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6.9.1-33 図 6.9.1- 16 狩りに関する行 動がみられた範囲(越冬期:F 個体)
図 6.9.1- 16 狩りに 関する行 動がみられた範囲(越冬期:F 個体) 6.9.1-33 図 6.9.1- 17 狩りに 関する行 動がみられた範囲(越冬期:G 個体) 6.9.1-34 〔2〕 ハヤブサ イ 生態 生活史及び生息環境は、 「 第 6 編調査の結果の概要並びに予測及び評価の結果 第 8 章陸生生物」における「調査結果」の「予測対象とする重要種の抽出」の「ハヤ ブサ」の「生息環境及び生態」と同様とする。 ロ 他の動植物との関係 ハヤブサは、動物食性の猛禽類で、調査地域内の干陸地、干拓地、諫早湾及び有 明海を含む干潟の生態系の上位に位置する代表的な種である。本種と他の動植物と の関係を図 6.9.1- 18 に示す。 餌は、主にオオヨシキリ、ヒヨドリ、カワラバト(ドバト)、シギ・チドリ類、カ モ類等の鳥類を捕食する。これらの鳥類は、植物(草の実等)、昆虫類、ゴカイ類等 の底生動物等を捕食する。このように、調査地域では陸域から水域にかけてハヤブ サを頂点とした食物連鎖が成立している。 ハヤブサ オオヨシキリなどの鳥類 シギ・チドリ類,カモ類 ゴカイ類,エビ類,アサリ・サルボウガ イなどの二枚貝類 トノサマバッタなどの昆虫類 動物プランクトン 陸生植物,栽培植物 図 6.9.1- 18 ヨシ群落等 植物プランクトン ハヤブサと他の動植物との食物連鎖図 6.9.1-35 ハ 生息状況等 文献及びその他の資料調査、及び現地調査の結果、ハヤブサは干陸地、調整池及 び調整池周辺の背後地のほか、佐賀県佐賀市、熊本県荒尾市で分布が確認されてい る。調査地域全域の確認範囲を図 6.9.1- 19 に示す。また、平成 21 年度及び平成 22 年度の現地調査において、調整池周辺でハヤブサが確認された範囲を図 6.9.1- 20 に示す。 現地調査では、干拓地、干陸地及び調整池淡水域の広い範囲でハヤブサが確認さ れた。 6.9.1-36 図 6.9.1- 19 ハヤブ サの確認 状況(調査地域全域) 6.9.1-37 図 6.9.1- 20 ハヤブ サの確認 状況(調整池周辺) 6.9.1-38 ・繁殖状況 繁殖期にあたる 5 月から 7 月の現地調査において、調整池周辺を利用していたハ ヤブサは、雌(成鳥)、雄(成鳥)、幼鳥の 3 個体であった。それぞれの個体の確認回 数を表 6.9.1- 17 に示す。 これらの個体は、合計で延べ 14 回確認されたが、巣材運び、餌運びなど繁殖に係 る行動は観察されなかった。7 月に幼鳥が 1 回確認されたが、巣立ち後の時期であ る 6 月には幼鳥が確認されていないことや、営巣・育雛期である 5~6 月に、成鳥が ほとんど確認されていないこと、また、調査範囲には本種の営巣環境となる岩棚が ないことから、調査範囲内でハヤブサが繁殖している可能性は低い。 ただし、繁殖期に成鳥が確認されていること、また本種は巣から 300~2、000m 離 れた場所で探餌する 1 とされていることから、調整池周辺の背後地に営巣地があり、 確認された個体は探餌のために調整池を利用していた個体であると考えられる。 表 6.9.1- 17 調整池周辺における繁殖期(5~7 月)のハヤブサの確認回数 [単位:回] 5月 調査日 識別個体 6月 7月 合計 29 日 30 日 31 日 4 日 5 日 7 日 8 日 9 日 17 日 18 日 19 日 15 日 16 日 17 日 雄(成鳥) 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1 2 3 0 7 雌(成鳥) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 2 3 幼鳥 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1 不明※ 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 1 0 0 3 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1 2 4 4 2 14 合 計 注)※:性別、齢が判別できなかった個体 ・採餌・休息状況及び生息環境の状況 採餌行動は、新干拓地及び干陸地でみられた。本種の狩りは、鉄塔などの高い構 造物にとまり、群で行動する鳥類を見つけると一直線に飛行して、空中で捕獲する 方法である。餌は小型の鳥類であり、現地調査では干拓地や干陸地の草地でみられ るツバメやスズメを狙う行動がみられた。干陸地には、ハヤブサの餌となるスズメ やツバメ等が群で生息しており、また、干拓地にはハヤブサが餌を探すために止ま る鉄塔や電柱などの高い構造物が点在している。 現地調査では、ハヤブサが日没前後に決まった場所へ向かう行動はみられなかっ たことから、チュウヒのように特定のねぐらは持たないと考えられる。一般的には、 本種は夜間の休息場所として電柱や鉄塔等の高い構造物を主に利用することから、 調整池周辺では干拓地の鉄塔や電柱等を利用していると考えられる。 6.9.1-39 図 6.9.1- 21 ハヤブ サの採餌 行動(調整池周辺) 6.9.1-40 〔3〕 サギ類 イ 生態 サギ類はコウノトリ目サギ科の各種を指し、調査範囲内で個体数が多いのはアオ サギ、ダイサギ、コサギである。 生活史は、アオサギでは「四国以北には留鳥として周年生息し、それ以南には冬 鳥として渡来する」2 、ダイサギ(チュウダイサギ)では「九州以北に夏鳥として渡 来」 2 、コサギでは「本州では留鳥として周年生息する」 2 とされ、これらサギ類は 北部九州でふつうに繁殖する。 生息環境は、「雑木林、竹藪、アカマツ林などにおびただしい数で集団で営巣し、 「巣はタケ、マツ、スギ、カシ、 他のサギ類と同じ竹藪や林に繁殖する例が多い」2 、 ニワトコなどの地上から 1.5-17m ぐらいの高さの枝上」 2 、「水田、湖、池、沼沢、 海岸の浅瀬、干潟、入り江、ヨシの草原、湿地の草原などを採食地とし、森林を繁 殖地やねぐらとする」2 とされ、まとまった面積のある森林にコロニーを形成して繁 殖し、繁殖地と採食地である河口等の水辺環境が近接している場所に生息すると考 えられる。 食性は「主として魚類、両生類の無尾目、有尾目も好んで食物とする」2 とされる。 ロ 他の動植物との関係 サギ類は、主に魚食性の鳥類で、調整池の水辺の生態系の上位に位置する代表的 な種として位置づけられる。本種群と他の動植物との関係を図 6.9.1- 22 に示す。 餌は、主に池沼や河川河口域の魚類で、種によっては陸上の両生類などの小動物 も捕食する。これらの動物は水生昆虫類や他の底生動物を捕食する。このように、 調整池ではサギ類を頂点とした食物連鎖が成立している。 サギ類 ギンブナなどの魚類 ミミズ類,ユスリカ類 水生昆虫類 動物プランクトン 植物プランクトン 図 6.9.1- 22 付着藻類 サギ類と他の動植物との食物連鎖図 6.9.1-41 ハ 生息状況等 文献及びその他の資料調査、及び現地調査の結果、サギ類は、干陸地、調整池及 び調整池周辺の背後地のほか、諫早湾の主に海岸沿いで分布が確認されている。 平成 21 年度及び平成 22 年度の現地調査において、調整池周辺でサギ類が確認さ れた範囲を図 6.9.1- 23 に示す。 現地調査では、流入河川沿い、干拓地、干陸地、調整池淡水域及び諫早湾の海岸 沿いの広い範囲でサギ類が確認された。 ・繁殖状況 繁殖期にあたる 5 月から 7 月の現地調査において、調整池周辺では、沖ノ島、本 明川四面橋左岸側の 2 箇所が繁殖コロニーとなっており、主に広葉樹からなる林で ある。沖ノ島では、アオサギ、コサギ、ダイサギ、チュウサギ、アマサギ、ゴイサ ギの 6 種が集団で繁殖していた。 b.採餌・休息状況及び生息環境の状況 採餌行動は、干陸地の水辺、諫早湾の海岸沿い、流入河川沿いで広くみられた。 サギ類は、主にこのような水辺の浅場(サギ類の脚の着く深さ)で水中の魚類や水 辺のカエル類等を捕食する。現地調査では、同様に魚類を捕食するミサゴが利用し ないような小規模の水域(干陸地の用水路や幅の狭い河川の支川)に入って採餌す る個体が多くみられた。 休息場所は、繁殖コロニーのある樹林地であり、日没前後には多数の個体が集ま り集団ねぐらを作っていた。これらの樹林は、冬季のねぐらとしても利用されてい た。 6.9.1-42 図 6.9.1- 23 サギ類 の分布状 況(調整池周辺) 6.9.1-43 〔4〕 ミサゴ イ 生態 生活史及び生息環境は、 「 第 6 編調査の結果の概要並びに予測及び評価の結果 第 8 章陸生生物」における「調査結果」の「予測対象とする重要種の抽出」の「ミサ ゴ」の「生息環境及び生態」と同様とする。 ロ 他の動植物との関係 ミサゴは、主に魚食性の鳥類で、調査地域内の水域生態系の上位に位置する代表 的な種である。 餌は、主に湖沼、河川河口域や浅海域の魚類を捕食する。これらの動物は水生昆 虫類や他の底生動物、動物プランクトンなどを捕食する。このように、調査地域で はミサゴを頂点とした食物連鎖が成立している。 ミサゴ ギンブナなどの魚類 ミミズ類,ユスリカ類 コノシロ,シログチなどの魚類 ゴカイ類,エビ類,アサリ・サルボウガイ などの二枚貝類 動物プランクトン 植物プランクトン 図 6.9.1- 24 ミサゴと他の動植物との食物連鎖図 6.9.1-44 ハ 生息状況等 ミサゴは、既存資料及び現地調査の結果、佐賀市、荒尾市、諫早湾のそれぞれ沿 岸で分布が確認された。 調整池周辺で確認されたミサゴの出現個体数の経年変化を図 6.9.1- 25 に、諫早 湾及び調整池周辺で確認されたミサゴの分布状況を図 6.9.1- 26 に示す。 ミサゴは、諫早湾の浅海域、調整池内で広く観察された。平均個体数は、春季が 0.5~6 個体、夏季が 0.5~1.7 個体、秋季が 1.7~21.8 個体、冬季が 1.2~14.8 個 体と秋季、冬季に多い。北日本で繁殖した個体の一部は、9~10 月に西日本に渡る ことが知られており(「第 6 編調査の結果の概要並びに予測及び評価の結果 章陸生生物 調査結果 予測対象とする重要種の抽出 ミサゴ 第8 生息環境及び生 態」参照)、渡りの時期である秋季、越冬期である冬季に多いのはこのためと考えら れる。調整池、諫早湾浅海域では、休息する個体が多く観察された。 繁殖期である 6 月に調整池内を利用する個体数変化を表 6.9.1- 18 に示す。繁殖 期においても 1~14 個体が調整池内を利用し、確認されたほとんどの個体が調整池 内を終日利用していた。 出現個体数(個体数/調査回) 春季 夏季 秋季 冬季 18年度 19年度 20年度 21年度 25 20 15 10 5 0 12年度 13年度 14年度 15年度 16年度 17年度 注)調査は、春季が平成 12 から 20 年度、夏季が平成 12 から 13 年度、秋季、 冬季が 12 から 21 年度に実施した。 図 6.9.1- 25 調整池におけるミサゴの平均個体数 6.9.1-45 図 6.9.1- 26 ミサゴ の確認状 況(有明海全域) 6.9.1-46 ・繁殖状況 繁殖期にあたる 6 月の現地調査において、調整池周辺を利用していたミサゴの個 体数を表 6.9.1- 18 に示す。また、これらの個体の繁殖に係る行動を図 6.9.1- 27 に示す。 ミサゴの巣内育雛期(巣内のヒナへ餌を運ぶ時期)である 6 月に、成鳥個体が背 後地へ餌を運ぶ行動が 9 回観察された。調整池及び干陸地には本種の営巣環境とな る岩棚や大径木がないこと、巣材を運ぶ個体が確認されなかったことから、この範 囲での繁殖の可能性は小さい。 しかし、現地調査では、調整池内で巣立ち後の幼鳥が親個体から給餌を受けるの が確認され、調整池は巣外育雛期の個体の生息場となっていた。 このようにミサゴは、調整池をヒナや幼鳥へ給餌するための採餌環境としている が、調整池内には営巣環境となる岩棚や大径木がないことから、繁殖地の可能性は 小さい。諫早湾及び有明海では、繁殖期である春季から夏季に本種の生息が確認さ れていることから、 ヒナや幼鳥へ給餌するための採餌環境となっている可能性は高 いが、営巣環境となる岩棚や大径木がないことから、繁殖地の可能性は小さい。 表 6.9.1- 18 繁殖期である 6 月に調整池内を利用する個体数 [単位:個体] 時 9時 刻 調査時期 10 時 11 時 12 時 13 時 14 時 15 時 16 時 17 時 0 分 30 分 0 分 30 分 0 分 30 分 0 分 30 分 0 分 30 分 0 分 30 分 0 分 30 分 0 分 30 分 0 分 30 分 平成 22 年 6 月 4 日 - - 5 6 8 7 10 9 14 9 9 10 9 13 6 7 8 7 6月5日 5 4 6 6 5 2 2 5 6 5 5 5 1 4 4 4 - - 注)数字は、各調査時刻から 10 分間の個体数を示す。 「-」は、調査しなかったことを示す。 6.9.1-47 図 6.9.1- 27 ミサゴの繁殖に 係る行動(調整池及び諫早湾) 6.9.1-48 b.採餌・休息状況及び生息環境の状況 ミサゴの狩りの結果を図 6.9.1- 28 に示す。本種の狩り場及び探餌飛翔範囲は、 調整池の本明川、二反田川及び有明川の河口に集中していた。 捕獲される魚類はボラ類、エツ、フナ類であった。 「第 6 編調査の結果の概要並び に予測及び評価の結果 第 9 章生態系」における「調査結果」の「典型性のギンブ ナ等の魚類」によると調整池内では、B-1、B-2 ともにエツ、ギンブナなどであり、 出現個体数も両地点で大きな違いはみられなかった。調整池は、表層を回遊するエ ツの個体数が多いため、水面近くの魚を捕らえるミサゴにとって捕獲しやすい魚が 豊富に生息する環境であると考えられる。 本種は飛翔中に水面近くを泳ぐ魚を見つけ、水中へダイブして捕らえるため、静 穏な水域を好んで採餌環境とする。調整池は、潮受堤防、干陸地、潜堤、沖ノ島、 周辺の丘陵地などで囲まれ、風による波浪が比較的少ない環境が点在するためと考 えられる。 狩り場所及び探餌範囲周辺である本明川河口、潜堤内、ヨシ進出工周辺には、採 餌の合間の休息場所や捕獲に成功した後、採食場所となる竹竿、杭が多く存在して いる。 このように、ミサゴにとって調整池内は、採食場所となる竹竿や杭が多く存在し、 静穏な水域が広がり、表層を回遊する魚類が豊富に生息する良好な採餌環境である。 諫早湾及び有明海沿岸域には、海苔養殖用の竹竿、船を係留するために杭などが 多く存在し、餌となるボラ類、エツ、コノシロも生息しており、入り江に囲まれ静 穏な水域も多いことから、諫早湾及び有明海沿岸域は、ミサゴにとって良好の採餌 環境となっていると考えられる。 6.9.1-49 図 6.9.1- 28 ミサゴ の採餌行 動(調整池周辺) 6.9.1-50 ミサゴの調整池内の休息場所を図 6.9.1- 29 に示す。 調整池は、竹竿、杭、ブイなどを休息に利用する。休息場の分布は本明川河口、 潜堤上や潜堤で囲まれた水域、南部排水門周辺、二反田川河口周辺に集中している。 休息環境と採餌環境はほぼ一致しており、調整池東側中央付近では、採餌及び休息 行動はほとんどみられない。 図 6.9.1- 29 ミサゴ の休息行 動(調整池周辺) 6.9.1-51 B 典型性 〔1〕 ヨシ群落 イ 生態 ヨシ群落は、 「ヨシが優占するイネ科草本群落で、共存する植物は少なく、塩生地 では純群落になる」 3 とされる。 群落が成立する立地は、 「沖積地、小河川に沿った湿地、塩生地など。地表は停滞 水に被われ、泥質」 3 で、「地下水位の変動がなければ群落は持続する」 3 とされる。 群落を構成するヨシは、 「 湖沼や河川の岸および水湿地に大群生する低層湿原の代 「高さ 1~3mの大型の多年草で」5 、花は「8~10 月」4、 5、 6 、 「種 表的な抽水性の」4 、 子または根茎で越冬」 4 するとされる。 「ふつう水深 1m以内に生育するが、地下茎はよく発達し地中 1mぐらいまで匍匐 する」 4 、「海岸の塩分濃度の高い潟湖やかなり強酸性の湖沼沿岸にも生育できる」 4 とされる。 琵琶湖でのヨシの植栽試験では、「植栽後 1 年目で 30cm、2 年目で 40cm を超える 高水位はヨシの茎個体数を抑制する」 7 という結果が得られている。 塩分耐性については、 「ヨシと塩分濃度(11‰、14‰、21‰、26‰、33‰)の関係に ついて検討した結果、塩分濃度 11‰でヨシの各器官の重量が最も大きい値を示し、 塩分の増加とともに阻害の程度が増大したことを示した。そして 21‰ではかなりの 阻害が認められ 26‰以上では成長不能であった」 8 とされており、少なくとも 14‰ 以上の塩分濃度では生育が阻害されると考えられる。 ロ 他の生物との関係 ヨシ群落は、干陸地全体の植生の約 50%を占めており、占有面積が最も大きい群 落である。群落は単一種で構成されることが多いが、水際部ではヒメガマ、汽水の 影響の残る環境ではウラギク、干拓地側に近い土湿が湿潤な場所ではゴキヅル等を 伴う。 ヨシ群落は、干陸地で広大なヨシ原を形成しており、ここでは図 6.9.1- 30 に示 すように、チュウヒ、オオヨシキリ等の広いヨシ原に生息を依存する種が生息・繁 殖する。チュウヒは、ヨシ群落や周辺の畑地でネズミ類やカナヘビ等の動物を餌と するヨシ原の生態系の上位種である。また、冬季には、オオジュリン等の鳥類が越 冬地としてヨシ原を利用する。 また、ヨシ群落は、調整池と干陸地、淡水と海水との移行帯に位置するため、環 境傾度のある場を形成し、多種多様な生物の生息場となっている。 このような水際部では、カイツブリやバン、ヨシゴイなどの水鳥が池に面したヨ シ群落内で営巣するほか、水際部の水域はギンブナなどの魚類及びムスジイトトン ボやネアカヨシヤンマなどのトンボ類の産卵場ともなっている。また、ヨシ群落水 際部の地表は、アシハラガニなどのカニ類や貝類等の水生動物の生息場となってい る。 ヨシ群落を構成するヨシには、その植物体上にヤマトヒメメダカカッコウムシ、 ヨシツトガ、ジュウサンホシテントウなどの昆虫が生息し、ヨシ群落にはこのよう 6.9.1-52 なヨシに依存する昆虫類が多く生息する。またこれらの昆虫類を餌とするセッカ、 ホオジロ等の鳥類も多く生息する。その他、オオヨシキリは営巣植物としてヨシを 利用する。 チュウヒ は虫類 アオダイショウ、シマヘ ビ など 草地に生息する鳥類 オオヨシキリ、オオジュリ ン、セッカ、スズメなど 両生類 ヌマガエル、トノサマガエ ル、ウシガエルなど ほ乳類 ハツカネズミ、カヤネズミ など 昆虫類 ヤマトヒメメダカカッコウムシ、ヤマトヒメテントウ、コバネナガカメムシ、ジュウサンホシテントウな ど ヨシ群落等 図 6.9.1- 30 陸生植物・栽培植物 ヨシと他の動物との食物連鎖図 ハ 生育状況等 調査地域では、図 6.9.1- 31、表 6.9.1- 19 に示すように、自然植生及び代償植 生が約 20%、スギ・ヒノキ・サワラ群落等を含む植林地が約 20%、水田雑草群落を 含む耕作地が約 35%を占め、ヨシクラス(ヨシ群落、キシュウスズメノヒエ群落、 ゴキヅル群落)は約 2.5%と占める割合は低くなっている。しかし、干陸地では、 図 6.9.1- 32、表 6.9.1- 20 に示すように、ヨシクラスが約 60%を占め、この範囲 を代表する環境となっている。ヨシクラスの構成群落となっているヨシ群落は、干 陸地の地盤高が EL(-)1.0m~EL(-)0.5mの範囲に広がっており、土湿が湿(土塊を にぎって水がでるがたれない程度)から過湿(土塊をにぎって水がしたたる程度) の場所に生育している。植生の基盤となる土質の種類は、ほとんどがシルトやシル ト礫であり、シルトを多く含んだ場所にヨシ群落が成立している。一方、EL(-)0.5 m以上の範囲では、セイタカアワダチソウやクズなどの比較的乾燥した土壌に生育 する植物が優占し、路傍・空地雑草群落やクズ群落などが形成されている。 6.9.1-53 図 6.9.1- 31 6.9.1-54 背後地の植生図 表 6.9.1- 19 調査地域における植生の割合 調整池周辺 及び背後地 植生 面積 (ha) ブナクラス 域自然植生 ヤブツバキ クラス域自 然植生 落 葉 広 葉 樹 林( 太 平洋型) 常緑広葉樹林 温暖帯針葉樹林 ヤブツバキ クラス域代 償植生 リョウブ-ミズナラ群集 - - 5.1 0.02 - - ミヤマシキミ-アカガシ群集 12.9 0.05 - - ルリミノキ-イチイガシ群集 9.9 0.04 - - ヤブコウジ-スダジイ群集 7.6 0.03 - - ミミズバイ-スダジイ群集 11.8 0.05 - - シキミ-モミ群集 31.0 0.12 - - ウリノキ-ミズキ群落 シイ・カシ二次林 アカガシ二次林 0.4 0.00 - - 2954.1 11.72 - - 587.6 2.33 - - タブノキ-ヤブニッケイ二次林 17.3 0.07 - - ハクサンボク-マテバシイ群落 1.4 0.01 - - 489.1 1.94 - - アカマツ群落(Ⅶ) 47.4 0.19 - - メダケ群落 14.9 0.06 0.1 0.01 6.7 0.03 7.3 1.00 クズ群落 29.9 0.12 1.9 0.26 二次草原 チガヤ-ススキ群落 88.9 0.35 6.1 0.84 伐採跡地群落 伐採跡地群落(Ⅶ) 4.5 0.02 - - 620.2 2.46 396.5 54.49 45.0 0.18 20.6 2.83 5271.5 20.91 - - 0.8 0.00 - - その他植林 7.6 0.03 - - クヌギ植林 103.8 0.41 - - アカメガシワ-カラスザンショウ 群落 低木群落 湿 原・河 川・池 沼 植生 ヨシクラス (ヨシ群落、ヒメガマ群落、キシュ ウスズメノヒエ群落) ツルヨシ群集 植林地 スギ・ヒノキ・サワラ植林 クロマツ植林 竹林 竹林 牧草地・ゴルフ 場・芝地 ゴルフ場・芝地 耕作地 路傍・空地雑草群落 牧草地 放棄畑雑草群落 果樹園 茶畑 市街地等 0.28 - - 0.76 2.6 0.36 32.3 0.13 - - 315.5 1.25 261.5 35.94 1.3 0.01 - - 1361.1 5.40 - - 4.5 0.02 - - 2171.2 8.61 14.3 1.97 水田雑草群落 4838.9 19.20 - - 6.1 0.02 - - 1640.4 6.51 3.4 0.47 391.1 1.55 - - 市街地 緑の多い住宅地 工場地帯 59.6 0.24 - - 289.9 1.15 12.9 1.77 開放水域 3416.9 13.56 - - 自然裸地 1.7 0.01 0.5 0.07 25207.9 100 727.7 100 造成地 合 71.4 191.6 畑雑草群落 放棄水田雑草群落 その他 割合 (%) 0.18 落葉広葉樹林 タケ・ササ群落 植 林 地 、耕 作 地植生 面積 (ha) 45.0 ケクロモジ-コハウチワカエデ群 落 常緑広葉樹二次 林 落葉広葉樹二次 林 岩 角 地・海 岸 断 崖 地針葉樹林 河 辺・湿 原 ・ 塩 沼 地・砂 丘 植生等 割合 (%) 干陸地 計 6.9.1-55 図 6.9.1- 32 生図 6.9.1-56 調整池周辺の植 表 6.9.1- 20 干陸地及び新干拓地における植生の割合 干陸地 植生 ヤブツバキクラ ス域自然植生 ヤブツバキクラ タケ・ササ群落 メダケ群落 低木群落 新干拓地 面積 割合 面積 割合 (ha) (%) (ha) (%) ダンチク群落 0.1 0.01 2.3 0.27 低木群落 7.3 1.00 0.6 0.07 ス域代償植生 低木群落 クズ群落 クズ群落 1.9 0.26 2.4 0.28 二次草原 チガヤ-スス チガヤ群落 0.3 0.04 <0.1 <0.01 ススキ群落 5.8 0.80 1.0 0.12 ヒメガマ群落 8.5 1.17 0.2 0.03 386.8 53.15 21.2 2.50 1.2 0.16 0.6 0.07 <0.1 <0.01 - - オギ群落 0.1 0.01 - - ヒシ群落 12.0 1.65 - - オオフサモ群落 0.1 0.01 - - ホテイアオイ群落 0.2 0.03 - - ゴキヅル群落 8.0 1.10 - - <0.1 <0.01 - - 0.2 0.03 - - <0.1 <0.01 シバ草地 2.6 0.36 3.7 0.43 アレチハナガサ群落 6.6 0.91 - - カナムグラ群落 1.8 0.25 0.1 0.01 0.4 0.05 - - 114.0 15.67 25.4 3.01 2.5 0.34 0.1 0.01 136.2 18.72 76.3 9.02 0.2 0.03 688.6 81.46 14.1 1.94 - - 3.4 0.47 17.3 2.04 街路・樹木植栽地 <0.1 <0.01 3.0 0.35 造成地 人工裸地 12.9 1.77 2.8 0.33 自然裸地 裸地(自然裸地) 0.5 0.07 <0.1 <0.01 キ群落 河 辺 ・湿 原 ・塩 沼 湿原・河川・池 地・砂丘植生等 沼植生 ヨシクラス ヨシ群落 キシュウスズメノヒエ群落 ツルヨシ群集 セイタカヨシ群落 オオクサキビ群落 アイアシ群落 リュウノヒゲモ群落 植 林 地 、耕 作 地 植 牧草地・ゴルフ ゴルフ場・芝 生 場・芝地 地 耕作地 路傍・空地雑草 群落 メリケンカルカヤ-セイタ カアワダチソウ群落 セイタカアワダチソウ群落 オオブタクサ群落 刈跡草地(人為植生) 畑雑草群落 畑地 コスモス植栽地 その他 市街地等 市街地 施設構造物 面積(合計) 727.7 845.4 草地面積 (合計) 710.9 822.3 6.9.1-57 〔2〕 オオヨシキリ・オオジュリン等の鳥類 イ 生態 オオヨシキリの生活史及び生息環境は、 「 第 6 編調査の結果の概要並びに予測及び 評価の結果 第 8 章陸生生物」における「調査結果」の「予測対象とする重要種の 抽出」の「オオヨシキリ」の「生息環境及び生態」と同様とする。 一方、オオジュリンの生活史は、「本州以南には冬鳥として秋の 10 月ごろに渡来 し、翌春の 4 月ごろまで留まる」2 とされ、北部九州では渡りの途中や越冬のために 渡来する。 「ヨシ原の 生息環境は、 「冬は湖沼や河川の沿岸のヨシやマコモ草原ですごす」9 、 地上や茎で採食する」 9 とされており、ヨシ群落が重要な生息基盤となっている。 食性は、越冬期のオオジュリンでは、 「枯れたヨシの茎で葉鞘をむしったり、はぎ とったりして越冬虫のワタムシ類を取り出す」 9 、「植物質が主で雑草の種子、カヤ ツリ グサ の 種子 、コ ヌ カグ サの 種 子や 湿地 植 物の 種子 な どを 好ん で 食物 とする」 2 とされる。 ロ 他の動植物との関係 オオヨシキリ、オオジュリンは、図 6.9.1- 33 に示すように、ヨシ群落を生息基 盤とし、その中に生息する昆虫類、クモ類、または草本類の種子を餌とする。オオ ヨシキリにおいては、ヨシ群落は繁殖場ともなっており、営巣する場所もヨシ上で ある。 これらの鳥類は、陸域生態系の上位性でもあるハヤブサをはじめとする猛禽類に より捕食される。 チュウヒ は虫類 アオダイショウ、シマヘ ビ など 草地に生息する鳥類 オオヨシキリ、オオジュ リンなど 両生類 ヌマガエル、トノサマガエ ル、ウシガエルなど ほ乳類 ハツカネズミ、カヤネズミ など 昆虫類 ヤマトヒメメダカカッコウムシ、ヤマトヒメテントウ、コバネナガカメムシ、ジュウサンホシテントウ など ヨシ群落等 図 6.9.1- 33 陸生植物・栽培植物 オオヨシキリ及びオオジュリンと他の動植物との食物連鎖図 6.9.1-58 ハ 生息状況等 ルート1及びルート 3(干陸地)における草地性鳥類の出現個体数の経年変化を 図 6.9.1- 34、図 6.9.1- 35 に示す。 繁殖期では、いずれのルートにおいても経年的にオオヨシキリが個体数を占める 割合が高く、次いでセッカ、ホオジロ、スズメなどが高い割合で占めている。また、 越冬期では、いずれのルートにおいても経年的にオオジュリン、ホオジロが個体数 を占める割合が高くなっている。 このように、ヨシが約 5 割を占める干陸地では、繁殖期にオオヨシキリ、越冬期 にオオジュリンが個体数を占める割合が高くなっている。 ルート1 (個体数) ヒバリ ホオジロ オオヨシキリ スズメ セッカ その他の鳥類 250 出 現 個 体 数 200 150 100 50 0 13年度 14年度 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 21年度 22年度 ルート3(干陸地) (個体数) ヒバリ ホオジロ オオヨシキリ スズメ セッカ その他の鳥類 150 出 現 個 体 数 125 100 75 50 25 0 13年度 14年度 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 21年度 22年度 ルート4 (個体数) ヒバリ ホオジロ オオヨシキリ スズメ セッカ その他の鳥類 100 出 現 個 体 数 75 50 25 0 13年度 14年度 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 21年度 22年度 図 6.9.1- 34 ルート 1、ルート 3(干陸地)、ルート 4 における 草地性鳥類の出現個体数の推移(繁殖期) 6.9.1-59 ルート1 ヒバリ ホオジロ (個体数) ツリスガラ スズメ オオジュリン その他の鳥類 300 出 現 個 体 数 250 200 150 100 50 0 13年度 14年度 ルート3(干陸地) 15年度 16年度 17年度 ヒバリ ホオジロ (個体数) 18年度 19年度 ツリスガラ スズメ 20年度 21年度 オオジュリン その他の鳥類 300 出 現 個 体 数 250 200 150 100 50 0 13年度 14年度 ルート4 15年度 16年度 17年度 ヒバリ ホオジロ (個体数) 18年度 19年度 ツリスガラ スズメ 20年度 21年度 オオジュリン その他の鳥類 100 出 現 個 体 数 75 50 25 0 13年度 図 6.9.1- 35 14年度 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 21年度 ルート 1、ルート 3(干陸地)、ルート 4 における 草地性鳥類の出現個体数の推移(越冬期) 6.9.1-60 干陸地におけるオオヨシキリ及びオオジュリンの生息個体数は、平成 21 年度の越 冬期及び平成 22 年度の繁殖期の結果から、調査範囲の生息個体数を推定し、その結 果を用い、干陸地内のヨシ群落全体の生息個体数を推定した。 なお、オオヨシキリの生息個体数の推定は、図 6.9.1- 36 に示すように、オオヨ シキリが一夫多妻であり、雄の 10~30%が 2~3 羽の雌とつがいし、雌あたりの平均 巣立ち雛数は一夫一妻雌 3.7 羽、一夫多妻第一雌 3.3 羽、第二雌 3.0 羽である生態 を考慮して、行った。 対象範囲内の総雄個体数と 繁殖雄個体と単独雄個体割合 から繁殖雄個体を算出 繁殖雄個体と一夫多妻割合 から総雌個体数の算出 雛数の割合と総雌個体数から 幼鳥の個体数の算出 干陸地のヨシ群落に生息する 生息個体数を算出 図 6.9.1- 36 オオヨシキリの生息個体数の推定手順 平成 22 年度繁殖期のラインセンサス調査で確認されたオオヨシキリの雄個体は, 31 個体であり、単独雄個体と雄全個体の割合から,表 6.9.1- 21 に示すように妻帯 雄個体と単身雄個体の数をそれぞれ推定した。次に,一夫多妻制の割合から雌の生 息個体数が約 25~35 個体であり,幼鳥の生息個体数が約 85~110 個体であると推定 した。 このように調査範囲内のオオヨシキリの雄成鳥及び雌成鳥は、約 55~65 個体であ ると推定された。これにより、干陸地内のヨシ群落の生息個体数は,表 6.9.1- 23 に示すように雄成鳥及び雌成鳥が約 3,000 個体、幼鳥を含むと約 7,500 個体~9,000 個体であると推定された。 また、平成 21 年度越冬期のラインセンサス調査で確認されたオオジュリンの雄個 体は,表 6.9.1- 23 に示すように約 30 個体であり、干陸地内のヨシ群落の生息個体 数は,約 1,600 個体であると推定された。 表 6.9.1- 21 単独雄個体と雄全個体の生息個体数 (単位:個体) 単身雄個体の割合 30% 20% 妻帯個体数 21.7 24.8 単身個体数 9.3 6.2 31 31 合計 6.9.1-61 表 6.9.1- 22 雌個体と幼鳥個体の生息個体数 (単位:個体) 妻帯雄個体数 一夫多妻 制の割合 10% 20% 30% つがい別の 巣立ち雛数 単身雄の 割合 (30%) 単身雄の 割合 (20%) 一夫一妻性 3.7 19.5 22.3 一夫多妻制第 1 雌 3.3 2.2 2.5 一夫多妻制第 2 雌 3.0 2.2 2.5 一夫一妻性 3.7 17.4 19.8 一夫多妻制第 1 雌 3.3 4.3 5.0 一夫多妻制第 2 雌 3.0 4.3 5.0 一夫一妻性 3.7 15.2 17.4 一夫多妻制第 1 雌 3.3 6.5 7.4 一夫多妻制第 2 雌 3.0 6.5 7.4 表 6.9.1- 23 雌個体 幼鳥個体 単身雄 の 割合 (30%) 単身雄 の 割合 (20%) 単身雄 の 割合 (30%) 単身雄 の 割合 (20%) 23.9 27.3 85.9 98.2 26.0 29.8 91.6 104.7 28.2 32.2 97.2 111.1 オオヨシキリ及びオオジュリンの推定生息個体数 生息個体数 調査範囲 (約 7.5ha) (単位:個体) 干陸地全域 (約 400ha) オオヨシ 雄成鳥及び雌成鳥 約 55~65 個体 約 3,000 個体 キリ 幼鳥 約 85~110 個体 約 4,500~6,000 個体 約 30 個体 約 1,600 個体 オオジュリン 6.9.1-62 〔3〕 ギンブナ等の魚類 イ 生態 ギンブナについて、生息環境は、 「浅い池沼、流れのゆるい川などに最もふつうに 見られる」 10 、とされる。 繁殖については「3~6 月の産卵期になると大群をなして浅い小川や水田に移動し、 水面に浮ぶ水草などに卵を産みつける。」 10 。 食性は「雑食性」 10 とされる。 塩分への耐性は「約 14‰を超えると斃死する」 11 とされており、短期開門調査時 には多数の斃死がみられた。 ロ 他の生物との関係 ギンブナは、雑食性であるため、稚魚期には調整池に生息する動物プランクトン のワムシ類等を餌とし、成長と共に底生生物のユスリカ類の幼虫、イトミミズ類等 を餌としていると考えられる。産卵は浅い場所で水草などに行うため、調整池では、 水際のヨシ、ヒメガマ等に産卵していると考えられる。 調整池にはギンブナの他、コイ、ナマズ等が生息しており、これらの淡水魚類も ギンブナ同様、水際の浅い場所を産卵に利用していると考えられる。 ギンブナは、ナマズに捕食されるほか、これらの魚類は魚食性猛禽類のミサゴに 捕食されていると考えられる。 ミサゴ 肉食性魚類 ナマズなど ギンブナ 底生生物 ユスリカの幼虫、イトミミズなど 図 6.9.1- 37 ギンブナと他の動物との食物連鎖図 6.9.1-63 ハ 生息状況等 調整池ではギンブナ、ナマズ、コイ等の淡水魚類、エツ、ボラ等の汽水・海水魚 類が生息しており、生息量の指標となる湿重量は図 6.9.1- 38、図 6.9.1- 39 に示 すようにギンブナ等の淡水性魚類が最も多い。 ギンブナの確認地点は図 6.9.1- 40 に示すように、調整池全域及び流入河川であ り、調査地域に広く分布していることが分かる。 湿重量(㎏) 50 その他 40 エツ 30 コイ 20 ナマズ 10 ギンブナ 0 春 夏 秋 冬 春 夏 H21 秋 冬 H22 図 6.9.1- 38 調整池魚類の季節別湿重量(B-1) 湿重量(㎏) 50 その他 40 ボラ 30 エツ コイ 20 ナマズ 10 ギンブナ 0 春 夏 秋 冬 春 H21 図 6.9.1- 39 夏 秋 冬 H22 調整池魚類の季節別湿重量(B-2) 6.9.1-64 図 6.9.1- 40 調整池におけ るギンブナの確認位置 6.9.1-65 〔4〕 アサリ・サルボウガイ等の二枚貝類 イ 生態 アサリ 生息環境は、 「 内湾や河口といったごく沿岸域で陸水の影響がある干潟や浅瀬など であり、そこは汽水域の潮間帯や亜潮間帯にあたる。」12 とされ、内湾である諫早湾 を含む有明海は本種の生息に適した環境であると考えられる。 食性は、 「濾過食性であり、懸濁物粒子を入水管から取り入れ鰓で濾しとり摂餌す る。餌料となる粒子はデトライタスや植物プランクトンであると考えられる。」 12 本種の生息する干潟には底生性の付着藻類が生育しているが、 「 環境水の底層には 植物起源のデトライタスも多く、流動攪乱で底の餌料粒子が再懸濁することでアサ リに摂食される」 12 とされることから、本種は底生性の微細藻類も餌として利用し ていると考えられる。 「4 月下旬に年間で最も大き 繁殖期は「4~6 月、10~11 月」13 の年間 2 回であり、 なピークが認められ、次いで 10 月下旬にピークが認められた。」 13 とされる。 幼生は「着底のとき極粗粒砂の比較的粗い底質を選択する。」12 ことから、泥分の 多い底質では本種の幼生が着底しないことが考えられる。 塩分への耐性は「10 (‰)以下で、48 時間後には斃死することが分かったが、こ れらに対するアサリの耐性は身入り率によっても相違した」 14 とされることから、 身入りに影響する産卵前、産卵後等の時期によって塩分耐性が変化するものの、10‰ が斃死の目安と考えられる。 溶存酸素に関しては「水温 30℃で DO1.0mg/L の環境ではアサリは嫌気代謝に追い 込まれ生存を脅かされるが、DO1.0mg/L 以上では有酸素代謝し、生存に大きい影響 はない」 15 、「水温 25℃、DO 0.05mgO 2 /L の海水でアサリとサルボウの飼育試験を行 い、アサリが 1 日目に死亡個体が出現した」16 ことから、1mg/L では生息への影響が ないものの、0.05mg/L では、1 日で斃死することがわかる。 硫化水素に関しては、 「 耐性実験(水温 25℃、DO1mgO 2 /L 以下 個体数 20)で 10mg/L の濃度で 2 日目に半数が死亡する」 16 とされる。 サルボウガイ 生息環境は、「潮間帯から水深 10m くらいまでの泥底に棲む。」 17 とされ、有明海 は、中央部の深い範囲を除けば、本種の生息に適した環境と考えられる。 「幼生は、 (諫早湾で)5 月下旬から 9 月下旬の長期間出現し、ピークは 7 月下旬 に認められた。」 13 とされることから、この期間が繁殖期であると考えられる。 塩分耐性は「15‰未満の塩分で濾過活動が認められなくなり、かつ、塩分が 10‰ を下回ると潜砂行動も見られなくなる」 18 とされる。 溶存酸素に関しては、 「 血液中にヘモグロビンを有するサルボウ等のフネガイ科の 二 枚 貝 は 、 他 の 二 枚 貝 に 比 べ 貧 酸 素 環 境 へ の 耐 性 が 強 い 」 18 、「 水 温 25 ℃ 、 DO 0.05mgO 2 /L の海水でアサリとサルボウの飼育試験を行い、アサリが 1 日目に死亡個 体が出現したのに対し、サルボウは 7 日目まで出現しなかった」 18 ことから、アサ リよりも貧酸素耐性が強く、0.05mgO 2 /L の濃度に 7 日間程度耐えられることが分か 6.9.1-66 る。 硫化水素に関しては、「耐性実験(水温 25℃、DO1mgO 2 /L 以下 個体数 20)をアサ リとサルボウで実施し、アサリが 10mg/L の濃度で 2 日目に半数が死亡するのに対し、 サルボウは 10~30mg/L の濃度が 5 日以上続くと高濃度実験区から死亡個体が出現す る」 18 とされ、10~30mg/L の濃度が 5 日以上続くと生息への影響がある。 ロ 他の生物との関係 アサリ、サルボウガイは、浅海域で動物プランクトン、デトリタス、底生性珪藻 類を餌とする。 幼生は動物プランクトンとして、魚類の稚魚期の餌となり、成貝はスズガモ等の 海ガモ類や、ナルトビエイ等のエイ類に捕食される。アサリは干潟域、サルボウガ イは干潟から浅海域にかけ諫早湾を含む有明海に広く分布しており、干潟、浅海域 の生態系の主要な構成種となっている。 ハヤブサ 肉食性貝類 アカニシなど 肉食性魚類 ナルトビエイなど 海ガモ類 シギ・チドリ類 など アサリ・サルボウガイ 植物プランクトン 図 6.9.1- 41 底生性藻類 アサリ、サルボウガイと他の動物との食物連鎖図 ハ 生息状況等 アサリは、諫早湾を含む有明海の砂質を中心とした干潟域に、サルボウガイは、 主に有明海北部の泥質干潟域から浅海域に分布している。 漁獲量の分布をみると、アサリは諫早湾、柳川市沿岸、熊本市沿岸を中心とした 干潟域、サルボウガイは白石町沿岸を中心とした有明海湾奥部が主となっており、 調査地域の干潟域にはアサリ、サルボウガイ等の二枚貝類が広く分布していると考 えられる。 6.9.1-67 図 6.9.1- 42 アサリの確認状 況及び年間漁獲量 6.9.1-68 図 6.9.1- 43 サルボウガイの 確認状況及び年間漁獲量 6.9.1-69 〔5〕 コノシロ、シログチ等の魚類 イ 生態 コノシロ 生息環境は、「暖海性の魚で内湾及び沿岸に多く砂泥底の海底近くに生活。」 19 と され、内湾である諫早湾を含む有明海は本種の生息に適した環境であると考えられ る。 生活史は「春から秋は内湾奥部の低塩域に、冬は湾口部の比較的深所に生活し、 プランクトンを主食とする。有明海のものの生殖腺指数は 4 月中旬から大きくなり 5 月初めに最大となり、6 月始めに小さくなる。したがって産卵盛期は 4 月末から 5 月とみなされる。」 20 とされ、繁殖期は春の年 1 回と考えられる。 卵および稚仔魚は、「内湾で浮性卵を産み、稚魚はシラス形をなす。」 19 、「球形分 離浮性。水温 20℃内外で 40 時間内外で孵化すると思われる。仔魚前期:沿岸の産 卵場付近の表層に浮遊する。」 21 とされ、内湾奥部の海中を浮遊している。 塩分への耐性は、 「 コノシロは淡水では試験開始後 3 時間位までは水槽を叩いた刺 激に敏感な動きを示したが、6 時間後の刺激では動作が緩慢で、時々横倒しになる ヨタヨタ状態になり、7~9 時間後に死亡した。一方、0.5 psu 及び 1 psu の低塩分 濃度では試験開始の 1~2 日後も生存しており、飼育水槽を叩いた刺激にも敏感な行 動を示した。このことから、コノシロはかなりの淡水に近い低塩分でも生存が可能 で、また急激な塩分濃度の変化にもかなり強いものと思われた。」22 とされ 1 psu(‰) といった淡水に近い低塩分にも耐性があると考えられる。 シログチ 生息環境は、「砂泥域に広く分布。」 23 とされている。有明海では、「成魚は、周年 「 卵は球形の分離浮性卵で卵径 0.73 島原半島沖から湾外に至る海域に分布する。」23 、 ~0.78mm。」 24 、とされ、「シログチの産卵は、6 月~9 月に島原半島沖で行われ、そ の仔稚魚は遠く離れた諫早湾や有明海奥部で成育する。」 23 とされている。 「河口域を含む有明海奥部で成育したシログチ稚魚は、成長に伴って次第に深い 海域へ移動し、秋から冬にかけて有明海中央部で成魚と合流する。」 23 、とされ、成 長に伴って移動する。 卵及び稚仔魚は、 「仔魚の分布密度が有明海奥部の西側で比較的高いこと、8 月に 「有明海では 6~8 月に仔稚魚 産卵の盛期を迎えることなどが明らかとなった。」23 、 が最大干潮線から水深 5mくらいの海域に分布する。」 25 とされている。 成魚は、 「河口域を含む有明海奥部で成育したシログチ稚魚は、成長に伴って次第 に深い海域へ移動し、秋から冬にかけて有明海中央部で成魚と合流する。」 23 、「生 後 1 年で体長 10cm 前後、2 年で 16cm 前後、3 年で 20cm 前後に成長する。」 26 、 「2 歳から成熟し始める。」 26 、「寿命は 10 歳前後。」 26 、「満 1 歳を迎える翌年の 夏にはすべての個体が成熟し、産卵に加わる。このときの全長は雌雄とも約 16cm である。」 23 、とされる。「有明海で調査したシログチの最高齢は、雌雄ともに 6 歳 であった。」 23 とされ、寿命までに数回の繁殖を行うと考えられる。 食性は、 「主餌は魚類とエビ類(エビジャコとテッポウエビなど)であり、多毛類・ 6.9.1-70