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RGB 対応カラーマネジメント技術

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RGB 対応カラーマネジメント技術
技術論文
RGB 対応カラーマネジメント技術
Color Management Technology for RGB
要
旨
RGB 対応のカラーマネジメント技術は、デバイス
間のカラーマネジメントの基本技術である。これまで
オフィスやプロダクションプリンターを中心に構築し
てきた本技術には、色再現の目標設計に関わる技術、
色域圧縮技術等がある。これらの技術は、単に個別の
デバイス間の設計を実施するのではなく、異なる機種
や色再現条件において一貫した色再現を提供できるこ
とを狙いとして技術開発を行なってきたものである。
広色域の RGB に対応する技術や、省トナー化技術、
用紙種対応技術においても前記した一貫した色再現を
重要な技術要素として取り組んできた。近年のお客様
の業務ワークフローは、
RGB カラーを基準としたワー
クフローを構築することが多くなってきている。この
ワークフローにおいては異なる特性を持つデバイスが
複数利用されていることが当たり前であり、前記した
技術や考え方は、これらワークフローにおいて効果的
に利用、
応用できるものである。お客様のワークフロー
に対して全体の効率化、トータルコスト削減といった
価値を提供できるものと考えている。
Abstract
執筆者
日比 吉晴(Yoshiharu Hibi)
酒井 典子(Noriko Sakai)
福原 政昭(Masaaki Fukuhara)
富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
The color management technology for RGB is a
basic color management technique between devices.
Mainly incorporated in office and production printers
up to now, this technology includes technology for
designing targeted color reproduction as well as color
gamut compression technology. These technologies
have been developed to offer consistent color
reproduction even with different product models and
under various reproduction conditions. In recent years,
more customers are constructing their business
workflows based on RGB color workflows. The
technologies and ideas described above can be
utilized effectively in workflows where multiple devices
having different characteristics are frequently used,
and thus will provide new values for customer
workflow, and contribute to increased efficiency and
lower costs.
27
技術論文
RGB 対応カラーマネジメント技術
とっても非常に難しいものになっている。
1. 緒言
一方、ユーザーが色を見るのは、カラーモニター
カラーマネジメントシステム(以降では CMS
上であったり、出力される印刷物、プリント物
と略す)という言葉が使われはじめてからすで
である。モニター上で見ている色と出力物の色
に 20 年ほど経過している。カラーモニター、
の違いを補正することが課題となり、カラーモ
カラープリンター等のカラーデバイスの色再現
ニターやプリンターの色再現能力、デバイス間
性能が向上し、それらを印刷のワークフローに
の色変換性能に着目した技術が開発されてきた。
利用しようと考えはじめるころから、
しかしながら、単にデバイス to デバイスの色変
®
®
Color
換技術を考えるのみでは、近年のユーザーの
Management ) と い っ た OS ( Operating
ワークフロー内において利用されている種々の
System)での CMS や、カラーデバイス独自で
デバイス間の色再現を統合的に管理できないこ
の色管理機構等、種々の CMS がユーザーに提
とが明確になってきた。種々のデバイスに色表
供されている。ただし、現在に至っても、ユー
現能力の違いがあっても、ユーザーの目的に
ザーのワークフローにおいて色の課題が解決さ
あった一貫した色再現を提供できることが、お
れているとはいえない状況にある。
客様にとっての新たな価値提供であると考えて
その理由をいくつか挙げてみる。
いる。色再現能力・観察環境も異なっているデ
ColorSync
や 、 ICM
( Image
① 種々のデバイスの色表現能力の違い
バイスを複数利用するワークフローは増加して
② 機器の色再現ばらつき
おり、全体を一貫したカラーマネジメントで扱
③ ユーザーが色を見る観察環境の違い
えることが必要となっている。
④ ICC(International Color Consortium)
プロファイルの運用の難しさ
2. お客様へのあらたな価値提供
⑤ OS/アプリケーション(バージョン含む)/
2.1 CMYK ワークフロー
カラーデバイスの CMS 間の不整合があ
る、または設定・管理方法が複雑
CMYK ワ ー ク フ ロ ー と は 、 印 刷 な ど の
①~③の色再現に関わる課題に加え、④~⑤
CMYK 出力を基準と考えるフローである。色表
のようなワークフローにおけるシステム上の課
現能力として同等なカラープリンターあるいは、
題、管理の複雑さ等のため、ワークフロー上で
色表現能力が上回るモニター上で、いかに精度
の色管理は、ユーザーにとってもメーカーに
よく近似出力できるかの技術が重視される。商
広告主
広告代理店
出版社
印刷会社
広告依頼
PDF
モニター
PDF
インク(CMYK)
デザイン・原稿制作
色見本
色見本
JMPAカラー準拠
(CMYK基準色空間)
印刷
JMPAカラー準拠
(CMYK基準色空間)
図 1. CMYK ワークフロー
CMYK workflow
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富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
技術論文
RGB 対応カラーマネジメント技術
業印刷や雑誌印刷、新聞印刷等の業務フローで
示する。時にプリントアウトした色再現が、ず
用いられており、CMYK 基準の印刷条件を決め、
いぶんとモニターで見ていた色と違っているこ
それを標準としてデータを受け渡すルールを定
とに気がつく場合があるが、そこではじめて色
めた色管理が行なわれる。近年では、標準印刷
再現の出力モードがあることを知り、よりモニ
条件を定めて統一管理していこうという機運が
ターに近く出力できるように、シーンに合わせ
国際的にも進んでいる。国内では、社団法人日
てプリント指示するようになる場合がある。
1)
や、社団
一方、商品をデザインするデザイナーのワー
法人日本印刷産業機械工業会の進める日本の標
クフローでも、RGB モニター上で CG を用い
本雑誌協会が定める JMPA カラー
2)
準的な印刷基準を定めた JapanColor を基準
たデザインを行なっている。そこではモニター
として色を管理していく流れが進んでいる。図
上での色再現がオリジナルの色であり、商品を
1 は、CMYK ワークフローの例として JMPA
想定した色となる。その RGB ワークフローを
カラー基準のワークフローを示した。このワー
図 2 に示した。デザイン制作における次段階で
クフローではJMPAカラー準拠のプリンター
ある検討会議や、上位者へのプレゼンテーショ
で色校正、色確認を行ない、JMPA カラー準拠
ンの場では、カラープリンターに出力したもの
での印刷を行なう。カラーデータとしては、最
を配布することもあるし、そのままプロジェク
終の印刷版の CMYK カラーを基準とし、ワー
ターに表示して自分のデザインを説明する場合
クフロー内のカラーマネジメント運用を行なう
も多い。
そのワークフローにおいて色再現の一貫性は
ものである。
最重要課題である。カラーマネジメントがなさ
2.2 RGB ワークフロー
れていないと、モニター上で設計した色をカ
RGB ワークフローは、デザイナーのクリエイ
ラープリンターに出力した場合、商品の色のイ
ション段階の最初のRGBをカラーデータの基
メージがまったく異なって出力されることにな
準としている。オフィス文書作成業務で使用さ
る。あらためてプリント上の色のイメージが意
れるプリントは、文書に用いられる色のカラー
図したイメージになるように、カラープリン
スペースがRGBで作成・表現されており、そ
ターの出力を調整するか、逆にオリジナルデザ
れら文書が管理され、直接プリンターに出力さ
インの色を調整するといった非効率な作業が強
れる代表的なワークフローである。オフィス
いられる。さらには、同じ RGB デバイスであ
ユーザーは、自分のモニター上で文書作成を行
る他のモニターやプロジェクターにデザインを
ない、プリントをオフィス内のプリンターに指
表示させた場合でさえ、色が異なっていること
モニター
プロジェクター
デザイナー
商品
色確認
モニター
sRGB
(RGB基準色空間)
カタログ印刷
プリンター
オフセット印刷
図 2. RGB ワークフロー
RGB workflow
富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
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技術論文
RGB 対応カラーマネジメント技術
デファクトとなり、Windows®のOSやデジタル
も多い。
カラーマネジメントが行なわれていない場合
カメラのExif規格においてデフォルトの色空間
には、デザイナーの設計意図がまったく伝わら
として利用されるようになった。今では、sRGB
ず、プレゼンテーション自体が失敗してしまう
を想定色空間として取り扱うことが一般的に
ということにもなる。このようなワークフロー
なっている。図3は、Lab色空間上でsRGBの色
では、多様な出力デバイスを一貫した色再現を
域(ワイヤーフレーム)とプリンターの色域(ソ
得られるようにマネジメントする(必ずしも同
リッドカラー)の違いを示したものである。
じ色で再現することではない)ことが、デザイ
オフィスやパーソナルシーンにおいては、
ナーの修正作業、データの変更を極力排除でき、
sRGB を標準としたカラーマネジメントが一般
ワークフロー全体の効率化、トータルコスト削
的となっており、RGB 対応のカラーマネジメン
減といった価値を生むことになる。
ト技術の重要な要素となっている。図 3 に示す
ような色域の違いを吸収するため、
2.3 sRGB 色空間
① 色再現目標値の設定
CMSの代表的な形態は、デバイスのカラー特
② 色再現モード
性を持たせたICCプロファイルを使用して、ワー
③ 色一貫性
クフロー内のカラーマネジメントを行なうシス
④ 色域 Mapping
テムである。ただし、この運用が成り立つのは
に関わる技術群が、富士ゼロックスのマルチ
ICCプロファイルの対応ができるシステムやア
ファンクション機器、カラープリンターに適用
プリケーション、デバイスがワークフロー上すべ
されている。これら技術により、機器間で一貫
てに確実に揃っていることが前提となる。1990
した色再現を構築することが可能となっている。
®
年代のオフィスシーンでは、Windows システ
ムおよびアプリケーション、プリンター等の前記
CMS対応ができておらず、
2.4
AdobeRGB 色空間
オフィスシーンで想定された sRGB 色空間に
は課題がある。それは、印刷やプリンターの色
域を完全に包含できないことである。そのため、
印刷のワークフローにおいて、sRGB を標準の
RGBとすることはできず、印刷、プリンター
の色域を包含する AdobeRGB(1998)
(以下
AdobeRGB)が色空間印刷のワークフローに
おいて利用されるようになっている。sRGB 色
空間を用いると、印刷で表現可能な色域(例え
ば Green から Cyan)が保存されないリスクが
あるため AdobeRGB 色空間でデータを受け渡
すルールが提案されている。また、近年の表示
図 3. モニター(sRGB)とプリンターの色域の違い
Difference of color gamut of monitor and print
デバイスは AdobeRGB に対応できるほどの広
色域化が進んでおり、紙上での色再現域を大幅
前記ICCプロファイルベースのカラーマネジメ
に上回ってきている。そのため、RGB 対応カ
ントを行なうことに大きな障害があった。そのた
ラーマネジメント技術は、AdobeRGB 色空間
め、標準のカラースペースを定義して、ワークフ
のような広色域の色空間の標準への対応が必要
ロー内では標準のカラースペースで受け渡して
となっている。とはいえ、AdobeRGB の色域
いくCMSの形態ができてきた。その標準のRGB
全域が日常使われるわけではない。POP 表現の
色空間として、1999年にIEC(International
ために使われたり、広色域領域が必要なロゴ
Electrotechnical Commission)の色空間国際
マーク等の正確な再現に使用されるのが主要目
規格(IEC61966-2-1)に採用されたsRGBが
的といえる。限られた色域のプリンターの色再
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富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
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RGB 対応カラーマネジメント技術
現を設計する上では、実用上の色域の表現を十
ど様々な理由から標準的なものは存在していな
分考慮した色再現設計や種々のデバイス間のカ
い。色再現の目標の種類は 1 つしかないと思わ
ラーマネジメントを一貫した色再現性で提供す
れている場合が多いが、ユーザーのワークフ
ることが重要である。
ローのシーンが異なれば、人が最適と感じる色
再現の目標は異なる。
例えば、デザイナーの想定シーンでは、モニ
3. RGB カラーマネジメント技術
3.1
ター上で詳細の色再現を確認しながら原稿を調
RGB 目標値
整した後にプリントする(図 5 シーン A)。オ
CMYK ワークフローのカラーマネジメント
フィスユーザーの想定シーンではモニターで簡
は、印刷ターゲットから出力プリンターへの色
単に原稿を確認した後、出力原稿を提案資料な
変換となる。図 4(a)のように出力プリンター
どで配布するため、原稿を観察する主な人はモ
と印刷ターゲットの色域の大きさはあまり変わ
ニター再現を見ていない(図 5 シーン B)。こ
らないため、色再現目標を印刷ターゲットと別
れは、オフィスでは出力原稿を重視した色再現
に設けなくとも、色差を最小とする点に変換す
が適しているとされることが多いのに対して、
3)
など
デザイン確認では、モニター上の色再現のイ
を用いて変換しても色合いが大きくずれるなど
メージを保ちながら出力することが適している
の問題は発生しない。しかし、RGB ワークフ
と想定できることによる。
るプリンターデバイスのモデリング技術
ローのカラーマネジメントの場合は、図 4(b)
本技術では、これらの想定シーンに合わせて、
のように入力の RGB の色域と出力プリンター
様々な色再現目標の開発を行なった。図 5 に色
の色域が大きく異なる。この場合に色差を最小
再現目標(緑点)の例を示す。シーン A ではモ
にする色変換を用いた場合は、1 つの入力点(青
ニターに近い再現とするため明るい緑となって
点)からの色差が最小の点は図 4(b)の矢印
いるが、シーン B では、鮮やかな緑となってい
ように多数存在し、色差の設定方法によっては
る。これはシーンが異なると人が適していると
色合いの大きな変化や、色段差が生じるなどの
思う色再現が異なるからである。シーンに合わ
問題が発生する。そのため、RGB カラーマネジ
せた RGB 目標値をもつことで、ユーザーが色
メントでは色再現の目標値設定が重要となる。
調整する必要なく最適に出力することができる。
色再現の目標は、出力プリンターの多様性な
(a) 印刷ターゲットと
電子写真の色域(青色)
(b) RGB モニターと
電子写真の色域
図 4. CMYK 色変換と RGB 色変換
CMYK Color Conversion and RGB Color Conversion
富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
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技術論文
RGB 対応カラーマネジメント技術
シーンA
A
A
B
シーンB
B
図 5. 色再現目標
Mapping Target
この機能は図 6 のドライバー画面「おすすめ画
プリンターを使って行なう例も想定される。こ
質タイプ」に搭載されている。シーン A のモニ
れらの場合、出力プリンターにより色再現が異
ターに近い再現は「デザイン」モード、シーン
なると、作成者の意図した再現にならず、各プ
B の出力原稿を重視した再現は「プレゼン資料」
リンターに合わせて原稿を変更する必要が生じ、
モードでとなっている。
無駄な時間が発生する。そのため、どのプリン
ターでも一貫した色再現で出力されることは非
常に重要である。
しかし、複合機やプリンターは、開発時期、
コストや筐体の大きさなどの種々の要因から機
械のコンフィグレーションが大きく異なる。例
えばトナーの色材が異なるために色域が異なる
場合だけでなく、用紙へのトナーの定着条件な
どからトナー総量の制限値が異なるために色域
が異なる場合もある、特に安価なプリンターと
プロダクションなどのプリンターは条件が大き
く異なる。例えば、あるプロダクションのプリ
図6. おすすめ画質タイプ
Image Types
ンターの色再現目標を定めたとしても、同じ色
再現目標を色域も異なる安価なプリンターで実
3.2
色の一貫性
ユーザーのワークフローを想定した場合、複
数の複合機やプリンターを使用する。
現することは難しい。そこで、どのようなプリ
ンターに対しても同じ色再現に見える、色の一
貫性の特性を抽出する必要がある。
ApeosPort の機能を活用した例では、Server
本技術では、多数のプリンター色再現の評価
上にプリント指示をすることで、会議室に近い
を行ない、色の一貫性の因子を抽出し、様々な
プリンターや自席に近いプリンター、どこから
プリンターに適用可能な Mapping アルゴリズ
でもプリント出力を得ることができる。また、
ムの開発を行なった。一貫性の一因子としては、
上位機種のプリンターを使ってデザインを確認
図 7 に示すように階調再現性を制御することが
しながら原稿を作成し、最終出力を下位機種の
重要であることがわかった。従来の技術では、
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富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
技術論文
RGB 対応カラーマネジメント技術
ある RGB 目標値を定めただけでは図 7(a)の
なワークフローにおいても、それぞれの目標値
ように機種ごとに異なる階調再現となる。しか
に対して色一貫性の要素を加えることで、各々
し、本技術では図 7(b)のように階調再現性
の目的に合わせて、一貫した再現とすることで
を同様にすることで、人が一貫した再現である
きる。
と認識する。
3.4
広域 RGB 入力色空間
一般的な RGB の入力色空間は、sRGB が使
(a)
用されているが、印刷ワークフローでは、受け
渡し色空間として AdobeRGB の使用も増えて
いる。また、ディスプレイでも AdobeRGB を
表示できるものが増えてきているため、広域の
RGB 入力色空間をプリンター上で再現する必
機種A
機種B
機種C
要性が出てきた。しかし、プリンターエンジン
(b)
の色域は、図 8 に示すように sRGB と大きく異
なっている現状がある。sRGB よりさらに広い
RGB 入力色空間である AdobeRGB 色空間を
扱うには寄り詳細な目標設定と Mapping 技術
図7. 階調再現性
Tone Reproduction
3.3
が必要である。
Mapping 技術
様々な色再現の目標や色の一貫性を保つため
AdobeRGB
に、設定した目標や一貫性要素を制御できる
Mapping 技 術 が 必 要 で あ る 。 一 般 的 な
Printer
Mapping 技術では、プリンターの色域外をす
べて色域の外郭に変換する方法などがある。こ
の技術では色再現の目標値が、ワークフローに
応じて多数あった場合やプリンターの色域が異
なる場合に、意図した目標値に変換することが
sRGB
できない。改善方法として、それぞれのプリン
ターの共通色域を求めて、共通色域内で
Mapping する技術もあるが、色域を最大限に
使用できない問題が大きく、安価なプリンター
図 8. sRGB,AdobeRGB,プリンター色域
sRGB,AdobeRGB,Printer Gamut
とプロダクションのプリンターの色一貫性を色
域的に狭い方に合わせざるを得ないといった問
題がある。
特に Green の領域は、sRGB との差が大きい。
そこで、本技術では色の一貫性を維持するた
この領域は図 9 のように体積比が、sRGB とプ
めの関数と目標値を達成するための関数を用い
リンターが 1.9 倍に対して、AdobeRGB とプ
て色再現を設計できる Mapping 技術の開発を
リンターは 5.4 倍である。このように、sRGB
行なった。
と同様の Mapping 技術では対応できないこと
色空間の各領域において、色の一貫性と目標
が分かる。
値の関数の割合を設定し、各々で最適変換関数
を決定する。これにより、安価なプリンターと
プロダクションで大きく色域が異なった場合で
も、同じ印象の色再現とすることができる。様々
富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
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技術論文
RGB 対応カラーマネジメント技術
付属されているパラメーターでも標準用紙であ
体積
れば一貫性のある、安定した色再現で出力する
ことができる。しかし、ユーザーが用紙を変更
した場合、そのプリンターエンジン特性が標準
用紙と異なるため、設計された色再現が異なっ
てしまう場合がある。
プリンターでカタログを作成するワークフ
ローでは、原稿のデザインの確認をプリンター
で出力しながら進める際は普通紙(標準用紙)
で行ない、最終のカタログ出力は、普通紙でな
く本紙(コート紙などの厚紙)を使用して出力
プリンター
sRGB
AdobeRGB
する場合もある。すると、校正時に確認してい
図 9. sRGB,AdobeRGB,プリンター色域体積比較
sRGB,AdobeRGB,Printer GamutSize
た色再現が変化しカタログのイメージが大きく
変わってしまう。これを改善するためには、カ
本技術では、広域 RGB 入力色空間に対して、
タログの校正をコート紙の色再現を予測しなが
Mapping 圧縮率を領域ごとに最適化を実施し
ら再度実施しなければならないため、時間の大
た。色域が大きく異なる場合に、そのまま線形
幅なロスが発生する。また、常に本紙で校正し
に圧縮した場合や、色域の外郭に Mapping し
た場合は用紙コストが増加する。
た場合は、Green 領域はほとんどの色が潰れて
用紙の坪量、コートの有無等が変更になった
しまう。そのため、図 10 のように低彩度領域
場合は、プリンターのプロセススピードや定着
の圧縮率を弱め、高彩度ほど圧縮率を強めるこ
機温度なども変更になるため、同一機であって
とで、外郭に張り付くことなく、彩度を低下さ
もプリンターエンジンの特性は 3 次元的に変化
せることなく広域 Mapping を実現した。
し、色域も変化する。このような 3 次元的な特
性の変化を吸収して、どのような色域でも一貫
高彩度
性のある再現を行なえるようなプロファイルを
AdobeRGB色域
簡易に作成できることが重要である。
お客様の使用用紙に合わせてプロファイルを
設計し適用できるために、お客様先で色変換プ
ロファイルを生成できる機能を提供した。これ
プリンター色域
に対応するプリントプロファイラ SW の開発に
は、異なる用紙に対しても一貫性のある色再現
とするため、3.3 の Mapping 技術を組み込ん
だ。これにより、お客様の使用用紙が異なって
も一貫性のある色再現を提供できる。
低彩度
Mapping前
Mapping後
3.5.2
図 10. 広域 Mapping
Wide Gamut Mapping
3.5
3.5.1
プリンタープロファイラー
用紙対応性
GraphicArt や DTP(Desktop Publishing)
AdobeRGB(1998)対応
印刷系のワークフローの変化に対応するため、
RGB プリンタープロファイルに AdobeRGB
対応を追加した。sRGB 入力色空間をターゲッ
トとした Mapping プロファイルを標準として
いることは変わらないが、AdobeRGB 入力色
のワークフローでは、常に安定した色再現で出
空間の画像をターゲットとした場合に対し、
力されることが求められている。プリンターに
AdobeRGB モードを追加搭載し、3.4 に示す
34
富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
技術論文
RGB 対応カラーマネジメント技術
広域 Mapping 技術により AdobeRGB のよう
な色変換技術の開発に取り組んでいる。技術開
な色域でも最適に再現することができる。
発の大きな要素として、人の視覚特性とトナー
の変化量は同じではないことに着目し、色空間
3.6
EcoMapping 技術
内で視覚特性の敏感度とトナー使用量の違いを
オフィスでは近年、エコへの関心への高まり
用いて EcoMapping する。視覚特性で鈍感な
などから、トナー使用量を抑制するトナーセー
領域かつ、トナー使用量の多い領域を中心に削
ブの重要性が増している。従来のトナーセーブ
減することで、色再現の印象を維持したままの
では、一律にトナー使用量を抑制するものや、
再現を狙うことができる。この技術は、自社製
プリンターエンジンの電位設定を変更してト
品に搭載され、トナーセーブの使用頻度をあげ、
ナー使用量を抑制するものがある。しかし、こ
よりエコへの貢献度を高めている。
れらの方法だけでは削減後の原稿で、作成者の
意図から大きく異なる問題や、情報消失の問題
が発生してしまう。
4. おわりに
例えば、一律にトナーセーブした場合は、
これまで述べてきた RGB 対応カラーマネジ
C,M,Y,K 各色で一律に削減するが、プリンター
メント技術を展開することで、現状のカラープ
エンジンの特性は図 11 のように非線形のため、
リンター機器間の色再現の一貫性を考慮した色
階調特性が崩れ、色段差などが発生する。また、
再現を提供することが可能となった。また、種々
CMYK 色空間で制御した場合には、デバイス非
の RGB デバイスに対しても本技術を展開する
依存の CIE Lab 空間で表わした場合に、図 11
ことで、お客様のワークフローに対して総合的
(b)のように、元は滑らかな白~赤へのグラ
なカラーマネジメント技術を提供していけるも
デーションから、部分的に色合いが異なり、グ
のと考えている。
ラデーションに段差などが発生する場合がある。
このような再現デフェクトがあると、トナー
セーブの使用頻度が減少してしまい、結果的に
エコへつながらない可能性がある。
5. 商標について
z Windows®は、Microsoft Corporation の米
国およびその他の国における登録商標または
(a)
商標です。
z ICM®は、Microsoft Corporation の米国お
よびその他の国における登録商標または商標
です。
z ICC プロファイルは、International Color
CMYK 各色で
トナー削減
(b)
Consortium が公表した標準に従い作成され
るデバイスの色特性を記述したファイルです。
z ColorSync®は、Apple Computer 社の登録
(削減なし)
商標または商標です。
z sRGB は、IEC によって定められた国際標準
色合いのずれ
(削減あり)
規格です(IEC61966-2-1)。
z AdobeRGB(1988)は、Adobe Systems
社によって提唱された色空間の定義です。
色の段差
図 11. 省トナー色再現問題
Toner Save Trouble
z その他、掲載されている会社名、製品名は、
各社の登録商標または商標です。
本技術では、この問題を解決するため、色再
現の印象をできるだけ維持したままになるよう
富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
35
技術論文
RGB 対応カラーマネジメント技術
7. 参考文献
1) JMPA カラーについて
http://www.j-magazine.or.jp/
2) JapanColor について
http://japancolor.jp/
3) Makoto Sasaki, Hiroaki Ikegami
“The Continuous Color Prediction
Model based on Weighted Linear
Regression”, Program and
Proceedings ICIS'02, TOKYO
筆者紹介
日比
吉晴
デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部に所属
Imaging Platform Development,Device Development Group
専門分野:画像処理、画質設計
酒井
典子
デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部に所属
Imaging Platform Development,Device Development Group
専門分野:画像処理、画質設計
福原
政昭
デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部に所属
Imaging Platform Development,Device Development Group
専門分野:画像処理、画質設計
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