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シンガポール移転価格税制の新たなる時代

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シンガポール移転価格税制の新たなる時代
Transfer Pricing News
シンガポール移転価格税制の新たなる時代
February 2015
In brief
2015年1月6日、シンガポール税務当局(IRAS)は、2006年2月に初めて発行された同国移転価格ガイドライン
(「旧ガイドライン」)のアップデートとして、改訂版移転価格ガイドライン(「新ガイドライン」)を公表しました。
新ガイドラインでは、移転価格および独立企業間原則に関するIRASの従前の考え方が整理および明確化さ
れたことに加えて(詳細については旧ガイドラインおよび2006年2月以降に発行された各種通達を参照のこ
と)、移転価格に関する世界的な変化の流れに対して明らかに協調するものとなっています。
特に、新ガイドラインでは、移転価格の案件がより複雑化し、世界各国でよりタイムリーかつ透明性の高い移転
価格に係る報告が必要となってきていることをIRASが明確に認識していることが示されています。また、こうした
テーマは、経済協力開発機構(OECD)による近年の「税源侵食と利益移転」(BEPS)プロジェクトにおいても議
論されています。
移転価格のコンプライアンスの観点から、新ガイドラインでは、移転価格同時文書作成の利点およびIRASが有
する独立企業間原則を承認する法的権限が強調されています。一例を挙げれば、新ガイドラインでは、シンガ
ポール所得税法(ITA)のセクション34Dでは関連者間取引に対して独立企業間原則を遵守すべきである旨が
規定されていることや、移転価格同時文書なくして遡及的な減算調整は認められないこと等が明確化されて
います。
要約すると、新ガイドラインは、下記の点から、シンガポールの納税者がより透明性の高いグローバルタックス
レポーティングを行うのに役立つものとなっています。
(i) 独立企業間原則の適用および移転価格文書化要件について、より包括的かつ明確な指針を提供してい
る。またその際に過去に浮き彫りになった不明確な部分についても言及している。
(ii) 独立企業間原則の遵守に際して納税者が直面する実務的な検討事項について取り扱っている。たとえ
ば、新ガイドラインでは、比較可能性の概念および移転価格算定手法の適用に焦点を当てるだけでな
く、移転価格ポリシーの実施やより包括的な移転価格文書が必要となり得る実例等についてもアドバイス
している。
以下、新ガイドラインにおける主要な変更点について要約します。また、新ガイドラインがシンガポールの納税
者にどのような影響を与える可能性があるかについても考察を行います。
In detail
新ガイドラインでは、独立企業間原則の適用に加え、 一方で、納税者が移転価格を調整する際のメカニズ
シンガポールの移転価格レポーティングおよびコン
ムや救済手続きに係るIRASの今後の考え方に影響
プライアンスの枠組みに関してさまざまな変更および
を与えます。
明確化がなされました。こうした変更および明確化は
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レポーティングおよびコンプライアンスの枠組み
この点に関する変更点は以下の3点です。
•
シンガポールの納税者における移転価格同時文書化の考え方や文書保存義務が強調された点
•
どのような場合に移転価格同時文書の作成が要求されるのかという参考指針が出された点
•
移転価格文書で開示すべき関連者間取引に関する情報の詳細度が増した点
IRASは、納税者が自らの関連者間取引について適切な移転価格文書を保持すべきであるとの姿勢を強化し、パラグラ
フ6.4において下記のように記しています。
「納税者は、税務における記録保存義務の一環として、独立企業間原則を遵守していることを示すために移転価
格文書を具備する必要がある。これによって、税務当局による移転価格課税により起こる事態、またこのような課
税によって生じる二重課税を回避することができる。」
これは、2006年に発行された旧ガイドラインにおけるIRASの姿勢とも一貫性のあるものとなっています。IRASはさらに、
適宜移転価格文書の作成ができない場合には、納税者に対して適切な処置を取る用意がある旨を明確に記すことに
より、その姿勢を強化しています。たとえば、移転価格同時文書がない場合には過年度の移転価格減算調整を認めな
いとしています。また、同時性(Contemporaneous)という言葉については、「当該取引に着手する前または着手する時
点において納税者が移転価格を算定する際に用いた文書および情報」と定義しています。一方で、新ガイドラインでは
「当該取引が行われた会計年度についての税務申告書を提出する前までに用意されたものも移転価格同時文書とし
て認める旨が明記されています。これはコンプライアンスを容易にするための措置であると考えられます。
移転価格文書の提出に関しては実務上は変更はありませんが、IRASが以前に比べてより重要視していることは明白で
す。すなわち、新ガイドラインでは、以前と異なり、納税者は移転価格文書の要請があってから30日以内に提出する必
要がある旨、また調査対象年度から最低5年間移転価格文書を保存する必要がある旨が明確化されました。加えて新
ガイドラインでは、もし納税者が移転価格文書を提出できなかった場合には、「ITAセクション94(2)に基づき、ITAが規
定する記録保存義務への違反として罰せられる可能性がある」と規定されています。したがって、今回の新ガイドライン
は、IRASが納税者に対して独立企業間原則を遵守させる権限のみならず、必要であれば納税者に移転価格文書の具
備を徹底させる権限を有することを再確認したものであるといえます。
新ガイドラインで示されたメッセージのトーンは、移転価格文書化およびレポーティングに関しては強いものとなってい
る一方で、IRASは納税者が負担することとなる実質的なコンプライアンスおよび事務コストについて引き続き配慮してい
ます。これはIRASが移転価格文書化要件を単純化するための事務ルールを含めたことにも表れており、一定の状況下
において納税者のコンプライアンスの負担を減らす一助となり得ます。特に関連者間取引額に関する基準の導入は重
要であり、納税者の関連者間取引額が新ガイドラインにおいて規定された一定の基準を超えない限り、IRASは納税者
に対して移転価格文書の具備を期待しないということです。しかし現実的には、シンガポールに本社を置く納税者や多
国籍企業のシンガポール現地法人の多くはこうした基準を超えています。また、移転価格文書化要件が単純化された
からといって納税者が独立企業間原則を遵守する必要がないということではないということに留意が必要です。関連者
間取引における移転価格が独立企業間価格となっていることを納税者が証明できない場合、またIRASが納税者の不
適切な移転価格設定により利益が低くなっているとみなす根拠がある場合には、納税者はIRASによる移転価格加算調
整を受ける可能性があります。
最後に、新ガイドラインにおいてもう一点明示されていることは、IRASは納税者に対して移転価格文書作成の際にさら
なる開示および透明性を求めているということです。新ガイドラインでは、ビジネスにおける重要なバリュードライバー、
無形資産および無形資産所有者のリスト、シンガポールの納税者の従事するビジネスラインに関連するグループの財
務諸表等の追加情報が記載されています。
実際は、多くのシンガポールの納税者は移転価格文書において法人に関する詳細な情報を既に記載している一方で、
グループレベルでのより広範な情報の記載要求については、BEPSプロジェクトにおいて議論されている国別報告制度
に近づいているといえます。
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独立企業間原則の適用
新ガイドラインでは、関連者間取引について独立企業間原則の遵守が引き続き要求されています。IRASは新ガイドラ
インの中でさらなるコメントを追加した他、比較可能性分析・経済分析の遂行および移転価格算定方法の適用に関して
明確な考え方を記載しています。これは、IRASが、10年前と比べて納税者の関連者間取引およびその構造が複雑化
し続けているということを認識していることを示しています。以下、主要な変更点について解説します。
比較可能性については、IRASは取引の性質および当該取引のおかれている商業的/経済的状況の両方の観点に重
点を置いています。取引の性質および経済的状況の重要性についてはこれまでも一般的に認識されてきましたが、今
回の改訂で、商業上/産業上の方針や国による政策の違いが比較可能性に与える影響が新たな検討要素として追加
されました。たとえば、政府による価格統制といった政府の政策および規制やビジネス戦略の政策的変更が、比較可
能性に影響を与える可能性のある要素として記載されています。
移転価格算定方法の適用については、従来通り国際的な慣行と概ね一致しています。ただし、実務上どのように適用
されるべきかに係るより包括的なガイダンスが加わりました。
特に、取引単位営業利益法(「TNMM」)および原価基準法についていくつか変更および明確化されました。たとえば、
新ガイドラインでは、ベリーレシオが利益水準指標(「PLI」)として適用される要件について説明されており、ベリーレシ
オは限られた場合にのみ適用可能である旨が記されています。さらに、原価基準法の適用の際には、サービスの提供
者がシンガポールの納税者である場合には、シンガポールの会計基準に則ってコストベースがどのように計算されるべ
きかに関する追加的な情報が記載されています。
その他の点として、新ガイドラインでは、損失を計上している企業を比較対象企業とすることへの信頼性について(これ
らの企業を除外するべき場合の例を含む)、また独立企業間レンジの定義と適用方法について、明確な見解を示して
います。
その他の変更点
新ガイドラインでは、2006年に発行された旧ガイドラインの後に公表された、移転価格コンサルテーション(「TPC」)、事
前確認(「APA」)、また関連者間ローン取引および役務提供取引に係る移転価格についての通達が統合されています。
これらの内容に関しては、今回の新ガイドラインではより詳細なコメントが追加されたものの、特段重要な変更はありま
せん。
その他の主要な変更点としては、納税者による自主的移転価格調整および救済手続きについて、IRASがその考え方
を明確化した点です。これらは納税者が独立企業間原則を遵守した税務を行い、二重課税を回避する為に用いられる
手段です。IRASは、救済手続きや移転価格調整を行う前に、納税者は独立企業間原則を適用するために合理的な努
力を行ったことを示すものとして、移転価格同時文書を作成しておくことの重要性を強調しています。
納税者への影響
新ガイドラインの公表は、IRASが、移転価格文書の作成について国際的に最先端のプラクティスを支持することを示唆
したものであり、変化する世界の税務環境の中でシンガポールの納税者は独立企業間原則を遵守していることを示す
十分かつ適切な分析および文書を保持すべきであると示唆したものです。IRASは新ガイドラインにおいて、IRASの独
立企業間原則の執行に係る法的権限(ITAセクション34D)、および移転価格文書化義務(ITAセクション94(2))に言及
しており、納税者がIRASから移転価格文書の提出の要請を受けたにもかかわらず提出できなかった場合に係る処置に
ついてもう一歩踏み込んで言及した形となっています。また、IRASは脚注の中で、将来的に必要であれば移転価格に
関する記録保存義務を含むより厳格な措置を検討する可能性についても示唆しています。
新ガイドラインの導入に関して、記載されたほとんどの内容は新しいものではなく、納税者の移転価格文書作成の実務
に大きな変更が生じることはないものの、IRASにより文書化作成の要件についての詳細な内容が追加され、以前は独
立企業間原則を遵守するにあたって曖昧だった論点の詳細な指針が記載されています。
実務上、新ガイドラインによって、グループの移転価格ポリシーが徐々に明確化され、そのポリシーや実施についての
レビューやレビュー手続きが可能になってきます。新ガイドラインでは、近年のBEPSの議論(マスターファイル、ローカ
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ルファイル、国別報告書に関して)とそれに伴う他国税務当局の反応に対して、シンガポールの納税者に十分な準備
をさせようとしているように見受けられます。
シンガポールの納税者にとって、移転価格のリスクマネジメントおよびプランニングに本格的に取り組むことが非常に重
要になってきていますが、新ガイドラインでは、納税者の現在の移転価格実務がIRASの要求を満たしているか否かを
判断するのに役立つことでしょう。
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より詳しい情報、または個別案件への取り組みにつきましては、当法人の貴社担当者もしくは下記までお問い合わせくだ
さい。
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
移転価格コンサルティンググループ
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東京都千代田区霞が関3丁目
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〒530-0001
大阪府大阪市北区梅田2丁目
4番9号 ブリーゼタワー24階
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名古屋事務所
〒450-0002
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4番10号 名古屋クロスコートタワー12階
電話 : 052-587-7520 (代表)
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03-5251-2535
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03-5251-2552
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パートナー(大阪)
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06-7670-0956
[email protected]
パートナー
マイケル ポラシェック
03-5251-2517
[email protected]
ディレクター
永藤 剛基
03-5251-2438
[email protected]
ディレクター
ハワード オオサワ
03-5251-6737
[email protected]
パートナー
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03-5251-2355
[email protected]
パートナー(大阪)
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06-7670-0958
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