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HDL Measures, Particle Heterogeneity
Special Report HDL Measures, Particle Heterogeneity, Proposed Nomenclature, and Relation to Atherosclerotic Cardiovascular Events Robert S. Rosenson1,*, H. Bryan Brewer, Jr2, M. John Chapman3, Sergio Fazio4, M. Mahmood Hussain5, Anatol Kontush3, Ronald M. Krauss6,7, James D. Otvos8, Alan T. Remaley9 and Ernst J. Schaefer10 1 Mount Sinai Heart, Mount Sinai School of Medicine, New York, NY: 2 MedStar Research Institute, Washington DC: 3 INSERM Unit 939, UPMC Paris 6, Hôpital de la Pitié, Paris, France: 4 Vanderbilt University, Nashville TN: 5 SUNY Downstate Medical Center, Brooklyn, NY: 6 Children's Hospital Oakland Research Institute, University of California, Berkeley: 7 University of California, San Francisco, CA: 8 Liposcience, Raleigh NC: 9 Lipoprotein Metabolism Section, Pulmonary and Vascular Medicine Branch, National Heart, Lung and Blood Institute, National Institutes of Health, Bethesda, MD: 10 * Lipid Metabolism Laboratory, Tufts University, Boston, MA. Address correspondence to this author at: Mount Sinai School of Medicine, One Gustave L. Levy Place, Box 1030: New York, NY. Fax 212-659-9033: e-mail [email protected]. Clinical Chemistry 2011:57:392-410 HDL の各種測定法、リポ蛋白粒子としての不均一性、新しい命名 法の提案、ならびに動脈硬化性心血管イベントとの関係について 概要 背景:スタチン治療を受けたハイリスク患者では、残存する心血管リスクを低減させるための次な るターゲットとして、HDL を重視するエビデンスが、疫学データ、動物実験および臨床試験で相次 いで示されている。30 年以上の間、HDL コレステロールは HDL 粒子の増減の評価や、低 HDL コ レステロール血症に関連する、心血管リスク評価の主要な臨床的指標として使用されてきた。HDL は物理化学的・機能的に不均一であるため、心血管リスク評価において、予測因子となる HDL の定 1 量法を開発することが、より有用な臨床検査法の確立を目指す心血管病分野の研究者にとって、重 要な課題となった。 内容:この報告では、血漿 HDL の分類に使用されてきた、種々の物理・化学的方法を厳密に評価す る。今後、HDL 亜分画の特性評価を円滑に行うために、超大型 HDL 粒子(VL-HDL)、大型 HDL 粒 子(L-HDL)、中型 HDL 粒子(M-HDL)、小型 HDL 粒子(S-HDL)および超小型 HDL 粒子(VS-HDL)に関 する、HDL 亜分画の物理的性質に基づいた新しい命名法を提案する。この命名法には、マクロファ ージからのコレステロール引き抜きに関与する、pre-β-1 HDL 亜分画も含まれている。 要約:いくつかの方法で使われている専門用語を統一して、HDL 亜分画用の共通の命名システムを 採用する。それにより、異なる HDL 亜分画分析法で得られた結果の比較が可能になるだけでなく、 HDL 粒子の構造や代謝および機能を調整する、さまざまな薬剤の臨床効果が評価でき、そして結果 的に、これら HDL 亜分画内に存在する心血管リスクの予測因子の評価につながる事を期待している。 従来から、心血管疾患の予防戦略は、治療による LDL コレステロールの低減が重視されてきた(1,2)。 しかしながら、残存する心血管疾患(CVD) 11 リスクを評価するための第 2 の予防指標として、HDL コレステロールがますます注目されてきている(3,4)。低 HDL コレステロール血症は、西洋化された 国々でよく見られ、LDL コレステロールが低値の時でさえ(7)、CVD リスクの独立した予測因子とな る (5,6)。しかし、HDL コレステロールが低値の際には、小型でコレステロールに乏しい LDL 粒子 の増加や、コレステロールに富むレムナントの増加がしばしば伴う。したがって、低 HDL コレステ ロール血症に関連した CVD リスクは、他の関連リポ蛋白質の異常に伴うリスクと区別するのが難し い(8)。 HDL は粒子の大きさや、構成成分が不均一である。HDL の心血管保護的役割を示唆する多くの疫学 データがあるにもかかわらず、このクラスのリポ蛋白質を構成する様々な粒子の、抗動脈血栓特性 についてはほとんど分かっていない。HDL が持つ動脈硬化抑制作用のうちのいくつかは、コレステ ロール逆転送、酸化および炎症での役割に関係している(9,10)。いくつかの遺伝子変異は、HDL の構 造および機能に影響する場合があるが、これらが CVD リスクにどんな影響を与えるかは不明である (11)。さらに、HDL 代謝をターゲットにした診断・治療戦略を展開していくには、HDL コレステロ ールの絶対濃度だけでなく、HDL 粒子の機能的な特質も考慮しなけれならない(10,12)。 HDL 亜分画の測定は(13)、リポ蛋白粒子の組成・機能分析と同様に、冠動脈疾患(CHD)リスクを推定 する場合には、HDL コレステロール測定より優れているかもしれない(10,14)。したがって、これら の粒子の構造的、組成的、機能的な多様性を包含して表わすことができる、新しいフレームワーク を提案する必要がある。 2 この特別報告では、現在の HDL の分析法の利点および欠点について議論し、その不均一な物理化学 的・機能的特性に基づく HDL の分類に適した、より新しい研究方法を検討する。CVD の診断、予 防および治療を改善するには、動脈硬化形成過程における HDL 粒子の種々の役割を理解し、証明し、 定量していくことが、ますます必要になってきている(9,10)。この報告からの情報は、動脈硬化症の 病態生理学的な理解を向上させ、研究の先行き、そして様々な患者集団の残存リスクを有効に減ら す、介入デザインの方向性を決めるための基礎として、役立つように記載されている。最後に、 HDL 亜分画用の統一命名法を提案し、多くの静止的な検査法を同時に用いて HDL 代謝の動態過程 を定義する、新しいパラダイムを提案する。様々な HDL 分析法で、HDL の異なる物理・化学的性 質を測定することや、動態過程解析に静的指標を用いることには初めから限界があるが、HDL 亜分 画の既存の命名法にも不一致な点があり、臨床研究者が HDL の様々な分析方法と、機能的構成概念 とを相互に関連づけることができるようような、統一システムが必要である。 HDL コレステロールと心血管リスク HDL のコレステロール含有量は、HDL 粒子が持つ抗動脈血栓作用や、免疫関連の多彩な機能を評価 するために従来から使用されている。HDL コレステロールは、LDL コレステロールの算出に使われ る Friedewald 式の主成分であったことが、臨床の場で頼りとされるようになった一因でもある(15)。 HDL コレステロールは、3 万人以上を対象とした 68 件の長期的地域住民ベースの研究により、リス クマーカーとして評価された(16)。脂質(トリグリセリドおよび Non-HDL コレステロール)および脂 質以外のリスク因子で調整した多変量解析モデルでは、HDL コレステロール濃度は CHD イベント の発症と負の相関を示す。HDL コレステロール濃度が 0.39mmol/L (15mg/dL)増加するごとに、CHD イベントリスクは 22% (95%信頼区間, 18%-26%)減少した。低 HDL コレステロール値は、糖尿病の 有無にかかわらず、CHD による死亡率を同じように的確に予測する(17)。 脂質低下剤で治療された患者のリスク評価指標に、HDL コレステロール値を使用する意義について のエビデンスは、共変数調節の程度に依存するので、一致していない。スタチン(ヒドロキシメチル グルタリル補酵素 A-還元酵素阻害剤)治療を行った 14 件の無作為化試験に参加した 9 万 56 名のメタ 分析で、Cholesterol Treatment Trialists' Collaboration の研究者らは、HDL コレステロールを含むさま ざまなベースライン時のリスク予測因子が、血管イベント発症に比例的な影響を与えることを報告 した(18)。5 年間での主な CVD イベントの発生率は、HDL コレステロール値が最も低かった群でよ り高かった。スタチンの使用は、HDL コレステロール値が最低三分位[<0.9 mmol/L(35mg/dL)]の群で 22%、中央[0.9-1.1 mmol/L (35-42 mg/dL)]と最高三分位[ 1.1 mmol/L(42mg/dL)]の群で 21%、CHD の イベントリスクを減らした。しかし、HDL コレステロール濃度が最低値の群は、絶対危険度が他の 群より高く(最低三分位群 22.7%、中央群 18.2%、最高三分位群 14.2%)、スタチンの使用により絶対 的なリスクは最大限に減少した。 3 同様にほとんどの前向き臨床研究では、試験中の HDL コレステロール値が、CVD イベントの再発 予測因子になっている(7,19)。HDL コレステロール低値に関連した危険性の増大は、スタチン治療で LDL コレステロール値が 1.8mmol/L (70mg/dL)未満に低下した患者でさえも存続する。しかしながら、 この概念はおよそ 30 万人を対象とした、95 件の臨床試験のメタ分析により最近になって問題になり、 試験中の HDL コレステロール値が CHD のイベントとは有意な関係がないことが示唆された(20)。 この研究は、個々の研究参加者データではなく、統合データを使用したこと、ベースライン時のト リグリセリド濃度を考慮しなかったことが妨げとなっている。さらに、HDL コレステロール直接測 定法の分析変動はしばしば 10%を超えるが(21)、このメタ分析に含まれた大多数の研究では、治療グ ループ間の HDL コレステロール値の差は最小であった(<3%)。 高いリスクを持つ人が、しばしばスタチンを使用して治療されることを考慮すると、コレステロー ル定量以外のマーカーを用いて HDL 測定を行えば、潜在的にハイリスクにある人や、特に脂質低下 療法を受けた患者の残存リスクの、層別化に役立つ情報がより多く得られるかもしれない。 HDL コレステロール測定の限界 最も初期の HDL コレステロール測定は、比重 1.063∼1.21g/mL の HDL を得るために分離用超遠心 (22)が行われた。1970 年代の初めにデキストラン硫酸などの試薬を使った化学的沈殿法が出現する まで、HDL コレステロールを臨床検査室で測定することは実用的ではなかった。ここ 10 年で、ほ とんどの検査室は、他のリポ蛋白質から HDL を物理的に分離せずに分析できる直接(ホモジニアス) 法に変更した。現在、7 つの異なる HDL コレステロール直接法があり、それらは HDL 以外のリポ 蛋白分画のコレステロールを選択的に凝集させたり消去したりするといった、いくつかの異なる原 理を採用している(表 1)。HDL コレステロール直接法は完全に自動化されており、精密で手間がより かからない。したがって、直接法は昔の測定法に大きく取って代わった。HDL コレステロール直接 法が化学的沈殿法に匹敵するくらいの、臨床的有用性があるのかどうかは明らかではない(23–25)。 種々様々の脂質異常症 175 例を対象とした最近の研究では、現在ある 7 つの直接法のどれもが、米 国コレステロール教育プログラムによって確立された、12%未満という最低限の総合誤差目標を達 成しなかった(21)。さらに、直接法による HDL コレステロール値が不正確であると、LDL コレステ ロールの推定値に基づいた CVD リスク分類の正確性が、著しく損なわれることが明らかになった。 4 表 1 市販の HDL コレステロール直接法 物理化学的性質による HDL の分類 分析用超遠心法 最初期の HDL 定量には、シュリーレン光学を用いた分析用超遠心法が使われた。1940 年代後半に、 カリフォルニア州バークレーにあるドンナー研究所の Gofman, Lindgren らは、高濃度塩溶液中での 超遠心による浮上係数(F1.2)に基づき、粒子サイズと密度の関数で HDL 亜分画を同定した(26)。これ 5 らの研究は、ほとんどの HDL 粒子が 1.063∼1.21g/mL の間で浮上する密度を持っていることを証明 し、また、このことは標準的分離用超遠心法で、HDL を分離するための基盤となった(21,26)(図 1)。 さらに、より小型でより密度の大きい HDL3(F1.20-3.5)は、光学的シュリーレンプロファイルではシ ョルダーとしてはっきりと観察されるため、より大型でより浮上しやすい HDL2(F1.23.5-9)と十分に 区別することができた。HDL1 と呼ばれるより大型の HDL(F1.29-20)は、比較的稀な種類の HDL を表 す。物理学の基本原理を使用して、分析用超遠心のシュリーレンプロファイルは、リポ蛋白質粒子 の質量濃度に変換された。このゴールド・スタンダード法は、前向き研究で最初に使用され、血漿 HDL 濃度と CHD リスクとの逆相関関係が証明された(27)。最近、この研究に参加した 1,905 名の長 期追跡調査(29 年)の結果により、HDL2 と HDL3 の両方が CHD リスクと独立して関係することが示 されている(28)。 図 1 分析用超遠心法 分析用超遠心法による HDL の測定。主要 HDL 亜分画は、比重 1.2g/mL の塩溶液中での浮上係数 (F1.2)によって区別され、また、濃度曲線下面積(AUC)で示される総質量は、シュリーレン光学から の基本的な物理学的原則によって決定される。最初に、3 つの主要 HDL 亜分画が同定された。最高 浮上係数で上昇する HDL1 は、ヒト血漿中では一般に検出されない。その後、HDL2 を 2 つの亜分 画(HDL2a と HDL2b)に分ける近似曲線解析法が開発された。 非変性グラジエントゲル電気泳動法 自動デンシトメータを備えたグラジエントゲル電気泳動は、1981 年、ドンナー研究所の Nichols ら により、粒子直径に基づいて分離可能な 5 つの HDL 亜分画の識別に適用された(29);HDL3c(7.2∼ 7.8nm)、HDL3b(7.8∼8.2nm)、HDL3a(8.2∼8.8nm)、HDL2a(8.8∼9.7nm)および HDL2b(9.7∼ 6 12.9nm)(図 2)。後の研究結果で、総 HDL コレステロール値と強く相関する HDL2b が、CHD リスク と最も強く逆相関することが示され(30)、また、HDL3b の増加は、トリグリセリドの増加と小型で 比重の大きい LDL の増加、および HDL2b の減少を特徴とする、動脈硬化惹起性リポ蛋白質表現型 に関係していることが示された(31)。下に記述されているように、HDL2b に相当する粒子が、CHD リスクと独立した逆相関関係にあることが、2 次元(2D)電気泳動法で示された(32)。 図 2 非変性ゲル電気泳動 グラジエントゲル電気泳動法による、4 つの代表的血漿サンプルからの HDL 亜分画の分離。HDL を比重 1.21g/mL で血漿から超遠心分離し、4%-30%の非変性グラジエントゲルで電気泳動した。ク マシーブルーで蛋白質を染色し、ゲルをデンシトメータでスキャンした後、粒子サイズ分布は標準 蛋白質(右レーン)で校正して算出した。この方法では、HDL は 5 つの亜分画に区別され、一番小型 の HDL3c は、一般的に低濃度で存在する。Std、標準蛋白質。 血漿リポ蛋白の密度勾配分画法 7 ヒト血漿中の主要 HDL 亜分画(HDL2b、-2a、-3a、-3b および-3c)の正確で再現性ある分画法は、 Chapman らによって開発された等密度平衡法に基づく(33–36)(図 3)。密度勾配は、水平型ローター用 のグラジエントチューブに、超遠心分離時の温度(+15°C)と同じに正確に調整された、比重の異なる 4 種の塩溶液を連続的に重層してつくられる。この方法の主な欠点は、他の超遠心分離と同様にリポ 蛋白質が高イオン強度と遠心力(57x 107g 平均/min)にさらされることであるが、水平型ローターを用 いるとせん断応力が減弱される。 図 3 密度勾配超遠心法 不連続密度勾配超遠心法(単一回転)でヒト正脂血漿から分離した HDL 亜分画(HDL2b、HDL2a、 HDL3a、HDL3b および HDL3c)の代表的電気泳動パターンと、その平均粒子径 [1 次元電気泳動は非 変性グラジエントポリアクリルアミドゲル(4%-20%)で行った]。ヒト血漿は不連続密度勾配超遠心 法(単一回転)で分離した。比重 1.21g/mL に調節された血漿または血清サンプル(3 mL)は、グラジエ ントチューブの底に入れた比重 1.24g/mL の NaCl-KBr 溶液層上に重層し、その後、1.063、1.019、 1.006g/mL の比重液を順に連続的に重層して、不連続グラジエントを作製した。本法は1回の超遠心 ステップで構成され、定義された水和密度と物理化学的性質をもつ HDL を十分に分画し、ほぼ定量 可能なまでに回収できる。また、血漿蛋白質の多量混入を回避し、非変性、非酸化状態での HDL 分 離を容易にした。グラジエント成分は、精密なピペットでメニスカスから下方へ向かって分取する ため、チューブ底の残渣中に存在する比重>1.25g/mL の血漿蛋白質の混入を避けることができる。 ピーク径は、クマシーブリリアントブルーで染色後、コダック1D ソフトウエアフィルターを用い、 各バンドの最大吸収強度の位置で測定した。**電子顕微鏡のネガティブ染色によるサイズは、非水 和状態であるため、より小さく算出された(HDL2b+HDL2a、平均直径 9.6nm、範囲 10.8-7.2 nm: 8 HDL3a+HDL3b+HDL3c、平均直径 7.3nm、範囲 9.0-5.4 nm)。 垂直型分析プロファイル 垂直型自動プロファイル(VAP)は、超遠心分離に基づいた HDL 亜分画分析法の一つである(37)。他 のほとんどの超遠心分離方法と異なり、VAP は垂直型ローターを用いて行われるため、ルーチンの 臨床試料を、比較的迅速かつより実用的に分析できる。HDL に関しては、VAP は密度で定義された 主要 2 亜分画、すなわち HDL2 と HDL3 のコレステロール含有量を測定する(38)。 VAP は比較的精密な方法であり、リポ蛋白質亜分画分析の分析内 CV は 4%∼10%である(39)。VAP 技術を含め超遠心法に特有な分析限界は、本レポートのオンライン版の補足データ内、付録 1 に記 載されている(http://www.clinchem.org/content/vol57/issue3)。 VAP 法と他のリポ蛋白質亜分画法との比較研究は限られているが、これまで、これらの研究結果は あまり一致しなかった(40)。様々なリポ蛋白質亜分画分析法が HDL の異なる物理的・化学的性質に 基づくということだけでなく、分画法の標準化が行われていないということから考えても、おそら くこのことは驚くべきことではない。 2 次元 ゲル電気泳動法 HDL は粒子サイズと電荷に基づいて、分離することができる(図 4, 5)(13,41)。これらの粒子濃度はア ポリポ蛋白質 A-I(apo AI)の 1 リットル当たりのミリグラムで表わされ、血漿総 apo AI 濃度の割合と して表現される。HDL は以下の 5 つの主要粒子に分類されている;(a) apo AI とリン脂質を含み、 pre-β 位に易動度をもつ超小型円盤状 HDL 前駆体(pre-β-1HDL、直径約 5.6nm); (b) apo AI、リン脂 質および遊離コレステロールを含み、 位に易動度をもつ超小型円盤状 HDL( -4 HDL、直径約 7.4nm); (c) apo AI、apo AII、リン脂質、遊離コレステロール、コレステロールエステルおよびトリ グリセリドを含み、 位に易動度をもつ小型球状 HDL( -3 HDL、直径約 8.0nm); (d) -3 HDL と同じ 粒子組成を持ち、 位に易動度がある中型球状 HDL( -2 HDL、直径約 9.2nm); そして(e) apo AII を ほとんど欠くことを除けば、 -3 や -2 HDL と同じ粒子組成を持ち、 位に易動度がある大型球状 HDL( -1 HDL)(図 4)。 粒子に隣接して、同じ粒子サイズであるが、量が少なく apo AII を含んでい ない pre- 粒子が存在する。さらに、pre-β位に易動度を持つ大きな HDL が、pre-β-2 HDL として知 られている(42)。 9 図4 2 次元電気泳動法 CHD 患者(A)と健常者(コントロール)(B)の apo A-1 含有 HDL 亜分画プロファイル、および apo A-1 含有 HDL の模式図(C)。パネル(A)の下の図は、 位に泳動される HDL 領域をデンシトメータでスキ ャンしたプロットで、平均粒子径が超大型 -1 HDL(直径 11.0nm)から超小型 pre-β-1 HDL(直径 5.6nm)の範囲に - HDL が 4 種類あることが示されている。模式図で、 -2 領域(直径 9.2nm)と -3 領 域(直径 8.1nm)に泳動される apo AI 含有粒子は apo AI と apo AII(濃い網掛け)の両方を含んでいる、 しかし、小型の -4 HDL (直径 7.4nm)を含め、apo AI を持つ他のすべての粒子は検出できるほどの 量の apo AII (薄い網掛け)を含んでいない。 星印は血清アルブミンまたは フロントを示す。粒子組 成に基づくと、超小型 pre-β-1 HDL と小型 -4 HDL はコレステロールエステルやトリグリセリドを 含んでいない円盤状粒子であり、中型、大型、超大型の -3、-2 および-1 HDL は球状で、粒子の中 心部にコレステロールエステルとトリグリセリドを含んでいる。 一般に未治療の CHD 患者は超大 型と大型の - HDL の apo AI レベルが著しく減少し、超小型 pre-β-1 HDL と小型 -4 HDL の apo AI が軽度に増加している傾向がある。図(C)では、1、2、3、および 4 は、 -1、-2、-3 および-4 を示す。 10 Asztalos らの報告から引用(181). 図 5 apo AI イムノブロッティング後の 2 次元ゲル電気泳動パターン 2 次元ゲル電気泳動後に apo AI イムノブロッティングした全血漿パターンを左図に、超遠心法で分 離した比重(d) <1.125g/mL のリポ蛋白質パターンを中央図に、比重 1.125-1.24g/mL のリポ蛋白パタ ーンを右図に示す。この結果は、比重<1.125g/dL の apo AI 含有 HDL が、主に超大型と大型 - HDL を含み、比重 1.125-1.24 g/mL の apo AI 含有 HDL 粒子には、主に中型と小型 - HDL、および超小型 pre-β-1 HDL が含まれていることを示している。 Asztalos らの報告から引用(181). Pre-β-1 HDL 粒子は最も効率的に ATP binding cassette transporter A1 (ABCA1)を介して、細胞からのコ レステロール引き抜きを促す。一方、大型 -1 HDL は肝内へのコレステロール取り込みを担う肝臓 スカベンジャー受容体 B1 と、最も効率的にやりとりする(43,44)。中間サイズの -3 HDL は最も効率 的に ATP トランスポーターG1(ABCG1)を介して、apo AI と apo AII の両方を含んでいる球状 HDL 粒 子へ、細胞由来のコレステロール引き抜きを促進する(44)。脱脂 HDL、あるいはリン脂質と複合体 11 を形成した apo AIMilano は、体内注入された場合に冠動脈粥状硬化の退縮を促すと報告されており、 それらは pre-β-1 HDL 粒子に属する(45)。他にも apo AI を含まず、apo E を持つ HDL 粒子(超大型 pre-β HDL)や、apo AI を含まず apo AIV を持つ小型 HDL がある(43)。これらの粒子の機能は十分に 定義されていない。 血漿の 2 次元ゲル電気泳動と、それに引き続く apo AI イムノブロッティングは、HDL 代謝異常症の 正確な診断を可能にする。apo AI 欠損症は apo AI 含有 HDL 粒子の欠如が特徴で、その患者はしば しば黄色腫や若年性 CHD を発症する(46)。タンジール病では apo AI はほとんど存在せず、全身にわ たる ABCA1 トランスポーターの機能不全やマクロファージでのコレステロールエステル沈着が特徴 である。この患者は pre-β-1 HDL だけを持ち、通常は早発性 CHD を発症する(47)。家族性レシチン コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損患者は、pre-β-1 と -4 HDL 粒子だけを持ち、 それら粒子内のコレステロールをエステル化することができないため、深刻な角膜混濁、LDL の増 加、および腎不全を伴うことがある(41)。リポ蛋白質リパーゼ欠損患者は、膵炎のハイリスクにさら されるほどの、著しい高トリグリセリド血症を呈する。また、これらの患者は低 HDL コレステロー ル血症を呈し、そのコレステロールは pre-β-1 と -4 HDL 粒子のみに運搬される(48)。肝性リパーゼ 欠損患者はレムナント・リポ蛋白質の増加と -2 HDL の減少を伴い、早発性 CHD のリスクが増加す る(48)。コレステロールエステル転送蛋白質(CETP)欠損患者は、apo AI、apo AII および apo E を含有 する超大型 HDL を持っている (49)。これら超大型 HDL 粒子に存在する apo E は、ABCG1 トラン スポーターによるコレステロール引き抜きにおいて重要であるかもしれない。 -1 HDL の apo AI 濃度が 140mg/L を下回ると、CHD 発症リスクが増大する(32)。また、CHD 患者は しばしば小型円盤状 HDL 粒子を持っており、大型の -1 と -2 HDL 粒子が減少している。これらの 粒子濃度は、CHD リスク予測で使用する場合、HDL コレステロール濃度より優れている(50,51)。 大型 -1 粒子は体重減量や、ナイアシン、スタチン類 (アトルバスタチン、ロスバスタチン)、CETP 阻害剤の使用で増加する(52–57)。 -1 HDL の apo AI 濃度をシンバスタチン/ナイアシン併用療法で >200mg/L(0.52 mmol/L)まで増加させると、冠動脈粥状硬化の進展が見られなくなり、人によっては その退縮にも関連が認められる(51)。 HDL 粒子濃度 核磁気共鳴分光法 異なるサイズのリポ蛋白質粒子内の陽子(水素原子核)には、それらの特有な物理的構造に起因する固 有の磁気特性があるので、核磁気共鳴(NMR)分光法は HDL 粒子を分析する他の方法とは違い、物理 的分離ステップが不要である(58)。したがって、分画していない血漿あるいは血清中の異なるサイズ のリポ蛋白質粒子は、特異的に異なる周波数を持った識別可能な脂質 NMR シグナルを生じる(図 6 12 左) (59,60)。HDL 亜分画の NMR シグナル周波数(化学シフト)は、VLDL や LDL の亜分画と比較する と、特に十分によく区別される(図 6 右)。 図 6 NMR 分光法 リポ蛋白質亜分画粒子径と脂質メチル基 NMR 化学シフト(周波数)との関係(左図)、および 5 個の分 離 HDL 亜分画(異なる粒子径をもつ)のメチルシグナライン形状と化学シフト(右図)。異なるサイズ のリポ蛋白質粒子には固有の磁気特性があるので、理論上は任意のリポ蛋白質分析実験室で、どん な NMR 装置を使っても測定できるが、実際問題としてはそのような分析には専用装置が必要であ る。亜分画の NMR シグナルはかなりオーバーラップしているので、亜分画濃度の算出に用いる、 亜分画シグナルの振幅を抽出するためには、血漿 NMR シグナルエンベロープをコンピュータで デ コンボリューション する必要がある。亜分画用の基準シグナルライブラリーを作る時に使用される NMR 条件(磁場の強さや温度など)が、各患者の血漿サンプルを引き続いて測定する(およそ 1min)際 に使用される条件とぴったり一致する場合のみ、正確で再現性のあるデコンボリューションが可能 である。LipoScience 社が現在使用する NMR LipoProfile-3 法は、LDL、VLDL およびカイロミクロ ン(Chylos)の 47 亜分画だけでなく、HDL の 26 亜分画からの総シグナルとして血漿シグナルをモデ ル化している。数多くの各亜分画の濃度測定の精度を考慮して、それらの亜分画はルーチンの結果 報告では 大型 、 中型 、 小型 のカテゴリーに分類されている。 13 リポ蛋白質定量では、末端脂質メチル基の陽子に由来するリポ蛋白質 NMR シグナルを利用する。そ の理由は、それらのシグナルは脂肪酸や他の化学的・構造的差異に無反応であり、それゆえ、影響 を受けないからである(60)。さらに、綿密に近似すると、ある定まったサイズのリポ蛋白質粒子中の メチル基の陽子数は、中心部のコレステロールエステル量やトリグリセリド量に著しい違いがあっ ても一定である。これらの特性により、検知された亜分画のメチルシグナル振幅は、その粒子数と 直接比例し、NMR で測定した HDL 濃度は粒子単位(μmol/L)で表わされる(60)。NMR 分析は HDL やその亜分画を定量でき、潜在的には臨床において有用な新しい方法であるが、本質的には NMR 脂 質メチルシグナルから HDL の化学的・構造的情報を得ることはできない。 現在の NMR 法は、LDL、VLDL およびカイロミクロンの 47 亜分画だけでなく、HDL の 26 亜分画 からの総シグナルとして血漿信号をモデル化している。数多くの各亜分画の濃度測定の精度を考慮 して、それらの亜分画はルーチンの結果報告では、 大型 、 中型 、 小型 のカテゴリーに分類さ れている。調査研究では、密度勾配超遠心やグラジエントゲル電気泳動などの他の分析法で測定し た亜分画に報告結果をより一致させるために、HDL26 亜分画を別の手法でグループ分けすることは 難しくない。 研究者達は、NMR で測定した HDL 粒子や HDL 亜分画濃度(大型 HDL 粒子、9.4-14 nm;中型 HDL 粒子、8.2-9.4 nm;小型 HDL 粒子、7.3-8.2 nm)、および HDL 粒子サイズと CVD との関係を確立しよ うとしている。公表された研究の中には、年齢や性別(61,62)、寿命(63)、インスリン抵抗性や糖尿病 (64–67)、CHD (62,68–74)、そして運動や様々な薬剤治療でもたらされる変化(76-84)などとの関連を 報告するものがある。疾患と HDL 亜分画、あるいは HDL サイズとの間に見られる関連性の臨床的 意義を解釈する場合には、大型 HDL 亜分画と小型 HDL 亜分画の間に見られる強い逆相関性や、大 型 HDL 粒子濃度(HDL サイズ)と総 LDL(小型 LDL)粒子濃度の間に見られる非常に強い逆相関に起因 する交絡が重要な留意点となる(60,65,74)。これらの相関関係で生じる交絡に対処する統計分析を行 わずにいると、HDL 亜分画間に存在する臨床的重要性や、潜在的、機能的な違いに関して誤解を招 きやすい結論に到達するかもしれない(62,73,74)。. イオンモビリティ法 イオンモビリティ法は高分子の移動性に基づいた気相ディファレンシャル電気泳動法で、ローレン スバークレー国立研究所の Benner らによって開発された(85)。このハイスループット分析では、リ ポ蛋白質サイズは物理学の基本原則によって定められ、そして粒子数は電荷を均一化し、電圧勾配 中を通過する飛行時間によって分離したのち、直接数えられる。HDL サイズ領域に混入するアルブ ミンは、ブルーデキストランとのインキュベーションや、無塩状態での短時間超遠心で予め減らさ れる。この方法は、小型 HDL から HDL2b を分離するように、現在の機器構成ではデザインされて おり、HDL2a や HDL3 などの亜分画を分離測定する方法は開発中である。この方法により、大型 HDL2b 亜分画と冠動脈疾患リスクとの間に強い逆相関性があることが、Malmo Diet and Caner Study 14 の前向き研究で最近実証された(86)。これら大型 HDL 粒子と CHD リスクとの関連は、全リポ蛋白 質分画のイオンモビリティ測定と主成分分析により導き出された、2 つの独立した主コンポーネント にそれらが含まれていることと関係があった。コンポーネントのうちの 1 つは、トリグリセリドや 小型 LDL 粒子の増加を伴う動脈硬化惹起性リポ蛋白質表現型に相当し、もう1つは小型 HDL 粒子 と関連する。この研究で行なわれた遺伝子解析の結果は、これらのコンポーネントには異なる根本 的な決定要素があることを示し、そしてこのことは HDL の心血管保護作用の、2 つの独立したメカ ニズムがあることを示唆しているかもしれない。 脂質と蛋白質組成から見た HDL 粒子の不均一性: apo AI と心血管リスク apo AI は HDL の主要蛋白質で(87)、肝臓と小腸の細胞内で生成される(88)。apo AI は、動脈のマク ロファージを含め、ABCA1 トランスポーターを介した末梢細胞でのコレステロール移動を仲介する 機能的役割があるため、HDL コレステロールより正確なバイオマーカーになると考えられている。 確かに初期の研究は、apo AI 測定がリスクマーカーとして、HDL コレステロールより優れているこ とを示唆している(89,90)。その後、HDL コレステロールと apo AI という、これら 2 つの HDL 指標 は、2 つの大規模コホート研究で直接比較された(74,91)。2,349 名が参加した European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition–Norfolk study では、 主要 CHD イベントの 1SD 変動ごとの発症 リスクは、脂質以外の項目で補正すると、HDL コレステロールが 0.79(0.71-0.87)で apo AI が 0.78(0.70-0.87)であった(74)。Women’s Health Study の最近の分析では、主な心血管イベントリスクの 大きさは、apo AI よりも HDL コレステロールが低値のときに高くなることが示された(91)。 スタチン治療を受けたハイリスク患者の中には、apo AI という指標の方が、HDL コレステロールよ りも、CHD リスクに関する追加情報が得られる場合があるが(92)、その一方で、Incremental Decrease in Endpoints through Aggressive Lipid Lowering (IDEAL) study に登録された安定 CHD 患者では、これ らの指標は同程度の予後マーカーであった(74). Air Force-Texas Coronary Atherosclerosis Prevention Study では、1 年のトライアルでの apo AI 低値が主な CHD イベントの予測因子となったが、トライ アル中の HDL コレステロール濃度は、有意な予測因子にならなかった(92)。これとは対照的に、 IDEAL 研究に登録されスタチン治療を受けた CHD 患者(74)や、Veterans Administration HDL Intervention Trial (VA-HIT)でフィブラート治療された CHD 患者(71)の再発リスクに関しては、HDL コレステロールと apo AI 濃度の間に差はなかった。 apo AI 測定 法 apo AI は豊富な血清蛋白質であるので、比ろう法や比濁法によって、ほとんどの標準的な臨床化学 分析装置で、比較的簡単に測定できる(93)。通常、非イオン性界面活性剤を分析用緩衝液に加えて 15 HDL をバラバラにし、apo AI の抗原性部位を露出させて測定するので、濁った試料に伴うバックグ ランドの問題が改善される。酸化を受けた apo AI (94–96)も、CHD リスクの潜在的バイオマーカーと して評価されており、心血管リスク評価における apo AI の有用性を再考する契機になっているかも しれない。 リポ蛋白質粒子のアポリポ蛋白質組成による HDL の分類 血漿リポ蛋白質は、それらのアポリポ蛋白質組成に基づいて分離し、分類することができる。 Alaupovic らはアポリポ蛋白質組成を用いて、ヒト血漿リポ蛋白質をリポ蛋白質 B (LpB) (LpB、 LpB:C、LpB:C:E)、LpA (LpAI、LpAII、LpAI:AII)、LpC (LpCI:CII:CIII)、LpE、および LpD に分類し た (97,98)。 apo AI 粒子と apo AI:AII 粒子 LpAI と LpAI:AII は、それぞれ血漿 apo AI のおよそ 35%および 65%を含む HDL の主要リポ蛋白質で ある(99)。LpAI は脂質に乏しい apo AI:リン脂質複合体として最初に分泌され、その後 ABCA1 トラ ンスポーターを介したコレステロールの引き抜きを促進し、結果として pre-β HDL となる(100)。 pre-β HDL 内のコレステロールは、pre-β HDL 含有から -HDL 含有 LpAI 粒子へと変化しながら、 LCAT によりコレステロールエステルにエステル化される(100,101)。肝臓で分泌される apo AII は LpAI に結合して LpAI:AII を形成する。apo AII は HDL リモデリングを抑制し、肝臓のスカベンジャ ー受容体クラス B タイプ I(SR-BI)によるコレステロールの取り込みを減少させると報告されたが (103)、HDL 代謝における apo AII の役割は明確には確立されていない(102)。 HDL を含む LpAI と LpAI:AII は、ABCG1 トランスポーターとの相互作用の後に、コレステロールの引き抜きを行う (104–106)。したがって、コレステロールを積んだ細胞からコレステロールを引き抜くための 2 つの 経路には、ABCA1 トランスポーターに作用する脂質に乏しい AI 粒子と、ABCG1 トランスポーター に作用するより大型の LpAI/LpAI:AII が関与する(107–111)。血漿では、LpAI と LpAI:AII は両方とも 不均一であり、脂質組成、密度、サイズおよび電荷に基づいて亜分画に分類することができる。 LpAI と LpAI:AII の心血管保護的役割は、論争の的になっている。初期の報告では LpAI:AII ではな く、LpAI が培養された Ob1771 脂肪細胞からコレステロールを引き抜くことができたことから、 LpAI:AII ではなく LpAI が抗動脈硬化性であることが示唆された(110)。LpAI と LpAI:AII が CHD 患 者群で評価された、後の臨床研究結果では、HDL コレステロールと LpAI:AII が減少し(110)、HDL コレステロール値が 40mg/dL (1.03 mmol/L) 未満の人では、LpAI が選択的に減少することが明らかに なった(112)。Etude Cas-Témoins sur l'Infarctus du Myocarde trial では、北アイルランドの CHD 患者で LpAI が減少したが、フランスの患者では LpAI と LpAI:AII の両方が減少した(113)。フランスと北ア イルランドの 8,784 名を対象とした心筋梗塞に関する前向き疫学研究では、ロジステック回帰分析に より、apo AI は HDL コレステロールや LpAI、LpAI:AII よりも CHD リスクの強力な予測指標である 16 ことが示された(114)。Framingham Offspring study および VA-HIT 臨床試験で行われた LpAI や LpAI:AII の定量では、脂質や脂質以外の CHD リスク因子で補正すると、CHD リスクが高まったサ ブ集団を識別できなかった(32,50)。様々な臨床研究で観察された LpAI と LpAI:AII の分析結果のば らつきは、HDL 亜分画定量に使用される測定法の多様性だけでなく、異なる患者グループの HDL 粒子に存在する潜在的不均一性を反映しているかもしれない。これらの研究結果から、LpAI と LpAI:AII の両方を含む大型 HDL 亜分画の増加に起因する HDL コレステロール値の増加が、CHD リ スクの減少に関係し、その一方で、脂質に乏しい LpAI や pre-β HDL の減少が CHD リスクの増加に 関係するという一般的な結論が導かれている(115)。 健常人では、LpAI は LpAI:AII より速い代謝速度で異化される(116)。LpAI と LpAI:AII に含まれる蛋 白質成分は、主に肝臓と腎臓で異化され、また、大部分の HDL コレステロールは肝臓に輸送される。 LpAI と LpAI:AII の異なる異化速度を取り入れた、動態モデルが開発されている(117,118)。LpAI と LpAI:AII の異なる代謝速度は、SR-BI 受容体を介してコレステロールエステルが肝臓に取り込まれ た後、apo AI 含有リポ蛋白質が HDL 粒子と再結合する能力が低下していることに関係があると示唆 されている。脂質に乏しい apo AI 粒子は、apo AII 含有 HDL 粒子とは対照的に、短時間の内に腎臓 で分解されるため、異化速度の増加が起こる(119)。 apo AI の分子生物学的欠陥に起因する血漿 LpAI の遺伝的欠損では、CVD が増加するが(120–122)、 LpAI:AII 欠乏に帰着する apo AII の遺伝的欠陥は主な臨床表現型に関係しなかった(11,123). 低 HDL コレステロール濃度を引きおこす LpAI と LpAI:AII の異化速度の増加は、タンジール病や LCAT 欠 損症の特徴である。ABCA1 トランスポーターの遺伝的欠損(タンジール病)は、コレステロールの引 き抜き減少と pre-β HDL の不十分な脂質化に関係し、その結果、LpAI の異化が加速され CVD が増 加する(124)。一方、LCAT 欠損症では、コレステロールを積み込んだマクロファージから効率よく コレステロールを引き抜くが、その後の pre-β HDL から HDL への成熟が障害されているため、主 として LpAI だけでなく LpAI:AII の異化が亢進し、腎疾患を伴うが CVD リスクの増加はない (125,126)。ユニークなリポ蛋白質粒子である LpAI:AII:E は、LpAI に比べ異化速度が遅く、CETP 欠 損症や血漿 HDL コレステロール値が著しく増加した患者に認められる(127,128)。HDL コレステロー ル値の上昇を伴う LpAI と LpAI:AII の異化速度の減少は、CETP 阻害剤で治療された患者でも報告さ れた(52)。トリグリセリドに富む LpAI や LpAI:AII は異化速度が増加するので、高トリグリセリド血 症では LpAI と LpAI:AII の血漿レベルの減少がみられる(129,130)。 スタチン系薬剤は、CETP 活性の低下だけでなく apo AI の合成増加や異化抑制など、LpAI と LpAI:AII の代謝に複雑な変化を起こすので、HDL コレステロール濃度の 5%-7%程度の増加に関係し ている(131–133)。3 万 2,258 名を対象とした 37 件のランダム化臨床試験が盛り込まれた Voyager database の分析では、アトロバスタチン、シンバスタチンおよびロスバスタチンの投与による HDL コレステロールと apo AI のパーセント増加率は同様であった(134)。ヒト臨床研究では、フェノフィ 17 ブラート投与で apo AI の合成増加は最小であったが、apo AII は合成が増加し、全体として、 LpAI:AII の増加が優位であった(131,133,135)。ナイアシンを使用した最近のヒト動態研究では、apo AI と apo AII の合成・異化が両方とも促進されると、大型 LpAI 粒子が優先的に形成されて蓄積し、 HDL コレステロール濃度が上昇するいことが示されている(53)。 apo E apo E は LDL 受容体の最も親密なリガンドで、apo B 含有リポ蛋白質の異化およびクリアランスを促 す(136,137)。apo E は、HDL 分画ではユニークな機能を備えた、よく知られた HDL 蛋白質でもある (138,139)。 例えば、高脂肪食を与えられた豚や犬は、LDL 受容体を介して直接肝臓にコレステロー ルを輸送できる,大型で apo E に富む HDL を蓄積する(140,141)。apo E が存在すると、コレステロー ルを運搬する能力が増強されるので、HDL 粒子の中心部が拡張する(142)。さらに、apo E は、 ABCA1 に結合して細胞内のコレステロールを細胞外へ汲みだし、そして、マクロファージ泡沫細胞 からより大型サイズの HDL 粒子の生成が促される(143,144)。動脈硬化プラークは, apo AI のような 血漿溶質に対してほんの部分的に浸透性があるが、apo E のような局所的に分泌された蛋白質に富ん でいるので、動脈壁マクロファージは、古典的な apo AI 含有粒子ではなく、むしろ apo E 含有粒子 にコレステロールが多く取り込まれる、特殊な微小環境中の細胞であるかもしれない(145,146)。 ヒトでは、apo E HDL 濃度は CETP を欠く動物よりも低く、絶食状態や apo E 表現型に応じて変動す る(147–149)。面白いことに、CETP 欠損患者(149,150)や CETP 阻害剤で治療を受けた人(151)は, と もに apo E HDL 濃度が高値であった(48,150)。CETP 欠損症例で見られる apo E に富む HDL は、 ABCG1 を介して引き抜かれるマクロファージ由来のコレステロールの, 強力なアクセプターである ように思われる。さらに、apo E は内皮表面からの肝性リパーゼの遊離を阻害し(152)、したがって、 肝性リパーゼによる HDL トリグリセリドの加水分解や SR-BI というドッキング受容体に対する HDL の親和性を低減させる(153)。これらの観察から、CETP 活性が低下した状態では、HDL は中心 部の拡張や、LDL 受容体を介した肝臓への直接的な脂質カーゴ輸送のために apo E を使用するとい うシナリオが浮かび上がる(154)。しかしながら、CETP 欠損患者に存在する HDL 粒子や、CTEP 阻 害剤の使用によって生成される HDL 粒子が、LDL 受容体や SR-BI、あるいは両受容体の連携によっ て除去されるかどうかは明らかではない。 apo E は全身のコレステロール代謝やリポ蛋白質動態に対して支配的な影響を与えるので、動脈硬化 症における apo E HDL の役割を評価するのは難しい(155)。実験的動脈硬化症では、apo E は、血漿 脂質に影響を与えるとういことだけの理由からではなく、もっぱら潜在的な抗動脈硬化性エージェ ントとなっている。マクロファージ由来の少量の apo E は、apo E 欠損マウスモデルにおいて、脂質 異常症および動脈硬化症への感受性の両方を改善した(156)。より重要なことは、血漿脂質濃度を変 化させるには不十分な量の apo E を血漿または血管壁に導入しても、依然として有意な血管保護作 用が見られることであり、このことから、アテローム内での apoE の局所効果が示唆される(157)。そ 18 の一方で、apo E 欠損患者が加速性動脈硬化症の若年発症を呈するという報告はこれまでにない (158–160)。プロテオミクス分析による HDL 組成の最近の評価により、CHD を有する人の HDL3 粒 子は apo E を豊富に含んでいることが示され(161)、apo E がアテロームで強く発現されるという主張 が裏付けられた。この結果は、アテロームの存在を推定するバイオマーカーとして、HDL apo E が 有用であることを示すための測定法開発に弾みをつけるかもしれない。 apo M HDL マウスの遺伝子操作研究により、apo M は血漿 HDL の再構成や、pre-β HDL の形成およびコレステ ロール逆転送において重要な役割を果たし、潜在的な抗動脈硬化性蛋白質であることが示された (162,163)。apo M は総 HDL のおよそ 5%(プロテオミクスについての下記セクションを参照)、LDL の およそ 2%で見つかった微量アポリポ蛋白質である。apo M は、健常者および CVD 患者の両方で、 HDL や LDL コレステロール値と正の相関を示す(164)。しかし、2 件のケースコントロール研究では、 明らかな健常者と CHD 患者の間に、血漿 apo M 濃度の有意差は認められなかった(165)。 apo B HDL apo B ペプチドは、精製ヒト HDL のショットガン・プロテオミクス解析で見つかったが(161,166)、 LDL の混入や、HDL とオーバーラップする水和密度を有するリポ蛋白質(a)があるとして、それらの 存在は否定された。モデルマウスの肝臓ミクロソームトリグリセリド輸送蛋白質(MTP)活性に焦点を 当てた最近の研究では、MTP のリン脂質転送活性が、apo B100 や apo B48 を含有する VLDL サイズ 粒子や HDL サイズ粒子のアセンブリと分泌に、働いていることが示された(167)。これらの粒子は低 濃度で分泌されるので、血漿で検出できるかもしれない。 命名法の提案 上記で議論されたように、異なる技術や方法を使用することにより、HDL 亜分画を定義する異なる 用語が生まれる。我々は将来の研究のためのガイドラインを提供し、また、異なる方法を使用して 得られた公表データを比較して照らし合わすために、粒子の密度とサイズに基づいた新しい HDL 命 名法を提案する(表 2)。さらに、これらの用語は、文献で利用可能な他の表示記号と比較してある。 この命名法では、HDL 粒子を、超大型、大型、中型、小型、超小型と名付ける。 19 表2 物理的性質による HDL の分類 a プロテオミクスとリピドミクス: HDL 生物学についての総合的見解 プロテオミクス 質量分析技術がより広く利用できるようになり、多成分から成る蛋白質混合物分析への適用が可能 になったことで、健康人や病人の HDL 粒子をプロテオーム解析することに興味が高まっている。 HDL プロテオームの研究が試みられる場合、開始時の生体物質の性質およびその保存法、HDL 粒子 の分離精製に使用した方法、および適用された質量分析装置の種類など、いくつかの要因が最も重 要となる。そのような要因が、異なる方法による HDL 分離に与える影響や、そして潜在的には HDL プロテオームに与える影響についての系統的研究はこれまで行われていない。 検討中の HDL 分画を定義するために用いる作業基準は、HDL プロテオームの重要な決定要素であ る。分離、分取の方法は表 3 に示されており、プロテミクス研究を始める前に、これらの技術で分 離した HDL の正確な特質を厳密に分析する必要がある。実際、高速液体クロマトグラフィーによっ て分離された HDL には、HDL と一緒に溶出する高分子血漿蛋白がかなり混入する(168)。これまで のところ、HDL プロテオーム研究では、超遠心法が HDL 分離に使用できる一般的な方法となって いる。 20 表 3 HDL 調整のための分離/分取技術 精製 HDL のプロテオームの定義に使用する質量分析技術には、SELDI-TOF、MALDI-TOF、ショッ トガン・ナノ液体クロマトグラフィー・エレクトロスプレーイオン化質量分析があり、そしてごく 最近では、ナノイオンスプレー源を備えたリニアイオントラップ四重極-フーリエ変換型イオンサイ クロトロン共鳴質量分析を使う、ショットガン方式がある。程度の違いはあるが、特に量が少ない 場合、蛋白質(トリプシンペプチドとして)を定量する際の困難さが、これらのすべての技術の制限と なっている。 HDL プロテオームの最初の網羅的分析研究の一つに、超遠心法で分離したヒト HDL3 の中に、50 種 ほどの蛋白質成分を同定した Vaisar らの研究がある(161)。これらの蛋白質の生物活性から、HDL が 脂質代謝やコレステロール・ホメオスタシスだけでなく、補体制御、急性期反応、および蛋白質分 解酵素の阻害にも関わることが示唆された。他のいくつかの報告では、HDL 中に 1-アンチトリプシ ンインヒビター、アルブミン、補体 C3 および C4、 フィブリノーゲン、ハプトグロビン関連蛋白質、 パラオキソナーゼ 1 および 3、血清アミロイド A1、A2 および A4、 そしてトランスサイレチンに加 えて、多数のアポリポ蛋白質(AI、AII、AIV, B, (a)、CI、CII、CIII、CIV、D、E、F、H、J、L1 およ び M)が存在することが確認された [(169)にデータが要約されている]。 21 興味深いことに、これらほとんどの蛋白質は血漿中に多く存在するが、HDL 粒子当たり 1 コピーを 割り当てられるほど十分な量ではなく、従って、特定の蛋白質は HDL 粒子スペクトル内に特異的に 分布する別個の粒子種に、結合している可能性が示唆される。この考えに基づくと、HDL がもつ多 彩な生物学的機能は、結合蛋白質の特定クラスタによって定義された、別個の粒子種の調節を受け ているかもしれないし、そのような蛋白質クラスタが、HDL 亜分画と一緒に分画されると期待する ことは妥当だと思われる。この仮説を評価する最初のステップとして、健常者の血漿 HDL が密度勾 配超遠心分法で 5 亜分画に分離され(図 3)、 その後、それらのプロテオーム成分がタンデム質量分析 技術によって評価された(166)。 密度に基づいて分離した HDL 亜分画では、個々の蛋白質成分の分布を示す異なる 5 つのパターンが 観察された。そして最も興味深いことは、小型で密度の大きい HDL(HDL3c)は、7 種の蛋白質が主に 存在する粒子亜分画とし同定されたことであり、その蛋白質は apo J、apo L1、apo F、パラオキソナ ーゼ 1/3、リン脂質転送蛋白、血小板活性化因子アセチルヒドラーゼ(リポ蛋白質関連ホスホリパー ゼ A2 とも呼ばれている)であった。HDL3c プロテオームには apo AI、apo AII、 apo D、apo M、 血清 アミロイド A1、A2 および A4、apo CI、 apo CII、apo E も含まれていた。 この種の粒子は HDL 亜分画の中で、最も強く LDL を酸化から保護する働きを示したので、HDL3c に特有なプロテオームは機能的な意味合いを持つ。そのような活性は、HDL3c の中にある apo J、 apo M、血清アミロイド A4、apo D、apo L1 およびパラオキソナーゼ 1/3 の存在と深く関連していた。 これらのデータは HDL3c で検出されたすべての蛋白質が、同一のリポ蛋白質粒子上に存在すること を表していると解釈すべきではない。実際、HDL3 の密度範囲には、トリパノソーマ溶解因子 apo L1 に加え、apo AI やハプトグロビン関連蛋白質を含むユニークな粒子が分離されていることを考え ると、確かにそうではなく(169)、HDL3c 亜分画が別個のプロテオームを備えた、いくつかの HDL 粒子種から成っていることが示唆される。これらの結果に基づくと、次のようにまとめられる。(a) ここで記述した検出蛋白質クラスタは、特定の生物学的機能を示す別個の HDL 粒子種を潜在的に示 しており、(b) 正脂血症例の血漿サンプルから、密度勾配超遠心法で分離・定義した HDL 亜分画の プロテオーム解析により、小型で密度の大きい HDL3c が別個の粒子亜分画として同定され、そして、 (c) HDL3c に特有な脂質や蛋白質成分が、粒子がもつ潜在的な抗酸化能となっている。これらのデー タは、HDL が特定の機能を担う蛋白質成分の組み立て土台として働いている可能性や、(アポリポ) 蛋白質が、HDL の機能的不均一性の基盤を形成しているかもしれないという概念を裏付ける。 脂質異常症や、CVD リスクの増加が特徴となる代謝異常症において、HDL プロテオームが変化する かどうか知ることは特別に興味深い。もしそうであるなら、変化した HDL 機能のバイオマーカーと して、特定の蛋白質を使用できるかもしれない。確かに、2 型糖尿病やメタボリックシンドロームは どちらも CVD ハイリスクに関係しており、そのような病態では HDL が持ついくつかの主な生物学 22 的活性や、抗動脈硬化活性が低下していることは現在認められている(12)。さらに急性炎症では、 HDL 粒子は血清アミロイド A が豊富になり、その結果、HDL の抗炎症活性に障害が生じる(12)。 Vaisar ら(161)や Greene ら(170)は、無症候性 CHD を呈した患者の HDL プロテオーム変化を検出する 最初の研究を報告しており、apo E 含有量の 150%増加が共通の発見だった。プロテオームのこの変 化は、スタチンとナイアシンによる併用治療によって正常化された。これらの研究は、変化した HDL の代謝・機能を検出するための蛋白質バイオマーカーの同定だけでなく、目標を絞り込んだ薬 物療法への新しい展望を切り開く。 要約すると、HDL プロテオームの特質は、HDL の分離法や精製法に決定的に依存し、また、蛋白質 分析やトリプシンペプチド定量に用いる質量分析技術にも同様に依存する。そして、HDL 粒子亜分 画の構造・機能分析は、従来の総 HDL 分析よりも有用であるかもしれない。また、 ヒト血漿から の HDL 分離法の標準化についての合意が、HDL 粒子の主要特性を定義するのに特に重要である。 リピドミクス HDL 粒子をコレステロールエステルやホスファチジルコリン(PC)の含有量で評価する場合、リノー ル酸コレステロールはコレステロールエステル中に優位に存在し、18:2/16:0、18:2/18:0 および 20:4/16:0 は、最も一般的な PC 脂肪酸を表わす(171)。上記のデータと一致して、コレステロールエ ステル、遊離コレステロールおよびリン脂質類[PC、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチ ジルイノシトール、スフィンゴミエリン(SM)、リゾ PC]の粒子含有量は、HDL2b から HDL3c まで水 和密度の増加とともに減少する(171)。しかしながら、コレステロールエステル、PC、ホスファチジ ルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトールおよびリゾ PC のデータが総脂質の百分率として 表わされた場合、そのような違いが HDL 亜分画間にないことは明らかであり、このことはそれらの 分子種が HDL 亜分画間で動的平衡にあることを示唆している。同様の方法で、HDL の脂質部をそ の全脂肪酸量に基づいて分析する場合、飽和、一価不飽和、多価不飽和 n-6 および n-3 脂肪酸の構成 比は、HDL 粒子亜分画間で区別できない(171)。 しかしながら、総脂質に対する SM の割合は、HDL2b の 12.8%から HDL3c の 6.2%まで、HDL の密 度と平行して次第に減少する。その結果、SM/PC のモル比は、HDL2b の 0.38 から HDL3c の 0.18 に 減少する。HDL3c の際立って低い SM 量は、このプールが他の HDL 亜分画と平衡状態にないことを 示唆し、リポ蛋白質と細胞膜との間で起こる遅い SM 交換率と一致している(172)。低い SM/PC 比率 は、J774 マクロファージが分泌する小型未熟 HDL 粒子の SM 量(形質膜外表面 leaflet に由来する)が 少ないことで示されるように、別個の細胞から生じる小型 HDL の起源を反映しているかもしれない (173)。 23 SM と同様に、遊離コレステロール量は HDL2b から HDL3c までで 2 倍減少する(171,174)。その結果、 コレステロールエステル/遊離コレステロール比率は、HDL 密度とともに著しく増加し、このことは、 HDL 粒子スペクトル内では小型 HDL がコレステロールのエステル化の主要サイトになっていると いう考え方を支持している (175)。SM は LCAT の生理的阻害剤として機能するので、HDL3c での LCAT 活性の増加と SM/PC 比率の減少は、この考え方と一致する(176,177)。 微量な生物活性脂質成分の中で、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は HDL 粒子当たりの量が多く、分 布が HDL スペクトルにわたって非対称であり、HDL2 亜分画(15-20 mmol/mol)と比較すると、HDL3 (40-50 mmol/mol HDL)の方がより豊富である(171,177,178)。小型 HDL3 に S1P が豊富に存在すること は、そのような粒子が細胞起源の極性脂質を得るための潜在能力と機構的に関係しているかもしれ ない(171)。 HDL リピドームの不均一性は HDL 亜分画がもつ別個の機能性と関係するかもしれない。実際、小 型で密度の大きい HDL3 は大型の軽い HDL2 に比べると、総蛋白量、総重量、あるいは粒子数など、 比較で使用される濃度ベースとは無関係に、より潜在的な抗酸化能や抗炎症活性を呈する(179)。さ らに、小型で密度の大きい HDL3 は、大型の軽い HDL2 に比べ、比較法に関係なく、酸化 LDL で誘 発されるアポトーシスからヒト血管内皮細胞を保護する潜在的能力を示す(177,178)。そして、小型 HDL 粒子は、ABCA1 依存性の経路を介して、細胞内コレステロールのより親密なアクセプター役 を務める(173,175)。 HDL3 粒子がもつ潜在的抗酸化能の機構面に関する研究では、LDL 由来の脂質ヒドロペルオキシド を不活性化するそれらの能力が、HDL リピドームやとりわけ SM/PC 比率によって主に決定される、 表面脂質流動性に多く依存することが明らかになった(179)。小型 HDL3 粒子表面にある単層の流動 性の増加は、SM の少量と関係し、細胞コレステロールの引き抜き能の増強にも寄与するかもしれな い。さらに、アポトーシスから内皮細胞を保護する HDL3 の潜在能力は、微量生物活性脂質である S1P の、HDL3 での量を部分的に反映するかもしれない(171,179)。 これらの HDL 粒子のリピド―ム分析によるデータは、HDL がもつ抗動脈硬化性機能に関する情報 を得るために使用できることを示している。HDL リピドームと心血管リスクとの関係についてのデ ータがまもなく利用可能になり、この情報が新しい HDL 増加剤の評価に役立つとことになるかもし れない。 要約 疫学データ、モデル動物での研究、および利用可能な臨床試験データから、次々に出される一連の エビデンスにより、HDL がスタチン治療を受けたハイリスク患者に典型的に見られる残存血管リス クを低減させるための、次期治療ターゲットになるという主張が裏付けられている。HDL コレステ 24 ロール測定は、CVD の危険因子としての HDL の役割を評価するために、主にこれまで使用されて きた。HDL は物理化学的・機能的に不均一であるため、その中で心血管リスク評価での予測因子に なる HDL を定量できる、有用な臨床検査法を開発することが、心血管分野で重要な課題となってい る。さらに、HDL コレステロールの低値、コレステロールを欠く HDL 粒子の増加、コレステロー ルに富むレムナントの増加との代謝的・臨床的な関連性は、CVD リスク評価において考慮しなけれ ばならない。 血漿 HDL 分離用の最初のゴールド・スタンダード法は、HDL を HDL2 と HDL3 に分離した後、さ らに HDL2a、HDL2b および HDL3 に分離する分析用超遠心法だった。HDL の密度プロファイルを 同定することで、HDL を分離・分取して特徴づけるための分析方法の開発に、不可欠な情報が提供 された。同時に、サイズによる HDL 粒子の特性評価が、グラジエントゲル電気泳動で行われ、HDL が HDL2b、HDL2a、HDL3a、HDL3b および HDL3c に分画された。 2 次元電気泳動により HDL 粒子をさらに、pre-β HDL や 1- 4 HDL に分離することは、モデル動物 実験やさまざまな薬剤を使用する臨床試験からの HDL や、リポ蛋白代謝の遺伝的欠陥症例からの HDL を特徴づけるのに非常に役立った。pre-βHDL の HDL 1 から HDL 4 までの代謝成熟につい ての観察、 1 の減少という心血管リスク予測因子の特定、そして、遺伝性リポ蛋白質異常症の HDL プロフィルにより、HDL の構造や代謝に関する重要な新しい見識が生まれた。 HDL 評価における大きな進歩は、HDL 粒子数を定量する方法の開発だった。HDL だけでなく血漿 apo B 含有リポ蛋白質も定量できる新しいイオンモビリティ法は急速に進歩しており、血漿リポ蛋白 質の臨床評価に役立つであろう。NMR は、apo B 免疫測定や NMR による apo B 含有リポ蛋白質の粒 子測定のように、臨床検体中の HDL 粒子数の定量法として大きく期待されている。臨床イベントと の潜在的関連性の評価では、apo B 含有リポ蛋白質による交絡を取り除ける可能性があるだけでなく、 HDL 粒子数を HDL コレステロールに関連付けることで、心血管疾患における HDL の役割に関する 新しい知見が提供されるであろう。動脈硬化症 cIMT(頚動脈内中膜複合体厚)臨床試験に関する the VA-HITand Multi-Ethnic Study からの最近のデータにより、HDL 粒子測定と CVD リスクに対するこ の新しいアプローチの潜在的重要性が実証されている。 新しい質量分析法の開発により、HDL とその亜分画の蛋白質組成を決定する、またとないチャンス が訪れた。HDL は、よく知られたアポリポ蛋白質に加え、蛋白質分解酵素や、炎症、血液凝固、補 体制御などに関連した蛋白質を含んでいる。特に興味深いことは、蛋白質のクラスタが個別の HDL 粒子上に存在するこという発見であり、それにより、HDL 粒子の特定サブセットが、特定の機能を 働かせるかもしれないという仮説が生まれた。この観点から見ると、HDL3c のユニークなプロテオ ームは、LDL を酸化から防御するのに特に有効である。HDL の脂質成分もまた、著しい不均一性を 呈している。したがって、コレステロールエステル/遊離コレステロール比や PC/SM 比は、HDL 亜 25 分画間で異なり、また、最も小型の HDL3c 粒子の PC/SM 比は、LCAT 活性や HDL 粒子表面の硬さ、 そして潜在的には蛋白質組成に著しく影響を及ぼす。さらに、S1P のような生物活性脂質成分は HDL3c 粒子サブセットに特に関係している。 数多くの分析法を使用して行われた、HDL の特性評価からの結果を総合すると、HDL 粒子の著しい 物理化学的不均一性が、それらの機能的不均一性の基盤になっているという概念が支持される。 HDL 粒子の構造・組成分析をさらに行えば、特異的でユニークな機能を持つ HDL 粒子の同定に役 立つ情報が提供されるかもしれない。それと同時に、分子レベルの研究は、新しいリスクバイオマ ーカーを明らかにするだけでなく、動脈硬化症や CVD を減少させる新しい薬物療法のターゲットを 特定する可能性を有している。 今後、HDL 亜分画の特性評価を円滑に行うためには、HDL 亜分画用の新しい統一命名法の開発が重 要であり、この論文でもそれを提案している(表 3)。この分類体系は物理・化学的性質に基づいて 5 つの HDL 亜分画を定義し、超大型 HDL 粒子を最大粒子亜分画とし、大型 HDL、中型 HDL、小型 HDL、超小型 HDL を最小で最も密度が大きい亜分画とした。超小型 HDL 亜分画には、pre-β や円盤 状粒子、あるいは未熟 HDL も含まれる。この命名法の妥当性は、この報告に記載されている様々な 方法により、個別サンプルを分析して検証されるであろう。HDL 亜分画用の統一命名法の開発によ り、異なる HDL 分取法で得られたデータの比較が可能になり、HDL の粒子構造や代謝・機能を調 整する様々な薬剤の臨床効果や、CVD リスクの評価が可能になると思われる。これらの様々な方法 で明らかにされる HDL 亜分画と CVD との関連性を確立するには、前向き研究が不可欠になるであ [訳者:臼井真 ろう(180)。 一] 脚注 11 Nonstandard abbreviations:CVD, cardiovascular disease: CHD, coronary heart disease: 2D, 2- dimensional: VAP, vertical auto profile: apo AI, apolipoprotein A-I: ABCA1, ATP binding cassette transporter A1: ABCG1, ATP transporter G1: LCAT, lecithin:cholesterol acyltransferase: CETP, cholesteryl ester transfer protein: NMR, nuclear magnetic resonance: HDL-P, HDL particles: IDEAL, Decrease in Endpoints through Aggressive Lipid Lowering: VA-HIT, Veterans Administration HDL Intervention Trial: LpB, lipoprotein B: SR-BI, scavenger receptor class B type I: CE, cholesteryl ester: PC, phosphatidylcholine: SM, sphingomyelin: S1P, sphingosine-1-phosphate. Author Contributions: All authors confirmed they have contributed to the intellectual content of this paper and have met the following 3 requirements: (a) significant contributions to the conception and design, acquisition of data, or analysis and interpretation of data: (b) drafting or revising the article for intellectual content: and (c) final approval of the published article. 26 Authors' Disclosures or Potential Conflicts of Interest: Upon manuscript submission, all authors completed the Disclosures of Potential Conflict of Interest form. Potential conflicts of interest: Employment or Leadership: M.J. Chapman, European Atherosclerosis Society: M.M. Hussain, Chylos: J.D. Otvos, LipoScience: E.J. Schaefer, Boston Heart Laboratory. Consultant or Advisory Role: R.S. Rosenson, Abbott Labs, Anthera, LipoScience, Residual Risk Reduction Initiative, Grain Foods Board, and Roche Genentech: H.B. Brewer, Jr., Merck, Merck-Schering-Plough, Schering-Plough, Roche, AstraZeneca, and Lilly: M.J. Chapman, Merck, Pfizer: S. Fazio, Merck: R.M. Krauss, Merck, Roche, Metabolex, Corcept Pharmaceuticals, Celera, and Gilead: E.J. Schaefer, AstraZeneca, Arisaph, DuPont, Merck, Unilever, and Vatera. Stock Ownership: R.S. Rosenson, LipoScience: J.D. Otvos, LipoScience: E.J. Schaefer, Boston Heart Laboratory. Honoraria: R.S. Rosenson, Abbott Labs, Anthera Pharmaceuticals, LipoScience, Residual Risk Reduction Initiative, Roche-Genentech, XOMA, and Grain Foods Board: H.B. Brewer, Jr., Merck, Merck-ScheringPlough, Schering-Plough, Roche, AstraZeneca, and Lilly: S. Fazio, Merck: M.M. Hussain, Merck, GlaxoSmithKline, and Pfizer: A. Kontush, Novo Nordisk: R.M. Krauss, Merck, Roche, Metabolex, Corcept Pharmaceuticals, Celera, and Gilead: E.J. Schaefer, AstraZeneca, Arisaph, DuPont, Merck, Unilever, and Vatera. Research Funding: M.J. Chapman, Merck: S. Fazio, ISIS Genzyme: M.M. Hussain, NIH: A. Kontush, Pfizer, AstraZeneca, and GlaxoSmithKline: E.J. Schaefer, DuPont. Expert Testimony: None declared. Other: R.M. Krauss, coinventor of 2 patents for lipoprotein subfraction analysis. Role of Sponsor: The funding organizations played no role in the design of study, choice of enrolled patients, review and interpretation of data, or preparation or approval of manuscript. Received for publication September 16, 2010. Accepted for publication December 3, 2010. References 1. Expert Panel on Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Cholesterol in Adults. Executive Summary of The Third Report of The National Cholesterol Education Program (NCEP) 27 Expert Panel on Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Cholesterol In Adults (Adult Treatment Panel III). JAMA 2001:285:2486–97. 2. European guidelines on cardiovascular disease prevention in clinical practice: executive summary. Eur J Cardiovasc Preven Rehab 2007:14(Suppl 2):E1–40. 3. Gotto AM, Brinton EA. 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