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企業と投資家との対話促進の観点からの コードの課題
日本CFA協会特別シンポジウム 企業と投資家との対話促進の観点からの コードの課題 2016年1月21日 日本投資環境研究所 主任研究員 政策研究博士 上田亮子 目次 1.企業と投資家の対話促進の観点からの株主総会の運営 2.企業価値向上の観点からの取締役会のあり方 3.企業と投資家との対話の実効性向上のための環境整備 2 1.企業と投資家の対話促進の観点からの 株主総会の運営 3 株主総会に関連する情報開示についての指針等 東京証券取引所 「コーポレートガバナンス・コード∼会社の持続的な成長と 中長期的な企業価値の向上のために∼」(2015年6月1日) 【原則1−2.株主総会における権利行使】 上場会社は、株主総会が株主との建設的な対話の場であ ることを認識し、株主の視点に立って、株主総会における権 利行使に係る適切な環境整備を行うべきである。 補充原則 1−2① 上場会社は、株主総会において株主が適切な判 断を行うことに資すると考えられる情報については、必要に 応じ適確に提供すべきである。 1−2② 上場会社は、株主が総会議案の十分な検討期間 を確保することができるよう、招集通知に記載する情報の 正確性を担保しつつその早期発送に努めるべきであり、ま た、招集通知に記載する情報は、株主総会の招集に係る 取締役会決議から招集通知を発送するまでの間に、TDnet や自社のウェブサイトにより電子的に公表すべきである。 経済産業省 「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会報告書 ∼対話先進国に向けた企業情報開示と株主総会プロセスにつ いて∼」 (2015年4月23日) 3.6.1 招集通知情報の発送前Web開示 02 招集通知情報の早期(発送前)Web開示は、株主の検討期 間確保の観点からも有益である。これは、法的に求められる正 式な招集通知及び添付資料そのものではなくその情報を事実 上開示するものとして、その円滑な実施を促進すべきである。 1)コーポレートガバナンス・コードの基本的考え方 03 「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方」におい ては、「上場会社は、株主が総会議案の十分な検討期間を確 保することができるよう、招集通知に記載する情報の正確性を 担保しつつその早期発送に努めるべきであり、また、招集通知 に記載する情報は、株主総会の招集に係る取締役会決議から 招集通知を発送するまでの間に、TDnetや自社のウェブサイト により電子的に公表すべきである」とされている。 2)早期Web開示の位置づけの明確化 04 早期Web開示については、実務的な課題として、株主への 発送以前に一般に情報を開示することや正式な招集通知まで に情報を変更する場合の取扱い等について問題提起がなされ た。この点については、あくまで法定開示でなく任意開示であ ることは明確であり、変更も含めて特段問題なく対応可能と考 えられる。(その際、当該変更が適時開示事項に該当する場合 には、適切な開示を行うべきことは言うまでもない) 4 2015年6月株主総会の日程 招集通知日付 株主総会 開催日 5/185/195/20 5/21 5/22 5/23 5/24 5/25 5/26 5/27 5/28 5/29 5/30 5/31 6/1 6/2 6/3 月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 6/10 水 1 1 2 6/11 木 6/12 金 1 6/13 土 3 1 1 1 4 1 6/14 日 6/16 火 1 4 4 6/18 木 金 土 日 月 火 水 木 金 0.3% 4 0.1% 2 1.1% 15 1 0.2% 3 2 0.1% 2 0.1% 1 1.0% 14 1.9% 27 2.4% 34 1 1 1 2 5 1 4 3 5 6 5 3 6 6 10 4 5 1 14 21 19 16 29 2 3 6/20 土 6/21 日 木 1 6/17 水 6/19 金 6/5 6/6 6/7 6/8 6/9 6/10 6/11 6/12 比率 社数 6 1 6/15 月 6/4 20 2 8.6% 122 1 1 0.6% 8 0.1% 1 1.1% 16 6/22 月 1 5 3 1 2 4 6/23 火 1 6 31 18 11 12 35 15 9.1% 129 3 11 48 37 18 41 28 19 14.5% 206 5 5 7 59 28 56 25 35 35 6 7 14 28 121 123 61 60 86 6/24 水 1 6/25 木 6/26 金 1 6/27 土 2 比率 社数 52 1 6/28 日 6/29 月 18.0% 255 1 1 2 1 2 3 1 3 39.4% 559 2 0.4% 5 1 0.1% 2 1 1.0% 14 0.1% 0.0% 0.0% 0.2% 0.1% 0.0% 0.0% 0.7% 0.6% 1.1% 2.7% 4.8% 0.0% 0.0% 6.6% 7.9% 12.1% 14.4% 18.6% 0.0% 0.0% 9.3% 8.0% 8.7% 3.9% 0.3% 100.0 1419 % 1 0 0 3 1 0 0 10 8 15 39 68 0 0 93 112 172 204 264 0 0 132 114 123 56 4 注:東証1部上場会社(3月決算)対象 5 2015年6月株主総会の情報提供時期 株主総会日程 招集通知作成日 事業年度終了日から決 算発表までの平均日数 集中日の開催比率 集中週(集中日のある 週)の開催比率 2015年 2014年 6月 6月 19.3日前 19.2日前 38.3日 38.3日 2013年 6月 19.2日前 2012年 6月 19.3日前 2011年 6月 19.2日前 2010年 6月 19.0日前 2009年 6月 18.4日前 2008年 6月 18.4日前 2007年 6月 18.1日前 2006年 6月 17.9日前 38.0日 38.1日 39.0日 39.0日 39.6日 39.6日 40.3日 42.0日 39.4% 38.2% 41.2% 41.7% 41.7% 43.7% 50.3% 49.1% 53.5% 56.3% (15/6/26) (14/6/27) (13/6/27) (12/6/28) (11/6/29) (10/6/29) (09/6/26) (08/6/27) (07/6/28) (06/6/29) 82.1% 79.9% 75.5% 会日の何日前に招集通知を発送したか(招集通知日付) 15日前 16日前 17日前 18日前 19日前 20日前 21日前 22日前 23日前 24日前 25日前 (ユニカフェ,ITホールディングス,ソニー,第四銀行 26日前 東京海上ホールディングス,日本梱包運輸倉庫) (東京製鐵,日立製作所,セイコーエプソン,アクセル, 27日前 常陽銀行,大和証券グループ本社) (パナホーム,高砂熱学工業,三菱マテリアル,スズキ, 28日前 東京瓦斯,大阪瓦斯,ヤマダ電機) 29日前 (エーザイ,ローム,ジャフコ) 32日前 (フィールズ) 計 72.9% 56.9% 社数 163 201 117 131 63 96 243 291 49 26 16 比率 11.5% 14.2% 8.2% 9.2% 4.4% 6.8% 17.1% 20.5% 3.5% 1.8% 1.1% 6 0.4% 6 0.4% 7 0.5% 3 1 1419 0.2% 0.1% 100.0% 45.0% 87.4% 86.7% 招集通知発送日の何日前 にウェブ等で開示したか 1日前 2日前 3日前 4日前 5日前 6日前 7日前 8日前 9日前 10日前 11日前 12日前 13日前 事前開示を行わない 計 78.8% 77.3% 社数 比率 172 84 84 69 57 54 69 15 6 4 3 5 1 796 1419 12.1% 5.9% 5.9% 4.9% 4.0% 3.8% 4.9% 1.1% 0.4% 0.3% 0.2% 0.4% 0.1% 56.1% 100.0% 注:東証1部上場会社(3月決算)対象 6 コーポレートガバナンス・コードの開示状況にみる2016年度への示唆 エクスプレインの 社数 エクスプレインの 割合 株主総会における権利行使 6社 0.5% 1-2① 株主への情報提供 7社 0.6% 1-2② 招集通知の早期発送と発送前電子的開示 184社 15.3% 1-2③ 株主総会関連日程の適切な設定 34社 2.8% 1-2④ プラットフォームの利用や招集通知の英訳 564社 46.9% 1-2⑤ 機関投資家の総会参加、議決権行使対応 65社 5.4% 原則 1-2 内容 主な理由等 発送前開示が未実施 海外投資家比率が低い 注:2015年12月15日時点でコーポレート・ガバナンス・コードに関する開示を行った1203社(東証1部、2部上場)を対象とした調査 株主総会における権利行使については、エクスプレインする割合は低く、99%以上がコンプ ライしている状況。上場会社として、当然の取組みであるとの認識であると考えられる 招集通知の発送前開示については、15.3%が開示時点(2015年12月15日まで)で未実施 であるとして、エクスプレインを行っている。しかしながら、2016年株主総会では実施予定 であるとする会社も少なくないため、来年以降は招集通知の法定発送前の電子開示が一 層進むことが期待される 7 2.企業価値向上の観点からの 取締役会のあり方 8 取締役会の構成 2015年6月 2014年6月 2013年6月 2012年6月 2011年6月 2010年6月 2009年6月 2008年6月 2007年6月 2006年6月 2005年6月 1419社 1389社 1337社 1326社 1329社 1330社 1359社 1368社 1381社 1366社 1348社 取締役数 9.3名 8.9名 8.9名 9.0名 9.1名 9.2名 9.3名 9.6名 9.8名 9.9名 10.1名 社外取締役数 2.0名 1.4名 1.2名 1.1名 1.0名 1.0名 0.9名 0.9名 0.9名 0.8名 0.8名 4社 6社 5社 5社 10社 13社 13社 17社 21社 24社 41社 1293社 1351社 1300社 1290社 1292社 1294社 1315社 1323社 1333社 1322社 1303社 取締役数 9.2名 8.9名 8.7名 9.0名 9.1名 9.2名 9.3名 9.6名 9.8名 9.9名 10.2名 社外取締役数 1.9名 1.3名 1.1名 1.0名 0.9名 0.9名 0.8名 0.8名 0.7名 0.7名 0.6名 22社 301社 472社 574社 633社 678社 716社 737社 774社 811社 819社 1271社 1050社 828社 716社 659社 616社 599社 586社 559社 511社 484社 41社 38社 37社 36社 37社 36社 44社 46社 48社 44社 45社 取締役数 9.8名 9.5名 9.4名 9.2名 9.4名 9.3名 9.1名 9.5名 9.2名 9.5名 9.0名 社外取締役数 5.1名 4.7名 4.6名 4.4名 4.4名 4.4名 4.3名 4.5名 4.5名 4.5名 4.2名 東証1部上場全社 取締役が21名以上 監査役設置会社 社外取締役を設置していない会社数 社外取締役を設置している会社数 指名委員会等設置会社 監査等委員会設置会社 取締役数(全体) 85社 10.8名 社外取締役数(全体) 3.0名 取締役数(監査等委員) 3.5名 取締役数(社外取締役) 2.6名 注:東証1部上場会社(3月決算)対象 2015年6月総会終了時点の1社あたりの平均取締役数は9.3名であり、うち社 外取締役は2.0名である。 監査役設置会社において、社外取締役を採用する会社が、昨年の1050社か ら1271社に増加した。会社法改正、コーポレートガバナンス・コードが影響を与 えている。 監査等委員会設置会社は、2015年6月に85社が移行した。監査等委員の平 均人数は3.5名、うち社外取締役は2.6名である。 9 取締役(社内) サービス業 不動産業 その他金融業 保険業 証券・商品先物取引業 銀行業 小売業 卸売業 情報・通信業 倉庫・運輸関連業 空運業 海運業 陸運業 電気・ガス業 その他製品 精密機器 輸送用機器 電気機器 機械 金属製品 非鉄金属 鉄鋼 ガラス・土石製品 ゴム製品 石油・石炭製品 医薬品 化学 パルプ・紙 繊維製品 食料品 建設業 鉱業 水産・農林業 業種別の取締役の構成 (人) 14 12 10 8 6 4 2 0 社外取締役 注1:東証1部上場会社(3月決算)対象 注2:東証33業種による分類 10 社外取締役を採用している会社 2010年 2011年 2012年 2013年 0% 10% 0名 20% 1名 30% 2名 3名 40% 4名 5名 50% 6名 7名 60% 8名 3.5% 7.9% 3.4% 9名 70% 10名 11名 80% 12名 3.2% 5.3% 13.4% 42.8% 32.8% 7.6% 8.3% 21.7% 42.3% 21.7% 2015年 1.6% 18.1% 32.7% 35.3% 2014年 15.7% 27.2% 43.3% 7.0% 3.0% 15.7% 24.6% 47.2% 7.2% 2.4% 15.2% 22.8% 50.0% 90% 100% 13名 注:東証1部上場会社(3月決算)対象 コーポレートガバナンス・コード 【原則4−8.独立社外取締役の有効な活用】 独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、上場会社はそのような資質を 十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。 また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、自主的な判断により、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を 選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、そのための取組み方針を開示すべきである。 2015年6月総会時点では、98.4%の会社において社外取締役が選任され、65.6%の会社では2名以上が選任される。 改正会社法によれば、社外取締役を置いていない監査役設置会社(公開会社かつ大会社)においては、定時株主総会における「社外 取締役を置くことが相当でない理由」の説明を義務付けた(第327条の2)。 11 社外取締役の独立性 独立役員として届出 81.3% 69.7% 21.5% 株主出身 27.4% 35.0% 38.2% 取引関係 8.4% 借入先 顧問関係 4.6% 銀行出身 5.0% 13.0% 9.9% 9.9% 1.5% 2.4% 保険会社出身 15.6% 弁護士 7.4% 公認会計士 その他有資格者 2.0% 親族関係 0.4% 0.4% 1.8% 0.5% 就任前に顧問等 23.6% 16.1% 6.5% 15.3% 監査役出身 5.1% 5.7% 特定関係事業者 0% 10% 20% 社外取締役 30% 40% 50% 社外監査役 60% 70% 80% 90% 注:東証1部上場会社(3月決算)対象 属性の内容 取引関係、借入先、顧問関係(法律等の顧問契約や会計監査人として選任されている場合):会社の事業報告等において開示される 場合 大株主出身:上位10位以内の株主出身者 銀行出身・保険会社出身:大株主上位10位以内で銀行・保険会社出身者 親族関係:三親等以内の親族が当社等の従業員、役員である場合 対象は2015年6月総会における社外取締役候補者および社外監査役候補者。なお、各属性については、重複している場合もある。 12 社外取締役の資質 コーポレートガバナンス・コード 【原則4−7.独立社外取締役の役割・責務】 上場会社は、独立社外取締役には、特に以下の役割・責務を果たすことが期待されることに留意しつつ、その有効な活用を 図るべきである。 (ⅰ)経営の方針や経営改善について、自らの知見に基づき、会社の持続的な成長を促し中長期的な企業価値の向上を図 る、との観点からの助言を行うこと (ⅱ)経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと (ⅲ)会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督すること (ⅳ)経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映さ せること 社外取締役の役割への期待 社外取締役は、株主など社外の利害関係者の考え方を適切に経営に反映させる要の役割が求められる。特に、機関 投資家からは、少数株主の代表者としての期待が高い 社外取締役の独立性と資質の両立 社外取締役は、経営の方針や経営改善、経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要意思決定への貢献など、会 社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上への貢献が求められる(原則4-7) 独立性を追求するあまり、社外取締役の機能が不十分になってはならない 社外取締役の独立性は必要条件であり、資質の確保が十分条件となる 社外取締役の資質 社外取締役の資質については、絶対的な解はなく、会社の事業特性や経営体制に応じて検討されるべき 会社がどのような考え方に基づいて取締役会のあり方やその構成を検討しているかについては、国内外の機関投資 家からの関心が高く、説明責任と透明性が求められ、対話の論点ともなりうる 取締役会全体としてのスキルミックスや多様性(性別、国籍、専門性等)の観点から、取締役会構成員のバランスに配 慮して、全体最適の観点からの検討が必要。具体的には、業務執行取締役とそれ以外の者、社内者と社外取締役の 構成と役割、専門性や資質などについて、取締役会を俯瞰してバランスやスキルミックスを検討するべき 13 3.企業と投資家との対話の実効性向上のための 環境整備 14 両コードの連結部分としての対話(エンゲージメント) 企業の取組み (コーポレートガバナンス・コード) 車の両輪 機関投資家の取組み (スチュワードシップ・コード) 上場会社 目的を持った対話 (エンゲージメント) 機関投資家 アセット・マネジャー 株主 企業価値の持続的成長 中長期的な 投資リターンの拡大 アセット・オーナー (保険会社、年金基金等) 顧客・年金加入者 (受益者) 経済全体の成長 わが国の改革は、コーポレートガバナンス・コード(企業の取組み)とスチュワードシップ・コード(機関投資家の取組み)と を車の両輪として機能させることを通じた達成が期待されている。両コードの連結部分にあるのは、会社と株主たる機関 投資家との対話(エンゲージメント)である そのため、コーポレートガバナンス・コード第5章では、スチュワードシップ・コードと対応する形で、企業が株主との対話に 努めるべきであると明記される 15 国内機関投資家の議決権行使の流れ 年金基金 年金資産の運用委託 (議決権行使も含む 投資一任契約) 一定期間毎の運用結果報告 (議決権行使に関する報告 も含む) 実質株主 運用受託機関(投資顧問会社・信託銀行運用部門等) 議決権行使の指図 株主総会招集通知の転送 資産管理機関(信託銀行、マスタートラスト等) 口座ごとの議決権行使の 指図内容を取りまとめて行使 名簿上の株主 株主総会招集通知の発送 (会日の2週間前) 発行会社/株主名簿管理人(信託銀行証券代行部門等) 16 海外機関投資家の議決権行使の流れ 年金基金 議決権代理行使の 委託 年金資産の運用委託 (議決権行使の委託は ケースバイケース) 議決権行使代理機関 実質株主 運用受託機関 議決権行使の指図 株主総会議案 の通知 議決権行使の指図 グローバル・カストディアン IRの一環として議 案説明等を行う 議決権行使の指図 株主総会議案の通知 常任代理人(ローカル・カストディアン) 口座ごとの議決権行使の指図 内容を取りまとめて行使 名簿上の株主 株主総会招集通知の発送 (会日の2週間前) 発行会社/株主名簿管理人(信託銀行証券代行部門等) 17 機関投資家による株主総会出席 コーポレートガバナンス・コード 【補充原則1−2⑤】 信託銀行等の名義で株式を保有する機関投資家等が、株主総会において、信託銀行等に代わって自ら議決権の行使等を 行うことをあらかじめ希望する場合に対応するため、上場会社は、信託銀行等と協議しつつ検討を行うべきである。 経済産業省「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会 報告書」(2015年4月23日) 「名義株主となっていない機関投資家等で、株主総会に出席する合理的な理由が認められる者が、名義株主から代理権の 授与を受けて株主総会への参加を望む場合の考え方や対応についての検討が期待される。」 「関係団体等において、実務上の対応についてのガイダンスの策定が望まれる。」 「日本再興戦略改訂2015」(2015年6月30日) 「名義株主以外のグローバルな機関投資家等が、株主総会に参加する上での企業の基本方針作りを円滑化するため、関 係団体等においてガイダンスを本年末までに策定することを促す。」 株主総会は必置の基本的意思決定機関として、会社と株主がもっとも緊張感を持って対話を行う場である。しかしなが ら、機関投資家は法律上の株主ではないため、名義株主(資産管理信託銀行等)に対する議決権の指図という抑制的 な形でしか参加することができない 機関投資家は全投資先企業の株主総会に出席することは困難でも、対話の一環として必要に応じて株主総会に出席 できる権利を持てることは意味がある 企業には、法定機関である株主総会に法律上の株主ではない機関投資家が出席することについては、決議の瑕疵にも 直結する重大な問題として受け止めざるを得ないという事情がある 全国株懇連合会「グローバルな機関投資家等の株主総会への出席に関するガイドライン」(2015年11月13日) 実質株主である機関投資家が株主総会に参加しようとする場合の実務指針 株主総会への参加を希望する機関投資家について、実質株主であることを証明する文書の様式を定める 総会での権利行使を希望するか、傍聴希望にとどまるかなどの4様態に分けて検討し、会社が機関投資家を株主総 会に出席させるうえでの実務的な手続きを定める 18 政策保有株式の問題 コーポレートガバナンス・コード 【原則1−4.いわゆる政策保有株式】 上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎 年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、こ れを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使に ついて、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである。 政策保有株式の問題は、ガバナンスの実効性のみならず市場全体としての流動性が歪められるおそれもあるとして、社外取 締役の採用と並んで機関投資家からは強く改善が求められる 銀行においては資本規制などとの関係で議論されることが多いが、コーポレート・ガバナンスの観点からは、全業種の上場会 社に共通する重要な問題である 政策保有株式を保有する側と保有される側における問題点の相違 1. 政策保有株式を保有する側 コーポレートガバナンス・コードで規律される 株主が拠出した資本をいかに効率的に価値創造のために活用しているかという資本効率性が問題となる 政策保有株式を保有している場合には、機関投資家の議決権行使においては、資産に占める投資有価証券の比 率などを勘案して判断を行う場合がある 2. 政策保有株式を保有される側 コーポレートガバナンス・コードで規律されない 株主構成上「安定株主」が存在することになり、ガバナンス上は経営者(取締役等)に対する規律が失われて、より 深刻な問題を生じさせる 19 安定株主の比率 (%) 安定株主 機関投資家 その他 平均 平均 議決権に 平均 投信除 機関投 株主の属性 政府公 保険会 銀行等 事業法 く国内 国内投 外国法 証券会 個人・ 自己株 安定株主 占める安 資家比 共団体 人等 比率(*1) 定株主比 社(B) (C) 人等(D)機関投 信(b) 社 その他 式 率(*3) (A) (c) 率(*2) 資家(a) JPX日経400 0.24 5.96 5.50 19.53 12.40 5.30 29.90 1.97 採用会社 JPX日経400 採用会社以 0.11 4.74 4.50 26.54 8.07 3.64 12.65 1.82 外 東証1部上 0.1 5.0 4.7 25.0 9.0 4.0 16.3 1.9 場全体 出所: 東証1部上場会社の有価証券報告書(2015年12月時点)より作成 注: 個人株主には創業家なども含まれるが、一般株主も多く存在するため、 本調査では便宜的に地方公共団体、保険会社、銀行等、事業法人等(A、B、 C、Dの和)を安定株主と考えた。また、「投信除く国内機関投資家」は年金資 産の運用であると推察され、これと国内投信、外国法人等(a、b、cの和)を機 関投資家と推定 平均 議決権に 占める機 関投資家 比率(*4) 平均 安定株主 の議決権 行使比率 (*5) 17.18 2.89 32.32 33.25 49.23 50.70 42.61 34.31 3.38 35.58 36.83 23.92 24.79 51.47 30.6 3.3 34.9 36.1 29.3 30.3 49.6 *1: *2: *3: *4: *5: A+B+C+D (A+B+C+D)/(100-E) 自己株式を除く a+b+c (a+b+c)/(100−E) 自己株式を除く 個人株主行使比率30%、外国法人70%と仮定 企業と投資家との対話を促進するためには、両者が真摯に向き合って議論を行うことが必要であるが、 実際には、安定株主という岩盤が存在することで、その実効性が十分確保できない 「安定株主」の存在により、経営者(取締役等)に対する株主からの規律が失われ、モラルハザードが生 じるおそれがある 20 安定株主の存在がもたらす対話の機能不全 1. 株式相互保有(持合い)と安定株主 政策保有株式を保有されている場合に、事実上の安定株主として、経営者を支持する株主群が構成される 取式関係等の利害関係者が相互に株式を保有する関係が存在すれば、株式の相互保有(持合い)構造を形成する 1対1の関係ではなく、複数社のグループ内で他社の株式を持ち合っているという関係も確認される 2. 安定株主の問題 政策保有株式の保有者は当該会社と取引などの利害関係を有することが多く、株主総会の議決権行使等の権利行使にお いては、このような株主のほぼ全員が会社側に賛成する 株主自身の判断で権利行使を行う純投資家ではなく、当該会社との関係性により行為内容が定まる「安定株主」として存在 する 経営者(取締役)に対する株主からの規律が失われ、モラルハザードが生じるおそれ 3. 機関投資家の相対的存在感の低下 スチュワードシップ・コード上、集団的エンゲージメントについての規定がないため、機関投資家は基本的には個別に投資 先企業と対話を行う。安定株主の存在により、相対的な機関投資家の存在感は薄く、対話の成果を十分に得られない 4. アクティビスト対策としての実効性 多くの会社は、所謂アクティビストと呼ばれる投資家など経営の攪乱要因となる株主の介入を回避したいという目的から、 安定株主を持つ意義を見出していると推察 長期投資家には、短期的視野が多いアクティビストに対抗するために重要な経営資源が費やされることへの懸念も根強く、 アクティビストへの対抗策として、メインストリームの機関投資家の理解を得ることが重要 しかし、安定株主の存在により、長期的視点から投資を行うメインストリームの投資家をも排除してしまうおそれ 5. 今後の取組みへの期待 金融庁のフォローアップ会議において「保有される側」への言及を含めたコード改正の必要性を指摘する意見が出され、賛 同も多かったことから 、今後、コードのみならず開示制度も含めた見直しが行われる可能性も 21 この資料は投資を勧誘する目的で提供されるものではありません。 ここに記載されているデータ、意見等は作成時点において信頼できる情報に基づいて作成されていますが、 正確性、完全性、情報や意見の妥当性等を保証するものではありません。ここに記載された内容が記載日時 以降の市場や経済情勢の状況に起因し妥当でなくなる場合もあります。また、ここに記載された内容が事前 連絡なしに変更されることもあります。 内容に関する一切の権利は株式会社日本投資環境研究所に属し、その目的を問わず無断で引用または複製す ることを禁じます。 22