...

Dutch-style co-working

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

Dutch-style co-working
「テンションが生まれる空間」
を目指し、拠 点ごとにデザ
インを変えているのが特徴
のコワーキングスペース。
CASE 6
Seats
2meet.com
Learning to share with
Dutch-style
co-working
New type of
Co-working Space
I
インフラ
青を基調としたオープンスペ
ース。多くのワーカーが S 2 M
のシステムを活用し、つながり
を生かしながら働いている。
シェアリングエコノミーで人をつなぐ
オランダ発のコワーキング
個人のナレッジをシェアする自律的ワークプレイス
無料で使えるコワーキングスペースを売りに、今やオランダ国内 77 拠点。
ユーザーは、お金にかわる対価として個人のナレッジを提供する。
★
Seats2meet.com
Seats2meet.com
[ユトレヒト・アムステルダム]
創業:
従業員:
拠点数:
オ
2006 年
10 人
国内 77 カ所、海外 11 カ所
ランダ国内に 77 カ所で展開する
がある。
「100 年前、共産主義だった彼は建物の建設
コワーキングスペース、シーツ・
まずは拠点をめぐろう。今回、案内してもらっ
中に兄弟に宛てて手紙を送っています。
『ここ
。創業
ツー・ミート(以下 S 2 M )
たのはデザインの異なる3つのロケーション。
はアムステルダムの資本主義の象徴となるこ
からわずか 8 年あまりでここまでの成長を遂げ
とはいえ、
どれも同じシステムで運営されている。
とだろう。しかし、市場経済が破綻したとき、
た理由は、何と無料でワーカーに開放している
アムステルダムのオフィスは、コワーキング
公の、市民のための場所となる。人と人が出
こと。もっとも、正確に言えば「タダのようで
スペースのほかテナントが併設されている。
会い、知識を共有し、共に働く場所になると思
タダではない」。お金ではなく、ユーザー個人
建物は 1911 年に証券取引所として建てられた
う』。100 年かかりましたが、この手紙のおか
が持つ知識やスキル、ネットワークなどの社会
ものだが、そこには興味深い謂われがある。
げで彼のビジョンと S 2 M のビジョンがひとつ
資本を対価として扱うところに、S 2 Mの革新
オランダ人建築家ベルラーヘのデザインだ。
になり、その思いが現実となったのです」と担
S 2 M の本拠地ユトレヒトに
あるメインワークスペース。
49
S2M を利用する人たち
アントレプレナーに必要なものが
すべてそろっている
モーリッツ・リトン・ロテンバーグ
[LOGINC エンジニア/ファウンダー]
左上/部屋ごとにテーマ性を持たせたミーティングルーム。赤い壁に描かれた文字「 SOME LIKE IT HOT 」
は、マリリン・モンロー主演の映画『お熱いのがお好き』
の原題だ。ブレストなど、刺激的で白熱する会議を求める時に適している。右上/打って変わって真っ白の壁のミーティングルームには、
「 SSSSSHHHH」の文
スタートアップを手助けする会社を起業して、
作業をすることが多いんです。コンピュータ
ウェブサイトやプログラムなど、オンラインプ
ーを修理するためにクライアントのところへ
ラットフォームの制作をしています。アントレ
行くこともありますが、基本的には、ネットと
プレナーをつなぐネットワークもサポートして
ラップトップさえあれば、仕事はどこでもでき
いるんですよ。私を含めて 1 人で仕事をして
るんですよ。ですから、S 2M に来ているのは仕
いる人間が多いので、他の人と知り合って知
事のため、というわけじゃない。ここには人と
識やスキルをシェアする機会をつくることが
の出会いがあるし、クライアントも呼べる、食
とても重要。私は、コンピューター関係のソリ
事だってできる。アントレプレナーに必要な
ューションを提供しています。
ものが全てそろっているんです。こんな場所
それ以前は、IT コミュニケーション関係の
は貴重です。
会社に 10 年勤めていました。私とは肌が合わ
S 2 M にたどりつくまでに、他のコワーキング
なかったですね。私は自分の仕事に責任を持
スペースもずいぶん試してはみました。でも、
って、自分なりのやり方で進めたいタイプなん
スタッフ、ネットワーク、集まってくる人、どれ
です。会社では、良いアイデアを出したのにマ
をとっても S 2 M はクオリティが高くて、
プロフ
ネジャーの手柄にされることもありました。9
ェッショナル。人を呼んでワークショップやト
時 5 時のワークスタイルも窮屈。それで起業を。
レーニングセッションを開ける部屋もあって、
好きな IT の仕事を、好きなようにしてみたか
私が欲しい全ての設備が整っています。
った、ということです。
ここが一番自分の家から近いというのも、実
クライアントと会うとき以外は、1 人で自宅
は大きいですね(笑)
。私は面倒くさがりなので。
字が。静かに作業を進めるのにもってこいの部屋だ。左下/こちらはふんだんに自然光の入るミーティングルーム。中下/その日に行われている会議の予定が
壁に貼られている。気になる内容があればアクセスすることも可能だ。右下/ユトレヒト S 2 M 内にあるカフェ。セイハース氏もよく利用しているという。
当マネジャーのシミーナ・ヨンカー氏が説明する。
本部を訪ねた。デザインコンセプトは「テンシ
タリングの会社を知らないか』と聞かれたら、
S 2 M にとっても、そのコンセプトを象徴する
ョンが生まれる空間」と共同オーナーのロナル
そこで教えてあげられる。つまり、私が持つ社
特別なロケーションである。
ド・ファン・デル・ホフは言う。内装にはさまざ
会資本をシェアするわけですね。S 2 Mでは、こ
続いてアムステルダム郊外のベッドタウン、
まな色や素材が用いられ、
ミニマルとは正反対。
れが支払いの代わりなんです。といっても、堅
アルメレ。ここはパブリックスペースに S 2 M
また廊下をあえてカーブさせていたり、天井と
苦しいことは何もありません。他の人と普通
のコンセプトがうまく取り入れられた例で、図
床が並行でなかったり。どれも空間に緊張感
に交流して、情報交換をしていれば大丈夫です」
ブライアン・クラトヴィック
[POWERFIELD MEDIA ]
プロジェクトによって仕事する場所は変わ
けです。今は、ライブストリーミングの映像の
るので、ノートパソコンが僕のオフィスといっ
制作の仕事をしています。映像を媒体として、
たほうがいいかも(笑)
。 S 2 M に来るのは、今
クオリティの高い情報を提供していきたい。
は月に 3 日から 5 日でしょうか。
例えばみなさん iPhone を持ってますよね。
10 年間、三菱自動車のヨーロッパ本社で勤
これがあればすぐ東京とこのロケーションを
書館内に S 2 M の専用エリアが 20 席設けられ
を生み出し、思考を喚起するのが狙いだ。
ている。アムステルダムと違い商業性はなく、
どのロケーションにおいても、ユーザーはオ
ヘルプデスクや営業、宣伝部門すら、セレン
地域に根ざした協業の場となっている。
ンラインで予約するが、あわせて自分が持つ知
ディピティ・マシーンが代行する。それが必要
最後に、ユトレヒト駅舎に直結する S 2 M の
識やスキル、専門分野を登録するよう求めら
ならば、ネットワークでつながったユーザーが
めた後、2010 年に起業しました。会社が嫌い
結んだライブストリーミングイベントを始める
れる。登録内容は各拠点に置かれた「セレン
自発的にその役割を担うというから、コスト削
で辞めたわけではなく、むしろ三菱はすごく好
ことが可能。僕はこのインフラを利用して、自
ディピティ・マシーン」上に表示され、誰もが
減効果も大きい。しかし、コワーキングスペー
きでした。未だに当時の同僚とフェイスブッ
分が企画したプログラムを配信します。来週
閲覧可能。そのとき S 2 M に集まっているユー
スが無料だというなら、S 2M のマネタイズはど
クで連絡を取り合って、美味しい寿司屋の話
はシェアリング・ウィークのイベントを世界に
ザーが持つ社会資本を一目で確認できること
こで行われるのだろうか。
とかしていますよ。
向けて生中継する予定。多くの人が交流する
になる。これが「無料」のコワーキングスペー
スを可能にした根幹のシステムだ。
コ・ファウンダー
コ・ファウンダー/ディレクター
マリエル・セイハース
Marielle Sijgers
50
知識とコンテンツ、専門的技術を
得られるのが S2M の付加価値
ロナルド・
ファン・デル・ホフ
Ronald van den Hoff
(ヨンカー氏)
ただ、三菱自動車の組織再編成で、ヨーロ
場をライブストリーミングし、それをイベント
答えは、併設されたミーティングルームにあ
ッパ本社が 200 km 離れた場所に移転するこ
の付加価値としてもらうことが、うちの会社の
る。使用座席数に応じて課金され、混雑する
とに。会社からは「来てほしい」と言われたの
仕事なんです。
「私なら、
『アムステルダムで活動中、PR やイ
時間帯は料金が高くなる。他にも特徴的な課
ですが、彼女の仕事の関係で引っ越しができず、
それは S 2M の哲学にも共通するところがあ
ベントマネジャーができて……』などと登録し
金方法がある。例えばアムステルダムの拠点
僕が会社を辞めるしかなかったんです。
ります。人と出会うことの付加価値は、知識と
てあります。それを見て、私に何か聞きたい、
では 12 時から 14 時まではランチが提供される
相談したいという人がやってくれば協力します。
が、ここでも5ユーロかかる。とはいえ、それ
ったわけですからね。それでまず S 2Mに通って、
れる場であることが重要。僕はビデオストリ
例えば、
『イベントを企画しているが、いいケー
以外が無料であることに、改めて驚くべきなの
どのように会社を始めるか勉強したというわ
ーミングの機材を提供しています。
ですから、2010 年は自分にとって難しい年
コンテンツ、専門技術です。空間やフード、ド
でした。200 人いた同僚がいきなりゼロにな
リンクだけではなく、コンテンツや知識を得ら
51
歴史を感じさせるレンガの壁が特
徴のアムステルダムの S 2 M は、
S2M を利用する人たち
もともとは 1911 年に証券取引所
として建てられたものだ。
みなフレンドリーでオープン。
静かすぎないのもいい刺激
ニンカ・ファン・デンデレン
[フォトグラファー]
左/アムステルダムのベッドタウン、アルメレにあ
るユニークなデザインの公立図書館。この一角に
S 2 M のスペースがある。右/生活者の利用が多い
図書館内にあるため、ユトレヒトともアムステルダ
S2M は雰囲気がすごくいいです。なにしろ、
ても働くことになりました。週 2 日レセプショ
集まってくる人がみんなフレンドリーでオープ
ンで働いて、ラウンジの掃除も。仕事として、
ン。場所に感謝し、敬意を払っているのが伝
パンフレットの撮影をしたこともあります。
わってきます。
「みんながここを良い場所だと
まだ写真だけで食べていくのが難しい頃で
感じているのがわかる」ということですね。
したけど、ここでコネクションを広げられたこ
ナレッジをシェアするためのコミュニケーシ
とが、ずいぶん助けになりました。その後、写
ョンが多いせいか、ワークスペースとして静か
真の仕事が忙しくなってきたので、S 2M のスタ
すぎないのも、私には良い刺激。インテリアだ
ッフはやめて、写真 1 本に絞ったんです。
って好きですよ!
今は、週 2 日から 3 日、S 2M に通っています。
結婚式写真が専門のフォトグラファーです。
写真撮影以外の作業はここでやりますね。例
ほかには、ファッション系の雑誌の写真を撮っ
えば、ロケが続くとメールがたまってしまうので、
たり、ファッションブログを書いたりしています。
まとめて返信をする。それから、次の撮影のロ
4 年前、私のアシスタントから「いいワークス
ケーションを探したり、写真の編集作業をした
ペースがあるから」と薦められたのが、S 2 M を
りです。ソーシャルメディアやブログに投稿
知ったきっかけ。当時は写真を仕事にしたば
するのもこの場所で。いろんな人と話すこと
かりで、家にいることが多くて、正直退屈して
もあれば、自分の作業に集中することもある。
いたんです。
その時々で、過ごし方は違います。いろいろな
それで S 2 M に来てみたら、よい出会いに恵
人とコネクションができるのが、ここの魅力。
まれて、それから 3 年間、S 2M のスタッフとし
私の友達もよく通ってますよ。
出会いのある環境に身を置くと
やる気もアイデアもわいてくる
ピーター・フェルメール
[DEBROEKRIEM]
ムとも違う、リビングのような落ち着いたモダンな
雰囲気になっている。
かもしれない。コーヒーは無料。コーラなどソ
しかし、企業と違い個人のワーカーはマーケ
な利益が生まれる。それまで無料のコワーキ
フトドリンクやスナック類は値段が決まってお
ティングが難しい。そこで、自分のナレッジを
ングスペースで仕事をしていたワーカーが、有
らず、自分が正当だと思う金額をそこに置かれ
オープンにし、シェアしあう、というアイデアを
料のミーティングルームのオフィスの使用機
たボトルに入れていく。
思いついたんです。これなら個人のワーカーが、
会を増やしていくからだ。無料のコワーキング
このユニークなシステムをつくり出したのは、
自分の社会資本を必要とする誰かを発見できる」
共同経営者のマリエル・セイハース氏とファン・
52
(ファン・デル・ホフ氏)
もともと建築の設計者だったんですが、会
かけますが、朝と夜は必ずここに来ます。よく
社をリストラされたのを機に、再就職支援のプ
ある一日のスケジュールとなると、朝 1 ∼ 2 時
ラットフォームを立ち上げました。具体的には、
間 S 2 M で仕事をしてから、アムステルダムや
職探しのサポートをしたり、毎月 50 のイベン
ロッテルダムへミーティングに。ユトレヒトの
トをオーガナイズしたり。リンクトインの活用
駅がすぐそこだから便利です。それから帰っ
法や、履歴書の書き方、企業に対するアプロ
てきて夕方も 1 ∼ 2 時間ここで仕事をして家に
ーチの仕方などがテーマになります。
帰る、という感じでしょうか。丸一日ここで過
スペースを事業のコアに据えながら、個人、企業、
でも一番の狙いは、出会いをつくり、刺激を
ごすことはありません。
S 2 M すべてが恩恵を受けられる環境が、ここ
受けてもらうこと。失業して家にばかりいると
実は、以前勤めていた会社が、S 2 M のミー
孤独が募っていくばかりですが、ここに来れば、
ティングルームをよく借りていたんです。で
デル・ホフ氏の2人だ。10 年前、彼らは貸会議
蓋を開けてみれば、企業にとっても S 2 M は
にはある。
室業を営んでいたが、
「とても古くさい業界で、
すぐれたリサーチの場となった。クリエイティ
ロッテルダム・スクール・オブ・ビジネスが
多様な人がいて、いろいろなことが日々起こる。
すから、自分の会社を立ち上げたときは、すぐ
そしたらヤル気もアイデアもきっと湧いてくる
にここを思い出した。当時から、週に 5 日同じ
何か新しいことを始めたかった」
とセイハース氏。
ブな個人を取り込み、イノベーションを起こし
「2 週
行った S 2 M のユーザーアンケートでは、
はず。まあ、S 2 M でコーヒーを飲みながらいろ
場所で仕事をするのは退屈だと思っていたん
そんな矢先に、市場の変化に気づいた。
たいと願う企業は、S 2 M にやってくればいい。
間で新しいプロジェクトが始まった」
「フリー
いろ話そう、ということです。建築の仕事から
ですね。カフェで仕事をすることもできますが、
は離れてしまいましたが、人が集まる場所をつ
結局一人でいるわけですから、自宅で作業し
くるという意味では。今も同じことをやってい
ているのと同じ。でも S 2 M にいると、コミュニ
るのかも。
ティに属している感覚があるんです。しかも
私の 1日は S 2 M から始まります。仕事はオ
閉鎖的ではない。親しいけれど、友達とはまた
ランダ各地に広がっているので、昼は外に出
違う、適度な距離感が気に入っています。
「企業の規模が小さくなり、経済危機で景気
個人のワーカーの側もそれは好都合。営業活
ランスの仕事が増えた」といった声が寄せられ
が低迷すると、アントレプレナーが行動を起こ
動なしで企業とのパイプをつくり、ビジネスチ
「才能ある
た。オープンして 8 年で 77 拠点。
すようになりました。テクノロジーの向上で個
ャンスを手にできるかもしれない。そして、企
人に出会いたければ、S 2M に行けばいい」。今
人が1対1の直接取引を仕掛けることも簡単に。
業と個人がつながり始めれば S2 M 側にも新た
や、そんなトレンドまで噂されている。
53
Fly UP