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バスケットボール競技におけるディフェンス評価法の提案と

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バスケットボール競技におけるディフェンス評価法の提案と
2010 年度
修士論文
バスケットボール競技における
ディフェンス評価法の提案と検証
The proposal of evaluation and verification
of defense system for basketball
早稲田大学
大学院スポーツ科学研究科
スポーツ科学専攻
コーチング科学研究領域
5009A004-6
阿部
由紀乃
Abe,Yukino
研究指導教員:倉石
平 准教授
目次
Ⅰ 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1. 研 究 の 背 景
(1) バ ス ケ ッ ト ボ ー ル 競 技 に お け る ゲ ー ム の 流 れ
(2) バ ス ケ ッ ト ボ ー ル に お け る デ ィ フ ェ ン ス の 重 要 性
(3) ゲ ー ム 分 析 に お け る 客 観 的 評 価 の 有 効 性
2. 研 究 の 目 的
(1) デ ィ フ ェ ン ス 評 価 法 の 提 案
(2) 事 例 研 究 に よ る JOMO サ ン フ ラ ワ ー ズ の デ ィ フ ェ ン ス 評 価
Ⅱ ディフェンスの評価基準の提案・・・・・・・・・・・・・・・・・7
1. デ ィ フ ェ ン ス 評 価 法 の 基 準 値 を 決 定 す る 上 で の デ ィ フ ェ ン ス の 理 念
(1) デ ィ フ ェ ン ス の 基 本 理 念
(2) オ フ ェ ン ス の シ ュ ー ト 時 の デ ィ フ ェ ン ス
(3) オ フ ェ ン ス の ド リ ブ ル 時 の デ ィ フ ェ ン ス
2. デ ィ フ ェ ン ス 評 価 基 準 法 の 提 案
(1) 基 準 値
① 基 準 値 10,基 準 値 9 に つ い て
② 基準値 1 ついて
③ 基準値 3 について
④ 基準値 4 について
⑤ 基準値 6 及び基準値 7 について
(2) 評 価 方 法
Ⅲ 事 例 研 究 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 21
1. 方 法
(1) 対 象 ゲ ー ム
(2) 分 析 方 法
(3) 統 計 処 理
2. 結 果
(1) 全 試 合 の 基 準 点 別 頻 度
(2) 勝 敗 別 デ ィ フ ェ ン ス 評 価 点 の 比 較
(3) 失 点 別 デ ィ フ ェ ン ス 評 価 点 の 比 較
(4) 対 戦 相 手 別 デ ィ フ ェ ン ス 評 価 点 の 比 較
3. 考 察
(1) 基 準 値 1 及 び 基 準 値 3 か ら 見 る デ ィ フ ェ ン ス の 評 価
(2) 項 目 別 に 見 る デ ィ フ ェ ン ス 評 価
(3) 対 戦 相 手 に 別 に 見 る デ ィ フ ェ ン ス 評 価
Ⅳ ま と め ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 34
謝 辞 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 36
引 用 文 献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 37
Ⅰ
緒言
1. 研 究 の 背 景
(1) バ ス ケ ッ ト ボ ー ル 競 技 に お け る ゲ ー ム の 流 れ
バ ス ケ ッ ト ボ ー ル 競 技 と は ,「 ボ ー ル の 所 有 と シ ュ ー ト の 攻 防 を め ぐ り ,
相対するチームが,同一コート内で同時に直接相手と対峙しながら,一定
時 間 内 に 得 点 を 争 う ゲ ー ム 」 ( 倉 石 , 2 0 0 7 a ,p . 4 ) で あ る . バ ス ケ ッ ト ボ ー ル
の ゲ ー ム の 構 造 は 「 オ フ ェ ン ス 」 と 「 デ ィ フ ェ ン ス 」 の 2つ の 相 対 す る 局
面 で 成 り 立 ち ,さ ら に ,2 つ の 局 面 の 間 に は ,
「 ト ラ ン ジ シ ョ ン 」と い う 両
者をつなぐ局面が潜在的に存在している.流動的な局面変化の中に成り立
つ競技であることから,
「 ト ラ ン ジ シ ョ ン 」は ,オ フ ェ ン ス と デ ィ フ ェ ン ス
に 密 接 に 関 係 し て い る .2 0 0 0 年 に 開 催 さ れ た シ ド ニ ー 五 輪 後 の ル ー ル 改 正
に よ り ,シ ョ ッ ト ク ロ ッ ク が 30秒 か ら 24秒 へ と 短 縮 さ れ ,ま た バ ッ ク コ ー
ト か ら セ ン タ ー コ ー ト を 超 え る ま で の ボ ー ル 運 び に 許 さ れ た 時 間 も 10 秒
か ら 8秒 と な っ た . こ れ に よ り , ト ラ ン ジ シ ョ ン の 重 要 性 が そ れ ま で 以 上
に高まり,結果として全てのチームに不可欠なプレイとなったと指摘して
されている.
トラン ジショ ンには 2 種類あり,ディフ ェンス からオ フェン スの切 り替
わりはオフェンス・トランジション,オフェンスからディフェンスの切り
替 わ り は デ ィ フ ェ ン ス ・ ト ラ ン ジ シ ョ ン と 呼 ば れ て い る (倉 石 ,2007a,p.4).
1
以 下 に ,バ ス ケ ッ ト ボ ー ル 競 技 に お け る ゲ ー ム の 流 れ に つ い て 図 に 示 し た .
図 1
バスケットボール競技におけるゲームの流れ
(2) バ ス ケ ッ ト ボ ー ル 競 技 に お け る デ ィ フ ェ ン ス の 重 要 性
バ ス ケ ッ ト ボ ー ル は ,1 8 9 1 年 ア メ リ カ 合 衆 国 の マ サ チ ュ ー セ ッ ツ 州 ス プ
リ ン グ フ ィ ー ル ド に お い て James Naismith に よ っ て 創 案 さ れ た . バ ス
ケ ッ ト ボ ー ル で は ,攻
攻 撃 ( オ フ ェ ン ス ) の 次 は 防 御 ( デ ィ フ ェ ン ス ) で あ り ,防
御の次は攻撃である.そしてゲームの勝敗は,得点の相対比によって決定
されるため,そこでゲームに勝つためには,オフェンスで得点すると同時
に , 次 の デ ィ フ ェ ン ス に お い て も 成 功 し な け れ ば な ら な い ( K n i gh t a n d
N e w e l l , 1 9 8 6 ) .一
一 般 的 に ど ん な ス ポ ー ツ に お い て も ,オ
オフェンシブなプレ
イは称賛されやすく,喝采を浴びせられるのは攻撃で成功した者が多いと
思われる.プレイヤー自身も得点することに多くの喜びを感じるのは当然
のことである.しかし,心理的観点から見れば,ディフェンスはオフェン
スよりも重要だと言えるかもしれない.それは,効果的なディフェンスに
2
よって得点の機会を一時的に妨げられると,プレイヤーはプレッシャーを
感じてミスを犯しやすくなるからである.相手のリズムを崩し,ゲーム中
にそのフラストレーションが常に続けば,終盤になるにしたがって,相手
のオフェンスを狂わせ効果的なオフェンスが機能しなくなることが期待で
きるのである.また,ディフェンスはオフェンスに比べ,好不調の波が少
な い と 言 わ れ て お り ( ジ ョ ン ・ ウ ド ゥ ン , 2 0 0 0 ) ,プ レ イ ヤ ー が デ ィ フ ェ ン ス
の重要性を理解し,コンディションが良ければ,ディフェンスにおいては
いつも同じ効果を発揮することができる.指導者については,自チームの
現状を把握し,プレイヤーに適切な指導を行うことによって,チームの潜
在能力を引き出すことが可能となる.世界の最高峰である全米大学バスケ
ットボール界で考えた場合,過去にディフェンスを強調し,成功を収めた
指 導 者 は 数 多 い . Michael Jordan 等 数 多 く の NBA 選 手 を 輩 出 し , 全 米
大 学 チ ャ ン ピ オ ン に も な っ て い る ノ ー ス カ ロ ラ イ ナ 大 学 の D e a n S m i th ,
同 様 に 優 勝 経 験 を 持 ち , 過 去 10 年 の う ち 全 米 大 学 選 手 権 で 最 高 の 勝 率 を
上 げ て い る デ ュ ー ク 大 学 の M i k e K r z y z e ws k i , そ の 他 , イ ン デ ィ ア ナ 大 学
の B o b K n i g h t , ア リ ゾ ナ 大 学 の L u t e Ol s o n ら 多 く の 指 導 者 が そ れ ぞ れ の
チームフィロソフィーを作り上げ,それを具体化し,成功を収めている.
このような著名な指導者たちが一様に強調していたのがディフェンスであ
る ( K n i gh t
and
N e we l l , 1 9 8 6 : K r z y z e ws k i , 1 9 8 6 : S m i th , 1 9 8 1 :
Wo o d e n , 1 9 9 9 ) .
3
(3) ゲ ー ム 分 析 に お け る 客 観 的 評 価 の 有 効 性
バスケットボール競技とは,流動的な局面変化の中に成り立つ競技であ
る.スピーディーな攻防の切り替えによって,刻々と変化する競技特性を
もつバスケットボール競技において,ゲーム分析は「冷静にゲームの流れ
や 内 容 を 捉 え る 方 法 」 と し て (内 山 ほ か ,2001b), 数 多 く の 研 究 者 た ち が そ
の重要性を言及している.
これまでのゲーム分析で用いられてきた一般的な方法は,主観的分析と
客観的分析に二分することが可能である.前者は,「ゲームの勝敗因は,
コーチの主観によってのみ議論され,必ずしも常に的確な判断が下されて
い た と は 考 え ら れ な い 」 (吉 井 ,1986a)と 捉 え ら れ て い る こ と で , 分 析 者 の
経験値や基礎知識等によって左右され,定量的なデータを出すことは困難
であると考えられる.またコーチの主観的な判断基準に拠り解釈された解
析結果を参考にして戦術立案の判断がされていたのでは,結果的にその良
否は見極められ得ず,また経験の浅いコーチは経験知としての判断基準を
持たないが故に,情報が混雑してしまう事態生じる.
一方,後者は「複雑な集団戦術行動を科学的に解きほぐす一つの端緒」
と し て (内 山 ほ か ,2001a), 記 録 者 が 誰 で あ っ て も ほ ぼ 正 確 に 記 録 で き る も
の で あ る .従 来 ま で の 客 観 的 資 料 は ,従 来「 野 投 試 投 数 と そ の 成 功 率 」「 自
由投試数とその成功率」「攻・防のリバウンド・ボール獲得数」「アシス
ト」「インターセプト,ヘルドボール,ルーズボールの獲得数」「バイオ
4
レーション,技術上のミス・プレー,ヘルドボールによるボールの所有を
失った回数」「攻・防におけるファウル数」などがある.客観的情報は数
字で表せる情報であり,固定化された情報を正確に収集でき,情報をフィ
ードバックするときに説得力が高い.コーチが各個の選手を主観的に評価
するときに,主観が正しいことを裏付ける客観的な資料があるならば選手
はその評価に自信を持つことができるのである.具体的な資料に基づくデ
ータは,客観的に自チームの戦力,及び個人の力を把握できる有効な手掛
かりとなるに違いない.
2. 研 究 の 目 的
(1) デ ィ フ ェ ン ス 評 価 法 の 提 案
現在,日本でもスポーツ科学が重んじられる時代にきており,倉石
(2010)は ,
「 経 験 科 学 を 実 証 の 科 学 に 変 え て い く の が こ れ か ら で あ り ,し っ
かりとした理論に基づいたデータをしっかりと作りだすコーチが必ず勝利
す る こ と と な る 」と 述 べ て い る よ う に ,ゲ ー ム の 実 態 を 数 値 化 す る こ と は ,
勝利に不可欠であると考える.
近代のバスケットボール競技において,ディフェンスの意義は益々増大
しており,ディフェンスの優劣が勝敗に大きく影響することは明らかであ
る.しかし,従来までの個々に応じた情報からチーム・ディフェンスの優
劣をつけることは困難であり,指導者の中には,未だ勘や体験に基づく知
5
識だけで指導する者が多いと考えられる.これまでディフェンスに関する
研 究 は ,内 山 ( 2 0 0 4 ) の デ ィ フ ェ ン ス の 構 造 分 析 や 吉 田 ( 2 0 0 5 ) ,佐 々 木 ( 2 0 0 5 )
のチーム・ディフェンスの構築というように,ディフェンスの理論や戦術
を 分 析 し た も の , ま た 岩 本 ら (1989)の デ ィ フ ェ ン ス の 構 え の 研 究 と い う よ
うにディフェンスの基礎技術を分析したものが中心であり,チーム・ディ
フェンスを評価する研究は見当たらない.そこで,本研究では,これまで
数値化されてこなかったチーム・ディフェンスについて定量的な基準に基
づ く , 評 価 法 を 提 案 す る こ と を 目 的 と す る . 宮 副 (2007)が , 基 準 値 を 決 定
する際,
「 記 録 す る 人 が 誰 で あ っ て も ,ほ ぼ 正 確 に 記 録 す る こ と が で き る 基
準を設けることが必要である」と言っているように,分析者の経験値に関
わらず,万人が評価できる基準値を設けることが必要である.
( 2 ) 事 例 研 究 に よ る J OM O サ ン フ ラ ワ ー ズ の デ ィ フ ェ ン ス 評 価
今 回 提 案 す る 評 価 法 を JOMO サ ン フ ラ ワ ー ズ の 2009-2010 年 シ ー ズ ン
の 36 試 合 を 対 象 に 評 価 を 行 い , JOMO サ ン フ ラ ワ ー ズ の 2009-2010 年 シ
ーズンにおけるディフェンスの問題点及び課題を明確化する.本研究で定
量化されたディフェンス評価基準は,今後あらゆる年代におけるディフェ
ンス評価法として,実際のコーチングの場面で大きな貢献をもたらすであ
ろうと考える.
6
Ⅱ ディフェンスの評価法の提案
H o l z ma n (2 0 1 0 , p . 3 6 ) は「 チ ー ム が ど の よ う な タ イ プ の デ ィ フ ェ ン ス を 使
お う と も ,最 後 は 必 然 的 に 1 対 1 の 局 面 と な り ,い つ か 必 ず ど こ か の 局 面
で 1 人 の プ レ イ ヤ ー が 1 人 の プ レ イ ヤ ー と 対 峙 し ,得 点 す る こ と を 止 め な
ければならない」と述べている.そこで,本研究では,ゾーンディフェン
スやマンツーマンディフェンス,プレスディフェンスに関わらず,ディフ
ェンスにとって最終局面で 1 対 1 の対峙する状況がディフェンスにとって
重要な局面であると捉え,その局面のディフェンスを評価の対象とする.
そして,1 試合におけるチームディフェンスの評価法を提案する.
1, デ ィ フ ェ ン ス 評 価 法 の 基 準 値 を 決 定 す る 上 で の デ ィ フ ェ ン ス の 理 念
(1) デ ィ フ ェ ン ス の 基 本 理 念
Kn i gh t ( 1 9 8 6 ) は , シ ュ ー ト す る こ と が 攻 撃 の 原 則 で あ れ ば , そ れ と 対 立
関 係 に あ る 防 御 の 第 一 原 則 は「 シ ュ ー ト を 防 ぐ こ と 」で あ る と 述 べ て い る .
つまり,ディフェンスの最大にして究極の目的は失点しないことであり,
相手のシュートを防ぐ,または落とさせることである.ディフェンスの基
本理念は相手に得点のチャンスを作らせないことである.オフェンスは,
得点をするにはシュートを放たなければならないが,シュートの機会を
妨げられることによって,その時の得点のチャンスを失うだけでなく,相
7
手 プ レ イ ヤ ー か ら の プ レ ッ シ ャ ー を 感 じ て ミ ス を 犯 し や す く な る .激 し い
ディフェンスによって相手チームのシュート数を減少させることがで
きれば,相手の得点の可能性はなくなる.また,相手のオフェンスが乱
れ,フラストレーションが貯まる状態が続けば,終盤になるにしたがって
相手のリズムを崩し,ターンオーバーを誘発することができる.
以上のことから相手にシュートをさせないことが理想のディフェンス
であると捉え,良いディフェンスとは,シュートを放たれないことであり,
次 い で シ ュ ー ト を 放 た れ て も 失 点 し な い こ と ,そ し て 失 点 す る と 評 価 す る こ
とができる.
・シュートを放たれない
高
・シュートを放たれても失点しない
・失点する
低
図 2
ディフェンスの基本的評価
(2) オ フ ェ ン ス の シ ュ ー ト 時 の デ ィ フ ェ ン ス
吉 井 (1986b)は 「 ボ ー ル 保 持 者 を マ ー ク iす る 防 御 者 は , 相 手 の 『 ド リ ブ
ル ・ イ ン 』 iiに 対 し て は , 味 方 チ ー ム メ イ ト の 協 力 を 期 待 し て 恐 れ る こ と
な し に ,そ の ま ま『 シ ョ ッ ト 』を 防 ぐ こ と が 合 理 的 な 方 法 」と 述 べ て い る .
i
ii
マーク:マッチアップもしくはマッチアップマン
ドリブル・イン:ドライブ
8
ウ ッ ド ゥ ン (2000)は マ ッ チ ア ッ プ マ ン が ボ ー ル を 保 持 し て い る 場 合 , デ ィ
フェンス・プレイヤーはマッチアップマンとゴールの間で,ゴールに背を
向 け て ポ ジ シ ョ ン を と り ,マ ッ チ ア ッ プ マ ン か ら は 腕 1 本 分 ( 1 a r m a w a y ) i i i
の 距 離 を お い て 位 置 す る と 述 べ て い る .さ ら に ,倉 石 ( 2 0 0 9 ) は ,
「マッチア
ッ プ マ ン・デ ィ フ ェ ン ス は ス ペ ー ス が 鍵 と な り ,ス テ ィ ッ ク i v の 時 以 外 は ,
ワ ン ア ー ム ウ ェ イ (腕 1 本 分 の 距 離 )で ボ ー ル マ ン に プ レ ッ シ ャ ー を 与 え る 」
と述べている.相手にプレッシャーを与え,シュートを阻止するにあたっ
てマッチアップマン・ディフェンスの原則は腕 1 本分であと捉えることが
できる.以上の事から,シュートの可能性を持つすべての攻撃者に対して
腕 1 本分でディフェンスすることが重要である.
次に,シュートの局面において強調すべきことは,シューターに対して
コ ン テ ス ト を す る こ と で あ る .コ ン テ ス ト と は ,シ ュ ー タ ー に 手 を 挙 げ
る ス キ ル で あ り ,相 手 の シ ュ ー ト の 成 功 率 を 下 げ る た め に ,最 も 簡 単 な
手段であり,放たれるシュート全てに可能なディフェンススキルである.
シュートをする視界にディフェンスの手が入ってくるだけで重圧がか
か り , シ ュ ー ト を 外 す 確 率 が 高 ま る こ と と な る . B r o wn ( 2 0 0 5 ) は , コ ン
テ ス ト を す る だ け で ,シ ュ ー ト の 成 功 率 は 2 0 % 前 後 下 げ る こ と が で き る と
述 べ て い る . ま た , ナ イ ト ・ ニ ュ ー ウ ェ ル ( 1 9 9 2 ) は ,「 オ フ ェ ン ス ・ プ レ イ
1arm away: マ ッ チ ア ッ プ マ ン に 対 し て 腕 1 本 分 程 度 の 距 離
スティック:ボールが止まった(ドリブルが終った)瞬間,ボールマンに
素 早 く 近 づ く . 腕 1 本 分 の 間 合 い ( 距 離 ) を 「 1」 と す る 場 合 , ス テ ィ ッ ク の
間 合 い ( 距 離 ) は 「 0」 と 表 現 す る こ と が で き る . (ウ ッ ド ゥ ン ,2000)
iii
iv
9
ヤ ー が シ ュ ー ト し た 時 ,私 た ち の ル ー ル は 以 下 の 通 り で あ る:オ フ ェ ン ス ・
プレイヤーがフロアから足を離した瞬間にジャンプする.上に伸ばした手
はシューターの顔ではなくボールに対して伸ばす,なぜならシューターの
視 界 を 遮 る よ り も ,フ ォ ー ム を 崩 す 方 が よ り 効 果 的 だ と 信 じ て い る か ら だ .」
と 表 現 し て い る . さ ら に B r o w n ( 2 0 0 5 ) は ,「 す べ て の シ ュ ー タ ー に 対 し て
プレッシャーをかけクローズアウトする.そしてすべてのシュートに対し
てコンテストし,ドリブル突破を止める」と著述しており,多くの指導書
の中でコンテストの重要性を強調している.これらのことから,シュータ
ー に 対 す る デ ィ フ ェ ン ス は , ま ず シ ュ ー タ ー と ゴ ー ル の 間 で , 2 a r m a wa y
以内でゴールに背を向けてポジションをとることが最低限の条件であると
言 え る . さ ら に シ ュ ー タ ー に 1arm away 以 内 の 距 離 で 位 置 す る こ と , そ
してシュートの局面ではボールに対してコンテストすることが重要である.
・コンテストする
高
・ シ ュ ー タ ー か ら 1 arm away 以 内 の 距 離 で 位 置 す る
・ シ ュ ー タ ー と ゴ ー ル の 間 で , 2arm away 以 内 で
低
ゴールに背を向けてポジションをとる
図 3
シューターに対するディフェンス基準
10
(3) オ フ ェ ン ス の ド リ ブ ル 時 の デ ィ フ ェ ン ス
アメリカン・バスケットボールでは,オフェンスは「ゴール付近にボー
ル を 集 め な さ い 」と 言 わ れ ,対 す る デ ィ フ ェ ン ス の 考 え 方 は ,
「ゴール近辺
からできる限り外側へボールをそしてプレイヤーを押し出せ」と言われて
い る ( 宮 副 , 2 0 1 0 ) .さ ら に ,オ フ ェ ン ス は ゴ ー ル か ら 2 0 フ ィ ー ト v 離 れ た 位
置からよりも,ゴールに近い方が確実に得点を決めることができるという
事実から
8 ),
相手の攻撃に対して,サイドライン,コーナー,あるいはス
ペースのないエリアへドライブさせて,ドリブラーを追い込むことが重要
で あ る こ と は 多 く の 指 導 書 に 著 書 さ れ て い る ( 岩 本 ,1989 : 佐 々 木 ,2005:
K r z y ze w s k i , 1 9 8 6 ) .H o l z ma n は「 ド ラ イ ブ か ら 簡 単 な レ イ ア ッ プ に 持 ち 込
まれるよりは,自分の上からシュートを打たせるよう準備するべきだ」と
述 べ て お り ,さ ら に M e y e r は「 デ ィ フ ェ ン ダ ー は ,自 分 の マ ー ク マ ン の ゴ
ールに向かうドライブを防ぐことが最も重要な責任である」と述べている
こ と か ら も (ク ラ ウ ス ・ ピ ム ,2010,p.106), ゴ ー ル ま で 直 線 的 に ド リ ブ ル さ
せないことが重要である.つまり,オフェンスがドリブル時にはディフェ
ンスはゴール方向以外に誘導し,ゴールから遠ざかるシュートを放たせる
ことが理想的である.
20 フ ィ ー ト .・ ・ ・ 1 フ ィ ー ト あ た り 30.48 セ ン チ メ ー ト ル で あ り , 20 フ
ィ ー ト は 6.09 メ ー ト ル 換 算 で き る . バ ス ケ ッ ト コ ー ト の ペ イ ン ト エ リ ア ( 制
限区域,ゴール付近の色が変わった地域を指す)の横の一番広い部分の長さ
が 6 メートルである.
v
11
・ゴール方向以外に誘導し,ゴールから遠ざかる
高
シュートをさせる
・ゴールの方向へ向かわれシュートされる
低
図 4
ドリブル時のディフェンス
2, デ ィ フ ェ ン ス 評 価 基 準 法 の 提 案
(1) 基 準 値
以下の表 1 は,本研究におけるディフェンス評価法の基準値である.
表 1
ディフェンス基準表
基準値
10
対象のプレイ
シュートを放たせなかった.
9
シュートを放たせたが失点しなかった.
7
DE F の 意 図 す る 方 向 に 誘 導 し た が 失 点 し た .( * )
6
DE F の 意 図 す る 方 向 に 誘 導 で き ず 失 点 し た .( * )
( * )基 準 値 3 , 4 の シ ュ ー タ ー へ の デ ィ フ ェ ン ス が 満 た さ れ て い る 場 合
4
コンテストしておらず,失点された.
3
1 a r m wa y 以 内 に 位 置 し て い な い 状 態 で 失 点 さ れ た .
1
オープンにしている状態で失点された.
0
ディフェンスに関係なく放ったシュート,または放たせても
よいシュート.
12
失点されなかった場合
① 基 準 値 10,基 準 値 9 に つ い て
Kn i gh t ( 1 9 8 6 ) は , シ ュ ー ト す る こ と が 攻 撃 の 原 則 で あ れ ば , そ れ と 対 立
関係にある防御の第一原則は「シュートを防ぐこと」ディフェンスの最大
にして究極の目的は失点しないこと,つまり相手のシュートを防ぐ,また
は落とさせることであると述べているように,ディフェンスの基本理念は
相手に得点のチャンスを作らせないことである.オフェンスは,シュート
の機会を妨げられることによって,その時の得点のチャンスを失うだけで
な く ,相 手 プ レ イ ヤ ー か ら の プ レ ッ シ ャ ー を 感 じ て ミ ス を 犯 し や す く な る .
激しいディフェンスによって相手チームのシュート数を減少させるこ
とができれば,相手の得点の可能性はなくなる.また,相手のオフェン
スが乱れ,フラストレーションが貯まる状態が続けば,終盤になるにした
がって相手のリズムを崩し,ターンオーバーを誘発することができる.以
上のことから相手にシュートをさせないことが理想のディフェンスである
と 捉 え , 相 手 の 攻 撃 が シ ュ ー ト 以 外 で 終 了 し た 場 合 を 最 高 基 準 値 10 と し
た.また,シュートを放たれたが,失点されなかった場合を基準値 9 とす
る.
13
失点された場合
次に,自チームにとって直接的なダメージとなる相手に失点された場合
について,細分化を行う.
② 基準値 1 ついて
まず,失点された場合の最低値基準値 1 には,シュートの際にオフェン
スに対してディフェンスが 1 人も対峙していない状態で失点した場合とし
た .よ い デ ィ フ ェ ン ス と は 相 手 に 簡 単 な シ ュ ー ト を 許 さ な い こ と で あ る ( ハ
ル ウ ィ ッ セ ル , 1 9 9 8 ) .J o h n ( 2 0 0 0 ,p . 2 7 0 ) は ,ア ウ ト サ イ ド の シ ョ ッ ト の 苦
手 な プ レ イ ヤ ー で あ っ て も ,ゴ ー ル か ら 7 .5 m 以 内 で あ れ ば ,イ ン サ イ ド ・
プレイヤーへのパスを防ぐためにフロートするのでない限りは,完全にノ
ーマークショットをさせてはならないと述べていることから,相手にオー
プンの状態で高確率のシュートを放たれ失点された場合をディフェンスを
していないと捉え,基準値 1 とした.
そ の 他 , オ フ ェ ン ス リ バ ウ ン ド に つ い て 倉 石 (2007)は , シ ュ ー ト を 落 と
させてもオフェンスリバウンドを奪われセカンド・チャンスを与えてしま
っ て は , デ ィ フ ェ ン ス は 崩 壊 し て い る と 言 え る と 述 べ , H o l z ma n (2 0 1 0 ) は
「勝つチームはリバウンドをコントロールする.相手チームに,オフェン
スリバ ウンド を取ら れ 2 回以上の 攻撃の チャン スを与 えるこ とは,試合に
勝つことはより困難になるだろう」と述べていることから,ディフェンス
の崩れを象徴しているとも言える,相手のオフェンスリバウンドによる得
14
点も基準値 1 とする.
また,シュートファウル及びチームファウルによるフリースローについ
てはシュートに対してファウルをした場合,相手にフリースローを与える
こととなる.1 試合で許されるファウルの回数は 1 人あたり 5 回とされて
おり,5 回目のファウルを犯した時点で退場となる.またチームファウル
に関しては,ピリオドごとに換算され,1 ピリオドにつき 4 回目まで,シ
ュート ファウ ル以外 は相手 のスロ ーイン から開 始され る.し かし 5 回目以
降は,ファウルの種類に関わらず,自動的にフリースローを与えることと
な る .フ リ ー ス ロ ー は ,相 手 に 7 0 % 以 上 の 確 率 で 得 点 を 許 し て し ま う こ と
に な り ( 倉 石 , 2 0 0 9 ) ,上 記 に 述 べ た よ う に フ ァ ウ ル の 数 も 規 定 さ れ て い る こ
とから,自らもダメージを受けることとなるため,相手にフリースローを
与えた場合についても基準値 1 とする.
③ 基準値 3 について
次 に ,吉 井 ( 1 9 8 6 b ) は「 ボ ー ル 保 持 者 を マ ー ク す る 防 御 者 は ,相 手 の『 ド
リブル・イン』に対しては,味方チームメイトの協力を期待して恐れるこ
となしに,そのまま『ショット』を防ぐことが合理的な方法」と述べてい
る . John(2000)は マ ッ チ ア ッ プ マ ン が ボ ー ル を 保 持 し て い る 場 合 , デ ィ フ
ェンス・プレイヤーはマッチアップマンとゴールの間で,ゴールに背を向
け て ポ ジ シ ョ ン を と り , マ ッ チ ア ッ プ マ ン か ら は 腕 1 本 分 ( 1 a r m a wa y ) の
15
距 離 を お い て 位 置 す る と 述 べ て い る .さ ら に ,倉 石 ( 2 0 0 9 ) は ,
「マッチアッ
プマン・ディフェンスはスペースが鍵となり,スティックの時以外は,ワ
ン ア ー ム ウ ェ イ( 腕 1 本 分 の 距 離 )で ボ ー ル マ ン に プ レ ッ シ ャ ー を 与 え る 」
と述べ,多くの指導者は,シュートの可能性を持つすべての攻撃者に対し
て 腕 1 本 分 で デ ィ フ ェ ン ス す る こ と が 重 要 で あ る こ と を 強 調 し て い る .相
手にプレッシャーを与え,シュートを阻止するにあたってマッチアップマ
ン・ディフェンスの原則は腕 1 本分であと捉えることができる.以上のこ
と か ら , 相 手 に 1 a r m wa y で 位 置 し て い な い 状 態 で 失 点 さ れ た 場 合 を 基 準
値 3 とした.
④ 基準値 4 について
さらに,マッチアップマンのシュートの局面において強調すべきことは,
そのシュートに対してコンテストをすることである.コンテストとは,
シ ュ ー タ ー に 手 を 挙 げ る ス キ ル で あ り ,相 手 の シ ュ ー ト の 成 功 率 を 下 げ
るために,最も簡単な手段である.また放たれるシュート全てに可能な
ディフェンススキルである.シュートをする視界にディフェンスの手が
入 っ て く る だ け で 重 圧 が か か り ,シ ュ ー ト を 外 す 確 率 が 高 ま る こ と と な
る . B r o wn ( 2 0 0 5 ) は ,コ ン テ ス ト を す る だ け で シ ュ ー ト の 成 功 率 は 2 0 % 前
後 下 げ る こ と が で き る と 述 べ て い る .ま た ,N e w e l l ( 1 9 9 2 ) は「 オ フ ェ ン ス ・
プレイヤーがシュートした時,私たちのルールは以下の通りである:オフ
16
ェンス・プレイヤーがフロアから足を離した瞬間にジャンプする.上に伸
ばした手はシューターの顔ではなくボールに対して伸ばす,なぜならシュ
ーターの視界を遮るよりも,フォームを崩す方がより効果的だと信じてい
る か ら だ .」 と 表 現 し て い る . さ ら に B r o wn ( 2 0 0 5 ) は ,「 す べ て の シ ュ ー タ
ーに対してプレッシャーをかけクローズアウトする.そしてすべてのシュ
ートに対してコンテストし,ドリブル突破を止める」と著述しており,多
くの指導書の中でコンテストの重要性を強調している.相手にシュートを
放たれる際,ディフェンスは如何なる場合も,シュートに対してコンテス
ト す る こ と が 重 要 な ス キ ル で あ る こ と は 明 確 で あ る .以 上 の こ と か ら 1 a r m
way で 位 置 し て い る も の の シ ュ ー ト に 対 し て コ ン テ ス ト し て い な か っ た 場
合を基準値 4 とする.
⑤ 基準値 6 及び基準値 7 について
良いチーム・ディフェンスを行う上で,個人のファンダメンタルを適切
に 発 揮 す る こ と が 重 要 で あ る と 言 わ れ る よ う に ( ウ ド ゥ ン , 2 0 0 0 ,p . 2 8 0 ) , ま
ずは,これまでにあげたマッチアップマンのシュートの局面に対する個人
のディフェンススキルを満たしていることが必須であると考え,基準値 3
及び基準値 4 を満たしている場合のみが,ここでの評価対象となる.前に
挙げた基本的なシューターに対する個人のファンダメンタルが満たされた
ディフェンスをしていた場合,さらにチーム・ディフェンスに注視して基
17
準値を設ける.
チーム・ディフェンスのシステムには,コートの中央に向かってオフェ
ンスを追い込んでいく「ファネル・ディフェンシブ・フィロソフィー」,
とコートの外側へとオフェンスを追い込んでいく「ファン・ディフェンシ
ブ ・ フ ィ ロ ソ フ ィ ー 」 の 2つ の 考 え 方 が 存 在 す る (内 山 ,2000). 近 年 で は ,
後者のファン・デイブェンシプ・フィロソフィーがチーム・ディフェンス
の 主 流 と な っ て い る と 言 わ れ て い る (大 高 ,2007). フ ァ ン ・ デ ィ フ ェ ン シ
ブ・フィロソフィーではコート中央やゴールを守るためにお互いが助け合
うことになり,常に基本に忠実で適切なポジションでディフェンスをする
プレイヤーがいれば才能に依存せずに,チーム・ディフェンスが発揮でき
るとし,ファン・ディフェンシプ・フィロソフィーを採用すべきと報告し
て い る ( 内 山 , 2 0 0 0 ) . さ ら に S m i t h( 1 9 8 1 ,p p 1 6 1 - 1 8 5 ),や 倉 石( 1 9 9 6 ,p . l O
- 13) も デ ィ フ ェ ン ス の 考 え 方 と ド リ ル か ら , フ ァ ン ・ デ ィ フ ェ ン シ プ ・
フィロソフィーを採用することを肯定していることが窺うことができる.
その他,ドリブラーに対するディフェンスにおいて考えなければならない
最 も 重 要 な こ と と し て , J o h n ( 2 0 0 0 )は ゴ ー ル に 直 線 的 に ド リ ブ ル さ せ な
いことであり,サイドライン,コーナー,あるいはスペースのないエリア
へドライブさせてドリブラーを追い込むとしている.またサイドライン際
に追い込めば,相手がパスを出す方向は限られ,サイドラインがヘルプの
役 割 を 果 た し て く れ る の で あ る (モ ー ガ ン ,1994). 以 上 の こ と か ら , フ ァ
18
ン・ディフェンシブ・フィロソフィーのチーム戦術の場合,ゴール方向に
まっすぐ向かわれたり,ミドルラインを使われて放たれたシュートは,オ
フェンスに有意に攻撃されており,意図するディフェンスができていなか
っ た と し て 基 準 値 6と す る . 一 方 , サ イ ド ラ イ ン 方 向 ま た は ベ ー ス ラ イ ン
方向に誘導し,ディフェンスに優位な状態でシュートを放たせた場合を基
準 値 7と し た .
しかし,前にも述べたように,チーム戦術によってオフェンスを誘導す
る 方 向 は 違 う た め ,チ ー ム に よ っ て 基 準 値 6 , 基 準 値 7 を 変 更 し な け れ ば な ら
ない.いずれにせよ,チームとしてオフェンスを誘導すべき方向はチーム
戦 術 に よ っ て 決 ま っ て い る と 考 え , デ ィ フ ェ ン ス (自 チ ー ム )の 意 図 す る 方
向 に 誘 導 で き ず , シ ュ ー ト を 放 た れ た 場 合 を 基 準 値 6と し , デ ィ フ ェ ン ス
の意図する方向に誘導し,ディフェンスが有意な状態でシュートを放たれ
た 場 合 を 基 準 値 7と し た .
19
(2) 評 価 方 法
本 研 究 で は ,D E F 評 価 基 準 に 基 づ き 各 試 合 の デ ィ フ ェ ン ス の 評 価 を 行 う .
各 試 合 の 分 析 方 法 は ,J O M O サ ン フ ラ ワ ー ズ が 相 手 の 1 回 の 攻 撃 に 対 す る
デ ィ フ ェ ン ス の 最 終 局 面 を 以 下 の 評 価 基 準 に 基 づ き 点 数 化 す る (1 回 の 攻 撃
回数は,シュートを放つ,もしくはディフェンス・トランジションに入る
ま で と す る ) .そ し て す べ て の 基 準 値 の 合 計 点 を 算 出 し ,相 手 の 攻 撃 回 数 で
除した数値がディフェンスの評価点となる.以下にディフェンス評価点の
計算式を記す.
ディフェンス評価点
( 各 基 準 値 に あ て は め た 攻 撃 回 数 ×基 準 値 ) ÷全 体 の 攻 撃 回 数
ディフェンスと一言にいっても,フィジカル面,メンタル面など様々な
要因が絡んでおり,試合ともなれば,試合会場の雰囲気,対戦相手,試合
の状況などあらゆる要因によってメンタルは左右されることを考慮されな
ければならない.しかし,本研究では,映像上から選手の心理状況を見極
めることは極めて困難であるため,メンタル的な要素は十分に発揮されて
い る と 見 な し (も し く は 十 分 で き る と い う 条 件 で ), そ の 場 合 に お け る 評 価
を 行 う ( 倉 石 , 2 0 1 0 ,p . 6 ) .
20
Ⅲ 事例研究
1. 方 法
(1) 対 象 ゲ ー ム
2 0 0 9 -2 0 1 0 シ ー ズ ン に お け る J O M O サ ン フ ラ ワ ー ズ ( 現 J X サ ン フ ラ ワ ー
ズ ) 2 0 0 9 - 2 0 1 0 シ ー ズ ン に 開 催 さ れ た W リ ー グ ( レ ギ ュ ラ ー リ ー グ ,プ レ ー
オ フ / セ ミ フ ァ イ ナ ル・フ ァ イ ナ ル ) 及 び 全 日 本 総 合 バ ス ケ ッ ト ボ ー ル 選 手
権 大 会 (皇 后 杯 )の 36 試 合 を 対 象 ゲ ー ム と し た . JOMO サ ン フ ラ ワ ー ズ は ,
上記の 大会に おいて それぞれ 2 年 連続優 勝して おり,日本 代 表選手 も複数
在籍していることなどから,現在の日本女子バスケットボール界のトップ
レベルのチームであると判断し,研究の対象とした.
(2) 分 析 方 法
D V D 録 画 さ れ た 2 0 0 9 -2 0 1 0 シ ー ズ ン に お け る J O M O サ ン フ ラ ワ ー ズ の
3 6 試 合 を 分 析 ソ フ ト E i z o j o k e y を 用 い て ,各 試 合 の デ ィ フ ェ ン ス 評 価 を 行
った.
(3) 統 計 処 理
す べ て の 統 計 処 理 に は , SPSS
12
OJ
f o r Wi n d o ws ( SP S S J a p a n
Inc.)を 使 用 し , Mann-Whitney の 対 応 の な い U 検 定 を 行 っ た .
21
2. 結 果
(1) 全 試 合 の 基 準 点 別 頻 度
表 2 は , 全 36 試 合 分 の 基 準 点 別 に 見 た 頻 度 で あ る . シ ュ ー ト が 外 れ た
場 合 の 基 準 値 9 が 4 6 . 1 % と 最 も 高 い 値 を 示 し て お り ,相 手 の 得 点 に つ な が
っ た プ レ イ に お い て は 基 準 値 1 が 16.0% と 高 い 割 合 を 占 め て い る .
表 2 に お い て , 1~ 10 の 間 で 比 較 す る 場 合 , 相 手 の 得 点 に つ な が っ た プ
レ イ は 基 準 値 1~ 7 ま で の 5 つ の 基 準 に 分 類 し て い る . 対 し て , 相 手 の プ
レ イ が 得 点 に つ な が ら な か っ た 場 合 は シ ュ ー ト を 外 し た 場 合 を 基 準 値 9,
シ ュ ー ト に 至 ら な か っ た 場 合 を 基 準 値 10 と 2 つ に 分 類 し て い る た め , 基
準 値 9, 10 の 割 合 が 高 く な る の は 然 る べ き 結 果 で あ る .
表 2
全 36 試 合 の 基 準 点 別 頻 度
基準値
1
3
4
6
7
9
10
0
頻 度 (% )
16.0
10.4
1 .7
5 .4
2 .4
46.1
18.0
1 .2
22
頻度(%)
50%
45%
40%
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
46.1%
18.0%
16.0%
10.4%
5.4%
1.7%
1
3
4
6
2.4%
7
9
10
基準値
図 5
全 36 試 合 の 基 準 点 別 頻 度
次に,相手に得点された場合の原因となる事象を探るため,表 3 は相手
に 失 点 さ れ た 場 合 の 基 準 値 で あ る 1 ~ 7 に 注 視 し た . 基 準 値 1 が 4 4 .5 % と
高 い 割 合 を 占 め て お り ,次 い で ,基 準 値 3 が 2 8 . 9 % と 高 い 割 合 を 占 め て い
る.
表 3
相手の得点に繋がった基準値に着目した基準点別頻度
基準値
1
3
4
6
7
合計
攻 撃 回 数 (回 )
448
291
48
152
67
1006
頻 度 (% )
4 4. 5
2 8. 9
4. 8
1 5. 1
6. 7
23
50%
45%
44.5%
頻度(%)
40%
35%
28.9%
30%
25%
20%
15.1%
15%
10%
6.7%
4.8%
5%
0%
1
3
4
6
7
基準値
図 6
相手の得点に繋がった基準値に着目した基準点別頻度
24
(2) 勝 敗 別 デ ィ フ ェ ン ス 評 価 点 の 比 較
図 7 に は , デ ィ フ ェ ン ス 評 価 点 に お け る 勝 ち 群 (W 群 )と 負 け 群 (L 群 )の
平 均 値 を 示 し た . 全 体 の デ ィ フ ェ ン ス 点 の 平 均 は 6.97 で あ り , W 群 の 平
均 値 は 7.05, L 群 の 平 均 値 は 6.70 で あ っ た .
7.10
7.05
点数(点)
7.00
6.90
6.80
6.70
6.70
6.60
6.50
W群
図 7
L群
ディフェンス点における勝敗別の平均値
25
図 8 は勝敗間 の基準 点別の 頻度を 比較し た図で あり,シュー トを入 れら
れた場合,どの評価においてもL群が高く,相手のシュートが外れた場合
の 基 準 値 9, 10 は W 群 の 値 が 高 い 結 果 と な っ た .
50%
46.3%
45%
42.4%
40%
頻度(%)
35%
30%
W群
25%
20%
15%
10%
16.9%
12.1%
15.5%
9.9%
5%
L群
17.9%
1.6%
17.1%
2.2%
6.3%
5.2%
2.2%
2.8%
0%
1
3
4
6
7
9
基準値
図 8
勝敗間による基準点別頻度の比較
26
10
(3) 失 点 別 デ ィ フ ェ ン ス 評 価 点 の 比 較
図 9 は,ディフェンス評価点における失点別の平均値を示した.失点が
5 9 点 以 下 の D E F 点 の 平 均 7 . 2 4 で あ り ,失 点 が 8 0 点 以 上 の 平 均 6 . 6 1 及 び ,
失 点 が 70 点 台 の 平 均 7.02 よ り も 高 い 傾 向 が み ら れ た . ま た , 失 点 が 60
点 台 の 平 均 7.02 と な り , 失 点 が 80 点 以 上 の 平 均 値 に 比 べ , 高 い 傾 向 が み
られた.
図 1 0 は 失 点 が 最 も 高 い 群 ( 8 0 点 以 上 )と 低 い 群 ( 5 9 点 以 下 ) の 基 準 値 の 頻
度を比較したグラフであるが基準値別の頻度に有意な差は見られなかった.
点数(点)
7.30
7.20
7.10
7.00
6.90
6.80
6.70
6.60
6.50
6.40
6.30
6.20
7.24
7.02
6.76
6.61
59点以下
図 9
60点台
70点台
80点以上
失
点
ディフェンス評価点における失点別の平均値
27
頻度(%)
50%
45%
40%
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
48%
25%
59点以下
13%
5%
1
3
4
6
80点以上
9%
7
基準値
図 10
シュートが入った場合ディフェンス点における失点別の平均値
(4) 対 戦 相 手 別 デ ィ フ ェ ン ス 評 価 点 の 比 較
図 11 は 対 戦 相 手 別 の デ ィ フ ェ ン ス 評 価 点 を 比 較 し た グ ラ フ で あ る . 対
戦 相 手 が ア イ シ ン A W ウ イ ン グ ス の 場 合 デ ィ フ ェ ン ス 評 価 点 は 7.18 と 最
も 高 い 値 で あ り , ト ヨ タ ア ン テ ロ ー ブ ス は 6.74 と 最 も 低 い 値 を 示 し た .
点数(点)
7.30
7.15
7.20
7.10
6.97
7.00
7.00
6.87
6.90
6.80
7.18
6.78
6.74
6.70
6.60
6.50
トヨタ
富士通
シャンソン
デンソー
JAL
チーム名
図 11
対戦相手別ディフェンス評価基準
28
三菱
アイシン
図 12 は デ ィ フ ェ ン ス 評 価 点 が 最 高 値 で あ る ア イ シ ン A W ウ イ ン グ ス と
最低値のトヨタアンテローブスの得点された基準値別の頻度である.基準
値 1 は ,ト ヨ タ ア ン テ ロ ー ブ ス 5 0 . 8 % ,ア イ シ ン AW ウ イ ン グ ス 4 3 . 2 % と
最も大きい差を示した.また基準値 6 についてもトヨタアンテローブス
1 7 . 1 % , ア イ シ ン AW ウ イ ン グ ス 11 . 0 % と い う 結 果 と な っ た .
60%
51%
50%
43%
頻度(%)
40%
29%
23%
30%
トヨタ
アイシン
17%
20%
11%
10%
6%6%
11%
3%
0%
1
3
4
6
7
基準値
図 12
アイシン及びトヨタの得点時の基準値別ディフェンス評価点の比較
29
3. 考 察
(1) 基 準 値 1 及 び 基 準 値 3 か ら 見 る デ ィ フ ェ ン ス の 評 価
表 2 よ り ,基 準 値 1 が 44.5% と 高 い 割 合 を 占 め て お り ,次 い で ,基 準 値
3 が 28.9% と 高 い 割 合 を 占 め て い る こ と か ら , マ ッ チ ア ッ プ マ ン に 対 す る
デ ィ フ ェ ン ス が 不 十 分 で あ る こ と が 示 唆 さ れ る .図 8 の 勝 敗 間 に よ る 基 準
点 別 頻 度 の 比 較 か ら 基 準 値 1 に 着 目 す る と ,W 群 に 比 べ L 群 の 値 が 高 く な
っ て お り , 負 け て い る 試 合 ほ ど 1on 0 の 状 況 を 多 く 作 り 出 さ れ , 相 手 に 成
功率の高いシュートを放たれていたと考えることができる.
2 0 0 9 - 2 0 1 0 シ ー ズ ン の J OM O サ ン フ ラ ワ ー ズ の 3 6 戦 の 戦 績 は 2 9 勝 7
敗と,シーズンを通して同リーグに所属するチームでトップの勝率である
が,7 敗のうちトヨタアンテローブスに 3 敗をしており,W リーグレギュ
ラ ー シ ー ズ ン に 関 し て 言 え ば ,ト ヨ タ ア ン テ ロ ー ブ ス は J O M O サ ン フ ラ ワ
ーズを上回る戦績であった.トヨタアンテローブス戦の敗因としては,デ
ィ フ ェ ン ス 評 価 か ら ,基 準 値 1 が 5 0 % 以 上 と 高 い 頻 度 を 占 め て お り ,相 手
に 1on0 を 作 り 出 さ れ , 成 功 率 の 高 い シ ュ ー ト を 放 た せ て し ま っ た こ と が
一 つ の 要 因 と し て 考 え ら れ る .1 o n 0 の 状 況 は ,簡 単 な イ ン タ ー セ プ ト か ら
出たファストブレイクやオフェンスリバウンドからのイージーシュート,
パスカットなど一部は不注意から生まれ,一部は判断ミスから生まれると
言 わ れ て い る ( ク ラ ウ ス ・ ピ ム , 2 0 1 0 ,p . 1 2 7 ) . こ の こ と か ら , 自 チ ー ム に お
けるオフェンスにおいてターンオーバーが多かったことが示唆される.同
30
等の力を持ったチーム同士の対決において,このようなイージーシュート
を許す ことが 勝因と なりう るとも 言われ ている ことか ら,こ の基準値 1 の
頻度が高いことは勝敗に大きく影響すると考えられる.
次に,基準値 3 の頻度が高いことは,マッチアップマンに対してディフ
ェ ン ス が 1 a r m a w a y で 位 置 し な い こ と を 示 し て い る . 倉 石 ( 2 0 0 9 ) は ,「 ボ
ー ル を 持 っ て い る プ レ イ ヤ ー ,す な わ ち ボ ー ル マ ン に プ レ ッ シ ャ ー を か け ,
自 由 に プ レ イ さ せ な い こ と が と て も 大 切 」 と 述 べ , Meyer(2010)は 「 ボ ー
ルマンには常にタイトにつき,シュートを打たせない位置でプレッシャー
をかけなければならない」とマッチアップマンについて言及している.こ
れ ら を 踏 ま え る と , 相 手 の マ ッ チ ア ッ プ マ ン に 1arm away よ り 距 離 を 置
いて位置することにより,シュート成功率を上げる要因となるだけでなく
パスやドリブルなど相手の意図する攻撃を許すことが示唆される.マッチ
アップマンに対しては絶えずプレッシャーを与え続け,簡単に得点の機会
を 与 え な い こ と が 重 要 で あ る (ウ ド ゥ ン ,2000).
(2) 項 目 別 に 見 る デ ィ フ ェ ン ス 評 価
勝 敗 別 の デ ィ フ ェ ン ス 点 の 平 均 値 は W 群 が 7 . 0 5 ,L 群 が 6 . 7 0 で あ っ た .
J OM O サ ン フ ラ ワ ー ズ の 全 3 6 試 合 中 , 敗 戦 し た 7 戦 の う ち 6 試 合 は 平 均
値 6 . 9 7 よ り も 低 い 値 を 示 し て い る こ と か ら ,こ の デ ィ フ ェ ン ス 評 価 法 が 勝
敗 と 関 係 し て い る こ と が わ か る . L 群 は W 群 に 比 べ , 基 準 値 1~ 4 の 頻 度
31
が 高 く , 基 準 値 6~ 7 が 低 く な っ て い る こ と か ら , マ ッ チ ア ッ プ マ ン の デ
ィフェンスができていないことが示唆される.このようにディフェンス評
価法を用いることによって,ディフェンスにおける敗因を探ることが可能
となる.
次の項目として,ディフェンス評価の失点別の平均値は,失点が少ない
場 合 , 基 準 値 9 及 び 基 準 値 10 が 多 い た め , デ ィ フ ェ ン ス 評 価 点 が 高 く な
る の は 然 る べ き 結 果 で あ る .そ こ で 図 7 に 失 点 が 多 い 場 合 ,8 0 点 以 上 の 場
合 と 59 点 以 下 の 場 合 の 平 均 値 を 基 準 値 1~ 7 の シ ュ ー ト が 入 っ た 場 合 に 注
視 し て 比 較 し た .基 準 値 1 ~ 4 に ほ と ん ど 差 は 見 ら れ な か っ た が ,基 準 値 6
及 び 基 準 値 7 で 8 0 点 以 上 失 点 し て い る と き の 頻 度 が 3 ~ 4 % 高 か っ た .こ
の 原 因 と し て , Lapchick(2010)が 「 ド リ ブ ラ ー に 対 す る デ ィ フ ェ ン ス に つ
いて,ゴールに近い位置でなければ,ドリブラーからある程度のスペース
をとることでドリブラーについていくことができる」と言っていることか
ら , マ ッ チ ア ッ プ マ ン に 対 し て 1armway よ り も 近 く 位 置 し た こ と に よ っ
てシュートは防げたもののドリブルに追いつくことができず,相手にゴー
ル方向に向かって放つシュートを許してしまったと考えられる.
(3) 対 戦 相 手 に 別 に 見 る デ ィ フ ェ ン ス 評 価
2 0 0 9 - 2 0 1 0 年 シ ー ズ ン を 通 し て 対 戦 相 手 が , ア イ シ ン AW ウ イ ン グ ス の
時 に 7.18 と 一 番 よ い デ ィ フ ェ ン ス 評 価 と な っ た . 基 準 値 3 の 頻 度 が 高 い
32
こ と か ら , ア イ シ ン AW ウ イ ン グ ス と 対 戦 す る 時 の 課 題 は コ ン テ ス ト す る
ことである.また対戦相手別のディフェンス評価点の平均が最も低かった
ト ヨ タ ア ン テ ロ ー ブ ス に 関 し て は 基 準 値 1 に 50.8% と 半 数 以 上 を 占 め て い
ることから,ディフェンスがオフェンスと対峙していない状況や,ファス
ト ブ レ イ ク viや リ バ ウ ン ド シ ュ ー ト の よ う に 相 手 に 簡 単 に シ ュ ー ト を 放 た
れ得点になったシチュエーションが多かったと言える.ボールマンをマッ
チアップするディフェンスは,常にタイトについていなければならないと
言 わ れ ( ク ラ ウ ス ・ ピ ム , 2 0 1 0 ) ,相 手 に 良 い 形 で シ ュ ー ト を 放 た れ る こ と を
防 が な け れ ば な ら な い .基 準 値 7 に つ い て も 低 い 値 を 示 し て い る こ と か ら
もゴールにから遠ざかるシュートを放っており,相手にゲームプラン通り
でないシュートを打たせていないことがうかがえる.
フ ァ ス ト ブ レ イ ク : 1 対 0, 2 対 1, 3 対 2 ま で を 示 し て お り , 1 対 1 や
2 対 2 で も デ ィ フ ェ ン ス が は っ き り 守 れ な い ま ま 攻 め ら れ た 場 合 .( 1 )
vi
33
Ⅳ まとめ
本 研 究 の 目 的 は ,チ ー ム・デ ィ フ ェ ン ス に つ い て 定 量 的 な 基 準 に 基 づ く ,
評価法を提案することである.
「 記 録 す る 人 が 誰 で あ っ て も ,ほ ぼ 正 確 に 記
録 す る こ と が で き る 基 準 を 設 け る こ と が 必 要 で あ る 」と 言 わ れ る よ う に ( 宮
副 ,2007), 分 析 者 の 経 験 値 に 関 わ ら ず , 万 人 が 評 価 で き る 基 準 値 を 設 け る
こ と が 重 要 で あ る と 考 え た た め で あ る . そ し て , 2009-2010 年 シ ー ズ ン の
J OM O サ ン フ ラ ワ ー ズ の 3 6 試 合 を 対 象 に , 本 研 究 で 提 案 す る デ ィ フ ェ ン
ス評価法を用いて,妥当性のある評価法であることを証明した.
分析方法は,ゾーンディフェンスやマンツーマンディフェンス,プレス
デ ィ フ ェ ン ス に 関 わ ら ず ,デ ィ フ ェ ン ス の 最 終 局 面 で 1 対 1 の 対 峙 す る 状
況に特化し,ディフェンス評価法を提案する.相手の攻撃が得点に至らな
か っ た 場 合 ,「 シ ュ ー ト を 放 っ た 」 か 「 シ ュ ー ト に 至 ら な か っ た 」 の 2 段
階に基準値を区分した.得点を許した場合は,シュート局面のディフェン
スの状況について 5 段階の評価基準値を設けた.
事 例 研 究 の 結 果 ,勝 敗 別 の デ ィ フ ェ ン ス 点 の 平 均 値 は W 群 が 7 .0 5 ,L 群
が 6 . 7 0 で あ っ た .J O M O サ ン フ ラ ワ ー ズ の 全 3 6 試 合 中 ,敗 戦 し た 7 試 合
の う ち 6 試 合 は 平 均 値 6.97 よ り も 低 い 値 を 示 し て い る こ と か ら , こ の デ
ィフェンス評価法が勝敗と関係性を持つことが示唆される.L群はW群に
比 べ ,基 準 値 1 ~ 4 の 頻 度 が 高 く ,基 準 値 6 ~ 7 が 低 く な っ て い る こ と か ら ,
負 け た 試 合 に 関 し て ,J O M O サ ン フ ラ ワ ー ズ は マ ッ チ ア ッ プ マ ン の デ ィ フ
34
ェンスができていなかったと考える.このように,今回提案したディフェ
ンス評価法はディフェンスにおける敗因を探ることの手掛かりとなり,チ
ームにおけるディフェンス課題を発見することができた.
本研究では,シュートが入った場合のディフェンス動作のみ細分化を行
っ た . し か し , 研 究 を 進 め て い く 上 で , シ ュ ー ト が 外 れ た 場 合 (基 準 値 9)
や 相 手 が オ ー プ ン の 状 態 (基 準 値 1)の 細 分 化 を 行 う こ と に よ り ,デ ィ フ ェ
ンス評価に差異が生まれ,より具体的で妥当性のある評価を行えることが
示唆される.また,本研究の評価は,個々のシュート時のアプローチ方法
のみに注視してきたことにより,個人の技術は実証することができたもの
の ,バ ス ケ ッ ト ボ ー ル は 5 人 対 5 人 で 競 い 合 う チ ー ム ス ポ ー ツ で あ る た め ,
複合的な視点を持つことは不可欠である.今後,チームのシステム的な部
分を加味した評価法を提案することが課題として挙げられる.
35
謝辞
本論文を執筆するに当たり,指導教官として終始御懇篤なご指導を賜り
ま し た ,主 査 の 倉 石 平 先 生 に 深 甚 な る 感 謝 を 申 し 上 げ ま す .本 論 文 に 対 し ,
多くの助言を賜りました副査の堀野博幸先生,吉永武史先生に心から感謝
いたします.
また,本研究の参考資料として,データを提供してくださったJOMO
サンフラワーズの皆様に,心より感謝いたします.
そして本研究遂行にあたり,日々心身ともにサポートしてくださった,
早稲田大学スポーツ科学学術院倉石研究室の皆様に心よりお礼申し上げま
す.
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