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オープンITS(Intelligent Transport Systems)が拓く未来

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オープンITS(Intelligent Transport Systems)が拓く未来
第56巻第6号平成25年9月1日発行(毎月1回1日発行)
September
2013
オープンITS(Intelligent Transport Systems)が拓く未来
日本の番号制度(マイナンバー制度)の概要と国際比較
個人識別子と行政統制の視点から
オープンソースのプログラミング言語Rubyによる地域産業振興
松江から世界へ
医学雑誌編集者のためのガイドライン
連載:
研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
第12回 法分野における人物・図書館情報
連載:
新興地域の統計事情
第10回 国際産業連関表
vol.56 no.6
p.335-402
情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.6
Journal of Information Processing and Management
オープンITS(Intelligent Transport Systems)が拓く
未来
335
小林茂男
344
近藤佳大
355
野田哲夫
363
北村 聖
■ITS(高度道路交通システム)とは,人と道路と自動車の間で情報の受発信を行い,
道路交通が抱える種々の課題を解決するためのシステムの総称です。この10月,
「ITS世界会議東京2013」が開催されます。テーマは「Open ITS to the Next」です。
新しいモビリティ社会を実現する鍵として期待されるITSについて解説し,交通社
会の次のステージにつながる今後の取り組みについて述べます。
日本の番号制度(マイナンバー制度)の概要と国際比較
個人識別子と行政統制の視点から
番号制度
行政統制制度
見える番号
連携符号
(明文規定なし)
■日本でもいよいよ個人識別番号が導入されます。2013年5月24日に成立した「行
政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(番号
番号法
認証識別子
公的個人認証法
法)
」に基づく個人番号です。法案成立の背景,番号法のポイントと情報連携の
仕組みについて解説します。さらに米国およびオーストリアの制度との比較に
よって,番号法の理解を深めます。
オープンソースのプログラミング言語Rubyによる地域
産業振興
松江から世界へ
■2012年4月,日本発のオープンソースプログラミング言語Rubyの言語仕様が国際
規格ISO/IEC 30170として承認されました。RubyおよびRuby on Railsを紹介しま
す。
「Ruby City MATSUE Project」は,Rubyの開発者まつもとゆきひろ氏が在住
する島根県松江市においてオープンソースRubyを活用した産業振興の取り組みで
す。この内容と成果を解説します。
医学雑誌編集者のためのガイドライン
■日本医学雑誌編集者会議(JAMJE)は,100以上の日本医学会分科会の機関誌編
集委員からなる組織です。JAMJEは,医学雑誌と編集者の自由と権利の擁護,医
学雑誌の質向上への取り組み,倫理規範の策定,国際連携,の4項目を活動の目
標にしています。この目標に即した「医学雑誌編集のガイドライン(案)」を紹
介します。分野を問わず,
学術雑誌の編集にかかわる方々の参考になる内容です。
目次
月号
September
連載:
研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
374
いしかわまりこ
380
桑森 啓
内田陽子
玉村千治
385
茂出木理子
389
大谷卓史
393
矢入郁子
第12回 法分野における人物・図書館情報
連載:
新興地域の統計事情
第10回 国際産業連関表
視点:
All I need to know I learned from …
(その2:9月号だけどひまわりの章)
過去からのメディア論:
疑心が暗鬼を生む
この本!~おすすめします~:
理系研究者からみたアメリカ文化
396
図書紹介:
『デジタル人文学のすすめ』
397
情報界のトピックス
402
編集後記
vol.56 no.6
JOHO KANRI 2013
September
Journal of Information Processing and Management
Contents
Open ITS to the Next
335
KOBAYASHI Shigeo
Brief overview and international comparison of the
identification number system of Japan
344
KONDO Yoshihiro
Open source programming language Ruby and regional
industry promotion from Matsue to the world
355
NODA Tetsuo
JAMJE guideline for medical journal editors
363
KITAMURA Kiyoshi
Series:
374
ISHIKAWA Mariko
Series:
380
KUWAMORI Hiroshi
UCHIDA Yoko
TAMAMURA Chiharu
Opinion:
385
MODEKI Riko
Seeing current media retrospectively:
389
OTANI Takushi
My bookshelf:
393
YAIRI Ikuko
New book:
396
Introduction to legal research for R&D and business
Part 12: Writings of legal professionals and libraries for legal
research
The state of statistics in emerging regions
Part 10: International Input-Output Tables
All I need to know I learned from …
(Part2: Sunflower)
Doubts beget doubts: Does anonymity disturb group
dynamics?
The American culture from the viewpoint of a scientific
researcher
397
Topics of the information community
402
Editor's note
オープンITS(Intelligent Transport Systems)が拓く未来
オープンITS(Intelligent Transport
Systems)が拓く未来
Open ITS to the Next
小林 茂男1
KOBAYASHI Shigeo1
1 特 定 非 営 利 活 動 法 人 I T S J a p a n( 〒105-0011 港 区 芝 公 園2-6-8 日 本 女 子 会 館 ビ ル3F)T E L : 03-5777-1014 E - m a i l : [email protected]
1 ITS Japan (Joshikaikan Bldg. 2-6-8 Shibakouen Minato-ku, Tokyo 105-0011)
原稿受理(2013-07-04)
情報管理 56(6), 335-343, doi: 10.1241/johokanri.56.335 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.335)
著者抄録
2013 年 10 月第 20 回 ITS 世界会議東京では開催テーマを「Open ITS to the Next」とした。次世代の ITS は,環境・エ
ネルギー・安全・渋滞解消等の交通問題の解決,人々の生活の質の向上を図ることを目指す。また同時に,災害や不
測の事態への的確にしてスピーディーな対応という社会の要請に応えることも重要な役割である。そのために I T S は,
グローバルに誰にでもさまざまな機会や挑戦のための場が開かれ,多くのプレイヤーが参加できる共通プラットフォー
ムの構築や広域の連携が図れるオープンな形のネットワーク社会を提供していくベースとなっていくことが望まれる。
キーワード
高度道路交通システム,ITS,プローブ,インフラ協調安全運転支援システム,安全運転支援システム,DSSS,ITSスポッ
ト,自動運転,ビッグデータ
1.はじめに
現させ,移動にやさしい豊かなモビリティ社会を実
現する役割を担う。I T Sは,狭義には情報通信技術を
1.1ITSとは
ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通
システム)とは,人と道路と自動車の間で情報の受
駆使して,車と道路をネットワーク化するシステム
として技術開発が進められてきたが,広義には,次
世代ネットワーク型社会構築のシステムである。
発信を行い,道路交通が抱える事故や渋滞,環境対
I T Sは政府戦略の中に位置づけられており,2001年
策など,さまざまな課題を解決するためのシステム
に内閣総理大臣を長とするI T戦略本部が設置され,I T
の総称である。
新改革戦略,イノベーション25戦略会議,また産業
I T Sは,人や物の安全で,快適,かつ効率的な移動
を支えることにより,人間の本質的な移動欲求を実
界の産業競争力懇談会の提言に織り込まれる等,政
策レベルでも取り上げられてきた。
情報管理 vol. 56 no. 6 2013
335
情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.6
Journal of Information Processing and Management
http://johokanri.jp/
September
安倍政権下での成長戦略「日本再興戦略」1)では大
1996年7月に国によるI T S推進の指針として,関係
きな柱の1つである新たなI T戦略「世界最先端I T国家
省庁によって「高度道路交通システム(I T S)推進に
創造宣言(平成25年6月14日閣議決定)」2),成長戦略
(以下「ITS全体構想」
)が策定され,
関する全体構想」4)
成功の鍵である「科学技術イノベーション総合戦略
関係省庁の動きが一本化された。
(平成25年6月7日閣議決定)」3) に取り上げられてい
る。
I T S全 体 構 想 で は,I T S開 発9分 野( 図1)
,21の 利
用者サービスが設定された。カーナビ,V I C S,E T C,
A S V等I T S個別要素技術の研究開発が,積極的に推進
1.2ITSへの社会ニーズの変化
社会ニーズは,安全・安心,環境・効率,快適・
利便へと拡大し,また,社会構造も情報化,高齢化
の進行,地球温暖化への対応,アジアの国や地域の
され,これらはカーナビの伸びとともに日本のI T S成
功事例として世界に知られることとなった。下記に
代表的な事例について述べる。
(1)カーナビゲーション
台頭等多様化している。近年では,環境・エネルギー
カーナビの出荷台数累計が約5,400万台(2013年
問題の深刻化,世界的な経済危機,新興国・地域の
3月末現在)に達し,自動車への搭載比率が高まり,
都市化の拡大と自動車の増加による交通問題,先進
もはや自動車に不可欠なものとなっているといって
国における自動車産業の低迷等,自動車を取り巻く
も過言ではない。プローブ情報(走行する自動車か
環境は厳しくなっている。将来のモビリティについ
らの「位置情報」「時刻・時間情報」「車両識別情報」
て地球規模で考える必要に迫られている。
等の情報)等多様な交通情報が提供され,安全運転
I T Sはこのような多様化社会において,統合的な視
支援機能が付加される等進化している。最近では,
点から新しいモビリティ社会を実現するツールとし
スマートフォン等のナビゲーション機能が充実して
ての期待がある。
おり自動車への影響が出ている。
2.これまでの経緯
(2)道路交通情報システム(VICS)
1996年4月 に サ ー ビ ス 開 始 し た 道 路 交 通 情 報
通 信 シ ス テ ム(V I C S : V e h i c l e I n f o r m a t i o n a n d
2.1ファーストステージ
日本のITSへの着手は世界的にも早く,ITS分野の研
Communication System)車載機の出荷台数累計が
3,757万台(2013年3月末現在)に達している。V I C S
究開発は,1970年代の初めから始まった。日本での
ITSの草分けは,CACS(Comprehensive Automobile
Control Systems)という路車間通信を用いた動的経
路誘導システムで,マイクロプロセッサ登場前の段
階にあって極めて革新的な研究であった。1980年代
の後半からは,車両,道路インフラ,交通管制等個
別の官民開発プロジェクトが数多く進められた。
1994年に第1回I T S世界会議がパリにおいて開催さ
れ,ITSの世界会議がスタートした。当初はITSの用語
もなかったが,1995年横浜の第2回世界会議を機に日
本の研究者からI T Sという用語が提唱され,世界共通
の用語として定着した。
336
図1 全体構想(1996年)における9つの開発分野
(出典:ITS Japan注1))
オープンITS(Intelligent Transport Systems)が拓く未来
センターでは,渋滞損失時間改善の経済効果,C O2
排出の削減効果,ガソリン等の資源消費の節約効果,
交通事故の削減効果を発表している。
2.2セカンドステージ
2004年に日本で2回目となる第11回I T S世界会議が
名古屋で開催され,この節目からセカンドステージ
へと進展した。I T Sが社会を構築するツールとなって
(3)ETC
2001年3月にサービスを開始した自動料金収受シス
テム(ETC: Electronic Toll Collection System)注2)対
いくことを意識し,社会の概念を入れ,市民参加の
視点を取り入れたことが特徴である。
応車載機のセットアップ件数累計が,約4,847万台
この視点から,産官学の関係者による日本I T S推進
(2012年4月末)に達し,また高速道路利用者に占め
会議で検討を進め,I T Sが今までの個別技術の開発か
るE T C利 用 率 が,88.2 %(2013年3月 末 現 在,712万
ら社会貢献として進むべき「I T S推進の指針」が取り
台/日)を超え,料金所の渋滞が大幅に改善されて
まとめられた。
「安全・安心」
,
「環境・効率」
,
「快適・
いる。また,ETCの普及拡大により,基本技術である
利便」がITS指針の基本概念となっている。
DSRC(Dedicated Short Range Communication:専
この指針は,2006年1月「I Tによる構造改革を目指
用狭域通信)の応用が検討され,スマートインター
ITSは安全・
す」とした「IT新改革戦略」6)に反映され,
チェンジ,駐車場料金収受システム等の社会実験や
環境・利便達成に貢献する技術として位置づけられ
実用化が進んでいる。
た。「世界一安全な道路交通社会」を目指したインフ
ラ協調安全運転支援システムの実用化プロジェクト
(4)安全運転支援
先進安全自動車(ASV: Advanced Safety Vehicle)注3)
の分野では,夜間運転支援システム,レーンキーピン
が官民連携のもとでスタートした。
警察では光ビーコンを通じた個々の車両との双
グ支援システム,プリクラッシュセーフティシステム,
方向通信を活用した新交通管理システム(U T M S :
レーダーによる前方障害物検知システム等の先進的な
Universal Traffic Management Systems)注4),総務省
技術開発と車両への搭載が増えている。また,運転心
ではユビキタスI T S,経済産業省ではエネルギー I T S,
理にまでおよぶHMI(Human Machine Interface)の研
国土交通省では,5.8GHz帯DSRCによりドライバーへ
究が行われ,I T Sの安全運転支援への貢献が顕著であ
リアルタイムに安全情報等を提供するスマートウェ
る。
イサービス,および通信を利用して車両相互で位置,
なおASVプロジェクトは,2011年度から2015年度ま
5)
。
での第5期ASV推進計画が開始されている
速度等の情報を交換し安全運転を支援する先進安全
自動車(ASV)等のプロジェクトが推進された。
(5)その他
このほか,ITS全体構想に基づき,交通管理の最適化,
道路管理の効率化,公共交通支援,商用車の効率化,
2.2.1インフラ協調安全運転支援システム
2006年にI T S推進協議会が設置され,交通事故の未
歩行者等の支援,緊急車両の運行支援等の開発・展
然防止を目的としたI T Sによる安全運転支援システム
開が行われた。この間情報通信技術が進み,携帯電
について,官民連携で開発・実用化が推進された。
話技術に代表される多様なテレマティクスサービス
2008年度に大規模実証実験,2011年8月から全国の
の拡大が著しい。I T Sの個別技術開発・展開が積極的
高速道路上を中心に約1,600か所,一般道では,2011
に行われ,その後の日本のITS発展の土台ができ上がっ
年7月から東京,神奈川等に計15か所のインフラを整
た。
備し,全国展開に向けた一歩を踏み出した。
交通事故の事故類型分析(図2)を見ると,追突事
故が高い割合を示している。
情報管理 vol. 56 no. 6 2013
337
情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.6
Journal of Information Processing and Management
September
図3
http://johokanri.jp/
安全運転支援システム
(出典:ITS Japan)
図2 事故類型分類(出典:警察庁)
交通事故死者数を減らすために,自動車そのもの
の安全性の向上を図る一方で,安全運転支援のため
の装備(自律型安全運転支援システム)の充実を図っ
てきた。また,車両単独では対処が困難な事故に対
図 4 衝突被害軽減ブレーキのしくみ
図4 衝突被害軽減ブレーキのしくみ(出典:国土交通省)
(出典:国土交通省)
して,車と路側通信システムあるいは車相互の情報
両(いわゆる新車)から装着が義務付けられている。
通信により安全性を高めるシステム(協調型安全運
(2)協調型安全運転支援システム(道路から車両へ
転支援システム)の開発と実用化が進められた(図
3)
。これらの代表的な取り組みを以下に示す。
(1)自律型安全運転支援システム(車両単独の運転
支援システム)
先進技術を利用し,ドライバーの安全運転を支援
の情報発信による運転支援)
見通しがきかない進行方向前方の情報など,安全
に関する情報を,道路側に設置された設備から走行
中の車両に対して送信することにより,ドライバー
は,あらかじめ得た情報をもとに注意しながらより
するシステムを搭載した自動車の実用化が進んでき
安全な運転をし,事故を回避できる。
た。
①安全運転支援システム(D S S S : D r i v i n g S a f e t y
一例として,
図4に示すような「衝突被害軽減ブレー
Support Systems)
キ」がある。これは,レーダーが常に前方の状況を
ドライバーの視野に入らない位置にある一時停止
監視し,ドライバーが前方の車両に気づかずに近づ
規制や信号,自動車・二輪車・歩行者の存在に関す
くと警報を鳴らし,ブレーキをかけるよう注意喚起
る情報が,車載装置等で受信可能になった。ドライ
するものである。さらに,追突の可能性が高い場合
バーは,これら情報に基づいて,より注意深く運転
には,車両が自動的にブレーキを作動させて,追突
することにより,追突や出合い頭による衝突などを
の回避あるいは追突時の被害軽減を図れるようなシ
回避しやすくなった(図5)。
ステムである。
②ITSスポット
本システムについては,すでに2014年以降の新型
車両(車両総重量22トン以上),2015年以降の登録車
全国の高速道路上を中心にI T Sスポットを整備し,
2011年より世界初の路車協調システムによるI T Sス
ポットサービスを実現した(図6)。本サービスでは,
広範囲の渋滞データを配信し,カーナビが賢くルー
ト選択するダイナミックルートガイダンス,道路の
交通安全上の課題に合わせて,障害物や渋滞末尾,
事故多発箇所の情報提供を行う安全運転支援,料金
の支払いをキャッシュレスで可能とするE T Cの3つの
図3 安全運転支援システム(出典:ITS Japan)
338
基本サービスを提供しており,決済,観光,物流な
オープンITS(Intelligent Transport Systems)が拓く未来
図5 安全運転支援システムの例(出典:ITS Japan)
どの多様なサービスへの展開も期待されている。
安全運転支援については,音声や画像等により適
切なタイミングで情報提供を行っており,例えば,
図7 開発中の車車協調システム(出典:ITS Japan)
2.2.2プローブ情報の高度利用
(1)さまざまな交通流情報(プローブ情報)の高度
利用促進
首都高速では全長の2%に全事故件数の約20%が集中
近年の車両は,燃料消費も含め大半が電子制御さ
しているが,そのような事故多発箇所で追突事故等
れているのと併せて,どのような運転・制御がさ
を6割削減するなど,ドライバーの安全な運転に貢献
れたかもメンテナンス時に確認できるようになっ
している。
て い る。 つ ま り, 個 車 の 位 置 情 報(G P S(G l o b a l
③車車協調システム,歩車協調システム
Positioning System:衛星測位システム)信号との連
さらに,政府目標達成のためにもこれらの事故形
携)
,運転状態(スピード,加速度,ワイパー利用状
態へのさらなる対応技術開発が必要である。車車協
態,ヘッドライト点灯状態,ブレーキ使用頻度など)
,
調システムでは,互いの存在を知らせあって見通し
並びに燃料消費量さえも情報として吸い上げること
の悪い交差点での出合い頭衝突の防止支援や,右左
が理論上は可能である。それらの情報を有効,かつ
折時の衝突防止支援などを開発中であり(図7),ま
リアルタイムに利用することによって,交通渋滞を
た車対歩行者,自転車,二輪車などは価格の安い通
事前に認知し回避可能なような情報の運転者への提
信端末として無線タグ等を交信手段として使うこと
供,急加速減速の繰り返しなどの無駄な燃料消費の
も試行中である。
有無を判断した上での運転者への警告も,民間のサー
ビスとしては,行われているのが現状である。
ちなみに,現在,交通流情報と呼ばれる幾多の情報・
データは,それぞれの官民の事業体により,個別に
収集形成され,活用されているのが実態である。そ
の情報・データの収集・管理には莫大な費用が計上
されてはいるものの,個別単位では質・量的に完全
なものとは言い難いのも事実であり,それらの情報・
データを共通に使い,新たなサービス,社会貢献に
つなげるための検討を行っている(図8)。
図6 ITSスポットからの情報提供サービス事例
(出典:国土交通省)
情報管理 vol. 56 no. 6 2013
339
情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.6
Journal of Information Processing and Management
September
http://johokanri.jp/
(2)災害時等の取り組み(官民連携による通行実績・
通行止情報の提供)
前述の取り組みを進める中で,2011年3月に発生し
た東日本大震災時に,民間各社が収集した車両の通
行実績データ(プローブ情報)を集約し,前日24時
間に車両が通行した道路の情報としてインターネッ
ト上で公開した。さらに,通行実績があっても通行
止めの道もあるため,国土地理院が取りまとめた通
行止め情報も同一地図上に重ねて表示すること等,
官民が連携することにより情報の正確性を高め,イ
ンターネット上で情報提供した(図9)。これらの情
報は,現地での移動や東北地方への救援物資の輸送
等,東日本大震災時の救援,復興に貢献することが
図9 通行実績・通行止情報の例
(出典:ITS Japan,地図データ:©2011 ZENRIN)
できた。
3.これからのITSの取り組み
情報の提供が,これからのITSの鍵となる。
3.2自動運転技術への関心の高まり
3.1持続可能なモビリティの実現
これまで述べてきたように,ファーストステージ,
340
1990年代から自動運転の技術開発と実証実験が日
米欧でそれぞれ行われてきた。日本では,愛・地球
セカンドステージで進めてきたI T S技術の開発をもと
博(2005年)に自動隊列走行のバスが会場内の旅客
に,これからはあらゆる人がいつまでも社会に参加
輸送に使用された。しかし,一般車両との混在環境
し,活力に満ちた健全で豊かな暮らしを営んでいけ
で自動運転を実用化することは困難と考えられてき
る持続可能なモビリティの実現が不可欠である(図
た。しかし,ここ数年,実用化を視野に入れた自動
10)
。地球温暖化,少子高齢化が進む中,交通弱者に
運転プロジェクトが活発化してきた。
やさしい高度運転支援システム(自動運転)と,ビッ
日本では,低炭素交通社会を実現するためのエネル
グデータによるダイナミックでリアルタイムな交通
ギー ITSプロジェクト(2008年~2012年)において,大
図8 交通流情報の共通基盤(出典:ITS Japan)
図10 実用化・普及の進展と新たな課題への挑戦
(出典:ITS Japan)
オープンITS(Intelligent Transport Systems)が拓く未来
型トラックの隊列自動走行の開発が行われた(図11)
。
するところは,行政機関や報道機関など情報を容易
欧州では,Aachen工科大学(ドイツ)のトラックの自
に入手できるような社会の実現であった。初期のイ
動隊列走行KONVOI(2009年)
,トラックに乗用車が追
ンターネットの普及は,まさにその役割を担った。
従走行するSARTRE(2012年)などの公道実験が行われ
しかし,今日的に重要な意味は,情報発信において
た。
も個人が行政機関や大企業と対等の影響力を持った
米国では,PATH(Partners for Advanced Transit
ことにある。東日本大震災において個人発の情報と
and Highways)がワシントンD.C.で路線バスの自動
それを結びつけるネット上のコミュニティーの力が
運転(2003年),ネバダ州でトラックの隊列走行(2011
多くの人々の支えになり行政機関の救援活動にも活
年)などを行った。また,軍事研究の一環で,Urban
用された。それ以来,個人発の情報・解析の研究が
Challenge(2007年)と銘打った市街地での乗用車の
加速し,報道機関も活用するようになった。悪意の
完全自動運転コンペティションが行われた。市販車
情報流通が社会的混乱を招いたり個人情報が流出し
両の改造で技術的に実現可能であることが実証され
たりするリスクに対策をとりながら,「個」の力を活
た。その成果を活用して,G o o g l e社が各地で公道走
かすことが期待される。
行試験を行っている。
このように制御技術が高度化する中で,車両の高
度運転支援技術,車車間・路車間協調技術を融合し
3.4公共データのオープン化
先進各国では,公的機関の持つデータを公開し,
て,安全性の向上やエネルギー効率の向上を実現す
他の行政機関や民間の利用を促進する方向に動いて
べく政府プロジェクトが計画されている。米国連邦
いる。
運輸省は,前述のように自動運転を含む高度運転支
欧州は,欧州連合域内活動のシームレス化による
援の開発・実用化Road Vehicle Automationを次期ITS
巨大経済圏としての国際競争力強化を目指してき
Strategic Plan(2015年~2019年)に織り込む見込み
た。社会活動を支える交通においても,あらゆる交
である。日本では,2012年度からオートパイロット
通手段が国境を越えてシームレスにつなぐ効率的な
研究会を開催し,行政,有識者,自動車メーカーで
マルチモーダル交通の実現に力を注いできた。その
検討を重ね,新たな高度運転支援のあり方を検討し
ために,加盟各国の官民の交通機関が持つデータの
ている(図12)
。
標準化と相互利用を促進してきた。すでに公開され
た情報をスマートフォンのプラットフォーム上で活
3.3個人の発信力
従来,一般市民にとっての「情報化社会」の意味
衝突安全‒
予防安全・運転支援‒
自律型‒
s0001 (車両組込)‒
図
1~13(12
除く).doc
シートベルト‒
衝突被害軽減制動‒
エアーバッグ‒
車間距離・速度制御‒
4
乗員保護‒
車線維持制御‒
ボディー構造‒
高度運転支援‒
完全自動運転‒
縦横制御‒
製品化済み・普及段階‒
車群制御‒
隊列走行‒
情報提供・警報‒
協調型‒
(路車・車車)‒ 前方障害物‒
合流支援‒
ダイナミック・ルートガイダンス‒
広義の自動運転が含まれる領域‒
図 11 自動隊列走行システム
図11 自動隊列走行システム(出典:日本自動車研究所)
図12 安全装備・運転支援技術の進展(出典:ITS Japan)
(出典:日本自動車研究所)
情報管理 vol. 56 no. 6 2013
341
情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.6
Journal of Information Processing and Management
September
図 12
http://johokanri.jp/
安全装備・運転支援技術の進展
(出典:ITS Japan)
用した多様なサービスが提供されている。
米国では,公的機関の保有する情報は可能な限り
公開し,民間活用を促すことによって,市民に対し
てよりきめの細かい多様なサービスが提供され,新
たな情報提供ビジネスが次々に生まれている。新産
業育成の経済効果も現れている。
日本でも,I T戦略本部でオープンデータ戦略が策
定され動き出した。I T S J a p a nでは,行政機関の交通
情報と民間のプローブ情報を相互利用するための共
通基盤構築やそれをクラウド的に地方自治体が活用
する「地域I T S情報センター」の構築などを提言(図
図13 地域ITS情報センター構想(出典:ITS
Japan)
図 13 地域 ITS 情報センター構想
(出典:ITS Japan)
チャンスととらえなければならない。
13)してきたが,いよいよ実現に向けた活動を展開
する時が到来した。
3.6おわりに:Open ITS to the Next
高度運転支援システム(自動運転)は,機械が人
3.5今後の取り組み
に合わせる「優しい自動車社会」の実現を可能にす
これまで述べてきたように,技術革新や急速な普
る。また,ビッグデータの活用により,地域への迅
及により競争力の鍵を握る分野がインフラや車両と
速な情報提供やCO2排出量の可視化,災害への速やか
いったハードウェアから電子制御技術や情報処理へ
な対応が可能となる。高度運転支援システムと交通
と移り,主役が行政機関や大企業からベンチャーや
のビッグデータをプラットフォームとして,新しい
個人に移りつつある。また,交通を単独で考えるの
価値を持つ交通社会が誕生する。この新たな交通社
ではなく,国際競争力向上,地域の活性化,個人の
会の誕生が,2013年10月に開催する第20回ITS世界会
多様性を活かすことができる豊かな社会づくり,と
議注5)のテーマである「Open ITS to the Next」であ
いった大きな目標を達成するための手段として総合
る。この世界会議が交通社会の次のステージへの扉
的にとらえる必要がある。
を開けることと確信する。多くの方々に参加いただ
すなわち,進化を続けるI T S技術を駆使して新たな
価値を生み出すことによって豊かな社会づくりに貢
き,皆さんと経験やアイデアを共有し大いに議論す
る場としていきたい。
献し,従来の事業領域を超えたビジネスを創出する
本文の注
注1) ITS Japan. http://www.its-jp.org/
注2) 道路システム高度化推進機構. ETC総合情報ポータル. http://www.go-etc.jp
注3) 国土交通省. ASV(先進安全自動車).https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/01asv/index.html
注4) 一般社団法人UTMS(Universal Traffic Management Systems)協会. http://www.utms.or.jp/japanese/
system/index.html
注5) 第20回ITS世界会議東京2013. http://www.itsworldcongress.jp/japanese/
342
オープンITS(Intelligent Transport Systems)が拓く未来
参考文献
1) 日本経済再生本部. “日本再興戦略”. 2013, http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/saikou_jpn.
pdf, (accessed 2013-7-23).
2) 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(I T総合戦略本部).“世界最先端I T国家創造宣言”. 2013,
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20130614/siryou1.pdf, (accessed 2013-7-23).
3) 内閣府. “科学技術イノベーション総合戦略”. 2013, http://www8.cao.go.jp/cstp/sogosenryaku/, (accessed
2013-7-23).
4) 国土交通省. “ITS全体構想”. http://www.mlit.go.jp/road/ITS/j-html/5Ministries/, (accessed 2013-7-23).
5) 国土交通省. “人とクルマの調和による安全安心な交通社会を目指して”. http://www.mlit.go.jp/jidosha/
anzen/01asv/resourse/data/asv5pamphlet.pdf, (accessed 2013-7-23).
6) 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)
. “IT新改革戦略”. 2006, http://www.kantei.
go.jp/jp/singi/it2/kettei/060119honbun.pdf, (accessed 2013-7-23).
参考資料
a) 国土技術政策総合研究所. 高度道路交通システム. http://www.nilim.go.jp/japanese/its/index.htm
Author Abstract
The 20 ITS World Congress Tokyo 2013 is going to be held in this October under the theme of "Open ITS to the
Next". Next-generation ITS will address a variety of traffic-related issues, including the environment, energy,
safety and efficiency. In addition, it will contribute to enhance quality of life while answering society's need
for accurate and prompt responses to disasters and other unexpected events. ITS is required to be the base
for offering opportunities to the players across the fields in global scale, and bring the network society with a
common platform structure to enhance the local/regional collaboration.
Key words
intelligent transport systems, ITS, probe, infrastructure cooperative driving safety support system, driving
safety support systems, DSSS, ITS spots, automated driving, big data
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343
情報管理
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vol.56 no.6
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September
日本の番号制度(マイナンバー制度)の
概要と国際比較
個人識別子と行政統制の視点から
Brief overview and international comparison of the identification number system of
Japan
近藤 佳大1
KONDO Yoshihiro1
1 みずほ情報総研株式会社 経営・I Tコンサルティング部(〒101-8443 東京都千代田区神田錦町2-3)E - m a i l : y o s h i h i r o .
[email protected]
1 Management & IT Consulting Division, Mizuho Information & Research Institute, Inc.(2-3 Kanda-Nishikicho Chiyoda-ku, Tokyo
101-8443)
原稿受理(2013-06-28)
情報管理 56(6), 344-354, doi: 10.1241/johokanri.56.344 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.344)
著者抄録
第 183 回国会において成立した「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」の検討
経緯および概要を解説するとともに,行政機関の間で個人番号を用いて情報交換を行うに際しての行政統制のあり方
と 3 種類の個人識別子(見える番号,連携符号,認証識別子)の利用に伴うプライバシーインパクトについて国際比
較を試みた。具体的には,分野によらず共通の番号を用いるフラットモデルの代表国として米国,分野毎に異なる番
号を用いながら分野間での連携を可能とするセクトラルモデルの代表国としてオーストリアとの比較を試みた。
キーワード
マイナンバー,個人番号,共通番号,識別子,プライバシー,番号法,データ共有,データマッチング,情報連携,
情報提供ネットワークシステム
1. はじめに:番号法案成立までの
経緯概要
番号の導入も規定されている)
。番号制度が始まると,
住所地の市町村から各人の個人番号が記載された通
知カードが送付される。
344
2013年5月24日,第183回国会において「行政手続
番号制度はもともと,納税者番号制度として検討
における特定の個人を識別するための番号の利用等
が進められてきたものである。自由民主党・公明党
に関する法律(番号法)」が成立した。番号法は,日
は,「平成21年度(2009年度)税制改正大綱」におい
本の住民1人1人に固有の番号(個人番号)を付番す
て,
「与党内に納税者番号に関する検討会を立ち上げ,
る番号制度を導入する法律である(そのほかに法人
制度の導入に向けて精力的に議論を行うこととする」
日本の番号制度(マイナンバー制度)の概要と国際比較
とした1)。また,民主党は同時期の2008年12月に「民
月の「社会保障・税番号大綱」
,12月の「社会保障・
主党税制抜本改革アクションプログラム―納税者の
税番号制度の法律事項に関する概要」を経て,第180
立場で『公平・透明・納得』の改革プロセスを築く―」
回国会に「行政手続における特定の個人を識別する
において,「真に手を差し伸べるべき人に対する社会
ための番号の利用等に関する法律案(マイナンバー
保障をより手厚くするために,正しい所得把握体制
法案)」が提出された。同法案は,継続審議ののち廃
の環境整備が必要不可欠であり,そのためには番号
案となったものの,第183回国会に再提出され,2013
制の導入が必要と考える。このような考え方に立ち,
年5月24日に成立した。
社会保障給付と納税の双方に利用できる番号制度の
早急な導入を進める」とした2)。
番号法につながるもう一方の流れは,IT新改革戦略
2. 前回法案からの変更点と本国会での修
正内容
政策パッケージ(2007年4月5日I T戦略本部決定)お
よび重点計画ー2007(2007年7月26日I T戦略本部決
第180回国会の法案と第183回国会で成立した法律
定)にもとづき次世代電子行政サービス基盤等検討
の主な違いは,理念や努力規定を除くと,本則にお
プロジェクトチームがまとめた「次世代電子行政サー
いては,①通知カードの導入と②国の機関と民間事
ビス(eワンストップサービス)の実現に向けたグ
業者による個人番号カードの記憶領域の利用の2点で
ランドデザイン3)」である。同グランドデザインは,
ある。
2010年5月の「新たな情報通信技術戦略」における
第180回国会では市町村は単に個人番号を通知する
「社会保障・税の共通番号の検討と整合性を図りつつ,
とされていたが,持ち運びに便利な番号通知カード
個人情報保護を確保し府省・地方自治体間のデータ
が全員に配布されることとなった。ただし,顔写真
連携を可能とする電子行政の共通基盤として,2013
は掲載されていないため,本人確認には運転免許証
年までに国民I D制度を導入する。(中略)各種の行政
等の別の書類が必要になる(番号通知カードを本人
手続の申請等に際して,すでに行政機関が保有して
の希望により個人番号カードに切り替えた場合には,
いる情報については,原則として記載・添付が不要
顔写真が付いているため,個人番号カードだけで本
となるよう行政機関における適切な情報の活用を推
人確認が可能である)
。
進する4)」との決定につながっていると考えられる。
②の記憶領域については,現行の住民基本台帳カー
前々段落に記載したように主に納税者番号制度と
ドでは独自利用できるのは市区町村だけであったの
して検討されてきた番号制度は,2010年2月から5月
に対して,政令で定めることにより都道府県,国の
にかけて内閣官房国家戦略室において開催された「社
機関,民間事業者でも独自利用が可能となった。
会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」にお
前回法案との主要な変更点は,将来に関する附則
いて,前段落に記載したIT戦略として検討されてきた
といえる。法律の施行後1年を目途に情報提供等記
バックオフィス連携・国民I D制度を取り込み,現在
録開示システム(マイ・ポータル)を提供すること,
の番号法につながる基本的な方向性が形作られたと
マイ・ポータルの民間での活用を視野に入れること
考えられる。その方針は,パブリックコメントを経て,
を明示するなどの変更が行われた。
政府・与党社会保障改革検討本部が2011年1月31日に
第183回国会での審議では,附則に「政府は,給付
決定した「社会保障・税に関わる番号制度について
付き税額控除(給付と税額控除を適切に組み合わせ
の基本方針」に結実した。
て行う仕組みその他これに準ずるものをいう。
)の施
その後,2011年4月の「社会保障・税番号要綱」,6
策の導入を検討する場合には,当該施策に関する事
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務が的確に実施されるよう,国の税務官署が保有し
このような行政機関間の情報連携を容易とするた
ない個人所得課税に関する情報に関し,個人番号の
めに,番号法は以下の3つの仕組みを導入している。
利用に関する制度を活用して当該事務を実施するた
(1)本人を一意に識別できる個人番号を導入する
めに必要な体制の整備を検討するものとする」
(附則
第6条第7項)との記載が追加された。この背景には,
「国税当局はこれまで納税義務のない者に対する給付
(第7条等)
。
(2)行政機関間の情報を連携する情報提供ネット
ワークシステムを整備する(第21条等)
。
事務を行っておらず(中略)税制の中に給付事務を
(3)行政機関は情報提供ネットワークシステムを
組み入れるとなると,地方自治体と各種データをい
通じて他の行政機関に情報提供を求めることが
かに連携して共有するかが課題となる5)」という背景
でき,求めを受けた行政機関は情報を提供する
がある。このように,社会保障制度と税制度の改革
ことを義務とする(第22条第1項)
。
を一体として進めていくためには,地方自治体と国
情報提供ネットワークシステムにより情報提供の
の機関の間での情報連携を進めていく必要がある。
求めを受けた行政機関は,本人の同意を得ることな
また,多くの金融資産を保有する者にまで給付を行
く情報を提供することができ,また提供しなければ
うことがないように,「番号による法定調書の導入を
ならない。
行うことで金融所得を捕捉できるようにする必要が
ただし,行政機関間の情報連携には個人番号は直
ある6)」と考えられている。このように「番号という
接利用されない。このことについては,番号法に明
課税インフラは不可欠である」との考えから,番号
示されていない(番号法では第2条第8項の定義にお
制度は導入されたといえる。附則の追加により,こ
いて,「個人番号に対応し,当該個人番号に代わって
の点がより明確にされたといえよう。
用いられる番号,記号その他の符号」とされている
3. 番号法のポイントと情報連携の仕組み
のみである)ものの,情報連携基盤技術ワーキング
グループにおける議論などをとおして,直接利用し
ないものとされている。
国や地方自治体の行政機関の間での情報連携の拡
346
政府の社会保障・番号制度のW e bページに2013年
大,効率化が求められていることについては,例え
4月9日に掲載された資料8) によると,図1のとおり,
ば三鷹市長が国会審議のなかで,「今現在,市民税の
他の行政機関から情報を取得した行政機関(情報照
課税の時期でございまして,そうであれば,国税連
会機関A)は,まず個人番号に対応する符号Aを情報
携は電子的にできておりますので確定申告のデータ
提供ネットワークシステムに送信する(①)
。情報
は電子的に届いているんですが,しかし,それが今
連携基盤はそれを情報提供機関B用の符号Bに変換し
私たちが持っております市民の皆様のデータと一致
(②),情報提供機関Bに送信する(③)。情報提供機
するのは難しいので,結局人海作戦で,臨時職員な
関Bは符号Bから対象となる本人を特定しその情報を
どを雇いまして,その住所,氏名,年齢と突合させ
情報照会機関Aに送信する(⑤)
。
ながら賦課をしている現状があります7)」と述べてい
情報の照会頻度が極めて少なければこれだけでも
るとおりである。個人番号がなくても情報連携は可
照会回答が可能であるが,複数の照会を同時並行的
能であるが,そこには多大な人件費が発生している
に行った場合には,情報を取得した情報処理機関Aは,
のである。番号制度の導入によりこの費用が削減さ
誰の情報かわからなくなる。そのため,情報提供ネッ
れれば,給付付き税額控除のような新制度の導入も
トワークは当該照会回答処理を特定するための識別
行いやすくなる。
情報(トークン)を発行し,情報照会機関Aと情報提
日本の番号制度(マイナンバー制度)の概要と国際比較
情報照会・提供の基本的な流れ
個人番号カード
マイ・ポータル
自己情報
表示機能
プッシュ型
サービス
インターネット
生年月日 ○年□月△日 性別 女
氏
名 番号花子
住
所 △県○市□町1‐1‐1
個人番号カードによる
公的個人認証
情報提供等 ワンストップ
サービス
記録開示機能
照会したい特定個人情報名
と「符号A」を送信
特定個人情報
保護委員会
情報保有機関Aでは個人番号Xに
対して符号Aが割り当てられている
情報提供ネットワークシステム
②
照会機関の
符号Aを提供機関
の符号Bへ変換
情報提供ネット
ワークシステム
及び
情報照会・提供
機関に対する
監視・監督など
①
情報提供記録
符号A
符号A
利用番号A
紐付
特定個人情報を
⑤
利用番号C
霞が関WAN情報照会機関へ
符号C
符号C
直接送信
紐付
LGWAN等
個人情報
基本4情報
個人番号X
アクセス記録
情報照会機関A
情報提供
を許可し
符号同士を
紐付ける
仕組み
個人
個人情報
基本4情報
アクセス記録
情報照会・提供機関C
情報保有機関Bでは個人番号Xに
対して符号Bが割り当てられている
市町村が付番
符号B
③
符号B
照会したい特定個人情報名
と「符号B」を送信
紐付
情報提供機関B
利用番号B
④
個人情報
基本4情報
該当する特定
アクセス記録
個人情報を抽出
個人番号X
住民基本台帳
地方公共団体情報システム機構
公的個人認証
サービス
住基ネット
個人番号
生成機能
図1 情報連携の仕組み
供機関Bの両者に伝える。この識別情報(トークン)
情報連携の対象となる個人情報につき情報保有機関
を含めて情報提供機関Bは情報を情報照会機関Aに送
のデータベースによる分散管理とし,(b)情報連携基
付することで,情報照会機関Aは受信した情報が符号
盤においては,『民ー民ー官』で広く利用される『番
Aに対応するものであることがわかる。
号』を情報連携の手段として直接用いず,当該個人
4. 個人番号を直接情報連携に用いない
背景
を特定するための情報連携基盤等及び情報保有機関
のみで用いる符号を用いることとし,(c)さらに当該
符号を『番号』から推測できないような措置を講じる」
こととされた。
情報連携基盤技術ワーキンググループの「中間と
また,最高裁判決を考慮しないとしても,
「個人番
りまとめ9)」によると,個人番号を用いて行政機関間
号を連携に用いることはセキュリティ・プライバシー
で情報連携を行わない理由は,大きく2つ存在する。
影響度が非常に大きいことから問題である」という
第1の理由は,住民基本台帳ネットワークシステム
意見が情報連携基盤技術ワーキンググループでは多
(住基ネット)にかかわる最高裁合憲判決10)において,
かったという背景もある。
住基ネットが合憲である前提として「行政事務にお
第2の理由は,今後の拡張性の観点である。
「
『番
いて取り扱われる個人情報を一元的に管理すること
号』を保有する情報保有機関と,例外的にそれ以外
ができる機関又は主体は存在しない」ことが指摘さ
の番号を保有する情報保有機関との連携も視野に入
れていることである。そのため,情報提供ネットワー
れなければならないことから,情報連携の際には,
『番
クシステムも合憲であることを担保するため,
「
(a)
号』を,個人を特定するための共通の識別子として
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用いることができず,当該個人を特定するための情
あるが,複数の番号を用いることにするとそれだけ
報連携基盤(筆者注:情報提供ネットワークシステ
情報提供ネットワークシステム側で対応しなければ
ムのこと)等及び情報保有機関のみで用いる符号を
ならない対象番号が増加する)
。
識別子として用いる」こととされた。民間商用利用
では将来にわたり個人番号の利用は認められないこ
6. 国際比較:各論
とも考えられ,その場合も行政機関との情報提供ネッ
トワークを経由した情報連携を可能とするためには,
現時点から個人番号を直接利用しない連携方式を確
立しておくことが効率的と考えられる。
5. 共通番号が必要な理由
6.1 米国との比較
このような日本の番号制度は,他の国の制度と比
べてどのような特徴を有しているのだろうか。まず,
分野によらず共通の番号を用いるフラットモデルの
代表国である米国と比べてみたい(フラットモデル
の国としては米国のほか,スウェーデン,韓国など
このように行政機関間の情報連携に個人番号を用
が有名である)
。
いないにもかかわらず個人番号が導入された理由は
何だろうか。
348
6.1.1 米国の見える番号との比較
それは第1に,同一行政機関内でのデータマッチン
米国においては,社会保障局(S o c i a l S e c u r i t y
グ(複数のシステムのデータを突き合わせて照合する
Administration)が発行する社会保障番号(SSN)が
こと)に用いるためである。番号法は第9条において
複数分野で用いられる実質的な共通番号となってい
「個人情報を効率的に検索し,及び管理するため」に
る。もともと社会保障分野において個人を特定する
個人番号を利用するとしている。国税庁等,これまで
ための番号であるが,銀行口座やクレジットカード
届出・申請書類に記号・番号の記載を求めてこなかっ
を作成する際にも必要になるなど,官民に共通する
た行政機関は,この目的が主となると考えられる。
共通番号となっている。税の確定申告にも用いられ
第2に,各人のデータを符号と正確に結び付けるに
ている。個人用納税者番号(ITIN)も存在するがSSN
は,番号が必要となるという理由が考えられる。符
を申請できない者のためであり,基本はSSNである。
号の値は情報提供ネットワークシステムが定めるも
米国ではこのようにS S Nが幅広く用いられ,また
のであり,各行政機関は各人の符号を情報提供ネッ
S S Nの下4桁を知っていることを本人確認の手段とし
トワークシステムから入手する必要がある。その際
て用いることが広く行われてきたことなどから,SSN
に個人番号を用いて対象者を特定することが想定さ
を利用した成りすましが大きな問題となってきた。
れる。それは,氏名や住所だけでは対象者の特定に
そのため,例えば大統領令13402により身元詐称
間違いが生じる可能性があるからである。また,間
タスクフォースが構成されるなど,米国連邦政府は
違いが生じないようにしようとすると多大な人件費
成りすまし問題に取り組んできている。具体的には,
がかかる。
政府機関ではできるだけS S Nを利用しないようにシ
こうしたことから,符号を用いて機関間で情報連
ステムを更新するなどの対策を行っている。健康保
携する場合にも,国民が自ら記入でき,また見る(知
険証(Medicare Card)からSSNの記載を取り除く検
覚する)ことができる「見える番号」,すなわち個人
討なども進めている。また,SSNの印刷やSSNを認証
番号は非常に有用と考えられる(必ずしも1つの番号
に用いることを禁止する法律を制定する州も存在す
に集約する必要はなく複数の分野別番号でも可能で
る。しかし,民間での商用利用を禁止するまでには
日本の番号制度(マイナンバー制度)の概要と国際比較
至っていない状況にある。
これに対して日本の番号制度は,一般民間企業(年
し,対象となるのは給付を伴うもののみであり,税
務目的の場合は対象外である)
。
金関係等は除く)が個人番号を個人識別に利用する
②の官報公示によれば,2011年には48件の新たな
ことを禁止している(激甚災害時に保険支払い対象
報告が行われている12)。連携を行っているデータ項
者を検索するためなどには用いることができる)。識
目を報告している機関は一部に限られるが,SSNを用
別・データマッチングに個人番号を利用できるのは
いて対象者を特定していることがわかる。
行政機関に限られる(かつ,番号法に記載されてい
日本の番号制度と米国の制度を比較すると,①米
る事務に限られていることから,新たに利用を開始
国においては共通番号であるSSNを用いて連携が行わ
するには,番号法自体の改正が必要であり,他の法
れているのに対して,日本では前述したように機関
律の改正だけでは十分ではない)。
毎に異なる符号で連携されること。②米国では連携
また,行政機関の利用においても,米国のように
毎に費用対効果分析が行われ,その実施の是非が検
成りすまし問題が広がらないように,写真つきの身
討されるのに対して,日本では番号法により一括し
分証明書で本人確認を行うことが必須とされる予定
て連携が可能とされる(ただし,連携の実施には主
である(第16条)。
務省令の制定が必要であり,その意味では連携毎に
このように米国と日本では共通番号の利用可能な
範囲が大きく異なる。
検討が行われる)こと。③米国では一括(バッチ処理)
でデータを提供し受け取った機関でマッチングを行
う場合が多いのに対して日本では対象者を符号で特
6.1.2 米国の機関間情報連携制度との比較
次に,行政機関間の情報連携・データマッチング
について,日米間の制度比較を行ってみたい。
米国では,連邦機関における個人情報を対象とし
定して情報提供が依頼される(その実現のための情
報提供ネットワークシステムが構築される)こと。
④米国では本人への通知が必要であるが,日本では
必要ないことなどの違いがあることがわかる。
た自動処理(データマッチング処理)がプライバシー
に与える影響の懸念が増加してきたことを受け,連
6.2 オーストリアとの比較
邦議会技術評価局(O TA)が1986年に連邦機関間で
次に,セクトラルモデル(分野により異なる番号
情報共有がどのように行われているのかの調査結果
を用いる方式)の代表国であるオーストリアの番号
11)
。そこでは,「新たな電子技術に
を報告している
制度との比較を行っておきたい。
より,プライバシー法の保護が蝕まれてきている」
と結論づけ,議会に連邦機関への監視強化等の提言
6.2.1 オーストリアの見える番号との比較
を 行 っ た。 こ う し た こ と も あ り, 議 会 は1988年 に
オーストリアにおいては,書類等に記載する見え
The Computer Matching and Privacy Protection Act
る番号として税番号と社会保険番号(S I N)が存在す
(CMPPA)によりプライバシー法の改正を行った。
C M P P Aでは,情報連携を行う場合には,①文書で
契約を締結しなければならないこと,②官報(Federal
る。税番号は「税務のための可視性の識別番号13)」で,
「国税庁から国民へ送られる公的文書にも,当該人の
税番号が記載されている13)」。
Register)に公示しなければならないこと,③本人に
S I Nは,もともと社会保障分野の番号であるが,米
データマッチングを行うことを伝えなければならな
国同様に税分野でも用いられており,例えば,
「赤十
いこと,④行政管理予算局(O M B)および議会に報
字社に寄付した者が自己のS I Nを赤十字社に申告(記
告しなければならないことなどが定められた(ただ
載)し,同社は同寄付者のS I N及び寄付額について税
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務当局に届け出る14)」といったことが行われている。
オーストリアでは,電子申請のために市民カード
確定申告にも米国と同様に税番号ではなくS I Nが用い
(Citizen Card)が用いられる。市民カードを用いた
電子申請では,分野別に異なるssPIN(sector specific
られる。
一方で,米国と異なる点もある。それは,SINが,
「生
Personal Identification Number)と呼ばれる番号が用
年月日を含む表意番号であることから,医療,税金,
いられる。異なるssPINを用いる分野としては,2013
教育,労働保険等のように利用可能な範囲が法律で
年現在,労働,統計,教育研究等,26の分野が定め
制限されている
13)
」点である。この点で,オースト
リアのS I Nは,日本の個人番号と非常に近い。すなわ
られている16)。
ログイン認証時のs s P I Nの仕組みを示すと,図2の
ち,法律によって利用可能な範囲が制限されており,
ようになる。市民カードの中には,s s P I Nを計算する
その利用範囲の中心が税と社会保障という点である
ための基になるソース,P I N・氏名・生年月日・電子
(ただし日本の個人番号は無作為に生成されるもので
証明書の公開鍵などから構成されるIdentity Linkと電
あり,生年月日のような意味のある内容は含まない
子証明書,署名を作成するための秘密鍵などが保存
という点が異なっている)。
されている。ブラウザからW e bサイトにログインす
る際には,市民カードからIdentity Linkの情報が読み
6.2.2 オーストリアの機関間情報連携制度
だされ,Webサイトに送信される(②)
。Webサイト
オーストリアでは,共同利用システムを用いた情
では,Identity Linkに含まれるソースPINからssPINを
報連携を行う場合には,データ保護委員会が事前審
計算し(③),以後,ユーザーを識別するために用い
査を行うこととなっている(個人データ保護法第18
る。その後,W e bサイトはユーザー認証のために署
条)。しかしながら,税と社会保障の共通番号となっ
名を求め(④),その有効性を確認することで(⑥)
,
ているS I Nを用いた情報連携に対する特別な規制は行
端末上
われていない15)。各々の法律にもとづいて,行政機
関は情報連携を行っている。情報連携にあたっては,
市民カード環境
Webサイト
ブラウザ
情報交換を行う情報のカテゴリー,突き合わせに用
いる情報のカテゴリーをデータ保護委員会に通知す
る必要があるが,米国のように広く国民に官報で公
ログイン
要求
示するようなことは行っていない。また,日本のよ
Identity Link
読取りページ生成
中継
うに,見える共通番号に特化した法律が存在する状
況にもない。
①
②
Identity
Link送信
ソースPIN
公開鍵 等
③
ソースPINから
ssPIN計算
6.2.3 オーストリアのログイン認証制度
④
オーストリアでは,日本や米国と同じく社会保障
と税の分野で共通の番号,すなわちS I Nが用いられて
署名対象
署名要求
⑤
署名送信
署名
電子証明書
⑥
いるにもかかわらず,なぜセクトラルモデル(分野
署名・電子証明書
有効性確認等
により異なる番号を用いる方式)の国といわれてい
るのであろうか。それは,目に見えないオンライン
⑦
ログイン
許可
利用におけるユーザーの識別子においてセクトラル
モデルが採用されているからである。
350
図2 オーストリア市民カードのログイン認証の仕組み
図2 オーストリアのssPINの仕組み
日本の番号制度(マイナンバー制度)の概要と国際比較
ログインが許可される(⑦)。
National Strategy for Trusted Identities in Cyberspace:
すべての分野に共通であるソースP I Nは,市民カー
N S T I C)19)」において,民間の認証サービスを活用す
ド以外に保存することがe-Government法17)により
る戦略が打ち出されている。2013年6月3日現在,保
禁止されており,ソースP I Nを受け取った行政機関は
証レベル4で認定を受けているサービスが8つ,保証レ
それを保存することはできず,廃棄する必要がある。
ベル3で認定を受けているサービスが2つ存在する20)。
民間事業者の場合は,ソースP I Nからs s P I Nを自ら
計算することが禁止されており(第12条第4項),民
6.2.4 オーストリアの情報連携用符号
間事業者用のssPINの生成は端末側で実施される18)。
ssP INを本人や他の組織に提供することは第11条で
また,民間事業者用s s P I Nは事業者単位であり,他事
原則禁止されており,s s P I Nは行政機関間での情報連
業者用s s P I Nを利用したり保存したりすることは禁止
携のために整備された番号では必ずしもないが,必
されている。
要に応じて行政機関間での情報連携のために使うこ
日本の場合,公的個人認証法の改正により利用者
とができることが第10条第2項において規定されてい
証明認証業務が追加され,個人番号カードを用いた
る。暗号化してs s P I Nを提供することにより,異なる
ログイン認証が可能となる(民間でも利用可能とな
分野のs s P I Nを行政機関が知ることはできなくしてい
る)。これは,オーストリアと同様に電子署名を用い
る(第13条第2項)
。2011年には,1,757万件の暗号化
た方法であり,この点ではオーストリアと同様であ
ssPINによる情報連携が行われている21)。
る。ただし,日本の場合には,s s P I Nのような分野毎
日本の方式と比べると,日本の場合には行政機関
(公共の場合)
,組織毎(民間の場合)の識別子を導
毎に異なる符号が用いられるのに対して,オースト
入する予定は公表されていない。電子証明書に記載
リアの場合には異なる機関であっても同じ分野であ
されている値(シリアル番号)を直接用いてログイ
れば同じs s P I Nが用いられる。このため,日本の方が
ン者が識別されることになると考えられる。このた
よりプライバシーリスクが小さい方式となっている
め,ログイン認証機能の民間利用に関しては,事業
と考えられる(ただし,個人番号を保有しているこ
者毎に異なる識別子が提供されることから,オース
とからその効果は小さいという意見もある22)。また,
トリアの方式の方がプライバシーに配慮した方式と
日本の方式は情報提供ネットワークシステムにおい
なっていると考えられる。
て符号間の変換が可能であるのに対して,オースト
また,カードの提供形態も日本とオーストリア
で は 異 な っ て い る。 オ ー ス ト リ ア の 市 民 カ ー ド
は,e-Government法にも「論理的ユニット(e i n e
logische Einheit: a logical unit)」と規定されており,
リアはs s P I N間の変換が原理的に不可能な方式を採用
しており,その面ではセキュリティレベルが高い)
。
7. 国際比較のまとめ:識別子の観点から
民間を含めさまざまな主体が提供することができ
る。実際,キャッシュカード,健康保険証,携帯電
上記の米国,オーストリアと日本の比較を図3に示
話等が市民カードとして利用されている。それに対
した枠組みで整理すると,表1のようにまとめられよ
して日本の個人番号カードは市町村が交付するもの
う。表1では,書類に記入する「①見える番号」
,行
である(ただし,附則第6条第6項において,より簡
政機関間のシステム間連携で対象者を特定するため
易化することを検討することが規定されている)
。
の「②連携符号」,インターネットで行政手続き等を
ちなみに米国では,
「サイバースペースにおける信
頼できるアイデンティティのための国家戦略(T h e
行う場合のログイン者を識別するための「③認証識
別子」という3つの観点から整理を行っている。
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vol.56 no.6
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まず認証識別子については,行政機関や民間企業
にかかわらず同一識別子が用いられるため,現状は2
国に比べてプライバシーへの影響が大きい制度設計
になっていると考えられる。これは,経費抑制等の
面から公的個人認証制度という従来の法制度を継続
することを優先した(技術的には住民基本台帳カー
ドとほとんど同じ仕組みの個人番号カードとしたこ
との)結果と思われる。
図3 各国比較の枠組み
次に連携符号については,法律で明示的に規定さ
れていない点でオーストリアに劣るものの,実質的
いレベルにあると考えられる。
s0002 表 1.doc
な配慮レベルではオーストリアと同等またはより高
最後に,番号法が直接規定する見える番号につい
表1 番号制度の各国比較
表1 番号制度の各国比較
国
考慮点等
アメリカ
オーストリア
日本
SSN
SIN
個人番号
低
中
利用範囲におけるプ
民間を含め幅広く用いられる 税・社会保障分野を中心とし法律で制限される(民間は対象外)
ライバシー配慮
ことからリスクが高い
ドイツのような分野毎の番号を良と評価することとし「中」としている
名称(略称)
① 見える番号
意味の有無における 良
意味は基本的に無い
プライバシー配慮
情報連携利用の観点 低
② 連携符号
低
良
意味有り(生年月日を含む)
意味は完全に無い
中
良
でのプライバシー
配慮
見える共通番号が情報連携に
も幅広く利用されている
見える共通番号の直接利用は禁
止されていないが,分野別 ssPIN
も利用可能
法律に明示されているわけではない
が,見える共通番号の情報連携への
直接利用は実質的に禁止
名称(略称)
なし
ssPIN
符号
良
最良
分野毎に異なる
法律で規定されている
行政機関毎に異なる
(ただし法律での規定はない状況)
市民カード
個人番号カード
なし
あり
情報連携用の識別子は存在し
ない
プライバシー配慮
名称(略称)
なし
写真付き身分証明書
による対面本人確認
機能
③ 認証識別子
オンライン認証機能
行政統制面
なし
あり(民間利用可)
あり(民間利用可)
民間サービスを利用する戦略
物理媒体は任意(民間可)
カードを公的に交付
良
低
分野毎に異なる識別子
同一識別子
(電子証明書のシリアル番号)
利用困難
同一
紐付け可能
機関別に異なる識別子である
ことから,行政機関間の情報連
携に用いることは難しいと考
えられる。電子証明書方式もあ
る
行政機関の情報連携に用いる連
携符号とオンライン認証でユー
ザーを識別するための識別子は
同一のssPIN が用いられる
電子証明書のシリアル番号と情報連
携に用いる符号とは直接関係を有さ
ないが,電子証明書中の氏名住所等
を媒介して情報提供ネットワークに
より相互に関連付けが可能と考えら
れている
必要
必要
連携毎
必要(個別法)
必要(規定あり)
なし
不要
不要
規定なし
必要(個別法)
規定なし
あり
不要
不要
規定なし
必要(番号法一括)
規定なし
あり
識別子におけるプ 良
機関毎に異なる識別子等
ライバシー配慮
オンライン認証識
別子の連携符号と
しての利用
352
写真や氏名の記載は必須ではな 写真で本人確認可能
く,対面の本人確認には免許証, 民間でも利用可能
パスポート等を利用
官報公示
本人通知
費用対効果分析
法に基づく必要
内部役員会
独立委員会
日本の番号制度(マイナンバー制度)の概要と国際比較
ては,ドイツのように見える番号についても分野毎
1月から利用が開始される予定である。行政機関間の
に異なる番号を用いている場合に比べれば劣るもの
情報連携は,国の機関でまず2017年1月に始まり,7
の,米国との比較ではもちろん,オーストリアと比
月からは地方自治体からの情報提供も開始される。
べても日本はプライバシーに配慮した制度設計と
単に提出に必要な書類が削減されるだけでなく,国
なっていると考えられる。
民に便利な電子政府の実現,さらには弱者に優しい
8. おわりに
社会制度改革に番号制度がつながっていくことが期
待される。
なお本稿は,筆者の個人的見解であり,所属組織
個人番号は2015年10月に通知が始められ,2016年
の意見を代表するものではない。
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Abfrage=Bundesnormen&Gesetzesnummer=20003476, (accessed 2013-06-03).
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Bundeskanzleramt Österreich. http://www.ris.bka.gv.at/GeltendeFassung.wxe?Abfrage=Bundesnormen&
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axd?CobId=47839, (accessed 2013-07-22).
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報告. 2013, Vol. 2013-CSEC-61, No. 29, p. 1-8. http://staff.aist.go.jp/takagi.hiromitsu/paper/ipsj-csec61-29takagi-dist.pdf, (accessed 2013-06-03).
Author Abstract
"Law on the use of the number to identify a specific individual in administrative procedures" was enacted in
the 183rd session of the Diet. In this study, we firstly explain the background and a brief outline of the Law.
Then, we make a comparative study of administrative control on the use of identification numbers to share
personal data between governmental agencies and privacy impact associated with the use of identifiers that
consist of visible and writable numbers, codes for data exchange and identifiers that is used for authentication.
More specifically, the comparisons are with Austria as a representative country for the multisectoral model and
with the U.S. as a representative country for the flat model.
Key words
My Number, identification number, common number, identifier, privacy, law for national identification system,
data sharing, data matching, information exchange, information systems for data exchange
354
オープンソースのプログラミング言語Rubyによる地域産業振興
オープンソースのプログラミング言語
Rubyによる地域産業振興
松江から世界へ
Open source programming language Ruby and regional industry promotion from Matsue
to the world
野田 哲夫1
NODA Tetsuo1
1 島根大学法文学部(〒690-8504 島根県松江市西川津町1060)E-mail: [email protected]
1 Faculty of Law and Literature, SHIMANE University (1060 Nishikawatsu-cho Matsue-shi, Shimane 690-8504)
原稿受理(2013-07-01)
情報管理 56(6), 355-362, doi: 10.1241/johokanri.56.355 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.355)
著者抄録
I T 産業において日本発のオープンソースプログラミング言語 R u b y の活用が注目されている。2012 年 4 月には R u b y
はその言語仕様が国際規格 ISO/IEC 30170 として承認された。これによって Ruby の安定性や信頼性が増すと同時に,
R u b y を活用した市場がさらに拡大することが期待される。本稿では,オープンソースがビジネスにつながることを根
拠として,Ruby および Ruby on Rails の特徴とこれが注目される背景,そして島根県松江市で始まったオープンソース
Ruby を活用した地域産業振興の成果と課題について概説する。
キーワード
プログラミング言語,Ruby,地域振興,産業振興,IT産業,オープンソース,オープンイノベーション,松江
1. オープンソースとIT産業
決めることが可能である。オープンソースの開発方
がらん
式に関しては,従来の伽藍(Cathedral)型のトップ
L i n u xに代表されるオープンソース・ソフトウェア
ダウンの開発方式,すなわちスケジュールと役割分
はソフトウェアの設計図であるソースコードが公開
担を明確にし,高層ビルを建設するように開発が進
されているため,インターネットを通じて自主的に
められる方式に対して,Raymond1)によって提唱さ
参加する人材が集まり,ソースコードの不断の改良
れたB a z a a r型の開発方式,すなわち企業や組織の枠
を通じてオープンソース自体やこれを使った新たな
を超えて多くの研究者,開発者,ベンチャー企業な
ソフトウェアやシステムの開発が進められている。
どが自発的に開発に参加する方式によって進められ
また統一した規格や標準化もオープンな場で議論し,
ているとされてきた。この企業や組織の枠を超えた,
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オープンソースのエンジニア=開発者による組織は
「コミュニティー」と呼ばれている。
により1993年に開発され,1995年に公開されたプロ
グラミング言語であり,オープンソースとしてその
このようにコミュニティーで開発されるオープン
設計情報も公開されている。現在では世界で約90名
ソースであるが,これを導入する企業側から見た場
(2013年5月時点)のコミッタ(R u b y自体の開発をし
合,第一の導入理由はコスト削減であり,直接的に
ているエンジニア)がインターネットを通じながら
は導入側の企業の収益を拡大させる。一方,これら
Rubyの開発・改良を続けている。
の企業に対してオープンソースやこれによって開発
R u b yはプログラミング言語のなかでは,P e r lや
したソフトウェアやシステムの供給を行う企業=IT企
P y t h o n,P H Pなどと同様にコンパイルを必要としな
業にとっては市場全体の縮小につながる可能性があ
い逐次解釈型のスクリプト言語である。スクリプト
る。そのため,新しい市場(ディストリビューショ
言語はプログラムを記述してすぐに実行→結果を確
ン市場)の開拓が必要になってくる。そこでオープ
認でき,開発も逐次的に行うことが可能であるが,
ンソース自体は無償でも,オープンソースを使った
その分実行速度は遅くなる。しかしながらムーアの
システム構築のほか,導入,サポート,コンサルティ
法則に象徴されるハードウェア性能の急速な向上に
ング等が新たなビジネスとなり,ここにオープンソー
よって処理の部分はハードウェアが担うことが可能
スのビジネスモデルが存在する。ただし,このビジ
になる。また,R u b yは他のプログラミング言語に比
ネスがそのまま従来の供給側のIT企業に新しい市場を
べて記述量が少なくてすむほか,文法が英語に近く
もたらすものではない。供給側の企業がその市場を
人間のイメージを表現しやすいという利点がある。
獲得して,市場競争において優位になるためにはオー
そこで,素早いリリースと頻繁な変更を求められる
プンソース自体の知識,開発力が求められることに
Webアプリケーション等の開発においてはRubyの生
なる。これはIT企業自身がオープンソースを利用する
産性が高く評価されている。
だけでなく,その開発へ参加・貢献することによっ
表1は広島のI T企業(中央情報システム株式会社)
て可能になる。Linux FoundationによるとLinuxの開
の協力を得て,プログラミング言語による開発経験
発(L i n u xの中核部分であるカーネルコードへの参加
が7年のエンジニアがそれぞれ1名ずつR u b yとJ a v a,
貢献)において約7割は企業によるもので,そのうち
Perlで同機能を有するWebシステムを開発し,それぞ
IBM,Intel,Red Hat,Novellの4社が約3割を占めて
れの生産性を比較した結果である3)。
おり,L i n u xサーバー市場におけるこれらの企業の競
この結果から,R u b yは生産性においてはJ a v aに比
争力強化につながっている2)。これは同時に,地方の
較してコード量,製造時間ともに大きく上回り,製
中小企業であっても,オープンソースの開発へ参加・
造時間だけみればR u b yがJ a v aの数倍の生産性がある
貢献が進めば,この分野での市場を拡大できる可能
(単純比較すれば4.5倍)ことが実証された。また,同
性があることも示している。
2. オープンソースのプログラミング言語
Ruby
2.1 プログラミング言語Rubyとその生産性
Ruby(http://www.ruby-lang.org/ja/)は,島根県
松江市に在住するエンジニア・まつもとゆきひろ氏
356
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September
じスクリプト言語であるPerlと比べても,同じ開発経
験を持つプログラマーがR u b yでの開発が初めてであ
るにもかかわらず,Perlを5年経験したとほぼ同じソー
スコード量で製造可能であることが実証された。
2.2 Webアプリケーションフレームワーク Ruby
on Rails
このように生産性の高いことが実証されている
オープンソースのプログラミング言語Rubyによる地域産業振興
表1 Rubyと他言語の生産性比較
使用言語
行数
(コメントを除く)
工数
(製造+テストの時間)
読み込み
モジュール数
動作条件
Java
Ruby
Perl
177 行
46 行
42 行
製造+テスト : 2 時間
製造+テスト : 0.75 時間
(require 数)
2
(use 数)
4
一般的な Http サーバー
一般的な Http サーバー
製造 : 8 時間
テスト : 1 時間
(require 数)
19
Servlet コンテナ必須
動作確認サーバー
Tomcat
使用言語経験年数
7年
Apache Anhttp
Apache Anhttp
(他 CGI 動作可能サーバー) (他 CGI 動作可能サーバー)
0年
5年
(開発経験は 7 年)
(開発経験は 7 年)
出典 : ちゅうごく地域 Ruby ビジネス活用研究会, “ちゅうごく地域 Ruby ビジネス活用研究会報告”. 2009,
http://www.chugoku.meti.go.jp/topics/denshijyoho/h220409_1.pdf. P.15.
R u b yであるが,公開された当初(1990年代後半)は
2.3 Rubyの標準化とRuby, Ruby on Railsの市場拡大
一部の技術者を除いて,ビジネス分野では爆発的な
W e bアプリケーション開発において生産性の高さ
普 及 は し な か っ た。 そ れ が,2004年 に デ ン マ ー ク
を実証したR u b yは,クラウドコンピューティングの
人のプログラマーであるDavid Heinemeier Hansson
進展とともに活用場面がさらに拡大することが予想
によって,W e bアプリケーション開発に共通する基
される。一方で,R u b yのプログラミング生産性の高
本的な機能をあらかじめ準備したプログラムである
さとは反対に,Rubyのエンジニアの数が少ないこと,
Ruby on Rails(以下Rails)がリリースされ,これが
また開発周辺環境面でのサポート体制,ライブラリー
2000年代半ばから進んだクラウドコンピューティン
の不足などがネックになっていると考えられる。
グの流れの中で一気に注目を集めるようになった。
R u b yはオープンソースであるために,R u b y自体の
まず米国において,TwitterなどWebで迅速なサービ
開発がコミュニティーによって行われており,ライ
スのリリースが必要とされるサイトにおいてR a i l sが
ブラリーのメンテナンス,バージョン対応やマルチ
利用されるようになった。R u b y,R a i l sの普及にと
プラットフォームでの作動などで整備が不十分であ
もない,Sun Microsystems(後にOracleが買収)や
る。特に,Rubyはプログラミング言語であるがRuby
Microsoft,そしてAppleなどの米国の大手IT企業も,
言語自体を規定した標準仕様書は存在していなかっ
R u b yで作ったプログラムが自社製品で動作するよう
た。その結果,異なる仕様を持ったR u b yがコミュニ
にその仕様を変え始めた。
ティーやI T企業各社で開発されており,これはR u b y
このような流れが,2006年ごろから逆に日本でも
の市場自体の拡大には妨げにもなる。
注目され,まずW e bアプリケーション開発において
そこで,2008年11月にIPA(情報処理推進機構)が
R a i l sの導入が進んでいった。楽天株式会社がW e bア
R u b y言語の標準仕様の整理,標準仕様書作成,標
プリケーションにR a i l sを採用し,まつもと氏も楽天
準仕様書をベースにした国内,および国際規格化を
技術研究所のフェローに(2007年5月),伊藤忠テク
スタートさせ,2011年3月に日本工業標準調査会の
ノソリューションズ株式会社が社内トレーニングか
レビューを経て,J I S規格として制定された。さらに
らRuby,Railsの教育ビジネスへと発展(2007年)さ
2012年4月にはR u b yの言語仕様が国際規格I S O / I E C
せるなど,W e bサービスの構築にR a i l sが次々と採用
30170として承認された。これでR u b yによるプログ
されるという大きな流れがあった。
ラムの可搬性や外部システムとの相互接続性を高め
ることができる。また,この規格はR u b yで書かれた
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2013
vol.56 no.6
Journal of Information Processing and Management
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September
プログラムを実行するためのサーバー環境等を開発
きひろ氏が在住する島根県の松江市では,IT産業振興
する際の仕様のよりどころとなり,IT企業は安心して
のための「地域資源」としてR u b yに注目した。オー
開発投資を行うことができる。クラウドコンピュー
プンソースR u b yを活用した地域の情報サービス産業
ティングの代表企業であるセールスフォース・ドッ
振興政策として,Ruby City MATSUE Projectを2006年
トコム社が2010年にR u b yプラットフォームのベン
度に開始した。
チャー Herokuを2億1,200万ドルで買収したことも象
徴的な出来事である。
クラウドコンピューティングが進むことによって,
特定のベンダーに依存しないオープンソースの開
発方式自体は,地域の情報サービス産業にとっても
その技術力を有していれば,新しいビジネス市場の
データセンターの集約だけでなくアプリケーション
拡大の可能性をもたらす。R u b yはオープンソースの
やサービスまでもが東京を中心としたITベンダーに集
プログラミング言語であるので,どこで誰がR u b yを
まることも考えられる。その結果IT産業の一極集中が
使って開発してもかまわないわけであるが,松江市
さらに強まり,地域のIT産業にとってはますます厳し
はまつもと氏が在住することや,まつもと氏が在籍
い事態も想定される。しかしながら,企業の基幹業
する株式会社ネットワーク応用通信研究所(松江市)
務を主たる目的とする場合にはデータセンターは地
を中心にRubyのエンジニアが集積するなどの地理的・
域内にあることが心理面でも運用面でも望ましい。
技術的優位性を利用して,それをITソリューション市
また今後は,大規模な省エネデータセンターを電力
場の拡大,地域の産業振興につなげようとしたので
事情(送電ロス等),ユーザーの利便性,交通事情な
ある。そして,2006年9月には松江市の開設した「松
どに配慮しつつ,機能の一部を分散することを含め,
江オープンソースラボ」を拠点として,オープンソー
適切な地域に構築することが求められる。
ス・ソフトウェアにかかわる民間企業,技術者,研
そこで,このようなデータセンター,情報基盤の
究者,学生,ユーザーが交流を深めることで技術・
分散化に合わせて,クラウドコンピューティング,
競争力の向上と優れた人材の育成を図る組織,
「しま
W e b上でのアクセスと処理の大規模化への対応が進
ねオープンソース・ソフトウェア協議会」も設立さ
んでいるRuby,Railsによってシステム構築の市場が
れた。R u b yは国籍を超えた世界的なコミュニティー
拡大する可能性が存在する。また,Ruby,Railsの市
に参加する開発者の互恵的な精神によって支えられ
場拡大は,それらを使いこなすことができる地域のIT
ている技術であるが,松江市において開発者を中心
産業の市場拡大をもたらす可能性がある。クラウド
とした地域のオープンソース開発コミュニティーが
コンピューティングの時代を迎え,ITユーザーに近い
立ち上がったのである。
距離にある地域ITベンダーこそビジネスチャンスの可
能性を合わせもっている。
3. Rubyによる地域産業振興の取り組みと
成果
3.2 オープンソースと地域産業振興
日本のオープンソース導入は,行政機関の情報化・
ネットワーク化=電子政府の構築に合わせて,まず
中央政府レベルによって進められてきた。しかしな
がら,オープンソースの導入が行政や企業の効率化
3.1 Ruby City MATSUE Project
このようにR u b y,R a i l sのビジネス分野での普及,
358
という観点だけから進められるならば,オープンソー
ス自体の市場は拡大しても,情報サービス産業の
そしてその結果生じる開発の大規模化への対応など
B a z a a r型への転換,さらに地方の情報サービス産業
が国内外で進む状況の中,R u b yの開発者まつもとゆ
の市場拡大にはつながらない。例えば中央政府レベ
オープンソースのプログラミング言語Rubyによる地域産業振興
ルの電子政府・電子自治体の取り組みはIT企業がコン
Ruby City MATSUE Projectを核とするオープンソー
ソーシアムを組んで参加・入札する方法で進められ
スRubyを活用した地域情報サービス産業振興政策は,
ているが,実際にはI Tゼネコンと呼ばれる大手I Tベン
地域の企業に需要をもたらす点からも,行政(島根
ダーを中心の「企業連合」=カルテルが組まれ受注
県や松江市)による開発発注からスタートした。こ
を競い合っている。
れらの流れは,行政による地域産業への直接支援=
これに対してオープンソースの導入という視点だ
公共事業の側面を持つが,地元のIT企業はこれらの事
けでなく,地域のIT産業振興として位置付けている自
業・開発を進める中で,R u b y開発の技術力を高めて
治体の事例もいくつか存在する。代表的なのは長崎
いった。この過程で地元企業や進出企業によるR u b y
県で,2001年から最高情報責任者(CIO)を採用する
を含めた売上も増大している。一方,地域産業振興
ことによってオープンソースの導入で電子県庁のシ
のためには市場拡大と同時に,開発を担う人材の育
ステムを大幅に削減することを可能にした。同時に
成が必要である。島根県は2007年度から企業エンジ
分割発注方式によって地元(長崎県内)の情報サー
ニア向けのRuby,Railsのエンジニア育成講座を開設
ビス企業もシステム開発に参加することが可能にな
して人材育成事業を進めるほか,地元の教育機関で
り,その結果,電子県庁のシステムへの地元の情報
のオープンソース・ソフトウェアの利活用やR u b yの
サービス企業の参入を高めてきた。
実践教育の導入を進めている。島根大学では2007年
自治体の情報システムへのオープンソースの導入
度からRuby,Railsの講座を開設した。同様に松江高
によってコストダウンを行い,特定のベンダーへの
専・松江商業などの地元の教育機関においてもRuby,
依存を避け,さらに地域のIT産業の市場拡大を目指す
Railsの講義・授業などが進められてきた。
ならば,①導入側(自治体)によるC I Oの採用や職員
これらの取り組みの結果,松江市に70%の開発拠
がオープンソースに対する知識を持つことによる調
点がある島根県の情報サービス企業全体の売上高や
達能力の向上,②地域でオープンソースを使ったシ
就業人数も,
2006年度から2011年度の間に増加した。
ステム構築やサポートが可能となる企業・人材の育
情報サービス企業の売上高や就業者数の伸びが全国
成,が求められる。長崎県の取り組みは①の面から
ではリーマンショック等も挟んで乱高下しているの
地域産業振興につなげようとしたものであり,松江
に対し,島根県は平均して10%以上の高い伸びを示
市の取り組みはR u b yを「地域資源」として活用する
している(表2,表3参照。全国は経済産業省特定サー
ことによって②を進める地域産業振興であると言え
ビス産業実態調査報告書4 )~ 8 ),島根県は社団法人島
よう。
根県情報産業協会アンケート調査報告書 9 )~ 1 1 )に基
づいて作成)
。Rubyを活用した地域産業振興策の成果
3.3 Rubyによる地域産業振興の取り組みと成果
Ruby City MATSUE Project自体は松江市という行政
機関が主導したプロジェクトである。しかし,その
が数字にも表れているのである。
4. Rubyの市場拡大と地域産業振興の課題
主体は松江市内の民間企業や技術者,そして大学の
研究者であり,R u b y開発者の存在という優位性を活
従来の地域産業振興政策は,地域の中小企業群に
かしながら,産学官の連携によってオープンソース
よる新製品開発プロジェクト(経済産業省・産業ク
開発に必要なR u b yやオープンソースの技術力を向上
ラスター政策等)や大学等公的研究機関を核とした
させ,これを人材育成や市場拡大につなげようとい
先端技術開発プロジェクト(文部科学省・知的クラ
う取り組みである。
スター政策等)を基礎としていた。これらの政策は,
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表2 全国と島根県の情報サービス企業の売上高推移
(単位:百万円)
2006 年度
2007 年度
2008 年度
2009 年度
2010 年度
2011 年度
全国
13,751,730
13,409,700
14,807,000
15,063,600
13,210,100
-
伸び率
-2.50%
10.40%
1.70%
-12.30%
島根県
10,452
12,060
13,241
13,543
16,506
17,839
伸び率
15.40%
9.80%
2.30%
21.90%
8.10%
* 経済産業省. 平成 18 年度~平成 22 年度 「特定サービス産業実態調
査報告書」, 2006-2011.
島根県情報産業協会. 平成 21 年度~平成 23 年度 「ソフト系 IT 関連
従業者数アンケート調査報告書」, 2006-2012 から筆者作成。
表3 全国と島根県の情報サービス企業の就業者数推移
(単位:人)
2006 年度
2007 年度
2008 年度
2009 年度
2010 年度
2011 年度
全国
567,498
548,236
618,519
676,100
640,500
-
伸び率
-3.40%
12.80%
9.30%
-5.30%
島根県
1,022
1,389
1,537
1,613
1,817
1,888
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September
伸び率
35.90%
10.70%
4.90%
12.60%
3.90%
* 経済産業省. 平成 18 年度~平成 22 年度 「特定サービス産業実態調
査報告書」, 2006-2011.
島根県情報産業協会. 平成 21 年度~平成 23 年度 「ソフト系 IT 関連
従業者数アンケート調査報告書」, 2006-2012 から筆者作成。
品開発を実施するのが経営の常道となる。一方,①
労働力市場の流動化,②従業員の知的レベルの向上,
③ベンチャーキャピタルの存在,④市場競争の激化,
などの競争環境,研究,開発環境の変化により,クロー
ズドイノベーションの有効性は低下しつつあると考
えられる。そこで,知識の流入と流出を自社の目的
にかなうように利用して,社内イノベーションを加
速するとともに,イノベーションの社外活用を促進
し市場を拡大することが求められるようになる。こ
のプロセスがオープンイノベーションと定義される
12),1 3)
。特にソースコードを公開して開発を進める
オープンソースの比重が高まりつつあるIT産業はオー
プンイノベーションの代表例であり,Ruby,Railsに
よる市場拡大も企業組織や地域の枠を超えてオープ
ン化しながら進んでいると考えられる。
周辺地域の典型である松江市の取り組み,R u b y
City MATSUE Projectはこのオープンイノベーション
の過程を地域産業振興に結び付けようとしたもので
あるが,そのためには知識の流入だけでなく流出,
経済のグローバル化などの市場不安定化要因に地域
およびそのための知識の産出も求められる。すなわ
の中小企業の地理的集積で対応し,また知識産業中
ちRuby,Railsの開発過程への貢献が必要とされるの
心の産業構造への転換を図るものであった。しかし
である。前述したように,L i n u x市場で大きなシェア
ながら,これらはその地域が既存の産業や研究開発
を占めているのはL i n u xの開発に貢献している企業で
テーマなどのポテンシャルを有していることを前提
ある。また筆者が国内のIT企業に対して実施したオー
としており,その要素が十分に存在しない周辺地域
プンソース開発のアンケート調査結果によっても
(都市部の近郊に位置しない地方の地域)では効果が
L i n u xなどのオープンソースを活用している企業の多
得られず,地域産業振興が困難な場合が多かった。
くがその開発自体に参加・貢献していることが実証
一方,IT技術の発達を背景に企業間,さらに企業組
織を超えたネットワーク化が進み,これは地域を超
360
されている14)。
そもそも松江市の地域産業振興策は「地域資源」
えた企業組織のネットワーク化が進展することも意
としてのR u b yの技術的優位性を利用したものであ
味する。Chesbroughは,従来の自前主義的な経営戦
る。R u b yはオープンソースであるので,その技術的
略=企業が自分でアイデアを発展させ,マーケティ
知識を持っていれば誰がどこでR u b yを使ってビジネ
ングし,サポートし,資金調達をすることをクロー
スを興してもかまわない。オープンソースであるか
ズドイノベーションと呼び,このイノベーションの
らこそRubyの利用やRubyを活用したビジネス市場が
形態では自社内ですべての研究開発活動を行うとす
拡大しているのであるが,この中でRuby,Railsの市
る態度が支配的であるとした。そのためには,自ら
場でのシェアを確保していくためには松江市のIT企業
の企業秘密を死守し,独力で新しい事業,新しい製
が技術的優位性を維持し続けていかなければならな
オープンソースのプログラミング言語Rubyによる地域産業振興
い。そのためにはオープンソースR u b yを使ったシス
分野への適用を支援する組織であり,国内の大手ITベ
テム構築やサポートが可能となる企業・人材の育成
ンダーも参加している。多くのI T企業がこの取り組
とともに,R u b y自体の知識を深めることが求められ
みに参加することがR u b yのさらなる市場拡大につな
る。これは他のオープンソース同様にR u b yの開発自
がるのであるが,この市場はそのまま松江市のI T企
体に貢献することによって獲得できるものである。
業の市場シェアにつながるものではない。Ruby City
すでにISO規格になったRubyは今後規格の保守および
MATSUE Projectの成果を継続していくためには,松
改訂の作業を継続して行うことになるが,この作業
江市のIT企業がLinux Foundationの事例と同様にRuby
を担当する組織はI P Aから松江市に本部を置く一般財
の安定化と信頼性の確保,すなわちオープンソース
団法人Rubyアソシエーションに移行している。Ruby
Ruby自体の開発過程に参加・貢献し,その中でRuby
アソシエーションはLinux Foundation と同様にRuby
に対する知識を継続して深めていかなければならな
でビジネスを行う企業がR u b y自体の開発・ビジネス
い。
参考文献
1) Raymond, E S. Homesteading the Noosphere. O'Reilly & Associates, 1999.
2) Linux Foundation. “Linuxカーネル開発”. 2010, https://www.linuxfoundation.jp/sites/main/files/lfj_linux_
kernel_development_2010.pdf, (accessed 2013-06-09).
3) ちゅうごく地域Rubyビジネス活用研究会. “ちゅうごく地域Rubyビジネス活用研究会報告”. 2009, http://
www.chugoku.meti.go.jp/topics/denshijyoho/h220409_1.pdf, (accessed 2013-06-09).
4) 経済産業省. 平成18年度特定サービス産業実態調査報告書, 2006.
5) 経済産業省. 平成19年度特定サービス産業実態調査報告書, 2007.
6) 経済産業省. 平成20年度特定サービス産業実態調査報告書, 2008.
7) 経済産業省. 平成21年度特定サービス産業実態調査報告書, 2009.
8) 経済産業省. 平成22年度特定サービス産業実態調査報告書, 2010.
9) 島根県情報産業協会. 平成21年度ソフト系IT関連従業者数アンケート調査報告書, 2009.
10) 島根県情報産業協会. 平成22年度ソフト系IT関連従業者数アンケート調査報告書, 2010.
11) 島根県情報産業協会. 平成23年度ソフト系IT関連従業者数アンケート調査報告書, 2011.
12) Chesbrough, H. Open Innovation: The New Imperative for Creating and Profiting from Technology.
Harvard Business Review Press, 2003.
13) Chesbrough, H.; VanHaverbeke, V.; West, J. Open Innovation: Researching a New Paradigm. Oxford
University, Press, 2006.
14) 野田哲夫; 丹生晃隆; コークラン, シェーン. “日本のIT企業におけるオープンソース・ソフトウェアの活用・
開発貢献に関する研究”. 島根大学法文学部紀要経済科学論集. 2013,vol. 39, p. 59-72.
Author Abstract
Open source programming language Ruby has attracted attention in information technology industry, which
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was invented and opened from Japan. The language specification of Ruby was confirmed as an International
Standard, ISO/IEC 30170 in 2012. This process will improve the stability and reliability of Ruby, and the
expansion of the business use of Ruby is also expected. This paper shows the background why Ruby and Ruby
on Rails attract attention, on the strength of Open Source business models. And it also shows the fruits and
issues of local industry promotion of Matsue City, using Ruby as a regional resource.
Key words
programming language, Ruby, local promotion, industry promotion, information technology industry, open
source, open innovation, Matsue
362
医学雑誌編集者のためのガイドライン
医学雑誌編集者のためのガイドライン
JAMJE guideline for medical journal editors
北村 聖1, 2
KITAMURA Kiyoshi1, 2
1 日本医学会 日本医学雑誌編集者会議代表幹事
2 東京大学大学院医学系研究科附属 医学教育国際研究センター
1 Japanese Association of Medical Journal Editors (JAMJE), The Japanese Association of Medical Sciences
2 International Research Center for Medical Education, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo
原稿受理(2013-07-25)
情報管理 56(6), 363-373, doi: 10.1241/johokanri.56.363 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.363)
著者抄録
日本医学雑誌編集者会議(JAMJE)は,日本医学会 112 分科会の機関誌の編集委員から構成される。JAMJE は,2008
年の設立総会で,医学雑誌と編集者の自由と権利の擁護,医学雑誌の質の向上への取り組み,倫理規範の策定,国際
的な連携という 4 項目を活動の目標とした。この目標に即した医学雑誌の編集方針のためのガイドライン(案)を作
成した。ガイドラインには,世界医学雑誌編集者協会(WAME)による「方針書」と「編集者候補および新任編集者を
対象としたシラバス」および国際医学雑誌編集者会議(ICMJE)の「統一投稿規程」に記載されている内容を盛り込み,
さらに国内事情を反映させた。JAMJE の 4 つの目標に準じた章立てとしている。
キーワード
医学雑誌,編集者,日本医学雑誌編集者会議,雑誌編集,ガイドライン,出版倫理,編集方針,倫理規定
掲載に先だって
その時々の課題を解決し,現在,2010年版生物医学
雑誌への投稿のために制定した統一規程を公表して
いまだ,案の段階ではあるが日本医学雑誌編集者
いる。また,これらをもとに世界医学雑誌編集者協会
会議として考えている医学雑誌編集者のためのガイ
(World Association of Medical Editors: WAME)は医学
ドライン(案)を紹介する。
雑誌編集者のためのガイドラインを公表している。
医 学 雑 誌 編 集 者 国 際 委 員 会(I n t e r n a t i o n a l
われわれは,W A M Eの許可を得てそれを日本語化
Committee of Medical Journal Editors: ICMJE)は1978
し,さらにわが国の現状や文化を加味したものを作
年に初めて会議を持ち,文献の記載方法などを決め
成した。まだまだ不十分ではあるものの,1つの提案
た。それ以来,ICMJEは雑誌編集者の国際組織として
として受け止めていただきたい。
本稿の著作権は,日本医学雑誌編集者会議に帰属する。
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日本医学会 医学雑誌編集のガイドライン
(案)
1. はじめに
本医学会のホームページに掲載している。
本ガイドラインは,J A M J Eの4つの目標に準じた
章 立 て と し,W A M Eの「 方 針 書 」 と「 シ ラ バ ス 」
,
ICMJEのURMに記載されている事項を含めた内容とし
日本医学雑誌編集者会議(JAMJE)は,2008年8月
た。さらに国内特有の事情も反映させるために,各
1日に日本医学会の下部組織として発足し設立され,
分科会機関誌の編集実務の実情を把握することを目
現在,日本医学会112分科会の機関誌の編集委員から
的としたアンケート調査を実施した。
構成されている。
J A M J Eは,設立総会にて,次の4点を活動の目標と
本ガイドラインは,国内外の医学編集の動きを考
慮した内容とするために,随時更新していきたい。
した。
2012年11月21日
・医学雑誌と編集者の自由と権利の擁護
・医学雑誌の質の向上への寄与
・著者と医学雑誌・編集者の倫理規範の策定
日本医学雑誌編集者組織委員会
2. 本ガイドラインの目的と構成
・海外の編集者会議との連携
日本医学雑誌編集者組織委員会では,毎年これら4
2.1 本ガイドラインの目的
点に関してJAMJEシンポジウムを企画してきたが,各
本ガイドラインは,以下の3点を目的としたもので
編集者から,シンポジウムの内容を実務に活用させ
あり,医学雑誌編集者が雑誌の質の向上を考える際
るために,JAMJEの目標に即した編集方針を考えるた
に考慮する事項をまとめたものある。
めのガイドラインの必要性が挙げられ,このたび本
・医学雑誌編集者の責任と権利を定める。
ガイドラインを作成することとなった。
・医学雑誌の質向上のための編集者の役割を明確に
医学雑誌編集者を対象としたガイドライン類は,
国際的には,国際医学雑誌編集者会議(I C M J E)や
世界医学雑誌編集者協会(W A M E)などから発表さ
する。
・医学雑誌編集者のマニュアルとして利用できる内
容とする。
れているものがある。I C M J Eの統一投稿規程である
Uniform Requirements for Manuscripts Submitted to
Biomedical Journals(URM)は,従来,スタイル・マニュ
J A M J Eでは,設立総会(2008年8月1日)にて,以
アルとしての性格が強かったのだが,最近は,出版
下4点を目標とした。本ガイドラインは,これら4点
倫理や論文の質の向上に関する記述の占める割合が
に準じた章立てとした。
大きくなってきている。W A M Eの各種文書について
・医学雑誌と編集者の自由と権利の擁護
も同様の傾向がみられる。
・医学雑誌の質の向上への寄与
出版倫理への配慮や医学雑誌の質の向上はJAMJEの
・著者と医学雑誌・編集者の倫理規範の策定
4つの目標における中心的な課題であるため,医学雑
・海外の編集者会議との連携
誌編集の国際的な動向に対応した活動を展開するこ
さらに,医学雑誌の質の向上に関する章は,設立
とは,
JAMJEの目標の実現にもつながると考えられる。
JAMJEでは,すでに,WAMEの許諾を得て,WAME
364
2.2 本ガイドラインの構成
総会で掲げられた以下5点を中心にまとめた。
・用語の整理・統一
から発表されている「方針書」と「編集者候補およ
・国際的な基準に準じた投稿規程への準拠
び新任編集者を対象としたシラバス」の翻訳版を日
・査読システムの改善
医学雑誌編集者のためのガイドライン
3. 医学雑誌編集のガイドライン
・臨床試験の公的機関への登録
・ランダム化比較試験におけるCONSORT声明の遵守
3.1 医学雑誌と編集者の自由と権利の擁護
2.3 参考資料
3.1.1 編集者の責務
国際的な医学雑誌編集のガイドラインの方針に準
拠し,さらに各分科会機関誌の実情を反映した内容
とするために,編集委員を対象としたアンケート調
編集者は次の責務を負う。
(1)雑誌出版を支える人々(読者,著者,査読者,
研究参加者)に敬意を払う。
査を実施した。本ガイドライン作成のために,以下
・編集プロセスの透明化を図る。
を参考資料とした。
・査読者に謝意を示す。
・International Committee of Medical Journal
Editors (ICMJE). Uniform Requirements for
Manuscripts Submitted to Biomedical Journals.
http://www.icmje.org/
(2)科学における自己修正機能を促進し,また,科
学調査方法を改善する取り組みに参加する。
・訂正,撤回,懸念表明を掲載する。また,不正行
日本語訳:中山健夫監訳. “生物医学雑誌への統一
為の申し立てへ対処する。
投稿規定:生物医学論文の執筆および編集”(2008
・科学調査の水準の向上,および潜在的な著者や読
年10月改訂版).I n : 中山健夫, 津谷喜一郎編著. 臨
者を含むより広いコミュニティーにおけるメディ
床研究と疫学研究のための国際ルール集. 東京:ラ
カル・ライティングの水準の向上に対する責任を
イフサイエンス出版; 2008. p. 2-23.
負う。
・World Association of Medical Editors (WAME).
(3)雑誌の内容に関して誠実性[honesty]と公正性
Policy statements. http://www.wame.org/
[integrity]を保証し,バイアスを最小にする。
resources/policies
・Conflicts of Interest(COI)
(利益相反)をマネー
日本語訳 注1):世界医学雑誌編集者協会. 方針書.
http://jams.med.or.jp/jamje/wame.html
Syllabus for Prospective and Newly Appointed
Editors. http://www.wame.org/resources/editors-syllabus
日 本 語 訳 注1): 世 界 医 学 雑 誌 編 集 者 協 会.
ジする。
・情報の機密性を守る。
・World Association of Medical Editors (WAME).
・研究における被験者の権利を保護する。
・雑誌の編集的な機能とビジネス的な機能を切り離
す。
(4)雑誌の質の向上を図る。
・編集,査読,研究倫理,調査方法の最良のあり方,
編 集.
候補者および信任編集者を対象としたシラバス.
http://jams.med.or.jp/jamje/wame.html
・CONSORT. http://www.consort-statement.org/
・Committee on Publication Ethics (COPE).
また,これらを支える基本原理と科学的根拠を熟
知する。
・編集出版のプロセス,投稿数・受理率,読者の満
足度など雑誌の実績を監視する。
・雑誌発行の有効性について外部評価を依頼する。
http://publicationethics.org/about
・医学雑誌編集に関するアンケートの回答(対象:
日本医学会分科会112学会)
(実施:2012年4月2日~ 5月11日)
3.1.2 掲載対象とする記事の範囲
編集長は,
掲載記事に関して,
以下の範囲を定める。
(1)対象とする研究領域,著者
(2)記事の種類
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(論説,原著,総説,短報,症例報告,ニュース,書評,
編集者への手紙など)
トにも配慮する。
・オーナーは編集長を雇用する権利と解雇する権利
(3)増刊号,テーマ特集,特別シリーズの発行
を持つが,不当な理由で編集長を解雇してはなら
(4)取り上げる記事の数,トピックの数
ない。
(5)その他
増刊号,テーマ特集,特別シリーズは,関連トピッ
クの論文を集めた内容で,外部からの編集委員・資
金提供者が出版に関係する場合があるが,その場合
も,編集内容については編集者が決定権を有する。
3.2 医学雑誌の質の向上への取り組み
3.2.1 用語の整理・統一
日本医学会では,医学界で使われている医学用語
の標準化を目的として,医学用語管理委員会により,
医学用語辞典が編纂されている。
3.1.3 編集の自由
J A M J Eは,
「編集の自由と権利の擁護」を目的の第
雑誌内で使用される用語の統一のために,各分科
会機関誌は,投稿規程中に,用語の使用に関して,
1番目に掲げており,編集長が雑誌の編集に対して完
各分科会の用語集とともに日本医学会の用語辞典に
全な権限を持つと考えている。
準ずることを記載することが望まれる。
編集の自由に関して,W A M Eの方針書では,編集
長は雑誌の編集内容に関する意思決定について全権
3.2.2 国際的な基準への準拠
を委任されており,編集長は,自らの立場が危うく
雑誌の内容を国際的な基準に従ったものとするた
なるとしても編集の自由を堅守し,編集の自由が著
めに,原稿の作成は国際医学雑誌編集者会議(ICMJE)
しく侵害された場合には,国際的な医学界,学術界,
の統一投稿規程であるU n i f o r m R e q u i r e m e n t s f o r
その他のコミュニティーにそれを示す必要があると
Manuscripts Submitted to Biomedical Journals(URM)
述べている。
の最新版に準拠することを投稿規程中に記載する。
参考
W A M Eでは,編集長の権限を守るために,雑誌の
オーナーとの関係について,次の項目を提示してい
る。
査読とは,編集委員以外の専門家による投稿原稿
の批判的評価である。
・編集長の雇用条件を書面にて明確にする。編集の
編集者は各雑誌で定められた基準によって査読者
自由に関係する条件は,雑誌内およびWebサイト
を選定し,査読を依頼する。査読者は対象となる研
に掲載して,読者と共有する。
究領域,あるいは調査手法の専門家であり,研究論
・編集内容については編集長が完全な権限を持って
おり,オーナーは個々の原稿の評価,選定,編集
に干渉してはならない。
366
3.2.3 査読システムの改善
文の原稿については,統計分野の専門家に査読者を
依頼することもある。
査読者の役割は,原稿を評価してコメントを作成
・編集長は,オーナーの方針ではなく,原稿の妥当
することにより原稿の改善を助長することと,投稿
性と読者に対する重要性を主たる基準として編集
原稿がその雑誌に掲載するのが適切であるかを編集
に関する決定をする。
者に提言することである。
・編集長は,商業的,組織的,個人的な利益の追求
査読者には,査読期限を守ること,原稿に関する
が編集上の決定に影響が及ばないような手順を確
機密を保持すること,偏見的や侮蔑的なコメントを
立する。利害関係者に関するC O Iのマネージメン
しないことが求められる。各雑誌は,査読者のため
医学雑誌編集者のためのガイドライン
のガイドラインを用意するとよい。また,査読者は,
3.2.5 臨床試験の公的機関への登録
原稿の著者や内容に関するC O Iを編集長に伝えなくて
JAMJEでは,医学雑誌の質の向上に向けた具体的行
はらない。一方,編集者は,必要に応じ,著者が適
動の1つとして,臨床試験の公的機関への登録を掲げ
切な査読者を指定できるように配慮することが必要
ている。
である。
査読に関する透明性を確保するために,編集者は,
世界医師会のヘルシンキ宣言(2008年10月ソウル
改訂)には,第19項目に,「すべての臨床試験は,最
査読についての方針(査読に回される原稿の種類と
初の被験者を募集する前に一般的にアクセス可能な
数,査読者の人数,査読の手順,査読者の意見の用
データベースに登録されなければならない」(日本医
い方など)および標準査読期間を公開するべきであ
師会訳。原文はEvery clinical trial must be registered
る。
in a publicly accessible database before recruitment
査読者に対する謝意の示し方は雑誌により異なる
of the first subject)とある。
が,査読者に対する謝辞を掲載したり,査読者に雑
厚生労働省から発表されている「臨床研究に関す
誌を贈呈したりすることが一般的である。査読の仕
る倫理指針(平成15年7月30日)
(平成20年7月31日
事は研究活動に付随する責務,あるいは研究活動の
全部改正)」では,侵襲性を有する介入を伴う臨床研
発展への貢献の1つであると考えられており,査読に
究を実施する際に臨床試験登録をすることが必須と
対する金銭的な報酬を支払わないのが一般的である。
されている。
臨床試験の研究計画の概要を事前に公的機関に登
3.2.4 編集に関する意思決定・著者とのコミュニケー
ション
録して,公開することは,出版バイアスの防止,社
会の構成員である研究参加者から得られた知見を社
編集長は,投稿原稿の受理・非受理を判断する方
会へ還元する倫理のほか,情報公開による研究の質
法を定める。この判断は,編集長のみでなされる例
の向上や,一般市民への臨床試験参加に関する情報
もあれば,編集長と編集委員によってなされる例も
提供などに効果がある。
ある。
国内の登録機関のシステムには,U M I N臨床試験
編集者は,受理・非受理の決定を著者へ連絡する。
登録システム(UMIN-CTR, http://www.umin.ac.jp/
原稿が受理されない理由としては,科学的な根拠が
c t r / i n d e x - j . h t m)
,日本医師会治験促進センター臨
不十分であること,独創性が欠如していること,対
床試験登録システム(JMA-CCT, https://dbcentre3.
象とする読者が関心をもつテーマでないこと,紙面
jmacct.med.or.jp/jmactr/)
,日本医薬情報センター
を確保できないことなどが挙げられるが,編集者は,
(JapicCTI, http://www.clinicaltrials.jp/user/cte_main.
原稿が受理されない場合,著者にその理由を説明す
j s p)があり,これら3つのシステムは,W H Oが認定
る。
する各国の臨床試験登録機関のうちJapanese Primary
編集者は,著者に対して,あくまで,公平に,礼
儀正しく,客観的に接する。
Registry(http://rctportal.niph.go.jp/)を構成してお
り,世界各国の臨床試験登録機関からのデータから
査読者のコメントが著者の見解と反した場合,編
成り立つW H O国際臨床試験登録プラットフォーム
集者は,査読者のどのコメントをどのように伝える
(International Clinical Trial Registry Platform: ICTRP,
かを考え,査読者と著者の間の仲介をして,原稿の
改善を図る。
http://www.who.int/ictrp/en/)から検索できる
臨床試験論文を掲載する雑誌の投稿規程内には,
投稿原稿で報告される臨床試験は登録されているこ
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367
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JOHO KANRI
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vol.56 no.6
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とを規定し,その登録番号を抄録中に記載すること
成していることを前提として原稿の内容を確認・評
が望まれる。また,投稿された臨床研究の原稿の審
価したうえで出版するが,誤った記載が発覚したり,
査を始める前に,臨床試験登録システムにアクセス
誠実性[honesty]や公正性[integrity]についての
して,実際に臨床試験登録がなされているかを確認
疑問が生じることがある。
する必要がある。
誤った記載が発覚した場合は,訂正記事または正
なお,ICMJEのURMにおいても臨床試験登録を要請
誤表を掲載する。訂正記事は数字のついたページに
しており,掲載論文の抄録の末尾に試験登録番号を
掲載し,目次に載せ,オンラインの場合は,訂正さ
記入することを勧めている。
れる論文と訂正記事を互いにリンクさせる。
研究の誠実性や公正性に関して疑問が生じた場合
3.2.6 ランダム化比較試験におけるCONSORT声明など
には,疑問の追及は,通常,著者の所属機関や研究
各種研究デザインにおける報告ガイドラインの
責任者によりなされる。編集者は最終決定の通知を
遵守
迅速に受け,不正な論文がすでに出版されている場
J A M J Eでは,医学雑誌の質の向上に向けた具体的
合には,撤回を掲載しなくてはならない。撤回の代
行動として前述の臨床試験の公的機関への登録とと
案として,編集長は,研究の実施についての「懸念
もに,ランダム化比較試験(randomized controlled
表明」を掲載してもよい。
trial: RCT)におけるCONSORT声明の遵守を掲げてい
る。
撤回声明の筆頭著者と元の論文における筆頭著者
は同一人物であるのが理想であるが,状況によって
CONSORT声明は,科学者と編集者から構成される
は,編集者は他の責任者による撤回声明を認める場
グループにより発表されたRCT報告の改善のための声
合もある。撤回声明では,論文が撤回される理由を
明である。最新版であるCOSORT 2010 Statementに
説明し,元の論文の引用を示す。
は,RCTの報告の際に含めるべき情報を確認するため
撒回または「懸念表明」は,雑誌またはオンライ
に,25項目からなるチェックリストとRCTの各段階の
ン資料の目立つ項において数字のついたページに掲
過程を示すフローチャートが掲載されている。
載し,目次に載せ,その見出しには元の原稿のタイ
I C M J EのU R Mにおいては,E Q U AT O R N e t w o r k
(http://www.equator-network.org/home/)に収載さ
トルを提示する。単なる「編集者への手紙」への記
載としてはならない。
れる各種研究デザインに関する研究報告ガイドライ
誠実性や公正性についての疑問が生じた際は,後
ン(reporting guidelines)を参考とするよう勧めて
述するCommittee on Publication Ethics(COPE)の
いる。研究デザインとして,RCTに対するCONSORT
フローチャートを利用するとよい。
声明の他に,システマティックレビュー/メタア
ナリシスに対するP R I S M A声明,診断確度に関する
STARD声明,観察研究に関するSTROBE声明などがあ
る。JAMJEにおいてもこれらの研究報告ガイドライン
の使用を推奨する。
3.2.8 その他
(1)編集室の構成
編集のプロセスは,基本的には,編集長,編集委員,
編集スタッフにより進められる。それぞれの役割お
よび人選方法,任期を明確にするとともに,編集を
3.2.7 訂正,撤回,「懸念表明」[Corrections,
Retractions and "Expressions of Concern"]
編集者は,著者が公正な研究に基づいて原稿を作
368
効果的に進めるために必要となる機器やシステムを
そろえることが必要である。
・編集委員会
医学雑誌編集者のためのガイドライン
編集長は,編集委員会の構成と役割を定める。
・編集スタッフ
コピーエディター,英文校正担当者,事務処理担
当者などの各編集スタッフの役割を定める。
(3)メディアへの対応
医学ニュースへの一般の人々の関心は高まってい
る。出版に先立ち,研究者および研究機関が,記者
会見やインタビューを通して研究結果を報道する場
・編集機器
合がある。編集者や査読者の評価を経て受理される
パソコン,通信機器など必要な機器を用意する。
前に原稿の内容が報道されると,不正確な情報が広
・原稿トラッキング・システム
まる可能性があるため,注意が必要である。
インターネットを通して論文投稿から査読,掲載
参考
可否決定,掲載原稿作成までを一貫して処理する
ことができるオンライン投稿査読システムを導入
して作業の効率化を図っている編集室もある。
URM(ICMJE)では,編集者のメディアに対する対
応に関し,次の点に言及している。
・編集者は,原稿が査読中または出版準備中の間
・その他
は研究内容を公開しないという契約を著者と交わ
ネットワークの普及により,重複投稿をチェック
す。また,メディアとの間では,出版記事に関す
するシステムなど,各種編集補助システムが開発
る報道には協力するが,出版前には記事の内容を
されているので,各システム導入の効果について
報道しないという契約を交わすとよい。
JAMJE内で情報交換できるとよい。
(2)広告
広告が編集上の決定に影響を与えないために,編
集長は広告掲載の方針を明確にし,広告掲載の承認
において責任を持つ。
参考
URM(ICMJE)では,広告掲載に関し,次の点に言
及している。
・編集記事と広告とは,読者が容易に識別できるよ
うにする。
・同じ製品について編集記事と広告が並んで掲載さ
れることは避ける。
・論文中に広告ページを挿入すると,内容を中断し
てしまう。
・特定の記事と同じ号に掲載されることを条件とし
た広告を割り当ててはらない。
・出版に先立って報道しなければならないほど緊急
を要する場合は,関係当局が報道すべきかを判断
する。
・雑誌の電子版において早期公開記事についても,
上記の原則を適用する。
(4)電子ジャーナルの出版
(5)抄録・索引データベースへの登録
雑誌の内容が抄録・索引データベースに収載され
るための基準を満たし,出版記事がデータベースに
より検索されることは,雑誌の信頼性の向上と利用
の拡大につながる。
(6)インパクトファクターの使用
インパクトファクターが雑誌の質の評価に使われ
ることがある。
インパクトファクターとは,ある雑誌に過去2年間
に掲載された論文の平均引用回数による尺度で,雑
・1社または2社の広告しか掲載しなかった場合,広
誌の影響度を表す1つの指標であるが,インパクト
告主が編集者に圧力をかけ印象を与える可能性が
ファクターには雑誌の質とは関係のない要因も影響
あるため,注意が必要である。
しているため,雑誌の評価に用いる際には注意が必
・たばこのような健康に害をもたらす商品の広告は
掲載しない。
要である。
参考
W A M Eの方針書では,インパクトファクターに関
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して以下の点に留意するよう言及している。
・インパクトファクターはどのように算出され,何
を示しているか,他の指標にはどのようなものが
閲に関与した。
・出版原稿の最終承認をした。
(2)多施設からの相当数の研究者が研究に関わっ
あるかを把握する。
ていた場合,投稿原稿についての直接の責任者
・雑誌の評価の際は,インパクトファクター以外の
指標も考慮する。
・インパクトファクターを使用する妥当性を理解
し,適切な利用をする。
が明らかになっていなければならない。
グループとして執筆した原稿を投稿する場合,連
絡責任著者は,著者資格を持つメンバーの氏名とグ
ループ名称とを明示する。著者資格を持たないメン
バーの名前は,通例,謝辞に列挙される。
3.3 著者と医学雑誌・編集者の倫理規範の策定
3.3.1 著者資格(オーサーシップ)
著者とは,論文の根幹をなす研究において多大な
知的貢献を果たした人物である。
研究組織の仲間や長というだけで,実質的な貢献
のない人を著者に入れるのは誤りである。
他の記述方法として,著者名記入欄に一部の著者
のみを記載して全貢献者の氏名を付表に一覧する方
法や,1名の著者が原稿全体に対して責任を持ってい
る場合には,全著者を代表するグループ名(共同著
者名)を記載する方法もある。
(3)資金の確保,データの収集,研究グループの
一方,投稿原稿では,著者資格を満たす人物全員
一般的な監督に携わっただけでは著者資格を認
を著者にしなければならない。著者資格を持つ人物
全員に言及しないとゴーストオーサーシップが生じ
められない。
(4)著者とされた人物はすべて著者資格を満たし,
る。
また,著者資格を満たす人物はすべてその名が
編集者は,著者資格の基準を定めると同時に,研
究貢献者[contributor]を定義したり,投稿原稿全
列挙されていなければならない。
(5)各著者は研究に十分な関与をし,その研究の
体の公正性に関して責任を持つ保証者[g u a r a n t o r]
特定の部分については公的責任を負う。
を特定する方法についての方針を定める必要がある。
保証者[g u a r a n t o r]の役割は,原稿を送付し,
査読結果を受け取る連絡責任著者[c o r r e s p o n d i n g
3.3.2 Conflicts of Interest(COI)
(利益相反)
雑誌出版におけるすべての関係者(著者,編集長・
author]が担うことが多い。
編集委員,査読者)は,C O Iが生じる可能性がある利
参考
害関係を開示しなければならない。
WAMEの方針書およびURL(ICMJE)では,以下の
各分科会は,日本医学会臨床部会相反委員会(現・
点を満たすことを著者資格の基準として推奨してい
日本医学会利益相反委員会)により作成された「日
る。これらの基準は著者を研究貢献者[contributor]
本医学会 医学研究のC O I マネージメントに関するガ
と区別する雑誌において有用である。著者資格の基
イドライン(2011年2月23日)」を参照して,各機関
準を満たさない研究貢献者は,謝辞に列挙される。
誌の雑誌のCOIマネージメントの手順を定める。
(1)著者資格は,次の3点を満たすことにより認め
られる。
・論文の構想,デザイン,データの収集・分析およ
び解釈において相応の貢献をした。
・論文作成または重要な知的内容に関わる批判的校
370
3.3.3 患者のプライバシー,機密保持
患者のプライバシー,機密保持を侵すおそれのあ
る時は,インフォームドコンセントを得る必要があ
る。
医学雑誌編集者のためのガイドライン
名前,イニシャル,各種番号,写真など,患者を
特定することができる情報は,科学的目的のために
必要不可欠であり,かつ患者(あるいはその保護者,
後見人)が掲載に同意することを書面で提示しない
限り,掲載してはならない。
なお,インフォームドコンセントを得た場合は,
掲載記事にその旨を明示する。
した原稿を受け付けることを望まない。
・原著論文のために確保されている雑誌のスペース
を無駄にする。
・編集者,査読者,出版流通関係者,読者の時間と
経費を浪費する。
・実験結果の増大は,メタアナリシスに不適切な影
響をもたらす。
・著作権を侵害する。
3.3.4 研究参加者注2)および実験動物の保護
人を対象とした研究に関する原稿を投稿する際,
なお,以下の原稿の出版は,一般的に,多重出版
とはみなされない。
著者は,ヘルシンキ宣言,および人を対象とした研
・他誌で受理されなかった原稿
究を管理する委員会(関連団体や施設内倫理審査委
・学会発表のために作成した抄録やポスターなどの
員会(I R B)
)の倫理基準に準拠しているかを明示し
なければならない。
動物を対象とした研究を報告する場合は,著者は,
所属機関および,関連団体の規定するガイドライン
に準拠しているかを明示しなければならない。
予備的報告を最終報告としてまとめた原稿
・学会で発表しただけで完全な報告がなされていな
い研究や,記録集[proceedings]に掲載されて
いる内容を論文としてまとめた原稿
多重出版となる可能性のある原稿に関しては,投
稿の際,編集者にその旨を届け出る必要があること
3.3.5 重複出版[overlapping publication]
(1)多重投稿[duplicate submission]
医学雑誌では,一般的に,同時期に他誌に投稿さ
を投稿規程や執筆要項に明記する必要がある。
(3)容認される二次出版[a c c e p t a b l e s e c o n d a r y
publication]
れた原稿と同じ原稿の投稿を受け付けることはな
翻訳記事や政府機関によって制定されたガイドラ
い。同じ原稿を受け付けることは,他誌との間で掲
インのように広く知らせる必要のある記事の掲載の
載権を争う結果となったり,気づかないままに他誌
ように,同じ内容が複数の雑誌に重複して掲載され
と同じ原稿を編集,査読し,出版してしまう可能性
ることがある。
がある。
ただし,同時掲載することが有益であると判断さ
れた場合は,編集者間の合意により同時に同内容の
論文を掲載する。
(2) 多 重 出 版( ま た は 余 剰 出 版 )[d u p l i c a t e
publication(redundant publication)]
多重出版とは,本質的に同じ内容の論文を繰り返
し出版することである。
URM(ICMJE)においては,次の条件を満たしてい
れば,二次出版は正当かつ有益であると考えられて
いる。
・著者が両方の雑誌の編集者から許可を得ている。
・初版の優先権を尊重するため二次出版までには少
なくとも1週間をおく。
・異なる読者層を対象としている。
・初版のデータおよび解釈を忠実に反映している。
雑誌の読者は,再掲載との明示がない限りは,掲
・タイトルページに掲載される脚注に初出を示す。
載論文はオリジナルであるととらえるのが普通であ
・タイトルは,初版の二次出版であることを明示す
る。多重出版には以下の問題があるため,編集者は
る。
他誌に投稿または受理された論文と同じ内容を報告
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JOHO KANRI
2013
vol.56 no.6
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3.3.6 ミスコンダクト(不正行為)への対応
投稿原稿や出版記事においてミスコンダクト(不正
行為)の疑いがある時は,Committee on Publication
Ethics(COPE)が公開しているフローチャートに従っ
て対応することを推奨する。
いがある時
・連絡責任著者[corresponding author]が出版前
に著者の追加を要求した時
・連絡責任著者[corresponding author]が出版前
に著者の除名を要求した時
C O P Eは,査読誌の編集者・出版者から構成される
・出版後に著者の追加を要求された時
フォーラムで,出版倫理について意見交換すること
・出版後に著者の除名を要求された時
を目的としている。C O P Eでは,ミスコンダクトの疑
・ゲスト,ゴースト,ギフト・オーサーシップの疑
いがあった時にとるべき手順として,次の17ケース
への対応を説明している。
参考
COPEの17のフローチャート(ミスコンダクトが疑
われた際の対応手順)
・投稿原稿が多重出版[r e d u n d a n t(d u p l i c a t e)
publication]となる疑いがある時
・掲載論文に多重出版[r e d u n d a n t(d u p l i c a t e)
publication]の疑いがある時
・投稿原稿に盗作[plagiarism]の疑いがある時
・掲載論文に盗作[plagiarism]の疑いがある時
いがある時
・著者[authorship]に関する問題の発見方法につ
いてのアドバイス
・査読者が投稿原稿にConflict of Interest(利益相反)
が明示されていないと疑った時
・読者が掲載原稿にConflict of Interest(利益相反)
が明示されていないと疑った時
・投稿原稿に倫理的問題の疑いがある時
・査読者が著者のアイデアやデータを盗用した疑い
がある時
・編集者に対する苦情へのCOPEの対処
・投稿原稿にねつ造データ[fabricated data]の疑
いがある時
3.4 海外の編集者会議との連携
・掲載論文にねつ造データ[fabricated data]の疑
本文の注
注1) 日本語訳はWAMEの承諾を得て翻訳をJAMJEのWebサイトに掲載している。
注2) 従来,臨床研究(clinical research)の対象となる者を指す言葉としては “human subjects”(
「被験者」
「研究対象者」などの訳語がある)が使用されており,ヘルシンキ宣言などの介入研究(intervention
study, experiment / experimentation)である臨床試験(clinical trial)が元来,想定された研究倫理に
関する国際的ガイドラインにおいては,現在でもこの用語が継続して使用されている。だが観察研究
(observational study)においては「被験者」は違和感を持たれている。一方で,近年では研究の対象
となる者は単なる客体ではなく,むしろ研究の一部を担う主体であるとの考えにもとづき,
「参加者」
(participant)という表現も使用されるようになってきた(CONSORT声明など)
。最近では,
データベー
ス研究が増えつつあるが,本人が明確に「参加」した意識をもたないレセプトデータベースなどもあ
る。本ガイドラインでは「研究参加者」を用いたが,論文著者がそれぞれの研究のセッティングを考
慮して,英語であればparticipantsかsubjects,日本語であれば,研究参加者,研究対象者,被験者の
いずれかの言葉を選ぶか吟味の上,決定して用いるのが適切であろう。どの場合でも,研究デザイン
に応じた倫理的配慮が不可欠であることは常に留意すべきである。なお,本用語は本ガイドラインの
3.1.1編集者の責務(1)雑誌出版を支える人々にも表れている。
372
医学雑誌編集者のためのガイドライン
Abstract
The Japanese Association of Medical Journal Editors (JAMJE) consists of medical journal editors from the
112 specialist medical societies comprising the Japanese Association of Medical Sciences (JAMS). In the
2008 inaugural meeting, JAMJE set out four objectives of its activity: defending medical journals' and their
editors' freedoms and rights; enhancing medical journal quality; developing publication ethics; and building
international partnership. The association drafted a publication guideline which responds to the objectives.
The guideline incorporates what the "Policy statements" and the "Syllabus for Prospective and Newly
Appointed Editors" of the World Association of Medical Editors (WAME) and the "Uniform Requirements for
Manuscripts Submitted to Biomedical Journals" of the International Committee of Medical Journal Editors
(ICMJE) cover, with Japan's local conditions reflected. It has four chapters corresponding to the JAMJE's
objectives.
Key Words
medical journal, editor, Japanese Association of Medical Journal Editors (JAMJE), journal editing, guideline,
publication ethics, editorial policy, code of ethics
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JOHO KANRI
2013
vol.56 no.6
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September
Journal of Information Processing and Management
連載:研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
第12回 法分野における人物・図書館情報
Series: Introduction to legal research for R&D and business
Part 12: Writings of legal professionals and libraries for legal research
いしかわ まりこ1
ISHIKAWA Mariko1
1 ウエストロー・ジャパン株式会社 コンテンツ開発センター(〒105-0003 東京都港区西新橋3-16-11 愛宕イーストビル
4F)Tel: 03-4589-1900 E-mail: [email protected]
1 Content Development Center, Westlaw Japan K.K. (Atago East Bldg. 4F 3-16-11 Nishishimbashi Minato-ku,Tokyo 105-0003)
情報管理 56(6), 374-379, doi: 10.1241/johokanri.56.374 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.374)
1. はじめに
2. 裁判官
連載では,法令そして判例についての基礎的な知
識とそれらの調べ方を述べてきたが,国内法につい
てのリサーチ案内は今回が最終である。この回では,
順序として論文検索を題材とすることが期待されて
裁判官の役割等については,裁判所W e bサイト内
に解説があるので確認されたい。
http://www.courts.go.jp/saiban/zinbutu/
saibankan/
いるかもしれない。が,法令,判例の解説文献の探
し方については,本連載中に立法担当者論文や逐条
2.1 裁判官と担当事件/裁判官の検索
解説書1),2),判例評釈論文3) の各項で,解説をして
裁判官の執筆になるものとしては,言うまでもな
いる。また,それら以外の文献の探し方は,適切な
く判決書(裁判例)であるが,裁判例末尾には担当
文献索引やそのデータベース(D B)を知れば,さほ
裁判官名がある。そこで,裁判官名により判例の検
ど難しい技術があるわけではなく,その検索ツール
索をするならば,担当裁判官の解釈の傾向調査につ
については『リーガル・リサーチ』第4版4)に詳細な
なげられる場合もある。有料の判例D Bでは,キー
記述があり,本誌の読者には十分と考える。
ワードとして裁判官氏名またはその一部を用いる検
そこで本号では,この分野の人物,具体的には裁
索が可能である。また,これらの中には,検索テン
判官,弁護士,司法書士,行政書士,弁理士,研究
プレートに「裁判官名」欄を用意している製品として,
注1)につ
「Westlaw Japan」
(ウエストロー・ジャパン)があり,
者の執筆物に焦点をあてながら,人物の検索
いて述べ,リーガル・リサーチを行う際に有用な書
裁判官の経歴と当D Bに収録された担当裁判例へのリ
店や図書館を紹介する。
ンクがある。
このほか,裁判官検索ができる無料のW e bサイト,
印刷体資料は以下の通りである。
374
研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
・e-hoki(新日本法規出版株式会社)
ざい)
,
『金融・商事判例』
(経済法令研究会)
,
『銀行
http://www.e-hoki.com/judge/index_6.html
法務21』(経済法令研究会),『労働判例』(産労総合
『裁判所・法務省・検察庁職員録』年刊(法曹会)
研究所),『判例地方自治』(ぎょうせい)等がある。
『司法大観:裁判所の部』4年に一度刊行,(法曹会)
これら判例専門誌をDB化した製品に「判例秘書」
(LIC)
非売品 最新版は平成23年度版
があり,記事本文も収録している。
『全裁判官経歴総覧:期別異動一覧編』第5版,2010
囲み記事・解説コラムは,判例を読み慣れない者
年12月(全裁判官経歴総覧編集委員会編/公人社)
にとって,助けになることも多く,判例そのものを
『裁判官Who's Who:首都圏編』2004年12月(現代
読む前にこれらを読むことが理解のうえで効率のよ
人文社)
『裁判官Who's Who:東京地裁・高裁編』2002年5
月(現代人文社)
い場合がある。
囲み記事・解説コラムを探すには,有料判例D Bで
判例の出典に以上の雑誌名がないかを調べ,実際に
各判例にあたりながら記事の有無を確認することと
2.2 判例の囲み記事・解説コラム
判例を読むというのは,そうたやすいことではな
い。何が論点なのか,何を争っている訴訟なのか,
なる。いずれの製品にも「判例タイムズ」が収録さ
れており,これら記事も収録されていて,判例と併
せて読むことが可能である。
何度読んでもつかめないということも少なくない。
その際に助けとなる記事が判例専門雑誌に収録され
2.3 最高裁判所裁判官の意見
ており,裁判官や最高裁判所調査官によって書かれ
最高裁判所判例については,裁判所法第11条によ
ていると言われている。専門誌に収録された判例の
り「裁判書には,各裁判官の意見を表示しなければ
冒頭等に付され,判例そのものとの区別がつくよう
ならない。」と規定されている。意見5)は,各裁判官
に囲み枠をつけたり,解説と書かれているものがそ
の氏名のもと,理由の末尾部分で知ることができる。
れにあたる。立ち入った論評をしないせいか,どの
少数意見がやがて多数意見になる場合もあり,その
専門誌の記事にも不思議なことに署名はなく,論文
後の判断を考えるうえで興味深い部分とみることが
とは扱いの異なるものである。そこで,この種の記
できる。
事は評釈や解説論文と区別する意味合いから,囲み
記事,解説コラムなどと言われている。特報扱い等
3. 弁護士
になっている事例に添えられており,収録裁判例の
すべてに付されているわけではないが,最高裁,下
級裁判所を問わず付されている。何が争点の事例で
弁護士の資格や仕事については,日本弁護士連合
会サイトに解説がある。
あるか,上訴された裁判の場合には一審,二審の経
・日本弁護士連合会サイト
緯と判断,当判例の先例ともなる別の裁判例,学説
http://www.nichibenren.or.jp/
の整理とその紹介などをしている。判例の読み方と
参考になる別判例,資料の紹介があるので,ひとつ
3.1 弁護士等訴訟代理人と担当事件
の事例からさらに類似事例などを調べるときの端緒
弁護士は,訴訟において,当事者の相談にのり法
にも利用できる。この種の記事を定期収録する雑誌
的解決にあたるが,裁判所が発行する判例集上には,
として,
『判例タイムズ』(判例タイムズ社),『判例
冒頭に当事者名が記され,それに並んで民事事件で
時報』
(判例時報社)のほか,『金融法務事情』(きん
は訴訟代理人,刑事事件では弁護人として弁護士氏
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JOHO KANRI
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vol.56 no.6
Journal of Information Processing and Management
http://johokanri.jp/
September
名が記される。なお,訴訟代理権は,簡易裁判所に
おける訴訟では弁護士のほか,司法書士(司法書士
このほか,印刷体の資料とW e bサイトは以下の通
りである。
法3条1項6号・2項),裁判所の許可を受けた第三者(民
『日本弁護士連合会会員名簿』年刊(日弁連)非売品
事訴訟法54条1項但書)にも認められている。また,
『全国弁護士大観』第14版,2012年(法律新聞社)
知的財産権に関する特定侵害訴訟においては,弁護
『ビジネス弁護士大全2011』2010年(日経BP社)
士が同一の依頼者から受任している事件に限り,特
定侵害訴訟代理業務試験に合格し,その旨の付記を
・司法書士検索・司法書士法人検索(日本司法書
士会連合会)
受けた弁理士にも認められている(弁理士法6条の
http://search.shiho-shoshi.or.jp/
2)。これら訴訟代理人,弁護人を含む当事者名は,
・行政書士検索(日本行政書士会連合会)
判例専門雑誌や判例D Bにおいては,裁判所発行資料
https://www.gyosei.or.jp/members/search/
と同様にはみられず,ことに刑事事件では当事者名,
・弁理士ナビ(日本弁理士会)
弁護人名が仮名処理されたり割愛されることが大半
http://www.benrishi-navi.com/
である。一方,民事事件であるならば,弁護士等の
氏名から多くの担当事件を検索することができる。
なお,司法書士,弁理士のほかに,訴訟代理権はな
弁護士個人名やその所属法人名で著すもののほ
いが一定の法律分野に限定された業務権限を有する
か,弁護士会名によるものがある。弁護士の地域弁
専門職としては,行政書士という職種もある。各職
護士会への登録についてはすでに記したが,弁護士
の資格や仕事についての詳細は,それぞれの連合会
会は各都道府県に最低ひとつはあり,詳細は日本弁
等のWebサイトを参照されたい。
護士連合会サイト「全国の弁護士会・弁護士会連合
・日本司法書士会連合会
会」(http://www.nichibenren.or.jp/legal_apprentice/
http://www.shiho-shoshi.or.jp/
bengoshikai.html)にみられ,
各名称や所在がわかる。
・日本行政書士会連合会
こうした弁護士会では,活動のひとつとして研究会・
http://www.gyosei.or.jp/service/
研修会を設けている例があり,弁護士会名で出版さ
・日本弁理士会
れる報告資料が散見される。研究書とはいえ,実務
http://www.jpaa.or.jp/
に即している点に特徴がある。
3.2 弁護士,司法書士,行政書士,弁理士の検索
弁護士がその業務を行うには,各地にある弁護士
3.4 弁護士,司法書士,行政書士,弁理士の執筆物:
実務書
会とその連合体である日本弁護士連合会に登録しな
実際の法的用務に役立つことをねらい著される
ければならないとされている。そこで,日本弁護士
ジャンルの書籍を実務書とよぶことが多い。弁護士
連合会W e bサイト内で弁護士情報検索,弁護士法人
ばかりでなく司法書士,行政書士,弁理士が著す実
情報検索ができる。
務書が数多くある。これらには,さまざまなレベル
・弁護士情報検索
のものがあり,一般市民を対象とするものから,法
http://www.nichibenren.or.jp/bar_search/
務のプロ向けと思われるものまで幅がある。実務書
・法人情報検索
の選択の余地がある場合には,対象となる事例を数
http://www.nichibenren.or.jp/houjin_search/
多く手がけている職にある執筆者のものを選択する
index.cgi
376
3.3 弁護士の執筆物:研究書
のも勧められる。
研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
3.5 実務書等の入手先
研究書や実務書などの資料は,a m a z o n . c o mをは
じめとして一般書店の在庫検索W e bサイトで調べ入
「研究者検索」に進むと,
「研究者氏名」や「研究キー
ワード」などから検索ができ,研究者のプロフィー
ルや業績などさまざまな情報を閲覧できる。
手ができるが,特に研究書のなかには弁護士会自身
また,同じくJSTの提供する「J-GLOBAL」
(http://
が出版するケースがあり,一般の書店では入手しづ
jglobal.jst.go.jp)は「つながる,ひろがる,ひらめ
らいものがある。一方,この分野の資料を専門に扱
く」をコンセプトに,これまで個別に存在していた
う書店のD Bではその種の資料を発見できる場合があ
知識をつなぎ,発想を支援するサービスである。
る。試しに,以下のW e bサイトの著者名入力ボック
「J - G L O B A L」の研究者情報には上記「R&R」の情報
スに「弁護士会」といれ結果をみるとさまざまな弁
が取り込まれており,「研究者」タブ内で,研究者氏
護士会の,入手可能な研究書等を知ることができる。
名を入力すると,「R&R」で得られる情報に加えて,
・弁護士会館ブックセンター
その研究者の研究内容に近い研究者一覧,研究内容
http://www.b-books.co.jp/
に近い文献一覧,研究課題一覧が示される。
東京都千代田区霞が関1-1-3弁護士会館地下1階
・至誠堂書店
さらに国立情報学研究所(N I I)が作成している
「KAKEN(科学研究費助成事業)データベース」
(https://
http://www.shiseido-shoten.co.jp/
kaken.nii.ac.jp)が挙げられる。科学研究費とは,日
東京都千代田区霞が関1-1-4東京高等裁判所地下
本学術振興会が「学術研究」を発展させる目的で,
1階
申請者の業績等を審査し,独創的・先駆的な研究に
・成文堂法律専門インターネット書店
対し与える「競争的研究資金」である。研究課題と
http://www.seibundoh.co.jp/shoten/
研究者名の両方で調べられる。研究の採択課題,助
法律専門といえる書店は多くはない。法分野の専
成による研究成果の概要,成果報告書および自己評
門書等で得難い資料があれば,これら書店に相談す
るのも方法であろう。
価報告書を収録している。
執筆物の検索には,
国立国会図書館の「NDL-OPAC」
なお法の分野では,法令の改正や判例の変更,新
の「雑誌記事索引」の利用が考えられるが,当索引
判例の追加を契機として資料が改版されることがあ
を包括するCiNii Articles(NII)
(http://ci.nii.ac.jp/)の
る。そのため,より新しい発行,新しい版の存在を
利用を勧めたい。デジタル化された論文本文が,
大学,
確認,選択することは必須であり,変化に対応して
研究所の成果を集積し公開している各機関のリポジ
いるかに注意を払いたい。
トリに収録されていれば,それらとのリンク付けが
4. 研究者
なされ当DB上で論文の入手までが可能である。
5. 図書館
法分野の書き手の多数を占めるのが大学や研究諸
機関に所属する研究者である。
法分野にとどまらず,研究者の検索ができる無料
リーガル・リサーチに活用できる図書館(室)を
以下に紹介をする。
公開W e bサイトとして科学技術振興機構(J S T)の
「ReaD & Researchmap」
(R & R)(http://researchmap.
5.1 法律専門図書館
jp/)がある。22万件におよぶ日本の研究者情報をデー
法律専門図書館として,国立国会図書館,その支
タベース化した研究者総覧である。同W e bサイトの
部図書館として最高裁判所図書館,法務図書館があ
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情報管理
JOHO KANRI
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vol.56 no.6
Journal of Information Processing and Management
http://johokanri.jp/
September
る。国会図書館には,専門資料室として,「議会官
を受けた官報,公報及び刊行物を保管して置かなけ
庁資料室」(http://www.ndl.go.jp/jp/service/tokyo/
ればならない。」とされており,18項において「都道
parliamentary/index.html)がある。当室は,国内外
府県は,当該都道府県の区域内の市町村の議会及び
の議会会議録・議事資料,国内外の官公報,法令集,
他の都道府県の議会に,公報及び適当と認める刊行
判例集,条約集,国内外の官庁の刊行資料目録・要
物を送付しなければならない。」とされている。図書
覧・年次報告,統計資料類,政府間国際機関刊行資
館の公開等状況は,それを担当する専任職員の有無
料,法律・政治分野の参考図書類を収集している。
等で異なるであろうが,その利用の詳細を確かめる
18歳以上であれば,利用資格を問われることはなく
ことを勧める。インターネットで,
地名と「議会図書」
入室でき,レファレンスサービスが受けられる。一方,
などをキーワードに検索するとよい。基本的な法令
最高裁判所図書館,法務図書館は,その専門性の高
集,判例集,国会と当都道府県,当区域内市町村の
さから,外部の者に対しては,利用目的(たとえば,
議会議事録や例規集の所蔵が考えられる注2)。
当館にのみ所蔵が限られるなど)に応じた利用申込
なお,議会図書室ではないが,これと関連して都
制をとっている。詳しくは最高裁判所図書館,法務
市問題,自治問題等で注目されている図書館がある
図書館のWebサイトを確認することが望ましい。
ので,以下に紹介する。各Webサイトからは各OPAC
にもアクセスできる。
5.2 法学部のある大学図書館
法学に関する学部をもつ大学の図書館の利用が考
・公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所市
政専門図書館(旧:財団法人東京市政調査会)
えられる。所蔵の大半は,国内,海外の学術書である。
http://www.timr.or.jp/library/
貸出や有料D B利用に制限はあるものの一般公開をし
・公益財団法人特別区協議会 特別区自治情報・
ている場合がある。
交流センター
http://www.research.tokyo-23city.or.jp/
5.3 都道府県立図書館
基本的な法分野の資料収集が行われ,大学図書館
5.5 業界団体の図書館
ではみることの少ない実務書を収集している。W e b
業種ごとの協会等機関が設立する図書館がある。
サイトでは,当該自治体内の図書館や,利用を公開
各業に関係する資料を所蔵しているのだが,各業協
している大学等所蔵資料の横断検索が行える場合も
会の出版物も含まれ,その業種を規制する通達・通
ある。また,法分野の有料D Bの利用ができることも
知集などがみられる場合がある。たとえば,金融関
あり,導入しているものの確認ができる。東京都立
係業界をみても以下にあげる図書館がありOPAC,直
中央図書館,神奈川県立図書館,横浜市立図書館,
接利用が一般に公開されているのでこれらの利用を
大阪府立中之島図書館などは,ビジネス支援等の延
勧める。
長から法分野のレファレンスサービスを積極的に
・銀行図書館(全国銀行協会)
行っていることが知られている。
http://www.zenginkyo.or.jp/library/
・証券図書館(日本証券経済研究所)
5.4 地方公共団体の議会図書室
都道府県と市町村の議会図書室は,地方自治法第
378
http://www.jsri.or.jp/web/library/tokyo/index.
html
100条第19項において「議会は,議員の調査研究に資
・損害保険事業総合研究所 図書室
するため,図書室を附置し前二項の規定により送付
http://www.sonposoken.or.jp/library
研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
・生命保険協会
6. おわりに
http://www.seiho.or.jp/
・生命保険文化センター
http://www.jili.or.jp/index.html
連載では12回にわたり国内法のリサーチ入門をお
届けしてきたが,研究・実務にいくらかでも役立て
ていただければと願う。次回から,海外のリーガル・
5.6 図書館のガイド情報
リサーチ入門をお届けする予定である。
以上,図書館の紹介をしたが,専門図書館のガイ
ドとしては『専門情報機関総覧2012』6)がある。各図
書館のWebサイトとともに活用されたい。
本文の注
注1) 次の資料も参考にされたい。いしかわまりこほか. “第Ⅳ部 文献を調べる 1.4人物を調べる”. リーガ
ル・リサーチ. 第4版, 日本評論社, 2012, p. 261-270.
注2) 各地方公共団体の行政関係資料については,次も参照されたい。中網栄美子. 研究・実務に役立つ!リー
ガル・リサーチ入門 第10回 行政情報 3.2 行政資料センター・文書館. 情報管理. 2013, vol. 56, no. 4,
p. 239-240.
参考文献
1) 村井のり子. 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第4回 法令の解説 3.4 立法担当者の解
説記事を読む. 情報管理. 2012, vol. 55, no. 10, p. 756-757.
2) 村井のり子. 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第4回 法令の解説 3.5 逐条解説書(コ
ンメンタール)を利用する. 情報管理. 2012, vol. 55, no. 10, p. 757-758.
3) 金澤敬子. 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第8回 判例評釈を探す 3.1『最高裁判所判
例解説』民事編,刑事編(法曹会).情報管理. 2013, vol. 56, no. 2, p. 103.
4) いしかわまりこほか. “第Ⅳ部 文献を調べる”. リーガル・リサーチ. 第4版, 日本評論社, 2012, p. 241-377.
5) 藤井康子. 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門第6回 判例とは 本文の注 注12) . 情報管理.
2013, vol. 55, no. 12, p. 916.
6) 専門図書館協議会調査分析委員会編. 専門情報機関総覧2012. 専門図書館協議会, 2012, 770p.
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連載:新興地域の統計事情
第10回 国際産業連関表
Series: The state of statistics in emerging regions
Part 10: International Input- Output Tables
桑森 啓1 内田 陽子1 玉村 千治1
KUWAMORI Hiroshi1; UCHIDA Yoko1; TAMAMURA Chiharu1
1 日本貿易振興機構アジア経済研究所 開発研究センター(〒261-8545 千葉県千葉市美浜区若葉3-2-2)
1 Development Studies Center, Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization(3-2-2 Wakaba Mihamaku Chiba-shi, Chiba 261-8545)
情報管理 56(6), 380-384, doi: 10.1241/johokanri.56.380 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.380)
1. はじめに
2. 国際産業連関表の概要
本連載では,新興国・地域の統計事情について,国・
本章では,国際産業連関表の概念について説明す
地域別に紹介を行ってきた。連載の最終回となる本
る。国際産業連関表は,各国の産業間の取引を記録
稿では,これまでの国・地域別の統計事情の紹介と
した「産業連関表」を,貿易取引を通じて複数国に
は異なり,
「国際産業連関表」という特定の統計に焦
ついて連結した統計表である。したがって,国際産
点を当て,その特徴や作成状況を紹介する。本稿で
業連関表を理解するためには,そのベースとなって
殊更に国際産業連関表を取り上げる理由としては,
いる産業連関表がどのようなものかをまず知ってお
国際分業や経済統合の進展など,近年注目を集めて
く必要がある。ここでは,通常の産業連関表につい
いる経済現象を分析するうえで,その基礎データと
て説明した後,その拡張である国際産業連関表につ
しての有用性が高まってきていることや,本連載を
いて紹介する。
担当しているアジア経済研究所が数少ない作成機関
としてその作成を過去30年以上にわたって担ってき
2.1 産業連関表の見方と役割
たことなどが挙げられる。
2.1.1 産業連関表の見方
国際産業連関表は,国民所得統計や貿易統計,人
産業連関表とは,ある経済の一定期間(通常は1
口統計といった通常の統計と異なり,一見しただけ
年間)における財・サービスの産業間の取引を包括
ではその示しているところがわかりにくい。したがっ
的に記述した統計表であり,①国民所得統計,②資
て,本稿では,まず国際産業連関表の見方について
金循環表,③国際収支表および④国民貸借対照表と
説明した後,その作成状況について紹介する。
ともに,一国の経済取引を統一的に記録する勘定
体系である国民経済計算体系(S y s t e m o f N a t i o n a l
Accounts: SNA)の中核をなす5つの統計表の1つであ
380
新興地域の統計事情
る。
表1は,一国の経済を単純化し,農業と製造業の2
産業のみから構成されていると仮定した場合の産業
連関表の例である。ここでは,各産業の生産量は,
すべて金額で表示してある。表の見方は以下の通り
である。
表1 産業連関表の例(2産業)
(単位 : 億円)
中間需要
国 内 輸出
輸入 総産出
農 業 製造業 最終需要
(控除)
95
115
530
30
-470
300
中間 農 業
投入 製造業
45 1,615
855
675
-190 3,000
付加価値
160 1,270
総投入
300 3,000
出典 : 筆者作成。
まず,表1を横方向に読むと,各産業の産出構造
(販路構成)を知ることができる。例えば,行見出し
2.1.2 産業連関表の役割
の「農業」を横方向に見ていくと,表の右端には1年
産業連関表は,上述の通り,国民経済計算体系の
間に生産された農業の生産物の総額(総産出)とし
中核をなす統計表の1つとして,各産業で1年間に生
て300億円が計上されている。その間の欄には,300
産された生産物の使途と費用構成を示すほか,その
億円の農業の生産物が,各産業やその他の経済主体
作成自体が重要な意味を持っている。すなわち,産
にどれだけ販売されたかが記録されている。表1から
業連関表は生産統計,所得統計,貿易統計などの統
は,300億円のうち95億円が農業に,115億円が製造
計を独自の調査(投入産出調査)を踏まえて統合し,
業に販売されたことがわかる。各産業への販売額は,
統一的な基準の下で記録しているため,各種統計の
その産業の生産に原材料などとして使用されるため,
整合性の確認・維持という役割を果たしている。
「中間需要」と呼ばれる。さらに,農業の生産物は
また,統計表としての役割のほかにも,産業連関
「最終需要」と呼ばれる家計消費や政府消費,投資な
表は分析ツールとしての側面も持っており,基本的
どに530億円販売され,海外にも30億円が輸出されて
な行列計算により,各産業の生産物に対する需要の
いる。しかし,国内外の「中間需要」や「最終需要」
変化(イベントやプロジェクトなど)が産業間の結
を満たすために必要となる農業の生産物の合計は770
びつきを通じてもたらす経済波及効果を計測するこ
億円に上り,国内の生産額300億円だけでは需要を賄
とが可能となる。そのため,政策効果の計測などに
い切れない。そのため,不足分の470億円は輸入によっ
利用されている。
て賄われることになり,それがマイナスの控除項目
として「輸入」の欄に計上されている。
一方,表1を縦方向に読むと,各産業の投入構造
このような性質から,産業連関表は基礎統計の整
備や開発政策の評価などを目的として,多くの国・
地域において作成が行われてきた。
(費用構成)を知ることができる。列見出しの「農業」
を縦方向に読むと,300億円の生産を行うために,農
2.2 国際産業連関表への拡張
業から95億円,製造業から45億円を原材料などとし
2.2.1 国際産業連関表の見方
て購入することがわかる。生産のために各産業から
国際産業連関表は,表1で示した産業連関表を,貿
購入する原材料などを「中間投入」と呼ぶ。中間投
易取引を通じて複数の国について連結し,国内の産
入のほか,生産には労働や生産設備などの生産要素
業のみならず,各国の産業間の取引を記録した統計
の投入が必要である。産業連関表では,これら生産
表である。表2は,2か国(A国およびB国)の産業連
要素の投入は「付加価値」として計上されている。
関表を連結した国際産業連関表の例である。なお,
表1の例では,300億円の農業生産のために,労働な
各国の産業は表1と同様,2産業(農業と製造業)の
どの生産要素を160億円投入していることがわかる。
みからなると仮定している。表2におけるA国の部分
は,表1の産業連関表を国産財と貿易財(輸入財と輸
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表2 国際産業連関表の例(2か国2産業)
統計表としての役割と,分析ツールとしての役割が
(単位 : 億円)
中間需要
農 業
製造業
農 業
B国
製造業
付加価値
総投入
A国
A国
B国
農 業 製造業 農 業 製造業
50
85
5
10
35 1,500
45
100
45
30
150
80
10
115
85
150
160 1,270
615
110
300 3,000
900
450
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最終需要 総産出
A国 B国
135
790
395
65
15
530
200
25
300
3,000
900
450
出典 : 筆者作成。
ある。統計表としては,国際産業連関表の作成は,
各国間の部門概念の違いや貿易をはじめとする各種
統計の不整合の有無やその程度を明らかにするとい
う役割を持つ。また,作成された国際産業連関表は
異なる国々の産業連関表を同一の基準で分類し,貿
易統計を使用して連結しているため,対象国間の貿
易額や生産額を統一的な基準で比較することが可能
となり,国際比較統計としての役割を果たすことに
出財)に分けて記述し,B国の産業連関表と連結した
なる。さらに,国際産業連関表が提供する独自の情
ものである。
報として,どの国のどの産業とどれだけの取引を行っ
表2から明らかな通り,国際産業連関表は表1で示
ているかを示す国際間の「中間取引額」がある。こ
された通常の産業連関表における産業間取引を国産
の情報は,国をまたいだ産業間の結びつきを明らか
財と相手国別の貿易財(輸入財と輸出財)に区別し
にすると同時に,同一の最終製品を作る工程が複数
て記録することにより,国内産業のみならず,他国
に分割され,各工程の生産活動が異なる国や地域に
の産業との取引額をも読み取ることを可能にする。
おいて行われる「フラグメンテーション」と呼ばれ
例えば,A国の行見出しの「農業」を横方向に見てい
る分業形態など,近年新たに観察されるようになっ
くと,この産業の生産額300億円のうち,国内の農業
た国際分業の状況を把握することを可能にする情報
に50億円,製造業に85億円が販売されB国の農業と製
として,最近特にその重要性が注目されつつある。
造業にそれぞれ5億円と10億円が販売されることがわ
また,通常の産業連関表と同様,国際産業連関表
かる。さらに,農業の生産物はA国内の消費などの最
は分析ツールとして経済波及効果の計測にも用いら
終需要として135億円,B国の最終需要部門に15億円
れる。通常の産業連関表と異なり,国際産業連関表
がそれぞれ需要されることが読み取れる。一方,A国
を用いれば,国内の各産業に対する経済波及効果の
の列見出しの「農業」を縦方向に見ていくと,この
みならず,他の国の産業への経済波及効果をも計測
産業の生産物300億円を生産するために,A国の農業
することが可能となる。
と製造業からそれぞれ50億円と35億円を,B国の農業
と製造業からそれぞれ45億円と10億円を原材料や部
3. 国際産業連関表の作成状況
品として購入していることが読み取れる。さらに,
「付
加価値」の項目を見ると,労働や生産設備などの生
3.1 日本における作成状況
産要素が160億円投入されていることがわかる。すな
国際産業連関表の概念が最初に提案・作成された
わち,国際産業連関表からは,表1に示される通常の
のは米国においてであるが,その後,国際産業連関
産業連関表における一国内の産業間の取引のみなら
表を継続的に作成・公表を行ってきた国は,ほぼ日
ず,各国間の貿易を通じた産業同士の取引関係を把
本のみであり,日本は国際産業連関表の作成におい
握することが可能となる。
て,中心的な役割を果たしてきた。日本において主
に作成を担ってきたのはアジア経済研究所と通商産
2.2.2 国際産業連関表の役割
国際産業連関表には,通常の産業連関表と同様,
382
業省(現経済産業省)である。
アジア経済研究所は,1970年代からアジア諸国の
新興地域の統計事情
産業連関表の作成に携わるとともに,現地の政府機
連関表の有用性が注目されるようになった。その結
関や研究機関と共同でアジア諸国と日本の産業連関
果,海外でも国際産業連関表を作成する動きが活発
表を連結した国際産業連関表を作成・公表してきた。
になっている。中でも,オランダのグローニンゲン
1976年に韓国と日本を連結した「1970年日本・韓国
大学をはじめとするE Uにおける11の機関が参加・実
国際産業連関表」を公表したのを皮切りに,以後,
施しているWorld Input-Output Database(WIOD)
東南アジアや東アジアの国々を対象として,これら
Projectは,EUに含まれる27か国を中心とする40か国・
の国々と日本の産業連関表を連結した二国間および
地域を連結した国際産業連関表を作成するという大
多国間の国際産業連関表を作成してきた。2013年6月
規模なプロジェクトである。現在,WIODでは,1995
現在,30を超える国際産業連関表を作成している。
年から2009年までの国際産業連関表や関連する統計
一方,通商産業省(現経済産業省)では,1985年以降,
表を作成・公表している。
日本と欧米諸国を連結した二国間国際産業連関表お
なお,本節で紹介した国際産業連関表は,各作成
よび日本・米国・アジア・E Uを連結した多国間の産
機関より,有償・無償で提供されている。詳しくは,
業連関表(世界表)を作成・公表してきた。近年は,
表3に示した各機関のWebサイトを参照されたい。
日本と米国を連結した二国間の国際産業連関表の作
成を続けているほか,2012年には2007年を対象とし
4. おわりに
た日本中国国際産業連関表を公表している。通商産
業省(現経済産業省)からは,これまでに10の国際
本稿では,国際産業連関表という統計表について,
その概要と作成状況について紹介してきた。国際産
産業連関表が公表されている。
業連関表は,経済統合や国際分業などの現象を分析
3.2 近年の状況
するためのデータやツールとして,近年その有用性
国際産業連関表の作成は,これまではほぼ日本で
がにわかに注目されるようになり,研究者や国際機
のみ継続的に行われ,海外ではあまり注目を集めて
関などさまざまなユーザーに利用されるようになっ
きたとは言い難い。しかし,近年では,E Uをはじめ
た。
とする地域経済統合や,フラグメンテーションに代
しかし,分析が可能となるためには,国際産業連
表される先進国と新興国との間における国際分業(工
関表そのものが存在しなくてはならないが,国際産
程間分業)などが観察されるようになり,これらの
業連関表の作成はアジア経済研究所や経済産業省の
現象を分析するための基礎データあるいは分析ツー
ような研究機関や政府機関が,その都度プロジェク
ルとして,国際間の産業間取引を記述した国際産業
トとして実施しているものであり,通常の公的統計
表3 国際産業連関表の作成状況
作成機関 ・
プロジェクト
作成している
主な国際産業連関表
データ利用に関するWebサイト
日本貿易振興機構
アジア経済研究所
アジア国際産業連関表
経済産業省
日米国際産業連関表
日 ・ 米 ・ アジア ・ E U多国間国 http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kokusio/result-2.html
際産業連関表 (世界表)
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Books/Tokei/material.html
World Input-Output
D atab as e (W I O D) 国際産業連関表 (40か国対象) http://www.wiod.org/database/iot.htm
Project
出典 : 各機関のWebサイトより筆者作成。
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383
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September
のように法律に基づいてその継続的な作成が保証さ
められる。多くの関係者の努力があって初めて,国
れているものではない。さらに,その作成には膨大
際産業連関表を利用した分析が可能となることを認
な時間と労力が必要であり,多くの関係者が長期間
識する必要があるだろう。
にわたって忍耐強く地道な作業に従事することが求
参考資料
a) 武野秀樹, 山下正毅編. 国民経済計算の展開. 同文館, 1993, 272p.
b) 玉村千治, 桑森啓, 佐野敬夫. アジアの国際産業連関表作成:その背景と経緯(特集 アジアの産業連関表)
.
産業連関. 2012, vol. 20, no. 1, p. 15-22.
384
視点 ●All I need to know I learned from …
A ll I ne ed to k now I lear ne d f r om …
( そ の2:9月号だけどひまわりの 章)
東京外国語大学学術情報課 茂 出 木 理 子
情報管理 56(6), 385-388, doi: 10.1241/johokanri.56.385 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.385)
前回を振り返って
5月号に掲載された第1回のエッセーにさまざまな
が集まって1つの花の形を作っている点である。チー
ム力のある花の代表格である。ひまわりにその意識
感想をいただいた。おしなべて,女性陣からは「すっ
があるかないかは問わないが,
見るたびに「全体最適」
きりしました」という感想で,男性陣からは「刺激
という言葉が思い浮かび,感慨深い。
的でしたけど,コワイことが書いてありました」と
知識を「定
前田明洋の『ナレッジ・コモンズ』1)では,
いう感想だったのは,なんだかおかしい。残暑厳し
理知」「適合知」「改革知」の3つに分けて解説してい
い折(この原稿を書いているのは6月末なのであくま
る。大胆に要約すれば,問題解決に当たって,
「定理
で予想の残暑),今月号もくれぐれも体調の良い状態
知」(個別の事実だったり,技能だったり)を組み合
でお読みいただきたいと思う。
わせたり,加工したりしたものが「適合知」である。
前回は「ハッピーな職場」と「新しいことにチャ
「改革知」も「定理知」の組み合わせや加工により創
レンジする勇気」について書いた。楽しそうに言い
造されるが,「質と価値の転換」というプロセスを経
たい放題でしたね,という感想もいただいたが,何
る点に特徴がある。
と言われようと,
「ハッピーな職場」を目指すのがリー
問題解決に当たって,個々の知識の個別攻撃では
ダーの役割である。これを学問的に言うと「組織心
なく,知識を組み合わせて「適合知」,すなわち総合
理学」という学問に相当するそうである。組織心理
的で実践的な知にすることは日常的にも行っている
学とは,平たく言うと,楽しくってもっと続けたい
が,これも個々のリンクづけと全体最適だと主張し
と思うように仕事をデザインすることを主眼とする
たい。
学問のこと。なんと素敵な響きであることか。
さて,今回は「個々をリンクづける」と「全体最適」
について書きたい。
プレゼンだって全体最適
プレゼンにはストーリーが必要である。アカデミッ
クなプレゼンには,また違った水準が求められると
ひまわりと全体最適
は思うが,私が頼まれるプレゼンでは,主催者から
今回のテーマ花「ひまわり」は,チューリップに
のお題にそって,自分なりの結論とそこに至るまで
次いで私の好きな花である。その理由は,一見明る
の葛藤や思考過程を語ることが多い。ストーリーを
く無邪気に見えるが,持つ人が持てば,この上なく
語るということは,個々のデータ,エピソード,文
おしゃれで色っぽいところにある(逆に言うと,持
献からの引用などを,どうリンクづけ,全体として
つ人によってはこの上なく野暮ったい)。もう1つの
スマートな物語に仕上げるかということである。ま
理由は,ひまわりは「頭状花序」,すなわち多数の花
さに,個々のリンクづけと全体最適である。
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ついでに,なぜ,「事例報告」プレゼンがつまらな
著作の成り立ちを読むと,これらの関係性を正しく,
いことが多いのか。再び『ナレッジ・コモンズ』の
美しくRDA(Resource Description and Access)で表
言葉を借りると,
「適合知のストックは意味がない」
現するのは,なかなか骨が折れそうである。が,楽
からであろう。成功事例というのは全体最適が図ら
しそうな作業でもある。
れた適合知である。が,適合知というのは,万能で
究極,すべてのものは個々の実態をどう表現する
はない。あくまで,ある状況,その時のリソースに
かということと,その相互関係をどう表現するかに
対して力を発揮したものである。「適合知」と同様に,
つきるのかもしれない。などというようなことを,
成功事例もそのままどこかで使えることはない。し
あまりに一生懸命考えていたので,R D Aの研修会に
たがって,事例報告をそのまま披露されても心に響
参加しながらも,あれこれと考えすぎ,ついには人
かない。事例報告は,「定理知」で分解するか,「改
間関係の記述とリンクについて思いをはせてしまっ
革知」に展開するかで語られないと面白くないのは
た。人間関係では,その時々の上司・部下というわ
当然のことである。
かりやすい関係に加え,影響を受けた・与えた関係
性やその深さ,またその影響を他者にも広げた影響
目録業務こそ全体最適
図書館業務でも「全体最適」を意識するべきであ
るが,特に目録作成は,全体最適の世界である。学
度の広がりというものも含めて,相互の関係性を記
述すべきである。強引な結論だが,人間関係も個々
のリンクづけと全体最適に関連すると思う。
術情報センター(NACSIS)での勤務時代,NACSISCATレコード調整の総元締めをやっていた私が言うの
だから,信じていただきたい。
ヘンリー・クラウドの『リーダーの人間力』3)では
もちろん,共同目録の世界においての全体最適と
「人の行った仕事には航跡が引かれている。航跡は業
いう意味もあるが,むしろ,目の前の資料をどのよ
績と人間関係に大別できる」と説明されている。航
うに分析し,要素を記述し,リンクづけして,利用
跡といえば,首都圏のターミナル駅で前の人のキャ
者に提供するかの点においての全体最適化がポイン
リーバッグにぶつけられるほどムッとするものはな
トである。
い。人間,誰しも,自分の前方には注意を払うが(転
先日,久しぶりに新渡戸稲造の『武士道』2) を手
んだりすると痛いので)
,後ろのこと,過去のこと,
にとった。
「それ(武士道)は何十年,何百年もの武
要するに「航跡」のことは案外と気にしないものか
の経験が,有機的に成長したものだ」(原文では,I t
もしれない。ワークライフバランスという言葉もあ
was an organic growth of decades and centuries of
るが,自分の航跡,すなわち個々の経験をリンクづ
military career.)という一文が目を引いた。ランガナ
け,人としての最適化を図ることは個人の責任であ
タンの「図書館は成長する有機体である」を連想さ
り,センスが問われるものであろう。
せる文章である。有機的とは,一見ばらばらに見え
マックス・デプリーの『響き合うリーダーシップ』4)
るものが,実は深く関連し合うことによって,1つ
では,リーダーの資質として,「関係性を築く手腕と
のまとまりとしての全体が成り立っている,という
全体としての統合」があげられている。たとえ,今
ことであるので,新渡戸さんもランガナタンさんも,
年度の業務目標が「現在のリソースでできる範囲の
個々のリンクづけと全体最適に関しては,きっと同
ことをできるレベルでやりましょう」という超盛り
意いただけるのではないかと思うと心強い。
上がらないものだとしても,リーダーたるもの,個
さらに,
『武士道』の訳者序と緒言に書かれている
386
航跡の全体最適
別業務をうまくリンクづけし,全体最適を意識し,
視点 ●All I need to know I learned from …
日々の仕事を意味あるものにしなければならない。
共通因数でくくり出すことで,すっきりとした形で
それは,日々の業務や出来事を「具体的にしか語れ
認識することができる。「業務を具体的にしか捉えら
ないか,抽象化できるか」にかかっているように思
れないか,抽象化できるか」という話にも通じる。
う。
一方,個をつなげて,全体最適を図るべきという
のは,何も個が弱い,頼りにならないからではない。
放てば手にみてり
「放てば手にみてり」は,道元禅師の言葉であるが,
むしろ個のパワー,価値を認めるからである。パワー
のある個が,たまたまある場面で集まったものがリ
もっと端的な言葉に置き換えられるのではないかと
ンクして,全体最適を図るべきであり,それは,固
思い至った。それは,「集中と選択」である。何に集
定的な集合体でもないし,個も1つの集合体に固定さ
中するか(満たすか),何を選択で捨てるか(放つか)
,
れる必要はない。
その基準は,部分最適ではなく,個々のリンクづけ
権威や力による管理ではなく,緩やかなコントロー
と全体最適かどうかで判断するのがスマートな態度
ルによって全体的にうまく機能するという世界につ
である。
いては,シャーリーン・リーの『フェイスブック時
そもそも集中しすぎると,視野が狭くなって,目
代のオープン企業戦略』6)に詳しい。私は,これがで
の前のことがすべて!となり危険である。特に自転
きていればたいがいのことはうまくいくはずだと確
車の運転には気をつけないといけないと,私の友人
信しているので,理想論だと片づけずに,今後のあ
がよく言っている。自転車では,もちろん眼前に集
るべき姿として目指したい。
中しなければいけないが,自分で思っている以上に
ここまで書いて,ふと思い出した拙文がある。平
スピードが出ているので,前後左右に意識をうまく
成18年度の国立大学図書館協会ワーキンググループ
ばらして,入ってくる情報を総合的に判断し,コン
メンバーとして書かせていただいた『今後の図書館
トロールしなければ,転ぶそうだ。これも個々のリ
システムの方向性について』の2章「管理しない図書
ンクづけと全体最適化である。
館システム」7)である。7年前に自分が考えていたこ
ジョン・ヘーゲル3世の『「PULL」の哲学』5)にも「知
とを読みなおすのは気恥ずかしいが,稚拙なりにも
識の蓄積より,探し方,学び方,どういう人に聞け
自分の中での一貫性,「囲い込みのコントロールは手
ばいいかというスキル,コラボレーションスキルの
放し,いろいろなものとリンクして全体的にスムー
方が重要」と指摘されている。思い切って手放すこ
ズに機能したい」は悪くない気もする。
とによって,全体最適がさらにうまくいくこともあ
るのではないだろうか(きっとある!)。
One for All, All for One
私がこうも個々のリンクと全体最適にこだわるの
は,「因数分解」がものすごく好き!ということに関
係しているのかもしれない。
因数分解は,無秩序に見える複数の項の共通因数
を見つけてくくり出すということである。日常の中
でも因数分解的なアプローチで物事を考えると,ば
らばらに無関係に存在しているように見えることも,
執筆者略歴
茂出木 理子(もでき りこ)
東京大学理学部植物学教室図書室採用。その後,東京
大学総合図書館,学術情報センター,東京大学情報基盤
センター,国立情報学研究所,お茶の水女子大学, 東京
大学駒場図書館に勤務。2013年4月から東京外国語大学
に着任。2009年11月 第11回図書館総合展ポスターセッ
ション最優秀賞受賞。趣味は、掃除とプレゼンテーショ
ン。明るく元気なプレゼンには定評がある。
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September
続きは次回に
さて,今回もそろそろ筆をおかねばならない字数
になってしまった。
今回はかなりばらついた話題を提供した。どのよ
うにリンクづけ,全体最適を図るかは各自のセンス
にお任せしたい(うふっ)
。
次回は,来年の1月号に登場予定である。(気が早
いけど,どうぞよいお年を~!)
参考文献
1) 前田明洋. ナレッジ・コモンズ:グローバル人材を育むキャンパス空間. 日経BP社, 2013.
2) 新渡戸稲造, 矢内原忠雄訳. 武士道. 第91刷改版, 岩波書店, 2007.
3) Cloud, Henry. リーダーの人間力:人徳を備えるための6つの資質.中嶋秀隆訳. 日本能率協会マネジメント
センター , 2010. 原著Integrity : the courage to meet the demands of reality, 2007.
4) De Pree, Max. 響き合うリーダーシップ. 依田卓巳訳. 海と月社, 2009. 原著Leadership is an art, 2004.
5) Hagel Ⅲ, John; Brown, John Seely; Davison, Lang.「PULL」の哲学:時代はプッシュからプルへ―成功の
カギは「引く力」にある. 桜田直美訳. 主婦の友社, 2011, 256p. 原著The power of pull: how small moves,
smartly made, can set big things in motion. Basic Books, 2010.
6) L i , C h a r l e n e . フェイスブック時代のオープン企業戦略. 村井章子訳. 朝日新聞出版, 2011. 原著O p e n
leadership: how social technology can transform the way you lead, 2010.
7) 国立大学図書館協会学術情報委員会図書館システム検討ワーキンググループ. “今後の図書館システムの
方向性について(平成19年3月)2章, 茂出木理子. 管理しない図書館システム:管理志向からサービス提
供志向へ”. http://www.janul.jp/j/projects/si/systemwg_report.pdf, (accessed 2013-07-02).
388
過去からのメディア論 ●疑心が暗鬼を生む
SeeingÊcurrentÊmediaÊretrospectively
過去
からの
メディア論
疑心が暗鬼を生む
大谷卓史(吉備国際大学社会科学部)
情報管理 56(6), 389-392, doi: 10.1241/johokanri.56.389 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.389)
2013年6月28日,いわゆるパソコン遠隔操作事件の
てその人のパソコンにマルウェア(悪意あるソフト
被疑者とされる男性の捜査が終結した。被疑者はす
ウェア)を埋め込み,パソコンを遠隔操作して,脅
べて身に覚えがないと主張しているものの,併せて
迫を行う電子メールを送信させたり,他人をだまし
注1)
。
て電子掲示板上の無害と見せかけたハイパーリンク
この事件では,弁護側が,被疑者が真犯人である
をクリックさせて,そのハイパーリンクに仕込んだ
と示す証拠を開示するよう求めてきたにもかかわら
悪意あるコードを実行させて,電子掲示板に意図せ
ず,検察は捜査中であることを理由に開示しないと
ぬ犯行予告の書き込みをさせるなどのことが行われ
いう異例の事態が続いてきた。パソコンや携帯電話・
た。この結果,電子メールの送信先やサーバー側に
スマートフォン(スマホ)などの電子データは消去
残るIPアドレスは,だまされた被害者のパソコンのも
や加工が容易であるから証拠隠滅の恐れがあると検
のだけとなり,このだまされた人びとが被疑者とし
10件の事件で起訴された
注2)
。しかし,それに
て逮捕され取り調べられ,中には犯してもいない罪
しても被疑者を防衛するために必要な証拠を開示し
を自白してしまい,
退学に追い込まれた学生もいた1)。
ないという状況は,裁判の公正さが保たれるのかと
今回10件の事件について起訴された被疑者の弁護
察側が考えるのは当然であろう
いう疑いを抱かせる。
団もこの被疑者も,ほかのだまされた被害者と同様
7月に入ってからの報道を見る限り,検察側が開
に真犯人によって罪を着せられた者だと主張してい
示しないとしていた「証拠」そのものが存在するの
る。インターネット上に残る証拠(マルウェアを作
か疑われるという反論が,弁護側から行われた注3)。
成した痕跡が被疑者の職場のパソコンに残るとか,
弁護側の反論は,現在のところ確かにかなり説得力
真犯人が用意したサーバーへのアクセス記録が残る
があるものの,最終的にどのような証拠が提示され,
とか)はこの被疑者を指しているように見えるもの
裁判所がどう判断するかはこれからの問題である。
の,これらの証拠はだまされた被害者たちのIPアドレ
この事件で難しいのは,インターネットが事件の
舞台であって,現在のインターネットにおいては,
ねつ ぞう
スと同様に,確かに何らかの仕掛けで捏 造 できるも
のかもしれない。
情報の発信者(掲示板での発言者やメールの発信者
このような事態を指して,一般的には,インター
など)や行為者(インターネット通販サイトでの商
ネットには匿名性があり,違法行為や権利侵害行為
品の購入者やオークションサイトでの商品の出品者,
を行う心理的・物理的障壁を引き下げると説明され
電子掲示板の閲覧者など)が誰であるのかを証拠立
ることがある。誰がやったのかわからないならば,
てる情報が,基本的には,ユーザー I Dとパスワード,
責任を追及される可能性が低くなり,犯罪や権利侵
IPアドレスしかないことである注4)。
害を行っても逃げおおせるかもしれない。
今回のパソコン遠隔操作事件では,他人をだまし
誰がやったのかわからないという状況では,疑心
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389
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vol.56 no.6
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が暗鬼を生み,普段からあやしい人物と目されてい
王やリシュリュー枢機卿を非難する匿名政治パンフ
る人々がいわれなき罪に問われることが起こりう
レット事件に巻き込まれ,失脚した。その後,今度
る。あやしい人物が本当に犯人であることもあるだ
は王を持ち上げ,周囲の取り巻きを「悪しき助言者」
ろうが,実は犯人ではなく,彼/彼女に罪を着せる
と誹謗する匿名パンフレットが現れた。この匿名パ
ことで真犯人が逃げおおせたり,場合によっては彼
ンフレットの作者が,グランディエではないかと疑
/彼女に罪を着せることが目的であるという場合も
われていたのである。ルーダンのカプチン会士が政
あるだろう。
敵のグランディエを陥れるため,匿名パンフレット
歴史上,もっとも有名な匿名性による疑心暗鬼
が荒れ狂った事件として詳細な記録が残るものが,
ひょうい
「ルーダンの憑依事件」であろう2)。
1630年代,パリから270キロ南西の町ルーダンの女
つ
390
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September
うわさ
の作者が彼であると訴えたという噂もあった3)。
「噂の増殖。こうしたすべての告発『物語』は,都
市を霧で包む。何が真で,何が偽か? 確実性と判
断材料の消失に苦しむルーダンの住民は,安全を求
子修道院を舞台にして,集団悪魔憑き事件が起きた。
めて反射的行動を起こす。真実がどこにあるか見通
この事件は,イエジー・カヴァレロヴィッチの『尼
せないので,とにかく一つの真実をでっち上げねば
僧ヨアンナ』やケン・ラッセルの『肉体の悪魔』な
ならない-だが真実は,誰にとっても同一と言うわ
どの映画でも描かれたが,当時の権力者であるリシュ
けではない」4)。
リュー枢機卿やルイ13世などの高位の政治権力者ま
魔法使いとして告発されたグランディエは,激し
でも巻き込み,大きな注目を集める事件となった。
い拷問を伴う取り調べの中,自らの不品行と「生来
この事件は,匿名パンフレットや匿名の初期新聞に
の弱さ」を告白したものの,魔法使いの疑いも匿名
よって翻弄され,増幅されたように見える。
パンフレットの作者であるという疑いも否定した。
1632年9月,ルーダンのウルスラ修道会の修道女た
魔法使いの証拠である痛覚のない場所が肩と性器に
ちが悪魔憑きの症状を示し,この憑依現象を引き起
発見されたなどの理由で,結局彼は火刑に処せられ
こした魔法使いとして,この町のサン・ピエール・
る5)。
デュ・マルシュ教会の主任司祭ユルバン・グランディ
グランディエは火刑台にかけられても罪を告白す
エが告発された。彼は,身なりがよく大柄で男性的
ることなく,神への信仰と自らを迫害した者たちを
魅力にあふれ,巧みな弁舌で多くの信徒を引き付け
許すという発言を残して死んだと,ルーダン出身で,
ていた。しかし,その一方で,町の有力者の子女た
ミラの変光周期の計測などで知られる博学の図書館
ちを誘惑し,子どもまで産ませるなどの不品行や,
員イスマエル・ブイヨーは,著名な機械論者ピエール・
敵対者に対する尊大で傲慢な態度によって,放縦で
ガッサンディへの手紙に書いている。また,グラン
うぬぼれが強いという評判もあった。何度も地域政
ディエを死に追いやった聖職者や外科医,民事代官
治の謀略に巻き込まれながらも,その狡知によって
たちは精神錯乱や狂死を遂げたとされ,彼自身は死
切り抜けてきた3)。
後聖人としてあがめられるようにもなった6)。
しかし,今回は,彼の分が悪かった。当時フラン
結局悪魔憑きがあったかどうかも疑わしい。自分
スの最高権力者であったリシュリュー枢機卿やルイ
に悪魔を憑依させたとしてグランディエを告発した
13世,その取り巻きたちに,彼はある嫌疑で目をつ
修道院長のジャンヌ・デ・ザンジュは,その後聖女
けられていたからである。
とあがめられ,リシュリュー枢機卿と一夜夕食をと
1627年に,ルーダン出身の貧しい少女が皇太后マ
もにするまでにフランス国内での名声を高めた。と
リー・ド・メディシスの側女に取り立てられたものの,
ころが,彼女と永く接して悪魔祓いを続けた聖職者
過去からのメディア論 ●疑心が暗鬼を生む
シュラン神父は,深く付き合えば付き合うほど彼女
おいても,悪目立ちする誰かを陥れるため,匿名性
の徳性と発言に疑いを深めていったようだ7)。
が利用されるかもしれない。FacebookなどのSNSで
ジャンヌ・デ・ザンジュは貴族の娘に生まれなが
の匿名リクエスト送信者がコミュニティの外れ者で
ら,幼いころの怪我がもとで体がやや不自由になり,
あるなどの疑いをかけて政治的につぶすなどの謀略
「娘を覆い隠そう」と決意した母親の気まぐれのよう
があってもおかしくない。
な判断で修道院に押し込められた8)。彼女の不幸な生
匿名性によって疑心が生まれ,疑心が暗鬼を生む
い立ちやシュラン神父とのやり取りを見ると,ジャ
という構図は,私たちの認知や感情の限界を示して
ンヌはむしろグランディエに恋していたのであって,
いるのかもしれない。疑心が生んだ暗鬼によって人
成就しない恋や人生への絶望が,嫉妬と鬱屈した復
を裁くことは危険であるし,誰かを排除し罰しよう
讐心から快活で目立った彼を告発させるに至ったか
という誘惑も恐ろしい。裁判においては推定無罪の
のようにも見える。
原則が重要であり,日常生活においては噂の根拠の
匿名のパンフレットに端を発し,匿名の告発や噂
に包囲されてグランディエは火刑に処せられた。イ
なさを見通し,信頼と善意という原則を優先させる
などの知恵と倫理的原則が重要なように思われる。
ンターネットでの行為が匿名性を高めている現代に
本文の注
注1) 「PC遠隔操作,10件起訴 片山容疑者の捜査終結」『朝日新聞』2013年6月29日朝刊p 39.
注2) 江川紹子「【P C遠隔操作事件】第1回公判前整理手続きで,弁護人の怒り炸裂」『Y a h o o !ニュース』
2013年5月22日<http://bylines.news.yahoo.co.jp/egawashoko/20130522-00025135/>(最終アクセス
日:2013年7月15日).
注3) 日本報道検証機構「遠隔操作「携帯から猫写真復元」も誤報の可能性」『G o H o o』2013年7月14
日< h t t p : / / g o h o o . o r g / a l e r t s /130713/ >(最終アクセス日:2013年7月15日),日本報道検証機構
「遠隔操作 首輪つけた瞬間画像「存在疑わしい」」『G o H o o』2013年7月11日< h t t p : / / g o h o o . o r g /
a l e r t s /130220/ >(最終アクセス日:2013年7月15日),江川紹子「【P C遠隔操作事件】報じられてき
た「決定的証拠」はなかった」『Yahoo!ニュース』2013年7月11日<http://bylines.news.yahoo.co.jp/
egawashoko/20130711-00026343/>(最終アクセス日:2013年7月15日)
.
注4) 一定時間ごとに認証に用いるパスワード(数字の並び)を発生させて,通常のユーザー I Dとパスワー
ドともにユーザー認証に利用する「ワンタイムパスワード」や正規のユーザーの指紋などの,変わり
にくく,ほかの人間と混同される可能性が低い身体的特徴を用いる「バイオメトリクス認証」などの
しくみが利用されることがある。
参考文献
1) 大谷卓史. IPアドレスの「精度」.月刊みすず(no. 610)
. 2012年11月号, p. 2-3.
2) ミシェル・ド・セルトー . ルーダンの憑依. 矢橋透訳. みすず書房, 2008, p. 22-85. 原著 Michel de Certeau.
La possession de Loudun. Julliard, 1970
3) ミシェル・ド・セルトー . ルーダンの憑依. 矢橋透訳. みすず書房, 2008, p. 22-103, p. 106-124. 原著 Michel
de Certeau. La possession de Loudun. Julliard, 1970.
情報管理 vol. 56 no. 6 2013
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情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.6
Journal of Information Processing and Management
September
http://johokanri.jp/
4) ミシェル・ド・セルトー . ルーダンの憑依. 矢橋透訳. みすず書房, 2008, p. 115. 原著 Michel de Certeau. La
possession de Loudun. Julliard, 1970.
5) ミシェル・ド・セルトー . ルーダンの憑依. 矢橋透訳. みすず書房, 2008, p . 246-271. 原著 M i c h e l d e
Certeau. La possession de Loudun. Julliard, 1970.
6) ミシェル・ド・セルトー . ルーダンの憑依. 矢橋透訳. みすず書房, 2008, p . 290-315. 原著 M i c h e l d e
Certeau. La possession de Loudun. Julliard, 1970.
7) ミシェル・ド・セルトー . ルーダンの憑依. 矢橋透訳. みすず書房, 2008, p . 318-338, p . 340-359. 原著
Michel de Certeau. La possession de Loudun. Julliard, 1970.
8) ミシェル・ド・セルトー . ルーダンの憑依. 矢橋透訳. みすず書房, 2008, p . 352-356. 原著 M i c h e l d e
Certeau. La possession de Loudun. Julliard, 1970.
392
この本!おすすめします ●理系研究者からみたアメリカ文化
矢 入 郁 子 (上智大学 理工学部情報理工学科)
理系研究者からみたアメリカ文化
情報管理 56(6), 393-395, doi: 10.1241/johokanri.56.393 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.393)
『超大国アメリカの文化力:仏文化外交官によ
製だし,C Dを買ってしまうほど好きなロックバンド
る全米踏査レポート』
の出身地もほとんどアメリカだ。さらに親となって
フレデリック・マルテル著;根本長兵衛,林は
からは子供と一緒に楽しむ映画やテーマパーク,子
る芽 監訳
供が学校からもらってくるミュージカルのチラシま
岩波書店,2009年,4,410円(税込)
でもがアメリカ文化に属するものになった。こんな
ふうに,いつのまにか公私ともにアメリカ文化漬け
の毎日を送っていることに気づき,つい手に取って
しまったのが今回皆様にご紹介するこの本だ。
この本の著者はフランス人社会学者だ。世界を席
巻するアメリカ文化の強さの秘密を,歴史的・国家
的なメカニズムから解き明かしてくれる力作だ。2段
組みで500ページを超す大作だが,読み物としての面
白さも工夫されている。ケネディ大統領とそれにつ
づくジョンソン大統領が,合衆国初の芸術への助成
金を支給する公的な団体,全米芸術基金(N a t i o n a l
Endowment for the Arts: NEA)を設立するまでを,
大統領暗殺事件も含めて描く冒頭のエピソードは,
ドラマや映画などで決して描かれることのない観点
ふと気づいたら,ここ数年,日々接している外国
で非常に面白い。またN E Aは公民権運動のさなかに
文化のほとんどがアメリカ合衆国文化(以後アメリ
設立されたが,残念ながら白人のエリートのための
カ文化と省略)になっていた。…というのは私の公
文化のみを対象としており,大衆化はみられないと
的な立場が,アメリカが一人勝ち状態と言っても過
著者は指摘する。しかしジョンソンが廃したケネディ
言ではないIT産業に深く関係するコンピューターサイ
政権の文化担当補佐官がテレビと大衆文化を敵視す
エンスの分野で,研究活動において日々目にする動
る歴史学者であったのに対し,ジョンソン政権の文
画や論文,開発環境にいたるまでほぼすべてがアメ
化担当補佐官が,ブロードウェーの劇場を複数持つ
リカ合衆国製のものになっているから,という理由
不動産王と後のハリウッド映画業協会会長であり,
だけではない。私的にも英語学習と娯楽を兼ねてイ
アメリカ文化の大衆化の担い手であったことは偶然
ンターネットで視聴するドラマや映画はハリウッド
の一致ではないだろう。国家としての合衆国の奥深
情報管理 vol. 56 no. 6 2013
393
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JOHO KANRI
2013
vol.56 no.6
Journal of Information Processing and Management
さを私に強烈に感じさせたエピソードの一つだ。
「N E Aの年間予算は,米軍が軍の楽団に支出する予
ジョンソン政権が困難の末N E Aを設立させたエピ
算にも満たないというのに,なぜこれほど激しい争
ソードで幕を開ける本書であるが,その困難さの内
いが起きたのだろうか? アメリカ合衆国全体から
容は議会・有権者,そして助成金によって利益を得
見て,ほとんどの場合,傍役的な存在でしかない芸
るはずの芸術家たちからさえも上がった,政府の芸
術家を叩くために,なぜ保守右派はあれほどの精力
術への積極的な関与に対する痛烈な反対の声,とい
を傾けたのだろうか? こうした問いに答えること
う意外なものだった。著者は本のなかでくりかえし,
は,N E Aの闘いを通じて起こったのが,アメリカの
芸術政策だけでなくあらゆる大学政策においても,
意味,価値観,アイデンティティをめぐる議論であっ
「政府・議会からの独立・自由」がアメリカの基本理
394
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September
たことを理解することである」
。
念で執念でさえある,と指摘している。その執念に
東西冷戦の終了とともに中央集権化された政策が
立ち向かうため,ジョンソン政権はN E Aを公的な組
不必要となり,建国以来のアメリカの執念である「あ
織の下部組織として設立し,助成金受給者も助成金
らゆる政策の政府・議会からの独立・自由」を求め
額とほぼ同額を別の財源から確保するというマッチ
る声が高まったということなのだろう。N E Aは冷戦
ングファンドの仕組みを取り入れた。助成を受けた
時代に芸術家と芸術一般に対する認証と正当性を与
芸術家は,この別の財源確保のために自己資金を用
える役割を果たし,その役割を終えた現在もピーク
意するか,篤志家たちの寄付を募るなどの必要があ
時の予算にはおよばないものの組織は存続し,助成
る。
活動を続けている。
日本の理系研究者の私にとって,アメリカの大学
さて,私の長年の謎だった篤志家の話に戻ろう。
の校舎やキャンパスを整備し,そこでの研究活動ま
アメリカ文化の真の強さは多様で複雑,そして強固
でも快適にしてしまう篤志家たちの活動は長年の謎
な資金調達システムが機能している点にある,と著
だった。その謎をときあかしてくれる本書の後半部
者は述べている。その核となるものが「フィランソ
分については後にまわして,N E Aの存在意義とその
ロピー」である。日本語にするのがなかなか難しい
後について簡単に紹介しておきたい。
用語だが,フィランソロピーを実践する人を篤志家
本書の311ページにN E Aの予算のグラフが掲載さ
と日本では呼ぶとWikipediaに書いてあったので,本
れている。そこには正比例で純増する1965年の設立
稿では篤志家と書かせていただいた。その代表者と
から1980年までの黄金期と,予算が頭打ちとなる文
して今はウォーレン・バフェットやビル・ゲイツが
化戦争期を経て1991年をピークに予算が劇的にカッ
名高いが,歴史上の偉大な篤志家として著者はカー
トされていく様子が描かれている。1991年といえば
ネギーやロックフェラーを引用しながら合衆国の
ソビエト連邦崩壊の年だ。文化戦争期はエイズ感染
フィランソロピーの特殊性をあぶり出す。そしてフィ
がアメリカ社会で大きく取り上げられた時期で,議
ランソロピーを助長する税制優遇を中心とした公的
会や選挙までを巻き込んだ前衛芸術と宗教とのヒス
制度の数々をひもとき,市民社会にいかに強固で独
テリックな対立は,日本のメディアでもごくたまに
創的に「非商業的な文化経済」が形成されているか
ニュースに取り上げられることがあり,当時子供だっ
を実例とともに示していく。
た私にも不可思議な印象が残っている。著者は文化
大学教員の私にとって圧巻だったのはこれらの話
戦争をN E Aの予算を巡る政治闘争としての観点から
に続く「第9章キャンパス」の部分だ。著者は「大学
総括し,この不可思議さを次のように言い当ててい
はアメリカの文化システムの傍役ではなく,その中
る。
心にある。単純な話だが,このことはアメリカとヨー
この本!おすすめします ●理系研究者からみたアメリカ文化
ロッパにおける文化状況の最も重要な違いの一つで
奪う。明日の文化のかなりの部分はすでに描かれて
ある。」,
「キャンパスはユートピアの縮図なのだから,
おり,発明や研究・開発,IT,インターネット,
『ホー
そこには精神や身体の発展に必要なものがすべて
ムヴィデオ』の方へと進んでいくことは間違いない。
揃っていなければならない。すなわち,整ったスポー
つまり,アメリカはこの分野でヨーロッパのはるか
ツ施設,大学病院,可能な限り豊かな図書館,美術
先を行っている。そしてそれは,大学に依るところ
館―これらすべてが競争相手校より優れていなけれ
が大きいことはたしかだ」
。
ばならないのだ。」,「連邦政府,州,財団,そして大
職業病として日々,私はアメリカのITについていろ
学の卒業生,これらすべてが大学の巨大な文化ネッ
いろ考えさせられてしまう人間なのだが,
「そうか,
トワークの構築にこぞって貢献した。」と看破する。
私たちの闘っていたのはアメリカ合衆国の技術では
…参った,私の長年の謎が,私の中のモヤモヤがすっ
なくって文化そのものってやつだったのか…」と,
きりとしてしまった!…ので,残りの3章を斜め読
すとんと何かが腑に落ちる感じのする本であった。
みで読み飛ばそうとしたところ,続く第10章が大学
ただし,あまりのボリュームにお腹いっぱいで,そ
も含めたアメリカの文化団体が大衆化のエンターテ
れを消化するには時間がかなりかかりそうだが。さ
インメントの時代に入ったことによる影の話になり,
て,これからの講義に研究に,この本の内容をどう
続いてのめり込んだ。その後の章では世界を席巻す
生かそうか。
るマスカルチャーの背後のアメリカ文化の多様性に
ふれ,終章へと続く。
この本で最も素晴らしいと私が感じたのは結論の
章だ。内容も多岐にわたって非常に盛りだくさんだ。
ぜひ,結論だけでもご一読をおすすめしたい。きっ
と読者の興味によってぐっときたり赤線を引いてし
まったりする部分はさまざまに違うことだろう。私
が唸ったのはI Tに関する次の記述の部分だ。「『ハイ
カルチャー』や『カウンターカルチャー』,そして
『サブカルチャー』の古くからある影響力に加えて,
執筆者略歴
1990年代以降のI Tの発達によって,飛躍的に発展す
矢入 郁子(やいり いくこ)
るデジタル技術の分野におけるアメリカの影響力は
学系研究科修士課程修了,1999年東京大学大学院工学系
決定的に強まった。(中略)モノとお金を獲得するた
研究科博士課程修了,博士(工学)。1997〜1999年学術振
めのあらゆる手段,発明に対する飽くなき関心,そ
して自己改革し続ける能力が,異国の観察者の目を
1994年東京大学工学部卒業,1996年東京大学大学院工
興会特別研究員DC1。1999年(独)情報通信研究機構(郵
政省通信総合研究所)入所,2008年より現職。
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情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.6
http://johokanri.jp/
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勉誠出版
デジタル人文学のすすめ
2013年
A5判
楊暁捷,小松和彦,荒木浩●編
楊暁捷,大場利康,村田良二,海野圭介,千本英史,小松和彦,
荒木浩,藤原重雄,田良島哲,山田奨治,赤間亮,大向一輝,
森洋久,小峯和明,石川透,大谷節子●著
304p.
2,625円(税込)
ISBN 978-4-585-20023-9
情報管理 56(6), 396-396, doi: 10.1241/johokanri.56.396 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.396)
告する。デジタル技術への忌 憚のない批判や期待を
成る。ここでとりあげる人文学資料は,中世の絵巻,
述べているのは特記すべき特徴だろう。たとえば「傑
お伽草子,近世の浮世絵などを中心とする画像資料
作はどこへ消えた? デジタル複製による文化財の
である。中世・近世の研究者,デジタル技術の開発者,
置換問題を考える」では,国宝・重要文化財級の障
図書館・出版関連分野の研究者など16名が分担執筆
壁画や屏風絵がデジタル複製品に置き換えられて現
している。大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
物は博物館や寺院の収蔵庫に保存されるという近年
国際日本文化研究センター(日文研)が公募した共
の動きについて,
その長所と問題点を論じている。
「デ
同研究「デジタル環境が創成する古典画像資料研究
ジタル画像における史料改 竄の問題」でも,古地図
の新時代」
(2011-2012年度)の成果報告書であり,
において被差別地域の地名が抹消されている現実を
執筆者はいずれもその共同研究者である。
とりあげている。
かいざん
冒頭の「デジタル人文学の現在」は,研究代表で
第3部「明日のデジタル人文学へ」の前半では,
「デ
ある楊暁捷(ヤン・ショオジェ)氏による解題をか
ジタル・ヒューマニティーズと教育 人材育成の必
ねた総論であり,デジタル環境の出現から学問とし
要性とデジタルアーカイブのサスティナビリティー」
てのデジタル人文学,本書の成立と全体構成,位置
「Linked Open Dataと学術・文化情報の流通」
「持続
づけを紹介している。本編は三部構成となっている。
可能なデジタル・アーカイブの可能性」をとりあげ
第1部「デジタル環境の出現と普及」では画像研
る。後半では,
『日本常民生活絵引』
,奈良絵本・絵巻,
究とデジタル環境の現状を紹介する。まず公共機関
能・狂言面データベースをとりあげ,デジタル環境・
の取り組みとして,国立国会図書館のデジタル事業,
デジタル技術の寄与の可能性を具体的に示している。
国立文化財機構の「e国宝」,国立国文学研究資料館
全体を通じて感じるのは,デジタル技術が可能に
の電子資料館事業をとりあげる。また,奈良女子大
した豊かな世界の入り口に立っているという感覚
学の「奈良地域関連資料画像データベース」で地域
だ。デジタル人文学の現在の立ち位置を確認する役
に密接した画像公開の取り組みを紹介し,日文研の
割を十分に果たしている。最後に,第1部冒頭の「図
「怪異・妖怪伝承データベース」「怪異・妖怪画像デー
書館が資料をデジタル化するということ」に書かれ
タベース」の作成を通じて魅力的なデータベースと
た呼びかけを紹介したい。
「古典籍をめぐる世界は,
は何かを論じる。第1部の終わりには,「日本古典画
デジタル化で変わるし,変えていける。まずは,デ
像資料を含む主なデジタルリソース」として32のリ
ジタル化された古典籍資料を使うところから,始め
ソースのURLと解説がある。
てみてはもらえないだろうか。そこから,次の世界
第2部「人文学諸分野との融合」では,デジタル技
術が伝統的な人文学諸分野に与えた影響について報
396
きたん
本書は,16編の報告・論考と2編の研究ノートから
が広がっていくのだから」
。共感を覚えた。
(本誌編集事務局)
情報界のトピックス ●Topics of the information community
情報管理 56(6), 397-401, doi: 10.1241/johokanri.56.397 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.397)
電子書籍価格操作でApple社は独占法違反
の当時優勢だった9.99ドル価格モデルを打破するた
めに,5大出版社と共謀し,小売業者ではなく出版社
電子書籍価格操作をめぐる訴訟で,ニューヨーク
が小売価格を設定するエージェンシーモデルを使っ
の連邦裁判所D e n i s e C o t e判事は2週間半にわたる審
て,高い小売価格を設定したと認定した。A m a z o n
理の後,7月10日,A p p l e社が独占法に違反したとの
社も同様のビジネス行動に携わっていると主張する
判断を下した。米国司法省は,5大出版社(Hachette
Apple社の議論も退けられた。司法省の反トラスト局
Book Group,HarperCollins Publishers,Macmillan,
局長は,「これは電子書籍を選んだ数百万の消費者に
注1)
,Simon & Schuster)とApple社が
とっての勝利であり,Apple社の不法行為によっても
電子書籍の価格競争を制限するために協定を結んだ
たらされた損害を取り戻すための第一歩である」と
として,2012年4月に両者を提訴した(vol. 55, no. 3
述べた。
Penguin Group
の本欄にて既報)。しかし司法省はその後に和解案を
8月2日,司法省と33の州検事総長は独占禁止和解
提案し,今年2月までに5大出版社のすべてが受け入
案を発表し,二度と独占法に違反する行動をとらな
れたため,Apple社のみが唯一の被告となっていた。
いための改善策をA p p l e社に提案した。和解案は,5
司法省は,Apple社が電子書籍市場における価格操作
大出版社との取り決めを終結させ,5大出版社だけ
の主導者である証拠として,故Steve Jobs氏がNews
でなく,すべての出版社と再交渉することを求めて
C o r p o r a t i o n社の副最高執行責任者(C O O)である
いる。A p p l e社は今後5年間,原則的に電子書籍販売
J a m e s M u r d o c h氏に対して,「A p p l e社と手を組ん
業者との固定価格付け協定に署名することが許され
で,12.99ドルと14.99ドルの価格をメインストリーム
ない。また,A p p l e社は電子書籍・音楽・映画・テ
とする電子書籍市場を創出できるかどうかやってみ
レビ番組の提供者と,競争相手に値上げを強いるよ
よう」と呼びかけた電子メールを発表した。さらに,
うな協定を結ぶことを禁じられる。司法省はA p p l e
その電子メールの2日後,News Corporation社傘下の
社が競合する小売業者に対し,2年間各々のi O Sアプ
Harper Collins社がApple社との協定にサインしたと
リ内ストアに直接リンクさせることを望んでいる。
指摘した。Penguinグループ(USA)の最高経営責任
Amazon社はiOS利用者を自分のストアに導くことが
者(CEO),David Shanks氏が,Apple社が協定取り
できなかったが,これにより,KindleやNookの顧客
決めのまとめ役兼橋渡し役であったと述べたことや,
は,電子ブックをより便利に購入できるようになる。
Apple社の重役が,出版社は電子書籍を差し止めると
さらに,司法省は社内の独占禁止ポリシーを達成さ
脅して,A m a z o n社に高い価格を受け入れさせるこ
せるために,外部モニターを自社の給与で任命する
とができると助言した,とRandom House社のCEO,
ことをApple社に求めている。Apple社は司法省の発
Markus Dohle氏が語ったことも明らかにされた。
表の数時間後,独占禁止和解案に対する返答を提出
連邦裁判所は,合法的なビジネス行動であると主
し,和解案は,Apple社のビジネスへの残酷で懲罰的
張するApple社の抗弁を退け,Apple社がAmazon社
な介入であり,裁定を受けたいかなる不正行為ある
情報管理 vol. 56 no. 6 2013
397
情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.6
Journal of Information Processing and Management
http://johokanri.jp/
September
いは潜在的損害と比べて極めて不釣合いであると非
現れたが,MITが意図的に後者を呼び入れたのでは
難した。和解案の改善策についての審理は8月9日予
ない。MITはSwartz氏に対する連邦政府による摘発
定されている。5大出版社はすでに和解金として総額
を求めてはいない。
166,158,426ドル(約164億円)を州政府と消費者に
・MITは最初から中立の立場をとっており,Swartz氏
支払い済である。
への処罰や服役は望まないことを検事局に非公式
(http://ja.scribd.com/doc/152928431/U-S-v-Apple)
に伝え,司法取引には反対した。
(accessed 2013-08-06).
(http://assets.sbnation.com/assets/2999279/330.pdf )
(accessed 2013-08-06).
注1) 2013年7月1日,R a n d o m H o u s e社とP e n g u i n
・この件に関して教職員の間では意見がわかれ,学
生はほとんど興味を示さなかった。
・M I Tの中立の立場は,被告がインターネット技術に
貢献した人物であることや,彼を告発した刑法が,
グループは合併してPenguin Random Houseに
現代のコンピューター使用に当てはめるには問題
なった。
があること,などの要素を考慮に入れなかった。
Aaron Swartzに関するレポート発表
Swartz氏の父親や支援者たちは,MITが連邦地検に
対して召喚状や令状なしに情報を提供し,被告には
提供しなかった情報や承認へのアクセスを提供した
マサチューセッツ工科大学(MIT)は,オープンア
クセスの活動家だったAaron Swartz氏の件に関して,
と非難している。
J S T O RもM I T報告書の数日後,この件に関する要
大学の取った行動について,「大学管理者は26歳のイ
約を発表した。この中でJ S T O RはS w a r t z氏が勾留さ
ンターネット活動家をターゲットにしたことも不正
れた直後に連邦地検からの問いに答えたが,早々に
行為を行ったことも決してない」とする内部調査の
S w a r t z氏とは和解に達し,民事訴訟を遂行しないこ
報告書を7月26日に発表した。Swartz氏はMITのネッ
とで合意したことや,JSTORが召喚状を受けて,自発
トワークに不正アクセスし,JSTORアーカイブのコン
的に証拠書類約300点を連邦検事局に提供したことを
テンツを大量にダウンロードしたとして,2011年に
明らかにした。これらの書類はJSTORのサイトで公開
逮捕され(vol. 54, no. 6の本欄にて既報),今年1月に
されている。
自殺している。L. Rafael Reif学長の要請を受けて作成
(http://swartz-report.mit.edu/docs/report-to-the-
されたこの報告書は,大学ポリシーの明確さの欠如,
president.pdf)(accessed 2013-08-06).
リーダーシップの失敗,ハッカー倫理やオープンソー
(http://docs.jstor.org)(accessed 2013-08-06).
スのアイデアといった課題に対する無頓着さなどの
事柄を挙げ,MITは間違ったことは何もしていないが,
英国が研究評価のオープンアクセス義務化案
誇れることはないと述べている。
を発表
報告書が記しているその他の事柄は:
398
・2010年9月~11月,M I Tネットワークにラップトッ
英国の高等教育財政審議会(H i g h e r E d u c a t i o n
プが接続され,大量のJSTOR論文がダウンロードさ
Funding Councils for England, HEFCE)が,2014年以
れたが,逮捕されるまで,MITはSwartz氏の行為で
降の研究評価(Research Excellence Framework, REF)
あったことは知らなかった。
に対するオープンアクセス義務化の正式提案を発表
・ケンブリッジ警察に調査を求めたところ,刑事と
した。今年2月に発表された最初の提案は,一定数の
ともにシークレットサービスの連邦特別捜査官が
モノグラフにオープンアクセスを求めることを構想
情報界のトピックス ●Topics of the information community
していたが,非公式協議では,オープンアクセスが
の議席予想と,実際の選挙結果の比較を発表した。
どの程度合理的に達成できるかという点に広く懸念
Y a h o o !は選挙前の3回にわたり,2種類の方法で議席
が示されたことから,モノグラフはオープンアクセ
予測を行った。1つ目は,前回衆院選挙での予測結果
ス義務化から除外されることになった。ただし,除
を基にして分析を行い,政党ごとの得票へのつなが
外は一時的なもので,長期的にはモノグラフや書籍
りやすさを補正したうえで,特定期間における検索
はオープンアクセスを達成できる見込みであるとさ
量から得票数を推定する「相関モデル」
,2つ目は,
れている。非公式協議では圧倒的多数がデータセッ
過去の選挙事例を基に,公示日前後における検索量
トにオープンアクセスを求めることは,現時点では
の変化を増加率としてスコア化し,今回の公示前の
実現不可能であるということで一致した。したがっ
検索数を用いて得票数を推定する「投影モデル」で
て,義務化が適用されるのは,執筆者に英国をベー
ある。獲得議席数全体では,与野党の議席数では完
スとする学者が含まれるジャーナル論文と会議録に
全に予測通りの結果となったが,個別政党で見ると
限定される。正式提案は大学が達成すべき平均遵守
「相関モデル」では121議席中105議席(87%)
,
「投影
率を80%から70%に引き下げた。これにより,大
モデル」では111議席(92%)が一致した。選挙区で
学がオープンアクセス要件の除外例を,ケースバイ
は73議席中「相関モデル」で61議席(84%)
,「投影
ケースで主張することができることになる。例えば
モデル」では65議席(89%),比例区では48議席のう
英国の執筆者が,外国をベースとする多数の執筆者
ち「相関モデル」では40議席(83%),「投影モデル」
たちのうちの1名に過ぎなかった場合などが考えられ
では42議席(88%)が一致と,全体的に高い一致率
る。公開猶予期間は,5年間の経過期間後,Research
となった。これについてY a h o o !のチームも「政治的
Councilが現在設定している期間(科学12か月,他の
な読みに基づかないデータ解析からの予測としてこ
主題24か月)の半分にすべきであるとされた。政府
こまで一致したことにはわれわれも少々驚いていま
やResearch Councilは,オープンアクセス化の方式に
す」としている。課題としては,諸派・無所属の織
関しては,政府やResearch Councilはすでに,セルフ
り込みが困難であること(政党名をベースとしたモ
アーカイブ方式(グリーン)よりも,O Aジャーナル
デルであるため),低投票率の影響(低投票率時には
に投稿する方式(ゴールド)を望むと表明しているが,
一般的に組織力の強い政党が有利になるため,モデ
H E F Cは言及を避けた。提案への意見表明の締め切り
ルとのずれが生じる),政党・候補者ごとの「票への
は10月30日で,オープンアクセス義務化は,2014年
つながりやすさ」が分析困難(検索されやすさの違い)
初め頃になるとみられる。オープンアクセスポリシー
を挙げている。
決定の2年後に発表される研究成果から適用される。
一方,Twitterの日本公式ブログは7月22日,ネット
(http://www.hefce.ac.uk/media/hefce/content/
選挙についてまとめた記事の中で,選挙期間中のツ
pubs/2013/201316/Consultation%20on%20open%20
イート数推移グラフを公表した。選挙直前には,東
access%20in%20the%20post-2014%20Research%20
京選挙区で当選した山本太郎氏の名前を含むツイー
Excellence%20Framework.pdf)(accessed 2013-08-06).
トが急増していたことがわかる。
Yahoo!とTwitterが振り返るネット選挙
(http://event.yahoo.co.jp/bigdata/
senkyokekka201307/)(accessed 2013-08-06).
(http://blog.jp.twitter.com/2013/07/blog-post_2431.
Yahoo! JAPANは7月30日,7月21日に行われた参院
html)(accessed 2013-08-06).
選について,「Yahoo!検索」のデータを基にした事前
情報管理 vol. 56 no. 6 2013
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情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.6
Journal of Information Processing and Management
http://johokanri.jp/
September
ツイッター,秒間ツイート数の最高記録を更新
日本のスマホ普及率は25%,有料アプリ利用
は1位
T w i t t e rの日本公式アカウントは8月3日,前日2日に
秒間ツイート数(TPS)の世界最高記録を更新する14
G o o g l eは7月31日,スマートフォン利用に関する
万3,199T P Sを記録したことを発表した。これは2日夜
大規模調査「Our Mobile Planet」の2013年版データ
の「天空の城ラピュタ」放送中に記録されたもので,
を公開した。2011年から実施しているこの調査では,
それまでの最高記録である3万3,388T P Sの4倍以上に
日本におけるスマートフォン利用について3年間の変
なった。前回の放送時にもT P Sの当時の最高記録を更
化を見ることができる。この調査によれば,日本の
新したことから,今回も放送前から話題となってい
スマートフォン普及率は,2011年の6%から2013年
た。極端な負荷ピークにT w i t t e rのサーバが対応でき
には25%まで拡大している。ただし,調査対象国で
るかどうかが注目されていたが,大きな影響はなかっ
最も普及率が高い韓国(73%)やシンガポール(72%)
た模様だ。
と比較すると,依然として従来型携帯電話が主流で
(https://twitter.com/TwitterJP/status/
ある。ただし利用傾向としては,テレビ視聴時の同
363494742518013952)(accessed 2013-08-06).
時利用率や,ショッピング中の品定めのための利用
東北大,津波の高さを人の目線で再現するサ
イトを開設
が他の国と比べて高いという特徴がある。また有料
アプリのインストール数でも平均11.5個と,調査対象
国の中で唯一2桁に到達した。
(http://googlejapan.blogspot.jp/2013/07/2013_31.
東北大学災害科学国際研究所は7月10日,東日本大震
災の津波の高さを人の目線の高さで再現したW e bサ
html)(accessed 2013-08-06).
イト「ヒトの目に映る3・11津波浸水」を開設した。
オバマ大統領,A m a z o n電子書籍シリーズの
これは,「東北地方太平洋沖地震津波合同調査グルー
独占インタビューに応じる
プ」によって実施された津波の痕跡調査の結果(津
波の高さ)を一般の人にわかりやすい形で発信する
ホワイトハウスは7月31日付けのブログで,オバマ
ことで,防災・減災教育への活用を目指す取り組み。
大統領が前日30日に,アマゾン電子書籍向けの単独
このサイトでは,東日本大震災の津波の痕跡高を
インタビューに応じたと発表した。このインタビュー
Google Earth上にポリゴンバーで表示しており,拡大
は,テネシー州のAmazon社物流センターの視察後に
すると「ヒトの目線」で津波の痕跡高を見ることが
行われたもの。インタビューは,アマゾン独自の出
できるようになっている。
版ブランドであるKindle Singlesの編集者が行い,同
(http://www.asahi.com/national/update/0804/
ブランドの政治家・著名人の独占インタビューに特
TKY201308040167.html)(accessed 2013-08-06).
化した「Kindle Singles Interview」シリーズの一部と
(http://michinoku.irides.tohoku.ac.jp/ttjt/ttjt_view.
して,31日から無料配信を開始している。
html)(accessed 2013-08-06).
(http://www.whitehouse.gov/blog/2013/07/31/
kindle-singles-interview-president-obama)(accessed
2013-08-06).
400
情報界のトピックス ●Topics of the information community
中高生51万人がネット依存か
足を得るために,ネットを使う時間をだんだん長く
していかねばならないと感じているか」「ネットの
日本大学医学部の大井田隆教授は8月1日,全国の
ために大切な人間関係などを危うくするようなこと
中高生を対象としたインターネット使用状況調査の
があったか」といった8項目の質問を行ったところ,
結果を発表した。これは平成24年度厚生労働科学研
8.1%が5項目以上で該当する「病的な使用」とされ
究費補助金研究事業である「厚生労働省未成年の喫
た。男女比では,男子6.4%,女子9.9%で女子の割合
煙・飲酒状況に関する実態調査研究」の一部として
が高かった。研究チームでは,中学・高校の全生徒
行われたもので,47都道府県の中学・高校を通じて
数に基づいて,ネット依存(病的な使用)の生徒は
調査を行い,約9.8万人が回答した。インターネット
51万人に上ると推計している。
への依存度を評価する国際的基準に基づいて,
「イン
(http://www.med.nihon-u.ac.jp/department/public_
ターネットに夢中になっていると感じているか」「満
health/2012_ck_KI.pdf)(accessed 2013-08-06).
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情報管理
JOHO KANRI
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vol.56 no.6
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September
本年2月,産業技術総合研究所(つくば市)のテ
ストコースでトラック3台が一定の車間距離を保っ
て自動走行する様子が報じられました。昨年の5
月にはG o o g l e「夢の自動走行車」公道デビューの
ニュースがありました。自動運転技術に着目してい
たところ,この10月に東京でI T S(高度道路交通シ
ステム)の世界会議が開かれることを知りました。
今回の開催テーマは「Open ITS to the Next」。
Open platforms,Open connectivity,Open
opportunities,Open collaborationの4つのオープ
ンを会議コンセプトの軸にするとのこと。この機
会にぜひI T Sの現状と未来について紹介したいと考
え,実現したのが「オープンITSが拓く未来」です。
今 号 は, オ ー プ ン ソ ー ス プ ロ グ ラ ミ ン グ 言 語
R u b yの記事も掲載しました。松江市在住のまつも
とゆきひろ氏が開発したR u b yのことは以前から耳
にしていました。2011年3月にはJ I S規格化が完了
し,2012年4月には国際規格ISO/IEC 30170として
承認されたことを知り,ぜひ取り上げたいと思いま
した。紆余曲折を経て編集会議での記事提案から記
事掲載まで1年半かかりましたが,最終的に当初の
記事提案にそった内容をご寄稿いただくことができ
ました。
マイナンバーについては,すでにあちこちに記事
が掲載されています。皆様もお読みになっておられ
るかと思います。ここでは行政統制の視点から,国
際比較を交えて解説していただきました。
「医学雑誌編集のガイドライン」は,たまたまそ
の存在を知り,ぜひ皆様に紹介したいと思いまし
た。「ガイドライン(案)」の内容は随時更新されて
おり,これは2013年3月時点のver.4です。
「編集者
の責務」の冒頭にある「雑誌出版を支える人々(読
者,著者,査読者,研究参加者)に敬意を払う」の
一文,深く共感を覚え,胸に刻みました。 (KM)
□次号予定
●電子書籍がもたらす出版・図書館・著作権の変化
●オープンアクセスの広がりと現在の争点
●WIPOの無料特許情報データベースPATENTSCOPE
●日本におけるオープン・ガバメント最前線
●日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(1):新しい指標に基づいた医薬品産業の現状俯瞰・将来予測
●研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第13回 外国法情報の世界
情報
管理
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科学技術振興機構
vol.56 no.6 September 2013
●編集委員会
<委員長>加藤治(科学技術振興機構)
<編集委員>
江草由佳
(国立教育政策研究所)
・小河邦雄
(大正製薬㈱)
・
気谷陽子(聖学院大学)・志賀智行(旭化成㈱)・
青山幸太・伊藤祥・植松利晃・木村美実子・黒田雅子・
佐藤恵子・土屋江里・野田口真也・火口正芳・余頃祐介
(以上 科学技術振興機構)
●編集事務局
木村美実子(事務局長)
藤井昭子・本橋野枝(以上 科学技術振興機構)
2013年9月1日発行(月刊)
年間購読定価 本体 ¥12,600(税込)
1部定価
本体 ¥1,260(税込)
●版下作成・印刷
昭和情報プロセス株式会社
発行
独立行政法人 科学技術振興機構
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
「情報管理」編集事務局
Tel. 03(5214)8406 Fax. 03(5214)8420
E-mail: [email protected]
http://johokanri.jp/
Published monthly by Japan Science and Technology Agency (JST)
JOHO KANRI Editorial Office, JST, P.O.Box 2, Kojimachi Tokyo 102-8666 JAPAN
・本誌に落丁・乱丁がありました節は,まことに恐れ入りますが,編集事務局宛に現品をご返送ください。送料は当機構
の負担で,お取り替えいたします。勝手ながら現品送付のない場合は,お取り替えいたしかねます。
・未着事故などのご連絡は発行後2か月以内にお願いします。以後は原則としてお受けできません。
© Japan Science and Technology Agency 2013 無断転載を禁ず
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