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3 環境に配慮した施肥技術

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3 環境に配慮した施肥技術
3 環境に配慮した施肥技術
1.土壌診断による適正施肥
1)意義
農耕地土壌は、農業生産の基礎であり、その土壌の性質や養分を適正に保つことは、農業の生産性を確
保・向上させ、農業経営の安定化を図る上で極めて重要である。
窒素でみると、農作物に供給される窒素が不足すると生育・収量が不良となり、過剰になると過繁茂状
態となって病気に対する抵抗力の低下や品質の低下等を招く。また、過剰な窒素分の地下水への溶脱や河
川への流入も生じ、自然環境にも負荷を与える。
従って、環境に配慮した農業を行うためには、まず、土壌診断を実施し、土壌の物理性や土壌養分等の
化学性を好適に保ち、診断結果に基づく適正施肥を行うことが必要である。そして、このことは施肥の低
コスト化にもつながる。
2)土壌診断の手順
手順
情報
事前調査
調査地点の土壌特性の把握
農家に対する聞き取り調査
土壌型の分布状況
施肥管理の履歴
栽培作物の履歴
現地調査・分析
土壌調査・採取
土壌分析
作土深、土性等の土壌
簡易断面・物理性
土壌の化学性
診断・指導
土壌診断(処方箋作成)
施肥改善現地指導
土壌物理性の改善方法
土壌改良資材の投入量
効率的な適正量施肥
3)土壌診断
(1)簡易断面・物理性の診断
①作土深、有効土層
[作土深]
作土の根を支え、養分や水分を保持する層位。耕耘や施肥、灌水など作物を栽培するために、人為的な
作用を大きく受けている土層である。そのため、下層と比較して、膨軟で有機物が多く、養分に富んでい
る。従って、圃場整備の際は、表土扱いをして、あらかじめ作土層を取り除いておき、整備終了後に、元
に戻す工夫をとることが望ましい。作土の深さは 15cm∼20cm 以上は必要である。
[有効土層]
農作物の根がかなり自由に貫入できる土層をいう。基岩や盤層があるいは、ち密度が 29mm 以上示す厚さ
10cm 以上の土層、又は極端な礫層、湧水面等が存在すれば、地表からその上層までと考えられる。有効土
層は普通畑では 60cm 以上、果樹園や茶園では 1m 以上であることが望ましい。
②土性
土壌中の砂、シルト、粘土がどの程度の割合で存在しているかを表す尺度である。土壌の層位から採取
した小土塊に、可塑性が最大になるように適量の水を加えたのち、親指と人差し指の間でこねて、砂の感
触の程度、粘り具合、また、どの程度まで長くのばせるかなどを調べ目安表に従って判定する。
土性を判定することによって、耕耘の難易、土壌の通気性、排水性、保水力、保肥力が判断できる。
表 土性判定の目安
判定法
ほとんど砂ばかりで、ねばり気を全く感じない。(棒にも箸にもならない)
砂の感じが強く、ねばり気はわずかしかない。
ある程度砂を感じ、ねばり気もある。砂と粘土が同じくらいに感じられる。(鉛筆
くらいの太さにできる。)
砂はあまり感じないが、サラサラした小麦粉のような感触がある。
わずかに砂を感じるが、かなりねばる。(マッチ棒くらいの太さになる。)
ほとんど砂を感じないで、よくねばる。(コヨリのように細長くなる)
砂を感じないで、非常によくねばる。
土性
砂土(S)
砂壌土(SL)
壌土(L)
シルト質壌土(SiL)
埴壌土(CL)
軽壌土(LiC)
重埴土(HC)
(土壌調査ハンドブック 2003)
表 土性別の理化学的特徴
区分
砂質
壌質
粘質
強粘質
耕耘の難易
易
易
やや難
難
通気性
大
中
小
小
排水性
大
中
小
極小
保水力
小
中
大
小
保肥力
小
中
やや大
大
(土壌診断の方法と活用)
③土色
土色は、土壌の最も重要な形態的特徴の一つで有り、化学性、物理性、生物的性質と密接に関係してお
り、土壌を同定するために有効かつ重要な特徴である。土色の表示はマンセル表色系に準じた新版標準土
色帖(農林水産省農林技術会議監修)を用いて行う。土色は、色相(色み(赤、黄、青))、明度(色の明暗)、
彩度(色の強さ、あざやかさ)の三属性で表示される。土色を調べようとする層位の中で、代表的な色調の
部分を調査用コテの先端にとり、軽く押しつぶしてから、土色帖の色片と対比する。
土色は、腐植の多少と鉄化合物の形態によって支配され、一般に黒色味の強い土は腐植に富み、赤色味
の強い土は酸化的、青∼緑色系の土は還元的である。
このように土色を判定することによって、有機物の投入状況や排水性の良・不良が判断できる。
排水不良の水田(畑)の下層に出現する暗青色、暗緑色、緑灰色の層をグライ層と呼ぶ。これは、停滞水
によって還元が進み、鉄が 2 価(Fe⁺⁺)となって発色したものである。グライ層が浅い位置に出現すると、
畑作物の根の伸長阻害が阻害されるので注意する。
表 腐植含量区分と判定の目安
区分
腐植含量
土色(明度)
あり
2%以下
明度(5∼7)
含む
2∼5%
やや暗色(4∼5)
富む
5∼10%
黒色(2∼3)
すこぶる富む
10∼20%
いちじるしく黒色(1∼2)
腐植土
20%以上
軽しょうで真黒色(2 以下)
「あり」のうちごく少量と判断されるものは「なし」としてもよい。 (土壌調査ハンドブック 2003)
④礫
石礫の含量は、土壌断面の各層位について、石礫の大きさ及び面積割合で、下のように区分する。
礫の大きさや含量は、土壌の乾湿、耕耘の難易、根の張りなどに影響するので、必要があれば除礫を行う。
巨岩
巨礫
大〃
中〃
小〃
細〃
(大きさの名称)
(径 30cm 以上)
(〃20∼30cm)
(〃10∼20cm)
(〃5∼10cm)
(〃1∼5cm)
(〃0.2∼1cm)
(面積割合)
なし
あり
(5%未満)
含む
(5∼10%)
富む
(10∼20%)
頗る富む
(20∼50%)
礫層
(50%以上)
⑤ち密度(硬度)
土壌の硬さを土壌硬度計で測定した値で示す。土層における土壌粒子の程度を表す。生産力の高い土壌
では、作土直下の有効土層は 12∼18 位の値が多い。例えば、18mm という数値は、だいたい親指が容易に
差し込める硬さである。値が高いと土壌が硬くなり根の伸長が阻害されるため、作物の生育に大きな影響
を及ぼす。農作物の根の伸長にとって、好適な硬さの基準は、根の肥大を必要とする根菜類では、18mm 以
下、施設における花きは 17mm 以下であるが、他の農作物は土壌の種類に関係なくほぼ 20∼22mm 以下であ
る。
⑥地下水面
土壌断面において、湧水の上昇がほぼ停止した水面までの深さを示す。水面が一時的な停滞水位である
か、安定した地下水位であるか、また伏流水であるかの判定は困難である。聞き取り等で確認する。通常
は、斑紋の形成されている灰色の層の上端が地下水の毛管帯の上限であり、グライ層は常に水でほぼ飽和
されている層とみなされる。
表1 作物別の栽培可能な地下水位の例(目安)
地下水位
30∼40cm 以下
50∼60cm 以下
100cm 以下
作 物 名
大豆、ナタネ、トウモロコシ、落花生、小豆、ヤマトイモ、ナス、ニ
ンニク、サトイモ、ショウガ、キュウリ、ピーマン、コカブ、オクラ、
シロウリ、イチゴ、キャベツ、ハクサイ、イタリアンライグラス
小麦、えん麦、ソバ、ホウレンソウ、ニンジン、スイカ、レタス、ブ
ロッコリー、アルファルファ、オーチャードグラス
ナガイモ、ゴボウ、ブドウ、カンキツ類
*地下水位は時期によって変動するので、畑の片隅に 60cm 程度の縦穴を掘るなどして、作物栽培期間の
地下水位の変動を確認すると良い。
(2)化学性の診断と改善のための診断基準(目安)
①pH
土壌の酸度をあらわし、1∼14 に区分され、7 が中性、7 以下が酸性、7 以上をアルカリ性と呼ぶ。
最適 pH は作物によって異なる。また、pH は農作物の養分吸収に影響を与えるため養分の欠乏症や過剰症
の一因ともなる。
表 各品目の生育好適 pH
作物名
水稲
オオムギ
コムギ
エンバク
ライムギ
アズキ
インゲン
エンドウ
トウモロコシ
ソバ
カンショ
バレイショ
葉タバコ
アルファルファ
イタリアンライグラス
pH
5.0∼6.5
6.5∼8.0
6.0∼7.5
5.5∼7.0
5.5∼7.0
6.0∼6.5
5.5∼6.7
6.0∼7.5
5.5∼7.5
5.0∼7.0
5.5∼7.0
5.0∼6.5
5.5∼7.5
6.0∼8.0
6.0∼6.5
作物名
ソルゴー
ダイコン
カブ
ニンジン
サトイモ
ハクサイ
キャベツ
ホウレンソウ
タマネギ
ナス
トマト
キュウリ
カボチャ
イチゴ
スイカ
pH
5.5∼7.0
6.0∼7.5
5.5∼6.5
5.5∼7.0
5.5∼7.0
6.0∼6.5
6.0∼7.0
6.0∼7.5
5.5∼7.0
6.0∼6.5
6.0∼7.0
5.5∼7.0
5.5∼6.5
5.0∼6.5
5.5∼6.5
作物名
レタス
カリフラワー
アスパラガス
キク
カーネーション
ミカン
ビワ
ブドウ
ナシ
モモ
ブルーベリー
キウイフルーツ
茶
pH
6.0∼6.5
5.5∼7.0
6.0∼8.0
6.0∼7.5
6.0∼7.5
5.0∼6.0
5.5∼6.5
6.0∼6.8
6.0∼7.0
5.0∼6.0
4.0∼5.0
6.0∼6.5
4.0∼5.0
表 養分の有効性に対する pH の影響
過剰症
欠乏症
酸性
アルミニウム、マンガン
(石灰、苦土)、リン酸、モリブデン
アルカリ性
−
マンガン、ホウ酸、鉄、銅、亜鉛等
(改善対策)
・土壌の pH が作物の適正値より低い場合
土壌のpHが目的とする作物の生育に最適なpH範囲より低い場合には石灰質肥料などを施用する必要がある。
必要な石灰(アルカリ分)の量は緩衝曲線を作成して求めるのがよい。また、アレニウス表を用いて施用量を
算出し、目安にすることができる。
土性
表 アレニウス表による酸性矯正用炭カル施用量(kg/10a)
腐植\pH
砂壌土
壌土
埴壌土
埴土
含む
富む
すこぶる富む
含む
富む
すこぶる富む
含む
富む
すこぶる富む
含む
富む
すこぶる富む
腐植土
(矯正目標 6.5(H₂O) 10a 深さ 10cm 当たり)
4.0
4.2
4.4
4.6
4.8
5.0
5.2
5.4
5.6
5.8
6.0
6.2
424
634
986
634
844
1268
844
1054
1549
1054
1268
1830
2063
390
581
908
581
776
1166
776
971
1425
971
1166
1684
1898
356
533
829
533
709
1065
709
885
1301
885
1065
1538
1733
323
480
750
480
641
964
641
803
1178
803
964
1391
1568
289
431
671
431
574
863
574
716
1054
716
863
1245
1403
255
379
593
379
506
761
506
634
930
634
761
1099
1238
221
330
514
330
439
660
439
548
806
548
660
953
1073
188
278
435
278
371
559
371
465
683
465
559
806
908
154
229
356
229
304
458
304
379
559
379
458
660
743
120
176
278
176
236
356
236
296
435
296
356
514
570
86
128
199
128
169
255
169
210
315
210
255
368
413
53
75
120
75
101
154
101
128
188
128
154
221
248
6.4
15
26
41
26
34
53
34
41
64
41
53
75
83
*消石灰施用の場合は 0.74 を乗じた量を施用する。火山灰土の場合は普通土より比重が軽いので、この量より 30%内外
を減じた方が良い。
*腐植含量は表を参考にする。
*この簡易法では緩衝能の大きな土壌などでは誤差を生じるが、実際には定期的に土壌pHを計って記録しておき施用量
との関係をみて補正すればよい。
・土壌の pH が作物の適正値より高い場合
高 pH の原因を検討し、原因に応じた対策をとる。石灰質資材等の多施用の場合は減肥やクリーニングクロッ
プ等を行う。pH を下げるだけの目的には、硫黄華の施用や pH 調節剤の施用が考えられるが、施用に際して
は十分に検討する。
②EC(電気伝導度)
土壌中の水溶液塩類の総量を表す。単位は ms/cm(dSm-1)で表す。
EC は通常、硝酸態窒素含量との間に正の相関関係がみられ(EC 値が高いときは、硝酸性窒素を多く含む場
合が多い)、土壌中の硝酸態窒素含量の推定に有効である。EC を目安に基肥窒素の施用量を加減すること
ができるため、簡易分析の施肥設計は EC 値を用いて行う。EC 値が高すぎると、塩類濃度障害(肥料やけ)
を起こしやすいので注意が必要である。塩類濃度に対する抵抗性は作物によって異なる。
EC 値からの基肥窒素の施用量の目安を表に示す。利用に際しては、品目(品種)、栽培期間の気象予測、
栽培土壌の物理性、これまでの栽培経験等を踏まえて十分に検討し施肥量の調整を行う。
表 施肥前 EC 値による基肥(N,K)施肥量補正の目安
土壌の種類
腐植質黒ボク土
粘質・細粒沖積土
砂質土(砂丘未熟土)
0.3 以下
基準施肥量
基準施肥量
基準施肥量
0.4∼0.7
10∼30%減肥
10∼30%減肥
20∼50%減肥
EC 値
0.8∼1.2
1.3∼1.5
1.6 以上
30∼50%減肥
50∼60%減肥
無施用を検討
30∼60%減肥
無施用を検討
無施用を検討
50∼80%減肥
無施用を検討
無施用を検討
(土壌診断の方法と活用に加筆)
○pH 値と EC 値から推測できる土壌の化学的状態
pH 値\EC 値
pH が低い
pH が高い
EC が低い
塩基分・窒素分ともに不足の
可能性
塩基は十分で、窒素分が不足
の可能性
EC が高い
窒素分多く、硝酸化成が進んで
いる可能性
窒素分・塩基分が十分でアンモ
ニアのままの可能性
③CEC(陽イオン交換容量又は塩基置換容量)
交換性の石灰、苦土、加里、アンモニア等養分を保持できる容量を示す。砂土は小さく、埴土は大きく
なる。単位はミニグラム当量(me)で表す。CEC は土性や粘土鉱物の種類によって大小が異なる。一般的に
は土性が粗粒質の時に小さく、粘土鉱物ではモンモリロナイト及び腐植含量が多い土壌は大きい。一般的
には 60∼80%を適正範囲として施肥管理を行うことが重要である。
表 土壌の種類と代表的な CEC 値
土壌の種類
CEC
淡色黒ボク土
15∼25
腐植質黒ボク土
20∼30
多腐植質黒ボク土
30∼40
褐色森林土
10∼25
灰色低地土
15∼25
表 土壌の状態と塩基飽和度
土壌の状態
塩基飽和度%
養分不足
40 以下
やや養分不足
40∼60
ほぼ適正養分
60∼80
養分過剰
80∼100
非常に養分過剰
100 以上
④塩基状態の改良目標
土壌中の塩基状態の改良目標は、塩基飽和度と塩基組成で表される。塩基飽和度とは土壌の陽イオン交
換容量(CEC)中でカルシウム、マグネシウム、カリウムが占める割合であり、重量比で含量を測定した場
合には当量値を計算し、
これの合計を CEC で割って求める。
塩基組成はこの 3 成分の当量値の比率で表す。
一般に、塩類単独での過剰症は現れにくいが、過剰になると、pH 高くなり過ぎたり、あるいは他の塩基
成分の吸収を阻害して欠乏症を引き起こす場合がある。従って、塩基類は濃度ばかりでなく、他の塩基と
のバランスが重要である。作物によるカリウム、カルシウム、マグネシウムの吸収は相互に抑制的働く。
(拮抗作用)
*塩基飽和度の改良目標値(地力増進指針)
水 田
灰色低地土
70∼90%
黒ボク土
60∼90%
普通畑
森林褐色、灰色低地土
70∼90%
黒ボク土
60∼90%
樹園地
茶園以外
50∼80%
茶園
25∼50%
*塩基組成(カルシウム:マグネシウム:カリウムの当量比)=(65∼75):(20∼25):(2∼10)
⑤土壌診断に基づいたリン酸、加里の施肥量減肥の目安
土壌診断に基づく、リン酸、加里の減肥の目安を示す。なお、現地実証事例が非常に少ないので、導入
に際しては、安全率を加味する等十分な検討が必要である。
表 土壌分析値に基づいたリン酸・加里の施肥量の目安
可給態リン酸
リン酸の施肥量
(mg/100g)
(kg/10a)
∼10
施肥基準+土づくり資材・肥料
水田土壌
10∼20
施肥基準
20∼
4∼5kg(収奪相当量)
∼10
施肥基準+土づくり資材・肥料
畑地土壌
10∼100
施肥基準
100∼
減肥∼無施用検討
∼10
施肥基準+土づくり資材・肥料
樹園地土壌
10∼30
施肥基準
30∼
減肥∼無施用検討
加里飽和度
(%)
∼3.6
3.6∼6.0
6.0∼
∼3.6
3.6∼6.0
6.0∼
∼3.6
3.6∼4.2
4.2∼
加里施肥量
(kg/10a)
施肥基準+土づくり資材・肥料
施肥基準
減肥∼無施用検討
施肥基準+土づくり資材・肥料
施肥基準
減肥∼無施用検討
施肥基準+土づくり資材・肥料
施肥基準
減肥∼無施用検討
(岡山県)
表 2 野菜類の可給態リン酸の測定値に基づくリン酸施肥量補正の目安
可給態リン酸
リン酸肥料
診断
(mg/100g)
施用量の補正
少ない
10 以下
基準施肥量+土づくり肥料
やや少ない
10∼20
基準施肥量
適正
20∼50
基準施肥量
やや多い
50∼80
10∼20%の減肥を検討
多い
80∼100
20∼50%の減肥を検討
過剰
100 以上
リン酸無施用を検討
(土壌診断の方法と活用に加筆)
2.栄養診断による適正施肥
1)栄養診断の意義
作物は、品目や品種によって必要とする養分の種類や量が生育ステージに応じて、固有のパターンを示
す。
このため、作物の養分吸収パターンに合った施肥を行うことで効率的な施肥管理を行うことができる。
作物の養分吸収パターンに合っているかどうかの判断には、作物の栄養状態を示す基準の設定が必要であ
り、現在、各品目、品種ごとに葉色、体内窒素濃度等について生育時期に応じた適切基準のための検討が
行われている。
しかし、各地域で土壌、気象条件や品種、作型等が異なっていることから、地域の特性や前作等も考慮
した栄養診断であることが望ましい。
2)リアルタイム栄養診断による適正施肥
一般的に園芸作物での施肥管理は、前作の収穫終了後に土壌養分を把握し、養分の残効に応じて次の作
付けの施肥設計を行っている。従って、基肥施用の調整が主体であり、追肥は樹勢に応じた達観による場
合が多く十分な診断とはいえないと思われる。
これらのことから、作物体の葉柄等の汁液の養分濃度を逐次簡易に分析することで、リアルタイムに作
物の栄養状態を把握し、追肥施用の要否の判断等につながる方法としてリアルタイム栄養診断が開発され
ている。この診断法は、過剰な追肥が防げるため、環境にやさしくコストの低減も期待できる。
野菜や花きについてのリアルタイム栄養診断は、全国の研究機関で研究が行われており、野菜ではキュ
ウリ、トマト、ナス、イチゴなど、花きではバラ、カーネーション、トルコギキョウ、キクなどの硝酸イ
オン濃度についての基準(目安)が報告されている。ただし、前述されているように、各地域で土壌、気象
条件や品種、作型等の差異により、地域で適正範囲が異なる可能性があると思われるので、実証試験等に
より地域の実態に応じた基準を確立する必要がある。
(1)汁液診断の特徴
一般的に土壌養分の増加に伴って作物体内養分含量は高くなり、直線的に生育量も多くなるが、体内養
分がある一定含量になると生育量は平衡状態になり、更に、含量が高くなると養分過剰のために生育量は
低下してくる。耐肥性の強いキュウリ、ナスでは、平衡状態の幅は広いが、耐肥性の弱いイチゴでは、収
量が低下する。従って、この診断方法では生育・収量が直線的に増加した直後の漸増又は平衡状態になっ
た時の植物体養分を明らかにする必要がある。
野菜の多くは、土壌からの硝酸イオンの形で窒素を吸収し、吸収された硝酸イオンは植物体内で、アン
モニア、アミノ酸を経てタンパク質に合成される。植物体内の硝酸イオンは窒素の栄養条件の差により大
きく変動する要素をもっていることから、この硝酸を指標に栄養診断を行う。
(2)葉柄汁液の採種方法
作物体の葉柄と葉身を比較すると、葉身よりも葉柄が多汁であり汁液を採種しやすいため、本診断での
サンプリングに葉柄が適している。葉柄からの汁液は葉柄を 1∼2cm 前後に切断してニンニク搾り器等を
用いて採取する方法が簡単である。葉柄中の汁液が少なく、この方法で採取できない場合は、乳鉢などで
すりつぶす方法、スライスして水浸出する方法がある。また、同じ葉柄でも部位、測定時間等によって濃
度が異なるので、測定部分をあらかじめ決めておく必要がある。
(3)果菜類のリアルタイム栄養診断
表 花菜類の葉柄汁液の採取方法
作物名
キュウリ
トマト
イチゴ
メロン
葉柄汁液採取方法
14∼15 節本葉又は側枝第 1 葉の葉柄を 2cm 前後に切断してニンニク搾り器で採取す
る。
ピンポン玉程度に肥大した果実周辺の葉の葉柄を 2cm 前後に切断してニンニク搾り器
で採取する。
最新の展開葉から数えた第3葉の葉柄を 2cm 前後に切断してニンニク搾り器で採取す
る。これで採取が難しい場合は乳鉢で摩砕して採取する。
果房直下葉の葉柄を 2cm 前後に切断してニンニク搾り器で採取する。
表 果菜類のリアルタイム栄養診断基準
品目名
作型
収穫期間
促成
2 月下旬
∼6 月下旬
半促成
2 月下旬
∼6 月下旬
抑制
9 月下旬
∼11 月下旬
ピンポン玉程度の
果房直下の本葉を
先端から基部に向
けて 3 等分した先
端部もしくは中央部
の葉柄
促成長期
(12 段摘心)
2 月下旬
∼7 月下旬
夏秋
(15 段摘心)
7 月上旬
∼11 月下旬
メロン
果実直下の葉柄
半促成
7 月上旬∼
中旬
イチゴ
最新の展開葉から
数えて 3 番目
の葉柄
促成
12 月∼
5 月上旬
キュウリ
トマト
測定部分
14∼16 節の本葉
又は
その側枝第 1 葉の
葉柄
測定時期
3∼4 月
5月
6 月以降
4月
5月
6 月以降
9 月下旬
∼11 月下旬
2月
3∼4 月
5∼6 月
7 月上旬
∼9 月中旬
9 月中旬以降
定植期
開花期
果実肥大期
成熟期
収穫期
11 月上旬
1 月上旬
2 月上旬以降
(目安)
診断基準値
3500∼5000
900∼1800
500∼1500
3500∼5000
900∼1800
500∼1500
ppm
作成県
3500∼5000
埼玉
埼玉
埼玉
4000∼5000
2000∼3500
500∼1500
4000∼6000
埼玉
愛知
3000∼4000
3000∼4000
2000∼3000
5000∼6000
2000∼3000
500∼1000
2500∼3500
1500∼2500
1000∼2000
愛知
埼玉
*品種等により診断基準値(目安)は異なるので注意する。(福島県)
(4)花きのリアルタイム栄養診断
表 花きの葉柄汁液の採取方法
作物名
バラ
夏秋ギク
葉柄汁液採取方法
採取枝の下から 3,4 枚目の 5 葉の葉柄を細かく切り、30 倍量の純水を加え
乳鉢で破砕し、活性炭を加え、ろ過して汁液を採取する。
下位葉 6∼10 枚目の葉身を細切りし、20 倍量の蒸留水を加え、乳鉢などで
すりつぶし、ろ過して葉身の希釈汁液とする。
表 花きのリアルタイム栄養診断基準
品目名
バラ
(ローテ・ロ
ーゼ)
夏秋ギク
測定部分
作型
採花枝の下から 3∼4 枚目
の葉柄
−
下位葉 6∼10 枚目の葉身
(目安)
収穫時期
10 月 ∼
6月
8 月中旬∼
9 月上旬
測定時期
秋期∼冬期
春期
夏期
消灯前
(∼7月上旬)
消灯後
(7 月上旬∼)
診断基準値
900∼1500
600∼900
300∼600
作成県
千葉
3000∼6000
佐賀
6000
*品種等により診断基準値(目安)は異なるので注意する。 (リアルタイム診断と施肥管理)
(5)果樹のリアルタイム栄養診断
表 果樹の葉柄汁液の採取方法
作物名
温州ミカン
葉柄汁液採取方法
乳鉢に細断した一定量の葉柄を入れ、20 倍量の蒸留水を加えて摩砕し、
摩砕した上澄液を用いて測定する。
表 果樹のリアルタイム栄養診断基準
品目名
測定部分
作型
樹冠赤道部に当年発生
した春菜の葉柄
温州ミカン
収穫時期
10 月 ∼
6月
測定時期
7月
8月
9月
−
樹冠赤道部に当年発生
した春菜の葉柄
8 月中旬∼
9 月上旬
7 月上旬∼
8 月下旬
診断基準値
1100∼1900
1000∼2400
600∼1800
600 以上(600
以下のときは
葉面散布の必
要あり)
作成県
静岡
和歌山
*品種等により診断基準値(目安)は異なるので注意する。 (リアルタイム診断と施肥管理)
3.肥効調節型肥料の活用
肥効調節型肥料とは、作物の種類、品種や生育ステージごとに必要とされる肥料成分や量に合わせて、
1回又は数回の施肥で養分の供給が可能な化学肥料の総称をいう。肥料成分の発現効果の異なるさまざま
なタイプの肥効調節型肥料が開発されており、水稲や野菜類などの一部では、基肥一発肥料や追肥一発肥
料として実用化されている。作物の効率的な肥料成分吸収や降雨等による肥料成分の急激な溶脱抑制が可
能となるため、施肥量の節減や追肥の省力化、環境への負荷軽減に寄与できる。また、生育初期の急激な
肥効発現が抑えられるため、濃度障害も回避される。
肥効調節型肥料は以下の3種類に分類される。
1)化学合成緩効性
肥料そのものが水に溶けにくく、微生物による分解を受けにくい性質を持つもので、尿素など重合反応
により製造される。IB、CDU、ウレアホルム、グアニル尿素、オキサミドがこれにあたる。土壌中で加水
分解や微生物分解を受け有効化し、作物に利用吸収される。分解の速さは肥料の粒の大きさにより調整で
きる。
表 主な化学合成緩効性肥料の種類と性質
名称
製造原料
ウレアホルム(尿素及び
メチレン尿素系化合物の
混合物)
IB(IBDU)
(イソブチリデンニ尿素)
CDU
(クロトニリデンニ尿素)
グアニル尿素
オキサミド
尿素+
ホルムアルデヒド
尿素
+
イソブチアルデヒド
尿素
+
アセトアルデヒド
ジシアンジアミド
+
リン酸又は硫酸
アンモニア
+
窒素含量
(%)
42.4
41.2
40.5
40.2
溶解度
(kg/100g 水)
2.18
0.14
0.01
こん跡
32.1
0.1∼0.01
32.5
0.12
28.0
4
33.1
5.5
31.8
0.02
シュウ酸ジエステル
分解様式と粒効果
主として微生物分解。
造粒効果がある。
主として化学的加水分解。造
粒効果が大きい。
微生物及び化学的加水分
解。造粒効果が大きい。畑土
壌中で無機化速度大
微生物分解。たん水田土壌
で無機化速度が大。土壌吸
着性が大。
主として微生物分解。
造粒効果がある。
(県内肥料事例) CDU 複合燐加安 S555、グッドIB入りNK30 号、雲仙プリンスメロン配合(CDUS222)
、
たまねぎ特栽肥料(ハイパーCDU)等
2)被覆肥料
水溶性肥料を硫黄や合成樹脂などの膜で被覆し、肥料の溶出量や溶出期間を調節したもので、被覆チッ
ソ、被覆複合肥料がこれにあたる。被覆資材の種類や膜の厚さにより溶出量や溶出期間が異なり、かなり
の精度で作物の生育に合わせた肥効のコントロールができるものもある。
表 被覆肥料の主要銘柄と特性
コーティング材料
熱可塑性樹肥
ポリオレフィン系樹肥
熱硬化性樹脂
アルキド樹脂
ポリウレタン樹脂
無機系資材
硫黄+ワックス等
ようりん+リン酸
肥料
尿素
尿素
尿素
ジシアン尿素
ジシアン尿素
尿素
尿素
尿素
硝酸石灰
硝酸石灰
NK 化成
NK 化成
硝酸系化成
硝酸系化成
硝酸系化成
NK 化成
尿素
高度化成
高度化成
高度化成
尿素
尿素
尿素
高度化成
NK 化成
普通化成
シリーズ名
LP コート
LP コート S
LP コート SS
DdLP コート
DdLP コート S
エムコート L
エムコート H
ユーコート
ロングショウカル
スーパーショウカル
NK ロング
スーパーNK ロング
ロング
スーパーロング
ロングトータル
セラコート CK
シグマコート U
シグマコート
コープコート Fs
コープコート Fn
セラコート R
スーパーSR コート
SCU
SC
SCNK
ニッピリンコート
溶出タイプ
単純溶出
ジグモイド
ジグモイド
単純溶出
ジグモイド
単純溶出
ジグモイド
ジグモイド
単純溶出
ジグモイド
単純溶出
ジグモイド
単純溶出
ジグモイド
単純溶出
単純溶出
ジグモイド
ジグモイド
ジグモイド
ジグモイド
ジグモイド
ジグモイド
単純溶出
単純溶出
単純溶出
単純溶出
(県内事例) 有機入り LP ヒノヒカリ、LP にこまる、西海一番、水稲特栽一発肥料(LPSS100)、たまねぎ名人(LP40)、たまねぎ
特栽肥料(LPS30)、だいこん S10 号(LP40)、らくらく人参(LPS60)、きゅうり一発肥料(LPS60、110、160)、ゴーヤエース 2 号
(長期採)(LP40、LPS60、LPS120)、アスパラエース特号(被覆燐硝安 2601(140 日))、いちごロングパワー(被覆スーパーロン
グ 424(180 日)
)
、味一番特号(被覆燐硝安 2601(70 日)
、いき夏小菊 EX(LP70)、生姜エース(LP70)、小玉西瓜特号(LP40、
LPSS80)、ミニ太郎(LPS100、LPS160)等
3)硝化抑制剤入り肥料
微生物によるチッソ成分の硝酸化成作用を阻害する薬剤(AM、ジシアンジアミド、ST、ASU、ATC、DCS、
チオ尿素など)を混合することにより、チッソの流亡を防ぎ、長期間土壌中にチッソを保持できるように
したものである。人体および作物に対する安全性を確保するため、利用できる薬剤の種類を規制し、生産・
輸入登録が行われる段階で充分な審査が行われている。
(県内事例) ジシアン入り茶春肥(ジシアン LP40)、ジシアン入り茶秋肥(ジシアン LP70)、ボディーブロー(ジシアン尿素入
り)等
4.有機質資材の活用
1)家畜ふんたい肥施用技術
(1)家畜ふんたい肥の施用効果
家畜ふんたい肥等の有機物施用は、土壌の団粒化促進などの物理性改善、窒素、リン酸、加里や微量要
素などの養分の持続的な供給や土壌中の微生物活性の促進など土づくりの基本技術であり、また、地域の
有機性資源の循環による資源循環型農業を推進する点からも重要である。しかし、たい肥は多種多様であ
り、施用効果に差が認められることから、腐熟度や肥料成分等を考慮した施用が必要である。また、施用
量が多すぎると生育・品質に支障をきたしたり、窒素の地下水などへの流亡等環境に負荷をかけることも
懸念されるので、土壌診断を実施し適正な施用を図る必要がある。
表 たい肥の施用効果と他の地力維持改良対策の比較
地力構成
要素
化学性
物理性
生物性
地力維持改良
/対策
養分供給
保肥力
pH 改善
保水性
通気性(透水性)
易耕性
有用菌増加
有機物分解
病気の抑制
化学
肥料
○
×
×
×
×
×
×
×
×
無機
改良
資材
△
△
○
△
△
△
×
×
×
客土
・
深耕
△
△
△
△
○
○
×
×
△
輪作
△
×
×
×
×
△
△
×
○
たい肥
の
施用
○
○
△
○
○
○
○
○
△
(2)たい肥の種類と特性
・牛ふんたい肥
他の家畜ふんたい肥と比べて、窒素成分が低く土壌での分解が遅い。牛ふん中にリグニン含量が多いから
である。籾殻・稲ワラ牛ふんたい肥は土壌の物理性改善に有効である。
・豚ぷんたい肥
土壌に施用した場合、牛ふんよりも分解が早いが鶏ふんより遅く、これらの中間的な性質を示し、肥効的
効果と土壌有機物としての効果が半々に期待できる。
・鶏ふんたい肥
牛ふんたい肥、豚ぷんたい肥に比べると速効性である。肥効的価値は主に窒素にあり、カリウム、リン酸
も多く含まれるが、リン酸は水溶性のものが少ないので、効きはあまりよくない。採卵鶏ふんたい肥はブ
ロイラー鶏ふんに比べると窒素、リン酸、加里、特に、石灰含量が多いのが特徴である。
表 家畜ふんたい肥の成分組成
pH
乳牛
肉牛
豚
鶏
8.6
8.1
8.3
9
EC
dSm−1
2.6
2.5
3.5
4.8
全窒素
(%)
2.2
2.1
3.4
2.8
全炭素
(%)
37.6
39.1
36.7
28.9
C/N 比
アンモニア
18.1
19.8
11.9
11.1
(ppm)
307
626
1466
1239
リン酸
(%)
1.6
2.2
5.1
5.1
加里
(%)
2.7
2.5
2.5
3.6
発芽率
(%)
98
98
96
93
数字は乳牛:90 箇所(水分 52%)、肉牛:89 箇所(水分 53%)、豚:49 箇所(水分 38%)、鶏:55 箇所(水分 25%)の平均
(3)家畜ふんたい肥の腐熟度
たい肥化の程度を腐熟度といい、未熟なたい肥の施用は作物に障害を招きやすい。おが屑等を含む高 C/N
比の高いたい肥では、たい肥の分解に伴い微生物が急激に増加し、施用された無機態窒素が菌体に取り込
まれることによって、作物は施肥窒素を吸収できずに窒素飢餓を起こす。また、鶏ふんのような低 C/N 比
の有機物では、急激な分解に伴いアンモニアガスや亜硝酸ガスなどの窒素ガスが発生し、作物にクロロシ
スや黄白化等の障害を引き起こす。また、木質を含む有機物ではフェノール性酸、家畜ふんでは有機酸等
の生育阻害物質による障害がある。この他、未熟有機物を施用すると、タネバエ等の虫害やピシウム菌等
による病害を引き起こしやすくなるので注意が必要である。
従って、たい肥の施用に際しては、完熟たい肥を施用する必要がある。下記に簡易な外観による判定法
と測定による簡易腐熟度判定法を示す。
①外観品質
外観品質は表により判断される。
表 家畜ふんたい肥の外観品質評価
色
形状
臭気
水分
最高温度
たい積期間
切り返し回数
強制通気
黄∼黄褐色(2)、褐色(5)、黒褐色∼黒色(10)
現物の形状をとどめる(2)、かなりくずれる(5)、ほとんど認めない(10)
糞尿臭強い(2)、糞尿臭弱い(5)、たい肥臭(10)
強く握ると指の間からしたたる・・・70%以上(2)
強く握ると手のひらにかなりつく・・・60%前後(5)
強く握っても手のひらにあまりつかない・・・50%前後(10)
50℃以下(2)、50∼60℃(10)、60∼70℃(15)、70℃以上(20)
家畜糞だけ・・・20 日以内(2)、20 日∼2 ヵ月(10)、2 ヵ月以上(20)
作物収穫残さとの混合物・・・20 以内(2)、20∼3 ヵ月(10)、3 ヵ月
以上(20)
木質との混合物・・・20 日以内(2)、20∼2 ヵ月(10)、2 ヵ月以上(20)
2 回以下(2)、3∼6 回、7 回以上(10)
なし(0)、あり(10)
注)
()は点数 これらの点数を合計し、未熟(30 点以下)、中熟(31∼80 点)、完熟(81 点)以上
②腐熟度判定
・幼植物検定(コマツナの発芽率)・・・85%以上の発芽で問題なし。
・酸素消費量測定(コンポテスターによる測定)・・・3μg/min/g 以下で問題なし。
・C/N 比・・・土壌に施用されるたい肥の CN 比が高いと(20 以上)、分解の際に土壌中の無機態窒素が微生
物に利用され、作物は窒素飢餓となる可能性がある。また、C/N 比が低いと(10 以下)、無機態窒素がたい
肥から急激に放出されて作物に供給されるので注意する。
○バークたい肥の品質基準
広葉樹や針葉樹の樹皮に鶏ふんや尿素などの窒素源を添加
して、長期間たい積発酵させたたい肥である。
全国バークたい肥工業会が製品の品質基準を左表により定
めている。
表 バークたい肥の品質基準
注)乾物当たり
項目
有機物含量
全窒素含量(N)
全リン酸含量(P2O5)
全カリ含量(K2O)
C/N 比(炭素率)
pH
陽イオン交換容量(CEC)
含水率(水分)
幼植物試験(コマツナ法)
範囲
70%以上
1.2%以上
0.5%以上
0,3%以上
35 以下
5.5∼7.5
70mq/100g
60±5%
異常を認めない
(4)たい肥等の有機物施用技術
①水稲
水田では、排水性の良・悪を示す基準として、落水期の田面の水分状態によって乾田と湿田にわけられ
る。また、有機物の分解速度に応じて、順調に進む乾田、やや遅れる半乾田、分解がほとんど期待できな
い湿田の 3 つに区分できる。たい肥の施用に際しては、よく腐熟したたい肥を施用する。湿田には原則と
して、たい肥を施用しないがこれは施用によって土壌の異常還元が進行し、水稲の根系障害が発生する危
険性があるためである。水稲では、牛ふんたい肥を乾田で 0.3∼1t/10a、半湿田で 0.3t/10a を目安とし、
土壌の種類や肥沃度等に応じて調整する。生わらを使う場合は、乾田で 0.5t/10a、半湿田で 0.3t/10a を
目安とする。
施用時期は秋期とし、石灰窒素 40kg/10a 程度の併用も検討する。
②普通作
普通作物は、牛ふんたい肥 1t/10a、豚、鶏ふんたい肥は 0.3t/10a を目安とする。
③野菜
露地野菜は、牛ふんたい肥で1作当たり 1t/10a、豚ぷん、鶏ふんでは 0.3∼0.5t/10a を目安とする。全
面散布後、起耕して分解を促進させる。
施設野菜は、土の物理性の改善、保全を図るため、良質なたい肥を積極的に施用する。完熟牛ふんたい
肥は1作当たり 2t/10a を目安として施用する。生ワラは、細断したものを1作当たり 0.4∼0.5t/10a を
目安として施用する。
④花き
露地花きは露地野菜にほぼ準じ、牛ふんたい肥 1t/10a を目安とする。施設花きも、ほぼ施設野菜に準じ
てよいが、バラとカーネーションはやや多めに施用することを検討する。
⑤果樹
完熟牛ふんたい肥 1∼2t/10a の施用を目安とする。家畜ふんたい肥の施用に際しては、果実品質等の低
下を招かないように十分注意する。
⑥茶
茶園では、10a 当たり年間約 1t の葉や枝が供給されるため、たい肥の施用量は少なくてよい。牛ふんた
い肥 1∼2t/10a を秋∼冬にかけて畦間の土に施用する。ワラを使用する場合は、0.5t/10a をマルチとして
施用し、1年後に土に鋤込むようにする。未熟なたい肥は病害虫の発生が懸念されるので施用しない。
表 作物別有機質資材施用基準
(10a 当たり)
作物名
乾田
半乾田
普通作 畑
露地
野菜
施設
露地
花き
施設
ミカン
果樹
落葉樹
飼料作物
茶
水稲
おが屑混合
畜ふんたい肥
0.5∼1t
0.5t
1t
1t/作
2t/作
1∼2t
2∼4t
1∼2t
1∼2t
3∼4t
1∼2t
畜ふんたい肥
牛ふん
豚・鶏
0.3∼1t
0.15t
0.3t
0.15t
1t
0.5t
1t/作
0.5∼1t
2t/作
1t/作
1∼2t
0.5∼1t
2∼3t
1∼2t
1∼2t
0.5∼1t
1∼2t
0.5∼1t
3∼4t
1∼3t
1∼2t
0.5∼1t
乾燥鶏ふん
0.3t
0.3∼0.5t
0.3∼0.5t
0.3∼0.5t
0.3∼0.5t
1∼1.5t
0.3∼0.5t
稲わら
たい肥
1t
0,5t
1t
1t/作
2t/作
1∼2t
2∼3t
1∼2t
1∼2t
1∼2t
生わら
0.5t
0,3t
0.5t
0.5t
0.5t
0.5t
0.3t
0.5t
*たい肥等の標準的な施用量は、地力の維持・増進の観点に加え、有機物資源の循環利用の促進の観点を踏まえる。
*地域での施用に際しては、地域の気象条件、土壌条件、作型、品種等を考慮して調整する。
*樹園地については、たい肥の施用が困難な場合、敷きわら等により有機物の供給を図ることとする。
(神奈川県及び国の地力増進基本指針)
(5)家畜分たい肥利用による施肥量の節減
地域内の家畜ふんたい肥等を有効に活用することで、施肥量の節減が可能である。家畜ふんたい肥はリ
ン酸や加里の供給効果は高いが、窒素のコントロールが難しいため、基肥の一部代替を中心として利用す
る。
○肥料的効果を考慮した家畜ふんたい肥の施用量の算出
①施用する圃場の土壌診断を行う。栽培する品目の施肥量を確認する。
②施用する家畜ふんたい肥の成分含量を表示等で確認する。
③下記表を参考に、施用する家畜ふんたい肥の肥効率を選定する。
④基肥として利用する肥料の代替率を決める。代替率は環境負荷、農作物への品質への影響を考慮して、
基肥窒素施用量の 30%程度までを代替する施肥量を目安とする。
⑤下記表により、窒素施用量を決定する。
⑥⑤で求めた家畜ふんたい肥施用量で窒素以外の成分の有効成分量(リン酸、加里等:たい肥施用量
(kg/10a)×たい肥の対象成分含量(%)/100×対象成分の肥効率(%)/100)を計算する。
⑦⑥の結果、
設定した基肥施用量を上回っている成分がある場合には、
その成分が過剰にならないように、
その代替率の上限を 100%にして家畜ふんたい肥量を再計算する。
⑧不足する肥料成分を補う化学肥料の量を計算する。
⑨施用に際しては、土壌診断結果、これまでの栽培経験等を参考に十分な検討を行う。
表 家畜ふんたい肥の肥効率の目安
家畜ふん堆肥の
種類
鶏ふん堆肥
豚ぷん・牛
ふん堆肥
たい肥の全窒素含有率(%)
乾物当たり
現物当たり
0∼2
0∼1.6
2∼4
1.6∼3.2
4∼
3.2∼
0∼2
0∼1.6
2∼4
1∼2
4∼
2∼
−黒ボク露地野菜対象(千葉県)−
たい肥の肥効率(%)
N
P2O5
K2O
20
80
90
50
80
90
60
80
90
10
80
90
30
80
90
40
80
90
表 肥料的効果を考慮した家畜ふんたい肥施用量の計算方法
家畜ふんたい肥(kg/10a)=
代替率(%)
必要基肥窒素量(kg/10a)×
100
×
100
100
×
たい肥の窒素含有率(%)
肥効率(%)
註)家畜ふんたい肥は完熟たい肥を施用する。未熟なたい肥の施用や長年多量施用は、農作物に病害虫や生理
障害の発生、また、土壌中にリン酸や加里、銅、亜鉛などの集積を招くことが懸念されるので注意する。
2)有機質肥料
有機質肥料は、動物質肥料、植物質肥料、自給有機質肥料及びその他の有機性廃棄物肥料の4種類があ
る。
(動物質肥料)
主に魚類、獣類に由来する原料でつくられ、その有機肥料成分は主として窒素とリン酸である。例えば、
骨粉や魚かすなどがこれにあたる。
(植物質肥料)
主に、各種の油かすで、チッソを主な成分とし、少量のリン酸、カリも含んでいる。緑肥は除かれる。
(自給有機質肥料)
たい肥、きゅう肥、下肥、緑肥、鶏ふん、豚ぷん、蚕沙、草木灰、ボカシ肥など、農家が原料を自給し、
自分でつくる肥料である。家畜ふんたい肥、ぼかし肥等については肥料取締法に則り、販売されている。
(有機性廃棄物肥料)
乾燥菌体肥料、し尿処理汚泥や下水処理汚泥、家畜・家きんふんの乾燥加工したものなどをいい、これ
らの工業的に有機廃棄物を処理した有機質肥料は肥料取締法に則り、販売されている。
汚泥肥料を長年多量に連用すると、土壌中に亜鉛などの重金属が高濃度で蓄積する懸念があるので注意
する。
表 主な有機質肥料
肥料
魚かす粉末
性状
黄褐色粉末。特有の臭
気。肉質部が多いと窒
素、骨質部が多いとリン
酸が多い。
骨粉
灰白色粉末
ナタネ油かす
粉末
茶褐∼黒褐色粉末または
粒状
ダイズ油か
す粉末
黄白色粉末
ヒマシ油かす
粉末
黒褐色粉末
*TN:全窒素、TP:全リン酸、TK:全カリ
組成
TN 6∼9%
TP 4∼8%
N+P
12%以上
TN-TP 生骨粉
2-19%、蒸製骨粉
2.5-20%、脱膠骨粉
1.5-25%
標準的な成分
TN5.3%、 TP1.2%
TK1.0%
標準的な成分
TN7.3%、 TP1.2%
TK1.0%
標準的な成分
TN7.3%、 TP1.5%
TK1.0%
肥効
備考
窒素、リン酸は緩
効性。果樹・野菜に
需要多い。
肥効率は 90∼100
リン酸は緩効性。
窒素は魚かすより
緩効。カリは水溶性
で速効。
窒素はナタネ油か
すより緩効。リン酸
は遅効性。カリは
水溶性で速効。
窒素はナタネ油か
すより速効。リン酸
は遅効性。カリは
水溶性で速効。
肥効率 80∼90
肥効率 80∼90
(施肥診断技術者ハンドブック)
*肥効率:硫酸アンモニウムの肥効を 100 としたときの相対的な肥効
*油の採り方で成分に差が出る。
肥効率 70 程度
3)緑肥作物施用技術
(1)鋤込みの効果と選定の目安
①物理性の改善
ア.団粒構造の形成
緑肥による粗大な有機物の鋤込みは土壌中の孔隙率を増加させ、土壌の単粒構造を団粒化させる。
トウモロコシ、ソルガム、エンバク野生種、ライムギ、イタリアンライグラス等
イ.透水・排水性の改善
深根性のマメ科作物の根は土壌中に深く侵入し、透水性や排水性を改善する。
キカラシ、セスバニア等
②化学性の改善等
ア.保肥力の増大
すべての緑肥作物は土壌にすき込まれて、微生物に分解されて、腐植となり、土壌の緩衝能を高める。
(特に、生育後期のソルガム、トウモロコシ、エンバク等イネ科緑肥作物)
表 緑肥作物の成分含量(事例)
緑肥名
ハイブリッド・サ
ンフラワー
ソルガム
元気ソルゴー
ギニアグラス ソイルクリーン
クロタラリア
ネマキング
クロタラリア
コブトリソウ
ヒマワリ
乾物当たり%
全窒素
全炭素
カリウム
マグネシウム
カルシウム
リン酸
2.07
35.05
6.41
0.89
5.45
1.19
0.86
0.78
1.85
2.14
39.13
37.57
38.93
41.17
3.61
3.38
3.34
1.28
0.19
0.16
0.54
0.74
0.56
0.43
1.98
1.72
0.52
0.63
0.76
0.61
(2006 県高度化事業)
イ.空中チッソの固定、肥料代替効果
マメ科作物は根に根粒菌が着生、空中チッソを固定し、土壌を肥沃化する。
クロタラリア、セスバニア、レンゲ等
また、クロタラリア、レンゲ等は肥料の一部代替として利用できる。レンゲの利用法の事例を表に示す。
但し、熟畑化が進んでいない露地野菜畑等での緑肥作物の利用は完熟家畜ふんたい肥と組み合わせるとそ
の施用効果は高い。
ウ.クリーニングクロップ
ハウスの過剰塩類を緑肥に吸収させ、搬出すると塩類集積が回避できる。
ソルガム、ギニアグラス等
③生物性の改善
作物の根はムシゲル(糖類の一種)を放出し、根圏にはこれをエサとする多くの微生物が増殖する。
緑肥の導入は連作を輪作体系にする。
有害センチュウの抑制
クロタラリア、ギニアグラス、ソルゴー等
レンゲ施用技術
(参考資料)
作業名
時期
方法及び留意点
レンゲの播種
水稲収穫後
(10 月上旬)
1.耕耘・畦立後、十分排水対策をした上で播種する。
2.播種量は 2kg/10a とし、10 月中旬以降の晩期播種では播種
量 3kg/10a 程度とする。
すき込み
開花期(4 月中∼下
旬)
1.圃場全体を見わたして 4 割程度開花し始めた時期(開花期)
が鋤込み適期で、この時期は生草重が少なく、窒素含有率が高
いため土壌中での分解が早く、すき込み後の有害ガスの発生も
少ない。
2.土づくり対策として、鋤込み時にケイカル又は含鉄資材 100∼
150kg/10a 施用する。
3.すき込みはロータリ耕で行うことができ、初めはレンゲを切断
するつもりで浅く、次に深くすき込めばロータリへの絡みも少なく
精度の高いすき込みができる。
すき込み後の土壌管理
すき込み後∼代か
き
品種
作付期
1.肥効が遅くまで続く場合があり、極早生品種や「コシヒカリ」の
早生品種はなるべく避け、「ヒノヒカリ」などの中性品種や、耐倒
状・いもち病抵抗性の強い品種を作付する。
育苗
4∼5 月
1.移植後の初期育成が抑制されやすいので健苗育成に心がけ
る。
施肥(穂肥)
幼穂形成期以降
1.すき込み後は必ず畑状態に保って有害な有機酸の発生を抑
制する。
2.畑状態の期間は 7∼10 日間とし、その後は代かきで湛水状態
とする。
3.半湿田及びレンゲの生草重が増加する開花盛期以降にすき
込む場合は 20 日間程度畑状態に保ち、有機酸を除去してから、
代かき、田植する。
1.開花期のレンゲ(4t 以上)を全量すき込めば、10kg/10a 以上の
窒素を施用したことになり、すき込み後1ヵ月で約 50%が無機化さ
れる。
2.レンゲの窒素は最高分けつ期∼幼穂形成期までには消滅す
る場合が多いので、穂肥は標準量施用する。
*レンゲは連作障害に注意する。
−滋賀県−
レンゲの特性
作物名
効果
C/N 比
レンゲ
肥
15 前後
乾物収量
養分吸収量(kg/10a)
(kg/10a)
N
P2O5
K2O
300∼600
7∼15
1∼3
5∼10
窒素
放出
④環境保全等
ア.土壌浸食防止、降雨時の沿岸、河川等の汚濁抑制
春作ばれいしょや春作野菜の収穫後、秋作ばれいしょ植付、秋冬野菜の播種・定植までの間に緑肥作物
を栽培することにより、梅雨期の圃場の土壌浸食防止や土壌汚濁の河川等への流出抑制につながる。
クロタラリア等 5 月∼6 月上旬頃播種可能な緑肥作物。
イ.景観美化
美しい花が咲く緑肥作物は、農村の景観美化に寄与する。
黄色:キカラシ、クロタラリア 紫:くれない ピンク:レンゲ
ウ.果樹園の草生栽培
雑草防除等を目的に草生栽培等の技術開発が行われている。
ナギナタガヤ
エ.農薬飛散防止
緑肥作物は農薬の飛散防止作物となる。但し生育時期を十分検討する。
ソルガム、エンバク等
オ.防風作物
茶や果樹等の植付後の防風作物となる。
ソルガム、エンバク等
5.局所施肥による肥料の節減
局所施肥とは、
作物の根群域にあらかじめ肥料を施用し、
効率よく肥料成分を吸収させる施肥法である。
局所施肥は、①施用された肥料が作物に有効に吸収され、肥料の利用率、すなわち施肥効率が高く、肥料
の流出や揮散が少なく、水系や大気に対する負荷が少ないため、環境にやさしい施肥技術である。②肥料
が効率的に吸収されるため、減肥しても生育・収量・品質の確保が図られる。③また、減肥することによ
り、資源が大切に使用できると同時に、コスト削減も図られる。④作物の生育ステージに合った最適位置
に施肥することにより、生育の制御も容易になる。などの長所がある。
局所施肥法には、施肥範囲の広い順に、畦内施肥、条施肥、側条施肥(水稲)、植穴施肥、ポット内施肥、
セル内施肥、育苗箱施肥(水稲)などがある。
局所施肥では、作物の生産安定と環境保全を両立させるために次の施肥条件が必要である。①施肥位置
は、作物が肥料成分を最も効率的に吸収できる根域に施肥する必要がある。しかし、このことは、その付
近の根が塩類濃度障害を受けやすい危険性を持っている。②施肥量は、全面全層施肥に比べて少ない量(一
般的に 20∼30%の減肥が可能)となる。逆に、施肥量を適量まで削減しなければ過剰生育や塩類濃度障害に
よる生育不良が生じる可能性がある。③肥料の種類は、作物に適切な肥効を持続して供給でき、かつ根に
塩類濃度障害を与えない肥料を選定する必要がある。
現在、全国の試験研究機関等においては、局所施肥法に肥効調節型肥料を組み合わせた全量基肥一発施
肥技術が開発されており、局所施肥に伴って発生の懸念がある濃度障害を回避するとともに、省力化、低
コスト化、環境負担軽減が可能となってきている。
各産地で、この局所施肥に取り組む場合は、事前に実証試験等を実施し、十分な検討を行ってから導入
することが望まれる。
1)畦内施肥
畦内施肥は従来の全面全層施肥に対して、畦内のみに施肥する方法である。また、マルチ内施肥はマルチ
を張るベッド部分にのみ施肥する方法である。両者とも通路部分の施肥を省くことができる。
2)条施肥(作条施肥)
条施肥は、作物を植え付ける畦に沿った位置にすじ状に施肥する方法である。ばれいしょでは、種いも植
え付け時に、作条に施肥する方法である。五島市、雲仙市、南島原市の一部で取り組みが行われている。
3)側条施肥(水稲)
側条施肥は、乗用田植機に施肥機を搭載して、田植え作業と同時にイネの株元に基肥を局所的に施肥する
方法である。肥料はほとんど全部が還元層の中に施用されるため、きわめて利用率の高い施肥法である。諫
早市の諫早湾干拓周辺域を中心に取り組みが行われている。
4)植穴施肥
苗を定植する位置に植穴を掘り、穴の下層土に基肥を混和する方法である。
5)ポット内施肥
野菜苗の鉢上げ時に、本圃生育に必要な肥料全量を育苗培土に混和する方法である。施肥の省力化が図ら
れる上、根圏周辺の狭い範囲に施肥することになるため、大幅な減肥が期待できる。ポット内に肥料を混和
することから、濃度障害を回避するために、育苗期間中の肥料の溶出をできるだけ抑えたシグモイド型被覆
肥料の利用が必要となる。近年、試験研究機関等において技術確立のための試験が行われている。
6)セル内施肥
セル内施肥は、育苗用培養土の中に基肥に相当する肥料を混合してセル成型育苗し、苗に肥料を抱えたま
ま定植することによって、本圃には基肥を施用しない方法である。育苗期間に当たる初期の肥料の溶出を最
小限に抑えたシグモイド型被覆肥料の利用が不可欠である。セルトレイを利用したセル成型育苗は、近年、
試験研究機関等において葉菜類を中心に技術確立のための試験が行われている。
7)育苗箱全量施肥(水稲)
水稲の育苗箱全量施肥は、本田期間中の施肥窒素分をあらかじめ育苗箱内に施用し、移植苗と共に肥料が
本田に持ち込まれる施肥法である。育苗期間中の肥料の溶出を抑えたシグモイド型被覆肥料の利用が不可欠
である。近年、試験研究機関等において技術確立のための試験が行われている。
6.灌水同時施肥栽培(養液土耕栽培)
灌水同時施肥栽培とは、養液栽培と土耕栽培の利点を取り入れた栽培方法で、養液土耕栽培に代表され
る。
土壌の持つ養分供給力、養分保持力、緩衝能等を活かしながら、灌水中に混入した肥料養分を供給して
作物を栽培する方法である。圃場の地床にそのまま給液する場合と土壌を使った隔離ベンチやプランター
に給液する場合がある。
リアルタイムで土壌養液診断や作業栄養診断を行うことにより、作物の生育にあわせて養水分の供給を
調整できるので、無駄のない効率的な施肥が可能となり、窒素施肥量が削減できる。
1)養液土耕栽培の特徴
(1)基肥が不要で、初期生育を抑えることができ、過繁茂にならない。減肥が実現できる。
(2)かん水と液肥が同時施用となるため、生育を安定させながら、収量を上げることができる。
(3)ドリップチューブを利用するため、養液の散布が均一になり、土壌物理性を悪化させない。
(4)培地が栽培土壌自体であるため、
土壌の持つ緩衝能が期待できるため、
不意のトラブルにも対応しやすい。
(5)作物が必要な量だけ施肥することが可能で、施肥量が慣行施肥に比べて少なくすむことから、圃場外への
肥料成分の流出や地下水への溶脱が少なくなる。
2)養液土耕栽培の普及状況
全国で、推定 2,000 件以上の導入事例があり、野菜では、トマト、キュウリ、花きではカーネーション、
バラ、キク等での導入が多い。本県の導入状況は現在(H20.12)、野菜では、トマト、ミニトマト、花きでは
カーネーション、キク等を中心に約 30 件が導入されている。
3)導入に際しての留意点
(1)使用する灌漑水の水質の分析を行い、養液土耕栽培に適しているか判断する。灌漑水中の成分と施用する
肥料成分と反応して沈殿が生じないこと。にごりでチューブに目詰まりを生じないこと。病原菌が混入し
ていないこと。等の確認が必要である。また、安定的に供給が可能であることを確認する。
(2)土壌の性質、養分状態を把握する。また、地床栽培では圃場の地下水位が高い場合、明渠、暗渠等を設置
し、排水対策を施す必要がある。
(3)システムの設置には約 75 万∼150 万円/10a(工事費別)の経費が必要であるので、綿密な資金計画を立て
る必要がある。
表 キュウリにおける養液土耕栽培での養水分管理と減肥
慣行栽培
(窒素施肥量)
養液土耕栽培
(窒素施肥量
/day)
半促成栽培
基肥:2.0kg/a、追肥:2.0kg/a
追肥:収穫開始以降、4 回に分けて施用
灌水:収穫期間、10 日間隔に 20 分間実施
3 月 3 日∼31 日
430ppm
75 ㍑/a
4 月 1 日∼5 月 31 日
295±10ppm
100 ㍑/a
6 月 1 日∼21 日
160ppm
150 ㍑/a
全施肥窒素量
3.2kg/a
(事例)
抑制栽培
基肥:1.5kg/a、追肥:1.5kg/a
追肥:収穫開始以降、3 回に分けて施用
灌水:収穫期間、10 日間隔に 10 分間実施
9 月 1 日∼21 日
220ppm 135 ㍑/a
9 月 22 日∼30 日
330ppm
90 ㍑/a
10 月 1 日∼20 日
300ppm
75 ㍑/a
10 月 21 日∼11 月 14 日
350ppm
50 ㍑/a
11 月 15 日∼30 日
500ppm
20 ㍑/a
全施肥窒素量
1.9kg/a
(野菜・花・果樹リアルタイム診断と施肥管理他)
引用参考図書及び資料
・農林水産省生産局長通知(H17.3.31)「施肥基準の策定・見直しの指針」
・農林水産統計(19 年 10 月 25 日公表農林水産大臣官房統計部)
・地力増進基本指針の一部改正について(H20.10 農水省)
・
「土壌管理のあり方に関する意見交換会」(H20.7 農水省)
・全国都道府県市区町村別面積調(19 年 10 月 1 日公表 国土交通省国土地理院)
・福島県施肥基準、栃木県農作物施肥基準、千葉県主要農作物等施肥基準、神奈川県農作別肥料施用基準、
鹿児島県土壌改良及び施肥改善指針 等各県施肥基準
・岡山県農業総合研究センター・ホームページ
・長崎県広報広聴課ホームページ
・長崎県地力保全基本調査総合成績書(S53)
・長崎県の土壌(S61 長崎県)
・諫早湾干拓初期営農技術対策の指針(H17 長崎県)
・H18∼19 長崎茶支試験成積書
・H19 長崎県試験研究推進会議資料
・土壌肥料用語事典(農文協)
・土壌調査ハンドブック(博友社)
・土壌断面をどう見るか(農水省・土壌保全調査事業全国協議会)
・新版土壌肥料(全国農業改良普及協会)
・環境保全と新しい施肥基準(養賢堂)
・施肥診断技術者ハンドブック(JA 全農)
・土壌診断の方法と活用(農文協)
・第6版肥料便覧(農文協)
・野菜園芸ハンドブック(養賢堂)
・野菜・花・果樹リアルタイム診断と施肥管理(農文協)
・環境保全型農業大辞典1−施肥と土壌管理−(農文協)
・堆肥の作り方、使い方(農文協)
・緑肥を使いこなす(農文協)
等
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