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ミャンマー・エーヤワディーデルタにおける マングローブ生態系の在地的

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ミャンマー・エーヤワディーデルタにおける マングローブ生態系の在地的
博士論文
ミャンマー・エーヤワディーデルタにおける
マングローブ生態系の在地的管理に関する研究
Locally appropriate management of mangrove ecosystem:
A case study in the Ayeyarwady Delta, Myanmar
国立大学法人 横浜国立大学大学院
環境情報学府
大野 勝弘
ONO, Katsuhiro
2007 年 3 月
目
次
第 2 章 先行研究と研究課題
第 1 章 序論
2.1 緒言
1.1 問題提起
2.2 生態系
1.1.1 背景
2.2.1 マングローブ生態系
1.1.2 問題の所在
2.2.2 生態系の機能と価値
1.2 研究の目的
2.3 生物資源
1.3 研究の視点
1.3.1 マングローブ生態系の特異性
2.3.1 自然資源と資源性
1.3.2 マングローブの資源性
2.3.2 生物資源の定義と特性
1.3.3 マングローブ資源管理の在地性
2.3.3 植物資源と有用植物
2.3.4 生物資源の価値
1.4 調査・研究の方法
2.4 生態学的な森林管理研究
1.4.1 生態学的手法の適用
1.4.2 民族植物学的手法の適用
2.4.1 持続可能な森林経営
1.5 論文の構成
2.4.2 森林管理の目的
1.6 研究の独自性
2.4.3 森林管理の理論
2.4.4 森林管理の技術
2.5 民族植物学的な森林管理研究
2.5.1 社会・文化性からのアプローチ
2.5.2 所有形態からのアプローチ
2.5.3 政治的競合からのアプローチ
2.6 在地的な森林資源管理
2.6.1 包括的なマネジメント
2.6.2 在地の空間
2.6.3 地域事象への適合性・順応性
2.6.4 地域住民の関与
2.7 研究課題
i
目
次
第 3 章 エーヤワディーデルタの在地性
第 4 章 マングローブの更新特性
3.1 緒言
4.1 緒言
3.2 マングローブ生態系の特異性
4.2 研究方法
3.2.1 立地環境
4.2.1 調査地
3.2.2 マングローブ植生
4.2.2 調査方法
3.3 海岸帯における在地空間
4.2.3 解析方法
4.3 結果
3.3.1 目的
3.3.2 調査方法
4.3.1 林分構造
3.3.3 結果と考察
4.3.2 個体群構造とその動態
4.3.3 代表種の耐陰性と下層植生
3.4 資源管理の歴史性
3.4.1 目的
4.3.4 萌芽力の比較
3.4.2 調査・研究方法
4.3.5 萌芽力の消長
3.4.3 結果と考察
4.3.6 冠水率と切り株の枯死
3.5 まとめ
4.3.7 株当り萌芽枝本数の時間動態
4.3.8 優勢な萌芽枝の分布動態
4.4 考察
4.4.1 林分構造
4.4.2 個体群動態
4.4.3 代表種の実生更新
4.4.4 萌芽力
4.4.5 萌芽力の消長
4.4.6 外的要因と萌芽
4.4.7 萌芽枝本数の動態
4.4.8 萌芽分布の動態
4.4.9 Heritiera fomes の萌芽更新施業
4.5 まとめ
4.5.1 Heritiera fomes 林の更新
4.5.2 Heritiera fomes の萌芽更新
ii
目
次
第 7 章 結論
第 5 章:マングローブの資源性 1
−資源的位置づけ−
5.1 緒言
7.1 緒言
5.2 研究方法
7.2 研究成果と意義
5.2.1 調査地
7.2.1 デルタ海岸帯の在地性
5.2.2 調査・解析方法
7.2.2 更新特性と施業
7.2.3 マングローブの資源性
5.3 結果
7.3 在地的なマングローブ資源管理
5.3.1 植物資源のインベントリー
7.3.1 在地性の担保
5.3.2 資源の類型化と資源ミックスの動態
7.3.2 生態学的マングローブ林管理
5.4 考察
5.4.1 植物資源と資源供給地の基本的性格
7.4 本論文の貢献
5.4.2 村落内の重層性と資源供給地の役割
7.4.1 生態学的貢献
5.4.3 資源利用の変容と人々への影響
7.4.2 民族植物学的貢献
5.5 まとめ
7.4.3 地域研究としての貢献
7.5 今後の研究課題
7.5.1 実生更新研究の課題
7.5.2 萌芽更新研究の課題
第 6 章:マングローブの資源性 2
7.5.3 資源性研究の課題
−資源化の様態と変容−
6.1 緒言
6.2 研究方法
6.2.1 調査地
謝辞
6.2.2 調査・解析方法
引用・参考文献
6.3 結果
Appendix
6.3.1 素材特性と利用
6.3.2 アクセス・利用とその動態
6.3.3 注目度の得点付け
6.4 考察
6.4.1 資源化の様態
6.4.2 資源と住民生活の変容
6.4.3 管理注目種,注目群集
6.5 まとめ
iii
iv
第1章
序論
第1章
1.1 問 題 提 起
マングローブ林は世界で最も存続が脅かされている熱帯生態系の 1 つで
あ り , 世 界 全 体 で の 消 失 面 積 は 35% を 超 え る ( Valiela et al., 2001)。 マ ン グ
ロ ー ブ 生 態 系 の 劣 化 は ,地 球 規 模 の「 環 境 」と「 社 会 ・ 経 済 」に 大 き な 負 の
影 響 を 与 え て い る 。マ ン グ ロ ー ブ 林 が 減 少 す る こ と で ,多 様 な 林 産 資 源 の 利
用 が 困 難 に な っ て い る 。マ ン グ ロ ー ブ 林 が 涵 養 す る 水 産 資 源 も 減 少 し て い る 。
高 波 に よ る 農 地 や 道 路 ,家 屋 ,さ ら に 人 命 の 被 害 が 増 加 し て い る( 向 後 , 1992)。
開 発 途 上 国 の 人 々 は , 自 然 資 源 に BHN 1 ( Basic Human Needs) の 多 く を 依
存 し て い る 。 中 で も , 開 発 か ら 取 り 残 さ れ が ち な 沿 岸 域 ( 田 中 , 1999) の 住
民は,脆弱な社会・経済的状況にあり,マングローブ生態系の劣化により,
最も深刻な影響を受ける人々である。
1.1.1 背 景
筆 者 は 2002 年 以 来 , エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の 河 口 域 を 調 査 等 で 訪 れ て き
た 。か つ て の エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ は ,バ ン グ ラ デ シ ュ の ス ン ダ ル バ ン ス や
ベ ト ナ ム の メ コ ン デ ル タ と 並 ぶ 世 界 有 数 の 大 マ ン グ ロ ー ブ 地 帯 で あ っ た( 向
後 , 1995)。地 域 の 住 民 は こ れ ま で ,森 林 自 体 の 再 生 力 の 範 囲 内 で 持 続 的 に マ
ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 生 物 資 源 を 利 用 し て き た と 考 え ら れ る 。 し か し , 20 世
紀 の 後 半 ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 面 積 は 急 速 に 減 少 し た( Sit Bo, 1992; Tin Maung
Kyi, 1992)。ま た ,残 存 す る マ ン グ ロ ー ブ 林 も 有 用 樹 種 の 減 少 や ヤ ブ 化 な ど ,
種 構 成 の 変 化 や 樹 木 サ イ ズ の 低 下 と い っ た 劣 化 が 進 ん で い る ( 向 後 , 1995;
Myint Aung, 2004)。
現在,エーヤワディー管区 2 内の保全林では伐採によるマングローブの採
集 が 禁 止 さ れ て い る 。し か し ,地 域 住 民 は 利 用 を 許 さ れ た 村 落 近 傍 の 森 林 や ,
若 齢 の 植 林 地 か ら の 収 穫 だ け で は 必 要 な 燃 料 材 や 用 材 を ま か な え ず ,保 全 林
に お い て 自 家 用 や 村 落 内 の 小 規 模 な 売 買 目 的 で の 伐 採 を 行 っ て い る 。さ ら に ,
域 外 向 け の 大 規 模 な 販 売 を 目 的 と し た 組 織 的 集 団 が ,残 存 す る 経 済 的 価 値 の
高いより大きなサイズの有用樹を盗伐している。法令はあっても現実には
様々なレベルでの伐採は続いている。
1
基本的生活要求:家庭での一定の最低個人消費を満たすために必要なものであ
り ,衣 食 住 は も と よ り ,一 定 の 家 財 道 具 ,安 全 な 飲 料 水 ,衛 生 設 備 ,公 共 輸 送 ,教
育 施 設 な ど も 含 ま れ る ( ILOの 定 義 よ り 抜 粋 )。
2
ミ ャ ン マ ー の 国 土 は , 7 つ の 管 区 ( Division) と 7 つ の 州 ( State) に 行 政 区 分 さ
れている。エーヤワディー管区は,エーヤワディーデルタの大部分を占める。
-2-
第1章
域 外 向 け の 収 奪 的 な 盗 伐 は 禁 止 さ れ る べ き で あ る が ,地 域 の 住 民 に と っ て
マ ン グ ロ ー ブ は ,現 在 で も 生 活 や 生 業 に 欠 か せ な い 資 源 で あ る 。マ ン グ ロ ー
ブ は ,燃 料 材 や 建 材 ,家 具・漁 労 具 な ど の 用 材 ,あ る い は 薬 や 食 料 な ど と し
て 利 用 さ れ て い る 。例 え ば ,複 数 の 世 代 に 渡 り 住 ま わ れ て き た 家 屋 の 柱 や 梁 ,
床 な ど に は ,長 尺・太 径 の 高 質 材 が 使 わ れ て い る 。こ の 様 な 家 屋 は 大 き く 外
観 も 優 れ て い る 上 ,転 居 の 際 に 構 造 材 が 再 利 用 さ れ る 。村 内 で 招 か れ る 食 事
に は マ ン グ ロ ー ブ の 食 材 が 使 わ れ ,村 人 は ,特 有 の 風 味 と 食 感 に 対 す る 我 々
外 部 者 の 反 応 を 楽 し ん で い る 。子 供 た ち は マ ン グ ロ ー ブ 林 に 出 か け る 父 親 に ,
マ ン グ ロ ー ブ の 果 実 を 土 産 の お や つ と し て ね だ る 。か つ て の 多 種 多 様 な マ ン
グ ロ ー ブ 林 産 物 の 採 集・利 用 に つ い て 人 々 が 語 る 様 子 は 喜 び と 誇 ら し さ に 溢
れ て い る 。な か で も こ の 地 域 の 主 要 構 成 種 で 広 大 な マ ン グ ロ ー ブ 林 を 形 成 し
て い た ( Myint Aung, 2004) Heritiera fomes は 多 用 性 が 高 く , 高 齢 者 に と っ
て は 豊 か な 森 林 に 囲 ま れ て い た 時 代 を 憧 憬 す る 象 徴 的 存 在 で あ る 。マ ン グ ロ
ー ブ は 生 活 と 生 業 を 長 期 的 に 支 え て き た 上 ,地 域 に 根 ざ し た 文 化 を 涵 養 す る
重要な資源だと考えられる。
エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 急 激 な 変 容 は ,燃 料 材 生 産
の た め の 過 剰 伐 採 と 水 田 化 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ た 。ミ ャ ン マ ー で は ,長 期
的 な 経 済 停 滞 が 続 い て い る 。電 力 と 石 油 燃 料 は 常 に 不 足 し て お り ,都 市 に お
い て も 調 理 燃 料 は 薪 炭 に 頼 ら ざ る を 得 な い 。ヤ ン ゴ ン な ど の 大 都 市 域 に 近 い
エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ は ,格 好 の 燃 料 材 供 給 地 と な り ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 過
剰 伐 採 が 加 速 し た( マ ン グ ロ ー ブ 植 林 行 動 計 画 , 2004)。ま た ,デ ル タ に お け
る人口増加が引き起こしたマングローブ林の違法な水田への土地利用転換
を ,政 府 は 黙 認 し て き た 。農 業 省 が 食 糧 増 産 を ,林 業 省 が 森 林 保 全 を そ れ ぞ
れ 唱 え る 国 家 政 策 の 不 整 合 の 中 で 生 じ た 混 乱 に よ り ,マ ン グ ロ ー ブ 林 は 消 失
し て い っ た ( 樫 尾 , 1998)。
マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 修 復 作 業 は , 1980 年 代 か ら 森 林 局 の マ ン グ ロ ー ブ
植 林 に よ り 開 始 さ れ た 。マ ン グ ロ ー ブ の 生 態 研 究 と 植 林 技 術 の 開 発 は ,植 林
地 に お け る 調 査 を 基 に 1990 代 に 進 め ら れ た 。 ま た 同 じ 時 期 に , そ れ ま で の
用 材 生 産 を 目 的 と し た 公 的 管 理 に ,住 民 の 自 立 的 な 森 林 資 源 の 管 理・利 用 を
認める住民林業の制度が加わった。
現 在 ,マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 修 復 と 管 理 は ,3 つ の 施 業 手 法 に よ り 行 な わ
れ て い る 。す な わ ち ,荒 廃 裸 地 等 に お け る マ ン グ ロ ー ブ 植 林 ,保 護 を 通 じ た
自然更新,利用価値の低い種の除間伐による劣化林の有用樹の群落への改
-3-
第1章
良 ・ 育 林 ( RIF: Regeneration Improve felling) で あ る 。
1.1.2 問 題 の 所 在
域 外 に 移 出 さ れ る 燃 料 材 や 食 糧 の 生 産 が 要 因 と な り ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル
タ の マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 破 壊 が 進 ん で い る 。生 活 や 生 業 を 維 持 す る た め の
代 替 手 段 に 乏 し い 多 く の 地 域 住 民 は ,マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 変 容 の 影 響 を 甘 受
す る 他 は な い 。マ ン グ ロ ー ブ を ,人 々 に 自 給 的 に 利 用 さ れ ,生 活 と 生 業 を 長
期 に 渡 り 維 持 し 文 化 を 継 承 す る た め の 生 物 資 源 と 認 識 し ,マ ン グ ロ ー ブ 生 態
系の修復と維持を行なうことが必要である。
( 1) 資 源 の 再 生 産 手 法 の 問 題
当 地 に お け る マ ン グ ロ ー ブ 林 修 復 の 生 態 的・技 術 的 な 知 見 は ,林 冠 を 欠 く
荒 廃 裸 地 等 へ の 植 栽 に 始 ま る 植 林 か ら 得 ら れ た も の で あ る 。ま た ,森 林 局 に
と っ て の 植 林 の 一 義 的 な 目 標 は ,早 期 の 植 被 と 成 林 で あ っ た 。そ の た め ,林
冠 の 疎 開 し た 環 境 下 で 初 期 の 伸 張 成 長 に 優 れ た Avicennia spp.や Sonneratia
apetala が 植 林 事 業 に 多 用 さ れ る よ う に な っ た 。 一 方 , 初 期 成 長 が 極 め て 遅
か っ た Heritiera fomes は ,用 材 と し て の 市 場 価 値 が 高 い ,あ る い は 地 域 の 固
有 種・優 占 種 に も 関 わ ら ず ,植 林 に 不 向 き と 判 断 さ れ た 。植 林 樹 種 と し て 注
目 を 失 っ た た め に , H. fomes の 生 態 的 な 知 見 の 集 積 は 進 ま な か っ た 。
将 来 的 に は ,住 民 の 多 様 な 資 源 へ の 要 請 や 生 態 的 に 健 全 で 安 定 し た 植 林 地
の 重 要 性 な ど に よ り ,H. fomes 植 林 地 や 自 然 林 に 近 い H. fomes の 混 交 植 林 地
が 造 成 さ れ る と 考 え ら れ る 。 ま た 現 在 ,「 保 護 を 通 じ た 自 然 更 新 」 や 「 RIF」
に よ り 修 復 が 進 め ら れ て い る H. fomes 林 に お い て は ,収 穫 と そ の 後 の 更 新 の
適切な手法が明らかになっていない。
H. fomes の 巨 木 が 広 範 囲 に 優 占 し て い た 時 代 に は ,域 外 向 け 木 材 の 保 続 的
な 収 穫 を 目 指 す 大 径 木 択 伐 が 行 わ れ て い た 。し か し な が ら ,こ の 様 な マ ン グ
ロ ー ブ 林 は 消 失 し て い る 上 ,域 内 向 け の 燃 料 材 や 用 材 生 産 を 目 的 と す る な ら
ば,これまでの手法は適用できない。
H. fomes を 中 核 と す る 植 林 地 や , 自 然 更 新 林 , RIF 林 お い て , 長 期 継 続 的
に 林 産 物 の 利 用 を 図 る に は ,新 た な 更 新 手 法 を 森 林 管 理 の プ ロ セ ス に 導 入 す
る 必 要 が あ る 。こ の 際 ,こ れ ま で の 播 種 や 再 植 林 と と も に 他 の 更 新 手 法 が あ
る と す れ ば ,収 穫 目 的 や 維 持 管 理 コ ス ト ,実 施 容 易 さ 等 に 応 じ て 選 択 と 組 み
合 わ せ が 可 能 と な る 。H. fomes の 更 新 の 条 件 や 森 林 動 態 は 不 明 で あ り ,管 理
の 基 盤 情 報 と し て ,種 ,個 体 群 あ る い は 林 分 の 更 新 メ カ ニ ズ ム の 解 明 が 課 題
-4-
第1章
となる。
( 2) 資 源 と し て の 認 識 の 問 題
マ ン グ ロ ー ブ 植 林 は ,植 被 を 回 復 し 失 わ れ た 生 態 系 の 様 々 な 機 能 の 修 復 を
図る点で重要だと言える。現在の公的管理下および住民林業による植林は,
Avicennia spp.や Sonneratia apetala な ど 早 成 の 特 定 樹 種 に よ っ て 行 な わ れ て
いる。
植 林 樹 種 の 選 択 は ,公 的 植 林 に お い て は 森 林 局 が ,住 民 林 業 に お い て は 種
苗の供給と植林技術指導を行なう森林局と住民の調整により行なわれてい
る 。森 林 局 が 取 り 扱 う 種 苗 の ほ と ん ど は 前 出 の 早 成 樹 種 で あ り ,既 知 の 植 林
技 術 や 生 態 的 知 見 の 多 く も 早 成 樹 に 関 す る も の で あ る 。植 林 手 法 が 明 ら か で
早 成 な 樹 種 を 用 い る こ と で ,林 務 官 は 植 林 面 積 の 目 標 達 成 を 図 り や す く な る 。
ま た 住 民 林 業 の 主 体 は ,植 林 地 と な る 放 棄 水 田 な ど の 土 地 を 保 有 す る 村 人 か
ら 成 る 住 民 グ ル ー プ で あ る 。グ ル ー プ に は ,換 金 用 の 木 材 生 産 を 意 図 と す る
成員もおり,収穫時期の早い早成樹植林は好都合だという事情がある。
本 来 地 域 の 人 々 は ,多 彩 な マ ン グ ロ ー ブ の 利 用 体 系 を 持 つ 。住 民 林 業 に 参
加 し て い な い 人 々 も 少 な く な い 。し た が っ て ,こ れ ま で の 限 定 的 な 樹 種 に よ
る植林は,様々な住民の資源ニーズに対応するのであろうか,あるいは生
活・生 業 の 糧 お よ び 地 域 文 化 の 源 泉 と な る 生 物 資 源 の 再 生 対 象 の 選 択 は ど う
あるべきか,といった問いが生じる。
1.2 研 究 の 目 的
研究の目的は 2 つある。
第 1 に,エーヤワディーデルタのマングローブ生態系の極相種である
Heritiera fomes 林 の 生 態 的 特 性 を 解 析 ・ 評 価 す る た め に , H. fomes 林 の 更 新
特 性 お よ び H. fomes の 萌 芽 特 性 を 明 ら か に す る こ と で あ る 。そ こ で ,H. fomes
林 の 構 造 と 動 態 ,H. fomes 切 り 株 の 形 質 と 環 境 要 因 の 萌 芽 へ の 影 響 を ,植 生
学的・林学的に調査・研究した。
第 2 に ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に お け る マ ン グ ロ ー ブ 林 管 理 の 地 域 的 な 的
確 性 を 検 証・評 価 す る た め に ,マ ン グ ロ ー ブ の 生 物 資 源 と し て の 特 性 を 明 ら
か に す る こ と で あ る 。そ こ で ,植 物 資 源 の 複 合 的 利 用 ,時 間 的・空 間 的 分 布 ,
利 害 関 係 者 間 の 利 用 差 異 な ど の 中 で マ ン グ ロ ー ブ を 位 置 づ け ,採 集・利 用 の
あり方と変容から,資源的な特性を民族植物学的に調査・研究した。
本 論 文 の 結 論 と し て こ れ ら の 研 究 成 果 か ら ,持 続 可 能 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源
-5-
第1章
管理のあり方を提示した。
1.3 研 究 の 視 点
本研究の分析・考察においては,以下の 3 点を視点とした。
1.3.1 マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 特 異 性
生 態 系 は ,動 植 物 な ど の 生 物 的 要 素 と 気 候 や 地 形 な ど の 非 生 物 的 要 素 と の
総 合 的 な シ ス テ ム で あ り ,マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 は そ の 具 体 的 姿 の 一 例 で あ る 。
一 定 の 恒 常 性 を も つ 生 態 系 に は ,立 地 の 非 生 物 的 要 因 に 適 し た ,あ る い は 耐
え ら れ る 生 物 個 体 群 の み が 生 存 し て い る( 鈴 木 , 2006)。生 物 資 源 は 具 体 的 な
素 材 と し て の 生 物 に 由 来 し て お り ,立 地 と 生 物 個 体 群 の 地 域 性・固 有 性 に 対
応 し た 生 物 資 源 の 管 理 が 必 要 で あ る 。さ ら に ,マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 特 異 性
は ,在 地 性 の 1 要 素 で も あ る 。本 論 文 に お い て は ,立 地 環 境 と 植 物 群 落 か ら
エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 特 異 性 を 示 し ,こ れ を 視 点 と
してマングローブの更新と生物資源の管理のあり方を探求した。
1.3.2 マ ン グ ロ ー ブ の 資 源 性
マ ン グ ロ ー ブ を「 地 域 住 民 に と っ て の 資 源 」と す る な ら ば ,彼 ら が 利 用 す
る 個 別 具 体 的 な 資 源 を 把 握 し た 上 で ,そ の 特 性 を 分 析 す る 必 要 性 が で て く る 。
そ の た め の 基 盤 情 報 で あ る「 植 物 資 源 研 究 の デ ー タ ベ ー ス と な る ,地 域 住 民
に よ る 種 の 認 識 と 利 用 情 報 の 収 集・整 理 ,お よ び 得 ら れ た 目 録 」を イ ン ベ ン
ト リ ー と 定 義 す る 。資 源 の 特 性 は ,植 物 そ の も の の 性 質 と ,利 用 者 側 の 要 求
と の 関 係 性 に 規 定 さ れ る 。本 論 文 で は 資 源 利 用 の 様 態 を ,植 物 の 物 理・化 学
的 性 質 に 関 係 す る 生 育 形 と 樹 体 の 部 位・器 官 に 基 づ き 考 察 し た 。ま た 資 源 へ
の 要 求 を 発 現 さ せ る 利 用 者 の ,属 性 の 差 異 に よ り ス テ ー ク ホ ル ダ ー を 区 分 し
資 源 性 を 分 析 し た 。 さ ら に ,「 複 数 の 供 給 源 ま た は 資 源 群 か ら , 生 態 環 境 と
社 会 経 済 環 境 の 制 約 の も と ,適 応 的 も し く は 戦 略 的 に 選 択 さ れ ,最 適 化 さ れ
た 資 源 の 組 み 合 わ せ 」を 資 源 ミ ッ ク ス と 定 義 し ,複 合 的 な 植 物 資 源 の 利 用 体
系におけるマングローブの位置づけを解明した。
1.3.3 マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 の 在 地 性
-6-
第1章
在 地 性 と は「 そ の 地 に 根 ざ す 出 来 事 に な じ む 。土 地 の 人 間 が ,主 体 的 に 育
ん で い け る 」 性 質 ( 安 藤 , 2001) と 説 明 さ れ る 。 在 地 性 は , 持 続 的 な マ ン グ
ローブ資源管理の本質を示すキーワードだと言える。
本 論 文 で は ,「 そ の 地 に 根 ざ す 出 来 事 」の 要 素 と し て ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源
管 理 制 度 と そ の 歴 史 性 に 着 目 し た 。森 林 の 管 理 と 所 有 の 形 態 は ,資 源 の 利 用
や 状 態 に 強 く 影 響 し , 歴 史 性 に 規 定 さ れ る ( Mather, 1990) 。 エ ー ヤ ワ デ ィ
ー デ ル タ に お け る マ ン グ ロ ー ブ 林 へ の 人 の 関 与 の 開 始 ,お よ び マ ン グ ロ ー ブ
資 源 の 管 理 と 所 有 の 変 遷 を ,現 在 の 資 源 利 用 と 状 態 に 関 係 付 け ,望 ま し い 管
理 を 考 察 し た 。 在 地 性 に お け る 主 体 で あ る ,「 土 地 の 人 間 」 に も 着 目 し た 。
村 落 社 会 に お い て は ,人 々 は 一 様 な 存 在 で な く ,そ の 人 が 置 か れ て い る 社 会
的,経済的状況によりニーズが異なる。エーヤワディーデルタにおいては,
屋 敷 地 な ど の 土 地 所 有 の 有 無 が ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 所 有 ,生 業 の 差
異 , 貧 富 と 直 結 し て い る 。「 土 地 に 対 す る 権 利 を 持 つ 村 人 」 と 「 土 地 に 対 す
る 権 利 を 持 た な い 村 人 」を ス テ ー ク ホ ル ダ ー と し て 区 分 し ,分 析 の 視 点 と し
た 。 さ ら に , 在 地 性 が 及 ぶ 地 域 と し て ,「 そ の 地 」 の で あ る 立 地 環 境 の 特 性
と ,「 土 地 の 人 間 」 の 資 源 採 集 行 動 か ら 導 か れ る 生 態 的 ・ 社 会 的 な 空 間 を 導
き出した。
1.4 調 査 ・ 研 究 の 方 法
1.4.1 生 態 学 的 手 法 の 適 用
生 態 学 は ,生 物 と そ の 環 境 を 対 象 と し ,両 者 の 関 係 の 理 解 を 目 指 し て い る 。
扱 わ れ る 生 物 の 世 界 は ,「 生 物 個 体 」, 個 体 の 集 ま り で あ る 「 個 体 群 」, 多 数
ま た は 少 数 の 個 体 群 の 集 ま り で あ る「 群 集 」の 3 つ の 階 層 で あ る( ベ ゴ ン ほ
か , 1986)。
本 論 文 に お い て は ,H. fomes を 林 冠 優 占 種 と す る マ ン グ ロ ー ブ 群 集 の 組 成 ,
構 造 ,遷 移 の あ り 方 に つ い て フ ィ ー ル ド デ ー タ を 収 集 し 分 析 を 行 な っ た 。そ
の 際 ,同 群 集 を 代 表 す る 4 樹 種 の 個 体 群 の 構 造 と 動 態 に ,生 存 ,死 亡 ,加 入
の 側 面 か ら 分 析 を 加 え 群 集 の 動 態 を 推 定 し た 。調 査・分 析 は ,基 礎 生 態 学 分
野 の 植 生 学 ,特 に 植 物 社 会 学 の 手 法 を 中 核 と し ,個 体 群 生 態 学 と 森 林 生 態 系
のギャップ動態の理論を適用した。また,優占種で管理上の注目種である
H. fomes 個 体 の 萌 芽 更 新 特 性 を ,マ ン グ ロ ー ブ 域 特 有 の 浸 水 環 境 に 着 目 し た
フ ィ ー ル ド デ ー タ の 解 析 に よ り 行 な っ た 。調 査・分 析 は ,応 用 生 態 学 の 要 素
分 野 で あ る 林 学 の 手 法 を 適 用 し た 。 得 ら れ た H. fomes 個 体 お よ び H. fomes
-7-
第1章
林( 群 集 )の 更 新 特 性 に 係 る 知 見 か ら ,H. fomes を 中 核 と す る マ ン グ ロ ー ブ
資源管理のモデルを導き出した。
1.4.2 民 族 植 物 学 的 手 法 の 適 用
民族植物学の定義については現在でも研究者間で論争があるが,例えば
「 植 物 と 伝 統 的 な 人 々 ( Traditional people) 3 と の 相 互 関 係 に ま つ わ る 全 て
の 研 究 ( Cotton, 1996)」 と さ れ て い る 。 民 族 植 物 学 の 範 囲 は 広 く , そ の 方 法
論 も 社 会 科 学 と 生 物 科 学 の 両 方 か ら 引 き 出 さ れ 多 彩 で あ る 。 Cotton( 1996)
は 民 族 植 物 学 の 一 般 的 方 法 が 依 拠 す る 領 域 と し て ,人 類 学 分 野 ,植 物 の 収 集
と分類,言語学と象徴解析を挙げている。
本論文では,エーヤワディーデルタのマングローブ域に暮らす伝統的な
人 々 の ,植 物 の 採 集・利 用 を 調 査・研 究 し て い る 。研 究 対 象 と な る 地 域 の 植
物 相 は ,文 献 お よ び フ ィ ー ル ド に お け る 植 生 調 査 に よ り 把 握 し た 。人 々 に よ
る 植 物 の 採 集 ,運 搬 ,加 工 ,利 用 の あ り 方 は ,人 類 学 分 野 の 方 法 論 で あ る イ
ン タ ビ ュ ー と 参 与 観 察 に よ り デ ー タ を 収 集 し た 。イ ン タ ビ ュ ー は ,日 常 的 会
話 ,半 構 造 的 イ ン タ ビ ュ ー ,構 造 的 イ ン タ ビ ュ ー か ら 手 法 を 選 択 し 組 合 せ た 。
植 物 種 の 同 定 に は 採 集 標 本 や 撮 影 し た 写 真 を 参 照 し ,被 面 接 者 が 描 く 植 物 図
や 地 図 を 併 用 し た 。参 与 観 察 は 村 落 民 家 に 宿 滞 在 し ,食 事 ・ 生 業 ・ 娯 楽 ・ 地
域 行 事 等 に 参 加 す る こ と で 行 な っ た 。デ ー タ の 体 系 化・序 列 化 は ,植 物 に つ
い て は 「 生 態 的 な 植 物 区 分 」,「 形 態 ・ 解 剖 学 的 な 植 物 体 の 部 位 区 分 」, 利 用
に つ い て は「 用 途 区 分 」,
「 植 物 へ の ア ク セ ス と 利 用 頻 度 の 階 級 区 分 」か ら 行
な っ た 。体 系 化 ・ 序 列 化 さ れ た デ ー タ を ,定 量 的 ・ 定 性 的 に 分 析 し ,マ ン グ
ローブの資源性,管理注目種,資源利用空間を明らかにした。
1.5 論 文 の 構 成
本 論 文 の 構 成 と 研 究 フ ロ ー を , Fig. 1.1 に 示 し た 。
3
民 族 植 物 学 研 究 で は ,Indigenous people( 在 来 の 人 々 ,先 住 民 )と Non-indigenous
peopleを 含 む 。 Traditional farmer, Rural peopleも 同 義 語 で , 伝 統 的 な 社 会 的 , 文 化
的,経済的制度の一部または全部を保持している人々と解される。
-8-
第1章
第1章:序論
問題提起,研究目的
研究方法,視点,独自性
方法論
方法論の適用
研究のフロー
第2章: 先行研究と研究課題
■概念定義
生態系/生物資源
■研究領域・方法論・研究課題
生態学的な森林管理研究
民族植物学的な森林管理研究
植生遷移
ギャップ動態
人工造林
インベントリー
価値評価
コモンズ論
ステークホルダー
在地的な森林資源管理
第3章:エーヤワディーデルタの在地性
生態系の特異性
海岸帯の在地空間
資源管理の歴史性
第5章:マングローブの資源性1
−資源的位置付け−
第4章:マングローブの更新特性
■H. fomes林の更新
林分解析
個体群動態
代表種の耐陰性
植物資源インベントリー
植物資源ミックス
第6章:マングローブの資源性2
■H. fomesの萌芽更新
萌芽力
萌芽力の消長
浸水環境と萌芽
−資源化の様態と変容−
資源化の様態と変容
管理注目種・群集の抽出
第7章:結論
成果・意義
在地的なマングローブ資源管理
貢献・課題
Fig. 1.1. 論文の構成
-9-
第1章
第 2 章 に お い て は ,本 論 文 に 関 わ る 概 念 と 先 行 研 究 を 整 理 し レ ビ ュ ー を 行
なうとともに研究課題を示した。
本 論 文 は ,マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 維 持 に 資 す る 生 物 資 源 管 理 に 関 す る 研 究
で あ る 。生 態 学 お よ び 民 族 植 物 学 的 手 法 を 用 い た 調 査 を 踏 ま え ,マ ン グ ロ ー
ブ の 資 源 性 と 在 地 性 に 着 目 し た 分 析 を 行 っ て い る 。本 章 に お い て は ,は じ め
に対象である生態系と生物資源の機能と価値についての先行研究を検証し
た 。次 に ,森 林 資 源 管 理 研 究 の 系 譜 を ,調 査・研 究 手 法 と し た 生 態 学 と 民 族
植 物 学 を 中 心 に ま と め ,資 源 管 理 研 究 に お け る 在 地 性 の 概 念 を 明 示 し た 。最
後 に ,こ れ ま で の 森 林 管 理 研 究 で は 解 明 さ れ て お ら ず ,本 論 文 で 取 り 組 ん だ
研究課題を示した。
第 3 章 に お い て ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ 海 岸 帯 の 在 地 性 を ,生 態 系 の 特 異
性,地理的空間領域,資源管理の歴史性から明らかにした。
は じ め に ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 立 地 環 境 と 植 物
群 落 を オ リ ジ ナ ル デ ー タ と 調 査 資 料 か ら 示 し ,マ ン グ ロ ー ブ が 依 拠 す る 無 機
的 環 境 と 生 物 資 源 の 素 材 と し て の マ ン グ ロ ー ブ の 特 異 性 を 示 し た 。マ ン グ ロ
ー ブ の 立 地 は ,陸 域 と 水 域 の 接 点 あ る い は 移 行 帯 と 言 え ,陸 側 お よ び 海 側 か
ら の 環 境 条 件 が マ ン グ ロ ー ブ の 分 布 を 規 定 す る 。本 章 に お い て は 陸 側 の 条 件
と し て ,デ ル タ の 地 形 ,デ ル タ を 形 成 す る 河 川 の 性 質 お よ び 河 川 の 性 質 に 影
響 す る 気 候 要 因 を ,海 側 の 条 件 と し て ,海 水 準 の 変 動 お よ び 汽 水 の 塩 分 含 量
を 取 り 上 げ た 。森 林 生 態 系 と し て の マ ン グ ロ ー ブ 林 は ,熱 帯・亜 熱 帯 の 低 湿
地 林 の 1 類 型 で あ る( 山 田 , 1986)。本 章 に お い て は マ ン グ ロ ー ブ の 特 異 性 を ,
湿 地 林 の 体 系 ,立 地 と 植 生 配 列 お よ び 群 落 体 系 か ら 捉 え ,中 核 的 な 群 落 の 優
占 種 ・ 固 有 種 Heritiera fomes の 特 徴 を 示 し た 。
次に,海岸帯における自然相・資源相・文化相を統合する在地の空間を,
現 地 調 査 デ ー タ を 統 合 し 把 握 し た 。在 地 の 空 間 は ,資 源 が 分 布 し 資 源 に 関 わ
る 人 間 活 動 が 行 わ れ る 生 態 的・社 会 的 な 空 間 的 領 域 で あ る 。本 章 に お い て は ,
村 落 周 辺 の 景 観 を 地 形 ,土 質 ,土 地 利 用 か ら 捉 え ,潮 間 帯 と よ り 上 部 の 土 地
に 生 育 し 資 源 の 素 材 と な り う る 植 物 相 を 現 地 に お い て 調 査 し た 。さ ら に ,マ
ングローブ資源へのアクセスと採集地をインタビューと踏査から把握した。
最 後 に ,在 地 性 の 要 素 で あ る マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 制 度 を ,管 理 と 所 有 の
変遷から歴史的に検証した。森林資源の所有形態の歴史的展開については,
Mather( 1990)の モ デ ル が あ る 。ま た ,生 物 資 源 を 含 め た 環 境 資 源 に つ い て
は ,コ モ ン ズ 論 に お い て 財 と し て の 特 性 分 析 や ,所 有 制 度 の 管 理 と 利 用 へ の
影 響 が 取 扱 わ れ て き た 。本 章 に お い て は ,森 林 資 源 の 管 理・所 有 に 影 響 す る
- 10 -
第1章
土 地 制 度 に も 着 目 し な が ら ,森 林 資 源 を め ぐ る 法 制 度 ,慣 習 お よ び 実 態 を 検
証 し ,現 在 の 資 源 利 用 と 森 林 の 状 態 と の 関 係 を 考 察 し た 。そ の 際 ,時 間 ス ケ
ー ル は こ れ ま で ほ と ん ど 扱 わ れ て い な い 長 期 間 に 設 定 し ,マ ン グ ロ ー ブ 林 へ
の人間の関与が始まった頃から現在までとした。
第 4 章 に お い て は ,生 態 学 的 手 法 を 適 用 し マ ン グ ロ ー ブ の 更 新 特 性 の 解 明
を 行 な っ た 。 植 物 社 会 学 的 植 生 調 査 に よ り 規 定 さ れ た
Amoora
cucullata-Heritiera fomes 群 集 ( Myint Aung, 2004) の 更 新 , お よ び 個 体 と し
て の H. fomes の 萌 芽 更 新 に 係 る オ リ ジ ナ ル な デ ー タ を 解 析・評 価 し ,施 業 に
向けた生態的な基盤情報を得た。
Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 更 新 特 性 は , 林 分 お よ び 個 体 群 の
構 造 と 動 態 ,マ ン グ ロ ー ブ の 光 特 性 の 解 明 に 基 づ い て い る 。植 物 間 の 陽 光 に
対 す る 生 存 競 争 の 結 果 ,植 物 群 落 の 時 間 経 過 に よ る 交 代・変 化( = 植 生 遷 移 )
が 起 こ る 。本 章 に お い て は ,同 群 集 の 林 分 の 植 物 社 会 学 的 手 法 に よ る 構 造 の
把 握 ,群 集 を 特 徴 付 け る 種 個 体 群 の 生 存 率・死 亡 率・加 入 率 に よ る 動 態 の 解
析 と ギ ャ ッ プ 動 態 理 論 に 基 づ く 耐 陰 性 の 解 析 か ら ,現 存 す る H. fomes 林 の 遷
移を推定した。
伐 採 後 の 樹 木 の 萌 芽 特 性 は ,林 学 的 に は 切 り 株 の 萌 芽 力 と そ の 消 長 に よ り
研 究 さ れ て き た 。一 般 に ,萌 芽 力 は 萌 芽 率 と 萌 芽 枝 本 数 に よ り ,萌 芽 力 の 消
長は伐根径および伐採高と萌芽力の関係により示される。本章においては,
H. fomes と 様 々 な マ ン グ ロ ー ブ 樹 木 の 切 り 株 萌 芽 力 の 比 較 を 行 な う と と も
に ,H. fomes の 萌 芽 力 の 消 長 を マ ン グ ロ ー ブ 域 の 浸 水 環 境 を 考 慮 し た 独 自 の
手 法 に よ り 解 析 し た 。そ の 結 果 ,H. fomes の 高 い 萌 芽 力 ,お よ び 最 高 水 位 に
よる伐採高の管理の必要性が示された。
第 5 章 お よ び 第 6 章 に お い て は ,住 民 の 資 源 ニ ー ズ と 再 生 対 象 と な る マ ン
グ ロ ー ブ 資 源 の 選 択 へ の 問 題 意 識 に 基 づ き ,マ ン グ ロ ー ブ 域 に 暮 ら す 伝 統 的
な 人 々 の 植 物 の 採 集・利 用 を 調 査 し 資 源 性 を 探 求 し た 。民 族 植 物 学 的 手 法 を
適用し,マングローブ資源を複合的な植物資源の体系,時間軸,空間分布,
利 害 関 係 者 間 の 利 用 の 差 異 ,素 材 と し て の 植 物 の 状 態 か ら 解 析 し 位 置 づ け る
こ と で ,生 活 要 求 に 適 合 す る マ ン グ ロ ー ブ 資 源 と し て ,H. fomes の 植 物 種 お
よび樹林としての重要性が示された。
第 5 章 に お い て は ,マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 と 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 比
較 分 析 に 基 づ き ,植 物 資 源 の 利 用 体 系 に お け る マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 位 置 づ け
- 11 -
第1章
を 解 明 し た 。資 源 と な る 植 物 の 種 類 や 位 置 づ け は ,利 用 者 の 生 業 や 文 化 に よ
り 異 な る こ と が 指 摘 さ れ て い る ( Cotton, 1996; 菅 , 2004) 。 デ ル タ の 森 林 生
態 系 は ,潮 汐 環 境 下 の マ ン グ ロ ー ブ 林 と 陸 域 に 区 分 す る こ と が で き ,植 物 の
種の類型もこれに対応してマングローブ林のマングローブとホームガーデ
ン の 非 マ ン グ ロ ー ブ に 区 分 で き る 。し た が っ て 本 章 に お い て は ,植 物 資 源 お
よびその供給地を 2 つにまとめ基本的な性格の分析を行なっている。また,
利 用 者 を ホ ー ム ガ ー デ ン の 保 有 の 有 無 に よ り 区 分 し ,植 物 資 源 の 価 値 を 時 間
軸 の 中 で 分 析 し た 。そ の 結 果 ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 基 本 的 性 格 は ,日 常 生 活 の
長 期 的 基 盤 と な る 資 源 供 給 地 で あ り そ の 中 核 は Heritiera fomes で あ る こ と ,
お よ び H. fomes 利 用 の 困 難 化 は ,土 地 無 し 村 民 に 特 異 的 に 生 活 の 質 の 低 下 と
家計負担の増大をもたらしたことが明らかになった。
第 6 章においては,マングローブの資源性を,地域における資源的価値,
資 源 化 の 様 態 を 通 し た マ ン グ ロ ー ブ 林 の 評 価 と そ の 変 容 の 定 量 把 握 ,資 源 化
の様態と変容に基づく管理上の注目種・注目群集の抽出を行った。人間は,
植 物 の 物 理 的・化 学 的 特 徴 を 認 識 し ,必 要 性 と 目 的 に 応 じ て 植 物 を 資 源 と し
て 利 用 し て い る ( 小 林 , 1994; Cotton, 1996) 。 本 章 に お い て は , マ ン グ ロ ー
ブ の 植 物 体 の 部 位 に よ る 用 途 の 類 型 化 ,お よ び 用 途 類 型 に 基 づ く 資 源 化 の 様
態 を 明 ら か に し た 。ま た ,資 源 化 の 時 間 的 な 動 態 を 定 量 的 に 把 握 し ,資 源 供
給地の状態および住民の生活・生業の変容を説明した。
生 物 多 様 性 保 全 の 優 先 順 位 は ,特 異 性 ,脅 威 度 ,有 用 性 等 を 基 準 に 決 定 さ
れ る ( プ リ マ ッ ク ・ 小 堀 , 1997) 。 本 章 に お い て は , 資 源 性 と 資 源 化 の 変 容
に 基 づ き ,簡 便 で 迅 速 に 資 源 を 評 価 す る 独 自 の 手 法 を 試 行 し ,管 理 上 の 注 目
種・注 目 群 集 の 抽 出 を 行 っ た 。そ の 結 果 ,多 彩 な 生 活 要 求 に 適 合 的 に 資 源 化
さ れ て い た マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 中 で ,最 も 多 用 途 で 適 合 性 の 高 い 素 材 を 提 供
し て い た の は Heritiera fomes で あ っ た こ と ,お よ び マ ン グ ロ ー ブ 林 修 復 と 保
全 に 向 け た 生 態 研 究 に お い て 注 目 す べ き 種 は Heritiera fomes を 含 む 5 種 ,群
集 は Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 と そ の 林 縁 で あ る こ と が 示 さ れ た 。
第 7 章 に お い て は ,本 論 文 の 研 究 成 果 を ま と め ,結 論 と 本 論 文 の 貢 献 ,お
よび今後の課題 を示した。研究成果は,資源管理に係るデルタの在地性,
マングローブの更新特性と施業,マングローブの資源性の 3 点から整理し,
こ の 研 究 成 果 が 持 つ 意 義 を 示 し た 。結 果 は 研 究 成 果 を 踏 ま え ,在 地 性 が 担 保
され生態的にも適合的なマングローブ資源管理の要件とモデルとして示し
た 。本 論 文 の 貢 献 は ,生 態 学 的 貢 献 ,民 族 植 物 学 的 貢 献 ,地 域 研 究 と し て の
- 12 -
第1章
貢 献 に ま と め た 。今 後 の 課 題 は ,実 生 更 新 お よ び 萌 芽 更 新 に お け る 研 究 課 題
と,マングローブの資源特性研究における課題にまとめた。
1.6 研 究 の 独 自 性
第 1 に は ,生 態 学 的 手 法 に よ り オ リ ジ ナ ル デ ー タ を 収 集 し ,マ ン グ ロ ー ブ
植物の個体群生態からマングローブ林管理の基盤情報を探求した点である。
林産物の生産や公益的機能を確保するために森林を人為的に制御し管理
を 行 な う 場 合 ,立 地・対 象 樹 種・管 理 手 法 の 適 正 な 選 択 が 要 訣 で あ る( 片 岡 ,
1992a)。 エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に お け る こ の 種 の 森 林 管 理 は , 1980 年 代 の
森 林 局 の マ ン グ ロ ー ブ 植 林 に 始 ま っ た 。 マ ン グ ロ ー ブ の 生 態 調 査 は , 1990
代 に 植 林 地 を 対 象 地 と し ,植 栽 樹 の 活 着 と 初 期 成 長 の 良 し 悪 し 調 査 を 中 核 に
進 め ら れ た 。立 地 と 対 象 樹 種 の 選 択 に つ い て 言 え ば ,こ れ ま で の 植 林 地 と 植
栽 樹 種 の 選 択 は ,立 地 の 環 境 と 樹 木 の 生 態 的 適 合 性 に は 必 ず し も 基 づ い て こ
な か っ た 。す な わ ち ,残 存 す る 親 木 の 分 布 と 量 に 規 制 さ れ る 種 苗 の 入 手・育
苗 の 難 易 や ,運 搬・植 栽 作 業 の 都 合 ,あ る い は 裸 地 的 環 境 下 に お け る 早 成 さ
な ど ,植 被 面 積 の 回 復 目 標 に 対 す る 作 業 的 効 率 が 重 視 さ れ て き た 。植 林 地 以
外 の マ ン グ ロ ー ブ の 生 態 的 知 見 は ,近 年 ま で 植 生 分 布 の 先 駆 的 な 記 載( Stamp,
1924; 1925) や 林 務 官 の 経 験 知 に 限 ら れ て い た 。 Myint Aung( 2004) は 植 物
社 会 学 的 調 査 に 基 づ き ,当 地 の マ ン グ ロ ー ブ 植 生 の 群 落 体 系 の 整 理 ,お よ び
立 地 と 群 落 の 分 布 の 関 係 付 け を 行 な っ て い る 。し か し な が ら ,森 林 の 人 為 制
御の基盤となるマングローブの個体や個体群の時間的な変動に関する知見
は,植林地における特定種の初期成長量の記録に限られている。
本 論 文 で は , 地 域 の 中 核 的 な 群 集 で あ る Amoora cucullata-Heritiera fomes
群 集 ( Myint Aung, 2004) の 林 分 に お い て , 群 集 を 特 徴 付 け る マ ン グ ロ ー ブ
4 種 を 対 象 と し て ,個 体 数 の 変 動 や 空 間 分 布 の 拡 縮 ,存 続・更 新 と い っ た 個
体群生態学的な調査・研究を行なった。各個体群の時間動態に係る知見が,
Heritiera fomes 林 の 人 為 制 御 に 応 用 さ れ る こ と に よ り マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理
に資すると言える。
ま た 本 論 文 で は ,個 体 群 の 構 造 と 動 態 に 影 響 す る 萌 芽 性 に つ い て ,H. fomes
を 対 象 に 潮 汐 の 影 響 の 解 析 を 行 な っ て い る 点 に も 独 自 性 が あ る 。陸 域 の 広 葉
樹 を 対 象 と し た 切 り 株 萌 芽 の 特 性 に つ い て は ,木 材 林 産 物 の 持 続 的 な 生 産 を
念 頭 に 林 学 に お い て 研 究 の 蓄 積 が あ り ,一 定 の 方 法 論 も 存 在 す る 。し か し な
が ら ,マ ン グ ロ ー ブ の 萌 芽 研 究 は 少 な く ,特 に 潮 汐 に よ る 浸 水 環 境 を 取 り 扱
っ た 研 究 は 見 当 た ら な い 。マ ン グ ロ ー ブ は ,特 殊 な 形 態 の 根 系 に よ り 冠 水 下
- 13 -
第1章
の 嫌 気 的 な 土 壌 に 適 応 し て お り ,萌 芽 シ ュ ー ト に と っ て も 冠 水 が ス ト レ ス と
な る と 想 定 さ れ る 。潮 汐 環 境 に お い て 樹 木 の 萌 芽 性 を 生 か し 伐 採 と 再 生 を 図
る場合,萌芽に対する浸水の影響の解析は重要である。本論文においては,
切り株の高さと浸水時の最高水位から冠水率という独自の概念を定義し,
H. fomes の 切 り 株 の 生 存 と 萌 芽 の 本 数 ,分 布 ,動 態 へ の 影 響 を 解 析 し た 。得
ら れ た 成 果 は エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の み な ら ず ,固 有 種 と し て 優 占 す る ミ ャ
ン マ ー 国 内 の 他 の 沿 岸 域 や ,イ ン ド ,バ ン グ ラ デ シ ュ な ど の ベ ン ガ ル 湾 岸 マ
ン グ ロ ー ブ 域 に お い て も ,H. fomes 林 の 再 生 と 資 源 管 理 に 資 す る も の と な る 。
第 2 に は ,マ ン グ ロ ー ブ を「 住 民 」の 資 源 と し て 明 示 的 に 扱 っ た 点 で あ る 。
多 く の 生 態 系 保 全 研 究 に お い て は ,生 態 系 の 様 々 な 機 能 と 価 値 を 提 示 し 保
全 の 意 味 や 必 要 性 を 訴 求 し て い る 。森 林 の 価 値 は ,地 域 の 人 々 か ら 外 国 に 暮
ら す 人 々 ま で ,ま た 直 接 使 用 す る こ と で 得 ら れ る 便 益 か ら 存 在 す る こ と 事 態
の 価 値 ま で ,様 々 な レ ベ ル と 広 が り に お い て 発 揮 さ れ る 。機 能 と 価 値 の 多 様
さ は 保 全 の 必 要 性 の 説 明 と な る も の の ,一 方 で 保 全 研 究 の 目 的 は 拡 散 し が ち
で あ る 。近 代 以 降 ,多 く の 国 で 森 林 は 公 的 管 理 の 下 に 置 か れ ,国 家 の 経 済 を
支 え る 資 源 と し て 取 り 扱 わ れ て き た 。ま た ,現 在 行 な わ れ て い る ほ と ん ど の
資 源 の 保 全 と 回 復 の 試 み が ,行 政 施 策 と し て 行 な わ れ て い る 現 状 が あ る 。特
に マ ン グ ロ ー ブ が 立 地 す る 熱 帯・亜 熱 帯 の 国 々 に お い て は ,政 治 体 制 や 市 民
の 政 治 参 加 の 歴 史 の 浅 さ か ら ,ト ッ プ ダ ウ ン 式 の 保 全 事 業 と な っ て い る 。ま
た 財 政 的 に は 外 国 の 支 援 を 受 け る が ,多 く の 援 助 機 関 は 国 家 機 関 を カ ウ ン タ
ー パ ー ト と し て い る 。こ れ を 前 提 と し て 行 な わ れ る ,ベ ー ス ラ イ ン 調 査 や 保
全 研 究 に お い て は ,住 民 参 加 の 程 度 が 低 く な り が ち あ る 。住 民 の 伝 統 的 な 植
物 の 利 用 や 植 物 資 源 管 理 は ,生 態 学 的 に 最 も 適 合 的 で あ る と 考 え ら れ て い る
( Cotton, 1996)。 し た が っ て ,発 言 の 機 会 が 少 な く , 保 全 研 究 ・ 保 全 活 動 の
最 後 に 名 目 的 に 置 か れ る「 地 域 住 民 」を ,積 極 的 か つ 明 示 的 に 主 役 と し て 位
置 づ け ,彼 ら に と っ て マ ン グ ロ ー ブ 資 源 が ど の 様 な 意 味 や 性 質 を 持 つ の か を
基 盤 に ,保 全 対 象 ,手 法 を 探 求 す る こ と が ,持 続 的 な 資 源 管 理 の 現 実 性 確 保
には必須となる。
本 論 文 に お い て は ,こ れ ま で の 研 究 に 多 か っ た ,他 国 や 他 地 域 に お け る 有
用 種 の 事 例 整 理 で は な く ,近 年 ま で 外 国 人 や 研 究 者 の 長 期 滞 在 や 村 落 内 で の
住 民 イ ン タ ビ ュ ー が 困 難 で あ っ た 研 究 地 域 に お い て ,植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ
ー と 採 集・利 用 の 実 態 の 記 録 を 行 な っ て い る 。特 に ,筆 者 独 自 の 現 地 人 脈 を
- 14 -
第1章
活用し,村人との信頼関係構築,行政の立会いの排除 4 ,非構造的な手法な
ど に よ り イ ン タ ビ ュ ー を 行 う こ と で ,信 頼 性 の 高 い 情 報 が 得 ら れ た と 考 え ら
れる。
第 3 には,マングローブの資源性の探求を定量的に行なった点である。
マ ン グ ロ ー ブ の 伝 統 利 用 を 民 族 誌 と し て ま と め ,そ の 価 値 を 論 ず る 研 究 は
少 な く な い ( 例 え ば , Watson, 1928; Aksornkoae, 1987; Bandaranayake, 1998;
JICA, 2005)。 し か し な が ら , こ れ ら は 利 用 情 報 の 収 集 と 記 載 を 研 究 の 中 核
と し て お り ,種 間 や 用 途 に よ る 有 用 性 の 比 較 等 は な さ れ て い な い 。民 族 植 物
学 に お け る 量 的 研 究 に は ,資 源 の 2 組 も し く は 3 組 間 の 比 較 や 順 位 付 け 研 究
が あ る が ,数 量 化 と 交 差 証 明 に 必 要 な デ ー タ 量 の 多 さ に 比 べ ,扱 わ れ る 資 源
の 数 は 少 な い ( 例 え ば , Martin, 1995)。 ま た , 環 境 経 済 学 に お い て は , 保 全
の 合 理 性 を 定 量 的 に 示 す 手 法 と し て 環 境 の 貨 幣 的 評 価 が あ り ,イ ン ド ネ シ ア
( Ruitenbeek, 1992; 1994) や ミ ャ ン マ ー ( JICA, 2005) の マ ン グ ロ ー ブ 生 態
系 に 用 い ら れ て い る 。し か し な が ら ,価 値 評 価 の 対 象 が ,木 材 資 源 ,漁 業 資
源 あ る い は 薬 用 種 と い っ た 大 き な 枠 組 と な り ,か つ 莫 大 な 貨 幣 価 値 と し て 示
さ れ る た め ,住 民 が 日 常 利 用 す る 個 々 の 資 源 の 重 要 性 と し て は 現 実 感 に 乏 し
いものとなる。
本 論 文 で は ,植 物 資 源 の 利 用 体 系 に お け る 用 途 別 の マ ン グ ロ ー ブ へ の 依 存
度 ,お よ び 個 々 の マ ン グ ロ ー ブ 種 の 保 全・管 理 上 の 要 注 目 度 を ,独 自 の 量 的
手 法 に よ り 示 し た 。資 源 と 住 民 の 関 係 を 基 盤 と し て ,比 較 的 迅 速・簡 便 に 評
価が行なえる点で,実用的かつ妥当な新規性のある試みと言える。
4
大 原 ( 2002) は ,『 農 村 調 査 の 技 術 と 方 法 ( 野 尻 ・ 細 野 , 1956)』 か ら フ ィ ー ル ド
調 査 の 心 得 を ,「 農 村 人 は 権 威 ・ 権 力 に 対 し て 屈 従 的 で あ っ て , 勢 力 者 に 迎 合 す る
傾 向 が あ る ,・・・。」,
「面接中は調査員とし被調査者のほかの第 3 者は立ち会わない
ほ う が 良 い 。」 と 引 用 し て い る 。
- 15 -
第1章
- 16 -
第2章
先行研究と研究課題
第2章
2.1 緒 言
本 論 文 は ,マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 を 維 持 す る た め の 生 物 資 源 管 理 に 関 す る 研
究 で あ る 。生 態 学 お よ び 民 族 植 物 学 的 手 法 を 用 い た オ リ ジ ナ ル な 調 査 資 料 を
踏まえて,マングローブの資源性と在地性に着目した分析を行っている。
本 章 で は ,研 究 内 容 に 係 る 概 念 の 定 義 と ,関 係 す る 学 術 領 域 の 知 見 の 整 理
を 先 行 研 究 か ら 行 い ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 に お け
る課題を示す。
2.2 生 態 系
2.2.1 マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系
生 態 系 ( Ecosystem) は , 一 定 の 空 間 に お け る す べ て の 動 物 , 植 物 お よ び
物 理 的 相 互 作 用 を 含 む も の で あ る 。単 位 空 間 内 の 生 物 体 量 が ,バ イ オ マ ス 現
存 量 あ る い は バ イ オ マ ス で あ り ,陸 域 に お い て は 植 生 が バ イ オ マ ス の 大 半 を
占 め る( Mackenzie et al., 2001)。生 態 系 の 具 体 的 姿 が 森 林 で あ り ,草 原 で あ
り , 湖 沼 で あ り , 河 川 で あ る ( 鈴 木 , 2006)。
マ ン グ ロ ー ブ と は ,熱 帯 か ら 亜 熱 帯 の 感 潮 域 に 分 布 す る 主 と し て 森 林 植 生 ,
お よ び そ れ を 構 成 す る 植 物 種 群 の 両 者 を さ す 名 称 で あ る( 田 淵 , 2003)。し た
が っ て ,マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 と は ,熱 帯・亜 熱 帯 の 感 潮 域 に お い て ,一 定 の
空 間 的 ま と ま り と し て 区 別 で き る 森 林 植 生 の 1 類 型 で あ る 。本 論 文 に お い て
は ,森 林 植 生 と 植 物 種 群 を 包 括 的 に 示 す 場 合 ,あ る い は 区 別 が 明 ら か な 場 合
に「 マ ン グ ロ ー ブ 」を 用 い ,両 者 を 特 に 区 分 し て 示 す 必 要 が あ る 場 合 に ,そ
れ ぞ れ「 マ ン グ ロ ー ブ 林 」,
「 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 」を 用 い る 。ま た ,マ ン グ ロ
ー ブ 植 物 は 特 異 性 を ど の 程 度 備 え る か で ,純 マ ン グ ロ ー ブ ,準 マ ン グ ロ ー ブ ,
従 マ ン グ ロ ー ブ 等 に 区 分 さ れ る 場 合 が あ る( 中 村・中 須 賀 1998)。本 論 文 で
は特に断りのない場合,これらを区別せず全て「マングローブ」を用いる。
2.2.2 生 態 系 の 機 能 と 価 値
De Groot et al.( 2002) は , 生 態 系 の 「 機 能 」 と 生 態 系 の 「 価 値 」 を 次 の
よ う に ま と め て い る ( Fig. 2.1)。 生 態 系 の 「 構 造 」 と 物 質 お よ び エ ネ ル ギ ー
移 動 な ど の 「 プ ロ セ ス 」 の 複 雑 性 に よ り ,「 環 境 の 制 御 」,「 生 息 地 の 提 供 」,
「 生 物 学 的 生 産 」,
「 情 報 の 源 泉 」に 集 約 さ れ る 生 態 系 の「 機 能 」が 生 じ て い
- 18 -
第2章
る ( Table 2.1)。 生 態 系 の 機 能 が , 財 と サ ー ビ ス と い う 具 体 的 な 形 で 発 揮 さ
れ ,人 間( や 他 の 生 物 )に 提 供 さ れ る と き ,人 間 は そ こ に 3 つ の タ イ プ の 価
値 を 見 い だ す 。す な わ ち ,
「 生 態 的 価 値 」,
「 社 会 文 化 的 価 値 」,そ し て「 経 済
的 価 値 」 で あ る 。 ま た , 生 態 系 の 23 の 機 能 が 示 さ れ て い る 。
生態的価値
生態系の
構造とプロセス
基盤:生態的持続性
社会文化的価値
生態系の
財とサービス
生態系の機能
基盤:公正さ,
文化の認識
総合的価値
1.制御
2.生息地
3.生産
経済的価値
4.情報
基盤:効果と効率
Fig. 2.1. 生態系機能,財,サービスの統合的評価と価値付けのためのフレームワーク
出典:De Groot et al.(2002)をもとに一部改変
Table 2.1 生態系の機能
制御
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
大気制御
気候制御
撹乱防止
水系制御
水供給
土壌保全
土壌形成
養分制御
廃棄物処理
送粉
個体群制御
生息地
生産
情報
出典:De Groot et al.(2002)から抜粋
- 19 -
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
退避地機能
保育機能
食物
原材料
遺伝子資源
医薬資源
装飾資源
審美景観
レクリエーション
文化・芸術
精神・歴史
科学・教育
第2章
2.3 生 物 資 源
2.3.1 自 然 資 源 と 資 源 性
資 源 は ,「 環 境 を 構 成 し て い る す べ て の 物 質 ( 奥 田 ・ 室 園 , 1992)」 の よ う
に,かつては有形ものとして捉えられていた。ところが,環境の質的側面,
多 様 性 ,生 態 的 調 和 ,多 目 的 利 用 ,ポ テ ン シ ャ ル な ど ,環 境 が も つ 非 物 質 的 ・
無 形 の 価 値 が 評 価 さ れ( 鈴 木 , 1998),自 然 資 源 の 概 念 に 包 含 さ れ る よ う に な
った。
Zimmerman( 1951)は ,中 立 的 な 素 材 と し て の 自 然 環 境 を ,文 化 を 背 景 と
し た 人 間 が 必 要 と 欲 求 か ら 選 択 し ,技 術 と 能 力 に よ り 入 手 し 利 用 す る こ と で ,
「 資 源 に な る 」と 指 摘 し て い る 。小 林( 1994)は ,こ の 資 源 化 を「 生 活 の 諸
般 で 意 識 さ れ た 必 要 性 と 目 的 に 応 じ た も の を 自 然 の 中 か ら 選 択 し ,相 応 の 方
法手段によって入手して,それを利用に供すること」としている。
本 論 文 に お い て は ,資 源 を こ の よ う な 人 の 望 み と 能 力 ,お よ び 環 境 の 評 価
の 間 に 存 在 す る 機 能 的 な 関 連 ( Hunker, 1964) と 捉 え , そ の 関 連 の あ り 方 や
特性を「資源性」とする。
2.3.2 生 物 資 源 の 定 義 と 特 性
大 原( 2003)は 生 物 資 源 を ,狭 義 に は「 資 源 と な る 生 物 」あ る い は「 自 然
物 の な か で 生 命 を も つ も の 」,広 義 に は「 生 物 由 来 の 資 源 」
(生物及び生物利
用 残 渣 や 資 源 化 が 可 能 な 生 物 系 廃 棄 物 − 藁 類 ,各 種 屑 粕 類 ,糞 ,尿 ,灰 ,汚
泥 ,魚 介 類 の 殻 等 々 )あ る い は「 生 物 系 資 源 」と 捉 え て い る 。ま た ,ア ン デ
ス協定
1
の Decision 391 は ,生 物 資 源 を「 遺 伝 資 源 ま た は 派 生 物 に 含 ま れ る
個 体 ,器 官 ま た は そ の 一 部 ,個 体 群 な ど ,実 質 的・潜 在 的 利 用 価 値 を 有 す る
生 物 コ ン ポ ー ネ ン ト( 三 菱 総 研 , 1999)」と 定 義 し て い る 。こ れ ら の 定 義 に お
け る 生 物 資 源 は ,生 態 系 を 構 成 す る 生 物 の 物 理 的・有 形 の 部 分 を 主 に 対 象 と
する,自然資源の部分概念だと言える。
生 物 機 能 の 特 徴 と し て ,自 己 再 生 系( 遺 伝 子 情 報 ,自 己 複 製 能 力 )と 物 質
代 謝 系( 生 命 維 持 能 力 ,高 度 の 識 別 ・ 分 離 能 力 ,高 度 の 合 成 能 力 ,生 理 ・ 生
態 学 的 ホ メ オ ス タ シ ス )が あ げ ら れ る( 大 原 , 2003)。生 物 を 基 盤 と す る 生 物
1
遺 伝 資 源 に ア ク セ ス す る 際 の 手 続 き を 定 め た 国 際 協 定( 1996 年 )。参 加 国 は ボ リ
ビア,コロンビア,エクアドル,ペルー,ベネズエラ。
- 20 -
第2章
資 源 は ,生 物 機 能 の 発 現 に よ り「 極 端 に ひ ど い 撹 乱 が な い 限 り ,そ れ 自 体 で
持 続 生 産 を 繰 り 返 し て ゆ く( 山 田 , 1999)」,
「 再 生 産 が 可 能( 奥 田・室 園 ,1992)」
な資源である。
秋 道( 1999a)は 生 物 資 源( 狭 義 )の 特 性 と し て ,更 新 性( =再 生 産 可 能 性 )
に 加 え ,歴 史・文 化 に 規 定 さ れ る 性 質 を あ げ ,前 者 の 動 植 物 側 の 条 件 と 後 者
の人間側の条件の相互作用の考慮が資源研究において必要なことを指摘し
ている。
生 物 資 源 を 中 核 と し つ つ ,そ れ を 生 む 場 を 含 め た も の は「 生 態 資 源 」と 呼
ば れ る ( 山 田 , 1999)。 生 態 資 源 は 個 体 , 種 , 群 集 , 生 育 地 ( 生 息 地 ), エ コ
シ ス テ ム な ど す べ て の「 動 植 物 資 源 」を 指 し ,広 義 に は 農 林 業 を 含 む 概 念 と
も さ れ る( 鈴 木 , 1998)。生 物 資 源 は 生 物 と し て だ け の 利 用 に と ど ま る が ,生
態 資 源 は ,景 観 的 側 面( 例 : エ コ ツ ー リ ズ ム な ど )の 潜 在 力 が 大 き く ,多 面
的 な 利 用 が 可 能 で あ る ( 山 田 , 1999; 2000) と さ れ る 。
保 全 生 物 学 に お け る「 生 物 資 源 の 価 値 分 類 」や ,環 境 経 済 学 に お け る「 生
物 資 源 の 価 値 評 価 」等 の 生 物 資 源 研 究 の 広 が り の 中 に お い て は ,生 物 系 が 作
り 出 す 無 形 の 価 値( 例:バ ー ド ウ ォ チ ン グ ,レ ク リ エ ー シ ョ ン な ど )が 生 物
資 源 に 包 摂 さ れ て い る ( McNeely et al., 1990)。 す な わ ち , 生 物 資 源 の 概 念
は拡大し,生態資源との境界が必ずしも明確でなくなっている。
本 論 文 に お い て は ,生 物 系 と 生 物 系 が 提 供 す る サ ー ビ ス が 生 む 価 値 を ふ く
め た 広 い 概 念 と し て 生 物 資 源 を 捉 え る 。ま た ,森 林 生 態 系 の 生 物 資 源 を「 森
林 資 源 」 と し , そ の 要 素 を 「 木 材 林 産 物 2 」,「 非 木 材 林 産 物 3 」,「 森 林 生 態
系 の サ ー ビ ス 」 と す る 。「 マ ン グ ロ ー ブ 資 源 」 は , マ ン グ ロ ー ブ 林 の 生 物 資
源を指す。
2.3.3 植 物 資 源 と 有 用 植 物
森 林 生 態 系 の バ イ オ マ ス の 大 半 は 植 物 で あ る こ と か ら ,森 林 資 源 や マ ン グ
ローブ資源の中核は「植物資源」であると言える。
2
木 材 林 産 物 ( Timber forest products: TFPs): FAO( 1991) に し た が い ,「 丸 太 ,
製材品,木質パネル,チップ,パルプ」とする。
3
非 木 材 林 産 物( Non timber forest products: NTFPs)
:FAO( 1991)の 定 義 か ら ,
「保
護 , レ ク リ エ ー シ ョ ン と し て の 土 地 利 用 」 を 除 く 生 産 物 に 限 定 し ,「 食 糧 , 飲 料 ,
飼料,燃料,薬品など植物性産品,獣・鳥類・魚類などからの食糧,羽毛,皮革,
蜂蜜,ラック,絹糸など動物性産品」とする。
- 21 -
第2章
植 物 資 源 の 構 成 要 素 は ,人 類 が 食 糧 ,繊 維 料 ,薬 用 ,燃 料 用 ,家 畜 な ど の
飼 料 , そ の ほ か 人 間 生 活 に 利 用 し て い る あ ら ゆ る 植 物 ( =資 源 植 物 ) で あ る
( 小 山 , 1984)。生 物 資 源 の う ち の ,植 物 と 植 物 由 来 の 資 源 の 集 合 が「 植 物 資
源 」だ と 言 え る 。小 山( 1984)に よ れ ば ,資 源 植 物 は ,現 在 用 い て い る 栽 培
植 物 そ の ほ か の 有 用 植 物 の み な ら ず ,栽 培 植 物 を 生 み 出 し た そ の 野 生 原 種 や
それらに近縁の植物まで広く包含した植物群を指す。
有 用 植 物 と は ,「 人 類 の 生 活 に 何 ら か の か た ち で 利 用 さ れ て き た 植 物 ( 堀
田 , 1989)」, あ る い は 「 人 間 が 生 活 の 用 に 役 立 て る た め 栽 培 し あ る い は 自 然
界 か ら 採 取 す る 植 物( 管 , 2004)」と さ れ て い る 。し た が っ て ,過 去 も し く は
現 在 ,地 球 上 の い ず れ か の 文 化 の 中 で 利 用 さ れ て き た 植 物 は ,す べ て 有 用 植
物である。
一 方 ,未 利 用 の 野 生 種 を「 潜 在 的 資 源 植 物 」と し て 資 源 植 物 に 含 め る 考 え
方があり,潜在的資源植物を含む,植物産業 4 に用いられる資源植物が「産
業 資 源 植 物 」 と 呼 ば れ て い る ( 小 山 ・ 中 村 , 2002)。
こ こ で ,伝 統 的 な 人 々 5 が 利 用 し た ,も し く は 利 用 し て い る 野 生 の 植 物 や ,
ホームガーデン 6 から得られる植物を「伝統的有用植物」と定義すると,資
源 植 物 の 概 念 は , Fig. 2.2 の よ う に 整 理 さ れ る 。
「 栽 培 植 物 」と は ,自 身 の 生 活 環 を 完 結 す る た め に 人 間 の 干 渉 に た よ る 植
物 を 指 す ( Cotton, 1996)。 栽 培 植 物 の 成 立 過 程 は ,「( 伝 統 的 : 引 用 者 ) 有 用
植 物 そ の も の や ,好 都 合 な 変 異 を も つ 植 物 を 選 抜 し 住 居 周 辺 に 移 植 し て 発 生
( 小 山 , 1992)」, あ る い は 「 採 取 し て 移 動 拠 点 に 食 べ 散 ら か し た 果 実 や 種 子
が発芽し根付いたものを利用し始めた原初的偶発的な栽培植物化(祖田,
1999)」な ど が 起 源 と さ れ て い る 。ま た ,栽 培 植 物 へ の 馴 化 の 過 程 に お い て ,
ホ ー ム ガ ー デ ン に お け る 「 移 植 ・ 試 験 栽 培 ・ 適 合 化 の 私 的 な 実 験 ( Ninez,
1987)」= 半 栽 培 7 が 行 な わ れ て き た と さ れ る 。一 方 ,植 物 産 業 利 用 の た め 探
4
食料,衣料品,化学品,染料,着物の繊維,建材など,われわれの生活に必要
な 植 物 製 品 を 作 る 生 産 業 ( 小 山 ・ 中 村 , 2002)。
5
民 族 植 物 学 に お い て は , Indigenous people( 邦 訳 語 は 「 先 住 民 」 ま た は 「 在 来 の
人 々 」) と Non- indigenous peopleを 含 む , 伝 統 的 な 社 会 的 , 文 化 的 , 経 済 的 制 度 の
一 部 ま た は 全 部 を 保 有 し て い る 人 々 を , 伝 統 的 な 人 々 ( Traditional people,
Traditional farmer, Rural people) と し て い る 。
6
ホ ー ム ガ ー デ ン の 定 義 は 困 難 ( Ninez, 1987) と さ れ , backyard garden, dooryard
garden, kitchen garden, home garden, household garden等 々 の 語 彙 が 存 在 す る 。こ こ で
は ,「 家 屋 周 辺 で 行 な わ れ て い る 伝 統 的 な 土 地 利 用 に よ る 非 商 業 的 ・ 自 給 的 な 生 産
システム」と仮に定義する。
7
植 物 に と っ て は 人 間 の 介 在 を 絶 対 的 に は 必 要 と し な い が 繁 殖 を 支 配・管 理 さ れ た
状 態 , も し く は 除 草 や 剪 定 等 の 活 動 で 援 助 ・ 保 護 さ れ た 状 態 ( Cotton, 1996)。
- 22 -
第2章
索 し , 選 抜 と 開 発 を 経 て 栽 培 植 物 と な る も の も あ る ( 小 山 ・ 中 村 , 2002)。
本 論 文 に お い て は ,産 業 植 物 資 源 を 研 究 対 象 と し て い な い こ と か ら ,伝 統
的 有 用 植 物 を「 有 用 植 物 」と し ,要 素 と し て の「 資 源 植 物 」を あ ら わ す 。
「有
用 植 物 」の 集 合 的 概 念 と し て「 植 物 資 源 」を 用 い る 。ま た ,
「 植 物 資 源 」は ,
「動物資源」や「工業製品」との区別を意図する場合にも用いる。
産業資源植物
有用植物
潜在的資源植物
伝統的有用植物
偶発的自生
半栽培
採集利用
選抜
半栽培
開発
選抜
探索
未利用
栽培植物
Fig. 2.2. 資源植物の概念
出所:小山・中村(2002),管(2004)をもとに筆者作成
2.3.4 生 物 資 源 の 価 値
生 命 活 動 に 支 え ら れ て 発 達 し て き た 地 球 環 境 の 豊 か さ の 象 徴 と し て ,「 生
物 多 様 性 」 と う い 概 念 が あ る ( 鈴 木 , 2006)。 国 連 環 境 開 発 会 議 ( UNCED,
1992年 /リ オ ・ デ ・ ジ ャ ネ イ ロ ) に お い て , 生 物 多 様 性 は 「 す べ て の 生 物 の
間 の 変 異 性 を 指 す も の と し ,種 内 の 多 様 性 ,種 間 の 多 様 性 ,お よ び 生 態 系 の
多 様 性 を 含 む 」と 定 義 さ れ て い る 。わ が 国 の「 新・生 物 多 様 性 国 家 戦 略( 2002
年 )」 に お い て は , 生 物 多 様 性 の 保 全 及 び 持 続 可 能 な 利 用 の 理 念 と し て , ①
人間生存の基盤,②世代を超えた安全性・効率性の基礎,③有用性の源泉,
④豊かな文化の根源,⑤予防的順応的態度(エコシステムアプローチ)の5
つ が あ げ ら れ て い る 。① ∼ ④ に 示 さ れ る よ う に ,生 物 資 源 の 価 値 の 源 泉 は「 生
物多様性」であると言える。
- 23 -
第2章
生 物 多 様 性 を ,か け が え が な く 失 わ れ て は な ら な い も の と 主 張 す る 論 理 基
盤として,生物資源の価値が分析されている。
McNeely et al.( 1990)は 生 物 資 源 の 価 値 を ,人 間 に よ っ て 直 接 利 用 も し く
は 収 穫 さ れ る「 直 接 的 価 値 」と ,環 境 シ ス テ ム や 生 態 系 サ ー ビ ス 機 能 な ど が
生 み 使 用 に よ る 減 少 の な い 「 間 接 的 価 値 」 に 区 分 し て い る ( Table 2.2)。 直
接 的 価 値 は さ ら に「 消 費 的 使 用 価 値 」と「 生 産 的 使 用 価 値 」に ,間 接 的 価 値
は「 非 消 費 的 使 用 価 値 」,
「 予 備 的 使 用 価 値 」,
「 存 在 価 値 」に そ れ ぞ れ 分 類 さ
れている
Table2.2 生物資源の価値分類
出典:鈴木(2006)から抜粋
消 費 的 使 用 価 値 は ,市 場 を 通 ら ず 地 域 で 直 接 消 費 さ れ る 生 物 資 源 の 価 値 で
あ る 。生 物 資 源 の 劣 化 や 減 少 は ,生 活 物 資 を 周 囲 の 自 然 環 境 に 依 存 す る 人 々
の暮らしを困難,不可能にさせる。
生 産 的 使 用 価 値 は ,市 場 を 通 し て 売 買 さ れ る 生 物 資 源 の 価 値 で あ る 。自 然
環 境 か ら 得 ら れ る 産 物 の う ち ,木 材 は 最 も 重 要 視 さ れ 多 く の 熱 帯 の 国 々 が 外
貨 獲 得 の た め 採 集・輸 出 さ れ て い る 。一 方 ,短 期 で 収 穫 可 能 な 木 材 以 外 の 森
林生産物の価値は,森林を維持する強い経済的正当性を与えている。
非消費的使用価値は,生物資源が提供する多岐にわたる環境サービスで,
使 用・利 用 す る こ と に よ っ て 直 接 減 少 し な い も の で あ る 。多 く の 消 費 的 使 用
価値は,経済的に評価し価格として示しにくいとされている。
予 備 的 使 用 価 値 は ,将 来 人 間 社 会 に 経 済 的 な 利 益 を も た ら す 可 能 性 を 意 味
し て お り ,潜 在 的 使 用 価 値 と も 呼 ば れ る 。未 利 用 の 動 植 物 に は ,将 来 の 医 薬 ,
- 24 -
第2章
食 料 ,飼 料 等 の 可 能 性 が あ り ,未 記 載 の 生 物 の 情 報 収 集・整 理・管 理 と 絶 滅 ・
消失の回避が重要となる。
存 在 価 値 は ,人 間 の 利 用・利 害 と は 視 点 を 異 に す る ,自 然 自 体 の 尊 さ で あ
る 。経 済 的 価 値 を 超 越 し た 精 神 的・審 美 的 価 値 ,す べ て の 種 が 持 つ 生 存 権 な
ど を 認 め る こ と で で て く る 倫 理 的 な 価 値 で あ る( プ リ マ ッ ク・小 堀 , 1997; 鈴
木 , 2006)。
2.4 生 態 学 的 な 森 林 管 理 研 究
種 の 絶 滅 防 止 の 方 策 開 発 を 目 的 と し た ,統 合 的 な 学 問 分 野 で あ る 保 全 生 物
学 に お い て は ,生 態 学 ,進 化 生 物 学 ,分 類 学 等 が 中 心 的 な 学 問 原 理 と し て あ
げ ら れ る( プ リ マ ッ ク・小 堀 , 1997)。生 態 学 の 視 点 か ら ,植 物 群 落 あ る い は
植 物 個 体 群 を 調 査 研 究 す る の が「 植 生 学 」で あ る 。植 生 学 は ,植 物 群 落 の 機
能と構造,群落分類体系,立地環境との関係の他に,造林などの応用生態,
あ る い は 人 間 活 動 と 植 生 の 関 係 や 植 生 復 元 等 も 対 象 領 域 と す る( 鈴 木 , 2003)。
一 方 ,森 林 を 応 用 的 に 扱 い ,森 林 資 源 の 保 続 的 な 利 用 の 理 論 と 技 術 の 追 及
を 中 心 課 題 と し て き た 学 問 分 野 が「 林 学 」で あ る 。植 生 学 と 林 学 は ,と も に
生 物 と し て の 樹 木 の 生 理・生 態 ,お よ び 立 地 と し て の 地 形・地 質・土 壌 な ど ,
共 通 の 自 然 科 学 的 な 原 理 に 依 拠 し つ つ ,基 礎 的 側 面 と 応 用 的 側 面 を そ れ ぞ れ
中心に扱う生態学の要素分野である。
2.4.1 持 続 可 能 な 森 林 管 理
林 学 に は , 恒 続 林 ( sustained forest) や 保 続 ( sustainable management) と
い う 用 語 が あ る 。恒 続 林 と は ,階 層 を 構 成 す る 樹 木・植 物 ,土 壌 中 の 微 生 物 ,
および生息動物などの有機的関係の健全な調和により森林は維持されると
の 考 え か ら ,林 地 の 保 護 的 側 面 を 重 視 し つ つ 長 期 継 続 的 な 木 材 の 収 穫 が 行 な
わ れ て い る 森 林 で あ る( 森 林・林 業・木 材 辞 典 編 集 委 員 会 , 1993)。ま た 保 続
と は ,一 定 地 域 の 森 林 か ら ,毎 年 一 定 の 木 材 を 永 年 に わ た り 収 穫 し 続 け る 概
念 で あ る 。林 学 に お け る こ れ ら の 思 想・手 法 ,概 念 は ,現 在 盛 ん に 用 い ら れ
る「 持 続 的 と か 持 続 可 能 な 」と い っ た 言 葉 の 先 駆 を な し て い る( 沼 田 , 1994)。
持 続 可 能 な 森 林 管 理 の 概 念 は ,18 世 紀 後 半 の ド イ ツ に お い て 成 立 し た「 森
林 経 理 学 」 に お け る 保 続 原 則 に も 見 ら れ る 。 す な わ ち ,「 森 林 経 営 は , 人 類
社 会 の 要 望 に 対 応 し て 」, 森 林 の 持 つ 機 能 を 永 続 的 ・ 均 等 的 ・ 恒 常 的 に 活 用
するように,その運営に努めなければならないという原則」である(増谷,
- 25 -
第2章
2002)。
林 学 に お け る 恒 続 林 や 保 続 概 念 は , 1992 年 の 国 連 環 境 開 発 会 議 ( United
nations Conference on Environment and Development, UNCED / リ オ ・ デ ・ ジ
ャ ネ イ ロ )を 契 機 と し て ,持 続 可 能 な 森 林 管 理 と し て 広 く 一 般 化 し た 。採 択
さ れ た 「 森 林 原 則 声 明 」 に お け る , 持 続 可 能 な 森 林 管 理 の 定 義 は ,「 森 林 資
源 お よ び 林 地 は ,現 在 お よ び 将 来 の 人 々 の 社 会 的 ,経 済 的 ,生 態 的 ,文 化 的 ,
精 神 的 な ニ ー ズ を 満 た す た め に 持 続 的 に 経 営 さ れ る べ き で あ る 。こ れ ら の ニ
ー ズ は ,木 材 ,木 製 品 ,水 ,食 料 ,飼 料 ,医 薬 品 ,燃 料 ,住 居 ,雇 用 ,余 暇 ,
野 生 生 物 の 生 息 地 ,景 観 の 多 様 性 ,炭 素 の 吸 収 源・貯 蔵 庫 と い っ た 森 林 生 産
物 お よ び サ ー ビ ス を 対 象 と す る も の で あ る 。( 増 谷 , 2002)」 と さ れ て い る 。
2.4.2 森 林 管 理 の 目 的
森 林 生 態 系 管 理 の 高 い 目 標 は ,生 物 多 様 性 の 保 全 ,土 保 全 ,水 源 涵 養 ,炭
素 循 環 へ の 寄 与 ,木 材 生 産 ,保 健 文 化 な ど の 機 能 を い か に 持 続 的 に 発 揮 さ せ
て い く か に あ る( 藤 森 , 2003)。森 林 の 林 産 物 生 産 機 能 あ る い は 公 益 的 機 能 を
確 保 す る こ と を 目 的 と し て ,森 林 の 造 成 と 健 全 な 保 育 を は か る こ と が ,林 学
に お け る 造 林 で あ る 。造 林 目 的 の う ち ,前 者 を 主 目 的 と し て 投 資 に 対 す る 利
潤 を 追 求 す る も の が 「 産 業 造 林 」, 後 者 を 主 目 的 と し て 森 林 の 環 境 形 作 用 に
よ り 目 的 の 機 能 を 導 く も の が 「 環 境 造 林 」 と 呼 称 さ れ る ( 片 岡 , 1992a)。
近 年 ,「 非 木 材 生 産 物 」 の 生 産 を 主 目 的 と し た 森 林 の 維 持 ・ 再 生 の 意 義 が
論 じ ら れ て い る 。森 林 産 物 と し て 木 材 が 目 的 で な く ,幹 以 外 の 部 分 や 林 内 の
植物,あるいは森林に生息する動物などの利用を主目的とする管理である。
こ の よ う な 管 理 の 優 れ た 点 と し て ,木 材 の 切 り 出 し が 少 な い こ と で 森 林 の 相
観 や 構 造 が 維 持 さ れ る た め ,環 境 保 全 機 能 と 公 益 的 機 能 が 発 揮 さ れ る こ と が
指 摘 で き る 。社 会 林 業 に お い て は ,住 民 の 暮 ら し が 依 拠 す る 森 林 の 多 面 的 機
能 を 維 持 し な が ら ,木 材 と 非 木 材 か ら あ げ ら れ る 収 益 を 直 接 住 民 に 還 元 す る
こ と が 期 待 で き る ( 渡 辺 , 1994)。
2.4.3 森 林 管 理 の 理 論
造林の基盤となる植生学的な主要な理論は,
「 植 生 8 遷 移 」と「 ギ ャ ッ プ 動
8
「 植 生 」 と は , 植 物 集 団 を 全 体 的 に 漠 然 と 指 す 言 葉 で あ る ( 片 岡 , 1992b)。
- 26 -
第2章
態 」, お よ び こ れ ら に 関 係 す る 「 樹 木 の 耐 陰 性 」 で あ る 。
( 1) 植 生 遷 移
ある一定の土地に生えている植物群落 9 が,時間の経過とともに交代して
変 わ っ て ゆ く こ と を 遷 移 と 言 う ( Clements, 1916; 倉 内 , 1969)。 典 型 的 な 植
生 遷 移 は , Fig. 2.3 に 示 さ れ る 何 ら か の 原 因 に よ り 生 じ た 裸 地 に 1 年 生 草 本
が 出 現 し ,や が て よ り 高 茎 な 陽 性 植 物 へ と 順 次 入 れ 替 わ り ,最 終 的 に 陰 樹 性
高 木 植 生 へ と 移 り 変 わ る 過 程 で あ る 。遷 移 過 程 の 一 連 の 植 生 配 列 は 遷 移 系 列
と い わ れ ,先 駆 群 落 は 始 相 ,遷 移 途 上 群 落 は 途 中 相 ,極 相 群 落 は 極 相 と そ れ
ぞ れ 呼 ば れ る 。一 般 に 極 相 林 は ,気 候 的 環 境 条 件 の 影 響 を 強 く 受 け て い る と
さ れ る ( Clements, 1916; 片 岡 , 1992b)。
裸
地
先駆群落
1年生草本群落
多年生草本群落
遷移途上群落
陽性低木群落
陽性中高木群落
耐陰性高木群落
極相群落
Fig. 2.3. 植生遷移系列の模式図
出典:片岡(1992b)から抜粋
植生遷移の起因は植生自身の環境形成作用と生存競争にあるとされる
( Tansley, 1920; 1935)。 は じ め に , 貧 栄 養 の 裸 地 に お い て 生 活 史 を 全 う で き
る 1 年 生 草 本 植 物 の 世 代 交 代 に よ り 富 栄 養 化 が 進 み ,大 型 植 物 が 繁 茂 で き る
立 地 が 形 成 さ れ る 。続 い て 植 物 間 の 陽 光 に 対 す る 生 存 競 争 の 結 果 ,陽 性 で よ
り 高 茎 な 植 物 に 交 代 し て ゆ く が ,植 物 の 高 さ に は 限 界 が あ り ,最 終 的 に は 幼
9
「植物群落」とは,植物集団をなんらかの基準により類型化し,植物共同体と
し て 単 位 付 け る と き 用 い る 言 葉 で あ る ( 片 岡 , 1992b)。
- 27 -
第2章
時において閉鎖された陽性高木植生の被陰に耐えられる陰樹性高木植生の
段 階 に 達 す る ( 片 岡 , 1992b)。
遷 移 現 象 は ,出 発 点 と な る 立 地( 環 境 条 件 )や 遷 移 の 方 向 に よ り 類 型 化 さ
れている。
そ れ ま で 植 物 が ま っ た く 存 在 し な か っ た 裸 地 か ら の 遷 移 が 「 1 次 遷 移 」,
植 物 群 落 が ,火 事 ,病 害 虫 ,風 水 害 ,人 間 の 働 き な ど で 取 り 除 か れ た と こ ろ
にみられる遷移が「2 次遷移」である。2 次遷移は,既存植生の種子(埋土
種 子 )や 地 下 茎 ,根 な ど が 土 中 に 残 存 す る こ と ,お よ び 土 壌 条 件 が よ り 良 い
こ と に よ り , 1 次 遷 移 と 比 較 し て 早 く 進 行 す る ( 倉 内 , 1969)。
主 と し て 気 候 条 件 に 影 響 さ れ , 一 定 の 終 局 群 落 ( =極 相 ) に 向 か っ て 進 む
方 向 の 遷 移 は 「 進 行 遷 移 」, 放 牧 や 草 刈 な ど の 人 為 干 渉 が 反 復 ・ 継 続 す る こ
と で ,極 相 か ら 逆 の 方 向 に 向 か う 場 合 は「 退 行 遷 移 」と 呼 ば れ る 。ま た ,人
為 に よ り 進 行 と も 退 行 と も 異 な る 過 程 へ と 進 む 遷 移 は「 偏 向 遷 移 」と 呼 ば れ
る( 宮 脇 , 1970)。ま た ,人 為 の 影 響 に よ り ,立 地 本 来 の 自 然 植 生 が 様 々 な 人
為 植 生 に 置 き 代 わ っ た も の が , 代 償 植 生 で あ る ( 沼 田 , 1974)。
植 物 群 落 内 に み ら れ る 葉 層 の 成 層 構 造 は「 階 層 構 造 」と 呼 ば れ( 沼 田 , 1974),
森林では通常下層から,コケ層,草本層,低木層,亜高木層,高木層の 5
つ に 区 分 す る 。発 達 初 期 の 草 原 は 草 本 層 ま で で あ る が ,遷 移 の 進 行 に よ り 多
層 化 し 複 雑 さ を 増 す ( 倉 内 , 1969)。
( 2) ギ ャ ッ プ 動 態
小 さ な 空 間 的 ス ケ ー ル に お い て 見 ら れ る 2 次 遷 移 の 過 程 は ,森 林 自 身 の 維
持 機 能 の 発 現 と 捉 え ら れ る 。林 冠 層 を 構 成 す る 個 体 が ,撹 乱
10
や老熟による
枯 死 な ど で 失 わ れ 形 成 さ れ た 欠 所 部 を「 ギ ャ ッ プ( =林 冠 欠 所 ,疎 開 穴 )」と
呼 ぶ 。一 般 的 に 林 冠 木 の 交 代 は ,森 林 全 体 を 破 壊 す る よ う な 大 規 模 な 撹 乱 の
再 来 間 隔 が そ の 森 林 の 成 熟 期 間 よ り も 長 い 森 林 に お い て は ,ギ ャ ッ プ の 形 成
と そ こ で の 1 本 か ら 数 本 の 林 冠 木 の 単 位 で 起 こ っ て い る( 山 本 , 2003)。森 林
の維持機構として重要なこの過程を「ギャップ動態」と呼ぶ。
ギ ャ ッ プ の 形 成 は ,自 然 要 因 に よ る 枯 死 ,倒 壊 に 限 ら ず ,人 為 的 な 伐 採 に
よっても引き起こされる。
10
撹乱とは「群集・生態系の属性を,通常のあるいは恒常的な変動から逸脱させ
る も の ( Godrom and Forman, 1983)」 と 定 義 さ れ て い る 。
- 28 -
第2章
ギ ャ ッ プ 形 成 後 の 植 生 動 態 の 出 発 点 の 1 つ は ,ギ ャ ッ プ 内 お よ び 周 辺 の 残
存 上 層 木 か ら の 種 子 の 雨 ( seed rain), も し く は , 土 壌 中 に 残 存 す る 埋 土 種
子( seed bank)を 起 源 と す る ,種 子 の 発 芽 ,実 生 の 発 生 で あ る 。ま た ,林 内
下 層 に お い て は ,次 世 代 の 上 層 林 木 と な る 可 能 性 を も つ 幼 樹( =前 生 樹 )が ,
発 生・生 育・消 滅 し な が ら 低 木 の 個 体 群 を 形 成 し て い る 場 合 が あ る 。ギ ャ ッ
プ 動 態 の 起 点 と し て ,前 生 樹 の 成 長 に よ る ギ ャ ッ プ の 修 復 が あ り ,待 機 す る
低 木 性 の 幼 樹 群 を 稚 樹 バ ン ク と 呼 ぶ( 荻 野 , 1989)。ま た ,ギ ャ ッ プ の 形 成 木
自 身 の 萌 芽 に よ り ギ ャ ッ プ を 修 復 す る こ と が あ り ,熱 帯 林 の い く つ か の 樹 種
や 本 邦 の イ ヌ ブ ナ な ど が 報 告 さ れ て い る ( 山 本 , 2003)。
( 3) 樹 木 の 耐 陰 性 と ギ ャ ッ プ 動 態
光 は ,植 物 が 奪 い 合 う 環 境 要 因 の う ち 最 も 競 争 に 関 係 し( 藤 森 , 1994),熱
帯地域における更新を左右する稚樹の成長に重要な因子である(佐々木,
1994)。耐 陰 性( shade tolerance)と は ,閉 鎖 林 の 林 床 な ど の 弱 光 環 境 へ の 耐
性 で あ る 。幼 時 の 耐 陰 性 が 高 く ,弱 光 下 で 良 好 な 発 芽 ,林 床 で の 緩 や か で あ
る が 健 全 な 生 育 を す る 樹 木 を 「 陰 樹 ( shade tree, shade tolerant tree)」, 幼 時
の 耐 陰 性 が 低 く , 陽 光 下 で 発 芽 し , 早 成 な 樹 木 を 「 陽 樹 ( shade tree, shade
intolerant tree)」 と 呼 ぶ 。 陰 地 で の み 健 全 に 生 育 し , 強 光 条 件 化 で 生 育 が 阻
害 さ れ る「 絶 対 陰 性 植 物 」と ,幼 時 の 耐 陰 性 が 高 く 一 定 成 長 後 は 強 光 下 で よ
く 生 育 す る「 条 件 的 陰 性 植 物 」が あ る 。森 林 の 下 草 や 低 木 層 を 形 成 す る も の
に は 前 者 が 多 く ,極 相 林 に お い て 高 木 層 を 形 成 す る 樹 木 に は 後 者 が 多 い( 沼
田 , 1974; 清 水 , 2001; 中 山 , 2005)。
ギ ャ ッ プ 内 の 光 環 境 は ,周 囲 の 閉 鎖 林 冠 下 に 比 べ て 相 対 的 に 明 る い 。大 き
な ギ ャ ッ プ 11 で は 陽 樹 が 生 存 ・ 生 育 可 能 で あ る が , 小 さ な ギ ャ ッ プ 11 で は
耐 陰 性 の 高 い 陰 樹 の み し か 生 存・生 育 で き な い 。林 冠 部 の 単 木 的 な 欠 損 な ど
小さな疎開部は,条件的陰樹の前生樹により修復されることが多い(山本,
2003)。 一 般 に 耐 陰 性 が 低 い 先 駆 種 は , 林 冠 が 大 き く 疎 開 し た 場 所 で 遷 移 の
初期に群落を形成する。
( 4) 個 体 群 と 個 体 群 の 動 態
様 々 な 種 の 個 体 群 が ,一 定 の 区 域 に 集 ま っ て 生 育 し て い る 姿 が 群 落 で あ る
( 沼 田 , 1969)。植 生 の 遷 移 は ,植 物 群 落 の 時 間 の 経 過 に よ る 交 代 で あ り ,遷
11
ギ ャ ッ プ と し て 通 常 扱 わ れ る の は 5 m 2 ∼ 0.1 ha程 度 の 欠 所 部 で あ る ( 山 本 ,
2003)。
- 29 -
第2章
移の実態は群落を構成する個体群の交代と個体群の大きさの変動だと言え
る 。 個 体 群 の 大 き さ と は ,あ る 区 域 内 の 個 体 の 総 数 の こ と で あ る( Mackenzie
et al., 2001)。 ま た , 個 体 群 の 大 き さ の 変 動 , す な わ ち 個 体 群 の 動 態 を 捉 え
る た め に ,個 体 群 の 齢 構 成 や 生 存 率 ,死 亡 率 ,成 長 率 と い っ た 個 体 群 の 属 性
が 分 析 さ れ る 。齢 構 成 は ,そ れ ぞ れ の 齢 階 級 の 個 体 数 比 率 で あ る が ,植 物 個
体 は 同 齢 同 種 の 個 体 間 で サ イ ズ が 異 な る こ と が あ り ,樹 木 の 場 合 胸 高 直 径 の
径 階 級 が 生 態 的 な 尺 度 と な る ( Mackenzie et al., 2001)。
2.4.4 森 林 管 理 の 技 術
造 林 手 法 は ,種 苗 等 の 造 林 材 料 や 人 手 の か け 方 の 違 い に よ り ,
「人工造林」
と「 天 然 更 新( =天 然 造 林 )」に 区 分 さ れ る 。熱 帯 林 の 保 全 ,修 復 ,再 生 の 林
学 的 な 手 段 に は ,天 然 林 択 伐 跡 地 の 天 然 更 新 や 樹 下 植 栽 ,荒 廃 2 次 林 の 改 良
を 目 指 し た パ ッ チ プ ラ ン テ ィ ン グ ,荒 廃 地 や 伐 採 跡 地 に お け る 早 成 樹 の 産 業
植 林 や 環 境 造 林 な ど が あ げ ら れ る ( 森 , 1996)。
( 1) 人 工 造 林
人 工 造 林 と は , 植 栽 , 枝 や 根 に よ る 分 殖 造 林 , 播 種 な ど , 造 林 材 料 ( =繁
殖 材 料 )を 持 ち 込 ん で そ の 育 成・成 林 を 図 り ,所 定 の 場 所 に 目 的 と す る 森 林
を つ く る こ と で あ る 。よ そ の 土 地 の 樹 種 や ,優 れ た 形 質 の 系 統 の 導 入 も 可 能
で,適切な技術を用いることで,容易,迅速かつ確実な手法となる(川名,
1992)。 人 工 林 の 造 成 に つ い て は , 生 物 の 種 多 様 性 が 十 分 に 保 て な い こ と な
どから批判がある。一方で,荒廃地における森林再生による森林の土壌保
全・理 水 機 能
12
の 回 復 は 急 務 で あ り ,人 工 林 か ら の 木 材 供 給 が ,残 存 す る 森
林 に 対 す る 人 為 圧 を 緩 和 す る こ と に な る ( 渡 辺 , 1992)。
( 2) 天 然 更 新
天 然 更 新 と は ,人 為 的 に 苗 木 な ど の 造 林 材 料 を 外 部 か ら 持 ち 込 む こ と な く ,
樹 木 の も つ 繁 殖 機 能 を 利 用 し て 後 継 樹 を 生 育 さ せ ,林 木 の 世 代 交 代 を 行 な う
こ と で あ る 。 具 体 的 に は , 散 布 さ れ る 種 子 の 発 芽 に よ る 「 天 然 下 種 更 新 」,
切り株や根系からの萌芽
13
に よ る「 萌 芽 更 新 」,伏 条
12
14
か ら の 発 根 に よ る「 伏
理水とは,河川の流量を調節することである。森林による降雨の遮断作用や,
森 林 土 壌 の 浸 透 を 促 進 す る 作 用 な ど も 含 め た 森 林 の 機 能 を ,総 体 的 に 森 林 の 理 水 機
能 と い う ( 竹 下 , 1990)。
13
開芽・成長の不適期後の新シーズンにも皮層に埋没している極めて成長が抑制
- 30 -
第2章
条 更 新 」な ど で あ る 。天 然 更 新 の 最 大 の 利 点 は ,伐 採 作 業 が 更 新 作 業 と 直 結
し て お り ,ま た そ の た め に( 管 理 )作 業 費 用 が 人 工 造 林 よ り 非 常 に 軽 減 さ れ
る た め 実 行 が 容 易 で あ る こ と で あ る ( 片 岡 , 1992c)。
天 然 下 種 更 新 は ,更 新 の た め の 伐 採( 更 新 伐 )に よ り 生 じ る 森 林 内 の 疎 開
部 分 に お い て , 既 存 の 稚 幼 樹 や 新 た な 実 生 が 生 育 し 後 継 樹 と な る ,「 ギ ャ ッ
プ 更 新 」で あ る 。天 然 下 種 更 新 の 方 法 は ,更 新 伐 の 方 法 や ギ ャ ッ プ の 面 積 ・
形 状・配 置 な ど に よ り 多 様 で あ る 。東 南 ア ジ ア の チ ー ク 林 に お い て は ,林 分
の 状 態 を 大 き く 変 化 さ せ ず ,連 続 的 に 次 世 代 の 樹 木 を 育 成 さ せ 持 続 的 な 維 持
管 理 が 期 待 で き る「 択 伐( 天 然 下 種 )更 新 」が 行 な わ れ て き た( 片 岡 , 1992c)。
萌 芽 更 新 は ,切 り 株 か ら 出 芽 す る 萌 芽 枝 を 育 て て 次 世 代 の 樹 木・森 林 を 仕
立てる手法で,作業の簡易性,更新の確実性,低コスト,初期成長の早さ,
通 直 な 幹 が 得 ら れ る な ど 施 業 上 の 利 点 に 加 え ,根 系 維 持 に よ る 土 壌 流 亡 の 阻
止 な ど 環 境 的 視 点 か ら も 優 れ る 手 法 と さ れ る( 浅 川 , 1999)。伐 採 後 の 切 り 株
か ら の 萌 芽 更 新 に 関 す る 研 究 が ,施 業 法 の 改 善 に よ る 持 続・計 画 的 な 生 産 を
目 指 し て , 数 多 く 行 わ れ て き た ( 三 善 , 1956; 伊 藤 1996)。 親 木 の サ イ ズ や
樹 齢 ,伐 採 高 ,伐 採 時 期 な ど の 相 違 に よ る ,伐 採 後 初 期 の 萌 芽 力 の 評 価( 淺
川 , 1939; 三 善 , 1956; 中 村 , 1988; Dan 2000) や , 萌 芽 が 生 じ る 高 さ ( 田 中 ,
1976; 玉 泉 , 1988 ), 萌 芽 の 成 長 と 消 長 ( 田 中 , 1989 ), 萌 芽 間 競 争 ( 嶋 ほ
か ,1989), 萌 芽 の 生 理 機 構 ( 橋 詰 ・ 今 村 , 1985) な ど で あ る 。 森 林 経 営 を 念
頭 に し た 研 究 の 他 に ,萌 芽 の 生 態 は 資 源 配 分 と 生 活 史 戦 略 か ら 説 明 さ れ 類 型
化 さ れ て い る ( Sakai et al., 1995; 酒 井 , 1997)。
( 3) 熱 帯 林 の 再 生 ・ 修 復
破 壊 さ れ た 熱 帯 林 跡 地 の 状 態 は ,劣 化 林 が 残 存 ,2 次 林 が 成 立 ,森 林 が 消
失 の 3 つ に 区 分 さ れ ,再 生・修 復 手 法 が 説 明 さ れ て い る( 小 島・鈴 木 , 2004)。
劣 化 し た 熱 帯 林 に お け る 産 業 造 林 で は ,ギ ャ ッ プ へ の 有 用 樹 の 保 育 が 図 ら
れ る 。こ の 際 ,有 用 樹 の 定 着 ・ 成 長 を 阻 害 す る 雑 草 木 の「 下 刈 り 」や「 つ る
切 り 」, 光 環 境 を 有 用 稚 樹 に 適 合 さ せ る 上 木 の 伐 採 が 行 な わ れ る 。 周 囲 に 母
さ れ た 腋 芽 由 来 の シ ュ ー ト( 抑 制 芽 ,潜 伏 芽 )か ら ,も し く は 不 定 芽 か ら 伸 張 し た
シ ュ ー ト ( 伊 藤 , 1996; 清 水 ,2001; 他 )。
14
小径木や稚樹の下部の枝が,下垂または匍匐すること。地面に接触または埋も
れ て い る と , そ の 部 分 か ら 発 根 し て 独 立 し た 個 体 と な る ( 那 須 , 2003)。
- 31 -
第2章
樹 が な く 天 然 下 種 が 期 待 で き な い 場 合 , ギ ャ ッ プ へ の 苗 木 の 植 栽 ( gap
planting) が 図 ら れ る ( 小 島 ・ 鈴 木 , 2004)。
熱 帯 の 伐 採 跡 地 や 放 棄 耕 作 地 に は ,先 駆 性 樹 種 を 中 心 と し た 雑 草 木 が 繁 茂
す る ヤ ブ 状 の 2 次 林 が 成 立 し や す い 。主 と し て 光 環 境 が 不 適 な た め ,有 用 種
の 後 継 樹 の 定 着 が 望 め な い こ と か ら ,不 要 な 上 木 や 競 合 す る 植 生 の 除 去 が 行
な わ れ る 。劣 化 林 と 同 様 に ,周 囲 に 母 樹 が な く 天 然 下 種 が 期 待 で き な い 場 合 ,
2 次 林 を 伐 採 し 植 栽 が 図 ら れ る ( 小 島 ・ 鈴 木 , 2004)。 2 次 林 の 皆 伐 は , 表 土
の 流 亡 に よ る 地 力 の 低 下 や ,直 射 日 光 に よ る 阻 害 な ど を 招 き や す く ,樹 下 植
栽 ( under planting), 列 状 植 栽 ( line planting), ギ ャ ッ プ 植 栽 な ど が 適 宜 用
い ら れ る ( 浅 川 , 1999)。
裸 地 的 環 境 に は 母 樹 が な い 上 ,庇 陰 が 期 待 で き る 樹 木 も な い た め ,人 工 造
林 が 行 な わ れ る 。過 酷 な 環 境 へ の 適 応 性 の あ る 樹 種 の 選 択 と ,苗 木 の 植 栽 手
法 の 工 夫 が 必 要 と な る 。ま た ,植 栽 後 の 遮 光 ,潅 水 ,除 草 な ど が 必 要 な 場 合
もある。
い ず れ の 場 合 も ,光 環 境 の 制 御 に は ,種 や 生 育 段 階 ご と に 最 適 な 光 環 境 を
解 明 す る 必 要 が あ る 。ま た ,植 栽 や 保 育 手 法 に つ い て も ,試 行 錯 誤 に よ る 現
地 試 験 の 結 果 が 集 積 さ れ て い る 段 階 だ と さ れ て い る ( 浅 川 , 1999; 小 島 ・ 鈴
木 , 2004)。
( 4) 熱 帯 林 の 萌 芽 更 新
熱 帯 の 自 然 林 や 植 栽 に よ る 森 林 地 に お い て は ,萌 芽 更 新 施 業 が 広 範 に 行 な
われている。萌芽力の大きな有用種は,マメ科のアカシア類,ネムノキ類,
タ ガ ヤ サ ン( Cassia siamea),ギ ン ネ ム( Leucaena leucocephala)な ど ,フ ト
モ モ 科 の ユ ー カ リ 類 , Syzygium spp.な ど , ク マ ツ ヅ ラ 科 の メ リ ナ ( Gmelina
arborea), チ ー ク ( Tectona grandis) な ど で あ る 。 施 業 手 法 も 温 帯 の 広 葉 樹
に 準 じ て 行 な わ れ て い る ( 浅 川 , 1999)。
2.5.6 マ ン グ ロ ー ブ 林 管 理 の 理 論 と 技 術
マ ン グ ロ ー ブ 林 の ギ ャ ッ プ 動 態 に 関 連 し ,マ ン グ ロ ー ブ 樹 木 の 耐 陰 性 が 研
究 さ れ て い る 。一 方 技 術 面 お よ び 実 践 面 に お い て は ,ギ ャ ッ プ 下 の 更 新 を 利
用 す る マ ン グ ロ ー ブ の 天 然 下 種 更 新 や ,萌 芽 更 新 の 研 究 や 実 例 は 少 な く ,人
工造林が中心となっている。
( 1) マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 耐 陰 性
- 32 -
第2章
マ ン グ ロ ー ブ の 幼 時 の 耐 陰 性 に 関 す る 先 行 研 究 を Table2.3 に 示 す 。
こ れ ま で の 多 く の 研 究 は ,ほ と ん ど の マ ン グ ロ ー ブ 実 生 が ギ ャ ッ プ に 依 存
し て 成 長 す る こ と を 示 し て い る ( Koch, 1997)。 一 方 で , 同 種 の 幼 樹 は 閉 鎖
林 冠 下 で も 普 通 に 見 ら れ ,生 育 可 能 な こ と を 示 し て い る( Clarke and Kerrigan,
2000)。 Saenger( 2002) は , マ ン グ ロ ー ブ の 耐 陰 性 に つ い て , 樹 種 に よ っ て
は 一 貫 し た 結 論 が 必 ず し も 得 ら れ て い な い 理 由 を ,「 熱 帯 雨 林 に お い て は ,
休 眠 性 に よ り 生 存 活 性 が 持 続 し , 発 芽 後 急 成 長 す る 種 子 を 持 つ “ギ ャ ッ プ ・
ス ペ シ ャ リ ス ト ”の 存 在 が 特 徴 的 で あ る 。 一 方 こ れ と は 対 照 的 に , 制 約 的 な
環 境 の マ ン グ ロ ー ブ で は ,限 ら れ た 生 存 活 性 を も つ 大 型 で 非 休 眠 性 の 散 布 体
が 進 化 し ,明 確 な ギ ャ ッ プ・ス ペ シ ャ リ ス ト に よ る 個 体 群 維 持 戦 略 が 発 達 し
な か っ た 。」 と 説 明 し て い る 。
Table 2.3 野外および実験室における幼時のマングローブの耐陰性の研究結果
Species
Aegiceras corniculatum
Excoecaria agallocha
Xylocarpus spp.
Osbornia octodonta
Pelliciera rhizophorae
Bruguiera spp.
Avicennia spp.
Ceriops spp.
Rhizophora spp.
Acanthus ilicifolius
Acrostichum speciosum
Aegialitits annulata
Camptostemon schultzii
Lumnitzera spp.
Scyphiphora hydrophyllacea
Laguncularia racemosa
Sonneratia alba
Shade-tolerant
◎
◎
◎
○
○
◎
◎
◎
◎
○
○
Shade-intolerant
○
◎
◎
◎
◎
◎
○
○
○
○
◎
◎
◎:複数の研究による結果,○:1つの研究による結果
出典:Saenger(2002)を筆者改変
( 2) ギ ャ ッ プ 環 境
ギ ャ ッ プ 動 態 に 影 響 す る と 考 え ら れ る 物 理 化 学 的 な 環 境 は ,陸 域 の 森 林 と
同様にギャップ内において光量や地温の増加と土壌水分の減少が指摘され
て い る 。一 方 ,マ ン グ ロ ー ブ 域 に 特 有 の ,硫 化 物 の 蓄 積 濃 度 ,土 壌 水 の 塩 分
濃 度 , 酸 化 還 元 電 位 な ど は , ギ ャ ッ プ 内 外 の 差 は な く ( Saenger, 2002), 陸
域の森林と同様のギャップ動態理論に基づき,生態研究が進められている。
- 33 -
第2章
( 3) マ ン グ ロ ー ブ 植 林
生 物 季 節 と 散 布 体 の 採 取( 北 村 ほ か , 1996; Youseff,1997),散 布 体 の 保 存 ・
発 芽・発 根 の 物 理 的・生 理 的 環 境( Siddiqi et al., 1989; 野 瀬 ほ か , 1992)や ,
植 栽 技 術 と し て 植 栽 場 所 と 種 の 適 合 性 ( Saenger & Bilham, 1996), 育 苗 ・ 植
え 付 手 法 ( Dwivedi, 1993; 馬 場 ・ 北 村 , 1999) な ど が , 実 験 的 お よ び 実 地 的
に 研 究 さ れ て き た 。研 究 材 料 は ,植 栽 に 主 に 用 い ら れ る ヒ ル ギ 科 の Bruguiera
spp., Kandelia candel, Rhizophora spp., ヒ ル ギ ダ マ シ 科 の Avicennia spp.,
ハ マ ザ ク ロ 科 の Sonneratia spp.が 中 心 で あ る が , バ ン グ ラ デ シ ュ に お い て は
ベ ン ガ ル 湾 岸 固 有 種 の Heritiera fomes も 対 象 と さ れ て き た 。
2.5 民 族 植 物 学 的 森 林 管 理 研 究
生 態 学 に お い て は ,一 般 に 人 間 活 動 の 影 響 を 排 除 し た 研 究 が 行 な わ れ て き
た ( プ リ マ ッ ク ・ 小 堀 , 1997)。 そ の 結 果 ,「 森 林 と 人 々 の 関 係 の 一 面 的 な 理
解 に 基 づ い た 対 症 療 法 的 な 保 護 区 の 設 定 な ど が 提 言 さ れ た 」, あ る い は 「 樹
木 や 森 林 の 効 果 的 な 人 為 制 御 が 注 目 さ れ ,地 域 住 民 の 実 態 を 省 み な い 管 理 手
法 の 押 し 付 け と な る 」な ど の 批 判 が あ る( 佐 藤 , 2002)。す な わ ち ,人 間 社 会
と森林の相互関係に基づく森林管理研究が求められている。
民 族 植 物 学 は ,先 住 民 に よ る 植 物 の 利 用 と 管 理 の 情 報 収 集 ,お よ び 植 物 の
栽培・加工の方法の解明を対象に進展してきた。近年民族植物学の領域は,
植 物 の 利 用 方 法 に と ど ま ら ず 植 物 の 認 識 の あ り 方 と 管 理 ,お よ び 人 間 社 会 と
人 間 が 依 存 す る 植 物 の 相 互 関 係 に 広 が っ て い る( Cotton, 1996)。拡 大 す る 民
族 植 物 学 の 対 象 と 言 え る ,人 間 社 会 と 人 間 が 利 用 す る 森 林 の 相 互 関 係 に 基 づ
く 森 林 管 理 研 究 は , 森 林 の 捉 え 方 に よ り ( 1) 森 林 の 社 会 ・ 文 化 的 重 要 性 に
着目するアプローチ,
( 2)森 林 の 所 有 形 態 か ら の ア プ ロ ー チ ,
( 3)利 害 と 権
能 が 異 な る 人 間 同 士 の 政 治 的 競 合 の 場 と 捉 え る ア プ ロ ー チ に 区 分 さ れ る( 佐
藤 , 2002)。
2.5.1 社 会 ・ 文 化 性 か ら の ア プ ロ ー チ
民族植物の中核的な論題は,
「 伝 統 的 な 植 物 学 的 智 恵( Traditional botanical
knowledge: TBK) 1 5 」で あ る 。本 論 文 で は ,森 林 と 森 林 に 近 接 す る 住 民 の 関
15
TBK:「 非 工 業 化 社 会 に 保 持 さ れ る 総 合 的 な 植 物 に 関 す る 智 恵 」 と 定 義 さ れ , 植
物 の 利 用 ・ 管 理 双 方 に 関 す る 生 態 的 , 認 知 的 観 点 を 含 む ( Cotton, 1996)。
- 34 -
第2章
係 を ,植 物 資 源 の 利 用 お よ び 資 源 の 評 価 と い う 社 会 的・文 化 的 側 面 か ら 研 究
した。
( 1) 植 物 資 源 の イ ン ベ ン ト リ ー
民 族 植 物 学 研 究 に よ り 蓄 積 さ れ た 伝 統 的 な 植 物 利 用 の 智 恵 を ,植 物 分 類 を
キ ー に 整 理 し た 情 報 目 録 は ,植 物 学 上「 イ ン ベ ン ト リ ー
16
」と 呼 ば れ て い る 。
小 山・中 村( 2002)は ,イ ン ベ ン ト リ ー を「 目 的 を 持 っ た 情 報 の 収 集・整 理 ・
管 理 」と 定 義 し ,そ の 内 容 を「 個 々 の 資 源 植 物 が ,ど う 分 類 さ れ ,ど こ に 分
布し,どんな形質を持っているか調べること」としている。
資 源 植 物 学・経 済 植 物 学 に お い て イ ン ベ ン ト リ ー は ,将 来 の 研 究 材 料 ,農
業 育 種 材 料 ,植 物 産 業 の 資 源 原 料 な ど 人 間 の あ ら ゆ る 植 物 利 用 の 目 的 と ,植
物 資 源 の 再 生 産 性 の 維 持 に 役 立 つ ( 小 山 , 1984), 重 要 な 情 報 体 系 で あ る 。
文 化 人 類 学 に お い て は ,森 林 に 隣 接 し て 暮 ら す 人 々 が ,林 産 物 や 森 林 生 態
系のサービスに深く依拠している事実をインベントリーにより具体的に示
し , 開 発 問 題 が 取 り 扱 わ れ て い る ( 例 え ば , 市 川 , 1994; 市 川 , 1999)。
環 境 経 済 学 に お い て は ,イ ン ベ ン ト リ ー の 要 素 で あ る 資 源 と な る 植 物 種 と
そ の 利 用 可 能 性 を ,資 源 価 値 の 経 済 評 価 に 結 び 付 け て い る 。森 林 な ど の 環 境
が 持 つ ,す べ て の 財 と サ ー ビ ス の 市 場 価 格 を 見 積 も る「 市 場 価 格 法 」に お い
て は , 様 々 な 薬 草 の 経 済 的 価 値 が 積 算 さ れ て い る ( 例 え ば , JICA, 2005)。
有 用 種 の イ ン ベ ン ト リ ー は 終 わ っ て い な い 部 分 が 非 常 に 大 き い 。地 球 上 に
は 17∼ 30 万 種 の 植 物 が 存 在 す る が ,記 載 さ れ た 伝 統 的 な 有 用 植 物 は 3000∼
5000 種 と さ れ て い る ( 小 山 ・ 中 村 , 2002)。 植 物 相 研 究 の 一 端 を 示 す 植 物 標
本 の 収 集 活 動 は , 地 域 や 国 家 に よ る 格 差 が 大 き い 。 Index Herbariorum 1 7 の
1952 年 ∼ 1981 年 版 に 基 づ く 解 析 に よ り , 植 物 標 本 の 採 集 率 が 集 計 さ れ て お
り ,ア ジ ア・太 平 洋 地 域 に お い て は ,ミ ャ ン マ ー の フ ロ ラ 研 究 が 進 展 し て い
な い こ と が 読 み 取 れ る ( Fig. 2.4)。
16
植物学上のインベントリー研究は,「地球上の植物を野生・栽培植物の別を問
わ ず ,全 体 に わ た り 系 統 的 に 調 べ 上 げ ,各 植 物 に 世 界 中 で 通 用 す る 学 名 を つ け て 記
載 し ,形 態 ,分 布 ,細 胞 遺 伝 学 形 質 ,成 分 ,系 統 的 類 縁 性 か ら 用 途 ま で ,あ ら ゆ る
面 を 解 析 研 究 し ,そ の 結 果 を 整 理 記 録 し て ,将 来 の 研 究 材 料 ,農 業 育 種 材 料 ,植 物
産 業 の 資 源 原 料 な ど 人 生 の あ ら ゆ る 植 物 利 用 の 目 的 と ,植 物 資 源 の 再 生 産 性 の 維 持
に 役 立 て よ う と す る 研 究 ( 小 山 , 1984) 」 と さ れ る 。
17
世 界 的 な 国 際 植 物 分 類 学 協 会 ( International Association for Plant Taxonomy) と
ニューヨーク植物園の共同事業による植物研究機関一覧。
- 35 -
第2章
Fig. 2.4. アジア・大洋州における植物標本の収集率
グラフの1単位は100 km2あたりの毎年の収集点数
出典:プランス(1997)を筆者改変
( 2) 植 物 資 源 の 価 値 付 け
保 全 生 物 学 に お い て は ,生 物 多 様 性 保 全 の 優 先 順 位 を 決 定 す る 基 準 と し て ,
特 異 性 ,脅 威 度 ,有 用 性 が あ げ ら れ て い る( プ リ マ ッ ク ・ 小 堀 , 1997)。特 異
性 と は 希 少 な 固 有 種 や 分 類 学 上 の 特 異 性 ( 鷲 谷 ・ 矢 原 , 1996), 脅 威 度 と は ,
絶 滅 確 率 ( Mase & Lande, 1991) を 例 と す る 絶 滅 の 恐 れ , 有 用 性 と は 人 類 に
とっての,顕在的・潜在的な価値である。
民 族 植 物 学 に お け る 有 用 性 の 系 統 的 な 研 究 手 法 に は , 順 位 付 け ( ranking)
や 得 点 付 け( scoring)な ど ,植 物 の 地 域 的 な 意 味 を 数 量 化 す る よ う な 定 量 的
な 分 析 手 法 が 存 在 す る( Cotton, 1996)。順 位 付 け に は ,嗜 好 ,経 済 的 重 要 さ ,
資源としての稀少さなどを基に相対的な重要さを導く簡単な優先順位法や,
用途や部位などの複数の属性を組み合わせて総体順位を導くマトリックス
順 位 法 な ど が 用 い ら れ て い る( 例 と し て , Martin, 1995)。得 点 付 け は , そ れ
ぞ れ の 植 物 種 や 植 物 群 に 対 す る 重 み 付 け で あ る 。複 数 の 情 報 提 供 者 か ら 用 途
お よ び 用 途 ご と の 使 用 対 象 数 を 得 , 種 の 「 使 用 価 値 ( Use Value)」 を 算 出 す
る 手 法 が 示 さ れ て い る ( Phillips & Gentry, 1993a; b)。 あ る 種 の 使 用 価 値 は ,
- 36 -
第2章
他 の 種 の 使 用 価 値 と 統 計 的 に 比 較 可 能 で あ る 。ま た ,種 の 使 用 価 値 を も と に ,
属や科といった植物群の相対的な使用価値が示される。
順 位 付 け は 優 先 す る オ プ シ ョ ン を 選 択 す る こ と が ,得 点 付 け は 相 対 的 な 重
要 度 を 判 別 す る こ と が ,そ れ ぞ れ 目 的 で あ る 。し た が っ て ,得 点 が 近 似 し て
いれば,順位に関わらず対象として選択する意味があるとされる(野田,
2001)。
2.5.2 所 有 形 態 か ら の ア プ ロ ー チ
( 1) コ モ ン ズ 論
環 境 資 源 の 財 と し て の 特 性 を 分 析 し ,所 有 制 度 の 類 型 か ら 制 度 の 相 違 に よ
る 利 用 と 管 理 の さ れ 方 や ,引 き 起 こ さ れ う る 問 題 の 整 理 を お こ な う の が ,コ
モ ン ズ 論 の 中 核 で あ り ,経 済 学 的 な ア プ ロ ー チ の 一 つ で あ る 。一 般 に 財 や サ
ービスは,利用に際しての排除性と競合性から 4 つに類型化されている
( Table 2.4)。 か つ て は 公 共 財 と 扱 わ れ て い た 森 林 な ど の 環 境 資 源 は , 他 の
利 用 者 の 排 除 が 困 難 か 多 大 な コ ス ト を 伴 う( 低 い 排 除 性 )点 で ,共 通 財 と し
て区分されている。
Table 2.4 財の分類
排除性
競合性
高い
(他の消費者のは排除が容易)
高い
私有財(private goods)
(資源の減少を伴う)
低い
クラブ財(club & toll goods)
(資源の減少を伴なわな
パーティーの雰囲気
い)
出典:渡辺(2001),佐藤(2002),室田ら(2003)をもとに筆者作成
低い
(他の消費者の排除が困難)
共通財(common-pool resources)
森林,牧草地,漁場
公共財(public goods)
国防,警察,道路,TV放送
所 有 制 度 の 類 型 を ,Table 2.5 に 示 す 。非 所 有 制 度 は ,法 的 に 規 定 さ れ た 所
有 形 態 と 言 う よ り 事 実 上 の 状 態 と 解 せ ,こ の よ う な 性 質 を 持 つ 森 林 資 源 が 合
法・違 法 を 問 わ ず 実 質 的 に 無 管 理 で あ ら ゆ る 人 々 が 勝 手 に 利 用 で き る 状 態 を
意 味 し て い る 。多 く の 利 用 者 が ,資 源 の 再 生 速 度 を 超 え て 消 費 を 行 な っ た 場
合 , 資 源 の 持 続 性 が 失 わ れ る ( オ ー プ ン ・ ア ク セ ス の 悲 劇 )。 国 や 地 方 公 共
団 体 や 公 社 な ど が ,森 林 を 所 有・管 理 す る 公 的 所 有 制 度 は ,資 源 保 護 を 目 的
に 多 く の 途 上 国 に お い て 見 ら れ る が ,非 効 率 性 や 汚 職・腐 敗 な ど に よ り 森 林
破 壊 を 招 く 場 合 が あ る ( 政 府 の 失 敗 )。 私 的 所 有 制 度 は , 投 資 と 便 益 が 同 一
の 私 有 者 に 帰 す る た め ,理 論 的 に は 植 林 な ど に 適 し た 制 度 と さ れ る 。し か し
- 37 -
第2章
な が ら 途 上 国 に お い て は ,社 会 的 な 有 力 者 が 影 響 力 を 行 使 し 不 公 正 に 森 林 を
囲 い 込 む こ と で ,弱 者 の 資 源 利 用 を 不 可 能 に す る か ,盗 伐 が 結 局 継 続 し た り
す る ( 囲 い 込 み の 悲 劇 )。 共 的 所 有 制 度 下 に お い て は , 森 林 は 一 定 の 人 の グ
ル ー プ に よ り 所 有 ま た は 維 持 管 理 さ れ て い る 。オ ー プ ン・ア ク セ ス の 悲 劇 を
回 避 す る た め の ,利 用 ル ー ル が 存 在 す る 場 合 が 多 い が ,共 同 体 の 規 模 が 大 き
く な る と ,便 益 を 享 受 し な が ら な ん ら の 費 用 も 負 担 し な い「 た だ 乗 り( フ リ
ー ラ イ ダ ー )」が 発 生 し ,資 源 の 持 続 利 用 を 危 う く す る( オ ル ソ ン 問 題 )
(野
田 , 2001; 室 田 ら , 2003)。
Table 2.5 所有制度の類型
出典:室田ら(2003)から抜粋
環 境 資 源 は ,CPRs( common-pool resources: 共 有 的 資 源 )と も 呼 ば れ ,こ
れ を 持 続 的 に 利 用・管 理 す る 制 度・組 織 と し て ,コ モ ン ズ が 注 目 さ れ て い る 。
コ モ ン ズ と は ,「 共 有 的 資 源 そ れ 自 身 」 と 「 共 有 的 資 源 を め ぐ る 人 と 人 の 関
係 を 規 定 す る 共 同 所 有 制 度・共 同 管 理 制 度 」の ,二 つ の 意 味 を 包 含 す る( 室
田 ら , 2003; 鈴 木 , 2006)。
世界には多くのコモンズが存在している,あるいは存在していたとされ,
ア ジ ア の 森 林 資 源 に つ い て は ,ネ パ ー ル ,イ ン ド ,マ レ ー シ ア ,フ ィ リ ピ ン ,
イ ン ド ネ シ ア ,日 本 の 例 が 研 究 さ れ て い る( 植 田 , 1996; 室 田・三 俣 , 2004)。
( 2) 参 加 型 ア プ ロ ー チ と 社 会 林 業
- 38 -
第2章
参 加 型 は ,地 域 開 発 全 般 に 共 通 す る ア プ ロ ー チ 概 念 で あ る 。従 来 の 地 域 開
発 に お い て は ,住 民 の 能 力 を 低 く 見 積 も り ,行 政 機 関 や 援 助 機 関 の 価 値 判 断
と 計 画 を 良 い も の と し て ,住 民 が 受 動 的 に 受 け 入 れ る 手 法 に よ っ て い た 。し
か し な が ら ,外 部 者 主 導 の 開 発 は 必 ず し も 成 功 せ ず ,貧 困 層 な ど 社 会 的 弱 者
は 開 発 の 恩 恵 を 受 け な い ど こ ろ か ,か え っ て 悪 い 状 況 に 追 い 込 ま れ る 例 ま で
発生した。林業政策を例にすれば,地主層の換金樹木栽培の参入増により,
貧富の格差拡大や貧困層の就労機会消失など負の側面が多く発生した事例
( イ ン ド )が 出 て き た 。 参 加 型 ア プ ロ ー チ は ,1970 年 代 か ら 1990 年 代 に か
け て 形 成 さ れ て き た 概 念 と 手 法 で あ る 。住 民 自 身 が 決 定 の 主 体 で あ り ,判 断
能 力 を 持 つ 彼 ら が そ れ ぞ れ の 地 域 に と っ て 最 も 良 い 方 向 に ,内 発 的 に 進 ん で
ゆ く と の 考 え に 基 づ く 。外 部 者 は ,地 域 住 民 自 身 の 自 主 的 な 分 析 ,判 断 ,行
動 を 触 媒 的 に 介 助 す る 手 法 で あ る ( チ ェ ン バ ー ス , 2000; 野 田 , 2001)。
参加型アプローチを森林資源管理に適用したものが,社会林業である。
社 会 林 業 ( Social Forestry) の 定 義 は , こ の 言 葉 を 使 用 す る 国 や 機 関 に よ
り 必 ず し も 一 致 し な い 。国 家 に よ る 森 林 管 理 の 失 敗 は ,国 有 林 を 住 民 主 体 の
共 的 管 理 に ゆ だ ね る 政 策 理 念 を 生 ん だ 。井 上 (真 )( 1999)は 社 会 林 業 を ,
「地
域 住 民 の 福 祉 の 向 上 を 目 的 と す る ,参 加 型 の 林 業 活 動 の 総 称 」と 定 義 し ,意
思 決 定 権 と 責 任 お よ び 便 益 が 帰 属 す る 管 理 主 体 に 基 づ き 類 型 化 し て い る 。森
林 の 管 理 主 体 に は ,地 域 共 同 体 ,地 域 住 民 の グ ル ー プ ,個 別 の 住 民 の 場 合 が
あ り , そ れ ぞ れ コ ミ ュ ニ テ ィ ー 林 業 ( community forestry ), グ ル ー プ 林 業
( group forestry),個 人 林 業( individual forestry)と 位 置 づ け ら れ る
18
(井上
(真 ), 1999; 百 村 , 2003)。
社会林業は,一定の人のグループにより森林が所有または維持管理され,
住民自身が林産物を処分し便益を得られる点で,コモンズの一例と言える。
こ れ ま で に ,コ モ ン ズ や 参 加 型 林 業 の 長 期 存 立・成 功 要 素 が ま と め ら れ て き
た ( Table 2.6; 2.7)。
18
社会林業的理念には,各国特有の呼称がある場合や,同語を異なる形態の林業
に 用 い る な ど の 混 乱 が 見 ら れ る 。 ミ ャ ン マ ー に お い て は 「 Community Forestry」 と
呼 称 さ れ ,そ の 邦 訳 は 定 ま っ て い な い 。本 研 究 に お け る ミ ャ ン マ ー の 社 会 林 業 に は ,
住 民 林 業 ( 池 本 , 2000) を 用 い る 。
- 39 -
第2章
Table 2.6 コモンズ長期存立8条件
出典:室田ら(2003)から抜粋
Table 2.7 コモンズ/森林の保全/参加型林業の成功要素・失敗要素
出典:渡辺(2001)から抜粋
- 40 -
第2章
2.5.3 政 治 的 競 合 か ら の ア プ ロ ー チ
( 1) 生 態 政 治 学
コ モ ン ズ 論 が 依 拠 す る ,経 済 学 的 な ア プ ロ ー チ に よ る 環 境 や 資 源 の 持 続 性
研 究 の 弱 点 と し て ,資 源 を め ぐ っ て 現 実 に 発 生 し て い る「 競 合 」に 伴 う 政 治
的 側 面 の 考 慮 不 足 が 指 摘 さ れ て い る ( Parnwell & Bryant, 1996; 佐 藤 , 2002)。
環 境 や 生 態 系 の 変 化 は ,社 会 を 構 成 す る 各 々 の 利 益 集 団 に と っ て 差 異 の あ る
利 益 や 不 利 益 を も た ら す と し ,こ れ に よ る 人 間 同 士 の 政 治 的 競 合 に 着 目 す る
分 析・研 究 は「 生 態 政 治 学( political ecology)」と 呼 ば れ る( Deutsch, 1977; 佐
藤 , 2002)。
Bryant( 1992) は , 生 態 政 治 学 の ア プ ロ ー チ を 3 つ の 視 点 か ら 類 型 化 し て
い る 。第 1 に ,環 境 の 変 化 を も た ら す 要 因 と 過 程 を 重 視 す る も の で ,国 際 的
な 政 治 動 向 や 政 府 の 政 策 が 自 然 環 境 に 及 ぼ す 影 響 を 取 り 扱 う も の で あ る( 例
え ば ,Schreurs & Economy, 1997; Hurst, 1990)。第 2 に ,資 源 へ の ア ク セ ス と
資 源 の 状 態 の 関 係 に 着 眼 す る 手 法 で ,法 的・制 度 的 な 権 利 と し て の ア ク セ ス
に 加 え ,実 態 と し て の 慣 習 的 な ア ク セ ス も 分 析 の 対 象 と す る 。例 え ば ,ア フ
リ カ に お け る 経 済 的・政 治 的 な 不 安 定 化 が も た ら し た ,資 源 ア ク セ ス と 資 源
利 用 プ ロ セ ス の 促 進 や 変 容 に 関 す る 研 究 が あ る( 例 え ば ,Berry, 1989)。第 3
に ,環 境 変 化 が 社 会 を 構 成 す る 各 々 の 利 益 集 団 に 及 ぼ し た ,社 会 的・経 済 的
な 格 差 へ の 影 響 を 分 析 す る も の で あ る ( 佐 藤 , 2002)。
生 態 政 治 学 の ア プ ロ ー チ 概 念 を , Fig. 2.5 に 示 し た 。
資源利用者による意思決定
(森林や土地の利用方法)
歴史的影響
今日的影響
社会的関係
資源アクセスと管理をめぐる制度
歴史的影響
今日的影響
Fig. 2.5. 生態政治学のアプローチ概念
政治・経済状況と自然環境の変化
- 41 -
出典:佐藤(2002)を筆者が改変
第2章
( 2) ス テ ー ク ホ ル ダ ー ・ フ レ ー ム ワ ー ク
企 業 経 営 の 分 野 か ら 派 生 し た 概 念 に ,「 利 害 関 係 者 = ス テ ー ク ホ ル ダ ー 」
が あ る 。 森 林 保 全 に お い て は ,「 プ ロ ジ ェ ク ト の 目 的 達 成 に 影 響 を 受 け る グ
ル ー プ や 個 人 」 と 定 義 さ れ る ( De Lopez, 2001)。
地 域 開 発 に お い て は ,貧 し い 人 々 の 参 加 を 実 現 し ,そ の 人 々 に 支 援 が 到 達
す る よ う な プ ロ ジ ェ ク ト を 実 施 す る た め ,計 画・立 案 に 先 立 ち ス テ ー ク ホ ル
ダ ー の 把 握 が 行 な わ れ る べ き と さ れ る( IBRD, 1996)。こ の プ ロ セ ス は ,
「ス
テ ー ク ホ ル ダ ー 分 析 ( 参 加 者 分 析 )」 と 呼 ば れ , 社 会 を 構 成 す る 各 々 の 関 係
集団を利害,対立,依存,社会的力関係などにより分析するものである
( FASID, 1999)。 本 論 文 に お い て は ,「 土 地 や 森 林 資 源 の , 所 有 , 管 理 , 利
用をめぐる地域の主体」をステークホルダーとした。
National Resources Institute( UK)は ,森 林 に 対 す る 関 心 軸 に よ り ,ス テ ー
ク ホ ル ダ ー と そ の 利 害 を ,国 際 社 会 ,国 家 ,地 方 ,地 域 の 4 つ の レ ベ ル に 区
分 し て い る ( Table 2.8)。 増 田 ( 2001) は , 参 加 型 と 称 し て 森 林 資 源 管 理 の
み 地 域 住 民 に 負 わ せ て も ,持 続 的 な 管 理 の 実 現 性 が 低 い こ と を 指 摘 し て い る 。
す な わ ち ,高 次 レ ベ ル の ス テ ー ク ホ ル ダ ー か ら の 森 林 に 対 す る 様 々 な 圧 力 を
放 置 す る よ う な ,開 発 独 裁 を 引 き ず っ た ガ バ ナ ン ス は 資 源 の 劣 化 問 題 の 解 決
にならない。
Table 2.8 熱帯林をめぐるステークホルダー
レベル
ステークホルダー
国際社会
国際援助機関
政府
環境NGO
国家
森林に対する関心
気候調節
生物多様性
中央政府
プログラム計画者
都市の利害代表
木材生産
国土保全
ツーリズム
NGO
地方
地域
off-site
on-site
地方政府
木材生産
営林署
水源涵養,浸食防止
伐採企業
木材生産
製材所
木材生産
下流社会
水源涵養,浸食防止
零細企業
木材・非木材林産物生産
周辺農民
耕作,放牧,狩猟採集
林内居住者
生活文化
出典:増田(2001)を筆者改変
- 42 -
第2章
野 田( 2001)は ,社 会 林 業 に 関 わ る 地 域 レ ベ ル の 住 民 集 団 の 多 様 性 を 論 じ ,
多 様 性 へ の 対 応 を 欠 く 普 及 手 法 は 成 功 し 得 な い と し て い る 。多 様 性 が 生 ま れ
る の は ,文 化 的 背 景 や 社 会 構 造 の 相 違 に よ る 。例 え ば ,農 耕 民 は 牧 畜 民 よ り
樹 木 の 利 用 が 多 彩 で あ る ( Burley, 1982)。 ま た , 農 耕 民 は 多 肉 質 の 果 実 や 葉
を ,狩 猟 民 は 貯 蔵 器 官 を ,そ れ ぞ れ 高 い 割 合 で 利 用 し て い る( Cotton, 1996)。
資源利用や管理に影響する,文化的・社会的に異なる属性として,民族
( Johansson, 1991),経 済 的 格 差( Rorinson, 1988),土 地 所 有( Scherr, 1995),
ジ ェ ン ダ ー ( JICA, 1994) な ど が 挙 げ ら れ て い る 。
住民集団の多様性は,集団の単位レベルや成り立ちとしても認められる。
資 源 の 管 理 は ,個 人 ,世 帯 ,住 民 グ ル ー プ( 隣 組 ,協 同 組 合 ,学 校 ,檀 家 ),
村 な ど の ,異 な る レ ベ ル や 性 質 の 主 体 に よ っ て な さ れ る 可 能 性 が あ る 。資 源
に 対 す る ニ ー ズ を 共 有 す る と し て も ,主 体 の あ り 方 に よ り 労 働 力 や 利 用 可 能
な 手 段・技 術 に 差 異 が 存 在 す る 。資 源 の 所 有 形 態 か ら 社 会 林 業 と 総 称 さ れ る
林 業 は ,個 人 ,グ ル ー プ ,コ ミ ュ ニ テ ィ ー な ど 管 理 主 体 の 異 な る( 永 田 ・ 井
上 , 1998) 森 林 管 理 を 包 含 し て い る 。 属 性 の 異 な る 多 様 な 住 民 集 団 に 着 目 す
れば,それに応じた社会林業の実施手法も様々であると言える。
2.6 在 地 的 な 森 林 資 源 管 理
在 地 性 と は「 そ の 地 に 根 ざ す 出 来 事 に な じ む 。土 地 の 人 間 が ,主 体 的 に 行
え , 育 ん で い け る 」 性 質 ( 安 藤 , 2001) と 説 明 さ れ る 。 安 藤 ( 1998) は , バ
ン グ ラ デ シ ュ の 農 村 開 発 に お け る 在 地 性 を ,雨 季 ,氾 濫 源 ,屋 敷 地 ,複 数 リ
ー ダ ー の 合 議 に よ る 意 思 決 定 機 構 と い う 地 域 特 性 と ,過 去 か ら 継 続 す る 地 域
の社会システムとの親和性から論じている。
本 項 に お い て は ,こ れ ま で な さ れ て い な い「 在 地 性 」の 学 術 的 分 野 に お け
る位置づけおよび関連する概念の整理を,森林管理を焦点に行なう。
2.6.1 包 括 的 な マ ネ ジ メ ン ト
本 論 文 が 主 題 と す る マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 は ,生 物 集 団 の 生 態 的 な 維 持 管
理 に と ど ま ら ず ,生 物 資 源 お よ び 管 理 体 制 の 分 析・評 価 を 含 む マ ネ ジ メ ン ト
( 鈴 木 , 2006) で あ る 。 在 地 的 な 資 源 管 理 は , こ の 様 な 包 括 的 な マ ネ ジ メ ン
トを含意している。
包 括 的 な 生 態 系 マ ネ ジ メ ン ト の 指 針 の ひ と つ に ,「 生 物 多 様 性 条 約 第 5 回
- 43 -
第2章
締 約 国 会 議 」に お い て 採 択 さ れ た ,エ コ シ ス テ ム・ア プ ロ ー チ が あ る 。エ コ
シ ス テ ム・ア プ ロ ー チ の 前 提 条 件 は ,生 態 系 の 構 成 要 素 に 社 会・経 済・文 化
的 な 多 様 性 を 持 つ 人 間 を 包 括 す る こ と ,複 雑 な 生 態 系 の 変 動 は 完 全 な 予 見 が
出来ないことである。エコシステム・アプローチによる生態系の管理には,
化 学 物 質 な ど の 非 生 物 学 的 要 因 と ,生 物 個 体 群 管 理 や 稀 少 種 の 回 復 な ど 生 物
学 的 要 因 に 加 え ,文 化・政 治 な ど 自 然 資 源 管 理 に 影 響 す る 社 会 的 な 要 因 を 含
む。経済的には,個人,組織間での資源と利益の配分が主眼となる(米田,
2005)。エ コ シ ス テ ム・ア プ ロ ー チ に お け る 生 態 系 管 理 の 持 続 性 概 念 を ,Fig.
2.6 に 示 す 。
Fig. 2.6 生態系管理の持続性概念
出典:米田(2005)から抜粋
2.6.2 在 地 の 空 間
在 地 性 を 説 明 す る「 そ の 地 」と は ,「 地 域 」と 換 言 で き る 。地 域 と は ,「 区
切 ら れ た 土 地 。 土 地 の 区 域 ( 新 村 , 1998)」 で あ り ,「 行 政 単 位 」,「 宗 教 や 民
族 の 分 布 」,
「 気 候 や 植 生 」,
「 歴 史 的 な 共 通 経 験 」な ど の 基 準 に よ り 多 様 に 設
定可能な地理的領域の概念である。管理の対象である森林資源のあり方は,
素 材 と し て の 植 物 種 お よ び 植 物 群 の 特 性 と ,利 用 者 側 の 要 求 と の 関 係 に 規 定
される。植物種群は立地の自然環境に応じて存在し,利用者側の要求は社
会・文 化・歴 史 を 背 景 と し て い る 。し た が っ て 資 源 研 究 に お け る「 地 域 」は ,
生態的システムおよび人間社会の双方の要素を統合し設定する必要がある。
保 全 生 物 学 に お い て は ,生 物 個 体 群 や 生 物 群 集 の 振 る 舞 い と い っ た 生 態 的
シ ス テ ム か ら ,生 物 多 様 性 保 全 の た め の 地 理 的 領 域 の 適 切 な 面 積・数 ,配 置 ,
- 44 -
第2章
形 が 研 究 さ れ て い る( 鷲 谷・矢 原 , 1996)。景 観 生 態 学 に お い て は ,ま と ま り
の あ る 全 生 態 系( 流 域 ,湖 ,山 岳 な ど )を 含 む よ う に ,保 護 区 が 計 画 さ れ る
の が 望 ま し い と さ れ て い る ( Peres & Terborgh, 1995)。
自 然 資 源 の 管 理 空 間 と し て ,生 態 的 シ ス テ ム の 領 域 に ,人 間 の 地 域 コ ミ ュ
ニティーや,生物資源の管理・活用の要素を包含する「バイオリージョン」
の 概 念 が 主 張 さ れ て い る ( 井 上 (有 ), 1999; 小 林 , 2000)。 バ イ オ リ ー ジ ョ ン
は ,「 単 に 生 物 の 生 活 域 と い う 意 味 合 い だ け で な く , 地 域 の 自 然 要 素 の 固 有
性 ,総 合 性 に 沿 っ た ,人 間 の 生 活 ・ 文 化 と の 連 動 性( 鈴 木 , 2006)」と ま と め
ら れ て い る 。 ま た , バ イ オ リ ー ジ ョ ン の 空 間 的 領 域 は , ① 自 然 相 =生 物 , 土
壌 , 地 形 , 気 候 な ど , ② 資 源 相 =持 続 的 に 利 用 可 能 な 自 然 の 種 類 と 料 , 保 全
に 必 要 な 区 域 な ど , ③ 文 化 相 =土 地 に 根 ざ し た 伝 統 文 化 や 地 域 社 会 ・ 生 業 形
態 に 分 類 で き る 地 域 特 性 を ,実 地 の 経 験 を 通 じ る こ と で 認 識 で き る と さ れ て
い る ( 井 上 (有 ), 1999)。 在 地 の 空 間 の 概 念 は , 自 然 ・ 資 源 ・ 文 化 の 諸 相 の 統
合空間であるバイオリージョンに通じる。
2.6.3 地 域 事 象 へ の 適 合 性 ・ 順 応 性
在 地 性 は「 そ の 地 に 根 ざ す 出 来 事 に な じ む 」,す な わ ち 地 域 の 環 境 ,事 象 ,
社会システムに適合し順応するものであると換言できる。
自 然 環 境・事 象 に 適 合・順 応 的 な 森 林 資 源 管 理 研 究 を 考 察 す る と ,立 地 環
境 と 植 生 の 関 係 ,あ る い は そ の 応 用 と し て 造 林 上 の 適 地 適 木 と い っ た 生 態 学
的 な 論 題 が 引 き 出 さ れ る 。植 生 の 成 立 と 存 続 は 立 地 環 境 の 影 響・制 約 を 受 け
て お り ,マ ン グ ロ ー ブ 植 生 の 分 布 に は ,潮 位 幅・潮 汐 ,塩 分 濃 度 な ど の 特 有
の 環 境 影 響 が 加 わ る 。ま た こ れ ら に 影 響 さ れ る 植 生 は ,種 組 成 に 基 づ き 植 物
群 落 と し て 区 分 さ れ 扱 わ れ る 。景 観 生 態 学 に お い て は ,立 地 環 境 と 植 生 は 統
合 的 に 分 析 さ れ ,一 定 の 空 間 単 位 が 考 察 さ れ ,地 域 計 画・環 境 計 画 に 応 用 さ
れ て い る 。 さ ら に , 植 物 種 群 と 地 域 の 結 び つ き は ,「 固 有 性 の 重 視 」 や 「 潜
在 自 然 植 生 の 重 視 」と い っ た 論 題 に つ な が る 。固 有 性 と は ,分 布 域 が 特 定 の
小 地 域 や 生 育 場 所 に 限 定 さ れ る 性 質 で あ る 。植 物 種 群 の 固 有 性 は ,生 物 多 様
性の保全とうい視点から生態系の管理において重視される(鷲谷・矢原,
1996)。 潜 在 自 然 植 生 と は , 現 在 人 間 の 影 響 を 停 止 し た 際 に 成 立 し う る 最 も
発 達 し た 植 物 群 落 で あ る 。そ の 土 地 本 来 の 樹 木・植 物 で あ る 潜 在 自 然 植 生 は ,
地 域 の 人 間 活 動 の 基 盤 で あ り ,地 域 の 文 化 を 醸 成 さ せ て き た と さ れ る( 鈴 木 ,
2006)。宮 脇 方 式( 宮 脇 ほ か , 1993)に よ る 環 境 復 元 に お い て は ,重 視 さ れ 目
標 と も さ れ る 生 態 系 で あ る 。在 地 的 な 森 林 資 源 管 理 に お け る ,地 域 の 自 然 環
- 45 -
第2章
境・事 象 へ の 適 合 性・順 応 性 の 概 念 に は ,多 様 な 生 態 学 的 論 題 が 含 ま れ て い
る。
一方,地域の社会的な事象への順応的な森林資源管理研究を考察すると,
森 林 の 管 理 制 度・所 有 形 態 と い っ た コ モ ン ズ 論 が 引 き 出 さ れ る 。森 林 資 源 の
管 理 と 所 有 の 形 態 は ,資 源 の 利 用 や 状 態 に 強 く 影 響 す る 。ま た ,管 理 の 性 格
や 所 有 形 態 は , 歴 史 性 に 規 定 さ れ る ( Mather, 1990)。 Mather( 1990) は , 資
源 管 理 制 度 の 時 系 列 的 な 展 開 モ デ ル を ,多 様 な 所 有 形 態 を 歴 史 的 に 考 察 す る
枠 組 と し て 示 し て い る 。ま た 所 有 制 度 の 類 型 に 基 づ き ,利 用 と 管 理 の さ れ 方
の 分 析 と 引 き 起 こ さ れ う る 問 題 を 考 察 す る の が コ モ ン ズ 論 の 中 核 で あ る 。コ
モンズ論は,資源と資源管理制度の長期的存続条件を提示している(渡辺,
2001)。 こ れ ら の 条 件 に は , 資 源 と 参 加 者 の 領 界 設 定 , あ る い は ル ー ル や 意
思 決 定 機 構 の 社 会 環 境 へ の 適 応 性 な ど ,地 域 の 社 会 的 事 象 に 視 点 を 置 く 資 源
管理の要点が挙げられている。
2.6.4 地 域 住 民 の 関 与
安 藤( 2001)は ,在 地 性 の 要 素 と し て ,土 地 の 人 間 の 意 志 と 判 断 に 基 づ く
関 与 を あ げ て い る 。「 土 地 の 人 間 」 の 多 様 性 に 着 眼 し , 資 源 管 理 を 論 ず る ア
プ ロ ー チ が ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー・フ レ ー ム ワ ー ク で あ る 。利 害 ,対 立 ,依 存 ,
社 会 的 力 関 係 が 生 じ さ せ る ,住 民 集 団 の 間 の 文 化 的・社 会 的 な 属 性 の 差 異 を
研究の視点とするものである。
一 方 ,資 源 管 理 へ の 地 域 住 民 の 関 与 に つ い て は ,近 年 多 様 な 理 念 か ら 論 ぜ
ら れ て い る 。「 地 球 環 境 主 義 」,「 参 加 型 ア プ ロ ー チ 」,「 社 会 林 業 」 な ど が 例
示 で き る 。地 球 環 境 主 義 に お い て は ,地 球 環 境 の 劣 化 が 人 類 に 不 均 一 な 被 害
を も た ら す こ と か ら ,地 域 の ミ ク ロ な 問 題 と 関 連 付 け た 議 論 の 必 要 性 が 主 張
さ れ て い る( 赤 嶺 , 2005)。資 源 管 理 は ,地 球 規 模 か ら み た 人 類 よ り ,地 域 の
個別の人々の顔を想定し地域住民の価値観を重視して行なわれるべきとす
る 。ま た 参 加 型 ア プ ロ ー チ に お い て は ,住 民 の 潜 在 的 な 判 断 能 力 を 主 張 し て
い る( 野 田 , 2001)。問 題 の 把 握 と 分 析 か ら 決 定 に い た る 全 て の 過 程 を ,住 民
が 主 体 的 に 実 施 で き る と し ,外 部 者 は 触 媒 機 能 を 担 う べ き と す る 。社 会 林 業
は ,参 加 型 ア プ ロ ー チ に お け る 住 民 の 主 体 的 な 関 与 の 理 念 を 制 度 化 し た 森 林
管 理 で あ る 。関 与 の 具 体 的 要 素 と し て ,意 思 決 定 権 と 責 任 ,便 益 の 帰 属 が あ
げ ら れ ,住 民 個 人 ,住 民 グ ル ー プ ,コ ミ ュ ニ テ ィ ー に こ れ が 帰 属 す る も の と
さ れ る( 井 上 (真 ), 1999)。こ の よ う に ,在 地 性 が 重 視 す る 地 域 住 民 の 関 与 は ,
関与の程度や制度化の面から位置づけられている。
- 46 -
第2章
2.7 研 究 課 題
エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 に お け る 研 究 課 題 を ,先 行
研究を踏まえて示す。
( 1) マ ン グ ロ ー ブ 林 の 更 新 特 性 の 解 明
Myint Aung( 2004)は ,植 生 調 査 と 森 林 履 歴 を も と に ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ
ル タ の Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 二 次 遷 移 を 推 定 し た 。 遷 移 は
連 続 的 な 種 個 体 群 の 時 間 的 変 化 で あ る ( Whittaker, 1953) が , 林 分 構 造 と 個
体群の時間動態を基盤にした研究はなされていない。
ベ ン ガ ル 湾 岸 デ ル タ に お い て は ,植 林 地 の マ ン グ ロ ー ブ を 対 象 と し て ,実
生 の 定 着 , 生 存 , 成 長 の 成 績 記 載 が 行 わ れ て い る ( Siddiqi & Khan, 1990; マ
ン グ ロ ー ブ 植 林 行 動 計 画 , 2004)。し か し ,多 く の 植 林 地 は 放 棄 水 田 な ど で あ
り ,そ の 地 盤 高 は 植 栽 種 の 自 然 生 育 地 よ り 高 く( Maung Maung Than, 2006),
全 天 が 疎 開 し て い る 。ま た ,散 布 体 や 苗 木 は 人 為 的 に 導 入 さ れ た も の で あ り ,
自 然 の 状 態 と 異 な る 要 因 が 個 体 群 動 態 を 左 右 す る 。自 然 更 新
19
林における影
響 要 因 の 研 究 例 ( Siddiqi, 1994) は ベ ン ガ ル 湾 岸 に お い て は 極 め て 少 な く ,
自 然 更 新 や 天 然 更 新 に よ る マ ン グ ロ ー ブ 林 の 再 生 を 図 る た め の ,基 礎 的 な デ
ータの集積が必要である。
( 2) マ ン グ ロ ー ブ 樹 木 の 耐 陰 性 の 解 明
マ ン グ ロ ー ブ の 幼 時 の 耐 陰 性 研 究 に お い て は ,優 占 群 落 を 形 成 す る 純 マ ン
グ ロ ー ブ や ,市 場 価 値 の 高 い 樹 種 を 対 象 と し て お り ,淡 水 湿 地 林 と も さ れ る
Heritiera fomes 林 ( 山 田 , 1986) の 構 成 種 に つ い て は 知 見 が 不 足 し て い る 。
さ ら に , Bruguiera spp.の 幼 時 の 耐 陰 性 に つ い て は , 先 行 研 究 に お け る 結 論
が 相 反 す る ( Saenger, 2002)。 し た が っ て , エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の 森 林 再
生 に お い て は , H. fomes 林 を 特 徴 付 け る H. fomes, Excoecaria agallocha,
Amoora cucullata な ど の 準 マ ン グ ロ ー ブ や , 住 民 利 用 の 視 点 か ら 着 目 さ れ る
Bruguiera spp.の 耐 陰 性 の 研 究 が 必 要 で あ る 。
( 3) マ ン グ ロ ー ブ の 萌 芽 特 性 研 究
19
本 論 文 で は ,群 落 の 欠 損 部 分 が 無 管 理 で 回 復 す る 現 象 を「 自 然 更 新 」,造 林 材 料
の導入は図らないが,下刈りやつる切りなど人為が関与し回復を誘導するものを
「天然更新」と区別している。
- 47 -
第2章
マ ン グ ロ ー ブ の 萌 芽 研 究 は 少 な い 。ヒ ル ギ 科 以 外 で は マ ン グ ロ ー ブ の 萌 芽
による樹体修復は可能であるが,皆伐後の森林回復は見込めないとされる
( Tomlinson, 1986)。 一 方 , タ イ と マ レ ー シ ア の マ ン グ ロ ー ブ の 萌 芽 力 調 査
に基づき,萌芽性を生かした持続的な資源利用の必要性が指摘されている
( Tsuda & Ajima, 1999)。ベ ン ガ ル 湾 岸 に お い て は ,Heritiera fomes の 萌 芽 力
と 萌 芽 更 新 の 研 究 が 必 要 と の 指 摘( Akhtaruzzaman, 2000)は あ る が ,研 究 実
績 は 見 当 た ら な い 。陸 域 の 広 葉 樹 の 萌 芽 研 究 は ,一 定 の 方 法 論 に よ り 系 統 的
に 行 わ れ て き た が ,マ ン グ ロ ー ブ に つ い て は ,こ の よ う な 基 礎 的 な 研 究 が 進
んでいない。さらに,潮汐という特異な環境の取り扱いも課題となる。
( 4) マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 価 値 の 解 明
マ ン グ ロ ー ブ 林 の 構 成 種 と 有 用 種 が 調 査 さ れ ,資 源 再 生 の 意 義 が ま と め ら
れ て い る ( Ohn, 1992; Tin Maung Kyi, 1992; Win Maung, 1999; Forest
Department, 2002; JICA, 2005)。し か し ,マ ン グ ロ ー ブ 域 に 暮 ら す 人 々 は ,植
物 資 源 と し て マ ン グ ロ ー ブ の み な ら ず ,様 々 な 野 生 ,半 栽 培 の 植 物 を 利 用 し
て い る ( 大 野 ・ 鈴 木 , 2004)。
Table 2.9 ミャンマーにおけるフロラ調査
著者
著作
S. Kurz
The Forest Flora of British Burma
J.D. Hooker
The Flora of British India
D. Brandis
Indian Trees
J.H. Lace
Trees, Shrubs, Herbs and Climbers etc.(First Edition)
A. Rodger
List of Trees, Shrubs, Herbs and Climbers etc.(Second Edition)
A. Rodger
A hand-book of the forest products of Burma
L.D. Stamp
The vegetation of Burma
H.G. Hundley
List of Trees, Shrubs, Herbs and Climbers etc.(Third Edition)
H.G. Hundley
List of Trees, Shrubs, Herbs and Climbers etc.(Fourth Edition)
M. Kogo
Final Report on mangrove Restoration Fusibility Study
Wildlife Conservation Society Plants list of Meinmahla Kyun and Adjacent Regions
Win Maung
Plants in Myanmar mangroves
Useful Plants in Myanmar
JICA/MOAI*
Forest Department
List of Plants in Mangrove -BogalayForest Department
List of Plants in Mangrove -LaputtaForest Department
Herbal and Medical Plants in Bogalay
A Checklist of Trees, Shrubs, Herbs, and Climbers of Myanmar
W.J. Kress et al .
Myint Aung
Species List (Appendix)
JICA
The Study on Integrated Mangrove Management through Community
Participation in the Ayeyawady Delta
Maung Maung Than
List of typical and assosiate mangrove species (Appendix)
発行年
1877
1879
1906
1912
1921
1921
1924
1957
1987
1993
1999
1999
1999
2002
2002
2002
2003
2004
2005
A
○
○
○
○
○
B
C
D
○
○
○
○
14
40
88
○
124
114
26
○
2006
69
143
39
93
A: ミャンマーの植物, B: ミャンマーの有用植物, C: エーヤワディーデルタ・マングローブ林の植物, D: マングローブ林の有用植物
*: JICA/MOAI: Japan International Cooperation Agency & Ministry of Agriculture and Irrigation
表中の数字は著作中で扱われた種数
出典:Chapman(1976), Myint Aung(2004), JICA(2005)をもとに筆者作成
ミ ャ ン マ ー に お け る フ ロ ラ( =植 物 相 )研 究 は 19 世 紀 に 始 ま り ,そ の 一 環
と し て マ ン グ ロ ー ブ 域 の フ ロ ラ ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の フ ロ ラ が ま と め ら れ て き
た ( Table 2.9)。 1990 年 代 以 降 , マ ン グ ロ ー ブ に 特 化 し た 調 査 が な さ れ る と
- 48 -
第2章
と も に ,利 用 情 報 の 記 載 が 行 な わ れ た 。し か し な が ら ,対 象 と し て 生 産 的 使
用 価 値 の 高 い 種 へ の 偏 向 や ,植 物 種 リ ス ト に 他 国 や 他 地 域 に お け る 研 究 か ら
引 用 し た 利 用 情 報 の 付 加 も 見 ら れ る な ど ,調 査 地 や 調 査 方 法 の 不 明 確 さ が あ
る 。さ ら に ,資 源 と な る 具 体 的 な 植 物 体 の 部 位・器 官 と 利 用 用 途 の 体 系 的 な
記 載 と 分 析 が な さ れ て い な い 。イ ン ベ ン ト リ ー を ,地 域 住 民 の 暮 ら し に 資 す
る 保 全 研 究 の 基 盤 情 報 と す る な ら ば ,マ ン グ ロ ー ブ の 消 費 的 使 用 価 値 ,お よ
び 文 化 的・社 会 的 意 味 と し て の 存 在 価 値 に 係 る 情 報 の 収 集・記 載 と 分 析 が 重
要となる。
さ ら に ,自 給 的 な 生 活 を 支 え 生 活 文 化 の 中 で 多 彩 に 用 い ら れ ホ ー ム ガ ー デ
ン の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の イ ン ベ ン ト リ ー と ,複 合 的 な 植 物 資 源 利 用 の 体 系
の中でマングローブが果たしてきた役割を明らかにする必要がある。
( 5) マ ン グ ロ ー ブ 林 の 状 態 と 変 化 の 把 握
森 林 管 理 上 , 一 般 に 木 材 林 産 物 は 樹 種 ご と の 立 木 の 蓄 積 量 ( =体 積 ) と し
て 把 握 ・ 評 価 さ れ る( Chowdhury & Ahmed, 1994)。ま た ,広 域 的 ,時 系 列 的
には,樹冠の閉鎖度により定義した林地の面積により量的に捉えられる
( FAO, 2005; JICA, 2005)。 一 方 , 非 木 材 林 産 物 は , 市 場 に お い て 取 引 さ れ
た 重 量 , 体 積 , 金 額 で 把 握 さ れ て い る ( 渡 辺 , 1994; FAO, 2005)。
エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に お け る マ ン グ ロ ー ブ 林 の 状 態 は ,長 く 木 材 林 産 物
の 量 的 な 評 価 に よ り 捉 え ら れ て き た 。こ れ ま で に ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 分 布 と
消 失 場 所 の 調 査 ,材 積 量 算 定 な ど が 行 わ れ ,森 林 の 減 少 速 度 や 用 材 の 移 出 入
な ど の 実 態 が 把 握 さ れ て き た( Ohn, 1992; Tin Maung Kyi, 1992; JICA, 2005)。
資 源 量 の 把 握 は , 森 林 局 の 施 業 計 画 ( 1924∼ 1970 年 ) に は じ ま る 。 市 場 価
値 の 有 無 に よ り 2 種 類 な い し 3 種 類 に 区 分 し た Heritiera fomes の 優 占 林 と ,
そ の 他 の 樹 林 の 面 積 を フ ィ ー ル ド ワ ー ク に よ り 調 査 し て い る 。 1970 年 代 以
降 ( ’74 年 , ’83 年 , ’90 年 , ’95 年 , 2001 年 ) に は , 航 空 写 真 と 衛 星 画 像 か
ら面積が算出された。
( Tan Chein Hoe, 1952; Maung Maung Than & Phone Htut,
2003)。
こ の よ う な 把 握 と 評 価 は ,マ ン グ ロ ー ブ 林 を 木 材 林 産 物 の 供 給 地 と し て 位
置 づ け て 管 理 を 行 な う 思 想 に 立 脚 し て い る 。マ ン グ ロ ー ブ 林 の 状 態 と 変 化 は ,
森 林 面 積 減 少 と い う 量 的 な 変 化 に 集 約 ,認 識 さ れ ,資 源 の 組 成 を 反 映 さ せ た
質 的 な 把 握 と 研 究 は な さ れ て い な い 。ま た ,非 木 材 林 産 物 の 供 給 地 と し て の
マングローブ林の評価として,近年,薬用植物の潜在的な市場価値の試算
( JICA, 2005) が な さ れ た が , 市 場 で 扱 わ れ な い 多 様 な 非 木 材 林 産 物 の 状 態
と そ の 変 化 を 明 ら か に す る 研 究 は な い 。森 林 資 源 の 利 用 者 と し て ,マ ン グ ロ
- 49 -
第2章
ー ブ 域 の 住 民 を 中 心 に す え る な ら ば ,資 源 の 種 類 を 示 し ア ク セ ス 可 能 な 程 度
を量的に示す必要があると言える。
ま た , マ ン グ ロ ー ブ 林 の 劣 化 ・ 減 少 を 示 し , そ の 「 起 因 =人 間 に よ る マ ン
グローブ林への影響」を解明する研究がこれまで行なわれてきた。しかし,
「 マ ン グ ロ ー ブ 林 減 少 が 引 き 起 こ し た 人 々 の 生 活 変 容 」を 明 ら か に す る 研 究
は 少 な い 。マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 減 少 が ,地 域 の 人 々 の 生 活 に 困 難 を も た ら し
た と す る 一 般 的 な 議 論 は 多 い が ,「 資 源 の 変 化 」 の 「 人 々 の 生 活 文 化 へ の 影
響」に関する具体的な検証を行なう必要がある。
( 6) 保 全 研 究 ・ 造 林 の 対 象 選 択
保 全 生 物 学 的 に 精 緻 な 保 全・管 理 対 象 の 選 択 で は ,厳 密 な デ ー タ を 得 る た
めに多大な時間とコストの投入,および多くの研究者の関与が必要となる。
エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ に つ い い て は ,造 林 活 動 に お い て 成
長 速 度 の 早 い 早 成 な 樹 木 が 選 択 さ れ て き た 。そ の 理 由 と し て ,保 全 生 態 学 的
デ ー タ の 不 足 ,お よ び 生 産 的 価 値 に 偏 向 し た 有 用 性 尺 度 の 採 用 が あ げ ら れ る 。
し た が っ て ,比 較 的 簡 便 で 迅 速 に 評 価 が 行 え ,管 理 主 体 と な る 住 民 に と っ て
の消費的価値,存在価値を踏まえた対象選択の手法が必要と言える。
( 7) 在 地 の 空 間 の 探 求
本 論 文 に お け る 在 地 の 空 間 は ,資 源 が 分 布 し 資 源 に 関 わ る 人 間 活 動 が 行 わ
れ る 生 態 的・社 会 的 な 空 間 で あ り ,景 観 単 位 の 1 つ の レ ベ ル で あ る 。マ ン グ
ロ ー ブ 生 態 系 の 管 理 に お い て は ,こ の よ う な 景 観 単 位 を 意 識 し た「 資 源 供 給
地」の配置や形状の研究は見当たらない。
エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ の 保 全 林 ( Reserved Forest) は , 木
材 林 産 物 の 公 的 管 理 の た め に 広 域 的 に 設 定 さ れ た で 森 林 で あ る 。ま た ,法 令
に よ り 資 源 利 用 が 認 め ら れ た 共 有 林 は ,保 全 林 内 の 私 的 な 占 有 林 分 を 追 認 し
た も の が 多 い 。資 源 供 給 地 の 配 置 や 形 状 に 関 す る 研 究 お よ び 施 策 上 の 配 慮 は ,
こ れ ま で ほ と ん ど 行 わ れ て お ら ず ,基 盤 と な る 在 地 の 空 間 の 領 域 ,単 位 性 を
明らかにすることが重要となる。
- 50 -
第3章
エーヤワディーデルタの在地性
第3章
3.1 緒 言
在 地 的 な 森 林 資 源 管 理 は ,現 在 お よ び 過 去 か ら 継 続 す る 地 域 の 自 然・社 会
事象への親和性が確保された,包括的な生態系のマネジメントである。
本 章 に お い て は ,マ ン グ ロ ー ブ 植 生 が 成 立 す る エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ 海 岸
帯 の 在 地 的 要 素 を 探 求 す る 。は じ め に ,在 地 的 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 の 基
盤 と な る ,立 地 の 環 境 と 植 生 の 特 異 性 を 把 握 す る 。次 に 人 々 が 暮 ら す 具 体 的
な 場 に お い て ,資 源 の 分 布 と 資 源 に 関 わ る 人 間 活 動 か ら 生 態 的・社 会 的 な 空
間 的 領 域 = 在 地 の 空 間 を 把 握 す る 。さ ら に ,資 源 の 状 態 に 影 響 す る 管 理 の 法
制度を歴史的に捉える。
3.2 マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 特 異 性
マングローブ生態系は陸域と水域の移行帯である感潮域に位置する森林
群落である。マングローブの植物群落の広域レベルの分布には地史,温度,
海 流 が ,局 地 レ ベ ル の 分 布 に は 場 ,強 風 ・ 波 浪 か ら の 保 護 地 形 ,塩 水 ,潮 位
幅 が ,帯 状 構 造 に は 潮 汐 ,土 壌 ,塩 分 濃 度 ,光 ,種 特 性 が 影 響 す る と さ れ る
( 山 田 , 1986)。
本 項 に お い て は ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ・マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 立 地 環 境
と植生の特異性を,先行研究とフィールドにおける観測データから示した。
具体的には,陸側の条件として気候およびデルタを形成する河川の性質に,
海 側 の 条 件 と し て 海 水 準 の 変 動 お よ び 感 潮 水 路 の 塩 分 含 量 に 着 目 し た 。ま た ,
熱 帯・亜 熱 帯 の 低 湿 地 林 の 湿 地 林 の 体 系 の 中 で 当 地 の マ ン グ ロ ー ブ 植 生 を 位
置づけ,立地と群落の対応および中核的な群落の優占種・固有種である
Heritiera fomes の 特 徴 を 示 し た 。
3.2.1 立 地 環 境
( 1) 位 置
デ ル タ は ,河 川 が 運 搬 し て き た 砂 泥 が 河 口 付 近 に 堆 積 し ,海 面 ,あ る い は
湖 面 の 高 さ 付 近 に 平 坦 に 広 が る 地 形 で あ る ( 菊 池 , 2001) 。 エ ー ヤ ワ デ ィ ー
デ ル タ の サ イ ズ は ,長 さ 290 km,河 口 に お け る 幅 240 km( Mya Than, 2002),
面 積 は 31,000 km 2( 井 関 , 1972)に お よ ぶ( Fig. 3.1A)。デ ル タ の 海 岸 帯 1 は ,
1 デ ル タ は 水 理 学 的 性 質 か ら 3 つ の 部 分 に 区 分 さ れ る 。第 1 は 雨 季 に 運 搬 物 を 含 み
- 52 -
第3章
潮汐の影響により川や水路の水が干満を繰り返す海岸沿いの帯状の部分で
あ る ( 高 谷 , 1985) 。 海 岸 帯 の マ ン グ ロ ー ブ 林 分 布 域 ( 以 下 , マ ン グ ロ ー ブ
域 )は ,北 緯 15 度 45 分 か ら 16 度 10 分 ,東 経 94 度 30 分 か ら 95 度 45 分 付
近 に 広 が る ( Maung Maung Than, 2006)。
本 論 文 の 研 究 地 域 で あ る Bogalay 郡 は ,海 岸 帯 の 東 端 に 位 置 す る 。浜 堤 の
地 形・土 壌 調 査 お よ び 植 物 利 用 調 査 は Pyindaye 地 域 の Ashe Mayan 村 に お い
て ,マ ン グ ロ ー ブ の 植 生・生 態 調 査 は Byonehmwe 島 ,Meinmahla 島 ,Pyindaye
地 域 の マ ン グ ロ ー ブ 林 に お い て そ れ ぞ れ 行 っ た ( Fig. 3.1B)。
93°
99°
(A)
(B)
24°
24°
Myanmar
Meinmahla Is.
18°
18°
Byonehmwe Is.
Pyindaye
Area
Ayeyarwady
Delta
12°
12°
0
0
250
km
500
50 km
99°
Fig. 3.1. 研究地域
(A)エーヤワディーデルタの位置
(B)調査地域位置図
( 2) 気 候 の 特 徴
研 究 地 域 は ,ケ ッ ペ ン の 区 分 す る 熱 帯 モ ン ス ー ン 気 候 区 に 属 す る 。北 東 季
節 風 が 吹 く 11 月 か ら 4 月 の 乾 季 と ,南 西 季 節 風 が 吹 く 5 月 か ら 10 月 の 雨 季
の , 二 つ の 明 確 な 季 節 を 持 つ 。 雨 季 と 乾 季 の 降 雨 差 は 極 端 で , Bogalayに お
い て は 年 間 降 水 量 3,218 mm( 1995 年 )の 94% が 雨 季 の 6 ヶ 月 間 に 集 中 し た
2
。月平均気温は,最寒月の 1 月から暑気に向かって上昇し,4 月にピーク
増 水 し た 河 川 が 大 量 か つ 急 激 に 押 し 出 さ れ る 最 上 部 の 「 氾 濫 源 的 な 部 分 」, 第 2 は
「 海 岸 帯 」, 第 3 は 氾 濫 源 の 出 口 か ら 離 れ 勢 い が 衰 え た 洪 水 が 広 い 面 に 拡 散 さ れ る
「 中 央 区 」 で あ る ( 高 谷 , 1985)。
2
宮 本 ( 2000) を 元 に 筆 者 が 算 出
- 53 -
第3章
700
32
600
30
500
28
400
26
300
24
200
100
22
0
20
Temperature (℃)
Rainfall (mm)
を 示 し た 後 , 雨 季 の は じ ま り と と も に 低 下 す る ( 宮 本 , 2000)( Fig. 3.2)。
Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec
Months/
Rainfall
Temperature
Fig. 3.2. 気温と降水量の年間推移(Bogalay郡)
出典:Maung Maung Than(1999)を筆者改変
( 3) 河 川 の 性 質
エ ー ヤ ワ デ ィ ー 川 は 国 土 の 中 央 部 を 北 か ら 南 へ 約 2,140 km 縦 断 す る ミ ャ
ン マ ー 最 長 の 河 川 で あ る ( Maung Maung Than, 2006)。 雨 季 の 河 川 流 量 が 極
め て 多 く , 乾 季 と の 流 量 差 は 著 し い ( シ ュ ト ル ツ , 1967)( Fig. 3.3)
Fig. 3.3. エーヤワディー(イラワジ),メコ
ン,チャオプラヤ三河川の月平均流量
出典:高谷(1985)から抜粋
(月)
- 54 -
第3章
掃 流 土 砂 量 は , 東 南 ア ジ ア の 大 河 川 と 比 較 し て 膨 大 で あ る ( Table 3.1)。
そ の た め , 年 50∼ 60 mの 速 度 で デ ル タ の 前 縁 が 海 方 に 拡 大 し ( 井 関 , 1972;
Win Win Khine, 1995),デ ル タ の 末 端 部 に は 浜 堤 3 が 列 状 に 形 成 さ れ 海 岸 帯 の
特 徴 的 な 地 形 要 素 と な っ て い る ( Fig. 3.4)。
Table 3.1 東南アジアの大河川の掃流土砂量
出典:高谷(1985)から抜粋
丘陵
Bogalay
◎
マングローブ域
N 16°
●
●
E 95°
Ashe Mayan
N
➣
浜堤列
Fig. 3.5. マングローブ域と浜堤列
出典:高谷(1985)を筆者改変
( 4) 海 水 準 変 動
潮 汐 型 は ,1 日 に 2 回 の 干 満 を 繰 り 返 す ,Semi-diurnal 型 で あ る 。1 日 の 潮
位 差 は ,乾 季 の Byonehmwe 島 に お け る 大 潮 時 に 2.8 m,小 潮 時 に 1.8 m が 観
測 さ れ て い る 。 大 潮 と 小 潮 は そ れ ぞ れ 月 2 回 あ る ( Tin Maung Kyi, 1992;
Maung Maung Than, 2006)。
海 水 準 は 河 川 の 流 量 と 季 節 風 の 影 響 に よ り 季 節 的 に も 変 動 す る 。流 量 が 多
3
浜 堤 と は ,内 陸 側 が 土 砂 で 埋 積 さ れ た 海 岸 線 に 平 行 な 砂 州 で あ る( 菊 池 , 2001)。
- 55 -
第3章
く 上 流 向 き の 南 西 季 節 風 が 吹 く 雨 季 に 最 も 高 く ,流 量 が 少 な く 季 節 風 が 下 流
向 き の 乾 季 に 最 も 低 い 。乾 季 と 雨 季 の 海 水 準 の 差 は ,隣 国 バ ン グ ラ デ シ ュ の
海 岸 で 60∼ 90cm,Byonehmwe 島 に お い て は 54 cm( 筆 者 観 測 )で あ っ た が ,
場 所 と 条 件 に よ り 1∼ 2 m に 達 す る ( 向 後 , 1995; 宮 本 , 2000; JICA, 2005)。
( 5) 地 盤 高 と 浸 水 環 境
海 水 準 の 季 節 変 動 の 大 き さ は ,土 地 の 浸 水 環 境 に 影 響 し て い る 。マ ン グ ロ
ー ブ 域 の 地 盤 高 は ,浸 水 頻 度 と の 対 応 に よ り 6 階 級 に 区 分 さ れ て い る( Table
3.2)。乾 季 に ほ と ん ど 浸 水 し な い 浸 水 ク ラ ス 5∼ 6 の 土 地 が 35%,お よ び 月 7
∼ 8 回 大 潮 時 の み 浸 水 す る 浸 水 ク ラ ス 4 の 土 地 が 50% と さ れ ,土 壌 水 分 の 欠
乏 す る 潮 間 帯 高 地 の 割 合 が 卓 越 し て い る ( 向 後 , 1995)。
Table 3.2 エーヤワディーデルタの地盤高と浸水頻度
Tidal level above sea
level/admiralty datum
(m)
Inundation
class
Days of flooding/month
in dry season
6
0*
Flooded in rainy season
2.8-3.3
Extremely high ground
5
0-2
Flooded by equinoctial tides
2.7-2.8
High ground
4
3-9
Spring high tides
2.4-2.7
Medium ground, level 2
3
10-15
Normal high tides
2.0-2.4
Medium ground, level 1
2
16-21
Medium high tides
1.6-2.0
Low ground, level 2
1
22-31
Flooded by all high tides
0.1-1.6
Low ground, level 1
Tidal inundation
*: 雨季の洪水時のみ浸水
Mangrove land area
classes
出典:Myint Aung (2004)を筆者改変
( 6) 水 路 の 塩 分 濃 度
汽 水 の 塩 分 濃 度 を 区 分 す る 基 準 は , 研 究 者 に よ り 異 な る 。 Siddiqi( 1994)
は 伝 導 率 に よ り ,塩 分 濃 度 を 高 濃 度 ,中 濃 度 ,低 濃 度 の 3 段 階 に 区 分 し( Table
3.3), マ ン グ ロ ー ブ の 生 態 研 究 に 適 用 し て い る 。
Table 3.3 塩分濃度区分
濃度区分
高濃度
中濃度
低濃度
伝導率(m mhoS/cm) 換算濃度(‰)
4∼
20.0∼
2∼4
10.0∼20.0
∼2
∼10.0
出典:Siddiqi(1994)をもとに筆者作成
換算濃度は「株式会社 堀場製作所ホームページ」にもとづく
http://www.jp.horiba.com/story/conductivity/conductivity_03.htm (2006.5.25)
- 56 -
第3章
水 路 の 塩 分 濃 度 に は ,河 口 か ら の 距 離 ,地 形 ,潮 汐 ,降 雨 が 影 響 す る( Maung
Maung Than, 2006)。エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ で は ,河 口 か ら 約 50 km の Bogalay
に お け る 塩 分 濃 度 が , 雨 季 の 間 半 年 以 上 の に わ た り 5‰以 下 で あ る ( Maung
Maung Than, 1999)。 し か し な が ら , 河 口 に 近 接 す る 水 路 に つ い て は , こ れ
まで塩分濃度の季節変化が調査・報告されていない。
そ こ で ,筆 者 は 2003 年 ∼ 2005 年 の 雨 季 お よ び 乾 季 に ,河 口 近 く の 水 路 に
お け る 塩 分 濃 度 を 屈 折 計 に よ り 観 測 し た( Fig. 3.5, Table 3.4)。観 測 結 果 を 濃
度 等 値 線 に よ り 図 示 す る ( Fig. 3.6)。 デ ル タ 海 岸 帯 の 河 口 近 傍 に お け る 水 路
の 塩 分 濃 度 は ,雨 季 に は 真 水 か ら 低 濃 度 ,乾 季 に は 低 濃 度 か ら 中 濃 度 で あ っ
た。
w
v
t
u
N 16°
s
rq
e
a b
f
c
g
h
k
m l
ij
n
N
➢
d
o p
0
10km 10 km
E 95°
30′
Andaman Sea
Fig. 3.5. 塩分濃度の観測地点
Table 3.4 塩分濃度の観測結果
観測地点
a
b
c
d
e
f
g
h
i
j
k
l
-
塩分濃度 (‰)
雨季
乾季
(8月又は9月) (2月又は3月)
1.0
4.0
2.0
2.0
3.0
1.0
1.0
2.0
15.0
18.0
19.0
13.0
16.0
18.0
17.0
17.5
17.0
15.5
17.0
18.5
- 57 -
観測地点
m
n
o
p
q
r
s
t
u
v
w
Pyindaye
Pyindaye
Byonehmwe
Byonehmwe
Meinmahla
-
塩分濃度 (‰)
乾季
雨季
(8月又は9月) (2月又は3月)
5.0
5.0
10.0
18.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
19.0
19.0
10.0
10.0
8.0
9.0
11.0
5.0
3.0
第3章
5‰
乾季
雨季
10‰
0‰
20‰
15‰
●
●
5‰
10‰
0
10 km
Fig. 3.6. 乾季および雨季の水路の塩分濃度分布
出典:筆者による観測に基づく
3.2.2 マ ン グ ロ ー ブ 植 生
( 1) エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ 湿 地 林
東 南 ア ジ ア の 低 湿 地 林 は ,水 分 条 件 お よ び 土 壌 条 件 に よ り マ ン グ ロ ー ブ 林 ,
淡 水 湿 地 林 ,泥 炭 湿 地 林 に 区 分 さ れ る 。マ ン グ ロ ー ブ 林 は ,最 も 海 よ り の 海
水 か ら 汽 水 域 に 出 現 し ,そ の 後 背 地 に ,主 に 河 川 水 の 供 給 を 受 け る 淡 水 湿 地
林 と ,主 に 雨 水 の 供 給 を 受 け る 泥 炭 湿 地 林 が 見 ら れ る 。前 2 者 は 潮 汐 の 影 響
を 多 少 受 け る が , 後 者 は 停 滞 水 下 に あ る ( 山 田 , 1986)。
エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の 湿 地 林 の 植 生 は , Heritiera fomes 林 が 広 く 優 占 す
る ( Maung Maung Than, 2006), あ る い は H. fomes, Excoecaria agallocha,
Cynometra ramiflora , Ceriops decandra , Bruguiera gymnorrhiza , Avicennia
officinalis の 6 種 が 量 的 に 豊 富 ( Maung Maung Than, 2006) だ と さ れ る 。 す
なわち,純マングローブ以外が植生の中核として特徴付けられている。
山 田( 1986)は ,種 構 成 か ら 当 地 の H. fomes 林 を 淡 水 湿 地 林 と の 連 続 性 の
なかで捉えている。
( 2) 立 地 と マ ン グ ロ ー ブ 群 落
JICA( 2005)は ,地 盤 高 お よ び 水 分 条 件 と 出 現 種 の 関 係 を 整 理 し ,H. fomes
の 分 布 域 を ,低 塩 分 環 境 で あ れ ば 浸 水 ク ラ ス 2 か ら ,高 塩 分 環 境 で あ れ ば 浸
水 ク ラ ス 3 か ら ,そ れ ぞ れ 浸 水 ク ラ ス 4 に か け て と し ,ヒ ル ギ 科 や セ ン ダ ン
科 の 純 マ ン グ ロ ー ブ が 随 伴 す る と ま と め た ( Table 3.5)。
- 58 -
第3章
Table 3.5 エーヤワディーデルタのマングローブ分布
(浸水クラス 1)
(浸水クラス 2)
(浸水クラス 3)
(浸水クラス 4)
(浸水クラス 5)
出典:JICA(2005)を筆者改変
Myint Aung( 2004) は , デ ル タ に お け る 最 初 の 植 物 社 会 学 的 調 査 を 行 い ,
立 地 と 植 生 の 対 応 関 係 を ま と め た 。広 域 的 に は ,乾 季 に お け る 水 路 の 塩 分 濃
度 に 対 応 す る 4 つ の 植 生 帯 を 区 分 し て い る ( Table 3.6)。 ま た 帯 状 構 造 と し
て ,汀 線 か ら の 比 高 に 対 応 さ せ Marsh Community( 湿 性 草 地 群 落 ),Coastal and
River-bank Community( 沿 岸 ・ 河 岸 群 落 ), Inland Community( 内 陸 群 落 ) の
3 つ の 群 落 タ イ プ を 区 分 し た 。「 沿 岸 域 」 以 外 の 3 区 域 に お い て , 自 然 堤 防
を 含 む 内 陸 群 落 の ほ と ん ど が Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 で あ る と
している。
Table 3.6 エーヤワディーデルタの植生帯と塩分濃度
植生帯
濃度(‰)
Coastal zone
沿岸域
24.0∼28.0
Down stream
下部河口域
20.0∼24.0
Middle stream 中部河口域
15.0∼20.0
Upper stream
上部河口域
8.0∼12.0
出典:Myint Aung(2004)を筆者改変
成 熟 し た 二 次 林 に お け る 水 際 か ら の 植 生 配 列 を 他 の 東 南 ア ジ ア ,特 に 数 多
- 59 -
第3章
く の 調 査 が な さ れ た マ レ ー 半 島 の デ ル タ と 比 較 す る と ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル
タ に お い て は 水 際 の Rhizophora 帯 は 数 m と 極 め て 狭 い こ と が 特 徴 の ひ と つ
で あ る 。さ ら に 平 均 高 潮 位 線 以 上 に お い て 陸 側 に 向 か う に つ れ ,マ レ ー 半 島
で は Lumnitzera spp.と Heritiera littoralis の 帯 域 と な る が ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ
ル タ で は H. fomes 帯 と な っ て お り ,そ の 範 囲 も 水 際 近 く か ら 内 陸 の 潮 間 帯 上
部 ま で と 極 め て 広 い と い う 特 異 性 を 持 つ ( Fig. 3.7)。 し た が っ て , エ ー ヤ ワ
デ ィ ー デ ル タ に お い て は ,資 源 管 理 お よ び こ れ を 支 え る 生 態 研 究 の 対 象 と し
て , 優 占 す る 面 積 の 割 合 が 極 め て 高 い H. fomes は 特 に 重 要 だ と 言 え る 。
(a)
Ra Ao
Hf
Hf
Kc
Ea
Ea
Pp
Kc
0
50
100
150
200
(m)
(b)
Ra
Ra
Ct
X
Ra
Ll
Ll
Ll
Ml
Ct
Xg
Ra
Ac
Ra
Ra
Hl
Hl
H.H.W.L.
M.H.W.L.
M.W.L.
0
100
200
300
400
500
600(m)
Fig. 3.7. エーヤワディーデルタとタイ南西部デルタの間の植生帯の比較
(a)ミャンマー・エーヤワディーデルタ,(b)タイ・Khlong Thom
Ac:Aegiceras corniculatum,Ao:Avicennia officinalis,Ct:Ceriops tagal,
Ea:Excoecaria agallocha,Hf:Heritiera fomes,Hl:Heritiera littoralis,Kc:Kandelia candel,
Ll:Lumnitzera littorea,Ml:Melaleuca leucadendra,Pp:Phoenix paludosa,
Ra:Rhizophora apiculata,X:Xylocarpus sp.,Xg:Xylocarpus granatum
M.W.L:平均海面,M.H.W.L.:平均高潮位,H.H.W.L:最大高潮位,横軸は汀線からの距離を示す。
出典:(a)Myint Aung(2004)を筆者改変,(b)Mochida et al.(1999)を筆者改変
- 60 -
第3章
( 3) Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集
下 部 河 口 域 ,中 部 河 口 域 ,上 部 河 口 域 の 内 陸 群 落 の 中 核 を な し ,浸 水 ク ラ
ス 3 お よ び 4 が 分 布 の 中 心 で あ る 。 群 集 標 徴 種 は , Amoora cucullata と 林 冠
に お い て 優 占 す る H. fomes, ま た , H. fomes に 次 い で 高 木 層 へ の 出 現 頻 度 が
高 い の は , Excoecaria agallocha で あ る 。 群 集 は , 高 木 層 に お い て Bruguiera
spp. ( B. gymnorrhiza も し く は B. sexangula ) が 区 分 種 と し て 優 占 す る ,
Bruguiera gymnorrhiza 亜 群 集 と , 低 層 に お い て Acanthus spp. ( Acanthus
ilicifolius も し く は Acanthus volubilis) の 優 占 度 が 高 い Acanthus ilicifolius 典
型 亜 群 集 に 区 分 さ れ る 。Bruguiera gymnorrhiza 亜 群 集 は ,内 陸 の 水 路 際 な ど
や や 凹 地 に 出 現 す る ( Myint Aung, 2004)。
現 在 ま で に 強 度 の 人 為 影 響 を 受 け , Hibiscus tiliaceus, Phoenix paludosa,
Acrostichum aureum な ど の 低 質 林 化( Myint Aung, 2004)お よ び 小 径 木 化 と い
った,劣化し変質した林分が増加している。
( 4) Heritiera fomes BUCH.-Ham.
地 理 的 な 分 布 ( Fig. 3.8) は , ス リ ラ ン カ か ら イ ン ド 東 岸 , イ ン ド ・ バ ン
グ ラ デ シ ュ の ス ン ダ ル バ ン ス ,バ ン グ ラ デ シ ュ の チ ッ タ ゴ ン か ら ミ ャ ン マ ー
の ラ カ イ ン 州 ,そ し て エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に 限 ら れ る ,ベ ン ガ ル 湾 岸 の 地
域 固 有 種 で あ る ( Chapman, 1976)。
Bangladesh
Sundarbans
Myanmar
India
Rakhine
N 20°
Ayeyarwady Delta
Bay of Bengal
Sundarbans
0
E 70°
E 80°
Fig. 3.8. Heritiera fomesの地理的分布
出典: Chapman (1976)を筆者改変
- 61 -
E 90°
➣
N
N 10°
1000 km
1000 km
第3章
地 域 的 に は , 耐 塩 性 を 持 つ も の の 淡 水 域 か ら 汽 水 域 ま で 優 占 し ( Curtis,
1933),水 路 際 か ら( Kostermans, 1959)乾 季 に は 冠 水 し な い 高 い 地 盤 高 ま で
広 く 分 布 す る ( Karim, 1988)。
通常樹体は通直な単幹で生育し,成木の樹高は,研究地域において 4 最大
約 41 m, 45 mに 達 す る と も 言 わ れ る ( Chapman, 1976)。 し か し な が ら 現 在
調 査 地 域 で 見 ら れ る 個 体 は , 最 大 で も 20 m程 度 ま で で あ る ( Fig. 3.9A)。 成
長は水環境に左右され,高塩分濃度では樹高はそれほど高くならず
( Chapman, 1976), 雨 季 に し か 冠 水 し な い 高 地 盤 地 で は 成 長 が 芳 し く な い
( Karim, 1988)。
楕 円 形 で 凹 凸 の あ る 果 実 を 産 し ,根 系 は 多 数 の 筍 根 に よ っ て 特 徴 づ け ら れ
る 。果 実( Fig. 3.9B)は 雨 季 に 成 熟 し 水 流 に よ っ て 散 布 さ れ る が ,そ の 時 期
は 同 じ 地 域 で も 同 期 性 を 示 さ ず , 1 ヶ 月 半 以 上 の 長 期 に 渡 る ( Siddiqi et al.,
1991)。
(A)
(B)
40 mm
Fig. 3.9. Heritiera fomesの形態
(A) 樹体と果実, (B) 房生りする果実
(筆者撮影:2002年8月18日,Pyindayeにて)
4
過 去 Meinmahla島 に お い て 商 業 伐 採 を 行 っ て い た 木 材 業 者 の 聞 き 取 り 調 査 。 90
taungを 換 算 。
- 62 -
第3章
3.3 海 岸 帯 に お け る 在 地 空 間
3.3.1 目 的
在 地 の 空 間 は ,資 源 が 分 布 し 資 源 に 関 わ る 人 間 活 動 が 行 わ れ る 生 態 的・社
会 的 な 空 間 的 領 域 で あ る 。デ ル タ の 海 岸 帯 に は ,感 潮 水 路 ,潮 間 帯 ,浜 堤 な
ど の 地 形 要 素 が あ る 。陸 域 と 水 域 の 間 の 生 態 学 的 な 移 行 帯 に マ ン グ ロ ー ブ は
分 布 し ,よ り 高 い 土 地 に は マ ン グ ロ ー ブ 以 外 の 植 物 が 分 布 す る 。資 源 の 採 集
と 利 用 と い う 人 間 活 動 の 対 象 は ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 植 物 に 限 ら れ て は い な い 。
秋 道 ( 1999b) は , 「 自 然 は 連 続 的 で , マ ン グ ロ ー ブ だ け を 切 り 取 っ て ( 管
理 を )議 論 で き な い 。後 背 地 ,沿 岸 海 流 な ど 包 括 的 な エ リ ア の 中 で の ワ ン ・
ポテンシャルととらえるべきだ」と指摘している。
エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の こ れ ま で の マ ン グ ロ ー ブ 研 究 に お い て は ,立 地 で
あ る 潮 間 帯 の 環 境 と 植 生 が 対 象 と さ れ て き た 。施 策 に お い て も ,マ ン グ ロ ー
ブ を 地 域 の 景 観 の 中 で 捉 え た 資 源 管 理 空 間 の 設 計 は な さ れ て い な い 。し た が
っ て ,海 岸 帯 の 地 形 ,植 生 ,土 地 利 用 と い っ た 包 括 的 な 景 観 の 中 で ,マ ン グ
ロ ー ブ 林 の 植 物 と そ の 分 布 ,お よ び 人 々 に よ る 採 集・利 用 活 動 を 把 握 し ,マ
ングローブ資源管理における在地の空間を明らかにする必要がある。
本 項 の 目 的 は ,自 然 相・資 源 相・文 化 相 を 統 合 す る 海 岸 帯 の 在 地 の 空 間 領
域 を 明 ら か に す る こ と で あ る 。そ の た め に 村 落 周 辺 の 景 観 を 地 形 ,土 質 ,土
地 利 用 の か ら 捉 え ,潮 間 帯 と よ り 上 部 の 土 地 に 生 育 し 資 源 の 素 材 と な り う る
植 物 相 を フ ィ ー ル ド に お い て 調 査 し た 。さ ら に ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 へ の ア ク
セスと採集地をインタビューと踏査から把握した。
3.3.2 調 査 方 法
( 1) 調 査 地
調 査 は , デ ル タ の 海 岸 帯 に 位 置 す る Ashe Mayan 村 周 辺 に お い て 行 な っ た
( Fig. 3.10)。
( 2) 調 査 方 法
地 形 ・ 土 質 ・ 土 地 利 用 の 調 査 は ,景 観 を 構 成 す る 感 潮 水 路 ,潮 間 帯 ,お よ
び 浜 堤 が 含 ま れ る よ う 定 め た 2 地 点( Fig. 3.10 中 の Ⓐ ,Ⓑ )間 に お い て 行 な
っ た 。水 際 の 2 地 点 を 結 ぶ 直 線 上 の 最 高 標 高 地 点 を 水 準 点 と し ,水 準 点 か ら
2∼ 15 m 程 度 毎 に 繰 り 返 し 測 点 を 設 け , 水 際 ま で の 水 準 測 量 を Ⓐ Ⓑ 2 つ の 向
- 63 -
第3章
き に つ い て 行 な っ た 。ま た 適 宜 の 測 点 に お い て ,地 表 下 60 cm の 土 壌 の 土 性
判 定 ( 日 本 ペ ド ロ ジ ー 学 会 , 1997), 植 生 調 査 ( Braun-Blanquet, 1964; 藤 原 ,
1997), 土 地 利 用 の 記 録 を 行 な っ た 。
1 grid = 1000 YD.
N 15°49′
E 95°26′
Ⓐ
Ⓑ
0
50 km
浜堤
Ground Survey 1927-28
潮間帯
Fig. 3.10. 調査地
※矢印はAshe Mayan村。ⒶⒷは水準測量の終点。
植 物 相 の 調 査 は ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 植 物 群 に つ い て は 村 落 周 辺 の 潮 間 帯 に
お い て ,そ れ 以 外 の 植 物 群 に つ い て は 潮 間 帯 よ り 高 地 盤 高 の 浜 堤 上 部 に あ る
集 落 の ホ ー ム ガ ー デ ン お よ び 耕 作 地 周 辺 に お い て 高 さ 60 cm 以 上 の 植 物 を
対象として行なった。
マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 採 集 地 と ア ク セ ス 経 路 は ,燃 料 ,建 材 ,工 芸 材 と な る
Heritiera fomes,Cynometra ramiflora,Bruguiera gymnorrhiza ま た は Bruguiera
sexangula, Ceriops decandra を 対 象 と し , 村 人 へ の イ ン タ ビ ュ ー と 踏 査 に よ
り 把 握 し た 。 イ ン タ ビ ュ ー は , マ ン グ ロ ー ブ 林 が 豊 か で あ っ た 1960 年 代 初
頭 以 前 か ら Ashe Mayan 村 に 住 み , 自 ら 資 源 採 集 を 行 な っ て い た 村 人 4 名 を
被 面 接 者 と す る グ ル ー プ イ ン タ ビ ュ ー で あ る 。 イ ン タ ビ ュ ー 項 目 は , 1960
- 64 -
第3章
年代初頭および現在における対象種の採集地と採集地までのアクセスの経
路・手段である。
地 形 ・ 土 性 ・ 土 地 利 用 お よ び 資 源 採 集 に 係 る 調 査 は 2004 年 9 月 に , 植 物
相 の 調 査 は 2003 年 か ら 2005 年 に 行 な っ た 。
3.3.3 結 果 と 考 察
( 1) 地 形 お よ び 景 観
水 準 測 量 ,土 性 ・ 土 地 利 用 調 査 の 結 果 を ,Fig. 3.11 に 示 す 。年 間 を 通 じ 潮
汐 に よ る 冠 水 が 起 こ ら な い 高 潮 位 線 以 上 の 砂 質 地 は ,ホ ー ム ガ ー デ ン が 大 部
分 を 占 め ,家 屋 や 人 道 ,た め 池 な ど に 利 用 さ れ て い た 。高 潮 位 線 以 下 の 潮 間
帯 に は マ ン グ ロ ー ブ 林 が 散 在 し ,集 落 隣 接 地 で は ニ ッ パ プ ラ ン テ ー シ ョ ン も
しくは上部は水田に転換されていた。
Fig. 3.11. 調査村の地形断面図,土地利用模式図
出典:筆者測量・調査・作成
※高潮位線は,雨季の大潮・満潮時の観測による。
( 2) 植 物 相
本 研 究 で は ,「 Plants in Myanmar Mangroves( Win Maung, 1999)」 の 掲 載 種
お よ び ,マ ン グ ロ ー ブ 林 に 頻 出 す る Stenochlaena palustris を マ ン グ ロ ー ブ 植
物 ( Table 3.7), そ れ 以 外 を 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 と し た 。 ホ ー ム ガ ー デ ン お
よ び 耕 作 地 周 辺 に お い て は ,142 種 類 の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 を 区 別 し こ の う
ち 科 レ ベ ル ま で 判 別 さ れ た の は 53 科 129 種 で あ っ た( Table 3.8)。マ ン グ ロ
ー ブ 林 に お い て は 33 科 77 種 の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 が 分 布 し て い た( Table 3.7
中 の 丸 印 )。
- 65 -
第3章
Table 3.7 マングローブ林の植物相(マングローブ植物)
学名
Acanthus ebracteatus Vahl
Acanthus ilicifolius L.
Acanthus volubilis Wall.
Hygrophila obovata Griff.
Sesuvium portulacastrum (L.) L.
Crinum asiaticum Roxb.
Cerbera odollam Gaertner
Calamus arborescens Griff.
Nypa fruticans (Thunb.) Wurmb.
Oncosperma tigillaria Ridl.
Phoenix paludosa Roxb.
Calotropis gigantea [Dryand.]
Finlaysonia maritima Backer ex K. Heyne
Sarcolobus carinatus Wall.
Sarcolobus globosus Wall.
Pluchea indica Less.
Avicennia alba Blume
Avicennia marina (Forsk.) Vierh.
Avicennia officinalis L.
Dolichandrone spathacea (L.f.) K. Schumann
*2
Stenochlaena palustris ( Burm. ) Bedd.
Cordia cochinchinensis Gagnepain
Caesalpinia bonduc (L.) Roxb.
Caesalpinia crista L.
Cynometra ramiflora L.
Intsia bijuga (Colebr.) O. Kuntze
Calycopteris floribunda ( Roxb. ) Lam.
Combretum tetralophum C.B.Clarke
Combretum trifoliatum Vent.
Lumnitzera littorea (Jack) Voigt
Lumnitzera racemosa Willd.
Terminalia catappa L.
Ipomoea biloba Forssk.
Ipomoea maxima G.Don
Ipomoea tuba G.Don
Diospyros embryopteris Blanco
Diospyros ferrea ( Willd. ) Bakh.
Diospyros maritima Blume
Excoecaria agallocha L.
Sapium indicum Willd.
Dalbergia pinnata (Lour.) Prain
Dalbergia spinosa Roxb.
Dalbergia volubilis Urb.
Derris indica ( Lamk. ) Bennet
Derris scandens BENTH.
科
Acanthaceae
Acanthaceae
Acanthaceae
Acanthaceae
Aizoaceae
Amaryllidaceae
Apocynaceae
Arecaceae
Arecaceae
Arecaceae
Arecaceae
Asclepiadaceae
Asclepiadaceae
Asclepiadaceae
Asclepiadaceae
Asteraceae
Avicenniaceae
Avicenniaceae
Avicenniaceae
Bignoniaceae
Blechnaceae
Boraginaceae
Caesalpiniaceae
Caesalpiniaceae
Caesalpiniaceae
Caesalpiniaceae
Combretaceae
Combretaceae
Combretaceae
Combretaceae
Combretaceae
Combretaceae
Convolvulaceae
Convolvulaceae
Convolvulaceae
Ebenaceae
Ebenaceae
Ebenaceae
Euphorbiaceae
Euphorbiaceae
Fabaceae
Fabaceae
Fabaceae
Fabaceae
Fabaceae
*1
結果
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
学名
Derris trifoliata Lour.
Erythrina indica Lam.
Mucuna gigantea (Willd.) DC.
Pongamia pinnata (L.) Pierre
Flagellaria indica L.
Calophyllum inophyllum Lam.
Barringtonia racemosa (L.) Spreng.
Hibiscus tiliaceus L.
Thespesia populnea Sol. ex Correa
Amoora cucullata (Roxb.)
Xylocarpus granatum (Lamk.) Roem.
Xylocarpus moluccensis Kö nig
Aegiceras corniculatum (L.) Blanco
Ardisia littoralis Andrews
Caryota urens L.
Pandanus foetidus Roxb.
Pandanus odoratissimus Blume
Aegialitis rotundifolia Roxb.
Acrostichum aureum L.
Acrostichum speciosum Willd.
Bruguiera gymnorrhiza (L.) Lamk.
Bruguiera parviflora (Roxb.) Wight & Arn. ex Griff.
Bruguiera sexangula (Lour.) Poir.
Ceriops decandra (Griff.)Ding Hou
Ceriops tagal C.B. Rob.
Kandelia candel (L.) Druce
Rhizophora apiculata BL.
Rhizophora mucronata Lamk
Bruguiera cylindrica Blume
Mussaenda macrophylla Wall.
Merope angulata (Willd.) Swingle
Azima sarmentosa Benth.
Sonneratia alba Griff.
Sonneratia apetalla Buch.-Ham.
Sonneratia caseolaris (L.) Engler
Sonneratia griffithii Kurz
Heritiera fomes Buch.-Ham.
Heritiera littoralis Dryand.
Brownlowia tersa (L.)
Clerodendron inerme (L.) Gaertn
Stachytarpheta jamaicensis Vahl
Vitex obovata E.Mey.
Premna obtusifolia R.Br.
Cayratia trifolia (L.) Domin
出典:「Plants in Myanmar Mangroves(Win Maung, 1999)」に筆者が調査結果を追記・改変
*1 調査結果:村落周辺のマングローブ林の植物相を○で示した
*2 Win Maung(1999)に掲載されていなかった種
- 66 -
科
Fabaceae
Fabaceae
Fabaceae
Fabaceae
Flagellariaceae
Hypericaceae
Lecythidaceae
Malvaceae
Malvaceae
Meliaceae
Meliaceae
Meliaceae
Myrsinaceae
Myrsinaceae
Palmae
Pandanaceae
Pandanaceae
Plumbaginaceae
Polypodiaceae
Polypodiaceae
Rhizophoraceae
Rhizophoraceae
Rhizophoraceae
Rhizophoraceae
Rhizophoraceae
Rhizophoraceae
Rhizophoraceae
Rhizophoraceae
Rhizophoraceae
Rubiaceae
Rutaceae
Salvadoraceae
Sonneratiaceae
Sonneratiaceae
Sonneratiaceae
Sonneratiaceae
Sterculiaceae
Sterculiaceae
Tiliaceae
Verbenaceae
Verbenaceae
Verbenaceae
Verbenaceae
Vitaceae
*1
結果
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
第3章
Table 3.8 ホームガーデンの植物相(非マングローブ植物)
学名
Amaranthus caudatus L.
Anacardium occidentale L.
Bouea burmanica Griff.
Mangifera indica L.
Annona muricata L.
Annona glabra L.
Tabernaemontana divaricata (L.) R. Br. ex Roem. & Schult.
Tabernaemontana sp.
Vallaris solanacea (Roth) Kuntze
Areca catechu L.
Calamus viminalis Willd.
Caryota mitis Lour.
Cocos nuciferae L.
Licuala peltata Roxb.
Blumea balsamifera (L.) DC.
Eupatorium cannabinum L.
Eupatorium odratum L.
Oroxylum indicum (L.) Kurz
Pajanelia longifolia (Willd.) K. Schum.
Ceiba pentandra (L.) Gaertn.
Durio zibethinus Murray
Cordia dichotoma Forst.
Ananas comosus (L.) Merr.
Cassia alata L.
Cassia fistula L.
Senna siamea (Lam.) Irwin & Barneby
Tamarindus indica L.
Crateva magna (Lour.) DC.
Carica papaya L.
Salacia chinensis L.
Costus speciosus Sm.
Crypteronia paniculata Blume
Trichosanthes cucumerina L.
Dillenia indica L.
Dioscorea alata L.
Dioscorea birmanica Prain & Burkill
Dipterocarpus alatus Blume
Dipterocarpus retusus Blume
Diospyros burmanica Kurz
Diospyros discolor Willd.
Baccaurea sapida Muell. Arg.
Codiaeum variegatum (L.) Blume
Croton oblongifolius Roxb.
Emblica officinalis Gaertn.
Flueggea virosa (Roxb. ex Willd.) Voigt
Glochidion coccineum Muell. Arg.
Phyllanthus niruri L.
unidentified (*Zinbyu)
Derris elliptica (Roxb.) Benth.
Desmodium pulchellum Benth.
Moghania semialata (Roxb.) Mukerj.
Pterocarpus macrocarpus Kurz
Spatholobus listeri Prain
Tadehagi triquetrum (L.) H. Ohashi
Garcinia cowa Roxb.
Garcinia mangostana L.
Mesua ferrea L.
Mesua nervosa Planch. & Triana
Gonocaryum griffithianum (Miers) Kurz
Cinnamomum inunctum Meissner
Litsea glutinosa (Lour.) C.B. Rob.
Litsea nitida (Roxb.) Hook. f.
Litsea sp.
Barringtonia sp.
Leea indica Merr.
Lagerstroemia speciosa (L.) Pers.
科
Amaranthaceae
Anacardiaceae
Anacardiaceae
Anacardiaceae
Annonaceae
Annonaceae
Apocynaceae
Apocynaceae
Apocynaceae
Arecaceae
Arecaceae
Arecaceae
Arecaceae
Arecaceae
Asteraceae
Asteraceae
Asteraceae
Bignoniaceae
Bignoniaceae
Bombacaceae
Bombacaceae
Boraginaceae
Bromeliaceae
Caesalpiniaceae
Caesalpiniaceae
Caesalpiniaceae
Caesalpiniaceae
Capparaceae
Caricaceae
Celastraceae
Costaceae
Crypteroniaceae
Cucurbitaceae
Dilleniaceae
Dioscoreaceae
Dioscoreaceae
Dipterocarpaceae
Dipterocarpaceae
Ebenaceae
Ebenaceae
Euphorbiaceae
Euphorbiaceae
Euphorbiaceae
Euphorbiaceae
Euphorbiaceae
Euphorbiaceae
Euphorbiaceae
Euphorbiaceae
Fabaceae
Fabaceae
Fabaceae
Fabaceae
Fabaceae
Fabaceae
Hypericaceae
Hypericaceae
Hypericaceae
Hypericaceae
Icacinaceae
Lauraceae
Lauraceae
Lauraceae
Lauraceae
Lecythidaceae
Leeaceae
Lythraceae
学名
Phrynium capitatum Willd.
Schumannianthus dichotomus (Roxb.) Gagnep.
Melastoma malabathricum L.
Azadirachta indica A. Juss.
Melia birmanica Kurz
Tinospora cordifolia Miers
Tinospora nudiflora Kurz
Acacia auriculiformis A. CUNN. Ex BENTH
Albizia procera (Roxb.) Benth.
Archidendron jiringa (Jack) Nielsen
Entada pursaetha DC.
Samanea saman (Jacq.) Merr.
Artocarpus heterophyllus Lam.
Ficus glomerata Roxb.
Ficus hispida L. f.
Ficus obtusifolia Roxb.
Ficus religiosa L.
Ficus rumphii Blume
Streblus asper Lour.
Musa sp.
Ardisia polycephala Wall.
Eucalyptus ovata Labill.
Psidium guajava L.
Syzygium malaccense (L.) Merr. & L.M. Perry
Syzygium oblatum (Roxb.) Wall. ex A.M. Cowan & Cowan
Syzygium sp. (*Kyauk-thabye)
Syzygium sp. (*Thabye-gyi)
Syzygium sp. (*Thitpyu)
Olax psittacorum (Willd.) Vahl
Jasminum multiflorum (Burm. f.) Andrews
Nyctanthes arbor-tristis L.
Bulbophyllum sp.
Ludisia discolor (Ker Gawl.) Lindl.
Piper betle L.
Piper nigrum L.
Dendrocalamus brandisii (Munro) Kurz
Dendrocalamus giganteus Wall. ex Munro
Dendrocalamus longispathus (Kurz) Kurz
Eragrostis sp.
Oxytenanthera albociliata Munro
Phragmites vallatoria (L.) Veldkamp
*
unidentified ( Wa-kyu)
Ziziphus jujuba Lam.
Carallia brachiata (Lour.) Merr.
Gardenia jasminoides Ellis
Hypobathrum racemosum Kurz
Hyptianthera stricta Wight & Arn.
Ixora coccinea fa. lutea (Hutch.) Fosberg & Sachet
Ixora coccinea sp.
Morinda angustifolia Roxb.
Citrus aurantiifolia (Christm.) Sw.
Citrus limon (L.) Burm. f.
Citrus maxima (Burm.) Merr.
Litchi chinensis Sonn.
Smilax perfoliata Lour.
Sterculia angustifolia Jack
Microcos paniculata L.
Clerodendrum indicum (L.) Kuntze
Clerodendrum viscosum Vent.
Premna integrifolia L.
Vitex pinnata L.
Alpinia zerumbet (Pers.) B.L. Burtt & R.M. Sm.
Amomum corynostachyum Wall.
科
Marantaceae
Marantaceae
Melastomataceae
Meliaceae
Meliaceae
Menispermaceae
Menispermaceae
Mimosaceae
Mimosaceae
Mimosaceae
Mimosaceae
Mimosaceae
Moraceae
Moraceae
Moraceae
Moraceae
Moraceae
Moraceae
Moraceae
Musaceae
Myrsinaceae
Myrtaceae
Myrtaceae
Myrtaceae
Myrtaceae
Myrtaceae
Myrtaceae
Myrtaceae
Olacaceae
Oleaceae
Oleaceae
Orchidaceae
Orchidaceae
Piperaceae
Piperaceae
Poaceae
Poaceae
Poaceae
Poaceae
Poaceae
Poaceae
Poaceae
Rhamnaceae
Rhizophoraceae
Rubiaceae
Rubiaceae
Rubiaceae
Rubiaceae
Rubiaceae
Rubiaceae
Rutaceae
Rutaceae
Rutaceae
Sapindaceae
Smilacaceae
Sterculiaceae
Tiliaceae
Verbenaceae
Verbenaceae
Verbenaceae
Verbenaceae
Zingiberaceae
Zingiberaceae
*
- 67 -
現地名
第3章
( 3) 資 源 採 集 活 動
対 象 種 の 採 集 地 を , Ashe Mayan 村 周 辺 の 地 形 図 上 に 示 す ( Fig. 3.12A)。
ま た , 水 路 , 浜 堤 , 村 落 , お よ び 採 集 地 を 模 式 図 化 し , Fig. 3.12B に 示 す 。
Heritiera fomes, Cynometra ramiflora の か つ て の 採 集 地 は , 村 落 が 立 地 す る
浜 堤 を 両 側 か ら 挟 む 水 路 際 の 潮 間 帯 ( Fig. 3.12① , ② 。 以 下 同 様 に 図 中 の 番
号 。),お よ び そ の 水 路 の 近 傍 分 流 際 の 潮 間 帯( ③ )で ,東 西 方 向 に 延 び た 地
域 で あ っ た 。並 列 す る 浜 堤 の 内 側 に あ り ,村 落 か ら 採 集 地 ま で の 時 間 距 離 は
1 時 間 以 内 で あ っ た 。 ま た , Ceriops decandra, Bruguiera spp.の 採 集 地 は ,
列 を な す 南 側 の 浜 堤 を 隔 て た 水 路 の 潮 間 帯( ④ )で ,村 落 か ら の 時 間 距 離 は
1 時 間 半 程 度 で あ っ た 。採 集 地 へ は い ず れ も 手 漕 ぎ 舟 に よ り ア ク セ ス し て い
た 。 採 集 地 ④ へ は , 村 落 近 傍 の 水 路 の 接 点 ( J) を 経 由 し て ア ク セ ス し て い
た。
現 在 の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 採 集 可 能 地 は 2 ヶ 所 で ,一 方( ⑥ )は 過 去
の採集地(①)の北側に,他方(⑤)は過去の別の採集地(④)の南側に,
そ れ ぞ れ 浜 堤 を 隔 て た 反 対 側 の 水 路 の 潮 間 帯 上 で あ っ た 。村 落 を 挟 む 水 路 と
の 連 絡 点 は か な り 遠 方 で ,村 落 か ら 採 集 可 能 地 へ の 時 間 距 離 は 3 時 間 以 上 で
あ っ た 。採 集 地 へ は 手 漕 ぎ 舟 を 使 用 し た 後 ,浜 堤 を 徒 歩 で 横 断 し ア ク セ ス し
ていた。現在資源採集と利用の頻度は極めて低かった。
( 4) 考 察
地 形 お よ び 景 観 か ら ,浜 堤 上 の「 陸 域 」と 浜 堤 間 の「 水 域 」お よ び 汽 水 が
及 ぶ 「 潮 間 帯 」 の 3 要 素 の 組 み 合 わ せ が , 列 の 直 交 方 向 に 数 百 m か ら 数 km
の 幅 で 繰 り 返 し 出 現 す る こ と が 明 ら か に な り ,海 岸 帯 に お け る 地 生 態 的 な 基
準 単 位 で あ る と 言 え る 。植 物 相 か ら は ,生 物・生 態 系 と し て 浜 堤 上 部 の 非 マ
ン グ ロ ー ブ 植 物 か ら な る 植 生 の 生 態 系 と ,広 大 な 潮 間 帯 に 広 が る マ ン グ ロ ー
ブ 林 生 態 系 が ,そ れ ぞ れ に 対 応 し て 存 在 す る と 言 え る 。住 民 は マ ン グ ロ ー ブ
植物群と非マングローブ植物群の双方から,植物資源を採集利用している。
浜 堤 を 横 断 せ ず に 到 達 可 能 な か つ て の 採 集 地 は ,資 源 が 減 少 す る 以 前 の 本
来 の 在 地 の 空 間 に あ る と 言 え る 。南 北 方 向 の 手 漕 ぎ 舟 に よ る 移 動 は ,隣 り 合
う 浜 堤 が 遮 っ て い る お り ,近 傍 に 迂 回 水 路 が あ る 場 合 に 限 り 浜 堤 を 隔 て た 反
対 側 が 資 源 採 集 地 と な る と 言 え る 。デ ル タ の 海 岸 帯 に お い て は ,浜 堤 上 が 集
落 の 立 地 と な っ て い る 。中 で も ,大 き な 水 路 に 並 列 す る 浜 堤 は ,手 漕 ぎ 舟 の
利 便 性 が 活 か せ る 村 落 の 好 立 地 だ と 考 え ら れ る 。 し か し な が ら , Ceriops
decandra や Bruguiera spp.の 立 地 は , 潮 間 帯 の う ち 大 き な 水 路 か ら 離 れ た 内
陸 の 凹 地 ( Myint Aung, 2004) で あ り , 村 落 か ら は 遠 隔 と な る 。 そ の 際 , 村
- 68 -
第3章
落 近 傍 の 水 路 の 連 絡 点 が 空 間 の 一 体 性 を 生 み ,多 様 な 資 源 へ の ア ク セ ス を 保
証していると言える。
(A)
浜堤
潮間帯
6
Hf Bg
1
Hf
1 grid = 1000 YD.
3
Hf
Cr
Cr
J
4
Hf
2
Cr
Bg
Cd
Hf
5
Cd
Hf
(B)
凡例
6
3
マングローブ植物採集地
過去
1
e
Ash
J
an
May
2
4
Ground Survey
1927-28
現在
感潮水路
5
浜堤
Fig. 3.12. マングローブ植物採集地
地形図(A)とその模式図(B)
①∼⑥: 資源採集地,Ⓙ:水路の連絡点
Hf:Heritiera fomes,Cr:Cynometra ramiflora,Cd:Ceriops decandra,
Bg:Bruguiera gymnorrhiza or Bruguiera sexangula.
- 69 -
第3章
自 然 相・資 源 相・文 化 相 を 統 合 す る と ,浜 堤 列 と 感 潮 水 路 が 交 代 す る デ ル
タ 海 岸 帯 に お い て は ,集 落 の あ る 浜 堤 の 両 側 に 並 列 す る 2 つ の 浜 堤 に 挟 ま れ ,
列 の 直 交 方 向 に 広 が る 領 域 が 在 地 の 空 間 と 言 え る 。さ ら に 在 地 の 空 間 は ,水
路の連絡により浜堤を隔てて連結されると言える。
3.4 資 源 管 理 の 歴 史 性
3.4.1 目 的
森 林 資 源 の 管 理 と 所 有 の 形 態 は ,資 源 の 利 用 や 状 態 に 強 く 影 響 す る 。ま た ,
管 理 の 性 格 や 所 有 形 態 は , 歴 史 性 に 規 定 さ れ る ( Mather, 1990)。 す な わ ち ,
資 源 と し て の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 群 の 状 態 は ,立 地 の 環 境 に 加 え て 資 源 管 理 制
度 の 地 域 性 と 歴 史 性 に 左 右 さ れ て い る 。し た が っ て ,在 地 的 な マ ン グ ロ ー ブ
資源管理を担保する資源管理制度の歴史性を把握する必要がある。
本 項 に お い て は ,研 究 地 域 の 土 地 お よ び 森 林 資 源 の 所 有 ,管 理 ,利 用 に 係
る制度と習慣を,歴史的背景に基づき明らかにした。
3.4.2 調 査 ・ 研 究 方 法
文 献 調 査 お よ び 2004∼ 2005 年 に イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 行 な っ た 。 被 面 接 者
は ,Pyindaye 地 域 の 村 落 の 長 老 2 名 と 元 林 務 官 の マ ン グ ロ ー ブ 植 林 専 門 家 1
名 で あ る ( Table 3.9)。
Table 3.9 インタビュー対象者
被面接者1
Win Win氏(1952年生まれ)
Bogalay郡 Pyindaye Reserved Forest内 Kanyin Kon村長老
被面接者2
Aung Than氏(1934年生まれ)
Bogalay郡 Ashe Mayan村長老
被面接者3
Maung Maung Than氏(1963年生まれ)
マングローブ植林専門家,元林務官
土 地 の 所 有 形 態 は ,土 地 上 に 存 在 す る 林 産 物 の 採 集・利 用 に 大 き く 影 響 す
る こ と か ら ,土 地 に 関 わ る 制 度・習 慣 に 着 目 し 調 査・分 析 を 行 な っ た 。ま た
東南アジア諸国においては,土地をめぐる複数の権利の併存(水野・重冨,
1997)が 指 摘 さ れ て お り ,所 有 権 に 一 元 化 さ れ な い 権 利 に も 留 意 し た 。資 源
管 理 の 地 域 性 の 分 析 は ,Mather( 1990)の 時 系 列 展 開 モ デ ル を 枠 組 と し ,コ
モンズ論の視点から行なった。
- 70 -
第3章
3.4.3 結 果 と 考 察
( 1) マ ン グ ロ ー ブ 林 の 開 発
「 王 朝 期 の 村 落 」 を Fig. 3.13 に ,「 マ ン グ ロ ー ブ 面 積 の 推 移 」 Fig. 3.14 に
示 す 。 ま た ,「 人 口 密 度 の 推 移 」 を , Table 3.10 に 示 す 。
◎
Bogalay
(1757)
●
STUDY AREA
●
Pyindaye
(1780)
Ashe Mayan
()カッコ内は村落の成立時期を示す。
出典:JICA(2005)を著者改変
Fig. 3.13. 王朝期の村落とその成立時期
Fig. 3.14. エーヤワディーデルタおよびBogalay郡におけるマングローブ面積の推移
出典:JICA(2005)をもとに筆者作成
- 71 -
第3章
王 朝 期 の デ ル タ は ,ほ と ん ど 無 人 の ジ ャ ン グ ル で ,半 農 半 漁 民 が 点 在 し て
い た( 斉 藤 , 1962)。Bogalay郡 の 人 口 密 度 は ,1 km 2 当 た り 数 名 程 度 で あ っ た 。
したがって,無主・未開の広大な自然林が存在していた時代と言える。
Table 3.10 Bogalay郡およびエーヤワディーデルタの人口密度の推移
年
1852
1891
1901
1911
1921
1930
1931
1963
1973
1983
1993
1995
2001
Bogalay郡
9.1
15.1
20.3
29.3
33.7
70.0
79.6
81.1
107.0
-
エーヤワディーデルタ 出典
18.0
a
b
b
b
b
60.0
a
b
c
c
c
142.2
c
177.0
d
200.8
d
2
(単位: per km )
出典:以下をもとに筆者作成
a. Mya Than (2002)
b. Win Win Khine (1995), based on Census of India, PartⅡ
c. Win Win Khine (1995), based on Immigration and Manpower Dept., Yangon
d. JICA (2005), based on Central Statistic Organization, Statistical Year Book 2001
イ ギ リ ス に よ る 植 民 地 前 期 は ,移 住・開 拓 政 策 に よ り マ ン グ ロ ー ブ 林 の 水
田 化 が 始 ま っ た デ ル タ の 開 拓 時 代 で あ り ,部 分 的 に マ ン グ ロ ー ブ 自 然 林 の 破
壊が起こった。本論文中,地形・土壌調査および植物利用調査を行なった
Ashe Mayan 村 は , こ の 頃 ま で に 村 落 と し て 成 立 し て い た と 考 え ら れ る 。
植民地後期においては,保全林指定による森林の公的な囲い込み 5が行な
われた。木材林産物を継続的に生産する目的で,近代森林経営が導入され,
独 立 後 も 材 積 量 算 定 と 大 径 木 の 択 伐 に よ る 森 林 経 営 が 継 続 し た 。部 分 的 に 大
径 木 の 樹 木 の 密 度 が 低 下 し た が ,マ ン グ ロ ー ブ 林 面 積 の 減 少 は 漸 次 的 で あ っ
たと考えられる。
戦 後 期 は ,少 数 民 族 や 反 政 府 武 装 勢 力 が 研 究 地 域 を 掌 握 し て い た 時 期 で あ
る 。森 林 局 の キ ャ ン プ( 駐 在 施 設 )は 徐 々 に 撤 退 し 管 理 機 能 が 喪 失 し て ゆ く
に つ れ ,商 業 的 な 違 法 伐 採 が 急 増 し た と さ れ る 。森 林 資 源 の 実 質 的 な 無 主 化
が,マングローブ林の劣化と減少を加速したと言える。
1970 年 代 か ら 1989 年 ま で の ,社 会 主 義 的 経 済 政 策 に よ り ミ ャ ン マ ー 経 済
5
「 柵 や 壁 に よ る 土 地 の 物 理 的 な 囲 い 込 み =enclosure」 で は な く ,「 森 林 資 源 に ア
ク セ ス す る 権 利 の 消 滅 =inclosure( 室 田 ・ 三 俣 , 2004)」 の 意 味 で あ る が , 一 般 的 な
「囲い込み」の語を使用した。
- 72 -
第3章
は 停 滞 し た と さ れ る 。政 府 は マ ン グ ロ ー ブ 林 域 の 施 政 を 掌 握 し た が ,エ ネ ル
ギー需要のひっ迫した首都ヤンゴンなどの都市部の燃料材の生産地として,
合 法・非 合 法 の 過 剰 伐 採 が 進 ん だ 。ま た ,有 望 な 食 糧 生 産 地 と 目 さ れ ,政 策
的 な マ ン グ ロ ー ブ 林 の 水 田 化 圧 力 が あ っ た 。森 林 経 営 と 食 糧 確 保 に お い て 政
策 一 貫 性 を 欠 く な ど ,「 政 府 の 失 敗 」 に よ り マ ン グ ロ ー ブ 林 の 劣 化 と 減 少 が
急激に進んだ時代と言える。
1989 年 以 降 , 今 日 ま で 市 場 経 済 化 政 策 が 進 め ら れ て お り , 森 林 政 策 に お
い て も 市 場 イ ン セ ン テ ィ ブ の 導 入 が 図 ら れ て い る 。新 た な 森 林 法 と 住 民 林 業
令 が 制 定 さ れ ,森 林 管 理・利 用 権 の 一 部 が 公 的 独 占 か ら 住 民 や 民 間 に 委 譲 さ
れ る こ と と な っ た 。ま た 野 生 生 物・自 然 地 域 保 護 法 に よ り ,森 林 の 多 面 的 価
値 の 保 護 と 利 用 の 枠 組 が 形 成 さ れ た 。し か し な が ら ,域 内 の 人 口 増 加 と 市 街
地 の 燃 料 需 要 増 加 の 傾 向 は 続 き ,木 材 林 産 物 の 商 業 的・収 奪 的 利 用 は 続 い て
いる。
「 森 林 管 理 略 史 」 を , Table 3.11 に ま と め る 。
Table 3.11 森林管理略史
年代
時代区分
出来事
Bogalay村成立(1757)
Pyindaye成立(1780頃)
位置付けと特徴
【広大な自然林】
半農半漁民が点在
∼1852
王朝期
1852∼
1900頃
植民地前期
英国併合(1852)「国有地宣言」
下ビルマ土地租税法(1876)
【部分的な自然林の破壊】
移住・開拓による水田化開始
1900頃
∼1948
植民地後期
Pyindaye保全林設定(1900)
森林法(1902)
林学教育訓練課程設置(1923)
日本占領(1942∼1945)
【マングローブ林の公的管理】
森林の公的囲い込み
大径木択伐による近代林業の導
入
1948
∼1970's
戦後期
ビルマ連邦の独立(1948)
【森林劣化の進行】
森林局Pyindayeから撤退(1958∼) 森林経営機能の喪失
軍政・社会主義経済導入(1962)
違法な商業伐採の急増
【公的管理の失敗】
都市への燃料材供給
社会主義期
食糧増産政策による水田化加速
急激な森林劣化・減少
社会主義の放棄(1989)
【新たな管理枠組の試行】
森林法(1992)
劣化・減少傾向の継続
1990頃∼ 市場経済導入期
野生生物・自然地域保護法(1994) 利用・管理権の住民への委譲
住民林業令(1995)
森林資源の多面的利用
1970's
∼1990頃
社会主義政策強化(1974)
閉鎖経済化
出典: Tan Chein Hoe(1952); 篠原(1981); 根本・斎藤(1983); 奥平(1983); Win Win Khine (1995); 樫
尾(1998); 池本(2000); Mya Than(2002),およびインタビューをもとに筆者作成。
時代区分は,根本・斎藤(1983),Mya Than(2002)および水野(2003)を参考にした。
- 73 -
第3章
( 2) 土 地 法 制 の 変 遷
1852 年 以 前 の 王 朝 期 に は ,
「 王 領 地 」,
「 共 的 利 用 が 可 能 な 荘 園 」,
「 私 有 地 」,
「 未 利 用 地 」の 4 種 類 の 土 地 が あ っ た 。デ ル タ に お い て は 開 拓 と 耕 作 の 事 実
を 権 原 と す る ,「 ダ マ ウ ー ジ ャ( dama-u-gya)」と 呼 ば れ る 伝 統 的 土 地 慣 行 に
よ り 土 地 の 私 有 化 が 認 め ら れ て い た ( Mya Than, 2002)。
1852 年 ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ を 含 む 下 ビ ル マ 6 が イ ギ リ ス 領 と な り ,植
民 地 政 府 の「 国 有 地 宣 言 」に よ り す べ て の 土 地 の 所 有 権 が 国 に 帰 属 し た( 篠
原 , 1981)。こ れ に よ り ,制 度 上 の ダ マ ウ ー ジ ャ は 消 失 し た( 岡 本 , 1997; Mya
Than, 2002)。成 文 法 と し て は ,1876 年 ,「 下 ビ ル マ 土 地 租 税 法 」に 土 地 の 国
有 が 定 め ら れ た 。 以 降 1988 年 ま で , い ず れ の 土 地 関 係 法 に よ っ て も 基 本 的
な 制 度 の 枠 組 み に 変 化 は な く ( 斉 藤 , 1962; Mya Than, 2002), 現 在 も 土 地 の
私 有 は な い ( 鶴 , 1993)。
下 ビ ル マ 土 地 租 税 法 ( 1876) 7 に お い て , 所 有 権 ( proprietary right) と 占
有 権 ( possessory right) の 中 間 的 な 性 格 を 持 つ , 土 地 の 保 有 権 ( landholder's
right)が 設 定 さ れ た 。保 有 権 に は ,所 有 権 と 同 様 に 用 益 権 や 処 分 権 な ど が 含
まれるが,排他性がなく国家の介入が可能である。権利の取得と保持には,
継 続 し て 12 年 間 の 占 有 と い う 現 実 的 支 配 が 必 要 で あ っ た 。 土 地 保 有 権 の 性
格 と 保 有 権 獲 得 の 条 件 は , ダ マ ウ ー ジ ャ と 似 通 っ て い た ( 斉 藤 , 1962; 岡 本 ,
1997; Mya Than, 2002; 水 野 , 2003)。
現 在 の 研 究 地 域 の 土 地 は , 土 地 記 録 査 定 局 8 が 管 理 す る 「 農 地 」, 総 務 局
が 管 理 す る「 集 落 域 」,森 林 局
会
11
10
9
が 管 理 す る「 森 林 地 」,お よ び 都 市 開 発 委 員
が 管 理 す る「 市 街 地 」の 4 つ に 区 分 さ れ て い る 。農 地 ,集 落 域 ,市 街 地
において土地を保有する場合,1 エーカー
12
当 た り 年 2.5 チ ャ ッ ト
13
の地租
( land revenue) が 徴 税 さ れ て い る 。 森 林 地 に お け る 居 住 , 耕 作 な ど の 占 有
6
下 ビ ル マ ( Lower Burma) と 上 ビ ル マ ( Upper Burma) は , エ ー ヤ ワ デ ィ ー 川 流
域 を 上 下 に 分 け る 地 理 的 概 念 で あ る 。地 域 文 化 や 住 民 意 識 が 異 な り ,イ ギ リ ス の 植
民 地 行 政 も そ れ に 応 じ た あ り 方 で 行 わ れ た 。下 ビ ル マ は ,現 在 の エ ー ヤ ワ デ ィ ー 管
区 , ヤ ン ゴ ン 管 区 , バ ゴ ー 管 区 と モ ン 州 北 部 に 相 当 す る ( 伊 東 , 1983)。
7
The Lower Burma Land and Revenue Act, 1876
8
Land Record and Settlement Department, Ministry of Agriculture and Irrigation
9
General Administration Department, Ministry of Home Affairs
10
Forest Department, Ministry of Forestry
11
City Development Committee, Ministry for Progress of Border Areas and National
Races and Development Affairs
12
1 acre = 0.405 ha
13
1000 チ ャ ッ ト = 約 1 ド ル ( 2005 年 換 算 値 )。 地 租 額 は 被 面 接 者 2 の イ ン タ ビ ュ
ーに基づく。
- 74 -
第3章
に 対 し て は , 1 エ ー カ ー 当 た り 年 250 チ ャ ッ ト の 罰 金 ( fine)
て い る ( Itv.1∼ 3.
15
14
が課せられ
)。
( 3) 森 林 資 源 の 法 的 枠 組
生 物 資 源 は 土 地 や 水 域 と い う 場 に 存 在 す る 資 源 で あ る 。生 物 資 源 を め ぐ る
法 的 な 枠 組 お よ び 行 政 は ,森 林 ,水 系 ,市 街 地 な ど に 応 じ て 異 な る 。原 則 と
し て ,森 林 の「 土 地 」お よ び「 生 物 ・ 生 態 系 」の 保 全 に つ い て は 林 業 省 森 林
局 が ,森 林 域 の 魚 類 な ど「 水 系 の 生 物 資 源 」に つ い て は 畜 水 産 省 水 産 局 が 管
轄 し て い る 。た だ し ,野 生 生 物 保 護 区 等 に お い て は ,
「 土 地 」お よ び「 生 物 ・
生 態 系 全 般 」の 保 護 ・ 保 全 ,研 究 ,観 光 利 用 等 を 森 林 局 が 扱 う 。市 街 地 ,集
落域,耕作地などの「森林以外の土地」については,森林局の所管外だが,
街 路 の「 樹 木 」や 屋 敷 地 か ら 産 出 さ れ る「 木 材 」に つ い て は 一 定 の 管 理 を 行
う。
こ れ ら 機 能 別 の 行 政 機 関 に 加 え ,管 区 の 平 和 発 展 評 議 会
16
が土地と生物資
源 の 管 理 に 大 き な 権 限 を 持 つ 。国 軍 が 直 轄 す る 評 議 会 は 地 域 の 実 質 的 な 最 高
権 力 機 関 で あ り ,時 に 既 存 の 法 体 系 を 超 え る 実 効 性 を 持 つ「 命 令 」を 発 す る 。
現 在 の ミ ャ ン マ ー に お け る ,森 林 の 生 物 資 源 の 保 護 お よ び 利 用 に 係 る 法 令
と ,資 源 利 用 の あ り 方 の 規 定 を Table 3.12 に 示 す 。研 究 地 域 の エ ー ヤ ワ デ ィ
ー 管 区 ・ Bogalay 郡 に お い て は , 2 つ の 保 全 林 ( Pyindaye 保 全 林 , Kadonkani
保 全 林 )と ,1 つ の 自 然 地 域 が( Meinmahla 島 野 生 生 物 保 護 区 )が 存 在 す る 。
森 林 法 ( 1902)
ミ ャ ン マ ー に お い て は , 1852 年 の 植 民 地 化 以 降 , 一 切 の 森 林 と 林 産 物 は
国 家 の 所 有 で あ る ( 国 有 地 宣 言 )。 1902 年 に 交 付 さ れ 90 年 間 効 力 を 有 し て
い た 森 林 法 は ,森 林 を「 保 全 林( Reserved Forest)」と「 公 共 林( Public Forest)」
14
エ ー ヤ ワ デ ィ ー 管 区 に お け る 根 拠 法 令 は ,「 KyuKyaw Myay DanNgwe NyonKya
Chat」( 仮 訳 : 土 地 侵 害 罰 金 令 ) 1983, 森 林 局 エ ー ヤ ワ デ ィ ー 管 区 林 務 長 官 命 令 。
法 令 上 の 罰 金 額 は 200 チ ャ ッ ト で , 50 チ ャ ッ ト は 根 拠 を 欠 く 徴 収 と の 指 摘 が , 被
面 接 者 3( 注 9) か ら あ っ た 。
15
Itv.1, Itv.2, Itv.3: そ れ ぞ れ 被 面 接 者 1, 2, 3 を 示 す 。
16
Peace and Development Council。 国 軍 ク ー デ タ ー ( 1988) に よ り 設 立 さ れ た , 軍
事 政 権 に よ る 立 法・行 政 機 関 。中 央 政 府( State),州・管 区( Division),県( District),
郡 ( Township), 村 区 ( Village Tract) の , 各 レ ベ ル に お い て 組 織 さ れ て い る 。 中 央
政 府 に お い て は 国 家 平 和 発 展 評 議 会( SPDC:State Peace and Development Council)。
国 家 法 秩 序 回 復 評 議 会( SLOC:State Law and Order Restoration Council)か ら ,1997
年に改称。
- 75 -
第3章
に区分していた。保全林においては,森林局の管理下で用材生産が行われ,
住 民 は 樹 木 お よ び 森 林 に 損 傷 を 与 え る 全 て の 行 為 が 禁 止 さ れ て い た 。一 方 公
共 林 に お い て は ,住 民 の 自 家 的 な 森 林 資 源 利 用 や 土 地 利 用 の 転 換 が 許 さ れ て
い た ( 谷 , 1998; 池 本 , 2000; JICA, 2005)。
Table 3.12 生物資源をめぐる法的枠組
自給利用
商業利用
人為活動
観光・研究
野生生物・自然地域保護法
野生生物保護区
(Wildlife Sanctuary)
×
許可制
×
×
×
×
×
×
許可制
許可制
植物資源
動物資源*2
植物資源
動物資源*2
造林
居住
開墾・耕作地化
土地売買
自然科学調査
観光
森林地
森林法(1992)
保全林
(Reserved Forest)
○*1
○
許可制
許可制
○ (森林局)
×
×
×
許可制
許可制
住民林業令(1995)
保全林内の共有林
(Community Forest)
○ (U.G.)
○ (U.G.)
○ (U.G.)
○ (U.G.)
○ (U.G.)
×
×
×
-
集落域
耕作地,ホームガーデン
○
○
○
○
○
○
○
○
-
○:可,×:不可,U.G.:利用者グループ
*1:森林法は利用を認めているが,管区行政機関命令は樹木の伐採・採集を禁止する。
*2:森林法は,水産資源を扱っていない。
出典:
森林法(1992),野生生物・自然地域保護法(1994),住民林業令(1995),池本(2000),大西(2003),谷(1998),およびインタビューをもとに筆者作成
森 林 法 ( 1992)
17
従 来 の 公 的 管 理 に よ る 森 林 の 用 材 生 産 機 能 の 重 視 か ら ,住 民 な ど 民 間 に よ
る 森 林 管 理 や ,環 境・生 物 多 様 性 の 保 護 等 の 視 点 を 加 え た 森 林 政 策 を 進 め る
た め に 新 た に 公 布 さ れ た 。「 保 全 林 ( Reserved Forest)」 は 環 境 保 全 と 用 材 生
産 を 目 的 と し ,住 民 の 自 家 的 な 森 林 資 源 利 用 を 一 定 量 ま で 認 め た 。一 方 公 共
林 は ,「 公 共 保 護 林 ( Protected Public Forest)」 と し て 保 護 的 な 側 面 が 強 調 さ
れた管理がなされるようになった。しかしながら,保全林は全森林面積の
34.4% , 公 共 保 護 林 は 6.2% と ,「 未 分 類 の 森 林 ( Unclassified Forest)」 が 大
部 分 で あ る 。 一 部 の 保 全 林 に お い て は , 保 護 区 ( Protected Area), 特 別 管 理
区 ( Special Management Area), 多 目 的 利 用 帯 ( Multiple Use Zone), 緩 衝 帯
( Buffer Zone)を 設 け ,前 2 者 に お い て 森 林 局 が 森 林 経 営 と 環 境 保 全 を ,多
目 的 利 用 帯 に お い て 住 民 林 業 の 実 施 が 図 ら れ て い る ( 池 本 , 2000; 大 西 ,
2003; JICA, 2005)。
野 生 生 物 ・ 自 然 地 域 保 護 法 ( 1994)
18
17
The Forest Law, the State Law and Order Restoration Council Law No. 8/92, 3rd
November, 1992
18
The Protection of Wildlife and Protected Area Law, the State Law and Order
- 76 -
第3章
環 境 お よ び 生 物 多 様 性 の 保 全 を 目 的 に , 自 然 地 域 ( Natural Area) が 指 定
さ れ て い る 。原 則 的 に 動 植 物 資 源 は 保 護 さ れ ,学 術 調 査・研 究 や エ コ ツ ー リ
ズムなどの森林サービスの活用は許されている。
住 民 林 業 令 ( 1995)
19
森 林 法( 1992)に 基 づ い て ,森 林 局 ・ 局 長 が 発 し た 政 令 で あ る 。ミ ャ ン マ
ー に お け る「 住 民 林 業 」の 根 拠 規 定 で あ る 。地 域 住 民 に 認 め ら れ た 主 な 権 利
は ,保 全 林 等 内 に お け る 共 有 林 の 造 成( 植 林 や 育 林 )と 維 持 管 理 ,共 有 林 の
林 産 物 の 採 集 ・ 利 用 お よ び 村 内 で の 販 売 , 30 年 間 ( 延 長 可 能 ) の 共 有 林 の
借 地 ・ 用 益 権 で あ る 。ま た ,課 せ ら れ た 義 務 は ,造 林 活 動 ,保 育 作 業 ,林 地
の 保 護 ,効 率 的 な 伐 採 利 用 ,管 理 計 画 の 策 定・履 行 お よ び 活 動 記 録 と 報 告 で
あ る 。 住 民 が 組 織 す る 利 用 者 グ ル ー プ ( User Group) が , 共 有 林 の 管 理 計 画
を 立 案・実 施 す る 一 方 ,森 林 局 は 認 可 業 務 ,お よ び 種 苗 の 提 供 と 技 術 指 導 を
行 う と 規 定 さ れ て い る ( 池 本 , 2000; JICA, 2005)。
( 4) 森 林 資 源 利 用 の 実 態
エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 域 に お い て は ,法 的 枠 組 と は 相 違 す
る 資 源 利 用 が , 広 範 に 継 続 的 に 行 わ れ て い る 。 Table 3.13 に エ ー ヤ ワ デ ィ ー
デ ル タ の 保 全 林 の 資 源 利 用 を め ぐ る 法 令 と ,住 民 に よ る 習 慣 的 な 資 源 利 用 を
示 す 。 ま た , Ashe Mayan 村 周 辺 を 例 と し て , Fig. 3.15 に 制 度 的 土 地 区 分 お
よ び 村 落 分 布 を , Fig. 3.16 に 土 地 制 度 と 土 地 利 用 の 実 態 を そ れ ぞ れ 示 す 。
Table 3.13 エーヤワディーデルタ保全林をめぐる法令と,資源利用の現状
占有地における習慣
法令
自給利用
植物資源
動物資源
商業利用
植物資源
動物資源
備考
備考
人為活動
造林
居住
開墾・耕作地化
土地売買
備考
*1
占有者
(土地持ち村民)
●
●
×
○
1992以降森林法で
1992年以前から長期間行われてきた。
認められた。
●
×*1
許可制
●
公的許可を取得しない違法な採捕。
*1
森林局の取締を回避しつつ行う者がいる。
○ (森林局)
●
×
●
×
●
×
●
罰金(Ks.250/y・ac.)*2の継続的支払。
数十年の継続的占有,相続,売買の例有り。
占有地への侵入者
(土地無し村民)
◆
◆
占有者の了解が必要。
了解なしの事例(盗み)が時々発生。
◆
◆
占有者の了解が必要。(通常了解しない)
◆
◆
◆
◆
残存する非占有地は少ない。
違法伐採跡地,放棄水田等への移住はある。
●:行う,◆:行わない
*1:管区行政機関命令(1993)は,樹木の伐採による資源の自給・商業利用を禁止する。
*2:1000チャット≒1ドル(2005年)
出典:インタビューをもとに筆者作成。
Restoration Council Law No. 6/94, 8 t h June, 1994
19
Community Forestry Instructions, 1995, Union of Myanmar, Ministry of Forestry,
Forest Department
- 77 -
第3章
保全林
◎
◎
N 15°
49′
●
◎
●Ashe Mayan村
Pyindaye 保全林
◎
集落域
●
◎
村落(第2次大戦以前の成立)
村落(第2次大戦以降の成立)
林班(森林局の管理単位)境界
◎
E 95°
26′
0
出典:JICA(2005)を筆者改変
5 km
Fig. 3.15. 制度的土地区分と村落分布
土地制度
国有地
保全林
集落域
マングローブ林
利用実態
宅地
宅地
ホームガーデン
ホームガーデン
放棄地
水田・畑地
水田・畑地
共有林
ニッパプランテーション
ニッパプランテーション
私的占有地(違法)
私的保有地(合法)
*研究地域には公共保護林はない
Fig. 3.16. 土地制度と土地利用実態
出典:筆者作成
エ ー ヤ ワ デ ィ ー 管 区 平 和 発 展 評 議 会 命 令 ( 1993)
1993 年 , 植 林 や 育 林 後 の 樹 木 の 伐 採 を 除 き , 管 区 内 の マ ン グ ロ ー ブ 樹 種
の 伐 採 と 炭 焼 き 釜 建 設 ,お よ び 炭 焼 き が 禁 止 さ れ た 。森 林 法( 1992)は ,
「商
業 規 模 で な い 家 事 ,農 業 ,漁 業 上 の 利 用 に は ,規 定 さ れ た 量 ま で の 森 林 産 物
を , 許 可 を 得 る こ と な く 採 集 で き る 。」 と し て い る 。 し か し な が ら , 管 区 内
- 78 -
第3章
の マ ン グ ロ ー ブ 林 に お い て は ,こ の 命 令 に よ り ,住 民 の 自 給 利 用 が 伐 採 を 伴
う場合には許されていない。
習慣的な森林資源利用
マ ン グ ロ ー ブ 保 全 林 内 に は ,違 法 な 開 拓・移 住 が 行 わ れ た 結 果 ,村 落 が 形
成 さ れ て き た ( Fig. 3.15)。 新 た な 村 落 の 成 立 時 期 は い ず れ も 第 2 次 世 界 大
戦 以 降 で あ っ た 。現 在 村 落 は ,開 拓 も し く は 相 続 あ る い は 購 入 に よ り 土 地 を
占有している村民(=土地持ち村民)と,土地持ち村民の占有地に居住し,
被 雇 用 の 農 業 労 働 や 漁 撈 を 行 う 土 地 無 し 村 民 に よ り 構 成 さ れ て い た 。ほ と ん
ど の 村 人 は ,保 全 林 の 境 界 を 認 識 し て お ら ず ,土 地 持 ち 村 民 は「 父 親 の 世 代 」
ま で ,ダ マ ウ ー ジ ャ と い う 土 地 慣 行 に よ り 開 拓・移 住 を し て い た と 誤 認 し て
い た ( Itv.1∼ 3)。
保 全 林 内 の 宅 地 や ホ ー ム ガ ー デ ン ,耕 作 地 ,プ ラ ン テ ー シ ョ ン な ど の 占 有
地 は ,森 林 局 に 毎 年 罰 金 を 支 払 う こ と で 維 持 さ れ て い た 。占 有 地 の 相 続 や 売
買 が な さ れ , 50 年 以 上 占 有 が 継 続 さ れ て い る 例 も あ っ た 。 ホ ー ム ガ ー デ ン
や 共 有 林 に お け る 植 林・育 林 を 除 き ,広 大 な 潮 間 帯 に お け る マ ン グ ロ ー ブ の
植林は行なわれていなかった。
土 地 持 ち 村 民 は ,そ れ ぞ れ の 占 有 地 に お い て 自 給 を 目 的 と し た 植 物 資 源 の
伐 採 ,採 集・利 用 を 日 常 的 に 行 っ て い た が ,林 務 官 は 黙 認 し て い た 。村 外 へ
の 持 ち 出 し を 伴 う 商 業 伐 採 や 製 材 を 林 務 官 は 取 り 締 ま り 罰 金 を 課 す が ,密 か
に 行 う 村 人 が い た 。土 地 無 し 村 民 は ,動 植 物 資 源 の 利 用 権 を 欠 く た め ,土 地
持 ち 村 民 の 了 解 を 得 て 自 給 的 な 利 用 を 行 っ て い た 。了 解 を 得 な い 資 源 の 採 捕
は 「 盗 み 」 と さ れ ,「 村 の 掟 」 に よ り 処 分
20
されていた。
( 5) 考 察 − 資 源 管 理 制 度 の 在 地 性
Mather( 1990)は ,所 有 と 利 用 を め ぐ る 歴 史 的 な 制 度 変 遷 に つ い て ,森 林
所 有 の 一 般 的 性 格 と 所 有 形 態 の 時 系 列 的 な 展 開 モ デ ル を 示 し て い る ( Fig.
3.17)。Matherに よ れ ば ,森 林 の 所 有 形 態 は 初 期 状 態 に お け る 共 的 所 有 か ら ,
国 家 の 公 的 所 有 を 経 て 私 的 所 有 の 段 階 へ 移 行 す る 。国 有 化 は ,植 民 地 政 府 に
よ り な さ れ る 場 合 も あ る 。ま た ,共 的 所 有 か ら 私 的 所 有 へ の 直 接 的 な 展 開 も
ある。
20
「掟」による処分は,村道の維持や被害者の占有地の除草などの作業の場合が
多い。
- 79 -
第3章
Fig. 3.17. 森林所有,利用目的,森林ステージの時系列モデル
出典: Mather(1990)から抜粋
王朝期のデルタにおいては,広大なマングローブの「未利用地」の中に,
ダ マ ウ ー ジ ャ に よ る「 私 有 地 」が 点 在 し ,私 有 地 周 辺 に お け る マ ン グ ロ ー ブ
植 物 資 源 は ,自 給 的 利 用 に は 十 分 で あ っ た と 解 釈 で き る 。す な わ ち ,無 尽 蔵
と も 言 え る 土 地 と 森 林 資 源 の 先 取 が 行 わ れ て お り ,デ ル タ の 初 期 状 態 に お い
ては共的管理はなされていなかったと見られる。
植 民 地 前 期 の 国 有 化( 1852年 )自 体 は ,人 口 の 希 薄 な デ ル タ に あ っ て 土 地
の 囲 い 込 み の 性 格 を 持 た な か っ た が ,下 ビ ル マ 土 地 租 税 法( 1876)に 基 づ く
国 有 林 の 開 拓 と 土 地 保 有 は ,土 地 の 私 的 な 囲 い 込 み と 解 釈 で き る 。保 有 権 の
性 格 と 獲 得 条 件 は そ れ ま で と 同 様 で あ り ,ダ マ ウ ー ジ ャ の 消 失 は 意 識 さ れ ず ,
森 林 資 源 の 先 取 と 保 有 の 伝 統 的 習 慣 が 継 続 し た と 言 え る 。し た が っ て ,植 民
地 前 期 の 実 質 的 な 所 有 形 態 は ,国 有 林 内 に お け る 森 林 資 源 の 私 的 所 有 だ と 言
える。
植 民 地 後 期 に 保 全 林 と さ れ た マ ン グ ロ ー ブ 林 に お い て は ,現 在 も 開 拓 と 保
有 は 許 さ れ て い な い 。し か し な が ら ,現 在 で も 保 有 林 の 境 界 は 村 人 に 認 識 さ
れず,近年までダマウージャが生きていたと誤認されていた。違法占有は,
小 額 の 罰 金 で 森 林 局 に 黙 認 さ れ て い た 。し た が っ て ,植 民 地 後 期 以 降 の 実 質
的な所有形態は,保全林内における森林資源の私的所有だと言える。
1990 年 代 以 降 の 新 た な 森 林 法 ( 1992) と 住 民 林 業 令 ( 1995) は , 国 有 林
内の「土地の長期保有」と「林産物の所有権」を住民に認めるものである。
公 的 管 理 下 の 産 業 的 林 業 が 行 な わ れ る 保 全 林 内 に ,共 有 林 が 導 入 さ れ ,社 会
- 80 -
第3章
林業が並列して展開している。
近年までのエーヤワディーデルタにおけるマングローブ資源の所有形態
は ,制 度 と し て は「 オ ー プ ン ・ ア ク セ ス と 先 取 に よ る 私 有 ・ 保 有 」か ら ,国
有 へ と 展 開 し て き た 。し か し な が ら ,実 質 的 に は 人 間 の 関 与 が 始 ま っ て 以 来
一 貫 し て 「 オ ー プ ン ・ ア ク セ ス と 先 取 に よ る 私 有 」 で あ り ,「 住 民 に よ る 伝
統 的 な 共 的 管 理 制 度 = コ モ ン ズ 」の 醸 成 過 程 が ,地 域 に ほ と ん ど な か っ た と
言 え る 。1990年 代 以 降 の 社 会 林 業 の 導 入 は ,コ モ ン ズ と し て の マ ン グ ロ ー ブ
資源管理の創造だと言える。
3.5 ま と め
生態系の特異性
1. 特 異 な 立 地 環 境 と し て 第 1 に , 雨 季 と 乾 季 の 極 端 な 降 雨 差 と 河 川 流 量 差
に よ る 通 年 の 水 路 の 低 塩 分 濃 度 が 指 摘 で き る 。第 2 に ,水 文 特 性 に 季 節 風 が
加 わ り 生 じ る ,乾 季 の 冠 水 影 響 が 微 少 な 潮 間 帯 高 地 の 割 合 の 卓 越 が あ げ ら れ
る。
2. エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の 特 異 な 立 地 環 境 に 対 応 し 生 存 す る マ ン グ ロ ー ブ
の 植 物 個 体 群 の 中 核 は ,ベ ン ガ ル 湾 岸 の 地 域 固 有 種 の Heritiera fomes で あ る 。
地 域 で 卓 越 す る H. fomes 優 占 林 は ,純 マ ン グ ロ ー ブ と 淡 水 湿 地 林 構 成 種 を 随
伴する東南アジアでは異質なマングローブ林である。
3. 海 岸 帯 前 縁 部 の マ ン グ ロ ー ブ 域 を 特 徴 付 け る 地 形 は , 膨 大 な 掃 流 土 砂 が
形成した浜堤列である。
在地の空間
4. デ ル タ 海 岸 帯 の 在 地 の 空 間 は , マ ン グ ロ ー ブ 林 と ホ ー ム ガ ー デ ン を 主 要
な 景 観 要 素 と し ,集 落 の あ る 浜 堤 の 両 側 に 並 列 す る 2 つ の 浜 堤 に 挟 ま れ ,列
の 直 交 方 向 に 広 が る 領 域 で あ る 。在 地 の 空 間 は ,水 路 の 連 絡 に よ り 浜 堤 を 隔
てて連結される。
資源管理の歴史性
5. 植 民 地 後 期 か ら 続 く 保 全 林 に お け る 公 的 管 理 下 で , 戦 後 商 業 伐 採 に よ る
森 林 破 壊 が 進 ん だ 。 1970 年 代 以 降 に は , 一 貫 性 を 欠 く 政 策 が 域 外 向 け の 燃
- 81 -
第3章
料材と食糧生産による森林破壊を加速した。
6. マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 所 有 形 態 は , 人 為 の 開 始 以 来 一 貫 し て 実 質 的 に 「 オ
ー プ ン・ア ク セ ス と 先 取 に よ る 私 有 」で ,共 的 な 管 理 制 度 を 醸 成 し た 歴 史 は
な か っ た 。近 年 の 社 会 林 業 の 導 入 は ,マ ン グ ロ ー ブ の コ モ ン ズ の 創 造 で あ る 。
7. 現 在 の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 所 有 と 利 用 は , 法 制 度 に 従 っ て い な い 実 態 が
あ る 。森 林 法 に 従 っ た 住 民 の 自 給 的 マ ン グ ロ ー ブ 利 用 は ,軍 の 命 令 に よ り 禁
止 さ れ て い る 。一 方 で ,伝 統 的 習 慣 に よ る 森 林 資 源 の 占 有 が ,違 法 に 継 続 し
ている。
8. 違 法 な 保 全 林 の 土 地 占 有 者 は , マ ン グ ロ ー ブ 伐 採 後 の 資 源 の 維 持 ・ 再 生
を行なわず,持続可能なマングローブ資源管理が損なわれている。
- 82 -
第4章
マングローブの更新特性
本章中のHeritiera fomesの萌芽特性研究は,以下の査読付き論文として公表済みである。
大野勝弘・藤原一繪. 2004. 「ミャンマー国エーヤワディーデルタの主要マングローブ樹種
Heritiera fomesの萌芽特性」. Mangrove Science 3: 33-38.
第4章
4.1 緒 言
第 3 章 に お い て ,特 異 な 立 地 環 境 に 生 育 す る マ ン グ ロ ー ブ 植 物 個 体 群 の 中
核 は ,地 域 固 有 種 の Heritiera fomes で あ る こ と が 示 さ れ た 。し た が っ て ,環
境に適合し生態的に健全で安定した地域本来のマングローブ林の回復には,
H. fomes 林 の 更 新 手 法 を 探 求 す る 必 要 が あ る 。
本 章 の 目 的 は ,こ れ ま で 研 究 が 極 め て 少 な く 知 見 が 限 ら れ て い る ,エ ー ヤ
ワ デ ィ ー デ ル タ の H. fomes 林 を ,自 然 更 新 や 天 然 更 新 に よ り 再 生・持 続 的 な
利 用 を 図 る た め の ,マ ン グ ロ ー ブ 植 物 ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 更 新 特 性 の 解 明 で
ある。
熱 帯 地 域 に お け る 更 新 を 左 右 す る 稚 樹 の 成 長 に は ,光 が 重 要 な 因 子 と な る
( 佐 々 木 , 1994)。光 は ,植 物 が 奪 い 合 う 環 境 要 因 の う ち 最 も 競 争 に 関 係 し( 藤
森 , 1994),大 き な ギ ャ ッ プ で は 陽 樹 が 生 存・生 育 可 能 で あ る が ,小 さ な ギ ャ
ッ プ で は 耐 陰 性 の 高 い 陰 樹 の み し か 生 存・生 育 で き な い( 山 本 , 2003)。本 章
でははじめに,連続的な種個体群の時間的変化が明らかにされていない
Amoora cucullata-Heritiera fomes群 集 の 更 新 特 性 を ,人 為 撹 乱 を 受 け 光 環 境 が
変 化 し た 林 分 に お い て ,林 分 構 造 お よ び 群 集 を 特 徴 付 け る 樹 種 の 個 体 群 構 造
の 現 状 と 時 間 動 態 か ら 把 握 す る 。本 章 に お い て は Myint Aung( 2004)に 基 づ
き ,同 群 集 を 特 徴 付 け る 樹 種 と し て 群 集 標 徴 種 の H. fomesと Amoora cucullata
と , H. fomesに 次 い で 高 木 層 へ の 出 現 頻 度 が 高 い Excoecaria agallocha, お よ
び Bruguiera gymnorrhiza 亜 群 集 の 標 徴 種 で あ る B. gymnorrhiza お よ び B.
sexangula( 以 下 Bruguiera spp.) 1 を 選 択 し , 群 集 の 「 代 表 種 」 と す る 。 さ ら
に ,更 新 過 程 を 左 右 す る 幼 時 の 耐 陰 性 に 着 目 し 実 生 更 新 と ,下 層 植 生 の 競 合
を探求する。
次 に ,H. fomes の 萌 芽 更 新 の 可 能 性 を 評 価 し ,施 業 の 基 盤 と な る 生 態 特 性
の 把 握 を 行 な う 。萌 芽 は 多 く の 樹 木 で 見 ら れ る 重 要 な 繁 殖 様 式 の 1 つ で あ る
( Kramer & Kozlowski, 1960)。萌 芽 の 成 長 が 早 い こ と は 古 く か ら 経 験 的 に 良
く知られ,萌芽力が高い広葉樹で薪炭材や小径木の生産に利用されてきた
( 伊 藤 , 1996)。H. fomes の 有 性 繁 殖 手 法 の 研 究 は ,植 林 地 に お け る 播 種 や 実
生 の 植 栽 を 通 じ 行 な わ れ て い る が ,萌 芽 更 新 な ど の 無 性 的 な 繁 殖 に つ い て は
研 究 が な さ れ て い な い 。漁 具 ,農 具 な ど の 道 具 材 や 小 柱 ,梁 等 の 小 規 模 建 材
と な り う る 小 径 木 の 生 産 に 有 効 な 萌 芽 更 新 の 可 能 性 探 求 に は ,地 域 住 民 の 生
1
2 種 の 生 育 す る 立 地 環 境 は 同 様 で あ り ( 山 田 , 1986; 藤 原 , 1989), 植 物 社 会 学 的
にも同等に扱われることから,本章においてもまとめて扱った。
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第4章
活 と 生 業 へ の 貢 献 が 期 待 さ れ る 。ま た ,こ れ ま で 研 究 が 見 ら れ な い 萌 芽 へ の
潮 汐 の 影 響 を ,独 自 に 考 案 し た 定 量 的 手 法 に よ り 解 析 し ,萌 芽 特 性 の 生 態 的
な意味の探求を行う。
4.2 研 究 方 法
4.2.1 調 査 地
調 査 地 を Fig. 4.1 に 示 す 。 デ ル タ の 中 部 河 口 域 ( Myint Aung, 2004) で ,
近 傍 水 路 の 乾 季 の 塩 分 濃 度 が い ず れ も 10 ∼ 20‰ の 「 中 程 度 の 塩 分 濃 度
( Siddiqi, 1994) 」 に 調 査 地 点 を 設 け た 。 各 調 査 区 と も は 基 質 は 共 通 し て ,
河川堆積性のシルトもしくはクレイであった。
N 16°
●
●
●
A★●●
● ●
★
B
★C
N
●
➢
●
★D
0
Andaman Sea
10km
E 95°
30′
Fig. 4.1. 調査地
★: 群集の更新特性調査地(A∼D),●: Heritiera fomesの切り株萌芽特性調査地
( 1) 群 集 の 更 新 特 性
調 査 地 は , Amoora cucullata-Heritiera littoralis 群 集 に 設 け た 4 ヶ 所 の 林 分
A か ら D( Table 4.1)で あ る 。A 区 お よ び B 区 は H. fomes が 林 冠 で 優 占 す る
閉 鎖 林 分 , C 区 は Bruguiera spp.が 優 占 す る 閉 鎖 林 分 で あ る 。 ま た D 区 は 疎
開 林 分 で , H. fomes や B. gymnorrhiza な ど の 低 木 が 散 在 す る 。 H. fomes の 閉
鎖 林 分 は 2 つ の 浸 水 ク ラ ス に 属 す る 。A 区 は 自 然 堤 防 上 の 微 高 地 に 位 置 し 浸
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第4章
水 ク ラ ス は 4, B 区 は 後 背 低 地 に 近 い 自 然 堤 防 上 に 位 置 し 浸 水 ク ラ ス は 3 に
当 た る 。 ま た Bruguiera spp.の 閉 鎖 林 分 で あ る C 区 は , 内 陸 の 水 路 近 傍 に 位
置 し 浸 水 ク ラ ス は 3 に 当 た る 。 浸 水 ク ラ ス 4 に お い て は Bruguiera spp.の 優
占 林 分 は 見 ら れ ず( Myint Aung, 2004),調 査 区 は 設 け て い な い 。ま た ,疎 開
林 分 の D 区 は 自 然 堤 防 上 に 位 置 し ,浸 水 ク ラ ス は 4 で あ る 。浸 水 ク ラ ス が 3
の 立 地 で は ,調 査 区 と し て 適 当 な ,回 復 過 程 に 在 る 疎 開 林 分 を 見 出 す こ と は
で き な か っ た 。な お ,浸 水 ク ラ ス は 林 務 官 お よ び 住 民 か ら 聞 き 取 っ た 乾 季 の
浸水頻度と雨季の最大水位から判断した。
Table 4.1 調査林分の概要
調査区
位置 (北緯)
(東経)
立地
土壌
調査区サイズ (m)
森林タイプ
最高高潮位 (cm)
潮汐により冠水する
日数/月 (乾季)
ワトソンの浸水クラス
近隣水路の塩分濃度
(W/V ‰) (乾季)
A
15°56′29″
95°16′03″
Byonehmwe島
自然堤防上
B
15°58′35″
95°16′14″
Byonehmwe島
自然堤防上
C
D
15°49′38″
15°48′07″
95°26′25″
95°28′10″
Wege村 (Pyindaye) Kywete村 (Pyindaye)
内陸
自然堤防上
シルト・クレイ
/河成堆積物
12×12
2次林
40
シルト・クレイ
/河成堆積物
10×20
2次林
65
シルト・クレイ
/河成堆積物
10×10
2次林
55
シルト・クレイ
/河成堆積物
7.5×15
2次林
30
10日未満
10日以上
14日
4日∼6日
4
3
3
4
10
10
15
17
林 務 官 お よ び 住 民 の イ ン タ ビ ュ ー に よ っ て 把 握 し た ,各 調 査 区 の 履 歴 と 保
護 開 始 時 の 状 態 を Table 4.2 に 示 す 。 保 護 開 始 時 の 状 態 は , 樹 木 の サ イ ズ を
胸 高 直 径( dbh)に よ り ,大 径 木( dbh:15 cm− ),中 径 木( 同:10− 15 cm),
小 径 木( 同:5 cm− 10 cm)の 3 段 階 に 区 分 し ,各 サ イ ズ の H. fomes と Bruguiera
spp.の 残 存 程 度 で 示 し た 。
4 つ の 調 査 区 林 分 は ,伐 採 を 禁 止 し 保 護 さ れ た 状 態 に あ る 。調 査 地 域 で は ,
1960 年 代 以 降 に 大 径 木 か ら 順 次 行 わ れ た 択 伐 が , 資 源 の 維 持 を 上 回 る 過 剰
な 速 さ で 進 ん だ 。A 区 ,B 区 は ,1991 年 か ら 林 務 官 が 近 隣 に 駐 在 し 公 的 に 保
護 さ れ て き た 。保 護 開 始 時 は ,H. fomes の 小 径 木 に 中 径 木 が 混 交 す る 閉 鎖 林
で , B. gymnorrhiza の 小 ・ 中 径 木 が 稀 に 出 現 し て い た 。 C 区 は , 1990 年 頃 か
ら 森 林 の 占 有 者 に よ り 私 的 に 保 護 さ れ て き た 。 初 期 に は , Bruguiera spp.の
小 径 木 を 主 に , 中 径 木 と H. fomes の 小 径 木 が 混 交 す る 閉 鎖 林 で , H. fomes
の 中 ・ 大 径 木 が 稀 に 出 現 し て い た 。 D 区 で は 過 剰 な 択 伐 が 続 い た 後 , 2001
年 か ら 共 有 林 ( Community forest) と な り , 住 民 に よ る 保 護 が 始 ま っ た 。 保
護 開 始 ま で に ,中 径 木 以 上 の 全 て と 小 径 木 の ほ と ん ど の 樹 木 が 伐 採 さ れ ,わ
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第4章
ず か に 残 っ た H. fomes に ま れ に Bruguiera spp.等 が 出 現 す る 小 径 木 の 疎 開 林
と な っ て い た 。 下 層 に は H. fomes 等 の 小 径 の 切 り 株 が 散 在 し , 1.5∼ 2 m ほ
ど の 低 木 や つ る 植 物 に 覆 わ れ た ヤ ブ 状 を 呈 し て い た 。ま た ,保 護 開 始 時 に 下
刈 り と つ る 切 り が 行 わ れ た 。 現 在 D 区 の H. fomes に は , 切 り 株 萌 芽 か ら 樹
体 を 回 復 し た 個 体 や ,樹 体 下 部 に 旺 盛 な 萌 芽 シ ュ ー ト を 生 じ た 個 体 が 多 数 観
察される。
Table 4.2 調査林分の履歴と保護開始時の状態
調査区
保護・管理開始時の状態
保護・管理の状態
L
1991年
公的管理 放置(自然更新)
以降
閉鎖林
C
1990年
私的管理 放置(自然更新)
以降
閉鎖林
M
S
D
2001年
共同管理 下刈り,その後放置
以降
(自然更新)
疎開地
M
S
A, B
M
S
L
L
2001年にツル切り・
H. fomes
Bruguiera sp.
+
++
r
r
+
r
r
r
+
++
r
++: 高密度(インタビュー時の表現(以下同様):そこかしこに沢山),+: 中密度(容易に見つかる),
r: 低密度(探せば見つかる),-: 消失(探しても見つからない)
L: 大径木(dbh: 15 ㎝-),M: 中径木(10-15 ㎝),S: 小径木(5-10 ㎝)
( 2) 萌 芽 更 新 特 性
Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 に お い て , 様 々 な 浸 水 ク ラ ス の 盗 伐
林 分 を 探 索 し Byonehmwe 島 に 2 ヶ 所 , Meinmahla 島 に 5 ヶ 所 , Pyindaye 地
域 に 2 ヶ 所 の ,計 9 ヶ 所 に 調 査 区 を 設 け た 。切 り 株 上 層 は 疎 開 し 陽 光 条 件 は
同様と判断された。
4.2.2 調 査 方 法
( 1) 群 集 の 更 新 特 性
本 研 究 で は , 樹 高 が 1.3 m 未 満 の 樹 木 を 実 生 , 1.3 m 以 上 の 樹 木 を 幼 樹 ,
ま た , 樹 高 が 1.3 m 以 上 で 胸 高 直 径 が 5 cm 以 上 の 樹 木 を 成 木 と 定 義 す る 。
樹 体 の 下 部 に お け る 分 枝 や 萌 芽 に よ り ,地 上 高 1.3 m 以 上 の 複 数 幹 を 持 つ 個
体 を 株 立 ち 個 体 と 定 義 す る 。株 立 ち 個 体 の 幼 樹 と 成 木 の 区 分 は ,個 体 中 の 全
て の 幹 の 胸 高 断 面 積 の 和 を も と に ,単 幹 個 体 の 胸 高 直 径 相 当 値 を 算 出 し て 行
った。
生 育 形 は , 馬 場 ・ 北 村 ( 1999) お よ び Win Maung( 1999) に 基 づ き , 高 木
種 , 亜 高 木 種 , 低 木 種 , シ ダ 植 物 つ る 植 物 に 区 分 し た 。 学 名 は , Win Maung
( 1999) に 従 っ た 。
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第4章
各 調 査 区 で , 植 生 調 査 ( Braun-Blanquet, 1964; 藤 原 , 1997) を 行 い , 林 分
の 階 層 構 造 , 各 階 層 に お け る 構 成 種 と 総 合 優 占 度 ・ 群 度 ( Fig. 4.2) を 記 録
し た 。ま た ,毎 木 調 査 を 樹 高 1.3 m 以 上 の 全 て の 樹 木 を 対 称 に 行 い ,樹 木 の
位 置 を 記 録 し ,樹 種 ,樹 高 ,胸 高 直 径 を 測 定 し た 。そ の 際 ,株 立 ち 個 体 に お
い て は , 高 さ 1.3 m 以 上 の 全 て の 幹 の 高 さ と 胸 高 直 径 を 測 定 し た 。 さ ら に ,
成木の樹冠投影図を作成した。
次 に ,調 査 区 内 を 小 方 形 区 に 分 割 し ,小 方 形 区 毎 に 樹 木 の 実 生 の 数 ,地 上
高 1.3 m ま で の つ る 植 物 お よ び 叢 生 形 の ヤ シ 類 お よ び シ ダ 植 物 の 総 合 優 占
度・群 度 ,叢 生 形 の 低 木 の 幹 数 を 記 録 し た 。小 方 形 区 の サ イ ズ は ,調 査 区 の
形 状 等 を 勘 案 し ,A 区 お よ び B 区 に お い て は 2×2 m,C 区 お よ び D 区 に お い
て は 1.5×1.5 m と し た 。 実 生 数 の 勘 定 は , 当 年 生 と 2 年 生 以 上 に 区 別 し て 行
った。
切 り 株 萌 芽 に よ る 再 生 個 体 が 多 く 観 察 さ れ た D 区 の H. fomes に つ い て は ,
樹 体 基 部 の 形 状 に よ り 各 個 体 の 由 来 が 萌 芽 再 生 か 実 生 更 新 か を 判 断 し ,区 別
し て 記 録 し た 。さ ら に ,地 上 高 1.3 m ま で の 萌 芽 シ ュ ー ト の 本 数 を 記 録 し た 。
第 1 次 調 査 と し て 2002 年 9 月 に A 区 お よ び C 区 に お け る 毎 木 調 査 を 行 い ,
第 2 次 調 査 と し て ,2005 年 9 月 に 各 調 査 区 に お い て ,植 生 調 査 ,毎 木 調 査 ,
樹冠投影図作成と,小方形区における上記調査を行った。
(A) 植被のパターン
5
4
2
1
総合優占度階級
5 植被が調査面積の75%以上を占める。個体数は任意。
4 植被が調査面積の50∼75%を占める。個体数は任意。
3
3 植被が調査面積の25∼50%を占める。個体数は任意。
2 植被が調査面積の10∼25%を占める。
またはそれ以下でも個体数が極めて多い。
1 植被が調査面積の10%以下であるが,個体数が多い。
+ 極めて低い植被で,わずかな個体数。
r 極めてまれに最低植被で出現する。
+(r)
(B) 群度のパターン
5
4
2
1
3
群度階級
5 調査区内にカーペット状に一面に生育。
4 大きな斑紋状。カーペットのあちこちに穴が開いたような状態。
3 小群の斑紋状。
2 小群状。
1 単生。
出典:宮脇ほか(1987),藤原(1997)をもとに筆者改変
Fig. 4.2. 総合優占度・群度の概念
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第4章
( 2) 萌 芽 更 新 特 性
調査対象は単幹の切り株を無作為に選んだ。
H. fomes の 切 り 株 に つ い て の 測 定 , 記 録 項 目 を , Fig. 4.3 に 示 す 。 切 り 株
の 特 性 ・ 形 質 と し て ,切 り 株 幹 周 囲 長 ,伐 採 高 ,株 当 り 萌 芽 枝 本 数 ,優 勢 な
萌 芽 枝( 実 長 上 位 5 本 )の 長 さ と 切 り 株 幹 上 で の 出 芽 位 置( 出 芽 高 )を 測 定
し た 。切 り 株 幹 周 囲 長 の 測 定 は 原 則 と し て 切 り 株 の 高 さ 60 cm で 行 な い ,板
根 を 持 つ 切 り 株 に お い て は そ の 張 り 出 し 最 上 位 置 か ら 30cm 上 部 で 計 測 し た 。
高 さ が 60 cm 以 下 の 切 り 株 に お い て は ,伐 採 高 に お け る 幹 周 囲 長 と し た 。伐
採 高 が 低 く 板 根 部 位 に て 計 測 す る 場 合 は ,板 根 の 張 り 出 し を 除 く 円 筒 を 仮 想
し そ の 周 囲 長 と し た 。周 囲 長 は 直 径 に 換 算 し ,伐 根 径 と し て 扱 っ た 。伐 採 断
面 が 地 表 面 と 平 行 で な い 場 合 は ,断 面 の 最 低 高 を 伐 採 高 と し た 。さ ら に ,伐
採 後 の 経 過 期 間 ,切 り 株 の 場 所 の 最 高 水 位 を 記 録 し た 。伐 採 後 の 経 過 期 間 は ,
伐 採 断 面 の 変 色 や 腐 食 の 進 行 具 合 を 観 察 し 推 定 し た 。最 高 水 位 は 年 間 で 最 も
水 位 の 高 い 雨 季 の 満 潮 時 を 目 安 に ,幹 上 の コ ケ や 泥 の 付 着 線 の 読 み 取 り に よ
り 判 定 し た 。伐 採 後 の 経 過 期 間 と 最 高 水 位 の 判 定 は ,林 内 作 業 経 験 の 豊 富 な
複 数 の 地 元 住 民 と と も に 行 な っ た 。な お ,盗 伐 直 後 の H. fomes の 切 り 株 の 内 ,
伐 採 位 置 が 自 然 の 分 枝 位 置 よ り 高 い た め に , 複 数 の 幹 が あ っ た 32 株 を , 分
枝 位 置 よ り 下 部 で 伐 採 し 単 幹 の 切 り 株 と し て 対 象 に 加 え た 。ま た ,対 象 数 の
少 な い 伐 根 径 階 級 で ,現 地 林 務 官 の 了 解 の も と 10 個 体 の H. fomes を 伐 採 し ,
半年後に他の切り株と同様の調査を行った。
●
●
●
①
●
⑤
●
②
④
③
①伐根径
②伐採高
③最高水位
⑥
④萌芽枝本数
⑤優勢な萌芽枝(上位5本)の実長
⑥優勢な萌芽枝の出芽高
○伐採後の経過期間期
Fig. 4.3. 測定,記録項目
- 89 -
第4章
H. fomes の 萌 芽 力 を 他 の 主 要 な 木 本 マ ン グ ロ ー ブ 樹 種 と 比 較 す る た め に ,
2∼ 3 年 前 に 切 り 倒 さ れ た と 判 断 で き る 様 々 な マ ン グ ロ ー ブ の 切 り 株 の , 萌
芽の有無と萌芽枝本数の記録を行った。
調 査 は 2002 年 8∼ 9 月 , 2003 年 2∼ 3 月 , 8∼ 9 月 お よ び 2004 年 8 月 に 行
なった。
4.2.3 解 析 方 法
( 1) 群 集 の 更 新 特 性
林分の構造
種 構 成 と 階 層 構 造 ,お よ び 種 毎 の 樹 形 別 個 体 数 と 幹 数 ,胸 高 断 面 積 と 全 樹
木 合 計 に 対 す る そ の 比 率 を ,調 査 区 別 に ま と め た 。個 体 数 と 幹 数 は ,最 も 大
き な 面 積 を 持 つ B 区 の 200 ㎡ 当 た り に 換 算 し 示 し た 。 ま た , 樹 冠 投 影 図 に
よ り 林 分 最 上 層 の 植 被 の 状 態 を 可 視 化 し た 。次 に ,代 表 種 の 幼 樹・成 木 を 対
象 に 階 級 幅 2.5 cm の 胸 高 直 径 階 別 の 幹 頻 度 分 布 グ ラ フ を 作 成 し , 実 生 数 を
最 小 階 級 の 下 の 階 級 と し て 組 み 入 れ た 。 D 区 の Heritiera fomes に つ い て は ,
幹 を 実 生 由 来 と 萌 芽 由 来 に 区 分 し ,最 小 階 級 の 下 の 階 級 で は 実 生 と 1.3 m 以
下 の 萌 芽 シ ュ ー ト に 区 分 し 示 し た 。 各 階 級 の 頻 度 は 200 ㎡ 当 た り の 値 に 換
算した。
個体群サイズ構造とその変化
H. fomes 閉 鎖 林 と Bruguiera spp.閉 鎖 林 に お け る 代 表 種 の 個 体 群 構 造 の 変
化を評価するために,調査区からそれぞれ A 区と C 区を解析対象に選定し
た 。両 調 査 区 に お い て ,胸 高 直 径 階 別 に 2002 年 か ら 2005 年 の 間 の 幹 の「 相
対 成 長 率( Relative diameter growth rate/RDGR)」,
「 死 亡 率( Mortality rate)」,
「 加 入 率( Recruitment rate)」( 動 態 変 数 ,以 降 同 様 )を 算 出 し グ ラ フ 化 し た
( Kanno et. al., 2001)。相 対 成 長 率 は ,3 年 間 生 残 し た 幹 の 胸 高 直 径 の 平 均 増
加率を 1 年当たりに換算したものである。死亡率および加入率も同様に 1
年当たりの数値として,以下により算出した。
Mortality rate( /yr) = (N d / N l ) / 3
Recruitment rate( /yr) = (N r / N l ) / 3
N d は 3 年 間 に 死 亡 し た 幹 を ,N r は 3 年 間 に 加 入 し た 幹 の 数 を 示 す 。ま た ,
- 90 -
第4章
N l は 2002 年 に 記 録 さ れ た 幹 の 数 で あ る 。
個体群の空間分布
各調査区において,統計的手法と樹冠投影図および分布図の判読により,
「 光 環 境 」と 代 表 種 の「 実 生 ・ 幼 樹 の 分 布 」と の 関 係 を 解 析 し た 。小 方 形 区
毎の林冠閉鎖度を,統計解析における光環境の指標とした。林冠閉鎖度は,
樹 冠 投 影 図 上 で ,デ ジ タ ル プ ラ ニ メ ー タ ー( 小 泉 測 器 製 作 所 )に よ り 投 影 面
積 を 測 定 し 算 出 し た 比 率 で あ る 。林 冠 閉 鎖 度 と 小 方 形 区 内 の 実 生 個 体 の 出 現
頻度,および林冠閉鎖度と幼樹個体の出現頻度を,それぞれ 2 変量として
Spearman の 順 位 相 関 係 数 を 求 め , 相 関 関 係 を 判 定 し た 。 分 布 の 判 読 に は ,
樹 冠 投 影 図 ,幼 樹 個 体 の 位 置 図 ,各 小 方 形 区 内 の 実 生 数 を 階 級 に よ り 濃 淡 で
示した実生の出現頻度図を用いた。
同 様 の 統 計 手 法 に よ り 各 調 査 区 に お い て ,「 光 環 境 」 と 1.3 m ま で の 下 層
の「 つ る 植 物 お よ び 叢 生 形 の 植 物 の 分 布 」と の 関 係 を 解 析 し た 。低 木 に つ い
て は 幹 数 を ,そ れ 以 外 の 植 物 に つ い て は 総 合 優 占 度 と 群 度 に 基 づ い た 占 有 度
の 指 数 ( Table 4.3) を 変 量 と し て 用 い た 。
な お , Excoecaria agallocha の 実 生 , 幼 樹 は 出 現 せ ず , 幼 樹 に 相 当 す る 樹
高 1.3 m 以 上 で 胸 高 直 径 が 5 cm 未 満 の 全 て の 幹 は , 分 枝 も し く は 萌 芽 に 由
来するものであったため,空間分布の解析は行わなかった。
Table 4.3 占有度の指数
総合優占度・群度 占有度指数 総合優占度・群度 占有度指数
15
7
5・5
2・3
14
6
5・4
2・2
13
5
4・5
2・1
12
4
4・4
1・2
11
3
4・3
1・1
10
2
3・4
+・2
9
1
3・3
+
8
3・2
総合優占度・群度はBraun-Blanquet(1964)および藤原(1997)にもとづく。
出典:筆者作成
( 2) 萌 芽 更 新 特 性
マングローブの萌芽力
調 査 時 に 萌 芽 枝 を 有 し 生 存 し て い た 切 り 株 を 「 萌 芽 株 」, 萌 芽 枝 を 欠 い て
い た 切 り 株 を「 枯 死 株 」と す る 。樹 種 ご と の 全 切 り 株 に 占 め る 萌 芽 株 の 比 率
- 91 -
第4章
を「 萌 芽 率 」,枯 死 株 を 含 む 1 株 当 り の 萌 芽 枝 本 数 を「 株 当 た り 萌 芽 枝 本 数 」
とし,両者を指標として種間の萌芽力を比較した。
伐根径・伐採高と萌芽力の消長
す べ て の H. fomes の 切 り 株( 476 株 )を 対 象 と し て ,伐 根 径 お よ び 伐 採 高
の 相 違 と 萌 芽 率 の 関 係 を ,伐 採 後 の 経 過 期 間 を 区 分 し 検 証 し た 。伐 根 径 は 2
cm ご と , 伐 採 高 は 20 cm ご と の 階 級 に , 伐 採 後 の 経 過 期 間 は 12 ヶ 月 ま で ,
13 ヶ 月 か ら 24 ヶ 月 , 25 ヶ 月 以 上 の 3 つ に そ れ ぞ れ 区 分 し た 。
また,萌芽枝の枯死や交代の影響が少ないと推定される,伐採後初期の
12 ヶ 月 ま で の 萌 芽 株 ( 97 株 ) を 対 象 と し て , 伐 根 径 の 相 違 と 株 当 た り の 萌
芽 枝 本 数 の 関 係 を 解 析 し た 。そ の 際 ,伐 根 径 は 5 cm ご と の 階 級 に 区 分 し た 。
さ ら に , 伐 採 後 6 ヶ 月 , 18 ヶ 月 , 36 ヶ 月 の 萌 芽 株 ( そ れ ぞ れ 39 株 , 28
株 ,44 株 )を 対 象 と し て ,伐 根 径 と 最 大 萌 芽 枝 の 長 さ と の 関 係 を 検 証 し た 。
冠水と切り株の死亡
伐 採 後 初 期 の 12 ヶ 月 ま で の 切 り 株 ( 136 株 ) の う ち , 切 り 株 の 場 の 最 高
水 位 を 記 録 で き た も の ( 121 株 ) を 対 象 に , 冠 水 の 影 響 を 解 析 し た 。 伐 採 高
に 対 す る 切 り 株 の 場 の 最 高 水 位 の 比 率 を「 冠 水 率 」と 定 義 す る 。冠 水 率 50%
を 境 に 切 り 株 を 高 冠 水 率 群 と 低 冠 水 率 群 に 区 分 し ,各 群 の 死 亡 率 を 検 証 し た 。
株当たり萌芽枝本数の時間動態
萌 芽 枝 本 数 は 伐 根 径 に 左 右 さ れ る た め ,伐 根 径 が 5∼ 10 cm の 萌 芽 株( 167
株 )を 対 象 と し て ,伐 採 後 の 時 間 経 過 に よ る 株 当 り 萌 芽 枝 本 数 の 変 化 を 解 析
した。
時 間 経 過 に よ り ,株 当 り 萌 芽 枝 本 数 の 多 少 に 2 極 化 し た 萌 芽 株 の そ れ ぞ れ
の群の平均冠水率の有意差は,t 検定により判定した。
冠水による萌芽枝の動態への影響
萌 芽 株 を 高 冠 水 率 群 と 低 冠 水 率 群 の 2 群 に ,ま た 切 り 株 上 の 萌 芽 枝 の 出 芽
位 置 に よ り 3 タ イ プ に 区 分 し た 。各 萌 芽 株 タ イ プ は ,優 勢 な 萌 芽 枝 の 内 4∼
5 本 が 伐 採 高 の 1/2 以 上 の 高 さ か ら 出 芽 す る 「 上 部 萌 芽 型 ( Upper-type)」,
1/2 未 満 か ら 出 芽 す る 「 下 部 萌 芽 型 ( Lower-type )」, そ れ 以 外 の 「 散 在 型
( Scattered-type)」と し た 。伐 採 後 の 経 過 期 間 を 12 ヶ 月 以 内 ,13∼ 24 ヶ 月 ,
25 ヶ 月 以 上 に 区 分 し ,2 つ の 群 別 に ,経 過 期 間 ご と の 各 萌 芽 株 タ イ プ の 出 現
比 率 を 検 証 す る こ と で ,萌 芽 枝 消 長 の 時 間 動 態 を 解 析 し た 。な お ,対 象 は 5
- 92 -
第4章
本 以 上 の 萌 芽 枝 を 持 つ 萌 芽 株 ( 256 株 ) と し た 。
4.3 結 果
4.3.1 林 分 構 造
種 構 成 と 階 層 構 造 を Table 4.4 に , 樹 冠 投 影 図 , 林 冠 閉 鎖 度 , 実 生 分 布 ,
お よ び 幼 樹 分 布 を Fig. 4.4 に 示 す 。
( 1) 階 層 構 造 と 種 構 成
林分の階層構造は,A 区および B 区において高木層,亜高木層と低木層,
草 本 層 の 4 層 構 造 ,C 区 に お い て は 同 様 の 4 層 よ り 上 に Heritiera fomes の 単
木を有し,D 区においては高木層を欠く 3 層構造であった。
植 生 調 査 に よ っ て 確 認 さ れ た 植 物 は 27 種 で , 生 育 形 別 に 高 木 種 : 10 種 ,
亜高木種:4 種,低木種:4 種,草本種:1 種,つる植物が 8 種であった。
ま た , 調 査 区 当 た り の 出 現 種 数 は , A 区 か ら D 区 に お い て そ れ ぞ れ 順 に 20
種 , 18 種 , 20 種 , 12 種 で あ っ た 。
A 区から C 区においては,4 つの代表種が出現した。D 区内おいては,
Amoora cucullata お よ び Excoecaria agallocha は 出 現 し な か っ た が ,周 辺 林 分
にはおいては低頻度ながら生育が確認された。
A 区 ,B 区 お よ び C 区 に お け る 階 層 別 の 植 被 率 と 出 現 種 数 は ,高 木 層 の 植
被 率 が 50% ∼ 80% , 出 現 種 数 が そ れ ぞ れ 2 種 , 4 種 , 6 種 で , A 区 お よ び B
区 で は H. fomes が , C 区 で は Bruguiera spp.が 優 占 し て い た 。 ま た , 草 本 層
の 植 被 率 は 10% ∼ 20% , 出 現 種 数 は そ れ ぞ れ 18 種 , 16 種 , 14 種 で , す べ
て の 種 の 総 合 優 占 度 は 1 以 下 で あ っ た 。一 方 ,D 区 の 高 木 層 の 植 被 率 は 15% ,
出 現 種 数 は 5 種 で , H. fomes が 優 占 し て い た 。 ま た 草 本 層 の 植 被 率 は 90% ,
出 現 種 数 は 10 種 で あ っ た 。D 区 の 草 本 層 に お い て は ,特 に Derris trifoliata,
Finlaysonia maritima, Sarcolobus carinatus の 総 合 優 占 度 が そ れ ぞ れ 4, 3, 2
と,つる植物による植被の程度が他の調査区より高かった。
- 93 -
第4章
Table 4.4 調査林分の種構成と構造
(A)調査区A
生育形
高木種
学名
Heritiera fomes
Excoecaria agallocha
Avicennia officinalis
Xylocarpus moluccensis
Amoora cucullata
Bruguiera gymnorrhiza
亜高木種 Phoenix paludosa ※
低木種
Sterculiaceae
Euphorbiaceae
Avicenniaceae
Meliaceae
Meliaceae
Rhizophoraceae
T1*1
13m
50%*2
3・3
1・2
T2*1
6m
5%*2
+
S*1
2.5m
20%*2
2・2
H*1
0.9m
10%*2
1・1
1・1
+
1・1
1・1
+・2
+
+
+
+
+
密度 (/200㎡)
個体
単幹 株立
計
49
21
69
7
7
4
4
8
3
1
4
7
1
8
3
3
BA*4
(㎡/ha)
株立率*3
(%)
幹
111
32
13
6
10
3
30.0
100.0
50.0
33.3
16.7
0.0
BA
(%)
18.51
7.74
0.30
0.04
0.03
0.01
69.49
29.07
1.11
0.15
0.09
0.04
Arecaceae
Myrsinaceae
Rhizophoraceae
Caesalpiniaceae
+
Aegiceras corniculatum
Ceriops decandra
Cynometra ramiflora
+
+
+
+
-
-
-
-
-
-
-
Acanthus ilicifolius
Dalbergia spinosa
Brownlowia tersa
Merope angulata
Acanthaceae
Fabaceae
Tiliaceae
Rutaceae
+
+
+
+
+
+
6
1
-
1
-
1
-
6
4
1
-
0.0
100.0
0.0
-
0.01
0.00
0.00
-
0.03
0.01
0.01
-
Fabaceae
Asclepiadaceae
Caesalpiniaceae
Caesalpiniaceae
Fabaceae
Asclepiadaceae
+
+
1・1
+・2
+
+
+
+
-
-
-
-
-
-
-
つる植物 Derris trifoliata
Finlaysonia maritima
Caesalpinia bonduc
Caesalpinia crista
Dalbergia pinnata
Sarcolobus carinatus
計
科
20種
2種
3種
11種
18種
T1*1
14m
80%*2
4・4
+
1・1
+
T2*1
6m
5%*2
1・1
S*1
2m
10%*2
2・2
H*1
0.8m
20%*2
1・3
1・1
1・1
1・2
+
1・2
1・1
1・1
+
1・2
1・2
+
1・2
1・1
1・1
1・2
72
36
108
185
33.3
26.64
株立率*3
(%)
BA*4
(㎡/ha)
100.00
(B)調査区B
生育形
高木種
学名
Heritiera fomes
Excoecaria agallocha
Amoora cucullata
Bruguiera sexangula
亜高木種 Ceriops decandra
低木種
科
Sterculiaceae
Euphorbiaceae
Meliaceae
Rhizophoraceae
Rhizophoraceae
Aegiceras corniculatum
Cerbera odollam
Cynometra ramiflora
Phoenix paludosa ※
Myrsinaceae
Apocynaceae
Caesalpiniaceae
Arecaceae
Acanthus ilicifolius
Merope angulata
Nypa fruticans ※
Acanthaceae
Rutaceae
Arecaceae
シダ植物 Acrostichum aureum
Polypodiaceae
つる植物 Flagellaria indica
Flagellariaceae
Fabaceae
Asclepiadaceae
Asclepiadaceae
Caesalpiniaceae
Derris trifoliata
Finlaysonia maritima
Sarcolobus carinatus
Caesalpinia crista
計
18種
+・2
1・1
+
4種
6種
ST*1
18m
5%*2
+・2
T1*1
11m
65%*2
2・2
3・3
+
1・1
+
+
10種
密度 (/200㎡)
個体
株立
計
6
76
1
2
1
6
5
単幹
70
1
5
5
幹
83
5
8
5
BA
(%)
20.73
0.96
0.49
0.28
7.9
50.0
16.7
0.0
88.10
4.09
2.07
1.19
1・2
+
3
2
1
2
-
2
3
-
5
2
1
5
-
8
2
1
8
-
40.0
0.0
0.0
60.0
-
0.55
0.39
0.11
0.00
-
2.33
1.65
0.47
0.02
-
1・1
1・1
+・2
3
9
-
1
2
-
4
11
-
6
13
-
25.0
18.2
-
0.01
0.01
-
0.03
0.05
-
1・1
-
-
-
-
-
-
-
+
1・2
1・1
1・1
+
-
-
-
-
-
-
-
16種
101
16
117
139
13.7
23.53
100.00
BA*4
(㎡/ha)
BA
(%)
(C)調査区C
生育形
高木種
学名
Heritiera fomes
Bruguiera spp.
Excoecaria agallocha
Amoora cucullata
Xylocarpus granatum
Rhizophora apiculata
Xylocarpus moluccensis
Avicennia officinalis
亜高木種 Ceriops decandra
低木種
科
Sterculiaceae
Rhizophoraceae
Euphorbiaceae
Meliaceae
Meliaceae
Rhizophoraceae
Meliaceae
Avicenniaceae
Aegiceras corniculatum
Phoenix paludosa ※
Rhizophoraceae
Myrsinaceae
Arecaceae
Merope angulata
Brownlowia tersa
Dalbergia spinosa
Acanthus volubilis
Rutaceae
Tiliaceae
Fabaceae
Acanthaceae
シダ植物 Acrostichum aureum
Polypodiaceae
つる植物 Finlaysonia maritima
Asclepiadaceae
Caesalpiniaceae
Fabaceae
Asclepiadaceae
Caesalpinia bonduc
Derris trifoliata
Sarcolobus carinatus
計
20種
T2*1
5m
5%*2
+
+
S*1
2.5m
5%*2
1・1
+
H*1
0.8m
10%*2
1・1
1・3
1・1
1・1
+
+
+
10
4
-
2
-
12
4
-
14
4
-
16.7
0.0
-
0.57
0.04
-
11.81*5
41.97
25.21
8.87
7.27
0.92
0.33
0.00
2.96
0.21
-
1・1
+
7種
48
38
12
46
2
2
4
-
15.0
0.0
25.0
22.2
0.0
0.0
0.0
-
2.27*5
8.07
4.85
1.70
1.40
0.18
0.06
-
+
+
+
+
+
+
+
+
8
2
-
6
-
14
2
-
22
2
-
42.9
0.0
-
0.07
0.02
-
0.37
0.09
-
+
-
-
-
-
-
-
-
+
+
1・2
+
+
+
-
-
-
-
-
-
-
+
1種
株立率*3
(%)
幹
単幹
34
38
6
28
2
2
4
-
+
+
密度 (/200㎡)
個体
株立
計
6
40
38
2
8
8
36
2
2
4
-
8種
8種
- 94 -
14種
138
24
162
194
14.8
19.23
88.19
第4章
(D)調査区D
*1
生育形
高木種
学名
Heritiera fomes
Xylocarpus moluccensis
Bruguiera gymnorrhiza
Avicennia officinalis
亜高木種 Ceriops decandra
低木種
Sterculiaceae
Meliaceae
Rhizophoraceae
Avicenniaceae
T2
8m
15%*2
2・2
+
+
+
Rhizophoraceae
+
科
*1
H
1m
90%*2
1・2
+
+
+・2
Phoenix paludosa ※
Arecaceae
+・2
+・2
+・2
Acanthus ilicifolius
Acanthaceae
1・2
+・2
シダ植物 Acrostichum aureum
Polypodiaceae
つる植物 Derris trifoliata
Fabaceae
Asclepiadaceae
Asclepiadaceae
Acanthaceae
Finlaysonia maritima
Sarcolobus carinatus
Acanthus volubilis
計
*1
S
3m
10%*2
1・1
12種
5種
密度 (/200㎡)
個体
単幹 株立
計
30
34
64
2
2
7
2
9
5
4
9
4
2
25
*4
株立率*3
(%)
幹
123
4
11
18
2
-
14
-
28
130
BA
(%)
BA
(㎡/ha)
52.8
100.0
20.0
40.0
6.29
1.11
0.64
0.40
62.51
10.99
6.34
4.00
100.0
-
0.77
-
7.60
-
87.5
0.86
8.55
+・2
-
-
-
-
-
-
-
1・1
1・1
4・4
3・3
2・2
1・1
-
-
-
-
-
-
-
7種
10種
114
299
46
68
59.4
10.07
100.00
生育形は馬場・北村(1999)を参考にした。 つる性のシダ植物はつる植物に含めた。 ※はヤシ類を示す。
密度,株立率,BAは樹高1.3 m以上の個体が対象。 密度は200 ㎡当たりの換算値(小数点以下は四捨五入)。
*1 ST:超高木層,T1:高木層,T2:亜高木層,S:低木層,H:草本層。データは総合優占度・群度。
*2 %は各階層における植被率。
*3 株立ち率=株立個体数/個体数計×100 (%)
*4 BA:胸高断面積合計
*5 超高木層の1個体(胸高断面積 45.5 ㎡/ha)を除いた値。
樹 冠 の 分 布 と 広 が り を み る と , A 区 に お い て は H. fomes が 全 体 に 広 が り ,
そ の 総 合 優 占 度 は 3 で 明 瞭 な 空 隙 が 1 ヶ 所 あ っ た 。 ま た , E. agallocha の 樹
冠 は 集 中 ・ 偏 在 し , そ の 総 合 優 占 度 は 1 で あ っ た ( Fig. 4.4A, Table 4.4A)。
B 区 に お い て は H. fomes が 全 体 に 広 が り , そ の 総 合 優 占 度 は A 区 よ り や
や 高 く 4 で ,比 較 的 小 さ な 樹 冠 の 個 体 が 集 中 す る 場 所 が み ら れ た 。ま た ,E.
agallocha, Bruguiera spp., A. cucullata な ど の 小 さ な 樹 冠 が わ ず か に 散 在 し
て い た ( Fig. 4.4B, Table 4.4B)。
C 区 に お い て は Bruguiera spp.の 樹 冠 の 広 が り が 最 も 大 き く , そ の 総 合 優
占 度 は 3 で 小 さ な 樹 冠 の 集 中 や A 区 の H. fomes よ り 小 さ な 空 隙 が み ら れ た 。
H. fomes は 超 高 木 層 の 単 木 の 大 樹 冠 が 北 東 辺 に 位 置 し ,そ の 他 の や や 小 さ な
樹 冠 が 散 在 し 総 合 優 占 度 は 2 で あ っ た 。 ま た , A. cucullata, E. agallocha,
Rhizophora apiculata な ど 多 種 の 小 さ な 樹 冠 の 集 中 が み ら れ た ( Fig. 4.4C,
Table 4.4C)。
D 区 に お い て は H. fomes の 小 さ な 樹 冠 が 散 在 し ,そ の 総 合 優 占 度 は 2 で あ
っ た 。 ま た , Bruguiera spp.や Xylocarpus moluccensis の 小 さ な 樹 冠 が わ ず か
に み ら れ る と と も に ,隣 接 す る E. agallocha の や や 大 き な 樹 冠 が わ ず か に 調
査 区 に 張 り 出 し て い た 。( Fig. 4.4D, Table 4.4D)。
( 2) 生 育 本 数 ・ 株 立 ち 個 体 比 率
A 区 , B 区 お よ び C 区 に お け る 幼 樹 と 成 木 の 個 体 数 は , 108∼ 162 個 体 /
200 ㎡ ,幹 数 は 139∼ 194 本 / 200 ㎡ で あ っ た 。D 区 に お け る 個 体 数 は ,114
個 体 ,幹 数 は 297 本 / 200 ㎡ と ,A 区 か ら C 区 に 比 べ 幹 数 が 大 き か っ た( Table
4.4)。
- 95 -
第4章
樹冠投影図
林冠閉鎖度(%)
W
100
S
93
95
40
100 100
100 100 100
85
100
100
67
73
100 100
92
67
78
8
45
95
100
63
97
32
38
98
93
85
58
45
88
100 100
E
実生分布
Heritiera fomes
93
2m
幼樹分布
5
25
24
10
15
19
25
35
29
15
17
19
48
62
63
25
31
9
2
28
10
20
15
22
8
28
11
60
19
21
5
4
15
68
17
40
1
1
1
1
1
1
3
1
4
1 4
3
2
1
8
1
Bruguiera spp.
2
1
1
1
1
Amoora cucullata
1
1
1
1
1
3
3
3
1
Sarcolobus carinatus
1
3
占有度指数
0
0
1
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
1
1
0
1
0
1
1
1
1
1
1
1
0
1
1
1
Fig. 4.4. (A) A区 樹冠投影図,林冠閉鎖度,実生・幼樹分布
- 96 -
1
N
第4章
樹冠投影図
林冠閉鎖度(%)
W
S
92 100 98
78
43
51
84
73
49
66
73
50
91
45
44
69
57
68 100
97
98
91
80
58
69
40
98
96
98
98
75
67
66
76
98
71 100 70
100 89
89
87
70
69
95
50
91
E
実生分布
Heritiera
fomes
26
20
22
18
8
12
19
21
18
18
14
8
14
14
30
13
26
12
79
14
21
24
21
15
59
29
23
26
10
15
8
13
7
18
25
60
15
3
15
5
98
98
2m
幼樹分布
89
33
Bruguiera spp.
12
65
4
14
6
21
10
19
3
1
2
1
1
2
1
1
1
1
2
4
1
1
1
2
3
2
1
1
1
3
3
1
1
1
1
1
Amoora
cucullata
1
1
3
1
3
1
1
1
1
Fig. 4.4. (B) B区 樹冠投影図,林冠閉鎖度,実生・幼樹分布
- 97 -
N
第4章
樹冠投影図
林冠閉鎖度(%)
N
W
81
98
98
95
93
100 100
57
91
86
95
82
100 100
82
55
82
91
98
100 100
91
81
100 100 100 100 100
72
42
74
81
88
93
100
66
51
80
93
100 100
100
88
78
100 100
73
S
実生分布
Heritiera fomes
1
2
3
1
5
2
3
2
2
4
1
5
1
1
1
2
7
2
1
Bruguiera spp.
2
1
1
5
11
13
1
4
17
22
15
8
9
12
6
5
0
6
11
3
4
1
11
5
4
11
4
22
30
20
5
4
10
8
8
20
30
29
21
7
19
38
50
44
21
1
8
11
16
22
52
20
17
21
13
51
27
28
24
15
28
25
24
34
22
27
1
1
1
2
1
3
1
2
1
1
1
3
1
1
1
1
1
1
1
2
1
5
1
1
1
1
2
3
3
1
1
28
2
1.5 m
16
6
Amoora cucullata
3
1
1
3
95
幼樹分布
1
1
1
1
1
3
2
1
Fig. 4.4. (C) C区 樹冠投影図,林冠閉鎖度,実生・幼樹分布
- 98 -
1
1
2
3
E
100
1
1
2
第4章
樹冠投影図
林冠閉鎖度(%)
E
67
7
0
17
72
88
62
0
0
52
93
10
12
83
32
53
22
2
17
0
95
70
38
53
77
0
0
28
74
38
85
88
97
3
63
17
40
93
52
60
100 90
98
30
33
13
14
47
29
59
N
W
実生分布
Heritiera
fomes
6
2
1.5 m
幼樹分布
2
2
2
**
4
*
*
5
4
4
1
1
7
*
2
1
1
**
1
2
*
2
*
*
*
2
Bruguiera spp.
S
*
5
2
7
2
1
1
4
1
3
1
占有度指数
Derris
trifoliata
6
9
10
10
15
9
6
9
12
12
9
9
7
6
9
9
15
15
15
15
3
7
11
9
9
4
12
13
13
9
4
3
9
9
9
9
6
10
9
4
4
7
7
12
12
9
9
9
3
4
4
Acanthus ilicifolius
Sarcolobus
carinatus
3
4
6
3
1
4
4
4
1
1
0
1
3
0
1
3
3
1
2
0
0
0
0
0
1
0
3
2
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
0
Fig. 4.4. (D) D区 樹冠投影図,林冠閉鎖度,実生・幼樹分布
- 99 -
20
2
9
14 6
8
第4章
代 表 種 に つ い て 個 体 総 数 に 対 す る 個 体 数 の 比 率( Table 4.4 中 の 個 体 密 度 ・
計 か ら 算 出 )を み る と ,A 区 お よ び B 区 に お い て は ,Heritiera fomes が そ れ
ぞ れ 63.8% ( Table 4.4A, 108 個 中 69 個 体 。 以 下 同 様 。), 64.9% と 約 2/3 を
占 め て い た 。A 区 に お い て は ,Amoora cucullata・7.4% ,Excoecaria agallocha・
6.5% ,Bruguiera spp.・2.8% ,B 区 に お い て は ,A. cucullata・5.1% ,Bruguiera
spp.・4.3% ,E. agallocha・1.7% で ,い ず れ も そ の 比 率 は 10% 以 下 で あ っ た 。
C 区 に お い て は ,H. fomes お よ び Bruguiera spp.・24.4% ,A. cucullata・22.0%
と , 3 種 が ほ ぼ 同 数 で 全 体 の 2/3 を 占 め , E. agallocha は 4.9% で あ っ た 。 ま
た D 区 に お い て は ,H. fomes が 56.1% と 過 半 数 を 占 め ,Bruguiera spp.は 7.8%
であった。
通 常 は 単 幹 で あ る H. fomes の ,株 立 ち 個 体 の 比 率 が 最 も 高 い 割 合 で で あ っ
た の は D 区 で , そ の 比 率 は 52.8% ( Table 4.4 中 の 株 立 比 率 。 以 下 同 様 。) で
あ っ た 。 A 区 か ら C 区 に お い て は , そ れ ぞ れ 30.0% , 7.9% , 15.0% が 株 立
ち個体であった。
ま た , Acanthus ilicifolius の 株 立 ち 個 体 の 比 率 も , D 区 に お い て 87.5% と
調 査 区 中 最 も 高 か っ た 。A 区 お よ び B 区 に お い て は ,そ れ ぞ れ 0% ,25% で
あ っ た , C 区 に は 樹 高 が 1.3 m 以 上 の 個 体 は 出 現 し な か っ た 。
( 3) 胸 高 断 面 積 合 計 の 比 較
調 査 区 の 胸 高 断 面 積 合 計 は , A区 ∼ D区 の 順 に , そ れ ぞ れ 26.64 ㎡ / ha,
23.53 ㎡ / ha,19.23 ㎡ / ha,10.07 ㎡ / haで あ っ た( Table 4.4 中 BA(m 2 /ha))。
な お C区 に お い て は , 超 高 木 層 の Heritiera fomesの 胸 高 断 面 積 が 45.5 ㎡ / ha
と突出しており,これを除いた値である。
調 査 区 毎 に 代 表 種 に つ い て ,調 査 区 の 合 計 値 に 対 す る 種 の 胸 高 断 面 積 合 計
の 比 率 を み る と , A 区 お よ び B 区 に お い て は , H. fomes が そ れ ぞ れ 69.5% ,
88.3% と 高 い 比 率 を 示 し た( Table 4.4 中 BA(%))。A 区 に お い て は ,Excoecaria
agallocha が 29.1% で あ っ た が , Amoora cucullata と Bruguiera spp.は そ れ ぞ
れ 0.1% , 0.1% 以 下 と 極 め て 小 さ か っ た 。 B 区 に お い て は , E. agallocha が
4.1% , A. cucullata が 2.1% , Bruguiera spp.が 1.2% と , H. fomes 以 外 の 3 種
は 5% 以 下 の 小 さ な 比 率 で あ っ た 。
C 区 に お い て は ,H. fomes の 大 径 木 が 単 木 で 調 査 区 の 72.8% を 占 め た 。こ
の 個 体 を 除 い た 場 合 の 比 率 は , 42.0 % の Bruguiera spp. と , 25.2 % の E.
agallocha で 調 査 区 の 2/3 を 占 め ,H. fomes が 11.8% ,A. cucullata が 8.9% と ,
それぞれ 1 割程度の比率であった。
- 100 -
第4章
D 区 に お い て は , H. fomes が 62.5% と 高 い 比 率 を 占 め , Bruguiera spp.は
7.8% と 1 割 に 満 た な か っ た 。
4.3.2 個 体 群 構 造 と そ の 動 態
( 1) 代 表 種 の 胸 高 直 径 階 分 布
各 調 査 区 の 代 表 種 の 胸 高 直 径 階 分 布 を , Fig. 4.5 に 示 す 。
Heritiera fomes の 分 布 パ タ ー ン は , A 区 か ら C 区 に お い て 逆 J 字 型 の 傾 向
を 示 し た 。総 幹 数 に 対 す る 実 生 数 の 比 率 が 91.0∼ 92.6% と 非 常 に 大 き か っ た 。
A 区 お よ び B 区 で は , 胸 高 直 径 が 2.5∼ 7.5 cm の 階 級 に お い て 分 布 が 凹 型 と
な り 不 連 続 な 分 布 パ タ ー ン を 呈 し て い た 。D 区 に お い て は ,実 生 数 の 比 率 が
73.4% と 他 の 調 査 区 よ り 低 く , 実 生 由 来 幹 の 頻 度 分 布 は 不 連 続 で あ っ た 。 D
区 の 各 階 級 の 萌 芽 由 来 幹 の 数 は 実 生 由 来 幹 よ り も 多 く ,分 布 パ タ ー ン は 連 続
的 な 逆 J 字 型 を 示 し た 。4 つ の 調 査 区 に お い て ,実 生 の 80∼ 99% が 2 年 生 以
上であった。
Bruguiera spp.の 分 布 パ タ ー ン は ,C 区 に お い て 多 数 の 実 生 を 伴 う 一 山 型 を
示 し た 。総 幹 数 に 対 す る 実 生 数 の 比 率 は 98.0% と 突 出 し て い た 。A 区 ,B 区
お よ び D 区 に お い て は 総 幹 数 が 少 な く ,A 区 の 幹 の 胸 高 直 径 は す べ て 2.5 cm
未 満 ,B 区 ,C 区 で は 7.5 cm 未 満 で 分 布 が 不 連 続 で あ っ た 。実 生 は ,90∼ 100%
が当年生であった。
Amoora cucullata の 分 布 パ タ ー ン は , C 区 に お い て な だ ら か な 逆 J 字 型 を
示 し た 。A 区 お よ び B 区 に お い て は 総 幹 数 が 少 な く ,A 区 の 幹 の 胸 高 直 径 は
す べ て 2.5 cm 未 満 , B 区 で は 7.5 cm 未 満 で 分 布 が 不 連 続 で あ っ た 。
Excoecaria agallocha は 全 て の 調 査 区 に お い て 実 生 が 出 現 し な か っ た 。 A
区 に お い て は , 胸 高 直 径 が 0∼ 15 cm 間 の 階 級 で 連 続 す る , 平 坦 な 分 布 パ タ
ー ン を 示 し た 。B 区 お よ び C 区 に お い て は 幹 数 が 少 な く ,B 区 で は 0∼ 15 cm
間 の 階 級 で 不 連 続 に 分 布 し , C で は 7.5∼ 15 cm の 3 階 級 に 集 中 し て い た 。
- 101 -
- 102 -
15.0(cm)
12.5-15
10-12.5
2
5-7.5
2
5-7.5
40
実生由来幹≧1.3 m
実生<1.3 m
萌芽由来幹≧1.3 m
萌芽由来幹<1.3 m
(出現せず)
2
15.0(cm)
15.0(cm)
1
12.5-15
10-12.5
7.5-10
15.0(cm)
12.5-15
10-12.5
7.5-10
5-7.5
2.5-5
1
12.5-15
10-12.5
7.5-10
3
5-7.5
0-2.5
15.0-
12.5-15
10-12.5
7.5-10
5-7.5
2.5-5
0-2.5
15.0-
12.5-15
10-12.5
3
5-7.5
2.5-5
0-2.5
3
2.5-5
15.0-
12.5-15
10-12.5
7.5-10
5-7.5
7.5-10
A. cucullata
0-2.5
15.0-
12.5-15
10-12.5
2 2
7.5-10
2
5-7.5
2.5-5
0-2.5
15.0-
12.5-15
10-12.5
20
5-7.5
2.5-5
5-7.5
7.5-10
0-2.5
2.5-5
Bruguiera spp.
0-2.5
15.0-
12.5-15
10-12.5
7.5-10
0-2.5
3
7.5-10
488
2.5-5
0
2.5-5
2
0-2.5
15.0-
12.5-15
10-12.5
7.5-10
5-7.5
2.5-5
0-2.5
20
2.5-5
15.0-
12.5-15
10-12.5
7.5-10
5-7.5
2.5-5
0-2.5
H. fomes
0-2.5
2
15.0-
12.5-15
10-12.5
7.5-10
2 2 2
15.0-
12.5-15
10-12.5
C区
0
7.5-10
0
5-7.5
20
5-7.5
2.5-5
C区
0-2.5
0
2.5-5
B区
0-2.5
A区
幹数(/ 200 ㎡)
第4章
1207
E. agallocha
120
100
80
60
40
3
120
1030
100
80
60
40
1
120
1874
100
80
60
40
2
120
368
100
80
60
(出現せず)
20
2
胸高直径階級 (cm)
Fig. 4.5. 代表種個体群の胸高直径階分布
斜体数字は幹数(/ 200 ㎡)を示す。
第4章
( 2) 加 入 , 死 亡 , 成 長
A 区 お よ び C 区 に お け る 代 表 種 の 各 階 級 の 動 態 変 数 を , Fig. 4.6 に 示 す 。
両 調 査 区 に お け る H. fomes 動 態 変 数 は ,同 様 の 傾 向 を 示 し た 。最 小 階 級 へ
の 加 入 率 は 死 亡 率 よ り 高 く , A 区 で は 死 亡 率 の 約 10 倍 , C 区 で は 約 4 倍 で
あ っ た 。 各 階 級 の 成 長 率 は 0.2∼ 5% 程 度 で あ っ た 。
A 区 に は ,Bruguiera spp.の 幼 樹 も し く は 成 木 が 2002 年 に は 生 育 せ ず ,2005
年 ま で に 3 本( / 200 ㎡ ・3 年 間 ,以 下 同 様 )加 入 し た 。C 区 で は ,0∼ 5 cm
と 5∼ 10 cm の 2 つ の 階 級 に は 加 入 が な く ,こ の 種 の 最 大 階 級 の 直 径 10∼ 15
cm へ の 加 入 が 2 本 あ っ た 。 一 方 死 亡 は , 最 小 階 級 に の み 起 こ っ て い た 。 相
対 成 長 率 は 各 階 級 と も 5% 程 度 で あ っ た 。
A. cucullata は A 区 に お い て 最 小 サ イ ズ 階 級 の み に 出 現 し , 加 入 率 , 死 亡
率 は と も に 11.1% で あ っ た 。 C 区 で は , 10 cm ま で の 二 つ の 階 級 の う ち , 死
亡 は 起 こ ら ず , 最 小 階 級 に お け る 加 入 率 が 60.0% ( 26 本 ) と , A 区 と 比 べ
非 常 に 高 か っ た 。成 長 率 は ,A 区 の 最 小 階 級 に お い て 12.0% と ,C 区 の 4.4%
より高かった。
両 調 査 区 に お け る , 5 ∼ 10 cm お よ び 10 ∼ 15 cm の 2 つ の 階 級 の , E.
agallocha の 動 態 変 数 は , 同 様 の 傾 向 を 示 し た 。 5∼ 10 cm に は 加 入 は 起 こ ら
ず ,こ の 種 の 最 大 階 級 の 10∼ 15 cm へ の 加 入 率 は ,A 区 と C 区 が ,そ れ ぞ れ
13.3% ( 2 本 ), 16.7% ( 1 本 ) と 同 程 度 で あ っ た 。 両 調 査 区 と も に , 二 つ の
階 級 で は 死 亡 は 起 こ ら ず ,成 長 率 は 1.2∼ 3.0% で あ っ た 。A 区 の 最 小 階 級 に
お け る 加 入 と 死 亡 は す べ て 萌 芽 枝 で ,加 入 率 は 20.8%( 7 本 ),死 亡 率 は 16.7%
( 6 本 ) と 同 程 度 で あ っ た 。 C 区 に お い て は 最 小 階 級 サ イ ズ の E. agallocha
は出現しなかった。
- 103 -
第4章
(A) A区
recruitment rate (%)
0
40
H. fomes
A. cucullata
E. agallocha
40
30
7
20
10
3
4
3
20
6
7
20
9
10-15
15-
16
5-10
15-
10-15
15-
5-10
2
0-5
21
10-15
0
39 28
5-10
10
11
0-5
10
3
3
0-5
RDGR (%)
50
mortality rate
60
(B) C区
26
H. fomes
Bruguiera spp.
A. cucullata
E. agallocha
50
40
2
30
20
16
2
10
0
10
4
2
20
4
10-15
dbh class (cm)
Fig. 4.6. 代表種個体群における加入率,死亡率,相対成長率
グラフ中の斜体数字は, 加入・死亡幹数(3年間),および相対成長率算出のた
め平均をとった幹数を示す(いずれも200 ㎡当たりの換算値)。
調査区AにおけるBruguiera spp. の幹数は,2003年は0本,2005年 は胸高直径
階級 0-5 cm の3本(/200 ㎡)であった。
- 104 -
15-
8
5-10
0-5
5-10
15-
6
10-15
14
0-5
2
15-
10 28
10-15
2
5-10
2
0-5
4
15-
0
24
10-15
10
5-10
20
0-5
RDGR (%)
mortality rate
recruitment rate (%)
60
第4章
4.3.3 代 表 種 の 耐 陰 性 と 下 層 植 生
林 冠 閉 鎖 度 と ,代 表 種 の 実 生・幼 樹 の 分 布 ,お よ び 低 木 と つ る 植 物・ヤ シ ・
シダ類の内いずれかの調査区で有意な相関があった種の分布相関の解析の
結 果 を 示 す ( Table 4.5)。 な お , 相 関 解 析 に 用 い た 変 数 の , 実 生 数 , 幼 樹 数
お よ び 占 有 度 指 数 は ,Fig. 4.4 中 に 示 し た 。ま た ,Fig. 4.4 か ら 判 読 し た 樹 冠
と 実 生 ・ 幼 樹 分 布 の 関 係 を ま と め た ( Table 4.6)。
Table 4.5 林冠閉鎖度と代表種の実生・幼樹の密度,低木・つる植物の占有指数
の順位相関(Spearman)
A
B
C
D
高木種 H. fomes
実生
NS
NS
NS
0.36*
H. fomes
幼樹
-0.62**
NS
NS
NS
Bruguiera spp. 実生
NS
NS
NS
NS
Bruguiera spp. 幼樹
NS
0.24*
NS
NS
A. cucullata
実生
-0.37*
NS
NS
A. cucullata
幼樹
-0.62**
-0.25*
NS
E. agallocha
実生
E. agallocha
幼樹
低木種 A. ilicifolius
NS
NS
NS
-0.53**
つる植物 D. trifoliata
NS
NS
NS
-0.50**
S. carinatus
-0.36*
NS
NS
-0.33*
NS if P >0.05; * if P <0.05; ** if P <0.01
つる植物の相関判定には,1.3m以下の層の総合優占度・群度に対応する占有度
D区のH. fomes の相関判定には,萌芽枝を除いた総合優占度・群度に対応する占
有度指数を用いた。
A. ilicifolius の相関判定には,占有度指数に代えて幹本数を用いた。
Table 4.6 樹冠投影図と代表種の実生・幼樹の分布図判読結果
A
B
C
実生
・
・
・
幼樹
***
**
**
実生
・
*
*
幼樹
・
・
・
実生
***
*
**
幼樹
***
・
**
実生
・
・
・
幼樹
・
・
・
***: ギャップへの分布傾向
**: 小樹冠の成木との同所的な分布傾向
*: 比較的大きな樹冠の同種個体との同所的な分布傾向
H. fomes
H. fomes
Bruguiera spp.
Bruguiera spp.
A. cucullata
A. cucullata
E. agallocha
E. agallocha
- 105 -
D
・
***
*
*
・
・
・
・
第4章
( 1) 代 表 種 の 実 生 ・ 幼 樹 の 分 布
林 冠 閉 鎖 度 に 対 す る Heritiera fomes 実 生 の 分 布 は ,D 区 に お い て 有 意 な 正
の 相 関 が( 0.36,P< 0.05),幼 樹 の 分 布 は A 区 に お い て 有 意 な 負 の 相 関 が あ
っ た ( − 0.62, P< 0.01)。 ま た , 幼 樹 は , A 区 に お い て 南 辺 中 央 の 小 ギ ャ ッ
プ 下 に 集 中 し ,D 区 に お い て 東 辺 北 寄 り の 疎 開 林 冠 下 に 分 布 し て い た 。ま た ,
B 区 に お い て 西 辺 北 寄 り の ,お よ び C 区 に お い て 北 辺 中 央 の 比 較 的 小 さ な 樹
冠 の 成 木 と 同 所 的 に 分 布 し て い た ( Fig. 4.4)。
林 冠 閉 鎖 度 に 対 す る Bruguiera spp.幼 樹 の 分 布 は , B 区 に お い て 有 意 な 正
の 相 関 が あ っ た ( 0.24, P< 0.05)。 ま た , 実 生 は , B 区 の 西 辺 南 寄 り , C 区
の 全 域 お よ び D 区 の 北 辺 に お い て ,同 種 の 成 木 と 同 所 的 に 分 布 し ,幼 樹 は D
区 に お い て 同 種 の 成 木 と 同 所 的 に 分 布 し て い た ( Fig. 4.4)。
林 冠 閉 鎖 度 に 対 す る Amoora cucullata 実 生 の 分 布 は ,A 区 に お い て 有 意 な
負 の 相 関 が( 0.37,P< 0.05),幼 樹 の 分 布 は A 区 お よ び B 区 に お い て 有 意 な
負 の 相 関 が あ っ た( そ れ ぞ れ 順 に − 0.62,P< 0.01;− 0.25,P< 0.05)。ま た ,
実 生 は ,A 区 に お い て 小 ギ ャ ッ プ 下 に 集 中 し ,B 区 に お い て 北 寄 り の ,C 区
に お い て 中 央 南 寄 り お よ び 北 西 辺 の 同 種 の 成 木 と 同 所 的 に 分 布 し て い た 。幼
樹 は ,A 区 に お い て 小 ギ ャ ッ プ 下 に 集 中 し ,C 区 に お い て 南 辺 中 央 の 比 較 的
小 さ な 樹 冠 の 成 木 と 同 所 的 に 分 布 し て い た ( Fig. 4.4)。
( 2) 下 層 の 叢 生 形 植 物 の 分 布
林冠閉鎖度に対して,分布に有意な相関が判定されたのは,低木の
Acanthus ilicifolius と ,つ る 植 物 の Derris trifoliata お よ び Sarcolobus carinatus
であった。
D 区 に お い て こ れ ら 3 種 の 分 布 に は ,林 冠 閉 鎖 度 に 対 す る 負 の 相 関 が あ っ
た ( そ れ ぞ れ 順 に − 0.53, P< 0.01; − 0.50, P< 0.01; − 0.33, P< 0.05)。 S.
carinatus は A 区 に お い て も , 負 の 相 関 が あ っ た ( − 0.36, P< 0.05)。
4.3.4 萌 芽 力 の 比 較
樹種別の萌芽率および株当たり萌芽枝本数を,萌芽率の上位から示す
( Table 4.7A)。12 種 の う ち 6 種 の 萌 芽 率 は 71.8∼ 90.0% ,他 の 6 種 で は 0∼
32.3% で あ っ た 。 後 者 6 種 中 の 5 種 が ヒ ル ギ 科 の 樹 種 で あ っ た 。 Heritiera
fomes の 萌 芽 率 は 75.2% と ,上 位 の 群 に 属 し て い た 。株 当 り 萌 芽 枝 本 数 は 7.2
本 で ,12 種 中 2 番 目 に 多 か っ た 。H. fomes 切 り 株 476 の 特 性・形 質 デ ー タ の
平 均 値 と 標 準 偏 差 は そ れ ぞ れ ,伐 根 径 9.29 cm±4.32,伐 採 高 84.55 cm±42.84,
- 106 -
第4章
株 当 り 萌 芽 枝 本 数 7.19 本 ±7.55 で あ っ た 。ま た ,環 境 要 因 を 平 均 す る と そ れ
ぞ れ ,伐 採 後 の 経 過 期 間 は お よ そ 26 ヶ 月 ,切 り 株 の 場 所 の 最 高 水 位 は 約 40
cm で あ っ た 。
Table 4.7 マングローブの切り株萌芽力
(A) ミャンマー・エーヤワディーデルタ:筆者調査結果
学名
科
N*
Avicennia officinalis
Avicenniaceae
10
Excoecaria agallocha
Euphorbiaceae
56
Amoora cuculata
Meliaceae
60
Heritiera fomes
Sterculiaceae
476
Xylocarpus granatum
Meliaceae
59
Aegiceras corniculatum
Myrsinaceae
39
Sonneratia apetala
Sonneratiaceae
62
Kandelia candel
Rhizophoraceae
50
Ceriops decandra
Rhizophoraceae
44
Bruguiera gymnorrhiza
Rhizophoraceae
80
Bruguiera sexangula
Rhizophoraceae
46
Rhizophora apiculata
Rhizophoraceae
15
*
N: 総切り株数. **Ns: 萌芽株数. ***ns: 総萌芽枝数.
Ns**
9
46
49
358
43
28
20
10
5
2
0
0
Ns/N(%)
90.0
82.1
81.7
75.2
72.9
71.8
32.3
20.0
11.4
2.5
0.0
0.0
ns***
77
304
165
3421
232
209
289
48
62
25
0
0
ns/N
7.70
5.43
2.75
7.19
3.93
5.36
4.66
0.96
1.41
0.31
0.00
0.00
(B) タイおよびマレーシア:Tsuda & Ajima (1999)を筆者改変
*
学名
科
N
Avicennia officinalis
Avicenniaceae
11
Avicennia alba
Avicenniaceae
4
Avicennia marina
Avicenniaceae
9
Excoecaria agallocha
Euphorbiaceae
4
Xylocarpus moluccensis
Meliaceae
11
Xylocarpus granatum
Meliaceae
17
Bruguiera gymnorrhiza
Rhizophoraceae
6
Bruguiera cylindrica
Rhizophoraceae
45
Bruguiera parviflora
Rhizophoraceae
19
Ceriops decandra
Rhizophoraceae
2
Ceriops tagal
Rhizophoraceae
35
Rhizophora apiculata
Rhizophoraceae
48
Sonneratia alba
Sonneratiaceae
9
*
**
***
N: 総切り株数. Ns: 萌芽株数. ns: 総萌芽枝数.
Ns
9
4
9
4
9
11
1
6
0
0
3
5
9
**
Ns/N(%)
81.8
100.0
100.0
100.0
81.8
64.7
16.7
13.3
0.0
0.0
8.6
10.4
100.0
ns
152
142
285
64
36
44
2
23
0
0
41
6
69
***
ns/N
13.82
35.50
31.67
16.00
3.27
2.59
0.33
0.51
0.00
0.00
1.17
0.13
7.67
4.3.5 萌 芽 力 の 消 長
伐 根 径 の 階 級 ご と の Heritiera fomes の 萌 芽 率 を ,伐 採 後 の 経 過 期 間 別 に 示
す ( Fig. 4.7)。 伐 根 径 が 大 き く な る に 従 っ て , 時 間 経 過 に よ る 萌 芽 率 の 低 下
が 顕 著 で あ っ た 。 伐 根 径 が 10 cm 以 上 の 切 り 株 で は , 25 ヶ 月 以 降 の 萌 芽 率
が 6 割 程 度 に 低 下 し て い た 。 一 方 , 伐 根 径 が 6 cm 以 下 の 株 で は 萌 芽 率 の 低
下 は み ら れ ず , 25 ヶ 月 以 降 も 切 り 株 の 9 割 程 度 が 萌 芽 株 で あ っ た
- 107 -
第4章
100
14
Sprouting rate (%)
23
80
19
● 38
□ 43
60
● 20
□ 20
△ 52
△ 32
13
6
32
13
8
58
29
32
24
40
●
□
20
△
- 12 months
13 – 24 months
25 months -
0
-6
6-8
8-10
10-12
12-14
Stump diameter class (cm)
14-
Fig. 4.7. 伐根径と萌芽率の関係およびその時間動態 (H. fomes)
伐採後の経過時間を3つに区分している。萌芽率を計算した,伐採後
の経過時間別・伐根径階級ごとの総サンプル数を図中に示した。
伐 採 高 の 階 級 ご と の H. fomes 萌 芽 率 を ,伐 採 後 の 経 過 期 間 別 に 示 す( Fig.
4.8 に )。 伐 採 後 12 ヶ 月 以 下 に お い て は , 伐 採 高 が 40∼ 80 cm の 間 の 2 つ の
階 級 に の み 枯 死 株 が あ り , 萌 芽 率 は 伐 採 後 13∼ 24 ヶ 月 経 過 後 の 切 り 株 よ り
低 か っ た 。こ の 2 つ の 階 級 を 除 け ば ,伐 採 高 に 関 わ ら ず ,時 間 経 過 に し た が
って萌芽率は低下していた。
Sprouting rate (%)
10
100
80
15
12
9
9
15
21
18
18
60
12
20
32
36
9
21
12
42
25
26
17
20
40
●
□
20
△
- 12 months
13 – 24 months
25 months -
0
-40
40-60
60-80
80-100
100-120 120-140
140-
Felling height class (cm)
Fig. 4.8. 伐採高と萌芽率の関係およびその時間動態(H. fomes)
伐採後の経過時間を3つに区分している。萌芽率を計算した,伐採
後の経過時間別・伐根径階級ごとの総サンプル数を図中に示した。
H. fomes の 伐 根 径 の 階 級 ご と の 株 当 た り 平 均 萌 芽 枝 本 数 を , Fig. 4.9 に 示
す 。萌 芽 枝 本 数 は 萌 芽 率 と 同 様 に ,伐 根 径 が 大 き く な る に し た が い 減 少 す る
傾 向 が み ら れ た 。な お ,林 冠 閉 鎖 度 と 萌 芽 率 ,株 当 り 萌 芽 枝 本 数 に 関 係 は み
- 108 -
第4章
Average number of stump sprouts (/stump)
られなかった。
16
14
12
10
8
6
4
(n = 97)
2
0
-5
5-10 10-15 15-20 20-25
Stump diameter class (cm)
25-
Fig. 4.9. 伐根径と萌芽枝本数の関係 (H. fomes)
対象は伐採25ヵ月後までの切り株
H. fomes の 伐 根 径 と 最 大 萌 芽 枝 長 の 関 係 を ,Fig. 4.10 に 示 す 。伐 採 後 6 ヶ
月 で は 伐 根 径 の 大 小 に 関 わ ら ず , 最 大 萌 芽 枝 長 は 100 cm 程 度 を 上 限 に ば ら
つ い て い た 。伐 採 後 18 ヶ 月 と 36 ヶ 月 で は ,伐 根 径 が 10 cm よ り や や 小 さ な
と き , 100 cm 以 上 の 長 い 最 大 萌 芽 枝 を 持 つ 萌 芽 株 が 多 く 出 現 す る 傾 向 が 見
られた。
Length of the longest stump sprouts
(cm)
250
(a)
(c)
(b)
(n = 39)
(n = 28)
(n = 44)
200
150
100
50
0
0
10
20
30
0
10
20
30
0
Stump diameter (cm)
Fig. 4.10. 伐根径と切り株中の最長萌芽枝長の関係 (H. fomes)
(a),(b),(c)はそれぞれ伐採後6ヶ月,18ヶ月,36ヶ月の切り株。
- 109 -
10
20
30
第4章
4.3.6 冠 水 率 と 切 り 株 の 枯 死
2 つ の 伐 採 高 階 級 に 枯 死 が 集 中 し て い た 伐 採 後 12 ヶ 月 以 下 の 切 り 株( Fig.
4.7)の ,萌 芽 株 数 と 枯 死 株 数 を 低 冠 水 率 群 と 高 冠 水 率 群 に 区 分 し て 示 す( Fig.
4.11)。 サ ン プ ル 数 は , 136 切 り 株 中 最 高 水 位 が 記 録 で き な か っ た 15 株 を 除
く 121 株 で あ る 。 23 の 枯 死 株 は 全 て 高 冠 水 率 群 に 属 し て い た 。
90
dead
survived
Number of stumps
80
70
60
(n = 121stumps)
50
40
30
20
10
0
<50%
≧50%
Submergence rate
Fig. 4.11. 冠水率による切り株の生存数と死亡数
対象は伐採後12ヶ月までの切り株
<50%:低冠水率群,≧50%:高冠水率群
4.3.7 株 当 り 萌 芽 枝 本 数 の 時 間 動 態
Heritiera fomes 切 り 株 の 伐 根 径 と 最 大 萌 芽 枝 長 と の 関 係 を , Fig. 4.12 に 示
す 。伐 採 後 12 ヶ 月 ま で の 萌 芽 株 で は ,1∼ 5 本 と 6∼ 10 本 の 階 級 比 率 が 41.0% ,
38.5% と 高 く , 11 本 以 上 の 各 階 級 の 比 率 は 低 か っ た 。 1∼ 5 本 ま で の 萌 芽 枝
本 数 階 級 の 比 率 は , 13 ヶ 月 以 降 に は 減 少 し , そ の 後 も 25% 程 度 で ほ ぼ 一 定
に な っ て い た 。6∼ 10 本 の 階 級 比 率 は ,伐 採 後 の 初 期 か ら 35∼ 40% 程 度 と 常
に 高 く , 変 化 は ほ と ん ど な か っ た 。 11∼ 15 本 の 階 級 比 率 は , 伐 採 後 13∼ 24
ヶ 月 ,25∼ 36 ヶ 月 に 増 加 し ピ ー ク が み ら れ た 。伐 採 初 期 か ら 36 ヶ 月 ま で 低
か っ た 16 本 以 上 の 各 階 級 比 率 は , 37 ヶ 月 以 降 , 21∼ 25 本 と 26∼ 30 本 の 2
つの階級で増加していた。
- 110 -
Percentage of total for each intervals (%)
第4章
50
- 12 months (n = 39)
13 - 24 months (n = 43)
25 - 36 months (n = 64)
37 months (n = 21)
40
30
20
10
0
1-5
6 - 10
11 - 15
16 - 20
21 - 25
26 - 30
31 -
Number class of stump sprouts (/stump)
Fig.4.12. H. fomesの株当たり萌芽枝本数の時間動態
株当たり萌芽枝本数により階級区分した切り株の比率を,4つの伐
採後の経過時間に区分しグラフ化した。
4.3.8 優 勢 な 萌 芽 枝 の 分 布 動 態
Heritiera fomes の 伐 採 高 と 優 勢 な 萌 芽 枝 1491 本 の 出 芽 高 の 関 係 を , Fig.
4.13 に 示 す 。優 勢 な 萌 芽 枝 は ,特 に 切 り 口 に 近 い 幹 上 端 部 30 cm 程 の 部 位 に
集 中 す る 傾 向 が み ら れ た 。 ま た , 伐 採 高 が お よ そ 150 cm 以 上 で , 切 り 株 の
中 程 の 高 さ で の 分 布 が 少 な い 傾 向 が あ っ た 。一 方 ,伐 採 高 が 70∼ 80 cm 以 下
では,萌芽分布の集散傾向は不明瞭であった。
高 冠 水 率 群 と 低 冠 水 率 群 に 区 分 し た , 経 過 期 間 ご と の 3 つ の H. fomes の
萌 芽 株 タ イ プ の 出 現 比 率 を , Fig. 4.14 に 示 す 。 伐 採 後 初 期 の 12 ヶ 月 以 下 で
は ,高 冠 水 率 群( a),低 冠 水 率 群( b),と も に 上 部 萌 芽 型 の 萌 芽 株 の 比 率 が
そ れ ぞ れ 42.5% ,50.0% で 最 も 多 く ,散 在 型 が こ れ に 続 い て い た 。下 部 萌 芽
型 の 比 率 は ,高 冠 水 率 群 で 18.2% ,低 冠 水 率 群 で 11.5% と ,と も に 最 も 低 か
っ た 。 高 冠 水 率 群 に お い て は , 上 部 萌 芽 型 の 比 率 が 25 ヶ 月 以 降 60.0% に 増
加 し 優 占 し て い た が ,下 部 萌 芽 型 ,散 在 型 は 減 少 し て い た 。一 方 ,低 冠 水 率
群 に お い て は ,上 部 萌 芽 型 は 25 ヶ 月 以 降 24.3% ま で 減 少 し ,散 在 型 が 58.6%
に 増 加 し 卓 越 し て い た 。 下 部 萌 芽 型 の 比 率 は , 17.1% に 微 増 し て い た 。
- 111 -
Sprouting height of dominant stump sprouts (cm)
第4章
200
(n = 1491 sprouts/335
stumps )
150
100
50
0
0
50
100
150
Felling height (cm)
200
Fig. 4.13. 優勢な萌芽枝の切り株上の出芽高分布(H. fomes)
Percentage of sprouting stumps of
each type
(A)
80
U-type
L-type
S-type
70
60
50
21
36
14
40
30
20
18
13
7
6
2
10
6
0
- 12
13 - 24
25 -
(B)
80
Percentage of sprouting stumps of
each type
点線は伐採面の最低部位の高さを示す。各点はそれぞれの萌
芽枝の出芽高を示す。
70
60
13
50
U-type
L-type
S-type
41
17
40
30
20
10
15
3
5
17
12
10
0
- 12
13 - 24
25 -
Time after felling (months)
Time after felling (months)
Fig. 4.14. 伐採後の経過時間による萌芽株タイプの出現比率変化 (H. fomes)
(A)は高冠水率群,(B)は低冠水率群の切り株の,3つの萌芽株タイプ( U-type/上部萌芽型,
S-type/散在型, L-type/下部萌芽型)の出現比率の,経過時間による変化を示す。タイプ
別・経過時間別のサンプル数を図中に示した。サンプルの切り株は,5本以上の萌芽枝をも
つ切り株に限った (n = 256)。
- 112 -
第4章
4.4 考 察
4.4.1 林 分 構 造
( 1) 群 落 単 位
A 区 , B 区 お よ び D 区 は , Heritiera fomes の , 個 体 総 数 に 対 す る 個 体 数 比
率 と 胸 高 断 面 積 合 計 に 占 め る 比 率 の 高 さ ,最 上 層 に お け る 優 占 ,お よ び 低 木
層 と 草 本 層 に お け る
Acanthus
ilicifolius
の 出 現 か ら , Amoora
cucullata-Heritiera fomes 群 集・Acanthus ilicifolius 典 型 亜 群 集 と 判 断 さ れ る 。
一 方 C 区 で は , 個 体 数 比 率 は H. fomes と Bruguiera spp.の 同 程 度 だ が , 後 者
の 胸 高 断 面 積 比 率 と 最 上 層 に お け る 優 占 , お よ び A. ilicifolius の 不 在 か ら ,
A. cucullata-H. fomes 群 集 ・ Bruguiera gymnorrhiza 亜 群 集 と 判 断 で き る 。
( 2) 林 分 構 造 と 2 次 遷 移
保 護 を 開 始 し た 初 期 の 状 態 ,お よ び 2 次 遷 移 の 過 程 と 程 度 を 把 握 す る 要 素
と し て ,林 分 の 種 組 成 ,階 層 構 造 ,バ イ オ マ ス ,樹 形 に 着 目 し 林 分 構 造 と 2
次遷移を考察する。
種組成
Myint Aung( 2004) は , A. cucullata-H. fomes 群 集 ・ A. ilicifolius 亜 群 集 の
う ち 高 木 層 と 亜 高 木 層 を 有 す る 林 分 に お け る 出 現 種 数 は 7∼ 19 種( 8 調 査 区 。
以 下 同 様 ), B. gymnorrhiza 亜 群 集 に お い て は 14∼ 22 種( 4 調 査 区 )と 報 告
し て い る 。 同 様 の 出 現 種 数 で あ っ た A 区 と B 区 ( Table 4.4) は , デ ル タ 中
部 河 口 域 に お け る A. ilicifolius 典 型 亜 群 集 , C 区 は B. gymnorrhiza 亜 群 集 と
し て 典 型 的 な 状 態 言 え る 。 D 区 の 出 現 種 数 が 12 種 ( Table 4.4) と や や 少 な
い の は ,長 期 の 過 剰 伐 採 に よ る A. cucullata と Excoecaria agallocha の 密 度 低
下 と ,初 期 状 態 か ら の 経 過 期 間 の 短 さ の た め 新 入 が 進 ん で い な い か ら だ と 言
える。
階層構造,上層・下層の状態
林分の階層構造は,遷移の進行つれて次第に発達するとされる(野本,
1977)。 小 径 木 中 心 と す る 閉 鎖 林 か ら 遷 移 途 上 の A 区 , B 区 , C 区 は , 15 年
で 高 木 層 の 階 層 化 が 進 ん で い る( Table 4.4)。C 区 の 高 木 層 を 超 え る H. fomes
の 単 木 は ,伐 採 か ら の 残 存 木 で あ る 。し た が っ て ,林 分 高 は 回 復 途 上 で あ る
こ と , お よ び B. gymnorrhiza 亜 群 集 の 成 熟 林 に お い て , H. fomes は 上 層 の 構
- 113 -
第4章
成 種 と な る と 解 釈 で き る 。D 区 の 高 木 層 が 依 然 と し て 疎 開 し 階 層 構 造 が 未 発
達 な の は ,初 期 状 態 が 皆 伐 に 近 い 樹 木 密 度 で あ り ,2 次 遷 移 が 進 ん で い な い
からだと言える。
H. fomes の 樹 冠 被 覆 に は ,A 区 ,B 区 ,C 区 の 順 に ,明 瞭 な 空 隙 , 小 樹 冠
個 体 の 集 中 箇 所 ,H. fomes 以 外 の 小 樹 冠 個 体 の 集 中 箇 所 が み ら れ た( Fig. 4.4)。
こ れ ら は ,遷 移 初 期 も し く は そ の 過 程 に 林 冠 木 の 単 木 的 な 欠 損 に よ り 生 じ た
小 ギ ャ ッ プ と 解 釈 さ れ ,B 区 お よ び C 区 で は ,A 区 に 比 べ 修 復 が 進 ん で い る
と言える。小ギャップの形成要因につては,後述する。
マ ン グ ロ ー ブ 林 の 伐 採 跡 地 や 風 倒 木 跡 の 空 地 下 層 に お い て は ,A. ilicifolius
上 を Finlaysonia maritima や Derris trifoliata な ど が カ ー ペ ッ ト 上 に 覆 わ れ る
退 行 植 生 が し ば し ば 観 察 さ れ る( 藤 原 , 1989)。D 区 の 草 本 層 に お け る ,比 較
的 少 な い 出 現 種 数 , つ る 植 物 の 高 い 総 合 優 占 度 ( Table 4.4), 閉 鎖 度 に 対 す
る D. trifoliata, A. ilicifolius の 負 の 分 布 相 関 ( Table 4.5) は , 過 剰 伐 採 に よ
る 疎 開 ,初 期 の 陽 性 の つ る 植 物・叢 生 低 木 種 の 侵 入 ,下 刈・つ る 切 り 後 の 同
様 な 植 物 群 の 侵 入 を 経 て ,依 然 と し て 下 層 に お け る 旺 盛 な 成 長 が 続 い て い る
ことを示す。
バイオマス
C 区 に お け る 単 木 の H. fomes 大 径 木 を 除 く と ,A 区 か ら C 区 の 胸 高 断 面 積
合 計 が ほ ぼ 同 様( Table 4.4)で あ っ た こ と は ,伐 採 停 止 後 の 林 分 の バ イ オ マ
ス の 回 復 が ,同 程 度 に 進 ん で い る こ と を 示 す 。一 方 D 区 の 胸 高 断 面 積 合 計 が ,
他 の 調 査 区 の 半 分 程 度 に 過 ぎ な い の は ,2 次 遷 移 の 進 行 程 度 が 低 い こ と を 示
す。
樹形
本 研 究 の 株 立 ち 個 体 は ,3 つ の タ イ プ を 含 ん で い る 。ま ず ,樹 体 下 部 に お
け る 分 枝 に よ る も の と ,損 傷 を 受 け た 樹 体 を 回 復 す る た め に 2 次 的 に 形 成 さ
れた萌芽シュートによるものがあげられる。通常樹体下部の分枝が少ない
H. fomes, E. agallocha, Xylocarpus spp.な ど に お い て は , 株 立 ち 個 体 の 割 合
が 撹 乱 の 程 度 を 示 す と 言 え る 。3 つ め は ,栄 養 繁 殖 と し て 生 じ た シ ュ ー ト に
よ る 株 立 ち で あ る 。支 柱 根 様 の 走 出 枝 か ら 複 数 の シ ュ ー ト を 生 じ 叢 生 樹 形 を
呈 す る A. ilicifolius が こ れ に 当 た る 。 栄 養 繁 殖 に よ る シ ュ ー ト は , 親 植 物 の
無機養分や同化産物などを利用でき,実生よりも生存率が高く成長が速い
- 114 -
第4章
( Greig, 1993; Kanno & Seiwa, 2004)。
H. fomes の 個 体 総 数 に 対 す る 株 立 ち 個 体 の 比 率 が D 区 に お い て 最 も 高 か
っ た こ と は ,強 い 伐 採 圧 が 最 近 ま で か か っ て い た 履 歴 を 生 態 的 に 裏 付 け て い
る 。一 方 ,B 区 お よ び C 区 に お け る 比 率 が 比 較 的 低 か っ た の は ,撹 乱 の 程 度
が 低 い こ と を 示 す 。 D 区 の A. ilicifolius 株 立 ち 個 体 比 率 の 突 出 ( Table 4.4)
は,調査区中最も明るい環境における旺盛な栄養繁殖を示す。
林 冠 ギ ャ ッ プ は 暴 風 や 落 雷( Duke, 2001),菌 類・穿 孔 虫( Wier et al., 2000),
伐 採( Saenger, 2002)な ど に よ り 形 成 さ れ る 。 小 ギ ャ ッ プ の 形 成 や , 株 立 ち
の H. fomes, E. agallocha な ど 割 合 を 高 め た 撹 乱 要 因 と し て , 近 隣 住 民 に よ
る 軽 度 の 伐 採 も し く は 間 伐 が 示 唆 さ れ る 。D 区 の 近 傍 に は 数 百 人 規 模 の 複 数
の 村 落 が ,A 区 に は 数 十 人 か ら な る 小 さ な 集 落 が 隣 接 し ,撹 乱 強 度 に 集 落 の
規模と距離が対応していると判断できる。
各調査区の初期状態と,更新過程と程度をまとめる。
A 区 ,B 区 お よ び C 区 の 遷 移 は 閉 鎖 林 か ら 始 ま り ,比 較 的 暗 環 境 に あ っ た
草 本 層 に は 陽 性 の つ る 植 物・叢 生 の 低 木 種 は 繁 茂 し て い な か っ た 。保 護 開 始
か ら の 経 過 期 間 が ほ ぼ 同 様 で ,林 分 の バ イ オ マ ス と 上 層 の 階 層 構 造 の 発 達 が
同程度に進んだ状態である。ただし,A 区の人為撹乱は B 区や C 区よりや
や強く,単木的な小ギャップが残存している。一方 D 区は,強度の伐採に
よ る 疎 開 林 分 で あ っ た と 裏 付 け ら れ ,陽 性 植 物 の 下 層 に お け る 繁 殖 が 旺 盛 で
あ る 。ま た ,林 分 の バ イ オ マ ス や 上 層 の 階 層 構 造 か ら ,更 新 過 程 の 初 期 に あ
ると言える。
4.4.2 個 体 群 動 態
( 1) 代 表 種 個 体 群 構 造 と の 動 態
マ ン グ ロ ー ブ の 植 生 を 決 定 す る 重 要 な 立 地 条 件 は ,水 深 ,塩 分 濃 度 ,基 質
の 条 件 で あ る ( Chapman, 1976; 山 田 , 1986)。 し か し な が ら , 塩 分 濃 度 と 基
質 が 同 様 な A 区 お よ び B 区 に お い て ( Table 4.1), 浸 水 ク ラ ス 3 と 4 の 違 い
は , 林 分 の 更 新 過 程 と 遷 移 の 程 度 , 代 表 種 の 個 体 群 サ イ ズ 構 造 ( Fig. 4.5)
に差異を生じさせていなかった。したがって,A 区および B 区における
Acanthus ilicifolius 典 型 亜 群 集 の , 代 表 種 の 個 体 群 動 態 は 同 様 の 傾 向 を 示 す
と言える。
胸 高 直 径 階 の 分 布 パ タ ー ン( 平 吹・阿 部 , 1994; 八 神 , 2005)と 動 態 変 数 に
- 115 -
第4章
より,A 区から D 区の代表種の個体群動態を考察する。
Heritiera fomes個 体 群
胸高直径階分布パターンが逆 J 字型の傾向を示した A 区,B 区および C
区 に お け る H. fomes 個 体 群 は ,総 幹 数 に 対 す る 実 生 数 の 比 率 が 高 く( Fig. 4.5)
大 部 分 が 2 年 生 以 上 で あ っ た 。ま た ,実 生 か ら 幼 樹 へ の 加 入 は 死 亡 を 大 き く
上 回 り , 全 直 径 サ イ ズ に お い て 死 亡 が な く , 成 長 し て い た ( Fig. 4.6)。 こ れ
ら は , A 区 か ら C 区 の H. fomes お い て 実 生 更 新 が 進 行 し , 個 体 群 の 維 持 と
樹 体 サ イ ズ が 増 大 し て い る こ と を 示 す 。特 に ,幼 樹 の 最 小 サ イ ズ ク ラ ス に お
け る 加 入 が 死 亡 を 大 き く 上 回 る A 区 ( Fig. 4.6A) で は , 実 生 更 新 に よ る H.
fomes の 個 体 群 サ イ ズ の 増 大 が 進 行 中 で あ る 。 A 区 お よ び B 区 に お い て , 直
径 サ イ ズ 2.5∼ 7.5 cm の 頻 度 が や や 低 か っ た ( Fig. 4.5) の は , こ の 幹 サ イ ズ
の H. fomes が 道 具 材 や 小 規 模 な 建 材 な ど 広 範 な 用 途 を 持 つ 資 源 で あ り ,保 護
開始後も住民による弱い間伐を受けていたと解釈できる。
D 区 に お け る 実 生 比 率 の 低 さ と 実 生 由 来 幹 の 不 連 続 な 分 布 パ タ ー ン ( Fig.
4.5) は , 下 層 に 繁 茂 す る 陽 性 の つ る 植 物 ・ 叢 生 低 木 種 に よ る , H. fomes 実
生 の 定 着・更 新 の 阻 害 を 示 唆 し て い る 。一 方 ,各 直 径 階 級 に お け る 萌 芽 由 来
幹 数 の 卓 越 と 逆 J 字 型 の 分 布 パ タ ー ン( Fig. 4.5)は ,疎 開 林 分 か ら の 2 次 遷
移 で は ,切 り 株 萌 芽 に よ る 個 体 群 の 維 持・回 復 が 先 行 す る こ と を 示 す 。し た
が っ て ,実 生 更 新 へ の 移 行・促 進 の た め に は ,今 後 も 定 期 的 な 下 刈・つ る 切
りなどの保育作業が必要である。
Bruguiera spp.個 体 群
A 区 ,B 区 お よ び D 区 に お け る ,総 幹 数 の 少 な さ( Table 4.4)や 直 径 の 小
サ イ ズ 偏 在 ・ 不 連 続 性 ( Fig. 4.5 ) は , A. ilicifolius 典 型 亜 群 集 に お け る
Bruguiera spp.の 個 体 密 度 が , 元 来 Bruguiera gymnorrhiza 亜 群 集 よ り 低 い 上
に 伐 採 が 加 わ り ,保 護 開 始 時 の 密 度 が 極 め て 低 か っ た こ と を 示 す 。A 区 に お
い て は 実 生 か ら 幼 樹 へ の 加 入 が わ ず か( Fig. 4.6A)で あ り ,ま た D 区 に お け
る 実 生 数 と 最 小 階 級 幼 樹 の 大 き な 頻 度 差 ( Fig. 4.5) も 同 じ 動 態 を 示 し て い
る 。 さ ら に , 各 調 査 区 と も 2 年 生 以 上 の 実 生 が 極 め て 少 な い ( Fig. 4.5) こ
と か ら ,A 区 ,B 区 お よ び D 区 に お い て は ,個 体 密 度 の 増 加 は 極 め て 緩 慢 で ,
小さな個体群が継続すると言える。
C 区 に お い て ,実 生 数 が 極 め て 多 か っ た に も 関 わ ら ず ,そ れ ら は ほ と ん ど
当 年 制 で あ り ,幼 樹 頻 度 が 小 さ く 胸 高 直 径 階 5∼ 7.5 cm に 幹 の 分 布 ピ ー ク が
あ っ た と こ と ( Fig. 4.5), お よ び 実 生 か ら 幼 樹 へ の 加 入 が な く 幼 樹 の 死 亡 が
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第4章
起 こ っ て い た こ と( Fig. 4.6C)は ,過 去 に 一 斉 更 新 が あ っ た も の の ,現 在 実
生 更 新 が 停 滞 し て い る こ と を 示 す 。 Bruguiera spp.の 実 生 の 生 残 と 成 長 は ギ
ャ ッ プ 下 で 促 進 さ れ る ( Tamai and Iampa, 1988) た め , 調 査 区 内 で 疎 開 林 冠
の 修 復 が Bruguiera spp.の 一 斉 更 新 に よ り な さ れ た と 解 釈 で き る 。 成 木 に 死
亡 は な く , 各 サ イ ズ の 幹 が 安 定 し た 成 長 を 示 し て お り ( Fig. 4.6B), 個 体 群
は維持され各成木個体の成長が継続すると言える。
Amoora cucullata個 体 群
C 区 に お い て は , な だ ら か な 逆 J 字 型 の 胸 高 直 径 階 分 布 パ タ ー ン と ( Fig.
4.5), 実 生 か ら 幼 樹 へ の 旺 盛 な 加 入 と 各 階 級 の 幹 の 成 長 ( Fig. 4.6B) か ら ,
実生更新による個体群サイズと最大個体サイズの増加が見込まれる。
河岸近くの A 区,B 区および D 区において,総幹数が少ないか出現しな
か っ た ( Table 4.4) の は , 元 来 A. cucullata は 陸 域 近 く の H. fomes 林 に 出 現
す る ( 山 田 , 1986) 種 で あ る 上 に , 伐 採 が 加 わ っ た た め で あ る 。 さ ら に 散 布
体は少産・大型であるため,林内外からの供給は限られると言える。また,
A 区 に お い て は 実 生 か ら 幼 樹 へ の 加 入 は あ る も の の ,幼 樹 の 死 亡 が 同 程 度 あ
り ( Fig. 4.6A), B 区 や D 区 で も 同 様 の 動 態 変 数 を 示 す と す れ ば , 各 調 査 区
の個体群密度の増加は見込めない。
Excoecaria agallocha個 体 群
E. agallocha は ,潮 の 影 響 の 少 な い 内 陸 側 に 生 育 す る と さ れ( 山 田 , 1986),
自然堤防上の A 区,B 区,および D 区においては,小型・軽量の果実の流
亡 が 考 え ら れ る 。ま た ,実 生 の 生 存 に は よ り 高 い 塩 分 濃 度 が 適 す る( Siddiqi,
1994)こ と か ら ,調 査 地 域 で は 実 生 が 出 現 し に く い も の と 言 え る 。Rabinobitz
( 1978) は , 散 布 体 の 重 量 と 実 生 の 死 亡 率 の 逆 相 関 を 示 唆 し て い る 。 Myint
Aung ( 2004 ) に よ る A. cucullata-H. fomes 群 集 の 調 査 で も , 草 本 層 に E.
agallocha が 出 現 せ ず , 調 査 地 域 に お い て は 実 生 更 新 が 起 こ ら な い の は 普 遍
的 だ と 言 え る が ,現 存 す る 個 体 が 過 去 定 着 し た 理 由 の 解 明 は ,今 後 の 課 題 で
あ る 。 A 区 に お い て , 幼 樹 サ イ ズ の 直 径 5 cm 未 満 の 幹 は , 萌 芽 に 由 来 す る
幹 の 加 入 と 死 亡 に よ り 交 代 し て お り ,本 群 集 に お け る 個 体 群 の 更 新 は 撹 乱 に
よ る と 言 え る 。C 区 に お い て 直 径 7.5 cm 以 上 の 幹 し か 見 ら れ な か っ た( Fig.
4.5) の は , 萌 芽 更 新 が 行 わ れ て い な い た め で あ る 。 個 体 の 寿 命 ま で は 萌 芽
に よ る 樹 体 回 復 を 行 う こ と で 個 体 数 を 維 持 し て も ,長 期 的 に は 密 度 の 低 下 が
予想される。
- 117 -
第4章
4.4.3 代 表 種 の 実 生 更 新
マ ン グ ロ ー ブ の 実 生 の 定 着 と 成 長 に 関 わ る 因 子 と し て ,散 布 体 の サ イ ズ ・
重 量 ,母 樹 の 有 無 と 母 樹 か ら の 距 離 ,実 生 の 生 残・成 長 に 係 る 耐 陰 性 ,塩 分
濃度適合性が挙げられる。
水 流 散 布 で あ る マ ン グ ロ ー ブ は ,浅 水 深 で は 大 型 の 散 布 体 の 移 動 が 制 限 さ
れ 高 地 盤 高 へ の 侵 入 が 困 難 で あ り ,深 水 深 で は 小 型 の 散 布 体 の 長 時 間 の 潮 汐
影 響 に よ る 流 亡 が あ り ,更 新 が 規 制 さ れ る( Rabinobitz, 1978; Tamai and Iampa,
1988) 。 ま た , 母 樹 林 の 遠 地 に お い て は 自 然 更 新 が 困 難 ( Tamai and Iampa,
1988)な こ と は ,大 型 散 布 体 を 持 つ 種 の 定 着 可 能 距 離 の 短 さ を 示 唆 す る 。一
方 , 散 布 体 の 重 さ と 実 生 の 死 亡 率 の 逆 相 関 が 指 摘 さ れ て い る ( Fenner, 1985;
Rabinobitz, 1978) 。 さ ら に , マ ン グ ロ ー ブ の 種 間 で 実 生 の 耐 陰 性 ( Saenger,
1982; Hutchings and Saenger, 1987) や 塩 分 濃 度 適 合 性 ( Siddiqi, 1994) が 異
な り , 実 生 の 生 残 と 成 長 の 差 が 森 林 タ イ プ や 種 組 成 に 影 響 す る ( Stoddard et
al., 1978) 。
3.5∼ 5 cm 大 ( Siddiqi, 1991) の Heritiera fomes の 果 実 は , Avicennia spp.
や Sonneratia spp.な ど の 種 子 よ り 大 き く ,Bruguiera spp.の 胎 生 種 子 や Amoora
cucullata の 果 実 よ り 小 さ い 。 林 分 上 層 で H. fomes が 優 占 す る A 区 , B 区 に
お い て 実 生 頻 度 が 高 か っ た ( Fig. 4.5) の は , 潮 汐 に よ る 移 動 が 制 限 さ れ 散
布 後 母 樹 の あ る 林 分 内 に 留 ま る 果 実 が 多 い た め だ と 解 釈 で き る 。A 区 か ら C
区 の 林 床 に お け る 実 生 の 分 布 が 林 冠 閉 鎖 度 に 左 右 さ れ ず ( Table 4.5) , 2 年
生 以 上 の 実 生 の 割 合 が 高 か っ た こ と は ,実 生 の 定 着 に 際 し て の 耐 陰 性 を 示 し
て い る 。D 区 に お い て 実 生 が 暗 所 に 分 布 す る 傾 向 が 見 ら れ た( Table 4.5)の
は , 明 所 に お け る Derris trifoliata を 中 心 と し た つ る 植 物 の 被 覆 ( Table 4.5,
Table 4.4D) が , 水 流 に よ る H. fomes 果 実 の 物 理 的 な 侵 入 の 阻 害 や , つ る 植
物の実生樹体への巻き付きなどの機械的な被圧を引き起こしたからだと考
えられる。
B 区 の 西 辺 北 寄 り と C 区 の 北 辺 中 央 は , 修 復 過 程 に あ る 小 ギ ャ ッ プ ( Fig.
4.4B)と 考 え ら れ ,両 調 査 区 に お け る 当 該 箇 所 へ の H. fomes 幼 樹 の 分 布 傾 向
と , A 区 の 小 ギ ャ ッ プ へ の 集 中 分 布 ( Table 4.5, Table 4.6) か ら , H. fomes
の 実 生 の 成 長 は 光 条 件 の 改 善 で 進 む と 言 え る 。し た が っ て ,H. fomes は 幼 時
の 耐 陰 性 が 高 く ,一 定 成 長 後 に 明 所 で よ く 生 育 す る 条 件 的 陰 樹 で あ る 。小 ギ
ャ ッ プ で は 陽 樹 は 生 存・生 育 で き ず ,陰 樹 の 前 生 樹 の 成 長 が 促 進 さ れ ,ギ ャ
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第4章
ッ プ が 修 復 さ れ て い く( 沼 田 , 1974; 清 水 , 2001)。A 区 の 小 ギ ャ ッ プ に お い
て は ,待 機 し て い た H. fomes の 前 生 樹 が 小 ギ ャ ッ プ を 修 復 す る 過 程 の 初 期 に
あ り ,B 区 の 西 辺 南 寄 り に お い て は ,修 復 が 進 ん だ 状 態 に あ る と 解 釈 で き る 。
ギ ャ ッ プ サ イ ズ は ギ ャ ッ プ 内 の 種 組 成 や 動 態 に 影 響 す る ( 山 本 , 2003) 。 C
区 の 北 辺 中 央 に お い て は , 強 光 下 で H. fomes よ り 早 成 の 他 種 ( Myint Aung,
2004)が 先 行 し て ギ ャ ッ プ を 修 復 し て お り ,A 区 や B 区 よ り 元 の 林 冠 の 疎 開
が大きかったことが示唆される。一方 D 区のように林冠の疎開がより大き
く ,萌 芽 シ ュ ー ト を 多 数 持 つ H. fomes の 切 り 株 が あ る 場 合 ,実 生 更 新 よ り 萌
芽 更 新 が 先 行 し て 林 冠 疎 開 が 塞 い で い く ( Fig. 4.4D, Fig. 4.5) 。
Bruguiera spp.の 実 生 が B 区 か ら D 区 に お い て 成 木 と 同 所 的 に 出 現 し , 成
木 が 上 層 で 優 占 す る C 区 に お い て ,実 生 頻 度 が 他 の 調 査 区 よ り 高 か っ た( Fig.
4.5,Fig. 4.4B; C; D)の は ,H. fomes よ り 大 き な 胎 生 種 子 の 移 動 が 規 制 さ れ ,
散 布 距 離 が 短 い た め だ と 解 釈 で き る 。ま た ,全 て の 調 査 区 に お い て ,林 冠 閉
鎖 度 と の 分 布 相 関 が な く ( Table 4.5, Fig. 4.4) , 当 年 生 の 実 生 の 割 合 が 調 査
区 間 で 同 様 に 極 め て 低 か っ た こ と は ,初 期 の 実 生 は 耐 陰 性 を 持 つ が 死 亡 率 が
高いことを示唆している。
B 区 以 外 の 調 査 区 に お い て ,幼 樹 の 分 布 に は 林 冠 閉 鎖 度 と 相 関 が な く ,分
布 図 で も 林 冠 疎 開 ・ 閉 鎖 と の 関 係 が 見 ら れ な い ( Table 4.5, Fig. 4.4) こ と か
ら , Bruguiera spp.は , 実 生 が 耐 陰 性 を 有 す る 陰 樹 で あ る と 言 え る 。
幼 時 の Bruguiera spp. の 耐 陰 性 に つ い て は 複 数 の 相 反 す る 研 究 が あ る
( Saenger, 2002)。Tamai and Iampa( 1988)に よ れ ば ,Bruguiera spp.実 生 の
生 残 と 成 長 は ギ ャ ッ プ 下 で 促 進 さ れ る 。本 研 究 で は 小 ギ ャ ッ プ や 元 小 ギ ャ ッ
プへの幼樹の集中傾向はなく,一方で C 区における過去の一斉更新が示唆
さ れ た ( Fig. 4.5) 。 こ の こ と は , Bruguiera spp.は , 単 木 的 林 冠 欠 損 に よ る
弱 光 下 で は 前 生 樹 に よ る ギ ャ ッ プ 修 復 を 行 わ ず ,よ り 大 き な 疎 開 に よ る 強 光
下 で 成 長 が 促 さ れ る と 考 え ら れ る 。ま た ,胎 生 種 子 の 新 入 が 見 込 み に く い 実
生 更 新 は ,強 度 の 人 為 圧 な ど で 母 樹 の 密 度 が 低 い 場 合 緩 慢 に な り ,母 樹 が 喪
われれば困難になる。
B 区 に お け る Amoora cucullata の 実 生 の 成 木 と の 同 所 的 な 分 布( Table 4.6)
は,代表種の散布体の中で最も大型の果実の定着可能な距離の短さを示す。
B 区 お よ び C 区 に お い て ,林 冠 閉 鎖 度 と 実 生 の 分 布 に 相 関 が な く( Table 4.6),
B 区 に お い て 閉 鎖 林 冠 下 に も 分 布 す る ( Fig. 4.4B) こ と か ら , 実 生 に は 耐 陰
性 が あ る と 言 え る 。ま た ,A 区 の 小 ギ ャ ッ プ お よ び C 区 の 元 小 ギ ャ ッ プ に お
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第4章
け る 実 生 と 幼 樹 の 集 中 傾 向 ( Fig. 4.4) と , A 区 お よ び B 区 に お け る 林 冠 閉
鎖 度 と の 負 の 分 布 相 関( Table 4.5)は ,実 生 の 定 着 や 成 長 を 小 ギ ャ ッ プ の 弱
光 が 促 す こ と を 示 唆 す る 。 果 実 の 移 動 距 離 が 短 く 条 件 的 陰 樹 で あ る A.
cucullata は ,母 樹 直 近 の 暗 所 に 定 着 し た 実 生 が ,母 樹 や 隣 接 す る 他 の 林 冠 木
の 欠 損 に よ る 小 ギ ャ ッ プ を 前 生 樹 が 修 復 す る 生 活 史 戦 略 を 持 つ と 言 え る 。A
区 や C 区 の 実 生 と 幼 樹 の 集 中 す る 箇 所 は こ の 典 型 と 解 釈 で き る 。 Bruguiera
spp.同 様 , 果 実 の 新 入 が 見 込 み に く い 実 生 更 新 は , 強 度 の 人 為 圧 な ど で 母 樹
の密度が低い場合緩慢になり,母樹が喪われれば困難になる。
4.4.4 萌 芽 力
タイとマレーシアにおいて,
「 萌 芽 率 」と「 株 当 り 萌 芽 枝 本 数 」を 用 い て ,
複 数 の マ ン グ ロ ー ブ 樹 木 の 萌 芽 力 が 比 較 さ れ て い る( Table 4.7B)。本 研 究 の
結 果 ( Table 4.7A) お よ び 先 行 研 究 か ら , Heritiera fomes の 萌 芽 力 は , 木 本
マングローブ樹種の中で比較的高いと言える。日本の薪炭用樹においては,
伐 採 1 年 後 の コ ナ ラ の 萌 芽 率 は 60∼ 90% ( 外 舘 , 1988), コ ジ イ , タ ブ , ア
ラ カ シ な ど で 52∼ 100%( 中 村 , 1988),株 当 り 萌 芽 枝 本 数 は コ ジ イ や ス ダ ジ
イ , ア カ ガ シ , コ ナ ラ な ど で 6∼ 12 本 ( 三 善 , 1956) と さ れ る 。 こ れ ら の 薪
炭 用 樹 と 比 べ て H. fomes の 萌 芽 力 は 同 等 で あ り ,萌 芽 更 新 施 業 の 可 能 性 が あ
る 。 伊 藤 ( 1996) は , 単 幹 の 樹 体 で 老 齢 林 の 高 木 層 を 構 成 す る ミ ズ ナ ラ が ,
一 斉 撹 乱 後 に 大 き な 萌 芽 力 を 持 つ 理 由 を ,樹 種 特 性 と し て 強 い 萌 芽 促 進 力 と
そ れ を 上 回 る 抑 制 力 を 持 ち ,撹 乱 に よ っ て 抑 制 が 解 除 さ れ る か ら で あ る と し
た 。H. fomes は 前 世 樹 更 新 と ,萌 芽 に よ る 個 体 群 の 回 復 の 2 つ の 更 新 戦 略 を
持つ樹種であると言える。
4.4.5 萌 芽 力 の 消 長
多 く の 広 葉 樹 に お い て ,切 り 株 か ら の 萌 芽 力 は ,樹 齢 や 親 木 サ イ ズ に よ っ
て 消 長 す る( 中 村 , 1988; 紙 谷 , 1986 な ど )。 Heritiera fomes に お い て も ,伐
採 後 25 ヶ 月 以 降 に 伐 根 径 が 大 き い ほ ど 萌 芽 率 が 低 下 し た ( Fig. 4.7)。 一 般
に , 伐 採 高 が 高 い 場 合 の 萌 芽 力 の 低 下 が 指 摘 さ れ て い る ( 片 岡 , 1992c) が ,
H. fomes に お い て は ,伐 採 高 の 影 響 よ り 親 木 の サ イ ズ と 時 間 経 過 が 萌 芽 力 に
影響すると言える。また,伐採後初期の萌芽株では,伐根径が小さいとき,
よ り 多 く の 萌 芽 枝 を 有 し ( Fig. 4.10), 伐 根 径 が 10 cm よ り や や 小 さ い と き
最 大 萌 芽 枝 の 長 い 株 が 出 現 す る 傾 向 が あ っ た( Fig. 4.11)。伊 藤( 1996)は ,
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第4章
萌 芽 力 と ,切 り 株 根 系 の 養 分 貯 蔵 ,養 分 吸 収 ,呼 吸 消 費 の バ ラ ン ス と の 関 係
を 指 摘 し て い る 。H. fomes は 板 根 と ,そ れ に 連 な る 大 き な 根 系 ,根 系 か ら 立
ち 上 が る 多 く の 筍 根 を 持 つ ( Tomlinson, 1986)。 し た が っ て , 萌 芽 力 の 消 長
の説明には,切り株のストックと消費に係る研究がさらに必要である。
4.4.6 外 的 要 因 と 萌 芽
本 研 究 で は , 冠 水 の Heritiera fomes 萌 芽 へ の 影 響 を 検 討 し た 。 冠 水 率 が
50% 以 上 の 場 合 の み 起 こ っ た 伐 採 後 12 ヶ 月 ま で の 初 期 の 枯 死 ( Fig. 4.9),
お よ び 冠 水 率 の 高 低 に よ る 萌 芽 株 タ イ プ の 比 率 変 化 の 相 違 ( Fig. 4.14) は ,
冠 水 の 萌 芽 へ の ス ト レ ス を 示 す 。冠 水 は 萌 芽 枝 の 伸 長 阻 害 も し く は 萌 芽 枝 の
枯 死 を 引 き 起 こ し ,切 り 株 自 身 の 枯 死 や ,切 り 株 上 に お け る 上 方 へ の 萌 芽 枝
の交代を促すと言える。
4.4.7 萌 芽 枝 本 数 の 動 態
Heritiera fomes の 切 り 株 に お い て は 伐 採 後 13 ヶ 月 以 降 ,萌 芽 枝 が 1 0 本 弱
の 萌 芽 株 と , 21 本 以 上 の 萌 芽 株 の 群 へ の 2 極 化 の 進 行 を 指 摘 で き る ( Fig.
4.12)。伐 採 後 37 ヶ 月 以 降 の 21 株 の 内 ,萌 芽 枝 が 10 本 以 下 の 群 の 平 均 冠 水
率 は 52.9% ( SE: 6.42), 21 本 以 上 で は 28.1% ( SE: 6.91) で , 有 意 な 差 が あ
っ た( t 検 定 .P<0.05)。嶋 ら( 1989)は ,コ ナ ラ な ど 6 種 の 広 葉 樹 で ,株 当
り 萌 芽 枝 本 数 は 萌 芽 の 発 生 が 完 了 す る 1 年 目 ま で は 増 加 し ,そ れ 以 降 は 萌 芽
間 の 競 争 に よ り 減 少 に 転 ず る と し た 。 伐 採 後 13 ヶ 月 以 降 に 多 く の 萌 芽 枝 を
持 つ H. fomes の 切 り 株 は ,冠 水 ス ト レ ス の な い 幹 上 方 に お い て ,長 期 に 渡 り
少 し ず つ 萌 芽 を 生 じ さ せ て い る と 考 え ら れ ,萌 芽 間 競 争 に よ り 萌 芽 枝 が 減 少
する時期はコナラなどと比較して遅いと言える。
4.4.8 萌 芽 枝 分 布 の 動 態
萌 芽 の 発 生 は 樹 体 下 部 か ら 促 進 ,上 部 か ら 抑 制 す る 植 物 ホ ル モ ン の バ ラ ン
ス が 制 御 す る ( 橋 詰 ・ 今 村 , 1985; 伊 藤 , 1996)。 萌 芽 の 機 能 は , 樹 体 上 部 に
撹 乱 を 受 け た と き の 個 体 の 樹 高 回 復 の 反 応 ( 伊 藤 1996) で あ り , 切 り 口 近
く の 高 位 置 で の 萌 芽 は ,そ の 際 上 方 へ の 伸 長 成 長 の コ ス ト の 最 小 化 に 貢 献 す
る 。一 方 ,自 根 の 形 成 に よ る 新 し い 萌 芽 幹 の 栄 養 的 な 独 立 に は ,地 表 に 近 い
低 位 置 か ら の 萌 芽 が 有 利 で あ る ( 神 奈 川 県 自 然 環 境 保 全 セ ン タ ー , 2001; 中
- 121 -
第4章
川 , 2001)。 し た が っ て , Heritiera fomes に お い て 伐 採 高 が 高 い と き , 切 り 株
幹 の 中 程 で 萌 芽 に 投 資 を し な い こ と は ,個 体 の 資 源 配 分 上 合 理 的 だ と 言 え る 。
冠 水 率 が 高 い 場 合 の 萌 芽 枝 の 上 方 へ の 交 代 と ,冠 水 率 が 低 い 場 合 の 下 部 の 萌
芽 枝 の 維 持 ( Fig. 4.14) は , 冠 水 の 萌 芽 へ の 阻 害 を 示 す 。 下 方 か ら の 冠 水 の
阻 害 が 小 さ い と き ( Fig. 4.14B) の , 萌 芽 株 タ イ プ の 比 率 は , 時 間 経 過 に よ
り 下 部 の 萌 芽 枝 の 伸 長 が し た 株 が 増 加 し た こ と を 示 し て い る 。こ の よ う な 萌
芽 枝 の 交 代 は ,樹 高 の 回 復 の た め の 上 部 の 萌 芽 枝 よ り ,む し ろ 地 面 に 近 い 下
部 の 萌 芽 枝 が 早 期 に 自 根 を 形 成 す る こ と が ,個 体 も し く は H. fomes 個 体 群 に
と っ て 生 態 的 に 重 要 で あ る 可 能 性 を 示 唆 す る 。た だ し ,下 部 の 萌 芽 枝 の み に
樹 体 の 修 復 を 頼 る と ,冠 水 の 被 圧 を 受 け た 萌 芽 枝 の 枯 死 と い う 無 駄 な 資 源 の
投資や,萌芽枝を失うことによる個体自身の枯死をまねくリスクがある。
4.4.9 Heritiera fomes の 萌 芽 更 新 施 業
( 1) 伐 採 径 の 管 理
親 木 の サ イ ズ が 小 さ い ほ ど ,萌 芽 率 と 伐 採 後 初 期 の 株 当 り 萌 芽 枝 本 数 は 大
き く ,伐 根 径 が 10 cm よ り や や 小 さ い と き ,優 位 な 萌 芽 枝 の 伸 長 成 長 が 最 も
期 待 で き る 。住 民 が 道 具 や フ ェ ン ス ,建 築 部 材 ,ボ ー ト 部 材 な ど ,様 々 な 目
的 で 自 給 的 に 利 用 す る 樹 木 の サ イ ズ は , 直 径 が 5∼ 10 cm の 小 径 木 で あ る 。
し た が っ て H. fomes が こ れ ら に 利 用 さ れ る な ら ば ,伐 採 を こ の 付 近 の サ イ ズ
に お い て 行 い ,萌 芽 更 新 に よ り 持 続 的 に 材 を 採 集 ,利 用 す る こ と は ,生 態 的・
社会的に適合性のある管理の選択肢であると言える。
( 2) 伐 採 高 の 管 理
台 切 り 法( Coppicing)は ,20 cm ほ ど の 低 位 置 で 伐 採 し ,自 根 を 形 成 し 幹
と な っ た「 萌 芽 幹 」を 収 穫 対 象 と す る 萌 芽 更 新 施 業 で あ る( 神 奈 川 県 農 政 部 ,
1995)。 一 方 , 頭 木 法 ( Lopping) は , 高 さ 1∼ 2 m で 繰 り 返 し 伐 採 し , 高 位
置 の 萌 芽 枝 を 収 穫 す る も の で あ る( 谷 本 , 1997)。前 者 で 得 ら れ る の は ,比 較
的 直 径 の 大 き な 木 材 で あ り ,後 者 に お い て は 小 径 の 燃 料 材 や 農 業 資 材 で あ る 。
冠 水 率 を 用 い た 本 研 究 に よ り ,下 部 萌 芽 型 の 切 り 株 は ,自 根 を 形 成 に よ る
地 際 か ら の 株 立 ち 樹 形 と し て ,上 部 萌 芽 型 の 切 り 株 は ,頭 木 的 な 樹 形 と し て ,
そ れ ぞ れ 樹 体 を 回 復 す る と 解 釈 で き る 。し た が っ て ,目 的 の 樹 形 を 誘 導 す る
た め に は ,親 木 の 場 の 最 高 水 位 に よ る 伐 採 高 の 決 定 が 必 要 と な る 。伐 採 の 絶
対 高 の 影 響 や ,萌 芽 の 自 根 形 成 に 関 わ る 他 の 要 因 は 明 ら か で な く ,精 緻 な 伐
採 高 管 理 は 今 後 の 研 究 課 題 で あ る 。し か し な が ら ,冠 水 の 萌 芽 へ の 阻 害 を 考
- 122 -
第4章
慮 す れ ば ,H. fomes の 中 心 的 な 分 布 帯 で あ る 浸 水 ク ラ ス 2∼ 4 の 地 盤 高( JICA,
2005) の う ち , 高 地 盤 の ク ラ ス 4 に お い て は 台 切 り 法 を , 低 地 盤 の ク ラ ス 2
においては頭木法を用いることが考えられる。
( 3) 萌 芽 の 整 理
萌 芽 整 理 の 効 果 は ,残 さ れ た 萌 芽 枝 の 径 に 顕 著 に あ ら わ れ る( 田 中 , 1989)。
施 業 の 目 的 が , 太 い 萌 芽 幹 の 生 産 で あ れ ば 1∼ 2 本 に 整 理 す る ( 神 奈 川 県 農
政 部 , 1995)。
台 切 り 法 に お い て は ,自 然 淘 汰 に よ り 萌 芽 枝 数 が 減 少 し ,か つ 萌 芽 枝 の 個
体 差 が 明 確 化 す る こ ろ に 行 い , ミ ズ ナ ラ で は 伐 採 後 5∼ 10 年 ( 田 中 , 1989),
コ ナ ラ で は 3 年 程 度 ( 神 奈 川 県 自 然 環 境 保 全 セ ン タ ー , 2001) で あ る 。 冠 水
の 阻 害 を ほ と ん ど 受 け な い 浸 水 ク ラ ス 4 に お い て ,H. fomes に 台 切 り 法 を 適
用 す る 場 合 の 萌 芽 枝 本 数 の 動 態 は ,今 後 の 研 究 課 題 と 言 え る 。一 方 ,切 り 株
下方への冠水影響が比較的大きなクラス 2 において,頭木法を用いる場合,
切 り 株 上 部 で 長 期 に 渡 り 生 じ 続 け る 萌 芽 を ,順 次 採 集 す る こ と が 考 え ら れ る 。
H. fomes の 萌 芽 整 理 の 時 期 ,本 数 ,株 上 の 場 な ど 具 体 的 な 手 法 の 知 見 を 得
る に は ,個 々 の 萌 芽 枝 を 識 別 し ,長 期 の 成 長 と 消 長 や 萌 芽 間 の 競 争 の 研 究 が
必要である。
4.5 ま と め
4.5.1 Heritiera fomes 林 の 更 新
Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 更 新 過 程 は , 伐 採 な ど の 撹 乱 に よ
る初期状態と,構成種の母樹の有無により異なる。
1. 皆 伐 を 免 れ た 低 木 の 閉 鎖 林 分 か ら 2 次 遷 移 が 始 ま る 場 合 , 下 層 に は つ る
植 物 や 叢 生 型 の 低 木 種 は 繁 茂 し に く い 。林 分 を 構 成 す る H. fomes,Bruguiera
spp.,A. cucullata の 個 体 群 は ,下 種 か ら の 実 生 と 前 生 樹 に よ り 更 新 の 可 能 性
がある。
2. 道 具 材 や 小 規 模 な 建 材 な ど 広 範 な 用 途 を 持 つ 2.5∼ 7.5 cm 程 度 の 幹 サ イ ズ
の H. fomes は ,住 民 に よ る 間 伐 を 受 け や す く 個 体 群 の 齢 構 造 の 不 連 続 化 を 招
く。個体群サイズの回復と林分更新にはリスクとなる。
- 123 -
第4章
3. H. fomes は 条 件 的 陰 樹 で あ る 。果 実 は 散 布 さ れ た 後 母 樹 の あ る 林 分 内 に 留
ま る も の が 多 く ,明 暗 に 関 わ ら ず 定 着 し 実 生 バ ン ク を 形 成 す る 。単 木 的 小 ギ
ャ ッ プ の 弱 光 下 に お い て 前 生 樹 更 新 し ,ギ ャ ッ プ を 修 復 す る 性 質 を も つ 。単
木 的 疎 開 よ り や や 大 き な ギ ャ ッ プ に お い て は ,早 成 の 他 樹 種 が 先 行 し て ギ ャ
ッ プ を 修 復 し ,H. fomes は 同 所 的 に 幼 樹 群 を 蓄 え る 。林 分 の 近 隣 に 母 樹 が あ
れ ば , Bruguiera spp.や A. cucullata よ り 散 布 体 の 新 入 と 実 生 更 新 が 見 込 み や
すい。
4. Bruguiera gymnorrhiza, B. sexangula は 条 件 的 陰 樹 で あ る 。 胎 生 種 子 は や
や H. fomes の 果 実 よ り 大 型 で 散 布 後 母 樹 近 傍 に 留 ま る 。実 生 は 暗 所 に お い て
も 定 着 す る も の の ,死 亡 率 は H. fomes の 実 生 よ り 高 い 。単 木 的 疎 開 よ り も 大
き な ギ ャ ッ プ の 光 環 境 で 一 斉 更 新 す る す る 性 質 を も つ 。母 樹 が 失 わ れ た 場 合 ,
散 布 体 の 新 入 と 定 着 に H. fomes に 比 べ て 時 間 を 要 す る と 考 え ら れ る 。
5. A. cucullata は 条 件 的 陰 樹 で あ る 。 代 表 種 中 最 も 大 型 の 果 実 は 母 樹 直 近 に
定 着 し ,母 樹 や 近 接 す る 樹 木 の 欠 損 に よ る 疎 開 を 前 生 樹 が 修 復 す る 。果 実 の
新入は見込みにくく,林分の母樹が失われた場合更新は非常に困難となる。
6. Excoecaria agallocha の 個 体 群 の 実 生 更 新 は , 母 樹 の 有 無 に 関 わ ら ず 非 常
に 困 難 で あ る 。撹 乱 を 受 け た 個 体 か ら の 萌 芽 に よ り 樹 体 と 個 体 群 を 回 復 す る
が,長期的には個体群の密度低下が予想される。
7. 強 度 の 伐 採 に よ り 疎 開 し た 林 分 か ら 2 次 遷 移 が 始 ま る 場 合 , 遷 移 初 期 の
下 層 に お い て , Derris trifoliata, Finlaysonia maritima, Sarcolobus carinatus
な ど つ る 植 物 や , Acanthus ilicifolius な ど の 叢 生 型 の 陽 性 植 物 が 旺 盛 に 繁 殖
す る 。下 層 に 繁 茂 す る 陽 性 植 物 は ,H. fomes の 実 生 の 定 着 ・ 成 長 に よ る 天 然
下 種 更 新 を 阻 害 す る 。 疎 開 林 分 か ら の 2 次 遷 移 開 始 時 に , 小 径 の H. fomes
の切り株が残存する場合,切り株萌芽による個体群の回復が先行する。
4.5.2 Heritiera fomes の 萌 芽 更 新
1. H. fomes 切 り 株 の 萌 芽 力 は ,木 本 マ ン グ ロ ー ブ の 中 で 比 較 的 高 く ,前 生 樹
更新と萌芽更新による個体群の回復の 2 つの更新戦略をもつ。
- 124 -
第4章
2. 親 木 の サ イ ズ が 小 さ い ほ ど , 萌 芽 率 と 伐 採 後 初 期 の 株 当 り 萌 芽 枝 本 数 は
大 き く ,伐 根 径 が 10 cm よ り や や 小 さ い と き ,優 位 な 萌 芽 枝 の 伸 長 成 長 が 最
も期待できる。
3. 住 民 が 道 具 や フ ェ ン ス , 建 築 部 材 , ボ ー ト 部 材 な ど , 様 々 な 目 的 で 自 給
的 に 利 用 す る 樹 木 の サ イ ズ は , 直 径 が 5∼ 10 cm の 小 径 木 で あ り , 高 い 方 萌
芽 力 を 活 か し た H. fomes の 生 態 的・社 会 的 に 適 合 性 の あ る 保 続 的 な 資 源 管 理
の可能性がある。
4. マ ン グ ロ ー ブ 域 特 有 の 環 境 で あ る 冠 水 は 萌 芽 へ の ス ト レ ス と な る 。 萌 芽
枝 の 伸 長 阻 害 も し く は 萌 芽 枝 の 枯 死 に よ り ,切 り 株 の 枯 死 や 切 り 株 上 に お け
る萌芽枝の上方への交代を促すと言える。
5. 切 り 株 萌 芽 の 生 態 特 性 を 活 か し た H. fomes の 萌 芽 更 新 施 業 に お い て は ,
親 木 の 生 育 立 地 の 最 高 水 位 応 じ た 伐 採 高 の 管 理 が 重 要 と な る 。浸 水 ク ラ ス 4
の 高 地 盤 に お い て は 台 切 り 法 を ,浸 水 ク ラ ス 2 の 低 地 盤 に お い て は 頭 木 法 を
用 い る こ と が 考 え ら れ る 。頭 木 法 を 用 い る 場 合 ,切 り 株 上 部 で 長 期 に 渡 り 生
じ続ける萌芽を,順次採集することが考えられる。
6. 伐 採 の 絶 対 高 や , 萌 芽 の 自 根 形 成 に 関 わ る 冠 水 以 外 の 要 因 は 明 ら か で な
い 。ま た ,萌 芽 枝 の 長 期 の 成 長 と 消 長 や 萌 芽 間 の 競 争 の 知 見 は 得 ら れ て い な
い 。し た が っ て ,精 緻 な 伐 採 高 管 理 や 萌 芽 整 理 の 手 法 は 今 後 の 研 究 課 題 で あ
る。
- 125 -
第4章
- 126 -
第5章
マングローブの資源性 1
−資源的位置づけ−
本章は,以下の査読付き論文として受理済みである(2006年11月27日付)。
大野勝弘・鈴木邦雄. 2007. 「マングローブ林減少による植物資源ミックスの変容 −ミャン
マー・エーヤワディーデルタの事例から−」. Mangrove Science 4.
第5章
5.1 緒 言
資 源 と な る 植 物 の 種 類 や 位 置 づ け は ,利 用 者 の 生 業 や 文 化 に よ り 異 な る こ
と が 指 摘 さ れ て い る ( Cotton, 1996; 菅 , 2004) 。 し た が っ て , マ ン グ ロ ー ブ
の 資 源 的 利 用 価 値 を ,本 論 文 の 研 究 地 域 に お い て 把 握 す る 必 要 が あ る 。ま た ,
こ れ ま で の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 研 究 に お い て は ,複 合 的 な 植 物 資 源 利 用 体 系 に
お け る マ ン グ ロ ー ブ の 役 割 解 明 が な さ れ て い な い 。 さ ら に ,「 資 源 の 変 化 」
の「人々の生活文化への影響」に関する具体的な検証がなされていない。
本 章 の 目 的 は ,村 落 の 人 々 に と っ て の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 性 格 と 役 割
を ,ホ ー ム ガ ー デ ン の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 を 含 め た 資 源 ミ ッ ク ス の な か
で 位 置 づ け る こ と で あ る 。は じ め に マ ン グ ロ ー ブ の 資 源 的 利 用 価 値 を 把 握 す
る た め ,マ ン グ ロ ー ブ お よ び 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の イ ン ベ ン ト リ ー を 作
成 し ,有 用 種 の 用 途 と 種 数 を 明 ら か に す る 。次 に ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 減 少 に
よ る 植 物 資 源 利 用 の 変 容 を ,村 落 内 部 に 併 存 す る ス テ ー ク ホ ル ダ ー を 区 別 し
て 明 ら か に し ,植 物 資 源 の 利 用 体 系 に お け る マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 位 置 づ け を
解明する。
5.2 研 究 方 法
5.2.1 調 査 地
Ashe Mayan村 は , エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の 海 岸 帯 ( 高 谷 , 1985) の 浜 堤 上 に
位 置 す る( Fig. 3.10)。第 3 章 に お い て は ,家 屋 と 潮 間 帯 の 間 を 埋 め る ホ ー ム ガ
ーデンと,集落に隣接する潮間帯のマングローブ林の存在,および非マングロ
ーブ植物群とマングローブ植物群がそれぞれに対応して生育することを示した。
同 村 か ら 商 業 地 域 の Bogalayへ は , 近 隣 村 か ら 隔 日 運 行 の 小 型 貨 客 船 で 6∼ 7 時
間 を 要 し ,ミ ャ ン マ ー の 最 大 都 市 Yangon 1 へ は さ ら に 貨 客 船 で 10 時 間 流 路 を 遡
上 す る 必 要 が あ る 。1902 年 の 森 林 法 で す で に 集 落 域 と さ れ て お り ,商 業 地 域 か
ら 遠 隔 で あ る こ と か ら ,今 日 ま で 長 期 に わ た り 生 活 ,文 化 お よ び 生 計 の 多 く を ,
これらの植物資源に依拠し,複合的に利用してきたと言える。
就 業 構 造 は ,110 世 帯 の う ち 約 半 数 の 土 地 持 ち 世 帯 が 稲 作 や ホ ー ム ガ ー デ
ン で の コ コ ナ ツ( Cocos nucifera)
・ビ ー ト ル ナ ッ ツ( Areca catechu)の 生 産 ,
1
前 首 都 。 2005 年 11 月 , ヤ ン ゴ ン の 北 約 320kmに あ る ピ ン マ ナ 郊 外 の 軍 用 地
Naypyidaw( ネ イ ピ ー ド ー ) へ の 首 都 移 転 が 発 表 さ れ た 。
- 128 -
第5章
ニ ッ パ ヤ シ( Nypa fruticans)農 園 で の 屋 根 葺 材 の 生 産 を 行 う 。所 有 地 が 狭 地
か 土 地 を 持 た な い 世 帯 は , 漁 撈 や 村 内 の 賃 金 労 働 な ど で 生 計 を 営 む ( Table
5.1)。
Table 5.1 Ashe Mayan村の概況
成立
近接商業地域までの距離
人口/世帯数
民族
主要施設
生業構造
*1:
*2:
*3:
*4:
19世紀末以前
約22 km,商業地域:Bogalay town, Bogalay township, Pyapon district, Ayeyarwady division
約680人/約110世帯
ビルマ族(Bamar)
(僧院なし)
小学校 1,商店*1 1,売店*2 2
稲作: 23%*3 (平均耕作面積<以下同>: 5 acre*4/世帯)
ホームガーデン: 18% (2∼2.5 acre/世帯)
漁撈・カニ採り: 14%
ニッパ農園: 5% (15 acre/世帯)
その他: 53% (小規模な商売,被雇用肉体労働)
土地所有 半数以上の世帯が土地無し
ホームガーデン生産物 ココナツ,ビートルナッツ,ビートルリーフ 他
家畜 アヒル,ニワトリ,ブタ,ウシ,スイギュウ 他
主として商業地域で仕入れた衣料,生活道具などを販売する店
主として集落域で仕入れた食料,菓子を販売する小規模な店
%は全て世帯ベース
1 acre ≒ 0.4 ha
出典:村長へのインタビューに もとづき筆者作成
5.2.2 調 査 ・ 解 析 方 法
2003 年 か ら 2005 年 に わ た り 実 施 し た イ ン タ ビ ュ ー と 参 与 観 察 に よ っ て ,
( 1)
マ ン グ ロ ー ブ 植 物 と 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 有 用 種 イ ン ベ ン ト リ ー 作 成 ,お よ び ,
( 2)両 植 物 資 源 お よ び 非 植 物 資 源 の 資 源 ミ ッ ク ス と そ の 時 間 動 態 の 把 握 を ス テ
ークホルダー別に行った。被面接者にはキー・インフォーマントとして,古く
から受け継がれてきた「植物資源の採集,加工,利用の智恵」が豊富だと考え
ら れ る 村 人 13 名 を 選 ん だ 。 選 定 に 際 し て は , マ ン グ ロ ー ブ 林 が 豊 か で あ っ た
1960 年 代 以 前 か ら 居 住 し て い た か , 転 入 出 が あ っ て も 当 時 Ashe Mayan 村 に 住
ん で い た こ と ,お よ び 周 辺 の 森 林 で 生 業 活 動 を 行 っ て い た こ と な ど を 考 慮 し た 。
次に,キー・インフォーマントから,適宜 3 名ないし 4 名からなるグループを
構成し,グループインタビューを行った。インタビュー中は,個々の被面接者
の発言機会の確保と参加を促すとともに,被面接者間で相互確認と合意形成が
なされた情報を記録した。ミャンマー語と英語の間の通訳は,村人の信望が厚
い同じ村の長老と元中学校教師の二人のどちらかに行ってもらった。インタビ
ュー調査の前に行なったプレインタビューに基づき,質問項目や質問順序,質
問時の言葉の使い方などを通訳と調整した。
- 129 -
第5章
( 1) 有 用 種 の イ ン ベ ン ト リ ー 作 成
第 3 章 で 得 ら れ た , 村 落 周 辺 の マ ン グ ロ ー ブ 林 の 植 物 77 種 と 非 マ ン グ ロ
ー ブ 植 物 129 種 を 対 象 と し て , 自 給 的 な 利 用 の 有 無 を 確 認 し た 。 ま た ,「 利
用 し た 」も し く は「 利 用 す る 」と さ れ た 種 に つ い て ,樹 体 の 部 位 ご と に 採 集 ,
加 工 お よ び 利 用 の 方 法 を 質 問 し 記 録 し た 。こ の 際 ,資 源 の 品 質 の 高 低 や 村 人
の嗜好性の大小,非植物資源の代替品利用がある場合その情報を記録した。
他 の 地 域 で の 見 聞 や 伝 聞 等 に 基 づ く 回 答 は 除 外 し た 。イ ン タ ビ ュ ー は ,マ ン
グ ロ ー ブ 植 物 に つ い て は ,2003 年 9 月 と 2004 年 9 月 に ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植
物 に つ い て は ,2004 年 9 月 と 2005 年 3 月 お よ び 9 月 に ,双 方 の 植 物 そ れ ぞ
れ 延 べ 約 17 時 間 / 4 日 間 実 施 し た 。
結 果を「 マ ング ロ ー ブ植 物 資 源 」と「 非 マ ン グ ロー ブ 植 物資 源 」の ,2 つ
の イ ン ベ ン ト リ ー に ま と め た 。 そ の 際 資 源 の 用 途 は , Phillips & Gentry
( 1993a) の 広 義 分 類 を 基 礎 に , 燃 料 , 建 材 , 工 芸 材 , 結 束 材 , 屋 根 葺 ・ 張
壁 材 , 食 用 , 薬 毒 用 と そ の 他 に 区 分 し た ( Table 5.2)。
植 物 分 類 体 系 と 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 学 名 は ,主 と し て Kress et al.( 2002)
に , マ ン グ ロ ー ブ の 学 名 は , Win Maung( 1999) に し た が っ た 。 生 育 形 は ,
Kitamura et al. (1997)と Tomlinson (1986)を 参 考 に し た 。
Table 5.2 植物資源の用途区分
用途区分
材料資源
非材料資源
利用
建材
工芸材
結束材
屋根葺・張壁材
建築物の構造材(柱、梁など)と床材用の建材
道具,家具,日用品等,建築物の非構造材,柵用材
糸,紐,綱,魚網
屋根葺き,仕切・非構造的壁材
燃料
食用
薬毒用
その他
薪(炭)材
食材,飲料,スパイス,調理油
医薬,健康薬,毒・忌避剤,医療,洗剤,タンニン,刺激性嗜好品
装飾,化粧,宗教,芸能,遊戯,染料,スモークチップ,施肥
出典:Phillips & Gentry(1993a)の広義分類をもとに筆者作成
( 2) 植 物 資 源 , 非 植 物 資 源 の 選 択 と 利 用 割 合
ホ ー ム ガ ー デ ン を 所 有 す る「 土 地 持 ち 村 民 」
( 以 下 同 )と ,所 有 し な い「 土
地 無 し 村 民 」( 以 下 同 ) の 2 つ の ス テ ー ク ホ ル ダ ー を 対 照 と し , 過 去 お よ び
現 在 の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 ,お よ び 非 植 物 資 源
の 利 用 割 合 を 調 査 し た 。ま た ,主 に 利 用 さ れ た お よ び 利 用 す る 具 体 的 な 資 源
と , そ の 獲 得 方 法 を 記 録 し た 。「 過 去 」 と は , マ ン グ ロ ー ブ 林 の 減 少 が 進 ん
だ 1960 年 代 以 前 を さ す 。
含 ま れ る 要 素 が 多 様 な 用 途 区 分 に つ い て は ,幾 つ か の 下 位 の 用 途 に 分 け て
- 130 -
第5章
イ ン タ ビ ュ ー し た 。 具 体 的 に は ,「 工 芸 材 」 か ら 「 家 具 」,「 食 用 」 か ら 「 副
食 」,「 薬 毒 用 」 か ら 「 医 薬 」 と 「 毒 ・ 忌 避 剤 」 を 分 け て い る 。「 副 食 」 用 途
に お い て は ,自 給 的 資 源 と し て の「 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 」と「 非 マ ン グ ロ
ー ブ 植 物 資 源 」 の 対 比 が 研 究 の 主 眼 で あ る た め ,「 購 入 す る 農 作 物 」 の 利 用
は除外した。
資 源 の 利 用 割 合 は 利 用 頻 度 の 割 合 と し ,そ の 定 量 化 は ,
「 10 回 中 何 回 利 用 」,
「 10 個 中 何 個 利 用 」,「 10 箇 所 中 何 箇 所 に 利 用 」 な ど , 用 途 に 応 じ た 問 答 に
よ り 行 っ た 。3 つ の 資 源 の 利 用 割 合 を「 資 源 ミ ッ ク ス 」と し ,過 去 に お け る ,
ス テ ー ク ホ ル ダ ー 間 の 資 源 ミ ッ ク ス の 同 異 と ,マ ン グ ロ ー ブ の 利 用 割 合 に よ
り資源を類型化した。
な お , 正 確 に は 同 国 で は 全 て の 土 地 は 国 家 が 所 有 し ,「 私 有 地 」 は 法 的 に
存 在 し な い が ,本 章 で は「 土 地 と 産 出 物 の 一 定 の 私 的 利 用 」が 法 的 に 認 め ら
れ て い る 場 合 ,「 土 地 を 持 つ / 所 有 す る 」 と 表 現 し た 。
イ ン タ ビ ュ ー は , 2005 年 9 月 に 延 べ 約 10 時 間 / 3 日 間 実 施 し た 。
5.3 結 果
5.3.1 植 物 資 源 の イ ン ベ ン ト リ ー
過 去 に 利 用 さ れ て い た , も し く は 現 在 利 用 さ れ て い る マ ン グ ロ ー ブ 50 種
と ,非 マ ン グ ロ ー ブ 124 種 を 合 わ せ た 174 種 の 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー を 示
す ( Table 5.3)。 ま た 8 つ の 用 途 そ れ ぞ れ の 有 用 種 数 を , Fig. 5.1 に 示 す 。 各
用 途 の 有 用 種 数 を 積 算 し た 有 用 種 数 は ,マ ン グ ロ ー ブ が 108 種 ,非 マ ン グ ロ
ー ブ が 326 種 で , 1 有 用 種 あ た り の 平 均 用 途 数 は そ れ ぞ れ 2.16 と 2.63 で あ
っ た 。マ ン グ ロ ー ブ 植 物 ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 と も ,薬 毒 用 ,食 用 ,工 芸 材 ,
建 材 な ど に 利 用 さ れ る 有 用 種 が 多 く ,特 に 薬 毒 用 と 食 用 の 非 マ ン グ ロ ー ブ が
多かった。
マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 と 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 に つ い て ,そ れ ぞ れ の 積
算 有 用 種 数 に 対 す る 用 途 別 の 種 数 の 比 率 を 示 す( Fig. 5.2)。本 論 文 で は 建 材 ,
工 芸 材 ,結 束 材 ,屋 根 葺・張 壁 材 用 途 な ど ,物 質 的 な 文 化 を 構 成 す る( Cotton,
1996)資 源 を「 材 料 資 源 」と し ,燃 料 ,食 用 ,薬 毒 用 途 の 資 源 を「 非 材 料 資
源 」と し て ,各 用 途 の 合 計 比 率 を 同 掲 し た 。マ ン グ ロ ー ブ の 材 料 資 源 の 比 率
は 有 用 種 数 の 50% で , 非 マ ン グ ロ ー ブ に お け る 40% に 比 べ て 高 か っ た 。 材
料 資 源 の う ち ,特 に マ ン グ ロ ー ブ の 結 束 材 の 有 用 種 数 の 比 率 は ,非 マ ン グ ロ
- 131 -
第5章
ー ブ の 約 3 倍 で あ っ た 。 反 対 に , 食 用 の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 比 率 は 28%
と , マ ン グ ロ ー ブ の 16% に 比 べ て 高 か っ た 。
Table 5.3 植物資源インベントリー
Acanthus ebracteatus Vahl
Acanthus ilicifolius L.
Acanthus volubilis Wall.
Cerbera odollam Gaertner
Nypa fruticans (Thunb.) Wurmb.
Phoenix paludosa Roxb.
Finlaysonia maritima Backer ex K. Heyne
Sarcolobus carinatus Wall.
Sarcolobus globosus Wall.
Pluchea indica Less.
Avicennia alba Blume
Avicennia marina (Forsk.) Vierh
Avicennia officinalis L.
Dolichandrone spathacea (L. f.) K. Schum.
Stenochlaena palustris ( Burm. ) Bedd.
Caesalpinia bonduc (L.) Roxb.
Caesalpinia crista L.
Cynometra ramiflora L.
Intsia bijuga (Colebr.) O. Kuntze
Combretum trifoliatum Vent.
Terminalia catappa L.
Merremia tuberosa (L.) Rendle
Excoecaria agallocha L.
Sapium indicum Willd.
Dalbergia pinnata (Lour.) Prain
Dalbergia spinosa Roxb.
Derris scandens BENTH.
Derris trifoliata Lour.
Pongamia pinnata Pierre
Flagellaria indica L.
Calophyllum inophyllum L.
Barringtonia racemosa (L.) Spreng.
Sonneratia apetala Buch.-Ham.
Sonneratia caseolaris (L.) Engler
Sonneratia griffithii Kurz
Hibiscus tiliaceus L.
Xylocarpus granatum König
Kha-yar
Kha-yar
Kha-yar-nwe
Acanthaceae
Za-lut
Dani
Thinbaung
Byauk-nwe
Apocynaceae
Swit-kha-mon-nwe
Asclepiadaceae
Shewt-htwe-new
Kha-yu
Thame-kyettet
Thame-phyu
Thame-gyi
Thakut, Yethakyut
Damin-nwe
Kyee-kalain
Alo-lay
Myin-ga
Saka-lun
Sauk-pya
Banda
Bonsein-new
Tha-yaw
Bonlon
Yemagi-nwe
Byeik-suu
Asclepiadaceae
Mi-chaung-nwe, Nwe-pyu
Acanthaceae
Acanthaceae
Arecaceae
Arecaceae
Asclepiadaceae
Asteraceae
Avicenniaceae
Avicenniaceae
Avicenniaceae
Bignoniaceae
Blechnaceae
Caesalpiniaceae
Caesalpiniaceae
Caesalpiniaceae
Caesalpiniaceae
Combretaceae
Combretaceae
Convolvulaceae
Euphorbiaceae
Euphorbiaceae
Fabaceae
Fabaceae
Fabaceae
Fabaceae
Fabaceae
Nwe-net
Thinwin-pyu
Myauk-kyein
Flagellariaceae
Pon-nyet
Hypericaceae
Ye-kyi
Kant-balar
Lamu
Laba
Thaman-shaw
Pin-le-ohn
Xylocarpus moluccensis (Lamk.) Roem. Kya-na
Pant-tha-ka
Amoora cucullata Roxb.
Nyaung-lun
Ficus benjamina L.
Aegiceras corniculatum (L.) Blanco Ye-kaya
Tha-bot
Pandanus foetidus Roxb.
Acrostichum aureum L.
Nget-gyi-taung
Bruguiera gymnorrhiza (L.) Lamk. Byu-u-talone
Bruguiera sexangula (Lour.) Poir. Byu-shwe-wa
Ceriops decandra (Griff.) Ding Hou Madama
Kandelia candel (L.) Druce
Byu-baing-daunt
Byu kyi dauk apo
Rhizophora apiculata BL.
Byu kyi dauk ama
Rhizophora mucronata Lamk.
Mussaenda macrophylla Wall.
Lelu
Merope angulata (Willd.) Swingle
Heritiera fomes Buch.-Ham.
Brownlowia tersa (L.)
Clerodendrum inerme (L.) Gaertn
Cayratia trifolia (L.) Domin
Taw-shauk
Kanazo
Ye-tha-man
Taw-kyaung-pan
Yinnaung-new
Lecythidaceae
Lythraceae
Lythraceae
Lythraceae
Malvaceae
Meliaceae
Meliaceae
Meliaceae
Moraceae
Myrsinaceae
Pandanaceae
Polypodiaceae
Rhizophoraceae
Rhizophoraceae
Rhizophoraceae
Rhizophoraceae
Rhizophoraceae
Rhizophoraceae
Rubiaceae
Rutaceae
Sterculiaceae
Tiliaceae
Verbenaceae
Vitaceae
薬毒用
食用
結束材
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
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I
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N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
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N
N
N
N
N
N
N
N
N
工芸材
屋根葺・張壁材
S
S
C
T
P
P
C
C
C
H
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T
C
C
C
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T
S
T
T
T
T
T
S
F
T
T
T
T
T
T
S
S
T
S
S
C
建材
科
燃料
現地名
生育形
学 名
在来(N)/移入(I)
(A)マングローブ植物資源
その他
C,F,G
C,F,G B(fish bait)
G(sandal)
B
C
C
B,C B,C
B,G B
G(minor construction)
H(hair ornamental, decoration)
C
B
C
G
G
G
*
G(minor construction, container, fishing gear, boat)
G(minor construction, container, fishing gear, boat)
B(fish bait), C(fodder), G(smoke)
G(minor construction, container, fishing gear, boat)
G(handle)
B,H
G
C,F,G,H
C
B,C B
G
**
*
C
G(smoke)
B,C
G
G(furniture, sandal)
G
C(lap, false ogive), G(minor construction)
B
C
A(shade)
C,G
B
G(container, minor construction)
G
C
G
E,G
C
G
F,H
B
H(hair ornamental, religious)
H(hair ornamental, religious)
**
G
G
G(minor construction, container), F(float, pot-plug)
B(play)
G(minor construction, container, furniture), F(pot-plug)
G
B
B
B,C
E
*
*
G
G(furniture, minor construction)
G(furniture, minor construction)
G(padlle brace/boat)
*
**
C(fodder)
G(container, religious) G
G(utencil, etc.)
C(mat)
B
C
*
*
**
*
*
*
B(play), H(haie ornamentalal)
F,G
G
G
B(play), C(fodder)
B(play), C(fodder)
G
G(minor construction, vine pole)
G
G
G
G(minor construction)
G
B,C,G
** G
**
- 132 -
B(play), H(religious)
B(fish bait), C(fodder)
B(fish bait), C(fodder)
B,G
B,G
G(altar frame/furniture), F(float, pot-plug)
B(play), H(hair ornamental, religious)
C,G
G(minor construction, boat, fishing gear, handle, etc.), F(rudder, wash boad)
E
C
G
B,C F
第5章
Table 5.3 植物資源インベントリー
Amaranthus caudatus L.
Anacardium occidentale L.
Bouea burmanica Griff.
Mangifera indica L.
Annona glabra L.
Annona muricata L.
Centella asiatica (L.) Urb.
Tabernaemontana divaricata (L.) R. Br. ex Roem. & Schult.
Tabernaemontana divaricata (L.) R. Br. ex Roem. & Schult.
Vallaris solanacea (Roth) Kuntze
Areca catechu L.
Calamus viminalis Willd.
Caryota mitis Lour.
Cocos nuciferae L.
Licuala peltata Roxb.
Blumea balsamifera (L.) DC.
Eupatorium cannabinum L.
Eupatorium odratum L.
Oroxylum indicum (L.) Kurz
Pajanelia longifolia (Willd.) K. Schum.
Ceiba pentandra (L.) Gaertn.
Durio zibethinus Murray
Cordia dichotoma Forst.
Ananas comosus (L.) Merr.
Cassia alata L.
Kyet-mauk
Thiho-thayet
Mayan
Thayet
Thagya-awza
Duyin-awza
Myin-hkwa
Zalat-gyi
Zalat-setkya
Nabu
Kunthi-pin
Kyein, Kon-kyein
Minbaw
Ohn
Salu
Phon-ma-thein
Hkwe-thay-pan
Bizat
Kyaung-sha
Kyaung-dauk
Le-pin
Duyin
Thanut
Nanat
Pwegaing-mezali
Amaranthaceae
Anacardiaceae
Anacardiaceae
Anacardiaceae
Annonaceae
Annonaceae
Apiaceae
Apocynaceae
Apocynaceae
Apocynaceae
Arecaceae
Arecaceae
Arecaceae
Arecaceae
Arecaceae
Asteraceae
Asteraceae
Asteraceae
Bignoniaceae
Bignoniaceae
Bombacaceae
Bombacaceae
Boraginaceae
Bromeliaceae
Caesalpiniaceae
Ngu, Ngu-shwe, Ngu-shwe-wa
Cassia fistula L.
Senna siamea (Lam.) Irwin & Barneby Mezali
Magyi
Tamarindus indica L.
Kadet
Crateva magna (Lour.) DC.
Thinbaw
Carica papaya L.
Salacia chinensis L.
Bu-new
Costus speciosus Sm.
Phalan-taung-hmwe
Caesalpiniaceae
Crypteronia paniculata Blume
Crypteroniaceae
Trichosanthes cucumerina L.
Dillenia indica L.
Dioscorea alata L.
Dioscorea birmanica Prain & Burkill
Dipterocarpus alatus Blume
Dipterocarpus retusus Blume
Diospyros burmanica Kurz
Anan-bo
Kyi-ah-new
Thabyu
Taw-myauk-nwe
Caesalpiniaceae
Caesalpiniaceae
Capparaceae
Caricaceae
Celastraceae
Costaceae
Cucurbitaceae
Dilleniaceae
Dioscoreaceae
Kala-htaing, Myit-lite, Katcho Dioscoreaceae
Kanyin-byu
Kanyin-ni
Dipterocarpaceae
Dipterocarpaceae
Te(at non-mangroves) Ebenaceae
Diospyros discolor Willd.
Ebenaceae
Baccaurea sapida Muell. Arg.
Codiaeum variegatum (L.) Blume
Croton oblongifolius Roxb.
Emblica officinalis Gaertn.
Euphorbiaceae
Kadiba
Kanaso
Ywethla
Thetyin-gyi
Zibyu
Flueggea virosa (Roxb. ex Willd.) Voigt Hmink
Glochidion coccineum Muell. Arg. Tamasok
Phyllanthus niruri L.
Kyet-tha-hin
Zinbyu
unidentified
Derris elliptica (Roxb.) Benth.
Hon
Desmodium pulchellum Benth.
Kyimi (2)
Moghania semialata (Roxb.) Mukerj. Kyimi (1)
Padauk
Pterocarpus macrocarpus Kurz
Spatholobus listeri Prain
Don-nwe
Tadehagi triquetrum (L.) H. Ohashi Lauk-thay
Taung-thale
Garcinia cowa Roxb.
Mingut
Garcinia mangostana L.
Mesua ferrea L.
Gangaw
Thabye-gangaw,Gangaw-thabye
Mesua nervosa Planch. & Triana
Gonocaryum griffithianum (Miers) Kurz Lu-wun-the-gye
Cinnamomum inunctum Meissner
Kara-way
Litsea glutinosa (Lour.) C.B. Rob. Ondon, Ondon-apo
Nasha
Litsea nitida (Roxb.) Hook. f.
Ondon, Ondon-ama
Litsea sp.
Barringtonia sp.
Kyi-bin, Kon-kyi
Naga-mauk
Leea indica Merr.
Lagerstroemia speciosa (L.) Pers. Pyinma
Taungsin-phet
Phrynium capitatum Willd.
Schumannianthus dichotomus (Roxb.) Gagnep. Thin
Ohboke
Melastoma malabathricum L.
Azadirachta indica A. Juss.
Tama, Tama-gyi
Melia birmanica Kurz
Pan-tama
Euphorbiaceae
Euphorbiaceae
Euphorbiaceae
Euphorbiaceae
Euphorbiaceae
Euphorbiaceae
Euphorbiaceae
Fabaceae
Fabaceae
Fabaceae
Fabaceae
Fabaceae
Fabaceae
Hypericaceae
Hypericaceae
Hypericaceae
Hypericaceae
Icacinaceae
Lauraceae
Lauraceae
Lauraceae
Lauraceae
Lecythidaceae
Leeaceae
Lythraceae
Marantaceae
Marantaceae
Melastomataceae
Meliaceae
Meliaceae
G
G
食用
その他
G
H(religious)
B,C B
C(religious), D(lighting)
G(boat, furniture)
B
B
B
*
薬毒用
結束材
I
I
N
I
I
I
I
I
I
N
I
N
N
I
N
N
N
N
N
N
N
I
N
I
N
I
I
I
N
I
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
I
N
I
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
I
N
N
N
I
N
N
N
N
N
N
N
N
N
I
I
工芸材
屋根葺・張壁材
H
T
T
T
T
S
H
S
S
S
P
P
P
P
P
S
H
H
T
T
T
T
T
S
S
T
T
T
S
S
C
H
T
C
T
C
C
T
T
T
T
T
S
T
T
S
T
S
S
C
H
H
T
C
H
T
T
T
T
S
T
T
T
T
T
S
T
H
S
S
T
T
建材
科
燃料
現地名
生育形
学 名
在来(N)/移入(I)
(B)非マングローブ植物資源
B
E
B(color)
B
C,G A
H(hair-ornament, religious)
H(religious, hair-ornament)
*
C(nitrogen), H(religious, bee-keeping)
G
G
** G
B(cushion), C(fan), G(fish-gear)
B,F,H
G(utensil, trap)
G(fence, wepon)
B・C(broom, toy, cap ,mat etc.)
C
C(lap), G(trap)
C
C
B
G
B
G
B(color), C(play)
B,F B・C(religious)
A
C,G,H
C
G
G
G
G(boat, fence)
*
C
C
B
C,G G
B B
C A
B
B
B(pillow), G(container)
G(farm-tool)
C(cloth)
E
G
B,D,E,F
B,C,H
G(utensil)
C
H
*
G
C(fodder), H(religious, hair-ornament)
B,E,H
D(color)
B,D
B
G
F
G
E
G
B
B(glue)
C,E
B,C,H
G(boat, furniture)
G(container)
C(nitrogen, fodder)
B(play)
B,C
F,H
F
** G
* G
* G
*
*
A(nitrogen)
B,C C,E
F(fodder), H(hair-ornamental)
G(boat, furniture, container)
D(lighting), C・E(mushroom-nursing)
G
B
B
B
C
B
G
D(lighting)
D(color)
B,C,E
E
A
C(religious)
B,C G(water-cleanup)
B(play, color)
E(glue), G(thatch-shaft)
*
C
C
A
C
G(broom)
G
G(general)
G
G
G(boat, container)
G
G
G(furniture)
D
D
B,C C
C(nitrogen), G(music, cosmetic), H(religious, hair-ornament)
C(fodder), H(religious, hair-ornament)
B,C
B
*
B,C,G,H
B
C,H H(hair-ornament, religious)
B
G(boat, furniture, general)
E
C(decoration)
C,E
B,C
G
*
*
**
*
*
- 133 -
G(boat, container)
B
C,E C(nitrogen), E(religious)
C
B,C
G(minor construction, wepon)
G
G
G(general, boat)
G(general)
G
G(general)
C(lap, utencil)
G(mat)
G(fence)
C(fodder)
B(play), H(seaonal-indicator)
C
G
B
C,H
C,H
F
C
B,C,E
H(hair-ornament)
C(nitrogen, play)
B(color)
B(color), H(hair-ornament)
第5章
Table 5.3 植物資源インベントリー
Tinospora cordifolia Miers
Tinospora nudiflora Kurz
Sin-don-ma-new
Sinthama-nwe
Acacia auriculiformis A. CUNN. Ex BENTH Malaysia-padauk
Sit
Albizia procera (Roxb.) Benth.
Archidendron jiringa (Jack) Nielsen Danyin
Entada pursaetha DC.
Gon-nyin
Kokko
Samanea saman (Jacq.) Merr.
Peinne
Artocarpus heterophyllus Lam.
Thapan, Ye-thapan
Ficus glomerata Roxb.
Ficus hispida L. f.
Ficus obtusifolia Roxb.
Ficus religiosa L.
Ficus rumphii Blume
Streblus asper Lour.
Musa spp.
Ardisia polycephala Wall.
Eucalyptus ovata Labill.
Psidium guajava L.
Syzygium malaccense (L.) Merr. & L.M. Perry
Syzygium oblatum (Roxb.) Wall. ex A.M. Cowan & Cowan
Syzygium sp.
Syzygium sp.
Syzygium sp.
Olax psittacorum (Willd.) Vahl
Jasminum multiflorum (Burm. f.) Andrews
Nyctanthes arbor-tristis L.
Bulbophyllum sp.
Ludisia discolor (Ker Gawl.) Lindl.
Averrhoa carambola L.
Piper betle L.
Piper nigrum L.
Dendrocalamus brandisii (Munro) Kurz
Dendrocalamus giganteus Wall. ex Munro
Dendrocalamus longispathus (Kurz) Kurz
Eragrostis nigra Nees ex Steud.
Oxytenanthera albociliata Munro
Phragmites vallatoria (L.) Veldkamp
unidentified
Ziziphus jujuba Lam.
Carallia brachiata (Lour.) Merr.
Gardenia jasminoides Ellis
Hypobathrum racemosum Kurz
Hyptianthera stricta
Thapan, Kha-aung, Kon-thapan
Nyaung-gyat
Bawdi-nyaung, Nyaung-bawdi
Nyaung-phyu
Okhne
Ngetpyaw
Kyetma-ok, Anan-ma
Eu-ca-lit
Malaka
Thabyu-thabye
Menispermaceae
Menispermaceae
Mimosaceae
Mimosaceae
Mimosaceae
Mimosaceae
Mimosaceae
Moraceae
Moraceae
Moraceae
Moraceae
Moraceae
Moraceae
Moraceae
Musaceae
Myrsinaceae
Myrtaceae
Myrtaceae
Myrtaceae
Thabye-satche, Thabye-kyetche Myrtaceae
Kyauk-thabye
Myrtaceae
Thabye-gyi
Myrtaceae
Thitpyu
Myrtaceae
Lelu(at non-mangroves) Olacaceae
Tawsabe
Oleaceae
Seik-hpalu
Oleaceae
Orchidaceae
Zaw-sein
Orchidaceae
Sin-mi-tauk
Oxalidaceae
Zaung-yar
Kun-pin, Kun-ywet-pin Piperaceae
Nga-yok-kaung
Piperaceae
Wa-payaung
Poaceae
Wa-bo, Wabo-gyi
Poaceae
Wa-net
Poaceae
Myet-thin-don
Poaceae
Wa-gauk
Poaceae
Kyu
Poaceae
Wa-kyu
Poaceae
Rhamnaceae
Zi
Rhizophoraceae
Maniawga
Zizawa
Rubiaceae
Pinle-kyetyo, Leik-te(レイテ/ワコン) Rubiaceae
Rubiaceae
Kyetyo
Ponna-yeik
Ponna-yeik-gyi
Morinda angustifolia Roxb.
Yeyo
Randia uliginosa DC.
Hman
Citrus aurantiifolia (Christm.) Sw. Thanbaya
Shauk
Citrus limon (L.) Burm. f.
Kywe-gaw
Citrus maxima (Burm.) Merr.
Citrus reticulata Blanco
Lein-hmaw
Nyin-thi
Litchi chinensis Sonn.
Sein-nabaw
Smilax perfoliata Lour.
Kala-met
Mansonia gagei J.R. Drumm.
Sterculia angustifolia Jack
Shaw-kanyin
Myat-ya
Microcos paniculata L.
Triumfetta rhomboidea Jacq.
Katsine
Clerodendrum indicum (L.) Kuntze Ngayan-padu
Ixora coccinea fa. lutea (Hutch.) Fosberg & Sachet
Ixora coccinea fa. lutea (Hutch.) Fosberg & Sachet
Rubiaceae
Rubiaceae
Rubiaceae
Rubiaceae
Rutaceae
Rutaceae
Rutaceae
Rutaceae
Sapindaceae
Smilacaceae
Sterculiaceae
Sterculiaceae
Tiliaceae
Tiliaceae
Verbenaceae
Clerodendrum viscosum Vent.
Thagyan-(kyauk-)pan Verbenaceae
Premna integrifolia L.
Vitex pinnata L.
Taw-taung-tangyi
Kasi
Padegaw
Gonmin
Alpinia zerumbet (Pers.) B.L. Burtt & R.M. Sm.
Amomum corynostachyum Wall.
Verbenaceae
Verbenaceae
Zingiberaceae
Zingiberaceae
食用
工芸材
薬毒用
屋根葺・張壁材
N
N
I
N
I
N
N
I
N
N
N
I
N
N
I
N
I
I
N
N
N
N
N
N
N
I
I
N
I
I
I
N
I
N
N
N
N
I
N
N
I
N
N
I
I
N
N
I
I
I
I
I
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
N
結束材
C
C
T
T
T
C
T
T
S
S
T
T
T
T
S
S
T
S
T
T
T
T
T
S
C
S
H
C
S
C
C
T
T
T
H
T
H
S
S
T
S
S
S
S
S
T
T
S
S
S
T
T
C
T
T
T
H
H
H
S
T
H
H
建材
科
燃料
現地名
生育形
学 名
在来(N)/移入(I)
(B)非マングローブ植物資源 continued
その他
F,G F,G(fodder)
C,G C(fodder)
* G
** G
G(general)
E
G(furniture, minor construction)
C(nitrogen)
B,C B,C G(nitrogen)
*
G
G(container)
G
G
G(container)
G(container)
** G
G(container)
G(container)
C(file)
C(lap, float)
B
G
B(play)
G(nitrogen)
B,C D,E E(color)
B
B(play)
B
B(play)
A(religous)
C
A(religious), C(fodder), G(religious)
C
C
B,C,H
B,C,D,F,G
C
G
* G
**
* G
**
G
G(container)
G(toy, wepon)
G(container)
B
A(religious, shade)
E(dyes)
B(religious), C(play)
H(hair-ornamental)
C
C,E
B,H B
B
C(religious)
G(boat, minor-construction)
C・H(religious, decoration)
G(general, boat)
G(container)
B,C C,E
D
C
H(hair-ornament)
H(hair-ornamental)
A(religious)
?
?
G
?
?
G(container, basket, fence, wepon)
G
?
?
G
B
G
G
G
G(container, utensil etc.), C(lap)
G(trap,stick etc)
G
G(container, utensil etc.)
G
G(mat)
F,H
? ?
C C(decoration)
B,C
G(thatch-shaft)
G
G(music), G(religious)
G
G
G
G
B
G(container, trap etc.) G
**
G
G(music)
B(fodder), C・G(religious)
E,F
H(hair-ornament, religious)
?
?
?
?
?
B
C
?
B,C
B,C
*
?
?
?
?
G
** G
?
?
G(wepon)
?
G(boat, furniture)
G(general)
?
** G
G(utencil)
G(farm-tool, general)
?
?
?
?
?
B
?
B
G
?
H(religious)
H(religious)
B,C
?
?
B,C,F,G
B,C,E,F
B
?
?
?
?
D(lighting), C(mushroom-nursing)
?
?
B
?
C
?
C,H F
?
H(hair-ornament, religious)
C(lap)
燃料: **中核的,*副次的
生育形:T: 高木,S: 低木・灌木,P: ヤシ類,H: 草本,C: ツル,F: シダ類
用途中の記号は利用部位を示す。A: 植物全体, B: 種子・果実, C: 葉, D: 樹液, E: 樹皮, F: 根, 塊茎, 球根, 地下茎, G: 髄
- 134 -
G
B,F,G
F,G
B,G
B,C,F,G
G(cosmetic)
G(religious)
第5章
マングローブ植物
非マングローブ植物
100
80
有用種数
60
40
20
の
他
そ
燃
屋
料
根
葺
・張
壁
材
材
結
束
材
建
材
用
工
芸
食
薬
毒
用
0
用途区分
Fig. 5.1. 各用途の有用種数
有用種数は,各用途の有用種数を積算。
(%)
マングローブ植物
非マングローブ植物
60
有用種数の比率
50
40
30
20
10
0
建
材
工
芸
材
材
材
計
壁
源
張
結
・
資
葺
料
根
材
屋
束
料
燃
l
食
用
薬
非
毒
用
源
資
料
材
計
用途区分
Fig. 5.2. 各用途の有用種数の比率
有用種数の比率は,各用途の有用種数の積算数に対するそれぞ
れの用途の種数の百分比率。マングローブ植物,非マングローブ
植物それぞれについて算出。用途のうち,「その他」は除外した。
材料資源計は建材,工芸材,結束材,屋根葺・張壁材の有用種数
の比率の合計。非材料資源計は燃料,食用,薬毒用の有用種数
の比率の合計。
- 135 -
第5章
5.3.2 資 源 の 類 型 化 と 資 源 ミ ッ ク ス の 動 態
( 1) 資 源 の 類 型 化
用 途 別 の 資 源 ミ ッ ク ス の 動 態 を ,2 つ の ス テ ー ク ホ ル ダ ー ご と に 示 す( Fig.
5.3)。
過去における資源ミックスを,ステークホルダー間で比較すると,燃料,
建 材 ,屋 根 葺・張 壁 材 ,結 束 材 ,医 薬 の 用 途 に お い て は 両 者 の 差 異 が 無 か っ
た 。こ の う ち ,燃 料 ,建 材 ,屋 根 葺 ・ 張 壁 材 に お い て は ,過 去 圧 倒 的 に マ ン
グ ロ ー ブ 植 物 が 利 用 さ れ て い た 。一 方 ,医 薬 に お け る 非 マ ン グ ロ ー ブ の 利 用
割 合 は ,土 地 持 ち 村 民 で は マ ン グ ロ ー ブ の 1.5 倍 ,土 地 無 し 村 民 で は 2 倍 以
上 で あ っ た 。ま た ,毒 ・ 忌 避 剤 ,家 具 ,結 束 材 ,副 食 の 用 途 に お い て は ,ス
テ ー ク ホ ル ダ ー 間 の 資 源 ミ ッ ク ス に 差 異 が あ り ,土 地 無 し 村 民 の マ ン グ ロ ー
ブ の 利 用 割 合 が 土 地 持 ち 村 民 の 1.5 倍 か ら 4 倍 で あ っ た 。
ス テ ー ク ホ ル ダ ー 間 の 2 種 類 の 植 物 資 源 の ミ ッ ク ス の 同 異 と ,マ ン グ ロ ー
ブ植物資源の利用割合の高低から,資源は 4 つのグループにまとめられた。
Group 1. 過 去 , ス テ ー ク ホ ル ダ ー に 関 わ ら ず , 資 源 ミ ッ ク ス は 同 様
Subgroup 1A. 過 去 , マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 利 用 割 合 が 極 め て 高 い
・・・・・・燃 料 , 建 材 , 屋 根 葺 ・ 張 壁 材
Subgroup 1B. 過 去 , マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 利 用 割 合 が 低 い
・・・・・・医 薬
Group 2. 過 去 , ス テ ー ク ホ ル ダ ー に よ り , 資 源 ミ ッ ク ス が 異 な る
Subgroup 2A. 過 去 ,土 地 無 し 村 民 の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 利 用 割 合 が 非 常
に高い
・・・・・・毒 ・ 忌 避 剤 , 家 具
Subgroup 2B. 過 去 ,土 地 無 し 村 民 の 両 資 源 の 利 用 割 合 が 同 程 度 か ,マ ン
グローブ植物の利用割合がやや高い
・・・・・・結 束 材 , 副 食
- 136 -
第5章
過去,ステークホルダーに関わらず,
資源ミックスは同様
Subgroup. 1A
Subgroup. 1B
燃料
※
10
過去
建材
現在
過去
現在
過去
*
*
8
現在
過去
現在
*
*
6
**
4
2
0
*
LL LH
LL LH
高
* *
*
**
LL LH
LL LH
LL LH
LL LH
毒薬・
忌避剤
※
10
LL LH
過去
現在
LL LH
低
過去における土地無し村民のマングローブ利用割合
Subgroup. 2A
過去,ステークホルダーにより,
資源ミックスが異なる
医薬
屋根葺・張壁材
Subgroup. 2B
家具材
過去
現在
結束材
過去
現在
副食材
過去
*
* *
現在
* *
8
6
**
4
2
* *
0
LL LH
LL LH
LL LH
LL LH
LL LH
LL LH
LL LH
LL LH
※ 縦軸は利用頻度の割合
マングローブ植物資源
LL: 土地無し村民
非マングローブ植物資源
LH: 土地持ち村民
*: 購入する場合あり
非植物資源
Fig. 5.3. ステークホルダーごとの植物資源ミックスとその動態
( 2) 資 源 の 獲 得 と 利 用 実 態 の 変 容
現 在 ,マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 利 用 割 合 は ,土 地 無 し 村 民 が 屋 根 葺・張 壁
材 に 用 い る 場 合 を 除 き ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー に よ ら ず 全 て の 用 途 に お い て 低 下
し , 毒 ・ 忌 避 剤 と 家 具 材 に は 利 用 さ れ な く な っ た ( Fig. 5.3)。 主 要 な 資 源 と
- 137 -
第5章
し て 例 示 さ れ た マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 お よ び 非 植
物 資 源 と , そ の 獲 得 方 法 を Table 5.4 に 示 す 。
Table 5.4 ステークホルダー別の主な植物資源とその入手法方法
(A) 土地なし村民
用途区分
燃料
古今
過去
過去
現在
建材
屋根葺・張壁材
毒薬・忌避剤
**
AM
G
G
G
G
G
Bruguiera spp.①
Heritiera fomes
Xylocarpus moluccensis
Phoenix paludosa
G
G
G
G
G
G
G
B
Nypa fruticans
Nypa fruticans
C
B
C
B
過去
Clerodendrum inerme
Merope angulata
Acrostichum aureum
Caesalpinia bonduc
Mussaenda macrophylla
C
B,C,G
F,G
B
G
G
G
G
G
G
現在
Merope angulata
B,C,G G
過去
Sapium indicum
Amoora cucullata
B
B
過去
過去
現在
医薬
マングローブ植物資源
*
学名
PP
Heritiera fomes
G
Cynometra ramiflora
G
Ceriops decandra
G
Brownlowia tersa
G
Hibiscus tiliaceus
G
G
G
現在
家具材
過去
Xylocarpus moluccensis
Xylocarpus granatum
G
G
G
G
現在
結束材
過去
現在
副食材
過去
現在
Stenochlaena palustris
Flagellaria indica
Hibiscus tiliaceus
Hibiscus tiliaceus
Flagellaria indica
Stenochlaena palustris
Phoenix paludosa
Caesalpinia bonduc
Sarcolobus carinatus
Sonneratia caseolaris
Sonneratia apetala
Cayratia trifolia
Mussaenda macrophylla
Phoenix paludosa
Cayratia trifolia
Sarcolobus carinatus
Sonneratia caseolaris
Sonneratia apetala
G
G
G
G
G
G
G
B,C
B
B,G
B,G
B,C
G
B,C
B
B,G
B,G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
- 138 -
土地無し村民
非マングローブ植物資源
*
学名
PP
AM
Dipterocarpus alatus
Cocos nuciferae
Melastoma malabathricum
Syzygium oblatum
G
B,C
G
G
G
G
G
G
Areca catechu
Cocos nuciferae
Dipterocarpus alatus
G
G
G
B
B
B
Emblica officinalis
Tamarindus indica
Cassia alata
Tinospora cordifolia
Cassia fistula
Piper betle
Eupatorium cannabinum
Eupatorium odratum
Premna integrifolia
Ludisia discolor
Piper betle
Emblica officinalis
Eupatorium odratum
B,C
B,E,H
A
F,G
B,D,E,F
C
C,G,H
C
G
F,H
C
B,C
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
Derris elliptica
Cocos nuciferae
Derris elliptica
Cocos nuciferae
A
B
G
G
A
B
G
G
Lagerstroemia speciosa
G
G②
Dipterocarpus alatus
Artocarpus heterophyllus
Cocos nuciferae
G
G
G
B
B
B
Spatholobus listeri
Dendrocalamus brandisii
Calamus viminalis
Dendrocalamus brandisii
Calamus viminalis
G
G
G
G
G
G
G
G
B,G
B
Amomum corynostachyum B,C
Archidendron jiringa
B,C
Kyibaung
Tree fruits
Salacia chinensis
Amomum corynostachyum
Archidendron jiringa
Dendrocalamus sp.
Oxytenanthera albociliata
Kyibaung
Tree fruits
**
C
B
B
G
G
G
G
G
B,C
B,C
G
G
C
B
B,G
B,G
B,G
G
G
G
非植物資源
**
資源名
AM
Balm
Antibiotic
Multi-vitamin
Quinine
Stomach drugs
B
B
B
B
B
Fish poison
B
Plastic tape
B
第5章
Table 5.4 ステークホルダー別の主な植物資源とその入手法方法
(B) 土地持ち村民
用途区分
古今
燃料
過去
現在
マングローブ植物資源
学名
PP*
Heritiera fomes
G
Cynometra ramiflora
G
Ceriops decandra
G
Ceriops decandra
F
Hibiscus tiliaceus
G
AM**
G
G
G
B
G
土地持ち村民
非マングローブ植物資源
学名
PP*
Microcos paniculata
G
AM**
G
Dipterocarpus alatus
Cocos nuciferae
G
B,C
G
G
非植物資源
資源名
AM**
(Rice husk)
建材
Bruguiera spp.①
Heritiera fomes
Xylocarpus moluccensis
Avicennia officinalis
Kandelia candel
G
G
G
G
G
G
G
G
B
B
Cocos nuciferae
Dipterocarpus alatus
G
G
G
G,B
C
G
B
G
B
Melocanna baccifera
Melocanna baccifera
G
C
G
G
B,G
過去
Nypa fruticans
Nypa fruticans
Avicennia officinalis
Clerodendrum inerme
Merope angulata
Acrostichum aureum
Caesalpinia bonduc
Mussaenda macrophylla
C
B,C,G
F,G
B
G
G
G
G
G
G
Emblica officinalis
Tamarindus indica
Cassia alata
Tinospora cordifolia
Cassia fistula
Piper betle
Eupatorium cannabinum
Eupatorium odratum
Premna integrifolia
B,C
B,E,H
A
F,G
B,D,E,F
C
C,G,H
C
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
現在
Merope angulata
B,C,G G
Piper betle
Emblica officinalis
C
B,C
G
G
過去
Sapium indicum
Amoora cucullata
B
B
Derris elliptica
Cocos nuciferae
Cocos nuciferae
A
B
G
G
B
G
Lagerstroemia speciosa
G
G
Dipterocarpus alatus
Artocarpus heterophyllus
Lagerstroemia speciosa
G
G
G
G
B,G
B
過去
現在
屋根葺・張壁材
過去
現在
医薬
毒・忌避剤
G
G
現在
家具材
過去
Xylocarpus moluccensis
Xylocarpus granatum
G
G
G
G
現在
結束材
過去
現在
副食材
過去
現在
Hibiscus tiliaceus
Flagellaria indica
Stenochlaena palustris
Hibiscus tiliaceus
G
G
G
G
G
G
G
G
Spatholobus listeri
Dendrocalamus brandisii
G
G
G
G
Cocos nuciferae
Dendrocalamus brandisii
B
G
B
G
Phoenix paludosa
Caesalpinia bonduc
Sarcolobus carinatus
Sonneratia caseolaris
Sonneratia apetala
G
B,C
B
B,G
B,G
G
G
G
G
G
Amomum corynostachyum B,C
Archidendron jiringa
B,C
Kyibaung
Tree fruits
C
B
G
G
G
G
Phoenix paludosa
Caesalpinia bonduc
Sarcolobus carinatus
Sonneratia caseolaris
Sonneratia apetala
G
B,C
B
B,G
B,G
G
G
G
G
G
Amomum corynostachyum
Archidendron jiringa
Dendrocalamus sp.
Oxytenanthera albociliata
B,C
B,C
G
G
C
B
B,G
B,G
B,G
G
G
G
Kyibaung
Tree fruits
Zinc sheet
B
Balm
Antibiotic
Multi-vitamin
Quinine
Stomach drugs
B
B
B
B
B
DDT
Agrichemical
Pyrethrum coil
B
B
B
Plastic tape
B
3つの資源群中最も多用される資源群を影で示した。
被面接者が嗜好性や重要性を強調した資源は,利用頻度が低くとも記載した。
*PP: 植物体の部位。A: 植物全体, B: 種子, 果実, C: 葉, D: 樹液, E: 樹皮, F: 根, 塊茎, 球根, 地下茎, G: 髄, 茎, 幹, H: 花
**AM: 入手方法。B: 購入, G: 採集(無償)
①Bruguiera gymnorrhiza or Bruguiera sexangula .
②保全林内での違法伐採・採集
- 139 -
第5章
1A: 燃 料 , 建 材 , 屋 根 葺 ・ 張 壁 材
ス テ ー ク ホ ル ダ ー に 関 わ ら ず 燃 料 に は ,こ れ ま で 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 は ほ
と ん ど 用 い ら れ ず , Heritiera fomes, Cynometra ramiflora な ど , 高 木 の マ ン
グ ロ ー ブ 植 物 の 枝 条 が 採 集 さ れ て い た 。マ ン グ ロ ー ブ は 依 然 と し て 主 な 燃 料
で あ る が ,資 源 の 種 類 と 獲 得 方 法 は ス テ ー ク ホ ル ダ ー 間 で 異 な っ た 。す な わ
ち , 土 地 無 し 村 民 は 低 質 な Brownlowia tersa な ど を 採 集 し , 土 地 持 ち 村 民 は
良 質 と さ れ る Ceriops decandra の 根 を 購 入 し て い た 。ま た ,両 者 と も ホ ー ム
ガ ー デ ン の 落 枝 や Cocos nucifera の 中 果 皮 な ど の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 を 副 次
的に利用するが,土地無し村民はより多種類の植物を採集していた。
建 材 に お い て も , 過 去 ス テ ー ク ホ ル ダ ー に 関 わ ら ず H. fomes や Bruguiera
spp.な ど , 幹 が 通 直 な 高 木 の マ ン グ ロ ー ブ が 採 集 さ れ て い た 。 現 在 土 地 無 し
村 民 は ,廉 価 で あ る が 強 度 と 耐 久 性 に 劣 る Phoenix paludosa な ど の マ ン グ ロ
ー ブ と Areca catechu な ど の 非 マ ン グ ロ ー ブ を 購 入 し て い た 。 一 方 土 地 持 ち
村 民 は , や や 良 質 の Avicennia officinalis な ど の マ ン グ ロ ー ブ を 購 入 す る か ,
自 所 に 生 育 す る Dipterocarpus alatus な ど の 非 マ ン グ ロ ー ブ を 採 集 し て い た 。
屋 根 葺・張 壁 材 に は ,過 去 ,現 在 と も ス テ ー ク ホ ル ダ ー に 関 わ ら ず 圧 倒 的
に マ ン グ ロ ー ブ の Nypa fruticans が 用 い ら れ て お り , 土 地 無 し 村 民 は 購 入 ,
土地持ち村民は採集をしていた。
1B: 医 薬
ステークホルダーに関わらず,過去非マングローブ植物が主に用いられ,
主 要 な 資 源 の 数 も 他 の 用 途 と 比 べ 多 か っ た 。ま た ,植 物 体 の 複 数 の 部 位 が 資
源 と な る 植 物 が 多 か っ た 。現 在 は ,2 つ の ス テ ー ク ホ ル ダ ー と も に 市 販 薬 の
利 用 割 合 が 最 も 高 か っ た 。土 地 無 し 村 民 は ,割 合 は 低 い も の の ,現 在 で も 低
木 の マ ン グ ロ ー ブ の Merope angulata を 採 集 ・ 利 用 し て い た 。
2A: 毒 ・ 忌 避 剤 , 家 具 材
過 去 土 地 無 し 村 民 は ,マ ン グ ロ ー ブ 林 縁 種 の Sapium indicum の 果 実 を 採 集
し ,果 皮 を 魚 毒 と し て 頻 用 し い て い た が ,現 在 で は 希 少 と な っ た た め ,魚 毒
を 用 い ず 漁 撈 を 行 う か ,市 販 の 薬 品 を 利 用 し て い た 。一 方 ,土 地 持 ち 村 民 は
漁 撈 を ほ と ん ど 行 わ な い が ,過 去 ま れ に 非 マ ン グ ロ ー ブ の Derris elliptica を
魚毒とし漁を行ない,現在は農薬を水田やホームガーデンに用いていた。
家 具 材 と し て 最 も 高 品 質 の 資 源 は , 非 マ ン グ ロ ー ブ の 高 木 Lagerstroemia
speciosa で あ る が , 過 去 土 地 無 し 村 民 は , 主 に マ ン グ ロ ー ブ の Xylocarpus
moluccensis や X. granatum を 採 集 ・ 利 用 し て い た 。現 在 で は マ ン グ ロ ー ブ を
- 140 -
第5章
ま っ た く 利 用 せ ず , Dipterocarpus alatus や Artocarpus heterophyllus, Cocos
nucifera な ど , 非 マ ン グ ロ ー ブ の 2 級 品 を 購 入 し て い た 。 一 方 , 過 去 土 地 持
ち 村 民 は , ホ ー ム ガ ー デ ン か ら Lagerstroemia speciosa を 採 集 し て い た が ,
現在これを購入し,他の非マングローブを採集または購入し併用していた。
2B: 結 束 材 , 副 食
過 去 土 地 無 し 村 民 は ,結 束 材 に つ る 性 の Flagellaria indica や Stenochlaena
palustris な ど の 強 靭 性 の 高 い マ ン グ ロ ー ブ を 主 に 用 い , Spatholobus listeri
や Dendrocalamus brandisii な ど の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 を 副 次 的 に 利 用 し て い
た 。一 方 ,土 地 持 ち 村 民 も 同 様 の 植 物 を 用 い て い た が ,非 マ ン グ ロ ー ブ の 利
用 割 合 の 方 が 高 か っ た 。現 在 両 者 と も に ,プ ラ ス テ ィ ッ ク 製 品 を 中 心 と し た
非 植 物 資 源 の 利 用 割 合 が 最 も 高 い が ,土 地 無 し 村 民 の マ ン グ ロ ー ブ 利 用 割 合
は土地持ち村民の 2 倍で,これまでと同様の植物が採集されていた。
土 地 無 し 村 民 は ,か つ て 副 食 に マ ン グ ロ ー ブ 植 物 と 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 を
同 程 度 に ,土 地 持 ち 村 民 は ,非 マ ン グ ロ ー ブ を 主 に 採 集・利 用 し て い た 。主
要 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 数 は ,土 地 持 ち 村 民 よ り 土 地 無 し 村 民 の 方 が 多 か っ
た 。現 在 両 者 と も に ,マ ン グ ロ ー ブ の 利 用 割 合 は 低 下 し ,主 に 非 マ ン グ ロ ー
ブ の 購 入 や 採 集 を 行 っ て い た 。主 要 な 非 マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 数 は ,両 者 と も
過去に比べ現在の方が多かった。
5.4 考 察
5.4.1 植 物 資 源 と 資 源 供 給 地 の 基 本 的 性 格
過 去 に お け る 資 源 ミ ッ ク ス は ,マ ン グ ロ ー ブ 林 が 減 少 す る 以 前 の ,伝 統 的
な 資 源 の 選 択・利 用 状 態 を 表 し て い る 。資 源 の 用 途 の う ち ,グ ル ー プ 1 の 燃
料 ,建 材 ,屋 根 葺 ・ 張 壁 材 ,結 束 材 ,医 薬 に お い て は ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー に
よ る 資 源 ミ ッ ク ス の 差 異 は 無 か っ た ( Fig. 5.3)。 し た が っ て , こ れ ら の 用 途
の 資 源 ミ ッ ク ス は ,村 人 に と っ て の 資 源 の 普 遍 的・基 本 的 な 性 格 を 反 映 し て
い る 。 そ こ で , 各 用 途 の 有 用 種 数 , 主 な 植 物 資 源 と 入 手 方 法 ( Fig. 5.1; 5.2,
Table 5.4), お よ び グ ル ー プ 1 の 過 去 の 資 源 ミ ッ ク ス ( Fig. 5.3) か ら , 植 物
資 源 お よ び 資 源 供 給 地 と し て の「 マ ン グ ロ ー ブ 林 」と「 ホ ー ム ガ ー デ ン 」の
基本的な性格と役割を考察する。
非 マ ン グ ロ ー ブ の 有 用 種 は 対 象 と し た 129 種 中 124 種 で ,そ の 数 は マ ン グ
- 141 -
第5章
ロ ー ブ の 有 用 種 に 比 べ 2 倍 以 上 で あ り ,1 有 用 種 あ た り の 平 均 用 途 数 も マ ン
グ ロ ー ブ を 上 回 っ て い た 。同 様 な 生 態 環 境 に あ る ベ ン ガ ル デ ル タ の ホ ー ム ガ
ー デ ン で は 125 種 の 植 物 資 源 が , 1 有 用 種 あ た り 平 均 2.5 の 用 途 を 持 つ ( 吉
野 ・ 安 藤 , 1999)。 Ashe Mayan 村 の 非 マ ン グ ロ ー ブ の 有 用 種 数 は , こ れ と 非
常 に 近 似 し , 平 均 用 途 数 も 2.63 と ほ ぼ 同 等 で あ っ た 。 吉 野 ら の 事 例 で は ,
区 分 し た 用 途 の 数 が 本 研 究 よ り 多 く ,土 壌 保 護 な ど の 間 接 的 利 用 を 含 め る な
ど 方 法 が 相 違 し ,有 用 種 の 多 用 途 性 を 直 接 比 較 す る の は 困 難 で あ る 。し か し ,
エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の 村 人 は ,ベ ン ガ ル デ ル タ と 同 様 に 様 々 な 植 物 の 特 質
を 把 握 し ,多 重 的 利 用 の 体 系 を 作 り 上 げ て お り ,ホ ー ム ガ ー デ ン は 生 活 と の
結びつきの深い多様な資源の供給地であると言える。
伝 統 的 な 社 会 で は ,住 居 ,道 具 ,日 用 品 な ど の 物 質 文 化 に お い て ,野 生 お
よ び 栽 培 植 物 は 必 須 の も の で あ る( Cotton, 1996)。南 米 や ア フ リ カ の 伝 統 社
会 に お け る 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー で は ,こ の よ う な 材 料 資 源 の 数 が ,全 て
の 植 物 の 用 途 数 の 半 数 を 超 え て い る ( Milliken et al., 1992; Medley, 1993;
Phillips & Gentry, 1993a)。 本 研 究 で は , マ ン グ ロ ー ブ の 材 料 資 源 の 種 数 比 率
は 50% と 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 よ り 高 く , 特 に 結 束 材 に お い て そ の 差 は 顕 著
で あ っ た ( Fig. 5.2)。 結 束 材 は , 日 用 品 や 農 具 ・ 漁 具 な ど の 製 作 の ほ か , 住
居 や フ ェ ン ス な ど 構 造 物 に も 多 用 さ れ る 。ま た ,過 去 ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー に
関 わ ら ず ,燃 料 お よ び 建 材 ,屋 根 葺・張 壁 材 な ど の 住 居 建 築 資 材 と し て の マ
ン グ ロ ー ブ 植 物 の 利 用 割 合 が 極 め て 高 く ,現 在 で も 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 を 上
回 っ て い た ( Fig. 5.3)。 マ ン グ ロ ー ブ は 家 屋 の 柱 ・ 梁 な ど の 構 造 材 や , 棚 ・
桟 ,壁 面 ・ 床 面 な ど ,ほ と ん ど の 部 材 に 観 察 さ れ る 。し た が っ て ,村 人 に と
っ て マ ン グ ロ ー ブ 林 は ,日 常 生 活 の 長 期 的 基 盤 で あ る「 住 」に 関 わ る 材 料 資
源 と「 食 」に 関 わ る 燃 料 の 供 給 地 と し て の 基 本 的 性 格 を 持 っ て い る 。な か で
も Heritiera fomes は 複 数 用 途 に お い て 中 核 的 な 役 割 を 果 た し て い た と 言 え
る。
一 方 ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 中 で は ,食 用 と 薬 毒 用 の 有 用 種 が 特 に 多
か っ た ( Fig. 5.1)。 ま た , 食 用 の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 有 用 種 数 比 率 は , マ
ン グ ロ ー ブ に 比 べ て 際 立 っ て 高 か っ た ( Fig. 5.2)。 さ ら に , 医 薬 に お け る 非
マングローブ植物資源の利用割合は,過去において,ホームガーデンの所
有 ・ 非 所 有 に 関 わ ら ず 極 め て 高 く ( Fig. 5.3), 主 要 な 資 源 の 数 も 最 大 で あ っ
た ( Table 5.4A; 5.4B)。 し た が っ て , ホ ー ム ガ ー デ ン は , 村 人 が 「 生 物 と し
て の 肉 体 を 維 持 す る た め の 資 源( 小 林 , 1994)」の 供 給 地 と し て の 基 本 的 性 格
を持っている。
- 142 -
第5章
5.4.2 村 落 内 の 重 層 性 と 資 源 供 給 地 の 役 割
Ashe Mayan 村 で は , ス テ ー ク ホ ル ダ ー の 間 で , 生 業 構 造 , 購 買 力 , 資 源
の 利 用 権 な ど の 属 性 が 異 な る 。土 地 持 ち 村 民 の 主 な 生 業 は ,樹 木 作 物 の 生 産
を 中 心 に し た ホ ー ム ガ ー デ ン の 経 営 で あ る 。隣 接 す る 潮 間 帯 の 土 地 を 所 有 す
る 場 合 が 多 く ,ニ ッ パ ヤ シ の 栽 培 も 行 う 。購 買 力 は 比 較 的 高 く ,所 有 地 に 生
育する植物資源全般を利用する権利を有している。一方,土地無し村民は,
小 規 模 な 漁 撈 や カ ニ 採 り と 賃 金 労 働 農 業 を 複 合 的 に 営 み ,購 買 力 は 比 較 的 低
い 。親 戚 な ど の ホ ー ム ガ ー デ ン 内 の 一 角 に 小 さ な 家 屋 を 建 て て 住 み ,土 地 に
生 育 す る 植 物 資 源 は ,地 権 者 の 了 解 の も と 利 用 す る か ,金 銭 や 労 働 な ど の 対
価により入手しなければならない。
ま た ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー 間 の 属 性 の 違 い は ,両 者 の マ ン グ ロ ー ブ 林 へ の ア
ク セ ス 頻 度 に 差 異 を 生 じ さ せ て い る 。土 地 無 し 村 民 は ,燃 料 材 や カ ニ の 採 捕
な ど の た め ,ア ク セ ス 頻 度 が 高 い 。一 方 土 地 持 ち 村 民 は ,燃 料 材 の 採 集 を 土
地 無 し 村 民 に 行 わ せ ,か つ 多 様 な 資 源 を ホ ー ム ガ ー デ ン か ら 得 ら れ る こ と か
ら,アクセス頻度は低い。
過 去 ,土 地 無 し 村 民 は 伝 統 的 な 漁 撈 の 魚 毒 や 家 具 材 に ,無 償 の マ ン グ ロ ー
ブ を 利 用 し て い た ( Table 5.4A)。 一 方 , 土 地 持 ち 村 民 は 漁 撈 を 生 業 と せ ず ,
家 具 材 に は 自 所 の 高 品 質 な 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 が 得 ら れ た( Table 5.4B)。
し た が っ て , 2A の 資 源 に お け る ス テ ー ク ホ ル ダ ー 間 の 資 源 ミ ッ ク ス の 差 異
( Fig. 5.3) は , 両 者 の 属 性 の 違 い に よ り 生 じ た と 言 え る 。 マ ン グ ロ ー ブ 林
は ,社 会・経 済 的 に 脆 弱 な 土 地 無 し 村 民 の 生 業 を 支 え ,生 計 を 安 定・維 持 さ
せる役割を果たしていた。
結 束 材 は 植 物 体 の 簡 単 な 加 工 で 得 ら れ る た め ,通 常 ,利 用 す る 場 所 で 採 集
さ れ る 。そ の 結 果 ,マ ン グ ロ ー ブ 林 へ の ア ク セ ス 頻 度 が 高 い 土 地 無 し 村 民 は ,
過 去 マ ン グ ロ ー ブ を 頻 用 す る こ と に な っ た 。ま た ,野 生 の 食 用 資 源 の 多 く は
非 常 食 ・ 救 荒 食 で あ り , 食 生 活 へ の 寄 与 は 少 な い ( Cotton, 1996) が , 土 地
無 し 村 民 は マ ン グ ロ ー ブ の 食 用 資 源 を 採 集 す る 機 会 が 多 か っ た 。し た が っ て ,
2B の 資 源 に お け る 両 者 の 資 源 ミ ッ ク ス の 差 異 ( Fig. 5.3) は , マ ン グ ロ ー ブ
林 へ の ア ク セ ス 頻 度 の 差 に よ り 生 じ て い た と 言 え る 。土 地 無 し 村 民 が 示 し た ,
副食となる主要なマングローブ資源の数が,土地持ち村民より多かった
( Table 5.4A; 5.4B)の も ,同 じ 理 由 に よ る と 考 え ら れ る 。た だ し ,土 地 無 し
村 民 の マ ン グ ロ ー ブ 利 用 割 合 が , 2A に お い て ほ ど 高 く な か っ た ( Fig. 5.3)
の は , 彼 ら も 地 権 者 の 了 解 の も と 2B の 資 源 を ホ ー ム ガ ー デ ン か ら 採 集 で き
- 143 -
第5章
たからだと解釈できる。
農 漁 具 の 維 持 に 用 い る 強 靭 性 の 高 い マ ン グ ロ ー ブ の 結 束 材 は ,土 地 無 し 村
民 の 生 業 活 動 に 役 割 を 果 た し て い た 。ま た ,付 随 的 に 採 集 す る 食 用 資 源 で あ
っ て も ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 無 償 性 は ,購 買 力 の 低 い 土 地 無 し 村 民 の 生 計 維
持 に 寄 与 し て い た と 言 え る 。長 期 間 継 承 さ れ て き た 日 常 生 活 空 間 外 で の 生 物
資 源 の 採 集 に は ,生 活 の 変 化 と 潤 い の 選 択 肢 と し て の 社 会・文 化 的 な 重 要 性
が あ る ( 松 井 , 1998; 2004)。 マ ン グ ロ ー ブ の 食 用 資 源 利 用 に は , こ の よ う な
意味もあると推察され,今後の研究課題の一つである。
5.4.3 資 源 利 用 の 変 容 と 人 々 へ の 影 響
マ ン グ ロ ー ブ の 燃 料 ,建 材 ,家 具 材 の 減 少 に 対 し て 土 地 無 し 村 民 は ,利 用
す る マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 変 更 と 多 様 化 ,お よ び 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 へ の 依 存
割 合 の 増 加 に よ り 対 応 し て い る ( Fig. 5.3, Table 5.4A)。 低 質 な マ ン グ ロ ー ブ
燃 料 へ の 変 更 に よ る 薪 量 の 増 加 と ,多 様 な 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 採 集 の た め ,
採集時間と労力が増加している。建材と家具材に用いる資源の質が低下し,
家 屋 の 小 型 化 と 耐 久 性 の 低 下 ,お よ び 家 財 の 質 の 低 下 を 招 い て い る 。建 材 と
家 具 材 は 全 て 有 償 と な り ,家 計 負 担 の 増 加 を 引 き 起 こ し て い る 。一 方 ,土 地
持 ち 村 民 も ,燃 料 を 他 の マ ン グ ロ ー ブ に 変 更 し た が ,資 源 の 質 は 高 く 獲 得 は
購 入 に よ っ て い る 。ま た 全 て を マ ン グ ロ ー ブ に 依 存 し て い た 建 材 は ,一 部 が
自 所 の 非 マ ン グ ロ ー ブ に 代 替 さ れ た ( Fig. 5.3, Table 5.4B)。 ス テ ー ク ホ ル ダ
ー 間 の こ の 様 な 対 応 の 差 異 は ,両 者 の 購 買 力 と ,代 替 資 源 の 利 用 権 の 有 無 に
よ り 生 じ て い る 。マ ン グ ロ ー ブ の 燃 料 ,建 材 ,家 具 材 の 減 少 は ,経 済 力 が 弱
く ホ ー ム ガ ー デ ン を 持 た な い 土 地 無 し 村 民 の ,労 働 や 生 活 に 負 の 変 化 を 招 い
ている。
医 薬 お よ び 結 束 材 に お い て ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー に 関 わ ら ず 非 植 物 資 源 の 利
用 割 合 が 最 も 高 い の は ,購 入 可 能 と な っ た 工 業 製 品 を 選 択 し て い る た め で あ
る ( Fig. 5.3, Table 5.4A; 5.4B)。 ま た , 土 地 無 し 村 民 に よ る マ ン グ ロ ー ブ 利
用 割 合 が 土 地 持 ち 村 民 よ り 高 い の は ,無 償 性 や 生 業 へ の 高 い 適 合 性 を 持 つ 種
が 存 在 す る た め だ と 言 え る 。一 方 ,毒・忌 避 剤 に お い て 非 植 物 資 源 の 利 用 割
合 が 最 も 高 く な っ た 理 由 は ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー に よ り 異 な る 。土 地 持 ち 村 民
の 場 合 は ,農 薬 の 利 用 を 積 極 的 に 選 択 し た こ と ,生 業 選 択 が 限 ら れ る 土 地 無
し 村 民 の 場 合 は ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 減 少 に よ り 伝 統 漁 撈 の 放 棄 を 余 儀 な く
されたことによる。
副 食 に お け る ス テ ー ク ホ ル ダ ー 双 方 の 資 源 ミ ッ ク ス の 変 化 は ,マ ン グ ロ ー
- 144 -
第5章
ブ 林 訪 問 頻 度 の 低 下 と ,果 実 や 筍 な ど の ホ ー ム ガ ー デ ン の 資 源 の 種 類 の 増 加
( Table 5.4A; 5.4B)に よ る と 解 釈 で き る 。し か し ,土 地 無 し 村 民 の マ ン グ ロ
ー ブ 利 用 割 合 は 依 然 土 地 持 ち 村 民 よ り 高 く ,資 源 の 無 償 性 は 現 在 で も 生 計 維
持に意味を持つと言える。
建 材 や 家 具 材 に お け る ,資 源 の 減 少 に 対 す る 土 地 持 ち 村 民 の 対 応 は ,ホ ー
ムガーデンの持つマングローブ林に対する資源供給の上での代替機能を示
し て い る 。彼 ら の 生 活 の 質 に 劣 化 が 見 ら れ な い の は ,ホ ー ム ガ ー デ ン の 代 替
機能と経済力により,マングローブ林の減少に順応しているためである。
5.5 ま と め
1. 2003 年 か ら 2005 年 に わ た り ,ミ ャ ン マ ー の エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ 海 岸 帯
の 浜 堤 上 に あ る Ashe Mayan 村 で , マ ン グ ロ ー ブ 林 と ホ ー ム ガ ー デ ン の 植 物
資 源 利 用 と そ の 変 化 に 関 す る 調 査 を 行 っ た 。有 用 な マ ン グ ロ ー ブ 植 物 と 非 マ
ン グ ロ ー ブ 植 物 の イ ン ベ ン ト リ ー の 作 成 ,過 去 お よ び 現 在 の マ ン グ ロ ー ブ 植
物 ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 ,非 植 物 の 資 源 ミ ッ ク ス を ,ホ ー ム ガ ー デ ン の 所 有・
非所有というステークホルダー別のインタビューにより把握した。
2. 有 用 種 と し て ,マ ン グ ロ ー ブ 植 物 50 種 と ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 124 種 が
イ ン ベ ン ト リ ー さ れ た 。各 用 途 の 有 用 種 数 を 合 算 し た「 有 用 種 数 」は ,前 者
が 108 種 ,後 者 が 326 種 で ,特 に 薬 毒 用 と 食 用 の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 が 多 か
っ た 。 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 1 有 用 種 あ た り の 平 均 用 途 数 は 2.63 と , 多 重
的な利用が確認された。
3. マ ン グ ロ ー ブ 林 減 少 以 前 の , ス テ ー ク ホ ル ダ ー 間 の 資 源 ミ ッ ク ス の 同 異
と マ ン グ ロ ー ブ 利 用 割 合 の 高 低 か ら ,資 源 用 途 は 4 つ の グ ル ー プ に ま と め ら
れ た 。 ス テ ー ク ホ ル ダ ー に 普 遍 的 に , 1) マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 が 中 核 的 役
割 を 担 う 燃 料 材 , 建 材 , 屋 根 葺 ・ 張 壁 材 , 2) 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 が 中
核 的 役 割 を 担 う 医 薬 。 土 地 無 し 村 民 に 特 異 的 に , 3) マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源
の 役 割 が 大 き い 毒 ・ 忌 避 剤 , 家 具 , 4) マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 の 役 割 が あ る
結束材,副食。
4. マ ン グ ロ ー ブ 林 の 基 本 的 性 格 は , 日 常 生 活 の 長 期 的 基 盤 と な る 住 居 や 燃
料 の 供 給 地 で あ り ,中 核 的 な 資 源 は Heritiera fomes で あ っ た 。マ ン グ ロ ー ブ
の魚毒や結束材は,特異的に土地無し村民の生業の維持に,家具材や建材,
- 145 -
第5章
副食材は家計の維持に貢献してきた。
5. マ ン グ ロ ー ブ 林 の 減 少 に よ り , 土 地 無 し 村 民 は , 生 活 の 質 の 低 下 と 家 計
負 担 の 増 大 , 生 活 様 式 の 変 更 を 余 儀 な く さ れ た 。 中 核 的 な 資 源 の H. fomes
の 燃 料 材 と 建 材 が 利 用 困 難 に な っ た こ と が ,生 活 の 質 の 低 下 と 家 計 負 担 の 増
大 に 影 響 し て い た 。一 方 土 地 持 ち 村 民 は ,自 所 の 非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 と
経済力を活用し,マングローブ林減少に順応している。
6. 今 後 マ ン グ ロ ー ブ 林 の 減 少 が 進 ん だ 場 合 , 社 会 ・ 経 済 的 に 脆 弱 な 土 地 無
し村民の生活に,さらなる負の変化が起きると考えられる。
- 146 -
第6章
マングローブの資源性 2
−資源化の様態と変容−
第6章
6.1 緒 言
こ れ ま で 研 究 地 域 の マ ン グ ロ ー ブ 林 は ,首 都 圏 住 民 の 燃 料 の 供 給 源 と し て
扱 わ れ ,評 価 に 関 わ る 情 報 は 面 積 に 集 約 さ れ 把 握 さ れ て き た( Tan Chein Hoe,
1952; Maung Maung Than & Phone Htut, 2003)。 市 場 で 扱 わ れ な い 多 様 な 非 木
材 林 産 物 の 地 域 的 な 価 値 や ,種 組 成 を 反 映 さ せ た 森 林 の 資 源 的 価 値 は 明 ら か
に さ れ て こ な か っ た 。ミ ャ ン マ ー 林 業 の 森 林 保 続 思 想 は ,木 材 収 穫 の 保 続 思
想 で あ り ,地 域 住 民 の 生 活 向 上 に つ な が る ト ー タ ル な 森 林 環 境 保 続 の 意 味 で
は な か っ た( 樫 尾 , 1998)。し た が っ て ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の そ れ ぞ れ の 植 物 が
持 つ 機 能 や 地 域 住 民 に と っ て の 資 源 的 役 割 を ,面 積 的 把 握 に 変 わ る 別 の 手 法
で再評価し,修復と保全の意味づけを行なう必要がある。
本 章 の 第 1 の 目 的 は ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 林 の ,地 域 に
お け る 資 源 的 価 値 を 明 ら か に す る こ と で あ る 。そ の た め に ,第 5 章 に お い て
構 築 し た 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー に 基 づ き ,マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 素 材 と し て
の 特 性 と 資 源 化 の 様 態 の 関 係 を 具 体 的 に 明 ら か に す る 。素 材 の 特 性 は ,生 態
的 性 質 の 表 出 で あ る 生 育 形 と 物 理・化 学 的 な 特 徴 を 反 映 す る 樹 体 の 部 位・器
官から捉え,利用者側の要求・利用との関係を具体的に検証する。
第 2 の 目 的 は ,住 民 に よ る 資 源 化 の 様 態 を 通 し た マ ン グ ロ ー ブ 林 の 評 価 と ,
そ の 変 容 の 定 量 的 な 把 握 あ る 。資 源 の 定 量 化 研 究 と し て ,林 産 物 の 重 要 性 の
順 位 付 け や 依 存 度 の 分 析 が あ げ ら れ る ( Cotton, 1996; 佐 藤 , 2002)。 順 位 付
け 研 究 に お い て は ,数 量 化 と 交 差 証 明 に 用 い る デ ー タ 収 集 に 時 間 と 労 力 を 要
す る ( 例 え ば , Martin, 1995)。 ま た , 依 存 度 の 定 義 は 研 究 者 に よ り 異 な り ,
研 究 は 極 め て 少 な い ( 佐 藤 , 2002)。 資 源 は ,「 人 間 の 望 み , 能 力 や 環 境 の 評
価 な ど の 間 に 存 在 す る 機 能 的 関 連 性( Zimmermann,1951)」で あ る 。本 章 に
お い て は ,「 望 み や 能 力 」 の 発 現 と し て の 採 集 ・ 利 用 に 着 眼 し , 木 材 林 産 物
および非木材林産物を共通の手法により扱った。
第 3 の 目 的 は ,地 域 的 な 資 源 化 の あ り 方 と 変 容 に 基 づ き ,修 復 と 持 続 的 利
用 に 向 け た 生 態 研 究 の 対 象 と な る「 管 理 上 の 注 目 種 」を 抽 出 し ,そ の 群 集 を
示すことである。保全の優先順位を決定する基準として,特異性,脅威度,
有 用 性 が あ げ ら れ て い る( プ リ マ ッ ク・小 堀 , 1997)。脅 威 度 の 1 指 標 で あ る
絶 滅 確 率 の 査 定 に は ,厳 密 な 保 全 生 物 学 的 な デ ー タ が 必 要 で あ る が ,研 究 地
域 に は デ ー タ の 蓄 積 が な い 。本 研 究 に お け る 指 標 は ,脅 威 度 を「 採 集 活 動 か
ら 捉 え た 資 源 の 変 容 」, 有 用 性 を 「 利 用 頻 度 と , イ ン ベ ン ト リ ー に 基 づ く 多
用 性 ,嗜 好 性 」と し た 。比 較 的 簡 便 で 迅 速 に 評 価 が 行 え ,管 理 主 体 と な る べ
き 住 民( UNEP, 2000)の 資 源 利 用 実 態 に 基 づ く 点 で ,実 用 的 か つ 妥 当 な 新 た
- 148 -
第6章
な試みである。なお,資源価値の評価基準には未解決の部分がある(鈴木,
2006)こ と か ら ,優 先 順 位 に 代 え て 本 論 文 に お い て は 保 全・管 理 上 の「 注 目
度 合 い 」,「 注 目 す べ き 種 」 と し た 。
6.2 研 究 方 法
6.2.1 調 査 地
エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ 海 岸 帯 の Ashe Mayan 村 で あ る ( Fig. 3.11)。
6.2.2 調 査 ・ 解 析 方 法
( 1) 素 材 特 性 と 資 源 化
第 5 章 に お い て 構 築 し た 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー ( Table 5.3) を ,「 植 物
の 生 育 形 」 お よ び 「 植 物 体 の 部 位 」 と ,「 用 途 別 の 有 用 種 数 」 を 軸 と し て 2
つ の 総 括 表 に 集 約 し た 。こ の 際 ,有 用 種 数 に 対 す る 部 位 ご と の 有 用 種 数 の 比
率 を「 部 位 別 資 源 化 率 」と し た 。利 用 部 位 か ら 用 途 の 類 型 化 を 行 い ,生 育 形
とインベントリー情報から用途別のマングローブの資源化の様態を検証し
た。
( 2) ア ク セ ス ・ 利 用 と そ の 動 態
マ ン グ ロ ー ブ 資 源 へ の ア ク セ ス と 利 用 頻 度 ,お よ び そ の 時 間 動 態 の 把 握 を
行なうとともに,過去および現在の資源採集地を明らかにした。
調 査 は ,イ ン タ ビ ュ ー に よ り 行 っ た 。被 面 接 者 は ,第 5 章 と 同 一 の キ ー ・
イ ン フ ォ ー マ ン ト の う ち の 7 名 で ,3 名 と 4 名 か ら な る 2 グ ル ー プ を 構 成 し ,
グ ル ー プ イ ン タ ビ ュ ー を 実 施 し た 。マ ン グ ロ ー ブ 資 源 へ の ア ク セ ス と 利 用 頻
度については,
「 過 去 」と「 現 在 」を 区 別 し ,以 下 の 3 つ の 指 標 に つ い て Table
6.1 に 示 し た 基 準 に よ り 程 度 を 区 分 し て 聞 き 取 り を 行 っ た 。な お ,
「 過 去 」と
は 概 ね 1960 年 代 初 頭 以 前 の 状 況 と し た 。
①時間距離:徒歩や手漕ぎ舟での平均到達所要時間。5 段階に区分。
② 探 索 時 間:採 集 地 に お い て 目 的 に 見 合 う サ イ ズ や 状 態 の 資 源 を 探 す の に
要する時間。4 段階に区分。
③ 「 利 用 頻 度 」: 一 定 期 間 内 の 利 用 回 数 。 5 段 階 に 区 分 。
- 149 -
第6章
Table 6.1 指標とその基準およびレベル区分
指標
時間距離
探索時間
利用頻度
基準
半日以上を要する
3時間から半日を要する
1時間から3時間を要する
1時間以内の村落近接地
村落内
見つからない/見つけるのは極めて困難
探索に30分以上を要する
探索に5分から30分を要する
5分以内で見つかる
利用しない
ほとんど利用しない
月に1回ないし2回程度利用する
週に1回ないし2回程度利用する
ほぼ毎日利用する
レベル区分
遠隔
近傍
長時間
短時間
低
中
高
解析は,村人が利用できる相対的な資源の量とも言える「資源アクセス」
と ,伝 統 的 な 生 活 と の 関 わ り が ど の 程 度 密 接 か を あ ら わ す「 利 用 頻 度 」を 軸
と し て ,個 々 の 植 物 資 源 を 位 置 づ け ,時 間 動 態 を 明 ら か に し た 。資 源 ア ク セ
ス に は ,「 時 間 距 離 」 と 「 探 索 時 間 」 を 要 素 と し て 用 い た 。 各 指 標 の 程 度 を
Table 6.1 に て レ ベ ル 区 分 し ,過 去 お よ び 現 在 に お け る 位 置 づ け を チ ャ ー ト 化
した。
( 3) 管 理 注 目 種 の 抽 出
注 目 種 の 順 位 付 け の た め の 評 価 に は ,定 量 指 標 と し て「 資 源 ア ク セ ス の 低
下 」と「 利 用 頻 度 の 低 下 」を ,定 性 指 標 と し て「 資 源 の 多 用 度 」お よ び「 資
源 の 質 」 を 用 い た 。4 つ の 指 標 に 以 下 の 得 点 を 適 用 し , 合 計 得 点 に よ り 資 源
を順位付けし管理上の注目種を抽出した。
① 資 源 ア ク セ ス の 低 下:資 源 の 位 置 づ け チ ャ ー ト に お い て ,下 位 の カ テ ゴ
リーへの移行程度。1 段階の移行は 1 点,2 段階の移行は 2 点。
②利用頻度の低下:資源アクセスと同様。
③資源の多用度:8 用途区分中,3 用途以上の場合 1 点。
④ 資 源 の 質:中 核 的 な 用 途 に お い て ,最 も 質 が 高 い と の 回 答 が あ っ た 場 合
1 点。
- 150 -
第6章
6.3 結 果
6.3.1 素 材 特 性 と 資 源 化
「 植 物 の 生 育 形 と 用 途 別 種 数 」を Table 6.2 に ,「 植 物 体 の 部 位 と 用 途 別 の
有 用 種 数 」 を Table 6.3 に そ れ ぞ れ 示 す 。
Table 6.2 植物の生育形・用途別の有用種数
科数
種数
高木種
低木種
ヤシ・シダ類
草本植物
つる植物
対象種
有用種
51
77
30
17
6
5
19
28
50
27
9
3
1
10
用途別種数
燃料
建材
工芸材
結束材
6
6
5
1
0
0
0
7
14
14
0
0
0
0
14
21
19
1
1
0
0
9
10
1
2
1
0
6
屋根葺・張壁材
平均
食用
薬毒用
その他
11
15
6
1
3
0
5
20
26
11
6
3
1
5
11
15
10
1
1
0
3
1
1
0
0
1
0
0
積算種数 用途数/種
108
66
12
10
1
19
2.16
2.44
1.33
3.33
1.00
1.90
※燃料は主要なもののみカウントした
Table 6.3 植物体の部位別・用途別の有用種数
利用部位
種数
幹・枝(茎)
葉
花
果実・種子
根・地下茎
39
29
10
29
11
部位別
資源化率(%)
78.0
58.0
20.0
58.0
22.0
資源の延数
用途別種数
燃料
建材
8
0
0
0
1
9
15
0
0
0
0
15
工芸材
20
2
0
0
4
26
結束材
8
1
0
0
1
10
屋根葺・張壁材
0
1
0
0
0
1
食用
1
8
5
10
0
24
薬毒用
10
13
2
10
6
41
その他
2
6
6
10
0
24
積算数
64
31
13
30
12
150
※燃料は主要なもののみカウントした
過 去 お よ び 現 在 に お い て 利 用 実 績 が あ っ た の は , イ ン タ ビ ュ ー 対 象 77 種
の う ち の 65% に 当 た る 28 科 50 種 で あ っ た ( Table 6.3)。 用 途 別 の 有 用 種 数
は , 薬 用 が 26 種 , 工 芸 材 が 21 種 , 食 用 と 建 材 が そ れ ぞ れ 15 種 お よ び 14
種 と , 延 べ 108 有 用 種 の 中 で 上 位 で あ っ た 。 一 方 , 結 束 材 は 10 種 , 燃 料 材
は 6 種,屋根葺・張壁材は 1 種と少なかった。
幹 ・ 枝 ( 茎 ) な ど が 資 源 と さ れ る の は 39 種 で , 資 源 化 率 は 78% と 最 も 高
か っ た 。 葉 お よ び 果 実 ・ 種 子 に お い て は , そ れ ぞ れ 29 種 で 58% で あ っ た 。
根 ・ 地 下 茎 お よ び 花 で は , そ れ は そ れ ぞ れ 11 種 ・ 22% , 10 種 ・ 20% で 他 の
部位と比較して低かった。
燃料材
6 種 の う ち Brownlowia tersa 以 外 す べ て 高 木 種 で , Cynometra ramiflora,
Heritiera fomes,Ceriops decandra な ど の 幹 や 枝 の う ち ,副 木( 直 径 ∼ 5 cm。
- 151 -
第6章
以 下 同 様 。) や 小 径 木 ( 5∼ 10 cm) が 利 用 さ れ て い た 。 研 究 地 で は , 特 に 火
力 が 強 く 火 持 ち の 良 い C. ramiflora と H. fomes が 嗜 好 さ れ て い た 。 ま た , C.
decandra は , 幹 の う ち 副 木 サ イ ズ が 菜 園 用 の つ る 支 柱 な ど に 1∼ 2 年 利 用 さ
れ た 後 ,薪 と し て 再 利 用 さ れ て い た 。し か し ,近 年 ,伐 採 後 の 根 を 掘 り 出 し
て 燃 料 に す る こ と も 一 般 的 に な っ て い る 。ほ と ん ど の 木 本 種 と ,乾 燥 さ せ た
Nypa fruticans や Phoenix paludosa の 葉 柄 や 葉 軸 も ,燃 料 と し て 利 用 可 能 で あ
る が ,伝 統 的 な 日 常 生 活 で は ,燃 料 の 質 か ら 特 定 の 種 が 優 先 的 に 用 い ら れ て
おり,本研究では主要な燃料のみを扱った。
建材
14 種 の す べ て が 高 木 種 で , 幹 が 利 用 さ れ て い た 。 柱 に は Heritiera fomes,
Bruguiera spp., Rhizophora apiculata な ど の 樹 木 の 中 径 木 ( 10∼ 15 cm) お よ
び 大 径 木( 15 cm∼ ),梁 に は 小 径 木 が ,床 に は 板 に 製 材 さ れ た Xylocarpus spp.,
Sonneratia spp.な ど が 好 ま れ , 用 い ら れ て い た 。
工芸材
工 芸 材 の 21 種 は ,低 木 種 の Pandanus foetidus と ヤ シ 類 の Phoenix paludosa
を 除 く 19 種 が 高 木 種 で あ っ た 。利 用 部 位 で は 26 の 資 源 の う ち 幹・枝 を 用 い
る も の が 20 種 と 多 か っ た 。 材 は 加 工 さ れ , 漁 具 や 小 舟 の 部 材 , 農 具 な ど の
「 生 業 」,家 屋 や 小 屋 の 部 材 ,家 具 な ど の「 住 ま い 」,食 器 ・ 調 理 具 ,履 物 な
ど の 「 日 用 生 活 」 に 広 く 用 い ら れ て い た 。 Heritiera fomes の 材 は , 小 舟 の 部
材 や 特 有 の 漁 法 に 関 係 す る 漁 具 ,あ る い は 高 温 で 湿 っ た モ ヒ ン ガ( ビ ル マ 蕎
麦 )の 生 地 を 緬 に 押 し 出 す「 梃 子 」と し て 用 い ら れ て き た 。Amoora cucullata
の 材 は 小 舟 の 櫂 の 支 柱 に 利 用 さ れ , 家 具 材 と し て Xylocarpus granatum や H.
fomes の 幹 や 枝 が 上 質 で あ っ た 。 イ ン タ ビ ュ ー に よ れ ば , こ れ ら の 樹 種 の 減
少 に よ り ,木 材 を 工 芸 的 に 利 用 す る 機 会 も 減 少 し て い た 。幹・枝 以 外 の 部 位
の 利 用 は , 葉 が マ ッ ト に 編 ま れ る P. foetidus, 筍 根 の 先 端 が ポ ッ ト の 栓 と な
る Sonneratia spp.,板 根 が 洗 濯 板 や 小 舟 の 舵 に 利 用 さ れ る H. fomes な ど で あ
った。
結束材
つ る 植 物 6 種 , 低 木 2 種 , ヤ シ 類 と 高 木 種 が そ れ ぞ れ 1 種 の , 計 10 種 で
あ っ た 。ま た そ の 利 用 部 位 は ,小 葉 中 肋 の 軸 を 使 う Nypa fruticans以 外 は ,全
て 植 物 の 茎 で あ っ た 。 Derris trifoliataな ど の つ る 植 物 に お い て は , 回 旋 茎 の
直 径 が 数 ミ リ 程 度 で あ れ ば そ の ま ま , ま た 低 木 種 の Brownlowia tersa と
- 152 -
第6章
Hibiscus tiliaceusに お い て は , 樹 皮 か ら 繊 維 が は ず さ れ , ヒ モ や 縄 に 加 工 さ
れていた。つる植物中 4 種はマメ科およびその近縁のジャケツイバラ科 1 で
あ っ た 。し か し ,土 地 無 し 村 民 が 生 業 に 用 い る 漁 具 や 農 具 の 維 持 に 頻 用 し た
結 束 材 は ,こ れ ら 2 科 の マ ン グ ロ ー ブ で は な く ,5 章 で 示 し た 通 り ト ウ ツ ル
モ ド キ 科 ( 1 属 1 種 ) の Flagellaria indicaと , シ ダ 植 物 ・ シ シ ガ シ ラ 科 の
Stenochlaena palustrisで あ っ た 。
屋根葺・張壁材
Nypa fruticans の 葉 が 特 異 的 に 用 い ら れ て い た 。 竹 ひ ご な ど の 軸 に 小 葉 を
編 み 付 け て 作 っ た ”thatch”を 重 ね て い く こ と で 屋 根 を 葺 き , 2 年 か ら 3 年 周
期で交換していた。
食用
15 種 の う ち , 高 木 種 が 6 種 と 最 も 多 か っ た が , 草 本 植 物 以 外 の 各 植 物 群
も 利 用 さ れ て い た 。 部 位 ご と の 資 源 の 積 算 数 は 24 と , 工 芸 材 と と も に 薬 用
に 次 い で 多 か っ た 。根・地 下 茎 以 外 の 全 て の 部 位 が 食 さ れ ,多 か っ た の は 果
実 ・ 種 子 ( 10 種 ) と 葉 ( 8 種 ) の 利 用 で あ っ た 。 果 実 は カ レ ー の 具 と し て ,
あ る い は 乾 燥 し た 小 エ ビ や ゴ マ ,豆 ,発 酵 さ せ た 茶 の 葉 な ど と と も に 油 や ラ
イ ム の 果 汁 で 和 え て , サ ラ ダ や お 茶 請 け と さ れ て い た ( 例 : Sarcolobus
carinatus, Sonneratia apetala, Dolichandrone spathacea)。 ま た , 非 マ ン グ ロ
ーブ地域からの来訪者に,これらを振舞うことが観察された。
薬毒用
用 い ら れ た 26 種 は ,す べ て の 植 物 分 類 群 を 含 ん で い た 。高 木 種 が 11 種 と
最 も 多 く ,次 い で 低 木 6 種 ,つ る 植 物 5 種 な ど と な っ て い た 。利 用 部 位 と 方
法 は , 葉 を 煎 じ て 飲 用 ( Dolichandrone spathacea), ス ー プ に 調 理 ( Merope
angulata) , 滲 出 液 を 患 部 に 塗 布 ( Acanthus sp.), 果 実 の 焼 却 灰 を 患 部 に 塗
布 ,燻 煙 に あ た る( Nypa fruticans)な ど ,多 様 な 加 工 と 利 用 が な さ れ て い た 。
その他
ヒ ル ギ 科 の 樹 種 ( Rhizophora spp., Bruguiera spp.) の 棒 状 の 散 布 体 は 子 供
が 遊 戯 に ,マ メ 科 の 花 序 や Phoenix paludosa の 花 は 髪 や 仏 事 や 精 霊 の 祭 壇 に
装 飾 と し て 用 い ら れ て い た 。髪 の 装 飾 は ,子 ど も や 林 内 作 業 の 男 性 も 時 に お
1
ジャケツイバラ科やネムノキ科をマメ科に含める分類体系もある(例:北野ほ
か , 1984)。
- 153 -
第6章
こ な っ て い た 。 ま た , 子 ど も や 男 性 は し ば し ば 森 林 内 に お い て , Heritiera
fomes の 板 根 を 棒 で 敲 き , 反 響 音 を 響 か せ る 行 動 を と っ て い た 。
6.3.2 ア ク セ ス ・ 利 用 と そ の 動 態
「 資 源 ア ク セ ス 」 と ,「 利 用 頻 度 」 に よ る , マ ン グ ロ ー ブ の 位 置 づ け , お
よ び そ の 時 間 動 態 を Fig. 6.1 に 示 す 。時 間 距 離 が「 遠 隔 」,か つ 探 索 時 間 が「 短
時 間 」 の 資 源 は な か っ た 。 図 示 し た 資 源 の 数 は 42 で あ る 2 。
( 1) 過 去 に お け る 資 源 ア ク セ ス と 利 用 頻 度
か つ て ,す べ て の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 は ,片 道 3 時 間 以 内( 実 際 は 1 時 間 半
程 度 以 下 ) の 近 傍 で 採 集 さ れ て い た 。 ま た , Xylocarpus 属 の 2 種 と Amoora
cucullata,Intsia bijuga を 除 く 38 の 資 源( 全 資 源 の 90% ,以 下 同 様 )に お い
て,資源採集地における探索時間は 5 分以内の短時間であった。
利 用 頻 度 が 高 か っ た の は 8 つ の 資 源( 19% )で ,う ち 5 つ が 燃 料 材 ま た は
工 芸 材 と し て 用 い ら れ る も の で あ っ た 。 一 方 , 利 用 頻 度 が 低 か っ た の は 21
の 資 源 ( 50% ) で , う ち 16 が 薬 用 ま た は 建 材 で あ っ た 。
( 2) 資 源 ア ク セ ス と 利 用 頻 度 の 動 態
28 の 資 源 に お い て ア ク セ ス が 低 下 し て い た ( 42 の う ち の 66.6% , Fig. 6.1
中 丸 囲 み 数 字 ③ ∼ ⑨ が 該 当 。 以 降 同 様 )。 こ の う ち 時 間 距 離 の み 遠 隔 化 し た
も の が 4 つ ( 9.5% , ⑨ ) で , Xylocarpu 属 な ど の 高 木 種 で あ っ た 。 近 傍 に お
い て 探 索 時 間 の み 長 時 間 化 し た も の は 15( 35.7% ,③ ∼ ⑥ )で ,う ち つ る 植
物 が 8 つ と 最 も 多 く ,高 木 種 は 4 つ ,低 木 種 は 3 つ で あ っ た 。用 途 に お い て
は ,15 の う ち 11 が 薬 毒 用 も し く は 食 用 の 資 源 で あ っ た 。時 間 距 離 と 探 索 時
間 の 双 方 が 悪 化 し た 9 つ( 20% ,⑦ ⑧ )は す べ て 高 木 種 で ,そ の う ち 7 つ が
2
マ ン グ ロ ー ブ の 有 用 種 は 50 種 ( Table 6.2) で あ っ た が , 近 縁 種 が 村 人 に 同 種 と
認 識 さ れ そ の 用 途 が 同 様 な 場 合 に ,本 項 で は 1 ま と め に 扱 っ た 。ま た ,同 じ 種 の 異
なる部位がともに中核的に利用され,かつ資源としての位置づけが異なる場合に,
こ れ ら を 区 別 し て 取 り 扱 っ た 。な お ,情 報 が 得 ら れ な か っ た 4 種 は 掲 載・解 析 が で
き な か っ た ( 以 下 参 照 )。
・ Avicennia 属 3 種 を A. officinalis, Rhizophora 属 2 種 を R. apiculata で 代 表 さ せ た
( 有 用 50 種 に 対 し 3 減 , 以 下 同 様 )。
・ Bruguiera 属 2 種 を Bruguiera spp., Acanthus 属 2 種 を Acanthus spp.と し て 取 り
ま と め た ( 2 減 )。
・ Ceriops decandra の 茎 と 根 を 区 別 し て 取 り 扱 っ た ( 1 増 )。
・ Calophyllum inophyllum, Ficus benjamina, Mussaenda macrophylla, Terminalia
catappa の 情 報 は 得 ら れ な か っ た ( 4 減 )。
- 154 -
第6章
燃料材や建材であった。
一 方 , 15 の 資 源 ( 35.7 % , Nypa fruticans , Phoenix paludosa, Aegiceras
corniculatum,Dalbergia pinnata,Acanthus spp.,Finlaysonia maritima,Pluchea
indica, ① ② ) に つ い て は , 時 間 距 離 と 探 索 時 間 の 双 方 に 変 化 が な く , す べ
て近傍において短時間で探索できるものであった。
Fig. 6.1. 資源アクセスと利用頻度による資源の位置付け
*時間距離が遠隔,かつ探索時間が短時間の資源はなかった。
*四角枠は過去,丸印は現在の位置付けを示す。
*種名接頭の記号:
T: 高木種,S: 低木種,C: つる植物,F: シダ植物,P: ヤシ類,H: 草本植物
*種名接尾の記号:
f: 燃料材, co:建材, cr: 工芸材, t: 結束材, r: 屋根葺・張壁材, e: 食用, m: 薬毒用
利 用 頻 度 が 低 下 し た 資 源 は 18( 42.9% ,④ ⑦ ② ⑤ )で あ っ た 。そ の う ち 区
分 が「 高 い 」か ら「 低 い 」に 顕 著 に 低 下 し た の は 4 つ( ⑦ )で ,す べ て 時 間
距 離 と 探 索 時 間 の 双 方 が 悪 化 し た 高 木 種 で あ っ た 。利 用 頻 度 が「 中 程 度 」か
ら「 低 い 」に 低 下 し た 12 の 資 源( ② ⑤ )の う ち 10 が 薬 毒 用 も し く は 食 用 の
資 源 で あ っ た 。さ ら に そ の う ち の 6 つ( Derris trifoliata を 除 く ⑤ )は ,近 傍
における探索時間が長期化したつる植物であった。
一 方 , 利 用 頻 度 が 上 昇 し て い た の は 3 つ ( 7.1% , ① ③ ) で あ っ た 。 そ の
- 155 -
第6章
内 訳 は , 資 源 ア ク セ ス に 変 化 が な い Hibiscus tiliaceus, Ceriops decandra の
根 と , 採 取 地 で の 探 索 時 間 の み 長 時 間 化 し た Brownlowia tersa で あ る 。 燃 料
材 と し て 用 い ら れ る C. decandra と B. tersa は ,利 用 頻 度 が「 低 い 」か ら「 高
い」に顕著に上昇していた。
ま た , そ れ 以 外 の 16( ⑥ ⑧ ⑨ ) は , 利 用 頻 度 は 従 来 か ら 低 く , 資 源 ア ク
セ ス が 低 下 し て い た 資 源 で あ っ た 。 中 で も Bruguiera spp. , Rhizophora
apiculata, Sonneratia griffithii な ど の 建 材 用 途 の 高 木 種 の ア ク セ ス は ,「 近
傍・短時間」から「遠隔・長時間」に顕著に低下していた。
6.3.3 注 目 度 の 得 点 付 け
マ ン グ ロ ー ブ 資 源 ご と の 各 指 標 お よ び 総 合 得 点 を Table 6.4 に , 総 合 得 点
ご と の 有 用 種 数 を Fig. 6.2 に 示 す 。
総 合 得 点 が 4 以 上 階 級 に お い て は す べ て の 種 が 高 木 種 ,得 点 が 3 以 下 の 階
級 は 高 木 種 を 含 む 複 数 の 生 育 形 の 種 か ら な っ て い た 。得 点 が 3 お よ び 2 の 階
級 で は ,高 木 種 と つ る 植 物 が 同 程 度 の 種 数 で あ っ た 。得 点 1 の 階 級 は 草 本 以
外 ,得 点 0 は ヤ シ・シ ダ 類 以 外 の ,そ れ ぞ れ 4 つ の 生 育 形 の 種 か ら な っ て い
た 。 最 も 種 数 の 多 か っ た 階 級 は , 14 種 か ら な る 1 点 の 階 級 で , こ れ よ り 上
位 の 階 級 ほ ど 種 数 が 減 る 傾 向 が あ る が ,最 も 注 目 を 要 す る 6 点 の 階 級 に お い
ては,5 点より種数が多かった。
- 156 -
第6章
Table 6.4 管理上の注目度順位付けのための得点付け
生育形
アクセス 利用頻
多用度
低下
度
有用種
品質
総合
Trees
Aegiceras corniculatum
Amoora cucullata
Avicennia officinalis
Bruguiera spp.
Cerbera odollam
Ceriops decandra
Cynometra ramiflora
Dolichandrone spathacea
Excoecaria agallocha
Heritiera fomes
Intsia bijuga
Kandelia candel
Pongamia pinnata
Rhizophora apiculata.
Sapium indicum
Sonneratia apetala
Sonneratia caseolaris
Sonneratia griffithii
Xylocarpus granatum
Xylocarpus moluccensis
・
1
1
2
2
2
2
1
1
2
1
2
・
2
2
・
・
2
1
1
・
・
1
・
・
2
2
・
・
2
・
・
・
・
2
1
1
・
・
・
1
・
1
1
・
1
1
1
・
1
・
1
・
・
・
1
1
1
1
1
・
・
・
1
・
1
1
・
・
1
・
・
・
・
1
・
・
・
1
・
1
1
3
4
2
6
6
2
1
6
1
3
0
2
5
2
2
3
3
2
Shrubs
Acanthus ilicifolius
Brownlowia tersa
Clerodendrum inerme
Dalbergia spinosa
Hibiscus tiliaceus
Merope angulata
Pandanus foetidus
・
1
1
・
・
1
1
・
・
・
1
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
1
・
・
0
1
1
1
1
1
1
Palms/Ferns
Acrostichum aureum
Nypa fruticans
Phoenix paludosa
・
・
・
1
・
・
・
1
1
・
・
・
1
1
1
Caesalpinia crista
Cayratia trifolia
Dalbergia pinnata
Derris scandens
Derris trifoliata
Finlaysonia maritima
Flagellaria indica
Sarcolobus carinatus
Stenochlaena palustris
1
1
1
・
1
1
・
・
1
1
1
1
1
1
1
1
・
1
1
1
・
・
1
・
1
・
・
1
・
・
・
・
・
・
・
・
・
1
・
1
2
2
3
1
3
2
0
3
2
3
Pluchea indica
・
・
・
・
0
Climber/Creeper Caesalpinia bonduc
Herbs
16
Herbs
Climber/Creeper
Palms/Ferns
Shrubs
Trees
Number of species
14
12
10
8
6
4
2
0
0
1
2
3
4
Overall evaluation scores
5
Fig. 6.2. 総合得点階級別の有用種数
- 157 -
6
第6章
6.4 考 察
6.4.1 資 源 化 の 様 態
( 1) 部 位 に よ る 用 途 類 型 と 資 源 化 の 様 態
人 間 は ,生 活 の 諸 般 に お い て 意 識 さ れ た 必 要 性 と そ の 目 的( 用 途 )に 応 じ
た も の( 植 物 )を 自 然 の 中 か ら 選 択 し ,相 応 の 方 法 手 段 に よ っ て 入 手 し 利 用 ,
す な わ ち 資 源 化 し て い る( 小 林 ,1994)。用 途 に 応 じ た 性 質 は ,植 物 の 適
応 と 生 存 に 根 源 的 な 役 割 を 果 た す ,物 理 的・化 学 的 な 特 徴 に 起 因 す る( Cotton,
1996)。 物 理 的 ・ 化 学 的 特 徴 の 表 出 で あ る 植 物 の 部 位 の う ち , い ず れ が ど の
程 度 の 比 率 で 用 い ら れ る か ( Table 6.3) に よ り , 用 途 は 4 つ に 区 分 で き る 。
①燃料,建材,工芸材,結束材
・・・・用 途 別 の 資 源 の 延 数 の 3/4 以 上 で 茎 ま た は 根・地 下 茎 を 利 用
②食用
・・・・用 途 別 の 資 源 の 延 数 の 96%で 葉 , 花 , ま た は 果 実 ・ 種 子 を 利 用
③屋根葺・張壁材
・・・・1 種 1 部 位 の み を 利 用
④薬毒用
・・・・す べ て の 部 位 の 利 用
そ れ ぞ れ の 用 途 グ ル ー プ ご と に ,植 物 体 の 特 定 部 位 が 特 定 用 途 の 資 源 と さ
れた理由と意味を考察する。
①燃料材,建材,工芸材,結束材
燃 料 材 と し て は ,Rhizophora spp.や Bruguiera spp.の 価 値 が マ レ ー シ ア や タ
イ に お け る 研 究 か ら 指 摘 さ れ て い る( Watson, 1928; Aksornkoae, 1987)。本 研
究 に お い て ,Heritiera fomes や Cynometra ramiflora が よ り 嗜 好 さ れ て い た の
は ,「 燃 焼 中 に 爆 ぜ な い 」 た め で , エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に は 他 地 域 よ り 優
れ た 燃 料 材 が 存 在 す る と 言 え る 。菜 園 用 の つ る 支 柱 な ど に 利 用 後 ,燃 料 に 再
利 用 さ れ る Ceriops decandra の 例 は ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の「 カ ス ケ ー ド 利 用 」
を 示 唆 し , 今 後 の 研 究 課 題 の 一 つ で あ る 。 か つ て は 用 い ら れ な か っ た C.
decandra の 根 や Brownlowia tersa が ,現 在 燃 料 と さ れ て い た 。高 地 盤 高 の 立
地 に 分 布 す る C. decandra は 根 の 採 掘 が 容 易 な 上 ,高 質 で も あ る 。河 岸 の H.
fomes 林 の 伐 採 跡 地 に 繁 茂 す る B. tersa( Myint Aung, 2004) は , 近 年 分 布 と
- 158 -
第6章
密 度 が 増 加 し た と 考 察 さ れ る 。 燃 料 材 に お い て は , H. fomes や C. ramiflora
の 減 少 に よ り C. decandra の 根 や B. tersa の 新 た な 資 源 化 が 起 こ っ た と 言 え
る。
建 材 と し て 重 要 と な る ,木 質 部 の 強 度 を 決 め る 要 素 と し て 非 常 に 大 き な 影
響 を も つ の は 材 の 比 重 で あ る( Cotton, 1996)。乾 燥 し た マ ン グ ロ ー ブ 樹 種 の
木 質 部 の 比 重 を 比 較 す る と ,Heritiera fomes が 最 も 大 き く ,Ceriops decandra,
Rhizophora apiculata, Bruguiera spp.な ど が そ れ に 次 ぐ ( Table 6.5)。 ま た ,
柱 , 特 に 家 屋 の 大 黒 柱 に は 高 い 強 度 と 長 さ が 求 め ら れ る 。 H. fomes , R.
apiculata,Bruguiera spp.な ど が 選 択 さ れ て き た の は ,強 度 と 主 幹 の 通 直・長
尺 性 の た め で あ る 。し た が っ て ,大 き な 家 屋 の 柱 材 は 他 の マ ン グ ロ ー ブ 資 源
による代替は困難だと言える。
Table 6.5 マングローブ材の乾燥比重
2
樹種
Avicennia sp.
Bruguiera gymnorrhiza
Bruguiera sexangula
Cerbera manghas
Ceriops decandra
Dolichandrone spathacea
Excoecaria agallocha
Heritiera fomes
Rhizophora apiculata
Sonneratia apetala
Sonneratia caseolaris
Xylocarpus moluccensis
Xylocarpus granatum
比重(g/cm )
0.580-0.880
0.665-0.975
0.860-0.910
0.600
0.880-1.070
0.500
0.385-0.450
1.010
0.810-0.900
0.570
0.700
0.610-0.800
0.486-0.800
出典: Saenger(2002)を筆者改変
工 芸 に 用 い ら れ る 植 物 は ,形 状 ,機 能 性 ,耐 久 性 ,柔 軟 性 と い っ た 実 用 的
な 基 準 の 組 み 合 わ せ に よ り 利 用 が 決 ま る と さ れ て い る ( Cotton, 1996)。 H.
fomes の 材 が 様 々 に 多 用 さ れ て い た の は , 強 度 , 耐 水 性 , 柔 軟 性 , 加 工 性 に
富 む た め で あ る 。 Amoora cucullata の 材 が 小 舟 の 櫂 の 支 柱 に 使 わ れ た の は ,
柔 軟 性 と 適 度 な 折 れ や す さ の た め で あ る 。支 柱 が 破 損 す る こ と で 航 行 中 に 接
触 す る 障 害 物 を「 受 け 流 す 」こ と が で き ,船 体 の 重 篤 な 損 傷 を 防 ぐ こ と が で
き る 。家 具 材 に は ,強 度 と 耐 久 性 に 加 え 色 調 や 質 感 な ど が 要 求 さ れ る 。伝 統
的 な 社 会 に は ,多 彩 な 道 具 類 の そ れ ぞ れ の 機 能 的 要 求 を 充 せ る よ う に 加 工 す
る 複 雑 な 技 術 が あ る( Cotton, 1996)。研 究 地 域 に お い て も ,木 材 の 工 芸 的 利
用 に は ,用 途 と 材 料 に 適 合 的 な 加 工 技 術 の 存 在 が 伺 わ れ る が ,マ ン グ ロ ー ブ
- 159 -
第6章
の利用機会の減少により,加工技術の消失が懸念される。
結束材の機能を生む木質繊維には多様な利用法が潜在するにもかかわら
ず ,そ れ ぞ れ の 用 途 の 要 求 性 能 を 同 時 に 十 分 満 た す 繊 維 を 生 む 植 物 は 少 な い 。
そ の 結 果 ,個 々 の 共 同 社 会 に お い て は 特 定 用 途 に 利 用 さ れ る 種 は 極 め て 限 定
さ れ て い る( Felger & Moser, 1985; Smith & Kalotas, 1985; Milliken et at., 1992;
Cotton, 1996)。 土 地 無 し 村 民 の 生 業 へ の Flagellaria indica と Stenochlaena
palustris の 特 異 的 な 利 用 を , 他 の 植 物 資 源 で 代 替 す る こ と は 困 難 と 言 え る 。
②食用
若 芽 や 葉 ,地 下 部 あ る い は 若 い 花 序 や 果 実 を 野 菜 の よ う に 利 用 し よ う と す
れ ば ,有 毒 で な く ,ひ ど い 味 が し な け れ ば す べ て の 植 物 が 利 用 対 象 に な り う
る ( 堀 田 , 1989) 。 茎 に 次 い で 葉 お よ び 果 実 ・ 種 子 の 資 源 化 率 が 高 か っ た こ
と は ,多 彩 な 食 材 に 対 す る 地 域 の 人 々 の 要 求 を 示 唆 し て い る 。果 実 が 食 用 と
さ れ る 植 物 は 多 く の 場 合 ,多 年 草 か 木 本 植 物( 果 樹 )で あ り( 堀 田 , 1989),
本 研 究 に お い て も 同 様 の 傾 向 が あ っ た 。野 生 の 食 用 植 物 に よ る ,通 常 の 食 生
活 へ の 寄 与 は 少 な い が ,狩 猟 採 集 民 で は エ ネ ル ギ ー 源 と し て 貯 蔵 器 官 を ,農
耕民ではビタミンやミネラル充足に多肉質の果実と葉を高い割合で利用す
る( Cotton, 1996)。し た が っ て ,稲 作 農 耕 民 で あ る 研 究 地 域 の 人 々 に よ る ,
地 下 部 以 外 の 多 彩 な 利 用 は ,補 助 的 な 栄 養 素 へ の 要 求 を 示 唆 し て い る 。経 済
的 に ほ と ん ど 貢 献 し な く と も ,生 活 の 変 化 と 潤 い の 選 択 肢 と し て 行 わ れ る 地
域 固 有 的 な 生 物 資 源 の 利 用 は ,マ イ ナ ー・サ ブ シ ス テ ン ス と し て 意 義 付 け ら
れ て い る ( 松 井 , 2004) 。 マ ン グ ロ ー ブ の 食 材 を 地 域 の 海 産 物 と 和 え た り ,
来 訪 者 に 地 元 の 珍 味 と し て 提 供 し た り す る こ と は ,味 覚 を 通 じ た 地 域 の ア イ
デ ン テ ィ テ ィ ー を 体 言 す る 行 動 で あ り ,マ イ ナ ー・サ ブ シ ス テ ン ス の 事 例 と
解釈できる。
③屋根葺・張壁材
熱 帯 地 域 で は , ヤ シ 類 の 葉 が 屋 根 葺 材 と し て 広 く 用 い ら れ る ( Cotton,
1996)。ニ ュ ー ギ ニ ア 本 島 南 岸 の う ち Nypa fruticans が 自 生 し な い 地 域 に お い
て は ,未 加 工 の Cocos nucifera の 葉 に よ っ て 屋 根 を 葺 く こ と が 観 察 さ れ る( 筆
者 ,未 発 表 )。一 方 ,自 生 や 植 林 の N. fruticans を 利 用 可 能 な 東 南 ア ジ ア の 沿
岸 部 に お い て は , 別 の ヤ シ 類 に よ る 屋 根 葺 の 報 告 は 見 当 た ら な い ( Watson,
1928; Aksornkoae, 1987; 中 村 ・ 中 須 賀 , 1998; 安 食 , 2003)。 N. fruticans は 葉
の 発 生 と 成 長 が 旺 盛 で あ り ,年 1 回 の 採 集 の 際 ,健 全 な 葉 を 1 枚 残 す こ と で
- 160 -
第6章
長 期 継 続 的 に 同 じ 株 か ら 葉 を 採 集 し 続 け る ら れ る 。ま た ,小 葉 は 柔 軟 で 加 工
し や す く ,そ の 幅 も 雨 滴 を 受 け 流 す の に 適 当 で あ る 。加 工 に よ る 部 材 化 と 軽
量 化 に よ り 扱 い が 容 易 と な る 。こ れ ら の 資 源 と し て の 秀 で た 特 質 と そ れ に 適
合 的 な 加 工 技 術 に 加 え ,淡 水 に 近 い 立 地 環 境 に よ る 広 域 的 分 布 と 高 い 密 度 に
より,屋根葺材として特異的に資源化されてきたと言える。
④薬毒用
毒 物 ,興 奮 剤 ,健 康 維 持 の 薬 品 に は ,植 物 が 合 成 す る 生 物 活 性 化 合 物 が 用
い ら れ る ( Farnsworth, 1990)。 特 定 の 化 学 物 質 の 効 果 的 な 利 用 に と っ て , 植
物 供 給 源 自 体 の 知 識 , お よ び 収 集 ・ 加 工 技 術 は 極 め て 重 要 で あ る ( Cotton,
1996)。 薬 毒 用 の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 は , 種 数 お よ び 部 位 ご と の 資 源 の 積 算 数
に お い て 用 途 中 最 も 多 く ,さ ら に 加 工 と 用 法 も 多 彩 で あ る こ と か ら ,マ ン グ
ローブ植物の特性の認識と伝統利用の知恵の集積が研究地域にあると言え
る 。研 究 地 域 に 集 落 が 形 成 さ れ ,周 辺 の 植 物 資 源 を 利 用 し 始 め て か ら の 期 間
は ,200∼ 250 年 3 と い う 歴 史 的 に は そ れ ほ ど 長 い 期 間 で は な い 。住 民 が こ の
間 に 植 物 の 薬 効 を 発 見 し ,加 工 と 利 用 方 法 を 生 み 出 だ し て き た こ と は ,マ ン
グローブの薬毒が生活の上で重要であり続けたことを示す。
( 2) 資 源 利 用 の 文 化 性
伝統的植物療法の効能は,科学物質の効果のみに依存するものではない。
「 健 康 と 病 気 に 関 わ る 信 念 の 体 系 」の 差 異 に 有 意 に 影 響 さ れ( Cotton, 1996),
文 化 へ の 依 存 性( 市 川 ,1994)が あ る 。多 彩 な 薬 毒 利 用 の 背 景 に あ る ,地 域
文化との関係は今後の研究課題である。
松 井( 1998; 2000; 2004)は ,産 業 利 用 や 住 民 の 主 要 な 生 業 と 補 完 的 生 業
以 外 に ,「 周 年 の 生 計 維 持 機 構 か ら み て , 人 び と の 生 計 の た め に は そ れ ほ ど
役 立 つ こ と が な い 」が「 よ り 広 い 文 化 ・ 社 会 的 価 値 」を も つ ,マ イ ナ ー ・ サ
ブ シ ス テ ン ス の 概 念 を 提 示 し て い る 。マ イ ナ ー・サ ブ シ ス テ ン ス が ,経 済 的
な 意 味 を ほ と ん ど も た な く て も 長 期 間 継 承 さ れ て き た の は ,「 身 体 性 」 を 介
し て も た ら さ れ る 大 き な 楽 し み や 喜 び や と い っ た ,情 緒 的 な 価 値 が あ る か ら
だ と 言 う 。男 性 に よ る マ ン グ ロ ー ブ を 用 い た 髪 の 装 飾 は ,女 性 が 審 美 的 意 味
か ら 行 う も の と は 異 な り ,具 体 的 な 目 的 が あ る と は 解 し が た い 。板 根 の 殴 打
は ,通 信 や 野 生 動 物 と の 遭 遇 回 避 が 目 的 の 場 合 も あ る が ,無 目 的 に 行 わ れ る
こ と の 方 が む し ろ 多 い 。こ れ ら は「 無 意 識 で 言 語 化 さ れ な い 深 層 の 体 験 」
(松
3
Bogalay( 現 在 の 郡 主 都 ) は 1757 年 に , 研 究 地 域 の Pyindaye村 は 1780 年 に そ れ
ぞ れ 成 立 し た ( Win Win Khine, 1995) こ と な ど か ら 推 定 。
- 161 -
第6章
井 ,1998)と 結 び つ く ,情 緒 的 な 意 味 を 備 え た マ イ ナ ー・サ ブ シ ス テ ン ス と
解 釈 で き る 。資 源 管 理 に お い て 重 要 な ,地 域 固 有 性 や 社 会 性 配 慮 を 包 含 す る
( UNEP, 2000)た め に は ,資 源 利 用 の 文 化 性 に 関 わ る 情 報 の 集 積 が 必 要 だ と
言える。
資 源 の 素 材 と し て の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 は ,そ れ ぞ れ の 種 の 物 理 的 ,化 学 的
あ る い は 生 態 的 な 特 徴 に し た が い ,地 域 に お け る 多 彩 な 生 活 要 求 に 適 合 的 に
資 源 化 さ れ て い た 。中 で も ,燃 料 材 ,建 材 ,工 芸 材 な ど ,最 も 多 く の 用 途 に
お い て 適 合 性 の 高 い 素 材 を 提 供 し て い た の は ,Heritiera fomes で あ る と 言 え
る。
6.4.2 資 源 と 住 民 生 活 の 変 容
研究地の立地と主要な群落の配置関係は,次のように整理されている
( Myint Aung, 2004)。新 規 堆 積 河 岸 の 草 本 群 落 背 後 に は ,低 木 層 を Acanthus
ilicifolius に 覆 わ れ た「 Kandelia candel 群 落 」と「 Avicennia officinalis 群 落 」。
浸 食 側 河 岸 に は ,Brownlowia tersa 群 落 。自 然 堤 防 よ り 内 陸 側 の 大 部 分 に は ,
Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 , お よ び こ れ に 隣 接 す る 感 潮 水 路 近 傍
凹 地 に は Aegiceras corniculatum-Ceriops decandra 群 落 。ま た ,村 落 近 傍 な ど
人 為 圧 の 高 い 立 地 の Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 2 次 植 生 と し て ,
ヤ ブ 状 の Phoenix paludosa 群 落 ,Hibiscus tiliaceus 群 落 ,Acrostichum aureum
群落。
研 究 地 の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 は , こ れ ら の 群 落 と 植 林 に よ る Nypa fruticans
の群落から供給されている。
( 1) 伝 統 的 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 利 用
か つ て , す べ て の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 は 近 傍 に お い て 採 集 さ れ , そ の 90%
は 目 的 の 質 や サ イ ズ を 短 時 間 で 発 見 で き た ( Fig. 6.1) こ と は , 村 人 に と っ
て 野 生 の 植 物 資 源 は き わ め て 身 近 に 分 布 し ,要 求 量 を 満 た す 密 度 で 存 在 し て
いたことを示す。採集活動を,近傍において短時間のうちに行えたことで,
生業や他の日常生活への時間的な阻害は小さかったと言える。
燃 料 材 ( Heritiera fomes, Cynometra ramiflora, Ceriops decandra) や 工 芸
材 ( Avicennia officinalis) の 利 用 頻 度 が 高 か っ た の は , 日 々 の 調 理 と 日 用 品
や 生 業 道 具 の 製 作 の た め で あ り ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の「 長 期 的 な 日 常 生 活 の
基 盤 と し て の 性 格 ( 第 5 章 )」 の 反 映 と 言 え る 。
- 162 -
第6章
薬 用 の マ ン グ ロ ー ブ の 利 用 頻 度 が 低 か っ た の は ,医 薬 は 疾 病 時 に 用 い る も
の で あ る 上 ,集 落 内 の ホ ー ム ガ ー デ ン が 主 た る 供 給 地( 第 5 章 )で あ っ た た
め で あ る 。 ま た , 建 材 の Bruguiera spp.や Rhizophora apiculata は 上 質 な 大 黒
柱 , Sonneratia griffithii は 上 質 な 床 材 で あ る が , 新 た な 家 屋 の 建 築 時 と 長 い
周 期 の 建 て 替 え や 補 修 時 に 用 い ら れ る た め ,利 用 頻 度 が 低 か っ た と 解 釈 で き
る。
( 2) 資 源 ア ク セ ス の 変 容 か ら 示 唆 さ れ る 資 源 供 給 地 の 状 態
66.6% の 資 源 に お い て ,ア ク セ ス が 低 下 し て い た こ と は ,マ ン グ ロ ー ブ 林
の 劣 化・減 少 に よ り ,研 究 地 の 村 人 が 利 用 可 能 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 が 減 少 し
たことを示す。
探 索 時 間 の 長 短 は , 資 源 の 密 度 の 高 低 と 逆 相 関 す る 。 Amoora
cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 多 く の 構 成 種 ( Heritiera fomes, Cynometra
ramiflora, Bruguiera spp., Cerbera odollam, Excoecaria agallocha, Merope
angulata, Xylocarpus spp., Amoora cucullata, Intsia bijuga) の ア ク セ ス の 動
態 は ,近 傍 お よ び 遠 隔 地 の 双 方 に お け る 密 度 の 低 下 を 示 し ,同 群 集 の 広 範 囲
に わ た る 劣 化・減 少 の 結 果 と 言 え る 。ま た ,同 群 集 の 林 縁 や 林 冠 疎 開 部 に 出
現 す る つ る 植 物 ( Fig. 6.1④ お よ び ⑤ の つ る 植 物 ) の ア ク セ ス 動 態 が 示 す ,
近 傍 で の 密 度 低 下 は , 研 究 地 に お け る 植 被 喪 失 ( 水 田 化 ) や Nypa fruticans
林などへの土地利用転換の進行を示唆する。
Phoenix paludosa , Acanthus ilicifolius , Pluchea indica , さ ら に Hibiscus
tiliaceus( ① ), Dalbergia spp., Acrostichum aureum( ② ) の ア ク セ ス が 良 好
な ま ま で あ っ た の は , Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 代 償 植 生 と し
て,研究地近傍の伐採跡地に繁茂しているためだと解釈できる。
Ceriops decandra の 幹 の ア ク セ ス 動 態 は , 近 傍 お よ び 遠 隔 地 の 双 方 に お け
る 密 度 の 低 下 を 示 し て お り , Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 に 隣 接 す
る C. decandra 群 落 が 広 範 囲 に 劣 化 ・ 減 少 し て い る と 言 え る 。 ま た , C.
decandra の 根 の 利 用 頻 度 が 顕 著 に 上 が っ た こ と は ,「 根 こ そ ぎ 」 の 採 掘 に よ
る 切 り 株 の 消 失 を 意 味 し ,萌 芽 再 生 の 可 能 性 を な く す 上 ,掘 り 返 し に よ る 土
壌の流亡を引き起こしている。
河 岸 や 感 潮 水 路 際 の ,Kandelia candel 群 落 お よ び Avicennia officinalis 群 落
の , K. candel, A. officinalis, Clerodendrum inerme, ま た , Brownlowia tersa
群 落 の B. tersa, Derris trifoliata な ど の ア ク セ ス 動 態 が 示 す 近 傍 に お け る 密
度 の 低 下 は ,集 落 付 近 で 増 加 し て い る 海 産 物 の 仲 買 小 屋 ,漁 撈 番 屋 ,船 着 場
の建設など,水際の改変が原因と解釈できる。
- 163 -
第6章
( 3) 資 源 利 用 の 変 容 が 示 唆 す る 生 活 変 化
資 源 ア ク セ ス が「 近 傍 ・ 短 時 間 」か ら「 遠 隔 ・ 長 時 間 」へ と 変 化 し た 資 源
は,村人にとってアクセスが最も困難になったものである。
該当する 9 つの資源(⑦, ⑧)のうち,高い利用頻度が顕著に低下した 4
つの資源(⑦)の消失は,村人の生活に大きな変容を引き起こすと言える。
か つ て 燃 料 と し て 頻 用 さ れ た Heritiera fomes, Cynometra ramiflora, Ceriops
decandra の 茎 は ,C. decandra の 根 と Brownlowia tersa に 代 替 さ れ こ れ ら の 利
用 頻 度 が 顕 著 に 高 ま っ て い る 。 ア ク セ ス が 良 く 違 法 に 採 掘 さ れ る 高 質 の C.
decandra の 根 が ,高 値 で 売 ら れ て い る 。低 質 の B. tersa は 時 間 を か け て 採 集
さ れ る か ,購 入 さ れ て い る 。村 人 の 間 の 購 買 力 の 相 違 が ,採 集 労 働 の 負 担 や
調 理 の 利 便 性 の 享 受 に お い て 差 異 を 生 ん で い る 。魚 毒 の Sapium indicum を 代
替 す る 植 物 資 源 は 無 く ,漁 撈 を 行 う 土 地 無 し 村 民 の 生 業 様 式 を 変 容 さ せ て い
る。
一 方 ,⑧ で 示 し た 5 つ の 資 源 の 欠 乏 は ,利 用 頻 度 は 低 く と も ,生 活 へ の 中
長 期 的 な 影 響 を 生 じ さ せ る 。長 い 周 期 の 建 て 替 え や 新 築 ,補 修 時 に 用 い ら れ
た Bruguiera spp., Rhizophora apiculata, Sonneratia griffithii な ど の 建 材 は ,
現 在 Avicennia officinalis, Phoenix paludosa な ど の マ ン グ ロ ー ブ や , Cocos
nucifera, Dipterocarpus alatus な ど の ホ ー ム ガ ー デ ン の 樹 木 が 代 替 し て い る
( 第 5 章 )。土 地 無 し 村 民 は ,ア ク セ ス が 良 く か つ 無 償 の P. paludosa を 多 用
す る 。こ の よ う な 家 屋 は ,伝 統 的 な 建 築 様 式 を 失 い ,耐 久 性 が 低 く 小 型・貧
弱となり,生活の質が低下している。
以 上 の 9 つ の 資 源 利 用 の 変 容 は ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 を 基 盤 と し た 日 常 生 活
の長期的な安定を損ねていると言える。
Hibiscus tiliaceus の 利 用 頻 度 が 「 中 程 度 」 か ら 「 高 い 」 に 高 ま っ た の は ,
結 束 材 で あ る Stenochlaena palustris や Flagellaria indica の 村 落 近 傍 に お け る
密 度 低 下 に よ り ,代 替 要 求 が 高 ま っ た た め だ と 解 釈 で き る 。土 地 無 し 村 民 の
生 業 に 利 用 さ れ て い た こ れ ら の 2 種 は 強 靭 性 が 高 く , 性 状 の 異 な る H.
tiliaceus に よ っ て は す べ て の 目 的 を 代 替 す る こ と は 困 難 で あ る 。市 販 の プ ラ
ス テ ィ ッ ク 紐 の 購 入 ・ 利 用 頻 度 が 増 加 し て い た ( Fig. 5.3) 一 因 で あ る と 言
える。
利用頻度が「中程度」から「低い」に低下した資源(②, ⑤)の 8 割以上
が 薬 毒 用 も し く は 食 用 で ,現 在 市 販 薬 や ホ ー ム ガ ー デ ン の 蔬 菜 に よ り 代 替 さ
- 164 -
第6章
れ て い た ( Fig. 5.3)。 こ れ ら の マ ン グ ロ ー ブ の 利 用 頻 度 が 低 下 し た 理 由 は ,
流 通 の 改 善 と 市 場 経 済 の 浸 透 だ け で な く ,村 落 近 傍 の 林 地 の 消 失 や 土 地 改 変
で あ る 。Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 や そ の 林 縁 の Caesalpinia crista,
Cayratia trifolia,Derris scandens,Flagellaria indica,Stenochlaena palustris,
お よ び 河 岸 の Caesalpinia bonduc な ど の , つ る 植 物 の 密 度 低 下 の 影 響 を 指 摘
できる。
6.4.3 管 理 注 目 種 , 注 目 群 集
資 源 ア ク セ ス と 利 用 頻 度 が 顕 著 に 低 下 し た 場 合 ,総 合 得 点 は 4 以 上 と な る 。
ま た ,3 点 と 4 点 の 階 級 間 に お い て ,種 数 と 生 育 形 に よ る 階 級 構 成 の パ タ ー
ン の 差 異 が あ っ た 。し た が っ て 本 研 究 に お い て は ,総 合 得 点 が 4 以 上 で あ っ
た 5 種 を ,保 全・管 理 上 の 注 目 種 と 判 断 す る 。具 体 的 に は ,最 も 高 い 6 点 の
Heritiera fomes,Cynometra ramiflora,Ceriops decandra,5 点 の Sapium indicum,
4 点 の Bruguiera spp.で あ る 。
H. fomes, C. ramiflora は , Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 構 成 種
で あ り ,S. indicum は 同 群 集 の 林 縁 に 出 現 す る 。ま た ,C. decandra と Bruguiera
spp.の 立 地 は ,同 群 集 域 の 内 陸 小 水 路 近 傍 の 凹 地 で あ る( Myint Aung, 2004)。
さ ら に , Bruguiera spp.の 優 占 林 分 は , Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集
の う ち Bruguiera gymnorrhiza 亜 群 集 に 区 分 さ れ る 。し た が っ て ,エ ー ヤ ワ デ
ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 自 然 林 の 修 復 と 資 源 再 生 の 研 究 に お い て ,注 目 す
べ き は ,Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 典 型 亜 群 集 と B. gymnorrhiza
亜群集,およびその林縁であると言える。
6.5 ま と め
エーヤワディーデルタにおけるマングローブ植物の資源化の様態とその
変容を明らかにし,管理上の注目種・群集の抽出を行なった。
植 物 の 部 位 の う ち ,い ず れ が ど の 程 度 の 比 率 で 用 い ら れ る か に よ り ,用 途
は 4 つに区分できる。
1. 植 物 の 部 位 の う ち い ず れ が ど の 程 度 の 比 率 で 用 い ら れ る か に よ り , 用 途
は ,( 1)用 途 別 の 資 源 の 延 種 数 の 3/4 以 上 で 茎 ま た は 根 ・ 地 下 茎 が 利 用 さ れ
る 「 燃 料 , 建 材 , 工 芸 材 , 結 束 材 」,( 2) 96%で 葉 , 花 , ま た は 果 実 ・ 種 子
が 利 用 さ れ る 「 食 用 」,( 3) 1 種 1 部 位 の み が 利 用 さ れ る 「 屋 根 葺 材 」,( 4)
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第6章
すべての部位の利用がある「薬毒用」の 4 つに区分できた。
2. 資 源 の 素 材 と し て の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 は , そ れ ぞ れ の 種 の 物 理 的 , 化 学
的 あ る い は 生 態 的 な 特 徴 に し た が い ,地 域 に お け る 多 彩 な 生 活 要 求 に 適 合 的
に 資 源 化 さ れ て い た 。中 で も ,燃 料 材 ,建 材 ,工 芸 材 な ど ,最 も 多 く の 用 途
に お い て 適 合 性 の 高 い 素 材 を 提 供 し て い た の は ,Heritiera fomes で あ あ っ た 。
3. か つ て , す べ て の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 は 近 傍 あ り , そ の 90% は 短 時 間 で 発
見 で き る ほ ど 密 度 が 十 分 で あ っ た が ,現 在 66.6% の 資 源 に お い て ア ク セ ス が
低 下 し ,村 人 が 利 用 可 能 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 が 減 少 し て い た 。マ ン グ ロ ー ブ
供給地の状態として,
( 1)植 被 喪 失 ,土 地 利 用 転 換 の 進 行 ,
( 2)村 落 近 傍 の
Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 伐 採 跡 地 へ の 代 償 植 生 の 繁 茂 ,( 3) 土
壌 の 流 亡 ,( 4) 水 際 の 土 地 改 変 , が 示 唆 さ れ た 。
4. 資 源 利 用 の 変 容 か ら , マ ン グ ロ ー ブ 資 源 を 基 盤 と し た 日 常 生 活 の 長 期 的
な 安 定 が 損 な わ れ て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。特 に ,購 買 力 の 相 違 が 資 源 採 集
の 負 担 ,生 活 の 利 便 性 の 差 異 を 生 み ,漁 民 の 生 業 を 変 容 さ せ ,生 活 の 質 が 低
下している。
5. 研 究 域 地 の マ ン グ ロ ー ブ 林 修 復 と 資 源 再 生 の 研 究 に お い て , 注 目 す べ き
種 は Heritiera fomes,Cynometra ramiflora,Ceriops decandra,Sapium indicum,
Bruguiera spp., 群 集 は Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 典 型 亜 群 集 と
B. gymnorrhiza 亜 群 集 と そ の 林 縁 で あ る と 言 え た 。
- 166 -
第7章
結論
第7章
7.1 緒 言
本 論 文 で は は じ め に ,包 括 的 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 の 基 盤 と な る ,エ ー
ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ 海 岸 帯 の 在 地 的 要 素 を 明 ら か に し た 。次 に ,在 地 性 の 探 求
か ら 示 さ れ た 地 域 の 中 核 的 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 で あ る Heritiera fomes と そ
の 群 落 の 更 新 特 性 を ,生 態 学 的 な オ リ ジ ナ ル デ ー タ に 基 づ き 解 明 し た 。さ ら
に ,地 域 的 な 植 物 の 利 用 体 系 と 資 源 化 の 様 態 の 分 析 か ら ,マ ン グ ロ ー ブ の 資
源 特 性 を 把 握 し ,管 理 上 の 注 目 種・群 落 の 抽 出 を 行 う こ と で ,村 落 社 会 に お
け る H. fomes の 資 源 的 価 値 の 高 さ を 明 ら か に し た 。
本 章 に お い て は , は じ め に 1) 資 源 管 理 に 係 る デ ル タ の 在 地 性 , 2) マ ン
グ ロ ー ブ の 更 新 特 性 と 施 業 , 3) マ ン グ ロ ー ブ の 資 源 性 の , そ れ ぞ れ の 観 点
か ら 研 究 成 果 を 整 理 し そ の 意 義 を ま と め る 。次 に 研 究 成 果 を 踏 ま え た 結 論 と
し て ,エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に お け る 在 地 的 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 の あ り
方 を ,1)在 地 性 を 担 保 す る 要 件 と ,2)更 新 特 性 を 活 か し た 生 態 学 的 な マ ン
グ ロ ー ブ 林 管 理 モ デ ル に ま と め 提 示 す る 。最 後 に ,本 論 文 の 貢 献 を 生 態 学 的
知 見 ,民 族 植 物 学 的 知 見 お よ び ミ ャ ン マ ー に お け る 事 例 研 究 で あ る 点 か ら ま
とめるとともに,今後の課題を示す。
7.2 研 究 成 果 と 意 義
7.2.1 デ ル タ 海 岸 帯 の 在 地 性
エーヤワディーデルタの特異な立地環境とマングローブ植生の特徴を示
し,自然相と資源相・文化相に基づく在地の空間の導出を行なった。また,
土 地 お よ び 森 林 資 源 の 所 有・管 理・利 用 に 係 る 制 度 と 習 慣 の 地 域 性 を 歴 史 的
に明らかにした。得られた成果を以下にまとめる。
( 1) エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ は , 気 候 と 河 川 の 性 格 を 反 映 し た 通 年 の 水 路 の
低 塩 分 濃 度 と ,水 文 特 性 に よ る 乾 季 の 冠 水 影 響 が 微 少 な 潮 間 帯 高 地 の 割 合 の
卓越という,特異な立地環境を持つ。
( 2) 特 異 な 立 地 環 境 に 対 応 し 生 存 す る マ ン グ ロ ー ブ 植 物 個 体 群 の 中 核 は ,
地 域 固 有 種 の Heritiera fomes で あ る 。地 域 で 卓 越 す る H. fomes 優 占 林 は ,純
マングローブと淡水湿地林構成種を随伴する東南アジアでは異質なマング
ローブ林である。
- 168 -
第7章
( 3) 研 究 地 域 で あ る 海 岸 帯 の 地 形 は 浜 堤 列 に よ り 特 徴 付 け ら れ て い る 。 集
落の立地する浜堤の両側に並列する 2 つの浜堤に挟まれた空間が在地の空
間として認められ,その広がりは水路の連絡あり方に依存する。
( 4) 王 朝 期 ま で 無 主 の 広 大 な マ ン グ ロ ー ブ 自 然 林 が 存 在 し , 植 民 地 後 期 以
降 保 全 林 に お け る 公 的 管 理 が 進 め ら れ ,第 2 次 対 戦 後 の 違 法 な 商 業 伐 採 に よ
り 森 林 破 壊 が 進 ん だ 。 1970 年 代 以 降 の 政 策 一 貫 性 の 欠 如 が , 域 外 向 け の 燃
料材と食糧生産による森林破壊を加速した。
( 5)マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 所 有 形 態 は ,人 為 の 開 始 以 来 一 貫 し て 実 質 的 に「 オ
ー プ ン・ア ク セ ス と 先 取 に よ る 私 有 」で あ り ,社 会 林 業 の 導 入 は ,マ ン グ ロ
ーブのコモンズの創造である。
( 6) 現 在 の マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 所 有 と 利 用 の 実 態 は , 法 制 度 に 従 っ て い な
い 。伝 統 習 慣 に よ り 森 林 資 源 を 違 法 に 占 有 す る 者 に と っ て ,マ ン グ ロ ー ブ 伐
採 後 の 資 源 の 維 持・再 生 の イ ン セ ン テ ィ ブ は な く ,持 続 可 能 な マ ン グ ロ ー ブ
資源管理が損なわれている。
現 地 調 査 に 自 然 地 理 学 的 な 先 行 研 究 資 料 を 統 合 す る こ と で ,エ ー ヤ ワ デ ィ
ー デ ル タ の 生 態 環 境 と マ ン グ ロ ー ブ 林 の 特 異 性 を 示 す こ と が で き た 。こ の 際 ,
こ れ ま で の 当 地 の マ ン グ ロ ー ブ 研 究 で デ ル タ の 河 口 域 と さ れ た 区 域 に ,地 要
因 か ら 区 分 さ れ る「 海 岸 帯 」を 明 示 的 に 扱 い ,資 源 利 用 と の 関 係 を 明 ら か に
す る こ と が で き た 。地 域 の 自 然 要 素 で あ る「 浜 堤 列 と 水 路 の あ り 方 」と ,人
間 の 生 活・文 化 の 側 面 と し て の「 資 源 採 集 行 動 」を 統 合 す る こ と で ,海 岸 帯
の在地の空間の単位性を新たに提示することができた。
今 日 ,地 域 の CPRs( 共 有 的 資 源 )の 持 続 的 な 利 用 と 管 理 の 成 功 例 と し て ,
コ モ ン ズ が 注 目 さ れ て い る 。 ま た , 世 界 各 地 の 伝 統 的 な コ モ ン ズ の ”発 見 ”
と 研 究 が 続 い て い る 。さ ら に ,地 域 の 人 々 を 主 体 と し た 社 会 林 業 の 理 念 も 定
着 し つ つ あ る 。本 論 文 は ,伝 統 的 な 社 会 に お い て も コ モ ン ズ が 常 在 す る も の
で は な い こ と を ,資 源 管 理 の 歴 史 性 か ら 示 し た 。こ の こ と は ,森 林 資 源 が 単
に 住 民 の 共 的 管 理 に ゆ だ ね ら れ て も ,期 待 し た 結 果 が も た ら さ れ な い こ と を
示唆する点で重要だと言える。
7.2.2 更 新 特 性 と 施 業
- 169 -
第7章
自 然 更 新 に よ る 再 生 と 持 続 的 な 利 用 を 図 る た め ,研 究 が 極 め て 少 な く 知 見
が 限 ら れ る Heritiera fomes 林 の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 お よ び 林 分 の 更 新 特 性 の
解 明 を ,樹 木 の 耐 陰 性 と 萌 芽 特 性 に 着 目 し て 行 な っ た 。そ の 結 果 ,初 期 状 態
と 林 分 を 構 成 す る 種 の 母 樹 の 有 無 に よ り , Amoora cucullata-Heritiera fomes
群 集 の 更 新 過 程 が 異 な る こ と が 示 さ れ た 。 ま た , 萌 芽 特 性 を 活 か し た H.
fomes 林 の 管 理 の 可 能 性 が 示 さ れ た 。 得 ら れ た 成 果 を 以 下 に ま と め る 。
Heritiera fomes林 の 更 新
( 1) 皆 伐 を 免 れ た 低 木 の 閉 鎖 林 分 か ら 2 次 遷 移 が 始 ま る 場 合 , H. fomes,
Bruguiera spp., Amoora cucullata の 個 体 群 は , 下 種 か ら の 実 生 と 前 生 樹 に よ
り更新の可能性がある。
( 2) H. fomes は 単 木 的 小 ギ ャ ッ プ の 弱 光 下 に お け る 前 生 樹 更 新 , Bruguiera
spp.は 単 木 的 疎 開 よ り も 大 き な ギ ャ ッ プ で の 一 斉 更 新 ,A. cucullata は 母 樹 や
近接する樹木の欠損部の前生樹による修復がそれぞれ更新の特徴であった。
い ず れ も 条 件 的 陰 樹 で あ る が ,H. fomes は 早 成 の 他 樹 種 が 先 行 し て 修 復 す る
元 ギ ャ ッ プ で 幼 樹 群 を 蓄 え る こ と か ら ,極 相 林 に お け る 林 冠 優 占 種 と し て の
性格を持つ。
( 3) 散 布 体 の 分 散 距 離 は A. cucullata, Bruguiera spp., H. fomes の 順 に や や
伸 び る 傾 向 が あ る 。H. fomes は 伐 採 さ れ た 林 分 の 近 隣 に 母 樹 が あ れ ば ,他 の
2 種に比べて散布体の新入と実生更新の可能性が高いと考えられる。
( 4) Excoecaria agallocha 個 体 群 の 実 生 更 新 は , 母 樹 の 有 無 に 関 わ ら ず 非 常
に 困 難 だ と 言 え ,撹 乱 を 受 け た 個 体 か ら の 萌 芽 に よ り 樹 体 と 個 体 群 は 回 復 す
るものの,長期的には個体群の密度が低下することが示唆される。
( 5) 疎 開 し た 林 分 か ら 2 次 遷 移 が 始 ま る 場 合 , 遷 移 初 期 の 下 層 に 繁 茂 す る
陽 性 植 物 の , H. fomes の 実 生 更 新 の 阻 害 が 示 唆 さ れ る 。 2 次 遷 移 開 始 時 に ,
小 径 の H. fomes の 切 り 株 が 残 存 す る 場 合 ,切 り 株 萌 芽 に よ る 個 体 群 の 回 復 が
先行する。
Heritiera fomesの 萌 芽 更 新
- 170 -
第7章
( 6)H. fomes 切 り 株 の 萌 芽 力 は ,他 の 木 本 マ ン グ ロ ー ブ の 中 で 比 較 的 高 く ,
親 木 の サ イ ズ が 小 さ い ほ ど ,萌 芽 率 と 伐 採 後 初 期 の 株 当 り 萌 芽 枝 本 数 は 大 き
く ,伐 根 径 が 10 cm よ り や や 小 さ い と き ,優 位 な 萌 芽 枝 の 伸 長 成 長 が 最 も 期
待できる。
( 7)住 民 が 自 給 的 に 多 用 す る 樹 木 の サ イ ズ は ,直 径 が 5∼ 10 cm の 小 径 木 で
あ り ,高 い 方 萌 芽 力 を 活 か し た H. fomes の 生 態 的・社 会 的 に 適 合 性 の あ る 保
続的な資源管理の意義がある。
( 8) 冠 水 の 萌 芽 へ の ス ト レ ス が 示 唆 さ れ , 更 新 施 業 に は 生 育 立 地 の 最 高 水
位 応 じ た 伐 採 高 の 管 理 が 重 要 だ と 言 え る 。浸 水 ク ラ ス 4 の 高 地 盤 に お い て は
台 切 り 法 を ,浸 水 ク ラ ス 2 の 低 地 盤 に お い て は 頭 木 法 を 用 い る こ と が 考 え ら
れ ,頭 木 法 を 用 い る 場 合 ,切 り 株 上 部 で 長 期 に 渡 り 生 じ 続 け る 萌 芽 を ,順 次
採集することが考えられる。
Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 優 占 種 で あ る H. fomes が , 前 生 樹
更 新 と 萌 芽 更 新 の 2 つ の 更 新 戦 略 を も つ こ と が 示 唆 さ れ ,複 合 的 な 手 法 に よ
る 持 続 的 な H. fomes 林 管 理 の 基 盤 情 報 が 提 示 で き た 。導 き 出 さ れ る 具 体 的 な
手 法 は ,混 交 す る 各 樹 種 の 散 布 体 の 分 散 と ,ギ ャ ッ プ サ イ ズ に よ る 修 復 反 応
を 考 慮 し た 「 天 然 下 種 更 新 」, お よ び 親 木 サ イ ズ と 生 育 立 地 の 最 高 水 位 を 考
慮した「萌芽更新」である。
7.2.3 マ ン グ ロ ー ブ の 資 源 性
エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の 海 岸 帯 お い て ,マ ン グ ロ ー ブ 林 と ホ ー ム ガ ー デ ン
の 調 査 か ら 地 域 の 植 物 資 源 の 総 体 を 明 ら か に し ,イ ン ベ ン ト リ ー を 構 築 し た 。
イ ン ベ ン ト リ ー を 基 盤 と し て ,社 会・文 化 お よ び 素 材 の 物 理・化 学 特 性 に 規
定 さ れ る 資 源 化 の あ り 方 を 探 求 し ,マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 ,非 マ ン グ ロ ー ブ
植 物 資 源 の 性 格 を 解 明 し た 。そ の 際 ,村 落 社 会 の 重 層 性 を ホ ー ム ガ ー デ ン の
所 有・非 所 有 と い う ス テ ー ク ホ ル ダ ー と し て 捉 え ,資 源 ミ ッ ク ス の 時 間 的 動
態 を 分 析 す る 手 法 を 用 い た 。さ ら に ,マ ン グ ロ ー ブ の 資 源 的 価 値 を 明 ら か に
し ,資 源 消 失 に 対 す る 脅 威 の 程 度 と 資 源 の 有 用 性 か ら ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管
理上の注目種・群落を提示した。得られた成果を以下にまとめる。
( 1)マ ン グ ロ ー ブ 植 物 50 種 と ,非 マ ン グ ロ ー ブ 植 物 124 種 が 有 用 種 と し て
- 171 -
第7章
イ ン ベ ン ト リ ー さ れ ,延 べ 有 用 種 数 は ,そ れ ぞ れ 108 種 と 326 種 で あ り 多 重
的な植物資源利用がなされている。
( 2) 素 材 と し て の マ ン グ ロ ー ブ 植 物 は , 物 理 的 ・ 化 学 的 ・ 生 態 的 な 特 徴 に
したがい,地域の多彩な生活要求に適合的に資源化されている。中でも
Heritiera fomes の 多 用 性 と 適 合 性 の 高 さ が 顕 著 で あ る 。
( 3) マ ン グ ロ ー ブ 林 の 基 本 的 性 格 は , 日 常 生 活 の 長 期 的 基 盤 と な る 住 居 や
燃 料 の 供 給 地 で あ り ,中 核 的 な 資 源 は Heritiera fomes で あ っ た 。特 定 用 途 の
マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資 源 は ,土 地 無 し 村 民 の 生 業 や 家 計 の 維 持 に 貢 献 し て き た 。
( 4) か つ て , マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 90%は 村 落 近 傍 に お い て 十 分 な 密 度 で 存
在 し た が ,現 在 全 体 の 3 分 の 2 へ の ア ク セ ス が 低 下 し ,利 用 可 能 な マ ン グ ロ
ーブ資源が減少している。
( 5) マ ン グ ロ ー ブ 資 源 供 給 地 に お け る 植 被 喪 失 ・ 土 地 利 用 転 換 の 進 行 ,
Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 伐 採 跡 地 へ の 代 償 植 生 の 繁 茂 , 土 壌 の
流亡,水際の土地改変が示唆される。
( 6) 利 用 可 能 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 減 少 に よ り , こ れ を 基 盤 と し た 村 落 の
日 常 生 活 の 長 期 的 な 安 定 が 損 な わ れ て い る 。中 核 的 な 資 源 の H. fomes の 利 用
が 困 難 に な り ,土 地 無 し 村 民 に 特 異 的 に 生 活 の 質 低 下 と 家 計 負 担 の 増 大 が 起
こっている。
( 7) 研 究 域 地 の マ ン グ ロ ー ブ 林 修 復 と 資 源 再 生 の 研 究 に お い て , 注 目 す べ
き 種 は H. fomes, Cynometra ramiflora, Ceriops decandra, Sapium indicum,
Bruguiera spp., 群 集 は Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の 典 型 亜 群 集 と
B. gymnorrhiza 亜 群 集 と そ の 林 縁 で あ る 。
こ れ ま で マ ン グ ロ ー ブ の 調 査・研 究・事 業 に お い て は ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源
の 重 要 性 が 概 括 的 に 論 じ ら れ る こ と が 多 か っ た 。あ る い は ,は じ め か ら 木 材
林 産 物 の 重 要 性 を 念 頭 に し ,保 全・再 生 の 対 象 や 手 法 が 提 示 さ れ る 場 合 が あ
っ た 。本 論 文 で は マ ン グ ロ ー ブ を ,地 域 住 民 の 自 給 的 な 生 活・生 業 の 糧 と 明
示 的 に 捉 え ,複 合 的 な 植 物 資 源 利 用 に お け る 位 置 づ け と 資 源 化 の あ り 方 を 明
らかにすることができた。さらに,マングローブ林の変容が地域住民の生
- 172 -
第7章
活・生 業 に 与 え る 影 響 を 具 体 的 に 示 し ,実 用 的 か つ 妥 当 な 手 法 に よ り 保 全 ・
再 生 の 対 象 を 導 き 出 す こ と が で き た 。研 究 を 通 じ て ,樹 木 と し て の Heritiera
fomes と 生 態 系 と し て の H. fomes 林 の 重 要 性 を 明 示 す る こ と が で き た 。
7.3 在 地 的 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理
本 論 文 の 研 究 成 果 を 踏 ま え ,在 地 性 が 確 保 さ れ 生 態 的 に も 適 合 的 な マ ン グ
ローブ資源管理の要件とモデルを提示する。
7.3.1 在 地 性 の 担 保
( 1) 資 源 管 理 対 象
こ れ ま で の マ ン グ ロ ー ブ 生 態 研 究 は ,主 と し て 植 林 技 術 の 開 発 と 相 ま っ て
行 な わ れ て き た 。そ の 結 果 ,植 林 成 績 の 良 好 な Avicennia spp.や Sonneratia spp.
等 の 早 成 樹 を 対 象 と す る 生 態 研 究 が 多 く ,ま た こ れ ら の 植 林 も 継 続 し て き た 。
在 地 性 と 資 源 性 の 視 点 か ら 分 析 し た 結 果 ,こ れ ま で の 特 定 早 成 樹 を 重 視 し
た 管 理 は ,住 民 の 生 活 要 求 に は 必 ず し も 適 合 し て な か っ た 。立 地 環 境 に 適 合
し ,住 居 や 燃 料 な ど 日 常 生 活 を 長 期 に 支 え る 最 も 注 目 す べ き マ ン グ ロ ー ブ は
Heritiera fomes で あ り , こ れ を 中 核 と す る Amoora cucullata-Heritiera fomes
群集であった。同群集は浸水クラスが 3 および 4 の潮間帯高地に分布する。
エーヤワディーデルタにおいては潮間帯高地の面積の割合が卓越しており,
同 群 集 を 対 象 と し た 資 源 管 理 は 生 態 的 に 適 合 的 で あ る と 言 え る 。一 方 で ,薬
毒 ,繊 維 ,食 用 な ど 地 域 固 有 の 生 活・文 化 と 結 び つ い た 非 木 材 林 産 物 の 様 々
な 資 源 化 が 見 い だ さ れ た 。H. fomes を 中 心 と す る 木 材 林 産 物 ,お よ び 様 々 な
非 木 材 林 産 物 の い ず れ の 資 源 の 減 少 も ,土 地 を 持 た ず 漁 撈 を 生 業 と す る 購 買
力の低い人々に特異的に負の影響をもたらしていた。
し た が っ て ,特 定 の 木 材 林 産 物 の 生 産 を 目 的 と す る よ う な 産 業 造 林 的 な マ
ン グ ロ ー ブ 林 管 理 は ,重 層 的 な 村 落 社 会 に お け る 長 期 安 定 的 な 営 み を 保 証 で
き な い と 言 え る 。木 材 林 産 物 お よ び 非 木 材 林 産 物 を 包 含 す る 多 様 な 資 源 を 生
み 出 す 森 林 の 修 復 と 維 持 が ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管 理 の 持 続 性 を 保 証 す る 要 件
で あ る 。そ の 際 ,H. fomes お よ び H. fomes 林 は 資 源 特 性 と 注 目 度 の 順 位 付 け
か ら 重 要 と 言 え ,生 態 研 究 と 修 復・保 全 に お い て 一 義 的 に 取 扱 わ れ る 必 要 が
あると言える。
( 2) 資 源 管 理 制 度
- 173 -
第7章
習 慣 的 に 行 わ れ る 違 法 伐 採 な ど の 行 為 は ,規 範 の 安 定 性 と 制 度 の 持 続 性 を
低 下 さ せ る ( Glaser et al., 2003) 。 マ ン グ ロ ー ブ の 保 全 林 に お い て は , 伝 統
的 習 慣 に よ る 森 林 資 源 の 先 取 と 占 有 が 違 法 に 継 続 し て い る 事 実 が あ っ た 。ま
た 違 法 で あ る が ゆ え に ,占 有 者 に は 資 源 の 維 持・再 生 へ の イ ン セ ン テ ィ ブ が
働いていなかった。一方で,自給目的のマングローブ採集を住民に認める
新・森 林 法( 1992)の 施 行 に も 関 わ ら ず ,超 法 規 的 に こ れ が 禁 止 さ れ て い る
実 態 が あ っ た 。地 域 的 な 資 源 需 要 の 充 足 を 目 指 す 森 林 法 の 意 図 を ,実 効 性 の
あ る も の に す る 必 要 が あ る 。本 研 究 か ら は ,マ ン グ ロ ー ブ 林 の 新 た な 違 法 占
有に対する罰金増額,現状の占有者の法的認知などが提言できる。
コ モ ン ズ の 成 功 要 素 と し て ,多 数 の 村 人 た ち の 参 加 や 資 源 分 配 の 公 平 性 が
挙 げ ら れ て い る ( 茂 木 , 1994; 佐 藤 , 2002)。 研 究 の 結 果 , 地 域 の マ ン グ ロ ー
ブ 林 の 変 容 は ,社 会 的 に 脆 弱 な 土 地 無 し 村 民 に 特 異 的 に 負 の 影 響 を 与 え て い
た。これらを踏まえれば,当地において進める社会林業への参加主体には,
共 有 林 地 の 提 供 者 で あ る「 土 地 持 ち 村 民 」に 限 ら ず ,土 地 無 し 村 民 が 含 ま れ
ることが重要だと言える。
( 3) 資 源 管 理 空 間
「 人 と 自 然 が 調 和 し た 循 環 的 な 生 活 は ,生 物・非 生 物 的 な 自 然 要 因 か ら の
ま と ま り に ,自 然 を 管 理 し 利 用 す る 共 同 体 の 生 活・文 化 の 相 を 統 合 し た 地 理
的 領 域 に お い て 可 能 と な る 」と い う 主 張 が 様 々 に な さ れ て い る( 鈴 木 , 2006)。
エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ の マ ン グ ロ ー ブ 生 態 系 の 破 壊 は ,生 物 資 源 が 地 域 外
に 移 出 さ れ る こ と で 進 ん で き た 。本 論 文 に お い て は マ ン グ ロ ー ブ を ,地 域 の
人 々 の 自 給 的 資 源 ,生 活 と 生 業 を 維 持 し 文 化 を 継 承 す る た め の 資 源 で あ る と
捉えた。
本論文では,デルタの海岸帯における自然・資源・文化の相から,2 つの
浜 堤 に 挟 ま れ た「 陸 域 の 集 落 地 」・「 潮 間 帯 の マ ン グ ロ ー ブ 域 」・「 水 域 」か ら
成 る 生 態 的 ・ 社 会 的 な 地 理 的 領 域 と し て ,「 在 地 の 空 間 」 を 導 き 出 し た 。 マ
ン グ ロ ー ブ 資 源 供 給 地 を ,自 給 的 に 利 用 す る 保 全 林 あ る い は 社 会 林 業 の 共 有
林 な ど の「 管 理 制 度 」や ,植 林 地 ,育 林 地 ,天 然 更 新 林 地 な ど の「 管 理 手 法 」
で 区 分 し た と き ,こ れ ら の 配 置 や 組 合 せ な ど を 空 間 設 計 す る 単 位 と な る 地 理
的な領域は,本論文が見出した「在地の空間」であると言える。
7.3.2 生 態 学 的 マ ン グ ロ ー ブ 林 管 理
本 論 文 の 研 究 成 果 と し て , 村 落 周 辺 の Amoora cucullata-Heritiera fomes 群
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第7章
集 の 伐 採 跡 地 に お け る , Phoenix paludosa, Acanthus ilicifolius, Brownlowia
tersa な ど の 代 償 植 生 の 繁 茂 が 示 唆 さ れ た 。 ま た , マ ン グ ロ ー ブ 林 修 復 と 資
源 再 生 に お い て 注 目 す べ き 群 集 は Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 で あ
った。
本 項 で は ,Heritiera fomes 林 お よ び H. fomes の 更 新 特 性 の 研 究 成 果 に 基 づ
き ,最 も 管 理 上 の 注 目 度 が 高 か っ た H. fomes が 林 冠 で 優 占 す る ,典 型 亜 群 集
の 保 続 的 な 森 林 管 理 モ デ ル を ,林 地 の 初 期 状 態 を 区 分 し 2 つ 提 示 す る 。さ ら
に ,現 行 の 早 成 樹 植 林 を 活 用 し な が ら ,多 様 な マ ン グ ロ ー ブ 資 源 を 混 在 さ せ
る植林地の管理モデルを 3 つめに提示する。
( 1) 択 伐 ・ ギ ャ ッ プ 植 林 型 ( Fig. 7.1)
林地の初期状態が,第 4 章における調査林分 A もしくは B に類する場合
に 提 案 で き る 。胸 高 直 径 が 10 cm を 超 え る H. fomes を 中 心 と し た 中 径 木 に よ
り林冠がほぼ閉鎖した,自然更新の途上にある林分である。
劣 化 林 の 修 復 手 法 で あ る ギ ャ ッ プ 植 林 は ,残 存 木( 高 木 ,幼 稚 樹 )の 個 体
数 の 不 足 を 在 来 種 で 補 う 手 法 で あ る 。天 然 林 で 発 生 す る ギ ャ ッ プ 更 新 を 模 擬
し,人為的ギャップにより環境条件を整備し更新個体を増やすものである
( 沖 森 , 2001)。大 き な ギ ャ ッ プ で は 陽 樹 が 生 存・生 育 可 能 で あ る が ,小 さ な
ギ ャ ッ プ で は 耐 陰 性 の 高 い 陰 樹 の み し か 生 存 ・ 生 育 で き な い ( 山 本 , 2003)。
本 論 文 の 研 究 か ら , Amoora cucullata-Heritiera fomes 群 集 の H. fomes,
Bruguiera spp., A. cucullata は 条 件 的 陰 樹 で あ る と 判 明 し , ギ ャ ッ プ の サ イ
ズ に よ る 更 新 の 適 合 性 の 差 異 が 示 唆 さ れ た 。 す な わ ち , H. fomes や A.
cucullata は 単 木 的 小 ギ ャ ッ プ ,Bruguiera spp.は こ れ よ り 大 き な ギ ャ ッ プ が ,
それぞれ幼樹の生育・成長に適合すると見られた。
収穫
ギャップ植林
Hf OT
Hf or OT
ギャップ植林
Fig. 7.1. 択伐・ギャップ植林型v
Hf: Heritiera fomes
OT: Bruguiera spp. or Amoora cucullata
し た が っ て ,林 冠 疎 開 が 存 在 す る 場 合 の 管 理 と し て ,疎 開 の 大 き さ に よ り
- 175 -
第7章
種 苗 の 樹 種 を 選 択 す る ギ ャ ッ プ 植 林 が 提 案 で き る 。林 分 の 更 新 と 木 材 の 収 穫
を 循 環 的 に 図 る た め に は ,皆 伐 に よ ら ず 択 伐 に よ り 新 た な ギ ャ ッ プ を 形 成 す
る 。ギ ャ ッ プ の 大 き さ は ,次 の ギ ャ ッ プ 植 林 を 実 施 す る 樹 種 に 適 合 す る よ う ,
伐採する樹木のサイズおよび密度と本数により調整することになる。
( 2) 萌 芽 更 新 型 ( Fig. 7.2)
林地の初期状態が,第 4 章における調査林分 D に類する場合に提案でき
る 。 強 度 の 伐 採 に よ る 疎 開 林 で あ る が , 小 径 ( 直 径 5∼ 10 cm) の H. fomes
の切り株が残存する林分である。
萌 芽 更 新 は ,切 り 株 萌 芽 を 育 て 次 世 代 の 樹 木・森 林 を 仕 立 て る 手 法 で あ る 。
作 業 性 ,コ ス ト ,更 新 の 確 実 性 と 早 さ ,通 直 な 幹 の 形 状 な ど の 施 業 面 と ,土
壌 流 亡 の 阻 止 な ど 環 境 面 の 双 方 に 優 れ る 手 法 で あ る( 浅 川 , 1999)。し か し な
が ら ,樹 種 に よ り 難 易 が あ り ,容 易 な 樹 種 で あ っ て も 親 木 の 伐 採 位 置 ,伐 採
季 節 , 樹 齢 級 に よ り 萌 芽 力 が 消 長 す る ( 片 岡 , 1992c)。
本 論 文 の 研 究 か ら ,H. fomes 切 り 株 の 萌 芽 力 は 木 本 マ ン グ ロ ー ブ の 中 で 比
較 的 高 い こ と が 判 明 し ,萌 芽 力 の 消 長 に 関 す る 生 態 学 的 知 見 が 得 ら れ た 。す
な わ ち ,樹 齢 級 に 相 当 す る 親 木 の サ イ ズ が 小 さ い ほ ど 萌 芽 率 と 萌 芽 枝 本 数 は
大 き く ,伐 根 径 が 10 cm よ り や や 小 さ い と き 優 位 な 萌 芽 枝 の 伸 長 成 長 が 最 も
大 き く な る こ と が 明 ら か に な っ た 。生 態 的 に 見 れ ば 萌 芽 に よ る H. fomes 個 体
群 更 新 の 可 能 性 は 高 く ,収 穫 と 更 新 の た め の 伐 採 を 行 な う 際 は 親 木 の 胸 高 直
径 が 5∼ 10 cm 程 度 が 適 当 で あ る 。 住 民 が 道 具 や 建 築 ・ ボ ー ト 部 材 な ど 多 様
に 利 用 す る サ イ ズ は , 直 径 が 5∼ 10 cm の 小 径 木 で あ り , H. fomes の 萌 芽 更
新 は 社 会 的 に も 適 合 性 が 高 く 持 続 的 な 資 源 管 理 が 可 能 と 言 え る 。ま た ,冠 水
の萌芽へのストレスと,最高水位に応じた伐採高の管理の必要性が示され,
浸 水 ク ラ ス 4 の 高 地 盤 に お い て は 台 切 り 法 が ,浸 水 ク ラ ス 2 の 低 地 盤 に お い
ては頭木法が選択肢として提案できる。主幹を再生し収穫する台切り法と,
萌芽整理
OT
Hf
収穫
下草刈・ツル切・補植
Fig. 7.2. 萌芽更新型
Hf: Heritiera fomes
OT: Bruguiera spp. or Amoora cucullata
- 176 -
下草刈・ツル切
第7章
複数の枝条を保育し収穫する頭木法を資源管理空間で組み合わせることで,
多様なサイズの材を供給できる。さらに研究から,疎開した林分からの 2
次 遷 移 初 期 に は ,つ る 植 物 や 叢 生 型 の 陽 性 植 物 が 下 層 に 繁 茂 す る こ と が 明 ら
か に な り ,繁 茂 し た 植 物 体 が H. fomes 実 生 の 定 着・成 長 を 妨 げ 天 然 下 種 更 新
を 阻 害 す る こ と が 示 唆 さ れ た 。し た が っ て ,林 冠 閉 鎖 以 前 に は 下 草 刈 り と つ
る切り,および阻害による実生数不足を補う補植の必要性がある。
( 3) 早 成 樹 間 ギ ャ ッ プ 植 林 型 ( Fig. 7.3)
早 成 樹 に よ っ て 裸 地 の 植 被 や 材 の 収 穫 を 短 期 に 行 な い な が ら ,H. fomes な
ど の 成 長 の 遅 い 樹 種 を 混 交 さ せ ,住 民 の 多 様 な ニ ー ズ に 応 じ た マ ン グ ロ ー ブ
資 源 の 供 給 を 図 る モ デ ル で あ る 。特 定 の 早 成 樹 に 偏 っ た 植 林 地 を 混 交 林 化 す
ることで,病虫害に対する生物相の安定や土壌養分の不均衡回避(上中,
1992) な ど , 生 態 的 リ ス ク の 低 減 も 図 れ る 森 林 管 理 モ デ ル で あ る 。
本 論 文 が 示 し た H. fomes, Bruguiera spp., A. cucullata の 更 新 特 性 に 基 づ
き ,早 成 樹 の 間 伐 に よ る 疎 開 部 の 大 き さ に ギ ャ ッ プ 更 新 特 性 が 適 合 す る 樹 種
を 植 林 す る 。ま た ,植 林 木 の 成 長 過 程 で ,残 存 す る 早 成 樹 を 収 穫 し ,植 林 木
の 成 林 と 収 穫 を 図 る 。ギ ャ ッ プ 植 林 木 の 樹 種 ,お よ び ギ ャ ッ プ 植 林 後 に 収 穫
し て ゆ く 樹 種 な ど を 選 択・制 御 す る こ と で ,多 様 な タ イ プ の 管 理 が あ り 得 る 。
ギャップ植林
収穫
間伐
早生樹植林
FG
Hf or OT
Fig. 7.3. 早生樹間ギャップ植林型
FG: Fast-growing species
Hf: Heritiera fomes
OT: Bruguiera spp. or Amoora cucullata
7.4 本 論 文 の 貢 献
7.4.1 生 態 学 的 貢 献
当 地 に お け る マ ン グ ロ ー ブ 林 修 復 の 生 態 的・技 術 的 な 知 見 の 多 く は ,荒 廃
裸 地 等 に お け る 早 成 樹 植 林 に 基 づ く も の で あ っ た 。初 期 成 長 が 遅 く 植 林 に 不
- 177 -
第7章
向 き と 判 断 さ れ た Heritiera fomes の 生 態 的 な 知 見 の 集 積 は 進 ま な か っ た 。ま
た ,H. fomes の 大 径 木 択 伐 法 が 活 か せ る マ ン グ ロ ー ブ 林 は 消 失 し ,住 民 の 自
給的資源の生産を目的とする手法が開発されていなかった。
本 論 文 に お い て 解 明 さ れ た ,H. fomes 個 体 群 の 更 新 や こ れ を 中 核 と す る 森
林 の 動 態 は ,将 来 的 に H. fomes を 中 核 と す る 植 林 地 や ,自 然 更 新 林 ,RIF 林
お い て ,保 続 的 に 林 産 物 の 利 用 を 図 る た め の 更 新 手 法 を 開 発 す る 基 盤 と な る 。
ま た ,H. fomes の 萌 芽 力 と 萌 芽 特 性 は ,当 地 に お け る こ れ ま で の 人 工 造 林 に
よ る マ ン グ ロ ー ブ 林 管 理 に 加 え ,新 た な 更 新 手 法 の 選 択 と 組 み 合 わ せ を 可 能
と す る 基 礎 的 な 情 報 で あ る 。特 に ,住 民 の 多 用 す る サ イ ズ に お い て ,生 態 的
に 最 も 有 利 な 萌 芽 更 新 が 示 唆 さ れ ,施 業 へ の 応 用 を 踏 ま え た 知 見 と し て 意 義
が 大 き い 。さ ら に ,マ ン グ ロ ー ブ の 萌 芽 研 究 が 少 な い 中 に あ っ て ,多 数 の 樹
種についての萌芽力データはそれぞれの樹種の資源管理研究に資する。
研 究 の 方 法 論 か ら 言 え ば ,こ れ ま で の 当 地 に お け る マ ン グ ロ ー ブ 林 の 遷 移
や 更 新 の 研 究 は ,植 物 群 落 の 組 成 と 森 林 の 構 造 ,環 境 要 因 と 群 落 の 結 び つ き
等 の 観 察 デ ー タ に 基 づ く も の で あ っ た 。本 論 文 に お い て は ,群 落 を 構 成 す る
種 個 体 群 の 動 態 か ら マ ン グ ロ ー ブ 林 の 更 新 特 性 を 明 ら か に し た 。そ の 際 ,遷
移 と 更 新 を 理 解 す る 上 で 最 も 重 要 な 要 因 で あ る ,マ ン グ ロ ー ブ 植 物 の 耐 陰 性
を 解 明 し こ れ を 基 盤 と し て い る 。し た が っ て ,本 論 文 の 研 究 成 果 は 学 術 的 に
新たな価値を持つと言え,さらにこれに基づき提案した森林管理モデルは,
生態学的見地から妥当性があると言える。
ま た ,陸 域 の 樹 木 の 萌 芽 更 新 研 究 に は 一 定 の 方 法 論 が あ り ,伐 採 高 が 萌 芽
性 分 析 の 指 標 の 1 つ と さ れ て き た 。潮 汐 環 境 に あ る マ ン グ ロ ー ブ に つ い て は
浸 水 の 高 さ が 変 数 と し て 存 在 す る が ,こ れ を 取 扱 う 研 究 は ほ と ん ど な か っ た 。
本 論 文 に お い て は ,伐 採 高 と 最 高 浸 水 位 の 比 率 に よ る 独 自 の 分 析 手 法 を 用 い
ており,今後のマングローブ樹木の再生研究への適用が見込まれる。
本 論 文 の 生 態 環 境 お よ び マ ン グ ロ ー ブ 植 物 と マ ン グ ロ ー ブ 林 の 把 握 ,マ ン
グ ロ ー ブ の 更 新 特 性 分 析 に お い て は ,自 然 科 学 的 研 究 方 法 を 用 い て い る 。す
な わ ち 研 究 成 果 に は ,数 値 化 し た デ ー タ の 収 集 に よ り 普 遍 性 と 客 観 性 が ,統
計 と 先 行 研 究 に 基 づ く 分 析 に よ り 論 理 性 が 存 在 す る 。し た が っ て ,Heritiera
fomes の 優 占 林 が 中 核 を 占 め ( Chowdhury & Ahmed, 1994), 植 生 学 的 に 同 様
の 地 域 に ま と め ら れ る ( Chapman, 1976) ベ ン ガ ル 湾 岸 に お い て , マ ン グ ロ
ーブ資源管理への応用が期待できる。
- 178 -
第7章
7.4.2 民 族 植 物 学 的 貢 献
エ ー ヤ ワ デ ィ ー デ ル タ に お け る マ ン グ ロ ー ブ の 有 用 植 物 研 究 は ,利 用 情 報
の 記 載 と し て 1990 年 代 に 本 格 化 し た 。 し か し な が ら こ れ ま で の 調 査 ・ 報 告
に は ,経 済 的 価 値 の 高 い 種 へ の 偏 向 や ,調 査 地 や 調 査 方 法 の 不 明 確 さ が あ る
上 ,植 物 体 の 部 位・器 官 と 利 用 用 途 の 体 系 的 な 記 載 と 分 析 が な さ れ て い な か
った。
本 論 文 に お い て は ,消 費 的 使 用 価 値 お よ び 存 在 価 値 に も 着 眼 し ,マ ン グ ロ
ーブおよび陸域の非マングローブ植物資源を含めたオリジナルな調査を行
な っ て い る 。調 査 デ ー タ は ,植 物 形 態 学・解 剖 学 と 民 族 植 物 学 的 な 機 能 区 分
の 視 点 か ら ま と め ら れ て い る 。し た が っ て ,成 果 物 と し て の イ ン ベ ン ト リ ー
は そ れ 自 身 が 学 術 的 価 値 を 持 ち ,当 地 に お け る 広 範 な 植 物 資 源 研 究 の デ ー タ
ベ ー ス と し て の 活 用 が 見 込 ま れ る 。ま た イ ン ベ ン ト リ ー に は ,森 林 の 変 容 と
と も に 失 わ れ つ つ あ る ,地 域 の「 伝 統 的 な 植 物 学 的 智 恵 」が 保 存 さ れ て い る
と 言 え ,世 代 ,地 域 ,立 場( 住 民 ・ 研 究 者 ・ 企 業 家 )を 横 断 し て 利 用 さ れ る
価値を持つ。
さ ら に , 本 論 文 に お い て は ,「 マ ン グ ロ ー ブ 林 減 少 が 引 き 起 こ し た 人 々 の
生 活 変 容 」を 具 体 的 に 明 ら か に し た 。し た が っ て ,こ の 成 果 は 一 般 論 と し て
マ ン グ ロ ー ブ の 保 全 の 重 要 性 を 訴 求 す る に と ど ま ら ず ,マ ン グ ロ ー ブ 資 源 管
理 の 研 究 お よ び 事 業 を 行 な う 具 体 性 の 高 い 根 拠 と な る 。ま た 研 究 成 果 は ,社
会 的 立 場 の 違 い に よ り 生 活 変 容 が 異 な る こ と を 示 し て お り ,資 源 管 理 を 社 会
開発の文脈において研究・実施する上で重要な情報を提供している。
本 論 文 に お い て は ,資 源 管 理 上 の 注 目 種 の 抽 出 を 行 っ た 。方 法 論 か ら 言 え
ば,これまでの保全の優先順位付けあるいは林産物の重要性の順位付けは,
数 値 化 に 用 い る デ ー タ 収 集 に 時 間 と 労 力 を 要 し て い た 。本 論 文 に お い て 試 行
した,資源化のあり方とその変容からマングローブに得点を与える手法は,
迅 速・簡 便 な 評 価 が 行 な え る 点 で ,今 後 の 民 族 植 物 学 研 究 お よ び 資 源 管 理 の
研究と実施の上で適用が可能である。
本 論 文 の ,資 源 管 理 制 度 と 植 物 の 資 源 性 の 調 査・研 究 に は ,イ ン タ ビ ュ ー
と 参 与 観 察 を 基 盤 と す る 実 践 的 な 研 究 手 法 を 用 い て い る 。実 践 的 研 究 手 法 の
目 的 は ,具 体 的 な 状 況 へ の 有 効 な 関 わ り が で き る こ と で あ り ,対 象 と の 関 わ
り を 通 じ て デ ー タ を 収 集 す る こ と が 重 要 と な る 。デ ー タ の 質 や 分 析 に お い て
論 理 的 な 精 緻 さ や 厳 密 さ に 欠 け る と し て も ,当 該 研 究 地 域 の 問 題 解 決 へ の 適
- 179 -
第7章
用性は高く,実践的に成果がでる資源管理への応用が期待できる。
7.4.3 地 域 研 究 と し て の 貢 献
マ ン グ ロ ー ブ 林 の 破 壊 が 進 む 中 で ,他 の 東 南 ア ジ ア 諸 国 と 比 べ 同 地 域 に お
け る 保 全 研 究 や 保 全 活 動 は 緒 に 付 い た ば か り で あ る 。そ の 一 因 は ,自 然 資 源
の 変 容 や こ れ に 起 因 す る 人 々 の 生 活 の 劣 化 は ,政 治 的 に 負 の 意 味 合 い を 持 つ
た め で あ る 。軍 事 統 制 化 下 の ミ ャ ン マ ー 人 研 究 者 に と っ て ,こ れ ら を 公 正 中
立 な 研 究 対 象 と し て 扱 う こ と は 難 し い 。一 方 ,外 国 人 に は 入 域 と 活 動 に 制 約
が あ り ,援 助 事 業 を 除 い て 調 査 や 研 究 は 戦 後 ほ と ん ど 行 な わ れ て い な い 実 態
がある。
本 論 文 は , 外 国 人 研 究 者 と し て い ず れ も 困 難 な ,「 村 落 で の 長 期 滞 在 」 と
「 村 落 住 民 と と も に 決 め た 手 法 を 用 い た イ ン タ ビ ュ ー 」に よ り デ ー タ を 収 集
し た 。そ の た め ,資 源 管 理 の 法 制 度 と 実 態 の 齟 齬 に つ い て ,あ る い は 村 落 内
の よ り 脆 弱 な 立 場 の 住 民 の 生 活 劣 化 な ど が 示 さ れ た 。し た が っ て ,当 地 に お
け る 資 源 管 理 研 究 お よ び 社 会 科 学 分 野 の 先 行 事 例 と し て ,特 定 の 政 治・政 策
的な意図を排除した,有益な情報を提供するものである。
7.5 今 後 の 研 究 課 題
7.5.1 実 生 更 新 研 究 の 課 題
( 1) ギ ャ ッ プ の 光 環 境 の 定 量 化
ギ ャ ッ プ 内 の 光 環 境 は ,そ の 周 辺 の 閉 鎖 林 冠 下 と 特 に 大 き く 異 な り 相 対 的
に 明 る い 。ま た ギ ャ ッ プ 内 の 植 生 の 種 組 成 と 成 長 は ,ギ ャ ッ プ の 面 積 の 影 響
を 大 き く 受 け る ( 山 本 , 2003)。
本 論 文 は , ギ ャ ッ プ の 大 き さ に 対 す る Heritiera fomes, Bruguiera spp., お
よ び Amoora cucullata の 幼 樹 の 更 新 適 性 を 示 唆 し て い る 。具 体 的 に は ,胸 高
直 径 が 5 cm 以 上 の 樹 木 の 樹 冠 投 影 図 か ら 導 い た 「 林 冠 閉 鎖 度 」 と 成 長 段 階
別 の「 個 体 分 布 頻 度 」の 統 計 分 析 に 基 づ い て い る 。ギ ャ ッ プ の サ イ ズ に よ り ,
ギ ャ ッ プ 植 林 を 行 な う 樹 種 を 選 択 す る な ら ば ,定 量 的 な サ イ ズ の 目 安 が 必 要
と な る 。ま た ギ ャ ッ プ 内 の 光 環 境 に は ,ギ ャ ッ プ の 形 状 や 周 辺 の 閉 鎖 林 の 樹
高・樹 種 な ど 他 の 要 因 も 影 響 す る 。し た が っ て ,ギ ャ ッ プ サ イ ズ を 定 量 化 す
る に は サ ン プ ル 数 の 増 加 が ,ま た 複 数 の 要 因 を 考 慮 す る に は 照 度 や 光 量 な ど
による光環境の定量化が今後の課題となる。
- 180 -
第7章
( 2) 樹 木 個 体 群 の 生 活 史 初 期 の 動 態
種 子 散 布 に 始 ま る 更 新 過 程 は ,発 芽 ,定 着 ,実 生 か ら 幼 稚 樹 へ の 成 長 を 経
て ,成 木 が 母 樹 と し て 再 び 種 子 を 生 産 し 循 環 す る 。群 落 動 態 の メ カ ニ ズ ム を
個 体 群 レ ベ ル で 知 る た め の 重 要 な 変 数 は ,花 や 種 子 生 産 量 ,種 子 サ イ ズ と 死
亡 率 ,実 生 の 活 性 率 と 死 亡 率 ,稚 樹 や 成 木 の 死 亡 率 と 成 長 速 度 な ど 樹 木 の 生
活 史 全 体 に 渡 っ て い る ( 森 林 立 地 調 査 法 編 集 委 員 会 , 1999)
本 論 文 に お い て は ,実 生 か ら 成 木 に 渡 る 個 体 群 動 態 を 扱 っ た 。具 体 的 に は
樹 高 が 1.3 m 未 満 の 実 生 , 1.3 m 以 上 の 幼 樹 , 1.3 m 以 上 で 胸 高 直 径 が 5 cm
以 上 の 成 木 と 定 義 し た 3 つ の 段 階 で あ る 。マ ン グ ロ ー ブ の 散 布 体 の 生 産 ,散
布 ,死 亡 に つ い て は 研 究 が 少 な く ,天 然 下 種 更 新 の 効 果 的 な 実 施 に は ,樹 木
の生活史初期の知見集積が今後の課題である。
7.5.2 萌 芽 更 新 研 究 の 課 題
( 1) 伐 採 高 管 理 の 精 緻 化
陸 域 の 広 葉 樹 の 切 り 株 萌 芽 で は ,伐 採 位 置 が 高 い ほ ど 萌 芽 力 が 衰 え ,さ ら
に 木 材 腐 敗 菌 が 侵 入 し 切 り 株 の 枯 死 を 招 き や す い ( 片 岡 , 1992c)。 ま た , 次
世 代 の 幹 の 発 根 促 進 と 自 根 形 成 に 根 元 近 く で の 伐 採 が 重 要 ( 中 川 , 2001) と
される。
本 論 文 に お い て は ,萌 芽 へ の 浸 水 ス ト レ ス を ,伐 採 高 と 浸 水 位 の 相 対 値 か
ら 解 析 し 切 り 株 の 動 態 へ の 影 響 を 示 し た 。H. fomes の 萌 芽 更 新 に 台 切 り 法 を
適 用 す る 場 合 ,浸 水 ス ト レ ス の 回 避 と 萌 芽 の 自 根 形 成 を 最 適 化 す る 具 体 的 な
伐 採 高 の 決 定 が 必 要 と な る 。潮 汐 環 境 下 の マ ン グ ロ ー ブ に お い て は ,自 根 形
成 へ の 伐 採 高 の 影 響 研 究 は 見 当 た ら ず ,施 業 技 術 の 実 地 的 な 開 発 が 今 後 の 課
題である。
( 2) 萌 芽 整 理
萌 芽 整 理 は ,残 さ れ た 萌 芽 幹 の 径 の 増 大 に 顕 著 な 効 果 が あ り ,よ り 太 い 萌
芽 幹 の 生 産 を 目 指 す 場 合 ,自 然 淘 汰 に よ る 萌 芽 枝 本 数 の 減 少 と 萌 芽 枝 幹 の 個
体 差 が 顕 著 に な る こ ろ に 行 な う ( 田 中 , 1989)。
本 論 文 の 研 究 か ら 萌 芽 株 は ,冠 水 率 の 高 い も し く は 低 い に 対 応 し ,伐 採 後
13 ヶ 月 以 降 , 萌 芽 枝 本 数 の 少 な い も し く は 多 い 2 つ の グ ル ー プ に そ れ ぞ れ
分 化 す る こ と が 明 ら か に な っ た 。し か し な が ら ,H. fomes を は じ め マ ン グ ロ
ー ブ の 萌 芽 枝 に つ い て は ,長 期 の 消 長 と 萌 芽 間 競 争 の 知 見 は 得 ら れ て お ら ず ,
- 181 -
第7章
冠水による本数動態を考慮した萌芽整理の手法は今後の研究課題である。
7.5.3 資 源 性 研 究 の 課 題
( 1) 資 源 利 用 の 文 化 性
松 井( 1998; 2000; 2004)は 人 類 生 態 学 の 立 場 か ら ,生 計 へ の 貢 献 は 僅 少
で あ る が ,楽 し み や 喜 び や な ど 情 緒 的 な 価 値 を 持 ち ,コ ミ ュ ニ テ ィ ー に お い
て 長 期 間 継 承 さ れ る「 マ イ ナ ー・サ ブ シ ス テ ン ス 」に 注 目 し て い る 。ま た 近
年 ,資 源 管 理 に お け る 地 域 固 有 性 や 社 会 性 配 慮 を 包 含 す る こ と の 重 要 性 が 主
張 さ れ て い る ( UNEP, 2000)
本 論 文 に お い て は ,男 性 の 装 飾 ,立 木 の 殴 打 ,地 域 的 食 材 を 振 舞 う 様 子 な
ど に マ イ ナ ー・サ ブ シ ス テ ン ス と 解 釈 で き る も の が 見 出 さ れ た 。こ れ ら の 資
源 利 用 は イ ン タ ビ ュ ー 調 査 で は な く ,参 与 に よ る 観 察 か ら 記 録 さ れ た も の で
あ る 。多 く の 研 究 者 が 余 儀 な く さ れ る 短 期 滞 在 ,あ る い は 結 果 の 整 序 化 が 容
易 な 構 造 的 イ ン タ ビ ュ ー に よ っ て は 見 出 せ な い ,多 く の マ イ ナ ー・サ ブ シ ス
テ ン ス の 存 在 を 本 論 文 は 示 唆 し て い る 。地 域 文 化 の 固 有 性 や 社 会 性 配 慮 を 包
含 す る 資 源 管 理 研 究 に 向 け た ,資 源 利 用 の 文 化 性 に 関 わ る 情 報 の 集 積 は 今 後
の課題である。
( 2) マ ン グ ロ ー ブ 資 源 の 生 産 的 使 用 価 値
生 物 資 源 の 直 接 価 値 の う ち ,市 場 を 経 由 す る 生 産 的 使 用 価 値 を 住 民 の 利 益
に 結 び つ け ,地 域 経 済 の 発 展 を 図 る 熱 帯 林 管 理 の 方 策 が 主 張 さ れ て い る( 渡
辺 , 1994)。
本 論 文 の 調 査 村 は ,商 業 地 域 と 遠 隔 で 今 日 も な お 生 活 ・ 生 計 ・ 文 化 の 多 く
を 集 落 内 と 近 傍 の 植 物 資 源 に 依 拠 し て い る 。そ こ で ,研 究 は 植 物 資 源 の 自 給
的利用,すなわち市場を経由しない消費的使用価値を主眼として行なった。
調 査 の 結 果 ,過 去 自 給 的 に 利 用 さ れ て い た 燃 料 材 や 建 材 の マ ン グ ロ ー ブ 樹 木
の 中 に は ,今 日 売 買 さ れ て い る も の が あ っ た 。マ ン グ ロ ー ブ 樹 木 を 伐 採 し 販
売 す る こ と は 現 在 禁 止 さ れ て お り ,取 引 の 量 も 商 業 地 域 に 比 べ て 少 な い と 考
え ら れ る 。し か し な が ら ,現 実 に 村 人 に よ り 売 買 さ れ る マ ン グ ロ ー ブ 植 物 資
源 の 生 産 的 使 用 価 値 を 把 握 し ,資 源 管 理 の 研 究 要 素 に 加 え る の は 今 後 の 課 題
だと言える。
- 182 -
【謝辞】
本 論 文 の 研 究 に 当 た っ て は ,た く さ ん の 方 々 の 協 力 と 支 援 を い た だ き ま し た 。
指導教員である鈴木邦雄教授には,調査研究のアプローチから論文の取りま
とめに至る各要所で,的確なご指導とご支援をいただきました。また,副指導
教員の志田基与師教授,周佐喜和教授,大野啓一教授,持田幸良教授にも貴重
なご助言をいただきました。ここに深く感謝を申し上げます。
調 査 に お い て は , 森 林 保 全 NGO の Forest Resource Environment Development
and Conservation Association( ミ ャ ン マ ー )に 入 域 手 続 き や 移 動 ,宿 泊 等 の あ ら
ゆ る 面 で 準 備 と 協 力 を し て い た だ き ま し た 。Ohn 事 務 局 長 と Kyin Win 氏 に は 行
政 当 局 と の 調 整 を , Win Win 氏 と Lin Htin 氏 に は 現 場 で 生 活 を 共 に し お 手 伝 い
を い た だ き ま し た 。FREDA と の 円 滑 な 連 携 は ,マ ン グ ロ ー ブ 植 林 行 動 計 画 の 向
後元彦代表と須田清治事務局長,および横浜国立大学大学院に留学中であった
Maung Maung Than 博 士 ( FREDA) に よ る 橋 渡 し の お か げ で す 。 関 係 者 の 皆 様
に 心 か ら 感 謝 の 意 を 表 し ま す 。 ま た , エ ー ヤ ワ デ ィ ー 管 区 副 長 官 の Win Maung
氏 , Bogalay 郡 統 括 官 の Khin Maung Shwe 氏 , Byonehmwe 島 林 務 官 の Moe Zaw
氏 ,Sein Moe 氏 ,Aye Lwin 氏 を は じ め と す る ,森 林 局 の 多 く の 職 員 の 皆 様 に も
調 査 の 便 宜 を 賜 り ま し た 。本 当 に あ り が と う ご ざ い ま し た 。村 落 調 査 で は ,Ashe
Mayan 村 長 老 の 故 Aung Than 氏 に , 修 士 課 程 の 当 初 か ら ひ と か た な ら ぬ お 世 話
をいただきました。ご冥福をお祈りするとともに,深く感謝申し上げます。
研究の着想と進行については,持田幸良教授と東京情報大学の富田瑞樹博士
から,実践的なご助言とともに現地でのご指導をいただきました。ヤンゴン大
学 の Myint Aung 博 士 と Tin Tin 女 史 , Swe Swe 女 史 に は , 植 物 の 同 定 に 骨 を 折
っていいただきました。熱帯動植物の写真家でありミャンマー事情に造詣の深
い大西信吾氏には,同国森林法制度についての貴重な資料を提供していただき
ま し た 。ま た ,森 林 局 の San Win 博 士 ,Maung Maung Than 博 士 ,局 次 長 の Bo Ni
氏 ,技 術 専 門 員 の Phone Htut 氏 な ど 多 く の 職 員 の 方 々 か ら も 資 料 や 文 献 の 提 供
を受けました。皆川礼子博士をはじめ,所属研究室の方々からは多くの有益な
助言をいただきました。
皆様のご協力とご支援に,深く感謝いたします。
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xiv
引用・参考文献
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xv
引用・参考文献
xvi
Appendix
マングローブ生態系の管理と利用
H. fomes二次林(調査区B近傍)
伐採H. fomes林(調査区D近傍)
階層構造の複層化と種組成の多様化
が進んでいる。
(Byonehmwe島)
植被はほとんど喪失している。H.
fomesの切り株は,萌芽により樹体を
再生させている。
(Pyindaye地域)
潮間帯の土地利用転換
村落近傍では,マングローブ林が伐
採され,水田(手前)やニッパヤシ農
園(遠方)に転換されている。
(Ashe Mayan村)
H. fomes林の生態調査(調査区C)
近隣村の青年とともに行なった。林床
の観察が可能な干潮時に調査できる
よう,スケジュール管理が必要となる。
(Wege村近郊,Pyindaye地域)
i
Appendix
マングローブ生態系の管理と利用
H. fomesの切り株萌芽
マングローブ域の交通手段
大きな萌芽力を活用した,用途の多
様な小径木を生産する森林管理が提
案できる。
(KanyinKon村近郊,Pyindaye地域)
村人の移動手段は手漕ぎ舟である。
特に,水深や水路幅が小さな水路で
は唯一の交通手段である。
(Ashe Mayan村近郊)
伝統的家屋の構造材
通直・長尺なH. fomesの幹は,特に大
黒柱としての質が高い。
ビルマ蕎麦を突き出す天突き器
強度,耐水性,柔軟性,加工性に富
むH. fomes材は,工芸材として様々に
利用される。
(OakPoKwinChaung村)
(OakPoKwinChaung村,Pyindaye地域)
ii
Appendix
陸域生態系の資源利用
ホームガーデン
植物に関する伝統的な智恵
家屋周辺に残された陸生の在来樹林
に移入種を混交させ,粗放的に管理
されている。
(Ashe Mayan村)
マングローブ林とホームガーデンの植
物に関する,採集・加工・利用の智恵
を長老から聞き取った。
(Ashe Mayan村)
Liculala peltataの野鳥ワナ
村落内での採集活動
ホームガーデンは,特に食用と薬毒
用の植物資源を多く村人に提供して
いる。
(Ashe Mayan村)
動物や魚類の捕獲にも植物材料が使
われてきた。
(Ashe Mayan村)
iii
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