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若年層の格差の認識および非正規雇用の実態
新世代の格差分析 ―若年層の格差の認識および非正規雇用の実態 <要旨> 方 聖超 本リサーチペーパーの課題は現代の若者の格差を改めて認識し、非正規雇用率の上昇はいかに 格差拡大に作用するか分析することである。 厚生省のデータによれば、2012 年の非正規雇用率は 35.2%で、1813 万人もいる。特に注目する べき 15-24 歳の非正規雇用率は 30%超、働き盛りの 25-34 歳労働者の非正規率は 25%超という実 態である。つまり日本人の働く若者は 3 割近く非正規雇用である。若者の非正規労働者の増加は 将来の社会格差を広げる大きな一因だと考えられる。 本リサーチペーパーは五章で構成されている。序章では先行研究の論文を挙げ、格差問題に対 する問題意識を述べた。第一章はこれからの時代の格差をいかに認識するかについて論じた。ま ず日本の格差の現状を触れ、筆者が格差に対する見解を述べた。今の若年層はこれまでと違う世 界観や価値観を持っているため、格差を是正する前に彼らにとっての幸せとは何かを知る必要が ある。広がる格差は若者の夢や希望を奪い、将来に対する不安を感じさせる。経済的格差によっ て生まれる精神的負担こそが社会を揺るがす存在である。第二章では正規雇用労働者と非正規雇 用労働者を比較し、両者の間に存在する圧倒的な差を示した。非正規雇用者は低賃金で働き続け るが、この現状から抜け出すことは非常に困難である。これから非正規雇用率がますます増える 見込みであるため、日本の貧困率も上がると予想される。第二章の最後にワーキング・プアの実 態を紹介した。第三章は格差が大きく広がる社会について論じた。現在二極分化社会と言われて いる中国の例を挙げ、二極分化社会の形成とメカニズムを分析し、その実態を紹介した。格差が 広がり続ける社会は極めて不安定な存在になる。終章では前篇をまとめた、そして現状と解決策 について考えた。 結論として、経済的格差は国民生活のあらゆるところに現れ、人々は社会に対する不満は蓄積 していくため、社会全体は不安定になる、極端な場合は騒乱が起きる可能性がある。格差の拡大 により若者が将来に対する期待や希望がなくなり、これが経済の停滞につながる。これをもたら す大きな一因と考えられるのは若者の非正規雇用問題である。一度非正規雇用になれば人生のレ ールから外れる、生涯の収入が低下し、決定的な格差を生み出すことにもなる。しかし政府はこ の問題に対する認識はいまだに乏しい。これからますます深刻化する格差問題に対し社会的な認 識を深め、何らかの対応を図る必要がある。 <本論> 序章 問題と先行研究 二度の政権交代を経て、再び自民党が日本の与党になった。民主党が一度政権を取った理由に は様々見解があるが、よく言われているのは脱官僚化である。しかし民主政権は期待に応えるこ とができず、実績を残せないまま政権を失った。新しい自民政権は景気回復を目標にし、様々な 政策を打ち出した。経済をよくすれば雇用も安定し、国民の生活がよくなるという考えだろう。 しかし非正規雇用率は毎年増え続け、雇用の不安定化は止まらない。厚生省のデータによれば、 2012 年の非正規雇用率は 35.2%で、1813 万人もいる。その中は特に注目するべきのは 15-24 歳の 非正規雇用率は 30%超、働き盛りの 25-34 歳労働者の非正規率は 25%超である。つまり日本人の 働く若者は 3 割近く非正規雇用である。筆者は若者の非正規労働者の増加は将来の社会格差を広 げる大きな一因だと考える。本論文は若年層の格差への認識及び解決策を論じたいと思う。 先ず、若者は格差をどう認識しているかを分析する必要がある、若者にとって格差とはどのよ うに感じられるのかを考えなければならない。近年働き始めた若者は所謂ゆとり教育を受けた世 代である。以前の世代と比べ、夢や理想を持たない若者や、我慢できず仕事を長続きできない人 が多いだろう。今の若年層はこれまでと違う世界観や価値観を持っているため、格差を是正する 前に彼らにとっての幸せとは何かを知る必要がある。橘木俊詔の『「幸せ」の経済学』では、幸せ をあらゆる角度から分析し、それを経済学でどう捉えるかを論じている。今の若者は物欲よりも 精神的な満足を求める傾向があるため、幸せを分析する必要がある。 日本の若者の労働現状や経済的格差を分析するため、データが必要となる。将来的に拡大する であろう高齢期における格差や貧困も視野に入れなければならない。橘木俊詔の『格差社会』は 若年層の格差と高齢期の格差や貧困問題を扱っており、そのデータや分析結果は大変有意義であ る。若者の今、そして既に始まった高齢者の貧困問題に注目すれば、格差の形成と理由が明らか になる。 本論文の最後で将来起こり得る二極化格差社会について検討する。最近メディアに注目されて きた中国の格差社会問題と実態を紹介しつつ、二極化格差社会を形成する原因を分析しそのメカ ニズムを解明する。将来的に日本二極化の格差社会を辿らないために何が必要かを考える。 全体の構成は 4 章からなる。第一章では若者は格差をどう感じるか、幸せに対するどう認識す るかを分析する。第二章では実際にある経済的格差はいかなるものかを紹介し、その先にある問 題を解明したい。第三章は二極化格差社会について論じる。最後に、終章では前 3 章の内容をま とめ、若年者の格差及び将来に与える影響を分析して解決策を模索したい。 第一章 これからの格差をどう認識するか 格差を論じる前に、筆者自身が格差をどう見ているかを述べなければならない。人間は自分の 生まれる時代、場所、家庭や自分の遺伝子を選べることすらできない。はっきり言って人は生ま れながら平等ではない。しかし人類は社会をつくり、ルール、つまり法律の下で行動するように なり、法律による人格と機会の平等を手に入れた。これは文明の素晴らしさとも言える、更に現 代では多様な生き方が許された世界になり、我々はさも平等かのように生きている。しかし社会 には階級が存在し、我々はあらゆる分野で直面している。人は他人と差をつけるために努力をす る生き物であるため、格差は人の集まった社会においてなくならない。同時に火薬庫のような存 在でもある。つまり社会にとって、格差は悪ではないが、度が過ぎると極めて危険な存在である。 本章では格差と幸せについて考えたいと思う。 (1) 日本の格差に触れる 格差を測るとき、ジニ係数がよく使われている。係数の範囲は 0 から 1 で、小さいほうが格差 が少ないという意味である。 ちなみにジニ係数が 0.4 を超える社会は騒乱多発だといわれている。 日本は 2011 年の所得再分配調査の結果で、ジニ係数は 0.35-0.39 の間にあることが明らかになり、 警戒すべき 0.4 のラインにかなり近い水準である。 格差の小さい例を見てみよう。 『幸せの経済学』で紹介された幸せの国デンマークは格差が小さ い。しかし驚くことに大学までの教育が全て無料にもかかわらず、高校進学率はわずか 50%で、 大学の場合は更に低く 20%である。日本なら、学歴の差が格差に直結すると思われるが、デンマ ークではそれはまったく関係ないようだ。なぜなら高額な税金による手厚い福祉があるからだ。 日本同様高収入の人であるほど税金は高いが、デンマークの場合、国民は収入額ではなく、納税 額により人の社会的地位を図ることができる。 ジニ係数で説明できるのはあくまで所得や再分配などの経済的格差にすぎない、格差が存在し てもそこに不満はなければ社会は安定する。リゾート地として知られているアラブ首長国連邦 (AEU)のドバイでは世界中の裕福層が住んでいる。その反面出稼ぎで来ている労働者達には辛 い環境である。総人口の 1 割程度しかない AEU の国民はこのような天と地差を目の当たりにして 生活しているが、皆不満はないと言っている。なぜなら天然資源のおかげで豊かな国である AEU は教育や医療は全て無料、更に驚くことに土地が申請すれば無料で手に入る。もちろん出稼ぎに 来る人達にとっては別世界だが、騒乱が起こるような社会ではない。 日本は先進国で経済大国ではあるが、AEU と比べ、天然資源が乏しい、デンマークほど福祉レ ベルが高くない。当然無料の教育や医療を提供することはできないし、土地もそこそこ高い。国 民の収入は世界からみて高いレベルにあるが、物価も高い。そのため、収入が少なくなれば、生 活は苦しくなり不満や鬱憤は溜まる。 表1 日本の貧困率 昭和60 相対貧困率 63 平成6 12% 13.20% 13.70% 12 18 21 15.30% 15.70% 16% 所得中央値 216万円 227万円 289万円 274万円 254万円 250万円 貧困線 114万円 144万円 137万円 127万円 125万円 108万円 出所 厚生省「貧困率年次推移」より抜粋 表1が示したように平成に入る以前と比べ、収入額は増加したものの貧困率は上がる一方であ る。厚生労働省が年収相対的低い世帯が増える原因を分析しており、高齢化の進展や非正規雇用 率の上昇などの原因が考えられる。 単純に分析してみよう。バブル崩壊した後失われた 20 年といわれるようになった日本では全体 の富が増えていないと想定する、一人の裕福層を増やすために何人もの貧乏人を生み出すだろう。 セールティネットからドロップアウトされた人の財は上に吸い上げられたと考えられ、格差は広 がることが明らかになった。これによって国民の満足感は以下に変化するかは次の節で分析する。 (2) 経済的豊かさと精神的満足 戦後の日本は廃墟から立ち上がった。団塊の世代の話を聞けば、昔は何もなかったと言う。し かし現代の若者はゆとり世代である。物やサービスが溢れ、高等な教育も受けられるようになっ た代わりに、日本人は夢や理想を失いつつある。 就職がうまくいかず、学卒後はフリーターに、極端な場合はニートになる。生活や趣味に全て の収入を使いながらも、これで満足している若者は少なくない、今までの日本人像とは離れたよ うに見える。安定した職に就き、家庭を作り仕事頑張りながら子育てするのはもはや王道とは言 えなくなって来た。 橘木俊詔が幸福度と不幸度を調査した結果、30 代あるいは 20 代後半の男性の不幸度が高まる 傾向が見える。失業者は不幸度が高める一方で、働く男性は仕事の重圧を負うことも一因である。 働くことで安定した収入を得られる、その代わり自由の時間を失う。特に日本企業の労働環境は 世界中では厳しい部類に入るため、仕事場で得られる幸福は限られている。当然働く意欲はある のに失業に悩まされる人は不幸を感じてしまう。これらと比べ、定職に就くことを諦めたフリー ターのほうがよほど幸福だと筆者は思う。実際橘木氏によれば日本人の幸福度が一番多いのは 10 段階中 7 のところにある。つまり大部分の日本人はまだ「割と」満足している状態だ。 橋本健二は『階級都市――格差が街を侵食する』で地域格差の問題を取り上げた。地域格差を 解消するには貧富隔離ではなく、交流が必要である、そして地域間の差は小さい方がいいと述べ た。格差は人と人の距離でもある。ゆとり教育のせいか、上の階級との埋まらない距離を感じて しまう若者は夢を追うことを諦める傾向がある。極端な例であるが、以前ニートを取り上げた番 組で、 「働いたら負けだと思う」というコメントが出た、一時的に若者の間で流行ったこともある。 理想に近づくために努力するではなく、理想を下げて自分の努力に近づかせる。若年世代と団塊 世代の違いはここにある。そこで豊かな経済力を持つよりも楽にかつ楽しく生きていこうとする 若者像がある。 (3) 働く若者の不安 安定な仕事を求め、就職活動をし、社会人の一員になった若者でも、将来に対する沢山の不安 を抱いてる。久木元真吾(2011)は若者の将来に関する意識調査を行った。25-39 歳の若者が将来 に不安を感じる割合は 82.9%に達している。自分の将来について最も心配しているのは結婚と仕 事である。久木元氏の調査によれば、現代の若者はイメージに反し、チャンレンジ精神に満ちて いるのではなく、現状から脱出することに不安を持っていることが明らかになった。 前節で論じた通り、働く事は今の若者にとって既に違う意味を持っている。昔の人々にとって 仕事とは夢を実現ためのもの、人生の意義であるかもしれないが、今はただ現状維持のため、と りあえず生きていくために働いてるようだ。日本には「ジリ貧」という言葉は実にこの現状をよ く表している、 「ジリ貧」の結末は言うまでもなく惨めなものであろう。 若者が不安を感じる理由は、1景気不安定、2年金問題、3医療崩壊などが考えられる。前節 のチャートで示したように景気不安定は労働環境の悪化に繋がる。日本は好景気の時代でもかな り長時間労働しなければならない。景気が悪くなると賃金が下がると同時に労働時間が更に長く なる。サービス残業によるストレスは重圧になり、働く者としては自分の健康に不安を感じるの も無理はない。しかしこの重圧から脱出するしたら、セーフティーネットから落ちる可能性すら ある。例えば現状は辛いがやっていける、転職したら正社員として採用される保証はない。この ような不安にかられ身動き取れない現状がある。 人はそれぞれ違う能力をもつ、今の社会で生きるにまったく不安を感じない若者もいる。うま く行く人は裕福になり、ジリ貧は文字通り徐々に落ちていく。ここで無視できないのはこのよう な社会で生きる時、必然的に不満が溜まっていくことである。不健康の生活ストレスで人は不幸 せになる。格差社会とはこういう社会を指すかもしれない。 日本の経済停滞と格差社会の拡大の関係を図1のようにまとめてみた。 図1 経済と格差の関係 経済の停滞 労働環境の 悪化 社会的不安 定 格差拡大 労働意欲の低下 フリーター、ニート 化 出所:筆者作成 高度成長期やバブルの時代ではこのようなことは想像もつかないだろう。豊かになった社会で 人々は物欲よりも精神的満足を求めるようになった。働くことは若者にとって既に違う意味を持 っている。それを考えなければならない。 第二章 正規雇用と非正規雇用 冒頭のも述べた通り、今日本の非正規雇用率は 35.2%である。非正規雇用は契約社員(有期)、 派遣、パートタイマーやアルバイトなどを指す。女性の場合は従来よりパートタイマーの割合が 高いに対し、男性の非正規雇用率は近年上昇傾向である。年齢層を見ると特に上昇率高いのは 15-24 歳男性のグループである。本章では若者の正規雇用者と非正規雇用者の現状と格差を論じる。 (1) 増加する非正規雇用 総務省の『労働力調査(詳細集計) 』によれば、15-24 歳の男性の非正規就業率は在学中を含み、 ピーク時の 2007 年は 45.6%、他の年齢層男性のおよそ 3 倍に達する。在学中を除いても 30%近 くある。2007 年リーマンショックで、それまで徐々に回復した新卒採用率は一気に落ち込み、新 卒にとって正社員になることは困難である。そして一度就職浪人や無職になれば再就職のハード ルはかなり高いものになる。 企業にとって、不況の中で優秀な人材を確保することが競争力を保てる鍵になる。技術者や営 業担当、所謂ホワイトカラーは大卒を中心に採用している。しかし日本の大学進学率は増加する 一方、そのため大卒というブラントの価値は 20 年前と比べ大きく下がった。1992 年の大学進学 率は 24.6%に対し、2012 年は 50.8%になる。人口減少のため大学進学の人数は倍にならないもの の、20 年前と比較すると 10 万人多い。筆者自身もつい最近就職した身であり、企業側は新卒者 に対し如何に慎重な審査を行っているかよく分かる。人間性や性格、学力と能力は企業にマッチ ングしなければすぐ落とされる。就職活動で挫折する学生は少なくないことが容易に想像できる。 学生側として、せっかく大卒だからもっと安定且つ「美味しい」仕事が欲しい。所謂大企業志向 である。表2が示すように、大企業で長く勤めることができれば高い収入が得られる。大企業の 若年従業員の割合が年々下がってる中、新卒で大企業に入る人はわずか一握り、多くの新卒者は 大企業に入れず、失敗を経験する。タイミングを見逃せば就職自体に失敗することもある。 表2 企業規模年齢別格差(男性 平成 18 年) 年齢 20-24 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 大企業(万円) 中企業(万円) 17.5 21.0 25.8 31.6 39.0 45.8 50.0 48.1 35.0 小企業(万円) 17.2 20.0 23.5 27.7 32.5 37.3 40.0 40.5 28.3 16.5 19.4 23.2 26.8 30.2 32.8 33.9 34.1 27.5 出所:厚生省 平成 24 年「年賃金構造基本統計調査」より作成 ニートは労働市場から撤退していると認識すれば、フリーターは就職戦線の敗者だと理解すべ きである。もちろん復活できれば最初の勝利に拘る必要はない。内閣府の発表によれば、2010 年 の大学、専門学校の卒業者数は 85 万人に対し、進学するのは 7 万人、無職やパート(非正規雇用) 14 万人で、実に 2 割を占めている。更に、就職した 57 万人のうち 3 年以内離職する人数は 20 万 との推計もでた。残りのおよそ 37 万人は安定した職業につくが、実に全体の 46%に過ぎない。 先述のように再就職で非正規雇用に転落する可能性が非常に大きい。このまま進めば、日本の非 正規雇用率が 50%超える日もそう遠くない。 (2)正規雇用と非正規雇用の格差 正規雇用者は勤続年数につれ、賃金が上昇するが、非正規雇用者の賃上げ幅は限られている、 まったく上がらない場合もある。そして非正規雇用者の雇用不安定のため、勤続年数が延びない、 定期昇給があっても高い賃金に繋がることはほぼない。これらの全ては収入格差を生み出すもの として認められる。筆者は格差の本質は満足度の差にあると主張したが、経済的格差は満足度を 大きく左右するが、他に労働条件やライフスタイルの差などの原因も認識しなければならない。 正規雇用者の労働条件は法律に准ずる場合、一日 8 時間、週 5 日の勤務となる。日本企業の残 業問題は未だに改善されていないが、週労働時間が 60 時間を越える場合もかなりあるようだ。そ の代わり、これに堪えることができれば少なくと安定な収入は確保できる。正社員として働く事 は一種の社会的ステータスでもある。このステータスは人生にとって大きなプラスだと考えられ る。例えば結婚、出産や子育てには大きな影響を与えると考えられる。非正規雇用者は色々な差 別を受けることがある、定職に就けるかどうかは人間性にかかわる問題である。参考までに筆者 の体験談を紹介しよう。学業の合間に昼間のアルバイトをやり始めたごろの話だった、見た目の 年齢で普通なら会社に勤めているはずだったが昼間バイトで働く事はまずかったのか、最初の頃 は仕事場の同僚に雑な扱いを受けた。しかし時が経ち、学生であることや就職が決まったことが 知りわたったことで、扱いがかなり良くなったと実感した。自分は将来に対する不安はあるもの の、努力すれば安定な地位が確保できると知り、負い目は感じなかった。しかしもし自分がフリ ーターで、仕事場でこのようなひどい扱いをされたらさぞ苦しいだろう。 心理的な格差は人によって受け止め方は違うだろう、しかし人間には一日 24 時間を平等に与え られ、如何に効率に幸せに過ごすかは満足度にかかわる。非正規雇用者の給与が安いことはもは や証明する必要もない。労働時間に関しては調整する自由がある場合が多い。パートタイマーや アルバイトの場合決められた時間で決められた業務をこなせば問題はない。給料が安い前提なら ばより低い水準で生活するか、人より沢山働くかを選ばなければならない。そうなれば複数の職 場を渡る必要が出てくる。ここでまた 2 つ問題が生じる。1 つ、正規雇用者と比べてより長い時 間働くことで、自由時間の格差が生まれた。2 つ、複数の職場はより多くのストレスを溜まるこ とが想定されるため、心理的及び身体的健康に及ぼす可能性がある。仕事を選ぶ自由がある代わ り失うものが多いといわざるを得ない、長い期間にわたってこのようなことが起きれば格差は拡 大していくと推測できる。 拡大していく格差について、経済的観点では、正規雇用と非正規雇用の格差拡大は 2 つのルー トがある。1 つは定期昇給をもたらす格差。先述のように非正規雇用は勤続年数が短いのとそも そも昇給はないかもしれないなどにより、長期間にわたれば正規雇用との差が拡大する一方であ る。2 つは貯金の差である。これは個人志向によるものが大きいが、全体的に安定収入のある人 が貯金しやすい、したがって臨時雇用の人よりも沢山貯金ができると思われ、長期間に渡れば個 人資産の格差が大きくなる。 かつて非正規雇用は学生アルバイトや主婦の家計補助の場合が多いが、今は学卒や世代主にも 広がっていく、企業だけではなく、公務公共職の非正規化も進んでおり、相対的貧困率が上昇し ている。日本の相対的貧困率は 16%で、先進国 2 位である。その背景には名ばかり正社員やワー キング・プアなどの事情が存在する。 (3)ワーキング・プアの実態 ワーキング・プアは社会の軌道から脱落した者の実態である。日本では社会の軌道から外れる 者に対する救済策は少ないため、ドロップアウトしたものは簡単に復帰できない。ワーキング・ プアはフリーターなどの非正規雇用だと認識されているが、今や小規模の企業や所謂ブラック企 業の正社員もその仲間になりつつある。 最近名ばかり社員が増えたことが注目され始めた。雇用形態は正規であり、無期契約だが、労 働条件は雇用期間意外非正規雇用と殆ど変わらない。フリーターと比較すると仕事を選択する自 由すら奪われる。 表3 雇用形態別賃金 年齢 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 正規雇用(千円)非正規雇用(千円) 235.9 188.2 272.7 200.6 310.7 200.3 349.1 196.6 385.9 193.4 398.9 191.2 384.4 194 297.4 215.5 出所:厚生省 平成 24 年賃金構造基本統計調査より作成 表3のように、非正規雇用者は殆ど年収 200 万円台、貧困ラインぎりぎりの収入で生活してい る。そして正規雇用の収入のピークは 50 代前半と違い、30 代前半である。60 代前半の非正規雇 用賃金は正規雇用定年後に再雇用される人の賃金を加えたため額が増えると考えられる。30 代か ら 50 代の間、子供の養育費や教育費で一番苦しい時期であるにもかかわらず非正規雇用者の収入 は減り続ける。正に働きながら貧困になっていく者達。名ばかり正社員はもちろん非正規雇用者 と同レベルの給与だと考えられる、その上時間や仕事を選ぶ自由もないため、更に過酷な状況で ある。 ワーキング・プアは結婚できないとネットで話題になったこともある。総務省統計局「就業構 造基本調査」 (2007)によれば 25-29 歳男性の結婚率は、正規雇用労働者は 33.1%に対し、非正規 雇用労働者はその半分以下の 14.1%。30-34 歳男性の場合、正規雇用者は 59.3%、非正規雇用者は やはりその半分以下の 28.5%である。考えられる結果、非正規雇用者は増え続ければ少子化は更 に深刻化し、将来日本の労働力不足に繋がる。更に深刻な問題は年金問題である。非正規雇用者 は今の生活のために年金を払う余裕はない、現に年金が不足している状況、これから更に深刻に なれば年金制度自体が崩壊しかねない。 働いているのに自立できず、結婚や子供も望めないことは社会にとって非常に多きなダメージ を与える。残念ながら日本政府は失業率が低水準であることだけに満足しているようで、未だに 非正規雇用の影響を直視していない。このまま進めば必ず二極化格差社会に辿ることはもはや疑 う余地もない。次章では筆者の出身地でもある隣の中国を論じ、二極化格差社会について考える。 第三章 二極化格差社会の形成及び影響 二極分化とは中間の存在が減少し、両極端に分かれることである。現代では、階級という概念は 薄れているが、確かな格差が感じられ、社会的階級の存在もたしかである。一国は経済を成長さ せるため、必然的に何かを犠牲にしなければならない、例外はない。かつて日本の高度成長期に 汚染問題を出したり、最近の中国で環境破壊もそれを証明している。環境はそうであるように、 人間もまた然り。経済発展につれ、全員が均等に豊かになることは存在しない、あらゆる要因で、 豊かになっていく人と現状維持に精一杯の人がいる。もし政策的解決策がないまま進めば、いず れ貧富は二極端に分かれることになる。近年凄まじい経済成長を見せた中国では、貧富格差の問 題は最も突出し、社会を崩壊させる恐れがあるほどの大問題になった。本章では二極化社会につ いて考えたい。 (1) 二極化社会の形成 先ず、二極化社会はどのように形成されるのかを見てみよう。戦後の中国は毛沢東時代の大躍 進と文化大革命を経験し、経済が崩壊の淵に立たされた。これを奪回すべく 1987 年に改革開放政 策を打ち出し、計画経済から市場経済へ移行した。改革開放から 30 年の間は各国の経験を学び、 史上最速と言ってもいいほど経済が成長してきた。しかしこれは一部の都市で見られる成長であ り、地方では未だに極貧の生活を強いられる国民が沢山いる。改革開放時代の実質的指導者の鄧 小平いわく、一部の人が先に豊かになり、それにつれて全ての人が徐々に豊かになる。所謂先富 論である。 改革開放当時、中国国民は同じ給料を貰い、貧困でありながら格差は存在しない。しかし改革 開放以降は一部の起業家が成功を収め、沿岸部の工業が発展し、沿岸部都市の経済が発展した。 都市の人口だけでは労働力不足のため、地方都市や農村部から労働力を調達することになった。 中国特有の戸籍制度では、農村生まれは実質的「二等国民」として差別を受けている。出稼ぎで 都会に出た農民たちは都会での永住権を貰えず、身分の乏しい彼らは低い賃金に甘んじて働き続 けなければならない。これに対し、都会生まれは発展する都市で生まれ、高等教育を受け、経済 発展の一環を担う存在になっていく。外来労働力に永住権を持たないため、地方と都市の格差は 埋まらなかった。 急激な成長が見られたのは 2000 年以降である。しかし一部の法整備の不完全のため、不動産の 価格の高騰が抑えられず、都会の中でも一部の中産階級がドロップアウトせざるを得なかった。 都会生まれだけで、普通に働いても自立できなくなった。一方富豪と呼ばれる人の数は増え続け ている。中国では家を持たなければ結婚できないという観念が根強くあるため、中産階級からド ロップアウトする若者は結婚もできないという現状がある。これは日本の非正規雇用に酷似して いる。 筆者は二極化格差社会を形成する最も大きな原因は認識の遅れと政治的不手際にあると考える。 中国は 30 年間で他の国が 60 年も 100 年もの発展を成し遂げたため、政府の認識よりも早く問題 が爆発した。さらに官僚の腐敗などの理由で問題が意図的に隠蔽される可能性もある。日本でも 中国と似たような問題があるが、未だに問題と向き合う姿勢ができていないため、日本の将来も 二極化格差が懸念される。 (2) 格差がもたらす不安定社会 格差問題は結果的に社会の不安定に繋がる。絶対的貧困よりも相対的貧困のほうが深刻な問題 だと思う。GNH 説で有名になったブータンの例を挙げよう。橘木俊詔の著書でも紹介されている ように、2005 年の調査で、ブータンの国民の 97%が幸せだと思っている。国全体が貧困であるに もかかわらず国民ほぼ全員が幸せであることが世界を驚かせた。しかし我々からみてブータンの 人々は本当に幸福であるかは多少疑問がある。ブータンはその地理ゆえに国民が外界との接触機 会が少ない。そこに訪れる旅行客には人数制限がかかれ、それも殆ど中高年である。つまり知ら ぬがゆえに幸福と感じているのではないかと筆者は考える。しかし知り始めると後戻りはできな いのもまた事実である。 日本は開放の国であり、情報伝達が非常に早い、ブータンのような形の幸福を手に入れること は恐らく不可能である、逆に相対的な貧困に身をおく人々の不満や不安が増える一方である。実 際中国では格差に不満を感じ、国民が暴動を起こす話はメディアの報道でよく聞く。中国政府は 格差緩和のアクションを起こすか或いは崩壊を待つかの局面に立たされている。前章で論じたよ うに半分以上の若者が安定な職に就けない日本で、政府はそれをただミスマッチの一言で片付け ようとしている、これは対応の遅れに繋がると考える。 終章 結論と解決策 本論文の第一章で日本の格差に触れ、筆者が格差に対しどう認識するかを述べた。世代交代で 今働いている若者にとって格差は既に違う意味を持っていることが明らかになった。第二章では 経済的格差を拡大させた要因のひとつ、非正規雇用率上昇について分析し、原因を論じた。格差 拡大の先に二極分化社会が形成されることを想定し、第三章で二極分化社会のメカニズムと影響 について述べた。 従来の格差研究は経済的格差に注目するものが多い。本論文では経済的格差により生じた問題 について論じて来た。結論を述べたいと思う。 経済的格差は国民生活のあらゆるところに現れ、人々は社会に対する不満は蓄積していくため、 社会全体は不安定になる、極端な場合は騒乱が起きる可能性がある。格差の拡大により若者が将 来に対する期待や希望がなくなり、これが経済の停滞につながる一因と考えられる。20 年前と比 べ大卒の価値が下がったため、新卒のおよそ半分が安定する職業に就くことができず、結果若年 層の非正規雇用労働者率がこれからも上昇傾向にあり。現在日本の非正規雇用者の権利を守るた めの法律は乏しく、非正規雇用者は高確率で貧困層になる。一度非正規雇用者に転落すれば再び 正規雇用に戻ることが非常に困難であり、若者が正規雇用を失えばその人生に多大な影響がある。 結婚や子育てなどの人生イベントを見送ることになりかねない上、生涯の収入が低下し、決定的 な格差を生み出すことにもなる。将来的に二極分化格差社会に発展する恐れがあり、これを注意 しなければならない。 現状政府の対応は未だに乏しく、非正規雇用者に有益な法律はわずかである。隣の韓国では非 正規雇用者は全体の半分を占めているため、非正規雇用者を保護するための法律を作った。国際 競争力を失うことが恐れる政府はいままで通りの方針で産業を強化しようとしている、非正規労 働者はこれからも増え続ける可能性が高いため、非正規労働者が正規雇用に戻れる道を作る法律 が必要となる。場合によって非正規労働者の労組を設置することも必要である。 参考文献 1、玄田有史・川上淳之(2006) 「就業二極化と性行動」日本労働研究雑誌 556 号 2、西村淳 (2007) 「非正規雇用労働者の年金加入にめぐる問題―国際比較の視点から-」 3、濱口桂一郎 (2009) 『新しい労働社会―雇用システムの再構築へ』岩波新書 4、下谷政弘、鈴木恒夫(2010) 『 「経済大国」への軌跡』 ミネルヴァ書房 5、佐藤博樹、藤村博之、八代充史(2011)『新しい人事労務管理 第4版』有斐閣アルマ 6、橋本健二(2011) 『階級都市――格差が街を侵食する』 筑摩書房 7、濱口桂一郎(2011) 『日本の雇用と労働法』日経文庫 8、久木元真吾(2011) 「不安の中の若者と仕事」 特集 不安の時代と労働 9、橘木俊詔(2012) 『格差社会』 ミネルヴァ書房 10、労働政策研究・研修機構(2012) 『非正規就業の実態とその政策課題―非正規雇用とキャリ ア形成、均衡・均等待遇を中心に』 11、橘木俊詔(2013) 『 「幸せ」の経済学』 岩波書房 12、 厚生労働省 URL:http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/genjou/ 非正規雇用(有期、パート、派遣労働) 13、キャリコネ URL: http://careerconnection.jp/biz/economics/content_209.html 大卒「安定就職」5 割以下