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全文 - 内閣府経済社会総合研究所
ESRI2003021301Z ESRI 調査研究レポート No.1 先進4カ国における政策金融について By 定光裕樹、坪内 浩、鶴谷 学、廣島鉄也 February 2003 内閣府経済社会総合研究所 Economic and Social Research Institute Cabinet Office Tokyo, Japan 調査研究レポートは、内閣府経済社会総合研究所の研究者および外部研究者によって 行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究機関等の関係する方々から幅広 くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図して発表しております。 論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見 解を示すものではありません。 先進4カ国における政策金融について *1 By 定光裕樹*2 坪内 浩*3 鶴谷 学*4 廣島鉄也*5 平成15年2月 本稿の元になったのは経済財政諮問会議での検討に資するために内閣府本府政策金融改 革準備室により行なわれた調査である。同準備室は平成 14 年末をもって解散したが、海外 の政策金融について我が国で流通している情報は断片的で全体を把握して比較することは 容易ではなく、また、海外においても政策金融の活動規模・分野についての見直しは不断 に行われていて情報が古くなり易いことから、詳しい情報を加えて、経済社会総合研究所 の調査研究レポートとして研究者の方々に提供させていただく機会を得たものである。 本稿の作成にあたっては、同準備室の方々及び平成 14 年 12 月のワークショップにおいて 経済社会総合研究所の方々から貴重なコメントをいただいた。記して感謝したい。しかし ながら、本稿の意見にかかる部分は筆者ら個人に属するものであり、ありうべき誤謬は筆 者らの責任である。 *2 経済産業省資源エネルギー庁国際課課長補佐、前内閣府本府政策金融改革準備室補佐 *3 内閣府政策統括官(経済財政−景気判断・政策分析担当)付企画官、経済社会総合研究 所特別研究員、前準備室企画官 *4 野村総合研究所金融コンサルティング部上級コンサルタント、前準備室参事官 *5 日本銀行企画室企画第 1 課調査役、前準備室補佐 *1 要旨 ・ 海外の公的金融の調査については、「連邦信用計画」という形で全体が把握 されている米国を除くと、各政策分野(中小企業、海外支援、農業、地方財 政等)にまたがるため特定のセクションが全体を把握しているわけではなく、 また、背景となる各国の金融構造も異なっていることから、断片的な情報か ら全体を把握して各国間で比較することは容易ではない。 ・ さらに、海外の公的金融に関する横断的な調査として代表的なものに富士総 研(1996)、中北(1998)がある 1 が、海外においても政策金融の活動規模・分野 については不断の見直しが行われているため、情報は古くなりやすい。例え ば、フランスにおいては、90 年代に相次いで政策金融機関が統合・民営化さ れ、急速に大きく変化しつつある。 ・ こうしたことから、米国、英国、ドイツ、フランスの先進4か国の政策金融 について最新の状況を把握するため、平成 14 年 6 月に調査が行われた。本 稿はその報告である。 1 他に、全国銀行協会連合会 (1997)、高橋(1998)。 1 調査先は以下のとおり。 米国 ・行政管理予算局(OMB) ・中小企業庁 ・農務省農業サービス庁 ・バージニア州資源庁、住宅・地域開発局 ・輸出入銀行 英国 ・財務省 ・貿易産業省 ・公共事業融資委員会(PWLB) ・CDC パートナーズ(途上国の民間投資支援機関) ドイツ ・財務省 ・経済技術省 ・復興金融公庫(KfW) ・ドイツ負担調整銀行(DtA) ・レンテンバンク(農業向けの政策金融機関) ・ヘッセン・チューリンゲン州立銀行 フランス ・経済財政産業省 ・預金供託公庫(CDC) ・中小企業開発銀行(BDPME) ・PROPARCO(途上国の民間投資支援機関) ・ナテキス・バンク・ポピュレール ・デキシア・クレディ・ロカール EU ・欧州投資銀行(EIB) ・欧州委員会金融経済総局 2 1. 国別にみた概観 米英独仏の先進4カ国における政策金融をみると、伝統的に市場主義が強く 金融資本市場が発達している米英においては、政策金融の役割は限定的であり、 政策金融を行う専門金融機関(政策金融機関)もほとんど存在しない。 一方、ドイツ、フランスでは、中小企業分野を中心に政策金融によって市場 を補完する必要性が明確に認められ、政策金融がより活用されているが、民間 金融機関を通じた間接融資(ドイツ)や民間金融機関との協調融資(フランス) が基本形となっており、民間部門との競合回避が制度化された格好となってい る。また、フランスでは、90 年代の相次ぐ政策金融機関の統合・民営化によ って、政策金融の活動規模・分野は相当程度絞り込まれている。 【先進 4 カ国の政策金融(除く住宅)の規模】 米 国 政策金融の規模 (対名目 GDP 比) 中小企業向け 信用保証を含む計 (対名目 GDP 比) 英 国 5,300 億ドル 541 億ポンド (5.4%) (5.7%) 5,640 億ドル 545 億ポンド (5.7%) (5.8%) ドイツ フランス 日 本 3,388 億ユーロ 1,234 億ユーロ 98.3 兆円 (16.7%) (8.7%) (19.1%) 3,437 億ユーロ 1,285 億ユーロ 139.7 兆円 (17.0%) (9.1%) (27.2%) (参考)ドイツの間接融資を除いた直接融資残高の対名目 GDP 比は 6.8%。 (注1) 中央政府が関与している信用供与活動を対象に取りまとめたもの(いずれも個人 住宅向けを除く)。ドイツについては、特殊課題銀行(政策金融機関)に分類され ている州レベルの金融機関を含んでいる。英国の貸付が 2000 年 3 月末、同中小企 業向け信用保証が 2001 年 3 月末、日本が 2000 年度末であるほかは 2000 年末残高。 (注2) 米・英では国が、フランスでは政策金融機関が中小企業向け信用保証を行ってい る。ドイツ・日本は信用保証会社・協会による保証の一定割合を国や地方が再保 証するシステムとなっている(日本の信用保険制度の最低填補率は 70%)。 (資料) Analytical Perspective (Office of Management and Budget)、Annual Abstract of Statistics (Office of National Statistics)、Bankenstatistik (Deutsche Bundesbank)、その他各機関年報等。 3 (米国) 政策金融は、教育、農業、中小企業、輸出支援などの各分野において行わ れているが、(1)規模が小さく、米国輸出入銀行などの例外を除いて政府プ ログラムの形で実施されているケースが多い、 (2)融資は全体の5割程度で、 残りは信用保証、といった特徴がある。また、市場重視や財政規律保持の観点 から「連邦信用計画」という形で、全ての融資と信用保証活動を一元的に捉え、 政策金融の規模やコストを正確に把握し、不断の見直しに役立てている。 (英国) 米国同様、政策金融の規模が小さいほか、内容的に PWLB(公共事業融資委 員会<政府の一部門>)を通じた地方公共団体向け貸出が太宗を占めていると いった偏りがある。また、保証を中心とした中小企業向け金融支援も、貿易産 業省の1プログラムとして行われているため、独立した政策金融機関と呼べる ものは存在しない。 (ドイツ) KfW(復興金融公庫<中小、海外など各分野向け>)や DtA(ドイツ負担 調整銀行<主に中小企業向け、特に創業支援>)といった政策金融機関を活用 し、融資中心の政策金融を幅広く行っている。近年は KfW が中小企業支援に 力を入れていることもあって、全体として中小企業向けが活動の中心といえる 状況。ただし、これらの主要機関は民間との競合回避の観点から、支店網を有 しておらず、仲介銀行経由で融資を実行する間接融資(貸付先は銀行)が活動 の基本形となっている(KfW と DtA は2店舗、レンテンバンク<農業向け> は1店舗のみで活動)2 。 (フランス) 80 年代半ばから始まった経済全体における公的関与引下げの動きの中で、4 つの政策金融機関(産業向け中長期信用等機関、地方自治体・インフラ向け機 関、貿易支援2機関)を民営化したほか、中小企業向け2機関を統合し、政策 金融の活動規模・分野は相当程度絞り込まれている3 。現在では、 (1)CDC(預 金供託公庫)を通じた低家賃の公共住宅向けを中心とする公共業務、(2) KfW 法(第 3 条)では間接融資を原則とする旨が明定されている(ただし、特例は認め られており、これに基づき海外向けなどは直接融資で行われている)。 3 詳しい状況については大山・成毛(2002a, 2002b)参照。 2 4 BDPME(中小企業開発銀行)による中小企業支援、(3)AfD(フランス開発 庁)を通じた途上国支援(ODA)、の3分野に絞り込まれている(なお一部貿 易支援業務が民間への業務委託という形で残存している)。 2. 分野別にみた特徴 (中小企業向け) いずれの国でも、経済における中小企業の存在は大きく、また中小企業向け 金融においては、市場が必ずしも完全には機能しないケースがあるため、政策 金融によって支援すべき重点分野と認識されている。もっとも、その運営にお いては民間金融機関の活動を阻害しないような配慮がなされている。 【中小企業向け政策金融】 米 国 英 国 ドイツ なし (政府 <中小企業庁>) なし (政府 <貿易産業省>) KfW、DtA フランス 日本 BDPME 国民生活金融公庫 (中小企業 中小企業金融公庫 開発銀行) 商工組合中央金庫 活動の中 融資 保証・融資 信用保証 信用保証 融資(直接融資) 心 (間接融資) が半々 KfWは2/3 融資比率 又は3/4 ― ― 50% なし 上限 DtA は1/4、1/2 又は3/4 (注) 米国には融資制度が存在するが、残高は僅少。英国は融資を行っていない。 政策金融 機関 ・ ドイツ、フランスには中小企業向け政策金融機関が存在するが、米英では 政府自体が金融支援を行っており、同種の政策金融機関は存在しない。具 体的な支援方法をみると、米英においては信用保証が中心4 、フランスは融 資対保証が半々、ドイツにおいては融資が中心となっている。 ・ 融資の場合は、協調融資の原則などにより、「民業補完」が制度的に担保 されている。例えば、フランスの BDPME による融資は、融資を行う民間 4 菊森(2002)参照。 5 金融機関からの要請があった場合に初めて、民間と同一の融資条件(金利、 期間等)で、原則 50%の融資比率を上限として実行される。 ・ また、ドイツの政策金融機関は支店網を持たず、中小企業向け融資は、仲 介銀行を経由した間接融資によって行われている5 。この場合も、政策金融 を活用するか否かは民間金融機関の選択に委ねられるほか、例えば KfW で は必要資金額の 2/3 ないし 3/4(貸出先の規模により異なる)という融資比 率の上限が存在する。なお、信用リスクは創業者支援等のための一部の融 資メニューを除き、仲介銀行が負うのが原則である。 ・ 信用保証を活用している場合は、民間金融機関によるモラル・ハザード回 避の観点から部分保証を行っている(保証上限比率は概ね 50∼85%)。 ―― なお、米国や英国では 90 年代初めに金融機関による中小企業等へのク レジットクランチが問題となったが、適正な規制の導入、市場原理の尊重 等により、中長期的に金融機関や企業の体質強化を図るというアプローチ が採用され、政策金融による特段の救済措置は講じられなかった。 (貿易・海外投資支援<除く ODA>) 貿易支援分野では各国政府間の競争が存在し、また途上国向けの輸出・投資 には、民間部門では取りきれない政治リスクなどが付随することから、公的な 支援を要するとの認識は共有されている。もっとも、具体的には保証・保険・ 利子調整などの間接的な支援が主流となっている。 【貿易・海外投資支援向け政策金融】 米 国 貿易保険・ あり 信用保証機関 (輸出入銀行およびOPIC) 英 国 ドイツ フランス 日本 あり あり あり あり KfW DEG(ドイツ なし 国際協力銀行 投資開発会社) (注1) 米国の輸出入銀行と OPIC(海外民間投資公社)の活動の内訳をみると、保険・保 証が 86%、直接融資が 14%となっており、両機関は保険・保証機関の性格が強い。 融資を実施 している機関 5 [輸出入銀行] なし 国民公庫総研(2002)参照 6 (注2) 上記のほか、米国の OPIC とフランスの経済協力協会が融資を行っているが残高は 僅少。英国では過去、小規模な融資を実施していたが、現在は行っていない。 ・ イギリス、フランスでは、信用保証や投資保険が支援の中心となっている。 また両国は、民間銀行の変動金利融資を固定金利化する利子調整スキーム によって民間貿易信用を補完している(フランスでは同業務を民間銀行に 委託)。また、米国でも保証や保険が中心で、直接融資は全体の1割台に 止まっている。 ・ ドイツでは、政府の貿易保険業務を請け負っている民間保険会社に加え、 KfW が輸出・海外プロジェクト向けの直接融資による支援を幅広く行って いる。ただし、欧州委員会から政策金融業務と認められなかった同業務の 大部分は、2007 年末までに商業ベースの子会社に移管されることが決まっ ている。 ・ 輸出支援とそれ以外(投資等)で分けてみた場合、投資等支援の投融資残 高は小さい。 (インフラ整備・産業プロジェクト向け) プロジェクト・ファイナンスなどの融資手法の発展を背景に、大規模な開発 銀行型の政策金融機関は従来から米英には存在しない。大陸欧州では、政策金 融機関が、業務の一部として地域開発や小規模インフラ整備支援を行っている ほか、ドイツの KfW は産業プロジェクト向けファイナンスを行っている。 ・ フランスでは、CDC の業務の1割程度が地域開発支援などに当てられてい るが、かつて大規模インフラ支援を行っていたクレディ・ロカールの民営 化以降は、開発銀行機能は存在しない状況となっている。 ・ ドイツでは、KfW が小規模の地域インフラ支援を行っている(民間事業者 向けは間接融資で融資限度額を 500 万ユーロに制限)ほか、主に民間との 協調による形で産業プロジェクト向け融資を行っている(年中実行額でみ て国内向け<除く住宅>の2∼3割程度)。 ・ なお、全欧州でみた場合、EIB(欧州投資銀行)が広範な開発銀行業務を 7 行っているが、地域開発向け融資のうち、70%は特定の要支援地域(旧東 ドイツ、南欧等が中心)に割当てられている。 (農業者向け) 農業分野においては、各国とも補助金等の多様な支援策を有しているが、政 策金融による支援を行っているのは、米国(政府が実施)及びドイツ(レンテ ンバンク<政策金融機関>が実施)である。ただし、いずれも「民業補完」を 徹底するための具体的な措置が講じられている。 ・ 米国では、農務省が各地の出先機関を活用しつつ、家族経営農家や若年農 業者といった特定層を対象に、信用保証及び融資による支援を行っている。 特に融資の場合には、信用保証を利用しても民間金融機関が融資できない ことが適用条件とされており、必要に応じ民間金融機関に確認を行いつつ 厳格に運用されている。 ・ ドイツのレンテンバンクは、支店網を持たず、民間金融機関を通じた間接 融資(信用リスクは全て民間金融機関が負担)によって、農業者向けの中 長期資金の供給を行っている。また、政策的に重要な分野に適用される優 遇金利の財源は他の農業関連融資からの収益であり、中央政府からの財政 支援は 1973 年以降行われていない。 (地方政府向け) 連邦制で地方財政の自律性が極めて高い米国とドイツ、また地方政府向けの 政策金融機関の民営化を行ったフランスでは、地方政府や公営企業への融資を 専門とする制度は存在しない。英国では、中央政府が地方政府に対する貸付を 実施しているが、対象分野・規模も小さく、そのための政府外の機関は置いて いない。 ・ 連邦制の米国及びドイツは、基本的に中央政府の支援を受けることなく、 地方政府が自律的に市場や民間金融機関から資金調達を行っている6 。 米国の一部の州(バージニア、メーン、アリゾナ、オハイオ等)では、州政府が下部自治 体に対する資金供給を円滑化させるため、専門の融資機関(いわゆるステート・ボンド・ バンク)を置いていることがある。ドイツでは、州立銀行や貯蓄銀行といった一般の銀行 6 8 ・ フランスでは、戦後復興の流れを受けて CDC が地方政府向けの低利融資 を長らく行っていたが、民間金融の発展、規制緩和、地方分権等を背景に、 80 年代後半に当該制度は廃止された(CDC の担当部門は民間法人化<ク レディ・ロカール>され、96 年に完全に民営化)。 ・ これら3カ国では、地方政府は 20∼30 年もの長期のローンを民間金融機 関等から調達している。 ・ 英国では中央政府が PWLB(公共事業融資委員会<政府の一部門>)を介 して地方政府に融資を行う仕組みを有している(我が国の財政融資に相 当)が、サッチャー改革以降、民営化、PFI 等により地方政府の業務範囲 が既に縮小されていることから融資対象は、住宅・交通・教育等が中心で、 規模も小さい(2001 年度では我が国の政府及び公営公庫による自治体融資 の 1/10 程度)。また、本融資はあくまで中央政府本体によるものであり、 政府外の政策金融機関は存在しない7 。 【インフラ、農業者等向け政策金融】 インフラ整備・産業 プロジェクト向け 米 国 英 国 ドイツ フランス 日本 なし なし KfW [CDC] 日本政策 投資銀行 なし レンテンバンク なし 農林漁業 金融公庫 なし なし 公営企業 金融公庫 なし 農業者向け (政府<農務省>) なし 地方政府向け (注) なし (政府<公共事業 融資委員会>) フランスの CDC(預金供託公庫)は、主要業務である低家賃の公共賃貸住宅向け (活動全体の 85%)以外に、一部地域インフラ支援(全体の1割程度)などを行 っているが、開発金融機関とはみなされていない。 が地方公共団体に対する融資を担っている。 7 ここに掲げた国以外では、自治体向けの公的な金融機関を置いている例がいくつかある。 ノルウェー地方金融公社は、80%を政府が 20%を地方政府が所有する株式会社組織であり、 スウェーデン地方金融公社は自治体の協同組合が 100%所有する組織である。但し、いずれ の機関も政府による明示的な保証等の措置は講じられておらず、自治体向けに融資を行う 民間金融機関と対等な競争が行われるような制度設計がなされている。 9 3. 特徴的な制度および注目すべき最近の変化 a. ドイツの間接融資制度 ドイツの主要政策金融機関(KfW<国内向け>、DtA、レンテンバンク)は、 支店網を有しておらず、仲介銀行を経由した間接融資を業務運営の基本として いる。すなわち、借り手は直接的には民間銀行に借入を申し込み、当該民間銀 行の審査を経て、政策金融機関が要件確認を行い、貸出が実行される。同制度 における政策金融機関は、「リファイナンス機関であり」(KfW)、「ホールセー ル(卸売り)・バンクの役割を果たしている」 (EIB<中小企業・小規模インフラ 向けに同制度を採用>)といえる。 b. EIB(欧州投資銀行)の業務運営 EIB は、EU 域内を中心に幅広く金融支援を行っている。その運営をみると、 (1)大型案件には個別審査の上、協調融資を行うが、中小企業・小規模イン フラ向けは各地域の民間銀行を通じて融資を行う、 (2)個別融資の 70%を要支 援地域に割当てており、特定地域のキャッチアップ支援に重点を置いている、 (3)進行中のプロジェクトについては融資決定前から、概要や進捗状況をホ ームページ上で公開するなど透明性向上の取組みを強めている、といった特徴 がある。 c. フランスにおける政策金融機関の統合・民営化 フランスでは、経済全体における公的関与引下げの動きの中で、政策金融機 関の統合・民営化が進められた。すなわち、90 年代に入り、クレディ・ロカー ル(地方自治体・インフラ向け)、フランス貿易銀行(貿易支援)、クレディ・ ナショナル(産業向け中長期信用・途上国支援)、フランス貿易保険会社(貿易 保険)の 4 機関が民営化された。また、下記のように中小企業向けについては 融資機関と信用保証機関を統合している。政府関係者からは、「これらの統合・ 民営化後も公的支援の能力は低下していない」との見方が示されている。 d. フランスの中小企業向け政策金融の改革 フランスで中小企業向けの政策金融機関が統合された( 1977 年)背景には、 10 (1)政府の支援を受けた低利融資が民業を圧迫しているとの批判が高まった こと、(2)それを維持するための財政負担が過大になったこと、等が挙げられ る。改革は、シラク大統領のリーダーシップで進められ、その結果、政策金融 機関が自主的に融資を行うのではなく、民間金融機関からの要請がある場合に 限り、同一の融資条件の下で、融資比率 50%を上限として行うという「協調融 資」の仕組みが導入された。改革後は、民業圧迫批判は解消し、政府からの補 給金を受けることなく融資業務が運営されている。 また、従来は融資と保証とがバラバラに運用されていたが、統合後は案件毎 の資金使途やリスクに応じて融資と保証のいずれを適用すべきかが一元的に判 断されるようになり、政策の効率性、実効性が高まった。 e. ドイツにおける輸出・海外プロジェクト向け支援の今後 EU は、競争政策上の観点から、金融部門に対する公的補助を厳しく制限する 立場を有しており、ドイツの政策金融機関に対する連邦政府の関与(組織維持 責任と政府保証)の妥当性について検討を行った。この結果、 (1)KfW など政 策金融機関に対する連邦政府の関与を引続き認める、(2)ただし「輸出・海外 プロジェクト向け」については、真に公的支援が必要な途上国向け輸出を除い て、全て商業ベースの子会社に移管する、ことが決められた。これによって、 2007 年末までに、現在の活動の太宗が政府保証や税制上の特典を受けない子会 社に移管されることが見込まれている。 f. レンテンバンクによる農業融資 レンテンバンクは、特別法に基づく政策金融機関としての信用力を背景に市 場から比較的低利で調達した資金を原資として、農業分野に対して中長期の資 金を仲介銀行経由で供給する機関である。政策性の高い分野(融資総額の概ね 1/4 に相当。例えば、BSE 対策。)については、低利融資を行うが、その財源は、 他の一般の農業関連融資から得られた収益であり、1973 年以降政府からの補給 金を受けることなく、政策的役割を果たしている。なお、元々の資本金は、1949 ∼58 年の間に農地への課税により農業者から徴収した資金であり、政府からの 出資も行われていない。 11 g. 米国の連邦信用計画におけるガバナンスの仕組み 米国では 1990 年に成立した連邦信用改革法によって、融資、保証等の信用プ ログラムのコストを統合的に算出し、予算化する仕組みが導入された。具体的 には、プログラムが適用される期間全体のキャッシュフローを現在価値化した 額をサブシディ・コストとして算出し、予算に計上することが義務づけられた。 この結果、「安易な制度創設の抑制、金利や手数料徴収の適正化、担当省庁によ るプログラム管理能力の向上等の効果が現れている」(OMB<行政管理予算局 >)とのことである。 また、政府部内では、50 名もの担当スタッフを擁する OMB が統一基準 8 に基 づき、各制度を民業補完性等の観点から厳格にチェックしていることに加え、 GAO(会計検査院)や CBO(議会予算局)といった議会関連機関もモニタリン グを行っており、しばしばサブシディ・コストの算出方法の妥当性などについ て具体的な指摘を行っている。 h. 米国のクレジット・ディナイアル制度 かつて米国の中小企業庁が運営する公的融資制度では、民業補完を担保する ため、2つ以上の民間金融機関による融資拒絶証明書(クレジット・ディナイ アル)があることを融資の条件としていた。しかし、(1)安易な事業計画に基 づく証明書申請が相次いだこと、 (2)金利や期間等によって融資の可否は異な るため基準として客観性に欠けること、 (3)民間金融機関に手間がかかること、 等からその実効性に疑問が呈され、80 年代半ばに同制度は廃止された。しかし、 民間金融機関が現実に拒絶するか否かは別として、 「民間金融機関による融資が 困難な場合に限って政府が融資(保証)を行う」という原則に基づき各種制度 は設計されている。 4. 追加調査すべきテーマ・課題 今回の海外調査で把握された実態については、わが国の政策金融のあり方を 考える上で大いに参考になった。その一方で、分野ごとに具体的な仕組みや制 8 http://www.whitehouse.gov/omb/circulars/a129/a129rev.html 参照。 12 度を検討する際には、官民における既存の行政・事業の運用状況との親和性も 重要な考慮要素であるとの立場もありうる。したがって、個別の制度設計まで 視野に入れた場合には、さらに調査を深堀する余地があると思われる。今回の 調査を踏まえれば、たとえば以下のようなテーマが考えられる。 第一に、民業補完を徹底するために、調査対象国全般において、間接融資、 部分保証等の間接的な融資形態が中核的に用いられていることが確認されたが、 これらは民間金融との連携・調和を前提とする度合いが強いことから、民間側 において、(1)公益性の判断、(2)貸倒れの場合の回収・償却・売却等の処 分プロセス、等に関して民間プロパーの融資と比べて特段異なる負担を強いら れているか否か等の問題意識を含めて、民間金融に関する規制・監督や税制、 業務の実態、資金需要者と供給者との関係等を踏まえて評価をすることが有効 である。 その際、場合によっては、わが国の民間金融に関する規制・制度や業務実態 のあり方を見直すという方向で連携・調和を確保するというスタンスも排除す べきではなかろう。 第二に、政府による信用プログラムのガバナンスに関してさまざまな取り組 みが行われている実態を俯瞰することができたが、特にコストと効果の評価・ 検証等については未だ発展途上、試行錯誤の段階であることから、今後最新の 情報を継続的に把握する必要があろう。また、上記も含めてガバナンスの仕組 み全体に関しては、政治的な意思決定プロセスとの連関も強いことから、わが 国の政策金融改革における組織のあり方に関する議論の進展を踏まえて、より 具体的な問題意識の上に立った海外調査を深めていくことも重要であろう。 なお、ガバナンスの仕組みについて海外の実態を参考にする際には、わが国 の政策金融が、ボリュームの大きさのみならず、その用いられ方に起因する潜 在的なリスクの大きさないし不確実性においても特異な存在である現状をふま えれば、よりアンビシャスな対応をも念頭に置くべきことに留意すべきである。 13 参考文献 大山陽久・成毛建介(2002a):「フランスにおける中小企業向け公的金融制度の特 徴」、海外事務所ワーキングペーパーシリーズ 2002-1、Banque du Japon、 2002 年 7 月 大山陽久・成毛建介(2002b): 「近年におけるフランスの公的金融機関の民営化に ついて」、海外事務所ワーキングペーパーシリーズ 2002-2、Banque du Japon、 2002 年 9 月 菊森淳文(2002): 「多様な中小企業政策と民業の補完に徹する公的保証」、信用保 険月報、pp.16-20、2002 年 4 月 国民公庫総合研究所 (2002): 「ドイツの中小企業政策−経済環境の変化と開業支 援のしくみ−」、国民生活金融公庫調査月報、No.490、pp.6-19、2002 年2 月 全国銀行協会連合会 (1997): 「欧米主要国の公的金融システム―わが国への示唆 から改革の姿をさぐる−」、1997 年 10 月 高橋洋一(1998): 「財政投融資の改革の方向」、岩田一政・深尾光洋編『財政投融 資の経済分析』第7章、日本経済新聞社、1998 年 1 月 中北徹(1998): 「政府の金融活動の国際比較―住宅金融活動を中心にして」、岩田 一政・深尾光洋編『財政投融資の経済分析』第 4 章、日本経済新聞社、1998 年1月 富士総合研究所 (1996): 「欧米主要国における公的金融の動向―わが国との比較 の観点から―」、富士総研論集、1996 年 IV 号、pp.20-60 14 (参考1) 分野毎の各国比較(1) (1)中小企業向け政策金融 米国 英国 ドイツ フランス 日本 政策金融機関 実施主体 政府 政府 政策金融機関 政策金融機関 (国民生活金融公庫、 (中小企業庁) (貿易産業省) (KfW、DtA) (BDPME) 中小企業金融公庫、 商工組合中央金庫) 活動の 中心 信用保証 信用保証 融資 (間接融資) 保証・融資が 半々 融資 (直接融資) 保証割合 75∼85% 70∼85% 平均 71.5% 40∼70% 原則 100% 50% なし 2/3 又は 3/4 融資比率 上限 (KfW) ― ― 1/4、1/2 又は 3/4 (DtA) 備 考 ・融資は、災 ・融資制度は 害支援(政 存 在 し な 府による直 い。 ・融資は全て仲介 一元的に運用。 れぞれ独自の全国支 ・KfW の制度は、 ・融資は、民間金 店網を有し、融資活 接貸出)や 信用リスクは基 融機関からの申 小 口 融 資 本的に仲介銀行 請を受けた場合 ・各地域の信用保証協 (NPO を通 が 負 う が 、DtA に限り、民間と 会による信用保証に じた間接融 の制度は、仲介 同一の条件(金 政府が保険を付す信 資)といっ 銀行のリスク負 利、期間等)で 用保険制度が別途存 た限定的な 担割合は様々(0 実行。 在。 分野で行わ ∼100%) 。 れている。 銀行経由。 ・保証と融資とを ・各政策金融機関はそ ・保証は、民間の 信用保証銀行が 実施(中央政府 は同銀行の保証 債務を再保証)。 15 ・全国 40 ヶ所に支 店を有する。 動を実施。 (参考1) 分野毎の各国比較(2) (2)貿易・海外投資支援向け政策金融 貿易保険・ 信用保証 機関 米国 英国 ドイツ フランス 日本 輸出入銀行 ECGD (政策金融 (政府内の ヘルメス 信用保険 フランス 貿易保険 日本貿易保険 機関) 1部局) (民間組織) (民間組織) 輸出向け 融資実施 機関 輸出入銀行 融資残高 100 億ドル 投資等向け 投融資実施 機関 投融資残高 備 考 (独立行政法人) KfW 、DEG なし なし 国際協力銀行 ― ― 1.5 兆円 OPIC (海外民間 投資公社) CDC パートナーズ PROPARCO (経済協力 投資協会) 国際協力銀行 0.5 億ドル 5.2 億ポンド 6.2 億ユーロ 8.8 兆円 (ドイツ投資 開発会社) 498.8 億ユーロ ・保証・融 ・ ECGD は 保 ・ KfW の 貿 ・旧フランス ・国際協力銀行 資を合わ 険・保証以 易・海外 貿易銀行の の信用供与 せた輸出 外に、民間 投資向け 業務を継承 総額に占め 入銀行全 銀行の変動 融資の太 しているナテ る保証の割 体の信用 金利貸出を 宗は、商 キス(民間銀 合は 4%。 供与残高 固定金利化 業ベース 行)は、国 は 574 億 する利子調 の子会社 からの委託 ドル 整スキーム に移管さ を受け、 を有してい れ る 予 ECGDと同様 る。 定。 の利子調整 業務を行っ ている。 (注)英国が 2000 年 3 月末、ドイツの DEG が 2001 年末であるほかは 2000 年末の計数。日本は 2000 年度末。 16 (参考2) 特徴的な制度等(1) (1)ドイツにおける間接融資について ・主要政策金融機関の貸出は間接融資が基本 KfW(国内向け<中小企業、住宅、環境対策関連、地域インフラ整備の内、 民間企業向けなど>)、DtA、レンテンバンクはいずれも、民間銀行が審査・融 資を実行し、その銀行向けに必要資金を貸し付ける間接融資(リファイナンス と呼称)を基本としている。 これは、(1)政策金融を効率的に行うために、各地域の中小企業に関する情 報やノウハウ、確立された支店網を有する民間銀行を活用する、(2)民間銀行 を用いなければ政策金融が実施出来ないようにして、民間との競合を避ける意 味合いをもっている。このような手法を前提に、各政策金融機関は支店網を持 たずに業務を行っている。 ・中小企業金融をサポートするための新たな取組み KfW の場合、仲介銀行は事務経費やリスクをカバーするため、一律 1%のマー ジンを取ることが出来る。また融資上限比率があるため、協調融資で行われる。 また、信用リスクは原則として民間銀行サイドが負うこととなる。 現在ドイツでは、信用リスクに応じて企業向け融資のリスク・ウェイトを変 化させる 2 次 BIS 規制の導入を睨み、大手行を中心に中小企業向け融資を慎重 化させる動きがみられている。これを受けて KfW は、(1)中小企業向け融資の 信用リスクを市場に転売する証券化スキームの創設、 (2)仲介銀行が柔軟に貸 出条件を変更できるクレジット・ライン型のグローバル・ローンの導入、など の対応を行っている。 融資残高 (億ユーロ) うち間接融資 職員数 店舗数 (比率) KfW 1,783 948(53.2%) 2,032 人 2 DtA 443 342(77.2%) 793 人 2 レンテン バンク 381 358(94.8%) 192 人 1 (注 1)KfW の直接貸付は、輸出・途上国支援といった海外向けに集中している。因みに KfW の国 内向け融資(1039 億ユーロ)に対する間接融資比率は 91.2%となる。いずれも 2000 年時点 のデータ。 (注 2)DtA の中小企業向け融資は全て間接融資によって行われている。 17 (参考2) 特徴的な制度等(2) (2)EIB(European Investment Bank<欧州投資銀行>)の特色 ・融資の特色 EIB は EU 地域の発展と統合を目的として設立された政策金融機関である(EU15 カ国が出資)。ただし全融資額の 15%は EU 域外向け(うち半分は EU 加盟申請国 への貸出、残りはアフリカなどへの経済協力的融資)となっている。 貸出には、 (1)EIB が直接審査し、年 10 回程度開催される理事会(各国政府 代表等から構成)で融資決定を行う個別融資と、(2)民間の仲介銀行にクレジ ット・ラインを設定し、中小企業・小規模インフラ向けに融資を行う間接融資 の 2 種類がある(支店は有していない)。 個別融資の 70%、間接融資の 50%は要支援地域(旧東ドイツ、スペイン、ギ リシャなど)に割当てられることとなっており、域内国間に大きな所得格差が 存在する EU における、特定地域のキャッチアップ支援の比重が強いことが分か る(特に長期インフラ向け融資は、要支援地域に集中)。 融資比率 要支援地域 向け割当率 個別融資 2500 万ユーロを超える 企業向け:12 年 (929 億ユーロ) プロジェクト向け インフラ向け:20 年 50% 70% 2500 万ユーロ以下の中 間接融資 小企業・小規模イン (870 億ユーロ) フラ向け 50% 50% 貸出対象 最長貸出期間 5∼12 年 ・その他の運営面の特徴 EIB は AAA の格付けをベースに、各通貨・満期(2000 年は 10 種類の通貨、満 期は 2∼39 年)の機動的な債券発行を国際資本市場で行い、さらに通貨スワッ プによって貸出通貨への調整を行っている。このように活発なオペレーション によって、市場内において貸出先が独自調達を行うよりも有利な条件で融資の 提供が可能となっている。またスプレッドを年 4 回見直す変動貸や、期間途中 での金利の固定化・通貨変更など様々なニーズに対応することが可能であり、 金利環境によって変動・固定の比率も様々に変化する。 透明性向上を目指し、2001 年からホームページ上にプロジェクト案件リスト を掲載している。これは、可能な限りプロジェクト・サイクルの最初から情報 を公開するという方針に基づき、理事会承認前であっても、プロジェクトの概 要、進捗状況などを公表するものであり、秘密保持の観点から顧客が希望すれ ば非公開とすることも可能となっている。 18 (参考2) 特徴的な制度等(3) (3)フランスにおける政策金融機関の統合・民営化 民営化された機関 現名称:デキシア・クレディ・ クレディ・ロカール (地方自治体・インフラ) ロカール (民営化) <96 年> フランス貿易銀行 (民営化) (貿易支援) クレディ・ナショナル 現名称:ナテキス・バンク・ポ <99 年> (統合) ピュレール(一部、輸出・途上 <97 年> 国関係の政府業務を受託) (産業向け中長期信用・ 途上国支援) (買収) <02 年> フランス貿易保険会社 (貿易保険) (民営化) <94 年> 存続している政策金融機関 CDC (公共住宅・地域インフラ) (グループ内の民間業務と公 的業務を分離)<00 年> CDC (公共住宅・地域インフラ) SOFARIS (中小企業向け信用保証) (統合) BDPME <97 年> (中小企業支援) CEPME (中小企業設備資金) フランス開発庁(AfD) フランス開発金庫 (旧仏領向け支援) (改称) (海外全域向け支援) <98 年> (注)上記の他に、個人向け住宅金融を行っていたフランス不動産銀行は 95 年に低利住宅融資の 独占が廃止となった後、現在は貯蓄金庫傘下にある。 19 (参考2) 特徴的な制度等(4) (4)フランスにおける中小企業向け政策金融の改革 ・改革の背景 フランスの中小企業政策金融機関は、従来、中長期の低利融資を行う中小企 業設備金庫(CEPME、1981 年設立)と、信用保証を行う中小企業融資保証会社 (SOFARIS、1982 年設立)の二系統が存在していた。 ところが、金融自由化を受け民間金融機関の競争が活発化する中で、政府の 補助金を受けて低利融資を行う CEPME の活動は民業を圧迫しているとの批判が 強まり、政府にとっても CEPME に対する財政支出が過大な負担として意識され るようになった。 こうした状況を受け、1995 年、中小企業への金融支援体制を効率化・強化す べきとのシラク大統領の提唱により、両機関は中小企業開発銀行(BDPME)とい う持株会社の下に統合されることとなり、その業務についても改革が行われた。 ・業務面の改革 従来、民間金融機関の意向とは無関係に行われていた CEPME の融資について は、新たに民業補完を徹底する仕組みが導入された。具体的には、BDPME による 融資は、民間金融機関からの申請がある場合に限り、融資比率 50%を上限として 行われることになった。しかも、融資条件(金利、期間等)は、民間が提示す るものと同一でなければならないこととされた。この改革の結果、民業圧迫批 判は聞かれなくなった。なお、BDPME の融資は民間では困難なリスクテイクを行 いつつも、政府からの補給金を受けることなく運営されている(原資は政府保 証付きの債券発行と CDC からの低利融資により調達)。 また、従来は保証と融資とが別組織によりバラバラに適用されていたが、改 革後は、案件毎のリスクや資金使途に応じて、保証と融資のいずれを適用すべ きかが一元的に判断されるようになった。例えば、リスクの高い創業段階では 保証、事業拡張段階では融資といった使い分けがなされている。この際、両機 関の蓄積した信用情報を統合したデータベースが活用されており、効率的・客 観的な与信判断が行われている。 ・小規模企業への重点化と今後の展望 民業補完を徹底させた結果、BDPME の支援対象は小規模企業が中心になってい る。融資では約 81%、保証では約 88%が従業員数 50 人未満の小規模企業に対す るものである(2001 年の融資額ベース。EU の中小企業の従業員基準は 250 名以下)。 また、BDPME は、支援先企業の業績や動向等を定量的に把握・蓄積する作業を 進めており、将来的には政策効果の検証、支援対象の重点化、民間金融機関へ の情報提供を通じた新 BIS 対応の円滑化等に活用することを検討している。 20 (参考2) 特徴的な制度等(5) (5)ドイツのレンテンバンクによる農業向け融資 ・融資の特色 レンテンバンクは、農業振興を目的として、農家及び食品産業に対する融資 を行うために 1949 年に特別法により設立された政策金融機関である。融資は、 民間金融機関を通じた間接融資(信用リスクは全て民間金融機関が負担)によ って行われ、(1)政策的に重要な分野(BSE 対策等)に対する優遇金利(市場 金利の下限並み)、及び、(2)市場金利による一般農業向け融資、の2ルート によって行われている。優遇金利による融資が融資総額(2001 年は 12 憶 6,400 万ユーロ)に占める割合は、概ね 25%程度である。 レンテンバンクの特色は、優遇金利による政策的融資の財源を政府からの補 給金に依存せず( 1973 年以降政府による補給金は支給されていない)、一般農業 向け融資の収益によって賄っていることである。その代わり、一般農業向け融 資については、ドイツ国内の金融機関のみならず、EU 域内の他国の金融機関を 介して行うことも認められており、活動に一定の自由度が確保されている。 レンテンバンクは、法律に基づく政策機関であることから政府がその組織の 維持を保障しているものと解されており、政府保証付き債券と同等の低利での 資金調達が可能となっている(いわゆる暗黙の政府保証。格付けは AAA を取得)。 法人税も免除されている。 また、一定の重要分野に優遇金利を適用する等の政策機関としての使命は、 レンテンバンクのボードに政府の農業省の代表者が一定割合加わることによっ て担保されている。 なお、レンテンバンクの元々の資本金(1 憶 3,500 万ユーロ)は、1949∼58 年の 間に農地に対する課税によって農業者から徴収された資金であり、政府の一般 会計からの出資は行われていない。従業員数は 198 名(2001 年時点)、支店はな くフランクフルトの本店のみである。 <レンテンバンクの融資スキーム> 中 央 政 府 重点政策 分野 組織維持の コミット 資 低利融資 本 レンテンバン 市 ク 場 市場金利 債券発行 (AAA 格) 貸出 民 低利融資 農 間 業 金 ・ 融 低利融資の財源は市 機 場金利貸出の収益で 関 市場金利 貸出 食 品 産 業 手当(独立採算) 21 (参考2) 特徴的な制度等(6) (6)米国の連邦信用計画におけるガバナンスの仕組み 米国では、1990 年の連邦信用改革法の成立以来、連邦信用計画に対するガバ ナンス強化のため様々な取組みがなされている。 ・連邦信用改革法に基づくコストの予算への組込み 従来連邦信用計画の費用は、現金ベースで予算化されていたが(融資は実 行額をそのまま歳出に計上、保証は付保時は計上されず代位弁済時に計上)、 連邦信用改革法(1990 年成立、1992 年施行)の制定により、こうしたコスト を統合的に把握し、予算化する仕組みが導入された。具体的には、融資や保 証が適用される期間全体のキャッシュフローを現在価値化した額をサブシデ ィ・コストとして算出し、予算に計上することが義務付けられた。 これにより、様々なプログラムのコストが統一的に開示され、民主主義的 なチェックを受けるようになった。連邦信用改革法の導入以降、 「安易な制度 創設の抑制、金利や手数料徴収の適正化、各省庁によるプログラム管理能力 の向上等の効果が現れている」(行政管理予算局)とのことである。 ・米国行政管理予算局による一元的なチェック 政府部内においては、行政管理予算局(OMB)が、各種プログラムの統一評 価基準を策定している。そこでは、 「政府の介入は民間で対応できない場合に 限定すべきこと」、「民間金融機能の活用、市場歪曲効果の最小化の観点から 融資よりも保証を優先すべきこと」等の基準が盛り込まれており、創設・拡 充される施策のみならず、既存の施策(大企業優遇色の強いものなど)につ いても厳しく審査を行っている。なお、OMB では、約 50 名のスタッフが連邦 信用計画のチェックに従事している。 ・議会サイドからのモニタリング 政府によるサブシディ・コストの算出方法や OMB による各省庁への統制の あり方については、会計検査院(GAO)や議会予算局(CBO)といった議会関 連機関からも常にモニタリングされており、個別のプログラムのコスト計算 方法の適否等について具体的な指摘がしばしばなされる。 ・行政実績成果法に基づく効果分析 1993 年に成立した行政実績成果法に基づき各省庁・機関の業績を評価する 仕組みが導入された。連邦信用計画の効果測定方法は未だ開発途上にある。 現状では、制度導入段階での必要性の精査、対象絞り込み等が重視されてい る。 22