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コラボ読みガイドブック

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コラボ読みガイドブック
目 次
第 1 章 コラボ読みの理解のために
1 コラボ読みの目指すもの …………………………………………………………………………… 5
2 コラボ読みのカリキュラム ………………………………………………………………………… 6
3 コラボ読みの基本的構造 …………………………………………………………………………… 7
3.1 ミニレッスン ………………………………………………………………………………… 8
3.2 話題や文章を選ぶ …………………………………………………………………………… 9
3.3 ひとり読み …………………………………………………………………………………… 10
3.4 なかま読み・みんな読み …………………………………………………………………… 10
3.5 カンファレンス(相談)/個別指導 ……………………………………………………… 11
3.6 共有の時間 …………………………………………………………………………………… 11
3.7 読書ノート …………………………………………………………………………………… 11
4 コラボ読みの活動サイクル ………………………………………………………………………… 17
5 コラボ読みを国語科の指導時間にどう組み込むか ……………………………………………… 20
5.1 一般的な読書会との違い …………………………………………………………………… 20
5.2 指導計画例 …………………………………………………………………………………… 21
5.3 コラボ読みの時間をどう生み出すか ……………………………………………………… 22
第 2 章自立した読み手はどのように読んでいるか
1 読書行為の往還モデル ……………………………………………………………………………… 25
2 自立した読み手が用いる読みの方略 ……………………………………………………………… 28
参加者として出会う ……………………………………………………………………………… 29
物語のしかけにはまる …………………………………………………………………………… 31
物語に感想を持つ ………………………………………………………………………………… 33
自分にとって大事なところをみつける…………………………………………………………… 35
物語のしかけをさぐる …………………………………………………………………………… 37
物語を意味づける ………………………………………………………………………………… 39
第 3 章 読み手の育ちをどう評価するか
1 評価の考え方 ………………………………………………………………………………………… 41
2 評価の尺度 …………………………………………………………………………………………… 42
2.1 読書力の成長の面から評価する …………………………………………………………… 42
2.1.1 読書力チェックリスト …………………………………………………………………… 42
2.1.2 読書力チェック問題例 …………………………………………………………………… 43
2.2 コミュニケーション能力の成長の面から評価する ……………………………………… 44
2.3 自己評価のためのチェックリスト-読書力を自覚するために- ………………………… 46
付録 コラボ読みのためのスタートキット
(1)
本や文章はどのようなものを使えばよいのだろうか。-コラボ読みのための本リスト- … 47
(2)
ミニレッスンでは何をすればよいのだろうか。-ミニレッスン事例集- …………………… 56
(3)
考え聞かせはどのようにすればよいのだろうか。-考え聞かせの例- ……………………… 63
(4)
カンファレンスでは何をすればいいのだろうか。-観察記録ノート例- …………………… 64
(5)
クラス全体での「共有の時間」には何をすればいいのだろうか。
-「共有の時間」板書例- ……………… 65
(6)
「なかま読み」を上手に進める方法をどう教えたらいいのだろうか。
-「なかま読みの進め方」シート- …… 66
コラボ読みのなかまたち 文献一覧 ……………………………………………………………… 67
第 1 章 コラボ読みの理解のために
第1章
コラボ読みの理解のために
1 コラボ読みの目指すもの
コラボ読み(コラボレイティヴ・リーディング(collaborative reading)の略)とは,他者と協働して文
章を読んでいく学習活動です。3 人から 4 人のチームを作り,協働で,メンバー一人一人の読みを広げたり,
深めたりして,本や文章の意味をつくり出す,理解の仕方を学ぶ学習活動です。子どもたちが,本や文章
について自分が一人で読んでつくり上げる最初の理解を,他の読者たちと一緒になって探求し,深い理解
にしていく支援となるような学習指導上の仕組みです。
これまでの国語の授業では,学習者である子どもたち自身が「読みの方法」を選びながら文章を読んで
いくという経験が不足しがちでした。教師の支援のもと,教室全体で一つの目標を達成することを目的と
して文章を読んでいく学習はもちろん重要です。しかし,それだけでは,文章からわかることを引き出した
り,教師の設定した目標にたどりつくことをめざしたりする「知識伝達型モデル」の学習に終始してしまい
かねません。そこでは,
学習者自身が「こんなふうに読んでみよう」
「ここの部分についてじっくりと話して,
考えてみたい」など,自分の読み方を決め,試行錯誤して読んでいきながら,本や文章に積極的に読者各
自が意味づけするという「知識創造型モデル」の学習を実行することがむずかしかったと言えます。
通常の国語の読解授業でも,ペアやグループで,あるいは教師の発問にこたえるかたちで,子ども同士
がいくつかのコメントをやりとりすることがありますが,そういうやりとりのなかでは,子ども同士が対話
に至ることはめったにありません。コラボ読みは,他の読者との対話を通して,読むことについての自分自
身の理解を広げたり,本や文章のどこが大切なのかということを見極めたりする活動に,子どもたちを夢中
にさせるものです。
アメリカの読者反応理論家で,読むことの教育に大きな貢献をした,ルイーズ・ローゼンブラットは,
「読
む」という行為を「自らの置かれた社会的状況のもと,読者が文章や他の読者とやりとりすることによって,
能動的に意味を形成する」過程だと考え,
これを「交流としての読み (reading as transaction)」と呼びました。
「交流としての読み」の過程で,読者たちは本や文章から意味を引き出すだけでなく,積極的に意味づけな
がら自分の理解を組み立てるのです。そういう読者たちは,本や文章から情報を引き出そうとしたり,教師
が耳にしたいと望んでいる解釈を述べようとしたり,知識としての文学用語を学ぼうとしようとはしないの
です。むしろ,本や文章の世界に入り込んで,人生について学んだり,自分自身の経験や感情を意味づけ
ることに夢中になります。コラボ読みが目指すのも,そういう読み手をたくさん育てることです。
そしてコラボ読みでは,読者たちは単にお互いに協同して活動するだけでなく,協働で考えなければな
りません。協同学習の形式では,課題と役割がグループのメンバーそれぞれに割り当てられてしまうので,
5
対話の核心となるはずの考えることと積極的に話し合うことがおろそかにされてしまいがちです。コラボ読
みの実践者たちは,決められた役割をこなすことだけでなく,他のメンバーの発言に注意深く聴き入って,
大事なところを聞き逃さないように深く考え,メンバー一人一人が今持っている以上の理解をつくり出そう
とするのです。学習者たちは他のなかまの主張がわかるようになるだけでなく,自分自身の主張がどういう
ものか,理解するようになります。こうした対話が本や文章や,人生や,読みの過程についての新しい見
方を導くのです。
言うまでもないことですが,学習者はいつまでも教室にとどまるわけにはいきません。やがて学校を卒業
し,自分の力で多種多様な文章の読み書きをしていくことになる彼らが,ほんとうの意味で「文章を読む」
ことができるようになるためには,教師の支援から離れて,自分自身で「読みの方法」を選択しながら,知
識を創造していくために読んでいくという姿勢を身につけていくことが必要です。それは子どもを「自立し
た読み手」として育てていくことに他なりません。
とはいえ,一朝一夕に「自立した読み手」になれるわけではありません。少なくとも,教室で学習するあ
いだは,教師やクラスメイトと協力して読んでいくことで,徐々に「読みの方法」を習得し,読者として成
長していくように学習活動を工夫する必要があります。
コラボ読みは,ただ自由に読書をすればよいという学習活動ではありません。従来の国語の授業の死角
となっていた,子どもを「自立した読み手」とするための学習活動なのです。
もちろん,コラボ読みは,突然に出現した学習方法ではありません。協働で活動することによって,学習
者一人一人の意味形成をうながし,はげます考え方や方法は,これまでにもたくさん提案されています(巻
末の文献一覧を参照してください)
。それらの考え方や方法を検討しながら,
「自立した読み手」を育てる
有力な方法として,つくり上げたのがコラボ読みです。
なお,読書教育実践のなかには,
「コラボ読み語り」
「コラボ読み聞かせ」という名称を使ったものが存
在します。コラボ読みでは,読み語り・読み聞かせも行いますが,むしろ,協働で関連づけや意味づけを
行い,優れた読み手・書き手になりきることを通して,子ども一人一人の本や文章の理解を深めることを目
的としたものです。そのような学習指導上の仕組みを「コラボ読み」と称した例は,
日本にはまだありません。
2 コラボ読みのカリキュラム
コラボ読みは,これまでの「読むこと」のカリキュラムの中に組み込むことができます。しかし,コラボ
読みの目指す「自立した読み手」とは,
数回の活動ですぐに育つようなものではありません。年間のカリキュ
ラム,あるいは,6 年間/ 3 年間のカリキュラムの中で,繰り返し取り組むことによって,その効果はあが
るものです。
その際に肝心なのは,後で述べるような方法を,直線的につないでいくというよりも,むしろ,サイクル
にしてらせん状に繰り返し実行していくイメージを持って取り組むことです。
6
第 1 章 コラボ読みの理解のために
3 コラボ読みの基本的構造
なかま=なかま読み ひとり=ひとり読み みんな=みんな読み
以下では,それぞれの活動について説明していきます。
(以下の文中の A ~ G は,それぞれ上の図の A
~ G に対応しています。
)
7
3.1 ミニレッスン(A)
ミニレッスンは,教師が「読みの方法」を取り上げる活動です。コラボ読みでは,学習者が文章をさま
ざまな「読みの方法」を使って読めるようになることを目指します。そこで用いられる「読みの方法」には,
指示語に気をつけることや,文末表現に注目すること,といった表面的なレベルでの方法もあれば,著者の
主張の大事なところを見極めながら批判的に捉えることや,自分の経験と関連づけながら読むこと,といっ
た深いレベルでの方法もあります。また,コラボ読みを進めていくためのカンファレンス(相談)や,読書
ノートの作り方・書き方についてもミニレッスンで取り上げていきます。
ミニレッスンとは,その名のとおり,5 分から 10 分という短い時間で学習者に「読みの方法」を意識化
させていくレッスンです。そのやり方にはいくつかのものが考えられるでしょう。もちろん,
扱う内容によっ
ては,5 分から 10 分という時間では短すぎる場合もありますので,その場合は一単位時間を使ってミニレッ
スンを行ってもよいでしょう。
ミニレッスン実施上のポイント
・これまでの読書体験や「読むこと」の学習を振り返って,自分が使ってきた「読みの方
法」を想起させる。
・これまでのコラボ読みで,ある学習者やあるチームが発見した「読みの方法」をクラス全
体に紹介する。
・教師が評価してきたこれまでのコラボ読みの様子から,有効だと思われる「読みの方法」
を紹介・提案する。
重要なことは,
「読みの方法」がただ教師から「与えられ」
「使わされる」ものではなくて,学習者にとっ
て主体的に「使ってみよう」と思えるものにすることです。
読んでいるプロセスを聞かせる「考え聞かせ」
優れた読み手がどのように考えているのかを実際に示すのが「考え聞かせ」です。これをミ
ニレッスンで有効に使うことができます。
多くの場合「考え聞かせ」をやるのは教師です(教室で,子どもたちにとってもっとも身近
な「優れた読み手」は教師ですから。教師でなければ,そのコラボ読みのコーディネーターや
ファシリテーター)
。
教師は,読み聞かせ(読み語り)をしながら,途中途中で自分が読みながら考えたことを紹
介します。読みながら,頭のなかでどのように考えたのかということを具体的に物語るのです。
その文章の教師自身の解釈そのものを述べて終わるのではなくて,むしろその解釈を「どのよ
うに」生み出したのか,どの言葉にひっかかったのか,自分の経験とどのように関連づけたの
か,
どの言葉を手がかりにどんな推測をしたのか,
イメージをどういうふうに描いたか(時には,
8
第 1 章 コラボ読みの理解のために
実際にかきあらわしながら)
,大事なところをどのように選んだのか,選んだ理由はどうしてか,
といったことを話すのです。まとまった解釈をもっているのなら,読みながらわかったことを
どのように結びつけてその解釈をつくったかということや,その文章を読んだのがはじめてで
ないとしたら,再読のたびにどんなふうに注目する箇所が違ってきたのか,ということも話し
ていくとよいでしょう。
大切なのは,
「読みの方法」を使わないときよりも,使ったときの方がよりよく理解できる
ということを,考え聞かせをする人がしっかりと認識しているということです。
「読みの方法」
を使うと,使わないときにはわからなかったこんなことがわかるようになったというメッセー
ジを,しっかりと子どもに伝えることが重要なポイントです。
3.2 話題や文章を選ぶ(B)
「ひとり読み」から,チームでの「なかま読み」に入るために,
「なかま」でその本や文章について話し
合うきっかけとなる「話題」を選びます。
「話題」は,あくまでも話すための出発点であり,オープンエン
ドの質問のかたちで考えるとよいでしょう。
「ひとり読み」を通して考えたこと,感じたこと,気づいたこ
とを各自メモしておいて(付箋紙を使うと便利です)
,そのメモをもとに各自で「話題」の候補を考え,そ
れを出し合って「なかま」での共通の「話題」を選びます。
短い時間で「なかま読み」をするために,こうしたきっかけになる「話題」を決めて,その「話題」につ
いて各自書いたことを出し合い,質問しあうようにしていくと,話し合いが進めやすくなります。
どのような本や文章について「なかま読み」をするにしても,話し合うための「話題」は自分たちで考え
出すのがベストですが,子どもたちが慣れないうちは,次に示すような「話題」の例を教師が示して,そこ
から選ぶようにしてもよいでしょう。
【話題の例】
◆ 本や文章と自分とのつながりをつくるための話題
・この本から何を思い出したことを出し合おう。
・自分と似ている登場人物は。 どのような点が似ているか。
・友だちになれそうな登場人物は。なぜかというと。
◆ 本や文章のなかの重要な要素を確認するための話題
・この本で一番大切なところはどこか。その理由は?
・一番大事な登場人物は誰か? その理由は?
・この本や文章で一番びっくりしたのはどこか? それはなぜ? それがなければ,この本
や文章はどうなっていただろう?
◆ 本や文章についての自分の感じ方を表現するための話題
・登場人物○○についてどのように感じたか? それはなぜ?
9
・この本や文章を誰かに勧めたいか。 その理由は?
・一番お気に入りな部分は。 その理由は?
◆ 作者の工夫に注意を向けるための話題
・作者に聞いてみたいことは何か?
・作者はなぜこのような本や文章を書いたのだと思うか?
・作者がたった今このクラスに来たとします。どのような質問をしようか? それはなぜ?
(ジェニ・デイ他著(山元隆春訳)
『本を読んで語り合うリテラチャー・サークル入門』
(溪水社,2013 年)の 97 ~ 98
ページを参照しました)
。
3.3 ひとり読み(C)
(E)
学習者が一人一人で読むことが「ひとり読み」です。コラボ読みは「ひとり読み」に始まって「ひとり読み」
に終わると言っても過言ではありません。
「ひとり読み」を広げ,
深めていくために「なかま読み」があります。
「なかま読み」で話し合うことによって,学習者の一人一人は,なかまの考え方や主張を知ることになりま
すが,それは同時に自分自身の考え方や主張の特徴を知ることでもあります。
「ひとり読み」では,取り上げる本や文章を一人で読むことになるのですが,その際に学習者は,それま
でに学んだ
「読みの方法」
を駆使して,
その本や文章について考えていく考えたことや感じたこと,
疑問に思っ
たことを,余白に書き込んだり,読書ノートにメモをとったりします。頭のなかでどのようなことを考えれ
ばよいのかということについてのヒントを,3.1 の最後で触れた「考え聞かせ」を通して手に入れることが
できれば,
「ひとり読み」を進める重要な手がかりになります。
「ひとり読み」は話し合う前(C)と,話し
合った後(E)にやりますが,それぞれで生まれる感想はずいぶん違ってきます。
3.4 なかま読み(B)
(D)
・みんな読み(A)
(F)
(G)
「なかま読み」
(B)
(D)とは,少人数 3 ~ 5 人のグループで,あるいはクラスのみんなで一緒に読んで
いく活動です。クラスのみんなで行う活動には,
「読みの方法」や「話し合いの方法」についての短時間の
ミニレッスンを一緒に受けたり,教師が読みあげてくれるテキストを聞いたりしながらみんなで一緒に予測
読み(シェアド・リーディング)をすることがあげられます。けれども,
「なかま読み」は,同じ本について,
「ひとり読み」の成果をもちよってチームで話し合いをすることが主な活動です。
「ひとり読み」の段階で読
書ノートに書きだした自分の理解内容と,みんなで話し合いたいと準備した話題をもちより,なかまで追究
していくのです。
「なかま読み」には,子どもたちがそれぞれに「ひとり読み」をしている時間に,特定の子どもたちを集
めて教師がカンファレンス(その文章の読みについての相談)や個別指導をする場合もあります。個別指
導では,どんなふうに自分の考えを作っていくかわからない子どもたちを集めて付箋を貼りながら読むスキ
ルを教えたりします。
「みんな読み」
(A)
(F)
(G)はクラス全体で共有する時間(3.6 参照)をあらわします。共有の時間では,
チームで話題になったことや,使ったスキルについて情報を伝えあうことを行います。
10
第 1 章 コラボ読みの理解のために
コラボ読みは,
「ひとり読み」
「なかま読み」
「みんな読み」の活動が組み合わさって進んでいきます。
3.5 カンファレンス(相談)/個別指導
カンファレンスでは,その本や文章を読むことについての相談を行い,読み手として成長し続けるための
ヒントを学習者に提供します。具体的には,ミニレッスンで扱った「読みの方法」について,それをどのよ
うに使えば読者として意味をつくり出すことができるのかということについて,学習者の相談に個別に応じ
るものです。
子どもたちがひたすら読んで読書ノートにメモをとる時間,教師が個別にカンファレンスを行うわけです
から,一人一人の子どもにどの程度の頻度や長さのカンファレンスが必要なのかということを教師はできる
だけ把握しておくことが必要です。それは,コラボ読みにおける教師の評価活動の一つでもあります。その
ために,子ども一人一人に応じた観察記録ノートを用意しておくと,単発的なものに終わらない連続的なカ
ンファレンスが可能になるでしょう。
また,カンファレンスで子どもと一緒に使った「読みの方法」は,今読んでいる本や文章だけでなく,他
の本や文章にも使えることをその子に強調しておくことも必要です。さらに,カンファレンスで,子どもた
ちが新たに考えたことや発見したことで,他の子に紹介した方がよいと思われることがあれば,共有の時間
に紹介してもらうように依頼することもできるでしょう。
3.6 共有の時間
共有の時間とは,教師と学習者が「ひとり読み」や「なかま読み」のなかで試してみたことや考えたこ
とを伝え合う「みんな読み」をする時間です。ペアやチームで行われる場合もあれば,クラス全体で行わ
れる場合もあります。
試してみたことや気付いたこと,考えたことを他の人に話してもよいと考えた場合に,その学習者が他の
学習者のニーズに応じるかたちでそのことを紹介し,教えていきます。また,自分が学んだことを振り返っ
て,次のコラボ読みの目標を設定する時間として使ってもよいでしょう。あくまでも,コラボ読みを通して
自分が考えたことを発表しあい,共有しあう時間です。
共有の時間の実際のイメージを,クラス全体で行われる場合で説明します。
共有の時間とは,読み深めではなく,使った方略を自覚したり,使われている方略を発見して共有する
ためのものです。ですから,教室で行う際には,
「なかま読み」で出た意見を箇条書きに記したミニホワイ
トボードを使って,それを張り出させて使った方略の確認をしたり,興味深い方略を取り上げて,それにつ
いての説明を加えたりします。
「なかま読み」で出されたものを全部発表させるわけではありません。
そのように「なかま読み」で出た意見を共有したのち,方略を使わないときと使ったときの違いや,自分
が好んで使っている方略はどれか等,お互いに交流します。
3.7 読書ノート
「読書ノート」は「ひとり読み」の時に子どもたちが書き込むためのものです。形式としてとくに定まっ
たのはありませんが,
「ひとり読み」の時に考えたことや感じたこと,
「なかま読み」の時に聞き取ったこと,
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考えたこと,
「なかま読み」の後に考えたこと等を書くことができるように,ノートのかたちを工夫しても
よいでしょう。
次に掲げるのは,チームで「なかま読み」のための「話題」を決めた場合の「読書ノート」の一例です。
この読書ノートは一枚のシートになっていますが,回を追うごとにこのようなシートを蓄積していけば,自
分自身の「ひとり読み」の変化や,
「なかま読み」によって得られたことを振り返っていくことができます。
「読書ノート」をつくることの意義は,そのような振り返りが可能になり,読みの過程や読書体験そのも
のについての各自の考えを深めていくことができるところにあります。
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第 1 章 コラボ読みの理解のために
読書ノート 例 1 (
「お手紙」アーノルドローベル)
登場人物に着目した低学年(2 年生)の読書ノート例
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読書ノート 例 2 (
「白いぼうし」あまんきみこ)
№ 氏名
読んだ本 白いぼうし
グループで話し合いたい話題
どうして「白いぼうし」というだいめいなのだろう。
お話の図
話題についての自分の考え:
話し合いの時のメモ
話し合いのあとに
友だちの考えを聞いて,自分の考えはどうなった?
今日の話し合いはうまくいった?
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第 1 章 コラボ読みの理解のために
読書ノート 例 3 (「海の命」 立松和平)
物語の展開に着目した高学年(6 年生)読書ノート例
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読書ノート 例 4 (
「かみしばい屋さん」アレン・セイ)
年 月 日
No.
氏名 A大学生 話題 作者は何を言おうとしているのでしょうか?
なかま読みの前に:
「話題」に答えてください。その本についてその他の振り返りも書いてく
ださい。
おじいさん→紙しばいをしに街へ行った。
おばあさん→おじいさんの為におかしをつくった。
久しぶりに街へ来たおじいさんは,様子の大きくかわった人や町に驚き,ショックをうけた。
少年だった男性と再会し,もう一度紙芝居をやろうと思うきっかけとなった。
なかま読みの間に:友達に書いてもらったり,メモしたりしよう。
(Eさん)TVの普及により紙芝居屋さんが (Bさん)人の心のなかには,自分の子供時
うすれていたのが,いつになっても人の心は
代を大切になつかしく思う,愛おしく思うこ
変わらない。街の近代化によって,人は離れ
ころが必ずある,ということを伝えたかった
ていたが,戻ってきた。
のでは?
(Cさん)近代化によって,人の心が離れて (Dさん)昔の思い出はかけがえのないもの。
いくのは仕方がないとは思うが,色あせない
大切にすべき。
人の心がある。TVからはなれるのも大切。
なかま読みの後に:友だちの発言によって,自分の思考や意見が変わったか?
4 人とも共通して,時代が変わっても人の心は,思い出は変わらないというようなことが挙
がった。TVから離れてみるのもいいかも,
という意見にはかなり共感できた。私も実生活で,
一人暮らしをしているのだが,TVにうける影響はかなり大きなものである。これからの生
活に活かし,よりよく改善できそうな気がしてきた。
今日のコラボ読みはどうだった?
おじいさんの行動について,おばあさんの行動についてはほとんど同じだということでや
らなかったが,次回はもっと長くやってみたい。以前よりも慣れてきて,まとまった意見が
出てきていた。自分もより深く考察できるようになりたい。
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第 1 章 コラボ読みの理解のために
4 コラボ読みの活動サイクル
コラボ読みを構成するのは「ひとり読み」と「なかま読み」
(グループで読みあうもの)と「みんな読み」
(全
体で行うもの)です。この三つを行き来することで,コラボレーション(協働)による意味づくりが行われ
ていくところにコラボ読みの大きな特徴があります。
「ひとり読み」
「なかま読み」
「みんな読み」は,それぞれ次のような内容を持ちます。
【ひとり読み】
・
「読みの方法」
(後で示します)を使って黙読する
・書き込み・書き出し
・読書ノート(ジャーナル)…「なかま読み」の事前・事後に書く
・再読と振り返り
【なかま読み】
・ミニレッスン(
「読みの方法」や話し合いの方法についての短いレッスン)
・共同の予測読み(シェアド・リーディング)と考え聞かせ
・話し合い
・カンファレンス(その文章の読みについての相談)
【みんな読み】
・なかま読みで生まれた考えや,使った文章の読み方などを共有する時間
・教師のコーディネートによってみんなで考えを交流したり,発表したりする
コラボ読みでは,これらの活動を組み合わせて「文章の読み方」と「意味づけ方」を学んでいきます。
一つの時間で,これらの全てを行う必要はありません。
1 時間のコラボ読みは次のように構成することができます。
[パターン 1]
(シンプルに意見を交換しあうスタイル)
❶【なかま読み】ミニレッスン(
「読みの方法」の一つを取り上げる。
(10 分)
❷【ひとり読み】その日に読む文章を各自が黙読しながら読書ノートに最初の感想を書く。
(5 分)
❸【なかま読み】各自が読書ノートに書いたことをもとに発言する。質問を出して,話し合う。
(15 分)
❹【ひとり読み】読書ノートに,話し合ったあとの感想を書く。
(5 分)
❺【みんな読み】チームごとに感想を披露する。
(10 分)
*[パターン 1]はもっとも素朴なかたちです。
【なかま読み】の時にもしかすると発言が出にくいこと
があるかもしれません。次に引くような「質問」の手引きのようなものを準備しておくと,それをきっ
かけに話しはじめやすいでしょう。
17
「質問」の手引き
●特に面白いと思ったところは?
●読みながら考えたこと/考えさせられたことは?
●疑問や質問は?
●特に気をひかれた登場人物は?
●いつ,どんなところ(世界)が描かれているのか?
●キーワードが使われている象徴と,それらが意味するものは?
●ほかの本との違い?似ている本や関連する本は?
●自分や自分たちの生活や社会と比較してみて,似ている点や違う点は?
●どんなテーマを扱っているのか?
●作者が主張していることは何か?
●誰の視点で書かれているのか?
(吉田新一郎『読書がさらに楽しくなるブッククラブ』新評論,2013,p.215)
なお,コラボ読みのやり方について慣れるために[パターン 1]を絵本や短い文章を使って実施してみる
と,
「なかま読み」の意義が学習者に伝わりやすいと思われます。
[パターン 2]
(
「話題」を決めて話し合うスタイル)
❶【ひとり読み】その日に読む文章を各自で書き込みながら黙読して,話し合いのきっかけになる「話題」
を考える。
(10 分)
❷【なかま読み】チームで話し合って「話題」を一つ決める。
(5 分)
❸【ひとり読み】もう一度文章を読みながら,
チームで決めた「話題」について読書ノートに書く。
(5 分)
❹【なかま読み】各自が読書ノートに書いたことをもとに発言する。質問を出して,話し合う。
(10 分)
❺【ひとり読み】読書ノートに,話し合ったあとの感想を書く。
(5 分)
❻【みんな読み】チームごとに感想を披露する。自分たちの決めた「話題」についても感想を述べる。
(10 分)
*[パターン 2]には「ミニレッスン」の時間帯がありません。ですから,
[パターン 2]で実践するときには,
3 ~ 4 時間ごとに,1 時間を割り当てて,少しながい「ミニレッスン」を行うようにすればよいでしょう。
あるいは,通常の教科書を使った読解授業の方を「ミニレッスン」の大型版とみなして,その間に[パ
ターン 2]のコラボ読みを組み入れるようにするとよいでしょう。通常読解授業中心からコラボ読み中
心へと少しずつ移行していって,その学年の半ばぐらいでその比重がコラボ読み中心になるようにすれ
ば,主体的な学びとしての読みのカリキュラムが実行されることになります。
[パターン 3]
(
「話題」を決める話し合いに時間をかけ,再読・三読するスタイル)
(1 時間目)
❶【なかま読み】ミニレッスン(
「読みの方法」の一つを取り上げる。10 分)
18
第 1 章 コラボ読みの理解のために
❷【ひとり読み】その日に読む文章を各自で書き込みながら黙読して,話し合いのきっかけになる「話題」
を考える。
(10 分)
❸【なかま読み】チームで話し合って「話題」を一つ決める。
(10 分)
❹【ひとり読み】もう一度文章を読みながら,チームで決めた話題について読書ノートに書く。
(15 分)
(2 時間目)
❶【なかま読み】ミニレッスン(
「読みの方法」の一つを取り上げる。10 分)
❷【ひとり読み】文章を読みながら前の日に書いた読書ノートの内容に,必要があれば修正を加える。
(5 分)
❸【なかま読み】各自が読書ノートに書いたことをもとに発言する。質問を出して,話し合う。
(15 分)
❹【ひとり読み】読書ノートに,話し合ったあとの感想を書く。
(5 分)
❺【みんな読み】チームごとに感想を披露する。自分たちの決めた「話題」についても感想を述べる。
(10 分)
*[パターン 3]は 2 時間扱いです。時間はかかるのですが,一つの文章をじっくりと読み返しながら話
し合いに臨むことができます。また「話題」についても幾度か話し合うことができるので,どの「話題」
が盛り上がるか,どのような文章にどのような「話題」がいいのかということについても,全体で話し
合う機会になります。
ブックトークを聞き,好きな本を選ぶ
共有の時間
(自分たちが読んだ本の展開構造を出し合って比べる)
ミニレッスン(付箋の貼る時の目の付け所)
読書ノートを使ったひとり読み
読書会形式のなかま読み
19
5
5.1
コラボ読みを国語科の指導時間にどう組み込むか
一般的な読書会との違い
コラボ読みによる読書活動は,いわゆる読書会とどのように異なるのでしょうか。学校教育の一環として行わ
れる読書会は,一般的には課外活動に位置づけられます。図書委員会主催の読書会や読書週間等で企画される読
書会などがその例です。一方コラボ読みは,国語科授業時間にカウントされる国語学力指導のための読書活動で
す。国語科授業で行われる読書会には,単元展開の終末部に実施されるものもありますが,その場合多くはその
単元限りの単発的な活動です。コラボ読み活動はそれとは異なるものです。
では,その違いを表に示してみましょう。
コラボ読みによる読書活動は,継続的に積み上げていくことに特長があります。また,司書と教諭とがコラボ
して進めていくこともおすすめです。司書の方には,選書はもちろんのこと,本に出会わせるためのブックトー
クを実施してもらったり,なかま読みによきメンターとして参加してもらったり,カンファレンスを手伝っても
らったりなどの役割を担ってもらいましょう。
そうすることでコラボ読みによる読書活動がより豊かで多彩な活動となるでしょう。
20
第 1 章 コラボ読みの理解のために
5.2
指導計画例
継続的に,スパイラルに習熟していくコラボ読みによる読書活動を年間の指導計画として示してみましょ
う。1 学期は教師主導で一斉形態で活動を進め,コラボ読みのイメージを持ち,習熟を図ります。その後は
話し合いのルールや「読みの方法」を蓄えながら,やがてグループで自立的に活動を進められるよう導い
ていくのです。
導入
ねらい
習熟・発展
コラボ読みの方法を知る
自立
教師に助けられながらコ コラボ読みがグループで
ラボ読みができる
自立的にできる
コラボ読みの方法を知 話し合いのルールを学
1 学期
り,教師主導で一斉にな ぶ・
「読みの方法」を学
かま読みをやってみる
ぶ
「読みの方法」を学び蓄
2 学期
える
「読みの方法」を選択的
3 学期
ミニレッスン
ミニレッスン
タイトルと使
用テキスト
主テキスト
に使いこなす
コラボ読みのイメージを
持とう
物語に感想を持つ
どんな感じがする?
「白いぼうし」冒頭部分
白いぼうし
『初雪の降る日』( 安房直
コラボ読み用
子 偕成社 )・『車の色
テキスト例
は空の色』
(あまんきみ
こ ポプラ社文庫)
物語のしかけにはまる
この人物についてどう
思った?
「お手紙」
一つの花
『走れ』( 教科書に出てく
る日本の名作童話 第 2
期 岩崎書店 )
物語のしかけをさぐる
人物の正体は?
「つり橋わたれ」
ゆうすげ村の小さな旅館
『注文の多い料理店』( 宮
沢賢治 )
ミニレッスンの詳細は付録ミニレッスン一覧に掲載しています
21
5.3 コラボ読みの時間をどう生み出すか
コラボ読みによる学習には,自立した読者を育てるという大きな目標があります。そのため,これまで述
べてきたように長期間の継続的な指導が望ましいあり方です。このことから,コラボ読みはいわゆる読書指
導の一つの形態のようにとらえられるかもしれません。しかし,コラボ読みは「読みの方法」を身につけて
いくための学習活動でもあります。したがって,
「読むこと」の指導時間としても組み込んでいくことがで
きます。
「読むこと」の一般的な指導は,①学習課題の提示・理解,②学習活動の理解,③個人の読み取り,④グルー
プでの交流,⑤全体での交流,⑥交流の評価・まとめといった展開でとらえることができるでしょう。たと
えば「ごんぎつね」であれば,
「ごんの気持ちの変化をとらえる」などの教材に対する追究課題を与え(①)
,
気持ちが表れる箇所に線を引く,場面・できごと・ごんの気持ちを表にまとめるなど,課題を追究するため
の方法を理解(②)させた後,個人思考(③)
,集団思考(④,⑤)の活動によって追究した後,課題の解
決を確認する(⑥)といった展開です。
このような展開とコラボ読みの活動サイクルとを比べてみましょう。第 4 節ではコラボ読みの活動サイク
ルとして 3 つのパターンを紹介しましたが,そのうち最も基本的な〔パターン 1〕を取り上げてみましょう。
すると,下図からわかるように,実はコラボ読みの活動サイクルは,普段行われている「読むこと」の授業
展開に合致するものです。すなわち,
「読むこと」の学習過程①②は活用させたい知識・技能の理解を図る
ミニレッスン,③~④はミニレッスンで学んだ知識・技能を試し合うグループでの活動,⑤⑥はグループ
での活動の成果を交流する共有の時間といった 3 つのパートからどちらも構成されています。
ただし,異なる点もあります。コラボ読みでは,ミニレッスンは「読みの方法」や話し合いの方法につい
22
第 1 章 コラボ読みの理解のために
て,児童・生徒が試せるだけの理解を手際よく教えるために挿入されます。したがって,物語の場面展開
に縛られて,何時間も同じ「読みの方法」を指示する(②)といったことはありません。仮にそのような活
動が必要な場合には,
〔パターン 2〕
のようにミニレッスンは省略するでしょう。このようなやり方をとるのは,
コラボ読みの中心がそれ以降の子どもの能動的な学習活動にあるからです。また,
〔パターン 2〕や〔パター
ン 3〕からもわかるように,その時間の読むことの課題は,なかま読みのチームごとに決めた多様な「話題」
になります。したがって,交流の評価・まとめは,学習課題の答えとなる読みを共有するのではなく,その
時間に試してみた「読みの方法」や話し合いの仕方の成果を振り返り,それを共有することが主な目的に
なります。
こうした点に注目すると,コラボ読みは,子どもの能動的な学習を支え,それに必要な知識・技能を確か
に育てる手だてだととらえられます。このことは,昨今,注目されているアクティブ・ラーニングが求めて
いる授業改善のポイントでもあります。こうした課題を踏まえても,コラボ読みを「読むこと」の指導時間
に組み込む意義があると言えるでしょう。
また,ミニレッスンとグループでの活動とを区分することは,両者を習得と活用という関係で結びながら,
それぞれを別の活動として授業を組み立てることも可能になります。たとえば,ミニレッスンには教科書教
材を用いて,習得させたい知識・技能に焦点化して取り上げ,グループでの活動では別の本を読み進めさ
せるといった並行読書の活動として組み込んだり,あるいはグループでの活動では教科書教材を探究的に
読ませ,そこで活用させたい知識・技能を別の短いテキストを用いてミニレッスンで与えるというようにで
す。
さらに,コラボ読みを既習得の知識・技能を活用する場であるととらえるならば,ある程度,読むことの
知識・技能の学習が進んだところで,学期末など,年間で隙間となった時間にコラボ読みを挿入するといっ
たことも考えられます。もちろん,そこでもミニレッスンを用いて,知識・技能を補充することも可能です。
このようにコラボ読みを継続的に組み込むことによって,子どもたちがこれまでに身についた読むことの知
識・技能を自覚するとともに,コラボ読みが目指す,自立した読書の活動へと徐々に展開していくこともで
きるでしょう。
23
24
第 2 章 自立した読み手はどのように読んでいるか
第2章
自立した読み手はどのように読んでいるか
1
読書行為の往還モデル
私たちがある本や文章を読む場合に,その読書行為はどのように為されるのでしょうか。
寺山修司の「何にでも値段をつける古道具屋のおじさんの詩」という詩でこのことを考えてみましょう。
何にでも値段をつける古道具屋のおじさんの詩
寺山修司
ぼくは訊ねる
春だよもちろん
――ロバとピアノは
季節は 超高級品だから
どっちが高い?
じゃあ春と愛とは
おじさんは答える
どっちが高い?
――ピアノだよ
愛だろう
じゃあピアノと詩集は
めったに 売りには出ないけど
どっちが高い?
そこでぼくは 最後に訊ねる
ものにもよるけど
ぼくの一ばん知りたい質問
詩集が高いことだってあるさ
――愛となみだは
じゃあ詩集と春とは
どっちが高い?
どっちが高い?
この詩を読んだ読者はまず,この詩に出会って,詩のなかの言葉の表記や発音などを考え,時には音声
化をして,それについて感想を持つことになります。この詩の場合,
「おじさん」と「ぼく」との問答のか
たちになっていますから,
「ぼく」の質問に「おじさん」がどのように答えているのかということを,読者
は追いかけることになります。このようにしてまず読者はこの詩に出会い(参加者として関わる)
,この詩
の問答の進行にはまっていくのです(物語のしかけにはまる)
。そして「ぼく」と「おじさん」との問答を
読みながら,いろいろな感想を持つ(物語に感想や疑問を持つ)ことになります。これがなければおそらく
読者にとってこの詩はいつまでも印刷されたシミのままです。この時使われるのが「参加者系列」の「読み
の方略」です。この,出会う-はまる-感想を持つというサイクルが,この詩だけでなく,本や文章を読む
25
という行為の基盤となります。
もちろん,そのようにしてこの詩に出会い-はまる-感想を持つ,というだけでは,いったいこの詩が何
を言っているのかピンとこない読者もいるでしょう。
この詩の「意味」を考えようとすれば「参加者系列」の「読みの方略」だけでは十分ではありません。
この詩は「ぼく」が問いを出して,それに「おじさん」が答えるかたちをとっています。少し注意深く考
えてみると,その問いの内容は,二つのことを比べて「どっちが高い?」というもので,それぞれの「値段」
を訊ねるものだということを,読者は見つける(自分にとって大事なところをみきわめる)ことができます。
では,
いったい「ぼく」はどのようなものとどのようなものを比べて「どっちが高い?」と訊ねているのでしょ
うか?そのことをさぐる(物語のしかけをさぐる)と,
次のようなことがわかるでしょう。
「ぼく」の質問と「お
じさん」の答えを整理してみます。
(1)
(ぼく)ロバとピアノ→(おじさん)ピアノ,
(2)
(ぼく)ピアノ
と詩集→(おじさん)詩集,
(3)
(ぼく)詩集と春→(おじさん)春,
(4)
(ぼく)春と愛→(おじさん)愛,
(5)
(ぼく)愛となみだ→(おじさん)無回答,ということになるでしょう。こうしてみると,
「ぼく」の
質問は具体的なモノの比較から始まって次第に抽象的なものへと変わっていることがわかります。また,
「お
じさん」の答え方も,
(1)素朴に答える,
(2)
「ものにもよるけど~だってある」
,
(3)
「もちろん~だか
ら」
,
(4)
「~だろう~けど」
,というふうに少しずつ違っています。根拠を示す場合もありますし,確信を
持って答えているものもありますし,また,条件を付けて答えている場合もあります。
「おじさん」はこの
ようにしてさまざまなものの価値を判断してくれるのです。そもそも「古道具屋」さんですから,あらかじ
め決まった経済価値で判断しているのではないと思われます。相手が「古道具屋のおじさん」だからこそ,
客観的な基準で「値段」を定めることのできないようなものまで「ぼく」は評価を求めているのです。
このような探究を経て,この詩の読者は意味を考えていくことになります。ものごとの価値はまるでこの
「古道具屋」さんが経験と勘で考えていくほかないように,そもそも見定めるのが難しいものだという意味
26
第 2 章 自立した読み手はどのように読んでいるか
づけや,世の中にはどちらが「値段」が高いかということをにわかに決めることのできないものもある,と
いう意味づけをしていくのです。そのような寓意をこの詩に見つけることも可能でしょう(物語を意味づけ
る)
。このような見つける-さぐる-意味づけるという「読みの方略」は「見物人系列」の「読みの方略」
であると考えることができます。
そして,この見つける-さぐる-意味づけるという「読みの方略」を使って,本や文章の「意味」をつく
り出すためには,読者側の知識・経験が必要になります。タイトルの「古道具屋のおじさん」の性格づけ
をするためには,
「古道具屋」がどういう商売なのかということについての知識が必要になります。
「古道具
屋」が,コンビニエンスストアやスーパーマーケットのように流通システムのなかで「値段」の定められて
いる商品を扱うわけではなく,そのような流通システムから外れたものを扱うのだという知識があれば,
「ぼ
く」がこれらの質問を求める相手として「古道具屋のおじさん」を選んだ意図を推し量ることができるでしょ
う。また「古道具屋」
(古物商)の店舗を訪れた経験があれば「ぼく」の質問や「おじさん」の答え方を理
解する大切な手がかりになるのではないでしょうか。さらに,これまでの人生経験のなかで,
「春」や「愛」
や「なみだ」が商品として出回ることがないということを知っているなら,この詩の後半の問答が,単にモ
ノの「値段」のことをめぐるものではなくて,人生に必要な概念の吟味を行っていることだということがわ
かるでしょう。あるいは,
「寺山修司」という作者とその作品についての知識・経験や,
この詩が含まれる,
『寺
山修司少女詩集』
(角川文庫)を読んだ経験があれば,この詩について新しいことを見つけたり,意味づけ
たりする行為をより広く深く進めることができるでしょう。それも詩の意味をさぐるための重要な読書行為
です。
本や文章を意味づけながら読むという行為は,
この二系列を往還しながら,
次節に掲げた「読みの方略カー
ド」で詳しく解説している六つの「読みの方略」
(参加者として関わる・物語のしかけにはまる・物語に感
想や疑問を持つ・自分にとって大事なところをみきわめる・物語のしかけをさぐる・物語を意味づける)を
使って行われるダイナミックな営みなのです。コラボ読みでは,ひとり読み・なかま読み・みんな読みのそ
れぞれを行いながら,そのようなダイナミックな読書行為が生み出されます。
27
2
自立した読み手が用いる読みの方略
1 でみたように,このハンドブックでは読みの方略を大きく 6 つに分類しました。
ここに掲載している 6 セットの「読みの方略シート」では,これら 6 つの読みの方略について,なぜそ
の方略が大切なのか,その方略を使ってどのように学習活動を行うかを説明しています。また,その方略の
具体例として,小学校の国語教科書にこれらの方略がどのように示されているかをまとめています(なお,
教材のページ数は,平成 27 年度使用版によっています)
。
たとえば,このシートは次の用途に使うことができます。
1)教師がコラボ読みの授業を構想するときに,どのような読みの方略をミニレッスンで取り扱うかを考
える。
2)教師が特定の読みの方略をミニレッスンで取り扱うときに,具体的にはどのような方法があるのかを
調べる。
3)学習者がコラボ読みをするときに,どのような方略を使って読むかを考えたり,ふりかえったりする。
たとえば,
【物語のしかけをさぐる】方略をミニレッスンで取り扱う場合,シートを読むと,
「物語のしか
けを見つけていく」ための「観点が必要」だと書かれています。そのまま「しかけを見つけてみよう」とい
うミニレッスンをしても漠然としますので,もう少し絞ってみましょう。
下に視線を向けると,
「ひとりアクション」と「なかまアクション」として,ひとりで行う読み方,なか
まと行う読み方が示されています。
「ひとりアクション」の中には,
「語り手や登場人物の設定を考える」と
書いてあり,
「この話の主人公って,誰なのかな」というセリフがあります。これを使ってミニレッスンを
考えてみましょう。たとえば,これまで教科書で読んだ物語をいくつか出してみて,
「誰が主人公?」とい
うことをクラスで考えてみてもいいですね。
「スイミー」や「ごんぎつね」の主人公は考えやすいでしょう。
それでは「お手紙」や「一つの花」は? と考えてみると,物語のしかけとしての「主人公」を考えること
の意味や楽しさに迫っていくことができそうです。
このように,教師はシートを手がかりにして授業を構想していくことができます。シートの下の部分はセ
リフになっているので,
発達段階によっては,
学習者にそのまま方略集(セリフ集)として示してもいいでしょ
う。いくつかのセリフを選んで,参考として配布し,発言の手引きとして活用させることも考えられます。
28
第 2 章 自立した読み手はどのように読んでいるか
参加者として出会う
物語の世界を想像しながら読んでみましょう。
物語の舞台を想像し,人物の様子や心情を思い浮かべることで,描かれている情景に飛びこむことができます。
意義
活動のポイント
物語を読むことの最初の一歩です。物語への参加の仕方は,
必ずしも書かれていることだけにはとらわれるものではありま
せん。挿絵や文章から想像できることを活用しながら,想像の
翼を広げていきます。
文字の連なりをたどり読みするだけでなく,言葉からイメー
ジを描き,連ねて,物語世界を自分の中に紡ぎあげていく読み
方が身についていることは,これからの読書生活のいしずえに
なります。ここから,
他の
【物語のしかけにはまる】
【感想を持つ】
や【自分にとって大事なところをみつける】
【物語のしかけを
さぐる】
【物語を意味づける】活動へと展開していくことにな
ります。
物語への参加は,誰もが簡単に行なえるわけではありません。
なかなか物語に入り込めない場合には,絵に描いてあらわした
り,動作に表したりすることで,物語に参加しやすくなります。
読み聞かせをしたり,してもらったりしてもいいでしょう。
この方略を使ったなかま読みでは,それぞれの持つイメージ
を大切にすることが重要になります。物語への参加の仕方は,
人それぞれです。この方略では,誰の考えも否定しないことを
特に強く意識して臨みましょう。
なかま読みの中では,他者に対して伝えようとすることで自
分の作ったイメージをはっきりさせていくことができます。ま
たお互いのイメージを出し合って楽しむことで,後の話し合い
活動への意欲も生まれてきます。
ひとりアクション
□ 描写や登場人物の台詞を声に出して読んでみる
• ここはがっかりしてるだろうから,ちょっと落ち込んだような声で読んでみよう。
• 静かな雰囲気の場面だから,小さな声で読んだ方がいいかな。
□ 頭の中で,描かれている情景を想像してみる
• この場面の喫茶店の中,どんな様子なのかな。椅子は木でできているって書いてあるからこんな感じかな。
• この人,とても怒ってるって書いてるけど,どんな表情なのかな
□ 登場人物の思いを想像する
• このぐっと黙っちゃう場面,どんな気持ちだったんだろう。悔しかったのかな。それとも,怒ってたのかな。
• なんでこんなことをしてしまったんだろう。仲間を裏切るなんて,どんな気持ちだったんだろう。
なかまアクション
□ 役割音読をする
• じゃあ,○○さんが△△の役をして,□□さんが◎◎の役をして読んでみよう。
• ここの読み方すごくいいね。この場面のこわさがすごく出てる。
□ 動作をしてお互い確かめあったり,説明しあったりする
• この部分,どうなってるのかよくわからなかったから実際にやってみよう。
• あー,結構力入れてる感じだね。すごくわかりやすい。
□ 互いの書いた登場人物の思いを見比べて,どうしてそう書いたのか説明してみる
• あ,ここは私と同じだね。なんでそう思った?
• ここにこう書いてあるでしょ。だから,きっとこう思ってたんじゃないかと思ったんだよね。
29
小学校教科書にみる方略
参加者として出会う
【参加者として出会う】は,教科書では低学年から中学年を中心とした学習内容になっています。代表的
なものに,
「登場人物について考える」に関する方略,
「様子について想像する」方略をあげることができます。
登場人物について考える方略
「自分とくらべながら読む」
(
「フレデリック」三省堂 2,p.201)
お話を読むときには,とうじょうじんぶつがしたことについて,自分ならどうするかを考えてみましょ
う。自分と同じだと思うところやちがっていると思うところを見つけて,お話を楽しみましょう。
「どんな人物かを考える」
(
「モチモチの木」東京書籍 3 下,p.142)
物語を読むときには,出てくる人物がどんな人物かを思いうかべて読むと,より楽しく読むことができ
ます。どんな人物かを考えるためには,人物の行動や会話,せいかくを表す言葉などに気をつけて読む
ことが大切です。また,人物がどうしてそのような行動をしたのか,そのときの気持ちも考えながら読
みましょう。
「そうぞうを広げて読む」
(
「スーホの白い馬」光村図書 2 下,p.115)
「登場人物の考えをそうぞうする」
(
「わにのおじいさんのたからもの」教育出版 2 上,p.113)
「自分とくらべながら読む」は,物語の世界に「自分」を参加させる方略になっています。
「どんな人物か
を考える」では,登場人物について考えるために着目するポイントと考える内容が示されています。
様子について想像する方略
「場めんのようすを思いうかべる(
「ニャーゴ」東京書籍 2 下,p.140)
お話を読むときには,それぞれの場めんの時や場しょ,人ぶつがしたことをたしかめて,そのときの人
ぶつのようすや気もちを思いうかべながら読みましょう。
お話をさらに楽しむ読むことができます。
「会話に気をつけて音読する」
(
「うさぎのさいばん」三省堂 3,p.87)
物語の中の会話には,その人物がどういう人物か,何を感じたり考えたりしているかなどが表れてい
ます。会話に気をつけて音読すると,人物の気持ちや場面の様子がよくつたわります。
声の大きさや強さ,読む速さや間のとり方をくふうして音読しましょう。
「場面のようすがつたわるように音読する」
(
「きつつきの商売」光村図書 3 上,p.24)
「ようすをおもいうかべる」
(
「お手がみ」教育出版 1 下,p.135)
「場めんのようすを思いうかべる」は,物語を読む際に,どのようなことを想像するのかを示すもの。
「会
話に気をつけて音読する」は,具体的な「音読」という方法によって,想像する方略になっています。
30
第 2 章 自立した読み手はどのように読んでいるか
物語のしかけにはまる
物語には,お話を展開させたり,読者を引き込んだりするためのしかけがあります。
そのしかけにはまることで,物語の流れを楽しみましょう。
意義
活動のポイント
物語のしかけには,描写の仕方や構造,語り手,語りの場の
設定,語る順序などがあります。心おどらせる展開や,どきっ
とする伏線もあるでしょう。そのしかけに沿って,
「この人物
はこういう人だな」
「きっとこうなるんだな」と想像しながら,
私たちは物語を読み進めていきます。
【物語のしかけにはまる】ことは,その物語のしかけをメタ
認知し対象化する──【物語のしかけをさぐる】ために必要な
過程です。私たちが物語を楽しむとき,そこにはつねに物語の
しかけが働いています。それらにはまって楽しむ経験を積み,
その経験をふりかえっていくことが,
【物語のしかけをさぐる】
活動へとつながり,さぐる活動の原動力へとなっていきます。
【物語のしかけにはまる】ためには,さっと読みとばすので
はなく,物語の言葉に耳をすます必要があります。
なかま読みでは,
【物語のしかけをさぐる】ためのなかま読
みとは異なり,
「物語のしかけ」にのって物語を楽しむことが
もっとも重要です。物語には様々な楽しみ方があることをなか
まと一緒に読む中で十二分に味わえるように活動を行いたい
ところです。特に,この活動のなかま読みでは,自他のイメー
ジするところが一致したり,違っていたりするところがピック
アップされてきます。そのようにイメージした原因について考
えることも大切ですが,それは【物語のしかけをさぐる】活動
へとゆずり,まずは一致していることや違っていること自体に
意識を向け,物語のしかけに導かれたイメージを語り合うこと
に集中させましょう。
ひとりアクション
□ 今後の展開について予想する
• ここでこう書かれてるってことは,次はきっとこうなるんじゃないかな。
• あ,これはひょっとするとあれが伏線だったんじゃないかな。
□ 登場人物の姿や性格の変化を考える
• この人,冷たい人みたいだったけど,意外といいとこあるところがみえてきたなあ。
• 最初はずるい人だったけど,最近成長してきてるなあ。
□ 情況や場面の変化を考える
• 時間が経過してることが,月の変化からよくわかるなあ。
• 季節がだんだん変わってきて,みんなの関係も変わってきたなあ。前はこの2人仲良しだったのになあ。
なかまアクション
□ それぞれの予想した今後の展開について比べてみて,その違いを楽しむ
• こんなに違うんだね。そういう想像はしてなかったなあ。実際にはどうなるんだろう。
• ここの予想は同じだねどうしてこうなると思ったの?
□ お互いの持っている登場人物の姿や性格についてのイメージを聞き合う
• この人についてどう思った? 私はあまり好きじゃないんだけど。
• この作品のあと,△△はどんな風に暮らしていくのかなあ。
□ 情況や場面の変化について,お互いに考えたことを交流する
• この話,月が何度も出てくるよね。時間の経過がよくわかると思わない?
• ここの○○の言葉,鳥肌立った。こういう,前は敵だったのに仲間になってくれるとこっていいよね。
31
小学校教科書にみる方略
物語のしかけにはまる
【物語のしかけにはまる】は,教科書では中学年から高学年を中心とした学習内容になっています。代表
的なものに,
「中心人物の変化について考える方略」
「場面の変化について考える方略」があります。
中心人物の変化について考える方略
「中心となる人物を見つける」
(
「サーカスのライオン」東京書籍 3 下,p.24)
物語全体を通して,気持ちやその変化がいちばんくわしく書かれている人物を中心となる人物といい
ます。物語を読むときは,中心となる人物に気をつけて読みましょう。
・物語の中で,中心となる人物は,だれかをたしかめる。
・人物の行動や会話をもとに,そのときの人物の気持ちを想ぞうする。
「人物の変化」
(
「モチモチの木」学校図書 3 下,p.50)
物語の中で人物の行動や考え方がかわることがあります。これが人物の変化です。どんな人物がどん
なふうにかわったかを読むときは,物語のはじめのその人物と,物語の終わりのその人物とをくらべ,
そのきっかけが何だったのか考えると分かります。
「中心となる人物を見つける」は,物語を読むときに中心人物を捉える方略を示し,
「人物の変化」は,中
心人物を含めた人物たちの変化を捉えようとする方略を示しています。
場面の変化について考える方略
「
『出来事』に気をつけて読む」
(
「もうすぐ雨に」光村図書 3 上,p.82)
物語を読むときには,
「出来事」に気をつけましょう。
・どんな出来事がおこったのか。 ・その出来事がおこったきっかけは何か。
・その出来事は,物語の中でどんなやくわりをしているか。
・出来事がおこる前と後とで,何がかわったか。
「場面のうつりかわりに気をつけて読む」
(
「いわたくんちのおばあちゃん」三省堂 4,p.83)
場面のうつりかわりに気をつけて読むと,物語のあらすじや,人物の気持ちのへんかなどがよくわか
ります。場所や時間,人物のへんかなどに気をつけて,場面のうつりかわりをたしかめましょう。
「場面のうつりかわりを読む」
(
「ちいちゃんのかげおくり」光村図書 3 下,p.24)
「場面のうつりかわりと登場人物の気持ちの変化」
(
「おにたのぼうし」教育出版 3 下,p.117)
「
『出来事』に気をつけて読む」は,物語を「出来事」を単位として考える方略を示しています。
「場面のう
つりかわりに気をつけて読む」は,場面から場面への変化に際し,
「場所や時間,人物のへんか」という観
点を示すものです。
また,これ以外にも「表現を味わい,ゆたかに想像する」
(
「カニモトくん」三省堂 5,p.27)や「表現の工
夫を読む」
(
「雪わたり」教育出版 5 下,p.71)など,表現に着目し,楽しむ方略も示されています。
32
第 2 章 自立した読み手はどのように読んでいるか
物語に感想を持つ
物語を読んでいると,そのときどきに色々な思いが浮かんできます。
途中で立ち止まってぼんやりと物思いにふけったり,読み終わったあとに読後感を楽しんだりしてみましょう。
意義
活動のポイント
私たちは,作品の中のできごとを自分のことのように追体験
したり,作品の状況の中に入りこんだりする中で,色々なこと
を考え,感想を持っていきます。これらの感想は,
【参加者と
して出会う】や【物語のしかけにはまる】ことを行う中で生ま
れてくるものです。
ここから感想の根拠を掘り下げ,探索していくことによって,
【物語を意味づける】活動や批評する活動へとつながっていき
ます。その過程では,
【自分にとって大事なところをみつける】
ことや【物語のしかけをさぐる】ことを行うことになるでしょ
う。
ひとり読みのときには,読みながら心が動いたところに印を
つけておきましょう。あまり記録に気をとられすぎないように
する工夫があるといいでしょう。
なかま読みとして取り組むときには,お互いの感想を理解す
ることと,なかまの感想を聞いたり話し合っているときに思い
つくことを大切にしましょう。お互いの感想に反論しあうより
は,違いを認めた上で「どうしてそう思ったのか? どこからそ
う思ったのか?」ということをお互いに理解しあう活動にしま
しょう。
感想は十人十色のものになります。それが一致したり,違っ
たりすることそのものが楽しめるといいでしょう。
ひとりアクション
□ 心が動いたところに線を引いたり,ふせんを貼ったりする
• ここの台詞,すっごくいいなあ。ふせんを貼っておこう。
• 鬼ごっこしてるところ,好きだなあ。印をつけておこう
□ 読んでいる途中や読み終わったあとに自分の感想を表すための言葉を見つける
•(読んでいる途中で)ここまで読んできた感想は,
「不安」かな。どうなるんだろう。○○が好きだな。
•(読み終わって)こういう家に住んでみたいなあ。言葉は「うらやましい」かなあ。
□ ノートに自分の感想を書き出す
• 私は,この場面で○○が言ったこの台詞が好きでした。なぜかというと,○○は前は冷たい態度だったのに……
• 読み終わって思ってるのは,読んでいる間,ずっと自分も仲間になってるような気持ちだった,ということです。
なかまアクション
□ お互いの感想を聞き合う
• どこに線を引いた? あー,そこは私も引いてる。どう思った?
• へー,ここでそう思ったんだ。おもしろいね。どうして?
□ それぞれの感想について確かめたり,同意を示したりする
• ○○さんの意見を聞いて思ったけど,それってひょっとしてこういうこと?
• 結構ここは違うね。△△さんはどう思った?
□ みんなの感想をもとに,新しいことを考えてみる
• 今話してて思ったんだけど,もしかしてこれってこういうことなのかな。
• ここのところ難しいね。ちょっともう一回読んで考えてみない?
33
小学校教科書にみる方略
物語に感想を持つ
【物語に感想を持つ】は,教科書では低学年から中学年にみられる学習内容になっています。物語に親し
んでいく中で,その「おもしろさ」を味わう方略として示されています。中学年になると,その「おもしろ
さ」をなかまと比べ,違いについて考える読み方が示されます。これらの重要性は,高学年になっても決
して損なわれるものではありません。
自分の感じた面白さについて考える方略
「おはなしのすきなところを見つける」
(
「スイミー」東京書籍 1 下,p.124)
おはなしをよんで,どんなところが「すきだな。
」
「おもしろいな。
」とおもいましたか。すきなところ
を見つけると,おはなしをよむことがさらにたのしくなります。
「物語のおもしろさ」
(
「わにのおじいさんのたから物」学校図書 3 下,p.107)
同じ文章を読んでも一人一人が感じるおもしろさはちがいます。
「わにのおじいさんのたから物」には,話のすじや語り方のおもしろさ,当たり前の考え方を引っくり
返すおもしろさ,かんちがいやごかいのおもしろさなど,いろいろなおもしろさがあります。
友だちがどうやってそういったおもしろさを発見したのかを聞いて,自分の考えとのちがいを見つける
と,物語をもっとゆたかに読むことができます。
「感じ方のちがいを知る」
(
「ごんぎつね」光村図書 4 下,p.28)
物語を読むときは,登場人物のだれかと自分を重ね合わせたり,書いてあることを,経験などと結び
付けたりしている。そのため,物語の感じ方は,十人十色である。
読んで感じたことや考えたことをつたえ合うと,自分一人では気づかなかったことを教えられ,物語
の読みが深まったり広がったりする。
「おはなしのすきなところを見つける」では,物語に親しむ経験を重ねていく中で,
「すきなところ」とい
う視点から「感想を持つ」方略が示されています。
「物語のおもしろさ」では,
「一人一人が感じるおもしろさ」が違うことに触れられています。同じ物語で
あっても,そこには「いろいろなおもしろさ」を感じる可能性があり,それは人によって異なっているとい
うことです。
「感じ方の違いを知る」は,そのことが「経験」などとの結びつきによって生じていることが
示されています。
34
第 2 章 自立した読み手はどのように読んでいるか
自分にとって大事なところをみつける
物語を読んでいくと,
「おや」と心にひっかかるところがでてきます。
妙に共感したり,なんだかいやだなあと思ったり。そこはきっと,あなたにとって大事な場面なのです。
意義
活動のポイント
私たちは,それぞれに異なる物語の読み方をしています。そ
のとき,
それぞれが見いだす「大事なところ」も異なっています。
【自分にとって大事なところをみつける】ことは,物語と自
分のことを考えるための第一歩になります。まず自分という
フィルターを通して大事なところをみつけ,それを友達と交流
することで,その後の感想が表面的なものではなくより深いも
のになります。
物語は読み手によって,その姿を大きく変えます。なぜその
ようにちがうのだろう,と考えるところから,自分と物語との
関係を考えていくことができます。
大事なところを記録することに気を取られて,読み方がおざ
なりになっては意味がありません。ひとり読みのときには,気
になるところに線をひいたり,ふせんをひいたりする程度にと
どめ,あとで振り返られるようにしておくといいでしょう。一
言メモを残してもいいかもしれません。
なかま読みとしては,それぞれが大事に思うところを共有す
るところからはじめましょう。
「え,
そこ?」
「あ,
同じだ」など,
共通するところ,相違するところを確認するだけでも楽しいも
のです。そこから,それぞれがどのように違っているのか,を
語っていくことで,次第に自分がその物語をどのように読んだ
のか,輪郭があらわになっていきます。
ひとりアクション
□ 気になるところに線を引いたり,ふせんを貼ったりする
• ここは気になったから線を引いておこう。
• ふせん貼ったところを読み返してみよう。
□ 一番好きなところや気になるところを選ぶ
• ふせんを貼ったうちだと,ここが一番好きな場面かなあ。
• この部分が気になるところだから,読書ノートに書き出しておこう。
□ どうして好きなのか,気になるのかを考える
• ここはどうしてこんなことをしたのかよくわからないな。だから気になってるのかな。
• この場面は,わくわくするから好きだな。
なかまアクション
□ それぞれの心にひっかかったところを述べ,できれば理由を言おうとする
• どうしてここが一番心に残ったの?
• わたしならこんなことしないと思ったよ。なぜかというと……。
□ みんなで取り上げるところを決めて話し合う
• それぞれが選んだ中から,みんなで話し合うところを選ぼう。
• どうしてそこが一番大事だと思ったの? このことについて考えてみようよ。
□ お互いの考えのよさをみとめ,お互いの理解を深め合う
• ○○さん,そういう風に思ったんだ,すごいね。気づかなかったよ。
• あー,そうか。確かに,ここは目立たないけどすごくいいシーンだね。
35
小学校教科書にみる方略
自分にとって大事なところをみつける
【自分にとって大事なところをみつける】は,教科書では全学年にわたってみられる学習内容になってい
ます。特に高学年において示される学習内容は,
物語を読んでいる
「自分」
を意識することをもとめています。
「あらすじをまとめる」
(
「アレクサンダとぜんまいねずみ」教育出版 2 下,p.134)
登場人物がしたことや,できごとを中心にお話をみじかくまとめたものを,あらすじといいます。
あらすじのまとめ方は,何をつたえたいかによってかわります。
「あらすじ」は,
「大事なところ」に注目しながら,お話をまとめるものです。誰が,どこで,何を,どうした,
をまとめていくので,一致するところも多くなりますが,人によって違いがでるところもあります。そこに
注目することで,
「自分にとって大事なところ」がどこなのかを考えることができます。
「聞き手に伝わるように朗読する」
(
「サボテンの花/生きる」東京書籍 6,p.21)
朗読するときには,物語や詩をていねいに読み,その作品を自分はどうとらえたのかが,聞き手に伝
わるように読むことが大切です。
自分が感じたことや考えたことが聞き手に伝わるように,印象に残った場面や特にだいじだと思った
言葉をくふうして読みましょう。物語や詩を自分なりにとらえ,場面の様子に合わせた声の出し方,声
の強弱,読む速さ,間の取り方などを考えて読みましょう。
「登場人物の心情と読者の関わり」
(
「カレーライス」光村図書 6,p.30)
・物語を読むとき,読者は,登場人物のだれかに自分を重ね合わせていることが多い。これは,物語を
読むおもしろさの一つである。
・登場人物の心情は,周りの人物との関係の中で,ゆれ動いたり,変化したりする。中心となる人物が
語り手となる物語では,特にそれがよく分かる。
「聞き手に伝わるように朗読する」は,
「朗読」という方法を通して,場面や言葉を丁寧にみていく方略
になっています。
「登場人物の心情と読者の関わり」は,物語を読むときに,
「自分を重ね合わせ」る読み
方をしていることに意識を向けることを誘うものです。
大事なところは,読者によっても異なります。次にみる「物語が自分に最も強く語りかけてきたことを考
える」は,
「自分の感動の中心」を考える方略になっています。
「物語が自分に最も強く語りかけてきたことを考える」
(
「海のいのち」東京書籍 6,p.117)
物語が自分に最も強く語りかけてきたことは何かを考えることで,物語をより深く味わい,自分の感動
の中心をとらえることができます。そのためには,まず物語に書かれていることをていねいに読み,内
容の理解を深めることが大切です。特に,
山場で起きる大きな変化は物語の内容の中心と深く関わります。
どのような変化が起きたのか,なぜその変化が起きたのかを考えましょう。
物語が最も強く語りかけてきたことを考えるときには,次のことを手がかりにしましょう。
・物語の山場で起きる大きな変化とその理由
・物語の中でだいじだと思う言葉
・題名の意味
教科書における【自分にとって大事なところをみつける】は,自分が何に反応しているのかを考えること
になっています。
36
第 2 章 自立した読み手はどのように読んでいるか
物語のしかけをさぐる
物語にはどのようなしかけがあるのでしょうか。
物語のしかけをさぐって読んでいくと,思ってもみない物語の姿があらわれてくることがあります。
意義
活動のポイント
物語のしかけには,描写の仕方や構造,語り手,語りの場の
設定,語る順序などがあります。心おどらせる展開や,どきっ
とする伏線もあるでしょう。そのしかけに沿って,
「この人物
はこういう人だな」
「きっとこうなるんだな」と想像しながら,
私たちは物語を読み進めていきます。
【物語のしかけをさぐる】ことは,そのようなしかけがどの
ようにしくまれているかを探索していくことをさしています。
これは,自分の読みをふりかえることでもあります。
よくできた物語には,工夫されたしかけがめぐらされています。
意識をしなくてもそれらのしかけは私たちを楽しませてくれます
が,意識することでより積極的に楽しむことができるようになり
ます。これからの物語の読み方も変わってくるでしょう。
物語のしかけを見つけていくためには,そのための観点が必
要になります。たとえば〈中心人物〉や〈語り手〉
,
〈山場〉
〈伏
線〉のようなタームを身につけることで,物語のしかけを意識
することができるようになっていきます。
これらのタームは,初めから専門用語として習得することが
必要なわけではありません。最初は,
〈主人公〉や〈ナレーショ
ン〉などの言葉を使うことに挑戦し,徐々に使える言葉を増や
していきましょう。
なかま読みでは,これらのタームを使って話をしやすい環境
が作れるといいでしょう。図や表などを用いて話し合いをする
ことで,より「しかけ」を意識しやすくもなります。
ひとりアクション
□ 語り手や登場人物の設定を考える
• この話の主人公って,誰なのかな。一番成長してるから○○ってことでいいのかな。
• どうも誰かから聞いた話みたいだけど,この物語を語ってる人は誰からこの話を聞いたんだろう?
□ 物語の舞台設定や時間の流れを表や図に整理して,しかけをさぐる
• そういえば最初のころに,この人たちが動いてたな。ということは,これから出てくるのかな。ピンチになりそうだ。
• この話,昔の事件のことが直接は書かれてないな。何があったんだろう。
□ 表現の仕方に着目して,その効果を検討する
• ここの部分,ナレーションの人は何か知ってそうだな。伏線ってことだろうな。
• あ,○○の心の中の声が書かれたのってここが初めてかな。これまで何考えてるのかよくわからなかったもんな。
なかまアクション
□ 語り手や登場人物の設定について考えたことを聞き合う
• この話の主人公って誰だと思う? 私は実は意外と○○なんじゃないかと思うんだけど。だって……
• 語り手ってこれ絶対何か隠してるよね。何隠してると思う?
□ 物語の舞台設定や時間の流れについて整理した表や図を見て,聞き合う
• あ,そうか。ここで3日くらい時間が経ってるんだね。この間に仲良くなったのかなあ。
• いくつかのところで書いてあることを合わせてみると,たぶんこうことがあったっぽいことはわかるよね。
□ 表現の効果について,それぞれが考えたことを聞き合う
• あ-,確かにさ,ここまで○○の心の声って書かれてないんだよね。いい人だと思って騙されてたな。
• なんか△△がさ,ときどき落ち込んでるよね。□□は気づいてるっぽいけど,動いてくれるのかな。
37
小学校教科書にみる方略
物語のしかけをさぐる
【物語のしかけをさぐる】は,教科書では中学年から高学年を中心とした学習内容になっています。代表
的なものに,
「物語の展開を俯瞰する方略」や「語りの構図に着目する方略」があります。また,物語に「し
かけ」があること自体に目を向けさせるものもあります。
「物語のしかけ」
(
「ゆうすげ村の小さな旅館」東京書籍 3 上,p.68)
物語には,読んだ後で「そうだったのか。
」と分かるようなヒントがかくされている場合があります。
これは,物語をおもしろくするためのしかけの一つです。
ヒントが,物語の出来事とどのようにつながっているのか,考えてみましょう。
物語の展開を俯瞰する方略
「
『山場』を考える」
(
「大造じいさんとガン」教育出版 5 上,p.107)
物語の中で,中心人物の心情や行動などが大きく変わるところを「山場」といいます。
物語は,たいてい始めの場面で,中心人物がしょうかいされます。まず,その人物の性格や,ものの見方,
考え方(人物像)を,しっかりとらえることが大切です。
その後に起こるできごとの中で,中心人物の心情やものの見方,考え方は変わっていきます。
中心人物が,いつ,どのように変わったのかを読み「山場」を考えることが,作品全体の構成や中心
人物の人物像をとらえていくうえで大切です。
「物語の山場を考える」
(
「世界でいちばんやかましい音」東京書籍 5,p.63)
「構成の工夫を読む」
(
「きつねの窓」教育出版 6 下,p.29)
「
『山場』を考える」は,物語全体の展開を俯瞰する方略として示されています。この方略は,
【物語のし
かけにはまる】における中心人物や場面の変化に深く関わる方略です。
語りの構図に着目する方略
「物語の語り手」
(
「世界でいちばんやかましい音」学校図書 4 下,p.115)
会話文を語っているのは登場人物ですが,地の文(会話文以外)の言葉を語っているのは,語り手です。
語り手には,①物語全体を組み立てる,②登場人物の考えを説明する,③読者へのよびかけを行う,など,
いろいろな働きがあります。
(後略)
「語り手が『ぼく(私)
』のとき」
(
「きつねの窓」学校図書 6 下,p.59)
物語の語り手が「ぼく(私)
」のとき,物語は「ぼく(私)
」の視点で,語り手の見たこと・感じたこ
ととして書かれます。このような物語では,読み手は語り手の気持ちに入りこみやすく,
「きつねの窓」
では,
「ぼく」の,
「なつかしい」
「せつない」気持ちが,読む人の心にしみます。
一方で,語り手が「ぼく(私)
」の場合,語り手のぼやかしておきたいことは書かれないので,推理小
説などでは「語り」を信用していると意外な結末にびっくりすることもあります。
「きつねの窓」では,
きつねの立場で物語を読み直してみると,新しい発見があります。何が書いてあるかだけでなく,どの
ように書いてあるかも,物語を読む時には大切なのです。
「語り手」は教科書においては学習用語としても取り上げられています。語り手がどのように設定されて
いるかを意識することは,物語の語られ方をさぐることにつながっています。
38
第 2 章 自立した読み手はどのように読んでいるか
物語を意味づける
私たちは,物語に意味を見つけます。誰かの成長物語。あるいは,失敗の物語。仲直りの物語,すれ違いの物語。
人によって,同じ物語にも,違う意味を見つけているかもしれません。語り合ってみましょう。
意義
活動のポイント
【物語を意味づける】ことは,読書のゴールでもあり,協同
で読むことのスタートでもあります。なぜなら,
【物語を意味
づける】ことは,物語が読み手自身にとって,どういう価値が
あることなのかをつかむことでもあり,そのことは同時に,自
分がつかみとったものが,他者にとってはどのようなものなの
かを知りたくなる動機としても働くからです。
【物語を意味づける】ことは,たんに主題をつかむというこ
とではありません。物語で出会う出来事・行動・思い・描写の
言葉をたえず意味づけ・価値づけることで,私たちは物語に疑
問を抱いたり,意外性を発見したりします。それは,物語の続
きを読みたくなる,物語の深い意味を探りたくなる読書の推進
力の源なのです。
【物語を意味づける】方略では,
「これってどういう話なんだ
ろう」ということを考えます。
この意味づけは,読み手によって異なります。そのため,な
かま読みでは,まずはその違いに注目するところから始めると
いいでしょう。他の人の意味づけに対し,共感したり,違和感
をおぼえたり,といったことが起こるはずです。
そのようなお互いの意味づけの違いを確認したら,なかまで
考える問題を見つけ,その問題について話し合ってもいいで
しょう。このことによって,新しい意味づけが生まれてくるか
もしれません。なかま読みの中での発見はコラボ読みの醍醐味
でもあり,豊かな読書の時間を作り上げることにつながってい
く大切な出来事です。
ひとりアクション
□ 語りのしかけに意味をもたせる
• どうしてこんなことを書いたのかな。この話を語ってる人は,いったいどんな気持ちなんだろう。
• どうしてこんな書き方をしているのかな。
□ 登場人物を対比的にとらえ,その関係が表している意味を考える
• ○○と△△って,仲が良かったのに対立しちゃったな。2人は何が違ってたんだろう。
• 書いた人は○○を応援してるっぽいな。△△の考え方は,書いた人にとっては何がよくないんだろう。
□ 読み手がとらえた意味に合うように,物語の意味を読み替える
• 今,問題になっていることに関係するようにここを読むと,どうなるだろうか。この場面の△△の行動って何だろう?
• この物語は,こういうテーマの物語だから,この場面はこういう意味があるんじゃないかな。
なかまアクション
□ 各自が捉えた読みを伝え,お互いに意見を聞き合う
• ここの行動さ,○○らしくないと思ったんだけど,どう思う?
• 私,この行動はなんかよく分からなかったんだけど,あなたは何か考えた?
□ それぞれの見いだした意味に照らし合わせながら,続きを想像しあう
• この話が○○の成長物語だとしたら,絶対一度は失敗する話がくると思うんだよね。それがちょっと怖いなあ。
• △△とはどこかで対決する話がくるんじゃないかなあ。どうすれば仲直りできるんだろう。
□ 物語の意味について検討する
• 私は,この話は「諦めないことの大切さ」の話じゃないかと思うんだけど,どうだろう。
• なんかさ,ときには休むこともいいよ,って思ったんだよね。ここで○○が言ってる台詞がよくて……。
39
小学校教科書にみる方略
物語を意味づける
【物語を意味づける】は,教科書では高学年を中心とした学習内容になっています。
【物語を意味づける】
方略は,教科書においては読みの態度を示すものとしての記述が多くみられます。
「物語の読み」
(
「みちくさ」学校図書 5 上,p.27)
「ぼく」と大介がその後どうなったのかという問いに,正解はありません。だからといって,③の話し
合いでは,何を言ってもいいというわけではありませんでした。みなさんは,物語に書かれていること
や書き表し方にそって,どうしてそう思ったのかを話し合ったでしょう。それが物語を読む経験です。
③で問われていたのは,
「あなたはこの物語をどう読んだか」ということだったのです。
あなたの読みは,今読んでいる物語と,今のあなたの生活や経験,知識とが関わり合ってつくられます。
だから同じ物語であっても,知識や経験を積んだ後でもう一度読むと,また,ちがった読みになるかも
しれません。
この「物語の読み」は,物語を意味づけることが,
「生活や経験,知識」と関わり合って行われているこ
とを示すものです。物語を読む行為全体を,
「物語を意味づける」営みとしてふりかえることになります。
「象徴」
(
「遠眼鏡の海」学校図書 6 上,p.25)
例えば,
「平和」は形の見えない考えですが,ハトの絵を使って,
「平和」を表すことがあります。こ
のように,
形のない考えなどを具体的なモノで表すことを象徴と言います。詩や物語などの文学作品には,
この象徴がよく使われます。
「遠眼鏡の海」で「ぼく」の手元に残った「遠眼鏡」は,
何の象徴なのでしょう。みなさんの身近にあっ
て
「見えないものを大きく見せてくれるようなもの」
はありますか。きっとそういうものの象徴が
「遠眼鏡」
です。このように,物語にえがかれているものを何かの象徴と考えてみて,だれかと話し合うと,物語
の意味を深く考えることができます。
「象徴」は,物語を意味づける際に有効な方略です。物語の中に出てきたアイテムを,物語全体の意味と
照らし合わせて考えることで,その物語がどのような意味を持つ物語であったかを考えることができます。
「本との対話」
(
「その日,ぼくが考えたこと」学校図書 6 下,p.115)
本を読むときに,みなさんは心の中で,本の著者(作者)や登場人物と話をしています。そして同時に,
自分自身とも話をしています。本を読むということは,そのように自分の心の中で,二つの対話をする
ことなのです。
読書を通した自分自身との対話は,著者の主張や考えを理解することで終わるのではなく,そこで得
たものをまとめたり,自分の考えや意見とつき合わせ,修正したり発展させたりする作業を行うことです。
こうした自分との対話によって,人間の内側に現実や他者を理解するための「受け皿」を生み出すこ
とができるのです。
「本との対話」では,物語を意味づけることが,
「対話」として行われていることを示すものです。高学年
において示される学習内容は,物語を読むという行為自体を俯瞰して捉えるものになっています。
また,
「生き方について考える」
(
「猿橋勝子」三省堂 6,p.191)や「伝記を読む」
(
「伊能忠敬」教育出版
6 下,p.87)など,
「伝記」に関わる学習内容にも,
【物語を意味づける】に関わるものが含まれています。
40
第 3 章 読み手の育ちをどう評価するか
第3章
読み手の育ちをどう評価するか
1
評価の考え方
コラボ読みは,子どもを自立した読み手として育てることを目指しています。ですから私たちは「自立し
た読み手」を育てるために何をすればよいのかを意識する必要がありますし,子どもたちが「自立した読
み手」になれるように,子どもたちに何を期待しているのか,私たちの目標は何か,ということを子どもた
ちに知らせていく必要があります。
コラボ読みにとって,少なくとも「評価」は次のような点で大切です。
・次にどのような指導をするかということを見極めるために,一人一人の子どもの現状とニーズを把握す
る
・
「自立した読み手」となるために何が大事なのかということを子どもに知らせる
・教師として何を達成することができたか,その足跡を残す
このようなことを見極めるために,観察やポートフォリオ,自己評価などいろいろなかたちで評価を行う
ことになります。どのようなかたちをとるにしろ,データ(情報)を集め,記録をつけ,それらの結果を解
釈するということが「評価」の活動になります。
たとえば,誰がどのような本を読んだのか,ひとり読みにどれぐらいの時間がかかるのか,書いたり話し
合うために子どもたちはどの「話題」を好んで使うのか,子どもたちの本への反応はどのようなものか,と
いったことについてデータ(情報)を集めて記録し,それを解釈することから,子どもたちを「自立した読
み手」として育てていく多くの手がかりがもたらされるでしょう。現状とニーズを見極めることが,次の指
導の一手を生み出すことになるのです。
データを手がかりにボトムアップで次の指導への方針を定めるためには,成長を見取るための観点・見
取り図が必要です。
「これはできるようになった。こちらの方向へ伸ばしてやりたい。
」という方向を定める
ための指針です。それは,成長の全体構造を表す枠組と,観察して捉えられる具体的な項目尺度で示され
ると使いやすいでしょう。
コラボ読みは子どもたちの読書生活に活用される読書力をつけることで,自立した読み手に成長させるこ
とを目指しています。そしてそれを,ひとり読みとなかま読み・みんな読みのサイクルで行おうとしている
ため,建設的な話し合いを遂行できる能力も必要です。
そこで,コラボ読みで培う力を,読書力と話し合う力の面から捉えることにしました。
41
では,どのような枠組と項目尺度で捉えるのか,以下に説明しましょう。
2
評価の尺度
2.1
読書力の成長の面から評価する
読書力とはどのようなものでしょうか。コラボ読みで育てようとしている読む力は,学習指導要領の読む
ことの指導事項とどう対応しているのでしょうか。読解力と読書力の関係は?
ここではこれらの疑問に答えるために,読解力を抱合した読書力モデルを示し,学習指導要領国語編の
読むことの指導事項との対応も示しています。
コラボ読み活動中に教師はカンファレンスや個別指導を行います。その時間に観察できた児童生徒の実
態をチェックしておきましょう。そしてそれぞれの子どもに足りない力を一人一人に応じて指導しましょう。
2.1.1
読書力チェックリスト
児童・生徒一人一人の読書力は次のようなリストで見取ることができます。おりおりの観察で見られた子
どもたちの姿を捉えて成長の具合をチェックします。そして不十分な所をを捉え,
次に必要な指導の内容 ( ミ
42
第 3 章 読み手の育ちをどう評価するか
ニレッスンに何を行うか ) を決めていきましょう。
具体的な姿
選書力
氏名 氏名
目的に応じて本を選ぶことができる
参加者として出会う
言葉から想像をひろげて読むことができる
人物と自分を比べながら読むことができる
人物の行動や会話や性格を表す言葉に気をつけて読むことが
物語のしかけにはまる
できる
人物に寄り添ったり離れたりしながら読むことができる
語り手や人物設定・人物相互の関係を考えて読むことができ
る
読みの方略 物語のしかけをさぐる
舞台の設定を意識して読むことができる
場面の展開を意識して読むことができる
表現の魅力や効果を捉えて読むことができる
物語に感想を持つ
自分にとって大事なと
ころをみつける
物語を意味づける
読書習慣
読みながら心が動いたところをみつけて伝えることができる
好きなところとその理由を伝えることができる
印象に残った事柄や感銘をまとめて話すことができる
これはどういう話なのかを伝えることができる
読書習慣が身についている
◎ 見られる 〇 作品によっては見られる △ たまに見られる 空欄 見たことがない
2.1.2
読書力評価チェック問題例(テスト問題)
学習者個々が,妥当なものを選んで説明できるかどうかということを評価する問題です。例として,
「走
れメロス」
(太宰治)を使って示します。
この問題は,下記のような読解力をみることができます。
・この部分が物語の山場であることに着目して説明できるか
・メロスとわたしが書き分けられていることについて着目して説明できるか
・一文の短さからスピード感が感じられることや,告白体であることなどの文体の特徴が指摘できるか
・文を読んで感じたことを説明できるか。
問題 次は,
「走れメロス」の一部分です。これを読んで次の問いに答えてください。
ああ,もう,どうでもいい。これが,私の定った運命なのかも知れない。セリヌンティウスよ,ゆる
してくれ。
(中略)ああ,何もかも,ばかばかしい。私は,醜い裏切り者だ。どうとも,勝手にするがよい。
やんぬる哉。——四肢を投げ出して,うとうと,まどろんでしまった。
ふと耳に,潺々,水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ,息を呑んで耳をすました。すぐ足もとで,
水が流れているらしい。よろよろ起き上って,見ると,岩の裂目から滾々と,何か小さく囁きながら清
43
水が湧き出ているのである。その泉に吸い込まれるようにメロスは身をかがめた。水を両手で掬って,
一くち飲んだ。ほうと長い溜息が出て,夢から覚めたような気がした。歩ける。行こう。
「走れメロス」
(太宰治 青空文庫より本文抜粋)
問1 この部分について,あなたはどのような「読みの方法」を使って説明しますか。次の中から一つ選
択してください。
ア 文章のしかけや工夫を説明する
イ 心惹かれた部分とその理由を説明する
ウ 語り手について説明する
エ 物語の展開について説明する
問 2 選択したものを使って,300 字以内説明してください。
こうした問題は,学習した「読みの方法」の定着状況を捉えるという点から,定期テスト等の問題として
も使えますが,学習者個々が,自身の読みの特性に気づくことという点から,自己評価として活用すること
もできます。
「読みの方法」を学ぶことは,読みを豊かにすることにつながります。そのために教師は,学習の折々に,
学習者が「読みの方法」について理解しているかどうかを確かめることや,どういう「読みの方法」を用
いることができるかということを学習者に示すことが必要です。それと同時に学習者自身も,こうした問題
を活用して自身の読みの傾向を捉えることや,理解した「読みの方法」について確かめる機会を持つこと
が必要です。
2.2 コミュニケーション能力の成長の面から評価する
なかま読みで行われる話し合い活動どう見取り,評価すればいいのだろうか。
小集団(4,
5 人)で行われる活動「なかま読み」は,
読み手たちが自律的に行う活動です。コラボ読みでは,
読む力を育て,読書の習慣を付けることと同時に,共感的協同的コミュニケーション活動が営める子どもを
育てることも目指しています。
同じテキストを読み,自由な自己表現活動の中で,感じたことを伝え合うのがコラボ読みです。そこでは,
話し出して言語化することでさらに確かになる自分の思いや,他者の考えを聞くことで新たに気づくテキス
トの深みを楽しむことができます。さらには,思いがけない考えを聞くことでメンバーの人柄を再認識し,
人の心に思いをはせる機会も生まれるでしょう。
読み手同士が言葉を交わすことで情動を共有し,精神的一体感を形成することは,人が人とコミュニケー
ションをとっていく上で基盤となる協同的な態度や,人と力を合わせて考えを共創しようとする資質を育む
ことにもなるのです。
では,そのようなコミュニケーション能力の育ちは,どのように見取ることができるのでしょうか。
話し合いは一度きりの観察では全グループは見とれません。評価は,何度も繰り返される 「なかま読み」
の時間を使って,白熱した発言が飛び交うグループのよい発言や姿を拾っていくことと,カンファレンスや
個別指導から気になる子どもを定めて観察することによって行います。下記の評価チェック項目による評価
は「なかま読み」をしている際の観察リストであると同時に,一人一人の観察カルテとして用意し,長期的
に継続的にそれぞれの児童を見取っていくといいでしょう。
44
第 3 章 読み手の育ちをどう評価するか
具体的な評価観点をあげておきましょう。次に示したような「なかま読み」をしている実際の児童生徒を
観察する 「話し合いチェックリスト」 を用いて評価します。また,読書力もあわせてふり返ることを促す自
己評価シート「できたかなチェックリスト」
,や読書ノートによって,読書力,コミュニケーション能力の
成長の評価をします。
話し合いチェックリスト ( 教師用 )
グループ( )
メンバー氏名( )
協力する態度
□ 話し合いに参加している □ 身を乗り出したり,頭をつきあわせて積極的に話している
□ 笑顔がみられ,楽しんでいる
□ 途中まででも言おうとし,他の人につないで話している
自己表出
□ 自分の考えを言えている 「○○だと思うよ。
」
□ 理由を付けて話している 「わけはね。
」
□ 友達の考えとつないで話している 「〇〇さんが~言ったけど,私はこう思う。
」
「聞いて思ったのは」
「それにこれも。
」
□ 人にわかってもらおうとして話している 「ここまでいい?」
「伝わってる?」
他者受容
□ 感情的にならず思いやった話し方をしている
「~と思うけどどうですか。
」
「なんでそう思うの?教えて。
」
□ 質問してわかろうとしている 「もう一回言って」
□ 人の意見に対して考えを返している 「そういうの思いつかんかった。
」
「〇〇さんはこういうことが言いたいんだよね。
」
□ 自分の考えが通らなくても参加し続けている
「わかった。それもそうだね。
」
□ 自分の考えに固執せず友達の意見のいいところも認めて,納得したら譲っている
「なるほど。確かにそうかも。
」
「そうそうそういうこと。
」
「それもある。
」
話題追究
□ 話題に沿って話し合っている 「話を元に戻そう。
」
□ 筋道を立てて考えを進めている 「ということは…」
「例えば…」
「つまり…」
「必ずしもそうとは言えないよ。
」
□ 質問して同じところや違いを見つけようとしている 「それはこういうこと?」
「二人の考えの違っているのは。
」
「つまりここまではいっしょなんだよね。
」
□ 話題について検討したりわからないところを確かめながら話しあっている 「違う所もどんどん出そう。
」
「これについてはどうなの?」
「要するに。
」
「論点整理。
」
45
状況判断
□ 話し合いの途中で意見を整理したりまとめようとしている。 「今までの意見は 2 つに分かれるね。
」
「これをはっきりさせないといけないんじゃない?」
2.3 自己評価のためのチェックリスト-読書力を自覚するために-
子どもたちが自分の成長を自覚し,次にがんばることをはっきりさせるためには,自己評価の観点と時間
を与えることが大切です。評価の観点は子どもたちにわかるように開示し,みんなで共有しておきます。そ
してその観点にそって学習時間の最後や学習の節目にチェックし,振り返りを書くことで次に努力すべきこ
とを自覚する時間を取ります。次のようなチェックシートを活用するとよいでしょう。
できたかなチェックリスト ( 児童用 )
1 自分に合う本を選ぶために,
「ざっと読み」の技を使って本を選んでいますか(選書の力)
。ざっ
と読みの技とは次のようなものです。表紙や帯やリード文を読む/パラパラとめくってスラス
ラ読めるか判断する/目次を読む/最初の数ページを読む
□ とてもよくできた □ よくできた □ まだできる □ できていない
2 付箋に書いて貼ったり読書ノートにメモしたりしながら読んでいますか(対話しながら読む力。
)
□ とてもよくできた □ よくできた □ まだできる □ できていない
3 自分にとって大切に思えたことを伝えることができましたか(再構成する力)
□ とてもよくできた □ よくできた □ まだできる □ できていない
4 友達の考えを聞いてもっと尋ねたいことや思いついたことを伝えるなどの反応を返してあげま
したか(共同して意味を創造する力)
□ とてもよくできた □ よくできた □ まだできる □ できていない
5 人物や状況について自分と比べて考えてみましたか(対話しながら読む力)
□ とてもよくできた □ よくできた □ まだできる □ できていない
6 すてきな表現や心にのこることばについて気をつけながら読んでいきましたか(表現の魅力や
効果をとらえる力)
□ とてもよくできた □ よくできた □ まだできる □ できていない
7 読んだ印象や訴えかけてくるものについて考えてみましたか(自分が捉えたことを表現する)
□ とてもよくできた □ よくできた □ まだできる □ できていない
8 家でも学校でも読む時間を作って読んでいますか(読書の習慣)
□ とてもよくできた □ よくできた □ まだできる □ できていない
9 自分に合った読書ノートを作れていますか(読書の習慣)
□ とてもよくできた □ よくできた □ まだできる □ できていない
46
付録 コラボ読みのためのスタートキット
付録
コラボ読みのためのスタートキット
ここでは,コラボ読みを行うためのスタートキットを紹介します。突然にコラボ読みをやろうとしても,
次のようなことで困ってしまうかもしれません。
(1)本や文章はどのようなものを使えばよいのだろうか。
(2)ミニレッスンでは何をすればよいのだろうか。 (3)考え聞かせはどのようにすればよいのだろうか。 (4)カンファレンスでは何をすればいいのだろうか。 (5)クラス全体での「共有の時間」には何をすればいいのだろうか。 (6)子どもたちに,なかま読みを上手に進める方法をどう教えたらいいのだろうか。
ここでは,このような疑問に答えます。最初は,教室の状況に合わせて,これらの例をアレンジするとこ
ろからはじめてもよいでしょう。
1
本や文章はどのようなものを使えばよいのだろうか。
-コラボ読みのための本リスト-
教室で国語教科書に掲載されている物語を読む学習活動とコラボ読みという読書活動を連携させるため
に,ここでは,小学校国語教科書掲載作品に関連させた読む本リストという形で示しています。教室でみ
んなで教科書掲載作品を読む学習の成果を読書活動に活用し,習熟を図ります。
ここに取り上げた本は,子どもたちの読む力の伸長と心の成長に応じるように選んでいます。ここに掲載
した本以外でコラボ読みすることももちろん可能ですし,ここに掲載した本を手がかりにコラボ読みを始め
てみるのもいいでしょう。
小学校 1 年生 ◉ 「くじらぐも」
(なかがわりえこ文・かきもとこうぞう絵)を核作品にして読む
文字を追って意味のまとまりごとにスラスラと音読できるようにさせる時期です。意欲的に取り組める音
読活動を多彩に用意し,教室の友達と一緒に読むことを楽しむ活動がふさわしいでしょう。教師に導かれ,
仲間と想像を膨らませながら,何度も音読して読む読書活動を用意します。
47
『くものがっこう』
(みらいなな 童話屋)
,
『くものえんそく』
(みらいなな 童話屋)
,
『くまのこくーと
そらのなかまたち』
(佐藤芽実 教育画劇)
,
『そらとぶセーターくん』
(山脇恭 偕成社)
◉ 「ずーっとずっとだいすきだよ」( ハンス ・ ウイルヘルム文 久山太市絵 ) を核作品にして読む
飼っていた生き物の死をどう受け入れるか。少し難しいテーマだけれど身近に体験した子どもも多いで
しょう。体験のない子どもも,物語の世界の疑似体験を通して自分だったら…と思いをはせるでしょう。こ
のテーマに関して子どもたちなりに追究していくきっかけを与える物語を読み,自分の考えを交換し合う読
書活動を用意します。
『きみにあえてよかった』
(エリザベス ・ デール文 フレデリック・ジュース絵 小川仁央訳 児童図書
館絵本の部屋)
,
『ぼくはねこのバーニーがだいすきだった』
(ジュディス・ポースト文 エリック・ブレグバッ
ド絵 中村妙子訳 偕成社)
◉ 「たぬきのいとぐるま」
(木暮正夫文 水野二郎絵)を核作品にして読む 本に出てくる登場人物は皆たぬきです。主人公のたぬきと対人物のやりとりが展開していく物語を読み,
人物同士の関係に注目したり人物の心の通い合いに注目して読んでいく読み方を獲得させていきます。
『たぬきのてがみ』
(紙芝居 教育画劇)
,
『こだぬきのおんがえし』
(長谷川摂子文 菊池日出夫絵 岩波
書店)
,
『たぬきむかし』
(よしざわかずお文 ふくだしょうすけ絵 ポプラ社)
,
『たぬきのばけたおつきさま』
(西本鶏介文 小野かおる絵 鈴木出版)
小学校 2 年生
◉ 「スイミー」
(レオ・レオニ文 ・ 絵 谷川俊太郎訳)を核作品にして読む
同一作家レオ・レオニの作品を重ねて読んでいきます。子どもたちは,作家のカラーやテーマ性につい
て「どのお話もなんとなく似ているなあ」という印象を持つことでしょう。おもしろかったことやどんなと
ころが似ているか出し合い,人物や,筋の展開や,テーマについて漠然としたものではあるでしょうが気づ
きを話し合っていく読書活動を用意します。
『フレデリック』
『アレクサンダとぜんまいねずみ』
『あいうえおの き』
『せかいいちおおきなうち』
『こ
こにいたい!あっちへいきたい!』
『ぼくのだ!わたしのよ!』
『じぶんだけの いろ』
(レオ・レオニ 好学社)
◉ 「スーホの白い馬」
(おおつかゆうぞう文・リーリーシアン絵)を核作品にして読む
民話や昔話はこの世の道理をさりげなく子どもたちの心に刻み込んでいきます。単純なストーリーであり
ながらスケールの大きな世界が描かれていく民話や昔話は,子どもたちの柔らかい心に様々な感情を生み
出すのです。それは,捨て身の献身,せつなさ,尊さ,誠実,勇気 雄々しき生き方 叶わぬ思いなどか
もしれません。民話や昔話は単純であるだけにストレートに,
「生きるということの姿」をなげかけてくれ
ます。以下の民話や昔話には,それら「生きるということの姿」に触れるものを用意しました。心にのこっ
たことを自由に伝えあう読書活動を行いましょう。
『天馬ジョノン・ハル-モンゴル馬頭琴物語-』
(なすだみのる/ビャンバサイハン ・ ツエレンドルジ ひ
くまの出版)
,
『ほしになったりゅうのきば』
(赤羽末吉 福音館書店)
,
『山になった巨人 白頭山ものがたり』
(リュウ チェスウ作絵 イサンクム まついただし共訳 福音館書店)
,
『カワと 7 にんのむすこたち ク
48
付録 コラボ読みのためのスタートキット
ルドのおはなし』
(アマンジ・シャクリー作絵 野坂悦子訳 福音館書店)
,
『ランパンパン インド民話』
(マ
ギー・ダフ再話 ホセ・アルエゴ / アリアンヌ・ドヴィ絵 山口文生訳 評論社)
◉ 「わたしはおねえさん」
(石井睦美文・黒井健絵)を核作品にして読む
これらの本は,どれも長編でシリーズになっているものです。子どもたちがシリーズ読みのおもしろさに
はまって,ぐいぐいと読んでいく習慣がついたらしめたものです。子どもの嗜好にも幅が出てくるでしょう
から,愉快なもの,架空の世界,自分と重ねられるものなど多様なものを用意することが望ましいでしょう。
『すみれちゃん』
『すみれちゃんは一ねんせい』
『すみれちゃんのすてきなプレゼント』
『すみれちゃんの
あついなつ』
(石井睦美・黒井健 偕成社)
,
『ぼくはおうさま』シリーズ(寺村輝夫 理論社)
,
『ちいさい
モモちゃん』
『ちいさいアカネちゃん』
『アカネちゃんとお客さんのパパ』
『アカネちゃんのなみだの海』
(松
谷みよ子 講談社)
,
『はれときどきぶた』
『はれまたまたこぶた』
『はれときどきあまのじゃく』
『はれとき
どきアハハ』
(矢玉四郎 岩崎書店)
,
『楽しいムーミン一家』
『ムーミン谷の夏まつり』
『ムーミンパパの思
い出』
『ムーミン谷の冬』
(トーベヤンソン 講談社青い鳥文庫)
小学校 3 年生
◉ 「きつつきの商売」
(林原玉枝文・村上康成絵)を核作品にして読む
架空の世界の森や空き地や村で,そこにすむ住民達が繰り広げる様々な出来事を楽しんで読むのは,秘
密基地を作って友達と想像の世界で共に遊ぶことに似ています。どんな動物がどんなお店を開くと楽しい
か,本を読みながら仲間と一緒に想像の基地作りをするような読書活動をすることが期待できます。 『森のお店やさん』
(林原玉枝文 はらだたけひで絵 アリス館)
,
『森のおくの小さな物語』
,
『どんぐり
村の本屋さん』他(なかやみわ 学研)
,
『どうぶつむらのおみせやさん』
(全五巻 教育画劇)
◉ 「ちいちゃんのかげおくり」
(あまんきみこ作)を核作品にして読む
戦争という,今の日本の子どもたちには日常から離れている事象に生活感覚から認識していくことを促す
本を用意します。疎開,広島に落とされた原爆など,風化させてはならない出来事に目を向けていく読書
活動です。
『伸ちゃんのさんりんしゃ』
(児玉辰春作 おぼまこと絵 童心社)
,
『おはじきの木』
(あまんきみこ作 上野紀子絵 あかね書房)
,
『おこりじぞう』
(沼田曜一作 金の星社)
,
『えんぴつびな』
(長崎源之助作 長谷川知子絵 金の星社)
◉ 「3 年とうげ」
(李錦玉文・朴民宜絵)を核作品にして読む
身近なお隣の国,韓国や中国の民話に着目した読書活動です。桃源郷物語は,陶淵明の詩「桃花源記」
が出所で,これらの民話に通底する世界観や倫理観は日本人にも通じるものがあります。文化的ルーツを
継承する意味で,
近隣地域の民話や物語に触れる機会を提供する読書活動を展開することができます。また,
別の扱いとしては,民衆のとんち話,ユーモアのあるお話を集めて読むこともできるでしょう。日本の各地
に伝わるとんち名人のお話には,一休さん,彦一さん(熊本)
,吉四六さん(大分)などがあります。
「3 年
とうげ」のトルトリのとんちと類似する,説話にルーツを持つこれらとんち話に触れることは,日本の伝統
的な言語文化に親しむ意味でも価値ある読書活動といえましょう。
49
『へらない稲たば 朝鮮のむかしばなし』
(李錦玉作 朴民宜絵 岩崎書店)
,
『一休さん』
『彦一さん』
『吉
四六さん』
(寺村輝夫のとんち話 あかね書房)
,
『彦一とんち話』
(偕成社文庫)
,
『桃源郷ものがたり』
(蔡
こう 松井直訳 福音館)
,
『ねぎをうえた人 朝鮮民話選』
(金素雲 岩波少年文庫)
◉ 「モチモチの木」
(斎藤隆介文・滝平二郎絵)を核作品にして読む
斎藤隆介と滝平二郎のコンビで作られた,力強く心優しく生きる人間の姿を起伏のあるスケールの大き
い展開の中で体験することができる読書活動です。人物の行動について心にのこったことを自分と比べな
がら伝えあう活動などが期待できます。
『半日村』
『八郎』
『三コ』
『花さき山』
(斎藤隆介文 滝平二郎絵 岩崎書店)
小学校 4 年生
◉ 「白いぼうし」
(あまんきみこ文・こころ美保子絵)を核作品にして読む
短いファンタジーを楽しむ読書活動が展開できます。色やにおいを表すことばのもたらす効果について,
不思議な登場人物について,素材や筋の類似性に気づきながら読み比べることもできるでしょう。
『やまねこおことわり』
『くましんし』
(
『車の色は空の色』所収)
,
『草木もねむるうしみつどき』
『雲の花』
『虹の林の向こうまで』(『続 車の色は空の色』所収 あまんきみこ ポプラ文庫 )
◉ 「一つの花」
(今西祐行文 松永禎郎絵)を核作品にして読む
戦争をテーマにした物語に触れる読書活動を,3 年生の時より少し視野を広げ,社会に目を向けながら展
開する読書活動です。
『かわいそうなぞう』
(土家由岐雄作 武部本一郎絵 金の星社)
,
『そしてトンキーもしんだ』
(たなべま
もる文 かじあゆた絵 国土社)
,
『ゾウのいない動物園-上野動物園ジョン,とんきー,花子の物語』
(貞
岩るみ子 講談社青い鳥文庫)
,
『広島のピカ 記録の絵本 1』
(丸木俊作 小峰書店)
,
『すみれ島』
(今西
祐行文 松永禎郎絵 偕成社)
,
『8 月 6 日のこと』
(中川ひろたか作 長谷川義史絵 河出書房)
◉ 「ごんぎつね」
(新美南吉文・かすや昌宏絵)を核作品にして読む
『そばくいたぬき』は,
『ごんぎつね』と状況設定や筋の展開が類似している物語です。登場人物や筋の
展開について比べながら読む読書活動ができるでしょう。また,人間ときつねのかかわりかたの違いがある
のが『てぶくろを買いに』です。新美南吉作品の叙情性を感じながら読み比べる読書活動もできるでしょう。
『そばくいたぬき』
(瀧澤よし子作 梅田俊作絵 すずき出版)
,
『手ぶくろを買いに』
(新美南吉作 黒井
健絵 偕成社)
◉ 「初雪のふる日」を核作品にして読む
比較的長編のファンタジーを読む読書活動です。現実の世界にはあり得ない不思議な出来事だけど,
ひょっとしたら…と想像を膨らませたり,現実にも同じような感覚や感情は確かにあるし,以前体験した同
じような想いをふと思い出したりする。これらの読書活動は世界や人間を想う心の豊かさをもたらしてくれ
ます。読んでふと思い出したこと,不思議に思ったことなどを自由に出し合っていく読書活動です。また,
『うさぎのセーター』は『初雪のふる日』と共通して描かれるヨモギ,行動表現が見られ,共通性について
50
付録 コラボ読みのためのスタートキット
話題にすることができます。
『うさぎのセーター』
(茂市久美子作 新野めぐみ絵 あかね書房)
,
『ゆうすげ村の小さな旅館』
,
『海う
さぎの来た日』
(
『だあれもいない?』
(あまんきみこ短編集 講談社所収)
,
『雪窓』
(安房直子作 山本孝
絵 偕成社)
,
『天の町やなぎ通り』
(あまんきみこ作 黒井健絵 あかね書房)
小学校 5 年生
◉ 「なまえつけてよ」
(蜂飼 耳文・北沢優子絵)を核作品にして読む
高学年になり,心の内面が複雑になっていこうとする時期です。身近にいる友達との接し方も,単に一緒
に遊ぶと楽しいという以上の意味や結びつきを求め始める時期でもあるのでしょう。
「なまえつけてよ」を
読んで主人公や対人物の心の動きを自分と重ねながら考えたことを出し合い,周囲の友達の内面を想像し
たり心くばりに気づいていくような,細やかな感情についての話し合い活動が展開できる読書活動です。
『新しい友達』
(石井睦美)
『
,赤い実はじけた』『
( ガラスの小瓶』所収 ),
『ポレポレ』
(西村まりこ BL出版)
◉ 「大造じいさんとガン」
(椋鳩十文 水上みのり絵)を核作品にして読む
「動物物語」というジャンルを扱う読書活動です。動物親子の愛情や,気高く生きるオオカミや鷹の行動
に心打たれたり,人間も動物の一種であり自然の一コマとしてある存在だと感じたり,子どもの人間観を揺
さぶる読書体験が期待できます。また,この読書活動ではリアリティあふれる表現や生き物の行動の美しさ
を描き出す表現にふれることができます。
『月の輪ぐま』
(椋鳩十)
『
,片耳の大鹿』
(椋鳩十)
『
,狼王ロボ シートン動物記』
(清川あさみ リトルモア)
,
『爪王』
(戸川幸夫)
,
『最後の一句ほか 光村ライブラリー中学校編』所収 光村図書)
◉ 「わらぐつの中の神様」
(杉みき子文 黒井健絵)を核作品にして読む
少し前の日本にはあった,穏やかな日本の生活情景や,今日失われつつある日本人の情に触れることの
できる物語です。大正昭和時代の日本人のメンタリティを感じる作品を読んで感じたことを交換するような
読書活動ができるでしょう。
『おじいさんのランプ』
(新美南作 偕成社文庫)
,
『うた時計』
,
『屁』
(新美南吉 新美南吉全集)
,
『小さ
な町の風景』
(杉みき子 偕成社)
,
『一房の葡萄』
(有島武郎 岩波文庫)
小学校 6 年生
◉ 「カレーライス」
(重松清)を核作品にして読む
読者である高学年児童が,自分と等身大の主人公に出会い,その行動や内面に自分を重ねて読みやすい
物語です。小説を進んで読む読者へと成長する契機になる読書活動が期待できます。家族と自分,社会で
出会った人たちについて考えを深くする話し合いが展開できそうです。
「バスに乗って」
「ともだち」
「おとうと」
(
『小学 5 年生』重松清 文春文庫所収)
『その日ぼくが考えたこと』
「人生って,なに?」( 重松清 朝日新聞社 『子ども哲学 付録「おまけの
はなし」
』所収 )
51
◉ 「森へ」
(星野道夫)を核作品にして読む
「写真集」というジャンルを扱う読書活動です。写真そのものから受け取る感銘はもちろんですが,写真
にことばが添えられることで写真家の思いが加わり,自分自身の世界の見方が広がっていく読書を体験し
ます。星野道夫の生き方についても思いをはせることのできる読書活動です。
『クマよ』
(星野道夫 たくさんの不思議傑作集 福音館)
,
『アラスカたんけん記』
(星野道夫 たくさん
の不思議傑作集 福音館)
,
『カリブーをさがす旅』
(星野道夫 たくさんの不思議傑作集 福音館)
,
『アラ
スカ 風のような物語』
(星野道夫写真集 小学館)
,
『星野道夫の仕事 第 3 巻 生き物たちの宇宙』
(星
野道夫写真集 朝日新聞社)
◉ 「やまなし」
(宮沢賢治)を核作品にして読む
物語の背景にある作家の理念や信条を重ねて読みながら読んでいく読書活動です。物語それぞれの味わ
いとそれらに通底するテーマを追求していく読書活動が期待できます。
『よだかの星』
(宮沢賢治どうわえほん)
『
,けんじ先生 宮沢賢治 ・ 幸福の授業』
(畑山博 PHP研究所)
,
『イーハトーブふしぎなことば』
(松田司郎写真 ・ 解説 文研出版)
,
『宮沢賢治』
(西本鶏介 ポプラ社)
,
『銀
河鉄道の夜』
(藤城清司 講談社)
,
『グスコーブドリの伝記』
(宮沢賢治 清川あさみ リトルモア)
◉ 「海のいのち」
(立松和平)を核作品にして読む
「いのち」というテーマについて一貫した意識で読み重ねていく読書活動です。一人の作家が「いのち」
というテーマで,素材や舞台を異にしながら書いた物語を比べながら読んでいきます。
『町のいのち』
,
『たんぼのいのち』
,
『やまのいのち』
(立松和平 くもん出版)
◉ 「平和のとりでを築く」
(大牟田稔文)を核作品にして読む
平和を築くために何をすればいいのか,大人達はどんな努力をしているのか,明日に向かって建設的に
平和を求めていく手がかりと勇気を与えてくれる内容の本を用意します。平和のために今行われていること
を知り,自分のできることとして前向きに考えていくような読書活動が期待できます。
『いのりの石 ヒロシマ・平和へのいのり』
(こやま峰子文 フレーベル館)
,
『ヒロシマの木に会いにいく』
(石田優子文 偕成社)
,
『さがしています』
(アーサ ・ ビナード 童心社)
中学校 1 年生
◉ 「大人になれなかった弟たちに……」
(米倉斉加年)を核作品にして読む
戦時下,広島と長崎に原爆が落とされた時代が舞台です。語り手の僕が少年の頃に背負ってしまった原
罪(弟のミルクを盗み飲みしてしまった)の告白と,子どもを守るために必死で生きた母への思いを言い
よどみ表現の多い叙情的な沈んだ文体で綴った絵本です。国語教科書には挿絵の抜粋と共に掲載されてい
ます。この作品と同じ敗戦間近の長崎の少年を話題にした作品に「目撃者の眼」
(ジョーオダネル『中学校
国語 2』
学校図書 平成 27 年)があります。これは報道写真家が長崎で撮影した少年の写真が掲載され,
撮影した写真家へのインタビューから書き下ろされたものです。こちらは報道写真家の客観的な描写と直
裁的なはっきりした表現で書かれています。どちらも「見たもの,したことは決して忘れない」という言葉
で締めくられていながら,訴えかけてくるものや印象がずいぶん異なっています。「ヒロシマの傷」(詩『新
52
付録 コラボ読みのためのスタートキット
しい国語 六年下』学校図書)などと重ねて読むことで,絵本,随想,詩というジャンルの質の違い,訴
えかけてくるものの違いを比べて読むことができます。
また,
「大人に…」と同様に,戦時下での一般の人々の生活を少年の視点から生き生きと描いた作品に,
『少
年H』
(自伝小説 妹尾河童 講談社)があります。これは長編ですが,戦時下に生きた少年の視点から描
いた作品という点に共通点を見出しながら読むことができます。
『おとなになれなかった弟たちに…』
(絵本 米倉斉加年 偕成社)
「
,目撃者の目」
(インタビュー ジョー
オダネル 『中学校国語 2』
学校図書 平成 27 年)
,
「ヒロシマの傷」
(詩 『新しい国語六年下』
学校図書)
,
「パールハーバーの授業」(随想 猪口邦子 『中学校国語 3』学校図書 平成 27 年)
,
『少年H』
(自伝小説 妹尾河童 講談社)
◉ 「少年の日の思い出」
(ヘルマン・ヘッセ/高橋健二 訳)を核作品にして読む
読者たちがそのまっただ中にある思春期。この時代を生きた少年たちの悩みや心の様を追体験できる作
品です。ヘッセと同時代の作品で,日本の近代文学を代表する作家の作品に『一房の葡萄』
(有島武郎 角
川書店)があります。国が異なっても「誰もが成長の過程で抱く悩み」という観点で読み比べ,自分と重
ねて生まれる様々な思いを交流させることができます。
同じ作家のものを読み広げるとするならば,下記のような作品があります。
『車輪の下』
(ヘルマン・ヘッセ/高橋健二 訳 新潮文庫)
思春期の少年の苦悩が赤裸々に描かれたこの作品には,
ヘッセの少年時代が色濃く反映されています。
「少
年の日の思い出」と比べて読ませることによって「美しいものや真実のものへの執念」のようなものが,彼
の作品を貫いていることに気付かせることができます。
『庭仕事の愉しみ』
(ヘルマン・ヘッセ/岡田朝雄 訳 草思社文庫)
ヘッセの複数の作品に特徴的に共通して出てくる「庭」の場面に着目させることによって,
ヘッセが「庭」
という場所にもたせている役割や意味について追究していくコラボ読み活動が期待できます。
『クジャクヤママユ』ヘルマン・ヘッセ/岡田朝雄 訳(
「ヘルマン・ヘッセ全集」第 6 巻所収)臨川書店
『少年の日の思い出』は,1991 年に発表した『クジャクヤママユ』を,20 年後の 1931 年にヘッセ自身
が一部書き換えて発表したものです。まず,この二つの作品を読み比べ,その異同を明らかにすることで,
20 年の時を経て書き換えに至った作者の意図に迫るような読み方ができます。そして新たな「読みの観点」
に気付かせながら,この作品や作家としてのヘッセをさらに読み深める活動につなぐことができます。
◉ 「風呂場の散髪」
(椎名 誠 『続 岳物語』
)を核作品にして読む
少年期から思春期に移行し,自立しようとする男の子の思いを父親の視点から描いた作品です。父と息
子の関係が微妙に変化する様を,何気ない日常のシーンのなかでシンプルに,かつ効果的な表現によって
描き出しています。父と息子のやりとりの中でくり広げられる心の通い合いや関係の変化を共感や自省を
伴って読み進めることのできる作品を読みあうことで,自分の今を見つめる契機となる読書活動が期待でき
ます。
「カレーライス」(
『重松清 はじめての文学』
(2007 文藝春秋)
,「父のようにはなりたくない」(安部夏
丸「中学校国語 2」学校図書)
53
中学校 2 年生
◉ 「生きる」( 詩 谷川俊太郎 ) を核作品にして読む
この詩に共感した人がMIXYのコミュニティで呼びかけて始まった,連詩を重ねていく営みが,本になっ
て出版されています。この本では,様々な人が生きていることを実感する一瞬を切り取って表現しています。
それぞれの人が,
「生きてるって思えること」を,考え,言葉にしていくことは,その時々をいとおしくす
ごすことや人の心,自分の心を見つめる営みとなるようです。
この詩を書いた人は,どんな人だろう。自分にとって生きていると実感するのはどういうときだろう,ど
んなことだろうと考え,友達の「生きる」を傾聴することで,人と心がつながり世界がひろがっていく体験
ができることでしょう。詩との出会い,詩を媒介とした人や世界との出会いを促すコラボ読みです。
『生きる-わたしたちの思い』(2008 角川SSコミュニケーションズ ),
『生きる-わたしたちの思い 第
2 章』(2009 同上 ),合唱曲「生きる」
◉ 「字のない葉書」
(向田邦子)を核作品にして読む
作者向田邦子の他の作品に『父の詫び状』
『眠る盃』があります。これらはいずれも明治生まれの父を主
人公に,戦前の中流家庭の姿をユーモラスに鮮やかに描いたエッセイ集です。日常の断片を鮮やかに切り
取り,
情感豊かに描いています。
『字のない葉書』と同様に,
家族の愛情の深さがよくわかる表現に着目させ,
そこから読み取ったことを他者と交流しながら読み深めるといったコラボ読みが考えられます。
「凛憧-りんどう-」は歌詞です。CDで歌を聴かせながら音楽に乗せて味わわせることが可能です。
「父
が,大人の男が流す涙」という「字のない葉書」との共通点に着目させ,その意味や価値について自分な
りの考えを伝えあうようなコラボ読みが生まれます。
『父の詫び状』
(向田邦子 1981 文藝春秋)
『
,眠る盃』
(向田邦子 1982 講談社)
「
,凛憧-りんどう-」
さだまさし(歌詞「風待ち通りの人々」所収)
◉ 「モアイは語る-地球の未来」
(安田喜憲)を核作品にして読む
説明文を読む上で要となるのは,筆者の主張がどのような論理と表現によって表されているのかを吟味
し,主張そのものをどう受けとめるか,自分自身の考えを肥やしていく読み方を進めることです。
「モアイ
は語る」の筆者の主張と論理を理解し,自分の考えを持つために,同様の素材とテーマを扱った他の説明
文と読み比べます。例えば「イースター島にはなぜ森林がないのか」
(鷲谷いづみ「新しい国語 6 年」東京
書籍)と 「モアイは語る」 を重ねて読むことで,実証的に問題追究をしていく 「モアイは語る」 と,ラット
に着目して謎解き風に説明する 「イースター島にはなぜ森林がないのか」 の論理展開の違いや効果的な表
現に気付付くことができるでしょう。さらに,「この小さな地球の上で」(手塚治虫「現代の国語 1」三省堂)
と併せて読むと,
テーマである地球の未来についての筆者の思いの違いについて考えていくこともできます。
中学校 3 年生
◉ 「言葉の力」(大岡 信 『国語 2』
光村図書)を核作品にして読む。
「言葉」 についての認識を深め,言葉について自覚的である「言葉の使い手」への成長が期待できるコラ
ボ読みです。言葉の働きや言葉で表すことの意味を多様な角度から投げかける伝記,随想,評論,詩を読み,
54
付録 コラボ読みのためのスタートキット
考えを深くしていくコラボ読みができるでしょう。
『奇跡の人 ヘレンケラー自伝』
(
『奇跡の人 ヘレンケラー自伝』
小倉慶郎訳 2004 新潮文庫)
,
「
吟味された言葉」(随想 大江健三郎 大江ゆかり 『恢復する家族』
講談社文庫 2014 「中学校国語 2」
学校図書)
,「片言を言うまで」(随想 金田一京助 『金田一京助全集』
第 14 巻 「中学校国語 1」
学
校図書)
,
「言葉のダシのとりかた」
(長田弘詩集 『食卓一期一会』
1987 晶文社)
◉ 「孫が読む漱石-坊っちゃん」(夏目房之介 中学校国語 2 学校図書)を核作品にして読む
夏目漱石『坊っちゃん』を分析した評論文です。
『坊っちゃん』のあらすじ,印象,キャラクターの造形,
語りのスタイルについて端的な文体で坊っちゃん風な語り口を用いて語っています。これを読むと小説を読
む時の観点を楽しくわかりやすく理解することができるでしょう。この評論文を手がかりに『坊っちゃん』
を読んでみたり,
『走れメロス』の文体やキャラクターの造形について考えてみたりするコラボ読みができ
ます。近代の著名な小説を分析的に読むという読書活動です。また,夏目房之介が漫画について,コマ割
りなどの技法を分析した本もとりあげ,漫画というメディアを分析的に読むことに広げることもできます。
中学 3 年生という総仕上げの時期に,批評家的な読みへ誘うコラボ読みをしてみましょう。
『坊っちゃん』
(夏目漱石 2003 新潮文庫)
,「走れメロス」(太宰治 新潮文庫 2005)
,
『マンガはなぜ
面白いのか-その表現と文法』
(夏目房之介 1997 NHKライブラリー)
◉ 「春に」
(谷川俊太郎)を核作品にして読む
『四季抄 風の旅』
(詩画集 星野富弘 立風書房)
,
「春よ,来い」
(歌詞 松任谷由美)
,
『山家集』
(歌集 西行 新潮社等)
,
『坊ちゃんの時代』
(漫画 関川夏央・谷口ジロー 双葉文庫)
「春」をキーワードにしたコラボ読みです。季節を愛で,春の桜に思いを寄せる日本人のメンタリティ
が伝統的な文化の中に現在まで脈々と息づいていることを,様々なジャンルの読み物を読み合うことを通し
て感じることができるでしょう。
「春よ,来い」からは「前向きな姿勢と迷い」
,
「坊ちゃんの時代」の桜並木の下のラストシーンからは,
移ろいゆく時代を思う漱石の「明るさの中に感じる不安」
,
『風の旅』所収の「なしの花」や『山家集』所
収の「ねかはくは 花のしたにて 春しなん そのきさらきの もちつきのころ」の歌からは「花の美しさ
と隣り合わせの死」といった,いわば日本人にとっての伝統的な「春の季節観」を感じることができます。
「春よ,来い」は歌詞です。CDで歌を聴かせながら音楽に乗せて味わわせることも可能です。
◉ 「握手」
(井上ひさし)を核作品にして読む
『ナイン』井上ひさし(短編小説集)講談社文庫,
『ブンとフン』
(井上ひさし 新潮文庫,
『モッキンポッ
ト氏の後始末』
(井上ひさし講談社文庫)
,
『國語元年』
(井上ひさし 中公文庫)
『ナイン』は「握手」が収められた短編小説集,また『ブンとフン』は,やはり痛快な風刺と笑いにあふ
れた奇想天外な物語です。中学校最終学年のスタートにあたり,
「笑いの魔術師」
「現代の戯作者」などと
評される小説家であり劇作家でもある井上ひさしのこうした短い作品に数多く触れることによって,それら
に共通する「作者の深い人間理解に基づいた人と人との関わりの温かさ」を感じ取らせたいものです。
『モッキンポット氏の後始末』は,井上ひさしの小説デビュー作。お人よしの神父と学生たちの行状を軽
快に描いたユーモアあふれる作品で,
「握手」のルロイ修道士と同じ人をモデルにしているといわれていま
すが,コミカルな側面がより強調されていて,
「握手」と比べて読むと,その人柄がより鮮明に浮かび上がっ
55
てきます。
『國語元年』は,明治初期,
「全国統一話し言葉の制定」という大事業をお上から命ぜられた文部省官吏・
南郷清之輔の悪戦苦闘ぶりをユーモラスに描いた喜劇。戯曲と小説が出版されていますが,よく目にする
小説とはジャンルの異なる戯曲という形の作品に触れながら,戯作的な滑稽さを楽しんで読む体験をする
ことができます。また,
日本語に造詣の深い井上ひさしが操ることばの巧みさにのせられながら,作者の「ま
なざしの温かさ」や「人と人との関わりの温かさ」を感じ取らせることができます。NHK でテレビドラマ
化されたものの DVD も出版されています。生徒と一緒に鑑賞するのも楽しいでしょう。
2
ミニレッスンでは何をすればよいのだろうか。 「コラボ読み」を進めるなかで生じた問題にどのように取り組めばよいのか,ということをクラス全体で
考えるのが「ミニレッスン」です。ですから,クラスや子どもの状況によって,ミニレッスンの内容は変わっ
てきます。ここに紹介するものはあくまでも「ミニレッスン」の例です。
ミニレッスン一覧
ミニレッスン 1 「コラボ読み」のイメージを持とう
ミニレッスン 2 どの本読もうかな-選書の方法- ミニレッスン 3 作品を読み解くための手がかり-読み解きメモを書こう-
ミニレッスン 4 話し合いを盛り上げるマナーとことば
ミニレッスン 5 広がる話題,とぎれる話題
ミニレッスン 6 いろいろな「読みの方法」を使ってみよう
① 参加者として出会う
② 自分にとって大事なところを見つける
③ 物語のしかけにはまる
④ 物語のしかけをさぐる
⑤ 物語に感想を持つ
⑥ 物語を意味づける ミニレッスン 1 「コラボ読み」のイメージを持とう
ねらい コラボ読みの学習プロセスを知り,どのような力がつくかを理解する。
活動例 コラボ読みプロセスシートをみて流れを理解する。なかま読みをしている映像を見たり,代表グ
ループのやりとりを観察したり,言葉のやりとりを文字化したものを読みあう。
ミニレッスン 2 どの本読もうかな-選書の方法-
ねらい 自分の興味と読む力に合わせて適切な本を選ぶ
活動例 先生がネット検索をしてみせる。図書室の書架探検をする。
「ざっと読み」の方法を教える 同
じ内容でレベルの異なる本を比べて読んでみる。
(例「写真でわかることわざ辞典」
「マンガで
わかることわざ辞典」
「ことわざ辞典」
。
「一休さん」寺村輝夫・
「一休」○○どちらを読むか 3
56
付録 コラボ読みのためのスタートキット
分で決める)
ミニレッスン 3 作品を読み解くための手がかり-読み解きメモを書こう-
ねらい ひとり読みの時の考えを書き留め整理する方法を学ぶ
活動例 付箋を貼りながら読む 線を引きながら読む お話の地図を書く(作品の構造を書く,人物の
関係を書く ストーリーマップ)
絵コンテ 場面イラスト
ミニレッスン 4 話し合いを盛り上げるマナーとことば
ねらい 気持ちよく皆が参加し,協働で考えを作るための態度やスキルを学ぶ
活動例 盛り上がる話し合いはどのようなものか話し合う。スタートキット掲載「なかま読みの進め方」
を使って,どのような態度で聞くと相手が答えやすいか,意見の伝えかた 気持ちのいい反論
のしかたなどを学ぶ
ミニレッスン 5 広がる話題,とぎれる話題
ねらい どのような話題が価値ある生産的な話題かを知る
活動例 一つの作品をみんなで読んで,話題を出し合いどのような話題がよいか考えてみる
ミニレッスン 6 いろいろな「読みの方法」を使ってみよう
ここで示した 6 つのミニレッスンの内容は,読解プロセスから導出したものですが,ミニレッスンはあく
まで子どもたちの読む力の観察から必要だと判断されるスキルを教えるのが原則です。
それは,例えば,
「会話に注意して読もう」
「人物の言動の意味を考える手がかりを見つけるには」
「山場
と落ちをとらえよう」
「表現が生み出す作風を分析する手がかり」のようなものです。
ここでは 読解プロセスモデルから導き出した 6 つの「読みの方法」を示しておきましょう。
① 参加者として出会う
例 1 『くま紳士』を一緒に読もう
② 自分にとって大事なところを見つける
例2
しるしを付けながら読もう
③ 物語のしかけにはまる
例3
この人物,好き?嫌い? ④ 物語のしかけをさぐる
例4
人物の正体は?
例5
描写に注意して読もう ⑤ 物語に感想を持つ
例6
どんな感じがする? ⑥ 物語を意味づける
例7
物語を読んで考えたこと
① 参加者として出会う(
「読みの方略」シートを参照してください。
)
例 1 『くま紳士』を一緒に読もう
ねらい 物語の世界に入り込んで想像しながら読む経験をする
方法
考え聞かせによって,どのように想像したり感想や疑問を持ったりするかを示範する。
今日は,本の世界にどうやって入り込むのかということについて考えてみましょう。
「参加者として関わる」
という方法です。
「参加者」という言葉は,運動会の綱引きの参加者,とか,カラオケ大会の参加者とか,パーティ
の参加者,というふうに使うことの多い言葉です。つまり,
「参加者」になる,とは,何かのイベントに関わる,
57
その一員となる,ということをあらわします。綱引きの「参加者」は,綱引きを見物する人ではありません。実
際にどちらかの方向に一生懸命綱を引いて,
勝ったり負けたりする人です。物語に「参加者として関わる」
というのは,物語に描かれている場面に入り込んで,登場人物になってみたり,登場人物が言ったり,した
りすることをすぐ近くで感じ取る人になることです。物語の舞台を想像し,人物の様子や心情を思い浮かべ
ることで,描かれている情景に飛びこむことができます。
次の文章はあまんきみこさんの「くま紳士」の一部です。先生が一度音読しますから,
この文章の描く世界のなかに入り込んで「参加者」になってください。
熊野熊吉,というひょうさつの下のベルを,松井さんは,二回,ゆっくりとおしました。
*
やがて,足音がちかづき,かんぬきをはずす音がおもたそうにひびいて,鉄の門がずずずずっとあいてきました。
中からさっきの紳士が,にこにこしながらでてきて,こんなことをいうのでした。
「やあ,おまちしていましたよ。どうぞ,どうぞ」
げんかんには,緑地の着物に,白いおびをきっちりむすんだおくさんがたっていて,松井さんにあいさつをしま
した。そして松井さんは,とてもりっぱな部屋にとおされたのです。
広いその部屋は,くまばかりでかざられています。
かべにかかった絵も,たなの上のおきものも,ゆかのしきものも,みんなくま,くま,くま……。
松井さんは,あまりりっぱな部屋なので,思わずきょろきょろ見まわしました。
今度は,先生が頭のなかでこの物語に「参加者として関わる」にはどういうふうにしたかを話します。先
生が右手を挙げたときが「参加者として関わる」時です。
熊野熊吉【あれ?変わった名前だな。名字にも名前にも「熊」がある】
,
というひょうさつの下のベル【ブザーではなくて,
ベルだ。どんなんだろう。ピンポンと鳴ったのか,
チリンと鳴るのか】を,
松井さんは,
二回,
ゆっくりとおしました。
【さっ
き「ひょうさつ」ってあったから,松井さんという人が熊野さんの家に行ったのか。
「二回」
「ゆっくりと」押すなんて慎
重だな。松井さんの顔が緊張している。はじめて行く家なんだろうな。
】
*
やがて【すぐに,ではないから,少し時間があったのか。緊張が高まってくる。
】
,足音がちかづき,かんぬきをはずす
音がおもたそうにひびいて,鉄の門がずずずずっとあいてきました。
【
「かんぬき」って?あぁ,門の扉をとめるやつだね。
「鉄の門」だからずいぶん頑丈なのだろうな。ということは,結構大きなお屋敷なんだろうな。
】
中からさっきの紳士【
「さっきの」ってあるから,前に会ったことがあるんだな。
】が,にこにこしながらでてきて,
こんなことをいうのでした。
「やあ,おまちしていましたよ。どうぞ,どうぞ」
【あれ? 待っていたのか。さっきの松井さんの重々しい様子からする
と意外!】
げんかんには,緑地の着物に,白いおびをきっちりむすんだおくさんがたっていて【へぇ,熊野さんと奥さんが二人で
出迎えるなんて,とても丁寧だな。緑の着物に白い帯って,オシャレな奥さんだな。和服なんだ。
】
,松井さんにあいさつ
をしました。そして松井さんは,とてもりっぱな部屋にとおされたのです。
【ほら,やっぱり「りっぱな部屋」のある大き
な屋敷なんだ。
】
広いその部屋は,くまばかりでかざられています。
【ええっ! 熊ばかりなんて,熊野さんだから? 顔も見てみた
いな。熊野さんの顔も熊かしら?】
かべにかかった絵も,たなの上のおきものも,ゆかのしきものも,みんなくま,くま,くま……。
【うーん,ちょっ
と熊ばかり揃いすぎていて気味が悪いぞ。でもどんな熊だろう。プーさんとか,リラクマとか,テディベアだった
らかわいいけど。
】
58
付録 コラボ読みのためのスタートキット
松井さんは,
あまりりっぱな部屋なので,
思わずきょろきょろ見まわしました。
【熊だらけで「あまりりっぱな部屋」
というのはどういうのだろう? 見まわすぐらいだから,これまで松井さんが見たこともないような豪華な部屋なん
だろうな】
綱引きに「参加者として関わる」のは,
一生懸命綱を引くことですが,
物語に「参加者として関わる」のは,
こんなふうに一生懸命その場面のことを,五感を使って想像してみることなのです。こんなふうに頭のなか
で「参加者として関わる」ように読むと,物語に描かれた世界がはっきりと見えてきますし,描かれていな
いことまで想像してしまって,面白いです。ここに書かれていることの前にどんな出来事があって,この後
どんな出来事が続くのだろうかということも気になってきます。そんなふうに想像しているだけなのに,な
んでこんなふうな登場人物にしたのか,とか,登場人物同士はどんな関係なのか,とか物語のしかけや意
味づけについても気になってくるから,不思議です。
だから「参加者として関わる」という方法は,物語を読む時に基本的に大事な方法なのです。そして,
その関わり方は人によって違うもの。先生がいまやったように,頭のなかで物語に「参加者として関わる」
方法を使いながら自分で読んでみてください。そして,どんなことを考えたか,隣の人と話し合ってくださ
い。先生や友だちと違うところや似ているところを出し合ってみましょう。いろんな「参加者としての関わ
る」やり方があるのがわかると楽しいですよ。
② 自分にとって大事なところを見つける(
「読みの方略」シートを参照してください。
)
例2 しるしを付けながら読もう
ねらい 読みながら共感したり,心に引っかかったところに線を引いたりしるしをつけたりしながら読む
方法を身につける。
方法
はじめは教師がゆっくり音読し,聞かせる。次に教師が音読しつつ思ったことをつぶやきなが
ら,拡大テキストに線を引いたり印を付けたりするのを見せる。それからそれぞれのペースで黙
読しながら線引き・書き込み・しるし付けをする。
一通り終わったら,それぞれの線を引いたところを伝えあい,引いた理由やそこで思ったことを出
し合う。お互いの考えの多様さを認めあい,優れた読み方をしているものがあれば取り出して共有す
る。
しるしは,気になるところ(線)
,好きだなと思ったところ ( ◎ ),不思議だなと思ったところ(?)
などに付ける。
考えを出し合うときは,理由をそえて,自分と比べて,前後の展開とつないで,以前読んだものと
比べてなどの発言を促すとよい。みんなで取り上げるところを決めて話し合い,一人一人の「大事な
ところ」
(感想)を伝えあうことがお互いの考えをひろげ深くすることを実感させていく
③ 物語のしかけにはまる(
「読みの方略」シートを参照してください。
)
例3 この人物,好き?嫌い?
ねらい 人物に寄り添いながら物語に没入し,楽しむ経験をする。
方法
登場人物に共感したり離れて眺めたりしながら物語にそって想像をひろげていきます。教師の
音読を聞きながら,適当な部分で立ち止まり,その場面で人物のしたことについて思ったことを
近くに座ったペアで短い時間で伝えあいます。一通り考えを出したことを見計らって教師は次の
59
場面に進みます。読み終わったら,登場人物についてお互いのイメージした姿や性格について
聞き合います。また,それぞれの予想した物語のその後の展開を出し合って比べ,その違いを楽
しむこともいいでしょう。
『お手紙』( アーノルドローベル作 三木卓訳 文化出版局 ) を使って示してみます。
(教師が子どもたちを集めて音読する。
)
「…かえるくんが言いました。
「きみ,おきてさ,おてがみがくるのを,
もうちょっとまってみたらいいとおもうな。
」
「いやだよ。
」がまくんが言いました。
「ぼく,もうまっているの,あ
きあきしたよ。
」
子どもたちの表情に思いがよぎっている様子が見とれ,つぶやきが聞こえる場面で立ち止まり,
「今思ったこと
をペアの友達にお話ししてみて」と促す。教師は小さい声で傾聴と共感を示す相づちを打ちながら,子どもたちの
声が少なくなったら次に進みます。
読み終わったら,どのような人物が出てきたかを確かめ,それぞれの人物についてどう思ったかを聞き合います。
子どもの発言例
・
「がまくんはあんまり好きじゃないよ。それはね…」
・
「かえるくんはともだちおもいでやさしいな。
」
・
「かたつむりくんはすぐっていってるけど,おそすぎるよ。
」 「だけどそのぶん幸せな気持ちが長く続いていい
と思うよ」
教師は,
「どの人物に共感を覚えるか,疑問に思ったことはあるか。このあとこのお話はどうなるのだろう。
」等
を投げかけ,一人一人が思い描いたイメージを出し合い楽しむ雰囲気をつくります。
④ 物語のしかけをさぐる(
「読みの方略」シートを参照してください。
)
例4 人物の正体は?
ねらい 物語にしくまれている,語り手の視点の設定,落ちや山場の設定,伏線などのしかけに気づく。
方法
読み終わったあと,
「登場人物は実は○○だった」というしかけに気づき,あとになってそれ
を匂わせる表現をみつけることで,物語のしかけに注目させます。
『つり橋わたれ』( 長崎源之
助 岩崎書店 ) の男の子や,
『ゆうすげ村の小さな旅館』
(茂市久美子 講談社)に出てくるむす
めの正体はいったい…と考え,布石や根拠となる表現を出し合う活動などが考えられます。
『注
文の多い料理店』( 宮沢賢治 ) を使って,筋の展開が視点を変えると二通りに読めることに気づ
くレッスンも可能です。
例 5 描写に注意して読もう
ねらい 描写とは,芸術表現において,何かを描き出すことを指します。文章中に織り込まれている情景
描写は,ただ目に見える情景を描きだすだけではなく,作品に陰影や,ある雰囲気を醸し出すこ
とがあります。また,情景を見ている視点人物の心情を反映することもあります。このミニレッ
スンでは,情景描写の働きや効果について注目する読み方を学びます。
方法
次に載せた文章は,写真家星野道夫がアラスカに憧れ,写真家になったいきさつを語ったも
のです。同じエピソードが違った書き方で描かれています。どのように印象が違いますか。それ
はどうしてですか。情景描写の効果を考えてみましょう。
60
付録 コラボ読みのためのスタートキット
19 才のころ,見知らぬ北の国,アラスカにあこがれていました。今でも狼がいて,冬にはオーロラという光が空
に現れる,ふしぎな国です。ある日アラスカの本を読んでいて,一枚の写真が目にとまりました。それは,シシュ
マレフという,エスキモーの村の写真でした。こんな寂しいところで,どうやってエスキモーの人たちは暮らして
いるのだろう。そんなことを考えているうちに,
「そうだ,この村に行ってみよう」と思いました。けれども,どう
したらこの村に行けるのでしょう。手紙を書こうと思っても,住所も人の名前も知りません。いろいろ考えた末,
こんなふうにあて名を書きました。「村長さんへ シシュマレフ村 アラスカ」 これしか方法がなかったのです。
手紙は次のように書きました。
「……あなたの村を尋ねたいのです。どんな生活をしているのか知りたいと思います。だれか,僕の世話してくれ
る人はいないでしょうか。……」
『アラスカたんけん記』星野道夫文・写真 『たくさんの不思議傑作集』福音館書店
十代の頃,北海道の自然に強く引かれていた。その当事読んだ,様々な本の影響があったのだろう。あの頃,北
海道は僕にとって遠い土地だった。北方への憧れは,いつしかさらに遠いアラスカへと移っていった。だが,現実
には何の手がかりもなく,気持が募るだけであった。二十年以上も前,アラスカに関する本など日本では皆無たっ
だのだ。
ある日,東京,神田の古本屋街の洋書専門店で,一冊のアラスカの写真集を見つけた。たくさんの洋書が並ぶ棚で,
どうしてその本に目が留められたのだろう。まるで僕がやって来るのを待っていたかのように,目の前にあったの
である。それからは,学校へ行くときも,どこへ出かけるときも,かばんの中にその写真集が入っていた。手垢に
まみれるほど本を読むとは,ああいうことをいうのだろう。もっとも僕の場合は,ひたすら写真を見ていただけな
のだが。
その中に,どうしても気になる一枚の写真があった。本を手にするたび,どうしてもそのページを開かないと気
が済まないのだ。それは,北極圏のあるイヌイットの村を空から取った写真だった。
灰色のベーリング海,どんよりと沈む空,雲間からすだれのように差し込む太陽,その中でぽつんと点のように
たたずむイヌイットの集落……。始めは,その写真の持つ光の不思議さに引きつけられたのかもしれない。そのう
ちに,僕はだんだんその村が気にかかり始めていった。
なぜ,こんな地の果てのような場所に人が暮らさなければならいのか。それは,実に荒涼とした風景だった。人
影はないが,一つ一つの家の形がはっきりと見える。いったいどんな人々が,何を考えて生きているのだろう。
昔,電車から夕暮れの町をぼんやり眺めているとき,開け放たれた家の窓から,夕食の時間なのか,ふっと家族
の団欒が目に入ることがあった。そんなとき,
胸が締め付けられるような思いが込み上げてくるのである。あれはいっ
たい何だったのだろう。見知らぬ人々が,僕の知らない人生を送っている不思議さだったのかもしれない。同じ時
代を生きながら,その人々と決して出会えない悲しさだったのかもしれない。
その集落の写真を見たときの気持は,それに似ていた。が,僕はどうしても,その人々と出会いたいと思ったの
である。
写真のキャプションに村の名前が書かれていた。シシュマレフ村……。この村に手紙を出してみよう。でも誰に。
住所は。辞書を開くと,村長にあたる英語が見つかった。住所は,村の名前にアラスカとアメリカを付け加えるし
か方法がない。
「あなたの村の写真を本で見ました。訪ねてみたいと思っています。何でもしますので,誰か僕を世話してくれる
人はいないでしょうか……。
」
『旅をする木』星野道夫 文春文庫
61
⑤ 物語に感想を持つ(
「読みの方略」シートを参照してください。
)
例 6:どんな感じがする?
ねらい 様々なことを感じ,考えながら物語を読み進めるうちに浮かんだイメージや,読み終わったあと
に浮かんだ自分の感想を表すための言葉を蓄える。
方法
『白いぼうし』を教師がゆっくり音読する。読み終わったあと,受け取った印象を自分の言葉
で表したり,提示されたものから選んだりして,友達に伝えてみます。教師が,提示された言葉
を使い,そう感じた根拠となる文章の部分を示しながら感想の表し方を示範します。
『白いぼうし』の心象を表す言葉の提示には次のようなものがあげられるでしょう。
さわやかなかんじ ふしぎなかんじ あかるい はらはらする 優しい感じ 色がきれい ふ
わふわしている おだやか 余韻がのこる
⑥ 物語を意味づける(
「読みの方略」シートを参照してください。
)
例 7:大事だと思うところの根拠を語る
ねらい 本を読んで感銘を受けたことをどう取り出して伝えるとよいかを知る。
方法
先生が最近どんな本をどんな「読みの方法」を使って自分にとって大事なところを見いだした
かを語る。
最近読んだ本を紹介します。ヘルマン・ヘッセという作家の「少年の日の思い出」は授業で読みましたね。思い
出を題材にした話には他にないかと思って探してみました。
ロシアのリュドミラ・ウリツカヤという人が文章を,ウラジミール・リュベロフという人が挿絵をかいて,沼野
恭子という人が日本語にした『子供時代』という新潮社から今年出た本です。子供時代の記憶,思い出を題材に
した短編小説が 6 つ入っています。
「つぶやきおじいさん」という話が心に残りました。ジーナという女の子が主人公。時計屋だったひいおじいさ
んはもうずいぶん年をとっていて,目が見えず,いつもぼーっとしていて,ときどきよくわからないことをつぶや
くのです。でも,ジーナがバレーボールをして壊した時計を,ひいおじいさんは直してくれます。例の時計屋さん
の眼鏡をかけて。先生が大事だと思ったのは,ジーナがそのひいおじいさんに,時計を直してもらったあとに,目
が見えないのによく直してくれたねと質問した後の,ひいおじいさんの言葉です。
「まあ,なんとかな。でも,見えるのはいちばん大事なものだけなんだよ。
」
「見えるのはいちばん大事なものだけ」という言葉が心に残ったのです。これって,都合のいいことだけ見える,
とは違いますよね。やがて大人になったジーナの心にもこの言葉が残ります。おしまいのところにこんな言葉があ
ります。これも大事だと思いました。
「何年もの長い年月が流れ,ジーナは,当時のことをもうあまり覚えていない。でも,覚えていることは,年を
追うにつれてくっきりとしてくる。
」
ジーナが「覚えていること」って,きっと「いちばん大事な」ことなんだろうね。そのことだけは「くっきり」
としている。この小説の一番大事なところだと先生は思いました。その大事なことをもっと「くっきり」させるこ
とが,きっと「思い出」として覚えていることなのだろうと思います。経験したことすべてを覚えておく必要はな
いし,
見たり聞いたりする必要もない。
「いちばん大事な」ことだけが頭のなかに残っていれば,
それをもっと「くっ
きり」させるために,書いたり話したりしてみるといい。それが人生を意味づけることなのかな,って先生はこの
小説を読みながら考えました。
本や文章を読む時も,
「いちばん大事」なところはどこか考えて,どうしてそこを自分が一番大事だと思うのか,
理由を考えてみると思わぬ発見がありますよ。
62
付録 コラボ読みのためのスタートキット
3
考え聞かせはどのようにすればよいのだろうか。 「故郷」
(魯迅)の冒頭部分を扱った「考え聞かせ」のモデルを示します。物語の冒頭では,状況や人物
について,読者は世界を構築しようと推論や関係づけをするものです。それをつぶやいてみせます。ここで
示したものはもっとも頻繁につぶやきを入れたもので,実際にはもっとシンプルなものとなることでしょう。
つぶやきを入れるポイントと内容は,対象となる子どもの理解度を想定して選定しましょう。
63
4
カンファレンスでは何をすればいいのだろうか。
カンファレンスは,ひとり読みの時間などを使って,個別に,あるいは共通の問題を抱えている子どもを
集めて行われる指導です。
例えば,まだすらすら音読することがおぼつかない子どもたちを集めて一緒に音読したり,自分の思いを
表現することが苦手な子どもによりそって言葉を引き出したりします。その子が今読んでいるテキストを読
む時に必要な「読みの方法」を,一緒に使って考えてみるのもいいでしょう。
この時間はまた,
教師が評価活動を行う時間でもあります。先に掲載した「読書力チェックリスト」を使っ
て一人一人の児童の状況を観察し,観察記録ノートに記録していきます。
観察記録ノート例
氏名 ○○○○ (4 年生 )
これまで読んできた本リスト
・かいけつゾロリシリーズ 読書力チェックリストから
・読みながら心が動いたところを見つけて伝えることが苦手
カンファレンス時の児童のコメント記録と考察
〇月〇日
・感想を表す語彙が少ない。
指導の方針
・
『はれときどきぶた』などの筋の簡単なわく
わくする本を用意し,
『かいけつゾロリ』よ
りすこし複雑な心情と行動を示す主人公の性
格を多様なことばをふんだんに使って紹介す
る。それによって興味を引き出し,語彙を増
やす。
〇月〇日
64
付録 コラボ読みのためのスタートキット
5 クラス全体での「共有の時間」には何をすればいいのだろうか。 チームでの「なかま読み」で考えたことや話題について,
自分の考えを紹介し合うのが「共有の時間」です。
なかま読みの成果報告をする時間でも,更に読み深めていく時間でもありません。
この時間は,使った「読みの方法」を共有しあう時間でもあります。教師がチームで使っていた「読み
の方法」を取り出して紹介することもあります。
この時間の教師の心がけるポイントは次のようなものです。
・話題について追究する時間ではないことを意識しておく
・子どもたちの考えの多様性を賞賛する
・子どもたちの発言から「読みの方法」を一般化して共有する
・教師は文学用語や鑑賞・批評のための表現を使ってみせる
・教師は子どもたちの生活や精神世界と読書の内容を関連づける
次の板書写真は,
「走れメロス」を「なかま読み」で読んだあと,あるいは「なかま読み」をしているど
こかの過程でクラス全体での共有の時間(
「みんな読み」
)を設けるときの板書例です。子どもたちから出
された感想や批評を出し合い,それらの発言から「読みの方法」を一般化して共有していきます。黒板に
黄色チョークで書かれた,以下の部分が,
「読みの方法」を一般化して取り出した部分です。
人物によりそう
人物からはなれる
人物と自分を重ねる
先を予想する
訴えかけてくるもの ( テーマ )
表現に注目する
学習の終末時のふりかえりの時間に,出し合って整理する中で発見したことを取り出していき,子どもた
ちが「読みの方法」を自覚することを促します。板書例にあるように,
「表現に注目して読むと違った見方
ができておもしろい」
「先を予想して読む読み方は初めて知った」( 表現に注目して読む読み方や予想しなが
ら読む読み方に気づく ),
「結構自分は人物によりそって読むんだな」( 自分の読みの傾向を自覚する ) など
の気づきが生まれることを期待しています。
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6 「なかま読み」を上手に進める方法をどう教えたらいいのだろうか。
次のような「なかま読み」の進め方シートなどを使って導きます。
なかま読みの進め方
1 がんばりチェックリストをみんなで読みあげましょう。
2 話題に沿って考えを出し合い,聞き合いましょう。
3 話が尽きたら次の話題に移りましょう。
4 最後の 3 分を使って,できたところに丸を付けたり,よいところを振り返ってみましょう。
がんばりチェックリスト
レベル 1 協力して話したか
1 他のことをしゃべったりしませんでしたか
◎
○
△
×
2 みんなが発言できましたか
◎
○
△
×
3 発言のない人に参加するよう誘ったり,意見を聞いてみようとしましたか
◎
○
△
×
4 感情的にならないで意見の違いを出し合えましたか
◎
○
△
×
5 話し手に反応を返しましたか(頷く,首をかしげる,確かめる,尋ねる)
◎
○
△
×
6 意見を言うときに理由も添えて言えましたか
◎
○
△
×
7 なるほどと思った時は同感している意思表示(サイン)を送りましたか
◎
○
△
×
8 友達の意見を聞いて質問や疑問を穏やかに尋ねてみましたか
◎
○
△
×
9 話し合いの話題・流れ・時間を気にして話しましたか
◎
○
△
×
10 友達の意見の違いを考えたり,よいところを考えたりしましたか
◎
○
△
×
11 友達の意見を受けて考えを作ろうとしましたか
◎
○
△
×
レベル 2 上手な話し合いができたか
レベル 3 考えが深まったか
・振り返って気がついたことを書きましょう
( )さんが(
)してくれてよかった。
( )さんが(
)してくれてよかった。
( )さんが(
)してくれてよかった。
( )さんが(
)してくれてよかった。
自分が(
・困ったことや,次からこうしたほうがいいと思ったことを書きましょう。
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)してよかった。
コラボ読みのなかまたち 文献一覧
コラボ読みのなかまたち 文献一覧
日本語で読むことのできるコラボ読みのなかまについての本や文章には次のようなものがあります。私た
ちも,このような本や文章から多くのことを学びました。
・堀江祐爾 (1994)「アメリカにおける文学を核にした国語科指導」
『兵庫教育大学研究紀要』第 14 巻第 2
分冊,pp.39-52.
・寺田守 (2003)「読むという行為を促す小集団討議の条件」
『教育学研究紀要』49,pp.495-500.
・足立幸子 (2004)「リテラチャー・サークル-アメリカの公立学校におけるディスカッション・グループ
による読書指導方法-」
『山形大学教育実践研究』13,pp.9-18.
・舘岡洋子 (2005)『ひとりで読むことからピア・リーディングへ-日本語学習者の読解過程と対話的協働
学習』東海大学出版会 .
・ルーシー・カルキンズ(吉田新一郎・小坂敦子訳)(2010)『リーディング・ワークショップ』新評論 .
・吉田新一郎 (2010)『
「読む力」はこうしてつける』新評論 .
・タフィー・E・ラファエル他(有元秀文訳)(2012)『言語力を育てるブッククラブ-ディスカッション
を通した新たな指導法』ミネルヴァ書房 .
・寺田守 (2012)『読むという行為を推進する力』溪水社 .
・吉田新一郎 (2013)『読書がさらに楽しくなるブッククラブ-読書会より面白く,人とつながる学びの深
さ』新評論 .
・ジェニ・デイ他(山元隆春訳)(2013)『本を読んで語り合うリテラチャー・サークル実践入門』溪水社 .
・プロジェクトワークショップ (2014)『読書家の時間』新評論 .
・エリン・オリヴァー・キーン(山元隆春・吉田新一郎訳)(2014)『理解するってどういうこと?』新曜社 .
・寺田守 (2014)「読書の指導」
『教師教育講座 第 12 巻 中等国語教育』協同出版 , pp.256-272.
・寺田守 (2015)「感想を交流する」
『読書教育を学ぶ人のために』世界思想社 , pp.155-182.
・舘岡洋子編 (2015)『協働で学ぶクリティカル・リーディング』ひつじ書房
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コラボ読み ガイドブック
2016(平成 28)年 2 月発行
編著者 「読書とコミュニケーション」研究会
山元隆春 稲田八穂 上田祐二
冨安慎吾 山元悦子 若木常佳
協力者
江口恵子
この冊子は,下記の日本学術振興会科学研究費補助金の助成を受けた研究によって作成
されたものである(
「国語科教育改善のための言語コミュニケーション能力の発達に関す
る連携的・実案的研究」 2013(平成 25)年度~ 2015(平成 27)年度科学研究費助成(基
盤研究(B)
)研究代表者:植山俊宏)
。
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