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むこう 100号 - 神戸をほんまの文化都市にする会
む こ う 神戸をほんまの文化都市にする会 2009年8月1日発行 第 100 号 〒651-0044 神戸市中央区東川崎町1-5-7 情報文化ビル3F文化村 連絡先 TEL・FAX (078)361-5056 e-mail:[email protected] http://www.honmanokai.com 第20回定期総会報告 6月18日(木)午後6時30分より、会事務所で第20回定期総会が開かれまし た。参加は、8団体11名、個人6名でした。竹山代表の挨拶の後、議長に個人会員 の米川さんが選ばれ、さっそく議事に入りました。 和田事務局長より08年度の活動報告、会計の竹村さんより財政報告、小林副代表 より監査報告の代読、和田事務局長より09年度の活動方針案が提起され、若干の質 疑の後、すぐに討論に入りました。 討論で一番問題になったのは、会財政の健全化ということでした。現在の財政は、 収入が演劇講座などの事業活動に大きく比重がかかっており、非常に不安定であるこ とから、確実に収入を確保できる事業活動が大事ではないかという意見が出されまし た。これについては、ほんまの会の 活動を語る会や、会員交流会を大き くした100人規模のパーティ、著 名な講師を迎えての講演会、また、 会の重要な活動でありながら、財政 的にはマイナスになっている「まち づくり講座」をプラスに転じる方法 を考えるなど、いろいろな意見が出 されましたが、その具体化について は、09年度の運営委員会にゆだね られることになりました。 その他、討論で出された意見を列記します。 ・ 世界遺産の勉強会は、名前だけを見れば難しいと思われるが、神戸の歴史を発 見できる場になるので、ぜひ多くの参加を呼びかけたい ・ 世界遺産の勉強会に市の職員にも出てもらうことが大事ではないか ・ 北神区民センターの建設に対して、会として懇談会の要請や、何らかの意見を 出すべきではないか。また、統廃合された小学校の跡地や、兵庫運河の活用、生 糸検査所のその後などにも会としてもっとコメントすべきではないか ・ 産業振興センターに行くエスカレーターの下に、わかりやすい表示が出たこと は、会の活動として評価できるのではないか ・ 「市長への手紙」の件だが、必ず返事をもらえる方法がないのかという質問に は、状況の説明を受けて、やってみる気になったとのこと ( 2 ) ・ 「まちづくり講座」に興味がなくて出席したが、おもしろかった。だからと言っ て、それが自分の所属する団体の人たちの出席につながるかといえば一寸むずか しい。宣伝の方法としては、図書館の活用が考えられるのではないか ・ 演劇講座はほんまの会の活動として、私が所属する会の会員に紹介しやすいが、 その他のことは、自分たちの活動との関連が見られず紹介しにくい ・ 「むこう」のバックナンバーをほしいと言ってこられた人が、摩耶さんのレッ スンに参加してカンツォーネを 歌えるようになったという嬉し い報告もあった ・ 私の所属する団体の会員も減り、 会維持のために何らかの事業活 動が必要になってきている。ほ んまの会と共同して開くことも 考えられる ・ 会員拡大にもっと努力するべき だが、入会者より退会者の方が 多い活動自体も考えるべきでは ないか。 こうした討論や意見のあと、活動報告、活動方針、財政報告、監査報告、予算案が 一括して承認されました。そして、新しい役員として、代表・竹山、副代表・小林、 平澤、事務局長・和田、会計・竹村、会計監査・石井さんを選出して閉会しました。 (W) 講 演 会 等 の ご 案 内 講演会 「都市と文化をめぐるーエクサンプロバンス・ポールグリモ」 講師:竹山清明(京都橘大学教授) 日時:9月24日(木)18:30 会場:ハーバーランド文化村 参加費:500円 世界遺産勉強会 「近世の兵庫津~瀬戸内海最大の港湾都市」 講師:河野未央(尼崎市立地域研究資料館) 日時:9月4日(金)18:30 会場:勤労会館406号室 参加費:500円 ( 3 ) 『むこう』発刊100号 記念座談会 竹山 神戸をほんまの文化都市にする会は、市民との対話と参画 を標榜して新市長に選当した笹山さんと文化関係者との協 議の場の具体化と、当時の労演(演劇鑑賞会)のように活 動実績のあるものについては優先的に会場押さえができる ような市の基準の確立をめざし、対市の交渉力のあるまと まった文化団体をつくる必要があるということからつくら れた会です。その後提案型の運動として新港の文化プラン を発表・出版し、市民的にも少なくない評価を得ました。 そのようなことで、ウォーターフロントを整備しながら文 化的な要求を実現しようというようなことも主たる活動となりました。 もう一つの活動の柱は文化施策の改善の取り組みで、神戸市や兵庫県と協議を 続けてきました。会場費助成・事業助成の充実にあわせ、運営助成の具体化の 要求や、神戸市内で次々閉鎖されている500席ぐらいの使いやすい規模のホー ルの再整備もこのところの継続的な要望事項です。また劇団にとっては安価な 稽古場、大道具倉庫の整備が長らくの要求ですね。 小倉 辺鄙な所にできても、なかなか人は行きませんから、アプローチのいい所に適 当な大きさのホールが欲しいですね。稽古場、大道具倉庫整備は昔からの要求 です。 [アート拠点構想] 竹山 新港の保税倉庫は、トランクルームなど目的外使用が多いようです。行政の関 与で、倉庫会社の協力を得て、文化的に利用できないかと思うのです。空間が 大きいですから様々な使い方ができます。小規模な劇場も充分に入ります。ア トリエとかギャラリーとか稽古場とかにいろいろと使えます。新たにつくるの は大変ですが、少し整備すればすぐに使える建物が存在しているのですから。 小倉 私たちの理想は、本番の装置を組んだ舞台と同じ大きさでお稽古がしたい。そ して装置を転換するために舞台と同じ大きさの舞台裏が必要なのです。だから、 ヨダレの出るほどその空間が羨ましいですね。「そうなったら…」って、空想 が私の中に広がるんです。 竹山 倉庫協会にも文化的利用を相談に行きましたが、使用料は商業ベースで高いこ とを言うわけです。企業メセナをめざす運動が必要ですね。立地はウォーター フロントの最も重要な場所です。再整備されれば文化的にも観光的にもすごく 魅力的なポイントになるでしょう。 藤野 「現代GP」という文科省の大学教育改革プロジェクトの助成を得て、ここ数 年「アートマネジメントによる都市文化再生」をテーマに、神戸市などと連携 して様々な活動をやってきましたが、都市の遊休施設のアートセンター化は大 きなポイントです。ただ、そのあたりの調査が十分にできていませんので、竹 山さんの今のお話はすごくおもしろいと思う。発想の転換も含めて、神戸市の 中でそういうことに食いつきのいい人、学生、市民の方とかで見学会を秋にや りませんか。ムーブメントを起こせば可能性が出てくるんじゃないかと思いま す。 竹山 保税倉庫の前面に明治36年建設開始の突堤があります。日本でも最も古いもの ( 4 ) の一つで、歴史的価値を尊重しながら再整備したら非常に魅力的な所です。文 化施設の環境としては良いアクセスとあわせて、絶好の立地です。 藤野 京都の明倫小学校の跡に京都芸術センターってできましたよね。あそこでやっ ているぐらいのクリエイティブなインスティテューションが神戸にも必要だと 思うんですよ。 [芸術情報センター構想] 藤野 例えば山口市にYCAMと呼ばれている芸術情報センターがあります。先端的芸術 を目玉にしたセンターだったため、市民の反対運動が起こり、市長がリコール されて完成が遅れた、いわくつきの施設です。しかし、メディアアートやデザ インとかも含めて世界の最先端のことをやっている芸術文化発信基地なのです。 スタッフも非常に能力の高い人たちを集めている。そこで制作したものがヨー ロッパなどの最先端アートの発表の場で非常に高く評価されるんです。それで 関心のある人は全国から集まるわけだけれども、一般の山口の人は知らない。 山口市立の施設ですが、都市規模は神戸の10分の1なので、せっかくそういう 最先端のクリエイションをやっていても、文化産業にまで発展させるクラスター 的条件や、創造的都市の中核にしようといった戦略がないんです。 小倉 そこでやっていることが、市民にしみだしていないんですね。 藤野 世界に発信しているから、世界の人はYAMAGUCHIと言うとわ かるわけです。じゃあKOBEは何かと言うと、文化政策を研 究しているヨーロッパの友人たちが目当てにして来るのは 神戸ビーフなんです。(笑) 食文化でも悪くはないですよ。 でも、もし山口の芸術情報センターみたいな施設が神戸に あったら桁違いの効果が生まれるでしょうね。芸術至上主 義を超えた都市発展の起爆剤になる。ユネスコお墨付きの ロゴだけの「デザイン都市」KOBEではなく、いろんな先端 的産業と結びつく形で経済の活性化にも実質的につながる わけです。先端医療産業にしても、卓越したアートなしには成立しない時代で す。 竹山 山口よりは確かに効果的でしょうね。関西一円のみならず全国からもアクセス が良く、経済的・文化的集積は大きいですしね。ウオーターフロントの魅力も あり、あそこの倉庫を使うとすごい効果があると思いますよ。5年から10年ぐ らい先にやりだすような気で取り組んだほうがいいでしょうね。 [ワクワク体験] 竹山 普通はテレビとかインターネットとか、お仕着せであったりバーチャルであっ たりするものに席巻されがちですけど、ほんもののワクワクする文化体験とか 創造体験などができる場所にしないとね。活動が集約する所があればたぶん文 化活動のレベルが上がるんです。 小倉 インターネットもいいけど、体温の通うところのワクワクを味わう喜びをもっ と知ってほしい。それには私たちがちゃんとしないと、下手なものを見せても 誰もワクワクしないから。 「アーツカウンシル」 藤野 これまで関わってきたのは音楽の活動が多く、国際交流的なこととか、草の根 的な市民交流みたいなことはできているんですけど、それが今後どういうふう に持続可能かというのはすごく難しいですよね。今年の10月で4回目となる 「神戸国際芸術祭」も、神戸市民文化振興財団と共催という形にまでは持ち込 めているのですが、財団の予算は指定管理者制度の導入などで相当に削減され ( 5 ) ています。自主事業も厳しい状況になっています。契約が切れ切れで3年間し か経験が蓄積されていかないんです。自主事業の大半は、いわゆるプロモーター からのパック買いで、かつての「アーバンオペラ」のような大掛かりな手打ち 事業のノウハウが失われてしまった。アートマネジメントの専門性を持った職 員が増えれば、神戸文化ホールも芸術創造の拠点施設としての使命を果たせる のですが、指定管理者制度の弊害で、人材育成や人事の継続性が保障できない のです。 小倉 一人の人だと偏るかもしれないけれども、自分で責任を持って自分のセンスを 押し出す人がホールにはいないとだめですよね。 藤野 そこはすごく難しい問題があって、公平性・平等性が原則になって、行政側こ だわりがあると困るという消極的な文化施策をやっているまちと、芸術監督と か専門性の高いプロデューサー制をしいて、コンセプトを打ち出していく積極 的な文化施策をやっているまちと、両方あります。全国を見ていると、個性を 持ったプロデューサーとか芸術監督がいる所が当然おもしろいし、その地域、 まちの顔になっていくので、活性化していくけれども、神戸は消極的な文化政 策しかやってきていません。 ただそれには言い分があって、神戸にはいろんな市民活動があるので、行政は それを支援する黒子でいいんだという考え方なんです。しかし、ここには落と し穴もある。管理だけをやるのだったら民間のほうが効率的です。山口市や横 浜市や京都市のように、個性的で創造的な自主事業を目玉に据えないと、公共 的な財団の意味がなくなると思います。 小倉 バックアップは嬉しいんです。黒子に徹してくれるならそれでいい。そして、 多数の団体から補助の要望が出ても、ある団体が優れてると思ったら、そこに ドンと出してくれる黒子が欲しいです。 藤野 そのために必要なのがアーツカウンシル(芸術評議会)という機能です。行政 が直接にめりはりをつける補助を行うと批判が出ますので、第三者機関に判断 を委ねるというシステムです。イギリスが発祥ですが、東京都などが採用を試 みはじめています。 「議論する観客」 藤野 ぼくのキーワードは何かというと、議論する聴衆、観客を育てるというのがす ごく重要なことであって、「ああ、よかった」で帰るのではなくて、その中身 について、ああだこうだと議論するなかで、お互いの見方を知り合い、価値観 を共有したりぶつけあって、質的なものの見方も身についていく。「きょうは Aさんが出てたから素敵だった」で終わりではなくて、ほかの人の解釈のほう がよかったとか、この役者のほうがもっと身体性がどうだったとか、そういう レベルの話が本当の観客をつくるし、地域の文化やホールを育てていく。 [アートリテラシー] 藤野 文化の消費化の中で、議論する観客をどのように取り戻すかが大きな課題です。 大学で働いている人間として、芸術を受け身で鑑賞するのではなくて、芸術に 刺激を受けて自分の生き方なり社会に対してどうコミットしていくかというこ とを考えることができる学生を育てる。まさに自立性とか自発性みたいなもの をアートを通してどう獲得していくか。これを「アートリテラシー」と呼んで いるんです。雑多な情報に流されないで、アートを読み解くリテラシーをどう やって身につけていくか。いわゆる文化教育の話になるんですが、そこが原点 かな。それが消費文化とかイベント文化に対抗していく最後の拠点になってい くんじゃないかなと思う。ただ、やっぱり20年がかりですよね。人材育成の根 ( 6 ) 幹にかかわるものなので。 文化の値打ちは、絶対お金でははかれないと思うんです。文化の内容を数字で 評価してほしくないですね。 藤野 文化は消費財とは違うんだということを理解してもらわなければいけないんだ けど、そこをごっちゃにする議論のほうが、今あまりにも多すぎる。アートマ ネジメントでも、マーケティングという発想で文化を解決してしまおうという 方向です。もちろん、毎回身を削り、魂をこめて芸術制作しているのですから、 人が来ないと困るんだけど(笑)。でも、本当に必要としている人に手を差し 伸べられるって、おこがましい言い方だけれども、そういった人たちが享受で きるようなマーケティングじゃなくちゃいけないわけですよね。 竹山 そういうことをちゃんと考えることのできるような仕組みというか、できあがっ た作品だけ見るのと違って、自分も演じてみるとか、トライしてみるとか、議 論する場所もいるでしょうしね。だから、主体的に参加できる文化の組み立て 方みたいなのがいりますよね。市民がつくる文化とか、主体的に鑑賞する文化 を実体としてつくりだしていくような状況や場づくりも必要になりますね。 小倉 実際足を運んで見てくださって、おもしろくないじゃないか、そんなのだった らお金が出せないというふうに言ってもらえるんだったらいいけど、見ないで 数字だけで判断されるのは。県とか市の中にももっと文化がわかる人がいてく ださらないと困りますね。 竹山 そういう人を各市で育てないといけないんですよ。ところがなかなか育てるシ ステムにはなっていない。政策のなかでそういうものが大事だと位置付けした ら、専門家を育てる気になるわけでしょうけれども。 [ぬるま湯都市神戸] 藤野 ただ、ぼくも東京から来た「そと者」だけど、神戸で20年暮らしてみて、生活 文化という意味ではけっこう満足度が高いんですよね。難しいものとかとんがっ たものを求めようとしなければ、食べるものもいいし、景色もきれいだし、そ こそこ便利だし、それほど大きな不満は出ない。だから、渇望とか飢えみたい なものがないんじゃないかな。 竹山 ぼくの友達で北九州の大学に勤めた人が、神戸に帰りたくて仕方がない、神戸 に帰ってきたらホッとすると言うんですよ。ぬるま湯的であっても自由にもの が言える世界がある。保守的・伝統的な精神的・文化的圧迫が少ないわけです ね。ぬるま湯から自由な文化を生み出すという感じでしょうか。 藤野 「ぬるま湯都市神戸」って売り出したらどうですか。(笑) そういうコミュ ニティカフェ的な文化でもいいと思うんですよ。 小倉 神戸の人はおしゃれでシャイだから。私たちが風月堂さん でやってる芝居も、胸かきむしらない程度の芝居をしてる んです。(笑)私、神戸の人がそれで喜んでくださるのな らそれでいいと思うんです。ぬるま湯でやってて、そのう ちに、「よそではかきむしるようなのをやってるのに、私 らはこれでいいんか」という議論が生まれてくるかもしれ ないじゃないですか。ちょこちょこと小さい所があちこち にあって、みんなが議論して、やっぱり中央のものがいい とかはっきり言ってくださって、マスコミも実際の意見を ちゃんと載せてほしい。叱られてもいいけど、よかったらよいで書いてくれて。 そういうのがもっと循環していってほしいと思う。 竹山 さて、いろいろお話は尽きないようですが、このくらいにしておきましょうか。 小倉 ( 7 ) 「むこう」100号記念に当たって 平田 康 6月29日付の神戸新聞の「あ・ん」というコラム欄に「市民力」と題する署名記事 が載った。先ず私たちの「会」が18年前に「神戸文化都市プラン」を市に提言し、 「ユニークな取り組みとして当時、全国的に注目された」ことが紹介され、「しかし、 この間、阪神・淡路大震災、長期不況と予想だにしない事態が続いた」ためにプラン の実現が厳しくなったとある。同時に今春の「神戸国際フルートコンクール」の参加 者のホームステイをコーディネートした中島さんの言葉も引用されて、「この苦しい 時代こそ」行政が市民とともに「協働」の「端緒をつくる貴重なチャンスでは、と思 うのだが…」と含みのある終り方だ。 多くを言う余裕はないが、世界一の長寿国で組織や運動が短命であっていいはずは ない。もちろん人間も組織も単に息をしているだけでいいはずもない。幸いなことに 私は今、自分の生きる意味と「会」の「力」をつけることを重ね合わす仕事が続けら れている。この記事で、当分はその仕事をやっていくはずみを再確認できた気がして いる。 「むこう」100号発刊、おめでとうございます。 藤田 雅子 経験の浅い私が編集長としてかかわり始めてから、そんな歳月が経っていたのです ね。私事で早々に引退させていただいてからも、他の編集部員の方々、会員の方々が 今日まで続けていてくださり、みなさまの努力と熱意に敬意と感謝の気持ちでいっぱ いです。 震災の時に凍りついた私たちの心を、溶かして和ら げていったのは文化でした。笑うことを思い出し、他 の人と喜びをわかちあい、美しいものに心をはずませ る――。そして、自ら表現することで、次への生きる 力に変えていきました。 『 むこ う 』 表 紙 で ともすれば、個々人の人間性まで奪われてしまうよ 使 われ た 藤 田 さ ん のカット うな社会です。その中で「生きていけるってすばらし い」と感じられる経験を、どれだけ享受することがで きるのでしょう。また、自ら創り出すことや表現することの喜びを、どれだけ生活の 中で感じているでしょうか。これからも“ほんまの文化都市”にしていこうとする会 員のみなさまのご活躍を楽しみに応援しています。 ( 8 ) 神戸の街スポット 旧神戸生糸検査所と新港地区(その7) 中 尾 嘉 孝 (港まち神戸を愛する会) 大正15年5月の市会議決の後、市立生糸検査所庁舎の設計は急ピッチで進められ た。 当時、神戸市は営繕課の組織を持ち、市立学校等の施設の鉄筋コンクリート造に よる新築・増改築を進めていた。 営繕課長は、大正7年に東京帝国大学を卒業した清水栄二が務めていた。清水は 六甲村(現在の神戸市灘区の一部)の出身で、大学卒業後は大阪の建設業者に勤め ていたところ、鉄筋コンクリート構造に精通している技術者であることを買われて、 公共施設の不燃化を進める神戸市に招かれたのだ。 そんな清水だったが、この当時は窮地に追い込まれていた。林田区(現在の神戸 市長田区)で建設中の小学校の建設現場で、コンクリートに土が混ぜららる不正が 行われている、との密告をある市会議員が取り上げ、市当局を追及したのだ。 そもそもは、外壁の仕上げのモルタルに、現場の左官職人が伸びを良くするため に土を混ぜていたのを、セメントの量を誤魔化している、と誤解されたのが事の発 端だったらしい。しかし、議員たちは追及の手を緩めなかった。県立工業試験所に 問題のセメントが持ち込まれ検査に掛けられた。結果は、セメントへの混入あり、 とされた。 清水は、担当の技術者を大阪市に転任する手はずを整えた。営繕課としては落ち 度はない。しかし責任はとらなければならない。断腸の思いであった。 本来なら清水も辞職しなければならない。しかし、神戸市の命運をかけた市立生 糸検査所庁舎の設計書のとりまとめと、入札にかける仕事が残されていた。 清水は助役に辞表を託して、設計のとりまとめに没頭した。7月には、形ばかり の起工式を、新港突堤そばの現場で行った。 8月初め、市立生糸検査所庁舎の工事入札が行われた。 一番札は神戸にゆかりの深い竹中工務店となった。 清水が市役所を去るのと入れ違いのようにして、現場に基礎杭を打つ音が響き渡っ た。 (この項、つづく) ( 9 ) ここでは、加盟団体・個人の文化情報をお伝えします。各行 事への参加については、前もって主催者にお問い合わせ下さい。 次回は、2009年10月中旬に発行の予定です。2009年11~12月 の予定をお知らせ下さい。9月末までにお願いします。 担当者:黒瀬晴世 (TEL.FAX/078-531-4903) 〒652-0058 神戸市兵庫区菊水町10丁目39-11-1-507 神戸東おやこ劇場 TEL.FAX/441-0836 神戸中央おやこ劇場 341-8069 神戸垂水おやこ劇場 706-1810 神戸須磨北おやこ劇場 976-0023 ☆ 幼児・小学生例会 「太鼓で遊ぼう ドンカカカ」 (太鼓と芝居のたまっ子座公演) 日時:10月25日(日)14:00 会場:北野工房のまち ☆ 小学高学年・中学生以上例会 ラブリーコンサート 「はじめにきよしコンサート」 (㈲アセント公演) 日時:10月10日(土)19:00 会場:神戸新聞松方ホール 料金:3,500円 友の会会員3,000円 神戸演劇鑑賞会 TEL/222-8651 FAX/222-8653 10月例会 「ゆれる車の音~九州テキ屋旅日記~」 (文学座公演) 作/中島淳彦 出演/角野卓造、たかお鷹 他 日時:10月15日(木)19:00 16日(金)18:30 17日(土)13:30 会場:神戸文化ホール(中) 神戸芝居カーニバル実行委員会 TEL.090-1914-4907(中島) 「茂山千之丞の座・狂言〈栗焼〉」 日時:10月1日(木)19:00 会場:神戸新聞松方ホール・ホワイエ 料金:2,800円 劇団四紀会 TEL.392-2421 FAX.392-2422 第14回新開地小劇場 「赤い陣羽織」 作/木下順二 演出/岸本敏朗 日時:9月10日(木)~13日(日) 会場:新開地まちづくりスクエア2F 料金:3,000円 会員1,500円 《神劇まわり舞台》 ①神戸ドラマ倶楽部 TEL/090-8200-0031(谷川) 「TWO IN THE WOODS」「令嬢ジュリー」より 作/ストリンドベリ 演出/塚原憲一 日時:8月29日(土)19:00 30日(日)13:00 会場:神戸アートビレッジセンター 料金:2,000円 中高生1,500円 ②神戸ドラマ館ボレロ TEL.FAX/361-9870 「歌わせたい男たち」 作/永井 愛 演出/三村 省三 日時:9月5日(土)13:30/18:30 6日(日)13:30 会場:神戸アートビレッジセンター 料金:2,400円 学生 2,000円 ③劇団風斜 TEL/921-2345(蓬莱方) 「心正しき12人の日本人」 作/レジナルド・ローズ 脚色・演出/日下部佐理 日時:9月11日(金)19:00 12日(土)14:00/19:00 13日(日)12:00 会場:神戸アートビレッジセンター 料金:2,200円 学生1,100円 ( 10 ) ギャラリー島田 TEL.FAX/262-8058 B1F 9月5日~16日 松岡美子個展 9月19日~30日 高木さとこ展 10月3日~14日 田中美和個展 10月17日~28日 小西保文追悼展 1Fdeux 9月5日~10日 ボロウスキーガラスアート展 9月12日~17日 大塚温子展 9月19日~24日 久下典子展 9月26日~10月1日 マツバラマサル展 10月3日~14日 菅田幸子展 10月17日~28日 元永紅子展 ☆ サロン 9月10日(木) 19:00 メンデルスゾーン生誕200年記念 室内楽コンサート 9月12日(土) 19:00 智内威雄ピアノコンサート ☆「神戸文化支援基金」の設立 1,500万円の基金を目標に自己資金と寄 付で設立。(公)亀井純子基金と連動して、 神戸で意欲的な活動をするアーティスト を支援する。賛同者は金額を問わず協力 を! NPO神戸100年映画祭 TEL/332-7050 FAX/332-7051 ☆ピフレ・シネマサロン 「おくりびと」 監督/滝田洋二郎 日時:9月10日(木) ① 10:30 ② 13:30 ③ 16:30 会場:ピフレホール 料金:800円 ☆ KEN-Vi名画サロン 「ブーリン家の姉妹」 (08年米・英) 日時:10月9日(金)10日(土) ① 10;30 ②13:00 ③15:30 会場:県立美術館ミュージアムホール 料金:1,000円 神戸映画サークル協議会 TEL/371-8550 FAX/371-8551 9月例会 「ジョニーは戦場に行った」 (71年アメリカ・ニュープリントで) 日時:9月25日(金)26日(土) ① 11:00 ②13:30 ③16:00 ④18:50 ① 11:00 ②13:30 ③16:00 ④18:30 会場:産業振興センター3Fホール 10月例会 「マルタのやさしい刺繍」 (06年スイス) 日時:10月23日(金)24日(土) ①11:00 ②13:30 ③16:00 ④19:00 ①11:00 ②13:30 ③16:30 ④18:30 会場:産業振興センター3Fホール NPO兵庫県子ども文化振興協会 TEL.FAX/361-1152 ☆ホワイエコンサート 「ヴァイオリンで行く世界旅行 -兵庫から世界へ」 出演/喜多ちひろ、福田可織 日時:9月18日(金) 19:00 会場:神戸新聞松方ホール・ホワイエ 料金:1,200円(コーヒー付き) 演劇講座9 ー日本の第二次世界大戦後の戯曲から 講師=平田 康(京都橘大学名誉教授) 参加費=会員500円 会員外1,000円 連絡先=TEL/222-8651 FAX/222-8653 神戸演劇鑑賞会・田中 第1回「夕鶴」 木下順二作 10月6日(火)14:00 劇団四紀会稽古場 7日(水)19:00 ハーバーランド文化村 オペラ・ド・ほんま TEL.FAX/252-3436 映像で楽しむオペラ講座第24回 「コシ・ファン・トッテ」 モーツァルト作曲 日時:9月17日(木)18:00~21:15 会場:サロン・ド・あいり 解説:竹山清明(オペラ大好き建築家) 料金:2,500円(食事・ワンドリンク付き) ( 11 ) いまどきの文化 シリーズNo.77 白い雲、青い空 (2 )下 町 ド リ ー ム ス 山 本 雅 夫 旧神戸市電布引線が大きくカーブする所にあった私の家は、野坂昭如さんの「火垂 るの墓」の“神戸大空襲”によって炎上、焼失しました。私の3歳の誕生日のあくる 日でした。私の父は十代半ば、写真の不思議さに魅せられ、結婚と同時に“写真機材 料店”を開き、インド人の貿易商とも親しくし、繁盛していたようですが、その夢も 3年目で消滅、戦後は宝塚歌劇の舞台写真の撮影や、東宝映画宝塚撮影所製作の映画 のスチールマンなどの写真を業としていましたが、店復興の夢叶わず71歳で生涯を終 えました。私の家には四畳半の“暗室”があり、そこで父は現像と焼付を、母は水洗 いを夜中までやっていました。目をショボショボさせて父を手伝う母の姿を見て、子 ども心に悲しくなり、ボクは写真なんかせえへん、と思ったものです。神戸生まれの 劇団の“道化座”の旗あげ公演の写真を、私の父が撮影したそうですから、きっとこ の暗室で仕上げられたと思われます。暗室の壁に沿ってカウンターがあり、ビロード と長い板硝子の間に20枚位の写真が並べられていました。父がひいきの“乙羽信子” さんをはじめ、越路吹雪と池部良の2ショット写真、春日野八千代、天津乙女の大ス ターさんの中に交じって、父のお気に入りの若いヅカガールも。“わあっ、おばちゃ んが写ってる!山本くんのおばちゃん、宝塚のスターさんなんや!”玄関からチョコ ンと首をのぞかせ、同級生の女の子が走り去ったりしてました。私は母が20歳の時の 子でしたから、きっと若く美しかったのでしょうね。 私の家の隣は籠屋・駄菓子屋・散髪屋・医者。向いには氷屋・ブリキ屋・竹屋・米 屋。南北への同じ距離におフロ屋が各々一軒(どちらも今も健在)あり、その内の一軒 に、小さな貸本屋が壁にへばり付くように存在していました。フロに行く時に、前に 借りた本を金盥(かなだらい)に入れ、フロからの帰り道、新しい本を借りてました。 私が本に魅せられたのはこの場所で、上質紙に印刷・製本された下村湖人作「次郎物 語」を手にした時からです。雑誌は「相撲」でした。雷電為右衛門や谷風梶之助等、 江戸時代の大相撲の名力士の手形が附録に付いて、“相撲”に憧れを持っていた私は、 それに手を重ねたり、掲載されている“相撲の錦絵”を筆で藁半紙(わらばんし)に模 写し、伯母や友だちにプレゼントしていました。30年ぶりの同窓会があった時、プレ ゼントしてもらった“錦絵”をとうとう“阪神淡路大震災”で失ってしまったと同級 生から話を聞かされ、驚いたことがあります。私の家は三叉路の角に建っていて、紙 芝居やロバのパン屋、カバヤキャラメルの宣伝カー、そして旅芝居の役者が口上を述 べたりする場所でした。子どもたちの遊び場所でもあり、路上は私のキャンバスでし た。ロウ石で相撲の錦絵や、丹下左膳など時代劇映画のスターを描いてました。紙芝 居のおじさんは“ラッパのおじさん”のニックネームで人気があり、ラッパで“タン ホイザー行進曲(?)”を吹いて子どもあつめ。もちろん“黄金バット”は名人と思い ます。ブリキ屋に間借りしていたお兄さん(初めて私を新開地へ連れて行ってくれた 人です)と、貸本屋のお兄さん、そしてラッパのおじさん。私が「神戸『夢』少年」 に育つきっかけを作ってくれた人で、今も感謝しています。 ミカン箱の台の上に立ち“星の流れに”を歌い歌集を売っていた人も、今も印象 に残っています。商店街は夜10時過ぎまで開いていて元気そのものでした。路地から は、三味線の音色も。震災で壊滅しましたが、私が今も住む下町には、50年以上前の 風が今も吹いています。心のスクリーンに“東西とうざい~”口上を述べる旅廻りの 役者に扮した私がいます。 ( 12 )