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HEVC技術をニコニコ生放送に適用する 共同実験
ライブ配信 ドワンゴ×NTT R&Dコラボレーション H.265/HEVC リアルタイム処理 HEVC技術をニコニコ生放送に適用する 共同実験 株式会社ドワンゴが運営する「ニコニコ生放送」は,日本でも最大規模 のライブ配信サービスで,映像コーデックにはH.264/AVC(H.264)を使 用しています.一方NTTメディアインテリジェンス研究所では,最新の映 像符号化国際標準規格H.265/MPEG-H(HEVC)に適合した高速なソフト ウェアエンコーダを開発しています.本稿では,両社が手を組んで進めて いるHEVCを適用する共同実験について紹介します. ニコニコ生放送 株式会社ドワンゴが運営する「ニコ ています. HEVCを適用する共同実験 た に だ りゅういち† 1 谷田 隆一 みやざき けんいち † 2 /宮崎 賢一 NTTメディアインテリジェンス研究所 †2 株式会社ドワンゴ †1 このソフトウェアを使えば,ハード よりも安価にライブ配信システムを構 築可能です.そこで今回,NTT研究 ニコ生放送」は,日本でも最大規模の ニコニコ生放送をより高画質に,ま 所でHEVCソフトウェアエンコーダ ライブ配信サービスの 1 つで, 1 日 たさらにサービス規模を拡大するため をニコニコ生放送向けにカスタマイズ 平均アクセス数は約2000万PV,月平 には,映像の圧縮率を高めることが不 し,ドワンゴでシステムに組み込んで 均訪問者数は約400万人を誇ります. 可欠となります.そこで注目したの 配信する共同実験に着手することにな 配信コンテンツは,ドワンゴが運営す が,2013年 4 月に制定された新しい りました. る「公式番組」と公式チャンネルによ 映像符号化標準規格H.265/MPEG-H る「チャンネル生放送」に加え,一般 (HEVC)です.このHEVCは,各符 HEVCソフトウェアエンコーダの カスタマイズ ユーザが配信する「ユーザー生放送」 号化ツールの性能を改善したことで, があることも大きな特徴となっていま 従来のAVCと比較して最大約 2 倍の 今回の実験では,モバイル向けの低 す.また,視聴ユーザが書き込んだコ 圧縮効率を誇ります.しかし,圧縮の 解像度な映像をPC 1 台でリアルタイ メントが映像とともにリアルタイムで 処理負荷が非常に高いため,リアルタ ムエンコードする必要がありますの 配信されるため,視聴者だけでなく配 イム圧縮するには専用のハードウェア で,高精細映像の符号化とはチューニ 信者がそのコメントに対してリアク が必要になるなど,ライブ配信サービ ングの方向性が大きく変わります.画 ションを取るなど,インタラクティブ スに使うには非常にコストがかかるこ 質面では,限られた符号量を必要個所 なやり取りができることも本サービス とが問題でした.特にニコニコ生放送 に重点的に割り当てるようなチューニ の魅力の 1 つとなっています. はチャンネル数が多いため,高コスト ングを施し,速度面では,低解像度向 そのためニコニコ生放送で用いるエ なハードを使うことは極めて困難です. けに並列処理やモード選択のカスタマ ンコーダは,リアルタイム圧縮ができ 一方,NTT研究所では,かねてよ イズを行いました.中でも,特にキー ることはもちろんのこと,インタラク りHEVCを 高 速 に 圧 縮 す る ソ フ ト ポイントとなるのが並列処理のカスタ ティブなやり取りを実現するための低 ウェアエンコーダの研究開発を行って マイズです. 遅延性や,一般ユーザにも配布できる いました.本ソフトウェアは,これま ような経済性も求められます.現在の で特に市場からの要望が強かった4K HEVCも基本的には映像 1 フレーム サ ー ビ ス で は,H.264/AVC(AVC) などの高精細映像をターゲットに調整 をブロックに分割し,ブロックごとに を用いたソフトウェアのエンコーダを が行われていましたが,小画面向けに 予測 ・ 変換処理を行う形態を取ってい 使用しており,Niconico Live Encoder 再調整すれば 1 台のPC上でリアルタ ます.NTT研究所のソフトウェアエ という名称で一般ユーザにも配布され イム動作させることが可能です. ンコーダでは,これらの処理をパイプ 58 NTT技術ジャーナル 2015.4 従来の一般的な符号化方式と同様, 特 集 たちでカスタマイズしました(図 2 ) . CPUコア 1 CPUコア 2 CPUコア 3 CPUコア 4 CPUコアごとの処理分担状況 用率を高く保つことができ,ノート PC向けのCPUでも低解像度映像をリ アルタイムにHEVCへ圧縮できるよ CPUの利用率 分割粒度が相対的 に粗くなる この結果,低解像度でもCPUの利 分割粒度が細かいため,CPUコアごとに割り当てのバラつきが多少あっても CPUの利用率を高く維持可能 CPUコアごとの処理分担状況 うになりました. 今後の展開 CPUコア 1 今回の実験では,まずニコニコ生放 CPUコア 2 送の公式チャンネルにこのHEVCの CPUコア 3 ソフトウェアエンコーダを組み込み, CPUコア 4 特にネットワーク帯域の制約が大きい スマートフォンユーザ向けに配信する CPUの利用率 高解像度映像より分割粒度が相対的に粗くなるため,CPUの利用率が低下 図 1 CPUの利用率の低下 計画です.その後,ほかのチャンネル にも順次拡大していく予定です.本実 験は,リアルタイムのHEVC配信実験 としては,これまでに類をみない大規 模なものとなり,帯域の削減効果や CPUの利用率 CPUコアごとの処理分担状況 サービス品質などに関して多くの有益 CPUコア 1 なデータが得られることが期待されま CPUコア 2 す.ドワンゴおよびNTTメディアイ CPUコア 3 ンテリジェンス研究所は,この実験を CPUコア 4 基に,引き続き映像配信サービスの品 質向上と新規開拓に取り組んでいき ます. CPUコアごとの処理分担状況 CPUコア 1 CPUコア 2 CPUコア 3 CPUの利用率が改善 CPUコア 4 処理負荷の均等化 図 2 処理負荷の均等化 ライン的に組んで複数のCPUコアで ロックの個数が相対的に少なくなるた 並列実行することで高速な処理を実現 め,CPUコア間で処理負荷にばらつ しています.昨今の4K映像のような きが出やすくなります.その結果, 高解像度映像の場合,このブロック数 CPUの利用率が低下し,処理速度が が非常に多いため,各CPUコアへ割 出ないケースがありました(図 1 ) . り当てるタスクを細かく調整すること そこで今回の実験では,低解像度映 が可能です.そのため,CPUの利用 像の符号化において,各CPUコアが 率を高くすることが比較的容易となり 分担するブロック数やそのブロック処 ます.一方,低解像度映像の場合はブ 理に関する負荷のばらつきを見直すか (左から) 宮崎 賢一/ 谷田 隆一 今回の共同実験を通して,より多くの皆 様にニコニコ生放送を楽しんでいただけた らと考えています. ◆問い合わせ先 NTTメディアインテリジェンス研究所 画像メディアプロジェクト TEL 046-859-4108 FAX 046-859-2829 E-mail tanida.ryuichi lab.ntt.co.jp NTT技術ジャーナル 2015.4 59