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通貨危機のモデルおよび IMF 支援の インプリケーション*

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通貨危機のモデルおよび IMF 支援の インプリケーション*
通貨危機のモデルおよび IMF 支援の
インプリケーション
*
東洋大学 経済学部助教授 橋本 優子
要 旨
本稿では、最近の通貨危機に関する理論の説明および 1990 年以降に頻発している危機との対応
を紹介する。また、IMF による支援と通貨危機のモデルとの関連性、および実際の危機への対応に
関する解説も試みる。通貨危機はひとつのモデルだけに当てはまるものではなく、背景やきっかけ、
IMF の対応など、様々な要素を含んでいる。また、IMF の役割も大きく変化してきている。通貨
危機の発生が、投資家の期待形成、ミクロレベルでの経済システムなどの絡んだ、より複雑なもの
へと移りつつあるなかで、IMF による危機への対処、役割の再考も行う。
第1章 イントロダクション
1990年代に入ってから、世界各地、特に新
興市場国(エマージング・マーケット)にお
いて通貨・金融危機が頻発している。1992年
から93年にかけての ERM 危機、1994年末の
メキシコ、1997年のアジア通貨危機、1998年
春から夏のロシア、さらに1998-99年以降の
ブラジルやアルゼンチン、2001年のトルコな
ど、世界経済に大規模な影響を与える通貨危
機が続いている。
通貨危機の発生とその影響に関しては、理
論・実証面から多くの研究が行われている。
メキシコ、アルゼンチンなどラテンアメリカ
諸国での通貨危機の発生は、多くは、財政赤
字や経常収支赤字、外貨準備激減などを原因
とするものである*1。1998年のロシア通貨危
機も、
財政赤字を政府が造幣益(seigniorage)
によってファイナンスを続けたことがきかっ
けとなった*2。
一方、ファンダメンタルズが必ずしも悪化
しておらず、外貨準備も十分であるにもかか
わらず、マーケットにおいて巨額の投機が一
斉に起こるために通貨危機に陥る場合もあ
る。政府が固定相場制度の放棄や為替制度の
変更をする可能性がある場合、民間の経済主
体が政府の為替制度変更を期待して投機を行
うと、それが実現し、通貨危機となる場合で
ある*3。マクロ経済がラテンアメリカ諸国ほ
ど悪化していなかったアジアの通貨危機は、
このような自己実現的通貨危機の代表例とし
て示されている*4。
マクロ経済に問題が無いとはいっても、市
場開放と資本移動が膨大になるなかで、様々
なきっかけが通貨危機を招く点も指摘されて
いる。
アジア通貨危機で最も顕著だったのは、
銀行危機と通貨危機の双子の危機の発生であ
る。国内金融システムが未熟な段階で資本市
場の開放が進むと、為替市場がより不安定に
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
* 本稿は国際協力銀行開発金融研究所でのセミナー報告を基に作成した。国際協力銀行開発金融研究所前次長下鉢雅宏氏およ
びセミナー参加者のコメントに感謝する。伊藤隆敏東京大学教授から貴重なコメントをいただいた。
*1 伊藤(1997)、Calvo and Reinhart (1996)などを参照。
*2 Krugman(1999)を参照。
*3 Obstfeld(1994、1996)を参照。
*4 アジア通貨危機の文献としては Ito(2000)、Radelet and Sachs(2000)等を参照。
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なりやすい状況が発生する* 5。海外からの資
金調達に頼る企業や金融機関では、為替レー
トの急落が外貨建て負債を抱える国内金融機
関や企業のバランスシートを悪化させ、国内
経済を減速させる。これが、さらに資本逃避
を招き、通貨下落と国内企業への悪影響を引
き起こす。韓国のように、短期の海外資金調
達と長期の国内投資といった、
通貨と期間
(満
期)のミスマッチも、通貨危機を悪化させる
要因のひとつとなった* 6。
貸し手のモラル・ハザードも近年の通貨危
機では大きな要素となっている。借入国で
経済状況が悪化した場合には国際通貨基金
(IMF)や先進国などが支援するだろうとい
う考えのもとで、為替差益の獲得を目的に、
貸し手は過剰に投資を行い、期待の変化に
よって資金を引き上げる結果、通貨危機が発
生する。また借入国においても、金融機関な
どが政府の implicit な債務保証によってリス
キーな投資を行うなど、経済システムが脆弱
で、外的ショックに弱い面があった*7。
周辺国への影響は、
危機の伝播(Contagion)
として、通貨危機の一分野となっており、危
機の伝播がどのようなチャンネルのもとに起
こるのか、どの程度の影響力があるのか多く
の研究がなされている*8。他にも、危機のシ
グナルや発生タイミング、外為取引への影響
に関する応用研究もなされている*9。
以上のように、通貨危機に関する理論モデ
ルや実証分析、さらに伝播効果などの研究は
行われているものの、通貨危機の統一的な理
論の解説や IMF 支援の意義、危機との関連
について包括的にまとめているものは、案外
少ないように思われる。
本稿では、通貨危機の理論を整理し、実
際に発生した通貨危機との関連付けを行う。
また、IMF 支援が危機のモデルのなかでど
のような役割を果たすのか、解説をおこな
いたい。
以下、第二章では通貨危機のモデルを説明
する。第三章ではモデル別に IMF 支援に関
する考察を行う。
最後に本稿のまとめを行う。
第2章 通貨危機のモデル
通貨危機を説明する理論として、現在、大
きく3種類のモデルが定番となっている。ま
ず、第一世代モデルとよばれる理論である。
これは、マクロ経済の状況(ファンダメンタ
ルズ)の悪化が原因で通貨危機が発生すると
いう考え方である。たとえば、財政赤字の続
いている国において、政府がマネーサプライ
や通貨切り替え(貨幣発行)によってファイ
ナンスを行っている場合、通貨危機に陥りや
すい。このモデルの原型が Krugram(1979)
および Flood and Garber(1984)によって
整理された。危機前にファンダメンタルズ
の悪化が見られた典型的な第一世代モデル
のケースとして、1994 年のメキシコ危機や
1998 年のロシア通貨危機が挙げられる。
もうひとつは、第二世代モデルと呼ばれる
理論である。投資家の、市場動向や資産価格
に対する期待(予想)に基づく行動が、危機
を実際に引き起こしてしまうケースであり、
自己実現的危機と呼ばれる。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*5 Global Financial Stability Report(IMF)など、資本市場の自由化に関する順序(Order of capital market liberalization)に
関しては、国内金融セクターの強化を図った上で資本規制を緩やかにしていくのが望ましいとする考え方が一般的である。
*6 Chang and Velasco(1998)を参照。
*7 Corsetti, Pesenti, Roubini(1999)、Kaminsky and Reinhart(2001)などを参照。
*8 伊藤・橋本のアジア通貨危機の伝播に関する一連の研究(2002、2004、2005、2006)や、Baig and Goldfajn(1999)
、Eichengreen,
Rose and Wyplosz(1996b)
、Glick and Rose(1999)
、Kaminsky and Reinhart(2000)
、Masson(1999a, b)などを参照。
*9 Eichengreen, Rose and Wyplosz(1996a)、Hashimoto(2003)、Hashimoto(2005)、Kaminsky, Lizondo and Reinhart(1998)
など。
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Obstfeld (1996) は、市場参加者の為替
制度に関する期待(将来にわたって固定相場
制が維持可能か、あるいは崩壊するか)に依
存して、実際に通貨危機になるケースもあれ
ば、通貨危機に陥らないケースもあるという
複数均衡を説明した。このような自己実現的
危機の前には、
巨額の投機が同時期に行われ、
通貨当局は外貨準備を失う。この過程におい
て、危機になる場合もあれば、回避できる場
合もある。したがって、通貨危機の前には、
必ずしもファンダメンタルズの悪化が見られ
ない。このような危機の代表例として ERM
危機がある。
最後に、Krugman(1999)によって提唱
されている第三世代モデルがある。これは、
アジア通貨危機の際、金融危機を併発した経
験から、通貨危機と金融危機の相互作用の説
明を試みたモデルである。脆弱な金融システ
ムをモデルに取り入れ、外貨建て借入れを行
う企業や金融機関のバランスシートが悪化す
ると、資本流入の減少をもたらすと同時に為
替切下げが発生し、国内ファンダメンタルズ
の悪化を嫌って、海外からの資本流入が途絶
えたり(Sudden stops)
、資本の流出・逃避
(Capital flight、Reversal)が起こることを
説明している。
1.第一世代モデル
第一世代モデルは、財政赤字の拡大が続い
たり、
経常収支赤字が解消されないような国、
インフレ率が非常に高い国など、
マクロ・ファ
ンダメンタルズのパフォーマンスがあまり良
くない国で起こる通貨危機を説明する。固定
相場制度を採用しているマクロ・ファンダメ
ンタルズの悪い国では何故通貨危機に陥りや
すいのか、財政赤字の大きな国を例に考えて
みよう。
財政赤字が年々続いている国では、政府が
国債を発行するなどして、歳出に見合うだけ
の補填をしなければならない。ここでは簡単
に、小国解放経済において、財政赤字を貨幣
発行(国内信用の増加)によって補うケース
を考える。
(1)モデル
この国では、完全雇用が達成されており、
生産量は外生である。為替市場においては購
買力平価(PPP)が成立していると仮定する。
簡単化のため、外国物価を1と基準化する。
金融市場ではカバー無し金利平価が成立して
いる。前述したように、財政赤字を国内信用
増加で補い、その増加率をμとする。
モデルでは、次のように表される。
d
m = p + y - αi
s
m = d + R
d =μ> 0
p = e
i = i * + e
●
●
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
上記で、
(1)式は、対数表示した貨幣需要
を表す。貨幣需要は、
国内物価水準と生産量、
そして自国の金利水準から決まる。(2)式は
貨幣供給を表す。ここでは簡単に、貨幣供給
は貨幣発行(d)と、
外貨準備(R)の和となっ
ている。
(3)式は、財政赤字補填のための国
内信用の増加率を表している。国内信用がμ
という一定の割合で増加していることを示し
ている。
(4)式は、
購買力平価の成立を示す。
外国物価水準を1と基準化したため、為替
レート(e)は国内物価水準(p)と一致する。
最期に、
(5)式は、カバー無し金利平価の成
立を示す。自国金利は外国金利と為替レート
変化率に依存する。
さて、貨幣市場の均衡は、(1)式と(2)
式がイコールになることから求まる。すな
わち、
m = m = m
d
s
さらに、外国金利を簡単化のためにゼロ
と仮定し(i * = 0)
、そして、
(4)式と(5)
式を(1)式に代入すると、以下の(6)式が
導かれる。
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m = e + y - αe
●
(6)
もし、固定相場制度が頑健なものであるな
らば、将来にわたって為替レートはずっと一
定の値であると考えられるため、為替変化率
はゼロになるはずである。すなわち、
e = 0
●
を(6)式に代入すると、
(6)式は次のよう
に書き換えることができる。
m = e + y
(6)
’
この(6)
’式の意味は、固定相場制度下で
は、為替減価率がゼロなので、実質貨幣バラ
ンス(m)は生産量が外生(一定)という仮
定の元では、一定に決まる。
(2)式と(6)
’式から、
R = y + e - d
R =-μ
●
が求まる。
つまり、小国開放経済における外貨準備量
は(外生の)生産量と為替レート、そして国
内信用によって決まってくる。さらに、国内
信用がμの割合で増加すると、外貨準備は-
μの速度で減少するのである。
もう一度、モデルとこの経済のプロセスを
説明しよう。政府は、財政赤字をファイナン
スのために、国内信用をμの割合で増加させ
る。国内信用の膨張は国内経済においてイン
フレ期待を引き起こし、さらに、インフレ期
待は、自国の為替相場に減価プレッシャーを
与える。一般に、購買力平価が成立している
状況では、自国の物価上昇によって、海外の
物価に比べて割高となるため、為替レートが
減価して割高感を調整する働きが出てくるた
めである。この国が固定相場制度を採用して
いる場合は、通貨当局は為替レジームの維持
のために、外為市場において安くなっている
(減価圧力のかかっている)自国通貨の買い
支えを行う。このような自国通貨買い、外貨
売りの介入によって、固定為替相場は維持さ
れるが、当局の持っている外貨準備を使って
しまう。固定相場制度を採用している国にお
いて、財政赤字を貨幣発行で補填すると、結
果として、外貨準備高が減少してしまう。
外貨準備が一定の割合で減少を続ければ、
いつかはゼロまたはきわめて少ない量(下限
閾値)に達する。外貨準備量がゼロや下限閾
値に達してしまうと、外為市場で自国通貨売
りが行われた場合に、当局は買い支えをする
ことができない。すると、固定相場制度を維
持することが不可能となり、為替レートは、
固定相場を離れて、変動相場制度に移らざ
るをえなくなる。外貨準備がなくなることに
よって、固定相場制度を維持できなくなるこ
とを、natural collapse という。
図表1は国内信用と外貨準備、および為替
レートの時系列変化の関係を表したものであ
る。外貨準備が閾値に達したとき、Tn の段
階で、固定相場は維持不可能となり、通貨危
機が発生し、通貨が下落する。
(2)投機アタックのタイミング
さて、実際に、通貨危機は Tn の時点で発
生するのであろうか。この国の経済状況を
知っており、外貨準備が一定のμの割合で減
少していることを理解している投機家は、い
つかは外貨準備が底をつき、固定相場制が放
図表1 国内信用 d
外貨準備 R
Natural Collapse
外貨準備閾値
t=0
Tn
時間
通貨下落
st = s
固定相場
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棄されることも察知する。固定相場制度が近
いうちに崩壊すると予想する投機家は、実際
に外貨準備が底を着く少し前から自国通貨売
りのアタックを始める。たとえば、バーツ売
りドル買いの投機を行い、固定相場制度が崩
壊してバーツ為替レートが下落した後にバー
ツを買い戻すと、為替差益を得ることができ
るからである。とはいえ、あまりに早い段階
で投機をかけると、もし固定相場が崩壊しな
かった場合には損をしてしまう。したがっ
て、そろそろ通貨下落が近いだろうと、ある
程度の確信をもてる段階になってくると、投
機を始める。この確信は、投機家の想定する
仮想の為替レート、シャドーレート(shadow
floating rate)から生まれてくる。シャドー
レートとは、固定相場制度でなく、変動相場
制であった場合の、仮想的な変動為替レート
を指す。これが、現行の固定為替レートと大
きく離れていれば、当局の介入によって固定
相場制度がきちんと維持されていることにな
るが、シャドーレートと固定相場の乖離が小
さくなってくると、いよいよ固定相場から変
動相場への移行が近いと判断される。した
がって、ある程度、シャドーレートと固定為
替レートが近づいた段階で、投資家は投機を
始める。多くの投資家がいっせいに大量の投
機アタックを行うと、当局の買い支えも増大
し、外貨準備の減り方はもっと速くなる。す
ると、外貨準備は Tn までもたずに、もっと
図表2 国内信用 d
外貨準備 R
投機アタック
外貨準備閾値
t=0
Tc
2.第二世代モデル
投資家の為替制度に関する期待、すなわち
固定相場制度が維持可能か、破棄されるかに
依存して、実際に危機が起こる場合と、起こ
らない状況がある。経済学用語で、複数均衡
が存在するという。危機が発生する場合は、
投資家による巨額の投機が同時期に行われ、
当局が外貨準備を失う。一方、投機を仕掛け
ても当局が防衛可能だと投機家が判断をする
と、実際には投機を行わないために、通貨危
機は発生しない。このように、マクロ経済状
況を必ずしも反映せず、通貨危機が発生する
場合もあれば、発生しない場合もある。
ある投機家が実際に投機を仕掛けるのか、
仕掛けないのかは、他の投機家の行動に依存
する。もし他の投機家が全員投機アタックを
仕掛けるのであれば、自分も一緒に投機をす
るのが得策である。逆に、他の誰も投機を行
わない中で、一人だけ投機を仕掛けても、失
敗して損をするだけの結果に終わる可能性が
ある。
このような投資家の行動と通貨危機の発生
を obstfeld(1996)の協調ゲームを用いて解
説する。
時間
Tn
通貨下落
st = s
早い Tc で枯渇する。
時間軸を小さくして考えると、シャドー
レートが、実際の固定レートと同じになった
瞬間に投機をかけ
(例、
バーツ売りドル買い)、
為替レートが下落した直後にバーツを買い戻
せば、得をする。極端な解釈をすれば、シャ
ドーレートが現在の固定相場と同じになった
瞬間に、投機がいっせいに起こり、外貨準備
での買い支えが出来ず、変動相場制に移行す
るのである。
最終的な固定相場制崩壊のタイミングは、
μの大きさ、すなわち国内信用の膨張速度と
当初の外貨準備の大きさに依存する。
固定相場
shadow floating rate
(1)協調ゲームとナッシュ均衡
ゲームの参加者(プレーヤーという)は3
人、通貨当局と投資家 2 人(投資家 A、B)
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である。投資家はそれぞれ、ある国の通貨を
6単位ずつ保有している。投資家のとる戦略
は、投機を行う(通貨を投機売りする)また
は、投機を仕掛けない(そのまま通貨を保持)
の、いずれかである。通貨投機を仕掛けない
という戦略を選択した場合には、その投資家
にとって利得はゼロである。もし通貨を売る
という戦略をとると、
取引費用が1発生する。
さて、投機が成功した場合は、売りに出した
通貨単位の2分の1を、利得として得ること
ができる。たとえば、投機によって為替相場
が 50%減価すると仮定した場合、自国通貨
売り外貨買いの投機を行った後で、50 %減
価した自国通貨を買い戻すと、残りの 50%
が為替差益となる。逆に、投機が失敗に終わ
り、固定相場制が維持されると、取引費用分
が損失となる。為替レートは 1 と仮定する。
以上のような投機の仕組みや、保有する通
貨量、当局の保有する外貨準備の量について
は、参加者全員がよく知っているだけでなく、
お互いに認識している。ゲーム理論の用語で
いう Common knowledge が成立していると
考える。
このような状況下で、当局のもつ外貨準備
の量が少ない場合、多い場合などで、通貨危
機が発生するのかどうかを検討するのが、こ
のモデルの目的である。ここでは、当局のも
つ外貨準備の量を、6、10、20 と 3 パター
ン考える。
当局の持つ外貨準備が 20 単位の場合、通
貨危機は発生するだろうか。投資家A,Bそ
れぞれの利得は図表3のようになる。二人共
に投機を仕掛けない戦略を選択すると、利益
も損も発生しない。投資家Aが手持ちの6単
位の通貨を全て売り、投資家Bは仕掛けない
図表3 当局の外貨準備量が 20 のケース
投資家 B
投資家 A
仕掛けない
投機売り
仕掛けない
投機売り
(0,0)
(0,- 1)
(- 1,0) (- 1,- 1)
戦略を採る場合、当局は投資家Aが売った6
単位の通貨を、外貨準備ですべて買うことが
出来る。したがって投資家 A の投機は失敗
し、Aは取引費用1単位の損をする。投資家
B が一人で仕掛けても、結果は同じで、B は
取引費用1単位の損をする。もし2人の投資
家がいっせいに、それぞれ手持ちの6単位の
通貨を全て投機売りをしても、当局は、合計
12 単位の通貨を買い支えることが出来るた
め、やはり投機は失敗する。つまり、他の投
資家が仕掛けようが仕掛けまいが、自分は投
機を仕掛けないのが、一番得になる。以上の
状況を投資家が認識していれば、それぞれの
投資家にとっての最適な戦略は、投機を仕掛
けないということになる。つまり、当局の外
貨準備量が豊富にある場合は、投資家は投機
をするインセンティブを持たず、通貨売りを
行わない。そして、通貨危機は起こらない。
図表4 当局の外貨準備量が6のケース
投資家 B
投資家 A
仕掛けない
投機売り
仕掛けない
(0,0)
(0,2)
投機売り
(2,0)
(1/2,1/2)
次に、当局の外貨準備量が 6 の場合を分析
する。投資家 A が一人で「投機売り」戦略
をとり、投資家 B は「仕掛けない」戦略を
とる場合を考える。投資家 A が手持ちの通
貨 6 単位を全て売った場合、当局は固定相場
制度防衛のために保有する外貨準備6単位す
べてを使って買い支える必要がある。そのた
め、外貨準備がゼロになる。したがって、投
資家が一人で投機を行っても、固定相場制は
崩壊し、利益を上げることができる。
投資家が二人とも「投機売り」戦略をとる
場合を考える。それぞれの投資家が同じ額ず
つ投機していくと、それぞれが3単位ずつ投
機を行ったところで、当局の外貨準備は枯渇
し、固定相場制度は崩壊する。二人ともに投
機した場合のリターンは、3単位の投機から
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図表5 当局の外貨準備量が 10 のケース
投資家 B
投資家 A
仕掛けない
投機売り
仕掛けない
投機売り
(0,0)
(0,- 1)
(- 1,0) (3/2,3/2)
得た 1.5 単位の利得から、投機コスト1を引
いて、2分の1ずつとなる(右下のセル)
。
この場合も、投資家は、投機をするのが得で
ある。すなわち、相手が投機しようが、しま
いが、自分は投機したほうが得であり、
「投
機売りを仕掛ける」という戦略が、支配戦略
となる。結局は右下のセルに帰着する。この
ような状況をすべての投資家が認識している
と、どの投資家も必ず「投機売り」戦略を選
択する。当局の外貨準備量が低い場合には、
すべての投資家に「投機売り」戦略選択のイ
ンセンティブが発生するため、全員が投機を
行い、通貨危機が発生する。
当局の外貨準備量が 10 の場合はどうであ
ろうか。投資家 A が一人で手持ちの通貨6
単位全てを売りに出す投機を行い、投資家 B
は仕掛けないと、通貨当局は防衛可能である
ため、固定相場制は維持され、投資家 A は
損をするだけである。つまり、投資家にとっ
ては、他の投資家が仕掛けない戦略を採る場
合に自分ひとりで投機をかけるのは、適切な
戦略ではなく、自分も仕掛けないことが最
適である。一方、二人の投資家が同時に合
計 10 単位の通貨売りを行うことを考えよう。
二人が5単位ずつ投機売りを行うと、当局は
外貨準備を失い、固定相場制度を放棄する。
5単位の投機によって 2.5 単位の得が発生し、
取引費用1単位を差し引くと、二人の投資家
はそれぞれ2分の3利益を得ることができ
る。ここでは、相手の投資家も投機売りの戦
略をとるならば、自分も売り戦略をとるのが
得である。このように、当局の外貨準備が多
過ぎも少な過ぎでもないケースでは、他の投
資家と同じ行動をとることが、最適な戦略と
なる。多くの投資家が、固定相場制度は維持
されるだろうという期待形成を行い、投機を
行わないのであれば、自分も投機をしないの
がよい。すると、誰も投機を行わず、通貨危
機は起こらない。逆に、多くの投資家が、当
局は買い支えが出来ないだろうという期待形
成を行い、他の投資家は投機売りを行うだろ
うと考える場合には、自分も投機売りをする
のが得である。すると、実際に通貨売りが行
われ、当局は外貨準備を失って、通貨危機が
起こるケースにあてはまる。
上記の例では、外貨準備量= 10 の場合に投
資家がとるべき戦略は、全員が保持、あるいは、
全員が売りのいずれかである。つまり、ナッ
シュ均衡が2つある、複数均衡が存在してい
る。中央銀行の外貨保有がある程度あっても、
投資家が投機は成功するという期待を形成す
ると、一斉に大規模な投機攻撃が起こりやす
くなり、実際に通貨危機が生じる。逆に、通
貨当局の固定相場制に対するコミットメント
が強ければ、投資家はアタックは必ずしも成
功しないと期待するため、投機を行わない。
ただし、上記のモデルでは、固定相場制度
崩壊のタイミングは特定することができな
い。あくまでも、投資家の期待形成が重要と
なってくるため、必ずしもファンダメンタル
ズの推移などから投機のタイミングを計るこ
とができないためである。ここで期待形成に
重要な役割を担うのがニュースである。投資
家にある同一の期待を形成させるような事件
やニュースが、危機を発生させる均衡へと導
くか、危機を発生させない均衡へ導くかの鍵
となる。
(2)均衡の決定
さて、第二世代モデルで用いられる協調
ゲームでは、民間経済主体の間でファンダ
メンタルズに関する正確な情報(common
knowledge)の共有という点が重要である。
仮に、同一のファンダメンタルズでも、投資
家の期待形成次第で、通貨危機が発生する均
衡と発生しない均衡のいずれもが生じ得るた
め、複数均衡のうちどの均衡が実現するかに
関する結論を出すことはできない。
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図表6 第二世代モデル(上)と Morris & Shin
(下)の、ファンダメンタルズと為替制
度の関係
複数均衡の範囲
変動相場制
投資家の期待形成により、固定相場
固定相場制
度の範囲
制になる場合と、変動相場制になる
度の範囲
場合の範囲
ファンダメンタルズ悪化
ファンダメンタルズ良好
ファンダメンタルズの閾値
変動相場制の範囲
ファンダメンタルズ悪化
固定相場制の範囲
ファンダメンタルズ良好
Morris and Shin(1998) で は、common
knowledge の仮定を緩め、各経済主体が観
察するファンダメンタルズに関する情報に、
個別の小さなノイズが存在することを許し
た。 そ し て、common knowledge の 仮 定 を
緩めると、複数均衡が消滅し、単一の均衡だ
けが残ることを証明した。つまり、通貨危機
が発生するファンダメンタルズと発生しない
ファンダメンタルズに境界が存在し、ファン
ダメンタルズのある閾値を境に、固定相場制
度が維持される場合と変動相場精度に移行す
る場合とが分かれることを示した。
3.第三世代モデル
アジア通貨危機の特徴である、通貨危機と
金融危機の併発を説明するために Krugman
(1999)が唱えたものが第三世代モデルである。
通貨危機以前のアジアでは企業の銀行依存度
が高く、銀行の外貨建て借入れ比率が高かっ
た。そのため、通貨危機の発生と同時に国内
企業や銀行でのバランスシート悪化と資本逃
避がみられた。通貨危機と金融危機の同時発
生においては、通貨危機が引き金となって金
融危機を引き起こす場合と、金融危機が通貨
危機を引き起こす二つの因果性が考えられる。
通貨危機が金融危機を引き起こすチャンネ
ルとしては、何らかの理由で資本流入減また
は資本逃避が起こるケース考えられる。資本
流入の減少は為替の下落圧力となる。外貨建
て債務の多い銀行や企業では為替の下落が起
こるとバランスシートが悪化するため、金融
システムへの不安が広がる。金融システムへ
の不信感がさらなる資本逃避と為替下落プ
レッシャーを招き、最終的に通貨危機に陥る
と考えられる。一方、金融危機が通貨危機を
引き起こすチャンネルとしては、外貨建て借
入れを行う銀行や企業のバランスシート悪化
が金融システムへの不安材料となり、資本流
入減または資本逃避を誘発して通貨危機に至
ると考えられる。
通貨危機と金融危機の同時発生を説明する
モデルとして、企業は資産量に比例した(海
外)借り入れを行い、かつ資産には国内通貨
建て債券と海外通貨建て債券が含まれる簡単
な例を考えよう。企業は海外からの借り入れ
を投資にまわす。つまり、企業は自らの資産
価値を担保に借り入れを行い、投資を行って
収益を上げ、次期の資産を増やし、さらに借
入額を増加させて投資拡大を行っていくケー
スである。海外の投資家は資産内容をみて独
自に判断を行い、融資額や融資を行うか否か
を決定する。海外資金調達は、満期が短めの
融資(短期借り入れ)である。一方、企業の
投資資金の回収までには、投資先で生産活動
を行い利益をあげるまでに時間がかかること
から、長期の貸し出しとなる。
ここでは、金融機関と企業の区別を行って
いないが、金融機関が海外から資金調達を行
い、企業に融資するモデルにも置き換えるこ
とが出来る。韓国では銀行をトップとした財
閥(chaebol)グループの中で、企業は資金
調達を行っていた。資金の調達と融資の観点
からみると、銀行と企業はほぼ同一の経済主
体と解釈しても良い。
資産内容が良い企業は、必ずしも借り入れ
に頼らなくても、自らの資産で投資活動を行
うことが出来る。一方、可能な限り借り入れ
を行い、投資を増やしたい企業にとっては、
海外投資家が融資をしてくれるのかどうか、
いくら貸してくれるのかが、鍵となる。
以上の状況をモデルで説明しよう。投資に
関しては、2 つの制約式が存在する。
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まずひとつは、借り入れ制約である。
It (1 +β)Wt
実際の投資額
(a)
45 度線
I を今期の投資額、W を資産量とすると、
(a)
式は、資産のβ倍まで投資が可能であること
を示す。
もうひとつは、Rate of return 制約であり、
通常の金利平価で表される。
(1+rt)
(et/et+1) (1+rt *)
図表7 投資の決定と複数均衡
(b)
(a)式の借り入れ制約の下で、投資インセ
ンティブが働いている企業では投資を新たに
行うことによって次期の資産が増え、さらな
る借入額増加が可能となり、ますますファイ
ナンス可能な投資額を増やすことが出来る。
このような状況では、海外からの借り入れコ
ストが鍵となる。つまり、制約式(b)がバ
インディングとなる。
図表7は資産内容と投資額の関係を表した
ものである。資産内容が良くなるほど、企業
の投資額は増えていく。資産内容(および投
資額や資本ストック量)がある水準を越えて
多くなると、企業はそれ以上の規模拡大のイ
ンセンティブが減ってくる。すると、企業は
保有する資産以上の投資は行わず、投資額は
増えず横ばいとなる。逆に、資産内容が悪く
なるほど、可能な投資額も減少する。ある水
準を割って資産内容が悪くなると、その企業
に誰も融資をしてくれないため、企業はまっ
たく投資が出来なくなってしまう。
モデルでは、高位均衡と低位均衡の二つの
均衡(複数均衡)が存在する。
企業の資産内容が良く、投資量が多く、海
外融資のある状態を高位均衡とよぶ。高位均
衡では、企業は資産量が豊富(かつ、貸し
手も貸してくれる)ので、借り入れ制約(a)
には直面しない。Rate of return(b)が制約
となり、この制約によってはじめてそれ以上
の借り入れ(および投資)を行わない。
一方、海外借り入れが行えず投資が出来な
い状態を、低位均衡という。低位均衡では、企
高位均衡
低位均衡
資産内容,資産量
業が借り入れに見合うだけの資産を持っていな
い、あるいは貸し手が何らかの理由(減価期待
による資産悪化、情報の非対称性など)で融資
を拒むため、投資が全く行えなくなる。投資額
はゼロとなる。多くの企業がこのような状況
に陥ると、その国への海外からの資金流入減に
よって為替下落圧力がかかる。すると、さらに
企業の資産内容が悪化する。最終的には金融危
機と通貨危機に陥ってしまう均衡である。
このモデルでは、高位均衡から低位均衡に
移動する状況が通貨危機と金融危機の併発を
意味する。すなわち、外貨建て債券を資産に
含み、かつそれを担保に海外からの借り入れ
を行っている。このモデルでは、通貨価値の
下落がバランスシートの悪化を招く(通貨危
機→金融危機)
、あるいは、バランスシート
の悪化が海外からの資本流入を減らし、通貨
危機になる(金融危機→通貨危機)からであ
る。通貨危機の発生が資産内容の悪化と投資
額の減少による金融危機を引き起こすメカニ
ズムは、いくつか考えられる。たとえば、為
替減価期待が、企業や銀行のバランスシート
悪化を予測させ、それが資本流入減または資
本逃避につながり、通貨危機を自己実現化さ
せるプロセスである。他には、銀行や企業の
資産内容が悪化し、海外からの借り入れが出
来なくなり、資本流入減または資本逃避が起
こり、為替減価圧力がさらに資産内容を悪化
させるという循環である。ただし、このモデ
ルでも、危機に陥るタイミングや、なぜ海外
の投資家が融資を拒むのかという点に関して
62 開発金融研究所報
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は、特定化することが出来ない。
第 3 章 通 貨 危 機 の タ イ プ と
IMF による支援の意義
* 10
通貨危機は、当局が固定相場制度を放棄し、
為替制度が変わるというだけではない。外貨建
て債務の多い金融機関や企業では、為替下落
による自国通貨建て返済額が急増し、倒産に追
い込まれるケースもある。国内経済への混乱だ
けではない。一国での通貨危機が、周辺諸国の
経済に影響を及ぼす場合もある。通貨危機の伝
播である。1994 年末のメキシコ危機の際には、
他のラテンアメリカ諸国への伝播は食い止めら
れたものの、
1997 年7月のアジア通貨危機では、
半年以上にわたり周辺諸国でも通貨下落が起き
た。
1998年春から夏のロシア通貨危機の場合は、
直接には周辺国の通貨下落を引き起こすことは
なかったが、その年の 10 月にアメリカのヘッ
ジファンド LTCM の破綻の遠因となり、さら
にその後の急速な円高ドル安につながるなど、
影響は世界中に及んだ。このように、通貨危機
は、国内や国際経済に深く、しかも長期にわた
る影響を及ぼすため、万一にも通貨危機が発生
した場合には、IMF や先進国が中心となって
支援を行う。
以下では、通貨危機のタイプ別に、IMF
の支援の意義を考察する。
1.第一世代モデルの通貨危機と IMF 支援
第一世代モデルのタイプの通貨危機は、原
因がファンダメンタルズの悪化であることが
明らかである。従って IMF は、財政赤字の
削減や、外貨準備を積み増すなどファンダメ
ンタルズを改善するように指導を行い、それ
と同時に支援を行う* 11。
風邪をひいてこじらせてしまうと、完治さ
せるまでには時間がかかる。肺炎に至っては
大変である。風邪をひかないよう、日ごろか
ら注意をする、注意をさせるのが、IMF の
役割の一つでもある。
それでも風邪をひいてしまった場合には、
悪化しないうちに出来るだけ早い段階で風邪
を治す必要がある。IMF の役割のひとつで
ある Lender of Last Resort (最後の貸し手)
の機能は、資金供給による流動性の確保目的
としている。一時的な流動性不足による通貨
危機が発生した場合には、大量の流動性を供
給し、通貨危機をおさめて為替市場の安定を
はかる。その国の経済が救済によって立ち直
る可能性が高く、かつ時間があれば資金の返
済に問題がない場合には、一時的な流動性の
供給は、意義がある。
メキシコ通貨危機の場合、1994 年 12 月 20
日に 15%の通貨切り下げが行われ、その後1週
間とたたずにペソの価値は半減した。経常収支
赤字が GDP 比で8%に達し、国内でのインフ
レ圧力を背景に為替レートは実質切り上がりつ
つあったが、
一方で資本流入もあった。ただし、
1994 年春から外貨準備高の公表が行われなく
なっていた。当局が、外貨準備の減少に着目し
た投資家によるペソ売りや資本逃避を恐れたか
らといわれている。メキシコでは 財政赤字を
短期国債(テソボノス)を発行することで補填
していた。
テソボノスはペソ建て債ではあるが、
金利が為替に連動する仕組みとなっており、投
資家からみると実質上ドル建て債と変わらず、
メキシコ政府にとってはペソが切り下がった場
合に、債務が一気に膨らむ構造となっていた。
通貨下落のスピードが極めて速かったのは、投
資家が外貨準備の枯渇を予想してペソ売りに拍
車をかけたと考えられる。
1995 年1月に入り、IMF では貸付限度の
ルール変更処置をとり、IMF とアメリカでの
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*10 この章は、国際協力銀行・開発金融研究所のセミナーにおいて伊藤隆敏教授から頂いたコメントを基にしている。
*11 外貨準備の量は、従来は輸入の3ヶ月分といわれていたが、アジア通貨危機を経て、現在では短期の外貨建て債務1年分相当
が妥当とされている。
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救援が実行された。IMF は、メキシコの危機
を流動性不足による危機ととらえ、さらに、
周辺諸国への波及を恐れたのだが、結果とし
て、危機の伝播は防ぐことができた。メキシ
コでは財政赤字を国債発行でファイナンスし
ていた点、および IMF の LLR としての機能
が効いたという点においては、メキシコ危機
への IMF の対応は第一世代モデルに対する処
置といえるだろう。
ロシア危機の際にも、1998 年春にすでに
財政赤字解消の兆しが見られない点が指摘さ
れていた。財政赤字補填のための国債の借り
換えもスムーズにいかず、国債の短期化や利
回りの上昇が顕著であった。1998 年7月 20
日に IMF はロシアに対して 48 億ドルの融資
を行ったが、ロシア危機は治まらず、結局、
1998 年8月 17 日にロシアはルーブルの実質
的切り下げと対外民間債務の 90 日モラトリ
アムを発表し、事実上の債務不履行に陥っ
た。IMF 内部では、1998 年7月の融資プロ
グラムは「甘すぎた」
、すなわち、7月の段
階でもっと強く改革を迫るなり、通貨切り下
げを受け入れさせるべきだったのではないか
という指摘もあった。しかし、IMF や G 7
など先進国がロシアの債務不履行を許すはず
が無いと、市場では楽観的な期待があったた
め、この高利回りの短期国債に欧州などの投
資銀行を中心とした大量の投資が行われてい
たのも事実である。ロシアのケースは、IMF
の LLR 機能よりは、むしろ、モラル・ハザー
ドの典型的な例と考えられよう。
2.第二世代モデルの通貨危機と IMF 支援
第二章の図表3のように、投資家の保有する
通貨の合計量 12 単位にくらべ、当局が 20 単位
と圧倒的に多くの外貨準備を持っていれば、投
資家は投機を仕掛けても成功しないことを察知
するために、通貨危機は発生しない。一方、図
表4のように、当局の保有する外貨準備が6単
位と小さい場合には、自己実現的な通貨危機が
発生してしまう。外貨準備量が図表5の 10 単
位のように、十分に多くもなく、少なすぎるわ
けでもない状態では、投資家の期待によっては
通貨危機が発生する可能性がある。
20 単位やそれ以上の十分な外貨準備を持
つ国は、すぐにも通貨危機に陥る可能性があ
るわけではない。従って、IMF は年に 1 度
の当該国へのミッションで、ファンダメンタ
ルズに関するサーベイランスを行い、継続的
なモニターを続ける* 12。
通貨危機に陥るかもしれないが、回避出来
るかもしれない、10 単位の外貨準備量をも
つ国が万一に通貨危機に陥ってしまった場合
は、
ファンダメンタルズが良好な国であれば、
素早く大量の流動性供給を行い、外貨準備を
20 単位や 30 単位までも増やし、通貨売りを
防ぎ、為替市場を安定させ、国内経済や周辺
国への影響を最小限にするべく、
救済を行う。
そして、その国が通貨危機から立ち直れば、
供給した資金を返却してもらえば良い* 13。
さて、外貨準備が6単位と少ない国に対し
て、IMF はどう対応するであろうか。このよ
うな国では、マーケットのごく一握りの投資
家の投機だけで通貨危機に陥ってしまう。ファ
ンダメンタルズが良好な国であれば、サーベ
イランスの段階で IMF は外貨準備をもう少し
増やすよう、アドバイスを行っているであろ
うし、そのような国であれば、外貨準備が非
常に少ないということは余りはないであろう。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*12 IMF のスタンスはマクロ政策がきちんと行われていれば基本的には投機は受けないというものである。ファンダメンタルズ
が良いにもかかわらず、伝播や何かしらの理由で投機を受けた場合には、貸し付けによって救済するという考え方である。ア
ジア各国が通貨危機後に外貨準備を積み増している理由として、このようなモデルの意義を理解しているためと考えられる。
*13 韓国の通貨危機の際には、IMF は SRF(Supplemental Reserve Facility)という機能を追加して、資金供給を行った。それ
までは、IMF は出資金の5倍までしか貸し出しをすることが出来なかったのだが(access limit)、SRF は access limit を超えて
貸すことが出来る。SRF は1年限で(延長、借り換えは可能)金利も若干高めである。SRF を使い韓国には出資金の20倍まで
貸し出しが行われた。
64 開発金融研究所報
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仮に、IMF が 20 単位や 30 単位の流動性を供
給して、一時的に通貨危機をしのいでも、こ
の国の為替制度が安定し、IMF へ資金の返還
が行われるかどうかは不明である。おそらく、
このような国には IMF は救済に入っても救援
資金の返却を見込めず、投資家も(IMF が支
援に入らないため)破綻の可能性のある市場
では取引を行わないであろう。
外貨準備が 10 のレベルの危機に陥った国に
IMF が資金供与を行った例は数多い。アジア
通貨危機では、IMF 支援を受けたタイ、イン
ドネシア、韓国はすべて、上記の例では外貨
準備が 10 に相当した国であったといえる。
3.第三世代モデルの通貨危機と IMF 支援
銀行や企業の資産内容に応じて借り入れ額
と投資額が決まり、それが次期の資産を決定す
るような状況でも、第一世代モデルや第二世代
モデルと同様、IMF は危機の発生前に、資産
内容を改善するよう勧告をする。IMF が直接
に各国の金融機関や企業にアドバイスを行うわ
けではないが、海外資金調達の多いセクターで
は通貨のミスマッチが発生しているため、通貨
危機発生の原因となりやすい。さらに、資産内
容の悪化の程度によっては、無理な借り入れを
禁止し、デフォルトのリスクを最小化する必要
がある。金融機関が融資の回収に失敗した場合
に政府の援助を当て込んで、パフォーマンスの
悪い企業にも融資を続けると、何らかの外的
ショックが起こったときに、海外からの調達資
金の返済の目処が立たなくなり、一気に信用を
失うことになる。それが、資本逃避と為替下落
プレッシャーを招き、急激な通貨危機の発声を
招くからである。
これは、日本において、金融機関が必ずし
も返済のあてのない、パフォーマンスの悪い
企業に融資を続けた末、不良債権化し、銀行
のバランスシートが悪化した状況と同じであ
る。返済の当ての無い国に資金援助を続けて
も、最終的には通貨危機を回避できない可能
性がある。また、その場合に、援助資金の回
収が困難となる。また、IMF が支援に入っ
てデフォルトをさせないだろうと考え、その
国に資金融資を行う(海外)投資家がいるか
もしれない。すると、モラル・ハザードを許
す結果となる。
第三世代モデルは、パフォーマンスの悪い
企業の存続が国内経済の発展を阻害している
モデルとおなじロジックで、本来ならば淘汰
されるべき金融機関や企業の存続が通貨危機
を誘発する。IMF 支援がそれら赤字セクター
の淘汰リスクを吸収してしまうために、出資
者がリスクを考慮せずに投資して、万一のと
きには IMF 支援の恩恵を受けるというモラ
ル・ハザードを生み出している。
低位均衡を脱却して高位均衡に移るため
に、赤字主体に対する IMF による流動性の
支援だけでなく、効率的な投資機会を生かし
きれない企業の(必要な)淘汰も視野に入れ
たプログラムが必要となるであろう。
実際、アジア通貨危機を経て、各国の金
融セクターの健全性が Twin crisis(銀行危
機と通貨危機の同時発生)を防ぐために重
要であると改めて認識されるようになった。
各国の金融セクターが健全かどうかを判断
す る 一 つ と し て、FSAP(Financial Sector
Assessment Program)が実施されるように
なっている。
4.IMF の役割と機能の再考
IMF の重要な役割のひとつは、通貨危機
を防ぐ、あるいは発生した危機を激化しな
いよう、適切なマクロ政策の採用を条件に
(Conditionality)資金を貸し付けることであ
る。IMF 単独での資金供与だけでなく、G 7
諸国と共同で貸付を行う場合もある。たとえ
ば、メキシコ通貨危機の際には IMF とアメ
リカが、タイ通貨危機の際には IMF と日本
が二国間貸付を行った。しかし、近年の通貨
危機に関して、IMF の支援が目的を達してい
ないという批判がみられるようになった。と
くに、アジア通貨危機のときに、危機を予防
できなかったばかりか、IMF が入ったこと
でむしろ危機が悪化したとの批判が起きた。
2006年8月 第30号 65
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IMF の資金貸付は、元々の出発点は、最
後 の 貸 し 手(Lender of Last Resort, LLR)
としての機能であった。通貨危機に陥った国
への巨額の資金供給を行い、外貨準備不足の
解消を図るともにマーケットの投資家の信頼
を回復することを目的としていた。
通貨の急激な下落は経済や国民生活に必要
以上のダメージを与える。
それだけではなく、
通貨危機は周辺国への伝播を引き起こし、地
域一体の経済停滞を招く。もし、IMF によ
る一時的な資金貸付が、外貨準備不足の解消
による為替安定や、マクロ経済の改善につな
がり、その後にきちんと資金が返済されるな
らば、この資金貸付は望ましいものである。
これこそが IMF の LLR としての役割りであ
る。第一世代モデル型の通貨危機では、最後
の貸し手としての機能が有効であり、そのた
めに、90 年代型の通貨危機が頻発するよう
になるまでは、LLR を目的とした IMF の機
能強化と資金強化が行われてきた。
近年、通貨危機の発生頻度が多くなり、そ
の規模や影響が大きく、さらに、第二世代
モデルや第三世代モデルのように、危機発
生の原因がマクロファンダメンタルズを離れ
るケースが多くなるにつれ、迅速かつ適切な
IMF 支援が課題となってきた。IMF に求め
られる役割も複雑になってきている。まず、
通貨危機が起こった国で、ファンダメンタル
ズが悪いのか否かを識別するのは難しいし、
もし、ファンダメンタルズが元々悪い国で
あれば、LLR が適切なのかどうか、判断も
難しい。通貨危機発生後の危機管理を、IMF
と当該国のマクロ経済運営だけに任せてよい
のかという議論が出てきた。
通貨危機への対応は、各国の自助努力が原
則であることはいうまでもないが、
最近では、
最後の貸し手機能が、モラル・ハザードを助
長しているという懸念がある。
投資家が投機に成功し、自己実現的な通貨
危機が発生した場合に、投資家はどの程度得
をするのであろうか。
現実には、
多くのエマー
ジング・マーケットがハイリスク・ハイリター
ンの投資先となっている。投資家は、本来
は、ハイリスクを負って、ハイリターンの投
資を行っているはずである。ところが、投資
先の国が通貨危機に見舞われると、投資家は
一斉に資金の逃避を行い、通貨下落に拍車を
かける。さらに、デフォルトリスクに関して
は、IMF の支援が入るために、投資資金が
戻ってこない可能性が小さい可能性がある。
実質的にはローリスク・ハイリターンの投資
環境を生み出していることになる。つまり、
IMF の最後の貸し手機能は、民間の貸し手
が IMF の資金供与により救済される(Bail
out)ことを期待して、事前に貸し込むこと
につながっており、モラル・ハザードを招く
ことが多くなってきた。
このような状況のなか、民間の貸し手は、
政府破綻や通貨下落のプレミアムをとって
投資を行っているのだから、通貨下落が起
こったときには応分の負担をすべきだとい
う指摘がでてきている。ここでいう投資家
にとっての応分の負担とは、たとえば、一
時的貸し残高の維持や、債務削減に応じる
ことなどである。
このように民間部門を救済のプログラム
にもとりいれる機能を民間協力型(Private
Sector Involvement, PSI)という。いかに、
民間協力型の機能を構築するのかについて、
集団行動条項(CACs)をいれる、あるいは
IMF が中心となって国家債務再編メカニズ
ム(SDRM)といった案が検討されている。
Private sector involvement を第二世代モ
デルに置き換えると、投資家にとって投機費
用が高くなるような状況を設定することであ
る。図表5の外貨準備が 10 のケースにおい
て、もし投機費用が 1 ではなく3単位かか
るのであれば、二人の投資家が各々5単位ず
つ通貨売りを行うと、投機から得られる利益
は5×2分の1= 2.5、したがって、投機費
用を差し引くと利益はマイナスになってしま
う。費用が高くなると、投資家にとって、投
機を仕掛けないことが得となる範囲が広が
る。つまり、自己実現的通貨危機が発生しに
くくなるはずである。
通貨危機の発生が第二世代モデル、第三世
66 開発金融研究所報
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18:00:28
代モデルのように変化していく中では、IMF
の支援だけに頼らず、今後は各国の自助努力
がますます必要となっている。さらに、為替
レート体制や資本移動モニタリング、地域全
体での金融協力なども、IMF・世銀体制と平
行して重要である。
第4章 結び
本稿では、最近の通貨危機に関する理論の
説明および 1990 年以降に頻発している危機
との対応を紹介した。また、IMF の支援と
通貨危機のモデルとの関連性についても、実
際の危機への対応と合わせて解説を試みた。
各通貨危機はひとつのモデルだけに当てはま
るのではなく、背景やきっかけ、IMF の対
応など、様々な要素を含んでいる。通貨危機
の発生も、第一世代モデルとよばれたファン
ダメンタルズの悪化が主たる原因であった時
代から変化し、最近はマーケットにおける投
資家の期待形成、ミクロレベルでの経済シ
ステム(金融機関や企業システム、市場の
discipline など)が絡んだ、より複雑なもの
へと移りつつある。したがって、
危機の予知・
予防も難しくなってきている。さらに、いっ
たん危機が起こった場合の対処はより難しく
なっているといえよう。
近年、経済学界で注目されている事象の一
つが、アジアにおける外貨準備の急増である。
アジア地域は、通貨危機を経て、自分で自分
を守る(self insurance)方法として、外貨準
備を積み増す手段をとっている。通貨危機の
際に 10 単位で苦しんだことを教訓に、ここ
数年で自力で 20 単位、30 単位と増やしてい
る。危機の予知に関する研究、通貨危機の影
響(Contagion)や外貨準備に関する研究など、
通貨危機の投げかける問題は広く、大きい。
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2006/08/04
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