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エビジャコとマコガレイ稚魚に対する小型ソリネットの採集効率

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エビジャコとマコガレイ稚魚に対する小型ソリネットの採集効率
Title
エビジャコとマコガレイ稚魚に対する小型ソリネットの
採集効率
Author(s)
吉田, 直人; 高津, 哲也; 中屋, 光裕; 城, 幹昌; 木村, 修; 清水,
晋
Citation
Issue Date
日本水産学会誌, 71(2): 172-177
2005
DOI
Doc URL
http://hdl.handle.net/2115/14606
Right
©2005 公益社団法人日本水産学会 The Japanese Society
of Fisheries Science
Type
article (author version)
Additional
Information
File
Information
日本水産2005-71-2.pdf
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
エビジャコとマコガレイ稚魚に対する小型ソリネットの採集効率
小型ソリネットの採集効率
吉 田 直 人 , 1 髙 津 哲 也 , 1* 中 屋 光 裕 , 1 城
1
幹昌,1木村
修,2 清水
晋1
北海道大学大学院水産科学研究科, 2北海道大学水産学部練習船うし
お丸
Catch efficiencies of the Hirota’s sledge net for crangonid shrimp and
juvenile marbled sole
N AOTO
YOSHIDA, 1
T ETSUYA
TAKATSU, 1 *
M ITSUHIRO
NAKAYA, 1
M IKIMASA JOH, 1 O SAMU KIMURA, 2 AND S USUMU SHIMIZU 1
1
Graduate School of Fisheries Sciences, Hokkaido University, Hakodate,
Hokkaido 041-8611, Japan , 2 T/S Ushio-maru of Faculty of Fisheries,
Hokkaido University, Hakodate, Hokkaido 041-8611, Japan
*
Tel: 81-138-40-8822. Fax: 81-138-40-8822. Email: [email protected]
1
エビジャコとマコガレイ稚魚に対する小型ソリネットの採集効率
吉 田 直 人 ,髙 津 哲 也 ,中 屋 光 裕 ,城
(北 大 水 う し お 丸 ), 清 水
幹 昌 (北 大 院 水 ),木 村
修
晋 (北 大 院 水 )
コ ド ラ ー ト 調 査 の 一 種 で あ る ド ロ ッ プ ト ラ ッ プ (底 面 積 0.5 m 2 )採 集
の 採 集 効 率 を 100 %と 仮 定 し た 場 合 , 広 田 式 ソ リ ネ ッ ト (網 口 幅 0.6 m)
に よ る エ ビ ジ ャ コ (小 型 の エ ビ の 一 種 )の 採 集 効 率 は 36-68 %と 推 定 さ
れ,小型エビジャコほど向上した。一方,マコガレイ稚魚の採集効率
は エ ビ ジ ャ コ に 比 べ て 低 く て 変 動 が 大 き く , 8-38 %と 推 定 さ れ , そ の
原因として大型稚魚の逃避能力が高いことが考えられた。
キーワード:採集効率,エビジャコ,マコガレイ,稚魚,広田式ソ
リネット,ドロップトラップ,距離計
2
A crangonid shrimp Crangon uritai is one of the predators for marbled
sole Pseudopleuronectes yokohamae juveniles in the coastal area of
Hakodate Bay, Japan.
The catch efficiencies of the Hirota’s sledge net
(mouth size: 60 cm width and 40 cm height) with a distance wheel for
C. uritai and P. yokohamae juveniles were obtained to estimate the accurate
population densities of them.
Let the catch efficiency of the drop trap (a
kind of box type quadrat and 0.5 m 2 covered) be 100 %, then the catch
efficiency of the sledge net was 36-68 % for the shrimp and became high
with the shift to the small body size cohort so that large female individuals
disappeared.
In contrast, the catch efficiency for P. yokohamae juveniles
was lower than that for the shrimp and fluctuated (8-38 %), which would be
caused by high escape ability of large juveniles.
3
魚類や有用無脊椎動物の分布密度を正確に推定することは,資源
管理上極めて重要である。底生小型魚類や表在性ベントスの分布密度
や現存量の把握にはソリネットやビームトロールなどの小型底曳網類
が 用 い ら れ る こ と が 多 く ,1 - 2 ) こ れ ら の 底 曳 網 類 の 大 き さ や 形 状 な ど は
様々であり,それぞれの採集特性を明らかにしておく必要がある。日
向 野 ら 3) は 正 確 な 曳 網 距 離 を 推 定 す る た め に , 数 取 り 器 を 改 良 し た 距
離 計 を 開 発 し た 。 ま た , 木 元 ら 4 - 6 ) は 水 工 研 I型 や II型 (い ず れ も 網 口 幅
2.0 m)な ど の ソ リ ネ ッ ト に こ の 距 離 計 を 取 り 付 け て 曳 網 距 離 を 推 定 し ,
曳 網 速 度 毎 に ヒ ラ メ 稚 魚 の 採 集 効 率 を 求 め た 。 山 本 ・ 牧 野 7) は 西 水 研
型 ソ リ ネ ッ ト (網 口 幅 2.0 m)に 関 し て ヒ ラ メ 稚 魚 の 採 集 効 率 を 16.1 %と
推 定 し た 。 一 方 , 広 田 式 ソ リ ネ ッ ト (網 口 幅 0.6 m; 広 田 ら 8 ) )は 主 と し
てアミ類を採集することを目的として作製された小型採集器具であり,
浅海域での人力による採集や馬力の小さい小型舟艇でも採集できる利
点がある。また広田式ソリネット採集によってマコガレイ
Pseudopleuronectes yokohamaeと そ の 捕 食 者 で あ る 小 型 エ ビ 類 の 一 種 エ
ビ ジ ャ コ Crangon uritaiの 生 態 に つ い て 知 見 も 得 ら れ て い る 。 9 -11 ) し か
し,広田式ソリネットには距離計を取り付けた例はみられず,生物種
の違いによる採集効率の違いも全く未詳である。そこで本研究は広田
式ソリネットの採集効率を明らかにすることを目的として,まず日向
野 ら 3) の 距 離 計 を 取 り 付 け た 広 田 式 ソ リ ネ ッ ト に つ い て 一 定 区 間 を 繰
り返し曳網することにより,曳網距離測定の再現性と安定性を評価し
た 。 次 に コ ド ラ ー ト 採 集 の 一 種 で あ る ド ロ ッ プ ト ラ ッ プ 採 集 12-13) に よ
って得られたマコガレイ稚魚とエビジャコの分布密度を基準として,
広田式ソリネットによって得られたそれらの採集結果から採集効率を
求め,個体数密度を推定する上での問題点を考察した。
4
試料および方法
2003 年 5 月 28 日 , 6 月 12, 27 日 , 7 月 9 日 の 昼 間 に 津 軽 海 峡 沿 岸 の
木 古 内 湾 釜 谷 (Fig. 1)に お い て マ コ ガ レ イ 稚 魚 を , 函 館 湾 七 重 浜 に お い
て エ ビ ジ ャ コ を , 広 田 式 ソ リ ネ ッ ト 8 ) (網 口 幅 0.6 m, 高 さ 0.4 m, ソ リ
の 内 側 に 1 本 の お ど し チ ェ ー ン (径 6.0 mm)が 付 属 , 以 下 ソ リ ネ ッ ト と
表 記 )と ド ロ ッ プ ト ラ ッ プ (底 面 積 0.5 m 2 ,高 さ 0.7 mの 上 部 と 下 部 が 開
放 し て い る 立 方 枠 ,以 下 DTと 表 記 )を 用 い て 採 集 し た 。た だ し 本 来 の 広
田 式 ソ リ ネ ッ ト の 網 目 脚 長 (方 形 目 合 の 一 辺 の 長 さ )は 0.76 mmで あ る
が,これまでの函館湾での研究においてはマコガレイ稚魚とエビジャ
コ の 餌 生 物 も 十 分 に 採 集 で き る よ う に 0.50 mmに 変 更 さ れ て い る た め
に ,9 - 11 ) 本 研 究 で も ソ リ ネ ッ ト の 網 目 脚 長 を 0.50 mmと し た 。両 採 集 地
点 の 水 深 は 0.6 mで ,ソ リ ネ ッ ト は 人 力 で 約 0.9 m s - 1 の 速 度 で 曳 網 し た 。
この際,人為的な影響によってマコガレイ稚魚やエビジャコの分布に
影 響 を 与 え な い よ う に , 太 さ 40 mm, 長 さ 8 mの ス テ ン レ ス 管 の 両 端
を 調 査 員 が 支 持 し , そ の 管 の 中 央 に 長 さ 1 mの 曳 行 索 を 介 し て ソ リ ネ
ットを取り付け,管を空中前方に押し出すようにソリネットと平行に
歩きながら曳網した。曳網距離は距離計回転数から求めた。曳網中は
ソリネットを後方でもう 1 名の調査員が追尾し,曳網状態とネット後
端近くの外側に取り付けられた距離計の接地を水中で観察し,接地曳
網時に常に羽根車が回転すること,および非接地曳網時には全く回転
し な い こ と を 確 認 し た 。ま た ,ソ リ ネ ッ ト は 通 常 の 生 物 採 集 と は 別 に ,
一 定 区 間 (10 m, 11 m, 12 m, 25 m, 50 m, 60 m)を 繰 り 返 し 曳 網 す る こ と
により,区間距離毎に距離計回転数を調べ,曳網距離あたりの回転数
を 算 出 し た 。 DT採 集 は 前 出 の 長 さ 8 mの ス テ ン レ ス 管 の 中 央 部 を 立 方
枠に固定し,2 名の調査員が管の両端を空中に支持し,一気に海底上
5
Fig.1
ま で 落 下 さ せ ,枠 内 の 全 て の 生 物 を タ モ 網 (網 目 脚 長 0.50 mm)で 採 集 し
た 。 採 集 さ れ た 生 物 は 直 ち に 90 %エ タ ノ ー ル で 固 定 し , 実 験 室 で 抽
出・計 数 後 ,エ ビ ジ ャ コ は 全 長 (眼 窩 後 縁 部 か ら 尾 節 の 末 端 ま で の 直 線
距 離 , 以 下 TLと 表 記 )を , マ コ ガ レ イ 稚 魚 は 全 長 (吻 端 か ら 尾 鰭 の 後 端
ま で の 直 線 距 離 )を 0.1 mm単 位 で 測 定 し た 。 ま た , 19 mm TL未 満 の エ
ビ ジ ャ コ は マ コ ガ レ イ の 捕 食 者 と は な ら な い た め に , 11 ) 本 研 究 で は 計
数しなかった。
ソ リ ネ ッ ト の 採 集 効 率 を 次 の よ う に し て 求 め た 。ソ リ ネ ッ ト と DTの
採 集 尾 数 を そ れ ぞ れ C s , C d , 採 集 面 積 を S s , S d , 採 集 効 率 を αs , αd ,
生 息 密 度 を ρ と す る と ,面 積 あ た り 採 集 尾 数 N s ,N d は 以 下 の (1, 2)式 で
表される。
Ns =
Cs
= αs ⋅ ρ
Ss
(1)
Nd =
Cd
= αd ⋅ ρ
Sd
(2)
こ こ で , DT の 採 集 効 率 を α d = 1 と 仮 定 す る と ,
Nd = ρ
(3)
が 得 ら れ ,(1)式 に 代 入 し て 変 形 す る と ,ソ リ ネ ッ ト の 採 集 効 率 α s は (4)
式で表される。
αs =
Ns
Nd
(4)
本 研 究 で DT の 採 集 効 率 を α d = 1 と し て ,(4)式 に よ り ソ リ ネ ッ ト の 採 集
効 率 を 推 定 し た 。 な お , 20 回 の DT 採 集 に よ っ て 合 計 2 個 体 し か マ コ
ガ レ イ 稚 魚 が 採 集 さ れ な か っ た 5 月 28 日 (後 述 )に つ い て は ,採 集 効 率
を ブ ー ト ス ト ラ ッ プ 法 (2000 回 反 復 )に よ っ て も 推 定 し た 。
6
結果
距離計の較正
距離計回転数と曳網距離の回帰直線について,調査
日 間 で 傾 き に は 有 意 差 は な か っ た (共 分 散 分 析 ; P=0.42)。 従 っ て , 全
て の 調 査 日 の デ ー タ を と り ま と め , 距 離 計 回 転 数 Rと 曳 網 距 離 D(m)の
回 帰 式 を 求 め た と こ ろ , D=3.8・10 - 2 ・R(m)(P<0.001, r 2 =0.98)と な り ,距
離 計 1 回 転 は 3.8 cmに 相 当 し た (Fig. 2)。
Fig.2
デ ー タ が 比 較 的 多 い 距 離 10 m,25 m,50 m に つ い て 回 転 数 の 変 動 係
数 (CV%)を 求 め る と , そ れ ぞ れ 13 %, 7.6 %, 7.9 %と な り , 10 m 曳 網
時 に 大 き く , 25 m と 50 m に は 小 さ い 傾 向 を 示 し た 。
エビジャコの採集効率
各 採 集 日 に 20-33 回 の DT採 集 を 行 っ た 結 果 ,
そ れ ぞ れ 合 計 20-39 個 体 の エ ビ ジ ャ コ が 採 集 さ れ , 面 積 あ た り の 採 集
尾 数 は 1.2-3.9 個 体 m - 2 の 範 囲 で あ っ た (Table 1)。 一 方 , ソ リ ネ ッ ト で
Table 1
は 各 採 集 日 に つ き 15 回 の 採 集 を 行 っ た 結 果 ,そ れ ぞ れ 合 計 102-514 個
体 採 集 さ れ , 面 積 あ た り の 採 集 尾 数 は 0.429-1.97 個 体 m - 2 の 範 囲 で あ
った。
DTと ソ リ ネ ッ ト で 採 集 さ れ た エ ビ ジ ャ コ の 全 長 は 採 集 器 具 と 採 集 日
の 相 互 作 用 は み ら れ ず (二 元 配 置 の 分 散 分 析 ; P=0.13),採 集 器 具 の 違 い
に よ っ て 有 意 に は 異 な ら な か っ た が (P=0.58),採 集 日 間 で は 有 意 に 異 な
り (P=0.03), DT採 集 と ソ リ ネ ッ ト 採 集 を こ み に し た 平 均 全 長 は 5 月 28
日 と 6 月 12 日 に 比 べ て 6 月 27 日 と 7 月 9 日 で は 有 意 に 小 さ か っ た
(Table 1; ペ リ の 方 法 1 4 ) に よ る 多 重 比 較 : 5 月 28 日 - 6 月 12 日 間 と 6
月 27 日 - 7 月 9 日 間 の み 5%水 準 で 有 意 差 は み ら れ な か っ た が ,他 の 4
組 の 組 み 合 わ せ で は す べ て 有 意 差 あ り )。ま た ,モ ー ド も 5 月 28 日 と 6
月 12 日 の 24.1-28.0 mm TLか ら , 6 月 27 日 の ソ リ ネ ッ ト 採 集 と 7 月 9
日 の 両 採 集 で 20.1-24.0 mm TLへ 移 動 し て い た (Fig. 3)。ソ リ ネ ッ ト の エ
7
Fig.3
ビ ジ ャ コ に 対 す る 採 集 効 率 は 5 月 28 日 で は 42 %, 6 月 12 日 は 36 %,
6 月 27 日 は 51 %,7 月 9 日 は 68 %で あ り (Table 1),こ れ ら 4 日 間 に つ
い て 変 動 係 数 (CV%)は 28 %を 示 し , エ ビ ジ ャ コ の 平 均 全 長 が 小 さ く な
るほど採集効率が向上する傾向を示した。
マコガレイ稚魚の採集効率
各 採 集 日 に 20-28 回 の DT採 集 を 行 い ,
そ れ ぞ れ 合 計 2-18 個 体 の マ コ ガ レ イ 稚 魚 が 採 集 さ れ ,面 積 あ た り の 採
集 尾 数 は 0.2-1.7 個 体 m - 2 の 範 囲 で あ っ た (Table 2)。 一 方 , ソ リ ネ ッ ト
Table 2
で は 各 採 集 日 に 3-11 回 の 採 集 を 行 い , そ れ ぞ れ 合 計 7-16 個 体 採 集 さ
れ , 面 積 あ た り の 採 集 尾 数 は 0.08-0.33 個 体 m - 2 で あ っ た 。
DTと ソ リ ネ ッ ト で 採 集 さ れ た マ コ ガ レ イ 稚 魚 の 全 長 は 採 集 器 具 と 採
集 日 の 相 互 作 用 は み ら れ ず (二 元 配 置 の 分 散 分 析 ; P=0.63),採 集 器 具 の
違 い に よ っ て 有 意 に は 異 な ら な か っ た が (P=0.27),採 集 日 間 で は 有 意 に
異 な り (P=0.005),採 集 日 が 進 む に つ れ DT採 集 と ソ リ ネ ッ ト 採 集 を こ み
に し た 平 均 全 長 は 大 き く な っ た (Fig. 4; ペ リ の 方 法 1 4 ) に よ る 多 重 比
較:5%水 準 で す べ て の 採 集 日 間 で 有 意 差 あ り )。ソ リ ネ ッ ト で の マ コ ガ
レ イ 稚 魚 の 採 集 効 率 は 6 月 12 日 に は 16 %, 6 月 27 日 に は 38 %, 7 月
9 日 に は 8 %で あ り ,ソ リ ネ ッ ト 採 集 に よ る 平 均 全 長 が 30.1 mmを 示 し
た 6 月 27 日 が そ の 前 後 の 採 集 日 に 比 べ て 高 か っ た 。 5 月 28 日 を 除 い
た 3 日 間 に つ い て 採 集 効 率 の 変 動 係 数 は 75% を 示 し ,エ ビ ジ ャ コ に 比
べ て 変 動 が 大 き か っ た 。 な お 最 小 の 平 均 全 長 を 示 し た 5 月 28 日 に は
DT採 集 で 2 個 体 し か 採 集 さ れ ず , 採 集 効 率 は 極 端 に 高 い 値 を 示 し た
(141 %; 有 効 数 字 を 考 慮 す る と 100 %以 上 )。 そ こ で ブ ー ト ス ト ラ ッ プ
法 を 用 い て 採 集 効 率 を 改 め て 推 定 し た と こ ろ ,2000 回 の 反 復 中 253 回
で DT採 集 に よ る 1 m 2 あ た り の 採 集 尾 数 が 0 個 体 ( 分 母 が 0) と な り ,
推 定 不 能 と な っ た 。こ れ ら 235 回 の 採 集 効 率 が 無 限 大 と み な し た 場 合 ,
8
Fig.4
2000 回 反 復 に よ る 採 集 効 率 の 中 央 値 は 141 %,25 パ ー セ ン タ イ ル お よ
び 75 パ ー セ ン タ イ ル 値 は そ れ ぞ れ 94 %お よ び 282 %と 推 定 さ れ た 。ま
た 全 体 の 66.3 %に あ た る 1326 回 で 採 集 効 率 が 100%を 超 え て い た 。
考察
広田式ソリネットに取り付けた距離計の回転数を曳網距離に換算す
る 較 正 値 は , 1 回 転 あ た り 3.8 cmで あ っ た 。 前 原 1 5 ) は 本 研 究 で も 用 い
た 日 向 野 ら 3 ) の 距 離 計 を 西 水 研 型 ソ リ ネ ッ ト と 水 工 研 II型 ソ リ ネ ッ ト
に 取 り 付 け て 較 正 値 を 1 回 転 あ た り 4.0 cmで あ る と 推 定 し た 。 両 者 の
値は大きく異ならないが,正確な推定を行うには,ソリネットの種類
が異なった場合や距離計の取り付け位置を変更した場合には,新たに
検 討 し 直 す 必 要 が あ る だ ろ う 。ま た ,距 離 計 回 転 数 の 変 動 係 数 は ,10 m
曳 網 時 に 比 べ て , 25 mと 50 m曳 網 時 の 方 が 小 さ か っ た 。 こ の こ と は ,
10 m曳 網 時 に は 実 際 に 曳 網 し た 距 離 が 短 い た め , 曳 網 予 定 距 離 と 実 曳
網 距 離 と の 差 が 相 対 的 に 大 き く な る た め と 考 え ら れ る 。 ま た , 10 mを
曳 網 す る よ り も 25 mを 超 え る 曳 網 を 行 う 方 が 安 定 し た 距 離 推 定 を 行 え
るものと考えられた。
エ ビ ジ ャ コ の 平 均 全 長 は 6 月 27 日 以 降 で は 小 さ く な り ,そ れ に 伴 い
採 集 効 率 も 高 く な っ た (Table 1) 。 Williams et al. 1 6 ) は , 大 西 洋 ニ シ ン
Clupea harengus harengusや フ ユ ガ レ イ Pseudopleuronectes americanusな
どの逃避速度や逃避距離を調べ,海産仔稚魚の逃避能力は仔稚魚の体
長が増すにつれて向上することを明らかとした。魚類とエビ類の違い
はあるものの,本研究のエビジャコも大型個体ほど遊泳力が高く,小
型個体はソリネットに対する逃避能力に乏しいために採集効率は高い
も の と 推 察 さ れ る 。な お ,エ ビ ジ ャ コ の 平 均 全 長 が 6 月 27 日 以 降 小 さ
9
くなった現象は,産卵後の大型雌個体の死亡と世代交代のためと考え
ら れ て い る 。 17)
藤 田 ・ 木 元 1 8 -1 9 ) は ソ リ ネ ッ ト に 対 す る 底 生 魚 類 の 逃 避 行 動 と 漁 獲 過
程を観察し,おどしチェーンの下方から逃避する魚類が存在すること
を 示 し た 。ま た 木 元 ら 6 ) は ,水 工 研 II型 ソ リ ネ ッ ト の 場 合 ,20-30 mm TL
の 小 型 ヒ ラ メ 稚 魚 は 大 型 個 体 に 比 べ て 採 集 効 率 が 低 い こ と (27 %以 下 )
を報告しており,その原因はヒラメ稚魚の逃避行動を上回る曳網速度
(0.65-0.95 m s - 1 )に よ り , ヒ ラ メ 稚 魚 が 海 底 に 取 り 残 さ れ る た め で あ る
と 推 察 し て い る 。 本 研 究 で も , マ コ ガ レ イ 稚 魚 を 木 元 ら 6) と 同 様 か や
や 速 い 0.9 m s -1 の 速 度 で 採 集 し ,ソ リ ネ ッ ト 採 集 で 平 均 30.1 mm TLを
示 し た 6 月 27 日 に 採 集 効 率 は 38 %と 高 か っ た が , 21.3 mm TLを 示 し
た 6 月 12 日 に は そ れ よ り 低 い 16 %を 示 し た 。 こ の こ と は , マ コ ガ レ
イ 稚 魚 に つ い て も 30 mm TL以 下 で は 海 底 に 取 り 残 さ れ る 現 象 が あ っ
た た め か も し れ な い 。 ま た 平 均 37.8 mm TLの 稚 魚 が 採 集 さ れ た 7 月 9
日 の 採 集 効 率 が 8 %と 低 く , 他 の 事 例 と 同 様 に 成 長 に 伴 う 採 集 効 率 の
低下を意味しているものと考えられる。
今 回 得 ら れ た マ コ ガ レ イ 稚 魚 の 採 集 効 率 の う ち 5 月 28 日 に 得 ら れ た
141 %(有 効 数 字 を 考 慮 す る と 100 %以 上 )と い う 結 果 は , ブ ー ト ス ト ラ
ッ プ 法 に よ る 中 央 値 で も 141 %と 推 定 さ れ ,25 パ ー セ ン タ イ ル 値 と 75
パ ー セ ン タ イ ル 値 の 範 囲 は 94-282 %と 広 く , 66.3 %の 確 率 で 採 集 効 率
が 100 %以 上 と 推 定 さ れ た 。 Senta et al. 2 0 ) は R-H II push netを 用 い て カ
レイ目着底稚魚の分布様式を調べ,採集尾数が少ない時の方が変動が
大きくなりやすいことを示した。このことは,生息密度が低い場合に
は 採 集 効 率 を 正 確 に 求 め る こ と は 難 し い こ と を 意 味 し て お り , 5 月 28
日 に 得 ら れ た 100 %以 上 と い う 結 果 は , 十 分 信 頼 で き る 採 集 効 率 で は
10
ないものと考えられる。
ところで,エビジャコはマコガレイ稚魚に比べて大型の個体でも採
集 効 率 が 比 較 的 高 い (Tables 1-2)。 こ の 差 が 生 じ る 原 因 と し て は , エ ビ
ジャコの活動性は昼間に低く,多くの個体が砂中に潜在していること
や , 17) ソ リ ネ ッ ト の 接 近 に 対 す る 感 知 能 力 が エ ビ ジ ャ コ の 方 が 劣 っ て
いることが考えられる。
以上のように広田式ソリネットにおいても採集効率を変化させる要
因として,エビジャコの体サイズが重要であることが示唆された。し
か し ,エ ビ ジ ャ コ で は ,本 研 究 で も っ と も 採 集 効 率 が 低 か っ た 6 月 12
日 の 平 均 30.7 mm TLで も 比 較 的 高 い 36 %の 採 集 効 率 が 得 ら れ た こ と
から,大型個体での採集効率の低下は認められるものの,調査期間を
通じてほぼ全体長範囲をカバーする採集が行えるものと考えられる。
今 後 は ,広 田 式 ソ リ ネ ッ ト の 採 集 効 率 の 変 動 要 因 を 明 ら か に す る た め ,
小型水中カメラを取り付けるなどして曳網状態と逃避,入網状態を確
認する必要がある。さらに,エビジャコは夜間に底質から露出して行
動 す る 個 体 が 多 い た め , 17) 昼 夜 の 採 集 効 率 の 違 い を 明 ら か に す る 必 要
がある。また,マコガレイ稚魚に関しては,ソリネットで平均
30.1 mm TLを 示 し た 6 月 27 日 の 採 集 効 率 の み 比 較 的 高 い 38 %を 示 し ,
マコガレイ稚魚がエビジャコに比べて短時間のうちに成長することか
ら (Figs. 3-4),広 田 式 ソ リ ネ ッ ト で 十 分 採 集 で き る 期 間 は 短 い も の と 考
えられる。広田式ソリネットのマコガレイ稚魚に対する採集効率を正
確に推定するためには,さらに調査を積み重ねる必要があろう。
謝辞
距離計を複製するにあたり原型を貸与して戴いた水産工学研究所藤
11
田薫氏に対し,厚く御礼申し上げます。また生物測定,データ解析お
よび標本の採集にあたり多大な御協力を戴いた関口督人氏をはじめと
す る 本 研 究 科 2003 年 度 資 源 生 産 生 態 学 講 座 大 学 院 生 な ら び に 学 生 諸
氏に対し,心から感謝の意を表します。また,匿名の二名の査読者に
は本論文を作成するに際して有益な助言を戴き,御礼申し上げます。
本 研 究 は 日 本 学 術 振 興 会 の 科 研 費 (15658055)の 助 成 を 得 た 。
文献
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晃,横山禎人,中畑敬章.潜水式囲い網による底生性小型魚類と
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14
Table 1. Collection records and catch-efficiency of the Hirota’s sledge net
for the shrimp Crangon uritai at the sampling site off Nanaehama in
Hakodate Bay in 2003
Sampling day
May 28
June 12
June 27
July 9
Drop trap
Number of trials
27
33
20
23
Sampling area (m 2 )
13.5
16.5
10
11.5
Catch number (inds.)
22
20
39
30
Catch per unit area (inds. m -2 )
Mean total length±S.D. (mm)
1.6
31.7±6.16
1.2
3.9
32.2±7.03
2.6
26.4±5.44 24.9±7.00
Sledge net
Number of trials
15
15
15
15
Sampling area (m 2 )
290
237.8
260.3
260.3
Catch number (inds.)
197
102
514
457
Catch per unit area (inds. m -2 )
0.679
0.429
Mean total length±S.D. (mm) 29.9±6.10 30.7±7.39
Catch efficiency (%)
42
36
15
1.97
26.1±6.63
51
1.76
26.6±6.96
68
Table 2. Collection records and catch-efficiency of the Hirota’s sledge net
for marbled sole Pseudopleuronectes yokohamae juveniles at the
sampling site off Kamaya in Kikonai Bay in 2003
Sampling day
May 28
June 12
June 27
July 9
Drop trap
Number of trials
20
21
28
21
Sampling area (m 2 )
10
10.5
14
10.5
18
12
10
Catch number (inds.)
2
Catch per unit area (inds. m -2 )
0.2
1.7
Mean total length±S.D. (mm)
16.3±1.50
25.8±3.15
0.86
0.95
33.4±3.91 36.3±6.46
Sledge net
Number of trials
3
7
5
Sampling area (m 2 )
39
58.1
42.6
Catch number (inds.)
11
16
14
Catch per unit area (inds. m -2 )
0.28
Mean total length±S.D. (mm) 15.3±1.77
Catch efficiency (%)
≥100
0.28
21.3±2.87
16
16
0.33
11
92.3
7
0.08
30.1±3.09 37.8±3.57
38
8
20’
50’
。
140 30’E
40’
Nanaehama
Hokkaido Is.
Kamaya
Japan Sea
。
41 40’N
10m
20m
Hakodate
Bay
40m
Kikonai Bay
Pacific Ocean
Tsugaru Strait
Fig. 1. Location of two coastal sampling sites (open circles) off Kamaya in Kikonai Bay for
marbled sole Pseudopleuronectes yokohamae juveniles and off Nanaehama in Hakodate Bay
for a shrimp Crangon uritai.
吉田ほかFig. 1
Towing distance (m)
60
40
20
0
0
1000
2000
Revolution of the distance-meter
Fig. 2. Relationship between towing distance and revolution of a distance wheel at the sampling
site off Nanaehama in Hakodate Bay. Regression equation was D=3.8・10-2・R(m) (P<0.001,
r2=0.98), where D; towing distance and R; revolution.
吉田ほかFig. 2
50
40
May 28
30
20
10
0
50
40
June 12
Frequency (%)
30
20
10
0
50
40
June 27
30
20
10
0
50
40
July 9
30
20
10
0
19.024.132.140.120.0
28.0
36.0
44.0
20.128.136.1≥ 44.0
24.0
32.0
40.0
Total length class (mm)
Fig. 3. Total-length distributions of C. uritai
collected with the drop trap (solid
circle) and the Hirota’s sledge net
(open triangle) at the sampling site off
Nanaehama in Hakodate Bay.
吉田ほかFig. 3
10
May 28
8
6
4
2
0
10
Catch number (inds.)
8
June 12
6
4
2
0
10
8
June 27
6
4
2
0
10
8
July 9
6
4
2
0
8.116.124.132.140.112.0
20.0
28.0
36.0
44.0
12.120.128.136.116.0
24.0
32.0
40.0
Total length class (mm)
Fig. 4. Total-length distributions of P. yokohamae
collected with the drop trap (solid circle) and
the Hirota’s sledge net (open triangle) at the
sampling site off Kamaya in Kikonai Bay.
吉田ほかFig. 4
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