Comments
Description
Transcript
PMV 制御による室内環境最適化制御
21 3 IT 時代の計測・制御技術の動向(2) PMV 制御による室内環境最適化制御 木下朋行 (株) 東芝 ビルシステム技術部 キーワード:温度 (Temperature) ,湿度 (Humidity) ,PMV (Predicted Mean Vote) , BEMS (Building and Energy Management System) 民生分野のエネルギーは年々増加傾向にあり,建築 +3 暑い +2 +1 PMV 0 快適 95%→ −1 −2 −3 寒い 満足率 吹出し口 設備においても省エネルギー対策が急務になってい る。特に大規模な業務用ビルに対しては,省エネル ギー法の改正で厳しいエネルギー管理が求められてい る。ビルオーナーからは,低コストな設備導入・運用 (ランニング) と,居住者に快適な空調空間提供への 気流速度 温度 日 射 Fanger の 快適方程式 湿度 放 射 温 度 ニーズがある。 活動量 着衣量 このようなニーズに対し,快適性を確保しながらむ だを省き,省エネルギーを実現する空調制御の導入事 図!1 PMV 値が“0”に 近ければ近いほど快適で 満足感が高まる。 PMV の概念 例が増えている。本稿では,このような事例として, 暑い寒いといった温熱感覚に基づく快適指標(PMV) 極めて大切な要素であるが,従来の一般的な管理方法は, の理論を取り入れた空調制御“快適空調制御” の仕組み 室内の温度を人(管理者ら) が手動で設定する方式がとられ と事務所ビルへの導入事例について述べる。 ており,快適環境維持とエネルギー消費量低減との両立の ため温度の上げ下げに苦慮することが多い。これは,人の はじめに 感じる快適さは温度だけでなく湿度や日射(放射温度) など 大規模な業務用ビルに関する省エネルギー手法の一つと さまざまな要素が絡み合って常に変化していることが要因 し て , BEMS( Building and Energy Management Sys- の一つと考えられる。人手によって設定される温度は,こ * tem)が注目されている。BEMS とは IT を活用してビル の変化に耐えるように自ずと過剰な方向(冷房ならば設定 設備の監視,制御はもとより,各種の省エネルギー演算, 温度が低めの方向) になり,エネルギーのむだが生じるこ エネルギーの記録などを行うシステムのことをいい, とになる。 BEMS を使ってきめ細かな制御や管理を行うことによっ て,設備の運転を最適化し,大きな省エネルギー効果を得 ることができる。 2.快適性の指標 暑い寒いといった温熱感覚は居住者一人一人差がある 本稿にて紹介する快適空調制御は,BEMS の得意とす が,大多数の人が満足する温熱感覚を定量的に取り扱うこ る演算処理を用いている。居室の快適性はビルにとって極 と を 可 能 に し た 画 期 的 な 温 熱 指 標 に PMV (Predicted めて大切な要素であるが,同時に空調の消費エネルギーは Mean Vote:予測平均温冷感申告) があり,ISO 7730 に規 ビルの中で最も大きな割合を占める。快適空調制御は,各 定されている。PMV の概念を図!1 に示す。これは,デン 居室の快適性を個別に定周期で演算し,快適性を一定に保 マーク工科大学の Fanger (ファンガー) 教授が提唱した指 つように個々の空調の温度設定値をきめ細かく自動的に調 標で,暑い∼寒いまでの人の温熱感覚を 7 分割して+3 節するもので,快適さを損なわないぎりぎりの設定を行う ∼−3 の数値を割り振ったものである。快適さを左右する ことで,居室の快適性を維持しながらむだなエネルギーを 六つの変数(温度,湿度,平均放射温度,気流速度,着衣 排除することができ,ビル全体で大きな省エネルギー効果 量,活動量) と PMV の対応を,快適方程式と呼ばれる実 を得ることができる。 験式で関係づけている。PMV=0 は“ちょうど快適” のレ ベルを表し,統計的に居住者の 95% の満足が得られる。 1.従来の空調運用方法 また,PMV が−0.5∼+0. 5 の範囲では 10 人中 9 人まで 居室における空調環境の快適性確保はビル管理にとって が快適と感じる。このように“大多数の人” が快適と感じる * 温熱条件を示した PMV 指標の利用は,居住者が多数いる BEMS は (財) 省エネルギーセンターの登録商標 空気調和・衛生工学 第8 0巻 第3号 35 21 4 講座!IT 時代の計測・制御技術の動向(2) PMV(冬) PMV(夏) 1 0 他の条件 放射温度:夏26℃・冬22℃, 着衣量:夏0.5clo・冬1.0clo, 気流:0.1m/s,相対湿度:50%, 活動量:1.2met −1 20 21 22 23 24 25 室 温 [℃] 26空気圧調整弁 27 28 PMV PMV 1 0 他の条件 室温:夏26℃・冬22℃,着衣量:夏0.5clo・冬1.0clo, 気流:0.1m/s,相対湿度:50%,活動量:1.2met −1 20 21 (a) 室温と PMV の関係 27 28 1 PMV PMV 24 25 26 23 平均放射温度 [℃] (b) 放射温度と PMV の関係 1 0 0 他の条件 室温:夏26℃・冬22℃, 放射温度:夏26℃・冬22℃, 着衣量:夏0.5clo・冬1.0clo,活動量:1.2met, 相対湿度:50% 他の条件 室温:夏26℃・冬22℃,放射温度:夏26℃・冬22℃, 着衣量:夏0.5clo・冬1.0clo,気流:0.1m/s, 活動量:1.2met −1 22 0 20 40 60 相対湿度 [%] 80 100 (c) 相対湿度と PMV の関係 図!2 −1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 風 速 [m /s] 0.8 0.9 1 (d) 風速と PMV の関係 温度,湿度,放射温度,気流速度と PMV の関係 居室空間でクレームの少ない空調制御の実現を可能にす れた温度・湿度センサおよび放射,気流,活動量,着衣量 る。 の計六つの要素をもとにニューロ演算部にて居室の PMV 図!2 は PMV の 6 要素のうち,5 要素を一定に保ち,1 を推定し,推定 PMV が一定になるようにファジィ演算部 要素だけを変化させた場合の PMV 値の変化を示すもので にて空調の室温設定値を演算し,演算結果を DDC(空調制 ある。温度だけでなく湿度,放射温度,気流速度それぞれ 御部分) に出力する。空調制御が室温制御(または還気温度 の要素がすべて,PMV に影響を及ぼしている。例えば, 制御) 方式であれば導入が可能である。PMV を推定する 湿度や放射温度が低いときは,PMV 値が低くなる(=涼 うえで大きな要素の一つである放射温度については,従来 しく感じる) ので,温度を少し上げてもよいことがわか の一般的な方式では各部屋に専用のセンサを設けることで る。 対応されてきた。しかし,既存のビルの省エネルギー化の ために取り入れようとすると機器・工事コストがかさみ現 3.快適空調制御の仕組み 実的でない。そこで快適空調制御では,専用にセンサを設 快適空調制御は温度・湿度・放射温度・活動量・着衣 けることなく,BEMS の特徴を生かして外気温度や天気 量・気流速度の六つの要素からなる快適指標(PMV) の理 予報入力などのデータから演算する方式をとることによっ 論を取り入れ,これをニューラルネットワークを使って推 て,新たに専用のセンサの追加を不要とし,イニシャルコ 定演算し(ここで得られた快適指標を以降推定 PMV と称 ストの低減を図った。 す) ,推定 PMV を一定に保つように最適設定温度を随時 図!4 に平均放射温度の算出方法を記載する。室温制御 算出・更新する制御である(特許第 3049266 号,第 3361017 単位(空調機 1 台または VAV 1 台などが制御する部屋) を 号) 。この制御によって,居室の快適性を損なうことなく 一つ一つの伝熱モデルとしてとらえ,それごとに各方位の エネルギーのむだを省くことができる。また,BEMS は 壁面積,壁材質,窓面積,ブラインド有無などの建築情報 推定 PMV の制御上の目標値を設定しておけばよく,日常 と,温度計測ポイント,そして隣接する方位ごとの温度計 の温度管理に関する手間を減らすことができる。 測ポイント情報を定義する(エリアパラメータ) 。建物全体 快適空調制御の演算構成を図!3 に示す。室内に設置さ 36 平 成1 8年3月 に対しては方位角(真北に対するズレ角) を定義し,これを 21 5 PMV 制御による室内環境最適化制御/木下朋行 専用パソコン 着衣量・活動量設定 (両面から) 目標 PMV 設定 (両面から) 温度設定値 演算 推定 PMV 値 放 射 温 度 演 算 推定 PMV 演算 天気予測 内部時計 建物パラメータ (部屋ごとの構造・ 窓率・隣室との位 気流(固定) 置関係など) 部屋ごと 温度設定 日射強さ・ 方向演算 状態・冷暖 温度計測 湿度計測 外気計測 Icont 温度設定 ×○セット 状態・冷暖 温度計測 湿度計測 DDC (空調制御部分) 外気計測 外気温度・湿度センサ デ ー タ ベ ー ス 定 義 ︵ 部 屋 ご と ︶ 温度センサ 温度センサ 居室 ×○○セット 図!3 快適空調制御の演算構成 N TE 2 隣室 TE 2’ 太陽入射角 雲量補正 TE 1 TE 3’ TE 0 TE 外壁 TE 1’ TE 1 TE 3 制御対象 TE 4’ 部屋 隣室 隣室 TE:制御対象部屋の温度 TE 0:外気温度 TE 1:外壁外側表面温度 TE 2 ∼ TE 6:隣室内温度 TE 1’∼ TE 6’:制御対象部屋の内壁表面温度 TE 4 平面図 TE 5 外壁 TE 5’ TE 3’ :伝熱計算 上階 TE 3 隣室 TE TE 6’ TE 1’ TE 1 制御対象部屋 TE 6 下階 立面図 図!4 平均放射温度の算出方法 もとに各エリアパラメータの方位に補正をかけている。ま 外気温湿度の変化をもとにした天候予測値による雲量補正 ず建物外壁からの放射温度の計算であるが,外気温度 (TE により,外壁外側表面温度(TE 1) を求め,これと室内温 0) とカレンダー・時刻から求まる太陽入射角情報および, 度(TE) との伝熱計算をエリアパラメータをもとに行い, 空気調和・衛生工学 第8 0巻 第3号 37 21 6 講座!IT 時代の計測・制御技術の動向(2) 30 諸条件 部屋容積:486m3 外壁厚 :225mm 窓面積 :38m2 窓方位 :南 外気温実測値 28 平均放射温計算値(実線) 25 平均放射温実測値(グローブ計) (点線) 室温実測値 冷水弁を少しずつ閉じて室温を上昇 冷水弁開 20 9:55 10:15 10:35 表!1 33 ブラインド:有 部屋用途:事務室 天候:晴れ 10:55 11:15 11:35 23 平均放射温度 [℃] 温 度 [℃] 35 自動 11:55 18 12:15 規 模 地下 3 階,地上 40 階,延べ床面積 165 675 m2 竣 工 昭和 59 年 用 途 事務所 表!2 放射温度の実測値と演算結果の比較 設備概要 受 変 電 66 kV ループ受電方式 契約電力 5 850 kW 発電設備 非常用発電機 2 000 kVA 熱源設備 DHC 方式 空調設備 基準階:変風量方式 (VAV 940 系統) 店 舗:単一ダクト方式 個別水冷ヒートポンプ 時 間 図!5 建築概要 既設 BEMS 快適空調 制御用パソコン GW :ゲートウェイ LOC :ローカルオブジェクト コントローラ GW LOC CP 盤 INV VAV VAV 制御用コントローラ(LOC) にて開度制御を行う 図!7 システム構成図 25 階 24 階 23 階 図!6 快適空調制御の画面 22 階 外壁内側表面温度(TE 1’) を算出する。次に隣室からの放 21 階 射温度の算出については,隣室内温度(TE 2∼TE 6) とエ リアパラメータとの伝熱計算にて,各方位の壁面内側表面 温度(TE 2’∼TE 6’) を算出する。PMV の推定演算で使用 20 階 インテリア側 する平均放射温度は,これまでの計算で求められた全 6 方 ペリメータ側 図!8 空調方式 位の壁面内側表面温度(TE 1’∼TE 6’) の面積平均で求め ている。このような演算処理を室温制御単位ごと(空調機 結果(実線) の比較を図!5 に示すが,良好な結果が得られ や VAV ごと) に 10 分周期で実行させている。 ている。 実際にグローブ計により測定した放射温度(点線) と演算 38 平 成1 8年3月 図!6 に快適空調制御の画面を示す。PMV 値設定画面に 21 7 点 数 点 数 PMV 制御による室内環境最適化制御/木下朋行 200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 24.0 200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 24.0 ペリメータ 寒い(不快) やや寒め(気にならない程度) ふつう やや暑め(気にならない程度) 暑い(不快) インテリア 6% 1% 6% 28% 平均 25.5℃ 24.5 25.0 25.5 26.0 26.5 [℃] (a) 従 来 制 御 27.0 27.5 28.0 59% (a) 従 来 制 御 6% 1% 4% 29% 平均 25.7℃ 24.5 25.0 25.5 26.0 26.5 27.0 [℃] (b) 快適空調制御 27.5 28.0 60% 被験者:214人 測定場所数:704 箇所(1 ゾーンあたり 30 ∼ 50 箇所) 図!9 (b) 快適空調制御 図!10 温度分布測定結果 快適さに関するアンケート結果 て制御対象部屋の目標 PMV 値を設定するとともに,その を,空調機に設置されたインバータによって抑えることに 部屋における現在の温度,現在の推定 PMV 値,設定温度 より,送風動力の少ないシステムになっている。快適空調 が確認できる。パラメータ設定画面では,PMV の 6 要素 制御では,すべての VAV の温度設定値を制御対象とし, のうち,着衣量と活動量について設定する。 推定 PMV 演算によって各 VAV の温度設定値を 0. 1℃ 刻 みできめ細かく自動設定・更新させ,さらなる送風動力, 4.導入事例紹介 事務所ビルに快適空調制御を導入し,省エネルギー化を 図った事例を以下に紹介する。 地域冷水の削減を図った。 (3) 導 入 効 果 図!9 は居室内の温度分布を測定して集計したものであ 4. 1 導入事例 1 る。従来制御と比べて快適空調制御では,24. 5℃ 付近の (1) 建 物 概 要 低めの温度が計測された場所数が減少しており,冷やし過 地下 3 階,地上 40 階の事務所ビルに快適空調制御を導 入した事例を記載する。以下に建物概要および設備概要を 示す。 ( 2 ) 導入システム ぎによるエネルギーのむだが改善されていることがわか る。 図!10 は,ビル内在室者 214 人に対して,快適さに関す るアンケート調査を実施した結果である。従来制御と快適 図!7 にシステム構成図を示す。既設 BEMS に快適空調 空調制御を比較すると,ほぼ同一の結果が得られており, 制御専用パソコンを接続し,各 VAV に対して快適空調制 在室者に影響を与えることなく省エネルギーが実施されて 御による自動温度設定を実施した。 いることが確認できる。 図!8 に本ビルでの空調方式を示す。インテリア側は 3 快適空調制御は平成 13 年に試験導入し,平成 14 年度 4 フロアを 1 台の空調機で賄い,ペリメータ側は 6 フロアを 月から全館で連続稼働している。快適空調制御により空調 1 台の空調機で賄っている。空調方式は単一ダクト変風量 機の冷水使用量削減およびインバータによる送風動力の削 方式(VAV 方式) を用いており,空調機からダクトにより 減効果が得られた。平成 14 年度 1 年間のエネルギー消費 送風された空気の量を,可変風量装置(VAV) によって調 量について集計したところ,導入前(平成 10∼12 年度) の 節し,室内を温調している。VAV により絞られた風量 平均と比較して以下の省エネルギー効果が得られた。 空気調和・衛生工学 第8 0巻 第3号 39 21 8 講座!IT 時代の計測・制御技術の動向(2) 地域冷水量 [×103 GJ] 60 55 新設 BEMS 平成 10 ∼ 12 年度平均:52 230 GJ 50 全 館 試 験 測 定 45 40 35 30 平成 10 11 図!11 12 年 13 ▼ 6 274 GJ (12.0%) 従量料金で 1 970 万円/年 BACnet 導 入 後 Icont LON 14 INV 地域冷水量年間エネルギー推移 インテリア空調機 28 受電電力量 [×103 MW・h] 快適空調 制御用パソコン LON 27 26 平成 10 ∼ 12 年度平均:25 561 MW・h 25 24 全 館 試 験 測 定 23 22 21 ペリメータ水熱源ヒートポンプ ▼ 1 728 MW・h (6.8%) 従量料金で 1 700 万円/年 導 入 後 図!13 システム構成 20 平成 10 11 図!12 12 年 13 14 受電電力量年間エネルギー推移 表!3 規 模 地下 3 階,地上 26 階,延べ床面積 47 982 m2 竣 工 昭和 59 年 用 途 事務所 表!4 西ゾーン インテリア空調機 東ゾーン 建築概要 設備概要 受 変 電 33 kV 3 回線,スポットネットワーク受電方式 契約電力 2 600 kW 発電設備 非常用発電機 2 000 kVA 熱源設備 吸収冷凍機:240 USRt×2 基 ガスだき炉筒煙管ボイラ;2 770 MJ/t×2 基 空調設備 インテリア:各階ゾーンユニット方式 (ダクト方式) ペリメータ:水熱源ヒートポンプ コアゾーン ペリメータ 水熱源 ヒートポンプ 図!14 ペリメータ 水熱源 ヒートポンプ 空調方式 入した事例を記載する。以下に建物概要および設備概要を 示す。 ( 2 ) 導入システム 図!13 にシステム構成を示す。本ビルでは,既存の中央 監視設備を最新の BEMS に更新するタイミングで快適空 調制御専用パソコンを接続し,基準階のインテリア空調機 冷水熱量:6 274 GJ 削減(12. 0% の省エネルギー) 従量料金換算で 1 970 万円の削減 およびペリメータ水熱源ヒートポンプに対し,自動温度設 定 を 実 施 し た。専 用 パ ソ コ ン は BEMS と BACnet 接 続 電力量:1 728 MW・h 削減 (6. 8% の省エネルギー) し,インテリア空調機に対しては 0. 1℃ 刻み,ペリメータ 従量料金換算で 1 700 万円の削減 水熱源ヒートポンプに対しては装置の分解能に制約があっ 契約電力の 150 kW 低減 たため,0. 5℃ 刻みの温度設定値を送信した。 それぞれをグラフで図!11,12 に示す。 図!14 に本ビルの空調方式を示す。ビル内の居室は東 4. 2 導入事例 2 ゾーンと西ゾーンに分かれており,各々のゾーンはインテ (1) 建 物 概 要 リア空調機とペリメータ水熱源ヒートポンプによって空調 地下 3 階,地上 26 階の事務所ビルに快適空調制御を導 40 平 成1 8年3月 されている。インテリア空調機に関しては,単一ダクト定 21 9 PMV 制御による室内環境最適化制御/木下朋行 平成 13 ∼ 15 年度の月別平均電気使用量 平成 17 年度月別電気使用量 平成 13 ∼ 15 年度の月別平均ガス使用量 80 75 70 65 60 55 50 平成 17 年度月別ガス使用量 30 ガス消費量 [×103 m3] 電力量 [×104 MW・h] 85 4 5 6 7 8 9 10 25 20 15 10 5 0 11 4 5 6 図!15 7 8 9 10 11 月 月 図!16 ガス使用量月別推移 電気使用量月別推移 風量方式から,インバータを導入した変風量方式に改修 なれば幸いである。 し,快適空調制御による室内温度緩和で送風動力削減およ び吸収冷凍機ガス使用量の削減を行った。また,ペリメー 参 考 文 献 タ水熱源ヒートポンプに関しては,室内温度緩和により, 1) 花田雄一:BEMS による業務用ビルの省エネ事例,省エネ ルギー,54―11(2002) 2) 花田雄一:BEMS を使った業務用ビルの空調省エネルギー “快適空調制御” ,56―2(2004) , (財) 省エネルギーセンター 3) 木下朋行:ビルの省エネルギー “快適空調制御” ,建築設備 と配管工事,42―4,p.557 4) 花 田 雄 一:特 化 機 能 付 加 BEMS の 省 エ ネ ル ギ ー 機 能 事 例,省エネルギー,57―11(2005) ヒートポンプ内部のコンプレッサー起動回数を抑えること で,電気使用量の削減を行った。 (3) 導 入 効 果 本ビルでは平成 16 年度に BEMS 更新を行い,同工事に て快適空調制御を導入し,平成 17 年度から快適空調制御 を全館にて本格稼働した。平成 17 年 4∼11 月の電気使用 量,ガス使用量について集計し,平成 13∼15 年の同時期 (2006/1/24 原稿受理) と比較した結果,以下の省エネルギー効果が得られた。 電力量:月平均削減量 Comfort Air!conditioning Control for Building Energy Saving 11 418 kW・h 年間削減量 91 341 kW・h 省エネルギー率 1. 7% ガス使用量:月平均削減量 Tomoyuki Kinoshita* 3 807 m3 3 年間削減量 30 454 m 省エネルギー率 19. 7% それぞれをグラフで,図!15,16 に示す。 Synopsis The energy consumption trend of private field has been enlarged year by year. Also, the countermeasure for energy savings in the architectural equip- ま と め ments are become urgent obligations for us. Especially, 居室の快適性はビル運営にとって極めて大切な要素であ the energy saving management efforts in the big scale り,快適性を考えながら省エネルギーを図る本制御は,居 buildings are requested severely caused by“Revised law 住性を重視するビルオーナーのニーズに合致したものであ of energy savings in Japan”. On the other hand, such ると考えている。 building owners request with antinomy issues as intro- また,BEMS にパソコン 1 台を接続するだけで,ビル duce of low cost facilities , low running cost and they 全体の空調の省エネルギー化が可能であり,各部屋の快適 have to be realized comfortable residential spaces by 度も特別なセンサを設置することなく演算で得られるた suitable air conditioning systems. め,比較的低コストで導入ができる。ビルの規模が大きい ほど投資対効果は向上する。 BEMS は最近のネットワークのオー プ ン 化 に よ り, メーカーを問わず接続が可能となっているため,BEMS メーカーにとらわれず導入が可能でもある。 Under such demands, recently the cases are founded increased which is keeping comfortable airs and energy saving without waist and losses . This monograph describe the“comfortable air conditioning mechanism” * Toshiba Corporation この報告が今後のビル省エネルギー施策としての参考に 空気調和・衛生工学 第8 0巻 第3号 41 22 0 講座!IT 時代の計測・制御技術の動向(2) 木下朋行 きのしたともゆき 昭和 51 年生まれ/出身地 大分県/最終学歴 長崎 大学大学院/学位 修 士/専 門 流 体 工 学/資 格 2 級電気工事施工管理技師 which applied the theory of comfortable indices“ PMV : Predicted Mean Vote”based on human’s feeling about thermal conditions and precedent of introduce in the office buildings. (Received January 24,2006) SHASE-M(マニュアル)紹介 BEMSビル管理システム SHASE-M 0004-2001 環境・エネルギー性能の最適化のための 本書は、BEMSとその周辺における最新の技術と社会的要求に対し、設計技術に対する知識を提供すると同時に、ユーザー がBEMSの意義と重要性を的確に把握し、正しい価値判断をもってそのビルにとって最適なBEMSを導入し、適切な維持管理 体制を敷くとともに、これを最大限に利用して、ビル環境とビル利用の最適化、システムの最適保全、エネルギー消費と運転 コスト削滅への貢献を実現し、そしてライフスタイル視点の重要性を認識していただくことを目的に編集された。 1章 ビル管理システムの概要 ビル経営とビル管理/ビル管理システムの生い立ち/BEMSの体系、機能とハードウェ アの変遷/BEMS管理の視点とソフトウェアの変遷/国際化時代ー国内外の標準化活動 2章 ビルシステムの保全管理とBEMSの与条件 ビル経営管理とBEMS/システム保全管理/BEMSの与条件 3章 BEMSハードウェアと情報通信システム BEMSのハードウェア構成/BEMSにおける情報通信システム/シス テムインテグレーション/BEMSの信頼性とリニューアル 4章 自動制御の設計と表記 自動制御の基礎とソフトウェアの展開/自動制御・計装方式の動向/最適化制御のソフト ウェア事例/自動制御設計とBEMSにおける表記 5章 BEMSの設計と表記法 BEMS設計のプロセス/BEMS設計の分担と設計情報の伝達/BEMS機能のグレード/ BEMS設計とその表記/BEMS仕様書の作成 6章 性能検証とBEMS 性能検証(コミッショニング)の概念とその役割/性能検証プロセスとBEMSの役割/性能検証 のための計測システム/BEMSの性能検証/総合試運転調整/性能検証の事例 7章 BEMSを用いた故障検知・診断とビル最適化 ビル最適化とは何か/ビル管理における故障検知・診断のプロセス/BOFD の全体構造/アドバイザリーシステム/動的シミュレーションによる性能診断/モデル化による異常検知と診断 8章 BEMSの運用 ビルオーナーとBEMS/ビル管理技術者とBEMS/省エネルギー管理への運用/運用のための 教育・訓練・啓蒙 付録 BEMS仕様書ガイドライン/自動制御不具合事例集/主要用語集 体裁 B5判・四色カバー付き、総頁数 447 頁 価格 定価7,035円 (税込) 会員価格 6,332 円 (税込) 送料 600 円 ご注文は、下記にご記入の上、FAX (03) 3363-8266(空気調和・衛生工学会) にてお申し込みください。 配 会社名 送 先 住 所 〒 42 平 成1 8年3月 部署名 担当者名 TEL FAX 注 文 部 数 冊