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柏崎刈羽地域の環境ガンマ線鉛直プロファイル ―冬季雷による

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柏崎刈羽地域の環境ガンマ線鉛直プロファイル ―冬季雷による
新潟県保健環境科学研究所年報 第17巻 2002
94
柏崎刈羽地域の環境ガンマ線鉛直プロファイル
―冬季雷による制動放射線検出の可能性―
山ì
興樹・藤巻 広司・大高 敏裕・殿内 重政
Vertical Profile of the Environmental Gamma-ray in Kashiwazaki Kariwa Area
―Detection of Bremsstrahlung X-ray Generated by Winter Thunderstorms―
Koki Yamazaki, Hiroshi Fujimaki, Toshihiro Ohtaka and Shigemasa Tonouchi
Cumulative dose measurements have been performed at the points from 1c to 117c above the ground on the
arrester tower located at the site of the Kashiwazaki Kariwa nuclear power station using radiophotoluminescence glass
dosimeter(RPLD)and thermoluminescence dosimeter(TLD).
From the measurement results, the mean dose rates both from RPLD and TLD gradually decrease with height in
summer season. On the other hand, the vertical profile of upper regions showed in the reverse attenuation in winter
season. It was assumed that the increasing trend of dose rates with height is caused by some external radiation source
peculiar to winter season.
In this winter, many thunderstorms occurred and dose rates from both NaI( Tl)and IC detectors increased
occasionally at monitoring stations.
According to the Monte Carlo calculation of the behaviour of electrons and photons in the model thundercloud, it was
suggested that bremsstrahlung X-rays generated at high altitude has been attributed to the radiation source.
Keywords:Winter thunderstorm;Bremsstrahlung;Environmental gamma-ray;
Radiophotoluminescence glass dosimeter (RPLD);Thermoluminescence dosimeter (TLD)
.
1 は じ め に
が観測される場合があることが報告されている3).新潟県
では,1983年10月から柏崎刈羽原子力発電所周辺地域の環
環境放射線は,宇宙線,地殻ガンマ線,大気中放射性核
境放射線の連続測定を行なっているが,測定開始当初から
種からの放射線,建造物中の放射性核種からのガンマ線な
冬季雷活動時に線量率が瞬間的な上昇を示すことが度々あ
どで構成される.原子力施設からの予期しない放射性物質
った.変動パターンや他の監視データ及び発電所の運転状
又は放射線の放出による周辺環境への影響を的確かつ迅速
況から判断して発電所の影響ではないと考えられたが,機
に評価するためには,環境放射線場の変動に関係する要因
器の誤作動なのか実際に何らかの放射線が発生したのか原
をモニタリングデータから抽出し,その変動幅と変動パタ
因究明が課題となっていた.
ーンを把握しておくことが重要である.
冬季のわが国の気候は,大陸性のシベリア気団からの季
環境放射線のモニタリングは通常地上付近で実施される
ため,地上数100c程度の高さまでの測定例は少ない.
節風によって顕著に影響されるため,降水とともに降下す
2001年度に開始した積算線量測定に及ぼす環境要因に関す
る短寿命ラドン子孫核種の比放射能は,海洋性気団が支配
る調査研究の一環として,地上1cから117cまでの積算
的となる夏季よりも高くなる .これは秋から冬にかけて
線量を測定した.その結果,柏崎刈羽地域の平均線量の鉛
平均線量率を上昇させる主要因である.一方,線量率は積
直分布とその季節差を明らかにすることができた.ここで
雪層によって地殻ガンマ線の一部が遮蔽されることにより
は,測定結果に現れた冬季雷からの制動放射線と思われる
低下する .また,柏崎刈羽地域を含む日本海沿岸地域で
現象を中心に,柏崎刈羽地域における環境ガンマ線鉛直プ
は冬季雷がしばしば発生するが,冬季雷活動時に線量上昇
ロファイルの特徴について報告する.
1)
2)
新潟県保健環境科学研究所年報 第17巻 2002
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Fig.1. Locations of gamma-ray measuring point.
2 方 法
2.2 地表付近での連続測定
新潟県は,原子力発電所周辺地域に9ヵ所の自動観測局
2. 1 上空での積算線量測定
を設置して,環境ガンマ線及び気象データを10分間隔で連
上空での積算線量測定は,東京電力株式会社柏崎刈羽原
続測定している(Fig.1).環境ガンマ線の測定には,地
子力発電所構内の誘雷鉄塔(地上高さ121.5c,最近接原
上1.5cに設置したアロカ株式会社製温度補償型 2”
φ×2”
子炉からの距離720c)において実施した(Fig.1).測定
NaI(Tl)シンチレーション検出器及び加圧型電離箱(IC)
には熱ルミネセンス線量計(TLD)及び蛍光ガラス線量
を,また,気象観測には,㈱小笠原計器製作所製の感雨計,
計(RPLD)の2種類の線量計を用いた.TLDは松下電器
0.5a転倒升式雨雪量計及び超音波パルス放射方式積雪深
産業株式会社製素子(UD−200S)及びリーダー(UD−
計を使用した.また,線量率の変動要因をガンマ線エネル
5120P)を,RPLDは旭テクノグラス株式会社製素子
ギー別に検討するため,NaI( Tl)シンチレーション検出
(SC−1)及びリーダー(FGD−202)を使用した.測定
器に接続した多重波高分析器(MCA)により1時間毎に
条件及び測定手順はTLDについては文部科学省マニュア
ル
4)
に,RPLDについては1997年度∼2000年度に実施した
「環境中の積算線量の比較調査」において検討した条件及
収集したスペクトルを用いた.
3 結 果 及 び 考 察
び手順を用いた5).TLDとRPLDは1個ずつビニール袋に
積算線量測定結果をFig.2に示した.平均線量率はTLD
密封した後,ポリビンの中に互いに重ならないように固定
とRPLDのいずれも地上からの高さが増すとともに減少し
し,地上高度1,43,77,117cの鉄塔上に設置した.1
ているが,減衰は高くなるほど緩やかとなっている.また,
地点あたりTLD6素子,RPLD3素子を用いた.線量計の
すべての測定点で冬期の値が夏期の値を上回っているが,
設置期間は2001年7月3日から10月18日まで(以下「夏期」
この理由は以下のように考えられる.上空での平均線量率
という.)及び10月18日から2002年4月16日まで(以下
が地表付近に比べて低い値となるのは,地殻ガンマ線が空
「冬期」という.)とした.測定結果は1時間当りの平均線
気中を通過する際,散乱・吸収などの相互作用を受けるこ
量率に換算した.
とにより線束密度が低下するためであり,減衰が緩やかと
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に特有な自然現象すなわち冬季雷の影響,の二つの可能性
を検討した.
3. 1 発電所施設からの漏洩放射線
本調査は原子力発電所構内で行なったため,発電所施設
に由来する放射線の影響の有無について検討した.
柏崎刈羽原子力発電所のような沸騰水型原子炉(BWR)
では,原子炉の水を沸騰させてできた蒸気をそのままター
ビンに送って発電するため,炉心での16O(n,p)反応で
生成した16Nからの比較的エネルギーの高いガンマ線
(2.74MeV:1%,6.13MeV:69%,7.12MeV:5%)が
壁,天井を通してタービン建屋外にスカイシャインの形で
漏洩する6).タービン建屋から発電所敷地境界へはこの影
響が及ばないように十分な距離を置いているため,これに
よる線量率の増加は新潟県及び東京電力による測定結果7)
からも認められていないが,調査を行なった誘雷鉄塔は敷
地境界よりもタービン建屋に近いため,測定値に影響する
Fig.2. Vertical profile of mean dose rates.
ことも考えられる.また,上空では上方からの散乱線のほ
か,周囲に遮蔽物が無いため地上付近よりも直接線の影響
なるのは大気中放射性核種からのガンマ線,宇宙線,空気
が大きくなる可能性も考えられる.16N由来の線量は原子
密度の減少,地形(滑らかな無限平面からのずれ)などの
炉の出力に依存するため,定期検査等で運転停止している
影響が考えられる.鉄塔に最も近い自動観測局の一つであ
期間の割合が小さいほど影響は大きい.2001年4月∼2002
る勝山局での過去5年間の測定結果をTable1に示す.冬
年4月の運転状況7,8)によれば,近接原子炉(5∼7号機)
期(10月∼3月)における最大積雪深と累計降水量のデー
の停止期間の割合は夏期が6.2%,冬期が15%と夏期より
タによれば,2001年度の最大積雪深は5年間平均値の約半
むしろ冬期の方が大きいことから,16Nの影響があったと
分程度にしか達しなかった反面,降水量は平均値より多い.
すれば夏期のほうが上空の平均線量率は高くなるはずであ
すなわち,例年に比べ,降水に伴って地表に降下した短寿
り,測定結果と矛盾する.従って,冬期に上空で平均線量
命ラドン子孫核種からのガンマ線線束密度の増加による線
率が高くなった理由は 16Nからのガンマ線によるものでは
量上昇が,積雪による地殻ガンマ線の遮蔽による線量減少
ないと考えられる.
を大きく上回ったことが,今冬期の値が夏期の値を上回っ
また,排気筒からの放射性希ガスによるガンマ線につい
た理由と思われる.これは,表に示したNaI( Tl)検出器
ても,平常時においては排気筒からの放出段階でバックグ
による夏期(7月∼9月)と冬期の平均線量率の差にも良
ラウンドレベルまで低減化されており,冬期の上空での線
く現れており,平成13年度は夏期に対する冬期の線量率の
量上昇の原因とは考えられない.
超過量が過去5年間では最も大きくなっている.
さらに,冬期における平均線量率鉛直分布の大きな特徴
3. 2 冬季雷の影響
今冬は例年に比べて雷の発生が多く,自動観測局の線量
は,上空で値が減衰から増加に逆転していることである.
率10分値が延べ15回にわたって雷活動時に一時的に上昇し
これは,地上高度が117cより高い上空を発生源とする何
た.うち4回は,電気的ノイズの影響が考えられるICば
らかの放射線の照射を受けたことを示唆している.その発
かりでなく,NaI
(Tl)検出器にも上昇が認められた.
生源について,①発電所施設からの漏洩放射線,②冬期間
これらのうち,鉄塔での線量上昇に寄与したと思われる
事例について考察する.2002年1月23日の夕方から明け方
Table1. Observed values at Katsuyama monitoring station
(a) Snow depth and Precipitation in
1997
Fiscal year
34
Maximum snow depth, cm
Amount of precipitation, mm 889.5
winter
1998
35
1089
season (Oct. to Mar.)
1999 2000 2001 Average
39.8
21
54
55
1566 1188.5 1201 1186.8
にかけて強い冬型の気圧配置となり,この地域には降雪を
伴った雷が発生した.1月23日21時40分,誘雷鉄塔から約
2dの距離にある宮川局と勝山局の2ヵ所の自動観測局
で,ICとNaI(Tl)検出器の線量率が同時に一時的な上昇
を示した.Fig.3に宮川局の測定結果の時系列変化図を,
Fig.4には宮川局と勝山局における線量率上昇を前後の10
(b) Average dose rates using NaI(Tl) detector, nGy/h
1997 1998 1999 2000 2001
Fiscal year
Summer season(Jul. to Sept.) 36.8 36.4 36.4 36.5 36.6
Winter season(Oct. to Mar.) 37.0 36.6 37.0 36.0 37.9
分値の平均値からの増分として地図上に示す.この時間帯
付近では落雷位置標定装置(LPATS)によって原子力発
電所周辺に対地雷と雲間雷が検出されている.NaI( Tl)
シンチレーション検出器はエネルギーレンジ5MeVに設定
した1000チャンネルのMCAに接続されており,MCAは波
新潟県保健環境科学研究所年報 第17巻 2002
Fig. 3. Variations of dose rate, counting rate and pulse-height
spectra using NaI(Tl) and IC detectors in the thunderstorm period.
Fig. 4. Locations of the monitoring station where dose rate
increased transiently under the thunderstorm at the same time.
97
新潟県保健環境科学研究所年報 第17巻 2002
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高分布を1時間間隔で保存している.Fig.3下段のスペク
く上回ったためと考えられる.
トル形状の時間変化から,降水が記録される前の12:00∼
また,冬期の平均線量率が上空で高度とともに減衰せず
13:00には明瞭なピークは 40 Kと 208 Tlのみであったが,降
増加に転じた理由は,近傍の自動観測局の変動パターンと
水とともに短寿命ラドン子孫核種の214Biと214Pbのピークが
落雷位置の情報を考慮すると,冬季雷により発生した上空
認められるようになり,雷による一時的なピークが観測さ
からの制動X線の照射を受けたためと推定された.冬季雷
れた21:00∼22:00には,通常は計数が少ない3∼5MeV
発生時の放射線異常上昇を捉えた事例は少なく,特に鉛直
のエネルギーの計数が前後の時間帯に比べて多くなってい
分布として測定した事例は見当たらない.今後は,さらに
ることがわかる.MCAの1000番目のチャンネルには
データを蓄積するとともに,監視データの信頼性の観点か
5MeV以上のエネルギーの計数の合算値が記録されてい
らも周辺住民の被ばく線量評価の上からも,冬季雷からの
る.図の中段にはこれに3∼5MeVの計数を加えた3MeV以
制動X線の影響を定量的に解析する必要がある.
上の計数の時系列変化を示した.図から,21:00∼22:00
謝 辞
には3MeV以下を対象としたNaI
(Tl)線量率ばかりでなく,
3MeV以上の計数も明らかな増加を示しており,広いエネ
本研究を進めるにあたり,新潟大学理学部教授橋本哲夫
ルギー範囲の光子が検出器に入射したことを示している.
先生には終始的確な助言と励ましのお言葉をいただきまし
雷雲モデル中での電子と光子の振る舞いを模擬したモン
た.また,東京電力株式会社柏崎刈羽原子力発電所環境化
テカルロ計算結果によれば,雷雲中の電界強度と通過する
学グループマネージャー石沢昇氏には測定地点として誘雷
電子のエネルギーがある程度強ければバースト的に制動X
鉄塔を使うことを快く了解していただいた上,グループの
線が発生しうることが確かめられている9,10).このときの
スタッフの方々には鉄塔への機材の据付取り外し等作業を
制動X線の飛程は数百cから1d程度と計算されており,
お手伝いいただきました.さらに,核燃料サイクル開発機
誘雷鉄塔及び宮川局,勝山局近傍上空でこの時刻に発生し
構研究主幹鳥居健男氏には冬季雷からの制動放射線発生に
た制動X線を捉えたと考えれば,他の自動観測局では同時
関する多くの貴重な情報をご提供いただきました.ここに
刻に線量率上昇が認められなかったこと及び線量率の鉛直
記して深く感謝申し上げます.
分布測定結果が上空で高度とともに減衰せず逆に増加に転
文 献
じたのは合理的と考えられる.
なお,Fig.3及びFig.4から,地上1.5cでのNaI(Tl)及
びICによる瞬間的な線量上昇量は数10nGy/hすなわち10分
間積算値で数nGyにすぎないが,117c地点でのTLD及び
RPLDによる上昇量は,冬期の平均値で数nGy/hすなわち
冬期180日間の積算値で数μGy∼数10μGyと1000∼10000
倍大きい.この理由は,制動X線の発生源は上空であるた
め地上では117c地点よりも距離減衰により線量が低下す
ること,現象が瞬間的であるためNaI(Tl)及びIC検出器
の応答が追随しきれなかったこと,地上では減衰して上昇
が記録されなかったが117c地点では線量増加に寄与した
多数回の事象が発生していた可能性があること等が考えら
れる.
1)Yoshioka, K. :Radiat. Prot. Dosim. , 45
(1−4)
, 395
(1992).
2)Yamazaki, K. , S. Tonouchi and T. Hashimoto:J.
Radioanal. Nucl. Chem. , 252(2), 359(2002).
3)吉岡満夫,大西勝基,島田秀志,亘恒男:福井県環境
放射線監視センター年報,16, 129(1994).
4)文部科学省:熱ルミネセンス線量計を用いた環境γ線
量測定法,平成2年改訂.
5)山ì興樹他:新潟県保健環境科学研究所年報,16, 90
(2001).
6)環境放射線モニタリングテキスト編集委員会編:環境
放射線モニタリング,財団法人原子力安全研究協会,
4 ま と め
柏崎刈羽地域における環境ガンマ線の鉛直プロファイル
とその季節差を把握することを目的として,原子力発電所
構内誘雷鉄塔にTLDとRPLDを設置して積算線量を測定し
た.
その結果,冬期の平均線量率は地表付近から上空約
100cまでの全ての測定点で夏期を上回った.この理由は,
今冬が少雪であったことから,冬期に降水とともに降下し
1987.
7)新潟県・東京電力:平成13年度柏崎刈羽原子力発電所
周辺環境放射線監視調査結果報告書,平成14年8月.
8)新潟県:柏崎刈羽原子力発電所の状況(4月分), 平
成14年5月15日13時30分報道発表資料.
8)鳥 居 健 男 : ISOTOPE NEWS, 2002年 3 月 号 , 8
(2002).
9)Torii, T. , M. Takeishi, T. Hosono and T. Sugita:
Proceedings of the Second International Workshop
た短寿命ラドン子孫核種由来のガンマ線による線量増加
on EGS, August 8−12, 2000, KEK, Tsukuba, Japan,
が,積雪による地殻ガンマ線の遮蔽による線量低下を大き
324(2000).
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