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ミャンマー・エーヤワディーデルタにおける マングローブ生態系の在地的
博士論文 ミャンマー・エーヤワディーデルタにおける マングローブ生態系の在地的管理に関する研究 Locally appropriate management of mangrove ecosystem: A case study in the Ayeyarwady Delta, Myanmar 国立大学法人 横浜国立大学大学院 環境情報学府 大野 勝弘 ONO, Katsuhiro 2007 年 3 月 目 次 第 2 章 先行研究と研究課題 第 1 章 序論 2.1 緒言 1.1 問題提起 2.2 生態系 1.1.1 背景 2.2.1 マングローブ生態系 1.1.2 問題の所在 2.2.2 生態系の機能と価値 1.2 研究の目的 2.3 生物資源 1.3 研究の視点 1.3.1 マングローブ生態系の特異性 2.3.1 自然資源と資源性 1.3.2 マングローブの資源性 2.3.2 生物資源の定義と特性 1.3.3 マングローブ資源管理の在地性 2.3.3 植物資源と有用植物 2.3.4 生物資源の価値 1.4 調査・研究の方法 2.4 生態学的な森林管理研究 1.4.1 生態学的手法の適用 1.4.2 民族植物学的手法の適用 2.4.1 持続可能な森林経営 1.5 論文の構成 2.4.2 森林管理の目的 1.6 研究の独自性 2.4.3 森林管理の理論 2.4.4 森林管理の技術 2.5 民族植物学的な森林管理研究 2.5.1 社会・文化性からのアプローチ 2.5.2 所有形態からのアプローチ 2.5.3 政治的競合からのアプローチ 2.6 在地的な森林資源管理 2.6.1 包括的なマネジメント 2.6.2 在地の空間 2.6.3 地域事象への適合性・順応性 2.6.4 地域住民の関与 2.7 研究課題 i 目 次 第 3 章 エーヤワディーデルタの在地性 第 4 章 マングローブの更新特性 3.1 緒言 4.1 緒言 3.2 マングローブ生態系の特異性 4.2 研究方法 3.2.1 立地環境 4.2.1 調査地 3.2.2 マングローブ植生 4.2.2 調査方法 3.3 海岸帯における在地空間 4.2.3 解析方法 4.3 結果 3.3.1 目的 3.3.2 調査方法 4.3.1 林分構造 3.3.3 結果と考察 4.3.2 個体群構造とその動態 4.3.3 代表種の耐陰性と下層植生 3.4 資源管理の歴史性 3.4.1 目的 4.3.4 萌芽力の比較 3.4.2 調査・研究方法 4.3.5 萌芽力の消長 3.4.3 結果と考察 4.3.6 冠水率と切り株の枯死 3.5 まとめ 4.3.7 株当り萌芽枝本数の時間動態 4.3.8 優勢な萌芽枝の分布動態 4.4 考察 4.4.1 林分構造 4.4.2 個体群動態 4.4.3 代表種の実生更新 4.4.4 萌芽力 4.4.5 萌芽力の消長 4.4.6 外的要因と萌芽 4.4.7 萌芽枝本数の動態 4.4.8 萌芽分布の動態 4.4.9 Heritiera fomes の萌芽更新施業 4.5 まとめ 4.5.1 Heritiera fomes 林の更新 4.5.2 Heritiera fomes の萌芽更新 ii 目 次 第 7 章 結論 第 5 章:マングローブの資源性 1 −資源的位置づけ− 5.1 緒言 7.1 緒言 5.2 研究方法 7.2 研究成果と意義 5.2.1 調査地 7.2.1 デルタ海岸帯の在地性 5.2.2 調査・解析方法 7.2.2 更新特性と施業 7.2.3 マングローブの資源性 5.3 結果 7.3 在地的なマングローブ資源管理 5.3.1 植物資源のインベントリー 7.3.1 在地性の担保 5.3.2 資源の類型化と資源ミックスの動態 7.3.2 生態学的マングローブ林管理 5.4 考察 5.4.1 植物資源と資源供給地の基本的性格 7.4 本論文の貢献 5.4.2 村落内の重層性と資源供給地の役割 7.4.1 生態学的貢献 5.4.3 資源利用の変容と人々への影響 7.4.2 民族植物学的貢献 5.5 まとめ 7.4.3 地域研究としての貢献 7.5 今後の研究課題 7.5.1 実生更新研究の課題 7.5.2 萌芽更新研究の課題 第 6 章:マングローブの資源性 2 7.5.3 資源性研究の課題 −資源化の様態と変容− 6.1 緒言 6.2 研究方法 6.2.1 調査地 謝辞 6.2.2 調査・解析方法 引用・参考文献 6.3 結果 Appendix 6.3.1 素材特性と利用 6.3.2 アクセス・利用とその動態 6.3.3 注目度の得点付け 6.4 考察 6.4.1 資源化の様態 6.4.2 資源と住民生活の変容 6.4.3 管理注目種,注目群集 6.5 まとめ iii iv 第1章 序論 第1章 1.1 問 題 提 起 マングローブ林は世界で最も存続が脅かされている熱帯生態系の 1 つで あ り , 世 界 全 体 で の 消 失 面 積 は 35% を 超 え る ( Valiela et al., 2001)。 マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 劣 化 は ,地 球 規 模 の「 環 境 」と「 社 会 ・ 経 済 」に 大 き な 負 の 影 響 を 与 え て い る 。マ ン グ ロ ー ブ 林 が 減 少 す る こ と で ,多 様 な 林 産 資 源 の 利 用 が 困 難 に な っ て い る 。マ ン グ ロ ー ブ 林 が 涵 養 す る 水 産 資 源 も 減 少 し て い る 。 高 波 に よ る 農 地 や 道 路 ,家 屋 ,さ ら に 人 命 の 被 害 が 増 加 し て い る( 向 後 , 1992)。 開 発 途 上 国 の 人 々 は , 自 然 資 源 に BHN 1 ( Basic Human Needs) の 多 く を 依 存 し て い る 。 中 で も , 開 発 か ら 取 り 残 さ れ が ち な 沿 岸 域 ( 田 中 , 1999) の 住 民は,脆弱な社会・経済的状況にあり,マングローブ生態系の劣化により, 最も深刻な影響を受ける人々である。 1.1.1 背 景 筆 者 は 2002 年 以 来 , エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の 河 口 域 を 調 査 等 で 訪 れ て き た 。か つ て の エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ は ,バ ン グ ラ デ シ ュ の ス ン ダ ル バ ン ス や ベ ト ナ ム の メ コ ン デ ル タ と 並 ぶ 世 界 有 数 の 大 マ ン グ ロ ー ブ 地 帯 で あ っ た( 向 後 , 1995)。地 域 の 住 民 は こ れ ま で ,森 林 自 体 の 再 生 力 の 範 囲 内 で 持 続 的 に マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 生 物 資 源 を 利 用 し て き た と 考 え ら れ る 。 し か し , 20 世 紀 の 後 半 ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 面 積 は 急 速 に 減 少 し た( Sit Bo, 1992; Tin Maung Kyi, 1992)。ま た ,残 存 す る マ ン グ ロ ー ブ 林 も 有 用 樹 種 の 減 少 や ヤ ブ 化 な ど , 種 構 成 の 変 化 や 樹 木 サ イ ズ の 低 下 と い っ た 劣 化 が 進 ん で い る ( 向 後 , 1995; Myint Aung, 2004)。 現在,エーヤワディー管区 2 内の保全林では伐採によるマングローブの採 集 が 禁 止 さ れ て い る 。し か し ,地 域 住 民 は 利 用 を 許 さ れ た 村 落 近 傍 の 森 林 や , 若 齢 の 植 林 地 か ら の 収 穫 だ け で は 必 要 な 燃 料 材 や 用 材 を ま か な え ず ,保 全 林 に お い て 自 家 用 や 村 落 内 の 小 規 模 な 売 買 目 的 で の 伐 採 を 行 っ て い る 。さ ら に , 域 外 向 け の 大 規 模 な 販 売 を 目 的 と し た 組 織 的 集 団 が ,残 存 す る 経 済 的 価 値 の 高いより大きなサイズの有用樹を盗伐している。法令はあっても現実には 様々なレベルでの伐採は続いている。 1 基本的生活要求:家庭での一定の最低個人消費を満たすために必要なものであ り ,衣 食 住 は も と よ り ,一 定 の 家 財 道 具 ,安 全 な 飲 料 水 ,衛 生 設 備 ,公 共 輸 送 ,教 育 施 設 な ど も 含 ま れ る ( ILOの 定 義 よ り 抜 粋 )。 2 ミ ャ ン マ ー の 国 土 は , 7 つ の 管 区 ( Division) と 7 つ の 州 ( State) に 行 政 区 分 さ れている。エーヤワディー管区は,エーヤワディーデルタの大部分を占める。 -2- 第1章 域 外 向 け の 収 奪 的 な 盗 伐 は 禁 止 さ れ る べ き で あ る が ,地 域 の 住 民 に と っ て マ ン グ ロ ー ブ は ,現 在 で も 生 活 や 生 業 に 欠 か せ な い 資 源 で あ る 。マ ン グ ロ ー ブ は ,燃 料 材 や 建 材 ,家 具・漁 労 具 な ど の 用 材 ,あ る い は 薬 や 食 料 な ど と し て 利 用 さ れ て い る 。例 え ば ,複 数 の 世 代 に 渡 り 住 ま わ れ て き た 家 屋 の 柱 や 梁 , 床 な ど に は ,長 尺・太 径 の 高 質 材 が 使 わ れ て い る 。こ の 様 な 家 屋 は 大 き く 外 観 も 優 れ て い る 上 ,転 居 の 際 に 構 造 材 が 再 利 用 さ れ る 。村 内 で 招 か れ る 食 事 に は マ ン グ ロ ー ブ の 食 材 が 使 わ れ ,村 人 は ,特 有 の 風 味 と 食 感 に 対 す る 我 々 外 部 者 の 反 応 を 楽 し ん で い る 。子 供 た ち は マ ン グ ロ ー ブ 林 に 出 か け る 父 親 に , マ ン グ ロ ー ブ の 果 実 を 土 産 の お や つ と し て ね だ る 。か つ て の 多 種 多 様 な マ ン グ ロ ー ブ 林 産 物 の 採 集・利 用 に つ い て 人 々 が 語 る 様 子 は 喜 び と 誇 ら し さ に 溢 れ て い る 。な か で も こ の 地 域 の 主 要 構 成 種 で 広 大 な マ ン グ ロ ー ブ 林 を 形 成 し て い た ( Myint Aung, 2004) Heritiera fomes は 多 用 性 が 高 く , 高 齢 者 に と っ て は 豊 か な 森 林 に 囲 ま れ て い た 時 代 を 憧 憬 す る 象 徴 的 存 在 で あ る 。マ ン グ ロ ー ブ は 生 活 と 生 業 を 長 期 的 に 支 え て き た 上 ,地 域 に 根 ざ し た 文 化 を 涵 養 す る 重要な資源だと考えられる。 エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 急 激 な 変 容 は ,燃 料 材 生 産 の た め の 過 剰 伐 採 と 水 田 化 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ た 。ミ ャ ン マ ー で は ,長 期 的 な 経 済 停 滞 が 続 い て い る 。電 力 と 石 油 燃 料 は 常 に 不 足 し て お り ,都 市 に お い て も 調 理 燃 料 は 薪 炭 に 頼 ら ざ る を 得 な い 。ヤ ン ゴ ン な ど の 大 都 市 域 に 近 い エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ は ,格 好 の 燃 料 材 供 給 地 と な り ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 過 剰 伐 採 が 加 速 し た( マ ン グ ロ ー ブ 植 林 行 動 計 画 , 2004)。ま た ,デ ル タ に お け る人口増加が引き起こしたマングローブ林の違法な水田への土地利用転換 を ,政 府 は 黙 認 し て き た 。農 業 省 が 食 糧 増 産 を ,林 業 省 が 森 林 保 全 を そ れ ぞ れ 唱 え る 国 家 政 策 の 不 整 合 の 中 で 生 じ た 混 乱 に よ り ,マ ン グ ロ ー ブ 林 は 消 失 し て い っ た ( 樫 尾 , 1998)。 マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 修 復 作 業 は , 1980 年 代 か ら 森 林 局 の マ ン グ ロ ー ブ 植 林 に よ り 開 始 さ れ た 。マ ン グ ロ ー ブ の 生 態 研 究 と 植 林 技 術 の 開 発 は ,植 林 地 に お け る 調 査 を 基 に 1990 代 に 進 め ら れ た 。 ま た 同 じ 時 期 に , そ れ ま で の 用 材 生 産 を 目 的 と し た 公 的 管 理 に ,住 民 の 自 立 的 な 森 林 資 源 の 管 理・利 用 を 認める住民林業の制度が加わった。 現 在 ,マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 修 復 と 管 理 は ,3 つ の 施 業 手 法 に よ り 行 な わ れ て い る 。す な わ ち ,荒 廃 裸 地 等 に お け る マ ン グ ロ ー ブ 植 林 ,保 護 を 通 じ た 自然更新,利用価値の低い種の除間伐による劣化林の有用樹の群落への改 -3- 第1章 良 ・ 育 林 ( RIF: Regeneration Improve felling) で あ る 。 1.1.2 問 題 の 所 在 域 外 に 移 出 さ れ る 燃 料 材 や 食 糧 の 生 産 が 要 因 と な り ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 破 壊 が 進 ん で い る 。生 活 や 生 業 を 維 持 す る た め の 代 替 手 段 に 乏 し い 多 く の 地 域 住 民 は ,マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 変 容 の 影 響 を 甘 受 す る 他 は な い 。マ ン グ ロ ー ブ を ,人 々 に 自 給 的 に 利 用 さ れ ,生 活 と 生 業 を 長 期 に 渡 り 維 持 し 文 化 を 継 承 す る た め の 生 物 資 源 と 認 識 し ,マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系の修復と維持を行なうことが必要である。 ( 1) 資 源 の 再 生 産 手 法 の 問 題 当 地 に お け る マ ン グ ロ ー ブ 林 修 復 の 生 態 的・技 術 的 な 知 見 は ,林 冠 を 欠 く 荒 廃 裸 地 等 へ の 植 栽 に 始 ま る 植 林 か ら 得 ら れ た も の で あ る 。ま た ,森 林 局 に と っ て の 植 林 の 一 義 的 な 目 標 は ,早 期 の 植 被 と 成 林 で あ っ た 。そ の た め ,林 冠 の 疎 開 し た 環 境 下 で 初 期 の 伸 張 成 長 に 優 れ た Avicennia spp.や Sonneratia apetala が 植 林 事 業 に 多 用 さ れ る よ う に な っ た 。 一 方 , 初 期 成 長 が 極 め て 遅 か っ た Heritiera fomes は ,用 材 と し て の 市 場 価 値 が 高 い ,あ る い は 地 域 の 固 有 種・優 占 種 に も 関 わ ら ず ,植 林 に 不 向 き と 判 断 さ れ た 。植 林 樹 種 と し て 注 目 を 失 っ た た め に , H. fomes の 生 態 的 な 知 見 の 集 積 は 進 ま な か っ た 。 将 来 的 に は ,住 民 の 多 様 な 資 源 へ の 要 請 や 生 態 的 に 健 全 で 安 定 し た 植 林 地 の 重 要 性 な ど に よ り ,H. fomes 植 林 地 や 自 然 林 に 近 い H. fomes の 混 交 植 林 地 が 造 成 さ れ る と 考 え ら れ る 。 ま た 現 在 ,「 保 護 を 通 じ た 自 然 更 新 」 や 「 RIF」 に よ り 修 復 が 進 め ら れ て い る H. fomes 林 に お い て は ,収 穫 と そ の 後 の 更 新 の 適切な手法が明らかになっていない。 H. fomes の 巨 木 が 広 範 囲 に 優 占 し て い た 時 代 に は ,域 外 向 け 木 材 の 保 続 的 な 収 穫 を 目 指 す 大 径 木 択 伐 が 行 わ れ て い た 。し か し な が ら ,こ の 様 な マ ン グ ロ ー ブ 林 は 消 失 し て い る 上 ,域 内 向 け の 燃 料 材 や 用 材 生 産 を 目 的 と す る な ら ば,これまでの手法は適用できない。 H. fomes を 中 核 と す る 植 林 地 や , 自 然 更 新 林 , RIF 林 お い て , 長 期 継 続 的 に 林 産 物 の 利 用 を 図 る に は ,新 た な 更 新 手 法 を 森 林 管 理 の プ ロ セ ス に 導 入 す る 必 要 が あ る 。こ の 際 ,こ れ ま で の 播 種 や 再 植 林 と と も に 他 の 更 新 手 法 が あ る と す れ ば ,収 穫 目 的 や 維 持 管 理 コ ス ト ,実 施 容 易 さ 等 に 応 じ て 選 択 と 組 み 合 わ せ が 可 能 と な る 。H. fomes の 更 新 の 条 件 や 森 林 動 態 は 不 明 で あ り ,管 理 の 基 盤 情 報 と し て ,種 ,個 体 群 あ る い は 林 分 の 更 新 メ カ ニ ズ ム の 解 明 が 課 題 -4- 第1章 となる。 ( 2) 資 源 と し て の 認 識 の 問 題 マ ン グ ロ ー ブ 植 林 は ,植 被 を 回 復 し 失 わ れ た 生 態 系 の 様 々 な 機 能 の 修 復 を 図る点で重要だと言える。現在の公的管理下および住民林業による植林は, Avicennia spp.や Sonneratia apetala な ど 早 成 の 特 定 樹 種 に よ っ て 行 な わ れ て いる。 植 林 樹 種 の 選 択 は ,公 的 植 林 に お い て は 森 林 局 が ,住 民 林 業 に お い て は 種 苗の供給と植林技術指導を行なう森林局と住民の調整により行なわれてい る 。森 林 局 が 取 り 扱 う 種 苗 の ほ と ん ど は 前 出 の 早 成 樹 種 で あ り ,既 知 の 植 林 技 術 や 生 態 的 知 見 の 多 く も 早 成 樹 に 関 す る も の で あ る 。植 林 手 法 が 明 ら か で 早 成 な 樹 種 を 用 い る こ と で ,林 務 官 は 植 林 面 積 の 目 標 達 成 を 図 り や す く な る 。 ま た 住 民 林 業 の 主 体 は ,植 林 地 と な る 放 棄 水 田 な ど の 土 地 を 保 有 す る 村 人 か ら 成 る 住 民 グ ル ー プ で あ る 。グ ル ー プ に は ,換 金 用 の 木 材 生 産 を 意 図 と す る 成員もおり,収穫時期の早い早成樹植林は好都合だという事情がある。 本 来 地 域 の 人 々 は ,多 彩 な マ ン グ ロ ー ブ の 利 用 体 系 を 持 つ 。住 民 林 業 に 参 加 し て い な い 人 々 も 少 な く な い 。し た が っ て ,こ れ ま で の 限 定 的 な 樹 種 に よ る植林は,様々な住民の資源ニーズに対応するのであろうか,あるいは生 活・生 業 の 糧 お よ び 地 域 文 化 の 源 泉 と な る 生 物 資 源 の 再 生 対 象 の 選 択 は ど う あるべきか,といった問いが生じる。 1.2 研 究 の 目 的 研究の目的は 2 つある。 第 1 に,エーヤワディーデルタのマングローブ生態系の極相種である Heritiera fomes 林 の 生 態 的 特 性 を 解 析 ・ 評 価 す る た め に , H. fomes 林 の 更 新 特 性 お よ び H. fomes の 萌 芽 特 性 を 明 ら か に す る こ と で あ る 。そ こ で ,H. fomes 林 の 構 造 と 動 態 ,H. fomes 切 り 株 の 形 質 と 環 境 要 因 の 萌 芽 へ の 影 響 を ,植 生 学的・林学的に調査・研究した。 第 2 に ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に お け る マ ン グ ロ ー ブ 林 管 理 の 地 域 的 な 的 確 性 を 検 証・評 価 す る た め に ,マ ン グ ロ ー ブ の 生 物 資 源 と し て の 特 性 を 明 ら か に す る こ と で あ る 。そ こ で ,植 物 資 源 の 複 合 的 利 用 ,時 間 的・空 間 的 分 布 , 利 害 関 係 者 間 の 利 用 差 異 な ど の 中 で マ ン グ ロ ー ブ を 位 置 づ け ,採 集・利 用 の あり方と変容から,資源的な特性を民族植物学的に調査・研究した。 本 論 文 の 結 論 と し て こ れ ら の 研 究 成 果 か ら ,持 続 可 能 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 -5- 第1章 管理のあり方を提示した。 1.3 研 究 の 視 点 本研究の分析・考察においては,以下の 3 点を視点とした。 1.3.1 マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 特 異 性 生 態 系 は ,動 植 物 な ど の 生 物 的 要 素 と 気 候 や 地 形 な ど の 非 生 物 的 要 素 と の 総 合 的 な シ ス テ ム で あ り ,マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 は そ の 具 体 的 姿 の 一 例 で あ る 。 一 定 の 恒 常 性 を も つ 生 態 系 に は ,立 地 の 非 生 物 的 要 因 に 適 し た ,あ る い は 耐 え ら れ る 生 物 個 体 群 の み が 生 存 し て い る( 鈴 木 , 2006)。生 物 資 源 は 具 体 的 な 素 材 と し て の 生 物 に 由 来 し て お り ,立 地 と 生 物 個 体 群 の 地 域 性・固 有 性 に 対 応 し た 生 物 資 源 の 管 理 が 必 要 で あ る 。さ ら に ,マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 特 異 性 は ,在 地 性 の 1 要 素 で も あ る 。本 論 文 に お い て は ,立 地 環 境 と 植 物 群 落 か ら エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 特 異 性 を 示 し ,こ れ を 視 点 と してマングローブの更新と生物資源の管理のあり方を探求した。 1.3.2 マ ン グ ロ ー ブ の 資 源 性 マ ン グ ロ ー ブ を「 地 域 住 民 に と っ て の 資 源 」と す る な ら ば ,彼 ら が 利 用 す る 個 別 具 体 的 な 資 源 を 把 握 し た 上 で ,そ の 特 性 を 分 析 す る 必 要 性 が で て く る 。 そ の た め の 基 盤 情 報 で あ る「 植 物 資 源 研 究 の デ ー タ ベ ー ス と な る ,地 域 住 民 に よ る 種 の 認 識 と 利 用 情 報 の 収 集・整 理 ,お よ び 得 ら れ た 目 録 」を イ ン ベ ン ト リ ー と 定 義 す る 。資 源 の 特 性 は ,植 物 そ の も の の 性 質 と ,利 用 者 側 の 要 求 と の 関 係 性 に 規 定 さ れ る 。本 論 文 で は 資 源 利 用 の 様 態 を ,植 物 の 物 理・化 学 的 性 質 に 関 係 す る 生 育 形 と 樹 体 の 部 位・器 官 に 基 づ き 考 察 し た 。ま た 資 源 へ の 要 求 を 発 現 さ せ る 利 用 者 の ,属 性 の 差 異 に よ り ス テ ー ク ホ ル ダ ー を 区 分 し 資 源 性 を 分 析 し た 。 さ ら に ,「 複 数 の 供 給 源 ま た は 資 源 群 か ら , 生 態 環 境 と 社 会 経 済 環 境 の 制 約 の も と ,適 応 的 も し く は 戦 略 的 に 選 択 さ れ ,最 適 化 さ れ た 資 源 の 組 み 合 わ せ 」を 資 源 ミ ッ ク ス と 定 義 し ,複 合 的 な 植 物 資 源 の 利 用 体 系におけるマングローブの位置づけを解明した。 1.3.3 マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 の 在 地 性 -6- 第1章 在 地 性 と は「 そ の 地 に 根 ざ す 出 来 事 に な じ む 。土 地 の 人 間 が ,主 体 的 に 育 ん で い け る 」 性 質 ( 安 藤 , 2001) と 説 明 さ れ る 。 在 地 性 は , 持 続 的 な マ ン グ ローブ資源管理の本質を示すキーワードだと言える。 本 論 文 で は ,「 そ の 地 に 根 ざ す 出 来 事 」の 要 素 と し て ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 制 度 と そ の 歴 史 性 に 着 目 し た 。森 林 の 管 理 と 所 有 の 形 態 は ,資 源 の 利 用 や 状 態 に 強 く 影 響 し , 歴 史 性 に 規 定 さ れ る ( Mather, 1990) 。 エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に お け る マ ン グ ロ ー ブ 林 へ の 人 の 関 与 の 開 始 ,お よ び マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 管 理 と 所 有 の 変 遷 を ,現 在 の 資 源 利 用 と 状 態 に 関 係 付 け ,望 ま し い 管 理 を 考 察 し た 。 在 地 性 に お け る 主 体 で あ る ,「 土 地 の 人 間 」 に も 着 目 し た 。 村 落 社 会 に お い て は ,人 々 は 一 様 な 存 在 で な く ,そ の 人 が 置 か れ て い る 社 会 的,経済的状況によりニーズが異なる。エーヤワディーデルタにおいては, 屋 敷 地 な ど の 土 地 所 有 の 有 無 が ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 所 有 ,生 業 の 差 異 , 貧 富 と 直 結 し て い る 。「 土 地 に 対 す る 権 利 を 持 つ 村 人 」 と 「 土 地 に 対 す る 権 利 を 持 た な い 村 人 」を ス テ ー ク ホ ル ダ ー と し て 区 分 し ,分 析 の 視 点 と し た 。 さ ら に , 在 地 性 が 及 ぶ 地 域 と し て ,「 そ の 地 」 の で あ る 立 地 環 境 の 特 性 と ,「 土 地 の 人 間 」 の 資 源 採 集 行 動 か ら 導 か れ る 生 態 的 ・ 社 会 的 な 空 間 を 導 き出した。 1.4 調 査 ・ 研 究 の 方 法 1.4.1 生 態 学 的 手 法 の 適 用 生 態 学 は ,生 物 と そ の 環 境 を 対 象 と し ,両 者 の 関 係 の 理 解 を 目 指 し て い る 。 扱 わ れ る 生 物 の 世 界 は ,「 生 物 個 体 」, 個 体 の 集 ま り で あ る 「 個 体 群 」, 多 数 ま た は 少 数 の 個 体 群 の 集 ま り で あ る「 群 集 」の 3 つ の 階 層 で あ る( ベ ゴ ン ほ か , 1986)。 本 論 文 に お い て は ,H. fomes を 林 冠 優 占 種 と す る マ ン グ ロ ー ブ 群 集 の 組 成 , 構 造 ,遷 移 の あ り 方 に つ い て フ ィ ー ル ド デ ー タ を 収 集 し 分 析 を 行 な っ た 。そ の 際 ,同 群 集 を 代 表 す る 4 樹 種 の 個 体 群 の 構 造 と 動 態 に ,生 存 ,死 亡 ,加 入 の 側 面 か ら 分 析 を 加 え 群 集 の 動 態 を 推 定 し た 。調 査・分 析 は ,基 礎 生 態 学 分 野 の 植 生 学 ,特 に 植 物 社 会 学 の 手 法 を 中 核 と し ,個 体 群 生 態 学 と 森 林 生 態 系 のギャップ動態の理論を適用した。また,優占種で管理上の注目種である H. fomes 個 体 の 萌 芽 更 新 特 性 を ,マ ン グ ロ ー ブ 域 特 有 の 浸 水 環 境 に 着 目 し た フ ィ ー ル ド デ ー タ の 解 析 に よ り 行 な っ た 。調 査・分 析 は ,応 用 生 態 学 の 要 素 分 野 で あ る 林 学 の 手 法 を 適 用 し た 。 得 ら れ た H. fomes 個 体 お よ び H. fomes -7- 第1章 林( 群 集 )の 更 新 特 性 に 係 る 知 見 か ら ,H. fomes を 中 核 と す る マ ン グ ロ ー ブ 資源管理のモデルを導き出した。 1.4.2 民 族 植 物 学 的 手 法 の 適 用 民族植物学の定義については現在でも研究者間で論争があるが,例えば 「 植 物 と 伝 統 的 な 人 々 ( Traditional people) 3 と の 相 互 関 係 に ま つ わ る 全 て の 研 究 ( Cotton, 1996)」 と さ れ て い る 。 民 族 植 物 学 の 範 囲 は 広 く , そ の 方 法 論 も 社 会 科 学 と 生 物 科 学 の 両 方 か ら 引 き 出 さ れ 多 彩 で あ る 。 Cotton( 1996) は 民 族 植 物 学 の 一 般 的 方 法 が 依 拠 す る 領 域 と し て ,人 類 学 分 野 ,植 物 の 収 集 と分類,言語学と象徴解析を挙げている。 本論文では,エーヤワディーデルタのマングローブ域に暮らす伝統的な 人 々 の ,植 物 の 採 集・利 用 を 調 査・研 究 し て い る 。研 究 対 象 と な る 地 域 の 植 物 相 は ,文 献 お よ び フ ィ ー ル ド に お け る 植 生 調 査 に よ り 把 握 し た 。人 々 に よ る 植 物 の 採 集 ,運 搬 ,加 工 ,利 用 の あ り 方 は ,人 類 学 分 野 の 方 法 論 で あ る イ ン タ ビ ュ ー と 参 与 観 察 に よ り デ ー タ を 収 集 し た 。イ ン タ ビ ュ ー は ,日 常 的 会 話 ,半 構 造 的 イ ン タ ビ ュ ー ,構 造 的 イ ン タ ビ ュ ー か ら 手 法 を 選 択 し 組 合 せ た 。 植 物 種 の 同 定 に は 採 集 標 本 や 撮 影 し た 写 真 を 参 照 し ,被 面 接 者 が 描 く 植 物 図 や 地 図 を 併 用 し た 。参 与 観 察 は 村 落 民 家 に 宿 滞 在 し ,食 事 ・ 生 業 ・ 娯 楽 ・ 地 域 行 事 等 に 参 加 す る こ と で 行 な っ た 。デ ー タ の 体 系 化・序 列 化 は ,植 物 に つ い て は 「 生 態 的 な 植 物 区 分 」,「 形 態 ・ 解 剖 学 的 な 植 物 体 の 部 位 区 分 」, 利 用 に つ い て は「 用 途 区 分 」, 「 植 物 へ の ア ク セ ス と 利 用 頻 度 の 階 級 区 分 」か ら 行 な っ た 。体 系 化 ・ 序 列 化 さ れ た デ ー タ を ,定 量 的 ・ 定 性 的 に 分 析 し ,マ ン グ ローブの資源性,管理注目種,資源利用空間を明らかにした。 1.5 論 文 の 構 成 本 論 文 の 構 成 と 研 究 フ ロ ー を , Fig. 1.1 に 示 し た 。 3 民 族 植 物 学 研 究 で は ,Indigenous people( 在 来 の 人 々 ,先 住 民 )と Non-indigenous peopleを 含 む 。 Traditional farmer, Rural peopleも 同 義 語 で , 伝 統 的 な 社 会 的 , 文 化 的,経済的制度の一部または全部を保持している人々と解される。 -8- 第1章 第1章:序論 問題提起,研究目的 研究方法,視点,独自性 方法論 方法論の適用 研究のフロー 第2章: 先行研究と研究課題 ■概念定義 生態系/生物資源 ■研究領域・方法論・研究課題 生態学的な森林管理研究 民族植物学的な森林管理研究 植生遷移 ギャップ動態 人工造林 インベントリー 価値評価 コモンズ論 ステークホルダー 在地的な森林資源管理 第3章:エーヤワディーデルタの在地性 生態系の特異性 海岸帯の在地空間 資源管理の歴史性 第5章:マングローブの資源性1 −資源的位置付け− 第4章:マングローブの更新特性 ■H. fomes林の更新 林分解析 個体群動態 代表種の耐陰性 植物資源インベントリー 植物資源ミックス 第6章:マングローブの資源性2 ■H. fomesの萌芽更新 萌芽力 萌芽力の消長 浸水環境と萌芽 −資源化の様態と変容− 資源化の様態と変容 管理注目種・群集の抽出 第7章:結論 成果・意義 在地的なマングローブ資源管理 貢献・課題 Fig. 1.1. 論文の構成 -9- 第1章 第 2 章 に お い て は ,本 論 文 に 関 わ る 概 念 と 先 行 研 究 を 整 理 し レ ビ ュ ー を 行 なうとともに研究課題を示した。 本 論 文 は ,マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 維 持 に 資 す る 生 物 資 源 管 理 に 関 す る 研 究 で あ る 。生 態 学 お よ び 民 族 植 物 学 的 手 法 を 用 い た 調 査 を 踏 ま え ,マ ン グ ロ ー ブ の 資 源 性 と 在 地 性 に 着 目 し た 分 析 を 行 っ て い る 。本 章 に お い て は ,は じ め に対象である生態系と生物資源の機能と価値についての先行研究を検証し た 。次 に ,森 林 資 源 管 理 研 究 の 系 譜 を ,調 査・研 究 手 法 と し た 生 態 学 と 民 族 植 物 学 を 中 心 に ま と め ,資 源 管 理 研 究 に お け る 在 地 性 の 概 念 を 明 示 し た 。最 後 に ,こ れ ま で の 森 林 管 理 研 究 で は 解 明 さ れ て お ら ず ,本 論 文 で 取 り 組 ん だ 研究課題を示した。 第 3 章 に お い て ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ 海 岸 帯 の 在 地 性 を ,生 態 系 の 特 異 性,地理的空間領域,資源管理の歴史性から明らかにした。 は じ め に ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 立 地 環 境 と 植 物 群 落 を オ リ ジ ナ ル デ ー タ と 調 査 資 料 か ら 示 し ,マ ン グ ロ ー ブ が 依 拠 す る 無 機 的 環 境 と 生 物 資 源 の 素 材 と し て の マ ン グ ロ ー ブ の 特 異 性 を 示 し た 。マ ン グ ロ ー ブ の 立 地 は ,陸 域 と 水 域 の 接 点 あ る い は 移 行 帯 と 言 え ,陸 側 お よ び 海 側 か ら の 環 境 条 件 が マ ン グ ロ ー ブ の 分 布 を 規 定 す る 。本 章 に お い て は 陸 側 の 条 件 と し て ,デ ル タ の 地 形 ,デ ル タ を 形 成 す る 河 川 の 性 質 お よ び 河 川 の 性 質 に 影 響 す る 気 候 要 因 を ,海 側 の 条 件 と し て ,海 水 準 の 変 動 お よ び 汽 水 の 塩 分 含 量 を 取 り 上 げ た 。森 林 生 態 系 と し て の マ ン グ ロ ー ブ 林 は ,熱 帯・亜 熱 帯 の 低 湿 地 林 の 1 類 型 で あ る( 山 田 , 1986)。本 章 に お い て は マ ン グ ロ ー ブ の 特 異 性 を , 湿 地 林 の 体 系 ,立 地 と 植 生 配 列 お よ び 群 落 体 系 か ら 捉 え ,中 核 的 な 群 落 の 優 占 種 ・ 固 有 種 Heritiera fomes の 特 徴 を 示 し た 。 次に,海岸帯における自然相・資源相・文化相を統合する在地の空間を, 現 地 調 査 デ ー タ を 統 合 し 把 握 し た 。在 地 の 空 間 は ,資 源 が 分 布 し 資 源 に 関 わ る 人 間 活 動 が 行 わ れ る 生 態 的・社 会 的 な 空 間 的 領 域 で あ る 。本 章 に お い て は , 村 落 周 辺 の 景 観 を 地 形 ,土 質 ,土 地 利 用 か ら 捉 え ,潮 間 帯 と よ り 上 部 の 土 地 に 生 育 し 資 源 の 素 材 と な り う る 植 物 相 を 現 地 に お い て 調 査 し た 。さ ら に ,マ ングローブ資源へのアクセスと採集地をインタビューと踏査から把握した。 最 後 に ,在 地 性 の 要 素 で あ る マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 制 度 を ,管 理 と 所 有 の 変遷から歴史的に検証した。森林資源の所有形態の歴史的展開については, Mather( 1990)の モ デ ル が あ る 。ま た ,生 物 資 源 を 含 め た 環 境 資 源 に つ い て は ,コ モ ン ズ 論 に お い て 財 と し て の 特 性 分 析 や ,所 有 制 度 の 管 理 と 利 用 へ の 影 響 が 取 扱 わ れ て き た 。本 章 に お い て は ,森 林 資 源 の 管 理・所 有 に 影 響 す る - 10 - 第1章 土 地 制 度 に も 着 目 し な が ら ,森 林 資 源 を め ぐ る 法 制 度 ,慣 習 お よ び 実 態 を 検 証 し ,現 在 の 資 源 利 用 と 森 林 の 状 態 と の 関 係 を 考 察 し た 。そ の 際 ,時 間 ス ケ ー ル は こ れ ま で ほ と ん ど 扱 わ れ て い な い 長 期 間 に 設 定 し ,マ ン グ ロ ー ブ 林 へ の人間の関与が始まった頃から現在までとした。 第 4 章 に お い て は ,生 態 学 的 手 法 を 適 用 し マ ン グ ロ ー ブ の 更 新 特 性 の 解 明 を 行 な っ た 。 植 物 社 会 学 的 植 生 調 査 に よ り 規 定 さ れ た Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 ( Myint Aung, 2004) の 更 新 , お よ び 個 体 と し て の H. fomes の 萌 芽 更 新 に 係 る オ リ ジ ナ ル な デ ー タ を 解 析・評 価 し ,施 業 に 向けた生態的な基盤情報を得た。 Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 更 新 特 性 は , 林 分 お よ び 個 体 群 の 構 造 と 動 態 ,マ ン グ ロ ー ブ の 光 特 性 の 解 明 に 基 づ い て い る 。植 物 間 の 陽 光 に 対 す る 生 存 競 争 の 結 果 ,植 物 群 落 の 時 間 経 過 に よ る 交 代・変 化( = 植 生 遷 移 ) が 起 こ る 。本 章 に お い て は ,同 群 集 の 林 分 の 植 物 社 会 学 的 手 法 に よ る 構 造 の 把 握 ,群 集 を 特 徴 付 け る 種 個 体 群 の 生 存 率・死 亡 率・加 入 率 に よ る 動 態 の 解 析 と ギ ャ ッ プ 動 態 理 論 に 基 づ く 耐 陰 性 の 解 析 か ら ,現 存 す る H. fomes 林 の 遷 移を推定した。 伐 採 後 の 樹 木 の 萌 芽 特 性 は ,林 学 的 に は 切 り 株 の 萌 芽 力 と そ の 消 長 に よ り 研 究 さ れ て き た 。一 般 に ,萌 芽 力 は 萌 芽 率 と 萌 芽 枝 本 数 に よ り ,萌 芽 力 の 消 長は伐根径および伐採高と萌芽力の関係により示される。本章においては, H. fomes と 様 々 な マ ン グ ロ ー ブ 樹 木 の 切 り 株 萌 芽 力 の 比 較 を 行 な う と と も に ,H. fomes の 萌 芽 力 の 消 長 を マ ン グ ロ ー ブ 域 の 浸 水 環 境 を 考 慮 し た 独 自 の 手 法 に よ り 解 析 し た 。そ の 結 果 ,H. fomes の 高 い 萌 芽 力 ,お よ び 最 高 水 位 に よる伐採高の管理の必要性が示された。 第 5 章 お よ び 第 6 章 に お い て は ,住 民 の 資 源 ニ ー ズ と 再 生 対 象 と な る マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 選 択 へ の 問 題 意 識 に 基 づ き ,マ ン グ ロ ー ブ 域 に 暮 ら す 伝 統 的 な 人 々 の 植 物 の 採 集・利 用 を 調 査 し 資 源 性 を 探 求 し た 。民 族 植 物 学 的 手 法 を 適用し,マングローブ資源を複合的な植物資源の体系,時間軸,空間分布, 利 害 関 係 者 間 の 利 用 の 差 異 ,素 材 と し て の 植 物 の 状 態 か ら 解 析 し 位 置 づ け る こ と で ,生 活 要 求 に 適 合 す る マ ン グ ロ ー ブ 資 源 と し て ,H. fomes の 植 物 種 お よび樹林としての重要性が示された。 第 5 章 に お い て は ,マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 と 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 比 較 分 析 に 基 づ き ,植 物 資 源 の 利 用 体 系 に お け る マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 位 置 づ け - 11 - 第1章 を 解 明 し た 。資 源 と な る 植 物 の 種 類 や 位 置 づ け は ,利 用 者 の 生 業 や 文 化 に よ り 異 な る こ と が 指 摘 さ れ て い る ( Cotton, 1996; 菅 , 2004) 。 デ ル タ の 森 林 生 態 系 は ,潮 汐 環 境 下 の マ ン グ ロ ー ブ 林 と 陸 域 に 区 分 す る こ と が で き ,植 物 の 種の類型もこれに対応してマングローブ林のマングローブとホームガーデ ン の 非 マ ン グ ロ ー ブ に 区 分 で き る 。し た が っ て 本 章 に お い て は ,植 物 資 源 お よびその供給地を 2 つにまとめ基本的な性格の分析を行なっている。また, 利 用 者 を ホ ー ム ガ ー デ ン の 保 有 の 有 無 に よ り 区 分 し ,植 物 資 源 の 価 値 を 時 間 軸 の 中 で 分 析 し た 。そ の 結 果 ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 基 本 的 性 格 は ,日 常 生 活 の 長 期 的 基 盤 と な る 資 源 供 給 地 で あ り そ の 中 核 は Heritiera fomes で あ る こ と , お よ び H. fomes 利 用 の 困 難 化 は ,土 地 無 し 村 民 に 特 異 的 に 生 活 の 質 の 低 下 と 家計負担の増大をもたらしたことが明らかになった。 第 6 章においては,マングローブの資源性を,地域における資源的価値, 資 源 化 の 様 態 を 通 し た マ ン グ ロ ー ブ 林 の 評 価 と そ の 変 容 の 定 量 把 握 ,資 源 化 の様態と変容に基づく管理上の注目種・注目群集の抽出を行った。人間は, 植 物 の 物 理 的・化 学 的 特 徴 を 認 識 し ,必 要 性 と 目 的 に 応 じ て 植 物 を 資 源 と し て 利 用 し て い る ( 小 林 , 1994; Cotton, 1996) 。 本 章 に お い て は , マ ン グ ロ ー ブ の 植 物 体 の 部 位 に よ る 用 途 の 類 型 化 ,お よ び 用 途 類 型 に 基 づ く 資 源 化 の 様 態 を 明 ら か に し た 。ま た ,資 源 化 の 時 間 的 な 動 態 を 定 量 的 に 把 握 し ,資 源 供 給地の状態および住民の生活・生業の変容を説明した。 生 物 多 様 性 保 全 の 優 先 順 位 は ,特 異 性 ,脅 威 度 ,有 用 性 等 を 基 準 に 決 定 さ れ る ( プ リ マ ッ ク ・ 小 堀 , 1997) 。 本 章 に お い て は , 資 源 性 と 資 源 化 の 変 容 に 基 づ き ,簡 便 で 迅 速 に 資 源 を 評 価 す る 独 自 の 手 法 を 試 行 し ,管 理 上 の 注 目 種・注 目 群 集 の 抽 出 を 行 っ た 。そ の 結 果 ,多 彩 な 生 活 要 求 に 適 合 的 に 資 源 化 さ れ て い た マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 中 で ,最 も 多 用 途 で 適 合 性 の 高 い 素 材 を 提 供 し て い た の は Heritiera fomes で あ っ た こ と ,お よ び マ ン グ ロ ー ブ 林 修 復 と 保 全 に 向 け た 生 態 研 究 に お い て 注 目 す べ き 種 は Heritiera fomes を 含 む 5 種 ,群 集 は Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 と そ の 林 縁 で あ る こ と が 示 さ れ た 。 第 7 章 に お い て は ,本 論 文 の 研 究 成 果 を ま と め ,結 論 と 本 論 文 の 貢 献 ,お よび今後の課題 を示した。研究成果は,資源管理に係るデルタの在地性, マングローブの更新特性と施業,マングローブの資源性の 3 点から整理し, こ の 研 究 成 果 が 持 つ 意 義 を 示 し た 。結 果 は 研 究 成 果 を 踏 ま え ,在 地 性 が 担 保 され生態的にも適合的なマングローブ資源管理の要件とモデルとして示し た 。本 論 文 の 貢 献 は ,生 態 学 的 貢 献 ,民 族 植 物 学 的 貢 献 ,地 域 研 究 と し て の - 12 - 第1章 貢 献 に ま と め た 。今 後 の 課 題 は ,実 生 更 新 お よ び 萌 芽 更 新 に お け る 研 究 課 題 と,マングローブの資源特性研究における課題にまとめた。 1.6 研 究 の 独 自 性 第 1 に は ,生 態 学 的 手 法 に よ り オ リ ジ ナ ル デ ー タ を 収 集 し ,マ ン グ ロ ー ブ 植物の個体群生態からマングローブ林管理の基盤情報を探求した点である。 林産物の生産や公益的機能を確保するために森林を人為的に制御し管理 を 行 な う 場 合 ,立 地・対 象 樹 種・管 理 手 法 の 適 正 な 選 択 が 要 訣 で あ る( 片 岡 , 1992a)。 エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に お け る こ の 種 の 森 林 管 理 は , 1980 年 代 の 森 林 局 の マ ン グ ロ ー ブ 植 林 に 始 ま っ た 。 マ ン グ ロ ー ブ の 生 態 調 査 は , 1990 代 に 植 林 地 を 対 象 地 と し ,植 栽 樹 の 活 着 と 初 期 成 長 の 良 し 悪 し 調 査 を 中 核 に 進 め ら れ た 。立 地 と 対 象 樹 種 の 選 択 に つ い て 言 え ば ,こ れ ま で の 植 林 地 と 植 栽 樹 種 の 選 択 は ,立 地 の 環 境 と 樹 木 の 生 態 的 適 合 性 に は 必 ず し も 基 づ い て こ な か っ た 。す な わ ち ,残 存 す る 親 木 の 分 布 と 量 に 規 制 さ れ る 種 苗 の 入 手・育 苗 の 難 易 や ,運 搬・植 栽 作 業 の 都 合 ,あ る い は 裸 地 的 環 境 下 に お け る 早 成 さ な ど ,植 被 面 積 の 回 復 目 標 に 対 す る 作 業 的 効 率 が 重 視 さ れ て き た 。植 林 地 以 外 の マ ン グ ロ ー ブ の 生 態 的 知 見 は ,近 年 ま で 植 生 分 布 の 先 駆 的 な 記 載( Stamp, 1924; 1925) や 林 務 官 の 経 験 知 に 限 ら れ て い た 。 Myint Aung( 2004) は 植 物 社 会 学 的 調 査 に 基 づ き ,当 地 の マ ン グ ロ ー ブ 植 生 の 群 落 体 系 の 整 理 ,お よ び 立 地 と 群 落 の 分 布 の 関 係 付 け を 行 な っ て い る 。し か し な が ら ,森 林 の 人 為 制 御の基盤となるマングローブの個体や個体群の時間的な変動に関する知見 は,植林地における特定種の初期成長量の記録に限られている。 本 論 文 で は , 地 域 の 中 核 的 な 群 集 で あ る Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 ( Myint Aung, 2004) の 林 分 に お い て , 群 集 を 特 徴 付 け る マ ン グ ロ ー ブ 4 種 を 対 象 と し て ,個 体 数 の 変 動 や 空 間 分 布 の 拡 縮 ,存 続・更 新 と い っ た 個 体群生態学的な調査・研究を行なった。各個体群の時間動態に係る知見が, Heritiera fomes 林 の 人 為 制 御 に 応 用 さ れ る こ と に よ り マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 に資すると言える。 ま た 本 論 文 で は ,個 体 群 の 構 造 と 動 態 に 影 響 す る 萌 芽 性 に つ い て ,H. fomes を 対 象 に 潮 汐 の 影 響 の 解 析 を 行 な っ て い る 点 に も 独 自 性 が あ る 。陸 域 の 広 葉 樹 を 対 象 と し た 切 り 株 萌 芽 の 特 性 に つ い て は ,木 材 林 産 物 の 持 続 的 な 生 産 を 念 頭 に 林 学 に お い て 研 究 の 蓄 積 が あ り ,一 定 の 方 法 論 も 存 在 す る 。し か し な が ら ,マ ン グ ロ ー ブ の 萌 芽 研 究 は 少 な く ,特 に 潮 汐 に よ る 浸 水 環 境 を 取 り 扱 っ た 研 究 は 見 当 た ら な い 。マ ン グ ロ ー ブ は ,特 殊 な 形 態 の 根 系 に よ り 冠 水 下 - 13 - 第1章 の 嫌 気 的 な 土 壌 に 適 応 し て お り ,萌 芽 シ ュ ー ト に と っ て も 冠 水 が ス ト レ ス と な る と 想 定 さ れ る 。潮 汐 環 境 に お い て 樹 木 の 萌 芽 性 を 生 か し 伐 採 と 再 生 を 図 る場合,萌芽に対する浸水の影響の解析は重要である。本論文においては, 切り株の高さと浸水時の最高水位から冠水率という独自の概念を定義し, H. fomes の 切 り 株 の 生 存 と 萌 芽 の 本 数 ,分 布 ,動 態 へ の 影 響 を 解 析 し た 。得 ら れ た 成 果 は エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の み な ら ず ,固 有 種 と し て 優 占 す る ミ ャ ン マ ー 国 内 の 他 の 沿 岸 域 や ,イ ン ド ,バ ン グ ラ デ シ ュ な ど の ベ ン ガ ル 湾 岸 マ ン グ ロ ー ブ 域 に お い て も ,H. fomes 林 の 再 生 と 資 源 管 理 に 資 す る も の と な る 。 第 2 に は ,マ ン グ ロ ー ブ を「 住 民 」の 資 源 と し て 明 示 的 に 扱 っ た 点 で あ る 。 多 く の 生 態 系 保 全 研 究 に お い て は ,生 態 系 の 様 々 な 機 能 と 価 値 を 提 示 し 保 全 の 意 味 や 必 要 性 を 訴 求 し て い る 。森 林 の 価 値 は ,地 域 の 人 々 か ら 外 国 に 暮 ら す 人 々 ま で ,ま た 直 接 使 用 す る こ と で 得 ら れ る 便 益 か ら 存 在 す る こ と 事 態 の 価 値 ま で ,様 々 な レ ベ ル と 広 が り に お い て 発 揮 さ れ る 。機 能 と 価 値 の 多 様 さ は 保 全 の 必 要 性 の 説 明 と な る も の の ,一 方 で 保 全 研 究 の 目 的 は 拡 散 し が ち で あ る 。近 代 以 降 ,多 く の 国 で 森 林 は 公 的 管 理 の 下 に 置 か れ ,国 家 の 経 済 を 支 え る 資 源 と し て 取 り 扱 わ れ て き た 。ま た ,現 在 行 な わ れ て い る ほ と ん ど の 資 源 の 保 全 と 回 復 の 試 み が ,行 政 施 策 と し て 行 な わ れ て い る 現 状 が あ る 。特 に マ ン グ ロ ー ブ が 立 地 す る 熱 帯・亜 熱 帯 の 国 々 に お い て は ,政 治 体 制 や 市 民 の 政 治 参 加 の 歴 史 の 浅 さ か ら ,ト ッ プ ダ ウ ン 式 の 保 全 事 業 と な っ て い る 。ま た 財 政 的 に は 外 国 の 支 援 を 受 け る が ,多 く の 援 助 機 関 は 国 家 機 関 を カ ウ ン タ ー パ ー ト と し て い る 。こ れ を 前 提 と し て 行 な わ れ る ,ベ ー ス ラ イ ン 調 査 や 保 全 研 究 に お い て は ,住 民 参 加 の 程 度 が 低 く な り が ち あ る 。住 民 の 伝 統 的 な 植 物 の 利 用 や 植 物 資 源 管 理 は ,生 態 学 的 に 最 も 適 合 的 で あ る と 考 え ら れ て い る ( Cotton, 1996)。 し た が っ て ,発 言 の 機 会 が 少 な く , 保 全 研 究 ・ 保 全 活 動 の 最 後 に 名 目 的 に 置 か れ る「 地 域 住 民 」を ,積 極 的 か つ 明 示 的 に 主 役 と し て 位 置 づ け ,彼 ら に と っ て マ ン グ ロ ー ブ 資 源 が ど の 様 な 意 味 や 性 質 を 持 つ の か を 基 盤 に ,保 全 対 象 ,手 法 を 探 求 す る こ と が ,持 続 的 な 資 源 管 理 の 現 実 性 確 保 には必須となる。 本 論 文 に お い て は ,こ れ ま で の 研 究 に 多 か っ た ,他 国 や 他 地 域 に お け る 有 用 種 の 事 例 整 理 で は な く ,近 年 ま で 外 国 人 や 研 究 者 の 長 期 滞 在 や 村 落 内 で の 住 民 イ ン タ ビ ュ ー が 困 難 で あ っ た 研 究 地 域 に お い て ,植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー と 採 集・利 用 の 実 態 の 記 録 を 行 な っ て い る 。特 に ,筆 者 独 自 の 現 地 人 脈 を - 14 - 第1章 活用し,村人との信頼関係構築,行政の立会いの排除 4 ,非構造的な手法な ど に よ り イ ン タ ビ ュ ー を 行 う こ と で ,信 頼 性 の 高 い 情 報 が 得 ら れ た と 考 え ら れる。 第 3 には,マングローブの資源性の探求を定量的に行なった点である。 マ ン グ ロ ー ブ の 伝 統 利 用 を 民 族 誌 と し て ま と め ,そ の 価 値 を 論 ず る 研 究 は 少 な く な い ( 例 え ば , Watson, 1928; Aksornkoae, 1987; Bandaranayake, 1998; JICA, 2005)。 し か し な が ら , こ れ ら は 利 用 情 報 の 収 集 と 記 載 を 研 究 の 中 核 と し て お り ,種 間 や 用 途 に よ る 有 用 性 の 比 較 等 は な さ れ て い な い 。民 族 植 物 学 に お け る 量 的 研 究 に は ,資 源 の 2 組 も し く は 3 組 間 の 比 較 や 順 位 付 け 研 究 が あ る が ,数 量 化 と 交 差 証 明 に 必 要 な デ ー タ 量 の 多 さ に 比 べ ,扱 わ れ る 資 源 の 数 は 少 な い ( 例 え ば , Martin, 1995)。 ま た , 環 境 経 済 学 に お い て は , 保 全 の 合 理 性 を 定 量 的 に 示 す 手 法 と し て 環 境 の 貨 幣 的 評 価 が あ り ,イ ン ド ネ シ ア ( Ruitenbeek, 1992; 1994) や ミ ャ ン マ ー ( JICA, 2005) の マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 に 用 い ら れ て い る 。し か し な が ら ,価 値 評 価 の 対 象 が ,木 材 資 源 ,漁 業 資 源 あ る い は 薬 用 種 と い っ た 大 き な 枠 組 と な り ,か つ 莫 大 な 貨 幣 価 値 と し て 示 さ れ る た め ,住 民 が 日 常 利 用 す る 個 々 の 資 源 の 重 要 性 と し て は 現 実 感 に 乏 し いものとなる。 本 論 文 で は ,植 物 資 源 の 利 用 体 系 に お け る 用 途 別 の マ ン グ ロ ー ブ へ の 依 存 度 ,お よ び 個 々 の マ ン グ ロ ー ブ 種 の 保 全・管 理 上 の 要 注 目 度 を ,独 自 の 量 的 手 法 に よ り 示 し た 。資 源 と 住 民 の 関 係 を 基 盤 と し て ,比 較 的 迅 速・簡 便 に 評 価が行なえる点で,実用的かつ妥当な新規性のある試みと言える。 4 大 原 ( 2002) は ,『 農 村 調 査 の 技 術 と 方 法 ( 野 尻 ・ 細 野 , 1956)』 か ら フ ィ ー ル ド 調 査 の 心 得 を ,「 農 村 人 は 権 威 ・ 権 力 に 対 し て 屈 従 的 で あ っ て , 勢 力 者 に 迎 合 す る 傾 向 が あ る ,・・・。」, 「面接中は調査員とし被調査者のほかの第 3 者は立ち会わない ほ う が 良 い 。」 と 引 用 し て い る 。 - 15 - 第1章 - 16 - 第2章 先行研究と研究課題 第2章 2.1 緒 言 本 論 文 は ,マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 を 維 持 す る た め の 生 物 資 源 管 理 に 関 す る 研 究 で あ る 。生 態 学 お よ び 民 族 植 物 学 的 手 法 を 用 い た オ リ ジ ナ ル な 調 査 資 料 を 踏まえて,マングローブの資源性と在地性に着目した分析を行っている。 本 章 で は ,研 究 内 容 に 係 る 概 念 の 定 義 と ,関 係 す る 学 術 領 域 の 知 見 の 整 理 を 先 行 研 究 か ら 行 い ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 に お け る課題を示す。 2.2 生 態 系 2.2.1 マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 生 態 系 ( Ecosystem) は , 一 定 の 空 間 に お け る す べ て の 動 物 , 植 物 お よ び 物 理 的 相 互 作 用 を 含 む も の で あ る 。単 位 空 間 内 の 生 物 体 量 が ,バ イ オ マ ス 現 存 量 あ る い は バ イ オ マ ス で あ り ,陸 域 に お い て は 植 生 が バ イ オ マ ス の 大 半 を 占 め る( Mackenzie et al., 2001)。生 態 系 の 具 体 的 姿 が 森 林 で あ り ,草 原 で あ り , 湖 沼 で あ り , 河 川 で あ る ( 鈴 木 , 2006)。 マ ン グ ロ ー ブ と は ,熱 帯 か ら 亜 熱 帯 の 感 潮 域 に 分 布 す る 主 と し て 森 林 植 生 , お よ び そ れ を 構 成 す る 植 物 種 群 の 両 者 を さ す 名 称 で あ る( 田 淵 , 2003)。し た が っ て ,マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 と は ,熱 帯・亜 熱 帯 の 感 潮 域 に お い て ,一 定 の 空 間 的 ま と ま り と し て 区 別 で き る 森 林 植 生 の 1 類 型 で あ る 。本 論 文 に お い て は ,森 林 植 生 と 植 物 種 群 を 包 括 的 に 示 す 場 合 ,あ る い は 区 別 が 明 ら か な 場 合 に「 マ ン グ ロ ー ブ 」を 用 い ,両 者 を 特 に 区 分 し て 示 す 必 要 が あ る 場 合 に ,そ れ ぞ れ「 マ ン グ ロ ー ブ 林 」, 「 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 」を 用 い る 。ま た ,マ ン グ ロ ー ブ 植 物 は 特 異 性 を ど の 程 度 備 え る か で ,純 マ ン グ ロ ー ブ ,準 マ ン グ ロ ー ブ , 従 マ ン グ ロ ー ブ 等 に 区 分 さ れ る 場 合 が あ る( 中 村・中 須 賀 1998)。本 論 文 で は特に断りのない場合,これらを区別せず全て「マングローブ」を用いる。 2.2.2 生 態 系 の 機 能 と 価 値 De Groot et al.( 2002) は , 生 態 系 の 「 機 能 」 と 生 態 系 の 「 価 値 」 を 次 の よ う に ま と め て い る ( Fig. 2.1)。 生 態 系 の 「 構 造 」 と 物 質 お よ び エ ネ ル ギ ー 移 動 な ど の 「 プ ロ セ ス 」 の 複 雑 性 に よ り ,「 環 境 の 制 御 」,「 生 息 地 の 提 供 」, 「 生 物 学 的 生 産 」, 「 情 報 の 源 泉 」に 集 約 さ れ る 生 態 系 の「 機 能 」が 生 じ て い - 18 - 第2章 る ( Table 2.1)。 生 態 系 の 機 能 が , 財 と サ ー ビ ス と い う 具 体 的 な 形 で 発 揮 さ れ ,人 間( や 他 の 生 物 )に 提 供 さ れ る と き ,人 間 は そ こ に 3 つ の タ イ プ の 価 値 を 見 い だ す 。す な わ ち , 「 生 態 的 価 値 」, 「 社 会 文 化 的 価 値 」,そ し て「 経 済 的 価 値 」 で あ る 。 ま た , 生 態 系 の 23 の 機 能 が 示 さ れ て い る 。 生態的価値 生態系の 構造とプロセス 基盤:生態的持続性 社会文化的価値 生態系の 財とサービス 生態系の機能 基盤:公正さ, 文化の認識 総合的価値 1.制御 2.生息地 3.生産 経済的価値 4.情報 基盤:効果と効率 Fig. 2.1. 生態系機能,財,サービスの統合的評価と価値付けのためのフレームワーク 出典:De Groot et al.(2002)をもとに一部改変 Table 2.1 生態系の機能 制御 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 大気制御 気候制御 撹乱防止 水系制御 水供給 土壌保全 土壌形成 養分制御 廃棄物処理 送粉 個体群制御 生息地 生産 情報 出典:De Groot et al.(2002)から抜粋 - 19 - 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 退避地機能 保育機能 食物 原材料 遺伝子資源 医薬資源 装飾資源 審美景観 レクリエーション 文化・芸術 精神・歴史 科学・教育 第2章 2.3 生 物 資 源 2.3.1 自 然 資 源 と 資 源 性 資 源 は ,「 環 境 を 構 成 し て い る す べ て の 物 質 ( 奥 田 ・ 室 園 , 1992)」 の よ う に,かつては有形ものとして捉えられていた。ところが,環境の質的側面, 多 様 性 ,生 態 的 調 和 ,多 目 的 利 用 ,ポ テ ン シ ャ ル な ど ,環 境 が も つ 非 物 質 的 ・ 無 形 の 価 値 が 評 価 さ れ( 鈴 木 , 1998),自 然 資 源 の 概 念 に 包 含 さ れ る よ う に な った。 Zimmerman( 1951)は ,中 立 的 な 素 材 と し て の 自 然 環 境 を ,文 化 を 背 景 と し た 人 間 が 必 要 と 欲 求 か ら 選 択 し ,技 術 と 能 力 に よ り 入 手 し 利 用 す る こ と で , 「 資 源 に な る 」と 指 摘 し て い る 。小 林( 1994)は ,こ の 資 源 化 を「 生 活 の 諸 般 で 意 識 さ れ た 必 要 性 と 目 的 に 応 じ た も の を 自 然 の 中 か ら 選 択 し ,相 応 の 方 法手段によって入手して,それを利用に供すること」としている。 本 論 文 に お い て は ,資 源 を こ の よ う な 人 の 望 み と 能 力 ,お よ び 環 境 の 評 価 の 間 に 存 在 す る 機 能 的 な 関 連 ( Hunker, 1964) と 捉 え , そ の 関 連 の あ り 方 や 特性を「資源性」とする。 2.3.2 生 物 資 源 の 定 義 と 特 性 大 原( 2003)は 生 物 資 源 を ,狭 義 に は「 資 源 と な る 生 物 」あ る い は「 自 然 物 の な か で 生 命 を も つ も の 」,広 義 に は「 生 物 由 来 の 資 源 」 (生物及び生物利 用 残 渣 や 資 源 化 が 可 能 な 生 物 系 廃 棄 物 − 藁 類 ,各 種 屑 粕 類 ,糞 ,尿 ,灰 ,汚 泥 ,魚 介 類 の 殻 等 々 )あ る い は「 生 物 系 資 源 」と 捉 え て い る 。ま た ,ア ン デ ス協定 1 の Decision 391 は ,生 物 資 源 を「 遺 伝 資 源 ま た は 派 生 物 に 含 ま れ る 個 体 ,器 官 ま た は そ の 一 部 ,個 体 群 な ど ,実 質 的・潜 在 的 利 用 価 値 を 有 す る 生 物 コ ン ポ ー ネ ン ト( 三 菱 総 研 , 1999)」と 定 義 し て い る 。こ れ ら の 定 義 に お け る 生 物 資 源 は ,生 態 系 を 構 成 す る 生 物 の 物 理 的・有 形 の 部 分 を 主 に 対 象 と する,自然資源の部分概念だと言える。 生 物 機 能 の 特 徴 と し て ,自 己 再 生 系( 遺 伝 子 情 報 ,自 己 複 製 能 力 )と 物 質 代 謝 系( 生 命 維 持 能 力 ,高 度 の 識 別 ・ 分 離 能 力 ,高 度 の 合 成 能 力 ,生 理 ・ 生 態 学 的 ホ メ オ ス タ シ ス )が あ げ ら れ る( 大 原 , 2003)。生 物 を 基 盤 と す る 生 物 1 遺 伝 資 源 に ア ク セ ス す る 際 の 手 続 き を 定 め た 国 際 協 定( 1996 年 )。参 加 国 は ボ リ ビア,コロンビア,エクアドル,ペルー,ベネズエラ。 - 20 - 第2章 資 源 は ,生 物 機 能 の 発 現 に よ り「 極 端 に ひ ど い 撹 乱 が な い 限 り ,そ れ 自 体 で 持 続 生 産 を 繰 り 返 し て ゆ く( 山 田 , 1999)」, 「 再 生 産 が 可 能( 奥 田・室 園 ,1992)」 な資源である。 秋 道( 1999a)は 生 物 資 源( 狭 義 )の 特 性 と し て ,更 新 性( =再 生 産 可 能 性 ) に 加 え ,歴 史・文 化 に 規 定 さ れ る 性 質 を あ げ ,前 者 の 動 植 物 側 の 条 件 と 後 者 の人間側の条件の相互作用の考慮が資源研究において必要なことを指摘し ている。 生 物 資 源 を 中 核 と し つ つ ,そ れ を 生 む 場 を 含 め た も の は「 生 態 資 源 」と 呼 ば れ る ( 山 田 , 1999)。 生 態 資 源 は 個 体 , 種 , 群 集 , 生 育 地 ( 生 息 地 ), エ コ シ ス テ ム な ど す べ て の「 動 植 物 資 源 」を 指 し ,広 義 に は 農 林 業 を 含 む 概 念 と も さ れ る( 鈴 木 , 1998)。生 物 資 源 は 生 物 と し て だ け の 利 用 に と ど ま る が ,生 態 資 源 は ,景 観 的 側 面( 例 : エ コ ツ ー リ ズ ム な ど )の 潜 在 力 が 大 き く ,多 面 的 な 利 用 が 可 能 で あ る ( 山 田 , 1999; 2000) と さ れ る 。 保 全 生 物 学 に お け る「 生 物 資 源 の 価 値 分 類 」や ,環 境 経 済 学 に お け る「 生 物 資 源 の 価 値 評 価 」等 の 生 物 資 源 研 究 の 広 が り の 中 に お い て は ,生 物 系 が 作 り 出 す 無 形 の 価 値( 例:バ ー ド ウ ォ チ ン グ ,レ ク リ エ ー シ ョ ン な ど )が 生 物 資 源 に 包 摂 さ れ て い る ( McNeely et al., 1990)。 す な わ ち , 生 物 資 源 の 概 念 は拡大し,生態資源との境界が必ずしも明確でなくなっている。 本 論 文 に お い て は ,生 物 系 と 生 物 系 が 提 供 す る サ ー ビ ス が 生 む 価 値 を ふ く め た 広 い 概 念 と し て 生 物 資 源 を 捉 え る 。ま た ,森 林 生 態 系 の 生 物 資 源 を「 森 林 資 源 」 と し , そ の 要 素 を 「 木 材 林 産 物 2 」,「 非 木 材 林 産 物 3 」,「 森 林 生 態 系 の サ ー ビ ス 」 と す る 。「 マ ン グ ロ ー ブ 資 源 」 は , マ ン グ ロ ー ブ 林 の 生 物 資 源を指す。 2.3.3 植 物 資 源 と 有 用 植 物 森 林 生 態 系 の バ イ オ マ ス の 大 半 は 植 物 で あ る こ と か ら ,森 林 資 源 や マ ン グ ローブ資源の中核は「植物資源」であると言える。 2 木 材 林 産 物 ( Timber forest products: TFPs): FAO( 1991) に し た が い ,「 丸 太 , 製材品,木質パネル,チップ,パルプ」とする。 3 非 木 材 林 産 物( Non timber forest products: NTFPs) :FAO( 1991)の 定 義 か ら , 「保 護 , レ ク リ エ ー シ ョ ン と し て の 土 地 利 用 」 を 除 く 生 産 物 に 限 定 し ,「 食 糧 , 飲 料 , 飼料,燃料,薬品など植物性産品,獣・鳥類・魚類などからの食糧,羽毛,皮革, 蜂蜜,ラック,絹糸など動物性産品」とする。 - 21 - 第2章 植 物 資 源 の 構 成 要 素 は ,人 類 が 食 糧 ,繊 維 料 ,薬 用 ,燃 料 用 ,家 畜 な ど の 飼 料 , そ の ほ か 人 間 生 活 に 利 用 し て い る あ ら ゆ る 植 物 ( =資 源 植 物 ) で あ る ( 小 山 , 1984)。生 物 資 源 の う ち の ,植 物 と 植 物 由 来 の 資 源 の 集 合 が「 植 物 資 源 」だ と 言 え る 。小 山( 1984)に よ れ ば ,資 源 植 物 は ,現 在 用 い て い る 栽 培 植 物 そ の ほ か の 有 用 植 物 の み な ら ず ,栽 培 植 物 を 生 み 出 し た そ の 野 生 原 種 や それらに近縁の植物まで広く包含した植物群を指す。 有 用 植 物 と は ,「 人 類 の 生 活 に 何 ら か の か た ち で 利 用 さ れ て き た 植 物 ( 堀 田 , 1989)」, あ る い は 「 人 間 が 生 活 の 用 に 役 立 て る た め 栽 培 し あ る い は 自 然 界 か ら 採 取 す る 植 物( 管 , 2004)」と さ れ て い る 。し た が っ て ,過 去 も し く は 現 在 ,地 球 上 の い ず れ か の 文 化 の 中 で 利 用 さ れ て き た 植 物 は ,す べ て 有 用 植 物である。 一 方 ,未 利 用 の 野 生 種 を「 潜 在 的 資 源 植 物 」と し て 資 源 植 物 に 含 め る 考 え 方があり,潜在的資源植物を含む,植物産業 4 に用いられる資源植物が「産 業 資 源 植 物 」 と 呼 ば れ て い る ( 小 山 ・ 中 村 , 2002)。 こ こ で ,伝 統 的 な 人 々 5 が 利 用 し た ,も し く は 利 用 し て い る 野 生 の 植 物 や , ホームガーデン 6 から得られる植物を「伝統的有用植物」と定義すると,資 源 植 物 の 概 念 は , Fig. 2.2 の よ う に 整 理 さ れ る 。 「 栽 培 植 物 」と は ,自 身 の 生 活 環 を 完 結 す る た め に 人 間 の 干 渉 に た よ る 植 物 を 指 す ( Cotton, 1996)。 栽 培 植 物 の 成 立 過 程 は ,「( 伝 統 的 : 引 用 者 ) 有 用 植 物 そ の も の や ,好 都 合 な 変 異 を も つ 植 物 を 選 抜 し 住 居 周 辺 に 移 植 し て 発 生 ( 小 山 , 1992)」, あ る い は 「 採 取 し て 移 動 拠 点 に 食 べ 散 ら か し た 果 実 や 種 子 が発芽し根付いたものを利用し始めた原初的偶発的な栽培植物化(祖田, 1999)」な ど が 起 源 と さ れ て い る 。ま た ,栽 培 植 物 へ の 馴 化 の 過 程 に お い て , ホ ー ム ガ ー デ ン に お け る 「 移 植 ・ 試 験 栽 培 ・ 適 合 化 の 私 的 な 実 験 ( Ninez, 1987)」= 半 栽 培 7 が 行 な わ れ て き た と さ れ る 。一 方 ,植 物 産 業 利 用 の た め 探 4 食料,衣料品,化学品,染料,着物の繊維,建材など,われわれの生活に必要 な 植 物 製 品 を 作 る 生 産 業 ( 小 山 ・ 中 村 , 2002)。 5 民 族 植 物 学 に お い て は , Indigenous people( 邦 訳 語 は 「 先 住 民 」 ま た は 「 在 来 の 人 々 」) と Non- indigenous peopleを 含 む , 伝 統 的 な 社 会 的 , 文 化 的 , 経 済 的 制 度 の 一 部 ま た は 全 部 を 保 有 し て い る 人 々 を , 伝 統 的 な 人 々 ( Traditional people, Traditional farmer, Rural people) と し て い る 。 6 ホ ー ム ガ ー デ ン の 定 義 は 困 難 ( Ninez, 1987) と さ れ , backyard garden, dooryard garden, kitchen garden, home garden, household garden等 々 の 語 彙 が 存 在 す る 。こ こ で は ,「 家 屋 周 辺 で 行 な わ れ て い る 伝 統 的 な 土 地 利 用 に よ る 非 商 業 的 ・ 自 給 的 な 生 産 システム」と仮に定義する。 7 植 物 に と っ て は 人 間 の 介 在 を 絶 対 的 に は 必 要 と し な い が 繁 殖 を 支 配・管 理 さ れ た 状 態 , も し く は 除 草 や 剪 定 等 の 活 動 で 援 助 ・ 保 護 さ れ た 状 態 ( Cotton, 1996)。 - 22 - 第2章 索 し , 選 抜 と 開 発 を 経 て 栽 培 植 物 と な る も の も あ る ( 小 山 ・ 中 村 , 2002)。 本 論 文 に お い て は ,産 業 植 物 資 源 を 研 究 対 象 と し て い な い こ と か ら ,伝 統 的 有 用 植 物 を「 有 用 植 物 」と し ,要 素 と し て の「 資 源 植 物 」を あ ら わ す 。 「有 用 植 物 」の 集 合 的 概 念 と し て「 植 物 資 源 」を 用 い る 。ま た , 「 植 物 資 源 」は , 「動物資源」や「工業製品」との区別を意図する場合にも用いる。 産業資源植物 有用植物 潜在的資源植物 伝統的有用植物 偶発的自生 半栽培 採集利用 選抜 半栽培 開発 選抜 探索 未利用 栽培植物 Fig. 2.2. 資源植物の概念 出所:小山・中村(2002),管(2004)をもとに筆者作成 2.3.4 生 物 資 源 の 価 値 生 命 活 動 に 支 え ら れ て 発 達 し て き た 地 球 環 境 の 豊 か さ の 象 徴 と し て ,「 生 物 多 様 性 」 と う い 概 念 が あ る ( 鈴 木 , 2006)。 国 連 環 境 開 発 会 議 ( UNCED, 1992年 /リ オ ・ デ ・ ジ ャ ネ イ ロ ) に お い て , 生 物 多 様 性 は 「 す べ て の 生 物 の 間 の 変 異 性 を 指 す も の と し ,種 内 の 多 様 性 ,種 間 の 多 様 性 ,お よ び 生 態 系 の 多 様 性 を 含 む 」と 定 義 さ れ て い る 。わ が 国 の「 新・生 物 多 様 性 国 家 戦 略( 2002 年 )」 に お い て は , 生 物 多 様 性 の 保 全 及 び 持 続 可 能 な 利 用 の 理 念 と し て , ① 人間生存の基盤,②世代を超えた安全性・効率性の基礎,③有用性の源泉, ④豊かな文化の根源,⑤予防的順応的態度(エコシステムアプローチ)の5 つ が あ げ ら れ て い る 。① ∼ ④ に 示 さ れ る よ う に ,生 物 資 源 の 価 値 の 源 泉 は「 生 物多様性」であると言える。 - 23 - 第2章 生 物 多 様 性 を ,か け が え が な く 失 わ れ て は な ら な い も の と 主 張 す る 論 理 基 盤として,生物資源の価値が分析されている。 McNeely et al.( 1990)は 生 物 資 源 の 価 値 を ,人 間 に よ っ て 直 接 利 用 も し く は 収 穫 さ れ る「 直 接 的 価 値 」と ,環 境 シ ス テ ム や 生 態 系 サ ー ビ ス 機 能 な ど が 生 み 使 用 に よ る 減 少 の な い 「 間 接 的 価 値 」 に 区 分 し て い る ( Table 2.2)。 直 接 的 価 値 は さ ら に「 消 費 的 使 用 価 値 」と「 生 産 的 使 用 価 値 」に ,間 接 的 価 値 は「 非 消 費 的 使 用 価 値 」, 「 予 備 的 使 用 価 値 」, 「 存 在 価 値 」に そ れ ぞ れ 分 類 さ れている Table2.2 生物資源の価値分類 出典:鈴木(2006)から抜粋 消 費 的 使 用 価 値 は ,市 場 を 通 ら ず 地 域 で 直 接 消 費 さ れ る 生 物 資 源 の 価 値 で あ る 。生 物 資 源 の 劣 化 や 減 少 は ,生 活 物 資 を 周 囲 の 自 然 環 境 に 依 存 す る 人 々 の暮らしを困難,不可能にさせる。 生 産 的 使 用 価 値 は ,市 場 を 通 し て 売 買 さ れ る 生 物 資 源 の 価 値 で あ る 。自 然 環 境 か ら 得 ら れ る 産 物 の う ち ,木 材 は 最 も 重 要 視 さ れ 多 く の 熱 帯 の 国 々 が 外 貨 獲 得 の た め 採 集・輸 出 さ れ て い る 。一 方 ,短 期 で 収 穫 可 能 な 木 材 以 外 の 森 林生産物の価値は,森林を維持する強い経済的正当性を与えている。 非消費的使用価値は,生物資源が提供する多岐にわたる環境サービスで, 使 用・利 用 す る こ と に よ っ て 直 接 減 少 し な い も の で あ る 。多 く の 消 費 的 使 用 価値は,経済的に評価し価格として示しにくいとされている。 予 備 的 使 用 価 値 は ,将 来 人 間 社 会 に 経 済 的 な 利 益 を も た ら す 可 能 性 を 意 味 し て お り ,潜 在 的 使 用 価 値 と も 呼 ば れ る 。未 利 用 の 動 植 物 に は ,将 来 の 医 薬 , - 24 - 第2章 食 料 ,飼 料 等 の 可 能 性 が あ り ,未 記 載 の 生 物 の 情 報 収 集・整 理・管 理 と 絶 滅 ・ 消失の回避が重要となる。 存 在 価 値 は ,人 間 の 利 用・利 害 と は 視 点 を 異 に す る ,自 然 自 体 の 尊 さ で あ る 。経 済 的 価 値 を 超 越 し た 精 神 的・審 美 的 価 値 ,す べ て の 種 が 持 つ 生 存 権 な ど を 認 め る こ と で で て く る 倫 理 的 な 価 値 で あ る( プ リ マ ッ ク・小 堀 , 1997; 鈴 木 , 2006)。 2.4 生 態 学 的 な 森 林 管 理 研 究 種 の 絶 滅 防 止 の 方 策 開 発 を 目 的 と し た ,統 合 的 な 学 問 分 野 で あ る 保 全 生 物 学 に お い て は ,生 態 学 ,進 化 生 物 学 ,分 類 学 等 が 中 心 的 な 学 問 原 理 と し て あ げ ら れ る( プ リ マ ッ ク・小 堀 , 1997)。生 態 学 の 視 点 か ら ,植 物 群 落 あ る い は 植 物 個 体 群 を 調 査 研 究 す る の が「 植 生 学 」で あ る 。植 生 学 は ,植 物 群 落 の 機 能と構造,群落分類体系,立地環境との関係の他に,造林などの応用生態, あ る い は 人 間 活 動 と 植 生 の 関 係 や 植 生 復 元 等 も 対 象 領 域 と す る( 鈴 木 , 2003)。 一 方 ,森 林 を 応 用 的 に 扱 い ,森 林 資 源 の 保 続 的 な 利 用 の 理 論 と 技 術 の 追 及 を 中 心 課 題 と し て き た 学 問 分 野 が「 林 学 」で あ る 。植 生 学 と 林 学 は ,と も に 生 物 と し て の 樹 木 の 生 理・生 態 ,お よ び 立 地 と し て の 地 形・地 質・土 壌 な ど , 共 通 の 自 然 科 学 的 な 原 理 に 依 拠 し つ つ ,基 礎 的 側 面 と 応 用 的 側 面 を そ れ ぞ れ 中心に扱う生態学の要素分野である。 2.4.1 持 続 可 能 な 森 林 管 理 林 学 に は , 恒 続 林 ( sustained forest) や 保 続 ( sustainable management) と い う 用 語 が あ る 。恒 続 林 と は ,階 層 を 構 成 す る 樹 木・植 物 ,土 壌 中 の 微 生 物 , および生息動物などの有機的関係の健全な調和により森林は維持されると の 考 え か ら ,林 地 の 保 護 的 側 面 を 重 視 し つ つ 長 期 継 続 的 な 木 材 の 収 穫 が 行 な わ れ て い る 森 林 で あ る( 森 林・林 業・木 材 辞 典 編 集 委 員 会 , 1993)。ま た 保 続 と は ,一 定 地 域 の 森 林 か ら ,毎 年 一 定 の 木 材 を 永 年 に わ た り 収 穫 し 続 け る 概 念 で あ る 。林 学 に お け る こ れ ら の 思 想・手 法 ,概 念 は ,現 在 盛 ん に 用 い ら れ る「 持 続 的 と か 持 続 可 能 な 」と い っ た 言 葉 の 先 駆 を な し て い る( 沼 田 , 1994)。 持 続 可 能 な 森 林 管 理 の 概 念 は ,18 世 紀 後 半 の ド イ ツ に お い て 成 立 し た「 森 林 経 理 学 」 に お け る 保 続 原 則 に も 見 ら れ る 。 す な わ ち ,「 森 林 経 営 は , 人 類 社 会 の 要 望 に 対 応 し て 」, 森 林 の 持 つ 機 能 を 永 続 的 ・ 均 等 的 ・ 恒 常 的 に 活 用 するように,その運営に努めなければならないという原則」である(増谷, - 25 - 第2章 2002)。 林 学 に お け る 恒 続 林 や 保 続 概 念 は , 1992 年 の 国 連 環 境 開 発 会 議 ( United nations Conference on Environment and Development, UNCED / リ オ ・ デ ・ ジ ャ ネ イ ロ )を 契 機 と し て ,持 続 可 能 な 森 林 管 理 と し て 広 く 一 般 化 し た 。採 択 さ れ た 「 森 林 原 則 声 明 」 に お け る , 持 続 可 能 な 森 林 管 理 の 定 義 は ,「 森 林 資 源 お よ び 林 地 は ,現 在 お よ び 将 来 の 人 々 の 社 会 的 ,経 済 的 ,生 態 的 ,文 化 的 , 精 神 的 な ニ ー ズ を 満 た す た め に 持 続 的 に 経 営 さ れ る べ き で あ る 。こ れ ら の ニ ー ズ は ,木 材 ,木 製 品 ,水 ,食 料 ,飼 料 ,医 薬 品 ,燃 料 ,住 居 ,雇 用 ,余 暇 , 野 生 生 物 の 生 息 地 ,景 観 の 多 様 性 ,炭 素 の 吸 収 源・貯 蔵 庫 と い っ た 森 林 生 産 物 お よ び サ ー ビ ス を 対 象 と す る も の で あ る 。( 増 谷 , 2002)」 と さ れ て い る 。 2.4.2 森 林 管 理 の 目 的 森 林 生 態 系 管 理 の 高 い 目 標 は ,生 物 多 様 性 の 保 全 ,土 保 全 ,水 源 涵 養 ,炭 素 循 環 へ の 寄 与 ,木 材 生 産 ,保 健 文 化 な ど の 機 能 を い か に 持 続 的 に 発 揮 さ せ て い く か に あ る( 藤 森 , 2003)。森 林 の 林 産 物 生 産 機 能 あ る い は 公 益 的 機 能 を 確 保 す る こ と を 目 的 と し て ,森 林 の 造 成 と 健 全 な 保 育 を は か る こ と が ,林 学 に お け る 造 林 で あ る 。造 林 目 的 の う ち ,前 者 を 主 目 的 と し て 投 資 に 対 す る 利 潤 を 追 求 す る も の が 「 産 業 造 林 」, 後 者 を 主 目 的 と し て 森 林 の 環 境 形 作 用 に よ り 目 的 の 機 能 を 導 く も の が 「 環 境 造 林 」 と 呼 称 さ れ る ( 片 岡 , 1992a)。 近 年 ,「 非 木 材 生 産 物 」 の 生 産 を 主 目 的 と し た 森 林 の 維 持 ・ 再 生 の 意 義 が 論 じ ら れ て い る 。森 林 産 物 と し て 木 材 が 目 的 で な く ,幹 以 外 の 部 分 や 林 内 の 植物,あるいは森林に生息する動物などの利用を主目的とする管理である。 こ の よ う な 管 理 の 優 れ た 点 と し て ,木 材 の 切 り 出 し が 少 な い こ と で 森 林 の 相 観 や 構 造 が 維 持 さ れ る た め ,環 境 保 全 機 能 と 公 益 的 機 能 が 発 揮 さ れ る こ と が 指 摘 で き る 。社 会 林 業 に お い て は ,住 民 の 暮 ら し が 依 拠 す る 森 林 の 多 面 的 機 能 を 維 持 し な が ら ,木 材 と 非 木 材 か ら あ げ ら れ る 収 益 を 直 接 住 民 に 還 元 す る こ と が 期 待 で き る ( 渡 辺 , 1994)。 2.4.3 森 林 管 理 の 理 論 造林の基盤となる植生学的な主要な理論は, 「 植 生 8 遷 移 」と「 ギ ャ ッ プ 動 8 「 植 生 」 と は , 植 物 集 団 を 全 体 的 に 漠 然 と 指 す 言 葉 で あ る ( 片 岡 , 1992b)。 - 26 - 第2章 態 」, お よ び こ れ ら に 関 係 す る 「 樹 木 の 耐 陰 性 」 で あ る 。 ( 1) 植 生 遷 移 ある一定の土地に生えている植物群落 9 が,時間の経過とともに交代して 変 わ っ て ゆ く こ と を 遷 移 と 言 う ( Clements, 1916; 倉 内 , 1969)。 典 型 的 な 植 生 遷 移 は , Fig. 2.3 に 示 さ れ る 何 ら か の 原 因 に よ り 生 じ た 裸 地 に 1 年 生 草 本 が 出 現 し ,や が て よ り 高 茎 な 陽 性 植 物 へ と 順 次 入 れ 替 わ り ,最 終 的 に 陰 樹 性 高 木 植 生 へ と 移 り 変 わ る 過 程 で あ る 。遷 移 過 程 の 一 連 の 植 生 配 列 は 遷 移 系 列 と い わ れ ,先 駆 群 落 は 始 相 ,遷 移 途 上 群 落 は 途 中 相 ,極 相 群 落 は 極 相 と そ れ ぞ れ 呼 ば れ る 。一 般 に 極 相 林 は ,気 候 的 環 境 条 件 の 影 響 を 強 く 受 け て い る と さ れ る ( Clements, 1916; 片 岡 , 1992b)。 裸 地 先駆群落 1年生草本群落 多年生草本群落 遷移途上群落 陽性低木群落 陽性中高木群落 耐陰性高木群落 極相群落 Fig. 2.3. 植生遷移系列の模式図 出典:片岡(1992b)から抜粋 植生遷移の起因は植生自身の環境形成作用と生存競争にあるとされる ( Tansley, 1920; 1935)。 は じ め に , 貧 栄 養 の 裸 地 に お い て 生 活 史 を 全 う で き る 1 年 生 草 本 植 物 の 世 代 交 代 に よ り 富 栄 養 化 が 進 み ,大 型 植 物 が 繁 茂 で き る 立 地 が 形 成 さ れ る 。続 い て 植 物 間 の 陽 光 に 対 す る 生 存 競 争 の 結 果 ,陽 性 で よ り 高 茎 な 植 物 に 交 代 し て ゆ く が ,植 物 の 高 さ に は 限 界 が あ り ,最 終 的 に は 幼 9 「植物群落」とは,植物集団をなんらかの基準により類型化し,植物共同体と し て 単 位 付 け る と き 用 い る 言 葉 で あ る ( 片 岡 , 1992b)。 - 27 - 第2章 時において閉鎖された陽性高木植生の被陰に耐えられる陰樹性高木植生の 段 階 に 達 す る ( 片 岡 , 1992b)。 遷 移 現 象 は ,出 発 点 と な る 立 地( 環 境 条 件 )や 遷 移 の 方 向 に よ り 類 型 化 さ れている。 そ れ ま で 植 物 が ま っ た く 存 在 し な か っ た 裸 地 か ら の 遷 移 が 「 1 次 遷 移 」, 植 物 群 落 が ,火 事 ,病 害 虫 ,風 水 害 ,人 間 の 働 き な ど で 取 り 除 か れ た と こ ろ にみられる遷移が「2 次遷移」である。2 次遷移は,既存植生の種子(埋土 種 子 )や 地 下 茎 ,根 な ど が 土 中 に 残 存 す る こ と ,お よ び 土 壌 条 件 が よ り 良 い こ と に よ り , 1 次 遷 移 と 比 較 し て 早 く 進 行 す る ( 倉 内 , 1969)。 主 と し て 気 候 条 件 に 影 響 さ れ , 一 定 の 終 局 群 落 ( =極 相 ) に 向 か っ て 進 む 方 向 の 遷 移 は 「 進 行 遷 移 」, 放 牧 や 草 刈 な ど の 人 為 干 渉 が 反 復 ・ 継 続 す る こ と で ,極 相 か ら 逆 の 方 向 に 向 か う 場 合 は「 退 行 遷 移 」と 呼 ば れ る 。ま た ,人 為 に よ り 進 行 と も 退 行 と も 異 な る 過 程 へ と 進 む 遷 移 は「 偏 向 遷 移 」と 呼 ば れ る( 宮 脇 , 1970)。ま た ,人 為 の 影 響 に よ り ,立 地 本 来 の 自 然 植 生 が 様 々 な 人 為 植 生 に 置 き 代 わ っ た も の が , 代 償 植 生 で あ る ( 沼 田 , 1974)。 植 物 群 落 内 に み ら れ る 葉 層 の 成 層 構 造 は「 階 層 構 造 」と 呼 ば れ( 沼 田 , 1974), 森林では通常下層から,コケ層,草本層,低木層,亜高木層,高木層の 5 つ に 区 分 す る 。発 達 初 期 の 草 原 は 草 本 層 ま で で あ る が ,遷 移 の 進 行 に よ り 多 層 化 し 複 雑 さ を 増 す ( 倉 内 , 1969)。 ( 2) ギ ャ ッ プ 動 態 小 さ な 空 間 的 ス ケ ー ル に お い て 見 ら れ る 2 次 遷 移 の 過 程 は ,森 林 自 身 の 維 持 機 能 の 発 現 と 捉 え ら れ る 。林 冠 層 を 構 成 す る 個 体 が ,撹 乱 10 や老熟による 枯 死 な ど で 失 わ れ 形 成 さ れ た 欠 所 部 を「 ギ ャ ッ プ( =林 冠 欠 所 ,疎 開 穴 )」と 呼 ぶ 。一 般 的 に 林 冠 木 の 交 代 は ,森 林 全 体 を 破 壊 す る よ う な 大 規 模 な 撹 乱 の 再 来 間 隔 が そ の 森 林 の 成 熟 期 間 よ り も 長 い 森 林 に お い て は ,ギ ャ ッ プ の 形 成 と そ こ で の 1 本 か ら 数 本 の 林 冠 木 の 単 位 で 起 こ っ て い る( 山 本 , 2003)。森 林 の維持機構として重要なこの過程を「ギャップ動態」と呼ぶ。 ギ ャ ッ プ の 形 成 は ,自 然 要 因 に よ る 枯 死 ,倒 壊 に 限 ら ず ,人 為 的 な 伐 採 に よっても引き起こされる。 10 撹乱とは「群集・生態系の属性を,通常のあるいは恒常的な変動から逸脱させ る も の ( Godrom and Forman, 1983)」 と 定 義 さ れ て い る 。 - 28 - 第2章 ギ ャ ッ プ 形 成 後 の 植 生 動 態 の 出 発 点 の 1 つ は ,ギ ャ ッ プ 内 お よ び 周 辺 の 残 存 上 層 木 か ら の 種 子 の 雨 ( seed rain), も し く は , 土 壌 中 に 残 存 す る 埋 土 種 子( seed bank)を 起 源 と す る ,種 子 の 発 芽 ,実 生 の 発 生 で あ る 。ま た ,林 内 下 層 に お い て は ,次 世 代 の 上 層 林 木 と な る 可 能 性 を も つ 幼 樹( =前 生 樹 )が , 発 生・生 育・消 滅 し な が ら 低 木 の 個 体 群 を 形 成 し て い る 場 合 が あ る 。ギ ャ ッ プ 動 態 の 起 点 と し て ,前 生 樹 の 成 長 に よ る ギ ャ ッ プ の 修 復 が あ り ,待 機 す る 低 木 性 の 幼 樹 群 を 稚 樹 バ ン ク と 呼 ぶ( 荻 野 , 1989)。ま た ,ギ ャ ッ プ の 形 成 木 自 身 の 萌 芽 に よ り ギ ャ ッ プ を 修 復 す る こ と が あ り ,熱 帯 林 の い く つ か の 樹 種 や 本 邦 の イ ヌ ブ ナ な ど が 報 告 さ れ て い る ( 山 本 , 2003)。 ( 3) 樹 木 の 耐 陰 性 と ギ ャ ッ プ 動 態 光 は ,植 物 が 奪 い 合 う 環 境 要 因 の う ち 最 も 競 争 に 関 係 し( 藤 森 , 1994),熱 帯地域における更新を左右する稚樹の成長に重要な因子である(佐々木, 1994)。耐 陰 性( shade tolerance)と は ,閉 鎖 林 の 林 床 な ど の 弱 光 環 境 へ の 耐 性 で あ る 。幼 時 の 耐 陰 性 が 高 く ,弱 光 下 で 良 好 な 発 芽 ,林 床 で の 緩 や か で あ る が 健 全 な 生 育 を す る 樹 木 を 「 陰 樹 ( shade tree, shade tolerant tree)」, 幼 時 の 耐 陰 性 が 低 く , 陽 光 下 で 発 芽 し , 早 成 な 樹 木 を 「 陽 樹 ( shade tree, shade intolerant tree)」 と 呼 ぶ 。 陰 地 で の み 健 全 に 生 育 し , 強 光 条 件 化 で 生 育 が 阻 害 さ れ る「 絶 対 陰 性 植 物 」と ,幼 時 の 耐 陰 性 が 高 く 一 定 成 長 後 は 強 光 下 で よ く 生 育 す る「 条 件 的 陰 性 植 物 」が あ る 。森 林 の 下 草 や 低 木 層 を 形 成 す る も の に は 前 者 が 多 く ,極 相 林 に お い て 高 木 層 を 形 成 す る 樹 木 に は 後 者 が 多 い( 沼 田 , 1974; 清 水 , 2001; 中 山 , 2005)。 ギ ャ ッ プ 内 の 光 環 境 は ,周 囲 の 閉 鎖 林 冠 下 に 比 べ て 相 対 的 に 明 る い 。大 き な ギ ャ ッ プ 11 で は 陽 樹 が 生 存 ・ 生 育 可 能 で あ る が , 小 さ な ギ ャ ッ プ 11 で は 耐 陰 性 の 高 い 陰 樹 の み し か 生 存・生 育 で き な い 。林 冠 部 の 単 木 的 な 欠 損 な ど 小さな疎開部は,条件的陰樹の前生樹により修復されることが多い(山本, 2003)。 一 般 に 耐 陰 性 が 低 い 先 駆 種 は , 林 冠 が 大 き く 疎 開 し た 場 所 で 遷 移 の 初期に群落を形成する。 ( 4) 個 体 群 と 個 体 群 の 動 態 様 々 な 種 の 個 体 群 が ,一 定 の 区 域 に 集 ま っ て 生 育 し て い る 姿 が 群 落 で あ る ( 沼 田 , 1969)。植 生 の 遷 移 は ,植 物 群 落 の 時 間 の 経 過 に よ る 交 代 で あ り ,遷 11 ギ ャ ッ プ と し て 通 常 扱 わ れ る の は 5 m 2 ∼ 0.1 ha程 度 の 欠 所 部 で あ る ( 山 本 , 2003)。 - 29 - 第2章 移の実態は群落を構成する個体群の交代と個体群の大きさの変動だと言え る 。 個 体 群 の 大 き さ と は ,あ る 区 域 内 の 個 体 の 総 数 の こ と で あ る( Mackenzie et al., 2001)。 ま た , 個 体 群 の 大 き さ の 変 動 , す な わ ち 個 体 群 の 動 態 を 捉 え る た め に ,個 体 群 の 齢 構 成 や 生 存 率 ,死 亡 率 ,成 長 率 と い っ た 個 体 群 の 属 性 が 分 析 さ れ る 。齢 構 成 は ,そ れ ぞ れ の 齢 階 級 の 個 体 数 比 率 で あ る が ,植 物 個 体 は 同 齢 同 種 の 個 体 間 で サ イ ズ が 異 な る こ と が あ り ,樹 木 の 場 合 胸 高 直 径 の 径 階 級 が 生 態 的 な 尺 度 と な る ( Mackenzie et al., 2001)。 2.4.4 森 林 管 理 の 技 術 造 林 手 法 は ,種 苗 等 の 造 林 材 料 や 人 手 の か け 方 の 違 い に よ り , 「人工造林」 と「 天 然 更 新( =天 然 造 林 )」に 区 分 さ れ る 。熱 帯 林 の 保 全 ,修 復 ,再 生 の 林 学 的 な 手 段 に は ,天 然 林 択 伐 跡 地 の 天 然 更 新 や 樹 下 植 栽 ,荒 廃 2 次 林 の 改 良 を 目 指 し た パ ッ チ プ ラ ン テ ィ ン グ ,荒 廃 地 や 伐 採 跡 地 に お け る 早 成 樹 の 産 業 植 林 や 環 境 造 林 な ど が あ げ ら れ る ( 森 , 1996)。 ( 1) 人 工 造 林 人 工 造 林 と は , 植 栽 , 枝 や 根 に よ る 分 殖 造 林 , 播 種 な ど , 造 林 材 料 ( =繁 殖 材 料 )を 持 ち 込 ん で そ の 育 成・成 林 を 図 り ,所 定 の 場 所 に 目 的 と す る 森 林 を つ く る こ と で あ る 。よ そ の 土 地 の 樹 種 や ,優 れ た 形 質 の 系 統 の 導 入 も 可 能 で,適切な技術を用いることで,容易,迅速かつ確実な手法となる(川名, 1992)。 人 工 林 の 造 成 に つ い て は , 生 物 の 種 多 様 性 が 十 分 に 保 て な い こ と な どから批判がある。一方で,荒廃地における森林再生による森林の土壌保 全・理 水 機 能 12 の 回 復 は 急 務 で あ り ,人 工 林 か ら の 木 材 供 給 が ,残 存 す る 森 林 に 対 す る 人 為 圧 を 緩 和 す る こ と に な る ( 渡 辺 , 1992)。 ( 2) 天 然 更 新 天 然 更 新 と は ,人 為 的 に 苗 木 な ど の 造 林 材 料 を 外 部 か ら 持 ち 込 む こ と な く , 樹 木 の も つ 繁 殖 機 能 を 利 用 し て 後 継 樹 を 生 育 さ せ ,林 木 の 世 代 交 代 を 行 な う こ と で あ る 。 具 体 的 に は , 散 布 さ れ る 種 子 の 発 芽 に よ る 「 天 然 下 種 更 新 」, 切り株や根系からの萌芽 13 に よ る「 萌 芽 更 新 」,伏 条 12 14 か ら の 発 根 に よ る「 伏 理水とは,河川の流量を調節することである。森林による降雨の遮断作用や, 森 林 土 壌 の 浸 透 を 促 進 す る 作 用 な ど も 含 め た 森 林 の 機 能 を ,総 体 的 に 森 林 の 理 水 機 能 と い う ( 竹 下 , 1990)。 13 開芽・成長の不適期後の新シーズンにも皮層に埋没している極めて成長が抑制 - 30 - 第2章 条 更 新 」な ど で あ る 。天 然 更 新 の 最 大 の 利 点 は ,伐 採 作 業 が 更 新 作 業 と 直 結 し て お り ,ま た そ の た め に( 管 理 )作 業 費 用 が 人 工 造 林 よ り 非 常 に 軽 減 さ れ る た め 実 行 が 容 易 で あ る こ と で あ る ( 片 岡 , 1992c)。 天 然 下 種 更 新 は ,更 新 の た め の 伐 採( 更 新 伐 )に よ り 生 じ る 森 林 内 の 疎 開 部 分 に お い て , 既 存 の 稚 幼 樹 や 新 た な 実 生 が 生 育 し 後 継 樹 と な る ,「 ギ ャ ッ プ 更 新 」で あ る 。天 然 下 種 更 新 の 方 法 は ,更 新 伐 の 方 法 や ギ ャ ッ プ の 面 積 ・ 形 状・配 置 な ど に よ り 多 様 で あ る 。東 南 ア ジ ア の チ ー ク 林 に お い て は ,林 分 の 状 態 を 大 き く 変 化 さ せ ず ,連 続 的 に 次 世 代 の 樹 木 を 育 成 さ せ 持 続 的 な 維 持 管 理 が 期 待 で き る「 択 伐( 天 然 下 種 )更 新 」が 行 な わ れ て き た( 片 岡 , 1992c)。 萌 芽 更 新 は ,切 り 株 か ら 出 芽 す る 萌 芽 枝 を 育 て て 次 世 代 の 樹 木・森 林 を 仕 立てる手法で,作業の簡易性,更新の確実性,低コスト,初期成長の早さ, 通 直 な 幹 が 得 ら れ る な ど 施 業 上 の 利 点 に 加 え ,根 系 維 持 に よ る 土 壌 流 亡 の 阻 止 な ど 環 境 的 視 点 か ら も 優 れ る 手 法 と さ れ る( 浅 川 , 1999)。伐 採 後 の 切 り 株 か ら の 萌 芽 更 新 に 関 す る 研 究 が ,施 業 法 の 改 善 に よ る 持 続・計 画 的 な 生 産 を 目 指 し て , 数 多 く 行 わ れ て き た ( 三 善 , 1956; 伊 藤 1996)。 親 木 の サ イ ズ や 樹 齢 ,伐 採 高 ,伐 採 時 期 な ど の 相 違 に よ る ,伐 採 後 初 期 の 萌 芽 力 の 評 価( 淺 川 , 1939; 三 善 , 1956; 中 村 , 1988; Dan 2000) や , 萌 芽 が 生 じ る 高 さ ( 田 中 , 1976; 玉 泉 , 1988 ), 萌 芽 の 成 長 と 消 長 ( 田 中 , 1989 ), 萌 芽 間 競 争 ( 嶋 ほ か ,1989), 萌 芽 の 生 理 機 構 ( 橋 詰 ・ 今 村 , 1985) な ど で あ る 。 森 林 経 営 を 念 頭 に し た 研 究 の 他 に ,萌 芽 の 生 態 は 資 源 配 分 と 生 活 史 戦 略 か ら 説 明 さ れ 類 型 化 さ れ て い る ( Sakai et al., 1995; 酒 井 , 1997)。 ( 3) 熱 帯 林 の 再 生 ・ 修 復 破 壊 さ れ た 熱 帯 林 跡 地 の 状 態 は ,劣 化 林 が 残 存 ,2 次 林 が 成 立 ,森 林 が 消 失 の 3 つ に 区 分 さ れ ,再 生・修 復 手 法 が 説 明 さ れ て い る( 小 島・鈴 木 , 2004)。 劣 化 し た 熱 帯 林 に お け る 産 業 造 林 で は ,ギ ャ ッ プ へ の 有 用 樹 の 保 育 が 図 ら れ る 。こ の 際 ,有 用 樹 の 定 着 ・ 成 長 を 阻 害 す る 雑 草 木 の「 下 刈 り 」や「 つ る 切 り 」, 光 環 境 を 有 用 稚 樹 に 適 合 さ せ る 上 木 の 伐 採 が 行 な わ れ る 。 周 囲 に 母 さ れ た 腋 芽 由 来 の シ ュ ー ト( 抑 制 芽 ,潜 伏 芽 )か ら ,も し く は 不 定 芽 か ら 伸 張 し た シ ュ ー ト ( 伊 藤 , 1996; 清 水 ,2001; 他 )。 14 小径木や稚樹の下部の枝が,下垂または匍匐すること。地面に接触または埋も れ て い る と , そ の 部 分 か ら 発 根 し て 独 立 し た 個 体 と な る ( 那 須 , 2003)。 - 31 - 第2章 樹 が な く 天 然 下 種 が 期 待 で き な い 場 合 , ギ ャ ッ プ へ の 苗 木 の 植 栽 ( gap planting) が 図 ら れ る ( 小 島 ・ 鈴 木 , 2004)。 熱 帯 の 伐 採 跡 地 や 放 棄 耕 作 地 に は ,先 駆 性 樹 種 を 中 心 と し た 雑 草 木 が 繁 茂 す る ヤ ブ 状 の 2 次 林 が 成 立 し や す い 。主 と し て 光 環 境 が 不 適 な た め ,有 用 種 の 後 継 樹 の 定 着 が 望 め な い こ と か ら ,不 要 な 上 木 や 競 合 す る 植 生 の 除 去 が 行 な わ れ る 。劣 化 林 と 同 様 に ,周 囲 に 母 樹 が な く 天 然 下 種 が 期 待 で き な い 場 合 , 2 次 林 を 伐 採 し 植 栽 が 図 ら れ る ( 小 島 ・ 鈴 木 , 2004)。 2 次 林 の 皆 伐 は , 表 土 の 流 亡 に よ る 地 力 の 低 下 や ,直 射 日 光 に よ る 阻 害 な ど を 招 き や す く ,樹 下 植 栽 ( under planting), 列 状 植 栽 ( line planting), ギ ャ ッ プ 植 栽 な ど が 適 宜 用 い ら れ る ( 浅 川 , 1999)。 裸 地 的 環 境 に は 母 樹 が な い 上 ,庇 陰 が 期 待 で き る 樹 木 も な い た め ,人 工 造 林 が 行 な わ れ る 。過 酷 な 環 境 へ の 適 応 性 の あ る 樹 種 の 選 択 と ,苗 木 の 植 栽 手 法 の 工 夫 が 必 要 と な る 。ま た ,植 栽 後 の 遮 光 ,潅 水 ,除 草 な ど が 必 要 な 場 合 もある。 い ず れ の 場 合 も ,光 環 境 の 制 御 に は ,種 や 生 育 段 階 ご と に 最 適 な 光 環 境 を 解 明 す る 必 要 が あ る 。ま た ,植 栽 や 保 育 手 法 に つ い て も ,試 行 錯 誤 に よ る 現 地 試 験 の 結 果 が 集 積 さ れ て い る 段 階 だ と さ れ て い る ( 浅 川 , 1999; 小 島 ・ 鈴 木 , 2004)。 ( 4) 熱 帯 林 の 萌 芽 更 新 熱 帯 の 自 然 林 や 植 栽 に よ る 森 林 地 に お い て は ,萌 芽 更 新 施 業 が 広 範 に 行 な われている。萌芽力の大きな有用種は,マメ科のアカシア類,ネムノキ類, タ ガ ヤ サ ン( Cassia siamea),ギ ン ネ ム( Leucaena leucocephala)な ど ,フ ト モ モ 科 の ユ ー カ リ 類 , Syzygium spp.な ど , ク マ ツ ヅ ラ 科 の メ リ ナ ( Gmelina arborea), チ ー ク ( Tectona grandis) な ど で あ る 。 施 業 手 法 も 温 帯 の 広 葉 樹 に 準 じ て 行 な わ れ て い る ( 浅 川 , 1999)。 2.5.6 マ ン グ ロ ー ブ 林 管 理 の 理 論 と 技 術 マ ン グ ロ ー ブ 林 の ギ ャ ッ プ 動 態 に 関 連 し ,マ ン グ ロ ー ブ 樹 木 の 耐 陰 性 が 研 究 さ れ て い る 。一 方 技 術 面 お よ び 実 践 面 に お い て は ,ギ ャ ッ プ 下 の 更 新 を 利 用 す る マ ン グ ロ ー ブ の 天 然 下 種 更 新 や ,萌 芽 更 新 の 研 究 や 実 例 は 少 な く ,人 工造林が中心となっている。 ( 1) マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 耐 陰 性 - 32 - 第2章 マ ン グ ロ ー ブ の 幼 時 の 耐 陰 性 に 関 す る 先 行 研 究 を Table2.3 に 示 す 。 こ れ ま で の 多 く の 研 究 は ,ほ と ん ど の マ ン グ ロ ー ブ 実 生 が ギ ャ ッ プ に 依 存 し て 成 長 す る こ と を 示 し て い る ( Koch, 1997)。 一 方 で , 同 種 の 幼 樹 は 閉 鎖 林 冠 下 で も 普 通 に 見 ら れ ,生 育 可 能 な こ と を 示 し て い る( Clarke and Kerrigan, 2000)。 Saenger( 2002) は , マ ン グ ロ ー ブ の 耐 陰 性 に つ い て , 樹 種 に よ っ て は 一 貫 し た 結 論 が 必 ず し も 得 ら れ て い な い 理 由 を ,「 熱 帯 雨 林 に お い て は , 休 眠 性 に よ り 生 存 活 性 が 持 続 し , 発 芽 後 急 成 長 す る 種 子 を 持 つ “ギ ャ ッ プ ・ ス ペ シ ャ リ ス ト ”の 存 在 が 特 徴 的 で あ る 。 一 方 こ れ と は 対 照 的 に , 制 約 的 な 環 境 の マ ン グ ロ ー ブ で は ,限 ら れ た 生 存 活 性 を も つ 大 型 で 非 休 眠 性 の 散 布 体 が 進 化 し ,明 確 な ギ ャ ッ プ・ス ペ シ ャ リ ス ト に よ る 個 体 群 維 持 戦 略 が 発 達 し な か っ た 。」 と 説 明 し て い る 。 Table 2.3 野外および実験室における幼時のマングローブの耐陰性の研究結果 Species Aegiceras corniculatum Excoecaria agallocha Xylocarpus spp. Osbornia octodonta Pelliciera rhizophorae Bruguiera spp. Avicennia spp. Ceriops spp. Rhizophora spp. Acanthus ilicifolius Acrostichum speciosum Aegialitits annulata Camptostemon schultzii Lumnitzera spp. Scyphiphora hydrophyllacea Laguncularia racemosa Sonneratia alba Shade-tolerant ◎ ◎ ◎ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ Shade-intolerant ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○ ○ ◎ ◎ ◎:複数の研究による結果,○:1つの研究による結果 出典:Saenger(2002)を筆者改変 ( 2) ギ ャ ッ プ 環 境 ギ ャ ッ プ 動 態 に 影 響 す る と 考 え ら れ る 物 理 化 学 的 な 環 境 は ,陸 域 の 森 林 と 同様にギャップ内において光量や地温の増加と土壌水分の減少が指摘され て い る 。一 方 ,マ ン グ ロ ー ブ 域 に 特 有 の ,硫 化 物 の 蓄 積 濃 度 ,土 壌 水 の 塩 分 濃 度 , 酸 化 還 元 電 位 な ど は , ギ ャ ッ プ 内 外 の 差 は な く ( Saenger, 2002), 陸 域の森林と同様のギャップ動態理論に基づき,生態研究が進められている。 - 33 - 第2章 ( 3) マ ン グ ロ ー ブ 植 林 生 物 季 節 と 散 布 体 の 採 取( 北 村 ほ か , 1996; Youseff,1997),散 布 体 の 保 存 ・ 発 芽・発 根 の 物 理 的・生 理 的 環 境( Siddiqi et al., 1989; 野 瀬 ほ か , 1992)や , 植 栽 技 術 と し て 植 栽 場 所 と 種 の 適 合 性 ( Saenger & Bilham, 1996), 育 苗 ・ 植 え 付 手 法 ( Dwivedi, 1993; 馬 場 ・ 北 村 , 1999) な ど が , 実 験 的 お よ び 実 地 的 に 研 究 さ れ て き た 。研 究 材 料 は ,植 栽 に 主 に 用 い ら れ る ヒ ル ギ 科 の Bruguiera spp., Kandelia candel, Rhizophora spp., ヒ ル ギ ダ マ シ 科 の Avicennia spp., ハ マ ザ ク ロ 科 の Sonneratia spp.が 中 心 で あ る が , バ ン グ ラ デ シ ュ に お い て は ベ ン ガ ル 湾 岸 固 有 種 の Heritiera fomes も 対 象 と さ れ て き た 。 2.5 民 族 植 物 学 的 森 林 管 理 研 究 生 態 学 に お い て は ,一 般 に 人 間 活 動 の 影 響 を 排 除 し た 研 究 が 行 な わ れ て き た ( プ リ マ ッ ク ・ 小 堀 , 1997)。 そ の 結 果 ,「 森 林 と 人 々 の 関 係 の 一 面 的 な 理 解 に 基 づ い た 対 症 療 法 的 な 保 護 区 の 設 定 な ど が 提 言 さ れ た 」, あ る い は 「 樹 木 や 森 林 の 効 果 的 な 人 為 制 御 が 注 目 さ れ ,地 域 住 民 の 実 態 を 省 み な い 管 理 手 法 の 押 し 付 け と な る 」な ど の 批 判 が あ る( 佐 藤 , 2002)。す な わ ち ,人 間 社 会 と森林の相互関係に基づく森林管理研究が求められている。 民 族 植 物 学 は ,先 住 民 に よ る 植 物 の 利 用 と 管 理 の 情 報 収 集 ,お よ び 植 物 の 栽培・加工の方法の解明を対象に進展してきた。近年民族植物学の領域は, 植 物 の 利 用 方 法 に と ど ま ら ず 植 物 の 認 識 の あ り 方 と 管 理 ,お よ び 人 間 社 会 と 人 間 が 依 存 す る 植 物 の 相 互 関 係 に 広 が っ て い る( Cotton, 1996)。拡 大 す る 民 族 植 物 学 の 対 象 と 言 え る ,人 間 社 会 と 人 間 が 利 用 す る 森 林 の 相 互 関 係 に 基 づ く 森 林 管 理 研 究 は , 森 林 の 捉 え 方 に よ り ( 1) 森 林 の 社 会 ・ 文 化 的 重 要 性 に 着目するアプローチ, ( 2)森 林 の 所 有 形 態 か ら の ア プ ロ ー チ , ( 3)利 害 と 権 能 が 異 な る 人 間 同 士 の 政 治 的 競 合 の 場 と 捉 え る ア プ ロ ー チ に 区 分 さ れ る( 佐 藤 , 2002)。 2.5.1 社 会 ・ 文 化 性 か ら の ア プ ロ ー チ 民族植物の中核的な論題は, 「 伝 統 的 な 植 物 学 的 智 恵( Traditional botanical knowledge: TBK) 1 5 」で あ る 。本 論 文 で は ,森 林 と 森 林 に 近 接 す る 住 民 の 関 15 TBK:「 非 工 業 化 社 会 に 保 持 さ れ る 総 合 的 な 植 物 に 関 す る 智 恵 」 と 定 義 さ れ , 植 物 の 利 用 ・ 管 理 双 方 に 関 す る 生 態 的 , 認 知 的 観 点 を 含 む ( Cotton, 1996)。 - 34 - 第2章 係 を ,植 物 資 源 の 利 用 お よ び 資 源 の 評 価 と い う 社 会 的・文 化 的 側 面 か ら 研 究 した。 ( 1) 植 物 資 源 の イ ン ベ ン ト リ ー 民 族 植 物 学 研 究 に よ り 蓄 積 さ れ た 伝 統 的 な 植 物 利 用 の 智 恵 を ,植 物 分 類 を キ ー に 整 理 し た 情 報 目 録 は ,植 物 学 上「 イ ン ベ ン ト リ ー 16 」と 呼 ば れ て い る 。 小 山・中 村( 2002)は ,イ ン ベ ン ト リ ー を「 目 的 を 持 っ た 情 報 の 収 集・整 理 ・ 管 理 」と 定 義 し ,そ の 内 容 を「 個 々 の 資 源 植 物 が ,ど う 分 類 さ れ ,ど こ に 分 布し,どんな形質を持っているか調べること」としている。 資 源 植 物 学・経 済 植 物 学 に お い て イ ン ベ ン ト リ ー は ,将 来 の 研 究 材 料 ,農 業 育 種 材 料 ,植 物 産 業 の 資 源 原 料 な ど 人 間 の あ ら ゆ る 植 物 利 用 の 目 的 と ,植 物 資 源 の 再 生 産 性 の 維 持 に 役 立 つ ( 小 山 , 1984), 重 要 な 情 報 体 系 で あ る 。 文 化 人 類 学 に お い て は ,森 林 に 隣 接 し て 暮 ら す 人 々 が ,林 産 物 や 森 林 生 態 系のサービスに深く依拠している事実をインベントリーにより具体的に示 し , 開 発 問 題 が 取 り 扱 わ れ て い る ( 例 え ば , 市 川 , 1994; 市 川 , 1999)。 環 境 経 済 学 に お い て は ,イ ン ベ ン ト リ ー の 要 素 で あ る 資 源 と な る 植 物 種 と そ の 利 用 可 能 性 を ,資 源 価 値 の 経 済 評 価 に 結 び 付 け て い る 。森 林 な ど の 環 境 が 持 つ ,す べ て の 財 と サ ー ビ ス の 市 場 価 格 を 見 積 も る「 市 場 価 格 法 」に お い て は , 様 々 な 薬 草 の 経 済 的 価 値 が 積 算 さ れ て い る ( 例 え ば , JICA, 2005)。 有 用 種 の イ ン ベ ン ト リ ー は 終 わ っ て い な い 部 分 が 非 常 に 大 き い 。地 球 上 に は 17∼ 30 万 種 の 植 物 が 存 在 す る が ,記 載 さ れ た 伝 統 的 な 有 用 植 物 は 3000∼ 5000 種 と さ れ て い る ( 小 山 ・ 中 村 , 2002)。 植 物 相 研 究 の 一 端 を 示 す 植 物 標 本 の 収 集 活 動 は , 地 域 や 国 家 に よ る 格 差 が 大 き い 。 Index Herbariorum 1 7 の 1952 年 ∼ 1981 年 版 に 基 づ く 解 析 に よ り , 植 物 標 本 の 採 集 率 が 集 計 さ れ て お り ,ア ジ ア・太 平 洋 地 域 に お い て は ,ミ ャ ン マ ー の フ ロ ラ 研 究 が 進 展 し て い な い こ と が 読 み 取 れ る ( Fig. 2.4)。 16 植物学上のインベントリー研究は,「地球上の植物を野生・栽培植物の別を問 わ ず ,全 体 に わ た り 系 統 的 に 調 べ 上 げ ,各 植 物 に 世 界 中 で 通 用 す る 学 名 を つ け て 記 載 し ,形 態 ,分 布 ,細 胞 遺 伝 学 形 質 ,成 分 ,系 統 的 類 縁 性 か ら 用 途 ま で ,あ ら ゆ る 面 を 解 析 研 究 し ,そ の 結 果 を 整 理 記 録 し て ,将 来 の 研 究 材 料 ,農 業 育 種 材 料 ,植 物 産 業 の 資 源 原 料 な ど 人 生 の あ ら ゆ る 植 物 利 用 の 目 的 と ,植 物 資 源 の 再 生 産 性 の 維 持 に 役 立 て よ う と す る 研 究 ( 小 山 , 1984) 」 と さ れ る 。 17 世 界 的 な 国 際 植 物 分 類 学 協 会 ( International Association for Plant Taxonomy) と ニューヨーク植物園の共同事業による植物研究機関一覧。 - 35 - 第2章 Fig. 2.4. アジア・大洋州における植物標本の収集率 グラフの1単位は100 km2あたりの毎年の収集点数 出典:プランス(1997)を筆者改変 ( 2) 植 物 資 源 の 価 値 付 け 保 全 生 物 学 に お い て は ,生 物 多 様 性 保 全 の 優 先 順 位 を 決 定 す る 基 準 と し て , 特 異 性 ,脅 威 度 ,有 用 性 が あ げ ら れ て い る( プ リ マ ッ ク ・ 小 堀 , 1997)。特 異 性 と は 希 少 な 固 有 種 や 分 類 学 上 の 特 異 性 ( 鷲 谷 ・ 矢 原 , 1996), 脅 威 度 と は , 絶 滅 確 率 ( Mase & Lande, 1991) を 例 と す る 絶 滅 の 恐 れ , 有 用 性 と は 人 類 に とっての,顕在的・潜在的な価値である。 民 族 植 物 学 に お け る 有 用 性 の 系 統 的 な 研 究 手 法 に は , 順 位 付 け ( ranking) や 得 点 付 け( scoring)な ど ,植 物 の 地 域 的 な 意 味 を 数 量 化 す る よ う な 定 量 的 な 分 析 手 法 が 存 在 す る( Cotton, 1996)。順 位 付 け に は ,嗜 好 ,経 済 的 重 要 さ , 資源としての稀少さなどを基に相対的な重要さを導く簡単な優先順位法や, 用途や部位などの複数の属性を組み合わせて総体順位を導くマトリックス 順 位 法 な ど が 用 い ら れ て い る( 例 と し て , Martin, 1995)。得 点 付 け は , そ れ ぞ れ の 植 物 種 や 植 物 群 に 対 す る 重 み 付 け で あ る 。複 数 の 情 報 提 供 者 か ら 用 途 お よ び 用 途 ご と の 使 用 対 象 数 を 得 , 種 の 「 使 用 価 値 ( Use Value)」 を 算 出 す る 手 法 が 示 さ れ て い る ( Phillips & Gentry, 1993a; b)。 あ る 種 の 使 用 価 値 は , - 36 - 第2章 他 の 種 の 使 用 価 値 と 統 計 的 に 比 較 可 能 で あ る 。ま た ,種 の 使 用 価 値 を も と に , 属や科といった植物群の相対的な使用価値が示される。 順 位 付 け は 優 先 す る オ プ シ ョ ン を 選 択 す る こ と が ,得 点 付 け は 相 対 的 な 重 要 度 を 判 別 す る こ と が ,そ れ ぞ れ 目 的 で あ る 。し た が っ て ,得 点 が 近 似 し て いれば,順位に関わらず対象として選択する意味があるとされる(野田, 2001)。 2.5.2 所 有 形 態 か ら の ア プ ロ ー チ ( 1) コ モ ン ズ 論 環 境 資 源 の 財 と し て の 特 性 を 分 析 し ,所 有 制 度 の 類 型 か ら 制 度 の 相 違 に よ る 利 用 と 管 理 の さ れ 方 や ,引 き 起 こ さ れ う る 問 題 の 整 理 を お こ な う の が ,コ モ ン ズ 論 の 中 核 で あ り ,経 済 学 的 な ア プ ロ ー チ の 一 つ で あ る 。一 般 に 財 や サ ービスは,利用に際しての排除性と競合性から 4 つに類型化されている ( Table 2.4)。 か つ て は 公 共 財 と 扱 わ れ て い た 森 林 な ど の 環 境 資 源 は , 他 の 利 用 者 の 排 除 が 困 難 か 多 大 な コ ス ト を 伴 う( 低 い 排 除 性 )点 で ,共 通 財 と し て区分されている。 Table 2.4 財の分類 排除性 競合性 高い (他の消費者のは排除が容易) 高い 私有財(private goods) (資源の減少を伴う) 低い クラブ財(club & toll goods) (資源の減少を伴なわな パーティーの雰囲気 い) 出典:渡辺(2001),佐藤(2002),室田ら(2003)をもとに筆者作成 低い (他の消費者の排除が困難) 共通財(common-pool resources) 森林,牧草地,漁場 公共財(public goods) 国防,警察,道路,TV放送 所 有 制 度 の 類 型 を ,Table 2.5 に 示 す 。非 所 有 制 度 は ,法 的 に 規 定 さ れ た 所 有 形 態 と 言 う よ り 事 実 上 の 状 態 と 解 せ ,こ の よ う な 性 質 を 持 つ 森 林 資 源 が 合 法・違 法 を 問 わ ず 実 質 的 に 無 管 理 で あ ら ゆ る 人 々 が 勝 手 に 利 用 で き る 状 態 を 意 味 し て い る 。多 く の 利 用 者 が ,資 源 の 再 生 速 度 を 超 え て 消 費 を 行 な っ た 場 合 , 資 源 の 持 続 性 が 失 わ れ る ( オ ー プ ン ・ ア ク セ ス の 悲 劇 )。 国 や 地 方 公 共 団 体 や 公 社 な ど が ,森 林 を 所 有・管 理 す る 公 的 所 有 制 度 は ,資 源 保 護 を 目 的 に 多 く の 途 上 国 に お い て 見 ら れ る が ,非 効 率 性 や 汚 職・腐 敗 な ど に よ り 森 林 破 壊 を 招 く 場 合 が あ る ( 政 府 の 失 敗 )。 私 的 所 有 制 度 は , 投 資 と 便 益 が 同 一 の 私 有 者 に 帰 す る た め ,理 論 的 に は 植 林 な ど に 適 し た 制 度 と さ れ る 。し か し - 37 - 第2章 な が ら 途 上 国 に お い て は ,社 会 的 な 有 力 者 が 影 響 力 を 行 使 し 不 公 正 に 森 林 を 囲 い 込 む こ と で ,弱 者 の 資 源 利 用 を 不 可 能 に す る か ,盗 伐 が 結 局 継 続 し た り す る ( 囲 い 込 み の 悲 劇 )。 共 的 所 有 制 度 下 に お い て は , 森 林 は 一 定 の 人 の グ ル ー プ に よ り 所 有 ま た は 維 持 管 理 さ れ て い る 。オ ー プ ン・ア ク セ ス の 悲 劇 を 回 避 す る た め の ,利 用 ル ー ル が 存 在 す る 場 合 が 多 い が ,共 同 体 の 規 模 が 大 き く な る と ,便 益 を 享 受 し な が ら な ん ら の 費 用 も 負 担 し な い「 た だ 乗 り( フ リ ー ラ イ ダ ー )」が 発 生 し ,資 源 の 持 続 利 用 を 危 う く す る( オ ル ソ ン 問 題 ) (野 田 , 2001; 室 田 ら , 2003)。 Table 2.5 所有制度の類型 出典:室田ら(2003)から抜粋 環 境 資 源 は ,CPRs( common-pool resources: 共 有 的 資 源 )と も 呼 ば れ ,こ れ を 持 続 的 に 利 用・管 理 す る 制 度・組 織 と し て ,コ モ ン ズ が 注 目 さ れ て い る 。 コ モ ン ズ と は ,「 共 有 的 資 源 そ れ 自 身 」 と 「 共 有 的 資 源 を め ぐ る 人 と 人 の 関 係 を 規 定 す る 共 同 所 有 制 度・共 同 管 理 制 度 」の ,二 つ の 意 味 を 包 含 す る( 室 田 ら , 2003; 鈴 木 , 2006)。 世界には多くのコモンズが存在している,あるいは存在していたとされ, ア ジ ア の 森 林 資 源 に つ い て は ,ネ パ ー ル ,イ ン ド ,マ レ ー シ ア ,フ ィ リ ピ ン , イ ン ド ネ シ ア ,日 本 の 例 が 研 究 さ れ て い る( 植 田 , 1996; 室 田・三 俣 , 2004)。 ( 2) 参 加 型 ア プ ロ ー チ と 社 会 林 業 - 38 - 第2章 参 加 型 は ,地 域 開 発 全 般 に 共 通 す る ア プ ロ ー チ 概 念 で あ る 。従 来 の 地 域 開 発 に お い て は ,住 民 の 能 力 を 低 く 見 積 も り ,行 政 機 関 や 援 助 機 関 の 価 値 判 断 と 計 画 を 良 い も の と し て ,住 民 が 受 動 的 に 受 け 入 れ る 手 法 に よ っ て い た 。し か し な が ら ,外 部 者 主 導 の 開 発 は 必 ず し も 成 功 せ ず ,貧 困 層 な ど 社 会 的 弱 者 は 開 発 の 恩 恵 を 受 け な い ど こ ろ か ,か え っ て 悪 い 状 況 に 追 い 込 ま れ る 例 ま で 発生した。林業政策を例にすれば,地主層の換金樹木栽培の参入増により, 貧富の格差拡大や貧困層の就労機会消失など負の側面が多く発生した事例 ( イ ン ド )が 出 て き た 。 参 加 型 ア プ ロ ー チ は ,1970 年 代 か ら 1990 年 代 に か け て 形 成 さ れ て き た 概 念 と 手 法 で あ る 。住 民 自 身 が 決 定 の 主 体 で あ り ,判 断 能 力 を 持 つ 彼 ら が そ れ ぞ れ の 地 域 に と っ て 最 も 良 い 方 向 に ,内 発 的 に 進 ん で ゆ く と の 考 え に 基 づ く 。外 部 者 は ,地 域 住 民 自 身 の 自 主 的 な 分 析 ,判 断 ,行 動 を 触 媒 的 に 介 助 す る 手 法 で あ る ( チ ェ ン バ ー ス , 2000; 野 田 , 2001)。 参加型アプローチを森林資源管理に適用したものが,社会林業である。 社 会 林 業 ( Social Forestry) の 定 義 は , こ の 言 葉 を 使 用 す る 国 や 機 関 に よ り 必 ず し も 一 致 し な い 。国 家 に よ る 森 林 管 理 の 失 敗 は ,国 有 林 を 住 民 主 体 の 共 的 管 理 に ゆ だ ね る 政 策 理 念 を 生 ん だ 。井 上 (真 )( 1999)は 社 会 林 業 を , 「地 域 住 民 の 福 祉 の 向 上 を 目 的 と す る ,参 加 型 の 林 業 活 動 の 総 称 」と 定 義 し ,意 思 決 定 権 と 責 任 お よ び 便 益 が 帰 属 す る 管 理 主 体 に 基 づ き 類 型 化 し て い る 。森 林 の 管 理 主 体 に は ,地 域 共 同 体 ,地 域 住 民 の グ ル ー プ ,個 別 の 住 民 の 場 合 が あ り , そ れ ぞ れ コ ミ ュ ニ テ ィ ー 林 業 ( community forestry ), グ ル ー プ 林 業 ( group forestry),個 人 林 業( individual forestry)と 位 置 づ け ら れ る 18 (井上 (真 ), 1999; 百 村 , 2003)。 社会林業は,一定の人のグループにより森林が所有または維持管理され, 住民自身が林産物を処分し便益を得られる点で,コモンズの一例と言える。 こ れ ま で に ,コ モ ン ズ や 参 加 型 林 業 の 長 期 存 立・成 功 要 素 が ま と め ら れ て き た ( Table 2.6; 2.7)。 18 社会林業的理念には,各国特有の呼称がある場合や,同語を異なる形態の林業 に 用 い る な ど の 混 乱 が 見 ら れ る 。 ミ ャ ン マ ー に お い て は 「 Community Forestry」 と 呼 称 さ れ ,そ の 邦 訳 は 定 ま っ て い な い 。本 研 究 に お け る ミ ャ ン マ ー の 社 会 林 業 に は , 住 民 林 業 ( 池 本 , 2000) を 用 い る 。 - 39 - 第2章 Table 2.6 コモンズ長期存立8条件 出典:室田ら(2003)から抜粋 Table 2.7 コモンズ/森林の保全/参加型林業の成功要素・失敗要素 出典:渡辺(2001)から抜粋 - 40 - 第2章 2.5.3 政 治 的 競 合 か ら の ア プ ロ ー チ ( 1) 生 態 政 治 学 コ モ ン ズ 論 が 依 拠 す る ,経 済 学 的 な ア プ ロ ー チ に よ る 環 境 や 資 源 の 持 続 性 研 究 の 弱 点 と し て ,資 源 を め ぐ っ て 現 実 に 発 生 し て い る「 競 合 」に 伴 う 政 治 的 側 面 の 考 慮 不 足 が 指 摘 さ れ て い る ( Parnwell & Bryant, 1996; 佐 藤 , 2002)。 環 境 や 生 態 系 の 変 化 は ,社 会 を 構 成 す る 各 々 の 利 益 集 団 に と っ て 差 異 の あ る 利 益 や 不 利 益 を も た ら す と し ,こ れ に よ る 人 間 同 士 の 政 治 的 競 合 に 着 目 す る 分 析・研 究 は「 生 態 政 治 学( political ecology)」と 呼 ば れ る( Deutsch, 1977; 佐 藤 , 2002)。 Bryant( 1992) は , 生 態 政 治 学 の ア プ ロ ー チ を 3 つ の 視 点 か ら 類 型 化 し て い る 。第 1 に ,環 境 の 変 化 を も た ら す 要 因 と 過 程 を 重 視 す る も の で ,国 際 的 な 政 治 動 向 や 政 府 の 政 策 が 自 然 環 境 に 及 ぼ す 影 響 を 取 り 扱 う も の で あ る( 例 え ば ,Schreurs & Economy, 1997; Hurst, 1990)。第 2 に ,資 源 へ の ア ク セ ス と 資 源 の 状 態 の 関 係 に 着 眼 す る 手 法 で ,法 的・制 度 的 な 権 利 と し て の ア ク セ ス に 加 え ,実 態 と し て の 慣 習 的 な ア ク セ ス も 分 析 の 対 象 と す る 。例 え ば ,ア フ リ カ に お け る 経 済 的・政 治 的 な 不 安 定 化 が も た ら し た ,資 源 ア ク セ ス と 資 源 利 用 プ ロ セ ス の 促 進 や 変 容 に 関 す る 研 究 が あ る( 例 え ば ,Berry, 1989)。第 3 に ,環 境 変 化 が 社 会 を 構 成 す る 各 々 の 利 益 集 団 に 及 ぼ し た ,社 会 的・経 済 的 な 格 差 へ の 影 響 を 分 析 す る も の で あ る ( 佐 藤 , 2002)。 生 態 政 治 学 の ア プ ロ ー チ 概 念 を , Fig. 2.5 に 示 し た 。 資源利用者による意思決定 (森林や土地の利用方法) 歴史的影響 今日的影響 社会的関係 資源アクセスと管理をめぐる制度 歴史的影響 今日的影響 Fig. 2.5. 生態政治学のアプローチ概念 政治・経済状況と自然環境の変化 - 41 - 出典:佐藤(2002)を筆者が改変 第2章 ( 2) ス テ ー ク ホ ル ダ ー ・ フ レ ー ム ワ ー ク 企 業 経 営 の 分 野 か ら 派 生 し た 概 念 に ,「 利 害 関 係 者 = ス テ ー ク ホ ル ダ ー 」 が あ る 。 森 林 保 全 に お い て は ,「 プ ロ ジ ェ ク ト の 目 的 達 成 に 影 響 を 受 け る グ ル ー プ や 個 人 」 と 定 義 さ れ る ( De Lopez, 2001)。 地 域 開 発 に お い て は ,貧 し い 人 々 の 参 加 を 実 現 し ,そ の 人 々 に 支 援 が 到 達 す る よ う な プ ロ ジ ェ ク ト を 実 施 す る た め ,計 画・立 案 に 先 立 ち ス テ ー ク ホ ル ダ ー の 把 握 が 行 な わ れ る べ き と さ れ る( IBRD, 1996)。こ の プ ロ セ ス は , 「ス テ ー ク ホ ル ダ ー 分 析 ( 参 加 者 分 析 )」 と 呼 ば れ , 社 会 を 構 成 す る 各 々 の 関 係 集団を利害,対立,依存,社会的力関係などにより分析するものである ( FASID, 1999)。 本 論 文 に お い て は ,「 土 地 や 森 林 資 源 の , 所 有 , 管 理 , 利 用をめぐる地域の主体」をステークホルダーとした。 National Resources Institute( UK)は ,森 林 に 対 す る 関 心 軸 に よ り ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー と そ の 利 害 を ,国 際 社 会 ,国 家 ,地 方 ,地 域 の 4 つ の レ ベ ル に 区 分 し て い る ( Table 2.8)。 増 田 ( 2001) は , 参 加 型 と 称 し て 森 林 資 源 管 理 の み 地 域 住 民 に 負 わ せ て も ,持 続 的 な 管 理 の 実 現 性 が 低 い こ と を 指 摘 し て い る 。 す な わ ち ,高 次 レ ベ ル の ス テ ー ク ホ ル ダ ー か ら の 森 林 に 対 す る 様 々 な 圧 力 を 放 置 す る よ う な ,開 発 独 裁 を 引 き ず っ た ガ バ ナ ン ス は 資 源 の 劣 化 問 題 の 解 決 にならない。 Table 2.8 熱帯林をめぐるステークホルダー レベル ステークホルダー 国際社会 国際援助機関 政府 環境NGO 国家 森林に対する関心 気候調節 生物多様性 中央政府 プログラム計画者 都市の利害代表 木材生産 国土保全 ツーリズム NGO 地方 地域 off-site on-site 地方政府 木材生産 営林署 水源涵養,浸食防止 伐採企業 木材生産 製材所 木材生産 下流社会 水源涵養,浸食防止 零細企業 木材・非木材林産物生産 周辺農民 耕作,放牧,狩猟採集 林内居住者 生活文化 出典:増田(2001)を筆者改変 - 42 - 第2章 野 田( 2001)は ,社 会 林 業 に 関 わ る 地 域 レ ベ ル の 住 民 集 団 の 多 様 性 を 論 じ , 多 様 性 へ の 対 応 を 欠 く 普 及 手 法 は 成 功 し 得 な い と し て い る 。多 様 性 が 生 ま れ る の は ,文 化 的 背 景 や 社 会 構 造 の 相 違 に よ る 。例 え ば ,農 耕 民 は 牧 畜 民 よ り 樹 木 の 利 用 が 多 彩 で あ る ( Burley, 1982)。 ま た , 農 耕 民 は 多 肉 質 の 果 実 や 葉 を ,狩 猟 民 は 貯 蔵 器 官 を ,そ れ ぞ れ 高 い 割 合 で 利 用 し て い る( Cotton, 1996)。 資源利用や管理に影響する,文化的・社会的に異なる属性として,民族 ( Johansson, 1991),経 済 的 格 差( Rorinson, 1988),土 地 所 有( Scherr, 1995), ジ ェ ン ダ ー ( JICA, 1994) な ど が 挙 げ ら れ て い る 。 住民集団の多様性は,集団の単位レベルや成り立ちとしても認められる。 資 源 の 管 理 は ,個 人 ,世 帯 ,住 民 グ ル ー プ( 隣 組 ,協 同 組 合 ,学 校 ,檀 家 ), 村 な ど の ,異 な る レ ベ ル や 性 質 の 主 体 に よ っ て な さ れ る 可 能 性 が あ る 。資 源 に 対 す る ニ ー ズ を 共 有 す る と し て も ,主 体 の あ り 方 に よ り 労 働 力 や 利 用 可 能 な 手 段・技 術 に 差 異 が 存 在 す る 。資 源 の 所 有 形 態 か ら 社 会 林 業 と 総 称 さ れ る 林 業 は ,個 人 ,グ ル ー プ ,コ ミ ュ ニ テ ィ ー な ど 管 理 主 体 の 異 な る( 永 田 ・ 井 上 , 1998) 森 林 管 理 を 包 含 し て い る 。 属 性 の 異 な る 多 様 な 住 民 集 団 に 着 目 す れば,それに応じた社会林業の実施手法も様々であると言える。 2.6 在 地 的 な 森 林 資 源 管 理 在 地 性 と は「 そ の 地 に 根 ざ す 出 来 事 に な じ む 。土 地 の 人 間 が ,主 体 的 に 行 え , 育 ん で い け る 」 性 質 ( 安 藤 , 2001) と 説 明 さ れ る 。 安 藤 ( 1998) は , バ ン グ ラ デ シ ュ の 農 村 開 発 に お け る 在 地 性 を ,雨 季 ,氾 濫 源 ,屋 敷 地 ,複 数 リ ー ダ ー の 合 議 に よ る 意 思 決 定 機 構 と い う 地 域 特 性 と ,過 去 か ら 継 続 す る 地 域 の社会システムとの親和性から論じている。 本 項 に お い て は ,こ れ ま で な さ れ て い な い「 在 地 性 」の 学 術 的 分 野 に お け る位置づけおよび関連する概念の整理を,森林管理を焦点に行なう。 2.6.1 包 括 的 な マ ネ ジ メ ン ト 本 論 文 が 主 題 と す る マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 は ,生 物 集 団 の 生 態 的 な 維 持 管 理 に と ど ま ら ず ,生 物 資 源 お よ び 管 理 体 制 の 分 析・評 価 を 含 む マ ネ ジ メ ン ト ( 鈴 木 , 2006) で あ る 。 在 地 的 な 資 源 管 理 は , こ の 様 な 包 括 的 な マ ネ ジ メ ン トを含意している。 包 括 的 な 生 態 系 マ ネ ジ メ ン ト の 指 針 の ひ と つ に ,「 生 物 多 様 性 条 約 第 5 回 - 43 - 第2章 締 約 国 会 議 」に お い て 採 択 さ れ た ,エ コ シ ス テ ム・ア プ ロ ー チ が あ る 。エ コ シ ス テ ム・ア プ ロ ー チ の 前 提 条 件 は ,生 態 系 の 構 成 要 素 に 社 会・経 済・文 化 的 な 多 様 性 を 持 つ 人 間 を 包 括 す る こ と ,複 雑 な 生 態 系 の 変 動 は 完 全 な 予 見 が 出来ないことである。エコシステム・アプローチによる生態系の管理には, 化 学 物 質 な ど の 非 生 物 学 的 要 因 と ,生 物 個 体 群 管 理 や 稀 少 種 の 回 復 な ど 生 物 学 的 要 因 に 加 え ,文 化・政 治 な ど 自 然 資 源 管 理 に 影 響 す る 社 会 的 な 要 因 を 含 む。経済的には,個人,組織間での資源と利益の配分が主眼となる(米田, 2005)。エ コ シ ス テ ム・ア プ ロ ー チ に お け る 生 態 系 管 理 の 持 続 性 概 念 を ,Fig. 2.6 に 示 す 。 Fig. 2.6 生態系管理の持続性概念 出典:米田(2005)から抜粋 2.6.2 在 地 の 空 間 在 地 性 を 説 明 す る「 そ の 地 」と は ,「 地 域 」と 換 言 で き る 。地 域 と は ,「 区 切 ら れ た 土 地 。 土 地 の 区 域 ( 新 村 , 1998)」 で あ り ,「 行 政 単 位 」,「 宗 教 や 民 族 の 分 布 」, 「 気 候 や 植 生 」, 「 歴 史 的 な 共 通 経 験 」な ど の 基 準 に よ り 多 様 に 設 定可能な地理的領域の概念である。管理の対象である森林資源のあり方は, 素 材 と し て の 植 物 種 お よ び 植 物 群 の 特 性 と ,利 用 者 側 の 要 求 と の 関 係 に 規 定 される。植物種群は立地の自然環境に応じて存在し,利用者側の要求は社 会・文 化・歴 史 を 背 景 と し て い る 。し た が っ て 資 源 研 究 に お け る「 地 域 」は , 生態的システムおよび人間社会の双方の要素を統合し設定する必要がある。 保 全 生 物 学 に お い て は ,生 物 個 体 群 や 生 物 群 集 の 振 る 舞 い と い っ た 生 態 的 シ ス テ ム か ら ,生 物 多 様 性 保 全 の た め の 地 理 的 領 域 の 適 切 な 面 積・数 ,配 置 , - 44 - 第2章 形 が 研 究 さ れ て い る( 鷲 谷・矢 原 , 1996)。景 観 生 態 学 に お い て は ,ま と ま り の あ る 全 生 態 系( 流 域 ,湖 ,山 岳 な ど )を 含 む よ う に ,保 護 区 が 計 画 さ れ る の が 望 ま し い と さ れ て い る ( Peres & Terborgh, 1995)。 自 然 資 源 の 管 理 空 間 と し て ,生 態 的 シ ス テ ム の 領 域 に ,人 間 の 地 域 コ ミ ュ ニティーや,生物資源の管理・活用の要素を包含する「バイオリージョン」 の 概 念 が 主 張 さ れ て い る ( 井 上 (有 ), 1999; 小 林 , 2000)。 バ イ オ リ ー ジ ョ ン は ,「 単 に 生 物 の 生 活 域 と い う 意 味 合 い だ け で な く , 地 域 の 自 然 要 素 の 固 有 性 ,総 合 性 に 沿 っ た ,人 間 の 生 活 ・ 文 化 と の 連 動 性( 鈴 木 , 2006)」と ま と め ら れ て い る 。 ま た , バ イ オ リ ー ジ ョ ン の 空 間 的 領 域 は , ① 自 然 相 =生 物 , 土 壌 , 地 形 , 気 候 な ど , ② 資 源 相 =持 続 的 に 利 用 可 能 な 自 然 の 種 類 と 料 , 保 全 に 必 要 な 区 域 な ど , ③ 文 化 相 =土 地 に 根 ざ し た 伝 統 文 化 や 地 域 社 会 ・ 生 業 形 態 に 分 類 で き る 地 域 特 性 を ,実 地 の 経 験 を 通 じ る こ と で 認 識 で き る と さ れ て い る ( 井 上 (有 ), 1999)。 在 地 の 空 間 の 概 念 は , 自 然 ・ 資 源 ・ 文 化 の 諸 相 の 統 合空間であるバイオリージョンに通じる。 2.6.3 地 域 事 象 へ の 適 合 性 ・ 順 応 性 在 地 性 は「 そ の 地 に 根 ざ す 出 来 事 に な じ む 」,す な わ ち 地 域 の 環 境 ,事 象 , 社会システムに適合し順応するものであると換言できる。 自 然 環 境・事 象 に 適 合・順 応 的 な 森 林 資 源 管 理 研 究 を 考 察 す る と ,立 地 環 境 と 植 生 の 関 係 ,あ る い は そ の 応 用 と し て 造 林 上 の 適 地 適 木 と い っ た 生 態 学 的 な 論 題 が 引 き 出 さ れ る 。植 生 の 成 立 と 存 続 は 立 地 環 境 の 影 響・制 約 を 受 け て お り ,マ ン グ ロ ー ブ 植 生 の 分 布 に は ,潮 位 幅・潮 汐 ,塩 分 濃 度 な ど の 特 有 の 環 境 影 響 が 加 わ る 。ま た こ れ ら に 影 響 さ れ る 植 生 は ,種 組 成 に 基 づ き 植 物 群 落 と し て 区 分 さ れ 扱 わ れ る 。景 観 生 態 学 に お い て は ,立 地 環 境 と 植 生 は 統 合 的 に 分 析 さ れ ,一 定 の 空 間 単 位 が 考 察 さ れ ,地 域 計 画・環 境 計 画 に 応 用 さ れ て い る 。 さ ら に , 植 物 種 群 と 地 域 の 結 び つ き は ,「 固 有 性 の 重 視 」 や 「 潜 在 自 然 植 生 の 重 視 」と い っ た 論 題 に つ な が る 。固 有 性 と は ,分 布 域 が 特 定 の 小 地 域 や 生 育 場 所 に 限 定 さ れ る 性 質 で あ る 。植 物 種 群 の 固 有 性 は ,生 物 多 様 性の保全とうい視点から生態系の管理において重視される(鷲谷・矢原, 1996)。 潜 在 自 然 植 生 と は , 現 在 人 間 の 影 響 を 停 止 し た 際 に 成 立 し う る 最 も 発 達 し た 植 物 群 落 で あ る 。そ の 土 地 本 来 の 樹 木・植 物 で あ る 潜 在 自 然 植 生 は , 地 域 の 人 間 活 動 の 基 盤 で あ り ,地 域 の 文 化 を 醸 成 さ せ て き た と さ れ る( 鈴 木 , 2006)。宮 脇 方 式( 宮 脇 ほ か , 1993)に よ る 環 境 復 元 に お い て は ,重 視 さ れ 目 標 と も さ れ る 生 態 系 で あ る 。在 地 的 な 森 林 資 源 管 理 に お け る ,地 域 の 自 然 環 - 45 - 第2章 境・事 象 へ の 適 合 性・順 応 性 の 概 念 に は ,多 様 な 生 態 学 的 論 題 が 含 ま れ て い る。 一方,地域の社会的な事象への順応的な森林資源管理研究を考察すると, 森 林 の 管 理 制 度・所 有 形 態 と い っ た コ モ ン ズ 論 が 引 き 出 さ れ る 。森 林 資 源 の 管 理 と 所 有 の 形 態 は ,資 源 の 利 用 や 状 態 に 強 く 影 響 す る 。ま た ,管 理 の 性 格 や 所 有 形 態 は , 歴 史 性 に 規 定 さ れ る ( Mather, 1990)。 Mather( 1990) は , 資 源 管 理 制 度 の 時 系 列 的 な 展 開 モ デ ル を ,多 様 な 所 有 形 態 を 歴 史 的 に 考 察 す る 枠 組 と し て 示 し て い る 。ま た 所 有 制 度 の 類 型 に 基 づ き ,利 用 と 管 理 の さ れ 方 の 分 析 と 引 き 起 こ さ れ う る 問 題 を 考 察 す る の が コ モ ン ズ 論 の 中 核 で あ る 。コ モンズ論は,資源と資源管理制度の長期的存続条件を提示している(渡辺, 2001)。 こ れ ら の 条 件 に は , 資 源 と 参 加 者 の 領 界 設 定 , あ る い は ル ー ル や 意 思 決 定 機 構 の 社 会 環 境 へ の 適 応 性 な ど ,地 域 の 社 会 的 事 象 に 視 点 を 置 く 資 源 管理の要点が挙げられている。 2.6.4 地 域 住 民 の 関 与 安 藤( 2001)は ,在 地 性 の 要 素 と し て ,土 地 の 人 間 の 意 志 と 判 断 に 基 づ く 関 与 を あ げ て い る 。「 土 地 の 人 間 」 の 多 様 性 に 着 眼 し , 資 源 管 理 を 論 ず る ア プ ロ ー チ が ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー・フ レ ー ム ワ ー ク で あ る 。利 害 ,対 立 ,依 存 , 社 会 的 力 関 係 が 生 じ さ せ る ,住 民 集 団 の 間 の 文 化 的・社 会 的 な 属 性 の 差 異 を 研究の視点とするものである。 一 方 ,資 源 管 理 へ の 地 域 住 民 の 関 与 に つ い て は ,近 年 多 様 な 理 念 か ら 論 ぜ ら れ て い る 。「 地 球 環 境 主 義 」,「 参 加 型 ア プ ロ ー チ 」,「 社 会 林 業 」 な ど が 例 示 で き る 。地 球 環 境 主 義 に お い て は ,地 球 環 境 の 劣 化 が 人 類 に 不 均 一 な 被 害 を も た ら す こ と か ら ,地 域 の ミ ク ロ な 問 題 と 関 連 付 け た 議 論 の 必 要 性 が 主 張 さ れ て い る( 赤 嶺 , 2005)。資 源 管 理 は ,地 球 規 模 か ら み た 人 類 よ り ,地 域 の 個別の人々の顔を想定し地域住民の価値観を重視して行なわれるべきとす る 。ま た 参 加 型 ア プ ロ ー チ に お い て は ,住 民 の 潜 在 的 な 判 断 能 力 を 主 張 し て い る( 野 田 , 2001)。問 題 の 把 握 と 分 析 か ら 決 定 に い た る 全 て の 過 程 を ,住 民 が 主 体 的 に 実 施 で き る と し ,外 部 者 は 触 媒 機 能 を 担 う べ き と す る 。社 会 林 業 は ,参 加 型 ア プ ロ ー チ に お け る 住 民 の 主 体 的 な 関 与 の 理 念 を 制 度 化 し た 森 林 管 理 で あ る 。関 与 の 具 体 的 要 素 と し て ,意 思 決 定 権 と 責 任 ,便 益 の 帰 属 が あ げ ら れ ,住 民 個 人 ,住 民 グ ル ー プ ,コ ミ ュ ニ テ ィ ー に こ れ が 帰 属 す る も の と さ れ る( 井 上 (真 ), 1999)。こ の よ う に ,在 地 性 が 重 視 す る 地 域 住 民 の 関 与 は , 関与の程度や制度化の面から位置づけられている。 - 46 - 第2章 2.7 研 究 課 題 エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 に お け る 研 究 課 題 を ,先 行 研究を踏まえて示す。 ( 1) マ ン グ ロ ー ブ 林 の 更 新 特 性 の 解 明 Myint Aung( 2004)は ,植 生 調 査 と 森 林 履 歴 を も と に ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 二 次 遷 移 を 推 定 し た 。 遷 移 は 連 続 的 な 種 個 体 群 の 時 間 的 変 化 で あ る ( Whittaker, 1953) が , 林 分 構 造 と 個 体群の時間動態を基盤にした研究はなされていない。 ベ ン ガ ル 湾 岸 デ ル タ に お い て は ,植 林 地 の マ ン グ ロ ー ブ を 対 象 と し て ,実 生 の 定 着 , 生 存 , 成 長 の 成 績 記 載 が 行 わ れ て い る ( Siddiqi & Khan, 1990; マ ン グ ロ ー ブ 植 林 行 動 計 画 , 2004)。し か し ,多 く の 植 林 地 は 放 棄 水 田 な ど で あ り ,そ の 地 盤 高 は 植 栽 種 の 自 然 生 育 地 よ り 高 く( Maung Maung Than, 2006), 全 天 が 疎 開 し て い る 。ま た ,散 布 体 や 苗 木 は 人 為 的 に 導 入 さ れ た も の で あ り , 自 然 の 状 態 と 異 な る 要 因 が 個 体 群 動 態 を 左 右 す る 。自 然 更 新 19 林における影 響 要 因 の 研 究 例 ( Siddiqi, 1994) は ベ ン ガ ル 湾 岸 に お い て は 極 め て 少 な く , 自 然 更 新 や 天 然 更 新 に よ る マ ン グ ロ ー ブ 林 の 再 生 を 図 る た め の ,基 礎 的 な デ ータの集積が必要である。 ( 2) マ ン グ ロ ー ブ 樹 木 の 耐 陰 性 の 解 明 マ ン グ ロ ー ブ の 幼 時 の 耐 陰 性 研 究 に お い て は ,優 占 群 落 を 形 成 す る 純 マ ン グ ロ ー ブ や ,市 場 価 値 の 高 い 樹 種 を 対 象 と し て お り ,淡 水 湿 地 林 と も さ れ る Heritiera fomes 林 ( 山 田 , 1986) の 構 成 種 に つ い て は 知 見 が 不 足 し て い る 。 さ ら に , Bruguiera spp.の 幼 時 の 耐 陰 性 に つ い て は , 先 行 研 究 に お け る 結 論 が 相 反 す る ( Saenger, 2002)。 し た が っ て , エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の 森 林 再 生 に お い て は , H. fomes 林 を 特 徴 付 け る H. fomes, Excoecaria agallocha, Amoora cucullata な ど の 準 マ ン グ ロ ー ブ や , 住 民 利 用 の 視 点 か ら 着 目 さ れ る Bruguiera spp.の 耐 陰 性 の 研 究 が 必 要 で あ る 。 ( 3) マ ン グ ロ ー ブ の 萌 芽 特 性 研 究 19 本 論 文 で は ,群 落 の 欠 損 部 分 が 無 管 理 で 回 復 す る 現 象 を「 自 然 更 新 」,造 林 材 料 の導入は図らないが,下刈りやつる切りなど人為が関与し回復を誘導するものを 「天然更新」と区別している。 - 47 - 第2章 マ ン グ ロ ー ブ の 萌 芽 研 究 は 少 な い 。ヒ ル ギ 科 以 外 で は マ ン グ ロ ー ブ の 萌 芽 による樹体修復は可能であるが,皆伐後の森林回復は見込めないとされる ( Tomlinson, 1986)。 一 方 , タ イ と マ レ ー シ ア の マ ン グ ロ ー ブ の 萌 芽 力 調 査 に基づき,萌芽性を生かした持続的な資源利用の必要性が指摘されている ( Tsuda & Ajima, 1999)。ベ ン ガ ル 湾 岸 に お い て は ,Heritiera fomes の 萌 芽 力 と 萌 芽 更 新 の 研 究 が 必 要 と の 指 摘( Akhtaruzzaman, 2000)は あ る が ,研 究 実 績 は 見 当 た ら な い 。陸 域 の 広 葉 樹 の 萌 芽 研 究 は ,一 定 の 方 法 論 に よ り 系 統 的 に 行 わ れ て き た が ,マ ン グ ロ ー ブ に つ い て は ,こ の よ う な 基 礎 的 な 研 究 が 進 んでいない。さらに,潮汐という特異な環境の取り扱いも課題となる。 ( 4) マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 価 値 の 解 明 マ ン グ ロ ー ブ 林 の 構 成 種 と 有 用 種 が 調 査 さ れ ,資 源 再 生 の 意 義 が ま と め ら れ て い る ( Ohn, 1992; Tin Maung Kyi, 1992; Win Maung, 1999; Forest Department, 2002; JICA, 2005)。し か し ,マ ン グ ロ ー ブ 域 に 暮 ら す 人 々 は ,植 物 資 源 と し て マ ン グ ロ ー ブ の み な ら ず ,様 々 な 野 生 ,半 栽 培 の 植 物 を 利 用 し て い る ( 大 野 ・ 鈴 木 , 2004)。 Table 2.9 ミャンマーにおけるフロラ調査 著者 著作 S. Kurz The Forest Flora of British Burma J.D. Hooker The Flora of British India D. Brandis Indian Trees J.H. Lace Trees, Shrubs, Herbs and Climbers etc.(First Edition) A. Rodger List of Trees, Shrubs, Herbs and Climbers etc.(Second Edition) A. Rodger A hand-book of the forest products of Burma L.D. Stamp The vegetation of Burma H.G. Hundley List of Trees, Shrubs, Herbs and Climbers etc.(Third Edition) H.G. Hundley List of Trees, Shrubs, Herbs and Climbers etc.(Fourth Edition) M. Kogo Final Report on mangrove Restoration Fusibility Study Wildlife Conservation Society Plants list of Meinmahla Kyun and Adjacent Regions Win Maung Plants in Myanmar mangroves Useful Plants in Myanmar JICA/MOAI* Forest Department List of Plants in Mangrove -BogalayForest Department List of Plants in Mangrove -LaputtaForest Department Herbal and Medical Plants in Bogalay A Checklist of Trees, Shrubs, Herbs, and Climbers of Myanmar W.J. Kress et al . Myint Aung Species List (Appendix) JICA The Study on Integrated Mangrove Management through Community Participation in the Ayeyawady Delta Maung Maung Than List of typical and assosiate mangrove species (Appendix) 発行年 1877 1879 1906 1912 1921 1921 1924 1957 1987 1993 1999 1999 1999 2002 2002 2002 2003 2004 2005 A ○ ○ ○ ○ ○ B C D ○ ○ ○ ○ 14 40 88 ○ 124 114 26 ○ 2006 69 143 39 93 A: ミャンマーの植物, B: ミャンマーの有用植物, C: エーヤワディーデルタ・マングローブ林の植物, D: マングローブ林の有用植物 *: JICA/MOAI: Japan International Cooperation Agency & Ministry of Agriculture and Irrigation 表中の数字は著作中で扱われた種数 出典:Chapman(1976), Myint Aung(2004), JICA(2005)をもとに筆者作成 ミ ャ ン マ ー に お け る フ ロ ラ( =植 物 相 )研 究 は 19 世 紀 に 始 ま り ,そ の 一 環 と し て マ ン グ ロ ー ブ 域 の フ ロ ラ ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の フ ロ ラ が ま と め ら れ て き た ( Table 2.9)。 1990 年 代 以 降 , マ ン グ ロ ー ブ に 特 化 し た 調 査 が な さ れ る と - 48 - 第2章 と も に ,利 用 情 報 の 記 載 が 行 な わ れ た 。し か し な が ら ,対 象 と し て 生 産 的 使 用 価 値 の 高 い 種 へ の 偏 向 や ,植 物 種 リ ス ト に 他 国 や 他 地 域 に お け る 研 究 か ら 引 用 し た 利 用 情 報 の 付 加 も 見 ら れ る な ど ,調 査 地 や 調 査 方 法 の 不 明 確 さ が あ る 。さ ら に ,資 源 と な る 具 体 的 な 植 物 体 の 部 位・器 官 と 利 用 用 途 の 体 系 的 な 記 載 と 分 析 が な さ れ て い な い 。イ ン ベ ン ト リ ー を ,地 域 住 民 の 暮 ら し に 資 す る 保 全 研 究 の 基 盤 情 報 と す る な ら ば ,マ ン グ ロ ー ブ の 消 費 的 使 用 価 値 ,お よ び 文 化 的・社 会 的 意 味 と し て の 存 在 価 値 に 係 る 情 報 の 収 集・記 載 と 分 析 が 重 要となる。 さ ら に ,自 給 的 な 生 活 を 支 え 生 活 文 化 の 中 で 多 彩 に 用 い ら れ ホ ー ム ガ ー デ ン の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の イ ン ベ ン ト リ ー と ,複 合 的 な 植 物 資 源 利 用 の 体 系 の中でマングローブが果たしてきた役割を明らかにする必要がある。 ( 5) マ ン グ ロ ー ブ 林 の 状 態 と 変 化 の 把 握 森 林 管 理 上 , 一 般 に 木 材 林 産 物 は 樹 種 ご と の 立 木 の 蓄 積 量 ( =体 積 ) と し て 把 握 ・ 評 価 さ れ る( Chowdhury & Ahmed, 1994)。ま た ,広 域 的 ,時 系 列 的 には,樹冠の閉鎖度により定義した林地の面積により量的に捉えられる ( FAO, 2005; JICA, 2005)。 一 方 , 非 木 材 林 産 物 は , 市 場 に お い て 取 引 さ れ た 重 量 , 体 積 , 金 額 で 把 握 さ れ て い る ( 渡 辺 , 1994; FAO, 2005)。 エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に お け る マ ン グ ロ ー ブ 林 の 状 態 は ,長 く 木 材 林 産 物 の 量 的 な 評 価 に よ り 捉 え ら れ て き た 。こ れ ま で に ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 分 布 と 消 失 場 所 の 調 査 ,材 積 量 算 定 な ど が 行 わ れ ,森 林 の 減 少 速 度 や 用 材 の 移 出 入 な ど の 実 態 が 把 握 さ れ て き た( Ohn, 1992; Tin Maung Kyi, 1992; JICA, 2005)。 資 源 量 の 把 握 は , 森 林 局 の 施 業 計 画 ( 1924∼ 1970 年 ) に は じ ま る 。 市 場 価 値 の 有 無 に よ り 2 種 類 な い し 3 種 類 に 区 分 し た Heritiera fomes の 優 占 林 と , そ の 他 の 樹 林 の 面 積 を フ ィ ー ル ド ワ ー ク に よ り 調 査 し て い る 。 1970 年 代 以 降 ( ’74 年 , ’83 年 , ’90 年 , ’95 年 , 2001 年 ) に は , 航 空 写 真 と 衛 星 画 像 か ら面積が算出された。 ( Tan Chein Hoe, 1952; Maung Maung Than & Phone Htut, 2003)。 こ の よ う な 把 握 と 評 価 は ,マ ン グ ロ ー ブ 林 を 木 材 林 産 物 の 供 給 地 と し て 位 置 づ け て 管 理 を 行 な う 思 想 に 立 脚 し て い る 。マ ン グ ロ ー ブ 林 の 状 態 と 変 化 は , 森 林 面 積 減 少 と い う 量 的 な 変 化 に 集 約 ,認 識 さ れ ,資 源 の 組 成 を 反 映 さ せ た 質 的 な 把 握 と 研 究 は な さ れ て い な い 。ま た ,非 木 材 林 産 物 の 供 給 地 と し て の マングローブ林の評価として,近年,薬用植物の潜在的な市場価値の試算 ( JICA, 2005) が な さ れ た が , 市 場 で 扱 わ れ な い 多 様 な 非 木 材 林 産 物 の 状 態 と そ の 変 化 を 明 ら か に す る 研 究 は な い 。森 林 資 源 の 利 用 者 と し て ,マ ン グ ロ - 49 - 第2章 ー ブ 域 の 住 民 を 中 心 に す え る な ら ば ,資 源 の 種 類 を 示 し ア ク セ ス 可 能 な 程 度 を量的に示す必要があると言える。 ま た , マ ン グ ロ ー ブ 林 の 劣 化 ・ 減 少 を 示 し , そ の 「 起 因 =人 間 に よ る マ ン グローブ林への影響」を解明する研究がこれまで行なわれてきた。しかし, 「 マ ン グ ロ ー ブ 林 減 少 が 引 き 起 こ し た 人 々 の 生 活 変 容 」を 明 ら か に す る 研 究 は 少 な い 。マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 減 少 が ,地 域 の 人 々 の 生 活 に 困 難 を も た ら し た と す る 一 般 的 な 議 論 は 多 い が ,「 資 源 の 変 化 」 の 「 人 々 の 生 活 文 化 へ の 影 響」に関する具体的な検証を行なう必要がある。 ( 6) 保 全 研 究 ・ 造 林 の 対 象 選 択 保 全 生 物 学 的 に 精 緻 な 保 全・管 理 対 象 の 選 択 で は ,厳 密 な デ ー タ を 得 る た めに多大な時間とコストの投入,および多くの研究者の関与が必要となる。 エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ に つ い い て は ,造 林 活 動 に お い て 成 長 速 度 の 早 い 早 成 な 樹 木 が 選 択 さ れ て き た 。そ の 理 由 と し て ,保 全 生 態 学 的 デ ー タ の 不 足 ,お よ び 生 産 的 価 値 に 偏 向 し た 有 用 性 尺 度 の 採 用 が あ げ ら れ る 。 し た が っ て ,比 較 的 簡 便 で 迅 速 に 評 価 が 行 え ,管 理 主 体 と な る 住 民 に と っ て の消費的価値,存在価値を踏まえた対象選択の手法が必要と言える。 ( 7) 在 地 の 空 間 の 探 求 本 論 文 に お け る 在 地 の 空 間 は ,資 源 が 分 布 し 資 源 に 関 わ る 人 間 活 動 が 行 わ れ る 生 態 的・社 会 的 な 空 間 で あ り ,景 観 単 位 の 1 つ の レ ベ ル で あ る 。マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 管 理 に お い て は ,こ の よ う な 景 観 単 位 を 意 識 し た「 資 源 供 給 地」の配置や形状の研究は見当たらない。 エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ の 保 全 林 ( Reserved Forest) は , 木 材 林 産 物 の 公 的 管 理 の た め に 広 域 的 に 設 定 さ れ た で 森 林 で あ る 。ま た ,法 令 に よ り 資 源 利 用 が 認 め ら れ た 共 有 林 は ,保 全 林 内 の 私 的 な 占 有 林 分 を 追 認 し た も の が 多 い 。資 源 供 給 地 の 配 置 や 形 状 に 関 す る 研 究 お よ び 施 策 上 の 配 慮 は , こ れ ま で ほ と ん ど 行 わ れ て お ら ず ,基 盤 と な る 在 地 の 空 間 の 領 域 ,単 位 性 を 明らかにすることが重要となる。 - 50 - 第3章 エーヤワディーデルタの在地性 第3章 3.1 緒 言 在 地 的 な 森 林 資 源 管 理 は ,現 在 お よ び 過 去 か ら 継 続 す る 地 域 の 自 然・社 会 事象への親和性が確保された,包括的な生態系のマネジメントである。 本 章 に お い て は ,マ ン グ ロ ー ブ 植 生 が 成 立 す る エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ 海 岸 帯 の 在 地 的 要 素 を 探 求 す る 。は じ め に ,在 地 的 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 の 基 盤 と な る ,立 地 の 環 境 と 植 生 の 特 異 性 を 把 握 す る 。次 に 人 々 が 暮 ら す 具 体 的 な 場 に お い て ,資 源 の 分 布 と 資 源 に 関 わ る 人 間 活 動 か ら 生 態 的・社 会 的 な 空 間 的 領 域 = 在 地 の 空 間 を 把 握 す る 。さ ら に ,資 源 の 状 態 に 影 響 す る 管 理 の 法 制度を歴史的に捉える。 3.2 マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 特 異 性 マングローブ生態系は陸域と水域の移行帯である感潮域に位置する森林 群落である。マングローブの植物群落の広域レベルの分布には地史,温度, 海 流 が ,局 地 レ ベ ル の 分 布 に は 場 ,強 風 ・ 波 浪 か ら の 保 護 地 形 ,塩 水 ,潮 位 幅 が ,帯 状 構 造 に は 潮 汐 ,土 壌 ,塩 分 濃 度 ,光 ,種 特 性 が 影 響 す る と さ れ る ( 山 田 , 1986)。 本 項 に お い て は ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ・マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 立 地 環 境 と植生の特異性を,先行研究とフィールドにおける観測データから示した。 具体的には,陸側の条件として気候およびデルタを形成する河川の性質に, 海 側 の 条 件 と し て 海 水 準 の 変 動 お よ び 感 潮 水 路 の 塩 分 含 量 に 着 目 し た 。ま た , 熱 帯・亜 熱 帯 の 低 湿 地 林 の 湿 地 林 の 体 系 の 中 で 当 地 の マ ン グ ロ ー ブ 植 生 を 位 置づけ,立地と群落の対応および中核的な群落の優占種・固有種である Heritiera fomes の 特 徴 を 示 し た 。 3.2.1 立 地 環 境 ( 1) 位 置 デ ル タ は ,河 川 が 運 搬 し て き た 砂 泥 が 河 口 付 近 に 堆 積 し ,海 面 ,あ る い は 湖 面 の 高 さ 付 近 に 平 坦 に 広 が る 地 形 で あ る ( 菊 池 , 2001) 。 エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の サ イ ズ は ,長 さ 290 km,河 口 に お け る 幅 240 km( Mya Than, 2002), 面 積 は 31,000 km 2( 井 関 , 1972)に お よ ぶ( Fig. 3.1A)。デ ル タ の 海 岸 帯 1 は , 1 デ ル タ は 水 理 学 的 性 質 か ら 3 つ の 部 分 に 区 分 さ れ る 。第 1 は 雨 季 に 運 搬 物 を 含 み - 52 - 第3章 潮汐の影響により川や水路の水が干満を繰り返す海岸沿いの帯状の部分で あ る ( 高 谷 , 1985) 。 海 岸 帯 の マ ン グ ロ ー ブ 林 分 布 域 ( 以 下 , マ ン グ ロ ー ブ 域 )は ,北 緯 15 度 45 分 か ら 16 度 10 分 ,東 経 94 度 30 分 か ら 95 度 45 分 付 近 に 広 が る ( Maung Maung Than, 2006)。 本 論 文 の 研 究 地 域 で あ る Bogalay 郡 は ,海 岸 帯 の 東 端 に 位 置 す る 。浜 堤 の 地 形・土 壌 調 査 お よ び 植 物 利 用 調 査 は Pyindaye 地 域 の Ashe Mayan 村 に お い て ,マ ン グ ロ ー ブ の 植 生・生 態 調 査 は Byonehmwe 島 ,Meinmahla 島 ,Pyindaye 地 域 の マ ン グ ロ ー ブ 林 に お い て そ れ ぞ れ 行 っ た ( Fig. 3.1B)。 93° 99° (A) (B) 24° 24° Myanmar Meinmahla Is. 18° 18° Byonehmwe Is. Pyindaye Area Ayeyarwady Delta 12° 12° 0 0 250 km 500 50 km 99° Fig. 3.1. 研究地域 (A)エーヤワディーデルタの位置 (B)調査地域位置図 ( 2) 気 候 の 特 徴 研 究 地 域 は ,ケ ッ ペ ン の 区 分 す る 熱 帯 モ ン ス ー ン 気 候 区 に 属 す る 。北 東 季 節 風 が 吹 く 11 月 か ら 4 月 の 乾 季 と ,南 西 季 節 風 が 吹 く 5 月 か ら 10 月 の 雨 季 の , 二 つ の 明 確 な 季 節 を 持 つ 。 雨 季 と 乾 季 の 降 雨 差 は 極 端 で , Bogalayに お い て は 年 間 降 水 量 3,218 mm( 1995 年 )の 94% が 雨 季 の 6 ヶ 月 間 に 集 中 し た 2 。月平均気温は,最寒月の 1 月から暑気に向かって上昇し,4 月にピーク 増 水 し た 河 川 が 大 量 か つ 急 激 に 押 し 出 さ れ る 最 上 部 の 「 氾 濫 源 的 な 部 分 」, 第 2 は 「 海 岸 帯 」, 第 3 は 氾 濫 源 の 出 口 か ら 離 れ 勢 い が 衰 え た 洪 水 が 広 い 面 に 拡 散 さ れ る 「 中 央 区 」 で あ る ( 高 谷 , 1985)。 2 宮 本 ( 2000) を 元 に 筆 者 が 算 出 - 53 - 第3章 700 32 600 30 500 28 400 26 300 24 200 100 22 0 20 Temperature (℃) Rainfall (mm) を 示 し た 後 , 雨 季 の は じ ま り と と も に 低 下 す る ( 宮 本 , 2000)( Fig. 3.2)。 Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec Months/ Rainfall Temperature Fig. 3.2. 気温と降水量の年間推移(Bogalay郡) 出典:Maung Maung Than(1999)を筆者改変 ( 3) 河 川 の 性 質 エ ー ヤ ワ デ ィ ー 川 は 国 土 の 中 央 部 を 北 か ら 南 へ 約 2,140 km 縦 断 す る ミ ャ ン マ ー 最 長 の 河 川 で あ る ( Maung Maung Than, 2006)。 雨 季 の 河 川 流 量 が 極 め て 多 く , 乾 季 と の 流 量 差 は 著 し い ( シ ュ ト ル ツ , 1967)( Fig. 3.3) Fig. 3.3. エーヤワディー(イラワジ),メコ ン,チャオプラヤ三河川の月平均流量 出典:高谷(1985)から抜粋 (月) - 54 - 第3章 掃 流 土 砂 量 は , 東 南 ア ジ ア の 大 河 川 と 比 較 し て 膨 大 で あ る ( Table 3.1)。 そ の た め , 年 50∼ 60 mの 速 度 で デ ル タ の 前 縁 が 海 方 に 拡 大 し ( 井 関 , 1972; Win Win Khine, 1995),デ ル タ の 末 端 部 に は 浜 堤 3 が 列 状 に 形 成 さ れ 海 岸 帯 の 特 徴 的 な 地 形 要 素 と な っ て い る ( Fig. 3.4)。 Table 3.1 東南アジアの大河川の掃流土砂量 出典:高谷(1985)から抜粋 丘陵 Bogalay ◎ マングローブ域 N 16° ● ● E 95° Ashe Mayan N ➣ 浜堤列 Fig. 3.5. マングローブ域と浜堤列 出典:高谷(1985)を筆者改変 ( 4) 海 水 準 変 動 潮 汐 型 は ,1 日 に 2 回 の 干 満 を 繰 り 返 す ,Semi-diurnal 型 で あ る 。1 日 の 潮 位 差 は ,乾 季 の Byonehmwe 島 に お け る 大 潮 時 に 2.8 m,小 潮 時 に 1.8 m が 観 測 さ れ て い る 。 大 潮 と 小 潮 は そ れ ぞ れ 月 2 回 あ る ( Tin Maung Kyi, 1992; Maung Maung Than, 2006)。 海 水 準 は 河 川 の 流 量 と 季 節 風 の 影 響 に よ り 季 節 的 に も 変 動 す る 。流 量 が 多 3 浜 堤 と は ,内 陸 側 が 土 砂 で 埋 積 さ れ た 海 岸 線 に 平 行 な 砂 州 で あ る( 菊 池 , 2001)。 - 55 - 第3章 く 上 流 向 き の 南 西 季 節 風 が 吹 く 雨 季 に 最 も 高 く ,流 量 が 少 な く 季 節 風 が 下 流 向 き の 乾 季 に 最 も 低 い 。乾 季 と 雨 季 の 海 水 準 の 差 は ,隣 国 バ ン グ ラ デ シ ュ の 海 岸 で 60∼ 90cm,Byonehmwe 島 に お い て は 54 cm( 筆 者 観 測 )で あ っ た が , 場 所 と 条 件 に よ り 1∼ 2 m に 達 す る ( 向 後 , 1995; 宮 本 , 2000; JICA, 2005)。 ( 5) 地 盤 高 と 浸 水 環 境 海 水 準 の 季 節 変 動 の 大 き さ は ,土 地 の 浸 水 環 境 に 影 響 し て い る 。マ ン グ ロ ー ブ 域 の 地 盤 高 は ,浸 水 頻 度 と の 対 応 に よ り 6 階 級 に 区 分 さ れ て い る( Table 3.2)。乾 季 に ほ と ん ど 浸 水 し な い 浸 水 ク ラ ス 5∼ 6 の 土 地 が 35%,お よ び 月 7 ∼ 8 回 大 潮 時 の み 浸 水 す る 浸 水 ク ラ ス 4 の 土 地 が 50% と さ れ ,土 壌 水 分 の 欠 乏 す る 潮 間 帯 高 地 の 割 合 が 卓 越 し て い る ( 向 後 , 1995)。 Table 3.2 エーヤワディーデルタの地盤高と浸水頻度 Tidal level above sea level/admiralty datum (m) Inundation class Days of flooding/month in dry season 6 0* Flooded in rainy season 2.8-3.3 Extremely high ground 5 0-2 Flooded by equinoctial tides 2.7-2.8 High ground 4 3-9 Spring high tides 2.4-2.7 Medium ground, level 2 3 10-15 Normal high tides 2.0-2.4 Medium ground, level 1 2 16-21 Medium high tides 1.6-2.0 Low ground, level 2 1 22-31 Flooded by all high tides 0.1-1.6 Low ground, level 1 Tidal inundation *: 雨季の洪水時のみ浸水 Mangrove land area classes 出典:Myint Aung (2004)を筆者改変 ( 6) 水 路 の 塩 分 濃 度 汽 水 の 塩 分 濃 度 を 区 分 す る 基 準 は , 研 究 者 に よ り 異 な る 。 Siddiqi( 1994) は 伝 導 率 に よ り ,塩 分 濃 度 を 高 濃 度 ,中 濃 度 ,低 濃 度 の 3 段 階 に 区 分 し( Table 3.3), マ ン グ ロ ー ブ の 生 態 研 究 に 適 用 し て い る 。 Table 3.3 塩分濃度区分 濃度区分 高濃度 中濃度 低濃度 伝導率(m mhoS/cm) 換算濃度(‰) 4∼ 20.0∼ 2∼4 10.0∼20.0 ∼2 ∼10.0 出典:Siddiqi(1994)をもとに筆者作成 換算濃度は「株式会社 堀場製作所ホームページ」にもとづく http://www.jp.horiba.com/story/conductivity/conductivity_03.htm (2006.5.25) - 56 - 第3章 水 路 の 塩 分 濃 度 に は ,河 口 か ら の 距 離 ,地 形 ,潮 汐 ,降 雨 が 影 響 す る( Maung Maung Than, 2006)。エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ で は ,河 口 か ら 約 50 km の Bogalay に お け る 塩 分 濃 度 が , 雨 季 の 間 半 年 以 上 の に わ た り 5‰以 下 で あ る ( Maung Maung Than, 1999)。 し か し な が ら , 河 口 に 近 接 す る 水 路 に つ い て は , こ れ まで塩分濃度の季節変化が調査・報告されていない。 そ こ で ,筆 者 は 2003 年 ∼ 2005 年 の 雨 季 お よ び 乾 季 に ,河 口 近 く の 水 路 に お け る 塩 分 濃 度 を 屈 折 計 に よ り 観 測 し た( Fig. 3.5, Table 3.4)。観 測 結 果 を 濃 度 等 値 線 に よ り 図 示 す る ( Fig. 3.6)。 デ ル タ 海 岸 帯 の 河 口 近 傍 に お け る 水 路 の 塩 分 濃 度 は ,雨 季 に は 真 水 か ら 低 濃 度 ,乾 季 に は 低 濃 度 か ら 中 濃 度 で あ っ た。 w v t u N 16° s rq e a b f c g h k m l ij n N ➢ d o p 0 10km 10 km E 95° 30′ Andaman Sea Fig. 3.5. 塩分濃度の観測地点 Table 3.4 塩分濃度の観測結果 観測地点 a b c d e f g h i j k l - 塩分濃度 (‰) 雨季 乾季 (8月又は9月) (2月又は3月) 1.0 4.0 2.0 2.0 3.0 1.0 1.0 2.0 15.0 18.0 19.0 13.0 16.0 18.0 17.0 17.5 17.0 15.5 17.0 18.5 - 57 - 観測地点 m n o p q r s t u v w Pyindaye Pyindaye Byonehmwe Byonehmwe Meinmahla - 塩分濃度 (‰) 乾季 雨季 (8月又は9月) (2月又は3月) 5.0 5.0 10.0 18.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 19.0 19.0 10.0 10.0 8.0 9.0 11.0 5.0 3.0 第3章 5‰ 乾季 雨季 10‰ 0‰ 20‰ 15‰ ● ● 5‰ 10‰ 0 10 km Fig. 3.6. 乾季および雨季の水路の塩分濃度分布 出典:筆者による観測に基づく 3.2.2 マ ン グ ロ ー ブ 植 生 ( 1) エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ 湿 地 林 東 南 ア ジ ア の 低 湿 地 林 は ,水 分 条 件 お よ び 土 壌 条 件 に よ り マ ン グ ロ ー ブ 林 , 淡 水 湿 地 林 ,泥 炭 湿 地 林 に 区 分 さ れ る 。マ ン グ ロ ー ブ 林 は ,最 も 海 よ り の 海 水 か ら 汽 水 域 に 出 現 し ,そ の 後 背 地 に ,主 に 河 川 水 の 供 給 を 受 け る 淡 水 湿 地 林 と ,主 に 雨 水 の 供 給 を 受 け る 泥 炭 湿 地 林 が 見 ら れ る 。前 2 者 は 潮 汐 の 影 響 を 多 少 受 け る が , 後 者 は 停 滞 水 下 に あ る ( 山 田 , 1986)。 エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の 湿 地 林 の 植 生 は , Heritiera fomes 林 が 広 く 優 占 す る ( Maung Maung Than, 2006), あ る い は H. fomes, Excoecaria agallocha, Cynometra ramiflora , Ceriops decandra , Bruguiera gymnorrhiza , Avicennia officinalis の 6 種 が 量 的 に 豊 富 ( Maung Maung Than, 2006) だ と さ れ る 。 す なわち,純マングローブ以外が植生の中核として特徴付けられている。 山 田( 1986)は ,種 構 成 か ら 当 地 の H. fomes 林 を 淡 水 湿 地 林 と の 連 続 性 の なかで捉えている。 ( 2) 立 地 と マ ン グ ロ ー ブ 群 落 JICA( 2005)は ,地 盤 高 お よ び 水 分 条 件 と 出 現 種 の 関 係 を 整 理 し ,H. fomes の 分 布 域 を ,低 塩 分 環 境 で あ れ ば 浸 水 ク ラ ス 2 か ら ,高 塩 分 環 境 で あ れ ば 浸 水 ク ラ ス 3 か ら ,そ れ ぞ れ 浸 水 ク ラ ス 4 に か け て と し ,ヒ ル ギ 科 や セ ン ダ ン 科 の 純 マ ン グ ロ ー ブ が 随 伴 す る と ま と め た ( Table 3.5)。 - 58 - 第3章 Table 3.5 エーヤワディーデルタのマングローブ分布 (浸水クラス 1) (浸水クラス 2) (浸水クラス 3) (浸水クラス 4) (浸水クラス 5) 出典:JICA(2005)を筆者改変 Myint Aung( 2004) は , デ ル タ に お け る 最 初 の 植 物 社 会 学 的 調 査 を 行 い , 立 地 と 植 生 の 対 応 関 係 を ま と め た 。広 域 的 に は ,乾 季 に お け る 水 路 の 塩 分 濃 度 に 対 応 す る 4 つ の 植 生 帯 を 区 分 し て い る ( Table 3.6)。 ま た 帯 状 構 造 と し て ,汀 線 か ら の 比 高 に 対 応 さ せ Marsh Community( 湿 性 草 地 群 落 ),Coastal and River-bank Community( 沿 岸 ・ 河 岸 群 落 ), Inland Community( 内 陸 群 落 ) の 3 つ の 群 落 タ イ プ を 区 分 し た 。「 沿 岸 域 」 以 外 の 3 区 域 に お い て , 自 然 堤 防 を 含 む 内 陸 群 落 の ほ と ん ど が Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 で あ る と している。 Table 3.6 エーヤワディーデルタの植生帯と塩分濃度 植生帯 濃度(‰) Coastal zone 沿岸域 24.0∼28.0 Down stream 下部河口域 20.0∼24.0 Middle stream 中部河口域 15.0∼20.0 Upper stream 上部河口域 8.0∼12.0 出典:Myint Aung(2004)を筆者改変 成 熟 し た 二 次 林 に お け る 水 際 か ら の 植 生 配 列 を 他 の 東 南 ア ジ ア ,特 に 数 多 - 59 - 第3章 く の 調 査 が な さ れ た マ レ ー 半 島 の デ ル タ と 比 較 す る と ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に お い て は 水 際 の Rhizophora 帯 は 数 m と 極 め て 狭 い こ と が 特 徴 の ひ と つ で あ る 。さ ら に 平 均 高 潮 位 線 以 上 に お い て 陸 側 に 向 か う に つ れ ,マ レ ー 半 島 で は Lumnitzera spp.と Heritiera littoralis の 帯 域 と な る が ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ で は H. fomes 帯 と な っ て お り ,そ の 範 囲 も 水 際 近 く か ら 内 陸 の 潮 間 帯 上 部 ま で と 極 め て 広 い と い う 特 異 性 を 持 つ ( Fig. 3.7)。 し た が っ て , エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に お い て は ,資 源 管 理 お よ び こ れ を 支 え る 生 態 研 究 の 対 象 と し て , 優 占 す る 面 積 の 割 合 が 極 め て 高 い H. fomes は 特 に 重 要 だ と 言 え る 。 (a) Ra Ao Hf Hf Kc Ea Ea Pp Kc 0 50 100 150 200 (m) (b) Ra Ra Ct X Ra Ll Ll Ll Ml Ct Xg Ra Ac Ra Ra Hl Hl H.H.W.L. M.H.W.L. M.W.L. 0 100 200 300 400 500 600(m) Fig. 3.7. エーヤワディーデルタとタイ南西部デルタの間の植生帯の比較 (a)ミャンマー・エーヤワディーデルタ,(b)タイ・Khlong Thom Ac:Aegiceras corniculatum,Ao:Avicennia officinalis,Ct:Ceriops tagal, Ea:Excoecaria agallocha,Hf:Heritiera fomes,Hl:Heritiera littoralis,Kc:Kandelia candel, Ll:Lumnitzera littorea,Ml:Melaleuca leucadendra,Pp:Phoenix paludosa, Ra:Rhizophora apiculata,X:Xylocarpus sp.,Xg:Xylocarpus granatum M.W.L:平均海面,M.H.W.L.:平均高潮位,H.H.W.L:最大高潮位,横軸は汀線からの距離を示す。 出典:(a)Myint Aung(2004)を筆者改変,(b)Mochida et al.(1999)を筆者改変 - 60 - 第3章 ( 3) Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 下 部 河 口 域 ,中 部 河 口 域 ,上 部 河 口 域 の 内 陸 群 落 の 中 核 を な し ,浸 水 ク ラ ス 3 お よ び 4 が 分 布 の 中 心 で あ る 。 群 集 標 徴 種 は , Amoora cucullata と 林 冠 に お い て 優 占 す る H. fomes, ま た , H. fomes に 次 い で 高 木 層 へ の 出 現 頻 度 が 高 い の は , Excoecaria agallocha で あ る 。 群 集 は , 高 木 層 に お い て Bruguiera spp. ( B. gymnorrhiza も し く は B. sexangula ) が 区 分 種 と し て 優 占 す る , Bruguiera gymnorrhiza 亜 群 集 と , 低 層 に お い て Acanthus spp. ( Acanthus ilicifolius も し く は Acanthus volubilis) の 優 占 度 が 高 い Acanthus ilicifolius 典 型 亜 群 集 に 区 分 さ れ る 。Bruguiera gymnorrhiza 亜 群 集 は ,内 陸 の 水 路 際 な ど や や 凹 地 に 出 現 す る ( Myint Aung, 2004)。 現 在 ま で に 強 度 の 人 為 影 響 を 受 け , Hibiscus tiliaceus, Phoenix paludosa, Acrostichum aureum な ど の 低 質 林 化( Myint Aung, 2004)お よ び 小 径 木 化 と い った,劣化し変質した林分が増加している。 ( 4) Heritiera fomes BUCH.-Ham. 地 理 的 な 分 布 ( Fig. 3.8) は , ス リ ラ ン カ か ら イ ン ド 東 岸 , イ ン ド ・ バ ン グ ラ デ シ ュ の ス ン ダ ル バ ン ス ,バ ン グ ラ デ シ ュ の チ ッ タ ゴ ン か ら ミ ャ ン マ ー の ラ カ イ ン 州 ,そ し て エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に 限 ら れ る ,ベ ン ガ ル 湾 岸 の 地 域 固 有 種 で あ る ( Chapman, 1976)。 Bangladesh Sundarbans Myanmar India Rakhine N 20° Ayeyarwady Delta Bay of Bengal Sundarbans 0 E 70° E 80° Fig. 3.8. Heritiera fomesの地理的分布 出典: Chapman (1976)を筆者改変 - 61 - E 90° ➣ N N 10° 1000 km 1000 km 第3章 地 域 的 に は , 耐 塩 性 を 持 つ も の の 淡 水 域 か ら 汽 水 域 ま で 優 占 し ( Curtis, 1933),水 路 際 か ら( Kostermans, 1959)乾 季 に は 冠 水 し な い 高 い 地 盤 高 ま で 広 く 分 布 す る ( Karim, 1988)。 通常樹体は通直な単幹で生育し,成木の樹高は,研究地域において 4 最大 約 41 m, 45 mに 達 す る と も 言 わ れ る ( Chapman, 1976)。 し か し な が ら 現 在 調 査 地 域 で 見 ら れ る 個 体 は , 最 大 で も 20 m程 度 ま で で あ る ( Fig. 3.9A)。 成 長は水環境に左右され,高塩分濃度では樹高はそれほど高くならず ( Chapman, 1976), 雨 季 に し か 冠 水 し な い 高 地 盤 地 で は 成 長 が 芳 し く な い ( Karim, 1988)。 楕 円 形 で 凹 凸 の あ る 果 実 を 産 し ,根 系 は 多 数 の 筍 根 に よ っ て 特 徴 づ け ら れ る 。果 実( Fig. 3.9B)は 雨 季 に 成 熟 し 水 流 に よ っ て 散 布 さ れ る が ,そ の 時 期 は 同 じ 地 域 で も 同 期 性 を 示 さ ず , 1 ヶ 月 半 以 上 の 長 期 に 渡 る ( Siddiqi et al., 1991)。 (A) (B) 40 mm Fig. 3.9. Heritiera fomesの形態 (A) 樹体と果実, (B) 房生りする果実 (筆者撮影:2002年8月18日,Pyindayeにて) 4 過 去 Meinmahla島 に お い て 商 業 伐 採 を 行 っ て い た 木 材 業 者 の 聞 き 取 り 調 査 。 90 taungを 換 算 。 - 62 - 第3章 3.3 海 岸 帯 に お け る 在 地 空 間 3.3.1 目 的 在 地 の 空 間 は ,資 源 が 分 布 し 資 源 に 関 わ る 人 間 活 動 が 行 わ れ る 生 態 的・社 会 的 な 空 間 的 領 域 で あ る 。デ ル タ の 海 岸 帯 に は ,感 潮 水 路 ,潮 間 帯 ,浜 堤 な ど の 地 形 要 素 が あ る 。陸 域 と 水 域 の 間 の 生 態 学 的 な 移 行 帯 に マ ン グ ロ ー ブ は 分 布 し ,よ り 高 い 土 地 に は マ ン グ ロ ー ブ 以 外 の 植 物 が 分 布 す る 。資 源 の 採 集 と 利 用 と い う 人 間 活 動 の 対 象 は ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 植 物 に 限 ら れ て は い な い 。 秋 道 ( 1999b) は , 「 自 然 は 連 続 的 で , マ ン グ ロ ー ブ だ け を 切 り 取 っ て ( 管 理 を )議 論 で き な い 。後 背 地 ,沿 岸 海 流 な ど 包 括 的 な エ リ ア の 中 で の ワ ン ・ ポテンシャルととらえるべきだ」と指摘している。 エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の こ れ ま で の マ ン グ ロ ー ブ 研 究 に お い て は ,立 地 で あ る 潮 間 帯 の 環 境 と 植 生 が 対 象 と さ れ て き た 。施 策 に お い て も ,マ ン グ ロ ー ブ を 地 域 の 景 観 の 中 で 捉 え た 資 源 管 理 空 間 の 設 計 は な さ れ て い な い 。し た が っ て ,海 岸 帯 の 地 形 ,植 生 ,土 地 利 用 と い っ た 包 括 的 な 景 観 の 中 で ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 植 物 と そ の 分 布 ,お よ び 人 々 に よ る 採 集・利 用 活 動 を 把 握 し ,マ ングローブ資源管理における在地の空間を明らかにする必要がある。 本 項 の 目 的 は ,自 然 相・資 源 相・文 化 相 を 統 合 す る 海 岸 帯 の 在 地 の 空 間 領 域 を 明 ら か に す る こ と で あ る 。そ の た め に 村 落 周 辺 の 景 観 を 地 形 ,土 質 ,土 地 利 用 の か ら 捉 え ,潮 間 帯 と よ り 上 部 の 土 地 に 生 育 し 資 源 の 素 材 と な り う る 植 物 相 を フ ィ ー ル ド に お い て 調 査 し た 。さ ら に ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 へ の ア ク セスと採集地をインタビューと踏査から把握した。 3.3.2 調 査 方 法 ( 1) 調 査 地 調 査 は , デ ル タ の 海 岸 帯 に 位 置 す る Ashe Mayan 村 周 辺 に お い て 行 な っ た ( Fig. 3.10)。 ( 2) 調 査 方 法 地 形 ・ 土 質 ・ 土 地 利 用 の 調 査 は ,景 観 を 構 成 す る 感 潮 水 路 ,潮 間 帯 ,お よ び 浜 堤 が 含 ま れ る よ う 定 め た 2 地 点( Fig. 3.10 中 の Ⓐ ,Ⓑ )間 に お い て 行 な っ た 。水 際 の 2 地 点 を 結 ぶ 直 線 上 の 最 高 標 高 地 点 を 水 準 点 と し ,水 準 点 か ら 2∼ 15 m 程 度 毎 に 繰 り 返 し 測 点 を 設 け , 水 際 ま で の 水 準 測 量 を Ⓐ Ⓑ 2 つ の 向 - 63 - 第3章 き に つ い て 行 な っ た 。ま た 適 宜 の 測 点 に お い て ,地 表 下 60 cm の 土 壌 の 土 性 判 定 ( 日 本 ペ ド ロ ジ ー 学 会 , 1997), 植 生 調 査 ( Braun-Blanquet, 1964; 藤 原 , 1997), 土 地 利 用 の 記 録 を 行 な っ た 。 1 grid = 1000 YD. N 15°49′ E 95°26′ Ⓐ Ⓑ 0 50 km 浜堤 Ground Survey 1927-28 潮間帯 Fig. 3.10. 調査地 ※矢印はAshe Mayan村。ⒶⒷは水準測量の終点。 植 物 相 の 調 査 は ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 植 物 群 に つ い て は 村 落 周 辺 の 潮 間 帯 に お い て ,そ れ 以 外 の 植 物 群 に つ い て は 潮 間 帯 よ り 高 地 盤 高 の 浜 堤 上 部 に あ る 集 落 の ホ ー ム ガ ー デ ン お よ び 耕 作 地 周 辺 に お い て 高 さ 60 cm 以 上 の 植 物 を 対象として行なった。 マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 採 集 地 と ア ク セ ス 経 路 は ,燃 料 ,建 材 ,工 芸 材 と な る Heritiera fomes,Cynometra ramiflora,Bruguiera gymnorrhiza ま た は Bruguiera sexangula, Ceriops decandra を 対 象 と し , 村 人 へ の イ ン タ ビ ュ ー と 踏 査 に よ り 把 握 し た 。 イ ン タ ビ ュ ー は , マ ン グ ロ ー ブ 林 が 豊 か で あ っ た 1960 年 代 初 頭 以 前 か ら Ashe Mayan 村 に 住 み , 自 ら 資 源 採 集 を 行 な っ て い た 村 人 4 名 を 被 面 接 者 と す る グ ル ー プ イ ン タ ビ ュ ー で あ る 。 イ ン タ ビ ュ ー 項 目 は , 1960 - 64 - 第3章 年代初頭および現在における対象種の採集地と採集地までのアクセスの経 路・手段である。 地 形 ・ 土 性 ・ 土 地 利 用 お よ び 資 源 採 集 に 係 る 調 査 は 2004 年 9 月 に , 植 物 相 の 調 査 は 2003 年 か ら 2005 年 に 行 な っ た 。 3.3.3 結 果 と 考 察 ( 1) 地 形 お よ び 景 観 水 準 測 量 ,土 性 ・ 土 地 利 用 調 査 の 結 果 を ,Fig. 3.11 に 示 す 。年 間 を 通 じ 潮 汐 に よ る 冠 水 が 起 こ ら な い 高 潮 位 線 以 上 の 砂 質 地 は ,ホ ー ム ガ ー デ ン が 大 部 分 を 占 め ,家 屋 や 人 道 ,た め 池 な ど に 利 用 さ れ て い た 。高 潮 位 線 以 下 の 潮 間 帯 に は マ ン グ ロ ー ブ 林 が 散 在 し ,集 落 隣 接 地 で は ニ ッ パ プ ラ ン テ ー シ ョ ン も しくは上部は水田に転換されていた。 Fig. 3.11. 調査村の地形断面図,土地利用模式図 出典:筆者測量・調査・作成 ※高潮位線は,雨季の大潮・満潮時の観測による。 ( 2) 植 物 相 本 研 究 で は ,「 Plants in Myanmar Mangroves( Win Maung, 1999)」 の 掲 載 種 お よ び ,マ ン グ ロ ー ブ 林 に 頻 出 す る Stenochlaena palustris を マ ン グ ロ ー ブ 植 物 ( Table 3.7), そ れ 以 外 を 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 と し た 。 ホ ー ム ガ ー デ ン お よ び 耕 作 地 周 辺 に お い て は ,142 種 類 の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 を 区 別 し こ の う ち 科 レ ベ ル ま で 判 別 さ れ た の は 53 科 129 種 で あ っ た( Table 3.8)。マ ン グ ロ ー ブ 林 に お い て は 33 科 77 種 の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 が 分 布 し て い た( Table 3.7 中 の 丸 印 )。 - 65 - 第3章 Table 3.7 マングローブ林の植物相(マングローブ植物) 学名 Acanthus ebracteatus Vahl Acanthus ilicifolius L. Acanthus volubilis Wall. Hygrophila obovata Griff. Sesuvium portulacastrum (L.) L. Crinum asiaticum Roxb. Cerbera odollam Gaertner Calamus arborescens Griff. Nypa fruticans (Thunb.) Wurmb. Oncosperma tigillaria Ridl. Phoenix paludosa Roxb. Calotropis gigantea [Dryand.] Finlaysonia maritima Backer ex K. Heyne Sarcolobus carinatus Wall. Sarcolobus globosus Wall. Pluchea indica Less. Avicennia alba Blume Avicennia marina (Forsk.) Vierh. Avicennia officinalis L. Dolichandrone spathacea (L.f.) K. Schumann *2 Stenochlaena palustris ( Burm. ) Bedd. Cordia cochinchinensis Gagnepain Caesalpinia bonduc (L.) Roxb. Caesalpinia crista L. Cynometra ramiflora L. Intsia bijuga (Colebr.) O. Kuntze Calycopteris floribunda ( Roxb. ) Lam. Combretum tetralophum C.B.Clarke Combretum trifoliatum Vent. Lumnitzera littorea (Jack) Voigt Lumnitzera racemosa Willd. Terminalia catappa L. Ipomoea biloba Forssk. Ipomoea maxima G.Don Ipomoea tuba G.Don Diospyros embryopteris Blanco Diospyros ferrea ( Willd. ) Bakh. Diospyros maritima Blume Excoecaria agallocha L. Sapium indicum Willd. Dalbergia pinnata (Lour.) Prain Dalbergia spinosa Roxb. Dalbergia volubilis Urb. Derris indica ( Lamk. ) Bennet Derris scandens BENTH. 科 Acanthaceae Acanthaceae Acanthaceae Acanthaceae Aizoaceae Amaryllidaceae Apocynaceae Arecaceae Arecaceae Arecaceae Arecaceae Asclepiadaceae Asclepiadaceae Asclepiadaceae Asclepiadaceae Asteraceae Avicenniaceae Avicenniaceae Avicenniaceae Bignoniaceae Blechnaceae Boraginaceae Caesalpiniaceae Caesalpiniaceae Caesalpiniaceae Caesalpiniaceae Combretaceae Combretaceae Combretaceae Combretaceae Combretaceae Combretaceae Convolvulaceae Convolvulaceae Convolvulaceae Ebenaceae Ebenaceae Ebenaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Fabaceae Fabaceae Fabaceae Fabaceae Fabaceae *1 結果 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 学名 Derris trifoliata Lour. Erythrina indica Lam. Mucuna gigantea (Willd.) DC. Pongamia pinnata (L.) Pierre Flagellaria indica L. Calophyllum inophyllum Lam. Barringtonia racemosa (L.) Spreng. Hibiscus tiliaceus L. Thespesia populnea Sol. ex Correa Amoora cucullata (Roxb.) Xylocarpus granatum (Lamk.) Roem. Xylocarpus moluccensis Kö nig Aegiceras corniculatum (L.) Blanco Ardisia littoralis Andrews Caryota urens L. Pandanus foetidus Roxb. Pandanus odoratissimus Blume Aegialitis rotundifolia Roxb. Acrostichum aureum L. Acrostichum speciosum Willd. Bruguiera gymnorrhiza (L.) Lamk. Bruguiera parviflora (Roxb.) Wight & Arn. ex Griff. Bruguiera sexangula (Lour.) Poir. Ceriops decandra (Griff.)Ding Hou Ceriops tagal C.B. Rob. Kandelia candel (L.) Druce Rhizophora apiculata BL. Rhizophora mucronata Lamk Bruguiera cylindrica Blume Mussaenda macrophylla Wall. Merope angulata (Willd.) Swingle Azima sarmentosa Benth. Sonneratia alba Griff. Sonneratia apetalla Buch.-Ham. Sonneratia caseolaris (L.) Engler Sonneratia griffithii Kurz Heritiera fomes Buch.-Ham. Heritiera littoralis Dryand. Brownlowia tersa (L.) Clerodendron inerme (L.) Gaertn Stachytarpheta jamaicensis Vahl Vitex obovata E.Mey. Premna obtusifolia R.Br. Cayratia trifolia (L.) Domin 出典:「Plants in Myanmar Mangroves(Win Maung, 1999)」に筆者が調査結果を追記・改変 *1 調査結果:村落周辺のマングローブ林の植物相を○で示した *2 Win Maung(1999)に掲載されていなかった種 - 66 - 科 Fabaceae Fabaceae Fabaceae Fabaceae Flagellariaceae Hypericaceae Lecythidaceae Malvaceae Malvaceae Meliaceae Meliaceae Meliaceae Myrsinaceae Myrsinaceae Palmae Pandanaceae Pandanaceae Plumbaginaceae Polypodiaceae Polypodiaceae Rhizophoraceae Rhizophoraceae Rhizophoraceae Rhizophoraceae Rhizophoraceae Rhizophoraceae Rhizophoraceae Rhizophoraceae Rhizophoraceae Rubiaceae Rutaceae Salvadoraceae Sonneratiaceae Sonneratiaceae Sonneratiaceae Sonneratiaceae Sterculiaceae Sterculiaceae Tiliaceae Verbenaceae Verbenaceae Verbenaceae Verbenaceae Vitaceae *1 結果 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 第3章 Table 3.8 ホームガーデンの植物相(非マングローブ植物) 学名 Amaranthus caudatus L. Anacardium occidentale L. Bouea burmanica Griff. Mangifera indica L. Annona muricata L. Annona glabra L. Tabernaemontana divaricata (L.) R. Br. ex Roem. & Schult. Tabernaemontana sp. Vallaris solanacea (Roth) Kuntze Areca catechu L. Calamus viminalis Willd. Caryota mitis Lour. Cocos nuciferae L. Licuala peltata Roxb. Blumea balsamifera (L.) DC. Eupatorium cannabinum L. Eupatorium odratum L. Oroxylum indicum (L.) Kurz Pajanelia longifolia (Willd.) K. Schum. Ceiba pentandra (L.) Gaertn. Durio zibethinus Murray Cordia dichotoma Forst. Ananas comosus (L.) Merr. Cassia alata L. Cassia fistula L. Senna siamea (Lam.) Irwin & Barneby Tamarindus indica L. Crateva magna (Lour.) DC. Carica papaya L. Salacia chinensis L. Costus speciosus Sm. Crypteronia paniculata Blume Trichosanthes cucumerina L. Dillenia indica L. Dioscorea alata L. Dioscorea birmanica Prain & Burkill Dipterocarpus alatus Blume Dipterocarpus retusus Blume Diospyros burmanica Kurz Diospyros discolor Willd. Baccaurea sapida Muell. Arg. Codiaeum variegatum (L.) Blume Croton oblongifolius Roxb. Emblica officinalis Gaertn. Flueggea virosa (Roxb. ex Willd.) Voigt Glochidion coccineum Muell. Arg. Phyllanthus niruri L. unidentified (*Zinbyu) Derris elliptica (Roxb.) Benth. Desmodium pulchellum Benth. Moghania semialata (Roxb.) Mukerj. Pterocarpus macrocarpus Kurz Spatholobus listeri Prain Tadehagi triquetrum (L.) H. Ohashi Garcinia cowa Roxb. Garcinia mangostana L. Mesua ferrea L. Mesua nervosa Planch. & Triana Gonocaryum griffithianum (Miers) Kurz Cinnamomum inunctum Meissner Litsea glutinosa (Lour.) C.B. Rob. Litsea nitida (Roxb.) Hook. f. Litsea sp. Barringtonia sp. Leea indica Merr. Lagerstroemia speciosa (L.) Pers. 科 Amaranthaceae Anacardiaceae Anacardiaceae Anacardiaceae Annonaceae Annonaceae Apocynaceae Apocynaceae Apocynaceae Arecaceae Arecaceae Arecaceae Arecaceae Arecaceae Asteraceae Asteraceae Asteraceae Bignoniaceae Bignoniaceae Bombacaceae Bombacaceae Boraginaceae Bromeliaceae Caesalpiniaceae Caesalpiniaceae Caesalpiniaceae Caesalpiniaceae Capparaceae Caricaceae Celastraceae Costaceae Crypteroniaceae Cucurbitaceae Dilleniaceae Dioscoreaceae Dioscoreaceae Dipterocarpaceae Dipterocarpaceae Ebenaceae Ebenaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Fabaceae Fabaceae Fabaceae Fabaceae Fabaceae Fabaceae Hypericaceae Hypericaceae Hypericaceae Hypericaceae Icacinaceae Lauraceae Lauraceae Lauraceae Lauraceae Lecythidaceae Leeaceae Lythraceae 学名 Phrynium capitatum Willd. Schumannianthus dichotomus (Roxb.) Gagnep. Melastoma malabathricum L. Azadirachta indica A. Juss. Melia birmanica Kurz Tinospora cordifolia Miers Tinospora nudiflora Kurz Acacia auriculiformis A. CUNN. Ex BENTH Albizia procera (Roxb.) Benth. Archidendron jiringa (Jack) Nielsen Entada pursaetha DC. Samanea saman (Jacq.) Merr. Artocarpus heterophyllus Lam. Ficus glomerata Roxb. Ficus hispida L. f. Ficus obtusifolia Roxb. Ficus religiosa L. Ficus rumphii Blume Streblus asper Lour. Musa sp. Ardisia polycephala Wall. Eucalyptus ovata Labill. Psidium guajava L. Syzygium malaccense (L.) Merr. & L.M. Perry Syzygium oblatum (Roxb.) Wall. ex A.M. Cowan & Cowan Syzygium sp. (*Kyauk-thabye) Syzygium sp. (*Thabye-gyi) Syzygium sp. (*Thitpyu) Olax psittacorum (Willd.) Vahl Jasminum multiflorum (Burm. f.) Andrews Nyctanthes arbor-tristis L. Bulbophyllum sp. Ludisia discolor (Ker Gawl.) Lindl. Piper betle L. Piper nigrum L. Dendrocalamus brandisii (Munro) Kurz Dendrocalamus giganteus Wall. ex Munro Dendrocalamus longispathus (Kurz) Kurz Eragrostis sp. Oxytenanthera albociliata Munro Phragmites vallatoria (L.) Veldkamp * unidentified ( Wa-kyu) Ziziphus jujuba Lam. Carallia brachiata (Lour.) Merr. Gardenia jasminoides Ellis Hypobathrum racemosum Kurz Hyptianthera stricta Wight & Arn. Ixora coccinea fa. lutea (Hutch.) Fosberg & Sachet Ixora coccinea sp. Morinda angustifolia Roxb. Citrus aurantiifolia (Christm.) Sw. Citrus limon (L.) Burm. f. Citrus maxima (Burm.) Merr. Litchi chinensis Sonn. Smilax perfoliata Lour. Sterculia angustifolia Jack Microcos paniculata L. Clerodendrum indicum (L.) Kuntze Clerodendrum viscosum Vent. Premna integrifolia L. Vitex pinnata L. Alpinia zerumbet (Pers.) B.L. Burtt & R.M. Sm. Amomum corynostachyum Wall. 科 Marantaceae Marantaceae Melastomataceae Meliaceae Meliaceae Menispermaceae Menispermaceae Mimosaceae Mimosaceae Mimosaceae Mimosaceae Mimosaceae Moraceae Moraceae Moraceae Moraceae Moraceae Moraceae Moraceae Musaceae Myrsinaceae Myrtaceae Myrtaceae Myrtaceae Myrtaceae Myrtaceae Myrtaceae Myrtaceae Olacaceae Oleaceae Oleaceae Orchidaceae Orchidaceae Piperaceae Piperaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Rhamnaceae Rhizophoraceae Rubiaceae Rubiaceae Rubiaceae Rubiaceae Rubiaceae Rubiaceae Rutaceae Rutaceae Rutaceae Sapindaceae Smilacaceae Sterculiaceae Tiliaceae Verbenaceae Verbenaceae Verbenaceae Verbenaceae Zingiberaceae Zingiberaceae * - 67 - 現地名 第3章 ( 3) 資 源 採 集 活 動 対 象 種 の 採 集 地 を , Ashe Mayan 村 周 辺 の 地 形 図 上 に 示 す ( Fig. 3.12A)。 ま た , 水 路 , 浜 堤 , 村 落 , お よ び 採 集 地 を 模 式 図 化 し , Fig. 3.12B に 示 す 。 Heritiera fomes, Cynometra ramiflora の か つ て の 採 集 地 は , 村 落 が 立 地 す る 浜 堤 を 両 側 か ら 挟 む 水 路 際 の 潮 間 帯 ( Fig. 3.12① , ② 。 以 下 同 様 に 図 中 の 番 号 。),お よ び そ の 水 路 の 近 傍 分 流 際 の 潮 間 帯( ③ )で ,東 西 方 向 に 延 び た 地 域 で あ っ た 。並 列 す る 浜 堤 の 内 側 に あ り ,村 落 か ら 採 集 地 ま で の 時 間 距 離 は 1 時 間 以 内 で あ っ た 。 ま た , Ceriops decandra, Bruguiera spp.の 採 集 地 は , 列 を な す 南 側 の 浜 堤 を 隔 て た 水 路 の 潮 間 帯( ④ )で ,村 落 か ら の 時 間 距 離 は 1 時 間 半 程 度 で あ っ た 。採 集 地 へ は い ず れ も 手 漕 ぎ 舟 に よ り ア ク セ ス し て い た 。 採 集 地 ④ へ は , 村 落 近 傍 の 水 路 の 接 点 ( J) を 経 由 し て ア ク セ ス し て い た。 現 在 の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 採 集 可 能 地 は 2 ヶ 所 で ,一 方( ⑥ )は 過 去 の採集地(①)の北側に,他方(⑤)は過去の別の採集地(④)の南側に, そ れ ぞ れ 浜 堤 を 隔 て た 反 対 側 の 水 路 の 潮 間 帯 上 で あ っ た 。村 落 を 挟 む 水 路 と の 連 絡 点 は か な り 遠 方 で ,村 落 か ら 採 集 可 能 地 へ の 時 間 距 離 は 3 時 間 以 上 で あ っ た 。採 集 地 へ は 手 漕 ぎ 舟 を 使 用 し た 後 ,浜 堤 を 徒 歩 で 横 断 し ア ク セ ス し ていた。現在資源採集と利用の頻度は極めて低かった。 ( 4) 考 察 地 形 お よ び 景 観 か ら ,浜 堤 上 の「 陸 域 」と 浜 堤 間 の「 水 域 」お よ び 汽 水 が 及 ぶ 「 潮 間 帯 」 の 3 要 素 の 組 み 合 わ せ が , 列 の 直 交 方 向 に 数 百 m か ら 数 km の 幅 で 繰 り 返 し 出 現 す る こ と が 明 ら か に な り ,海 岸 帯 に お け る 地 生 態 的 な 基 準 単 位 で あ る と 言 え る 。植 物 相 か ら は ,生 物・生 態 系 と し て 浜 堤 上 部 の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 か ら な る 植 生 の 生 態 系 と ,広 大 な 潮 間 帯 に 広 が る マ ン グ ロ ー ブ 林 生 態 系 が ,そ れ ぞ れ に 対 応 し て 存 在 す る と 言 え る 。住 民 は マ ン グ ロ ー ブ 植物群と非マングローブ植物群の双方から,植物資源を採集利用している。 浜 堤 を 横 断 せ ず に 到 達 可 能 な か つ て の 採 集 地 は ,資 源 が 減 少 す る 以 前 の 本 来 の 在 地 の 空 間 に あ る と 言 え る 。南 北 方 向 の 手 漕 ぎ 舟 に よ る 移 動 は ,隣 り 合 う 浜 堤 が 遮 っ て い る お り ,近 傍 に 迂 回 水 路 が あ る 場 合 に 限 り 浜 堤 を 隔 て た 反 対 側 が 資 源 採 集 地 と な る と 言 え る 。デ ル タ の 海 岸 帯 に お い て は ,浜 堤 上 が 集 落 の 立 地 と な っ て い る 。中 で も ,大 き な 水 路 に 並 列 す る 浜 堤 は ,手 漕 ぎ 舟 の 利 便 性 が 活 か せ る 村 落 の 好 立 地 だ と 考 え ら れ る 。 し か し な が ら , Ceriops decandra や Bruguiera spp.の 立 地 は , 潮 間 帯 の う ち 大 き な 水 路 か ら 離 れ た 内 陸 の 凹 地 ( Myint Aung, 2004) で あ り , 村 落 か ら は 遠 隔 と な る 。 そ の 際 , 村 - 68 - 第3章 落 近 傍 の 水 路 の 連 絡 点 が 空 間 の 一 体 性 を 生 み ,多 様 な 資 源 へ の ア ク セ ス を 保 証していると言える。 (A) 浜堤 潮間帯 6 Hf Bg 1 Hf 1 grid = 1000 YD. 3 Hf Cr Cr J 4 Hf 2 Cr Bg Cd Hf 5 Cd Hf (B) 凡例 6 3 マングローブ植物採集地 過去 1 e Ash J an May 2 4 Ground Survey 1927-28 現在 感潮水路 5 浜堤 Fig. 3.12. マングローブ植物採集地 地形図(A)とその模式図(B) ①∼⑥: 資源採集地,Ⓙ:水路の連絡点 Hf:Heritiera fomes,Cr:Cynometra ramiflora,Cd:Ceriops decandra, Bg:Bruguiera gymnorrhiza or Bruguiera sexangula. - 69 - 第3章 自 然 相・資 源 相・文 化 相 を 統 合 す る と ,浜 堤 列 と 感 潮 水 路 が 交 代 す る デ ル タ 海 岸 帯 に お い て は ,集 落 の あ る 浜 堤 の 両 側 に 並 列 す る 2 つ の 浜 堤 に 挟 ま れ , 列 の 直 交 方 向 に 広 が る 領 域 が 在 地 の 空 間 と 言 え る 。さ ら に 在 地 の 空 間 は ,水 路の連絡により浜堤を隔てて連結されると言える。 3.4 資 源 管 理 の 歴 史 性 3.4.1 目 的 森 林 資 源 の 管 理 と 所 有 の 形 態 は ,資 源 の 利 用 や 状 態 に 強 く 影 響 す る 。ま た , 管 理 の 性 格 や 所 有 形 態 は , 歴 史 性 に 規 定 さ れ る ( Mather, 1990)。 す な わ ち , 資 源 と し て の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 群 の 状 態 は ,立 地 の 環 境 に 加 え て 資 源 管 理 制 度 の 地 域 性 と 歴 史 性 に 左 右 さ れ て い る 。し た が っ て ,在 地 的 な マ ン グ ロ ー ブ 資源管理を担保する資源管理制度の歴史性を把握する必要がある。 本 項 に お い て は ,研 究 地 域 の 土 地 お よ び 森 林 資 源 の 所 有 ,管 理 ,利 用 に 係 る制度と習慣を,歴史的背景に基づき明らかにした。 3.4.2 調 査 ・ 研 究 方 法 文 献 調 査 お よ び 2004∼ 2005 年 に イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 行 な っ た 。 被 面 接 者 は ,Pyindaye 地 域 の 村 落 の 長 老 2 名 と 元 林 務 官 の マ ン グ ロ ー ブ 植 林 専 門 家 1 名 で あ る ( Table 3.9)。 Table 3.9 インタビュー対象者 被面接者1 Win Win氏(1952年生まれ) Bogalay郡 Pyindaye Reserved Forest内 Kanyin Kon村長老 被面接者2 Aung Than氏(1934年生まれ) Bogalay郡 Ashe Mayan村長老 被面接者3 Maung Maung Than氏(1963年生まれ) マングローブ植林専門家,元林務官 土 地 の 所 有 形 態 は ,土 地 上 に 存 在 す る 林 産 物 の 採 集・利 用 に 大 き く 影 響 す る こ と か ら ,土 地 に 関 わ る 制 度・習 慣 に 着 目 し 調 査・分 析 を 行 な っ た 。ま た 東南アジア諸国においては,土地をめぐる複数の権利の併存(水野・重冨, 1997)が 指 摘 さ れ て お り ,所 有 権 に 一 元 化 さ れ な い 権 利 に も 留 意 し た 。資 源 管 理 の 地 域 性 の 分 析 は ,Mather( 1990)の 時 系 列 展 開 モ デ ル を 枠 組 と し ,コ モンズ論の視点から行なった。 - 70 - 第3章 3.4.3 結 果 と 考 察 ( 1) マ ン グ ロ ー ブ 林 の 開 発 「 王 朝 期 の 村 落 」 を Fig. 3.13 に ,「 マ ン グ ロ ー ブ 面 積 の 推 移 」 Fig. 3.14 に 示 す 。 ま た ,「 人 口 密 度 の 推 移 」 を , Table 3.10 に 示 す 。 ◎ Bogalay (1757) ● STUDY AREA ● Pyindaye (1780) Ashe Mayan ()カッコ内は村落の成立時期を示す。 出典:JICA(2005)を著者改変 Fig. 3.13. 王朝期の村落とその成立時期 Fig. 3.14. エーヤワディーデルタおよびBogalay郡におけるマングローブ面積の推移 出典:JICA(2005)をもとに筆者作成 - 71 - 第3章 王 朝 期 の デ ル タ は ,ほ と ん ど 無 人 の ジ ャ ン グ ル で ,半 農 半 漁 民 が 点 在 し て い た( 斉 藤 , 1962)。Bogalay郡 の 人 口 密 度 は ,1 km 2 当 た り 数 名 程 度 で あ っ た 。 したがって,無主・未開の広大な自然林が存在していた時代と言える。 Table 3.10 Bogalay郡およびエーヤワディーデルタの人口密度の推移 年 1852 1891 1901 1911 1921 1930 1931 1963 1973 1983 1993 1995 2001 Bogalay郡 9.1 15.1 20.3 29.3 33.7 70.0 79.6 81.1 107.0 - エーヤワディーデルタ 出典 18.0 a b b b b 60.0 a b c c c 142.2 c 177.0 d 200.8 d 2 (単位: per km ) 出典:以下をもとに筆者作成 a. Mya Than (2002) b. Win Win Khine (1995), based on Census of India, PartⅡ c. Win Win Khine (1995), based on Immigration and Manpower Dept., Yangon d. JICA (2005), based on Central Statistic Organization, Statistical Year Book 2001 イ ギ リ ス に よ る 植 民 地 前 期 は ,移 住・開 拓 政 策 に よ り マ ン グ ロ ー ブ 林 の 水 田 化 が 始 ま っ た デ ル タ の 開 拓 時 代 で あ り ,部 分 的 に マ ン グ ロ ー ブ 自 然 林 の 破 壊が起こった。本論文中,地形・土壌調査および植物利用調査を行なった Ashe Mayan 村 は , こ の 頃 ま で に 村 落 と し て 成 立 し て い た と 考 え ら れ る 。 植民地後期においては,保全林指定による森林の公的な囲い込み 5が行な われた。木材林産物を継続的に生産する目的で,近代森林経営が導入され, 独 立 後 も 材 積 量 算 定 と 大 径 木 の 択 伐 に よ る 森 林 経 営 が 継 続 し た 。部 分 的 に 大 径 木 の 樹 木 の 密 度 が 低 下 し た が ,マ ン グ ロ ー ブ 林 面 積 の 減 少 は 漸 次 的 で あ っ たと考えられる。 戦 後 期 は ,少 数 民 族 や 反 政 府 武 装 勢 力 が 研 究 地 域 を 掌 握 し て い た 時 期 で あ る 。森 林 局 の キ ャ ン プ( 駐 在 施 設 )は 徐 々 に 撤 退 し 管 理 機 能 が 喪 失 し て ゆ く に つ れ ,商 業 的 な 違 法 伐 採 が 急 増 し た と さ れ る 。森 林 資 源 の 実 質 的 な 無 主 化 が,マングローブ林の劣化と減少を加速したと言える。 1970 年 代 か ら 1989 年 ま で の ,社 会 主 義 的 経 済 政 策 に よ り ミ ャ ン マ ー 経 済 5 「 柵 や 壁 に よ る 土 地 の 物 理 的 な 囲 い 込 み =enclosure」 で は な く ,「 森 林 資 源 に ア ク セ ス す る 権 利 の 消 滅 =inclosure( 室 田 ・ 三 俣 , 2004)」 の 意 味 で あ る が , 一 般 的 な 「囲い込み」の語を使用した。 - 72 - 第3章 は 停 滞 し た と さ れ る 。政 府 は マ ン グ ロ ー ブ 林 域 の 施 政 を 掌 握 し た が ,エ ネ ル ギー需要のひっ迫した首都ヤンゴンなどの都市部の燃料材の生産地として, 合 法・非 合 法 の 過 剰 伐 採 が 進 ん だ 。ま た ,有 望 な 食 糧 生 産 地 と 目 さ れ ,政 策 的 な マ ン グ ロ ー ブ 林 の 水 田 化 圧 力 が あ っ た 。森 林 経 営 と 食 糧 確 保 に お い て 政 策 一 貫 性 を 欠 く な ど ,「 政 府 の 失 敗 」 に よ り マ ン グ ロ ー ブ 林 の 劣 化 と 減 少 が 急激に進んだ時代と言える。 1989 年 以 降 , 今 日 ま で 市 場 経 済 化 政 策 が 進 め ら れ て お り , 森 林 政 策 に お い て も 市 場 イ ン セ ン テ ィ ブ の 導 入 が 図 ら れ て い る 。新 た な 森 林 法 と 住 民 林 業 令 が 制 定 さ れ ,森 林 管 理・利 用 権 の 一 部 が 公 的 独 占 か ら 住 民 や 民 間 に 委 譲 さ れ る こ と と な っ た 。ま た 野 生 生 物・自 然 地 域 保 護 法 に よ り ,森 林 の 多 面 的 価 値 の 保 護 と 利 用 の 枠 組 が 形 成 さ れ た 。し か し な が ら ,域 内 の 人 口 増 加 と 市 街 地 の 燃 料 需 要 増 加 の 傾 向 は 続 き ,木 材 林 産 物 の 商 業 的・収 奪 的 利 用 は 続 い て いる。 「 森 林 管 理 略 史 」 を , Table 3.11 に ま と め る 。 Table 3.11 森林管理略史 年代 時代区分 出来事 Bogalay村成立(1757) Pyindaye成立(1780頃) 位置付けと特徴 【広大な自然林】 半農半漁民が点在 ∼1852 王朝期 1852∼ 1900頃 植民地前期 英国併合(1852)「国有地宣言」 下ビルマ土地租税法(1876) 【部分的な自然林の破壊】 移住・開拓による水田化開始 1900頃 ∼1948 植民地後期 Pyindaye保全林設定(1900) 森林法(1902) 林学教育訓練課程設置(1923) 日本占領(1942∼1945) 【マングローブ林の公的管理】 森林の公的囲い込み 大径木択伐による近代林業の導 入 1948 ∼1970's 戦後期 ビルマ連邦の独立(1948) 【森林劣化の進行】 森林局Pyindayeから撤退(1958∼) 森林経営機能の喪失 軍政・社会主義経済導入(1962) 違法な商業伐採の急増 【公的管理の失敗】 都市への燃料材供給 社会主義期 食糧増産政策による水田化加速 急激な森林劣化・減少 社会主義の放棄(1989) 【新たな管理枠組の試行】 森林法(1992) 劣化・減少傾向の継続 1990頃∼ 市場経済導入期 野生生物・自然地域保護法(1994) 利用・管理権の住民への委譲 住民林業令(1995) 森林資源の多面的利用 1970's ∼1990頃 社会主義政策強化(1974) 閉鎖経済化 出典: Tan Chein Hoe(1952); 篠原(1981); 根本・斎藤(1983); 奥平(1983); Win Win Khine (1995); 樫 尾(1998); 池本(2000); Mya Than(2002),およびインタビューをもとに筆者作成。 時代区分は,根本・斎藤(1983),Mya Than(2002)および水野(2003)を参考にした。 - 73 - 第3章 ( 2) 土 地 法 制 の 変 遷 1852 年 以 前 の 王 朝 期 に は , 「 王 領 地 」, 「 共 的 利 用 が 可 能 な 荘 園 」, 「 私 有 地 」, 「 未 利 用 地 」の 4 種 類 の 土 地 が あ っ た 。デ ル タ に お い て は 開 拓 と 耕 作 の 事 実 を 権 原 と す る ,「 ダ マ ウ ー ジ ャ( dama-u-gya)」と 呼 ば れ る 伝 統 的 土 地 慣 行 に よ り 土 地 の 私 有 化 が 認 め ら れ て い た ( Mya Than, 2002)。 1852 年 ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ を 含 む 下 ビ ル マ 6 が イ ギ リ ス 領 と な り ,植 民 地 政 府 の「 国 有 地 宣 言 」に よ り す べ て の 土 地 の 所 有 権 が 国 に 帰 属 し た( 篠 原 , 1981)。こ れ に よ り ,制 度 上 の ダ マ ウ ー ジ ャ は 消 失 し た( 岡 本 , 1997; Mya Than, 2002)。成 文 法 と し て は ,1876 年 ,「 下 ビ ル マ 土 地 租 税 法 」に 土 地 の 国 有 が 定 め ら れ た 。 以 降 1988 年 ま で , い ず れ の 土 地 関 係 法 に よ っ て も 基 本 的 な 制 度 の 枠 組 み に 変 化 は な く ( 斉 藤 , 1962; Mya Than, 2002), 現 在 も 土 地 の 私 有 は な い ( 鶴 , 1993)。 下 ビ ル マ 土 地 租 税 法 ( 1876) 7 に お い て , 所 有 権 ( proprietary right) と 占 有 権 ( possessory right) の 中 間 的 な 性 格 を 持 つ , 土 地 の 保 有 権 ( landholder's right)が 設 定 さ れ た 。保 有 権 に は ,所 有 権 と 同 様 に 用 益 権 や 処 分 権 な ど が 含 まれるが,排他性がなく国家の介入が可能である。権利の取得と保持には, 継 続 し て 12 年 間 の 占 有 と い う 現 実 的 支 配 が 必 要 で あ っ た 。 土 地 保 有 権 の 性 格 と 保 有 権 獲 得 の 条 件 は , ダ マ ウ ー ジ ャ と 似 通 っ て い た ( 斉 藤 , 1962; 岡 本 , 1997; Mya Than, 2002; 水 野 , 2003)。 現 在 の 研 究 地 域 の 土 地 は , 土 地 記 録 査 定 局 8 が 管 理 す る 「 農 地 」, 総 務 局 が 管 理 す る「 集 落 域 」,森 林 局 会 11 10 9 が 管 理 す る「 森 林 地 」,お よ び 都 市 開 発 委 員 が 管 理 す る「 市 街 地 」の 4 つ に 区 分 さ れ て い る 。農 地 ,集 落 域 ,市 街 地 において土地を保有する場合,1 エーカー 12 当 た り 年 2.5 チ ャ ッ ト 13 の地租 ( land revenue) が 徴 税 さ れ て い る 。 森 林 地 に お け る 居 住 , 耕 作 な ど の 占 有 6 下 ビ ル マ ( Lower Burma) と 上 ビ ル マ ( Upper Burma) は , エ ー ヤ ワ デ ィ ー 川 流 域 を 上 下 に 分 け る 地 理 的 概 念 で あ る 。地 域 文 化 や 住 民 意 識 が 異 な り ,イ ギ リ ス の 植 民 地 行 政 も そ れ に 応 じ た あ り 方 で 行 わ れ た 。下 ビ ル マ は ,現 在 の エ ー ヤ ワ デ ィ ー 管 区 , ヤ ン ゴ ン 管 区 , バ ゴ ー 管 区 と モ ン 州 北 部 に 相 当 す る ( 伊 東 , 1983)。 7 The Lower Burma Land and Revenue Act, 1876 8 Land Record and Settlement Department, Ministry of Agriculture and Irrigation 9 General Administration Department, Ministry of Home Affairs 10 Forest Department, Ministry of Forestry 11 City Development Committee, Ministry for Progress of Border Areas and National Races and Development Affairs 12 1 acre = 0.405 ha 13 1000 チ ャ ッ ト = 約 1 ド ル ( 2005 年 換 算 値 )。 地 租 額 は 被 面 接 者 2 の イ ン タ ビ ュ ーに基づく。 - 74 - 第3章 に 対 し て は , 1 エ ー カ ー 当 た り 年 250 チ ャ ッ ト の 罰 金 ( fine) て い る ( Itv.1∼ 3. 15 14 が課せられ )。 ( 3) 森 林 資 源 の 法 的 枠 組 生 物 資 源 は 土 地 や 水 域 と い う 場 に 存 在 す る 資 源 で あ る 。生 物 資 源 を め ぐ る 法 的 な 枠 組 お よ び 行 政 は ,森 林 ,水 系 ,市 街 地 な ど に 応 じ て 異 な る 。原 則 と し て ,森 林 の「 土 地 」お よ び「 生 物 ・ 生 態 系 」の 保 全 に つ い て は 林 業 省 森 林 局 が ,森 林 域 の 魚 類 な ど「 水 系 の 生 物 資 源 」に つ い て は 畜 水 産 省 水 産 局 が 管 轄 し て い る 。た だ し ,野 生 生 物 保 護 区 等 に お い て は , 「 土 地 」お よ び「 生 物 ・ 生 態 系 全 般 」の 保 護 ・ 保 全 ,研 究 ,観 光 利 用 等 を 森 林 局 が 扱 う 。市 街 地 ,集 落域,耕作地などの「森林以外の土地」については,森林局の所管外だが, 街 路 の「 樹 木 」や 屋 敷 地 か ら 産 出 さ れ る「 木 材 」に つ い て は 一 定 の 管 理 を 行 う。 こ れ ら 機 能 別 の 行 政 機 関 に 加 え ,管 区 の 平 和 発 展 評 議 会 16 が土地と生物資 源 の 管 理 に 大 き な 権 限 を 持 つ 。国 軍 が 直 轄 す る 評 議 会 は 地 域 の 実 質 的 な 最 高 権 力 機 関 で あ り ,時 に 既 存 の 法 体 系 を 超 え る 実 効 性 を 持 つ「 命 令 」を 発 す る 。 現 在 の ミ ャ ン マ ー に お け る ,森 林 の 生 物 資 源 の 保 護 お よ び 利 用 に 係 る 法 令 と ,資 源 利 用 の あ り 方 の 規 定 を Table 3.12 に 示 す 。研 究 地 域 の エ ー ヤ ワ デ ィ ー 管 区 ・ Bogalay 郡 に お い て は , 2 つ の 保 全 林 ( Pyindaye 保 全 林 , Kadonkani 保 全 林 )と ,1 つ の 自 然 地 域 が( Meinmahla 島 野 生 生 物 保 護 区 )が 存 在 す る 。 森 林 法 ( 1902) ミ ャ ン マ ー に お い て は , 1852 年 の 植 民 地 化 以 降 , 一 切 の 森 林 と 林 産 物 は 国 家 の 所 有 で あ る ( 国 有 地 宣 言 )。 1902 年 に 交 付 さ れ 90 年 間 効 力 を 有 し て い た 森 林 法 は ,森 林 を「 保 全 林( Reserved Forest)」と「 公 共 林( Public Forest)」 14 エ ー ヤ ワ デ ィ ー 管 区 に お け る 根 拠 法 令 は ,「 KyuKyaw Myay DanNgwe NyonKya Chat」( 仮 訳 : 土 地 侵 害 罰 金 令 ) 1983, 森 林 局 エ ー ヤ ワ デ ィ ー 管 区 林 務 長 官 命 令 。 法 令 上 の 罰 金 額 は 200 チ ャ ッ ト で , 50 チ ャ ッ ト は 根 拠 を 欠 く 徴 収 と の 指 摘 が , 被 面 接 者 3( 注 9) か ら あ っ た 。 15 Itv.1, Itv.2, Itv.3: そ れ ぞ れ 被 面 接 者 1, 2, 3 を 示 す 。 16 Peace and Development Council。 国 軍 ク ー デ タ ー ( 1988) に よ り 設 立 さ れ た , 軍 事 政 権 に よ る 立 法・行 政 機 関 。中 央 政 府( State),州・管 区( Division),県( District), 郡 ( Township), 村 区 ( Village Tract) の , 各 レ ベ ル に お い て 組 織 さ れ て い る 。 中 央 政 府 に お い て は 国 家 平 和 発 展 評 議 会( SPDC:State Peace and Development Council)。 国 家 法 秩 序 回 復 評 議 会( SLOC:State Law and Order Restoration Council)か ら ,1997 年に改称。 - 75 - 第3章 に区分していた。保全林においては,森林局の管理下で用材生産が行われ, 住 民 は 樹 木 お よ び 森 林 に 損 傷 を 与 え る 全 て の 行 為 が 禁 止 さ れ て い た 。一 方 公 共 林 に お い て は ,住 民 の 自 家 的 な 森 林 資 源 利 用 や 土 地 利 用 の 転 換 が 許 さ れ て い た ( 谷 , 1998; 池 本 , 2000; JICA, 2005)。 Table 3.12 生物資源をめぐる法的枠組 自給利用 商業利用 人為活動 観光・研究 野生生物・自然地域保護法 野生生物保護区 (Wildlife Sanctuary) × 許可制 × × × × × × 許可制 許可制 植物資源 動物資源*2 植物資源 動物資源*2 造林 居住 開墾・耕作地化 土地売買 自然科学調査 観光 森林地 森林法(1992) 保全林 (Reserved Forest) ○*1 ○ 許可制 許可制 ○ (森林局) × × × 許可制 許可制 住民林業令(1995) 保全林内の共有林 (Community Forest) ○ (U.G.) ○ (U.G.) ○ (U.G.) ○ (U.G.) ○ (U.G.) × × × - 集落域 耕作地,ホームガーデン ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ - ○:可,×:不可,U.G.:利用者グループ *1:森林法は利用を認めているが,管区行政機関命令は樹木の伐採・採集を禁止する。 *2:森林法は,水産資源を扱っていない。 出典: 森林法(1992),野生生物・自然地域保護法(1994),住民林業令(1995),池本(2000),大西(2003),谷(1998),およびインタビューをもとに筆者作成 森 林 法 ( 1992) 17 従 来 の 公 的 管 理 に よ る 森 林 の 用 材 生 産 機 能 の 重 視 か ら ,住 民 な ど 民 間 に よ る 森 林 管 理 や ,環 境・生 物 多 様 性 の 保 護 等 の 視 点 を 加 え た 森 林 政 策 を 進 め る た め に 新 た に 公 布 さ れ た 。「 保 全 林 ( Reserved Forest)」 は 環 境 保 全 と 用 材 生 産 を 目 的 と し ,住 民 の 自 家 的 な 森 林 資 源 利 用 を 一 定 量 ま で 認 め た 。一 方 公 共 林 は ,「 公 共 保 護 林 ( Protected Public Forest)」 と し て 保 護 的 な 側 面 が 強 調 さ れた管理がなされるようになった。しかしながら,保全林は全森林面積の 34.4% , 公 共 保 護 林 は 6.2% と ,「 未 分 類 の 森 林 ( Unclassified Forest)」 が 大 部 分 で あ る 。 一 部 の 保 全 林 に お い て は , 保 護 区 ( Protected Area), 特 別 管 理 区 ( Special Management Area), 多 目 的 利 用 帯 ( Multiple Use Zone), 緩 衝 帯 ( Buffer Zone)を 設 け ,前 2 者 に お い て 森 林 局 が 森 林 経 営 と 環 境 保 全 を ,多 目 的 利 用 帯 に お い て 住 民 林 業 の 実 施 が 図 ら れ て い る ( 池 本 , 2000; 大 西 , 2003; JICA, 2005)。 野 生 生 物 ・ 自 然 地 域 保 護 法 ( 1994) 18 17 The Forest Law, the State Law and Order Restoration Council Law No. 8/92, 3rd November, 1992 18 The Protection of Wildlife and Protected Area Law, the State Law and Order - 76 - 第3章 環 境 お よ び 生 物 多 様 性 の 保 全 を 目 的 に , 自 然 地 域 ( Natural Area) が 指 定 さ れ て い る 。原 則 的 に 動 植 物 資 源 は 保 護 さ れ ,学 術 調 査・研 究 や エ コ ツ ー リ ズムなどの森林サービスの活用は許されている。 住 民 林 業 令 ( 1995) 19 森 林 法( 1992)に 基 づ い て ,森 林 局 ・ 局 長 が 発 し た 政 令 で あ る 。ミ ャ ン マ ー に お け る「 住 民 林 業 」の 根 拠 規 定 で あ る 。地 域 住 民 に 認 め ら れ た 主 な 権 利 は ,保 全 林 等 内 に お け る 共 有 林 の 造 成( 植 林 や 育 林 )と 維 持 管 理 ,共 有 林 の 林 産 物 の 採 集 ・ 利 用 お よ び 村 内 で の 販 売 , 30 年 間 ( 延 長 可 能 ) の 共 有 林 の 借 地 ・ 用 益 権 で あ る 。ま た ,課 せ ら れ た 義 務 は ,造 林 活 動 ,保 育 作 業 ,林 地 の 保 護 ,効 率 的 な 伐 採 利 用 ,管 理 計 画 の 策 定・履 行 お よ び 活 動 記 録 と 報 告 で あ る 。 住 民 が 組 織 す る 利 用 者 グ ル ー プ ( User Group) が , 共 有 林 の 管 理 計 画 を 立 案・実 施 す る 一 方 ,森 林 局 は 認 可 業 務 ,お よ び 種 苗 の 提 供 と 技 術 指 導 を 行 う と 規 定 さ れ て い る ( 池 本 , 2000; JICA, 2005)。 ( 4) 森 林 資 源 利 用 の 実 態 エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 域 に お い て は ,法 的 枠 組 と は 相 違 す る 資 源 利 用 が , 広 範 に 継 続 的 に 行 わ れ て い る 。 Table 3.13 に エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の 保 全 林 の 資 源 利 用 を め ぐ る 法 令 と ,住 民 に よ る 習 慣 的 な 資 源 利 用 を 示 す 。 ま た , Ashe Mayan 村 周 辺 を 例 と し て , Fig. 3.15 に 制 度 的 土 地 区 分 お よ び 村 落 分 布 を , Fig. 3.16 に 土 地 制 度 と 土 地 利 用 の 実 態 を そ れ ぞ れ 示 す 。 Table 3.13 エーヤワディーデルタ保全林をめぐる法令と,資源利用の現状 占有地における習慣 法令 自給利用 植物資源 動物資源 商業利用 植物資源 動物資源 備考 備考 人為活動 造林 居住 開墾・耕作地化 土地売買 備考 *1 占有者 (土地持ち村民) ● ● × ○ 1992以降森林法で 1992年以前から長期間行われてきた。 認められた。 ● ×*1 許可制 ● 公的許可を取得しない違法な採捕。 *1 森林局の取締を回避しつつ行う者がいる。 ○ (森林局) ● × ● × ● × ● 罰金(Ks.250/y・ac.)*2の継続的支払。 数十年の継続的占有,相続,売買の例有り。 占有地への侵入者 (土地無し村民) ◆ ◆ 占有者の了解が必要。 了解なしの事例(盗み)が時々発生。 ◆ ◆ 占有者の了解が必要。(通常了解しない) ◆ ◆ ◆ ◆ 残存する非占有地は少ない。 違法伐採跡地,放棄水田等への移住はある。 ●:行う,◆:行わない *1:管区行政機関命令(1993)は,樹木の伐採による資源の自給・商業利用を禁止する。 *2:1000チャット≒1ドル(2005年) 出典:インタビューをもとに筆者作成。 Restoration Council Law No. 6/94, 8 t h June, 1994 19 Community Forestry Instructions, 1995, Union of Myanmar, Ministry of Forestry, Forest Department - 77 - 第3章 保全林 ◎ ◎ N 15° 49′ ● ◎ ●Ashe Mayan村 Pyindaye 保全林 ◎ 集落域 ● ◎ 村落(第2次大戦以前の成立) 村落(第2次大戦以降の成立) 林班(森林局の管理単位)境界 ◎ E 95° 26′ 0 出典:JICA(2005)を筆者改変 5 km Fig. 3.15. 制度的土地区分と村落分布 土地制度 国有地 保全林 集落域 マングローブ林 利用実態 宅地 宅地 ホームガーデン ホームガーデン 放棄地 水田・畑地 水田・畑地 共有林 ニッパプランテーション ニッパプランテーション 私的占有地(違法) 私的保有地(合法) *研究地域には公共保護林はない Fig. 3.16. 土地制度と土地利用実態 出典:筆者作成 エ ー ヤ ワ デ ィ ー 管 区 平 和 発 展 評 議 会 命 令 ( 1993) 1993 年 , 植 林 や 育 林 後 の 樹 木 の 伐 採 を 除 き , 管 区 内 の マ ン グ ロ ー ブ 樹 種 の 伐 採 と 炭 焼 き 釜 建 設 ,お よ び 炭 焼 き が 禁 止 さ れ た 。森 林 法( 1992)は , 「商 業 規 模 で な い 家 事 ,農 業 ,漁 業 上 の 利 用 に は ,規 定 さ れ た 量 ま で の 森 林 産 物 を , 許 可 を 得 る こ と な く 採 集 で き る 。」 と し て い る 。 し か し な が ら , 管 区 内 - 78 - 第3章 の マ ン グ ロ ー ブ 林 に お い て は ,こ の 命 令 に よ り ,住 民 の 自 給 利 用 が 伐 採 を 伴 う場合には許されていない。 習慣的な森林資源利用 マ ン グ ロ ー ブ 保 全 林 内 に は ,違 法 な 開 拓・移 住 が 行 わ れ た 結 果 ,村 落 が 形 成 さ れ て き た ( Fig. 3.15)。 新 た な 村 落 の 成 立 時 期 は い ず れ も 第 2 次 世 界 大 戦 以 降 で あ っ た 。現 在 村 落 は ,開 拓 も し く は 相 続 あ る い は 購 入 に よ り 土 地 を 占有している村民(=土地持ち村民)と,土地持ち村民の占有地に居住し, 被 雇 用 の 農 業 労 働 や 漁 撈 を 行 う 土 地 無 し 村 民 に よ り 構 成 さ れ て い た 。ほ と ん ど の 村 人 は ,保 全 林 の 境 界 を 認 識 し て お ら ず ,土 地 持 ち 村 民 は「 父 親 の 世 代 」 ま で ,ダ マ ウ ー ジ ャ と い う 土 地 慣 行 に よ り 開 拓・移 住 を し て い た と 誤 認 し て い た ( Itv.1∼ 3)。 保 全 林 内 の 宅 地 や ホ ー ム ガ ー デ ン ,耕 作 地 ,プ ラ ン テ ー シ ョ ン な ど の 占 有 地 は ,森 林 局 に 毎 年 罰 金 を 支 払 う こ と で 維 持 さ れ て い た 。占 有 地 の 相 続 や 売 買 が な さ れ , 50 年 以 上 占 有 が 継 続 さ れ て い る 例 も あ っ た 。 ホ ー ム ガ ー デ ン や 共 有 林 に お け る 植 林・育 林 を 除 き ,広 大 な 潮 間 帯 に お け る マ ン グ ロ ー ブ の 植林は行なわれていなかった。 土 地 持 ち 村 民 は ,そ れ ぞ れ の 占 有 地 に お い て 自 給 を 目 的 と し た 植 物 資 源 の 伐 採 ,採 集・利 用 を 日 常 的 に 行 っ て い た が ,林 務 官 は 黙 認 し て い た 。村 外 へ の 持 ち 出 し を 伴 う 商 業 伐 採 や 製 材 を 林 務 官 は 取 り 締 ま り 罰 金 を 課 す が ,密 か に 行 う 村 人 が い た 。土 地 無 し 村 民 は ,動 植 物 資 源 の 利 用 権 を 欠 く た め ,土 地 持 ち 村 民 の 了 解 を 得 て 自 給 的 な 利 用 を 行 っ て い た 。了 解 を 得 な い 資 源 の 採 捕 は 「 盗 み 」 と さ れ ,「 村 の 掟 」 に よ り 処 分 20 されていた。 ( 5) 考 察 − 資 源 管 理 制 度 の 在 地 性 Mather( 1990)は ,所 有 と 利 用 を め ぐ る 歴 史 的 な 制 度 変 遷 に つ い て ,森 林 所 有 の 一 般 的 性 格 と 所 有 形 態 の 時 系 列 的 な 展 開 モ デ ル を 示 し て い る ( Fig. 3.17)。Matherに よ れ ば ,森 林 の 所 有 形 態 は 初 期 状 態 に お け る 共 的 所 有 か ら , 国 家 の 公 的 所 有 を 経 て 私 的 所 有 の 段 階 へ 移 行 す る 。国 有 化 は ,植 民 地 政 府 に よ り な さ れ る 場 合 も あ る 。ま た ,共 的 所 有 か ら 私 的 所 有 へ の 直 接 的 な 展 開 も ある。 20 「掟」による処分は,村道の維持や被害者の占有地の除草などの作業の場合が 多い。 - 79 - 第3章 Fig. 3.17. 森林所有,利用目的,森林ステージの時系列モデル 出典: Mather(1990)から抜粋 王朝期のデルタにおいては,広大なマングローブの「未利用地」の中に, ダ マ ウ ー ジ ャ に よ る「 私 有 地 」が 点 在 し ,私 有 地 周 辺 に お け る マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 は ,自 給 的 利 用 に は 十 分 で あ っ た と 解 釈 で き る 。す な わ ち ,無 尽 蔵 と も 言 え る 土 地 と 森 林 資 源 の 先 取 が 行 わ れ て お り ,デ ル タ の 初 期 状 態 に お い ては共的管理はなされていなかったと見られる。 植 民 地 前 期 の 国 有 化( 1852年 )自 体 は ,人 口 の 希 薄 な デ ル タ に あ っ て 土 地 の 囲 い 込 み の 性 格 を 持 た な か っ た が ,下 ビ ル マ 土 地 租 税 法( 1876)に 基 づ く 国 有 林 の 開 拓 と 土 地 保 有 は ,土 地 の 私 的 な 囲 い 込 み と 解 釈 で き る 。保 有 権 の 性 格 と 獲 得 条 件 は そ れ ま で と 同 様 で あ り ,ダ マ ウ ー ジ ャ の 消 失 は 意 識 さ れ ず , 森 林 資 源 の 先 取 と 保 有 の 伝 統 的 習 慣 が 継 続 し た と 言 え る 。し た が っ て ,植 民 地 前 期 の 実 質 的 な 所 有 形 態 は ,国 有 林 内 に お け る 森 林 資 源 の 私 的 所 有 だ と 言 える。 植 民 地 後 期 に 保 全 林 と さ れ た マ ン グ ロ ー ブ 林 に お い て は ,現 在 も 開 拓 と 保 有 は 許 さ れ て い な い 。し か し な が ら ,現 在 で も 保 有 林 の 境 界 は 村 人 に 認 識 さ れず,近年までダマウージャが生きていたと誤認されていた。違法占有は, 小 額 の 罰 金 で 森 林 局 に 黙 認 さ れ て い た 。し た が っ て ,植 民 地 後 期 以 降 の 実 質 的な所有形態は,保全林内における森林資源の私的所有だと言える。 1990 年 代 以 降 の 新 た な 森 林 法 ( 1992) と 住 民 林 業 令 ( 1995) は , 国 有 林 内の「土地の長期保有」と「林産物の所有権」を住民に認めるものである。 公 的 管 理 下 の 産 業 的 林 業 が 行 な わ れ る 保 全 林 内 に ,共 有 林 が 導 入 さ れ ,社 会 - 80 - 第3章 林業が並列して展開している。 近年までのエーヤワディーデルタにおけるマングローブ資源の所有形態 は ,制 度 と し て は「 オ ー プ ン ・ ア ク セ ス と 先 取 に よ る 私 有 ・ 保 有 」か ら ,国 有 へ と 展 開 し て き た 。し か し な が ら ,実 質 的 に は 人 間 の 関 与 が 始 ま っ て 以 来 一 貫 し て 「 オ ー プ ン ・ ア ク セ ス と 先 取 に よ る 私 有 」 で あ り ,「 住 民 に よ る 伝 統 的 な 共 的 管 理 制 度 = コ モ ン ズ 」の 醸 成 過 程 が ,地 域 に ほ と ん ど な か っ た と 言 え る 。1990年 代 以 降 の 社 会 林 業 の 導 入 は ,コ モ ン ズ と し て の マ ン グ ロ ー ブ 資源管理の創造だと言える。 3.5 ま と め 生態系の特異性 1. 特 異 な 立 地 環 境 と し て 第 1 に , 雨 季 と 乾 季 の 極 端 な 降 雨 差 と 河 川 流 量 差 に よ る 通 年 の 水 路 の 低 塩 分 濃 度 が 指 摘 で き る 。第 2 に ,水 文 特 性 に 季 節 風 が 加 わ り 生 じ る ,乾 季 の 冠 水 影 響 が 微 少 な 潮 間 帯 高 地 の 割 合 の 卓 越 が あ げ ら れ る。 2. エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の 特 異 な 立 地 環 境 に 対 応 し 生 存 す る マ ン グ ロ ー ブ の 植 物 個 体 群 の 中 核 は ,ベ ン ガ ル 湾 岸 の 地 域 固 有 種 の Heritiera fomes で あ る 。 地 域 で 卓 越 す る H. fomes 優 占 林 は ,純 マ ン グ ロ ー ブ と 淡 水 湿 地 林 構 成 種 を 随 伴する東南アジアでは異質なマングローブ林である。 3. 海 岸 帯 前 縁 部 の マ ン グ ロ ー ブ 域 を 特 徴 付 け る 地 形 は , 膨 大 な 掃 流 土 砂 が 形成した浜堤列である。 在地の空間 4. デ ル タ 海 岸 帯 の 在 地 の 空 間 は , マ ン グ ロ ー ブ 林 と ホ ー ム ガ ー デ ン を 主 要 な 景 観 要 素 と し ,集 落 の あ る 浜 堤 の 両 側 に 並 列 す る 2 つ の 浜 堤 に 挟 ま れ ,列 の 直 交 方 向 に 広 が る 領 域 で あ る 。在 地 の 空 間 は ,水 路 の 連 絡 に よ り 浜 堤 を 隔 てて連結される。 資源管理の歴史性 5. 植 民 地 後 期 か ら 続 く 保 全 林 に お け る 公 的 管 理 下 で , 戦 後 商 業 伐 採 に よ る 森 林 破 壊 が 進 ん だ 。 1970 年 代 以 降 に は , 一 貫 性 を 欠 く 政 策 が 域 外 向 け の 燃 - 81 - 第3章 料材と食糧生産による森林破壊を加速した。 6. マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 所 有 形 態 は , 人 為 の 開 始 以 来 一 貫 し て 実 質 的 に 「 オ ー プ ン・ア ク セ ス と 先 取 に よ る 私 有 」で ,共 的 な 管 理 制 度 を 醸 成 し た 歴 史 は な か っ た 。近 年 の 社 会 林 業 の 導 入 は ,マ ン グ ロ ー ブ の コ モ ン ズ の 創 造 で あ る 。 7. 現 在 の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 所 有 と 利 用 は , 法 制 度 に 従 っ て い な い 実 態 が あ る 。森 林 法 に 従 っ た 住 民 の 自 給 的 マ ン グ ロ ー ブ 利 用 は ,軍 の 命 令 に よ り 禁 止 さ れ て い る 。一 方 で ,伝 統 的 習 慣 に よ る 森 林 資 源 の 占 有 が ,違 法 に 継 続 し ている。 8. 違 法 な 保 全 林 の 土 地 占 有 者 は , マ ン グ ロ ー ブ 伐 採 後 の 資 源 の 維 持 ・ 再 生 を行なわず,持続可能なマングローブ資源管理が損なわれている。 - 82 - 第4章 マングローブの更新特性 本章中のHeritiera fomesの萌芽特性研究は,以下の査読付き論文として公表済みである。 大野勝弘・藤原一繪. 2004. 「ミャンマー国エーヤワディーデルタの主要マングローブ樹種 Heritiera fomesの萌芽特性」. Mangrove Science 3: 33-38. 第4章 4.1 緒 言 第 3 章 に お い て ,特 異 な 立 地 環 境 に 生 育 す る マ ン グ ロ ー ブ 植 物 個 体 群 の 中 核 は ,地 域 固 有 種 の Heritiera fomes で あ る こ と が 示 さ れ た 。し た が っ て ,環 境に適合し生態的に健全で安定した地域本来のマングローブ林の回復には, H. fomes 林 の 更 新 手 法 を 探 求 す る 必 要 が あ る 。 本 章 の 目 的 は ,こ れ ま で 研 究 が 極 め て 少 な く 知 見 が 限 ら れ て い る ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の H. fomes 林 を ,自 然 更 新 や 天 然 更 新 に よ り 再 生・持 続 的 な 利 用 を 図 る た め の ,マ ン グ ロ ー ブ 植 物 ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 更 新 特 性 の 解 明 で ある。 熱 帯 地 域 に お け る 更 新 を 左 右 す る 稚 樹 の 成 長 に は ,光 が 重 要 な 因 子 と な る ( 佐 々 木 , 1994)。光 は ,植 物 が 奪 い 合 う 環 境 要 因 の う ち 最 も 競 争 に 関 係 し( 藤 森 , 1994),大 き な ギ ャ ッ プ で は 陽 樹 が 生 存・生 育 可 能 で あ る が ,小 さ な ギ ャ ッ プ で は 耐 陰 性 の 高 い 陰 樹 の み し か 生 存・生 育 で き な い( 山 本 , 2003)。本 章 でははじめに,連続的な種個体群の時間的変化が明らかにされていない Amoora cucullata-Heritiera fomes群 集 の 更 新 特 性 を ,人 為 撹 乱 を 受 け 光 環 境 が 変 化 し た 林 分 に お い て ,林 分 構 造 お よ び 群 集 を 特 徴 付 け る 樹 種 の 個 体 群 構 造 の 現 状 と 時 間 動 態 か ら 把 握 す る 。本 章 に お い て は Myint Aung( 2004)に 基 づ き ,同 群 集 を 特 徴 付 け る 樹 種 と し て 群 集 標 徴 種 の H. fomesと Amoora cucullata と , H. fomesに 次 い で 高 木 層 へ の 出 現 頻 度 が 高 い Excoecaria agallocha, お よ び Bruguiera gymnorrhiza 亜 群 集 の 標 徴 種 で あ る B. gymnorrhiza お よ び B. sexangula( 以 下 Bruguiera spp.) 1 を 選 択 し , 群 集 の 「 代 表 種 」 と す る 。 さ ら に ,更 新 過 程 を 左 右 す る 幼 時 の 耐 陰 性 に 着 目 し 実 生 更 新 と ,下 層 植 生 の 競 合 を探求する。 次 に ,H. fomes の 萌 芽 更 新 の 可 能 性 を 評 価 し ,施 業 の 基 盤 と な る 生 態 特 性 の 把 握 を 行 な う 。萌 芽 は 多 く の 樹 木 で 見 ら れ る 重 要 な 繁 殖 様 式 の 1 つ で あ る ( Kramer & Kozlowski, 1960)。萌 芽 の 成 長 が 早 い こ と は 古 く か ら 経 験 的 に 良 く知られ,萌芽力が高い広葉樹で薪炭材や小径木の生産に利用されてきた ( 伊 藤 , 1996)。H. fomes の 有 性 繁 殖 手 法 の 研 究 は ,植 林 地 に お け る 播 種 や 実 生 の 植 栽 を 通 じ 行 な わ れ て い る が ,萌 芽 更 新 な ど の 無 性 的 な 繁 殖 に つ い て は 研 究 が な さ れ て い な い 。漁 具 ,農 具 な ど の 道 具 材 や 小 柱 ,梁 等 の 小 規 模 建 材 と な り う る 小 径 木 の 生 産 に 有 効 な 萌 芽 更 新 の 可 能 性 探 求 に は ,地 域 住 民 の 生 1 2 種 の 生 育 す る 立 地 環 境 は 同 様 で あ り ( 山 田 , 1986; 藤 原 , 1989), 植 物 社 会 学 的 にも同等に扱われることから,本章においてもまとめて扱った。 - 84 - 第4章 活 と 生 業 へ の 貢 献 が 期 待 さ れ る 。ま た ,こ れ ま で 研 究 が 見 ら れ な い 萌 芽 へ の 潮 汐 の 影 響 を ,独 自 に 考 案 し た 定 量 的 手 法 に よ り 解 析 し ,萌 芽 特 性 の 生 態 的 な意味の探求を行う。 4.2 研 究 方 法 4.2.1 調 査 地 調 査 地 を Fig. 4.1 に 示 す 。 デ ル タ の 中 部 河 口 域 ( Myint Aung, 2004) で , 近 傍 水 路 の 乾 季 の 塩 分 濃 度 が い ず れ も 10 ∼ 20‰ の 「 中 程 度 の 塩 分 濃 度 ( Siddiqi, 1994) 」 に 調 査 地 点 を 設 け た 。 各 調 査 区 と も は 基 質 は 共 通 し て , 河川堆積性のシルトもしくはクレイであった。 N 16° ● ● ● A★●● ● ● ★ B ★C N ● ➢ ● ★D 0 Andaman Sea 10km E 95° 30′ Fig. 4.1. 調査地 ★: 群集の更新特性調査地(A∼D),●: Heritiera fomesの切り株萌芽特性調査地 ( 1) 群 集 の 更 新 特 性 調 査 地 は , Amoora cucullata-Heritiera littoralis 群 集 に 設 け た 4 ヶ 所 の 林 分 A か ら D( Table 4.1)で あ る 。A 区 お よ び B 区 は H. fomes が 林 冠 で 優 占 す る 閉 鎖 林 分 , C 区 は Bruguiera spp.が 優 占 す る 閉 鎖 林 分 で あ る 。 ま た D 区 は 疎 開 林 分 で , H. fomes や B. gymnorrhiza な ど の 低 木 が 散 在 す る 。 H. fomes の 閉 鎖 林 分 は 2 つ の 浸 水 ク ラ ス に 属 す る 。A 区 は 自 然 堤 防 上 の 微 高 地 に 位 置 し 浸 - 85 - 第4章 水 ク ラ ス は 4, B 区 は 後 背 低 地 に 近 い 自 然 堤 防 上 に 位 置 し 浸 水 ク ラ ス は 3 に 当 た る 。 ま た Bruguiera spp.の 閉 鎖 林 分 で あ る C 区 は , 内 陸 の 水 路 近 傍 に 位 置 し 浸 水 ク ラ ス は 3 に 当 た る 。 浸 水 ク ラ ス 4 に お い て は Bruguiera spp.の 優 占 林 分 は 見 ら れ ず( Myint Aung, 2004),調 査 区 は 設 け て い な い 。ま た ,疎 開 林 分 の D 区 は 自 然 堤 防 上 に 位 置 し ,浸 水 ク ラ ス は 4 で あ る 。浸 水 ク ラ ス が 3 の 立 地 で は ,調 査 区 と し て 適 当 な ,回 復 過 程 に 在 る 疎 開 林 分 を 見 出 す こ と は で き な か っ た 。な お ,浸 水 ク ラ ス は 林 務 官 お よ び 住 民 か ら 聞 き 取 っ た 乾 季 の 浸水頻度と雨季の最大水位から判断した。 Table 4.1 調査林分の概要 調査区 位置 (北緯) (東経) 立地 土壌 調査区サイズ (m) 森林タイプ 最高高潮位 (cm) 潮汐により冠水する 日数/月 (乾季) ワトソンの浸水クラス 近隣水路の塩分濃度 (W/V ‰) (乾季) A 15°56′29″ 95°16′03″ Byonehmwe島 自然堤防上 B 15°58′35″ 95°16′14″ Byonehmwe島 自然堤防上 C D 15°49′38″ 15°48′07″ 95°26′25″ 95°28′10″ Wege村 (Pyindaye) Kywete村 (Pyindaye) 内陸 自然堤防上 シルト・クレイ /河成堆積物 12×12 2次林 40 シルト・クレイ /河成堆積物 10×20 2次林 65 シルト・クレイ /河成堆積物 10×10 2次林 55 シルト・クレイ /河成堆積物 7.5×15 2次林 30 10日未満 10日以上 14日 4日∼6日 4 3 3 4 10 10 15 17 林 務 官 お よ び 住 民 の イ ン タ ビ ュ ー に よ っ て 把 握 し た ,各 調 査 区 の 履 歴 と 保 護 開 始 時 の 状 態 を Table 4.2 に 示 す 。 保 護 開 始 時 の 状 態 は , 樹 木 の サ イ ズ を 胸 高 直 径( dbh)に よ り ,大 径 木( dbh:15 cm− ),中 径 木( 同:10− 15 cm), 小 径 木( 同:5 cm− 10 cm)の 3 段 階 に 区 分 し ,各 サ イ ズ の H. fomes と Bruguiera spp.の 残 存 程 度 で 示 し た 。 4 つ の 調 査 区 林 分 は ,伐 採 を 禁 止 し 保 護 さ れ た 状 態 に あ る 。調 査 地 域 で は , 1960 年 代 以 降 に 大 径 木 か ら 順 次 行 わ れ た 択 伐 が , 資 源 の 維 持 を 上 回 る 過 剰 な 速 さ で 進 ん だ 。A 区 ,B 区 は ,1991 年 か ら 林 務 官 が 近 隣 に 駐 在 し 公 的 に 保 護 さ れ て き た 。保 護 開 始 時 は ,H. fomes の 小 径 木 に 中 径 木 が 混 交 す る 閉 鎖 林 で , B. gymnorrhiza の 小 ・ 中 径 木 が 稀 に 出 現 し て い た 。 C 区 は , 1990 年 頃 か ら 森 林 の 占 有 者 に よ り 私 的 に 保 護 さ れ て き た 。 初 期 に は , Bruguiera spp.の 小 径 木 を 主 に , 中 径 木 と H. fomes の 小 径 木 が 混 交 す る 閉 鎖 林 で , H. fomes の 中 ・ 大 径 木 が 稀 に 出 現 し て い た 。 D 区 で は 過 剰 な 択 伐 が 続 い た 後 , 2001 年 か ら 共 有 林 ( Community forest) と な り , 住 民 に よ る 保 護 が 始 ま っ た 。 保 護 開 始 ま で に ,中 径 木 以 上 の 全 て と 小 径 木 の ほ と ん ど の 樹 木 が 伐 採 さ れ ,わ - 86 - 第4章 ず か に 残 っ た H. fomes に ま れ に Bruguiera spp.等 が 出 現 す る 小 径 木 の 疎 開 林 と な っ て い た 。 下 層 に は H. fomes 等 の 小 径 の 切 り 株 が 散 在 し , 1.5∼ 2 m ほ ど の 低 木 や つ る 植 物 に 覆 わ れ た ヤ ブ 状 を 呈 し て い た 。ま た ,保 護 開 始 時 に 下 刈 り と つ る 切 り が 行 わ れ た 。 現 在 D 区 の H. fomes に は , 切 り 株 萌 芽 か ら 樹 体 を 回 復 し た 個 体 や ,樹 体 下 部 に 旺 盛 な 萌 芽 シ ュ ー ト を 生 じ た 個 体 が 多 数 観 察される。 Table 4.2 調査林分の履歴と保護開始時の状態 調査区 保護・管理開始時の状態 保護・管理の状態 L 1991年 公的管理 放置(自然更新) 以降 閉鎖林 C 1990年 私的管理 放置(自然更新) 以降 閉鎖林 M S D 2001年 共同管理 下刈り,その後放置 以降 (自然更新) 疎開地 M S A, B M S L L 2001年にツル切り・ H. fomes Bruguiera sp. + ++ r r + r r r + ++ r ++: 高密度(インタビュー時の表現(以下同様):そこかしこに沢山),+: 中密度(容易に見つかる), r: 低密度(探せば見つかる),-: 消失(探しても見つからない) L: 大径木(dbh: 15 ㎝-),M: 中径木(10-15 ㎝),S: 小径木(5-10 ㎝) ( 2) 萌 芽 更 新 特 性 Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 に お い て , 様 々 な 浸 水 ク ラ ス の 盗 伐 林 分 を 探 索 し Byonehmwe 島 に 2 ヶ 所 , Meinmahla 島 に 5 ヶ 所 , Pyindaye 地 域 に 2 ヶ 所 の ,計 9 ヶ 所 に 調 査 区 を 設 け た 。切 り 株 上 層 は 疎 開 し 陽 光 条 件 は 同様と判断された。 4.2.2 調 査 方 法 ( 1) 群 集 の 更 新 特 性 本 研 究 で は , 樹 高 が 1.3 m 未 満 の 樹 木 を 実 生 , 1.3 m 以 上 の 樹 木 を 幼 樹 , ま た , 樹 高 が 1.3 m 以 上 で 胸 高 直 径 が 5 cm 以 上 の 樹 木 を 成 木 と 定 義 す る 。 樹 体 の 下 部 に お け る 分 枝 や 萌 芽 に よ り ,地 上 高 1.3 m 以 上 の 複 数 幹 を 持 つ 個 体 を 株 立 ち 個 体 と 定 義 す る 。株 立 ち 個 体 の 幼 樹 と 成 木 の 区 分 は ,個 体 中 の 全 て の 幹 の 胸 高 断 面 積 の 和 を も と に ,単 幹 個 体 の 胸 高 直 径 相 当 値 を 算 出 し て 行 った。 生 育 形 は , 馬 場 ・ 北 村 ( 1999) お よ び Win Maung( 1999) に 基 づ き , 高 木 種 , 亜 高 木 種 , 低 木 種 , シ ダ 植 物 つ る 植 物 に 区 分 し た 。 学 名 は , Win Maung ( 1999) に 従 っ た 。 - 87 - 第4章 各 調 査 区 で , 植 生 調 査 ( Braun-Blanquet, 1964; 藤 原 , 1997) を 行 い , 林 分 の 階 層 構 造 , 各 階 層 に お け る 構 成 種 と 総 合 優 占 度 ・ 群 度 ( Fig. 4.2) を 記 録 し た 。ま た ,毎 木 調 査 を 樹 高 1.3 m 以 上 の 全 て の 樹 木 を 対 称 に 行 い ,樹 木 の 位 置 を 記 録 し ,樹 種 ,樹 高 ,胸 高 直 径 を 測 定 し た 。そ の 際 ,株 立 ち 個 体 に お い て は , 高 さ 1.3 m 以 上 の 全 て の 幹 の 高 さ と 胸 高 直 径 を 測 定 し た 。 さ ら に , 成木の樹冠投影図を作成した。 次 に ,調 査 区 内 を 小 方 形 区 に 分 割 し ,小 方 形 区 毎 に 樹 木 の 実 生 の 数 ,地 上 高 1.3 m ま で の つ る 植 物 お よ び 叢 生 形 の ヤ シ 類 お よ び シ ダ 植 物 の 総 合 優 占 度・群 度 ,叢 生 形 の 低 木 の 幹 数 を 記 録 し た 。小 方 形 区 の サ イ ズ は ,調 査 区 の 形 状 等 を 勘 案 し ,A 区 お よ び B 区 に お い て は 2×2 m,C 区 お よ び D 区 に お い て は 1.5×1.5 m と し た 。 実 生 数 の 勘 定 は , 当 年 生 と 2 年 生 以 上 に 区 別 し て 行 った。 切 り 株 萌 芽 に よ る 再 生 個 体 が 多 く 観 察 さ れ た D 区 の H. fomes に つ い て は , 樹 体 基 部 の 形 状 に よ り 各 個 体 の 由 来 が 萌 芽 再 生 か 実 生 更 新 か を 判 断 し ,区 別 し て 記 録 し た 。さ ら に ,地 上 高 1.3 m ま で の 萌 芽 シ ュ ー ト の 本 数 を 記 録 し た 。 第 1 次 調 査 と し て 2002 年 9 月 に A 区 お よ び C 区 に お け る 毎 木 調 査 を 行 い , 第 2 次 調 査 と し て ,2005 年 9 月 に 各 調 査 区 に お い て ,植 生 調 査 ,毎 木 調 査 , 樹冠投影図作成と,小方形区における上記調査を行った。 (A) 植被のパターン 5 4 2 1 総合優占度階級 5 植被が調査面積の75%以上を占める。個体数は任意。 4 植被が調査面積の50∼75%を占める。個体数は任意。 3 3 植被が調査面積の25∼50%を占める。個体数は任意。 2 植被が調査面積の10∼25%を占める。 またはそれ以下でも個体数が極めて多い。 1 植被が調査面積の10%以下であるが,個体数が多い。 + 極めて低い植被で,わずかな個体数。 r 極めてまれに最低植被で出現する。 +(r) (B) 群度のパターン 5 4 2 1 3 群度階級 5 調査区内にカーペット状に一面に生育。 4 大きな斑紋状。カーペットのあちこちに穴が開いたような状態。 3 小群の斑紋状。 2 小群状。 1 単生。 出典:宮脇ほか(1987),藤原(1997)をもとに筆者改変 Fig. 4.2. 総合優占度・群度の概念 - 88 - 第4章 ( 2) 萌 芽 更 新 特 性 調査対象は単幹の切り株を無作為に選んだ。 H. fomes の 切 り 株 に つ い て の 測 定 , 記 録 項 目 を , Fig. 4.3 に 示 す 。 切 り 株 の 特 性 ・ 形 質 と し て ,切 り 株 幹 周 囲 長 ,伐 採 高 ,株 当 り 萌 芽 枝 本 数 ,優 勢 な 萌 芽 枝( 実 長 上 位 5 本 )の 長 さ と 切 り 株 幹 上 で の 出 芽 位 置( 出 芽 高 )を 測 定 し た 。切 り 株 幹 周 囲 長 の 測 定 は 原 則 と し て 切 り 株 の 高 さ 60 cm で 行 な い ,板 根 を 持 つ 切 り 株 に お い て は そ の 張 り 出 し 最 上 位 置 か ら 30cm 上 部 で 計 測 し た 。 高 さ が 60 cm 以 下 の 切 り 株 に お い て は ,伐 採 高 に お け る 幹 周 囲 長 と し た 。伐 採 高 が 低 く 板 根 部 位 に て 計 測 す る 場 合 は ,板 根 の 張 り 出 し を 除 く 円 筒 を 仮 想 し そ の 周 囲 長 と し た 。周 囲 長 は 直 径 に 換 算 し ,伐 根 径 と し て 扱 っ た 。伐 採 断 面 が 地 表 面 と 平 行 で な い 場 合 は ,断 面 の 最 低 高 を 伐 採 高 と し た 。さ ら に ,伐 採 後 の 経 過 期 間 ,切 り 株 の 場 所 の 最 高 水 位 を 記 録 し た 。伐 採 後 の 経 過 期 間 は , 伐 採 断 面 の 変 色 や 腐 食 の 進 行 具 合 を 観 察 し 推 定 し た 。最 高 水 位 は 年 間 で 最 も 水 位 の 高 い 雨 季 の 満 潮 時 を 目 安 に ,幹 上 の コ ケ や 泥 の 付 着 線 の 読 み 取 り に よ り 判 定 し た 。伐 採 後 の 経 過 期 間 と 最 高 水 位 の 判 定 は ,林 内 作 業 経 験 の 豊 富 な 複 数 の 地 元 住 民 と と も に 行 な っ た 。な お ,盗 伐 直 後 の H. fomes の 切 り 株 の 内 , 伐 採 位 置 が 自 然 の 分 枝 位 置 よ り 高 い た め に , 複 数 の 幹 が あ っ た 32 株 を , 分 枝 位 置 よ り 下 部 で 伐 採 し 単 幹 の 切 り 株 と し て 対 象 に 加 え た 。ま た ,対 象 数 の 少 な い 伐 根 径 階 級 で ,現 地 林 務 官 の 了 解 の も と 10 個 体 の H. fomes を 伐 採 し , 半年後に他の切り株と同様の調査を行った。 ● ● ● ① ● ⑤ ● ② ④ ③ ①伐根径 ②伐採高 ③最高水位 ⑥ ④萌芽枝本数 ⑤優勢な萌芽枝(上位5本)の実長 ⑥優勢な萌芽枝の出芽高 ○伐採後の経過期間期 Fig. 4.3. 測定,記録項目 - 89 - 第4章 H. fomes の 萌 芽 力 を 他 の 主 要 な 木 本 マ ン グ ロ ー ブ 樹 種 と 比 較 す る た め に , 2∼ 3 年 前 に 切 り 倒 さ れ た と 判 断 で き る 様 々 な マ ン グ ロ ー ブ の 切 り 株 の , 萌 芽の有無と萌芽枝本数の記録を行った。 調 査 は 2002 年 8∼ 9 月 , 2003 年 2∼ 3 月 , 8∼ 9 月 お よ び 2004 年 8 月 に 行 なった。 4.2.3 解 析 方 法 ( 1) 群 集 の 更 新 特 性 林分の構造 種 構 成 と 階 層 構 造 ,お よ び 種 毎 の 樹 形 別 個 体 数 と 幹 数 ,胸 高 断 面 積 と 全 樹 木 合 計 に 対 す る そ の 比 率 を ,調 査 区 別 に ま と め た 。個 体 数 と 幹 数 は ,最 も 大 き な 面 積 を 持 つ B 区 の 200 ㎡ 当 た り に 換 算 し 示 し た 。 ま た , 樹 冠 投 影 図 に よ り 林 分 最 上 層 の 植 被 の 状 態 を 可 視 化 し た 。次 に ,代 表 種 の 幼 樹・成 木 を 対 象 に 階 級 幅 2.5 cm の 胸 高 直 径 階 別 の 幹 頻 度 分 布 グ ラ フ を 作 成 し , 実 生 数 を 最 小 階 級 の 下 の 階 級 と し て 組 み 入 れ た 。 D 区 の Heritiera fomes に つ い て は , 幹 を 実 生 由 来 と 萌 芽 由 来 に 区 分 し ,最 小 階 級 の 下 の 階 級 で は 実 生 と 1.3 m 以 下 の 萌 芽 シ ュ ー ト に 区 分 し 示 し た 。 各 階 級 の 頻 度 は 200 ㎡ 当 た り の 値 に 換 算した。 個体群サイズ構造とその変化 H. fomes 閉 鎖 林 と Bruguiera spp.閉 鎖 林 に お け る 代 表 種 の 個 体 群 構 造 の 変 化を評価するために,調査区からそれぞれ A 区と C 区を解析対象に選定し た 。両 調 査 区 に お い て ,胸 高 直 径 階 別 に 2002 年 か ら 2005 年 の 間 の 幹 の「 相 対 成 長 率( Relative diameter growth rate/RDGR)」, 「 死 亡 率( Mortality rate)」, 「 加 入 率( Recruitment rate)」( 動 態 変 数 ,以 降 同 様 )を 算 出 し グ ラ フ 化 し た ( Kanno et. al., 2001)。相 対 成 長 率 は ,3 年 間 生 残 し た 幹 の 胸 高 直 径 の 平 均 増 加率を 1 年当たりに換算したものである。死亡率および加入率も同様に 1 年当たりの数値として,以下により算出した。 Mortality rate( /yr) = (N d / N l ) / 3 Recruitment rate( /yr) = (N r / N l ) / 3 N d は 3 年 間 に 死 亡 し た 幹 を ,N r は 3 年 間 に 加 入 し た 幹 の 数 を 示 す 。ま た , - 90 - 第4章 N l は 2002 年 に 記 録 さ れ た 幹 の 数 で あ る 。 個体群の空間分布 各調査区において,統計的手法と樹冠投影図および分布図の判読により, 「 光 環 境 」と 代 表 種 の「 実 生 ・ 幼 樹 の 分 布 」と の 関 係 を 解 析 し た 。小 方 形 区 毎の林冠閉鎖度を,統計解析における光環境の指標とした。林冠閉鎖度は, 樹 冠 投 影 図 上 で ,デ ジ タ ル プ ラ ニ メ ー タ ー( 小 泉 測 器 製 作 所 )に よ り 投 影 面 積 を 測 定 し 算 出 し た 比 率 で あ る 。林 冠 閉 鎖 度 と 小 方 形 区 内 の 実 生 個 体 の 出 現 頻度,および林冠閉鎖度と幼樹個体の出現頻度を,それぞれ 2 変量として Spearman の 順 位 相 関 係 数 を 求 め , 相 関 関 係 を 判 定 し た 。 分 布 の 判 読 に は , 樹 冠 投 影 図 ,幼 樹 個 体 の 位 置 図 ,各 小 方 形 区 内 の 実 生 数 を 階 級 に よ り 濃 淡 で 示した実生の出現頻度図を用いた。 同 様 の 統 計 手 法 に よ り 各 調 査 区 に お い て ,「 光 環 境 」 と 1.3 m ま で の 下 層 の「 つ る 植 物 お よ び 叢 生 形 の 植 物 の 分 布 」と の 関 係 を 解 析 し た 。低 木 に つ い て は 幹 数 を ,そ れ 以 外 の 植 物 に つ い て は 総 合 優 占 度 と 群 度 に 基 づ い た 占 有 度 の 指 数 ( Table 4.3) を 変 量 と し て 用 い た 。 な お , Excoecaria agallocha の 実 生 , 幼 樹 は 出 現 せ ず , 幼 樹 に 相 当 す る 樹 高 1.3 m 以 上 で 胸 高 直 径 が 5 cm 未 満 の 全 て の 幹 は , 分 枝 も し く は 萌 芽 に 由 来するものであったため,空間分布の解析は行わなかった。 Table 4.3 占有度の指数 総合優占度・群度 占有度指数 総合優占度・群度 占有度指数 15 7 5・5 2・3 14 6 5・4 2・2 13 5 4・5 2・1 12 4 4・4 1・2 11 3 4・3 1・1 10 2 3・4 +・2 9 1 3・3 + 8 3・2 総合優占度・群度はBraun-Blanquet(1964)および藤原(1997)にもとづく。 出典:筆者作成 ( 2) 萌 芽 更 新 特 性 マングローブの萌芽力 調 査 時 に 萌 芽 枝 を 有 し 生 存 し て い た 切 り 株 を 「 萌 芽 株 」, 萌 芽 枝 を 欠 い て い た 切 り 株 を「 枯 死 株 」と す る 。樹 種 ご と の 全 切 り 株 に 占 め る 萌 芽 株 の 比 率 - 91 - 第4章 を「 萌 芽 率 」,枯 死 株 を 含 む 1 株 当 り の 萌 芽 枝 本 数 を「 株 当 た り 萌 芽 枝 本 数 」 とし,両者を指標として種間の萌芽力を比較した。 伐根径・伐採高と萌芽力の消長 す べ て の H. fomes の 切 り 株( 476 株 )を 対 象 と し て ,伐 根 径 お よ び 伐 採 高 の 相 違 と 萌 芽 率 の 関 係 を ,伐 採 後 の 経 過 期 間 を 区 分 し 検 証 し た 。伐 根 径 は 2 cm ご と , 伐 採 高 は 20 cm ご と の 階 級 に , 伐 採 後 の 経 過 期 間 は 12 ヶ 月 ま で , 13 ヶ 月 か ら 24 ヶ 月 , 25 ヶ 月 以 上 の 3 つ に そ れ ぞ れ 区 分 し た 。 また,萌芽枝の枯死や交代の影響が少ないと推定される,伐採後初期の 12 ヶ 月 ま で の 萌 芽 株 ( 97 株 ) を 対 象 と し て , 伐 根 径 の 相 違 と 株 当 た り の 萌 芽 枝 本 数 の 関 係 を 解 析 し た 。そ の 際 ,伐 根 径 は 5 cm ご と の 階 級 に 区 分 し た 。 さ ら に , 伐 採 後 6 ヶ 月 , 18 ヶ 月 , 36 ヶ 月 の 萌 芽 株 ( そ れ ぞ れ 39 株 , 28 株 ,44 株 )を 対 象 と し て ,伐 根 径 と 最 大 萌 芽 枝 の 長 さ と の 関 係 を 検 証 し た 。 冠水と切り株の死亡 伐 採 後 初 期 の 12 ヶ 月 ま で の 切 り 株 ( 136 株 ) の う ち , 切 り 株 の 場 の 最 高 水 位 を 記 録 で き た も の ( 121 株 ) を 対 象 に , 冠 水 の 影 響 を 解 析 し た 。 伐 採 高 に 対 す る 切 り 株 の 場 の 最 高 水 位 の 比 率 を「 冠 水 率 」と 定 義 す る 。冠 水 率 50% を 境 に 切 り 株 を 高 冠 水 率 群 と 低 冠 水 率 群 に 区 分 し ,各 群 の 死 亡 率 を 検 証 し た 。 株当たり萌芽枝本数の時間動態 萌 芽 枝 本 数 は 伐 根 径 に 左 右 さ れ る た め ,伐 根 径 が 5∼ 10 cm の 萌 芽 株( 167 株 )を 対 象 と し て ,伐 採 後 の 時 間 経 過 に よ る 株 当 り 萌 芽 枝 本 数 の 変 化 を 解 析 した。 時 間 経 過 に よ り ,株 当 り 萌 芽 枝 本 数 の 多 少 に 2 極 化 し た 萌 芽 株 の そ れ ぞ れ の群の平均冠水率の有意差は,t 検定により判定した。 冠水による萌芽枝の動態への影響 萌 芽 株 を 高 冠 水 率 群 と 低 冠 水 率 群 の 2 群 に ,ま た 切 り 株 上 の 萌 芽 枝 の 出 芽 位 置 に よ り 3 タ イ プ に 区 分 し た 。各 萌 芽 株 タ イ プ は ,優 勢 な 萌 芽 枝 の 内 4∼ 5 本 が 伐 採 高 の 1/2 以 上 の 高 さ か ら 出 芽 す る 「 上 部 萌 芽 型 ( Upper-type)」, 1/2 未 満 か ら 出 芽 す る 「 下 部 萌 芽 型 ( Lower-type )」, そ れ 以 外 の 「 散 在 型 ( Scattered-type)」と し た 。伐 採 後 の 経 過 期 間 を 12 ヶ 月 以 内 ,13∼ 24 ヶ 月 , 25 ヶ 月 以 上 に 区 分 し ,2 つ の 群 別 に ,経 過 期 間 ご と の 各 萌 芽 株 タ イ プ の 出 現 比 率 を 検 証 す る こ と で ,萌 芽 枝 消 長 の 時 間 動 態 を 解 析 し た 。な お ,対 象 は 5 - 92 - 第4章 本 以 上 の 萌 芽 枝 を 持 つ 萌 芽 株 ( 256 株 ) と し た 。 4.3 結 果 4.3.1 林 分 構 造 種 構 成 と 階 層 構 造 を Table 4.4 に , 樹 冠 投 影 図 , 林 冠 閉 鎖 度 , 実 生 分 布 , お よ び 幼 樹 分 布 を Fig. 4.4 に 示 す 。 ( 1) 階 層 構 造 と 種 構 成 林分の階層構造は,A 区および B 区において高木層,亜高木層と低木層, 草 本 層 の 4 層 構 造 ,C 区 に お い て は 同 様 の 4 層 よ り 上 に Heritiera fomes の 単 木を有し,D 区においては高木層を欠く 3 層構造であった。 植 生 調 査 に よ っ て 確 認 さ れ た 植 物 は 27 種 で , 生 育 形 別 に 高 木 種 : 10 種 , 亜高木種:4 種,低木種:4 種,草本種:1 種,つる植物が 8 種であった。 ま た , 調 査 区 当 た り の 出 現 種 数 は , A 区 か ら D 区 に お い て そ れ ぞ れ 順 に 20 種 , 18 種 , 20 種 , 12 種 で あ っ た 。 A 区から C 区においては,4 つの代表種が出現した。D 区内おいては, Amoora cucullata お よ び Excoecaria agallocha は 出 現 し な か っ た が ,周 辺 林 分 にはおいては低頻度ながら生育が確認された。 A 区 ,B 区 お よ び C 区 に お け る 階 層 別 の 植 被 率 と 出 現 種 数 は ,高 木 層 の 植 被 率 が 50% ∼ 80% , 出 現 種 数 が そ れ ぞ れ 2 種 , 4 種 , 6 種 で , A 区 お よ び B 区 で は H. fomes が , C 区 で は Bruguiera spp.が 優 占 し て い た 。 ま た , 草 本 層 の 植 被 率 は 10% ∼ 20% , 出 現 種 数 は そ れ ぞ れ 18 種 , 16 種 , 14 種 で , す べ て の 種 の 総 合 優 占 度 は 1 以 下 で あ っ た 。一 方 ,D 区 の 高 木 層 の 植 被 率 は 15% , 出 現 種 数 は 5 種 で , H. fomes が 優 占 し て い た 。 ま た 草 本 層 の 植 被 率 は 90% , 出 現 種 数 は 10 種 で あ っ た 。D 区 の 草 本 層 に お い て は ,特 に Derris trifoliata, Finlaysonia maritima, Sarcolobus carinatus の 総 合 優 占 度 が そ れ ぞ れ 4, 3, 2 と,つる植物による植被の程度が他の調査区より高かった。 - 93 - 第4章 Table 4.4 調査林分の種構成と構造 (A)調査区A 生育形 高木種 学名 Heritiera fomes Excoecaria agallocha Avicennia officinalis Xylocarpus moluccensis Amoora cucullata Bruguiera gymnorrhiza 亜高木種 Phoenix paludosa ※ 低木種 Sterculiaceae Euphorbiaceae Avicenniaceae Meliaceae Meliaceae Rhizophoraceae T1*1 13m 50%*2 3・3 1・2 T2*1 6m 5%*2 + S*1 2.5m 20%*2 2・2 H*1 0.9m 10%*2 1・1 1・1 + 1・1 1・1 +・2 + + + + + 密度 (/200㎡) 個体 単幹 株立 計 49 21 69 7 7 4 4 8 3 1 4 7 1 8 3 3 BA*4 (㎡/ha) 株立率*3 (%) 幹 111 32 13 6 10 3 30.0 100.0 50.0 33.3 16.7 0.0 BA (%) 18.51 7.74 0.30 0.04 0.03 0.01 69.49 29.07 1.11 0.15 0.09 0.04 Arecaceae Myrsinaceae Rhizophoraceae Caesalpiniaceae + Aegiceras corniculatum Ceriops decandra Cynometra ramiflora + + + + - - - - - - - Acanthus ilicifolius Dalbergia spinosa Brownlowia tersa Merope angulata Acanthaceae Fabaceae Tiliaceae Rutaceae + + + + + + 6 1 - 1 - 1 - 6 4 1 - 0.0 100.0 0.0 - 0.01 0.00 0.00 - 0.03 0.01 0.01 - Fabaceae Asclepiadaceae Caesalpiniaceae Caesalpiniaceae Fabaceae Asclepiadaceae + + 1・1 +・2 + + + + - - - - - - - つる植物 Derris trifoliata Finlaysonia maritima Caesalpinia bonduc Caesalpinia crista Dalbergia pinnata Sarcolobus carinatus 計 科 20種 2種 3種 11種 18種 T1*1 14m 80%*2 4・4 + 1・1 + T2*1 6m 5%*2 1・1 S*1 2m 10%*2 2・2 H*1 0.8m 20%*2 1・3 1・1 1・1 1・2 + 1・2 1・1 1・1 + 1・2 1・2 + 1・2 1・1 1・1 1・2 72 36 108 185 33.3 26.64 株立率*3 (%) BA*4 (㎡/ha) 100.00 (B)調査区B 生育形 高木種 学名 Heritiera fomes Excoecaria agallocha Amoora cucullata Bruguiera sexangula 亜高木種 Ceriops decandra 低木種 科 Sterculiaceae Euphorbiaceae Meliaceae Rhizophoraceae Rhizophoraceae Aegiceras corniculatum Cerbera odollam Cynometra ramiflora Phoenix paludosa ※ Myrsinaceae Apocynaceae Caesalpiniaceae Arecaceae Acanthus ilicifolius Merope angulata Nypa fruticans ※ Acanthaceae Rutaceae Arecaceae シダ植物 Acrostichum aureum Polypodiaceae つる植物 Flagellaria indica Flagellariaceae Fabaceae Asclepiadaceae Asclepiadaceae Caesalpiniaceae Derris trifoliata Finlaysonia maritima Sarcolobus carinatus Caesalpinia crista 計 18種 +・2 1・1 + 4種 6種 ST*1 18m 5%*2 +・2 T1*1 11m 65%*2 2・2 3・3 + 1・1 + + 10種 密度 (/200㎡) 個体 株立 計 6 76 1 2 1 6 5 単幹 70 1 5 5 幹 83 5 8 5 BA (%) 20.73 0.96 0.49 0.28 7.9 50.0 16.7 0.0 88.10 4.09 2.07 1.19 1・2 + 3 2 1 2 - 2 3 - 5 2 1 5 - 8 2 1 8 - 40.0 0.0 0.0 60.0 - 0.55 0.39 0.11 0.00 - 2.33 1.65 0.47 0.02 - 1・1 1・1 +・2 3 9 - 1 2 - 4 11 - 6 13 - 25.0 18.2 - 0.01 0.01 - 0.03 0.05 - 1・1 - - - - - - - + 1・2 1・1 1・1 + - - - - - - - 16種 101 16 117 139 13.7 23.53 100.00 BA*4 (㎡/ha) BA (%) (C)調査区C 生育形 高木種 学名 Heritiera fomes Bruguiera spp. Excoecaria agallocha Amoora cucullata Xylocarpus granatum Rhizophora apiculata Xylocarpus moluccensis Avicennia officinalis 亜高木種 Ceriops decandra 低木種 科 Sterculiaceae Rhizophoraceae Euphorbiaceae Meliaceae Meliaceae Rhizophoraceae Meliaceae Avicenniaceae Aegiceras corniculatum Phoenix paludosa ※ Rhizophoraceae Myrsinaceae Arecaceae Merope angulata Brownlowia tersa Dalbergia spinosa Acanthus volubilis Rutaceae Tiliaceae Fabaceae Acanthaceae シダ植物 Acrostichum aureum Polypodiaceae つる植物 Finlaysonia maritima Asclepiadaceae Caesalpiniaceae Fabaceae Asclepiadaceae Caesalpinia bonduc Derris trifoliata Sarcolobus carinatus 計 20種 T2*1 5m 5%*2 + + S*1 2.5m 5%*2 1・1 + H*1 0.8m 10%*2 1・1 1・3 1・1 1・1 + + + 10 4 - 2 - 12 4 - 14 4 - 16.7 0.0 - 0.57 0.04 - 11.81*5 41.97 25.21 8.87 7.27 0.92 0.33 0.00 2.96 0.21 - 1・1 + 7種 48 38 12 46 2 2 4 - 15.0 0.0 25.0 22.2 0.0 0.0 0.0 - 2.27*5 8.07 4.85 1.70 1.40 0.18 0.06 - + + + + + + + + 8 2 - 6 - 14 2 - 22 2 - 42.9 0.0 - 0.07 0.02 - 0.37 0.09 - + - - - - - - - + + 1・2 + + + - - - - - - - + 1種 株立率*3 (%) 幹 単幹 34 38 6 28 2 2 4 - + + 密度 (/200㎡) 個体 株立 計 6 40 38 2 8 8 36 2 2 4 - 8種 8種 - 94 - 14種 138 24 162 194 14.8 19.23 88.19 第4章 (D)調査区D *1 生育形 高木種 学名 Heritiera fomes Xylocarpus moluccensis Bruguiera gymnorrhiza Avicennia officinalis 亜高木種 Ceriops decandra 低木種 Sterculiaceae Meliaceae Rhizophoraceae Avicenniaceae T2 8m 15%*2 2・2 + + + Rhizophoraceae + 科 *1 H 1m 90%*2 1・2 + + +・2 Phoenix paludosa ※ Arecaceae +・2 +・2 +・2 Acanthus ilicifolius Acanthaceae 1・2 +・2 シダ植物 Acrostichum aureum Polypodiaceae つる植物 Derris trifoliata Fabaceae Asclepiadaceae Asclepiadaceae Acanthaceae Finlaysonia maritima Sarcolobus carinatus Acanthus volubilis 計 *1 S 3m 10%*2 1・1 12種 5種 密度 (/200㎡) 個体 単幹 株立 計 30 34 64 2 2 7 2 9 5 4 9 4 2 25 *4 株立率*3 (%) 幹 123 4 11 18 2 - 14 - 28 130 BA (%) BA (㎡/ha) 52.8 100.0 20.0 40.0 6.29 1.11 0.64 0.40 62.51 10.99 6.34 4.00 100.0 - 0.77 - 7.60 - 87.5 0.86 8.55 +・2 - - - - - - - 1・1 1・1 4・4 3・3 2・2 1・1 - - - - - - - 7種 10種 114 299 46 68 59.4 10.07 100.00 生育形は馬場・北村(1999)を参考にした。 つる性のシダ植物はつる植物に含めた。 ※はヤシ類を示す。 密度,株立率,BAは樹高1.3 m以上の個体が対象。 密度は200 ㎡当たりの換算値(小数点以下は四捨五入)。 *1 ST:超高木層,T1:高木層,T2:亜高木層,S:低木層,H:草本層。データは総合優占度・群度。 *2 %は各階層における植被率。 *3 株立ち率=株立個体数/個体数計×100 (%) *4 BA:胸高断面積合計 *5 超高木層の1個体(胸高断面積 45.5 ㎡/ha)を除いた値。 樹 冠 の 分 布 と 広 が り を み る と , A 区 に お い て は H. fomes が 全 体 に 広 が り , そ の 総 合 優 占 度 は 3 で 明 瞭 な 空 隙 が 1 ヶ 所 あ っ た 。 ま た , E. agallocha の 樹 冠 は 集 中 ・ 偏 在 し , そ の 総 合 優 占 度 は 1 で あ っ た ( Fig. 4.4A, Table 4.4A)。 B 区 に お い て は H. fomes が 全 体 に 広 が り , そ の 総 合 優 占 度 は A 区 よ り や や 高 く 4 で ,比 較 的 小 さ な 樹 冠 の 個 体 が 集 中 す る 場 所 が み ら れ た 。ま た ,E. agallocha, Bruguiera spp., A. cucullata な ど の 小 さ な 樹 冠 が わ ず か に 散 在 し て い た ( Fig. 4.4B, Table 4.4B)。 C 区 に お い て は Bruguiera spp.の 樹 冠 の 広 が り が 最 も 大 き く , そ の 総 合 優 占 度 は 3 で 小 さ な 樹 冠 の 集 中 や A 区 の H. fomes よ り 小 さ な 空 隙 が み ら れ た 。 H. fomes は 超 高 木 層 の 単 木 の 大 樹 冠 が 北 東 辺 に 位 置 し ,そ の 他 の や や 小 さ な 樹 冠 が 散 在 し 総 合 優 占 度 は 2 で あ っ た 。 ま た , A. cucullata, E. agallocha, Rhizophora apiculata な ど 多 種 の 小 さ な 樹 冠 の 集 中 が み ら れ た ( Fig. 4.4C, Table 4.4C)。 D 区 に お い て は H. fomes の 小 さ な 樹 冠 が 散 在 し ,そ の 総 合 優 占 度 は 2 で あ っ た 。 ま た , Bruguiera spp.や Xylocarpus moluccensis の 小 さ な 樹 冠 が わ ず か に み ら れ る と と も に ,隣 接 す る E. agallocha の や や 大 き な 樹 冠 が わ ず か に 調 査 区 に 張 り 出 し て い た 。( Fig. 4.4D, Table 4.4D)。 ( 2) 生 育 本 数 ・ 株 立 ち 個 体 比 率 A 区 , B 区 お よ び C 区 に お け る 幼 樹 と 成 木 の 個 体 数 は , 108∼ 162 個 体 / 200 ㎡ ,幹 数 は 139∼ 194 本 / 200 ㎡ で あ っ た 。D 区 に お け る 個 体 数 は ,114 個 体 ,幹 数 は 297 本 / 200 ㎡ と ,A 区 か ら C 区 に 比 べ 幹 数 が 大 き か っ た( Table 4.4)。 - 95 - 第4章 樹冠投影図 林冠閉鎖度(%) W 100 S 93 95 40 100 100 100 100 100 85 100 100 67 73 100 100 92 67 78 8 45 95 100 63 97 32 38 98 93 85 58 45 88 100 100 E 実生分布 Heritiera fomes 93 2m 幼樹分布 5 25 24 10 15 19 25 35 29 15 17 19 48 62 63 25 31 9 2 28 10 20 15 22 8 28 11 60 19 21 5 4 15 68 17 40 1 1 1 1 1 1 3 1 4 1 4 3 2 1 8 1 Bruguiera spp. 2 1 1 1 1 Amoora cucullata 1 1 1 1 1 3 3 3 1 Sarcolobus carinatus 1 3 占有度指数 0 0 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1 1 0 1 0 1 1 1 1 1 1 1 0 1 1 1 Fig. 4.4. (A) A区 樹冠投影図,林冠閉鎖度,実生・幼樹分布 - 96 - 1 N 第4章 樹冠投影図 林冠閉鎖度(%) W S 92 100 98 78 43 51 84 73 49 66 73 50 91 45 44 69 57 68 100 97 98 91 80 58 69 40 98 96 98 98 75 67 66 76 98 71 100 70 100 89 89 87 70 69 95 50 91 E 実生分布 Heritiera fomes 26 20 22 18 8 12 19 21 18 18 14 8 14 14 30 13 26 12 79 14 21 24 21 15 59 29 23 26 10 15 8 13 7 18 25 60 15 3 15 5 98 98 2m 幼樹分布 89 33 Bruguiera spp. 12 65 4 14 6 21 10 19 3 1 2 1 1 2 1 1 1 1 2 4 1 1 1 2 3 2 1 1 1 3 3 1 1 1 1 1 Amoora cucullata 1 1 3 1 3 1 1 1 1 Fig. 4.4. (B) B区 樹冠投影図,林冠閉鎖度,実生・幼樹分布 - 97 - N 第4章 樹冠投影図 林冠閉鎖度(%) N W 81 98 98 95 93 100 100 57 91 86 95 82 100 100 82 55 82 91 98 100 100 91 81 100 100 100 100 100 72 42 74 81 88 93 100 66 51 80 93 100 100 100 88 78 100 100 73 S 実生分布 Heritiera fomes 1 2 3 1 5 2 3 2 2 4 1 5 1 1 1 2 7 2 1 Bruguiera spp. 2 1 1 5 11 13 1 4 17 22 15 8 9 12 6 5 0 6 11 3 4 1 11 5 4 11 4 22 30 20 5 4 10 8 8 20 30 29 21 7 19 38 50 44 21 1 8 11 16 22 52 20 17 21 13 51 27 28 24 15 28 25 24 34 22 27 1 1 1 2 1 3 1 2 1 1 1 3 1 1 1 1 1 1 1 2 1 5 1 1 1 1 2 3 3 1 1 28 2 1.5 m 16 6 Amoora cucullata 3 1 1 3 95 幼樹分布 1 1 1 1 1 3 2 1 Fig. 4.4. (C) C区 樹冠投影図,林冠閉鎖度,実生・幼樹分布 - 98 - 1 1 2 3 E 100 1 1 2 第4章 樹冠投影図 林冠閉鎖度(%) E 67 7 0 17 72 88 62 0 0 52 93 10 12 83 32 53 22 2 17 0 95 70 38 53 77 0 0 28 74 38 85 88 97 3 63 17 40 93 52 60 100 90 98 30 33 13 14 47 29 59 N W 実生分布 Heritiera fomes 6 2 1.5 m 幼樹分布 2 2 2 ** 4 * * 5 4 4 1 1 7 * 2 1 1 ** 1 2 * 2 * * * 2 Bruguiera spp. S * 5 2 7 2 1 1 4 1 3 1 占有度指数 Derris trifoliata 6 9 10 10 15 9 6 9 12 12 9 9 7 6 9 9 15 15 15 15 3 7 11 9 9 4 12 13 13 9 4 3 9 9 9 9 6 10 9 4 4 7 7 12 12 9 9 9 3 4 4 Acanthus ilicifolius Sarcolobus carinatus 3 4 6 3 1 4 4 4 1 1 0 1 3 0 1 3 3 1 2 0 0 0 0 0 1 0 3 2 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 Fig. 4.4. (D) D区 樹冠投影図,林冠閉鎖度,実生・幼樹分布 - 99 - 20 2 9 14 6 8 第4章 代 表 種 に つ い て 個 体 総 数 に 対 す る 個 体 数 の 比 率( Table 4.4 中 の 個 体 密 度 ・ 計 か ら 算 出 )を み る と ,A 区 お よ び B 区 に お い て は ,Heritiera fomes が そ れ ぞ れ 63.8% ( Table 4.4A, 108 個 中 69 個 体 。 以 下 同 様 。), 64.9% と 約 2/3 を 占 め て い た 。A 区 に お い て は ,Amoora cucullata・7.4% ,Excoecaria agallocha・ 6.5% ,Bruguiera spp.・2.8% ,B 区 に お い て は ,A. cucullata・5.1% ,Bruguiera spp.・4.3% ,E. agallocha・1.7% で ,い ず れ も そ の 比 率 は 10% 以 下 で あ っ た 。 C 区 に お い て は ,H. fomes お よ び Bruguiera spp.・24.4% ,A. cucullata・22.0% と , 3 種 が ほ ぼ 同 数 で 全 体 の 2/3 を 占 め , E. agallocha は 4.9% で あ っ た 。 ま た D 区 に お い て は ,H. fomes が 56.1% と 過 半 数 を 占 め ,Bruguiera spp.は 7.8% であった。 通 常 は 単 幹 で あ る H. fomes の ,株 立 ち 個 体 の 比 率 が 最 も 高 い 割 合 で で あ っ た の は D 区 で , そ の 比 率 は 52.8% ( Table 4.4 中 の 株 立 比 率 。 以 下 同 様 。) で あ っ た 。 A 区 か ら C 区 に お い て は , そ れ ぞ れ 30.0% , 7.9% , 15.0% が 株 立 ち個体であった。 ま た , Acanthus ilicifolius の 株 立 ち 個 体 の 比 率 も , D 区 に お い て 87.5% と 調 査 区 中 最 も 高 か っ た 。A 区 お よ び B 区 に お い て は ,そ れ ぞ れ 0% ,25% で あ っ た , C 区 に は 樹 高 が 1.3 m 以 上 の 個 体 は 出 現 し な か っ た 。 ( 3) 胸 高 断 面 積 合 計 の 比 較 調 査 区 の 胸 高 断 面 積 合 計 は , A区 ∼ D区 の 順 に , そ れ ぞ れ 26.64 ㎡ / ha, 23.53 ㎡ / ha,19.23 ㎡ / ha,10.07 ㎡ / haで あ っ た( Table 4.4 中 BA(m 2 /ha))。 な お C区 に お い て は , 超 高 木 層 の Heritiera fomesの 胸 高 断 面 積 が 45.5 ㎡ / ha と突出しており,これを除いた値である。 調 査 区 毎 に 代 表 種 に つ い て ,調 査 区 の 合 計 値 に 対 す る 種 の 胸 高 断 面 積 合 計 の 比 率 を み る と , A 区 お よ び B 区 に お い て は , H. fomes が そ れ ぞ れ 69.5% , 88.3% と 高 い 比 率 を 示 し た( Table 4.4 中 BA(%))。A 区 に お い て は ,Excoecaria agallocha が 29.1% で あ っ た が , Amoora cucullata と Bruguiera spp.は そ れ ぞ れ 0.1% , 0.1% 以 下 と 極 め て 小 さ か っ た 。 B 区 に お い て は , E. agallocha が 4.1% , A. cucullata が 2.1% , Bruguiera spp.が 1.2% と , H. fomes 以 外 の 3 種 は 5% 以 下 の 小 さ な 比 率 で あ っ た 。 C 区 に お い て は ,H. fomes の 大 径 木 が 単 木 で 調 査 区 の 72.8% を 占 め た 。こ の 個 体 を 除 い た 場 合 の 比 率 は , 42.0 % の Bruguiera spp. と , 25.2 % の E. agallocha で 調 査 区 の 2/3 を 占 め ,H. fomes が 11.8% ,A. cucullata が 8.9% と , それぞれ 1 割程度の比率であった。 - 100 - 第4章 D 区 に お い て は , H. fomes が 62.5% と 高 い 比 率 を 占 め , Bruguiera spp.は 7.8% と 1 割 に 満 た な か っ た 。 4.3.2 個 体 群 構 造 と そ の 動 態 ( 1) 代 表 種 の 胸 高 直 径 階 分 布 各 調 査 区 の 代 表 種 の 胸 高 直 径 階 分 布 を , Fig. 4.5 に 示 す 。 Heritiera fomes の 分 布 パ タ ー ン は , A 区 か ら C 区 に お い て 逆 J 字 型 の 傾 向 を 示 し た 。総 幹 数 に 対 す る 実 生 数 の 比 率 が 91.0∼ 92.6% と 非 常 に 大 き か っ た 。 A 区 お よ び B 区 で は , 胸 高 直 径 が 2.5∼ 7.5 cm の 階 級 に お い て 分 布 が 凹 型 と な り 不 連 続 な 分 布 パ タ ー ン を 呈 し て い た 。D 区 に お い て は ,実 生 数 の 比 率 が 73.4% と 他 の 調 査 区 よ り 低 く , 実 生 由 来 幹 の 頻 度 分 布 は 不 連 続 で あ っ た 。 D 区 の 各 階 級 の 萌 芽 由 来 幹 の 数 は 実 生 由 来 幹 よ り も 多 く ,分 布 パ タ ー ン は 連 続 的 な 逆 J 字 型 を 示 し た 。4 つ の 調 査 区 に お い て ,実 生 の 80∼ 99% が 2 年 生 以 上であった。 Bruguiera spp.の 分 布 パ タ ー ン は ,C 区 に お い て 多 数 の 実 生 を 伴 う 一 山 型 を 示 し た 。総 幹 数 に 対 す る 実 生 数 の 比 率 は 98.0% と 突 出 し て い た 。A 区 ,B 区 お よ び D 区 に お い て は 総 幹 数 が 少 な く ,A 区 の 幹 の 胸 高 直 径 は す べ て 2.5 cm 未 満 ,B 区 ,C 区 で は 7.5 cm 未 満 で 分 布 が 不 連 続 で あ っ た 。実 生 は ,90∼ 100% が当年生であった。 Amoora cucullata の 分 布 パ タ ー ン は , C 区 に お い て な だ ら か な 逆 J 字 型 を 示 し た 。A 区 お よ び B 区 に お い て は 総 幹 数 が 少 な く ,A 区 の 幹 の 胸 高 直 径 は す べ て 2.5 cm 未 満 , B 区 で は 7.5 cm 未 満 で 分 布 が 不 連 続 で あ っ た 。 Excoecaria agallocha は 全 て の 調 査 区 に お い て 実 生 が 出 現 し な か っ た 。 A 区 に お い て は , 胸 高 直 径 が 0∼ 15 cm 間 の 階 級 で 連 続 す る , 平 坦 な 分 布 パ タ ー ン を 示 し た 。B 区 お よ び C 区 に お い て は 幹 数 が 少 な く ,B 区 で は 0∼ 15 cm 間 の 階 級 で 不 連 続 に 分 布 し , C で は 7.5∼ 15 cm の 3 階 級 に 集 中 し て い た 。 - 101 - - 102 - 15.0(cm) 12.5-15 10-12.5 2 5-7.5 2 5-7.5 40 実生由来幹≧1.3 m 実生<1.3 m 萌芽由来幹≧1.3 m 萌芽由来幹<1.3 m (出現せず) 2 15.0(cm) 15.0(cm) 1 12.5-15 10-12.5 7.5-10 15.0(cm) 12.5-15 10-12.5 7.5-10 5-7.5 2.5-5 1 12.5-15 10-12.5 7.5-10 3 5-7.5 0-2.5 15.0- 12.5-15 10-12.5 7.5-10 5-7.5 2.5-5 0-2.5 15.0- 12.5-15 10-12.5 3 5-7.5 2.5-5 0-2.5 3 2.5-5 15.0- 12.5-15 10-12.5 7.5-10 5-7.5 7.5-10 A. cucullata 0-2.5 15.0- 12.5-15 10-12.5 2 2 7.5-10 2 5-7.5 2.5-5 0-2.5 15.0- 12.5-15 10-12.5 20 5-7.5 2.5-5 5-7.5 7.5-10 0-2.5 2.5-5 Bruguiera spp. 0-2.5 15.0- 12.5-15 10-12.5 7.5-10 0-2.5 3 7.5-10 488 2.5-5 0 2.5-5 2 0-2.5 15.0- 12.5-15 10-12.5 7.5-10 5-7.5 2.5-5 0-2.5 20 2.5-5 15.0- 12.5-15 10-12.5 7.5-10 5-7.5 2.5-5 0-2.5 H. fomes 0-2.5 2 15.0- 12.5-15 10-12.5 7.5-10 2 2 2 15.0- 12.5-15 10-12.5 C区 0 7.5-10 0 5-7.5 20 5-7.5 2.5-5 C区 0-2.5 0 2.5-5 B区 0-2.5 A区 幹数(/ 200 ㎡) 第4章 1207 E. agallocha 120 100 80 60 40 3 120 1030 100 80 60 40 1 120 1874 100 80 60 40 2 120 368 100 80 60 (出現せず) 20 2 胸高直径階級 (cm) Fig. 4.5. 代表種個体群の胸高直径階分布 斜体数字は幹数(/ 200 ㎡)を示す。 第4章 ( 2) 加 入 , 死 亡 , 成 長 A 区 お よ び C 区 に お け る 代 表 種 の 各 階 級 の 動 態 変 数 を , Fig. 4.6 に 示 す 。 両 調 査 区 に お け る H. fomes 動 態 変 数 は ,同 様 の 傾 向 を 示 し た 。最 小 階 級 へ の 加 入 率 は 死 亡 率 よ り 高 く , A 区 で は 死 亡 率 の 約 10 倍 , C 区 で は 約 4 倍 で あ っ た 。 各 階 級 の 成 長 率 は 0.2∼ 5% 程 度 で あ っ た 。 A 区 に は ,Bruguiera spp.の 幼 樹 も し く は 成 木 が 2002 年 に は 生 育 せ ず ,2005 年 ま で に 3 本( / 200 ㎡ ・3 年 間 ,以 下 同 様 )加 入 し た 。C 区 で は ,0∼ 5 cm と 5∼ 10 cm の 2 つ の 階 級 に は 加 入 が な く ,こ の 種 の 最 大 階 級 の 直 径 10∼ 15 cm へ の 加 入 が 2 本 あ っ た 。 一 方 死 亡 は , 最 小 階 級 に の み 起 こ っ て い た 。 相 対 成 長 率 は 各 階 級 と も 5% 程 度 で あ っ た 。 A. cucullata は A 区 に お い て 最 小 サ イ ズ 階 級 の み に 出 現 し , 加 入 率 , 死 亡 率 は と も に 11.1% で あ っ た 。 C 区 で は , 10 cm ま で の 二 つ の 階 級 の う ち , 死 亡 は 起 こ ら ず , 最 小 階 級 に お け る 加 入 率 が 60.0% ( 26 本 ) と , A 区 と 比 べ 非 常 に 高 か っ た 。成 長 率 は ,A 区 の 最 小 階 級 に お い て 12.0% と ,C 区 の 4.4% より高かった。 両 調 査 区 に お け る , 5 ∼ 10 cm お よ び 10 ∼ 15 cm の 2 つ の 階 級 の , E. agallocha の 動 態 変 数 は , 同 様 の 傾 向 を 示 し た 。 5∼ 10 cm に は 加 入 は 起 こ ら ず ,こ の 種 の 最 大 階 級 の 10∼ 15 cm へ の 加 入 率 は ,A 区 と C 区 が ,そ れ ぞ れ 13.3% ( 2 本 ), 16.7% ( 1 本 ) と 同 程 度 で あ っ た 。 両 調 査 区 と も に , 二 つ の 階 級 で は 死 亡 は 起 こ ら ず ,成 長 率 は 1.2∼ 3.0% で あ っ た 。A 区 の 最 小 階 級 に お け る 加 入 と 死 亡 は す べ て 萌 芽 枝 で ,加 入 率 は 20.8%( 7 本 ),死 亡 率 は 16.7% ( 6 本 ) と 同 程 度 で あ っ た 。 C 区 に お い て は 最 小 階 級 サ イ ズ の E. agallocha は出現しなかった。 - 103 - 第4章 (A) A区 recruitment rate (%) 0 40 H. fomes A. cucullata E. agallocha 40 30 7 20 10 3 4 3 20 6 7 20 9 10-15 15- 16 5-10 15- 10-15 15- 5-10 2 0-5 21 10-15 0 39 28 5-10 10 11 0-5 10 3 3 0-5 RDGR (%) 50 mortality rate 60 (B) C区 26 H. fomes Bruguiera spp. A. cucullata E. agallocha 50 40 2 30 20 16 2 10 0 10 4 2 20 4 10-15 dbh class (cm) Fig. 4.6. 代表種個体群における加入率,死亡率,相対成長率 グラフ中の斜体数字は, 加入・死亡幹数(3年間),および相対成長率算出のた め平均をとった幹数を示す(いずれも200 ㎡当たりの換算値)。 調査区AにおけるBruguiera spp. の幹数は,2003年は0本,2005年 は胸高直径 階級 0-5 cm の3本(/200 ㎡)であった。 - 104 - 15- 8 5-10 0-5 5-10 15- 6 10-15 14 0-5 2 15- 10 28 10-15 2 5-10 2 0-5 4 15- 0 24 10-15 10 5-10 20 0-5 RDGR (%) mortality rate recruitment rate (%) 60 第4章 4.3.3 代 表 種 の 耐 陰 性 と 下 層 植 生 林 冠 閉 鎖 度 と ,代 表 種 の 実 生・幼 樹 の 分 布 ,お よ び 低 木 と つ る 植 物・ヤ シ ・ シダ類の内いずれかの調査区で有意な相関があった種の分布相関の解析の 結 果 を 示 す ( Table 4.5)。 な お , 相 関 解 析 に 用 い た 変 数 の , 実 生 数 , 幼 樹 数 お よ び 占 有 度 指 数 は ,Fig. 4.4 中 に 示 し た 。ま た ,Fig. 4.4 か ら 判 読 し た 樹 冠 と 実 生 ・ 幼 樹 分 布 の 関 係 を ま と め た ( Table 4.6)。 Table 4.5 林冠閉鎖度と代表種の実生・幼樹の密度,低木・つる植物の占有指数 の順位相関(Spearman) A B C D 高木種 H. fomes 実生 NS NS NS 0.36* H. fomes 幼樹 -0.62** NS NS NS Bruguiera spp. 実生 NS NS NS NS Bruguiera spp. 幼樹 NS 0.24* NS NS A. cucullata 実生 -0.37* NS NS A. cucullata 幼樹 -0.62** -0.25* NS E. agallocha 実生 E. agallocha 幼樹 低木種 A. ilicifolius NS NS NS -0.53** つる植物 D. trifoliata NS NS NS -0.50** S. carinatus -0.36* NS NS -0.33* NS if P >0.05; * if P <0.05; ** if P <0.01 つる植物の相関判定には,1.3m以下の層の総合優占度・群度に対応する占有度 D区のH. fomes の相関判定には,萌芽枝を除いた総合優占度・群度に対応する占 有度指数を用いた。 A. ilicifolius の相関判定には,占有度指数に代えて幹本数を用いた。 Table 4.6 樹冠投影図と代表種の実生・幼樹の分布図判読結果 A B C 実生 ・ ・ ・ 幼樹 *** ** ** 実生 ・ * * 幼樹 ・ ・ ・ 実生 *** * ** 幼樹 *** ・ ** 実生 ・ ・ ・ 幼樹 ・ ・ ・ ***: ギャップへの分布傾向 **: 小樹冠の成木との同所的な分布傾向 *: 比較的大きな樹冠の同種個体との同所的な分布傾向 H. fomes H. fomes Bruguiera spp. Bruguiera spp. A. cucullata A. cucullata E. agallocha E. agallocha - 105 - D ・ *** * * ・ ・ ・ ・ 第4章 ( 1) 代 表 種 の 実 生 ・ 幼 樹 の 分 布 林 冠 閉 鎖 度 に 対 す る Heritiera fomes 実 生 の 分 布 は ,D 区 に お い て 有 意 な 正 の 相 関 が( 0.36,P< 0.05),幼 樹 の 分 布 は A 区 に お い て 有 意 な 負 の 相 関 が あ っ た ( − 0.62, P< 0.01)。 ま た , 幼 樹 は , A 区 に お い て 南 辺 中 央 の 小 ギ ャ ッ プ 下 に 集 中 し ,D 区 に お い て 東 辺 北 寄 り の 疎 開 林 冠 下 に 分 布 し て い た 。ま た , B 区 に お い て 西 辺 北 寄 り の ,お よ び C 区 に お い て 北 辺 中 央 の 比 較 的 小 さ な 樹 冠 の 成 木 と 同 所 的 に 分 布 し て い た ( Fig. 4.4)。 林 冠 閉 鎖 度 に 対 す る Bruguiera spp.幼 樹 の 分 布 は , B 区 に お い て 有 意 な 正 の 相 関 が あ っ た ( 0.24, P< 0.05)。 ま た , 実 生 は , B 区 の 西 辺 南 寄 り , C 区 の 全 域 お よ び D 区 の 北 辺 に お い て ,同 種 の 成 木 と 同 所 的 に 分 布 し ,幼 樹 は D 区 に お い て 同 種 の 成 木 と 同 所 的 に 分 布 し て い た ( Fig. 4.4)。 林 冠 閉 鎖 度 に 対 す る Amoora cucullata 実 生 の 分 布 は ,A 区 に お い て 有 意 な 負 の 相 関 が( 0.37,P< 0.05),幼 樹 の 分 布 は A 区 お よ び B 区 に お い て 有 意 な 負 の 相 関 が あ っ た( そ れ ぞ れ 順 に − 0.62,P< 0.01;− 0.25,P< 0.05)。ま た , 実 生 は ,A 区 に お い て 小 ギ ャ ッ プ 下 に 集 中 し ,B 区 に お い て 北 寄 り の ,C 区 に お い て 中 央 南 寄 り お よ び 北 西 辺 の 同 種 の 成 木 と 同 所 的 に 分 布 し て い た 。幼 樹 は ,A 区 に お い て 小 ギ ャ ッ プ 下 に 集 中 し ,C 区 に お い て 南 辺 中 央 の 比 較 的 小 さ な 樹 冠 の 成 木 と 同 所 的 に 分 布 し て い た ( Fig. 4.4)。 ( 2) 下 層 の 叢 生 形 植 物 の 分 布 林冠閉鎖度に対して,分布に有意な相関が判定されたのは,低木の Acanthus ilicifolius と ,つ る 植 物 の Derris trifoliata お よ び Sarcolobus carinatus であった。 D 区 に お い て こ れ ら 3 種 の 分 布 に は ,林 冠 閉 鎖 度 に 対 す る 負 の 相 関 が あ っ た ( そ れ ぞ れ 順 に − 0.53, P< 0.01; − 0.50, P< 0.01; − 0.33, P< 0.05)。 S. carinatus は A 区 に お い て も , 負 の 相 関 が あ っ た ( − 0.36, P< 0.05)。 4.3.4 萌 芽 力 の 比 較 樹種別の萌芽率および株当たり萌芽枝本数を,萌芽率の上位から示す ( Table 4.7A)。12 種 の う ち 6 種 の 萌 芽 率 は 71.8∼ 90.0% ,他 の 6 種 で は 0∼ 32.3% で あ っ た 。 後 者 6 種 中 の 5 種 が ヒ ル ギ 科 の 樹 種 で あ っ た 。 Heritiera fomes の 萌 芽 率 は 75.2% と ,上 位 の 群 に 属 し て い た 。株 当 り 萌 芽 枝 本 数 は 7.2 本 で ,12 種 中 2 番 目 に 多 か っ た 。H. fomes 切 り 株 476 の 特 性・形 質 デ ー タ の 平 均 値 と 標 準 偏 差 は そ れ ぞ れ ,伐 根 径 9.29 cm±4.32,伐 採 高 84.55 cm±42.84, - 106 - 第4章 株 当 り 萌 芽 枝 本 数 7.19 本 ±7.55 で あ っ た 。ま た ,環 境 要 因 を 平 均 す る と そ れ ぞ れ ,伐 採 後 の 経 過 期 間 は お よ そ 26 ヶ 月 ,切 り 株 の 場 所 の 最 高 水 位 は 約 40 cm で あ っ た 。 Table 4.7 マングローブの切り株萌芽力 (A) ミャンマー・エーヤワディーデルタ:筆者調査結果 学名 科 N* Avicennia officinalis Avicenniaceae 10 Excoecaria agallocha Euphorbiaceae 56 Amoora cuculata Meliaceae 60 Heritiera fomes Sterculiaceae 476 Xylocarpus granatum Meliaceae 59 Aegiceras corniculatum Myrsinaceae 39 Sonneratia apetala Sonneratiaceae 62 Kandelia candel Rhizophoraceae 50 Ceriops decandra Rhizophoraceae 44 Bruguiera gymnorrhiza Rhizophoraceae 80 Bruguiera sexangula Rhizophoraceae 46 Rhizophora apiculata Rhizophoraceae 15 * N: 総切り株数. **Ns: 萌芽株数. ***ns: 総萌芽枝数. Ns** 9 46 49 358 43 28 20 10 5 2 0 0 Ns/N(%) 90.0 82.1 81.7 75.2 72.9 71.8 32.3 20.0 11.4 2.5 0.0 0.0 ns*** 77 304 165 3421 232 209 289 48 62 25 0 0 ns/N 7.70 5.43 2.75 7.19 3.93 5.36 4.66 0.96 1.41 0.31 0.00 0.00 (B) タイおよびマレーシア:Tsuda & Ajima (1999)を筆者改変 * 学名 科 N Avicennia officinalis Avicenniaceae 11 Avicennia alba Avicenniaceae 4 Avicennia marina Avicenniaceae 9 Excoecaria agallocha Euphorbiaceae 4 Xylocarpus moluccensis Meliaceae 11 Xylocarpus granatum Meliaceae 17 Bruguiera gymnorrhiza Rhizophoraceae 6 Bruguiera cylindrica Rhizophoraceae 45 Bruguiera parviflora Rhizophoraceae 19 Ceriops decandra Rhizophoraceae 2 Ceriops tagal Rhizophoraceae 35 Rhizophora apiculata Rhizophoraceae 48 Sonneratia alba Sonneratiaceae 9 * ** *** N: 総切り株数. Ns: 萌芽株数. ns: 総萌芽枝数. Ns 9 4 9 4 9 11 1 6 0 0 3 5 9 ** Ns/N(%) 81.8 100.0 100.0 100.0 81.8 64.7 16.7 13.3 0.0 0.0 8.6 10.4 100.0 ns 152 142 285 64 36 44 2 23 0 0 41 6 69 *** ns/N 13.82 35.50 31.67 16.00 3.27 2.59 0.33 0.51 0.00 0.00 1.17 0.13 7.67 4.3.5 萌 芽 力 の 消 長 伐 根 径 の 階 級 ご と の Heritiera fomes の 萌 芽 率 を ,伐 採 後 の 経 過 期 間 別 に 示 す ( Fig. 4.7)。 伐 根 径 が 大 き く な る に 従 っ て , 時 間 経 過 に よ る 萌 芽 率 の 低 下 が 顕 著 で あ っ た 。 伐 根 径 が 10 cm 以 上 の 切 り 株 で は , 25 ヶ 月 以 降 の 萌 芽 率 が 6 割 程 度 に 低 下 し て い た 。 一 方 , 伐 根 径 が 6 cm 以 下 の 株 で は 萌 芽 率 の 低 下 は み ら れ ず , 25 ヶ 月 以 降 も 切 り 株 の 9 割 程 度 が 萌 芽 株 で あ っ た - 107 - 第4章 100 14 Sprouting rate (%) 23 80 19 ● 38 □ 43 60 ● 20 □ 20 △ 52 △ 32 13 6 32 13 8 58 29 32 24 40 ● □ 20 △ - 12 months 13 – 24 months 25 months - 0 -6 6-8 8-10 10-12 12-14 Stump diameter class (cm) 14- Fig. 4.7. 伐根径と萌芽率の関係およびその時間動態 (H. fomes) 伐採後の経過時間を3つに区分している。萌芽率を計算した,伐採後 の経過時間別・伐根径階級ごとの総サンプル数を図中に示した。 伐 採 高 の 階 級 ご と の H. fomes 萌 芽 率 を ,伐 採 後 の 経 過 期 間 別 に 示 す( Fig. 4.8 に )。 伐 採 後 12 ヶ 月 以 下 に お い て は , 伐 採 高 が 40∼ 80 cm の 間 の 2 つ の 階 級 に の み 枯 死 株 が あ り , 萌 芽 率 は 伐 採 後 13∼ 24 ヶ 月 経 過 後 の 切 り 株 よ り 低 か っ た 。こ の 2 つ の 階 級 を 除 け ば ,伐 採 高 に 関 わ ら ず ,時 間 経 過 に し た が って萌芽率は低下していた。 Sprouting rate (%) 10 100 80 15 12 9 9 15 21 18 18 60 12 20 32 36 9 21 12 42 25 26 17 20 40 ● □ 20 △ - 12 months 13 – 24 months 25 months - 0 -40 40-60 60-80 80-100 100-120 120-140 140- Felling height class (cm) Fig. 4.8. 伐採高と萌芽率の関係およびその時間動態(H. fomes) 伐採後の経過時間を3つに区分している。萌芽率を計算した,伐採 後の経過時間別・伐根径階級ごとの総サンプル数を図中に示した。 H. fomes の 伐 根 径 の 階 級 ご と の 株 当 た り 平 均 萌 芽 枝 本 数 を , Fig. 4.9 に 示 す 。萌 芽 枝 本 数 は 萌 芽 率 と 同 様 に ,伐 根 径 が 大 き く な る に し た が い 減 少 す る 傾 向 が み ら れ た 。な お ,林 冠 閉 鎖 度 と 萌 芽 率 ,株 当 り 萌 芽 枝 本 数 に 関 係 は み - 108 - 第4章 Average number of stump sprouts (/stump) られなかった。 16 14 12 10 8 6 4 (n = 97) 2 0 -5 5-10 10-15 15-20 20-25 Stump diameter class (cm) 25- Fig. 4.9. 伐根径と萌芽枝本数の関係 (H. fomes) 対象は伐採25ヵ月後までの切り株 H. fomes の 伐 根 径 と 最 大 萌 芽 枝 長 の 関 係 を ,Fig. 4.10 に 示 す 。伐 採 後 6 ヶ 月 で は 伐 根 径 の 大 小 に 関 わ ら ず , 最 大 萌 芽 枝 長 は 100 cm 程 度 を 上 限 に ば ら つ い て い た 。伐 採 後 18 ヶ 月 と 36 ヶ 月 で は ,伐 根 径 が 10 cm よ り や や 小 さ な と き , 100 cm 以 上 の 長 い 最 大 萌 芽 枝 を 持 つ 萌 芽 株 が 多 く 出 現 す る 傾 向 が 見 られた。 Length of the longest stump sprouts (cm) 250 (a) (c) (b) (n = 39) (n = 28) (n = 44) 200 150 100 50 0 0 10 20 30 0 10 20 30 0 Stump diameter (cm) Fig. 4.10. 伐根径と切り株中の最長萌芽枝長の関係 (H. fomes) (a),(b),(c)はそれぞれ伐採後6ヶ月,18ヶ月,36ヶ月の切り株。 - 109 - 10 20 30 第4章 4.3.6 冠 水 率 と 切 り 株 の 枯 死 2 つ の 伐 採 高 階 級 に 枯 死 が 集 中 し て い た 伐 採 後 12 ヶ 月 以 下 の 切 り 株( Fig. 4.7)の ,萌 芽 株 数 と 枯 死 株 数 を 低 冠 水 率 群 と 高 冠 水 率 群 に 区 分 し て 示 す( Fig. 4.11)。 サ ン プ ル 数 は , 136 切 り 株 中 最 高 水 位 が 記 録 で き な か っ た 15 株 を 除 く 121 株 で あ る 。 23 の 枯 死 株 は 全 て 高 冠 水 率 群 に 属 し て い た 。 90 dead survived Number of stumps 80 70 60 (n = 121stumps) 50 40 30 20 10 0 <50% ≧50% Submergence rate Fig. 4.11. 冠水率による切り株の生存数と死亡数 対象は伐採後12ヶ月までの切り株 <50%:低冠水率群,≧50%:高冠水率群 4.3.7 株 当 り 萌 芽 枝 本 数 の 時 間 動 態 Heritiera fomes 切 り 株 の 伐 根 径 と 最 大 萌 芽 枝 長 と の 関 係 を , Fig. 4.12 に 示 す 。伐 採 後 12 ヶ 月 ま で の 萌 芽 株 で は ,1∼ 5 本 と 6∼ 10 本 の 階 級 比 率 が 41.0% , 38.5% と 高 く , 11 本 以 上 の 各 階 級 の 比 率 は 低 か っ た 。 1∼ 5 本 ま で の 萌 芽 枝 本 数 階 級 の 比 率 は , 13 ヶ 月 以 降 に は 減 少 し , そ の 後 も 25% 程 度 で ほ ぼ 一 定 に な っ て い た 。6∼ 10 本 の 階 級 比 率 は ,伐 採 後 の 初 期 か ら 35∼ 40% 程 度 と 常 に 高 く , 変 化 は ほ と ん ど な か っ た 。 11∼ 15 本 の 階 級 比 率 は , 伐 採 後 13∼ 24 ヶ 月 ,25∼ 36 ヶ 月 に 増 加 し ピ ー ク が み ら れ た 。伐 採 初 期 か ら 36 ヶ 月 ま で 低 か っ た 16 本 以 上 の 各 階 級 比 率 は , 37 ヶ 月 以 降 , 21∼ 25 本 と 26∼ 30 本 の 2 つの階級で増加していた。 - 110 - Percentage of total for each intervals (%) 第4章 50 - 12 months (n = 39) 13 - 24 months (n = 43) 25 - 36 months (n = 64) 37 months (n = 21) 40 30 20 10 0 1-5 6 - 10 11 - 15 16 - 20 21 - 25 26 - 30 31 - Number class of stump sprouts (/stump) Fig.4.12. H. fomesの株当たり萌芽枝本数の時間動態 株当たり萌芽枝本数により階級区分した切り株の比率を,4つの伐 採後の経過時間に区分しグラフ化した。 4.3.8 優 勢 な 萌 芽 枝 の 分 布 動 態 Heritiera fomes の 伐 採 高 と 優 勢 な 萌 芽 枝 1491 本 の 出 芽 高 の 関 係 を , Fig. 4.13 に 示 す 。優 勢 な 萌 芽 枝 は ,特 に 切 り 口 に 近 い 幹 上 端 部 30 cm 程 の 部 位 に 集 中 す る 傾 向 が み ら れ た 。 ま た , 伐 採 高 が お よ そ 150 cm 以 上 で , 切 り 株 の 中 程 の 高 さ で の 分 布 が 少 な い 傾 向 が あ っ た 。一 方 ,伐 採 高 が 70∼ 80 cm 以 下 では,萌芽分布の集散傾向は不明瞭であった。 高 冠 水 率 群 と 低 冠 水 率 群 に 区 分 し た , 経 過 期 間 ご と の 3 つ の H. fomes の 萌 芽 株 タ イ プ の 出 現 比 率 を , Fig. 4.14 に 示 す 。 伐 採 後 初 期 の 12 ヶ 月 以 下 で は ,高 冠 水 率 群( a),低 冠 水 率 群( b),と も に 上 部 萌 芽 型 の 萌 芽 株 の 比 率 が そ れ ぞ れ 42.5% ,50.0% で 最 も 多 く ,散 在 型 が こ れ に 続 い て い た 。下 部 萌 芽 型 の 比 率 は ,高 冠 水 率 群 で 18.2% ,低 冠 水 率 群 で 11.5% と ,と も に 最 も 低 か っ た 。 高 冠 水 率 群 に お い て は , 上 部 萌 芽 型 の 比 率 が 25 ヶ 月 以 降 60.0% に 増 加 し 優 占 し て い た が ,下 部 萌 芽 型 ,散 在 型 は 減 少 し て い た 。一 方 ,低 冠 水 率 群 に お い て は ,上 部 萌 芽 型 は 25 ヶ 月 以 降 24.3% ま で 減 少 し ,散 在 型 が 58.6% に 増 加 し 卓 越 し て い た 。 下 部 萌 芽 型 の 比 率 は , 17.1% に 微 増 し て い た 。 - 111 - Sprouting height of dominant stump sprouts (cm) 第4章 200 (n = 1491 sprouts/335 stumps ) 150 100 50 0 0 50 100 150 Felling height (cm) 200 Fig. 4.13. 優勢な萌芽枝の切り株上の出芽高分布(H. fomes) Percentage of sprouting stumps of each type (A) 80 U-type L-type S-type 70 60 50 21 36 14 40 30 20 18 13 7 6 2 10 6 0 - 12 13 - 24 25 - (B) 80 Percentage of sprouting stumps of each type 点線は伐採面の最低部位の高さを示す。各点はそれぞれの萌 芽枝の出芽高を示す。 70 60 13 50 U-type L-type S-type 41 17 40 30 20 10 15 3 5 17 12 10 0 - 12 13 - 24 25 - Time after felling (months) Time after felling (months) Fig. 4.14. 伐採後の経過時間による萌芽株タイプの出現比率変化 (H. fomes) (A)は高冠水率群,(B)は低冠水率群の切り株の,3つの萌芽株タイプ( U-type/上部萌芽型, S-type/散在型, L-type/下部萌芽型)の出現比率の,経過時間による変化を示す。タイプ 別・経過時間別のサンプル数を図中に示した。サンプルの切り株は,5本以上の萌芽枝をも つ切り株に限った (n = 256)。 - 112 - 第4章 4.4 考 察 4.4.1 林 分 構 造 ( 1) 群 落 単 位 A 区 , B 区 お よ び D 区 は , Heritiera fomes の , 個 体 総 数 に 対 す る 個 体 数 比 率 と 胸 高 断 面 積 合 計 に 占 め る 比 率 の 高 さ ,最 上 層 に お け る 優 占 ,お よ び 低 木 層 と 草 本 層 に お け る Acanthus ilicifolius の 出 現 か ら , Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集・Acanthus ilicifolius 典 型 亜 群 集 と 判 断 さ れ る 。 一 方 C 区 で は , 個 体 数 比 率 は H. fomes と Bruguiera spp.の 同 程 度 だ が , 後 者 の 胸 高 断 面 積 比 率 と 最 上 層 に お け る 優 占 , お よ び A. ilicifolius の 不 在 か ら , A. cucullata-H. fomes 群 集 ・ Bruguiera gymnorrhiza 亜 群 集 と 判 断 で き る 。 ( 2) 林 分 構 造 と 2 次 遷 移 保 護 を 開 始 し た 初 期 の 状 態 ,お よ び 2 次 遷 移 の 過 程 と 程 度 を 把 握 す る 要 素 と し て ,林 分 の 種 組 成 ,階 層 構 造 ,バ イ オ マ ス ,樹 形 に 着 目 し 林 分 構 造 と 2 次遷移を考察する。 種組成 Myint Aung( 2004) は , A. cucullata-H. fomes 群 集 ・ A. ilicifolius 亜 群 集 の う ち 高 木 層 と 亜 高 木 層 を 有 す る 林 分 に お け る 出 現 種 数 は 7∼ 19 種( 8 調 査 区 。 以 下 同 様 ), B. gymnorrhiza 亜 群 集 に お い て は 14∼ 22 種( 4 調 査 区 )と 報 告 し て い る 。 同 様 の 出 現 種 数 で あ っ た A 区 と B 区 ( Table 4.4) は , デ ル タ 中 部 河 口 域 に お け る A. ilicifolius 典 型 亜 群 集 , C 区 は B. gymnorrhiza 亜 群 集 と し て 典 型 的 な 状 態 言 え る 。 D 区 の 出 現 種 数 が 12 種 ( Table 4.4) と や や 少 な い の は ,長 期 の 過 剰 伐 採 に よ る A. cucullata と Excoecaria agallocha の 密 度 低 下 と ,初 期 状 態 か ら の 経 過 期 間 の 短 さ の た め 新 入 が 進 ん で い な い か ら だ と 言 える。 階層構造,上層・下層の状態 林分の階層構造は,遷移の進行つれて次第に発達するとされる(野本, 1977)。 小 径 木 中 心 と す る 閉 鎖 林 か ら 遷 移 途 上 の A 区 , B 区 , C 区 は , 15 年 で 高 木 層 の 階 層 化 が 進 ん で い る( Table 4.4)。C 区 の 高 木 層 を 超 え る H. fomes の 単 木 は ,伐 採 か ら の 残 存 木 で あ る 。し た が っ て ,林 分 高 は 回 復 途 上 で あ る こ と , お よ び B. gymnorrhiza 亜 群 集 の 成 熟 林 に お い て , H. fomes は 上 層 の 構 - 113 - 第4章 成 種 と な る と 解 釈 で き る 。D 区 の 高 木 層 が 依 然 と し て 疎 開 し 階 層 構 造 が 未 発 達 な の は ,初 期 状 態 が 皆 伐 に 近 い 樹 木 密 度 で あ り ,2 次 遷 移 が 進 ん で い な い からだと言える。 H. fomes の 樹 冠 被 覆 に は ,A 区 ,B 区 ,C 区 の 順 に ,明 瞭 な 空 隙 , 小 樹 冠 個 体 の 集 中 箇 所 ,H. fomes 以 外 の 小 樹 冠 個 体 の 集 中 箇 所 が み ら れ た( Fig. 4.4)。 こ れ ら は ,遷 移 初 期 も し く は そ の 過 程 に 林 冠 木 の 単 木 的 な 欠 損 に よ り 生 じ た 小 ギ ャ ッ プ と 解 釈 さ れ ,B 区 お よ び C 区 で は ,A 区 に 比 べ 修 復 が 進 ん で い る と言える。小ギャップの形成要因につては,後述する。 マ ン グ ロ ー ブ 林 の 伐 採 跡 地 や 風 倒 木 跡 の 空 地 下 層 に お い て は ,A. ilicifolius 上 を Finlaysonia maritima や Derris trifoliata な ど が カ ー ペ ッ ト 上 に 覆 わ れ る 退 行 植 生 が し ば し ば 観 察 さ れ る( 藤 原 , 1989)。D 区 の 草 本 層 に お け る ,比 較 的 少 な い 出 現 種 数 , つ る 植 物 の 高 い 総 合 優 占 度 ( Table 4.4), 閉 鎖 度 に 対 す る D. trifoliata, A. ilicifolius の 負 の 分 布 相 関 ( Table 4.5) は , 過 剰 伐 採 に よ る 疎 開 ,初 期 の 陽 性 の つ る 植 物・叢 生 低 木 種 の 侵 入 ,下 刈・つ る 切 り 後 の 同 様 な 植 物 群 の 侵 入 を 経 て ,依 然 と し て 下 層 に お け る 旺 盛 な 成 長 が 続 い て い る ことを示す。 バイオマス C 区 に お け る 単 木 の H. fomes 大 径 木 を 除 く と ,A 区 か ら C 区 の 胸 高 断 面 積 合 計 が ほ ぼ 同 様( Table 4.4)で あ っ た こ と は ,伐 採 停 止 後 の 林 分 の バ イ オ マ ス の 回 復 が ,同 程 度 に 進 ん で い る こ と を 示 す 。一 方 D 区 の 胸 高 断 面 積 合 計 が , 他 の 調 査 区 の 半 分 程 度 に 過 ぎ な い の は ,2 次 遷 移 の 進 行 程 度 が 低 い こ と を 示 す。 樹形 本 研 究 の 株 立 ち 個 体 は ,3 つ の タ イ プ を 含 ん で い る 。ま ず ,樹 体 下 部 に お け る 分 枝 に よ る も の と ,損 傷 を 受 け た 樹 体 を 回 復 す る た め に 2 次 的 に 形 成 さ れた萌芽シュートによるものがあげられる。通常樹体下部の分枝が少ない H. fomes, E. agallocha, Xylocarpus spp.な ど に お い て は , 株 立 ち 個 体 の 割 合 が 撹 乱 の 程 度 を 示 す と 言 え る 。3 つ め は ,栄 養 繁 殖 と し て 生 じ た シ ュ ー ト に よ る 株 立 ち で あ る 。支 柱 根 様 の 走 出 枝 か ら 複 数 の シ ュ ー ト を 生 じ 叢 生 樹 形 を 呈 す る A. ilicifolius が こ れ に 当 た る 。 栄 養 繁 殖 に よ る シ ュ ー ト は , 親 植 物 の 無機養分や同化産物などを利用でき,実生よりも生存率が高く成長が速い - 114 - 第4章 ( Greig, 1993; Kanno & Seiwa, 2004)。 H. fomes の 個 体 総 数 に 対 す る 株 立 ち 個 体 の 比 率 が D 区 に お い て 最 も 高 か っ た こ と は ,強 い 伐 採 圧 が 最 近 ま で か か っ て い た 履 歴 を 生 態 的 に 裏 付 け て い る 。一 方 ,B 区 お よ び C 区 に お け る 比 率 が 比 較 的 低 か っ た の は ,撹 乱 の 程 度 が 低 い こ と を 示 す 。 D 区 の A. ilicifolius 株 立 ち 個 体 比 率 の 突 出 ( Table 4.4) は,調査区中最も明るい環境における旺盛な栄養繁殖を示す。 林 冠 ギ ャ ッ プ は 暴 風 や 落 雷( Duke, 2001),菌 類・穿 孔 虫( Wier et al., 2000), 伐 採( Saenger, 2002)な ど に よ り 形 成 さ れ る 。 小 ギ ャ ッ プ の 形 成 や , 株 立 ち の H. fomes, E. agallocha な ど 割 合 を 高 め た 撹 乱 要 因 と し て , 近 隣 住 民 に よ る 軽 度 の 伐 採 も し く は 間 伐 が 示 唆 さ れ る 。D 区 の 近 傍 に は 数 百 人 規 模 の 複 数 の 村 落 が ,A 区 に は 数 十 人 か ら な る 小 さ な 集 落 が 隣 接 し ,撹 乱 強 度 に 集 落 の 規模と距離が対応していると判断できる。 各調査区の初期状態と,更新過程と程度をまとめる。 A 区 ,B 区 お よ び C 区 の 遷 移 は 閉 鎖 林 か ら 始 ま り ,比 較 的 暗 環 境 に あ っ た 草 本 層 に は 陽 性 の つ る 植 物・叢 生 の 低 木 種 は 繁 茂 し て い な か っ た 。保 護 開 始 か ら の 経 過 期 間 が ほ ぼ 同 様 で ,林 分 の バ イ オ マ ス と 上 層 の 階 層 構 造 の 発 達 が 同程度に進んだ状態である。ただし,A 区の人為撹乱は B 区や C 区よりや や強く,単木的な小ギャップが残存している。一方 D 区は,強度の伐採に よ る 疎 開 林 分 で あ っ た と 裏 付 け ら れ ,陽 性 植 物 の 下 層 に お け る 繁 殖 が 旺 盛 で あ る 。ま た ,林 分 の バ イ オ マ ス や 上 層 の 階 層 構 造 か ら ,更 新 過 程 の 初 期 に あ ると言える。 4.4.2 個 体 群 動 態 ( 1) 代 表 種 個 体 群 構 造 と の 動 態 マ ン グ ロ ー ブ の 植 生 を 決 定 す る 重 要 な 立 地 条 件 は ,水 深 ,塩 分 濃 度 ,基 質 の 条 件 で あ る ( Chapman, 1976; 山 田 , 1986)。 し か し な が ら , 塩 分 濃 度 と 基 質 が 同 様 な A 区 お よ び B 区 に お い て ( Table 4.1), 浸 水 ク ラ ス 3 と 4 の 違 い は , 林 分 の 更 新 過 程 と 遷 移 の 程 度 , 代 表 種 の 個 体 群 サ イ ズ 構 造 ( Fig. 4.5) に差異を生じさせていなかった。したがって,A 区および B 区における Acanthus ilicifolius 典 型 亜 群 集 の , 代 表 種 の 個 体 群 動 態 は 同 様 の 傾 向 を 示 す と言える。 胸 高 直 径 階 の 分 布 パ タ ー ン( 平 吹・阿 部 , 1994; 八 神 , 2005)と 動 態 変 数 に - 115 - 第4章 より,A 区から D 区の代表種の個体群動態を考察する。 Heritiera fomes個 体 群 胸高直径階分布パターンが逆 J 字型の傾向を示した A 区,B 区および C 区 に お け る H. fomes 個 体 群 は ,総 幹 数 に 対 す る 実 生 数 の 比 率 が 高 く( Fig. 4.5) 大 部 分 が 2 年 生 以 上 で あ っ た 。ま た ,実 生 か ら 幼 樹 へ の 加 入 は 死 亡 を 大 き く 上 回 り , 全 直 径 サ イ ズ に お い て 死 亡 が な く , 成 長 し て い た ( Fig. 4.6)。 こ れ ら は , A 区 か ら C 区 の H. fomes お い て 実 生 更 新 が 進 行 し , 個 体 群 の 維 持 と 樹 体 サ イ ズ が 増 大 し て い る こ と を 示 す 。特 に ,幼 樹 の 最 小 サ イ ズ ク ラ ス に お け る 加 入 が 死 亡 を 大 き く 上 回 る A 区 ( Fig. 4.6A) で は , 実 生 更 新 に よ る H. fomes の 個 体 群 サ イ ズ の 増 大 が 進 行 中 で あ る 。 A 区 お よ び B 区 に お い て , 直 径 サ イ ズ 2.5∼ 7.5 cm の 頻 度 が や や 低 か っ た ( Fig. 4.5) の は , こ の 幹 サ イ ズ の H. fomes が 道 具 材 や 小 規 模 な 建 材 な ど 広 範 な 用 途 を 持 つ 資 源 で あ り ,保 護 開始後も住民による弱い間伐を受けていたと解釈できる。 D 区 に お け る 実 生 比 率 の 低 さ と 実 生 由 来 幹 の 不 連 続 な 分 布 パ タ ー ン ( Fig. 4.5) は , 下 層 に 繁 茂 す る 陽 性 の つ る 植 物 ・ 叢 生 低 木 種 に よ る , H. fomes 実 生 の 定 着・更 新 の 阻 害 を 示 唆 し て い る 。一 方 ,各 直 径 階 級 に お け る 萌 芽 由 来 幹 数 の 卓 越 と 逆 J 字 型 の 分 布 パ タ ー ン( Fig. 4.5)は ,疎 開 林 分 か ら の 2 次 遷 移 で は ,切 り 株 萌 芽 に よ る 個 体 群 の 維 持・回 復 が 先 行 す る こ と を 示 す 。し た が っ て ,実 生 更 新 へ の 移 行・促 進 の た め に は ,今 後 も 定 期 的 な 下 刈・つ る 切 りなどの保育作業が必要である。 Bruguiera spp.個 体 群 A 区 ,B 区 お よ び D 区 に お け る ,総 幹 数 の 少 な さ( Table 4.4)や 直 径 の 小 サ イ ズ 偏 在 ・ 不 連 続 性 ( Fig. 4.5 ) は , A. ilicifolius 典 型 亜 群 集 に お け る Bruguiera spp.の 個 体 密 度 が , 元 来 Bruguiera gymnorrhiza 亜 群 集 よ り 低 い 上 に 伐 採 が 加 わ り ,保 護 開 始 時 の 密 度 が 極 め て 低 か っ た こ と を 示 す 。A 区 に お い て は 実 生 か ら 幼 樹 へ の 加 入 が わ ず か( Fig. 4.6A)で あ り ,ま た D 区 に お け る 実 生 数 と 最 小 階 級 幼 樹 の 大 き な 頻 度 差 ( Fig. 4.5) も 同 じ 動 態 を 示 し て い る 。 さ ら に , 各 調 査 区 と も 2 年 生 以 上 の 実 生 が 極 め て 少 な い ( Fig. 4.5) こ と か ら ,A 区 ,B 区 お よ び D 区 に お い て は ,個 体 密 度 の 増 加 は 極 め て 緩 慢 で , 小さな個体群が継続すると言える。 C 区 に お い て ,実 生 数 が 極 め て 多 か っ た に も 関 わ ら ず ,そ れ ら は ほ と ん ど 当 年 制 で あ り ,幼 樹 頻 度 が 小 さ く 胸 高 直 径 階 5∼ 7.5 cm に 幹 の 分 布 ピ ー ク が あ っ た と こ と ( Fig. 4.5), お よ び 実 生 か ら 幼 樹 へ の 加 入 が な く 幼 樹 の 死 亡 が - 116 - 第4章 起 こ っ て い た こ と( Fig. 4.6C)は ,過 去 に 一 斉 更 新 が あ っ た も の の ,現 在 実 生 更 新 が 停 滞 し て い る こ と を 示 す 。 Bruguiera spp.の 実 生 の 生 残 と 成 長 は ギ ャ ッ プ 下 で 促 進 さ れ る ( Tamai and Iampa, 1988) た め , 調 査 区 内 で 疎 開 林 冠 の 修 復 が Bruguiera spp.の 一 斉 更 新 に よ り な さ れ た と 解 釈 で き る 。 成 木 に 死 亡 は な く , 各 サ イ ズ の 幹 が 安 定 し た 成 長 を 示 し て お り ( Fig. 4.6B), 個 体 群 は維持され各成木個体の成長が継続すると言える。 Amoora cucullata個 体 群 C 区 に お い て は , な だ ら か な 逆 J 字 型 の 胸 高 直 径 階 分 布 パ タ ー ン と ( Fig. 4.5), 実 生 か ら 幼 樹 へ の 旺 盛 な 加 入 と 各 階 級 の 幹 の 成 長 ( Fig. 4.6B) か ら , 実生更新による個体群サイズと最大個体サイズの増加が見込まれる。 河岸近くの A 区,B 区および D 区において,総幹数が少ないか出現しな か っ た ( Table 4.4) の は , 元 来 A. cucullata は 陸 域 近 く の H. fomes 林 に 出 現 す る ( 山 田 , 1986) 種 で あ る 上 に , 伐 採 が 加 わ っ た た め で あ る 。 さ ら に 散 布 体は少産・大型であるため,林内外からの供給は限られると言える。また, A 区 に お い て は 実 生 か ら 幼 樹 へ の 加 入 は あ る も の の ,幼 樹 の 死 亡 が 同 程 度 あ り ( Fig. 4.6A), B 区 や D 区 で も 同 様 の 動 態 変 数 を 示 す と す れ ば , 各 調 査 区 の個体群密度の増加は見込めない。 Excoecaria agallocha個 体 群 E. agallocha は ,潮 の 影 響 の 少 な い 内 陸 側 に 生 育 す る と さ れ( 山 田 , 1986), 自然堤防上の A 区,B 区,および D 区においては,小型・軽量の果実の流 亡 が 考 え ら れ る 。ま た ,実 生 の 生 存 に は よ り 高 い 塩 分 濃 度 が 適 す る( Siddiqi, 1994)こ と か ら ,調 査 地 域 で は 実 生 が 出 現 し に く い も の と 言 え る 。Rabinobitz ( 1978) は , 散 布 体 の 重 量 と 実 生 の 死 亡 率 の 逆 相 関 を 示 唆 し て い る 。 Myint Aung ( 2004 ) に よ る A. cucullata-H. fomes 群 集 の 調 査 で も , 草 本 層 に E. agallocha が 出 現 せ ず , 調 査 地 域 に お い て は 実 生 更 新 が 起 こ ら な い の は 普 遍 的 だ と 言 え る が ,現 存 す る 個 体 が 過 去 定 着 し た 理 由 の 解 明 は ,今 後 の 課 題 で あ る 。 A 区 に お い て , 幼 樹 サ イ ズ の 直 径 5 cm 未 満 の 幹 は , 萌 芽 に 由 来 す る 幹 の 加 入 と 死 亡 に よ り 交 代 し て お り ,本 群 集 に お け る 個 体 群 の 更 新 は 撹 乱 に よ る と 言 え る 。C 区 に お い て 直 径 7.5 cm 以 上 の 幹 し か 見 ら れ な か っ た( Fig. 4.5) の は , 萌 芽 更 新 が 行 わ れ て い な い た め で あ る 。 個 体 の 寿 命 ま で は 萌 芽 に よ る 樹 体 回 復 を 行 う こ と で 個 体 数 を 維 持 し て も ,長 期 的 に は 密 度 の 低 下 が 予想される。 - 117 - 第4章 4.4.3 代 表 種 の 実 生 更 新 マ ン グ ロ ー ブ の 実 生 の 定 着 と 成 長 に 関 わ る 因 子 と し て ,散 布 体 の サ イ ズ ・ 重 量 ,母 樹 の 有 無 と 母 樹 か ら の 距 離 ,実 生 の 生 残・成 長 に 係 る 耐 陰 性 ,塩 分 濃度適合性が挙げられる。 水 流 散 布 で あ る マ ン グ ロ ー ブ は ,浅 水 深 で は 大 型 の 散 布 体 の 移 動 が 制 限 さ れ 高 地 盤 高 へ の 侵 入 が 困 難 で あ り ,深 水 深 で は 小 型 の 散 布 体 の 長 時 間 の 潮 汐 影 響 に よ る 流 亡 が あ り ,更 新 が 規 制 さ れ る( Rabinobitz, 1978; Tamai and Iampa, 1988) 。 ま た , 母 樹 林 の 遠 地 に お い て は 自 然 更 新 が 困 難 ( Tamai and Iampa, 1988)な こ と は ,大 型 散 布 体 を 持 つ 種 の 定 着 可 能 距 離 の 短 さ を 示 唆 す る 。一 方 , 散 布 体 の 重 さ と 実 生 の 死 亡 率 の 逆 相 関 が 指 摘 さ れ て い る ( Fenner, 1985; Rabinobitz, 1978) 。 さ ら に , マ ン グ ロ ー ブ の 種 間 で 実 生 の 耐 陰 性 ( Saenger, 1982; Hutchings and Saenger, 1987) や 塩 分 濃 度 適 合 性 ( Siddiqi, 1994) が 異 な り , 実 生 の 生 残 と 成 長 の 差 が 森 林 タ イ プ や 種 組 成 に 影 響 す る ( Stoddard et al., 1978) 。 3.5∼ 5 cm 大 ( Siddiqi, 1991) の Heritiera fomes の 果 実 は , Avicennia spp. や Sonneratia spp.な ど の 種 子 よ り 大 き く ,Bruguiera spp.の 胎 生 種 子 や Amoora cucullata の 果 実 よ り 小 さ い 。 林 分 上 層 で H. fomes が 優 占 す る A 区 , B 区 に お い て 実 生 頻 度 が 高 か っ た ( Fig. 4.5) の は , 潮 汐 に よ る 移 動 が 制 限 さ れ 散 布 後 母 樹 の あ る 林 分 内 に 留 ま る 果 実 が 多 い た め だ と 解 釈 で き る 。A 区 か ら C 区 の 林 床 に お け る 実 生 の 分 布 が 林 冠 閉 鎖 度 に 左 右 さ れ ず ( Table 4.5) , 2 年 生 以 上 の 実 生 の 割 合 が 高 か っ た こ と は ,実 生 の 定 着 に 際 し て の 耐 陰 性 を 示 し て い る 。D 区 に お い て 実 生 が 暗 所 に 分 布 す る 傾 向 が 見 ら れ た( Table 4.5)の は , 明 所 に お け る Derris trifoliata を 中 心 と し た つ る 植 物 の 被 覆 ( Table 4.5, Table 4.4D) が , 水 流 に よ る H. fomes 果 実 の 物 理 的 な 侵 入 の 阻 害 や , つ る 植 物の実生樹体への巻き付きなどの機械的な被圧を引き起こしたからだと考 えられる。 B 区 の 西 辺 北 寄 り と C 区 の 北 辺 中 央 は , 修 復 過 程 に あ る 小 ギ ャ ッ プ ( Fig. 4.4B)と 考 え ら れ ,両 調 査 区 に お け る 当 該 箇 所 へ の H. fomes 幼 樹 の 分 布 傾 向 と , A 区 の 小 ギ ャ ッ プ へ の 集 中 分 布 ( Table 4.5, Table 4.6) か ら , H. fomes の 実 生 の 成 長 は 光 条 件 の 改 善 で 進 む と 言 え る 。し た が っ て ,H. fomes は 幼 時 の 耐 陰 性 が 高 く ,一 定 成 長 後 に 明 所 で よ く 生 育 す る 条 件 的 陰 樹 で あ る 。小 ギ ャ ッ プ で は 陽 樹 は 生 存・生 育 で き ず ,陰 樹 の 前 生 樹 の 成 長 が 促 進 さ れ ,ギ ャ - 118 - 第4章 ッ プ が 修 復 さ れ て い く( 沼 田 , 1974; 清 水 , 2001)。A 区 の 小 ギ ャ ッ プ に お い て は ,待 機 し て い た H. fomes の 前 生 樹 が 小 ギ ャ ッ プ を 修 復 す る 過 程 の 初 期 に あ り ,B 区 の 西 辺 南 寄 り に お い て は ,修 復 が 進 ん だ 状 態 に あ る と 解 釈 で き る 。 ギ ャ ッ プ サ イ ズ は ギ ャ ッ プ 内 の 種 組 成 や 動 態 に 影 響 す る ( 山 本 , 2003) 。 C 区 の 北 辺 中 央 に お い て は , 強 光 下 で H. fomes よ り 早 成 の 他 種 ( Myint Aung, 2004)が 先 行 し て ギ ャ ッ プ を 修 復 し て お り ,A 区 や B 区 よ り 元 の 林 冠 の 疎 開 が大きかったことが示唆される。一方 D 区のように林冠の疎開がより大き く ,萌 芽 シ ュ ー ト を 多 数 持 つ H. fomes の 切 り 株 が あ る 場 合 ,実 生 更 新 よ り 萌 芽 更 新 が 先 行 し て 林 冠 疎 開 が 塞 い で い く ( Fig. 4.4D, Fig. 4.5) 。 Bruguiera spp.の 実 生 が B 区 か ら D 区 に お い て 成 木 と 同 所 的 に 出 現 し , 成 木 が 上 層 で 優 占 す る C 区 に お い て ,実 生 頻 度 が 他 の 調 査 区 よ り 高 か っ た( Fig. 4.5,Fig. 4.4B; C; D)の は ,H. fomes よ り 大 き な 胎 生 種 子 の 移 動 が 規 制 さ れ , 散 布 距 離 が 短 い た め だ と 解 釈 で き る 。ま た ,全 て の 調 査 区 に お い て ,林 冠 閉 鎖 度 と の 分 布 相 関 が な く ( Table 4.5, Fig. 4.4) , 当 年 生 の 実 生 の 割 合 が 調 査 区 間 で 同 様 に 極 め て 低 か っ た こ と は ,初 期 の 実 生 は 耐 陰 性 を 持 つ が 死 亡 率 が 高いことを示唆している。 B 区 以 外 の 調 査 区 に お い て ,幼 樹 の 分 布 に は 林 冠 閉 鎖 度 と 相 関 が な く ,分 布 図 で も 林 冠 疎 開 ・ 閉 鎖 と の 関 係 が 見 ら れ な い ( Table 4.5, Fig. 4.4) こ と か ら , Bruguiera spp.は , 実 生 が 耐 陰 性 を 有 す る 陰 樹 で あ る と 言 え る 。 幼 時 の Bruguiera spp. の 耐 陰 性 に つ い て は 複 数 の 相 反 す る 研 究 が あ る ( Saenger, 2002)。Tamai and Iampa( 1988)に よ れ ば ,Bruguiera spp.実 生 の 生 残 と 成 長 は ギ ャ ッ プ 下 で 促 進 さ れ る 。本 研 究 で は 小 ギ ャ ッ プ や 元 小 ギ ャ ッ プへの幼樹の集中傾向はなく,一方で C 区における過去の一斉更新が示唆 さ れ た ( Fig. 4.5) 。 こ の こ と は , Bruguiera spp.は , 単 木 的 林 冠 欠 損 に よ る 弱 光 下 で は 前 生 樹 に よ る ギ ャ ッ プ 修 復 を 行 わ ず ,よ り 大 き な 疎 開 に よ る 強 光 下 で 成 長 が 促 さ れ る と 考 え ら れ る 。ま た ,胎 生 種 子 の 新 入 が 見 込 み に く い 実 生 更 新 は ,強 度 の 人 為 圧 な ど で 母 樹 の 密 度 が 低 い 場 合 緩 慢 に な り ,母 樹 が 喪 われれば困難になる。 B 区 に お け る Amoora cucullata の 実 生 の 成 木 と の 同 所 的 な 分 布( Table 4.6) は,代表種の散布体の中で最も大型の果実の定着可能な距離の短さを示す。 B 区 お よ び C 区 に お い て ,林 冠 閉 鎖 度 と 実 生 の 分 布 に 相 関 が な く( Table 4.6), B 区 に お い て 閉 鎖 林 冠 下 に も 分 布 す る ( Fig. 4.4B) こ と か ら , 実 生 に は 耐 陰 性 が あ る と 言 え る 。ま た ,A 区 の 小 ギ ャ ッ プ お よ び C 区 の 元 小 ギ ャ ッ プ に お - 119 - 第4章 け る 実 生 と 幼 樹 の 集 中 傾 向 ( Fig. 4.4) と , A 区 お よ び B 区 に お け る 林 冠 閉 鎖 度 と の 負 の 分 布 相 関( Table 4.5)は ,実 生 の 定 着 や 成 長 を 小 ギ ャ ッ プ の 弱 光 が 促 す こ と を 示 唆 す る 。 果 実 の 移 動 距 離 が 短 く 条 件 的 陰 樹 で あ る A. cucullata は ,母 樹 直 近 の 暗 所 に 定 着 し た 実 生 が ,母 樹 や 隣 接 す る 他 の 林 冠 木 の 欠 損 に よ る 小 ギ ャ ッ プ を 前 生 樹 が 修 復 す る 生 活 史 戦 略 を 持 つ と 言 え る 。A 区 や C 区 の 実 生 と 幼 樹 の 集 中 す る 箇 所 は こ の 典 型 と 解 釈 で き る 。 Bruguiera spp.同 様 , 果 実 の 新 入 が 見 込 み に く い 実 生 更 新 は , 強 度 の 人 為 圧 な ど で 母 樹 の密度が低い場合緩慢になり,母樹が喪われれば困難になる。 4.4.4 萌 芽 力 タイとマレーシアにおいて, 「 萌 芽 率 」と「 株 当 り 萌 芽 枝 本 数 」を 用 い て , 複 数 の マ ン グ ロ ー ブ 樹 木 の 萌 芽 力 が 比 較 さ れ て い る( Table 4.7B)。本 研 究 の 結 果 ( Table 4.7A) お よ び 先 行 研 究 か ら , Heritiera fomes の 萌 芽 力 は , 木 本 マングローブ樹種の中で比較的高いと言える。日本の薪炭用樹においては, 伐 採 1 年 後 の コ ナ ラ の 萌 芽 率 は 60∼ 90% ( 外 舘 , 1988), コ ジ イ , タ ブ , ア ラ カ シ な ど で 52∼ 100%( 中 村 , 1988),株 当 り 萌 芽 枝 本 数 は コ ジ イ や ス ダ ジ イ , ア カ ガ シ , コ ナ ラ な ど で 6∼ 12 本 ( 三 善 , 1956) と さ れ る 。 こ れ ら の 薪 炭 用 樹 と 比 べ て H. fomes の 萌 芽 力 は 同 等 で あ り ,萌 芽 更 新 施 業 の 可 能 性 が あ る 。 伊 藤 ( 1996) は , 単 幹 の 樹 体 で 老 齢 林 の 高 木 層 を 構 成 す る ミ ズ ナ ラ が , 一 斉 撹 乱 後 に 大 き な 萌 芽 力 を 持 つ 理 由 を ,樹 種 特 性 と し て 強 い 萌 芽 促 進 力 と そ れ を 上 回 る 抑 制 力 を 持 ち ,撹 乱 に よ っ て 抑 制 が 解 除 さ れ る か ら で あ る と し た 。H. fomes は 前 世 樹 更 新 と ,萌 芽 に よ る 個 体 群 の 回 復 の 2 つ の 更 新 戦 略 を 持つ樹種であると言える。 4.4.5 萌 芽 力 の 消 長 多 く の 広 葉 樹 に お い て ,切 り 株 か ら の 萌 芽 力 は ,樹 齢 や 親 木 サ イ ズ に よ っ て 消 長 す る( 中 村 , 1988; 紙 谷 , 1986 な ど )。 Heritiera fomes に お い て も ,伐 採 後 25 ヶ 月 以 降 に 伐 根 径 が 大 き い ほ ど 萌 芽 率 が 低 下 し た ( Fig. 4.7)。 一 般 に , 伐 採 高 が 高 い 場 合 の 萌 芽 力 の 低 下 が 指 摘 さ れ て い る ( 片 岡 , 1992c) が , H. fomes に お い て は ,伐 採 高 の 影 響 よ り 親 木 の サ イ ズ と 時 間 経 過 が 萌 芽 力 に 影響すると言える。また,伐採後初期の萌芽株では,伐根径が小さいとき, よ り 多 く の 萌 芽 枝 を 有 し ( Fig. 4.10), 伐 根 径 が 10 cm よ り や や 小 さ い と き 最 大 萌 芽 枝 の 長 い 株 が 出 現 す る 傾 向 が あ っ た( Fig. 4.11)。伊 藤( 1996)は , - 120 - 第4章 萌 芽 力 と ,切 り 株 根 系 の 養 分 貯 蔵 ,養 分 吸 収 ,呼 吸 消 費 の バ ラ ン ス と の 関 係 を 指 摘 し て い る 。H. fomes は 板 根 と ,そ れ に 連 な る 大 き な 根 系 ,根 系 か ら 立 ち 上 が る 多 く の 筍 根 を 持 つ ( Tomlinson, 1986)。 し た が っ て , 萌 芽 力 の 消 長 の説明には,切り株のストックと消費に係る研究がさらに必要である。 4.4.6 外 的 要 因 と 萌 芽 本 研 究 で は , 冠 水 の Heritiera fomes 萌 芽 へ の 影 響 を 検 討 し た 。 冠 水 率 が 50% 以 上 の 場 合 の み 起 こ っ た 伐 採 後 12 ヶ 月 ま で の 初 期 の 枯 死 ( Fig. 4.9), お よ び 冠 水 率 の 高 低 に よ る 萌 芽 株 タ イ プ の 比 率 変 化 の 相 違 ( Fig. 4.14) は , 冠 水 の 萌 芽 へ の ス ト レ ス を 示 す 。冠 水 は 萌 芽 枝 の 伸 長 阻 害 も し く は 萌 芽 枝 の 枯 死 を 引 き 起 こ し ,切 り 株 自 身 の 枯 死 や ,切 り 株 上 に お け る 上 方 へ の 萌 芽 枝 の交代を促すと言える。 4.4.7 萌 芽 枝 本 数 の 動 態 Heritiera fomes の 切 り 株 に お い て は 伐 採 後 13 ヶ 月 以 降 ,萌 芽 枝 が 1 0 本 弱 の 萌 芽 株 と , 21 本 以 上 の 萌 芽 株 の 群 へ の 2 極 化 の 進 行 を 指 摘 で き る ( Fig. 4.12)。伐 採 後 37 ヶ 月 以 降 の 21 株 の 内 ,萌 芽 枝 が 10 本 以 下 の 群 の 平 均 冠 水 率 は 52.9% ( SE: 6.42), 21 本 以 上 で は 28.1% ( SE: 6.91) で , 有 意 な 差 が あ っ た( t 検 定 .P<0.05)。嶋 ら( 1989)は ,コ ナ ラ な ど 6 種 の 広 葉 樹 で ,株 当 り 萌 芽 枝 本 数 は 萌 芽 の 発 生 が 完 了 す る 1 年 目 ま で は 増 加 し ,そ れ 以 降 は 萌 芽 間 の 競 争 に よ り 減 少 に 転 ず る と し た 。 伐 採 後 13 ヶ 月 以 降 に 多 く の 萌 芽 枝 を 持 つ H. fomes の 切 り 株 は ,冠 水 ス ト レ ス の な い 幹 上 方 に お い て ,長 期 に 渡 り 少 し ず つ 萌 芽 を 生 じ さ せ て い る と 考 え ら れ ,萌 芽 間 競 争 に よ り 萌 芽 枝 が 減 少 する時期はコナラなどと比較して遅いと言える。 4.4.8 萌 芽 枝 分 布 の 動 態 萌 芽 の 発 生 は 樹 体 下 部 か ら 促 進 ,上 部 か ら 抑 制 す る 植 物 ホ ル モ ン の バ ラ ン ス が 制 御 す る ( 橋 詰 ・ 今 村 , 1985; 伊 藤 , 1996)。 萌 芽 の 機 能 は , 樹 体 上 部 に 撹 乱 を 受 け た と き の 個 体 の 樹 高 回 復 の 反 応 ( 伊 藤 1996) で あ り , 切 り 口 近 く の 高 位 置 で の 萌 芽 は ,そ の 際 上 方 へ の 伸 長 成 長 の コ ス ト の 最 小 化 に 貢 献 す る 。一 方 ,自 根 の 形 成 に よ る 新 し い 萌 芽 幹 の 栄 養 的 な 独 立 に は ,地 表 に 近 い 低 位 置 か ら の 萌 芽 が 有 利 で あ る ( 神 奈 川 県 自 然 環 境 保 全 セ ン タ ー , 2001; 中 - 121 - 第4章 川 , 2001)。 し た が っ て , Heritiera fomes に お い て 伐 採 高 が 高 い と き , 切 り 株 幹 の 中 程 で 萌 芽 に 投 資 を し な い こ と は ,個 体 の 資 源 配 分 上 合 理 的 だ と 言 え る 。 冠 水 率 が 高 い 場 合 の 萌 芽 枝 の 上 方 へ の 交 代 と ,冠 水 率 が 低 い 場 合 の 下 部 の 萌 芽 枝 の 維 持 ( Fig. 4.14) は , 冠 水 の 萌 芽 へ の 阻 害 を 示 す 。 下 方 か ら の 冠 水 の 阻 害 が 小 さ い と き ( Fig. 4.14B) の , 萌 芽 株 タ イ プ の 比 率 は , 時 間 経 過 に よ り 下 部 の 萌 芽 枝 の 伸 長 が し た 株 が 増 加 し た こ と を 示 し て い る 。こ の よ う な 萌 芽 枝 の 交 代 は ,樹 高 の 回 復 の た め の 上 部 の 萌 芽 枝 よ り ,む し ろ 地 面 に 近 い 下 部 の 萌 芽 枝 が 早 期 に 自 根 を 形 成 す る こ と が ,個 体 も し く は H. fomes 個 体 群 に と っ て 生 態 的 に 重 要 で あ る 可 能 性 を 示 唆 す る 。た だ し ,下 部 の 萌 芽 枝 の み に 樹 体 の 修 復 を 頼 る と ,冠 水 の 被 圧 を 受 け た 萌 芽 枝 の 枯 死 と い う 無 駄 な 資 源 の 投資や,萌芽枝を失うことによる個体自身の枯死をまねくリスクがある。 4.4.9 Heritiera fomes の 萌 芽 更 新 施 業 ( 1) 伐 採 径 の 管 理 親 木 の サ イ ズ が 小 さ い ほ ど ,萌 芽 率 と 伐 採 後 初 期 の 株 当 り 萌 芽 枝 本 数 は 大 き く ,伐 根 径 が 10 cm よ り や や 小 さ い と き ,優 位 な 萌 芽 枝 の 伸 長 成 長 が 最 も 期 待 で き る 。住 民 が 道 具 や フ ェ ン ス ,建 築 部 材 ,ボ ー ト 部 材 な ど ,様 々 な 目 的 で 自 給 的 に 利 用 す る 樹 木 の サ イ ズ は , 直 径 が 5∼ 10 cm の 小 径 木 で あ る 。 し た が っ て H. fomes が こ れ ら に 利 用 さ れ る な ら ば ,伐 採 を こ の 付 近 の サ イ ズ に お い て 行 い ,萌 芽 更 新 に よ り 持 続 的 に 材 を 採 集 ,利 用 す る こ と は ,生 態 的・ 社会的に適合性のある管理の選択肢であると言える。 ( 2) 伐 採 高 の 管 理 台 切 り 法( Coppicing)は ,20 cm ほ ど の 低 位 置 で 伐 採 し ,自 根 を 形 成 し 幹 と な っ た「 萌 芽 幹 」を 収 穫 対 象 と す る 萌 芽 更 新 施 業 で あ る( 神 奈 川 県 農 政 部 , 1995)。 一 方 , 頭 木 法 ( Lopping) は , 高 さ 1∼ 2 m で 繰 り 返 し 伐 採 し , 高 位 置 の 萌 芽 枝 を 収 穫 す る も の で あ る( 谷 本 , 1997)。前 者 で 得 ら れ る の は ,比 較 的 直 径 の 大 き な 木 材 で あ り ,後 者 に お い て は 小 径 の 燃 料 材 や 農 業 資 材 で あ る 。 冠 水 率 を 用 い た 本 研 究 に よ り ,下 部 萌 芽 型 の 切 り 株 は ,自 根 を 形 成 に よ る 地 際 か ら の 株 立 ち 樹 形 と し て ,上 部 萌 芽 型 の 切 り 株 は ,頭 木 的 な 樹 形 と し て , そ れ ぞ れ 樹 体 を 回 復 す る と 解 釈 で き る 。し た が っ て ,目 的 の 樹 形 を 誘 導 す る た め に は ,親 木 の 場 の 最 高 水 位 に よ る 伐 採 高 の 決 定 が 必 要 と な る 。伐 採 の 絶 対 高 の 影 響 や ,萌 芽 の 自 根 形 成 に 関 わ る 他 の 要 因 は 明 ら か で な く ,精 緻 な 伐 採 高 管 理 は 今 後 の 研 究 課 題 で あ る 。し か し な が ら ,冠 水 の 萌 芽 へ の 阻 害 を 考 - 122 - 第4章 慮 す れ ば ,H. fomes の 中 心 的 な 分 布 帯 で あ る 浸 水 ク ラ ス 2∼ 4 の 地 盤 高( JICA, 2005) の う ち , 高 地 盤 の ク ラ ス 4 に お い て は 台 切 り 法 を , 低 地 盤 の ク ラ ス 2 においては頭木法を用いることが考えられる。 ( 3) 萌 芽 の 整 理 萌 芽 整 理 の 効 果 は ,残 さ れ た 萌 芽 枝 の 径 に 顕 著 に あ ら わ れ る( 田 中 , 1989)。 施 業 の 目 的 が , 太 い 萌 芽 幹 の 生 産 で あ れ ば 1∼ 2 本 に 整 理 す る ( 神 奈 川 県 農 政 部 , 1995)。 台 切 り 法 に お い て は ,自 然 淘 汰 に よ り 萌 芽 枝 数 が 減 少 し ,か つ 萌 芽 枝 の 個 体 差 が 明 確 化 す る こ ろ に 行 い , ミ ズ ナ ラ で は 伐 採 後 5∼ 10 年 ( 田 中 , 1989), コ ナ ラ で は 3 年 程 度 ( 神 奈 川 県 自 然 環 境 保 全 セ ン タ ー , 2001) で あ る 。 冠 水 の 阻 害 を ほ と ん ど 受 け な い 浸 水 ク ラ ス 4 に お い て ,H. fomes に 台 切 り 法 を 適 用 す る 場 合 の 萌 芽 枝 本 数 の 動 態 は ,今 後 の 研 究 課 題 と 言 え る 。一 方 ,切 り 株 下方への冠水影響が比較的大きなクラス 2 において,頭木法を用いる場合, 切 り 株 上 部 で 長 期 に 渡 り 生 じ 続 け る 萌 芽 を ,順 次 採 集 す る こ と が 考 え ら れ る 。 H. fomes の 萌 芽 整 理 の 時 期 ,本 数 ,株 上 の 場 な ど 具 体 的 な 手 法 の 知 見 を 得 る に は ,個 々 の 萌 芽 枝 を 識 別 し ,長 期 の 成 長 と 消 長 や 萌 芽 間 の 競 争 の 研 究 が 必要である。 4.5 ま と め 4.5.1 Heritiera fomes 林 の 更 新 Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 更 新 過 程 は , 伐 採 な ど の 撹 乱 に よ る初期状態と,構成種の母樹の有無により異なる。 1. 皆 伐 を 免 れ た 低 木 の 閉 鎖 林 分 か ら 2 次 遷 移 が 始 ま る 場 合 , 下 層 に は つ る 植 物 や 叢 生 型 の 低 木 種 は 繁 茂 し に く い 。林 分 を 構 成 す る H. fomes,Bruguiera spp.,A. cucullata の 個 体 群 は ,下 種 か ら の 実 生 と 前 生 樹 に よ り 更 新 の 可 能 性 がある。 2. 道 具 材 や 小 規 模 な 建 材 な ど 広 範 な 用 途 を 持 つ 2.5∼ 7.5 cm 程 度 の 幹 サ イ ズ の H. fomes は ,住 民 に よ る 間 伐 を 受 け や す く 個 体 群 の 齢 構 造 の 不 連 続 化 を 招 く。個体群サイズの回復と林分更新にはリスクとなる。 - 123 - 第4章 3. H. fomes は 条 件 的 陰 樹 で あ る 。果 実 は 散 布 さ れ た 後 母 樹 の あ る 林 分 内 に 留 ま る も の が 多 く ,明 暗 に 関 わ ら ず 定 着 し 実 生 バ ン ク を 形 成 す る 。単 木 的 小 ギ ャ ッ プ の 弱 光 下 に お い て 前 生 樹 更 新 し ,ギ ャ ッ プ を 修 復 す る 性 質 を も つ 。単 木 的 疎 開 よ り や や 大 き な ギ ャ ッ プ に お い て は ,早 成 の 他 樹 種 が 先 行 し て ギ ャ ッ プ を 修 復 し ,H. fomes は 同 所 的 に 幼 樹 群 を 蓄 え る 。林 分 の 近 隣 に 母 樹 が あ れ ば , Bruguiera spp.や A. cucullata よ り 散 布 体 の 新 入 と 実 生 更 新 が 見 込 み や すい。 4. Bruguiera gymnorrhiza, B. sexangula は 条 件 的 陰 樹 で あ る 。 胎 生 種 子 は や や H. fomes の 果 実 よ り 大 型 で 散 布 後 母 樹 近 傍 に 留 ま る 。実 生 は 暗 所 に お い て も 定 着 す る も の の ,死 亡 率 は H. fomes の 実 生 よ り 高 い 。単 木 的 疎 開 よ り も 大 き な ギ ャ ッ プ の 光 環 境 で 一 斉 更 新 す る す る 性 質 を も つ 。母 樹 が 失 わ れ た 場 合 , 散 布 体 の 新 入 と 定 着 に H. fomes に 比 べ て 時 間 を 要 す る と 考 え ら れ る 。 5. A. cucullata は 条 件 的 陰 樹 で あ る 。 代 表 種 中 最 も 大 型 の 果 実 は 母 樹 直 近 に 定 着 し ,母 樹 や 近 接 す る 樹 木 の 欠 損 に よ る 疎 開 を 前 生 樹 が 修 復 す る 。果 実 の 新入は見込みにくく,林分の母樹が失われた場合更新は非常に困難となる。 6. Excoecaria agallocha の 個 体 群 の 実 生 更 新 は , 母 樹 の 有 無 に 関 わ ら ず 非 常 に 困 難 で あ る 。撹 乱 を 受 け た 個 体 か ら の 萌 芽 に よ り 樹 体 と 個 体 群 を 回 復 す る が,長期的には個体群の密度低下が予想される。 7. 強 度 の 伐 採 に よ り 疎 開 し た 林 分 か ら 2 次 遷 移 が 始 ま る 場 合 , 遷 移 初 期 の 下 層 に お い て , Derris trifoliata, Finlaysonia maritima, Sarcolobus carinatus な ど つ る 植 物 や , Acanthus ilicifolius な ど の 叢 生 型 の 陽 性 植 物 が 旺 盛 に 繁 殖 す る 。下 層 に 繁 茂 す る 陽 性 植 物 は ,H. fomes の 実 生 の 定 着 ・ 成 長 に よ る 天 然 下 種 更 新 を 阻 害 す る 。 疎 開 林 分 か ら の 2 次 遷 移 開 始 時 に , 小 径 の H. fomes の切り株が残存する場合,切り株萌芽による個体群の回復が先行する。 4.5.2 Heritiera fomes の 萌 芽 更 新 1. H. fomes 切 り 株 の 萌 芽 力 は ,木 本 マ ン グ ロ ー ブ の 中 で 比 較 的 高 く ,前 生 樹 更新と萌芽更新による個体群の回復の 2 つの更新戦略をもつ。 - 124 - 第4章 2. 親 木 の サ イ ズ が 小 さ い ほ ど , 萌 芽 率 と 伐 採 後 初 期 の 株 当 り 萌 芽 枝 本 数 は 大 き く ,伐 根 径 が 10 cm よ り や や 小 さ い と き ,優 位 な 萌 芽 枝 の 伸 長 成 長 が 最 も期待できる。 3. 住 民 が 道 具 や フ ェ ン ス , 建 築 部 材 , ボ ー ト 部 材 な ど , 様 々 な 目 的 で 自 給 的 に 利 用 す る 樹 木 の サ イ ズ は , 直 径 が 5∼ 10 cm の 小 径 木 で あ り , 高 い 方 萌 芽 力 を 活 か し た H. fomes の 生 態 的・社 会 的 に 適 合 性 の あ る 保 続 的 な 資 源 管 理 の可能性がある。 4. マ ン グ ロ ー ブ 域 特 有 の 環 境 で あ る 冠 水 は 萌 芽 へ の ス ト レ ス と な る 。 萌 芽 枝 の 伸 長 阻 害 も し く は 萌 芽 枝 の 枯 死 に よ り ,切 り 株 の 枯 死 や 切 り 株 上 に お け る萌芽枝の上方への交代を促すと言える。 5. 切 り 株 萌 芽 の 生 態 特 性 を 活 か し た H. fomes の 萌 芽 更 新 施 業 に お い て は , 親 木 の 生 育 立 地 の 最 高 水 位 応 じ た 伐 採 高 の 管 理 が 重 要 と な る 。浸 水 ク ラ ス 4 の 高 地 盤 に お い て は 台 切 り 法 を ,浸 水 ク ラ ス 2 の 低 地 盤 に お い て は 頭 木 法 を 用 い る こ と が 考 え ら れ る 。頭 木 法 を 用 い る 場 合 ,切 り 株 上 部 で 長 期 に 渡 り 生 じ続ける萌芽を,順次採集することが考えられる。 6. 伐 採 の 絶 対 高 や , 萌 芽 の 自 根 形 成 に 関 わ る 冠 水 以 外 の 要 因 は 明 ら か で な い 。ま た ,萌 芽 枝 の 長 期 の 成 長 と 消 長 や 萌 芽 間 の 競 争 の 知 見 は 得 ら れ て い な い 。し た が っ て ,精 緻 な 伐 採 高 管 理 や 萌 芽 整 理 の 手 法 は 今 後 の 研 究 課 題 で あ る。 - 125 - 第4章 - 126 - 第5章 マングローブの資源性 1 −資源的位置づけ− 本章は,以下の査読付き論文として受理済みである(2006年11月27日付)。 大野勝弘・鈴木邦雄. 2007. 「マングローブ林減少による植物資源ミックスの変容 −ミャン マー・エーヤワディーデルタの事例から−」. Mangrove Science 4. 第5章 5.1 緒 言 資 源 と な る 植 物 の 種 類 や 位 置 づ け は ,利 用 者 の 生 業 や 文 化 に よ り 異 な る こ と が 指 摘 さ れ て い る ( Cotton, 1996; 菅 , 2004) 。 し た が っ て , マ ン グ ロ ー ブ の 資 源 的 利 用 価 値 を ,本 論 文 の 研 究 地 域 に お い て 把 握 す る 必 要 が あ る 。ま た , こ れ ま で の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 研 究 に お い て は ,複 合 的 な 植 物 資 源 利 用 体 系 に お け る マ ン グ ロ ー ブ の 役 割 解 明 が な さ れ て い な い 。 さ ら に ,「 資 源 の 変 化 」 の「人々の生活文化への影響」に関する具体的な検証がなされていない。 本 章 の 目 的 は ,村 落 の 人 々 に と っ て の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 性 格 と 役 割 を ,ホ ー ム ガ ー デ ン の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 を 含 め た 資 源 ミ ッ ク ス の な か で 位 置 づ け る こ と で あ る 。は じ め に マ ン グ ロ ー ブ の 資 源 的 利 用 価 値 を 把 握 す る た め ,マ ン グ ロ ー ブ お よ び 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の イ ン ベ ン ト リ ー を 作 成 し ,有 用 種 の 用 途 と 種 数 を 明 ら か に す る 。次 に ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 減 少 に よ る 植 物 資 源 利 用 の 変 容 を ,村 落 内 部 に 併 存 す る ス テ ー ク ホ ル ダ ー を 区 別 し て 明 ら か に し ,植 物 資 源 の 利 用 体 系 に お け る マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 位 置 づ け を 解明する。 5.2 研 究 方 法 5.2.1 調 査 地 Ashe Mayan村 は , エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の 海 岸 帯 ( 高 谷 , 1985) の 浜 堤 上 に 位 置 す る( Fig. 3.10)。第 3 章 に お い て は ,家 屋 と 潮 間 帯 の 間 を 埋 め る ホ ー ム ガ ーデンと,集落に隣接する潮間帯のマングローブ林の存在,および非マングロ ーブ植物群とマングローブ植物群がそれぞれに対応して生育することを示した。 同 村 か ら 商 業 地 域 の Bogalayへ は , 近 隣 村 か ら 隔 日 運 行 の 小 型 貨 客 船 で 6∼ 7 時 間 を 要 し ,ミ ャ ン マ ー の 最 大 都 市 Yangon 1 へ は さ ら に 貨 客 船 で 10 時 間 流 路 を 遡 上 す る 必 要 が あ る 。1902 年 の 森 林 法 で す で に 集 落 域 と さ れ て お り ,商 業 地 域 か ら 遠 隔 で あ る こ と か ら ,今 日 ま で 長 期 に わ た り 生 活 ,文 化 お よ び 生 計 の 多 く を , これらの植物資源に依拠し,複合的に利用してきたと言える。 就 業 構 造 は ,110 世 帯 の う ち 約 半 数 の 土 地 持 ち 世 帯 が 稲 作 や ホ ー ム ガ ー デ ン で の コ コ ナ ツ( Cocos nucifera) ・ビ ー ト ル ナ ッ ツ( Areca catechu)の 生 産 , 1 前 首 都 。 2005 年 11 月 , ヤ ン ゴ ン の 北 約 320kmに あ る ピ ン マ ナ 郊 外 の 軍 用 地 Naypyidaw( ネ イ ピ ー ド ー ) へ の 首 都 移 転 が 発 表 さ れ た 。 - 128 - 第5章 ニ ッ パ ヤ シ( Nypa fruticans)農 園 で の 屋 根 葺 材 の 生 産 を 行 う 。所 有 地 が 狭 地 か 土 地 を 持 た な い 世 帯 は , 漁 撈 や 村 内 の 賃 金 労 働 な ど で 生 計 を 営 む ( Table 5.1)。 Table 5.1 Ashe Mayan村の概況 成立 近接商業地域までの距離 人口/世帯数 民族 主要施設 生業構造 *1: *2: *3: *4: 19世紀末以前 約22 km,商業地域:Bogalay town, Bogalay township, Pyapon district, Ayeyarwady division 約680人/約110世帯 ビルマ族(Bamar) (僧院なし) 小学校 1,商店*1 1,売店*2 2 稲作: 23%*3 (平均耕作面積<以下同>: 5 acre*4/世帯) ホームガーデン: 18% (2∼2.5 acre/世帯) 漁撈・カニ採り: 14% ニッパ農園: 5% (15 acre/世帯) その他: 53% (小規模な商売,被雇用肉体労働) 土地所有 半数以上の世帯が土地無し ホームガーデン生産物 ココナツ,ビートルナッツ,ビートルリーフ 他 家畜 アヒル,ニワトリ,ブタ,ウシ,スイギュウ 他 主として商業地域で仕入れた衣料,生活道具などを販売する店 主として集落域で仕入れた食料,菓子を販売する小規模な店 %は全て世帯ベース 1 acre ≒ 0.4 ha 出典:村長へのインタビューに もとづき筆者作成 5.2.2 調 査 ・ 解 析 方 法 2003 年 か ら 2005 年 に わ た り 実 施 し た イ ン タ ビ ュ ー と 参 与 観 察 に よ っ て , ( 1) マ ン グ ロ ー ブ 植 物 と 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 有 用 種 イ ン ベ ン ト リ ー 作 成 ,お よ び , ( 2)両 植 物 資 源 お よ び 非 植 物 資 源 の 資 源 ミ ッ ク ス と そ の 時 間 動 態 の 把 握 を ス テ ークホルダー別に行った。被面接者にはキー・インフォーマントとして,古く から受け継がれてきた「植物資源の採集,加工,利用の智恵」が豊富だと考え ら れ る 村 人 13 名 を 選 ん だ 。 選 定 に 際 し て は , マ ン グ ロ ー ブ 林 が 豊 か で あ っ た 1960 年 代 以 前 か ら 居 住 し て い た か , 転 入 出 が あ っ て も 当 時 Ashe Mayan 村 に 住 ん で い た こ と ,お よ び 周 辺 の 森 林 で 生 業 活 動 を 行 っ て い た こ と な ど を 考 慮 し た 。 次に,キー・インフォーマントから,適宜 3 名ないし 4 名からなるグループを 構成し,グループインタビューを行った。インタビュー中は,個々の被面接者 の発言機会の確保と参加を促すとともに,被面接者間で相互確認と合意形成が なされた情報を記録した。ミャンマー語と英語の間の通訳は,村人の信望が厚 い同じ村の長老と元中学校教師の二人のどちらかに行ってもらった。インタビ ュー調査の前に行なったプレインタビューに基づき,質問項目や質問順序,質 問時の言葉の使い方などを通訳と調整した。 - 129 - 第5章 ( 1) 有 用 種 の イ ン ベ ン ト リ ー 作 成 第 3 章 で 得 ら れ た , 村 落 周 辺 の マ ン グ ロ ー ブ 林 の 植 物 77 種 と 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 129 種 を 対 象 と し て , 自 給 的 な 利 用 の 有 無 を 確 認 し た 。 ま た ,「 利 用 し た 」も し く は「 利 用 す る 」と さ れ た 種 に つ い て ,樹 体 の 部 位 ご と に 採 集 , 加 工 お よ び 利 用 の 方 法 を 質 問 し 記 録 し た 。こ の 際 ,資 源 の 品 質 の 高 低 や 村 人 の嗜好性の大小,非植物資源の代替品利用がある場合その情報を記録した。 他 の 地 域 で の 見 聞 や 伝 聞 等 に 基 づ く 回 答 は 除 外 し た 。イ ン タ ビ ュ ー は ,マ ン グ ロ ー ブ 植 物 に つ い て は ,2003 年 9 月 と 2004 年 9 月 に ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 に つ い て は ,2004 年 9 月 と 2005 年 3 月 お よ び 9 月 に ,双 方 の 植 物 そ れ ぞ れ 延 べ 約 17 時 間 / 4 日 間 実 施 し た 。 結 果を「 マ ング ロ ー ブ植 物 資 源 」と「 非 マ ン グ ロー ブ 植 物資 源 」の ,2 つ の イ ン ベ ン ト リ ー に ま と め た 。 そ の 際 資 源 の 用 途 は , Phillips & Gentry ( 1993a) の 広 義 分 類 を 基 礎 に , 燃 料 , 建 材 , 工 芸 材 , 結 束 材 , 屋 根 葺 ・ 張 壁 材 , 食 用 , 薬 毒 用 と そ の 他 に 区 分 し た ( Table 5.2)。 植 物 分 類 体 系 と 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 学 名 は ,主 と し て Kress et al.( 2002) に , マ ン グ ロ ー ブ の 学 名 は , Win Maung( 1999) に し た が っ た 。 生 育 形 は , Kitamura et al. (1997)と Tomlinson (1986)を 参 考 に し た 。 Table 5.2 植物資源の用途区分 用途区分 材料資源 非材料資源 利用 建材 工芸材 結束材 屋根葺・張壁材 建築物の構造材(柱、梁など)と床材用の建材 道具,家具,日用品等,建築物の非構造材,柵用材 糸,紐,綱,魚網 屋根葺き,仕切・非構造的壁材 燃料 食用 薬毒用 その他 薪(炭)材 食材,飲料,スパイス,調理油 医薬,健康薬,毒・忌避剤,医療,洗剤,タンニン,刺激性嗜好品 装飾,化粧,宗教,芸能,遊戯,染料,スモークチップ,施肥 出典:Phillips & Gentry(1993a)の広義分類をもとに筆者作成 ( 2) 植 物 資 源 , 非 植 物 資 源 の 選 択 と 利 用 割 合 ホ ー ム ガ ー デ ン を 所 有 す る「 土 地 持 ち 村 民 」 ( 以 下 同 )と ,所 有 し な い「 土 地 無 し 村 民 」( 以 下 同 ) の 2 つ の ス テ ー ク ホ ル ダ ー を 対 照 と し , 過 去 お よ び 現 在 の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 ,お よ び 非 植 物 資 源 の 利 用 割 合 を 調 査 し た 。ま た ,主 に 利 用 さ れ た お よ び 利 用 す る 具 体 的 な 資 源 と , そ の 獲 得 方 法 を 記 録 し た 。「 過 去 」 と は , マ ン グ ロ ー ブ 林 の 減 少 が 進 ん だ 1960 年 代 以 前 を さ す 。 含 ま れ る 要 素 が 多 様 な 用 途 区 分 に つ い て は ,幾 つ か の 下 位 の 用 途 に 分 け て - 130 - 第5章 イ ン タ ビ ュ ー し た 。 具 体 的 に は ,「 工 芸 材 」 か ら 「 家 具 」,「 食 用 」 か ら 「 副 食 」,「 薬 毒 用 」 か ら 「 医 薬 」 と 「 毒 ・ 忌 避 剤 」 を 分 け て い る 。「 副 食 」 用 途 に お い て は ,自 給 的 資 源 と し て の「 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 」と「 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 」 の 対 比 が 研 究 の 主 眼 で あ る た め ,「 購 入 す る 農 作 物 」 の 利 用 は除外した。 資 源 の 利 用 割 合 は 利 用 頻 度 の 割 合 と し ,そ の 定 量 化 は , 「 10 回 中 何 回 利 用 」, 「 10 個 中 何 個 利 用 」,「 10 箇 所 中 何 箇 所 に 利 用 」 な ど , 用 途 に 応 じ た 問 答 に よ り 行 っ た 。3 つ の 資 源 の 利 用 割 合 を「 資 源 ミ ッ ク ス 」と し ,過 去 に お け る , ス テ ー ク ホ ル ダ ー 間 の 資 源 ミ ッ ク ス の 同 異 と ,マ ン グ ロ ー ブ の 利 用 割 合 に よ り資源を類型化した。 な お , 正 確 に は 同 国 で は 全 て の 土 地 は 国 家 が 所 有 し ,「 私 有 地 」 は 法 的 に 存 在 し な い が ,本 章 で は「 土 地 と 産 出 物 の 一 定 の 私 的 利 用 」が 法 的 に 認 め ら れ て い る 場 合 ,「 土 地 を 持 つ / 所 有 す る 」 と 表 現 し た 。 イ ン タ ビ ュ ー は , 2005 年 9 月 に 延 べ 約 10 時 間 / 3 日 間 実 施 し た 。 5.3 結 果 5.3.1 植 物 資 源 の イ ン ベ ン ト リ ー 過 去 に 利 用 さ れ て い た , も し く は 現 在 利 用 さ れ て い る マ ン グ ロ ー ブ 50 種 と ,非 マ ン グ ロ ー ブ 124 種 を 合 わ せ た 174 種 の 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー を 示 す ( Table 5.3)。 ま た 8 つ の 用 途 そ れ ぞ れ の 有 用 種 数 を , Fig. 5.1 に 示 す 。 各 用 途 の 有 用 種 数 を 積 算 し た 有 用 種 数 は ,マ ン グ ロ ー ブ が 108 種 ,非 マ ン グ ロ ー ブ が 326 種 で , 1 有 用 種 あ た り の 平 均 用 途 数 は そ れ ぞ れ 2.16 と 2.63 で あ っ た 。マ ン グ ロ ー ブ 植 物 ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 と も ,薬 毒 用 ,食 用 ,工 芸 材 , 建 材 な ど に 利 用 さ れ る 有 用 種 が 多 く ,特 に 薬 毒 用 と 食 用 の 非 マ ン グ ロ ー ブ が 多かった。 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 と 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 に つ い て ,そ れ ぞ れ の 積 算 有 用 種 数 に 対 す る 用 途 別 の 種 数 の 比 率 を 示 す( Fig. 5.2)。本 論 文 で は 建 材 , 工 芸 材 ,結 束 材 ,屋 根 葺・張 壁 材 用 途 な ど ,物 質 的 な 文 化 を 構 成 す る( Cotton, 1996)資 源 を「 材 料 資 源 」と し ,燃 料 ,食 用 ,薬 毒 用 途 の 資 源 を「 非 材 料 資 源 」と し て ,各 用 途 の 合 計 比 率 を 同 掲 し た 。マ ン グ ロ ー ブ の 材 料 資 源 の 比 率 は 有 用 種 数 の 50% で , 非 マ ン グ ロ ー ブ に お け る 40% に 比 べ て 高 か っ た 。 材 料 資 源 の う ち ,特 に マ ン グ ロ ー ブ の 結 束 材 の 有 用 種 数 の 比 率 は ,非 マ ン グ ロ - 131 - 第5章 ー ブ の 約 3 倍 で あ っ た 。 反 対 に , 食 用 の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 比 率 は 28% と , マ ン グ ロ ー ブ の 16% に 比 べ て 高 か っ た 。 Table 5.3 植物資源インベントリー Acanthus ebracteatus Vahl Acanthus ilicifolius L. Acanthus volubilis Wall. Cerbera odollam Gaertner Nypa fruticans (Thunb.) Wurmb. Phoenix paludosa Roxb. Finlaysonia maritima Backer ex K. Heyne Sarcolobus carinatus Wall. Sarcolobus globosus Wall. Pluchea indica Less. Avicennia alba Blume Avicennia marina (Forsk.) Vierh Avicennia officinalis L. Dolichandrone spathacea (L. f.) K. Schum. Stenochlaena palustris ( Burm. ) Bedd. Caesalpinia bonduc (L.) Roxb. Caesalpinia crista L. Cynometra ramiflora L. Intsia bijuga (Colebr.) O. Kuntze Combretum trifoliatum Vent. Terminalia catappa L. Merremia tuberosa (L.) Rendle Excoecaria agallocha L. Sapium indicum Willd. Dalbergia pinnata (Lour.) Prain Dalbergia spinosa Roxb. Derris scandens BENTH. Derris trifoliata Lour. Pongamia pinnata Pierre Flagellaria indica L. Calophyllum inophyllum L. Barringtonia racemosa (L.) Spreng. Sonneratia apetala Buch.-Ham. Sonneratia caseolaris (L.) Engler Sonneratia griffithii Kurz Hibiscus tiliaceus L. Xylocarpus granatum König Kha-yar Kha-yar Kha-yar-nwe Acanthaceae Za-lut Dani Thinbaung Byauk-nwe Apocynaceae Swit-kha-mon-nwe Asclepiadaceae Shewt-htwe-new Kha-yu Thame-kyettet Thame-phyu Thame-gyi Thakut, Yethakyut Damin-nwe Kyee-kalain Alo-lay Myin-ga Saka-lun Sauk-pya Banda Bonsein-new Tha-yaw Bonlon Yemagi-nwe Byeik-suu Asclepiadaceae Mi-chaung-nwe, Nwe-pyu Acanthaceae Acanthaceae Arecaceae Arecaceae Asclepiadaceae Asteraceae Avicenniaceae Avicenniaceae Avicenniaceae Bignoniaceae Blechnaceae Caesalpiniaceae Caesalpiniaceae Caesalpiniaceae Caesalpiniaceae Combretaceae Combretaceae Convolvulaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Fabaceae Fabaceae Fabaceae Fabaceae Fabaceae Nwe-net Thinwin-pyu Myauk-kyein Flagellariaceae Pon-nyet Hypericaceae Ye-kyi Kant-balar Lamu Laba Thaman-shaw Pin-le-ohn Xylocarpus moluccensis (Lamk.) Roem. Kya-na Pant-tha-ka Amoora cucullata Roxb. Nyaung-lun Ficus benjamina L. Aegiceras corniculatum (L.) Blanco Ye-kaya Tha-bot Pandanus foetidus Roxb. Acrostichum aureum L. Nget-gyi-taung Bruguiera gymnorrhiza (L.) Lamk. Byu-u-talone Bruguiera sexangula (Lour.) Poir. Byu-shwe-wa Ceriops decandra (Griff.) Ding Hou Madama Kandelia candel (L.) Druce Byu-baing-daunt Byu kyi dauk apo Rhizophora apiculata BL. Byu kyi dauk ama Rhizophora mucronata Lamk. Mussaenda macrophylla Wall. Lelu Merope angulata (Willd.) Swingle Heritiera fomes Buch.-Ham. Brownlowia tersa (L.) Clerodendrum inerme (L.) Gaertn Cayratia trifolia (L.) Domin Taw-shauk Kanazo Ye-tha-man Taw-kyaung-pan Yinnaung-new Lecythidaceae Lythraceae Lythraceae Lythraceae Malvaceae Meliaceae Meliaceae Meliaceae Moraceae Myrsinaceae Pandanaceae Polypodiaceae Rhizophoraceae Rhizophoraceae Rhizophoraceae Rhizophoraceae Rhizophoraceae Rhizophoraceae Rubiaceae Rutaceae Sterculiaceae Tiliaceae Verbenaceae Vitaceae 薬毒用 食用 結束材 N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N I N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N 工芸材 屋根葺・張壁材 S S C T P P C C C H T T T T C C C T T S T C T T C S C C T C T S T T T S T T T T T S F T T T T T T S S T S S C 建材 科 燃料 現地名 生育形 学 名 在来(N)/移入(I) (A)マングローブ植物資源 その他 C,F,G C,F,G B(fish bait) G(sandal) B C C B,C B,C B,G B G(minor construction) H(hair ornamental, decoration) C B C G G G * G(minor construction, container, fishing gear, boat) G(minor construction, container, fishing gear, boat) B(fish bait), C(fodder), G(smoke) G(minor construction, container, fishing gear, boat) G(handle) B,H G C,F,G,H C B,C B G ** * C G(smoke) B,C G G(furniture, sandal) G C(lap, false ogive), G(minor construction) B C A(shade) C,G B G(container, minor construction) G C G E,G C G F,H B H(hair ornamental, religious) H(hair ornamental, religious) ** G G G(minor construction, container), F(float, pot-plug) B(play) G(minor construction, container, furniture), F(pot-plug) G B B B,C E * * G G(furniture, minor construction) G(furniture, minor construction) G(padlle brace/boat) * ** C(fodder) G(container, religious) G G(utencil, etc.) C(mat) B C * * ** * * * B(play), H(haie ornamentalal) F,G G G B(play), C(fodder) B(play), C(fodder) G G(minor construction, vine pole) G G G G(minor construction) G B,C,G ** G ** - 132 - B(play), H(religious) B(fish bait), C(fodder) B(fish bait), C(fodder) B,G B,G G(altar frame/furniture), F(float, pot-plug) B(play), H(hair ornamental, religious) C,G G(minor construction, boat, fishing gear, handle, etc.), F(rudder, wash boad) E C G B,C F 第5章 Table 5.3 植物資源インベントリー Amaranthus caudatus L. Anacardium occidentale L. Bouea burmanica Griff. Mangifera indica L. Annona glabra L. Annona muricata L. Centella asiatica (L.) Urb. Tabernaemontana divaricata (L.) R. Br. ex Roem. & Schult. Tabernaemontana divaricata (L.) R. Br. ex Roem. & Schult. Vallaris solanacea (Roth) Kuntze Areca catechu L. Calamus viminalis Willd. Caryota mitis Lour. Cocos nuciferae L. Licuala peltata Roxb. Blumea balsamifera (L.) DC. Eupatorium cannabinum L. Eupatorium odratum L. Oroxylum indicum (L.) Kurz Pajanelia longifolia (Willd.) K. Schum. Ceiba pentandra (L.) Gaertn. Durio zibethinus Murray Cordia dichotoma Forst. Ananas comosus (L.) Merr. Cassia alata L. Kyet-mauk Thiho-thayet Mayan Thayet Thagya-awza Duyin-awza Myin-hkwa Zalat-gyi Zalat-setkya Nabu Kunthi-pin Kyein, Kon-kyein Minbaw Ohn Salu Phon-ma-thein Hkwe-thay-pan Bizat Kyaung-sha Kyaung-dauk Le-pin Duyin Thanut Nanat Pwegaing-mezali Amaranthaceae Anacardiaceae Anacardiaceae Anacardiaceae Annonaceae Annonaceae Apiaceae Apocynaceae Apocynaceae Apocynaceae Arecaceae Arecaceae Arecaceae Arecaceae Arecaceae Asteraceae Asteraceae Asteraceae Bignoniaceae Bignoniaceae Bombacaceae Bombacaceae Boraginaceae Bromeliaceae Caesalpiniaceae Ngu, Ngu-shwe, Ngu-shwe-wa Cassia fistula L. Senna siamea (Lam.) Irwin & Barneby Mezali Magyi Tamarindus indica L. Kadet Crateva magna (Lour.) DC. Thinbaw Carica papaya L. Salacia chinensis L. Bu-new Costus speciosus Sm. Phalan-taung-hmwe Caesalpiniaceae Crypteronia paniculata Blume Crypteroniaceae Trichosanthes cucumerina L. Dillenia indica L. Dioscorea alata L. Dioscorea birmanica Prain & Burkill Dipterocarpus alatus Blume Dipterocarpus retusus Blume Diospyros burmanica Kurz Anan-bo Kyi-ah-new Thabyu Taw-myauk-nwe Caesalpiniaceae Caesalpiniaceae Capparaceae Caricaceae Celastraceae Costaceae Cucurbitaceae Dilleniaceae Dioscoreaceae Kala-htaing, Myit-lite, Katcho Dioscoreaceae Kanyin-byu Kanyin-ni Dipterocarpaceae Dipterocarpaceae Te(at non-mangroves) Ebenaceae Diospyros discolor Willd. Ebenaceae Baccaurea sapida Muell. Arg. Codiaeum variegatum (L.) Blume Croton oblongifolius Roxb. Emblica officinalis Gaertn. Euphorbiaceae Kadiba Kanaso Ywethla Thetyin-gyi Zibyu Flueggea virosa (Roxb. ex Willd.) Voigt Hmink Glochidion coccineum Muell. Arg. Tamasok Phyllanthus niruri L. Kyet-tha-hin Zinbyu unidentified Derris elliptica (Roxb.) Benth. Hon Desmodium pulchellum Benth. Kyimi (2) Moghania semialata (Roxb.) Mukerj. Kyimi (1) Padauk Pterocarpus macrocarpus Kurz Spatholobus listeri Prain Don-nwe Tadehagi triquetrum (L.) H. Ohashi Lauk-thay Taung-thale Garcinia cowa Roxb. Mingut Garcinia mangostana L. Mesua ferrea L. Gangaw Thabye-gangaw,Gangaw-thabye Mesua nervosa Planch. & Triana Gonocaryum griffithianum (Miers) Kurz Lu-wun-the-gye Cinnamomum inunctum Meissner Kara-way Litsea glutinosa (Lour.) C.B. Rob. Ondon, Ondon-apo Nasha Litsea nitida (Roxb.) Hook. f. Ondon, Ondon-ama Litsea sp. Barringtonia sp. Kyi-bin, Kon-kyi Naga-mauk Leea indica Merr. Lagerstroemia speciosa (L.) Pers. Pyinma Taungsin-phet Phrynium capitatum Willd. Schumannianthus dichotomus (Roxb.) Gagnep. Thin Ohboke Melastoma malabathricum L. Azadirachta indica A. Juss. Tama, Tama-gyi Melia birmanica Kurz Pan-tama Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Fabaceae Fabaceae Fabaceae Fabaceae Fabaceae Fabaceae Hypericaceae Hypericaceae Hypericaceae Hypericaceae Icacinaceae Lauraceae Lauraceae Lauraceae Lauraceae Lecythidaceae Leeaceae Lythraceae Marantaceae Marantaceae Melastomataceae Meliaceae Meliaceae G G 食用 その他 G H(religious) B,C B C(religious), D(lighting) G(boat, furniture) B B B * 薬毒用 結束材 I I N I I I I I I N I N N I N N N N N N N I N I N I I I N I N N N N N N N N N N I N I N N N N N N N N N N N N N I N N N I N N N N N N N N N I I 工芸材 屋根葺・張壁材 H T T T T S H S S S P P P P P S H H T T T T T S S T T T S S C H T C T C C T T T T T S T T S T S S C H H T C H T T T T S T T T T T S T H S S T T 建材 科 燃料 現地名 生育形 学 名 在来(N)/移入(I) (B)非マングローブ植物資源 B E B(color) B C,G A H(hair-ornament, religious) H(religious, hair-ornament) * C(nitrogen), H(religious, bee-keeping) G G ** G B(cushion), C(fan), G(fish-gear) B,F,H G(utensil, trap) G(fence, wepon) B・C(broom, toy, cap ,mat etc.) C C(lap), G(trap) C C B G B G B(color), C(play) B,F B・C(religious) A C,G,H C G G G G(boat, fence) * C C B C,G G B B C A B B B(pillow), G(container) G(farm-tool) C(cloth) E G B,D,E,F B,C,H G(utensil) C H * G C(fodder), H(religious, hair-ornament) B,E,H D(color) B,D B G F G E G B B(glue) C,E B,C,H G(boat, furniture) G(container) C(nitrogen, fodder) B(play) B,C F,H F ** G * G * G * * A(nitrogen) B,C C,E F(fodder), H(hair-ornamental) G(boat, furniture, container) D(lighting), C・E(mushroom-nursing) G B B B C B G D(lighting) D(color) B,C,E E A C(religious) B,C G(water-cleanup) B(play, color) E(glue), G(thatch-shaft) * C C A C G(broom) G G(general) G G G(boat, container) G G G(furniture) D D B,C C C(nitrogen), G(music, cosmetic), H(religious, hair-ornament) C(fodder), H(religious, hair-ornament) B,C B * B,C,G,H B C,H H(hair-ornament, religious) B G(boat, furniture, general) E C(decoration) C,E B,C G * * ** * * - 133 - G(boat, container) B C,E C(nitrogen), E(religious) C B,C G(minor construction, wepon) G G G(general, boat) G(general) G G(general) C(lap, utencil) G(mat) G(fence) C(fodder) B(play), H(seaonal-indicator) C G B C,H C,H F C B,C,E H(hair-ornament) C(nitrogen, play) B(color) B(color), H(hair-ornament) 第5章 Table 5.3 植物資源インベントリー Tinospora cordifolia Miers Tinospora nudiflora Kurz Sin-don-ma-new Sinthama-nwe Acacia auriculiformis A. CUNN. Ex BENTH Malaysia-padauk Sit Albizia procera (Roxb.) Benth. Archidendron jiringa (Jack) Nielsen Danyin Entada pursaetha DC. Gon-nyin Kokko Samanea saman (Jacq.) Merr. Peinne Artocarpus heterophyllus Lam. Thapan, Ye-thapan Ficus glomerata Roxb. Ficus hispida L. f. Ficus obtusifolia Roxb. Ficus religiosa L. Ficus rumphii Blume Streblus asper Lour. Musa spp. Ardisia polycephala Wall. Eucalyptus ovata Labill. Psidium guajava L. Syzygium malaccense (L.) Merr. & L.M. Perry Syzygium oblatum (Roxb.) Wall. ex A.M. Cowan & Cowan Syzygium sp. Syzygium sp. Syzygium sp. Olax psittacorum (Willd.) Vahl Jasminum multiflorum (Burm. f.) Andrews Nyctanthes arbor-tristis L. Bulbophyllum sp. Ludisia discolor (Ker Gawl.) Lindl. Averrhoa carambola L. Piper betle L. Piper nigrum L. Dendrocalamus brandisii (Munro) Kurz Dendrocalamus giganteus Wall. ex Munro Dendrocalamus longispathus (Kurz) Kurz Eragrostis nigra Nees ex Steud. Oxytenanthera albociliata Munro Phragmites vallatoria (L.) Veldkamp unidentified Ziziphus jujuba Lam. Carallia brachiata (Lour.) Merr. Gardenia jasminoides Ellis Hypobathrum racemosum Kurz Hyptianthera stricta Thapan, Kha-aung, Kon-thapan Nyaung-gyat Bawdi-nyaung, Nyaung-bawdi Nyaung-phyu Okhne Ngetpyaw Kyetma-ok, Anan-ma Eu-ca-lit Malaka Thabyu-thabye Menispermaceae Menispermaceae Mimosaceae Mimosaceae Mimosaceae Mimosaceae Mimosaceae Moraceae Moraceae Moraceae Moraceae Moraceae Moraceae Moraceae Musaceae Myrsinaceae Myrtaceae Myrtaceae Myrtaceae Thabye-satche, Thabye-kyetche Myrtaceae Kyauk-thabye Myrtaceae Thabye-gyi Myrtaceae Thitpyu Myrtaceae Lelu(at non-mangroves) Olacaceae Tawsabe Oleaceae Seik-hpalu Oleaceae Orchidaceae Zaw-sein Orchidaceae Sin-mi-tauk Oxalidaceae Zaung-yar Kun-pin, Kun-ywet-pin Piperaceae Nga-yok-kaung Piperaceae Wa-payaung Poaceae Wa-bo, Wabo-gyi Poaceae Wa-net Poaceae Myet-thin-don Poaceae Wa-gauk Poaceae Kyu Poaceae Wa-kyu Poaceae Rhamnaceae Zi Rhizophoraceae Maniawga Zizawa Rubiaceae Pinle-kyetyo, Leik-te(レイテ/ワコン) Rubiaceae Rubiaceae Kyetyo Ponna-yeik Ponna-yeik-gyi Morinda angustifolia Roxb. Yeyo Randia uliginosa DC. Hman Citrus aurantiifolia (Christm.) Sw. Thanbaya Shauk Citrus limon (L.) Burm. f. Kywe-gaw Citrus maxima (Burm.) Merr. Citrus reticulata Blanco Lein-hmaw Nyin-thi Litchi chinensis Sonn. Sein-nabaw Smilax perfoliata Lour. Kala-met Mansonia gagei J.R. Drumm. Sterculia angustifolia Jack Shaw-kanyin Myat-ya Microcos paniculata L. Triumfetta rhomboidea Jacq. Katsine Clerodendrum indicum (L.) Kuntze Ngayan-padu Ixora coccinea fa. lutea (Hutch.) Fosberg & Sachet Ixora coccinea fa. lutea (Hutch.) Fosberg & Sachet Rubiaceae Rubiaceae Rubiaceae Rubiaceae Rutaceae Rutaceae Rutaceae Rutaceae Sapindaceae Smilacaceae Sterculiaceae Sterculiaceae Tiliaceae Tiliaceae Verbenaceae Clerodendrum viscosum Vent. Thagyan-(kyauk-)pan Verbenaceae Premna integrifolia L. Vitex pinnata L. Taw-taung-tangyi Kasi Padegaw Gonmin Alpinia zerumbet (Pers.) B.L. Burtt & R.M. Sm. Amomum corynostachyum Wall. Verbenaceae Verbenaceae Zingiberaceae Zingiberaceae 食用 工芸材 薬毒用 屋根葺・張壁材 N N I N I N N I N N N I N N I N I I N N N N N N N I I N I I I N I N N N N I N N I N N I I N N I I I I I N N N N N N N N N N N 結束材 C C T T T C T T S S T T T T S S T S T T T T T S C S H C S C C T T T H T H S S T S S S S S T T S S S T T C T T T H H H S T H H 建材 科 燃料 現地名 生育形 学 名 在来(N)/移入(I) (B)非マングローブ植物資源 continued その他 F,G F,G(fodder) C,G C(fodder) * G ** G G(general) E G(furniture, minor construction) C(nitrogen) B,C B,C G(nitrogen) * G G(container) G G G(container) G(container) ** G G(container) G(container) C(file) C(lap, float) B G B(play) G(nitrogen) B,C D,E E(color) B B(play) B B(play) A(religous) C A(religious), C(fodder), G(religious) C C B,C,H B,C,D,F,G C G * G ** * G ** G G(container) G(toy, wepon) G(container) B A(religious, shade) E(dyes) B(religious), C(play) H(hair-ornamental) C C,E B,H B B C(religious) G(boat, minor-construction) C・H(religious, decoration) G(general, boat) G(container) B,C C,E D C H(hair-ornament) H(hair-ornamental) A(religious) ? ? G ? ? G(container, basket, fence, wepon) G ? ? G B G G G G(container, utensil etc.), C(lap) G(trap,stick etc) G G(container, utensil etc.) G G(mat) F,H ? ? C C(decoration) B,C G(thatch-shaft) G G(music), G(religious) G G G G B G(container, trap etc.) G ** G G(music) B(fodder), C・G(religious) E,F H(hair-ornament, religious) ? ? ? ? ? B C ? B,C B,C * ? ? ? ? G ** G ? ? G(wepon) ? G(boat, furniture) G(general) ? ** G G(utencil) G(farm-tool, general) ? ? ? ? ? B ? B G ? H(religious) H(religious) B,C ? ? B,C,F,G B,C,E,F B ? ? ? ? D(lighting), C(mushroom-nursing) ? ? B ? C ? C,H F ? H(hair-ornament, religious) C(lap) 燃料: **中核的,*副次的 生育形:T: 高木,S: 低木・灌木,P: ヤシ類,H: 草本,C: ツル,F: シダ類 用途中の記号は利用部位を示す。A: 植物全体, B: 種子・果実, C: 葉, D: 樹液, E: 樹皮, F: 根, 塊茎, 球根, 地下茎, G: 髄 - 134 - G B,F,G F,G B,G B,C,F,G G(cosmetic) G(religious) 第5章 マングローブ植物 非マングローブ植物 100 80 有用種数 60 40 20 の 他 そ 燃 屋 料 根 葺 ・張 壁 材 材 結 束 材 建 材 用 工 芸 食 薬 毒 用 0 用途区分 Fig. 5.1. 各用途の有用種数 有用種数は,各用途の有用種数を積算。 (%) マングローブ植物 非マングローブ植物 60 有用種数の比率 50 40 30 20 10 0 建 材 工 芸 材 材 材 計 壁 源 張 結 ・ 資 葺 料 根 材 屋 束 料 燃 l 食 用 薬 非 毒 用 源 資 料 材 計 用途区分 Fig. 5.2. 各用途の有用種数の比率 有用種数の比率は,各用途の有用種数の積算数に対するそれぞ れの用途の種数の百分比率。マングローブ植物,非マングローブ 植物それぞれについて算出。用途のうち,「その他」は除外した。 材料資源計は建材,工芸材,結束材,屋根葺・張壁材の有用種数 の比率の合計。非材料資源計は燃料,食用,薬毒用の有用種数 の比率の合計。 - 135 - 第5章 5.3.2 資 源 の 類 型 化 と 資 源 ミ ッ ク ス の 動 態 ( 1) 資 源 の 類 型 化 用 途 別 の 資 源 ミ ッ ク ス の 動 態 を ,2 つ の ス テ ー ク ホ ル ダ ー ご と に 示 す( Fig. 5.3)。 過去における資源ミックスを,ステークホルダー間で比較すると,燃料, 建 材 ,屋 根 葺・張 壁 材 ,結 束 材 ,医 薬 の 用 途 に お い て は 両 者 の 差 異 が 無 か っ た 。こ の う ち ,燃 料 ,建 材 ,屋 根 葺 ・ 張 壁 材 に お い て は ,過 去 圧 倒 的 に マ ン グ ロ ー ブ 植 物 が 利 用 さ れ て い た 。一 方 ,医 薬 に お け る 非 マ ン グ ロ ー ブ の 利 用 割 合 は ,土 地 持 ち 村 民 で は マ ン グ ロ ー ブ の 1.5 倍 ,土 地 無 し 村 民 で は 2 倍 以 上 で あ っ た 。ま た ,毒 ・ 忌 避 剤 ,家 具 ,結 束 材 ,副 食 の 用 途 に お い て は ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー 間 の 資 源 ミ ッ ク ス に 差 異 が あ り ,土 地 無 し 村 民 の マ ン グ ロ ー ブ の 利 用 割 合 が 土 地 持 ち 村 民 の 1.5 倍 か ら 4 倍 で あ っ た 。 ス テ ー ク ホ ル ダ ー 間 の 2 種 類 の 植 物 資 源 の ミ ッ ク ス の 同 異 と ,マ ン グ ロ ー ブ植物資源の利用割合の高低から,資源は 4 つのグループにまとめられた。 Group 1. 過 去 , ス テ ー ク ホ ル ダ ー に 関 わ ら ず , 資 源 ミ ッ ク ス は 同 様 Subgroup 1A. 過 去 , マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 利 用 割 合 が 極 め て 高 い ・・・・・・燃 料 , 建 材 , 屋 根 葺 ・ 張 壁 材 Subgroup 1B. 過 去 , マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 利 用 割 合 が 低 い ・・・・・・医 薬 Group 2. 過 去 , ス テ ー ク ホ ル ダ ー に よ り , 資 源 ミ ッ ク ス が 異 な る Subgroup 2A. 過 去 ,土 地 無 し 村 民 の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 利 用 割 合 が 非 常 に高い ・・・・・・毒 ・ 忌 避 剤 , 家 具 Subgroup 2B. 過 去 ,土 地 無 し 村 民 の 両 資 源 の 利 用 割 合 が 同 程 度 か ,マ ン グローブ植物の利用割合がやや高い ・・・・・・結 束 材 , 副 食 - 136 - 第5章 過去,ステークホルダーに関わらず, 資源ミックスは同様 Subgroup. 1A Subgroup. 1B 燃料 ※ 10 過去 建材 現在 過去 現在 過去 * * 8 現在 過去 現在 * * 6 ** 4 2 0 * LL LH LL LH 高 * * * ** LL LH LL LH LL LH LL LH 毒薬・ 忌避剤 ※ 10 LL LH 過去 現在 LL LH 低 過去における土地無し村民のマングローブ利用割合 Subgroup. 2A 過去,ステークホルダーにより, 資源ミックスが異なる 医薬 屋根葺・張壁材 Subgroup. 2B 家具材 過去 現在 結束材 過去 現在 副食材 過去 * * * 現在 * * 8 6 ** 4 2 * * 0 LL LH LL LH LL LH LL LH LL LH LL LH LL LH LL LH ※ 縦軸は利用頻度の割合 マングローブ植物資源 LL: 土地無し村民 非マングローブ植物資源 LH: 土地持ち村民 *: 購入する場合あり 非植物資源 Fig. 5.3. ステークホルダーごとの植物資源ミックスとその動態 ( 2) 資 源 の 獲 得 と 利 用 実 態 の 変 容 現 在 ,マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 利 用 割 合 は ,土 地 無 し 村 民 が 屋 根 葺・張 壁 材 に 用 い る 場 合 を 除 き ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー に よ ら ず 全 て の 用 途 に お い て 低 下 し , 毒 ・ 忌 避 剤 と 家 具 材 に は 利 用 さ れ な く な っ た ( Fig. 5.3)。 主 要 な 資 源 と - 137 - 第5章 し て 例 示 さ れ た マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 お よ び 非 植 物 資 源 と , そ の 獲 得 方 法 を Table 5.4 に 示 す 。 Table 5.4 ステークホルダー別の主な植物資源とその入手法方法 (A) 土地なし村民 用途区分 燃料 古今 過去 過去 現在 建材 屋根葺・張壁材 毒薬・忌避剤 ** AM G G G G G Bruguiera spp.① Heritiera fomes Xylocarpus moluccensis Phoenix paludosa G G G G G G G B Nypa fruticans Nypa fruticans C B C B 過去 Clerodendrum inerme Merope angulata Acrostichum aureum Caesalpinia bonduc Mussaenda macrophylla C B,C,G F,G B G G G G G G 現在 Merope angulata B,C,G G 過去 Sapium indicum Amoora cucullata B B 過去 過去 現在 医薬 マングローブ植物資源 * 学名 PP Heritiera fomes G Cynometra ramiflora G Ceriops decandra G Brownlowia tersa G Hibiscus tiliaceus G G G 現在 家具材 過去 Xylocarpus moluccensis Xylocarpus granatum G G G G 現在 結束材 過去 現在 副食材 過去 現在 Stenochlaena palustris Flagellaria indica Hibiscus tiliaceus Hibiscus tiliaceus Flagellaria indica Stenochlaena palustris Phoenix paludosa Caesalpinia bonduc Sarcolobus carinatus Sonneratia caseolaris Sonneratia apetala Cayratia trifolia Mussaenda macrophylla Phoenix paludosa Cayratia trifolia Sarcolobus carinatus Sonneratia caseolaris Sonneratia apetala G G G G G G G B,C B B,G B,G B,C G B,C B B,G B,G G G G G G G G G G G G G G G G G G G - 138 - 土地無し村民 非マングローブ植物資源 * 学名 PP AM Dipterocarpus alatus Cocos nuciferae Melastoma malabathricum Syzygium oblatum G B,C G G G G G G Areca catechu Cocos nuciferae Dipterocarpus alatus G G G B B B Emblica officinalis Tamarindus indica Cassia alata Tinospora cordifolia Cassia fistula Piper betle Eupatorium cannabinum Eupatorium odratum Premna integrifolia Ludisia discolor Piper betle Emblica officinalis Eupatorium odratum B,C B,E,H A F,G B,D,E,F C C,G,H C G F,H C B,C G G G G G G G G G G G G G Derris elliptica Cocos nuciferae Derris elliptica Cocos nuciferae A B G G A B G G Lagerstroemia speciosa G G② Dipterocarpus alatus Artocarpus heterophyllus Cocos nuciferae G G G B B B Spatholobus listeri Dendrocalamus brandisii Calamus viminalis Dendrocalamus brandisii Calamus viminalis G G G G G G G G B,G B Amomum corynostachyum B,C Archidendron jiringa B,C Kyibaung Tree fruits Salacia chinensis Amomum corynostachyum Archidendron jiringa Dendrocalamus sp. Oxytenanthera albociliata Kyibaung Tree fruits ** C B B G G G G G B,C B,C G G C B B,G B,G B,G G G G 非植物資源 ** 資源名 AM Balm Antibiotic Multi-vitamin Quinine Stomach drugs B B B B B Fish poison B Plastic tape B 第5章 Table 5.4 ステークホルダー別の主な植物資源とその入手法方法 (B) 土地持ち村民 用途区分 古今 燃料 過去 現在 マングローブ植物資源 学名 PP* Heritiera fomes G Cynometra ramiflora G Ceriops decandra G Ceriops decandra F Hibiscus tiliaceus G AM** G G G B G 土地持ち村民 非マングローブ植物資源 学名 PP* Microcos paniculata G AM** G Dipterocarpus alatus Cocos nuciferae G B,C G G 非植物資源 資源名 AM** (Rice husk) 建材 Bruguiera spp.① Heritiera fomes Xylocarpus moluccensis Avicennia officinalis Kandelia candel G G G G G G G G B B Cocos nuciferae Dipterocarpus alatus G G G G,B C G B G B Melocanna baccifera Melocanna baccifera G C G G B,G 過去 Nypa fruticans Nypa fruticans Avicennia officinalis Clerodendrum inerme Merope angulata Acrostichum aureum Caesalpinia bonduc Mussaenda macrophylla C B,C,G F,G B G G G G G G Emblica officinalis Tamarindus indica Cassia alata Tinospora cordifolia Cassia fistula Piper betle Eupatorium cannabinum Eupatorium odratum Premna integrifolia B,C B,E,H A F,G B,D,E,F C C,G,H C G G G G G G G G G G 現在 Merope angulata B,C,G G Piper betle Emblica officinalis C B,C G G 過去 Sapium indicum Amoora cucullata B B Derris elliptica Cocos nuciferae Cocos nuciferae A B G G B G Lagerstroemia speciosa G G Dipterocarpus alatus Artocarpus heterophyllus Lagerstroemia speciosa G G G G B,G B 過去 現在 屋根葺・張壁材 過去 現在 医薬 毒・忌避剤 G G 現在 家具材 過去 Xylocarpus moluccensis Xylocarpus granatum G G G G 現在 結束材 過去 現在 副食材 過去 現在 Hibiscus tiliaceus Flagellaria indica Stenochlaena palustris Hibiscus tiliaceus G G G G G G G G Spatholobus listeri Dendrocalamus brandisii G G G G Cocos nuciferae Dendrocalamus brandisii B G B G Phoenix paludosa Caesalpinia bonduc Sarcolobus carinatus Sonneratia caseolaris Sonneratia apetala G B,C B B,G B,G G G G G G Amomum corynostachyum B,C Archidendron jiringa B,C Kyibaung Tree fruits C B G G G G Phoenix paludosa Caesalpinia bonduc Sarcolobus carinatus Sonneratia caseolaris Sonneratia apetala G B,C B B,G B,G G G G G G Amomum corynostachyum Archidendron jiringa Dendrocalamus sp. Oxytenanthera albociliata B,C B,C G G C B B,G B,G B,G G G G Kyibaung Tree fruits Zinc sheet B Balm Antibiotic Multi-vitamin Quinine Stomach drugs B B B B B DDT Agrichemical Pyrethrum coil B B B Plastic tape B 3つの資源群中最も多用される資源群を影で示した。 被面接者が嗜好性や重要性を強調した資源は,利用頻度が低くとも記載した。 *PP: 植物体の部位。A: 植物全体, B: 種子, 果実, C: 葉, D: 樹液, E: 樹皮, F: 根, 塊茎, 球根, 地下茎, G: 髄, 茎, 幹, H: 花 **AM: 入手方法。B: 購入, G: 採集(無償) ①Bruguiera gymnorrhiza or Bruguiera sexangula . ②保全林内での違法伐採・採集 - 139 - 第5章 1A: 燃 料 , 建 材 , 屋 根 葺 ・ 張 壁 材 ス テ ー ク ホ ル ダ ー に 関 わ ら ず 燃 料 に は ,こ れ ま で 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 は ほ と ん ど 用 い ら れ ず , Heritiera fomes, Cynometra ramiflora な ど , 高 木 の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 枝 条 が 採 集 さ れ て い た 。マ ン グ ロ ー ブ は 依 然 と し て 主 な 燃 料 で あ る が ,資 源 の 種 類 と 獲 得 方 法 は ス テ ー ク ホ ル ダ ー 間 で 異 な っ た 。す な わ ち , 土 地 無 し 村 民 は 低 質 な Brownlowia tersa な ど を 採 集 し , 土 地 持 ち 村 民 は 良 質 と さ れ る Ceriops decandra の 根 を 購 入 し て い た 。ま た ,両 者 と も ホ ー ム ガ ー デ ン の 落 枝 や Cocos nucifera の 中 果 皮 な ど の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 を 副 次 的に利用するが,土地無し村民はより多種類の植物を採集していた。 建 材 に お い て も , 過 去 ス テ ー ク ホ ル ダ ー に 関 わ ら ず H. fomes や Bruguiera spp.な ど , 幹 が 通 直 な 高 木 の マ ン グ ロ ー ブ が 採 集 さ れ て い た 。 現 在 土 地 無 し 村 民 は ,廉 価 で あ る が 強 度 と 耐 久 性 に 劣 る Phoenix paludosa な ど の マ ン グ ロ ー ブ と Areca catechu な ど の 非 マ ン グ ロ ー ブ を 購 入 し て い た 。 一 方 土 地 持 ち 村 民 は , や や 良 質 の Avicennia officinalis な ど の マ ン グ ロ ー ブ を 購 入 す る か , 自 所 に 生 育 す る Dipterocarpus alatus な ど の 非 マ ン グ ロ ー ブ を 採 集 し て い た 。 屋 根 葺・張 壁 材 に は ,過 去 ,現 在 と も ス テ ー ク ホ ル ダ ー に 関 わ ら ず 圧 倒 的 に マ ン グ ロ ー ブ の Nypa fruticans が 用 い ら れ て お り , 土 地 無 し 村 民 は 購 入 , 土地持ち村民は採集をしていた。 1B: 医 薬 ステークホルダーに関わらず,過去非マングローブ植物が主に用いられ, 主 要 な 資 源 の 数 も 他 の 用 途 と 比 べ 多 か っ た 。ま た ,植 物 体 の 複 数 の 部 位 が 資 源 と な る 植 物 が 多 か っ た 。現 在 は ,2 つ の ス テ ー ク ホ ル ダ ー と も に 市 販 薬 の 利 用 割 合 が 最 も 高 か っ た 。土 地 無 し 村 民 は ,割 合 は 低 い も の の ,現 在 で も 低 木 の マ ン グ ロ ー ブ の Merope angulata を 採 集 ・ 利 用 し て い た 。 2A: 毒 ・ 忌 避 剤 , 家 具 材 過 去 土 地 無 し 村 民 は ,マ ン グ ロ ー ブ 林 縁 種 の Sapium indicum の 果 実 を 採 集 し ,果 皮 を 魚 毒 と し て 頻 用 し い て い た が ,現 在 で は 希 少 と な っ た た め ,魚 毒 を 用 い ず 漁 撈 を 行 う か ,市 販 の 薬 品 を 利 用 し て い た 。一 方 ,土 地 持 ち 村 民 は 漁 撈 を ほ と ん ど 行 わ な い が ,過 去 ま れ に 非 マ ン グ ロ ー ブ の Derris elliptica を 魚毒とし漁を行ない,現在は農薬を水田やホームガーデンに用いていた。 家 具 材 と し て 最 も 高 品 質 の 資 源 は , 非 マ ン グ ロ ー ブ の 高 木 Lagerstroemia speciosa で あ る が , 過 去 土 地 無 し 村 民 は , 主 に マ ン グ ロ ー ブ の Xylocarpus moluccensis や X. granatum を 採 集 ・ 利 用 し て い た 。現 在 で は マ ン グ ロ ー ブ を - 140 - 第5章 ま っ た く 利 用 せ ず , Dipterocarpus alatus や Artocarpus heterophyllus, Cocos nucifera な ど , 非 マ ン グ ロ ー ブ の 2 級 品 を 購 入 し て い た 。 一 方 , 過 去 土 地 持 ち 村 民 は , ホ ー ム ガ ー デ ン か ら Lagerstroemia speciosa を 採 集 し て い た が , 現在これを購入し,他の非マングローブを採集または購入し併用していた。 2B: 結 束 材 , 副 食 過 去 土 地 無 し 村 民 は ,結 束 材 に つ る 性 の Flagellaria indica や Stenochlaena palustris な ど の 強 靭 性 の 高 い マ ン グ ロ ー ブ を 主 に 用 い , Spatholobus listeri や Dendrocalamus brandisii な ど の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 を 副 次 的 に 利 用 し て い た 。一 方 ,土 地 持 ち 村 民 も 同 様 の 植 物 を 用 い て い た が ,非 マ ン グ ロ ー ブ の 利 用 割 合 の 方 が 高 か っ た 。現 在 両 者 と も に ,プ ラ ス テ ィ ッ ク 製 品 を 中 心 と し た 非 植 物 資 源 の 利 用 割 合 が 最 も 高 い が ,土 地 無 し 村 民 の マ ン グ ロ ー ブ 利 用 割 合 は土地持ち村民の 2 倍で,これまでと同様の植物が採集されていた。 土 地 無 し 村 民 は ,か つ て 副 食 に マ ン グ ロ ー ブ 植 物 と 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 を 同 程 度 に ,土 地 持 ち 村 民 は ,非 マ ン グ ロ ー ブ を 主 に 採 集・利 用 し て い た 。主 要 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 数 は ,土 地 持 ち 村 民 よ り 土 地 無 し 村 民 の 方 が 多 か っ た 。現 在 両 者 と も に ,マ ン グ ロ ー ブ の 利 用 割 合 は 低 下 し ,主 に 非 マ ン グ ロ ー ブ の 購 入 や 採 集 を 行 っ て い た 。主 要 な 非 マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 数 は ,両 者 と も 過去に比べ現在の方が多かった。 5.4 考 察 5.4.1 植 物 資 源 と 資 源 供 給 地 の 基 本 的 性 格 過 去 に お け る 資 源 ミ ッ ク ス は ,マ ン グ ロ ー ブ 林 が 減 少 す る 以 前 の ,伝 統 的 な 資 源 の 選 択・利 用 状 態 を 表 し て い る 。資 源 の 用 途 の う ち ,グ ル ー プ 1 の 燃 料 ,建 材 ,屋 根 葺 ・ 張 壁 材 ,結 束 材 ,医 薬 に お い て は ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー に よ る 資 源 ミ ッ ク ス の 差 異 は 無 か っ た ( Fig. 5.3)。 し た が っ て , こ れ ら の 用 途 の 資 源 ミ ッ ク ス は ,村 人 に と っ て の 資 源 の 普 遍 的・基 本 的 な 性 格 を 反 映 し て い る 。 そ こ で , 各 用 途 の 有 用 種 数 , 主 な 植 物 資 源 と 入 手 方 法 ( Fig. 5.1; 5.2, Table 5.4), お よ び グ ル ー プ 1 の 過 去 の 資 源 ミ ッ ク ス ( Fig. 5.3) か ら , 植 物 資 源 お よ び 資 源 供 給 地 と し て の「 マ ン グ ロ ー ブ 林 」と「 ホ ー ム ガ ー デ ン 」の 基本的な性格と役割を考察する。 非 マ ン グ ロ ー ブ の 有 用 種 は 対 象 と し た 129 種 中 124 種 で ,そ の 数 は マ ン グ - 141 - 第5章 ロ ー ブ の 有 用 種 に 比 べ 2 倍 以 上 で あ り ,1 有 用 種 あ た り の 平 均 用 途 数 も マ ン グ ロ ー ブ を 上 回 っ て い た 。同 様 な 生 態 環 境 に あ る ベ ン ガ ル デ ル タ の ホ ー ム ガ ー デ ン で は 125 種 の 植 物 資 源 が , 1 有 用 種 あ た り 平 均 2.5 の 用 途 を 持 つ ( 吉 野 ・ 安 藤 , 1999)。 Ashe Mayan 村 の 非 マ ン グ ロ ー ブ の 有 用 種 数 は , こ れ と 非 常 に 近 似 し , 平 均 用 途 数 も 2.63 と ほ ぼ 同 等 で あ っ た 。 吉 野 ら の 事 例 で は , 区 分 し た 用 途 の 数 が 本 研 究 よ り 多 く ,土 壌 保 護 な ど の 間 接 的 利 用 を 含 め る な ど 方 法 が 相 違 し ,有 用 種 の 多 用 途 性 を 直 接 比 較 す る の は 困 難 で あ る 。し か し , エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の 村 人 は ,ベ ン ガ ル デ ル タ と 同 様 に 様 々 な 植 物 の 特 質 を 把 握 し ,多 重 的 利 用 の 体 系 を 作 り 上 げ て お り ,ホ ー ム ガ ー デ ン は 生 活 と の 結びつきの深い多様な資源の供給地であると言える。 伝 統 的 な 社 会 で は ,住 居 ,道 具 ,日 用 品 な ど の 物 質 文 化 に お い て ,野 生 お よ び 栽 培 植 物 は 必 須 の も の で あ る( Cotton, 1996)。南 米 や ア フ リ カ の 伝 統 社 会 に お け る 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー で は ,こ の よ う な 材 料 資 源 の 数 が ,全 て の 植 物 の 用 途 数 の 半 数 を 超 え て い る ( Milliken et al., 1992; Medley, 1993; Phillips & Gentry, 1993a)。 本 研 究 で は , マ ン グ ロ ー ブ の 材 料 資 源 の 種 数 比 率 は 50% と 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 よ り 高 く , 特 に 結 束 材 に お い て そ の 差 は 顕 著 で あ っ た ( Fig. 5.2)。 結 束 材 は , 日 用 品 や 農 具 ・ 漁 具 な ど の 製 作 の ほ か , 住 居 や フ ェ ン ス な ど 構 造 物 に も 多 用 さ れ る 。ま た ,過 去 ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー に 関 わ ら ず ,燃 料 お よ び 建 材 ,屋 根 葺・張 壁 材 な ど の 住 居 建 築 資 材 と し て の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 利 用 割 合 が 極 め て 高 く ,現 在 で も 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 を 上 回 っ て い た ( Fig. 5.3)。 マ ン グ ロ ー ブ は 家 屋 の 柱 ・ 梁 な ど の 構 造 材 や , 棚 ・ 桟 ,壁 面 ・ 床 面 な ど ,ほ と ん ど の 部 材 に 観 察 さ れ る 。し た が っ て ,村 人 に と っ て マ ン グ ロ ー ブ 林 は ,日 常 生 活 の 長 期 的 基 盤 で あ る「 住 」に 関 わ る 材 料 資 源 と「 食 」に 関 わ る 燃 料 の 供 給 地 と し て の 基 本 的 性 格 を 持 っ て い る 。な か で も Heritiera fomes は 複 数 用 途 に お い て 中 核 的 な 役 割 を 果 た し て い た と 言 え る。 一 方 ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 中 で は ,食 用 と 薬 毒 用 の 有 用 種 が 特 に 多 か っ た ( Fig. 5.1)。 ま た , 食 用 の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 有 用 種 数 比 率 は , マ ン グ ロ ー ブ に 比 べ て 際 立 っ て 高 か っ た ( Fig. 5.2)。 さ ら に , 医 薬 に お け る 非 マングローブ植物資源の利用割合は,過去において,ホームガーデンの所 有 ・ 非 所 有 に 関 わ ら ず 極 め て 高 く ( Fig. 5.3), 主 要 な 資 源 の 数 も 最 大 で あ っ た ( Table 5.4A; 5.4B)。 し た が っ て , ホ ー ム ガ ー デ ン は , 村 人 が 「 生 物 と し て の 肉 体 を 維 持 す る た め の 資 源( 小 林 , 1994)」の 供 給 地 と し て の 基 本 的 性 格 を持っている。 - 142 - 第5章 5.4.2 村 落 内 の 重 層 性 と 資 源 供 給 地 の 役 割 Ashe Mayan 村 で は , ス テ ー ク ホ ル ダ ー の 間 で , 生 業 構 造 , 購 買 力 , 資 源 の 利 用 権 な ど の 属 性 が 異 な る 。土 地 持 ち 村 民 の 主 な 生 業 は ,樹 木 作 物 の 生 産 を 中 心 に し た ホ ー ム ガ ー デ ン の 経 営 で あ る 。隣 接 す る 潮 間 帯 の 土 地 を 所 有 す る 場 合 が 多 く ,ニ ッ パ ヤ シ の 栽 培 も 行 う 。購 買 力 は 比 較 的 高 く ,所 有 地 に 生 育する植物資源全般を利用する権利を有している。一方,土地無し村民は, 小 規 模 な 漁 撈 や カ ニ 採 り と 賃 金 労 働 農 業 を 複 合 的 に 営 み ,購 買 力 は 比 較 的 低 い 。親 戚 な ど の ホ ー ム ガ ー デ ン 内 の 一 角 に 小 さ な 家 屋 を 建 て て 住 み ,土 地 に 生 育 す る 植 物 資 源 は ,地 権 者 の 了 解 の も と 利 用 す る か ,金 銭 や 労 働 な ど の 対 価により入手しなければならない。 ま た ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー 間 の 属 性 の 違 い は ,両 者 の マ ン グ ロ ー ブ 林 へ の ア ク セ ス 頻 度 に 差 異 を 生 じ さ せ て い る 。土 地 無 し 村 民 は ,燃 料 材 や カ ニ の 採 捕 な ど の た め ,ア ク セ ス 頻 度 が 高 い 。一 方 土 地 持 ち 村 民 は ,燃 料 材 の 採 集 を 土 地 無 し 村 民 に 行 わ せ ,か つ 多 様 な 資 源 を ホ ー ム ガ ー デ ン か ら 得 ら れ る こ と か ら,アクセス頻度は低い。 過 去 ,土 地 無 し 村 民 は 伝 統 的 な 漁 撈 の 魚 毒 や 家 具 材 に ,無 償 の マ ン グ ロ ー ブ を 利 用 し て い た ( Table 5.4A)。 一 方 , 土 地 持 ち 村 民 は 漁 撈 を 生 業 と せ ず , 家 具 材 に は 自 所 の 高 品 質 な 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 が 得 ら れ た( Table 5.4B)。 し た が っ て , 2A の 資 源 に お け る ス テ ー ク ホ ル ダ ー 間 の 資 源 ミ ッ ク ス の 差 異 ( Fig. 5.3) は , 両 者 の 属 性 の 違 い に よ り 生 じ た と 言 え る 。 マ ン グ ロ ー ブ 林 は ,社 会・経 済 的 に 脆 弱 な 土 地 無 し 村 民 の 生 業 を 支 え ,生 計 を 安 定・維 持 さ せる役割を果たしていた。 結 束 材 は 植 物 体 の 簡 単 な 加 工 で 得 ら れ る た め ,通 常 ,利 用 す る 場 所 で 採 集 さ れ る 。そ の 結 果 ,マ ン グ ロ ー ブ 林 へ の ア ク セ ス 頻 度 が 高 い 土 地 無 し 村 民 は , 過 去 マ ン グ ロ ー ブ を 頻 用 す る こ と に な っ た 。ま た ,野 生 の 食 用 資 源 の 多 く は 非 常 食 ・ 救 荒 食 で あ り , 食 生 活 へ の 寄 与 は 少 な い ( Cotton, 1996) が , 土 地 無 し 村 民 は マ ン グ ロ ー ブ の 食 用 資 源 を 採 集 す る 機 会 が 多 か っ た 。し た が っ て , 2B の 資 源 に お け る 両 者 の 資 源 ミ ッ ク ス の 差 異 ( Fig. 5.3) は , マ ン グ ロ ー ブ 林 へ の ア ク セ ス 頻 度 の 差 に よ り 生 じ て い た と 言 え る 。土 地 無 し 村 民 が 示 し た , 副食となる主要なマングローブ資源の数が,土地持ち村民より多かった ( Table 5.4A; 5.4B)の も ,同 じ 理 由 に よ る と 考 え ら れ る 。た だ し ,土 地 無 し 村 民 の マ ン グ ロ ー ブ 利 用 割 合 が , 2A に お い て ほ ど 高 く な か っ た ( Fig. 5.3) の は , 彼 ら も 地 権 者 の 了 解 の も と 2B の 資 源 を ホ ー ム ガ ー デ ン か ら 採 集 で き - 143 - 第5章 たからだと解釈できる。 農 漁 具 の 維 持 に 用 い る 強 靭 性 の 高 い マ ン グ ロ ー ブ の 結 束 材 は ,土 地 無 し 村 民 の 生 業 活 動 に 役 割 を 果 た し て い た 。ま た ,付 随 的 に 採 集 す る 食 用 資 源 で あ っ て も ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 無 償 性 は ,購 買 力 の 低 い 土 地 無 し 村 民 の 生 計 維 持 に 寄 与 し て い た と 言 え る 。長 期 間 継 承 さ れ て き た 日 常 生 活 空 間 外 で の 生 物 資 源 の 採 集 に は ,生 活 の 変 化 と 潤 い の 選 択 肢 と し て の 社 会・文 化 的 な 重 要 性 が あ る ( 松 井 , 1998; 2004)。 マ ン グ ロ ー ブ の 食 用 資 源 利 用 に は , こ の よ う な 意味もあると推察され,今後の研究課題の一つである。 5.4.3 資 源 利 用 の 変 容 と 人 々 へ の 影 響 マ ン グ ロ ー ブ の 燃 料 ,建 材 ,家 具 材 の 減 少 に 対 し て 土 地 無 し 村 民 は ,利 用 す る マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 変 更 と 多 様 化 ,お よ び 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 へ の 依 存 割 合 の 増 加 に よ り 対 応 し て い る ( Fig. 5.3, Table 5.4A)。 低 質 な マ ン グ ロ ー ブ 燃 料 へ の 変 更 に よ る 薪 量 の 増 加 と ,多 様 な 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 採 集 の た め , 採集時間と労力が増加している。建材と家具材に用いる資源の質が低下し, 家 屋 の 小 型 化 と 耐 久 性 の 低 下 ,お よ び 家 財 の 質 の 低 下 を 招 い て い る 。建 材 と 家 具 材 は 全 て 有 償 と な り ,家 計 負 担 の 増 加 を 引 き 起 こ し て い る 。一 方 ,土 地 持 ち 村 民 も ,燃 料 を 他 の マ ン グ ロ ー ブ に 変 更 し た が ,資 源 の 質 は 高 く 獲 得 は 購 入 に よ っ て い る 。ま た 全 て を マ ン グ ロ ー ブ に 依 存 し て い た 建 材 は ,一 部 が 自 所 の 非 マ ン グ ロ ー ブ に 代 替 さ れ た ( Fig. 5.3, Table 5.4B)。 ス テ ー ク ホ ル ダ ー 間 の こ の 様 な 対 応 の 差 異 は ,両 者 の 購 買 力 と ,代 替 資 源 の 利 用 権 の 有 無 に よ り 生 じ て い る 。マ ン グ ロ ー ブ の 燃 料 ,建 材 ,家 具 材 の 減 少 は ,経 済 力 が 弱 く ホ ー ム ガ ー デ ン を 持 た な い 土 地 無 し 村 民 の ,労 働 や 生 活 に 負 の 変 化 を 招 い ている。 医 薬 お よ び 結 束 材 に お い て ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー に 関 わ ら ず 非 植 物 資 源 の 利 用 割 合 が 最 も 高 い の は ,購 入 可 能 と な っ た 工 業 製 品 を 選 択 し て い る た め で あ る ( Fig. 5.3, Table 5.4A; 5.4B)。 ま た , 土 地 無 し 村 民 に よ る マ ン グ ロ ー ブ 利 用 割 合 が 土 地 持 ち 村 民 よ り 高 い の は ,無 償 性 や 生 業 へ の 高 い 適 合 性 を 持 つ 種 が 存 在 す る た め だ と 言 え る 。一 方 ,毒・忌 避 剤 に お い て 非 植 物 資 源 の 利 用 割 合 が 最 も 高 く な っ た 理 由 は ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー に よ り 異 な る 。土 地 持 ち 村 民 の 場 合 は ,農 薬 の 利 用 を 積 極 的 に 選 択 し た こ と ,生 業 選 択 が 限 ら れ る 土 地 無 し 村 民 の 場 合 は ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 減 少 に よ り 伝 統 漁 撈 の 放 棄 を 余 儀 な く されたことによる。 副 食 に お け る ス テ ー ク ホ ル ダ ー 双 方 の 資 源 ミ ッ ク ス の 変 化 は ,マ ン グ ロ ー - 144 - 第5章 ブ 林 訪 問 頻 度 の 低 下 と ,果 実 や 筍 な ど の ホ ー ム ガ ー デ ン の 資 源 の 種 類 の 増 加 ( Table 5.4A; 5.4B)に よ る と 解 釈 で き る 。し か し ,土 地 無 し 村 民 の マ ン グ ロ ー ブ 利 用 割 合 は 依 然 土 地 持 ち 村 民 よ り 高 く ,資 源 の 無 償 性 は 現 在 で も 生 計 維 持に意味を持つと言える。 建 材 や 家 具 材 に お け る ,資 源 の 減 少 に 対 す る 土 地 持 ち 村 民 の 対 応 は ,ホ ー ムガーデンの持つマングローブ林に対する資源供給の上での代替機能を示 し て い る 。彼 ら の 生 活 の 質 に 劣 化 が 見 ら れ な い の は ,ホ ー ム ガ ー デ ン の 代 替 機能と経済力により,マングローブ林の減少に順応しているためである。 5.5 ま と め 1. 2003 年 か ら 2005 年 に わ た り ,ミ ャ ン マ ー の エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ 海 岸 帯 の 浜 堤 上 に あ る Ashe Mayan 村 で , マ ン グ ロ ー ブ 林 と ホ ー ム ガ ー デ ン の 植 物 資 源 利 用 と そ の 変 化 に 関 す る 調 査 を 行 っ た 。有 用 な マ ン グ ロ ー ブ 植 物 と 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の イ ン ベ ン ト リ ー の 作 成 ,過 去 お よ び 現 在 の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 ,非 植 物 の 資 源 ミ ッ ク ス を ,ホ ー ム ガ ー デ ン の 所 有・ 非所有というステークホルダー別のインタビューにより把握した。 2. 有 用 種 と し て ,マ ン グ ロ ー ブ 植 物 50 種 と ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 124 種 が イ ン ベ ン ト リ ー さ れ た 。各 用 途 の 有 用 種 数 を 合 算 し た「 有 用 種 数 」は ,前 者 が 108 種 ,後 者 が 326 種 で ,特 に 薬 毒 用 と 食 用 の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 が 多 か っ た 。 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 1 有 用 種 あ た り の 平 均 用 途 数 は 2.63 と , 多 重 的な利用が確認された。 3. マ ン グ ロ ー ブ 林 減 少 以 前 の , ス テ ー ク ホ ル ダ ー 間 の 資 源 ミ ッ ク ス の 同 異 と マ ン グ ロ ー ブ 利 用 割 合 の 高 低 か ら ,資 源 用 途 は 4 つ の グ ル ー プ に ま と め ら れ た 。 ス テ ー ク ホ ル ダ ー に 普 遍 的 に , 1) マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 が 中 核 的 役 割 を 担 う 燃 料 材 , 建 材 , 屋 根 葺 ・ 張 壁 材 , 2) 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 が 中 核 的 役 割 を 担 う 医 薬 。 土 地 無 し 村 民 に 特 異 的 に , 3) マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 役 割 が 大 き い 毒 ・ 忌 避 剤 , 家 具 , 4) マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 役 割 が あ る 結束材,副食。 4. マ ン グ ロ ー ブ 林 の 基 本 的 性 格 は , 日 常 生 活 の 長 期 的 基 盤 と な る 住 居 や 燃 料 の 供 給 地 で あ り ,中 核 的 な 資 源 は Heritiera fomes で あ っ た 。マ ン グ ロ ー ブ の魚毒や結束材は,特異的に土地無し村民の生業の維持に,家具材や建材, - 145 - 第5章 副食材は家計の維持に貢献してきた。 5. マ ン グ ロ ー ブ 林 の 減 少 に よ り , 土 地 無 し 村 民 は , 生 活 の 質 の 低 下 と 家 計 負 担 の 増 大 , 生 活 様 式 の 変 更 を 余 儀 な く さ れ た 。 中 核 的 な 資 源 の H. fomes の 燃 料 材 と 建 材 が 利 用 困 難 に な っ た こ と が ,生 活 の 質 の 低 下 と 家 計 負 担 の 増 大 に 影 響 し て い た 。一 方 土 地 持 ち 村 民 は ,自 所 の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 と 経済力を活用し,マングローブ林減少に順応している。 6. 今 後 マ ン グ ロ ー ブ 林 の 減 少 が 進 ん だ 場 合 , 社 会 ・ 経 済 的 に 脆 弱 な 土 地 無 し村民の生活に,さらなる負の変化が起きると考えられる。 - 146 - 第6章 マングローブの資源性 2 −資源化の様態と変容− 第6章 6.1 緒 言 こ れ ま で 研 究 地 域 の マ ン グ ロ ー ブ 林 は ,首 都 圏 住 民 の 燃 料 の 供 給 源 と し て 扱 わ れ ,評 価 に 関 わ る 情 報 は 面 積 に 集 約 さ れ 把 握 さ れ て き た( Tan Chein Hoe, 1952; Maung Maung Than & Phone Htut, 2003)。 市 場 で 扱 わ れ な い 多 様 な 非 木 材 林 産 物 の 地 域 的 な 価 値 や ,種 組 成 を 反 映 さ せ た 森 林 の 資 源 的 価 値 は 明 ら か に さ れ て こ な か っ た 。ミ ャ ン マ ー 林 業 の 森 林 保 続 思 想 は ,木 材 収 穫 の 保 続 思 想 で あ り ,地 域 住 民 の 生 活 向 上 に つ な が る ト ー タ ル な 森 林 環 境 保 続 の 意 味 で は な か っ た( 樫 尾 , 1998)。し た が っ て ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の そ れ ぞ れ の 植 物 が 持 つ 機 能 や 地 域 住 民 に と っ て の 資 源 的 役 割 を ,面 積 的 把 握 に 変 わ る 別 の 手 法 で再評価し,修復と保全の意味づけを行なう必要がある。 本 章 の 第 1 の 目 的 は ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 林 の ,地 域 に お け る 資 源 的 価 値 を 明 ら か に す る こ と で あ る 。そ の た め に ,第 5 章 に お い て 構 築 し た 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー に 基 づ き ,マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 素 材 と し て の 特 性 と 資 源 化 の 様 態 の 関 係 を 具 体 的 に 明 ら か に す る 。素 材 の 特 性 は ,生 態 的 性 質 の 表 出 で あ る 生 育 形 と 物 理・化 学 的 な 特 徴 を 反 映 す る 樹 体 の 部 位・器 官から捉え,利用者側の要求・利用との関係を具体的に検証する。 第 2 の 目 的 は ,住 民 に よ る 資 源 化 の 様 態 を 通 し た マ ン グ ロ ー ブ 林 の 評 価 と , そ の 変 容 の 定 量 的 な 把 握 あ る 。資 源 の 定 量 化 研 究 と し て ,林 産 物 の 重 要 性 の 順 位 付 け や 依 存 度 の 分 析 が あ げ ら れ る ( Cotton, 1996; 佐 藤 , 2002)。 順 位 付 け 研 究 に お い て は ,数 量 化 と 交 差 証 明 に 用 い る デ ー タ 収 集 に 時 間 と 労 力 を 要 す る ( 例 え ば , Martin, 1995)。 ま た , 依 存 度 の 定 義 は 研 究 者 に よ り 異 な り , 研 究 は 極 め て 少 な い ( 佐 藤 , 2002)。 資 源 は ,「 人 間 の 望 み , 能 力 や 環 境 の 評 価 な ど の 間 に 存 在 す る 機 能 的 関 連 性( Zimmermann,1951)」で あ る 。本 章 に お い て は ,「 望 み や 能 力 」 の 発 現 と し て の 採 集 ・ 利 用 に 着 眼 し , 木 材 林 産 物 および非木材林産物を共通の手法により扱った。 第 3 の 目 的 は ,地 域 的 な 資 源 化 の あ り 方 と 変 容 に 基 づ き ,修 復 と 持 続 的 利 用 に 向 け た 生 態 研 究 の 対 象 と な る「 管 理 上 の 注 目 種 」を 抽 出 し ,そ の 群 集 を 示すことである。保全の優先順位を決定する基準として,特異性,脅威度, 有 用 性 が あ げ ら れ て い る( プ リ マ ッ ク・小 堀 , 1997)。脅 威 度 の 1 指 標 で あ る 絶 滅 確 率 の 査 定 に は ,厳 密 な 保 全 生 物 学 的 な デ ー タ が 必 要 で あ る が ,研 究 地 域 に は デ ー タ の 蓄 積 が な い 。本 研 究 に お け る 指 標 は ,脅 威 度 を「 採 集 活 動 か ら 捉 え た 資 源 の 変 容 」, 有 用 性 を 「 利 用 頻 度 と , イ ン ベ ン ト リ ー に 基 づ く 多 用 性 ,嗜 好 性 」と し た 。比 較 的 簡 便 で 迅 速 に 評 価 が 行 え ,管 理 主 体 と な る べ き 住 民( UNEP, 2000)の 資 源 利 用 実 態 に 基 づ く 点 で ,実 用 的 か つ 妥 当 な 新 た - 148 - 第6章 な試みである。なお,資源価値の評価基準には未解決の部分がある(鈴木, 2006)こ と か ら ,優 先 順 位 に 代 え て 本 論 文 に お い て は 保 全・管 理 上 の「 注 目 度 合 い 」,「 注 目 す べ き 種 」 と し た 。 6.2 研 究 方 法 6.2.1 調 査 地 エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ 海 岸 帯 の Ashe Mayan 村 で あ る ( Fig. 3.11)。 6.2.2 調 査 ・ 解 析 方 法 ( 1) 素 材 特 性 と 資 源 化 第 5 章 に お い て 構 築 し た 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー ( Table 5.3) を ,「 植 物 の 生 育 形 」 お よ び 「 植 物 体 の 部 位 」 と ,「 用 途 別 の 有 用 種 数 」 を 軸 と し て 2 つ の 総 括 表 に 集 約 し た 。こ の 際 ,有 用 種 数 に 対 す る 部 位 ご と の 有 用 種 数 の 比 率 を「 部 位 別 資 源 化 率 」と し た 。利 用 部 位 か ら 用 途 の 類 型 化 を 行 い ,生 育 形 とインベントリー情報から用途別のマングローブの資源化の様態を検証し た。 ( 2) ア ク セ ス ・ 利 用 と そ の 動 態 マ ン グ ロ ー ブ 資 源 へ の ア ク セ ス と 利 用 頻 度 ,お よ び そ の 時 間 動 態 の 把 握 を 行なうとともに,過去および現在の資源採集地を明らかにした。 調 査 は ,イ ン タ ビ ュ ー に よ り 行 っ た 。被 面 接 者 は ,第 5 章 と 同 一 の キ ー ・ イ ン フ ォ ー マ ン ト の う ち の 7 名 で ,3 名 と 4 名 か ら な る 2 グ ル ー プ を 構 成 し , グ ル ー プ イ ン タ ビ ュ ー を 実 施 し た 。マ ン グ ロ ー ブ 資 源 へ の ア ク セ ス と 利 用 頻 度については, 「 過 去 」と「 現 在 」を 区 別 し ,以 下 の 3 つ の 指 標 に つ い て Table 6.1 に 示 し た 基 準 に よ り 程 度 を 区 分 し て 聞 き 取 り を 行 っ た 。な お , 「 過 去 」と は 概 ね 1960 年 代 初 頭 以 前 の 状 況 と し た 。 ①時間距離:徒歩や手漕ぎ舟での平均到達所要時間。5 段階に区分。 ② 探 索 時 間:採 集 地 に お い て 目 的 に 見 合 う サ イ ズ や 状 態 の 資 源 を 探 す の に 要する時間。4 段階に区分。 ③ 「 利 用 頻 度 」: 一 定 期 間 内 の 利 用 回 数 。 5 段 階 に 区 分 。 - 149 - 第6章 Table 6.1 指標とその基準およびレベル区分 指標 時間距離 探索時間 利用頻度 基準 半日以上を要する 3時間から半日を要する 1時間から3時間を要する 1時間以内の村落近接地 村落内 見つからない/見つけるのは極めて困難 探索に30分以上を要する 探索に5分から30分を要する 5分以内で見つかる 利用しない ほとんど利用しない 月に1回ないし2回程度利用する 週に1回ないし2回程度利用する ほぼ毎日利用する レベル区分 遠隔 近傍 長時間 短時間 低 中 高 解析は,村人が利用できる相対的な資源の量とも言える「資源アクセス」 と ,伝 統 的 な 生 活 と の 関 わ り が ど の 程 度 密 接 か を あ ら わ す「 利 用 頻 度 」を 軸 と し て ,個 々 の 植 物 資 源 を 位 置 づ け ,時 間 動 態 を 明 ら か に し た 。資 源 ア ク セ ス に は ,「 時 間 距 離 」 と 「 探 索 時 間 」 を 要 素 と し て 用 い た 。 各 指 標 の 程 度 を Table 6.1 に て レ ベ ル 区 分 し ,過 去 お よ び 現 在 に お け る 位 置 づ け を チ ャ ー ト 化 した。 ( 3) 管 理 注 目 種 の 抽 出 注 目 種 の 順 位 付 け の た め の 評 価 に は ,定 量 指 標 と し て「 資 源 ア ク セ ス の 低 下 」と「 利 用 頻 度 の 低 下 」を ,定 性 指 標 と し て「 資 源 の 多 用 度 」お よ び「 資 源 の 質 」 を 用 い た 。4 つ の 指 標 に 以 下 の 得 点 を 適 用 し , 合 計 得 点 に よ り 資 源 を順位付けし管理上の注目種を抽出した。 ① 資 源 ア ク セ ス の 低 下:資 源 の 位 置 づ け チ ャ ー ト に お い て ,下 位 の カ テ ゴ リーへの移行程度。1 段階の移行は 1 点,2 段階の移行は 2 点。 ②利用頻度の低下:資源アクセスと同様。 ③資源の多用度:8 用途区分中,3 用途以上の場合 1 点。 ④ 資 源 の 質:中 核 的 な 用 途 に お い て ,最 も 質 が 高 い と の 回 答 が あ っ た 場 合 1 点。 - 150 - 第6章 6.3 結 果 6.3.1 素 材 特 性 と 資 源 化 「 植 物 の 生 育 形 と 用 途 別 種 数 」を Table 6.2 に ,「 植 物 体 の 部 位 と 用 途 別 の 有 用 種 数 」 を Table 6.3 に そ れ ぞ れ 示 す 。 Table 6.2 植物の生育形・用途別の有用種数 科数 種数 高木種 低木種 ヤシ・シダ類 草本植物 つる植物 対象種 有用種 51 77 30 17 6 5 19 28 50 27 9 3 1 10 用途別種数 燃料 建材 工芸材 結束材 6 6 5 1 0 0 0 7 14 14 0 0 0 0 14 21 19 1 1 0 0 9 10 1 2 1 0 6 屋根葺・張壁材 平均 食用 薬毒用 その他 11 15 6 1 3 0 5 20 26 11 6 3 1 5 11 15 10 1 1 0 3 1 1 0 0 1 0 0 積算種数 用途数/種 108 66 12 10 1 19 2.16 2.44 1.33 3.33 1.00 1.90 ※燃料は主要なもののみカウントした Table 6.3 植物体の部位別・用途別の有用種数 利用部位 種数 幹・枝(茎) 葉 花 果実・種子 根・地下茎 39 29 10 29 11 部位別 資源化率(%) 78.0 58.0 20.0 58.0 22.0 資源の延数 用途別種数 燃料 建材 8 0 0 0 1 9 15 0 0 0 0 15 工芸材 20 2 0 0 4 26 結束材 8 1 0 0 1 10 屋根葺・張壁材 0 1 0 0 0 1 食用 1 8 5 10 0 24 薬毒用 10 13 2 10 6 41 その他 2 6 6 10 0 24 積算数 64 31 13 30 12 150 ※燃料は主要なもののみカウントした 過 去 お よ び 現 在 に お い て 利 用 実 績 が あ っ た の は , イ ン タ ビ ュ ー 対 象 77 種 の う ち の 65% に 当 た る 28 科 50 種 で あ っ た ( Table 6.3)。 用 途 別 の 有 用 種 数 は , 薬 用 が 26 種 , 工 芸 材 が 21 種 , 食 用 と 建 材 が そ れ ぞ れ 15 種 お よ び 14 種 と , 延 べ 108 有 用 種 の 中 で 上 位 で あ っ た 。 一 方 , 結 束 材 は 10 種 , 燃 料 材 は 6 種,屋根葺・張壁材は 1 種と少なかった。 幹 ・ 枝 ( 茎 ) な ど が 資 源 と さ れ る の は 39 種 で , 資 源 化 率 は 78% と 最 も 高 か っ た 。 葉 お よ び 果 実 ・ 種 子 に お い て は , そ れ ぞ れ 29 種 で 58% で あ っ た 。 根 ・ 地 下 茎 お よ び 花 で は , そ れ は そ れ ぞ れ 11 種 ・ 22% , 10 種 ・ 20% で 他 の 部位と比較して低かった。 燃料材 6 種 の う ち Brownlowia tersa 以 外 す べ て 高 木 種 で , Cynometra ramiflora, Heritiera fomes,Ceriops decandra な ど の 幹 や 枝 の う ち ,副 木( 直 径 ∼ 5 cm。 - 151 - 第6章 以 下 同 様 。) や 小 径 木 ( 5∼ 10 cm) が 利 用 さ れ て い た 。 研 究 地 で は , 特 に 火 力 が 強 く 火 持 ち の 良 い C. ramiflora と H. fomes が 嗜 好 さ れ て い た 。 ま た , C. decandra は , 幹 の う ち 副 木 サ イ ズ が 菜 園 用 の つ る 支 柱 な ど に 1∼ 2 年 利 用 さ れ た 後 ,薪 と し て 再 利 用 さ れ て い た 。し か し ,近 年 ,伐 採 後 の 根 を 掘 り 出 し て 燃 料 に す る こ と も 一 般 的 に な っ て い る 。ほ と ん ど の 木 本 種 と ,乾 燥 さ せ た Nypa fruticans や Phoenix paludosa の 葉 柄 や 葉 軸 も ,燃 料 と し て 利 用 可 能 で あ る が ,伝 統 的 な 日 常 生 活 で は ,燃 料 の 質 か ら 特 定 の 種 が 優 先 的 に 用 い ら れ て おり,本研究では主要な燃料のみを扱った。 建材 14 種 の す べ て が 高 木 種 で , 幹 が 利 用 さ れ て い た 。 柱 に は Heritiera fomes, Bruguiera spp., Rhizophora apiculata な ど の 樹 木 の 中 径 木 ( 10∼ 15 cm) お よ び 大 径 木( 15 cm∼ ),梁 に は 小 径 木 が ,床 に は 板 に 製 材 さ れ た Xylocarpus spp., Sonneratia spp.な ど が 好 ま れ , 用 い ら れ て い た 。 工芸材 工 芸 材 の 21 種 は ,低 木 種 の Pandanus foetidus と ヤ シ 類 の Phoenix paludosa を 除 く 19 種 が 高 木 種 で あ っ た 。利 用 部 位 で は 26 の 資 源 の う ち 幹・枝 を 用 い る も の が 20 種 と 多 か っ た 。 材 は 加 工 さ れ , 漁 具 や 小 舟 の 部 材 , 農 具 な ど の 「 生 業 」,家 屋 や 小 屋 の 部 材 ,家 具 な ど の「 住 ま い 」,食 器 ・ 調 理 具 ,履 物 な ど の 「 日 用 生 活 」 に 広 く 用 い ら れ て い た 。 Heritiera fomes の 材 は , 小 舟 の 部 材 や 特 有 の 漁 法 に 関 係 す る 漁 具 ,あ る い は 高 温 で 湿 っ た モ ヒ ン ガ( ビ ル マ 蕎 麦 )の 生 地 を 緬 に 押 し 出 す「 梃 子 」と し て 用 い ら れ て き た 。Amoora cucullata の 材 は 小 舟 の 櫂 の 支 柱 に 利 用 さ れ , 家 具 材 と し て Xylocarpus granatum や H. fomes の 幹 や 枝 が 上 質 で あ っ た 。 イ ン タ ビ ュ ー に よ れ ば , こ れ ら の 樹 種 の 減 少 に よ り ,木 材 を 工 芸 的 に 利 用 す る 機 会 も 減 少 し て い た 。幹・枝 以 外 の 部 位 の 利 用 は , 葉 が マ ッ ト に 編 ま れ る P. foetidus, 筍 根 の 先 端 が ポ ッ ト の 栓 と な る Sonneratia spp.,板 根 が 洗 濯 板 や 小 舟 の 舵 に 利 用 さ れ る H. fomes な ど で あ った。 結束材 つ る 植 物 6 種 , 低 木 2 種 , ヤ シ 類 と 高 木 種 が そ れ ぞ れ 1 種 の , 計 10 種 で あ っ た 。ま た そ の 利 用 部 位 は ,小 葉 中 肋 の 軸 を 使 う Nypa fruticans以 外 は ,全 て 植 物 の 茎 で あ っ た 。 Derris trifoliataな ど の つ る 植 物 に お い て は , 回 旋 茎 の 直 径 が 数 ミ リ 程 度 で あ れ ば そ の ま ま , ま た 低 木 種 の Brownlowia tersa と - 152 - 第6章 Hibiscus tiliaceusに お い て は , 樹 皮 か ら 繊 維 が は ず さ れ , ヒ モ や 縄 に 加 工 さ れていた。つる植物中 4 種はマメ科およびその近縁のジャケツイバラ科 1 で あ っ た 。し か し ,土 地 無 し 村 民 が 生 業 に 用 い る 漁 具 や 農 具 の 維 持 に 頻 用 し た 結 束 材 は ,こ れ ら 2 科 の マ ン グ ロ ー ブ で は な く ,5 章 で 示 し た 通 り ト ウ ツ ル モ ド キ 科 ( 1 属 1 種 ) の Flagellaria indicaと , シ ダ 植 物 ・ シ シ ガ シ ラ 科 の Stenochlaena palustrisで あ っ た 。 屋根葺・張壁材 Nypa fruticans の 葉 が 特 異 的 に 用 い ら れ て い た 。 竹 ひ ご な ど の 軸 に 小 葉 を 編 み 付 け て 作 っ た ”thatch”を 重 ね て い く こ と で 屋 根 を 葺 き , 2 年 か ら 3 年 周 期で交換していた。 食用 15 種 の う ち , 高 木 種 が 6 種 と 最 も 多 か っ た が , 草 本 植 物 以 外 の 各 植 物 群 も 利 用 さ れ て い た 。 部 位 ご と の 資 源 の 積 算 数 は 24 と , 工 芸 材 と と も に 薬 用 に 次 い で 多 か っ た 。根・地 下 茎 以 外 の 全 て の 部 位 が 食 さ れ ,多 か っ た の は 果 実 ・ 種 子 ( 10 種 ) と 葉 ( 8 種 ) の 利 用 で あ っ た 。 果 実 は カ レ ー の 具 と し て , あ る い は 乾 燥 し た 小 エ ビ や ゴ マ ,豆 ,発 酵 さ せ た 茶 の 葉 な ど と と も に 油 や ラ イ ム の 果 汁 で 和 え て , サ ラ ダ や お 茶 請 け と さ れ て い た ( 例 : Sarcolobus carinatus, Sonneratia apetala, Dolichandrone spathacea)。 ま た , 非 マ ン グ ロ ーブ地域からの来訪者に,これらを振舞うことが観察された。 薬毒用 用 い ら れ た 26 種 は ,す べ て の 植 物 分 類 群 を 含 ん で い た 。高 木 種 が 11 種 と 最 も 多 く ,次 い で 低 木 6 種 ,つ る 植 物 5 種 な ど と な っ て い た 。利 用 部 位 と 方 法 は , 葉 を 煎 じ て 飲 用 ( Dolichandrone spathacea), ス ー プ に 調 理 ( Merope angulata) , 滲 出 液 を 患 部 に 塗 布 ( Acanthus sp.), 果 実 の 焼 却 灰 を 患 部 に 塗 布 ,燻 煙 に あ た る( Nypa fruticans)な ど ,多 様 な 加 工 と 利 用 が な さ れ て い た 。 その他 ヒ ル ギ 科 の 樹 種 ( Rhizophora spp., Bruguiera spp.) の 棒 状 の 散 布 体 は 子 供 が 遊 戯 に ,マ メ 科 の 花 序 や Phoenix paludosa の 花 は 髪 や 仏 事 や 精 霊 の 祭 壇 に 装 飾 と し て 用 い ら れ て い た 。髪 の 装 飾 は ,子 ど も や 林 内 作 業 の 男 性 も 時 に お 1 ジャケツイバラ科やネムノキ科をマメ科に含める分類体系もある(例:北野ほ か , 1984)。 - 153 - 第6章 こ な っ て い た 。 ま た , 子 ど も や 男 性 は し ば し ば 森 林 内 に お い て , Heritiera fomes の 板 根 を 棒 で 敲 き , 反 響 音 を 響 か せ る 行 動 を と っ て い た 。 6.3.2 ア ク セ ス ・ 利 用 と そ の 動 態 「 資 源 ア ク セ ス 」 と ,「 利 用 頻 度 」 に よ る , マ ン グ ロ ー ブ の 位 置 づ け , お よ び そ の 時 間 動 態 を Fig. 6.1 に 示 す 。時 間 距 離 が「 遠 隔 」,か つ 探 索 時 間 が「 短 時 間 」 の 資 源 は な か っ た 。 図 示 し た 資 源 の 数 は 42 で あ る 2 。 ( 1) 過 去 に お け る 資 源 ア ク セ ス と 利 用 頻 度 か つ て ,す べ て の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 は ,片 道 3 時 間 以 内( 実 際 は 1 時 間 半 程 度 以 下 ) の 近 傍 で 採 集 さ れ て い た 。 ま た , Xylocarpus 属 の 2 種 と Amoora cucullata,Intsia bijuga を 除 く 38 の 資 源( 全 資 源 の 90% ,以 下 同 様 )に お い て,資源採集地における探索時間は 5 分以内の短時間であった。 利 用 頻 度 が 高 か っ た の は 8 つ の 資 源( 19% )で ,う ち 5 つ が 燃 料 材 ま た は 工 芸 材 と し て 用 い ら れ る も の で あ っ た 。 一 方 , 利 用 頻 度 が 低 か っ た の は 21 の 資 源 ( 50% ) で , う ち 16 が 薬 用 ま た は 建 材 で あ っ た 。 ( 2) 資 源 ア ク セ ス と 利 用 頻 度 の 動 態 28 の 資 源 に お い て ア ク セ ス が 低 下 し て い た ( 42 の う ち の 66.6% , Fig. 6.1 中 丸 囲 み 数 字 ③ ∼ ⑨ が 該 当 。 以 降 同 様 )。 こ の う ち 時 間 距 離 の み 遠 隔 化 し た も の が 4 つ ( 9.5% , ⑨ ) で , Xylocarpu 属 な ど の 高 木 種 で あ っ た 。 近 傍 に お い て 探 索 時 間 の み 長 時 間 化 し た も の は 15( 35.7% ,③ ∼ ⑥ )で ,う ち つ る 植 物 が 8 つ と 最 も 多 く ,高 木 種 は 4 つ ,低 木 種 は 3 つ で あ っ た 。用 途 に お い て は ,15 の う ち 11 が 薬 毒 用 も し く は 食 用 の 資 源 で あ っ た 。時 間 距 離 と 探 索 時 間 の 双 方 が 悪 化 し た 9 つ( 20% ,⑦ ⑧ )は す べ て 高 木 種 で ,そ の う ち 7 つ が 2 マ ン グ ロ ー ブ の 有 用 種 は 50 種 ( Table 6.2) で あ っ た が , 近 縁 種 が 村 人 に 同 種 と 認 識 さ れ そ の 用 途 が 同 様 な 場 合 に ,本 項 で は 1 ま と め に 扱 っ た 。ま た ,同 じ 種 の 異 なる部位がともに中核的に利用され,かつ資源としての位置づけが異なる場合に, こ れ ら を 区 別 し て 取 り 扱 っ た 。な お ,情 報 が 得 ら れ な か っ た 4 種 は 掲 載・解 析 が で き な か っ た ( 以 下 参 照 )。 ・ Avicennia 属 3 種 を A. officinalis, Rhizophora 属 2 種 を R. apiculata で 代 表 さ せ た ( 有 用 50 種 に 対 し 3 減 , 以 下 同 様 )。 ・ Bruguiera 属 2 種 を Bruguiera spp., Acanthus 属 2 種 を Acanthus spp.と し て 取 り ま と め た ( 2 減 )。 ・ Ceriops decandra の 茎 と 根 を 区 別 し て 取 り 扱 っ た ( 1 増 )。 ・ Calophyllum inophyllum, Ficus benjamina, Mussaenda macrophylla, Terminalia catappa の 情 報 は 得 ら れ な か っ た ( 4 減 )。 - 154 - 第6章 燃料材や建材であった。 一 方 , 15 の 資 源 ( 35.7 % , Nypa fruticans , Phoenix paludosa, Aegiceras corniculatum,Dalbergia pinnata,Acanthus spp.,Finlaysonia maritima,Pluchea indica, ① ② ) に つ い て は , 時 間 距 離 と 探 索 時 間 の 双 方 に 変 化 が な く , す べ て近傍において短時間で探索できるものであった。 Fig. 6.1. 資源アクセスと利用頻度による資源の位置付け *時間距離が遠隔,かつ探索時間が短時間の資源はなかった。 *四角枠は過去,丸印は現在の位置付けを示す。 *種名接頭の記号: T: 高木種,S: 低木種,C: つる植物,F: シダ植物,P: ヤシ類,H: 草本植物 *種名接尾の記号: f: 燃料材, co:建材, cr: 工芸材, t: 結束材, r: 屋根葺・張壁材, e: 食用, m: 薬毒用 利 用 頻 度 が 低 下 し た 資 源 は 18( 42.9% ,④ ⑦ ② ⑤ )で あ っ た 。そ の う ち 区 分 が「 高 い 」か ら「 低 い 」に 顕 著 に 低 下 し た の は 4 つ( ⑦ )で ,す べ て 時 間 距 離 と 探 索 時 間 の 双 方 が 悪 化 し た 高 木 種 で あ っ た 。利 用 頻 度 が「 中 程 度 」か ら「 低 い 」に 低 下 し た 12 の 資 源( ② ⑤ )の う ち 10 が 薬 毒 用 も し く は 食 用 の 資 源 で あ っ た 。さ ら に そ の う ち の 6 つ( Derris trifoliata を 除 く ⑤ )は ,近 傍 における探索時間が長期化したつる植物であった。 一 方 , 利 用 頻 度 が 上 昇 し て い た の は 3 つ ( 7.1% , ① ③ ) で あ っ た 。 そ の - 155 - 第6章 内 訳 は , 資 源 ア ク セ ス に 変 化 が な い Hibiscus tiliaceus, Ceriops decandra の 根 と , 採 取 地 で の 探 索 時 間 の み 長 時 間 化 し た Brownlowia tersa で あ る 。 燃 料 材 と し て 用 い ら れ る C. decandra と B. tersa は ,利 用 頻 度 が「 低 い 」か ら「 高 い」に顕著に上昇していた。 ま た , そ れ 以 外 の 16( ⑥ ⑧ ⑨ ) は , 利 用 頻 度 は 従 来 か ら 低 く , 資 源 ア ク セ ス が 低 下 し て い た 資 源 で あ っ た 。 中 で も Bruguiera spp. , Rhizophora apiculata, Sonneratia griffithii な ど の 建 材 用 途 の 高 木 種 の ア ク セ ス は ,「 近 傍・短時間」から「遠隔・長時間」に顕著に低下していた。 6.3.3 注 目 度 の 得 点 付 け マ ン グ ロ ー ブ 資 源 ご と の 各 指 標 お よ び 総 合 得 点 を Table 6.4 に , 総 合 得 点 ご と の 有 用 種 数 を Fig. 6.2 に 示 す 。 総 合 得 点 が 4 以 上 階 級 に お い て は す べ て の 種 が 高 木 種 ,得 点 が 3 以 下 の 階 級 は 高 木 種 を 含 む 複 数 の 生 育 形 の 種 か ら な っ て い た 。得 点 が 3 お よ び 2 の 階 級 で は ,高 木 種 と つ る 植 物 が 同 程 度 の 種 数 で あ っ た 。得 点 1 の 階 級 は 草 本 以 外 ,得 点 0 は ヤ シ・シ ダ 類 以 外 の ,そ れ ぞ れ 4 つ の 生 育 形 の 種 か ら な っ て い た 。 最 も 種 数 の 多 か っ た 階 級 は , 14 種 か ら な る 1 点 の 階 級 で , こ れ よ り 上 位 の 階 級 ほ ど 種 数 が 減 る 傾 向 が あ る が ,最 も 注 目 を 要 す る 6 点 の 階 級 に お い ては,5 点より種数が多かった。 - 156 - 第6章 Table 6.4 管理上の注目度順位付けのための得点付け 生育形 アクセス 利用頻 多用度 低下 度 有用種 品質 総合 Trees Aegiceras corniculatum Amoora cucullata Avicennia officinalis Bruguiera spp. Cerbera odollam Ceriops decandra Cynometra ramiflora Dolichandrone spathacea Excoecaria agallocha Heritiera fomes Intsia bijuga Kandelia candel Pongamia pinnata Rhizophora apiculata. Sapium indicum Sonneratia apetala Sonneratia caseolaris Sonneratia griffithii Xylocarpus granatum Xylocarpus moluccensis ・ 1 1 2 2 2 2 1 1 2 1 2 ・ 2 2 ・ ・ 2 1 1 ・ ・ 1 ・ ・ 2 2 ・ ・ 2 ・ ・ ・ ・ 2 1 1 ・ ・ ・ 1 ・ 1 1 ・ 1 1 1 ・ 1 ・ 1 ・ ・ ・ 1 1 1 1 1 ・ ・ ・ 1 ・ 1 1 ・ ・ 1 ・ ・ ・ ・ 1 ・ ・ ・ 1 ・ 1 1 3 4 2 6 6 2 1 6 1 3 0 2 5 2 2 3 3 2 Shrubs Acanthus ilicifolius Brownlowia tersa Clerodendrum inerme Dalbergia spinosa Hibiscus tiliaceus Merope angulata Pandanus foetidus ・ 1 1 ・ ・ 1 1 ・ ・ ・ 1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 ・ ・ 0 1 1 1 1 1 1 Palms/Ferns Acrostichum aureum Nypa fruticans Phoenix paludosa ・ ・ ・ 1 ・ ・ ・ 1 1 ・ ・ ・ 1 1 1 Caesalpinia crista Cayratia trifolia Dalbergia pinnata Derris scandens Derris trifoliata Finlaysonia maritima Flagellaria indica Sarcolobus carinatus Stenochlaena palustris 1 1 1 ・ 1 1 ・ ・ 1 1 1 1 1 1 1 1 ・ 1 1 1 ・ ・ 1 ・ 1 ・ ・ 1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 ・ 1 2 2 3 1 3 2 0 3 2 3 Pluchea indica ・ ・ ・ ・ 0 Climber/Creeper Caesalpinia bonduc Herbs 16 Herbs Climber/Creeper Palms/Ferns Shrubs Trees Number of species 14 12 10 8 6 4 2 0 0 1 2 3 4 Overall evaluation scores 5 Fig. 6.2. 総合得点階級別の有用種数 - 157 - 6 第6章 6.4 考 察 6.4.1 資 源 化 の 様 態 ( 1) 部 位 に よ る 用 途 類 型 と 資 源 化 の 様 態 人 間 は ,生 活 の 諸 般 に お い て 意 識 さ れ た 必 要 性 と そ の 目 的( 用 途 )に 応 じ た も の( 植 物 )を 自 然 の 中 か ら 選 択 し ,相 応 の 方 法 手 段 に よ っ て 入 手 し 利 用 , す な わ ち 資 源 化 し て い る( 小 林 ,1994)。用 途 に 応 じ た 性 質 は ,植 物 の 適 応 と 生 存 に 根 源 的 な 役 割 を 果 た す ,物 理 的・化 学 的 な 特 徴 に 起 因 す る( Cotton, 1996)。 物 理 的 ・ 化 学 的 特 徴 の 表 出 で あ る 植 物 の 部 位 の う ち , い ず れ が ど の 程 度 の 比 率 で 用 い ら れ る か ( Table 6.3) に よ り , 用 途 は 4 つ に 区 分 で き る 。 ①燃料,建材,工芸材,結束材 ・・・・用 途 別 の 資 源 の 延 数 の 3/4 以 上 で 茎 ま た は 根・地 下 茎 を 利 用 ②食用 ・・・・用 途 別 の 資 源 の 延 数 の 96%で 葉 , 花 , ま た は 果 実 ・ 種 子 を 利 用 ③屋根葺・張壁材 ・・・・1 種 1 部 位 の み を 利 用 ④薬毒用 ・・・・す べ て の 部 位 の 利 用 そ れ ぞ れ の 用 途 グ ル ー プ ご と に ,植 物 体 の 特 定 部 位 が 特 定 用 途 の 資 源 と さ れた理由と意味を考察する。 ①燃料材,建材,工芸材,結束材 燃 料 材 と し て は ,Rhizophora spp.や Bruguiera spp.の 価 値 が マ レ ー シ ア や タ イ に お け る 研 究 か ら 指 摘 さ れ て い る( Watson, 1928; Aksornkoae, 1987)。本 研 究 に お い て ,Heritiera fomes や Cynometra ramiflora が よ り 嗜 好 さ れ て い た の は ,「 燃 焼 中 に 爆 ぜ な い 」 た め で , エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に は 他 地 域 よ り 優 れ た 燃 料 材 が 存 在 す る と 言 え る 。菜 園 用 の つ る 支 柱 な ど に 利 用 後 ,燃 料 に 再 利 用 さ れ る Ceriops decandra の 例 は ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の「 カ ス ケ ー ド 利 用 」 を 示 唆 し , 今 後 の 研 究 課 題 の 一 つ で あ る 。 か つ て は 用 い ら れ な か っ た C. decandra の 根 や Brownlowia tersa が ,現 在 燃 料 と さ れ て い た 。高 地 盤 高 の 立 地 に 分 布 す る C. decandra は 根 の 採 掘 が 容 易 な 上 ,高 質 で も あ る 。河 岸 の H. fomes 林 の 伐 採 跡 地 に 繁 茂 す る B. tersa( Myint Aung, 2004) は , 近 年 分 布 と - 158 - 第6章 密 度 が 増 加 し た と 考 察 さ れ る 。 燃 料 材 に お い て は , H. fomes や C. ramiflora の 減 少 に よ り C. decandra の 根 や B. tersa の 新 た な 資 源 化 が 起 こ っ た と 言 え る。 建 材 と し て 重 要 と な る ,木 質 部 の 強 度 を 決 め る 要 素 と し て 非 常 に 大 き な 影 響 を も つ の は 材 の 比 重 で あ る( Cotton, 1996)。乾 燥 し た マ ン グ ロ ー ブ 樹 種 の 木 質 部 の 比 重 を 比 較 す る と ,Heritiera fomes が 最 も 大 き く ,Ceriops decandra, Rhizophora apiculata, Bruguiera spp.な ど が そ れ に 次 ぐ ( Table 6.5)。 ま た , 柱 , 特 に 家 屋 の 大 黒 柱 に は 高 い 強 度 と 長 さ が 求 め ら れ る 。 H. fomes , R. apiculata,Bruguiera spp.な ど が 選 択 さ れ て き た の は ,強 度 と 主 幹 の 通 直・長 尺 性 の た め で あ る 。し た が っ て ,大 き な 家 屋 の 柱 材 は 他 の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 による代替は困難だと言える。 Table 6.5 マングローブ材の乾燥比重 2 樹種 Avicennia sp. Bruguiera gymnorrhiza Bruguiera sexangula Cerbera manghas Ceriops decandra Dolichandrone spathacea Excoecaria agallocha Heritiera fomes Rhizophora apiculata Sonneratia apetala Sonneratia caseolaris Xylocarpus moluccensis Xylocarpus granatum 比重(g/cm ) 0.580-0.880 0.665-0.975 0.860-0.910 0.600 0.880-1.070 0.500 0.385-0.450 1.010 0.810-0.900 0.570 0.700 0.610-0.800 0.486-0.800 出典: Saenger(2002)を筆者改変 工 芸 に 用 い ら れ る 植 物 は ,形 状 ,機 能 性 ,耐 久 性 ,柔 軟 性 と い っ た 実 用 的 な 基 準 の 組 み 合 わ せ に よ り 利 用 が 決 ま る と さ れ て い る ( Cotton, 1996)。 H. fomes の 材 が 様 々 に 多 用 さ れ て い た の は , 強 度 , 耐 水 性 , 柔 軟 性 , 加 工 性 に 富 む た め で あ る 。 Amoora cucullata の 材 が 小 舟 の 櫂 の 支 柱 に 使 わ れ た の は , 柔 軟 性 と 適 度 な 折 れ や す さ の た め で あ る 。支 柱 が 破 損 す る こ と で 航 行 中 に 接 触 す る 障 害 物 を「 受 け 流 す 」こ と が で き ,船 体 の 重 篤 な 損 傷 を 防 ぐ こ と が で き る 。家 具 材 に は ,強 度 と 耐 久 性 に 加 え 色 調 や 質 感 な ど が 要 求 さ れ る 。伝 統 的 な 社 会 に は ,多 彩 な 道 具 類 の そ れ ぞ れ の 機 能 的 要 求 を 充 せ る よ う に 加 工 す る 複 雑 な 技 術 が あ る( Cotton, 1996)。研 究 地 域 に お い て も ,木 材 の 工 芸 的 利 用 に は ,用 途 と 材 料 に 適 合 的 な 加 工 技 術 の 存 在 が 伺 わ れ る が ,マ ン グ ロ ー ブ - 159 - 第6章 の利用機会の減少により,加工技術の消失が懸念される。 結束材の機能を生む木質繊維には多様な利用法が潜在するにもかかわら ず ,そ れ ぞ れ の 用 途 の 要 求 性 能 を 同 時 に 十 分 満 た す 繊 維 を 生 む 植 物 は 少 な い 。 そ の 結 果 ,個 々 の 共 同 社 会 に お い て は 特 定 用 途 に 利 用 さ れ る 種 は 極 め て 限 定 さ れ て い る( Felger & Moser, 1985; Smith & Kalotas, 1985; Milliken et at., 1992; Cotton, 1996)。 土 地 無 し 村 民 の 生 業 へ の Flagellaria indica と Stenochlaena palustris の 特 異 的 な 利 用 を , 他 の 植 物 資 源 で 代 替 す る こ と は 困 難 と 言 え る 。 ②食用 若 芽 や 葉 ,地 下 部 あ る い は 若 い 花 序 や 果 実 を 野 菜 の よ う に 利 用 し よ う と す れ ば ,有 毒 で な く ,ひ ど い 味 が し な け れ ば す べ て の 植 物 が 利 用 対 象 に な り う る ( 堀 田 , 1989) 。 茎 に 次 い で 葉 お よ び 果 実 ・ 種 子 の 資 源 化 率 が 高 か っ た こ と は ,多 彩 な 食 材 に 対 す る 地 域 の 人 々 の 要 求 を 示 唆 し て い る 。果 実 が 食 用 と さ れ る 植 物 は 多 く の 場 合 ,多 年 草 か 木 本 植 物( 果 樹 )で あ り( 堀 田 , 1989), 本 研 究 に お い て も 同 様 の 傾 向 が あ っ た 。野 生 の 食 用 植 物 に よ る ,通 常 の 食 生 活 へ の 寄 与 は 少 な い が ,狩 猟 採 集 民 で は エ ネ ル ギ ー 源 と し て 貯 蔵 器 官 を ,農 耕民ではビタミンやミネラル充足に多肉質の果実と葉を高い割合で利用す る( Cotton, 1996)。し た が っ て ,稲 作 農 耕 民 で あ る 研 究 地 域 の 人 々 に よ る , 地 下 部 以 外 の 多 彩 な 利 用 は ,補 助 的 な 栄 養 素 へ の 要 求 を 示 唆 し て い る 。経 済 的 に ほ と ん ど 貢 献 し な く と も ,生 活 の 変 化 と 潤 い の 選 択 肢 と し て 行 わ れ る 地 域 固 有 的 な 生 物 資 源 の 利 用 は ,マ イ ナ ー・サ ブ シ ス テ ン ス と し て 意 義 付 け ら れ て い る ( 松 井 , 2004) 。 マ ン グ ロ ー ブ の 食 材 を 地 域 の 海 産 物 と 和 え た り , 来 訪 者 に 地 元 の 珍 味 と し て 提 供 し た り す る こ と は ,味 覚 を 通 じ た 地 域 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー を 体 言 す る 行 動 で あ り ,マ イ ナ ー・サ ブ シ ス テ ン ス の 事 例 と 解釈できる。 ③屋根葺・張壁材 熱 帯 地 域 で は , ヤ シ 類 の 葉 が 屋 根 葺 材 と し て 広 く 用 い ら れ る ( Cotton, 1996)。ニ ュ ー ギ ニ ア 本 島 南 岸 の う ち Nypa fruticans が 自 生 し な い 地 域 に お い て は ,未 加 工 の Cocos nucifera の 葉 に よ っ て 屋 根 を 葺 く こ と が 観 察 さ れ る( 筆 者 ,未 発 表 )。一 方 ,自 生 や 植 林 の N. fruticans を 利 用 可 能 な 東 南 ア ジ ア の 沿 岸 部 に お い て は , 別 の ヤ シ 類 に よ る 屋 根 葺 の 報 告 は 見 当 た ら な い ( Watson, 1928; Aksornkoae, 1987; 中 村 ・ 中 須 賀 , 1998; 安 食 , 2003)。 N. fruticans は 葉 の 発 生 と 成 長 が 旺 盛 で あ り ,年 1 回 の 採 集 の 際 ,健 全 な 葉 を 1 枚 残 す こ と で - 160 - 第6章 長 期 継 続 的 に 同 じ 株 か ら 葉 を 採 集 し 続 け る ら れ る 。ま た ,小 葉 は 柔 軟 で 加 工 し や す く ,そ の 幅 も 雨 滴 を 受 け 流 す の に 適 当 で あ る 。加 工 に よ る 部 材 化 と 軽 量 化 に よ り 扱 い が 容 易 と な る 。こ れ ら の 資 源 と し て の 秀 で た 特 質 と そ れ に 適 合 的 な 加 工 技 術 に 加 え ,淡 水 に 近 い 立 地 環 境 に よ る 広 域 的 分 布 と 高 い 密 度 に より,屋根葺材として特異的に資源化されてきたと言える。 ④薬毒用 毒 物 ,興 奮 剤 ,健 康 維 持 の 薬 品 に は ,植 物 が 合 成 す る 生 物 活 性 化 合 物 が 用 い ら れ る ( Farnsworth, 1990)。 特 定 の 化 学 物 質 の 効 果 的 な 利 用 に と っ て , 植 物 供 給 源 自 体 の 知 識 , お よ び 収 集 ・ 加 工 技 術 は 極 め て 重 要 で あ る ( Cotton, 1996)。 薬 毒 用 の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 は , 種 数 お よ び 部 位 ご と の 資 源 の 積 算 数 に お い て 用 途 中 最 も 多 く ,さ ら に 加 工 と 用 法 も 多 彩 で あ る こ と か ら ,マ ン グ ローブ植物の特性の認識と伝統利用の知恵の集積が研究地域にあると言え る 。研 究 地 域 に 集 落 が 形 成 さ れ ,周 辺 の 植 物 資 源 を 利 用 し 始 め て か ら の 期 間 は ,200∼ 250 年 3 と い う 歴 史 的 に は そ れ ほ ど 長 い 期 間 で は な い 。住 民 が こ の 間 に 植 物 の 薬 効 を 発 見 し ,加 工 と 利 用 方 法 を 生 み 出 だ し て き た こ と は ,マ ン グローブの薬毒が生活の上で重要であり続けたことを示す。 ( 2) 資 源 利 用 の 文 化 性 伝統的植物療法の効能は,科学物質の効果のみに依存するものではない。 「 健 康 と 病 気 に 関 わ る 信 念 の 体 系 」の 差 異 に 有 意 に 影 響 さ れ( Cotton, 1996), 文 化 へ の 依 存 性( 市 川 ,1994)が あ る 。多 彩 な 薬 毒 利 用 の 背 景 に あ る ,地 域 文化との関係は今後の研究課題である。 松 井( 1998; 2000; 2004)は ,産 業 利 用 や 住 民 の 主 要 な 生 業 と 補 完 的 生 業 以 外 に ,「 周 年 の 生 計 維 持 機 構 か ら み て , 人 び と の 生 計 の た め に は そ れ ほ ど 役 立 つ こ と が な い 」が「 よ り 広 い 文 化 ・ 社 会 的 価 値 」を も つ ,マ イ ナ ー ・ サ ブ シ ス テ ン ス の 概 念 を 提 示 し て い る 。マ イ ナ ー・サ ブ シ ス テ ン ス が ,経 済 的 な 意 味 を ほ と ん ど も た な く て も 長 期 間 継 承 さ れ て き た の は ,「 身 体 性 」 を 介 し て も た ら さ れ る 大 き な 楽 し み や 喜 び や と い っ た ,情 緒 的 な 価 値 が あ る か ら だ と 言 う 。男 性 に よ る マ ン グ ロ ー ブ を 用 い た 髪 の 装 飾 は ,女 性 が 審 美 的 意 味 か ら 行 う も の と は 異 な り ,具 体 的 な 目 的 が あ る と は 解 し が た い 。板 根 の 殴 打 は ,通 信 や 野 生 動 物 と の 遭 遇 回 避 が 目 的 の 場 合 も あ る が ,無 目 的 に 行 わ れ る こ と の 方 が む し ろ 多 い 。こ れ ら は「 無 意 識 で 言 語 化 さ れ な い 深 層 の 体 験 」 (松 3 Bogalay( 現 在 の 郡 主 都 ) は 1757 年 に , 研 究 地 域 の Pyindaye村 は 1780 年 に そ れ ぞ れ 成 立 し た ( Win Win Khine, 1995) こ と な ど か ら 推 定 。 - 161 - 第6章 井 ,1998)と 結 び つ く ,情 緒 的 な 意 味 を 備 え た マ イ ナ ー・サ ブ シ ス テ ン ス と 解 釈 で き る 。資 源 管 理 に お い て 重 要 な ,地 域 固 有 性 や 社 会 性 配 慮 を 包 含 す る ( UNEP, 2000)た め に は ,資 源 利 用 の 文 化 性 に 関 わ る 情 報 の 集 積 が 必 要 だ と 言える。 資 源 の 素 材 と し て の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 は ,そ れ ぞ れ の 種 の 物 理 的 ,化 学 的 あ る い は 生 態 的 な 特 徴 に し た が い ,地 域 に お け る 多 彩 な 生 活 要 求 に 適 合 的 に 資 源 化 さ れ て い た 。中 で も ,燃 料 材 ,建 材 ,工 芸 材 な ど ,最 も 多 く の 用 途 に お い て 適 合 性 の 高 い 素 材 を 提 供 し て い た の は ,Heritiera fomes で あ る と 言 え る。 6.4.2 資 源 と 住 民 生 活 の 変 容 研究地の立地と主要な群落の配置関係は,次のように整理されている ( Myint Aung, 2004)。新 規 堆 積 河 岸 の 草 本 群 落 背 後 に は ,低 木 層 を Acanthus ilicifolius に 覆 わ れ た「 Kandelia candel 群 落 」と「 Avicennia officinalis 群 落 」。 浸 食 側 河 岸 に は ,Brownlowia tersa 群 落 。自 然 堤 防 よ り 内 陸 側 の 大 部 分 に は , Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 , お よ び こ れ に 隣 接 す る 感 潮 水 路 近 傍 凹 地 に は Aegiceras corniculatum-Ceriops decandra 群 落 。ま た ,村 落 近 傍 な ど 人 為 圧 の 高 い 立 地 の Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 2 次 植 生 と し て , ヤ ブ 状 の Phoenix paludosa 群 落 ,Hibiscus tiliaceus 群 落 ,Acrostichum aureum 群落。 研 究 地 の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 は , こ れ ら の 群 落 と 植 林 に よ る Nypa fruticans の群落から供給されている。 ( 1) 伝 統 的 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 利 用 か つ て , す べ て の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 は 近 傍 に お い て 採 集 さ れ , そ の 90% は 目 的 の 質 や サ イ ズ を 短 時 間 で 発 見 で き た ( Fig. 6.1) こ と は , 村 人 に と っ て 野 生 の 植 物 資 源 は き わ め て 身 近 に 分 布 し ,要 求 量 を 満 た す 密 度 で 存 在 し て いたことを示す。採集活動を,近傍において短時間のうちに行えたことで, 生業や他の日常生活への時間的な阻害は小さかったと言える。 燃 料 材 ( Heritiera fomes, Cynometra ramiflora, Ceriops decandra) や 工 芸 材 ( Avicennia officinalis) の 利 用 頻 度 が 高 か っ た の は , 日 々 の 調 理 と 日 用 品 や 生 業 道 具 の 製 作 の た め で あ り ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の「 長 期 的 な 日 常 生 活 の 基 盤 と し て の 性 格 ( 第 5 章 )」 の 反 映 と 言 え る 。 - 162 - 第6章 薬 用 の マ ン グ ロ ー ブ の 利 用 頻 度 が 低 か っ た の は ,医 薬 は 疾 病 時 に 用 い る も の で あ る 上 ,集 落 内 の ホ ー ム ガ ー デ ン が 主 た る 供 給 地( 第 5 章 )で あ っ た た め で あ る 。 ま た , 建 材 の Bruguiera spp.や Rhizophora apiculata は 上 質 な 大 黒 柱 , Sonneratia griffithii は 上 質 な 床 材 で あ る が , 新 た な 家 屋 の 建 築 時 と 長 い 周 期 の 建 て 替 え や 補 修 時 に 用 い ら れ る た め ,利 用 頻 度 が 低 か っ た と 解 釈 で き る。 ( 2) 資 源 ア ク セ ス の 変 容 か ら 示 唆 さ れ る 資 源 供 給 地 の 状 態 66.6% の 資 源 に お い て ,ア ク セ ス が 低 下 し て い た こ と は ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 劣 化・減 少 に よ り ,研 究 地 の 村 人 が 利 用 可 能 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 が 減 少 し たことを示す。 探 索 時 間 の 長 短 は , 資 源 の 密 度 の 高 低 と 逆 相 関 す る 。 Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 多 く の 構 成 種 ( Heritiera fomes, Cynometra ramiflora, Bruguiera spp., Cerbera odollam, Excoecaria agallocha, Merope angulata, Xylocarpus spp., Amoora cucullata, Intsia bijuga) の ア ク セ ス の 動 態 は ,近 傍 お よ び 遠 隔 地 の 双 方 に お け る 密 度 の 低 下 を 示 し ,同 群 集 の 広 範 囲 に わ た る 劣 化・減 少 の 結 果 と 言 え る 。ま た ,同 群 集 の 林 縁 や 林 冠 疎 開 部 に 出 現 す る つ る 植 物 ( Fig. 6.1④ お よ び ⑤ の つ る 植 物 ) の ア ク セ ス 動 態 が 示 す , 近 傍 で の 密 度 低 下 は , 研 究 地 に お け る 植 被 喪 失 ( 水 田 化 ) や Nypa fruticans 林などへの土地利用転換の進行を示唆する。 Phoenix paludosa , Acanthus ilicifolius , Pluchea indica , さ ら に Hibiscus tiliaceus( ① ), Dalbergia spp., Acrostichum aureum( ② ) の ア ク セ ス が 良 好 な ま ま で あ っ た の は , Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 代 償 植 生 と し て,研究地近傍の伐採跡地に繁茂しているためだと解釈できる。 Ceriops decandra の 幹 の ア ク セ ス 動 態 は , 近 傍 お よ び 遠 隔 地 の 双 方 に お け る 密 度 の 低 下 を 示 し て お り , Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 に 隣 接 す る C. decandra 群 落 が 広 範 囲 に 劣 化 ・ 減 少 し て い る と 言 え る 。 ま た , C. decandra の 根 の 利 用 頻 度 が 顕 著 に 上 が っ た こ と は ,「 根 こ そ ぎ 」 の 採 掘 に よ る 切 り 株 の 消 失 を 意 味 し ,萌 芽 再 生 の 可 能 性 を な く す 上 ,掘 り 返 し に よ る 土 壌の流亡を引き起こしている。 河 岸 や 感 潮 水 路 際 の ,Kandelia candel 群 落 お よ び Avicennia officinalis 群 落 の , K. candel, A. officinalis, Clerodendrum inerme, ま た , Brownlowia tersa 群 落 の B. tersa, Derris trifoliata な ど の ア ク セ ス 動 態 が 示 す 近 傍 に お け る 密 度 の 低 下 は ,集 落 付 近 で 増 加 し て い る 海 産 物 の 仲 買 小 屋 ,漁 撈 番 屋 ,船 着 場 の建設など,水際の改変が原因と解釈できる。 - 163 - 第6章 ( 3) 資 源 利 用 の 変 容 が 示 唆 す る 生 活 変 化 資 源 ア ク セ ス が「 近 傍 ・ 短 時 間 」か ら「 遠 隔 ・ 長 時 間 」へ と 変 化 し た 資 源 は,村人にとってアクセスが最も困難になったものである。 該当する 9 つの資源(⑦, ⑧)のうち,高い利用頻度が顕著に低下した 4 つの資源(⑦)の消失は,村人の生活に大きな変容を引き起こすと言える。 か つ て 燃 料 と し て 頻 用 さ れ た Heritiera fomes, Cynometra ramiflora, Ceriops decandra の 茎 は ,C. decandra の 根 と Brownlowia tersa に 代 替 さ れ こ れ ら の 利 用 頻 度 が 顕 著 に 高 ま っ て い る 。 ア ク セ ス が 良 く 違 法 に 採 掘 さ れ る 高 質 の C. decandra の 根 が ,高 値 で 売 ら れ て い る 。低 質 の B. tersa は 時 間 を か け て 採 集 さ れ る か ,購 入 さ れ て い る 。村 人 の 間 の 購 買 力 の 相 違 が ,採 集 労 働 の 負 担 や 調 理 の 利 便 性 の 享 受 に お い て 差 異 を 生 ん で い る 。魚 毒 の Sapium indicum を 代 替 す る 植 物 資 源 は 無 く ,漁 撈 を 行 う 土 地 無 し 村 民 の 生 業 様 式 を 変 容 さ せ て い る。 一 方 ,⑧ で 示 し た 5 つ の 資 源 の 欠 乏 は ,利 用 頻 度 は 低 く と も ,生 活 へ の 中 長 期 的 な 影 響 を 生 じ さ せ る 。長 い 周 期 の 建 て 替 え や 新 築 ,補 修 時 に 用 い ら れ た Bruguiera spp., Rhizophora apiculata, Sonneratia griffithii な ど の 建 材 は , 現 在 Avicennia officinalis, Phoenix paludosa な ど の マ ン グ ロ ー ブ や , Cocos nucifera, Dipterocarpus alatus な ど の ホ ー ム ガ ー デ ン の 樹 木 が 代 替 し て い る ( 第 5 章 )。土 地 無 し 村 民 は ,ア ク セ ス が 良 く か つ 無 償 の P. paludosa を 多 用 す る 。こ の よ う な 家 屋 は ,伝 統 的 な 建 築 様 式 を 失 い ,耐 久 性 が 低 く 小 型・貧 弱となり,生活の質が低下している。 以 上 の 9 つ の 資 源 利 用 の 変 容 は ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 を 基 盤 と し た 日 常 生 活 の長期的な安定を損ねていると言える。 Hibiscus tiliaceus の 利 用 頻 度 が 「 中 程 度 」 か ら 「 高 い 」 に 高 ま っ た の は , 結 束 材 で あ る Stenochlaena palustris や Flagellaria indica の 村 落 近 傍 に お け る 密 度 低 下 に よ り ,代 替 要 求 が 高 ま っ た た め だ と 解 釈 で き る 。土 地 無 し 村 民 の 生 業 に 利 用 さ れ て い た こ れ ら の 2 種 は 強 靭 性 が 高 く , 性 状 の 異 な る H. tiliaceus に よ っ て は す べ て の 目 的 を 代 替 す る こ と は 困 難 で あ る 。市 販 の プ ラ ス テ ィ ッ ク 紐 の 購 入 ・ 利 用 頻 度 が 増 加 し て い た ( Fig. 5.3) 一 因 で あ る と 言 える。 利用頻度が「中程度」から「低い」に低下した資源(②, ⑤)の 8 割以上 が 薬 毒 用 も し く は 食 用 で ,現 在 市 販 薬 や ホ ー ム ガ ー デ ン の 蔬 菜 に よ り 代 替 さ - 164 - 第6章 れ て い た ( Fig. 5.3)。 こ れ ら の マ ン グ ロ ー ブ の 利 用 頻 度 が 低 下 し た 理 由 は , 流 通 の 改 善 と 市 場 経 済 の 浸 透 だ け で な く ,村 落 近 傍 の 林 地 の 消 失 や 土 地 改 変 で あ る 。Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 や そ の 林 縁 の Caesalpinia crista, Cayratia trifolia,Derris scandens,Flagellaria indica,Stenochlaena palustris, お よ び 河 岸 の Caesalpinia bonduc な ど の , つ る 植 物 の 密 度 低 下 の 影 響 を 指 摘 できる。 6.4.3 管 理 注 目 種 , 注 目 群 集 資 源 ア ク セ ス と 利 用 頻 度 が 顕 著 に 低 下 し た 場 合 ,総 合 得 点 は 4 以 上 と な る 。 ま た ,3 点 と 4 点 の 階 級 間 に お い て ,種 数 と 生 育 形 に よ る 階 級 構 成 の パ タ ー ン の 差 異 が あ っ た 。し た が っ て 本 研 究 に お い て は ,総 合 得 点 が 4 以 上 で あ っ た 5 種 を ,保 全・管 理 上 の 注 目 種 と 判 断 す る 。具 体 的 に は ,最 も 高 い 6 点 の Heritiera fomes,Cynometra ramiflora,Ceriops decandra,5 点 の Sapium indicum, 4 点 の Bruguiera spp.で あ る 。 H. fomes, C. ramiflora は , Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 構 成 種 で あ り ,S. indicum は 同 群 集 の 林 縁 に 出 現 す る 。ま た ,C. decandra と Bruguiera spp.の 立 地 は ,同 群 集 域 の 内 陸 小 水 路 近 傍 の 凹 地 で あ る( Myint Aung, 2004)。 さ ら に , Bruguiera spp.の 優 占 林 分 は , Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の う ち Bruguiera gymnorrhiza 亜 群 集 に 区 分 さ れ る 。し た が っ て ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 自 然 林 の 修 復 と 資 源 再 生 の 研 究 に お い て ,注 目 す べ き は ,Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 典 型 亜 群 集 と B. gymnorrhiza 亜群集,およびその林縁であると言える。 6.5 ま と め エーヤワディーデルタにおけるマングローブ植物の資源化の様態とその 変容を明らかにし,管理上の注目種・群集の抽出を行なった。 植 物 の 部 位 の う ち ,い ず れ が ど の 程 度 の 比 率 で 用 い ら れ る か に よ り ,用 途 は 4 つに区分できる。 1. 植 物 の 部 位 の う ち い ず れ が ど の 程 度 の 比 率 で 用 い ら れ る か に よ り , 用 途 は ,( 1)用 途 別 の 資 源 の 延 種 数 の 3/4 以 上 で 茎 ま た は 根 ・ 地 下 茎 が 利 用 さ れ る 「 燃 料 , 建 材 , 工 芸 材 , 結 束 材 」,( 2) 96%で 葉 , 花 , ま た は 果 実 ・ 種 子 が 利 用 さ れ る 「 食 用 」,( 3) 1 種 1 部 位 の み が 利 用 さ れ る 「 屋 根 葺 材 」,( 4) - 165 - 第6章 すべての部位の利用がある「薬毒用」の 4 つに区分できた。 2. 資 源 の 素 材 と し て の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 は , そ れ ぞ れ の 種 の 物 理 的 , 化 学 的 あ る い は 生 態 的 な 特 徴 に し た が い ,地 域 に お け る 多 彩 な 生 活 要 求 に 適 合 的 に 資 源 化 さ れ て い た 。中 で も ,燃 料 材 ,建 材 ,工 芸 材 な ど ,最 も 多 く の 用 途 に お い て 適 合 性 の 高 い 素 材 を 提 供 し て い た の は ,Heritiera fomes で あ あ っ た 。 3. か つ て , す べ て の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 は 近 傍 あ り , そ の 90% は 短 時 間 で 発 見 で き る ほ ど 密 度 が 十 分 で あ っ た が ,現 在 66.6% の 資 源 に お い て ア ク セ ス が 低 下 し ,村 人 が 利 用 可 能 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 が 減 少 し て い た 。マ ン グ ロ ー ブ 供給地の状態として, ( 1)植 被 喪 失 ,土 地 利 用 転 換 の 進 行 , ( 2)村 落 近 傍 の Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 伐 採 跡 地 へ の 代 償 植 生 の 繁 茂 ,( 3) 土 壌 の 流 亡 ,( 4) 水 際 の 土 地 改 変 , が 示 唆 さ れ た 。 4. 資 源 利 用 の 変 容 か ら , マ ン グ ロ ー ブ 資 源 を 基 盤 と し た 日 常 生 活 の 長 期 的 な 安 定 が 損 な わ れ て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。特 に ,購 買 力 の 相 違 が 資 源 採 集 の 負 担 ,生 活 の 利 便 性 の 差 異 を 生 み ,漁 民 の 生 業 を 変 容 さ せ ,生 活 の 質 が 低 下している。 5. 研 究 域 地 の マ ン グ ロ ー ブ 林 修 復 と 資 源 再 生 の 研 究 に お い て , 注 目 す べ き 種 は Heritiera fomes,Cynometra ramiflora,Ceriops decandra,Sapium indicum, Bruguiera spp., 群 集 は Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 典 型 亜 群 集 と B. gymnorrhiza 亜 群 集 と そ の 林 縁 で あ る と 言 え た 。 - 166 - 第7章 結論 第7章 7.1 緒 言 本 論 文 で は は じ め に ,包 括 的 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 の 基 盤 と な る ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ 海 岸 帯 の 在 地 的 要 素 を 明 ら か に し た 。次 に ,在 地 性 の 探 求 か ら 示 さ れ た 地 域 の 中 核 的 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 で あ る Heritiera fomes と そ の 群 落 の 更 新 特 性 を ,生 態 学 的 な オ リ ジ ナ ル デ ー タ に 基 づ き 解 明 し た 。さ ら に ,地 域 的 な 植 物 の 利 用 体 系 と 資 源 化 の 様 態 の 分 析 か ら ,マ ン グ ロ ー ブ の 資 源 特 性 を 把 握 し ,管 理 上 の 注 目 種・群 落 の 抽 出 を 行 う こ と で ,村 落 社 会 に お け る H. fomes の 資 源 的 価 値 の 高 さ を 明 ら か に し た 。 本 章 に お い て は , は じ め に 1) 資 源 管 理 に 係 る デ ル タ の 在 地 性 , 2) マ ン グ ロ ー ブ の 更 新 特 性 と 施 業 , 3) マ ン グ ロ ー ブ の 資 源 性 の , そ れ ぞ れ の 観 点 か ら 研 究 成 果 を 整 理 し そ の 意 義 を ま と め る 。次 に 研 究 成 果 を 踏 ま え た 結 論 と し て ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に お け る 在 地 的 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 の あ り 方 を ,1)在 地 性 を 担 保 す る 要 件 と ,2)更 新 特 性 を 活 か し た 生 態 学 的 な マ ン グ ロ ー ブ 林 管 理 モ デ ル に ま と め 提 示 す る 。最 後 に ,本 論 文 の 貢 献 を 生 態 学 的 知 見 ,民 族 植 物 学 的 知 見 お よ び ミ ャ ン マ ー に お け る 事 例 研 究 で あ る 点 か ら ま とめるとともに,今後の課題を示す。 7.2 研 究 成 果 と 意 義 7.2.1 デ ル タ 海 岸 帯 の 在 地 性 エーヤワディーデルタの特異な立地環境とマングローブ植生の特徴を示 し,自然相と資源相・文化相に基づく在地の空間の導出を行なった。また, 土 地 お よ び 森 林 資 源 の 所 有・管 理・利 用 に 係 る 制 度 と 習 慣 の 地 域 性 を 歴 史 的 に明らかにした。得られた成果を以下にまとめる。 ( 1) エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ は , 気 候 と 河 川 の 性 格 を 反 映 し た 通 年 の 水 路 の 低 塩 分 濃 度 と ,水 文 特 性 に よ る 乾 季 の 冠 水 影 響 が 微 少 な 潮 間 帯 高 地 の 割 合 の 卓越という,特異な立地環境を持つ。 ( 2) 特 異 な 立 地 環 境 に 対 応 し 生 存 す る マ ン グ ロ ー ブ 植 物 個 体 群 の 中 核 は , 地 域 固 有 種 の Heritiera fomes で あ る 。地 域 で 卓 越 す る H. fomes 優 占 林 は ,純 マングローブと淡水湿地林構成種を随伴する東南アジアでは異質なマング ローブ林である。 - 168 - 第7章 ( 3) 研 究 地 域 で あ る 海 岸 帯 の 地 形 は 浜 堤 列 に よ り 特 徴 付 け ら れ て い る 。 集 落の立地する浜堤の両側に並列する 2 つの浜堤に挟まれた空間が在地の空 間として認められ,その広がりは水路の連絡あり方に依存する。 ( 4) 王 朝 期 ま で 無 主 の 広 大 な マ ン グ ロ ー ブ 自 然 林 が 存 在 し , 植 民 地 後 期 以 降 保 全 林 に お け る 公 的 管 理 が 進 め ら れ ,第 2 次 対 戦 後 の 違 法 な 商 業 伐 採 に よ り 森 林 破 壊 が 進 ん だ 。 1970 年 代 以 降 の 政 策 一 貫 性 の 欠 如 が , 域 外 向 け の 燃 料材と食糧生産による森林破壊を加速した。 ( 5)マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 所 有 形 態 は ,人 為 の 開 始 以 来 一 貫 し て 実 質 的 に「 オ ー プ ン・ア ク セ ス と 先 取 に よ る 私 有 」で あ り ,社 会 林 業 の 導 入 は ,マ ン グ ロ ーブのコモンズの創造である。 ( 6) 現 在 の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 所 有 と 利 用 の 実 態 は , 法 制 度 に 従 っ て い な い 。伝 統 習 慣 に よ り 森 林 資 源 を 違 法 に 占 有 す る 者 に と っ て ,マ ン グ ロ ー ブ 伐 採 後 の 資 源 の 維 持・再 生 の イ ン セ ン テ ィ ブ は な く ,持 続 可 能 な マ ン グ ロ ー ブ 資源管理が損なわれている。 現 地 調 査 に 自 然 地 理 学 的 な 先 行 研 究 資 料 を 統 合 す る こ と で ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の 生 態 環 境 と マ ン グ ロ ー ブ 林 の 特 異 性 を 示 す こ と が で き た 。こ の 際 , こ れ ま で の 当 地 の マ ン グ ロ ー ブ 研 究 で デ ル タ の 河 口 域 と さ れ た 区 域 に ,地 要 因 か ら 区 分 さ れ る「 海 岸 帯 」を 明 示 的 に 扱 い ,資 源 利 用 と の 関 係 を 明 ら か に す る こ と が で き た 。地 域 の 自 然 要 素 で あ る「 浜 堤 列 と 水 路 の あ り 方 」と ,人 間 の 生 活・文 化 の 側 面 と し て の「 資 源 採 集 行 動 」を 統 合 す る こ と で ,海 岸 帯 の在地の空間の単位性を新たに提示することができた。 今 日 ,地 域 の CPRs( 共 有 的 資 源 )の 持 続 的 な 利 用 と 管 理 の 成 功 例 と し て , コ モ ン ズ が 注 目 さ れ て い る 。 ま た , 世 界 各 地 の 伝 統 的 な コ モ ン ズ の ”発 見 ” と 研 究 が 続 い て い る 。さ ら に ,地 域 の 人 々 を 主 体 と し た 社 会 林 業 の 理 念 も 定 着 し つ つ あ る 。本 論 文 は ,伝 統 的 な 社 会 に お い て も コ モ ン ズ が 常 在 す る も の で は な い こ と を ,資 源 管 理 の 歴 史 性 か ら 示 し た 。こ の こ と は ,森 林 資 源 が 単 に 住 民 の 共 的 管 理 に ゆ だ ね ら れ て も ,期 待 し た 結 果 が も た ら さ れ な い こ と を 示唆する点で重要だと言える。 7.2.2 更 新 特 性 と 施 業 - 169 - 第7章 自 然 更 新 に よ る 再 生 と 持 続 的 な 利 用 を 図 る た め ,研 究 が 極 め て 少 な く 知 見 が 限 ら れ る Heritiera fomes 林 の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 お よ び 林 分 の 更 新 特 性 の 解 明 を ,樹 木 の 耐 陰 性 と 萌 芽 特 性 に 着 目 し て 行 な っ た 。そ の 結 果 ,初 期 状 態 と 林 分 を 構 成 す る 種 の 母 樹 の 有 無 に よ り , Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 更 新 過 程 が 異 な る こ と が 示 さ れ た 。 ま た , 萌 芽 特 性 を 活 か し た H. fomes 林 の 管 理 の 可 能 性 が 示 さ れ た 。 得 ら れ た 成 果 を 以 下 に ま と め る 。 Heritiera fomes林 の 更 新 ( 1) 皆 伐 を 免 れ た 低 木 の 閉 鎖 林 分 か ら 2 次 遷 移 が 始 ま る 場 合 , H. fomes, Bruguiera spp., Amoora cucullata の 個 体 群 は , 下 種 か ら の 実 生 と 前 生 樹 に よ り更新の可能性がある。 ( 2) H. fomes は 単 木 的 小 ギ ャ ッ プ の 弱 光 下 に お け る 前 生 樹 更 新 , Bruguiera spp.は 単 木 的 疎 開 よ り も 大 き な ギ ャ ッ プ で の 一 斉 更 新 ,A. cucullata は 母 樹 や 近接する樹木の欠損部の前生樹による修復がそれぞれ更新の特徴であった。 い ず れ も 条 件 的 陰 樹 で あ る が ,H. fomes は 早 成 の 他 樹 種 が 先 行 し て 修 復 す る 元 ギ ャ ッ プ で 幼 樹 群 を 蓄 え る こ と か ら ,極 相 林 に お け る 林 冠 優 占 種 と し て の 性格を持つ。 ( 3) 散 布 体 の 分 散 距 離 は A. cucullata, Bruguiera spp., H. fomes の 順 に や や 伸 び る 傾 向 が あ る 。H. fomes は 伐 採 さ れ た 林 分 の 近 隣 に 母 樹 が あ れ ば ,他 の 2 種に比べて散布体の新入と実生更新の可能性が高いと考えられる。 ( 4) Excoecaria agallocha 個 体 群 の 実 生 更 新 は , 母 樹 の 有 無 に 関 わ ら ず 非 常 に 困 難 だ と 言 え ,撹 乱 を 受 け た 個 体 か ら の 萌 芽 に よ り 樹 体 と 個 体 群 は 回 復 す るものの,長期的には個体群の密度が低下することが示唆される。 ( 5) 疎 開 し た 林 分 か ら 2 次 遷 移 が 始 ま る 場 合 , 遷 移 初 期 の 下 層 に 繁 茂 す る 陽 性 植 物 の , H. fomes の 実 生 更 新 の 阻 害 が 示 唆 さ れ る 。 2 次 遷 移 開 始 時 に , 小 径 の H. fomes の 切 り 株 が 残 存 す る 場 合 ,切 り 株 萌 芽 に よ る 個 体 群 の 回 復 が 先行する。 Heritiera fomesの 萌 芽 更 新 - 170 - 第7章 ( 6)H. fomes 切 り 株 の 萌 芽 力 は ,他 の 木 本 マ ン グ ロ ー ブ の 中 で 比 較 的 高 く , 親 木 の サ イ ズ が 小 さ い ほ ど ,萌 芽 率 と 伐 採 後 初 期 の 株 当 り 萌 芽 枝 本 数 は 大 き く ,伐 根 径 が 10 cm よ り や や 小 さ い と き ,優 位 な 萌 芽 枝 の 伸 長 成 長 が 最 も 期 待できる。 ( 7)住 民 が 自 給 的 に 多 用 す る 樹 木 の サ イ ズ は ,直 径 が 5∼ 10 cm の 小 径 木 で あ り ,高 い 方 萌 芽 力 を 活 か し た H. fomes の 生 態 的・社 会 的 に 適 合 性 の あ る 保 続的な資源管理の意義がある。 ( 8) 冠 水 の 萌 芽 へ の ス ト レ ス が 示 唆 さ れ , 更 新 施 業 に は 生 育 立 地 の 最 高 水 位 応 じ た 伐 採 高 の 管 理 が 重 要 だ と 言 え る 。浸 水 ク ラ ス 4 の 高 地 盤 に お い て は 台 切 り 法 を ,浸 水 ク ラ ス 2 の 低 地 盤 に お い て は 頭 木 法 を 用 い る こ と が 考 え ら れ ,頭 木 法 を 用 い る 場 合 ,切 り 株 上 部 で 長 期 に 渡 り 生 じ 続 け る 萌 芽 を ,順 次 採集することが考えられる。 Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 優 占 種 で あ る H. fomes が , 前 生 樹 更 新 と 萌 芽 更 新 の 2 つ の 更 新 戦 略 を も つ こ と が 示 唆 さ れ ,複 合 的 な 手 法 に よ る 持 続 的 な H. fomes 林 管 理 の 基 盤 情 報 が 提 示 で き た 。導 き 出 さ れ る 具 体 的 な 手 法 は ,混 交 す る 各 樹 種 の 散 布 体 の 分 散 と ,ギ ャ ッ プ サ イ ズ に よ る 修 復 反 応 を 考 慮 し た 「 天 然 下 種 更 新 」, お よ び 親 木 サ イ ズ と 生 育 立 地 の 最 高 水 位 を 考 慮した「萌芽更新」である。 7.2.3 マ ン グ ロ ー ブ の 資 源 性 エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の 海 岸 帯 お い て ,マ ン グ ロ ー ブ 林 と ホ ー ム ガ ー デ ン の 調 査 か ら 地 域 の 植 物 資 源 の 総 体 を 明 ら か に し ,イ ン ベ ン ト リ ー を 構 築 し た 。 イ ン ベ ン ト リ ー を 基 盤 と し て ,社 会・文 化 お よ び 素 材 の 物 理・化 学 特 性 に 規 定 さ れ る 資 源 化 の あ り 方 を 探 求 し ,マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 性 格 を 解 明 し た 。そ の 際 ,村 落 社 会 の 重 層 性 を ホ ー ム ガ ー デ ン の 所 有・非 所 有 と い う ス テ ー ク ホ ル ダ ー と し て 捉 え ,資 源 ミ ッ ク ス の 時 間 的 動 態 を 分 析 す る 手 法 を 用 い た 。さ ら に ,マ ン グ ロ ー ブ の 資 源 的 価 値 を 明 ら か に し ,資 源 消 失 に 対 す る 脅 威 の 程 度 と 資 源 の 有 用 性 か ら ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理上の注目種・群落を提示した。得られた成果を以下にまとめる。 ( 1)マ ン グ ロ ー ブ 植 物 50 種 と ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 124 種 が 有 用 種 と し て - 171 - 第7章 イ ン ベ ン ト リ ー さ れ ,延 べ 有 用 種 数 は ,そ れ ぞ れ 108 種 と 326 種 で あ り 多 重 的な植物資源利用がなされている。 ( 2) 素 材 と し て の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 は , 物 理 的 ・ 化 学 的 ・ 生 態 的 な 特 徴 に したがい,地域の多彩な生活要求に適合的に資源化されている。中でも Heritiera fomes の 多 用 性 と 適 合 性 の 高 さ が 顕 著 で あ る 。 ( 3) マ ン グ ロ ー ブ 林 の 基 本 的 性 格 は , 日 常 生 活 の 長 期 的 基 盤 と な る 住 居 や 燃 料 の 供 給 地 で あ り ,中 核 的 な 資 源 は Heritiera fomes で あ っ た 。特 定 用 途 の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 は ,土 地 無 し 村 民 の 生 業 や 家 計 の 維 持 に 貢 献 し て き た 。 ( 4) か つ て , マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 90%は 村 落 近 傍 に お い て 十 分 な 密 度 で 存 在 し た が ,現 在 全 体 の 3 分 の 2 へ の ア ク セ ス が 低 下 し ,利 用 可 能 な マ ン グ ロ ーブ資源が減少している。 ( 5) マ ン グ ロ ー ブ 資 源 供 給 地 に お け る 植 被 喪 失 ・ 土 地 利 用 転 換 の 進 行 , Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 伐 採 跡 地 へ の 代 償 植 生 の 繁 茂 , 土 壌 の 流亡,水際の土地改変が示唆される。 ( 6) 利 用 可 能 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 減 少 に よ り , こ れ を 基 盤 と し た 村 落 の 日 常 生 活 の 長 期 的 な 安 定 が 損 な わ れ て い る 。中 核 的 な 資 源 の H. fomes の 利 用 が 困 難 に な り ,土 地 無 し 村 民 に 特 異 的 に 生 活 の 質 低 下 と 家 計 負 担 の 増 大 が 起 こっている。 ( 7) 研 究 域 地 の マ ン グ ロ ー ブ 林 修 復 と 資 源 再 生 の 研 究 に お い て , 注 目 す べ き 種 は H. fomes, Cynometra ramiflora, Ceriops decandra, Sapium indicum, Bruguiera spp., 群 集 は Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 典 型 亜 群 集 と B. gymnorrhiza 亜 群 集 と そ の 林 縁 で あ る 。 こ れ ま で マ ン グ ロ ー ブ の 調 査・研 究・事 業 に お い て は ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 重 要 性 が 概 括 的 に 論 じ ら れ る こ と が 多 か っ た 。あ る い は ,は じ め か ら 木 材 林 産 物 の 重 要 性 を 念 頭 に し ,保 全・再 生 の 対 象 や 手 法 が 提 示 さ れ る 場 合 が あ っ た 。本 論 文 で は マ ン グ ロ ー ブ を ,地 域 住 民 の 自 給 的 な 生 活・生 業 の 糧 と 明 示 的 に 捉 え ,複 合 的 な 植 物 資 源 利 用 に お け る 位 置 づ け と 資 源 化 の あ り 方 を 明 らかにすることができた。さらに,マングローブ林の変容が地域住民の生 - 172 - 第7章 活・生 業 に 与 え る 影 響 を 具 体 的 に 示 し ,実 用 的 か つ 妥 当 な 手 法 に よ り 保 全 ・ 再 生 の 対 象 を 導 き 出 す こ と が で き た 。研 究 を 通 じ て ,樹 木 と し て の Heritiera fomes と 生 態 系 と し て の H. fomes 林 の 重 要 性 を 明 示 す る こ と が で き た 。 7.3 在 地 的 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 本 論 文 の 研 究 成 果 を 踏 ま え ,在 地 性 が 確 保 さ れ 生 態 的 に も 適 合 的 な マ ン グ ローブ資源管理の要件とモデルを提示する。 7.3.1 在 地 性 の 担 保 ( 1) 資 源 管 理 対 象 こ れ ま で の マ ン グ ロ ー ブ 生 態 研 究 は ,主 と し て 植 林 技 術 の 開 発 と 相 ま っ て 行 な わ れ て き た 。そ の 結 果 ,植 林 成 績 の 良 好 な Avicennia spp.や Sonneratia spp. 等 の 早 成 樹 を 対 象 と す る 生 態 研 究 が 多 く ,ま た こ れ ら の 植 林 も 継 続 し て き た 。 在 地 性 と 資 源 性 の 視 点 か ら 分 析 し た 結 果 ,こ れ ま で の 特 定 早 成 樹 を 重 視 し た 管 理 は ,住 民 の 生 活 要 求 に は 必 ず し も 適 合 し て な か っ た 。立 地 環 境 に 適 合 し ,住 居 や 燃 料 な ど 日 常 生 活 を 長 期 に 支 え る 最 も 注 目 す べ き マ ン グ ロ ー ブ は Heritiera fomes で あ り , こ れ を 中 核 と す る Amoora cucullata-Heritiera fomes 群集であった。同群集は浸水クラスが 3 および 4 の潮間帯高地に分布する。 エーヤワディーデルタにおいては潮間帯高地の面積の割合が卓越しており, 同 群 集 を 対 象 と し た 資 源 管 理 は 生 態 的 に 適 合 的 で あ る と 言 え る 。一 方 で ,薬 毒 ,繊 維 ,食 用 な ど 地 域 固 有 の 生 活・文 化 と 結 び つ い た 非 木 材 林 産 物 の 様 々 な 資 源 化 が 見 い だ さ れ た 。H. fomes を 中 心 と す る 木 材 林 産 物 ,お よ び 様 々 な 非 木 材 林 産 物 の い ず れ の 資 源 の 減 少 も ,土 地 を 持 た ず 漁 撈 を 生 業 と す る 購 買 力の低い人々に特異的に負の影響をもたらしていた。 し た が っ て ,特 定 の 木 材 林 産 物 の 生 産 を 目 的 と す る よ う な 産 業 造 林 的 な マ ン グ ロ ー ブ 林 管 理 は ,重 層 的 な 村 落 社 会 に お け る 長 期 安 定 的 な 営 み を 保 証 で き な い と 言 え る 。木 材 林 産 物 お よ び 非 木 材 林 産 物 を 包 含 す る 多 様 な 資 源 を 生 み 出 す 森 林 の 修 復 と 維 持 が ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 の 持 続 性 を 保 証 す る 要 件 で あ る 。そ の 際 ,H. fomes お よ び H. fomes 林 は 資 源 特 性 と 注 目 度 の 順 位 付 け か ら 重 要 と 言 え ,生 態 研 究 と 修 復・保 全 に お い て 一 義 的 に 取 扱 わ れ る 必 要 が あると言える。 ( 2) 資 源 管 理 制 度 - 173 - 第7章 習 慣 的 に 行 わ れ る 違 法 伐 採 な ど の 行 為 は ,規 範 の 安 定 性 と 制 度 の 持 続 性 を 低 下 さ せ る ( Glaser et al., 2003) 。 マ ン グ ロ ー ブ の 保 全 林 に お い て は , 伝 統 的 習 慣 に よ る 森 林 資 源 の 先 取 と 占 有 が 違 法 に 継 続 し て い る 事 実 が あ っ た 。ま た 違 法 で あ る が ゆ え に ,占 有 者 に は 資 源 の 維 持・再 生 へ の イ ン セ ン テ ィ ブ が 働いていなかった。一方で,自給目的のマングローブ採集を住民に認める 新・森 林 法( 1992)の 施 行 に も 関 わ ら ず ,超 法 規 的 に こ れ が 禁 止 さ れ て い る 実 態 が あ っ た 。地 域 的 な 資 源 需 要 の 充 足 を 目 指 す 森 林 法 の 意 図 を ,実 効 性 の あ る も の に す る 必 要 が あ る 。本 研 究 か ら は ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 新 た な 違 法 占 有に対する罰金増額,現状の占有者の法的認知などが提言できる。 コ モ ン ズ の 成 功 要 素 と し て ,多 数 の 村 人 た ち の 参 加 や 資 源 分 配 の 公 平 性 が 挙 げ ら れ て い る ( 茂 木 , 1994; 佐 藤 , 2002)。 研 究 の 結 果 , 地 域 の マ ン グ ロ ー ブ 林 の 変 容 は ,社 会 的 に 脆 弱 な 土 地 無 し 村 民 に 特 異 的 に 負 の 影 響 を 与 え て い た。これらを踏まえれば,当地において進める社会林業への参加主体には, 共 有 林 地 の 提 供 者 で あ る「 土 地 持 ち 村 民 」に 限 ら ず ,土 地 無 し 村 民 が 含 ま れ ることが重要だと言える。 ( 3) 資 源 管 理 空 間 「 人 と 自 然 が 調 和 し た 循 環 的 な 生 活 は ,生 物・非 生 物 的 な 自 然 要 因 か ら の ま と ま り に ,自 然 を 管 理 し 利 用 す る 共 同 体 の 生 活・文 化 の 相 を 統 合 し た 地 理 的 領 域 に お い て 可 能 と な る 」と い う 主 張 が 様 々 に な さ れ て い る( 鈴 木 , 2006)。 エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 破 壊 は ,生 物 資 源 が 地 域 外 に 移 出 さ れ る こ と で 進 ん で き た 。本 論 文 に お い て は マ ン グ ロ ー ブ を ,地 域 の 人 々 の 自 給 的 資 源 ,生 活 と 生 業 を 維 持 し 文 化 を 継 承 す る た め の 資 源 で あ る と 捉えた。 本論文では,デルタの海岸帯における自然・資源・文化の相から,2 つの 浜 堤 に 挟 ま れ た「 陸 域 の 集 落 地 」・「 潮 間 帯 の マ ン グ ロ ー ブ 域 」・「 水 域 」か ら 成 る 生 態 的 ・ 社 会 的 な 地 理 的 領 域 と し て ,「 在 地 の 空 間 」 を 導 き 出 し た 。 マ ン グ ロ ー ブ 資 源 供 給 地 を ,自 給 的 に 利 用 す る 保 全 林 あ る い は 社 会 林 業 の 共 有 林 な ど の「 管 理 制 度 」や ,植 林 地 ,育 林 地 ,天 然 更 新 林 地 な ど の「 管 理 手 法 」 で 区 分 し た と き ,こ れ ら の 配 置 や 組 合 せ な ど を 空 間 設 計 す る 単 位 と な る 地 理 的な領域は,本論文が見出した「在地の空間」であると言える。 7.3.2 生 態 学 的 マ ン グ ロ ー ブ 林 管 理 本 論 文 の 研 究 成 果 と し て , 村 落 周 辺 の Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 - 174 - 第7章 集 の 伐 採 跡 地 に お け る , Phoenix paludosa, Acanthus ilicifolius, Brownlowia tersa な ど の 代 償 植 生 の 繁 茂 が 示 唆 さ れ た 。 ま た , マ ン グ ロ ー ブ 林 修 復 と 資 源 再 生 に お い て 注 目 す べ き 群 集 は Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 で あ った。 本 項 で は ,Heritiera fomes 林 お よ び H. fomes の 更 新 特 性 の 研 究 成 果 に 基 づ き ,最 も 管 理 上 の 注 目 度 が 高 か っ た H. fomes が 林 冠 で 優 占 す る ,典 型 亜 群 集 の 保 続 的 な 森 林 管 理 モ デ ル を ,林 地 の 初 期 状 態 を 区 分 し 2 つ 提 示 す る 。さ ら に ,現 行 の 早 成 樹 植 林 を 活 用 し な が ら ,多 様 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 を 混 在 さ せ る植林地の管理モデルを 3 つめに提示する。 ( 1) 択 伐 ・ ギ ャ ッ プ 植 林 型 ( Fig. 7.1) 林地の初期状態が,第 4 章における調査林分 A もしくは B に類する場合 に 提 案 で き る 。胸 高 直 径 が 10 cm を 超 え る H. fomes を 中 心 と し た 中 径 木 に よ り林冠がほぼ閉鎖した,自然更新の途上にある林分である。 劣 化 林 の 修 復 手 法 で あ る ギ ャ ッ プ 植 林 は ,残 存 木( 高 木 ,幼 稚 樹 )の 個 体 数 の 不 足 を 在 来 種 で 補 う 手 法 で あ る 。天 然 林 で 発 生 す る ギ ャ ッ プ 更 新 を 模 擬 し,人為的ギャップにより環境条件を整備し更新個体を増やすものである ( 沖 森 , 2001)。大 き な ギ ャ ッ プ で は 陽 樹 が 生 存・生 育 可 能 で あ る が ,小 さ な ギ ャ ッ プ で は 耐 陰 性 の 高 い 陰 樹 の み し か 生 存 ・ 生 育 で き な い ( 山 本 , 2003)。 本 論 文 の 研 究 か ら , Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の H. fomes, Bruguiera spp., A. cucullata は 条 件 的 陰 樹 で あ る と 判 明 し , ギ ャ ッ プ の サ イ ズ に よ る 更 新 の 適 合 性 の 差 異 が 示 唆 さ れ た 。 す な わ ち , H. fomes や A. cucullata は 単 木 的 小 ギ ャ ッ プ ,Bruguiera spp.は こ れ よ り 大 き な ギ ャ ッ プ が , それぞれ幼樹の生育・成長に適合すると見られた。 収穫 ギャップ植林 Hf OT Hf or OT ギャップ植林 Fig. 7.1. 択伐・ギャップ植林型v Hf: Heritiera fomes OT: Bruguiera spp. or Amoora cucullata し た が っ て ,林 冠 疎 開 が 存 在 す る 場 合 の 管 理 と し て ,疎 開 の 大 き さ に よ り - 175 - 第7章 種 苗 の 樹 種 を 選 択 す る ギ ャ ッ プ 植 林 が 提 案 で き る 。林 分 の 更 新 と 木 材 の 収 穫 を 循 環 的 に 図 る た め に は ,皆 伐 に よ ら ず 択 伐 に よ り 新 た な ギ ャ ッ プ を 形 成 す る 。ギ ャ ッ プ の 大 き さ は ,次 の ギ ャ ッ プ 植 林 を 実 施 す る 樹 種 に 適 合 す る よ う , 伐採する樹木のサイズおよび密度と本数により調整することになる。 ( 2) 萌 芽 更 新 型 ( Fig. 7.2) 林地の初期状態が,第 4 章における調査林分 D に類する場合に提案でき る 。 強 度 の 伐 採 に よ る 疎 開 林 で あ る が , 小 径 ( 直 径 5∼ 10 cm) の H. fomes の切り株が残存する林分である。 萌 芽 更 新 は ,切 り 株 萌 芽 を 育 て 次 世 代 の 樹 木・森 林 を 仕 立 て る 手 法 で あ る 。 作 業 性 ,コ ス ト ,更 新 の 確 実 性 と 早 さ ,通 直 な 幹 の 形 状 な ど の 施 業 面 と ,土 壌 流 亡 の 阻 止 な ど 環 境 面 の 双 方 に 優 れ る 手 法 で あ る( 浅 川 , 1999)。し か し な が ら ,樹 種 に よ り 難 易 が あ り ,容 易 な 樹 種 で あ っ て も 親 木 の 伐 採 位 置 ,伐 採 季 節 , 樹 齢 級 に よ り 萌 芽 力 が 消 長 す る ( 片 岡 , 1992c)。 本 論 文 の 研 究 か ら ,H. fomes 切 り 株 の 萌 芽 力 は 木 本 マ ン グ ロ ー ブ の 中 で 比 較 的 高 い こ と が 判 明 し ,萌 芽 力 の 消 長 に 関 す る 生 態 学 的 知 見 が 得 ら れ た 。す な わ ち ,樹 齢 級 に 相 当 す る 親 木 の サ イ ズ が 小 さ い ほ ど 萌 芽 率 と 萌 芽 枝 本 数 は 大 き く ,伐 根 径 が 10 cm よ り や や 小 さ い と き 優 位 な 萌 芽 枝 の 伸 長 成 長 が 最 も 大 き く な る こ と が 明 ら か に な っ た 。生 態 的 に 見 れ ば 萌 芽 に よ る H. fomes 個 体 群 更 新 の 可 能 性 は 高 く ,収 穫 と 更 新 の た め の 伐 採 を 行 な う 際 は 親 木 の 胸 高 直 径 が 5∼ 10 cm 程 度 が 適 当 で あ る 。 住 民 が 道 具 や 建 築 ・ ボ ー ト 部 材 な ど 多 様 に 利 用 す る サ イ ズ は , 直 径 が 5∼ 10 cm の 小 径 木 で あ り , H. fomes の 萌 芽 更 新 は 社 会 的 に も 適 合 性 が 高 く 持 続 的 な 資 源 管 理 が 可 能 と 言 え る 。ま た ,冠 水 の萌芽へのストレスと,最高水位に応じた伐採高の管理の必要性が示され, 浸 水 ク ラ ス 4 の 高 地 盤 に お い て は 台 切 り 法 が ,浸 水 ク ラ ス 2 の 低 地 盤 に お い ては頭木法が選択肢として提案できる。主幹を再生し収穫する台切り法と, 萌芽整理 OT Hf 収穫 下草刈・ツル切・補植 Fig. 7.2. 萌芽更新型 Hf: Heritiera fomes OT: Bruguiera spp. or Amoora cucullata - 176 - 下草刈・ツル切 第7章 複数の枝条を保育し収穫する頭木法を資源管理空間で組み合わせることで, 多様なサイズの材を供給できる。さらに研究から,疎開した林分からの 2 次 遷 移 初 期 に は ,つ る 植 物 や 叢 生 型 の 陽 性 植 物 が 下 層 に 繁 茂 す る こ と が 明 ら か に な り ,繁 茂 し た 植 物 体 が H. fomes 実 生 の 定 着・成 長 を 妨 げ 天 然 下 種 更 新 を 阻 害 す る こ と が 示 唆 さ れ た 。し た が っ て ,林 冠 閉 鎖 以 前 に は 下 草 刈 り と つ る切り,および阻害による実生数不足を補う補植の必要性がある。 ( 3) 早 成 樹 間 ギ ャ ッ プ 植 林 型 ( Fig. 7.3) 早 成 樹 に よ っ て 裸 地 の 植 被 や 材 の 収 穫 を 短 期 に 行 な い な が ら ,H. fomes な ど の 成 長 の 遅 い 樹 種 を 混 交 さ せ ,住 民 の 多 様 な ニ ー ズ に 応 じ た マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 供 給 を 図 る モ デ ル で あ る 。特 定 の 早 成 樹 に 偏 っ た 植 林 地 を 混 交 林 化 す ることで,病虫害に対する生物相の安定や土壌養分の不均衡回避(上中, 1992) な ど , 生 態 的 リ ス ク の 低 減 も 図 れ る 森 林 管 理 モ デ ル で あ る 。 本 論 文 が 示 し た H. fomes, Bruguiera spp., A. cucullata の 更 新 特 性 に 基 づ き ,早 成 樹 の 間 伐 に よ る 疎 開 部 の 大 き さ に ギ ャ ッ プ 更 新 特 性 が 適 合 す る 樹 種 を 植 林 す る 。ま た ,植 林 木 の 成 長 過 程 で ,残 存 す る 早 成 樹 を 収 穫 し ,植 林 木 の 成 林 と 収 穫 を 図 る 。ギ ャ ッ プ 植 林 木 の 樹 種 ,お よ び ギ ャ ッ プ 植 林 後 に 収 穫 し て ゆ く 樹 種 な ど を 選 択・制 御 す る こ と で ,多 様 な タ イ プ の 管 理 が あ り 得 る 。 ギャップ植林 収穫 間伐 早生樹植林 FG Hf or OT Fig. 7.3. 早生樹間ギャップ植林型 FG: Fast-growing species Hf: Heritiera fomes OT: Bruguiera spp. or Amoora cucullata 7.4 本 論 文 の 貢 献 7.4.1 生 態 学 的 貢 献 当 地 に お け る マ ン グ ロ ー ブ 林 修 復 の 生 態 的・技 術 的 な 知 見 の 多 く は ,荒 廃 裸 地 等 に お け る 早 成 樹 植 林 に 基 づ く も の で あ っ た 。初 期 成 長 が 遅 く 植 林 に 不 - 177 - 第7章 向 き と 判 断 さ れ た Heritiera fomes の 生 態 的 な 知 見 の 集 積 は 進 ま な か っ た 。ま た ,H. fomes の 大 径 木 択 伐 法 が 活 か せ る マ ン グ ロ ー ブ 林 は 消 失 し ,住 民 の 自 給的資源の生産を目的とする手法が開発されていなかった。 本 論 文 に お い て 解 明 さ れ た ,H. fomes 個 体 群 の 更 新 や こ れ を 中 核 と す る 森 林 の 動 態 は ,将 来 的 に H. fomes を 中 核 と す る 植 林 地 や ,自 然 更 新 林 ,RIF 林 お い て ,保 続 的 に 林 産 物 の 利 用 を 図 る た め の 更 新 手 法 を 開 発 す る 基 盤 と な る 。 ま た ,H. fomes の 萌 芽 力 と 萌 芽 特 性 は ,当 地 に お け る こ れ ま で の 人 工 造 林 に よ る マ ン グ ロ ー ブ 林 管 理 に 加 え ,新 た な 更 新 手 法 の 選 択 と 組 み 合 わ せ を 可 能 と す る 基 礎 的 な 情 報 で あ る 。特 に ,住 民 の 多 用 す る サ イ ズ に お い て ,生 態 的 に 最 も 有 利 な 萌 芽 更 新 が 示 唆 さ れ ,施 業 へ の 応 用 を 踏 ま え た 知 見 と し て 意 義 が 大 き い 。さ ら に ,マ ン グ ロ ー ブ の 萌 芽 研 究 が 少 な い 中 に あ っ て ,多 数 の 樹 種についての萌芽力データはそれぞれの樹種の資源管理研究に資する。 研 究 の 方 法 論 か ら 言 え ば ,こ れ ま で の 当 地 に お け る マ ン グ ロ ー ブ 林 の 遷 移 や 更 新 の 研 究 は ,植 物 群 落 の 組 成 と 森 林 の 構 造 ,環 境 要 因 と 群 落 の 結 び つ き 等 の 観 察 デ ー タ に 基 づ く も の で あ っ た 。本 論 文 に お い て は ,群 落 を 構 成 す る 種 個 体 群 の 動 態 か ら マ ン グ ロ ー ブ 林 の 更 新 特 性 を 明 ら か に し た 。そ の 際 ,遷 移 と 更 新 を 理 解 す る 上 で 最 も 重 要 な 要 因 で あ る ,マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 耐 陰 性 を 解 明 し こ れ を 基 盤 と し て い る 。し た が っ て ,本 論 文 の 研 究 成 果 は 学 術 的 に 新たな価値を持つと言え,さらにこれに基づき提案した森林管理モデルは, 生態学的見地から妥当性があると言える。 ま た ,陸 域 の 樹 木 の 萌 芽 更 新 研 究 に は 一 定 の 方 法 論 が あ り ,伐 採 高 が 萌 芽 性 分 析 の 指 標 の 1 つ と さ れ て き た 。潮 汐 環 境 に あ る マ ン グ ロ ー ブ に つ い て は 浸 水 の 高 さ が 変 数 と し て 存 在 す る が ,こ れ を 取 扱 う 研 究 は ほ と ん ど な か っ た 。 本 論 文 に お い て は ,伐 採 高 と 最 高 浸 水 位 の 比 率 に よ る 独 自 の 分 析 手 法 を 用 い ており,今後のマングローブ樹木の再生研究への適用が見込まれる。 本 論 文 の 生 態 環 境 お よ び マ ン グ ロ ー ブ 植 物 と マ ン グ ロ ー ブ 林 の 把 握 ,マ ン グ ロ ー ブ の 更 新 特 性 分 析 に お い て は ,自 然 科 学 的 研 究 方 法 を 用 い て い る 。す な わ ち 研 究 成 果 に は ,数 値 化 し た デ ー タ の 収 集 に よ り 普 遍 性 と 客 観 性 が ,統 計 と 先 行 研 究 に 基 づ く 分 析 に よ り 論 理 性 が 存 在 す る 。し た が っ て ,Heritiera fomes の 優 占 林 が 中 核 を 占 め ( Chowdhury & Ahmed, 1994), 植 生 学 的 に 同 様 の 地 域 に ま と め ら れ る ( Chapman, 1976) ベ ン ガ ル 湾 岸 に お い て , マ ン グ ロ ーブ資源管理への応用が期待できる。 - 178 - 第7章 7.4.2 民 族 植 物 学 的 貢 献 エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に お け る マ ン グ ロ ー ブ の 有 用 植 物 研 究 は ,利 用 情 報 の 記 載 と し て 1990 年 代 に 本 格 化 し た 。 し か し な が ら こ れ ま で の 調 査 ・ 報 告 に は ,経 済 的 価 値 の 高 い 種 へ の 偏 向 や ,調 査 地 や 調 査 方 法 の 不 明 確 さ が あ る 上 ,植 物 体 の 部 位・器 官 と 利 用 用 途 の 体 系 的 な 記 載 と 分 析 が な さ れ て い な か った。 本 論 文 に お い て は ,消 費 的 使 用 価 値 お よ び 存 在 価 値 に も 着 眼 し ,マ ン グ ロ ーブおよび陸域の非マングローブ植物資源を含めたオリジナルな調査を行 な っ て い る 。調 査 デ ー タ は ,植 物 形 態 学・解 剖 学 と 民 族 植 物 学 的 な 機 能 区 分 の 視 点 か ら ま と め ら れ て い る 。し た が っ て ,成 果 物 と し て の イ ン ベ ン ト リ ー は そ れ 自 身 が 学 術 的 価 値 を 持 ち ,当 地 に お け る 広 範 な 植 物 資 源 研 究 の デ ー タ ベ ー ス と し て の 活 用 が 見 込 ま れ る 。ま た イ ン ベ ン ト リ ー に は ,森 林 の 変 容 と と も に 失 わ れ つ つ あ る ,地 域 の「 伝 統 的 な 植 物 学 的 智 恵 」が 保 存 さ れ て い る と 言 え ,世 代 ,地 域 ,立 場( 住 民 ・ 研 究 者 ・ 企 業 家 )を 横 断 し て 利 用 さ れ る 価値を持つ。 さ ら に , 本 論 文 に お い て は ,「 マ ン グ ロ ー ブ 林 減 少 が 引 き 起 こ し た 人 々 の 生 活 変 容 」を 具 体 的 に 明 ら か に し た 。し た が っ て ,こ の 成 果 は 一 般 論 と し て マ ン グ ロ ー ブ の 保 全 の 重 要 性 を 訴 求 す る に と ど ま ら ず ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 の 研 究 お よ び 事 業 を 行 な う 具 体 性 の 高 い 根 拠 と な る 。ま た 研 究 成 果 は ,社 会 的 立 場 の 違 い に よ り 生 活 変 容 が 異 な る こ と を 示 し て お り ,資 源 管 理 を 社 会 開発の文脈において研究・実施する上で重要な情報を提供している。 本 論 文 に お い て は ,資 源 管 理 上 の 注 目 種 の 抽 出 を 行 っ た 。方 法 論 か ら 言 え ば,これまでの保全の優先順位付けあるいは林産物の重要性の順位付けは, 数 値 化 に 用 い る デ ー タ 収 集 に 時 間 と 労 力 を 要 し て い た 。本 論 文 に お い て 試 行 した,資源化のあり方とその変容からマングローブに得点を与える手法は, 迅 速・簡 便 な 評 価 が 行 な え る 点 で ,今 後 の 民 族 植 物 学 研 究 お よ び 資 源 管 理 の 研究と実施の上で適用が可能である。 本 論 文 の ,資 源 管 理 制 度 と 植 物 の 資 源 性 の 調 査・研 究 に は ,イ ン タ ビ ュ ー と 参 与 観 察 を 基 盤 と す る 実 践 的 な 研 究 手 法 を 用 い て い る 。実 践 的 研 究 手 法 の 目 的 は ,具 体 的 な 状 況 へ の 有 効 な 関 わ り が で き る こ と で あ り ,対 象 と の 関 わ り を 通 じ て デ ー タ を 収 集 す る こ と が 重 要 と な る 。デ ー タ の 質 や 分 析 に お い て 論 理 的 な 精 緻 さ や 厳 密 さ に 欠 け る と し て も ,当 該 研 究 地 域 の 問 題 解 決 へ の 適 - 179 - 第7章 用性は高く,実践的に成果がでる資源管理への応用が期待できる。 7.4.3 地 域 研 究 と し て の 貢 献 マ ン グ ロ ー ブ 林 の 破 壊 が 進 む 中 で ,他 の 東 南 ア ジ ア 諸 国 と 比 べ 同 地 域 に お け る 保 全 研 究 や 保 全 活 動 は 緒 に 付 い た ば か り で あ る 。そ の 一 因 は ,自 然 資 源 の 変 容 や こ れ に 起 因 す る 人 々 の 生 活 の 劣 化 は ,政 治 的 に 負 の 意 味 合 い を 持 つ た め で あ る 。軍 事 統 制 化 下 の ミ ャ ン マ ー 人 研 究 者 に と っ て ,こ れ ら を 公 正 中 立 な 研 究 対 象 と し て 扱 う こ と は 難 し い 。一 方 ,外 国 人 に は 入 域 と 活 動 に 制 約 が あ り ,援 助 事 業 を 除 い て 調 査 や 研 究 は 戦 後 ほ と ん ど 行 な わ れ て い な い 実 態 がある。 本 論 文 は , 外 国 人 研 究 者 と し て い ず れ も 困 難 な ,「 村 落 で の 長 期 滞 在 」 と 「 村 落 住 民 と と も に 決 め た 手 法 を 用 い た イ ン タ ビ ュ ー 」に よ り デ ー タ を 収 集 し た 。そ の た め ,資 源 管 理 の 法 制 度 と 実 態 の 齟 齬 に つ い て ,あ る い は 村 落 内 の よ り 脆 弱 な 立 場 の 住 民 の 生 活 劣 化 な ど が 示 さ れ た 。し た が っ て ,当 地 に お け る 資 源 管 理 研 究 お よ び 社 会 科 学 分 野 の 先 行 事 例 と し て ,特 定 の 政 治・政 策 的な意図を排除した,有益な情報を提供するものである。 7.5 今 後 の 研 究 課 題 7.5.1 実 生 更 新 研 究 の 課 題 ( 1) ギ ャ ッ プ の 光 環 境 の 定 量 化 ギ ャ ッ プ 内 の 光 環 境 は ,そ の 周 辺 の 閉 鎖 林 冠 下 と 特 に 大 き く 異 な り 相 対 的 に 明 る い 。ま た ギ ャ ッ プ 内 の 植 生 の 種 組 成 と 成 長 は ,ギ ャ ッ プ の 面 積 の 影 響 を 大 き く 受 け る ( 山 本 , 2003)。 本 論 文 は , ギ ャ ッ プ の 大 き さ に 対 す る Heritiera fomes, Bruguiera spp., お よ び Amoora cucullata の 幼 樹 の 更 新 適 性 を 示 唆 し て い る 。具 体 的 に は ,胸 高 直 径 が 5 cm 以 上 の 樹 木 の 樹 冠 投 影 図 か ら 導 い た 「 林 冠 閉 鎖 度 」 と 成 長 段 階 別 の「 個 体 分 布 頻 度 」の 統 計 分 析 に 基 づ い て い る 。ギ ャ ッ プ の サ イ ズ に よ り , ギ ャ ッ プ 植 林 を 行 な う 樹 種 を 選 択 す る な ら ば ,定 量 的 な サ イ ズ の 目 安 が 必 要 と な る 。ま た ギ ャ ッ プ 内 の 光 環 境 に は ,ギ ャ ッ プ の 形 状 や 周 辺 の 閉 鎖 林 の 樹 高・樹 種 な ど 他 の 要 因 も 影 響 す る 。し た が っ て ,ギ ャ ッ プ サ イ ズ を 定 量 化 す る に は サ ン プ ル 数 の 増 加 が ,ま た 複 数 の 要 因 を 考 慮 す る に は 照 度 や 光 量 な ど による光環境の定量化が今後の課題となる。 - 180 - 第7章 ( 2) 樹 木 個 体 群 の 生 活 史 初 期 の 動 態 種 子 散 布 に 始 ま る 更 新 過 程 は ,発 芽 ,定 着 ,実 生 か ら 幼 稚 樹 へ の 成 長 を 経 て ,成 木 が 母 樹 と し て 再 び 種 子 を 生 産 し 循 環 す る 。群 落 動 態 の メ カ ニ ズ ム を 個 体 群 レ ベ ル で 知 る た め の 重 要 な 変 数 は ,花 や 種 子 生 産 量 ,種 子 サ イ ズ と 死 亡 率 ,実 生 の 活 性 率 と 死 亡 率 ,稚 樹 や 成 木 の 死 亡 率 と 成 長 速 度 な ど 樹 木 の 生 活 史 全 体 に 渡 っ て い る ( 森 林 立 地 調 査 法 編 集 委 員 会 , 1999) 本 論 文 に お い て は ,実 生 か ら 成 木 に 渡 る 個 体 群 動 態 を 扱 っ た 。具 体 的 に は 樹 高 が 1.3 m 未 満 の 実 生 , 1.3 m 以 上 の 幼 樹 , 1.3 m 以 上 で 胸 高 直 径 が 5 cm 以 上 の 成 木 と 定 義 し た 3 つ の 段 階 で あ る 。マ ン グ ロ ー ブ の 散 布 体 の 生 産 ,散 布 ,死 亡 に つ い て は 研 究 が 少 な く ,天 然 下 種 更 新 の 効 果 的 な 実 施 に は ,樹 木 の生活史初期の知見集積が今後の課題である。 7.5.2 萌 芽 更 新 研 究 の 課 題 ( 1) 伐 採 高 管 理 の 精 緻 化 陸 域 の 広 葉 樹 の 切 り 株 萌 芽 で は ,伐 採 位 置 が 高 い ほ ど 萌 芽 力 が 衰 え ,さ ら に 木 材 腐 敗 菌 が 侵 入 し 切 り 株 の 枯 死 を 招 き や す い ( 片 岡 , 1992c)。 ま た , 次 世 代 の 幹 の 発 根 促 進 と 自 根 形 成 に 根 元 近 く で の 伐 採 が 重 要 ( 中 川 , 2001) と される。 本 論 文 に お い て は ,萌 芽 へ の 浸 水 ス ト レ ス を ,伐 採 高 と 浸 水 位 の 相 対 値 か ら 解 析 し 切 り 株 の 動 態 へ の 影 響 を 示 し た 。H. fomes の 萌 芽 更 新 に 台 切 り 法 を 適 用 す る 場 合 ,浸 水 ス ト レ ス の 回 避 と 萌 芽 の 自 根 形 成 を 最 適 化 す る 具 体 的 な 伐 採 高 の 決 定 が 必 要 と な る 。潮 汐 環 境 下 の マ ン グ ロ ー ブ に お い て は ,自 根 形 成 へ の 伐 採 高 の 影 響 研 究 は 見 当 た ら ず ,施 業 技 術 の 実 地 的 な 開 発 が 今 後 の 課 題である。 ( 2) 萌 芽 整 理 萌 芽 整 理 は ,残 さ れ た 萌 芽 幹 の 径 の 増 大 に 顕 著 な 効 果 が あ り ,よ り 太 い 萌 芽 幹 の 生 産 を 目 指 す 場 合 ,自 然 淘 汰 に よ る 萌 芽 枝 本 数 の 減 少 と 萌 芽 枝 幹 の 個 体 差 が 顕 著 に な る こ ろ に 行 な う ( 田 中 , 1989)。 本 論 文 の 研 究 か ら 萌 芽 株 は ,冠 水 率 の 高 い も し く は 低 い に 対 応 し ,伐 採 後 13 ヶ 月 以 降 , 萌 芽 枝 本 数 の 少 な い も し く は 多 い 2 つ の グ ル ー プ に そ れ ぞ れ 分 化 す る こ と が 明 ら か に な っ た 。し か し な が ら ,H. fomes を は じ め マ ン グ ロ ー ブ の 萌 芽 枝 に つ い て は ,長 期 の 消 長 と 萌 芽 間 競 争 の 知 見 は 得 ら れ て お ら ず , - 181 - 第7章 冠水による本数動態を考慮した萌芽整理の手法は今後の研究課題である。 7.5.3 資 源 性 研 究 の 課 題 ( 1) 資 源 利 用 の 文 化 性 松 井( 1998; 2000; 2004)は 人 類 生 態 学 の 立 場 か ら ,生 計 へ の 貢 献 は 僅 少 で あ る が ,楽 し み や 喜 び や な ど 情 緒 的 な 価 値 を 持 ち ,コ ミ ュ ニ テ ィ ー に お い て 長 期 間 継 承 さ れ る「 マ イ ナ ー・サ ブ シ ス テ ン ス 」に 注 目 し て い る 。ま た 近 年 ,資 源 管 理 に お け る 地 域 固 有 性 や 社 会 性 配 慮 を 包 含 す る こ と の 重 要 性 が 主 張 さ れ て い る ( UNEP, 2000) 本 論 文 に お い て は ,男 性 の 装 飾 ,立 木 の 殴 打 ,地 域 的 食 材 を 振 舞 う 様 子 な ど に マ イ ナ ー・サ ブ シ ス テ ン ス と 解 釈 で き る も の が 見 出 さ れ た 。こ れ ら の 資 源 利 用 は イ ン タ ビ ュ ー 調 査 で は な く ,参 与 に よ る 観 察 か ら 記 録 さ れ た も の で あ る 。多 く の 研 究 者 が 余 儀 な く さ れ る 短 期 滞 在 ,あ る い は 結 果 の 整 序 化 が 容 易 な 構 造 的 イ ン タ ビ ュ ー に よ っ て は 見 出 せ な い ,多 く の マ イ ナ ー・サ ブ シ ス テ ン ス の 存 在 を 本 論 文 は 示 唆 し て い る 。地 域 文 化 の 固 有 性 や 社 会 性 配 慮 を 包 含 す る 資 源 管 理 研 究 に 向 け た ,資 源 利 用 の 文 化 性 に 関 わ る 情 報 の 集 積 は 今 後 の課題である。 ( 2) マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 生 産 的 使 用 価 値 生 物 資 源 の 直 接 価 値 の う ち ,市 場 を 経 由 す る 生 産 的 使 用 価 値 を 住 民 の 利 益 に 結 び つ け ,地 域 経 済 の 発 展 を 図 る 熱 帯 林 管 理 の 方 策 が 主 張 さ れ て い る( 渡 辺 , 1994)。 本 論 文 の 調 査 村 は ,商 業 地 域 と 遠 隔 で 今 日 も な お 生 活 ・ 生 計 ・ 文 化 の 多 く を 集 落 内 と 近 傍 の 植 物 資 源 に 依 拠 し て い る 。そ こ で ,研 究 は 植 物 資 源 の 自 給 的利用,すなわち市場を経由しない消費的使用価値を主眼として行なった。 調 査 の 結 果 ,過 去 自 給 的 に 利 用 さ れ て い た 燃 料 材 や 建 材 の マ ン グ ロ ー ブ 樹 木 の 中 に は ,今 日 売 買 さ れ て い る も の が あ っ た 。マ ン グ ロ ー ブ 樹 木 を 伐 採 し 販 売 す る こ と は 現 在 禁 止 さ れ て お り ,取 引 の 量 も 商 業 地 域 に 比 べ て 少 な い と 考 え ら れ る 。し か し な が ら ,現 実 に 村 人 に よ り 売 買 さ れ る マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 生 産 的 使 用 価 値 を 把 握 し ,資 源 管 理 の 研 究 要 素 に 加 え る の は 今 後 の 課 題 だと言える。 - 182 - 【謝辞】 本 論 文 の 研 究 に 当 た っ て は ,た く さ ん の 方 々 の 協 力 と 支 援 を い た だ き ま し た 。 指導教員である鈴木邦雄教授には,調査研究のアプローチから論文の取りま とめに至る各要所で,的確なご指導とご支援をいただきました。また,副指導 教員の志田基与師教授,周佐喜和教授,大野啓一教授,持田幸良教授にも貴重 なご助言をいただきました。ここに深く感謝を申し上げます。 調 査 に お い て は , 森 林 保 全 NGO の Forest Resource Environment Development and Conservation Association( ミ ャ ン マ ー )に 入 域 手 続 き や 移 動 ,宿 泊 等 の あ ら ゆ る 面 で 準 備 と 協 力 を し て い た だ き ま し た 。Ohn 事 務 局 長 と Kyin Win 氏 に は 行 政 当 局 と の 調 整 を , Win Win 氏 と Lin Htin 氏 に は 現 場 で 生 活 を 共 に し お 手 伝 い を い た だ き ま し た 。FREDA と の 円 滑 な 連 携 は ,マ ン グ ロ ー ブ 植 林 行 動 計 画 の 向 後元彦代表と須田清治事務局長,および横浜国立大学大学院に留学中であった Maung Maung Than 博 士 ( FREDA) に よ る 橋 渡 し の お か げ で す 。 関 係 者 の 皆 様 に 心 か ら 感 謝 の 意 を 表 し ま す 。 ま た , エ ー ヤ ワ デ ィ ー 管 区 副 長 官 の Win Maung 氏 , Bogalay 郡 統 括 官 の Khin Maung Shwe 氏 , Byonehmwe 島 林 務 官 の Moe Zaw 氏 ,Sein Moe 氏 ,Aye Lwin 氏 を は じ め と す る ,森 林 局 の 多 く の 職 員 の 皆 様 に も 調 査 の 便 宜 を 賜 り ま し た 。本 当 に あ り が と う ご ざ い ま し た 。村 落 調 査 で は ,Ashe Mayan 村 長 老 の 故 Aung Than 氏 に , 修 士 課 程 の 当 初 か ら ひ と か た な ら ぬ お 世 話 をいただきました。ご冥福をお祈りするとともに,深く感謝申し上げます。 研究の着想と進行については,持田幸良教授と東京情報大学の富田瑞樹博士 から,実践的なご助言とともに現地でのご指導をいただきました。ヤンゴン大 学 の Myint Aung 博 士 と Tin Tin 女 史 , Swe Swe 女 史 に は , 植 物 の 同 定 に 骨 を 折 っていいただきました。熱帯動植物の写真家でありミャンマー事情に造詣の深 い大西信吾氏には,同国森林法制度についての貴重な資料を提供していただき ま し た 。ま た ,森 林 局 の San Win 博 士 ,Maung Maung Than 博 士 ,局 次 長 の Bo Ni 氏 ,技 術 専 門 員 の Phone Htut 氏 な ど 多 く の 職 員 の 方 々 か ら も 資 料 や 文 献 の 提 供 を受けました。皆川礼子博士をはじめ,所属研究室の方々からは多くの有益な 助言をいただきました。 皆様のご協力とご支援に,深く感謝いたします。 引用・参考文献 【引 用 ・参 考 文 献 】 安 食 和 宏 . 2003. 「マングローブの利 用 」, 『マングローブ−なりたち・人 びと・みらい − (宮 城 豊 彦 ・安 食 和 宏 ・藤 本 潔 編 )』, pp. 58-90. 古 今 書 院 , 東 京 . 赤 嶺 淳 . 2005. 「 資 源 管 理 は 地 域 か ら − 地 域 環 境 主 義 の す す め 」 . 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