...

台風0514号による錦川の洪水時の住民避難行動 に関するアンケート調査

by user

on
Category: Documents
0

views

Report

Comments

Transcript

台風0514号による錦川の洪水時の住民避難行動 に関するアンケート調査
(9) 9
台風 0514 号による錦川の洪水時の住民避難行動
に関するアンケート調査
朝位孝二(社会建設工学専攻) 榊原弘之(社会建設工学専攻)
村上ひとみ(環境共生系専攻)
Questionnaire Survey on Evacuation Behavior in Floods
of the Nishiki River by Typhoon 0514(NABI)
Koji ASAI (Division of Civil and Environmental Engineering)
Hiroyuki SAKAKIBARA (Division of Civil and Environmental Engineering)
Hitomi MURAKAMI (Division of Environmental Science and Engineering)
This paper summarizes a food in the Nishiki River occurred by Typhoon 0514(NABI) and describes
the evacuation behavior of inhabitants of Iwakuni city. In addition, it is described whether the hazard map
distributed in Iwakuni city is effective for the evacuation behavior. The main results obtained by this
study are as follows; 1) The rate of evacuation behavior is 39%. 2) Many inhabitants of Iwakuni city
conduct the evacuation behavior in 30 mints after they recognized evacuation advice. However, there are
not few cases that it takes over 2 hour to conduct evacuation behavior after evacuation advice is
announced. 3) The hazard map is not effective for the evacuation behavior.
Key Words : the Nishiki River, Typhoon 0514(NABI), evacuation behavior, questionnaire survey,
hazard map
1.はじめに
2.錦側の洪水の概要
2005 年 9 月に来襲した台風 0514 号は長崎県,佐賀
県,福岡県を横断し響灘に出て,山口県北西岸を加速
しながら日本海を北東へ進んだ.この台風では九州の
太平洋側で長時間激しい降雨が続き,宮崎県や鹿児島
県で洪水や土砂災害など甚大な被害が生じた.
山口県においても山陽道で盛土崩壊による犠牲者の
発生や錦川流域において外水,内水氾濫が発生した.
特に錦川中流域の山口県玖珂郡美川町(現在は岩国市
美川町)では甚大な洪水被害が生じた.また下流の岩
国市においては,内水や溢水による氾濫や,錦帯橋の
橋脚の一部が流されるなどの被害が生じた.
本論文は,
台風 0514 号による錦川の洪水の概要を述べ
るとともに,アンケート調査により岩国市住民の当時
の避難行動を論ずるものである.また岩国市では 2002
年 9 月に岩国市錦川洪水避難地図(以下,ハザードマ
ップと呼ぶ)を住民に配布しているが,ハザードマッ
プは避難行動に対し何らかの寄与をしたのかを検討し
た.
(1)山口県の被害状況
Table 1 に 2005 年 10 月 31 日時点での山口県と岩国
市の被害状況を示す.比較のため隣接する広島県と島
根県の状況も示している.山口県,広島県,島根県の
データは消防庁の 2006 年 3 月 20 日付けの災害情報 1)
を引用している.これは 2005 年 9 月 4 日から 8 日ま
での被害発生が集中した時期のデータである.岩国市
のデータは 2006 年 3 月 17 日付けの確定報 2)である.
中国地方では住家の倒壊,半壊,床上浸水など深刻な
被害は山口県に集中している.山口県の中でも岩国市
で浸水被害の多くが発生していた.岩国市の被災世帯
は 1567 世帯であり 3706 名の住民に被害が及んだ 3).
岩国市では 1951 年(昭和 26 年)のルース台風以来と
なる甚大な水害となった.
(2) 降水状況
Fig.1 は山口県の雨量観測所のデータを用いて作成し
山口大学工学部研究報告
10 (10)
Table 1 State of damage in Yamaguchi prefecture
死者(人)
人的被害 行方不明(人)
負傷者(人)
全壊(棟)
半壊(棟)
住家被害 一部破損(棟)
床上浸水(棟)
床下浸水(棟)
公共建物(棟)
非住家被害
その他(棟)
山口県
3
岩国市
3
広島県
島根県
11
5
334
59
741
865
1
3
181
12
4
1
44
289
1662
2
3
5
68
670
502
200
時間雨量
積算雨量
500
積算雨量(mm)
50
400
40
200
20
100
10
南桑
錦川
12
:0
0
00
生見川
7
9/
9/
7
9/
6
0:
6:
00
0
0
6
18
:0
12
:0
9/
9/
9/
6
6
6:
00
0
0:
9/
6
18
:0
5
9/
00
0
0
0
12
:0
Fig.1 Distribution of an accumulated rain fall (mm)
300
30
5
400
200
600
60
時間雨量(mm/hr)
300
300
1
70
9/
200
寺山臥龍橋
Fig.2 The observed rain fall (Terayama)
450
流域平均年最大2日雨量(mm)
Fig.3 Location map of observation stations for discharge and
water level
2005年(H17) 台風14号
1950年(S25) キジア台風
414mm
329mm
計画雨量360mm
400
350
300
Table 2 Two days rain falls of 100 year return period
250
200
平方根指数型最大値分布
岩井法
150
H17年までのデータ H16年までのデータ
411.7mm
401.1mm
342.3mm
322.2mm
100
10
50
0
最大水位7.32m(7日1:00)
Fig.4 The maximum two days rain fall of a year which
is averaged with respect to the river basin
水位 (m)
H14
H6
H10
H2
S61
S57
S53
S49
S45
S41
S37
S33
S29
S25
S21
S17
S9
S13
S5
T15
8
6
危険水位6.4m
警戒水位4.8m
4
通報水位3.5m
2
た積算雨量の分布である.県東部において 400mm か
ら 500mm を超える積算雨量を記録している.気象庁
の羅漢山雨量観測所では 9 月 5 日午前 1 時から 7 日正
午までの積算雨量は 532mm に達している.
Fig.2 は寺山雨量観測所(Fig.3 参照)における観測雨
量と 9 月 5 日午前 1 時からの積算雨量を示したもので
ある.県の観測所の中で最も大きい最大時間雨量と積
算雨量を観測している.
最大時間雨量は 6 日 17 時に 64mm を記録している.
9 月 5 日午前 1 時から 7 日正午までの積算雨量は
518mm である.寺山雨量観測所から南に約 2km 離れ
た場所に山陽道岩国-玖珂 IC 間(岩国市廿木地区)の
盛土崩壊現場がある.盛土崩壊は 7 日午前 1 時頃に発
生しており,500mm を超える降雨が原因と推定され
ている.
Vol.59
No.1
(2008)
0
9/5 9/5 9/5 9/6
12:00 16:00 20:00 0:00
9/6
4:00
9/6 9/6 9/6 9/6 9/7
8:00 12:00 16:00 20:00 0:00
9/7
5:00
9/7
9:00
Fig.5 Water level of the Nishiki River (Garyu bridge)
Fig.4 は臥龍橋水位観測所(Fig.3 参照)から上流の流
域の平均 2 日雨量の年最大雨量を示したものである.
1926 年(大正 15 年)から 2005 年までの 80 年分のデ
ータを示している.錦川の計画 2 日雨量は 360mm で
ある.今回の 2 日雨量は 414mmm であり,これを超
過しており,観測史上最大の雨量であったことが分か
る.
社団法人国土技術研究センターが公開している水文
統計ユーティリティを用いて 100 年確率 2 日雨量を求
めた.平成 17 年までのデ-タ-を用いた場合と平成
16 年までのデ-タ-を用いた場合で比較した.Table 2
(11) 11
10
30%
最大水位8.89m(6日20:30)
回答率
6
危険水位4.7m
4
2
21.9%
20%
国道187号線路面高6.7m
水位(m)
26.5%
25%
8
17.3%
15%
警戒水位3.7m
10%
通報水位2.2m
5%
11.6%
3.6%
0.1%
0%
0
9/5 9/5 9/5 9/6
12:00 16:00 20:00 0:00
9/6
4:00
9/6 9/6 9/6 9/6 9/7
8:00 12:00 16:00 20:00 0:00
9/7
5:00
10
9/7
9:00
Fig.6 Water level of the Nishiki River (Naguwa)
70%
20
代
30
代
40
代
50
代
60
代
歳
70
以
上
60%
64%
51%
50%
避難行動実施率
50%
被災経験の割合
代
Fig.7 Age of the respondents
60%
40%
30%
19.0%
28%
20%
9%
10%
40%
39%
30%
20%
10%
0%
0%
岩国市以外で経験有り
経験なし
Fig.8 Experience of flood disaster
にその結果を示す.手法によって結果は異なるが,こ
こでは最大の結果と最小の結果を示す.手法と使用す
るデ-タ-で 90mm 程結果の相違があるが,いずれに
せよ今回の雨量は 100 年確率を超えていることが分か
る.岩井法では 400 年確率も超えていた.
臥龍橋における錦川の水位変化を Fig.5 に示す.6 日
16 時頃から水位が急激に上昇し,通報水位を 6 日 18
時頃に超えた後,22 時頃には危険水位を超えた.7 日
午前 1 時には最大水位 7.32m に達した.避難勧告は岩
国市内 15 地区で発表された.早い 2 地域では 6 日 12
時 20 分に発表されたが,残りの 13 地域は 17 時 30 分
から 23 時の間で発表された.
美川町の水位観測所である南桑(Fig.3 参照)の水位
変化を Fig.6 に示す.6 日 18 時頃には危険水位を超え
た.美川町では錦川は掘こみ河川となっており,水表
高は通常堤内地高よりも低い.美川町では河川にそっ
て国道 187 号線が走っているが,19 時には国道 187
号線路面高を超え,甚大な外水氾濫が発生した.最大
水位は 6 日 20 時 30 分に 8.89m に達した.美川町では
2m 程度の浸水被害を受けた.
3.アンケート調査の概要
(1) 調査方法
アンケートの調査方法は,岩国市内において浸水が
2階への避難を含まない
2階への避難を含む
Fig.9 An implementation rate of evacuation behavior
50%
40%
避難行動実施率
岩国市で経験有り
38%
40%
30%
20%
10%
0%
被災経験有り
被災経験なし
Fig.10 Comparison of the implementation of the
evacuation behavior between residents experienced in
flood disaster residents and residents experienced in
no flood disaster
発生した地区の住民を対象にアンケート用紙を平成17
年 11 月 23 日に 3300 部を配布し,平成 17 年 12 月 12
日を目処に郵送で回収する方法を採用した.回収枚数
は 1430 枚であり,回収率は 43%であった.
(2) 回答者の男女比と年齢構成
男女比は男性 53%,
女性 47%でおよそ 1:1 であった.
年齢構成比をそれぞれ Fig.7 に示す.高齢者の割合が高
く,50 代以上で 68%を占める結果となった.
山口大学工学部研究報告
12 (12)
Table 3 An implementation rate of the evacuation behavior before the evacuation recommendation was
announced
御庄
川西
横山
牛野谷
今津
錦見
左記地区合計
避難勧告の発表時刻
6日18:30 6日21:15 6日21:30 6日22:55 6日22:55 6日22:55
6
17
27
11
1
0
62
発表前に避難した割合人数
発表後に避難した人数
68
51
96
42
11
2
270
発表前に避難した割合
8%
25%
22%
21%
8%
0%
19%
30分以内
1時間30分~2時間以内
1時間~1時間30分以内
30分~1時間以内
2時間以上 50%
30分以内
1時間30分~2時間以内
45%
46%
76%
65%
57%
24%
22%
20%
25%
23%
19%
17%
12%
6% 7%
10%
24%
14%
12%
回答者の割合
60%
30%
全体
御庄
27%
15%
6%
1%
No.1
(2008)
2% 0%
御庄
5%
横山
Fig.12 Time to start on the evacuation behavior after the
evacuation recommendation was realized
30分以内
1時間30分~2時間以内
1時間~1時間30分以内
30分~1時間以内
2時間以上 70%
64%
60%
回答者の割合
50%
40%
30%
20%
30%
24%
20%
13%
13%
10%
29%28%
22%
13%12%
9%
13%
8%
3%
0%
全体
(1) 避難行動の状況
はじめに本論文で用いる「避難行動」を定義する.
自宅以外の場所に避難のため移動した行為を避難行動
と定義する.これは避難場所として自宅の 2 階を避難
場所とする場合があり,それと区別するためである.
つまり,自宅 2 階への避難は避難行動に含めないこと
にする.
避難行動の実施率を Fig.9 に示す.参考のため 2 階へ
の避難を含めた結果も示している.避難行動の実施率
は 39%程度である.一方,2 階への避難行動を含めた
場合は 51%となり,半数は避難していたことになる.
なお,避難行動を実施しなかった回答者の中で,2 階
に避難した回答者の割合は 20%であった.
被災経験の有無で避難行動実施率に違いが現れるか
検討した.その結果を Fig.10 に示す.被災経験の有無
による避難行動の違いは見られない.
Table 3 に避難した回答者に対する避難勧告発表前に
避難行動を実施した割合を示す.地区によってばらつ
きはあるが,全体的には 19%の避難勧告前の実施率と
8% 5%
3%
全体
Fig.11 Time to realize the evacuation recommendation
after it was announced
4.避難行動
17%
12%
0%
横山
(2) 回答者の過去の水害被災経験
回答者の過去の水害被災経験の有無を質問した.そ
の結果を Fig.8 に示す.岩国市では被災経験者は 28%
で岩国市以外での被災体験者を含めても37%の経験率
である.一方,60 代以上の回答者の災害経験率を求め
たところ,経験者は 57%であった.被災経験者は 60
代以上で過半数を超えているが,50 年ほど大きな災害
が発生しなかったため経験は風化している可能性があ
る.
40%
20%
4%
0%
Vol.59
1時間~1時間30分以内
80%
40%
回答者の割合
30分~1時間以内
2時間以上 御庄
横山
Fig.13 Time to start on the evacuation behavior after the
evacuation recommendation was announced
なっている.事前避難はあまり行われていなかったこ
とが伺える.
行政の避難勧告発表からそれを認知するまで,どの
程度時間がかかるのかを調べる目的で,避難勧告発表
を認知した時刻を質問した.その結果と実際の発表時
刻の時間間隔を 30 分間隔でグループ化し,そのグルー
プの人数で全該当回答者に対する割合を求めた.その
結果を Fig.11 に示す.避難勧告発表時刻に 3 時間の差
がある御庄地区と横山地区の結果とTable 3 に示してい
る地区の合計(図中には「全体」で表示)の結果を示
している.
御庄では発表から 2 時間以上経過して避難勧告を認
知した回答者がもっとも多い.一方,横山では 30 分以
内に認知しており,地域で差が見られる.全体では 30
以内と 2 時間以上が同程度であり,1 時間から 1 時間
30 分以内が最も少ない結果となった.
次に,避難勧告を認知してから避難行動を開始する
(13) 13
30%
28.4%
27.8%
25%
25%
23.0%
22.6%
20.2%
20%
15%
11.9%
10.3%
10.3%
回答率
回答率
20%
10%
5.7%
5%
15%
11.8%
10.8%
10%
6.7%
4.3%
4.8%
5%
1.4%
0%
0%
14-H
(2) 避難行動実施および不実施の理由
避難行動を実施した理由について質問した.その結
果を Fig.14 に示す.図の横軸は理由の選択肢で縦軸は
その回答率である.選択肢はそれぞれ,14-A:
「避難勧
告・指示が出たので」
,14-B:
「自宅や自宅周辺に浸水
してきたから」
,14-C:
「家族、隣人等が避難を勧めた
ので」
,14-D:
「錦川が警戒水位または危険水位を超え
たの」
,14-E:
「隣人が避難を始めたから」
,14-F:
「経
験から自宅周辺が危険になると思ったため」
,
14-G:
「土
砂災害が心配で」
,14-H:
「その他」である.
避難勧告・指示の発表や自宅・周辺の浸水が避難の
理由の過半数を占めている.一方,過去の経験から判
断した回答者は 4.3%である.危険になると判断し積極
的に避難したというよりは,避難勧告に従ったり,周
囲が明らかに危険な状態になったりしたため避難行動
を実施した現実が浮かび上がる.避難行動のきっかけ
はむしろ受動的であった.
15-C
15-D
15-E
15-F
15-G
Fig.15 Reasons for the un- implementation of the evacuation
behavior
400
349
320
300
200
119
76
56
4
送
車
放
線
災
防
主
無
防
線
災
・有
防
広
・消
報
団
人
隣
ー
会
治
自
家
族
か
・自
ら
携
の
帯
電
の
話
iモ
・メ
ー
ネ
ル
ド等
ッ
ト
オ
ジ
37
2
他
7
の
7
0
そ
100
ー
までの時間を調べた.その結果を Fig.12 に示す.御庄
では避難行動開始までに 2 時間以上経過している回答
者が 27%いるが,御庄も横山も 30 分以内でも行動開
始が最も多い.全体でもその傾向が現れている.
Fig.13 は避難勧告発表時刻から避難開始までの時間
を前図と同様の形で示したものである.御庄では認知
時間が遅い回答者が多いため,発表から開始まで 2 時
間以上経過した回答者が多い.また横山では発表から
1時間以内で避難を開始した回答者が 51%である.全
体的には御庄の 2 時間以上のデータに引きずられてい
るようで,2 時間以上が最も多い.
避難勧告発表時刻を基準とすれば 30 分以内での避
難開始が 13%と低い値であるが,認知時刻を基準にす
れば 65%の回答者が 30 分以内に避難行動を開始して
いる.避難勧告の発表の伝達や周知方法は迅速な避難
行動にとって重要な要素であることが改めて理解され
る.
15-B
タ
Fig.14 Reasons for the implementation of the evacuation
behavior
15-A
ン
14-G
イ
14-F
ビ
14-E
ラ
14-D
レ
14-C
テ
14-B
回答数
14-A
Fig.16 Acquisition means of the evacuation recommendation
逆に,避難行動を実施しなかった理由についても質
問した.その結果を Fig.15 に示す.選択肢はそれぞれ,
15-A:
「洪水や強風に対する不安はあったが、避難する
必要は無いと思った」
,15-B:
「避難するよりも自宅の
方が安全だと思った」
,15-C:
「避難勧告や避難指示を
知らなかった」
,15-D:
「明らかに避難する必要がなか
った」
,15-E:
「避難しようとしたが自宅周辺が危険で
外へ出られなかった」
,15-F:
「気がついたら避難する
時機を失っていた」
,15-G:
「その他」である.
15-A および 15-B が 23%程度である.15-A を選択
した回答者に,なぜ避難する必要はないのかを質問し
たところ,一番多かった回答は「過去にも似たような
大雨が降ったが大丈夫だったから」であった.いわゆ
る正常性バイアスが作用している懸念がある.
豪雨や冠水している中をむやみに移動することは非
常に危険である.今回のアンケートにおいても避難し
た回答者において避難中に身の危険を感じた回答者は
74%という結果を得た.状況によっては外出せず自宅
で待機する方が良い場合もある.15-B を選択した回答
者は,積極的に自宅に留まることで危険を回避しよう
としたとも言える.
15-C を選択した回答者は 20%程度である.
これは,
逆に言えば避難勧告が早く伝達していれば,彼らは避
山口大学工学部研究報告
14 (14)
壁に貼ってあった
家のどこかにあった
わからない
その他
すぐ取り出せるところにあった
処分した
もらっていない
37%
回答率
50%
避難行動実施率
50%
40%
60%
41%
30%
20%
2%
4%
30%
20%
5%
1%
0%
0%
認知
難していたかもしれないことを意味する.ここでも避
難勧告の伝達は大切であることが理解されよう.
15-E と 15-F で 15%の回答率であるが,これを選択
した回答者は逃げ遅れた感覚を持っている.やはり,
避難勧告等,避難の判断を支援する方法の提供が重要
であろう.
(3) 避難勧告の入手手段
避難勧告の伝達は大切である.そこで住民は要避難
勧告をどのような手段で入手したのかを検討した.ア
ンケートでは避難勧告の入手手段の選択肢から該当す
るものすべてを選んで頂いた.その結果を Fig.16 に示
す.
広報車や消防団からの入手が多いことが分かる.一
方,テレビやラジオなどのマスメディアからの入手は
多くはない.アンケート回答者に高齢者が多いためか,
インターネットなど IT を利用した入手方法も少ない.
将来的には IT を活用した避難勧告伝達方法が発展す
ると思われるが,現状では広報車による音声での伝達,
消防団,自治会あるいは隣人による戸別訪問による伝
達が,錦川流域では主要な方法となっている.
5.ハザードマップ
岩国市に配布されているハザードマップの認知率は
44%であった.ハザードマップを認知している回答者
に保管状況を質問した.その結果を Fig.17 に示す.所
在が明らかなのはハザードマップ認知者全体の39%に
すぎなかった.全体で考えれば 17%程度にすぎない.
ハザードマップの認知者と非認知者で避難行動の実
施に差があるのかを検討した.その結果を Fig.18 に示
す.認知者の避難実施率が非認知者のそれと比較して
若干高いが,統計的には有意な差はなかった.
ハザードマップ認知者と非認知者に分けて Fig.12 と
同様の検討を行った.その結果を Fig.19 に示す.認知
者と非認知者間で統計的に有意な差はない.
No.1
(2008)
非認知
Fig.18 Relationship between the recognition of the hazard map
and the implementation rate of the evacuation behavior
30分以内
1時間30分~2時間以内
70%
1時間~1時間30分以内
30分~1時間以内
2時間以上 67%
66%
60%
50%
回答率
Fig.17 The storage situation of the hazard map
Vol.59
37%
10%
10%
10%
40%
40%
40%
30%
20%
10%
14%
12%
6%
2%
17%
3%
5%
8%
0%
認知
非認知
Fig.19 Relationship between the recognition of the hazard map
and the implementation rate of the evacuation behavior
今回の避難行動に対しては残念ながらハザードマッ
プは有意な成果を与えることはできなかったと判断さ
れる.
6.おわりに
本論文は 2005 年の台風 14 号による錦川の洪水状況
を概説し,岩国市住民の避難行動について論じた.主
要な結果を以下に要約する.
1) 錦川流域の2日降雨量は414mmであり,過去80年の
中で最大であった.
2) 臥龍橋の水位は6日22時に危険水位を超え,7日1時
に最大水位7.32mに達した.一方,美川町南桑では6
日18時に危険水位を超え,19時には国道187号線の
路面高を超えた.2m程度の浸水深となった.
3) 非難行動実施率は39%であった.被災経験による避
難行動の実施に差は見られない.
4) 避難勧告を認知して避難行動を開始する時間は30分
以内が多かったが,避難勧告の認知の遅れから,結
果として避難勧告発表から2時間以上経過している
場合が少なくなかった.
5) 避難開始の理由は「避難勧告の発表」や「危険な状
(15) 15
況になったから」が多く,受動的な意志決定が多い.
6) 広報車や消防団による戸別訪問が避難勧告の主要な
入手方法である.
7) ハザードマップは今回の避難に対して有効には働い
ていなかった.
謝辞:本研究の遂行において,岩国市総務課,山口県
河川課,当時研究室学生の伊藤弘之氏,木谷洋平氏,
諏訪宏行氏の協力を得た.ここに記して謝意を表しま
す.
参考文献
1) 消防庁: 平成17年中の主な風水害による被害状況(速
報値)
,http://www.fdma.go.jp/detail/661.html,2006
2) 岩国市総務部総務課:被害発生報告書,2006.
3) 岩国市総務部総務課:平成17年台風14号罹災件数まと
め,2006.
(平成20年9月30日受理)
山口大学工学部研究報告
Fly UP