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アウトソーシング業界を取り巻く新たなリスク
【法律の基礎知識】 アウトソーシング業界を取り巻く新たなリスク 2008.6.6 @札幌 小笠原国際総合法律事務所 代表弁護士 小笠原耕司 ©小笠原国際総合法律事務所 増える自殺者 40000 1998年の出来事 35000 30000 25000 20000 女 男 15000 10000 山一証券が全店舗を閉鎖 金融ビッグバン幕開け 日本債権信用銀行国有化 長期信用銀行の国有化 相次ぐ大蔵省不祥事 大手銀行公的資金投入 (大手17行に1兆4200億 円投入) 失業率4.4%へ 5000 ※1990年バブル崩壊 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 0 平成17年中における自殺の概要資料(警察庁)より。1998年以降、 減らない。3万人台を推移。平成18年度は、32,155人(平成19年 6月発表)。青は男性、赤が女性。 ©小笠原国際総合法律事務所 増加する重大災害 (一時に3人以上が死傷した労災) 出典:厚生労働白書 ©小笠原国際総合法律事務所 増加する精神障害等による 労災認定・労災申請 年度 過労死等 精神障害等 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 請求 件数 617 690 819 742 816 869 938 931 認定 件数 85 143 317 314 294 330 355 392 請求 件数 212 265 341 447 524 656 819 952 認定 件数 36 70 100 108 130 127 205 268 【平成20年5月23日厚生労働省発表】 脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況について 過労死等 支給決定件数前年比10.4%増 精神障害等 請求件数前年比16.2%増 支給決定件数前年比30.7%増 ©小笠原国際総合法律事務所 心の病 30代社員急増 朝日新聞朝刊2006年8月21日1面 • 30代の会社員にうつ病や神経 症など心の病が急増している ことが、社会経済生産本部メン タル・ヘルス研究所の実施した アンケートでわかった。30代に 最も多いとした企業は、04年 でほぼ半数だったのが、今年 には61.0%に増えた。また、 6割以上の上場企業が、『心の 病』を抱える社員が増えたと回 答した。 • 専門家は、『急速に進む成果主 義や、管理職の低年齢化が一 因ではないか』と分析している。 ©小笠原国際総合法律事務所 相次ぐ新しいタイプの労災認定 脳梗塞で倒れたマクドナルド 元店長、長時間残業などで労 災認定された。 勤務記録からは、直近3カ月 間の残業時間が月60時間と されていたが、実際には、80 時間以上の残業が続いてい たと認められた (2008年3月7日読売新聞)。 ©小笠原国際総合法律事務所 ©小笠原国際総合法律事務所 トヨタ自動車事件 名古屋地裁平成19年11月30日 • トヨタ自動車で働く夫が交代勤務に引き継帳 を記入している途中でいすから崩れ落ち、 脳血管疾患及び虚血性心疾患を発症し、 死亡した。 • 原告である妻(X)は、国に対して、業務に起 因するものであるとして労災を申請したが 、業務災害ではないとして不支給の処分を されたことから、不支給処分の取り消しを 求めたもの。 ©小笠原国際総合法律事務所 トヨタ自動車事件の概要② • 死亡したAは、品質物流課に所属し、不具合の情報の窓口となるなどの 業務をしていて、この業務は、車の完成の遅れに直結するため、各現 場の調整が求められ、高いコミュニケーションスキルが求められていた。 • 現場の人たちから叱責されることもしばしばだった。 • また、昼夜2交代勤務制がとられていた。 • また、トヨタ自動車では、QC活動として、研修会や、他社の見学会等が 企画され、これにAは積極的に参加しておりこれを時間外労働と含める と155時間の時間外労働をしていた。これを小活動と呼んだ。 • 亡くなる当日、Aは激しく叱責されていた。 (国の主張) なくなる直前1ヶ月、本業のみでは、約53時間の時間外労働であり、業務 起因性もなく、本人の喫煙が原因であり、仕事内容の精神的な負荷も 小さく、小活動は業務ではない。また、一日40本もの喫煙が影響して いる。と主張した。 ©小笠原国際総合法律事務所 Q • この事案は労災であると認定されました。 • さて、この事案において労災であると認定さ れた判断のポイントはなんでしょうか? ©小笠原国際総合法律事務所 トヨタ自動車事件 平成19年11月10日 裁判所の判断 ①相当因果関係 労災認定における業務起因性の判断においては、Aは退社時刻まで使用者の指 揮命令下にあって労務に従事したものと認めるのが相当。 ②1ヶ月前の時間外労働等の労働状況 小集団活動を含めると155時間の時間外労働を行っていたと認められる。 ③小集団活動の業務性 本来の業務の手待時間としてその労働時間性を肯定することが相当。会社が人 事考課において、小集団活動を人事考課要素としていること等などから、使用 者の支配下における業務であると判断するものが相当であるとした。 ④業務過重性 折衝・調整の多い業務の内容からみると、職務の性質上比較的強い精神的ストレ スをもたらしたものと推認でき、Aの業務が昼夜2交代制であることからも、慢 性費等につながるものとして、質的にみても、業務の過重性があるとした。 ⑤ウィルス性心筋炎と喫煙習慣の影響 喫煙40本は影響が限定的であるとした。 相次ぐ労働法務分野の改正 ・新法成立 法律名 施行(成立)年月日 備考 労働契約法 H20.3.1 安全配慮義務の明文化 パートタイム労働法改正 H20.4.1 最低賃金法改正 H19.11.28(成立) ※生活保護給付水準よりも低かった地域もあった 労働安全衛生法 H18.4.1 従業員のメンタルヘルス・医師による長時間労働者への面接指導義務化 自殺対策基本法 H18.10.28 労働審判法 H18.4.1 ①増える労働審判に対応 【労働審判件数:平成18年877件・19年1494件】 ②3回の迅速・簡易な審判 1600 ③専門の審判員 1400 高齢者雇用安定法 H18.4.1 定年延長、雇用安定 1200 1000 公益通報者保護法 800 H18.4.1 600 400 会社法 H18.5.1 コンプライアンス 200 0 平成18年 ©小笠原国際総合法律事務所 平成19年 労働契約法の施行 ⇒行政取締罰を中心とした労働基準法とは異なり、民法の特別法である。 平成20年3月1日 施行 目的(1条) 定義(2条) 労働契約の原則(3条) ①労使対等の原則(1項) ②均衡考慮の原則(2項) ③仕事と生活の調和への配慮の原則(3項) ④信義誠実の原則(4項) ⑤権利濫用の禁止の原則(5項) 労働契約の内容の理解の促進(4条) 労働者への安全配慮(5条) 労働契約の成立,変更についての合 意原則(6条・8条) 就業規則と労働契約との関係(7条) 就業規則の変更による労働契約の内 容の変更(9条・10条) 就業規則の変更に係る手続(11条) 就業規則違反の労働契約(12条) 法令及び労働協約と就業規則との 関係(13条) 出向(14条) 懲戒(15条) 解雇(16条) 期間の定めのある労働契約(17条) その他雑則(18条・19条) ©小笠原国際総合法律事務所 明文化された安全配慮義務 (労働者の安全への配慮) 第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保 しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。 (労働契約の原則) 第3条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて 締結し、又は変更すべきものとする。 2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮し つつ締結し、又は変更すべきものとする。 3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結 し、又は変更すべきものとする。 4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、 権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。 5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それ を濫用することがあってはならない。 ©小笠原国際総合法律事務所 安全配慮義務の判例法理 最高裁判所平成12年10月13日 • 被告は、雇用契約上の信義則に基づいて、使用者と して従業員の生命、身体および健康を危険から保 護するように配慮すべき義務(安全配慮義務)を負 い、 • その具体的内容としては、労働時間、休憩時間、休 日、休憩場所等について適正な労働条件を確保し、 さらに健康診断を実施したり、従業員の年齢、健康 状態等に応じて、従事する作業時間および内容の 軽減、就労場所の変更等適切な措置をとるべき義 務を負う。 ©小笠原国際総合法律事務所 安全配慮義務 長時間労働 パワーハラスメント サービス残業 セクシャルハラスメント 安全配慮義務 安全衛生教育 健康診断 復職支援 VDT労働問題 ©小笠原国際総合法律事務所 安全配慮義務を怠ると・・・ Ⅰ:債務不履行に基づき 損害賠償請求(415)=契約責任 Ⅱ:不法行為責任の追求(709/715) • 従業員側が使用者の「故意又は過失」を立証。 • 使用者側が自己の「無過失」を立証(但し、安全配慮義務の具 体的内容の特定と、その不履行の事実は従業員側が主張立 証することを要す)。 • →使用者としては、将来の紛争が発生した場合に、 「無過失」を主張・立証できるかという観点から、十 分な対策を講じなくてはならない。 ©小笠原国際総合法律事務所 労災補償と民法上の損害賠償との関係 • 最高裁判所昭和58年4月19日 – 労災補償又は労災保険給付 ・・・労働者の被った一定の財産的損害(主として 逸失利益)の補償のみ行うもの。 – 精神的損害(慰謝料)やそのほかの積極的損害(入 院雑費、付添看護費等)の補償には影響は与えな い →労災補償や労災保険給付の限度額を超え る損害について、 使用者は民法上の損害賠償責任を負う。 ©小笠原国際総合法律事務所 請負労働者 (平成16年派遣労働者実態調査報告書より) • 製造業で、約87万人 • 男性が7割 • 年齢層は20代が4割(労働力需給制度につい てのアンケート調査より) • 40歳以下で全体の4分の3 • 勤続年数は3年未満が約7割 • 雇用契約に定めのある請負労働者のうちその ほとんどが1年以下 ©小笠原国際総合法律事務所 増加する派遣労働 平成18年度労働者派遣事業報告集計より 労働者派遣された労働者数等 • 派遣労働者 ・・・321万人 (対前年比26.1%) • 派遣先件数 ・・・約86万件 (対前年比30.4%) • 年間売上高 ・・・総額5兆4189億円 (対前年比34.3%) ©小笠原国際総合法律事務所 製造業派遣の労災急増…経験1年以下が7割 2007/ 8/29 YOMIURI ONLINE • 製造現場で、経験に乏しい派遣労働者の労働者災害(労災)が急増していることが、大阪労働局の分析で初め てわかった。 業種や経験年数がわかる全国統計がないため、「派遣労災」の実態はよくわかっていないのが実情。厚生労 働省は現状を把握するため、派遣会社や派遣先企業の業界団体に、労災を報告する際、被害者が派遣労働 者かどうかの明記を徹底するよう通知した。 労災は、業務や通勤が原因となった労働者の死亡やけが、病気を指す。総務、厚労両省によると、全国の派 遣労働者は04年の85万人から06年、128万人に増加。労災に遭うケースも06年、前年比5割増の3686人 (うち死者8人)と急増している。 大阪労働局は企業から提出された「労働者死傷病報告」を基に、労働者派遣法改正で製造業への派遣が解 禁された2004年3月から3年半の間に、大阪府内の派遣労働者が4日以上休業した労災を詳細に分析した。 04年3月から同12月、派遣先で事故に遭った労働者の総数は27人。その後増え続け、06年には146人に 達した。このうち最も多いのが製造業での事故で、06年は全体の4割を超える64人。今年も29日現在、労災 に遭った89人のうち51人を製造業が占めた。 06年の64人を経験年数でみると、3か月以下は27人、1年以下が7割を超える47人。年齢別では10∼30 代が6割に上った。 大阪市内の金属加工工場で06年11月、プレス機に両手を挟まれ、指8本を切断した20歳代の男性は、派 遣から10日もたたずに事故に遭った。同工場総務担当者は「中国の鉄鋼需要拡大で材料費が値上がる一方、 製品は値下がりしており、人件費の安い派遣労働者に頼らざるを得ない。安全教育が不十分な面があったか もしれない」と悔いる。 派遣労働者の労働組合「派遣ユニオン」(東京)・関根秀一郎書記長の話「簡単に雇用調整できるという理由 で、危険の伴う製造現場に派遣を解禁したのは間違いだった。事故は起こるべくして起きており、企業は早急 に安全対策を取るとともに直接雇用に切り替えていくべきだ」 ©小笠原国際総合法律事務所 労働安全衛生法の準用(派遣法45条) →安全衛生管理体制をとることが義務 • • ①安全衛生管理体制については、派遣社員の就労 場所である派遣先も責任を負う。 ②災害発生時の補償責任は、雇用主である派遣元 が負うが、安全配慮義務は派遣先にもある • (36条)派遣元責任者の職務 五 当該派遣労働者の安全及び衛生に関し、 当該事業所の労働者の安全及び衛生に関 する業務を統括管理する者及び当該派遣 先との連絡調整を行うこと。 • (41条)派遣先責任者の職務 四 当該派遣労働者の安全及び衛生に関し、 当該事業所の労働者の安全及び衛生に関 する業務を統括管理する者及び当該派遣 元事業主との連絡調整を行うこと。 →2004年4月1日労働者派遣法改正の製 造業への派遣拡大により追加された。 ©小笠原国際総合法律事務所 請負・派遣の違い 派遣元 (派遣会社) 労働者派遣契約 派遣先 請負元 (請負会社) 雇用関係 派遣社員 (ユーザー) 業務請負契約 請負先 (ユーザー) 指揮命令関係 ©小笠原国際総合法律事務所 雇用関係・指揮 命令関係 請負社員 民法632条と 労働者派遣法2条1項 • 請負・・民法632条 • 請負は当事者の一方がある仕事を完成することを 約し相手方がその仕事の結果に対して之に報酬 をあたえることを約するに因りて其効力を生ず(現 代語訳済み) • 派遣・・・労働者派遣法2条1項 • 自己の雇用する労働者を当該雇用関係の下に、 かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のた めに労働に従事させることをいい、当該他人に対 して当該労働者を当該他人に雇用させることを約 してするものを含まないものとする。 東京地方裁判所平成20年2月13日 事案の概要① • 高さ89センチメートルの40センチメートル四方の足場の悪い 作業台で高温の中不良缶をみつける作業をしていた、K(22 歳)が、約8時間にわたる作業中、台から転落し頭蓋内損傷、 頭部打撲傷で死亡した。 • 転落した瞬間は誰も見ておらず、発見まで最長20分間が 経っていたと考えられる。 • Kは、被告Y1の社員であり、Y1は、被告Y2から、Y1が請負 人となる請負契約を締結し、Kは、その請負作業にあたって いた。 • Kの両親であるX1・X2は、被告Y1・Y2に対して、 合計1億4200万円の損害賠償請求訴訟を提起した。 ©小笠原国際総合法律事務所 東京地方裁判所平成20年2月13日 事案の概要② • 原告の主張:Y1への主張 • 高所から落下しないように、安全に足場を設置し、万が一落下しても命 綱等の身体防護措置をとる安全配慮義務があるにもかかわらず、4 0センチメートル四方の足場であり、背もたれもなかった。 • 予め十分安全教育をすべき義務があるにもかかわらず実施しなかっ た。 • 監視する人員を配置し、事故時にはただちに救護活動にあたる義務 があるにもかかわらず、一人にした。 • 温度、臭気、騒音等に関し適切な労働環境を設けるべき義務があるに もかかわらず温度、臭気、騒音への対応が不十分であった。 • →不法行為(709条)と、債務不履行責任を負うと主張。 ©小笠原国際総合法律事務所 東京地方裁判所平成20年2月13日 事案の概要③ • 原告の主張:Y2への主張 • ①元請が管理する設備、工具を用い、 • ②事実上元請企業の指揮、監督を受けて稼働しているから • 特別な社会的接触の関係に入ったとして、Y2においても安全配慮 義務を負うと主張した。 • 実際に、Y2が所有する機会・設備が設置された場所で行われ、作 業の内容もY2が所有するライン上の缶の検査であり、作業台もY 2の所有するものであった。 • また、Y2の社員Bが作業台を準備し、Y1の社員Aに作業の内容・手 順を詳細に説明し、AがBの説明通りにKに指示を与えていた。 • ラインの稼働についてもY2の社員が管理をしていて、Y2の社員が 止めたときは、Y1の社員はラインの近くで待機をしていた。 ©小笠原国際総合法律事務所 東京地方裁判所平成20年2月13日 事案の概要④ • 被告Y1の主張 – 労働安全衛生規則518条によれば、事業者が作業者に 安全帯、命綱、安全網等を使用させる義務があるのは、2 メートルの高さで作業をさせる場合であって、本件作業台 での作業については、墜落により労働者に危険を及ぼす おそれがあったとはいえない等と主張した。 • 被告Y2の主張 – 被告Y2が作業に従事する者が転落する危険を予測出来 たとの事実及び被告Y2に過失があるとの事実について 否認した。 ©小笠原国際総合法律事務所 Q. • 上記のような事情において、被告Y1・被告Y2 は、責任を負ったか? • 負ったとしていくらの損害賠償が認められた か? ©小笠原国際総合法律事務所 裁判所の判断① A. 約5200万円の損害賠償を認めました • 被告Y1の責任 • • • 被告Y1は、Kとの間の雇用契約上の信義則に基づき、使用者として労働者の生 命、身体、健康を危険が保護すべき義務(安全配慮義務)を負う。 本件作業は、89cmの高さのある作業台のうえで、40cm四方の足場に立ったま ま、約8時間にわたり作業するというものであって、しかも暑かったことから、熱中 症や体調不良などの異常が生じた場合に、作業者が転落する可能性が十分考 えられたというべきである。したがって具体的内容として、転落防止の措置が施さ れた台を使用すべき義務を負っていた。→安全配慮義務違反 労働安全衛生規則の規定は、高さ2mの作業に着目して類型的に労働者に危険が ある場合の最低基準を定めた趣旨であって、高さ2m未満の場合の転落防止の 義務を一切免除する趣旨でないことは明らか。作業の内容、作業の様子、作業 場所の状況、日時、季節及び気温などによって、安全配慮義務の具体的内容も 異なるものというべきであり、労働安全衛生規則518条1項を根拠に、被告Y1が 安全配慮義務違反にならないという根拠にはならない。 ©小笠原国際総合法律事務所 裁判所の判断② • 被告Y2の責任 • 安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に 入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として、信義則上認 められるものである。 • 注文者と請負人との間における請負という契約の形式をとりながら、単に仕 事の結果を享受するにとどまらず、請負人の雇用する労働者から実質的 に雇用契約に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生 じていると認められる場合、すなわち、注文者の供給する設備、器具等を 用いて、注文者の指示のもとに労務の提供を行うなど、注文者と請負人 の雇用する労働者との間に実質的な使用従属の関係が生じていると認 められる場合には、その間に雇用契約が存在しなくとも、注文者と請負 人との請負契約及び請負人とその従業員との雇用契約を媒介として間 接的に成立した法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った ものとして、信義則上、注文者は、当該労働者に対し、使用者が負う安全 配慮義務を負うものと解するのが相当。 ©小笠原国際総合法律事務所 裁判所の判断③ • 事実によると、Y2工場内の、Y2が所有する機械・設備が設置された場所で 行われ、作業の内容も、被告Y2が所有するライン上を流れる検査であり、 作業台もY2所有のものであったことから、注文者の供給する設備・器具 等を用いて作業していたということができる。 • Y実際に、Y2が所有する機会・設備が設置された場所で行われ、作業の内 容もY2が所有するライン上の缶の検査であり、作業台もY2の所有する ものであった。 • また、Y2の社員Bが作業台を準備し、Y1の社員Aに作業の内容・手順を詳 細に説明し、AがBの説明通りにKに指示を与えていた。 • ラインの稼働についてもY2の社員が管理をしていて、Y2の社員が止めた ときは、Y1の社員はラインの近くで待機をしていた。 • という事情から、実質的にKは、Y2の指示のもとに労務の提供を行っていた と認められ、実質的に使用従属の関係が認められるから、信義則上、安 全配慮義務を負うとした。 • →債務不履行責任・不法行為責任 ©小笠原国際総合法律事務所 偽装請負の問題 『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』 (昭和61年4月17日) 『偽装請負』 ・請負会社(派遣元)の労働者が発注元(派遣先)から指揮命令されている 状態。つまり本来なら派遣法の規制を受けるべきところ、請負形式により 同法の適用が回避されている状態 ・派遣法違反の状態 ①労務管理の独立性 『請負人が自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること』 • • • • 指揮命令 業務遂行の評価 請負社員の労働時間管理 服務規律や配置などに関する指示・決定などを請負元が行うということ ②事業経営上の独立性 『請負契約として請け負った業務を、自己の業務としてその契約の相手方から独立して処理するものであること』 • 自己責任による資金の調達・支払・弁済 • 民法・商法などに基づく事業主責任の遂行 • 機械・設備、器材、材料などの自己調達等による業務遂行を請負元が自ら実施 ©小笠原国際総合法律事務所 大阪地方裁判所 平成19年4月26日 派遣先との黙示の雇用契約の成立 派遣期間の制限・申し込み義務と派遣労働者の保護(松下プラズマディスプレイ事件 • 原告Xは、平成16年1月訴外A社と雇用契約を締結し、A社と被告Y社との業務委託 契約に基づきY社工場内で製造業務に従事していた。 • この製造ラインでは、A社ではなく、被告Y社の親会社であるM社の社員が直接Xを含 むA社従業員に指揮命令をしていた(いわゆる偽装請負) • Xは、平成17年4月ころから、直接あるいは労働組合を通してY社に対して直接雇用 を申し入れるようになった。 • また、Xは、上記偽装請負についても労働局に申告した。 • 平成17年7月労働局が是正勧告したところ、A社は、業務請負から撤退をした。 • 同月21日からは、訴外B社が、Y社との間で労働者派遣契約を締結し、製造業務を続 けている。 • Xは、Y社に対し、①黙示の雇用契約の成立、②派遣法に基づく雇用契約の成立 が成立すると主張している。 Q. • ①黙示の労働契約の成立は認められたか? • ②派遣法40条の3以下の雇用契約の成 立は、認められたか? ©小笠原国際総合法律事務所 大阪地方裁判所 平成19年4月26日 派遣先との黙示の雇用契約の成立 派遣期間の制限・申し込み義務と派遣労働者の保護(松下プラズマディスプレイ事件 ①黙示の雇用契約の成立について • Xに対する指揮命令は、Y社が行っていたと認められる。 • しかし、雇用契約の本質は、労働を提供しその対価として賃金を得る関係にあるが、労働 の提供の場において、XとY社との間に指揮命令関係があるといっても、その間に賃金 の支払い関係があるとはいえない。 • XはA社との間で雇用契約を締結し、A社から賃金を至急されていた。 • そして、Y社とA社との間に資本関係等は認められず、Y社とA社が実質的に一体であると 認められるに足りる証拠もない。 • 上述した関係の実質は、A社とY社が派遣契約を締結し、同契約に基づきA社との間で雇 用契約を締結していたXがY社に派遣されていた状態というべきである。 しかし、そのような状態が継続したからといって、X社とY社との間に黙示の雇用契約が成 立することにはならない。 『雇用契約』 有償・双務の諾成契約 黙示の労号契約の存否はあくまで当事者意思解釈の問題 ©小笠原国際総合法律事務所 大阪地方裁判所 平成19年4月26日 派遣先との黙示の雇用契約の成立 派遣期間の制限・申し込み義務と派遣労働者の保護(松下プラズマディスプレイ事件 • ②Y社との派遣法に基づく契約の成立 • X社とY社との関係が、A社とY社との派遣契約に基づく、Y社 を派遣先、Xを派遣労働者とする関係であると解する以上、 Y社としては、一定の条件のもと労働者派遣法に基づきX に対し、直接雇用する義務が生じる。 • しかし、労働者派遣法は、申込の義務を課してはいるが、た だちに、雇用契約の申し込みがあったのと同じ効果までを 生じさせるものとは考えられず、 • 同義務違反に基づき、指導等の措置が加えられることはあ っても、直接雇用契約の申込が実際にない以上、直接の 雇用契約が締結されると解することは出来ない。 ©小笠原国際総合法律事務所 平成20年4月25日 大阪高裁 • • • • • • • 判決によると、吉岡さんは04年1月から、松下PDPの茨木工場で「請負会社の社員」という形で 働いていたが、翌05年5月、「実際は松下側社員の指揮命令のもとで働いており、実態は直接 雇用だ」と大阪労働局に偽装請負を内部告発した。同8月、松下PDPに期間工として直接雇用 されたものの、06年1月末、期間満了を理由に職を失った。期間工だった間、吉岡さんは他の 社員と接触できない単純作業に従事させられた。 判決はまず、請負会社の社員だった吉岡さんらの労働実態について「松下側の従業員の指揮命 令を受けていた」などと認定。吉岡さんを雇っていた請負会社と松下側が結んだ業務委託契約 は「脱法的な労働者供給契約」であり、職業安定法や労働基準法に違反して無効だと判断した。 そのうえで、労働契約は当事者間の「黙示の合意」でも成立すると指摘。吉岡さんの場合、04年 1月以降、「期間2カ月」「更新あり」「時給1350円」などの条件で松下側に労働力を提供し、松 下側と使用従属関係にあったとして、双方の間には「黙示の労働契約の成立が認められる」と 認定した。この結果、吉岡さんはこの工場で働き始めた当初から直接雇用の関係にあったと結 論づけた。 松下側が06年2月以降の契約更新を拒否したことについても「解雇権の乱用」で無効と判断 した。 さらに、吉岡さんが期間工として直接雇用された05年8月以降、配置転換で単独の作業部屋に 隔離されたことについて、「松下側が内部告発などへの報復という不当な動機や目的から命じた 」と認定した。 昨年4月の大阪地裁判決は「偽装請負の疑いが極めて強い」として、就労先には労働者を直接 雇用する義務が生じるとの判断を示す一方、雇用契約の成立は否定していた。 ©小笠原国際総合法律事務所 asahi.comより引用 偽装請負による業務停止命令 2006年10月3日(asahi.com) • 実際の労働形態は、「一般労働者派遣」なのに、「偽 装請負」を繰り返したなどとして、大阪労働局は、京 都市の大手人材派遣グループの製造業請負C(大 阪市)に対し、労働者派遣法に基づき、1ヶ月1事業 所の事業停止命令を出した。 • 請負契約を結んで行っている事業が、実態は労働者 派遣に該当するとした。また相次いでいた職業安定 法、労働者派遣事業法違反について、行政指導を 受けていたが、別の偽装請負の事案で事実と異な る書類を提出し、法令遵守体制にも問題があるとさ れた。 ©小笠原国際総合法律事務所 派遣会社と就労先の安全配慮義務 東京地裁平成17年3月31日 • ニコン(Y1)に勤めていた、亡太郎はY1からY2に派遣 されて働いていたが、昼間の入眠障害,胃腸の不 調を訴えるようになった。休日勤務が始まってから は,解雇の不安や、下痢や吐き気も訴えていた。1 0年5月頃には,Y2におけるリストラの噂をするとと もに,食べ物の味がしない旨訴えていた。 • 但し、特に、過度の長時間労働といった数値にはあら われていなかった。 • 退職を申出たが即答が得られず、1月26日から無断 欠勤をし、3月10日自殺していた。 ©小笠原国際総合法律事務所 東京地裁平成17年3月31日 • なお、亡太郎は、Y2の作業所で、従事させる 業務を定めて、これを管理されており、Y2の 労務管理の下で業務についてシフト変更、残 業指示および業務の指示を受けていた。 • Y1の社員は、亡太郎の就労状況について月ご とに報告を受けてこれを把握し、生前は週に 1回面談をおこなっていた。 ©小笠原国際総合法律事務所 Q • 以上の様な状況のもとで、Y1・Y2はそれぞれ、 安全配慮義務違反であるといえるか? ©小笠原国際総合法律事務所 東京地裁平成17年3月31日 裁判所の判断 • 亡AはY2の労務管理の下で業務についていたといえ,亡Aの 疲労や心理的負担を認識し,措置を講じることは可能であっ たにもかかわらず,講じたと認めるに足りる証拠はなく,安全 配慮義務違反に基づく責任を負うとした。さらにうつ病に罹患 し自殺を図ったことについて業務起因性が肯定される以上, その安全配慮義務に基づく責任を負い,さらに不法行為責 任を負うものとした。 • Y1に関しても,Y2同様,認識し措置を講じることは可能で あったにもかかわらず,Aの労働時間管理については,月末 にY2から報告を受けて初めて当月分を把握していたり,週 に1度亡Aと面談するだけであったことから安全配慮義務を 怠ったとした。また,退職の申出を受けて以降の対応のまず さ等から,安全配慮義務違反に基づく責任,さらに,不法行 為責任を負うとした。 →約2500万円の損害賠償(過失相殺3割) ©小笠原国際総合法律事務所 会社法における内部統制 ©小笠原国際総合法律事務所 大和銀行ニューヨーク支店 巨額損失事件 大阪地方裁判所 平成12年9月20日 ©小笠原国際総合法律事務所 事案の概要 • ①事件 – 大和銀行のニューヨーク支店に勤める証券取引 責任者甲が、昭和59年から平成7年の間無断か つ簿外で米国財務省証券の取引を行い、大和銀 行に約11億ドル(1200億円)の損害を与えた。 • ②事件 – 本件取引により11億ドルの損失がでたことを、米 当局に隠蔽したことで、刑事訴追を受け3億500 0万ドル(380億円)の罰金を支払った。 ©小笠原国際総合法律事務所 ①事件 • 株主代表訴訟 • 代表取締役・ニューヨーク支店長3名(取締役) – 従業員による不正行為を防止するとともに、損失の拡大を最 小限に留めるための管理体制(内部統制システム)を構築 すべき善管注意義務および忠実義務がある。 • 他の取締役1名及び監査役 – 代表取締役らが内部統制システムを構築しているかを監視 する善管注意義務および忠実義務があったのにもかかわら ずこれを怠った • として、11億ドル(約1200億円)の損害賠償を請求。 ©小笠原国際総合法律事務所 ②事件 • 株主代表訴訟 • 代表取締役・ニューヨーク支店長3名(取締役) – 法令の遵守をする義務があるにもかかわらず損失を隠蔽す るために虚偽の報告を行い、善管注意義務および忠実義務 に違反している。 • 他の取締役1名及び監査役 – 代表取締役らが米国の法令を遵守しているかを監視する義 務を怠り善管注意義務および忠実義務があったのにもかか わらずこれを怠ったとして • として、3億5000万ドルの損害賠償を請求。 ©小笠原国際総合法律事務所 コンプライアンス(法令遵守)とは • 大和銀行の判例(大阪地裁H12.9.20) 健全な会社経営を行うためには、目的とする事業の種類、性質等に応 じて生じる各種のリスク、例えば、信用リスク、市場リスク、流動性リスク、 事務リスク、システムリスク等の状況を正確に把握し、適切に制御するこ と、すなわちリスク管理が欠かせず、会社が営む事業の規模、特性等に 応じたリスク管理体制(いわゆる内部統制システム)を整備することを要 する。そして、重要な業務執行については、取締役会が決定することを要 するから(商法二六〇条二項)、会社経営の根幹に係わるリスク管理体 制の大綱については、取締役会で決定することを要し、業務執行を担当 する代表取締役及び業務担当取締役は、大綱を踏まえ、担当する部門 におけるリスク管理体制を具体的に決定するべき職務を負う。この意味 において、取締役は、取締役会の構成員として、また、代表取締役又は 業務担当取締役として、リスク管理体制を構築すべき義務を負い、さらに、 代表取締役及び業務担当取締役がリスク管理体制を構築すべき義務を 履行しているか否かを監視する義務を負うのであり、これもまた、取締役 としての善管注意義務及び忠実義務の内容をなすものと言うべきである。 ⇒11人に7億5000万ドル(830億円)の賠償命令 ©小笠原国際総合法律事務所 その後・・・ • 大阪高裁に双方控訴 • 大阪高裁にて和解2001年12月和解 • 2億5000万円の賠償 (11人分の手取り年収総額) ©小笠原国際総合法律事務所 内部統制構築義務の明文化(新会社法) • コンプライアンス(法令遵守)意識の高まり – 労働者が安心して働ける =不祥事(個人情報の漏洩・横領・その他犯罪等)を 防ぐことができる。 • 企業の健全性・効率性を維持する重要な柱で ある、内部統制システムの構築の基本方針 を取締役会で決議することが義務付けられた (新会社法362条4項6号・362条5項)。 ©小笠原国際総合法律事務所 会社法におけるコンプライアンスの 具体的内容3号・4号 ③取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制 (1)取締役・使用人の役割分担、職務分掌、 指揮命令関係等を通じた効率的な業務執行についての検討 Ex.職務分掌規定、決済規定の制定の決議 ④使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制 (1)法令の洗い出し、典型的な法令違反行為の予防措置、 法令違反行為の予防措置 (2)法令違反行為が発見された場合における対処方法・是正手段 Ex.コンプライアンス規定制定の決議 企業行動憲章、倫理規定の制定、内部監査部門や コンプライアンス統括室の設置 コンプライアンスに関する研修体制の整備 内部通報者保護制度の構築 (社外の弁護士等と直接の情報受領者とする社内通報システム) ©小笠原国際総合法律事務所 コーポレートガバナンス(企業統治) • 会社は誰のもの?誰のためのガバナンス? – 第一説 ・・・株主 – 第二説 ・・・株主に加え取引先・従業員・他の債権者・ 地域社会の人等のいわゆるステークホルダー ⇒最近はこちらが有力説。 ☆企業に関わる人たちのために企業価値を高める。 ※CSR・・・企業の社会的責任 『監査報告書』に代えて、『CSR報告書』をだすことも。 ©小笠原国際総合法律事務所 コンプライアンスと コーポレートガバナンスの関係 • コンプライアンス・・・・・・・・法令遵守 (内部統制構築義務) ⇒コーポレートガバナンスの一手段 • コーポレートガバナンス・・企業統治 (コンプライアンスリスク体制の構築) ⇒企業目的 ©小笠原国際総合法律事務所 事業場における労働者の心の健康づくりのための指針 (平成12年8月) 過重労働による健康障害防止のための総合指針(平成14年2月) • ①セルフケア・・労働者自身のケア・労働者への教育研修及び情報提供、セル フケアへの支援 • ②ラインケア・・管理監督者によるケア・管理監督者への教育研修及び情報提 供・職場環境改善支援等 • ③事業場内産業保健スタッフ等によるケア・・人事労務管理スタッ フ・産業医・保健士等によるケア・これらスタッフの活動環境の整備 • ④事業場外資源によるケア・・医療機関、保健福祉センター、外部EAP機 関等を利用したケア 【事業者の責務】 • ①労働時間管理 • ②健康管理体制の整備 • ③健康診断結果の活用 • 医師による面接(産業医・外部医) • 健康確保上の指導 • ⑤時間外労働の状況等の把握 ©小笠原国際総合法律事務所 • ⑥教育・研修制度の充実 安全衛生管理のための組織(ハード面) ★第1フェーズ(各職場単位での取り組み) 各職場における定期的なミーティングの実施,就労環境のチェッ ク,啓蒙・教育素材の回覧・掲示,残業時間管理,業務量の平均 化,管理職と従業員との定期的な面談・・などを行う。 ★第2フェーズ(社内における独立組織の設置) 従業員の安全衛生に理解の乏しい管理職がトップにいる/直接の上司や職場の同 僚には相談しにくい・・・独立した相談窓口の設置が重要 ★第3フェーズ(社外組織の利用) 第1,第2フェーズとも使用者が将来の紛争において「無過失」を立証するため に「必要」だが「十分」な対策とはいえない ・・・会社から独立し,秘密保持体制の確立した,信用のおける外部機関を活用 することが望ましい ©小笠原国際総合法律事務所 事例集 長時間労働 パワハラ セクハラ 安全教育体制 等々 ©小笠原国際総合法律事務所 古くて新しい問題 長時間労働・過労死 メンタルヘルス ©小笠原国際総合法律事務所 電通過労自殺事件(最2小判平成12年3月24日) 事案の概要① • 本件の原告であるXらの長男Aは大学卒業後の平成2年4月、大手 広告代理店であるY社に入社した。Aは同年6月Y社のラジオ関係 部署に配属されたが、当初から長時間にわたる残業を行うことが 常況となっており、これは次第に悪化する傾向にあった。 • Y社においては、残業時間は従業員が自ら申告することとされてい たところ、Aの申告した残業時間の月間合計の値は、いわゆる36 協定で定められた上限の前後となっていた。しかしながら、Aの申 告に係る残業時間は、実際のものよりも相当少なく、Aは業務遂行 のために徹夜まですることもある状況であった。 • Aの上司らは、このような状況を認識はしていたが、具体的な対応 としては、平成3年3月に、直属の上司BがAに対し、業務は所定の 期限までに遂行することを前提として帰宅してきちんと睡眠をとり、 それで業務が終わらないのであれば、翌朝早く出勤して行うように 等と指導したのみであった。 ©小笠原国際総合法律事務所 事案の概要② • Aは同年7月には業務の遂行とそれによる睡眠不足の結果、 心身共に疲労困憊した状態になり、このころ上司のBはAの 健康状態が悪いのではないかと気づいていた。こうしたこと が誘因となって、Aは遅くとも同年8月上旬ころにうつ病に罹 患した。そして同月23日から26日にかけて関与した出張を伴 う業務を終え、同月27日午前6時頃帰宅した後、午前10時こ ろ風呂場で自殺していることが発見された。 • これに対して、被告会社は、 ①健康診断を受けさせており、平成2年秋(亡くなる約1年前) に行われた健康診断の結果は、採用前に行われたものの結 果と同様であった。 ②近くのホテルと特約した宿泊施設を無料で随時利用しうる 状態にしていた。 ③深夜残業者に対する出勤猶予制度を設けていた。等、施 設・制度の充実・管理、完備を主張し、安全配慮義務を尽くし ていたと主張した。 ©小笠原国際総合法律事務所 裁判所の判断① • 『上司が、自殺した従業員の残業時間の申告が実情よ り相当に少ないものであり、同従業員が業務遂行の ため徹夜まですることもある状態にあることを認識し、 同従業員の健康状態が悪化していることに気づいて いた。にもかかわらず、同従業員に対し、業務は所定 の期限までに遂行すべき事を前提として、帰宅してき ちんと睡眠を取り、それで業務が終わらないのであれ ば翌朝早く出勤して行うようになどと指導したのみで ある。同従業員の業務の量などを適切に調整するた めの措置を執ることをしなかったことにつき上司らの 過失を認め、使用者には民法715条の使用者責任を 認め、原審に差し戻した。 ©小笠原国際総合法律事務所 裁判所の判断② • また、『使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を 定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心 理的負荷などが過度に蓄積して労働者の心身の健康を損な うことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、 使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権 限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従ってその 権限を行使すべきである。』として安全配慮義務違反を認め た点に非常に意義のある判断となった。 →結局、差し戻し審で和解をし、1億6800万円を支払ったが、本 事件を契機として、『企業の従業員に対する安全配慮義務』 があらためて問い直されることとなった。 ©小笠原国際総合法律事務所 ジェイ・シー・エム(アルバイト過労死)事件 (大阪地判平成16年8月30日) 事案の概要 • • • • • A(21歳)は、平成8年4月22日、被告Yにアルバイトとして雇用された。 Aの死亡前1週間の労働時間は90時間30分、時間外労働時間は50時間 30分となり、Aの死亡前4週間の労働時間は232時間7分、時間外労働時 間は88時間7分となる。 Aは、死亡前の9日間にわたり休日もなく連続して勤務し、特に、死亡直前 の5日間は、午後11時30分過ぎから翌日の午前3時30分過ぎまで勤務し たものであり、深夜勤務の翌日は約1時間ないし2時間遅れで出社してい たものの、十分な睡眠時間を確保できず、必要な休息を十分にとれてい なかった。 Aは、被告Yに雇用されるまで雑誌の制作業務に従事した経験はなかった のであるから、被告Y大阪支店における日々の業務には不慣れであり、 必死に仕事を覚えようとしている状態であった。 Aは、平成8年6月12日、自宅自室において死亡しているのを家族によって 発見された。死亡時の年齢は21歳であった。 OGASAWARA INTERNATIONL LAW OFFICE Q • 企業に責任はあるとされたでしょうか。 • あるとされたとしたら、いくらの損害賠償が課さ れたでしょうか。 OGASAWARA INTERNATIONL LAW OFFICE 裁判所の判断① • • 「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲 労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあ ることは周知のところである。したがって、被告Yとしては、被用者との雇用契約上 の信義則に基づいて、業務の遂行に伴って被用者にかかる負荷が著しく過重な ものとなって、被用者の心身の健康を損なうことがないよう、労働時間、休憩時間 及び休日等について適正な労働条件を確保する義務を負っているというべきで ある。」 「しかるに、被告Yは、労働基準法36条1項に基づく協定を締結することなく、∼同 法の定める労働時間等に関する規制を逸脱して、Aら被告Y大阪支店の労働者 に時間外労働及び休日労働を行わせ、しかも、Aは、日々の業務に不慣れで、著 しい精神的ストレスを受けながら、ときに深夜に及ぶ極めて長時間の勤務を重ね、 特に、死亡直前の9日間には休日をまったく取得できないなど疲労解消に必要十 分な休日や睡眠時間を確保できないまま業務に従事することを余儀なくされたの であるから、被告Yが、前記適正な労働条件を確保すべき注意義務を怠ったこと は明らかである。」 OGASAWARA INTERNATIONL LAW OFFICE 裁判所の判断② • 「そして、被告Yが、この注意義務を履行していれば、Aの死亡は回避できたと考え られるから、被告Yの安全配慮義務違反とAの死亡との間には因果関係があると いうべきである。したがって、被告Yは、安全配慮義務違反(債務不履行)に基づ き、これによって生じた損害を賠償する責任がある。」 • 「被告Yは、Aが虚血性心疾患を発症して死亡することは誰も予見できず、安全配 慮義務違反を認める前提としての予見可能性がなかったと主張する∼しかしな がら、∼長時間の労働が継続するなどして、疲労やストレス等が過度に蓄積する と、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは周知の事実であり、被告Yは このことを十分に認識できたはずである。」 • 「したがつて、Aに対し、極めて長時間の過重な労働をさせた被告Yには、Aの死亡 についての予見可能性があったというべきであり、Aの年齢や入社時の健康状 態、Aが体調不良を訴えなかったことなどをもって、被告Yに予見可能性がなかっ たということはできず、この点に関する被告Yの主張は採用できない。」 • 損害賠償額約4800万円(喫煙による過失相殺2割)。 • →過失相殺前は6300万円であるところ、 非正規雇用者であっても高額な賠償が課されることの一例 OGASAWARA INTERNATIONL LAW OFFICE 新たな労災リスクとして今、注目すべきもの パワーハラスメント ©小笠原国際総合法律事務所 高松高判平成18年5月18日を 元にした事例 • A銀行に派遣されていたスタッフXが派遣期間を満了 し、雇用契約の更新を拒絶された。 • 色々ともめ、人間関係がこじれている中である日、銀 行支店長Bより、「不要では?」と書かれている付箋 が貼られた、『慰労金明細書』を受領し、Xは自分が 不要と言われていると感じ、大変なショックを受けた として、200万円の慰謝料の請求をした。なお、他 にいじめ行為は認定されなかった。 • この請求は認められたか?認められたとしたらいくら が認められたか。 ©小笠原国際総合法律事務所 A.認められた • • • 様々にもめている中であって、 「このような事実経過のもとにおいて、慰労金明細の裏に不要では?と書かれた付 箋が付着した同明細書を受け取った控訴人(X)からすれば、自己が支店におい て不要な人物であると思われていると考えさせるに十分なものである」として、過 失によって社会的妥当性を大きく逸脱した違法な行為をしたものというべきであり、 不法行為を構成すると認めるのが相当である。 そして、B支店長の上記行為は、被控訴人A銀行の職務としてなされたものである ことが明らかであるから、「被控訴人A銀行は、B支店長の上記不法行為につき、 使用者責任(民法715条1項)を負うというべきである。」とした。 1万円の慰謝料を認めた。 • →金額はわずかながらも、派遣先企業におけるいじめ(不法行為責任、使 • 用者責任)を認めた判例として特筆すべき。 昨今増加するパワハラ等の労災リスクについても十分ケアが必要である ことを示している。 ©小笠原国際総合法律事務所 Q.男性Xが、仕事のストレスが原因で自殺してしまっ たとします。そのストレスというのは、パワーハラスメン トだと主張しています。毎日の様に男性Xを含む営業 社員全員(数名)に向かって、ノルマ不達成を理由に 以下の発言を行うことは、パワハラだと思いますか? • 「辞表を書け」 • 「やる気があるのか」 ©小笠原国際総合法律事務所 A 平成19年10月15日労働保険審査会採決 →パワハラにあたると判断されました。 • 岩手県の自動車部品販売会社の営業担当X(31 歳)が、ノルマ不達成を理由に部長だった上司が、X を含め営業担当社員を毎日の様にしかり、来客の 前でも容赦なく叱責した。営業経験がないにもかか わらず厳しいノルマが課せられ、休日出勤も強いら れた。その後Xは自殺してしまった。 • 「叱責による心理的負担は、パワーハラスメントを受 けているような状況」と認定された。 ©小笠原国際総合法律事務所 Q.では、営業の帰り道や、忘年会の帰り道に、以下の様に言わ れ続けることは、パワーハラスメントを受けているということになる でしょうか。 • 居るだけで迷惑している。お願いだから消えて くれ。 • 仕事をしないやつといいふらす • 存在が目障りだ 等 ©小笠原国際総合法律事務所 平成19年10月15日東京地裁判決 • 「指導や助言の一つ」であると上司の係長が、「存在 が目障りだ」「会社を食い物にしている。給料泥棒」 などの発言について、「過度に厳しく、キャリアばか りか人格や存在自体を否定している。企業内で上司 から、このように言われる部下の心理的負荷は過 重」と判断され、パワーハラスメントが認定され、労 災支給が認定された。 • ※既に企業とは民事で和解済み(和解金は1億近くと の報道あり。公表はなされていない)。 ©小笠原国際総合法律事務所 Q被告の原告に対する以下の行為は不法行為にあた るといえるか? 京都地方裁判所平成18年8月8日より抜粋 • 原告は被告の不興を買い、被告はことあるご とに原告の発言にケチをつけ、否定すること があった。そのような際、被告は、「なめとん のか」、「ぼけ」などの罵詈雑言を弄したと認 められる。 • もっとも、原告に落ち度がなく一方的に被告に 非があったとは直ちに認められない状況であ る。 この場合はどうか? ©小笠原国際総合法律事務所 A 不法行為にあたる • 被告の言葉遣いは相手の人格を傷つけるもの であり、上司であっても、このような言葉で部 下を叱責するのは相当とは認められず、頻繁 にそのような罵詈雑言を弄すれば、それ自体 が不法行為にあたる。 ©小笠原国際総合法律事務所 パワーハラスメントとは パワーハラスメント・・・明確な定義がなく業務命 令との区別がつきにくい 一般的な定義としては、 「職権などを背景に本来の業務の範疇を超えて 継続的に人格と尊厳を侵害する言動を行い、 就業者の働く環境を悪化させる、あるいは雇 用不安を与えること」 ©小笠原国際総合法律事務所 パワー・ハラスメントの法的責任 • 男女雇用機会均等法の規制があるセクハラ(セク シャルハラスメント)と違い法的規制がない。 パワーハラスメントの法的責任 • 暴力など刑法に違反する行為、 • 民法709条の不法行為 (上司としては故意に傷つける意思はなくとも、指導が 原因でうつ病にかかって通院したり仕事を辞めなけ ればならなくなった場合や、人事権の濫用とみなさ れる場合においては、不法行為とされうる。) ©小笠原国際総合法律事務所 安全配慮義務の一つ セクシャル・ハラスメント ©小笠原国際総合法律事務所 対価型セクシャル・ハラスメント • • • 事務所内において事業主が女性労働者に対して性 的な関係を要求したが、拒否されたため、当該女 性労働者を解雇すること。 出張中の車内において上司が女性労働者の腰、胸 などに触ったが、抵抗されたため、当該女性労働 者について不利益な配置転換をすること。 営業所内において事業主が日頃から女性労働者に 係る性的な事柄について公然と発言していたが、 抗議されたため、当該女性労働者を降格すること。 ©小笠原国際総合法律事務所 環境型セクシャル・ハラスメント • • • 事務所内において事情主が女性労働者の腰、胸な どに度々触ったため、当該女性労働者が苦痛に 感じてその就業意欲が低下していること。 同僚が取引先において女性労働者に係る性的な内 容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、 当該女性労働者が苦痛に感じて仕事が手につか ないこと。 女性労働者が抗議をしているにもかかわらず、事務 所内にヌードポスターを掲示しているため、当該女 性労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと。 ©小笠原国際総合法律事務所 (東京地判平成15年8月26日) • 事案の概要① • 派遣先社員Yは、事業を行う部屋で派遣社員Xと2人で食事を とっていたところ,Xがゴールデンウイーク明けに風邪で2日 間休んだことについて,「ゴールデンウイーク中に遊びすぎて 変な病気でももらったんじゃないの。」と述べて,暗にXが男性 と遊んで性病に罹患したかのようなことを述べた。 Yは,Xと2人で昼食を食べに外出したが,Yがまとめて会計 したので,Xが食事代を払おうとすると,「今度体で払ってもら うからいいよ。」と述べた。 Yは,定例の会議の後に,部屋でX及びCとビールを飲んだ が,その際,原告に対し,「Cさんは色気があるのにXさんは ないよね。少し教えてもらったら。」,Xさんはキャミソールとか 着るの。いいよね,あれ。うちの部屋はどんな服で来てもいい よ。」と述べた。 (東京地判平成15年8月26日) 事案の概要② • Yは,Xをワインバーに誘い2人で飲食したが,その際や同店を出た後「Cさん は処女かな。」「Xさんは男性経験あるの。」と尋ねた。 Yは,ワインバーを出て,仕事の話しなどしながら,Xを連れて駅と反対方 向にある日比谷公園まで歩き,ちょっと酔ったからと言って同公園内のベンチ に座り,Xにその隣に座るよう誘った。Xは,早く帰宅したいと考えていたが,Y が上司であるため断り切れず,Yの隣に座った。すると,Yは,Xの手を握り, 次に,片方の手でXの肩を強く抱き寄せるとともに,もう片方の手でXの顔を 押さえて,Xの唇や頬にキスをし,更にキスを繰り返そうとしたが,Xが恐怖を 感じて「やめてください。」と述べて抵抗したため,それ以上の行為には出ず, その場から帰宅することになったが,駅方向に戻る際も,Xの手を握っていた。 Xは,Yと別れたが,その直後に本件事業に関係する知人であるDに電話し て,泣きながらYから抱きつかれたり手を握られたりしたと告げ,その夜は精 神的ショックで眠れず,翌4日も遅く出社したが(Yは休暇をとっていた。),も はやYがリーダーを務める本件事業に従事することは無理であると考え,C に相談の上,やむを得ず,本件事業に従事することを断念し,同日をもって 辞めることとした。 XはYと派遣先会社であるZに対して不法行為に基づく損害賠償請求をした。 Q • 派遣先社員であるYと派遣先企業Zに責任は あるとされたでしょうか。 • あるとされたとしたら、いくらの損害賠償が課さ れたでしょうか。 ©小笠原国際総合法律事務所 裁判所の判断 • Yの事案の概要の行為は,Xの人格権を侵害するも のであって,不法行為を構成するものというべきで ある。また,Y上記行為は,上司たる職務上の地位 を利用して行われたものと認められるから,Z社は, Yの使用者として,Yの上記不法行為について使用 者責任(民法715条)を負うべきである。 • Yの性的嫌がらせ行為の内容や態様,それが行わ れた状況,Xの受けた精神的苦痛の程度,Yが受け た社内処分等の本件に顕れた諸般の事情を考慮す れば,Xの受けた精神的被害を慰謝する慰謝料は7 0万円とするのが相当である。 日本銀行事件 京都地方裁判所平成13年3月22日 事案の概要 • 銀行員であるYは、育児休業後当該係に復帰したが、日ごろから支店長 Xから、「君は髪が茶色だからヤンママだ」と言われたりし、同僚から笑わ れて悲しい思いをしていた。他の女子行員に対してもそのような言動をと ることがよくあった。 • 業務時間中に支店長室に呼び出されて夕食に誘われたことから、これら の言動をやんわりと反論して注意してもらうことができる機会だと考え誘 いに応じたところ、ホテル内の会員制クラブでキスをし、胸を触るという行 為に及んだ 。また、その後も1週間に2度の割合でメールで誘いをかけ るなどした。 • 銀行としては、①就業時間後に京都支店外でなされたものであって、業務 とは関係なく、地位を利用したともいえない。②被告銀行は、平成9年9 月本店人事局総務課にセクハラ相談窓口を設置し、そのことを各管理職 に通知した。(しかし本事例において加害者も被害者もそのことは知らな かった。)③平成9年3月・9月・10月の研修でもセクシャルハラスメントに ついて啓発を行っている。と主張し、安全配慮義務に違反していないと主 張した。 ©小笠原国際総合法律事務所 Q • 企業に責任はあるとされたでしょうか。 • あるとされたとしたら、いくらの損害賠償が課さ れたでしょうか。 ©小笠原国際総合法律事務所 裁判所の判断 • 誘った理由、誘いにのった理由が業務に密接に関連しており、約束も、勤 務時間中に、支店長室までXを呼び出して行われていること、場所も、日 銀の京都支店長であるから利用できたホテルの会員制クラブであること から、職務と密接に関連するものと認めることが相当である。 • 裁判所は、「かかるA係長(被害者から相談を受けた管理職)の対応の不 適切さはセクシャル・ハラスメント問題について特別な研修を受けた事も 無いAとしては止むを得ないものであって、これはA個人の問題ではなく、 被告銀行全体のセクシャル・ハラスメント問題への取組姿勢の問題で あったというべきである」として、社内研修の必要性に言及している。また、 単に相談窓口を設置しただけでは足りず、その事を社内に周知徹底する ことの必要性を示唆した。 →被告銀行に、加害者と連帯して約676万円の損害賠償を負わせた。 ©小笠原国際総合法律事務所 安全衛生教育体制 ©小笠原国際総合法律事務所 (神戸地判昭和56年4月27日) 事案の概要 • 原告Xは、建造中の冷凍船の船倉内壁に保温のため断熱材を張る工事 の請負を業とする被告Y1からの下請けにより、保温工事に従事していた。 • 被告Y2は、船舶の建造、販売を業とするものであるところ、被告Y1は被 告Y2から保温工事を請負っていた。 • 原告Xは作業中、クレーンによってつり上げられたパレットから転落し、左 撓骨粉砕、左尺骨骨折、左肩上腕胸部打撲挫創、頚部捻挫の傷害を受 けた。 • 原告Xは、被告Y1には、「クレーンによってつり上げられたパレットで作業 をさせてはならない義務があるとともに、安全ネットを広げる義務がある のに、これを怠った。」被告Y2は、「労働安全衛生法15条にいわゆる特定 元方事業者に該当するから、同法29条により、必要な指導を行うべき義 務があるとともに、安全ネットを広げる義務があるのに、これを怠った」と して、Yらに損害賠償を請求した。 ©小笠原国際総合法律事務所 Q • 企業に責任はあるとされたでしょうか。 • あるとされたとしたら、いくらの損害賠償が課さ れたでしょうか。 ©小笠原国際総合法律事務所 裁判所の判断① • • 被告Y1との間に原告主張のような雇傭契約が締結されていたからではなく、請負 契約が締結されていたからであることは前認定のとおりであるけれども、原告は 被告Y1から作業場所を指定され材料、主要な工具の提供を受け、その現場監督 により作業指揮を受けて従事していたものであるから、被告Y1との間には雇傭関 係と同視し得る使用従属関係が生じていたと認めるのが相当であって、被告Y1 はもとより、労働安全衛生法15条にいわゆる特定元方事業者である被告Y2も、 また、雇傭契約における労働者に対すると同様に作業による災害の危険全般に 対して人的物的に安全に作業ができるようにする私法上の安全保障義務を負う ものと解すべきである。 使用者側に課せられる安全保証義務として、すくなくとも墜落防止のための安全 ネットを特設する義務があるとともに、∼、パレットの上に乗って作業をすることの ないよう教育を施すべき義務があるべきところ、∼安全ネットが特設されていたこ とは前記認定のとおりであって、∼被告Y2は労働安全衛生法にもとづく組織のも とに船上安全会議の場などを通じて下請業者に対し、また、∼統括主任者(専 任)が定期的に巡回して直接労働者に対し、∼常時安全ネットを展張するよう教 育していたし、また、クレーンによってつり下げられたパレットの上に乗って作業を すべきでないことは常識として労働者の認識するところであったので、ことさら教 育をすることがなかったけれども、目撃したときは厳重に注意していたところであ り、被告Y1も配下の労働者に対し、同様注意していたことが認められ、∼他に右 認定を覆えすに足りる証拠はない。 ©小笠原国際総合法律事務所 裁判所の判断② • 被告Y2および被告Y1は、ともに具体的な安全保証義務を果たしており、 本件墜落事故は、もっぱら禁止行為をあえて無視した原告の過失に起因 し、被告両会社になんらの帰責事由はないというべきである。 • もっとも原告は、被告両会社が配下の労働者に安全ネットの操作につい て教育を施すべきであり、労働者にパレットから荷降し作業をさせる際に は、被告両会社自らが安全ネットを展張すべきであると主張するのであ るが、∼安全ネットの操作は極めて容易であって、ことさら教育を施す必 要のないものであることが認められ、したがって、また、被告両会社として は、墜落防止のために安全ネットを特設し、労働者に展張を義務づけれ ば足りるのであって、自らが安全ネットを展張しなければならない義務ま でも負うものでないし、常時監視人を置いて労働者か安全ネットを展張し て作業をしているかどうかを見廻るべき義務もないというべきである。 • →請負契約においても実質雇用契約として安全配慮義務を負うことを示し た判例として特筆すべきである。 ©小笠原国際総合法律事務所 事故欠勤休職 • 傷病以外の自己都合による欠勤(事故欠 勤)が一定期間(『通常は1ヶ月間』)に及んだ ときになされる休職措置。 • 休職期間の長さは通常1ヶ月か2ヶ月。 • 出勤可能となれば復職。そうならなければ自 然退職または解雇。 →目的は解雇権の留保 ©小笠原国際総合法律事務所 起訴休職 • 刑事事件に関し、起訴された者を一定期間ま たは判決確定までの間休職とする。 – 企業の社会的信用の維持 – 職場秩序の維持 – 懲戒または解雇などの処分の留保または猶予 等が趣旨であると考えられる。 ©小笠原国際総合法律事務所 休職期間の長さと無給有給について • 企業ごとに様々である。 • 本人の都合・本人に帰責事由あり → ・無給 ・勤続年数への算入なし (もしくは低比率) • 会社の都合による休職 →・60%∼100%の範囲で賃金支給 ・勤続年数への算入も高比率 という場合が多いようである。 ©小笠原国際総合法律事務所 職場復帰支援の流れ <第1ステップ>病気休業開始及び休業中のケア イ 労働者からの診断書(病気休業診断書)の提出 ロ 管理監督者,事業場内産業保健スタッフ等によるケア 『心の健康問題により休業した労 働者の職場復帰支援の手引き』 (平成16年10月14日) <第2ステップ>主治医による職場復帰可能の診断 労働者からの職場復帰の意思表示及び職場復帰可能の診断書の提出 <第3ステップ>職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成 イ 情報の収集と評価 (イ)労働者の職場復帰に対する意思の確認 (ロ)産業医等による主治医からの意見収集 (ハ)労働者の状態等の評価 (ニ)職場環境の評価 (ホ)その他 <第4ステップ>最終的な職場復帰の決定 イ 労働者の状態の最終確認 ロ 就業上の措置等に関する意見書の作成 ハ 事業者による最終的な職場復帰の決定 ニ その他 ロ 職場復帰の可否についての判断 ハ 職場復帰支援プランの作成 (イ)職場復帰日 (ロ)管理監督者による業務上の配慮 (ハ)人事労務管理上の対応 (ニ)産業医等による医学的見地から見た意見 (ホ)フォローアップ (へ)その他 職場復帰 <第5ステップ>職場復帰後のフォローアップ イ 症状の再燃・再発,新しい問題の発生等の有無の確認 ニ 治療状況の確認 ホ 職場復帰支援プランの評価と見直し ロ 勤務状況及び業務遂行能力の評価 ©小笠原国際総合法律事務所 ハ 職場復帰支援プランの実施状況の確認 会社法におけるコンプライアンス (監査役設置会社の場合) 第2項 監査役設置会社以外の株式会社である場合には、前 項に規定する体制には、取締役が株主に報告すべき事項の 報告をするための体制を含むものとする。監査役設置会社 (監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の 定款の定めがある株式会社を含む。)である場合には、第一 項に規定する体制には、次に掲げる体制を含むものとする ⑥監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた 場合における当該使用人に関する事項 ⑦前号の使用人の取締役からの独立性に関する事項 ⑧取締役及び使用人が監査役に報告をするための体制その 他の監査役への報告に関する体制その他の監査役の監査 が実効的に行われることを確保するための体制 ©小笠原国際総合法律事務所 文書について(野村ホールディングス株式会 社営業報告書より) • 業務執行に関わる情報の保存および管理 以下の文書を少なくとも10年保存、いつでも閲覧可能な状態に。 – 株主総会議事録 – 取締役会議事録 – 指名委員会、監査委員会、報酬委員会議事録 – 執行役会議議事録 – 経営会議議事録 – 経営管理委員会議事録 – コミットメント委員会議事録 – 執行役社長の特命に基づき設置した委員会の会議録 – 稟議書 – 契約書 – 会計帳簿・貸借対照表・損益計算書・営業報告書およびその附属明細 書 – 税務署その他行政機関・証券取引所に提出した書類の写し ©小笠原国際総合法律事務所 会社法におけるコンプライアンスの 具体的内容1号・2号 ①取締役の職務の執行に係わる情報の保存および管理に関する体制 (1)取締役の職務執行に係わる情報へのアクセスを確保するための情報 の保存・管理についての体制 (2)取締役の指揮・監督の下で株式会社の業務執行を行う使用人の職務 執行に係わる情報の保存および管理に関する体制 Ex.稟議書等の文書の作成・保存(保存期間)管理(管理をする部署 の指定)等についての 社内情報管理規定の制定決議 ②損失の危機の管理に関する規定その他の体制 企業活動に関連するリスクの把握・発生を未然に防止するための手続 リスクの管理・発生したリスクへの対処方法・是正手段 Ex.リスク管理規定の制定 リスクマネジメント委員会等の設置の決議 リスク発生時には、対策本部を組織し、顧問弁護士、 外部専門家等をチームとして、迅速な対応を行うとする。等。 ©小笠原国際総合法律事務所 リスクについて(野村ホールディングス株式 会社営業報告書より) • 市場リスク – 有価証券・金利等の市場のリスクファクターにより保有する資産の価格が変動 し損失を被るリスク • 信用リスク – 有価証券の発行体や取引先が義務を履行しないことにより損失するリスク • イベントリスク – 政治的または経済的要因の変動により予測不可能な事象により損失するリス ク。 • 流動性リスク – 業績の悪化等や、市場の混乱により損失するリスク • オペレーショナルリスク – 役職員が正確な事務を怠ること、事故・不正等による損失するリスク • リーガルリスク – 法令違反または契約債務不履行により損害賠償されることの損失するリスク ©小笠原国際総合法律事務所 会社法におけるコンプライアンスの 具体的内容5号 ⑤当該株式会社ならびにその親会社および子会社からなる企業集団にお ける業務の適正を確保するための体制 《親会社》 ①∼⑤についてグルーブ全体に適用あるものとして検討 Ex.グループ企業行動憲章の定め 情報の交換・人事の交流・ 子会社との連携体制の確立 親会社による子会社に対しての不当な取引の要 求等を防止するための体制等について決議 子会社のモニタリング 《子会社》 Ex.親会社との連携体制の確立・親会社からの 不当な指示への対処法 の決議 親会社への報告体制 ©小笠原国際総合法律事務所 会社法におけるコンプライアンスの 具体的内容2項 • ⑥監査役がその職務を補助すべき使用人(補助使用人)を置くことを求めた 場合における当該使用人に関する事項 • Ex.補助使用人を設置するかどうか。 • 補助使用人の人数、及び地位等についての決議 • • • • • ⑦補助使用人の取締役からの独立性に関する事項 Ex.補助使用人による監査役の職務の補助に対する 取締役の指揮命令 補助使用人の報酬または人事異動についての 監査役の関与等の体制についての決議 • ⑧取締役および使用人が監査役に報告をするための体制その他の監査役 への報告に関する体制 • Ex.報告を直接報告とするか、取締役経由とするか等。 • ©小笠原国際総合法律事務所 監査役監査基準における 内部統制 日本監査役協会発表 ©小笠原国際総合法律事務所 『財務報告に係わる内部統制の評価及び監 査の基準』2005年12月 《内部統制の基本的要素》 ①統制環境 組織の気風を決定し、組織内のすべての者の統制に 対する意識に影響を与えるとともに、他の基本的 要素の基礎となるもの 誠実性及び倫理観 経営者の意向及び姿勢 経営方針及び経営戦略 取締役会並びに監査役又は監査委員会の有する機能 組織構造及び慣行 権限及び職責 人的資源 ©小笠原国際総合法律事務所 『財務報告に係わる内部統制の評価及び監 査の基準』2005年12月 ②リスクの評価と対応 組織の目標の達成に影響を与えるすべてのリスクを識別、分析及び評価することによって、当 該リスクへの対応を行う一連のプロセス リスクの評価 ・リスクの分類 ・リスクの大きさ、発生可能性、頻度の分析 ・目標への影響の評価 リスクへの対応 ・回避 ・受容 ・低減 ・移転 ③統制活動 経営者の命令及び指示が適切に実行されることを確保するために定める方針及び手続 明確な職務の分掌・内部牽制 継続記録の維持 物理的な資産管理の活動 レビュー及び監視 ©小笠原国際総合法律事務所 『財務報告に係わる内部統制の評価及び監 査の基準』2005年12月 ④情報と伝達 必要な情報が組織や関係者相互間に適切につたえられることを確保すること 情報の識別・内容信頼性の把握・利用可能な形式に処理 伝達 ・内部伝達 ・外部伝達 ⑤モニタリング(監視活動) 内部統制の有効性を継続的に監視及び評価するプロセス 日常的モニタリング 独立的評価・・・経営者・取締役会・監査役・監査委員会等の内部監査 評価プロセス 内部統制上の問題についての報告・・・経営者・取締役会・監査約等に対する報告の手続 I⑥T(情報技術)の利用 内部統制の他の基本的要素が有効かつ効率的に機能するために、業務に組み込まれている一連のIT を活用すること。 全般統制 ・ハードウェアや、ネットワークの運用管理、ソフトウェアの開発、変更、運用並びに保守、アクセス・セ キュリティ及びアプリケーション・システムの取得等 業務処理統制 ・個々のアプリケーション・システムにおいて、承認された取引がすべて正確に処理され、記録される ことを確保する、コンピュータプログラム ©小笠原国際総合法律事務所 COSOにおける内部統制 COSOとは? 米国トレッドウェイ委員会組織委員会(Commi<ee of Sponsoring OrganizaDons of Treadway Commission)のこと。 アメリカ公認会計士協会(AICPA)が、1980年代の金融機 関を含む多くの企業の経営破綻に対処するために組織した 委員会。 この委員会において、発表されている内部統制のフレーム ワークを、 COSO報告書と呼ぶ。 ©小笠原国際総合法律事務所 COSOにおけるコンプライアンス ①統制環境 (control environment) (1)トップの在あり方は適切で明確か。 ・経営トップは、内部統制システム整備の重要性を認識しているか。 ・経営トップは、リスクを適切に認識しているか。 ・経営トップは、内部統制システムの整備の重要性を、経営方針や基本規定等の中で明確に示しているか。 ・経営トップは、組織の内外、業務執行の中で自らの言動を通じて、内部統制システム整備の重要性を強調し ているか。 (2)経営管理組織の在り方は、経営方針等を組織内に徹底し、業務に対するコントロールの基本的な仕組み が構築されているか。 《取締役会》 ・倫理基準の承認 ・法令・定款の遵守方針の承認 ・代表取締役及び業務担当取締役の言動モニター 《代表取締役》 ・価値観を含む倫理基準の作成・表明 ・法令・定款の遵守方針の作成・表明 ・倫理基準に準拠した経営者の言葉と行動 ・倫理基準の勉強会 ・担当部署(コンプライアンス部等)の設置と能力ある人の配置 ・遵守方針への違反者の懲罰の実施と人事考課への反映 ©小笠原国際総合法律事務所 COSOにおけるコンプライアンス リスクの評価 (risk assessment) 企業経営において予見されるリスクを的確に識別・分析・評価しているか。 予見されるリスクへの対応方法・管理手法が講じられているか。 《取締役会》 ・法令・定款違反のリスク評価プロセスの妥当性のモニタリング 《代表取締役》 ・担当部署による法令の新設,改定及び判例のモニタリング ・定期的及び随時の,法令・定款違反のリスクの識別,評価,対応方針の決 定及び取締役会への報告 ※・統制活動が必要なリスクに関する部署の識別及び担当取締役への指示 《業務担当取締役》 ※・担当する業務のどこに,どんなリスクがあるかの識別 ©小笠原国際総合法律事務所 COSOにおけるコンプライアンス 統制活動 (control acDviDes) 企業構成員が各体制に関する職務執行(含むリスク対応・管理)を適切に行 うために準拠すべき方針、規程、手続、マニュアル等が制定されてい るか。その内容は合理的で現実的で、相互県政機能が内在したもの となっているか。 各体制に関する職務を主意的・統括的に行う部署が明確になっているか。 その部署の職務目的を達成するために必要な陣容、専門性、権限 を具備しているか。適切な職責の分離はなされているか。 各体制が有効に機能するための実践計画が策定されているか。定期的にレ ビューされる仕組みが構築されているか。 企業構成員が各体制に関する職務執行(含むリスク対応・管理)を適切に行 えるように、適切な研修計画・体制が講じられているか。 危機的な事象が発生した場合のコンティンジェンシー・プランが策定されてい るか。その内容は合理的で現実的なものとなっているか。 《業務担当取締役》 ・リスクに対する統制活動の設計と導入 ©小笠原国際総合法律事務所 COSOにおけるコンプライアンス 情報とコミュニケーション (informaDon and communicaDon) 各体制が有効に機能するために必要な情報システムが構築されているか。 企業構成員が各体制に関する職務執行を恒常的に適切に行えるように、必 要な情報が適時・的確に伝達される仕組みが講じられているか。 各体制の統括部署が経営トップに対し、リスクの状況等、各体制の執行・管 理状況を定例的に報告する仕組みが構築されているか。 経営トップや各体制の統括部署に対し、経営管理上重要な情報、経営に重 要な影響を与える情報、各体制の目的に反するような事象の発生情 報等が適時、的確に報告される仕組みが講じられているか。 《代表取締役》 ・倫理基準,法令・定款の遵守方針を様々な方法で伝達及び研修 ・法令・定款違反のおそれがある事態に出会った人のための相談窓口ある いは通報制度 《業務担当取締役》 ・関連する主要義務ごとに,法令・定款を遵守するための統制活動を具体的 に示したマニュアルなどの作成,配布及び周知徹底 ©小笠原国際総合法律事務所 SOX法 • SOX法とは、米国のエンロンによる不正会計事件を契機とし て主にディスクロージャーを主眼として定められた法律 (サーベンス・オックスリー法)のこと。 ※サーベンス・オックスリーは人名。当時の審議会の委員長 の名前。 以下の条文がある。 • 302条:年次報告書等についてCEOおよび CFOによる証明書の義務付け • 404条:内部統制に関する経営者の評価の実施および • その報告の義務付け →日本版SOX法の元となっている。 ©小笠原国際総合法律事務所 日本版SOX法 • 証券取引法等を一部改正する法律により成立した金 融商品取引法(2006年6月成立、2008事業年度 より施行予定)が日本版SOX法と呼ばれる。 • 厳格な内部統制構築義務(コンプライアンス)を要請。 「内部統制報告書」の提出も義務づける。 • ※会社の内部統制を確立することが急務。 • =EAPや、セクハラ・パワハラ・公益通報窓口もコン プライアンスのひとつ。 ©小笠原国際総合法律事務所 EAPについて ©小笠原国際総合法律事務所 • EAPとは、Employee Assistance Program (従業員支援プログラム)のこと。 1.以下の2点を援助するために作られた職場を基盤としたプロ グラム ①職場組織が生産性に関連する問題を提議する。 ②社員であるクライアントが、健康、家族、家計、アルコール、 ドラッグ、法律、メンタル、ストレス等の仕事上のパフォーマン スに影響を与えうる個人的問題を見つけ、解決する。 と定義される(国際EAP協会HPより) つまり、従業員の抱える心の問題や体の問題、暮らしの問題な どを解決し、もって会社の収益力を高めるための仕組み のことです。 ©小笠原国際総合法律事務所 EAPのきっかけは? • ベトナム戦争後、アメリカにおいて、経済不況 や帰還兵の問題などにより多くの人が心の病 やPTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心 的外傷後ストレス障害)の症状を抱えた。 • 産業界に深刻な影響をもたらした(特にアル コール)。 • アルコール依存症を克服するためのプログラ ムを導入 • →これが、EAPの始まりに。 ©小笠原国際総合法律事務所 例えばアメリカでは・・・ • フォーチュン上位500社のうち95%がEAPを 提供。 • サービス内容は、保険医療サービス・メンタル ヘルス・職務復帰支援・薬物・アルコール・育 児支援・法律問題・はたまた禁煙プログラム 等多岐に渡り、専門家を利用して様々なプロ グラムが提供されている。 ©小笠原国際総合法律事務所 EAPが必要とされる4つの視点 • ①契約責任として判例理論として確立された 安全配慮義務の視点 • ②良質な労働力確保の視点 • ③コンプライアンス(法令遵守)の視点 • ④コーポレートガバナンス(企業統治)の視点 ©小笠原国際総合法律事務所 アメリカ型EAPモデル 本書25頁より ©小笠原国際総合法律事務所 様々な行政庁のガイドライン • 《全体に関するもの》 安全衛生マネジメントシステムに関する指針(平成11年4月30日) • 《セクシャル・ハラスメント、パワー・ハラスメントに関するもの》 事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上配慮すべき事項についての指 針(平成10年3月13日) • 《長時間労働・サービス残業に関するもの》 労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度に関する基準(平成10年2月28 日) 賃金不払残業の解消図るために講ずべき措置等に関する指針(平成15年5月23日) 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準(平成13年4月6日) 時間外労働の限度に関する基準(平成16年4月1日) • 《労働環境に関するもの》 事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針(平成4年7月1日) 快適なVDT作業のために (平成14年4月5日) • 《健康に関するもの》 事業場における労働者の心の健康づくりのための指針(平成12年8月9日) 過重労働による健康障害防止のための総合対策について(平成14年2月12日) 心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について(平成11年9月15日) • 《復職支援に関するもの》 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(平成16年10月14日) • 《個人情報に関するもの》 雇用管理に関する個人情報の適正な取扱を確保するために事業者が講ずべき措置に関する指針(平成 16年7月1日) 雇用管理に関する個人情報のうち健康情報管理を取扱うに当たっての留意事項(平成16年7月1) ©小笠原国際総合法律事務所