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目次~付録 - 海外職業訓練協会
まえがき 私ども(財)海外職業訓練協会(略称:OVTA)は、民間企業等が行う海外での職業訓練を 支援することを目的に設立された厚生労働省許可の公益法人です。主な事業として、民間 企業等が行う海外職業訓練の企画推進のため必要な人材の育成、外国人研修生の受入研修 に対する援助、訓練教材や技法の開発、情報の収集・提供等を行っています。 我が国においては近年、政府開発援助(ODA)予算が削減される傾向にありますが、そ の一方で我が国 ODA に対して期待する声はますます大きくなっています。そのため ODA をこれまで以上に効率的・効果的に実施することが強く求められています。また、他の援 助国・機関との援助協調を行う必要性も高まっており、ODA 施策の見直し、改善を行っ ていく必要があります。そのためにも他の援助国の ODA が我が国に比べて「効率的・効 果的な視点」に優れているかどうか、他の援助国と我が国が「どのような分野・地域で援 助協調」を行う余地があるかどうか、といったことを念頭に各国の援助施策を把握・分析 していくことが重要です。 当協会では、平成 16 年度より厚生労働省からの委託を受けて、主要先進国等における ODA、特に人材養成分野の援助政策について調査を実施しております。今年度の調査では、 アメリカ合衆国及びオーストラリアが ODA について、どのような観点から、どのような 分野を重点に、どのような手法を用いて施策を実施しているのか、また他国、他機関とど のような援助協調を行っているのかなどを調査しました。この報告書はオーストラリアに ついて取りまとめたものであり、国際協力の効果的実施や改善の参考として活用されるこ とを期待しております。 最後に、この調査に御協力を賜った関係各位に対し、厚くお礼申し上げますとともに、今 回オーストラリアの調査を担当し執筆頂いた 船場 専 氏(元セネガル職業訓練指導員養 成プロジェクト・チーフアドバイザー)に深く感謝します。 2006 年 3 月 財団法人 海外職業訓練協会 目 次 第1章 オーストラリアの オーストラリアのODAの ODAの変遷と 変遷と現状 1. オーストラリアのODAに対する国家的背景 1.1 貿易投資関連政策 1.2 軍事的介入・援助 1.3 PKO・平和構築 1.4 人的交流政策:難民・移民政策 2. 開発援助政策の政策目的、政策手段とその効果 2.1 政策目的と政策手段 2.2 政策効果 3. 実施体制 3.1 AusAIDの組織 3.2 AusAIDの使命 3.3 政策アドバイス 3.4 プログラム管理 4. 開発援助実施のステップ 5. 開発援助計画の焦点 6. AusAIDの予算執行状況 7. オーストラリアの開発援助プログラムのテーマ 7.1 自治 7.2 グローバリゼーション 7.3 人的資源 7.4 安全保障 7.5 天然資源の管理 1 1 2 2 2 3 3 3 4 4 7 8 8 8 9 10 11 15 16 17 18 18 第2章 各国に 各国に対する援助 する援助の 援助の現状 1. パプアニューギニア・太平洋 1.1 パプアニューギニア独立国 1.2 太平洋地域 (1)ソロモン諸島 (2)バヌアツ共和国 (3)フィジー諸島共和国 (4)サモア独立国 (5)ナウル共和国 (6)その他の太平洋諸島 2. 東アジア 2.1 インドネシア共和国 20 20 20 21 22 23 23 24 24 24 25 26 i 2.2 ベトナム社会主義共和国 2.3 フィリピン共和国 2.4 中華人民共和国 2.5 カンボジア王国 2.6 東ティモール民主共和国 2.7 その他の東アジア諸国 3. 南アジア、アフリカ、中近東、中央アジア 3.1 南アジア 3.2 アフリカ 3.3 中東と中央アジア (1)イラク共和国 (2)アフガニスタン・イスラム共和国 27 28 29 29 30 30 30 31 32 32 32 33 第3章 教育訓練分野への 教育訓練分野への援助 への援助プログラム 援助プログラム 1. 基礎教育 2. 職業技術教育 3. 高等教育 4. 通信教育 34 34 36 38 38 第4章 専門家の 専門家のリクルート 39 第5章 その他 その他のODA援助 ODA援助 1. 多国間援助 2. NGO援助 2.1 NGOの活動分野 2.2 NGOの活動地域 2.3 NGOの受注状況 3. 青年大使プログラム 40 40 40 41 42 44 47 第6章 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. オーストラリアにおける オーストラリアにおける人材養成 における人材養成 職業教育訓練制度の歴史 教育訓練制度 オーストラリア資格原則 資格と職務 職業教育訓練に関する主要な機関及び役割 職業教育訓練事業者 職業教育訓練受講者 49 49 52 54 55 56 56 57 第7章 我が国の援助施策との 援助施策との対比 との対比 1. 我が国が参考にすべき援助戦略・援助施策 58 58 ii 1.1 援助戦略の背景 1.2 援助戦略・援助施策 2. 援助協調の可能性にかかる提言 58 59 60 第8章 関連統計・ 関連統計・情報・ 情報・データ 1. オーストラリアの一般事情 1.1 国旗 1.2 国歌 1.3 一般事情 1.4 政治体制・行政組織 1.5 経済 1.6 二国間関係 2. 人口統計 2.1 州別人口 2.2 年齢別人口構成 2.3 言語別人口構成 2.4 産業別雇用者数 3. 労働基礎情報 3.1 労働市場 3.2 労働市場関連情報 3.3 資金 3.4 労働時間 3.5 労働組合 61 61 61 61 62 68 69 70 70 70 71 71 72 72 72 73 73 73 付録 1. 2. 3. 4. 75 77 78 80 略語一覧表 オーストラリアの国際開発協力プログラム 訪問先及び面談者 参考資料等 iii 第1章 オーストラリアの オーストラリアの ODA の変遷と 変遷と現状 1. オーストラリアの オーストラリアの ODA に対する国家的背景 する国家的背景 オーストラリアの援助は、当初安全保障を目的として開始された。第二次世界大戦 後に東南アジアで進行しつつあった共産化の流れを自国の安全保障政策上の脅威とと らえ、アジア太平洋地域の安定のために自らが主体的に関与していこうという姿勢を 示し始めていたオーストラリア政府は、開発援助を軍事政策等と並ぶ主要な外交政策 ツールとして位置付け、アジアの反共、ひいては自国の安全保障を実現する手段とし て活用し始めた。ベトナム戦争後に米国がアジアから軍事的に撤退した後は、アジア 太平洋諸国との独立した関係の構築を目指し、今日に至るまで、地理的に近接する南 太平洋諸国とアジア諸国に集中した援助となっている。1 援助の目的としては、歴史的な経緯から安全保障が一義的な目的であるが、1996 年に保守政権が発足したことにより、貧困対策を柱とした人道支援を重視した政策へ と転換してきている。その具体的な援助方針は 1997 年にオーストラリア政府が発表 した「Better Aid for a Better Future(より良い未来に向けたより良い援助) 」と題 する文書の中で述べられている。その中には重点施策として、 ① ② ③ ④ ⑤ 保健 教育訓練 インフラ整備 農村開発 自治の促進 の 5 つの項目が掲げられている。 そしてさらに、人道・貧困、歴史・文化・社会関係の維持、貿易・投資促進も援助 目的の一部を占めている。 その他の対外政策手段としては、貿易投資関連政策、軍事的介入・軍事援助、PKO (Peace Keeping Operations 国連平和維持活動) ・平和構築、人的交流を有する。オ ーストラリアの外交政策目的においては安全保障が占める比重が大きいが、開発援助 とこれらの政策手段が複合的に活用され、政策目的が追求されている。 1.1 貿易投資関連政策 オーストラリアは「輸出金融保険公社(EFIC)」による OOF (Other Official Flows その他公的資金)のスキームを有している。EFIC(Export Finance and Insurance Corporation)は中小企業を含むオーストラリア企業に対して輸出信用保険の引き受 けや輸出金融を供与している。 1竹田いさみ「オーストラリア研究紀要」第 14 号 1 オーストラリアの援助においては、経済的な利益の追求がうたわれた時期もあった が、基本的には安全保障の色彩が強く、貿易投資関連施策と援助は連携が図られると いうよりむしろ並行して進められたというのが実態に近い。 1.2 軍事的介入・ 軍事的介入・援助 冷戦期のオーストラリアにおいては、軍事政策と援助は、東南アジアにおける共産 化を阻止するための二大政策手段として位置付けられていた。人口が少なく独力で自 国を守ることが困難と考えたオーストラリアは、一方で米国と軍事同盟を締結し、米 国に追従して遠隔地の戦場に派兵することによって自国の国土に影響が及ぶのを避け つつ、他方で援助を通して自力でアジア地域に関与し、長期的視点でアジアの安全保 障の確立を目指した。近年では、1990 年 8 月 2 日のイラク軍のクウェート侵攻に端 を発した、イラク戦争に 2003 年 3 月 20 日オーストラリア軍は米英軍と共にイラクに 対する第1次攻撃に派兵している。 軍事政策と援助のいずれかが安全保障を一義的な目的とした点が特徴的である。オ ーストラリアの援助は現在でも、地理的に近い自国の安全保障上の関心度が高いアジ ア太平洋諸国が中心であり、その点で今も安全保障目的が残されているといえよう。 1.3 PKO・ PKO・平和構築 オーストラリアは国連平和維持活動にも熱心である。小規模ながら 1948 年から 10 数次にわたる PKO に参加し、1992 年のカンボジア PKO(UNTAC‐United Nations Transitional Authority in CAMBODIA 国連カンボジア暫定統治機構)で中心的役割 を果たした。オーストラリア政府は、UNTAC の活動はオーストラリアの安全保障を 改善したと考えている。 1.4 人的交流政策: 人的交流政策:難民・ 難民・移民政策 現在、オーストラリア人口の 4 分の 1 弱が海外出生者である移民・難民であり、7 人に 1 人が非英語系言語を母国語にしているといわれている。第 2 次世界大戦直後の 人口が 760 万人に過ぎなかったため、オーストラリア政府は経済復興に必要な労働力 を確保するために「大量移民政策」を導入し、以来、英語系移民に加えて、1950~60 年代は非英語系ヨーロッパ諸国、1960 年代後半は中近東諸国からの移民を受け入れて きた。従来、移民の受入れは白豪主義に基づいてヨーロッパ系に限定していたが、1960 年代後半から実質的に原則が崩れ始め、1970 年代後半のインドシナ難民の受入れによ って解体した。 1975 年のサイゴン陥落によって大量に発生したインドシナ難民の受入れにより、難 民問題が国内の政策課題に上がるようになった。当時、深刻な国内不況の中でインド シナ難民を受け入れるに至った背景には、純粋な人道主義的配慮のほかに、ベトナム 参戦への罪悪感、難民の第一次庇護地域である ASEAN 諸国(Association of Southeast Asian Nations 東南アジア諸国連合)への配慮、貿易相手として台頭しつ つあった ASEAN への配慮等が存在したとされている。インドシナ難民の受入れ問題 は ASEAN との間で大きな外交問題となったが、当時、難民問題をめぐる ASEAN 諸 2 国からの不満を回避する手段として援助が活用されたと指摘されている。 2. 開発援助政策の 開発援助政策の政策目的、 政策目的、政策手段とその 政策手段とその効果 とその効果 2.1 政策目的と 政策目的と政策手段 オーストラリアの援助は常に安全保障を主軸に置いて組立てられてきた。英連邦の 一員としてコロンボ計画で援助を本格化させたが、同じく英連邦国であるカナダが地 域を問わず英連邦諸国を支援していったのとは対照的に、英連邦諸国の中でも自国と 地理的に近く、安全保障上の関心が高い地域に集中的に援助を展開させたのが特徴的 である。南半球の大国として欧米諸国から地理的に大きく離れており、また第二次大 戦後にアジアにおける共産主義化の脅威を間近に感じた経験が、外交・安全保障面で 独自の道を歩ませたことの背景にあろう。 1980 年代半ばに入り、アジアとの関係強化を進めるようになると、中国への援助を 開始し、1990 年代に入るとベトナムを始めとするインドシナに援助を始めた。このこ ろから援助に経済的利益の誘導も期待されるようになり、援助が新たな段階に入った といえよう。冷戦後はより人道主義的な貧困削減を目的とした援助が後発途上国に配 分されるようになり、安全保障目的が若干弱まったように思えたが、近年再び、選択 と集中による成果重視の議論と相まって、地域的配分でアジア太平洋地域に集中させ ようとの方向性にある。 政策手段としての援助を振り返ると、援助は常に他の政策ツール(軍事、難民政策 等)と併用されながら、重層的に安全保障の確保やアジア諸国との関係構築のために 活用されてきた。しかし、複数の手段が併用されているがために、両者の切分けが難 しくなったり、援助政策の一貫性が欠如したりといった問題が見られた。例えば、オ ーストラリアは人権侵害等に対しては制裁的に援助を停止しているが、隣国であり安 全保障上の脅威とみなすインドネシアには一度も援助を停止していない。人道主義的 な要素は二次的な目的となり、より戦略性が前面に出たものである。このようにオー ストラリアは、意図的に援助を戦略的に活用してきたといえよう。 2.2 政策効果 オーストラリアの援助の南太平洋地域及び東南アジア地域への非常に傾斜的な地理 的な配分には、同地域に積極的に関与しようとする姿勢が明確に表れていた。その点 で援助を通した政策意図の表明は鮮やかであり、オーストラリアの意思は国内及び地 域内外で十分に伝わっているといえる。ただ、被援助額が多い東南アジア諸国にとっ てオーストラリア援助の位置付けはオーストラリア側程大きくなかったため、規模的 なインパクトは限定的であった感は否めない。しかし、金額的制約を補うために長期 的に人材を派遣することによって現地において目に見える援助を心掛ける等、金額面 だけでは計れないインパクトを持ちうることをオーストラリアの援助活動は示してい る。 オーストラリアのアジアとの関係強化は、同国が目指す域に達しているとはいまだ 3 言えない。また、アジアとの連携促進という目標達成には他の政策ツール及び民間セ クターが果すべき役割も大きく、 援助だけで目的を実現できるものではない。 しかし、 上述のように援助がオーストラリアの政策意図を明確に体現してきたことは事実であ り、その点を持って、援助が持ちうる役割を十分に果たしてきたといえよう。 3. 実施体制 オーストラリアにおける ODA の実施体制は、1974 年にそれまで各省庁の下に存在 していた援助部門を統合して、オーストラリア開発援助庁(Australian Development Assistance Agency)を設置し、実施されていたが、外務省との連携がうまくいかず 問題となり、1977 年に外務省が吸収し、その後外務省(1987 年より外務貿易省)の 外局(Australian International Development Assistance Bureau)となり実施され てきた。そして、1995 年 3 月、ODA 活動をより多くの国民に理解してもらうべく、 呼称をオーストラリア国際開発庁(Australia Agency for International Development‐ AusAID)に改めた。 前労働党政権時代には、開発協力大臣(閣外大臣)がこの AusAID を所管していた が、現政権下において同ポストは廃止されたため、現在は AusAID を外務大臣が所管 している。 3.1 AusAID AusAID の組織 AusAID はキャンベラに本部があり、23 の海外事務所を持っている。海外事務所で はオーストラリア人と現地採用のスタッフが開発途上国と他の援助国の関係機関と密 接に連携をとりながら、開発協力プログラムの実施活動をサポートしている。 定員は予算規模に基づいて毎年変動しており、2002 年 6 月現在で 511 名(オース トラリア内 449 名、在外 62 名)である。 4 Director General Pacific and PNG Corporate Governance and Revise Division Global Programs Division Asia Division 図表 1-1 AusAID 組織 Pacific and PNG Papua New Guinea Branch Pacific Branch Fragile States and IFIs Branch Health and HIV Fiji, Vanuatu and Nauru Section Fragile States and Africa Section Strategies and Program Planning Polynesia and Regional Section Development Banks Section Broad Based Growth Regional Governance Section Education and Civil Society Solomon Islands Section 図表 1-2 Pacific and PNG(Papua New Guinea) 5 Asia Division Asia Regional Branch Asia Bilateral Branch Indonesia Group North Asia Section East Timor and Philippines Section Indonesia Programs Section South Asia Section Vietnam, Laos and Mekong Section Australia Indonesia Partnership and Reconstruction and Development Asia Transboudary Section South Asia Section Cambodia and Burma Section Asia Economic Section 図表 1-3 Asia Division Global Programs Division International Branch Humanitarian Coordination and Public Affairs Branch HIV/AID Task Force Humanitarian and Emergency Section Health Population and Gender Section Iraq, Middle East and Afghanistan Section International Section Public Affairs Group 図表 1-4 Global Programs Division 6 Ministerial & Parliamentary Service Unit Corporate Governance and Review Division Office of Review and Evaluation Australian Partners Branch Resources Branch Advisory Group Program Evaluation Section Pacific and PNG Contracts Section Finance and Budget Section Principal and Senior Advisors Audit Section Asia Contracts Section Budget Unit Quality Improvement Section Corporate and Contracts Policy Section Corporate Service Section Community Programs Section Human Resources Section Scholarship Management Section Information Technology Group 図表 1-5 Corporate Governance and Review Division AusAID は、外務と商務を掌握する行政的な自治機関で、オーストラリア政府の開 発途上国への開発協力プログラムを管理している。 理事長は、開発方針と活動のすべての面に関して、直接外務大臣の監督下にあり、 外務通商省の相談役のメンバーである。 AusAID はアジア太平洋地域での開発問題に対する政府の方針を実践していくため、 他の主な政府関係機関との調整も重要な仕事となっている。 3.2 AusAID の使命 AusAID はオーストラリア政府の開発協力プログラム実施機関として、開発協力プ ログラムの展開を通じて、開発途上国の貧困を減らし、開発途上国が持続可能な発展 を成し遂げるのを支援することにより、オーストラリアの国益を進展させるという一 つの使命がある。 予算は、外務省に一括して計上されるが、援助政策の策定は、AusAID が行ってい る。2004-05 には、協力方針の策定とプログラムの運営・管理に対して、それぞれ 1,450 万ドルと 5,820 万ドルが承認されている。 7 3.3 政策アドバイス 政策アドバイス AusAID は外務大臣、通商大臣、外務担当次官に対して開発協力方針、プログラム の方向性と国際的な開発に関する助言や分析を行うことになっている。 政府がオーストラリアの国益を十分配慮した上でそれぞれのプログラムを決定する ために、タイムリーで、広範囲で、正確な開発方針のアドバイスと分析を行っている。 AusAID は、また、メディアリリース、議会質問の回答、出版物の発行等を通して、 オーストラリアのコミュニティーと議会に対し、政府に代わって国際協力の活動につ いての理解を深める役割を担っている。 3.4 プログラム管理 プログラム管理 AusAID はオーストラリア政府に代わって、オーストラリアの国際開発協力プログ ラムを管理している。具体的には、 ① プログラムとプロジェクトが政府のプライオリティーに合致し、開発途上国の 人々と政府が協力して決めたものであること。 ② 定期的なモニタリング、評価、技術的な専門知識と外部のアドバイス等を通して 優れたプロジェクトとプログラムを決定すること。 ③ 民間部門、公共部門、国際的でかつ地域に根ざした開発組織、NGO(Non Governmental Organizations 非政府組織)を含むコミュニティーグループ等と契 約を取り交わし管理すること。 その他に、AusAID の仕事として、開発協力の方法を他のドナー国と協議し、開発 の効果を上げるためにパートナー政府を選別することがある。 4. 開発援助実施の 開発援助実施のステップ オーストラリアの開発援助プロジェクトは、図表 1-6 に示す「活動サイクル」と 呼ばれるプロジェクトのライフサイクルに従って進められている。 「活動サイクル」は 5 つのステージで構成されている。 ステージ 1 :プロジェクトの確認と初期評価が行われる。この段階では AusAID の開 発援助方針と相手国政府の計画とのすり合わせが行われるが、通常は相手 国政府によりプロジェクトが確認されるにとどまる。 ステージ 2 :提案されたプロジェクトの実現可能性が調査される。プロジェクトの計 画が適切と判断されれば、詳細なプロジェクト設計が AusAID と相手国政 府によって作成され、評価の準備が進められる。 ステージ 3 :プロジェクトの設計内容、相手国政府から出されている要請書等関連の 文書の審査を AusAID が独自にチェックを行う。この段階で実施に踏み 切るかどうかの決定が行われる。 8 ステージ 4 :Memorandum of Understanding(MOU) の合意文書が交わされる。こ れ以後プロジェクトが開始され、活動が進められ、定期的にモニタリング が行われる。さらに、進捗状況を把握するために AusAID と関係者にプロ ジェクトパフォーマンスデータが提出され、評価が行われる。 ステージ 5 :プロジェクト終了段階で最終評価が行われ、実施結果のデータが集めら れ、公的資金の支出が適切であったかが判断される。実施結果から得られ たものは将来のプロジェクトにフィードバックされ、生かされることにな る。 開発援助政策 国策の成文化 プロジェクト終了と 最終評価 プロジェクトの確認と 初期評価 プロジェクトの実施と モニタリング プロジェクトの 詳細準備 プロジェクトの決定 図表 1-6 活動サイクル 5. 開発援助計画の 開発援助計画の焦点 オーストラリアの開発援助は基本的には周辺国の安定と自治の促進を目指しており、 その実現のために保健衛生、教育訓練、インフラ整備といったものから人道支援、軍 事援助に至る幅広い活動を行っている。 援助対象国は地域的な観点から南太平洋諸国とアジア諸国に焦点を合わせ、自国の 安全保障の確保に努めている。 9 各国への援助額は全体的に増額しているが、特にパプアニューギニアとインドネシ アへの援助はかなりの増額となっている。東アジア、南アジアへはこれまで同様のレ ベルとなっている。アフリカに対してはオーストラリアの援助の足跡を残す程度の小 規模のものにとどまっており、オーストラリアの ODA 戦略が明確に見て取れる。 6. AusAID の予算執行状況 2000-01 年からの各年度の AusAID の予算執行状況は図表 1-7 のとおりで、予算 規模は少しずつではあるが伸びを示している。 2003-04 年度、アジア開発基金(ADF) 、国際開発協会(IDA) 、国際農業開発基金 (IFAD)等の多国間支援への支出がゼロというのが目に付くが、もともと、この項 目は変動の多い項目でもあるようだ。 図表 1-7 AusAID の予算執行状況 (百万ドル) 2000-01 2001-02 2002-03 2003-04 AusAID 開発援助 地域別援助プログラム パプアニューギニア・太平洋州 東アジア 南アジア・アフリカ・その他 小計 世界的プログラム 人道支援・緊急・難民プログラム 多国間支援(ADF,IDA,IFAD 等) 国連等国際組織 NGO、ボランティア、コミュニティープログラム 小計 管理運営費 国際農業調査センター 他省庁 その他(調整費) 小計 NGO・ボランティア 二国間プロジェクト援助 地域プログラム 人道支援・緊急援助 ボランティアプログラム AusAID/NGO 協力プログラム NGO のその他の基金 小計 合計 10 439.3 363.7 104.4 907.4 464.0 359.9 114.4 938.3 478.2 371.6 113.9 963.6 528.0 370.8 110.6 1009.5 88.2 313.8 110.8 48.3 561.1 67.6 45.0 151.2 91.2 13.7 110.1 48.7 263.7 68.7 46.3 207.3 151.6 442.4 101.7 748 748 70.6 46.5 219.0 154.6 0.0 88.9 296.5 296.5 72.2 46.6 302.0 -109.0 230.9 -217.0 295.4 154.8 553.2 119.1 716.2 47.7 8.7 23.5 17.8 25.5 0.5 38.1 10.3 18.8 18.6 25.3 1.3 26.4 7.1 25.5 21.0 25.3 4.8 26.4 7.1 25.5 21.6 25.4 4.8 123.7 1,747 112.4 1,868 110.1 1,941 110.8 2,133 7. オーストラリアの オーストラリアの開発援助プログラム 開発援助プログラムの プログラムのテーマ 発展途上国が貧困を減らして、着実に発展を成し遂げられるように手助けするため に、オーストラリアは 5 つのテーマを設定している。 ① 自治: 民主主義が支配する政府と効果的管理を促進すること。 ② グローバリゼーション: 開発途上国が貿易、投資、新しい情報技術から恩恵を最大限に享受できるよ うに支援すること。 ③ 人的資源: 教育、保健、水等の基本的サービス、デリバリーの提供によって、開発途上 国の人材を育成し、 生産性の向上と貧困層の選択肢の増大及び社会への参加を促 進させること。 ④ 安全保障: 貧困は紛争のリスクを高め、紛争は貧困の原因となりうる。パートナー政府 の紛争回避能力を高めることにより、 地域の安全を強め、 安定性を強化すること。 ⑤ 天然資源の管理: 環境の管理と限りある資源の効果的な利用と持続可能な取り組みを進めるこ と。 これらのテーマに従った各プロジェクト等のために、2004-05 年、オーストラリア 政府は政府開発援助(ODA)として約 21 億 3,300 万ドルを支出している。2003-04 年の 18 億 9,400 万ドルより 2 億 3,900 万ドル増加しており、12.6%の増加というこ とになっている。 図表 1-8 に 1995 年から 2004 年までの DAC(The Development Assistance Committee 開発支援委員会)各国の ODA 額の推移が示されている。先進国の ODA は 1980 年代前半までは米国が圧倒的にリードしていたが、80 年代後半からかつての 被援助国であった日本が援助国へと華麗な変身を遂げ、90 年代に入ると冷戦後の国際 政治環境の変化、すなわち対共産圏対策をにらんだ援助競争の終焉、及び欧米各国の 高齢化などに伴う財政難の中で、米国、あるいは欧州各国の援助実績が落ち込み、日 本が世界一の援助国として台頭した。 日本は 1993 年から 2000 年までの間 ODA のトップの座を保っていた。近年は、米 国が再度 ODA を回復させ、 一方日本は厳しい財政難を背景に ODA を抑制しており、 米国に大きく水をあけられる格好となっている。 11 図表 1-8 DAC 諸国の ODA 額の推移 (百万ドル) 1995 1996 1997 2003 2004 1,194 1,074 1,061 960 982 987 873 989 1,219 1,465 767 557 527 456 527 423 533 520 505 691 ベルギー 1,034 913 764 883 760 820 867 1,072 1,853 1,452 カナダ 2,067 1,795 2,045 1,707 1,706 1,744 1,533 2,004 2,031 2,537 デンマーク 1,623 1,772 1,637 1,704 1,733 1,664 1,634 1,643 1,748 2,025 フィンランド 388 408 379 396 416 371 389 462 558 655 フランス 8,443 7,451 6,307 5,742 5,639 4,105 4,198 5,486 7,253 8,475 ドイツ 7,524 7,601 5,857 5,581 5,515 5,030 4,990 5,324 6,784 7,497 184 173 179 194 226 202 276 362 464 153 179 187 199 245 235 287 398 504 586 イタリア 1,623 2,416 1,266 2,278 1,806 1,376 1,627 2,332 2,433 2,484 日本 14,489 9,439 9,358 10,640 15,323 13,508 9,847 9,283 8,880 8,859 65 82 95 112 119 127 141 147 194 241 3,226 3,246 2,947 3,042 3,134 3,135 3,172 3,338 3,981 4,235 123 122 154 130 134 113 112 122 165 210 ノルウェー 1,244 1,311 1,306 1,321 1,370 1,264 1,346 1,696 2,042 2,200 ポルトガル 258 218 250 259 276 271 268 323 320 1,028 スペイン 1,348 1,251 1,234 1,376 1,363 1,195 1,737 1,712 1,961 2,547 スウェーデン 1,704 1,999 1,731 1,573 1,630 1,799 1,666 2,012 2,400 2,704 スイス 1,084 1,026 911 898 984 890 908 939 1,299 1,379 英国 3,202 3,199 3,433 3,864 3,426 4,501 4,579 4,924 6,282 7,836 米国 7,367 9,377 6,878 8,786 9,145 9,955 11,429 13,290 16,320 18,999 オーストラリア オーストリア ギリシャ アイルランド ルクセンブルグ オランダ ニュージーランド Total DAC 1998 1999 2000 2001 2002 58,926 55,622 48,497 52,084 56,428 53,737 52,337 58,292 69,094 78,568 出典: OECD-DAC (注)2004 年は速報値 図表 1-9、1-10 には DAC 各国の 2002 年、2003 年の ODA 額と対 GNI(Gross National Income:総国民所得)比のランキングが示されている。最新版の 2004 年の ものは見つけることができなかったが、2004-05 におけるオーストラリアの対 GNI 比は 0.26%となっていて、これは、近年(2003 年)のドナー平均 0.25%を上回るも のとなっている。 12 図表 1-9 DAC 各国の ODA ランキング 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 米国 日本 フランス ドイツ 英国 オランダ イタリア スウェーデン ノルウェー カナダ スペイン ベルギー デンマーク スイス オーストラリア フィンランド オーストリア アイルランド ギリシャ ポルトガル ルクセンブルグ ニュージーランド Total DAC Total G7 2002 2003 ODA ODA/GNI ODA ODA/GNI (百万ドル) % (百万ドル) % 13,290 0.13 16,254 0.15 9,283 0.23 8,880 0.2 5,486 0.38 7,253 0.41 5,324 0.27 6,784 0.28 4,924 0.31 6,282 0.34 3,338 0.81 3,981 0.8 2,332 0.2 2,433 0.17 2,012 0.84 2,400 0.79 1,696 0.89 2,042 0.92 2,004 0.28 2,031 0.24 1,712 0.26 1,961 0.23 1,072 0.43 1,853 0.6 1,643 0.96 1,748 0.84 939 0.32 1,299 0.39 989 0.26 1,219 0.25 462 0.35 558 0.35 520 0.26 505 0.2 398 0.4 504 0.39 276 0.21 362 0.21 323 0.27 320 0.22 147 0.77 194 0.81 122 0.22 165 0.23 58,292 0.23 69,029 0.25 42,644 0.2 出典: OECD-DAC 13 49,917 0.21 図表 1-10 DAC 各国の ODA 対 GNI 比ランキング ノルウェー 1 デンマーク 2 3 ルクセンブルグ オランダ 4 スウェーデン 5 ベルギー 6 フランス 7 スイス 8 アイルランド 9 フィンランド 10 英国 11 ドイツ 12 13 オーストラリア カナダ 14 スペイン 15 16 ニュージーランド ポルトガル 17 ギリシャ 18 日本 19 オーストリア 20 イタリア 21 米国 22 Total DAC Total G7 2002 2003 ODA ODA ODA/GNI ODA/GNI (百万ドル) % (百万ドル) % 1,696 0.89 2,042 0.92 1,643 0.96 1,748 0.84 147 0.77 194 0.81 3,338 0.81 3,981 0.8 2,012 0.84 2,400 0.79 1,072 0.43 1,853 0.6 5,486 0.38 7,253 0.41 939 0.32 1,299 0.39 398 0.4 504 0.39 462 0.35 558 0.35 4,924 0.31 6,282 0.34 5,324 0.27 6,784 0.28 989 0.26 1,219 0.25 2,004 0.28 2,031 0.24 1,712 0.26 1,961 0.23 122 0.22 165 0.23 323 0.27 320 0.22 276 0.21 362 0.21 9,283 0.23 8,880 0.2 520 0.26 505 0.2 2,332 0.2 2,433 0.17 13,290 0.13 16,254 0.15 58,292 0.23 69,029 0.25 42,644 0.2 49,917 0.21 出典: OECD-DAC 2004-05 年の開発援助計画を見てみると、援助対象地域及び重点施策のカテゴリー 別の比率は次に掲げる図表 1-11 のようになっている。 14 (a)援助対象地域 (b)重点施策のカテゴリー別 図表 1-11 2004-05 年の開発計画 7.1 自 治 開発途上国における自治の促進は最優先事項であり、オーストラリア政府としては これまでもこの点に力を入れてきたところである。1999-2000 年にはオーストラリア 15 の ODA 総額の 15%であったものを 2004-2005 年は 33%、6 億 7400 万ドルまでに引 き上げている。 そのほかに間接的にではあるが、2 億 6500 万ドルが支出されている。 図表 1-12 自治への 5 つの重要な柱 <主なプロジェクト> ● Australia-East Timor Capacity Building Facility ● Capacity Building for Effective Governance Facility (CEG) ● China-Australia Human Rights ● Legal Sector Strengthening Program 7.2 グローバリゼーション 途上国において貿易や投資を避けて貧困を減少させることや成長を維持することは できない、との観点から開発途上国の経済のグローバル化を推進している。 具体的には、開発援助プログラムをとおして、開発途上国が周辺地域のみならず世 界に対して商取引のできる環境づくりを支援している。その一方、交渉テクニックの アドバイス、港湾、カスタム、検疫システムなどの改善、取引の促進についても支援 を行っている。また、開発途上国の経済が自由貿易により、利益を最大限に得られる よう手助けをしている。オーストラリア自身開発途上国に対して、市場を開放するた めに OECD 諸国の中で最も低い関税率を採用している。 <主なプロジェクト> ● ASEAN Australia Development Cooperation Program 16 7.3 人的資源 経済成長のためにはマンパワーは欠かすことのできない大きな要素であり、良質の マンパワーが経済の成長を左右することになる。開発途上国における人材の多くは教 育を受ける機会に恵まれないため、経済及び社会活動の基礎となる知識が不足してい る。そのため開発途上国への援助には教育は欠かすことのできない重要な要素である。 病気の予防や、社会や経済活動に参加するための教育を受けることにより、国全体の 成長が期待できる。健康で教育訓練を十分に受けた人材が増えれば、世界を相手に経 済面での拡大も期待できる。 2004-05 年、オーストラリアは 2 億 9,000 万ドルを教育訓練に、2 億 4,200 万ドル を保健に割り当てている。 ● ● ● ● ● ● ● <主なプロジェクト> CEP Micro finance Expansion Project Cuu Long Delta Rural Water Supply and Sanitation Project Food Aid to Bangladesh Gangtok-Shillong and South Asia Regional Water and Sanitation Program HIV/AIDS Prevention and Care Project-China HIV/AIDS Prevention and Care Project Phase 2-Indonesia Kiribati Education Sector Program 図表 1-13 健康分野の ODA 支出比率 17 図表 1-14 教育分野の ODA 支出比率 7.4 安全保障 基礎的な警備は経済及び社会発展に大いに寄与するものと考えられている。そのた め、オーストラリア政府はオーストラリア連邦警察などの他の機関と連携して開発途 上国の治安の維持に取り組んでおり、毎年 1,700 万ドルをかけて太平洋諸国から 900 人の警察官を招聘して訓練を行っている。また、地域の犯罪や腐敗の防止に対しての サポートも行っている。 <主なプロジェクト> ● Cambodia Criminal Justice Assistance Project ● Coastal Trunk Road Maintenance Project 7.5 天然資源の 天然資源の管理 世界の貧しい者の 3 分の 2 以上は食料と日常生活を農業と天然資源に頼っている。 そのため、開発途上国が自ら環境の維持管理を行い、乏しい天然資源を有効利用して いくための提言を続けて行っている。カンボジアでは地方の貧しい人たちの収入を増 やすため、農業研究を推進し、精米・生産技術を向上させ、農業の拡大・強化に努め ている。 バングラデシュ、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー、タイにおいては飲 料水としての地下水にひ素が含まれていることが問題となっている。これらのひ素は 製造工場や採掘の結果として作り出されたもので、オーストラリア政府として飲料水 に対する暫定的なガイドラインを作成し、ひ素管理方法の指導を行っている。 オーストラリアはこれら環境改善のために 2004-05 年には 2 億 8,000 万ドルを費や 18 している。 <主なプロジェクト> ● Agriculture Quality Improvement ● Forest Genetic Resources ● Persistent Organic Pollutants ● Quang Ngai Disaster Mitigation Project ● Unexploded Ordnance Clearance and Community Development ● Yangtze River Flood Control and Management Project 図表 1-15 オーストラリアの開発援助国 出典:AusAID 19 第2章 各国に 各国に対する援助 する援助の 援助の現状 1. パプアニューギニア・ パプアニューギニア・太平洋 1.1 パプアニューギニア独立国 パプアニューギニア独立国 ODA 総額 435.6 百万ドル オーストラリアの援助対象国の中ではパプアニューギニアの安全と繁栄を図ること が非常に高い優先順位となっている。 パプアニューギニアに対する ODA の総額は 2004-05 年においては 27%の増加とな っており、この増額によりパプアニューギニアの援助強化プログラムが再開されるこ ととなった。 現在、パプアニューギニアは 700 を超える、社会的グループと経済的グループとに 大きく分散し、社会、経済の両面に大きな問題を抱えている。 パプアニューギニアの経済はわずかなガス、鉱物、木材といった天然資源に頼って いる状況である。孤立した地域では不健康で文盲率が高く、都市部では深刻な治安問 題を抱えている。エイズの感染率も増加し深刻さを一段と深めている。パプアニュー ギニア政府、オーストラリアをはじめとする援助国の努力にもかかわらずあまり進展 が見られていない。 図表 2-1 開発援助分野・比率 特に、オーストラリアはパプアニューギニアと一体となって、HIV/AIDS の感染の 拡大を防ぐとともに撲滅に努めている。病気の蔓延はパプアニューギニアの開発に対 して脅威ともいうべきものである。現在、パプアニューギニアは太平洋地域では最も 感染率の高い国となっている。注目すべきこととして、2020 年までに労働人口の3分 の1が減少するという調査結果が出されている。 20 人 19 91 年 19 92 19 年 93 年 19 94 年 19 95 19 年 96 年 19 97 年 19 98 19 年 99 年 20 00 年 20 01 20 年 02 年 20 03 年 9000 8000 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 図表 2-2 HIV/AIDS 感染の推移 そのため、オーストラリアはこの 5 年間で 6,000 万ドルをかけて HIV/AIDS 撲滅の ためにパプアニューギニアに支援を行ってきた。 1.2 太平洋地域 ODA 総額 383.1 百万ドル 太平洋地域は様々な国で構成されているが、孤立、資源不足、貧弱なインフラ、急 激な人口増加、熟練労働者の不足、都市化等の似通った問題に直面している。また、 国際的な貿易の増加に伴う経済的な恩恵を得ることが困難な環境にもある。 RAMSI(Regional Assistance Mission to Solomon Islands ソロモン諸島地域支援 団)におけるオーストラリアの役割はより良い経済管理のための支援拡大、国内及び国 境の安全、紛争防止及び解決への体制整備、治安維持等に大いに効果を上げている。し かし、太平洋地域でのこのような広範囲なものの改革には長い年月が必要である。大き な変化を求める場合、援助する側とされる側の両者にとって根気よく継続していくこと が大切である。太平洋地域での政府と個人とでは発展的な改革の見方は異なったもので ある。また、進歩の過程は山あり谷ありで一定のものではなく、急激な反転も時として 起こる。 太平洋地域に対する各国への援助は図表 2-3 のとおりである。 21 図表 2-3 太平洋地域への援助 (1)ソロモン諸島 ODA 総額 201.6 百万ドル オーストラリアとソロモン諸島の取り決めは、太平洋諸島の援助をより実践的なも のにすることへのはじまりであった。 ソロモン諸島は、民族の緊張と 2000 年のクーデターの後、いろいろな形での紛争 に耐えてきた。2003 年前半までは、強要とあからさまな横領が国中にはびこり、無法 状態が続いていた。 その上、政府の管理体制が崩壊していて、経済や基本的な福祉サービスの提供など はとても期待できない状況であった。このような困難な環境下にあって、ソロモン諸 島のアラン首相は、オーストラリアや太平洋諸島のパートナーからの支援を要請し、 2003 年 7 月 24 日 RAMSI が設立された。RAMSI の目的は物理的な、そして経済的 な安定とソロモン諸島の政府の基本的機能を再構築することであった。これら再構築 への取組みはかなりの効果を示しており、基本的な法と秩序の再構築、政府予算を安 定させることにつながっている。RAMSI は、オーストラリア開発援助プログラムの 下、特に、司法の分野、経済再構築のための支援、平和構築、コミュニティー開発、 公共医療等の拡大した活動をこなしている。 2004-05 年、RAMSI はソロモン諸島が包括的な改革政策を実行するのを集中して 支援することにしている。 改革のためのプライオリティーは、 まず経済の自治であり、 次に、政府の機構を立て直して法律及び司法のセクターを強化することである。 22 (2)バヌアツ共和国 ODA 総額 30.9 百万ドル バヌアツに対する開発援助は、2004-05 年には貧困と潜在する不安定な問題に対応 していくために 820 万ドルまで予算が増額された。オーストラリア開発援助プログラ ムは、自治の改革や広範囲な分野にわたる生産性の向上及びサービスの提供などをと おして、経済開発を促進し、人々の福祉の向上を図りバヌアツの長期安定を支援する ことである。 UNDP の調査によると、バヌアツでは人口の約 40%に当たる人たちが貧困にあえ いでおり、太平洋州で三番目に貧しい国である。法と秩序の乱れと経済の低下後、バ ヌアツは、その社会的・経済的な立場を安定させることに若干の前進をみることがで きた。しかし、バヌアツは今、成長を継続できるか、更なる低下を迎えるかの分岐点 に差し掛かっている。比較的弱体な自治構造と急速な人口増加とが相まって、オース トラリアのような援助国からの支援がなければ、貧困からの脱出の可能性はほとんど ない状況である。 急速な成長と若い人口(24 歳未満の若者は全人口の 60%に当たる)によって引き 起こされる、肥大した支出、特に教育と公共医療サービスへの支出は、経済及び政府 の予算に対して、さらに強い圧迫を加えている。 新しい国家開発戦略の下、オーストラリアは、キーとなる組織(警察及び司法のシ ステムを含む)の管理を改善するために、バヌアツと一緒になって、法律と司法セク ター、及び投資と経済成長に貢献できる環境をより強固に、より責任を持てるように するために努めている。 基本的な福祉の提供を改善するために、オーストラリアは、長期の保健と教育のプ ログラムを含め、中央政府と州政府間の連携を強化する改革を支援している。 (3)フィジー諸島共和国 ODA 総額 25.1 百万ドル フィジーに対するオーストラリアの開発援助は、2004-05 年に 510 万ドルが計上さ れ、フィジー政府が力を入れている自治の向上、貧困の撲滅、安定の促進のために支 援が行われている。 UNDP は、フィジーの人口の約 40%から 50%が貧しく、2000 年 5 月以来、政治 的に不安定であることが弱者グループの貧困を加速していると推測している。 オーストラリア開発援助プログラムは、フィジー政府が独自に作成した開発優先事 項を推奨し、法律と司法組織の強化、保健と教育の促進を図ることを中心に実施して いる。 法律と司法部門では、オーストラリアは計画を改善し、警察と司法と刑務所間の交 流を促進できるように統合を行ってきた。 この援助は、また、犯罪を調査し、防止するための警察能力を強化するためのもの 23 でもあり、訴訟手続き、審判、社会復帰の向上、コミュニティーの安全を強化するこ とに向けられている。 また、オーストラリアは長期開発援助プログラムをとおして、農村地域にも基本的 な福祉を確立するために、改革と支援を行い、同時に保健と教育の改善に直接支援を 継続していくこととしている。 (4)サモア独立国 ODA 総額 18.4 百万ドル サモアへのオーストラリアの援助は、自治及び福祉を中心に実施している。 プライオリティーは、公的な部門で進行中の改革をサポートし、サモア人の警察力 を強化することを含む基本的な福祉サービスの効果的な提供を確保することにある。 サモアの国境区域でのセキュリティーと防護手段は既に改善がなされている。 (5)ナウル共和国 ODA 総額 17.5 百万ドル ナウルは、資源の枯渇と大きな財政支出を抱え、大変厳しい状況に直面している。 2004 年 3 月 に オ ー ス ト ラ リ ア と ナ ウ ル 政 府 は 、 MOU(Memorandum of Understanding) でナウル沖合の処理センターの管理に関する覚書にサインし、オー ストラリアはナウルの経済と開発問題解決を支援するために、有効な開発戦略を計画 した。 オーストラリアは開発援助プログラムを通じて、2004-05 年には追加予算として 1350 万ドルを提供し、安定したナウルの経済と法と秩序の強化を図った。 そのほかにナウル警察官の能力向上のための訓練、マネージメントの向上、重要な 電力、水、港のインフラ整備と保健と、教育を含む基本的な福祉の充実を支援してい る。 (6)その他の太平洋諸島 トンガに対し、公共部門の経済改革と保健と教育プログラムの支援を継続して行っ ている。 クックアイランドでは、2004 年 7 月にオーストラリアとニュージーランドとの共 同パイロットプロジェクトが開始された。 オーストラリア、ニュージーランド、キリバスは、広い分野へのアプローチを考え ていてその一つとして、共同で教育部門のアセスメントに着手した。 ツバルに対しては、オーストラリアが信託基金の運用を手助けしている。また、教 育部門では活動基金の支援を行っている。 ミクロネシア連邦の国境警護を目的とした援助を実施し、援助スキームの中に奨学 金制度があり、マーシャル諸島、パラオ、トケラウの人たちにも与えられている。 24 2. 東アジア ODA 総額 493.4 百万ドル 東アジア地域は、SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome 重症急性呼吸器症 候群)及び鳥インフルエンザの被害から回復し、経済成長率が約 6%に達すると世界 銀行により見積もられており、東アジアでの経済活動が再び強くなることが期待され ている。東アジアの長期回復の主な要因は、アメリカ及び日本からアジア地域への投 資が増大したことと、中国の強い成長により東アジア諸国からの輸入が増大したこと によるものである。 ローカル経済にとって、収益性、資本流入、銀行貸出の増加といったより良い国内 投資条件が整い、また、金融市場は高止まっていた。 経済成長の結果として、地域全体の貧困の度合いは減少したが、貧困が、さらに、 農村地域、少数民族及び社会的に弱いグループに集中されるので、現在のレベル(世 界銀行によると約 6 億 8,000 万人 )から貧困の絶対数の減少は困難である。 域内の国のために、2004 年のプライオリティーは、成長を遅らせずに長期の公債を 管理することを意図した慎重なマクロ経済方針を実施することである。金融と企業部 門の改革及び改善された法律の枠組みは、投資にとって重要な要素となっている。 近年ますます大きくなった課題としては、多くの国がテロ対策と安全に力を入れる 必要が出てきたことである。 図表 2-4 東アジア各国への援助 東アジア地域への開発援助プログラムは、最優先課題である経済問題に取り組み、 国境を越えた売買の自由化、伝染性病の広がりを防止することである。 25 2004-05 年のプロジェクトへの基金は APEC(Asia Pacific Economic Cooperation アジア太平洋経済協力)フォーラムと ASEAN 協会への支援が含まれているが、総計 で 3,210 万ドルになる。 オーストラリアは、テロ対策に取り組むために、APEC の活動をサポートし、地域 貿易と金融セキュリティー資金のために、150 万ドルを贈与している。 この資金(アジア開発銀行により管理された)は、特に港湾の安全対策費として、 APEC 開発途上国を組み込んだ、資金洗浄とテロリストの金融と戦うカウンターテロ 対策に投資をしている。 また、地域の全域で関税手続きの自由化と調和を促進するために、APEC 開発援助 プログラムを通して資金の提供も行っている。 アジア太平洋において、密売をやめさせる運動に賛同して、移住のための国際組織 に出資し、ラオス、カンボジア、ミャンマー及びタイの政府が密売取引の犠牲者をオ ーストラリアを含む地域社会へ移住・定着させることを目指している。 東アジア地域開発援助プログラムは、売春婦とそのクライアント及び麻薬常用者間 の取引の防止を達成目標として掲げており、ベトナム、ミャンマー及び南中国の HIV/AIDS の広がりにも取り組んでいる。 地域内の新たな方針(植物と動物のための検疫方法を強化するための新しい 350 万 ドルプログラムを含む)は、ASEAN 国の国境警備を改善することである。 2004-05 年で、オーストラリアはアジア太平洋地域で伝染病(例えば鳥インフルエ ンザ)の蔓延を止めるための研究を支援し、2004 年 1 月、鳥インフルエンザのはや っている地域を強化するために 100 万ドルを世界保健機構(WHO)に献金すること を発表した。 2.1 インドネシア共和国 インドネシア共和国 ODA 総額 160.8 百万ドル インドネシアに対する開発援助は種々雑多であるが、マクロ経済学的な指標は、概 して、有望で安定している。2003 年末から更なる国際通貨基金の特別な資金調達を求 めないというインドネシア政府の決定は、金融市場とドナー国によって大いに受け入 れられた。2004 年 4 月 5 日の立法上の選挙は、自由に、公正に、そして、平和裏に 行われた。 しかし、非常に大きな課題がまだ残されている。インドネシアの経済成長率は依然 として低く、4%をわずかに超える程度で、いまだに貧困とされるレベルにある。 インドネシアの人口 2 億 2,000 万人の過半数が、世界銀行により定義されている貧 困層に属している。 紛争は、まだ国(アチェ特別州の特に最北の行政区)のいくつかの地域に強い影響 を及ぼしている。その上、インドネシア警察の効果的な行動にもかかわらず、テロの 脅威はまだなくなっていない。 インドネシアに対する開発援助プログラムはパプアニューギニアの規模に次ぐ大き 26 なものになっている。 2003 年にオーストラリアとインドネシアとで合意した開発援助の目的は、経済と財 政的な管理を強化することになっており、民主主義の社会制度を定着させることを助 け、安定性と治安を促進し、特に貧困な東部地方で、政府が良質のサービスを提供す ること、アクセスしやすさを改善することにある。 2004-05 年には最高裁判所、人権委員会と最高監査委員会のほか、主な機関(例え ばインドネシアの負債管理、国営銀行監視機構、大型納税者事務所)の経済、財政管 理、民主主義の開発によりレベルアップした援助を行った。 検討中の新しい援助の領域は、財務省の再構築、新設の反汚職委員会へのアドバイ スと検察官のための拡大されたトレーニングとなっている。 2004 年 7 月 5 日の大統領選挙(大統領職のためのインドネシアで初めての直接選 挙)では、オーストラリア選挙委員会と他のチャンネルをとおして、かなりの支援を 行った。 労働に結びついた基礎的な教育は、人々に経済と社会が必要としている技能と知識 を付与することが可能であり、幅広い分野での経済成長に役立つことを確信している。 オーストラリアは、インドネシアとフィリピンに基礎教育の援助を拡大している。現 在までに援助した基礎的教育施設は、インドネシア全土の約 4,500 万人の学生を収容 することが可能であるが、引き続き拡大する方向で 2004-05 年にも行われている。イ スラム学校のための新しい学習援助プログラムは、先生の能力・技術をグレードアッ プし、学校の運営管理を改善した。 衛生面の協力では、HIV/AIDS の防止と処置のための援助プログラムを WHO(世 界保健機構)と協力して、インドネシアがこの問題に対処するのを支援するために設 置し、インドネシア厚生省が力を入れている伝染病の監視とコントロールする能力の 育成に援助している。 2004-05 年から開始された、東部インドネシアへの援助は、東 Nusa Tenggara の選 ばれた地区で自治能力を育て、地方の収入の拡大を図り、地方の福祉、特に保健と教 育を改善することを目的としている。 オーストラリア(1990 年代後期の経済危機からインドネシアへの人道的な援助の主 なドナーである)は、人道的な危機を防ぎ、軽減するように使命を受けた国家的及び 国際的な機関に対して支援している。 いくつかの国際機関が徐々にインドネシアから撤退していく中、紛争のきっかけを いち早く見つけてそれを緩和し、すばやく効果的に災害に対応できる国家を作り上げ る目的で、オーストラリアは主な人道的機関との戦略的な協力を長期的に実施してい くことにしている。 2.2 ベトナム社会主義共和国 ベトナム社会主義共和国 ODA 総額 73.7 百万ドル ベトナムは 1986 年のドイモイ(革新)改革政策が開始されて以後、目覚しい経済 27 発展を遂げた。しかし、国際的な調査によると 7,800 万人のうち 2,600 万人、人口の およそ 3 分の 1 がまだ貧困とされている。 新たな国策の下でのオーストラリアとベトナムとの開発援助プログラムは、競争力 を持った市場経済のための機関の強化と、メコンデルタ地帯及びセントラルコースト 地方の貧しい農村部の生産性向上と市場との連携を保つことが目的である。 継続中のプログラムがいくつかのベトナムの政府機関をサポートしている間に、地 域経済統合の利点を最大化するのに役立つようにベトナムの民間部門の発展を支持す るための新たな方針が 2004-05 年に作成された。 農業と農村の開発における新しい協力は、ベトナムとオーストラリアの研究機関と の間で長期のパートナーシップを組んで、ベトナムの農業と関連する企業の生産性と 競争力を強化することである。 オーストラリアの NGO は、水と公衆衛生、そして、災害管理において新しい活動 に資金を支援している。 2.3 フィリピン共和国 フィリピン共和国 ODA 総額 62.2 百万ドル フィリピンは、他の東アジアや東南アジアにおいて貧困が減少しているにもかかわ らず、過去 30 年間にわたる経済の停滞により、ただ一人取り残されてしまった感が ある。 さらに、もう一つの課題は南フィリピンにおいて政情不安が進行していることであ る。このことが、この地域での経済発展に悪い影響を与えている。 オーストラリア開発支援プログラムはフィリピンでの開発計画を修正し、2004-05 年に新たな戦略の実施に着手した。 その戦略は、 ① グローバルな経済成長のための環境作りを担当する省の経済自治の向上 ② テロ対策能力の向上とミンダナオ和平交渉に対する支持をとおして保安と安定性 を強化 ③ フィリピン南部の貧しい人たちの生活水準の向上 の 3 つの目的を持っている。 オーストラリアは自治機能の向上に向けて、出入国管理能力の強化、テロを防止す る輸送と法の執行機関、ミンダナオ和平プロセスを支持する多国籍機関と地域活動グ ループへの追加支援などの新たな計画を開始した。 ミン ダ ナオ のため の基 礎教育支援 プロ ジェク ト ( BEAM ‐Basic Education 28 Assistance to Mindanao)は、政府とイスラム学校での教育と学習の質を改善して、 孤立して恵まれない子供たちが容易に教育を受けることができる環境作りに努力して いる。 BEAM の第二段階は、数学、科学と英語に集中するように開発され、そして今、政 府公認を求めているイスラム学校をターゲットとする追加援助が検討段階にある。 この新しい企画は、必須の国家標準までイスラム学校のカリキュラムと教員の質を 引き上げる目的で、選定された Madaris 地方で実施した。 また、ヴィサヤ地方の 2 つの行政区で、正規教育と非正規教育両者のどちらへもア クセスできるように改善するために援助を検討している。 この援助は、良質な教育を得ることや実践的な技能を身に付けさせるために、子供 たちと若者に利用できるものを考えている。 特に、UNICEF(United Nations Children’s Fund 国際連合児童基金)と共同で、 学校からドロップアウトした者を対象とし、これらの子供をフォーマルな学校システ ムに戻すか、あるいはミンダナオ島とヴィサヤでの教育、保健、児童保護を目指して、 子供のためのコミュニティーを支援する国のプログラムへの投資を続けるかを検討し ているところである。 2.4 中華人民共和国 ODA 総額 49.3 百万ドル 中国は、2010 年までにアジア地域における貿易のリーダシップを日本に取って代わ ると予言されている。 しかしながら、推定人口 20 億の中国は、いまだに世界銀行より貧困といわれるラ インを下回っているが、急激な中国の経済成長は貧困を減少させるのには役立ってい る。しかし、この急激な変化により、中国では環境破壊や収入と成長のギャップが拡 大するおそれがあり、改革をとおして経済成長のバランスを取ろうとしている。これ らの改革は、農家の収入の増加、西中国に見合った開発、東北中国の復活を意図して いる。 2004-05 年にレビューされた中国に対する援助方針の下で、オーストラリアは、ア ジア地域の貿易と投資を強化するための能力形成を含む、自治の向上と政策改革を進 めている中国を支援している。 オーストラリアは、財政改革、技術及び職業教育システムの改善をすすめ、 HIV/AIDS 感染を減らすことのために、選抜された西方の州の保健システムを強化す るなど教育訓練、保健、環境管理、及び地域のセキュリティーと治安維持のための支 援を中心に実施している。また、人権技術協力プログラムを支持しており、人権の改 善への実際的なアプローチに関して 2 ヵ国の間で対話を続けている。 2.5 カンボジア王国 カンボジア王国 ODA 総額 41.4 百万ドル カンボジアは長年の破壊的な紛争の後、最後の 10 年で国家和解、平和と安定に対 29 する重要な措置を講じた。カンボジアの発展を阻んでいるものは、野放しの腐敗と行 政事務及び司法組織を含む公共機関の弱さである。 オーストラリアの戦略は、法の支配の強化、生産性の向上、貧しい農民の収入を増 やす、天災に対する貧しい者の脆弱さを軽減するという 4 項目であった。 カンボジアの将来の繁栄に市場と取引の重要性を認識した上で、 オーストラリアは、 カンボジアの農業の輸出ポテンシャルを高めて、Private Sector Forum Coordinating Bureau に支援を拡大するために、新しい企画を模索している。 2.6 東ティモール民主共和国 ティモール民主共和国 ODA 総額 39.9 百万ドル 東ティモールもアジア太平洋地域で最も貧しい国の一つである。世界銀行の推計に よると人口の 40%が貧困とされるレベル以下の生活をしている。 東ティモールは、熟練労働者の不足、行政、法律、司法の弱点など広い範囲で経済 成長にかなりの制約を受けている。そこで、これまでの独立開発協力プログラムを継 続するとともに、平和で、治安が維持され、民主主義を推し進める東ティモールのた めに、国際的なコミュニティーのサポートを続けることにしている。 オーストラリアは、利用可能な資源を管理するために東ティモール Planning& Finance 省の活動を支援している。 東ティモールで国連の委任統治に代わって治安を維持するためには、効果的な警察 組織の役割が重要であることから、東ティモール警察に対し、オーストラリアの連邦 警察の協力を通して、トレーニングと管理能力の育成に直接支援していくことになっ た。また、新たな活動計画は、法律と司法部門の主要な機関の強化をも目指している。 医療と保健面では、現在進行中の公共医療、地方の給水及び公衆衛生に対する支援 と共に、農業生産のためにより適切な技術と資源へのアクセスを改善することが考え られている。 2.7 他の東アジア諸国 アジア諸国 オーストラリアのタイ国に対する開発援助は、ODA 支援対象国から卒業したこと から 2004-05 年には援助を縮小した。 ラオスへの協力は、教育、市場経済への移行に際しての財産権、天災に対する貧困 層の強化に向けて行われている。 タイ/ビルマ国境で衝突や避難が繰り返されている地域にいる少数民族を対象とし て、地元や国際的 NGO と国連機関を通して援助は行われている。 モンゴルに対する開発援助は、主要な政府機関の技術形成や特殊な分野における専 門家の資質向上のための奨学金の供与を継続して実施している。 30 3. 南アジア、 アジア、アフリカ、 アフリカ、中近東、 中近東、中央アジア 中央アジア 3.1 南アジア ODA 総額 86.4 百万ドル 世界銀行の推定によると、南アジアは 5 億人の人たちが、貧困とされるレベル以下 の生活をしているといわれている。 地域が抱える HIV/AIDS、紛争、食糧安全保障の欠如などの大きな課題の一部に取 り組むために、オーストラリアの開発協力プログラムは二国間の独立型プロジェクト から、主要な多国間のパートナーと協同して働く、基礎教育や HIV/AIDS に対応した 活動に方向転換した。 南アジアの各国への援助は図表 2-5 のようになっている。 図表 2-5 南アジア各国への援助 バングラデシュにおいて、オーストラリアは世界食糧計画を通じて貧困層への安定 した食料事情の向上に努めている。また、バングラデシュにおける初等教育部門の質 の向上を支援するため、UNICEF に基金を拠出している。 20 年にわたるスリランカの北と東の戦いは、地方の人たちの生活に大きな打撃を与 えた。多くの人たちは彼らの郷里から移動させられ、自分たちの土地で働くこともで きず、生活するにも大変な状態である。働く場所もなく、生活に必要な基礎的な教育 や保健にかかわるサービスも受けられないでいる。 このような長期にわたる不安定な状況は経済成長を遅らせ、スリランカの貧困を増 大させる結果となった。 31 オーストラリアの開発援助は最も貧困なコミュニティーをターゲットに他のドナー 国と緊密に連携を取りながら平和の構築、食糧確保、地雷の撤去、収入の確保に努め ている。スリランカに対する ODA は 2004-05 年には 700 万ドルにまで増額した。 オーストラリアの開発援助プログラムは、2 万 4,000 人の子供たちを含む 46 万人の スリランカの人たちへ世界食糧計画を通じて食糧支援を行っている。この貧困者への 食糧支援は特に、紛争により土地を奪われ、食べる物もろくにない人たちへのもので ある。 UNDP(United Nations Developments Programme 国連開発プログラム)と協力 して、爆発していない兵器と地雷の除去に資金を拠出している。その結果、一部地域 では爆発の危険がなくなり 6,000 人以上は彼らの村に戻って生計を立て始めた。 3.2 アフリカ 食糧安全保障の欠如、紛争と HIV/AIDS の蔓延は、アフリカでの開発を遅らせ、貧 困の人々の数を増やす結果となっている。 アフリカにおいて、オーストラリアは比較的小さな開発パートナーではあるが、限 られた資源の有効利用に努め、基本的なサービスの提供を強化し、差し迫った人道的 なニーズに応ずることによって、優れた自治の向上を目指している。 この戦略は、政府がローカルコミュニティーのためにより効果的に彼ら自身の資源 を管理するのに役立っている。 オーストラリアの開発協力プログラムは、南アフリカでのアパルトヘイト以後も継 続して支援を行い、南・東部アフリカの国で貢献している。 アフリカ及び南アフリカのホーン岬の干ばつ被害地に 2,000 万ドル以上を供与する とともに、これらの地域の干ばつ状況とジンバブエの政治情勢を継続してモニタリン グし、更なる人道的な援助が必要かどうかを判断することにしている。 オーストラリアの開発協力プログラムは、また、コミュニティーベースの HIV 防止 とエイズ治療プログラムを実施するためにオーストラリアの NGO に資金を助成する ことによって HIV/AIDS の蔓延を抑えることに貢献している。 この資金提供は孤児へのサポート、リスクの大きいグループ(例えば売春労働者) の教育、地元の NGO の技術形成に役立っている。 3.3 中東と 中東と中央アジア 中央アジア (1)イラク共和国 オーストラリアは、市場開放経済に基づく民主主義社会へのイラクの複雑な移行を 世界銀行、国連機関と他のドナー国と協働して支援している。イラク再建へのオース トラリア政府の供与予定額 1 億 2,050 万ドルのうち、およそ 2,200 万ドルがまだ供与 されないで残っている。 追加再建資金は、必要に応じて考慮することとしており、再建サポートの焦点は引 き続き農業部門に絞られている。 32 (2)アフガニスタン・イスラム共和国 オーストラリアは、紛争から平和と安定へのアフガニスタンの移行を支持し続けて いる。2001 年 9 月から、アフガニスタンに再建と人道的なサポートのため、合計 1 億 1,000 万ドルの供与を申し出ているが、このうちの約 1,800 万ドルはまだ供与され ないまま残っている。 アフガニスタン再建信用基金を通じて、基本的な福祉の提供と財務省の組織能力強 化をサポートしている。 そしてまた、 避難したアフガニスタン人の復帰と再建を助け、 食糧安全保障と地方での生活向上を目指し、農民のためにアヘン栽培の代案として、 改良された小麦の栽培をサポートしている。 さらに女性の保健を優先して支持するとともに、地雷の撤去に努めている。 33 第3章 教育訓練分野への 教育訓練分野への援助 への援助プロジェクト 援助プロジェクト これまで、オーストラリアの開発援助の全体を分野別、国別に概観してきた。ここ から、調査の目的でもある人材養成分野、すなわち教育訓練分野をもう少し詳しくみ ていくことにする。 オーストラリアは、 「教育は国の発展のためには最も基礎となる構成要素であり、貧 困の緩和への不可欠な要素でもある。教育は人々が社会で十分に活躍できる知識や技 能を付与してくれるとともに、人々の活動の幅を広げ、所得を伸ばし、結果として生 活水準を向上させてくれる。 」と確信している。 そこで、オーストラリアは基礎教育と職業技術的な教育に焦点を合わせて幅広い地 域で支援を行っている。特に教育へのアクセスを容易にし、教育の機会均等、教育の 質を改善することに注意が払われている。そしてまた、通信教育と高等教育も重要な 援助の一環として実施している。 1. 基礎教育 基礎教育は開発援助プログラムの中でも高い優先順位にあり、教育セクターの総援 助額の 37%を占めている。基礎教育に関しては、特に教育へのアクセスにハードルの 高い少女や弱者に対して配慮している点が特徴である。 開発途上国での教育は質的に悪く、無資格の教師が十分な知識も持たず、適切な教 材もない状況で教育の現場に立っている。オーストラリアはこのような問題を解決す るため、基本的な教育資材と教科書を提供し、支援を行っている。同時に教師の指導 技術やカリキュラムを強化し、 より良い学校の管理・運営のノウハウを指導している。 基礎教育は個人が自分自身で情報を判断し、社会に貢献できるようにするための最 も基礎となる教育である。この基礎教育には初等教育、前期中等教育、成人のための 読み書き、そろばんの教育も含まれている。 良質の初等教育を受けることは、基本的な人間の権利である。初等教育は読み書き の能力と数量的思考能力を付与し、その上成人教育の基礎となるものである。中等レ ベル教育の成功は効果的な初等教育の結果によるもので、更に高等教育や職業 / 技術 的な教育の成功は初等教育から中等教育段階を経て得られるものである。 初等教育は、 個人の利益と国への堅実な経済投資である。そして、個人の労働生産性と高額の所得 が得られる仕事への機会を増やす手助けとなる。 開発途上国の成人の多くは読み書きの能力が低く、国の発展に対する大きな障害と なっており、特にその傾向は女性の中に多く見られる。成人の読み書きの能力と数量 的思考能力の向上を目指すプログラムにより、男性も女性も十分に経済活動に参加す ることができて、より健康で衛生的な生活につながるならば、乳児死亡率を下げ、よ り良い育児が確保できる。読み書きができる母親は、彼らの子供たちの健康に関して の情報を基に次世代の人々を教育することができ、 重要な役割を果たすことができる。 34 教育を受けた親は読み書き能力と教育の大切さを理解し、子供のためにより良い教育 を望むことになる。 主な教育関係プロジェクトを図表 3-1 に示すが、その中の 2 プロジェクトについ てその内容に触れておきたい。 ○The Philippines-Australia Project in Basic Education(PROBE) PROBE は、フィリピンにおいて初等及び前期中等レベルで英語、科学、数学の教 育を改善することを目的とする主要な 5 年間のプロジェクトである。主として、新任 教師や現職教師のために、教育用の教材等を開発し、教員のグレードアップを支援す る狙いがある。また、このプロジェクトを通じてオーストラリア国内において多くの 人材を訓練することも考えられている。 このプロジェクトは、全体で 600 人の教職員指導者、教育スペシャリスト、8,500 人の教師、約 880 校の 100 万人の子供たちを対象とすることになる。プロジェクトの 総額は 4,678 万ドルで、そのうち 2,871 万ドルをオーストラリアが援助している。 ○The Western Samoa Primary Education Materials Project このプロジェクトは、印刷教材、ラジオ放送資材、教師のための向上訓練と西サモ ア Curriculum Development Unit のスタッフの能力向上を支援するものである。 プロジェクトの狙いは、初等レベルの生徒のために社会科学、数学、科学、英語、 サモア言語の教育の質を向上させることにある。このプロジェクトでは、ローカルの 身近な教材を取り入れたカリキュラムの作成を支援している。プロジェクトの特徴は、 特別に設計されたラジオ放送によって教師たちは支援を受けることになっている点で ある。 図表 3-1 Major Basic Education Projects 国 名 Papua New Guinea プロジェクト名 経費総額 (百万ドル) 期 間 Primary and Secondary Teacher Education 41.4 1997-2002 Infrastructure/Materials Program 20.1 1997-1999 Elementary Teacher Education 16.5 1997-2000 Community Equity in Education 10 1999-2003 Bougainville – Bishop Wade High school 9.7 1997-1998 Gazelle Reconstruction Project 4.5 1994-1998 Bougainville–Nissan Holy Cross High school 3.7 1997-1998 Secondary Teachers Education 7.1 1998-2003 Secondary School Extension 3.8 1998-2001 Science and Agriculture Education 6.3 1993-1998 Teacher Upgrading 0.6 1998-1999 Fiji Basic Education Management & Upgrading 5.6 1995-1999 Kiribati Education Sector Program 3.4 1997-2003 Pacific Vanuatu Solomon Islands 35 国 名 プロジェクト名 経費総額 (百万ドル) 期 間 Samoa Primary Education Materials 3.1 1995-1999 Tuvalu Education Support 1.7 1996-2000 South Pacific Basic Education and Life Skills Program 0.8 1992-1999 26.9 1996-2000 10.4 1996-1998 7.0 1998-2001 Asia Philippines Philippines-Australia Project in Basic Education India Primary Education Bangladesh Intensive District Approach to Education for All Laos Basic Education Girls 6.9 1999-2003 Indonesia Back-to-School Campaign 3.0 1998-1999 Maldives Lower Secondary Teacher Education 1.9 1994-1999 Pakistan Girls Primary Education in Balochistan 1.4 1998-2000 Project Indonesia Basic Education Adviser 0.6 1998-1999 Vietnam Bin Thuan Basic Education and Teacher 0.3 1998 Basic Education for Ethnic Minorities 0.2 1998 Emergency Basic Education 2.6 1997-1999 Training Sudan 2. 職業技術教育( 職業技術教育(Vocational and Technical Education) Education) 開発途上国は、ここ 10 年で職業技術教育の指導能力をかなり向上させてきたが、 いまだに熟練労働者の不足に悩まされている。オーストラリアは個々の国に対して、 彼らが必要としている労働力を引き出せるように職業技術教育のシステム強化を支援 している。協力の内容は、国の大きさ、経済開発レベル、産業界のスケールと活力等 によって異なっている。例えば、既に職業教育システムが確立されている国において は、教育の質の向上、カリキュラム開発の強化、指導技法や指導能力の向上、インフ ラや施設の整備に焦点を合わせる必要がある。 広範囲な訓練改革をとおして、技能労働力の急速な需要に対応するシステムの開発 に専門性を高めてきた。これまでに、オーストラリアは個々の国に適合できるあらゆ る分野の包括的な能力の訓練モジュールを開発しており、速成で、安価な職業技術訓 練の支援を国内や開発途上国で提供する力を持っていると自負している。 職業教育訓練のプロジェクトは図表 3-2 に示すとおりである。 ○The PNG Maritime College Upgrading Project パプアニューギニア艦隊では、洗練された船を操縦できるスタッフの訓練が必要に なり、カレッジでこれまで使われていた訓練の内容とレベルを向上させる必要に迫ら 36 れていた。そこで、カリキュラム開発、スタッフ訓練、訓練機材といった主要なもの を統合したこのプロジェクトに、オーストラリアは 870 万ドルを供与した。プロジェ クトでは新しい訓練機材、レーダーシミュレーター、実験用コンピュータ機器などの 補助教材を設置するための実習場を 2 棟建設した。また、カリキュラムは 1995 年の 海事協定に適合させるために見直しが行われた。AusAID は VTE(Vocational and Technical Education 職業技術教育)へのアプローチと並行して産業界との連携を強 め、雇用主に対して長期訓練による優秀な人材の供給を売り込んだ。そして、産業界 や婦人会には海運業界で成功している女性の姿をビデオで紹介して、伝統的に男性だ けの職場であったものを女性も参加できるように勧めている。 ○Indonesia Australia Partnership in Skills Development (IAPSD) このプロジェクトの第 1 フェーズは、 3 年間実施された後、 1998 年 7 月に終了した。 最終目標は、選抜されたインドネシア政府と民間組織のスタッフの技術の向上であっ た。1997 年に評価を終えて、引き続き第 2 フェーズが実施されることとなり、新た に 5 年間のプロジェクトが 1998 年 8 月に開始された。第 2 フェーズでのプロジェク トの目的は、コミュニティー開発、良い自治、実施機関の能力形成に貢献する訓練の 提供である。受益者は訓練を行う能力を持ち、事業者に受け入れられる中間レベルの 技術者である。 訓練は健康管理、中小企業開発、人権、知的財産権、環境法、国際貿易の分野につ いて行われたが、これらに限定されたものではなかった。参加者はスマトラ、ジャワ、 カリマンタン、スラウェシなどの選別された地域からであった。 さらに、第 3 フェーズはこれら過去の実績を踏まえ、名称も Indonesia Australia Specialized Training Project (IASTP) と改称して 2004 年 4 月に開始された。 訓練目標は公共、民間企業で働く中級レベルの経済管理分野の人たちを対象として、 彼らをグレードアップさせることである。 図表 3-2 主な職業技術教育プロジェクト Major Technical and Vocational Education Projects 国 名 Papua New Guinea プロジェクト名 経費総額 (百万ドル) 期 間 Trade Testing & Certification 18.0 1996-2001 Maritime College Project 4.5 1994-1998 Gazelle Reconstruction Project 4.0 1994-1998 Bougainville-Tarlena Specialised Training Center 3.5 1997-1998 INTV Technical and Vocational Training Project 11.0 1996-2000 Fiji Police Training Project 3.0 1995-1999 Samoa Polytechnic Phase Ⅱ 1.6 1997-1999 Tonga Community Development Training Center 1.1 1995-1998 Partnership in Skills Development 35.0 1997-2001 Agritech 21.8 1993-1998 Pacific Vanuatu Asia Indonesia Philippines 37 国 名 China プロジェクト名 経費総額 (百万ドル) 期 間 Education and Training Program Development 20.0 1998-2003 Cambodia Agricultural Extension Project 11.2 1995-2000 Cambodia Technical / Vocational Training 1.3 1995-1999 Laos English Language Training Project 5.2 1994-1998 Strengthen Institute of Health Sciences 1.1 1997-2002 Maldives 出典: AusAID Activity Management System 3. 高等教育 高等教育の分野では先端的な、専門的なトレーニングの機会を提供している。これ らは、政府、ビジネス、職業において責任のある地位にある者にとって必要不可欠な ものとなっている。 第 3 機関は、研究と先進のトレーニングをとおして、新しい科学的で技術的な知識 を生んでくれる。彼らは、世界のどこかで発生する知識の普及を助けるパイプ役を務 めている。 高等教育への投資は、労働生産性とより高い長期の成長の促進に貢献することにな る。 オーストラリアは第 3 機関での高等教育レベルの訓練に対して、奨学金制度を通し て直接的に援助を行っている。 太平洋地域では、オーストラリアの Regional Development Scholarships が、南太 平洋大学(USP)、フィジー工科大学、フィジー医学部大学のような地域の教育機関 で、後期中等教育レベルの研究にも使われており、また、オーストラリア国内の機関 で共同研究やトレーニング活動をとおして開発途上国でより高い教育制度を強化する ためにも活用されている。 4. 通信教育 オーストラリアは通信教育分野にも力を入れている。遠隔地への教育として、教育 と訓練計画へのアクセスを改善し、資産と費用効果に貢献することができる。遠隔通 信をとおして届けられるコースは、彼らの場所を問わず学習者によってアクセスする ことができる便利なものである。通信教育は、女性の教育機会へのアクセスを増やす 重要な戦略であり、コストを考えるとまたとない教育ツールである。 38 第4章 専門家の 専門家のリクルート オーストラリアにおける専門家の派遣について聞取り調査を行ったところ、 「活動サ イクル」のそれぞれのステージにおいて公募を行い、選定し派遣しているとのことで あった。この公募は登録制であらかじめそれぞれの組織・団体等が事業規模、専門領 域、過去の実績等を申請書に記入して、登録しているものである。案件が挙がると、 AusAID ではその都度、各ステージにおいてこれら登録された組織・団体から数社を 選定し企画書を提出させ、審査・決定を行っている。したがって、各ステージによっ て、組織・団体が異なるケースもあるとのことであった。また、特殊な案件によって は登録してある中から指名するケースもあるとのことであった。 調査段階で年度ごとの専門家の派遣実績について聞いてみたが、具体的な資料がま とめられていないとのことで資料を入手することができなかった。 また、多くのプロジェクトの中には政府職員の派遣も実績としてあるのかどうかを 尋ねたところ、政府職員はとても忙しくて、これまでに政府職員の派遣実績はないと の回答があった。 ただ例外的に治安・自治といった問題解決には、政府職員が派遣されているケース は前述したとおりであり、これをどうとらえているのか定かではなかった。 39 第5章 その他 その他 ODA 援助 1. 多国間援助 二国間の援助にある程度の限界を感じているオーストラリアは、多国間での援助に も積極的にかかわっている。特に、世界銀行の規模とアジア開発銀行(ADB)の活動 を支援することによりオーストラリア一国では成し得ないことが可能になり、オース トラリアの国益と開発優先事項が合致することになるからである。 2004-05 年はアジア開発基金-アジア開発銀行へ 9,510 万ドル、国際開発協会-世 界銀行へ 9,810 万ドル、国際農業開発基金(IFAD)へ 300 万ドル、重負債貧困国企 画へ 290 万ドルの総計 1 億 9,910 万ドルを拠出している。 ただ、オーストラリア政府は 2004 年に国際農業開発基金から脱退する旨の発表を 行っているので、基金への供出は 2007-08 年が最終年度ということになる。 2. NGO 援助 1960 年代の中ごろから ODA 資金の一部を自国の NGO を経由して供与していくや り方が制度化されるようになった。そのはしりとなったのが、オランダの「コファイ ナンシング(協調融資)制度」と言われている。オーストラリアも 1965-66 年から ODA をオーストラリアの NGO へ供与することを開始した。 この NGO による開発途上国への援助は途上国のコミュニティー開発や有意義な小 規模プロジェクトに対して ODA が供与され、しかもその国の人々と直接的なネット ワークを作りながら実施されるという点で、まさに「顔が見える」協力となっている。 DAC(開発援助委員会)諸国による贈与額は 1985 年から徐々に増加しており、ODA の NGO 向け比率は平均 4.7%となっている。 拓殖大学国際開発学部長坂寿久教授の調査によると、オーストラリアの ODA に対 する NGO への比率は 1990 年代には約 10%であったが、近年 7%ほどに低下してい ると述べており、図表 5-1 の 4.4%にはプロジェクトベースのものが含まれていない ということである。 日本の NGO の国際協力活動を支援する事業を最初に導入したのは 1989 年度で、 「NGO 事業補助金」 、 「草の根無償資金協力」として計上された。1999 年度には、NGO の組織強化・育成を図るための事業として、 「NGO 活動環境整備支援事業」の名称で 「NGO 活動相談員」 、 「NGO 研究会」 、 「NGO 専門調査員」制度が導入された。2002 年度になって「草の根技術協力」事業が創設され、20 億円の予算が計上された。しか し、 日本の ODA 総額に占める比率は DAC 平均の 4.7%にはとても及ばぬ状態である。 40 図表 5-1 DAC 主要国の ODA と NGO 比率(2000/2001 年平均) アメリカ イギリス イタリア オーストラリア オーストリア オランダ カナダ スイス スウェーデン スペイン デンマーク ドイツ ノルウェー フィンランド フランス ベルギー 日本 全 DAC 平均 ODA/GNI 比率 NGO/ODA 比率 ODA/1 人 (ドル) 0.11 0.33 0.19 0.26 0.29 0.86 0.24 0.34 0.80 0.27 1.07 0.30 0.82 0.32 0.38 0.34 0.28 0.24 5.9 7.3 4.4 8.5 10.3 10.3 9.4 15.2 9.6 7.9 6.9 10.5 7.7 0.7 12.6 1.7 4.7 38 78 26 50 59 196 54 124 205 36 309 61 290 73 71 83 97 63 出典: OECD-DAC 出所:研究ノート「ODA(政府開発援助)と NGO」長坂 寿久 2.1 NGO の活動分野 各 NGO は AusAID からの資金提供を受けるためには一定のプロセスを経て認可を 受ける必要がある。 一度認可を受けると 5 年間は有効であるが、再度認可を望む団体は 2 年後に再提出 することができるようになっている。 認可には Full Accreditation(AusAID の要求する申請書類がすべて提出されてい る団体)と Base Accreditation(AusAID が要求している申請書類の一部が不足して いる団体)と呼ばれる2種類があり、2004 年のデータによると Full Accreditation は 33 団体、Base Accreditation は 11 団体になっている。 2003-2004 年の分野別活動実績は、図表 5-2 のとおり。 41 図表 5-2 分野別活動実績(2003‐2004) 活動分野 教育 自治 保健衛生 インフラ整備 農村開発 その他 (ジェンダー、緊急食料援助等) 総計 案件件数 53 件 123 件 119 件 30 件 72 件 (千ドル) 経費総額 7,946 15,410 22,764 5,650 12,185 115 件 512 件 55,461 119,416 NGO ベースの援助においてもやはり自治に関するものが一番多く、次いで保健衛生、 農村開発、教育といった順序になっていて、ここにもオーストラリアの ODA に対す る基本的な姿勢が示されている感じがする。 2.2 NGO の活動地域 NGO の活動地域を図表 5-3 で見てみると、東アジアが中心で、次いでサハラ・ア フリカとなっており、全体的に見ると金額は少ないが北、中央、南アメリカが入って いる。これは同じ ODA でも二国間ベース、多国間ベースでは見られなかった比率に なっており、とても興味深い。 図表 5-3 NGO の活動地域 42 また、これを東アジアの中で見てみると、図表 5-4 のようになっている。 12000 10000 8000 6000 4000 2000 タ ベ イ ト ナ ム ヤ ン カ マー ン ボ ジ ア ミ 東 ア 中国 ジ 東 ア地 テ ィ 域 モ イ ー ン ル ド ネ シ ア ラ オ モ ス ン ゴ フ ル ィリ ピ ン 0 千ドル 図表 5-4 NGO の活動地域別援助額(東アジア) 二国間援助ではアジアにおいてインドネシアは援助額が飛び抜けていたのに対して、 NGO ベースではカンボジアがトップになっている。これは戦後の地雷除去等国内の 整備に NGO ベースで活躍している様子がうかがえる。また、太平洋諸島について同 様に見てみると、図表 5-5 のようになっている。 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 フ ィジ ー キ マ リ ー バ シ ス ャ ル ミク 群 島 ロ ネ 太 シア 平 洋 地 域 サ ソ ロ モア モ ン 諸 島 トン ガ ツ バ ル バ ヌ ア ツ ク ッ ク ア イ ラ ン ド 0 図表 5-5 NGO の活動地域別援助額(太平洋諸島) 相変わらずパプアニューギニアは別格で、NGO 活動資金全体の 3%が当てられてい 43 る。あとの国々は ODA 二国間援助の比率にほぼ一致しており、特筆すべきものは見 られない。 先に、認可を受けた NGO は BASE と FULL と合わせて 44 団体と述べたが、年度 により更新したり、新規に加わったりしていて、数字自体はかなり流動的である。 2.3 NGO の受注状況 次に示す図表 5-6 は、2004-05 年の各 NGO の受注額ランキング表である。細かく 見てみると全部で 72 団体あり、その数の多さに圧倒される。このほかにもおそらく 受注できなかった NGO があると思われるので、その数は 100 近くになるのではない かと想像される。当然のことながら、NGO の中にも規模の違い、得意分野、専門分 野の違いから受注する件数も違っており、2 桁の件数を受注している NGO も見受け られる。 したがって、受注金額から見てみると、トップの World Vision Australia(WVA)は 全体の 16.87%を占めており、下位にある NGO とでは大きな開きが見てとれる。 図表 5-6 オーストラリア NGO 受注ランキング 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 (千ドル) NGO の名称 受注額 World Vision Australia (WVA) 15,996 Australia Volunteers International (AVI) 12,268 The Australian Youth Ambassadors for Development (AYAD) 6,729 program UNICEF Australia (UNICEF) 6,703 CARE 6,453 Australia Red Cross (ARC) 5,195 Oxfam Community Aid Abroad (OCAA) 4,587 Adventist Development & Relief Agency (ADRA) 3,287 Christian Blind Mission International (CBMI) 2,400 Australia People for Health, Education and Development 2,365 Abroad (APHEDA) Australia CARE 2,179 Australian Expert Service Overseas Program (AESOP) 2,100 PLAN International Australia 2,092 CARITAS Australia 2,050 Save the Children Fund Australia 1,989 Australian Foundation for the Peoples of Asia and the Pacific 1,978 (AFAP) National Council of Churches Australia (NCCA) 1,890 Australian Red Cross (Red R) 1,573 Christian Children Fund of Australia (CCFA) 1,371 Salvation Army (SA) 1,298 44 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 NGO の名称 TEAR Australia (TEAR) MBCMR International Women’s Development Agency(IWDA) Australia Baptist World Aid (ABWA) Family Planning Association of India (FPAI) Australian Council for International Development (ACFID) Opportunity International Australia (OIA) Fred Hollows Foundation (FHF) World Wide Fund for Nature (WWF) NGO Advisory Council (NGOAC) The Leprosy Mission (LM) PALMS Anglican Board of Mission (ABM) Medicines Sans Frontiers (MSF) Australia Lutheran World Service (ALWS) VarNGOAust Marcopper Mining Corporation (MMC) Credit Union Foundation Australia (CUFA) INTERSERVE African Enterprise (AE) Australia Legal Resources International (ALRI) Economic Development Authority’s (EDA) Marie Stopes International Australia (MSIA) AngliCORD Quaker Service Australia (QUAKER) Every Home for Christ Ltd (EHC) NGOME International Needs Australia AusAID Australia Cranio-Maxillo Facial Foundation (ACMFF) UCCOMTA SIMAID Archbishop of Sydney’s Overseas Relief & Aid Fund (AORAF) Australia Conservation Foundation (ACF) ASSISI Aid Projects India (ASSISI) OZGREEN-Global Rivers Environmental Education Network (OZGREEN) New Transatlantic Agenda (NTA) VSAAR Uniting Church in Australia Unity & International Mission (UCUIM) INTERPLAST 45 受注額 1,179 789 754 704 613 571 517 516 366 357 332 291 290 250 244 227 189 156 150 144 142 107 106 100 100 99 94 89 88 80 74 66 62 56 55 51 45 43 42 34 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 NGO の名称 FTWHL YWCA Puget Sound Power & Light (PSPL) RANCOG CARA Oriental Bank of Commerce (OBC) Diplomats Sans Frontiers (DSF) Mineral Resources Forum (MRF) Corporate Europe Observer (CEO) Asialink TDI ACORD 受注額 33 30 18 17 11 8 7 7 6 5 2 -19 次にこれを、教育訓練分野に絞って調べてみると、図表 5-7 のようになっている。 図表 5-7 教育訓練分野別 NGO 受注リスト カテゴリー 基礎的生活技術訓練 〃 〃 〃 幼年期教育 〃 〃 〃 〃 〃 〃 職業訓練 〃 職業訓練 〃 〃 〃 〃 教育施設と訓練 〃 〃 〃 教師訓練 教育研究 NGO QUAKER WVA WVA WVA APHEAD APHEAD PLAN PLAN PLAN PLAN WVA APHEAD APHEAD APHEAD APHEAD EDA EDA EDA APHEAD APHEAD CCFA CEO MMC QUAKER 46 裨益国 インド 国内管理費 カンボジア ソロモン諸島 レバノン 世界全地域 中国 インド インドネシア ベトナム ベトナム カンボジア ラオス タイ ベトナム ボリビア チリ コロンビア 東ティモール フィリピン エチオピア ソロモン諸島 パプアニューギニア カンボジア カテゴリー 初等教育 〃 〃 〃 〃 〃 〃 初等教育 〃 〃 基礎的生活技術訓練 〃 〃 〃 〃 職業訓練 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 マルチセクター教育訓練 NGO AORAF AUSTCARE AUSTCARE AUSTCARE CARE CARE SCFA UNICEF UNICEF VarNGOOsea ASSISI IWDA NCCA NCCA OCAA EHC FTWHL IN PSPL SA WVA WVA WVA WVA YWCA Red R 裨益国 タンザニア ケニア レバノン ネパール アフガニスタン カンボジア ベトナム ラオス バヌアツ インドネシア インド ソロモン諸島 カンボジア エジプト スリランカ バングラデシュ バングラデシュ ガーナ 東ティモール パレスチナ領域内 国内管理費 レバノン タイ バヌアツ 太平洋諸島地域 世界全域 2003-04 年の教育訓練分野だけを見ても、25 の NGO 団体が活動している。この分 野で注目すべきはボリビアとチリである。二国間ベースでは見られなかった傾向であ り、NGO の活動の中で北・中・南アメリカへはわずか 1%ではあるが、オーストラリ ア政府としてアフリカに次いで活動の範囲を中南米にも拡大していく計画なのか、あ くまでも NGO ベースにとどめるのかは不明である。 3. 青年大使プログラム 青年大使プログラム 青年大使プログラムは日本における青年協力隊に該当するもので、オーストラリア とアジア・太平洋地域の国々との意思の疎通を強化して、開発への明確な貢献を目的 として 1998 年に開始された。 このプログラムは技能を持った 18~30 歳の青年を対象として、アジア・太平洋地 域の開発途上国でオーストラリアのボランティアとして働く制度で、開発途上国の発 展に必要なことを理解し、異文化のもとで働くことにより、彼らの経験を広げるとと もに、帰国後アジア・太平洋地域の良き理解者として国内での活躍が期待できる良い 47 機会ととらえられている。 青年大使は、健康、環境、地方の発展、性、自治、正義、教育と基盤開発を含む地 域の幅広い範囲で、オーストラリアの組織と彼らのカウンターパートと一緒に活動し ている。 青年大使は、住環境と他の生活費をカバーするための費用が AusAID から支給され るが、給与は支給されない。 派遣時期は毎年 3 月と 9 月の 2 回となっている。 青年大使の任期は、3 ヵ月の短い期間から最長 12 ヵ月まで様々である。オーストラ リアを出発する前に、青年大使には 3~12 ヵ月の範囲の中で彼らのホスト組織ととも に彼らの任期について交渉する機会がある場合もある。 プログラムが短期間の役務を提供する目的であるので、 通常、 任期は延長されない。 任期満了前ならば、勘案すべき事情の下で、最高 1 ヵ月の任期延長を申し込むことが 可能である。延長は、ホスト組織からの要請書が必要である。しかし、12 ヵ月の制限 を越えて延長することはできないことになっている。 2002 年以降の派遣実績は以下のとおりとなっている。 2002 年 205 人 2003 年 216 人 2004 年 259 人 2005 年 400 人 48 第6章 オーストラリアにおける オーストラリアにおける人材養成 における人材養成 オーストラリアは、かなり広範囲な分野において ODA に貢献しているが、ODA を 実践していく上で、これらの実務を受け持つ人材はどのように養成され、リクルート されているのか。 オーストラリアの人口は 1,875 万人と言われており、国土 769 万平方キロメートル (日本の約 20 倍に当たる)から考えると人口密度は日本の 130 分の 1 以下である。 第 2 次世界大戦直後の人口が 760 万人であったころから、移民政策を導入して多くの 労働力の確保に努めてきた。しかし経済を活性化させるには単純に労働者の数を増や すだけではどうにもならないことから、肉体労働者というよりも技術や技能を持った 人材を優遇した時代があった。このようなことから、オーストラリア自体が技能者、 技術者の重要性を十分に体験してきている。そこで、オーストラリアではどのように して人材を養成しているのかを見ていくことにする。 1. 職業教育訓練制度の 職業教育訓練制度の歴史 オーストラリアにおける職業教育訓練は日本と同様に歴史的には技能の指導・伝授 が職場で行われてきた。今では聞くこともできない徒弟制度の OJT(On the Job Training:職場指導)である。訓練内容も手法も、産業や企業によりいろいろで、現 代の感覚からいえばとても訓練と呼べるものではなかった。長く辛い見習い期間を終 え、一人前の技能を習得できたと認められると、それまでの見習い工から技能を持っ た職人と呼ばれるようになる。時代の移り変わりのあまり激しくない昔であれば、こ のやり方で十分間に合っていたが、日進月歩の現代では世の中のニーズにとてもこた えることができない。そこで生まれたのが職業訓練制度である。日本では昭和の初め から本格的に行われるようになり現在に至っている。今でも、特殊な伝統的な芸能や 技能にはこの徒弟制度が見られるが、ほとんどの技能は教育訓練制度の中で行われて いる。しかしながら、オーストラリアにおいては職業教育訓練制度が制定された現在 においても、かたちを変え、ドイツの「デュアルシステム」を下敷きにしたような企 業内での OJT 訓練が盛んに行われている。 他の多くの国々と異なり、オーストラリアは多様化した経済・社会の中で、比較的 複雑で多様化した職業教育訓練制度を持っている。あらゆるレベルで政府及び非政府 機関が職業教育訓練に参加しており、職業教育訓練制度は経済・社会に台頭するニー ズと変化する要求に常に対応するために発展している。 他の先進諸国と同様、オーストラリアの人口に占める高齢者の比率は、着実に増加 している。人口に占める若年層の数と比率は低下しており、若年層の技能と訓練され た労働力の不足により、ニーズに対応することは難しくなっている。高齢勤労者の訓 練及び再訓練は非常に重要になっており、 その重要性はますます高まると予想される。 結果的に、職業教育訓練制度は、若年層のみならずすべての人々のニーズに対応し、 ほとんどは中等教育や高等教育制度から独立している。 さらに、これはオーストラリアの特徴でもあるが、オーストラリアにおける職業教 49 育訓練に関する法律は以下にみられるように、 各州によってそれぞれ独自に制定され、 実施されている。 ・ニューサウスウェールズ州:職業教育訓練諮問委員会法(1994 年) 、職業教育訓練 認定法(1990 年) ・ビクトリア州:ビクトリア資格権限法(2000 年) 、ビクトリアカリキュラム評価権 限法(2000 年) 、職業教育訓練法(1990 年) ・クィーンズランド州:訓練雇用法(2000 年) ・西オーストラリア州:職業教育訓練法(1996 年) ・南オーストラリア州:職業教育訓練雇用法(1994 年) ・タスマニア州:職業教育訓練法(1994 年) 、職業教育訓練改正法(1999 年) ・オーストラリア首都準州:職業教育訓練権限法(1995 年) ・北部準州:北部準州教育訓練権限法(1999 年) 憲法の下で、教育訓練の正規の責任は州政府・準州政府に帰属している。しかし、 その必要な資金の大半は、連邦政府から支出されている。結果的に、連邦政府と 6 州 及び 2 準州政府間の効果的協力体制は、オーストラリア政府の特徴となっている。 1993 年の ANTA(Australia National Training Authority オーストラリア国家訓練 局)の設立と共に、職業訓練セクターにおいて、多くの部分は全国的に統一されたも のとなった。 しかし、ここで問題となったのが職業教育訓練の運営管理の責任である。オースト ラリアの政治体制のあらゆる面にいえることだが、憲法上は州権に属する事項に連邦 がどこまで踏み込めるかということである。職業教育訓練の責任を連邦に移すのか、 州にとどめ置くのかによって職業教育訓練の仕組みは大きく影響を受ける。例えば、 州によって異なっている技能資格認定制度を、連邦が統一した技能資格検定制度に置 き換えれば、それに従って各コースのカリキュラムを変えなければならないが、ある 州で取得した資格を持って技能者が他の州に移動することは容易になる。この職業教 育訓練の責任問題は、他の同様な政治問題と同じく、形式的には州権の下に置いたま ま、州の合意を得て連邦の関与を深めるという方向に進んでいた。 ANTA 発足以来 10 年が経過した、昨年(2004 年)の 10 月 22 日、Hon John Howard 首相から「2005 年 7 月 1 日より ANTA の責任及び機能のすべてを教育科学訓練省 (DEST‐Department of Education, Science and Training)に移管する」旨の発表 があった。これに引き続き、2005 年 9 月 2 日には企業向けには 2006-09 年の新見習 い工支援サービスの募集と契約に関する発表が行われた。また受講者向けの発表には 現在新たに 500 を超える職種が訓練のために用意された旨の記述がある。訪問調査に より ANTA から DEST への移管に関してその理由を聞くことができた。 オーストラリアは日本よりもはるか 10 年前にフリーター現象が起こっており、少 子高齢化の波も同時に現実化しており日本同様深刻な社会環境になっていることが分 かった。そのため、政府としてこれに対処するため、 ① 経済成長の継続 50 ② 技能の変化に伴う雇用ニーズの増大 ③ 急速な技術革新 ④ 高齢化 を大きくアピールして、若者を労働社会へ誘導する試みを開始した。 その改革のための基本原則は以下のようになっている。 ・産業とビジネスのニーズが訓練方針、優先順位、供給を牽引していかなければなら ない。 ・クライアントのためのより上質のトレーニングと成果は、確実でなければならない。 ・プロセスは単純化され、合理化されなければならない。 ・若者たちには、彼らの職業生活の基礎となる技術を習得する機会が提供されなけれ ばならない。 ・トレーニングの機会は、現在社会で期待されている技術不足の職域で拡大される必 要がある。 これらを実行していくために、職業教育訓練を本格的に連邦政府が責任を持って実 施することになった。そこで、これまで ANTA で行っていた業務及び責任体制を DEST へ移管することとなったものである。 そのため、組織も大きく変化することになった。 しかしながら、この度の改革により連邦政府がすべての州に対して権限を持つこと になったわけではなく、一部の州はまだ、従来のまま州の権限を残している状態であ る。 51 州政府 オーストラリア政府 全国職業教育研究 センター 職業教育訓練 閣僚諮問 委員会 技術委員会 訓練教材 供給公社 産業技術会議 全国高官委員会 全国資格会議 全国訓練統計委員会 実施団体 図表 6-1 新教育訓練国家自治・責任フレームワーク 2. 教育訓練制度 オーストラリアの教育訓練制度は図表 6-2 に示すように、大きく分けると、日本 と同様初等教育、中等教育、高等教育の 3 段階に分かれている。義務教育は 6 歳から 15 歳までであるが、多くの子供は義務教育が始まる前の就学前教育を受けている。各 教育段階別の教育参加比率(1995 年)を見てみると、初等教育 98%、中等教育 89%、 高等教育(職業教育訓練及び大学教育)72%となっている。 高等教育の中でも大学教育への参加比率は 20%~25%となっていて、日本の 44% と比べるとまだ低い感じである。ただ、単純に考えれば高等教育の残り 50 数%が職 業教育訓練に参加していることになり、技術者、技能者への関心が高いことがうかが える。 52 オーストラリアの職業教育訓練制度は著しく多様性と柔軟性を持っており、国民が 最初に勤労者として参加するとき、勤労者として再就労するとき、新しい仕事のため の再訓練又は既存の仕事のために最新の技能を必要とするとき等技能を習得するため の多くの方法がとられている。 ① 一般的な中等教育、又は学校で行われている特定の職業教育訓練プログラムを通 じて、仕事に関連する技能の習得 ② TAFE 機関(Technical and Further Education 各州政府直轄の専門学校、職業訓 練校)又は他の登録職業教育訓練事業者が提供する職業教育訓練コースの訓練に よる技能の習得 ③ 資格取得のために TAFE 機関又は他の登録職業教育訓練事業者が提供する正規の 職業教育訓練コースの受講を通して集中的学習による技能習得 ④ 登録職業教育訓練事業者が提供するオンザジョブ訓練に正規のオフザジョブ訓練 を組み合わせた徒弟訓練又は職業訓練を通じての習得 ⑤ 大学における卒業証書又は修士・博士課程のプログラムを通じての専門的技能の 習得 ⑥ 企業内で実施する訓練を通じて実務関連の技能の習得 53 図表 6-2 オーストラリア教育訓練制度 3. オーストラリア資格原則 オーストラリア資格原則( 資格原則(AQF) AQF) オーストラリア資格原則(Australian Qualifications Framework)は、一般的に AQF と呼ばれ、中等教育上級から大学院まで、職業課程と普通課程の両方を含んだ学 習段階に共通の資格を与えるオーストラリア全土を対象とした包括的な資格認定の枠 組みである。中等教育、職業教育訓練、高等教育に従事する機関(学校、大学)は学 生・生徒の達成度に応じて AQF で定められた資格を授与することになっている。AQF は図表 6-3 のとおり、職業教育でも普通教育でも、同じ名称の資格を授与している。 これらの資格は全国に通用する資格であるから、州を超えての転校が容易である。職 業課程と普通課程とを一つの制度に包含し、しかもどちらかの課程で取得した単位を もう一方の課程で受け入れることで、両者間の交流あるいは融合が進むことも期待し ていると思われる。 54 図表 6-3 オーストラリア資格原則と教育部門間の関係 中等教育部門 職業教育訓練部門 職業課程ディプロマ Vocational Graduate Diploma 職業課程証明 Vocational Graduate Certificate 博士 Doctoral Degree 修士 Master Degree 教育課程ディプロマ Graduate Diploma 準修士 Graduate Certificate 学士 Bachelor 上級ディプロマ Associate Degree Advanced Diploma ディプロマ Diploma 上級ディプロマ Advanced Diploma 中等教育上級学力証明 Senior Secondary Certificate of Education 高等教育部門 ディプロマ Diploma 履修証明Ⅳ CertificateⅣ 履修証明Ⅲ CertificateⅢ 履修証明Ⅱ CertificateⅡ 履修証明Ⅰ CertificateⅠ 4. 資格と 資格と職務 企業・工場によって取扱いは当然異なるとは思うが、資格と実際に職務に就いた際 の格付けは、一般的に図表 6-4 のとおりとされている。 図表 6-4 資格と職務 職業教育訓練で授与される資格 学部卒業以上 上級ディプロマ ディプロマ 履修証明Ⅳ 履修証明Ⅲ 履修証明Ⅰ、Ⅱ 55 職 務 専門職 専門職 準専門職 熟練技術職 技能職 準技能職 5. 職業教育訓練 職業教育訓練に 教育訓練に関する主要 する主要な 主要な機関及び 機関及び役割 職業教育訓練制度の下で組織されている図表 6-5 の各機関は、連邦政府及び 6 州 2 準州政府で構成されている。 図表 6-5 オーストラリアの職業教育訓練制度に関する主要な機関 組織または機関 略称 役割及び責任 雇用教育訓練・青少年問題に MCEETYA 雇用教育訓練及び青少年問題に関する 関する閣僚諮問委員会 すべての連邦政策 職業教育訓練閣僚諮問委員 MINCO 職業教育訓練に関する連邦政策 会 教育科学訓練省 教育訓練及び青少年に関する連邦政策 DEST への助言、資金提供、戦略的計画等 オーストラリア国家訓練局 ANTA 職業教育訓練に関する連邦政策への助 注 言、戦略的計画等 州・準州訓練理事会及び訓練 多種多様 職業教育訓練に関する州・準州政策、 局 計画、制度管理等 全国産業訓練諮問委員会 連邦政府の 特定産業に関する全国的訓練ニーズに 関する課題の識別及び助言 ITAB オーストラリア資格原則諮 AQFAB オーストラリア資格原則の維持及び検 討 (AQF) 問委員会 オーストラリア訓練製品公 ATP 全国的訓練製品及び教材の開発と出版 社 全国職業教育研究センター すべてのレベルの職業教育訓練研究、 NCVER 評価、情報及び統計に関する機関 注 2005.7.1 に ANTA は DEST に移管されている。 6. 職業教育訓練事業者 オーストラリアでの職業教育訓練プログラムは、政府及び民間セクター双方の幅広 い訓練事業者によって実施されている。 図表 6-6 セクター別職業教育訓練事業者 政府セクター 民間セクター 民間訓練事業者 民間ビジネススクール 企業内訓練事業者 企業(サプライヤー)研修 未登録の地域社会訓練事業者 TAFE 農業大学 高等教育機関 中等学校 登録地域社会教育訓練事業者 オーストラリア先住民教育事業者 政府契約の民間訓練事業者 56 7. 職業教育訓練受講者 職業教育訓練プログラムを受講する数は年々増加しており、10 年前は 100 万人を 下回る状況であったが、今日では 150 万人が受講する環境になっている。 図表 6-7 職業教育訓練受講者の推移 年 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 職業教育訓練を受講者数(千人) 男性 女性 合計 503.5 448.0 951.5 492.7 439.6 932.3 534.1 432.7 966.8 541.1 444.8 985.9 572.1 470.4 1042.5 606.9 514.5 1121.4 612.3 519.2 1131.5 672.2 600.5 1272.7 706.3 641.1 1347.4 756.9 701.7 1458.6 790.7 744.5 1535.2 839.4 807.8 1647.2 888.0 861.3 1749.3 857.3 814.6 1671.9 868.3 809.5 1682.9 875.9 834.4 1717.8 828.9 760.7 1589.6 出典: NCVER 57 女性の比率 (%) 47.1 47.1 44.8 45.1 45.1 45.9 45.9 47.2 47.6 48.1 48.5 49.0 49.2 48.7 48.1 48.8 47.9 第7章 我が国の援助施策との 援助施策との対比 との対比 1. 我が国が参考にすべき 参考にすべき援助戦略 にすべき援助戦略・ 援助戦略・援助施策 1.1 援助戦略の 援助戦略の背景 開発援助を考察するとき、この援助システムの起源から少し考えて見る必要がある。 この援助システムは 1950 年 1 月に発足したアジア・太平洋地域諸国への資金援助及 び技術協力を目的とした協力機構で、通常コロンボ・プランと呼ばれている。現在、 この趣旨に賛同した DAC に加盟する先進諸国 22 ヵ国がそれぞれのスタイルで、各国 の事情によって援助を実施している。 我が国の場合は、戦後の疲弊した経済の安定・復興に向け、米国からガリオア(占 領地域救済政府基金) 、エロア(占領地域経済復興基金)による救済・復興援助を受け た。ガリオア・エロアは旧敵国たる日独を対象としたものであり、1946 年から 1951 年までの 6 年間で総額約 50 億ドルが供与された。さらに、我が国は、米国からの援 助に加え、1953 年以降、世界銀行から 14 年間にわたり合計 34 件、総額約 8 億 6,000 万ドルに上る借款の供与を受けている。これらの融資は、戦後我が国の経済発展の基 礎となった重要なインフラ及び基幹産業、特に道路、電力、鉄鋼部門の整備に大きく 貢献した。このような被援助国としての経験を経て、1954 年 10 月のコロンボ・プラ ンへの加盟により、我が国は援助国となった。 翌 1955 年、我が国は研修員受入れや専門家の派遣といった政府ベースの技術協力 事業を開始した。 技術協力の開始に続き、政府ベースの資金協力が、1954 年 11 月の日本・ビルマ平 和条約、賠償・経済協力協定により始まる。日本・ビルマ平和条約は、1951 年のサン フランシスコ平和条約 14 条(対日賠償条項)に基づくものであり、 「 (日本が)与え た損害及び苦痛を償うため」の賠償支払いのほか、 「ビルマ連邦(現ミャンマー連邦)の 経済の回復及び発展並びに社会福祉の増進のため供与し、または使用に供する。 」ため の協力が明記されたものである。戦後処理としての賠償支払いと並行して経済協力を 行うことが明記されており、こうした資金協力は賠償・準賠償としての性格を有して いた。同様の協定は、その後、フィリピン、インドネシア、ベトナムとの間で締結さ れ、また、厳密な意味での賠償ではないが、やはり戦後処理の一環として対日賠償請 求権を放棄したカンボジア及びラオスのほか、マレーシア、シンガポール、韓国、モ ンゴル及びミクロネシア連邦に対し、無償資金援助等がなされた。 このようなことから、我が国の援助は戦後処理としての賠償支払いと並行して行わ れることとなった。そして、その主眼は被援助国としての経験から、国を発展させて いくためにはインフラの整備が欠くことのできない重要な要素であるとの認識の下に、 援助を行ってきた。 一方、オーストラリアの場合には本報告書の冒頭にも触れたように、第二次世界大 戦後に東南アジアで進行しつつあった共産化の流れを自国の安全保障政策上の脅威と とらえ、アジア太平洋地域の安定のために自らが主体的に関与していこうという姿勢 58 を示し、開発援助を軍事政策等と並ぶ主要な外交政策ツールとして位置付け、アジア の反共、ひいては自国の安全保障を実現する手段として活用した。 英連邦の一員としてカナダが地域を問わず英連邦諸国を支援していったのとは対照 的に、英連邦諸国の中でも自国と地理的に近く、安全保障上の関心が高い地域に集中 的に援助を展開させたのが特徴的である。 このように単に援助といっても、その根底にある国の事情は全く異なっており、そ れによって援助の戦略も大きく異なっている。 1.2 援助戦略・ 援助戦略・援助施策 我が国の援助は当初の賠償というイメージが強く、そこに見え隠れするものはどち らかというと道路、橋梁、学校建設といった物質的な面での援助につながっている。 援助対象国は当初、アジアを中心とするものであったが、現在ではアジアをはじめ、 中南米、アフリカ、中近東とグローバルなものとなっている。 これに対して、オーストラリアの場合は安全保障という観点から援助対象国は自国 の周辺諸国が主たる対象であり、自治、教育訓練、人道支援といった内容に焦点が絞 られている。 したがって、同じカテゴリーでも例えば、教育訓練分野について考えてみると、日 本の場合どちらかというと箱物すなわちハードから考えて援助が進められていく。と ころが、オーストラリアの場合は人づくりという観点から基礎的な教育をソフト面か ら考えて援助が進められている。このような方向性の違いから、援助する金額も日本 の場合はどうしても高額のものとなるが、オーストラリアの場合は人的要素が主体と なるため比較的小額であるということで大きな開きが見られる。 しかし、DAC 各国の ODA ランキングで見るとオーストラリアは 17 番目となって おり、日本の 2 番目から比べると大きな開きがあるが、これを DAC 各国の ODA 対 GNI 比ランキングで見ると DAC の平均である 0.25%にオーストラリアは達している が、 日本の場合は 0.2%となっており DAC 加盟 22 ヵ国中 19 番目という状況にある。 したがって、オーストラリアの援助額が決して規模的に小さいという評価にはつなが らないと思うのだが、被援助額が多い東南アジア諸国にとっては、オーストラリアの 援助の位置付けはあまり大きいと評価されていない。そのことはオーストラリア政府 自身が感じており、金額的制約を補うために、長期的に人材を派遣することによって 現地において目に見える援助を心掛ける等、金額面だけでは測りえないインパクトを 持ちうることをオーストラリアの援助活動は示している。 近年日本においても、これまでのハード中心の援助からソフト中心の援助に切り替 わりつつあるが、開発途上国が見る日本はどうしても「金持ち日本」であって、決し て「貧乏日本」ではない。1990 年をピークにバブル経済の崩壊という事態を迎えて、 国内の経済が悪化し、国の借金が 700 兆円という状況であってもその期待は変わって はいない。 59 アジアの環境も大いに変化している。10 年前、被援助国であったシンガポールは自 立し、今やタイも ODA 支援対象国から卒業している。中国の成長も目を見張るもの があり、いまだに被援助国であることに不思議さを感じている。これからの日本が考 えなければならない問題は賠償という重い足かせを取り除いて、グローバルな視点か ら真剣に援助を必要としている国に心の通った援助を柔軟に推し進めていくべきこと ではなかろうか。 2. 援助協調の 援助協調の可能性にかかる 可能性にかかる提言 にかかる提言 近年のアジアの発展は中国をはじめとして目を見張るものがある。そして、今や台 湾、韓国のように援助国として専門家を派遣している国も出てきた。シンガポール、 タイといった国も、もうそう遠くない将来立場を変えてくることが想像できる。 今経済界では AFTA(ASEAN Free Trade Area アセアン自由貿易地域)の構想が 現実化しようとしている中で、アジア地域の援助プログラムも日本、オーストラリア といった単独の国の援助ではなく、アジアグループとしてのスキームを作り上げ実施 していける時期が来たのではないかと考える。オーストラリアの課題であったアジア 周辺地域の安全保障の問題も、日本の背負ってきた賠償の問題も過去のものとして、 AFTA 構想同様、地域としての援助に力を入れるべき時である。そのような観点から すれば、すぐできることとしては、現在既に援助国である日本とオーストラリアが協 同して援助スキームを計画し、台湾、韓国、シンガポールといった国々を巻き込んで グローバルな援助活動を開始することではないだろうか。 参考のためにオーストラリア国内の ODA に対する評価を付け加えておこう。 オーストラリアのシンクタンク(The Institute of Public Affairs)によるオースト ラリア援助政策の評価によると、 大洋州地域におけるオーストラリアの援助規模は非常に大きく、1975 年からの総額 は A$500 億ドルに上る。それにもかかわらず、ソロモン諸島やパプアニューギニア等 のオーストラリア援助の中核をなす太平洋州諸国における援助は失敗に終わっている。 これまでの援助の失敗に対処するために、政府は太平洋州諸国における新たな援助 イニシアチブとして、法と秩序の再構築を目的にオーストラリア人警察官を派遣する 「協力的介入」と呼ばれる介入主義的なアプローチを提案した。協力的介入はオース トラリアの納税者に更なる負担を強いるが、我々はこのプログラムも失敗の可能性が 高いと考えている。援助プログラムは自助努力を行う途上国においてのみ効果が期待 できるものであり、これまでと同様に汚職した政治家や政治制度に援助が供与され続 けても、失敗する運命にあるためである。 出典: Peter Urban (2003) Australian Aid Policy: A Case of Lose/Lose, not Win/Win, The Institute of Public Affairs 60 第8章 関連統計・ 関連統計・情報・ 情報・データ 1. オーストラリアの オーストラリアの一般事情 1.1 国旗 旗の意味:左上に英国の国旗を配してイギリスとの歴史的な結び付きを表し、右の 5 つの星で南十字星を、左の大きな七稜星でオーストラリアの 6 つの州と特 別地域を表わしている。 1.2 国歌 『アドバンス・オーストラリア・フェア』はかつてオーストラリアの「全国的な愛唱 歌」として親しまれていたが、1984 年 4 月 19 日付で国歌に制定された。1788 年から 1974 年まで公式の国歌は、英国国歌の『God Save the Queen (or King)』であったが、 1984 年以降、オーストラリアでは大抵の場合、 『God Save the Queen (or King)』は 王室関連行事の最初に演奏され、 『Advance Australia Fair』は最後に演奏されるよう になった。 1.3 一般事情 1.面積 オーストラリアの表面積約 771 万㎞2 は、世界で第 6 番 目に面積の広い国で、日本の約 22 倍にあたる。海岸線は 約 3 万 6,735 ㎞2 にも及び、ビーチの数は 7,000 にもの ぼる。まさに「広大」という名にふさわしい大地。 2.人口 19,974 千人(2003 年 11 月現在) 3.首都 キャンベラ 4.主要都市人口 シドニー :415 万人 メルボルン:349 万人 ブリスベン:165 万人 アデレード:111 万人 パース:139 万人 5.言語 英語 6.宗教 キリスト教(カソリック、アングリカン) 61 1.4 政治体制・ 政治体制・行政組織 1.政体 立憲君主制 2.元首 エリザベスⅡ世が国王。国王代理として連邦総督と州総督 がいる。現在の連邦総督は Philip Michael Jeffery。 3.議会 二院制 上院:定数 76 人(各州から 12 人、首都特別地域 2 人、北 部準州から 2 人)任期は州選出議員 6 年、その他の議員は 3 年。 下院:定数 148 人、任期は 3 年 4.内閣 首相ジョン・ハワード(自由党) 副首相マーク・ベイル(国民党) 5.行政組織 • 農林水産省 Department of Agriculture, Fisheries and Forestry o o o o o • 農業経済局 Australian Bureau of Agricultural and Resource Economics (ABARE) 地方第 1 次産業局 Bureau of Rural Sciences (BRS) 検疫局 Australian Quarantine and Inspection Service (AQIS) 水産庁 Australian Fisheries Management Authority (AFMA) 獣医学局 Office of the Chief Veterinary Officer 司法省 Attorney-General's Department o o o o o o o o o 連邦警察庁 Australian Federal Police (AFP) 保護局 Australian Protective Service (APS) 税関局 Australian Customs Service (ACS) 債務超過管財局 Insolvency and Trustee Service Australia (ITSA) 公訴局長室 Commonwealth Director of Public Prosecutions (CDPP) フィルム・文献分類管理局 Office of Film & Literature Classification (OFLC) 犯罪学研究所 Australian Institute of Criminology (AIC) 取引業務分析局 Australian Transaction Reports and Analysis Centre (AUSTRAC) 司法改革委員会 Australian Law Reform 62 Commission (ALRC) o 人権機会平等委員会 Human Rights and Equal Opportunity Commission (HREOC) o 著作権委員会 Copyright Law Review Committee • 通信芸術省 Department of Communications, Information Technology and the Arts (DCITA) o o o o o o o o 政府オンライン局 Office for Government Online (OGO) 通信局 Australian Communications Authority (ACA) 放送緩和局 Australian Broadcasting Authority (ABA) 情報経済局 National Office for the Information Economy (NOIE) オーストラリアフィルム委員会 Australian Film Commission (AFC) オーストラリア芸術委員会 Australia Council for the Arts オンライン評議会 Online Council (OC) 国立記録局 National Archives of Australia 国防省 Department of Defense (DOD) [志願制 総兵力 5 万 7,400 人] • o o o o o o o o o o 陸軍 Australian Army [2 万 5,400 人] 空軍 Royal Australian Air Force [1 万 7,700 人] 海軍 Royal Australian Navy [1 万 4,300 人] 緊急災害管理局 Emergency Management Australia (EMA) 通信連絡局 Defense Signals Directorate (DSD) 防衛情報機構 Defense Intelligence Organisation (DIO) 防衛基地管理機構 Defense Estate Organisation (DEO) 防衛科学技術機構 Defense Science and Technology Organisation (DSTO) 防衛コミュニティー機構 Defense Community Organisation (DCO) 防衛住宅供給局 Defense Housing Authority (DHA) 63 • 教育職業訓練省 Department of Education, Training and Youth Affairs (DETYA) 海外技能局 National Office of Overseas Skills Recognition (NOOSR) o 技能訓練局 Australian National Training Authority (ANTA) o 研究評議会 Australian Research Council (ARC) o 雇用教育技能局 National Board for Employment, Education and Training (NBEET) o • 雇用省 Department of Employment, Workplace Relations and Small Business (DEWRSB) 雇用擁護局 Office of the Employment Advocate (OEA) o 産業関係委員会 Australian Industrial Relations Commission (AIRC) o • 環境遺産省 Department of the Environment and Heritage o o o o o o • 気象局 Bureau of Meteorology 南極観測局 Australian Antarctic Division グレートバリアリーフ海洋公園管理局 Great Barrier Reef Marine Park Authority (GBRMPA) 温室効果防止局 Australian Greenhouse Office (AGO) 遺産委員会 Australian Heritage Commission (AHC) 環境保護委員会 National Environment Protection Council (NEPC) 家族地域省 Department of Family and Community Services (DFCS) センターリンク Centrelink o リハビリテーション局 Commonwealth Rehabilitation Service (CRS) o 子供援助局 Child Support Agency (CSA) o 家族研究所 Australian Institute of Family o 64 Studies (AIFS) • 財務管理省 Department of Finance and Administration (DoFA) 公共資材&IT 推進局 Office of Asset Sales and Information Technology Outsourcing (OASITO) o 国家監査局 Australian National Audit Office (ANAO) o 財産知的所有権評価局 Australian Valuation Office (AVO) o 選挙推進委員会 Australian Electoral Commission (AEC) o • 外務通商省 Department of Foreign Affairs and Trade (DFAT) 国連オーストラリア政府代表部 Australian Permanent Mission to the United Nations o 国際開発局 Australian Agency for International Development (AusAID) o 貿易委員会 Australian Trade Commission (Austrade) o 国際農業研究センター Australian Centre for International Agricultural Research (ACIAR) o • 保健省 Department of Health and Aged Care (DHAC) o o o o o o o 治療製品局 Therapeutic Goods Administration (TGA) 放射能保護核安全局 Australian Radiation Protection and Nuclear Safety Agency (ARPANSA) 聴取局 Office of Hearing Services (OHS) 健康福祉研究所 Australian Institute of Health and Welfare (AIHW) 健康保険委員会 Health Insurance Commission (HIC) 国立保健医療研究委員会 National Health and Medical Research Council (NHMRC) 医療諮問委員会 Medicare Services Advisory Committee (MSAC) 65 • 移民多文化省 Department of Immigration and Multicultural Affairs (DIMA) o • 産業科学研究省 Department of Industry, Science and Resources (DISR) o o o o o o o o o o o o • 移住者登録局 Migration Agents Registration Authority (MARA) 電離圏予測局 Ionospheric Prediction Service (IPS) 国土地理局 Australian Surveying and Land Information Group (AUSLIG) 地質調査機構 Australian Geological Survey Organisation (AGSO) 科学産業研究機構 Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation (CSIRO) 核科学技術機構 Australian Nuclear Science and Technology Organisation (ANSTO) 知的所有権保護局 Intellectual Property (IP) Australia 投資局 Invest Australia 海洋科学研究所 Australian Institute of Marine Science (AIMS) 標準化委員会 National Standards Commission (NSC) 科学技術工学委員会 Australian Science, Technology and Engineering Council (ASTEC) 産業経営強化局 AusIndustry 輸出融資保険組合 Export Finance and Insurance Corporation (EFIC) スポーツ観光省 Department of Sport & Tourism o o o o o 観光局 Office of Tourism 観光調査局 Bureau of Tourism Research (BTR) オーストラリア観光委員会 Australian Tourist Commission (ATC) スポーツ委員会 Australian Sports Commission スポーツ薬品局 Australian Sports Drug Agency (ASDA) 66 • 交通地域省 Department of Transport and Regional Services (DoTRS) o o o o o o o o o • 交通経済局 Bureau of Transport Economics (BTE) 交通安全局 Australian Transport Safety Bureau (ATSB) 地方政府局 National Office of Local Government (NOLG) 首都特別局 National Capital Authority 民間航空安全局 Civil Aviation Safety Authority (CASA) 海洋安全局 Australian Maritime Safety Authority (AMSA) 道路交通委員会 National Road Transport Commission (NRTC) 国際航空委員会 International Air Services Commission (IASC) 海洋安全委員会 National Marine Safety Committee (NMSC) 財務省 Department of the Treasury o o o o o o o o 課税局 Australian Taxation Office (ATO) 統計局 Australian Bureau of Statistics (ABS) 諮問規制局 Australian Prudential Regulation Authority (APRA) 安全投資委員会 Australian Securities and Investments Commission (ASIC) 自由競争消費者委員会 Australian Competition and Consumer Commission (ACCC) 生産力強化委員会 Productivity Commission (PC) 競争中立局 Commonwealth Competitive Neutrality Complaints Office (CCNCO) 規制検討局 Office of Regulation Review (ORR) 競争委員会 National Competition Council (NCC) オーストラリア準備銀行 Reserve Bank of Australia (RBA) 67 造幣局 Royal Australian Mint 退役軍人省 Department of Veterans' Affairs (DVA) 行政控訴裁判所 Administrative Appeals Tribunal (AAT) 社会保障控訴裁判所 Social Security Appeals Tribunal (SSAT) 原住民生活権保護局 National Native Title Tribunal 移住上訴裁判所 Migration Review Tribunal (MRT) 難民上訴裁判所 Refugee Review Tribunal (RRT) 高等裁判所 High Court of Australia 連邦裁判所 Federal Court of Australia 家庭裁判所 Family Court of Australia o • • • • • • • • • 6.連邦政府と州政府 1.5 連邦政府の権限は国防、外交、通商、郵便、通貨、移民な どの特定事項に限定されていて、その他は州の権限である。 経済 1.主要産業 サービス業 約 70.0%、 製造業 約 12%、 鉱業 約 5% 、 農業 約 3% 2.GDP 7,889 億 9,400 万豪ドル(2002/03 年) 3.一人当たりの GDP 3 万 682 豪ドル(2003/04 年) 4 経済成長率 2.9%(2002/03 年) 5.失業率 5.9%(2005 年 11 月現在) 6.インフレ率 2.5%(2005 年 11 月現在) 7.経常赤字 34 億米ドル 8.消費者物価上昇率 2.75%(2005/06 年) 9.貿易 輸出 1,079 億豪ドル(2003 年) 輸入 1,300 億豪ドル(2003 年) 10.主要貿易品目 輸出 石炭、鉄鋼石、原油、非貨幣用金 輸入 乗用車、コンピュータ、医薬品、航空機 11.為替レート 1.325920 豪ドル/US ドル(2006.1 月末) 12 経済の概要 ・2002/03 年度(2002 年 7 月〜2003 年 6 月)は、世界 経済の回復の遅れ、イラク戦争や新型肺炎(SARS)の 発生、干ばつの影響などにより輸出が大きく減少した ことから、実質 GDP 成長率は 2.9%と前年度実績 (3.9%)から減速した。 ・連邦準備銀行(中央銀行)は 2002 年 6 月 5 日、政策金 利を 0.25 ポイント引き上げ、4.75%とした。前月に続 68 く 2 ヵ月連続の利上げ実施となる。その後は金利を据 え置いたが、2003 年 11 月、過熱する住宅投資を背景 に 1 年 5 ヵ月ぶりに 0.25 ポイント引き上げ、5.0%と した。12 月には更に 0.25 ポイントの追加利上げを行 い、5.25%とした。 ・2003/04 年度(2003 年 7 月〜2004 年 6 月)は、堅調 な個人消費や外需の回復を背景に、実質 GDP 成長率は 3.8%と前年度実績(3.2%)を上回った。プラス成長は 13 年連続。2002〜2003 年半ばの干ばつの影響から回 復し、輸出がプラスに転じた。 ・2004 年以降は、引き続き堅調な個人消費に加え、住宅 投資と設備投資が回復、1〜3 月の実質 GDP 成長率は 前年同期比 3.2%、4〜6 月は 4.1%成長となった。政府 は 2004/05 年度の成長率予測を 3.5%としている。 1.6 二国間関係 1.政治関係 「日豪 21 世紀会議」においてハワード豪首相がスピーチ を行い、これまでの緊密な二国間関係の上に、政治・安 全保障、経済、文化・社会の広範な分野において更に緊 密な連携の機会を作る必要があると述べている。 2002 年 5 月に出された 「日豪の創造的パートナーシップ」 の精神に基づく共同声明において、テロリズムとの闘い における日豪間の協議、協力及び調整を強化することが 決意されている。 2.経済関係 対日貿易 (イ)貿易額(2004 年) 輸出 221.8 億豪ドル(前年比 12.7%) 輸入 166.7 億豪ドル(前年比 2.8%) (ロ)主要品目 輸出 石炭、鉄鉱石、牛肉、液化天然ガス、 輸入 乗用車、自動車部品、原動機、ゴムタイヤ 日本からの直接投資 日本からは資源確保を目的とした資源関連投資が大幅 に増加している。2003 年の投資額は国・地域別に見る と、米国に次いで第 2 位で 17 億 3,500 万豪ドルとな っている。 3 在留邦人数 4 万 7,000 人 4.在日居住者 1 万 1,000 人 69 2. 人口統計 2.1 州別人口 図表 8-1 人口データ 州 クインーズランド 面積 (平方キロ) 1,730,648 人口 (万人) 州都(人口) 334 ブリスベン(152 万人) ニューサウスウエルズ 800,642 620 シドニー(388 万人) ビクトリア 227,416 456 メルボルン(328 万人) タスマニア 68,401 南オーストラリア 983,482 西オーストラリア 2,529,875 北部準州 1,349,129 首都特別地域 2,431 合計 7,692,024 47 ホバート(20 万人) 147 アデレード(108 万人) 177 パース(130 万人) 18 ダーウイン(8 万人) 31 キャンベラ(31 万人) 1,830 (1,137 万人) 出典:オーストラリア連邦統計局資料「オーストラリア 2003 年年鑑」 2.2 年齢別人口構成 図表 8-2 人口構成(年齢別) 年齢層 全体 男性 女性 0 歳~9 歳 13.3% 6.8% 6.5% 10 歳~19 歳 13.9 7.1 6.8 20 歳~29 歳 13.9 7.0 6.9 30 歳~39 歳 15.1 7.5 7.6 40 歳~49 歳 14.7 7.3 7.4 50 歳~59 歳 12.1 6.1 6.0 60 歳~69 歳 7.9 3.9 3.9 70 歳~ 9.1 3.9 5.2 合計(全年齢) 100 49.6 50.4 出典:ABS,” Australian Demographic Statistics”, June, 2003 70 2.3 言語別人口構成 図表 8-3 人口構成(言語別) 言 語 人数(人) 英語 構成比(%) 15,013,965 79.1 イタリヤ語 353,605 1.9 ギリシャ語 263,717 1.4 広東語 225,307 1.2 アラビア語 209,372 1.1 ベトナム語 174,236 0.9 標準中国語 139,286 0.7 スペイン語 93,593 0.5 タガログ語 78,878 0.4 ドイツ語 76,443 0.4 日本語 28,285 0.1 その他 848,067 4.5 不明 1,467,596 7.7 合 計 18,972,350 100 出典:Census of Population and Housing 2.4 産業別雇用者数 図表 8-4 産業別雇用者数(2003/04 年度) 雇用者数 (千人) 産 業 農林水産業 構成比 (%) 374.5 3.9 96.6 1.0 1,070.2 11.2 75.0 0.8 建設 776.7 8.1 卸売業 445.5 4.7 小売業 1,439.2 15.1 470.3 4.9 鉱業 製造業 電気・水道・ガス ホテル・飲食業 71 運輸・倉庫 432.5 4.5 通信サービス 174.0 1.8 金融・保険 346.4 3.6 1,119.8 11.7 行政・防衛 445.3 4.7 教育 698.4 7.3 医療・地域サービス 955.3 10.0 教養・娯楽 239.0 2.5 個人サービス 369.1 3.9 帰属家賃 - - 税マイナス補助金 - - 統計誤差 - - 9,559.5 100.0 不動産・ビジネス・サービス 計 出典:ARC レポート オーストラリア 2005 出所:Australian Economic Indicators July 2005 3. 労働基礎情報 3.1 労働市場 労働市場の変化は低技能労働者に多大な影響を与えた。ティーンエージャ向けのフ ルタイムの労働市場が崩壊し、製造業分野の衰退に伴いブルーカラー労働者の市場も 著しく衰退した。幸いこれはサービス部門の成長によりある程度埋め合わせられたが、 この分野の雇用は圧倒的にパートタイムか臨時雇用である。実際にパートタイムの雇 用の伸びはフルタイム雇用の伸びの約 3 倍であった。 同時にパートタイムの仕事は労働市場に流れ込んでくる女性が圧倒的な割合となっ ている。 3.2 労働市場関連情報 〔労働力人口〕 〔労働力率〕 〔就業者数〕 〔失業率〕 1,015 万 9,000 人 64.3%(2005 年 11 月) 955 万 9,500 人(2005 年 11 月) 5.1%(2005 年 11 月) 図表 8-5 年度別失業率 年度 2000 2001 2002 2003 2004 年度平均 6.6% 6.4% 6.7% 6.2% 5.8% 出典:Australian Bureau of Statistic 72 3.3 賃金 賃金法のような法律は存在しない。賃金は裁定や企業協定及び個別契約の組み合わ せによって決まるが、その多くは関係労働組合の労使関係における力関係に左右され る。全国一律の最低賃金制はないが、労使関係委員会(Australian Industrial Relations Commission : AIRC)が扱った裁定結果から導出される最低賃金は存在する。 図表 8-6 平均週給 〔週給 単位:ドル〕 フルタイム成人 基本給与 年度 男 女 全従業員 総給与 平均 男 女 総給与 平均 男 女 平均 1996 731.40 611.80 688.20 787.40 626.30 729.30 682.40 451.90 574.00 1997 763.60 637.30 716.80 819.60 651.50 757.30 708.30 466.20 592.10 1998 790.00 663.10 743.20 846.10 677.10 783.80 726.10 478.30 606.50 1999 816.00 687.10 768.20 868.60 701.90 806.80 744.20 490.30 619.80 2000 857.50 723.80 808.80 906.40 738.70 845.30 777.20 520.40 653.60 2001 903.70 764.70 853.60 954.10 777.00 890.30 815.60 537.40 680.90 2002 95.70 2003 955.30 843.80 941.30 1058.20 858.20 986.90 891.60 583.10 744.40 803.00 897.60 1006.30 816.10 937.90 854.20 557.70 710.50 出典:Average Weekly Earnings, Australia, Preliminary(Cat.no6301.0) 3.4 労働時間 かつてオーストラリアでは「労働生活」とは 1 日 8 時間、週 5 日、年 11 ヵ月働き、 65 才で引退するということであった。そしてこれが基本賃金のベースと考えられ、 「正 規の労働時間」とされていた。1960 年代、1970 年代には労働者は実質上ほとんどが フルタイムで働き、一時雇い、パートタイムの労働者の比率は非常に低かった。それ が今では、時間外労働はフルタイム労働者の間で増加しており、しかもその多くは時 間外労働として記録されず、時間外手当も支払われていない。実際問題としてもはや 「正規の労働時間」という概念が崩壊しているようである。このような傾向は今の日 本と同様である。 年間実質総労働時間は 1985 年には 1,852 時間であったが、1995 年には 1,876 時間 に増加している。この傾向はその後も継続しているようである。 3.5 労働組合 組織率は 1980 年代までは約 50~55%で安定していたが、1980 年代後半から 1990 年代に入って急速に低下し、1986 年の 46%から 1996 年 8 月には 31%になった。労 組は統合を続け、1980 年代には約 320 の労組が連邦に登録されていたが、現在、連 73 邦に登録されている労組に属する労働者の 98%は 17 の大きな「複合的」産業別労組 に属している。 〔推定組織率〕 1996 年 8 月時点で、 オーストラリアの 15 才以上の労働者 70 万 2100 人の 31%は組合員であった。 〔労働争議件数〕1998 年 11 月には 75 件の争議があった。これは 1995 年 3 月(86 件)以来最高の争議件数である。 〔労働喪失日数〕1998 年 10 月に労働争議により失われた労働喪失日数は 3 万 8100 日で 1998 年 10 月に比べ 85%の増加である。1998 年 11 月に 2 万 6900 人の労働者が労働争議に関係した。 出典:ABC.6235,6321 図表 8-7 労使紛争 年 争議件数 参加労働者数(千人) 労働喪失日数(千日) 1996 543 577.7 928.5 1997 447 315.4 534.2 1998 519 348.4 526.3 1999 731 461.1 650.5 2000 698 325.4 469.1 2001 675 225.7 393.1 2002 767 159.7 259.0 2003 756 275.6 439.4 出典:ARC レポート オーストラリア 2005 出所:Industrial Disputes, Australia (6321.0) 74 付録1 付録1 略語一覧表 PKO EFIC OOF UNTAC ASEAN NGO ADF IDA IFAD DAC GNI UNDP SARS APEC BEAM UNICEF TAFE MCEETYA Peace Keeping Operations (国連平和維持活動) Export Finance and Insurance Corporation (輸出金融保険公社) Other Official Flows (その他公的資金) United Nations Transitional Authority in CAMBODIA (国連カンボジア暫定統治機構) Association of Southeast Asian Nations (東南アジア諸国連合) Non Governmental Organizations (非政府組織) Asian Development Foundation (アジア開発基金) International Development Association (国際開発協会) International Found for Agricultural Development (農業開発国際基金) The Development Assistance Committee (開発支援委員会) Gross National Income (総国民所得) United Nations Developments Programme (国連開発プログラム) Severe Acute Respiratory Syndrome (重症急性呼吸器症候群) Asia Pacific Economic Cooperation (アジア太平洋経済協力) Basic Education Assistance to Mindanao (ミンダナオ基礎教育支援) United Nations Children’s Fund (国際連合児童基金) Technical and Further Education (各州政府直轄の専門学校、職業訓練校) Ministerial Council on Education, Employment, Training and Youth Affairs (雇用教育訓練・青少年問題に関する閣僚諮問委員会) 75 MINCO DEST ANTA ITAB AQFAB ATF NCVER VTE AFTA Australia National Authority Ministerial Council (職業教育訓練閣僚諮問委員会) Department of Education, Science and Training (教育科学訓練省) Australia National Training Authority (オーストラリア国家訓練局) Industry Training Advisory Board (産業訓練諮問委員会) Australian Qualifications Framework Advisory Board (オーストラリア資格原則諮問委員会) Australia Training Products (オーストラリア訓練製品公社) National Center for Vocational Education Research (全国職業教育研究センター) Vocational and Technical Education (職業技術教育) ASEAN Free Trade Area (アセアン自由貿易地域) 76 付録 2 オーストラリアの オーストラリアの国際開発協力プログラム 国際開発協力プログラム プログラム サブプログラム 要 素 国 国・地方 プログラム 地 方 地方と地方 人道・緊急救援・ 難民救済 AusAID プログラム 多国間組織 世界全体 プログラム NGO と ボランティア 公共情報・ 開発教育 開発研究・ セミナー支援 省庁支出 非 AusAID 支 出 オーストラリア 国際農業研究 センター(ACIAR) 他の政府機関 (OGDs) 77 付録3 付録3 訪問先及び 訪問先及び面談者 調査訪問先 独立行政法人 国際協力機構 国際協力総合研修所 図書館 〒162-8433 東京都新宿区市谷本村町 10-5 (財)海外職業訓練協会 情報センター 〒261-0021 千葉県千葉市美浜区ひび野 1-1 オーストラリア大使館 豪日交流基金オーストラリア図書館 〒108-8361 東京都港区三田 2-1-14 オーストラリア政府 国際開発事業団(AusAID) GPO Box 887 Canberra ACT 2601 Australia オーストラリア政府 教育科学訓練省(DEST) GPO Box 9880 Loc 202 Ground Floor 16 Mort Street Canberra City ACT 2601 Australia 全国職業教育研究センター(NCVER) PO Box 8288, Station Arcade SA 5000 Level 11,33 King William St. Adelaide, South Australia 5000 南オーストラリア職業訓練校(TAFE SA) Regency Campus Days Road Regency Park South Australia 5010 78 面談者氏名 Ms. Iris Yam Program Manager North Asia Section Australia Agency for International Development (AusAID) Ms. Lee Archinal Director Strategic Directions Section National Training Directions Group Department of Education, Science and Training (DEST) Mr. Phil Loveder Manager International & Consultancy Services National Centre for Vocational Education Research LTD (NCVER) Mr. Derrick Casey General Manager Educational Programs and Services Government of South Australia TAFE South Australia Ms. Lindsey Bridges Industry Consultant Government of South Australia TAFE South Australia 79 付録 4 参考資料等 1.ウェブサイト情報 http://www.acfid.asn.au 国際開発議会 http://www.ausaid.gov.au オーストラリア国際開発事業団 http://www.ncver.edu.au 全国職業教育研究センター http://www.jbic.go.jp 国際協力銀行 http://www.redcross.org.au オーストラリア赤十字 http://www.tranparency.org.au トランスペアレンシーインターナショナル http://www.acil.com.au Acil(国際的なコンサルタント会社) http://www.idp.com.au 国際開発プロジェクト http://www.sagric.com.au SAGRIC インターナショナル http://www.tafeglobal.com.au 全国専門学校・職業訓練校 http://www.mofa.go.jp 日本外務省 http://www.ovta.or.jp 財団法人 海外職業訓練協会 2.参考図書・データ 海外・人づくりハンドブック ―オーストラリア― 財団法人 海外職業訓練協会 海外調査員報告 ―オーストラリア― 財団法人 海外職業訓練協会 80 オーストラリアの労働事情 日本労働協会編 オーストラリア概要 1992/93 年版 日本貿易振興会編 オーストラリアの移民政策 マーチン J.著 古沢みよ訳 勁草書房 オーストラリア 経済・貿易の動向と見通し 世界経済情報サービス編 オーストラリアの主要経済指標 日本貿易振興会編 日本貿易振興会メルボルンセンター オーストラリア外交政策 カミレリ J.著 小林宏訳 勁草書房 オーストラリア労働法の基軸と展開 長淵満男著 信山社出版 オーストラリアの高齢者福祉 染谷俶子著 オーストラリア研究紀要 竹田いさみ著 追手門学院大学 国際貿易と投資 ODA の第 3 のルート・NGO 拓殖大学国際開発学部教授 長坂寿久著 オーストラリアの青少年政策 青少年の生活と直面する諸問題 81 自治体国際化協会編 太平洋国家オーストラリア 川口浩、渡辺昭夫編 東京大学出版会 DAC 諸国の ODA 額の推移 Honkawa Data Tribune 援助受取形態からみた開発途上国の諸類型 岡村美由規著 名古屋大学大学院国際開発研究科 Leaning and training in school-based new apprenticeships Erica Smith, Lou Wilson National Centre for Vocational Education Research National evaluation of adult learners’ week 2001 and 2002 National Centre for Vocational Education Research,2003 The development of quality online assessment in vocational Education and Training packages David Foreman, Paul Davies National Centre for Vocational Education Research Statistical Summary 2003-2004 Australian Government Australia’s International Development Cooperation Australian Quality Training Framework 2005 Australian National Training Authority New National Training System Australian Government Department of Education, Science and Training Australian Vocational Education and Training Research messages 2004 National Centre for Vocational Education Research 82