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第 3 章 米国の人材養成26

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第 3 章 米国の人材養成26
第3章
米国の
米国の人材養成26
1.米国における
米国における人材養成
における人材養成の
人材養成の概要
1.1 21 世紀人材委員会報告
人材養成の政策にかかる政策目標については、後述する労働力投資法(Workforce
Investment Act:WIA)の規定に基づいて設置された 21 世紀人材委員会が、2000 年 6
月に提出した報告書に述べられている。この人材委員会の報告書は、アメリカの教育を踏
まえた包括的な職業訓練及び人材養成政策の指針となるものである。
1.2 基本的スタンス
基本的スタンス
21 世紀の経済が、現在及び将来にわたり健全であるかどうかは、いかに青少年が新しい
レベルの読み書き能力を広く深く習得するかにかかっている。21 世紀人材委員会は、この
「21 世紀の読み書き能力」(21st Century Literacy)を「十分な読み書き計算能力、分析的
思考能力、共同作業を行う能力並びに技術を用いる知識能力」と定義して、読み書きに加
え、計算能力の重要性を喚起している。
同委員会は、各専門小委員会での意見聴取や調査の結果を踏まえ、また 21 世紀のハイ
テク分野に対応した高技能労働者を育成確保するため、各分野の有識者、専門家、経営者
が指針となる 9 個の提言を策定した。
1.3 人材養成に
人材養成に関する提言
する提言
① 21 世紀の読み書き能力向上
教育と訓練の伝統的な境界を取り払い、双方に通ずる人材の配置、21 世紀に通ずる読み
書きの習得と IT の実情にあった教育戦略、さらにインターネット情報技術の活用、就業
促進のための教育、基礎的教育、再教育の必要性を骨子とした提言。
② パートナーシップを通したリーダーシップ
労働市場が求める IT 技能習得や生涯学習の機会向上に向けたパートナーシップの構築、
職業技術能力開発の機会創出、IT 労働力拡大、高技能保持労働者の育成、各施策の統合見
直しを図る作業グループ設置等の必要性を提言。
③ 若年者を対象とする種々の教育訓練機関の連携
各ハイスクール間の連携強化、ハイスクールの能力開発強化、民間企業と連携した勤労
体験の実施、適応力の少なくなった伝統的職業訓練の改善、地域経済から需要ある職業訓
練の計画と実施等。
④ IT 雇用のための施策の認識
基本的技能から IT 技能訓練に乗り換える成人の支援と対応、支援の施策、労働力投資
法に基づく成人者支援、ワンストップキャリアセンターの活用等。
人材養成はここでは人的資源開発(HRD)と同義語として、職業教育訓練、教育、訓練、職業訓練
はその一部とする。
26
35
⑤ IT 技能労働者にかかる移民政策の弾力化
IT 技能保持者を確保する移民政策の弾力化、その具体策としてビサ発給枠の拡大、ビサ
申請料を値上げして、その差額を IT 技能訓練への充当等を骨子とする。
⑥ 継続学習の拡大
新しい技術や仕事の方法が現れるのに対応して教育訓練内容の見直し、技能評価の実施、
IT 職業訓練税の創設、失業者への生計維持手当の支給検討、配置転換者への訓練に補助金
支給等が拡大政策として策定されている。
⑦ IT 技能獲得の促進
IT 職場において必要な最新の技能と知識を学ぶため、ハイスクール卒業生に対する IT
技能と知識獲得のための支援、女性や不利な立場に立たされやすいヒスパニック系その他
の移民に対しての同じ支援の特別措置や配慮をして、IT 技能促進を行う政策。
⑧ 学生のレベルの向上
特にハイスクールレベルのカリキュラムの見直し改善による学業到達度の向上、そのカ
リキュラムに対応できる質の高い教員の育成、生徒の能力向上への機会均等、企業から補
助的講師の派遣計画等の策定。
⑨ インターネットの普遍的活用
個人、家庭をも含むネットワーク接続の促進、低コストオンライン訓練システムの構築、
インターネット関連の訓練の機会提供、インターネット利用者への助成金、インターネッ
ト関連税制の策定。
2.米国の
米国の教育制度
2.1 若年者教育について
若年者教育について
米国では、教育は連邦政府よりも各州の責任事項とされ、各州それぞれ独自の教育制度
が存在している。さらに一般初等・中等教育に関する権限は州及び地方が管轄しており、
かなりの部分を教育行政の単位としている学区(School District)に委託している。この
ため米国では各州、学区により様々なタイプの若年者教育が行われているが、一般的には
初等、中等学校は公立で設置されている。高等教育も州の管轄となっているが、連邦政府
として全米共通の高等教育制度が確立している。米国教育制度は図表 3-1 のようになっ
ている。
36
37
(1)教育体系
初等、中等教育は全国一律に計 12 年である。その間は義務教育となり、公立学校の場
合、その費用は無償となっている。義務教育の開始年齢は 7 歳と一律であるが、初等中等
教育は 6-3-3、8-4、6-6 制など様々であり、高等教育は大きく 4 年制と 2 年制(短期)大
学に分けられ、その後大学院に進んでさらに数年教育を受ける場合がある。1997 年の高等
教育への進学率は、45.7%である。初等、中等教育における生徒の 88.7%は公立に通って
いる。
(1999 年)27
(2)初等教育
学校制度は州あるいは学区ごとに各々決められており、伝統的な 8 年制、6 年制が一般
的である。1960 年から初等教育から中等教育への円滑な移行を目的にミドルスクール(中
等教育)を設けた州がある。公立の初等、中等教育の財源は連邦 6.6%、州 48%、地方の
学区 42.9%、その他として各自から教材費、給食費等が 2.5%となっている。今日では州が
貧困学区に対してより多くの援助を与えることにより、教育の均等を調整している。
(3)中等教育
中等教育はハイスクールで行われ、下級ハイスクールは 2 年又は 3 年で小学校 6‐8 年
後に接続される。14~17 歳で(第 9~12 学年)の進学率は約 95%である。しかしドロッ
プアウト率の高さが問題となっており、通常の卒業年である 17 歳時点での修了者の割合
は約 75%にとどまっている。その理由として、特に中等教育への入学は比較的容易である
が、入学後に要求される課題が多く、成績の悪い学生は在籍し続けることが困難であるこ
とが考えられる。
ハイスクール中退であることは、就職時に極めて不利な立場となるため、ハイスクール
卒業検定(GED: General Education Development)等の救済措置が取られている。1998
年には 79.6 万人が GED 試験を受け、49.6 万人が合格して資格を得ている。地域に寄与し
ているコミュニティーカレッジも卒業訓練の検定準備の教育を提供している。
(4)高等教育
産業界のニーズに応じた知識を身に付けることを目的とした教育を実施しており、学
士・修士・博士の学位を修得することは安定した雇用と給与につながると言われている。
4 年制大学は総合大学、リベラルアーツから専門教育に至る様々な教育を行い、2 年制の
短期大学は主としてコミュニティーカレッジ、また私立の機関ではジュニアカレッジと呼
ばれる。コミュニティーカレッジについては 2.3 成人教育 (1)コミュニティーカレッジに
て詳しく説明しているので参照して頂きたい。
中等教育を修了後、すぐに大学等に進学しての学位取得状況は 60.4%、そのうち学士と
しては 53.3%(残りは修了認定書、準学士の扱い)
、留年が 15.2%、中途で退学が 24.4%
となっている。28
27
28
出典:海外人づくりハンドブック,米国、海外職業訓練協会,上西充子編著,平成 13 年 3 月
出典:Digest of Education Statistics,1998
38
進学せずに就職した者、進学したが学位取得に至らなかった者、学位取得後就職したが、
その後に更なる高学位を目指す者、学位は目指していないが自分のキャリア向上のために
中等後教育に参加する者は米国では珍しくない。
(5)大学院に
大学院における教育
おける教育
大学院の組織は各大学によって異なるが、多くの大学では制度的に学部から独立した教
育研究組織として設置されている。施設等は学部と共有、教員は同じ学部の学生を教えて
いる場合が多い。大半の大学では、教育テスト事業団(ETS)が実施する大学院入学資格
試験を判断材料としている。4 年生の学士課程に加えて、大学院は修士課程と博士課程から
成り、Ph.D.等の取得を目指した学問研究を重視した課程と、経営学(MBA)
、工学(D.Eng.)
、
医学(M.D.)等の職業学位の取得を目指した大学院専門教育課程とがある。
(6)教育費
一人当たりの平均教育経費は、小中学生 4,381 ドル、高校生 5,957 ドル、大学生は 9,571
ドルである。なお日本は 30 ヵ国29中、11 位であり小中学生 8,911 ドル、高校生 6,226 ド
ル、大学生 10,914 ドルである。30
2.2 「Goal:
Goal:2000」
2000」
1990 年代には米国の国際競争力の低下が問題視され、
そのため従来の教育の見直しが行
われた。第 1 にはアカデミック分野の学習強化、第 2 に教育の中に職場に関係する学科を
取り込み、学校から職場への移行を円滑化する方向である。新世紀を期して新たに「2000
年の教育(Goal 2000:Educate America Act)
」が制定された。
国家の目標として下記 8 項目が定められた。
就学前の教育の励行
ハイスクールの学業終了
学業の達成と市民としての人間形成
教師の教育と専門性の向上
数学と科学分野の履修励行
成人の識字率向上と生涯学習の勧め
安全と規律の遵守
両親の参加
オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、
ギリシャ、アイスランド、アイルランド、イタリア、日本、ルクセンブルグ、オランダ、ニュージーラ
ンド、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、米国、韓国、ハンガリー、
チェコ、ポーランド、スロバキア、メキシコ、トルコ:30 カ国における教育に関する調査。
30 出典:Education at a Glance,OECD Indicators 2005, OECD Publishing
29
39
2.3 成人教育
米国の成人教育は州、学区、初等中等機関、大学、コミュニティー及びこれら以外の教
育機関、企業など多様な機関が教育機会を提供している。移民子弟、ドロップアウトを対
象とした成人基礎教育、高校ドロップアウト対象の成人中等教育、通信教育、夏期講座、
夜間大学、宿泊研修など各種教育プログラムが提供されている。一部の企業では、大学に
匹敵する高度なプログラムを従業員に提供している。
(1)コミュニティーカレッジ
コミュニティーカレッジはアメリカの人材育成で極めて重要な役割を果たしており、州
及び地域の基金により設立運営されている 2 年制の短期大学である。全米に約 1,000 校あ
まりあり、現在、学生数は約 550 万人と推定され、中等後教育、継続教育の受皿として地
域のニーズにこたえている。2 年間の課程で修了時に準学士号が受けられる学術的なもの
と、地域ニーズに合った職業教育訓練的なものとに分けられる。入学するための年齢に上
限がなく、また授業料も安いことから、勤労者等にも広く門戸が開かれている。職業能力
開発面では、会計、ビジネス管理、通訳、法律実務、歯科、医療補助、自動車整備、航空
整備等地域のニーズに対応した職種に幅広い訓練機会が提供されている。
カレッジの多くはハイスクール卒業資格のほかは入学資格を問わない。大学レベルの教
育を受けるための準備ができていない者に対しては、必要に応じて特別な準備教育をして
いる。授業料は定額で低く抑えられており、奨学金制度も受けられ、ほかの資金援助も併
せて幅広く利用されている。
3.米国の
米国の職業能力開発
3.1 労働力投資法に
労働力投資法に基づく施策
づく施策
(1)労働力投資法(
労働力投資法(Workforce Investment Act : WIA)
WIA)
現行の全国レベルの職業能力開発制度は、1998 年に制定された労働力投資法に体系的に
網羅されている。WIA 法には、それまでの連邦プログラム職業訓練パートナーシップ法
(Job Training Partnership Act)のほかに、成人教育及びリテラシー・プログラム、職業
リハビリテーションプログラム等が統合されている。そのため「職業訓練パートナーシッ
プ法」の一部であった公共職業紹介活動はワンストップセンターに組み込まれることとな
った。
WIA は経済的に不利な立場にある若者・成人
(Economically Disadvantaged groups)
や、非自発的離職者(Dislocated Workers)等の利用者重視で、米国国民がキャリア育成・
開発に必要なツールを利用できるように、また米国企業が熟練労働者を雇用できるように
意図されている。
その予算は連邦政府から拠出されるが、その管理は州政府が行う。また、州政府は地方
の労働力投資委員会(WIB: Local Workforce Investment Boards)に資金を提供し、WIB
が地方レベルで、実際の職業訓練や各種のサービスを提供する企業・機関を指定し、実際
の運営を行っている。
40
労働力投資法の施行により、各州は訓練供給者の選定に関与しながらもその機関に実施
を委託してきた協力法と違い、利用者に訓練コースの選択を認めるなど運営方法に変更が
加えられた。
(2)労働力投資法に
労働力投資法に基づく施策
づく施策の
施策の概要
職業訓練協力法のほか、成人教育読み書きプログラム、職業リハビリテーション、ワン
ストップキャリアセンターの活動の一部が組み込まれている。今までの協力法の次の内容
を継承している。
州単位の職業訓練調整協議会の設置
職業訓練の供給地域(Service Delivery Area)の決定
民間産業評議会の設置
労働力投資法においては更に次の三委員会を増設している。
州労動力投資委員会(State Workforce Investment Board)
地区労働力投資委員会(Local Workforce Investment Board)
若年委員会(Youth Council)
1)対象者
職業訓練協力法では、対象が経済的に不利な立場にある成人及び若年者並びに非自発的
離職者であったが、投資法においては成人について 18 歳以上すべての成人を対象として
いる。公的扶助受給者、低所得者は優先されることとなっている。
2)訓練の位置付け
投資法では、非自発的離職者に対するサービスを以下の 3 つに区別している。
①基本的なサービス(Core Service)
すべて成人に対して行うサービスで具体的には職業紹介、労働市場に関する情報提供、
技能に関する評価、需要に関する評価等。
②重点的サービス(Intensive Service)
基本的なサービスでは就職できない失業者に提供されるものであり、具体的には総合
的評価、個人別雇用計画、個人的カウンセリング、職業準備のサービス等。
③訓練(Training)
3)成人及び非自発的離職者の訓練にかかわる個人訓練勘定
協力法では通常、民間産業評議会がプログラムの実施を委託して、訓練希望者は契約さ
れたプログラムのいずれかに参加することとなっていた。しかし投資法では、個人訓練勘
定によって、個人が自ら訓練を購入することとなっており、契約による委託とは異なる。
しかしそれぞれの訓練提供機関は、州が認定した期間で最低の成果基準を上回る実績を上
げていることが条件となっている。
4)教育を重視する若年者プログラム
主要な目標は、高卒同等資格の取得支援、学科教育と職業教育の連携、適切な成人指導
41
者による助言指導、就労体験及び職業技能訓練などによって総合的な雇用可能性を高めて
いくものとしている。
5)成果を基準とする管理
協力法と同様に投資法によるプログラムも成果を基準とする管理が行われる。成果基準
の具体的なものを以下に挙げる。
成人及び非自発的離職者については、就職、雇用の継続、賃金、教育及び訓練の習得
度等。
若年者の場合、高校卒業学位、基礎的な技能、就職準備、職業技能の習得等。
また、訓練受講者、事業主の満足度にかかわる評価も行われる。
6)州及び地域労働力投資委員会
委員会は州の労働力開発活動状況を管理し、連邦長官への報告、5 ヵ年計画を策定する
に当たり、計画、管理、訓練提供機関の指名をすることとなっている。地区の業績にかか
わる協議、労働市場情報システムの開発支援と助言を行う。
7)助成金の仕組み
投資法の助成金は以下のように対象者別に配分されている。
成人及び若年者への補助金の 85%は地区に配分され、残りは州へ配分される。
若年者の場合、助成金総額が 10 億ドルを超えた場合、その超過部分は 2 億 5,000 万ド
ルを限度として連邦労働省の若年者助成金に用いられる。
非自発的離職者の助成金に対しては、その 20%が緊急助成金、非自発的失業者の求職
活動及び技術的支援に対する連邦労働長官の準備金となる。残り 80%に関しては、
48%が地域区に、12%は州に、20%は州の迅速な対応にかかわる活動のために配分さ
れる。
3.2 ワンストップキャリアセンター(
ワンストップキャリアセンター(One Stop Center)
Center)
ワンストップキャリアセンターは公共職業安定所の性格を有し、雇用、教育及び訓練に
関する情報と職業紹介、雇用に関する相談援助サービスを一ヵ所で得られるようにするセ
ンターとして、全国で大半の州(95%)に 800 ヵ所設置して整備されている。公共訓練と
職業紹介を合わせることで、求職者のみならず、事業主も利用できることとなっている。
提供される主なサービスは、以下のとおりである。
① 基本的サービス :職業紹介、労働市場情報の提供、スキルの評価など。
② 重点的サービス :基本的なサービスで雇用を確保されない者に、個人別雇用計画の
開発、カウンセリング、短期の職業準備サービスなど。
③ 訓練実施
:重点サービスを受けてもなお雇用を見出せない場合にはじめて、
その地域に直接関係した訓練サービスが受けられる。このサービ
42
スは、公的扶助受給者や低所得者が優先される。
(1)ワンストップキャリアセンターの
ワンストップキャリアセンターの整備活用
WIA では、ワンストップキャリアセンターの活用が大きな特徴となっている。ワンスト
ップキャリアセンターでは、雇用、教育、訓練に関する情報提供と職業紹介、プログラム
紹介、キャリアカウンセリング、各種の情報提供といったサービスを一ヵ所で提供できる
よう効率化した。就職、教育訓練への参加、失業給付などにかかわる情報ネットワークと
して整備され、図書館や学校及びショッピングセンターなどの端末からも利用できるよう
になっている。
このサービスは求職者と事業主の双方を対象としたものである。求職者は成人自発的離
職者や若年者であり、成人については所得などの制限はない。雇用を見つけることのでき
ない失業者には「基本的サービス」のほか、
「重点的サービス」さらに「訓練」が提供され、
まず仕事に就くことが要求される。
訓練については従来教育訓練提供機関に委託してきたが、利用者本位の訓練プログラム
の選択が困難であることが指摘されていた。WIA では成人訓練に関しては「個人訓練勘定」
(Individual Training Account)という一種の回数券が発券される。個人が自らのニーズ
によって訓練を購入することが基本とされ、従来の契約による委託プログラムは例外的に
扱われるようになった。
(2)労働力投資法施行後の
労働力投資法施行後の政策展望
連邦レベルでのワンストップキャリアセンターの取り組みが、より明確に制度化され、
また訓練プログラムを「個人訓練勘定」によるバウチャー制度の導入により、より分かりや
すく、より自由に訓練コースを選択でき、職業訓練協力法下での弊害が解消されてきた。
米国においては、民間及び公的機関がその時々の需要に応じた人材養成のプログラムを
用意し、企業及び個人がその責任においてこれらを活用していくというスタイルで人材養
成が行われ、機動的な対応がなされている。
労働力投資法によれば、米国労働者が現在及び将来の情報技術(IT)分野で準備して成
功する機会を得る最善の方法を検討して、大統領に勧告する 21 世紀人材委員会の設置を
規定している。今後は、特に IT 分野で豊富な人材が養成されていくことが、次世代の飛
躍につながると思われている。
4.米国の
米国の職業教育訓練(
職業教育訓練(VET: Vocational Education And Training)
Training)
4.1 日本との
日本との比較
との比較
本調査は、米国の ODA の特に職業能力開発分野の状況について取りまとめるものであ
る。しかし米国の ODA 関連での HRD、人材養成は日本と比較して 4.2 職業訓練と一般
教育及び周辺の解釈に示すように、
分野が人材養成として、
より包括的に理解されている。
また、海外におけるプロジェクトには、製造業を主とする職業別コースごとの訓練センタ
ーというものは現在実施されていない。例えばエイズ対策のための行政スタッフ教育とい
った訓練で、日本の厚生労働省がセンター派遣している製造、修理、保全といった分野が
43
少ない。
米国本国の HRD、職業能力開発、特に職業教育訓練がどのように行われているか、ど
のように海外へ波及させているかという観点から、米国における職業教育訓練の概要を把
握して、更に教育制度の概要を参照することによって、USAID、平和部隊を始めとする海
外で活躍する HRD 分野に従事する人材の背景をうかがい知ることができる。
4.2 職業訓練と
職業訓練と一般教育及び
一般教育及び周辺の
周辺の解釈
米国における職業訓練(Vocational Training)は、一般的には職業教育・訓練(VET:
Vocational Education And Training)又は単に職業教育(Vocational Education)
、更に
広域にとらえて人的資源開発(HRD: Human Resource Development)又は人間の開発
(Human Development)の一部と解釈されている。そのため、日本で解釈されている職
業能力開発は教育の分野でもあり、労働省(DOL)と教育省(DOE)の職業訓練と職業
教育のプログラムが混然としている。その大きな理由は、米国の若年者職業教育訓練を
DOL 及び DOE が連邦レベルで管轄しているが、具体的な施策を州と学区の自主に任せて
いるからである。またコンピュータの出現により、その活用、応用が学校での一般教育、
さらに訓練の現場の両方に広範囲にまたがっており、あえて指導区分けを明確にせずに両
省にて担当している。ここでは便宜上、キャリア向上、労働市場参加への準備、職業能力
の向上を合わせて目的とする職業訓練教育(VET)として扱っている。
4.3 VET 政策の
政策の背景31
アメリカでは情報技術(IT)経済の進展など産業構造の高度化に伴い、労働者にもこれ
らに対応したより高度な技能が求められるようになっている。毎年大統領名で議会に提出
される「大統領経済報告」においても、高い水準の労働力を保持した労働者の育成が最重要
として、そのような人材を目的とした高い教育水準の確保と職業訓練の充実が、今後の主
要な課題であるとされている。
2001 年 1 月に発表された同報告書では、①経済活動の向上のため人的資源開発を促進
する制度と②柔軟な労働市場の拡大が強調されている。高い技術・技能・知識を要する職
業が高い報酬を得るシステムや、経済変化に適合できる柔軟性を企業における労働者の技
能に持たせることが、米国経済に大きく貢献すると指摘している。
2000 年 2 月における前年の報告では、以下のように指摘している。
①過去 100 年間に農業及び製造業に代わってサービス業が主流になるなど、産業構造が大
きく変化し、同時に技術革新が進んだことにより、新しい技能を必要とする質の高い仕
事が生まれてきた。
②今日ほとんどの仕事が技能を必要としているが、反面そのほとんどが読み書き、計算、
コンピュータの使用、顧客に効率的に接するための対人技能が求められている。その結
31
出典:2000 年-2001 年海外情勢報告,厚生労働省,厚生労働大臣官房国際課
44
果、単純作業は全体の 8%に過ぎない。
③この 20 年間、技能労働者に対する需要が供給を上回って推移しており、また技能労働
者間の学歴による賃金格差が拡大してきている。その結果、大学卒業者の賃金は、1999
年時点でハイスクール卒業者を 68%、ハイスクール未卒業者を 147%それぞれ上回って
いる。
(1979 年ではそれぞれ 29%、57%であった。
)
④21 世紀の労働政策課題は、教育訓練の新しい展開として、労働者が新しい基礎的技能と
労働市場で必要とされる技能、知識を身に付けることができる生涯学習の枠組みを構築
することである。
4.4 米国労働省の
米国労働省のイニシアチブ
① 雇用主のニーズにこたえるため、雇用訓練局内に高度製造業、航空宇宙産業、自動車、
バイオテクノロジー、建設、エネルギー、金融サービス、医療、情報技術、小売、運
輸産業に関する調査と企業対応グループが設置された。
② 「キャリアアカデミー」制度を設置してキャリア探索と実地職業学習の機会の提供を
行う。その背景は、中等教育と中等後教育の連携を図り、高成長職業が必要とする労
働市場に若年層を送り込むパイプラインを設けるなど、学業と労働市場の成果の向上
がある。
③ 地域社会のニーズに適応した 2 年生のコミュニティーカレッジに中等後教育、訓練の
役割を認識して 2004 年には 2 億 5,000 万ドルを投じている。
④ 質の高い教育、ビジネス界のニーズへの適合、恵まれない若年者への対応、パフォー
マンスの向上の 4 分野を活動目標とした。これら 4 分野を強化促進することにより、
需要の高い、高成長の産業に対応できるとともに、職業重視型で、業界のニーズに適
応した学習プログラムが組まれるようになった。
4.5 職業教育訓練の
職業教育訓練の概要(
概要(VET)
VET)32
米国においての VET は一般に Career and technical education として 20 世紀初頭より
国の優先課題とされてきた。しかし、過去 85 年間に VET は大きく変化し、発展して広範
囲にわたる目的、プログラム、実施機関、対象者が含まれるようになった。2005 年の連邦
予算総額は 13 億 2,600 ドルとなっている。
DOE においては職業教育の役割が、改革の具体的必要性の中で項目として取り上げら
れ、政策決定者、教育学識者、地域社会指導者等によって、見直しが始まっている。
今日の職業教育の政策とプログラムは DOL 及び DOE が独自の政策とプログラムを提
供、施行している。最近の重点政策として、DOL では特に若年者が労働市場に入る準備
をさせて、労働力と経済発展の拡大の手段としている。また通常の初等、中等教育中途退
学者や失業状態にある若年者の救済に焦点を当てている。DOE ではキャリア探索を提供
するとして、職業、雇用への準備として、職業教育を提供している。
APEC 人材養成国際フォーラム 2005「若年者に対する職業教育訓練」
2005 年 11 月,
Gregg H.Weltz,
米国労働省,青少年サービス局,プログラム局,の発表したペーパーより抜粋
32
45
4.6 職業技能基準
(1)職業技能基準策定の
職業技能基準策定の意義
労働者が、技能技術を身に付けた地域から別の地域に移り就職しようとする場合、企業
に対して自らの技能・技術の水準を証明できず、
また企業にとっても他地域の労働者の技能、
技術の水準を評価することができない。そのため、全国統一的な職業技能基準
(Occupational Skill Standard)の策定が進められている。
(2)職業訓練協力法下での
職業訓練協力法下での政策効果
での政策効果
米国における人材養成のための取り組みは、実に多様かつ複雑な仕組みとなっている。
理由としては民間主導と各州の自治の尊重から民間産業評議会、地域労働力投資委員会が
具体的な職業訓練プログラムを策定、管理し、そのプログラムに連邦が補助金を支給する
という形態がとられることにある。
そのため全国的な職業技能基準制度は重要課題とされ、
各州間の移動に便宜が図られるような統一基準が計画された。
(3)職業技能基準の
職業技能基準の策定
1993 年に策定された「2000 年の目標‐アメリカ教育法」(Goals 2000:Education
American Act)では、1992 年からパイロットプロジェクトを進めている。職業技能基準
を策定、促進前職種に拡大するため、全国技能基準委員会(National Skill Standard
Board)が設置された。委員会は政府、企業、労働組合、教育関係者 28 名からなり、①職
業技能基準を策定する単位となる職業群の決定、②技能基準を策定するため協議機関の設
立の推進、③外国の制度の情報提供、④基準を元としたカリキュラム開発、⑤基準策定の
推進と技術援助の役割を担っている。
現在、製造、設備、補修、小売、卸売、不動産サービス等の部門の認定を行っている。
技能基準は仕事の定義、職務遂行のための尺度、知識・技能(学問的知識、雇用のため
の知識、技術・技能の専門的知識)の 3 項目から成り立っている。
4.7 各種プログラム
(1)州、地方レベル
地方レベルにおける
レベルにおける各種
における各種の
各種の教育訓練
米国における公共職業訓練は、州レベルを加えても、日本と比較して対象者の面で非常
に限定的である。その反面、教育の分野までに広げた人材養成では、その機会は多様に存
在する。前記しているように米国にはコミュニティーカレッジが整備されており、そこで
は 4 年制の大学への編入を希望する者のためのプログラムのほかに、職業教育プログラム
が提供されている。ここでは準学士をとることが可能なだけでなく、職業コースの一部を
受講することも可能で、さらに時間をかけて学位を取得することも可能である。在職者向
けのコースも夕方や週末に提供されている。また地域の企業や産業界のニーズに応じた訓
練プログラムを準備して、企業内で実施することもある。
ケンタッキー州のように、コミュニティーカレッジとは別に州立の技術学校システムが
あり、若年者や在職者に短期・長期の訓練プログラムを提供しているケースもある。
46
(2)職業教育との
職業教育との連携強化
との連携強化(
連携強化(School to Work Program)
Program)
1)学校から職業への機会法
学校から職業への移行については、従来米国では決まった学校からの職業斡旋というも
のはなく、日本と違って学卒就職の慣行は普及していなかった。米国の就業活動は、在学
中からアルバイトなどの経験を積み、学校卒業後にいくつかの職を経験して数年後に安定
した職に就くというのが通例であった。しかし、ハイスクール卒業者が安定した仕事に就
くことが困難となりだしたため、在学中から職業への移行の道筋を生徒に自覚させ、より
良いキャリアを積むための準備をさせる必要性が生じ、学校から職業への移行の仕組みを
作り上げることが求められだした。
そのような背景の中で、1994 年に連邦法として「学校から職業へ機会法」(School to
Work Opportunity)が制定され、同法に基づいて学校から職場への移行を円滑にすること
を目的として、DOL と DOE の共同プログラムが施行された。連邦では枠組みを策定する
だけで、各州政府がそれぞれの実情に応じて学校から職場へ移行するプログラムを策定す
る。連邦政府は当該枠組みにかなうものであれば、開発、作成に必要な調査、研究会等の
経費を補助金として提供する。しかし各州政府ではこの枠組みに沿ったもの以外でも、多
種多様なプログラムが実施されている。
2)ジョブコアプログラム
DOL が実施する VET プログラムは、16~24 歳の若年者を対象に、より良い職につき、
所得を増し、自分の生活を確保できるよう支援するものである。学生は特定の業界につい
て学び、高校卒業証明書や高卒同等資格(GED)を取得し、より良い就職先を見つける支
援を受けることができる。2005 年現在 118 ヵ所あり約 7 万人以上の難しい状況にある若
者(At-risk Youth)が教育、訓練を受けている。卒業生にはキャリアカウンセリングと支
援を 12 ヵ月続行する。
このプログラムの施行により、以下の変化が生じていることが判明した。
教育、訓練に関する時間が大幅に増加。
(約 1,000 時間で一年間に該当する)
GED 及び職業資格の取得数が大幅に増えている。
所得が増加する。
逮捕、有罪判決、受刑者が大幅に減少。
(16%)
このプログラムの役割は具体的な実施ではなく、施策の枠組みを提示したもので、プロ
グラム開発、作成に必要な調査、研究会等の経費を連邦政府が負担する等、通常各システ
ム立ち上げの初期の原動力となるような意図である。
連邦の枠組みとしては、以下の要件が含まれなければならないとしている。
3)その他のプログラム
プログラムは学校、職場、事業を円滑にする技術支援に分けられている。
① 学校におけるプログラム
職業選択のための相談や職業とはどのようなものかという職業意識を身に付けさせ
るためのプログラム、定期的な学力評価等。
47
② 職場におけるプログラム
技能評価を受けるために必要な高い技能を習得するための職業訓練、職場での現場経
験等。
③ 事業を円滑にするためのプログラム
企業と学生を結びつけること、企業が職場におけるプログラムを実施するための技術
的支援等。
プログラムの具体的実施例としては以下のものがある。
① ジョイントプログラム(ハイスクールとカレッジの融合カリキュラム)
9~12 年(中学 3 年~高校 3 年)の生徒を対象に数学、科学、テクノロジー等特定分
野において、2 年間又は 4 年間の学校とコミュニティーカレッジを融合させたカリキュ
ラムを提供する。
② 高等学校内キャリア学園
特定産業もしくは職業と関連させた学校の中に、更に細分化した学園を設け、生徒は
選択した産業・職業について訓練教育を受ける。夏休み就労体験もあり企業が生徒の指
導に当たる。
③ 学校企業
生徒による食堂、家屋修繕、子守、印刷事業の経営により、地域にサービスを提供す
る。これにより、事業で得た知識を実社会に対して適用する機会を与える。
④ Co-Op 教育33
前ページにも紹介している企業が提供する OJT プログラム。企業が主として 12 学年
生又は 16~24 歳を対象にパートタイムの仕事を提供し、学校で作成した技能習得計画
に沿ったカリキュラムで、OJT による職業訓練が企業により提供される。全米で最も大
規模で包括的なプログラムであり、学生の寄宿制もあるプログラム。
現在 118 ヵ所の施設で約 7 万人以上の「難しい状況にある若者」
(At-risk youth)が
教育・訓練を受けている。具体的なサービスは、基礎教育、社会的スキル教育、職業訓
練、就職支援など。
参加費用はほぼ無料で、宿泊費・食費・教材費・衣料購入費・施設までの往復交通費
などすべて無料。
33
企業を活用した教育訓練
48
⑤ 徒弟制訓練(アプレンティシップ)プログラム34
既に述べたように、OJT 訓練と教育を組み合わせて様々な専門職労働者・熟練工を養
成する「徒弟制度」訓練がある。資金は主に民間産業(事業者や団体)から提供を受け
るが、連邦政府や州政府からも追加的な資金が提供されるケースもある。
徒弟制度プログラムは 1937 年に制定された「全国徒弟法」に基づいて実施されてい
るプログラムである。若年者に技能習得の点で適切な方法であるという認識からこのプ
ログラムに期待が集まっている。企業からの仕事(例として自動車修理、大工、調理師、
電気工等の主として技能を必要とする職種)に対して、企業での OJT・実作業と学校で
の学習とをある割合で並行して行う。通常 4 年であり、その間一般労働者の賃金の 50
~90%が支払われる。
⑥ 安全・健康に関するプログラム
連 邦 労 働 省 職 業 安 全 ・ 健 康 局 ( OSHA: Occupational Safety And Health
Administration)の所管である。
雇用主側と従業員側両方に対して、危険物類の取扱い基準の周知・徹底や取扱い方法
の訓練、鉱山内労働基準の周知・徹底、ゲノム操作の安全基準の周知・徹底などの教育
を行う。
⑦ 国際貿易により被害を受けた労働者等救済プログラム
国際貿易取引環境の異常な変化が直接的な理由で失業した労働者には、職業訓練、転
職、それらにかかわる交通費などの補助・免除が受けられる。
そのほか、退役軍人サポート・プログラム 、季節労働者サポート・プログラム、ネ
ィティブアメリカン支援プログラム、定年退職後労働者支援プログラム等、対象者、訓
練の目的の違ったプログラムが設けられている。
米国には学卒者のための就職あっせんシステムはない。しかし近年(1980 年以降)製
造業の衰退によって高卒者が安定した職に就くことが困難になったこと、中退が依然大
きな問題であること、カレッジに進学した場合に学士号を取得できないケースが多いこ
とが問題視され、国際競争激化の中で、若年層の労働力形成のあり方が改めて問われる
こととなり、
「学校から職業への移行支援」システムの必要性が論じられてきた。1994
34
アプレンティシップ訓練は OJT 訓練と教育を組み合わせて熟練工を要請する訓練であり、事業主も
しくは労使共同で実施される。訓練には公的な資金補助は行われず、一般公共訓練とは異なり様々な側
面的支援が行われる訓練機関は OJT と教育で 16 年間である。訓練期間中の賃金はその職種の熟練工
の時給に応じて 85 から 90%程度の賃金を受け取る。
アプレンティシップ訓練の可能職種は約 80 職種であり、建設業、製造業に多い。1996 年には 3 万 4,577
プログラムに訓練生 36 万 7,700 人が参加している。その訓練生のうち、マイノリティが 27%、女性は
8%を占めている。年齢的には 16 歳から 18 歳までは約 14%、残りはその上であり、年齢的には若くな
い。
生徒たちに教室を出て、民間の事業、企業、公共機関の仕事の手伝いをすることによって技能の習得、
地域への貢献の体験機会を与える目的としたものである。サービス学習は通常無報酬であるが、徒弟制
度での技能習得は賃金を得ることができる。
49
年に「学校から職業への機会法」
(School to work opportunities Act)という連邦法が制
定され、各州に移行のシステム形成が求められた。この Act は高校の後期 11 年生(日
本の高校 2 年生)を対象として、進学を希望しない者はもとより、進学希望者にも参加
の機会を与え、就職に必要な準備をさせることを狙いとしている。
学校ではアカデミックな内容と職業に関するカリキュラムを提供する。そして職場に
おける学習がシステムの一環として提供される。職場における学習はアカデミックな内
容を吟味して再確認し、働く上で必要な一般的なスキルを身に付け、また実際に仕事を
してみることによって適性を見極めつつ将来の見通しを確かなものにしていく意味を
持っている。
「学校における学習」
「職場における学習」さらに「両者を結合する活動」を通して、
生徒は自分の職場を見定め、そのために必要な進路を決定する。高卒では良い職に就く
には不十分と考えられており、適切な進学の動機付けもこれらの活動の目的の一部に含
まれている。
州により実施状況は異なっているが、1996 年から毎年キャリア形成もしくは開発に関
する何らかのカリキュラムを授業で実施した学校は約 3,000 校、100 万人余りとなって
いる。
4.8 福祉改革
職業訓練のパートナーシップ法は、不利な立場にある若年・成人が主な対象となってお
り、その中には公的扶助の受給者も含まれている。就労による福祉からの脱却の促進のた
め、貧困児童を対象に一時的援助をその家族に提供する貧困家族救済計画(TANF:
Temporary Assistance for Needy Families)が福祉の新しい試みとして挙げられる。この
計画は受給者には厳しい就労要件が設けられている。受給中一定の勤労日数に満たない場
合、職探し、OJT 就労体験、コミュニティーサービス、訓練などの活動に従事しなければ
ならない。週 20 時間以上働いていない場合には、TANF の給付を継続して受け取ること
ができない。
4.9 支援策
(1)連邦レベル
連邦レベルの
レベルの補助金
連邦レベルには事業主に対する公的な訓練補助金制度はない。「職業訓練パートナーシ
ップ法」では、
「不利な立場にある若年・成人」に OJT 訓練を行うことが可能である。そ
の場合の賃金補助は可能であるが、企業はこの制度を活用していない。そのほか訓練補助
金に準ずるものとして、一定のカテゴリーに該当するものを雇用した場合に、賃金に一定
割合を税額控除できるプログラムがある。一定のカテゴリーとは、公的控除の受給者、フ
ードスタンプ(食料クーポン)需給所帯の若年者、職業リハビリテーションの修了者など
であり、就職困難な者の雇用促進を目的としたプログラムである。
このように連邦レベルの主な補助金は、おおむね社会的に不利な者だけを対象として限
50
定されたものである。
(2)州レベルの
レベルの補助金
地域的な高成長・高需要分野の独自の雇用傾向に対応するため、自治体レベルでの制度
が数多く実施されている。その例としてケンタッキー、ペンシルバニア州等は、州レベル
で独自の一般財源を元とした訓練補助金制度を持っている。
ケンタッキー州の場合、主な対象は製造業である。製造業は州間競争や国際競争にさら
されており、また条件の良い所への移動は可能である。大きな企業が州内に進出した場合
の雇用創出効果は大きく、また工場の閉鎖、移転等がもたらす雇用喪失効果も大きい。州
内で企業を興すため、また誘致するために訓練補助金が使用されている。訓練補助金は新
規採用者及び在職者の訓練に要する経費を補助するものであり、申請が認可されてはじめ
て訓練が実施される。その訓練は州立の技術学校やコミュニティーカレッジなどの訓練教
育機関との連携で行われる。
カリフォルニア州の場合は、1982 年に訓練補助金支給機関を設立した。それにより失業
保険の一部相当部分を徴収して、雇用訓練資金としている。非自発的離職者の新規採用訓
練や産業の誘致、振興と関連した訓練にも補助金が支給される。
それぞれの補助金の規模を見ると、ケンタッキー州における 1995 年度の補助金承認額
はおよそ 483 万ドル、ペンシルバニア州の同年度の補助金予算規模は 1,000 万ドル、カリ
フォルニア州の同年度の補助金承認額は 6,640 万ドルとなっている。
4.10 VET の成果とその
成果とその影響
とその影響
VET は中等教育及び中等後教育の両方において、大半の生徒に短期もしくは中期的な勤
労所得をもたらす。この結果、経済的に恵まれない生徒には特に効果がある。DOE では
教育改革が行われた過去 10 年間、VET プログラムに参加した生徒は、履修数と到達度が
上昇し、大学進学と就職の双方に対する準備が向上した。このため VET を高等学校改革
の重要な部分とする見解を示している。
(1)VET の時期
どの教育段階で行うのが適切かということに関しては、就職準備という観点では中等後
教育段階の課程に含めるべきであるという傾向にある。
(2)対象者
現在の法律の解釈では、VET を学士号までは要しない職業の準備としている。そのため、
大学進学に関心の薄い生徒を主な対象とする傾向にあった。しかし、ハイテク産業、学問
的に習熟度が求められる職業、高技能を必要とする職業が多くなり、さらに上のレベルま
で行うかどうか、その見直しが迫られている。
(3)解釈
連邦法では VET は初歩レベルに必要な具体的な技能を教えることよりも、包括的な理
51
解に重点を置くべきであるという主張があった。VET は訓練か教育かということに関して
は視点を変え、現在多くの州で職業取得目的としてではなく、VET を一連のキャリア形成
に基づき構成していると理解している。
(4)連邦投資の
連邦投資の優先事項
VET の費用は、
主に州と自治体の予算で賄われている。
連邦政府の拠出は費用全体の 5%
に過ぎないが、この資金助成が州及び自治体レベルでの政策、プログラム、指導を促進さ
せる力となっている。連邦法では連続性と一貫性のある課程、重点産業を把握してより深
い知識と経験を提供、指導に新しい方法を模索、教員・カウンセラーに職業能力プログラ
ムを提供、評価手法の開発・実施、そしてその他のレベルの違う VET へ連携させる等を
奨励している。
4.11 VET の目的別予算
VET における目的別予算は図表 3-2 に示すとおりである。
図表 3-2
VET の目的別予算配分 2002 年度
(単位:千ドル)
項
目
金
額
若年層関係プログラム
1,353,065
成人関係及び失業者関係
2,499,000
ジョブ・コア関係
1,458,752
諸国内プログラム
486,717
その他訓練教育以外のプログラム
4,500
訓練・雇用サービス小計
5,802,034
労務者補償プログラム小計
175,000
老齢者雇用助成小計
445,100
失業保険給付金
2,792,086
雇用サービス&ワンストップ
987,415
補償・保険・雇用サービス小計
3,779,501
連邦失業関連給付金
415,650
失業基金前払積立金
464,000
連邦給付金・積立金小計
879,650
運営・管理費小計
161,419
総合計
11,242,704
出典:連邦労働省雇用訓練局(US Department of Labor Employment And Training
Administration)http://www.doleta.gov/
52
5.教育及び
教育及び訓練関連の
訓練関連の海外協力
USAID を経て行っている ODA 事業のうち、途上国に対しての援助分野として教育・訓
練に関する比重は大きい。2005 年 4 月には教育分野の援助に対する見直し、戦略策定そ
して今後のあり方が USAID 関係者により検討され、Education Strategy ‐Improving
lives through learning‐(教育に関する戦略‐学業を通しての生活向上‐)として報告さ
れている。
5.1 施策の
施策の概要
米国の基本的理念の一つに、教育訓練を通した人類の許容能力(human capacity)の向
上が優先されている。全世界では現在約 9 億人が文盲に近く、1 億 2,500 万人が初等教育
を受けられることができない。35人的資源の底上げ及び教育がなされない場合は、貧困、
疫病及び社会的不安定要因となり、経済発展や人口抑制の妨げ要因ともなる。
USAID の途上国向け教育のプログラムは、次の点を優先するよう留意がなされている。
(1)恵まれない女性
まれない女性と
女性と女子生徒への
女子生徒への基礎教育
への基礎教育
基礎教育には小学校、中学校、高校及び識字教育が含まれる。さらに家庭科、家族の健
康、育児、女性の地位向上のための学科の強化などがある。またこの分野での教師の訓練、
教育も重点的に計画されている。
(2)大学及び
大学及びカレッジの
カレッジの強化
大学、コミュニティーカレッジ、訓練教育機関及び研究機関の拡充として、教員、教授、
研究員、訓練された技術者と技能者を対象としている。この目的は単に技能、技術の向上
ばかりでなく、政治経済界においてリーダーシップを発揮し、安定した社会を構築する人
材となっている。米国は特に大学との連携を重視して、女性を含めて短期間の 10 万人単
位のスカラーシップを用意している。
教育の質向上として、教育手法、教材、身体障害者、ドロップアウト等特別グループへ
の不必要な教育排除を強調している。
対象国として、2003 年ブッシュ大統領査問委員会では、ラテンアメリカ、カリブ諸国、
アフリカ、イラク、アフガニスタン、パキスタンに重点を置くこととして、3 億 5,000 万
ドルの予算を計上している。
5.2 途上国での
途上国での教育
での教育の
教育の重要性
USAID36は 2004 年、43 ヵ国に 3 億 6,550 万ドルを計上して、主として弱者となりうる
対象者(女児、貧困者、障害者、農村地帯の人々)に焦点を当てて、各種のプログラムを
35
36
2005 年 USAID2003 年の総括報告より,P23
詳しくは第 2 章 2. USAID の項を参照のこと
53
施行している。一方、大学生を対象とした大学連携プログラム又は地域開発重視の全米に
普及しているコミュニティーカレッジの普及も行っている。
USAID が優先する分野・国は以下のとおりである。
① 必要性が証明されコミットメントを与えている国
② 重要セクターの開発が必要とされる国
③ 受入国の効率向上が著しい国
④ プロジェクトの続行が可能で持続性がある分野
⑤ 民間もしくは他のドナーと協力が可能なチャンスがある分野
⑥ 調査分析により開発支援が有望な国
5.3 教育を
教育を発展の
発展のツールとして
ツールとして
USAID は HRD・教育訓練が、経済発展の基礎となり、社会、政治、国家の強化、また
人権擁護、技術移転の重要なファクターと考えている。具体的には HRD・教育訓練がそ
れらを包括的に達成するツールとして、経済発展、貧困削減、健康増進、環境整備、人口
抑制、民主化、排他主義の抑制、富の平等配分の改善、政治危機、暴動、災害の防止へ役
立てることのできる手段として認識している。
しかし教育訓練は、経済発展や貧困撲滅のためばかりでなく、教育の欠如による国の停
滞、崩壊を防止して、隣国等への緊張感を削減する働きもある。また高度な教育を受ける
ことにより、途上国もグローバライゼーションに参入し、国際競争力を高めるという中期
もしくは長期的な狙いもある。
5.4 実績例
① 非識字者の減少:UNESCO と行っている共同プロジェクトにより、1970 年代 37%の
非識字者が 2004 年には 20%に改善された。
② 就学児童の増大:1990 年の小学校就学者は 9,000 万人であったが、UNESCO やその
他のドナーとのキャンペーン施行とプログラム実施により 8.7%向上した。
③ 女子児童、女性の学力向上:アフリカ(USAID の教育の重点地域)における女子就学
者は 2,800 万人であったが、2000 年代には 39.9%の向上があった。
5.5 課題
① 2000 年現在、1 億 1,500 万人が教育の機会を得られないでいる。アフリカ:51%、ア
ジア:73%、中東:83%、中南米:83%とまだ欧米諸国に比べて、就学児童の割合は
低い。UNESCO とタイアップして更に改善していく必要がある。
② いまだ 8 億 6,000 万の成人が非識字者である。これは教育を受ける妨げとなり、また
HIV/AIDS 教育にも影響がある。
③ ドロップアウト、留年、退学の原因は本人の責任以外に、学校の方針、学校のマネー
ジメント、教員の質、友人、家庭環境等が影響している。
④ 学校運営の財源不足、施設の老朽化、スタッフの質と量、周辺の環境等インフラ整備
54
に問題が多い。
⑤ 女児の教育及び女性の社会的進出は家庭の方針、貧困、宗教、社会的背景及び構造、
社会的習慣に影響され、国の政策、社会習慣、宗教的制約によってはなかなか普及さ
れない。
⑥ 技能訓練の欠如は地域ニーズを優先させるコミュニティーカレッジ等である程度解消
できるが、その要請は少ない。地域主導の自治体レベルで解決できない決定事項があ
るためと思われる。
6.国別事業実績
図表 3-3 二国間協力での DAC 11 ヵ国の
職業訓練、教育への予算
(単位:千ドル)
国名
予算額
ドイツ
55,819
スペイン
42,339
ベルギー
22,228
日本
10,918
オーストリア
10,368
カナダ
10,218
フランス
9,536
スイス
7,598
ルクセンブルク
6,791
オーストラリア
4,896
ノルウェー
3,504
出典:DAC 資料、2002 年
図表 3-3 によると米国は DAC メンバーの中では、職業教育訓練への予算配分が少ない。
(表に現れていない。
)しかし 2005 年の大統領演説では教育への ODA 配分は 1 億ドルを
ミレニアム・チャレンジ・アカウントを通して行うと言明している。しかし、今回の対象
となる分野の職業訓練分野は少なく、一般教育、保健衛生分野(エイズを含む)
、大学生の
招致等に限定されている。
55
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