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釘面圧力を受ける木材の緩和挙動に関する考察

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釘面圧力を受ける木材の緩和挙動に関する考察
釘面圧力を受ける木材の緩和挙動に関する考察
北海道大学農学院 環境資源学専攻 木材工学研究室
今井 悟
目次
1.緒論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
2. 実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
2-1 試験体・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
2-2 測定器・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
2-3 測定器の予備試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
2-4 面圧試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
2-5 釘面圧力を受けた木材の緩和試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
3 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
3-1 測定器の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
3-2 面圧試験の考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
3-3 釘面圧力を受けた木材の緩和試験の考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
3-3-1 温度のひずみにあたえる影響の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
3-3-2 初期値の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30
3-3-3
緩和曲線の考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35
3-4 経時過程の釘引き抜き抵抗力・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43
4
まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49
5
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50
6
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51
-1-
1. 緒言
弾性と粘性が複合した性質を粘弾性といい、粘弾性を示す物体を粘弾性体という。弾性
体の変形挙動は、応力が作用すると瞬間的にひずみが生じ、応力を除去するとひずみが消
失する。一方、粘生体の場合は時間とともに連続的にひずみが増す変形挙動を示す。木材
には種々の弾性率と粘性率をもつ要素が、多様に存在しているため1)木材の粘弾性挙動は極
めて複雑である。
木材の粘弾性挙動を対象とした実験は大きく二つに分けられ、1 つは建築や構造部材にか
かわる分野であり、もうひとつは、材料特性に重点を置く分野である。前者に関しては例
えば、大断面の構造材を対象としたクリープ実験 2)、木材構造体のクリープ実験 3)、などの
結果が報告されている。一方材料特性に重点を置く分野に関しては、ひずみが比較容易に
測定できる曲げ試験によるものが多いようである。例えば、山田 4)はブナ材の小試験体を用
いた曲げクリープ試験において、クリープ曲線は Law 則と power 則の代数和として表すこ
とができると報告している。
木材の粘弾性挙動に関しては様々な研究がなされてきたが、面圧力を受ける粘弾性挙動
に関する研究はあまり行なわれていないようである。木材が構造部材として使用される際
には、接合部ではプレート、ボルト、釘等が用いられるため、木材が面圧力受ける場面は
非常に多い。したがって面圧力を受ける木材の粘弾性挙動が木材構造体に与える影響は大
きいと思われる。
そこで本研究では、面圧力を受ける木材の粘弾性挙動について一考察を行なうことを目
的とし、釘面圧力を受けた木材の応力緩和を測定した。
-2-
2 実験方法
2-1 試験体
実験には SPF 材(幅 89mm 高さ 38mm 長さ 3500mm)を用いた。縦振動法によって縦
弾性係数を予め測定した 15 体の SPF 材から6体を選んで供試した。15 体の SPF 材の
縦弾性係数の平均は比重の平均はであった。表 1 に 6 体の SPF 材の基本的な性質を示
す。
釘面圧試験のように木材が部分圧縮を受ける場合、試験体内部の圧縮応力は一様な分
布をしていない(図 1)。釘の接触面近傍で大きな応力値を示し、最大値が生じる位置
からの距離が増すにつれて減少し一定値に収束する。しかし試験体寸法が小さく、外境
界までの距離が十分に確保されていない場合、面圧力は試験体寸法の影響を受け、一定
の値とならない。面圧試験を行なう場合は、試験体寸法について前もって検討すること
が必要だと思われる。本実験では、effective marginal width(図 2)を予め計算し、試験
体寸法を決定した。effective marginal width は部分圧縮のヤング率と同等の値となる全面
圧縮のヤング率から以下の式でもとめられる 5)。
  0.93 
W PL  = Aexp 1 

A 
 
・・・式 1
A = 1.22  d 0.78
・・・式 2
W (LP)  negligible
・・・式 3
ここで、W(PL):放射断面に対して繊維直交方向に部分圧縮を受けた場合の Effective
marginal width
W(LP):木口断面に対して繊維方向に部分圧縮を受けた場合 Effective
-3-
marginal width
d:試験体高さ
m:margin
W(PL)の計算値を図 3 に示す。試験体高さが 30mm の場合、margin を 20mm 以上長く
しても Effective marginal width はあまり値が変わらない。以上の結果から本実験では、
繊維直交方向に釘をめり込ませる試験体の寸法を T:R:L それぞれ、30mm、30mm、
50mm とした。繊維方向に釘をめり込ませる場合は、margin の影響はあまりないものと
思われるが、繊維直交方向の試験体寸法に合わせ、T:R:L それぞれ、50mm、30mm、
30mmとした(図 5)。また各試験体からエンドマッチ(図 4)させて試験体を作成し面
圧試験に供試した。
-4-
表1
SPF 材の材質
試験体
s-1
s-2
s-4
s-7
s-15
s-16
平均
ヤング率
(GPa)
10.9
13.8
10.1
9.8
9.3
12.8
11.1
気乾比重
0.49
0.55
0.52
0.50
0.49
0.47
0.50
※ 気乾含水率 平均 (10.5%)
図1
試験体内部の圧縮応力分布型曲線(影響線)
-5-
めり込み応力
margin
Effective
marginal width
Actual contact width
Effective foundation width
Effective marginal width (mm)
図2
Effective foundation width
8
7
6
試験体高さ
5
4
3
2
1
0
0
10
20
30
40
Margin (mm)
-6-
50
60
10mm
15mm
20mm
25mm
30mm
35mm
40mm
45mm
図3
Margin と Effective marginal width の関係
繊維直交方向試験体
繊維方向試験体
図4
図5
試験体の木取り
試験体寸法
-7-
2.2 測定器
釘面圧力を受ける木材の緩和挙動を調べるために鋼板を切削し、図 6 に示す測定器を
作成した。使用した鋼板は厚さ 6mm のものである。鋼板の部材は、鋼板を刃が金属用
砥石である切断機を用いて切断し、ベルトサンダーで表面の仕上げを行ない作成した。
切断した各部材は、エポキシ樹脂を用いて接着した。測定器の軸受けには直径 2.9mm
の半円状の溝が切られており、その溝には CN50 釘(直径 2.88mm)が接着されている。軸
受けの両端には 2.0mm のひずみゲージが貼られている。測定器の釘を試験体に押し付
けると面圧力が軸受けに伝達される。軸受けに伝達された面圧力の変化量を軸受けの両
端に張られているひずみゲージによって測定する仕組みとなっている。
軸受け
2.9
釘
歪ゲージ(2mm)
35
12
釘
12
3.5
50
25
縦
※単位:mm
図6
測定器概要
-8-
横
写真 1
測定器
写真 2
軸受け
-9-
2.3 測定器の予備実験
作成した測定器が面圧力を受けた木材の緩和挙動を十分に測定し得るのか予備実験
を行った。図 7 に示すように油圧試験機(東京興機)を用いてロードセル(LUK-1TBS)
を介して、クロスヘッドスピード 1.5mm 毎分で測定器の釘を試験体にめり込ませた。
その際の測定器のひずみとロードセルによって荷重をそれぞれ測定した。変位計は、ク
ロスヘッド間に設置した。試験体は、繊維直交方向試験体から、4 体供試した。
図 7 測定器の予備試験 実験概要
- 10 -
2-4
面圧試験
面圧試験の概要を 8 図に示す。面圧試験を行う場合、負荷を行なうと試験体自体が変
形するため、クロスヘッド間の変位は試験体の変形量を含んだ値となってしまう。実際
のめり込み量を測定するためには、試験体上部とクロスヘッド間の変位を測定する必要
がある。しかし本実験では試験体が小さく、それは困難である。そこで、試験体にカバ
ーを被せ、カバーとクロスヘッド間の変位を測定し、めり込み変位とした。負荷は、油
圧試験機(東京興機)を用いて、ロードセル(LUK-1TBS)を介して行なった。クロス
ヘッドスピードは1.5mm 毎分で、めり込み変位 0.5mm,1.0mm に至った時に一度除
荷し、再び負荷した。その後めり込み変位が 2mm になるまで負荷を加えた。
得られた面圧荷重 P から、式(4)を用いて面圧応力σを求めた。
σ
P
A
・・・式(4)
ここで、A:釘の投影面積
- 11 -
図8
面圧試験概略
- 12 -
2-5
釘面圧力を受ける木材の緩和試験
釘面圧力を受ける木材の緩和試験には写真 3 に示す治具を用いた。治具は厚さ 15mm
の鋼板を刃が金属用砥石である切断機を用いて切断して作成した。治具で測定器の釘を
木材にめり込ませた状態で固定し、その際の面圧力を測定した。
測定器と治具は予め相対湿度 65%温度 20℃に設定した恒温恒湿器内で十分に養生さ
せた。図 9 に示すように治具の下側を万力で固定した状態で木材と測定器を治具に収め、
測定器の釘と試験体、治具と測定器、試験体と測定器それぞれが間隙を開けずに接触す
る状態に組み上げた。その後、治具上部の移動量が 1.45mm となるまで治具のナットを
締め付け、釘を木材にめり込ませた。締め付けを行った後、相対湿度 65%温度 20℃の
恒温恒湿器内で 5000 分間、測定器のひずみの計測を行った。本実験では検出されるひ
ずみが微少であり、恒温恒湿器内のわずかな温度変化に対する鉄の熱膨張やゲージ自身
の変化もひずみ量として検出してしまう。負荷を加えていない測定器のひずみ量を同時
に測定し、得られたひずみ量と負荷を加えていない測定器のひずみ量の差をとることで
それらの影響を除去した。
- 13 -
図9
釘面圧力を受ける木材の面圧試験概要
写真 3
治具
- 14 -
写真 4
実験概要
- 15 -
3 結果と考察
3-1
測定器の検討
図 10 に測定器のひずみと変位、ロードセルから得られた荷重と変位の関係を示す。
初期の僅かな領域を除いて荷重の増加に伴い、ひずみも増加する。次にひずみと荷重の
関係を図 11 に示す。荷重がある程度大きい値になると、ひずみと荷重は直線関係が成
り立つ。荷重が小さい時に直線ひずみと荷重が直線関係から大きく外れてしまうのは、
ひずみゲージが貼られているのが軸受の端部であるため、釘の設置条件や試験体表面の
仕上がりによって、軸受端部の応力の伝わり方が、変わってしまうためだと考えられる。
ある程度のめり込み量が確保されるとその影響は小さくなる。本実験では、釘は概ね釘
の半径に達するまでめり込ませており、前述した影響があまりでないめり込み量を確保
していると思われる。以上の結果から作成した測定器を用いて、面圧力の緩和を十分に
測定できると思われる。
- 16 -
No.1
200
25
150
20
15
100
10
50
ひずみ (μ ε )
面圧応力 (N/mm2)
30
5
0
0
0
0.5
1
1.5
2
変位 (mm)
No.2
200
25
150
ひずみ (μ ε )
面圧応力 (N/mm2)
30
20
15
100
10
50
5
0
0
0
0.5
1
1.5
変位 (mm)
図 10
測定器のひずみ及びに面圧応力と変位の関係
―面圧応力
―ひずみ
- 17 -
2
No.3
200
25
150
20
15
100
10
ひずみ (μ ε )
面圧応力 (N/mm2)
30
50
5
0
0
0
0.5
1
変位 (mm)
1.5
2
No.4
200
25
150
20
15
100
10
50
5
0
0
0
0.5
1
1.5
変位 (mm)
図 10
測定器のひずみ及びに面圧応力と変位の関係
―面圧応力
―ひずみ
- 18 -
2
ひずみ (μ ε )
面圧応力 (N/mm2)
30
30
面圧応力 (N/mm2)
25
20
15
◆ No.1
◆ No.2
◆ No.3
◆ No.4
10
5
0
0
20
40
60
80
100
ひずみ (μ ε )
図 11
面圧応力とひずみの関係
- 19 -
120
140
3-2 面圧試験
釘の面圧試験から得られる面圧応力-めり込み曲線の典型的な例を図 12 に示す。め
り込みの初期に急激な変位の増加(0-A)が見られるのは試験体と釘が少しの面で接触
しているためであり、その領域はごく僅かである。また、試験体表面の仕上がりや、セ
ッティング状態の影響もあると思われ、生じ方にはバラツキがある。その後、わずかに
直線的に変位が増加するが(A-B)、すぐに非線形挙動を示すようになる。任意のめり
込み量で除荷すると、CDE の経路で E 点に至る。CDE に於いて、変位の戻りが荷重の
減少につれて増加するのは(D-E)遅延弾性効果によるものであり、その流動量には時
間依存性がある。再び負荷を行うと、変位が急激に増加する領域を経て直線域が現れる。
G 点に至ったあとは、もとの非線形曲線をたどる。E-F の変位の急激な増加は、遅延
弾性効果による流動である。繰り替えし負荷の際に現れる直線(F-G)の傾きは安定し
ており、E-F、D-E の流動量の大小は、直線の傾きに影響を与えない。また、めり込み
量を変化させて繰り返し負荷を行っても、傾きはあまり変わらず、この直線領域の変形
はほぼ弾性的なものとして取りあつかうことが可能である。以上のように釘のめり込み
挙動は、弾性的に捉えられる部分と、粘性的に捉えられる部分、塑性的に捉えられる部
分とが混在している。5)6)7)
実験から得られた面圧応力‐めり込み曲線を 13 図に示す。繊維方向のめり込み挙動
と、繊維直交方向のめり込挙動、両者を比較すると以下の特徴が挙げられる。
(1)
めり込み量に占める、除荷時における変位の戻りの割合が、繊維直交方向の方
が大きい
(2) 除荷と再負荷時のループが、繊維直交方向の方が大きい
(1)についてはめり込み量に占める粘弾性的部分に占める割合が比較的繊維直交方向
の方が大きいためだと思われる。そこで繰り返し負荷時に現れる直線を弾性変形部分、
全体のめり込み量から弾性変形部分の差し引いたものを非弾性形部分とし、めりこみ量
- 20 -
に占める弾性変形部分の割合を求めた。本実験では、図 14 に示すように初期に現れる
直線と x 軸との交点 0´を求め、0´と σi を結んだ直線の傾き K1 1 繰り替えし負荷時の直線
の傾 K2 きから、式によって、めり込み変形量 e1 に占める、弾性変形部分 e2 の割合を求
めた。交点0`を求めたのは、初期に生じる、めり込み量が急激に増加する領域が試験
体ごとにバラツキが大きいため、その変位を除去するためである。
e2 K 1
=
e1 K 2
・・・式(5)
ここで、e1:めり込み変形量
e2:弾性変形量 K1:0´と σi を結んだ直線の傾き
K2:繰り返し負荷時の直線の傾き
繊維直交方向 0.46%では平均繊維方向では平均 0.27%で、繊維直交方向の方が低い値
となった。繊維方向に釘をめり込ませた場合繊維は座屈による局地的な破壊である。一
方、繊維直交方向に釘をめり込ませると、繊維が局地的に破壊されると共に、釘をめり
込ませる方向に繊維が曲げ変形しながら、巻き込まれていく(beam action)(図 15)これ
がめり込み挙動に対する弾性的な寄与を増大させ、繊維直交方向に釘をめり込ませた場
合の方が、弾性変形量の割合が高い値となる。
(2)のように、除荷時の再負荷時のヒステレシスループが膨らむのは、粘弾性体に見
られる特徴であり、時間依存性が強いほどループは膨らんだものになる。弾性体である
ならば、変位と荷重の関係は直線的な挙動になるが、粘弾性体の場合、時間依存性のあ
る流動によって直線が膨らむのである。繊維直交方向に加力の方が、繊維方向と比較し
て、めり込み変形に寄与する、粘弾性的な部分が大きいと言える。
以上のことを整理すると、繊維方向の加力では、めり込み変形にしめる非弾性変形部
分の割合が高く、非弾性変形に占める粘性的な部分が低い。すなわち、塑性的な部分が
占める割合相対的に高いと言える。繊維方向のめり込み挙動は繊維座屈による局部破損
である。それによって塑性的な部分がめり込み変位に占める割合が高くなったと思われ
- 21 -
る。一方、繊維直交方向の加力では、めり込み変形に占める弾性的な部分の割合が高く、
また非弾性変形に占める粘性的な部分が相対的に高い。繊維直交方向のめり込みには繊
維が巻き込まれ、繊維の曲げ抵抗力が働く。めりこみ変形に占める塑性的な部分の割合
が繊維方向に比べ低くなり、粘弾性的な傾向が強くなったと思われる。
- 22 -
G
面圧応力
C
B
F
D
A
E
図 12
めり込み変位
典型的な面圧応力‐めり込み変位曲線
s-1
50
面圧応力 (N/mm2)
40
30
20
10
0
0
0.5
1
めり込み変位 (mm)
図 13
各試験体の面圧応力‐荷重曲線
―繊維方向試験体
―繊維直交方向試験体
- 23 -
1.5
s-2
50
面圧応力 (N/mm2)
40
30
20
10
0
0
0.5
1
1.5
1
1.5
めり込み変位 (mm)
s-4
50
面圧応力 (N/mm2)
40
30
20
10
0
0
0.5
めり込み変位 (mm)
図 13
各試験体の面圧応力‐荷重曲線
―繊維方向試験体
―繊維直交方向試験体
- 24 -
s-7
50
面圧応力 (N/mm2)
40
30
20
10
0
0
0.5
1
1.5
1
1.5
めり込み変位 (mm)
s-15
面圧応力 (N/mm2)
50
40
30
20
10
0
0
0.5
めり込み変位 (mm)
図 13
各試験体の面圧応力‐荷重曲線
―繊維方向試験体
―繊維直交方向試験体
- 25 -
s-16
50
面圧応力 (N/mm2)
40
30
20
10
0
0
0.5
1
めり込み変位 (mm)
図 13
各試験体の面圧応力‐荷重曲線
面圧応力 (N/mm2)
―繊維方向試験体
σ
―繊維直交方向試験体
i
K1
K2
0´
e2
e1
めり込み変位 (mm)
図 14
荷重‐めり込み曲線
- 26 -
1.5
繊維直交方向の釘のめり込み
図 15
繊維方向の釘のめり込み
釘をめり込ませた木材の繊維挙動
- 27 -
3.3.1 温度のひずみにあたえる影響
以下に緩和試験より得られた測定器のひずみと時間との関係を図 16 に示す。ひずみ
は軸受の両端に貼られたひずみゲージの値の平均値である。ひずみはかなり変動するも
のである。測定は温度 20℃相対湿度 60%の恒温恒室器内で行っておりほぼ温度は一定
に保たれているが、検出されるひずみがわずかであり、恒温恒室器内のわずかな温度変
化による軸受の熱膨張や、ひずみ自体の変化も測定してしまうためだと考えられる。
この影響を除去するために、本実験では、負荷を与えた測定器のひずみと同時に負荷
を与えていない測定器のひずみを同時に測定し、両者のひずみの差を取ることで、前述
した影響を除去することを試みた。負荷を与えた測定器から得られてひずみから、負荷
を与えていない測定器のひずみを除した値と時間との関係を図 17 に示す。値の細かい
変動は除去されクリアな曲線が得られる。本実験では、移動平均を行いさらにノイズの
除去を行なった。
- 28 -
400
350
300
ひずみ (μ ε )
250
200
150
100
50
0
0
500
1000
1500
2000
時間 (分)
図 16
負荷を行なった測定器のひずみ
―負荷をしていない測定器のひずみ
400
350
300
ひずみ (μ ε )
―
測定器のひずみと経過時間の関係
250
200
150
100
50
0
0
500
1000
1500
2000
2500
時間 (分)
図 17
測定器のひずみと経過時間の関係
- 29 -
3000
3-3-3
初期値の決定
緩和測定の測定開始直後は、急激に緩和が進む(図 18)
。測定開始時を初期値とすると測
定開始から数十秒で値が 3 割り程度、低下する試験体もある。そのため、初期値は測定に
よる誤差が非常に大きい。開始から数分経つと値は安定し始め、その前後数秒の値の変動
は小さくなる。本研究では、最大ひずみを測定してから 1 分間のデータを切り捨てること
にした。以下に示す式を用いて、開始から 1 分以降のひずみと経過時間の関係の近似曲線
を最小二乗法によって求めた。その近似曲線とy軸との交点を初期値として用いた。
t
t
y  a exp(  )  b exp(  )
α
β
・・・(式 6)
ここで y:ひずみ t:時間 a,b,α,β:パラメータ
- 30 -
S-1
ひずみ (μ ε )
700
600
500
400
300
200
100
0
0
0.5
1
1.5
2
1.5
2
時間 (分)
S-2
700
ひずみ (μ ε )
600
500
400
300
200
100
0
0
0.5
1
時間 (分)
S-4
700
ひずみ (μ ε )
600
500
400
300
200
100
0
0
0.5
1
1.5
時間 (分)
図 18
開始直後の時間とひずみの関係(繊維方向)
- 31 -
2
S-7
700
ひずみ (μ ε )
600
500
400
300
200
100
0
0
0.5
1
1.5
時間 (分)
S-15
700
ひずみ (μ ε )
600
500
400
300
200
100
0
0
0.5
1
1.5
2
時間 (分)
S-16
700
ひずみ(μ ε )
600
500
400
300
200
100
0
0
0.5
1
1.5
時間 (分)
図 18
開始直後のひずみと時間の関係
- 32 -
2
S-1
300
ひずみ (μ ε )
250
200
150
100
50
0
0
0.5
1
1.5
2
時間 (分)
S-2
300
ひずみ (μ ε )
250
200
150
100
50
0
0
0.5
1
時間 (分)
1.5
2
S-4
700
ひずみ (μ ε )
600
500
400
300
200
100
0
0
0.5
1
1.5
2
時間 (分)
図 18
開始直後のひずみと時間の関係
- 33 -
(繊維直交方向)
S-7
700
ひずみ (μ ε )
600
500
400
300
200
100
0
0
0.5
1
1.5
時間 (分)
S-15
700
ひずみ (μ ε )
600
500
400
300
200
100
0
0
0.5
1
1.5
2
時間 (分)
図 18
開始直後のひずみと時間の関係
- 34 -
(繊維直交方向)
3-3-3
緩和曲線の考察
得られた緩和曲線を面圧比で試験体毎に図 19 に示す。測定開始から数時間は急激に
緩和が進み、一日程度で緩和は緩やかになるが、値は収束せずに減少し続ける。
緩和過程における t 分後の面圧比 φ(t)と経過時間を t として φ(t)と log(t)の関係を図 20
に示す。本実験の測定範囲内では、緩和曲線はほぼ直線になる。したがって釘面圧力を
受ける木材の緩和曲線は、以下の実験式で示される。
 (t )  a  b log( t )
・・・式(6)
ここで a、b:定数
Kitazawa8)はいくつかの木材の横圧縮の緩和曲線に対して、比例限度の 50%以下の応
力下で、この実験式が成立すると報告している。釘を木材にめり込ませると、塑性変形
が生じるが、この場合においても、緩和曲線は比例限度内の応力下における横圧縮の緩
和曲線と同様に対数時間軸上で直線となる実験式で示すことができた。
繊維直交方向に釘をめり込ませたときの緩和曲線と繊維方向に釘をめり込ませたと
きの緩和曲線を比較すると、前者における緩和が後者に比べて急激に進んだ。4000 分
における緩和率(式 7)を比較すると繊維直行方向で平均となるのに対し繊維方向の平
均は%程度であった。
緩和率 
 (0)   (t )
 100
 (0)
・・・式(7)
また、式(7)において定数の b の値が大きいほど緩和は急激に進むことになるが、b
の値は、繊維直交方向で平均 0.036、繊維方向で平均 0.024 となった。以上のように、釘面
- 35 -
圧力を受ける木材の緩和挙動には異方性が見られた。面圧試験における面圧応力-変位曲
線からも明らかなように、繊維方向に釘をめり込ませた場合はめり込み変位の大部分を繊
維座屈による局部破損が占める。そのため粘弾性的な部分が占める割合が相対的に低いも
の考えられる。
- 36 -
面圧力比
S-1
時間 (分)
面圧力比
S-2
時間 (分)
図 19
経時過程の面圧応力比
―繊維方向
―繊維直行方向
- 37 -
面圧力比
S-4
時間 (分)
面圧力比
S-7
時間 (分)
図 19
経時過程の側圧比
―繊維方向
―繊維直行方向
- 38 -
面圧力比
S-15
時間 (分)
面圧力比
S-16
時間 (分)
図 19
経時過程の面圧力比
―繊維方向
―繊維直行方向
- 39 -
面圧力比
No.1
時間 (分)
面圧力比
No.2
時間 (分)
図 19
経時過程の側圧比
―繊維方向
―繊維直行方向
- 40 -
面圧力比
No.4
時間 (分)
面圧力比
S-7
時間 (分)
図 19
経時過程の側圧比
―繊維方向
―繊維直行方向
- 41 -
面圧力比
S-15
時間 (分)
面圧力比
S-16
時間 (分)
図 20
経時過程の側圧比
―繊維方向
―繊維直行方向
- 42 -
面圧力と釘の低抜き抵抗力
釘の引き抜き抵抗力 W は、材から釘に伝わる側圧と、材と釘との間に働く摩擦係数
によって決定される。(式(8))
W = μ  σdA
・・・式(8)
ここで、W:釘の引き抜き抵抗力
徳田
σ:側圧
A:釘と木材の接触面積 μ:摩擦係数
9)10)
は面圧試験による面圧力を用いて木材から釘に伝わる側圧を評価できると
報告している。接線面に放射方向に釘を打ち込んだ際に木材から釘に伝わる側圧は、式
によって評価できる。
σ = 2・ PTT + PTL  / πd l
・・・式(9)
ここで、PTT:放射断面に繊維直交方向に釘をめり込ませた際の面圧応力 PTL:繊維方向
に釘をめり込ませた際の面圧力 d:釘直径 l:釘と木材の接触長さ
釘から木材に伝わる側圧の総和は、
σdA = 2・ P
TT
+ PTL 
・・・式(10)
となる。時間が経時過程の側圧の総和は、繊維直交方向の面圧力比、繊維方向の面圧
力比を用いて、以下の式で求めることができる。
 (t )  2・ PTT  TT t + PTL  TL t 
・・・式(11)
ここで、 (t ) :経時過程の側圧の総和 φTT(t):繊維直交方向の面圧力比 φTL(t):繊
維方向の面圧力比
式(11)を用いて、経時過程の側圧の長期的な予測を試みた。面圧力 PTT、PTL は
面圧試験の結果から、めり込み変位が釘径の 2 分の 1 に達したときの値を用いる。
計算した結果を試験体毎に側圧比 (t ) / (0) を図 20 に示す。引き抜き抵抗力は、摩
- 43 -
擦係数と側圧の積によって決定され、摩擦係数が一定ならば、経時過程の釘の引き抜き
抵抗力の低下率は側圧の低下率と同等の値となる。JIS
Z2121 によると釘引き抜き試
験は釘を打ちから、1時間以内に引き抜きを行うと定められているが、釘を打ち付けた
直後は、緩和が急激に進むため、打ち込みから引き抜きまでの数分の時間の違いによっ
て、引き抜き抵抗力の値も大きく変わってしまう。引き抜き試験を行う場合は、打ち込
みを行ってから少なくとも1日程度放置してから行うと、打ち込みから引き抜きまでの
数分の時間の違いが引き抜き抵抗力にあたえる影響は少なくなると思われる。
次に、以下に示す対数関数を用いて、側圧比と経過時間との関係の近似曲線を最小二
乗法により求めた。
 (t )
 a  b log( t )
 (0)
・・・式(12)
ここで、a、b:パラメータ
近似曲線と経時過程の側圧比は良い一致を示した(図 21)
。
この対数関数を用いて、長期的な側圧の総和の予測を行なった。各試験体の側圧比と
経過時間との関係の近似曲線を 0 日~100 日の間で図に示す。100 日経過後の側圧比は
0.72、一年度には 0.57 まで減少するという計算結果となった。
- 44 -
側圧比
S-1
時間 (分)
面圧力比
S-2
時間 (分)
図 20
経時過程の側圧比
- 45 -
側圧比
S-4
時間 (分)
側圧比
S-7
時間 (分)
図 20
経時過程の側圧比
- 46 -
面圧力比
S-15
時間 (分)
面圧力比
S-16
時間 (分)
図 20
経時過程の側圧比
- 47 -
側圧比
S-7
時間 (分)
図 21
経時過程の側圧比と近似曲線
試験体No.
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
No.6
1.2
1
側圧比
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
時間 (日)
図 22
各試験体の経時過程の側圧比の近似曲線
- 48 -
100
4
まとめ
本実験では鋼板とひずみゲージをから作成した簡易な測定器を用いて、釘(CN50 釘)
面圧力を受ける木材の温湿度定常時における緩和挙動の測定を行なった。面圧力を受け
た木材の緩和曲線は、対数時間軸上でほぼ一直線になった。
繊維方向と繊維直交方向に釘をめり込ませた際の木材の緩和挙動を比較すると、後者
の方が急激な緩和を示し、異法性が見られることが明らかになった。
本実験で得られた面圧力を受けた木材の緩和曲線と面圧力を用いて、木材に釘を打ち
つけた際に木材から釘に働く側圧の経時変化を計算によって求めた。経時過程の側圧比
は以下の式(12)で示すことができた。
 (t )
 a  b log( t )
 (0)
ここで
・・・式(12)
 (t ) :経過時間 t における側圧の総和 a、b:パラメータ
式(12)を用いて側圧の長期な予測を行なった。100 日後には側圧比 0.73 は、1 年後に
0.57 まで減少する結果となった。
- 49 -
謝辞
本研究を行なうに当たり、ご指導頂きました北海道大学農学部森林科学科木材工学講座
の小泉章夫准教授、沢田圭助教授、佐々木義久技官、また特に、終始に渡りご指導、ご
教鞭を頂いた平井卓郎教授に、深く感謝の意を表します。
- 50 -
6
参考文献
1) 渡辺 治人:木材理学総論,農林出版(1973)
2) 荒武志朗,有馬孝禮:木材学会誌 Vol41,No.4,p359~366(1995)
3) Takeda,T:Journal of the Faculty of Agriculture SHINSHU UNIVERSITY , 42(1-2):17-25
(2006)
4) 山田 正:木材学会誌 Vol.7,No.2,p.63~67(1961)
5) 平井 卓郎:木材学会誌 Vol.28,No.1,p.39~44(1983)
6) 平井 卓郎:木材学会誌 Vol.29,No.12,p.956~964 (1984)
7) 平井 卓郎:北海道大学農学部演習林報告 46(4):967~968
8) Kitazawa:木材工学,189 (1961)
9) Tokuda,M:Mokuzai Gakkaishi Vol.29,No.9,p.566~571 (1983)
10) Tokuda,M:Mokuzai Gakkaishi Vol.29,No.9.p.572~577 (1983)
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