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Title 原発閉塞隅角症と原発閉塞隅角緑内障
Title 原発閉塞隅角症と原発閉塞隅角緑内障 : 新しい疾患概念と 管理基準を中心に( 本文(Fulltext) ) Author(s) 山本, 哲也 Citation [日本眼科學会雜誌 = Journal of Japanese Ophthalmological Society] vol.[111] no.[1] p.[59]-[67] Issue Date 2007-01-10 Rights Japanese Ophthalmological Society (財団法人日本眼科学会) Version 出版社版 (publisher version) postprint URL http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/30373 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。 日本眼科学会専門医制度 生涯教育講座 [ 説 ] 原発閉塞隅角症と原発閉塞隅角緑内障 ―新しい疾患概念と管理基準を中心に― 山本哲也 岐阜大学大学院医学系研究科眼科学 は じ め に 原発閉塞隅角緑内障はヒポクラテスの時代に既に記述のある古い疾患であるが,近年,緑内 障の定義の変遷に伴って用語法の変化が生じている.また,新しい観点からの病態解明が進 み,同時に,レーザー虹彩切開術の長期成績,水晶体手術の進歩により本症の治療法が変わり 始めている.そうした原発閉塞隅角緑内障ならびに関連疾患(原発閉塞隅角症,等)をめぐる最 近の話題のうち,用語法,疫学,病態,管理について解説を加える. 用語法・定義 欧米では緑内障を視神経症で定義する え方が主流となっている.それに伴い,隅角病変を 基盤として発症する原発閉塞隅角緑内障においても確定診断の必要条件として,視神経症の存 在が挙げられることが多い.代表的な論客 Foster 氏(英国)らの primary angle closure の 類 を彼らの え方をそのまま伝えるため和訳せずに表 1に載せる.この定義は International Society of Geographical and Epidemiological Ophthalmology(ISGEO)の緑内障の定義に関 するワーキンググループの案にもとを発するもので,現在標準的とされるものである.表 1の (3)項にあるように,primary angle closure glaucoma は隅角病変の存在を既定のものとし, 唯一 evidence of glaucoma を加えて定義されている.evidence of glaucoma という表現自体 に 緑内障イコール緑内障性視神経症」の思想が色濃く出ている.なお,全体である primary angle closure の 類の中に狭義の primary angle closure が出てくることには若干の曖昧さが 垣間見える. 日本緑内障学会は,緑内障診療ガイドライン(2006年第 2版) を制定するに当たり,日米欧 の疾患定義の差がもたらす混乱を回避する立場から基本的に欧米の え方に うこととし,次 のように原発閉塞隅角緑内障を記述している. 原発閉塞隅角緑内障は,他の要因なく,隅角 閉塞により眼圧上昇をきたす疾患である.原発閉塞隅角緑内障における隅角閉塞機序として, 相対的瞳孔ブロックとプラトー虹彩機序があげられる.大多数の症例が相対的瞳孔ブロックを 主たる隅角閉塞機序とするため,通常,原発閉塞隅角緑内障は相対的瞳孔ブロックによる原発 閉塞隅角緑内障と同義である.(中略)狭隅角眼で,他の要因なく,隅角閉塞をきたしながら, 緑内障を生じていない症例を原発閉塞隅角症(primary angle-closure)と定義する.隅角に周 表 1 primary angle closure と primary angle closure glaucoma の定義と 類(いわゆる ISGEO 類).(Foster et al,文献 より) Classification of primary angle closure(PAC) (1) Primary angle closure suspect An eye in which appositional contact between the peripheral iris and posterior trabecular meshwork is considered possible. (2) Primary angle closure(PAC) An eye with an occludable angle and features indicating that trabecular obstruction by the peripheral iris has occurred, such as peripheral anterior synechiae, elevated intraocular pressure, iris whorling, glaucomfleken lens opacity, or excessive pigment deposition on the trabecular surface. The optic disc does not have glaucomatous damage. (3) Primary angle closure glaucoma(PACG) PAC together with evidence of glaucoma. 本 説における術語の用語法は,文献の引用箇所ならびにそれを論ずる箇所であれば当該文献に準拠し, また,地の文では日本緑内障学会制定緑内障診療ガイドライン(2006年第 2版) に うように努めた.なお, 原発閉塞隅角症,プラトー虹彩緑内障,原発開放隅角緑内障(広義)は現行の日本眼科学会眼科用語集(2005 年改訂第 5版)には採用されていない術語である. 辺虹彩前癒着があり隅角閉塞機序が示唆されるが眼圧上昇や緑内障性視神経症のない症例,隅 角閉塞機序により眼圧は高値であるがまだ緑内障性視神経症をきたしていない症例などがこれ にあたる.原発閉塞隅角症は原発閉塞隅角緑内障の前段階であり,無治療では原発閉塞隅角緑 内障に進展する.」と.この記述を同学会の 2003年制定の緑内障診療ガイドライン(初版) と 比較すると,定義の違いが明らかである.初版には 原発閉塞隅角緑内障は,他の要因なく, 隅角閉塞により眼圧上昇をきたす疾患である.眼圧上昇あるいは視神経の変化をきたした症例 のみを原発閉塞隅角緑内障とする え方が一部にある.しかし,原発閉塞隅角緑内障では眼圧 上昇あるいは視神経の変化は隅角閉塞の結果として生ずるので,本ガイドラインでは隅角閉塞 が証明されながら眼圧上昇あるいは視神経の変化をきたしていない初期症例を含めてすべて原 発閉塞隅角緑内障とする. 」と記載されている. 緑内障診療ガイドライン(初版) を含めて,以前の原発閉塞隅角緑内障の基本的な概念は, 原発閉塞隅角緑内障が,大多数は相対的瞳孔ブロックにより生ずる隅角閉塞を基盤として発症 する疾患であり,隅角閉塞の結果として眼圧上昇が生じ,さらにその眼圧上昇によって視神経 乳頭変化が生ずるものであるから,全経過を通じて一疾患とみなし,一つの病名で表現したも のであり,その意味では一定の合理性を有していた.国際的にも最近までこの定義で原発閉塞 隅角緑内障が記述されていたため,今後は 2000年前後以前の文献を読む際には注意が必要と なる.こうした歴 的背景を有するものの,今後は国内においても国際 類に準じた原発閉塞 隅角症と原発閉塞隅角緑内障の用語法が強く推奨される. 著者は,① 現在の primary angle-closure glaucoma,primary angle closure の用語法はオ ピニオンリーダーの 代によりまた見直される可能性が残るものの,② 緑内障性視神経症で 緑内障を定義する方向性は変わらない,と見ている.そして,いずれ ③ 原発開放隅角緑内障 (広義)のみが primary glaucoma とされる え方が主流となり,④ 現在の primary angleclosure glaucoma は隅角閉塞機序である primary angle closure により生じる続発緑内障とし て secondary glaucoma due to primary angle closure(原発閉塞隅角症による続発緑内障)と 呼ばれるようになる,また,⑤ primary angle-closure glaucoma が緑内障を生じる前の状態 は primary angle closure:preglaucoma stage(原発閉塞隅角症:前緑内障期)などと呼称さ れると,密かに予測している. 疫 学 日本緑内障学会緑内障疫学調査(多治見スタディ:2000-2001年) における緑内障有病率を 表 2に示す.全緑内障の有病率は 5.0% であり,うち,原発閉塞隅角緑内障の有病率は 0.6% であった.また,原発開放隅角緑内障(広義)3.9%,続発緑内障 0.5% であった.多治見スタ ディにおける原発閉塞隅角緑内障および関 連疾患の定義は欧米の定義に準拠してい る.原発閉塞隅角緑内障の有病率は,女性 に高く,また,加齢とともに増加していた 表 2 緑 内 障 有 病 率( , 歳 以 上 日 本 人,多治見スタディ).文献 , より. 病型 原発開放隅角緑内障 正常眼圧緑内障 原発閉塞隅角緑内障 続発緑内障 計 有病率 95% 信頼区間 0.3 3.6 0.6 0.5 0.1-0.5 2.9-4.3 0.4-0.9 0.2-0.7 5.0 4.2-5.8 図 1 日本緑内障学会緑内障疫学調査における原発閉塞 隅角緑内障の有病率.男性:淡灰色,女性:黒色.文 献 より. 表 3 primary angle-closure glaucoma と primary angle closure の有病率( ).多治見スタ ディ. 歳以上日本人.文献 より. (図 1).primary angle-closure glaucoma と primary angle closure を合わせた有病 率(表 3)は primary angle-closure glau病型 有病率 95% 信頼区間 coma 0.6% に primary angle closure 0.6 0.4-0.9 primary angle-closure glaucoma 0.5% と primary angle-closureglaucoma 0.2 0.1-0.4 primary angle-closure glaucoma suspect suspect(隅角病 変からは primary angle 0.5 0.3-0.7 primary angle closure closure であり,かつ,視神経病変が緑内 計 1.3 0.9-1.7 障を疑わせるが確定できない症例)0.2% を加えて 1.3% であった. 諸外国における原発閉塞隅角緑内障およ び関連疾患の有病率を最近の疫学データを中心として以下に挙げる.シンガポール在住中国 人 の primary angle-closure glaucoma の有病率は 1.0% とされた.中国広州 では primary angle-closure suspect,established primary angle-closure,primary angle-closure glaucoma の有病率はそれぞれ 10.2%,2.4%,1.5% とされた.モンゴル では occludable angle と primary angle-closure glaucoma の有病率はそれぞれ 6.4%,1.4% とされた.南インドで 行われた二つの疫学調査のうち,Andhra Pradesh Eye Disease Study では occludable angles without angle-closure glaucoma と manifest primaryangle-closure glaucoma の有病 率は,それぞれ 2.21%,1.08% とされ,Aravind Comprehensive Eye Survey では manifest primary angle-closure glaucoma の有病率は 0.5% とされた.イヌイット では occludable angle は 50歳以上の 17% に認められるとされている.米国(Baltimore Eye Survey) では potentially occludable angle を白人の 0.8%,黒人の 0.6% に認めている.米国 ヒスパニック系住民(Proyecto VER) では angle-closure glaucoma は 0.10% の有病率とさ れた.オーストラリア(Melbourne Visual Impairment Project) では primary angleclosure glaucoma は 0.1% の有病率とされた.イタリア(Egna-Neumarkt Study) では primary angle-closure glaucoma はやはり 0.1% の有病率とされた.南アフリカ では primary angle-closure glaucoma は 0.1% の有病率とされ,タンザニア では 0.59% とされている. 諸外国との比較では,日本人の原発閉塞隅角緑内障や原発閉塞隅角症の有病率はアジア諸民族 の中では低値であるが,白人や黒人と比較すると相対的に高いと言える. 病 態 Quigleyら は 2003年に primary angle-closure の発症機序に関する自説を執筆し,その中 で,解剖学的に小さな眼球であることと瞳孔ブロックの意義を述べるとともに,瞳孔ブロック 解除後にも機能が全く回復するわけではないとし,その原因として脈絡膜の拡張と硝子体腔内 での水 の拡散障害の可能性を挙げた. Sakai ら は多数例の前向き研究で超音波生体顕微鏡を用いて primary angle-closure glaucoma(急性および慢性)と primary angle closure 眼を観察し,uveal effusion の出現について 調査した.急性例では 58% に,また急性例の僚眼には 23% 認め,慢性例でも 20% に認めた. これらは開放隅角緑内障での出現率 1.3% と比較して明らかに高かった.この結果は前述の Quigleyらの仮説 に合致するものであり,きわめて興味深い. 管 理 狭隅角眼ならびに原発閉塞隅角緑内障の管理を論ずるうえでは長期経過観察の知識が欠かせ ない.近年海外で施行された興味深い研究を二つ挙げる. 予防的なレーザー虹彩切開術が本当に primary angle closure glaucoma の発症予防になる かを調査する臨床試験がモンゴル国内で進行中であり,Nolan ら は研究プロトコールを発 表した.それによると,50歳以上のモンゴル人 4,725人から 128例の緑内障が認められ,残 りの 4,593人から 2,293人が無作為に選ばれた.うち 160例が occludable angle とされ,そ のうち 156例がレーザー虹彩切開術を受けた.現在は経過観察中であり,最終報告は今後発表 される. Thomas ら は Vellore Eye Study(インド)において発見された primary angle closure suspect(隅角鏡で隅角が 180度以上透見できない,周辺虹彩前癒着なし,眼圧 22mmHg 未 満)が 5年間原則的に無治療で primary angle closure(① 視神経変化なし,② 周辺虹彩前癒着 なく眼圧 22mmHg 以上または周辺虹彩前癒着の存在:①,② とも満たす)に進行した割合が 22% であり,primary angle closure glaucoma へ進展した症例はなかったと報告している. 同著者らは別報 で同様に primary angle closure が 5年間に primary angle closure glaucoma へ進展する確率を報告している.それによると primary angle closure 診断後レーザー 虹彩切開術を受けた 9例中 1例,勧告を無視してレーザー虹彩切開術を受けていない 19例中 7例が primary angle closure glaucoma へ進展し,進行確率は合わせて 29% であった. 上述のデータから無治療の状態では狭隅角眼が加齢に伴い,原発閉塞隅角症や原発閉塞隅角 緑内障へ進展する確率はかなり高いことが理解される.また,1950∼70年代にかけての諸研 究により,急性例の僚眼の発作発症確率は無治療のまま 5∼10年で 40∼80% ,縮瞳薬 用下で 39% と報告されている.さらに Saw ら の acute angle closure と primary angle closure の治療に関する 説でも明らかなように急性発作例およびその僚眼,ならびに,慢性 原発閉塞隅角緑内障に対するレーザー虹彩切開術の有用性は明らかである.となると瞳孔ブ ロック解除により予防可能である本症の管理にとっての懸念材料は,瞳孔ブロック解除手段で あるレーザー虹彩切開術,観血的周辺虹彩切除術,水晶体摘出手術のリスクをどのように管理 するかであろう.レーザー虹彩切開術は水疱性角膜症 のリスクを有する.これは日本で関心 が高いが ,海外でも報告 されている合併症である.施術に際しては,角膜内皮の観察 とレーザー虹彩切開術の照射条件に関して十 な 慮が必要である.レーザー虹彩切開術を避 け,水晶体摘出手術や周辺虹彩切除術を勧める意見もあるが,原発閉塞隅角緑内障眼には浅前 房,散瞳不十 などの悪条件もあり必ずしもリスクフリーではないことにも注意を払う必要が ある.こうした種々の条件があるため,統一的な管理指針を立てにくい.このため,緑内障診 療ガイドライン第 2版 では,原発閉塞隅角症と原発閉塞隅角緑内障の管理に関して,以下の ように記載している.原則的には,このガイドラインの範疇で,担当医の判断により具体的な 治療方針を決定することが推奨される. 原発閉塞隅角緑内障の治療」ガイドライン(緑内障診療ガイドライン第 2版 より引用) (1) 相対的瞳孔ブロックによる原発閉塞隅角緑内障 虹彩切開術あるいは虹彩切除術による瞳孔ブロック解除が根本的治療法であり,治療の第 1 選択である.有水晶体眼では水晶体摘出も有効であるが,白内障手術の適応のない例に,瞳孔 ブロック解除を目的とした水晶体摘出を行うことについては意見が かれる. 薬物治療による眼圧下降は瞳孔ブロック解消後にも遷 する高眼圧(残余緑内障:residual glaucoma)に対する治療法として,あるいは急性緑内障発作などの例では症状や所見を緩和 し,さらにレーザー虹彩切開術や虹彩切除術の施行を容易にし,安全性を高める目的で行われ る.また,ほとんどの例が両眼性であることから,片眼に原発閉塞隅角症,あるいは急性緑内 障発作もしくは慢性閉塞隅角緑内障がみられた場合は,他眼に対しても予防的なレーザー虹彩 切開術や虹彩切除術を行う. (1) 1) 急性原発閉塞隅角緑内障 1.薬物治療(略) 2.手術療法 A.レーザー虹彩切開術 レーザー虹彩切開術は角膜が充 に透明な状態で施行すべきである.不透明な角膜を通して のレーザー照射は水疱性角膜症発症の危険が高い.したがって角膜混濁の例では無理なレー ザー照射をさけ,手術的虹彩切除術の適応を 慮する必要がある.レーザー虹彩切開術後の水 疱性角膜症発症は,滴状角膜,糖尿病患者,あるいは急性発作既往のある例,あるいは角膜内 皮細胞が既に減少している例で多いことが知られている. B.手術的虹彩切除術 手術的虹彩切除術はレーザー照射が困難な角膜混濁の状態でも施術可能であるという利点を 有する一方,内眼手術に伴う危険がある.特に原発閉塞隅角緑内障の急性発作眼では悪性緑内 障の発症や脈絡膜出血などの危険があり,術前に十 な眼圧下降を行う必要がある. (2) 2) 慢性原発閉塞隅角緑内障 急性原発閉塞隅角緑内障と同様,瞳孔ブロックの解消が治療の基本である.瞳孔ブロック解 除後の遷 する高眼圧(残余緑内障 residual glaucoma)に対する治療は原発開放隅角緑内障に 準じ,薬物治療,レーザー療法,手術療法を行う. (中略) b.房水流出路再 術(隅角癒着解離術,線維柱帯切開術) 隅角癒着解離術は周辺虹彩前癒着が広範な例(例えば隅角の半周以上)が適応となる.線維柱 帯切開術は線維柱帯が開放している部 に適応される.また周辺虹彩前癒着を解離する目的で も用いられる.両術式ともに水晶体摘出(眼内レンズ挿入術を含む)を併用することにより,手 術部の再癒着が予防され,眼圧下降効果も優れていることが報告されている. c.線維柱帯切除術 薬物治療で眼圧コントロールが不十 な例,周辺虹彩前癒着が長期にわたる例,隅角の透見 が困難で隅角癒着解離術が施行しがたい例,あるいは隅角癒着解離術や線維柱帯切開術が奏功 しなかった例が適応となる.手術に際して狭隅角眼では前房消失,悪性緑内障などの合併症が 少なくないことに留意する必要がある. 付記) 原発閉塞隅角症 単なる狭隅角眼に対してレーザー治療を含む瞳孔ブロック解除手術を行うことについては狭 隅角眼の頻度と原発閉塞隅角緑内障との頻度に乖離があることから意見が かれる. しかし原発閉塞隅角症,すなわち,狭隅角眼で,且つ各種負荷試験陽性眼,あるいは周辺虹 彩前癒着が存在する例では,瞳孔ブロックメカニズムの存在が明らかであることから手術適応 となる.また,定期検査のできない例,急性発作時にすぐに眼科を受診できない例,原発閉塞 隅角緑内障の家族歴のある例,糖尿病網膜症などの眼底疾患で散瞳する機会が多い例は手術の 適応と えてよい. しかし,原発閉塞隅角症に対する瞳孔ブロック解除は原発閉塞隅角緑内障発症への予防的治 療であることから,観血的虹彩切除術ではなく,レーザー虹彩切開術が適応となる.白内障手 術適応のある例では水晶体摘出も瞳孔ブロック解除に有効である. (2) プラトー虹彩緑内障 (1) 薬物治療 縮瞳により周辺部虹彩を中心に向かって牽引し,隅角を開大し,隅角閉塞の進行を予防す る.周辺虹彩前癒着が広範囲で,縮瞳剤のみでの眼圧下降が得られない場合には,瞳孔ブロッ ク解除後の慢性原発閉塞隅角緑内障と同様,房水産生抑制,房水流出促進を目的とした薬物治 療を行う. (2) 手術療法 レーザー隅角形成術(レーザー周辺部虹彩形成術)により虹彩根部を収縮し,虹彩根部と隅角 との距離を広げることが可能であるが,長期的有効性はまだわかっていない.虹彩切除術や レーザー虹彩切開術はプラトー虹彩に瞳孔ブロック機序を合併している場合にのみ有効であ る.白内障手術適応のある例では水晶体摘出によって隅角開大が期待できる. お わ り に 原発閉塞隅角症や原発閉塞隅角緑内障は古くから知られた疾患であり,その管理法はすべて の眼科医にとって基本中の基本である.用語法が変わったからといって本症管理の原則に変化 はない.早く新しい用語法に慣れていただき,概念を共有して科学的な討論ができることを望 みたい. 文 献 1) Foster PJ, Buhrmann R, Quigley HA, Johnson GJ:The definition and classification of glaucoma in prevalence surveys. Br J Ophthalmol 86:238―242, 2002. 2) 日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第 2版. 日眼会誌 110: 777―814, 2006. 3) 日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン. 日眼会誌107:125― 157, 2003. 4) Iwase A, Suzuki Y, Araie M , Yamamoto T, Abe H, Shirato S, et al:The prevalence of primary open-angle glaucoma in Japanese. The Tajimi Study. Ophthalmology 111:1641―1648, 2004. 5) Yamamoto T, Iwase A, Araie M , Suzuki Y, Abe H, Shirato S, et al:The Tajimi Study Report 2. 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