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ドイツにおける販売業者の検査義務(2・完)

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ドイツにおける販売業者の検査義務(2・完)
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東京外国語大学論集第 88 号(2014)
ドイツにおける販売業者の検査義務(2・完)
鈴木 美弥子
はじめに
1. 検査義務に関する動向
1.1. 検査義務に関する原則
1.2. 目視による検査
2. 検査義務の拡大
2.1. 社会生活における期待の上昇 ( 以上、第 85 号 )
2.2. 欠陥の疑いの根拠の存在
2.3. 製造業者との関係
2.3.1. 指定商人
2.3.2. 製造企業から独立した販売会社
3. 契約責任における検査義務
3.1. 債務法現代化法による改正前の状況
3.2. 債務法現代化法による改正後の状況
おわりに(以上、本号)
2.検査義務の拡大
2.2. 欠陥の疑いの根拠の存在
すでに 1 で検討したように、欠陥の創出に直接関与していない販売業者は、原則として、欠
陥に関する検査義務はない。1)
しかし、安全性の欠如を示す端緒が存在したにもかかわらず、販売業者がそれを無視した場
合には、販売業者は責任を負うべきである。したがって、販売業者は、安全性の欠如について
の兆候を考慮し、これを契機として、例外的に、検査をなす義務が認められる。
判例では、「特別な根拠から、検査を行う契機が存在する場合、あるいは、事件の事情から
検査が明らかに考えられる場合」には、検査義務を認めている。また、検査義務があるとされ
ても、その対象は、原則として、製造上の欠陥に限られ、設計上の欠陥には及ばない。2)
それでは、具体的にどのような事情がある時に、これらに該当するであろうか。
まず、タイヤカバー事件 3)、股関節プロテーゼⅢ事件 4)では、「特別な根拠から、検査を行
う契機が存在する場合」として、被害ケースをすでに認識していたことを挙げている。5)
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ドイツにおける販売業者の検査義務(2・完):鈴木 美弥子
また、製品の欠陥は、製造業者が直接その創出に関与したものであり、製品の欠陥に関する
検査は、本来は、製造業者の任務である。しかし、製造業者が検査を実施していないことを、
販売業者が認識しているならば、販売業者は、検査を実施し、あるいは製品コントロールを行
わなければならない。6)
さらに、おりたたみ自転車事件では、被告の責任を検討する出発点として、「販売業者は、
大規模で有名な事業者から供給された自転車が、その設計から十分な安全性を呈していること
信頼することができる」と述べ、製品の安全性について、その製造業者の信頼性も問題にして
いる。7)
この場合、販売業者の責任にとって重要なのは、製造業者それ自体への信頼性ではなく、製
造業者の信頼性から推定しうる、製品そのものの安全性への信頼性である。販売業者が、製造
作業の杜撰さや組織の問題性を認識したことは、販売業者であっても、危険コントロールの措
置をとる根拠となりえ、検査義務が認められる可能性がある。8)
2.3. 製造業者との関係
販売業者が、自己と一定の関係がある製造業者による製品を販売するケースが存在する。こ
のような場合、全く無関係の製造業者による製品を販売する場合に比較し、製造状況やその組
織の問題性を認識する可能性も、また、その関係性から、販売する製品への検査の期待も高ま
るといえる。
製造業者と販売業者になんらかの関係が見られるいずれの判決においても、上記で見たよう
な、販売業者には、原則として、製品に対する検査義務はなく、
「特別な根拠から、検査を行
う契機が存在する場合、あるいは、事件の事情から検査が明らかに考えられる場合」に、例外
的に検査義務を認めるという、販売業者の検査義務に関するルールは述べられている。それで
は、製造業者との関係性が、販売業者の検査義務の認定にいかに影響するか見ていきたい。
2.3.1. 指定商人
指定商人には、単純な販売業者よりも、一般には、高度な義務があるといえる。指定商人は、
消費者から、特に専門知識があるとみなされる。というのは、指定商人は、専門家と考えられ
ており、また、アフターサービスや修理の提供の際、指定商人の背後にいる製造業者のノウハ
ウによって事後的にも専門家として登場することから、専門知識があると見なされる。また、
指定商人の製造業者に対する緊密な関係により、実際、指定商人は危険コントロールに平均以
上に寄与する立場に置かれる。しかしながら、いかなる追加的な任務が指定商人に期待可能か
は、個々のケースによる。9)
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指定商人の検査義務に言及する判決として、後輪タイヤ事件がある。判決によれば、指定商
人が中古品を扱う場合、指定商人は、少なくとも安全性に係わる外部的な変更を認識しなけれ
ばならない。このことは、なによりも自動車販売業者に妥当する。後輪タイヤ事件は、指定商
人には、中古車を、走行許可を失わせる変更について ( 本件では、リムに適合しないタイヤへ
の交換 )、車検証の番号との照合が求められることを示すが、それは、あくまでも、表面的な
検査で認識できる範囲のものである。10)
指定商人が製品に関連するコントロール、分析、あるいはメンテナンス機器を自由に使用で
きる限りで、指定商人にとって、その能力の枠内で、検査が期待可能である。理論的には、指
定商人は研究機関を介在させ、所見を入手することも可能である。しかし、指定商人に機能に
無関係な任務を過剰負担させないために、そのような検査義務は、ごくまれな場合のみ、すな
わち、重大な危険の可能性と、製造業者の検査義務、警告義務の懈怠に対する明白な指摘があっ
た場合のみ期待可能であるとの主張が存在する。11)
2.3.2. 製造企業から独立した販売会社
製造企業が、その製品を法的に独立した販売会社により販売させることが、しばしば見られ
る。この場合、製造企業と販売会社は、親会社と子会社、孫会社という関係を有している。こ
の場合の販売会社の製造会社との人的 ( 人事上 )・組織的に密接な関係と、製造企業への従属
性を鑑みれば、指定商人の場合より製造業者との結びつきは強固である。12)
このような関係性がみられる事件として、まず、コンデンサー容器事件を挙げることができる。
本件では、コンデンサー容器の破裂により重傷を負った原告により、コンデンサーを販売した
被告の責任が追及されたが、コンデンサーの製造業者は、被告の子会社のT社であり、被告の
人的責任社員であるエンジニアGは同時にT社の社員で幹部であった。
本件の判決では、製品に対する検査は、製造業者の問題であり、販売業者には、原則として
検査義務はなく、例外的に認められることがあるという、上記のルールを述べ、製造業者であ
る T 社の検査義務を認めた。13)そのうえで、以下のように続ける。
すなわち、「控訴裁判所は、検査義務について被告と子会社 T を同一視した。これが正当化
されるのは、T社の幹部と被告の人的責任社員が同一である際に、必要な検査がTの事業にお
いて行われず、被告自身が行わねばならない場合に、後者がそれを明確に認識している限りで
ある。」14)
つまり、このような場合、販売会社が、製造業者の検査義務を担うとしたのである。
この後、製造会社と販売会社に、このような結合がみられる場合の連邦通常裁判所の判決と
して、アスベスト板事件がある。
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ドイツにおける販売業者の検査義務(2・完):鈴木 美弥子
[ アスベスト板事件 ]
原告は、1972 年から 73 年にかけて建築された家屋の所有者である。原告は、家のファサー
ドに F の製品であるアスベスト板を張った。この板は、共同企業体に統合された建築会社が、
被告 F 販売有限会社から購入したものである。1974 年にこの家屋の風雨の当たる側の窓ガラ
スに白い曇りができたが、それは、雨水がアスベスト板からの物質を溶かし、窓ガラスに付い
たことにより生じたものであった。原告は、被告によるアスベスト板の供給と、その使用によ
り、すでに発生した損害に加え、将来発生する損害についても賠償義務の確定を求めた。
また、控訴審で、被告は板を自ら製造しておらず、板は、その製品を主に被告を通じて販売
している F 工場の製造によるものであることが認定されている。しかし、被告会社と F 工場
の社員は同一である。
[ 判旨 ]
F 工場は、板をドイツ工業規程 274 番を遵守して開発し、一定期間の耐候試験において、様々
な天候作用にさらし、引き続き検査を行った。もっとも、その際、F 工場は、板が、隣接する
建築材料に悪影響を及ぼすなんらかの物質を分離するかについては検査しなかった。
控訴裁判所は、被告の損害賠償義務を否定した。被告は板の製造業者ではないため、被告は
板を侵害的作用について検査する必要も、したがって、被告が板のマイナスの性質を販売前に
認識できなかったことを説明し証明する必要もなかった。被告により作成されたパンフレット
では、板は耐候性があり、ファサードを葺くのに適していると記されていることから、控訴裁
判所の判断によれば、パンフレットの内容は製造業者の申立てに拠るものであるため、被告は
不法行為による損害賠償も契約による損害賠償も導き出すことはできないとした。
( 原告は、アスベスト板から分離した物質による窓の汚れにより、所有権侵害を受けたとい
え、不法行為による損害賠償請求が法的に原則として可能である。)
判例と同じく、控訴裁判所は、販売業者が、製品から発生したすべての損害に対し直ちに賠
償責任があるわけではないことから出発する。なぜなら、販売業者は、一般的には、販売に供
した製品から危険が生ずるか検査する義務はない。何か他のことが該当するのは、販売業者が
すでに製品の使用の際の被害ケースを認識していたため、特別の根拠から検査の契機が生ずる、
あるいは、事件の事情により、検査が考えられる場合に限ってである。
販売業者と製造業者の間に、緊密な資本結合、とりわけ、共同の経営と管理を目的とした法
的結合 ( コンツェルンの結合 ) がある場合でも、民法 823 条1項による販売業者の義務は、原
則として変わらない。係争事件の判決について、控訴裁判所の見解 ( しかし、上告の見解にも )
とは異なり、どのような場合に、被告が、例えば、単に製造業者から独立した販売会社と見な
されるかは重大でなく、ここではそのような独立がどのような場合に存在するか議論する必要
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はない。製造業者が、その製品の販売について、製造業者から確かに法的に独立した会社を設
立し、全面的な資本参加がある場合でさえ、この会社は、すでにそれゆえに、製造業者自身の
ような責任を負うことはない。控訴裁判所により支持された見解は、現行法では支持されない。
なぜなら、単なる販売業者がそのような責任を負うとすることは、製造者責任を生じさせる社
会保安義務の違反により根拠付けられないからである。製造物の欠陥、あるいは、その危険に
対し、販売会社は、いかに組織化されていようとも、原則として、不法行為上、それに責任が
ある者が、社会保安義務、あるいは、組織義務に違反した場合に限り、責任を負う。これ以外
のことは、連邦通常裁判所は判断していない。
製造業者と組織上緊密な結合がある販売会社について、それが、たとえ製造企業から独立し
ていなくとも、製造企業と無関係な販売業者より頻繁に、特別の事情に基づき課される危険防
除義務が生ずるのは、なによりも、経営陣の構成員、あるいは、定款による代表者が、コンツェ
ルンにおける一般的な経験と意見の交換の際に、それどころか、両企業 ( 製造業者と販売業者 )
におけるその活動に基づいて販売された製品の構造的な弱点、あるいは、製造過程の不十分さ
を知っている場合である。したがって、そのような販売会社は、たとえば、製造企業において
必要な検査が行われていなかったことを認識している場合には、適切な検査、あるいは製品コ
ントロールさえ行わなければならない。
しかしながら、係争事件では、機関、あるいは、定款による被告の代表者が、被告と製造会
社との法的および人的結合に基づき、アスベスト板に関するそのような知識を有していること
の端緒がない。上告が主張するように、販売会社である被告の経営陣が、F 工場の経営陣であっ
たとしてもである。なぜなら、製品の開発は、明らかに、経営陣の下部の段階でなされるから
である。15)
この他、コンツェルンの結合による販売業者の義務について言及する判決として、ラント上
級裁判所、ラント裁判所のものとして、以下の二つの判決を検討する。
[OLG Oldenburg, 19.2.1975]
被告は、外国の自動車製造業者の独立した販売会社であり、原告は、被告の指定商人から自
動車を購入し、それにより、原告と第二原告は事故に遭い、重傷を負い、被告にその賠償を請
求した。
[ 判旨 ]
被告が、販売会社として、自動車を製造するパリの親会社との関係で、ドイツ国内での顧客
サービスに配慮しなければならず、この場合、争いになっている被害ケースの経過についても
配慮すべきであったという自明の事実から、X 自動車工場の製造と製造業者に結びついた製造
物責任を被告に移すべきことにはならない。むしろ、その点で、その任務は、パリの親会社の
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ドイツにおける販売業者の検査義務(2・完):鈴木 美弥子
代理で、ドイツでのあらゆる顧客サービス業務を行うことに制限される。
ただし、本件では、被告は、一般走行許可を有していることから、この適合性に関する限り
で、検査義務を認めるにすぎない。16)
原告は、パリの製造会社の支店として、被告の製造物責任を導き出そうとする主張をしたが、
判決は、重要なのは、被告の業務領域ではなく、
(本来、検査義務が認められる)パリの製造会
社の工場の業務領域であるとする。また、顧客サービスの関係で、被害ケースに関して配慮が求
められるとしても、そこから、直ちに製造者と同様の責任が認められるわけではないのである。
[LG Köln, Urt. v. 17. 12. 1986]
原告の自動車は、151000 キロの走行時間の後、設計の欠陥を原因とするエンジン損害が生
じたことにより、原告は、フランスの製造会社のドイツにおける販売会社に対して、損害賠償
請求をした。
[ 判旨 ]
(売買契約に基づく請求は、時効によりできず、民法 823 条 1 項に拠る。)
被告が、パリにあるフランスの親会社のドイツのコンツェルンの子会社であるという事情も、
被告の責任を根拠づけない。また、輸入者は、自己が輸入した商品をその社会生活上の安全性
について検査する義務を持たない。なぜなら、輸入者は、これは、ほとんどのケースでは実施
不可能だからである。輸入者が、例えば、コンツェルンの結合により、自己が販売した商品の
欠陥について特別な認識を得る場合、あるいは、製品に変更を加えた場合は異なる ( すなわち、
検査義務が認められる )。本件では、双方の場合とも見られない。17)
以上、判決を検討してきたが、コンツェルンによる結合が、製造会社と販売会社の間に見ら
れる場合、その関係性をもって直ちに、販売会社に製造者と同様の責任を認めることはない。
この場合でも、あくまでも、販売業者として、原則として、製品を検査する義務は認められな
のである。しかし、製造業者とコンツェルンによる結合が存在し、そこから生ずる諸事情から、
検査義務が認められる可能性がある。
すなわち、アスベスト事件では、コンツェルンによる結合を通じ、製造会社の販売会社との
経営陣の交流がみられ、その際に、製品の欠点や、製造段階の不備を知る機会がありうるとする。
同様の指摘は、上記の LG Köln, Urt. v. 17. 12. 1986 にもみられる。そして、実際に、これらを
認識していたのであれば、販売業者であっても、製品に対する検査義務が認められるとする。
この場合、販売業者は、製造会社 ( 工場 ) で行われない品質検査、あるいは製品コントロー
ルを埋めあせるべきとされるが、しかし、販売業者には、それは、ほとんど技術上可能ではな
い。したがって、販売業者は、費用がかかるこれらのコントロール、あるいは、万一の場合の
販売の中止を、明白な製品の欠陥、大きな危険の可能性、そして、製造業者について機能不全
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が認識される場合に限って、期待されるにすぎない。18)
しかし、アスベスト板判決で、上記のような例外的に検査義務を認める枠組みを示すものの、
結局は、いわば、現場の問題として、経営陣は認識していなかったと認定し、販売会社の責任
を否定している。同様に、LG Köln, Urt. v. 17. 12. 1986 においても、コンツェルンの結合により、
自己が販売した商品の欠陥について特別な認識を得る場合には、検査義務が認められるとする
ものの、その認識はないとした。さらに、上記の OLG Oldenburg, 19.2.1975 でも、顧客サービ
スとの関係で、被害ケースに配慮すべきであるが、製造業者と同様の責任を負うことは認めて
いない。
また、コンツェルンに属する製造企業と販売会社について、同じ国に属する場合と、OLG
Oldenburg, 19.2.1975 にみられるように、異なる国に属する場合、すなわち、輸入した製品
を販売するケースがある。これに関し、国内に危険防除の責任者である製造会社が存在する
か否かという点が、販売会社の義務について考慮されるべきか問題となる。過失責任の枠内
での義務設定として考えるならば、危険防除に関する契機 ( の一つ ) ではあるが、結局は、こ
れを考慮に入れた、コンツェルンの結合から実質的に導かれる諸事情に基づき判断されるとす
る。19)
このほか、検査義務ではないが、指示義務に関し、アスベスト板事件と同様のルールを掲げ
る判決も存在する。20)
3. 契約責任における検査義務
いままでに挙げた販売業者の検査義務の判決の多くは、不法行為に拠るものであった。また、
ドイツでは 2002 年に債務法現代化法により民法典の改正がなされた。21)改正の前後に分け、
売買を中心とする契約責任における検査義務について、まとめて見ておきたい。
3.1. 債務法現代化法による改正前の状況
まず、種類物に対する販売業者の検査義務に言及する二つの判決を見て行く。
[ ディーゼル燃料事件 ]
原告は、1960 年 6 月 7 日に、被告から自己の解体・掘削事業に使用するディーゼルエンジ
ンを備えた自動車のため、15000 リットルのディーゼル燃料を購入した。被告は、燃料を、予
め仕入れることなく、供給会社の K に直接、原告へ運ばせた。
原告が、代金の 6452,50 マルクを支払った後、原告はエンジンの損傷を確認したが、それは、
被告のディーゼルオイルの有害な性質を原因とし、原告は、18253 マルクを支出して、修理さ
せた。原告は、1960 年 6 月 29 日に、被告のほうで、供給者である K 合資会社に苦情を伝える
ように注意した。
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ドイツにおける販売業者の検査義務(2・完):鈴木 美弥子
原告は、支出した 18253 マルクの支払いと、その他の雑費と休業損害の賠償を求めた。原告
は、全部で、利息を含めて 26678 マルクを訴求した。
[ 判旨 ]
商品がドイツ工業規程 51601 番に適合するという被告の保証がなく ( 民法 480 条 2 項 ) 、さ
らに、ディーゼル燃料が有害な性質を呈していた場合に、被告が、それに責任を負う必要がな
いことから、損害賠償の訴えは失敗している。被告は、供給会社から、直接、原告に供給され
た商品を、予め化学的・物理的観点で検査する義務はない。被告は、従来、その供給会社であ
る K 社との間で問題があったことはなく、問題の供給も、設定された要件に合致していると
信頼することができた。したがって、控訴裁判所は、民法 276 条、民法 326 条、民法 480 条 2
項による契約に基づく損害賠償請求も、また、不法行為による損害賠償請求も否定する。
上告は、まず、積極的契約侵害による請求を否定する控訴裁判所の見解に異議を述べる。す
なわち、被告には検査義務がないという控訴裁判所の見解に過誤があるとする。
上告の見解に反して、被告の検査義務の問題について、被告が燃料を製造者ではなく、オラ
ンダからそれを輸入した会社から購入したことは重要ではない。被告は、仲介商人である。仲
介商人として、被告は、通常は、すなわち、特別な事情が存在しない場合は、上告の見解に反
し、消費者に譲渡する商品について検査する義務はない。この控訴裁判所が支持した見解は、
判例の確定した見解と文献に合致している。この見解は、第一に、特定物売買に適用される
が 22)、事情により別のことが生じない場合は、種類物売買にも適用される。もっとも、ライ
ヒ裁判所は、事情により、検査義務を導き出している。被告は、原告の製鉄所に供給した鉄く
ずを、過剰供給の際の大量の供給物から集まった在庫から買い取った一方で、被告は、当時大
量のクロムを含有していた鉄くずが取引されていたことを認識しなければならなかった ( 高度
のクロム含有性は、炉に損傷を与える )。すなわち、この事件は、特別な状況にあった。この
事件は、通常の場合は、種類物売買の売主の検査義務が認められていないことを示す。23)
すでに、該当する商慣習が形成されているのであれば、有害な性質に関する商品の検査義務
は、それを根拠に認められる。供給が助言の付与と結びついているならば、それに必要な限り、
この特別の義務づけと結びつく注意義務は、それ以前の商品の検査義務を前提とする。挙げら
れた判決では、( 接着剤の ) 売主が、購入者に、一定の目的への有用性について過失で誤った
指示なした事件を扱い、積極的契約侵害による責任ではなく、助言義務の違反による責任が考
慮されていた。その際、原則として、種類物の売主に、一定の目的での商品の有用性に関して
検査義務がないのは、予めこの目的が文言化されている場合である。24)本件では、特別の助
言義務は受け入れられておらず、被告にディーゼル燃料の検査義務が認められるのは、それが、
商慣習からか、あるいは、事件の特別の事情から生ずる場合である。
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該当する商慣習は、原告により主張されていない。したがって、この見解は問題にならない。
被告が商品を製造者から直接購入しておらず、むしろ、輸入者から購入した海外の商品が問
題であるという事情は、上告の見解に反して、該当する商慣習が欠如し、仲介商人に対する特
別の商慣習を根拠づけることはできず、この場合のように、仲介商人に検査の機会が全く提供
されない、購入者にとって有名な供給会社が問題になる場合には、なおさら義務はない。
被告が商品の質を疑う根拠を有した場合に限り、別のことが認められる。しかしながら、控
訴裁判所の正しい問題のない認定によれば、当てはまらない。
しかし、検査義務がないのであれば、被告に対して、非難することはできず、被告は原告に
対し、被告は燃料を検査しなかったことを指示しなければならなかった。なぜなら、被告に検
査義務が無い場合には、原告は、被告が分析を行ったという期待をすることはできないからで
ある。供給会社が関わる問題であることを原告が認識している場合は、原告はなおさら期待で
きない。
控訴裁判所が、法的な過誤無く確定したのは、オイルの汚染が、輸送道路上に現れておらず、
これにより、被告の有責性も問題にはならない。
また、控訴裁判所が、被告に、前の供給者の有責な行為に責任を負わせなくとも、法的に異
議はない。なぜなら、前供給者は、被告の履行補助者と見なされないからである。
この状況の際には、被告の契約外の有責性を導き出す状況も認められない。したがって、不
法行為による責任も問題にならない。25)
連邦通常裁判所による本判決によれば、仲介商人として、被告は、通常は、すなわち、ディー
ゼル燃料判決で引用されている、ライヒ裁判所による金属くず判決のように、特別な事情が存
在しない限り、消費者に譲渡する商品について検査する義務はないとされている。
そして、このルールは、特定物売買だけではなく、本件のような種類物売買にも適用される
とする。ちなみに、このルールの特定物売買への適用例として、本判決では、不法行為に基づ
く請求をなした、コンデンサー容器事件 26)を挙げている。
また、検査義務が生ずる場合として、それをなす商慣習が形成されている場合や、また、供
給にあたり助言義務が認められる際に、助言をなす前提として検査義務を認めている。しかし、
本件では、特別の助言義務は認められず、検査義務の発生は、商慣習か、あるいは、事件の特
別の事情に拠ることになる。
このほか種類物に製品の使用の目的が書かれているのであれば、売主には、この一定の目的
での商品の有用性に関して、検査義務がないとされる。
そして、被告が製造者から直接購入せず、輸入者から海外製品を購入したことにより、これ
に関する商慣習が欠如し、かつ、供給元が、仲介商人に検査の機会を提供することもなく、有
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ドイツにおける販売業者の検査義務(2・完):鈴木 美弥子
名な供給会社である場合は、検査義務が認められないとする。
上記のように検査義務の有無に係わる基準を取り出してみたが、契約責任による請求につい
て、商慣行や助言契約が存在せず、これらから検査義務を導き出すことができない場合でも、
本件では結果として検査義務は否定されたものの、事件の事情によっては、検査義務がありう
ることは認められている。このような場合の検査義務の存否の要件は、不法行為による場合と
実質的に同様のものであると思われる。それは、本判決の最後で、「この状況では、契約外の
有責性、したがって不法行為責任も否定される」と述べられていること、また、本判決内で、
不法行為による請求がなされたコンデンサー容器判決が引用されていること、さらに、被告の
検査義務の検討の際に、不法行為による請求の判決に見られる、供給先の信頼性、検査の機会・
可能性といった事情を考慮していることから窺うことができよう。
次ぎに、特別の事情により、検査義務が認められたケースを見る。
[ 待降節シュトレン事件 ]
[ 判旨 ]
被告により、M 社に、9000 個、その後、再度 6000 個供給された待降節シュトレンは、重量
不足により、民法 459 条における意味で瑕疵があり、民法 480 条 1 項 1 文により、この供給を
拒絶することができた。上告は、これを前提とする。
しかしながら、被告は、不完全履行に関する有責性の非難に対して反論する。すなわち、純
粋な仲介商人としての被告について、検査義務は生ぜず、しかも、最初の供給に対する異議の
後でも生ずることはないと主張する。
仲介商人としての被告には、特別な事情が存在しなければ、通常は、消費者に売却された商
品を、その性質まで検査する義務はないことは、確立した判例に合致する。この原則は、事件
の事情から別のことが生じない限り、種類物の取引に対しても適用される。商品の検査が売主
の義務に属さない限り、前供給者が、この点で、売主の履行補助者でないことから、民法 278
条による、前供給者に存在しうる有責性に対する売主の責任は考慮されない。
上掲の原則の適用をすると、D 社が引き受けた最初の供給を、個々のシュトレンについて検
査する義務がないことが、明らかとなる。しかしながら、上級ラント裁判所が、代物として D
社に託された 6000 個のシュトレンに、これを供給する前に、重量コントロールの抜き取り検
査を行う義務が、被告にあるとしたことに対して、上告が反論したことは、認められない。上
級ラント裁判所は、これに関し、被告の前供給者が、何千ものシュトレンを重量不足で製造し
た後では、被告は疑念の根拠を有したと述べた。被告は、もはや、将来、瑕疵に至る原因が製
造過程で除去されていることを信頼することはできない。重量不足は、故意にもたらされた、
あるいは、測定機器の停止の際の見落としや、製造の際の技術上の欠陥に基づく可能性がある。
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被告は実際の原因を知らなかったため、被告は、問題となるあらゆる可能性を考慮しなければ
ならない。27)
本判決では、判例に従い、契約責任に拠る場合でも、特別な事情が存在しなければ、通常は、
消費者に売却された商品を、その性質まで検査する義務はないとする。しかし、以前の供給で
疑いを持った場合は、その後の供給については検査する義務(本件では重量に関する抜取り検
査)を認めている。これは、前出の不法行為に拠る場合と、同様の枠組みであるといえる。
3.2. 債務法現代化法による改正後の状況
改正前、債務者の損害賠償責任については、履行不能によるものとして、旧民法 280 条、旧
民法 325 条、履行遅滞によるものとして、旧民法 286 条、旧民法 326 条が、また、瑕疵担保責
任によるものとして旧民法 463 条などが置かれ、この他、条文化されていない、積極的債権侵
害、契約締結上の過失による責任が存在していた。
改正後は、損害賠償については、民法 280 条 1 項が中心規定となり、このほかに、原始的不
能を定める民法 311a 条 2 項が並び立つという形になった。原始的給付障害を排除することは
不可能、あるいは、債務者に求めることはできず、債務者の帰責事由は、給付をしないことで
はなく、給付障害があったにもかかわらず、給付を約したことによるからである。したがって、
民法 280 条1項による責任は、債務者が債務関係から生ずる義務違反について、帰責事由がな
い場合に排除され、これに対し、民法 311a 条 2 項による責任は、債務者が給付を妨げる事情
を知らず、これについて帰責事由がない場合に排除される。
また、民法 280 条 1 項は、債務者が義務に違反した場合は、債権者は、これにより生じた賠
償を請求できるとするが、帰責事由がない場合は適用しないと規定している。このような規定
の仕方から、帰責事由に関する証明責任は債務者にある。しかし、旧民法 282 条、旧民法 285
条は、それぞれ、履行不能、履行遅滞の場合の帰責事由について、債務者に立証責任があると
規定しており、ここから帰責事由に関する一般ルールが導き出され、契約締結上の過失、積極
的債権侵害についても、これが用いられており、この点では、実質的な改変とは結びついてい
ない。
しかし、改正により、売主の基本的義務として、民法 433 条 1 項 2 文で、物の瑕疵及び権利
の瑕疵のない物を買主に取得させる義務が規定され、本稿で扱ってきた、給付物に瑕疵ある場
合については、この義務に違反し、これに帰責事由が認められる場合に、民法 280 条1項、お
よび、これと結びついた具体的な規定に基づき、賠償義務が認められることになる。28)
改正前、売主の検査義務は、積極的債権侵害による瑕疵結果損害の賠償を念頭に、売主の付
随義務の一つとして捉えられていた。29)瑕疵なき物の給付義務が規定された改正後、この売
294
ドイツにおける販売業者の検査義務(2・完):鈴木 美弥子
主の検査義務の把握について、変化がみられるであろうか。
改正後の賠償責任に関し、検査義務について、帰責事由の要件と結びつけ説明するものが見
られる。
これによれば、除去可能な瑕疵については、民法 433 条 1 項 2 文の義務違反の問題となり、
この場合、責任非難は、売主が瑕疵を惹起したか、あるいは、瑕疵を認識し、もしくは、認識
すべきであったのに、供給前に除去しなかったという事情に対してなされる。しかし、最初か
ら除去不可能な瑕疵については、売主は、瑕疵と、その除去可能性を契約締結の際に認識して
いた、あるいは、認識しなければならなかったか検討しなければならない ( 民法 437 条 3 号、
民法 311a 条 2 項 2 文 )。これらのケースの瑕疵の認識にあたり、検査義務が問題になるとし
ている。30)
また、検査義務が認められる要件など、何か変化したであろうか。これに触れる改正後の事
件の判決を見る。
[BGH, Urt. v. 15. 7. 2008]
2004 年 11 月 4 日に、原告は、家屋・庭用の材木商である被告から、被告が製造していない
二層の寄せ木張り用のフローリング材と土台の角材を購入した。原告は、フローリング材を、
床張り職人により、居間と食堂に敷いた。フローリング材には、製造者の工場の製造に帰され
る瑕疵が認められた。原告は、2005 年 5 月 17 日までに、寄せ木張りの床を取り替えるように
被告に要求したが、被告は、それに従わなかった。その後、原告は、寄せ木張りの床を剥がし、
新しい寄せ木張りのフローリング材の供給と、それを張る費用の賠償を請求した。
[ 判旨 ]
被告が原告に瑕疵のない寄せ木張りのフローリングを調達する義務に違反していたという点
からも、原告には、敷設の費用のため、給付の代わりの損害賠償の権利がない ( 民法 437 条 3 号、
民法 280 条、民法 281 条、民法 433 条 1 項 2 文 )。
なるほど、民法 280 条 1 項 1 文の損害賠償に関する要件は、被告により販売された寄せ木張
りのフローリングに瑕疵がある限りで、充足されている ( 民法 434 条 )。しかしながら、上告
の見解に反し、被告は、そこから生じた義務違反 ( 民法 433 条 1 項 2 文 ) に責任がない ( 民法
280 条 1 項 2 文 )。被告は、上告手続きについて拘束する ( 民事訴訟法 559 条 2 項 ) 控訴裁判
所の事実の認定により、民法 280 条 1 項 2 文により義務を負う免責を立証した。販売業者とし
ての被告にとって、製造業者により包装されて供給された寄せ木張りのフローリング材の瑕疵
が認識できなかったことから出発すべきである。31)
[BGH, Urt. v. 19. 6. 2009]
原告は、2002 年 7 月 2 日の公証契約により、被告から建物付きの土地を購入した。契約の 5.1
東京外国語大学論集第 88 号(2014)
295
で、「買主は、現在の土地の利用も、一緒に購入した家屋も公法の規定に反しないこと、特に、
現在の建築状況が、形式的にも実質的にも、建築令に違反しない」というさらなる事項を保証
した。
従来の借主が 2003 年秋に引っ越した後、原告は、改めて賃貸人を探し、賃貸契約を結んだ。
この賃貸契約の 3.2 は「賃貸目的物は、事務所と倉庫 ( 貯蔵庫 ) として従来使用されていた。
この利用種類を賃貸人は損害担保する。」としていた。しかし、これに適合していない状況に
あったため、原告は被告に対し、否定の証明の達成の証明書類の送付と、建築許可の調達を求め、
被告は、双方の要求を、期間内に果たした。しかし、賃貸借契約は、もはや成立せず、原告は、
建物を別の者に賃貸したが、その賃料は、当初のものより低く、賃料の減少分の賠償を求めた。
[ 判旨 ]
なるほど、立法者は、民法 280 条 1 項により賠償される損害について、民法 280 条 2 項の場
合とは異なり、義務違反に対する追加の要件は置かなかった。しかしながら、適切な利益調整
のため命ぜられる責任調整は、帰責性 ( 民法 280 条 1 項 2 文 ) の要請により確保される。社会
生活上必要な注意義務 ( 民法 276 条 2 項 ) は、売主に対して、通常は売買の目的物の検査を要
求しない。売主は、通常、供給者の有責性について、民法 278 条により責任を負う必要はない、
より高度な要請が生ずるのは、このケースのように、買主が損害担保を引き受けたか (276 条
1 項 1 文 )、買主が目的物の瑕疵の根拠を有したか、より高度な注意義務を命ずる、その他の
特別な事情が存在する場合である。それとは別に、適切な利益調整は、例えば目的物の瑕疵を
認識していていたが、売主にそれを知らせなかった買主の共同過失が、254 条により考慮され
ることにより、担保される。32)
後者の判決では、売主の検査義務について、従来、定式化されてきたものと同旨のことを述
べており、また、前者の判決は、その責任の判断にあたり、製造者により包装されて供給され
た寄せ木張りのフローリング材の瑕疵が認識できなかったことを前提とし、販売者の責任を否
定しており、これは、原則として、売主の検査義務を否定する、従来の判例の流れに沿ったも
のである。したがって、売主の検査義務に関する原則 ( 義務の存否の要件 ) に、特に変化はな
いといえる。
おわりに
我々が製品を入手するにあたっては、通常は、販売業者を介して入手する。購入した製品に
欠陥 ( 瑕疵 ) があった場合に、消費者にとって製造業者より近い存在として、販売業者に、そ
の対処や責任を求めることは、購入者からすれば、さほど違和感を覚えるものではないのかも
しれない。しかし、製品が製造され、例えば、卸売業者、小売業者を経て、販売されることは、
296
ドイツにおける販売業者の検査義務(2・完):鈴木 美弥子
一つのシステムであり、その中で、各関与者に、その関与の態様に応じて、義務や、それに基
づく責任が分配される。製品の検査義務は、もともと、製造に係わる領域の任務といえ、また、
検査を行う知識や設備を販売業者は通常持たない。したがって、製造業者に代わって、あるい
は、それに重ねて、販売業者が検査義務を負うことは妥当とはいえない。このあらわれとして、
原則として販売業者には検査義務がないことが、判例でも繰り返し示されてきた。その一方で、
特別な根拠から、検査を行う契機が存在する場合、あるいは、事件の事情から検査が明らかに
考えられる場合には、検査義務があるとする例外が認められている。このようなルールが、不
法行為責任、契約責任による場合の双方で、多少の表現は異なるものの示されている。しかし、
この基準の要件自体抽象的であり、また、本連載で取り上げたように、実際には、検査義務の
成否や、検査義務が認められるとしても、そのレベルや範囲がさらに問題となり、これらにつ
いては、かなり細かい、その事件の事情に拠るところが大きい。例えば、タイヤカバー判決で
示されているように、すでに被害ケースがあったというような場合であれば、検査義務の成立
が認められるということは明確ではあるが、本連載の前号で取り上げた利用者の期待により検
査義務が認められるケースや、また、本号で取り上げた、指定商人、製造企業とコンツェルン
による結び付きがある場合などは、その関係性ではなく、そこから生ずる損害に係わる事情が
責任の基礎とされている。この問題に関しては、ルールの提示だけでは、実際の対処には不十
分である。引き続き判決の集積を待ちたい。
注
1) Joachim Schmidt-Salzer, Die Bedeutung der Entsorgung- und der Schwimmerschalter-Entscheidung
des Bundesgerichtshof für das Produkthaftungsrecht, BB 1979, 1, 4 f.; Hans Josef Kullmann, Die neuere
höchstrichterliche Rechtsprechung zur deliktischen Warenherstellerhaftung, WM 1981, 1322, 1325; Gert
Brüggemeier, Produzentenhaftung nach § 823 Abs. 1 BGB, WM 1982, 1294, 1307 f.; Horst Kossmann, Der
Handel im System der Produkthaftpflicht, NJW 1984, 1664, 1964; Soergel, Kommentar zum Bürgerlichen
Gesetzbuch Schuldrecht I/2, 11. Auflage, 1986, § 433 Rz. 173 f.; Joachim Schmidt-Salzer, Produkthaftung
Band III/1: Deliktrecht 1. Teil 2. Auflage, 1990, Rz. 4.385 f.; Walter Rolland, Produkthaftungsrecht, 1990,
Teil II § 15 S.356; Friedrich Graf von Westphalen, Produkthaftungshandbuch Band 1 2. Auflage, 1997 § 26
Rz. 20 ff.; ders., Subjektive Zurechnungsprobleme bei deliktischen Produzentenhaftung , Jura 1983, 133,
134 f.; Staudinger, Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch mit Einführungsgesetz und Nebengesetzen
Buch 2 § § 433-534, 1995, § 433 Rn 136 ff.; Staudinger, Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch
mit Einführungsgesetz und Nebengesetzen Buch 2 § § 433-487, 2004, § 433 Rn 103 ff.; Münchener
Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch Band 2 § § 241-432 3. Auflage, 1994, Vor § 275 Rn. 239 ff.;
Münchener, Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch Band 3 § § 433-610 6. Auflage, 2012, § 433 Rn.
67 ff.; Palandt, Bürgerliches Gesetzbuch 54. Auflage, 1994, § 433 Rn. 18; ders., Bürgerliches Gesetzbuch
72. Auflage, 2013, § 433 Rn. 31, § 280 Rn. 19f.; Jan Stoppel, Untersuchungspflichten auf Verkäuferseite im
Zusammenspiel mit Untersuchungsobliegenheiten auf Käuferseite, ZGS 2006, 49, 49 f.
2) 以下で取り上げるコンデンサー容器判決 BGH VersR 1960, 855, 856、タイヤカバー事件 OLG Cell VersR
東京外国語大学論集第 88 号(2014)
297
1981, 464, 464、股関節プロテーゼⅢ判決 OLG Hamburg VersR 1984, 793, 794 のほか、例えば、折りた
たみ自転車判決 BGH 1980, 1219, 1219 で示されている。 これらの判決の詳細は、本論文 (1) となる拙
稿「ドイツにおける販売業者の検査義務 (1)」東京外国語大学論集第 85 号 318 頁以下 (2012 年 ) で取
り上げた。
3) OLG Hamburg VersR 1981, 464 f. 判決の詳細は、拙稿注 (2)318 頁以下を参照のこと。
4) 股関節プロテーゼⅢ判決 OLG Hamburg VersR 1984, 793, 794 判決の詳細は、拙稿注 (2)320 頁を参照の
こと。
5) また、事情によっては、自己が販売する商品の欠陥に由来している被害ケースを、販売業者が認識
した場合、販売者は、少なくともそれを、製造者側に伝え、損害と製品について、意見と検査を求
め、販売者側の見地から主張した警告義務に製造者が従っていることを確認しなければならない。
Westphalen, a.a.O., § 26 Rz. 29.
6) Westphalen, a.a.O., § 26 Rz. 29.
7) BGH 1980, 1219, 1219.
8) Westphalen, a.a.O., § 26 Rz. 29.
9) さらに、防止措置に関し製造者から独立した義務を負うかは別にしても、指定商人は、製造物監視、
警告あるいはリコール機能について、いずれも製造業者を支援しなければならず、指定商人は、少な
くとも、製品について自己が認めた重大な異常の際には、製造者と協議しなければならない。また、
指定商人は、顧客には、一般に、製造業者の出先機関として現れ、安全性に関する品質が損なわれて
いることを認識したが、製造業者がこれに係わる義務を明らかに怠った場合には必ず、購入者に警告
することによって、顧客の信頼に適合させねばならない。Westphalen, a.a.O., § 26 Rz. 42.
10)BGH NJW 1978, 2241, 2243.
11)Westphalen, a.a.O., § 26 Rz. 42.
12)Westphalen, a.a.O., Jura 1983, 135.; Kullmann, a.a.O., WM 1981, 1325 f.
13)コンデンサー容器判決のうち、この部分までは、この判決の前半部を扱った拙稿注 (2)318 頁以下参照
のこと。
14)BGH VersR 1960, 855, 856.
15)NJW 1981 2250, 2250 f. このほか、判決は、被告の指示義務の問題と解することができる、板に耐候性
があるというパンフレットの宣伝については、以下のような判断をした。すなわち、「この宣伝は、板
が、太陽、雨、霜などの作用により着色せず、剥離や断裂を呈しないことを示すと解することができ
る。係争事件では、原告の窓の傷みに至った性質にも関わらず、被告の広告で宣伝されたファサード
のカバーに適しているという別の性質が板にある。鑑定書に述べられているように、ファサードから
流れる雨水は窓の表面を流れないことだけは確かめられねばならない。被告は、原告の損害を惹起し
た板の性質を知らなかったことにより、不法行為上の義務に違反していない。そのような義務を、販
売会社としての被告が負うのは、その事業の領域でこの性質を適切に認識している場合に限ってであ
る。」以上、判決によれば、指示義務に関しても、販売業者の責任は、二次的なものであり、損害を発
生させる板の性質を認識している場合に限られるといえる。
16)Joachim Schmidt-Salzer, Entscheidungssammlung Produkthaftung Band Ⅱ , 1979, Ⅱ .39 S. 364 ff.
17)LG Köln NJW-RR 1987, 864, 864 f. また、判決では、本件は、ドイツ製造物責任法の成立前のものであり、
当時の EG 製造物責任指令に仮に拠るとしても、指令 3 条 2 項によれば、EG に輸入する輸入者のみ製
造者として責任を負い、製品は EG の外部の国で調達されねばならない。原告の自動車はフランスで
製造されていたため、指令 3 条 2 項の適用は考えられないことを付言している。
18)それに対して、最終消費者への警告義務は、より早い段階で、例えば、製造業者の認識を得た際に可
能であり、それを、販売会社は、各販売業者に伝達しなければならない。Westphalen, a.a.O., § 26 Rz.
46.
19)Schmidt-Salzer, a.a.O.[Fn. 16], S. 367 f.
298
ドイツにおける販売業者の検査義務(2・完):鈴木 美弥子
20)このような判決として、蹄葉炎事件 (OLG München NJW-RR 1992, 287, 287 f.) が存在する。原告は、
被告に対して、蹄葉炎に罹患し屠殺した馬に関する損害賠償を、製造物責任に基づき請求した。原告
の主張によれば、蹄葉炎の罹患は、投与された P パスタ剤によるアレルギー反応であり、被告は、P
の製造業者かつ販売業者として、責任があると申し立てた。これに対し、被告は、P をドイツで販売
をしていたにすぎず、製造業者は、被告とコンツェルンにより結びついているにすぎないと主張した。
[ 判旨 ]
原告は、被告が製造業者であることの証明をしていない。
被告が、ドイツ内の P の販売業者として民法 823 条1項により、指示義務の違反に基づき、原告に
対して責任を負うのは、製品の使用の際の被害ケースを認識していたため、特別の根拠から、そのよ
うな契機が生ずる場合か、事件の事情から検査が考えられる場合である。たとえ、販売業者と製造業
者との間に、緊密な資本関係による、なによりも、共同の経営、管理のための法的結合 ( コンツェル
ンによる結合 ) があるとしても、民法 823 条 1 項による販売業者の義務設定は変わりがない。製造物
の欠陥、あるいは、その危険が、いかなる態様で組織化されていようとも、販売会社に帰責されるのは、
原則として、不法行為による責任を負う者が社会保安義務、あるいは組織義務に違反する場合のみで
ある。このことは、特に、経営陣の構成員、あるいは、他の定款による代表者が、コンツェルンでの
一般的な経験と意見の交換の際に、あるいは、それどころか、両企業 ( 製造業者と販売業者 ) の活動
に基づいて、自己が販売した製品の構造的弱点、あるいは、製造過程の不十分さを認識している場合
に特に、あてはまる。
21)Gesetz zur Modernisierung des Schuldrechts vom 26. 11. 2001, BGBl Ⅰ , 3138.
22)これに関して、コンデンサー容器判決 BGH VersR 1960, 855 を挙げている。
23)ここで引用されている判決は、金属くず判決 RGZ 125, 76 ff である。判決の詳細は、拙稿注 (3)316 頁
以下参照のこと。
24)BGH BB 1958, 426, 426.
25)BGH NJW 1968, 2238, 2238 f.
26)BGH VersR 1960, 855.
27)BGH MDR 1977, 390, 390.
28)ド イ ツ 債 務 法 現 代 化 法 に よ る 改 正 を 概 観 す る も の と し て、Peter Huber/ Florian Faust,
Schuldrechtsmodernisierung Einführungs in das neue Recht, 2002, S.63 ff.; Claus-Willhelum Canaris,
Schuldrechtsreform 2002, 2002, Einführung; Harm Peter Westermann, Das Neue Kaufrecht, NJW 2002,
241ff. また、代表的な日本の文献として、岡孝編『契約法における現代化の課題』( 法政大学出版局 2002 年 )、半田吉信『ドイツ債務法現代化法概説』( 信山社 2003 年 )、渡辺達徳「ドイツ民法におけ
る売主の瑕疵責任」法律時報 80 巻 8 号 30 頁以下 (2008 年 )、条文の日本語訳について、改正前のもの
について、椿寿夫・右近健男編『ドイツ債権法総論』( 松岳社 1988 年 )、右近健男編『注釈ドイツ契
約法』( 三省堂 1995 年 )、改正後について、岡孝編『契約法における現代化の課題』181 頁以下 ( 法
政大学出版局 2002 年 ) 参照。
29)Münchener, a.a.O.(3. Auflage, 1994), Vor § 275 Rn.239 ff.; Staudinger, a.a.O.(1995), § 433 Rn 136 ff; Palant,
a.a.O.(54. Auflage,1994), § 433 Rn. 17.
30)Dirk Looschelders, Schuldrecht Besonderer Teil 4. Auflage, 2010, Rn. 123 ff. また、改正前に、売主の検
査義務を、売主の付随義務と捉えていた注 29 に挙げた文献については、改正後の版においても、付随
義務として扱っている。Münchener, a.a.O.(6. Auflage, 2012), § 433 Rn.67 ff.; Staudinger, a.a.O.(2004),
§ 433 Rn. 103 ff.; Palant, a.a.O.(72. Auflage 2013), § 433 Rn. 31, § 280 Rn. 19 f.
31)BGH NJW 2008, 2837, 2838.
32)BGH NJW 2009, 2674, 2676.
東京外国語大学論集第 88 号(2014)
299
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渡辺達徳「ドイツ民法における売主の瑕疵責任」法律時報 80 巻 8 号 30 頁以下 (2008 年 )
301
東京外国語大学論集第 88 号(2014)
Die Prüfpflichten des Händlers im deutschen Recht(2)
SUZUKI Miyako
Der Zweck dises Aufsatzes ist , die Bedeutung und die Umfänge von der Prüfpflichten des
Händlers für Produkte im deutschen Recht zu untersuchen.
Anders als der Hersteller schafft der Händler nicht unmittelbar Fehler der Produkte. Dem
Händler sind Maßnahmen gegen Herstellungsfehler mangels Ausbildung und Ausstattung
in der Regel auch weder möglich noch zumutbar. Daher ist der Händler grundsätzlich nicht
verpflichtet, die von ihm zum Verkauf angebotenen Produkte auf Herstellungsfehler hin zu
prüfen. Nach Rechtsprechung ist der Händler nur dann verpflichtet, die von ihm vertriebenen
Waren auf gefahrenfreie Beschaffenheit zu untersuchen, wenn aus besonderen Gründen Anlass
dazu besteht, weil ihm etwa bereits Schadenfälle bei der Produktverwendung bekannt geworden
sind, oder wenn die Umstände des Falles eine Prüfung nahelegen. Die enge Beziehung der
Vertriebsgesellschaft zum Herstellerunternehmen kann zu strengeren Pflichten führen. Denn
solche Beziehung setzt diese in der Lage, zu der Gefahrsteuerung und dem erleichten Zugang zu
Imformation beizutragen.
Deliktsrechtliche Ansprüche und ver tragsrechtliche Ansprüche stehen selbstständlich
nebeneinander. Jedoch die Voraussetzungen für die Prüfpflichten sind ihnen gemeinsam. Nach
der Schuldrechtsmodernisierung bleibt diese Rechtslage sich sachlich gleich.
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