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3号( PDF 1.8MB)
2009年 3 月
N―55 N―85
日本産科婦人科学会
研修コーナー
61巻
3
号
2009
日本産科婦人科学会雑誌
研修コーナーについてご意見募集
現在本会機関誌に掲載中の研修コーナーは第61巻12号掲載分までを再度見直しの
うえ,学会のコンセンサスを得たものとして「産婦人科研修の必修知識2011」とし
て,発刊の予定です.
会員の皆様には研修コーナーをお読みいただいて,お気づきの点がございましたら,
忌憚のないご意見を学会事務局・研修コーナー編集宛お寄せ下さい.
「産婦人科研修の必修知識2011」をより一層,研修医ならびに会員の皆様のお役
にたてる書籍と致したく,会員皆様のご協力をお願い申し上げます.
日本産科婦人科学会教育委員会
研修コーナーのブラッシュアップと産婦人科研修の必修知識編纂委員会
送付先:〒113―0033 東京都文京区本郷2―3―9 ツインビュー御茶の水 3 階
(社)
日本産科婦人科学会・研修コーナー編集係
FAX 03―5842―5470 E-mail: [email protected]
JAPAN SOCIETY OF OBSTETRICS AND GYNECOLOGY
N―56
日産婦誌61巻3号
D.産科疾患の診断・治療・管理
10.異常分娩の管理と処置
7)臍帯巻絡・下垂・脱出 …………………………………(57)
8)前期破水 …………………………………………………(59)
秋田大学講師 小川 正樹
秋田大学教授 田中 俊誠
9)癒着胎盤 …………………………………………………(62)
埼玉医科大学教授 板倉 敦夫
E.婦人科疾患の診断・治療・管理
4.不妊症
1)女性不妊症
(2)卵管性不妊症 …………………………………………(67)
(3)子宮性不妊 ……………………………………………(69)
(4)子宮内膜症による不妊 ………………………………(71)
近畿大学講師 辻
勲
近畿大学助教 金村 和美
近畿大学助教 石津 綾子
近畿大学助教 藤波菜穂子
近畿大学教授 星合
昊
7.婦人科感染症
2)子宮の感染症 ……………………………………………(75)
3)付属器の感染症 …………………………………………(75)
4)骨盤内の感染症 …………………………………………(76)
川崎医科大学教授 下屋浩一郎
8.腫瘍と類腫瘍
1)外陰の腫瘍・類腫瘍 ……………………………………(77)
2)腟の腫瘍・類腫瘍 ………………………………………(83)
東北大学准教授 新倉
仁
東北大学教授 八重樫伸生
4月号(予告)
E.婦人科疾患の診断・治療・管理
8.腫瘍と類腫瘍
3)子宮の腫瘍・類腫瘍
(4)子宮頸癌(組織分類・期別分類)………櫻木
(5)子宮頸癌(病因・予防)…………………安田
(6)子宮頸癌(手術療法・放射線治療)……岩坂
(7)子宮体癌(組織分類・期別分類)………井上
(8)子宮体癌(治療)…………………………三上
範明
允
剛
正樹
幹男
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2009年 3 月
N―57
D.産科疾患の診断・治療・管理
Diagnosis, Therapy and Management of Obstetrics Disease
10.異常分娩の管理と処置
Management and Treatment of Abnormal Labor and Delivery
7)臍帯巻絡・下垂・脱出
1)臍帯巻絡 loop or coiling of the(umbilical)
cord
(1)定義
分娩時に臍帯が胎児の身体部分(頸部・四肢・"幹)
に巻絡した状態をいう.
(2)原因
過長臍帯や胎児の活発な運動が原因となる.
(3)頻度
全分娩の20∼25%に認められ,臨床上よく遭遇する疾患である.そのなかでも頸部巻
絡が,全体の95%を占める.四肢や体幹における発症率は低い.多くは,身体部分を一
周する1回巻絡であるが,2回以上の場合も認められる.
(4)症状
母体には特に症状は認められない.しかし,分娩経過中の第2期に巻絡した臍帯部分の
圧迫により児心音の変化をきたしたり,また臍帯短縮により分娩第2期が遷延したりする
場合には本症が疑われる.
(5)診断
出生前診断法として超音波診断法が有用である.その超音波学的な特徴として,B-mode
断層法では,胎児頸部に一致した,エコーフリースペースとして描出される.また Color
Doppler 法および Power Doppler 法などの超音波ドプラ法では,胎児頸部付近に,臍帯
の血流が一周する所見として描出される.Color Doppler 法では,巻絡する回数の同定も
可能である.
(6)予後
分娩時には,臍帯の高度の圧迫により,胎児への血流障害をきたすことにより,nonreassuring pattern を認めることもあるが,多くの例では,無症状に経過する.巻絡の
回数と新生児仮死との発生率には,正の相関が認められる.しかし,新生児死亡に至る症
例の多くは,巻絡の回数が3∼4回以上である.
(7)管理
①分娩開始以前
出生前に診断された場合には,保存的な管理による.しかし,胎児心拍数モニタリング
上の異常所見が認められる場合には, well-being を評価しながらの管理が必要とされる.
分 娩 開 始 後 に 診 断 さ れ た 場 合 に は,胎 児 心 拍 数 モ ニ タ リ ン グ を 十 分 に 行 い,nonreassuring pattern が認められるような場合には, 必要に応じて急速遂娩術を選択する.
②児頭娩出時
児頭が娩出された時点で,胎児の頸部巻絡が診断された場合には,無理に巻絡を解除し
たり,巻絡した臍帯を切断したりせずに,胎児を娩出させてから巻絡を解除する."幹の
娩出以前に臍帯の巻絡を解除しても,臍帯が圧迫されていることには変わりがなく,むし
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N―58
日産婦誌61巻 3 号
ろ早急な娩出を図ることが好ましい.
2)臍帯下垂 fore-lying of the
(umbilical)
cord
(1)定義
破水前に先進胎児部分の側方または下方に卵膜を隔てて臍帯を透見ないしは触知するも
のをいう.
(2)原因
胎児先進部と子宮下部との間の間隙が広い場合に生じる.したがって横位・骨盤位・顔
位・狭骨盤・広骨盤・多胎妊娠(双胎)
・小頭症・未熟児・羊水過多・前期破水・前置胎
盤・低置胎盤・臍帯下部付着および臍帯過長などの場合に認められることが多い.またメ
トロイリンテルの脱出時にも認められやすい1).
(3)頻度
全分娩の0.5∼1%に認められる.横位によって発生するものが最も多く,骨盤位,頭
位の順である.
(4)症状
母体は全く無症状である.
(5)診断
臍帯下垂を,子宮口開大以前に内診で診断することには,困難を伴う.しかし経腟超音
波断層法により診断されることが多い.超音波断層法上の特徴として,胎児先進部と内子
宮口との間に臍帯が描出される.さらに超音波ドプラ法により確定診断は可能である.ま
た胎児先進部と軟産道との間で圧迫されると,胎児心拍数モニタリング上,変動一過性徐
脈を認めることもある.子宮口開大後には,内診でも診断は可能である.
(6)予後
分娩開始以前では,児の予後には大きな影響は与えないが,分娩開始後には,胎児心拍
数陣痛モニタリング上の non-reassuring pattern を示すことがあり,児の予後は不良で
ある.自然の整復が不可能であれば,帝王切開術により児を救命する.
(7)管理
①分娩開始前
厳重な管理のもと,自然整復を期待する.胎児が頭位の場合には,陣痛発来に伴い自然
に整復することがある.しかし,近年は少子化の時代であり,貴重児であることが多いた
め,どのような臍帯下垂でも,破水時の臍帯脱出の危険性と経腟分娩が無事なされる可能
性の両者を十分に説明したうえで,患者の判断を参考にする.
②分娩開始後
連続の胎児心拍数モニタリングを行いながら,臍帯が下垂してくる方向を上にした側臥
位や,Trendelenburg の骨盤高位または胸膝位 knee-chest position により,自然整復
を図る1).不可能であれば,帝王切開術を行う.陣痛の有無にかかわらず,non-reassuring
pattern が認められれば,帝王切開術を行う.
3)臍帯脱出 prolapse of the
(umbilical)
cord
(1)定義
破水後に胎児先進部分よりも先に臍帯が脱出し,子宮口を通過して腟または陰裂間に懸
垂してきた状態をいう.
(2)原因
胎児先進部と子宮下部との間の間隙が広い場合に生じる.したがって,横位・顔位・狭
骨盤・広骨盤・多胎妊娠(双胎)
・小頭症・未熟児・羊水過多・前期破水・前置胎盤・低置
胎盤・臍帯下部付着および臍帯過長の場合にみられることが多い1).メトロイリンテルの
脱出時にも認められやすい.また,児頭が骨盤内に嵌入する以前の人工破膜でも起こるこ
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2009年 3 月
N―59
とがある.多くの場合,臍帯下垂がそれ以前に認められる.
(3)頻度
全分娩の0.5∼0.8%に起こり,横位が最も多く,骨盤位,頭位の順である.
(4)症状
全く無症状である.胎児心拍数陣痛モニタリング上,陣痛とは無関係に,突然の変動一
過性徐脈,または遷延性徐脈をきたすことがある.
(5)診断(臍帯脱出前の予知診断)
臍帯脱出の前に,臍帯下垂を示していることが多いので,経腟超音波断層法により臍帯
の位置を確認しておくことにより発症の予知がある程度可能である.臍帯脱出後の診断:
腟鏡診により,頸管内や腟内に白色の構造物として臍帯が認められる.さらに,内診によ
り臍帯を,拍動のある索状物として触知する.したがって,自然破水した場合や,人工破
膜した場合には,すぐに内診を行い,臍帯脱出を否定することが必要である.また,分娩
経過中に児心音に異常が認められた場合にも,すぐに内診をすることが必要である.
(6)予後
一般的に臍帯脱出により,突然の児心音の悪化をきたすことから,緊急帝王切開術が間
に合わない限り,児の予後は不良である1).
(7)治療
腟鏡診と内診により,臍帯脱出が診断された場合には,挿入した内診指をそのままにし,
その内診指により胎児先進部を挙上させたままにする.陣痛が認められない場合には,骨
盤高位の体位をとらせ,用手的または用指的臍帯還納術を行うこともあるが,多くの場合
には,児心音の悪化をきたす.児救命の目的では,内診指により,胎児先進部を持ち上げ
たまま,緊急帝王切開術に移行すべきである1).子宮内胎児死亡が確認された場合は,経
腟分娩を行う.
8)前期破水 premature rupture of the membranes
(PROM)
(1)定義
分娩開始前に卵膜の破綻をきたしたものを前期破水と呼ぶ.
(2)原因
①卵膜の異常
②急激な子宮内圧の上昇が原因となる.
(3)発症機序
①卵膜の異常
絨毛膜羊膜炎:腟炎などの下部生殖器からの上行性感染などにより絨毛膜羊膜炎を発症
すると,遊走してくる白血球に由来する蛋白分解酵素により,卵膜のコラーゲンの脆弱化
を引き起こし,前期破水に至る.
②急激な子宮内圧の上昇
羊水過多・多胎妊娠:子宮内圧の慢性的な上昇に加えて,咳などに伴う腹圧の亢進を認
めた場合などに前期破水することがある.
子宮奇形:子宮奇形は,子宮の増大を阻害することにより,子宮内圧の上昇をきたし前
期破水に至ることがある.
③その他
羊水穿刺:羊水穿刺により卵膜の損傷をきたすと前期破水を起こすことがある.
(4)分類
全妊娠期間を通じて発症するが,管理上の問題点から,妊娠37週未満に発症した場合
を,特に preterm PROM と呼び,PROM とは異なった管理を行う.本稿では PROM に
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日産婦誌61巻 3 号
ついて解説し,preterm PROM に関しては,別項に譲る.
(5)頻度
全妊娠の5∼10%に生じる.そのうち少なくとも約60%は妊娠37週以降に生じるとさ
れている2).
(6)症状
羊水流出感として自覚するが,流出が少量の場合には,水様性帯下として自覚される場
合もある.羊水の流出が続くと,子宮壁からの圧迫に伴い,胎児心拍数陣痛モニタリング
上の変動一過性徐脈を示すことがある.これは non-reassuring pattern にしばしば移行
する.前期破水後,長期にわたり分娩に至らない場合は,腟からの上行性感染をきたし,
膿性帯下の増量や発熱を認めることがある.
(7)診断
①腟鏡診
外陰部を十分にイソジンで消毒し腟鏡診を行い,外子宮口より大量の水様性帯下が,持
続的に流出することを確認する.
②水様性帯下の性状
帯下の中に羊歯状結晶や毳毛を確認すること,帯下の pH が7.1∼7.3の弱アルカリ性で
あることを確認すること(BTB 試験紙法,エムニケーターⓇ)
.
③羊水鏡
子宮口が開大していれば,胎児先進部が直接露見していることを確認できるが,子宮口
が未開大の場合には,羊水鏡を用いて,胎児先進部が卵膜に覆われていないことを確認す
る.先進部に卵膜が認められるにもかかわらず,羊水流出が持続する場合には,高位破水
と診断される.
④生化学的検査
α-フェトプロテイン,癌胎児性フィブロネクチンなど.
(8)合併症
①母体側
a.子宮内感染
b.常位胎盤早期剝離
c.臍帯脱出
d.non-reassuring pattern の出現
②胎児側
a.胎児感染
b.胎便吸引症候群
(9)管理
妊娠37週以降の PROM では,約80%の症例においては,24時間以内に陣痛が発来し,
分娩に至ることから,分娩待機とする方法が一般的である.しかし,胎児感染のリスクを
考慮して,積極的に分娩誘発を行う方法もある3).
分娩待機の際の注意点としては,
①胎児 well-being の評価
頻回な胎児心拍数陣痛モニタリング
biophysical profile score による評価
②子宮内感染の管理
子宮の圧痛および母体頻脈・発熱の有無
流出羊水または帯下の細菌培養
母体 WBC,CRP 値の測定
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2009年 3 月
N―61
予防的抗生物質の投与(賛否両論あり)
③羊水量の評価
超音波断層法による amniotic fluid index の経時的測定
が挙げられる.しかし,以上の管理によっても分娩に至らず,かつ胎児 well-being の悪
化や子宮内感染が顕性化した場合には,積極的な分娩誘発・促進または急速遂娩が必要と
なる.
(10)治療
羊水量の減少によって,変動一過性徐脈が頻回に引き起こされる場合には,経腟的に子
宮内カテーテルを留置し,持続的に生理食塩水を補充する方法も試みられている.
(11)予後
子宮内感染の程度により異なるが,一般的に良好である.しかし未破水の場合に比較し
て,non-reassuring pattern が5倍の頻度で出現する3).
《参考文献》
1.坂元正一,水野正彦,武谷雄二,監修.プリンシプル産科婦人科学2 東京:メジカ
ルビュー社 1998
2.Parry S, Strauss JF 3rd. Premature rupture of the fetal membranes. N Engl J
Med 1998 ; 338 : 663―670
3.松田義雄,柚原尚樹.前期破水.武谷雄二,編.
,新女性医学体系23 東京:中山書
店 1998
〈小川 正樹*,田中 俊誠*〉
*
Masaki OGAWA, *Toshinobu TANAKA
*
Department of Obstetrics and Gynecology, Akita University Faculty of Medicine, Akita
Key words : Umbilical cord ・ Coiling ・ Fore-lying ・ Prolapse ・ Premature rupture of the
membranes
索引語:臍帯巻絡,臍帯下垂,臍帯脱出,前期破水
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N―62
日産婦誌61巻 3 号
D.産科疾患の診断・治療・管理
Diagnosis, Therapy and Management of Obstetrics Disease
10.異常分娩の管理と処置
Management and Treatment of Abnormal Labor and Delivery
9)癒着胎盤 Placenta accreta
【癒着胎盤の疫学と診断】
癒着胎盤は,胎盤付着面の床脱落膜の形成の欠如あるいは子宮壁の瘢痕組織による脱落
膜の発育不全により,絨毛浸潤の抑制ができないために発生すると考えられており,その
結果胎盤が子宮筋に強固に付着して剝離できない状態をいう.前置胎盤に合併する例が多
いといわれ,産科出血から出血性ショックや DIC を引き起こし,妊産婦死亡の原因とも
なる疾患である.癒着胎盤には,臨床的分類と病理学的分類があり(表 D―10―9)
―1,D―
10―9)―2)
,胎盤に欠損なく剝離が可能な付着胎盤は癒着胎盤には含まれないが,胎盤娩
出遅延のために用手剝離を行う点では共通であるため本稿に含めて記載する.この侵入度
別の病理学的分類は,医師国家試験の医学各論小項目にまで記載されるようになり,医師
をめざすすべての医学生が知っておくべき事項となっている.Miller et al.
は,前置癒着
胎盤発生率は1"
2,500であり,常位の癒着胎盤の発生率1"
22,000に比べ高く,前置胎盤
は癒着胎盤の発生リスクを2,000倍高めると報告している.しかし子宮温存が可能であっ
た例では,癒着胎盤の病理学的診断ができない.常位癒着では前置癒着より出血量が少な
いことが多く,子宮温存の可能性も高いことから,実際には病理学的癒着胎盤の発生率を
比較することは困難である.
表 D―10―9)
―3にこれまで報告された疫学調査の結果を示す.既往帝王切開の前置胎盤
が癒着胎盤の危険因子であることは,すべての疫学調査で共通している.
本邦の報告でも2),
嵌入および穿通胎盤は約1"
2,500であり,諸外国の報告と大きな相違はない.帝王切開率
の増加がこの病態の発生に拍車をかけており,この50年で10倍増加したともいわれ,今
後もこの傾向は続くと考える.Sumigama et
al.
の報告では,帝王切開と同時に行う子宮
(表 D109)
1) 癒着胎盤の臨床的分類
摘 出(cesarean hysterectomy)の 術 中 出
血量は,嵌入胎盤では平均3,630ml ,穿 通
第 1群(付着胎盤)
a.用手的に容易に剥離できる
胎盤では12,140ml とすべての産科手術の中
b.癒着部位は粗、小さなポリープ樹突起
で最も高度な手術である.また前置癒着胎盤
を認める
の管理上の問題は,術中に剝離しても子宮を
第 2群(付着胎盤)
温存できる例がある一方で,胎盤剝離を行わ
a.用手的に剥離できるが困難
ずに cesarean hysterectomy を行っても,
b.癒着部位に繊維素様の索状物を認める
母体生命を脅かすような出血を伴う可能性が
c.剥離の際かなりの出血を認める
あるなど,発生率は低いものの症例ごとの臨
第 3群(癒着胎盤)
a.用手的に剥離は不能
床像が多彩であるため,統一した管理法を出
b.癒着部位を用手的に剥離すると必ず胎
すに至らないことである.
盤片が残る
しかし,すべての前置胎盤は癒着胎盤の可
c.出血を多量に認める
能性があり,1回でも帝王切開既往がある前
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2009年 3 月
N―63
(表 D109)2) 癒着胎盤の病理組織学的分類
・子宮摘出後の摘出子宮筋層の組織学的検索による
a.楔入(せつにゅう)胎盤(pl
acent
aaccet
a)
絨毛が子宮筋層表面と癒着するが筋層内には侵入していないもの
b.嵌入(かんにゅう)胎盤(pl
acent
ai
ncr
et
a)
絨毛が子宮筋層内に深く侵入しているもの
c.穿通(せんつう)胎盤(pl
acent
aper
cr
et
a)
絨毛が子宮筋層の貫通して子宮漿膜面達するもの
・癒着の占める割合による分類
a.全癒着胎盤(t
ot
alpl
acent
aaccr
et
a)
胎盤の全面が子宮筋層に癒着しているもの
b.部分癒着胎盤(par
t
i
alpl
acent
aaccr
et
a)
胎盤の一部(複数の胎盤葉)が子宮筋層に癒着しているもの
c.焦点癒着胎盤(f
ocalpl
acent
aaccr
et
a)
一個の胎盤葉が子宮筋層に癒着しているもの
(表 D109)3) 癒着胎盤の発生頻度
Cl
ar
ketal
.
(1985)
著者(報告年)
発生率(%)
(/
総分娩数)
発生率(%)
(/
前置胎盤数)
既往帝王切開数別
発生率(%)
(/前置胎盤数)
0
1
2
3
4
Mi
l
l
eretal
.
(1997)
Si
l
veretal
.
(2006)
Sumi
gama
etal
.
(2007)
0.
030
0.
009
0.
024
0.
039
(29/
97,
799) (62/
155,
670)(91/
378,
063) (23/
59,
008)
12.
2
9.
3
12.
6
5.
6
(29/
286)
(55/
590)
(91/
723)
(23/
401)
5
3.
5
3.
3
1.
14
24
20.
4*
11
37.
8
47
38.
3*
40
38.
5
40
-
61
0
67
-
67
-
*
切開層に胎盤が付着している例のみ
置胎盤では癒着胎盤であることを想定して準備することが望ましいと考える.他には,母
体高齢,高血圧合併,子宮内膜搔爬,子宮筋腫摘出,Asherman syndrome や既往癒着
胎盤なども癒着胎盤のリスク因子として報告されている.そのため,前置胎盤の術前には
子宮摘出のインフォームドコンセントを得ておき,自己血貯血を行うことを基本とする.
前置ではない常位の癒着胎盤に関する分娩前診断の報告例はほとんどなく,一般的には
分娩前診断はできないと考えるべきである.発生頻度が低いのみならず,例外的な穿通胎
盤による腹腔内出血や子宮破裂を除けば,常位の癒着では児娩出後の診断でも対応が変わ
らないことも診断されない理由と考える.一方前置癒着胎盤では,これまで多くの超音波,
MRI の所見が報告されている(表 D―10―9)
―4)
.診断精度は,それぞれの超音波診断装置
の性能あるいは検査者の技能に左右されることが大きく,敏感度や特異度については報告
によって異なる.このように,癒着胎盤は前置癒着と常位癒着では,臨床像が大きく異な
るため,別の病態と考えるべきであろう.
【常位(非前置)
癒着胎盤の対応】
経腟分娩での分娩第3期の胎盤娩出遅延については,産婦人科研修の必修知識2007で
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N―64
日産婦誌61巻 3 号
(表 D109)4) 前置癒着胎盤を疑わせる超音波・MRI所見
1
2
3
4
5
胎盤付着部位の sonol
ucentz
oneの欠如
胎盤内の拡張した絨毛間腔(pl
acent
all
acunae)
子宮筋層の菲薄化,または途絶
膀胱への子宮突出像(abnor
malut
er
i
nebul
gi
ng)
拡張した絨毛間腔の激しい血流(l
acunarpat
t
er
n,f
l
ow voi
d)
経 分娩
Ⅰ
胎盤遺残(癒着胎盤の疑い)
問診
胎児娩出後
30分以上経
過しても胎
盤娩出せず
全身状態の把握
Ⅱ 胎盤娩出促進法
無効
離徴候
(−)
血管確保
胎盤娩出
離徴候
(+)
娩出胎盤の検索
Ⅲ Brandt-Andrews胎盤圧出法
無効
欠損(+)
欠損(−)
胎盤娩出
胎盤遺残
なし
Ⅶ 胎盤の部分遺残
Ⅳ
超音波断層法
全身麻酔下に
大きい
Ⅴ
小さい,出血少量
子宮腔内の用手的診察(用手 離)
子宮収縮剤・抗生剤投与
帝王切開分娩
胎盤 離
できず
離せず
Ⅵ
7∼10日後
離
子宮内容除去術
癒着胎盤
出血(++)
出血少量・収縮良好
輸血・輸液
感染徴候
(+)
付着胎盤
感染徴候
(−)
胎盤嵌頓
鎮痙剤投与
Ⅴ
DIC対策
妊孕性温存
を強く希望
化学療法
子宮摘出術
フォローアップ
離胎盤遺残
用手 離
全身麻
酔下に
輪状収縮
消失まで
待期
用手娩出
副胎盤
など
全身麻
酔下に
子宮収縮剤・抗生剤投与
(図 D109)1) 常位(非前置)癒着胎盤の管理方針
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
2009年 3 月
N―65
は,児娩出後30分経過しても胎盤が娩出しない場合には,胎盤嵌頓と癒着胎盤を疑うと
している.しかし積極的に胎盤用手剝離を行うより,保存的治療を行ったほうが,有意に
子宮摘出の頻度,輸血量,DIC の頻度が減少したとの報告もある.全癒着胎盤では,分
娩第3期に出血は増加しない一方で,部分・焦点癒着胎盤や付着胎盤では,一部剝離した
胎盤が子宮内にとどまるため収縮が不良となり,出血が増加する.図 D―10―9)
―1に癒着
胎盤の管理プロトコールを示す3).胎盤嵌頓は頸管の収縮による剝離後の娩出遅延であり,
胎盤娩出前の麦角剤投与によっても誘発される.胎盤娩出促進方法として,臍帯内に希釈
したオキシトシンを注入する方法も報告されている.用手剝離を行う際には,経腹超音波
断層装置で確認し,大量出血に備えて複数あるいは太い留置針で血管を確保してから施行
する.頸管の拡張には,吸入麻酔薬やニトログリセリンが有用とされている.ただし,ニ
トログリセリンは血圧を著しく低下させるため,代用血漿を投与するなど輸液を十分に行
うことも必要となる.
癒着胎盤では用手剝離を行っても胎盤片は残存し,さらに子宮穿孔の危険もあるため徹
底的な剝離は行わない.遺残胎盤の診断は通常経腟超音波検査で可能であるが,鑑別が困
難な場合あるいは時間の経過で胎盤ポリープに変化した場合の診断には,造影 MRI が優
れている.
一方,帝王切開での常位胎盤で自然剝離がなければ,術中に用手剝離を行う.癒着胎盤
のために出血が多くなった場合,直接縫合,B-Lynch uterine compression,ヨードホ
ルムガーゼ挿入等で対応し,止血困難となったら devascularization あるいは子宮摘出
を行う.
【前置癒着胎盤の管理】
ACOG は癒着胎盤が診断されたあるいは疑われた場合は,①輸血と子宮摘出について
のインフォームドコンセント,②輸血や血液製剤の準備,③使用可能ならばセルセーバー
の準備,④適切な手術人員・設備利用が可能や分娩施設や時期についての考慮,⑤術前の
麻酔評価を行うことなどを2002年の committee opinion で述べている.本邦でも前置癒
着胎盤が疑われたら,十分な輸血の確保,適切な術中・術後の管理が必要で,麻酔科,ICU,
NICU 等と協力して集学的治療が行える施設での周術期管理を行うべきであろう.Cesarean hysterectomy をあらかじめ計画して行う際には,尿管損傷を避けるために両側尿管
カテーテルを挿入することも行われている.
術中出血量を軽減させる手技は多数報告されている.内腸骨動脈結紮術,modified cesarean hysterectomy,IVR 併用(内腸骨動
脈遮断術,総腸骨動脈遮断術,腹部大動脈遮
断術,step-wise hysterectomy)
,U 字縫合
などである.胎盤の剝離を行うことなく cesarean hysterectomy を行う際の問題は,
膀胱から子宮下部にかけての新生血管の存在
である(図 D―10―9)
―2)
.この新生血管が発
達していると,子宮摘出時の膀胱の剝離で大
出血が開始す る.Modified cesarean hysterectomy は,胎盤と膀胱の癒着部分と血
管が増生している部分の剝離を子宮動脈の結
紮,腟管を切断後に行うものであるが,膀胱
損傷をしばしば起こす.世界的に見てもこれ (図 D109)2) 前置嵌入胎盤の児娩出前
らの術中出血対策については,多くは症例報 の子宮:著明な新生血管が子宮下部から膀胱
告あるいは small series による試みのみで にかけて増生している.
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N―66
日産婦誌61巻 3 号
あり,比較試験は十分に行われておらず,治療法のコンセンサスを得られていない.しか
し最近 IVR による内腸骨動脈遮断術併用 cesarean hysterectomy は,併用せずに hysterectomy を行った群に比較して,術中出血量は減少しなかったとの報告もみられる.
前置癒着胎盤では,側副血行が発達しており,外腸骨動脈からの Reverse flow も多くな
ることから,通常の産科出血の対応として行う内腸骨動脈の血流遮断のみでは,十分な出
血量軽減効果が得られない可能性がある.
【遺残胎盤の管理】
子宮温存を希望する遺残胎盤例に対して,通常自然経過観察,子宮鏡下切除術,あるい
はメトトレキサートによる化学療法を行う.いずれも再出血・感染・DIC などを生じる
危険性があるので,十分なインフォームドコンセントが必要である.さらに用手剝離後の
胎盤片の遺残や,癒着の程度の軽い楔入胎盤や部分的な嵌入胎盤であれば胎盤の自然娩出
や消失を期待できるが,嵌入・穿通している全癒着胎盤では自然娩出できる可能性は高く
ない.
《参考文献》
1. Miller DA, Chollet JA, Goodwin TM. Clinical risk factors for placenta previaplacenta accreta. Am J Obstet Gynecol 1997 ; 177 : 210―214
2.Sumigama S, Itakura A, Ota T, Okada M, Kotani T, Hayakawa H, Yoshida K,
Ishikawa K, Hayashi K, Kurauchi O, Yamada S, Nakamura H, Matsusawa K,
Sakakibara K, Ito M, Kawai M, Kikkawa F. Placenta previa increta"percreta in
Japan―a retrospective study of ultrasound findings, management and clinical
course. J Obstet Gynecol Res 2007 ; 33 : 606―611
3.越野立夫,西島重光.胎盤遺残の取り扱い方.日産婦誌 1991;43:N107―N110
〈板倉 敦夫*〉
*
Atsuo ITAKURA
Department of Obstetrics and Gynecology, Saitama Medical University, Saitama
Key words : Accreta・Increata・Percreta・DIC・Postpartum hemorrhage
索引語:楔入胎盤,嵌入胎盤,穿通胎盤,DIC,産科出血
*
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2009年 3 月
N―67
E.婦人科疾患の診断・治療・管理
Diagnosis, Treatment and Management of Gynecologic Disease
4.不妊症
Infertility
1)女性不妊症
(2)卵管性不妊症
はじめに
卵管は,卵の pick up・受精能獲得・受精・受精卵の発育・受精卵の子宮への輸送など
妊娠成立において重要な機能を有している.この卵管の障害による卵管性不妊症は,近年
クラミジア感染症の影響もあり増加している.本項では卵管性不妊症の診断・治療につい
て解説する.
診断
(1)卵管疎通性検査
卵管疎通性検査は外子宮口より造影剤や炭酸ガス・生理食塩水を注入し,腹腔内への拡
散を確認し卵管疎通性を評価する検査である.
a)子宮卵管造影(Hysterosalpingography;HSG)
外子宮口より造影剤を注入し,子宮内腔の形態・卵管疎通性・骨盤内癒着を判定する検
査である.HSG は診断的意義のほかに治療的意義があり,妊娠率の増加が報告されてい
る.HSG 施行後原因不明不妊症の約40%に妊娠が成立し,妊娠例の約55%が HSG 施行
後6カ月以内で妊娠し,約80%が1年以内で妊娠している1).使用される造影剤には油性と
水溶性があるが,造影剤による妊娠率の違いについての報告もあり妊娠率に関しては水溶
性より油性造影剤の方が優れている2).
b)卵管通気法
外子宮口より炭酸ガスを注入し子宮内圧の変動を経時的に表示し,卵管疎通性の有無を
確認する検査である.卵管閉塞の診断において偽陽性・偽陰性の結果が多く,片側卵管閉
塞の診断は不可能である.
c)卵管通水法
外子宮口より生理食塩水を注入し,経腟超音波下に腹腔内への流入を確認し卵管疎通性
の有無を確認する検査である.通気法と同様に片側卵管閉塞の診断は不可能である.最近
では超音波造影剤を用いて通水を行い,超音波断層法で卵管の疎通性を確認することがで
きる.
(2)腹腔鏡検査
腹腔鏡検査における卵管の評価は,
(i)
卵管の全体像を把握する.卵管周囲・卵管采の癒
着状況(癒着の有無,性状〔フィルム状または強固〕
,範囲,片側または両側,原因)
を評価
する.また卵管留症の有無,大きさ,卵管壁の肥厚程度を確認する.
(ii)
インジゴカルミン
による色素通過試験にて, 卵管の通過性を確認する.
(iii)
腹腔内洗浄液で卵管を浮遊させ,
卵管采の内腔ひだを観察する.内腔ひだの菲薄化,消失がないかどうかを評価する.上記
3点について異常を認めない場合,卵管因子はないと判断する3).
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(3)卵管鏡
卵管疎通性検査や腹腔鏡検査では,疎通性の有無や卵管の外側の病態を判定することが
できるが内腔の状態を評価することはできない.しかし,卵管鏡は直接卵管内腔を観察す
ることができ,かつ疎通性を回復することができるようになった.アプローチとして卵管
鏡を卵管采より挿入する方法と経頸管的に子宮卵管角部より挿入する方法がある.卵管閉
塞に対して,卵管鏡下卵管形成術(FT;Falloposcopic tuboplasty)システムを用いた FT
が行われている.
治療
卵管因子には以下のような病態があり,病態別に応じた対応が必要である.
1.卵管周囲癒着
癒着状況により成績は左右されるが,癒着剝離術後妊娠率は26.2%4).術後癒着防止は,
妊孕性回復の大きなポイントである.
2.卵管采癒着・卵管采周囲癒着
以下のように分類される.
(i)
卵管采周囲癒着(卵管漏斗部内の癒着があるもの,ないも
の)
(
,ii)
卵管采癒着(部分的か全体的)
(
,iii)
卵管漿膜が卵管采の一部を覆っている状態,
(iv)
卵管漿膜が卵管采の全体を覆っている状態.Audebert et al.
は,
(iii)
・(iv)
の重症卵
管采癒着症例に対して卵管采形成術を施行し,子宮内妊娠率は51.4%と高率で IVF-ET(in
vitro fertilization-embryo transfer)
に取って代わることができる治療であると報告して
いる5).長田も,卵管采形成術後妊娠率は28.0%で術後妊娠率は高いと報告している4).
3.卵管留症
卵管留症の取り扱いについては一定の見解はなく,臨床上苦慮することが多い.Stran6)
dell et al.
が,卵管留症の存在と IVF-ET の低妊娠率を報告して以来,卵管内の貯留液を
除去するため,外科的治療(卵管開口術または卵管切除術)
が提案されるようになった.ま
た,IVF-ET 前の卵管切除術が,IVF-ET の妊娠率を改善する7)という報告もあるが,不必
要な卵管切除術は慎まなければならない.よって卵管留症に対して,卵管開口術または卵
管切除術かの見きわめは非常に重要である.
卵管粘膜の性状(損傷の程度や癒着の有無など)
・卵管留症の大きさ・卵管壁の厚さなど
を考慮し,術式を決定する.卵管粘膜の半分以上が正常で癒着がない,卵管留症の大きさ
が1cm 以下,卵管壁が薄い症例は,卵管開口術後自然妊娠が期待できる.なかでも卵管
粘膜の評価は最も重要な予後因子である.また,卵管周囲癒着の存在や癒着範囲は,妊娠
率に影響しない8).一方,卵管粘膜の損傷が著しい,卵管再閉塞症例は,卵管切除術また
は IVF-ET を考慮する9).卵管開口術後妊娠率は13.3%で,卵管形成術のなかで最も低い4).
4.卵管閉塞
卵管閉塞は間質部,峡部,膨大部の順に多く発生し,卵管内病変は多発性,両側性であ
ることが多い.卵管閉塞に対して FT を施行し,卵管通過性回復率は85.3%で,閉塞部位
別による成功率に有意差はない.FT 術後妊娠率は約30%,妊娠例の約80%が,術後9カ
月以内に妊娠が成立した10).両側卵管閉塞に対する FT 術後妊娠症例の検討では,妊娠例
は近位部病変に多く,遠位部病変に少ない.つまり遠位部病変の妊孕性回復は,近位部病
変より困難である10).卵管端端吻合術妊娠率は80.0%と高率であるが,腹腔鏡下手術は困
難である4).
《参考文献》
1.高瀬規久也.治療法別不妊症妊娠率 HSG 後,腹腔鏡検査後の妊娠率.産科と婦人科
1993;60:183―184
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2009年 3 月
N―69
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3.三橋洋治,星合 昊.卵管性不妊症.新女性医学体系15 中山書店,1998;195―
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4.長田尚夫.卵管因子(日本不妊学会編,久保春海)
.新しい生殖医療技術のガイドラ
イン改訂版2版 東京:金原出版,2003;233―243
5.Audebert A, Pouly J, Theobald P. Laparoscopic fimbrioplasty : an evalution of
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embryo transfer rates. Hum Reprod 1994 ; 9 : 861―863
7.Strandell A, Lindhard A, Waldenstrom U, et al. Hydrosalpinx and IVF outcome :
prospective, randomized multicentre trial in Scandinavia on salpingectomy
prior to IVF. Hum Reprod 1999 ; 14 : 2762―2769
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well-defined subgroup of patients. Hum Reprod 2000 ; 15 : 2072―2074
10.末岡 浩,吉村 典.子宮鏡・卵管鏡(日本不妊学会編,久保春海)
.新しい生殖医
療技術のガイドライン改訂版2版 東京:金原出版,2003;201―216
(3)子宮性不妊
はじめに
子宮形態異常はミューラー管発生異常による先天性子宮奇形と子宮筋腫や子宮内膜ポ
リープ,子宮腔内癒着など後天性器質性疾患に分けられる.子宮形態異常による reproductive failure の原因として子宮内圧の上昇・筋腫や隔壁を介した子宮内膜への血流供
給の減少などがあるが,絶対的な不妊要因ではない.よってこれら疾患の診断を下したと
きは reproductive failure の原因として他の因子を除外し,年齢や不妊期間などを考慮し
慎重に対応する必要がある.
診断
本項では先天性子宮奇形の診断について述べる.先天性子宮奇形の診断は,今後の治療
方針を決定するうえで特に正診性が求められる.そのためには複数の検査の組み合わせに
より正診率を高める必要がある.
(1)子宮卵管造影(HSG;Hysterosalpingography)
子宮頸管の所見を含め子宮形態全体を正確に評価するためには,バルーン法ではなく嘴
角法で検査を行う.HSG は子宮内腔を評価するのに有用であるが,子宮の外形を評価す
ることができないため中隔子宮と双角子宮の鑑別はできない.両子宮角の間の角度が75̊
以下なら中隔子宮,105̊ 以上なら双角子宮である1).弓状子宮は図 E-4-1)
(
- 3)
-1のよう
に定義されている2).HSG は子宮内腔が正常
かどうかのスクリーニングとして有用である
A
が,子宮奇形の詳細な分類をすることはでき
R
L
ない3).
P
(2)超音波検査
AP/RL=10% 以下;正常,
超音波検査での中隔子宮や双角子宮,重複
10∼25%;弓状子宮
子宮のさまざまな鑑別法が提言されている
25% 以上;中隔子宮
が,超音波検査の特異度は高いが感度は低い.
(図 E41)
(
-3)
1) 弓状子宮の定義
HSG と併用することによりスクリーニング
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N―70
日産婦誌61巻 3 号
(表 E41)
(3
- )1) 子宮奇形の妊娠予後
単角子宮
症例数
妊娠数
初期流産
後期流産
早産
正期産
生児獲得数
重複子宮
双角子宮
中隔子宮
8
8
26
16
15
56
6
(37.
5%) 3
(20.
0) 14
(25.
0)
1
(6.
2%) 1
(6.
6%)
2
(3.
6%)
4
(25.
0%) 8
(53.
3%) 14
(25.
0%)
5
(31.
3%) 3
(20.
0%) 26
(46.
4%)
7
(43.
7%) 6
(40.
0%) 35
(62.
5%)
弓状子宮
43
42
145
110
37
(25.
5%) 14
(12.
7%)
9
(6.
2%)
2
(1.
8%)
21
(14.
5%) 5
(4.
5%)
75
(51.
7%) 86
(78.
3%)
90
(62.
0%) 91
(82.
7%)
合計
127
342
74
15
51
195
229
(66.
3%)
(表 E41)(3)2) 子宮筋腫核出術後の妊娠率
腹腔鏡
妊娠率
開腹
合計
50.
0
(9/
18) 51.
6
(32/
62) 51.
3
(41/
80)
近畿大学医学部産婦人科学教室
として有用である3).
(3)子宮鏡
子宮鏡は直接子宮内腔を確認できるため,HSG 異常所見例に対して正確な診断のため
に行われることが多い.しかし,子宮の外形を評価することができないため腹腔鏡検査が
必要であるが,同時に治療できる利点がある.子宮鏡と腹腔鏡の併用が最も精度の高い診
断方法である3).
(4)MRI
MRI は子宮の内側と外側の両方の評価が可能である.MRI は HSG または超音波検査
単独より正確に診断できスクリーニングとして有用である3).
治療
(1)子宮奇形
子宮奇形の頻度は一般女性の3.8∼6.7%,不妊症例の2.4∼7.3%,不育症症例の6.3∼
16.7%であり, 一般女性と比較すると不妊症例では変わらないが不育症症例では高い4)5).
表 E-4-1)
(
- 3)
-1に子宮奇形の妊娠予後を示す.妊娠が成立した症例の割合は子宮奇形例
で約80%,正常子宮例で約90%であった.また正期産の割合は子宮奇形例で約50%,正
常子宮例で約80%であった4)5).つまり子宮奇形を有する症例でも約80%は妊娠が成立し,
約50%が妊娠を継続することができる. よって子宮奇形を有する不妊症例の対応として,
まず一般的不妊治療を行う.ただし年齢・不妊期間・過去の妊娠分娩歴・他の不妊因子の
有無などを考慮し手術適応かどうか判断する必要がある.子宮奇形に対しては以下の手術
が行われている.
1)子宮鏡下手術
中隔子宮に対して子宮鏡下に中隔切除を行う.子宮鏡下手術により流産率が減少し生児
獲得率が増加する.子宮奇形症例に対する子宮鏡下手術は妊娠予後を改善する6).
2)開腹子宮形成術
弓状子宮・中隔子宮・双角子宮がこの手術の適応である.子宮奇形を有する原因不明不
妊症例や反復流産症例に対して開腹子宮形成術は有用である7).
① Strassmann 手術
子宮底部に横切開を加え,中隔を切除し,子宮底を矢状方向に縫合する術式である.強
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2009年 3 月
N―71
度の弓状子宮や双角子宮がこの手術の適応である.
② Jones & Jones 手術
子宮底部に縦切開を加え,中隔を切除し,両側子宮を縫合する術式である.不全中隔子
宮がこの手術の適応である.Strassmann 手術と比べると切開範囲が広く,十分に中隔
を切除することができるという利点はあるが,子宮内腔が狭小化しやすい.
③ Tompkins 手術
子宮底部に縦切開を加え,子宮内腔に達したところで内腔を左右に向かい中隔を切除す
る術式である.Jones & Jones 手術と比べ不必要に切除しすぎるということがない.
(2)子宮筋腫核出術
年齢・不妊期間・他の不妊因子の有無などを考慮し,手術の適応かどうか判断する.表
E-4-1)
(
- 3)
-2に子宮筋腫核出術後の妊娠率を示す.近年,子宮筋腫核出術においては腹
腔鏡手術が普及しており,開腹手術と同等の妊娠率が得られている.
《参考文献》
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7.Papp Z, Mezei G, Gávai M, et al. Reproductive performance after transabdominal metroplasty : a review of 157 consecutive cases. J Reprod Med 2006 ; 51 :
544―552
(4)子宮内膜症による不妊症
はじめに
子宮内膜症は疼痛と不妊を主訴とする疾患である.頻度は一般女性の約10%,不妊症
患者の約25%にみられ,近年増加が指摘されている.子宮内膜症による不妊の発生機序
は完全に明らかではないが,本項では最近の知見を基に子宮内膜症による不妊症について
解説する.
不妊の発生機序
1.解剖学的異常
重症子宮内膜症例では骨盤内臓器の癒着やチョコレート囊胞による卵巣腫大により解剖
学的な位置異常や可動性の制限が起こり,排卵障害や卵管における卵子の pick up 障害・
輸送障害を招く.
2.腹腔内環境の異常
子宮内膜症患者では腹水量の増加,腹腔内におけるマクロファージやさまざまなサイト
カインの増加が報告されている.これらの腹腔内環境の異常が,精子機能や胚発生に影響
を及ぼすといわれているが一定の見解は得られていない1).
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日産婦誌61巻 3 号
3.内分泌・排卵障害
子宮内膜症患者に黄体機能不全・黄体化未破裂卵胞の合併が多いといわれている.しか
し,これらを証明するエビデンスはない1).
4.自己免疫
子宮内膜症患者における抗子宮内膜抗体の存在が見出されて以来,さまざまな自己抗体
が報告されている.多クローン性の B 細胞活性化が抗体産生を誘導していると推測され
ているが,これらの抗体保有率は子宮内膜症患者と原因不明不妊症患者の間で差がなく不
妊という共通のバックグラウンドがある女性の一部に特徴的な現象と考えられている1).
5.卵・子宮内膜への影響
提供卵子を用いた IVF-ET は,子宮内膜症が卵の質または子宮内膜の受容能に影響する
かどうか重要な情報を与えてくれる.ドナーに子宮内膜症があった場合着床率が低く2),
レシピエントの子宮内膜症の有無は着床率に影響しない3).このことは子宮内膜症状患者
では卵および胚の質が低下していること示している.一方 Arici et al.
は子宮内膜症の有
無は採卵数・卵の成熟度・受精率・胚の grade に影響しないことから,着床障害は子宮
内膜機能障害によると結論している4).また子宮内膜症患者では着床時期での子宮内膜に
おける αvβ インテグリン発現の減少などが,子宮内膜機能障害を起こし着床障害を招い
ていると推測されている5).
診断
1.問診
まず問診により子宮内膜症の疑いがあるかどうか選別することが重要である.子宮内膜
症の主症状は,月経痛・下腹部痛・腰痛・性交痛である.特徴として続発性に起こり,次
第に増強する場合が少なくない.また月経時以外にも性交痛・排便痛・下腹部痛などを認
める場合も多い.
2.内診
内診所見として,後屈子宮,子宮・付属器の可動性の制限,ダグラス窩の硬結,内診時
圧痛などがあげられる.
3.腫瘍マーカー
補助診断として CA125が用いられる.子宮内膜症では CA125陽性率は46%であり,
進行例であることが多い.薬物・手術療法の効果判定や再発のフォローアップにおいて有
用である6).
4.腹腔鏡検査
子宮内膜症の確定診断は,腹腔鏡または開腹手術での視診と組織診による.臨床子宮内
膜症の約20%に腹腔鏡検査で子宮内膜症が確認されなかったことから子宮内膜症を疑う
症例は腹腔鏡手術の適応である7).原因不明不妊症に対して腹腔鏡手術を施行した場合約
60%に子宮内膜症が確認された8).
治療
1.薬物療法
子宮内膜症に対する薬物療法には GnRH アゴニスト"
アンタゴニスト・ダナゾール・偽
妊娠療法などがあるが,薬物療法が妊孕性を改善するというエビデンスはない.Hughes
et al.
は無作為試験をまとめた meta analysis で排卵を抑制する治療法は妊娠率を増加し
ないと報告している9).また術後の薬物療法は妊娠の成立を遅らせるのみならず,累積妊
娠率も低下させる6).
2.手術療法
手術療法は妊孕性を改善する.Re-AFS 分類Ⅰ"
Ⅱ期症例に対して病巣を焼灼除去した
治療群と無治療群の術後妊娠率は,治療群で有意に高率であった10).また重症子宮内膜症
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2009年 3 月
N―73
腹腔鏡 子宮内膜症の確認
(開腹) 臨床進行期の評価
卵管・卵巣の癒着剝離
病変の焼灼・切除
腹腔内洗浄
臨床進行期 Re-AFS stageⅠ,Ⅱ
卵管癒着高度
卵管癒着なし,または軽度
臨床進行期 Re-AFS stage Ⅲ,
Ⅳ
チョコレート囊胞が存在する場合
囊胞摘出または切開 / 蒸散・焼灼
若年
不妊期間短い
他の不妊因子なし
高齢
不妊期間長い
他の不妊因子合併
Step1
待機療法
タイミング療法
Step2
排卵誘発
(人工授精併用)
クロミフェン
ゴナドトロピン
Step3
ART
卵管癒着軽度
38 歳以下
卵管癒着高度
高齢者
(38 歳以上)
stage Ⅳかつ 35 歳以上
子宮内膜症不妊患者の治療方針
(図 E41)
(
-4)
1)
症例に対する手術療法が,術後妊娠率を増加させることが報告されている11).Re-AFS 分
類と妊娠率に相関は認められない.しかし,子宮内膜症に対する外科的治療後の自然妊娠
成立に関連する因子として腹膜 Re-AFS スコア・癒着 Re-AFS スコアがあり,腹膜 ReAFS スコアが高く,癒着 Re-AFS スコアが低い症例に自然妊娠が成立しやすい6).癒着
Re-AFS スコア別による術後自然妊娠率についての検討では,
癒着 Re-AFS スコアが0点,
1∼15点,16∼40点,41点以上の場合術後自然妊娠率は,それぞれ約60%,約50%,
約40%,約30%であった.つまり,術前の癒着スコアが高くなるにつれて術後の妊孕性
回復が悪くなることを示している.Maruyama et al.は,卵管周囲・卵管采癒着が重要な
妊娠予後因子であることを報告している12).したがって,卵管周囲・卵管采の強固な癒着
を伴う症例では妊娠予後が悪いことより,手術時に卵管機能の回復が期待できないと判断
した場合は臨床進行期にこだわらず ART の適応とする.逆に,重症の子宮内膜症症例で
も卵管癒着スコアが低値の場合は,一般不妊治療においても妊娠する可能性が高く,ART
を選択する前に一般不妊治療を選択すべきである(図 E-4-1)
(
- 4)
-1)
.
3.排卵誘発・人工授精
子宮内膜症不妊症例に対してクロミフェン療法・ゴナドトロピン療法および人工授精併
用療法が,タイミング療法よりも妊娠率が高いことが報告されている5).
4.体外受精・胚移植(in vitro fertilization-embryo transfer;IVF-ET)
子宮内膜症が IVF-ET に及ぼす影響については,一定の見解は得られていない.しかし,
Barnhart らが報告した meta analysis では採卵数・受精率・着床率・妊娠率のすべてに
おいて子宮内膜症群が,他の不妊因子群より有意に低値であった.この影響は重症例で顕
著であり,病期分類別による検討では重症例は軽症例より有意に妊娠率が低値であった13).
IVF-ET 治療周期前の薬物療法について最近報告された meta analysis で,IVF-ET 治療
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N―74
日産婦誌61巻 3 号
周期前の3∼6カ月間 GnRH アゴニスト治療の有用性を報告している14).
《参考文献》
1.Craig AW, William NB. Endometriosis and Infertility : Is there a cause and effect relationship? Gyne and Obst Invest 2002 ; 53 : 2―11
2.Simon C, Gutierrez A, Vidal A, et al. Outcome of patients with endometriosis in
assisted reproduction : results from in-vitro fertilization and oocyte donation.
Hum Reprod 1994 ; 9 : 725―729
3.Sung L, Mukherjee T, Takeshige T, et al. Endometriosis is not detrimental to
embryo implantation in oocyte recipients. J Assist Reprod Genet 1997 ; 14 :
152―156
4.Arici A, Oral E, Bukulmez O, et al. The effect of endometriosis on implantation :
results from the Yale University in vitro fertilization and embryo transfer program. Fertil Steril 1996 ; 65 : 603―607
5.Birmingham A. Endometriosis and infertility. Fertil Steril 2006 ; 86 : 156―160
6.子宮内膜症取扱い規約.第2部 治療編・診療編 東京:金原出版,2004
7.星合 昊.腹腔鏡を使わないで子宮内膜症を診断した場合の正診率は? 臨床婦人
科産科 1996;50:1402―1403
8.辻
勲,金村和美,星合 昊.HSG 所見正常症例に腹腔鏡手術は必要か? 日産
婦誌 2008;60:511
(S-231)
9. Hughes EG, Fedorkow DM, Collins J, et al. Ovulation suppression for endometriosis. Cochrane Database Syst Rev 2003 ; CD000155
10. Marcoux S, Maheux R, Berube S, et al. Laparoscopic surgery in infertile
women with minimal or mild endometriosis. N Engl J Med 1997 ; 337 : 217―
222
11.Schenken RS. Modern concepts of endometriosis. J Reprod Med 1998 ; 43 :
269―275
12.Maruyama M, Osuga Y, Momoeda M, et al. Pregnancy rates after laparoscopic
treatment. Differences related to tubal status and presence of endometriosis. J
Reprod Med 2000 ; 45 : 89―93
13.Barnhart K, Dunsmoor-Su R, Coutifaris C. Effect of endometriosis on in vitro
fertilization. Fertil Steril 2002 ; 77 : 1148―1155
14. Sallam HN, Garcia-Velasco JA, Dias S, et al. Long-term pituitary downregulation before in vitro fertilization(IVF)for women with endometriosis(review)
. Cochrane Database Syst Rev 2006 ; 25 : CD004635
〈辻
勲*,金村 和美*,石津 綾子*,藤浪菜穂子*,星合
昊*〉
*
Isao TSUJI, *Kazumi KANAMURA, *Ayako ISHIZU, *Nahoko FUJINAMI, *Hiroshi HOSHIAI
*
Department of Obstetrics and Gynecology, Kinki University School of Medicine, Osaka
Key words : Tubal infertility・Uterine infertility・Endometriosis
索引語:卵管性不妊症,子宮性不妊症,子宮内膜症
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2009年 3 月
N―75
E.婦人科疾患の診断・治療・管理
Diagnosis, Treatment and Management of Gynecologic Disease
7.婦人科感染症
Gynecologic Infectious Disease
2)子宮の感染症
①子宮頸部の感染
子宮の感染症は,子宮頸部の感染(子宮頸管炎)
と子宮体部の感染症に大別することがで
きる.子宮頸部は,外子宮口から外の部分に感染を引き起こすのは基本的に腟内の感染と
同様の病原体であり,トリコモナス原虫,カンジダ,ヘルペスウイルスなどが感染を引き
起こす.一方,子宮頸管内の主に円柱上皮からなる部分では淋菌やクラミジア感染を引き
起こすことになる.症状としては黄色や緑色の帯下(子宮頸管分泌物)
の増加として捉えら
れ,診断としては分泌物中の白血球増多,グラム染色,細菌培養,PCR その他の方法に
よる淋菌やクラミジア・トラコマティスの検出などによる.治療としては淋菌,クラミジ
ア・トラコマティスに対してはパートナーとともに抗菌薬による加療を行う必要がある.
クラミジア感染は本邦において若年を中心に増加しており,クラミジア感染はクラミジ
ア・トラコマティスの感染による STD である.発展途上国では眼感染症(トラコーマ)
の
起炎菌として現在も重要なものである.ヒトにおける感染標的細胞は円柱(腺)
上皮細胞で
あり,性交によって子宮頸管の腺上皮細胞に取り込まれて封入体を形成する.さらに上行
性に感染が進行し,不妊の原因,流早産の危険因子となる.現在ではクラミジア感染に対
しては azithromycin 1g の1回投与が広く用いられている.
②子宮体部の感染
子宮体部の炎症はその罹患病巣によって子宮内膜の炎症を子宮内膜炎,筋層の炎症を子
宮筋層炎,漿膜の炎症を子宮周囲炎という.大部分は子宮内膜炎であるが,炎症が重度に
なり深部に及ぶと子宮筋層炎となる.症状としては発熱と下腹痛がある.
子宮内膜に感染を生じやすい状態とは,①子宮内膜の周期的変化がない場合②子宮口が
開大し,腟からの上行性感染を受けやすい場合③子宮口が閉鎖し,子宮腔からの分泌物が
貯留しやすい場合④子宮内避妊装置(IUD)
のような子宮内異物が存在する場合である.大
部分の子宮内膜炎は上行性感染であり,起炎菌としては腟内細菌叢に見られるものが原因
であり,連鎖球菌,ブドウ球菌,大腸菌,嫌気性菌などがあげられる.急性子宮内膜炎と
慢性子宮内膜炎に分類され,治療は抗生物質の投与とドレナージである.
3)付属器の感染症
①卵管炎,子宮付属器炎
卵管炎になると卵巣にも炎症が波及していることが多く,子宮付属器炎とも呼ぶ.欧米
では卵管炎を PID と称していることが多く,これに起因する膿瘍性の疾患を TOA
(tubroovarian abscess)と呼ぶことが多い.急性と慢性に分類する.起炎菌となる病原体は
腟,子宮頸管に常在する好気性,嫌気性の種々の細菌であり,これにクラミジア・トラコ
マティスも増加しており,欧米では淋菌性も多いとされている.症状としては,発熱と下
腹痛があり,内診で圧痛を認めることが多い.治療としては抗生物質の投与を行い,後遺
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N―76
日産婦誌61巻 3 号
症として卵管の通過障害がおこり,不妊や子宮外妊娠のリスクが高くなる.
②性器結核
かつては,不妊婦人の10%程度に性器結核が発見されるとも言われ,原発性の性器結
核はまれで肺または腎の結核病巣からの血行性やリンパ行性によるものが多い.症状とし
ては不妊,月経異常(子宮内膜結核のとき)
,不正性器出血,下腹痛および腹部膨満感など
があり,診断として子宮内膜細胞診で類上皮細胞と Langhans 型巨細胞の同定,結核菌
の証明,病理組織検査で Langhans 型巨細胞を伴う類上皮細胞の増生とそれを取り巻く
リンパ球からなる肉芽腫を認めることなどから診断できる.治療としてはリファンピシン,
イソニアジド,エタンプトールの多剤併用療法が用いられ,結核性の卵管閉塞では卵管開
口術の適応とはならない.
4)骨盤内の感染症
①骨盤腹膜炎(PID)
PID のリスクの危険因子として① IUD の使用②腟炎,細菌性腟症,子宮頸管炎の存在
③複数の性的パートナー④若年・未婚女性⑤腟の洗浄⑥月経不順などがあり,リスクを下
げる因子として経口避妊薬,コンドームによる避妊などがあげられる.症状としては下腹
部痛と発熱があげられ,内診所見として子宮及び付属器の圧痛,移動痛,抵抗や腫瘤の触
知,Douglas 窩の圧痛などがある.検査所見としては白血球数および核の左方移動,CRP,
赤沈,経腟超音波検査で液体の貯留や膿瘍形成の確認が得られる場合もある.膿瘍の診断
には CT や MRI が有効なこともある.治療としては抗生物質の投与を行い,膿瘍を形成
している場合の抗生剤投与の有効性は75%とされており,難治性の場合にはドレナージ
による排液を行うことが必要となる場合も多い.後遺症として卵管の通過障害,Douglas
窩の癒着などがあり結果として不妊になることがある.クラミジア・トラコマティスや淋
菌感染の場合,さらに上腹部に病巣が波及すると肝周囲炎(Fitz-Fugh-Curtis 症候群)
を
引き起こすことがある.
②子宮傍結合識炎
子宮周囲の後腹膜下の結合組織の炎症で,分娩時の軟産道の損傷や人工妊娠中絶の際の
子宮頸管の損傷,広汎性子宮全摘術の際などに発症することがあり,症状は発熱や下腹痛
である.
③骨盤死腔炎
婦人科悪性腫瘍の手術後に生じた骨盤死腔に感染が起こり,抗生剤で加療する.手術の
際のドレナージや抗生剤の適切な投与が重要である.
〈下屋浩一郎*〉
*
Koichiro SHIMOYA
Department of Obstetrics and Gynecology, Kawasaki Medical University, Okayama
Key words : PID
(pelvic inflamatory disease)
・TOA
(tubroovarian abscess)
・STD
索引語:クラミジア感染,卵管炎,骨盤腹膜炎,性器結核
*
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2009年 3 月
N―77
E.婦人科疾患の診断・治療・管理
Diagnosis, Treatment and Management of Gynecologic Disease
8.腫瘍と類腫瘍
Tumor and Kind Tumor
1)外陰の腫瘍・類腫瘍
腟・外陰に発生する腫瘍・類腫瘍は,組織学的に上皮性と非上皮性に大きく二分される.
それぞれにさまざまの良性腫瘍,悪性腫瘍,類腫瘍性病変が発生するが,ここでは紙面の
都合上,臨床的に重要と思われる腟・外陰原発の腫瘍性病変の中でも比較的頻度の高い疾
患を中心に概説する.
(1)外陰原発の悪性腫瘍
外陰に原発する悪性腫瘍の発生頻度は全女性性器癌の約4%とされる.すなわち女性人
口100万人当たりの年間発生数が10例前後と推定される比較的まれな疾患である.国際
的には外陰悪性腫瘍の組織型は表 E-8-1)
-1に示す通りで 平上皮癌がその大部分を占
め,悪性黒色腫がそれに次ぐ.本邦においては,日本産科婦人科学会腫瘍委員会により339
例の解析がなされ 平上皮癌が78%を占める.この項では以下主に 平上皮癌について
記述する. 平上皮癌は角化型,非角化型,類基底細胞型,疣状型,湿疣状型,その他に
分類される.このうち類基底細胞型,湿疣状型はヒトパピローマウィルス(human papillomavirus:HPV)16型との関連が指摘されている.臨床進行期分類として FIGO の分類(表
E-8-1)
-2)
が使われている.ちなみに国際産科婦人科連合(International federation of
Gynecology and Obstetrics:FIGO)
の Annual report での各進行期別の5年生存率は
平上皮癌のみでⅠ期78.5%,Ⅱ期58.8%,Ⅲ期43.2%,Ⅳ期13.0%である.また,
平上皮癌全体では5年生存率は54.8%なのに対し,バルトリン腺癌では65.4%,腺癌では
32.5%と報告されている.原発腫瘍の進展様式は主に,1)
直接的に腟,尿道,肛門など
の隣接臓器へ,2)
リンパ行性で所属リンパ節へ,頻度は低いが,3)
血行性で肺,肝臓,
骨へ,の経路がある.リンパ節転移経路は図 E-8-1)-1のとおりである.
①診断
腫瘤が増大して受診した場合(図 E-8-1)
(表 E81)1) 外陰悪性腫瘍の組
織型と頻度
2)
には診断は比較的容易であるが,早期の
病変では困難であり積極的な生検を施行する
組織型
%
ことが重要である.バルトリン腺囊胞と考え
Squamous
86.
2
られても再発を繰り返したり,充実部分が触
Mel
anoma
4.
8
診上疑われる場合や尖圭コンジローマと疣状
Sar
coma
2.
2
癌との鑑別にも組織学的な確認が必要とな
Basalcel
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1.
4
る.また悪性黒色腫を疑う場合には広めに摘
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Squamous
0.
4
出し,早期の手術ができるように準備してお
Adenocar
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6
くことも必要である.進行期を決定するため
Adenocar
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6
に原発巣の腫瘍の大きさ,周囲への浸潤を評
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3.
9
価する.この際,視診(コルポスコピー)
,内
1)
文献 より改変
診,直腸診を行い,内視鏡(直腸,膀胱,尿
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N―78
日産婦誌61巻 3 号
(表 E81)2) 外陰癌の進行期分類
1994年 FI
GO 進行期分類ならびに TNM 分類
FI
GO
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1994年日本文
Ⅰ期:外陰または会陰に限局した最大径 2cm 以下の腫瘍,リンパ節転移はない.
Ⅰa期:外陰または会陰に限局した最大径 2cm 以下の腫瘍で,間質浸潤の深さが 1mm 以下のもの *.
Ⅰb期:外陰または会陰に限局した最大径 2cm 以下の腫瘍で,間質浸潤の深さが 1mm を超えるもの.
*
浸潤の深さは隣接した最も表層に近い真皮乳頭の上皮間質接合部から浸潤先端までの距離とする.
Ⅱ期:外陰および /または会陰のみに限局した最大径 2cmを超える腫瘍.リンパ節転移はない.
Ⅲ期:腫瘍の大きさを問わず,
(1)隣接する下部尿道および/
または腟または直腸に進展するもの,および/
または
(2)一側の所属リンパ節転移があるもの.
Ⅳa期:腫瘍が次のいずれかに浸潤するもの:
上部尿道,膀胱粘膜,直腸粘膜,骨盤骨および/
または両側の所属リンパ節転移があるもの.
Ⅳb期:骨盤リンパ節を含むいずれかの部位に遠隔転移があるもの.
文献 2) より
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2009年 3 月
N―79
腸骨節
閉鎖節
深鼠径節
浅鼠径節
(図 E81)2) 外陰癌の肉眼像
外陰全体に及ぶ扁平上皮癌
道)
での評価が必要な場合もある.所属リン
パ節(大腿リンパ節,鼠径リンパ節)
の評価で
は触診にて腫大の有無,可動性をみる.必要
(図 E81)1) 外陰癌のリンパ節転移経路 な場合には穿刺細胞診,生検を施行する.遠
Cl
i
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ogi
cOncol
ogyより改変 隔転移の評価としては CT,MRI,胸部単純
X 線撮影などの画像診断,鎖骨窩リンパ節な
どの表在リンパ節の触診で判断する.
②治療
治療の基本は手術療法であるが,術式については原発巣の摘出方法,リンパ節の郭清範
囲によってバリエーションがある.従来は,広汎外陰切除術,両側鼠径リンパ節郭清術が
画一的に行われていたが,最近では進行期別に術式の選択が個別化されてきている.高齢
者が多いため全身状態が不良で手術に適さないこともあり,そのような場合には放射線療
法や化学療法,あるいは両者の併用療法が考慮されるが,手術無しではいずれも根治の可
能性は低いと考えられる.
Ⅰa 期については鼠径リンパ節転移はないと考えられ,最低1cm 以上病変部から離れ
て切除する radical local excision(根治的外陰部分切除術)
のみでよいと考えられる.Ⅰb
期では根治的外陰部分切除術,病変側の鼠径リンパ節郭清術を基本とする.ただし,病変
が正中から1cm 以内の場合や,郭清した片側のリンパ節転移が陽性だった場合には両側
の郭清を施行する.Ⅱ期については現在のところこれまで通り広汎外陰切除術と両側鼠径
リンパ節郭清が基本と考えられるが,病変が片側に限られる場合には根治的外陰部分切除
術と片側のリンパ節郭清術で根治可能としている報告もみられる.Ⅲ期以上の進行例に対
しては病変の完全切除が可能と考えられる場合には広汎外陰切除術および周辺臓器の部分
切除さらには骨盤内臓全摘術まで施行する場合もあるが,手術侵襲が大きくなるためにそ
の適応は限定される.このような症例に対し術前に放射線治療,あるいはフルオロウラシ
ル(5-FU)
+マイトマイシン C
(MMC)
,5-FU+シスプラチン(CDDP)
を併用した放射線
治療,ブレオマイシン(BLM)
を中心とした化学療法を施行してから手術をする試みもな
されてきている.術中の迅速診断にて鼠径リンパ節転移が陽性と診断された場合には,骨
盤内リンパ節郭清術を施行せずに鼠径部および骨盤部に放射線療法の追加が勧められる.
ただしリンパ節転移を1個しか認めなかった場合には後療法をせずに慎重な経過観察のみ
とするという意見もある.
後障害予防の工夫:外陰癌の手術後には創部の感染や離解,リンパ浮腫などの合併症が
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N―80
日産婦誌61巻 3 号
起きやすい.これらの合併症を予防するため広汎外陰切除術の際の皮膚切開を従来の en
bloc ではなく,3つの切開線で行う方式が採用されてきている.また,郭清の範囲につい
ても浅鼠径節のみの郭清にとどめる方法も報告されているが,深鼠径節や大腿リンパ節に
再発をきたす場合もあり慎重な対応が望まれる.大伏在静脈を温存する方がリンパ浮腫な
どの後遺症が軽減されるとの報告もある.系統的なリンパ節の郭清の省略に向けて,最初
に転移をおこすリンパ節を同定する試み(センチネルリンパ節の同定)
が外陰癌においても
報告され,米国 GOG やヨーロッパでは多施設共同の大規模な臨床試験が進行中である.
(2)外陰・腟の悪性黒色腫
外陰・腟に発生する悪性黒色腫は早期に転移を起こしやすく5年生存率も21.7∼54%
と不良である.悪性黒色腫では腫瘍の深達度が予後と関連し,進行期についても別項とし
て扱う.進行期分類も UICC や AJCC の分類また組織学的浸潤レベルについては Clark
分類,Breslow 分類などがあり難解であったが,現在では改定された AJCC の分類に統
一され(表 E-8-1)
-3)
一般的に用いられる.
好発部位は大陰唇や陰核で特徴的な色素性病変を視認できる(図 E-8-1)
-3)
.確定診断
には可能な限り病変部の全摘での生検が勧められる.なお現在ではその後のすみやかな手
術が可能であれば生検は禁忌とはされていない.病理診断として免疫組織染色にて S100,
NSE,HMB-45などが陽性となり,鑑別に有用である.
治療としてはⅠ期では根治的外陰部分切除でも可能と考えられるが,Ⅱ期以上の症例に
対して広汎外陰切除,鼠径リンパ節郭清が施行されることが多い.術後の補助療法として
DAVFeron
(硫酸ビンクリスチン:VCR,塩酸ニムスチン:ACNU,ダカルバジン:DTIC,
インターフェロン:IFN-β)
療法などが行われる.
(3)外陰上皮内腫瘍(vulvar intraepithelial neoplasia:VIN)
外陰の 平上皮内病変に対して従来種々の病名が使用され混乱していたが,現在では硬
化性苔癬, 平上皮過形成および外陰上皮内腫瘍( 平上皮性と非 平上皮性:Paget 病,
表皮内黒色腫)
に分類されている.
このうち腫瘍性病変は外陰上皮内腫瘍(VIN)
であるが,その罹患者数は増加傾向にあり,
かつ若年化が世界的な傾向として認められている.VIN の50∼80%に HPV が検出され
る.子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia:CIN)と同様に3段階に分類
される.
VIN は多中心性に病変が生じることが多く,腟や子宮頸部にも同様の 平上皮病変を
認める場合が多い.そのために外陰搔痒感,疼痛などを訴えて来院した患者に対する注意
深い視診が最も重要である.VIN は白色,赤色,褐色の平坦または丘疹状に隆起した限
局性の病変として認められる.最終診断は組織診によらなければならず積極的な生検が必
要である.浸潤を見るためにもメスや Keyes dermatological punch などを用いて皮下
組織まで採取するように心掛ける.この際,トルイジンブルーによる染色や酢酸加工した
外陰のコルポスコープによる観察も有用である.
VIN1,
2では厳重な経過観察も可能であるが,VIN3では外科的切除が基本である.病変
が限局している場合には広い局所切除とし,多発性で病変が広範囲に及ぶ場合には単純外
陰切除術が確実な方法である.若年者に対しては美容面も考慮し皮下組織を温存して表皮
を切除(skinning vulvectomy)
し,中間層植皮を併用する手術法も行われている.多発性
の病変に対しては CO2レーザーによる蒸散も有効とされているが,美容面では優れてい
るものの確定診断がつかず,浸潤癌の除外など治療前の診断を慎重にすべきである.
(附)
Bowen 様丘疹症
病理学的用語としては認められていないが,若年者に好発する色素沈着を伴った丘疹で
ある.Bowen 病と同様の組織像を示すにもかかわらず自然消退することが知られている.
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文献 3) より改変
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(表 E81)
3) 悪性黒色腫の病期分類
2009年 3 月
N―81
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
N―82
日産婦誌61巻 3 号
(図 E81)
3) 悪性黒色腫の肉眼像
腟,外陰に色素性病変を認める.
(図 E81)4) Paget病の肉眼像
湿疹様紅斑を認める.
HPV16型が関与しているとされる.進行する例もあるともいわれていることから臨床的
には VIN3として取り扱う.
(4)Paget 病
Paget 病は乳腺に好発し,乳腺外に発生したものは乳腺外 Paget 病と一括される.乳
腺外 Paget 病の中では外陰が最も好発部位である.Paget 病は通常は 平上皮に限局す
る異型腺細胞からなる癌であるが,10∼20%には浸潤性腺癌を合併する.若年者は稀で
閉経後に好発する.
搔痒感,疼痛などを訴えて受診することが多い.発生は多中心性と考えられるが,受診
時には癒合した広い病変として認められ,湿疹様の紅斑に鱗屑,白斑などを伴うことが多
い(図 E-8-1)
-4)
.湿疹や接触性皮膚炎,カンジダ外陰炎と間違えやすく,難治性の湿疹
様の病変に対しては積極的に生検を施行し,確定診断をつけることが勧められる.病理組
織学的診断では淡明な細胞質を持った Paget 細胞を表皮内に認める.毛包,皮脂腺,汗
腺などの皮膚付属器を侵襲する像を認めることもある.Paget 細胞は免疫染色で CEA,
EMA,低分子ケラチンで陽性で悪性黒色腫などとの鑑別に有用である.
治療としては,表皮内に留まった病変に対しては健常な皮膚を含めた局所切除が選択さ
れる.病変が広ければ単純外陰切除術を施行する場合もある.術前の腫瘍周囲からの多数
の生検により切除範囲を決めるか,切除断端を術中迅速診断にて腫瘍の残存の有無を調べ
ることが必要で,これにより術後再発を減少させることができる.浸潤した腺癌を合併す
る場合には通常の外陰癌と同様に扱う.また,Paget 病では乳癌,大腸癌,直腸癌,子
宮頸癌などの他臓器の癌を重複する場合が多いともいわれ,検索が必要である.
なお,Paget の発音としてはページェットとパジェットの二つが使われているが,元々
の発音に近いのは後者のほうであるので日本語表記の場合にはパジェット病を使うほうが
良いと思われる.
(5)尖圭コンジローマ
外陰,腟,子宮腟部などの外性器に発生する乳頭状,鶏冠状の隆起性病変で性感染症の
一つである.HPV6型,11型が関与するとされる.発生,発育には宿主側の免疫状態も
強く関与するとされ,免疫の低下している妊娠中や移植手術後,担癌,糖尿病の患者では
病変が発症しやすく増悪する傾向がある.
特徴的な肉眼所見(図 E-8-1)
-5)
から診断は容易であるが,VIN との鑑別が問題になる
場合もあり確定診断には全層を含めた生検が必要である.外陰,腟,子宮腟部と病変が広
く存在することもありコルポスコピーも併用した注意深い観察で病変を見のがさないよう
にする.組織学的所見では有棘細胞層の肥厚,表層細胞の角化,錯角化などを認める.表
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
2009年 3 月
N―83
(表 E81)4) 腟悪性腫瘍の組
織型別発生頻度
組織型
%
Squamous
Adenocar
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Mel
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Mi
scel
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aneous
85
6
3
3
3
文献 1)より改変
(図 E81)5) 尖圭コンジローマの肉眼像
鶏冠様の隆起性病変を認める.
Aorta
Common iliac
Presacral
Internal
iliac
(hypogastric)
層上皮細胞の核周囲が広く,空洞状に抜けた
koilocyte は特徴的である.
内科的治療法としてポドフィリン,5-FU
軟膏,ブレオマイシン軟膏,イモキミド製剤
クリームなどがある.外科的治療としては
レーザーによる蒸散や切除,電気焼灼などが
ある.性行為感染症でありパートナーの診断,
治療も必要である.
2)腟の腫瘍・類腫瘍
(1)腟原発の悪性腫瘍
原発性の腟悪性腫瘍の頻度は全女性性器癌
External
の約1∼2%と言われ,婦人科悪性腫瘍の中
3
iliac
でも希な疾患の一つである.分類の前提とし
2
て,腟病変が子宮腟部を侵しかつ外子宮口に
Inguinal
1
およぶものは子宮頸癌に,外陰を侵すものは
ligament
外陰癌にそれぞれ分類される.好発部位は腟
の上部1"
3であるが,腟からのリンパの流れ
が複雑であるために,原発腫瘍の発生部位に
(図 E81)6) 腟のリンパ還流
よって所属リンパ節が異なるので注意を要す
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る(図 E-8-1)
-6)
.発生原因については機械
(1)
腟下 1/
3から鼠径節,外腸骨節への経路
的な刺激や HPV との関連性などが報告され
(2)腟中 1/
3から内腸骨節への経路
(3)
腟上 1/
3から総腸骨節,仙骨節,内腸骨 ている.腟悪性腫瘍の組織型別頻度は表 E-8節への経路
1)
-4に示す通りで 平上皮癌が大多数を占
めている.進行期分類は FIGO(1971)
およ
び UICC
(Union Internationale Contre le cancer)
(1992)
によって表 E-8-1)
-5のように
定められている.ちなみに FIGO の Annual report での各進行期別の5年生存率は0期が
90.3%,Ⅰ期が77.6%,Ⅱ期が52.2%,Ⅲ期が42.5%,Ⅳa 期が20.5%,Ⅳb 期が12.9%
である.
①診断
腟癌では不正出血や血性帯下を訴えて受診することが多い(図 E-8-1)
-7)
.腟鏡に病変
部が隠されてしまうこともあり診断の際に注意を要する.基本的には病変部から直視下に
生検することによって確定診断をつける.さらに視診(コルポスコピー)
,内診,直腸診を
行い,また直腸鏡,膀胱鏡も施行し周囲組織への浸潤の程度を評価する.子宮頸癌と同様,
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
N―84
日産婦誌61巻 3 号
(表 E81)5) 原発性腟癌の進行期分類
TNM 分類(UI
CC,1992)
T―原発腫瘍
TNM
FI
GO
分類
進行期
TX
―
T0
Ti
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T1
T2
―
0
Ⅰ
Ⅱ
T3
T4
Ⅲ
Ⅳa
M1
Ⅳb
原発腫瘍を判定するための最低必要な検索
が行われなかったとき
原発腫瘍を認めない
上皮内癌
腟壁に限局した腫瘍
腟傍組織に浸潤した腫瘍だが,骨盤壁には
達していないもの
骨盤壁に達した腫瘍
膀胱粘膜または直腸粘膜に進展した腫瘍,
または小骨盤腔を越えて進展したもの 注:胞状浮腫のみではⅣ期としない
遠隔臓器に転移したもの
N―所属リンパ節
NX
所属リンパ節転移を判定するための最低必要な検索
が行われなかったとき
N0
所属リンパ節に転移を認めない
腟上部 2/
3
N1
骨盤リンパ節に転移を認める
腟下部 1/
3
N1
一側の鼠径リンパ節に転移を認める
N2
両側の鼠径リンパ節に転移を認める
M ―遠隔転移
MX
遠隔転移を判定するための最低必要な検索が行われ
なかったとき
M0
遠隔転移を認めない
M1
遠隔転移を認める
pTNM 術後病理組織学的分類
pT,pN,および pM 分類は TNM 分類に準ずる
文献
2)
より
DIP などでの尿路系の評価が必要な場合もある.所属リンパ節の評価では表在リンパ節で
は触診にて腫大の有無,可動性が判断できる.骨盤内リンパ節やその他の遠隔転移の評価
は CT や MRI,胸部単純 X 線撮影などの画像診断,鎖骨窩リンパ節などの表在リンパ節
の触診で判断する.
②治療
稀な腫瘍であることからコンセンサスを得られている標準治療はないのが現状である
が,これまでの報告では放射線治療が選択されることが多い.しかしⅠ期で病変が腟上部
に限局した症例や放射線治療後の再発症例,Ⅳa 期で膀胱腟瘻や直腸腟瘻を有する症例な
どでは手術療法の適応となることもある.Ⅰ期で手術療法を選択する場合には上部1"
3の
症例では骨盤リンパ節郭清を含めた広汎子宮全摘術(+腟全摘術)
,下部1"
3では腟全摘術
(+外陰切除術)
および鼠径リンパ節郭清術を施行するのが一般的である.化学療法につい
ては CDDP を中心に BLM,VCR,ビンブラスチン(VBL)
,MMC,メトトレキサート
(MTX)
などを組み合わせた多剤併用が報告されているが,現在のところまだ標準治療と
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
2009年 3 月
N―85
して確立されたものではない.
(2)腟上皮内腫瘍(vaginal intraepithelial neoplasia:VAIN)
VAIN は子宮頸部 の CIN と 同 様,そ の 程
子宮体部
度により3段階に分類されている.好発部位
は腟の上1"
3であるが多中心性に発生するこ
子宮 部
とが多い.CIN や外陰の VIN と互いにしば
しば合併して存在するが,その発生率は子宮
頸部,外陰に比して低い.
①診断
ほとんどが無症状であり,検診の際に 平
上皮系の異常細胞診が出ているにも関わらず
子宮頸部にはっきりとした病変を認めない時
などには腟の詳細な観察が必要である.子宮
頸部と同様の手技で,コルポスコピーで観察
(図 E81)7) 腟癌の肉眼像
し狙い組織診を施行する.ただし病変が複数
腟後壁に発生した扁平上皮癌
存在する場合が多く観察範囲も広いことから
子宮頸部よりも難しい.1カ所病変を見つけ
ても,他に病変がないか腟の全周を根気強く観察することが重要である.ルゴール液を用
いたうえでの観察(Schiller テスト)
も病変の発見に有効である.
②治療
VAIN1,
2であれば経過観察可能と考えられる.VAIN3で単発の病変であれば局所切除
可能である.広範囲(多発性)
の場合には程度に応じた腟摘出術が必要になるが,レーザー
による蒸散や5-FU 軟膏も有効とされる.ただし保存的治療の際には浸潤癌を術前に否定
することが重要である.放射線治療も症例によっては施行されるが治療後の腟の狭小化,
再発時の他の治療の困難さなど問題も多い.
《参考文献》
1.DiSaia PJ, Creasman WT. Clinical Gynecologic Oncology. 7th edition. Mosby,
2007
2.武谷雄二編.外陰・腟の悪性腫瘍.新女性医学体系38 東京:中山書店,1998
3.Balch CM, Buzaid AC, Soong SJ, Atkins MB, Cascinelli N, Coit DJ, Fleming ID,
Gershenwald JE, Houghton A Jr, Kirkwood JM, McMasters KM, Mihm MF,
Morton DJ, Reintgen DS, Ross MI, Sober A, Thompson JA, Thompson JF. Final version of the American Joint Committee on Cancer staging system for cutaneous melanoma. J Clin Oncol 2001 ; 19 : 3635―3648
4. Niikura H, Yoshida H, Ito K, Takano T, Watanabe H, Aiba S, Yaegashi N.
Paget s disease of the vulva : clinicopathologic study of type 1 cases treated
at a single institution. Int J Gynecol Cancer 2006 May-Jun ; 16 : 1212―1215
〈新倉
仁*,八重樫伸生*〉
*
Hitoshi NIIKURA, *Nobuo YAEGASHI
*
Department of Obstetrics and Gynecology, Tohoku University School of Medicine, Sendai
Key words : Vulvar cancer・Vaginal cancer ・ Paget s disease ・ Malignant melanoma ・
Condylomata acuminate
索引語:外陰癌,腟癌,パジェット病,悪性黒色腫,尖圭コンジローマ
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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