムの果たす役割が年々高まっていることを示す目安として,ARL 加盟館がコンソーシアム経由で Big Deal 契約を結んでいる割合を 2003 年 27) , 2006 年 28) ,2012 年 29)の 3 ヶ年において調査した結果がある。調査対象出版社が 調査年によって異なるため,全調査期間を通して共通して調査された 4 出版社に 限定すると,Elsevier が 39%(2003 年) ,63%(2006 年) ,61%(2013 年) ,Springer が 37%(2003 年) ,95%(2006 年),97%(2013 年),Taylor & Francis が 3%(2003 年) ,26%(2006 年),68%(2013 年),Wiley が 53%(2003 年),94%(2006 年) , 96%(2013 年)となる。対象出版社によって割合には差があるが,どの出版社と の間でも Big Deal 契約を結ぶ割合が年々増加していることがわかる。 日本でも同様にコンソーシアムにより Big Deal 契約の締結が促進され,アク セス可能な電子ジャーナル数が年々増加している。日本におけるコンソーシアム は,会員館の種別や分野の類似性によって複数形成された。1 つは国立大学図書 館が会員館として構成するものである。2000 年9月に,国立大学図書館協議会(当 時)の下に,電子ジャーナル・タスクフォース(以下,タスクフォース)が設立 され,交渉対象の出版社別にコンソーシアムが形成された 9)。各出版社との交渉 は,国立大学図書館としての最低限の交渉をタスクフォースが代表して行い,各 国立大学図書館はさらに出版社と個別に契約を行うという方式であったため,各 国立大学図書館はそれぞれで選択して出版社別コンソーシアムに参加した。2002 年には Elsevier (93 大学が参加), Springer (77 大学), Blackwell (56 大学), Wiley (48 大学)を対象とする,最初のコンソーシアムが形成された。この 2002 年の契約以降,各出版社は,国立大学図書館のコンソーシアムとの全体的な合意 を前提として各図書館と予約購読契約を行うことが通例となった。その後,コン ソーシアムへの参加館数は年々増え 30),31) ,2010 年時点における大手商業出版社 との Big Deal 契約率は,Elsevier は 85%,Springer は 87%,Wiley-Blackwell は 78%となっており大部分の国立大学が契約している 32)(第 2-3 図)。 私立大学では,5 大学が中心となり 2003 年 7 月に私立大学図書館コンソーシア 31 (n=国立大学総数) 100% 90% Springer Elsevier 80% Blackwell Wiley 70% OUP NPG 60% ACS 50% APS 40% 30% ACM 20% 10% 0% 第 2-3 図 パッケージ契約を結ぶ国立大学の割合 1 2 2009 年と 2010 年の Blackwell は、Wiley と合併後の Wiley-Blackwell を指すと考えられる 略称で示した出版元名の正式名称は以下のとおり。 OUP: Oxford University Press, NPG: Nature Publishing Group, ACS: American Chemical Society, APS: American Physical Society, ACM: Association for Computing Machinery 3 2002 年-2006 年は加藤 30),2009 年は守屋 31),2010 年は尾城 32)に掲載されている内容をも とに著者が作成した。 32 ム(Private University Libraries Consortium: PULC)を設立し,全国の私立 大学へ参加をよびかけた 33) 。公立大学の参加を受け,2006 年 5 月には公私立大 学図書館コンソーシアム(Private and Public University Libraries Consortium) と名称を変更している 34)。その他にも,日本医学図書館協会と日本薬学図書館協 議会は,自然科学,医学薬学関係のコンソーシアムを形成している 35),36) 。2011 年 4 月には,国立大学図書館協会コンソーシアムと公私立大学図書館コンソーシ アムが統合され,大学図書館コンソーシアム連合(Japan Alliance of University Library Consortia for E-Resources : JUSTICE)となり 37) ,2013 年 11 月 5 日 現在では 502 の図書館が会員となっている 38)。JUSTICE では専任のスタッフを配 置し,スケールメリットを活かした交渉を行っている 39)。こうしたコンソーシア ムの活動の成果もあり,日本の大学の購読型電子ジャーナル導入数は年々増加し, 平成 23 年度末の国立大学の購読型電子ジャーナル導入数の平均は 9,582 タイト ルに及んでいる 40)(第 2-4 図) 。 尾城孝一によると,“主要な学術出版社とのコンソーシアム契約は、全てビッ グディールが基本”であったという 41)。そして小規模な大学であっても,それま での購読額にわずかな金額を上乗せして Big Deal 契約を結ぶことにより,一挙 に大規模大学と同数のタイトルにアクセスすることが可能となり「大学間の情報 格差解消」を実現したと指摘している。また,コンソーシアムを通じた Big Deal 契約により,各大学での購読型電子ジャーナルの利用環境が整い,ILL 依頼件数 が減少したとの調査報告もある 42)。 購読型電子ジャーナルの普及に直結する Big Deal 契約は,大学図書館にとっ て全く新しい契約方式であった。それを多くの大学図書館がスムーズに締結でき た背景には,大学図書館間が連携して形成したコンソーシアムによる,出版社と の交渉や大学図書館間の調整などの取り組みがあった。 3 購読型電子ジャーナル化がもつ意味 購読型電子ジャーナルが普及した要因について,1項では研究者が電子ジャー ナルに対して抱く意識,2項では学術雑誌流通の視点から述べたが,いずれも「変 わらない」ことが普及の要因となっていた。研究者にとって学術雑誌は,業績評 価にもつながる重要な情報メディアであるため,学術雑誌は質や同分野の研究者 間での評判が重要であった。購読型電子ジャーナルは,質が保証され,一定の評 価を既に得た歴史ある印刷版学術雑誌の媒体を電子版へと変えただけで,学術雑 33 (平均タイトル数) 12,000 10,000 8,000 6,000 電子ジャーナル 4,000 2,000 洋雑誌 和雑誌 0 和雑誌 洋雑誌 電子ジャーナル 13年度 14年度 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 21年度 22年度 23年度 995 1,013 1,180 1,036 1,033 929 920 886 861 826 813 1,394 1,355 1,459 1,293 1,142 1,044 944 884 790 762 719 1,732 3,505 4,883 5,797 6,387 7,166 7,267 7,313 8,647 9,557 9,582 第 2-4 図 国立大学の学術雑誌平均受入数の推移 (平成 13 年度末-平成 23 年度末) 1 学術情報基盤実態調査(旧「大学図書館実態調査」をもとに筆者が作成) 34 誌そのものは変わらなかった。このため,研究者は抵抗感なく購読型電子ジャー ナルを受け入れることができた。 学術雑誌流通の観点でいえば,それまでに定着していた機関購読の流れを基礎 に,コンソーシアムを通しての機関単位の契約であったからこそ,交渉および契 約の簡素化が可能となり,Big Deal 契約を結ぶことで大量の購読型電子ジャーナ ルを大学図書館が導入可能となった。研究者個人による契約であれば,出版社に とっては管理業務が複雑化し,現在のようには円滑に購読型電子ジャーナルは普 及しなかったと考えられる。Big Deal 契約にもとづく大量の購読型電子ジャーナ ル導入は,それらを購読できるほどの経済規模をもつ大学図書館だからこそ実現 できたものであった。つまり,この時点での電子ジャーナルは印刷版学術雑誌の 延長であり,本質的には印刷版学術雑誌と変わるものではなかった。「変わらな かった」からこそ,研究者に違和感なく受け入れられ,Big Deal 契約によって大 量の購読型電子ジャーナルを流通させることが実現できたのである。 だが,それは一方で,インターネットや,電子媒体という電子ジャーナルを実 現する技術的要素のもつ特性を十分に活かしきれていなかったともいえる。大量 の学術雑誌のタイトルへアクセスできる環境を実現した点は,電子媒体の利点を 活かした結果といえる。だが,それは単に流通する学術雑誌タイトル数の増加を 助けただけで,学術雑誌のパッケージ機能は崩れなかった。 印刷版学術雑誌の場合は,印刷費,郵送費といった物流にともなう費用の問題 もあり,一定数以上の論文を掲載して,号単位で刊行された。このため,論文の 掲載が決まってから読者が読むまでの間に,同一号に掲載される論文が揃うまで の時間および郵送の時間を要した。また冊子体という形状上,物理的に綴じられ るページ数には限界があるため,1 号分に掲載できる論文数には上限を設けざる を得なかった。このため第二次世界大戦後の論文数増加に際しては,分野を細分 化し学術雑誌のタイトル数を増やしたり,却下率を上げて掲載論文数の増加を抑 えてきた。つまり,学術雑誌のパッケージ機能が維持されてきた。 しかし電子ジャーナルの場合は,本来,物流や冊子体特有の物理的な制約を受 ける必要はない。このため同一号に掲載される他の論文を待たずに,掲載可能に なった論文から順次プラットフォーム上でアクセスできるようにさせることも 可能であった。だが実際には,Elsevier の「Article in Press」や Springer の 「Online First」のように,実際の刊行とは別に先行公開という形式でアクセス 可能になることはあっても,正式な公開は,あくまで掲載論文全てが揃って号と 35 して刊行されるまで待たなくてはならなかった。また,掲載論文数の上限は設け る必要はなかったが,購読型電子ジャーナルになって掲載論文数が大幅に増加す るということもなかった。つまり,購読型電子ジャーナルはあくまで印刷版学術 雑誌の電子版であり,印刷版学術雑誌との対応関係を維持するものであった。こ のため物流の制約から完全に解放されて,電子版の利点を最大限に活かしたよう なあり方とはならなかった。 B Big Deal 後の学術雑誌流通をめぐる議論 1 Big Deal の問題点 Big Deal により,大学規模による契約タイトル数の格差も縮小し,多くの研究 者は大量の購読型電子ジャーナルへのアクセスが可能となり,学術雑誌流通をめ ぐる問題は一時的に解決したかに見えた。しかし,Big Deal の抱える構造的な問 題が,時間の経過とともに次第に明らかになっていく。その構造的な問題をいち 早く指摘したのは,2001 年当時,ウィスコンシン大学マディソン校の図書館長を 務めていた Frazier であった 18) 。構造的な問題とは,Big Deal 契約の対象とな る購読型電子ジャーナルをとりまとめたパッケージには,本来ならば図書館が購 読する必要のないものまで含まれており,図書館側はタイトルを選別して契約で きないという点である。そしてタイトル単位での購読キャンセルはできないため, 一度 Big Deal 契約を結んでしまうと,図書館はそれを維持するか,全てをキャ ンセルするかの“All or Nothing”の選択肢しかなくなる。Big Deal 契約をキャ ンセルしてしまうと,かつて購読できていたタイトルも高額な価格でなければ購 読できない状態に陥るため,図書館は Big Deal 契約を維持し続けなければいけ ない仕組みとなっている。このことから,Frazier は,Big Deal は短期的には図 書館にとって有益なものとなるが,長期的には出版社に高額な支払いを続けるか, 全てを失うかの二択を迫る契約方式であると見抜き,その他の図書館に対して Big Deal 契約を結ばないように,呼びかけていた。 当初は,大学図書館が従来の印刷版学術雑誌に支払っていた価格に上乗せする 程度であった Big Deal 契約の支払い額は,次第に上昇し,大学図書館の予算を 逼迫していく。Jill Taylor Roe が 2009 年にイギリスの高等教育機関の図書館に 行った調査によると,学術雑誌購入費に占める Big Deal 契約支払い額の割合が 50%を上回る図書館の割合が,2008 年は 25.8%,2009 年は 32.3%,2010 年は 38.7% 36 と年々上昇している 43)。 Big Deal 契約の支払い額の上昇の背景には,慢性的な学術雑誌価格の上昇があ る。熊渕智行は,Library Journal にて毎年報告されている学術雑誌価格の 1995 年から 2011 年までの推移を分析し,年平均 7.8%の価格上昇が続いていることを 示している 44)。図書館が複数年の Big Deal 契約を結ぶことでプライス・キャッ プを適用しても毎年 5%程度の価格上昇が続いている 41)。 Richard Poynder は価格上昇の理由の一つとして,Springer の CEO である Derk Haank の言を引き“論文数の増加に伴うコスト増加”を挙げている 19) 。Poynder はさらに,ユタ大学(The University of Utah)図書館の Rick Anderson の言を 引きながら,図書館が Big Deal 契約に支払う金額の捻出のため,小規模出版社 の学術雑誌の購読を中止し,それゆえに小規模出版社は大規模出版社へ身売りし, そのことによって,ますます Big Deal に含まれるタイトル数が増加し,価格が 上昇する悪循環に陥っていると指摘している。そして最終的には,価格上昇の根 本的な原因は,論文数で研究者が業績を評価されている現状であるとし,この状 況が続く限り,論文数は増え続け,それに伴い出版費用は増加し続け,その結果, 学術雑誌価格は上昇し続けると結論づけている。 つまり,Big Deal 契約によりシリアルズ・クライシスを解決したかに見えたが, あくまでそれは一時的な解決であった。論文が増加し続ける以上,学術雑誌価格 は上昇し続け,タイトル単価が割安な Big Deal 契約であっても支払い総額は年々 増加し,“All or Nothing”である以上,タイトル数の調整によって維持するこ ともできず,長期的にはいつかは破綻せざるを得ない学術雑誌購読モデルである といえる。 2 Big Deal 離脱の動き Big Deal 契約の維持が困難となり,実際に対策に乗り出す事例もでてきている。 RLUK 加盟館のうち 21 館は,Elsevier および Wiley-Blackwell との 2012 年契約 交渉に向けて Big Deal の代替案を設計し,15%の経費削減を試みている 45)。その 代替案とは,利用の多いタイトルのみ個別に購読し,それ以外のタイトルについ ては利用者からの要求に応じて英国図書館(British Library)や図書館間のド キュメントデリバリーサービスで対応するというものである。ただし,最終的に は両社と 5 年間で 2,000 万ポンドの削減に成功したため,代替案は用いられなか った。だが,実際に図書館が Big Deal 契約を縮小もしくは中止する事例が,国 37 内外で次々と発生している。 早いものとしては,Big Deal の最初の更新年にあたる 2003 年あたりから,各 国の大学図書館で Big Deal 契約の中止や縮小が行われ始めており,2003 年から 2006 年にかけてのこれらの動向については加藤がまとめている 46)。2007 年以降 の動向としては,国内では,2007 年に福島大学が 47) ,2008 年には山口大学が 48) Springer との Big Deal 契約を中止している。ただし山口大学の場合は, Springer が大学側の条件に応じたため同年に再契約している。2008 年には東邦 大学が 49),2013 年には兵庫医科大学 50)と電気通信大学が 51)Elsevier 社との Big Deal 契約を中止している。さらに名古屋大学 52)と中央大学 53)も 2014 年 4 月から Elsevier との Big Deal 契約を中止することを発表している。海外の事例として は , 南 イ リ ノ イ 大 学 カ ー ボ ン デ ー ル 校 (Southern Illinois University Carbondale)が,2009 年に Springer との Big Deal 契約を中止し,2010 年には Elsevier と Wiley-Blackwell との Big Deal 契約を中止している 54)。また,オレ ゴン大学(The University of Oregon)は 2010 年に Wiley-Blackwell 社との Big Deal 契約を中止し,Elsevier 社との Big Deal 契約の規模を縮小している 54)。モ ントリオール大学(The University of Montreal)は 2014 年 1 月をもって Wiley-Blackwell 社との Big Deal 契約を中止すると表明している 55) 。いずれの 事例も,契約額が高額であることを理由に,Big Deal 契約の縮小または中止にふ みきっている。購読型学術雑誌の価格上昇は現在も続いており 56) ,Big Deal 契 約を維持できなくなる図書館は今後も出てくると考えられる。 Big Deal 契約に基づく購読型電子ジャーナルが今後も学術雑誌の主流であり 続けるかについては,否定的な考えが多く,そのことは関係者へのインタビュー 調査などからも示されている。Amy Carlson らは,2007 年 12 月 7 日から 2008 年 1 月 9 日にかけて,Big Deal に関する図書館の実態および意識を尋ねる Web 調査 を行い,123 の図書館から回答を得ている 57)。同調査では,Big Deal の有効な代 替案として “購読型電子ジャーナルを 1 タイトル単位で購読” ,“印刷版学術雑 誌の購読維持”, “OA ジャーナル”の 3 つの選択肢を提示し,そのいずれかを選ぶ か,その他の場合は自由記述を求めている。結果は, “購読型電子ジャーナルを 1 タイトル単位で購読”が最も回答が多く, “OA ジャーナル”は Big Deal の代替と なるには,まだ未成熟であり,選択した回答は少なかった。また一部の回答者は, 機関リポジトリやより融通の利くパッケージに希望を寄せていた。この結果をふ まえ,“多くの回答者がこの過渡期に選択肢がないことを心配している”と 38 Carlson は考察している。 2010 年に EBSCO が図書館員を対象に行った調査では,これからの学術雑誌購入 の方策として“購読型電子ジャーナルのパッケージを維持せず,最も必要な購読 型電子ジャーナルのみ契約する”との回答が 68%にのぼっている 58)。Collins は, この結果について,EBSCO が 2011 年に出版元を対象に行った調査にて,Big Deal の将来予測として得られた回答, “Big Deal が続く”(31.9%) , “パッケージが分 割されるだろう”(27.7%),“わからない”(40.4%)と比較して,“多くの図書館 がパッケージ契約の維持を困難に感じている状況と一致する”と述べている 59)。 2011 年に出版社,プロバイダー,コンソーシアム,図書館に所属する合計 12 名を対象に,Big Deal の今後の展開についての考えを問うインタビュー調査が行 われている 60)。全体に共通する意見としては,大量の学術雑誌を購読する方法と しては Big Deal が最良の方式だが,コストが課題であると述べられている。Big Deal の将来性については, “図書館予算に応じて Big Deal は小規模化するなど形 を変えて存続する”,という意見が 6 名と半数を占めている。続いて, “わからな い”との回答が 2 名,以下“さらに巨大化して世界規模になる” , “他のメディア の台頭により論文の価値が相対的に下がる”, “ILL 等の他サービスを利用するこ とで Big Deal は不要” ,“次第に縮小して無くなる”との回答がそれぞれ 1 名と なっている。これらの結果から,さまざまな立場の関係者が,現状の Big Deal を維持することは難しいと考えているが,それに代わる決定的な代替モデルが見 出せていない状況にあるということがわかる。 C OA ジャーナルの台頭 1 OA ジャーナル推進の動き 第Ⅰ章 B 節でも述べたように,アメリカでは 1980 年代にシリアルズ・クライ シスが表面化し,商業出版社の寡占化が進む中で,商業出版社主導の学術雑誌流 通への対応策が検討,実行されてきた。OA に向けての取り組みは,当初はそれぞ れ独自に行われ,統一された方向性を目指すようなものではなかった。 早くには,1994 年に Steven Harnad が「転覆計画」を唱え,セルフアーカイビ ングを主張した 61) 。図書館員が設立した SPARC(Scholarly Publishing and Academic Resources Coalition)は,1)商業出版社刊行雑誌の代替となる良質で 安価な学術雑誌創刊,2)新しい学術雑誌の支援,3)BioOne に代表されるような複 39 数の学術雑誌を統合して Web 版を提供する取り組みを行った 62)。 アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)の所長であ った Harold Varmus らが,2000 年に研究成果への自由なアクセスを目指して Public Library of Science(以下 PLOS)を設立した 63)。PLOS は,出版社が刊行 した論文を PubMed Central のような公的なオンラインリソースで出版後 6 ヶ月 以内に公開することを出版社に求め,これに応じる出版社の雑誌に対してのみ, 編集,査読,個人購読を行うよう研究者によびかける公開書簡を 2001 年 3 月 23 日の Science 誌に掲載した。これに対して,署名の締切日である 2001 年 9 月 1 日までに 180 ヶ国の研究者約 34,000 名が署名を行い,賛同の意を示した 63)。し かし実際には,この公開書簡に応じた出版社はほとんどなく,応じない出版社に 対するボイコット行動も行われなかった 3)。 このようにさまざまな取り組みが行われてきたが,いずれも学術雑誌流通の根 本的な改善につながるものではなかった。ただし,これらの取り組みを 2002 年 2 月 14 日にブダペスト・オープンアクセス・イニシアティブ(Budapest Open Access Initiative: BOAI)が OA という一つの理念として明確化して以降,状況は大きく 変わる 64)。BOAI は OA を“査読された雑誌論文で,広くインターネット上で,無 料で利用でき,(中略)すべての利用者の閲覧,ダウンロード,コピー,配布, 印刷,検索,リンク,索引化のためのクロール,ソフトウェアへのデータの取り 込み,その他合法的な目的での利用を,財政的,法的,技術的障壁なしに許可す る”と定義づけている。その実現手段として,OA ジャーナルとセルフアーカイビ ングを示した。Steven Harnad は前者を「ゴールド OA」 ,後者を「グリーン OA」 と名付けた 65)。その後これらの用語は定着し,ゴールド OA と OA ジャーナルが同 義に用いられる場合もある。 BOAI 発布以降,欧州を中心に OA の推進を目指す国際的な運動や会議が続いた。 なお,本研究は OA ジャーナルを対象としているため,OA ジャーナルに関わりの ある動きのみをレビューし,グリーン OA のみを対象とした動きは扱わない。 2003 年 4 月 11 日には,ベセスダで会議が開催され,そこに出席した参加者は, 所属組織の総意ではなく各個人の考えとしながらも,研究者,出版社,図書館, 助成団体それぞれの立場で OA ジャーナルを推進する取り組みを行うことを宣言 し, 「OA 出版に関するベセスダ宣言」として同年 6 月に起草している 66)。また同 年にベルリンでも「自然科学・人文科学の知識への OA に関するベルリン宣言(以 下「ベルリン宣言」 )」が採択され,OA ジャーナルを含む OA 全般の推進が述べら 40 れている 67)。この「ベルリン宣言」には,世界最大規模の素粒子物理学の研究所 である欧州原子核研究機構(Council Européen pour la Recherche Nucléaire: CERN)も署名している 68)。 研究成果の OA 化に関しては,国際的な勧告や声明が出されている。2003 年 12 月には国際世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society: WSIS)にて採択された基本宣言の中では,科学技術情報へのユニバーサルアクセ スを促進するよう努力すると明記された 69)。また OA 支援声明もさまざまな団体 から出され,イギリスに本拠地を持つ医学研究支援等を目的とする公益信託団体, 70) ウェルカム・トラストは 2003 年 9 月に ,国際図書館連盟(International Federation of Library Associations and Institutions: IFLA)は,2004 年 2 月に OA を支援するとの声明を出している 71) 。IFLA は,さらに同年 12 月には具 体的な取り組み方針も記した声明を出している 72)。 2004 年 7 月,英国下院科学技術委員会(House of Commons Science and Technology Committee)は出版社などからのヒアリング調査をふまえて報告書を 作成し,政府に対して科学技術情報の OA 化を推進するように勧告した 73)。具体 的には,研究成果へのアクセスを改善するために,著者支払い型の OA ジャーナ ルへ投稿する際の資金援助措置を推進するべきなどと提言している。ただし,そ の後,出された回答は,著者支払いモデルが及ぼす影響などについてより調査が 必要とするもので,この期待に応えるものではなかった 74)。 だがその後は,従来の学術雑誌と OA ジャーナルとのそれぞれの場合に要する コストを分析し,OA ジャーナルがコスト節約につながることを証明する報告書が イギリスを中心に次々と出され,OA ジャーナルを後押しする傾向がみられる。 ウェルカム・トラストは,著者支払いモデルの実現可能性を示す報告書を 2004 年に出している 75)。それによると,著者支払いモデルでは,従来の学術雑誌で発 生していた購読管理や契約交渉といった可変費用は不要となり,流通に要するコ ストも論文の刊行部数の影響を受けないために,総じてコストは減ると試算して いる。また掲載の可否に関わらず,全投稿者へ 175 ドル程度の投稿料を課し,さ らに掲載が決まった著者には 250 ドルから 750 ドルの出版費用を課せば,著者支 払いモデルは持続可能と述べられている。 さらに,グリーン OA とあわせてではあるが,現行の学術雑誌に代わるモデル として,OA ジャーナルは議論されていく。2008 年に研究情報ネットワーク (Research Information Network: RIN)が出した報告書では,これからの学術 41 雑誌流通について複数のシナリオを示し,その中で,もし学術雑誌の 90%が著者 支払いモデルに転換すれば,5 億 6,100 万ポンドの節約になり,最大限の節約に つながると試算している 76) 。英国情報システム合同委員会(Joint Information Systems Committee: JISC)が 2009 年に出した報告書では,研究から出版に至る までのコストや便益が分析され,現状の学術雑誌流通に代替するモデルとしてグ リーン OA と OA ジャーナルが比較検討されている 77)。その結果,現行の学術雑誌 と比較して,OA ジャーナルであれば 1 論文あたり 813 ポンド,セルフアーカイビ ングであれば 1,180 ポンドの節約になるとしている。2011 年に,RIN から出され た報告書では,グリーン OA 等の他の方向性もあわせて検討する中の 1 つではあ るが,OA ジャーナルが主流となった場合のコストや便益のあり方について想定す るシナリオが描かれている 78)。 2011 年頃までは,現行の学術雑誌流通の代替となる選択肢の一つとして,OA ジャーナルは検討されてきていた。 ところが 2012 年 6 月に提出された, 通称 Finch レポート 79)は,全面的に OA ジャーナルを支持する内容で,世界中の関係者に大 きな衝撃を与えた。同レポートでは OA ジャーナルへの全面移行を訴え,イギリ ス政府に対して移行期間に年間 3800 万ポンドの拠出と,加えて偶発的に発生す る事態への対処として 500 万ポンドの拠出を求めた。イギリス政府は同レポート の内容を受け入れると表明し 80) ,ビジネス・イノベーション・職業技能省 (Department of Business, Innovation and Skills 以下 BIS 省)は 2012 年 9 月に,大学における OA 化への移行促進のために,1,000 万ポンドを助成すると発 表している 81)。Research Councils UK(以下 RCUK)は 2013 年 4 月 8 日公表の RCUK Policy on Open Access and Supporting Guidance にて,RCUK の助成を受けた場 合は研究成果の OA 化を義務づけ,その実現手段としてはゴールド OA が望ましい とし,機関へ一括配布する助成金を APC の支払いに充てることを認めている 82)。 また,HEFCE も同レポートの内容を歓迎し,HEFCE から研究助成を受けた機関は, 研究成果をよりアクセスしやすい形で出版するための費用に助成金を充てられ ることを明確にしたいと述べている 83)。 一方で,OA ジャーナルを全面的に支持する Finch レポートに対する反発や懐疑 的な意見も多く,2013 年 9 月には, BIS 省の特別委員会が,政府に対して OA 方 針の見直しを求める報告書を公表している 84)。その内容は,Finch レポートはグ リーン OA を過小評価しているが,他国と比較してもイギリスではグリーン OA の 実績が高いこと,また Finch レポートの提案内容の一部の非現実性を指摘し,OA 42 ジャーナル偏重の Finch レポートおよび政府の姿勢を正し,グリーン OA への評 価と注力を求めるものであった。 だが,その 3 か月後の 2013 年 11 月には,Finch レポートをまとめたグループ 自身による Finch レポートのレビューが公開されている 85)。そこでは,Finch レ ポート内での提案事項の,実現状況を振り返り,さらには 14 の提案事項が示さ れている。その提案事項とは,グリーン OA の意義を認めつつもやはり OA ジャー ナルに代表されるゴールド OA を目指すべきであることを再確認したとして,政 府,助成団体,大学,出版元などの関係者に支援や協力を求めるものであった。 さらに 2014 年 1 月 21 日には, オランダの教育・文化・科学担当副大臣(The State Secretary for Education, Culture and Science)である Sander Dekker が議会 文書にて,オランダでは 2024 年までにゴールド OA へ完全移行するとの目標を示 し,もし関係者の取り組みが不十分で許容しがたいほど遅れた場合は,2016 年に 大臣とともに高等教育研究法(The Higher Education and Research Act)のも とに OA 出版を義務化すると述べている 86)。世界的にはまだ一部ではあるが,欧 州を中心に OA ジャーナルが主流となることが現実味を帯びてきている。 2 OA ジャーナル進展の予測 出版関係者からも,これからの学術雑誌は,既存の出版モデルでは対応しきれ ず,OA ジャーナルで創刊すべきとの考えが示され始めている。Morris は 2013 年 に出版した OA ジャーナル出版のノウハウを記した著書の中で,図書館予算が減 少傾向にある中で,購読型の学術雑誌を新規創刊するのは難しいとし,新たに創 刊する場合は OA ジャーナルでの創刊を勧めている 87)。Anģus Phillips もまた同 様の理由で,新たに創刊する場合は OA ジャーナルの方が受け入れられやすいと 指摘している 88)。 さらに学術雑誌全体の将来を見通した見解として,Big Deal に代わり将来的に は OA ジャーナルが学術雑誌の支配的なモデルになるとの考え方も一部では示さ れている。 最初の Big Deal である IDEAL/APPEAL を生み出した Velterop は,2003 年とい う比較的早い時点で,1)技術の成熟,2)図書館が予算を獲得できないこと,3)古 いモデルはもはや不適切,との理由を挙げ,e-print や OA ジャーナルの利用が次 第に増加する一方で,STM 分野の伝統的な学術雑誌の利用は次第に減少し,将来 的には消滅する,ただしそれがいつになるかが不確かなだけだ,との考えを示し 43 ている 89)。 2000 年代後半になると OA ジャーナルタイトル数が急増し,それに基づいて具 体的な予測も示されるようになる。Martin Richardson は,OA 論文数の増加や多 くの分野の出版元が OA メガジャーナル創刊に着手していることなどを根拠に, 2020 年にはゴールド OA が支配的なモデルとなり,それにともない Big Deal はそ の存在価値がなくなるだろうと述べている 90) 。なお,OA メガジャーナルとは大 量の論文を掲載する OA ジャーナルを指す。 David W. Lewis は,OA ジャーナルの将来性を,過去の OA 論文数の伸び率を根 拠に 2 種類試算している 91)。1 つは 2000 年から 2009 年の OA 論文数の伸び率を 根拠に,2017 年までには論文の半数が,2020 年までには 90%が OA ジャーナルに 掲載される,と試算している。もう 1 つは 2005 年から 2009 年までの OA 論文数 の伸び率を根拠に,2021 年までには論文の 50%が,2025 年までには 90%以上が OA ジャーナルに掲載される,と試算している。いずれもこれまでの傾向が同様に続 くことを前提とした予測や推計ではあるが,OA ジャーナルが将来的に Big Deal にとって代わり得ると考えられるほど,急速に成長してきていることがうかがえ る。 D OA ジャーナルの定義と特徴 OA ジャーナルは歴史が浅く,さまざまな定義づけが行われている。本章では, 先行研究で示されてきた OA ジャーナルの定義と特徴を整理する。 1 OA ジャーナルの起源 OA ジャーナルとは,端的にいえば,第Ⅰ章 B 節で述べたように,購読料不要で 誰もが無料で読める学術雑誌である。最初の OA ジャーナルがいつ創刊されたか についての定説はないが,広義には 1987 年にシラキュース大学ケロッグプロジ ェクト(Syracuse University Kellogg Project)から創刊された,無料のオン ライン査読誌 New Horizons in Adult Education といわれている 92)。なお,同誌 は現在 New Horizons in Adult Education and Human Resource Development と 誌名を変えている 93)。 だが,明確に OA ジャーナルの刊行を一種の出版事業として行われるようにな ったのは,非営利団体の PLOS や,世界初の商業 OA 出版社である BioMed Central (以下 BMC)らによる OA ジャーナル刊行からである。 44 PLOS は 2002 年にゴードン・アンド・ベティ・ムーア財団 (Gordon and Betty Moore Foundation)から 900 万ドルの寄付を受け,OA ジャーナルを刊行し始めた 2003 年に最初の著者支払い型の OA ジャーナル PLOS Biology を創刊 94) 。 63) ,それ以 降も相次いで OA ジャーナルを創刊し,2014 年 1 月現在,7 タイトルの OA ジャー ナルを刊行している 95)。 BMC は,Current Science Group の会長 Vitek Tracz が,1998 年に数多くの出 版ビジネスを Elsevier に売却して創設した,世界で最初の商業 OA 出版社である 96) 。BMC は 2000 年 7 月 19 日に最初の OA 論文を刊行し,2002 年 1 月 1 日からは, 論文を刊行するための対価として著者に課金する著者支払いモデルを開始した 97) 。従来の購読費で出版費用をまかなう方式からのビジネスモデルの転換は,大 きな注目を集めた。BMC は著者支払い型の OA ジャーナルの刊行を続け,2008 年 に Springer 社による買収後もそのビジネスモデルは変わらず,2014 年 1 月現在, 生物医学分野の OA ジャーナル 258 タイトルを刊行している 98)。 2 OA ジャーナルの定義 上述のように,OA ジャーナルは端的にいえば「購読料不要で誰もが無料で読め る学術雑誌」であるが,実際にはその中でもさまざまな形態があり,どこまでを OA ジャーナルとみなすかは解釈が分かれる。解釈が分かれるため,この段階では これまでに「OA ジャーナル」 ,および「ゴールド OA」の類型化を行った先行研究 を,第 2-1 表にまとめて示す。これらの類型の詳細については,Lewis91)および Mark Ware99)の定義「OA ジャーナル」 ,「ハイブリッド OA ジャーナル」 , 「Delayed OA ジャーナル」の 3 類型を大きな枠組みとして,それにあわせて以下で詳述す る。 「OA ジャーナル」は,掲載論文全てを刊行と同時に即時に公開する種類のも ので, Peter Suber は「Full OA ジャーナル」 と呼んでいる 100)。John Willinsky101), 倉田 3),三根慎二 102)は,これらをビジネスモデルの点から,さらに 3 種類に分類 している。1 つは「制限なし(Unqualified)」 , 「完全無料モデル」 , 「完全無料型」 と命名されるもので,助成金によって出版費用が賄われ,著者も読者も費用を負 担することなく掲載論文を読める。例としては First Monday や D-Lib Magazine がある。2 つ目は, 「著者支払い(Author Fee) 」, 「著者支払いモデル」 , 「著者支 払い・読者無料型」と命名されるもので,著者が APC を支払うことで,出版費用 が賄われ,読者は費用を負担するこ となく論文を読める。この種類の OA ジャー 45 第 2-1 表 Suber 100) Lewis91), Ware 99) Willinsky101) 制限なし Full OAジャーナル OAジャーナル ハイブリッド OAジャーナル - Maciejewskaら103) 完全OA 著者支払い 倉田3) 完全無料モデル - OA ジャーナルの類型 三根102) 完全無料型 著者も読者も無料。 著者支払いモデル 著者支払い・読者無料型 即時に全論文を 著者がOA出版にかかる費用を負担 無料公開 印刷版学術雑誌を販売しながら ウェブ無料モデル 電子版のみ無料公開型 電子版のみ無料公開 二重モデル 重複OA ハイブリッド OAジャーナル 部分的OA ハイブリッドOA ハイブリッドモデル ハイブリッド型 Delayed OA ジャーナル Delayed OA Delayed OA エンバーゴモデル 支援OA - 最小限OA - - 一人あたりの (Per Capita) - - 抄録 - - 協同組合 - - - 説明 例 First Monday BMCの雑誌 J-STAGEの大部分の雑誌 雑誌そのものは購読型だが, 別途著者がAPCを支払えば該当論文のみOA SpringerのOpen Choice適用雑誌 刊行後に一定のエンバーゴ終了後OA New England Journal of Medicine - 国民一人当たりの収入に基づいてOA HINARI(World Heatlh Organization) - - 目次と抄録がOA Science Direct - - - 機関の構成員がOAジャーナルを支援 German Academic Publishers (GAP) 短期間OA 厳選OA 部分OA - - 刊行後の一定期間のみ,掲載論文全て,または一部をOA 編集者が選定した論文をOA 最も重要な論文をOA 予約購読型 一定期間後無料公開型 46 - ナ ル は 多 数 あ り,た と え ば BMC は 自社 の OA ジ ャ ー ナ ル に 対 し て,「 著 者 支 払 い モ デ ル 」を 適 用 し て い る 。3 つ 目 は,「 二 重 モ デ ル( Dual Mode)」, 「 ウ ェ ブ 無 料 モ デ ル 」,「 電 子 版 の み 無 料 公 開 型 」 と 命 名 さ れ る も の で , 印 刷 版 の 学 術 雑誌 は 購 読 型 だ が , そ の Web 版 は 無 料 と す る も の で あ る。 出 版 費 用 は , 印刷 版 学 術 雑 誌 の 購 読収 入 に よ り 賄 わ れ , Web 版 に つ い て は 著 者 , 読 者 とも 費 用 負 担 は 発 生 しな い 。 以 降 で は ,Lewis や Ware ら の類 型 の 1 つ 目 と し て 示 し た 「 OA ジ ャ ー ナ ル 」 を 他 の 種類 の OA ジ ャ ー ナ ル と 明 確 に 区 別 す るた め に,「 Full OA ジ ャ ー ナ ル 」 と表 す 。 Lewis や Ware らに よ る OA ジ ャ ー ナ ル の 類 型 の 2 つ 目 で あ る 「 ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル 」は,有 料 の 論 文 と OA 論 文 が 混 在 す る タ イ プ の も の で あ る 。 ハ イブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル は , も と も と は購 読 型 電 子 ジ ャ ー ナ ル だ が , 著者 が 希 望 し て 規 定 の料 金 を 支 払 え ば 該 当論 文 を OA と す る オ プ シ ョ ン を備 え て い る。ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル 上 の OA 論 文 は, Full OA ジ ャ ー ナ ル 掲 載 の OA 論 文 同 様 に , 刊 行 と 同 時に 即 時 OA と し て 公 開 さ れ る 。 ア メ リ カ 昆 虫 学 会 ( Entomological Society of America ) が 2000 年 に 同 学 会 の 4 誌 に 対し て こ の オ プ シ ョ ン 方 式を 適 用 し た の が, ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル の 始 ま り と 言 わ れ て い る 1 04 ) 。その後, Limnology and Oceanography が 2001 年 に 適 用 し , 2003-2004 年 に か け て ,ア メリ カ 生 物 学 学 会( American Physiological Society)10 5 ) ,Company of Biologists,Hindawi が 適 用 し て いる 10 6 ) 。そ し て 2004 年 に 商 業 出 版 社 と し て は 初 め て Springer が Open Choice と 銘 打 ち 同 社 の 学 術 雑 誌 全 て に 適 用 し て 以降 ,そ の 他 の 大 手 商業 出 版 社 も 次 々 と 適用 す る よ う に な った 1 07 ) 。SHERPA RoMEO に よ る と ,2013 年 11 月 19 日 現在 で は 189 出 版 社 が ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナル を 提 供 し て い る 上 で ,複 数 の 出 版社 の APC 価 格 が 公表 さ れ て いる 10 8 ) 。BMC の Web サ イ ト 1 09 ) 。2013 年 3 月 20 日 の 最 終 更 新 情 報 に よ る と , ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル の APC 価 格 は 3,000 ド ル が 一 般 的 で ,Full OA ジ ャ ー ナ ル の APC 価 格 より 割 高 で あ る 。 た と え ば Springer の 場 合 , 同 社の Full OA ジ ャ ーナ ル の APC は 665 ド ル か ら 1,996 ドル で あ り , ハ イ ブ リッ ド OA ジ ャ ー ナ ル の APC は 約 1.5 倍 か ら 約 5 倍 に 相 当 す る 。 Bo-Christfer Björk は ハ イ ブリ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル の こ と を, 購 読 型 学 術 雑 誌 と OA ジ ャ ー ナ ル と どち ら の ビ ジ ネ ス 47 モ デ ル を 適 用 する か 判 断 す る た め の,検 証 に 使 用 で き る形 態 と 評 し て い る 1 1 0) 。 Lewis や Ware ら に よ る OA ジ ャ ー ナ ル の 類 型の 3 つ 目で あ る「 Delayed OA ジ ャ ー ナ ル 」 は , 刊 行 後 一 定 の公 開 猶 予 期 間 を 経 た後 , OA 化 さ れ る も の で あ る 。 こ の 公 開 猶 予 期 間 は エ ン バ ー ゴ と 呼 ば れ , Delayed OA ジ ャ ー ナ ル の 大 部分 が , 刊 行 後 12 ヶ 月 の エ ン バ ー ゴ を 経て , OA 化 し て い る 。Ware ら に よ る と ,エン バ ー ゴ は 通 常 6-12 ヶ月 ,一 部 で は 24 ヶ 月 で あ り ,近 年 ,生 命 科 学 ,生 物 医 学 分 野 に お い て , Delayed OA 方 針 を 採 用 す る 学 術 雑 誌 が増 え て き て い る と して い る 。 以 上の 3 類 型に 当 て は ま ら な い ,Willinsky 1 01 ) ,Maciejewska L.ら 1 03 ) の 示 した OA ジ ャ ー ナ ル の タ イ プ につ い て ,そ れ ぞれ 説 明 す る。「 国 民 収 入 別 (Per Capita)」,「 支 援 OA(Supporting Open Access)」 と 称 さ れ る タ イ プ は ,国 民 一 人 当 た り の 収 入 が低 い 国 に 対 し て は,学 術 雑 誌 を 無 料 で 公 開 す る も ので あ る。「 抄 録 (Abstract)」,「 最 小 限 OA(Minimised Open Access)」と は ,論 文 本 文 で は な く,目 次 や 抄 録 の みを OA と す る も の で あ る。「 協 同 組 合( Co-op)」と は ,機 関 構 成 員が OA ジ ャ ー ナ ル を 支 援 す る も の で あ る。「 短 期 間 OA(Short-term Open Access)」 と は , 刊 行 後 の 一 定 期 間 の み,掲 載 論 文 全 て ,また は 一 部 を OA と す る も の で あ る。「 厳 選 OA(Open Access for selected content)」 と は , 編 集者 が 選 定 し た 論 文 を OA と す る も の で あ る。「 部 分 OA(Partial OA)」と は,最 も 重 要 な 論 文 を OA と す る も の で あ る 。だ が ,現 在 で は Willinsky 1 0 1) ,Maciejewska L.ら 1 03 ) の み が 示 し た こ れ ら の 類 型は ,一 般 に OA ジ ャ ー ナ ル と は み な さ れていない。 ま た ,先 に 述べ た「 Full OA ジ ャ ー ナ ル」,「 ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル」,「 Delayed OA ジ ャ ー ナ ル 」 につ い て も , ど こ ま でを OA ジ ャ ー ナ ル と み な す か は , 見 解 が 分 か れ る 。「 Full OA ジ ャ ー ナ ル 」 は , 一 般 的 に OA ジ ャ ー ナ ル と 認 め ら れ て お り 異論 は な い 。 Suber は ,「 Full OA ジ ャ ー ナ ル 」と「 ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル 」を OA ジ ャ ー ナ ル と み な し て い る が, 「 Delayed OA ジ ャ ー ナ ル 」は OA ジ ャ ー ナ ル と み なし て い な い 10 0 ) 。 ま た , 各 種 の 助成 団 体 が 助 成 を 受 けた 際 に 掲 載 を 義 務 づけ る OA ジ ャ ー ナ ル の 種 類 は,「 Full OA ジ ャ ー ナ ル」ま た は,「 ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル 」で の 論文 OA 化 で あ り,「 Delayed OA ジ ャ ー ナ ル 」は 対 象 に 含 め て 48 いない。 こ こ ま で ま と めて き た OA ジ ャ ーナ ル の 種 別 は ,OA ジャ ー ナ ル 掲 載 論 文 の OA 範 囲や OA 化 の 時 期 な ど , い わ ば OA ジ ャ ーナ ル の 状 態 で 区 別 し て い る も の で ある 。な お ,こ れ と は 別 の 視 点 で ,OA ジ ャ ー ナ ル の 起 源 で 区 別 す る 種 別 もあ る 。 David J. Solomon ら は, 創 刊 時 点 か ら 「 Full OA ジ ャ ー ナ ル 」 であ る も の を 「 Born OA」, 創 刊 時 点 で は 購読 型 学 術 雑 誌 で あ っ た が あ る 時 点 か ら 「 Full OA ジ ャ ー ナ ル 」 へ と 切 り 替 え た も の を 「 Converted OA」 と 区 別 し て いる 1 11 ) 。 本 稿 で は, 「 OA ジ ャ ー ナ ル」と い う 表 現 を, 「Full OA ジ ャ ー ナ ル」, 「ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル」,「Delayed OA ジ ャ ー ナル 」 の 総 称 と す る 立 場 を と る。「 Born OA」 か 「 Converted OA」 か の 違 い は 区別 し な い 。 た だ し ,先 行 研 究 を 引 用 す る 際 の「 OA ジ ャ ー ナ ル 」の 定 義 は ,各 先 行 研 究 内 で の 定 義 に 従 う。 3 OA ジ ャ ー ナ ル の 収 入 モ デ ル OA ジ ャー ナ ル の 収 入 モ デ ル に つ いて は , Raym Crow が 網羅 的 に ま と め ている 1 12 ) 。 そ れ に よ る と , OA ジ ャ ー ナ ル の 収 入 源 と し て , 1)APC, 2) 広 告 費 3)ス ポ ン サ ー シ ッ プ ,4)組 織 内 部 か ら の 補 助 ,5)外 部 か ら の 補 助 , 6)寄 付 お よ び 募金 ,7)基 金 設 立 の 寄付 ,8)現 物 支 援 ,9)パ ー ト ナ ー シ ッ プ , の 9 種 類 を 挙 げ て い る。「 広 告 費 」 と 「 ス ポ ン サー シ ッ プ 」 の 違 い は, 「 広 告 費 」が 広 告 の 表 示 さ れ た 回数 に よ り 金 額 が 決 まる の に 対 し , 「ス ポ ン サ ー シ ッ プ 」 は 広 告 の 掲 示 期 間 に よ り 金 額 が 決 ま る 点 で あ る 。「 組 織 内 部 か ら の 補助 」は ,学 会 費 の上 乗 せ や ,学 会 で 刊行 す る 他 の 購 読 型 学 術 雑 誌 の 黒 字 分 か ら の 補 填 を 意 味 す る 。「 外 部 か ら の 補 助 」 は , 政 府 や 助 成 団 体 , 企 業 か ら の 援 助 を 指 す 。「 現 物 支 援 」 と は , 施 設 や 機 器 の 提 供 や ボ ラ ン ティ ア に よ る 労 働 な どを 指 す 。Edward Zalta に よ る と ,OA ジャーナルの半分以上が大学から何らかの現物支援を受けている 1 13 ) 。 「 パ ー ト ナ ー シッ プ 」 と は , 実 際 に収 入 が 発 生 す る わ けで は な く 1)-8) と は 趣 き が 異 なる 。具 体 的 に は ,学 会 と 大 学 図 書 館 の 連携 を 意 味 す る も の で , 学 会 が OA ジ ャ ー ナ ル の 編 集等 を 行 い , 大 学 図 書館 は デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ の フ ォー マ ッ ト 作 成 や マ ーク ア ッ プ ,Web 上 で の 流 通 イ ン フ ラ の 提 供 な ど を 行う こ と を 意 味 す る 。 49 4 OA ジ ャ ー ナ ル の 歴 史 Michael Laakso ら は ,OA ジ ャ ー ナ ル タ イ ト ル 数 お よび 掲 載 論 文 数 の 調 査 結 果 に も とづ き ,調 査 対 象 年 を 3 期 に 分 け て 傾 向 を分 析 し て いる 1 14 ) 。 ま ず 1993-1999 年 は 「 草 創 期 」 と 名付 け て い る 。 こ の 頃 OA ジ ャ ー ナ ル タ イ ト ル 数 お よび そ の 掲 載 論 文 数 が急 激 に 伸 び る 一 方 で , 多 く の OA ジ ャ ー ナ ル は , 研究 者 個 人 ま た は グ ルー プ が , そ れ ぞ れ の所 属 機 関 の Web サ ー バ 上 に 簡 素な プ ラ ッ ト フ ォ ー ム を 作 成 し て ,ボ ラ ン テ ィ ア 的 に 公 開 していた。 次 の 2000-2004 年 は , OA ジ ャ ーナ ル 数 お よ び そ の 掲載 論 文 数 が 急 激 に 伸 び つ つ ,OA ジ ャ ー ナ ル に 関 す る革 新 的 な 動 き が あ った た め に「 革 新 期 」と 名 付 け ら れ て い る 。革 新 的 な 動 き と は ,具 体 的 に は ,著 者 支 払 い モ デ ル と い う 新し い ビ ジ ネ ス モ デ ルの 誕 生 ,PLOS に よ る 厳 選 さ れ た 質 の 高 い OA ジャ ー ナ ル 創 刊 , HighWire Press を 利 用 して の 学 会 刊 行 雑 誌 の 電 子 化 ,J-STAGE な ど の 国 主 導 の OA ジ ャ ー ナ ル プ ラ ット フ ォ ー ム の 誕 生 ,大 手 出 版 社に よ る ハ イ ブ リ ッ ドモ デ ル の 提 供 ,BOAI の 発 布 な ど で あ る。 次 の 2005-2009 年 は 「 強 化 期 」 と名 付 け ら れ て い る 。こ れ は ,OA 論 文 数 は ピ ー ク 時 に 比 べ れ ば 増 加 率 が 落 ち る も の の 毎 年 約 20% ず つ 増 加 し て お り ,OA ジ ャ ー ナ ル を 支 援 す るイ ン フ ラ が 充 実 し てい る 時 期 で あ る た め で あ る 。 具 体 的 に は , OA ジ ャ ー ナ ル 情 報 を 網 羅 的 に 収 録 す る 「 Directory of Open Access Journals( 以 下 DOAJ)」 の 存 在 や , オ ラ ン ダ 国 立 図 書 館 との 合 意 に よ る そ の 長期 保 存 の 可 能 性 ,オ ー プ ン ジ ャ ー ナ ル シ ス テ ム の ソフ ト ウ ェ ア を 導 入 する 学 術 雑 誌 の 増 加 ,大 手 商 業 出 版 社 の OA 出 版 事 業 参 入 ,多 くの 助 成 機 関 が OA ジ ャー ナ ル コ ス ト に 研 究 助 成 費 を 充 て る こ とを 認 め 始 め た こ と など で あ る 。 5 OA メガ ジ ャ ー ナ ル 従 来 の 学 術 雑 誌と は 異 質な OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル と 呼 ば れる 学 術 雑 誌 が, 近 年 急 速 に 成 長し て い る 。た と え ば ,最 初 の OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル PLOS ONE は ,2012 年 に は STM 分 野 の 学 術 雑 誌 掲 載 論 文 全 体 の 約 3%に あ た る 件数 の 論 文 を 掲 載 した と い わ れ て いる 1 15 ) 。 そ の PLOS ONE を 創 刊 し た 出 版 元 PLOS の当 時 の CEO で あ った Peter Binfield は, OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル の 定 50 義 を 三 つ 挙 げ てい る 11 6 ) 。 まず , 1)大 規 模 で あ る こ と, 具 体 的 に は 1 年 間 に 1,000 本 単位 の 論 文 を 掲 載 し,規 模 の 経 済 か ら 利 益を 得 る 。2)購 読 料 を と ら ず,著 者 支 払 い 型 の ビ ジ ネス モ デ ル を 用 い る こと , 3)掲 載 す る 論 文 を 影 響 力 の大 き い 論 文 に 絞 り 込む な ど の ,人 為 的 な 掲 載 論 文 数 の 制 限 を 行 わ な い とい う こ と で あ る。3)は 換 言 す る と ,科 学 的 な 正 確 さ を 査 読 の 基 準 と し,そ の 論 文 の 新 規 性,速 報 性 や ,掲 載 後予 想 さ れ る 影 響 力 の 大 小 を 問 わ ず,掲 載 数 を 絞 る こ とな く 公 表 す る と い うこ と で あ る 。ま た ,Binfield は こ れ に 加 え て , 幅広 い 分 野 を 対 象 と する こ と を , OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル の特 徴 と し て 挙 げ て い る 1 1 7) 。 PLOS ONE は , 創 刊 2 年 目の 2007 年 に は 1,258 論 文 を 掲 載 し ,そ の 後 急 激 に 掲 載 数は 増 え , 2013 年 に は 28,736 論 文 を 掲 載 し て いる 1 18 ) 。Binfield は ,こ れ だ け の 量 の 論 文 を 掲 載 す る 学 術雑 誌 を 購 読 す る の は困 難 で ,だか ら こ そ 著 者 支 払 い 型 の ビ ジ ネ ス モ デ ルを 用 い る の で あ り,規 模 の 経 済 が 論 文 単位 の コ ス ト を 下 げ る , と 述 べ てい る 11 6 ) 。 さら に Binfield は , 掲 載 論 文 数 増 加 の た め, 対象分野は幅広くあるべきで,査読で多数の論文が却下されないよう, 査 読 で は 論 文 の影 響 力 は 評 価 せ ず,科 学 的 な 正 確 さ を 基準 と し て い る と 述 べ て いる 1 17 ) 。 西薗由依 11 9) は OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル の特 徴 と し て 1)掲 載 論 文 数 の 多 さ, 2)幅 広 い 領 域 を対 象 ,3)科学 的 正 確 さ を 掲 載 基 準 と す る軽 度 の 査 読 に よ り 論 文 を 速 く 効率 的 に 出 版 ,4)出 版 後 の 論 文 評 価 シ ス テム を 備 え る ,5) 「 カ ス ケ ー ド 査 読 」 を 挙 げ て い る 。「 カ ス ケ ー ド 査 読 」 と は , 他 の 学 術 雑 誌 で 不 受 理 とな っ た 論 文 を,同 じ 出 版 社 の 他 の 学 術 雑誌 に 振 り 替 え ら れ る 仕 組 み で,最 初 の 査 読 報 告 書 が引 き 継 が れ る こ と から ,論 文 の 査 読 プ ロ セ ス を 振 り替 え 先 の 学 術 雑 誌 では 簡 略 化 で き る。こ れ に よ り ,著 者 と 出 版 社 双 方 で労 力 を 節 約 で き る。な お ,こ の 仕 組 みの 呼 称 に は「 カ ス ケ ー ド ・ シ ス テム 」,「 カ ス ケ ー ド モデ ル 」 な ど 別 の 表 現も あ る 。 OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル は 登 場 し た ば か り の 新 し い 形 の 学 術 雑 誌 で あ る た め ,ま だ 厳 密 に定 義 づ け る こ と は 難し い が ,Binfield の 定 義 と 西 薗 に よ る 特 徴 の 指 摘 をふ ま え ,1)掲 載論 文 数 の 多 さ ,2)著者 支 払 い 型 の ビ ジ ネ ス モ デ ル ,3)広範 な 分 野 を 対 象 , 4)軽 度 の 査 読 , の 4 点 が OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル の 特 徴 と考 え ら れ る 。その 他 に 西 薗 が 特 徴 に 挙 げて い た ,出 版 後 の 論 文 評 価 シ ステ ム と し て は , 一 般 に Altmetrics と 呼 ば れ る , 論 文 閲 51 覧 回 数 や ダ ウ ンロ ー ド 数 ,ソ ー シ ャ ル メ デ ィ ア で の 投 稿数 な ど を 示 す も の が あ り ,PLOS は PLOS ONE に 限 ら ず PLOS の 刊 行す る 全 て の OA ジ ャ ー ナ ル 掲 載 論 文 に つ い て そ れ ら を 確 認 で き る Web サ イ ト Article-Level Metrics Reports を 開 設 し て いる ている 1 21 ) 1 20 ) 。一 方 NPG も 同 様の デ ー タ を 提 供 し 。つ ま り ,出 版 後 の 論文 評 価 シ ス テ ムは OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル 固 有 の 特 徴 で は なく ,購 読 型 電 子 ジ ャー ナ ル も 含 む 一 部 の学 術 雑 誌 に 適 用 さ れ て い る 先 進的 な 仕 組 み で あ る 。カ ス ケ ー ド モ デ ル もま た OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル 一 般 が採 用 し て い る わ け では な い 。 Binfield 自 身,“ PLOS ONE は カ ス ケ ー ド モデ ル を 必 ず し も 採 用し て い な い”, “カスケードの底辺に あ る 不 受 理 の 論文 を 集 め た 学 術 雑 誌に は ,誰 も投 稿 し た い と 思 い ま せ ん。 ( 中 略 ) PLOS ONE は ,当 然 な が ら,却 下 さ れ た 論 文 を 集め た 学 術 雑 誌 と 思 わ れ な い よ う努 力 し て い ま す ” と述 べ て おり 1 17 ) ,OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル の 代 表 格 と も いえ る PLOS ONE 自 身 が カ ス ケ ー ド モ デル を 採 用 し て い る と 見 な さ れ る こと を 否 定 し て い る。こ の よ う な 理 由 か ら,本 稿 で は ,出 版 後 の 論 文 評 価シ ス テ ム を 備 え る こと と , カ ス ケ ー ド モデ ル は OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル の 特徴 と は み な さ な い 。 注・引用文献 1) 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文 を発 表 し て い る か を 示す 。 4 項 で は , 研 究者 が OA ジャ ー ナ ル へ 論 文 を 発表 す る 理 由 と ,発 表し な い 理 由 を 整 理 し,OA ジ ャー ナ ル が 研究 者 に と って の 論 文 の 主 た る 発表 先 と な り 得 る か を探 る 。 研 究者 意 識 に 関 す る 調 査 と し て は ,主 に 研 究者 に 対 す る 質 問 紙 調査 が 行 わ れて い る が ,対 象 者 数,対 象 国 ,対 象 分 野 な ど は 調 査 に よ っ て さ ま ざ ま であ る 。ま た ,調 査 者の 立 場 な ど に よ り 質問 の 内 容 や 設 定 が 異な り, 必ずしも上述の2~4項の分類別に調査が行われているわけではない。 そ こ で,先 行 研 究の 中 で も, 国 や 分 野を 狭 い 範囲 で 限 定 せ ず ,一定 数 以 上 の 研究 者 に 対 し て 行 わ れた 先 行 研 究 を ,第 3-1 表 に ま とめ た 。2 項 以 降 で は,第 3-1 表中 の 該 当す る 先 行 研 究 ,およ び 第 3-1 表中 に は 含ま れ る ほ ど大 規 模 で は な い が ,関 連 の あ る先 行 研 究 に 基 づ い て レ ビ ュ ーを 行 う。 68 第 3-1 表 研究者名 研 究 者 に 対 する OA ジャ ー ナ ル に 関す る 調 査 実施年 回答人数(回答率) / 対象人数 OAJへ 投稿先 OAJへの OAJへの 投稿しない 選択 投稿経験 投稿理由 理由 Rowlandsら1) 2004年 3,787名(3.5%) / 107,500名 ○ Schroterら8) 2006年 468名(42%) / 1,113名 ○ Swanら17) OAJでの論文掲載経験 2004年 あり:154名(5.1%)/3,000名 なし:157名(3.2%)/5,000名 国立大学法人および 国立大学図書館協会 国際学術コミュニケーション 2006年 大学共同利用機関法人 に所属する教員 委員会ら19) 613名(30.7%) / 2,000名 Austinら 17) オーストラリアの全大学およ び 2008年 企業,政府組織の所属者 509名 (1.8%)/ 27,385名 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 生物医学分野の雑誌論文発 2008年 表者 713名 /4,055名 ○ Morrisら11) Bioscience Federation加盟の 2009年 35学会の研究者 1,368名(3.57%) / 38,365名 ○ SOAP10) 2010年 Kenneyら4) 2011年 がん研究者7,433名 ○ OAジャーナルでの 2012年 論文掲載経験のある 研究者 429名 ○ JISC 12) Solomonら 6) Taylor & Francis7) Wiley 5) Wiley13) 2012年 38,358名(71.2%) / 53890名 ○ 14,769名(19%) / 82,994名 2011年中にWileyの学術雑誌 2012年 に論文を掲載した著者 10,673名(10.3%) / 104,000名 2012年中にWileyの学術雑誌 2013年 に論文を掲載した著者 84,65名(7.9%) / 107,000名 1 調査項目に含まれている項目に○を付している 2 OAJ は OA ジ ャ ー ナ ル の 略 69 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 2 研 究 者 の投 稿 先 選 定 の要 因 投 稿 先を 決 め る 上 で ,研 究 者 が 何 を 重視 し て いる か を 問 う 先 行 研 究は , 多 く が研 究 者 へ の 質 問 紙 調査 に よ っ て 行 っ て おり ,他 は 半構 造 化 イン タ ビ ュ ーが わ ず か に あ る だ けで あ る 。質問 紙 調 査で ,投 稿 先選 定 の 要因 の 重 要 度を 測 る 方 法 と し て は主 に 2 種 類 あ る 。 1 つ は ,要 因 の 候 補 を複 数 挙 げ てそ れ ら を 4~ 5 段階 で 評 価 さ せて 点 数 化し , 点 数 の 高 い 順 に重 要 な 要 因と 判 断 す る も の で ある 。もう 1 つ は ,要 因 の 候 補 の中 か ら 重視 す る 要 因を 研 究 者 に 選 択 さ せて ,選 択 した 研 究 者数 の 多 い 順 に 重 要 と判 断 す る 方法 で あ る 。 先 行 研究 の い ず れ の 調 査 にお い て も 結 果 は ほ ぼ同 じ で ,必ず“ イン パ ク ト ファ ク タ ー ” が 上位 3 位 以 内 に 入っ て いる 1) - 6) 。 次 に 調 査 に よっ て 要 因 の 表 現 が “ 読 者 層 ”,“ コ ミ ュ ニ テ ィ ”,“ 分 野 ” と 異 な る が ,「 自 分 の 論 文の 内 容 と , 雑 誌 の 読者 層 が 分 野 的 に 合 うこ と 」 も ま た 必 ず 上 位 3 位 以 内に 入 っ て い る 1 )- 6) 。ま た , “ 評 判 ”は 調 査 に よっ て は そ も そも 選 択 肢 に 入っ て い な い 場 合 も ある が ,選 択肢 に 含 まれ て い る 調 査 で は,必 ず 1 番 目 に重 要 な 要 因 と し て選 択 さ れ て い る 3 ), 4) 。 イ ン パク ト フ ァ ク タ ー は,学 術 雑 誌 の質 を 測 る客 観 的 な 指 標 の 一 つで あ り,同 じ 分 野 内に お い てそ の 数 値 が 高 い ほ ど質 が 高 い と,一 般 的に み な さ れて い る 。学術 雑 誌 の評 判 は ,同じ 分 野 の研 究 者 コ ミ ュ ニ テ ィに よ る 学 術雑 誌 に 対 す る 評 価 によ っ て 決 ま る も の であ る 。こ のこ と か ら,研 究 者 は論 文 の 投 稿 先 選 定 にお い て は ,同 じ 分 野の 研 究 者 か ら の 十 分な 評 価 を 得ら れ る こ と を 重 視 して い る と い え る 。 こ れに 対 し て ,学 術 雑 誌の ビ ジ ネ ス モ デ ル に対 す る 研 究 者 の 関 心は 低 く ,OA ジ ャ ー ナ ルで あ る こと は 投 稿 先 を 選 ぶ 上 で の 動 機 づ け に は つな が っ て いな い 7 ) -9 ) 。投 稿 先 選定 時 に OA ジ ャ ー ナル で あ る こ と が 考 慮さ れ て い る こと を 示 す 調 査 結 果 もあ る が ,他の 要 因 と比 較 す る と,そ の 重要 度 は 低い 2) , 3) ,6 ), 1 0) 。 以 上 の結 果 を 整 理 す る と,研 究 者 が 論文 を 投 稿す る 際 に 重 視 す る 要因 は ,2004 年 以 降 変 わ ら ず「 学 術 雑誌 の 質 」, 「 学 術 雑 誌の 評 価 」, 「論文の 内 容 に合 致 し た 分 野 を 扱 う学 術 雑 誌 か」で あ る。研 究 者 にと っ て, 投 稿 先 が OA ジ ャ ー ナル で あ るか ど う か と い う こ と は , ほ と ん ど 考 慮 され て い な い。 70 3 OA ジ ャ ー ナル で の 発表 経 験 研 究 者が 実 際 に OA ジ ャ ーナ ル へ 論 文 を 発 表 した 経 験 は , 分 野 や 調査 対象数の違いによっては,突出して高い割合を示す先行研究もあるが, 全 体 的に は 2004 年 時 点 から 次 第 に 増 加 す る 傾向 に あ る 。 研 究 者 1,000 名 以 上を 調 査 対 象 と し た 大規 模 調 査 に つ い て,時 系 列 に 概観 す る とそ の 傾 向 は明 ら か で あ る 。 Ian Rowlands ら の 2004 年 の 調 査で は , 調査 対 象 の 11%の 研 究 者 が OA ジ ャ ーナ ル で の 論 文 発 表 経験 が あ る と 回 答 し てい る 1) 。Morris らの 2006 年 の 調査 で は 25%が 1 1) ,JISC の 2008 年 の 調査 で は 43% 12 ) ,SOAP の 2010 年 の 調査 で は 52.0% 1 0) ,Wiley の 2012 年 の 調 査で は 32%の 研 究 者 が OA ジ ャ ー ナ ル で の 発 表 経 験 が あ る と 回 答 し て い る 5) 。 JISC の 2008 年調 査 の 結 果,お よ び Study of Open Access Publishing ( 以 下 ,SOAP) の 2010 年 調 査の 結 果 が , 2012 年 の Wiley の調 査 結 果よ り 高 い 値 を示 し た 理 由 は ,調査 対 象 の 違 いが 影 響 して い る と 考 え ら れ,必 ず し も 2008 年か ら 2012 年 に か け て ,OA ジ ャ ー ナル で 論 文 発 表 経 験 のあ る 研 究 者の 割 合 が 減 っ た と は判 断 で き な い 。Wiley の 2012 年 の 調 査 と ,同 じ 調 査方 法 で 行 わ れ て いる 2013 年 の調 査 1 3) で は 59%の 研 究 者 が OA ジ ャ ー ナ ルで の 発 表 経 験 が あ ると 回 答 し て い る 。 OA ジ ャー ナ ル で の 論 文 発表 経 験 が あ る 研 究 者は 2004 年 の 11%か ら, 2013 年に は 59%に ま で 増 加し , 研 究 者 に と っ て OA ジ ャ ー ナ ル で 論文 を 発 表 する 行 為 が 浸 透 し て いる こ と が わ か る 。 4 OA ジ ャ ー ナル で の 発表 を 左 右 す る 要 因 Jingfeng Xia は , 1991 年 か ら 2008 年 の 間に 行 わ れ た , 研 究 者の OA ジ ャ ーナ ル に 関 す る 26 の 意 識 調査 を 分 析 して い る 14 ) 。対象としている 調 査 の 中 に は , BOAI 発 布 前 ,つ ま り OA ジ ャ ーナ ル に 対 す る 明 確 な認 識 が 確 立 さ れ る 前 の ,「 オ ン ラ イ ン で 無 料 で 読 め る 学 術 雑 誌 」 と い う 考 え 方 に 基 づ い た 13 種 類 の 調査 も 含 ま れ て い る。そ れ ら 合計 26 の 調 査の 分 析 結 果で は ,OA ジ ャ ー ナ ルへ 投 稿 する 1 番 の 理由 は“ 研 究 者 は 自 らの 研 究を幅広い読者層へ届け,制限なく他者と共有することを望んでいる ” で あ り,2 番 目 の理 由 は“ 研 究 者は OA モ デ ルが( 出版 サ イ ク ル の)プ ロ セ ス を迅 速 化 で き る こ と を期 待 し て い る ”と分 析 し て い る。 つ ま り,読 者 層 の拡 大 と 出 版 ま で の 早さ が OA ジャ ー ナ ルへ の 投 稿 を 促 す 要 因と な 71 っ て いる 。 逆 に OA ジ ャー ナ ル へ 投 稿し な い 理 由 と し て は, “OA ジ ャ ー ナ ル の存 在 は 知 って い る が ,投 稿 や 査読 ,製 作 がど の よ うに 行 わ れ て い る か や ,オ ンラインの著作がどのように規制されているかなどの過程を知らない” こ と が一 番 の 理 由 と し て 分析 さ れ て い る 。それ と 同 等 の 理由 と し て“ 研 究 者 は一 般 的 に ,OA ジ ャ ーナ ル は イ ン パ ク ト ファ ク タ ー が 低 く 被 引用 率 も 低 いと 考 え て い る ”こ と を 挙 げ てい る 。つ ま り ,OA ジ ャ ー ナ ル への 理 解 が 不十 分 で あ る こ と と , 質 へ の 懸 念 が OA ジ ャ ー ナ ルへ の 投 稿を 阻 む 要 因 であ る と 分 析 さ れ て いる 。 こ の Xia の 調 査対 象 の 大 半 が OA ジャ ー ナ ル 草創 期 ま で に 行 わ れ た 調 査 で あ る 。 こ の ため , ま だ OA ジ ャ ーナ ル が研究者に十分に認知される前に行われた調査結果が多く含まれてお り , その こ と が 分 析 結 果 に反 映 さ れ て い る と 考え ら れ る 。 Xia の 調 査が 分 析 対 象 と した 調 査 の うち 4 調 査 1 ) ,1 5) -1 7 ) と は 重 複 す るが , 以 下 で は BOAI が 発 布 さ れ て OA ジ ャ ー ナ ル が明 確 に 認 識 さ れ る よう に な っ た 2002 年以 降 に ,研 究 者 の OA ジ ャ ー ナ ルへ の 投 稿 を 左 右 す る要 因 を 調 査 した 先 行 研 究 を レ ビ ュー す る 。 研 究 者が OA ジ ャ ー ナ ル に 論 文 を 発 表 す る 理 由と し て は,「 全 読 者が 無 料 で 読め る と い う OA の 理 念 に 賛 同 する た め 」が 必 ず 挙 が り 11 ), 1 5) ,1 7) - 20 ) 多 く の 調査 に お い て は 最 も 多く の 研 究 者 が 理 由 に挙 げ て い る つ づ いて 多 い の が 「 読 者 層が 広 い か ら 」 と い うも の で ある 15 ) ,1 8) - 20 ) 1 1) , 1 7) - 20 ) , 。 。上 述 の 「全 読 者 が 無 料 で 読 める 」 と 事 実 と し て は同 じ だ が , 前 者 が OA の 理 念 とい う 意 味 合 い を 含 むの に 対 し ,後 者 は 学術 雑 誌 の 役 割 と い う側 面 と し ての 意 味 合 い 含 ん で いる 点 が 異 な る 。以上 の 結 果 は ,調 査 年 によ る 大 き な違 い は 見 ら れ ず , 一貫 し た 結 果 と な っ てい る 。 つ ま り, 研 究 者 が OA ジャ ー ナ ル に 論文 を 発 表す る 一 番 の 理 由 は ,一 貫 し て「 OA の 理 念 へ の 賛同 」 で あ っ た 。 そ して ,「研 究 成 果 を 広範 囲 に 広 め る」 と い う , 学 術 雑 誌に 本 来 求 め ら れ る 役割 を OA ジャ ー ナ ルは 実 現 で きる と い う 認 識 が つ づ い て い た 。 一 方 で,OA ジ ャー ナ ル に 論文 を 発 表 し な い 理 由は ,調 査 年 に よ っ てや や 傾 向が 異 な る 。 2008 年ま で の 調 査 で は , 研究 者 が OA ジ ャ ー ナル に 関 す る 知識 や 認 識 が 不 十 分 であ る こ と や , そ も そ も OA ジ ャー ナ ル が十 分 に 存 在し な い こ と が 主 な 理由 と な っ て い る 。調 査 に よ っ て,表 現 や研 究 72 者 に 提示 す る 選 択 肢 が 異 なる が , 「 自 分 の 分 野に お け る OA ジ ャ ーナ ル が よ く わか ら ず ,論 文 を 投 稿す る ほ ど の 確 信 が もて な い」, 「 発 表 す べき OA ジ ャ ーナ ル を 特 定 で き な い」が 理 由 とし て 多 く挙 が っ て い る 1 8) -2 0 ) 。中 に は 比 較的 少 数 で は あ る が 「自 分 の 分 野 に OA ジ ャ ー ナ ルが な い」,「 OA ジ ャ ー ナル が 存 在 す る こ と を知 ら な い」と い う 理由 も 挙 が っ て いた 1 7) 。し か し ,こ の よ う な OA ジャ ー ナ ル へ の認 識 の 低さ か ら く る 理 由 は , 2009 年 以 降の 調 査 で は 見 ら れ なく な る 。 こ れ に代 わ っ て 2009 年 以 降に 新 た に 挙 が っ てく る 理 由 は ,APC 支 払 い に 関 する も の で あ る 。 「出 版 費 用 の 助成 が 受 け られ な い 」2) , 5) ,1 0 ) , 11 ) ,1 3) ,2 1 ) , 「 出 版の た め に APC を 支 払い た く な い 」 12 ) とい っ た 理 由 が上 位 に 挙が る よ う にな る 。 一 方,調 査 年 に関 わ ら ず,必 ず 理 由と し て 挙 がっ て い た の は ,OA ジ ャ ー ナ ル の 学 術 雑 誌 と し て の 質 へ の 懸 念 で あ っ た 。「 評 判 が 低 い /不 明 」 2) ,1 1 ), 15 ), 2 1) ,「 イ ン パ ク ト ファ ク タ ー が 低 い /付 与 さ れて い な い」 2) , 10 ), 15 ) , 「 評 価の 高 い OA ジ ャ ー ナル が な い 」5 ) ,1 3) , 「OA ジ ャ ーナ ル の 質 に対 す る 周 囲 の認 識 が 心 配 」1 3) と ,調 査に よ っ て 表 現 は さ ま ざ ま だ が ,OA ジ ャ ー ナ ル の学 術 雑 誌 と し て の 質へ の 懸 念 は,調 査 年に 関 わ ら ず 一 貫 し て理 由 と し て挙 げ ら れ て い た 。2 項で 研 究 者 が 論 文 投稿 先 を 選 定 す る 際 に, 「学 術雑誌の質」を重視していることを述べた。この結果はその裏返しで, OA ジ ャ ー ナ ル は研 究 者 が投 稿 先 を 選 定 す る 上で 重 要 な 要 因 で あ る,学 術 雑 誌 とし て の 質 が 研 究 者 に評 価 さ れ て い な い,も し く は 研究 者 間 で評 価 さ れ てい な い と 認 識 さ れ てい る た め に , 登 場 して 以 降 , 常 に OA ジ ャー ナ ル へ発 表 し な い 理 由 と して 挙 が っ て い た 。 以 上 の先 行 研 究 と,Xia の 調査 14 ) と を 合 わ せ て整 理 す る と ,OA ジ ャ ー ナ ル で論 文 を 発 表 す る 理 由は ,OA ジャ ー ナ ル 草創 期 ま で は「 迅 速 に幅 広 い 読 者層 へ 論 文 を 届 け る」と い う 学 術雑 誌 の 役割 の 改 善 へ の 期 待 であ っ た も のが ,OA ジャ ー ナ ル が認 知 さ れ る に 従 い,「 OA の 理 念 へ の 賛 同」が よ り 大き な 理 由 と な っ て きた 。OA ジ ャー ナ ル で論 文 を 発 表 し な い 理由 は , OA ジ ャ ー ナル 草 創 期 ま では 「 OA ジ ャ ー ナ ルに 対 す る 認 知 や 理 解が 不 十 分」, 「 OA ジ ャ ー ナ ル が 十 分に 存 在 し な い こ と 」が 主た る 理 由 で あ った が, OA ジ ャー ナ ル が 普 及 す るに つ れ て 「 APC の 支 払 い 」と い う OA ジ ャー ナ ル そ のも の は 理 解 し た 上 で,論 文 を 発表 し た 場合 に 発 生 す る 現 実 的な 問 73 題 点 が主 た る 理 由 に 変 わ る。 ま た , 調 査 年 に 関わ ら ず , 一 貫 し て OA ジ ャ ー ナル の「 学 術雑 誌 と して の 質 へ の 懸 念 」が 理 由 と し て挙 げ ら れて い た。 B OA ジ ャ ー ナル の 学 術雑 誌 と し て の 質 1 OA ジ ャ ー ナル の 質 の低 さ を 示 す 事 例 研 究者 が OA ジャ ー ナ ルの 質 を 懸 念 す る 背 景に は , OA ジ ャ ー ナル の 多 く は 歴史 が 浅 く 評 価 が 定 まっ て い な い と い う 事情 も あ る 。 だ が OA ジャ ー ナ ルの 学 術 雑 誌 と し て の質 を 疑 わ れ る よ う な 状 況 も ,研究 者 や 図書 館 員 か ら複 数 報 告 さ れ て い る。 コ ロ ラ ド 大 学 デ ン バ ー 校 ( University of Colorado Denver ) の 図 書 館 員 Jeffrey Beall は,APC に よ る 金 儲 け を 目的 と す る 邪 悪 な OA 出 版社 が 多 く存 在 す る と し て , 疑わ し い 出 版 社 名 や OA ジ ャ ー ナル の 一 覧を 毎 年 公 開し て い る 。 2012 年版 で は 24 社 が 挙 げ られ て い た が 2013 年 版 では 244 社 2 3) ,2014 年 版 では 477 社 2 4) 2 2) , そ の数 が と 増 加 して い る。ま た , Beall は ,不 正 な OA ジ ャ ーナ ル の 事 例 と し て ,Web サ イ ト を も た ない 既 存 の 評価 の 高 い 学 術 雑 誌 Jökull を 騙 る 偽 の Web サ イト が 何 者 か によ っ て 作 成さ れ ,こ れを 本 物 と間 違 え た 研 究 者 が 掲載 費 を だ ま し と ら れる 事 件があったとしている 2 5) 。 同 様 の 事 例 は , Archives des Sciences や Wulfenia な ど でも 生 じ てい る と いう 2 6) 。 研 究 者の Gunther Eysenbach は ,わ ずか 2-3 ヶ 月の 間 に ,OA 出 版 社の Bentham よ り同 社 の OA ジ ャー ナ ル へ の 投 稿 を求 め る メ ー ル を 11 通も 送 り つ けら れ た と い う 2 7) 。対象 の OA ジ ャ ー ナル の 分 野 は ,化 学 ,倫 理 学 , 経 営 学な ど そ れ ぞ れ 全 く 異な る に も 関 わ ら ず ,投 稿 を 求 める メ ー ル 本 文 で は 投稿 を 求 め る 理 由 と して“ あ な たが こ の 分野 内 で 高 名 な た め”と 書 か れ てい た 。Eysenbach は こ れ ら の メー ル を スパ ム と 非 難 し て い る。 さ ら に,ス パ ム メ ール を 送 りつ け て く る よ う な 出版 社 に は 投 稿 し な い よ う に と ,他 の 研 究 者 に 勧 め ,OA 出 版 社へ の 不 信感 を 強 く 表 し て い る。 2 OA ジ ャ ー ナル の 質 の測 定 論 文 の OA 化 が被 引 用 に 影 響 す る か と い う 観点 で の 調 査 は 多 く 行わ れ 74 て い る。Alma Swan は 2001 年 から 2009 年 に かけ て 行 わ れ た 36 の 調 査を レ ビ ュー し ,OA であ る こ と が 被 引 用 数 の 増 加 に影 響 を 与 え る か ど うか は 調 査 によ っ て 結 果 が 異 な るこ と を 示 し て いる 2 8) 。た だ し ,こ れ ら の調 査 結 果は OA 化 の 影響 を 見 るも の で , OA ジ ャ ーナ ル そ の も の の 質 を測 る こ と を 目的 と し た 調 査 結 果 では な い 。本 項 で は ,OA ジ ャ ーナ ル そ の もの の 学術雑誌としての質を明らかにすることを目的として行われた先行研 究 を レビ ュ ー す る 。 OA ジ ャ ー ナ ルの 学 術 雑誌 と し て の 質 を 測 る調 査 で は ,質 を 測 る基 準 と し て,イ ン パ ク トフ ァ ク ター と 被 引 用 数 を 用 いて い る 。 イン パ ク トフ ァ ク タ ーを 基 準 と し た 調 査 とし て は ,Journal Citation Reports( 以 下 JCR) を 用 いた 調 査 が 3 つ あ る 。 Thomson Scientific 社 の調 査 で は , 2002 年 版 の JCR に 収 録 さ れて い た 192 の OA ジ ャー ナ ル の過 半 数 が , イ ン パ クト フ ァ ク タ ー 順 で は , そ れ ぞ れの 分 野 の 下 位 50% に 位 置 して いた 2 9) 。な お ,JCR は“ 自然 科 学 と 社 会 科学 の 世 界 を 代 表 す る学 術 雑 誌 に つ い て ,そ の 重 要 性を 評 価 する た め の 体系 的 か つ 客 観 的 な 手段 と な る デ ー タ ベ ース ”であ り 30 ) ,収 録 され て い ると い う 点 だ け で も その 質 が 評 価 さ れ て いる と み な せ る 。2002 年版 の う ち, 自 然 科 学 分 野の Science edition だ け でも 5,876 タ イ ト ル の 学 術 雑 誌情 報 を 収 録 し て い るた め ,OA ジャ ー ナ ルの 192 タ イ ト ル は 多い と は い えな い 。 半 年 後に Marie E. McVeigh が 2003 年 版 の JCR を 用 い て 追 跡 調 査 を行 っ て いる が , 収 録 さ れ て いる OA ジ ャ ー ナ ル タイ ト ル 数 は 239 タ イト ル に 増 えた も の の , 前 調 査 同様 に 過 半 数 の OA ジ ャ ー ナ ルが , イ ンパ ク ト フ ァ クタ ー 順 で は そ れ ぞ れの 分 野 の 下 位 50% に位 置 し て い た 31) 。 だ が, 例 外 的に ,そ れ ぞ れ の 分 野の 上 位 10% に 位 置す る OA ジ ャ ー ナ ルが 14 タ イ ト ル存 在 し た 。 McVeigh の 調 査 で は ,OA ジ ャ ー ナル の 特 定 に DOAJ と J-STAGE と SciELO を 用 いて い る 。J-STAGE と は, “ 日 本国 内 の 科 学技 術 情 報 関 係 の 電 子ジ ャ ー ナ ル発 行 を 支 援 す る シ ステ ム ”であ る 32 ) 。SciELO は 南 米 諸 国 の 学術 雑 誌 の 電子 版 を 無 料 で 公 開 する プ ラ ッ ト フ ォ ー ムで あ る 33) 。こ の た め ,宮 入 暢 子は 調 査 対 象 が 非 欧 米系 の OA ジャ ー ナ ルに 偏 り が あ る こ と がイ ン パ ク トフ ァ ク タ ー の 低 い 傾向 に つ な が っ た 可 能性 を 指 摘 し て いる 75 3 4) 。さ ら に 宮入 は ,McVeigh の 調 査対 象 と した OA ジ ャ ーナ ル に は ,Converted OA が 多 く含 ま れ る こ と から Born OA の 評価 を 十 分に で き て い な い 可 能性 を 指 摘 して い る 。 Elena Giglia は ,McVeigh の 調 査 方 法 を 踏 襲し て ,OA ジ ャ ー ナ ルの 質 の 測 定を 試 み て い る 3 5) 。Giglia は OA ジ ャ ーナ ル の 特 定 に DOAJ の みを 用 い ,J-STAGE や SciELO を 用 い て い ない 点が McVeigh の 調 査 と 異 なる 。結 果 は ,2003 年 から 2008 年 に か けて JCR に 収 録さ れ る OA ジ ャ ー ナル 数 は 増 加 傾向 に あ り ,特 に 自 然科 学 分 野 で の そ の 傾向 は 顕 著 で あ っ た。 2008 年 時 点で JCR に 収 録 さ れ てい る OA ジ ャ ー ナ ル数 は 385 タ イ ト ル であ っ た 。385 タ イ ト ル は ,自然 科 学 分 野 の 355 タ イ トル ,社 会 科 学 分 野 の 30 タ イ トル で 構 成 さ れ て い た。2008 年 版 の JCR 収録 誌 全 体 に 占 め る 割合 は, 自 然 科学 分 野 は 5.38%, 社会 科 学 分 野 は 1.52%と , 自 然科 学 分 野の 方 が 高い。 イ ンパ ク ト フ ァ ク タ ー を基 準 と し た 上 述 の 調査 を 見 る と ,2002 年 から 2008 年 に か けて JCR に 収 録さ れ る ほ ど ,学 術雑 誌 と し て の 質 を 認め ら れ た OA ジ ャ ー ナル が 192 タ イ トル か ら 385 タ イ ト ルに 増 え , 2008 年 に は イ ン パク ト フ ァ ク タ ー の 高い 上 位 50%に も 相 当数 の OA ジ ャ ー ナ ルが 含ま れ て お り ,OA ジ ャー ナ ル の質 は 次 第 に 評 価 さ れて き て い る と 考 え られ る 。 た だ 学術 雑 誌 全 体 に 占 め る OA ジ ャ ーナ ル の 割合 が 不 明 確 な た め ,こ の 結 果 が高 い か ど う か は 判 断で き な い 。 上述の2つの調査では,被引用数を基準とした調査も行っており, Thomson Scientific 社の 調 査 で は ,OA ジャ ー ナ ル と 購読 型 学 術雑 誌 と 比 較 して 被 引 用 数 や ,引 用 さ れ る 時 期な ど に 大き な 違 い は な か っ た と し て い る。 McVeigh の 調 査 でも , 化 学 と 生 命 科 学分 野 で は 違 い は な かっ た と し てい る が ,物理 学 ,工 学・数 学 と医 学 で は掲 載 後 2~ 3 年は OA ジ ャ ー ナ ルの 方 が 購 読 型 学 術 雑誌 よ り も 被 引 用 数 が高 い 傾 向 が あ っ た 。 Philip Davis は , 自 然科 学 , 社 会 科 学 , 人文 科 学 分 野 の OA ジ ャ ーナ ル 36 タ イ トル に 掲 載 さ れた OA 論 文 712 論 文 を,購 読 型 学 術 雑 誌掲 載 論 文 2,533 論 文 と 比 較 し て いる 。調 査 対象 論 文は 2007 年 1 月 から 2008 年 2 月 にか け て 掲 載 さ れ た もの で , 最 初 の 1 年 間 は OA ジャ ー ナ ル掲 載 論 文 の 方が 購 読 型 学 術 雑 誌 掲載 論 文 よ り も ダ ウ ンロ ー ド 数 が 多 か っ た。し か し ,被 引 用 数 に つ い て は ,3 年 間 で OA ジ ャ ーナ ル 掲 載 論 文 で あ るか 否 76 か に よる 差 は 見 ら れ な か った と し て い る 3 6) 。 Björk ら は ,DOAJ を 用 いて 対 象 の OA ジ ャ ーナ ル を 抽 出 し ,2 種 類 のデ ー タ ベー ス を 用 い て ,購 読 型 学 術 雑 誌と の 被 引用 数 等 の 比 較 を 行 って い る 3 7) 。一 つは JCR を 用 い たも の で ,OA ジ ャ ー ナル 610 タ イ ト ル ,購 読 型 学 術 雑 誌 7,609 タイ ト ル を調 査 対 象 と し て い る。も う一 つ は Scopus で , OA ジ ャー ナ ル 1,327 タ イ ト ル , 購 読 型 学 術 雑誌 11,124 タ イ ト ルを 調 査 対 象 とし て い る 。い ず れ の調 査 で も ,被 引 用 数の 平 均 値 は ,購 読 型学 術 雑 誌 の方 が OA ジャ ー ナ ルよ り 約 30% 高 い 。し か し , 生 物 医 学 分野 に 限 定 し た分 析 結 果 や , 創 刊 年 が 2002 年以 降 の もの に 限 定 し た 分 析 結果 で は 両 者の 差 は ほ と ん ど な くな る 。こ の こ と か ら ,Björk ら は OA ジ ャ ーナ ル と 購読 型 学 術 雑 誌 の 間 に ,一 般 に 研究 者 が 懸念 す る よ う な 質 や イン パ ク ト の差 は な い , と 結 論 付け て い る 。 被 引用 数 を 調 査 ,分 析 した 上 述 の 4 調 査 の 結果 を 見 る と ,2002 年 以降 は ,OA ジ ャ ー ナ ル 掲 載 論 文 は 購 読 型 学 術 雑 誌 掲載 論 文 と ほ ぼ 同 等 に引 用 さ れ てお り , 被 引 用 数 の 点で は 必 ず し も OA ジ ャ ー ナ ルの 学 術 雑誌 と し て の 質が 低 い と は 判 断 で きな い 。 C ビ ジ ネ スモ デ ル の 持 続可 能 性 OA ジ ャ ー ナ ル のビ ジ ネ スモ デ ル の 持 続 可 能 かど う か は ,2 つ の 観点 か ら 判 断で き る 。1 つ は ,APC 収入 に よ っ て 出 版費 用 を 賄 え る OA ジ ャ ーナ ル が 十分 に 存 在 す る か,で あ る。も う 1 つ は,OA ジャ ー ナ ル の 出 版費 用 を 著 者の 支 払 う APC で 十 分に 賄 え る か 否 か で ある 。こ の ため ,先行 研 究 で は , 1) APC を 著 者 が 支 払う 方 式 ( 以 下 , APC 著者 支 払 い モ デ ル )を 適 用 す る OA ジ ャ ー ナ ル タ イト ル 数 の 変 化 と ,2)著 者 の APC を 支 払 う 意 思 や 助 成団 体 等 の 助 成 状 況 と実 際 の 出 版 費 用 の 関係 と いう 2 種 類 の アプ ロ ー チ で研 究 さ れ て い る 。 1 APC 著 者 支 払い モ デ ル の 普 及 OA ジ ャ ー ナ ル が登 場 し た当 初 は ,APC 著 者 支払 い モ デ ル を 適 用 す る OA ジ ャ ーナ ル は 少 な か っ た 。 John Regazzi は ,2004 年に DOAJ に 収 録さ れ て い た OA ジャ ー ナ ル は 821 タ イ ト ルの ビ ジ ネス モ デ ル を 分 析 し てい る 。 821 タ イト ル の う ち ,APC 著 者 支 払 い モ デ ル を適 用 し て い る OA ジ ャ ーナ 77 ル は 17%,助 成 金 で 出 版 費用 が 賄 わ れ て いる OA ジ ャー ナ ル が 55%,印 刷 版 が あり Web 版 が 無 料の OA ジ ャー ナ ル が 28%であ り ,APC の み で出 版 費 用 を 賄う OA ジ ャー ナ ル は少 い こ と か ら ,OA ジ ャ ー ナ ル の 持 続 可能 性 を 否 定 的に 捉 え て い る 3 8) 。 DOAJ 収 録 の OA ジ ャ ー ナ ル を 対 象 と し た 調 査 では ,対象 誌 に 占 め る APC 著 者 支払 い モ デ ル 適 用の OA ジ ャー ナ ル タ イ トル 数 の 割 合 は ,2007 年 12 月 は 18% 39 ) ,2009 年 5 月 は 23% 4 0) ,2011 年 8 月 41 ) と 2013 年 は と も に 26% で あ る 4 2) 。APC 著 者 支 払 い モデ ル 適 用 の OA ジ ャ ー ナ ル は増 え て は いる が , ま だ 30% に も 満た な い 程度 で あ る 。 Laakso ら が , DOAJ に 収 録さ れ た OA ジ ャ ー ナル の 収 入 モ デ ル 別 に OA ジ ャ ーナ ル の タ イ ト ル 数 を示 し た 調 査 結 果 4 3) に 基 づ き ,筆者 が 作 成し た 表 を第 3-2 表 で 示 す 。 全 体と し て は ま だ 少 な いが , APC 著 者 支 払 い モ デ ル を 適 用 す る OA ジ ャ ー ナ ル が 2007 年 以 降 急 増 し て い る こ と が わ か る 。 APC 著 者 支 払 い モデ ル の 適用 状 況 は , 出 版 元 の種 類 に よ っ て 異 な る。 学 会 の刊 行 す る OA ジ ャ ーナ ル に 対 象 を 限 定 した 調 査 で は ,2007 年 11 月 時 点で 83%が 著 者 に 支 払 いを 求 め て い な い 4 4) 。Heather Morrison が ,2013 年 に 行っ た 調 査 に よ る と , DOAJ 収 録 の OA ジ ャ ー ナ ル中 , APC 著 者 支 払 い モ デル の OA ジ ャ ー ナ ルは 2,637 タ イ ト ル で あ っ た 。 そ の う ち 1,326 タ イ トル は OA 出 版 社 を 含む 14 の 大 手 の 商 業的 な 出 版 社 が 刊 行 する OA ジ ャ ーナ ル で あ っ た 4 2) 。 ま た,Dallmeier-Tiessen Suenje ら は 2009 年 7 月 時 点 で DOAJ に 掲 載 さ れ てい た OA ジ ャ ー ナ ル 4,032 タ イ ト ル 中 ,廃 刊 と な っ て お ら ず, か つ 英 語論 文 を 掲 載 す る OA ジャ ー ナ ル 2,838 タ イ ト ルに 対 し て 調 査を 行 っ て いる 45 ) 。同 調査 の 分 析に よ る と ,大 手 出 版元 で は ,APC,年 会 費 ,広 告 費 が収 入 の 83%以 上 を 占め て い た 。 一 方 で 大手 以 外 の 出 版 元 に おい て は ,購 読 費 ,助 成金 が 大 半を 占 め て い た 。購読 費 が 何 を 指す か に つい て は 説 明が な か っ た が ,お そ ら く 対 応 する 印 刷 版学 術 雑 誌 の 収 入 と 考え ら れ る。な お,こ こ で の 大 手出 版 元 と は 年 間 50 タ イ トル 以 上 ,1,000 論 文 以 上 を刊 行 す る 出 版 元 を 指し , 同 調 査 内 では 14 社 が該 当 す る 。 出 版 元の 種 類 別の APC 支 払 い モ デ ルに 関 す る以 上 の 3 つ の 調 査 は,そ れ ぞ れア プ ロ ー チ が 異 な るた め 一 様 に は 扱 え ない が ,OA 出版 社 を 含む 大 手 出 版社 で は APC 著 者 支 払い モ デ ル で 出 版 費 用を 賄 え て お り ,実 際 にそ 78 第 3-2 表 収 入 モ デ ル別 OA ジ ャー ナ ル タ イ トル 数 の 推 移 と 前 年 比 オンラインのみの OAジャーナル (APC収入) 1 オンラインのみの OAジャーナル (非APC収入) 購読型 印刷版学術雑誌 (オンラインでOA) 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 推定値 53 120 167 189 256 344 前年比 67 47 22 67 88 推定値 334 484 613 804 1,006 1,272 前年比 150 129 191 202 266 推定値 357 550 630 847 1,106 1,375 前年比 193 80 217 259 269 2006年 425 81 1,538 266 1,539 164 2007年 2008年 2009年 2010年 630 950 1,239 1,494 205 320 289 255 1,793 2,048 2,399 2,548 255 255 351 149 1,819 2,011 2,149 2,170 280 192 138 21 2011年 1,824 330 2,495 -53 2,395 225 Laakso 4 3) の Table1 の 値 に基 づ い て 筆 者 が 作成 れ を 適用 す る 出 版 社 も 多 いが ,学 会 や中 小 規 模の 出 版 社 で は 多 く が採 用 で き ずに い る こ と が 読 み とれ る 。 OA ジ ャ ー ナ ル の 出 版 元 は当 初 は ,大 学 ,研 究機 関 や 学 協 会 が 主 であ っ た 。 学 協 会 出 版 社 協 会 ( Association of Learned and Professional Society Publishers: ALPSP) が 2005 年 に 行 った 調 査 46) で は , 調 査対 象 の OA ジ ャ ー ナ ル 248 タ イ ト ル のう ち APC 著 者 支 払 い型 モ デ ル を 適用 し て い たの は 24.6%で あ っ た。 対 象 誌 の 約 半 数 を占 め る BMC と Internet Scientific Publishers( 以 下 ISP) 刊 行 の OA ジ ャ ー ナル を 除 くと , そ の 値 は 0.8%に ま で 下 が る。 2007 年 に は , 三根 が Ulrichweb を 用い て 調 査 し,OA ジ ャ ー ナ ル の 出 版元 の 分 析 を 行 っ て いる 。その 結 果 ,大 学・研 究 機 関 ( 39.5%), 学 協 会 ( 30.1%), 出 版 社 ( 27.4%) の 順 に 多 く , 出 版 社 は BMC, ISP, Hindawi な ど の OA 出 版 社 が 多く を 占 め て い た 47 ) 。 つま り 2007 年 まで は OA ジ ャ ーナ ル の 大 部 分 が ,大 学・研 究 機 関 や 学 協会 か ら 刊 行さ れ て い た 。 と こ ろが ,Laakso ら が DOAJ 収 録の OA ジ ャ ー ナル 情 報 を も と に 行 った 79 調 査 では ,2005 年 か ら 2011 年 にか け て ,PLOS に 代 表さ れ る 非 営 利 の 出 版 元 や, 商 業 出 版 社 か ら 刊行 さ れ る OA 論 文 数が 急 増 し て お り , 2011 年 時 点 では , 商 業 出 版 社 の 刊行 す る OA 論 文 数 が, 学 協 会 や 大 学 , 研究 機 関 を 上回 っ て いた 4 3) 。た だし 同 調 査 で の「 商 業出 版 社 」の 定 義 は 明確 で は な いの で , OA 出 版 社 がこ こ に 含 ま れ て い るか 否 か は 不 明 で あ る。 Solomon ら が Scopus 収録 デ ー タ に 基づ い て おこ な っ た 調 査 で は , OA 論 文 の出 版 元 の 構 成 は ,出 版社( 42.0%),学 協 会( 29.8%),大 学( 13.6%) と な って お り ,それ ぞ れの APC 著 者 支 払 い 型 モデ ル の 適 用 状 況 は,出 版 社 (80.7%), 学 協 会 ( 19.5%), 大 学 ( 14.5%) で あ っ た 48 ) 。 近 年 にな る ほ ど 出版 社 の OA ジ ャ ー ナル 刊 行 に 関 与 す る 割合 が 高 ま り , か つ その 多 く が APC 著 者 支 払 い モ デ ルを 適 用 し て い る こ とか ら ,OA ジャ ー ナ ルの 出 版 費 用を 賄 う モ デ ル と し て, APC 著 者支 払 い モデ ル が 普 及 し つ つ ある 状 況 に ある と 考 え ら れ る 。 ま た ,APC 著 者 支払 い モ デル の 適 用 状 況 は , 分野 に よ る 違 い も あ る。 2008 年 3 月 時点 の 心 理 学 分野 の OA ジ ャ ー ナ ルは 90% が著 者 支 払い を 求 め て いな か っ た 4 9) 。一 方 で,4 年 後 の 2012 年 の 調 査 で は,生 物 医 学分 野 の OA ジ ャ ー ナ ルは ,46.5% が APC 著 者 支 払 い モデ ル を 適 用 し て い た 50) 。 Solomon ら の調 査 で は , 1999 年 か ら 2010 年 に か け ての , ヘ ル ス サイ エ ン ス分 野 と そ の 他 の 分 野 の OA ジ ャー ナ ル の著 者 支 払 い モ デ ル の採 用 状 況 を推 定 値 で 示 し て いる 5 1) 。1999 年 以 降 ,著 者 支 払 い モ デ ルの OA ジ ャ ー ナル は 着 実 に 増 加 し ,2010 年 時 点の ヘ ル スサ イ エ ン ス 分 野 で は 著 者 に 支 払い を 求 め な い モ デ ルは 541 タ イ ト ル,著 者 支 払 い モデ ルは 431 タ イ ト ルで あ っ た 。そ の 他 の分 野 で も APC 著 者 支払 い モ デ ル を 適 用 する OA ジ ャ ーナ ル は 増 加 し て い るが ,2010 年 時 点 で は,著 者 に 支 払 い を 求め な い も のが 439 タ イ ト ル , APC 著 者支 払 い モ デ ルが 142 タ イ ト ル と ,ヘ ル ス サ イエ ン ス 分 野 と 比 較 する と , そ の 割 合 は 小さ い 。 2 APC 支 払 い の実 情 Suber は , 助成 金 を 得 や すい 生 物 医 学 分 野 で あれ ば , 研 究 者 が APC を 支 払 うこ と は 可 能 で あ る が, 他 の 分 野 で は 難 しい と 指 摘 し て いる 5 2) 。 ALPSP が 2005 年に 行 っ た調 査 で も ,APC を 著 者自 身 が 負 担 し て いた の は 5%で ,研 究 助 成 金 ( 34%), 各 種 財 団 に よ る研 究 助 成 金 ( 5%), 著 者の 所 属 学 部 ( 8%), 所 属 機 関 の 図 書 館 ( 27%) な ど , 多 く の 場 合 に お い て , 80 APC は 他の 財 源 か ら 支 払 われ て い た 4 6) 。 過 去 10 年 近 く に渡 っ て 行わ れ て い る 先 行 研 究で も 一 貫 し て , 研 究者 は APC を 研 究 助 成 金 で 支 払う べ き と 考 え て お り,実 際 に そう し て いる 状 況 が わか る 。2004 年 に Swan らが 1 8) ,そ して 2006 年に 国 立 大 学 図書 館 協 会 国 際学 術 コ ミ ュ ニ ケ ー ショ ン 委 員 会 ら が 1 9) 行 っ た 調 査で は ,研 究 者の 65% 以上 が APC は 研 究 助 成金 で 支 払 う べ き と 考え て い る こ と を 示 して い る 。 また , 実 際 に OA ジ ャ ー ナ ルで 論 文 を 発 表し た 研 究 者 の 約 60% 以 上 が 研 究助 成 金 を 用 い て いる 2 ) , 1 0) , 11 ), 5 3) 。2008 年 の JISC に よ る 調 査 では , APC の 支払 い が 生 じ な か った と す る 研 究 者が 55% と 最 も高 い も のの ,実 際 に APC を支 払 っ た 研 究 者の 財 源 と し て は 研 究助 成 金 が 25% と 最 も高 い 12 ) 。2011 年の Solomon ら の 調 査 で は,社 会 科 学分 野 の 研 究 者 は ,自身 の 資 金 を用 い る 場 合 が 35% 以 上 も ある が ,自然 科 学 分 野 の 研 究 者は お よ そ 40%以 上 が 助成 金 を 用 い てい る こ と が 明 ら か にな っ て いる 5 4) 。 以 上 のよ う に APC を 支 払 って い る 研 究 者 の 多 くが 助 成 金 を 用 い て いる 。 だ が,全 体 と して APC 支 払 いに 対 す る 十 分 な 支援 を 受 け ら れ て い る研 究 者 は わず か で あ り,助 成 機関 や 所 属 機 関 に よ る予 算 的 な 支 援 は 十 分と は い え ない こ と を 示 す 調 査 結果 が あ る 。 世 界 中 の 11,927 名の 著 者 が回 答 し た 2011 年の 調 査 で は , “OA に か か る 費 用 を助 成 機 関 が 全 額 支 払っ て く れ る か” と の 問 い に 対 する ,“ 毎 回”,“し ば し ば”,“ た ま に”と の 回 答 の 合 計 は 27%で あっ た 。 また ,“ OA にか か る 費用 を 所 属 機 関 が 全 額支 払 っ て く れ る か ” と の 問 い に 対 す る ,“ 毎 回 ”,“ し ば し ば ”,“ た ま に ” と の 回 答の 合 計 は 25%で あ った 。 研 究 者が 実 際 に 支 払 っ て も良 い と 考 え る APC の 額 は ,複数 の 調 査に お い て 500 ド ル 未 満 で あ る こと が 明 ら か に な っ てい る 1 ) ,1 9) , 55 ) 。し か し,APC 著 者 支払 い モ デ ル の OA ジ ャ ー ナ ルに か か るコ ス ト は , 質 が 中 程度 の OA ジ ャ ーナ ル で も 1,025 ドル , 質 の 高 い OA ジ ャ ー ナ ルで は 1,950 ド ル と の 試 算も あ る 5 6) 。 Elsevier が 刊 行 し 学 術 雑 誌出 版 の 最 新 動 向 を 伝え る Editor’ s Update の 2006 年 の 記 事 で は , 実 際 に 出 版 に か か る 費 用 は 3,000~4,000 ドル で あ ると も 述 べ ら れ て いる 57 ) 。以 上 の よ う に 研究 者 か ら 得 られ る APC 収 入 と 出 版費 用 と の 乖 離 か ら , APC に 基 づ く 著 者 支払 い モ デ ルの OA ジャ ー ナ ル に は 持 続 可 能 性 が な いと の 批 判 も あ る 5 7) 。また , 実 際に 2004 年 から 2006 年 に か け て の PLOS の 貸 借 対照 表 を 取 り 上げ , 81 収 入 に比 し て 支 出 が 多 く,不 足 分 を 助成 金 で 補っ て い る 状 況 を 指 摘し て , 持 続 可能 性 を 否 定 す る 意 見も あ る 58) 。 し かし PLOS は 2006 年 創 刊の OA メ ガ ジ ャ ー ナル PLOS ONE の 成 功に よ り ,2010 年 に は 黒 字 に 転じ て お り 59 ) , こ の 批判 を 打 ち 消 す 形 と なっ た 。 こ の 成功 は , APC 著 者 支 払い モ デ ル の 成 功 を 意味 す る 上 で も 大 き な 出 来 事 で あっ た 。 以 上の 先 行 研 究 か ら ,APC 著者 支 払 い モ デ ル を 適 用 する OA ジ ャ ーナ ル が 近 年増 加 傾 向 に あ り , 特 に OA 出 版社 や 商 業 出 版 社 の 刊 行 す る 多く の OA ジャ ー ナ ル に お い て , 適 用 さ れ て い る こ とが わ か っ た 。 た だし OA ジ ャ ー ナル 全 体 の 中 で APC 著 者支 払 い モ デ ル を適 用 し て い る の は 30%に満 た な いと の 調 査 も あ り ,ま だ 定 着 し てい る と はい え ず ,普及 し つ つあ る 段 階 と考 え ら れ る。また APC 著 者 支 払 い モ デ ルを 持 続 可 能 な モ デ ルと す る 上 で, 2 つ の 課 題 に 直 面し て い る こ と が わ かっ た 。 1 つ は APC 支 払い の 財 源の 多 く は 助 成 金 で 支払 わ れ て い る こ と から , 助 成 金 も 含 め た APC 支 払 いの た め の 財 源 が 必 要で あ る と い う こ と であ る 。もう 1 つ は,研 究 者 が 支払 っ て も 良 い と す る額 と ,実 際に 発 生 する 出 版 費 用 が 乖 離 して い る こ とか ら ,APC 収 入 の みで 出 版 費 用 を 賄 え るよ う な OA ジ ャ ー ナル 作 り が 必 要で あ る と い う こ と であ る 。 D OA ジ ャ ー ナル の 定 量調 査 本 節で は , 実 際 に OA ジ ャ ー ナ ルが 学 術 雑誌 全 体 の 中 で ど れ ほど 進 展 し て きた か に つ い て ,量的 な 調 査 を 行っ た 先 行研 究 を レ ビ ュ ー す る。以 下 ,1 項 では OA ジャ ー ナ ルの タ イ ト ル 数 を 調 査し た 雑 誌 単 位 の 先 行研 究 を ,2 項 では OA ジャ ー ナ ル掲 載 論 文 数 を 調 査 した 論 文 単 位 の 先 行 研究 を レ ビ ュー す る 。 1 雑 誌 単 位の 調 査 OA ジ ャー ナ ル の タ イ ト ル数 の 調 査 に つ い て ,a 目 にて OA ジ ャ ーナ ル タ イ トル 数 の 調 査 , b 目 に て OA ジ ャー ナ ル タイ ト ル 数 が 学 術 雑 誌全 体 に 占 める 割 合 の 調 査 , c 目に て ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナル な ど 特定 の OA ジ ャ ー ナ ル に限 定 し て行 わ れ た タ イ ト ル 数の 調 査 を レ ビ ュ ー する 。 a OA ジ ャ ー ナ ルタ イ ト ル数 の 増 加 82 OA ジ ャ ー ナル タ イ ト ル 数に 関 す る 調 査 で は ,OA ジャ ー ナ ル 情 報を 網 羅 的 に収 録 す る DOAJ を 用 い る 調査 が 一 般 的 であ る 。 し か し , DOAJ が 登 場 し た の は 2003 年 で あ り , そ れ 以 前 は 他 の 方法 で ,OA ジ ャ ー ナル に 相 当 す るも の を 探 す よ う な 調査 が 行 わ れ て い た 。 Walt Crawford は , Association of Research Libraries の 刊 行 して い た Directory of Elsectronic Journals の 1995 年 版 に 掲 載 情 報を も と に , 1995 年 時 点 で は 購読 料 無 料 の 査 読 付 き学 術 雑 誌 が 86 タ イ ト ル存 在 し てい た こ と を 確 認 し てい る 60 ) 。Crawford は さ ら に 2001 年 に 追跡 調 査 を 行い , そ の 57% に 相当 す る 49 タ イ ト ルが 存 続 し て い た こ とを 確 認 し て いる 。 調 査 方法 な ど は 不 明 だ が ,Wells A.は , 1998 年 時 点 で の OA ジ ャ ーナ ル の 存在 を 調 査 し , 387 タ イト ル 存 在 す る こ とを 確 認 し て い る 6 1) 。 DOAJ 登 場 後は , DOAJ を用 い て タ イ トル 数 を 行う 調 査 が 主 流 と な り , 主 に 2 種 類 の 方 法 で 調 査 され て い る 。1 つは DOAJ の収 録 タ イ ト ル数 を 定 点 観 測す る 方 法 で あ る 。 もう 1 つは , DOAJ か らサ ン プ ル を 抽 出 して OA ジ ャ ーナ ル タ イ ト ル 数 の 推移 を 推 定 す る 調 査 であ る 。 前 者 の調 査 方 法 は ,調 査 によ っ て 定 点 観 測 す る月 日 が 異 な り ,同一 年 で あ って も 調 査 結 果 に は 違い が 生 じ て い る ( 第 3-3 表 )。最 も 早 くか ら DOAJ 収 録 タ イ トル 数 を 調査 し て 示 し て い る のは ,欧 州 委 員 会( European Commision) の 報 告 書 で , 調 査 し た 正 確 な 月 日 は 明 記 さ れ て い な い が , 2002 年 か ら 2011 年 に か けて , DOAJ に 収 録 され て い る OA ジ ャ ーナ ル の タ イ トル 数 の 推 移 を 示 し てい る 62) 。2002 年は DOAJ の登 場 前 で あ り,DOAJ 収 録 情報 を 示 す こ と は で きな い と 考 え ら れ る が,報 告 書 には 詳 細 が述 べ ら れ てい な い た め,なぜ 2002 年 の 情 報 が 示 され て い る か は わ か らな い 。 次 に 早い 時 期 か ら 調 査 し てい る の は Morrison で ,毎 年 6 月 30 日 時 点 と 63 ) る ,年 末の DOAJ 収 録 状 況を ,2004 年 か ら 最 新の 2013 年 ま で 調 査し て い 6 4) 。上 述の 3 つ の 調 査 と比 べ れ ば 調 査 期 間 は短 い が ,Giglia は ,毎 年 12 月 31 日 時 点 の DOAJ 収 録 状 況 を,2003 年 から 2008 年に か け て調 査 し て いる 35 ) 。 調査日の違いがあるために同一年であってもやや結果は異なるがそ の 差 は小 さ く,全 体 的 には 2003 年 の 約 600 タ イ ト ル か ら,10 年 後の 2013 年 末 には 約 9,800 タ イ ト ルに ま で ,OA ジ ャ ー ナル タ イ ト ル 数 が 年 々着 実 83 第 3-3 表 OA ジ ャ ー ナ ル タイ ト ル 数 の 推 移 (数字はタイトル数) 研究者名 Wells61) 調査方法 不明 対象 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 1 不明 387 - Crawford60) Giglia35) European Morrison 63) Morrison 64) Laaksoら65) Laaksoら43) Suberら68)-70) Commision 62) 対象の情報源における収録タイトル数を数える Directory of Electronic Journals 86 - 推定 不明 DOAJ (以下は調査日) DOAJ 12月31日 不明 6月30日 年末 - - 1,135 1,643 2,292 2,731 3,481 4,252 5,140 6,694 7,912 9,759 1,404 1,964 2,491 3,000 3,781 4,490 4,863 7,328 8,641 9,804 602 1,194 1,811 2,357 2,954 3,801 - 32 570 1,134 1,723 2,235 2,792 3,565 4,432 5,920 6,269 - 20 49 111 161 264 385 515 741 1,135 1,387 1,815 2,251 2,837 3,315 3,790 4,246 4,767 - DOAJ 744 1,154 1,410 1,841 2,368 2,991 3,502 4,243 5,010 5,788 6,213 6,713 - 学会が 刊行する 学術雑誌 450 616 - 表 中 で 略 称表 記 し て いる デ ー タ 名 称 の 正 式名 称 は 以 下 の と お り。 DOAJ: Directory of Open Access Journals 84 780 に 増 加し て い る こ と が わ かる 。 次 に ,特 定 の 年 の DOAJ 収 録 タ イ ト ル か ら サ ンプ ル を 抽 出 し て , 複数 年 に わた る OA ジ ャ ー ナ ルタ イ ト ル 数 の 推 移 を推 定 し た 調 査 し た 2 つの 調 査 を詳 述 す る 。両 調 査 はあ わ せ て 論 文 単 位 の分 析 も 行 っ て い る が,そ の 点 につ い て は 2 項 で 述 べ ,本 項 で は雑 誌 単 位の 調 査 部 分 に つ い ての み 述 べ る。 Laakso ら は ,DOAJ に 2010 年 時 点 で 掲 載 さ れ て いた OA ジ ャ ー ナ ル 5,175 タ イ トル か ら ,年間 200 論 文以 上 を 掲 載 す る 大規 模 OA ジ ャ ー ナル 44 タ イ ト ル, 掲 載 論 文 数 200 未 満の 中 小 規 模 OA ジ ャ ー ナ ル 519 タ イ ト ル を 抽 出 して 調 査 対 象 と し , そこ に 先 行 研 究 か ら 入手 し た 1999 年 以 前に 創 刊 さ れ た OA ジ ャー ナ ル 304 タ イ ト ル を 別 扱 いの 調 査 対 象 と し て い る 6 5) 。 DOAJ か ら 抽 出 し た サ ン プル を 層 化 抽 出 の 標 本と し て ,1993 年 か ら 2009 年 に かけ て の OA ジ ャ ー ナル の タ イ ト ル 数 と 掲載 論 文 数 の 経 年 変 化を 推 定 し て い る 。 な お , DOAJ か ら 抽 出 し た タ イ ト ル に つ い て は , 基 本 的 に DOAJ 掲 載 の開 始 年 を , OA ジ ャー ナ ル と し て刊 行 さ れ 始 め た 年 とみ な し て い る。 そ の 結 果 , 2000 年の 741 タイ ト ル 以降 , OA ジ ャ ー ナ ルの 増 加 率 は 年平 均 18%と 急 成 長 し,2009 年 に は 4,767 タ イ ト ル と な る と推 定 し て い る。 Laakso ら は ,DOAJ に 2012 年 1 月 時 点 で 掲 載さ れ て いた 7,372 タ イ ト ル か ら, 年 間 200 論 文 以 上を 掲 載 す る 大 規 模 OA ジ ャ ー ナル 103 タ イ ト ル と,そ れ を 除 いた 残り 7,269 タ イ ト ル か ら ラン ダ ム 抽 出 し た 684 タ イ ト ル との 合 計 787 タ イ ト ルを 対 象 に OA 状 況 を調 査 し て い る 43 ) 。 調 査に あ た って は ,DOAJ, Web of Knowledge, Scopus から 有 用 な デ ー タ も追 加 し 分 析に 用 い て い る 。 そ の結 果 ,OA ジ ャ ー ナル タ イ ト ル 数 は ,2000 年 の 744 タ イ ト ル か ら 順 調 にそ の 数 を 伸 ば し ,2011 年 には 6,713 タ イ トル に の ぼる と さ れ て い る 。 こ れら 2 つ の 調 査 も ,OA ジ ャ ー ナ ル タイ ト ル 数が 年 々 増 加 す る こ とを 示しているが,一方で,類似の調査方法をとっているにもかかわらず, 結 果 には 違 い が 出 て い る 。両 調 査 が 示 す 結 果 の中 で 重 複 す る 2000 年か ら 2009 年 の OA ジ ャ ー ナ ルタ イ ト ル 数 に つ い て は , 2000 年 から 2004 年 ま で はそ の 差 が 100 タ イ トル 未 満 の 小 さ な も のだ が ,2005 年 は 100 タ イ ト ル 以上 の 差 が あ り , 以 降は そ の 差 が 次 第 に 開く 傾 向 に あ る 。 85 最 後 に, 調 査 手 順 は 明 示 され て い な い が 学 会 刊行 の OA ジャ ー ナ ルに 限 定 して 行 わ れ た 調 査 に つい て 述 べ る 。Suber らは ,2007 年 11 月 ,2011 年 12 月 ,2013 年 9 月の 3 期 に 渡 り ,学 会 が 刊行 す る OA ジ ャ ー ナル に つ い て 調査 し 6 6) , そ の 結 果 を Google の 無 料 表計 算 ソ フ ト を 利 用 して , 広 く 公 開し て い る 6 7) 。結 果 は,2007 年時 点 で は ,425 学 会 が 掲 載 論 文全 て を 刊 行と 同 時 に OA と する OA ジャ ー ナ ル ( 以下 Full OA ジ ャ ー ナル ) を 450 タ イト ル ,21 学 会 が ハイ ブ リ ッド OA ジ ャ ーナ ル を 73 タ イ トル 刊 行 し て いた 68 ) 。 2011 年 は ,530 学 会 が Full OA ジ ャ ーナ ル を 616 タ イト ル 刊 行 して い た 69) 。 2013 年 は 832 学 会が , Full OA ジャ ー ナ ル お よび 非 ハ イ ブ リッ ド OA ジ ャ ー ナ ル を 780 タ イ ト ル 刊 行し て い た 70 ) 。 い ずれ の 調 査 年 にお い て も , OA ジ ャ ー ナ ルの 大 部 分 は STM 分 野で あ り , 2007 年 は 356 タ イト ル( 79%),2011 年は 483 タ イ ト ル( 78%),2013 年 は 635 タ イ ト ル (81%)が STM 分 野 であ っ た 。 以 上 述べ て き た い ず れ の 調査 に お い て も ,OA ジ ャ ー ナ ル タイ ト ル 数が 年 々 増加 し て い る こ と は 明ら か で あ る。 た だ し,学 術 雑 誌全 体 に 占め る 割 合 はわ か ら な た い め ,OA ジ ャ ー ナ ルが 学 術 雑誌 の 主 流 と な る ほ ど増 加 し て いる か ま で は 読 み 取 るこ と が で き な い 。 b OA ジ ャ ー ナ ルタ イ ト ル数 が 学 術 雑 誌 全 体 に占 め る 割 合 学 術 雑誌 全 体 に 占 め る OA ジ ャ ー ナ ルの 割 合 に関 す る 調 査 は 複 数 存在 す る が,調 査 年 や 調 査 に 用い た デ ー タ ベ ー ス ,OA ジ ャ ーナ ル の 判 定方 法 の 違 いに よ り , 結 果 が 異 なる ( 第 3-4 表 )。 調 査 方 法は 主 に 2 種 類 に 分 け ら れる 。1 つ は ,デ ー タベ ー ス 備 え 付 け の 機能 を 用 いて OA ジ ャ ーナ ル か 否 かを 判 定 し ,同 デ ー タベ ー ス が 収 録 す る 学術 雑 誌 全 体 に 占 め る割 合 を 示 すも の で あ る 。もう 1 つ は ,OA ジ ャ ー ナ ル タ イ ト ル 数 と 学 術 雑誌 全 体 の タイ ト ル 数 を 別 の 方 法で 特 定 も し く は 推 定し ,そ れ らを 照 合 する こ と で , 学 術 雑 誌 全 体 に 占 め る OA ジ ャー ナ ル の割 合 を 導 き 出 す 方 法で あ る。 前 者 の 調 査 と し て は , 学 術 雑 誌 情 報 を 網 羅 的 に 収 録 す る Ulrich’s Periodicals Directory(現在 は Ulrichweb)を 用い た 調 査が 4 つ 行 われ て い る。調 査 対 象 を,査 読 付き の 学 術 雑 誌 に 限 定す る か 否 か で 調 査 方法 が や や 異な る 。査 読の 有 無 を問 わ ず に 全 学 術 雑 誌数 を 調 べ る 場 合 は,検 索 条 件 を「 active」,「 academic/scholarly journals」と の み 指 定 し, さ 86 第 3-4 表 OA ジャーナルが学術雑誌全体に占める割合 研究者名 全学術雑誌数 の判断対象 絞り込み条件 (ある場合のみ) OECD71) Björkら72) Ulrich’s Periodicals Directory Ulrich’s Periodicals Directory 査読有無 不問 1 三根47) 4.4% - 7.3% - Giglia35) JCR 4.0% - 4.1% - Miguelら74) Hedlundら75) JCR Ulrichweb Ulrichweb UlrichのOA判定 1.9% - McVeigh 31) Scopus 査読有無 査読有無 査読有無 査読つき 不問 不問 不問 OAジャーナル 判定方法 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 Morris73) DOAJ, J-STAGE, SciELO 2.6% - Hedlundら76) Ulrich’s Ulrich’s Periodicals WOS Periodicals Directory Directory 北欧5ヶ国 北欧5ヶ国 の学術雑誌 の学術雑誌 Huら77) The China Academic Journals full-text database SCI SSCI 中国 DOAJ DOAJ DOAJ Wellsの OAJ情報 DOAJ DOAJ 中国版 Google 1.47% 2.82% 3.58% 4.20% 4.91% 5.38% - 1.05% 1.11% 1.26% 1.36% 1.71% 1.52% - 9% - 1.5% - 8% - 4% - 8.44% - 表中で略称表記しているデータ名称の正式名称は以下のとおり。 DOAJ: Directory of Open Access Journals, WOS: Web of Science, SCI: Science Citation Index, SSCI: Social Science Citation Index 87 ら に OA ジ ャー ナ ル タ イ トル 数 を 調 べ る 場 合 は「 open access」 を 検 索 条 件 に 追加 し て 絞 り 込 む 。 調査 対 象 の 学 術 雑 誌 およ び OA ジャ ー ナ ルが 査 読 付 き で あ る も の に 絞 り 込 む 場 合 は , こ れ ら に 「 refereed」 を 加 え る 。 査 読 の有 無 を 問 わ な い 場 合の , 学 術 雑 誌 全 体 に占 め る OA ジ ャ ー ナル タ イ トル 数 の 割 合 は , 4 調 査 と も調 べ て い る 。 2004 年 8 月 の OECD に よ る 調 査で は 1.9% 71 ) , 2006 年の Björk ら の 調 査で は 4.4% 72 ) , 2007 年初 期 の Morris の調 査 で は 4.0% 73 ) ,2007 年 3 月 の 三根 の 調 査 で は 4.1% 47 ) と い う 結 果が 出 て い る。な お,三 根 の 調査 の み,OA ジ ャー ナ ル の 検 索 条件 に 「 Online」 が 加 え ら れ て いる 。 2006 年 の Björk らの 調 査 では 査 読 付 き の 学 術 雑誌 に 限 定 し た 調 査 も行 っ て おり , 結 果は 7.3%で あ った 7 2) 。 検 索 条件 が 同 一 で あ る , 2004 年 ,2006 年 ,2007 年 初 期 の 査 読 の有 無 を 問 わな い 学 術 雑 誌 に 対 する 調 査 を 比 較 す る と,OA ジ ャ ーナ ル タ イト ル 数 お よび そ れ が 学 術 雑 誌 全体 に 占 め る 割 合 は,889 タ イ トル( 1.9%)7 1) , 2,690 タイ ト ル ( 4.4%) 7 2) , 2,302 タ イ ト ル ( 4.1%) 73 ) とな る 。 2004 年 か ら 2006 年 に か け て の 増加 傾 向 は , a 目 の DOAJ 収 録 タ イ ト ル 数の 定 点 観 測 と同 じ 傾 向 だ が , 2006 年 か ら 2007 年 に かけ て の 減 少 し て い る点 が 異 な る。ま た ,2006 年 調 査の 全 学 術 雑 誌 数が 60,911 で あ る の に 対し 2007 年 は 56,963 タ イ ト ル と 減 少 し て い る 73 ) 査 では Ulrichweb が 用 い られ て い る , 。ま た 2006 年 の 調 査で は Ulrich’ s Periodicals Directory が用 い ら れて い る が 7 3) 72 ) 7 2) , 2007 年 の 調 。こ の ため 2006 年 か ら 2007 年 に か け てデ ー タ ベ ー ス 側 で 収録 基 準 の 変 更 等 ,何 ら か の 変 化が あ り,そ れ が 2006 年 か ら 2007 年 に か け ての OA ジ ャ ーナ ル タ イ ト ル 数 の 占め る 割 合 減 少に 影 響 し た 可 能 性 も考 え ら れ る 。 も う 1 つ の OA ジ ャ ー ナル タ イ ト ル 数 と 学 術雑 誌 全 体 の タ イ ト ル数 を 別 の 方法 で 特 定 も し く は 推定 し ,そ れら を 照 合す る 調 査 手 法 を と る調 査 で は ,多 く が 共 通 し て , OA ジ ャ ー ナ ル タ イ トル 数 の 特 定 に DOAJ を 用い て い る 。た だ し ,全 学 術 雑誌 数 を 特 定 す る た めの デ ー タ ベ ー ス が 異な る。 McVeigh は, 2004 年 に DOAJ と J-STAGE, SciELO に掲 載 さ れ て いた OA ジ ャ ーナ ル の ユ ニ ー ク な 合計 タ イ ト ル 数 は 1,190 タ イ ト ル で あ り,うち 239 タ イト ル が Web of Science の 収録 す る約 9,000 タ イ ト ル に 含 まれ て お り ,Web of Science 収 録誌 の 2.6%が OA ジ ャ ーナ ル で あ っ た と して い 88 る 3 1) 。 Giglia は , 各 年の 12 月 31 日時 点 で の DOAJ 収 録 タイ ト ル が , JCR の 収 録 タイ ト ル に 占 め る 割 合を , 2003 年 か ら 2008 年 に かけ て 調 査し て い る 。 結 果 は 分 野 別 に 分 析 さ れ , 社 会 科 学 分 野 を 示 す Social Science Citation Index へ 収 録 され て い た OA ジ ャ ーナ ル タ イ ト ル 数 の 割合 は , 1.05%( 2003 年), か ら 毎 年少 し ず つ 上 昇 し ,1.52%( 2008 年 )と 推 移 し ている 35) 。 一 方 , 自 然 科学 分 野 を 示 す Science Citation Index へ 収 録 さ れ てい た OA ジ ャ ー ナ ルタ イ ト ル 数 の 割 合 は,Social Science Citation Index と 比 較 す る と 毎 年 大幅 に 増 加 し ,1.47%( 2003 年)か ら 5.38%( 2008 年 ) と推 移 し て い る 。 McVeigh も Giglia も と も に , OA ジ ャ ー ナ ルの 質 を 測 る こ と を 本来 の 目 的 とし て い る た め ,調査 対 象 と し て,評 価 の高 い 学 術 雑 誌 情 報 を収 録 し た JCR を 用い て い る 。 この た め , 実 際 に OA ジャ ー ナ ル が 学 術 雑 誌 全 体 に 占め る 割 合 よ り は , 低め の 結 果 が 出 て い ると 考 え ら れ る 。 Sandra Miguel ら は , 収録 す る 学 術 雑 誌 情 報の 範 囲 が よ り 広い Scopus を 用 いた 調 査 を 行 っ て い る 74 ) 。Miguel らは 2010 年 4 月に Scopus に 収 録 さ れて い た 出 版 物 27,861 件か ら , 「 Journal」お よ び「 Trade Journal」 に 分 類 さ れ て 刊 行 中 の 17,284 タ イ ト ル の 書 誌 情 報 を 抽 出 し , DOAJ に 2010 年 6 月 時 点 で 収 録 され て い た 5,138 タ イ ト ル の OA ジ ャ ー ナル 情 報 と ISSN を 用い て 照 合 し てい る 。こ の 結 果 ,2010 年 に Scopus に 収 録さ れ て い る学 術 雑 誌 に 占 め る OA ジ ャ ー ナ ル の 割 合 が 9%で あ っ た と し てい る。 さ ら に, 各 分 野 に お け る OA ジ ャ ー ナル の 割 合 も 分 析 し て お り , 割合 の 高 い順 に ,「 地 球 ・ 環 境科 学 」 が 12.3%,「 生 命 化学 ・ 遺 伝 学 ・分 子 化 学 」が 12.0%,「 医 学 」が 11.4%,「 医 学 関 連分 野 」 が 10.0%,「 数 学 」が 8.6%,「 物 理学 ・ 天 文 学 」 が 8.3%,「 化 学 ・ 化学 工 学 」 が 8.0%,「 工 学 」 が 6.1%,「 社 会 科 学 ・ 芸 術・ 人 文 科 学 」 が 5.4%で あ っ たと し て いる 。 以 上,JCR と Scopus の 2 種類 の デ ー タ ベ ー スを 用 い た 調 査 を 見 てき た が ,学 術雑 誌 情 報 を 網 羅 的に 収 録 す る デ ー タ ベー ス と し て は ,Ulrich’ s Periodicals Directory(現在 は Ulrichweb)が よ く 知ら れ て い る 。 Turid Hedlund ら 7 5) は ,2002 年 に Ulrichsweb と Wells 6 1 ) が 提 供 する 学 術 雑 誌の 目 録 を 用 い て ,OA ジ ャ ー ナ ルの タ イ トル 数 と そ の 創 刊 年 別の タ イ ト ル数 の 推 移 を 示 し て いる 。Ulrichsweb で 指 定し た 検 索 条 件 な どの 詳 89 細 な 手順 は 示 さ れ て い な いが , 2002 年 時 点 の査 読 付 き の OA ジ ャ ー ナル の タ イト ル 数 は 317 タ イ トル で あ り ,査 読 付 き学 術 雑 誌 全 体 に 占 める 割 合 は ,1.5%だ っ た と し て いる 。 さ ら に 同 調 査 では , 1993 年 か ら 2002 年 に か けて の 全 学 術 雑 誌 と OA ジ ャ ー ナル の 創 刊数 の 推 移 を 示 し て いる 。 そ れ に よ る と , 年 間 の 全 学 術 雑 誌 創 刊 数 は 減 少 傾 向 に あ り , 1993 年 の 523 タ イ ト ルか ら 2002 年 には 250 タイ ト ル にま で 減 少 し て い る 。一 方 , OA ジ ャ ー ナ ル創 刊 数 は 増加 傾 向 に あ り ,1993 年 の 17 タ イ ト ル か ら 2002 年 には 80 タ イ トル に ま で増 加 し , 全 学 術 雑 誌創 刊 数 に 占 め る 割 合は 高 ま っ てい る 。 国 を 限定 し た 調 査 で は あ るが , Hedlund ら は,2008 年 9 月 時 点 で,北 欧 5 ヶ 国 で 刊行 さ れ て い る OA ジ ャ ー ナ ル タ イト ル 数 と そ れ が 各 国で 刊 行 さ れて い る 学 術 雑 誌 全 体に 占 め る 割 合 を 調 査し て い る 7 6) 。DOAJ に 収録 さ れ てい る タ イ ト ル を OA ジ ャ ー ナ ルと み な し, 各 国 か ら 刊 行 さ れる 学 術 雑 誌総 数 は , Ulrich’ s Periodicals Directory と Web of Science か ら 導 き 出 し て い る 。 そ の 結 果 は , 北 欧 全 体 と し て は Ulrich’ s Periodicals Directory では 8%,Web of Science では 4%で あ っ た。 以 上,国 際 的 な デー タ ベ ース を 用 い た 調 査 に つい て 述 べ て き た が ,そ の 国 独自 の 網 羅 的 な デ ー タベ ー ス を 用 い た 調 査も あ る 。Dehua Hu ら は, 中 国 の 学 術 雑 誌 情 報 を 最 も 網 羅 的 に 収 録 す る デ ー タ ベ ー ス The China Academic Journals full-text database を用 い て , 2011 年 時 点で の 中 国 に おけ る OA ジ ャ ー ナ ル刊 行 状 況 を 調 べ て いる 77 ) 。Hu ら は , 中国 版の Google で あ る Google.hk を 用 い て , The China Academic Journals full-text database に 収 録 さ れる 8,114 タ イ トル 全 て の 学 術 雑 誌の Web サ イ トを 検 索 し , OA ジャ ー ナ ル か 否か を 調 査し て い る 。 な お , OA ジ ャ ー ナ ルの 判 断 基 準 は ,掲 載 論 文 を ダ ウン ロ ー ドし て 読 め る こ と で ある が , 掲 載 論文 全 て に 限 定 せ ず ,一 部 の 掲 載 論 文 だ けで あ っ て も ,OA ジ ャ ーナ ル と みな し て い る。そ の 結果 ,自然 科 学 分 野 では 538 タ イト ル( 10.44%), 社 会 科学 分 野 で は 147 タイ ト ル ( 4.97%), 全 体 と して は 685 タ イ ト ル ( 8.44%)が OA ジャ ー ナ ルで あ る こ と が わ か った 。た だ し,こ の 結果 に は Delayed OA ジ ャ ー ナ ルも 含 ま れ て お り , Full OA ジ ャ ー ナ ル に限 定 す る と 251 タ イ ト ル ( 3.1%)と な る 。 以 上 の先 行 研 究 を ふ ま え て, 主 に 以 下 の 2 つ の 点が 指 摘 で き る 。 1 つ 90 は調査に用いるデータベースの違いにより,結果には大きな差が出る。 た と えば , Hedlund ら が 2006 年 に 行 っ た 調 査で は , OA ジ ャ ー ナル の 割 合 は Ulrich’ s Periodicals Directory を 用 い た 方 が Web of Science の 2 倍に も な る 。こ れ は 網羅 性 の 高 い Ulrich’ s Periodicals Directory と , 質の 高 い 学 術 雑 誌 情 報を 収 録 す る Web of Science とい う そ れぞ れ の デ ータ ベ ー ス の 特 徴 に 起因 す る 。この た め,異 な る 調 査方 法 の 先行 研 究 は ,単 純 に 比 較 す る こ とは で き ず , こ れ ら の結 果 か ら OA ジ ャ ーナ ル の 割 合の 経 年 変 化 を 読 み 取る こ と は で き な い 。 も う 1 つ は ,分野 に よ る 結果 の 違 い で あ る。Giblia の 調 査 で は,自 然 科 学 分野 の OA ジ ャ ー ナ ルタ イ ト ル 数 の 伸 び 率が 高 く ,2008 年の OA ジ ャ ー ナ ルの 割 合 は , 自 然 科 学分 野 が 社 会 科 学 分 野 の 3 倍 以 上 高 か っ た 35) 。 2007 年 の 三根 の 調 査 で も,OA ジ ャ ー ナ ル の 64.2%が 自 然 科 学 分 野 であ り, 社 会 科 学分 野 は 23.0%, 人 文科 学 分 野 は 12.8%で あ っ た 47) 。 2009 年の Miguel ら の調 査 も , OA ジ ャ ーナ ル の 割 合 が高 い の は 自 然 科 学 分野 で あ った c 7 4) 。OA ジ ャ ーナ ル は 自然 科 学 分 野 に お い てよ り 進 ん で い る と いえ る 。 ハイ ブ リ ッド OA ジ ャ ーナ ル と Delayed OA ジ ャ ーナ ル の タ イ トル 数 a 目 , b 目 で は , Full OA ジ ャ ー ナ ルに 関 す る調 査 を 述 べ た 。 こ れら の OA ジ ャ ー ナ ル の 情 報 は, DOAJ が 網 羅 的 に収 録 し て い る た め 広範 囲 を 対 象 とし た 調 査 が 可 能 で あっ た 。 こ れ に 対 し て , ハ イ ブ リ ッ ド OA ジャ ー ナ ルや ,Delayed OA ジ ャ ーナ ル は ,購 読 型 学術 雑 誌 と の 区 別 が つけ に く く,こ れ ら の 情報 を 網 羅的 に 扱 う 情 報 源 も ない 。こ の ため ,ハイ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナル や , Delayed OA ジ ャ ー ナル に つ い て は , 調 査対 象 を 絞 り 込ん で の 調 査 が 行 わ れて い る 。 Suenje ら 45 ) と Björk ら 78 ) は, 大 手 出 版 元 に 限定 し て , ハ イ ブ リ ッド OA ジ ャ ー ナ ル のタ イ ト ル数 を 調 査 し て い る (第 3-5 表)。 Suenje ら は ,2009 年に 12 の 大手 出 版 元 ,American Chemical Society, American Physical Society, Cambridge University Press, Elsevier, Nature Publishing Group,Oxford University Press,PNAS,Royal Society, SAGE, Springer, Taylor & Franceis, Wiley Blackwell の 刊 行 す る ハ イ ブ リ ッド OA ジ ャ ー ナ ル のタ イ ト ル 数 を 調 査 して い る 45 ) 。結 果 は , 12 出 版 元 の刊 行 雑 誌 8,100 タ イ ト ル中 1,991 タ イ トル( 25% )が ハ イブ リ ッ ド OA ジ ャ ーナ ル で あ っ た。 91 第 3-5 表 大手 出 版 元 の ハイ ブ リ ッド OA ジ ャ ーナ ル タ イ ト ル 数 (数字はタイトル数) (タイトル数) 研究者名 調査年 American Chemical Society American Physical Society Cambridge University Press Elsevier Nature Publishing Group Oxford University Press PNAS Royal Society SAGE Springer Taylor & Franceis Wiley Blackwell BMJ Group IOP Science International Union of Crystallography 92 Dallmeierら45) 2009年 35 7 15 68 14 90 1 7 54 1,100 300 300 - Björkら78) 2012年2月 38 7 120 1,160 37 109 1 7 177 1,360 577 726 28 27 7 Björk らは 2012 年 2 月 に ,Suenje ら の 調査 対 象 と し た 12 出 版 元 に, BMJ Group, IOP Science,International Union of Crystallography を 加 えた 15 出版 元 を 対 象 に,ハ イ ブ リッ ド OA ジ ャ ーナ ル に 関 す る調 査 を 行 っ てい る 。 そ の 結 果 , 12 出 版 元 中 9 出 版 元に お い て 2009 年 時 点 よ り も , ハイ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル の タ イ ト ル 数 は 増 加 し , 残 り の 3 社 も タ イ トル 数 は 維 持 し て いた 78 ) 。 Björk らは Delayed OA ジ ャ ー ナル に つ い て , HighWire Press に 2006 年 に 掲載 さ れ た 学 術 雑 誌 を対 象 に 調 査 し て い る 。その 結 果 ,対 象の 1,080 タ イ トル 中 , Delayed OA ジ ャ ーナ ル は 234 タ イ ト ル 存 在し た 72 ) 。 これ ら の エン バ ー ゴ は , 2-6 ヶ 月 が 27 タ イ ト ル , 12 ヶ 月 が 190 タ イ ト ル, 24 ヶ 月 以 上が 17 タ イ ト ルで あ り ,エン バ ー ゴを 12 か 月 と する Delayed OA ジ ャ ー ナル が も っ と も多 か っ た。ま た,Laakso ら は,HighWire Press, PMC, Elsevier, Wikipedia の 2012 年 時 点 で の Web ペー ジ の 情 報 ,お よ び 自 らの 先 行 研 究 で Delayed OA ジャ ー ナ ルと 特 定 で き た タ イ トル を 照 合 し,492 タ イ ト ル の Delayed OA ジ ャ ー ナ ル 7 9) を 確 認 で きた と し てい る 。 上 記 の調 査 は い ず れ も 対 象を 限 定 し た 調 査 で はあ る が ,ハ イ ブ リ ッド OA ジ ャ ーナ ル も Delayed OA ジ ャ ー ナ ルも タ イ トル 数 も 年 々 増 加 傾 向に あ る こ とを 示 し て い る 。 2 論文 単 位 の 調 査 a OA ジ ャ ー ナ ル掲 載 論 文数 Full OA ジ ャー ナ ル に 掲 載さ れ た 論 文 数 に つ いて は 2 つ の調 査 が あり , 2002 年か ら 2005 年 刊 行 の Full OA ジ ャ ー ナ ル掲 載 論 文 数 の 推 移 がわ か る。 Regazzi は ,2004 年 4 月 に DOAJ に 収録 さ れ てい た OA ジ ャ ー ナ ル情 報 を も とに 調 査 を 行 っ て いる 38 ) 。た だ し,詳 細 な調 査 手 順 は 示 さ れ てい な い 。結 果 は ,22,450 論 文( 2002 年 ),25,380 論 文(2003 年 ),24,516 論 文 (2004 年 ) と , 2002 年 か ら 2003 年 に か けて は 13%増 加 し て いる が , 2003 年 か ら 2004 年 に か けて は 24,516 論 文 と 減 少 し て い る と し て い る 。 Morris は ,2005 年 時 点で DOAJ に 収 録 さ れて い た 1,443 タ イ トル に つ い て , 直 接 OA ジ ャ ー ナ ルを 確 認 し て そ の 実 態を 調 査 し て い る 80 ) 。 アク セ ス でき な い タ イ ト ル な ども あ り ,最終 的 には 1,150 タ イ ト ル が 調査 対 93 象 と なっ て い る 。 調 査 の 結果 , 合 計 316,790 論文 が OA で あ る こ とを 確 認 し てい る 。 た だ し 同 時 期の HighWire 掲 載の Delayed OA ジ ャ ーナ ル 掲 載 の OA 論 文 数 が 1,104,522 論 文で あ る こ と を示 し て お り , 調 査 結果 の 316,790 論 文 が 必 ず し も 高い 結 果 と み な し て いな い よ う に 読 み 取 れる 。 b OA ジャ ー ナ ル 掲 載 論 文数 が 論 文 全 体 に 占 める 割 合 論 文 全体 に 占 め る OA 論文 の 割 合 に つい て の 調査 は 数 多 く 行 わ れ てい る が ,調 査対 象 年 ,調 査 方法 ,調 査 範 囲 な ど の違 い が あ り ,結 果 には 差 が あ る。こ の た め,各 調 査の 結 果 を 一 概 に 時 系列 に 並 べ て,論 文 全体 に 占 め る OA 論 文 の推 移 を 読み と る こ と は で き ない 。 そ こ で 以 降 で は, 類 似 す る調 査 方 法 別 に 各 調 査を ま と め て レ ビ ュ ーす る 。具 体的 に は, 1)論 文 全 体 か ら 抽 出 し た サ ン プ ル デ ー タ を ロ ボ ッ ト 検 索 , 2) 論 文 全 体 か ら 抽 出 した サ ン プ ル デ ー タ を人 手 で Web 検 索 ,3)OA 論 文 の サン プ ル デー タ か ら の推 定 の 3 種 類 で あ る。こ れ ら の調 査 は,c 目 で 扱 うハ イ ブ リッ ド OA ジャ ー ナ ル と Delayed OA ジ ャー ナ ル の 調 査, お よ び d 目 で 扱 う分 野 別 の 傾向 と 重 複 す る 部 分 があ る た め ,関 係 性 を整 理 す る た め に ,各 調 査 を 第 3-6 表 にま と め , b 目 で レ ビュ ー す る 先 行研 究 の 調 査 結 果 を 第 3-7 表 に まと め た 。 ① ロ ボッ ト 検 索 論 文 全体 か ら の サ ン プ ル デー タ を , ロ ボ ッ ト 検索 す る こ と で OA ジャ ー ナ ル掲 載 論 文 か 否 か を 調査 す る 調 査 は 2 種類 あ る 。ロボ ッ ト 検索 で は 大 量 のデ ー タ を OA ジ ャ ーナ ル 掲 載 論 文 か 否 かを 判 定 で き る た め ,後 述 する比較的少数のサンプルデータを用いて全体を推定する調査よりも, 実 態 に近 い 結 果 が 得 ら れ ると 考 え ら れ る 。し か し ロ ボ ッ ト検 索 を 用い た 2 種 類 の 先 行 研 究の 結 果 は, 大 き く 異 な る た めこ れ ら の 結 果 が ど れだ け 実 態 に近 い も の な の か 判 断す る こ と は 難 し い 。 Yassine Gargouri ら は , 2005 年 から 2009 年 に かけ て 掲 載 さ れ た 論文 情 報 を Web of Science か ら , 分 野 によ る 偏 りの な い よ う に 調 整 し て 合 計 107,052 件 を 抽 出 し ,2011 年 9 月 に ロ ボ ット 検 索 で そ れ らの OA 状況 を 調 査し て い る 81 ) 。 ロ ボ ット 検 索 は , Web 上 を く ま な く探 し ま わ り論 文 全 文 が OA と な って い る かを 確 か め る ア ル ゴ リズ ム と な っ て お り ,事 前 に サ ンプ ル の 200 論 文 で 検証 し た と こ ろ 精 度 は 98%で あ っ た と し てい る 。 そ の 結果 ,論文 全 体 に 占 める OA ジ ャ ー ナ ル 掲載 論 文 の 割 合 は,1.9%( 2005 94 第 3-6 表 論文 単 位 の 調 査の 調 査 対 象 OA論文掲載先 調査方法 研究者名 分野別調査 Full OAJ 推定値 ○ ○ Alchambaultら82) ○ ○ Kurataら83) ○ Björkら84) ○ Lyonsら85) ○ Bhat 86) ○ Björkら72) ○ Laaksoら65) ○ Laaksoら43) ○ ○ 生物医学のみ ○ ○ ○ 推定値/ 87) 人手でWeb検索 BIS省 ビジネス 経営学のみ ○ ○ ○ ○ ○ ○ (推定値) (人手でWeb検索) (人手でWeb検索) Alchambaultら82) ○ Noorden 56) ○ 不明 45) 特定の出版社を Dallmeierら Web検索 Björkら78) 1 Delayed OAJ Gargouriら81) ロボット検索 人手で Web検索 ハイブリッドOAJ ○ ○ 表中の略称の正式名称は以下のとおり。 OAJ: OA ジ ャ ー ナ ル , ハ イ ブ リ ッ ド OAJ: ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル , Delayed OAJ: Delayed OA ジ ャ ー ナ ル 95 第 3-7 表 OA ジャーナル掲載論文が学術雑誌掲載論文全体に占める割合(その 1) 研究者名 Gargouriら81) 論 文 掲 載 年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 Kurataら83) Björkら84) ロボット検索 調査方法 調査対象 Alchambaultら82) Web of Science 1.9% 1.7% 1.7% 3.5% 2.3% 1.2% Scopus Lyonsら85) 人手でWeb検索 PubMed Ulrich / WOS / Scopus / DOAJ 13.9% 20.4% ビジネス経営学 Scopus 分野の学術雑誌 (インドの5機関の 60タイトル 著者執筆論文) 9.53% 7.02% 7.46% 7.38% 7.87% 5.3% 10±0.1% Bhat 86) 26.5% 0.9% 96 第 3-7 表 OA ジャーナル掲載論文が学術雑誌掲載論文全体に占める割合(その 2) 研究者名 Laaksoら65) Björkら72) 調査方法 調査対象(全論文数) 論 文 掲 載 年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 Laaksoら43) BIS省87) サンプルデータからOA論文数を推定 Ulrich’s Periodicals Directory Web of Science Scopus Ulrich’s Periodicals Directory 5.9% 6.8% 7.7% Scopus Web of Science 8.1% 8.6% 10.3% 11.0% 6.6% 7.1% 8.4% 9.0% Scopus Alchambaultら82) Noorden 56) 不明 不明 Scopus Scopus 11.5% 11.0% 4.6% 9.7% (世界) 2012年 97 7.8% (イギリス) 年),1.7%( 2006 年),1.7%( 2007 年 ),3.5%( 2008 年 ),2.3%( 2009 年 ), 1.2%( 2010 年 ) で あ っ た。 Eric Archambault ら は , 2004 年 から 2011 年 に かけ て 刊 行 さ れ た 論文 情 報を Scopus か ら 1 年 あ たり 4,000 件 ,合計 32,000 件 抽 出 し,独 自 で 開 発 した 自 動 化 ソ フ ト ウ ェア harvester を 用 いて ,OA 状 況を 調 査 して い る 8 2) 。結果 は グ ラ フ 表 示 のた め 正 確 な 値 は 不 明だ が ,2004 年 時 点 では 5% 未 満 だ っ た も の が , 2011 年 に は 12-13 % に 上 昇 し て い た 。 対 象 を 2008-2011 年の 4 年 間 に 刊行 さ れ た 論文 16,000 件 に 限 定 して 分 析 した 結 果 ,OA ジ ャ ー ナル 掲 載 論 文 が 全 体 に 占 め る 割 合 は , 10±0.1%で あ っ た 。 両 調 査は ,調 査 方法 が ロ ボッ ト 検 索 と い う 点 は共 通 し て い る が ,調 査 結 果 は,Gargouri ら の 調 査結 果 で 最 も 高 い 割 合を 示 し た 2008 年 の 3.5% と 比 較し て も,Archambault ら の結 果 は そ の 約 3 倍 と大 き な 開 き が ある 。 そ の 原因 は , 両 調 査 間 の 2つ の 大 き な 相 違 点 にあ る と 考 え ら れ る 。1 つ は 用 いる ロ ボ ッ ト の ア ル ゴリ ズ ム の 違 い ,も う 1 つ は 調 査対 象 の 情報 源 が そ れぞ れ Web of Science と Scopus と 異 な る点 で あ る 。 こ れ ら の点 が 結 果 の違 い に 影 響 し て い ると 考 え ら れ る 。 ② 人 手で の Web 検 索 論 文 全体 か ら 抽 出 し た サ ンプ ル デ ー タ に 対 し て,人 手で Web 上 を 検索 し て OA 状 況を 調 査 した 4 つ の 先 行 研 究 に つ いて 述 べ る 。 Keiko Kurata ら は , 生 物 医 学 分 野 の 論 文 情 報 を 網 羅 的 に 収 録 す る PubMed か ら 書 誌 情 報 の サ ン プ ル を 抽 出 し , 論 文 掲 載 年 の 約 1 年 後 に Google で 検 索 す る と い う 方 法 で 論 文 の OA 状 況 を 調 査 し て いる 8 3) 。 調査 対 象 論文 は 4,592 論 文( 2005 年掲 載 ),1,908 論 文(2007 年 掲 載 ),1,942 論 文 ( 2009 年 掲 載 ) で あり , そ れ ぞ れ 1,206 論 文, 710 論 文 , 975 論文 が , グリ ー ン OA も 含 む 何ら か の 形 で OA 化 さ れ て いた 。 そ の うち OA ジ ャ ー ナル に 掲 載 さ れ て い た論 文 の 割 合 は ,そ れ ぞれ 52.8%,54.8%,52.7% で あ り , 調 査 対 象 論 文 全 体 に 占 め る OA ジ ャ ー ナ ル 掲 載 論 文 の 割 合 は 13.9%( 2005 年掲 載 ),20.4%( 2007 年 掲 載 ),26.5%(2009 年 掲 載 )であ っ た こと が わ か る 。 Björk らは ,Ulrich’s Periodicals Directory,Web of Science,Scopus, DOAJ に 収 録さ れ て い る 学術 雑 誌 情 報 か ら , 30,000 件 以 上 の 学 術雑 誌 情 報 デ ータ を 構 築 し ,そ の 中か ら 1,837 論 文 を ラン ダ ム 抽 出 し ,2008 年掲 98 載 論 文の 翌 年 の OA 状 況 を ,Google で Web 場 を 検索 し て 調 査 し て いる 84 ) 。 そ の 結果 , 調 査 対 象 の 8.5%が 出 版 社 の Web サ イト 上 で OA と な っ てい る こ と を確 認 し て い る 。 Charles Lyons らは ビ ジ ネス 経 営 学 分 野 の 学 術雑 誌 60 タイ ト ル の , 2009 年 初 号 に 掲 載 さ れ てい た 論 文 452 件 を 対 象に 調 査 し て いる 85 ) 。60 タ イ トル は ,イ ンパ ク ト ファ ク タ ー を 考 慮 した 3 種 類 の タ イ ト ル から 構 成 さ れて い る 。 1 つ は JCR の 上 位 20 タ イ ト ル, 2 つ 目 は JCR の下 位 20 タ イ トル , 3 つ 目 は JCR に 収 録 され て い な い 20 タ イ ト ル で あ り Scopus 収 録 誌か ら ラ ン ダ ム に 抽 出し た 。 Lyons ら は 対象 の 452 件 の タ イ トル を 用 いて Google で 検 索 して OA 状 況 を 調 査 し てい る 。 そ の 結 果 OA ジ ャー ナ ル に掲 載 さ れ て い た のは 4 論 文 で あ り ,調 査対 象 全 体 の 1%に も 満た な か っ た。 Mohammad Hanief Bhat は ,2003 年 から 2007 年 にか け て , Scopus に 収 録 さ れた イ ン ド の ト ッ プ 研究 機 関 5 機 関 の 研 究者 の 論 文 17,516 論 文 に つ い て,調 査 して い る 8 6) 。17,516 論 文 は 4,232 種 類 の 雑 誌 に 掲 載さ れ て お り , こ れ ら 4,232 タ イ トル が OA ジ ャ ー ナ ルか 否 か を DOAJ 収 録 状 況 , お よび Google を 用 いて OA ジ ャー ナ ル か を 確認 し て 特 定 し た。そ の 結 果 1367 論文 ( 7.8%) が 245 種 類 の OA ジ ャ ー ナル に 掲 載 さ れ て い た。 年 別 に み ると , 2003 年 が 274 論 文( 9.53%),2004 年 が 219 論 文 ( 7.02%), 2005 年 が 254 論文 ( 7.46% ),2006 年 が 297 論 文 ( 7.38%), 2007 年 が 323 論 文( 7.87%) で あ った 。 以 上 4 つ の 先行 研 究 を 見 てき た が , 人 手 に よ る Web 検索 は , 1 論 文 あ た り の調 査 に 多 大 な 時 間 と労 力 を 要 す る た め,調 査 で き るサ ン プ ル数 を 制 限 せざ る を 得 な い 。この た め 分 野 など で 対 象を 絞 り 込 む た め ,調 査 ご と に 対象 が 異 な り ,4 つ の 先行 研 究 は い ず れ も調 査 対 象 が 大 き く 異な る。 そ れ ゆえ に 各 調 査 を 単 純 に比 較 す る こ と は で きな い 。 だ が 人手 に よ る Web 検 索 は,1 件ず つ 調 査 者 自 身が チ ェ ッ ク す る た め, 細 や かな 調 査 が 可 能 に な る と い う 長 所 も あ る 。詳 し くは c 目 で 述 べる が, Björk ら の 調査 で は , ハ イブ リ ッ ド OA ジ ャ ーナ ル や Delayed OA ジ ャ ー ナ ル など の OA ジャ ー ナ ルの 種 類 も 調 査 し て いる 。 ま た ロ ボ ッ ト 検索 と 異 な り,調 査 者 が直 接 OA 状 況 を確 認 す る た め,よ り 確 実に OA か 否 か を 判 定 でき , 実 態 を よ り 正 確に 把 握 で き る 調 査 方法 と 考 え ら れ る 。 99 ③ サ ンプ ル か ら の 推 定 OA ジ ャ ー ナ ル掲 載 論 文数 と 全 学 術 雑 誌 掲 載論 文 数 を 推 定 し ,前者 を 後 者 で 除す こ と で OA ジ ャ ーナ ル 掲 載 論 文 数 の 割合 を 推 定 す る 4 つ の 調査 に つ いて 以 下 で 述 べ る 。 Björk らは , 2006 年 に Ulrich’s Periodicals Directory に 収 録 され て い た情 報 か ら , OA ジャ ー ナ ル 掲 載 論 文 の 割合 を 4.6%と 推 定 して い る 72) 。全学術雑誌掲載論文数は,2 段階の手順で調査している。まず, Ulrich’ s Periodicals Directory に査 読 付 き学 術 雑 誌 と し て 収 録さ れ て い た 23,570 タ イ ト ル を ,論 文デ ー タ ベ ー ス ISI( 現 在 の Web of Science) に 収 録さ れ て い る か 否 か で分 け る 。 次 に , ISI に 収 録 さ れて い た 8,466 タ イ トル は , 掲 載 論 文 数 を ISI で調 査 し 945,900 論文 と 特 定 す る 。 ISI 非 収 録の 15,284 タ イ ト ル に つ い て は ,そ の 中か ら サ ン プ リ ン グ した 104 タ イ トル の 平 均 掲 載 論 文 数 26.2 論 文 に 基 づ き ,400,440 論 文 と 推 定す る 。 両者を足し合わせて端数を切り捨てた結果,全学術雑誌掲載論文数は, 1,346,000 論 文 と 推 定 し てい る 。 OA ジ ャ ー ナ ル 掲載 論 文 につ い て も ,2 段 階 の手 順 で 調 査 し て い る。ま ず ,Ulrich’s Periodicals Directory に 査 読付 き OA ジ ャ ー ナ ルと し て 収 録 され て い た 1,735 タ イト ル に つ い て , 特定 の OA 出 版 社 か ら 刊 行 さ れ て いる か 否 か で,二 分 する 。一 定 数の OA ジ ャ ー ナ ル を刊 行 する OA 出 版 社 ,PLOS,BMC, Hindawi, Internet Scientific Publications が 刊行 す る 合計 248 タ イ ト ル 分 につ い て は ,実 際 に 掲載 論 文 数 を 数 え て,合 計 9,850 論 文 であ る こ と を 特定 す る 。 残 り の 1,487 タイ ト ル に つ い ては , そ の 中か ら サ ン プ リ ン グ した 100 タ イ ト ル の 平均 掲 載 論 文 数 34.6 論 文 に 基 づき , 掲 載 論 文 数 は 51,465 論 文で あ る と推 定 す る 。 両 者 の 合計 か ら 全 OA ジ ャ ー ナ ル 掲 載 論文 数 は 61,313 で あ る と 推定 す る 。 こ の結 果 , 全 学 術雑 誌 掲 載 論 文 数 1,346,000 論 文 中 ,OA 論 文 は 61,313 論 文 存 在し , 割 合は 4.6%と 推定 し て いる 。 1 項 の 雑誌 単 位 の 調 査 で も詳 述 し たが Laakso らの 調 査 4 3 ), 65 ) は,論文 単 位 での 調 査 も 同 時 に 行 って い る 。調査 方 法 は1 項 で 詳 述 し た た め,本 稿 で は論 文 調 査 に 関 わ る 部分 の み 述 べ る 。 Laakso ら が 2010 年 に DOAJ か ら サ ンプ リ ン グし た OA ジャ ー ナル 519 タ イ トル と ,先 行 研 究 か ら入 手 し た 1999 年 以 前 創 刊 の OA ジ ャ ー ナル 304 100 タ イ トル に 対 し て 行 っ た 調査 で は ,ISI や Scopus,OA ジ ャ ー ナ ルの Web サ イ トな ど を 用 い て 掲 載 論文 数 を 調 査 し ,1993 年 か ら 2009 年 に かけ て の OA ジ ャ ー ナ ル 掲 載 論 文 数 を 推 定 し て い る 6 5) 。 そ の 結 果, OA ジャ ー ナ ル 掲 載論 文 数 は ,2000 年 の 19,500 論 文 か ら,2009 年に は 191,850 論 文 に ま で増 加 し た と 推 定 し てい る 。こ の 2000 年 以 降 の 増 加率 は ,毎年 30% ず つ OA 論 文 が 増加 し て いる こ と を 意 味 し て いる 。 さ ら に 調 査 で 得ら れ た 推定 OA ジャ ー ナ ル 掲 載論 文 数 と ,3 種 類 のデ ー タ ベ ー ス の 収 録情 報 と を 照 合し て ,2009 年 の 各デ ー タ ベ ー ス に お ける OA ジ ャー ナ ル 掲載 論 文 数 の 割合 を 示 し て い る 。 なお , 各 デ ー タ ベ ー ス の 2009 年の 収 録 論文 数 の 特 定方 法 は そ れ ぞ れ 異 なる 。Scopus は ,同 デー タ ベ ー ス の 機 能 を用 い て 特 定し て い る 。 Ulrich’s Priodicals Directory と ISI は 2006 年 の 先 行 調査 で 得 ら れ た 結 果 72 ) が 毎 年 3%上 昇 し た と い う 前 提 で 試 算 して い る 。その 結 果 2009 年の OA ジ ャー ナ ル 掲 載 論文 数 が 各 デ ー タ ベ ース 収 録 論 文 数に 占 め る 割 合 は,Ulrich’s Priodicals Directory は 7.7%,Scopus は 6.8%,ISI は 5.9%で あ っ た 。 Laakso ら が ,2012 年 1 月 に DOAJ か ら サ ン プリ ン グ し た OA ジ ャ ー ナ ル 787 タ イ トル を 対 象 と した 調 査 で は , 各 OA ジャ ー ナ ル の 掲 載 論文 数 を , 各タ イ ト ルの Web サ イ ト ,Web of Knowledge,SCImago を 用 いて 特 定 し てい る 43) 。そ の 結 果,OA 論 文数 は 2000 年の 20,702 論 文 か ら,2011 年 に は 340,130 論 文 に ま で 増 加 し て い る こ と が わ か っ て い る 。 さ ら に 2008 年 か ら 2011 年 の 掲 載 論 文 に つ い て は , Scopus お よ び Web of Knowledge と 照 合 し て ,論文 全 体 に 占 め る OA ジ ャ ーナ ル 掲 載 論 文の 割 合 を 求 めて い る 。 そ の 結 果, Scopus の場 合 ,8.1%( 2008 年 ),8.6%( 2009 年), 10.3%(2010 年), 11%( 2011 年 ) で あっ た 。 こ れ に 対 して Web of Knowledge の 結 果 は ,6.6%( 2008 年),7.1%( 2009 年 ),8.4%( 2010 年 ), 9.0%( 2011 年 )で あ っ た。 イ ギ リス の BIS 省 が 2013 年 に 出 し た 報 告 書で は ,OA ジ ャ ー ナル 掲 載 論 文 が論 文 全 体 に 占 め る 割合 の 推 定 値 を ,全 世 界 の 論 文 とイ ギ リ スの 論 文 と で分 け て 示 し て いる 8 7) 。同 報 告 書 内 で 記 され て い る 調 査 で は ,まず DOAJ 収 録 タ イ ト ル お よ び , 一 部 の 大 手 出 版 社 に 対 す る 個 別 の 調 査 に よ OA ジ ャ ー ナ ル を特 定 す る。そ れ らの OA ジ ャ ーナ ル の タ イ ト ルと Scopus 収 録 タイ ト ル と を 照 合 し ,2012 年 時点 で の ,全世 界 と イ ギ リ ス に おけ る 101 OA 論 文 が論 文 全 体 に 占 める 割 合 を 示 し て い る。 そ の 結 果 , 全 世 界 で は, APC 著 者 支 払い モ デ ル の OA ジ ャ ー ナ ル 掲 載 論文 は 5.5%, 財 政 支援 を 受 け て いる OA ジ ャ ー ナ ル 掲載 論 文 は 4.2% で あ り , OA ジ ャ ー ナ ル掲 載 論 文 は 合計 で 9.7%で あ っ た。イ ギ リ ス人 が 著 者の 論 文 で は ,APC 著 者支 払 い モ デル の OA ジ ャ ー ナ ル 掲 載 論 文 は 5.9%,財政 支 援 を 受 け て い る OA ジ ャ ー ナル 掲 載 論 文 は 1.9%で あ り ,OA ジ ャ ーナ ル 掲 載 論 文 は 合 計で 7.8% で あ った 。 以 上の 4 つ の 調 査 と も ,使 用 す る デ ータ ベ ー スの 違 い や ,推 定 の 基準 と な る OA 論 文 の特 定 方 法 が 異 な る 。 こ の た め調 査 に よ っ て , 調 査対 象 年 が 同一 で も 結 果 が 異 な る。ま た OA 論 文 を 特定 す る 方 法 と して DOAJ を 用 い てい る が , DOAJ は Delayed OA ジ ャ ー ナル を 収 録 し て い な いた め , そ れ らが 結 果 か ら 漏 れ る とい う 問 題 点 が あ る 。 3 種 類 に大 別 し た 調 査 方 法に 基 づ い て 先 行 研 究 を 見 て き た が ,他 にも , 詳 細 な手 順 は 不 明 だ が , 論文 全 体 に 占 め る OA ジ ャ ー ナ ル掲 載 論 文の 割 合 を 示し た 調 査 が あ る。以 下 で は,該 当 す る 2 つ の 調 査 に つい て 述 べる 。 Archambault ら は, DOAJ, PubMedCentral, Scopus を 用 いて 調 査 した 結 果 ,Scopus が 収 録 す る論 文 情 報 に 占 め る OA ジ ャ ー ナル 掲 載 論文 数 の 割 合 は,1996 年 か ら 2011 年 に か け て 2.9 年 で 2 倍 にな る 割 合 で 増 加し , 1996 年 の 0.9%か ら 2011 年 には 11.5%に ま で 上昇 し た と 分 析 し て いる 82 ) 。 Noolden は ,詳 細 な 調 査 手順 な ど は 示 し て い ない が ,Scopus を 用 いて 行 っ た調 査 で , 2011 年 時 点 の OA 論文 が 論 文全 体 に 占 め る 割 合 は 11.0% で あ った と 述 べ て い る c 8 8) 。 ハイ ブ リ ッド OA ジ ャ ーナ ル と Delayed OA ジ ャ ー ナル ハ イブ リ ッ ド OA ジ ャ ーナ ル と Delayed OA ジ ャー ナ ル に 掲 載 され た OA 論 文 が論 文 全 体 に 占 め る 割合 に つ い て の 調 査 は,OA ジ ャ ーナ ル 掲 載論 文 の 割 合を 調 べ る 調 査 と 合 わせ て 行 わ れ て い る もの が 多 い 。こ の た め以 下 で 述 べる 調 査 は,b 目 で 述 べた 調 査 と 同 一 の も のも 含 ま れ る( 第 3-8 表)。 Björk ら は ,2008 年 掲 載論 文 の 翌 年 の OA 状 況 を,人 手 で Google を用 い て Web 上 を検 索 し て 調 査し た 結 果 , OA 論 文 が 8.5%存 在 し , そ のう ち ハ イ ブリ ッ ド OA ジ ャ ー ナル 掲 載 論 文 が 24%,Delayed OA ジ ャ ーナ ル 掲 載 論 文 が 14%であ っ た と して い る 84 ) 。 こ の こ とか ら , 論 文 全 体 に 占め る ハ イ ブリ ッ ド OA ジ ャ ー ナル 掲 載 OA 論 文が 2%, Delayed OA ジ ャ ーナ ル 102 第 3-8 表 ハイブリッド OA ジャーナルおよび Delayed OA ジャーナルに 掲載された OA 論文が学術雑誌掲載論文全体に占める割合 調査年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 Björkら84) BIS省87) ハイブリッド Delayed ハイブリッド 2% 1% 0.5% Delayed Laaksoら43) Dallmeierら45) Scopus Web of Science ハイブリッド Delayed ハイブリッド Delayed ハイブリッド 0.3% 5.3% 0.3% 6.6% 0.5% 5.3% 0.5% 6.7% 0.7% 0.6% 5.1% 0.7% 6.4% 0.7% 5.2% 0.7% 6.4% 1% 103 Björkら78) ハイブリッド 2%未満 掲 載 OA 論 文は 1%と な る 。 Laakso ら は , 先 行 調 査 の結 果 78 ) , 79 ) と 照 合 して , 2008 年 か ら 2011 年 に か けて の ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル 掲 載 OA 論 文 数 と Delayed OA ジ ャ ー ナル 掲 載 論 文 数 を OA ジ ャ ーナ ル 掲 載 論 文数 に 加 え た 値 が Scopus 収 録 論 文情 報 と Web of Scienfce 収 録 論 文 情 報 にし 占 め る 割 合 を 示 して い る 43 ) 。 そ れら の 差 分 か ら, ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル 掲 載 OA 論 文 は, Scopus に お い て , 0.3 %( 2008 年), 0.5%(2009 年 ), 0.6%(2010 年 ), 0.7%( 2011 年)で あ り ,Web of Science では 0.3 %( 2008 年),0.5%( 2009 年),0.7%( 2010 年),0.7%( 2011 年 )で あ る こと が わ か る。一方 Delayed OA ジ ャ ー ナ ル 掲載 論 文 は,Scopus に お い て ,5.3%( 2008 年 ),5.3%( 2009 年),5.1%( 2010 年 ),5.2%( 2011 年 )で あ り,Web of Science で は 6.6% ( 2008 年 ), 6.7%( 2009 年), 6.4%( 2010 年), 6.4%( 2011 年 ) であ る こ と がわ か る 。 BIS 省 が 2013 年 に 出 し た報 告 書 で は ,Google で 論 文 名の 最 初の 10 語 で 検 索し ,本 文 フ ァ イ ル の拡 張 子( pdf,doc/docx,ps.)で 絞 り 込 み ,出 版 社 版の 本 文 フ ァ イ ル が ハイ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ルの Web サ イ ト上 に 存 在 すれ ば ハ イ ブ リ ッド OA ジ ャー ナ ル 掲載 OA 論 文,購 読 型 電 子ジ ャ ー ナ ルの Web サ イ ト 上 に 存 在す れ ば Delayed OA ジ ャ ー ナ ル 掲 載 OA 論 文と 判 定 して い る 8 7) 。 そ の 結果 , 全 世 界 の 結 果 とし て は , ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ーナ ル 掲 載 OA 論 文 は 0.5%,Delayed OA ジ ャー ナ ル は 1.0%で あ っ た 。 イ ギ リス 人 が 著 者 の 論 文 では ,ハ イ ブリ ッド OA ジ ャー ナ ル 掲載 OA 論 文 は 2.7%,Delayed OA ジ ャ ーナ ル 掲 載 OA 論 文は 4.2% で あ っ た 。 Suenje ら は , 2009 年 に 12 の 大 手 出 版 元 の ハイ ブ リ ッ ド OA 論 文 数を 調 査 して い る 45) 。結 果 は ,ハ イ ブ リッ ド OA 論 文が 12 出 版 元 の 刊 行論 文 総 数 に占 め る 割 合 は 0.7%, ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナル 掲 載 論文 全 体 に 占 め る割 合 は 2% で あ り ,12 出 版元 の 刊 行 雑 誌全 体 に 占 め る ハ イ ブリ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル の 割 合 が 25%で あ る こ と と 比較 す る と 低 い と 結 論づ けて いる。 Björk らは 2012 年 に ,Suenje ら の 調 査 対象 と し た 12 出 版 元に , BMJ Group,IOP Science,International Union of Crystallography を 加 え た 15 出 版 元 を 対 象 に , ハイ ブ リ ッ ド OA に 関す る 調 査 を 行 っ て い る 78) 。 合 計 する と 2011 年 1 年 間 の ハイ ブ リ ッ ド OA 論 文 総 数は 12,089 論 文 と 104 な る 。Björk らは ,Suenje ら が 2009 年 に 行 っ た調 査 結 果 を 補 正 して 2009 年 1 年 間の ハ イ ブ リ ッド OA 論 文 数を 8,095 論 文 と見 積 も る と ,2011 年 ま での 2 年間 で 伸 び 率 は 1.5 倍で あ り , ハ イ ブリ ッ ド OA ジ ャ ー ナル 数 が 倍 増し て い る が,2% 未 満 で あり ,同 時 期の OA ジャ ー ナ ル 掲 載論 文 数 の 割 合と 比 較 す る と 低 い と分 析 し て い る 。 d 分 野別 の OA ジ ャ ー ナ ル掲 載 論 文 の 割 合 Kurata ら の 調 査 は,「 生 物 医学 」 分 野 を 対象 に 行 っ た 調 査 で あり , そ こ で 明ら か に な っ た 論 文 全体 に 占 める OA ジ ャ ーナ ル 掲 載 論 文 の 割合 は, 分 野 を限 定 し な い 他 の 調 査と 比 べ て 高 い 傾 向 にあ っ た 8 3) 。「 生 物 医学 」 分 野 で は OA ジ ャー ナ ル 掲載 論 文 の 割 合 と い う傾 向 は , 調 査 方 法 の異 な る 別 の調 査 で も 同 様 に 示 され て い る 。 以 下 , 各調 査 に お け る OA ジ ャー ナ ル 掲載 論 文 の 割 合 の 高 い上 位 5 分 野 を 示 す 。 Gargouri ら の ロボ ッ ト 検索 調 査 で は,2005-2010 年 間 に 掲 載 さ れた 論 文 は, 「 生 物 医 学 」7.9%, 「 臨 床 医 学 」5.1%, 「衛 生 学 」4.6%, 「 地 球 科学 , 宇 宙 科学 」 2.0%,「 生 物 学」 1.9%で あ っ た 8 1) 。 Archambault ら の ロ ボ ッ ト検 索 調 査 で は , 2008-2011 年 間に 掲 載 され た 論 文は ,「総 合 科 学 技 術」 で 38±2%と 極 めて 高 く , 続 い て 「 農学 」 と 「 生 物学 」 が 17±0.9%,「 公 衆 衛 生 学 」 が 13±0.9%,「生 物 医 学 」 が 11 ±0.5%と 続 い た 82 ) 。も っ とも 高 い 結 果 を 示 し た「 総 合 科 学技 術 」に つ い て ,Archambault ら は 詳 しく 述 べ て い な い た め詳 細 は 不 明 だ が , おそ ら く 幅 広い 分 野 の 論 文 を 大 量に 掲 載 す る OA メガ ジ ャ ー ナ ルが 影 響 した と 考 え られ る 。 Björk ら が ,2008 年 掲 載 論文 に 対 し て 人 手 で 検索 し た 調 査 で の 上位 5 分 野 は ,「 医 学 」 13.9%,「 生 物 化 学 , 分 子 生 物 学 」 13.7%,「 医 学 関 係 の そ の 他の 分 野 」 10.6%,「 数学 」 8.1%,「 地 球 科学 」 7.0%で あ った 8 4) 。 Laakso ら が サ ンプ ル 値 から 推 定 し た 調 査 で は,2011 年 の OA 論 文 数は 「 生 物医 学 」120,900 論 文,「 社 会科 学 ,芸 術,人 文 科 学」 56,000 論 文, 「 地 球科 学 , 環 境 科 学 」 54,900 論 文 ,「 工 学 」 37,500 論 文,「 物 理学 , 天 文 学」 1,600 論 文 で あ った 43 ) 。 こ の よう に ,調 査方 法 や 対象 の 論 文 掲 載 年 が 異な る い ず れ の 調 査 にお い て も「 生 物 医 学 」 分 野 は OA ジ ャ ーナ ル 掲 載論 文 が 論 文 全 体 に 占め る 割 合 が高 い と い う 傾 向 が 続い て い た 。 105 注 ・ 引用 文 献 1) Rowlands, Ian; Nicholas, Dave; Huntingdon. 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を支払う研究者の多くが APC を助成金から支払っているが,研究者 の所属機関や助成団体における APC の補助はまだ十分におこなわれておらず,研 究者が支払っても良いと考える APC の額は,実際にかかる出版費用とは乖離して 119 いることが先行研究から明らかになっている。APC 収入だけで OA ジャーナルを刊 行するビジネスモデルが成功している事例も存在するが,持続可能なビジネスモ デルかどうかはまだ不透明である。 4 つ目は,OA ジャーナルの量的な変化を明らかにしようとする視点である。OA ジャーナルタイトル数や,OA ジャーナル掲載論文数は着実に増加していることが わかっている。だが,それらが学術雑誌全体または学術雑誌掲載論文全体に占め る割合についての実態は十分には明らかにされていない。 以上の 4 つの観点による先行研究を整理すると, 「研究者の意識」 , 「学術雑誌 としての質」 , 「ビジネスモデルの持続可能性」は OA ジャーナルを発展させる要 因であり, 「OA ジャーナルの量的な変化」は OA ジャーナルの進展と現状の実態そ のものである。OA ジャーナルを発展させる要因を考える上では,まずはその基礎 となる OA ジャーナルの実態を明らかにすることが必要であると考えられる。た とえば,OA ジャーナルの出版元について実態調査が行われていると,出版社の出 版方針が明らかになり,OA ジャーナルのビジネスモデルが成立し,持続可能かを 考える上で,一つの示唆が得られると考えられる。ALPSP3)や Morrison2)の調査で 明らかになっているように,APC 著者支払いモデルで出版費用を賄う OA ジャーナ ルの出版元の多くが「OA 出版社」で占められている。 「OA 出版社」以外にも,OA ジャーナルを刊行する出版社が増加する傾向が明らかになれば,OA ジャーナルの ビジネスモデルが出版社に認められ,持続可能性があるとみなせると考えられる。 そこで,まずは現状を把握するために実態調査を行い, 「研究者の意識」 ,「学術 雑誌としての質」 ,「ビジネスモデルの持続可能性」などの OA ジャーナルを発展 させる要因については,考察で検討することとする。 先行研究において,十分に明らかにされていない点として,具体的には以下の 3 つの問題点が指摘できる。 1つは,学術雑誌全体に占める OA ジャーナルの割合の経年変化が明らかにさ れていない点である。第 3-4 表(p.87)に見られるように,先行研究は,特定の 年にのみ行われた単発的な調査が多く,経年的な傾向が読み取れない。さらに, それぞれ調査方法が異なるため,単純にこれらの先行研究を比較して傾向を導き 出すことはできない。 この点は論文単位の調査についても同様で, 第 3-7 表 (p.96) , 第 3-8 表(p.103)に見られるように,OA ジャーナル掲載論文数が論文全体に占 める割合についての調査は,調査方法がそれぞれ異なり,結果にも差が生じてい る。 120 2 つ目は,調査対象の OA ジャーナルの種別が整理されておらず,特定の種別に 限定されており,網羅的な調査がなされていない点である。第 3-6 表(p.95)に 見られるように,調査対象とする OA ジャーナルの種類は,調査によって異なる。 刊行と同時に掲載論文全てを無料公開する「Full OA ジャーナル」掲載論文を対 象とする調査は,多く行われている。だが,著者が任意で APC を支払うことで特 定の論文のみを刊行と同時に無料公開する「ハイブリッド OA ジャーナル」 ,エン バーゴ終了後に対象号掲載論文を無料公開する「Delayed OA ジャーナル」に関す る調査まで含めて行った調査は少なく,Björk ら 4),Laakso ら 5),BIS 省 6)の調 査だけである。その中でも経年変化まで示しているのは Laakso らの調査 5)のみ だが,この調査は同調査グループが過去に行った研究 7),8)を組み合わせた結果で あり,完全に同一の統一された手法で全種類の OA ジャーナル掲載論文を調査し たわけではない。また,「Full OA ジャーナル」の一種である「OA メガジャーナ ル」は,1 タイトルであっても大量の論文を掲載しているため,他の種類の OA ジャーナルと区別して,論文単位の調査を行わなければ,その実態を正確に把握 することはできないが,そのような調査は行われていない。このため,先行研究 からは,どの種別の OA ジャーナルがどのように発展し,現在はどうなっている のかを,正確に把握することはできない。 3 つ目は,出版元調査の不十分さである。先行研究から,2000 年代前半までは, 助成金を受けた大学や学協会が刊行する OA ジャーナルが OA ジャーナルの大半を 占め,その後,次第に「出版社」から刊行される OA ジャーナルも増えてきてい ることがわかっている。だが,この「出版社」の定義が不明確であるために出版 社の出版方針を読みとることはできない。ここでの「出版社」のうち, 「OA 出版 社」以外の出版社がどれほど含まれているかはわからない。2007 年 9),2010 年 1 0) ,2011 年 5)に行われた先行研究では,「OA 出版社」と既存の商業出版社を明確 には区別しておらず,まとめて「出版社」としてしか数えていない。このため「O A 出版社」以外の出版社がどれほど OA ジャーナル出版事業に参入するようになっ てきたのか,出版社の OA ジャーナル出版に対する方針の傾向を読みとれない。 これらの点をふまえて,これまでの OA ジャーナルの進展状況を,OA ジャーナ ルの種類別に網羅的に明らかにし,出版元の種別も含めて調査するために必要な 研究について,B節にて本研究のアプローチ,本研究における「OA ジャーナル」 の定義と範囲を定める。 121 B 調査の目的と概要 1 調査の目的と対象 本研究の目的は,OA ジャーナルが現在主流である Big Deal 契約にもとづく購 読型電子ジャーナルにとって代わり,学術雑誌の主流となるかを明らかにするこ とである。OA ジャーナルの進展にはA節で述べた 3 つの要因があるが,それらに ついて考える上でも,まずは実態を明らかにする必要がある。OA ジャーナルのタ イトル数および論文数は増加傾向にあることは既に先行研究で明らかになって いる。だが,それらが学術雑誌全体および論文全体における割合がいかに変化し てきたか,量的な位置づけの変化は,十分には明らかになっていない。さらに, OA ジャーナルの種別や出版元についての調査も十分には行われていない。そこで, 本研究では,学術雑誌全体における OA ジャーナルの位置づけがいかに変化して きたかについて,網羅的かつ詳細な分析を可能とする調査方法を用いて,定量的 に明らかにすることを調査目的とする。「網羅的」とは,学術雑誌全体を対象と する意味である。「詳細な」とは,OA ジャーナルの種類別および出版元を調査す ることを意味する。なお,研究者にとって学術雑誌が重要な情報メディアと位置 付けられているのは主に STM 分野であること,Big Deal 契約に基づく購読型電子 ジャーナルが主流となっているのは,主に STM 分野であるとの理由から,本調査 の対象は STM 分野とする。 第Ⅱ章D節で述べたように,「OA ジャーナル」の定義は,さまざまな解釈がな されており見解が分かれている。本調査では,現時点で一般的に「OA ジャーナル」 と解釈されている中で,最も広義にとらえられる範囲を対象とする。すなわち, 「Full OA ジャーナル」 ,「ハイブリッド OA ジャーナル」 ,「Delayed OA ジャーナ ル」である。また, 「Full OA ジャーナル」の一種である「OA メガジャーナル」 は,1 タイトルであっても大量の論文を掲載しており,同等に扱っては正確な実 態を把握できないため,「Full OA ジャーナル」とは区別して扱う。 2 調査の概要 a 調査全体の構成 本研究では,学術雑誌全体における OA ジャーナルの位置づけがいかに変化し てきたかを明らかにするために,1)学術雑誌全体における OA ジャーナルの最新 の実態,2)現状にいたるまでの OA ジャーナルの位置づけ,という 2 つの側面か 122 らアプローチする。1 項で述べたように,先行研究の問題点として,1)経年変化 の調査が不十分,2)OA ジャーナルの種類別調査の不完全さ,3)出版元の調査が不 十分,があった。これらをふまえて,雑誌単位での調査(以下,雑誌調査)を 4 種類,および論文単位での調査(以下,論文調査)を行う。調査の全体像を第 4-1 表で示す。 雑誌調査と論文調査の 2 種類の調査を行うのは,2 つの理由がある。1つは OA ジャーナルの種別に起因する。 「Full OA ジャーナル」および「OA メガジャーナ ル」は,刊行と同時に全ての論文が無料公開されるので雑誌単位で特定できる。 だが, 「ハイブリッド OA ジャーナル」と「Delayed OA ジャーナル」は,条件付き の OA ジャーナルであるため,雑誌単位では購読型学術雑誌との違いは見分けら れず,論文調査が必要となる。また, 「OA メガジャーナル」は,1 タイトルであ っても大量の論文を掲載しているため,雑誌調査ではその影響度を正確に把握す ることはできない。このため「OA メガジャーナル」の実態を把握するためにも論 文調査が必要となる。 もう1つの理由は,調査に用いるデータベースの特徴にある。OA ジャーナルに ついて網羅的に調査するには,学術雑誌情報を網羅的に収録する Ulrichweb を用 いる必要がある。だが上述のように論文調査も別に行う必要があり,それには論 文単位の情報を収録していない Ulrichweb を用いることができない。論文調査に は,別の,質の高い学術雑誌掲載の論文情報を収録する Web of Science を用い るためである。 本研究のアプローチの1つである,OA ジャーナルの最新の実態については,第 4-1 表中で示すように, 「雑誌調査①」 , 「論文調査」 ,「雑誌調査④」で調査する。 OA メガジャーナルは登場して間もなく,その実態がほとんど明らかになっていな いため, 「雑誌調査④」にて創刊年,掲載論文数,分野等の特徴について実態を 個別に調査する。 本調査の目的であり,かつ先行研究で不十分さを指摘した,経年変化の調査に ついては,第 4-1 表中の「雑誌調査②」,「雑誌調査③」,「論文調査」にて行う。 「雑誌調査①」および「雑誌調査②」では,Ulrichweb を用いて網羅的な調査 を行う。 「論文調査」では,質の高い学術雑誌に掲載された論文情報を収録する Web of Science を情報源に用いる。「雑誌調査③」ではさらに,Web of Science 収録誌の中でも,掲載論文数の多い大規模な OA ジャーナルの刊行状況を調査す ることで, 質が高く大規模な OA ジャーナルの刊行状況を調査する。 「雑誌調査①」 123 第 4-1 表 調査の種類 雑誌調査① 雑誌調査② 雑誌調査③ 雑誌調査④ 論文調査 1 調査全体の構成 対象のOAジャーナルの種別 ハイブリッド Delayed Full OAJ OAメガJ OAJ OAJ 最新の実態調査 経年変化 経年変化 最新の実態調査 最新の実態調査/経年変化 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 出版元 の調査 ○ ○ ○ ○ 図中の略称の正式名称は以下のとおり。 Full OAJ: Full OA ジ ャ ー ナ ル , ハ イ ブ リ ッ ド OAJ:ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル , Delayed OAJ: Delayed OA ジ ャ ー ナ ル , OA メ ガ J: OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル 124 ○ 調査の情報源 Ulrichweb Ulrichweb, 雑誌価格リスト Web of Science OAメガJのWebサイト Web of Science 「 雑 誌調 査 ②」,「 論 文 調 査」 で は OA ジ ャ ー ナル の 出 版 元 の 種 類 を調 査 項 目 に含 め る こ と で ,OA ジ ャ ー ナ ル のビ ジ ネ スモ デ ル が こ れ ま で どの よ う に 受け 入 れ ら れ て き た かを 示 し ,今後 の 展 開の 検 討 に つ な げ る。次 の C 節 では ,4 種 類 の 雑 誌 調査 と 論 文 調 査 の 調 査方 法 を そ れ ぞ れ 詳 述す る。 C 調査 方 法 1 雑 誌調 査 の 調 査 方 法 a 調 査の 概 要 と 留 意 点 雑 誌 単位 の 調 査 は , B 節 で述 べ た よ う に 4 種類 の 調 査 を 行 う 。4 種類 の 調 査は 完 全 に 独 立 し た もの で は な く,調 査 デー タ が 重 な る 部 分 もあ る た め,各 調 査 の 関係 を第 4-1 図 で 示 す。ま た 各調 査 に つ い て ,それ ぞ れ 以 下 の研 究 課 題 を 設 定 し た 。 なお ,1 項 に お いて は「 OA ジ ャ ー ナル 」と い う 表現 は 「 Full OA ジ ャ ーナ ル 」 と 「 OA メ ガ ジ ャ ー ナル 」 を 含む 総 称 と し て用 い る 。 ① 2011 年 に お け る 学術 雑 誌 全体 に 占 め る OA ジ ャ ー ナル タ イ ト ル 数 の割 合 , 出版 元 種 別 の 傾 向 を 明ら か に す る 。 ② 創 刊 誌全 体 に 占 め る OA ジ ャ ーナ ル と 購 読 型学 術 雑 誌 の 割 合 の 経年 変 化 と ,分 野 別 お よ び 出 版 元種 別 の OA ジ ャ ー ナル 創 刊 傾 向 を 明 ら かに する。 ③ 質 が 高く , 掲 載 論 文 数 が 多い 大 規 模な OA ジ ャ ーナ ル の 刊 行 状 況 の経 年変化を明らかにする。 ④ OA メ ガ ジ ャ ー ナル の 創 刊状 況 , 掲 載 論 文 数 ,対 象 分 野 な ど の 特 徴を 明 ら かに す る 。 2011 年 時 点 に おけ る 学 術雑 誌 全 体 に 占 める OA ジ ャー ナ ル の 割 合に つ い て は,Ulrichsweb を 用 いて 調 べ る(調 査 ①)。Ulrichsweb を 用 いる 理 由 は ,Ulrichsweb が 学 術 雑誌 情 報 を 最 も 網 羅 的に 収 録 す る デ ー タ ベー ス で あ るた め で あ る 。先 行 研究 で は ,OA ジ ャ ー ナル の 特 定 に は Ulrichsweb か DOAJ の いず れ か が 用 いら れ て き た が , 本 調査 で は 網 羅 性 を 重 視し て Ulrichsweb と DOAJ の 両 方を 用 い て 調 査 す る 。ま た ,OA ジャ ー ナ ルタ イ ト ル 数は 推 定 値 で は な く Ulrichsweb お よ び DOAJ 収録 デ ー タ 全 てを 分 析 す る こと で 明 ら か に す る。創 刊 状 況 の経 年 変 化に つ い て も, Ulrichsweb 125 S T M分 野 の 全 学 術 雑 誌 (U l r i c h s we) b ~2011年 調査① 2011年 時 点 で OAジ ャ ー ナ ル が 学術雑誌全体 に占める割合 大手商業出版社5社 の創刊雑誌 (雑 誌 価 格 リ ス )ト 2008年 ~2013年 質の高い大規模 OAジ ャ ー ナ ル ( We b o f S c i e n c e ) 2000年~2012年 調査③ 質の高い大規模 OAジ ャ ー ナ ル の刊行状況 OAメ ガ ジ ャ ー ナ ル (We bサ イ ト) 2006年~2013年 調査④ OAメ ガ ジ ャ ー ナ ル の実態 第 4-1 図 調査② 創刊雑誌に OAジ ャ ー ナ ル 創刊数が 占める割合の 経年変化 4 種 類 の 雑 誌 調査 の 概 要 を 使 用す る が ,Ulrichsweb は収 録 の タ イ ム ラ グで 近 年 の 創 刊 情 報 は十 分 に 網 羅さ れ て い な い 可 能 性が あ る 。この た め,近 年 の 創 刊状 況 に つい て は , 出 版 元 の 雑 誌 価 格 リ ス ト を 用 い た 調 査 も 行 う ( 調 査 ② )。 質 の 高 い 大 規模 OA ジ ャ ーナ ル の 刊行 状 況 に つ い て は , Web of Science を用 い て 調 査 す る ( 調 査 ③)。 OA メ ガジ ャ ー ナ ル に つい て は , 掲 載 論 文 数等 の 刊 行 状 況に つ い て 各 タ イ ト ルの Web サ イト を 調 査す る こ と で 明 ら か にす る ( 調 査④ )。 b 2011 年 時 点 の OA ジ ャ ーナ ル 刊 行 状 況 の 調査 方 法 b 目で は , 4 種 類 の 雑 誌調 査 そ れ ぞ れ に つ いて , 具 体 的 な 調 査 方法 を 述 べ る。 調 査 ①で は , 2011 年 時 点の STM 分 野 の 全 学 術雑 誌 に 占 め る OA ジ ャ ー ナ ル のタ イ ト ル 数 の 割 合 , 2011 年 まで に 刊 行さ れ た OA ジ ャ ー ナル の 出 版 元 の 種 別 な ど の 傾 向 を 調べ た 。 調 査 対 象 を 抽出 す る た め に , STM 分野 の 学 術雑 誌 69,598 タ イ トル 分 の デ ー タ を ,Ulrichsweb を 用 い て 抽 出 し 126 た( 第 4-2 表)。抽 出 条 件 は,Content Type が「 Academic / Scholarly」, Serial Type が「 Journal」, Subject Area が 「 Biological science and agriculture」,「 Chemistry」,「 Earth, space, and environmental science」,「 Mathematics」,「 Medicine and health」,「 Physics」, 「 Technology and engineering」 の も の で あ る。 た だ し , 査 読 の 有無 を 示 す「 Refereed」を 条 件 に加 え る と ,比 較 的 評価 の 高 い 学 術 雑 誌 を収 録 し て いる と み な さ れ て いる JCR の 収 録タ イ ト ルが 含 ま れ な く な る 例が 存 在 し た。具 体 的 には , Journal of High Energy Physics や International Journal of Surface Science and Engineering で ある 。 こ の た め本 調 査 で は網 羅 性 を 優 先 し,「 Refereed」 は 抽 出 条件 に は 加 え な い こ とと し た 。 調査 デ ー タ の 抽 出 日は 2011 年 12 月 26 日 で ある 。 な お ,本 調 査 に お い て 分 野名 は ,Biological science and agriculture ( 生 物科 学 ,農 学),Chemistry( 化 学 ),Earth, space, and environmental science( 地球 科 学 ,宇 宙 科学 ,環 境 科 学),Mathematics( 数 学 ),Medicine and health( 医 学 ,医 療),Physics( 物理 学),Technology and engineering ( 技 術, 工 学), と 日 本 語に 置 き 換 え て 表 す 。 Ulrichsweb で は同 一 の 学術 雑 誌 で あ っ て も ,印 刷 版 や オ ン ラ イ ン版 な ど 媒 体が 異 な れ ば,そ れ ぞれ 別 の タ イ ト ル と して 扱 わ れ て い る 。誌 名 を 照 合 して 確 認 し た と こ ろ,複 数 の 媒 体で 同 一 タイ ト ル の デ ー タ が 存在 し て い たた め ,誌 名,創 刊 年,出 版 元 の名 称 を 照合 し て 重 複 デ ー タ は排 除 し た 。そ の 結 果 , 各 分 野 の対 象 学 術 雑 誌 の 合計 38,803 タ イ ト ル が最 終 的 な 調査 対 象 と な っ た 。 なお , Ulrichweb で は 1 タ イ ト ル に 複 数 の分 野 を 割 り当 て て い る 場 合 が あ り , 調 査 対 象 の 38,803 タイ ト ル の 中 には , 分 野 間で 重 複 す る タ イ ト ルも 含 ま れ る 。 た と えば , Acta Biomaterialia は,「 生 物 科学 , 農 学 」 と「 化 学 」 の 二 つ の 分野 が 割 り 当 て ら れ てい る た め,本 調 査の 中 で は,両 分 野 でそ れ ぞ れ 1 タ イ ト ル と して 数 え てい る 。 次 に ,こ れ ら 38,803 タ イ トル が OA ジ ャ ー ナル か 否 か を , 2 つ の 基準 か ら 判定 し た 。一 つ は Ulrichsweb の 検 索 条 件の 一 つ で あ る「 Open Access」 と い う項 目 で あ る。最 初 の全 体 抽 出 と 同 じ 条 件で Content Type,Serial Type, Subject Area を 指 定し , 検 索 オ プ シ ョン と し て 「 Open Access」 を 追 加し , 各 分 野 の OA ジ ャ ーナ ル タ イ ト ルリ ス ト を 作 成 し た 。も う 1 つ の 基準 は ,OA ジ ャ ー ナ ルの タ イ ト ル を リ ス ト化 し て 掲 載 し て いる DOAJ 127 第 4-2 表 調査 対 象 学 術 雑誌 タ イ ト ル 数 ( 2011 年 12 月 26 日 時 点) 数学 化学 物理学 地球科学,宇宙科学, 環境科学 生物科学,農学 医学,医療 技術,工学 計 Print 1,467 1,643 1,080 Online 1,218 1,466 915 調査対象 1,628 1,847 1,199 3,492 2,578 3,874 5,667 13,792 7,180 4,295 11,236 5,992 6,412 15,751 8,092 34,321 27,700 38,803 で あ る。Ulrichsweb の 情 報 を もと に 作 成 した OA ジャ ー ナ ル の タイ ト ル リ ス トと , DOAJ に 掲 載 され て い る OA ジ ャ ーナ ル の タ イ ト ル リ スト を 誌 名 で 照合 し , 重 複 デ ー タ は 排 除 し , 最 終 的に 1 つ の OA ジ ャ ー ナ ルタ イ ト ル リス ト を 作 成 し た。Ulrichsweb か ら 抽 出し た 38,803 タ イ トル と 照 合 し ,こ の OA ジ ャ ー ナ ルタ イ ト ル リ ス ト に 掲載 さ れ て い る タ イ トル を OA ジ ャ ー ナ ル と判 定 し た。 c STM 分 野の OA ジ ャ ー ナル 創 刊 状 況 の 調 査 方法 調 査 ②で は , 創 刊 誌 全 体 に占 め る OA ジ ャ ー ナル と 購 読 型 学 術 雑 誌の 割 合 の経 年 変 化 と , 分 野 別お よ び 出 版 元 種 別の OA ジャ ー ナ ル 創 刊傾 向 を 調 べた 。対 象 は,調 査 ①で Ulrichsweb か ら 抽出 し た 38,803 タ イ ト ル の 創 刊年 デ ー タ と し , 各 年に 創 刊 さ れ た 学 術 雑誌 全 体 に 占 め る OA ジ ャ ー ナ ル創 刊 数 と , 購 読 型 学術 雑 誌 創 刊 数 の 推 移を 調 べ た 。 た だ し , Ulrichsweb の デー タ は ,収 録 の タ イ ム ラ グ によ り 近 年 の 創 刊 状 況が 反 映 さ れ てい な い 可 能 性 が あ る。こ の た め近 年 の 状況 に つ い て は ,出版 元 の 雑 誌 価格 リ ス ト を 用 い て 補足 調 査 を 行 っ た 。 対 象 は, 大 手 商 業 出 版 社の Elsevier, Springer,Wiley-Blackwell, Taylor & Francis, Nature Publishing Group( 以下 NPG) と し ,過 去 6 年 分 にあ た る 2008 年 から 2013 年 の 創 刊 状 況を 調 査 し た。この 5 社 を 選 定 し た理 由 は , 1) 比 較 的多 く の タ イ ト ル を 刊行 し て お り 一 定 量 のデ ー 128 タ を 得ら れ る た め,2)日 本の 国 立 大 学 図 書 館 の契 約 額 が 高 い 上位 5 社 で あり 1 1) ,学 術 雑 誌 流 通 へ の影 響 力 が 強 く ,今 後 の 学 術雑 誌 流 通 の あり 方 を 考 える 上 で 重 要 な 存 在 と考 え た た め で あ る 。調 査 開 始 年 を 2008 年 と し た のは , 入 手 可 能 な 雑 誌価 格 リ ス ト の 最 も 古い 年 が 2008 年 で あっ た た め であ る 。 出 版 社ご と に 雑 誌 価 格 リ スト の 入 手 状 況 が 異 なり ,調 査 方法 に は 違い が あ る( 第 4-3 表 )。Springer,Wiley-Blackwell は 2008 年 から 2013 年 の 雑 誌価 格 リ ス ト を 用 い て調 査 し た 。 Taylor & Francis は 2010 年 分の 雑 誌 価格 リ ス ト を ,Elsevier は 2009 年 から 2012 年分 の 雑 誌 価 格リ ス ト を 入 手で き な か っ た 。この た め 両 社 につ い て は,入 手 で きた 年 の 創刊 状 況 に つい て は 雑 誌 価 格 リ スト を 用 い て 調 査 し,入 手 で き なか っ た 年に つ い て は,そ の 前 後の 年 の 雑誌 価 格 リ ス ト を 照 合し て 差 分 の タ イ ト ル情 報 を 抽 出し ,そ れ らを 各 社 の電 子 ジ ャ ー ナ ル プ ラッ ト フ ォ ー ム で 個 別に 確 認 す るこ と で 創 刊 年 を 特 定し た 。 NPG は 雑 誌 価格 リ ス ト を 全 く 入 手で き な か った た め ,同社 の 電 子ジ ャ ー ナ ル プ ラ ッ トフ ォ ー ム で,全 タ イト ル を 個 別に 確 認 し , 創 刊 年 を特 定 し た 。 OA ジ ャ ー ナ ル の特 定 方 法も ,出 版 社 に よ っ て異 な る 。一 部 の 大 手商 業 出 版 社で は , 自 社 の 刊 行 する OA ジ ャ ー ナ ル のリ ス ト を Web ペ ー ジで 公 開 し てい る た め , そ こ に 掲載 さ れ て い る タ イ トル を OA ジ ャ ー ナ ルと 判 断 し た 。具体 的 に は ,Elsevier 1 2) ,Wiley-Blackwell 1 3) ,Taylor & Francis 1 4) が ,OA ジ ャ ー ナ ル に つ い ての 情 報 を ま と め た Web ペー ジ を 公 開 し てい た。 Springer は 雑 誌価 格 リ スト 中 で , OA ジ ャ ーナ ル の 場 合 は そ の 旨を 明 記 し て いた た め ,そ こ から OA ジ ャー ナ ル を 特 定し た 。NPG は 同 社 の電 子 ジ ャ ー ナル プ ラ ッ ト フ ォ ー ムに お い て ,全 刊 行 タイ ト ル を 個 別 に 確 認し た 。 d 質 の 高 い大 規 模 OA ジ ャ ー ナ ル の刊 行 状 況の 調 査 方 法 調 査 ③で は , 質 が 高 く 掲 載論 文 数 の 多 い OA ジ ャ ーナ ル の 刊 行 状況 を 調 べ た 。質 の 高 い 学 術 雑 誌 の情 報 源 と し て は , Web of Science の Science Citation Index を 用 い た。 こ れ は , Web of Science が比 較 的 質の 高 い 学 術 雑誌 を 収 録 対 象 と し てい る こ と , そ して Science Citation Index は 自 然科 学 分 野 を 対 象 と し, STM 分 野 の 学 術 雑誌 情 報 を 得 ら れ る ため で あ る 。こ こ か ら , 2000 年 か ら 2012 年 に か け て掲 載 論 文 数 の 多 い 学術 雑 誌 上位 100 タ イ ト ル の 情 報を 調 べ た 。 129 第 4-3 表 2008年 大手商業出版社の創刊状況調査の方法 2009年 Springer 2010年 2011年 雑誌価格リスト Taylor & Francis 雑誌価格リスト 雑誌価格リスト Nature Publishing Group 1 2013年 雑誌価格リスト Wiley-Blackwell Elsevier 2012年 電子ジャーナルプラットフォームにて個別確認※1 電子ジャーナル プラットフォーム にて個別確認※2 雑誌価格リスト 雑誌価格リスト 電子ジャーナルプラットフォームにて個別確認※3 Elsevier の 2009-2012 年の創刊状況は,2008 年と 2013 年の雑誌価格リストの差分から該当タイトルを抽出し,電子ジャー ナルプラットフォームで個別に創刊年を確認 2 Taylor & Francis の 2010 年の創刊状況は,2009 年と 2011 年の雑誌価格リストの差分から該当タイトルを抽出し,電子ジャ ーナルプラットフォームで個別に創刊年を確認 3 NPG は取り扱う全タイトルについて,電子ジャーナルプラットフォームで個別に創刊年を確認 130 検 索 条件 は ,「 Document Type」 を 「Article」,「 Publication Year」 を 各 調 査年 と し た 。 OA ジ ャ ーナ ル か 否 か は , DOAJ に 掲 載さ れ て いた タ イ ト ル と照 合 し て 確 認 し た 。 DOAJ と 照 合 し た結 果 OA ジ ャ ーナ ル と 判 定 した タ イ ト ル の 中 に は, も と は 購読 型 学 術 雑 誌 だ っ たが , あ る 時 点 から OA ジ ャー ナ ル へ 変 わっ た タ イ トル が 含 ま れ て い る 可能 性 が あ る。こ の ため ,上位 100 タ イ トル 中 で OA ジ ャ ーナ ル と 判 定 され た タ イ ト ル に つ いて , 個 別 に 出 版 社の Web サ イ ト等 を 調 査 し , OA ジ ャ ー ナ ル 化し た 年 を特 定 し , そ の 年 以 降を OA ジ ャ ーナ ル と み な す こ と とし た 。 e OA メ ガ ジ ャ ーナ ル 刊 行状 況 の 調 査 方 法 調 査 ④で は ,OA メ ガ ジ ャ ーナ ル の 創 刊 状 況,掲 載 論 文 数,対 象 分 野な ど の 特徴 を 調 べ た 。 調 査 対象 の OA メ ガ ジ ャ ーナ ル は , 基 本 的 に 過去 に 行 わ れた 口 頭 発表 1 5) ,1 6) , 17 ), 18 ) や 記 事な ど 19 ) で OA メ ガジ ャ ー ナ ル とし て 紹 介 され て い る 17 タ イ トル を 対 象 と し た 。 具体 的 に は BMC Research Notes , The Scientific World Journal , BMJ Open , AIP Advances , SAGE Open , Scientific Reports , Physical Review X , RSC Advances , Open Biology , Qscience Connect , Cell Reports , Biology Open , Chemistry Open , Springer Plus , F1000 Research , PeerJ そ し て G3: Genes, Genomes, Genetics で あ る。こ れ ら に,最 初の OA メ ガ ジャ ー ナ ル PLOS ONE お よ び 2013 年 5 月 創 刊の IEEE Access を 加え た 合計 19 タイ ト ル を 最 終的 な 調 査 対 象と し た 。な お ,OA メ ガ ジ ャ ーナ ル の 対 象分 野 自 体 が 調 査 内 容に 含 まれるため,分野による調査対象の選別は行わなかった。調査方法は, こ れら 19 タイ ト ル を 公 開す る プ ラ ッ ト フ ォ ーム , お よ び 出 版 元の Web サイト等を確認し,創刊時期や掲載論文数等 を調査する方法をとった。 2 a 論文調査の調査方法 調査方法 論 文 単位 の 調 査 で は ,雑 誌単 位 の 調 査 で は 明 らか に で き な い ,OA ジャ ー ナ ル掲 載 論 文 の 種 類 を 調べ る こ と で , 学 術 雑誌 全 体 に 占 め る OA ジ ャ ー ナ ルの 位 置 づ け の 変 化 ,お よ び 最 新の 実 態 を明 ら か に す る こ と を目 的 と す る。 具 体 的 に は , 以 下の 2 つ の 研 究 課 題 を設 定 し た 。 ① OA ジ ャ ー ナ ル 上の OA 論 文 が, 論 文 全 体 に 占 める 割 合 の 推 移 を , OA 131 論 文 の種 類 別 に 明 ら か に する 。 ② OA 論 文 の 分 野 およ び 出 版 元 の 種 類 別 の 経 年 変化 を ,OA 論 文 の 種類 別 に 明 らか に す る 。 調 査 方法 は ,先 行研 究 で 判明 し た 問 題 点 と 1 項で 述 べ た 雑 誌 調 査 との 関 係 をふ ま え て 以 下 の よ うに 行 う 。まず 先 行 研究 で 判 明 し た 問 題 点と は , 調 査 方法 の 違 い に よ っ て 特定 で き る OA 論 文 数に 差 が 出 る と い う 点で あ る 。先 行 研究 で は ,1)ロ ボッ ト 検 索 ,2)人 手 での Web 検 索 ,3)サ ンプ ル か ら の推 定 と 主に 3 種 類 の調 査 方 法 で 行 わ れ てい た 。ロ ボッ ト 検 索の 場 合 ,先 行 研 究の 2 種 類 の 調査 は 結 果 が 大 き く 異な り ,ロ ボッ ト 検 索の 信 頼 性 はま だ 十 分 に 得 ら れ てい る と は 考 え に く い。ま た ロ ボッ ト 検 索を 実 施 した Archambault ら 自 身が 行 っ た 予 備 調 査 で,同 一 の サン プ ル デー タ を 手 動で 検 索 エ ン ジ ン を 用い て 調 査 し た 場 合 と,Gargouri ら の 開 発し た ロ ボ ット 検 索 を 用 い て 調 査し た 場 合 と で は , 前者 の 手 法 の 方 が OA 論 文 を 多 く見 つ け て い る 2 0) 。ま た ,サン プ ル か らの 推 定 す る 調 査 で は,主 に DOAJ 収 録 タ イ トル か ら サン プ リ ン グ し て 論 文全 体 に 占 め る OA 論 文 の割 合 を 推定 し て い た 。 た し かに , DOAJ は OA ジ ャ ーナ ル 情 報 を 最 も 網羅 的 に 収 録す る リ ス ト で は あ るが , 本 調 査 で は 対 象と し て い る 「 Delayed OA ジ ャ ーナ ル 」は 収録 対 象 とな っ て い な い 。以上 の 理 由 か ら, 調 査 者が 直 接 検 索エ ン ジ ン を 用 いて Web 検 索 す る 方 法 が ,OA 論 文 を 最も 網 羅 的に 調 査 で きる 方 法 と 考 え , 本 調査 で は こ の 方 法 を とる こ と と す る 。 ま た ,1 項 で 述 べ た 雑 誌 調査 は 網 羅 性 を 重 視 する た め に , Ulrichweb を 情 報源 と し て 用 い た 。後 に 調 査 結 果を 照 合 して 分 析 す る 際 に ,質 的 要 素 も 加味 で き る よ う に ,論 文 調 査 で は質 の 高 い学 術 雑 誌 情 報 を 収 録す る Web of Science を 情 報 源と し て 用 い る 。 b 調 査 対 象と 調 査 手 順 調 査対 象 は 2005 年,2010 年,2012 年 に 学 術雑 誌 に 掲 載 さ れ た 論文 と し た 。2005 年 を 調査 対 象 年 とし た 理 由 は ,先 行 して 行 っ た 雑 誌 調 査 の結 果 に も とづ く 。雑 誌調 査 ③ にて 掲 載 論 文 数 の 多 い上 位 100 タ イ ト ル に対 し て 行 った 調 査 に て ,OA ジ ャ ーナ ル が 最 初 に 上位 100 タ イ ト ル に 含 まれ た の が 2005 年で あ っ た た めで あ る 。 2010 年 を 調査 対 象 年 と し た 理由 は , 雑 誌 調査 ② に て 行 っ た OA ジ ャ ーナ ル の 創 刊 状況 調 査 に て , 大 手 商業 出 版 社が OA ジャ ー ナ ル 創 刊を 増 や し た の が 2010-2011 年 で あ っ た ため で 132 あ る 。そ し て 2012 年 を 調査 対 象 年 と し た 理 由は , 調 査 可 能 な 最 新年 が 2012 年 で あ っ たた め で ある 。 対 象 デー タ の 抽 出 に は Web of Science を 用 いた 。 た だ し , 同 デ ータ ベ ー スの 仕 組 み 上 ,10 万 件 以 上 の 書誌 デ ー タを 抽 出 で き な い た め,厳 密 な ラ ンダ ム 抽 出 は で き な い。こ の た め,以 下の 2 つ の 手 順 で 論 文 情報 を 抽 出 した 。 1)Web of Science の Science Citation Index に て , Document Type を Article,Publication Year を 各 対 象 年と す る 検 索 条 件 を 指定 し , 調 査 対象 年 ご と に 出 版 日 の新 し い 10 万 件,合 計 30 万 件 の 論 文 情報 を 抽 出 し た。 2)各 年 の 抽 出 デ ータ 10 万 件 か ら 1,000 件 を ラ ン ダ ム に 抽出 し て , 合計 3,000 件 の 調 査 対象 デ ー タ を 集 め た 。抽 出 作 業は 2013 年 8 月 に 行 った た め ,2005 年,2010 年 ,2012 年 の そ れぞ れ 12 月 に 刊 行 され た 学 術 雑 誌の 掲 載 論 文 が 主 な 対象 と な っ た 。 こ れら 3,000 件 の 論 文 に つい て , 2013 年 8 月−9 月 に ,各 論 文 の掲 載 誌 の Web サ イ ト へ ア ク セ スし て , 1) 「 Full OA ジ ャ ー ナ ル 」 掲 載 論 文 , 2)「OA メ ガ ジ ャー ナ ル 」掲 載 論 文 , 3)「 ハ イブ リ ッ ド OA ジ ャ ーナ ル 」 に 掲 載さ れ 著 者 の 意 思で OA と され た 論 文( 以 下, 「 ハ イ ブ リ ッド OA」論 文), 4)「 Delayed OA ジ ャ ーナ ル 」 に 掲 載 さ れ, エ ン バ ー ゴ が 終 了し た 論 文 (以 下 ,「 Delayed OA」 論文 ), 5)サ ン プ ル, の い ず れ か に 該 当す る か を 調査 し た 。 こ の 5 種類 を , 以 下 で は 「 OA 論 文 の 種 類 」 と 表 現 す る 。 本 調 査に お い て「 サ ン プ ル 」とは ,出 版 社 側 が広 報 等 を 目 的 と し て ,特 定 の 号や 論 文 を OA と し たも の を 指 す。な お,本 調 査 で はグ リ ーン OA と 呼 ば れる ,機 関 リポ ジ ト リ掲 載 論 文 や 著 者 自 身が 管 理 する Web サ イ ト 上 で 公 開さ れ た 論 文 等 の セ ルフ ア ー カ イ ブ は 調 査対 象 と し な い 。 c 分 野 の 特定 抽 出 した 3,000 論 文 は , それ ぞ れ Web of Science の 基 準 に 従 っ た分 野 に 分類 さ れ て い る が ,そ れ ら の 分 野は 細 分 化さ れ た も の で あ り,全 種 類 数は 122 種 類 に の ぼ っ た。 こ の た め 分 析 に あた り , 米 国 科 学 審 議会 ( National Science Board) の 科学 工 業 指 標 ( Science and Engineering Indicators) に 用 い ら れ てい る 13 の 区 分 に それ ら を 再 分 類 した 2 1) 。13 区 分 とは 具 体 的 に は , Agricultural Sciences( 農 学), Astronomy( 天 文 学), Biological Sciences( 生 物 学), Chemistry( 化 学 ), Computer Science( コン ピ ュ ー タ 科学 ), Engineering(工 学 ), Geosciences( 地 133 球 科 学), Mathematics( 数学 ), Medical Sciences(医 学 ), Other Life Sciences( そ の 他 の 生 命 科学 ), Physics( 物 理学 ), Psychology( 心 理 学), Social Sciences( 社会 科 学 ) で あ る 。 分野 名 に つ い て は , 本論 文 中 で はこ の 日 本 語 を 用 い る。 さ ら に , こ れら 13 区 分の い ず れ に も該 当 し な いも の を「 そ の 他」と し,逆 に 13 区 分 の いず れ に も 該 当 す る「 Science & Technology - Other Topics」 は 「 科 学 技 術 -そ の他 」 と し て 新た に 区 分 を 設け , 合 計 15 種 類 の区 分 に 分 類 し た (第 4-2 図 )。 な お ,Web of Science の 分 類で は 1 つ の 論 文 が, 複 数 の 分 野 に 分 類さ れ て いる 場 合 が あ る 。具体 的 に は ,各年 の 調 査対 象 論 文 1,000 タ イ ト ル 中 ,2005 年 掲 載 論 文 では 405 件 が ,2010 年 掲 載論 文 で は 382 件 が ,2012 年 掲 載論 文 で は 414 件が 2 種 類 以 上 の 分 野 に 分類 さ れ て い た 。そ の よう な 場 合は ,各 論 文の 分 野 を一 つ に 絞 り 込 ま ず,そ れ ぞ れ の分 野 で カウ ン ト し た( 第 4-2 図 中 の 手順 A)。た と えば , 「 Agriculture」と「 Geology」 と 2 つの 分 野 に 分 類 さ れ てい る 場 合 は,そ れ ぞれ で カ ウ ン ト し ,さ ら に 科 学 工業 指 標 に 従 っ て,「 農 学 」と 「 地 球 科 学」 そ れ ぞ れ に 分 類 した 。 ま た, Web of Science で の分 野 が , 科 学 工 業指 標 の 複 数 の 区 分 にま た が る 場合 が あ っ た 。 た と えば , Web of Science で は 「Geriatrics & Gerontology」 と 一 つ に 集約 さ れ て い る が , 科学 工 業 指 標 の 分 類 では , 前 者 の「 Geriatrics」は「 医 学 」に ,後 者 の「 Gerontology and aging」 は 「 地球 科 学 」 に 分 類 さ れる 。 こ の よ う に Web of Science の 分 類が , 2 つ の 区分 を 内 包 す る も のが 5 種 類 存 在 し た 。こ のよ う な 場 合 は, 「 医 学」 に 1 種類 ,「地 球 科 学 」に 1 種 類 と い う よ う にそ れ ぞ れ の 区 分 に 分類 す る こ とと し た (第 4-2 図 中 の 手順 B)。 d 出 版 元 の種 類 の 特 定 出 版 元の 種 類 は ,基 本 的 に出 版 元 の 名 称 か ら 判断 し ,判 断が つ か ない 場 合 は, 出 版 元の Web サ イ ト を 確 認し て , 以下 の 6 種 類 に 分 類 した 。 6 種 類 の構 成 は, 「 大 手 商 業出 版 社」, 「 OA 出 版 社」,こ れ ら 2 種 類 以外 の 出 版 社 であ る 「 そ の 他 の 出 版社 」,「 学 協 会 」,「 大学 ・ 機 関」, 一 般 企業 な ど 上 述の い ず れ の 分 類 に もあ て は ま ら な い「 そ の 他」で あ る 。な お , 「大 手 商 業出 版 社 」 と は , Elsevier, Springer, Wiley-Blackwell, Taylor & Francis, Nature Publishing Group(以 下 ,NPG)の 5 社 を 指 す。「 そ の 他 の 出版 社 」 の 多 く は , 中小 規 模 の 商 業 出 版 社で あ っ た 。 134 第 4-2 図 Web of Science の分野を再分類する手順 135 注 ・ 引用 文 献 1) Giglia, Elena. The impact factor of open access journals: Data and trends. In Proceedings of the 14th International Conference on Electronic Publishing (ELPUB 2010) 16-18 June 2010, Helsinki, Finland Edited by Turid Hedlund T, Tonta Y. Hanken School of Economics; 2010, :17-39. http://elpub.scix.net/cgi-bin/works/Show?102_elpub2010, (accessed 2013-12-22). 2) Morrison, Heather.“Open access publishing by APC: dominated by the commercial sector” . The Imaginary Journal of Poetic Economics. 2013-12-09. http://poeticeconomics.blogspot.jp/2013/12/open -access-publi shing-by-apc-dominated.html, (accessed 2013-12-22). 3) Kaufman-Wills Group. The Facts about Open Access: A Study of the Financial and Non-Financial Effects of Alternative Business Models for Scholarly Journals. The Association of Learned and Professional Society Publishers. 2005, 128p. http://www.alpsp.org/Ebusiness/ProductCatalog/Product.aspx?I D=47, (accessed 2013-04-13). 4) Björk, Bo-Christer et al. Open access to the scientific journal literature: Situation 2009. PLOS ONE. 2010, vol. 5, no. 6, e11273. http://www.plosone.org/article/info:doi/10.1371/journal.pone .0011273, (accessed 2013-08-13). 5) Laakso, Michael; Björk, Bo-Christfer. Anatomy of open access publishing: A study of longitudinal development and internal structure. BMC Medicine. 2012, vol. 10, paper 124. doi:10.1186/1741-7015-10-124. http://www.biomedcentral.com/1741-7015/10/124, (accessed 2013-08-13). 136 6) Department for Business, Innovation & Skills. International Comparative Performance of the UK Research Base – 2013.2013-12-06. 120p. https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachm ent_data/file/263729/bis-13-1297-international-comparative-p erformance-of-the-UK-research-base-2013.pdf, (accessed 2013-12-07). 7) Björk, Bo-Christer. The hybrid model for open access publication of scholarly articles: A failed experiment?. Journal of the American Society for Information Science and Technology. 2012, vol. 63, no. 8, p. 1496-1504. 8) Laakso, Michael; Björk, Bo-Christfe. Delayed open access: An overlooked high-impact category of openly available scientific literature. Journal of the American Society and Technology. 2013, vol. 64, no. 7, p. 1323-1329. 9) 三 根 慎 二 . オ ー プ ン ア ク セ ス ジ ャ ー ナ ル の 現 状 . 大 学 図 書 館 研 究 . 2007, no. 80, p. 54-64. 10) David Solomon. Types of open access publishers in scopus. Publications. 2013, vol. 1, no. 1, p. 16-26. 11) 尾 城 孝一 . “ 大 学 図 書 館 にお け る 電 子 ジ ャ ー ナル 契 約 の 現 状 と 課 題 ”. 第 81 回 日 本 動 物 学会 大 会 . 東 京 , 2011-09-24, 日 本 動 物学 会 , 2011, http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2010/pdf/5/1_ojiro_220924.p df, (accessed 2013-04-13). 12) Elsevier. “Open access journals” . Elsevier homepage. http://www.elsevier.com/about/open-access/open-access-journa ls, (accessed 2013-04-13). 13) Wiley-Blackwell. “Browse journals”. Wiley-Blackwell homepage. http://www.wileyopenaccess.com/view/journals.html, (accessed 2013-04-13). 14) Taylor & Francis. “Taylor & Francis Open” . Taylor & F rancis homepage. http://www.tandfonline.com/page/openaccess, 137 (accessed 2013-04-13). 15) Richardson, Martin. “The future of open access” . 第 6 回 SPARC Japan セ ミ ナ ー 2012. 東 京, 2012-12-04. SPARC Japan, 2012, http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2012/pdf/20121204_1.pdf, (accessed 2013-04-13). 16) Binfield, Peter. “ PLOS ONE and the rise of the open access mega journal”. Slide share. 2011-06-06. http://www.slideshare.net/PBinfield/ssp -presentation4, (accessed 2013-04-13). 17) Binfield, Peter. “PLOS ONE and the rise of the open access mega journal” . 第 5 回 SPARC Japan セ ミ ナ ー 2011. 東 京, 2012-02-29, SPARC Japan, 2012, http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2011/pdf/5/doc3_binfield.pd f, (accessed 2013-04-13). 18) 西 薗 由依 . “ オ ー プ ン ア クセ ス ジ ャ ー ナ ル と は” . 第 5 回 SPARC Japan セ ミ ナ ー 2011. 東 京, 2012-02-29, SPARC Japan, 2012, http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2011/pdf/5/doc1_nishizono.p df, (accessed 2013-04-13). 19) Taylor, Mike. “ PeerJ leads a high-quality, low-cost new breed of open-access publisher” . The Gurdian. 2013-02-12. http://www.guardian.co.uk/science/blog/2013/feb/12/peerj -ope n-access-academic-publisher, (accessed 2013-04-13). 20) Archambault, Eric et al. Proportion of Open Access Peer-Reviewed Papers at the European and World Levels —2004-2011. 2013, 31p. http://www.science-metrix.com/pdf/SM_EC_OA_Availability_2004 -2011.pdf (accessed 2013-08-27). 21) National Science Board. “ Appendix table 5-24: Fields and subfields of S&E publication data.” Science and Engineering Indicators 2010. http://www.nsf.gov/statistics/seind10/append/c 5/at05-24.pdf, (accessed 2013-11-14). 138 Ⅴ 学術雑誌出版状況から見る OA ジャーナルの進展 学術雑誌全体における OA ジャーナルの位置づけの変化を明らかにし,今後の OA ジャーナルの進展を検討するために,OA ジャーナルに関する雑誌単位での 4 種類の調査を実施した。4 種類の調査とは,第Ⅳ章 B 節第 4-1 表(p.124)で示し た,学術雑誌全体に占める OA ジャーナルの割合(雑誌調査①) ,OA ジャーナルの 創刊状況(雑誌調査②),質が高く大規模な OA ジャーナルの刊行状況(雑誌調査 ③) ,OA メガジャーナルの実態(雑誌調査④)を指す。 A STM 分野の学術雑誌全体に占める OA ジャーナルの割合 本節では,第Ⅳ章 C 節にて雑誌調査①として概説した,学術雑誌全体に占める OA ジャーナルの割合を調べる調査の結果を示す。 調査対象の 38,803 タイトルのうち,OA ジャーナルは 5,581 タイトル,購読型 学術雑誌は 33,222 タイトルであり,2011 年時点で STM 分野の学術雑誌全体に占 める OA ジャーナルの割合は約 14%であった。 OA ジャーナルと購読型学術雑誌の割 合を分野別に第 5-1 図で示す。OA ジャーナルが学術雑誌全体に占める割合は, 「数 学」(15%), 「化学」(14%), 「物理学」(13%), 「地球科学,宇宙科学,環境科学」 (12%) , 「生物科学,農学」 (16%) , 「医学,医療」 (15%) , 「技術,工学」 (13%)と, どの分野も 12%から 16%の範囲内であり,分野による大きな違いは見られなかった。 OA ジャーナルの出版元について,その種別単位の構成比を分野別に第 5-2 図で 示す。出版元の種別は,基本的に出版元の名称から判断し,名称で判断できない 場合は,出版元の Web サイトを確認して判断した。 分野で区別しない場合の全体的な構成は, 「OA 出版社」(36.9%) , 「OA 出版社以 外の出版社」 (6.9%) , 「学協会」 (15.2%) , 「大学,機関」 (33.7%) , 「その他」 (3.6%) , 「不明」 (3.7%)であった。 「OA 出版社」と「OA 出版社以外の出版社」を区別せず に合計すると 43.8%となり,「大学,機関」と「学協会」を大きく上回っていた。 分野にごとに構成する出版元の種別の割合を見ると,大きく 3 つに分けられる。 「生物科学,農学」は「OA 出版社」 (35%) , 「大学,機関」 (36%)と,2 種類の出 版元がほぼ同割合で大部分を占めていた。一方, 「化学」 (51%) , 「物理学」 (43%), 「医学,医療」 (44%)は, 「OA 出版社」が半数近くを占めていた。 「数学」 (51%), 「地球科学,宇宙科学,環境科学」 (47%) , 「技術,工学」 (46%)は, 「大学,機 関」が半数近くを占めていた。 139 OAジャーナル 0% 10% 20% 30% 購読型学術雑誌 40% 50% 60% 全体(38,803) 14% 86% 数学(1,628) 15% 85% 化学(1,847) 14% 86% 物理学(1,199) 13% 87% 地球科学,宇宙科学, 環境科学(3,874) 12% 88% 生物科学,農学(6,412) 16% 84% 医学,医療(15,751) 15% 85% 技術,工学(8,092) 13% 70% 80% 90% 100% 87% 第 5-1 図 STM 分野の学術雑誌全体に占める OA ジャーナルと購読型学術雑誌の割合(2011 年) 1 ( )内の数字は,学術雑誌タイトル数 分野ごとに,出版元種別の OA ジャーナルのタイトル数,さらにその数を OA ジ ャーナルの出版元数で除した平均値と中央値を第 5-1 表で示す。全ての分野で, 「OA 出版社」 ,続いて「OA 出版社以外の出版社」の順に,1 出版元が刊行する OA ジャーナルタイトル数の平均値は高く, 「大学,機関」と「学協会」刊行の OA ジ ャーナルタイトル数の平均値は 1 に近い。 「OA 出版社以外の出版社」の OA ジャー ナルタイトル数の平均値は,最も少ない「物理」で 1.3,最も高い「医学,医療」 で 1.9 と分野間であまり差はない。それに対して, 「OA 出版社」の OA ジャーナル タイトル数の平均値は「数学」の 3.3 から「生物科学,農学」の 5.4 まではほぼ 近い値だが, 「医学,医療」のみ 16.6 と突出して高い。一方,1 出版元あたりの OA ジャーナルタイトル数の中央値は,全ての出版元種別および全ての分野におい て 1 から 2 の範囲内におさまっている。このことから, 「大学,機関」と「学協会」 は分野を問わず,OA ジャーナルを 1 タイトルのみ刊行することが多いことがわか る。一方, 「OA 出版社」1 社あたりの OA ジャーナルタイトル数の平均値が高い状 況は,大多数の OA 出版社が複数の OA ジャーナルを刊行しているのではなく,一 部の OA 出版社が大量の OA ジャーナルを刊行している影響を受けたものであり, 140 OA出版社 100% 18% 80% 70% 学協会 大学,機関 その他 不明 4% 1% 5% 1% 5% 0% 4% 4% 4% 1% 90% OA出版社以外の出版社 23% 25% 36% 47% 51% 46% 19% 22% 60% 40% 16% 7% 14% 15% 30% 8% 51% 20% 10% 16% 5% 50% 8% 1% 2% 7% 7% 11% 7% 6% 7% 44% 43% 35% 28% 26% 21% 0% 数学 (243) 化学 (255) 物理学 (153) 地球科学, 宇宙科学, 環境科学 (481) 生物学,農学 (1,025) 医学,医療 (2,354) 第 5-2 図 OA ジャーナルの出版元種別の構成(2011 年) 1 ( )内の数字は OA ジャーナルのタイトル数 141 技術,工学 (1,070) 第 5-1 表 出版元種別 OA ジャーナルのタイトル数(2011 年) (その 1) (数字はタイトル数) OA出版社 OA出版社以外 の出版社 学協会 大学,機関 その他 不明 合計 タイトル数 52 数学 平均値 3.3 19 1.6 1 14 1.4 1 10 1.3 1 37 124 2 9 243 1.1 1.1 1.0 1.0 1.3 1 1 1 1 1 49 45 9 9 255 1.2 1.0 1.8 1.0 1.7 1 1 1 1 1 34 35 0 8 153 1.3 1.0 1 1 中央値 タイトル数 1.5 129 142 化学 平均値 3.4 中央値 タイトル数 1 66 物理学 平均値 3.7 - 中央値 1 1.0 1.6 1 1 第 5-1 表 出版元種別 OA ジャーナルのタイトル数(2011 年) (その 2) (数字はタイトル数) OA出版社 OA出版社以外 の出版社 学協会 大学,機関 その他 不明 合計 生物科学,農学 医学,医療 技術,工学 地球科学,宇宙科学, タイトル数 平均値 中央値 タイトル数 平均値 中央値 タイトル数 平均値 中央値 タイトル数 平均値 中央値 124 5.0 1 360 5.4 1 1,028 16.6 2 302 4.9 1 32 1.6 1 71 1.7 1 168 1.9 1 69 1.5 1 69 227 4 25 481 1.1 1.1 1.3 1.1 1.4 1 1 1 1 1 167 374 13 40 1,025 1.1 1.2 2.6 1.3 1.6 1 1 1.5 1 1 368 590 164 36 2,354 1.1 1.2 1.1 3.0 2.0 1 1 1 1 1 123 487 8 81 1,070 1.2 1.1 1.0 1.1 1.5 1 1 1 1 1 143 「医学,医療」は他の分野に比べてその傾向が顕著で,同分野で刊行されている OA ジャーナルがより特定の OA 出版社に集中している状況にあると考えられる。 OA ジャーナルの刊行タイトル数の多い出版元上位 15 社を,タイトル数の多い 順に示す(第 5-2 表) 。分野によってタイトル数に差はあるが,どの分野でも共通 して,BMC,Hindawi,Bentham などの OA 出版社が大量のタイトルを刊行して上位 を占め,少数のタイトルを刊行する出版元が残りの多くを占めるという構図にな っている。 そのような中で,購読型学術雑誌を長く刊行してきた大手出版元も,上位に入 ってきている。Springer は, 「数学」で 6 タイトル, 「地球科学,宇宙科学,環境 科学」で 9 タイトル, 「物理学」で 2 タイトル, 「技術,工学」で 14 タイトル, 「化 学」で 3 タイトル, 「医学,医療」で 16 タイトルと,ほぼ全ての分野で多くの OA ジャーナルを刊行している。 「数学」では American Mathematical Society が 2 タイトル刊行している。Oxford University Press は「化学」で 2 タイトル,「生 物科学,農学」で 6 タイトル刊行している。「物理学」では American Physical Society が 3 タイトル,Optical Society of America が 2 タイトル,American Institute of Physics が 1 タイトル刊行している。Sage は,OA 出版社 Hindawi と連携して, 「生物科学,農学」 , 「化学」 , 「医学,医療」で多くの OA ジャーナル を刊行している。 また,表中には大手商業出版社に買収された OA 出版社が 2 社含まれている。1 社は各分野で上位を占める BMC であり,2008 年に Springer に買収されている。 もう 1 社は「医学,医療」で 25 タイトルを刊行する Frontiers であり,2013 年 2 月に NPG が買収を発表している。Springer の場合,BMC のタイトル数と足し合わ せると,「化学」, 「生物科学,農学」 ,「医学,医療」で最も多くの OA ジャーナル を刊行していることになる。 B OA ジャーナルの創刊傾向 本節では,第Ⅳ章C節にて雑誌調査②として概説した,OA ジャーナルの創刊状 況に関する調査の結果を示す。 1 STM 分野の学術雑誌全体の創刊傾向 調査対象の中で OA ジャーナルとして数えられているものの中には,当初は購読 型学術雑誌だったが,ある時点から OA ジャーナル化されたものも含まれている。 144 第 5-2 表 OA ジャーナルタイトル数の多い 上位 15 位までの出版元(2011 年)(その 1) (数字はタイトル数) 数学 化学 地球科学,宇宙科学, 環境科学 物理学 Hindawi 22 Bentham 28 Hindawi 26 Copernicus GmbH Spr in ge r 6 Hindawi 24 Bentham 11 Bentham BioMed Central 13 Scientific Research Publishing 10 Hindawi Scientific Research Publishing Scientific Research Publishing 12 Electromagnetics Academy 4 Scientific Research Publishing 14 Bentham M D P I AG 9 Am e r ic an Ph ysic al So c ie t y 3 Spr in ge r 9 Sage - Hin dawi Ac c e ss t o Re se ar c h 5 Hans Publishers BioMed Central 7 Hikari Ltd. M D P I AG 5 Hrvatsko Fizikalno Drustvo Consejo Superior de Investigaciones Cientificas (C S I C) * Departamento de Publicaciones 4 Institute of Physics Publishing Ltd. Bioflux SRL Hikari Ltd. 35 19 5 Institute of Mathematical Statistics Universitatea Politehnica din Bucuresti * Department of Mathematics 4 3 Sociedade Brasileira de Quimica 4 A N S I Network Libertas Academica Ltd. Academia de Stiinte a Moldovej * Institutul de Matematica si Informatica Spr in ge r Am e r ic an M at h e m at ic al So c ie t y Sphinx Knowledge House 3 M D P I AG Co-Action Publishing American Statistical Association Pagepress 3 Opt ic al So c ie t y o f Am e r ic a Editura Universitatii din Oradea Council of Scientific and Industrial Research (C S I R) 3 PhysMath Central Revues.org Spr in ge r Slovenske Akademije Znanosti in Umetnosti * Znanstvenoraziskoval ni Center, Geografski Institut Academic Journals Universitat de Barcelona * Servei de Publicacions 2 2 Ashdin Publishing 3 Canadian Research & Development Center of Sciences and Cultures Oxfo r d Un ive r sit y Pr e ss College de France * Ecole des Hautes Etudes en Sciences Sociales (E H E S S) Johnson Matthey PLC 3 2 1 Drustvo Matematicara Srbije Am e r ic an In st it u t e o f Ph ysic s Korean Chemical Society 1 Canadian Center of Science and Education 2 複数の分野にまたがるタイトルは各分野でカウントしている。 タイトル数が同数の場合は,大手出版元および出版元の名称がアルファベット順の早いもの を優先して上位に表示している。 3 大手出版元は名称を太字とし,囲み線を太くした。 2 145 第 5-2 表 OA ジャーナルタイトル数の多い 上位 15 位までの出版元(2011 年)(その 2) (数字はタイトル数) 生物科学,農学 医学,医療 技術,工学 BioMed Central 95 BioMed Central 197 Hindawi 65 Bentham 47 Hindawi 158 Bentham 39 Hindawi 42 Bentham 120 Scientific Research Publishing 33 M D P I AG 18 Medknow Publications and Media Pvt. Ltd. 96 Academy & Industry Research Collaboration Center (A I R C C ) 25 Scientific Research Publishing 14 Dove Medical Press Ltd. 86 M D P I AG 17 Libertas Academica Ltd. 13 Internet Scientific Publications, Llc. 61 Spr in ge r 14 A N S I Network 11 Libertas Academica Ltd. 45 Science and Engineering Research Support Society 10 Pagepress 11 Scientific Research Publishing 37 Computer Science Journals 9 Dove Medical Press Ltd. 10 Pagepress 28 Instituto Superior Politecnico Jose Antonio Echevarria Sage - Hin dawi Ac c e ss t o Re se ar c h 9 Frontiers Research Foundation 25 Academy Publisher 8 Tehran University of Medical Sciences Publications 23 HyperSciences Publishers Sage - Hin dawi Ac c e ss t o Re se ar c h 20 BioMed Central Medknow Publications and Media Pvt. Ltd. Editorial Ciencias Medicas 19 Hans Publishers Oxfo r d Un ive r sit y Pr e ss Spr in ge r 16 Modern Education & Computer Science Press (M E C S) Beijing Baishideng BioMed Scientific Co., Ltd 13 Bioinfo Publications 7 Pensoft Publishers Bioflux SRL 7 6 6 Ain Shams University * Faculty of Science 1 5 複数の分野にまたがるタイトルは各分野でカウントしている。 タイトル数が同数の場合は,大手出版元および出版元の名称がアルファベット順の早いもの を優先して上位に表示している。 3 大手出版元は名称を太字とし,囲み線を太くした。 2 146 しかし Ulrichsweb では印刷版学術雑誌としての創刊年と,OA ジャーナル化した 年を明確に分けて記載しておらず,創刊年の定義も示されていない。このため, 本調査で用いる Ulrichsweb の創刊年は両方の意味の年が混在している可能性が ある。だが,これらを区別することは難しいため,Ulrichsweb で創刊年として記 されている年を,OA ジャーナル化した年とみなす(第 5-3 表) 。2011 年の創刊数 が前年に比べて大幅に減っている分野があるが, これについては Ulrichsweb の収 録が最新の状況を反映しきれていない可能性がある。 どの分野でも,概ね 2000 年以降は OA ジャーナル創刊数が増える傾向がある。 ただし購読型学術雑誌創刊数も増加する年もあり,必ずしも毎年の OA ジャーナル 創刊数の創刊誌全体に占める割合が前年を上回っているわけではない。たとえば 「数学」の OA ジャーナル創刊数は 2005 年は 9 タイトル,2006 年は 13 タイトル と,1 年間で 4 タイトル増加しているが,購読型学術雑誌の創刊数は,2005 年が 20 タイトル,2006 年が 40 タイトルと 20 タイトルも増加しているため,結果とし て OA ジャーナル創刊数が創刊誌全体に占める割合は,2005 年が 31%,2006 年が 25%と減少している。 創刊誌全体に占める OA ジャーナル創刊数と購読型学術雑誌創刊数の割合につ いて,2000 年と 2010 年の状況を分野別に比較する(第 5-3 図) 。2011 年は上述の とおり Ulrichweb が最新の状況を反映しきれていないと考えられるため,2010 年 を最新の状況とみなし 2000 年との比較対象とした。第 5-3 表で見たとおり,必ず しも毎年 OA ジャーナル創刊数の占める割合が前年を上回っているわけではない。 しかし,創刊誌に占める OA ジャーナル創刊数の割合が 34%と最も少ない「技術, 工学」分野から,割合が 66%と最も高い物理学分野まで全ての分野において,2000 年から 2010 年という長期的な視点で見ると,創刊誌全体に占める OA ジャーナル 創刊数の割合が高まっていることがわかる。 2000 年から 2011 年にかけての,各分野の創刊誌全体と OA ジャーナルのタイト ル数の推移を第 5-4 図で示す。2006 年から 2007 年にかけて OA ジャーナル創刊数 が 229 タイトルから 392 タイトルと 2 倍近くも急増している。また,創刊誌全体 に占める割合も,2006 年までは 20%台前半で推移していたのが,2007 年には 33% と 10%近く上昇している。第 5-3 表で分野別の詳細な創刊状況を確認すると,2008 年には OA ジャーナル創刊数と購読型学術雑誌創刊数と同等,もしくは OA ジャー ナル創刊数が購読型学術雑誌創刊数を上回る分野が複数存在することがわかる。 具体的には, 「化学」 , 「物理学」 , 「地球科学,宇宙科学,環境科学」 ,「生物科学, 147 第 5-3 表 創刊年別 OA ジャーナル創刊数と購読型学術雑誌創刊数 (数字はタイトル数) 数学 OAJ 1949年まで 1950年代 1960年代 1970年代 1980年代 1990年代 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 不明 合計 9 9 9 6 20 48 5 8 2 2 6 9 13 16 16 19 15 25 6 243 購読型 144 83 110 156 203 274 18 31 20 26 27 20 40 56 37 45 21 15 59 1,385 化学 OAJ 14 12 9 12 12 21 11 3 8 5 9 5 8 21 29 23 12 29 12 255 購読型 179 111 194 225 265 270 19 23 18 19 24 22 20 24 21 28 36 22 72 1,592 物理学 OAJ 4 2 9 12 8 16 4 2 1 1 6 3 4 20 23 11 3 19 5 153 購読型 79 101 143 128 182 183 12 13 11 19 16 10 18 23 16 15 18 10 49 1,046 地球科学, 宇宙科学, 環境科学 OAJ 購読型 40 400 19 237 20 355 31 468 44 598 53 604 10 52 11 41 18 44 14 45 13 46 19 45 17 55 34 48 44 39 20 63 28 73 26 25 20 155 481 3,393 148 生物科学,農学 OAJ 70 51 49 75 62 89 39 22 42 26 27 36 36 55 87 77 83 56 43 1,025 購読型 737 443 476 707 840 865 95 81 71 64 62 78 103 129 87 91 132 44 282 5,387 医学,医療 OAJ 114 72 78 75 153 290 80 67 88 69 89 74 89 151 212 215 202 171 65 2,354 購読型 1,204 682 835 1,463 2,356 2,897 301 275 303 285 283 244 303 289 273 278 328 172 626 13,397 技術,工学 OAJ 25 14 23 46 60 125 23 21 30 36 37 50 61 95 82 102 114 78 48 1,070 購読型 507 444 548 771 1,183 1,198 142 146 131 130 135 167 176 218 165 184 237 151 389 7,022 購読型学術雑誌 OAジャーナル 100% 38% 80% 63% 60% 34% 43% 50% 66% 71% 75% 78% 44% 49% 79% 84% 86% 40% 63% 20% 66% 57% 37% 50% 34% 29% 25% 22% 56% 51% 21% 16% 14% 0% 2000年 (23) 2010年 (36) 数学 第 5-3 図 1 ( 2000年 (30) 2010年 (48) 化学 2000年 (16) 2010年 (21) 物理学 2000年 (62) 2010年 (101) 地球科学,宇宙科学, 環境科学 2000年 (134) 2010年 (215) 生物科学,農学 2000年 (381) 2010年 (530) 医学,医療 2000年 (165) 2010年 (351) 技術,工学 創刊誌全体に占める OA ジャーナルと購読型学術雑誌の割合(2000 年と 2010 年の比較) )内の数字は,各年に創刊された学術雑誌のタイトル数総数 149 (数字はタイトル数) 学術雑誌全体(OAJ+購読型) OAJ 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 学術雑誌全体 (OAJ+購読型) OAJ OAJ / 学術雑誌全体 第 5-4 図 1 811 744 787 741 780 782 943 172 21% 134 18% 189 24% 153 21% 187 24% 196 25% 228 24% 1,179 392 33% 1,131 493 44% 1,171 467 40% 1,302 457 35% 843 404 48% 2000-2011 年の間に創刊された STM 分野の全学術雑誌と OA ジャーナルのタイトル数 図中の「OAJ」は OA ジャーナルを,「購読型」は購読型学術雑誌を意味する。 150 農学」である。これら以外の分野のうち「数学」と「医学,医療」は,OA ジャー ナル創刊数が購読型学術雑誌創刊数に匹敵する時期が少し遅れる。「数学」では 2011 年に OA ジャーナル創刊数が 25 タイトル,購読型学術雑誌創刊数が 15 タイ トルとなっている。 「医学,医療」では 2011 年に OA ジャーナル創刊数が 171 タイ トル,購読型学術雑誌創刊数が 172 タイトルとほぼ同数になっている。ただし「技 術,工学」では一貫して購読型学術雑誌創刊数が OA ジャーナル創刊数を上回って いた。 2000 年から 2011 年にかけて,OA ジャーナルを創刊している出版元種別の構成 を第 5-5 図で示す。2000 年は OA ジャーナル出版社が 49%とほぼ半数を占めるが, 2001 年以降その割合は減少し,代わりに大学,機関が占める割合が 40%前後で推 移して全体に占める割合を高めるという状態が 2006 年まで続く。ところが 2007 年にから OA 出版社の占める割合が大きく高まり全体の 62%を占め,その後 2011 年にいたるまで 50%から 71%の幅で推移している。中でも 2007 年は 62%,2008 年 は 65%,2011 年は 71%と,全体に占める割合が非常に高い。 さらに,代表的な OA 出版社である,BMC, Bentham, Hindawi, Scientific Research Publishing(以下 Scientific Research)について,2000 年から 2011 年 までの OA ジャーナル創刊数の推移を第 5-6 図で示す。2007 年は Bentham から 96 タイトル,Hindawi から 47 タイトル創刊され,2008 年には Bentham から 119 タイ トル,Hindawi から 46 タイトル創刊されており,1 年間に 1 出版元からされる創 刊数としてはきわめて多い。また,2011 年は Hindawi から 110 タイトル, Scientific Research から 89 タイトル創刊され,これらもまた創刊数がきわめて 多い。このことから,2007 年,2008 年,2011 年の OA ジャーナル創刊数の多さに は,OA 出版社,特に大量のタイトルを創刊する特定の OA 出版社が影響している ことがわかる。 2 大手商業出版社 5 社の創刊傾向 2008 年から 2013 年にかけての大手商業出版社 5 社の OA ジャーナル創刊数およ び購読型学術雑誌創刊数を示す(第 5-7 図) 。各社の Web サイトにて,OA ジャー ナルとしてタイトルは紹介されているが,実際には初号が公開されておらず公開 準備中と思われるものが数タイトル存在した。具体的には,Elsevier の 13 タイ トル,Wiley-Blackwell の 3 タイトル,Taylor & Francis の 5 タイトルが未公開 151 OA出版社 100% 3% 1% OA出版社以外の出版社 7% 5% 1% 6% 7% 1% 2% 1% 学協会 大学,機関 9% 7% 0% 1% 90% その他 不明 6% 6% 1% 1% 8% 11% 6% 1% 1% 1% 9% 16% 80% 22% 28% 35% 39% 40% 70% 46% 6% 44% 10% 5% 5% 4% 60% 24% 8% 39% 4% 19% 9% 14% 6% 8% 50% 5% 19% 11% 40% 10% 14% 10% 3% 12% 6% 4% 7% 7% 71% 7% 30% 62% 65% 59% 50% 49% 20% 34% 38% 36% 35% 29% 28% 10% 0% 2000年 (172) 2001年 (134) 2002年 (189) 2003年 (153) 2004年 (187) 2005年 (196) 2006年 (228) 2007年 (392) 2008年 (493) 2009年 (467) 2010年 (457) 2011年 (404) 第 5-5 図 創刊された OA ジャーナルの出版元構成の推移(2000 年-2011 年) 1 ( )内の数字は,各年の OA ジャーナル創刊数総数 152 (数字はタイトル数) BioMed Central Bentham Hindawi Scientific Research Publishing 119 120 110 96 100 89 80 60 40 20 0 47 26 23 0 11 2 0 41 1 2000年 2001年 2002年 52 24 18 7 1 0 2003年 8 19 13 1 0 1 0 2004年 2005年 23 13 8 2006年 24 17 14 0 48 41 39 2 2 2007年 2008年 9 12 2009年 第 5-6 図 OA 出版社 4 社の OA ジャーナル創刊数の推移(2000 年-2011 年) 153 14 11 1013 1112 2010年 2011年 (数字はタイトル数) OAジャーナル Taylor & Francis Nature Publishing group Wiley-Blackwell Springer Elsevier 0 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 10 20 30 購読型学術雑誌 40 50 60 70 80 20 17 1 25 6 37 12 57 5 27 9 37 2 3 36 28 17 58(うちBMC 32) 57(うちBMC 37) 17(うちBMC 7) 2 1 3 4 19 17 16 14 11 4 8 1 3 0 4 11 21 4 14 2 7 1 0 1 1 0 2 30 24 20 13 6 4 6 12 第 5-7 図 大手商業出版社 5 社の OA ジャーナルと購読型学術雑誌の創刊数(2008 年-2013 年) 154 状態にあり,これらは結果に含めていない。OA ジャーナルの中には,もともと購 読型学術雑誌だったものがある年を境に OA ジャーナル化したものも含まれてお り,それらは OA ジャーナル化した年を創刊年としている。Springer による BMC 買収は 2008 年であったが,Springer の雑誌価格リストに BMC の情報が記載され ているのは 2010 年の雑誌価格リストからであるため,2010 年以降にのみ BMC の 創刊数を Springer の創刊数に加えている。 全体的に,2011 年以降に OA ジャーナル創刊数が増える傾向にある中で,2013 年の OA ジャーナル創刊数は 2012 年に比べて全体的に減っている。ただし, 1)Elsevier の 13 タイトル,Wiley-Blackwell の 3 タイトル,Taylor & Francis の 5 タイトルが公開準備中であること,2)大手商業出版社の創刊状況調査は 2013 年 3 月に行った,という 2 点を考慮すると,2013 年の正確な OA ジャーナル創刊 数は 2013 年 12 月末日までは把握できず,2012 年から 2013 年にかけての傾向も 断定できない。 BMC の OA ジャーナル創刊数を加えていることも影響しているが,Springer の OA ジャーナル創刊数が突出して多い。BMC の創刊数を除いた場合の,Springer の OA ジャーナル創刊数は,2011 年は 26 タイトル,2012 年は 32 タイトルであるの に対し,購読型学術雑誌の創刊数は,2011 年は 17 タイトル,2012 年は 14 タイト ルである。 つまり 2011 年と 2012 年は OA ジャーナル創刊数が購読型学術雑誌創刊 数を上回っている。また,数は少ないが NPG も同様の傾向がある。NPG の OA ジャ ーナル数は,2010 年は 2 タイトル,2011 年は 4 タイトル,2012 年は 7 タイトル であるのに対し,購読型学術雑誌創刊数は,2010 年は 1 タイトル,2011 年は 2 タイトル,2012 年は 2 タイトルであり,2010 年以降は OA ジャーナル創刊数が購 読型学術雑誌創刊数を上回っている。大手商業出版社の中でも,NPG にとっては 2010 年が,Springer とっては 2011 年が OA ジャーナル創刊数が購読型学術雑誌創 刊数を上回る,一つの転機となる年だったと考えられる。 C 質の高い大規模 OA ジャーナルの刊行状況 C節では,第Ⅳ章C節にて雑誌調査③として概説した,質の高い大規模 OA ジャ ーナルの刊行状況についての調査結果を示す。OA ジャーナルが Web of Science の Science Citation Index にて掲載論文数の多い上位 100 タイトルに最初に含ま れるようになった年は 2005 年であった。 対象の OA ジャーナルは 2 誌あり,Nucleic Acids Research が 1,169 論文を掲載して 53 位,Optics Express は 1,231 論文を 155 掲載して 47 位であった。Nucleic Acids Research は,もとは購読型学術雑誌で あり,2004 年以前も上位 100 タイトルに含まれていた。だが,2005 年から OA ジ ャーナルへと転換したため 1),2005 年時点で OA ジャーナルが上位 100 タイトル に含まれる例とみなした。Optics Express は 1997 年に創刊された学術雑誌だが, 当初から OA ジャーナルであったのか, それとも当初は購読型学術雑誌だったがあ る時点から OA ジャーナルになったのかは不明である。 ただし Suber の記述による と 2004 年時点では OA ジャーナルであったと考えられる 2)。Optics Express が上 位 100 タイトルに含まれるようになったのは 2005 年からであり, その時点では既 に OA ジャーナルであった。2005 年以降に掲載論文数の多い上位 100 タイトルに 含まれる OA ジャーナルについて,掲載論文数および順位を第 5-4 表で示す。 2005 年から 2012 年にかけて,上位 100 位以内に入る OA ジャーナルは少しずつ 増加し,2012 年には 6 タイトルが上位 100 位以内に含まれるようになっている。 Optics Express や PLOS ONE,African Journal of Biotechnology,BMC Public Health のように掲載論文数が年々増加して, 順位を順調に上げていく OA ジャーナルもあ るが,Nucleic Acids Research や Journal of Nanoscience and Nanotechnology のように必ずしも掲載論文数が毎年増加するわけではなく,順位に変動がある OA ジャーナルもある。途中で 100 位以内から外れた OA ジャーナルが 3 タイトルある が,その事情はそれぞれ異なる。World Journal of Gastroenterology は,掲載 論文数が 964(2009 年),916(2010 年) ,762(2011 年) ,1,008(2012 年)と推 移 し , 100 位 以 内 に 入 れ る ほ ど の 論 文 数 を 掲 載 し て い な か っ た 。 Acta Crystallographica Section E Structure Reports Online は詳細な事情は不明だ が,Web of Science の収録対象が,2012 年の掲載論文数が 1-2 月の 2 ヶ月分のみ となり,2012 年の掲載論文数が 645 論文と扱われていたため,100 位以内に入っ ていなかった。 Acta Crystallographica Section E Structure Reports Online は,2012 年 3 月以降も刊行は続いており,なぜ Web of Science の収録対象から 外れたのかは不明である 3)。African Journal of Biotechnology は,2011 年に刊 行された vol.10 no.76 までは刊行されていたが, それ以降の刊行がないため,2012 年の掲載論文数は0となり,上位 100 位以内から外れていた 4)。 2005 年から 2007 年にかけては,上位 100 位以内の OA ジャーナルタイトル数の 増加にともない,OA 論文数も増加している。しかし,2008 年から 2010 年までの 上位 100 位以内に含まれる OA ジャーナルタイトル数は 5 タイトル,2011 年以降 は 6 タイトルと 1 タイトル増加しただけにもかかわらず,掲載論文数総数は 2008 156 第 5-4 表 誌名 Nucleic Acids Research Optics Express PLOS ONE World Journal of Gastroenterology Acta Crystallographica Section E Structure Reports Online African Journal of Biotechnology BMC Public Health International Journal of Electrochemical Science Scientific Reports 上位100位以内の OAジャーナルタイトル数 上位100位以内の (総数) OAジャーナルの 掲載論文数 (前年比) (総数) WOS収録論文数総数 (Science Citaion Index) (前年比) 掲載論文数の多い学術雑誌上位 100 位以内の OA ジャーナル 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 掲載論文数 順位 掲載論文数 順位 掲載論文数 順位 掲載論文数 順位 掲載論文数 順位 掲載論文数 順位 掲載論文数 順位 掲載論文数 順位 1,169 53位 1,077 65位 1,123 67位 1,056 70位 1,102 69位 1,108 70位 1,230 63位 1,423 54位 1,231 47位 1,465 39位 1,958 19位 2,316 15位 2,547 13位 2,945 11位 2,983 13位 3,173 12位 1,229 54位 2,712 11位 4,395 3位 6,692 1位 13,706 1位 23,319 1位 931 92位 1,015 76位 - - - - - - 3,533 6位 4,148 - - - - - - - - 1,055 76位 - 1,225 57位 - 2,540 16位 985 96位 1,093 79位 - - - - - - - - - - - - - - 1,012 90位 - - - - - - - - - - - - - - 1,013 89位 2タイトル 2タイトル 4タイトル 5位 4,086 5位 4,433 3位 - - 5タイトル 5タイトル 5タイトル 6タイトル 6タイトル 13,247 16,056 25,877 31,033 2,400 2,542 5,241 10,632 848,279 106% 891,007 206% 930,464 203% 985,385 125% 1,020,451 121% 1,058,716 161% 1,122,804 120% 1,168,125 - 105% 104% 106% 104% 104% 106% 104% 157 年の 10,362 論文から 2012 年には 31,033 論文と約 3 倍増加している。Web of Science の Science Citation Index 収録論文総数は,2008 年から 2012 年にかけ て毎年 4%から 6%増加し,2008 年の 985,385 論文から 2012 年には 1,168,215 論文 と約 1.2 倍増加していることと比較すると,OA ジャーナル掲載論文数の急激な増 加ぶりがわかる。この急激な増加は OA メガジャーナル PLOS ONE の影響によるも のであった。PLOS ONE が最初に上位 100 位以内に登場した 2007 年の掲載論文数 は 1,229 論文だが,掲載論文数は急激に増加し,2012 年には 23,319 論文を掲載 している。2012 年の掲載論文数 2 位である Physical Review B の掲載論文数が, 6,000 論文前後を推移しているのに対し,PLOS ONE は 2008 年から 2012 年にかけ て掲載論文数が約 10 倍となり,1 位となった 2010 年以降は 2 位との掲載論文数 の差を年々広げている(第 5-8 図) 。第 5-4 表で見たように,OA 論文数は全体と して増加傾向にあるが,PLOS ONE の掲載論文数の増加率は群を抜いて大きく,伝 統的な購読型学術雑誌をも大きく上回るものであり,OA ジャーナルという枠だけ ではなく,より広い学術雑誌という枠組みの中でも特異な存在となっていること がわかる。 さらに,2000 年から 2012 年の間に一度でも 10 位以内に入った 9 タイトルにつ いて,創刊時から OA ジャーナルである「Born OA」か,それとももとは購読型学 術雑誌だったものが途中から OA ジャーナルへと変わった「Converted OA」かにつ いて,各タイトルの Web サイトや文献を調査して確認した。その結果,PLOS ONE, BMC Public Health, Scientific Reports の 3 タイトルは「Born OA」であった。 一方,Nucleic Acids Research,Optics Express,Acta Crystallographica Section E Structure Reports Online の 3 タイトルは「Converted OA」であった 5)。残り の 3 タイトルは, 「Born OA」と「Converted OA」のいずれかは特定できなかった。 2005 年に最初に 100 位以内に入った Nucleic Acids Research,Optics Express はいずれも「Converted OA」であり, 「Born OA」が最初に 100 位内に入ったのは, 2007 年の PLOS ONE であった。このことから,もともと購読型学術雑誌として質 が高く大規模であった「Converted OA」が 2005 年と早い段階で 100 位以内に入っ たが,その 2 年後に「Born OA」が 100 位以内に入るようになったということにな る。 D OA メガジャーナルの実態 D節では,第Ⅳ章C節にて雑誌調査④として概説した,OA メガジャーナルの実 158 2009年 2010年 159 2011年 4,976 PLOS ONE 6,137 Physical Review B 4,433 Applied Physics Letters 15,000 PLOS ONE 6,692 Physical Review B 4,459 Acta Crystallographica 6,049 PLOS ONE 5,677 Physical Review B Applied Physics Letters 4,677 Physical Review B 5,000 4,395 Applied Physics Letters PLOS ONE 25,000 23,319 20,000 13,706 10,000 5,652 0 2012年 第 5-8 図 掲載論文数の多い上位 3 タイトルの掲載論文数(2009 年-2012 年) 態についての調査結果を示す。OA メガジャーナルの刊行状況を,各社の Web サイ ト等で確認した結果を第 5-5 表に示す。PLOS ONE と BMC Research Notes 以外の 全ての OA メガジャーナルは,2011 年以降に相次いで創刊されていることがわか る。出版元の中には,Elsevier,Springer,Wiley-Blackwell,NPG,Sage など大 手商業出版社が含まれている。 OA メガジャーナルの特徴を見極める要素である,1)掲載論文数,2)対象とする 分野,3)査読や公開までに要する日数,4)受理されやすさの 4 つの点から,各 OA メガジャーナルを調査した結果を以下で述べる。 PLOS ONE の圧倒的な掲載論文数の多さに比べると,他誌の掲載論文数は少ない。 ただし, 一部のタイトルでは一般的な学術雑誌よりも掲載論文数がはるかに多く, そのことは月単位で換算すると,より明確になる。2013 年の月平均掲載論文数は, The Scientific World Journal が 61 論文,BMJ Open が 77 論文,Scientific Reports と RSC Advances が 184 論文,Springer Plus が 50 論文である。 このように PLOS ONE 以外の OA メガジャーナルでも, 伝統的な出版元の有力誌に匹敵あるいは凌駕する 規模の論文数を掲載していることがわかる。 対象とする分野は,どのタイトルも広く Qscience Connect のように分野を問わ ないものまであった。全体的には STM 分野を対象とするものが多く,社会科学分 野等の STM 以外の分野を対象とするのは SAGE Open のみであった。 査読や公開までに要する日数について,一部のタイトルでは具体的に日数を明 示していた。Open Biology6)と Springer Plus7)は投稿後 4 週間以内に最初の判定 を出すことを目標としていると明示している。Scientific Reports は毎月公開し ている統計で,2013 年 4 月分の投稿から掲載までの日数の中央値は 108 日と明示 されている 8)。BMJ Open は最初の結果を出すまでにかかる日数について,2012 年 の場合の中央値は 46 日だったと明示している 9)。Biology Open は,最初の結果 を出す日数の 2013 年 4 月の平均は 12 日であったとしている 10)。速さを示す基準 はタイトルごとに異なるが,投稿から掲載までの過程が短いことをどのタイトル も主張している。受理されやすさについては,受理率を調べた。受理率を明示し ていたのは,PLOS ONE ,BMJ Open ,Biology Open,PeerJ の 4 タイトルのみで あった。PLOS ONE の受理率については,公表されている掲載論文数を投稿論文数 で除して示すと,2007 年が 49%,2008 年が 62%,2009 年が 65%,2010 年が 49%, 2011 年が 53%であり,概ね 50%から 65%の範囲で推移している Biology Open 10) 11) 。BMJ Open9)と の 2012 年の受理率は,それぞれ 66%,61%と明示されていた。 160 第 5-5 表 OA メガジャーナル刊行状況 掲載論文数 タイトル 1 出版社 創刊年月 2011年 2006年12月 2012年 13,796 PLOS ONE Public Library of Science BMC Research Notes BioMed Central 2008年2月 572 The Scientific World Journal Hindawi Publishing Corporation 238 BMJ Open BMJ Group 2011年※1 2011年1月 151 654 308 医学 AIP Advances American Institute of Physics 2011年3月 259 381 134 応用物理学 SAGE Open Sage 2011年4月 44 113 Scientific Reports Nature Publishing Group 2011年6月 205 807 G3: Genes, Genomes, Genetics Genetics Society of America 2011年6月 65 166 Physical Review X American Physical Society 2011年8月 40 75 RSC Advances Royal Society of Chemistry 2011年8月 241 Open Biology Royal Society 2011年9月 9 Qscience Connect Bloomsbury Qatar Foundation 13 15 全分野 Cell Reports Elsevier, Cell press 2012年1月 - 244 123 生命科学 Biology Open The Company of Biologist 2012年1月 - 143 47 生物学 Chemistry Open Wiley-Blackwell 2012年2月 - 64 Springer Plus Springer 2012年3月 - 84 F1000 Research F1000 Research 2012年7月 - PeerJ PeerJ 2013年2月 - - IEEE Access IEEE 2013年5月 - - 2011年11月 23,464 対象分野 2013年 (1月-4月) 9,723 自然科学、医学 904 170 生物学、医学 1160 245 自然科学、技術、医学 29 社会科学、行動科学、人文科学 738 自然科学 71 遺伝、ゲノムに関する情報 21 理論物理学、応用物理学、学際物理学 1764 736 化学 細胞生物学、発生生物学、分子生物学、 27 構造生物学、生化学、神経科学、 免疫学、微生物学、遺伝学 57 5 22 化学およびその関連分野 201 自然科学 60 57 生物学、医学 69 生命科学,医学 - アプリケーション指向で学際的な研究領域 を含む全ての電子工学分野 The Scientific World Journal は 2001 年創刊だが,2011 年に Hindawi に買収されて後に OA 化されたため,創刊年を 2011 年としている。 161 PeerJ12)は創刊して間もないため,まだわからないとしながらも,70%以下を想定 しているとの記載があった。BMJ Open を刊行する BMJ Group の他の学術雑誌の受 理率は 7%であることと比較すると,これら 60%以上の受理率は,受理されやすい 値と考えられる 13)。査読や公開までにかかる日数や,受理率については明示して いないタイトルもあり,調査した 19 タイトル全てが,OA メガジャーナルの特徴 を全て備えているかまでは確認できなかったが,多くのタイトルが,掲載論文数 の多さや対象とする分野の広範さといった特徴を備えていた。 E 調査結果の整理 本節では,調査によって明らかになった内容と,明らかにできなかった点を整 理する。本研究の目的である,OA ジャーナルが購読型学術雑誌に代わり,学術雑 誌の主流になるかに沿った詳細な考察は第Ⅶ章で行う。 2011 年時点の STM 分野において,OA ジャーナルが学術雑誌全体に占める割合は 14%であり,分野間で大きな差は見られなかった。学術雑誌全体に占める割合と しての 14%という値は,OA ジャーナルが購読型学術雑誌を凌駕するほど高くはな く,現状ではまだ OA ジャーナルが学術雑誌の主流となっているとはいい難い。 しかしながら, 2011 年にいたるまでに OA ジャーナルが急増した詳細な状況を, 創刊状況調査で確認できた。2000 年以降 2006 年までにおいて,創刊誌全体に占 める OA ジャーナル創刊数の割合は 20%台で推移していたが,2007 年に 33%と急増 し,以降は 35%から 48%の間で推移していた。つまり 2006-2007 年が創刊誌全体に 占める OA ジャーナル創刊数の割合が急増する転換期であったと考えられる。 この 背景には,2007 年以降の OA 出版社による OA ジャーナル創刊数急増があった。OA ジャーナルを創刊する出版元種別における OA 出版社の割合は,2007 年以降に急 激に高まり,特に 2007 年,2008 年,2011 年は 60%以上と非常に高かった。さら に詳しく分析すると,OA 出版社の中でも,特に Bentham,Hindawi,Scientific Research が 2007 年以降に大量の OA ジャーナルを創刊していた。このことから, 特定の新興 OA 出版社による 2007 年以降の大量の OA ジャーナル創刊が, 創刊誌全 体に占める OA ジャーナル創刊数を押し上げた大きな要因だったと考えられる。 2011 年時点での OA ジャーナルの出版元の構成は, OA 出版社(36.9%),OA 出 版社以外の出版社(6.9%),大学・研究機関(33.7%),学協会(15.2%)であり, OA 出版社が最も高い割合を占めていた。OA 出版社と OA 出版社以外の出版社を合 わせると 43.8%となり,出版社が全体の半数近くを占めていた。1 社あたりの OA 162 ジャーナルのタイトル数の平均値は,大学・研究機関と学協会は約 1 タイトル, OA 出版社以外の出版社は分野間で差があるものの最少の 1.3 から最多の 1.9 タイ トルの範囲におさまる程度の差であった。これに対し,OA 出版社はどの分野も平 均 3 タイトル以上と高かった。ただし,中央値はどの分野でも 1 から 2 の範囲内 にあることから,特定の OA 出版社が大量の OA ジャーナルを刊行することで平均 値を上げていたことがわかった。以上の出版元種別の刊行状況から,2011 年時点 では,OA 出版社,特に特定の OA 出版社が大量の OA ジャーナルを刊行し,OA 出版 社以外の出版社は少数の OA ジャーナル,大学・研究機関および学協会は 1 タイト ルのみ刊行しているという全体的な構図が明らかになった。 OA ジャーナル登場当初,商業出版社は OA ジャーナルのビジネスモデルに懐疑 的であった 14)。2007 年に三根が行った調査 15)でも,出版元種別の構成比は,大学・ 研究機関(39.5%) ,学協会(30.1%) ,出版社(27.4%)と,大部分を大学・研究機 関と学協会が占め,出版社の占める割合は比較的低かった。しかし 2011 年時点で の,OA ジャーナルの刊行タイトル数が多い順番に出版元を確認すると,上位の大 部分を OA 出版社が占め,さらに大手商業出版社である Springer も上位に入って いた。このことから,当初は OA ジャーナルのビジネスモデルに懐疑的であった商 業出版社も,2011 年時点では OA ジャーナル事業に参入し, OA ジャーナルを新し い学術雑誌事業のあり方として認めていたと考えられる。ただし過去に遡って OA ジャーナル刊行状況を定点観測するような調査はできないため,OA ジャーナルの 出版元種別の構成が過去からどのように推移してきたかなどの詳細はわからない。 さらに,大手商業出版社の創刊状況調査から,全体的に創刊誌全体に占める OA ジャーナルの割合が年々少しずつ高まっていることがわかった。特に NPG は 2010 年,Springer は 2011 年に創刊誌全体に占める OA ジャーナル創刊数が購読型学術 雑誌創刊数を上回っており,2010-2011 年が一つの転換期であった可能性がある。 ただし以下の二つの理由から,現時点で大手商業出版社の全体的な傾向を分析す ることは難しい。一つは,調査対象期間が 2008 年から 2013 年という比較的短期 間であったことである。二つ目は,Elsevier,Wiley-Blackwell,Taylor & Francis において, 現時点では刊行時期が不明の OA ジャーナルが複数存在したことである。 これら刊行時期不明のタイトルの創刊時期次第では,全体的な傾向の分析結果が 変わってくる可能性がある。たとえば全てが 2013 年中に創刊されない,またはご く少数のタイトルしか創刊されない場合は,2013 年の創刊誌に占める OA ジャー ナルの割合は 2012 年より低くなり,創刊誌に占める OA ジャーナルの割合の増加 163 傾向は 2012 年で途切れるとみなせる。逆に,2013 年中に多数もしくは全てが創 刊されれば,創刊誌に占める OA ジャーナルの割合の増加傾向が続くことになり, 2010 年は,大手商業出版社が学術雑誌を創刊する際に OA ジャーナルを選択する 傾向が強まった転換期であったとみなせる。全体的な傾向を見極めるには,もう しばらく動向を観察する必要がある。 OA メガジャーナルは,2011 年以降に相次いで創刊され,大手商業出版社から の創刊も多かった。これは 2006 年に創刊された PLOS ONE が 2010 年に独自で採算 がとれるようになり,OA メガジャーナルのビジネスモデルが成り立つことを証明 したことが関係しているとも考えられる。PLOS ONE の圧倒的な掲載論文数の多さ に比べれば,その他の OA メガジャーナルは掲載論文数が多いものでも,従来の学 術雑誌と比べて比較的掲載論文数が多い程度で,PLOS ONE に匹敵するほどではな かった。しかし OA メガジャーナルの大部分が創刊して間もないため,これらが PLOS ONE に匹敵するほど掲載論文数を増やし,学術雑誌全体における位置づけが 高まっていくかどうかもまた,今後の動向をしばらく観察しなければ明らかにす ることはできない。また,学術雑誌全体における OA ジャーナルの位置づけを考え る上で,OA メガジャーナルが果たした役割を正確に解釈するには,論文全体に占 める OA メガジャーナル掲載論文数の割合を調べる, 論文単位の調査が必要である。 注・引用文献 1) Richardson, Martin. オープンアクセス: 大学出版局の見解「根拠がポリシ ーを作るのか, ポリシーが根拠を作るのか?」. 的場美希訳. 情報の科学と技 術. 2005, vol. 55, no. 6, p. 248-250. 2) Suber, Peter. “Optics Express -- OA journal from Optical society of America”. Open access news. 2004-09-28. http://legacy.earlham.edu/~peters/fos/2004_09_26_fosblogarchive.html, (accessed 2013-11-24). 3) 2013 年 12 月 8 日時点では,2013 年 12 月号までが刊行され,2014 年分の準 備段階の号が”In preparation”として公開されている。Acta Crystallographica Section E Structure Reports Online の刊行状況は以下 の Web ページで確認できる。 164 http://journals.iucr.org/e/contents/backissues.html, (accessed 2013-12-08). 4) 2013 年 12 月 8 日時点では,2011 年の vol.10 no.11 が最新号として公開され ている。African Journal of Biotechnology の最新号は以下の Web ページか ら確認できる。http://www.ajol.info/index.php/ajb 5) Thomson Reuters. “Acta Crystallographica Section E: Structure Reports Online: A Featured Journal from Essential Science IndicatorsSM”. Science WATCH.com. 2008, http://archive.sciencewatch.com/inter/jou/2008/08mayJouActaCr/, (accessed 2013-11-24). 6) Royal Society. “About Open Biology”. Royal Society homepage. http://rsob.royalsocietypublishing.org/site/misc/about.xhtml, (accessed 2013-04-13). 7) Springer. “2. Why submit to Springer Plus? ”. Springer homepage. http://www.springerplus.com/about/faq/submitto, (accessed 2013-04-13). 8) Nature Publishing Group. “Scientific Reports. Monthly Statistics-April 2013”. Nature Publishing Group homepage. http://www.nature.com/content/srep/statistics/index.html?WT.mc_id=WE B_SciReports_1210_912, (accessed 2013-05-13). 9) BMJ Group. “About BMJ Open”. BMJ Group homepage. http://bmjopen.bmj.com/site/about/, (accessed 2013-04-13). 10) The Company of Biologist. “About Biology Open”. The Company of Biologist homepage. http://bio.biologists.org/site/about/about_bio.xhtml, (accessed 2013-04-13). 11) Binfield, Peter. “PLOS ONE and the rise of the open access mega journal”. Slide share. 2011-06-06. http://www.slideshare.net/PBinfield/ssp-presentation4, (accessed 2013-04-13). 12) PeerJ. “FAQ”. PeerJ homepage. https://peerj.com/about/FAQ/user, (accessed 2013-04-13). 165 13) BMJ Group. “Resources for authors”. BMJ Group homepage. http://www.bmj.com/about-bmj/resources-authors, (accessed 2013-10-29). 14) Elsevier. Open access journal survey. Editor's Update. 2006, no.14. http://editorsupdate.elsevier.com/2006/04/open-access-journal-su rvey/, (accessed 2013-04-13). 15) 三根慎二. オープンアクセスジャーナルの現状. 大学図書館研究. 2007, no. 80, p. 54-64. 166 Ⅵ 論 文 掲 載状 況 か ら 見る OA ジャ ー ナ ル の 進展 学 術 雑誌 全 体 に お け る OA ジ ャー ナ ル の 位 置 づけ の 変 化 を 明 ら か にし , 今 後の OA ジ ャ ーナ ル の 進展 を 検 討 す る た め ,OA 論 文 の 掲 載 誌 ,分 野 , 出 版 元な ど の 実 態 を 経 年 的に 調 査 し た 。 A 論 文 全 体 に 占 め る OA 論 文 の割 合 の 推 移 1 調 査対 象 の 属 性 調 査 対象 論 文 を 分 野 別 に 分類 し た 結 果 を 第 6-1 表 で 示 す 。複 数 の 分野 に 分 類さ れ て い る 論 文 は,そ れ ぞ れ の分 野 で カウ ン ト し た た め ,各 年 の 総 数 が本 来 の 調 査 対 象 で ある 1,000 を 1.5 倍 以 上 ,上回 る 値 と な って い る 。 デー タ 抽 出 に 用 い た Science Citation Index は 自 然科 学 分 野を 対 象 と して い る が ,抽 出 し た論 文 デ ー タ の 中 に は ,自 然 科 学 分 野 に 加え て, そ れ 以外 の 分 野 に も 分 類 され て い る 場 合 も あ った 。こ の ため ,数は わ ず か で は あ る が 「 心 理 学 」 や 「 社 会 科 学 」 も 存 在 し た 。 全 体 的 に は ,「 生 物 学」,「 医 学」,「 化 学」,「 工 学」,「 物 理 学」へ 分 類 さ れた 論 文 が 多か っ た。 2005 年 , 2010 年, 2012 年 い ず れの 掲 載 年 で も, 調 査 対 象 の 論 文 全体 に 占 め る 各 種 類 の 出 版 元 の 刊 行 論 文 の 割 合 は ほ ぼ 同 じ で ,「 大 手 商 業 出 版 社 」が 刊行 す る 論 文 の 割合 は 43.3%( 2010 年 )か ら 47.0%( 2012 年), 「 そ の他 の 出 版 社」刊 行 の論 文 が 16.8%(2012 年)か ら 18.6%(2010 年 ), 「 学 協会 」刊行 の 論 文が 24.9%(2012 年 )か ら 32.3%( 2005 年), 「大学, 機 関」刊 行 の 論文 が 2.6%(2012 年 )から 3.0%(2005 年 )の 幅 で 推 移 し て い た( 第 6-1 図)。 論 文 全体 に 占 め る「 大 手 商業 出 版 社 」刊 行 の 論文 の 占 め る 割 合 が 大き い が ,こ れ は Web of Science が 比 較的 評 価 の高 い 学 術 雑 誌 を 収 録対 象 と し てい る こ と が 影 響 し てい る と 考 え ら れ る。ま た ,論 文全 体 に 占め る 割 合 は大 き く な い が , 「 OA 出版 社 」刊 行 の 論 文 の占 め る 割 合 が ,0.4%( 2005 年), 4.4%(2010 年 ), 6.7%(2012 年) と 年 を追 う ご と に 少 し ず つ 増 加 し て いた 。 167 第 6-1 表 調 査 対 象 論 文 の分 野 (数字は論文数) 数学 2005年 45 2010年 43 2012年 51 化学 224 246 242 物理学 166 153 155 天文学 22 19 16 地球科学 89 67 64 農学 42 45 41 生物学 370 349 349 医学 350 357 388 37 40 50 180 143 148 コンピュータ科学 37 27 40 心理学 11 10 11 9 14 14 科学技術-その他 25 46 77 その他 16 15 24 1,623 1,574 1,670 その他の生命科学 工学 社会科学 計 168 100% 0.6% 不明 その他 3.0% 1.5% 0.8% 0.1% 2.8% 0.8% 2.6% 0.5% 大学,機関 80% 学協会 29.3% 32.3% 24.9% 16.8% 60% その他の 18.6% 18.1% 出版社 OA 出 版 社 6.7% 0.4% 4.4% 40% 大手 商業出版社 45.5% 43.3% 20% 47.0% 0% 2005年 (1,000論文) 第 6-1 図 2010年 (1,000論文) 調 査 対 象 論 文 の出 版 元 種 別 169 2012年 (1,000論文) 2 論 文全 体 に 占 め る OA 論 文 の割 合 の 推 移 2005 年 か ら 2012 年 に か けて の ,論 文 全 体 に 占め る OA 論 文 の 割 合の 推 移 を第 6-2 図 で 示 し , 続 けて OA 論 文 を 種 類 分け し た 結 果 を 第 6-2 表で 示す。 こ こ での「 OA」と は ,調 査 時 点に お い て ,全 文 が 掲載 誌 上 で 無 料 公開 さ れ てい る あ ら ゆ る 状 態 を指 す 。 具 体 的 に は 「 Full OA ジャ ー ナ ル」 掲 載 論 文, 「 OA メガ ジ ャ ー ナ ル」掲 載論 文 , 「 ハ イ ブリ ッ ド OA」論 文, 「 Delayed OA」 論文 , お よ び 「 サ ン プル 」 と し て OA 化さ れ た 論 文 を指 す。「 有 料」 と は,印 刷 版 と 電子 版 を 問わ ず 有 料 で 論 文 を 入手 で き る 状 態 に あ る論 文 を 指 す。「 不明 」 と は , 掲載 誌 の Web サ イ トが 見 つ か ら な い , また は 掲 載 誌の Web サ イト の 目 次情 報 が 見 つ か ら な い等 の 理 由 で ,論 文 の存 在 を 確 認 でき ず 「 OA」 と も 「 有料 」 と も 判 断 が つ かな か っ た 論 文 を 指 す。 論 文 全体 に 占 め る OA 論文 の 割 合 は , 23.0%( 2005 年), 25.1%(2010 年), 22.1%(2012 年 ) と推 移 し て い た 。 論 文全 体 に 占 め る OA 論 文 の割 合 は ,年 に よ る 差 は あ ま り大 き く な い が , 最 も高 い の は 2010 年で あ っ た 。調査 時 点 は 2013 年 8~ 9 月 で あり ,2010 年 掲 載 の 調査 対 象 論文 の 大 部 分 が 12 月 に 掲 載 さ れ た論 文 で あ っ た 。 つ まり , 調 査 時 点 の 20-21 ヶ 月 以 上前 に 掲 載 さ れ た 論 文 に お い て , 論 文 全 体に 占 め る OA 論 文 の割 合 が 最 も高 か っ た 。 0% 100% OA 2005年 (1,000論文) 有料 23.0% 不明 75.1% 1.9% 2010年 (1,000論文) 25.1% 74.2% 0.7% 2012年 (1,000論文) 22.1% 77.1% 0.8% 第 6-2 図 論 文 全 体 に 占 める OA 論 文 の 割 合 の推 移 ( 2005-2012 年 ) 170 第 6-2 表 OA 論文 種 別 の論 文 数 推 移 (数字は論文数) Full OAジャーナル OAメガジャーナル ハイブリッドOA Delayed OA サンプル 有料 不明 総数 2005年 2010年 2012年 52 0 1 174 3 751 19 1,000 94 19 11 119 8 742 7 1,000 120 42 21 24 14 771 8 1,000 3 OA 論 文 の 種 類 OA 論 文 の 種 類 別論 文 数 につ い て は ,第 6-2 表 で示 し た と お り「 Full OA ジ ャ ーナ ル 」掲 載 論 文, 「 OA メ ガ ジ ャー ナ ル」掲 載 論文 , 「 ハ イ ブリ ッ ド OA」論 文 ,「 サ ン プ ル」論 文 は ,い ず れ も 2005 年 以降 ,年 を 追 うご と に 増 加 して い る が ,そ の 増 加率 が 時 期 に よ っ て 異な る 。「 Full OA ジ ャ ーナ ル 」掲 載 論 文数 は 52 論 文( 2005 年 ),94 論 文( 2010 年 ),120 論 文( 2012 年)と ,2005 年 か ら 2010 年 にか け て 2 倍 近 く増 加 し ,2010 年 から 2012 年 に かけ て は 1.2 倍 増 加 して い る。 「 OA メ ガ ジャ ー ナ ル 」掲 載 論 文数 は , 0 論 文( 2005 年),19 論 文( 2010 年),42 論 文( 2012 年 )と ,2010 年 以 降 急 増し て い る。「 ハ イ ブリ ッ ド OA」 論 文 数 も , 1 論 文( 2005 年), 11 論 文 (2010 年), 21 論 文 ( 2012 年 ) と , 2010 年 以 降 急 増 し て いる 。 こ の よ うに 「 OA メ ガ ジ ャ ーナ ル 」 掲 載 論 文 と 「ハ イ ブ リ ッ ド OA」 論 文が 急 増 する 時 期 が,「 Full OA ジ ャ ー ナ ル」掲 載 論文 よ り も 遅 れ て い る。こ れ に は, 「 OA メ ガ ジ ャ ー ナル 」の 創刊 時 期 と「 ハ イ ブ リッ ド OA ジ ャ ー ナ ル 」 の普 及 の 時 期 が 関 係 して い る と 考 え ら れ る 。 2010 年 の 「OA メ ガ ジ ャ ーナ ル 」 掲 載 論 文 19 論 文 全て , お よび 2012 年 の 「OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル」 掲 載 論 文 42 論 文 中 38 論 文 は , 2006 年 に 創 刊 さ れた PLOS ONE 掲 載 論文 で あ っ た 。 2012 年の 「 OA メ ガ ジ ャ ーナ ル」 171 掲 載 論文 の う ち , PLOS ONE 掲 載 以 外の 4 論 文 は NPG が 2011 年 に 創 刊し た Scientific Reports に 掲 載 され た 論 文 で あっ た 。 PLOS ONE は最 初 の OA メ ガ ジ ャ ー ナル で あ り,2005 年 時 点 では OA メ ガジ ャ ー ナ ル は存 在 し な か った 。 こ の た め 「 OA メ ガジ ャ ー ナ ル 」 掲載 論 文 数 が 急 増 し たの は, 2010 年 以 降 で あっ た と 考え ら れ る 。 「 ハ イブ リ ッ ド OA ジ ャ ーナ ル 」は ,ア メ リ カ昆 虫 学 会 が 2000 年 に始 め た のが 最 初 だ と 言 わ れ てい る 1) 。し か し,「 ハ イ ブリ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル 」が 大々 的 に 普 及 し た のは ,Springer が 商 業出 版 社 と し て 初 めて 2004 年 に Open Choice と い う 名称 で ,自 社の 全 学 術雑 誌 を「 ハイ ブ リ ッド OA ジ ャ ーナ ル 」と し て 2) 以 降 で あ る 。ま た ,大 手 商業 出 版 社 Elsevier が「 ハ イ ブ リッ ド OA ジャ ー ナ ル」 を 始 め た の は 2005 年 3) , 大 手 学 会 IEEE 4 ) が 始 め たの は 2011 年 で あ る。こ の ため 2005 年 の「 ハイ ブ リ ッ ド OA」論 文 数 は 少な い が , 2010 年, 2012 年 と 年 を 経 るに 従 っ て 増 加 し た と考 え ら れる。 一 方,「 Delayed OA」 論 文数 は , 2012 年 は 24 論 文 ,2010 年 は 119 論 文 ,2005 年 は 174 論 文 と ,2012 年 か ら 遡 る に 従っ て 増 加 し て お り ,2012 年 と 2010 年 を 比 較 す る と, 約 5 倍 も 増 加 し てい る 。 こ れ は エ ン バー ゴ の 長 さが 大 き く 関 係 し て いる と 考 え ら れ る 。調査 時 点 に お い て ,2010 年 掲 載 論文 は 20-21 ヶ 月 経 過し て お り ,2012 年 掲 載論 文 は 8-9 ヶ 月 経過 し て い る。こ のた め ,2010 年 掲 載 論 文は ,一 般 的な エ ン バ ー ゴ で あ る,刊 行 後 12 ヶ 月 を 経て い る が, 2012 年 掲 載 論 文は こ れ を 経 て お ら ず, そ の 影 響 が「 Delayed OA」 論 文数 に 表 れ て い る と 考え ら れ る 。 さ ら に,調 査 対 象の 論 文 全体 に 占 める OA 論 文 の割 合 の 推 移 を OA 論 文 の 種 類 別に 第 6-3 図 で 示 す 。 OA と し て 公 開 さ れる 時 期 , お よ び OA の一 過 性 と いう 二 つ の 基 準 に も とづ き ,OA 論 文 の 種 類を グ ル ー プ 分 け し た。OA の 一 過性 と は,「 サ ン プ ル」の よ う に広 報 等 を目 的 と し て 出 版 社が OA 化 し た OA 論 文 は , OA の 永 続性 が 保 証 さ れ な い とい う こ と を 意 味 す る。 グ ル ー プ分 け は , 刊 行 と 同 時に 即 時 に 掲 載 論 文 全て が OA と な る 「 Full OA ジ ャ ーナ ル 」掲 載 論 文, 「 OA メ ガ ジ ャー ナ ル」掲 載 論文 , 「 ハ イ ブリ ッ ド OA」論 文を「 即 時 OA」と し た 。これ ら に「 Delayed OA」論文 を 加 えて「 エ ン バ ーゴ 終 了 後 OA」と し た 。さ ら に こ れ ら に「 サン プ ル 」を 加 え て「全 OA」 とし た 。 172 第 6-3 図 論 文 全 体 に 占 める OA 種 類 別 OA 論 文 の 割 合 の推 移 (2005-2012 年 ) 1 図中の略称の正式名称は以下のとおり。 Full OAJ: Full OA ジ ャ ー ナ ル ,ハ イ ブ リ ッ ド OAJ: ハ イ ブ リ ッ ド OA ジ ャ ー ナ ル , OA メ ガ J: OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル , Delayed OAJ: Delayed OA ジ ャ ー ナ ル 173 「 即時 OA」が 全体 に 占 め る割 合 は ,5.3%(2005 年 ),12.4%( 2010 年), 18.3%( 2012 年 )と 年 々 増加 し て い る。一 方 で,「 Delayed OA」論 文 が全 体 に 占め る 割 合 は ,17.4%(2005 年 ),11.9%( 2010 年 ),2.4%(2012 年 ) と ,年 々 減 少 し て い る 。こ れ ら「 即時 OA」と「 Delayed OA」論 文 が全 体 に 占 める 割 合 を 足 し 合 わ せた「 エ ンバ ー ゴ 終 了後 OA」が ,全 体 に 占め る 割 合 は,22.7%(2005 年),24.3%(2010 年),20.7%(2012 年 )と ,2005 年 から 2010 年 に か け て は増 加 ,2010 年 から 2012 年に か け て は 減少 に 転 じ て いる 。 こ れ は 「 全 OA」 が 2005 年 の 23.0%か ら 2010 年 に は 25.1%へ と 増 加,2012 年 に は 22.1%へ と 減 少 す る 推 移と 同 じ 増 減 傾 向 で ある 。つ ま り,雑 誌 刊 行 と同 時 に 即時 に OA 状 態 と な る論 文 は 2012 年 ま では 増 加 傾 向 であ る が , エ ン バ ー ゴ終 了 後 に OA と な る「 Delayed OA」 の 論文 の 割 合 が,総 OA 論 文 の 中 で大 き な 割 合 を 占 め てい る た め に 全 体の OA 論文 の 割 合 に 影 響 を 及 ぼ し て い た 。 具 体 的 に は ,「 Delayed OA」 の 論 文 数 と 「 即時 OA」 論 文 数 が 3 ヶ 年で 2 番 目 に 高い 2010 年 が, 論 文 全 体に 占 め る OA 論 文 の割 合 が 最 も 高い 年 と な り,「 Delayed OA」 の論 文 数 が最 も 多 い 2005 年 が 2 番 目 に OA 論 文 の 割 合 が 高 い 年と な り,「 Delayed OA」の 論 文 数が 最 も 少 な い 2012 年 が OA 論文 の 割 合が 最 も 低 い 年 と な って い た。 B OA 論文 の 分 野 別 の 傾 向 1 論 文全 体 に 占 め る OA 論 文 の割 合 の 推 移 論 文の OA 状況 を 分 野 別 に第 6-4 図 で 示 す。対 象 年 別に OA 論 文 の割 合 が 高 い上 位 5 分 野 を 見 る と,2005 年 は「 天 文 学」 ( 40.9%), 「 科 学 技術 全 般 -そ の 他」 ( 40.0%), 「生 物 学」 ( 32.7%), 「 医 学」 ( 31.4%), 「 数 学」 ( 26.7%) で あ る 。 2010 年 の 場 合 は ,「 科 学 技 術 全 般 -そ の 他 」( 54.3%),「 医 学 」 ( 34.7%),「 生 物 学」( 31.8%),「 天 文 学」( 31.6%),「 そ の 他 の 生 命科 学 」 ( 30.0%) であ る 。 2012 年 の 場 合 は,「 科 学 技術 全 般 -そ の 他」( 71.4%), 「 社 会科 学 」 ( 21.4%), 「 生 物 学」 ( 20.3%), 「 そ の他 の 生 命 科 学」 ( 18.0%), 「 医 学」( 17.5%) で あ る 。 い ず れ の 年 に お い て も ,「 科 学 技 術 全 般 -そ の 他 」,「 生 物 学 」,「 医 学 」 は 共 通し て OA 論 文 の 割 合が 高 い 上位 5 分 野 に含 ま れ て お り , 2005 年 以 174 有料 OA 0% 10% 数学 化学 50% 60% 70% 80% 90% 100% 62.2% 11.1% 95.3% 11.8% 88.2% 5.4% 86.2% 2010年(246) 3.3% 2012年(242) 不明 40% 4.7% 2012年(51) 2005年(224) 30% 26.7% 2005年(45) 2010年(43) 20% 8.5% 89.8% 6.9% 8.7% 89.7% 1.7% 物理学 2005年(166) 2010年(153) 2012年(155) 4.8% 80.1% 7.2% 90.8% 5.2% 天文学 地球科学 2.0% 89.7% 5.2% 40.9% 2005年(22) 54.5% 31.6% 2010年(19) 2012年(16) 15.1% 63.2% 6.3% 75.3% 12.4% 17.9% 2010年(67) 82.1% 12.5% 2012年(64) 5.3% 93.8% 12.4% 2005年(89) 4.5% 85.9% 1.6% 農学 2005年(42) 9.5% 78.6% 2010年(45) 11.1% 2012年(41) 9.8% 86.7% 2.2% 87.8% 2.4% 32.7% 2005年(370) 生物学 11.9% 61.9% 31.8% 2010年(349) 5.4% 66.8% 1.4% 20.3% 2012年(349) 78.8% 0.9% 31.4% 医学 2005年(350) その他の 生命科学 工学 コンピューター 科学 心理学 67.6% 30.0% 2010年(40) 76.0% 6.7% 10.5% 86.0% 11.5% 85.1% 10.8% 86.5% 3.7% 社会科学 科学技術 -その他 3.5% 3.4% 2.7% 96.3% 5.0% 95.0% 2005年(11) 100.0% 2010年(10) 100.0% 100.0% 2012年(11) 11.1% 66.7% 22.2% 2010年(14) 21.4% 78.6% 2012年(14) 21.4% 78.6% 40.0% 2005年(25) 60.0% 54.3% 2010年(46) 45.7% 71.4% 2012年(77) 2010年(15) 28.6% 62.5% 2005年(16) その他 8.3% 2005年(37) 2005年(9) 6.0% 85.0% 2012年(148) 2012年(40) 5.4% 70.0% 18.0% 2012年(50) 2010年(27) 1.1% 3.1% 79.4% 27.0% 2005年(37) 2010年(143) 10.6% 64.1% 17.5% 2012年(388) 2005年(180) 58.0% 34.7% 2010年(357) 37.5% 13.3% 2012年(24) 第 6-4 図 86.7% 29.2% 66.7% 論 文 全 体 に 占 める OA 論 文 の 割 合 の推 移 ( 分 野 別 ) ( 2005-2012 年 ) 175 4.2% 降 , 一貫 し て 他 分 野 に 比 べて OA 化 が 進 ん で いる 分 野 と い え る 。 こ れ とは 逆 に,対 象 年 別 に OA 論文 の 割 合 が 低い 上 位 5 分野 を 見 ると , 2005 年 は 「 心 理 学 」( 0%),「 物 理 学 」( 4.8%),「 化 学 」( 5.4%),「 工 学 」 ( 6.7%),「 農 学 」( 9.5%) で あ る 。 2010 年 は ,「 心 理 学 」( 0%),「 化 学 」 ( 3.3%),「 工 学 」( 3.7%%),「 数 学 」( 4.7%),「 物 理 学 」( 7.2%) で あ る 。 2012 年 は, 「心理学」 ( 0%), 「 工 学」 ( 5.0%), 「 物 理学 」 ( 5.2%), 「天 文 学」 ( 6.3%),「 化 学」( 8.7%) で あ る。 い ず れ の 年 に お い て も ,「 心 理 学 」,「 物 理 学 」,「 化 学 」 は , 共 通 し て OA 論 文の 割 合 が 低 い 上 位 5 分 野に 含 ま れ て おり , 2005 年 以 降 ,一 貫 し て 他 分野 に 比 べて OA 化 が 進ん で い な い 分 野 とい え る 。 「 数 学」と「 天 文学 」は年 に よ っ て OA 論 文 の割 合 に 大 き く 差 が ある 。 「 数 学」 は 2005 年 には 26.7%で , 5 番 目に OA 論 文の 割 合 の 高 い分 野 と な って い る が , 2010 年 に は 4.7%で 4 番 目に OA 論文 の 割 合 が 低い 分 野 と なっ て い る。「 天 文 学」は 2005 年 には 40.9%で 1 番 目 に ,2010 年 に は 31.6%で 4 番 目 に OA 論 文 の 割 合 の 高 い 分野 と な っ て い る が , 2012 年 に は 6.3%で 4 番 目 に OA 論文 の 割 合 が 低 い 分野 と な っ て い る 。 両分 野 で の 年 の違 い に よ る OA 論 文 の 割 合の 差 に は , OA 論 文 の 種 類 が 関 係し て い る と 考え ら れ る 。 こ の 点 につ い て は , 次 項 で 分析 す る 。 2 OA 種類 別 論 文 数 の 推 移 OA 種 類 別 の 論 文数 の 推 移 を 第 6-3 表 で 示 す。1 項 で ,同 一 分 野 で あ っ て も 年に よ っ て 論 文 全 体 に占 め る OA 論 文 の 割合 に 大 き な 差 が あ った「数 学 」 と「 天 文 学 」 の OA 論文 の OA 種 類 を 確 認す る 。「 数 学 」 は , 2005 年 の OA 論 文全 12 論 文 の 全 てが「 Delayed OA」論 文で あ り ,2010 年 と 2012 年 の OA 論 文,そ れ ぞれ 2 論 文 と 6 論 文 は「 Full OA ジ ャ ー ナ ル」掲 載 論 文 で あっ た 。 2010 年 以 降,「 即 時 OA」 が 進 展し た と も 考 え ら れ る。「 天 文 学」は ,2005 年 と 2010 年の OA 論 文 ,そ れ ぞ れ 9 論文 と 6 論 文 の全 て が 「Delayed OA」 論 文 で あり , 2012 年 の 唯 一の OA 論 文 1 論 文 は「 サ ン プ ル 」で あ っ た 。 つ ま り,「 天 文学 」 で は 「 即 時 OA」 は 全 く 存 在し な か っ た。た だ し,「 数 学」と「 天 文学 」両 分 野 とも 各 年 に お け る総 OA 論文 数 が ,最 少 1 論 文 か ら 最 多で 12 論 文 と 少 な く, こ の 結 果 だ け で 全体 的 な 傾 向ま で を 分 析 す る こ とは 難 し い 。 176 第 6-3 表 数学 2005年 2010年 2012年 化学 2005年 2010年 2012年 物理学 2005年 2010年 2012年 天文学 2005年 2010年 2012年 地球科学 2005年 2010年 2012年 農学 2005年 2010年 2012年 生物学 2005年 2010年 2012年 医学 2005年 2010年 2012年 その他の 2005年 生命科学 2010年 2012年 工学 2005年 2010年 2012年 コンピューター 2005年 科学 2010年 2012年 心理学 2005年 2010年 2012年 社会科学 2005年 2010年 2012年 科学技術 2005年 -その他 2010年 2012年 その他 2005年 2010年 2012年 1 OA 種別 論 文 数の 推 移 ( 分 野 別 ) Full OAJ OAメガJ ハイブリッドOA DelayedOA サンプル 0 0 0 12 0 2 0 0 0 0 6 0 0 0 0 7 0 0 5 0 6 0 0 1 1 19 0 1 0 1 6 0 0 1 1 6 0 2 1 2 6 0 2 0 0 0 0 0 9 0 0 0 0 6 0 0 0 0 0 1 3 0 0 8 0 6 0 0 5 1 3 0 4 0 1 1 0 0 2 1 3 0 0 1 1 3 0 1 0 0 18 0 2 99 2 31 0 4 74 2 46 0 9 11 5 20 0 0 90 0 46 0 8 68 2 43 0 9 8 8 3 0 0 7 0 6 0 0 5 1 7 0 1 0 1 7 0 0 5 0 12 0 0 3 0 14 0 3 0 0 1 0 0 3 0 0 0 0 0 1 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 0 0 1 1 2 0 1 0 0 3 0 0 7 0 1 19 0 5 0 3 42 2 8 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 0 1 0 3 3 0 有料 28 41 45 193 221 217 133 139 139 12 12 15 67 55 55 33 39 36 229 233 275 203 229 308 25 28 38 153 123 126 32 26 38 11 10 11 6 11 11 15 21 22 10 13 16 不明 5 0 0 19 17 4 25 3 8 1 1 0 11 0 1 5 1 1 20 5 3 37 4 12 2 0 3 15 5 5 1 0 0 0 0 0 2 0 0 0 0 0 6 0 1 総数(OA論文) 45(12) 43(2) 51(6) 224(12) 246(8) 242(21) 166(8) 153(11) 155(8) 22(9) 19(6) 16(1) 89(11) 67(12) 64(8) 42(4) 45(5) 41(4) 370(121) 349(111) 349(71) 350(110) 357(124) 388(68) 37(10) 40(12) 50(9) 180(12) 143(15) 148(17) 37(4) 27(1) 40(2) 11(0) 10(0) 11(0) 9(1) 14(3) 14(3) 25(10) 46(25) 77(55) 16(0) 15(2) 24(7) 「 OAJ」 は OA ジ ャ ー ナ ル ,「 OA メ ガ J」 は OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル を 意 味 す る 。 177 さ ら に, 2005 年 以 降 , 一貫 し て 論 文 全 体 に 占め る OA 論文 の 割 合の 高 か っ た「 科 学 技術 -そ の 他」,「 生 物学 」,「医 学 」に つい て は ,総 OA 論文 に 占 める OA 種 類 の 割 合 を第 6-5 図 で 示 す 。 これ ら 3 分 野 に 限 定 した 理 由 は,OA 論 文 の割 合 が 低 い分 野 で は ,OA 論 文 数が 少 な く ,十 分な OA 種 類 別 の分 析 が で き な い た めで あ る 。 「 科 学技 術 -そ の 他 」は,2005 年 は 同分 野 の 全 OA 論 文 の 70%を「Delayed OA」 論文 が 占 め て い た 。 とこ ろ が , 2010 年 と 2012 年 は そ の 構 成が 変 わ り, 「 OA メ ガ ジャ ー ナ ル 」が 同 分野 の 全 OA 論 文 の 76%を 占 め て い た。 「科 学 技 術 -そ の 他 」 は , 特 定 の 分 野 に 限 定 し き れ な い 分 野 で あ り , 換 言 す れ ば 幅広 い 分 野 に 分 類 可 能な 分 野 と も い え る。第 Ⅴ 章 D 節の 調 査 で明 ら か に なっ た よ う に,「 OA メ ガジ ャ ー ナ ル 」 は, 幅 広 い 分 野 の 論 文を 収 録 対 象 とし て い る た め , 2010 年 以 降 の 76% と いう 結 果 は , 2010 年以 降 , 様 々 な分 野 の 論 文 が「 OA メ ガ ジ ャ ーナ ル 」に 掲載 さ れ て い る こ と の表 れ と 考 えら れ る 。 「 生 物学 」 と 「 医 学 」 の OA 論 文 の 種類 お よ びそ れ ら が 各 分 野 の全 OA 論 文 に占 め る 割 合 の 推 移 は ,類似 し て い た。「 生 物 学 」で は「 Full OA ジ ャ ー ナル 」掲 載 論 文 が ,14.9%( 2005 年 ),27.9%( 2010 年),64.8%( 2012 年 )と 2005 年 以 降 年 を 追 うご と に 増 加 し て い る。 「 医学 」で も ま た,18.2% ( 2005 年),37.1%( 2010 年 ),63.2%( 2012 年 )と 増 加 し て い る。「 ハ イ ブ リ ッド OA」 論 文 に つ いて も 同 様 で,「 生 物学 」 で は 1.7%( 2005 年), 3.6%( 2010 年),12.7%(2012 年), 「 医 学 」では ,6.5%( 2010 年),13.2% ( 2012 年) と , と も に 年を 追 う ご と に 増 加 して い た。「 Delayed OA」論 文 は 両 分 野 と も 年 を 遡 る ご と に 増 加 し て い た 。「 生 物 学 」 で は , 15.5% ( 2012 年),66.7%( 2010 年 ),81.8%( 2005 年 ), 「 医 学 」で は 11.8%( 2012 年), 54.8%(2010 年), 81.8%(2005 年 ) であ っ た 。 分 野 別の 傾 向 を 見 た 結 果 とし て ,1)「 科 学 技 術 -そ の他 」, 「 生 物 学」, 「医 学 」 は, 他 の 分 野 に 比 べ て, 2005 年 以 降 一 貫し て 論 文 全 体 に 占 め る OA 論 文 の割 合 が 高 く , 他 の 分 野 よ り も OA 化 が 進ん で い る , 2)科 学 技術 分 野 全 般の OA 化 の 進 展 に は「 OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル」の 影 響が 大 き い,3)「生 物 学」,「 医 学 」は,「 Full OA ジャ ー ナ ル 」掲 載 論 文 ,およ び「ハ イ ブ リ ッ ド OA」論 文 が 年 々 増 加 し, 「 Delayed OA」論 文 は 年 を遡 る ほ ど 増 加し , こ れ らが OA 化 の 進 展 に 影響 し て い た こ と が 明ら か に な っ た 。 178 Full OAジャーナル ハイブリッドOA OAメガジャーナル サンプル Delayed OA 0% 100% 科学技術 -その他 2005年 (10) 2010年 (25) 2012年 (55) 2005年 (121) 30.0% 70.0% 4.0% 76.0% 5.5% 20.0% 76.4% 14.9% 1.7% 3.6% 14.5% 81.8% 生物学 1.7% 2010年 (111) 27.9% 3.6% 66.7% 1.8% 2012年 (71) 医学 2005年 (110) 2010年 (124) 64.8% 12.7% 18.2% 15.5% 7.0% 81.8% 37.1% 6.5% 54.8% 1.6% 2012年 (68) 63.2% 第 6-5 図 1 13.2% 11.8% 11.8% 刊行 OA 論文に占める OA 種類の割合(OA 論文数の多い分野) ( )内は各分野の対象年の総 OA 論文数 179 C OA 論 文 の 出版 元 種 類別 の 傾 向 1 論 文全 体 に 占 め る OA 論 文 の割 合 の 推 移 論 文 全体 に 占 め る OA 論文 の 割 合 の 推移 を , 出版 元 の 種 類 別 に 第 6-6 図 で 示す 。さ ら に,論 文 全体 に 占 め る 各 出 版 元の 刊 行 論 文 の 割 合 と,OA 論 文 全 体 に 占 め る 各 出 版 元の 刊 行 す る OA 論 文 の 割 合 を 第 6-7 図 で 示 す。 出 版 元の 種 類 別 に 見 た , 刊行 論 文 全 体 に 占 め る OA 論 文 の割 合 は , 2005 年 ,2010 年 ,2012 年 い ず れの 年 に お い て も「OA 出 版 社 」が 最 も 高く 100% で あ った ( 第 6-6 図 )。 こ れ は Full OA ジ ャ ーナ ル を 主 に 扱 う と いう OA 出 版 社の 性 質 上,当 然 の 結果 と い え る。一 方,OA 論 文 全 体 に 占 め る「 OA 出 版 社」 刊 行 の OA 論 文 は, 2005 年 は 1.7%と あ ま り高 く は な い (第 6-7 図)。 し か し, 2010 年 は 17.5% ,2012 年 は 30.3% と急 激 に 増 加 し て い る。 こ れ は, 第 6-3 図 で 示 し たと お り ,OA 論 文 全体 を 構 成 す る OA 論文 の 種 類 は 年を 遡 る ほ ど「 Delayed OA」論 文 の 割 合 が高 ま っ て い た が ,Full OA ジ ャ ーナ ル を 主 に 扱 う 「 OA 出版 社 」 で は ,「 Delayed OA」 論 文 が存 在 し な い ため , 相 対 的 に 年 を 遡る ほ ど ,OA 論 文 全体 に 占 め る 「 OA 出 版 社」 刊 行の OA 論文 の 割 合 が 低く な っ て い る と 考 えら れ る 。 「OA 出 版 社 」刊行 の OA 論 文 の次 に ,刊 行 論文 に 占 める OA 論 文 の割 合 が 高 いの は 「 大 学 , 機 関 」刊 行 の OA 論 文 で ,53.3%( 2005 年), 82.1% ( 2010 年),85.5%( 2012 年 )と ,2005 年 から 2010 年 に か け て 大幅 に 増 加 し,2010 年 以 降 は 80%以上 と 高 い 割 合 で あっ た(第 6-6 図)。ま た, 「大 学,機関」特有の傾向を見るために,論文全体に占める「 大学,機関」 刊 行 の論 文 の 割 合 と , OA 論 文 全 体 に 占 め る 「 大 学 , 機 関 」 刊 行の OA 論 文 の 割合 を 比 較 す る と , 他の 出 版 元 に 比 べ て OA が 進 展 して い る こと が わ か る( 第 6-7 図)。 2005 年 の 論 文 全 体 に 占め る 「 大 学 , 機 関 」刊 行 論 文 の 割合 は 3.0%で あ る のに 対 し , OA 論 文 全体 に 占 め る 「 大 学 ,機 関 」 刊 行 OA 論 文の 割 合 は 7.0%と 2 倍 以上 で あ る。2010 年 に は こ れ が,2.8% に 対 して 9.2%と約 3 倍 に , 2012 年 に は 2.6%に 対 し て 10.4%と約 4 倍に 相 当 す る 。 こ の よ う に ,「 大 学 , 機 関 」 刊 行 の 論 文 が 論 文 全 体 に 占 め る 割 合 の低 さ に 対 し て , OA 論 文 全 体 に 占 め る 「 大 学 , 機 関 」 刊 行の OA 論 文 の 割合 は 高 く , 公 的 機 関に お い て OA が 進 んで い る 様 子 が わ か る。 180 有料 OA 大手 商業出版社 0% 10% 20% 30% 不明 40% 50% 60% 2005年(455) 9.2% 90.1% 2010年(433) 8.8% 91.2% 70% 80% 90% 100% 0.7% 2012年(470) 4.5% 95.3% OA出版社 0.2% 2005年(4) 100.0% 2010年(44) 100.0% 2012年(67) 100.0% その他の 出版社 2005年(181) 66.9% 1.7% 2010年(186) 2012年(168) 2005年(323) 学協会 31.5% 2010年(293) 25.8% 74.2% 20.2% 79.8% 33.1% 2.8% 64.1% 31.7% 67.2% 1.0% 2012年(249) 27.3% 72.3% 0.4% 大学・機関 2005年(30) 53.3% 43.3% 2010年(28) 82.1% 2012年(26) 17.9% 88.5% その他 2005年(1) 62.5% 2012年(5) 不明 11.5% 100.0% 2010年(8) 37.5% 60.0% 40.0% 2005年(6) 50.0% 50.0% 2010年(8)0.0% 50.0% 50.0% 2012年(15) 第 6-6 図 3.3% 33.3% 26.7% 40.0% 論 文 全 体 に 占 める OA 論 文 の 割 合 の推 移 ( 出 版 元 の 種 類 別 ) 181 0% 100% 大手商業出版社 総論文に占める 論文の割合 (2005年) OA出版社 その他の出版社 45.5% 学協会 18.1% 大学・機関 32.3% 3.0% 0.1% 0.4% 総OA論文に占める OA論文の割合 (2005年) 18.3% その他 24.8% 46.5% 7.0% 1.7% 0.4% 0% 100% 大手商業出版 総論文に占める 論文の割合 (2010年) 43.3% 学協会 その他の出版社 OA出版社 4.4% 18.6% 大学・機関 その他 29.3% 2.8% 0.8% 総OA論文に占める OA論文の割合 (2010年) 15.1% 17.5% 19.1% 37.1% 9.2% 2.0% 0% 100% 大手商業出版社 総論文に占める 論文の割合 (2012年) 47.0% OA出版社 6.7% その他の出版 学協会 16.8% 大学・機関 24.9% その他 2.6% 0.5% 総OA論文に占める OA論文の割合 (2012年) 9.5% 30.3% 15.4% 30.8% 10.4% 1.4% 第 6-7 図 論 文 全 体 に 占 める 論 文 の 割 合 と 論 文全 体 に 占 め る OA 論 文 の割 合 ( 出 版 元 の 種 類 別 ) 182 そ れ に対 し て ,公的 役 割 を期 待 さ れ る「 学 協 会」刊 行 の 論文 に 占 める OA 論 文 の 割 合 は,33.1%( 2005 年),31.7%( 2010 年 ),27.3%(2012 年 ) と 調 査年 ご と に約 3%ず つ 減 少 して い た(第 6-6 図 )。OA 論 文 全 体に 占 め る 「 学協 会 」 刊 行 の OA 論 文 の 割 合は , 論 文 全 体 に 占 め る 「 学 協会 」 刊 行 の 論文 の 割 合 よ り も , やや 高 い 程 度 で あ っ た ( 第 6-7 図)。 2005 年 の 論 文 全体 に 占 め る「 学 協 会 」刊行 の 論 文 の 割 合は 32.3%で あ る の に対 し , OA 論 文 全 体 に 占 め る 「 学協 会 」 刊 行 の OA 論 文 の 割 合は 46.5%と 1.4 倍 で あ る。 2010 年 に は こ れが , 29.3%に 対 し て 37.1%と 1.3 倍 に , 2012 年 に は 24.9%に対 し て 30.8%と 1.2 倍 に 相 当 し , わ ず か ず つ で は あ るが , 論 文 全体 に 占 め る 「 学 協 会」 刊 行 の 論 文 の 割 合と 比 較 し て , 総 OA 論文 に 占 める 「 学 協 会 」 刊 行 の OA 論 文 の割 合 が 年を 追 う ご と に 低 く なる 傾 向 が 見ら れ た 。 「 そ の他 の 出 版 社」刊 行 の論 文 に お け る OA 論 文 の割 合 は ,31.5 %( 2005 年), 25.8%(2010 年), 20.2%(2012 年 ) と 調 査 年 ご と に 約 5%ず つ 減少 し て いた ( 第 6-6 図 )。 OA 論 文 全体 に 占 め る 「そ の 他 の 出 版 社 」 刊行 の OA 論 文 の 割 合 は,論 文 全 体 に 占 め る「 そ の 他 の出 版 社 」刊 行 の 論 文の 割 合 と ほぼ 同 程 度 で あ る (第 6-7 図 )。 2005 年 の 論 文 全体 に 占 め る 「そ の 他 の 出版 社 」刊 行の 論 文 の割 合 は 18.1%で あ るの に 対 し ,OA 論 文 全体 に 占 め る「 そ の他 の 出 版 社」刊 行 の OA 論 文 の 割 合は 24.8%と 1.4 倍 で あ る 。 2010 年 に は こ れ が , 18.6%に 対 し て 19.1%と ほ ぼ 同 じ に , 2012 年 に は 16.8%に 対 して 15.4%と 0.9 倍 に相 当 し ,論 文全 体 に 占 め る「 そ の他 の 出 版 社」刊 行 の 論文 の 割 合 と比 較 し て,OA 論 文 全体 に 占 め る「 そ の 他の 出 版 社 」刊 行 の OA 論 文 の 割合 は , わ ず か ず つ では あ る が 年 々 低 く なる 傾 向 が 見ら れ た 。 「 大 手商 業 出 版 社 」 刊 行 の論 文 に お け る OA 論 文 の 割 合は , 2005 年 , 2010 年 ,2012 年 い ず れ の 年に お い て も 10%に も 満 た なか っ た( 第 6-6 図)。 こ の 割 合 は , 他 の 種 類 の 出 版 元 と 比 べ て 最 も 低 く ,「 大 手 商 業 出 版 社 」 で は OA 化 が 進 んで い な いこ と が 読 み と れ る 。 OA 論 文 全 体 に 占 める 「 大 手 商 業出 版 社 」 刊 行 の OA 論 文 の 割 合は , 論 文全 体 に 占 め る 「 大 手商 業 出 版 社」 刊 行 の 論 文 の 割 合よ り も , 極 め て 低 い( 第 6-7 図)。 2005 年 の 論 文 全体 に 占 め る 「 大 手 商業 出 版 社 」 刊 行 の 論文 の 割 合 は 45.5%であ る の に 対し , OA 論 文 全 体 に占 め る 「 大 手 商 業 出版 社 」 刊 行 の OA 論 文 の割 183 合 は 18.3%と 2 分 の 1 に も 満た な い 。 2010 年 に は こ れ が , 43.3%に 対し て 15.1%と 約 3 分の 1 に , 2012 年 には 47.0%に対 し て 9.5%と 約 5 分 の 1 に 相 当し ,論 文 全体 に 占 める「 大 手 商業 出 版 社」刊 行 の 論文 の 割 合と 比 較 し て, OA 論 文 全 体 に 占め る 「 大 手 商 業 出 版社 」 刊 行 の OA 論 文 の 割合 は 年 々低 く な る 傾 向 が 見 られ ,そ の 傾 向 は「 学 協 会 」や「 そ の 他 の出 版 社 」 より も 顕 著 で あ っ た 。 以 上 の結 果 か ら ,出 版 元を 3 種 類 に 分 け ら れ る 。1 つ は, 「 OA 出 版 社」 と「 大 学 ,機 関 」で あ り ,と もに 論 文 全 体 に 占め る 刊 行 論 文 の 割 合と 比 較 し て,OA 論文 全 体 に 占 める 刊 行 OA 論 文 の 割合 が 高 く ,OA 化 が 進ん で い た 。2 つ 目 は 「 学 協 会 」と 「 そ の 他 の 出 版 社」 で あ り , と も に 論文 全 体に占める刊行論文の割合と比較してほぼ同程度だが年々 減少する傾 向 が あっ た 。3 つ目 は , 「大 手 商 業 出 版 社 」で あ り ,刊 行 論 文 数 の多 さ に 比 し て, 他 の ど の 出 版 元 より も OA 論 文 が 極 めて 少 な か っ た 。 2 OA 種 類 別 の 論文 数 の 推移 OA 種 類 別 の 論 文 数 の 推 移 を 出 版 元 の 種 類 別 に 第 6-4 表 で 示 す 。さ ら に, そ の 中か ら OA 論 文 全 体 に占 め る OA 種 類 の 割合 の 推 移 を 第 6-8 図で 示 す。 論 文 全体 に 占 め る OA 論 文 の 割 合が 最 も 高 か った 「 OA 出 版 社 」 の論 文 は ,2005 年 は 全 て「 Full OA ジ ャー ナ ル 」掲 載 論 文が 占 め , 2010 年 お よ び 2012 年 は 「 Full OA ジ ャー ナ ル 」 論 文 と 「 OA メ ガ ジ ャ ー ナ ル」 掲 載 論 文 が占 め て い た 。 2010 年 は 「 Full OA ジ ャ ーナ ル 」 掲 載 論 文 の 占め る 割 合 が, 「 OA メガ ジ ャ ー ナル 」掲 載 論 文 の 占 める 割 合 を 上 回 っ て いた が , 2012 年 に は 逆 に「 OA メ ガ ジャ ー ナ ル」が 上 回っ て い た。 「 OA 出 版 社」の 「 OA メ ガ ジ ャ ーナ ル 」は PLOS ONE の 1 タ イ トル で あ る た め , 2012 年 に は PLOS ONE の 1 タ イ ト ルで 「 OA 出 版 社 」の OA 論 文の 57% を 占め て い た こ とに な る。「 OA 出 版 社」 の 「 Full OA ジャ ー ナ ル 」 の異 な り タイ ト ル 数 は, 2010 年 は 24 タ イ ト ル ,2012 年 は 28 タ イ ト ル で あ る こ とと 比 較 す ると ,「 OA メ ガ ジ ャ ーナ ル 」 の 影 響 力 の 大き さ が わ か る 。 「 大 学,機 関 」刊 行 の 論 文 は,数 は 少 ない が ,OA 論 文 全体 に 占 め る「 Full OA ジ ャ ー ナ ル 」掲載 論 文 の割 合 が ,2010 年は 82.6%,2012 年 は 100%と , 他 の 分野 に 比 べ て 高 い(第 6-8 図)。「大 手 商 業出 版 社」,「そ の 他 の出 版 社」,「学 協 会 」 な ど の 他 の種 類 の 出 版 元 で は , OA 種 類 は年 を 遡 るほ ど 184 第 6-4 表 OA 種類別論文数の推移(出版元の種類別) (数字は論文数) Full OAJ OAメガJ 大手商業出版社 OA出版社 その他の出版社 学協会 大学,機関 その他 不明 計 2005年 2010年 2012年 2005年 2010年 2012年 2005年 2010年 2012年 2005年 2010年 2012年 2005年 2010年 2012年 2005年 2010年 2012年 2005年 2010年 2012年 ハイブリッドOA DelayedOA サンプル 有料 不明 総数(OA論文) 4 4 4 4 25 29 9 6 22 28 36 36 6 19 23 0 4 3 1 0 3 0 0 4 0 19 38 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 7 7 0 0 0 0 0 2 1 3 12 0 0 0 0 1 0 0 0 0 36 24 0 0 0 0 48 41 6 77 50 16 10 4 0 1 0 0 2 0 2 2 3 6 0 0 0 0 1 4 1 4 4 0 0 0 0 0 0 0 0 0 410 395 448 0 0 0 121 138 134 207 197 180 13 5 3 0 3 2 0 4 4 3 0 1 0 0 0 3 0 0 9 3 1 1 0 0 0 0 0 3 4 6 455(42) 433(38) 470(21) 4(4) 44(44) 67(67) 181(57) 186(48) 168(34) 323(107) 293(93) 249(68) 30(16) 28(23) 26(23) 1(1) 8(5) 5(3) 6(3) 8(0) 15(5) 266 61 33 317 25 2,264 34 3,000(702) ※「OAJ」は OA ジャーナル, 「OA メガ J」は OA メガジャーナルを意味する。 185 ハイブリッドOA OAメガJ Full OAJ サンプル Delayed OA 大手商業出版社 0% 100% 2005年(42) 9.5% 2010年(38) 10.5% 2012年(21) 85.7% 18.4% 19.0% 63.2% 19.0% OA出版社 56.8% その他の出版社 56.7% 15.8% 84.2% 12.5% 85.4% 2.1% 64.7% 2012年(34) 2005年(107) 学協会 43.2% 43.3% 2012年(67) 17.6% 5.9% 26.2% 11.8% 72.0% 0.9% 0.9% 2010年(93) 38.7% 2005年(16) 53.8% 3.2% 52.9% 2012年(68) 大学・機関 28.6% 100.0% 2010年(44) 2010年(48) 7.9% 33.3% 2005年(4) 2005年(57) 4.8% 4.3% 17.6% 37.5% 23.5% 5.9% 62.5% 82.6% 2010年(23) 17.4% 100.0% 2012年(23) 第 6-8 図 刊行 OA 論文に占める OA 種類の割合(出版元の種類別) ※「OAJ」は OA ジャーナル, 「OA メガ J」は OA メガジャーナルを意味する。 186 「 Delayed OA」 の 割 合 が 高ま り , 2010 年 は 「Delayed OA」 論 文 の割 合 が 最 も 高く , 次 に 高 い の が 「 Full OA ジ ャ ー ナ ル」 掲 載 論 文 で あ っ た。 そ れ に 対し ,「 大 学 , 機 関 」刊 行 の 論 文 は , 年 を遡 る ほ ど 「 Delayed OA」 論 文 の割 合 が 高 ま る 点 で は同 じ 傾 向 だ が , 2010 年 は 「Full OA ジ ャ ーナ ル」論 文 の 割 合が 最 も 高 く,次 に 高い の が「 Delayed OA」論 文 で あっ た 。 つ ま り,他 の 種 類 の 出 版 社よ り も 早 い 時 期 か ら,刊 行 と 同 時 に 即 時に OA と な る「 Full OA ジ ャ ー ナル 」 で の OA が 進 んで い た 。 「 学 協会 」は, 「 ハ イ ブ リッ ド OA」論 文 が OA 論 文 全体 に 占 め る 割合 も ま た ,2005 年 以 降,年 を 経る ご と に ,0.9%(2005 年),3.2%( 2010 年 ), 17.6%(2012 年 )と 増 加 傾向 に あ っ た 。 こ の 傾向 は 「 大 手 商 業 出 版社 」 と 類 似し て い る。「 大 手 商業 出 版 社 」 も ,「 ハ イ ブ リッ ド OA」 論 文 が OA 論 文 全 体 に 占 め る 割 合 も ま た , 2005 年 以 降 年 を 経 る ご と に , 0%( 2005 年),18.4%(2010 年 ), 33.3%( 2012 年 )と 増 加傾 向 に あ っ た 。「 大 手 商 業 出 版 社 」 で 「 ハ イ ブ リ ッ ド OA」 論 文 を 刊 行 し て い た の は , Elsevier と Springer の 2 社 で , 2010 年 には Elsevier が 1 論 文 ,Springer が 6 論 文 を刊 行 し ,2012 年 には Elsevier が 3 論 文 ,Springer が 4 論 文 を刊 行 し て い た 。「 学 協 会 」 の 場 合 は , American Society Biochemistry Molecular Biology か ら の刊 行 が 最 も 多 く ,2005 年に 1 論 文 ,2010 年 に 2 論 文 ,2012 年 に 1 論 文 を刊 行 し , 続 い て American Chemical Society と Institute of Electrical and Electronics Engineers が 2012 年 に そ れ ぞれ 2 論 文 , そ の 他 の学 協 会 は そ れ ぞれ 2010 年 また は 2012 年 に 1 論 文 刊 行 し て お り , い ず れ も 大 手 学 会 で あ っ た 。 つ ま り ,「 学 協 会 」 で 「 ハ イブ リ ッ ド OA」論 文 を刊 行 し て い る の は 大手 学 会 で あ り ,大 手学 会 が 「 ハイ ブ リ ッ ド OA」 論 文 の 増加 傾 向 に あ ると い う 点 で,「 大 手商 業 出 版 社 」と 類 似 の 傾 向 に あ った 。 「 大 手商 業 出 版 社 」 は 上 述の と お り,「 ハ イ ブリ ッ ド OA」 論 文 の増 加 傾 向 があ る 他 に,「 Full OA ジ ャ ー ナ ル 」 掲 載論 文 の OA 論 文 全 体に 占 め る 割 合も 増 加 傾 向 に あ っ たが ,9.5 %( 2005 年 ),10.5%(2010 年),19.0% ( 2012 年 )と そ の 増 加 の程 度 は わ ず か で あ る 。この た め ,「 即 時 OA」の 論 文 は,「 Full OA ジ ャ ーナ ル 」 掲 載 論 文 よ りも 「 ハ イ ブ リ ッ ド OA」論 187 文 の 方が 多 い。 「 大 手 商 業出 版 社 」刊 行 の OA 論 文 は,42 論 文( 2005 年), 38 論 文( 2010 年), 21 論 文( 2012 年 ) と 減 少傾 向 に あ り , 2005 年か ら 2010 年 に か け ての 減 少 数が 4 論 文 で あ る の に対 し ,2010 年 から 2012 年 に か けて は 約 半 数 に 減 少 して い る 。2005 年 お よび 2010 年 と ,2012 年 と の 決 定的 な 違 い は,「 Delayed OA」論 文 の 有 無で あ る 。2005 年と 2010 年 に お ける「 Delayed OA」論 文が OA 論 文 全 体 に 占め る 割 合 は そ れ ぞれ 85.7%, 63.2%で あ るの に 対 し , 2012 年 は 「 Delayed OA」 論文 が 存 在 し ない 。 本 調 査 の調 査 時 期が 2013 年 8-9 月 で あ る こ と から ,「大 手 商 業 出 版社 」で は エ ンバ ー ゴ を 10 ヶ 月 未満 と 設 定 し て いる Delayed OA ジ ャ ー ナル が 全 く な い,ま た は 他の 種 類 の出 版 社 と 比 べ て 少 ない こ と が わ か る 。つ ま り 「 大 手商 業 出 版 社」刊 行の OA 論文 の 多 く が,エ ン バ ー ゴが 10 カ 月 以 上 の 「Delayed OA」 論 文 に 占め ら れ て い る と い うこ と に な る 。 そ れ とは 逆 に , 2012 年で あ っ て も 「学 協 会 」で は 23.5%,「 そ の他 の 出 版 社」 で は 17.6%の 「Delayed OA」 論 文 が 存在 し た こ と か ら , エン バ ー ゴ の短 い Delayed OA ジ ャ ー ナ ル は,「 学 協会 」 や 「 そ の 他 の 出版 社 」 か ら 刊行 さ れ て い る こ と がわ か る 。 「 そ の 他 の 出 版 社 」 に お い て は ,「 Full OA ジ ャ ー ナ ル 」 掲 載 論 文 の OA 論 文 全 体 に 占め る 割 合が ,15.8 %( 2005 年),12.5%( 2010 年),64.7% ( 2012 年 )と 変 化し ,2010 年 か ら 2012 年 に かけ て 大 き く 増 加 し てい た 。 「 そ の他 の 出 版 社 」の 多 くは ,中 小 規 模 の 商 業出 版 社 で 構 成 さ れ てい る。 こ れ らの 出 版 社 は , 長 く OA ジ ャ ー ナル の ビ ジネ ス モ デ ル を 採 用 でき ず に い たが ,2010 年か ら 2012 年 にか け て OA ジ ャ ー ナ ル のビ ジ ネ スモ デ ル を と りい れ 始 め た 様 子 が うか が え る 。 出 版社 種 別 で 分 析 し た 結果 よ り ,次 の 3 点 が 明ら か に な っ た 。1 つ は , 「 OA 出版 社 」,「 大 学 , 機関 」 が 刊 行 す る OA 論文 が 刊 行 す る Full OA ジ ャ ー ナル お よ び OA メ ガ ジャ ー ナ ル が ,即 時 に無 料 公 開 さ れ る OA 論 文 数 の 増 加を 牽 引 し て お り , 特に OA メ ガ ジ ャ ー ナル は PLOS ONE の 1 タイ ト ル の 影響 が 大 き か っ た 。2 つ 目 は, 「 大 手 商 業 出版 社 」,お よ び 大 手の「学 協 会 」で は , 即 時 に 無 料 公開 さ れ る OA 論 文 は「 ハ イ ブ リ ッ ド OA」 論 文 に よ り実 現 さ れ て お り , Full OA ジ ャー ナ ル や OA メ ガ ジャ ー ナ ルで の 188 OA 論 文 数 増加 は 少 な か った 。 3 つ 目は ,「 大 手 商 業出 版 社 」,「 学 協 会」, 「 そ の他 の 出 版 社 」 は , 刊行 し た OA 論 文 の 大部 分 が 「Delayed OA」 論 文 で あっ た が ,中 で も「学 協 会 」は ,エ ン バ ー ゴ が 1 年 未 満 の 短い Delayed OA ジ ャ ー ナ ル を他 の 分 野よ り も 刊 行 し て い た。 D 調 査 結 果の 整 理 本 節 では ,調 査 によ っ て 明ら か に な っ た 内 容 と,明 ら か にで き な かっ た 点 を整 理 す る 。本 研 究 の目 的 で あ る ,OA ジ ャ ー ナ ル が購 読 型 学術 雑 誌 に 代 わり ,学 術 雑誌 の 主 流に な る か に 沿 っ た 詳細 な 考 察 は 第 Ⅶ 章 で行 う 。 質 の 高い 学 術 雑 誌 情 報 を 収録 す る Web of Science を 用い た 調 査 で も , 「 Full OA ジ ャ ー ナ ル 」 掲載 論 文 お よ び 「 OA メ ガ ジ ャ ーナ ル 」 掲載 論 文 を 合 わせ た 数 が 論 文 全 体 に占 め る 割 合 は ,5.2%( 2005 年),11.3%(2010 年), 16.2%(2012 年 ) と高 ま っ て い た こ と がわ か っ た 。 こ の こ とか ら, 学 術 雑誌 と し て の 質 が 比 較的 高 い OA ジ ャ ー ナル に 掲 載 さ れ る OA 論 文数 も 増 加し て い る こ と が わ か る 。 ま た,「 即 時 OA」 の も う 1 種 類 「ハ イ ブ リ ッド OA」論 文が 占 め る 割合 も わ ず か ず つ で はあ る が ,年 々 増 加 して い た。 一 方 ,エ ン バ ー ゴ を 経 て OA に な る 「 Delayed OA」 論 文 の 占 め る 割合 は ,年 を 遡 るほ ど 高 ま っ てお り ,11.9%( 2010 年 ),17.4%( 2005 年 )と , こ れ ら 2 ケ 年に お い て は 他の い ず れ の 種 類 の OA 論 文 よ り も 高 い 割合 を 占 め てい た 。 こ の 結 果 , 論文 全 体 に 占 め る 全 OA 論 文 の 割合 は , 高い 順 に 25.1%( 2010 年),23.0%(2005 年), 22.1%(2012 年 )と な っ てい た 。 「 Delayed OA」 論 文 は , Delayed OA ジ ャ ー ナ ルの エ ン バ ー ゴ 終 了 のタ イ ミ ン グで ,増 加し ,時 が 経つ に つ れ て 対 象 の 号は 増 え て, 「 Delayed OA」 論 文 は 蓄 積 さ れ て い く 。 こ の た め , 今 回 の 「 Delayed OA」 論 文 の 2.4% ( 2012 年 )と いう 結 果 も ,エ ン バ ー ゴ 終 了 後 のタ イ ミ ン グ で 再 調 査す れ ば , 割合 は も っ と 高 ま り , 2012 年 の OA 論 文 が論 文 全 体 に 占 め る 割合 も 押 し 上 げ る こ と に な る 可 能 性 が あ る 。 本 調 査 の 結 果 で は 「 Delayed OA」 論 文 数が OA 論 文 全 体 に 占め る 割 合 は ,2010 年 掲載 論 文 お よ び 2005 年 掲 載 論 文で は 大 き か っ た 。時 間の 経 過 に よ り ,2012 年 掲 載 論文 の「 Delayed 189 OA」 論文 数 が 増 加 す れ ば ,論 文 全 体 に 占 め る OA 論 文 の 割合 は も っと 高 ま る と考 え ら れ る。た だ この 点 は ,今後 あ る 程度 の 時 間 を 経 過 し て再 調 査 し なけ れ ば わ か ら な い 。 最 新 の実 態 と し て は , 論 文全 体 に 占 め る 「 Full OA ジ ャ ーナ ル 」 掲載 論 文 およ び「 ハ イ ブ リ ッド OA」論 文 の 割 合 も 着実 に 年 々 高 ま っ て いる が , 歴 史 も浅 く タ イ ト ル 数 も 少な い「 OA メ ガ ジ ャ ーナ ル 」掲 載 論 文 が 占め る 割 合 の , 急 速 な 増 加 が 目 立 っ た 。 本 調 査 で 調 査 結 果 に 含 ま れ て い た OA メ ガ ジャ ー ナ ル は 2006 年 創 刊の PLOS ONE と 2011 年創 刊 の Scientific Reports の 2 誌 で あ る が ,こ れ ら 2 誌 の 掲 載 論文 だ け で 2012 年 の 論文 全 体 の 4.2%を 占 め て い た 。 他 の 種 類 の OA 論 文 は , それ ぞ れ 異 な る大 量 の タ イ トル に 掲 載 さ れ た OA 論 文 で あ るこ と を 考え る と , OA メ ガ ジャ ー ナ ル の 影響 力 の 大 き さ が わ かる 。 出 版 社の 種 類 別 に 分 析 し た結 果 は,「 OA 出 版 社」 と 「 大 学 , 機 関 」は OA 化 が 進 ん で おり , そ れは 「 Full OA ジ ャ ーナ ル 」 掲 載 論 文 数 の多 さ に よ る もの で あ っ た 。 ま た「 学 協会 」は ,そ の 他の 種 類 の 出 版 元 か ら刊 行 さ れ る OA 論 文 数が 年 々 増加 し て き た た め 相 対的 に は , 全 体 に 占 める 割 合 は 減少 し て い る が ,「 Full OA ジ ャ ーナ ル 」掲 載 論 文 数は 3 ヶ 年 を通 し て も っと も 多 か っ た 。一 方, 「 大手 商 業 出 版 社 」は OA 化 が 進 ん で お らず , 最 新 の 2012 年 掲 載 論 文 にお い て 最 も 多 い OA 論文 の 種 類 は ,「 ハ イブ リ ッ ド OA」論 文 で あ り ,購 読 型 学術 雑 誌 の 形 を 残し た 形 での OA で あ った 。 2005 年 ,2010 年の 結 果 をみ る と , 最 も 多 い のは 「 Delayed OA」 論文 で あ る が ,2012 年 は「 Delayed OA」論 文 は 全 く 存在 し な か っ た 。 こ の こ と か ら ,大 手 商 業 出 版 社 は , Delayed OA ジ ャ ーナ ル の エ ン バ ー ゴが 10 ヶ 月 未 満の も の は な い 。だ が「 学 協会 」や「そ の 他 の 出 版社 」な ど 他の 種 類 の 出版 元 か ら は, 2012 年 掲 載 論 文に「 Delayed OA」論 文 が 含 ま れて い る。こ の 点 か らも ,大 手 商業 出 版 社 は 他 の 種 類の 出 版 元 に 比 べ て,OA 論 文 刊 行に は 積 極 的 で な い 様子 が う か が え た 。 190 注 ・ 引用 文 献 1) Thomas J. Walker. Electronic publication of journals by the Entomological Society of http://entnemdept.ufl.edu/walker/esaepub.htm , America. (accessed 2013-12-06). 2) Springer. “ Springer's Open Access Track Record” . Springer homepage. http://www.springer.com/open+access/open+access+track+record? SGWID=0-176904-0-0-0, (accessed 2013-11-24). 3) Suber, Peter. “Elsevier offers OA hybrid journals” . Open access news. 2006-05-24. http://legacy.earlham.edu/~peters/fos/2006_05_21_fosblogarchi ve.html#114848427961388480, (accessed 2013-11-24). 4) Institute of Electrical and Electronics Engineers . “IEEE Announces Next Steps in its Open Access Strategy” . IEEE homepage. 2012, http://www.ieee.org/about/news/2012/17july_2012.html , (accessed 2013-11-24). 5) Springer. “Springer adjusts prices of subscription journals with significant Open Choice share for the third year running : 74 journals affected in 2013 price list ” . Springer homepage. 2012-09-10. http://static.springer.com/sgw/documents/1345327/application/ pdf/Springer+Open+Choice_Journal+Price+Adjustments+2013.pdf , (accessed-2013-12-20). 191 Ⅶ 学術雑誌における OA ジャーナルの位置づけ 本章では, 第Ⅴ章および第Ⅵ章で行った OA ジャーナルの雑誌単位および論文単 位の調査結果をふまえ,A節では学術雑誌全体における OA ジャーナルの位置づけ がいかに変化したかを整理する。つづいてB節では,調査結果と最新の動向をふ まえてこれからの OA ジャーナルがいかに進展するか,そして OA ジャーナルが学 術雑誌の歴史の中でどのような意味を持つかを検討する。 A OA ジャーナルの位置づけの変化 1 OA ジャーナル出版の全体の構造 2011 年時点で刊行されていた OA ジャーナルタイトル数が,学術雑誌全体に占 める割合は 14%であった。これは Ulrichweb 収録データ 38,803 タイトルを用い て網羅的に行った雑誌調査の結果であり, この調査での 「OA ジャーナル」 とは Full OA ジャーナルおよび OA メガジャーナルを指す。雑誌調査では,OA ジャーナルの 増加には,OA 出版社による OA ジャーナル創刊数の急増が影響していることが明 らかになった。これに対して,2012 年刊行論文に対する調査結果では,Full OA ジャーナル掲載論文および OA メガジャーナル掲載論文の割合は,16.2%であった。 論文調査では,Web of Science の Science Citation Index を用いたため,対象 は質の高い学術雑誌に絞り込まれている。OA 出版社の刊行する Full OA ジャーナ ルは,歴史も浅く質が高く評価されているわけではないため,Web of Science の Science Citation Index に含まれる数は少ないと考えられ,Full OA ジャーナル 掲載論文の割合は低くなると一般的には推測される。雑誌調査よりも高い結果が 出たことには,OA メガジャーナルが大きく影響していると考えられる。OA メガジ ャーナル掲載論文が占める割合 4.2%を除くと,Full OA ジャーナル掲載論文の割 合は 12.0%となり,雑誌調査の結果よりも低くなる。雑誌単位では測ることがで きなかったが,論文単位の調査を行うことで,1 タイトルでも大量の論文を掲載 する OA メガジャーナルの掲載論文数増加が,学術雑誌全体における OA ジャーナ ルの位置づけを高める重要な要素となってきていることがわかった。 論文単位の調査でもう 1 つ明らかになった重要な点は, 「Delayed OA」論文が年 を遡るにつれて増加傾向にあったことである。年が経過するごとに「Delayed OA」 論文は増加し,それらは蓄積されていくので, 「Delayed OA」論文は確実に増加し, 192 OA ジャーナル掲載論文の中で今後より大きなシェアを占めるようになると考え られる。 雑誌調査では,大手商業出版社が,近年新たに創刊する学術雑誌に占める Full OA ジャーナルの割合が高まる傾向を確認できた。特に NPG は 2010 年から, Springer は 2011 年から,創刊誌に占める OA ジャーナルの割合が,購読型学術雑 誌を上回っていた。だが,論文調査では,大手商業出版社刊行の Full OA ジャー ナル掲載論文数は,調査対象とした 3 年全てにおいて 4 論文と少なかった。Web of Science の収録のタイミングが影響したためか,近年の Full OA ジャーナル創刊 数増加傾向は十分に反映されていない結果となった。 2 出版元種類別の OA ジャーナル出版傾向 雑誌調査から,2011 年時点における Full OA ジャーナルおよび OA メガジャー ナルの出版元は,OA 出版社(36.9%),OA 出版社以外の出版社(6.9%),大学,機 関(33.7%) ,学協会(15.2%)であり,OA 出版社による OA ジャーナル刊行が多か った。1 社あたりの刊行数を分析すると,特定の OA 出版社が大量の Full OA ジャ ーナルを刊行しており,OA 出版社以外の出版社は少量の Full OA ジャーナル,大 学,機関および学協会は 1 タイトルのみ刊行しているという構図をとっていた。 このため,刊行タイトル数の多い順番に出版元を個別に見ていくと,上位の大部 分が OA 出版社であるものの, Springer をはじめとする一部の大手商業出版社や 大手学協会も上位に含まれていた。 論文調査の結果では,Full OA ジャーナル掲載論文数のうち,学協会が刊行す るものが,他の種類の出版元のどこよりも多く,2012 年掲載の調査対象論文では 36 論文であった。これに対し,雑誌調査で OA ジャーナルを最も多く刊行してい ることを確認した OA 出版社は,29 論文と 2 番目に高かった。質が高い学術雑誌 を収録する Web of Science に対象が絞り込まれた結果としては,依然として学協 会刊行の OA ジャーナル掲載論文が多く,学協会の刊行する OA ジャーナルは,相 対的にタイトル数は少ないものの,質は高く評価されていることがわかる。 なお, 論文調査で対象となった学協会刊行論文には OA メガジャーナル掲載論文 は含まれないが,OA 出版社の場合は PLOS ONE の 1 誌のみ含まれている。このた め, 上述のように Full OA ジャーナルに限定した比較を行ったが,PLOS ONE の 2012 年の掲載論文数は 38 論文で,これを Full OA ジャーナル掲載論文数に加えると, 67 論文となり,質を評価された 1 タイトルの OA メガジャーナルの影響で,OA 論 193 文数が逆転し,OA 出版社が最も多くの Full OA ジャーナルおよび OA メガジャー ナル掲載論文を刊行していることになる。 OA ジャーナルの種類別に分析すると,最新の実態を表す 2012 年掲載論文に関 しては,Full OA ジャーナル掲載論文数は上述のとおり, 「学協会」が 36 論文と 最も多く,続いて「OA 出版社」が 29 論文と高かった。それ以降は「大学,機関」 で 23 論文, 「その他の出版社」が 22 論文, 「大手商業出版社」が 4 論文と続いた。 2005 年,2010 年,2012 年の Full OA ジャーナル掲載論文数の推移をみると, 「学 協会」は 2005 年も 28 論文と初めから高く,微増傾向にある。それに対して, 「OA 出版社」と「大学,機関」は 2005 年から 2010 年にかけて急増し, 「その他の出版 社」は 2010 年から 2012 年にかけて急増していた。それぞれの出版元において, 上記の急増時期が Full OA ジャーナルに力を入れ始めた時期だったと推測される。 一方, 「大手商業出版社」はいずれの年においても Full OA ジャーナル掲載論文は 4 論文であり,他の出版元よりもきわめて少なく,増加傾向にもなかった。 「ハイブリッド OA」論文は,2012 年掲載論文に関しては, 「学協会」が 12 論文 と最も多く, 「大手商業出版社」が 7 論文, 「その他の出版社」が 2 論文であった。 経年的に見ると, 「学協会」は 2005 年が 1 論文,2010 年が 2 論文であり,2010 年から 2012 年にかけて急増したことがわかる。 「大手商業出版社」は,2005 年は 0 論文,2010 年は 7 論文であった。Springer が大手商業出版社として初めてハイ ブリッド OA ジャーナルを始めたのが 2004 年であったことを考慮すると,サービ ス開始後しばらくしてからは,堅調に「ハイブリッド OA」論文を刊行しているこ とが読み取れる。 「その他の出版社」は 2005 年,2010 年とも 0 論文であり,今後 の動向をみなければ,一時的な動きなのか,2012 年が「ハイブリッド OA」論文刊 行の初期に相当するのかは見極められない。 「ハイブリッド OA」論文の刊行状況で特徴的だったのは,大手の出版元によっ て刊行されていた点である。 「学協会」の場合は,ACS や IEEE をはじめとする大 手学会が刊行しており, 「大手商業出版社」は Elsevier と Springer が刊行してい た。 「ハイブリッド OA」論文は,Full OA ジャーナルと比べて APC が高く設定され ていることから,出版費用が高くつく種類の OA ジャーナルと推測される。このた め,大手の出版元でなければ刊行が難しいと考えられる。 「Delayed OA」論文は,2012 年掲載論文に関しては, 「学協会」が 16 論文, 「そ の他の出版社」が 6 論文であった。エンバーゴは一般的に 12 ヶ月以上であり,調 査時点では,刊行後 8~9 ヶ月しか経っていないにもかかわらず, 「Delayed OA」 194 論文が存在していたことから, 「学協会」および「その他の出版社」は他の出版元 と比較して,エンバーゴの短い Delayed OA ジャーナルを刊行していることがわか る。経年的には,Delayed OA ジャーナルの性質上,年を遡るほど「Delayed OA」 論文数は増加するが,出版元の傾向は 2012 年と同様で, 「学協会」が最も多く 77 論文(2005 年) ,50 論文(2010 年)で,つづいて「その他の出版社」が 41 論文 (2005 年),48 論文(2010 年)であった。次に多かったのは「大手商業出版社」 で,24 論文(2005 年) ,36 論文(2010 年)であった。 「大手商業出版社」の刊行 する OA 論文の中で,エンバーゴは短くないため,2012 年掲載論文は該当しない が,総じて「Delayed OA」論文がもっとも多かった。逆に「大学,機関」は, 「Delayed OA」論文数は少なく,10 論文(2005 年) ,4 論文(2010 年)であったが,総じて Full OA ジャーナル掲載論文数が多かった。 「OA メガジャーナル」掲載論文は,対象誌が「OA 出版社」PLOS の刊行する PLOS ONE と, 「大手商業出版社」NPG の刊行する Scientific Reports のみであった。PLOS ONE が 2006 年創刊,Scientific Reports が 2011 年創刊という創刊時期が影響し たためか, 「OA 出版社」は 19 論文(2010 年) ,38 論文(2012 年) , 「大手商業出版 社」は 4 論文(2012 年)であった。「大手商業出版社」については創刊間もない ため今後の様子を見なければ判断できないが,「OA 出版社」に関しては「OA メガ ジャーナル」が主要な OA ジャーナルとなってきていることがわかる。 以上の結果を整理すると,「大手商業出版社」は,「ハイブリッド OA」論文と 「Delayed OA」論文が多くを占めており,現時点ではまだ購読型電子ジャーナル が基本であるといえる。「OA 出版社」は,Full OA ジャーナルを増やしながらも, それを上回るペースで,「OA メガジャーナル」1 タイトルで OA 論文数を増加させ ていた。「学協会」は,大手学会では「ハイブリッド OA」論文の数を増やしなが らも,2005 年以降,一貫して Full OA ジャーナルが多かった。さらに HighWire の例に見られるように「学協会」では,以前より Delayed OA ジャーナルは広く認 められていたが,その傾向が続いていることが確認できた。 「大学,機関」は, 「OA 出版社」を除く他の出版元と比較して, 「Delayed OA」論文が低く,学術雑誌全体 から見れば少数ではあるが,着実に Full OA ジャーナルを刊行している状況がわ かった。 3 OA ジャーナルの進展に向けた動き 今後の OA ジャーナルの進展に大きな影響を及ぼす要因として,1)大手商業出版 195 社の動向と,2)OA メガジャーナルの存在を指摘できる。学術雑誌市場は大手商業 出版社の寡占状態にあり, 大手商業出版社のもつ影響力は大きい。 論文調査から, 現時点では大手商業出版社は OA 論文をほとんど刊行しておらず, 購読型学術雑誌 を前提とした「ハイブリッド OA」論文や「Delayed OA」論文が多いことがわかっ ている。しかし,雑誌の創刊状況に関する調査からは,OA ジャーナル創刊数が増 加傾向にあることが確認できた。全体の割合にはまだ十分に反映されない新しい 動きがあったため, 本稿ではそれらをまとめて検討する。 また論文調査において, 刊行と同時に掲載論文全てが OA となる OA 論文のうち,OA メガジャーナルの占め る割合が急速に増加していることを確認した。OA メガジャーナルが,OA メガジャ ーナルは,その代表格である PLOS ONE にみられるように,1 誌で大量の論文を掲 載し,その数は毎年急激に増加しており,OA ジャーナル掲載論文の増加に与える 影響力は大きい。以下ではそれぞれについて詳述する。 a 大手商業出版社の最新の動向 雑誌単位での創刊状況調査では,2010 年以降,大手商業出版社からの Full OA ジャーナル創刊が急増する傾向を確認できた。新たに創刊するだけでなく, Elsevier の場合は 2014 年から既存の購読型学術雑誌7タイトルを Full OA ジャ ーナルへ転換すると発表している 1)。Springer や NPG は,OA 出版社を買収して OA ジャーナル事業へ注力している様子がうかがえる。Springer は 2008 年に OA 出版社 BMC を買収し,その傘下においた 2)。2013 年 2 月には NPG が世界第 5 位の OA 出版社 Frontiers を買収することを発表している 3)。 2008 年には,OA ジャーナル推進を目的として,OA 学術出版協会(Open Access Scholarly Publishers Association 以下 OASPA)という業界団体が設立されてい る 4)。2014 年 1 月現在,大手商業出版社のうち, Springer,Taylor & Francis, Wiley は,OASPA に会員として参加している 5)。 国際 STM 出版社協会 (International Association of Scientific, Technical and Medical Publishers)は 2012 年 2 月 4 日に“出版社は持続可能な OA を支援する” とする声明を発表し,OA ジャーナル推進の意思を表明している 6)。これに賛同し て署名した出版社名が定期的に公開されているが,2013 年 6 月 10 日時点では, Elsevier,NPG,Springer,Taylor & Francis が署名している 7)。 以上のように,学術雑誌市場で大きな影響力を持つ大手商業出版社が OA ジャー ナルに対して積極的な態度を取り始めてきている。現時点では大手商業出版社は まだ購読型電子ジャーナルが中心ではあるが,創刊状況調査や上述の最新動向を 196 考えると,OA ジャーナルへ方向性が定まりつつあると考えられる。ただし,どこ まで進展するかはまだわからず,本研究の結果からは判断できない。 b OA メガジャーナル 2006 年に最初の OA メガジャーナル PLOS ONE が創刊されて,急速にその掲載論 文数を増やし,2010 年以降は全学術雑誌の中で最も掲載論文数の多いタイトルと なり,2 位の学術雑誌との差を年々広げていたことが,雑誌調査からわかった。 Web of Science の Science Citation Index によると,2013 年には 28,736 論文を 掲載し,同データベース収録対象の 2.5%を占めるに至っている 8)。これまでの学 術雑誌の概念と全く異なる,この PLOS ONE の成功を受けてか,2011 年以降相次 いで OA メガジャーナルが創刊され,その中には大手商業出版社も刊行している実 態が,雑誌調査から明らかになった。PLOS ONE 創刊時の出版元 PLOS の CEO, Binfield は,2016 年までには,STM 分野の論文の 50%は,100 タイトルの OA メガ ジャーナルに掲載された論文に占められるようになるとの考えを示している 9)。 雑誌調査では,OA メガジャーナルは,掲載対象として幅広い分野を扱っており, 刊行に要する時間が比較的早いこともわかった。 また OA ジャーナルと共通する点 ではあるが,誰もが無料で読めるために読者層も広い。これらの特徴は,研究者 が投稿先に求める要件をかなえるもので,OA メガジャーナルへの投稿者の満足度 は高い。 PLOS ONE に論文が掲載された著者に対して 2009 年に行われた調査では, 同誌にまた投稿したいとの回答は 80%以上となっている 10) 。Scientific Reports の 2013 年 4 月分の統計によると,同誌に論文が掲載された著者の 92%が,同誌に また投稿したいと回答している 11)。限られた範囲での調査ではあるが,OA メガジ ャーナルが研究者のうち少なくとも投稿者には好意的に受け入れられている状況 がうかがえ, 今後も研究者から OA メガジャーナルへの投稿が増える可能性が高い。 研究者が投稿先を選択する上で重視する「学術雑誌としての質」についても AIP advances,BMJ Open,Cell Reports,Open Biology,Physical Review X,PLOS ONE, RSC Advances,Scientific Reports,そして G3 : Genes, Genomes, Genetics は 既にインパクトファクターが付与されており 12),一定の評価を得られている。他 の OA メガジャーナルにおいても, 評価が高まれば投稿数が増える可能性が高まる と考えられる。OA メガジャーナルは OA ジャーナルの進展に強い影響力を持つだ けでなく,学術雑誌の歴史の中で大きな変化をもたらしつつある。この点につい ては B 節で詳述する。 197 B OA ジャーナル発展の可能性と学術雑誌に与える変化 1 OA ジャーナル普及の要件 第Ⅲ章で先行研究をレビューする中で,OA ジャーナルの進展には 3 つの課題が あることを確認した。1 つは, 「研究者の意識」である。研究者は OA ジャーナル に対して「学術雑誌としての質」への懸念や,および「APC 支払いの負担」を理 由に,OA ジャーナルで論文を発表していないことが明らかになった。2 つ目は, OA ジャーナルの「学術雑誌としての質」である。先行研究では,インパクトファ クターや掲載論文の被引用数を基準として,OA ジャーナルの「学術雑誌としての 質」を調査し,被引用数では購読型学術雑誌と差はないものの,インパクトファ クターが付与されている OA ジャーナルは増加傾向にあるが, まだ十分に多いとは いえないことがわかっていた。3 つ目は, 「持続可能なビジネスモデル」を確立で きるかである。先行研究では,APC 著者支払いモデルを適用する OA ジャーナルが 増えてはいるが,OA ジャーナル全体の 30%にも満たないことがわかっている。ま た,研究者は APC の支払いには助成金を用いるべきと考え,実際に多くの研究者 が助成金を用いて APC を支払っていたが,所属機関や助成機関からの助成は十分 ではない実態があった。さらに,研究者が支払ってもよいと考える APC の額と, 実際にかかる出版費用が乖離していることも問題となっていた。 本項では,これらの課題が克服されて,OA ジャーナルが進展する可能性につい て検討する。 なお 1 つ目に述べた研究者の意識から明らかになった 2つの課題は, 2 つ目に述べた「学術雑誌の質」 ,3 つ目に述べた「持続可能なビジネスモデル」 と重なるので,以下のように整理して検討する。まず a 目は,研究者が無理なく APC を支払えるビジネスモデルを確立できるかという観点で検討する。続いてb 目では, 「学術雑誌としての質」が認められる OA ジャーナルが増えるかを検討す る。この a 目および b 目の課題が克服されれば,研究者の意識調査で明らかにな った課題も同時に克服されると考える。 a ビジネスモデルの持続可能性 OA ジャーナルの「ビジネスモデルの持続可能性」については,以下の 2 つの観 点から検討する。1 つは,APC を著者が支払うモデルを適用する OA ジャーナルが 十分に存在するか,である。先行研究では,助成金などの支援なしに,著者の支 払う APC で出版費用を賄う OA ジャーナルが少ない実態から,OA ジャーナルの「ビ ジネスモデルの持続可能性」が疑問視されていることを述べた。本目では,APC 198 著者支払いモデルを適用する OA ジャーナルが,今後増加する可能性を検討する。 2 つ目は,先行研究では,研究者の支払い可能な APC と実際の出版費用の乖離が 問題視され,OA ジャーナルのビジネスモデルが疑問視されてきたことが指摘され ていた。本目では,研究者が APC 支払いを負担と感じることなく支払える環境が 実現可能かについて検討する。 ① APC の著者支払いモデルの適用 第Ⅴ章の調査にて, 新興の OA 出版社が OA ジャーナル創刊数を 2007 年以降増加 させていることが分かった。OA 出版社は基本的に APC 収入で出版費用を賄ってい る。 本調査で OA ジャーナル創刊数の増加を確認した代表的な OA 出版社について, BMC, Bentham, Hindawi, Scientific Research Publishing について,DOAJ にて その収録タイトルの APC 収入状況を調べた結果,8 割以上が APC 著者支払いモデ ルを適用していた 13) 。ただし,中には不自然なデータもあり,APC 著者支払いモ デルの適用を標榜する BMC の 14 タイトルが APC 著者支払いモデルを適用していな い OA ジャーナルとして DOAJ に登録されていた。だが,基本的に OA 出版社は APC 収入で出版費用を賄っているとみなせる。このような OA 出版社が OA ジャーナル 創刊を増やしているため, 今後 APC 著者支払いモデルを適用した OA ジャーナルは 増加すると考えられる。また,第Ⅴ章の調査にて,今後 OA ジャーナルタイトル数 を増加させる傾向を確認できた大手商業出版社もまた,基本的に APC 収入で出版 費用を賄っている。大手商業出版社は 2010 年頃から OA ジャーナルの創刊を増や し,既存の購読誌の OA ジャーナル化も増えてきている。この点からも,今後 APC 著者支払いモデルを適用した OA ジャーナルは増加すると考えられる。 OA ジャーナルの事業収入の実態からも,APC 著者支払いモデルの適用が増加し ている傾向が読みとれる。Outsell 社の調査によると,OA ジャーナルの総収入は, 2011 年の 1 億 2,800 万ドルから 2012 年には 1 億 7,200 万ドルへと 34%増加してい る 14)。STM 分野の購読型学術雑誌の収入が 0.6%増であることと比較するとその急 成長ぶりがわかる。同調査によると,2012 年の OA ジャーナルによる収入とその 前年比は,OA 出版社の場合,PLOS が 3,700 万ドルで 61%増,Hindawi が 1,200 万 ドルで 91%増,Bentham が 400 万ドルで 12%増と推定されている。大手商業出版社 の場合は,Springer が 5,200 万ドルで 10%増,Elsevier が 600 万ドルで 60%増, Wiley-Blackwell が 600 万ドルで 46%増,NPG が 400 万ドルで 74%増と推定されて いる。このように,APC 著者支払いモデルを適用している OA 出版社や大手商業出 版社がともに,2011 年から 2012 年にかけて OA ジャーナルでの収入を急激に増や 199 していることからも,APC 著者支払いモデルを適用した OA ジャーナルが増加して きており,今後もこの傾向は続くと考えられる。 ②APC の著者支払いの可能性 APC の著者支払いが普及する可能性が見いだせる動向として,助成団体などが 助成金により,研究者を支援する動きがある。第Ⅱ章 C 節にて,OA ジャーナル推 進の動きとして紹介した通称 Finch レポートを受け,イギリス政府は同レポート の内容を受け入れると表明し 15),BIS 省は 2012 年 9 月に,大学における OA 化へ の移行促進のために,1,000 万ポンドを助成すると発表している 16)。RCUK は 2013 年 4 月 8 日公表の RCUK Policy on Open Access and Supporting Guidance にて, RCUK の助成を受けた場合は研究成果の OA 化を義務づけ,その実現手段としては ゴールド OA が望ましいとし,機関へ一括配布する助成金を APC の支払いに充てる ことを認めている 17) 。また,HEFCE も同レポートの内容を歓迎し,HEFCE から研 究助成を受けた機関は,研究成果をよりアクセスしやすい形で出版するための費 用に助成金を充てられることを明確にしたいと述べている 18)。 さらに踏み込んだ取り組みとして, 国内の特定分野の研究者全体の OA ジャーナ ル投稿を支援する動きもある。JISC は,イギリスの大学の生物学および医学分野 の研究者は,自己負担することなく,OA ジャーナル論文を PeerJ で発表できるよ うに,PeerJ と 2014 年 1 月 24 日に取り決めを交わしている 19)。 他に複数の国が関与して OA ジャーナルを後押しする動きもある。European Union の 2014 年から 2020 年にかけての研究・イノベーション枠組計画 Horizon2020 では,この計画による公的助成を受けて書かれた全ての論文に対し て,ゴールド OA で即時アクセス可能とすること,または論文掲載後 6 ヶ月以内の セルフ・アーカイビングを義務づけ,そのために助成金を使用することを認めて いる 20) 。ゴールド OA の定義は示されていないが,即時公開を義務づけているた め,狭義には OA ジャーナルへの論文掲載,広義にはこれに加えてハイブリッド OA ジャーナルで論文を OA 化することを意味していると考えられる。 研究者が所属する大学や機関においても,OA ジャーナルへの投稿支援のために, 研究者へ APC 費用を助成する取り組みも行われている。北米の一部の大学および 研究機関は,Compact for Open-Access Publishing Equity(以下 COPE)という協 定を結び,研究者の APC 支払いを支援する永続的な仕組みづくりに取り組んでい る 21)。2013 年 4 月時点では 18 の大学,機関が COPE に署名している。また COPE には署名していないが,27 の大学および研究機関が,独自に基金などを設けて OA 200 ジャーナルへの投稿を支援している。 出版社側でも研究者の APC 支払い負担を軽くする取り組みを行っている。 Springer22)や Taylor & Francis23),Wiley-Blackwell24)など一部の大手商業出版社 では,研究機関や学会などを対象に会員制プログラムを提供し,研究機関や学会 が年会費等を支払うことで, その構成員が同社の学術雑誌上で論文を OA 化する際 の APC を割引するサービスを行っている。また Springer22)や Taylor & Francis23) はさらに,研究機関等が前払いすることで,構成員の APC を無料に,または割引 する制度も提供している。 一方で,APC の価格そのものを低く設定する取り組みも行われている。OA メガ ジャーナル PLOS ONE は,規模の経済で APC 安く抑えるとし,PLOS が刊行する他 誌の APC が 2,000 ドルを超える中,APC を 1,350 ドルに押さえている 25)。また, PLOS の前 CEO の Binfield が新たに立ち上げた OA メガジャーナル Peer J では, 投稿者の身分や年間発表論文数の上限値などの条件別に APC の価格設定を行い, 生涯の年間 APC を 99 ドル,199 ドル,299 ドルと安価に設定している 26)。このよ うに OA メガジャーナル PLOS ONE や,Peer J では APC 価格を抑えることを実現し ており,多くの研究者にとって投稿しやすい条件が整っており,ビジネスモデル の持続可能性も十分にあると考えられる。 b 学術雑誌の質 OA ジャーナルタイトル数増加の要因として,新興の OA 出版社による Full OA ジャーナル創刊数の急増があったが,新興の OA 出版社は必ずしも評価が定まって いない。たとえば,Beall の作成する,疑わしい出版社名一覧の 2012 年版 27),2013 年版 28),2014 年版 29)のいずれにも,第Ⅴ章の調査で 2007 年以降に OA ジャーナル 創刊数が急増したことが判明した Bentham と Scientific Research が含まれてい る。また Bentham および,第Ⅴ章の調査で「医学,医療」分野での Full OA ジャ ーナル刊行数が 4 番目に多かった Dove Medical Press は,研究者に対して投稿を 呼びかけるメールを頻繁に送り付ける,スパム行為を行っているとして研究者か ら非難されてもいる 30) 。このような新興の OA 出版社に対する不信感が表れてい る中で,新興の OA 出版社の創刊する Full OA ジャーナルに対して,研究者が評価 して論文を積極的に投稿するとは考えにくい。 しかし,評価の高い学術雑誌情報を収録する Web of Science において,Full OA ジャーナル掲載論文の割合が年々高まっていることが第Ⅵ章調査で明らかになり, 学術雑誌としての質が評価される Full OA ジャーナルのタイトル数が増加してい 201 る可能性を確認した。 OA 出版社の刊行する Full OA ジャーナルの中でも,インパクトファクターが付 与され,一定の評価を得ているものもある。BMC は 2013 年 12 月現在,259 タイト ルの Full OA ジャーナルを刊行しているが,2012 年版の JCR にはその半数以上に 相当する 141 タイトルが収録されている 8)。PLOS は刊行する 7 タイトル全てが JCR に収録されており,中でも PLOS BIOLOGY はインパクトファクターが 12.690 で, 生物学分野の学術雑誌中 1 位と高く評価されている 8)。OA メガジャーナル PLOS ONE は, 「総合科学」分野の中で,1 位の Nature の 38.597 や 2 位の Science の 31.027 には及ばないものの,3.730 で 7 位と評価されている。このことから,OA 出版社 の刊行する Full OA ジャーナルは,全て質が疑わしいわけではなく,既存の評価 指標でその質を保証されているものも存在している。 これからの OA ジャーナルの展開は,「学術雑誌としての質」を基準として,3 つのあり方が考えられる。そして研究者コミュニティがそのどれを選択するかに よって,どのような「学術雑誌としての質」をもつ OA ジャーナルが進展するかも 変わってくると考えられる。 1つは,印刷版学術雑誌の延長上にある OA ジャーナルである。つまり,既存の 購読型学術雑誌を OA ジャーナル化するもので,Converted OA の Full OA ジャー ナルに相当する。 出版元自らが自社の既存の購読型学術雑誌を OA ジャーナル化す ることはこれまでもあったが,最近の新しい動きとして,大学図書館などの購読 機関がリードする方式で,既存の定評のある学術雑誌を OA ジャーナル化として SCOAP3(Sponsoring Consortium for Open Access Publishing in Particle Physics) がある。SCOAP3 とは,CERN を中心とした国際連携プログラムで,従来大学図書館 等が支払っていた購読料を,対象学術雑誌の出版料に振り替えることで,既存の 定評のある高エネルギー物理学分野の学術雑誌を OA 化することを目的としてい る 31) 。日本も 2011 年 8 月に,高エネルギー加速器研究機構,国公私立大学図書 館協力委員会,および国立情報学研究所が共同で関心表明 EoI(Expression of Interest)に署名している 32)。2014 年 1 月から始動し 33),1 月 28 日時点で 400 論文が OA 化されている 34) 。第Ⅱ章 A 節で述べたように,印刷版学術雑誌は内容 を変えることなく電子化することで研究者に抵抗なく受け入れられて普及した。 OA ジャーナルにおいても,同様にビジネスモデルのみを転換した Converted OA の OA ジャーナルであれば,抵抗なく研究者に受け入れられる可能性がある。 2 つ目は,質の高い OA ジャーナルを新たに創刊しようとする動きである。その 202 一例として,英国のウェルカム・トラスト,米国のハワードヒューズ医学研究所 (The Howard Hughes Medical Institute) ,ドイツのマックスプランク協会(Max Planck Society)の 3 つの研究助成機関からの支援を受けて 2012 年に創刊された, 生命科学分野の OA ジャーナル e-Life がある 35)。e-Life は,定評のある著名な科 学者によって編集体制が構成され,厳格かつ効率的な査読・編集プロセスをとる としている。e-Life の初代編集主幹であり,2013 年のノーベル医学生理学賞受賞 者である Randy Schekman は,インパクトファクターが高く,多くの研究者が論文 掲載を競っている Nature,Cell,Science を批判し,自らの研究室からはこれら の学術雑誌に投稿しないと宣言している 36)。その理由は,インパクトファクター は被引用回数に基づくが,被引用回数は論文の良質さだけでなく,人目を引くよ うな衝撃的な内容でも増え,必ずしも論文の質に直結するものではないに関わら ず,研究者がそれらを学術雑誌の質とみなして目指すのは悪弊と考えるためとし ている。Schekman は,論文は話題性などではなく,あくまで論文の質で評価され るべきであり,そのためには e-Life のような厳格な査読制度を備えた学術雑誌へ 投稿して評価されるべきと述べている。 BMC のようにインパクトファクターが付与されていることを長所としてアピー ルする例もあるので,必ずしも Born OA の Full OA ジャーナル全てがインパクト ファクターを否定しているわけではない。だが,e-Life にしても,その他のイン パクトファクターを肯定する Born OA の Full OA ジャーナルにしても,共通して いるのは, 「学術雑誌としての質」を重視している点である。Converted OA のよ うに歴史があるわけではないので,研究者からの評価を得られるには時間がかか るかもしれないが,印刷版学術雑誌に由来しない分,受理後はすぐに公開され論 文掲載に要する時間が短縮化されるという利点もある。 「学術雑誌としての質」の 良質さを維持しつつ,電子版の利点を最大限に活かしたあり方が,研究者に評価 されて受け入れられる可能性がある。 3 つ目は,OA メガジャーナルである。第2章D節で述べたように,OA メガジャ ーナルの査読の基準は科学的な正確さのみであり,基準を満たす論文は全て掲載 される。 すなわち, 上述の 2 種類の OA ジャーナルと比べて 「学術雑誌としての質」 に対する姿勢が異なる。研究者は学術雑誌の質,評価を重視するという傾向があ る中で,実際には,OA メガジャーナル PLOS ONE の掲載論文数は年々飛躍的に増 加し,掲載された著者の満足度も高い。 「学術雑誌としての質」が重要としながら も,実際には一定の質が担保されていれば十分で,論文を迅速に広範囲へ届ける 203 ことを重視するような研究者には,OA メガジャーナルが受け入れられていると考 えられる。今後もそのような研究者が増えれば,OA メガジャーナルが主流になる 可能性がある。 以上, 「学術雑誌としての質」を基準に 3 種類の OA ジャーナルのあり方,それ を受容する研究者の可能性について述べてきた。研究者および研究者コミュニテ ィがどれを選択するかで, これからの OA ジャーナルでどれが主流になるかは決ま る。Converted OA の Full OA ジャーナル, 「学術雑誌としての質」を重視する Born OA の Full OA ジャーナル,OA メガジャーナル,という 3 種類が学術雑誌の歴史の 中で与えるインパクトはそれぞれ異なる。次項では,それぞれが学術雑誌の歴史 の中で与えるインパクトについて検討する。 2 学術雑誌の機能と特徴の変化 第 I 章で述べたように,学術雑誌は印刷物,そして冊子体という物理的な性質 上,綴じられる論文数には物理的に上限があり,それはすなわち掲載できる論文 数の制限につながった。一方で,物流に要するコストを考慮し,一定数以上の論 文数を掲載する必要があった。研究成果を迅速に伝えるという学術雑誌の本来の 役割とは相反するが,この物流のコストを抑えるために,掲載論文数が一定数集 まるまで刊行せず,刊行頻度を抑える必要も生じていた。 ところが 1990 年代後半から普及した, それまでの印刷版学術雑誌の電子版であ る購読型電子ジャーナルでは,出版元がインターネット上に開設するプラットフ ォームへ論文の電子ファイルをアップロードし,読者はそこにアクセスすること で刊行後すぐに論文を読むことを可能にした。つまり技術的には,それまでの印 刷物でかつ冊子体という形状をとっていた学術雑誌の物理的および物流の制約を なくすことを可能にしたのである。しかし,実際には購読型電子ジャーナルにお いては,それまでの物流の制約から解放されることはなかった。なぜならば,当 時の購読型電子ジャーナルは,あくまで従来の印刷版学術雑誌の電子版であるた め, 印刷版学術雑誌と並行して刊行され, 刊行頻度や 1 号あたりの掲載論文数は, 従来の印刷版学術雑誌と大きく変わるものではなかった。 Converted OA の Full OA ジャーナルもまた印刷版学術雑誌の延長上の存在であ るため,学術雑誌にもたらす影響としては,読者が無料で読めるという点での「ア クセス範囲の拡大」 ,つまり「報知」機能が変化する点のみであろう。学術雑誌の もつ「パッケージ機能」は残り,インパクトファクターや学術雑誌に対する研究 204 者間の評判にもとづいた,学術雑誌のヒエラルキーは維持されるだろう。 だが Born OA の Full OA ジャーナルは,印刷版学術雑誌に由来しないために, 物理的および物流の制約から解放される。Born OA の Full OA ジャーナルもまた, 出版元がインターネット上に開設するプラットフォームへ論文の電子ファイルを アップロードする方式をとるため,技術的な面では印刷版学術雑誌の電子版であ る購読型電子ジャーナルと共通であるが,印刷版学術雑誌から完全に切り離され た存在ということが,両者の間に決定的な違いをもたらしている。Born OA の Full OA ジャーナルは,Web 上で論文を公開する利点を最大限活用した形態をとり,刊 行頻度や号といった概念に制約されることなく,受理後の論文を 1 論文ずつアッ プロードし,上限なしに論文を掲載している。このことは,学術雑誌の「パッケ ージ機能」を変質させるものである。ただし, 「学術雑誌としての質」を重視する 以上,従来と同様,査読制により論文のインパクトや質の高さを基準とした,掲 載論文の選別は行われる。このため,「認証」機能は維持されるだろう。 以上の 2 種類の OA ジャーナルが学術雑誌に与える「報知」機能および「パッケ ージ」機能の変質は,OA メガジャーナルにおいても該当する。だが OA メガジャ ーナルは,これらに加えてさらに大きな変質をもたらす。 従来の学術雑誌は,読者層に合わせて論文を特定のタイトルのもとにまとめ, 論文数の増加や学問分野の増加,細分化に対しては,タイトル数を増やすことで 対応してきた。また,従来の学術雑誌では,査読によって,その学術雑誌の定め る基準に達する質やインパクトを論文が備えているかを判断し,投稿された論文 から掲載論文が絞り込まれてきた。分野が競合する場合は,査読の厳格さによる 受理率などで差別化された。これが学術雑誌の「認証」機能として働き,質を担 保された論文が掲載された「パッケージ」としての学術雑誌が成立し,研究者お よび研究者コミュニティの評価や,時にはインパクトファクターにより,分野ご とに学術雑誌のヒエラルキーが形成されてきた。 ところが OA メガジャーナルは,まったくその逆の論理で成立している。OA メ ガジャーナルでは,対象分野は限定せずに幅広い分野を対象としている。査読の 基準も科学的な正確さのみで,基準を満たせば全て掲載し,掲載論文数を制限し ない。タイトル数の細分化ではなく,1 タイトルの論文数を制限なく増加させる ことで巨大化している。そして,そのあり方は,従来の学術雑誌がタイトルを細 分化することで「認証」機能を緻密化させてきた方向性を,正反対に緩めるもの である。つまり,OA メガジャーナルには,一定の質は確保した上で,それ以上の 205 選別は行われていない複数の分野の論文が掲載されているということであり,従 来の学術雑誌の特徴である「パッケージ機能」の大きな変質を意味する。 OA メガジャーナルの中でも,インパクトファクターが付与されているものも多 数あり,単に玉石混交の論文誌とみなされているわけではなく,研究者から一定 の評価を得られていることは確かである。だが,OA メガジャーナルは,従来の学 術雑誌とは異なる基準でさまざまな分野の論文を掲載していることから,長年を かけて築き上げられてきた学術雑誌のヒエラルキーの中に位置づけることは難し い。従来の学術雑誌においては,分野ごとに質で差別化された学術雑誌のヒエラ ルキーを前提として,研究者は,読み,そして投稿する学術雑誌を選択してきた。 しかし OA メガジャーナルでは,その前提が成り立たない。OA メガジャーナルに よる,学術雑誌の「認証」機能の変化, 「パッケージ機能」の消失は,印刷版学術 雑誌の歴史の中で,きわめて大きな意味をもつものである。 Converted OA の Full OA ジャーナル, 「学術雑誌としての質」を重視する Born OA の Full OA ジャーナル,OA メガジャーナルとで,それぞれ学術雑誌にもたらすイ ンパクトは異なるが, その中でも OA メガジャーナルはもっとも大きなインパクト をもたらす存在である。ただ,2011 年以降相次いで OA メガジャーナルと銘打つ Full OA ジャーナルが創刊されてはいるものの,実際に圧倒的に大量の論文を掲 載しているのは,現時点では PLOS ONE の 1 タイトルのみである。今後他の OA メ ガジャーナルも PLOS ONE 同様に巨大化していけば,学術雑誌に大きな変革をもた らすと考えられる。 注・引用文献 1) Elsevier. “Elsevier to flip seven subscription journals to open access in 2014”. 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