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個別要素法を用いた 落石シミュレーションに関する検討

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個別要素法を用いた 落石シミュレーションに関する検討
12th Japan Symposium on Rock Mechanics & 29th Western Japan Symposium on Rock Engineering (2008)
個別要素法を用いた
落石シミュレーションに関する検討
表真也1*・岡田慎哉1・石川博之1・伊東佳彦2・日下部祐基2
1土木研究所
2土木研究所
寒地土木研究所
寒地土木研究所
寒地構造チーム(〒062-8602札幌市豊平区平岸1条3丁目1-34号)
防災地質チーム(〒062-8602札幌市豊平区平岸1条3丁目1-34号)
*E-mail: [email protected]
落石対策は道路防災計画にとって大きな課題のひとつである.本検討は落石対策工の合理的な計画や設
計,安全性の向上,コスト縮減に寄与するための基礎資料を得ることを目的として,岩塊が岩盤斜面上か
ら落下した場合について2種類の落石シミュレーション解析手法(2 次元 DEM・3 次元 DEM)を用いて
検討したものである.本検討では落石の挙動を精度よく再現するため,現地で落石実験を実施し実際の定
数を得た.これを基に落石経路や到達範囲の推定,落石が構造物に到達した時点でのエネルギーや衝撃力
の推定を行った.
Key Words : 2D-distinct element method, 3D-distinct element method, rockfall, rockfalling test,
simulation method
1.はじめに
斜面沿いの道路建設では,ルート選定の際に斜面の安
全性に関して十分な検討が成され,建設当初の斜面災害
の危険性はほとんどないといえる.しかし,風化や劣化
などの斜面の経時変化により,その状態が建設時から変
化し,落石等の斜面災害の発生する場所が考えられる.
このような場合には,道路防災の観点から,斜面の安全
性に対する検討が必要になる.落石は暴風雨や融雪時の
斜面の緩み,斜面の凍結・融解などに起因して突発的に
発生する自然現象であり不規則性が強く,事前にその発
生時期を予測することは極めて難しい.そのため,必要
に応じて防護工による落石対策を行うことが現実的であ
る.そして落石岩体の経路や到達範囲,衝突エネルギー
等を精度よく推定することができれば,より適切な道路
防災計画が可能となり,建設コストの縮減および安全性
の向上を図ることができる.
これらの落石の評価手法の一つとして,個別要素法
(以後,「DEM」と記す)による落石シミュレーショ
ンが挙げられる.DEM は,落石のような固体の運動を
シミュレートするのに適した数値解析手法であり同法を
用いれば落石の到達範囲や衝突速度を解析的に推定する
ことが可能である.しかし,数値解析的な手法では,そ
の計算の精度にある程度の信頼性が伴わなければ,実際
に計画・設計に適用することは難しい.
以上を背景に,DEMを用いた落石シミュレーション
手法の確立を目的として,岩盤斜面上から岩塊が落下し
た場合について 2 種類の落石シミュレーション手法 ( 2
次元 DEM・3 次元 DEM )を用い,その適用性について
検討した.本検討では落石の挙動を精度よく再現するた
め,現地で落石実験を実施し実際の定数を求めた.また,
これを基に落石経路や到達範囲の推定,落石が構造物に
到達した時点でのエネルギーや衝撃力の推定を行ったの
で以下を報告する.
2.2 次元 D E M 落石シミュレーション
(1) 斜面および落石岩体のモデル化
図-1 に,2 次元 DEM に用いた解析モデルを示す.落
石の運動は,地山の表面性状に強く影響を受ける.本解
析モデルでは,これを再現するために地山を要素の集合
体として表現することで,落石の衝突による地山の破砕
の再現や,要素間の結合を切ることによる崖錐部の再現
を行い,落石が地山の表面性状から受ける影響を詳細に
再現可能なモデルとした.また,落下衝撃による落下岩
体の破砕・分離も考慮したモデルとなっている.
斜面の物性モデルに関しては,落石挙動解析を行う
箇所の地質調査結果および岩石試験結果をもとに,地
質区分を行っている.また,落石岩体は自破砕溶岩とし
- 795 -
表-1 地質調査結果および岩石試験結果
岩
湿潤密度
自然密度
超音波伝播速度
V ( km/sec)
相
自破砕溶岩
3
w (g /cm )
3
n (g/cm )
自然
P 波伝播速度
S 波伝播速度
湿潤 一軸圧縮強さ
自然 一軸圧縮強さ
引張強度 ( kN/m2 )
密度 (g/cm3)
一軸圧縮強さ
( kN/m2 )
引張強度
安 山岩
2.465
2.429
2.22
1.33
20643
15418
3794
2.515
-
2.705
4.48
2.22
-
112445
6084
2.685
火山礫凝灰岩
2.412
2.402
3.54
1.75
43473
48529
4859
2.409
表-2 2 次元 DEM の解析ケース一覧
解析ケース
図-1 2 次元 DEM の解析モデル
2DEM - 100 - A
2DEM - 50 - A
2DEM - 40 - A
2DEM - 100 - N
2DEM - 50 - N
2DEM - 40 - N
てモデル化し,その要素径に関しては節理間隔および過
去の落石事例から,内部亀裂,破砕の再現性などから,
最大 1.0 m ~ 最小 0.5 mまでとした.また,モデルは最
大要素から最小要素までの要素数の割合が一様となるよ
うに作成した.
(2) 2 次元 D E M の解析条件の設定
解析に用いる落石岩体及び斜面の要素間バネ係数は,
地質調査により得られた表-1 の岩片の弾性波速度を用
い,以下の 式 (1),式 (2) の算出式より算出した 1) 2).
k
n
1
2
= πρV p
4
(1)
ここで, kn :法線方向バネ定数
ρ :密度
Vp :P 波伝播速度
k
s
1
2
= πρV s
4
(2)
ここで, ks :接線方向バネ定数
Vs :S 波伝播速度
解析に用いる要素間の引張強度は,解析対象斜面の地
質調査と岩石試験結果を基に,本解析手法を用いた逆解
析的方法により求めた.すなわち,採取試料の一軸圧縮
試験を実施し,これを引張強度をパラメータとした 2 次
元 DEM により再現し,試験結果と解析結果の破壊荷重
が概ね一致するような要素間の引張強度を実際の引張強
度と等価として,試行錯誤的に設定した.これにより得
られた要素間の引張強度は,ft = 140 MPa であった.
また,岩石試験結果と実規模斜面との寸法の違いによ
る寸法効果が生じる 3), 4)ことを考慮し,2 次元 DEM 解析
においては,一軸圧縮試験により得られた引張強度に対
して,文献 3 ), 4 ) より,3 割程度の見かけ強度になるも
減衰
定数
h
1.0
0.5
0.4
1.0
0.5
0.4
法線方向
バネ定数
kn ( kN/m )
接線方向
バネ定数
ks ( kN/m )
引張強度
ft ( MPa )
42
1.04×10
7
(寸法効果考慮)
3.85×10
6
140
のと仮定し,引張強度 ft = 42 MPa の場合についても同
様に検討することとした.
(3) 2 次元 D E M の解析ケ-ス
表-2 に,実施した解析ケースの一覧を示す.表中の
解析ケース名の第 1 項目は解析手法を,第 2 項目は減衰
定数を示している.第 3 項目は寸法効果の考慮の有無を
示し,A は寸法効果を考慮した場合,N は考慮していな
い場合とする.減衰定数は室内試験より反発係数 R =
0.25 を求め,これより減衰定数を算出し, h = 0.4,0.5,
1.0 の 3 つを設定した.これに寸法効果の考慮の有無を
組み合わせた計 6 ケ-スについて解析を実施した.
(4) 2 次元 D E M の落石軌跡
図-2 には当該斜面に対して,2 次元 DEM より得られ
た落石軌跡の 6 ケースを示す.
( a ),( b ),( c ) 図に示すような寸法効果を考慮した
3 ケ-スでは,落下開始直後の緩斜面との衝突により落
石岩体に破砕が発生し分離した.その後は,分離した落
石岩体が地山と衝突を繰り返して落下し,落石岩体は斜
面や崖錐部で大部分が停止した.
( d ),( e ),( f ) 図に示すような寸法効果を考慮しな
い 3 ケ-スにおいては,落石岩体は落下開始直後に岩体
の前面部が緩斜面に衝突するが,大きな破砕・分離は見
られず,地山と衝突を繰返して落下した.2 DEM – 100 –
N,2 DEM – 50 – N では落石岩体は崖錐部で停止し,落
石岩体の破砕は無かった.また,2 DEM – 40 – N の場合
には落石岩体が覆道へ衝突し跳ね返って崖錐部で停止し
た.なお,落石岩体の破砕は落下開始直後に生じた.
- 796 -
Time 2 sec
Time 10 sec
Time 7 sec
Time 15 sec
Time 29 sec
Time 13 sec
Time 25 sec
Time 13 sec
Time 24 sec
Time 17 sec
Time 20 sec
Time 18 sec
Time 24 sec
(a ) 2DEM-100 -A
Time 4 sec
Time 12 sec
Time 8 sec
(b ) 2DEM-50-A
Time 4 sec
Time 10 sec
Time 8 sec
(c ) 2DEM-40-A
Time 5 sec
Time 15 sec
Time 12 sec
(d ) 2DEM-100 -N
Time 4 sec
Time 15 sec
Time 12 sec
(e ) 2DEM-50-N
Time 11 sec
Time 20 sec
Time 17 sec
Time 22 sec
Time 31 sec
(f ) 2DEM-40 -N
図-2 2次元 DEM 解析結果の落石軌跡の例
これは, 図-3 に示すように地山を要素の集合体とし
て表現し,地山の表面性状から受ける影響を詳細に再現
可能なモデルとしたことにより,地山の破壊が再現され,
破壊によるエネルギー吸収が発生する.これにより,落
石岩体の地山への衝突の際に岩体の運動エネルギーが吸
収される緩衝効果が働き,落石挙動に影響を与えたもの
と推定される.よって,2 次元 DEM の場合では,地山
の破壊による緩衝効果が解析結果に大きな影響を与える
- 797 -
Time 19 sec
図-3(d)2 DEM - 40 - N の拡大図
図-3
図-4 実験における岩塊の軌跡
実験における岩塊の軌跡
(●は
(●は1/6
1/6秒毎の位置)
秒毎の位置)
岩塊を 74 cm の高さからコンクリート面に落下させ,衝
突時の跳ね返りを計測するものである.この試験により,
反発係数 R = 0.25 を得た.粘性減衰係数 η は,1 自由度
系の運動方程式から,反発係数 R と減衰定数 h との関
係を用いることで導かれる 5).これを下式に示す.
74 cm
h=
図-5 落石試験状況
(ln R ) 2
(ln R ) 2 + π 2
(3)
ここで,h:減衰定数
R:反発係数
ものと推察されることから,的確に斜面性状を考慮し,
再現することが肝要であるものと考えられる.
上式より減衰定数 h = 0.40 が得られ,粘性減衰係数 η
はこれを用いて下式で算定される.
3.3 次元 D E M 落石シミュレーション
η = 2h m ⋅ K
(1) 予備落石実験と3次元DEMによる再現解析
本検討では,落石挙動解析を行う前に予備落石実験
を行い,DEM 手法の検証を行うこととした.予備実験
は,落石挙動解析を行う当該崖斜面と地質条件・地質
構成が類似している斜面を選定し,直径 40 cm 程度の落
石岩体試験体を,斜面頂部から自由落下させることで
行った.予備試験で対象とした斜面の比高はおよそ 200
m であった.試験体は投下後,最初の露岩部との衝突
によって破砕し,落下した.図-4 には,落石の軌跡を
斜面の写真に重ねて示している.
( a ) 斜面のモデル化および解析条件の設定
落石実験を行った当該崖斜面は,事前に航空レ-ザ
測量により詳細な斜面データを得ている.この測量デー
タを規則配置に変換し,点群位置に三角形板要素を配置
することによりモデル化した.
要素間のバネ定数については,実験結果を最も良く再
現した kn = 36,700 kN/m , ks = 918 kN/mを用いた.また,粘
性減衰定数の設定については,簡易な測定試験を実施し,
その結果から値を算定した.図-5 に,反発係数を求め
る落石試験の状況を示す.試験は,落石実験に使用した
(4)
ここで,η :粘性減衰定数
m:岩体質量
K:要素間バネ定数
これより,粘性減衰係数が得られる.
( b ) 予備実験の再現解析ケース
当該崖斜面では,実験状況に関して法尻から高さ 50
~60 m 程度の高さまでしかビデオ撮影が出来なかった
ことから,斜面下部を解析対象とすることとした.表-3
に,解析ケース一覧を示す.本解析では,実験において
計測範囲に落石が到達した時点で,既に落石は落下によ
る速度を持っている状態のため,初期条件として初速度
を与えることとした.入力した初速度は,正確な計測区
間到達速度が不明のため,V = 0.0, 6.0, 12.0 m / s の 3 ケー
スとし,その差異について検討することとした.また,
反発係数 R については,その解析結果に与える影響を調
べることを目的として,落石試験より求められた反発係
数 R = 0.25 の前後として,R = 0.15, 0.20, 0.25, 0.30 の 4
ケースを設定し検討を行うこととした.
( c ) 予備実験の再現解析結果
図-6 に,初速度と落下状況の関係を示す.なお,比
- 798 -
表-3 予備実験解析ケース一覧
ケース
R15 - V12
R20 - V12
R25 - V12
R30 - V12
R25 - V0
R25 - V6
反発係数
R
0.15
0.20
0.25
0.30
減衰定数
h
0.52
0.46
0.40
0.36
粘性減衰
η (N・sec / m )
76,900
67,800
60,100
53,200
0.25
0.40
60,100
初速度
V (m/s)
12.0
12.0
12.0
12.0
0.0
6.0
高さ (m)
60
R25-V0
R25-V6
R25-V12
自由落下
40
20
0
0
2
4
6
落下時間 (s)
8
10
図-6 初速度の違いによる落下時間の比較
60
高さ (m)
較のため,斜面の影響を一切排除し,岩塊が自由落下
した場合についても併せて示している.図より,初速
度が大きいほど,斜面を落ちきるまでに必要な時間が
短くなっていることが分かる.しかしながら,後述の
ように斜面との衝突の状況による影響がより大きく,
初速度と落下時間の間には明瞭な相関関係は見出せな
い.
図-7 に,反発係数と落下時間の関係を示す.なお,
図は図-6 と同様の表示となっている.図より,反発係
数と落下時間には相関は見られない.これは,表面性
状の違いにより岩塊の跳躍状況が大きく変化し,落石
の経路が大きく異なるためと考えられる.
図-8 に,反発係数の異なる 4 ケースについて,それ
ぞれの落石軌跡を示す.図より,R = 0.15 および R = 0.30
の場合には,上部において落石岩塊が一度斜面に接触
し,大きく跳躍したのちに下の緩斜面で再度接触し,
跳躍している.その後は,落下速度を増してほぼ直線
的にころがる様な運動をしており,落石実験(図-3)
の軌跡と良く合っている.しかし,R = 0.20 および R =
0.25 の場合には衝突により左右に跳躍する経路を辿り,
実験の軌跡と大きく異なる.
これらのことより,起伏に富んだ自然斜面では反発
係数の影響により,岩塊の跳躍状況が大きく変化し,
結果に大きな差異が生じることが明らかとなった.よ
って,本解析においては反発係数に関して,ある程度
の幅を考慮し,パラメータとして取り扱うこととした.
R15-V12
R20-V12
R25-V12
R30-V12
自由落下
40
20
0
(2)当該斜面の 3 次元 D E M 落石シミュレーション
( a ) 斜面および落石のモデル化
図-9 に,3 次元 DEM に用いた解析モデルを示す.3
次元シミュレーションを行う当該崖斜面については,
3D - CAD の測量データを基に,予備解析と同様の手順
にて作成することとした.斜面モデルについては,約
73,300 個の三角形板要素によってモデル化した.想定す
る落石岩体については,直径が 5 m 体積 70 m3 重量 168 t
の岩体を 3D - CAD デ-タをもとに球要素の六方最密配
置によりモデル化した.
( b ) 3 次元 D E M の解析条件の設定
本解析手法においては,減衰として質量と比例関係に
ある粘性減衰を用いている.しかしながら,今回の予備
実験のような落石岩体の破砕が発生する場合には,破砕
によって落石岩体質量が変化するため,質量に依存する
粘性減衰定数 式 (4) では安定した解を得ることは難しい.
そのため,減衰項の式を変換し,力に依存する形に変更
することで,破砕による質量の変化に対して安定した減
衰が生じるように改良した.
すなわち,式 (5) は,粘性減衰定数を用いる場合の微
小要素間に生じる相対力を算出する式であるが,粘性減
- 799 -
0
2
4
6
落下時間 (s)
8
図-7 反発係数の違いによる落下時間の比較
R15 - V12
R25 - V12
R20 - V12
R30 - V12
図-8 解析結果の落下軌跡の例
10
衰定数が質量に依存するため,減衰項である右辺の第
二項は質量に依存することとなる.
f = K ⋅ x −η ⋅V
落石岩体
(5)
ここで, f :落石と斜面間の接触力
K :バネ定数
x :要素間距離
η :粘性減衰定数
V :要素移動速度
DEM用
モデル諸元
φ = 0.249 m
崖錐部
n = 1085 個
覆道と擁壁
そこで,減衰項をバネ定数の中に内包する形とし,
別の減衰定数を用いるように 式 (5) を変換すると,以下
のようにできる.
f = (1 −α)K ⋅ x
図-9 3次元 DEM における解析モデル
表-4 3 次元 DEM 解析の解析ケース一覧
(6)
ケース
ここで, α:グローバル減衰定数
このようにすることで,落石の質量に依存しない,安
定した減衰を作用させることが出来る.ここで,αを
「グロ-バル減衰」と称することとする.本解析では,
このグローバル減衰を用いて解析を実施することとした.
( c ) 3 次元 D E M の引張強さ
当該崖斜面においては,予備実験結果より落石岩体の
破砕が想定される.DEM 解析において落石岩体の破砕
を再現するためには,落石岩体をモデル化している要素
間に引張強さを設定する必要がある.
引張強さについては,現地岩盤の割裂試験の再現解析
を本解析手法を用いて実施し,引張強さをパラメータと
した逆解析的手法により求めた.すなわち,引張強さを
漸増させた解析を繰返し,実験結果の再現性が最も高い
引張強さを,実際の引張強さと仮定する方法である.こ
れにより得られた要素間の引張強さは, ft = 2,950 kN で
あった.
( d ) 3 次元 D E M の解析ケ-ス
表-4 に,本解析にて実施した解析ケースの一覧を示
す.本解析では,予備実験およびその再現解析の結果を
踏まえ,反発係数に関しては R = 0.15, 0.20, 0.25, 0.30 の 4
ケースについて解析を実施することとした.なお,減衰
定数 h, αについても,反発係数を用いた計算式により
算定されることより,併せて値が変更される.
さらに,想定されている落石岩体の破砕に関して,解
析上で破砕を考慮した場合と考慮しない場合との比較を
行うため,落石岩体の破砕の有無を組み合わせ計 6 ケ-
スの解析を実施した.表中の解析ケース名の第 1 項目は
解析手法である 3DEM とし,第 2 項には減衰定数 h の値
を示し,第 3 項には破砕の有無を,破砕を考慮する場合
を A,破砕を考慮しない場合を N として示している.
v≒70.2 m3
3DEM - 52 - N
3DEM - 52 - A
3DEM - 46 - N
3DEM - 40 - N
3DEM - 40 - A
3DEM - 36 - N
反発
係数
R
グロー
バル
減衰
0.15
0.95
0.20
0.92
0.25
0.88
0.30
0.83
α
法線方向
バネ定数
kn ( kN / m )
接線方向
バネ定数
ks ( kN / m )
引張
強さ
ft ( kN )
-
2,950
3.67×10 4
9.18×10 2
-
2,950
-
なお,引張強さに関しては,3 次元解析では要素間の
接合強度として入力する手法としており,2 次元解析の
場合と単位が異なることを申し添えておく.
( e ) 3 次元 D E M の解析結果
図-10 に,3 次元 DEM による落石シミュレ-ション
により得られた落石岩体の軌跡を示す.破砕を考慮しな
い ( a ),( c ),( f ) 図のケ-スでは,落石岩体は斜面の沢
地形に沿ってほぼ直線的に回転を伴いながら落下して崖
錐部に衝突し,その後覆道へ落下した.また,3DEM – 40
– N では,落石岩体は沢地形に沿って落下し,崖錐部で
停止した.破砕を考慮した 3DEM – 52 – A のケースでは,
落石岩体が斜面の沢地形に沿って落下する状態は破砕を
考慮しない場合と同一であるが,斜面と衝突した段階で
破砕が生じた.その後,落石岩体は崖錐部に衝突し覆道
を超える岩体もあった.また,3DEM – 40 – A は 3DEM –
52 – A のケースと同様に落石岩体が崖錐部に衝突し破砕
して崖錐部で停止した.
これらのことより,減衰定数や破砕の考慮の有無によ
り解析結果に大きな差異が現れており,的確に破砕を考
慮し,再現することが肝要であることが示された.
4.3 次元 D E M による落石の到達範囲の推定
- 800 -
3 次元 DEM シミュレーションにより得られた落石岩
( a ) 3 DEM - 52 - N
( d ) 3 DEM - 40 - N
( b ) 3 DEM - 52 - A
( e ) 3 DEM - 40 - A
( c ) 3 DEM - 46 - N
( f ) 3 DEM - 36 - N
図-10 3 次元 DEMの落石軌跡の図
表-5 落石到達範囲および落石エネルギー一覧
体の軌跡図(図-10)より,落石岩体の到達範囲を推定
する.落石岩体は,いずれの場合も斜面の沢地形に沿っ
落石
衝突
衝突
岩体
てほぼ直線的に回転を伴いながら落下している.破砕を
落石到達範囲
ケース
エネルギー
速度
重量
( kJ )
(m/s)
考慮しない場合の図 ( a ) ,( c ) ,( f ) では,落石岩体は崖
( tf )
2DEM - 100 - A
8.3
1
35 岩塊の大部分が崖錐部で停止
錐部に衝突し防護壁を超えて覆道部へ到達した.
2DEM - 50 - A
4.6
8.5
90 岩塊の大部分が崖錐部で停止
また,破砕を考慮した場合の図 ( b ) ,( e ) では,落石
2DEM - 40 - A
5.8
5
143 岩塊の大部分が崖錐部で停止
崖錐部で停止
2DEM - 100 - N
0
190
0
岩体が崖錐部に衝突し,落石岩体に破砕が生じ,防護壁
崖錐部で停止
2DEM - 50 - N
0
190
0
を越えて覆道部へ到達する.これらのことから想定され
覆道に衝突
2DEM - 40 - N
13.0
148 12,500
ている防護壁の高さが不足している可能性が考えられる.
覆道に衝突
3DEM - 52 - N
11.6
170 11,500
覆道に衝突
3DEM - 52 - A
9
150
6,036
また,崖錐部上においては岩体が細かく破砕し,斜面に
覆道に衝突
3DEM - 46 - N
10.3
170
9,660
沿って広がる状態が確認できることより防護壁の延長に
小岩塊の一部が覆道に衝突
3DEM - 40 - N
0
170
0
ついても検討する必要があることが考えられる.
小岩塊の一部が覆道に衝突
3DEM - 40 - A
3.4
133
761
覆道に衝突
3DEM - 36 - N
29.6
170 74,800
このようなことから,3 次元 DEM では落石岩体の破
砕を表現することにより落石岩体の平面的な到達範囲を
に衝突した時点での落石岩体重量と衝突速度より算定し
推定することが可能であり,落石防護工の必要延長や必
ている.表より,解析手法を問わず落石岩体が破砕しな
要高さなどの検討に有効な結果を得ることができるもの
い場合かつ防護工に衝突した場合は,落石岩体が大きな
と判断される.
まま衝突していることに起因し,衝突エネルギーが大き
な評価となっている.
2 次元 DEM の場合には崖錐部で停止するケースが見
5.D E M による落石衝突エネルギーの推定
られた.これは 2 次元 DEM においては崖錐部を土砂と
してモデル化していることによるものと推察される.ま
当該崖斜面に対して二種類の落石シミュレーション手
た,落石岩体に破砕を考慮した場合では,落石岩体が破
法より得られた解析結果を用いて,斜面法尻に落石防護
砕したことにより落石岩体の重量が軽減され,結果とし
工が設置してあると仮定した場合における,防護工に対
て衝突エネルギーが相対的に小さな評価となっている.
する落石岩体の衝突の有無および,衝突した場合の衝突
3 次元 DEM においても落石岩体の破砕を考慮した場合
エネルギーの評価を行った.
には,衝突エネルギーが相対的に小さな評価となってい
表-5 には,各解析ケースにおける落石状況および衝
る.これらのことから,破砕を適切に再現することで,
突速度,衝突時の落石岩体重量,衝突エネルギーの一覧
破砕を考慮しない場合と比較して衝突エネルギーを小さ
を示している.なお,衝突エネルギーは想定した防護工
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く評価できることが明らかとなった.過去に観測された
実現象においては岩体が破砕しながら落下しており,そ
のままの大きさで斜面下部まで到達することは稀である
ため,より合理的な落石評価となっているものと考えら
れる.しかしながら,過剰に破砕を考慮すると落石岩体
が破砕により細分化され,衝突エネルギーが過小に評価
される危険性がある.
6.解析次元・解析手法の違いに関する考察
2 種類の落石シミュレーション手法について,その解
析手法の差異について考察する.
2 次元 DEM の場合には,次元の縮退による計算コス
ト低減を受け,落石岩体のみならず,斜面も粒子の集合
体でモデル化した.これにより斜面の破砕や崖錐部の緩
衝効果などを表現した.このような複雑な斜面の状態の
再現により,事前におおよその落石経路を推定できる場
合には,より精度よく落石を評価できる.
一方,3 次元 DEM の場合には,地形の影響を受け落
石経路が大きく変化する状態が再現できるため,平面的
な落石到達範囲の推定が可能となる.これにより,複雑
な斜面性状を有する斜面のような落石経路の推定が難し
い場合においても,落石経路および到達範囲を推定する
ことが可能である.すなわち,2 次元および 3 次元の
DEM の適用範囲を明確にし,使い分けを行うことで,
より精度よく落石をシミュレートできると考えられる.
の確立を目的として,岩盤斜面上から岩塊が落下した場
合について 2 種類の落石シミュレーション手法 ( 2 次元
DEM・3 次元 DEM ) を用い,その適用性について比較検
討したものである.結果をまとめると以下のようになる.
( 1 ) 2 次元 D E M のまとめ
(a) 地山のモデル化に伴う緩衝効果が解析結果に
大きな影響を与える.
(b) 的確な斜面の状態のモデル化が肝要である.
( 2 ) 3 次元 D E M のまとめ
(a) 落石岩体の破砕を表現することにより,落石
岩体の平面的な到達範囲を推定することが可
能である.
(b) 落石防護工の必要延長や必要高さなどの検討
に有効な結果を得ることができる
( 3 ) 2 次元及び 3 次元 D E M による解析次元のまとめ
(a) 岩体の破砕を考慮することにより,衝突エネ
ルギーを小さく評価でき,より合理的な落石
評価が可能になる.
(b) 手法の適用範囲を明確にし,使い分けを行う
必要がある.
参考文献
1) V.S. Vutukuri,S.S. Saluja,R.D. Lama 著(増田秀夫,田中荘一
訳): 岩の力学的性質Ⅰ,古今書院,pp.39,1989
2) 伯野元彦 : 破壊のシミュレーション,森北出版,pp.39-45,
2004
3) 川本眺万,吉本龍之進,日比野敏:新体系土木工学 20 岩盤
力学,pp.121-125,技法堂出版,1985.
4)I.W.ファーマ著(江崎哲郎,松井紀久男 訳): 岩盤工学の
7.まとめ
基礎と応用, pp.22-23, 鹿島出版会 1988
5) 大町達夫他 : 個別要素法で用いる要素定数の決め方につい
本検討は,DEM を用いた落石シミュレーション手法
て, 構造工学論文集 Vol.32A, 1986.
A STUDY OF ROCKFALL SIMULATION USING THE DISTINCT ELEMENT METHOD
Shin-ya OMOTE, Shin-ya OKADA, Hiroyuki ISHIKAWA, Yoshihiko ITO
and Yuki KUSAKABE
Rockfall countermeasures are among the most important issues in road-related disaster prevention
plans. In this study, rockfalls from rock slopes were examined using the 2D- and 3D-distinct element
method (DEM) rockfall simulation techniques. To simulate the behavior of rockfall accurately, actual
constants were obtained by performing on-site rockfall experiments. These constants were used to
estimate the paths and traveling distances of rockfalls and the energy and impact force that is applied on
reaching a structure.
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