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NOx 吸蔵還元型自動車排気ガス浄化触媒に関する研究 髙
NOx 吸蔵還元型自動車排気ガス浄化触媒に関する研究 髙橋 直樹 目次 第1章 序論 1.1.本研究の背景 1 1.2.本研究の目的、および概要 7 参考文献 9 11 図 第2章 NOx 吸蔵還元機構の解析 2.1.緒言 15 2.2.実験方法 16 2.3.結果および考察 17 2.4.結言 22 参考文献 24 図 25 第3章 NOx 吸蔵還元型触媒の改良 3.1.緒言 33 3.2.実験方法 35 3.3.結果および考察 39 3.4.結言 46 参考文献 48 図、表 50 i 第4章 NOx 吸蔵量の温度特性と低温 NOx 吸蔵量に対する NOx 種および共存還元剤の影響 4.1.緒言 59 4.2.実験方法 60 4.3.結果および考察 62 4.4.結言 67 参考文献 68 図、表 69 第5章 低温での NO 酸化活性に対する担体材料および耐久試験の影響 5.1.緒言 75 5.2.実験方法 75 5.3.結果および考察 79 5.4.結言 85 参考文献 86 図、表 87 第6章 NOx 還元量の温度特性と低温 NOx 吸蔵還元特性 6.1.緒言 93 6.2.実験方法 93 6.3.結果および考察 95 6.4.結言 101 参考文献 102 図、表 103 ii 第7章 Pd/Al2O3 触媒および Cu/ZSM-5 触媒との組み合わせによる相乗効果 7.1.緒言 111 7.2.実験方法 111 7.3.結果および考察 113 7.4.結言 117 参考文献 118 図 119 第8章 MgAl2O4 スピネル担体による高温 NOx 吸蔵特性の改善 8.1.緒言 127 8.2.実験方法 128 8.3.結果および考察 130 8.4.結言 135 参考文献 136 図 137 第9章 触媒コート層内におけるガスの有効拡散係数の測定 9.1.緒言 143 9.2.解析理論 144 9.3.実験方法 145 9.4.結果および考察 146 9.5.結言 150 参考文献 152 図 153 iii 第10章 総括 159 図 164 本研究に用いた研究論文 168 謝辞 170 iv 第1章 序論 1.1.本研究の背景 地球環境保護が注目されるようになって久しい。現在、自動車は多くの国々 において移動手段として欠かせないものになっている。一方、自動車の排気ガ スは大別して2種類の環境負荷物質を含んでいる。一つは、一酸化炭素(Carbon monoxide: CO),メタン(Methane: CH4),エタン(Ethane: C2H6)などの炭化 水素(Hydro carbon: HC)および窒素酸化物(Nitrogen oxides: NOx)などの汚 染物質であり、これらはオゾン層の破壊による紫外線の増加や、光化学スモッ グの発生などによって人体に影響を与える。図 1-1 にはエンジン燃焼室内の空 気と燃料との重量比である空燃比(Air to Fuel ratio: A/F)に対する、排気ガス中 の CO,HC,一酸化窒素(Nitric monoxide: NO),酸素(Oxygen: O2)および二 酸化炭素(Carbon dioxide: CO2)の濃度変化の一例を示した〔1〕。図 1-1 に破 線で示した理論空燃比(Stoichometric point)とは、燃焼室に投入した燃料が完 全に燃焼した場合に CO2 と水(Water: H2O)のみが生成する A/F 値であり、燃 料性状によって多少異なるものの A/F 値はおよそ 14.6 である。CO および HC は還元剤成分であるために、A/F 値が理論空燃比よりも小さな還元雰囲気 (Reductive atmosphere: Rich)において排出量が増加する。一方、NOx は燃焼 の際の高温条件で空気中の窒素 (Nitrogen: N2)と O2 とが反応して生成するサー マル NOx が主であることから、燃焼状態が良好となる、理論空燃比よりもやや A/F 値が大きな酸化雰囲気(Oxidative atmosphere: Lean)において排出量が最 大となる。 CO,HC および NOx の排出量を規制する自動車排気ガス規制として、米国 において 1970 年に“マスキー法”が提案された。マスキー法は HC,CO およ び NOx の排出量を規制前のおよそ 1/10 に削減するものであった。日本において もマスキー法と同等の規制値である“昭和 53 年規制”が導入され、この規制に 対応するために、1975 年に HC および CO を浄化する酸化触媒システムが、 1977 1 年には NOx も浄化する三元触媒システムが実用化された〔2〕。酸化触媒は、HC を H2O および CO2 へ、CO を CO2 へと酸化する機能を持つ。また、三元触媒は さらに NOx を N2 へと還元する機能を持つ。 “昭和 53 年規制”以降も自動車排気 ガス規制は徐々に強化され、今日では規制前に比べて CO,HC および NOx の排 出量は 1/100 程度にまで低減されている〔3, 4〕。 三元触媒は主に、貴金属、担体、ならびに酸素吸放出材料から形成される。 三元触媒に使用される貴金属種は主にロジウム(Rhodium: Rh) ,パラジウム (Palladium: Pd)および 白金(Platinum: Pt)であり、これらの貴金属が触媒 反応の主たる活性点として機能する。担体としては主にアルミナ(Aluminum oxide: Al2O3)やジルコニア(Zirconium oxide: ZrO2)などの耐熱性無機酸化物 が使用される。これらの担体は 1 g あたり 100 m2 程度の表面積を有することか ら、貴金属を数 nm の微粒子として分散保持することが可能となり、少ない貴金 属量で高い触媒活性を得ることが可能となる。後に実例を示すが、三元触媒は 理論空燃比近傍の A/F 値において CO,HC および NOx を同時に浄化できる。し かし車の加速時には燃料噴射量の増量、速時には燃料噴射停止が行われている ために、運転条件のすべてにわたってエンジンからの排気ガスを理論空燃比に 保つことはできない。このため三元触媒にセリア(Cerium oxide: CeO2)-ZrO2 系 無機酸化物を主成分とする酸素吸放出材料を添加している。酸素吸放出材料は 還元雰囲気では不足する酸素を放出し、酸化雰囲気では過剰な酸素を吸収する ことが可能であることから、排気ガスの雰囲気が理論空燃比から幾分ずれた場 合でも触媒表面を理論空燃比に保つことが可能となり、これらの条件において 高い触媒活性を得ることができる。 もう一方の環境負荷物質は地球温暖化の原因の一つと言われている CO2 で ある。現在、日本は全世界の CO2 排出量の約 5%を排出し、そのうち運輸部門 での排出が約 1/5 であり、自動車の走行でその約 90%を占めている。1997 年 の気候変動枠組条約第 3 回締約国会議(The 3rd session of the conference of the parties: COP3)で、2010 年の日本の目標として 1990 年比で CO2 を 6%削減す 2 ることを含む議定書が採択された。この議定書は、2004 年にロシアが批准した こと受け、2005 年に発効された。先の目標達成の一環として、日本では 2010 年までにガソリン乗用車の平均燃費を 1995 年比で 22.8%改善しようとしてい る 。 ま た 、 欧 州 に お い て も 欧 州 自 動 車 製 造 工 業 会 ( European automobile manufacturers' association: ACEA)は車両平均の燃費を約 25%改善し,2008 年までに CO2 排出量を 140 g/km 以下とする自主目標を立てている〔3, 5-7〕 。 より少ない燃料で、より長距離を走行できる、いわゆる省エネルギー車の普及 に向けて、国土交通省は,2001 年 4 月より自動車税のグリーン税制を導入した。 2005 年度のグリーン税制の対象は,低排出ガス認定車(新三ツ星または新四ツ 星)で、かつ燃費基準達成車または、燃費基準+5%達成車であった。2006 年 度のグリーン税制の対象は、低排出ガス認定車(新四ツ星)で、かつ燃費基準 +10%達成車または、燃費基準+20%達成車と改定され、2007 年度も継続実施 されている〔4, 8〕。 図 1-2 に A/F 値に対する三元触媒の浄化特性の一例を示す〔9〕。三元触媒は、 A/F 値で約 14.6 の理論空燃比近傍で CO,HC および NOx 浄化活性が高いこと から、三元触媒システムでは定常走行時には排気ガスが理論空燃比になるよう にエンジン制御によって雰囲気を調整している。したがって、本来の車の走行 に必要な量以上に、排気ガス浄化のためにガソリンを使用している場合がある。 このとき三元触媒上では、NOx は N2 へと酸化され、CO および HC が CO2 へと 酸化され無害化される。このため、排気ガス浄化触媒では CO2 を削減すること ができないばかりでなく、優れた排気ガス浄化触媒ほど CO2 排出量を増加させ てしまう。CO2 低減に排気ガス浄化触媒が貢献するためには、燃料消費量の少 ないエンジンからの排気ガスを効率良く浄化することが必要となる。 エンジンの燃料消費量を低減するためには、排気、冷却、摩擦およびポンピ ングによるエネルギー損失を低減させることが有効である。通常走行時に理論 空燃比近傍で運転される従来型のストイキガソリンエンジンでは、投入したエ ネルギーのうち車両の走行に使われるのは約 20%であり、摩擦損失が約 10%、 3 ポンピング損失が約 10%、残りは主に熱損失である。ポンビング損失を低減す る方策の一つとして、スロットルでの絞りを必要としない直噴ガソリンエンジ ンが挙げられる〔10, 11〕。直噴ガソリンエンジンは、燃焼室内のガソリンと空 気との混合比率の違いにより、ストイキ直噴ガソリンエンジンとリーンバーン 直噴ガソリンエンジンとに大別される。ストイキ直噴ガソリンエンジンは主に ポンピング損失の低減によって燃費が改善される。リーンバーン直噴ガソリン エンジンは定速走行などのあまり出力を必要としない低負荷運転領域と、加速 走行や高速走行などの出力を必要とする高負荷運転領域で燃焼形態を切り替え ることで、さらに熱損失も低減し燃費を向上させる。具体的には低負荷運転領 域では圧縮工程噴射を行い、燃焼可能な混合気(空気と燃料との混合ガス)を 点火プラグ近傍に集めることでより少ない燃料で安定した燃焼を得る成層燃焼 あるいは弱成層燃焼を行う。この場合、燃焼室内全体としては理論空燃比に比 べて空気が過剰な酸化雰囲気であり、これをリーンバーンと称する。一方、出 力を必要とする高負荷運転領域では燃焼室内の平均 A/F 値を理論空燃比に近い 値にすると同時に、吸気行程噴射で燃焼室内の A/F 値を空間的に均一にした均 質燃焼を行う。このように、リーンバーン直噴ガソリンエンジンはポンピング 損失ならびに熱損失を低減できることから、ガソリンエンジンの中で最大の低 燃費ポテンシャルを持ち、国内の排気ガス試験モードである 10-15 モードにお いて、従来型のストイキガソリンエンジン車に比べて、CO2 排出量が平均で約 20%低減できる〔6, 12〕。しかし、成層燃焼および弱成層燃焼は混合気形成の難 度が非常に高いため、この燃焼形態のリーンバーン直噴ガソリンエンジンが実 用化されたのは 1990 年代半ばであった〔13〕。これに先立ち、リーンバーンポ ート噴射ガソリンエンジンが 1980 年代半ばに実用化された〔14〕。リーンバー ン直噴ガソリンエンジンでは吸入ポートから燃焼室内空気を吸入し、燃焼室内 に燃料噴射弁から直接燃料を噴射するのに対して、リーンバーンポート噴射ガ ソリンエンジンでは、予め吸入ポートで理論空燃比よりも燃料割合が少ない混 合気を調整し、これをエンジンの燃焼室に導入する方式のエンジンである。リ 4 ーンバーン直噴ガソリンエンジンの A/F 値の最大値が 50 程度であるのに対して、 リーンバーンポート噴射ガソリンエンジンのそれは 25 程度で、ストイキガソリ ンエンジン車と比較した CO2 排出量低減割合は約 10%である。また、リーンバ ーンポート噴射ガソリンエンジンでは燃焼室内に旋回流(Swirl)を形成するな どにより、燃料が希薄な混合気でも安定した燃焼状態が得られるような工夫が なされている。ここでは、リーンバーン直噴ガソリンエンジンおよびリーンバ ーンポート噴射ガソリンエンジンを総称して”リーンバーンガソリンエンジン” とする。 リーンバーンガソリンエンジンを搭載した車両において、全ての運転条件で リーンバーン条件を維持することはできない。例として図 1-3 にリーンバーン 直噴ガソリンエンジンのエンジン回転数(Engine revolution speed)とトルク (Torque)に対する A/F 値を示す〔6〕。図 1-3 において、横軸は右に行くほど エンジン回転数が速くなり、縦軸は上に行くほどトルク、すなわち出力が大き くなる。エンジン回転数とトルクが小さい低負荷運転領域では A/F 値が 17 から 50 の成層燃焼を使用し、それよりも幾分高回転および高トルクである部分負荷 運転領域では A/F 値が 15 から 30 のより理論空燃比に近い弱成層燃焼を使用す る。図 1-3 では、これらのリーンバーン領域に影を付けた。さらに高回転、高 トルクの高負荷運転領域では、A/F 値が 12 から 15 の理論空燃比または還元雰 囲気となる均質燃焼を使用する。実際の車両では様々な運転場面に合わせてエ ンジン条件は頻繁に変化している。図 1-4 にはリーンバーンポート噴射ガソリ ンエンジンの燃費率、および排出される NO 濃度の A/F 値依存性の一例を示す 〔14〕。A/F 値が 25 付近で理論空燃比に比べて約 10%の燃費改善が達成される。 A/F 値が 25 以上では排気ガス中の NO 濃度は低いけれども、それよりも小さな A/F 値ではその値は急激に増加することが分かる。理論空燃比近傍の排気ガスは 三元触媒で浄化できるけれども、それよりも A/F 値の大きなリーンバーン条件 で運転されている場合の排気ガスは理論空燃比に比べて O2 を多量に含んでいる。 従って、酸素吸放出材料によって三元触媒の表面を長時間に渡って理論空燃比 5 に維持することはもはや困難となり、理論空燃比近傍で HC および CO によっ て効率良く NOx を還元する三元触媒では、リーンバーンガソリンエンジンから の排気ガス中の NOx を十分に浄化することができない。このため、運転条件を 速やかに理論空燃比に切り替えることとなる。したがって、有効な NOx 触媒が 使用できない場合において、リーンバーンガソリンエンジンを燃費率の良好な リーンバーン条件で使用できる機会は限られており、実使用条件下での大幅な 燃費向上率は期待できなかった。 エンジン排気ガス中の NOx 種は主に NO であり、熱力学的には NO は 1073 K 以下において N2 と O2 に分解することから、NOx 直接分解触媒の探索が行わ れた。しかし、NO が分解した際に生ずる酸素原子が触媒活性点に強く吸着する ため、連続的に触媒反応を進行させることが困難であった〔2〕。1980 年代末に、 ゼオライト(Zeolite)の一種である ZSM-5 に Cu をイオン交換担持した” Cu/ZSM-5”が NOx 直接分解触媒として活性を示すことが Iwamoto らによって 報告され〔15〕、直後に HC 存在下では非常に高い NOx 浄化活性を示すことも報 告された〔16-18〕。その後、Cu を含まない H 型 Zeolite〔19〕や Al2O3 を代表 とする酸化物や金属塩〔20〕が同様な反応条件下で高い NOx 浄化活性を有する ことも報告された。これらは、NOx 選択還元型触媒として、現在も世界中で研 究が実施されている。しかし、NOx 浄化能の面から現在までのところ Cu/ZSM-5 を凌ぐ NOx 選択還元型触媒は見出されていない。また、Cu/ZSM-5 も自動車触 媒として使用するには、浄化率や耐久性能が不十分であり、未だ実用化できる レベルには至っていない〔21〕 。 そのような状況において、リーンバーンポート噴射ガソリンエンジンを用い て従来の三元触媒を評価していた際、エンジンを定常条件で運転する場合に比 べて、雰囲気や温度などが変化する過渡運転条件の方が、NOx 浄化率が明らか に高くなるという現象が見出された〔14, 21〕。図 1-5 にリーンバーンポート噴 射ガソリンエンジン単体をリーンバーン定常条件で運転した場合と、車両を用 いて国内の排気ガス試験法である 10-15 モードを走行したときの三元触媒の 6 NOx 浄化率を示す〔14〕。理論空燃比ほどの高い NOx 浄化率は得られないものの、 10-15 モードを走行したときの NOx 浄化率はリーンバーン定常条件でのそれに 比べて明らかに高い値を示している。この発見が、NOx 吸蔵還元型(NOx storage and reduction catalyst: NSR)自動車排気ガス浄化触媒(以下、NOx 吸蔵還元型 触媒)開発のきっかけである。この研究の成果により開発された NOx 吸蔵還元 触媒は、酸化雰囲気においてリーンバーンガソリンエンジンの排気ガスに含ま れる希薄な NO を酸化し硝酸塩(Nitrate)を生成することで一旦触媒上に濃縮 し、生成した硝酸塩を運転条件またはエンジン制御によって意図的に作り出さ れた理論空燃比ならびに還元雰囲気において N2 へと還元することで NOx を無害 化するという新規な NOx 浄化概念に基づく。 1.2.本研究の目的、および概要 本研究は、NOx 吸蔵還元型触媒の NOx 浄化機構を明らかにすること、NOx 吸蔵還元型触媒の耐久性の改善、および NOx 吸蔵還元型触媒を用いた新しい NOx 浄化システムの提案、さらには触媒コート層内でのガスの拡散状態の解析 手法の確立を目的とする。 本論文は10の章からなり、第2章以下の内容は次の通りである。 第2章では、リーンバーンポート噴射ガソリンエンジンの排気ガスを模擬し たモデルガスを使用した反応解析などから、実用化されている温度域での NOx 吸蔵還元型触媒の NOx 浄化機構を明らかにする。 第3章では、NOx 吸蔵還元型触媒の劣化要因である硫黄被毒と熱劣化に対し て触媒材料面からの改良を行い、その作用機構を明らかにする。 第4章では、NOx 吸蔵量の温度特性を検討し、さらに現在使用されている温 度よりも低温側で NOx 吸蔵量を改善するための指針を明らかにする。 第5章では、低温での NOx 吸蔵量を改善するための因子の一つである NO 酸化活性の高い触媒を得るための指針を明らかにする。 第6章では、NOx 還元量の温度特性を検討し、現在使用されている温度より 7 も低温側で NOx 還元量を改善するための指針を明らかにする。 第7章では、NOx 吸蔵還元型触媒を中心とし、これに NOx 吸蔵還元型触媒 とは異なる機能を有する触媒を組み合わせることで、より高性能な NOx 浄化シ ステム実現の可能性を展望する。 第8章では、将来のリーンバーン直噴ガソリンエンジンの NOx 浄化に必要 とされる、高温での NOx 還元量を改善するための指針を明らかにする。 NOx 吸蔵還元型触媒は、一旦 NOx を触媒に吸蔵することから、通常の三元 触媒に比べてコート層の内部を有効に使用することが必要となる。第9章では、 排気ガス浄化触媒のコート層内におけるガスの拡散挙動の解析手法の確立と、 その手法によって得られた解析結果を示す。 第10章では、第2章から第9章の総括を行い、本論文の結論とする。 8 参考文献 〔1〕J.K.Kummer, Prog. Energy Combust. Sci., 6 (1980) 177. 〔2〕環境触媒ハンドブック、岩本正和 監修、2001 年、エヌティーエス. 〔3〕石田雅文 自動車技術 自動車技術会創立 60 周年記念号、自動車技術会、 (2007) 28. 〔4〕飯田宜由、長田憲一朗、昆木内康信、稲村信嘉、鈴木俊之、自動車技術、 自動車技術会、60(8) (2006) 7. 〔5〕オートテクノロジー 自動車技術会創立 60 周年記念号、自動車技術会、2007. 〔6〕小池誠、 直噴ガソリンエンジンの現状と将来、エンジンテクノロジー、 山海堂、21 (2002). 〔7〕経済産業省産業技術環境局環境政策課、自動車技術、自動車技術会、58(3) (2004) 4. 〔8〕平本賀一、自動車技術、自動車技術会、61(8) (2007)19. 〔9〕村木秀昭、触媒, 34(4) (1992) 225. 〔10〕高間建一郎、 西村孝夫、伊藤泰久、自動車技術、自動車技術会、58(3) (2004) 51. 〔11〕斎藤昭則、豊田中央研究所 R&D レビュー、36(4) (2001) 1. 〔12〕村瀬英一、自動車技術 自動車技術会創立 60 周年記念号、自動車技術会、 (2007) 116. 〔13〕郷野武、佐藤充功、松下宗一、杉山雅則、自動車技術会中部支部 1997 年研究発表会前刷り集、(1997) 7. 〔14〕加藤健治、木原哲郎、原田淳、田中俊明、井口哲、中西清、自動車技術 会論文集、27(1) (1996) 68. 〔15〕M. lwamoto, H. Yahiro, Y. Mine and S. Kagawa, Chem. Lett., (1989) 213. 〔16〕S. Sato, Y. Yu-u, H. Yahiro, N. Mizuno and M. Iwamoto, Appl. Catal., 70 (1991) L1. 9 〔17〕W. Held, A. Konig, T. Richter and L. Puppe, SAE Tech. Paper 900496 (1990). 〔18〕Y. Fujitani, H. Muraki, S. Kondoh and M. Fukui, Ger. Offen. DE3735151 (1988). 〔19〕Y. Kintaichi, H. Hamada, M. Tabata, M. Sasaki and T. Ito, Catal. Lett., 6 (1990) 239. 〔20〕H. Hamada, Y. Kintaichi, M. Sasaki, T. Ito and M. Tabata, Appl. Catal., 75 (1991) L14. 〔21〕松本伸一、渡辺治男、田中俊明、磯谷彰男、笠原光一、日本化学会誌、 1996(12) (1996) 997. 10 CO, O2, CO2 concentration [%] Rich 14 Lean CO2 12 6 HC 10 8 NO CO 6 8 O2 4 4 2 2 0 10 12 14 16 18 0 20 Air to fuel ratio [wt/wt] Fig. 1-1 Example of exhaust gas composition from a gasoline-fueled engine versus air to fuel ratio. Conversion [%] 100 80 HC CO 60 NO x 40 20 0 14.0 14.2 14.4 14.6 14.8 15.0 15.2 Air to fuel ratio [wt/wt] Fig. 1-2 Example of 3way catalyst performance versus air to fuel ratio. 11 NO concentration [103 ppm] HC concentration [102 ppm] Stoichiometric point High Torque A/F 12~15 A/F 15~30 Low A/F 17~50 Slow Engine revolution speed Fast NO concentration, Fuel consumption ratio [a.u.] Fig. 1-3 Example of air to fuel ratio map for a gasoline-fuel direct injection lean-burn engine. 10% improvement Fuel consumption ratio NO concentration 13 15 17 19 21 23 25 27 Air to fuel ratio [wt/wt] Fig. 1-4 Example of NO concentration in exhaust gas and fuel consumption ratio for a gasoline-fuel port injection lean-burn engine versus air to fuel ratio. 12 Static operation NO x conversion [%] 60 Mode operation 40 20 0 473 523 573 623 503~623 Catalyst inlet gas temperature [K] Fig. 1-5 Example of NOx conversion of a 3way catalyst with lean-burn exhaust gases from a gasoline-fuel port injection lean burn engine under steady or mode operation. 13 14 第2章 NOx 吸蔵還元機構の解析 2.1.緒言 リーンバーン直噴ガソリンエンジンがガソリンエンジンの中で最大の低燃 費ポテンシャルを持ち、日本国内の排気ガス試験モードである 10-15 モードに おいて、従来型のストイキガソリンエンジン車に比べて、平均で約 20%の CO2 排出量が低減できることを第1章で述べた。 しかし、NOx 吸蔵還元型触媒を世界で始めて実用化した 1994 年の時点では、 直噴ガソリンエンジンでの成層燃焼技術は、実用レベルに達しておらず〔1〕、 NOx 吸蔵還元型触媒はリーンバーンポート噴射ガソリンエンジン用の排気ガス 浄化用触媒として研究開発が進められた。図 2-1 に、実用化されたリーンバー ンポート噴射ガソリンエンジンおよびその排気ガス浄化システムを示す。当時、 通常のガソリンエンジンを搭載した車両では床下位置に配置した1種類の三元 触媒で排気ガスを浄化する構成が主流であった。このため、リーンバーンポー ト噴射ガソリンエンジンを搭載した車両においても、床下位置に配置された1 種類の NOx 吸蔵還元型触媒であらゆる運転条件の排気ガスを浄化する必要があ った。第1章で示したようにリーンバーンポート噴射ガソリンエンジンはリー ンバーン条件だけでなく、理論空燃比近傍で運転される場合がある。従って、 NOx 吸蔵還元型触媒は酸化雰囲気での NOx 浄化能だけでなく、三元触媒として の機能、すなわち理論空燃比近傍での HC ならびに CO の浄化能も必要であっ た。 第2章では、リーンバーンポート噴射ガソリンエンジンからの排気ガスを浄 化するために実用化した NOx 吸蔵還元型触媒およびそのモデル触媒を使用し、 主にエンジン排気ガスを模擬したモデルガスを用いて解析した NOx 浄化機構に ついて示す。 15 2.2.実験方法 2.2.1.触媒調製 モデルガス実験に使用した触媒は、主として Al2O3 担体に、貴金属として Pt を担持し 523 K において1時間焼成し、次に酸性ガスである NOx を吸蔵する ための NOx 吸蔵材として種々のアルカリ金属元素(Alkali metal element)、アル カリ土類金属元素(Alkaline-earth metal element)または希土類元素(Rare-earth element)を含有する化合物(主にバリウム化合物)を担持し 773 K において3 時間焼成することで調製した。拡散反射型赤外分光光度計(Diffuse reflectance infrared spectrometer: DRIFT)を用いた NOx 吸蔵材への吸蔵 NOx 種の測定では、 担体上に吸着する NOx 種の影響を取り除くために、NOx を吸着しない酸性物質 であるシリカ(Silicon oxide: SiO2)を担体に使用し、Al2O3 担体を使用した場合 と同様の方法で Pt およびバリウム化合物を担持した触媒(Ba/Pt/SiO2 触媒)を 調製した。また、貴金属から NOx 吸蔵材への NOx の移動を検討する実験では、 300 から 700 μm のペレット形状とした Ba/Pt/SiO2 触媒と、Ba/Pt/SiO2 触媒に使 用した SiO2 担体と同じ重量の SiO2 担体に2倍量の Pt またはバリウム化合物を 担持した Pt/SiO2 および Ba/SiO2 粉末を調製し、それぞれを 300 から 700 μm の ペレット形状とした後に、両者を重量比1対1で物理混合した触媒(Pt/SiO2 と Ba/SiO2 の物理混合触媒)を使用した。また、リーンバーンポート噴射ガソリン エンジンを用いた試験には、モノリス基材を構造材とし、酸化物担体、CeO2-ZrO2 系酸素吸放出材料、貴金属、および NOx 吸蔵材から構成した触媒を使用した。 2.2.2.モデルガスおよび実排気ガス試験 リーンバーンポート噴射ガソリンエンジンからの排気ガスを模擬したN2を キャリアガスする酸化雰囲気と還元雰囲気のモデルガスを使用して、雰囲気過 渡条件においてNOx浄化特性を調べた。モデルガスの組成は実験結果のそれぞれ の図に記載した。モデルガス中のNOx濃度は自動車排気ガス分析計(MEXA-7100、 堀場製作所)に搭載された化学発光方式NOx分析計で測定した。四重極質量分析 計(MSQ-150A、アルバック)により、N2,NOおよび二酸化窒素(Nitrogen dioxide: 16 NO2)を分析する反応解析においては、ヘリウム(Helium: He)をキャリアガス とした。触媒に吸蔵されたNOx種の解析には、DRIFT(FT/IR-8900、日本分光) を使用した。触媒に吸蔵されるNOxの最大量は、673 Kにて2% NOおよび50% O2 を含むN2ガスを触媒に流通させたときの重量増加を熱重量分析計 (Thermogravimetric analyzer: TG、 TGA-50、島津製作所)により測定するこ とで定量した。実排気ガスを用いた実験は、1.8 Lのリーンバーンポート噴射ガ ソリンエンジンを搭載した乗用車を用いて実施した。 2.3.結果および考察 2.3.1.NOx吸蔵還元型触媒のNOx浄化挙動 Ptおよびバリウム化合物をアルミナ担体に担持した触媒(Ba/Pt/Al2O3触媒) に、573 KでA/F値18相当の酸化雰囲気と14相当の還元雰囲気のモデルガスを交 互に供給したときのNOx浄化挙動を図2-2に示す。測定開始0から120秒の間、240 から360秒の間、および480秒以降の還元雰囲気では触媒出ガスのNOx濃度は触 媒入りガスのそれよりも低かった。この場合、共存する還元剤によってNOxが還 元されているものと考えられる。測定開始から120秒後、ならびに360秒後にお いて触媒入りガスを酸化雰囲気に切り替えると、その直後では触媒出ガスのNOx 濃度は還元雰囲気とほぼ同じであるが、その濃度は時間と共に徐々に増加した。 図2-3には測定開始から120秒後に触媒入りガスを還元雰囲気から酸化雰囲気に 切り替え、酸化雰囲気下に触媒を保持した場合の触媒出ガスのNOx濃度の時間変 化を示す。反応温度は図2-2と同様に573 Kとした。触媒出ガスのNOx濃度は時間 に対して徐々に増加し、測定開始から480秒後以降でほぼ一定の値となった。573 Kにおいて、四重極質量分析計を用いて測定したN2,NOおよびNO2濃度の時間 変化を図2-4に示す。測定開始0から120秒の間の酸化雰囲気においてNOを矩形 波で触媒に供給すると、NOおよびNO2が触媒出ガス中に検出された。このとき の触媒出ガス中のNOとNO2の濃度の和は、触媒入りガス中のNO濃度よりも低く、 反応ガスが触媒を通過することで窒素原子の一部が気層から除去されているこ 17 とが分かる。測定開始から120秒後の時点で触媒の入りガスを等量点(モデルガ スで酸化剤および還元剤の酸素原子換算の濃度が等しい雰囲気であり、エンジ ンの理論空燃比に相当する。)に切り替えると、触媒入りガスに窒素含有成分を 含まないにもかかわらず、N2が触媒出ガス中に検出され、測定開始から約240 秒後までの120秒間にわたって徐々に減少した。これらの結果から、酸化雰囲気 においてNOxは触媒上に吸蔵され、吸蔵されたNOxが等量点においてN2へと還元 されることが示された。 2.3.2.NOx吸蔵機構 図2-5にBa/Pt/Al2O3触媒のNOx吸蔵量に対する触媒入りガス中のO2濃度の影 響を示す。反応温度は今までと同様、573 Kである。O2濃度がゼロの場合には NOx吸蔵量は0.006 molと非常に低い値であった。しかし、O2濃度の増加に対し てNOx吸蔵量は急激に増加し、O2濃度が1%以上では約0.1 molとなった。この結 果から、NOxは酸化されて触媒上に吸蔵されていることが予想される。図2-6に DRIFTを用いて測定した吸蔵NOx種の赤外吸収スペクトルを示す。673 Kで Ba/Pt/SiO2触媒にNOおよびO2を供給すると、1350 cm-1付近に吸収ピークが現れ たことから、吸蔵NOx種は硝酸イオン(Nitrate ion: NO3-)として触媒中に存在 していることが示された。この条件においてPt/SiO2触媒を測定した結果では、 吸蔵NOx種に由来する赤外吸収ピークは表れなかった(図示せず)ことから、 NO3-はバリウム化合物に吸蔵されているものと考えられる。673 Kにて Ba/Pt/SiO2触媒の最大NOx吸蔵量をTGによって求めた結果、その値はNO2換算で バリウム金属とのモル比が約2であった。DRIFTならびにTGの結果から、NOx はバリウム化合物と反応し、硝酸バリウム(Barium nitrate: Ba(NO3)2)を生成し ているものと考えられる。図2-7にはNOx吸蔵材に用いた化合物の陽イオン元素 のPaulingの電気陰性度に対する反応温度523 Kでの各触媒のNOx吸蔵量を示す。 電気陰性度が小さい、すなわちNOx吸蔵材の塩基性が強い触媒ほどNOx吸蔵量が 多かった。NOの酸化はNOx吸蔵材の上で起こるとは考えにくいことから、NO は貴金属上で酸化され、その後NOx吸蔵材との反応で硝酸塩を生成して吸蔵され 18 たものと考えられる。Tabataら〔2〕、およびMochidaら〔3〕は、複合酸化物が 酸化雰囲気でNOxを吸蔵できることを報告している。Mochidaらは、NOxが硝酸 塩として吸蔵されることも述べている〔3〕。NOx吸蔵還元型触媒も、これらの報 告と同様にNOxを硝酸塩として吸蔵した。 貴金属からNOx吸蔵材へのNOxの移動について検討するために、2.2.1. で示した、SiO2を担体とし貴金属とNOx吸蔵材との配置を変えた2種類の触媒を 検討した。一方の触媒はSiO2粉末にPtおよびバリウム化合物を順に含浸担持し た”Ba/Pt/SiO2触媒”である。もう一方の触媒は、予めSiO2担体にPtを担持した ペレットと、これとは独立したSiO2粒子にバリウム化合物を担持したペレット を調製し、両者を物理的に混合した”Pt/SiO2とBa/SiO2との物理混合触媒”であ る。”Ba/Pt/SiO2触媒”と”Pt/SiO2とBa/SiO2との物理混合触媒”では、同重量 の触媒に対して同一量のPtならびにバリウム化合物が含まれている。反応温度 523、573および623 Kにおける”Ba/Pt/SiO2触媒”、および”Pt/SiO2とBa/SiO2 との物理混合触媒”のNOx吸蔵率を図2-8に示す。図2-8から明らかなように、” Ba/PtSiO2触媒”ではいずれの反応温度でもNOxが吸蔵されたが、”Pt/SiO2と Ba/SiO2との物理混合触媒”ではいずれの反応温度でもNOxが吸蔵されなかった。 この結果から、貴金属からNOx吸蔵材へのNOx移動過程はNOx吸蔵に対して非常 に重要であり、貴金属上で酸化されたNOxは貴金属近傍のNOx吸蔵材とだけ反応 して硝酸塩を生成することが示された。 2.3.3.NOx還元機構 反応温度573 Kにおいて、触媒入りガスとして酸化雰囲気、Heのみ、および 等量点のモデルガスをこの順番で120秒間ずつ流通させ、四重極質量分析計を用 いて測定したN2、NOおよびNO2濃度の時間変化を図2-9に示す。酸化雰囲気およ び等量点のモデルガス組成は、図2-4と同一である。触媒入りガスとしてHeのみ を供給している測定開始120から240秒後の間では、触媒出ガス中にはN2はもち ろんのこと、NOおよびNO2もほとんど観測されなかった。測定開始から240秒 後に触媒入りガスを等量点に切り替えると、図2-4と同様に測定開始から360秒 19 までの約120秒間にわたって触媒出ガス中にN2が観測された。これらの結果から、 酸化雰囲気で生成した硝酸塩は573 Kでは熱分解されず、貴金属上で活性化され た還元剤(HC,COまたはH2など)によって還元分解され、還元分解によって 放出されたNOxが最終的に貴金属上で還元剤と反応してN2を生成するものと推 定される。 図2-10に、NOx浄化率に対するNOx還元時の還元剤種とその濃度の影響を示 す。CO、H2およびC3H6の混合割合を変化させることで、横軸のNOx還元時の化 学当量比(Stoichiometric ratio)を変化させた。化学当量比とは、酸素原子換算 の酸化剤と還元剤との濃度比率であり、式(2-1)によって計算される。 Stoichiometric ratio = 2[ O2 ] + [ NO ] [ H2 ] + [ CO ] +9[ C3H6 ] (2-1) NOx浄化率は還元剤の種類には依存しないが化学当量比には依存し、還元雰 囲気(化学当量比<1)で高く、酸化雰囲気(化学当量比>1)で低かった。 この結果は、還元分解によってNOx吸蔵材から放出されたNOxが貴金属上で三元 触媒と同様の機構で還元されていることを示唆している。 2.3.4.NOx吸蔵還元機構のまとめ ここまでに示した結果から導かれるNOx吸蔵還元機構を、図2-11に示す。酸 化雰囲気において、NOxは貴金属上で酸化され近傍のNOx吸蔵材と反応して硝酸 塩を生成する。このようにして生成した硝酸塩は、等量点または還元雰囲気に おいて、貴金属上で活性化された還元剤によってNOxへと分解される。NOx吸蔵 材から放出されたNOxは、貴金属上でさらに還元剤と反応しN2へと還元される。 2.3.5.Pt粒子径の影響 先に示したNOx吸蔵還元機構では、貴金属からNOx吸蔵材へのNOx、ならび に活性化された還元剤の移動過程が非常に重要であると考えられる。図2-12に NOx浄化率に対するBa/Pt/Al2O3触媒のPt粒子径の影響を示す。Pt粒子径は粉末X 線回折法(Powder X-ray diffraction: XRD)により求めた。NOx浄化率はPt粒子 20 径に依存し、Pt粒子径が小さいほどNOx浄化率が高かった。Pt粒子径が小さくな るとNO酸化反応および還元剤の活性化に寄与するPtの活性点数が増加するこ とと、PtとNOx吸蔵材との界面が増加することによって、NOxおよび還元剤のPt からNOx吸蔵材への移動が促進される2つの要因がこのような結果をもたらし たものと考えられる。 2.3.6.NOx吸蔵材種の影響 2.3.2.で示したように、NOx吸蔵量はNOx吸蔵材の塩基性に依存する。 一般に、塩基性化合物はPtの触媒活性に影響をおよぼす。例えば、Pt触媒のHC の酸化活性は、塩基性物質によって低下する。NOx吸蔵還元型触媒でも、NOx 吸蔵材の塩基性はHC浄化率に影響する。図2-13に示すように、電気陰性度 (Electronegativity)がバリウムよりも小さい、すなわち塩基性が強いカリウム およびセシウムを構成元素とするNOx吸蔵材を用いると、10-15モード試験にお けるNOx吸蔵還元型触媒のHC浄化率は急激に低下する。2.1.で述べたよう に、リーンバーンポート噴射ガソリンエンジン用のNOx吸蔵還元型触媒は酸化雰 囲気でのNOx浄化能だけでなく、三元触媒としての機能、すなわちHCならびに COの浄化能も必要であった。このため、酸化雰囲気でのNOx浄化活性と理論空 燃比近傍での三元活性を両立できるようなNOx吸蔵材の選択が重要となる。図 2-7ではNOx吸蔵材の塩基性が強いほどNOx吸蔵量が高いことを示したが、HC浄 化性能とのバランスから適度な塩基性を示すバリウム化合物をNOx吸蔵材に選 択した。 2.3.7.NOx吸蔵還元型触媒の耐久性能 NOx吸蔵還元型触媒の耐久試験を、実排気ガスおよび二酸化硫黄(Sulfur dioxide: SO2)を含むモデルガスを用いて実施した。NOx吸蔵還元型触媒の劣化 は熱および硫黄被毒によって生じると予想される。実際、SO2が排気ガス中に存 在すると、NOx吸蔵量が大幅に低下する。SO2はガソリン中のS化合物の酸化に よって生成する。図2-14に示すように、DRIFTを用いた解析によって、耐久試 験後のBa/Pt/Al2O3触媒には硫酸イオン(Sulfate ion: SO42-)が存在することが明 21 らかとなった。SO2は貴金属上で酸化され、NOx吸蔵材と反応し、硫酸塩(Sulfate) を形成する。硫酸塩は硝酸塩よりも安定であるため、NOx吸蔵材は硫酸塩を生成 するとNOx吸蔵能を失う。しかし、貴金属近傍の一部の硫酸塩は、等量点または 還元雰囲気において徐々に還元分解された。図2-15に、XRDを用いて測定した 硫酸塩の粒子径とその分解率の関係を示した。硫酸塩の粒子径が小さいほど、 その分解率が高かった。この知見に基づき、硫酸塩の粒成長を抑制するNOx吸蔵 材組成の最適値を検討し、幾つかの添加材を見出した〔4〕。その結果、改良さ れたNOx吸蔵還元型触媒ではNOx吸蔵材の硫酸塩を効率よく分解することが可 能となった。 2.3.8.実車試験におけるNOx吸蔵還元型触媒の性能 排気量1.8 Lのリーンバーンポート噴射ガソリンエンジンを搭載した乗用車 を用いて、30 ppmの硫黄を含有量する日本のレギュラーガソリンを使用した 10-15モード試験を実施したところ、NOx吸蔵還元型触媒は初期でNOx浄化率 90%を示し、モード試験と同じガソリンを使用した100,000 km相当の耐久試験 後ではNOx浄化率60%を示した。この結果から、低硫黄ガソリンを使用すれば、 NOx吸蔵還元型触媒は十分な耐久性能を持つことが示された。 2.4.結言 リーンバーンポート噴射ガソリンエンジン用にNOx吸蔵還元機構という新 しい概念を有する排気ガス浄化触媒を開発し、この触媒をNOx吸蔵還元型触媒と 命名した。リーンバーンポート噴射ガソリンエンジンを搭載した乗用車を用い た10-15モード試験において、開発したNOx吸蔵還元型触媒は初期に90%のNOx 浄化率を示し、耐久性能も実用に対して十分確保することができた。また、NOx 吸蔵還元型触媒のNOx浄化機構を検討した結果、酸化雰囲気においてNOxは貴金 属上で酸化され近傍のNOx吸蔵材に硝酸塩として吸蔵されること、吸蔵された NOxはその後の等量点または還元雰囲気において、硝酸塩の還元分解によるNOx の放出と、放出されたNOxの貴金属上での還元という2段の反応でN2へと還元さ 22 れること、を明らかにした。第3章には、リーンバーン直噴ガソリンエンジン の排気ガス浄化に適用できるNOx吸蔵還元型触媒の研究結果を記す。 23 参考文献 〔1〕郷野武、佐藤充功、松下宗一、杉山雅則、自動車技術会中部支部 1997 年 研究発表会前刷り集、(1997) 7. 〔2〕K. Tabata, H. Fukuda, S. Kohiki, N. Mizuno and M. Misono, Chem. Lett., (1988) 799. 〔3〕M. Mochida, K. Yasuoka, K. Eguchi and H. Arai, J. Chem. Soc. Chem. Commun., (1990) 1165. 〔4〕K. Yamazaki, T. Suzuki, N. Takahashi K. Yokota and M. Sugiura, Appl. Catal. B: Environ., 30 (2001) 459. 24 Helical port O2 sensor Swirl control valve Combustion pressure sensor Crank angle sensor ECU NOx storage and reduction catalyst NO x concentration [ppm] Fig. 2-1 Schematic diagram of gasoline-fuel port injection lean burn engine system. R 800 O R O R 600 400 200 0 0 120 240 360 480 Time [sec] Fig. 2-2 NOx purification behavior of NOx storage and reduction catalyst ), NOx under reducing and oxidizing conditions. NOx in the inlet gas ( in the outlet gas ( ), catalyst: Ba/Pt/Al2O3, temperature: 573 K, “R” means reducing condition and its inlet gas composition was [NO]=70 ppm, [O2] =0.6%, [C3H6]=2000 ppm, [CO]=0.5%, [H2O]=10% and [CO2]=14.5% balanced with N2, while “O” means oxidizing condition and its inlet gas composition was [NO] =700 ppm, [O2]=4%, [C3H6]=800 ppm, [CO] =0.1%, [H2O] =10% and [CO2] =12.7% balanced with N2. 25 NO x concentration [ppm] R 800 O 600 400 200 0 0 120 240 360 480 Time [sec] Fig. 2-3 NOx purification behavior of the NOx storage and reduction catalyst ), for a long period under oxidizing condition. NOx in the inlet gas ( NO x in the outlet gas ( ), catalyst: Ba/Pt/Al2O3, temperature: 573 K, “R” and “O” mean reducing or oxidizing condition, and these inlet gas compositions were the same as described in Fig. 2-2. S Concentration [a.u.] O 0 60 120 180 240 Time [sec] Fig. 2-4 N-compounds behavior of the NOx storage and reduction catalyst. NO in the inlet gas ( ), NO in the outlet gas ( ), NO2 in the outlet gas ( ), N2 in the outlet gas ( ), catalyst: Ba/Pt/Al2O3, temperature: 573 K, “O” means oxidizing condition and its inlet gas composition was [NO] =0.2% and [O2]=5% balanced with He, while “S” means stoichiometric condition and its inlet gas composition was [O2] =5% and [H2]=10% balanced with He. 26 NO x storage amount [mol] 0.15 0.10 0.05 0 0 2 4 6 8 O2 concentration [%] Fig. 2-5 Influence of the O2 concentration on NOx storage amount. catalyst: Ba/Pt/Al2O3, temperature: 573 K, the inlet gas composition: [NO] =250 ppm and [O2]=1–6% balanced with N2. Absorbance [a.u.] NO3- 2000 1800 1600 1400 1200 1000 Wave number [cm-1] Fig. 2-6 FT-IR spectra of NOx species stored on the NOx storage compound. spectrum on the catalyst under N2 flowing ( ), spectrum on the catalyst with NOx species stored on the NOx compound under NO, O2 and N2 flowing ( ), catalyst: Ba/Pt/SiO2, temperature: 673 K, spectrum of the catalyst with stored NOx species were measured under the inlet gas composition of [NO] =0.1%, [O2]=4% and [H2O]=3% balanced with N2. 27 NO x storage amount [mol] 0.20 Strong Basicity Weak Cs 0.15 0.10 K Ba Na 0.05 Mg 0 0.5 1.0 1.5 Electronegativity [–] Fig. 2-7 Influence of basicity of NOx storage compounds on NOx storage amount. catalyst: NOx storage compound/Pt/Al2O3, temperature: 523 K, the inlet gas composition: [NO] =700 ppm, [O2]=4%, [C3H6]=800 ppm, [CO]=0.1%, [H2O]=10% and [CO2]=12.7% balanced with N2. NO x storage ratio [%] 100 80 60 40 20 0 500 550 600 650 Temperature [K] Fig. 2-8 Influence of arrangement of precious metal and NOx storage compounds on NOx storage ratio. Pt and Ba compound were supported on the identical SiO2 particles ( ), Pt and Ba-compound were supported on separate SiO2 particles ( ), the inlet gas composition: [NO] =570 ppm, [O2]=8%, [C3H6]=1200 ppm, [CO]=0.2% and [H2]=500 ppm balanced with He. 28 He S Concentration [a.u.] O 0 60 120 180 240 300 360 Time [sec] Fig. 2-9 N-compounds behavior of the NOx storage and reduction catalyst. NO in the inlet gas ( ), NO in the outlet gas ( ), NO2 in the outlet ), catalyst: Ba/Pt/Al2O3, gas ( ), N2 in the outlet gas ( temperature: 573 K, “O” and “S” mean oxidizing or stoichiometric condition and these inlet gas compositions were the same as described in Fig. 2-4, and “He” means pure He flowing. NO x conversion [%] 100 80 60 40 20 0 0 0.5 1.0 1.5 2.0 Stoichiometric ratio [–] Fig. 2-10 Influence of various reducing agents and their combination on NO x conversion. catalyst: Ba/Pt/Al2O3, temperature: 523 K, combination of reducing agents and water: C3H6 ( ), H2 ( ), H2+H2O ( ), CO ), C3H6+CO+H2O ( ), H2+CO+H2O ( ), ( ), CO+H2O ( Stoichiometric ratio=(2[O2]+[NO])/([H2]+[CO]+9[C3H6]). 29 Lean A/F Rich A/F (Oxidative atmosphere) (Reductive atmosphere) R NO+ O2 NO2 NO+ O2 NO3- PM NO3- NSC N2 R NO2 R PM PM Supports NO3NSC NO x PM Supports PM; Precious metals NSC; NOx storage compounds R; Reducing agents (H2, CO, HC) Fig. 2-11 NOx storage and reduction mechanism of NOx storage and reduction catalysts. NO x conversion [%] 100 80 60 40 20 0 0 5 10 15 Particle diameter of Pt [nm] Fig. 2-12 Influence of particle diameter of Pt on NOx conversion. catalyst: Ba/Pt/Al2O3, temperature: 573 K, reducing inlet gas composition: [NO]=70 ppm, [O2] =0.6%, [C3H6]=2000 ppm, [CO]=0.5%, [H2O]=10% and [CO2]=14.5% balanced with N2, oxidizing inlet gas composition: [NO] =700 ppm, [O2]=4%, [C3H6]=800 ppm, [CO] =0.1%, [H2O] =10% and [CO2] =12.7% balanced with N2, the particle diameters of Pt were determined using XRD. 30 HC conversion [%] 100 Strong Basicity Weak Ba K 80 Mg Na 60 40 20 0 0.5 Cs 1.0 1.5 Electronegativity [–] Absorbance [a.u.] Fig. 2-13 Influence of basicity of NOx storage compound on HC conversion. catalyst: NOx storage compound/Pt/Al2O3, HC conversion was measured on the Japanese 10-15 mode emission test. SO42- 1300 1250 1200 1150 1100 1050 1000 Wave number [cm-1] Fig. 2-14 FT-IR spectrum of NOx storage and reduction catalyst after durability test. catalyst: Ba/Pt/SiO2. 31 Decomposition ratio of sulfate [%] 100 80 60 40 20 0 0 10 20 30 Particle diameter of sulfate [nm] Fig. 2-15 Influence of particle diameter of sulfate on its decomposition ratio. decomposition condition: temperature: 973 K, time: 20min, reducing inlet gas composition: [C3H6]=1% balanced with N2, the particle diameter of sulfate and its decomposition ratio were determined using XRD. 32 第3章 NOx 吸蔵還元型触媒の改良 3.1.緒言 第2章ではリーンバーンポート噴射ガソリンエンジンを搭載した乗用車で 実用化されたバリウム化合物を NOx 吸蔵材とする NOx 吸蔵還元型触媒を開発す る際に実施した、NOx 吸蔵還元反応機構の解析、NOx 吸蔵還元反応に対する Pt 粒子径などの影響、および NOx 吸蔵還元型触媒の劣化要因についてまとめた。 その中で、NOx 吸蔵還元型触媒の劣化要因として、熱劣化および硫黄被毒があ ることを示した。その後、NOx 吸蔵還元型触媒の劣化は他の研究者からも報告 され〔1-3〕、硫黄が貴金属〔4, 5〕、担体〔6〕、および NOx 吸蔵材〔4〕を被毒 することが指摘されている。第2章でも示したように、NOx 吸蔵材が硫黄に被 毒されると硫酸塩へと変化する〔4-7〕。硫酸塩は 873 K 以上の還元雰囲気にお いて SO2 または硫化水素(Hydrogen sulfide: H2S)へと還元分解され、それに よって NOx 吸蔵量の一部が回復する〔1, 4〕。NOx 吸蔵還元型触媒の硫黄被毒耐 久性能を改善するための研究も幾つか報告されている。その中の多くの方法は、 触媒に添加材を加えることである。例えば、酸化鉄の一種であるヘマタイト (Hematite: Fe2O3)を添加すると硫酸バリウム(Barium sulfate: BaSO4)の粒 成長が抑制され、BaSO4 の分解が促進されることで耐硫黄被毒性が向上するこ とが報告されている〔8〕。また、H2 は NOx 吸蔵材の硫酸塩を分解するのに最も 効果的な還元剤であり〔6, 9〕、ZrO2 に担持した Rh 触媒が水蒸気改質反応によ って H2 生成を促進することから、Rh/ZrO2 触媒を NOx 吸蔵材に添加するという 改良も実施されている〔6, 10〕。硫黄被毒耐久性能を向上させる他の有効な手段 は、二酸化チタン(Titanium dioxide: TiO2 )を添加することである〔11〕。 Matsumoto らは、TiO2 担体上の硫酸塩の還元分解温度が Al2O3 担体上のそれよ りも低いこと、TiO2 担体と Al2O3 担体とを併用すると硫黄の付着抑制と硫黄被 毒した後の NOx 吸蔵還元型触媒の NOx 吸蔵量の向上を両立できること、硫黄被 毒処理を行っていない Pt/TiO2 触媒と硫黄被毒処理を行った Ba/Pt/Al2O3 触媒と 33 を物理混合すると Ba/Pt/Al2O3 触媒単身に比べて還元雰囲気での硫黄の脱離が促 進されることなどを見出した〔6〕。彼らは、物理混合によってこのような現象 が生じる原因として、硫黄被毒されていない Pt/TiO2 触媒と硫黄被毒されている Ba/Pt/Al2O3 触媒との界面で硫黄化合物の分解が促進されるためであると考えた。 この研究結果を踏まえて、微細な TiO2 粒子を NOx 吸蔵還元型触媒に添加するこ とで NOx 吸蔵還元型触媒の硫黄被毒耐久性を改善することに成功した〔12, 13〕。 一方で、直噴ガソリンエンジンで成層燃焼を実用レベルで実現することが技 術的に可能となり、1996 年に排気量2 L の成層燃焼リーンバーン直噴ガソリン エンジンを搭載した乗用車が市販された。成層燃焼のメリットは燃費の向上で あり、熱効率が向上することから排気ガスの温度が低下する。このため、リー ンバーンポート噴射ガソリンエンジンを搭載した乗用車の場合には使用されて いなかった三元触媒を、図 3-1 に示すようにリーンバーン直噴ガソリンエンジ ンの排気マニホールド直下に搭載し、床下位置に NOx 吸蔵還元型触媒を搭載す る排気ガス浄化システムが採用された〔14〕。このことによって、NOx 吸蔵還元 型触媒は必ずしも等量点での三元触媒機能と、酸化雰囲気での NOx 浄化機能と を両立する必要が無くなり、NOx 吸蔵材としてバリウム化合物よりも塩基性の 強いカリウム化合物を使用することが可能となった。 別途実施したリーンバーン直噴ガソリンエンジンを使用した実験において、 カリウム化合物を NOx 吸蔵材とする NOx 吸蔵還元型触媒は、バリウム化合物を NOx 吸蔵材とした場合に比べて、723 K で2倍、773 K で 5 倍の NOx 吸蔵量を 示した〔15〕。詳細は第4章で示すが、硝酸塩と炭酸塩(carbonate)との熱力 学平衡定数からも、硝酸カリウム(Pottasium nitrate: KNO3)は Ba(NO3)2 に比 べて、熱安定性が高いと結論される。しかしながら耐久試験において、カリウ ム化合物はバリウム化合物と比べて硫黄被毒抑制添加材である TiO2 と固相反応 しやすく、硝酸カリウムの熱安定性は低下し、NOx 吸蔵能を失ってしまう〔15〕。 酸塩基触媒の分野では、ZrO2-TiO2 触媒の耐熱性が ZrO2 および TiO2 触媒単 味に比べて高いことが知られている〔16-19〕。本研究では ZrO2-TiO2 複合酸化物 34 を使用した NOx 吸蔵還元型触媒の NOx 浄化性能は、TiO2 担体のみを使用した触 媒のそれに比べて約2倍に向上した〔15〕。 この章では、カリウム化合物を NOx 吸蔵材、ZrO2-TiO2 複合酸化物を担体と する NOx 吸蔵還元型触媒の温度特性、耐久性能に対する ZrO2-TiO2 担体の組成 の影響、ZrO2-TiO2 担体の作用機構について研究した結果を示す。 3.2.実験方法 3.2.1.担体の合成および状態解析 ZrO2-TiO2 担体は以下の方法で合成した〔20〕。所定量のオキシ硝酸ジルコニ ウム2水和物(Zirconyl nitrate dehydrate: ZrO(NO3)2·2H2O, 和光純薬工業)お よび四塩化チタン(Titanium(IV) chloride: TiCl4)溶液(和光純薬工業)をイオン 交換水(Ion-exchanged water)に溶解し、アンモニア水(Ammonia solution) を添加することで沈殿物を得た。得られた沈殿物を大気中 423 K で乾燥後、50 K/h の速度で 773 K まで加熱し、5 時間焼成した。ZrO2-TiO2 複合酸化物の ZrO2 含有量は 10 から 90 wt%まで、10 wt%間隔で変化させた。TiO2 単味は TiCl4 溶 液のみ、ZrO2 単味は ZrO(NO3)2·2H2O のみを使用し、ZrO2-TiO2 と同様の方法で 調製した。担体の比表面積は全自動比表面積測定装置(Microsorp 4232Ⅱ、 Microdata)によって Brunauer-Emmett-Teller(BET)一点法により求めた。担 体の結晶構造は X 線回折装置(RINT-2100、リガク)によって Cu Kαを X 線源 とする XRD 法により解析した。担体材料の酸塩基性は、常圧固定床流通型反応 装置(CATA5000-4、ベスト測器)を用いて、アンモニア(Ammonia : NH3)お よび CO2 の昇温脱離(Temperature programmed desorption: TPD)試験により 解析した。この場合、1 g の担体を内径 1 mm の石英製反応管に充填し、N2 流通 下にて 873 K で 30 分間の前処理を実施した。373 K において、2%の NH3 また は CO2 を担体に供給し、それらの出ガス中の濃度が入りガスと同等になるまで 放置した。その後、入りガスを N2 に切り替え、NH3 または CO2 が出ガスに観測 されなくなるまで保持した。次に、担体を 20 K/min の速度で 873 K まで加熱し、 35 TPD パターンを得た。出ガスの NH3 および CO2 濃度は非分散型赤外吸収分析計 (Nondispersive infrared spectrometer: ND-IR)で測定した。担体中の Zr および Ti の分布はエネルギー分散型蛍光 X 線分析装置(Energy dispersive X-ray fluorescence spectrometer: EDX)を搭載した電界放射型透過電子顕微鏡(Field emission transmission electron microscope: FE-TEM、HF-2000、日立ハイテク ノロジーズ)によって解析した。 3.2.2.触媒調製 合 成 し た 担 体 を ジ ニ ト ロ ジ ア ミ ノ 白 金 ( Dinitro-diamino platinum: Pt(NH3)2(NO2)2)硝酸溶液(田中貴金属工業)に懸濁し、3 時間撹拌した。次に 溶液を加熱し、水分を蒸発させた。その後、393 K で一夜乾燥し、最後に 523 K で 1 時間焼成を行った。得られた Pt 担持触媒を酢酸カリウム(Potassium acetate: CH3COOK、和光純薬工業)水溶液に懸濁し、3 時間撹拌した。次に溶 液を加熱し、水分を蒸発させた。その後、393 K で一夜乾燥し、最後に 773 K で 3 時間焼成を行った。Pt 担持量は 1.5 wt%、カリウム化合物の担持量は K2O 換算で 7.2 wt%とした。Pt およびカリウム化合物を担持した粉末触媒は、加圧 することで圧粉し、300 から 700 μm のペレットに粉砕して実験に使用した。 3.2.3.触媒の硫黄被毒試験 1 g の触媒に対して、酸化雰囲気と還元雰囲気とを交互に繰り返すモデルガ スを供給することで硫黄被毒試験を実施した。触媒は 30 分間で室温から 873 K まで加熱し、この温度で 100 分間保持した。酸化雰囲気および還元雰囲気のモ デルガス組成を表 3-1 に示す。雰囲気の切り替えは 1 分周期とした。加熱時お よび 873 K に保持している間の、のべ 130 分間 SO2 を触媒に供給し、冷却時に は SO2 の供給は停止した。ガス流速は 500 cm3/min とした。この条件で触媒に 供給される硫黄量は、触媒に担持されているカリウム金属に対して mol 比で 1.1 倍である。 3.2.4.硫黄被毒試験後の触媒の NOx 吸蔵量測定および状態解析 硫黄被毒試験後の触媒の NOx 吸蔵量の測定は、常圧固定床反応装置を用い 36 てモデルガスにより実施した。触媒量は 0.5 g とした。表 3-2 に、活性試験に使 用したモデルガスの組成を示す。触媒は還元雰囲気で 573 K まで加熱し、触媒 床温度および触媒出ガスの濃度が一定値となった時点で、入りガスを酸化雰囲 気に切り替え、触媒出ガス濃度が再び一定値となるまで保持した。次に入りガ スを還元雰囲気に 3 秒間切り替えた。この短時間の還元雰囲気を、これ以降リ ッチスパイク(Rich spike: RS)と記す。その後、再び入りガスを酸化雰囲気に 切り替え、触媒出ガスの NOx 濃度が一定値となるまで保持した。RS 後の触媒入 りガスと出ガスの NOx 濃度の差分から NOx 吸蔵量を計算し、触媒活性の指標と した。673、773 ならびに 873 K での NOx 吸蔵量は、573 K での測定と同様の方 法で測定した。ガス流速は 3,300 cm3/min であり、 空間速度に換算すると 200,000 h-1 である。本研究における NOx 濃度は、自動車排気ガス分析計(MEXA-7100、 堀場製作所)に搭載された化学発光方式の NOx 計で測定した NO および NO2 の 総和である。 硫黄被毒試験後の触媒中のカリウム化合物の状態を次の方法で分析した。 硫酸カリウム(Potassium sulfate: K2SO4)、炭酸カリウム(Potassium carbonate: K2CO3)および硝酸カリウム(Potassium nitrate: KNO3)は温水に溶解するが、 カリウムとチタニウムおよび/またはジルコニウムとの複合酸化物は溶解しな い。そこで、硫黄被毒試験後の触媒を 333 K の温水に2時間浸漬し、ろ過によ って触媒と溶液を分離した。ろ液中の硫黄量を誘導結合プラズマ発光分光法 (Inductively-coupled plasma atomic emission spectroscopy: ICP-AES)によっ て定量した。Rhor らはバリウム化合物のみを NOx 吸蔵材に使用した触媒を酸化 または還元雰囲気に曝すと、最も塩基性の強いバリウムが優先的に硫黄と反応 し、酸化雰囲気では BaSO4 に、還元雰囲気では硫化バリウム(Barium sulfide: BaS)を生成すると報告している〔21, 22〕。バリウムと比較してカリウムはよ り塩基性が強い元素であり、硫化カリウム(Potassium sulfide: K2S)は H2O と 反応し K2SO4 を生成する。したがって、硫黄被毒試験後に硫黄被毒されている カリウム化合物は全て K2SO4 として存在すると考えられる。ここではこの硫黄 37 被毒されたカリウム、すなわち K2SO4 を”硫酸塩化したカリウム”と記す。こ の硫酸塩化したカリウムの量は温水中の硫黄量から算出した。 K2CO3 および KNO3 などの状態で存在するカリウムは、NOx 吸蔵サイトと して機能する。このカリウム量は、温水に溶解したカリウム量と硫酸塩化した カリウム量との差分である。これ以降、この差分量のカリウムを”残存活性カ リウム”と記す。ろ過後の残渣の触媒はフッ化水素(hydrogen fluorid: HF)溶 液に溶解し、ICP-AES を用いて溶液中のカリウム量を定量した。このカリウム は担体と固相反応していたと考えられ、これ以降このカリウムを”固相反応し たカリウム”と記す。 触媒に付着した全硫黄量は、燃焼赤外吸収分析装置(Combustion infrared absorption spectrometer: EMIA-1200、堀場製作所)によって定量した。Pt 分散 度は、全自動貴金属分散性測定装置(R6015、大倉理研)を用い、CO パルス法 によって測定した。測定手順は、触媒学会 参照触媒委員会が制定した標準測定 法に従った〔23, 24〕。表面に露出している1原子の Pt に1分子の CO が吸着し たと仮定して Pt 分散度を算出した。 3.2.5.硫黄化合物の脱離試験 表 3-1 の酸化雰囲気のモデルガスを使用し、873 K で触媒を硫黄被毒処理し た。硫黄被毒処理の際の、昇温速度、SO2 の流通時間ならびにガス流速は3. 2.3.で述べた硫黄被毒試験と同じである。この硫黄被毒処理した触媒から の硫黄化合物の脱離特性を H2 気流中で加熱する昇温還元法(Temperature programmed reduction: TPR)によって測定した。測定には TG(TG8120、リガ ク)とガスクロマトグラフ-質量分析計(Gas cromatograph-mass spectrometer: GC-MS、6890、Agilent Technologies)から構成される装置を使用した。50 mg の触媒試料を TG の試料室に設置し、He バランスの 5% H2 混合ガスを流速 120 cm3/min で触媒に供給した。このガス条件で室温から 1073 K まで 20 K/min の 昇温速度で加熱した。このとき、触媒出ガスを質量数 10 から 100 まで 2 秒ごと に測定することで、TPR パターンを得た。 38 3.3.結果および考察 3.3.1.触媒活性に対する担体組成の影響 図 3-2-(a)から 3-2-(d)に、ZrO2-TiO2 担体の ZrO2 含有割合に対する硫黄被毒 試験後の NOx 吸蔵量を示す。0 wt% ZrO2 とは担体として TiO2 単味を使用した触 媒であり、100 wt% ZrO2 とは担体として ZrO2 単味を使用した触媒である。ここ では、573 K における K/Pt/ZrO2 触媒の NOx 吸蔵量を1としたときの相対値で縦 軸の NOx 吸蔵量を示した。図 3-2-(a)に示した反応温度 573 K においては、ZrO2 含有量 60 wt%までは ZrO2 含有量が増加すると NOx 吸蔵量が減少し、それ以上 の ZrO2 含有量では NOx 吸蔵量は一定値であった。図 3-2-(b)に示した反応温度 673 K では、ZrO2 含有量 70 wt%までは ZrO2 含有量が変化しても NOx 吸蔵量は ほぼ一定であるが、それ以上の ZrO2 含有量ではその含有量が増加すると NOx 吸蔵量は減少した。図 3-2-(c)に示した反応温度 773 K では、ZrO2 含有量 70 wt% までは ZrO2 含有量の増加に対して NOx 吸蔵量が徐々に増加し、それ以上の ZrO2 含有量ではその含有量が増加すると NOx 吸蔵量は減少した。図 3-2-(d)に示した 反応温度 873 K では、ZrO2 含有量 70 から 80 wt%で NOx 吸蔵量は最大値を示し、 ZrO2 含有量がこれよりも多くても少なくても NOx 吸蔵量は減少した。 ZrO2-TiO2 触媒およびこれを担体に用いた触媒に関する最近の総説では、多 くの研究において ZrO2 を 50 mol%含有する ZrO2-TiO2 担体が最も高い触媒活性 を示すことが記されている〔19〕。今回の研究結果は、これらの報告とは幾分異 なっている。すなわち、ZrO2 含有量に対する NOx 吸蔵量の最大値は反応温度に よって異なっており、低温では TiO2 含有量の多い担体を用いた触媒が ZrO2 含有 量の多い担体を用いた触媒よりも高い NOx 吸蔵量を示した。一方、高温では 70 wt%(60 mol%)の ZrO2 を含有する担体を用いた触媒が、最も高い NOx 吸蔵量 を示した。 3.3.2.硫黄被毒試験後の触媒の状態解析 何故、低温では TiO2 含有量の多い担体を用いた触媒が、ZrO2 含有量が多い 39 担体を用いた触媒よりも高い NOx 吸蔵量を示し、高温では ZrO2 含有量 70 wt% 前後の ZrO2-TiO2 担体を用いた触媒が、ZrO2 単味または TiO2 単味を担体とする 触媒に比べて高い NOx 吸蔵量を示すのであろうか?また、何故、ZrO2 単味を担 体とする触媒は、どの反応温度でも NOx 吸蔵量が少ないのであろうか?これら の疑問に対する答えを得るために、硫黄被毒試験後の K/Pt/TiO2、K/Pt/70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 および K/Pt/ZrO2 触媒の状態解析を実施した。燃焼赤外吸収分 析 法 に よ っ て 定 量 し た K/Pt/TiO2 、K/Pt/70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 および K/Pt/ZrO2 触媒の硫黄付着量は、それぞれ 0.78、1.00 および 2.46 wt%であった。 すなわち、K/Pt/70 wt% ZrO2- 30 wt% TiO2 触媒の硫黄付着量は K/Pt/TiO2 触媒と 比べて約 30%多いが、K/Pt/ZrO2 触媒と比べると約 60%少なかった。硫黄がカリ ウム化合物のみと反応し、その結果 K2SO4 を生成している場合には、それぞれ の触媒に担持したカリウムの 32、41 および 100%が硫酸塩に変化していること になる。硫黄被毒試験におけるカリウム系 NOx 吸蔵材の失活の主原因は硫酸塩 化および担体との固相反応であると考えられている。触媒に担持したカリウム のうち、硫酸塩化または担体と固相反応したカリウムの割合を、それぞれ黒棒 ならびに白棒で図 3-3 に示す。前者は温水に溶解した硫黄量から算出し、後者 は温水に溶解しなかったカリウムの量から算出した。図 3-3 から明らかなよう に、K/Pt/70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 触媒の硫酸塩化したカリウムの割合は K/Pt/TiO2 触媒よりも約 25%多く、固相反応したカリウムの割合は K/Pt/TiO2 触 媒よりも約 40%少なかった。図 3-3 では残存活性カリウム(触媒に担持したカ リウム元素のうち、硫酸塩を形成しておらず、かつ担体と固相反応していない 割合)を灰色の棒で示す。K/Pt/70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 触媒の残存活性カリウ ムは K/Pt/TiO2 触媒に比べて 1.3 倍多かった。燃焼赤外吸収分光法の結果と同じ く、K/Pt/ZrO2 触媒上のカリウム化合物は全て硫酸塩化しており、図 3-2-(a)から 3-2-(d)に示したように、全ての温度範囲で NOx 吸蔵量が少ないことと一致した。 CO パルス吸着法で調べた3種類の触媒の Pt 分散度はいずれも約 5%であっ た。したがって、これらの触媒で Pt の触媒活性に違いがある場合、それは Pt 40 の化学的な性質の違いに起因していると考えられる。Yoshida らは、酸化雰囲気 における Pt/マグネシア(Magnesium oxide: MgO)触媒および Pt/SiO2・Al2O3 触 媒の Pt 電子状態に対する添加材の影響を X 線吸収微細構造(X-ray absorption fine structure: XAFS)により解析し、酸性物質を添加すると金属状態の Pt の割 合が増加すると報告している〔25〕。この研究とは対照的に、NOx 吸蔵還元型触 媒には NOx 吸蔵材である塩基性物質が添加されている。従って、残存活性カリ ウム量が減少すると触媒の塩基性が弱くなり、金属状態の Pt がより安定化され ると考えられる。酸化された Pt に比べて金属状態の Pt は、酸化雰囲気における NO2 生成活性ならびに RS 時の吸蔵 NOx の N2 への還元活性に優れると思われる。 Pt 分散度に明確な差が無いにもかかわらず、図 3-2-(a)に示したように 573 K に おいて TiO2 含有量が多い担体を用いた NOx 吸蔵還元型触媒の NOx 吸蔵量が多い のは、適度な金属状態の Pt とカリウム系 NOx 吸蔵材の適切な組み合わせに拠る ものと考えられる。詳細は4章で述べるが、熱力学的には温度が高いほど K2CO3 の安定性が向上し KNO3 の安定性が低下する。このため、図 3-2-(b)、3-2-(c)お よび 3-2-(d)に示したように 673 から 873 K へと反応温度が上昇するにつれて、 TiO2 含有量の多い担体を使用した NOx 吸蔵還元型触媒の NOx 吸蔵量は減少した ものと考えられる。 K/Pt/70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 触媒上では残存活性カリウム量が比較的多い ので、K/Pt/TiO2 触媒に比べて 773 および 873 K での NOx 吸蔵量が高かったもの と考えられる。しかし、残存活性カリウムは Pt を金属状態よりも酸化物状態に 安定化させ、その低温での酸化還元活性を低下させてしまう。このため、図 3-2-(a)で示したように 573 K での NOx 吸蔵量が低下したものと考えられる。 K/Pt/ZrO2 触媒では固相反応したカリウムは検出されなかったことから、ジ ルコニウム含有量の多い担体はカリウム系 NOx 吸蔵材との固相反応が抑制され ていると考えられる。さらに、K/Pt/ZrO2 触媒では残存活性カリウムが存在しな いことから、この触媒の Pt は NO の酸化活性と吸蔵 NOx の還元活性に優れると 思われる。しかしながら、この触媒上には活性な NOx 吸蔵サイトが存在しない 41 ため、全温度範囲にわたって NOx 吸蔵量が少なかったものと考えられる。 3.3.3.硫黄化合物の脱離特性 ここでは硫黄被毒抑制に寄与する担体特性を明らかにするために、酸化雰囲 気のみで硫黄被毒処理した K/Pt/TiO2 触媒、K/Pt/70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 触媒 および K/Pt/ZrO2 触媒から、還元雰囲気で脱離する硫黄化合物の測定を実施した。 触媒出ガス中には、硫黄含有化合物として H2S+(m/e=34)のみが検出され、 SO2+(m/e=64)は検出されなかった。図 3-4 に H2S-TPR パターンを示す。H2S 脱 離濃度は、K/Pt/ZrO2 触媒の方が K/Pt/TiO2 触媒よりも低かった。K/Pt/70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 触媒からの H2S 脱離濃度は、K/Pt/ZrO2 触媒とは大きく異なり、 K/Pt/TiO2 触媒からのそれに近かった。ただし、K/Pt/70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 触媒の H2S 脱離ピーク温度は K/Pt/TiO2 触媒のそれに比べて幾分高めであった。 硫黄被毒試験においては酸化雰囲気で硫黄成分が触媒に付着し、還元雰囲気で 一部脱離すると考えられる。その場合、硫黄成分が脱離しやすい触媒ほど、硫 黄被毒試験後に触媒に残存する硫黄量が少ないと考えられる。実際、硫黄被毒 試験後の触媒の硫黄被毒量と、図 3-4 で示した H2S の脱離特性とは良く一致し た。 3.3.4.担体の特性 ZrO2-TiO2 複合酸化物を担体として使用している NOx 吸蔵還元型触媒の中で、 なぜ高温において K/Pt/70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 触媒が高い NOx 吸蔵還元性能 を示すのであろうか?この疑問に対する答えを明らかにするために、担体の酸 塩基性、構造およびジルコニウムおよびチタンの分散性を検討した。 (1)酸塩基性 TiO2 の酸性質が NOx 吸蔵還元型触媒の耐硫黄被毒性を向上させると考えら れている〔6, 11-13〕。そこで、担体の酸塩基性を NH3 または CO2 の昇温脱離(TPD) によって調べた。TiO2 担体、70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担体および ZrO2 担体の 酸性質の指標である NH3-TPD パターンを図 3-5 に示す。いずれの NH3-TPD パ ターンも 473 K 付近に NH3 脱離ピークを示したことから各担体の酸強度はほと 42 んど同じであることが分かる。しかし、NH3 脱離量には違いが見られ、70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担体>TiO2 担体>ZrO2 担体の序列であった。図 3-6 には、TiO2 担体、70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担体および ZrO2 担体の塩基性の指標である CO2-TPD パターンを示す。ZrO2 担体では明確な CO2 脱離が見られたが、70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担体および TiO2 担体では CO2 脱離はほとんど起こらなかった。 ZrO2 含有量の異なる ZrO2-TiO2 担体、ZrO2 担体および TiO2 担体の 1 g あた りの NH3 および CO2 脱離量を図 3-7 に示す。60 wt% ZrO2-40 wt% TiO2 担体、 70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担体および 80 wt% ZrO2-20 wt% TiO2 担体の NH3 脱離 量は、明らかに他の担体からの NH3 脱離量よりも多く、70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担体で最大であった。一方で、ZrO2 および 90 wt% ZrO2-10 wt% TiO2 担体の CO2 脱離量は、他の担体からの脱離量に比べて2倍多かった。しかしながら、これ らの担体の NH3 脱離量は多くない。これらの結果から、90 wt% ZrO2-10 wt% TiO2 担体を除く ZrO2-TiO2 担体は ZrO2 担体よりも酸量が多く、中でも 70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担体が最大の酸量を持つことが分かった。 図 3-8 には各担体の比表面積を示す。 ZrO2-TiO2 担体は TiO2 担体および ZrO2 担体よりも高い比表面積を持ち、中でも 70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担体の比表面 積が最大で、約 200 m2/g であった。図 3-9 には担体の比表面積で規格化した NH3 脱離量を示す。比表面積あたりの NH3 脱離量は TiO2 担体で約5μmol/m2 であっ たが、それ以外の担体では2から3μmol/m2 であり、NH3 脱離量の組成に対する 明確な依存性は見られなかった。したがって、図 3-7 において 70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担体の酸量が多いのは、その比表面積が高いためであることが分かる。 Reddy らは総説において、ほとんど全ての論文で ZrO2 量 50 mol%の ZrO2-TiO2 が最も多い酸量と、最も高い比表面積を示すと報告されていると述べている 〔19〕。今回調製した材料はこれらの結果とは少し異なり、ZrO2 量 60 mol%(70 wt%)の ZrO2-TiO2 複合酸化物が、酸量および比表面積の最大値を示した。しか しながら、何故今回の研究の結果が、いままでに報告されている多くの研究結 果と異なるのかは、現時点では明らかではない。 43 (2)担体の構造 図 3-10 に TiO2 担体、ZrO2-TiO2 複合酸化物担体および ZrO2 担体の XRD パ ターンを示す。TiO2 担体、10 wt% ZrO2-90 wt% TiO2 担体および 20 wt% ZrO2-80 wt% TiO2 担体ではアナターゼ型 TiO2 に帰属される回折線が観測され、これらの 回折線は ZrO2 含有量が増加すると低角側にシフトした。Ti4+および Zr4+のイオ ン半径はそれぞれ 0.064 ならびに 0.087 nm である。イオン半径の大きな Zr4+が イオン半径の小さな Ti4+を部分的に置換するとアナターゼの結晶格子が膨張す る。このため X 線の回折角度が低角側にシフトしたものと考えられる。30 wt% ZrO2-70 wt% TiO2 担体、40 wt% ZrO2-60 wt% TiO2 担体および 50 wt% ZrO2-50 wt% TiO2 担体の回折線では、アナターゼ TiO2 または立方晶(あるいは正方晶。 立方晶と正方晶を区別することは困難であるため、ここでは立方晶と記す)ZrO2 に帰属されるピークが観測された。60 wt% ZrO2-40 wt% TiO2 担体、70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担体および 80 wt% ZrO2-20 wt% TiO2 担体では、明確なピー クは観測されず、これらは非晶質であった。幾つかの研究において特定の組成 の ZrO2-TiO2 複合酸化物が 773 K での焼成後に非晶質状態であることが報告され ている〔16, 19〕。90 wt% ZrO2-10 wt% TiO2 担体および ZrO2 担体では立方晶ま たは単斜晶の ZrO2 に帰属されるピークが観測された。90 wt% ZrO2-10 wt% TiO2 担体のピークは ZrO2 担体に比べて高角側にシフトしていた。このことから、イ オン半径の大きな Zr4+が部分的にイオン半径の小さな Ti4+によって置換され、立 方晶および単斜晶 ZrO2 の結晶格子が収縮しているものと考えられる。同様な傾 向は 30 wt% ZrO2-70 wt% TiO2 担体,40 wt% ZrO2-60 wt% TiO2 担体および 50 wt% ZrO2-50 wt% TiO2 担体の回折線にも見られる。図 3-8 の比表面積と図 3-10 の X 線回折線との対比から、非晶質材料である 60 wt% ZrO2-40 wt% TiO2,70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 および 80 wt% ZrO2-20 wt% TiO2 担体において比表面積 が高いことが分かる。適度にジルコニウムとチタンとが共存することで、773 K での焼成時の ZrO2-TiO2 複合酸化物中の陽イオンと酸素イオンとの拡散が抑制 され、結晶化温度が高温化し、微細な一次粒子が維持されることにより、高い 44 比表面積が得られたものと考える。 (3)ジルコニウムおよびチタンの分散状態 60 wt% ZrO2-40 wt% TiO2 担体、70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担体および 80 wt% ZrO2-20 wt% TiO2 担体の XRD パターンはピークを示さないため、これらの 担体におけるジルコニウムとチタンの混合状態を XRD パターンから知ることは 出来ない。そこで、EDX を搭載した FE-TEM によってジルコニウムおよびチタ ンの分散状態を分析した。図 3-11 に 70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担体の透過電子 顕微鏡写真を示した。直径 10 nm 程度の一次粒子が凝集し、差し渡し約 1 μm の二次粒子が形成されている。図 3-11 の視野の平均組成、およびこの視野の中 で無作為に分析した6箇所の直径約 1 nm の組成を EDX で定量した結果を表 3-3 に示す。視野全体の平均組成ではジルコニウムは約 60 at%(ZrO2 として約 70 wt%)であり、この値は仕込み組成とよく一致した。6箇所の分析点の組成はほ ぼ同じであると共に、視野の平均組成とも一致していた。これらの結果から、 ジルコニウムおよびチタンは 70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担体において均一に分 散しているものと考えられる。60 wt% ZrO2-40 wt% TiO2 担体および 80 wt% ZrO2-20 wt% TiO2 担体においてもジルコニウムおよびチタンの分散は均一であ ると考えている。二元系複合酸化物において、一方の陽イオンが他方の陽イオ ンで置換されることによって酸点が発現することは良く知られている〔19〕。本 研究で合成した材料においても、このような理由によって酸点が形成されてい るのであろう。 ここまでの解析結果から、ジルコニウムとチタンとの組成比が適正な ZrO2-TiO2 複合酸化物を担体に使用した K/Pt/ZrO2-TiO2 触媒では、K/Pt/TiO2 触媒 と同等の硫酸塩分解性能と、カリウム系 NOx 吸蔵材と担体との固相反応抑制と いう特徴があることが示された。図 3-9 に示したように、70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担体では、酸点の表面密度は他の ZrO2-TiO2 担体と同じであった。しかしこ の担体は比表面積が最も高いため、他の担体よりも単位重量あたりの酸量が多 い。この特性が、単味では耐硫黄被毒性が高くないジルコニウムをチタンより 45 も多く含有する 70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 複合酸化物を担体に使用した K/Pt/70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 触媒の耐硫黄被毒性を改善し、ジルコニウム含有量が多 いことによるカリウム系 NOx 吸蔵材と担体との固相反応抑制との複合効果によ って、この触媒の硫黄被毒試験後の高温での NOx 浄化性能を最大にできたもの と考えられる。 3.4.結言 この章では、9種類の異なる組成の ZrO2-TiO2 複合酸化物、ZrO2 および TiO2 を合成し、これらに Pt およびカリウム化合物を担持した NOx 吸蔵還元型触媒を 調製した。ZrO2 を 60 から 80 wt%含有する ZrO2-TiO2 複合酸化物を担体とした 場合に、873 K で硫黄被毒試験を実施した後の 773 K 以上の NOx 浄化性能が高 かった。中でも 70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 複合酸化物担体を使用した触媒で最も 高い NOx 浄化活性が得られた。一方、TiO2 含有量が多い担体を使用した場合に は 673 K 以下の NOx 浄化性能が高かった。K/Pt/ZrO2 触媒の NOx 浄化活性は、 全温度域で低かった。 上記結果の理由を明らかにするために、硫黄被毒試験後の K/Pt/70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 触媒、K/Pt/ZrO2 触媒ならびに K/Pt/TiO2 触媒を解析した結果、 TiO2 担体は硫酸カリウムの生成を抑制する効果に優れ、ZrO2 担体はカリウム化 合物との固相反応による複合酸化物形成が少ないことが分かった。担体との固 相反応によってカリウム系 NOx 吸蔵材が失活すると、Pt の触媒活性が向上する ため、TiO2 含有量が多い触媒の低温 NOx 浄化活性が向上した。 カリウム系 NOx 吸蔵材が硫酸塩生成によって失活しても同様に金属 Pt の触 媒活性が向上するが、K/Pt/ZrO2 触媒では全てのカリウム化合物が硫酸塩化して しまい NOx 吸蔵サイトが残存していないため、どの温度でも NOx 浄化活性が低 かった。 K/Pt/70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 触媒では、硫酸塩化したカリウムの割合が K/Pt/ZrO2 触媒に比べて約 40%であり、固相反応したカリウムの割合が K/Pt/TiO2 46 触媒に比べて約 40%であった。70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担体ではジルコニウム とチタンが均一に分散しているため、検討した担体の中では酸量が最も多かっ た。酸点は硫黄化合物の脱離を促進することから、70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担 体の酸性質によって K/Pt/TiO2 触媒とほぼ同等の耐硫黄被毒性が得られたものと 考えられる。 硫黄被毒試験後の K/Pt/ZrO2 触媒では固相反応したカリウムは存在しなかっ た。このことはジルコニウム含有量の多い ZrO2-TiO2 担体でカリウム系 NOx 吸 蔵材と担体との固相反応が大きく抑制されていることと一致する。カリウム系 NOx 吸蔵材と 70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 担体の固相反応性が低いことが、K/Pt/70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 触媒で高い高温活性が得られるもう一つの理由である。 この章で実施した研究結果から、TiO2 および ZrO2 の役割が明らかとなり、 ZrO2-TiO2 複合酸化物担体を用いた NOx 吸蔵還元型触媒の硫黄被毒試験後の NOx 浄化活性が高い理由も明確になった。適度な酸性質とジルコニウム含有量 の多い担体を使用することで、耐硫黄被毒性と耐熱性を両立することが可能で ある。 47 参考文献 〔1〕M. 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Belot, P. Gélin and M. Primet, SAE Tech. Paper 2005-01-1113 (2005). 〔23〕触媒, 28 (1986) 41. 〔24〕触媒, 31 (1989) 5. 〔25〕H. Yoshida, Y. Yazawa and T. Hattori, Catal. Today 87 (2003) 19. 49 Exhaust gas recirculation control valve Electronic throttle Airflow control valve Fuel injection valve Close coupled 3way catalyst NOx storage and reduction catalyst Fig. 3-1 Schematic diagram of gasoline-fuel direct injection lean burn engine system. Table 3-1 Simulated exhaust gas composition for sulfur-aging test Rich Lean CO2 [%] O2 [%] CO [%] H2 [%] C3H6 [%] SO2 [ppm] H2O [%] 10.0 9.6 0 7.7 4.50 1.43 1.50 0.47 0.16 0.15 500 480 3 3 50 N2 Balance Balance Table 3-2 Simulated exhaust gas compositions for measurement of NOx storage amount CO2 [%] 11 11 11 Relative NOx storage amount [–] Rich Lean Rich Spike O2 [%] CO [%] H2 [%] C3H6 [%] NO [ppm] H2O [%] 0.3 5.6 1.9 6.6 0.025 0.008 0 5.6 1.9 0.11 0.02 0.11 0 800 50 3 3 3 He Balance Balance Balance 8 6 4 2 0 0 20 40 60 80 100 ZrO2 content [wt%] Fig. 3-2-(a) NOx removal performance of the sulfur-aged catalysts at 573 K versus ZrO2 content. 51 Relative NOx storage amount [–] 8 6 4 2 0 0 20 40 60 80 100 ZrO2 content [wt%] Relative NOx storage amount [–] Fig. 3-2-(b) NOx removal performance of the sulfur-aged catalysts at 673 K versus ZrO2 content. 8 6 4 2 0 0 20 40 60 80 100 ZrO2 content [wt%] Fig. 3-2-(c) NOx removal performance of the sulfur-aged catalysts at 773 K versus ZrO2 content. 52 Relative NOx storage amount [–] 8 6 4 2 0 0 20 40 60 80 100 ZrO2 content [wt%] Fig. 3-2-(d) NOx removal performance of the sulfur-aged catalysts at 873 K versus ZrO2 content. Ratio of potassium [%] 100 80 60 40 20 0 K/Pt/TiO2 K/Pt/70 wt% ZrO230 wt% TiO2 K/Pt/ZrO2 Fig. 3-3 The state of potassium over the sulfur-aged catalysts. sulfateformed potassium ( ), solid-phase-reacted potassium ( ), remaining active potassium ( ; neither sulfate-formed nor solid-phasereacted). 53 H2S concentration [ppm] 1000 800 600 400 200 0 600 700 800 900 1000 1100 Temperature [K] Fig. 3-4 H2S desorption patterns with the sulfur-aged catalysts. K/Pt/TiO2 ( ), K/Pt/70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 ( ), K/Pt/ZrO2 ( ). NH3 concentration [ppm] 1000 800 600 400 200 0 400 500 600 700 800 Temperature [K] Fig. 3-5 NH3 desorption patterns with the support oxides. TiO2 ( 70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 ( ), ZrO2 ( ). 54 ), CO2 concentration [ppm] 200 150 100 50 0 400 500 600 700 800 Temperature [K] Desorption amount [μmol/g] Fig. 3-6 CO2 desorption patterns with the support oxides. TiO2 ( 70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 ( ), ZrO2 ( ). 600 500 400 300 200 100 0 0 20 40 60 80 100 ZrO2 content [wt%] Fig. 3-7 NH3 and CO2 desorption amounts with the support oxides. NH3 desorption amount ( ), CO2 desorption amount ( ). 55 ), Specific surface area [m2/g] 250 200 150 100 50 0 0 20 40 60 80 100 ZrO2 content [wt%] NH3 desorption amount [μmol/m2] Fig. 3-8 Specific surface area of supports calcined at 773 K. 5 4 3 2 1 0 0 20 40 60 80 100 ZrO2 content [wt%] Fig. 3-9 NH3 desorption amounts of supports based on the specific surface area. 56 Intensity [cps] 2500 2000 M M C M M M C C M M M M MM M 1500 1000 500 A 0 20 30 A 40 A AA 50 A 60 AA A 70 ZrO2 90 wt% ZrO2-10 wt% TiO2 80 wt% ZrO2-20 wt% TiO2 70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 60 wt% ZrO2-40 wt% TiO2 50 wt% ZrO2-50 wt% TiO2 40 wt% ZrO2-60 wt% TiO2 30 wt% ZrO2-70 wt% TiO2 20 wt% ZrO2-80 wt% TiO2 10 wt% ZrO2-90 wt% TiO2 TiO2 80 2θ [deg.] Fig. 3-10 XRD patterns of support oxides calcined at 773 K. anatase (A), cubic (C), monoclinic (M). Fig. 3-11 FE-TEM micrograph of 70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 support. 57 Table 3-3 Zr/Ti composition of 70 wt% ZrO2-30 wt% TiO2 support analyzed by EDX Composition [at%] Zr Ti Overall field average of Fig. 3-11 63.06 36.94 Local spot Local spot Local spot Local spot Local spot Local spot 63.15 61.05 64.79 67.50 67.44 61.45 36.85 38.95 35.21 32.50 32.56 38.55 1 2 3 4 5 6 58 第4章 NOx 吸蔵量の温度特性と低温 NOx 吸蔵量に対する NOx 種および共存還 元剤の影響 4.1.緒言 NOx 吸蔵還元型触媒の NOx 吸蔵量には限界が有る。このため、触媒出ガス の NOx 濃度が上昇する前に、エンジン制御システムによって還元雰囲気の排気 ガスを触媒に供給し、その中の水素 H2、CO および HC によって吸蔵 NOx を N2 へと還元することにより NOx 吸蔵サイトを再生している〔1〕。今までに報告さ れている NOx 吸蔵還元型触媒では、主に 673 K 付近で NOx 吸蔵還元反応を行っ ている〔2〕。しかしながら燃費が向上すると熱損失が低下するので、排気ガス 温度が低下する〔3〕。したがって、リーンバーン直噴ガソリンエンジンの燃費 向上は、NOx 吸蔵還元型触媒にとって低温活性向上という課題を生む。 しかしながら、673 K 以下に反応温度が低下すると、NOx 吸蔵還元型触媒の NOx 浄化特性は低下することが報告されている〔2〕。エンジン排気ガス中の NOx 種は主に NO であることは良く知られている。第2章で示したように、NO は酸 化され、硝酸塩として NOx 吸蔵還元型触媒に吸蔵される。従って、NO を NO2 へと酸化することができれば、NOx 吸蔵量が向上すると期待される。実際、入 りガスの NOx 種として NO2 を使用したモデルガス実験において、NO を使用し た場合に比べて 423 K では 3 倍、573 K では 1.5 倍の NOx 吸蔵量が得られるこ とが報告されている〔4〕。このことは NOx 吸蔵還元型触媒の低温活性の改善に 対して重要な知見である。しかしながら、この実験に使用しているモデルガス は酸化雰囲気で実際のエンジン排気ガスに含まれる CO や HC などの還元剤を 含んでいないという点で、両者は大きく異なる。 実用レベルで NOx 吸蔵還元型触媒の性能改善を行うためには、単純なモデ ルガス中での NO 酸化活性の改善が、実際のリーンバーン直噴ガソリンエンジ ン排気ガス中で使用される NOx 吸蔵還元型触媒の低温活性を向上させることが できるかを検証することが重要である。この目的に対して、この章では実際の 59 リーンバーン直噴ガソリンエンジン排気ガスに含まれる O2 、CO、プロペン (Propene: C3H6)、CO2 および H2O を含み、NO2 濃度を変化させたモデルガス を用いて NOx 吸蔵還元型触媒の低温活性を調べた。また、幾つかの反応条件に おける熱力学計算も行った。入りガス NOx 種が NO と NO2 のときの違いを定量 し、低温での NOx 吸蔵特性に対する酸化雰囲気で共存する CO および C3H6 の影 響を明らかにした。この検討によって、より低温活性が高い実用レベルの NOx 吸蔵還元型触媒の開発および設計に対する、有効な技術的知見を得ることを目 的とした。 4.2.実験方法 4.2.1.触媒調製 NOx 吸蔵還元型触媒は、セル形状が六角(セル密度 62 cell/cm2)、直径 30 mm、 長さ 50 mm のモノリス基材を構造材料に用い、 担体として Al2O3 などの酸化物、 酸素吸放出材料として CeO2-ZrO2 系酸化物、NOx 吸蔵材としてバリウム化合物 およびカリウム化合物、ならびに貴金属として Pt および Rh を担持することで 調製した〔5〕。バリウムおよびカリウム、Pt および Rh の合計の担持量はそれ ぞれ 5 wt%ならびに 0.4 wt%である。基材にコーティングした担体に、 Pt(NH3)2(NO2)2 硝酸溶液(田中貴金属工業)、硝酸ロジウム溶液(Rh(NO3)3、田 中貴金属工業)、酢酸バリウム((CH3COO)2Ba、和光純薬工業)および CH3COOK (和光純薬工業)を含浸法で担持した。 4.2.2.NOx 吸蔵量および NOx 濃度の測定 NOx 吸蔵量の測定は、通常の常圧固定床流通反応装置とモデルガスを用いて 実施した〔5-7〕。調製直後の NOx 吸蔵還元型触媒に対して、希釈ガスとして N2 を使用した 0.28% CO,0.16% H2,0.09% C3H6,0.62% O2,14.25% CO2 およ び 5% H2O からなる等量点のモデルガスを用いて 773 K で 15 分の前処理を行っ た。ガス流速は 30,000 cm3/min で、空間速度に換算すると 51,500 h-1 である。 NOx 吸蔵反応を実施する際に、反応温度まで昇温または降温する過程において、 60 希釈ガスとして N2 を使用した 5.6% CO,1.9% H2,0.11% C3H6,0.3% O2,14.25% CO2 および 5% H2O からなる還元ガスを NOx 吸蔵還元型触媒に 5 分間供給し、 触媒に吸蔵されている NOx を還元除去した。次に、表 4-1 に示した酸化雰囲気 の試験用のモデルガスを NOx 吸蔵還元型触媒に供給し、触媒出ガスの NOx 濃度 が一定となるまで保持した。NOx 濃度は NO と NO2 との総和として、自動車排 気ガス分析計(MEXA-7100、堀場製作所)に搭載された化学発光方式 NOx 計に よって測定した。NO 濃度は上記 NOx 計を NO 測定モードで使用することによ って測定し、NO2 濃度は NOx 濃度と NO 濃度との差分とした。 4.2.3.モデルガス組成 実験に使用した表 4-1 のモデルガス組成について説明する。これらの組成は、 実際のリーンバーン直噴ガソリンエンジン排気ガスの分析結果から決定した。 実際のリーンバーン直噴ガソリンからのエンジン排気ガスには種々の HC が含 まれているが、ここでは C3H6 を使用した。表 4-1 の“Lean 1”は、NOx 選択還 元型触媒に使用されているガス条件と同様に NO,O2,CO,C3H6,CO2 および H2O から構成される〔8-10〕。“Lean 2”は NOx 種に NO2 を使用し、CO および C3H6 が共存する条件で NO2 の効果を検討するための組成である。“Lean 3”は NOx 種を NO2 とし、CO および C3H6 を含まないモデルガスとすることで、CO および C3H6 が共存しない条件での NO2 の効果を検討するための組成である。 “Lean 4”から“Lean 7”は、酸化雰囲気での NO2 の還元に対する還元剤種お よびその濃度の影響を調べるための組成である。 4.2.4.熱力学計算 化学反応は熱力学平衡によって制約される。そこで、触媒活性の限界および 触媒反応の律速因子を検討するために、上記モデルガス実験に加えて熱力学計 算を行った。市販の熱力学計算ソフトウエア(HSC Chemistry for Windows®、 Outokumpu Research Oy)を使用し、NO と O2 から NO2 が生成する反応、炭酸 バリウム(Barium carbonate: BaCO3)と NO2 および O2 から Ba(NO3)2 が生成 する反応、ならびに K2CO3 と NO2 および O2 から KNO3 が生成する反応の熱力 61 学計算を行った。 4.3.結果および考察 4.3.1.NOx 吸蔵量の温度特性 まず、モデルガス“Lean 1”を用いて 523 K の NOx 吸蔵量を測定した。図 4-1 に、NOx 吸蔵過程における、触媒出ガス中の NOx 濃度の時間変化を示した。 触媒入りガスを酸化雰囲気に切り替えると、出ガスの NOx 濃度が時間に対して 徐々に増加し、1400 秒後にほぼ一定の濃度になった。図 4-1 において、影を付 けた面積が触媒に吸蔵された NOx 量に相当し、これを”NOx 吸蔵量”と表記す る。以降、NOx 吸蔵特性は、673 K での NOx 吸蔵量を1とした場合の相対値で 表す。出ガスの NOx 濃度が定常値になった場合でも、出ガスの NOx 濃度は入り ガスの NOx 濃度よりも低い。これは、NOx 吸蔵還元型触媒の貴金属上で、HC による NOx の選択還元反応が起きているためである〔11〕。 図 4-2 には、 “Lean 1”の条件で測定した NOx 吸蔵量を反応温度に対してプ ロットした。NOx 吸蔵量は 573 および 673 K で最大値となった。673 K 以上で は、反応温度が高くなるに従い、NOx 吸蔵量が減少した。873 K での NOx 吸蔵 量は 673 K の値に比べて約 1/10 であった。表 4-2 に NO 酸化の化学反応式(4-1) の熱力学平衡定数(K1)を示す。 NO + 1 O → NO2 2 2 (4-1) 反応温度が 473 K の場合、K1 は 2.84×102 であるが、873 K では 0.326 に 減少する。このことは、反応温度が上昇すると NO2 分圧が低下することを意味 している。NOx 吸蔵材は、NOx を吸蔵する前には、CO2 と反応し炭酸塩を形成 している〔11〕。NOx 吸蔵材は、NOx 吸蔵反応によって炭酸塩から硝酸塩に変化 する。表 4-2 に、バリウムおよびカリウムの炭酸塩、NO2 ならびに O2 から硝酸 塩を生成する化学反応式(4-2)および(4-3)の熱力学平衡定数 K2 および K3 62 も示した。 BaCO3 + 2NO2 + 1 O → Ba(NO3)2 + CO2 2 2 (4-2) K2CO3 + 2NO2 + 1 O → 2KNO3 + CO2 2 2 (4-3) 反応温度の上昇に対して K2 および K3 は減少し、硝酸塩として存在する NOx 吸蔵材の割合が減少することが分かる。以上の結果から反応温度が 673 K より も高くなると NOx 吸蔵量が減少するのは、熱力学平衡によって NO2 分圧が減少 することと、硝酸塩の安定性も低下するという2つの要因によると考えられる。 一方、523 K の NOx 吸蔵量は、573 および 673 K の NOx 吸蔵量に比べて 15%程 度少ない。NOx 吸蔵量の減少は、低温では触媒が十分に活性化していないこと による反応律速であると考えられる。この章ではこれ以降、低温の 523 K での NOx 吸蔵反応に焦点をあてて、検討を行った。 4.3.2.入りガス NO2 および NO の NOx 吸蔵量への影響 先に述べたように、523 K では NO 酸化活性が不十分であるために、573 お よび 673 K に比べて NOx 吸蔵量が少ないと考えられる。したがって、NO 酸化 活性を何らかの方法で改善すれば、523 K での NOx 吸蔵量が向上すると予想さ れる。この可能性を検討するために、モデルガス“Lean 1”の入りガス NOx 種 である NO の代わりに、NO2 を使用した場合の NOx 吸蔵量を測定した。 図 4-3 にモデルガス“Lean 2”により測定した 523 から 673 K までの NOx 吸蔵量を白丸で示す。比較のためにモデルガス“Lean 1”で測定した結果も黒 丸で示した。“Lean 2”では入りガス NOx 種として NO2 を用いたにもかかわら ず、NO を用いた“Lean 1”とほとんど同じ NOx 吸蔵量しか得られなかった。 入りガスに NO2、または NO と O2 のみを含有するモデルガスを用いた実験では、 NO2 を含有する場合の方が NO と O2 を含有する場合よりも NOx 吸蔵量が向上す ることが知られている〔4〕。これに対して本研究の実験結果は、今までに他の 63 論文で報告されている上記結果と大きく異なるものであった。その原因に関し て、次節以降の反応解析で検討した。 4.3.3.出ガス NO2 濃度 モデルガス“Lean 2”を使用した目的は、触媒に供給される NO2 濃度を向 上させることで、低温での NOx 吸蔵量が向上するかどうかを検討することであ る。しかし、NO2 を供給しても、NOx 吸蔵量は NO を供給した場合と同じであ った。そこで、 “Lean 1”および“Lean 2”での触媒出ガス NO2 濃度を、出ガス NOx 濃度が一定となった時点で測定した。図 4-4 に、反応温度に対する出ガス NO2 濃度を示す。化学反応式(4-1)で示される NO 酸化反応の熱力学平衡 NO2 濃 度も図 4-4 に破線で示した。400ppm NO および 7% O2 を含む酸化雰囲気ガスの NO2 の熱力学平衡濃度は 523 K で約 380 ppm、573 K で約 340 ppm である。し かしながら、測定値は 523 K で 160 ppm、573 K で 170 ppm と、熱力学平衡濃 度の 1/2 以下であった。また、入りガス NOx 種として NO2 を使用した“Lean 2” と NO を使用した“Lean 1”の触媒出ガス NO2 濃度は同じ値であった。NO2 濃 度が同じであるため、両者の NOx 吸蔵量は同じになったものと考えられる。 4.3.4.NO2 の還元に対する共存還元剤の影響 先に述べたように、モデルガス“Lean 2”を用いた場合、約 240 ppm の NO2 (入りガスの約 60%)が反応管の中で NO に還元されていることが明らかとな った。何故、このように大量の NO2 が酸化雰囲気で NO に還元されるのであろ うか?入りガス NOx 種として NO2 の効果を報告している Mahzoul らの反応条件 〔4〕と本研究の反応条件の違いは、彼らの反応ガスには還元剤が共存せず、本 研究の反応ガスには CO および C3H6 が共存していることである。本研究では、 NO2 はこれらの還元剤よって NO に還元されている可能性がある。この仮説を 検証するために、表 4-1 に示したモデルガス“Lean 3”を用いたときの触媒出 “Lean 3”は“Lean 2”から CO および C3H6 を除い ガス NO2 濃度を測定した。 た組成である。図 4-5 の黒丸が“Lean 3”を使用した場合の出ガス NO2 濃度の 温度変化である。図 4-5 の破線は図 4-4 でも示した NO2 の熱力学平衡濃度であ 64 る。“Lean 3”の NO2 濃度は熱力学平衡濃度とほぼ等しかった。この結果から、 反応ガスに CO および C3H6 を含まない場合には、反応管中で NO2 は NO と O2 とに熱分解し、熱力学平衡濃度になっていることが分かる。 図 4-5 にはコージェライト基材を反応管に設置し、NO2、CO および C3H6 を含む“Lean 2”を供給した場合の出ガス NO2 濃度の温度変化も示した。出ガ ス NO2 濃度はおよそ 400 ppm であり、入りガス NO2 濃度とほぼ同じであった。 このことは、反応ガスに CO および C3H6 が共存していても触媒が無ければ NO2 の還元は起こらないことを示している。言い換えると、NOx 吸蔵還元型触媒と 還元剤とが共存する場合に、NO 酸化反応の熱力学平衡濃度よりも NO2 濃度が 低くなることが分かる。以上の結果は、NO2 が CO および/または C3H6 によっ て NO に還元されるという本研究の仮説を支持するものである。 次に、523 K での NO2 の NO への還元に対する CO および C3H6 濃度の影響 を調べた。図 4-6 に、モデルガス“Lean 3”から“Lean 7”を使用した場合の 触媒出ガス NO2 濃度を示す。全てのモデルガスは入りガス NOx 種として 400 “Lean 3”は CO および C3H6 を含んでいない。他 ppm の NO2 を使用している。 のガスでは異なる濃度の CO または C3H6 が共存している。異なる還元剤種間で の定量的な比較を容易にするために、ここでは”化学当量濃度(Concentraion of Chemical equivalent)”で還元剤の濃度を示す。還元剤の化学当量濃度とは、次 の化学反応式(4-4)および(4-5)で表される還元剤の完全酸化反応を考えたと きの酸素濃度である。“Lean 3”から“Lean 7”の化学当量濃度はそれぞれ 0, 300,900,300 および 900 ppm である。 CO + 1 O → CO2 2 2 C3H6 + (4-4) 9 O → 3H2O + 3CO2 2 2 (4-5) 図 4-6 に CO が共存する場合の触媒出ガス NO2 濃度を黒丸で、C3H6 が共存 65 する場合の NO2 濃度を白丸で示した。化学当量濃度が 300 ppm の場合には、両 者の NO2 濃度はほとんど同じであったが、900 ppm の場合には C3H6 が共存す る場合よりも CO が共存する場合の方が、NO2 濃度が低かった。この結果は、 523 K では CO が NO2 を NO へ還元する能力は、C3H6 のそれよりも高いことを 示している。この章で使用した酸化雰囲気のガスのうち“Lean 1”がリーンバ ーン直噴ガソリンエンジンの排気ガスを模擬しており、CO および C3H6 の化学 当量濃度はそれぞれ 50 ppm および 900 ppm である。図 4-7 の結果から、 “Lean 1”の条件では CO は 10 ppm の NO2 を NO へと還元し、C3H6 は 165 ppm の NO2 を NO に還元する。言い換えると、 “Lean 1”および“Lean 2”の条件で、C3H6 によって還元される NO2 の量は CO によって還元される量の 16 倍以上である。 したがって、NO2 は主に C3H6 によって還元されていると結論することができる。 4.3.5.還元剤が共存しない NO2 ガスを用いたときの NOx 吸蔵特性 還元剤が共存せず、触媒入りガス NOx 種として NO2 を使用した“Lean 3” を NOx 吸蔵還元型触媒に供給した場合の NOx 吸蔵量を図 4-7 に黒丸で示す。CO および C3H6 が共存し、触媒入りガス NOx 種として NO2 を使用した“Lean 2” を用いた場合の NOx 吸蔵量も白丸で図 4-7 に示した。図 4-3 で示したように、 “Lean 2”を用いたときの NOx 吸蔵量は、CO および C3H6 が共存し、触媒入り ガス NOx 種として NO を使用した“Lean 1”での NOx 吸蔵量と同じであった。 一方、図 4-7 に示すように、 “Lean 3”を使用した場合の NOx 吸蔵量は、 “Lean 2”を使用した場合に比べて 523 K で約 30%、573 K では約 25%向上した。図 4-4 と図 4-5 の比較から分かるように、還元剤が共存しない場合の NO2 濃度は還 元剤が共存する場合に比べて高い。したがって、反応ガスから還元剤を除去す ることで NO2 濃度が向上し、低温での硝酸塩の生成が促進されたものと考えら れる。 以上の結果から、触媒入りガス NOx 種として NO2 を使用したときに低温で の NOx 吸蔵量が増加するのは、反応ガス中に還元剤が共存しない場合に限られ ることが明らかとなった。実際のリーンバーン直噴ガソリンエンジンからの排 66 気ガスは CO および HC などの還元剤を含んでいる〔8-10〕。低温での NOx 吸蔵 量の向上には、NO の NO2 への酸化を促進するだけでは不十分であり、排気ガ ス中に共存する還元剤を取り除くことが必要である。NOx 吸蔵還元型触媒にこ れらの機能を付与するか、これらの機能を有する触媒を NOx 吸蔵還元型触媒の 上流に配置することで、低温での NOx 吸蔵量を向上できるものと考える。 4.4.結言 この章では、まずリーンバーン直噴ガソリンエンジン用 NOx 吸蔵還元型触 媒の、NOx 吸蔵量の温度特性を系統的に検討した。673 K 以上では、NO2 および 硝酸塩生成の熱力学平衡の制約から、反応温度の上昇に対して NOx 吸蔵量が減 少した。673 K 未満では、入りガス NOx 種として NO または NO2 を使用した2 種類のモデルガスを用いた測定で、触媒出ガスの NO2 濃度が同じになり、この 2種類の反応条件の NOx 吸蔵量も同じになることが分かった。反応解析の結果、 酸化雰囲気ガスに共存する還元剤である CO および C3H6 が NOx 吸蔵還元型触媒 上で NO2 を NO に還元していることが分かった。このため、触媒出ガスの NO2 濃度が NO 酸化反応の熱力学平衡濃度よりも低下した。入りガス NOx 種として NO2 を供給することが低温での NOx 吸蔵量の向上に寄与するかどうかは、反応 雰囲気中の還元剤の有無に大きく依存した。低温での NOx 吸蔵特性の改善には、 NO の NO2 への酸化の促進のみでは不十分であり、酸化雰囲気の排気ガス中に 共存する還元剤を低減することも必要である。 67 参考文献 〔1〕N. Miyoshi, T. Tanaka and S. Matsumoto, TOYOTA Tech. Rev., 50 (2001) 28. 〔2〕M. Takeuchi and S. Matsumoto, Top. Catal., 28 (2004) 151. 〔3〕S. Erkfeldt, E. Jobson and M. Larsson, Top. Catal., 16/17 (2001) 127. 〔4〕H. Mahzoul, J. F. Brilhac and P. Gilot, Appl. Catal., B: Environ., 20 (1999) 47. 〔5〕I. Hachisuka, T. Yoshida, H. Ueno, N. Takahashi, A. Suda and M. Sugiura, SAE Tech. Paper, 2002010732 (2002) 1. 〔6〕N. Miyoshi, S. Matsumoto, K. Katoh, T. Tanaka, J. Harada, N. Takahashi, K. Yokota, M. Sugiura and K. Kasahara, SAE Tech. Paper, 950809 (1995) 121. 〔7〕N. Takahashi, H. Shinjoh, T. Iijima, T. Suzuki, K. Yamazaki, K. Yokota, H. Suzuki, N. Miyoshi, S. Matsumoto, T. Tanizawa, T. Tanaka, S. Tateishi and K. Kasahara, Catal. Today, 27 (1996) 63. 〔8〕M. Iwamoto and H. Hamada, Catal. Today, 10 (1991) 57. 〔9〕R. Burch, and P. J. Millington, Catal. Today, 26 (1995) 185. 〔10〕I .Halasz, A. Brenner, K. Y. S. Ng and Y. Hou, J. Catal., 161 (1996) 359. 〔11〕S. Matsumoto, Y. Ikeda, H. Suzuki, M. Ogai and N. Miyoshi, Appl. Catal., B: Environ., 25 (2000) 115. 68 Table 4-1 The gas compositions of the simulated exhaust gases NO NO2 [ppm] [ppm] Lean 1 Lean 2 Lean 3 Lean 4 Lean 5 Lean 6 Lean 7 400 0 0 0 0 0 0 O2 [%] CO [ppm] C3H6 [ppm] CO2 [%] H2O [%] 7 7 7 7 7 7 7 100 100 0 600 1800 0 0 200 200 0 0 0 67 200 11 11 11 11 11 11 11 5 5 5 5 5 5 5 0 400 400 400 400 400 400 N2 Balance Balance Balance Balance Balance Balance Balance NOx concentration [ppm] 500 400 300 200 100 0 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 Time [sec] Fig. 4-1 NOx concentration in the outlet and inlet gases with Lean 1 at 523 K. NOx concentration in the outlet gas ( ) and in the inlet gas ( ). 69 Relative NOx storage amount [–] 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0 500 550 600 650 700 750 800 850 900 Temperature [K] Fig. 4-2 NOx storage performance with Lean 1 versus reaction temperature. Table 4-2 The thermodynamic equilibrium constants of NO2, Ba(NO3)2 and KNO3 formation reactions from 473 to 873 K Temperature [K] 473 573 673 773 873 K1 2.84x102 21.6 3.53 0.918 0.326 K2 4.00x1012 1.18x108 8.06x104 450 8.57 K3 8.54x1019 3.42x1014 9.48x1010 2.83x108 K1=[NO2]/([NO][O2]1/2) K2=([Ba(NO3)2][CO2])/([BaCO3][NO2]2[O2]1/2) K3=([KNO3]2[CO2])/([K2CO3][NO2]2[O2]1/2) 70 3.49x106 Relative NOx storage amount [–] 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0 500 550 600 650 700 Temperature [K] Fig. 4-3 NOx storage performance versus reaction temperature using Lean 1 gas ( ● ) or Lean 2 gas ( ○ ). NO2 concentration [ppm] 400 300 200 100 0 500 550 600 650 700 Temperature [K] Fig. 4-4 NO2 concentration in the outlet gases versus reaction temperature using Lean 1 gas ( ● ) or Lean 2 gas ( ○ ). the dashed line represents the thermodynamic equilibrium of NO2 concentration in the NO oxidation reaction under 400 ppm NO and 7% O2. 71 NO2 concentration [ppm] 400 300 200 100 0 500 550 600 650 700 Temperature [K] Fig. 4-5 NO2 concentration in the outlet gases versus reaction temperature using Lean 2 gas over a blank cordierite substrate ( ○ ) or Lean 3 gas over the NOx storage and reduction catalyst ( ● ). the dashed line represents the thermodynamic equilibrium of NO2 concentration in the NO oxidation reaction under 400 ppm NO and 7% O2. NO2 concentration [ppm] 400 300 200 100 0 0 200 400 600 800 1000 Concentration of chemical equivalent [ppm] Fig. 4-6 NO2 concentration in the outlet gases versus the concentration of the chemical equivalent of reducing agents using CO as the inlet reducing agent ( ●; Lean 3, Lean 4 and Lean5 ) or using C3H6 as the inlet reducing agent ( ○; Lean 3, Lean 6 and Lean7 ). the values corresponding the cross points of the heavy and thin dashed lines to x-axis represent the concentration of the chemical equivalent with CO or C3H6 in the atmospheres of Lean 1 and Lean 2 , while the value to y-axis indicate the outlet NO2 concentration. 72 Relative NOx storage amount [–] 1.4 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0 500 550 600 650 700 Temperature [K] Fig. 4-7 NOx storage performance versus reaction temperature using Lean 2 gas ( ○ ) or Lean 3 gas ( ● ). 73 74 第5章 低温での NO 酸化活性に対する担体材料および耐久試験の影響 5.1.緒言 第4章では低温での NOx 吸蔵特性を改善することを目的に、NOx 吸蔵反応 を解析し、673 K 未満では酸化雰囲気で共存する CO ならびに HC が NOx 吸蔵 還元型触媒上で NO2 を NO に還元することを明らかにした。この結果から、低 温での NOx 吸蔵量を向上させるために NO を NO2 に酸化することと、共存する 還元剤を除去することの両者が必要であることが示唆された。NOx 吸蔵還元型 触媒の上流に還元剤の除去触媒と NO 酸化触媒を配置することが、この必要条 件を満足する触媒システムの一つとして挙げられる。 この知見に基づき、本研究では NO 酸化触媒の探索を実施した。今までに、 低温の酸化雰囲気での NO 酸化触媒の特性に関して幾つかの論文が発表されて いる〔1-5〕。それらの多くでは Pt 系触媒が他の担持金属触媒よりも低温酸化雰 囲気での NO 酸化反応に対して高活性であることが報告されているが、何故 Pt 系触媒が良好な低温活性を示すのかは明らかにされていない。また、Pt 系触媒 の NO 酸化活性を向上させるための触媒改良指針も明確ではない。 この章では、初期および耐久試験後の触媒上での NO 酸化活性の支配要因を 明らかにすることを目的とした。またその検討結果から、触媒活性種、担体酸 化物などの因子が触媒の NO 酸化活性に与える影響の解明を試みた。 5.2.実験方法 5.2.1.触媒調製 先に述べたように、NOx 吸蔵還元特性を向上させるために、最終的には個々 の機能を持つ幾つかの触媒を組み合わせる、いわゆる機能分離型触媒システム を念頭においている。したがって、ここで検討する NO 酸化触媒には NOx 吸蔵 材は必須の成分ではなく、あくまでも NO 酸化活性に焦点をあてることにした。 Pt/Al2O3 触媒にバリウム化合物を担持すると Pt の分散性が低下するため、低温 75 での NO2 生成能が低下することが報告されている〔6〕。そこで、ここでは NOx 吸蔵材を担持しない、担体と貴金属のみから成る触媒を使用した。Rh, Pd お よび Pt が自動車排気ガス浄化触媒として一般に使用されていることから、これ ら3種類の貴金属を活性種として実験に使用した。 Pt/Al2O3 触媒は、含浸法で調製した。γ-Al2O3 担体(比表面積 約 150 m2/g) を Pt(NH3)2(NO2)2 硝酸溶液(田中貴金属工業)に懸濁し、2時間攪拌した。そ の後、溶液を加熱によって蒸発させ、393 K で一晩乾燥した。その後、大気中で 523 K にて1時間の焼成を行った。NO 酸化活性試験では、触媒に 773 K での前 処理を施した。前処理条件の詳細は、5.2.3節で説明する。 Pd/Al2O3 触媒および Rh/Al2O3 触媒も硝酸パラジウム硝酸溶液(Pd(NO3)2、 田中貴金属工業)ならびに Rh(NO3)3(田中貴金属工業)を用いて、Pt/Al2O3 触 媒と同様の方法で調製した。 Pt/CeO2、Pt/TiO2、Pt/ZrO2 および Pt/SiO2 触媒も、CeO2 (60 m2/g),TiO2 (80 m2/g),ZrO2 (100 m2/g) ならびに SiO2 (150 m2/g)を担体に用いて、Pt/Al2O3 触媒 と同様の方法で調製した。 このようにして調製した触媒は、加圧、粉砕および分級することで、0.3 か ら 0.7 mm のペレット形状に成型し、耐久試験、触媒活性試験および状態解析に 使用した。全ての触媒の金属担持量は 2.0 wt%とした。 5.2.2.耐久試験 実用化されている NOx 吸蔵還元型触媒は、硫黄脱離処理において約 973 K の温度に曝される。このような高温では貴金属の粒成長、すなわち分散度の低 下が進行する。そこで、NO 酸化触媒の耐久試験も、この 973 K の加熱条件で実 施した。モデルガスを用いて、触媒 3 g を5時間耐久した。表 5-1 に示した酸化 および還元雰囲気のガスを 30 秒毎に切り替え、流速 500 cm3/min で触媒に供給 した。 5.2.3.NO 酸化活性試験 NO 酸化活性試験の反応温度は、リーンバーン直噴ガソリンエンジン用 NOx 76 吸蔵還元型触媒の最低使用温度である 523 K とした。NO 酸化活性試験には、常 圧固定床流通型反応試験装置を使用した〔7, 8〕。初期の触媒 0.5 g に、N2 をバ ランスガスとする 0.28% CO,0.16% H2,0.09% C3H6,0.62% O2,14.25% CO2 および 5% H2O を含む等量点の混合モデルガスを流通させ、773 K で 15 分間の 前処理を行った。その後、N2 をバランスガスとする 6.8% O2,800 ppm NO,11% CO2 および 5% H2O を含む酸化雰囲気の混合モデルガスを流通させ 523 K まで 冷却した。このモデルガスは、リーンバーン直噴ガソリンエンジンの排気ガス から CO および HC を取り除いた組成である。触媒温度ならびに出ガス濃度が 定常値に達した時点で、自動車排気ガス分析計(MEXA-7100、堀場製作所)に 搭載された化学発光方式 NOx 計によって NOx および NO 濃度を測定した。NO2 濃度は NOx と NO の差分とし、NO2 収率を式(5-1)によって計算した。 NO2 yield [%] = [outlet NOx] [outlet NO] [inlet NOx] ×100 (5-1) 耐久試験後の触媒の NO 酸化活性は、初期の触媒と同様の方法で測定した。 ただし、前処理は実施しなかった。また、初期および耐久試験後の触媒の NO ならびに O2 の反応次数を求めるために、NO 濃度を 50 から 1000 ppm まで、 O2 濃度を 0.05 から 7%まで変化させた実験を行い、(5-1)式を用いて NO2 収率を 計算した。モデルガスの流速は 3,300 cm3/s であり、空間速度に換算すると 200,000 h-1 となる。 5.2.4.熱力学計算 Pt/Al2O3 触 媒 上 で の NO 酸 化 反 応 に 対 し て 、 Olsson ら は LangmuirHinshelwood 機構を提案し〔6〕、Crocoll らは Eley-Rideal 機構を提案している。 Langmuir-Hinshelwood 機構は化学反応式 LH-1 から LH-4 によって進行し、 Eley-Rideal 機構は化学反応式 ER-1 および ER-2 によって進行する。 77 1 O → M-O 2 2 LH-1 M + NO → M-NO LH-2 M-O + M-NO → M-NO2 + M LH-3 M-NO2 → M + NO2 LH-4 M+ 1 O → M-O 2 2 ER-1 M-O + NO → M + NO2 ER-2 M+ これらの化学反応式で、M は触媒活性点を意味する。 本研究で実施する熱力学計算の目的は NO 酸化活性を向上させるための知 見を得ることであり、NO 酸化反応がどの反応機構で進行すると考えるのが正し いのかを議論するものではない。それぞれの反応機構で金属表面への酸素分子 の吸着ならびに解離を表す化学反応式 LH-1 および ER-1 は全く同じである。 5.2.3項で述べたように、本研究は酸化雰囲気で触媒の活性試験を行っ ていることから、酸素は触媒表面に吸着し、これを容易に被覆すると考えられ る。この酸素の吸着は NO の吸着と競争する。したがって、酸素の触媒表面へ の親和性は、NO 酸化活性に影響すると考えられる。この因子を評価するために、 化学反応式 LH-1 における金属酸化物の Gibbs 自由エネルギー変化(The Gibbs free energy change: ⊿G)を、市販の熱力学計算ソフト(HSC Chemistry® 、 Outokumpu Research Oy)を用いて計算した。 5.2.5.状態解析 NO 酸化活性を測定した後の初期および耐久試験後の触媒の状態解析を、以 下の方法で実施した。 (1)Pt、Pd および Rh の分散度 Pt、Pd および Rh の分散度を、全自動貴金属分散性測定装置(R6015、大倉 理研)を用いて、CO パルス吸着法により測定した。触媒学会によって制定され 78 た前処理、すなわち Pt ならびに Rh 触媒には 673 K で酸化および還元を実施し、 Pd 触媒には 573 K での酸化と 673K での還元を実施した。1分子の CO が、表 面に存在する1原子の貴金属に吸着したと仮定し、貴金属の分散度を算出した。 なお、貴金属の平均粒子径は、その分散度に逆比例する。 (2)Pt 電子状態の解析 NO 酸化活性試験を行った後に、反応条件下での Pt の電子状態を保持する ために、NO 酸化活性試験のガスを流通させながら触媒を室温まで冷却した。そ の後、Al Kα単色 X 線を線源とする X 線光電子分光装置(XPS、PHI- Quantera、 ULVAC-PHI)により、室温での Pt の電子状態を分析した。Pt の結合エネルギー は C 1s (84.5 eV)により補正した。測定したスペクトルをカーブフィッティング 法により、ピーク分離した。ピーク分離後のスペクトルのピーク位置から Pt0 4f7/2 および 4f5/2 の結合エネルギー(Binding energy: B.E.)を、ピーク面積比か ら Pt0 および Pt2+の存在比率を算出した。 5.3.結果および考察 5.3.1.Al2O3 担体に担持した Pt,Pd および Rh 触媒の NO 酸化活性 この項では Al2O3 担体に担持した初期品の Pt、Pd および Rh 触媒の NO 酸 化活性を測定し、それらの活性差が生じる理由を考察した。表 5-2 に、これら の触媒の NO2 収率を示す。表に示すように Pt/Al2O3 触媒の NO 酸化活性が最も 高かった。この結果は Bourges らの結果〔2〕と一致している。表 5-2 には、Al2O3 担体上での Pt、Pd および Rh の分散度、ならびに NO 酸化反応の turnover frequencies (T.O.F.)も示した。Pt/Al2O3 触媒は3種類の触媒の中で最も貴金属分 散度が高い。貴金属の分散度で規格化した一活性点あたりの活性指標である T.O.F.も、Pt/Al2O3 触媒では Pd/Al2O3 触媒および Rh/Al2O3 触媒よりも一桁大き い。したがって、Pt/Al2O3 触媒は Pd/Al2O3 触媒および Rh/Al2O3 触媒と比べて、 NO 酸化反応に対する活性点の量が多いだけでなく、活性点の質も高いと考えら れる。 79 それぞれの触媒について、5.2.4.項で示した化学反応式 LH-1 の⊿G も表 5-2 に示した。全ての触媒の⊿G が負の値であるが、その値がゼロに近い 触媒ほど貴金属が酸化物から金属状態に変化しやすい。したがって、これらの 貴金属種の中では Pt が最も金属状態に変化しやすく、形成された金属状態が低 温での NO 酸化反応を促進しているのではないかと考えられる。 5.3.2.Pt 触媒の NO 酸化反応に対する担体酸化物の影響 先ほど述べたように、Pt/Al2O3 触媒の T.O.F.は Pd/Al2O3 触媒および Rh/Al2O3 触媒のそれよりも一桁大きい。この結果から、NO 酸化活性の高い触媒を得るた めには貴金属種として Pt を選択することが有利であると考えられる。そこで、 これ以降は初期および耐久試験後の Pt 触媒の NO 酸化活性に対する担体種の影 響を検討し、その影響が生ずる理由を考察した。 表 5-3 に、初期および耐久試験後の Pt 触媒の NO2 収率を示す。初期品の NO 酸化活性の序列は、Pt/SiO2 触媒>Pt/Al2O3 触媒≧Pt/TiO2 触媒≧Pt/ZrO2 触媒> Pt/CeO2 触媒であった。この結果は、523 から 673 K の NO 酸化活性の序列が Pt/SiO2 触媒>Pt/Al2O3 触媒>Pt/ZrO2 触媒であるという、Xue らの研究結果〔1〕 と一致する。表 5-3 に示したように、Pt/SiO2 触媒以外の触媒では、耐久試験後 の NO2 収率は初期品のそれよりも向上した。Amberntsson らも、BaO/Pt/ Al2O3 触媒において初期よりも耐久試験後の方が高い NO 酸化活性が得られると報告 している〔9〕。本研究では、耐久試験後の Pt/Al2O3 触媒は初期の Pt/SiO2 触媒と ほぼ同等の約 50%の NO2 収率を示した。耐久試験後の触媒の NO 酸化活性の序 列は、Pt/Al2O3 触媒>Pt/TiO2 触媒≧Pt/ZrO2 触媒≧Pt/CeO2 触媒≧Pt/SiO2 触媒で あった。523 K において 6.8% O2 および 800 ppm NO が共存する場合の NO2 収 率の熱力学平衡値は 94.8%であることから、初期の Pt/SiO2 触媒および耐久試験 後の Pt/Al2O3 触媒の NO 酸化活性は熱力学的制約に対して 40%程度向上の余地 がある。そこでここまでに述べた担体効果ならびに耐久試験の影響を解明する ために、初期品および耐久試験後の触媒をさらに詳細に検討した。この解析を 通して、活性の支配因子の解明を試みた。それらの結果を、以下の項で述べる。 80 5.3.3.Pt 触媒の状態解析 (1)初期触媒 (A)Pt 分散度 表 5-4 に初期の触媒の Pt 分散度を示す。初期の Pt 分散度の序列は、Pt/CeO2 触媒>Pt/Al2O3 触媒>Pt/ZrO2 触媒>Pt/SiO2 触媒>Pt/TiO2 触媒であった。表 5-4 の初期の Pt 分散度に対して、表 5-3 に示した NO2 収率をプロットした結果を図 5-1 に示す。Olsson らは Al2O3 担体上に担持した Pt 触媒では、その分散度が低 い方が、高い NO 酸化活性が得られると報告している〔10〕。しかしながら図 5-1 に示すように、異なる担体酸化物に Pt 触媒を担持した本研究では、NO 酸化活 性は Pt 分散度に依存しなかった。NO 酸化反応が活性点数に依存しないという ことは、異なる担体酸化物に担持した Pt 触媒の NO 酸化活性の差異は Pt の状態 の違いに起因しているものと予想される。そこで、次に Pt の化学的状態を解析 し、考察した。 (B)Pt の電子状態 Pt/Al2O3 触媒の NO 酸化活性が、Pt 粒子表面の PtO の生成によって低下す ることが報告されている〔10, 11〕。このことから、酸化雰囲気での NO 酸化活 性に対して、触媒の金属酸化物の安定性が影響すると予想した。そこで、異な る担体酸化物上の Pt の電子状態を、XPS を用いて分析した。図 5-2 に一例とし て、Pt/ZrO2 触媒の XPS スペクトル、Pt0 および Pt2+のカーブフィッティング、 ならびに2つのカーブフィッティングを合成したスペクトルを示す。他の触媒 に対しても、同様の解析を実施した。図 5-3 に、カーブフィッティングにより 得られた、5種類の初期触媒の Pt0 4f のスペクトルを示す。Pt0 4f7/2 および Pt0 4f5/2 の結合エネルギー、ならびに Pt0 および Pt2+の存在比率を表 5-5 に示す。 Pitchon らは、バルクの金属状態である Pt の 4f7/2 および 4f5/2 の結合エネルギー が、それぞれ 71.20 および 74.60 eV であると報告している〔12〕。本研究にお ける SiO2 担体上の Pt の Pt0 の結合エネルギーは、このバルクの金属状態である Pt のそれとほぼ同じ値であった。これと比較して、他の担体に担持された Pt の 81 Pt0 の結合エネルギーは幾分高めであり、バクルの金属状態に比較して多少酸化 された状態であることが分かる。 Yoshida らは、酸化雰囲気における Pt/MgO 触媒および Pt/Al2O3•SiO2 触媒 への添加材効果を触媒活性と XAFS 測定から得られた Pt の電子状態の比較によ って検討し、電気陰性度の大きな添加材が金属状態の Pt の割合を増加させ、酸 化雰囲気におけるプロパンの燃焼活性を向上させると報告している〔13〕。本研 究では添加材は使用しておらず担体種を変えていることから、Yoshida らの研究 結果〔13〕を参考にして、担体の酸性度の指標である担体陽イオンの Pauling の電気陰性度に対して、表 5-5 に示した Pt0 4f7/2 結合エネルギーをプロットした。 その結果を図 5-4 に黒塗りの記号で示した。陽イオンの電気陰性度が大きくな ると、Pt 4f7/2 結合エネルギーが小さくなった。これは、担体陽イオンの電気陰 性度が小さくなると、電子が担体酸化物から Pt へと移行しやすくなり、Pt が酸 化されることを意味している。図 5-4 の白抜きの記号は、担体陽イオンの電気 陰性度に対して NO2 収率をプロットした結果である。両者は良い相関性を示し、 担体陽イオンの電気陰性度が大きくなると NO2 収率が向上した。すなわち、 Yoshida らの酸化雰囲気でのプロパン酸化反応〔13〕と同様に、酸化雰囲気での NO 酸化反応も Pt0 の電子状態がバルクの金属状態の Pt に近くなるほど触媒活性 が向上した。これらの結果から、初期触媒においては SiO2 担体上に担持された 金属状態の Pt が高い NO 酸化活性を発現させていると結論することができる。 (2)耐久触媒 耐久試験によって Pt/SiO2 触媒の NO 酸化活性は低下したのに対して、 Pt/Al2O3 触媒、 Pt/CeO2 触媒、Pt/TiO2 触媒および Pt/ZrO2 触媒の NO 酸化活性 は向上した。担体種によって耐久試験前後の活性変化の挙動が異なる原因を明 らかにするために、さらなる状態解析ならびに考察を行った。 (A)Pt 分散度 表 5-4 に示すように、Pt/SiO2 触媒では耐久試験によってその Pt 分散度が低 下した。したがって、Pt/SiO2 触媒では活性点の数が減少することで、NO 酸化 82 活性が低下したものと考えられる。他の触媒でも Pt 分散度が低下したが、NO2 収率は向上した。このことから耐久試験によって Pt の性質が変化したと予想さ れる。そこで 、初期の触媒と同様に、耐久試験後の触媒の Pt の電子状態を XPS により分析した。 (B)Pt の電子状態 図 5-5 に、耐久試験後の触媒の XPS スペクトルからカーブフィッティング により得られた Pt 4f のスペクトルを示した。また、表 5-6 に Pt0 4f7/2 および 4f5/2 の結合エネルギーならびに Pt0 および Pt2+の存在比率を示した。耐久試験後の Pt/SiO2 触媒の結合エネルギーは初期品の結合エネルギー(4f7/2 の結合エネルギ ーが 71.21 eV 、4f5/2 の結合エネルギーが 74.53 eV)、ならびにバルクの金属状 態である Pt(4f7/2 の結合エネルギーが 71.20 eV、4f5/2 の結合エネルギーが 74.60 eV)とほぼ同じ値であった。したがって、Pt/SiO2 触媒では活性点の質的な変化 は無く、先に述べたように Pt 分散度の低下による活性点数の減少が NO 酸化活 性低下を引き起こしていると考えられる。一方、Pt/Al2O3 触媒、Pt/CeO2 触媒、 Pt/TiO2 触媒および Pt/ZrO2 触媒の Pt0 の結合エネルギーは、初期ではバルクの金 属状態である Pt よりも幾分高く、Pt が酸化されていることを示唆していたが、 耐久試験後にはバルクの金属状態である Pt のそれとほぼ同じ値となった。耐久 試験中に Pt0 がより高活性な状態に変化し、そのことによって Pt 分散度低下に よる活性点数減少を上回る活性向上効果を引き起こしたと考えられる。なお、 Pt0 の結合エネルギーが低下するということは、担体から Pt への電子の移行が抑 制されているということである。この現象は、表 5-4 に示したように耐久試験 によって Pt 分散度が低下することで Pt と担体との界面の割合が減少し、Pt の 特性に対する担体の影響が小さくなったことを示唆していると考えられる。 5.3.4.NO 酸化反応速度 Pt の特性の変化を検討するための別の手法として、初期および耐久試験後 の Pt/Al2O3 触媒上での NO 酸化反応の NO および O2 の反応次数を解析した。NO 酸化の反応速度(r)は式(5-2)で示される。 83 r = k × PNOm × PO2n × exp(– ⊿E RT ) (5-2) ここで、k、 PNO,PO2,m,n,∆E,R および T は、それぞれ、反応速度定数, NO 分圧,O2 分圧,NO 反応次数,O2 反応次数,活性化エネルギー,気体定数, および絶対温度を表す。この式によれば、NO2 収率に対して PNO または PO2 を 両対数プロットしたときの傾きが反応次数となる。初期および耐久試験後の触 媒の NO の反応次数(m)は、それぞれ 0.4 ならびに 0.6 であり、これらの触媒 の O2 の反応次数(n)はいずれも 1.4 であった。耐久試験後の触媒の NO の反 応次数は初期の触媒のそれに比べて 1.5 倍であるのに対して、O2 の反応次数は 耐久試験によって変化しなかった。これらの結果から、Pt/Al2O3 触媒では、初期 に比べて耐久試験後では NO に対する親和性が向上していることが分かる。す なわち、Pt に対する NO 吸着の促進が、NO 酸化反応速度を向上させていると 考えられる。 5.3.5.触媒改良に関する技術的要点 今回検討した触媒では、初期の NO2 収率は Pt0 の結合エネルギーや担体陽 イオンの電気陰性度で整理できた。一方耐久試験後の Pt0 の結合エネルギーは、 担体種が異なっても大きな違いが見られず、バルクの金属状態である Pt とほぼ 同じ値であった。したがって、耐久試験後の触媒の NO2 収率の違いは、初期の 触媒のように Pt0 の結合エネルギーでは整理できない。CO 吸着量測定の際に、 触媒を 100%の H2 流通下、673 K で前処理している。通常、CO 吸着量は、等 量点または還元雰囲気で活性試験を行う場合の活性サイト数とみなされる。し かし、NO 酸化活性試験は酸化雰囲気で実施している。この酸化雰囲気では表 5-5 および 5-6 にまとめたように、初期品でも耐久品でも XPS 測定によって Pt 酸化物の存在が確認されている。したがって今回の測定条件では、CO 吸着量は 活性サイト数ではなくて、表面に存在する Pt 原子の量と解釈するのが妥当であ る。この CO 吸着量と XPS によって定量された Pt0 の存在割合の積が”表面金 84 属 Pt 量”に相当すると考えられる。この表面金属 Pt 量に対して NO2 収率をプ ロットした結果を図 5-6 に示す。これら2つの値の間には、良い相関性が見ら れた。耐久試験後では、Pt0 の電子状態に触媒間で差が見られないため、NO 酸 化活性は表面金属 Pt 量に依存したものと考えられる。 これらの結果から、バルクの金属状態である Pt に近い、またはバルクの金 属状態である Pt と同一の電子状態の Pt0 と、耐久試験後においてもこの金属状 態の Pt を高分散で保持できる担体との組み合わせが、 低温の酸化雰囲気での NO 酸化反応の向上に好ましいと考えられる。表 5-6 に示したように、バルクの金 属状態である Pt と同一の Pt0 の電子状態は、Al2O3 担体、ZrO2 担体または SiO2 担体を使用することで、既に達成されている。したがって、耐久試験後の触媒 で、金属 Pt の分散度を向上させることが NO 酸化活性を向上させる有望な方法 であると考えられる。金属 Pt の分散度を向上させる有効な手段の一つとして、 担体上の Pt 担持密度を低下させることが挙げられる。高比表面積な Al2O3 担体、 ZrO2 担体または SiO2 担体がこの要求を満足すると考えられる。しかしながら、 過剰に Pt を高分散させると、その電子状態がバルクの金属状態に比べて酸化さ れた状態に変化してしまうと予想される。したがって、Pt 分散度を最適化する ことも重要である。 5.4.結言 この章では、金属状態の Pt およびその分散度が、低温の酸化雰囲気での NO 酸化活性の向上に重要であることを明らかにした。この知見から、金属状態の Pt を高分散化保持できる担体の開発が重要であるとの結論が導かれる。このよ うな触媒と従来の NOx 吸蔵還元型触媒とを組み合わせることで、低温での NOx 吸蔵能が改善できるものと期待される。 85 参考文献 〔1〕E. 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Today, 87 (2003) 19. 86 Table 5-1 The compositions of the simulated exhaust gas for aging treatment O2 SO2 CO H2 C3H6 CO2 H2O [%] [ppm] [%] [%] [%] [%] [%] Rich 0 500 4.5 1.5 0.16 10 3 Balance Lean 7.7 480 1.4 0.5 0.15 9.6 3 Balance N2 Table 5-2 NO oxidation reaction, characterization and thermodynamic calculation results Catalyst Pt Pd Rh NO2 yield [%] 31.9 1.1 4.8 Metal dispersion [%] 33.2 10.4 27.9 T.O.F.a) ×103 [s-1] 36.9 2.2 3.5 –25.7 –61.9 –72.7 ΔG b) [KJ/mol-O] a): Turnover frequencies b): Gibbs free energy change with the metal oxide formation in the formula LH-1 87 Table 5-3 The NO oxidation activity of the fresh and aged Pt catalysts at 523 K Support Al2O3 CeO2 TiO2 ZrO2 SiO2 Fresh 31.9 16.8 29.0 28.5 51.7 Aged 53.2 36.3 38.3 36.7 36.1 NO2 yield [%] Table 5-4 The Pt dispersions on the fresh and aged Pt catalysts Support Al2O3 CeO2 TiO2 ZrO2 SiO2 Pt dispersion [%] Fresh 33.2 39.6 14.4 25.9 17.4 Aged 11.1 5.7 2.9 5.5 4.4 88 60 NO2 yield [%] 50 40 30 20 10 0 0 10 20 30 40 Pt dispersion [%] Intensity [a.u.] Fig. 5-1 NO2 yield of the fresh Pt catalysts supported on Al2O3 ( ● ), CeO2 ( ), TiO2 ( ▲ ), ZrO2 ( ▼ ) and SiO2 ( ■ ) at 523 K versus their dispersion. 79 78 77 76 75 74 73 72 71 70 69 Binding energy [eV] Fig. 5-2 XPS spectra of the fresh Pt/ZrO2 catalyst. raw data ( ● ), curve ), curve fitting of Pt2+ ( ) and the summation of the fitting of Pt0 ( 0 2+ ). curve fitting of Pt and Pt ( 89 Pt0 4f7/2 Intensity [a.u.] Pt0 4f5/2 (a) (b) (c) (d) (e) 77 76 75 74 73 72 71 70 69 Binding energy [eV] Fig. 5-3 Curve fitted Pt0 4f XPS spectra of the fresh Pt catalysts supported on (a) Al2O3, (b) CeO2, (c) TiO2, (d) ZrO2 and (e) SiO2. Table 5-5 The summary of XPS data with the fresh Pt catalysts Support Al2O3 CeO2 TiO2 ZrO2 SiO2 4f7/2 71.53 71.69 71.60 71.64 71.21 4f5/2 74.87 75.03 74.86 74.96 74.53 100 34 45 66 100 0 66 55 34 0 B.E. of Pt0 [eV] Abundance ratio [%] Pt0 Pt2+ 90 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 Pt0 4f7/2 B.E. [eV] 71.7 60 50 71.6 40 71.5 30 71.4 20 71.3 Bulk metallic Pt 71.2 71.1 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 NO2 yield [%] 71.8 10 0 2.0 Electronegativity of support cation [–] Fig. 5-4 Pt0 4f7/2 binding energy and NO2 yield of the fresh Pt catalysts at 523 K versus Pauling’s electronegativity of the support cations. binding ), TiO2 ( ▲ ), ZrO2 ( ▼ ) and energy supported on Al2O3 ( ● ), CeO2 ( ), TiO2 ( ), SiO2 ( ■ ). NO2 yield supported on Al2O3 ( ○ ), CeO2 ( ) and SiO2 ( □ ). ZrO2 ( Pt0 4f5/2 Intensity [a.u.] Pt0 4f7/2 (a) (b) (c) (d) (e) 77 76 75 74 73 72 71 70 69 Binding energy [eV] Fig. 5-5 Curve fitted Pt0 4f XPS spectra of the aged Pt catalysts supported on (a) Al2O3, (b) CeO2, (c) TiO2, (d) ZrO2 and (e) SiO2. 91 Table 5-6 The summary of XPS data with the aged Pt catalysts Support Al2O3 CeO2 TiO2 ZrO2 SiO2 4f7/2 71.21 71.19 71.18 71.18 71.19 4f5/2 74.53 74.44 74.50 74.48 74.53 100 24 30 100 100 0 76 70 0 0 B.E. of Pt0 [eV] Abundance ratio [%] Pt0 Pt2+ 60 NO2 yield [%] 50 40 30 20 10 0 0 5 10 15 Surface metallic Pt amount [μmol/g] Fig. 5-6 NO2 yield of the aged Pt catalysts supported on Al2O3 ( ● ), CeO2 ( ), TiO2 ( ▲ ), ZrO2 ( ▼ ) and SiO2 ( ■ ) at 523 K versus the amount of the surface metallic Pt. the surface metallic Pt amount is the product of the CO adsorption amount and the abundance ratio of Pt0. 92 第6章 NOx 還元量の温度特性と低温 NOx 吸蔵還元特性 6.1.緒言 第4章では低温での NOx 吸蔵反応に着目し反応解析を実施した。また第5 章では低温での NOx 吸蔵量を向上させるための必要条件の一つである NO2 分圧 を向上させるために、NO 酸化触媒の改良指針を得ることを目的にとした研究結 果を述べた。その一方で、NOx 吸蔵還元型触媒の低温活性をさらに向上させ、 NOx 吸蔵還元型触媒の構成を最適化するためには、NOx の吸蔵と吸蔵した NOx の還元のどちらが NOx 吸蔵還元反応特性を支配しているかを明らかにすること が重要である。また、排気ガス中に共存する還元剤が NOx の吸蔵に与える影響 は第4章で述べた通りであるが、吸蔵 NOx の還元反応に対してはどのような影 響を与えているのかも明らかにする必要がある。第6章では、これらを明らか にすることを目的として、NOx 吸蔵還元型触媒上への NOx の吸蔵、ならびに吸 蔵した NOx の還元反応の解析を実施した。 6.2.実験方法 6.2.1.触媒調製 NOx 吸蔵還元型触媒は、セル形状が六角(セル密度 62 cell/cm2)、直径 30 mm、 長さ 50 mm のモノリス基材を構造材料に用いて調製した〔1〕。NOx 吸蔵還元型 触媒は Al2O3 を主とする酸化物担体、CeO2-ZrO2 系酸素吸放出材料、バリウムお よびカリウム化合物からなる NOx 吸蔵材、ならびに Pt および Rh から構成され る。バリウムとカリウム、Pt および Rh の合計の担持量はそれぞれ 5 wt%なら びに 0.4 wt%である。Pt(NH3)2(NO2)2 硝酸溶液(田中貴金属工業)および Rh(NO3)3 硝酸溶液(田中貴金属工業) 、 (CH3COO)2Ba(和光純薬工業)および CH3COOK (和光純薬工業)を含浸法で担持した。 6.2.2.NOx 吸蔵量および吸蔵 NOx 還元量の測定 NOx 吸蔵ならびに吸蔵 NOx の還元量の測定は、通常の常圧固定床流通反応 93 装置とモデルガスを用いて実施した〔1-3〕。調製直後の NOx 吸蔵還元型触媒に 対して、希釈ガスとして N2 を使用した 0.28% CO,0.16% H2,0.09% C3H6, 0.62% O2,14.25% CO2 および 5% H2O からなる等量点のモデルガスを用いて 773 K で 15 分の前処理を行った。NOx 吸蔵反応を実施する際に、反応温度まで 昇温または降温する過程において、希釈ガスとして N2 を使用した 5.6% CO, 1.9% H2,0.11% C3H6,0.3% O2,14.25% CO2 および 5% H2O からなる還元ガ スを NOx 吸蔵還元型触媒に 5 分間供給し、触媒に吸蔵されている NOx を還元除 去した。次に、表 6-1 に示した酸化雰囲気ガスである”Lean 1“を、触媒出ガス の NOx 濃度が一定となるまで NOx 吸蔵還元型触媒に供給した。その後、還元雰 囲気ガスである”RS1“を NOx 吸蔵還元型触媒に 3 秒間供給し、再び NOx 吸蔵 還元型触媒の出ガス NOx 濃度が一定となるまで”Lean 1“を供給した。3 秒間 の還元雰囲気ガスの供給を”RS”と記す。上記活性試験は 523 から 873 K の範 囲で実施した。ガス流速は 30,000 cm3/min で、空間速度に換算すると 51,500 h-1 となる。 (MEXA-7100、 NOx 濃度は NO2 と NO との総和として、自動車排気ガス分析計 堀場製作所)に搭載された化学発光方式 NOx 計によって測定した。表 6-1 に示 したモデルガス組成は、実際のリーンバーン直噴ガソリンエンジンの排気ガス を分析した結果から決定した。ただし、種々の HC が実際のリーンバーン直噴 ガソリンエンジンからの排気ガスには含まれるが、ここでは HC 種として C3H6 を使用した。 6.2.3.還元剤による NOx 吸蔵還元反応の影響 表 6-2 に組成を示したモデルガスを用いて、RS 時の還元剤種が吸蔵 NOx の 還元に与える影響を調べた。これらの実験では、NOx 吸蔵還元型触媒をまず in-situ で前処理し、その後 60 秒間酸化雰囲気ガスである“Lean 2”を供給した 後に“RS2”から“RS4”で表記される組成の 3 秒間の RS を与えるというサイ クルを繰り返した。反応ガスの CO 濃度は自動車排気ガス分析計(MEXA-7100、 堀場製作所)に搭載された非分散型赤外吸収方式 CO 計で、C3H6 濃度は同分析 94 計に搭載された水素炎イオン化方式炭化水素計にて定量した。反応ガス中の H2 濃度はセクター型質量分析方式低濃度水素連続分析計(MSHA-1000L、堀場製 作所)にて定量した。 6.2.4.NOx 吸蔵還元型触媒の H2 生成能 表 6-3 のモデルガスを用いて、雰囲気過渡条件での NOx 吸蔵還元型触媒の 水性ガスシフト(Water gas shift)反応ならびに水蒸気改質(Steam reforming)反応 の活性を調べた。酸化雰囲気と還元雰囲気を 30 秒ごとに切り替え、反応温度を 673 から 473 K まで、10 K/min で低下させた。 6.3.結果および考察 6.3.1.NOx 吸蔵還元反応の温度特性 表 6-1 のモデルガスを用い、523 K において測定した触媒出ガスの NOx 濃度 の時間変化を図 6-1 に示す。 時間ゼロにおいて酸化雰囲気のガスである“Lean 1” を供給し始めると、出ガスの NOx 濃度は時間に対して徐々に増加し、約 1400 秒後にはほぼ一定の値となった。この時点で触媒入りガスと出ガスに差分が生 じているのは、NOx 吸蔵還元型触媒の貴金属上で HC による NOx の選択還元反 応が起きているためである〔4〕。図 6-1 において、影を付けた面積 A が触媒に 吸蔵された NOx 量であり、これを”NOx 吸蔵量”と表記する。NOx を飽和吸蔵 した NOx 吸蔵還元型触媒に 3 秒間の RS を供給すると、触媒出ガスの NOx 濃度 は一瞬入りガス濃度よりも高くなり、すぐにゼロ近くになり、その後再び時間 と共に徐々に増加した。このような、RS を与えた後の出ガス NOx 濃度の変化は、 RS 中に含まれる還元ガスによる吸蔵 NOx の還元、すなわち NOx 吸蔵サイトの 再生によるものである。 以降、NOx 吸蔵特性は、673 K での NOx 吸蔵量を1とした場合の相対値で表 す。図 6-1 において、影を付けた面積 B が触媒上で再生された NOx 吸蔵サイト の量に相当し、これを”RS-NOx 吸蔵量”と表記する。”NOx 吸蔵量”は酸化雰 囲気における NOx 吸蔵性能の指標であり、”RS-NOx 吸蔵量”は還元雰囲気にお 95 ける吸蔵 NOx の還元性能の指標である。 図 6-2 には、反応温度に対する NOx 吸蔵量および RS-NOx 吸蔵量を示した。 第4章で示したように NOx 吸蔵量は 573 および 673K で最大となった。一方、 RS-NOx 吸蔵量は 673 K で最大となった。673 K 以上では、NOx 吸蔵量と RS-NOx 吸蔵量とは、ほぼ同じ値であった。このことは、673 K 以上では 3 秒間の RS に よって、触媒上の NOx 吸蔵サイトがほぼ完全に再生されていることを意味する。 673 K 未満では、NOx 吸蔵量は RS-NOx 吸蔵量よりも高い値を示した。NOx 吸蔵量に対する RS-NOx 吸蔵量の割合は 573 K で 71%、523K で 47%であった。 この結果は、反応温度が 673 K 未満に低下すると NOx 吸蔵サイトが完全には再 生されないことを示している。実際のリーンバーン直噴ガソリンエンジンの RS は 1 秒以下であり、今回のモデルガス実験に比べて一桁程度短いことから、実 排気ガス雰囲気での RS-NOx 吸蔵量は今回のモデルガスでの実験値よりもさら に小さいものと推定される。これらの結果から、反応温度が 673 K 未満になる と、NOx の吸蔵に比べて、吸蔵 NOx の還元が NOx 吸蔵還元反応全体に対する律 速段階となっていると考えられる。従って、低温での NOx 吸蔵還元型触媒の特 性を改善するためには、NOx 吸蔵量を向上させること以外に、吸蔵 NOx の還元 反応を促進することも重要であることが分かる。 6.3.2.吸蔵 NOx の還元に対する還元剤種の影響 先に述べたように、NOx 吸蔵還元型触媒の NOx 吸蔵還元反応は 673 K 未満 では吸蔵 NOx の還元が律速となっている。NOx 吸蔵還元型触媒の低温での活性 を向上させるためには、この還元反応を解析することが非常に重要である。図 6-2 の実験を行った際の還元剤、すなわち H2、CO および C3H6 の浄化率を図 6-3 に示す。いずれの還元剤の浄化率も 673 K では 100%であるが、それ未満の温度 では浄化率が 100%未満となり、またその値は還元剤種によって異なり、H2> CO>C3H6 の序列であった。これの結果から、H2,CO および C3H6 の吸蔵 NOx の還元活性は 673 K 未満では異なることが示唆される。すでに述べたように、 酸化雰囲気では NOx 吸蔵反応以外に、選択還元反応による NOx の還元が進行す 96 るので、触媒出ガスの NOx 濃度の時間変化のみから還元剤の効率を明らかにす ることは困難である。NOx の選択還元反応の寄与を無くすために、これ以降の 反応解析は還元剤を含まない酸化ガスである“Lean 2”を用いて実施した。表 6-2 に示すように、還元剤として H2、CO または C3H6 を含有する RS をそれぞ れ、 “RS2”、 “RS3”および“RS4”と表記する。また、還元剤を含まない NO、 CO2 および H2O からなるモデルガスを“Blank-RS”と表記する。 これらのモデルガスを用い、523 K にて 60 秒間の酸化雰囲気と 3 秒間の RS を交互に切り替えたときの触媒出ガス NOx 濃度の時間変化を図 6-4-(A)から 6-6-(D)に示す。これらの図では還元剤種の影響のみを定量的に比較するために、 還元剤の濃度を化学当量濃度で表記した。化学反応式(6-1)から(6-3)で示し た還元剤の完全酸化反応を仮定したときの酸素濃度が化学当量濃度となる。 1 O → H2O 2 2 1 CO + O2 → CO2 2 9 C3H6 + O2 → 3H2O +3CO2 2 H2 + (6-1) (6-2) (6-3) H2、CO または C3H6 を還元剤とする表 6-2 の“RS2”、 “RS3”および“RS4” の化学当量濃度は、全て 3%である。表 6-2 の“Lean 2”と表記した酸化雰囲気 ガスを 60 秒間供給した際に、全ての NOx が NOx 吸蔵還元型触媒に NO3-として 吸蔵され、3 秒間の RS によって完全に N2 へと還元される場合には、RS 時に必 要な還元剤の化学当量濃度は 1%である。したがって、図 6-4-(A),6-4-(B)およ び 6-4-(C)で供給した化学当量濃度 3%の還元剤は吸蔵 NOx 量に比べて 3 倍過剰 であり、還元剤量は NOx 吸蔵サイトの再生に対して律速因子とはならない。RS を供給すると、反応式(6-4)または(6-5)によって吸蔵 NOx が還元され、NOx 吸蔵 還元型触媒上の NOx 吸蔵サイトが再生される。再生された NOx 吸蔵サイトは再 び NOx 吸蔵が可能となる。 97 Ba(NO3)2 + 2R → 2NOx + BaO + 2RO(2.5-x) KNO3 + R → NOx + 1 K O + RO(2.5-x) 2 2 (6-4) (6-5) 還元剤を含まない“Blank-RS”を使用した図 6-4-(D)の場合には、出ガスの NOx は時間に対して単調に増加し、最終的には一定値に達した。酸化雰囲気の 出ガス NOx 濃度の時間変化は、還元剤なし(図 6-4-(D))>C3H6(図 6-4-(C)) >CO(図 6-4-(B))>H2(図 6-4-(A))の序列である。このことは、還元剤の還 元能力が H2>CO>C3H6 の序列であることを意味している。図 6-4-(A)に示すよ うに、還元剤として H2 を用いると、それぞれの NOx 吸蔵還元サイクルの NOx 濃度の時間変化はほとんど同じであることから、H2 を還元剤とする RS では、 触媒上のほぼ全ての NOx 吸蔵サイトを再生できていると考えられる。図 6-4-(A) から 6-4-(D)において、それぞれの NOx 浄化率は7回目の酸化雰囲気では、ほぼ 一定の値となった。 吸蔵 NOx の効率的な還元ならびに燃費向上に対しては、RS 中の還元剤の量 も非常に重要である。すなわち、出来るだけ少ない還元剤量で吸蔵 NOx を効率 よく還元できることが燃費向上に繋がる。図 6-5 に、7回目の酸化雰囲気での NOx 浄化率を、RS 時の還元剤の化学当量濃度に対してプロットした。化学当量 濃度が 0.5%未満の場合には、還元剤種の違いは NOx 浄化率にほとんど影響しな い。還元剤の化学当量濃度が 0.5 から 1.0%の範囲では、いずれの還元剤種にお いても NOx 浄化率は化学当量濃度に依存し向上した。この濃度範囲では、還元 剤の供給量が NOx 吸蔵サイトの再生に対して律速因子となっている。化学当量 濃度 1%以上でも、H2 を還元剤とする場合には NOx 浄化率は H2 濃度に依存して 向上し、最終的には 95%以上に達した。この挙動は、還元剤に CO または C3H6 を使用した場合とは明らかに異なっている。CO または C3H6 を還元剤に使用し た場合には、この化学当量濃度範囲で CO または C3H6 濃度を高くしても NOx 98 浄化率は一定であり、吸蔵 NOx の放出が NOx 浄化性能の律速因子となっている と考えられる。この場合、NOx 浄化率は化学反応式(6-4)および(6-5)の反応速度 に比例するから、吸蔵 NOx の還元速度は C3H6 を基準として H2 で 2.5 倍、CO で 1.5 倍速いという結論が導かれる。 吸蔵 NOx の放出には貴金属と NOx 吸蔵材との界面、または吸蔵材の表面に 還元剤が存在することが必要である。触媒上で、水素原子が貴金属から酸化物 担体へとスピルオーバすることは良く知られている〔5-7〕。触媒表面上で水素 原子の移動度が高いために、H2 を還元剤とする RS では低温でも十分な NOx 吸 蔵サイトの再生がなされ、高い NOx 還元活性が得られたものと考えられる。 図 6-1 および図 6-4-(A)から 6-4-(D)では、RS を導入した際、瞬間的に NOx 濃度が高くなる現象が観察された。図 6-4-(D)で明らかなように、“Blank-RS” を与えた場合でも、触媒出ガスの NOx 濃度は入りガス NOx 濃度よりも高くなる。 この結果から、瞬間的な NOx 濃度の増加は、触媒からの吸蔵 NOx の脱離または 放出であることが分かる。 酸化雰囲気終了時点の出ガス NOx 濃度と RS 時の出ガス NOx のピーク濃度 との差分を、ここでは”放出 NOx 濃度(Emmitted NOx concentraion)”と表記 する。化学反応式(6-6)で表される脱離 NOx の N2 への還元反応が十分効率的 に行われないと、放出 NOx 濃度が高くなると考えられる。 1 N + ROx 2 2 R is reducing agents NO x + R → (6-6) したがって、この放出 NOx 濃度は NOx 吸蔵還元型触媒の NOx 還元特性の指 標の一つとなる。RS 時の還元剤の化学当量濃度に対する6回目の RS における 放出 NOx 濃度を図 6-6 に示す。C3H6 を還元剤とする場合では、その化学当量濃 度が 0 から 1.0%の範囲では、化学当量濃度が高くなると放出 NOx 濃度が高くな る。しかし、1.0%以上では放出 NOx 濃度はほぼ一定であった。H2 を還元剤とす 99 る場合には、H2 濃度が高くなると放出 NOx 濃度は徐々に減少したのに対して、 還元剤を CO とする場合には、その濃度が高くなっても放出 NOx 濃度はほぼ一 定であった。放出された NOx の還元に対する還元剤種の影響は明らかに異なり、 その序列は H2>CO>C3H6 であることが分かった。この章で調べた還元剤種の 中では、吸蔵 NOx の放出、放出された NOx の還元のいずれの反応においても H2 が最も高い活性を示すことが分かった。 6.3.3.低温における NOx 吸蔵還元型触媒の水素生成 ここまで述べた結果から、H2、CO および C3H6 の中で、H2 が最も高活性か つ高効率の還元剤であることが分かった。CO と C3H6 では、CO の方が高活性 かつ高効率であるが、この違いは何故生じるのであろうか?この違いは、NOx 吸蔵還元型触媒の開発には非常に重要であると考えられる。還元雰囲気におい て、触媒上で CO および C3H6 から H2 が生成することは良く知られている。例 えば、酸化セリウムに担持された Pt 触媒上で、CO と H2O から化学反応式(6-7) の水性ガスシフト反応によって水素が生成する〔8-11〕。水蒸気改質反応では、 熱安定化酸化ジルコニウムに担持された Rh 触媒上で HC と H2O から化学反応 式(6-8)によって H2 が生成することも知られている〔12〕。 CO + H2O → CO2 + H2 (6-7) C3H6 + 6H2O → 3CO2 + 9H2 (6-8) 触媒調製の項で記したように、NOx 吸蔵還元型触媒はこれらの反応に必要な 成分から構成されており、RS は水性ガスシフト反応および水蒸気改質反応が進 行する条件である。NOx 吸蔵還元型触媒上で生成した H2 は吸蔵 NOx の還元を促 進すると考えられる。そこで、水性ガスシフト反応および水蒸気改質反応によ る H2 生成特性を調べた。 表 6-3 に示した酸化および還元雰囲気のモデルガスを 30 秒毎に交互に切り 替えながら、温度を 673 から 473 K まで 10 K/min で降温させた。図 6-7 に測定 100 時間に対する触媒出ガスの H2 濃度の変化を示す。図 6-7 の温度範囲は 553 から 503 K である。水性ガスシフト反応によって生成した H2 濃度は、水蒸気改質反 応によって生成した H2 濃度よりも2倍以上高かった。また、酸化雰囲気から還 元雰囲気に切り替えたときの水性ガスシフト反応によって生成する H2 濃度の立 ち上がり速度は、水蒸気改質反応によって生成する H2 濃度の立ち上がり速度よ りも速かった。反応温度が低下すると H2 生成速度の立ち上がりの差はさらに拡 大した。したがって、NOx 吸蔵還元型触媒上で起こる水性ガスシフト反応と水 蒸気改質反応の差が、RS の還元剤として CO の方が C3H6 よりも吸蔵 NOx の還 元に対して高活性であることの理由の一つであると考えられる。この結果から、 水性ガスシフト反応および水蒸気改質反応による H2 生成を改善すれば、NOx 吸 蔵還元型触媒上の吸蔵 NOx の還元活性が向上するものと期待される。 6.4.結言 リーンバーン直噴ガソリンエンジン用 NOx 吸蔵還元型触媒の低温における NOx 吸蔵および吸蔵 NOx の還元反応を系統的に検討した。その結果、673 K 未 満の NOx 吸蔵還元反応では、吸蔵 NOx の還元が律速段階であることが分かった。 低温では、吸蔵 NOx を還元する能力は還元剤によって異なり、H2>CO>C3H6 の序列であった。NOx 吸蔵還元型触媒に吸蔵 NOx の還元に必要な量の CO また は C3H6 を供給しても NOx 吸蔵サイトの一部が再生されないのに対して、H2 は 適正量以上供給すれば全ての NOx 吸蔵サイトを再生することが可能であった。 実験結果から、CO または C3H6 を還元剤に使用した場合には、吸蔵 NOx の還元 に対して吸蔵 NOx の還元速度が律速であることが示唆された。さらに、NOx 吸 蔵還元型触媒では水蒸気改質反応よりも水性ガスシフト反応による H2 生成の方 がより効率的に進行することが分かった。このことは、吸蔵 NOx の還元に対し て C3H6 よりも CO の活性が高いことの理由の一つであると考えられる。以上の 結果から、水性ガスシフト反応による H2 生成活性を促進することが、低温での NOx 吸蔵還元型触媒の性能を改善する有効な方法の一つであると考えられる。 101 参考文献 〔1〕I. Hachisuka, T. Yoshida, H. Ueno, N. Takahashi, A. Suda and M. Sugiura, SAE Tech. Paper 2002010732 (2002). 〔2〕N. Miyoshi, S. Matsumoto, K. Katoh, T. Tanaka, J. Harada, N. Takahashi, K. Yokota, M. Sugiura and K. Kasahara, SAE Tech. Paper 950809 (1995). 〔3〕N. Takahashi, H. Shinjoh, T. Iijima, T. Suzuki, K. Yamazaki, K. Yokota, H. Suzuki, N. Miyoshi, S. Matsumoto, T. Tanizawa, T. Tanaka, S. Tateishi and K. Kasahara, Catal. Today, 27 (1996) 63. 〔4〕S. Matsumoto, Y. Ikeda, H. Suzuki, M. Ogai and N. Miyoshi, Appl. Catal. B: Environ., 25 (2000) 115. 〔5〕R. Kramer and M. Andre, J. Catal., 58 (1979) 287. 〔6〕R. R. Cavanagh and J. T. Yates, Jr., J. Catal., 68 (1981) 22. 〔7〕M. Machida, D. Kurogi and T. Kijima, J. Phys. Chem. B, 107 (2003) 196. 〔8〕T. Bunluesin, R. J. Gorte and G. W. Graham, Appl. Catal. B: Environ., 15 (1998) 107. 〔9〕B. I. Whittington, C. J. Jiang and D. L. Trimm, Catal. Today, 26 (1995) 41. 〔10〕T. Shido and Y. Iwasawa, J. Catal., 141 (1993) 71. 〔11〕R. K. Herz and J. A. Sell, J. Catal., 94 (1993) 166. 102 Table 6-1 Compositions of simulated exhaust gases for NOx storage and reduction performance NO O2 H2 CO C3H6 CO2 H2O N2 [ppm] [%] [%] [%] [ppm] [%] [%] Lean 1 400 7 0 0.01 200 11 5 Balance RS1 400 0 1.6 6 1070 11 5 Balance Table 6-2 The gas compositions used to investigate the effect of reducing agent type on the stored NOx reduction NO O2 H2 CO C3H6 [ppm] [%] [%] [%] [%] [%] [%] Lean 2 400 7 0 0 0 11 5 Balance RS2 400 0 6 0 0 11 5 Balance RS3 400 0 0 6 0 11 5 Balance RS4 400 0 0 0 0.67 11 5 Balance Blank-RS 400 0 0 0 0 11 5 Balance 103 CO2 H2O N2 Table 6-3 The gas compositions used to investigate hydrogen generation performance on the NOx storage and reduction catalyst O2 CO [%] [%] Lean A 7 Rich A 0 C3H6 H2O N2 [%] [%] 0 0 10 Balance 6 0 10 Balance Water gas shift reaction Steam reforming reaction Lean B 7 0 0 10 Balance Rich B 0 0 0.67 10 Balance NO x concentration [ppm] 500 400 300 A 200 B 100 0 0 500 1000 1500 2000 Time [s] Fig. 6-1 NOx concentration in the outlet and inlet gases with Lean 1 and ) and in the inlet RS1 at 523 K. NOx concentration in the outlet gas ( gas ( ). 104 Relative NOx storage or RS-NOx storage amount [–] 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0 500 550 600 650 700 750 800 850 900 Temperature [K] Conversion of reducing agents in RS [%] Fig. 6-2 NOx storage performance with Lean 1 and RS1 gases versus reaction temperature. NOx storage amount ( ● ) and RS-NOx storage amount ( ○ ). 100 80 60 40 20 0 500 550 600 650 700 Temperature [K] Fig. 6-3 Conversion of the reducing agents in the rich spike versus reaction temperature. H2 ( ○ ), CO ( ● ) and C3H6 ( ▲ ). 105 RS RS RS RS RS RS NOx concentration [ppm] 600 500 400 300 200 100 0 0 100 200 300 400 Time [s] Fig. 6-4-(A) NOx concentration in the outlet gas at 523 K versus time using Leas 2 and RS2 (H2), alternately. RS RS RS RS RS RS NOx concentration [ppm] 600 500 400 300 200 100 0 0 100 200 300 400 Time [s] Fig. 6-4-(B) NOx concentration in the outlet gas at 523 K versus time using Leas 2 and RS3 (CO), alternately. 106 RS RS RS RS RS RS NOx concentration [ppm] 600 500 400 300 200 100 0 0 100 200 300 400 Time [s] Fig. 6-4-(C) NOx concentration in the outlet gas at 523 K versus time using Leas 2 and RS4 (C3H6), alternately. RS RS RS RS RS RS NOx concentration [ppm] 600 500 400 300 200 100 0 0 100 200 300 400 Time [s] Fig. 6-4-(D) NOx concentration in the outlet gas at 523 K versus time using Leas 2 and Blank-RS (reducing agent free), alternately. 107 NO x conversion in lean period [%] 100 80 60 40 20 0 0 1 2 3 Concentration of chemical equivalent [%] Emitted NOx concentration in RS [%] Fig. 6-5 NOx conversion of the seventh lean period at 523 K versus the concentration of the chemical equivalent of the reducing agents in the RS. ). H2 ( ○ ), CO ( ● ), C3H6 ( ▲ ) and no reducing agents ( 400 300 200 100 0 0 1 2 3 Concentration of chemical equivalent [%] Fig. 6-6 The emitted NOx concentration of the sixth RS at 523 K versus the concentration of the chemical equivalent of the reducing agents in the RS. ). H2 ( ○ ), CO ( ● ), C3H6 ( ▲ ) and no reducing agents ( 108 560 1500 540 1000 520 500 Temperature [K] H2 concentration [ppm] 2000 500 0 1200 1250 1300 1350 1400 1450 1500 Time [s] Fig. 6-7 H2 concentration in the outlet gases versus time when the lean and rich conditions were alternately switched every 30 s. water gas shift reaction ( ) and steam reforming reaction ( ). the dashed line represents the reaction temperature, which decreased at the rate of 10 K/min. 109 110 第7章 Pd/Al2O3 触媒および Cu/ZSM-5 触媒との組み合わせによる相乗効果 7.1.緒言 第4章および第6章では NOx 吸蔵還元型触媒の低温での NOx 吸蔵ならびに 吸蔵 NOx の還元反応の解析結果と、低温活性向上の指針について述べた。また、 第5章では低温での NOx 吸蔵量を向上させるために NOx 吸蔵還元型触媒の前段 に配置すべき触媒の一つである NO 酸化触媒の性能因子に関する研究結果を述 べた。 その中で、NOx 吸蔵還元型触媒上では HC による NOx の選択還元によって 酸化雰囲気でも一部の NOx が N2 へと還元されていることも示した。その後実施 した研究において、NO 酸化触媒、NOx 吸蔵還元型触媒および NOx 選択還元型 触媒を、この順番で配置した組み合わせ触媒に長周期の酸化還元条件を与える ことで、酸化雰囲気における NOx 浄化活性が飛躍的に向上することを見出した。 図 7-1 に触媒の組み合わせによる NOx 浄化活性の模式図を示す。NOx 吸蔵還元 型触媒に NO 酸化触媒を組み合わせると NOx 浄化の低温活性が向上し、さらに NOx 選択還元型触媒を組み合わせると NOx 浄化活性は温度に対して山型に向上 した。図 7-1 に示した高い NOx 浄化活性は、個々の触媒の NOx 還元活性の単純 な累積ではなく、これらの触媒の相乗効果であると考えられる。第7章ではこ の触媒の組み合わせで、何故高い NOx 浄化活性が得られるのかを明らかにする ことを目的に、モデルガスを用いて反応解析を実施した結果について述べる。 7.2.実験方法 7.2.1.触媒調製 ここで使用した触媒は、全てペレット形状であり、NO 酸化触媒として Pd/γ-Al2O3 触媒、NOx 吸蔵還元型触媒として Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3 触媒、NOx 選択還 元型触媒として Cu/ZSM-5 触媒〔1〕を組み合わせた。Pd/γ-Al2O3 触媒は γ-Al2O3 粉末(BET 比表面積 200 m2/g)に Pd(NO3)2 硝酸溶液(田中貴金属工業)を含 111 浸法で担持することで調製した。Pd 担持粉末は空気中 383 K で一夜乾燥した後、 さらに 873 K で焼成した。次に、150 kg/cm2 の加圧により圧粉し、破砕、分級 することで 0.5 から 1.0 mm のペレットとした。 Pd の担持量は γ-Al2O3 担体 1 mol に対して 2.3×10-2 mol である。Pt/Rh/γ-Al2O3 触媒は Pt(NH3)2(NO2)2(田中貴金 属 工 業 ) と Rh(NO3)3 ( 田 中 貴 金 属 工 業 ) と の 混 合 硝 酸 溶 液 、 な ら び に (CH3COO)2Ba(和光純薬工業)水溶液を用い、乾燥、焼成およびペレット化の 手法は Pd/γ-Al2O3 触媒と同様の方法を用いて調製した。Pt,Rh および Ba の担 持量は γ-Al2O3 担体 1 mol に対して、それぞれ 8.5×10-3,1.6×10-3 ならびに 0.17 mol とした。CO パルス吸着法で表面に露出している貴金属原子1個に対して CO 分子1個が吸着していると仮定して CO 吸着量から算出した Pd/γ-Al2O3 触媒 および Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3 触媒の貴金属分散度は、それぞれ 8 ならびに 13%であ った〔2〕。Cu/ZSM-5 粉末(Cu 担持量 5 wt%、Si/Al=40、東ソー)も圧粉、破 砕、分級を Pd/γ-Al2O3 触媒および Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3 触媒と同様に実施した。以 降、これらの触媒を Pd,Ba/Pt/Rh および Cu/Z と表記する。例えば Pd/γ-Al2O3 触媒、Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3 触媒ならびに Cu/ZSM-5 触媒をこの順番で配置した触媒 は、Pd+Ba/Pt/Rh+Cu/Z と表記される。 7.2.2.触媒活性の測定方法 触媒活性試験には、常圧固定床流通反応装置を使用した〔3〕。NOx 還元活性 は酸化雰囲気と還元雰囲気を3分毎に繰り返すモデルガスを用いて測定した。 いずれの雰囲気のモデルガスも N2 をバランスガスとし、酸化雰囲気は 230 ppm NO,6.5% O2,9.6% CO2 および 3% H2O を、還元雰囲気は 230 ppm NO,0.4% O2,1300 ppm C3H6,9.6% CO2 および 3% H2O を含有している。このときの反 応温度は 473 から 673 K とした。ガス流速は 3.3 L/min とし、これを空間速度に 換算すると 140,000 から 420,000 h-1 となる。HC は水素炎イオン化方式炭化水 素計、NOx は化学発光方式 NOx 計、CO、CO2 ならびに NH3 は非分散型赤外分 光方式検出器、O2 は磁化率方式検出器を用いて濃度を定量した。NH3 の効果を 明確にするために、C3H6 の代わりに 260 ppm の NH3 を含有するモデルガスを 112 用いて、Cu/Z 触媒の NOx 還元活性を調べた。また、C3H6 の濃度を 230 ppm と した試験も実施した。還元雰囲気での触媒の NH3 生成活性を、12 K/min の昇温 速度で加熱しながら、373 から 873 K の温度範囲で測定した。また、623 K にお いて酸化および還元雰囲気を繰り返す条件での NH3 生成活性も試験した。 上記、常圧固定床流通反応装置を用いて、Cu/Z 触媒の NH3 および C3H6 の 吸着脱離特性を、昇温脱離法により測定した。NH3 を 373 K で Cu/Z 触媒に飽和 吸着させ、N2 流通下にて 20 K/min の昇温速度で 373 から 873 K まで加熱する ことで脱離させた。C3H6 は 383 または 423 K にて N2 をバランスガスとする 230 ppm C3H6 および 3% H2O を含有する混合ガスを触媒に供給することで吸着させ た。この場合 3% H2O が共存する条件としたのは、排気ガス中に共存する H2O が C3H6 の吸着脱離特性に大きく影響すると考えられるからである。 Cu/Z 触媒に NH3 または C3H6 を飽和吸着させ、その後 N2 をバランスガスと する 230 ppm NO、6.5% O2 混合ガスを流通させながら 20 K/min で加熱するこ とで、酸化雰囲気における NOx 浄化活性を測定した。 7.3.結果および考察 7.3.1.変動ガス条件下での組み合わせ触媒の NOx 還元挙動 酸化雰囲気と還元雰囲気とを3分毎に繰り返すモデルガス条件において、雰 囲気変動を数回繰り返し、酸化雰囲気と還元雰囲気での触媒出ガス濃度変化の 再現性が良好となった時点での結果を示す。Pd 触媒と Ba/Pt/Rh 触媒、ならび に Pd 触媒、Ba/Pt/Rh 触媒および Cu/Z 触媒をこの順番で配置した2組の組み合 わせ触媒の NOx 浄化活性を測定した。図 7-2 に、酸化雰囲気での3分間の平均 NOx 浄化活性を示す。Cu/Z 触媒を Pd+Ba/Pt/Rh 触媒の下流に配置することで、 483 から 603 K の温度範囲での NOx 浄化活性が向上した。図 7-3-(a)と 7-3-(b) には、583 K における Pd+Ba/Pt/Rh 触媒ならびに Pd+Ba/Pt/Rh+Cu/Z 触媒の 出ガス中の NOx、NH3 および HC の時間変化をそれぞれ示す。Pd+Ba/Pt/Rh+ Cu/Z 触媒(図 7-3-(b))では、Pd+Ba/Pt/Rh 触媒(図 7-3-(a))に比べて、試験 113 開始 3 から 6 分の間の酸化雰囲気での出ガス NOx 濃度が低いことから、酸化雰 囲気での NOx 浄化活性が高いことが分かる。いずれの触媒でも、試験開始 0 か ら 3 分の間の還元雰囲気では NH3 の生成が観測された。しかし、NH3 および HC の出ガス濃度は、Pd+Ba/Pt/Rh+Cu/Z 触媒(図 7-3-(b))の方が Pd+Ba/Pt/Rh 触媒(図 7-3-(a))に比べて低かった。還元雰囲気ではいずれの触媒でも、酸化 性ガスである NOx および O2(図示せず)の出ガス濃度がほぼゼロであった。し たがって、還元雰囲気における NH3 および HC の出ガス濃度の違いは、共存す る NOx および O2 によって NH3 ならびに HC が酸化される触媒反応活性の違い ではなく、NH3 および HC の触媒への吸着度合いの違いであると考えられる。 還元雰囲気において触媒に吸着した NH3 および HC は、その後の酸化雰囲気に おいて Cu/Z 触媒上で NOx を還元すると思われる。還元雰囲気で触媒に吸着した NH3 および HC の量は Pd+Ba/Pt/Rh+Cu/Z 触媒(図 7-3-(b))の方が Pd+ Ba/Pt/Rh 触媒(図 7-3-(a))よりも多いために、図 7-2 に示した酸化雰囲気での NOx 浄化活性は前者の方が高かったと推定する。 7.3.2.各触媒の NH3 生成活性 図 7-3-(a)および 7-3-(b)では、還元雰囲気において触媒の入りガスには NO, O2,C3H6,CO2 および H2O しか含有していないが、触媒出ガスには NH3 が観 測された。したがって NH3 は触媒上で生成したと考えられる。この NH3 は先に 述べたように酸化雰囲気で NOx を還元していると考えられる。そこで、Pd 触媒、 Ba/Pt/Rh 触媒、Pd+Pd 触媒、Pd+Ba/Pt/Rh 触媒の、還元雰囲気での NH3 生成 活性を測定した。各触媒の NH3 収率の温度特性を NOx および HC 浄化率と共に 図 7-4-(a)から 7-4-(d)に示す。さらに、図 7-5 に4種類の触媒の NH3 収率を比較 した。NH3 生成活性は、Pd+Pd 触媒>Pd+Ba/Pt/Rh 触媒>Pd 触媒≫Ba/Pt/Rh 触媒の序列であった。Pd+Pd 触媒の NH3 生成活性が Pd+Ba/Pt/Rh 触媒よりも 高かったのは、Ba/Pt/Rh 触媒の NH3 生成活性が低いためと考えられる。一方、 623 K において酸化雰囲気と還元雰囲気とを3分毎に周期的に繰り返す雰囲気 変動条件下での、Pd+Pd 触媒および Pd+Ba/Pt/Rh 触媒の NH3 生成活性の時間 114 変化を図 7-6 に示す。図 7-5 に示した還元雰囲気のみでの温度特性の結果とは異 なり、673 K で雰囲気を変動変動させた条件では還元雰囲気での Pd+Ba/Pt/Rh 触媒の NH3 生成活性が、Pd+Pd 触媒のそれよりも高くなった。図 7-5 に示した ように、Ba/Pt/Rh 触媒の定常的な還元雰囲気での NH3 生成活性は Pd 触媒より も低かったことから、この結果は Pd 触媒が酸化雰囲気において NO を NO2 に 酸化し、Ba/Pt/Rh 触媒への NOx 吸蔵を増加させていることによると推定される。 酸化雰囲気で Ba/Pt/Rh 触媒に吸蔵された NOx は、還元雰囲気において同触媒上 で NH3 へと還元され、放出される。図 7-3-(a)の結果もあわせて考えると、一旦 Ba/Pt/Rh 触媒に吸蔵された NOx は、還元雰囲気で再び気相に NOx として放出さ れるのではなく、NH3 へと還元され放出されることも分かる。 7.3.3.Cu/ZSM-5 触媒の反応解析 図 7-3-(a)および 7-3-(b)の比較から酸化雰囲気において Pd+Ba/Pt/Rh+ Cu/Z 触媒が Pd+Ba/Pt/Rh 触媒に比べて高い NOx 浄化率を示すことが明らかで あるが、その理由としては、直前の還元雰囲気で Pd 触媒ならびに Ba/Pt/Rh 触 媒上で生成した NH3 が下流の Cu/Z 触媒に吸着し、その後の酸化雰囲気でこの吸 着した NH3 による NOx 浄化が Cu/Z 触媒上で進行するためと考えられる。そこ で、Cu/Z 触媒上での NOx 還元に対する吸着 NH3 および吸着 HC の効果を調べた。 初めに NH3 または C3H6 を還元剤とする雰囲気変動条件での試験、次に NH3 ま たは C3H6 の吸着脱離試験、さらには予め吸着させた NH3 または C3H6 による NOx 還元試験を実施した。図 7-7 に 573 および 623 K の雰囲気変動条件において、 NH3 または C3H6 を還元剤として使用した場合の Cu/Z 触媒の NOx 浄化率を示す。 いずれの反応温度でも、NH3 を還元剤とする場合の NOx 浄化率は、C3H6 を還元 剤とする場合に比べて高かった。次に Cu/Z 触媒の NH3 および C3H6 の吸着脱離 特性を昇温脱離法により調べた。図 7-8 に NH3-TPD パターンを示す。図 7-8 は 373 K で NH3 を飽和吸着させた後の NH3-TPD パターンであるが、NH3 の脱離は 約 523 および 673 K にピークを示した。図 7-9 には、3%の H2O が共存する条 件で C3H6 を 383 または 423 K で飽和吸着させた後の NH3-TPD パターンを示す。 115 H2O が共存する場合には 373 K では Cu/Z 触媒に C3H6 はほとんど吸着せず脱離 終了温度も低いが、423 K で C3H6 を吸着させた場合には高温側で脱離する C3H6 の吸着量が大幅に増加した。 最後に、Cu/Z 触媒に NH3 または C3H6 を吸着させ、酸化雰囲気での NOx 還 元の温度特性を調べる試験を実施した。NH3 は 373 K で、C3H6 は 3% H2O が共 存する雰囲気の 423 K で飽和吸着させた。NH3 を吸着させた場合の酸化雰囲気 での NOx 浄化特性を図 7-10 に、C3H6 を吸着させた場合のそれを図 7-11 に示す。 NH3 を吸着させた場合には、NOx は試験範囲のほぼ全温度域で浄化され、還元 された NO と吸着させた NH3 との量比は 0.97 であった。C3H6 を吸着させた場 合の NOx の浄化量は NH3 を吸着させた場合の 1/5 であり、還元された NO と吸 着させた C3H6 との量比は 0.42 であった。このことから、吸着した C3H6 は酸化 雰囲気で NO および O2 と反応するのに対して、吸着した NH3 はほぼ選択的に NO と反応することが分かる。 7.3.4.各触媒の機能 ここまでに述べた結果から推定される、各触媒上の酸化雰囲気ならびに還元 雰囲気での反応を図 7-12 にまとめた。Pd 触媒を Ba/Pt/Rh 触媒の上流に配置す ると酸化雰囲気における Ba/Pt/Rh 触媒入りガスの NO2 分圧が向上し、Ba/Pt/Rh 触媒の NOx 吸蔵量が増加する。次に触媒の入りガスを還元雰囲気に切り替える と、その直後には気相の NOx は Pd 触媒上で、Ba/Pt/Rh 触媒に吸蔵されている NOx は Ba/Pt/Rh 触媒上で N2 へと還元される。さらに還元雰囲気を継続すると、 気相の NOx は Pd 触媒上で、Ba/Pt/Rh 触媒に吸蔵されている NOx は Ba/Pt/Rh 触媒上で NH3 に還元される。生成した NH3 は、還元雰囲気において Ba/Pt/Rh 触媒の下流に配置された Cu/Z 触媒に吸着する。その後再び酸化雰囲気に切り替 えた際に、Cu/Z 触媒に吸着している NH3 とこの触媒に供給される NOx とが反応 し N2 が生成する。 116 7.4.結言 Pd/γ-Al2O3 触媒、Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3 触媒および Cu/ZSM-5 触媒をこの順番で 配置することにより、比較的長い酸化雰囲気と還元雰囲気とを繰り返す雰囲気 変動条件における NOx 浄化活性が向上する。その反応機構を、モデルガスを用 いて解析した。実験結果をまとめると、以下のようになる。 (1)還元雰囲気において Pd/γ-Al2O3 触媒および Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3 触媒上で の NH3 生成が観測され、生成した NH3 および組み合わせ触媒の入りガスに含ま れる C3H6 は還元雰囲気で Cu/ZSM-5 触媒に吸着した。(2)Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3 触媒に吸蔵された NOx は、還元雰囲気を継続すると NH3 として気相へ放出され た。このため、長周期の酸化雰囲気と還元雰囲気を繰り返す雰囲気変動条件で は、Pd/γ-Al2O3 触媒と Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3 触媒とを組み合わせた触媒の方が、組み 合わせ触媒と同じ体積の Pd/γ-Al2O3 触媒に比べて、還元雰囲気における NH3 生 成量が増加した。(3)還元雰囲気では NH3 も C3H6 も Cu/ZSM-5 触媒に吸着す るが、酸化雰囲気における NOx 還元効率は NH3 の方が高かった。 これらの結果から、Pd/γ-Al2O3 触媒、Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3 触媒および Cu/ZSM-5 触媒をこの順番で組み合わせた触媒で高い NOx 還元活性が得られる機構は次の ように解釈できる。酸化雰囲気では Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3 触媒の上流に配置した Pd/γ-Al2O3 触媒が Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3 触媒入りガスの NO2 濃度を増加させる。こ のため Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3 触媒の NOx 吸蔵量が向上する。吸蔵された NOx はその 後の還元雰囲気の後半において Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3 触媒上で NH3 へと還元される。 還元雰囲気において生成した NH3 は、Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3 触媒の下流に配置された Cu/ZSM-5 触媒に吸着し、次の酸化雰囲気において Cu/ZSM-5 触媒上で選択的に NOx を還元する。 117 参考文献 〔1〕M. Iwamoto and H. Hamada, Catal. Today, 10 (2002) 57. 〔2〕T. Hattori, H. Matsumoto and Y. Murakami (1987), in: B. Delmon, P. Grange, P. A. Jacobs and G. Poncelet (eds.) Preparation of Catalyst, Elsevier, Amsterdam, P. 815. 〔3〕H. Muraki, K. Yokota and Y. Fujitani, Appl. Catal., 48 (1986) 93. 118 NO x conversion [a.u.] NO oxidation catalyst +NSR catalyst +NO x SCR catalyst NO oxidation catalyst +NSR catalyst NSR catalyst Temperature [a.u.] Fig. 7-1 Image of NOx reduction activities along with the catalyst combination. “NSR” and “SCR” are abbreviated form of “NOx storage and reduction” or “ Selective catalytic reduction”, respectively. 100 NO x conversion [%] Pd+Ba/Pt/Rh+Cu/Z 90 80 Pd+Ba/Pt/Rh 70 60 50 450 500 550 Temperature [K] Fig. 7-2 The effect of Cu/zeolite catalyst addition in the down stream of the Pd+NSR catalyst on NOx removal under oxidative condition. “Pd”, “Ba/Pt/Rh” and “Cu/Z” mean “Pd/γ-Al2O3”, “Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3” or “Cu/ZSM-5”, respectively. 119 Concentration [ppm] 300 R O Inlet NOx HC 200 ~ ~ NO x NH3 100 0 0 1 2 3 4 5 6 Time [min] Fig. 7-3-(a) Reaction behavior on Pd+Ba/Pt/Rh catalyst in the alternating reductive and oxidative conditions at 583 K. “Pd”, “Ba/Pt/Rh”, “R” and “O” mean “Pd/γ-Al2O3”, “Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3”, “Reductive condition” or “Oxidative condition”, respectively. Concentration [ppm] 300 R O Inlet NOx 200 ~ ~ NO x 100 HC 0 0 1 NH3 2 3 4 5 6 Time [min] Fig. 7-3-(b) Reaction behavior on Pd+Ba/Pt/Rh+Cu/Z catalyst in the alternating reductive and oxidative conditions at 583 K. “Pd”, “Ba/Pt/Rh”, “Cu/Z”, “R” and “O” mean “Pd/γ-Al2O3”, “Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3”, “Cu/ZSM5”, “Reductive condition” or “Oxidative condition”, respectively. 120 NH3 yield [%] NO x, HC conversion [%] 100 NO x 80 HC 60 NH3 40 20 0 400 500 600 700 Temperature [K] Fig. 7-4-(a) Catalytic activity of Pd catalyst under the reductive condition. “Pd” means “Pd/γ-Al2O3”. NH3 yield [%] NO x, HC conversion [%] 100 NO x 80 HC 60 40 NH3 20 0 400 500 600 700 Temperature [K] Fig. 7-4-(b) Catalytic activity on Ba/Pt/Rh catalyst under the reductive condition. “Ba/Pt/Rh” means “Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3”. 121 NH3 yield [%] NO x, HC conversion [%] 100 NO x 80 HC 60 NH3 40 20 0 400 500 600 700 Temperature [K] Fig. 7-4-(c) Catalytic activity on Pd+Pd catalyst under the reductive condition. “Pd” means “Pd/γ-Al2O3”, and the volume of “Pd+Pd” is double compared to it of “Pd”. NH3 yield [%] NO x, HC conversion [%] 100 NO x 80 HC 60 NH3 40 20 0 400 500 600 700 Temperature [K] Fig. 7-4-(d) Catalytic activity on Pd+Ba/Pt/Rh catalyst under the reductive condition. “Pd” and “Ba/Pt/Rh” mean “Pd/γ-Al2O3” or “Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3”, respectively. 122 100 NH3 yield [%] 80 Pd+Pd Pd 60 Pd+Ba/Pt/Rh 40 Ba/Pt/Rh 20 0 400 500 600 700 Temperature [K] NH3 concentration [ppm] Fig. 7-5 NH3 formation activity on Pd, Ba/Pt/Rh, Pd+Pd or Pd+Ba/Pt/Rh catalysts under the reductive condition. “Pd” and “Ba/Pt/Rh” mean “Pd/γ-Al2O3” or “Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3”, respectively. R 250 O 200 Pd+Ba/Pt/Rh 150 Pd+Pd 100 50 0 0 1 2 3 4 5 6 Time [min] Fig. 7-6 NH3 formation behavior on Pd+Pd or Pd+Ba/Pt/Rh catalysts in the alternating reductive and oxidative conditions at 623 K. “Pd”, “Ba/Pt/Rh” “R” and “O” mean “Pd/γ-Al2O3”, “Ba/Pt/Rh/γ-Al2O3”, “Reductive condition” or “Oxidative condition”, respectively. 123 NO x conversion [%] 60 573 K 623 K 40 573 K 20 623 K 0 NH3 C3H6 Reducing agents Fig. 7-7 NOx conversion on Cu/ZSM-5 catalyst in the alternating reductive and oxidative conditions using NH3 or C3H6 as a reducing agent. NH3 concentration [ppm] 300 200 100 0 300 400 500 600 700 800 Temperature [K] Fig. 7-8 NH3 desorption pattern on Cu/ZSM-5 catalyst by TPD measurement. 124 C3H6 concentration [ppm] 100 80 60 423 K ads. 40 20 0 300 383 K ads. 400 500 600 700 800 Temperature [K] Fig. 7-9 C3H6 desorption pattern on Cu/ZSM-5 catalyst by TPD measurement. “383 K ads.” and “423 K ads.” mean C3H6 was adsorbed on the Cu/ZSM-5 catalyst at these temperatures. Concentration [ppm] 300 Inlet NOx 200 NO x 100 NH3 0 300 400 500 600 700 800 Temperature [K] Fig. 7-10 NOx reduction on Cu/ZSM-5 catalyst with pre-adsorbed NH3 under the oxidative atmosphere. 125 Concentration [ppm] 300 Inlet NOx 200 NO x 100 C3H6 0 300 400 500 600 700 800 Temperature [K] Fig. 7-11 NOx reduction on Cu/ZSM-5 catalyst with pre-adsorbed C3H6 under the oxidative atmosphere. Oxidative condition The first time Catalysts Pd Ba/Pt/Rh Chemical reactions 1 NO + O2 → NO2 2 NO2 → NO x(ad.) Cu/Z The second time or later Catalysts Reductive condition The first stage Catalysts Chemical reactions Pd NOx + Red. → N2 + H2O + CO2 Ba/Pt/Rh NOx(ad.) + Red. → N2 + H2O +CO2 Cu/Z Ba/Pt/Rh Chemical reactions 1 NO + O2 → NO2 2 NO2 → NO x(ad.) Catalysts Cu/Z NOx + NH3(ad.) → N2 + H2 O Pd NOx + Red. → NH3 + H2 O + CO2 Ba/Pt/Rh NOx(ad.) + Red. → NH3 + H2 O + CO2 Cu/Z NH3 → NH3(ad.) Pd The second stage Chemical reactions “Pd”, “Ba/Pt/Rh”, “Cu/Z”, “NOx(ad.)”, “Red,” and “NH3(ad.)” mean “Pd/γ-Al2O3”, “Ba/Pt/Rh/γAl2O3”, “Cu/ZSM-5”, “Adsorbed NOx species”, “Reducing agents (H2, CO or HC)” or “adsorbed NH3 species”, respectively. Fig. 7-12 Chemical reactions on each catalyst involving N-compound under long term alternating oxidative and reductive conditions. 126 第8章 MgAl2O4 スピネル担体による高温 NOx 吸蔵特性の改善 8.1.緒言 第2章および第3章では 673 K 前後の NOx 吸蔵還元反応機構の解析、なら びにこの温度域での耐久性改善を目的とした研究結果を述べた。また、燃費向 上による排気温度の低温化を背景として、第4章から第7章では 523 K 前後の 低温での NOx 吸蔵還元反応の解析、ならびにこの温度域での触媒活性の改善を 目的とした研究結果を記した。一方で、近い将来、リーンバーン直噴ガソリン エンジンを搭載した乗用車が 100 km/h 以上の速度で高速道路を走行することが 可能になれば、NOx 吸蔵還元型触媒は 873 K 前後でも NOx 吸蔵還元反応を行う ことが必要になると言われている。第6章で記したように、673 K 以上では、酸 化雰囲気での NOx 吸蔵量と、その後の RS における NOx 還元量とが同じ値であ った。したがって、673 K 以上の NOx 吸蔵還元性能を改善するためには NOx 吸 蔵量の向上が必要となる。すなわち、酸化雰囲気で高い NOx 吸蔵量を実現でき る新たな NOx 吸蔵還元型触媒の改良手法が必要となる。 今までの研究で、より塩基性の強い元素を添加すると吸蔵 NOx の安定性を 向上できることが明らかとなっている〔1, 2〕。したがって、高温の NOx 吸蔵量 を向上する手法として、カリウム系 NOx 吸蔵材の塩基性をさらに強化すること が挙げられる。担持金属触媒において、担体酸化物または添加材との相互作用 によって、担持金属の電子状態が変化することは良く知られている〔3-5〕。こ のことから、γ-Al2O3 よりも塩基性の強い担体にカリウム系 NOx 吸蔵材を担持す れば、NOx 吸蔵材の塩基性が強化されると期待される。γ-Al2O3 よりも塩基性の 強い担体の具体例としてアルカリ土類と Al2O3 との複合酸化物が挙げられる。こ の章ではアルカリ土類金属としてマグネシウム(Magnesium: Mg)を選択し、 マグネシア(Magnesia: MgO)と Al2O3 との複合酸化物を担体とし、カリウム系 NOx 吸蔵材を担持した NOx 吸蔵還元型触媒の高温 NOx 吸蔵性能を検討した。 ハイドロタルサイト(Hydrotalcite: Mg6Al2(CO3)(OH)16・4H2O)を出発原料 127 として合成したマグネシアスピネル(Magnesia spinel: MgAl2O4)に NOx 吸蔵材 は担持しないで、貴金属のみを担持した触媒での NOx 吸蔵に関する研究結果は 既に報告例がある〔6-8〕。これらの研究の目的は、573 K 未満での NOx 吸蔵特 性を改善することであり、MgAl2O4 が貴金属の担体および NOx 吸蔵サイトの2 つの機能を有する。これらの研究例とは異なり、本研究の目的は 673 K 以上の 高温での NOx 吸蔵特性の改善である。すなわち、担体として MgO と Al2O3 との 複合酸化物を用いることによってカリウム系 NOx 吸蔵材の塩基性を強化して、 高温での NOx 吸蔵量を増加させることを目的とした。 8.2.実験方法 8.2.1.Mg-Al 複合酸化物の合成および状態解析 MgO と Al2O3 との複合酸化物はゾル-ゲル法(Sol-gel method)で合成し た〔9〕。所定量の酢酸マグネシウム4水和物((CH3COO)2Mg·4H2O、和光純薬 工業)およびアルミニウムイソプロポキシド(Al[OCH(CH3)2]3、和光純薬工業) を 2-プロパノール((CH3)2CHOH、和光純薬工業)に溶解した。得られた溶液 を 353 K で 2 時間還流した。この溶液に、イオン交換水を添加し、2 時間還流 を続けることで、加水分解反応を起こしゲルを得た。このゲルをロータリエバ ポレータ(Rotary evaporator)中で、ウォータバス(Water bath)により 323 K で加熱することにより加熱減圧乾燥した。乾燥した粉末は室温で 1 日放置した 後、大気中で 1123 K まで 300 K/h の昇温速度で加熱し、この温度で 5 時間の焼 成を行った。マグネシウムのアルミニウムに対するモル比は 0.5 とした。 得られた粉末の比表面積は、全自動比表面積測定装置(Microsorp 4232Ⅱ、 Microdata)によって、 BET 一点法で測定した。粉末の結晶構造は X 線回折装 置(RINT-2100、リガク)により、Cu Kαを X 線源とする粉末 XRD 法により解 析した。MgO と Al2O3 との複合酸化物および γ-Al2O3(150 m2/g)の塩基性は、常 圧固定床流通反応装置(CATA5000-4、ベスト測器)を用いて CO2-TPD 法によ り解析した。粒子径 が 300 から 700 μm の担体 1 g を内径 10 mm の石英反応 128 管に充填し、N2 流通下において 873 K で 30 分の in-situ 前処理を実施した。そ の後、373 K にて担体に CO2 を飽和吸着させ、再び入りガスを N2 に切り替え、 出ガスに CO2 が検出されなくなるまで保持した。次に、担体を 873 K まで 20 K/min の速度で加熱した。担体出ガスの CO2 濃度を ND-IR によって連続的に定 量することで CO2-TPD パターンを得た。 8.2.2.触媒調製および状態解析 合成した MgO と Al2O3 との複合酸化物、または γ-Al2O3 担体を、直径 30 mm、 長さ 50 mm の六角セルモノリス基材(62 cells/cm2)に 7 g ウォッシュコートした 〔2〕。コートした試料を Pt(NH3)2(NO2)2 硝酸溶液(田中貴金属工業)に1時間 浸漬した。セル内の溶液をエアーブローで除去し、393 K で一夜乾燥した後、空 気中にて 523 K で1時間の焼成を行った。次にこの試料を CH3COOK(和光純 薬工業)に 10 分間含浸し、セル内の溶液をエアーブローで除去し、393 K で一 夜乾燥した後、空気中にて 773 K で3時間の焼成を行った。触媒1個当たり、 Pt 担持量は 0.07、0.18 または 0.35 g とし、カリウム化合物の担持量は K2O 換 算で 1.0、2.0 または 3.3 g とした。初期および熱耐久試験後に、これらの触媒 の NO 酸化活性、NOx-TPD および NOx 吸蔵量を、以下の方法で測定した。 NOx 吸蔵反応における Pt の触媒活性の指標である NO 酸化活性は、873 K で測定した。N2 をバランスガスとする 7% O2、400 ppm NO、11% CO2 および 5% H2O からなる酸化雰囲気の混合ガスを活性試験に使用した。ガス流速は 30,000 cm3/min とし、空間速度に換算すると 51,500 h-1 である。触媒出ガスの NOx 濃度が一定値になった時点で、自動車排気ガス分析計(MEXA-7100、堀場 製作所)に搭載された化学発光式 NOx 計により NOx および NO 濃度を測定した。 NO および NO2 の濃度の合計が NOx 濃度であり、NO2 濃度は NOx 濃度と NO 濃 度との差分から求めた〔10〕。 触媒に吸蔵された NOx の安定性は、NOx-TPD 法により解析した。最初に N2 をバランスガスとする 7% O2、400 ppm NO、11% CO2 および 5% H2O から なる酸化雰囲気の混合ガスを 573 K で触媒に流通させ、出ガスの NOx 濃度が一 129 定となるまで保持した。次に、先ほどと同じ組成の酸化雰囲気混合ガス流通下 で、573 から 973 K まで 10 K/min の昇温速度で加熱し、NOx を脱離させた。触 媒の入りガスには 400 ppm の NO が含まれていることから、NOx 濃度が 400 ppm 以上の場合には触媒から NOx が脱離していると言える。 8.2.3.NOx 吸蔵量測定および熱耐久試験 常圧固定床流通反応装置(CATA5000-4、ベスト測器)により 873 K での NOx 吸蔵量を測定した〔10〕。N2 をバランスガスとする 0.28% CO、0.16% H2、 0.09% C3H6、0.62% O2、14.25% CO2 および 5% H2O からなる等量点の混合 モデルガスにより、初期の触媒に 773 K で 15 分間の前処理を実施した。この in-situ 前処理を行った後、触媒を上記等量点のモデルガス流通下で 873 K まで 加熱し、その後 N2 をバランスガスとする 7% O2、400 ppm NO、11% CO2 およ び 5% H2O からなる酸化雰囲気のガスに切り替え、出ガスの NOx 濃度が一定値 になるまで保持した。ガス流速は NO 酸化活性試験と同じとした。 触媒の熱耐久は、酸化雰囲気と還元雰囲気を周期的に繰り返す雰囲気変動 モデルガスを用いて行った。混合ガスには硫黄化合物は含んでいない。触媒を 室温から 1023 K まで 45 分間で加熱し、この温度で 5 時間保持した。N2 をバラ ンスガスとする 6% O2、530 ppm NO、0.2% C3H6、10% CO2 および 3% H2O か らなる酸化雰囲気ガスを4分間、N2 をバランスガスとする 6% CO、530 ppm NO、 0.2% C3H6、10% CO2 および 3% H2O からなる還元雰囲気ガスを1分間、熱耐 久の終了まで交互に触媒に供給した。熱耐久した触媒の NOx 吸蔵量は、in-situ 前処理を実施しないで、初期の触媒と同じ手順で測定した。 8.3.結果および考察 8.3.1.高温 NOx 吸蔵への担体の効果、および NOx 吸蔵サイト 図 8-1 に合成した MgO と Al2O3 との複合酸化物の XRD パターンを示す。 全ての回折ピークは MgAl2O4 に帰属され、格子定数 0.8083 nm も MgAl2O4 のデ ータベース値と一致していた。したがって、合成した MgO と Al2O3 との複合酸 130 化物は欠陥や、遊離の MgO および Al2O3 を含まない MgAl2O4 といえる。以降、 合成した MgO と Al2O3 との複合酸化物を MgAl2O4 と表記する。 図 8-2 に初期の K/Pt/MgAl2O4 触媒および K/Pt/Al2O3 触媒の、入りガスなら びに出ガス NOx 濃度の時間変化を示す。いずれの触媒も Pt 担持量は 0.07 g、 カリウム化合物の担持量は K2O 換算で 1.0 g である。時間ゼロで触媒入りガス を酸化雰囲気に切り替えると、いずれの触媒においても出ガス NOx 濃度が徐々 に増加した。触媒上への NOx 吸蔵により、入りガスと出ガスの NOx 濃度差が生 じている。出ガスの NOx 濃度が入りガスの NOx 濃度とほぼ同じになった時点で、 触媒上の NOx 吸蔵サイトが NO3-で飽和したと考えられる。NOx 吸蔵サイトが飽 和するまでの時間は、K/Pt/Al2O3 触媒では 300 秒程度であったが、K/Pt/MgAl2O4 触媒では約 600 秒であった。この結果は、K/Pt/MgAl2O4 触媒の NOx 吸蔵量が K/Pt/Al2O3 触媒のそれと比べて多いことを示している。以降、NOx 吸蔵量は Pt および K2O 担持量がそれぞれ 0.07 g ならびに 1.0 g である初期の K/Pt/Al2O3 触 媒の NOx 吸蔵量に対する比率で表す。 図 8-3 および図 8-4 に、Pt 担持量の異なる初期の K/Pt/MgAl2O4 触媒および K/Pt/Al2O3 触媒の NOx 吸蔵量を K2O 担持量に対して示す。いずれの触媒でも、 NOx 吸蔵量は K2O 担持量に対して増加したが、Pt 担持量による違いは見られな い。同じ K2O 担持量で比較した場合、K/Pt/MgAl2O4 触媒の NOx 吸蔵量は、 K/Pt/Al2O3 触媒のそれに比べて多いが、K2O 担持量が増加すると両者の差分は小 さくなった。 初期の触媒でも、873 K ではバリウム系 NOx 吸蔵材への NOx 吸蔵量は無視 しうるほど小さな値である〔10〕。バリウムおよびマグネシウムの Pauling の電 気陰性度は、それぞれ 0.9 ならびに 1.2 であるから、マグネシウムの塩基性はバ リウムよりも弱い。また、これまでの研究において、バリウム系 NOx 吸蔵材は 担体上に炭酸塩または硝酸塩として担持されていることが分かっているが、本 研究における全てのマグネシウムは、先に示したようにアルミニウムと複合酸 化物を形成している。また、図 8-3 および図 8-4 において、K2O 担持量の減少 131 に対して NOx 吸蔵量が低下し、K2O 担持量をゼロに外挿すると NOx 吸蔵量はほ ぼゼロとなる。以上の結果から、本研究の NOx 吸蔵還元型触媒の 873 K におけ る NOx 吸蔵サイトはカリウム化合物であると結論することができる。 8.3.2.吸蔵 NOx 安定性に対する MgAl2O4 担体の効果 図 8-5 に MgAl2O4 担体および γ-Al2O3 担体の塩基性の指標である CO2 脱離 温度特性を示す。γ-Al2O3 担体の CO2 脱離ピーク温度は約 443 K であるのに対し て、MgAl2O4 担体のそれは約 453 K であった。また、MgAl2O4 担体の CO2 脱離 濃度は、γ-Al2O3 担体のそれに比べて全温度範囲で高かった。MgAl2O4 担体の比 表面積は 110 m2/g、γ-Al2O3 担体の比表面積は 150 m2/g と、前者は後者の 2/3 程度の比表面積であるにもかかわらず、MgAl2O4 担体からの全 CO2 脱離量は γ-Al2O3 担体のそれに比べて約 2.5 倍多かった。これらの結果から、MgAl2O4 担 体は γ-Al2O3 担体よりも塩基性が強く、塩基点の量も多いことが分かる。 図 8-6 に、初期の触媒の NOx 脱離温度特性を示す。K/Pt/Al2O3 触媒の NOx 脱離開始ならびにピーク温度に比べて K/Pt/MgAl2O4 触媒のそれらは高温側に存 在した。また、K/Pt/MgAl2O4 触媒の NOx 脱離量は約 2000 μmol であり、K/Pt/Al2O3 触媒の 1060 μmol に比べて約2倍多かった。これらの結果から、MgAl2O4 担体 に担持されたカリウム系 NOx 吸蔵材の吸蔵 NOx 保持力は、Al2O3 担体に担持さ れた場合に比べて向上していることが明らかである。このことによって、図 8-3 および図 8-4 に示したように、同じ K2O 担持量で比較した場合に K/Pt/MgAl2O4 触媒は K/Pt/Al2O3 触媒よりも高い NOx 吸蔵量を示したと考えられる。これらの 結果は、担体材料に塩基性物質を添加することで吸蔵 NOx の安定性を改善し、 高温での NOx 吸蔵量を向上させるという本研究の予測が正しいことを示唆して いる。 8.3.3.高温 NOx 吸蔵に対する Pt 担持量の影響解析 NOx 吸蔵還元型触媒における Pt の役割の一つは、NOx 吸蔵過程における NO の NO2 への酸化である〔1, 10, 11〕。これにもかかわらず、873 K において、初 期の触媒の NOx 吸蔵量が、何故 Pt 担持量の影響を受けないのかを明らかにする 132 ため、K2O 担持量が 2.0 g で、Pt 担持量が 0.07、0.18 または 0.35 g である3種 類の K/Pt/MgAl2O4 触媒の NO 酸化活性を調べた。873 K におけるこれらの触媒 の出ガス NO2 濃度は、それぞれ 34、33 および 33 ppm であった。7%の O2 と 400 ppm の NO が共存する雰囲気での、873 K における NO2 濃度の熱力学平衡 値は 34 ppm である。全ての触媒で NO2 濃度が熱力学平衡値に達していること が明らかとなった。第4章で示したように、Ba/Pt/Al2O3 触媒の出ガス NO2 濃度 は 673 K 以上で熱力学平衡値に達していた〔10〕。この章で使用している触媒は、 カリウム化合物を NOx 吸蔵材に、MgAl2O4 を担体に使用している。したがって、 これらの触媒は第4章の Ba/Pt/Al2O3 触媒に比べて塩基性が強い。触媒の塩基性 が、低温における Pt の NO 酸化活性を低下させることが報告されている〔12〕。 しかし 873 K では、Pt は NO 酸化触媒として十分活性化されていると考えられ る。このため、初期の触媒の NO 酸化活性は Pt 担持量に依存しなかったのであ ろう。また、Pt 担持量に対して NO2 分圧が一定であるために、図 8-3 に示した ように NOx 吸蔵量も Pt 担持量に対して同一であったと考えられる。K/Pt/Al2O3 触媒の塩基性は K/Pt/MgAl2O4 触媒よりも弱いので、NO2 濃度は Pt 担持量によら ず熱力学平衡値に達していると考えられる。このため K/Pt/MgAl2O4 触媒と同様 に図 8-4 に示した K/Pt/Al2O3 触媒の NOx 吸蔵量は Pt 担持量の影響を受けなかっ たのであろう。 8.3.4.耐熱試験後の NOx 吸蔵量に対する MgAl2O4 担体の効果 図 8-7 に、耐熱試験後の Pt 担持量 0.35 g の K/Pt/MgAl2O4 触媒および K/Pt/Al2O3 触媒の NOx 吸蔵量を示す。初期の場合と同様に、いずれの K2O 担持 量においても、K/Pt/Al2O3 触媒に比べて K/Pt/MgAl2O4 触媒の NOx 吸蔵量は高か った。また、初期の場合は K2O 担持量が多くなると NOx 吸蔵量の触媒間の差は 小さくなったが、耐熱試験後では K2O 担持量が多くなると両者の差は大きくな った。 K/Pt/MgAl2O4 触媒と K/Pt/Al2O3 触媒の耐熱性を比較するために、図 8-8 に K2O 担持量に対する NOx 吸蔵量の残存率を示す。NOx 吸蔵量の残存率とは、初 133 期の NOx 吸蔵量に対する耐熱試験後の NOx 吸蔵量の割合である。K/Pt/MgAl2O4 触媒の NOx 吸蔵量の残存率は、常に K/Pt/Al2O3 触媒よりも高かった。さらに、 K/Pt/Al2O3 触媒の NOx 吸蔵量の残存率は K2O 担持量に対してほぼ一定であるの に対して、K/Pt/MgAl2O4 触媒では K2O 量が増加すると NOx 吸蔵量の残存率が増 加した。K2O 担持量 3.3 g の K/Pt/MgAl2O4 触媒の NOx 吸蔵残存率は 100%に近 いことから、この触媒の NOx 吸蔵性能は耐熱試験前後でほとんど劣化していな いことが分かる。 図 8-9 には、耐熱試験後の Pt 担持量 0.35 g、K2O 担持量 2.0 g の K/Pt/MgAl2O4 触媒および K/Pt/Al2O3 触媒の NOx 脱離温度特性を示す。初期の場合と同様に、 K/Pt/Al2O3 触媒の NOx 脱離開始ならびにピーク温度に比べて K/Pt/MgAl2O4 触媒 のそれらは高温側に存在し、前者の NOx 脱離量が 45 μmol であるのに対して後 者のそれは 630 μmol と、約 14 倍大きな値であった。初期に対する耐熱試験後 の NOx 脱離量の割合は、K/Pt/Al2O3 触媒では約 7%であったが、K/Pt/MgAl2O4 触媒では約 53%であった。これらの結果から、K/Pt/MgAl2O4 触媒の NOx 吸蔵の 耐熱性は K/Pt/Al2O3 触媒に比べて非常に高いことが分かる。 873 K において、2種類の触媒の耐熱試験後の出ガス NO2 濃度はいずれも 34 ppm であり、これらの触媒の Pt の NO 酸化活性に差は無いこと、耐熱試験 によってこの反応温度の NO 酸化活性は劣化しないことが分かる。したがって、 先に示した NOx 吸蔵量の差は、カリウム系 NOx 吸蔵材の状態の違いによって生 じていると考えられる。耐久試験中にカリウム化合物が担体と固相反応を起こ すと、NOx 吸蔵量が低下することが報告されている〔11〕。このことから、カリ ウム系 NOx 吸蔵材と MgAl2O4 担体との固相反応は、カリウム系 NOx 吸蔵材と γ-Al2O3 担体との固相反応とは異なることが予想される。これら2種類の担体は いずれもスピネル構造であるが、γ-Al2O3 担体では陽イオンサイトの約 11%が空 孔であるのに対して、MgAl2O4 担体では全ての陽イオンサイトが Mg2+または Al3+ によって占有されている。すなわち、MgAl2O4 担体には欠陥が存在しないこと から、γ-Al2O3 と比較してカリウム化合物との固相反応を生じにくいと考えられ 134 る。そこで、耐熱試験後の触媒において XRD 分析を実施したが、カリウム化合 物に帰属される回折線は観測されなかった。恐らく、カリウム化合物は非晶質 状態で存在しており、XRD では観測できないものと考えられる。カリウム系 NOx 吸蔵材の状態の違い、およびカリウム系 NOx 吸蔵材と担体との固相反応に対す る MgAl2O4 担体の影響をより明確にするためには、更なる解析が必要であり、 今後の課題とする。 8.4.結言 この章では、塩基性の強い担体を用いることでカリウム系 NOx 吸蔵材の塩 基性を強化し、高温での NOx 吸蔵特性を改善するという新しい手法に関する研 究結果を述べた。その具体例として、MgAl2O4 担体を用いた実験結果を示した。 さらに、K2O 担持量 3.3 g の K/Pt/MgAl2O4 触媒は耐熱試験を実施しても NOx 吸 蔵量がほとんど低下しなかった。これらの結果から、この手法が高温での NOx 吸蔵量を改善する有望な方法であると考えられる。 135 参考文献 〔1〕N. Takahashi, H.Shinjoh, T. Iijima, T. Suzuki, K. Yamazaki, K. Yokota, H. Suzuki, N. Miyoshi, S. Matsumoto, T. Tanizawa, T. Tanaka, S. Tateishi, and K. Kasahara, Catal. Today, 27 (1996) 63. 〔2〕I. Hachisuka, T. Yoshida, H. Ueno, N. Takahashi, A. Suda and M. Sugiura, SAE Tech. Paper 2002-01-0732 (2002). 〔3〕T. Mori, A. Miyamoto, N. Takahashi, H. Niizuma, T. Hattori, Y. Murakami, J. Cat., 102 (1986) 199. 〔4〕H. Yoshida, Y. Yazawa and T. Hattori, Catal. Today, 87 (2003) 19. 〔5〕Y. Mori, T. Mori, A. Miyamoto, N. Takahashi, T Hattori, Y. Murakami, J. Phys. Chem., 93 (1989) 2039. 〔6〕G. Fornasari, F. Trifiro, A. Vaccari, F. Prinetto, G. Ghiotti and G. Centi, Catal. Today, 75 (2002) 421. 〔7〕G. Centi, G. E. Arena and S. Perathoner, J. Catal., 216 (2003) 443. 〔8〕B. A. Silletti, R. T. Adams, S. M. Sigmon, A. Nikolopoulos, J. J. Spivey and H. H. Lamb, Catal. Today, 114 (2006) 64. 〔9〕登録特許 第 3624277 号. 〔10〕N. Takahashi, K. Yamazaki, H. Sobukawa and H. Shinjoh, J. Chem. Eng. Jap., 39 (2006) 437. 〔11〕M. Takeuchi and S. Matsumoto, Top. Cat., 28 (2004) 151. 〔12〕L. Olsson, H. Persson, E. Fridell, M. Skoglundh and B. Andersson, J. Phys. Chem. B, 105 (2001) 6895. 136 Intensity [a.u.] 20 30 40 50 60 70 2θ [deg.] Fig. 8-1 XRD pattern of the synthesized MgO-Al2O3 mixed oxide. NO x concentration [ppm] 500 400 300 200 100 0 0 100 200 300 400 500 600 700 Time [sec] Fig. 8-2 NOx concentration in the outlet and inlet gases. the outlet NO x concentration of the K/Pt/MgAl2O4 catalyst ( ). the outlet NO x concentration of the K/Pt/Al2O3 catalyst ( ). the inlet NO x concentration ( ). 137 Relative NOx storage amount [–] 5 4 3 2 1 0 0 1 2 3 4 K2O amount [g] Relative NOx storage amount [–] Fig. 8-3 NOx storage performance of the fresh K/Pt/MgAl2O4 catalyst at 873 K versus K2O amounts. Pt loading amount 0.07 g ( ○ ), 0.18 g ( ) and 0.35 g ( ). 5 4 3 2 1 0 0 1 2 3 4 K2O amount [g] Fig. 8-4 NOx storage performance of the fresh K/Pt/Al2O3 catalyst at 873 K versus K2O amounts. Pt loading amount 0.07 g ( ○ ), 0.18 g ( ) and 0.35 g ( ). 138 CO2 concentration [ppm] 250 200 150 100 50 0 400 500 600 700 800 Temperature [K] Fig. 8-5 CO2-TPD patterns of the MgAl2O4 and γ-Al2O3 supports. ), γ-Al2O3 ( ). MgAl2O4 ( NO x concentration [ppm] 1400 1200 1000 800 600 400 600 700 800 900 1000 Temperature [K] Fig. 8-6 NOx-TPD patterns of the fresh K/Pt/MgAl2O4 and K/Pt/Al2O3 catalysts. K/Pt/MgAl2O4 catalyst ( ), K/Pt/Al2O3 catalyst ( ). 139 Relative NOx storage amount [–] 4 3 2 1 0 0 1 2 3 4 K2O amount [g] Fig. 8-7 NOx storage performance of the thermally-aged K/Pt/MgAl2O4 and K/Pt/Al2O3 catalysts at 873 K versus K2O amount. K/Pt/MgAl2O4 catalyst ( ● ), K/Pt/Al2O3 catalyst ( ○ ). NO x storage residual ratio [%] 100 80 60 40 20 0 0 1 2 3 4 K2O amount [g] Fig. 8-8 NOx storage residual ratio of the K/Pt/MgAl2O4 and K/Pt/Al2O3 catalysts at 873 K versus K2O amount. K/Pt/MgAl2O4 catalyst ( ● ), K/Pt/Al2O3 catalyst ( ○ ). 140 NO x concentration [ppm] 1400 1200 1000 800 600 400 600 700 800 900 1000 Temperature [K] Fig. 8-9 NOx-TPD patterns of the fresh K/Pt/MgAl2O4 and K/Pt/Al2O3 catalysts. K/Pt/MgAl2O4 catalyst ( ), K/Pt/Al2O3 catalyst ( ). 141 142 第9章 触媒コート層内におけるガスの有効拡散係数の測定 9.1.緒言 自動車排気ガス浄化用触媒はエンジン出力に大きく影響する排気ガスの圧 力損失低減の観点から、現在ではコージェライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)また はステンレス箔からなるモノリス基材に担体をウォッシュコートした形状が主 流となっている。NOx 吸蔵還元型触媒も同様の形状で実用化され、貴金属なら びに NOx 吸蔵材はモノリス基材にウォッシュコートされた担体上に担持されて いる。したがって、酸化雰囲気では NO および O2 が、還元雰囲気では H2、CO ならびに HC などの還元剤が、コート層内を拡散し貴金属に到達する必要があ る。また、還元雰囲気で生成した N2 はコート層内を反応ガスとは逆方向に拡散 する必要がある。一般に、触媒反応は低温では反応律速、高温では拡散律速で あることは良く知られている。このため、高温活性の向上に関しては、第8章 で示した担体材料の塩基性強化以外に、コート層内でのガスの拡散性を考慮す る必要がある。NOx 吸蔵還元型触媒では、NOx 吸蔵材への NOx の吸蔵を利用し ていることから、コート層の深さ方向に分布している NOx 吸蔵材に効率よく NOx を到達させることは NOx 浄化活性向上に大きな改善をもたらすものと期待 される。Matumoto らは六角セルモノリス基材を NOx 吸蔵還元型触媒に使用す ることで、耐久試験後の NOx 吸蔵量が改善されたと報告している〔1-3〕。これ は四角セル基材ではコーナー部分のコート層の厚さが平行部分の3倍程度に達 しコーナー部分の基材近傍の NOx 吸蔵材が有効に利用されないのに対して、六 角セル基材ではコート層の厚さが均一になり、コート層の深さ方向の NOx 吸蔵 材の利用効率が向上するためと考えられている。 近年、モノリス触媒のコート層内でのガス拡散の研究例が報告されている 〔4〕。この研究例では、Beeckman によって報告されている方法〔5〕を用いて、 コージェライト基材のみと、これに γ-Al2O3 をウォッシュコートした試料を用い て、N2 中の CH4 の有効拡散係数を求めた。γ-Al2O3 コート層内での CH4 の有効 143 拡散係数は、2種類の試料の拡散係数から算出している。 第9章の目的は、自動車用触媒のコート層内でのガスの有効拡散係数を実験 的に直接測定する手法を確立することである。さらに有効拡散係数から算出し たガスの拡散に有効な細孔の平均径 r と水銀圧入法で求めたコート層の細孔分 布とを比較することで、コート層内でのガスの拡散状態を考察した。将来、こ の手法を発展・応用することで、NOx 吸蔵還元型触媒の高温性能のさらなる改 善が可能になるものと期待される。 9.2.解析理論 物質移動速度が極端に大きくない場合には、 “拡散束は濃度勾配に比例する” という Fick の法則が成り立ち、拡散方程式として(9-1)式が導かれる。 Nα=-Deff dCα (9-1) dz (9-1)式で、Nα〔mol/s٠m2〕は成分αの移動速度、Deff〔m2/s〕は有効拡 散係数、Cα〔mol/m3〕は成分αのモル濃度、z〔m〕は拡散方向の距離である。 拡散方向の距離は、ここではコート層の厚さとなる。図 9-1 には実験に使用し た測定セルのモデルを示した。測定セルはコート層で仕切られた2つの区画か らなり、例えば CO2 およびアルゴン(Argon: Ar)がそれぞれの区画に供給され ている。ここで以下の3つの前提条件を設定する。a)実験系は定常状態にある。 b)それぞれの区画には濃度分布が無い。c)区画内の濃度は出ガスの濃度と同 じである。これらの仮定をした場合に、成分αの物質移動速度 Nα〔mol/s٠m2〕 は(9-2)式で記述できる。 Nα=C2 v (9-2) A (9-2)式で、C2〔mol/m3〕は成分αの区画2におけるモル濃度、v〔m3/s〕 144 は区画2からの出ガス流速、A〔m2〕はコート層の断面積である。また、コート 層内における濃度勾配〔mol/m4〕は(9-3)式で記述することができる。 - C1-C2 dCα = dz z (9-3) (9-3)式で、C1〔mol/m3〕および C2〔mol/m3〕は区画1ならびに2におけ る成分αのモル濃度、z〔m〕はコート層の厚さである。触媒コート層の断面積 A およびコート層の厚さ z が既知であり、区画1および2での成分αの濃度であ る C1 および C2、ならびに区画2からの出ガス流速 v を実験的に求めることがで きれば、有効拡散係数 Deff は(9-1)、(9-2)および(9-3)式から算出すること が可能となる。 9.3.実験方法 9.3.1.コート試料 実験に使用した自動車排気ガス浄化触媒のウォッシュコート層を模擬した コート試料の主成分は ZrO2 である。コート試料の構造材には、線径 0.45 mm の ステンレス金属金網を使用した。金属金網およびコート層試料の外観を図 9-2 に示す。図 9-2 の左側がステンレス金属金網、右側がコート試料である。コー ト層の厚さ z は 9.45×10-4 m、金網の部分を除いたコート層の面積 A は 4.95× 10-4 m2 であった。 9.3.2.測定セル 拡散係数の測定実験に使用した測定セルの概要を図 9-3 に示す。測定セルは パイレックスガラス製の釣鐘状の管(長さ 260 mm、細い側の外径 10 mm、太 い側の外径 40 mm)にさらに枝管を設置した形状の区画を太い側で2つ重ね合 わせたものであり、重ね合わせた部分にコート試料をゴム製 O-リングでシール して設置した。このことによって、異なるガス(図 9-3 では例として CO2 と Ar) を連続的にそれぞれの区画に供給することが可能である。 145 9.3.3.装置全体の構成および実験条件 図 9-4 に拡散実験に使用した装置の概略を示す。今回実施した2元系拡散実 験では、入り口1から N2、CO2、またはプロパン(Propane: C3H8)を、入り口 2から Ar を連続的に供給した。それぞれのガス流速はバルブ 3 および 4 により 制御した。いずれの区画もガスの流通を開始すると空気が徐々に供給したガス で置換されていくが、同時にそれぞれの入り口から供給したガスの一部はコー ト試料内を拡散し、他方の区画に移動する。もし2つの区画にわずかな差圧が 生じると、高圧側の区画から低圧側の区画に向けて両者の差圧を駆動力とする ガスの移動が生じてしまう。そのような差圧を駆動力とするガスの移動が起こ ると、見かけの有効拡散係数が変化することから、2つの区画の差圧をゼロと することが重要である。差圧を無くすために、マノメータ 6(シリコーンオイル 0.96 g/cm3)を使用して2つの区画の差圧を測定し、バルブ 10 および 11 によっ て差圧がゼロになるように調整した。定常状態に達した時点で、それぞれの区 画の出ガスをガス採取バルブ 8 および 9 によって採取し、熱伝導度検出器 (Thermal conductivity detector: TCD)を搭載したガスクロマトグラフ(GC-8A、 島津製作所)によって濃度を測定した。ガスクロマトグラフのキャリアガスに は He を使用し、長さ 3.0 m の Porapack Q で N2 と Ar とを、長さ 1.5 m の MS 5A で CO2,C3H8 と Ar とを分離した。出ガス流速は石鹸膜流量計 12 および 13 により測定した。実験温度は室温(293K)、実験圧力は常圧(0.1MPa)とした。 9.4.結果および考察 図 9-5 に実験から得られた有効拡散係数を示す。3個のコート試料の有効拡 散係数は、同一の測定ガス種に対してほぼ同じ値となった。図 9-5 の結果から、 Ar 中の N2 の有効拡散係数の平均値は 1.04×10-5 m2/s であり、CO2 の 6.01×10-6 m2/s ならびに C3H8 の 5.37×10-6 m2/s よりも大きい値であった。N2 分子の N-N 原子間距離は 0.11 nm であり、CO2 の分子の C-O 原子間距離は 0.12 nm、C3H8 の C-C 原子間距離は 0.15 nm、C-H 原子間距離は 0.11 nm である。したがって、 146 N2 分子は CO2 および C3H8 に比べて分子径が小さいことから、分子拡散係数が 大きくなり、その結果として有効拡散係数が CO2 および C3H8 よりも大きくなっ たと考えられる。 得られた有効拡散係数から、コート試料中での測定ガスの拡散状態を考察し た。まず、今回の実験で測定したコート試料内でのガスの拡散が分子拡散のみ で生じていると仮定する。文献値〔6, 7〕によれば、Ar 中の N2 または CO2 の分 子拡散係数 D は、それぞれ 2.0×10-5 および 1.4×10-5 m2/s である。2成分ガス 系の分子拡散係数の算出には、 (9-4)式で表される Chapman-Enskog の式が提 案されている。 DAB=1.883×10-2 1 1 T3/2( m + m ) A B pσAB2ΩD (9-4) (9-4)式で、DAB は2成分系における分子拡散係数〔m2/s〕、T は絶対温度 〔K〕、mA および mB は分子 A ならびに B の分子量〔g〕、p は圧力〔Pa〕、σAB は分子間距離〔10-10m〕、ΩD は Collision integral である。このうち、σAB は(9-5) 式で求められる。 σAB= σA + σB (9-5) 2 σA および σB はそれぞれ各分子の原子間力定数である。Ar 中の N2 および CO2 の分子拡散係数 DAr,N2 ならびに DAr,CO2 を(9-4)および(9-5)式で算出したところ、 それぞれ 1.9×10-5 ならびに 1.4×10-5 m2/s であり、先に示した文献値とよく一 致した。このことから、(9-4)ならびに(9-5)式を用いて Ar 中の C3H8 の分子拡散 係数 DAr,C3H8 を算出したところ、1.0×10-5 m2/s であった。分子拡散のみで測定 ガスの拡散が生じていると仮定すると、有効分子拡散係数 Deff,b〔m2/s〕は(9-6) 式で表される。 147 Deff,b=ψD (9-6) (9-6)式で、ψ は(9-7)式で表される担体材料の幾何学的因子、D は分子拡散 係数〔m2/s〕である。 ψ= ε τ (9-7) (9-7)式で、ε〔-〕は空隙率、τ〔-〕は屈曲率である。したがって、ψ は担体材料に固有の値であるから、測定ガスの種類には依存しないはずである。 しかしながら、実験的に得られた有効分子拡散係数 Deff,b〔m2/s〕および算出し た分子拡散係数 D〔m2/s〕から(9-6)式によって算出した ψ は、図 9-6 に示す ように測定ガス種によって異なり、平均値に対して±20%程度の変化幅を示し た。したがって、 “分子拡散のみで測定ガスの拡散が生じている”という仮定が 誤りであることが示唆される。 次に、コート試料内のガスの拡散が Knudsen 拡散のみで生じていると仮定 する。この場合、有効 Knudsen 拡散拡散係数 Deff,k 〔m2/s〕は(9-8)式で表さ れる。 Deff,k=rψK (9-8) ここで、r〔m〕は細孔半径、K〔m/s〕は Knudsen 係数であり(9-9)式で表さ れる。 K= 2 3 v (9-9) (9-9)式の v〔m/s〕は分子平均速度であり、(9-10)式で表される。 148 v= 8RT πMA (9-10) R〔J/K・mol〕は気体定数、MA は〔kg/mol〕成分 A の分子量である。実験 的に得られた有効 Knudsen 拡散係数 Deff,K〔m2/s〕および、 (9-9)ならびに(9-10) 式から算出した Knudsen 係数 K〔m/s〕を用い、 (9-8)式によって rψ を算出し た。その結果を図 9-7 に示す。rψ も測定ガス種によって異なる値を示し、平均 値に対して±25%程度の幅を示した。したがって、 “Knudsen 拡散のみで測定ガ スの拡散が生じている”という仮定も誤りであることが示唆される。 ここまでの結果から、今回の実験結果ではコート層内での測定ガスの拡散は、 分子拡散と Knudsen 拡散の両者が混在した、いわゆる遷移領域の拡散によって 生じていると考えられる。このような場合、有効拡散係数 Deff〔m2/s〕は(9-11) 式で近似される。 1 1 1 = + Deff Deff,b Deff,k (9-11) (9-11)式の Deff,b に(9-6)式、Deff,k に(9-8)式を代入し、両辺に Knudsen 係数 K〔m/s〕を乗ずることで、(9-12)式が得られる。 K K 1 = + Deff ψD rψ (9-12) 3個のコート試料に対する N2、CO2 および C3H8 の Ar 側への拡散、および Ar の N2、CO2 ならびに C3H8 側への拡散の測定結果から、K/D に対して K/Deff をプロットしたのが図 9-8 である。 K/D に対して K/Deff は良い直線関係を示した。 このことから、 (9-11)式および(9-12)式が今回の実験結果に適用できること、 コート層試料内のガスの拡散は分子拡散と Knudsen 拡散の両者が混在した遷移 149 状態の拡散で生じていることが支持される。さらに、直線の傾きが 1/ψ、y 軸 の切片が 1/rψ〔m-1〕であるから、これらよりガスが拡散できる細孔の平均径 r〔m〕を見積もることが可能である。今回の実験結果では、このガスが拡散で きる細孔の平均径 r は 0.49 μm であった。図 9-9 に水銀圧入式細孔分布測定装置 で測定したコート層の細孔分布と、先ほどのガスが拡散できる細孔の平均径を 示した。実験に使用したコート層の細孔分布は2つのピークを持ち、約 1.5 μm にピークを示す細孔は担体の二次粒子同士の、約 0.01 μm にピークを示す細孔 は担体の一次粒子同士の凝集によって形成される空隙であると考えられる。そ して、前者は分子拡散を、後者は Knudsen 拡散を支配していると考えられる。 ガスの拡散実験から得られた平均細孔径は、コート層の細孔分布の範囲内に存 在した。このことからも、コート層の中のガスの拡散状態は分子拡散と Knudsen 拡散の遷移状態の拡散によって起きていることが支持される。ただし、ガスが 拡散できる細孔の平均径は、小さな細孔のピーク位置よりも大きな細孔のピー ク位置により近かったことから、Knudsen 拡散に比べて分子拡散の寄与がより 大きいと考えられる。 9.5.結言 触媒コート層内のガスの有効拡散係数を測定できる測定セル、および測定装 置システムを考案した。この測定セルならびに測定装置システムを使用し、コ ート試料内における、Ar 中での N2、CO2 または C3H8 の有効拡散係数を測定し た。その結果、常圧の室温における平均有効拡散係数は N2 では 0.11、CO2 では 0.060、C3H8 では 0.054 cm2/s であった。得られた有効拡散係数から、コート試 料内でのガスの拡散は分子拡散と Knudsen 拡散の遷移状態の拡散であることが 分かった。さらに実験結果を用いて、ガスが拡散できる細孔の平均径を見積も った結果、0.49 μm であった。この値を水銀圧入式細孔分布計で測定した細孔分 布と比較すると、前者は後者の2つのピークの間に存在した。この結果は、コ ート層試料では遷移状態の拡散が起きているという結論とよく一致する。 150 今回の測定は室温で行ったものであり、今後は触媒反応温度に加熱した条件 での測定などの技術開発を行っていく必要がある。 151 参考文献 〔 1 〕 Y. Ikeda, K. Sobue, S. Tsuji and S. Matsumoto, SAE Tech. Paper 1999-01-1279 (1999). 〔2〕S. Matsumoto, Y. Ikeda, H. Suzuki, M. Ogai and N. Miyoshi, Appl. Catal. B: Environ., 25 (2000) 115. 〔3〕S. Matsumoto, Catal. Today. 90 (2004) 183. 〔4〕R. E. Hayes and S. T. Kolaczkowskib, Appl Cat. B Environ., 25 (2005) 93. 〔5〕J. W. Beekman, Ind. Eng. Chem. Res., 30 (1991) 428. 〔6〕T. A. Pakurar and J. R. Ferron, Ind. Eng. Chem. Fund., 5 (1966) 553. 〔7〕J. N. Holsen and M. R. Strunk, Ind. Eng. Chem. Fund., 3 (1964) 143. 152 Compartment 1 Compartment 2 Ar CO2 Diffusion Gas out Gas out Model catalytic coated layer Fig. 9-1 Model of the diffusion cell for the investigation. a b Fig. 9-2 Substrate and coated layer. a: uncoated substrate, b: coated layer. 153 CO2 Gas out Rubber O-rig for gas seal Model catalytic coated layer Gas out Ar Fig. 9-3 The diffusion cell. 1 3 8 10 14 12 5 15 6 13 7 4 9 2 11 Fig. 9-4 Schematic diagram of the flow system for gas diffusion analysis. 1, 2 Feed gases 3, 4 Flow control valves 5 Diffusion cell 6 Manometer 7 Pressure gauge 8, 9 Gas samplers 10, 11 Pressure control valves 12, 13 Soap film meters 14, 15 Gas outlets 154 1.2 Deff [10-5 m2/s] 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0 N2 CO2 C3H8 Fig. 9-5 The effective diffusion coefficient for the coated layers with N2, CO2 or C3H8 in Ar. coated layer 1 ( ○ ), 2 ( □ ) and 3 ( ). 0.8 ψ [–] 0.6 0.4 0.2 0 N2 CO2 C3H8 Fig. 9-6 ψ value of the coated layers with N2, CO2 or C3H8 in Ar. coated layer 1 ( ○ ), 2 ( □ ) and 3 ( ). 155 40 rψ [nm] 30 20 10 0 N2 CO2 C3H8 Fig. 9-7 rψ value of the coated layers with N2, CO2 or C3H8 in Ar. coated layer 1 ( ○ ), 2 ( □ ) and 3 ( ). 10 K/Deff [107 m-1] 8 6 4 2 0 0 1 2 K/D [107 m-1] Fig. 9-8 K/Deff versus K/D. 156 3 4 0.3 0.2 0.1 – d V [ μm3·g-1] d log(r ) 0.4 0 0.001 0.01 0.1 1 10 100 Pore radius r [μm] Fig. 9-9 Pore size distribution of the coated layer. the dotted line indicates the mean diffusive radius estimated from the diffusion coefficients. 157 158 第10章 総括 第1章で示したように、本研究は NOx 吸蔵還元型触媒の NOx 浄化機構を明 らかにすること、NOx 吸蔵還元型触媒の耐久性を改善すること、および NOx 吸 蔵還元型触媒を用いた新しい NOx 浄化システムの提案、さらには触媒コート層 内でのガスの拡散状態の解析手法の確立を目的とした。以下に、第2章から9 章の概要をまとめる。 第2章では、リーンバーンポート噴射ガソリンエンジン用にバリウム化合物 をNOx吸蔵材としたNOx吸蔵還元型触媒の、573から673 K付近でのNOx浄化機構 を明らかにすることを目的とした。リーンバーンポート噴射ガソリンエンジン の排気ガスを模擬したモデルガスを使用した反応解析から、図10-1に示すよう に酸化雰囲気においてNOxは貴金属上で酸化され、近傍のバリウム系NOx吸蔵材 に硝酸イオンとして吸蔵されること、吸蔵されたNOxはその後の還元雰囲気にお いて硝酸塩の分解によるNOxの放出と、放出されたNOxの貴金属上での還元剤と いう二段の反応を経てN2へと還元されることを明らかにした。このような反応 機構によってNOxを浄化するNOx吸蔵還元型触媒は、リーンバーンポート噴射ガ ソリンエンジンを搭載した乗用車での10-15モード試験において十分な耐久性 を示し、1994年に世界で始めて実用化がなされた。 第3章では、NOx 吸蔵還元型触媒の劣化要因である硫黄被毒と熱劣化に対し て触媒材料面からの耐久性改良を検討した。特にリーンバーン直噴ガソリンエ ンジン用 NOx 吸蔵還元型触媒にバリウム化合物に加えて添加されたカリウム化 合物の劣化に着目した。硫黄被毒によって生ずるカリウム系 NOx 吸蔵材の硫酸 塩化に対しては TiO2 担体が優れた抑制効果を示し、ZrO2 担体はカリウム系 NOx 吸蔵材との固相反応による複合酸化物形成を抑制することが分かった。この結 果を踏まえて ZrO2-TiO2 複合酸化物担体の組成を検討した結果、図 10-2 に示す ように 30 wt%の TiO2 と 70 wt%の ZrO2 とからなる複合酸化物を担体とする触媒 で、耐久試験後に最良の NOx 浄化活性が得られることが分かった。その理由と 159 して、この担体が適度な酸性質を持つことで TiO2 担体と同等の硫酸塩の分解促 進効果が有ることと、ジルコニウム含有量が多いことでカリウム系 NOx 吸蔵材 と担体との固相反応を抑制することの両立ができることを解明した。本研究結 果を応用した触媒は、2001 年に耐久性を改善した NOx 吸蔵還元型触媒として、 リーンバーン直噴ガソリンエンジン用に実用化がなされた。 第4章では、NOx 吸蔵量の温度特性を検討し、現在使用されている温度より もさらに低温側で NOx 吸蔵量を改善するための指針を明らかにすることを目的 とした。反応解析および熱力学平衡計算の結果から、673 K 以上で反応温度の上 昇に対して NOx 吸蔵量が減少するのは、NO2 および NOx 吸蔵材の硝酸塩生成の 熱力学平衡の制約が原因であることを明らかにした。また 673 K 未満では、酸 化雰囲気のガス中に共存する CO および C3H6 が NOx 吸蔵還元型触媒上で NO2 を NO に還元してしまうため、図 10-3 に示すように入りガス NOx 種に NO2 を 使用しても NO を使用したときと同じ NO2 分圧となってしまうことを明らかに した。NO2 分圧が同じであるため、還元剤が共存する条件では入りガス NOx 種 として NO2 を使用しても NO を使用した場合と同じ NOx 吸蔵しか得られず、還 元剤が共存しない条件で NO2 を供給することで低温 NOx 吸蔵量が向上すること も示した。これらの結果から、低温での NOx 吸蔵量を向上させるためには NO2 の生成を促進するだけでは不十分であり、酸化雰囲気の排気ガス中に共存する 還元剤濃度を低減することも同時に行う必要があることを示した。 第5章では、低温で NO 酸化活性の高い触媒を得るための指針を明らかに することを目的とした。初期および耐久試験後の触媒における NO 酸化活性の 支配要因を解析した結果、図 10-4 に示すように耐久試験後の触媒では NO 酸化 活性は金属状態の Pt の割合と、Pt 分散度との積である表面金属 Pt 量比例した。 したがって、金属状態の Pt の割合を増加させること、およびその分散度を向上 させることが、低温の酸化雰囲気での NO 酸化活性の向上に重要であることを 明らかにした。この知見から、金属状態の Pt を高分散化保持できる担体の開発 が重要であると結論した。 160 第6章では、吸蔵 NOx の還元反応の温度特性を解析し、現在使用されてい る温度よりも低温側で NOx 還元量を改善するための指針を明らかにすることを 目的とした。3 秒間の RS を与える試験条件で反応解析を行った結果、673 K 未 満では吸蔵 NOx の還元が律速段階であることが分かった。低温では、還元剤種 の吸蔵 NOx 還元性はそれぞれ異なり、H2 が最も有効な還元剤種であることを示 した。また CO と C3H6 を比較した場合には、CO の方が吸蔵 NOx の還元活性に 優れていた。図 10-5 に示すように、NOx 吸蔵還元型触媒では HC と H2O から H2 を生成する水蒸気改質反応よりも、CO と H2O から H2 を生成する水性ガスシ フト反応がより効率的に進行することが分かった。この、H2 生成活性の違いが CO と C3H6 の吸蔵 NOx 還元性が異なる原因の一つと考えられた。さらにこの結 果から、水性ガスシフト反応による H2 生成活性を促進することが、低温での NOx 吸蔵還元型触媒の性能を改善する有効な方法であると結論した。 第7章では、NOx 吸蔵還元型触媒の上流に Pd/γ-Al2O3 触媒、下流に Cu/ZSM-5 を配置することで、3分毎に酸化雰囲気と還元雰囲気とを繰り返す条件におい て、低温での NOx 浄化活性が飛躍的に向上することを見出し、その作用機構を 解析することで、より高性能な NOx 浄化システムを実現する可能性を展望した。 高い NOx 浄化活性が得られるのは、図 10-6 に示す以下の反応機構によることを 明らかにした。すなわち、低温の酸化雰囲気で Pd/γ-Al2O3 触媒が NOx 吸蔵還元 型触媒の入りガス NO2 濃度を向上させることにより、NOx 吸蔵還元型触媒の NOx 吸蔵量が向上する。吸蔵された NOx はその後の還元雰囲気の前半において NOx 吸蔵還元型触媒上 N2 へと還元され、後半において NOx 吸蔵還元型触媒上で NH3 へと還元され下流へと排出される。排出された NH3 は還元雰囲気で下流の Cu/ZSM-5 触媒に吸着し、次の酸化雰囲気において Cu/ZSM-5 触媒上で選択的に NOx を還元し N2 を生成する。この触媒システムでは酸化雰囲気では Cu/ZSM-5 上で、還元雰囲気では NOx 吸蔵還元型触媒上で NOx 浄化反応が進行すること、 さらには酸化雰囲気において O2 よりも NOx と選択的に反応する NH3 を還元剤 に利用していることから、NOx 吸蔵還元型触媒を単独で使用するよりも効率の 161 良い NOx 浄化システムとして期待される。 第8章では、将来のリーンバーン直噴ガソリンエンジンの NOx 浄化に必要 とされる、873 K 近傍の高温での NOx 吸蔵量を改善するための指針を明らかに することを目的とした。γ-Al2O3 担体よりも塩基性の強い MgAl2O4 担体を用いる ことで、カリウム系 NOx 吸蔵材の塩基性を強化し、初期における高温での NOx 吸蔵量を向上できることを明らかにした。さらに γ-Al2O3 担体は陽イオンサイト の約 11%が空孔である欠陥スピネル構造であるのに対して、MgAl2O4 担体は全 ての陽イオンサイトが Mg2+または Al3+で占有された、欠陥を持たないスピネル 構造であることから、図 10-7 に示すように、前者に比べて後者は耐熱試験によ る NOx 吸蔵量の低下が大幅に抑制されることを示した。これらは将来必要とさ れる 673 K 以上での NOx 浄化方法に対して有効な知見であると考えている。 第9章では、触媒コート層内におけるガスの拡散挙動の解析手法の確立と、 その手法によってコート層内のガスの拡散状態を明らかにすることを目的とし た。2つの区画からなる拡散セルと、ステンレス金属金網を基材とするコート 試料、ならびに測定装置システムを考案し、常圧の室温においてコート層内の ガスの有効拡散係数の測定に成功した。得られた実験データを解析した結果、 図 10-8 に示すように Knudsen 係数 K と分子拡散係数 D の比に対して、Knudsen 係数 K と有効拡散係数 Deff の比が直線関係を示したことから、コート試料内で のガスの拡散は分子拡散と Knudsen 拡散の遷移状態の拡散であることを明らか にした。さらにコート試料の細孔分布と実験結果から得られたガスが拡散する 細孔の平均径の比較から、コート試料内でのガスの拡散には Knudsen 拡散より も分子拡散の寄与の方が大きいことを明らかにした。 以上のように、本研究の結果は NOx 吸蔵還元型触媒の世界初の実用化、な らびにその改良においてきわめて重要な知見を導くことができた。さらにコー ト層内のガスの拡散状態の解析手法は、NOx 吸蔵還元型触媒のみではなく、自 動車排気ガス浄化用触媒全般に対して有効な解析手法となるものと期待される。 NOx 吸蔵還元型触媒は開発当初に比べて大幅に耐久性能が改善されたもの 162 の、初期の活性に比較するとまだまだ劣化は大きい。また、将来の排気ガス規 制に対しては、初期品でも低温ならびに高温活性が十分ではなく、この温度特 性の課題も未だ改善の必要性がある。NOx 吸蔵還元型触媒の研究開発のさらな る発展を期待して、本研究の結びとする。 163 Lean A/F Rich A/F (Oxidative atmosphere) (Reductive atmosphere) R NO+ O2 NO2 PM R NO+ O2 NO3- NO3NSC N2 NO2 R PM PM NO3NSC Supports NO x PM Supports PM; Precious metals NSC; NOx storage compounds R; Reducing agents (H2, CO, HC) Relative NOx storage amount [–] Fig. 10-1 NOx storage and reduction mechanism of NOx storage and reduction catalysts. 8 6 4 2 0 0 20 40 60 80 100 ZrO2 content [wt%] Fig. 10-2 NOx removal performance of the sulfur-aged K/Pt/ZrO2-TiO2 catalysts at 773 K versus ZrO2 content. 164 NO2 concentration [ppm] 400 300 200 100 0 500 550 600 650 700 Temperature [K] Fig. 10-3 NO2 concentration in the outlet gases of the NOx storage and reduction catalyst versus reaction temperature using NO ( ● ) or NO2 ( ○ ) as NOx species with CO and C3H6. the dashed line represents the thermodynamic equilibrium of NO2 concentration in the NO oxidation reaction under 400 ppm NO and 7% O2. 60 NO2 yield [%] 50 40 30 20 10 0 0 5 10 15 Surface metallic Pt amount [μmol/g] Fig. 10-4 NO2 yield of the aged Pt catalysts supported on Al2O3 ( ● ), CeO2 ( ), TiO2 ( ▲ ), ZrO2 ( ▼ ) and SiO2 ( ■ ) at 523 K versus the amount of the surface metallic Pt. the surface metallic Pt amount is the product of the CO adsorption amount and the abundance ratio of Pt0. 165 560 1500 540 1000 520 500 Temperature [K] H2 concentration [ppm] 2000 0 500 1200 1250 1300 1350 1400 1450 1500 Time [s] Fig. 10-5 H2 concentration in the outlet gases of the NOx storage and reduction catalyst versus time when the lean and rich conditions were alternately switched every 30 s. water gas shift reaction ( ) and steam reforming reaction ( ). the dashed line represents the reaction temperature, which decreased at the rate of 10 K/min. Oxidative condition The first time Catalysts Pd Ba/Pt/Rh Chemical reactions 1 NO + O2 → NO2 2 NO2 → NO x(ad.) Cu/Z The second time or later Catalysts Reductive condition The first stage Catalysts Chemical reactions Pd NOx + Red. → N2 + H2O + CO2 Ba/Pt/Rh NOx(ad.) + Red. → N2 + H2O +CO2 Cu/Z Ba/Pt/Rh Chemical reactions 1 NO + O2 → NO2 2 NO2 → NO x(ad.) Catalysts Cu/Z NOx + NH3(ad.) → N2 + H2 O Pd NOx + Red. → NH3 + H2 O + CO2 Ba/Pt/Rh NOx(ad.) + Red. → NH3 + H2 O + CO2 Cu/Z NH3 → NH3(ad.) Pd The second stage Chemical reactions “Pd”, “Ba/Pt/Rh”, “Cu/Z”, “NOx(ad.)”, “Red,” and “NH3(ad.)” mean “Pd/γ-Al2O3”, “Ba/Pt/Rh/γAl2O3”, “Cu/ZSM-5”, “Adsorbed NOx species”, “Reducing agents (H2, CO or HC)” or “adsorbed NH3 species”, respectively. Fig. 10-6 Chemical reactions on each catalyst involving N-compound under long term alternating oxidative and reductive conditions. 166 NO x storage residual ratio [%] 100 80 60 40 20 0 0 1 2 3 4 K2O amount [g] Fig. 10-7 NOx storage residual ratio of the K/Pt/MgAl2O4 and K/Pt/Al2O3 catalysts at 873 K versus K2O amount. K/Pt/MgAl2O4 catalyst ( ● ), K/Pt/Al2O3 catalyst ( ○ ). 10 K/Deff [107 m-1] 8 6 4 2 0 0 1 2 K/D [107 m-1] Fig. 10-8 K/Deff versus K/D. 167 3 4 本研究に用いた研究論文 1.” The new concept 3-way catalyst for automotive lean-burn engine: NOx storage and reduction catalyst “ N. Takahashi, H. Shinjoh, T. Iijima, T. Suzuki, K. Yamazaki, K. Yokota, H. Suzuki, N. Miyoshi, S. Matsumoto, T. Tanizawa, T. Tanaka, S. Tateishi and K. Kasahara, Catal. Today, 27 (1996) 63. 2.” Sulfur durability of NOx storage and reduction catalyst with supports of TiO2, ZrO2 and ZrO2-TiO2 mixed oxides ” N. Takahashi, A. Suda., I. Hachisuka, M. Sugiura, H. Sobukawa and H. Shinjoh Appl. Catal. B: Environ., 72 (2007) 187. 3.” Influence of NOx species and the residual CO and C3H6 on NOx storage performance of NSR catalysts at low temperatures “ N. Takahashi, K. Yamazaki, H. Sobukawa and H. Shinjoh, J. Chem. Eng. Jap., 39 (2006) 437. 4.” Influence of support materials and aging on NO oxidation performance of Pt catalysts under an oxidative atmosphere at low temperature “ N. Takahashi, K. Dohmae, H. Sobukawa and H. Shinjoh, J. Chem. Eng. Jap., 40 (2007) 741. 5.”The low-temperature performance of NOx storage and reduction catalyst ” N. Takahashi, K. Yamazaki, H. Sobukawa and H. Shinjoh, Appl. Catal. B: Environ., 70 (2007) 198. 168 6.” Synergic effect of Pd/γ-alumina and Cu/ZSM-5 on the performance of NOx storage reduction catalyst “ H. Shinjoh, N. Takahashi and K. Yokota, Top, in Cat., 42/43 (2007) 215. 7 . ”New approach to enhance the NOx storage performance at high temperature using basic MgAl2O4 spinel support “ N. Takahashi, S. Matsunaga, T. Tanaka, H. Sobukawa and H. Shinjoh, Appl. Catal. B: Environ., 77 (2007) 73-78. 169 謝辞 本学位論文を作成するにあたり、数々のご指導を頂きました、名古屋大学大 学院工学研究科 工学博士 田川智彦 教授に心より感謝申し上げます。また、本 学位論文の内容に関して貴重なご意見とご指導を頂きました、名古屋大学エコ トピア科学研究所 工学博士 鈴木憲司 教授、名古屋大学大学院工学研究科 工 学博士 平出正孝 教授、ならびに名古屋大学大学院工学研究科 工学博士 堀添 浩俊 教授に深く感謝の意を表します。 本学位論文に記した研究は、株式会社 豊田中央研究所において実施したも のである。本研究を通して、一緒に研究・開発をさせて頂きました、名古屋大 学大学院、トヨタ自動車株式会社、株式会社キャタラーの関係者の方々に感謝 いたします。また、研究を進めるにあたり、数々のご指導を頂きました上司、 先輩、様々なご支援を頂きました同僚の方々に厚く御礼を申し上げます。 最後に、両親ならびに妻と二人の娘にありがとう。 2007 年 2 月 共同研究者 名古屋大学大学院;工学博士 田川智彦 殿、工学博士 山田博史 殿、尾関弘修 殿 トヨタ自動車 株式会社;鈴木宏昌 殿、田中俊明 殿、谷澤恒幸 殿、 蜂須賀一郎 殿、工学博士 松本伸一 殿、三好直人 殿 株式会社 キャタラー;笠原光一 殿、立石修士 殿 株式会社 豊田中央研究所;飯島朋子 殿、工学博士 新庄博文 殿、 工学博士 杉浦正洽 殿、鈴木正 殿、工学博士 須田明彦 殿、 曽布川英夫 殿、田中寿幸 殿、堂前和彦 殿、松永真一 殿、 山崎清 殿、横田幸治 殿 170