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「ベネビス・カスタマイズインソール」の評価について
「ベネビス・カスタマイズインソール」の評価 産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センター 土肥麻佐子、持丸正明、河内まき子 1. はじめに 婦人靴の履き心地を向上させることを目的に、足裏への衝撃を低減する機能をも つことをうたったインソールやパッドが多数販売されている。スポーツシューズにつ いてはインソールの形状や素材により快適性が異なるという報告がある[1][2]が、ヒ ールがあり靴底が薄い婦人靴にインソールを装着することで実際にどの程度衝撃が 低減するのか、インソールを入れた時と入れない時の差を着用者が知覚できるかに関 する研究報告はない。ここでは衝撃吸収機能をもつとされるベネビス・カスタマイズ インソール((株)千趣会製)が、(1)実際に歩行時の衝撃を低減するのか、(2) 着用者は衝撃低減効果を知覚できるのか、(3)着用者は衝撃低減効果が高い靴底を 履き心地がよいと評価するのか、の3点を明らかにすることを目的として、衝撃吸収 機能をもつインソールをいれた靴といれない靴について、歩行時の足底圧と人間の知 覚を計測し、比較した。 2. 被験者 年齢 22〜55 歳、足長 225〜236mm の、足に異常をもたない日本人女性 10 名を 被験者とした。各被験者の右足の足長、足囲および足長と足囲から判定した適正靴サ イズ(JIS S5037 による)を表1に示す。足長と足囲から判定した足囲サイズは、B-D の細身の人が 6 名、標準の人(E)が 3 名、やや太めの人(EE)が1名であった。 表1.被験者の足寸法と適正靴サイズ 足長 足囲 被験者 右足 左足 右足 左足 S01 S02 S03 S04 S05 S06 S07 S08 S09 S10 226 231 229 236 229 229 228 227 229 225 225 230 229 235 226 230 230 228 229 225 227 215 221 222 209 225 217 228 220 222 -1- 228 216 220 223 208 226 213 230 216 220 適性靴サイズ 右足 左足 22.5E 23C 23D 23.5D 23B 23E 23C 22.5EE 23D 22.5E 22.5EE 23C 23D 23.5D 23B 23E 23C 23E 23C 22.5D 3. 実験靴とインソール 株式会社千趣会製の、ヒール高 4cm のベルト付きセパレートパンプスを実験対 象靴とした(図 1)。色はすべて黒とした。実験靴の足長サイズは 23、23.5、24 の3 通りである。各足長サイズについて足囲サイズ E と EEE の2通りを用意し、インソ ール無しの靴には足囲サイズ E を、インソール有りの靴には足囲サイズ EEE を用い た。足囲サイズ EEE の靴に厚みのあるインソールをいれることにより、インソール 有りの靴と無しの靴の靴内の容量がほぼ同じとなることによる。 図1.実験に使用した靴 対象としたインソールはベネビス・カスタマイズインソールである(株式会社千 趣会製、図 2)。素材は厚みが約 3mm のラテックスゴムで、ボール部と踵部にポロン ®という衝撃吸収素材を用いており、土踏まず部とボール部後方にそれぞれアーチク ッションと中足骨パッドと呼ばれる膨らみがあることが特徴である。 図 2.評価対象としたインソール -2- 4. 足底圧の計測 4-1 目的 カスタマイズインソールを入れた靴(以下、インソール有り)と入れない靴(以 下、インソール無し)で歩行時に足裏にかかる衝撃力に差があるかどうかを調べるた めに、歩行時の靴内足底圧をセンサシートで計測した。 4-2 計測装置 歩行時の靴内足底圧分布を F-scan モバイル(Tekscan 社製)を用いて計測した。 ヒールのある婦人靴専用のセンサシートはないため、スポーツシューズ用のセンサシ ート(空間解像度 5.1mm、圧力分解能 10kPa)を用いた。スポーツシューズ用のセン サシートはランニング時の足底圧分布を計測するセンサであるため圧力分解能が 10kPa と大きく、比較的体重の軽い女性が婦人靴を着用して歩行する際の靴と足裏間 の軽い接触圧は計測できないことが予備実験よりわかった。通常は、センサシートを 挿入した状態で静止立位の圧力分布を計測し、圧力の面積分が体重と等しい(片足で あれば体重の 1/2)として、センサシートの出力値(8bit のデジタル値)を圧力(kPa) に換算する。今回は、被験者が体重の軽い女性であったため、静止立位時の低圧力部 分が広範囲で計測されなかった。そこで、検出できた圧力の面積分を体重と等しいと して校正することはやめ、センサシートの出力値(8bit のデジタル値)をそのまま使 用することにした。この場合、圧力の単位である kPa への換算は行えない。また、セ ンサシート間での感度の違いが影響することになるので、同一被験者内では同一のセ ンサシートを使用するようにした。サンプリング周波数は 500Hz とした。 なお、体重 52kg のある女性がはだしで両足均等荷重で立っているときの接地足 底面積は 181.4cm2 であったことから、はだし立位時の平均測定圧は 0.2867kg/ cm2、 すなわち約 28kPa となる。 -3- 4-3 実験 以下の手順で実験を行なった。 (1)被験者は足長サイズ 23、23.5、24、足囲サイズ E の 3 足の靴を履き比べ、最も 履き心地のよい足長サイズの靴を選択する。 (2)靴内に図 3 のように F-scan 用センサシートを挿入する。センサシート間の感度 のばらつきの効果を回避するため、同一被験者については、すべての計測に同 じセンサシートを用いた。 図 3.靴にいれたセンサシート (3)被験者に素足でセンサシートの入った靴を着用させ、図 4 のように F-scan モバ イルを装着した。センサシート表面がフィルム状の樹脂であり、ストッキング を着用すると通常よりも足がセンサシート上を滑りやすかったことから、素足 での計測とした。被験者が靴の足囲が大きすぎて歩きにくいと不満を述べた場 合は、足背と靴の間にパッドを挿入して足囲サイズを調整した。 (4)長さ 26m の堅いコンクリートの歩行路を、本人の選択した速度で自然に歩行 させ、歩行中の靴内での足底圧分布を計測した。インソール有りと無しの実験 靴でそれぞれ 2 試行ずつ計測した。 図 4.計測装置の装着 -4- 4-4 分析方法 衝撃低減効果の評価において重要なのは平均的な足底圧ではなく、足底圧のピー ク値なので、ピーク値を分析対象とした。 (1)いずれの被験者も 26m の歩行路を 30 歩前後で歩行した。このうち歩き初めと 歩き終わりの 5〜6 歩を除いた定常歩行区間から、左右それぞれ 10 歩×2 試行 =20 歩分のデータを抽出し、解析対象とした。 (2)ある 1 歩における足底圧のピーク圧分布の例を図 5 に示す。計測範囲を図 5 の ように第一指の付け根より前方の指部、指部より後方で足長の 2 分の1より前 方の前足部、足長の 2 分の1より後方の後足部に分け、左右足それぞれについ て、各部位における圧力の 1 歩区間中の最大値(以下、ピーク圧)を取得した。 図 5.足底圧の分析対象範囲の区分 (3)各被験者の左右足の部位ごとに、20 歩分のピーク圧から平均ピーク圧を計算した。10 名の被験者の平均値が、インソール有りとインソール無しで有意に異なるかどうかを 対応ありの t-検定で検定した。 -5- 4-5 結果 部位別ピーク圧平均値と t-検定の結果を表 2 に示す。後足部のピーク圧は左右と もに有意差があり(左足 p<0.01, 右足 p<0.05)、インソール有りの方がインソール無 しよりもピーク圧が小さかった。前足部では右足でインソール有のピーク圧が有意に 小さく(p<0.05)、指部では左足でインソール有りのピーク圧が有意に小さかった (p<0.01)。インソールによるピーク圧低減効果は後足部で明瞭であった。前足部と 指部については、インソール無しの方がピーク圧が低いということはなかった。 図 6 に各被験者のピーク圧分布の例を示す。どの被験者もインソール有りの方が 後足部のピーク圧が小さく、前足部のピーク圧も小さい傾向があることが観察できる。 表 2.各被験者の部位別平均ピーク圧と t-検定の結果 指部 被験者 前足部 左 右 後足部 左 右 左 右 有 無 有 無 有 無 有 無 有 無 有 無 Sub.01 143.5 153.3 182.9 149.8 68.0 72.9 66.3 73.4 44.8 48.5 43.3 52.0 Sub.02 64.9 79.6 76.3 70.7 57.3 72.0 48.1 73.7 37.6 48.2 37.6 50.6 Sub.03 20.8 35.4 36.7 34.9 74.4 122.9 106.3 188.8 36.4 53.4 34.9 40.0 Sub.04 115.1 160.3 69.9 91.5 56.4 75.4 82.3 100.8 53.0 72.7 41.6 64.9 Sub.05 28.0 42.4 43.2 42.2 57.5 60.3 43.9 50.8 31.6 34.4 36.9 35.8 Sub.06 110.1 139.4 99.4 112.5 86.9 78.3 67.6 78.2 51.8 57.0 49.7 47.4 Sub.07 122.2 125.8 128.7 102.9 88.3 78.6 60.6 53.9 43.8 48.4 41.7 48.6 Sub.08 117.4 138.7 57.5 72.4 26.5 44.4 46.6 65.4 29.1 39.0 39.8 49.5 Sub.09 66.9 79.0 38.9 21.5 58.7 74.0 46.9 79.8 35.8 46.3 38.5 38.3 Sub.10 72.8 111.1 123.6 128.0 143.5 128.8 99.6 119.3 45.2 42.7 37.8 50.0 平均値 86.2 106.5 85.7 82.6 71.8 80.8 66.8 88.4 40.9 49.1 40.2 47.7 標準偏差 41.7 45.0 47.7 42.5 30.8 25.9 22.6 40.7 8.1 10.6 4.2 8.3 t-test p<0.01 有意差なし 有意差なし 有意差なし 有意差なし -6- p<0.01 p<0.01 p<0.05 図 6.各被験者のインソール条件別ピーク圧分布図の例 -7- 5.官能検査によるインソールの衝撃低減効果の評価 5-1.目的 足底圧分布計測の結果、とくに後足部でインソールがピーク圧を低減する効果を もつことが明らかになった。しかし、着用者が実際にその差を知覚しているかどうか はわからない。そこで、足底圧分布を計測した 10 名の被験者を対象に、同じ歩行路 をインソール有りの靴と無しの靴を着用して歩かせ、官能検査による評価を行わせた。 5-2.アンケート アンケート調査の質問項目は以下の 3 項目、9 問である(表 3)。 (1)履き心地に関する項目(4 問) :2 足の靴を比較し、履き心地の違い、好みを問 う。 (2)靴底の衝撃吸収性に関する項目(3 問) :2 足の靴を比較して、衝撃の強さに差 を感じる部位を足の図の上に記入し、各部位につきどちらの靴が快適かを問う。 (3)靴底の快適性、靴全体の履き心地の好ましさを評価する項目(2 問) :靴底の快 適性および靴全体の履き心地の好ましさを VAS 法(visual analogue scale 法)で 評価させる。VAS 法とは、図7のような線分の左端を非常に不快、右端を非常 に快適など両極端の評価用語であらわすとき、評価対象とした靴がその線分の どのあたりだと感じるかを、線分上にマークをつけることで回答させる評価方 法である。再現性が高く[2]、定量的に扱えるという利点がある。 表 3.アンケートの質問項目 1.靴の履き心地に関する項目 1-1 インソール有りの靴と無しの靴に違いがあると感じるか(選択) 1-2 1−1で違いを感じる場合、どのような違いを感じるか(記述) 1-3 1−1で違いを感じる場合、インソール有りと無しのどちらが好きか(選択) 1-4 1−3で回答した好みの理由(記述) 2.靴底の衝撃吸収性能に関する項目 2-1 インソール有りの靴と無しの靴で足裏に衝撃の差を感じた部位を図に記入する(複数回答可) 2-2 2−1で回答した各部位につき、どちらの靴が衝撃が強いと感じたかを記入する 2-3 2−1で回答した各部位につき、どちらの靴が快適だと感じたかを記入する 3.靴の好みに関する質問 3-1 靴底の快適性を、インソール有りの靴と無しの靴それぞれにつきVAS法で評価する 3-2 靴全体の履き心地の好みを、インソール有りの靴と無しの靴それぞれにつきVAS法で評価する -8- 図 7.VAS 法(visual analogue scale 法) 5-3.実験手順 以下の手順で実験を行った。 (1)足底圧分布の計測に用いたものと同じインソール有りの靴とインソール無しの 靴を用意する。各被験者の着用する靴サイズは、足底圧分布計測実験のときと 同じとする。 (2)被験者はストッキングを着用し、自分の足に合うように靴のベルトを調整した うえで、足底圧分布計測時と同じ長さ 26m のコンクリートの歩行路を、自分 の好きな速度で歩行する。歩行路を一度ずつ歩くだけでは靴を履く順番によっ て感じ方に差がでることが考えられるため、インソール有り→無し→有り→無 しの順に靴を履き替えて、歩行路を4往復させた。 (3)すべての歩行終了後に、衝撃吸収性の感じ方や靴の履き心地の好みを質問紙法 で回答させた。アンケート回答中は自由に靴を履いて歩行してよいこととした。 5-4.結果 1)靴の履き心地の違い 被験者 10 名全員が、インソール有りと無しで歩いた時の履き心地に差があると 感じていた。どのような違いを感じるかという質問に対し、「靴底のふかふか感やや わらかさが違う」と回答した者が 4 名、 「フィット感が違う」が 3 名、 「靴底の足裏へ の触れかたが違う」が 3 名であった。 どちらの靴が好きかという問いに対しては、 「インソール有りを好む」が 10 名中 4 名、「インソール無しを好む」と「どちらともいえない」がそれぞれ3名であった。 好みの理由を表 4 に示す。インソール有りを好む理由は、靴底のやわらかさ、衝撃の 小ささであった。「インソール無しを好む」と「どちらともいえない」理由は、イン ソール有りで「土踏まずへの当たり方が不自然」という足と靴底の形状不適合に関す る理由と、歩いた時の踵のすっぽぬけという踵部のサイズ不適合に関する理由であっ た。インソール有りは足囲サイズ EEE の靴を使用しているため、足囲サイズ E の靴 よりも踵部の幅が広いことが、かかとのすっぽ抜けの原因であろう。 -9- 表 4.履き心地の好みの理由 好みの靴 ()内は人数 理由 インソール ・靴底が柔らかい(3) 有りが好き ・ 足裏への衝撃が小さい(2) (4) ・足を置いた感じが自然、インソール有りは土踏まずに靴底があたりすぎて インソール 無しが好き (3) 第 1 指が浮いた感じになる(1) ・裸足に近く自然(1) ・踵が抜けないから好き(インソール有りは踵がすっぽ抜ける) 、土踏まずの フィット感はインソール有りがよい(1) どちらとも いえない (3) ・インソール無しは長く履くと足が痛くなりそうだがインソール有りは土踏 まずへの接触が気になる(2) ・長時間履いてみないとわからない(1) 2)靴底の衝撃吸収性に差を感じる部位 被験者 10 名のうち 9 名が、インソール有りと無しで歩いた時の衝撃に差がある と感じていた。 インソール有りと無しの靴に差があると回答した 9 名が衝撃に差を感じた部位 を、図 8 の 5 部位に分けて集計した。表 5 に衝撃に違いを感じた部位別の人数を、衝 撃の違いの知覚結果に基づいて集計した結果を示す。 過半数が差を感じた部位はボール部(9 名)、踵部(6 名)、土踏まず部(5 名) であった。ボール部と踵部は衝撃吸収素材が用いられている部位である。踵部は足裏 の中で最も鈍い部位であるため[3]、ボール部より衝撃力の差を知覚した人数が少ない のかもしれない。踏まず外側部に違いを感じた被験者は 1 名だけであった。この部分 は多くの被験者で足底圧を検知できず(図 6)、接触感のない者もいた。 - 10 - 図8 足裏の部位 表 5.衝撃に違いを感じた被験者の部位別人数 衝撃の差 指部 ボール部 土踏まず部 踏まず外側部 踵部 インソール有りが小 3 7 3 1 6 インソール無しが小 0 2 2 0 0 差を感じない 6 0 4 8 3 衝撃に違いを感じた部位につき、インソール有りと無しのどちらが衝撃を弱いと 感じるか、より快適かに対する回答を表 6 に示す。インソール有りの方が衝撃が小さ いと回答した者の方が、その逆よりも多かった。 ほとんどの場合、衝撃を弱いと感じる靴を快適だと感じていたが、ボール部と土 踏まず部では例外が 2 名ずついた。S03 はインソール有りの方が衝撃が小さいが、イ ンソール無しの方が快適だと回答した。インソール無しの方が好きな理由は、「裸足 に近い感じで自然だから」であった(表 4 参照)。S04 はインソール有りの方が衝撃 が大きいが、インソール有りの方が快適だと回答した。この被験者はインソール有り の土踏まずのフィット感を好んでいる(表 4 参照)。 「衝撃」と「圧迫感」ないし「接 触感」を区別していないのかもしれない。 S01 は、指部でインソール有りの方が衝撃が弱いと感じるがどちらが快適ともい えないと回答した。この被験者は、インソール有りは土踏まずに靴底があたりすぎて 第 1 指が浮いた感じになる被験者であった(表 4 参照)。土踏まず部については、衝 撃に差がないと回答した 4 名のうち 3 名も、土踏まずにインソールが強くあたりすぎ ることが不快または気になると回答している(いずれも表4参照)。われわれのこれ - 11 - までの研究結果でも[3] [4]、土踏まずは足裏の中で最も敏感な部位であり、人はこの 部分が靴底に軽く接してサポートされる状態を快適に感じるが、強くあたることを好 まない傾向があった。 衝撃に差があると回答した被験者もそうでなかった被験者も、衝撃の差の程度よ りもアーチクッション、中足骨パッドの足底へのあたり方、すなわち足裏の形状と靴 底の凹凸形状の適合性が好みの評価に影響を与えていると考えられる。つまり、衝撃 が小さいことはプラス評価の要因ではあるが、形態的不適合の方が優先される場合が あるということである。 表6.衝撃を弱いと感じる靴と快適だと感じる靴 衝撃を感じる部位 被験者 衝撃を弱いと感じる靴 指部 快適だと感じる靴 S01 S02 有り 有り どちらともいえない 有り S05 有り 有り S01 S02 無し 有り 無し 有り S03 有り 無し S04 無し 有り S05 有り 有り S06 有り 有り S07 有り 有り S08 有り 有り S09 有り 有り S02 S03 無し 有り 無し 無し S04 無し 有り S05 有り 有り S06 有り 有り S09 有り 有り 踏まず外側部 S05 有り 有り 踵部 S01 S05 有り 有り 有り 有り S06 有り 有り S07 有り 有り S08 有り 有り S09 有り 有り ボール部 土踏まず部 - 12 - 3)靴底の快適性 VAS 法の評価結果は 100 点満点でとして集計した。すなわち、被験者がマークを つけた位置が左端なら 0 点、右端なら 100 点とした。 表7に靴底の快適性の評価結果を示す。インソール有りの方が快適と回答した者 が 2 名、ほぼ同じ評価であった者が 2 名、インソール無しの方が快適と回答した者が 2 名であった。このうち、靴底快適性得点が 70 点以上で高かったのは、インソール有 りが 5 名、インソール無しが 1 名であった(インソール有りの得点もほぼ同じ)。イ ンソール有り得点が 70 点以上であった 5 名のうち 4 名は、インソール無しの得点と の差が 40 点以上で、両者の快適性の差は非常に明瞭であった。 インソール無しの方が得点が高かった 2 名は、インソール無しの得点は 50 点を 超えてはいたが 70 点には及ばず、インソール有りとの得点差も 20 点以下であった。 インソール有りの平均得点は 62 点、インソール無しの平均得点は 38 点で、差は 5%水準で有意であった。 表7.靴底の快適性の評価結果(100 点満点) 評価結果 被験者 インソール有り インソール無し 得点差の絶対値 S09 S06 94 85 23 20 71 65 S04 83 14 69 S02 74 30 43 S05 67 52 15 S07 33 13 20 ほぼ同じ S10 S08 78 25 79 26 1 1 無しの評価が高い S03 S01 52 33 66 53 14 20 62.4 37.6 有りの評価が高い 平均値 4)靴全体の 靴全体の履き心地 表8に靴全体の快適性の評価結果を示す。インソール有りの評価の方が高かった 者が 4 名、インソール無しの評価の方が高かった者が 3 名、両者ほぼ同得点であった 者が 3 名である。得点が 70 点以上であったのはインソール有りが 3 名、インソール 無しが 1 名(インソール有りの得点もほぼ同じ)であった。靴底だけの評価と比べる と、靴全体の評価ではインソール有りの得点が 10 点以上下がった者が 3 名、インソ - 13 - ール無しの得点が 10 点以上下がった者が 1 名(インソール有りの得点も 10 点以上下 がった)、インソール無しの得点が 10 点以上上がった者が 4 名である。インソール有 りの得点が下がった理由は足囲サイズが違いすぎる(S05:足囲サイズ B、インソール 無しの得点も下がった;S02:足囲サイズ C、インソール無しの得点は上がった)、か かとがゆるすぎてすっぽ抜ける(S04:足囲サイズ D)が考えられる。 インソール有りの平均得点は 53 点、インソール無しの平均得点は 45 点で、両者 の間に有意な差はなかった。 表 8.靴全体の快適性の評価結果(100 点満点) 評価結果 被験者 インソール有り インソール無し A-Bの絶対値 S09 95 33 62 S06 90 38 52 S02 59 43 16 S07 31 13 18 S10 80 80 0 S05 38 38 0 S08 34 35 1 S03 53 68 15 無しの評価が高い S01 36 58 22 S04 13 50 37 52.9 45.6 有りの評価が高い ほぼ同じ 平均値 靴底は靴の構成要素の一部にすぎず、靴全体の履き心地は靴底の衝撃吸収性能だ けで決まるわけではない。靴底の快適さは靴全体の履き心地の重要な評価要因ではあ るが、足とインソールの形状の不適合による圧迫されたくない部分の圧迫(S01)、足 と靴のサイズの不適合によるぶかぶか感や歩行時のかかとのすっぽ抜け(S04、S05、 S07)、これまで履いていた靴底への慣れ(S03)が靴全体の履き心地には大きな影響 を与えていると考えられる。 - 14 - 6. 着用者はピーク圧の違いを正しく感じ分けるか? 全体的傾向として、着用者はインソール有りの方が歩行時の衝撃が小さいと感じ ていた。インソール有りと無しでピーク圧力に差があるとき、被験者はこれを正しく 感じ分けているかどうかを集計した結果を表 9 に示す。ピーク圧のインソール有りと 無しの差は、個人ごと、部位ごと、左右足別に 20 歩分のデータのピーク圧の平均値 を計算し、インソール有りとインソール無しの平均値の差を t-検定で検定した。感じ 方は、アンケート II-1 の回答である。被験者 10 名の左右足をまとめたので、20 足分 のデータとなる。 指部ではピーク圧には差があるのに差を感じない場合が最も多く(11 足、55%)、 ピーク圧の結果と感じ方が一致したのは 30%(6 足)だけであった。ボール部ではピ ーク圧に全例で差があり、70%(14 足)で結果が一致した(ピーク圧が有意に小さい 方が衝撃力が小さいと感じる)。踵部では 85%(17 足)でピーク圧に差があったが、 ピーク圧の結果と感じ方が一致したのは 40%(8 足)だけで、40%(8 足)ではピー ク圧には差があるのに衝撃には差を感じていなかった。 表 9.足底圧ピーク値の有意差と衝撃力の感じ方の差の関係(左右こみ) ピーク圧 指部 感じ 人数 % 2 11 10 55 差がある ピーク圧が小さい方が衝撃が強いと感じる 1 5 差がない 差を感じない 差がない どちらかが衝撃が強いと感じる 4 2 20 10 差がある ピーク圧が小さい方で衝撃が小さいと感じる 差がある 差を感じない 合計 20 100 ピーク圧 感じ 人数 % 14 70 差がある 差を感じない 2 10 差がある ピーク圧が小さい方で衝撃が強いと感じる 4 20 ボール部 差がある ピーク圧が小さい方で衝撃が小さいと感じる 合計 20 100 ピーク圧 踵部 感じ 人数 % 差がある ピーク圧が小さい方で衝撃が小さいと感じる 8 40 差がある 差を感じない 8 40 差がある ピーク圧が小さい方で衝撃が強いと感じる 1 5 差がない どちらかが衝撃が強いと感じる 3 15 合計 20 100 - 15 - 指部のピーク圧は衝撃による受動的な力というよりも、蹴りだしのときの能動的 な力であり、靴底の柔らかさの違いを感じにくいのかもしれない。実際、ピーク圧に 有意差があった 14 足のうち 75%(11 足)では衝撃力に差を感じていない。 ボール部と踵部を比べると、ボール部の方がピーク圧の違いをより正しく判定し ている。これは、踵部の方が、ピーク圧には差があるのに衝撃力に差を感じない例が 多いためである。この差は踵部の方がボール部よりも接触に対する閾値が高く、感覚 が鈍いことと関係しているかもしれない[4]。あるいは、ボール部の方が蹴りだしの 時まで長い時間にわたって体重を支えているためかもしれない。 7. まとめ 衝撃吸収機能をもつインソールについて衝撃の低減、衝撃の強さ感、快適感、好 みを評価した結果以下のことがわかった。 (1)靴内足底圧分布計測の結果、衝撃吸収機能をもつインソールでは、とくに踵部 で明瞭にピーク圧が小さいことがわかった。 (2)着用者が足底にかかる衝撃の強さの違いを感じるのはボール部、踵部、土踏ま ず部であった。全体として、衝撃が小さい方の靴をより快適だと感じていた。 (3)ボール部と土踏まず部では衝撃が強い方を快適だと回答する者がいた。これは、 踏まず部における足と靴底の形態適合性が関係しており、強すぎる圧迫を不快 と感じる一方、衝撃と圧迫ないし接触を区別せずに使っているためである可能 性も考えられる(適度な圧迫を快適と感じるのを、衝撃が強い方が快適と表現 する)。 (4)着用者は衝撃吸収機能をもつインソールをいれた靴底をより快適だと感じてい た(p<0.05)。 (5)しかし、靴全体としては快適感に差がなかったことから、インソールによる衝 撃低減は履き心地の重要な評価要因ではあっても唯一の決定要因ではなく、足 と靴のサイズ不適合、足底とインソールの形状不適合、これまで履いていた靴 への慣れが、靴全体としての快適性に大きな影響を与えていると考えられる。 (6)インソールの衝撃低減効果を最も良く感じるのはボール部で、踵部の方が感覚 が鈍かった。 - 16 - 参考文献 [1] A.Mundermann, D.J.Stefanshyn and B.M.Nigg: Relationship between footwear comfort of shoe insert and anthropometric and sensory, Medicine & science in sports & exercise, 1939-1945, 2001 [2] A. Mundermann, B. M. Nigg, D. J. Stefanyshyn, and R. N. Humble: Development of a reliable method to assess footwear comfort during, Gait and Posture, 16, 38-45, 2002 [3] M. Dohi, M. Mochimaru, and M. Kouchi; Distribution of tactile sensitivity and elasticity in Japanese foot sole, Kansei Engineering International, 5 (2), 9-14, 2004 [4] M.Dohi, M.Mochimaru and M.Kouchi; Evaluation factors of the shank curve of women’s heeled shoes based on the evaluation grid method, Proceeding of 2005 Seoul International Clothing & Textiles Conference, 282-285, 2005 - 17 -