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 平成 28 年度「証券ゼミナール大会」
第 2 テーマ A ブロック
金融グローバル化のなかで新興国が直面する問題
立教大学 亀川ゼミナール 山野班 目次
序章 ....................................................................................... 3
第1章 金融グローバル化 ........................................................... 4
第 1 節 金 融 グ ロ ー バ ル 化 と は 何 か ................................................... 4
5
第 2 節 金 融 グ ロ ー バ ル 化 の 歴 史 ...................................................... 6
第 3 節 金 融 グ ロ ー バ ル 化 が も た ら し た 新 興 国 の 発 展 ............................ 7
第2章 通貨危機をめぐって ....................................................... 9
第 1 節 通 貨 危 機 と は ..................................................................... 9
第 2 節 通 貨 危 機 の 先 行 研 究 .......................................................... 1 0
10
第 3 節 通 貨 危 機 に よ る 影 響 .......................................................... 1 4
第3章 新興国が行うべき通貨危機の予防と対応策 ........................ 20
第 1 節 ア ジ ア 通 貨 危 機 の 原 因 ....................................................... 2 0
第 2 節 投 機 的 資 金 の 流 入 規 制 ....................................................... 2 1
第 3 節 提 案 ま と め ...................................................................... 2 2
15
第4章 新興国が行うべき資金調達 ............................................. 24
第 1 節 資 本 調 達 の 重 要 性 ............................................................. 2 4
第 2 節 直 接 金 融 に よ る 資 金 調 達 .................................................... 2 5
第 3 節 株 式 市 場 の 整 備 ................................................................ 2 6
第 4 節 株 式 流 通 の た め に ............................................................. 2 7
20
第5章 新興国を変える〜国際金融機関に求められること〜 ............ 28
第 1 節 IM F の 仕 組 み と 問 題 点 ........................................................ 2 8
第 2 節 2 つ の 矛 盾 ...................................................................... 2 8
第 3 節 IM F と の 連 携 と 補 完 .......................................................... 3 1
第 4 節 補 完 組 織 F S F /F S B の 存 在 .................................................. 3 3
25
第 5 節 ま と め と 提 案 .................................................................... 3 5
終章 ...................................................................................... 39
参考文献 ................................................................................ 40
2
序章
金融のグローバル化が進んだ現代では、資本を移動させるコストや管理する
5
コストが減少していると言える。これは、インターネットの世界的な普及や
FinTech などの技術革新によるものである。この結果、資本移動が活発になり
資本の取引量が増加している。特に、先進国から新興国への資本の移動が活発
である。資本の流入する新興国では、設備投資やインフラの整備などを行い生
産の効率化が達成されている。これは金融グローバル化により、先進国の余剰
10
資金が新興国など資本需要の高い国へ投資されることで世界的な生産性が向上
するという金融グローバル化による大きなメリットである。 一方で、資本は容易に移動することができるようになり、投機的な資金が流
出するというデメリットも存在する。1997 年に発生したアジア通貨危機では、
タイを発端として、短期資金の急速な流出が起こりアジア圏の経済に大きな影
15
響を与えた。金融のグローバル化がもたらした通貨危機の結果として、生産性
の低下など新興国経済に大きな影響を与えることが大きなデメリットである。 通貨危機やそれに伴う金融危機は新興国だけでなく、先進国の経済にも大き
な影響を与える。先進国と新興国は協調しながら、世界経済の発展を目指すべ
きであると考える。 20
そのためには、新興国は基幹産業の育成や自国産業の保護などを通じて自国
を発展させること。先進国は、新興国経済に対して、自律的な発展を求める必
要があると考える。 我々は、単純に新興国を援助するだけでなく、新興国の発展は先進国にもメ
リットがあると言う考えを基に通貨危機やそれに伴う金融危機の防止、対応策
25
を論じる。 なお、本稿で用いる新興国とは、コーリンクラークによる産業分類を利用し、
第一次産業から第二次産業へ移行する国と第二次産業、特に労働集約型の工業
製品の生産を中心とした国々を新興国と定義する。 3
第1章 金融グローバル化
1980 年代から 2000 年代にかけて、各国で国際金融取引の規制や資本管理が
緩和される中、金融のグローバル化は進展してきた。本章では、金融グローバ
ル化とは何か、また何をもたらしたのかを見ていく。 5
第1節 金融グローバル化とは何か 金融のグローバル化は 1980 年代以降、世界規模で金融市場での「金融の自由
化・国際化」が伝播していったものであり、経済のグローバル化と共に広がっ
ていった概念である。一般的に、金融グローバル化は、各国の金融機関・企業・
10
政府等が各国の資本市場に参加し、資金調達や運用等の金融取引を行う現象と
されている。そして、昨今の「グローバル化」と呼ばれるような国際金融市場
の動きには、いくつかの顕著な特徴が挙げられる。 第一に挙げられる特徴は、国境をまたいだ資金フローの量のきわめて急速な
拡大である。 15
図表1 対外資産・負債の GDP 比 (出所)IFS, および Lane, Milesi-Ferretti, and Maria (2006) 4
上の図表1は過去 30 年間の先進国と新興国の対外資産・負債の GDP 比を示して
いる。この図表から明らかになる点として、先進国による国境を越えた資本の
やり取りの急速な拡大が挙げられる。1980 年代から 2009 年までの間に先進国
の対外資産・負債の GDP 比は 6.6 倍にもなっている。また、新興国においても
5
国境を越えた資本のやり取りは着実に増加していて、対外資産・負債の GDP 比
は 1980 年から 2009 年にかけて 3.4 倍になっている。こうした国際資本移動の
活性化は、金融機関を通じた海外との決済件数の増加でも見てとれる。例えば、
SWIFT と呼ばれる通信ネットワークを通じて、我が国の銀行から海外送金を行
った件数は、5〜6 年前に比べて約 3 倍にまで増加した。 10
第二の特徴は、プレイヤーの多様化である。従来からの多国籍企業、投資家、
金融機関などに加え、90 年代にはヘッジ・ファンドが登場した。さらに最近で
は、国境を超えて未公開企業への投資を行い、その企業の成長・再生を支援す
るプライベート・エクイティ・ファンドや、オイルマネーや外貨準備を運用す
る政府系ファンド、いわゆるソプリン・ウェルス・ファンドのプレゼンスが顕
15
著になり始めている。また、プレイヤーの行動様式も同様に変化している。投
資家はポートフォリオを多様化し、最適な投資機会をより幅広い選択肢から選
ぶようになっている。加えて、多国籍企業は、国境を越えての事業活動や M&A
のための資金調達を国内・国外双方の金融市場を通して行うことができるよう
になった。 20
第三の特徴は、資金フローの対象や手段の多様化である。つまり、先進国か
ら新興国への資金の流れに加えて、BRICs をはじめとしたエマージング諸国や
産油国から豊富な資金が先進国へ流入するなど、多元的なものとなっている。
また、資金フローの多様化は、債券や株といった従来の金融商品だけではなく、
先物、オプションなどの金融派生商品、あるいは CDO、CLO といった証券化商品
25
などの投資ビークルの拡がりという形でも進行している。1 一方、未だに「金融グローバル化」の明確な定義はされておらず、人によっ
て意味の捉え方は異なっている。そこで我々は「これまで存在した国家や地域
1
日本銀行(2007)「金融グローバル化と金融市場の課題」 5
の境界を越えて資金のやり取りをし合い、地球全体が一つの金融市場のように
なること」と金融グローバル化を定義する。 第2節 金融グローバル化の歴史
5
次に金融グローバル化が進展してきた経緯についてポイントごとに見ていく。 (1) 両大戦間の時代 第一次世界大戦の勃発後、参戦国はそれまであった金兌換を停止し、変動相
場制が広がっていった。戦後、1920 年代のはじめから中ごろにかけて、世界経
済が好調となり、資本の移動に伴い景気が良くなっていった。特に、当時の米
10
国経済は重工業における発展が目覚ましかったため、株式市場へ世界から投機
的な資本が流入していった。しかし 1930 年代、為替市場は乱高下し混乱した。
ニューヨークの株価大暴落をきっかけに、株式を保有していた銀行の負債が増
え、破綻する銀行が増加し、大恐慌へと陥ったのである。この影響により米国
の国民総生産は落ち込み、失業率は 25%近くまで上昇し、銀行の倒産と取り付
15
けが頻発することとなった。そして米国から始まった危機は、その後実体経済
を通して世界的な大恐慌へと発展していくこととなった。それと同じくして、
平価の切り下げ競争や差別的な貿易制限、高関税などが発生し、国際貿易と国
際金融は崩壊の一途をたどることになった。 20
(2) ブレトン・ウッズ体制 1944 年 7 月、崩壊した国際貿易と国際金融を改善すべく、世界経済の秩序に
ついての国際金融会議がアメリカ・ニューハンプシャー州のブレトン・ウッズ
で開かれた。そこで制定されたのがブレトン・ウッズ協定であり、ブレトン・
ウッズ体制の始まりである。この体制の目標は①第二次世界大戦の原因ともな
25
った差別的ブロック経済を排し、自由で無差別かつ多角的な世界貿易体制を作
り上げること、②戦前に見られたような平価切り下げ競争を避け、為替相場の
安定を図ること、③高水準の雇用の維持と生活水準の向上を図るために、経済
開発の促進と高い経済成長を達成すること、の三つを掲げていた。 これらの目標を達成するために多くの国際機関が設立された。まず、通貨・
30
金融面では、中短期の融資機関として国際通貨基金(IMF)、長期貸付機関とし
6
て国際復興開発銀行(IBRD)、が設立され、1947 年に業務を開始した。2 このブレトン・ウッズ体制下では、ドル以外の通貨はドルと交換可能であり、
公的保有にかかるドルは金に交換できた。アメリカ以外の国は、平価の 1%以
内にその為替相場を維持することが義務付けられており、為替市場でドルを売
5
買してこの義務を果たした。一方、アメリカは、他国の通貨当局が要求してき
た場合には、いつでも金 1 オンス=35 ドルでドルと金との売買に応じる義務を
負っていた。この時代の通貨制度は金ドル本位制へと変わり、これを守るため
ブレトン・ウッズ体制では資本取引を規制していた。これにより、崩壊してい
た国際金融は復活し、新たな危機が起こることなく済んだのである。 10
(3) ニクソン・ショック 順調に事が進んでいたブレトン・ウッズ体制であったが、1971 年 8 月、ニク
ソン・アメリカ大統領の金・ドル交換停止発表により終わりを告げる。いわゆ
る、ニクソン・ショックである。 15
1960 年代、ベトナム戦争の激化に伴って対外軍事支出が増加したことにより、
財政赤字が続き、ドルが海外に大量に流出していった。また、金保有が徐々に
減少し、世界はアメリカがドルの金交換性を維持できるのか不安を抱くように
なった。加えて、日本や西ヨーロッパが戦後復興を果たし、アメリカの国際競
争力は弱まっていったことで、ドルの信認は低下を招いたのである。結果的に
20
アメリカはドルと金の交換要請に応じることができず、その交換停止を宣言し
た。これに伴い、先進国は変動相場制へと移行していったのである。 このブレトン・ウッズ体制の崩壊は、先進国の変動相場制への移行のきっか
けであるのと同時に、資本取引規制の撤廃も意味している。世界の資本取引は
活発化し、金融のグローバル化が進展していったのである。 25
第3節 金融グローバル化がもたらした新興国の発展
続いて、1980 年代以降に目覚ましい経済発展を遂げた「東アジアの奇跡」を
2
島谷一生、松浦一悦(2013)『グローバル金融資本市場のゆくえ』ミネルヴァ書房 7
もとに、金融グローバル化がどのように新興国を発展させていったのかを見て
いく。 1980 年代における経済の大きな特徴の一つとして、東アジア諸国が高い経済
成長を遂げ、経済的側面において世界で存在感を高めていったことが挙げられ
5
る。この東アジア諸国の経済発展には、豊富で廉価な労働力、高い貯蓄性向、
比較的安定した政治情勢等さまざまな要因が寄与している。その中でも特に重
要な役割を果たしたのが、金融グローバル化によってもたらされた海外からの
直接投資である。3 直接投資を受け入れることは、不足している投資資金を補うだけでなく、生
10
産・雇用・貿易の拡大などにつながっていく。また、経済発展に不可欠な進ん
だ技術や経営ノウハウを移転させることも可能である。このように、直接投資
は投資受け入れ国に対して、生産や設備の物的な面だけでなく、技術移転を通
じて生産性の向上といった質的な面においても寄与するのである。 金融グローバル化は新興国を発展させるのに大きく貢献する一方で、時とし
15
て新興国に悪影響をもたらすことがある。その一つとして金融危機が挙げられ
る。第 2 章では、新興国の金融危機について詳しく論じる。
3
日本銀行(1993)「東アジアの経済成長と直接投資の役割」『日本銀行月報』1993 年 12 月号 http://www3.boj.or.jp/josa/past_release/chosa199312b.pdf。 8
第2章 通貨危機をめぐって 本章では、まず通貨危機の発生メカニズムについての先行研究を紹介し、そ
れらを通して本稿における通貨危機の定義を行う。次に実際に発生した通貨危
5
機による発生国における問題、周辺諸国への影響を考察する。なぜ通貨危機に
ついて考える必要があるのかということについて、ある国において通貨危機が
発生した場合、それが引き金となって他国に伝播、さらにまた違う国へと広が
っていく。一国内での危機が世界中へと波及していくことにより、世界経済を
巻き込んだ大混乱へと発展してしまう。そうなってしまった場合、被害を被る
10
のは危機の発端となった国だけではなく、先進国にも及ぶ可能性は大いにある。
この事態を避けるためにも、先進国にとっても新興国にとっても、通貨危機の
発生メカニズムを理解することは重要であるといえよう。 最後に、過去の通貨危機から得た教訓を通じて提案につなげたいと思う。 15
第1節 通貨危機とは
まず、通貨危機とはどのような状態を指すのか。広義には、通貨価値が暴落
することで、その貨幣を使用している国の経済が危機的状況に陥ってしまうこ
とであるとされている。例として、日本貿易振興機構ジェトロによれば「なん
らかの理由で通貨の価値が下落し、それが経済活動に悪影響を与える現象」、ま
20
た、
「通貨価値の下落が起こらなくても、それに伴って経済活動の減退などが生
じる」現象を通貨危機と定義している。4 一般的に、通貨危機の事の発端は、まず国の経済成長の鈍化、政治経済態勢
への不安ないし信用が低下することから始まるとされている。これが引き金と
なって、大手金融機関・グローバル投資家がその国に対して不安を抱き、投資
25
を取りやめ、資本を撤退させる行動をとる。この投資の引き揚げ行動が一般の
投資家や企業にまで拡大していく。その結果として、市場に当該国の通貨が大
量に売られ、通貨価値が暴落の一途をたどる。政府の自衛政策の限界を超える
通貨の売却が行われることによって、通貨危機が発生するのだ。 4日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所公式 HP より引用 https://www.jetro.go.jp
9
しかし一言に通貨危機とは言っても、一つとして同じ通貨危機はないため一
概にすべての通貨危機が同じ原因で発生していると明言することはできない。
ただし、伝統的な通貨危機の発生メカニズムのモデルは三世代に分けられる。
次項では、それぞれのモデルの詳細を説明した後、本稿における通貨危機の定
5
義を行いたい。 第2節 通貨危機の先行研究
⑴ 第一世代モデル 第 一 世 代 モ デ ル は 、 Krugman(1979) の モ デ ル を ベ ー ス と し 、 Flood and 10
Garber(1984)によって確立されたものである。このモデルの理論は、政府の財
政赤字の拡大が続くなかで通貨当局が維持しようとする固定為替相場が崩れ、
通貨危機が起こるというものだ。つまり、ファンダメンタルズの悪化によって
引き起こされるということである5。 このモデルに当てはまる過去の例としては、1970 年代から 1980 年代にかけ
15
てラテンアメリカで発生した通貨危機が挙げられる6。固定相場制度を採用して
いる国は、自国通貨価値を特定の値に固定しようとする。実際、通貨危機に陥
った過去の多くの新興国がドル・ペッグ制を採用していた。この状況下におい
て、財政赤字が続くと政府は中央銀行から貨幣を発行することで赤字を賄い、
国内信用を増大させようと試みる。結果、国内はインフレーションに転じ貿易
20
赤字を生む。貿易赤字は自国通貨の減価を後押しすることなるので、政府は自
国通貨の価値を固定レートに保つために買い支えを行う必要がある。自国通貨
の買い介入には、政府の持つ外貨準備を使うことになる。外貨準備には限りが
あるため、介入を続ければ当然外貨準備は減少する。外貨準備が減少を続ける
と、政府は自国通貨の買い支えを行うことが困難になり、前述の通り見かけ上
25
の固定相場が崩壊する。 しかし実際には、現実の為替レートと投機家の仮想するシャドーレートとの
間の差がなくなり始めたことが通貨危機のきっかけとなる。当局が固定相場制
5
藤嶋正信(1999)「金融危機と通貨危機」
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/56878/1/ece004_007.pdf 6
高木伸二(2013)「新しい国際通貨制度に向けて」(NTT 出版株式会社)p.102 10
度を保つことができなくなることを予想した投資家が、外貨準備がゼロになる
前に投機行動を仕掛けるため、当該国は変動相場制に移行せざるをえなくなる
のだ7。投資家の投機行動によって一国の通貨価値が左右されるということがこ
の第一世代モデルの特徴である。 5
(2) 第二世代モデル 第一世代モデルでは、主に財政赤字によるファンダメンタルの悪化が原因で
あったが、通貨危機が起こった国が必ずしも財政赤字であったとは言えない。
事実、1992 年に欧州で発生したポンド危機の際、スウェーデンは財政黒字であ
10
った8。これに触発され、Obstfeld(1994,96)が確立したモデルが第二世代モデ
ルである。このモデルは、第一世代モデルが通貨危機発生の原因を単純に投資
家の投機攻撃によるものとしていたのに対し、自己実現的に発生するものであ
ることを指摘した。Obstfeld は、意思決定者が投資家と政府の二者であり、政
府がとる最適化行動9によって「複数の均衡」が生じることに注目した。「複数
15
の均衡とは、諸経済要因が同じでも、異なる結果が生じ得ること」である。10 投資家は、当局が今後行うであろうと思われる政策の変更を予想し、それに
基づく投機を行う。この投機行動は単独で起こるものではない。個人で投機を
仕掛けても固定相場制は変わらないからである。投資家全体における群集行動
が投機を成功させた場合に、政府は固定相場制に移行せざるをえなくなるのだ。
20
民間経済主体の予想とそれに基づく行動次第で自己実現することが、この第二
世代モデルの最たる特徴である。そのため、第二世代モデルは「自己実現的通
貨危機」と呼ばれる。政府にある種の揺らぎがあった場合、それがファンダメ
ンタルズの悪化でなかったとしても通貨危機は経済主体の予想に基づいて起こ
り得るということだ。第一世代モデルにおいて問題とされていたファンダメン
25
タルズは必ずしも通貨危機に寄与しているとは言えないことを立証したのだ。 7
橋本優子(2006-08)「通貨危機のモデルおよび IMF 支援のインプリケーション」
http://jica-ri.jica.go.jp/IFIC_and_JBICI-Studies/jica-ri/publication/archives/jbic/report/re
view/pdf/30_04.pdf 8
竹田憲史(2007)「通貨・金融危機の発生メカニズムと伝染:グローバル・ゲームによる分析」
http://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/kk26-2-3.pdf 9
政府による最適化行動について詳しくは橋本(2006)を参照 10 高木伸二(2013)
「新しい国際通貨制度に向けて」NTT 出版株式会社 p.103 より
11
しかしこの枠組みでは、経済主体である人々の予想を抱くまでにいたる過程
や、複数人が同時に同様の想定をすることのむずかしさ等の問題が発生する11。
第二世代モデルもまた完全ではなかった。そこで新たな理論として出てきたの
が後述の第三世代モデルと言われるものである。 5
(3) 第三世代モデル 第三世代モデルとは、Krugman(1999)がアジア通貨危機をうけて導き出した
理論のことを指す。具体的には、通貨危機と金融危機が併発する、いわゆる「双
子の危機」についてである。アジア通貨危機をはじめとする 1990 年以降に発生
10
した通貨危機は、古典的な第一世代モデルと第二世代モデルに当てはめて分析
することが不可能であった。なぜなら、一国における通貨危機・金融危機が周
辺諸国に伝播するケースが多く見られたからである。伝染することによって、
かつてよりも危機の規模が大きく、それにともなう通貨価値の下落も予想以上
に深刻なものであった。 15
この、近年の通貨危機に共通して見られる危機の伝播の大きさ・速さはとも
に「21世紀型の危機」の代表的な特徴である。その原因の一つとして考えら
れているのが、巨額のグローバルな資本の流動だ。IMF と世界銀行による、市
場が未熟であるにも関わらず金融解放をさせる動きがあり、その結果、エマー
ジングマーケットでは処理できないほどの大量の資金が外国から流入すること
20
となった。多くの場合、新興国は自国による資金のプールが十分でないため、
外国から入ってくる資金に頼らざるをえない。しかし経済成長の低迷にともな
う将来性への懸念から、投資家はエマージングマーケットから資本を撤退する。
実体の動きがないにもかかわらず数字の世界だけで一瞬にして巨額の資本が移
動するわけである。 25
これがきっかけとなり、通貨価値が下落し通貨危機が起こってしまう。新興
国は外貨に対して大きく依存しているので突然の巨額の資本撤退に耐えること
が出来ない。通貨価値が減少するということは、銀行の外貨建て債務が膨らむ
ということである。もともと短期借入れを長期の国内投資にまわすというファ
11
国宗浩三(2006)「通貨危機の理論–マクロ経済学の潮流との関係を中心として–」
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Report/pdf/2005_04_22_05.pdf 12
イナンスを行っていたため、通貨価値が下落した際に為替損益が発生すること
でバランスシートが悪化する。バランスシートが悪化すると貸し手が次の融資
(ロールオーバー)を拒否する。これらの流れが金融体制の不安へとつながり、
さらなる資本の流出が発生する12(図表1)。 5
図表2 通貨価値下落のサイクル (出所)大野健一(2000)「途上国のグローバリゼーション」東洋経済 第 5 章より筆者作成 10
図表2のような悪循環によって通貨危機と金融危機の双方向へ矢印が向いて
しまう状況が発生してしまう13。
「双子の危機」と称されるのはこのためだ(図
表 3)。結果として、当局はやはり固定相場制を維持することはできず、変動相
場制に切り替えることとなる。 第三世代モデルに当てはまる多くの通貨危機は、周辺諸国に実体の経済に長
15
きにわたって大きなダメージを与え続けてしまったのである。これは今日にお
ける急速な金融グローバル化の弊害とも言えるだろう。 12
大野健一(2000)「途上国のグローバリゼーション」東洋経済 第 5 章より筆者要約 橋本優子(2006-08)「通貨危機のモデルおよび IMF 支援のインプリケーション」
http://jica-ri.jica.go.jp/IFIC_and_JBICI-Studies/jica-ri/publication/archives/jbic/report/re
view/pdf/30_04.pdf 13
13
図表 3 双子の危機メカニズム (出所)国宗浩三(2006) 「通貨危機の理論–マクロ経済学の潮流との関係を中心として–」より筆者作成 5
第3節 通貨危機による影響
通貨危機とは、ある通貨の対外的な価値が急激に減少することによって、そ
の通貨の流通している国・地域の経済に大きな混乱・打撃を与えることである。
この節では 1980 年代から 1990 年代にかけて中南米で起きた金融危機と 1997
10
年に実際に起きたアジア通貨危機から、通貨危機によってどのような問題が引
き起こされるかを見ていく。また、そこから見えてくる教訓を活かして次の予
防策・対策に繋げていく。 (1)新興国側への影響 a) 中南米通貨危機 15
1980 年代に入ると、ブラジルやアルゼンチン、メキシコなど中南米諸国で相
次いで債務危機が起こった。中南米諸国は 1970 年代半ば以降、石油を中心とす
る資源価格の高騰を背景として外国の金融機関から多額の融資を受け、インフ
ラ整備などの国内経済開発を積極的におこなっていた。しかし、これらの国の
政府は税収を大幅に上回る支出をしていたため 1980 年代には膨大な財政赤字
20
と対外債務を抱えるようになっていた。資産価格の下落、またアメリカの高金
利政策が始まると資金繰りが悪化し、1982 年にメキシコが債務不履行を宣言、
そこから中南米諸国の債務危機が始まった。さらには、財政赤字の一部を貨幣
の増刷によって補ったことで物価が上昇し、ハイパー・インフレといわれる高
14
インフレになり経済は混乱に陥った14。マイナス成長、激しいインフレ、大量
の失業者など経済停滞に見舞われたその後 10 年間は「失われた 10 年」と呼ば
れている。 IMF や世界銀行の介入によって持ち直された中南米経済を次に襲ったのが通
5
貨危機であった。メキシコは 1988 年~1944 年のサリナス政権下で NAFTA の締
結など貿易の自由化を進め再び先進国から注目を集めるようになり、海外から
多額の資本が流入したことで高い経済成長率を記録するようになっていた。そ
のような状況において次第に経常収支の赤字が高まるなどの矛盾も生じ、経済
安定化を目的とした固定相場制の持続可能性に対する懸念も高まってきた15。
10
1994 年に入るとチアパス州での武装蜂起、大統領候補の暗殺など相次いで政情
不安を煽るような事件が発生し、各国からのメキシコ経済に対する不信感が増
していった。 こうした中で、アメリカにて金利が引き上げられたことがきっかけとなり、
リスクの高いペソ資産に比べて、安全で利回りの高いドル資産への乗り換えが
15
急速に進んだ。 図表 4 円/ペソ為替レート推移
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
1993
1994
1995
1996
1997
(出所)「世界の経済ネタ帳 メキシコ・ペソ/円為替レート推移」
より筆者作成
14
西島章次「ラテンアメリカ諸国の通貨危機ーメキシコ、ブラジル、アルゼンチンのケース」
http://www.rieb.kobe-u.ac.jp/users/nishijima/CurrencyCrisesLatinAmeria.pdf 15
「iFinance メキシコ通貨危機」http://www.ifinance.ne.jp/glossary/world/wor020.html 15
外貨準備が激減したメキシコは 12 月 20 日にペソを 15%切り下げたが、売り
圧力に耐えることができず管理通貨制から変動相場制への移行を余儀なくされ
た。図表4からも 1994 年を境にペソの価値が一気に下がっていることがわかる。
その後もペソの急落は止まらず、約1か月後には 65%の急落を記録し、外貨準
5
備も 1993 年 12 月末の 263 億ドルから 1995 年 1 月には 35 億にまで低下した。
メキシコは債務不履行が懸念され、厳しい財政・金融政策を条件に米国や IMF
などの国際機関、日米欧の民間銀行から総計 500 億ドルにものぼる金融支援を
受けて危機は回避された。メキシコで起きた通貨危機の影響を受けてその他の
新興諸国の資本流入も急減し、通貨不安に陥った国は合計で 10 カ国にものぼっ
10
た。メキシコから広がったこの通貨危機の影響を「テキーラ効果」と呼ぶ16。 b)アジア通貨危機 アジア通貨危機とは 1997 年の夏にタイの通貨であるバーツが暴落したこと
から始まる金融危機である。それまでタイは経常収支赤字が続いていたが、貯
蓄を上回る投資をすることで 8%以上の高い経済成長をあげ、魅力的な投資先
15
として先進国からの短期資本が活発に流入していた。短期資本はその国の経済
が好調だと大量に流入し、反対に不調の兆しが見えると大量に流出するため「足
が速い資金」だと言われる。 しかし、1990 年代前半になるとそれまで東南アジアに展開していた先進国の 図表 5 タイの実質経済成長率
15
10
5
0
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
-5
-10
-15
(出所)永田雅啓「通貨危機後のアジア経済」より筆者作成
16
「証券投資用語辞典」http://secwords.com/ 16
企業らが安価な労働力を持つ中国での生産にシフトし始め、1996 年には経済
成長率が低下するようになった。また、アメリカによる「強いドル政策」によ
り当時固定相場制をとっていたバーツもドル連動によって増価した。投資家た
ちはバーツが過大評価されていると気づき、タイ経済に不安を抱くようになっ
5
たためタイから急速に資本を回収するようになった。これに対し、政府はドル
売り介入をすることで固定相場制を維持しようとしたが、資本の流出は止まら
ず、外貨準備が底をつくこととなった。その結果、タイはドル・ペッグ制から
固定相場制への移行を余儀なくされたのである。通貨危機以降、タイは経済成
長率が-10%を記録するなど経済的に大きなダメージを被ることになった。 10
タイから始まった通貨危機は同じような金融体制を持つアジアの周辺諸国に
も多大な影響を与えた。投資家たちはタイ周辺のアジア諸国も同じような問題
を抱えているのではないかと疑いを持ち、それまで投資していた資本の撤退を
始めたのである。標的となった国々はタイ同様、激しい資本流出に対してドル
売り介入などで為替レートを維持しようとしたが思うように対抗することがで
15
きず、なかでもインドネシア、マレーシア、韓国などは大量の資本流出によっ
て大幅な通貨安に陥った17。また、アジア通貨危機によって世界全体の景気が
後退し、1998 年にロシア、さらにはそれを受けて 1999 年にブラジルも通貨危
機に陥るなどその影響は地域外にまで拡大していった。 こうした通貨危機に対してタイ、インドネシア、韓国の 3 カ国は IMF へ支援
20
要請をした。しかしこの IMF の支援には緊縮財政や金利引き上げ、経済構造改
革のようないくつかの厳しい条件がつけられた。これは以前発生した中南米債
務危機のときのような経済状況の悪化によって引きおこされた危機への対応策
であり、流動性に問題があったアジア通貨危機には適応しないという意見が当
初からあがっていた18。結果として IMF による緊縮的な財政金融政策は逆に危
25
機に見舞われた国々の不況をさらに深刻化させることになった。こうして IMF
の信頼性は失われ、支援プログラムに対して一部から見直しを求める声があげ
られたのである。 17
18
谷内満(2014)「国際金融と経済」成文堂 p.222 より筆者要約。 井出穣治、児玉十代子(2014)「IMF と世界銀行の最前線」日本評論社 p.96 より筆者要約。 17
(2)先進国への影響 先進国のような成熟した経済は新興市場経済ほど市場心理に左右されない。
それには 3 つの理由がある。1 つ目は、経済が安定しているため新興国のよう
な資産価格のオーバーシュートやバブル発生のリスクを背負っていないことで
5
ある。2 つ目は、健全な金融システムによって高い評価を得ているので危機の
伝染するリスクが小さいということである。3 つ目は、先進国は巨大な貿易地
域を単独もしくはいくつかの国で構成し、固定為替レートで域内貿易を行って
いるため、第三国に対する為替レートの変動を受けにくいことである。よって
先進国は新興国に比べて通貨危機が起きにくいということが言える19。しかし、
10
先進国は魅力的な投資先として新興国との関わりを持っていたので、国や地域
によって規模は異なるものの新興国の通貨危機は先進国経済に影響を与えた。
例として先ほど述べたアジア通貨危機の場合で説明する。 アジア通貨危機では実際に貿易や資本の移動などを通して世界経済に大きな
影響を与えている。ロシアでは通貨危機の影響を受けて金融危機が起こり、1998
15
年 8 月にルーブル切り下げが発生した。さらにはそれを受けてアメリカではダ
ウ平均株価が 7 月末に 9300 ドルを超える水準から 10 月には 8000 ドル台前半ま
で下落した。日本などアジア諸国を主な貿易相手国としていた国への影響とし
ては自国からの輸出の減少、また国内の需要低迷により輸入量が減少したこと
でより東アジア諸国の経済回復を遅らせることとなった。 20
これらの影響は危機単体では大きくないかもしれない。しかし、新興国経済
の混乱は先進国の金融のバランスシートに悪影響を与え、さらには金融システ
ム全体を不安定化させる危険性があることが明らかになっている。これらが同
時または連鎖的に発生することで 1930 年代に起きた世界的恐慌のように世界
経済に極めて大きな打撃をもたらすと考えられる。金融のグローバル化によっ
25
て国境を越えた資本移動が活発に行われている世界経済では、ある一国の経済
状況の変化が資本や金融面を通じて他の国や地域の経済へ大きな影響を与える。
ある地域での通貨危機が思いもよらない地域へ伝播する可能性も大いにある。
私たちはこれまでに起きた数々の金融危機での失敗から、これからさらに進む
19
岩本武和(1999)「IMF 資本自由化論争」岩波書店 p.74 より筆者要約。 18
金融グローバル化へのリスクに備えなければならないのである20。 20
経済企画庁「平成 10 年次世界経済報告」 19
第3章 新興国が行うべき通貨危機の予防と対応策
前章までに述べたように、金融市場は規模や範囲を拡大させながら一国の経
済だけでなく他国の経済にも影響を持つようになった。この金融グローバル化
5
が進んだ今日では、世界が一つの市場となり、多くの利点を生んだ。一方で資
本の自由な移動が新興国の通貨危機やそれに伴う金融危機を引き起こす原因と
なっている。これらの原因は、さまざまなものが挙げられるが、この章では新
興国が通貨危機を予防するための施策、通貨危機発生の際に行うべき施策につ
いて提案する。 10
第1節 アジア通貨危機の原因
図表 6 直接投資フローの推移
1990
1991
1992
1993
1994
1995
世界合計
2,018
1,577
1,681
2,079
2,256
3,149
途上国
337
413
503
731
870
996
アジア
221
226
291
499
562
680
(出所) アジア通貨危機の経済学より筆者作成
1997 年に発生したアジア通貨危機の中で、新興国経済は大きな打撃を受けた。
15
その主な原因は対内直接投資の急速な引き上げである。これは、持続的で高成
長を遂げていたアジア諸国に対して投機を目的とした先進国の資本が急速に流
入した。アジア通貨危機の発端となったタイでは貯蓄率が 30%と高い状態であ
ったが、それを上回る投資を続けたことが危機の原因になった。21また、それ
を可能にしたのが海外からの投資である。タイ政府は外国からの資金の流入を
20
加速させた。これらの資金には多額の短期資金も含まれていたが、生産投資に
回ることなく不動産に投資され、バブルを発生させた。 21
近藤健彦、林康史、中島精也,ワイス為替研究会(1998)『アジア通貨危機の経済学』 20
図表 6 からも分かるように、世界の直接投資の3割は直接投資に向けられアジ
アにもその約半分が流入していることがわかる。これらの資金が生産に向かわ
ず、不動産な非生産分野に投資され、バブル経済を招いた。 5
第2節 投機的資金の流入規制
前節で述べたように、アジアへの投機的な短期資金が流入したこと資金が非
生産部門に投資され、アジア通貨危機の原因になったことは明白である。投資
資金が非生産部門より、生産設備への投資に向けるべきであるが、これは次章
に述べる。ここでは、短期資金の急激な流入、退出を防ぐ仕組みについて提案
10
する。 外国資本が新興国に流入すると、インフレやそれに伴う現地通貨の増価をも
たらすことになる。現地通貨の増価は海外で生産される財の割安感を招き、輸
出財の競争力が低下する。輸出競争力が低下すると、貿易収支赤字が拡大する
ことになる。貿易収支赤字が継続すると対外債務が積み重なり、国家の信頼が
15
低下する。それにより国際金融市場から資金を調達することが困難になる。 資本の流入を防ぐために行われる施策は主に3つある。一つは資本移動の規
制である。これは、ネットの資本流入、流出を制限することである。ネットに
資本流入を規制するために考えられる施策は、海外投資家の短期証券投資額や
20
国内企業の海外借入額、非居住者の預金総量を規制する施策である。これらの
施策を行うことで資本の過剰な流入を防ぐことができる。また、総量規制以外
には、海外からの資金調達のコストを負担させることで海外投資家の直接投資
を抑制し、国内企業の海外資金の需要を弱めることを目的にトービン税のよう
な通貨取引税を課すことである。22海外への資本の逆流を規制するために行わ
25
れる施策は、一定期間に持ち出すことができる資本の総量を規制することであ
る。 二つ目は、柔軟な為替レート政策である。通貨流入によりマネーサプライが
増加すると国内のインフレが加速する。これを防ぐために、外貨買いの介入を
22
経済企画庁(1995)年次経済報告 21
行いインフレの圧力を抑制することができる。さらに同時に外貨準備を獲得す
ることができるため、資本の逆流が起きたとき自国通貨を買い支えることがで
き、通貨の変動を抑えることができる。これを行うためには、変動相場制へ移
行する必要があるが、固定相場制を採用している国でも変動幅を柔軟に設定す
5
ることでこの施策を行うことは可能である。この政策には、自国の通貨安を誘
発し、輸出競争力を低下させるデメリットが存在するが、外貨買い介入を行い、
不胎化することによってインフレ圧力を弱めることができる点、輸入物価の下
落によってインフレを抑制することができる点、為替変動の幅が大きくなるこ
とによって新興国に対する直接投資を行う投資家のリスクを高めることができ
10
る点がある。これによって投機的な資金流入を防ぐことができるという大きな
メリットを享受することができる。 三つ目は緊縮的な財政政策である。緊縮的な財政政策を行うことで資本流入
の拡大、それによる悪影響を軽減することができる。マネーサプライが増加す
ると財の総需要が高まりインフレ圧力が高まるが、緊縮的な財政を行うことで
15
その需要を抑制し、インフレ圧力を抑えることができる。また、緊縮財政下で
は公債の発行が抑制されると、金利が低下するため金利の低い先進国との金利
差を埋めることができる。これによって、資金流入を抑えることができる。さ
らに、政府貯蓄が増加すれば、経常赤字を縮小させることができるつまり、対
外債務が減少するため国際的な信用を得ることができ海外からの持続的な投資
20
を誘発することができると考える。 第3節 提案まとめ
急激な資本の流入と流出は、外貨に依存した新興国経済にとって大きな懸念
である。資本は流入すれば、流出することもあるという考えを持ちながら、持
25
続的に資金の流入が行われるべきであると考え、我々が行った提案は、外資の
流入規制である。具体的には、 ① 外国資本の流入、流出の総量規制 ② 柔軟な為替相場の採用 ③ 緊縮的な財政政策 30
である。これら三つを柔軟に行うことで、海外からの急激な資金流入を抑制
22
すると同時に、通貨危機が発生した場合にはこれらを対応策とする23ことが
我々の提案である。
23 経済企画庁(1995)平成7年 年次世界経済報告」
23
第4章 新興国が行うべき資金調達
第1節 資本調達の重要性
通貨危機が発生した場合、大きな問題は経済の停滞である。この原因は、通
貨の減価による金融機関の不良債権問題とそれに伴う金融機関の破綻にある。
5
これにより融資を受けることができなくなった企業は業績不振に陥り、生産規
模の縮小や倒産した。加工貿易型の産業では、自国通貨減価によって原材料や
半製品の価格が上昇し、輸出品の国際 競争力を確保することは困難であるが、自国で生産することが可能な輸出財を
扱う産業には好都合である。 10
図表 7 「タイの輸入量の増減(前年比較)」 15
20
25
(出所)IMF 2015 年4月 World Economic Outlook を基に筆者作成 24
図表 8「タイの輸出量の増減(前年比較)」 (出所)IMF 2015 年4月 World Economic Outlook を基に筆者作成 以上の図表 7 及び図表 8 からもわかるように輸出産業にとって自国の通貨安は
国際競争力を高める要因である。しかし、外国資本の流出による金融機関の業
5
績悪化や国内企業の業績悪化により金融機関は貸し渋りや貸し剥がしを行う。
その中で通貨危機が発生した国の企業では、金融機関からの間接金融ではなく
投資家からの直接金融に依存することになる。現地企業は間接金融に頼ること
なく、資金を調達することで事業を継続することができる。この章では直接金
融を活発にする施策について述べる。 10
第2節 直接金融による資金調達
今日、インターネットの発達によって海外からの直接金融には技術的制約や
コストが低下している。さらにインターネットを使用することで世界中から投
資を募集することができるため、新興国の金融機関や投資家に依存することな
15
く資金の調達を行うことができる。新興国の中小企業やベンチャー企業が行う
資金調達としてインターネットを用いることを提案する。新興国の企業が直接
金融で資金調達を行うにあたって社債か株式を発行しなければならない。新興
国企業の場合、株式の発行が望ましい。なぜなら、株式の発行ならば、社債の
発行と異なり償還する際の為替リスク、との通貨を用いて発行するかという問
25
題を回避することができるからである。株式発行であれば、未上場企業であっ
ても資金を調達することが可能である。 株式を発行することが社債の発行よりも資金を集めやすいというメリットが
ある。 5
第3節 株式市場の整備
しかし、株式を発行するだけでは、投資家を募ることができない。なぜなら、
投資家は配当金によるインカムゲインを受け取ることができるが、未上場企業
の場合、株式の売買を行う取引市場が成立していないため、株式の売買による
10
キャピタルゲインを得ることができない。そのためには、日本にあるグリーン
シート制度のようなものを国が整備すべきだと考える。「グリーンシートとは、
日本証券業協会が証券会社による非上場会社の株式等を公平・円滑に売買する
ために、平成 9 年 7 月からスタートさせた制度です。非上場企業への資金調達
を円滑ならしめ、また投資家の換金の場を確保する目的で、金融商品取引法上
15
の取引所市場とは異なったステータスで運営されています。」24このような制度
を用意することで投資家は株式の売買を行うことが可能である。これにより、
ある程度の流動性を確保することが可能となるため、直接金融の拡大が図られ
ると考える。 20
図表 9 「新興国企業の資金調達と未上場株の流通市場モデル」 25
(出所)筆者作成 24 日本証券業協会ホームページより引用 http://www.jsda.or.jp
26
第4節 株式流通のために
株式の流通を促すために、流通市場の整備は不可欠であるが、これだけでは
不十分である。なぜなら、企業と投資家の間にある情報の非対称性の問題があ
るからである。例えば、企業がどのような事業を営んでいるのか、財務状況な
5
ど企業に関する情報は企業と投資家の間で格差がある。情報の非対称性を解消
するためには、企業情報の適切な開示が不可欠である。企業と投資家の情報格
差を低減するための施策はさまざまなものが考えられるが、我々は統合報告書
の作成を提案する。統合報告書とは,企業の財務情報だけでなく、CSR 情報や中
長期の経営戦略などの非財務情報を一つにまとめたものである。 25これを発行
10
することによって国内や海外の投資家との情報の非対称性を低減することがで
きるだろう。 さらに、株式市場の整備だけでなく財務面の信頼性を確保するために、会計
制度や監査制度の整備も同様に重要なことである。不正な会計を監視する機能
がなければ、投資家は投資を行うことが困難である。これは、投資家に対する
15
保護であると同時に、企業が資金調達をする上でも重要なことである。 新興国企業が世界中から資金を調達するために、企業は株式の発行によって
資金を調達すべきである。この際、重要なことは株式流通市場の整備だけでは
ない。国内外の投資家を問わず、適切な情報開示を行うこと、財務面の信頼性
を向上させる制度の整備が新興国企業の資金調達にとって重要である。 20
通貨危機が発生した新興国では、輸出産業が好調になるはずである。その際
に資金を融通する仕組みを作ることで、危機からの回復を早めることができる
はずである。また、通貨危機の発生による世界的な成長の鈍化にも歯止めをか
けることができるだろう。しかし、これには情報発信の言語の問題や会計の専
門家を育成するなど時間をかけて解決すべき問題がある。新興国はこれらの問
25
題に対して、人材の育成を通して解決すべきである。人材の育成については、
第 5 章にて詳述する。
25
日経ビジネスオンライン 2013 年6月 18 日『世 界 350 社 が 発 行 「 統 合 報 告 書 」 っ て 何 ? 』 27
第5章 新興国を変える〜国際金融機関に求められること〜
第1節 IMF の仕組みと問題点
IMF は様々な課題に直面するたびに、国際社会に対して負う役割を拡大し、
5
途上国への影響を保持してきた。IMF の目的は、国際的金融問題への議論と
協力の場を提供することである。26 例えば、秩序ある為替調整維持や多角的
決済システム構築、阻害行為取引の規制や国際収支不足国への融資など、こ
れらを全て IMF 加盟国に対して行っている。言い換えれば、財・サービスの
輸出入による赤字が引き起こす国際収支不均衡への対処を行っている。そし
10
て国際経常取引決済にともなう外国為替取引の自由を保証しているのだ。さ
らには、債務危機問題発生についても関与しており、債務削除に関する交渉
をまとめる仲介や調整機能の役割を IMF は果たしている。27 一方で、こうした IMF の活動については多くの批判がある。例えば、巨大
組織であるがゆえに資金引き出し手続きが十分に迅速でないこと、また提言
15
や支援手段が公表されているのみで具体的な策が講じられていないこと、業
務改善と被支援国へのアプローチが有機的に連携されていないなどだ。つま
り国際金融や新興国及び途上国における問題への議論や明示的な見解が明ら
かにされていないといえる。さらに、IMF の活動における公平性や正当性の
根拠をどこに求めるかというガバナンスの問題や、米国の投票シェアによる
20
発言権の問題、また加盟諸国が直面する問題に対してどこまで関与していく
かなど多くの問題点も抱えている。 第 2 節 2 つの矛盾
こうした IMF が抱える問題点について、米国シェア拡大と構造調整の弊害
25
の2つの点に大きく分けて検証していきたい。 (1)米国シェア拡大について IMF において先進国が出資率全体の 63%以上を持っている。28さらに図表
26
国宗浩三(2009)「岐路に立つ IMF」JETRO アジア経済研究所 IMF」JETRO アジア経済研究所
28 日本経済新聞(2010)「IMF 出資比率、中国が 3 位浮上 日本は 2 位維持」より引用
27 国宗浩三(2009)「岐路に立つ
28
10 にあるように 17.5%の出資率を持っているのは米国であり、出資率の割
合によって発言が決まる現在の IMF の仕組みでは、米国の利益に貢献するよ
うに動かざるを得ないという状況なのだ。IMF における発言権は加盟国の出
資金に相当するクォータに比例して与えられる仕組みであり、クォータ比率
5
の再配分は非常に稀にしか行われない。29つまり経済力に見合わない不公平
な仕組みであるのだ。 図表 10 IMF の出資比率の上位 10 ヶ国 10
15
(出所) 日本経済新聞(2010)「IMF 出資比率、中国が 3 位浮上 日本は 2 位維持」より引用
20
しかしながら、こうした状況を変えるために、米国や先進国でない低所得
国である小国の投票権が高まる状況が実現できても、組織の正当性が高まる
ことは容易に予測できない。さらにいえば、米国やヨーロッパといった先進
国が既得権益を簡単に手放す未来は、おそらく不可能だろう。このように IMF
が複雑な仕組みを抱えていることで、組織の意思決定が先進国の利益に繋が
25
っているという問題に、国際社会は目を瞑っている状況が続いており、これ
からも続くであろう。 29
国宗浩三(2009)「岐路に立つ IMF」JETRO アジア経済研究所 29
(2)構造調整の弊害について まず構造調整とは、市場開放政策によって IMF によって書かれた指示書通
りに経済政策を実行することを条件付きで融資がされるというものだ。 30 IMF の資金融資によって規制緩和を行うことで経済が回復するという表の目
5
的の裏には、融資の返済後には国家に対する外部資本家の影響力が莫大にな
っているという事実がある。言い換えれば、新興国各国の自律的な秩序を促
すのではなく、ニュートラルでない融資政策のもと、豊かな国が貧しい国に
お金を貸しているのに貧しい国から吸い上げられている状況が起きている
のだ。これら構造調整の本質は、一旦構造調整を受け入れると、自立経済へ
10
の道がふさがれて結果的にグローバル企業による自国市場・産業・企業の収
奪が繰り返されていくのだ。 また IMF によって教育や福祉などの公共事業は縮小され、高金利で融資さ
れた結果、経営破綻の失業者が生まれる悪循環も引き起こしている。 さらにはその国の実情に合わない IMF の指示プランを提示されたとしても、
15
融資を受けるにはこれらの条件を受け入れるしかないのだ。債務を抱える大
部分の国は、指示プランつまり政策基調文書に盛り込まれている政策を優先
順位どおり履行する義務がある。これは一国の政府が作成したものであるが、
IMF が事前に設定した書式に従って、厳格な監督を受けながら作成されてい
る。また IMF は規約第4条の協議方式規定によって1年単位で定期的報告を
20
義務付けており、債務国の経済運用状況を監督しているのだ。31つまり、こ
の年次報告と監督、借款協約上規定されている厳格な点検によって、加盟国
の経済活動に対する IMF の監督活動が行われているのだ。 こうした新興国が自国の国民経済を自立させる可能性を奪っている、とも
いえ IMF の構造調整プログラムについては大きな問題点といえる。理論的に
25
は IMF の経済安定化政策は、債務国が経済構造を改革し貿易収支黒字を記録
させることで、債務を返済しながら経済回復の過程に進む、という道筋のも
と支援が行われている。しかしながら、実際はその国に経済回復の可能性と
債務返済能力を弱体化させるという正反対の結果が生じているのだ。 30
ミシェル・チョスドフスキー(1999)「貧困の世界化」柘植書房新社 ミシェル・チョスドフスキー(1999)「貧困の世界化」柘植書房新社
31
30
(3)インドにおける事例 (1)と(2)で述べてきた先進国の発言力の高さと構造調整の実情によ
って、実際にインドにおいて生じた事例を述べていく。 1991 年にインドで IMF の政策として進められた改革では、不採算公共企業
5
の廃業や貿易自由化、海外資本の自由な出し入れが含まれていた。具体的に
は、インド政府に対して、社会保障制度と社会の基幹産業への投資を減らし、
インドの優良公共企業を適切価格で大企業や外国資本に売却することを要
求したのだ。これらはインドの国際収支を改善し、財政赤字を減らすことで
インフレーションの要素も減らすという目的で行われた。32 10
しかしながら、政策開始後、輸入原資材の価格引き上げと消費財の輸入増
加によって経済はスタグフレーション状態へと突入し国際収支は悪化した。
また貿易自由化と外国資本の流入は、インド国内の購買力を抑制させると同
時に、数多くの国内生産者を倒産へと追いやる状況を生み出したのだ。これ
により、労働者の約3分の1が仕事場を失い、かつてインドが行っていた自
15
動車や機械産業の大部分は、外国資本流入と合弁企業により淘汰された。ま
た製造業において商品特許を出すことで多国籍企業はインド経済全般を掌
握することとなった。 つまり、こうした IMF の政策は、公共企業の不採算経営や官僚主義、工業
部門の近代化などの根本的問題を解決せず、経済の成長には貢献することが
20
なかった。 第 3 節 IMF との連携と補完
(1)連携〜金融危機対策〜 これまで述べた問題点があっても、現在 IMF に多くの国々が加盟をして、 25
連携を行っている。各国が IMF を頼る理由は自己防衛、外貨準備の節約の 2点にあるといえる。まず自己防衛について、IMF に加盟することで他国や 他地域で金融危機が発生した場合に、自国に伝染するリスクを軽減するこ とができる。また近隣諸国からの二国間援助を受けることができる。 32
ミシェル・チョスドフスキー(1999)「貧困の世界化」柘植書房新社
31
次に外貨準備の節約について、多くの国々は過去の事例に学び、通貨危 機が発生した際に経済混乱が起こす社会的・政治的コストが高いことを理 解しているため、危機発生を防ぐために莫大な外貨準備を抱えている。こ れが IMF に属することで、金融協力によって共同で通貨危機に備えること 5
ができ、世界全体の形状収支の地域的偏りを小さくすることができる。 こうした2点を踏まえて、各国は IMF と連携しているがさらに競争によ
る便益についても考察したい。Rose は国際収支危機への対応というビジネ
スにおいては IMF が独占的地位を占有していると指摘している33が、IMF だ
けでなく地域レベルでの金融協力を行い、IMF との競争を通じたサービス
10
が提供されるべきである。現在、東アジア地域レベルでの金融協力は、フ
ォーラムの定期的な開催や二国間取り決めなど緩やかな協議・協定という
形態だ。こうした地域レベルでの金融協力機関を作ることで、各国だけで
なく IMF とも連携し、密接な情報交換により効率的かつ持続的な連携関係
を保つことができるといえる。またこれにより、IMF が先進国優位の機関
15
であるのに対して、地域レベルに立つことで小国の発言力が小さくならず
意見反映レベルが高くなるといえる。 (2)補完〜補完機関の役割〜 IMF の現在の問題点を解決するための機関は、どのようにして IMF の役
20
割を補完していくかについて、述べていきたい。 第一に資金面での補完性だ。現状において、深刻な通貨危機が発生した
際は IMF による資金提供が行われる。この IMF による提供資金が不足した
場合にそれを補う役目を担うのだ。過去の歴史を見ても IMF の資金援助を
外部が行った事例がある。メキシコ危機では IMF の資金援助を補完する役
25
目をアメリカが担い、またアジア通貨危機では日本が担った。34このように
通貨危機が起こった新興国に対しての先進国による援助は二国間援助と呼
33
国宗浩三(2007)「IMF と開発途上国」調査研究報告書 第7章 アジア金融協力と IMF JETRO アジア経済研究所 http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Report/pdf/2006_04_24_07.pdf#search 34 国宗浩三(2007)「IMF と開発途上国」調査研究報告書 第7章 アジア金融協力と IMF JETRO アジア経済研究所 http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Report/pdf/2006_04_24_07.pdf#search
32
ばれる。IMF を補完する組織がある場合、二国間援助の先進国に当たる役
割を担うことで、国レベルではなく国際組織として、IMF を資金面で補完
することができる。 第二に、地域レベルでの対応を行うことだ。第 1 節にて IMF の問題点と
5
して、先進国の発言力が大きく、IMF のプログラムが先進国のメリットに
繋がっていることを先述した。この問題を補完する役割として、IMF と比
べてより地域レベルに寄り添い、事情に即した対応を可能とすることが補
完組織には求められると考える。地域により密着し、先進国のメリットに
左右されにくい補完組織があることで、より細かい事情への対応が可能と
10
なる。こうした地域レベルの金融機関を単体で作るのではなく、IMF を補
完する大きな組織の中にそれらを含むことによって、より国際レベルで捉
えることができるだろう。 第 4 節 補完組織 FSF/FSB の存在
15
(1)背景 経済のグローバル化によって、国内から国際レベルでの規制監督が求め
られるようになると同時に、国際的金融機関の行動への規制監督が求めら
れるようになった。ルービンは国際金融システム再構築(これを国際金融
アーキテクチャーと呼ぶ)を提唱した。35 また提案の中にアイケングリ
20
ーンの4つの柱と呼ばれるものが含まれ、その4つ目の柱は“IMF 救済政
策に代わる救済貸し出し”であり36、第 3 節にて述べた資金面での補完組
織の必要性が指摘されている。また IMF に対して“通貨危機に際して唯一
融資が可能な主体”であるとしてスティグリッツらの批判もある。37こう
した中で、1997 年のアジア通貨危機や 1998 年のヘッジファンドの破綻が
25
起き、ヘッジファンドなどの新たな動向が金融危機に対処するための国際
機関が必要であるとされた。このようにグローバリゼーションの急速展開
35
佐賀卓雄(2013)「破綻処理スキームの国際的枠組みの構築」日本証券経済研究所 http://www.jsri.or.jp/publish/research/pdf/83/83_01.pdf# 36
バリー・アイケングリーン(2003)「国際金融アーキテクチャー」東洋経済新報社 37
ジョセフ・E・スティグリッツ(2011)「スティグリッツ教授の真説」ダイヤモンドオンライン http://diamond.jp/articles/-/12713 33
に対応した新たな管理体制が模索された後、FSF-金融安定フォーラムが設
立された。さらに G7 から G20 へと協力国が増えて、金融安定促進への強力
な制度的基盤形成を目的に FSB-金融安定理事会ヘと進化を遂げた。38 5
(2)実態 2008 年の大和総研による金融安定化フォーラム報告書によれば、「FSF
は各国の金融監督当局、中央銀行を含む組織であるから、そうした意味で、
他国の意見もかなり反映されている。」と書かれている。39FSF は、こうし
た各国による十分な情報交換ができる環境があれば、金融市場の混乱が起
10
きた際にも打撃から比較的短期的な回復を見込むことができる。公共部門
と民間部門の両分野においてイニシアチブを調整することで、国境を越え
た競争上の公平性を維持していた。そして図表 11 のように加盟国を新興国
へと拡大させ 2009 年に FSB として再構成された。FSB のメンバーコミット
メントとしては、金融安定維持の追求、金融セクターの透明性維持、国際
15
金融基準の実施、IMF 報告書によるレビューの実施が含まれている・ 図表 11 FSF と FSB の加盟国
20
25
(出所)大和総研(2013) 「国際金融規制のコーディネーター:FSB の役割」より引用 38
菅谷幸一(2013)「国際金融規制のコーディネーター:FSB の役割」大和総研 http://www.dir.co.jp/research/report/capital-mkt/20130802_007505.pdf#search='fsb+imf' 39
吉川満(2008)「金融安定化フォーラム報告書」大和総研 http://www.dir.co.jp/souken/research/report/law-research/financial/08042301financial.pdf 34
第 5 節 まとめと提案
第 1 節から第 3 節までで述べてきた IMF の必要性と問題点、そして第 4
節で述べた補完組織である FSF(FSB)の仕組みをまとめると以下の図表 12
のようになる。 図表 12 IMF と FSF/FSB の関係図
5
10
15
(出所) 筆者作成 これらを踏まえて、我々が提案するのは IMF と補完機関 FSF/FSB の金融安 定化に関する協力をさらに強化していくというものだ。互いに補い合ってい く関係性があれば、例えば IMF は、FSF 会合参加によって得た金融安定リス クについての議論を持ち帰り、IMF の各国の監査作業へ反映させていくこと ができる。この IMF と FSF/FSB の連携を通して IMF の問題点をどう解決し、 20
どういった方向性を目指すのかについてまとめた図表が以下の図表 13 であ る。 25
30
35
図表 13 IMF と FSF/FSB のあるべき姿
5
10
15
(出所) 筆者作成 図表 13 にあるように、IMF と FSF/FSB の連携を補完していく中で、米国
シェアが拡大している問題点については、先進国優位であるクォータ制を
取り入れている現在の IMF 体制とは異なるフェアな統制を行うことのでき
る FSF/FSB との連携によって解決が見込まれる。また、IMF によって定め
20
られた通りに行った政策が、新興国にダメージを与えた構造調整に関する
問題点については、FSF/FSB が IMF の妥当性監査を行うことで緩和が見込
まれる。また FSF/FSB との連携は IMF にとっても資金補完や地域レベル対
応が可能になるといったメリットがあるだろう。このように FSF/FSB には
国際的なレベルでの金融問題について、各国や各地域におけるグローバル
25
な基準を作り、不公平性のないフェアな実施を行っていくことが求められ
るだろう。 そしてこれらの提案によって長期的に目指すのは“新興国が自ら発展で
きる”国際社会の創造である。それは、多国籍企業やグローバル投資家の
存在によって、新興国が搾取され先進国のみが利害を得るという現在の状
30
態ではない。先進国からの外資流入を、適切な資源配分を通じてその国の
36
発展に繋がるような使い方をしなければいけない。市場開放を単純に行い、
現地の人々から消費者と安く雇う労働者を手に入れるのではなく、その国
で生産が行われる環境を整え、そして商品を国内から海外へも幅を広げて
いく。こうした生産による輸出型産業を行われる未来を実現するビジョン
5
を持って、機関は運営されなければいけない。 さらに、輸出型産業が成熟した後に、研究開発の拠点として国をさらに
発展させていくことが望ましい。モノを作り売るだけではなく、産業を発
展させるための研究開発を行うにはそのための人材が必要だ。そのための
人材教育を新興国で行うことが求められる。例えば、シンガポールは図表
10
14 のように 1965 年のマレーシアからの独立以降、資源を持たない小国で
ありながら急速な経済発展を遂げた。この理由は国をあげた徹底的なエリ
ート教育と高度人材の受け入れにある。
「アジアにおける教育のハブ」とい
うコンセプトの下で、政府が様々な施策を行い知識集約産業での発展を遂
げたのだ。40 15
図表 14 シンガポールの GDP 推移
(出所)IMF データベースより筆者作成 こうした人材教育を行うことで、資源レベルやモノ作りを中心とした第
一次/第二次産業から、第三次産業への移行が可能となる。これらは長期的
20
な構想であるが、このビジョンを持つことが必要なのだ。このように長い
40
神足恭子(2013)「人材国家・シンガポールが日本より豊かな理由」ダイヤモンドオンライン http://diamond.jp/articles/-/40621 37
ビジョンを実現するための一歩として、IMF とそれを補完する FSF/FSB の
強い連携が求められる。新興国の発展を考える際に、必ず考慮するべきこ
とは各国や各地域によって経済システムや金融の仕組み、政治状況が異な
る点だ。FSF/FSB はこうした問題点を、国際機関や各国当局との連携を強
5
化し、先進国目線でなく地域レベルに即したフェアな統制をすることで少
しずつ解決に導くことのできる可能性を持っている。
38
終章
第1章では金融グローバル化とは何であるかを論じ第2章では通貨危機の定義
について論じた。また、通貨危機とそれに伴う金融危機の影響について論じる
ことで、短期的な資金の流入と流出、産業構造の問題、IMF の役割といった問
5
題を提起した。そのなかで、我々は新興国が自律的で健全な経済を目指すべき
であると考えた。 そのためには、短期的資金の流入や流出を急激に起こさせないようにする必
要がある。そこで、第3章では自国の経済に合わせた柔軟な規制を行うべきで
あると提案した。さらに4章では、新興国の企業が資金調達を行う仕組みを整
10
備することで新興国が通貨危機やそれに伴う金融危機が発生した際に、資金の
調達を行いやすくするための提案を行った。 第5章では、IMF の問題点について触れた。IMF の政策により経済状態が悪化
するといった事例を紹介し IMF があるべき姿を考えた。そして、IMF を補完す
る機関として FSB/FSF を位置付け、FSB/FSF と IMF の連携によって新興国が自
15
ら発展できる国際社会の創造という目標を先進国と新興国で共有しながら、世
界経済の発展に向け、協働する必要がある。さらに、その目標を達成するため
に、新興国では人材の育成を通して、自国の発展を行うことを提案した。 我々の提案は各々が相互に関わりながら、適切に行われることが必要である。
外国資本の流入を規制し、自国の産業、人材を育成しながら、株式市場の整備
20
や世界各国、国際機関との協働を行うことで我々が考える自ら発展する新興国
が形成されるのではないだろうか。 このような新興国が増えれば、世界経済を底上げする存在となるはずである。
新興国市場は、適切に育成されることで世界経済のエンジンと成り得ると我々
は考える。 25
39
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