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2006(日本語Pdfファイル)

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2006(日本語Pdfファイル)
[P1.2.1]
環境対応型小型車用エンジン油の研究開発
(環境対応型エンジン油グループ)
横浜第504研究室
○ 加賀谷 峰夫、八木下 和宏、小柳 正美、金坂 賢二、
川崎 正善、齊藤 智仁
1.研究開発の目的
自動車の排出ガス後処理装置への適合性を高めるため、低リン、低硫黄、低灰化を
図り、実用性能を備えたエンジン油組成の開発を行う。具体的にはガソリン車と小型
ディーゼル車向けに、下記に示す低リン低硫黄低灰油と無リン低硫黄無灰油の開発を
行う。
低リン低硫黄低灰油組成
0.05mass%P、≦0.5mass%S、≦0.5mass%Ash
(以後、Low SAPS 油と略する)
無リン低硫黄無灰油組成
0.00mass%P、≦0.1mass%S、≦0.2mass%Ash
(以後、SAPS フリー油と略する)
SAPS: Sulfated Ash, Phosphorus and Sulfur
ま た 省 燃 費 性 に 関 し て は 、 適 切 な 粘 度 グ レ ー ド の 選 定 と 摩 擦 調 整 剤 ( Friction
Modifier;以後、FM と略する)の探索を行う。燃費改善の目標としては、研究を開始
した時期の現行油である GF-3、5W-30 油および CF-4、10W-30 油と同等ないしそれ以上
とする。
さらにディーゼルパティキュレートフィルタ(Diesel Particulate Filter; 以後、
DPF と略する)の堆積物詰りに関するエンジン油組成の影響を調査する。
2.研究開発の内容
Low SAPS油については、NOx還元触媒の被毒元素である硫黄を減らすため、ジアルキ
ルジチオリン酸亜鉛(ZDTP)を、硫黄を含まないジアルキルリン酸亜鉛(ZP)に変え
た。ZPは酸化防止機能を有しないため、Mo系酸化防止剤を添加することにし、種々の
Mo系酸化防止剤の酸化防止機構を調べた 1 ∼ 5)。また金属系清浄剤は硫黄を含まないCa
サリシレートを用いたが、サリシレートの構造と性能(酸化安定性、熱安定性、塩基
価維持性など)の関係を調べた。新たに合成した 3 アルキル 5 メチルCaサリシレート
が市販品よりエンジン試験においても高性能であることを確認した 6),7 ) 。また、基油
中の芳香族分、硫黄分が酸化劣化に及ぼす影響を検討した 8) 。
SAPSフリー油に関しては、世界でも検討例が報告されておらず、エンジン油として
の実用性には疑問が持たれる状況であった。このため、実用の可能性を示唆するだけ
でも研究に意義があると考え、SAPSフリー油の開発を進めた。基油に硫黄を含まない
グループⅢ基油を用い、ZDTPおよび金属系清浄剤を一切添加しない処方とした。SAPS
フリー油の組成としては、リンは 0.00mass%、硫黄は添加剤の希釈油に含まれることや
摩耗防止や金属腐食防止の観点から硫黄を含む化合物を添加することを考慮して
0.1mass%未満とした。また硫酸灰分量はMo系酸化防止剤からのMo、分散剤からのホウ
素(B)が測定されるため 0.2mass%未満とした。なお、上記のSAPSフリーの目標値を
設定するにあたっては、硫酸灰分量に及ぼすMo、Bの影響を把握するとともに、熱安定
性、酸化安定性の影響を調べた 10 ) 。
これらの基盤研究を通じて得られた知見を Low SAPS 油および SAPS フリー油の組成
に反映させ、エンジン試験により実用性能を評価した。日本自動車規格組織(JASO)
が定めたガソリンエンジン試験、ディーゼルエンジン試験および自動車会社の国際エ
ンジン油規格(ILSAC 規格)試験の一つである Seq.ⅢG 試験を実施し、油劣化、ピス
トンなどのエンジン清浄性、動弁摩耗に対する性能を評価し、課題を抽出した。
省燃費性の検討としては、FMの選定に有効な実験室摩擦試験法の開発 1), 6 ), 11 ) を
行った。またガソリンエンジンやライトデューティ(以後、LDと略する)のディーゼ
ルエンジンを用い、モータ駆動による動弁摩擦試験およびエンジン全体摩擦試験を行
った。これらの摩擦試験を通じて、摩擦に及ぼす粘度、基油組成、添加剤組成、FM、
ディーゼルすす(カーボンブラックで代替)などの影響を検討した。また、シャシー
ダイナモメータによる 10・15 モードのガソリン車燃費を測定し、Low SAPS油が燃費改
善目標値を達成する 6 ) ことを、軽負荷ディーゼルエンジンの台上燃費試験において、
SAPSフリー油が燃費改善目標値を達成する 8) ことを確認した。
DPF詰りに関しては、オイルを燃料に混合したDPF詰り試験 6),9 ) や台上DPF詰り試験
(独自に開発したミニフィルタ詰り試験 1 ) を含む)を行い、詰りの原因やDPF堆積物
の組成に関し、燃料硫黄の影響、高SAPS油、低SAPS油およびSAPSフリー油の影響を調
べた。
3.研究開発の結果
3.1
実用性能評価、組成確立
3.1.1
Low SAPS 油
(イ)油劣化(酸価増加、塩基価低下)、熱安定性、エンジン清浄性などに及ぼすLow SAPS
化に伴うエンジン油組成の影響を実験室試験、エンジン試験を通じて検討した 1 )、 6 )、
8)、1 0)
。Mo化合物の過酸化物分解機構と実用性能に関する検討結果を公表した 2 ∼5 )。
すなわち 13 C NMRにより有機Mo化合物とCHPの反応過程を追跡した結果、有機Mo化合物は
有機基の構造(硫黄の有無など)に関係なく、過酸化物をラジカル的あるいはイオン的
に分解すること、また分解能力あるいは分解形式は有機基の構造に強く影響を受ける
ことを明らかにした。エンジン試験において、Mo化合物を配合することにより酸化安
定性が向上することを確認した。また硫黄を含有しないMo化合物は塩基価維持性にも
優れることを見出した。
(ロ)エンジン油の高温酸化安定性において、基油中の芳香族成分が 20%を越えると
油劣化が顕著になることや硫黄分の影響が小さいことを明らかにした 8) 。
(ハ)ZPと有機Mo化合物を配合した超低硫黄エンジン油がJASO DL-1 規格に適合する
ことが分かった 12 ) 。
(ニ)エンジン試験による実用性能評価結果を表 3.1-1 に示す。いずれの試験におい
ても優れた性能を発揮することを確認した。Low SAPS 油の組成としては、基油として
は硫黄を含まないグループⅢ基油を主体にし、添加剤としては ZDTP に変えて ZP、金
属系清浄剤として硫黄を含まない Ca サリシレート、さらに酸化防止剤として有機 Mo
化合物を添加したことが特徴的である。
表 3.1-1 Low SAPS 油の実用性能評価結果
JASOガソリン試験
エンジン油規格試験の種類
試験エンジン
酸化安定性(粘度増加)
清浄性
TGF
摩耗防止性(リング、軸受など)
動弁系摩耗防止性
さび止め性
JASOディーゼル試験
動弁系摩耗
低中温
高温酸化
動弁系摩耗 Seq.ⅢG試験
清浄性試験
試験
清浄性試験 安定性試験 試験
VG20E
◎
◎
○
○
○
1GFE
◎
◎
○
○
○
KA24E
−
−
○
○
GM
○
○
−
○
○
TD25
○
○
◎
○
○
○
4D34T
○
○
○
○
◎
○
性能評価基準 ◎:優、○:良
(ホ)直噴リーンバーンガソリンエンジンで吸気弁デポジットが問題となっていたた
め、このデポジット生成にブローバイガス中のオイルミストが関係するか否かを調べ
た 6),1 3 ) 。オイルミストの粒子径をアンダーセン粒度分析器により調べ、ブローバイ
ガス中のオイルミストの粒径(5W-20 新油)は、ほとんどが 2μm以下(平均で 0.86μ
m)であること、油劣化によりミスト量が増大しミスト粒径が増加することを明らかに
した。さらにこの実機のミスト粒子径を再現する霧化装置を考案し、種々のオイルを
評価した。エンジンオイルの霧化は、粘度指数向上剤(VII)の添加量に比例して低く
なること、NOACK蒸発性、動粘度、HTHS粘度とは関係しないことを明らかにした。また、
PCVバルブ通過後にオイルはミスト状から液状(油分)に戻るため、吸気弁デポジット
生成にオイルミスト状での関与は小さいと推測した。
(ヘ)Low SAPS油の塩基価維持性に対する燃料硫黄分の影響を直噴 2.5LエンジンのLD
ディーゼル車を用いて検討した 10 ) 。シャシーダイナモメータによる 11 ラップモード
で 15000km走行し、硫酸灰分量 0.5mass%のLow SAPS油(ただしZDTP配合、新油塩基価
2.7mgKOH/g)の塩基価維持性を調べた。350 mass ppm S軽油では塩基価は残存せず強
酸価が発生した。58 mass ppm S軽油では塩基価は残存し、油中Fe量も減少した(210 mass
ppm→98 mass ppm)。なお新油の塩基価を高めるためにアミン系添加剤を補填した試験
油は塩基価維持性を高めたが、油中Fe量を軽減しなかった。
(ト)EGRを行うディーゼルエンジンのピストンリング摩耗に関する研究を行い、リン
グ張力を増大させるとトップリングの摩耗は増大するが、この傾向はEGRの有無によら
ないことを明らかにした。またリング張力の違いは、エンジン使用油の性状に影響し
ないことが分かった。さらにZPと中性Caサリシレートの組み合わせがトップリング摩
耗を小さくすることが分かった 16 ) 。
3.1.2
SAPS フリー油
(イ)SAPSフリー油の基本組成を表 3.1-2
表 3.1-2 SAPS フリー油の基本組成
基油(Sなし) グループⅢ基油
酸化防止剤 ノール系)の増量に加え、過酸化物分解剤
連鎖停止剤 フェノール系
◎
としてMo系化合物の添加を検討した。Mo量 アミン系
◎
過酸化物分解剤 Mo系 ○(ZDTPの代替)
の増加と硫酸灰分量の増加には直接的な比
無灰分散剤
例 関 係 は な く 、 200 mass ppm Moか ら 400
ホウ酸変性
◎
mass ppm Mo に 増 量 し て も 硫 酸 灰 分 量 ( 約
非ホウ酸変性
○
(○)
0.1mass%)に影響しないことが分かった 8)。 無灰系摩耗防止剤
無灰系摩擦調整剤
(○)
また分散剤に関しては、硫酸灰分量は分
金属不活性化剤
(○)
散剤の化合物のタイプに依存せずB量に比 粘度指数向上剤
○
流動点降下剤
○
例することを明らかにした 10 ) 。
あわ消し剤
○
に示す。連鎖停止剤(アミン系およびフェ
熱安定性(高温清浄性)の評価はホット
◎:多量、○:適量、( ):必要に応じて添加
チューブ試験(JPI-5S-55-99)で行った。
この試験において、ディーゼル油のJASO DH-1、DH-2、DL-1 の規格は評点 7.0 以上
(280℃)を要求している。SAPSフリー組成において、100 mass ppm Mo量の添加でHTT
評点は 10 点から 7 点に低下するが、Mo系酸化防止剤のタイプによっては 400 mass ppm
Mo量添加でもHTT評点 7 を維持できることを確認した 8) 。
また分散剤の熱安定性は化合物タイプに依存すること、フェノール系酸化防止剤な
どの連鎖停止剤を併用することにより高い熱安定性が発現する 1 0 ) ことを明らかにし
た。
(ロ)SAPS フリー油において、酸化劣化を防止するため過酸化物分解剤である Mo 化
合物の添加量を 180ppmMo( 平成 17 年度:PEC3313)から 330 ppmMo( 平成 18 年度:PEC3355)
に増量し、Seq.ⅢG 試験を実施した。しかし表 3.1-3 に示すように、本試験の動粘度
増加の要求値を満足できなかった。油自身の劣化は問題ないことから、未燃焼の燃料
表 3.1-3
SAPS フリー油の Seq.ⅢG 試験結果
GF-4
要求値
塩基価(塩酸法)
硫酸灰分量(JIS法)
Mo
S
P
N
mgKOH/g
mass%
mass ppm
mass %
mass ppm
mass %
PEC3313
PEC3355
GF-4 5油種(平均)
1.78
0.11
180
0.04
<10
0.23
1.77
0.12
330
0.03
<10
0.25
600∼800
-
油消費量(100h)
L 4.65max
3.97
3.93
3.31
粘度増加(40℃)補正
% 150max
259.6
226.3
100.5
カム+リフター摩耗(平均) 補正
重み付けピストンデポジット(平均)
補正
ホットスタックリング数
μm
60max
51.8
50.4
34.9
メリット
3.5min
4.45
5.60
3.91
0
0
0
0
本
オイルリングランドデポシット(平均)
メリット
2.56
5.73
2.92
アンダークラウン(平均)
メリット
4.11
4.90
1.52
ピストンスカートワニス(平均)
メリット
9.06
9.54
8.67
から生成したスラッジの構造粘性が動粘度増加に影響したものと推察された。なお、
動弁摩耗は問題ないことやピストン清浄性が極めて良いことを確認した。
(ハ)5W-30油(PEC3355)の組成を基に10W-30油(PEC3364)を試製し、ディーゼルエ
ンジンへの適合性をJASO M336清浄性試験およびJASO M354動弁系摩耗試験で評価した。
表3.1-4に示すように、PEC3364はTGF(トップリング溝カーボン詰まり)が40vol%(規
格60vol%以下)、平均カム径減少量が17μm(規格95μm以下)であり、JASO DL-1規格
に適合することを確認した。
表 3.1-4 SAPS フリー油(PEC3364)のディーゼルエンジン試験結果
JASO DL-1
規格値
硫酸灰分量(JIS法)
リン
硫黄
mass%
mass%
mass%
JASO M354動弁系摩耗試験
平均カム径減少量
最大カム径減少量
≦0.6
≦0.10
≦0.5
μm
μm
≦95
≦210
ピッチングが
あってはなら
ない
-
カム面の摩耗状況
TGF
vol%
JASO M336清浄性試験
TGF
vol%
ピストンリング膠着
リングランド堆積物 メリット評点
≦60
全てフリー
報告
JASO標準油
SAPSフリー
PEC3364
(10W-30)
PEC504
目標値
DV2-5
(CD,10W-30)
中程度
1.49
0.11
0.44
DD6
(CD,10W-30)
中程度
1.61
0.11
0.30
17.3(実測11.3)
25.4(実測15.7)
72.3(実測34.4)
129.9(実測56.5)
-
なし
なし
-
参考
64.8
95.5
-
同左
40.1
全てフリー
8.92
-
43.0(39.3-64.6)
全てフリー
8.67
<0.2*
0.15*
0.00
0.00
<0.1
0.02
*Zn, Caを除く
同左
(ニ)SAPSフリー油がJASO 1GFEエンジン高温酸化試験およびJASO VG20Eエンジン清浄
性試験において、優れた性能を有することを確認した 6) , 10 ) 。とくにスラッジやワ
ニスの生成が少なく、
エンジン清浄性に優
酸化安定性向上
20
れていた。
M o系 O I な し
190 ppm M o
360 ppm M o
耗試験により、Mo系酸
化 防 止 剤 や FM が 摩 耗
に及ぼす影響を検討
した。図3.1-1に示す
よ う に Mo 系 酸 化 防 止
カムシャフト摩耗量, μm
(ホ)KA24E動弁系摩
15
10
FM 効 果 大
5
剤の添加量が多いほ
FM効 果 中
ど摩耗が増大する傾
向がみられた。
360ppmMo の 組 成 に
おいて、分散剤のタイ
プや量を変えて摩耗
0
FM な し
FM効 果 小
図 3.1-1 KA24E エンジン動弁系摩耗試験結果 の整理
に及ぼす影響を検討したが、これらの措置では摩耗防止性を改善できなかった。なお、
FMがない場合やFMの効きが小さい場合、SAPSフリー油の動弁系摩耗防止性には問題が
ないことを確認した。
(ヘ)FM 添加 SAPS フリー油(PEC3339)の金属材料への影響を調べるため、高温腐食
酸化試験(HTCBT)、ボールさび試験(BRT)を実施したが、いずれの試験においても
規格値を満足できなかった。その原因を調査するため、HTCBT と相関のある試験法を
検討し、FTM 高温腐食酸化安定度試験を見出した。図 3.1-2 に示す試験結果をもとに
添加剤組成の影響を検討した結果、表 3.1-5 に示すように PEC3339 の Pb 腐食の原因は
100
100
Cu腐食量
Pb(FTM試験), mass ppm
Cu(FTM試験), mass ppm
FM にあることが分かった。
80
60
40
20
0
0
20
40
60
80
Cu(HTCBT), mass ppm
100
120
Pb腐食量
80
60
40
20
0
-20
0
20
40
60
80
100
120
Pb(HTCBT), mass ppm
図 3.1-2 HTCBT と FTM 高温腐食酸化安定度 試験との相関
FTM高温腐食酸化安定度試験(135℃、空気5L/h、168h)
また SAPS フリー油が BRT に合格
することは難しいと判断された
(BRT では無機酸を中和するた
表 3.1-5 PEC3339 の FTM 高温腐食酸化
安定度試験結果
めに一定量の過塩基性金属系清
試験油名
特殊FM
浄剤が必要とされているため)。
Pb
3.2
省燃費性に関する検討
Cu
PEC3339 PEC3346 PEC3355
あり
なし
なし
油中, mass ppm
<1
<1
4100
油中, mass ppm
49
25
8
変色
2C
2C
3b
(イ)Low SAPS化、SAPSフリー
化するほど、動弁摩擦が低下し、
省燃費性が向上する 1 0 , 1 4 ) こ
とを明らかにした。また平成16
年度までに実施したローラ式動
弁機構を有するディーゼルエン
PEC3339
PEC3346
ジンの動弁摩擦特性に及ぼす
SAPSフリーのエンジン油組成の
影 響 と FM の 選 定 に 有 効 な PLINT
TE77試験法を公表した 1 1 ) 。摩
PEC3355
擦トルクは絶対粘度に影響され
るが、低速・高油温では境界潤滑領域が増えるためFMの添加が有効であることが分か
った。PLINT TE77往復動摩擦試験法を用いて、FM効果の温度依存性を明らかにした。
高油温では、エステル系FMよりアミン系FMが有効であることが分かった。またLow SAPS
油組成においても選定されたFMとMo化合物との組み合わせにおいて省燃費性能が向上
することを確認した 12 ) 。
(ロ)FMの動弁摩擦に及ぼすディーゼルすす(カーボンブラック:CBで代替)の影響
をモータリング動弁摩擦試験により調べた。CBはビーズミル湿式分散機を用いて試験
油に分散させた。各試験油のCB粒径の中央値は0.11μmであり、この粒径は実機使用油
で観察される高分散性油のすす粒径と同等であることを確認した。FMの摩擦低減性は、
図3.2-1に示すようにCBの混合量に応じて低下した。しかし図3.2-2に示すように、FM
抜き油の動弁摩擦試験結果との比較から、FMの摩擦低減性は1.5mass%CBでは消滅しな
10
10
0
0
トルク改善割合, %
トルク改善割合, %
いことが分かった。
-10
-20
-30
CB 1mass%
-40
275r/min
375r/min
425r/min
600r/min
700r/min
850r/min
1025r/min
1200r/min
-10
-20
-30
CB 1.5mass%
-40
-50
-50
50
60
80
50
100
60
80
100
油温, ℃
油温, ℃
図 3.2-1 摩 擦に及ぼすカーボンブラックの影響(モータリング動弁摩擦試 験、新油対比)
0.14
0.14
50℃
60℃
80℃
100℃
0.10
0.08
0.06
0.10
0.08
0.06
0.04
0.04
0.02
0.02
0.00
200
400
600
800
1000
カム軸回転数, r/min
50℃
60℃
80℃
100℃
0.12
トルク, N・m
トルク, N・m
0.12
1200
1400
0.00
200
CB 1.5mass% 油
400
600
800
1000
カム軸回転数, r/min
1200
1400
FM 抜き油
図 3.2-2 FM の摩擦低 減性に及ぼすカーボンブラックの影響
(ハ)図3.2-3に示すように、二つの異なるエンジンを用いた試験において、動弁摩擦
が低下するほど動弁系摩耗が増加する傾向がみられた。これは摩擦面に対するFMの作
用に起因するものと解釈された。
(ニ)様々な実験室摩擦試験、モータリング動弁摩擦試験、台上エンジン燃費試験お
よびシャシーダイナモメータ実車燃費試験を通じて、Low SAPS 油および SAPS フリー
油が燃費改善目標値を達成することを確認した。
LD 動弁摩擦トルク, N・m
0.12
動弁摩擦トルク
動弁摩擦トルク
油温100℃
油温100℃
0.10
275r/min
375r/min
0.08
0.06
低
摩
擦
0.04
0.02
高摩耗
0.00
0
5
10
15
20
KA24Eカムシャフト摩耗量, μm
25
30
図 3.2-3 動 弁摩擦と動弁系摩耗の関係
3.3
DPF 詰りに及ぼすエンジン油組成の影響調査
(イ)平成16年度までに実施したDPF詰りや堆積物組成に及ぼす燃料硫黄や添加剤組成
の影響に関する検討結果をまとめ公表した 1 5 ) 。DPF入り口圧力の変化でDPF詰りを評
価したが、詰りは排気すす(PM:粒子状物質)に影響され、PM焼成後の灰分量はエン
ジン油の硫酸灰分量に関係することを明らかにした。平成17年度から平成18年度には、
DPF詰りに及ぼす金属系清浄剤のタイプと基油中の硫黄の影響を調べた。表3.3-1に供
試油とDPF堆積物の元素分析結果を示す。
図 3.3-1 に示すように、排圧の上昇速度に金属系清浄剤の違いはほとんど影響しな
かった。図 3.3-2 に示すように、熱重量分析(TGA)より求めた PM 中の灰分量の割合
は 10mass%以下であり、排圧上昇にはすす+油分による詰りの影響が大きいことが再
確認された。またサリシレートの
300
ートより灰分量は少なかった。ま
た灰分量に対する基油の違いの影
響はなかった。
(ロ)灰分組成は、PM焼成前の元
素およびその元素割合で決まるこ
とを明らかにした
1)
。すなわち
ZDTP処方の高SAPS油ではCaSO 4 が、
Low SAPS油ではCa 3 (PO 4 ) 2 が堆積物
の主成分であった。
DPF 入り口圧力, mmHg
ほうがスルホネートおよびフェネ
250
200
150
DPFO-1
DM2096
100
DPFO-2
DM2097
DPFO-3
DM2177
50
DPFO-4
DM2212
0
0
20
40
60
80
100
試験時間, h
図 3.3-1 DPF 詰りに及ぼす金属系清浄剤および
基油の影響
表 3.3-1 DPF 詰り試験の供試油と DPF 堆積物の元素分析結果
試験油名
基油
摩耗防止剤
金属系清浄剤
塩基価(塩酸法)
硫酸灰分(JIS法) 元素分析
B
Ca
Mo
P
Zn
S
N
DPFO-1
グループⅢ
ZP
Caスルホネート
mgKOH/g
11.1
mass %
1.67
DPFO-2
グループⅢ
ZP
Caフェネート
11.5
1.67
DPFO-3
グループⅢ
ZP
Caサリシレート
13.0
1.75
DPFO-4
グループⅠ
ZP
Caサリシレート
13.9
1.68
mass ppm
mass ppm
mass ppm
mass ppm
mass ppm
mass %
mass %
88
4500
41
790
850
0.10
0.12
84
4400
48
900
830
0.18
0.11
92
4400
47
910
810
0.04
0.11
120
4300
48
880
820
0.37
0.12
DPF堆積物(加熱処理後)
mass %
Al
mass %
Ca
mass %
Fe
mass %
Mo
mass %
P
mass %
Zn
mass %
C
mass %
H
mass %
S
mass %
O(計算)
mass %
その他
0.20
36
3.4
0.90
8.7
7.9
3.9
0.2
5.2
33.1
0.5
0.14
37
0.26
0.42
7.6
8.2
2.5
0.3
6.0
37.1
0.5
0.26
35
2.1
0.38
8.6
8.6
1.8
0.3
3.6
38.8
0.5
0.59
31
3.0
0.36
7.4
7.3
1.3
0.2
5.7
42.2
0.9
mass %
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
試験油名
基油
添加剤系
塩基価(塩酸法)
硫酸灰分(JIS法)
すす+油分
灰分
mgKOH/g
mass %
mass %
mass %
DPFO-1
グループⅢ
ZP,
スルホネート
11.1
1.67
91.0
9.0
DPFO-2
グループⅢ
ZP,
フェネート
11.5
1.67
92.1
8.0
DPFO-3
グループⅢ
ZP,
サリシレート
13.0
1.75
93.1
6.9
DPFO-4
グループⅠ
ZP,
サリシレート
13.9
1.68
93.1
6.9
PEC3334B
グループⅢ
SAPSフリー
1.86
0.11
96.1
3.9
図 3.3-2 PM 中の灰分(TGA 分析)
(ハ)CaSO 4 の生成に関する硫黄源として燃料は関係ないこと 17 )、エンジン油の基油、
添加剤の全てが関与することを明らかにした。ZDTPがなくても金属系清浄剤(過塩基
性Caスルホネート、Caフェネート)中の硫黄が、またグループⅠ基油中の硫黄がCaSO 4
の生成に関与することが分かった。
(ニ)SAPSフリー油に添加したMo系酸化防止剤は、PM燃焼時に図 3.3-3 に示すIR分析
およびXRD分析からMo酸塩を形成することを確認した。しかし図 3.3-4 に示す小型DPF
(ミニフィルタ)詰り試験において、高灰油および低灰油はフィルタ上に灰分を析出
する
1)
のに対して、
SAPSフ リ ー 油 は 灰 分 を
PM焼成後灰分
析出しない。したがって、
Mo酸塩はDPF詰りに影響
しないと推察された。
(ホ)DPF 堆積物は DPF
FeMoO 4nH 2O
表面上に析出し、内部に
は浸透しないことを明
らかにした。またエアー
ブローや軽い衝撃を与
CaMoO 4nH 2O
えることで、SiC 空隙に
挟まっていた堆積物は
簡単に除去され、SiC と
燃焼生成物との間には
図 3.3-3
化学的反応はない(浸透
SAPS フリー油の PM 焼成後灰分と
Mo 酸塩の IR 分析結果
はない)ことを確認した。
高灰油 2回目
200 µm
低灰油 2回目
SAPSフリー油 1回目
200 µm
200 µm
灰分
灰分
SAPSフリー油 2回目
灰分
図 3.3-4 ミニフィルタへの灰分付着状況
4.まとめ
目標とするエンジン油組成、省燃費性を有するエンジン油を開発した(表 3.6-1)。
以下に評価結果のまとめを列記する。
①
Low SAPS 油は実用上問題がなく、ロングドレイン性、省燃費性に優れることを確
認した。
②
SAPS フリー5W-30 油は、Seq.ⅢG 試験の 40℃動粘度増加の要求値をわずかに満足
できなかった。しかし、添加剤組成を変更せずに油消費量を少なくするため基油
粘度を高めた 10W-30 油では合格する見通しを得た。
③
SAPS フリー10W-30 油は、JASO ディーゼルエンジン油規格試験(4D34T4 動弁系摩
耗試験、TD25 清浄性試験)に合格した。したがって SAPS フリー油に対して、実
用上の可能性を見出した。
④
種々のエンジン試験から、SAPS フリー組成は Low SAPS 組成よりもピストン清浄
性が一層向上することを確認した。
⑤
DPF 詰りおよび灰分組成に燃料硫黄は関係しないことを明らかにした。
⑥
DPF 詰りはエンジン油の硫酸灰分量と関係するため、Low SAPS 油さらには SAPS フ
リー油が詰り防止に有効であることを明らかにした。
⑦
DPF堆積物の灰分組成(CaSO 4 、Ca 3 (PO 4 ) 2 など)は、PM焼成前の元素およびその元
素割合で決まることを明らかにした。
5 年間の本研究を通じて学会発表 13 件、特許出願 5 件を行った。
表 3.6-1 エンジン油組成およびエンジン試験実用性能のまとめ
Low SAPS組成
SAPSフリー組成
目標値
達成値
目標値
達成値
Sul.Ash
mass%
0.5以下
0.50
0.2未満
0.12
P
mass%
0.05以下
0.05
0.00
0.00
S
mass%
0.5以下
0.08
0.1未満
0.02
○
◎
省燃費性
ガソリンエンジン試験
JASO 低中温清浄性試験(VG20E)
◎
◎
JASO 高温酸化安定性試験(1GFE)
◎
◎
JASO 動弁系摩耗試験(KA24E)
○
○
ASTM Seq.ⅢG試験(GM 3800SeriesⅡ)
○
△
ディーゼルエンジン試験
JASO 清浄性試験(TD25)
◎
○
JASO 動弁系摩耗試験(4D34T)
◎
◎
◎:極めて良好、○:良好、△:合格の可能性大
文 献
1.
第19回技術開発研究成果発表会要旨集
2.
八木下和宏ら
P1.2.1
平成17年5月
日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集(鳥取)
3F11,581(2004)
3. 八木下和宏ら
日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集(鳥取)
3F12,583(2004)
4.
八木下和宏
石油学会石油製品討論会
98(2004)
5.
K.Yagishita,et.al,ITC2005 Proceedings (Kobe),421-426(2005)
6.
第18回技術開発研究成果発表会要旨集
7.
八木下和宏ら
Q3.1.1
平成16年6月
日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集(新潟)
2C9,267(2003)
8.
第20回技術開発研究成果発表会要旨集
9.
栗原
功ら
P1.2.1
平成18年6月
日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集(新潟)
3C9,437(2003)
10.第17回技術開発研究成果発表会要旨集
11.加賀谷峰夫
Q3.1.1
平成15年6月
日本トライボロジー学会トライボロジー会議(東京)C7
187(2005)
12.八木下和宏ら
第35回石油・石油化学討論会(盛岡大会)10月28日,
石油学会盛岡大会予稿集
13.加賀谷峰夫ら
338(2005)
日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集(新潟)
3C2,423(2003)
14.加賀谷峰夫ら
日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集(新潟)
3C3,425(2003)
15.星野耕治ら
自動車技術会2005年春季大会(5月,横浜)自動車技術会
学術講演会前刷集
16.佐藤陽一ら
No.30−05(2005)
日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集(新潟)
2B10,243(2003)
17.加賀谷峰夫ら
日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集(鳥取)
3F16,591(2004)
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